(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-12
(54)【発明の名称】血漿カリクレイン阻害剤のプロセス規模合成
(51)【国際特許分類】
C07D 231/14 20060101AFI20221004BHJP
C07C 255/58 20060101ALI20221004BHJP
C07C 253/30 20060101ALI20221004BHJP
A61K 31/415 20060101ALN20221004BHJP
A61P 43/00 20060101ALN20221004BHJP
【FI】
C07D231/14
C07C255/58
C07C253/30
A61K31/415
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022506947
(86)(22)【出願日】2020-08-05
(85)【翻訳文提出日】2022-02-03
(86)【国際出願番号】 US2020044921
(87)【国際公開番号】W WO2021026182
(87)【国際公開日】2021-02-11
(32)【優先日】2019-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511230406
【氏名又は名称】バイオクリスト ファーマスーティカルズ,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BIOCRYST PHARMACEUTICALS,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100139723
【氏名又は名称】樋口 洋
(72)【発明者】
【氏名】エル-カタン,ヤヒヤ
(72)【発明者】
【氏名】バブ,ヤーラガダ エス
【テーマコード(参考)】
4C086
4H006
【Fターム(参考)】
4C086AA02
4C086AA04
4C086BC36
4C086ZC20
4H006AA02
4H006AC52
4H006BB14
4H006BE23
4H006QN30
(57)【要約】
化合物(I)、及びその塩を調製する方法が開示される。化合物(I)を調製する方法は、プロセス規模での使用に適している。
【化1】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物D、またはその塩を生成するのに十分な条件下において、化合物C、またはその塩、及び化合物F、またはその塩を混合するステップを含み、
化合物Cは、
【化1】
によって表され、化合物Fは、
【化2】
によって表され、化合物Dは、
【化3】
によって表される、方法。
【請求項2】
前記化合物Dを生成するのに十分な条件は、アミドカップリング試薬、及び第1の塩基を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アミドカップリング試薬は、プロピルホスホン酸無水物(T3P)、N,N’-ジ(イソプロピル)カルボジイミド、N,N’-ジ(シクロヘキシル)カルボジイミド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、またはエチル2-シアノ-2-(ヒドロキシイミノ)アセタートである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記アミドカップリング試薬は、プロピルホスホン酸無水物(T3P)である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の塩基は、第1の有機塩基である、請求項2~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の塩基は、トリエチルアミン、ピリジン、ジイソプロピルエチルアミン、ジイソプロピルメチルアミン、イミダゾール、ピリミジン、N-メチルモルホリン、キヌクリジン、または1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)である、請求項2~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の塩基は、ピリジンである、請求項2~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記化合物Dを生成するのに十分な条件は、第1の溶媒をさらに含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の溶媒は、極性非プロトン性溶媒である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の溶媒は、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、アセトン、アセトニトリル、または酢酸エチルである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の溶媒は、酢酸エチルである、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
化合物Cは、酸塩として存在し、
前記方法は、化合物Cの前記酸塩を第2の水溶性塩基と混合し、それによって化合物Cの遊離塩基を生成するステップをさらに含み、
前記化合物Cの前記酸塩を第2の水溶性塩基と混合するステップは、化合物C及び化合物Fを混合する前に行われる、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
化合物Cの前記酸塩は、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、またはシュウ酸塩である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
化合物Cの前記酸塩は、シュウ酸塩である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第2の水溶性塩基は、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、または炭酸ナトリウムを含む、請求項12~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記第2の水溶性塩基は、水酸化カリウムを含む、請求項12~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
(a)化合物B、またはその塩及び
【化4】
を混合して、第1の反応混合物を生成することと、その後、(b)化合物C、またはその塩を生成するのに十分な条件下において、前記第1の反応混合物を還元剤と混合することとをさらに含み、
化合物Bは、
【化5】
によって表される、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記還元剤は、LiAlH
4またはNaBH
4である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記還元剤は、NaBH
4である、請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
前記化合物Cを生成するのに十分な条件は、第2の溶媒をさらに含む、請求項17~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記第2の溶媒は、第2の極性プロトン性溶媒である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記第2の溶媒は、メタノール、エタノール、またはイソプロパノールである、請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
前記第2の溶媒は、メタノールである、請求項20~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
化合物Cを第1の酸と接触させて、化合物Cの酸塩を生成することをさらに含む、請求項17~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記第1の酸は、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、またはシュウ酸であり、化合物Cの前記酸塩は、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、またはシュウ酸塩である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記第1の酸は、シュウ酸であり、化合物Cの前記酸塩は、シュウ酸塩である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
化合物Bは、酸塩として存在し、
前記方法は、化合物Bの前記塩を第3の有機塩基と混合し、それによって化合物Bの遊離塩基を生成するステップをさらに含み、
前記化合物Bの前記塩を第3の有機塩基と混合するステップは、化合物B及び
【化6】
を混合する前に行われる、請求項17~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
化合物Bの前記酸塩は、塩酸塩、臭化水素酸塩、またはヨウ化水素酸塩である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
化合物Bの前記酸塩は、塩酸塩である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記第3の有機塩基は、ナトリウムメトキシドを含む、請求項27~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
(a)化合物B、またはその塩を生成するのに十分な条件下において、化合物A及び第2の酸を混合することをさらに含み、
化合物Aは、
【化7】
によって表される、請求項17~30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記第2の酸は、塩酸、臭化水素酸、またはヨウ化水素酸である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記第2の酸は、塩酸である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記化合物Bを生成するのに十分な条件は、第3の極性プロトン性溶媒を含む、請求項31~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記第3の極性プロトン性溶媒は、メタノール、エタノール、またはイソプロパノールである、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記第3の極性プロトン性溶媒は、イソプロパノールである、請求項34または35に記載の方法。
【請求項37】
化合物Bは、酸塩として生成される、請求項31~36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
化合物Bの前記酸塩は、塩酸塩、臭化水素酸塩、またはヨウ化水素酸塩である、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
化合物Bの前記酸塩は、塩酸塩である、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
(c)化合物D及び脱保護試薬を混合して、第2の反応混合物を生成することと、その後、(d)前記第2の反応混合物を、化合物Iを遊離塩基として生成するのに十分な条件に曝露することとをさらに含み、
化合物Iは、
【化8】
によって表される、請求項1~39のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
前記脱保護試薬は、第3の酸である、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記第3の酸は、塩酸、臭化水素酸、またはヨウ化水素酸である、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記第3の酸は、塩酸である、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記化合物Iを遊離塩基として生成するのに十分な条件は、第4の塩基を含む、請求項40~43のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
前記第4の塩基は、アンモニア水である、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
e)第4の有機溶媒中の遊離塩基として化合物Iの第1の遊離塩基混合物を準備することと、
f)化合物Iの塩を含む第3の反応混合物を生成するのに十分な条件下において、第4の酸及び第5の有機溶媒を含む第1の試薬溶液と前記遊離塩基混合物を混合することと、
g)化合物Iの塩を含む前記混合物から化合物Iの前記塩を結晶化させることと
をさらに含む、請求項40~45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
前記結晶塩は、塩酸塩である、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記結晶塩は、ビス(塩酸)塩である、請求項46に記載の方法。
【請求項49】
前記第4の有機溶媒は、第4の極性非プロトン性溶媒を含む、請求項46~48のいずれか1項に記載の方法。
【請求項50】
前記第4の極性非プロトン性溶媒は、メチルtert-ブチルエーテルである、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記第4の有機溶媒は、第4の非極性溶媒をさらに含む、請求項49または50に記載の方法。
【請求項52】
前記第4の非極性溶媒は、トルエンである、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記第4の酸は、塩酸である、請求項46~52のいずれか1項に記載の方法。
【請求項54】
前記第5の有機溶媒は、第5の極性プロトン性溶媒である、請求項41~48のいずれか1項に記載の方法。
【請求項55】
前記第5の極性プロトン性溶媒は、メタノールである、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
化合物Cは、少なくとも1kg、少なくとも5kg、少なくとも10kg、少なくとも15kg、少なくとも20kg、少なくとも25kg、少なくとも30kg、少なくとも35kg、少なくとも40kg、少なくとも45kg、少なくとも50kg、少なくとも55kg、または少なくとも60kgの量で使用される、請求項1~55のいずれか1項に記載の方法。
【請求項57】
化合物Cは、少なくとも50kgの量で使用される、請求項1~56のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2019年8月6日に出願された米国仮特許出願第62/883,396号に対する優先権の利益を主張するものである。
【背景技術】
【0002】
セリンプロテアーゼは、最大で、最も広範に研究されたタンパク質分解酵素のグループを構成する。生理的プロセスにおけるそれらの重要な役割は、血液凝固、線維素溶解、補体活性化、再生、分解、及び生理学的に活性なペプチドの放出などの種々の領域にわたる。これらの重要なプロセスの多くは、前駆体タンパク質またはペプチド中の単一のペプチド結合または少数のペプチド結合の切断で始まる。一連の限定されたタンパク質分解反応またはカスケードが、血液凝固、線維素溶解、及び補体活性化に関与する。これらのカスケードを開始するための生物学的シグナルを、制御し、増幅することもできる。同様に、制御されたタンパク質分解は、単一の結合の切断によりタンパク質またはペプチドを機能停止にするか、または不活性化することができる。
【0003】
カリクレインは、セリンプロテアーゼのサブグループである。ヒトでは、血漿カリクレイン(KLKB1)には、既知のホモログがないが、組織カリクレイン関連ペプチダーゼ(KLK)は、15の密接に関連したセリンプロテアーゼのファミリーをコードする。血漿カリクレインは、凝血の内因系経路、炎症、及び補体系と関連するいくつかの経路に関与する。
【0004】
凝血は、例えば、出血を止めるために血液が凝血塊を形成するプロセスである。凝血の生理は、それが、凝血塊形成に至る最終的な共通の経路に収束する2つの別々の初期の経路を含む限りやや複雑である。最終的な共通の経路において、プロトロンビンは、トロンビンに変換され、それが、次にフィブリノーゲンを、止血栓を形成する架橋化フィブリンポリマーの主要な構成単位であるフィブリンに変換する。最終的な共通の経路の上流にある2つの初期の経路のうち、一方は接触活性化または内因系経路として知られており、他方は組織因子または外因系経路として知られている。
【0005】
内因系経路は、高分子キニノゲン(HMWK)、プレカリクレイン、及びFXII(第XII因子;ハーゲマン因子)によるコラーゲン上への一次複合体の形成で始まる。プレカリクレインは、カリクレインに変換され、FXIIが活性化されて、FXIIaになる。FXIIaは、その後、第XI因子(FXI)をFXIaに変換し、FXIaは、次に第IX因子(FIX)を活性化し、それが、その補因子FVIIIaとともに「テナーゼ」複合体を形成し、これが第X因子(FX)をFXaに活性化する。これが、最終的な共通の経路内におけるプロトロンビンのトロンビンへの変換に関与するFXaである。
【0006】
血漿カリクレインの不活性型前駆体であるプレカリクレインは、肝臓で合成され、血漿中をHMWKと結合して、または遊離型酵素前駆体として循環する。プレカリクレインは、活性型第XII因子(FXIIa)によって切断されて、活性型血漿カリクレイン(PK)を放出する。活性型血漿カリクレインは、アルギニン(好適)及びリジンの後のペプチド結合に対してエンドペプチダーゼ活性を示す。PKは、その後、フィードバックループにおいてさらなるFXIIaを生じ、それが、次に第XI因子(FXI)をFXIaに活性化して、共通の経路につながる。内因系経路の初期の活性化は、少量のPKを活性化する少量のFXIIaによるが、それは、続いて起こるPKによるFXIIのフィードバック活性化であり、それが内因系経路の活性化の程度、したがって下流の凝血を制御する。非特許文献1。
【0007】
活性型血漿カリクレインはまた、HMWKを切断して、強力な血管拡張性ペプチドブラジキニンを放出する。これはまた、いくつかの不活性型前駆タンパク質を切断して、(プラスミノーゲンから)プラスミン及び(プロウロキナーゼから)ウロキナーゼなどの活性産物を生成することができる。凝血の制御因子であるプラスミンは、タンパク質分解的にフィブリンをフィブリン分解産物に切断し、これは過剰なフィブリン形成を阻害する。
【0008】
急性心筋梗塞(MI)を患った患者は、過凝固(凝固促進)状態にある臨床的証拠を示す。この過凝固状態は、逆説的なことに線溶療法を受けている患者ではさらに悪化する。そのような処置を受けている患者では、ヘパリンを単独で与えられている患者において観察される既に高いレベルと比較して、トロンビン・アンチトロンビンIII(TAT)レベルによって測定されるトロンビンの生成の増加が観察される。非特許文献2。トロンビンの増加は、プラスミンによるFXIIの直接的な活性化による内因系経路のプラスミンが関係する活性化に起因することが提言されてきた。
【0009】
線維素溶解により誘発された過凝固状態は、再閉塞率の増加につながるだけでなく、おそらく少なくとも部分的に、凝血塊(血栓)の完全な線維素溶解が達成できない原因にもなる、線溶療法の重大な欠点である(非特許文献3)。線溶療法の別の問題は、付随する頭蓋内出血のリスクの上昇である。非特許文献4。したがって、出血のリスクを増加させないが、新しいトロンビンの生成を阻害する補助的な抗凝固療法が非常に有益であろう。
【0010】
血漿カリクレイン阻害剤はまた、遺伝性血管浮腫(HAE)を処置することに対する治療的可能性も有する。HAEは、染色体11qに位置するC1-エステラーゼインヒビター(C1INH)遺伝子にある変異が原因となる重篤で、場合によっては命に関わるまれな遺伝病である。HAEは、常染色体優性状態として遺伝するが、診断症例の4分の1は新しい変異から生じる。HAEは、欧州では希少疾患として分類され、推定罹患率は、50,000人に1人である。HAEの個人は、顔、喉頭、胃腸管、四肢または生殖器の痛みを感じる皮下または粘膜下浮腫の再発性の急性発作を経験し、これは、未処置の場合、最大5日間継続することもある。発作は、頻度、重症度及び位置が一様ではなく、命に関わることがある。窒息の可能性のある喉頭の発作は、最大のリスクを生じる。腹部の発作は、特に痛く、探索手技または不要な手術を招くことが多い。顔及び末梢の発作は、外観を損ない、弱らせる。
【0011】
HAEにはいくつかの亜型がある。I型HAEは、低レベルのC1-インヒビターを産生するC1INH遺伝子変異によって定義される一方で、II型HAEは、正常なレベルの無効なC1タンパク質を産生する変異によって定義される。III型HAEは、別の原因を有し、第XII因子として既知のセリンプロテアーゼをコードするF12遺伝子にある変異によって引き起こされる。HAEの亜型を識別するため、及びHAEを他の血管浮腫と識別するための診断基準は、参照によって本明細書に組み込まれる非特許文献5で見つけることができる。
【0012】
HAEに対する現行の処置は、2つの主要なタイプに分類される。アンドロゲン及び抗線溶薬を含むより古い非特異的な処置は、特に女性で重大な副作用を伴う。より新しい処置は、疾患の分子病理学の理解、すなわち、C1INHがヒト血漿において最も重要なカリクレインのインヒビターであること及びC1INH欠乏が発作の特徴である血管透過性の局所的増加の最も重要なメディエーターであるブラジキニンを伴うカリクレイン・ブラジキニンカスケードの妨害されない活性化につながることに基づくものである。現在利用可能なすべての標的療法は、静脈または皮下注射によって施される。現在、HAEに対して特異的な標的経口長期治療はない。
【0013】
したがって、線維素溶解/血栓症の状況を、閉塞血栓を溶解の方へ変化させ、それによって再灌流を促進し、過凝固状態も弱め、そうして、血栓が再形成されること、及び血管を再閉塞することを防ぐことができるPKの阻害剤を開発する必要がある。特に、特異的で、インビボ使用用に製剤化可能である血漿カリクレイン阻害剤の創出は、新しいクラスの治療薬につながる可能性があるであろう。したがって、必要とされるのは、血漿カリクレイン阻害剤を、特にプロセス規模で調製及び製剤化するための改善された方法である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Hathaway,W.E.,et al.(1965)Blood 26:521-32
【非特許文献2】Hoffmeister,H.M.et al.(1998)Circulation 98:2527-33
【非特許文献3】Keeley,E.C.et al.(2003)Lancet 361:13-20
【非特許文献4】Menon,V.et al.(2004)(Chest 126:549S-575S;Fibrinolytic Therapy Trialists’ Collaborative Group(1994)Lancet 343:311-22
【非特許文献5】Ann Allergy Asthma lmmunol 2008;100(Suppl2):S30-S40及びJ Allergy Clin lmmunol 2004;114:629-37
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様は、プロセス規模で(例えば、約100キログラムの化合物Iまたはその塩を生成するために)実施可能な化合物Iまたはその塩の合成に関する。
【化1】
【0016】
特定の態様において、本発明は、化合物D、またはその塩を生成するのに十分な条件下において、化合物C、またはその塩、及び化合物F、またはその塩を混合するステップを含み、
化合物Cは、
【化2】
によって表され、化合物Fは、
【化3】
によって表され、化合物Dは、
【化4】
によって表される、方法を提供する。
【0017】
特定の態様において、本方法は、(a)化合物B、またはその塩及び
【化5】
を混合して、第1の反応混合物を生成することと、その後、(b)化合物C、またはその塩を生成するのに十分な条件下において、第1の反応混合物を還元剤と混合することとをさらに含み、
化合物Bは、
【化6】
によって表される。
【0018】
特定の態様において、本方法は、(a)化合物B、またはその塩を生成するのに十分な条件下において、化合物A及び第2の酸を混合することをさらに含み、
化合物Aは、
【化7】
によって表される。
【0019】
特定の態様において、本方法は、(c)化合物D及び脱保護試薬を混合して、第2の反応混合物を生成することと、その後、(d)第2の反応混合物を、化合物Iを遊離塩基として生成するのに十分な条件に曝露することとをさらに含む。
【0020】
特定の態様において、本方法は、e)第4の有機溶媒中の遊離塩基として化合物Iの第1の遊離塩基混合物を準備することと、f)化合物Iの塩を含む第3の反応混合物を生成するのに十分な条件下において、第4の酸及び第5の有機溶媒を含む第1の試薬溶液と遊離塩基混合物を混合することと、g)化合物Iの塩を含む混合物から化合物Iの塩を結晶化させることとをさらに含む。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、プロセス規模で(例えば、約100キログラムの化合物Iを生成するために)実施可能な化合物Iの合成に関する。
【0022】
化合物Iを生成する方法
特定の実施形態において、本発明は、化合物D、またはその塩を生成するのに十分な条件下において、化合物C、またはその塩、及び化合物F、またはその塩を混合するステップを含み、
化合物Cは、
【化8】
によって表され、化合物Fは、
【化9】
によって表され、化合物Dは、
【化10】
によって表される、方法に関する。
【0023】
特定の実施形態において、化合物Dを生成するのに十分な条件は、アミドカップリング試薬及び第1の塩基を含む。
【0024】
特定の実施形態において、アミドカップリング試薬は、プロピルホスホン酸無水物(T3P)、N,N’-ジ(イソプロピル)カルボジイミド、N,N’-ジ(シクロヘキシル)カルボジイミド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、またはエチル2-シアノ-2-(ヒドロキシイミノ)アセタートであり、好ましくは、アミドカップリング試薬は、プロピルホスホン酸無水物(T3P)である。
【0025】
特定の実施形態において、第1の塩基は、第1の有機塩基である。例となる有機塩基としては、アミン塩基及びアルコキシド塩基が挙げられる。特定の実施形態において、第1の塩基は、トリエチルアミン、ピリジン、ジイソプロピルエチルアミン、ジイソプロピルメチルアミン、イミダゾール、ピリミジン、N-メチルモルホリン、キヌクリジン、または1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)である。好適な実施形態において、第1の塩基は、ピリジンである。
【0026】
特定の実施形態において、化合物Dを生成するのに十分な条件は、第1の溶媒をさらに含む。第1の溶媒は、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、アセトン、アセトニトリル、または酢酸エチルなどの極性非プロトン性溶媒であってもよい。好適な実施形態において、第1の溶媒は、酢酸エチルである。
【0027】
特定の実施形態において、化合物Cは、酸塩として存在し、
本方法は、化合物Cの酸塩を第2の水溶性塩基と混合し、それによって化合物Cの遊離塩基を生成するステップをさらに含み、
化合物Cの酸塩を第2の水溶性塩基と混合するステップは、化合物C及び化合物Fを混合する前に行われる。
【0028】
特定の実施形態において、「酸塩」とは、ブレンステッド酸の存在下において生成される塩を意味する。例えば、R-NH2などのアミンは、ブレンステッド酸H-Xによって容易にプロトン化されて、R-NH3
+X-を生成する。したがって、R-NH3
+X-は、R-NH2の酸塩である。酸塩の生成を引き起こすことができる一般的なブレンステッド酸としては、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、及びシュウ酸が挙げられる。それらがアミンと接触したとき、そのようなブレンステッド酸は、それぞれ、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、またはシュウ酸塩を生成させる。
【0029】
特定の実施形態において、化合物Cの酸塩は、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、またはシュウ酸塩である。好ましくは、化合物Cの酸塩は、シュウ酸塩である。
【0030】
特定の実施形態において、第2の水溶性塩基は、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、または炭酸ナトリウムを含む。好適な実施形態において、第2の水溶性塩基は、水酸化カリウムを含む。
【0031】
特定の実施形態において、本方法は、(a)化合物B、またはその塩及び
【化11】
を混合して、第1の反応混合物を生成することと、その後、(b)化合物C、またはその塩を生成するのに十分な条件下において、第1の反応混合物を還元剤と混合することとをさらに含み、
化合物Bは、
【化12】
によって表される。
【0032】
特定の実施形態において、還元剤は、LiAlH4またはNaBH4、好ましくは、NaBH4である。
【0033】
特定の実施形態において、化合物Cを生成するのに十分な条件は、第2の溶媒をさらに含む。
【0034】
特定の実施形態において、第2の溶媒は、第2の極性プロトン性溶媒である。例となる極性プロトン性溶媒としては、メタノール、エタノール、及びイソプロパノールが挙げられる。特定の実施形態において、第2の溶媒は、メタノールである。
【0035】
特定の実施形態において、本方法は、化合物Cを第1の酸と接触させて、化合物Cの酸塩を生成することをさらに含む。
【0036】
特定のそのような実施形態において、第1の酸は、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、またはシュウ酸であり、化合物Cの酸塩は、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、またはシュウ酸塩である。好適な実施形態において、第1の酸は、シュウ酸であり、化合物Cの酸塩は、シュウ酸塩である。
【0037】
特定の実施形態において、化合物Bは、酸塩として存在し、
本方法は、化合物Bの塩を第3の有機塩基と混合し、それによって化合物Bの遊離塩基を生成するステップをさらに含み、
化合物Bの塩を第3の有機塩基と混合するステップは、化合物B及び
【化13】
を混合する前に行われる。
【0038】
特定のそのような実施形態において、化合物Bの酸塩は、塩酸塩、臭化水素酸塩、またはヨウ化水素酸塩である。好ましくは、化合物Bの酸塩は、塩酸塩である。
【0039】
特定の実施形態において、第3の有機塩基は、ナトリウムメトキシドを含む。
【0040】
特定の実施形態において、本方法は、(a)化合物B、またはその塩を生成するのに十分な条件下において、化合物A及び第2の酸を混合することをさらに含み、
化合物Aは、
【化14】
によって表される。
【0041】
特定の実施形態において、第2の酸は、塩酸、臭化水素酸、またはヨウ化水素酸、好ましくは、塩酸である。
【0042】
特定の実施形態において、化合物Bを生成するのに十分な条件は、第3の極性プロトン性溶媒を含む。例となる極性プロトン性溶媒としては、メタノール、エタノール、及びイソプロパノールが挙げられる。好適な実施形態において、第3の極性プロトン性溶媒は、イソプロパノールである。
【0043】
特定の実施形態において、化合物Bは、塩酸塩、臭化水素酸塩、またはヨウ化水素酸塩などの酸塩として生成される。好適な実施形態において、化合物Bの酸塩は、塩酸塩である。
【0044】
特定の実施形態において、本方法は、(c)化合物D及び脱保護試薬を混合して、第2の反応混合物を生成することと、その後、(d)第2の反応混合物を、化合物Iを遊離塩基として生成するのに十分な条件に曝露することとをさらに含み、
化合物Iは、
【化15】
によって表される。
【0045】
特定の実施形態において、脱保護試薬は、第3の酸である。例となる酸としては、塩酸、臭化水素酸、及びヨウ化水素酸が挙げられる。好適な実施形態において、第3の酸は、塩酸である。
【0046】
特定の実施形態において、化合物Iを遊離塩基として生成するのに十分な条件は、第4の塩基を含む。特定の実施形態において、第4の塩基は、アンモニア水である。
【0047】
特定の実施形態において、本方法は、
e)第4の有機溶媒中の遊離塩基として化合物Iの第1の遊離塩基混合物を準備することと、
f)化合物Iの塩を含む第3の反応混合物を生成するのに十分な条件下において、第4の酸及び第5の有機溶媒を含む第1の試薬溶液と遊離塩基混合物を混合することと、
g)化合物Iの塩を含む混合物から化合物Iの塩を結晶化させることと
をさらに含む。
【0048】
特定の実施形態において、結晶塩は、塩酸塩、例えば、ビス(塩酸)塩である。
【0049】
特定の実施形態において、第4の有機溶媒は、第4の極性非プロトン性溶媒を含む。例となる極性非プロトン性溶媒としては、アセトニトリル、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジエチルエーテル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、メチルエチルケトン、メチルtert-ブチルエーテル(MTBE)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、及びアセトンが挙げられる。特定の実施形態において、第4の極性非プロトン性溶媒は、メチルtert-ブチルエーテルである。
【0050】
特定の実施形態において、第4の有機溶媒は、第4の非極性溶媒をさらに含む。非極性溶媒としては、例えば、ベンゼン、ヘプタン、ヘキサン、及びトルエンが挙げられる。特定の実施形態において、非極性溶媒は、トルエンである。
【0051】
特定の実施形態において、第4の酸は、塩酸である。
【0052】
特定の実施形態において、第5の有機溶媒は、エタノール、メタノール、2-プロパノール、1-ブタノール、水、またはそれらの任意の組み合わせなどの第5の極性プロトン性溶媒である。好ましくは、第5の極性プロトン性溶媒は、メタノールである。
【0053】
特定の実施形態において、化合物Cは、少なくとも1kg、少なくとも5kg、少なくとも10kg、少なくとも15kg、少なくとも20kg、少なくとも25kg、少なくとも30kg、少なくとも35kg、少なくとも40kg、少なくとも45kg、少なくとも50kg、少なくとも55kg、または少なくとも60kgの量で使用される。さらに別の実施形態において、化合物Cは、少なくとも50kgの量で使用される。
【0054】
特定の実施形態において、本発明の方法は、化合物Iまたはその塩を少なくとも1kg、少なくとも5kg、少なくとも10kg、少なくとも15kg、少なくとも20kg、少なくとも25kg、少なくとも30kg、少なくとも35kg、少なくとも40kg、少なくとも45kg、少なくとも50kg、少なくとも55kg、少なくとも60kg、少なくとも65kg、少なくとも70kg、少なくとも75kg、少なくとも80kg、少なくとも85kg、少なくとも90kg、少なくとも95kg、または少なくとも100kgの規模で生成する。
【0055】
医薬組成物
本明細書に記載されている方法により合成される化合物Iは、医薬組成物として製剤化されてもよい。そのような医薬組成物は、化合物I及び薬学的に許容される担体を含む。
【0056】
「担体」及び「薬学的に許容される担体」という用語は、本明細書中で使用される場合、ともに化合物が投与されるか、もしくは投与用に製剤化される希釈剤、補助剤、賦形剤、またはビヒクルを指す。そのような薬学的に許容される担体の非限定例としては、液体、例えば、水、生理的食塩水、及び油、ならびに固体、例えば、アラビアゴム、ゼラチン、デンプンペースト、タルク、ケラチン、コロイドシリカ、尿素などが挙げられる。さらに、助剤、安定化剤、増粘剤、滑沢剤、香味剤、及び着色剤が使用されてもよい。適した医薬担体の他の例は、参照によって全体が本明細書に組み込まれるE.W.MartinによるRemington’s Pharmaceutical Sciencesに記載されている。
【0057】
特定の実施形態において、本発明の医薬組成物は、化合物I以外の少なくとも1つの付加的な薬学的に活性な薬剤をさらに含む。少なくとも1つの付加的な薬学的に活性な薬剤は、異常な血漿カリクレイン活性を特徴とする疾患または状態の処置に有用な薬剤であってもよい。例えば、少なくとも1つの付加的な薬学的に活性な薬剤としては、抗凝固剤、抗血小板薬、または血栓溶解剤が可能である。
【0058】
抗凝固剤は、血液成分の凝固を防ぎ、それにより、例えば、心房細動における凝血塊形成を予防する。抗凝固剤としては、ヘパリン、ワルファリン、クマジン、ジクマロール、フェンプロクモン、アセノクマロール、エチルビスクマセタート、ヒルジン、ビバラルチン、直接トロンビン阻害剤、及びインダンジオン誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0059】
抗血小板薬は、血小板凝集を阻害し、一過性虚血発作、卒中、または心房細動を経験した患者において血栓塞栓性卒中を予防するために使用されることが多い。抗血小板薬としては、アスピリン、チエノピリジン誘導体、例えば、チクロポジン及びクロピドグレル、ジピリダモール、及びスルフィンピラゾン、ならびにRGD模倣物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0060】
血栓溶解剤は、卒中、心筋梗塞、及び肺血栓塞栓症などの血栓塞栓現象を引き起こす凝血塊を溶解させる。血栓溶解剤としては、プラスミノーゲン、a2-アンチプラスミン、ストレプトキナーゼ、アンチストレプラーゼ、TNK、組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)、及びウロキナーゼが挙げられるが、これらに限定されない。組織プラスミノーゲン活性化因子は、天然のtPA及び組み換えtPA、ならびに天然のtPAの酵素活性または線維素溶解活性を保持するtPAの改変型を含む。
【0061】
本発明の医薬組成物は、薬学的に許容される担体及び、任意に、1つ以上の付加的な薬学的に活性な薬剤と化合物Iを混合することによって調製することができる。
【0062】
特定の実施形態において、本発明は、異常な血漿カリクレイン活性を特徴とする疾患または状態の予防的処置または治療的処置のために製剤化された医薬組成物を提供する。
【0063】
治療方法
本発明は、内因系経路を介したトロンビンの生成を阻害し、それにより病因となる新たな血栓形成(血管閉塞または再閉塞)のリスクを低下させ、線維素溶解レジメンとの補助治療として与えられた場合に線維素溶解に誘発される再灌流も改善する化合物を生成する方法を提供する。本発明の化合物を使用して処置することができる疾患及び状態としては、卒中、炎症、再灌流傷害、急性心筋梗塞、深部静脈血栓症、線維素溶解処置後の状態、アンギナ、浮腫、血管浮腫、遺伝性血管浮腫、敗血症、関節炎、出血、心肺バイパス中の失血、炎症性腸疾患、真性糖尿病、網膜症、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、糖尿病黄斑変性、加齢性黄斑浮腫、加齢性黄斑変性、増殖性網膜症、ニューロパチー、高血圧、脳浮腫、アルブミン排出の増加、マクロアルブミン尿、及び腎障害が挙げられるが、これらに限定されない。
【0064】
例えば、血管浮腫状態の患者において、小ポリペプチドPK阻害剤DX-88(エカランチド)は、遺伝性血管浮腫(HAE)の患者で浮腫を緩和する。Williams,A.et al.(2003)Transfus.Apher.Sci.29:255-8;Schneider,L.et al.(2007)J Allergy Clin Immunol.120:416-22;及びLevy,J.H.et al.(2006)Expert Opin.Invest.Drugs 15:1077-90。ブラジキニンB2受容体拮抗薬であるイカチバントもHAEを処置する際に有効である。Bork,K.et al.(2007)J.Allergy Clin.Immunol.119:1497-1503。血漿カリクレインがブラジキニンを生成するため、血漿カリクレインの阻害が、ブラジキニン産生を阻害することが予想される。
【0065】
例えば、線維素溶解処置(例えば、組織プラスミノーゲン活性化因子またはストレプトキナーゼによる処置)の結果として生じる凝固では、線維素溶解を受けている患者においてより高レベルの血漿カリクレインが見られる。Hoffmeister,H.M.et al.(1998)J.Cardiovasc.Pharmacol.31:764-72。内因系経路のプラスミンが関係する活性化が血漿及び血液において起こることが示され、内因系経路の構成成分のいずれかが不足している個人の血漿では著しく減弱された。Ewald,G.A.et al.(1995)Circulation 91:28-36。
【0066】
急性MIであった個人は、活性型血漿カリクレイン及びトロンビンのレベルが上昇していたことがわかった。Hoffmeister,H.M.,et al.(1998)Circulation 98:2527-33。
【0067】
DX-88は、虚血性脳卒中の動物モデルにおいて脳浮腫、梗塞部の体積、及び神経異常を低減した。Storini,C.et al.(2006)J.Pharm.Exp.Ther.318:849-854。C1-インヒビターは、中大脳動脈閉塞(MCAO)のマウスモデルにおいて梗塞サイズを縮小させた。De Simoni,M.G.et al.(2004)Am.J.Pathol.164:1857-1863;及びAkita,N.et al.(2003)Neurosurgery 52:395-400)。B2受容体拮抗薬は、MCAO動物モデルにおいて梗塞部の体積、脳腫脹、及び好中球蓄積を低減することがわかり、神経を保護した。Zausinger,S.et al.(2003)Acta Neurochir.Suppl.86:205-7;Lumenta,D.B.et al.(2006)Brain Res.1069:227-34;Ding-Zhou,L.et al.(2003)Br.J Pharmacol.139:1539-47。
【0068】
心肺バイパス(CPB)中の失血に関して、カリクレイン・キニン(すなわち、接触)系がCABG時に活性化されることがわかった。Wachtfogel,Y.T.(1989)Blood 73:468。CPB中の接触系の活性化は、血漿ブラジキニンを最大20倍増加させる。Cugno,M.et al.(2006)Chest 120:1776-82;及びCampbell,D.J.et al.(2001)Am.J.Physiol.Reg.Integr.Comp.Physiol.281:1059-70。
【0069】
血漿カリクレイン阻害剤P8720及びPKSI-527は、関節炎のラットモデルにおいて関節腫脹を低減することもわかった。De La Cadena,R.A.et al.(1995)FASEB J.9:446-52;Fujimori,Y.(1993)Agents Action 39:42-8。関節炎の動物モデルにおける炎症が接触系の活性化に付随して起こることもわかった。Blais,C.Jr.et al.(1997)Arthritis Rheum.40:1327-33。
【0070】
さらに、血漿カリクレイン阻害剤P8720は、炎症性腸疾患(IBD)の急性及び慢性ラットモデルにおいて炎症を低減することがわかった。Stadnicki,A.et al.(1998)FASEB J.12:325-33;Stadnicki,A.et al.(1996)Dig.Dis.Sci.41:912-20;及びDe La Cadena,R.A.,et al.(1995)FASEB J.9:446-52。接触系は、急性及び慢性小腸炎の間、活性化される。Sartor,R.B.et al.(1996)Gastroenterology 110:1467-81。B2受容体拮抗薬、高分子キニノゲンに対する抗体、またはキニノゲンのレベルの低下がIBDの動物モデルの臨床病状を低減したことがわかった。同書;Arai,Y.et al.(1999)Dig.Dis.Sci.44:845-51;及びKeith,J.C.et al.(2005)Arthritis Res.Therapy 7:R769-76。
【0071】
H-d-Pro-Phe-Arg-クロロメチルケトン(CMK)、PK及びFXIIの阻害剤ならびに生理的インヒビター(C1-インヒビター)は、複数の臓器において血管透過性を低下させ、動物におけるリポ多糖(LPS)または細菌誘発敗血症の病変を縮小させることがわかった。Liu,D.et al.(2005)Blood 105:2350-5;Persson,K.et al.(2000)J.Exp.Med.192:1415-24。C1-インヒビターにより処置された敗血症患者では臨床的改善が観察された。Zeerleder,S.et al.(2003)Clin.Diagnost.Lab.Immunol.10:529-35;Caliezi,C.,et al.(2002)Crit.Care Med.30:1722-8;及びMarx,G.et al.(1999)Intensive Care Med.25:1017-20。敗血症の命にかかわる症例は、接触活性化の程度がより高いことがわかっている。Martinez-Brotons,F.et al.(1987)Thromb.Haemost.58:709-713;及びKalter,E.S.et al.(1985)J.Infect.Dis.151:1019-27。
【0072】
プレPKレベルは、糖尿病患者、特に増殖性網膜症を有する患者でより高く、フルクトサミンレベルと相関することもわかった。Gao,B.-B.,et al.(2007)Nature Med.13:181-8;及びKedzierska,K.et al.(2005)Archives Med.Res.36:539-43。プレPKはまた、感覚運動性ニューロパチーの患者で最も高いこともわかっている。Christie,M.et al.(1984)Thromb.Haemostas.(Stuttgart)52:221-3。プレPKレベルは、糖尿病患者で上昇し、血圧の増加と関連する。プレPKレベルは、独立してアルブミン排出率と相関し、マクロアルブミン尿のある糖尿病患者で上昇し、これは、プレPKが進行性腎障害に対するマーカーである可能性を示唆する。Jaffa,A.A.et al.(2003)Diabetes 52:1215-21。B1受容体拮抗薬は、ストレプトゾトシンにより処置されたラットにおける血漿漏出を低減することがわかった。Lawson,S.R.et al.(2005)Eur.J.Pharmacol.514:69-78。B1受容体拮抗薬は、ストレプトゾトシン処置マウスが高血糖及び腎機能不全を発症するのを防ぐこともできる。Zuccollo,A.et al.(1996)Can.J.Physiol.Pharmacol.74:586-9。
【0073】
化合物Iは、医薬として使用されてもよい。
【0074】
例えば、化合物Iは、異常な血漿カリクレイン活性を特徴とする疾患または状態を処置または予防する方法に使用されてもよい。本方法は、それを必要とする対象に治療有効量の化合物Iを投与し、それによって、異常な血漿カリクレイン活性を特徴とする疾患または状態を処置または予防するステップを含む。対象の血漿カリクレイン活性を低下させることによって、異常な血漿カリクレイン活性を特徴とする疾患または状態が処置される。
【0075】
「処置する」、「処置すること」、及び「処置」という用語は、本明細書中で使用される場合、対象の疾患または状態の進行を妨げる、止めるもしくは遅らせるか、またはそれを排除することを意味する。いくつかの実施形態において、「処置する」、「処置すること」、及び「処置」は、対象の疾患または状態の進行を止める、もしくは遅らせるか、またはそれを排除することを意味する。いくつかの実施形態において、「処置する」、「処置すること」、及び「処置」は、対象の疾患または状態の目的の症状の少なくとも1つを低減することを意味する。
【0076】
「有効量」という用語は、本明細書中で使用される場合、所望の生物学的効果をもたらすのに十分な量を指す。
【0077】
「治療有効量」という用語は、本明細書中で使用される場合、所望の治療効果をもたらすのに十分な量を指す。
【0078】
「阻害する」という用語は、本明細書中で使用される場合、客観的に測定可能な量または程度だけ低減することを意味する。さまざまな実施形態において、「阻害する」は、関連する対照と比較して少なくとも5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、または95パーセント低減することを意味する。一実施形態において、「阻害する」は、100パーセント低減する、すなわち、止めるかまたは排除することを意味する。
【0079】
「対象」という用語は、本明細書中で使用される場合、哺乳動物を指す。さまざまな実施形態において、対象は、マウス、ラット、ウサギ、ネコ、イヌ、ブタ、ヒツジ、ウマ、ウシ、または非ヒト霊長類である。一実施形態において、対象はヒトである。
【0080】
あるいは、特定の態様において、化合物Iは、異常な血漿カリクレイン活性を特徴とする疾患または状態の処置のために使用されてもよい。
【0081】
あるいは、特定の態様において、化合物Iは、異常な血漿カリクレイン活性を特徴とする疾患または状態の処置に使用するための医薬の製造のために使用されてもよい。
【0082】
本明細書中で使用される場合、「異常な血漿カリクレイン活性を特徴とする疾患または状態」は、血漿カリクレイン活性を低下させることが望ましいあらゆる疾患または状態を指す。例えば、カリクレインの不適切な活性化または過剰活性化の状況では血漿カリクレイン活性を低下させることが望ましい場合もある。別の例として、過凝固状態の状況では血漿カリクレイン活性を低下させることが望ましい場合もある。別の例として、血栓の存在または形成と関連する組織虚血の状況では血漿カリクレイン活性を低下させることが望ましい場合もある。
【0083】
特定の実施形態において、異常な血漿カリクレイン活性を特徴とする疾患または状態は、脳卒中、炎症、再灌流傷害、急性心筋梗塞、深部静脈血栓症、線維素溶解処置後の状態、アンギナ、浮腫、血管浮腫、遺伝性血管浮腫、敗血症、関節炎、出血、心肺バイパス中の失血、炎症性腸疾患、真性糖尿病、網膜症、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、糖尿病黄斑変性、加齢性黄斑浮腫、加齢性黄斑変性、増殖性網膜症、ニューロパチー、高血圧、脳浮腫、アルブミン排出の増加、マクロアルブミン尿、及び腎障害からなる群から選択される。
【0084】
特定の実施形態において、異常な血漿カリクレイン活性を特徴とする疾患または状態は、血管浮腫である。
【0085】
特定の実施形態において、異常な血漿カリクレイン活性を特徴とする疾患または状態は、後天性血管浮腫または遺伝性血管浮腫(HAE)である。
【0086】
後天性血管浮腫(AAE)(Caldwell JR,et al.Clin Immunol Immunopathol.1972;1:39- 52)は、C1インヒビター(C1-INH)の後天的欠乏、ヒト補体の古典的経路の過剰活性化及び接触・キニン系の不適切な活性化によって放出されたブラジキニンが関係する血管浮腫症状を含む、いくつかの方法で特徴づけられる。AAEは、1型AAE(通常、別の疾患と関連する)及び通常、自己免疫疾患と関連するII型AAEの2つの形態が存在することがある。AAEは、自己免疫疾患(例えば、抗C1INH抗体の産生)を含むが、それらに限定されないいくつかの要因によって、またはC1 INHにおける後天的な変異によって引き起こされることがある。さらに、化合物Iは、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤処置の副作用を処置するために使用されてもよい。ACE阻害剤は、ブラジキニンの分解に重要な経路をブロックする。化合物Iの使用によりカリクレイン生成を阻害することにより、ブラジキニンの生成が低減される。
【0087】
特定の実施形態において、異常な血漿カリクレイン活性を特徴とする疾患または状態は、遺伝性血管浮腫(HAE)である。特定の実施形態において、遺伝性血管浮腫は、I型遺伝性血管浮腫である。あるいは、遺伝性血管浮腫は、II型遺伝性血管浮腫である場合もある。あるいは、遺伝性血管浮腫は、III型遺伝性血管浮腫である場合もある。
【0088】
特定の実施形態において、化合物Iは、HAEの予防的処置のために使用される。他の実施形態において、化合物Iは、HAEの急性処置のために使用される。
【0089】
特定の実施形態において、化合物Iは、HAEの対象における血管浮腫発作の予防または処置のために使用される。特定の実施形態において、化合物Iは、HAEの対象において血管浮腫発作の頻度を低下させるための予防処置として使用される。他の実施形態において、化合物Iは、HAEの対象における急性血管浮腫発作の処置のために使用される。
【0090】
特定の実施形態において、異常な血漿カリクレイン活性を特徴とする疾患または状態は、脳卒中である。
【0091】
特定の実施形態において、異常な血漿カリクレイン活性を特徴とする疾患または状態は、再灌流傷害である。
【0092】
特定の実施形態において、異常な血漿カリクレイン活性を特徴とする疾患または状態は、急性心筋梗塞である。
【0093】
特定の実施形態において、異常な血漿カリクレイン活性を特徴とする疾患または状態は、出血である。
【0094】
特定の実施形態において、異常な血漿カリクレイン活性を特徴とする疾患または状態は、心肺バイパス中の失血である。
【0095】
特定の実施形態において、異常な血漿カリクレイン活性を特徴とする疾患または状態は、網膜症、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、糖尿病黄斑変性、加齢性黄斑浮腫、加齢性黄斑変性、及び増殖性網膜症からなる群から選択される。
【0096】
製剤、投与経路、及び投薬
本明細書に記載されるとおり合成される化合物Iは、医薬組成物として製剤化され、ヒト患者などの哺乳動物ホストに、選択された投与経路に適合するさまざまな形態で、例えば、経口的に、または静脈内、腹腔内、筋肉内、局所、もしくは皮下経路により非経口的に投与することができる。さらなる投与経路も本発明に意図される。
【0097】
したがって、(本明細書において「活性化合物」とも呼ばれる)化合物Iは、例えば、経口的に、不活性希釈剤または吸収可能な可食担体などの薬学的に許容されるビヒクルと組み合わせて全身投与されてもよい。それらは、硬または軟シェルゼラチンカプセルに封入されてもよく、錠剤に圧縮されてもよく、または患者の食事の食品に直接混合されてもよい。治療的経口投与に関して、活性化合物は、1つ以上の賦形剤と混合され、摂取可能な錠剤、バッカル錠、トローチ剤、カプセル、エリキシル剤、懸濁液、シロップ、ウェーハなどの形態で使用されてもよい。そのような組成物及び調製物は、少なくとも0.1%の活性化合物を含まなければならない。組成物及び調製物のパーセンテージは、当然、変化してもよく、好都合に所与の単位剤形の重量の約2%から約60%の間であってもよい。治療的に有用なそのような組成物中の活性化合物の量は、有効な投与量レベルが得られるようにされる。
【0098】
錠剤、トローチ剤、丸剤、カプセルなどはまた、以下の希釈剤及び担体も含んでもよい:結合剤、例えば、トラガカントゴム、アラビアゴム、トウモロコシデンプンまたはゼラチン;賦形剤、例えば、リン酸水素カルシウム;崩壊剤、例えば、トウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン、アルギン酸など;滑沢剤、例えば、ステアリン酸マグネシウム;及び甘味剤、例えば、スクロース、フルクトース、ラクトースもしくはアスパルテームまたは香味剤、例えば、ペパーミント、トウリョクジュの油、もしくはサクランボ香料が添加されてもよい。単位剤形がカプセルの場合、それは、上記のタイプの材料に加えて、植物油またはポリエチレングリコールなどの液体担体を含んでもよい。さまざまな他の材料が、コーティングとして存在してもよく、または固体単位剤形の物理的形態を別の方法で改変するために存在してもよい。例えば、錠剤、丸剤、またはカプセルは、ゼラチン、ワックス、セラックまたは砂糖などでコーティングされてもよい。シロップまたはエリキシル剤は、活性化合物、甘味剤としてスクロースまたはフルクトース、保存料としてメチル及びプロピルパラベン、色素ならびにサクランボまたはオレンジ香味料などの香料を含んでもよい。当然、任意の単位剤形を調製する際に使用される任意の材料は、薬学的に許容され、利用される量で実質的に無毒性でなければならない。さらに、活性化合物は、持続放出調製物及びデバイスに組み込まれてもよい。
【0099】
活性化合物はまた、注入または注射によって静脈内または腹腔内投与されてもよい。活性化合物の溶液は、任意に、無毒性界面活性剤と混合された水または生理学的に許容される水溶液中に調製することができる。分散液も、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、トリアセチン、及びそれらの混合物中ならびに油中に調製することができる。保存及び使用の通常の条件下において、これらの調製物は、微生物の増殖を防ぐための保存料を含む。
【0100】
注射または注入に適した医薬剤形としては、任意にリポソーム中にカプセル化された、活性化合物を含む滅菌水溶液もしくは分散液または滅菌した注射可能もしくは注入可能な溶液もしくは分散液の即席の調製に適合した滅菌粉末を挙げることができる。あらゆる場合において、最終的な剤形は、滅菌された流体で製造及び保管の条件下において安定でなければならない。液体担体またはビヒクルは、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、植物油、無毒性グリセリルエステル、及び適したそれらの混合物を含む、溶媒または液体分散媒であってもよい。適切な流動性は、例えば、リポソームの形成によって、分散液の場合、必要とされる粒子径の維持によって、または界面活性剤の使用によって維持することができる。微生物の活動の阻止は、さまざまな抗菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによってもたらされてもよい。多くの場合、等張化剤、例えば、砂糖、緩衝剤または塩化ナトリウムを含むことが好ましくなる。注射可能な組成物の長期の吸収は、吸収を遅らせる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンを組成物に使用することによってもたらされてもよい。
【0101】
滅菌した注射可能な溶液は、活性化合物を必要とされる量で適切な溶媒に、必要に応じて上で挙げられたさまざまなその他の成分とともに混合し、続いてろ過滅菌を行うことによって調製される。滅菌した注射可能な溶液の調製のための滅菌粉末の場合、調製の方法としては、真空乾燥及びフリーズドライ技術を挙げることができ、これは、活性化合物及び予め滅菌ろ過した溶液中に存在する任意の付加的な所望の成分の粉末をもたらす。
【0102】
局所投与に関して、化合物Iは、純粋な形態、すなわち、それらが液体として調製されたときに利用されてもよい。ただし、それを皮膚に皮膚科学的に許容される担体と組み合わせた組成物または製剤として投与することが一般に望ましく、これは、固体であっても、または液体であってもよい。
【0103】
有用な固体担体としては、微粉化固体、例えば、タルク、粘土、微結晶性セルロース、シリカ、アルミナなどが挙げられる。有用な液体担体としては、化合物Iが、任意に無毒性界面活性剤を用いて有効なレベルで溶解または分散可能な水、アルコールもしくはグリコールまたは水・アルコール/グリコールブレンドが挙げられる。所与の使用に対して特性を最適化するために、補助剤、例えば、芳香剤及び付加的な抗菌剤が添加されてもよい。得られた液体組成物は、吸収パッドから適用されても、含浸包帯及びその他の被覆材に使用されても、またはポンプ型もしくはエアロゾルスプレーを使用して患部に噴霧されてもよい。
【0104】
使用者の皮膚に直接塗布するために塗り広げられるペースト、ゲル、軟膏、石けんなどを生成するために、増粘剤、例えば、合成ポリマー、脂肪酸、脂肪酸塩及びエステル、脂肪族アルコール、変性セルロースまたは変性ミネラル材料も液体担体とともに利用することができる。
【0105】
化合物Iを皮膚に送達するために使用することができる有用な皮膚科学的組成物の例は、当該技術分野において知られており、例えば、Jacquetら(参照によって本明細書に組み込まれる、米国特許第4,608,392号)、Geria(参照によって本明細書に組み込まれる、米国特許第4,992,478号)、Smithら(参照によって本明細書に組み込まれる、米国特許第4,559,157号)、及びWortzman(参照によって本明細書に組み込まれる、米国特許第4,820,508号)を参照。
【0106】
化合物Iの有用な投与量は、少なくとも最初のうちは、インビトロ活性と動物モデルにおけるインビボ活性とを比較することによって求めることができる。マウス、及びその他の動物における有効な投与量のヒトへの外挿のための方法は、当該技術分野において知られており、例えば、米国特許第4,938,949号(参照によって本明細書に組み込まれる)を参照。
【0107】
処置に使用するために必要とされる化合物Iの量は、投与経路、処置される状態の性質、ならびに患者の年齢及び状態により変化することになり、最終的に主治医または臨床医の判断による。
【0108】
ただし、一般に、適した用量は、1日当たり約0.5から約100mg/kg受け手の体重、例えば、1日当たり約3から約90mg/kg体重、1日当たり体重1キログラムにつき約6から約75mg、1日当たり約10から約60mg/kg体重、または1日当たり約15から約50mg/kg体重の範囲になる。
【0109】
化合物Iは、都合よく、単位剤形あたり例えば、5mg、10mg、25mg、50mg、75mg、100mg、125mg、150mg、175mg、200mg、250mg、300mg、350mg、400mg、450mg、500mg、550mg、600mg、650mg、700mg、750mg、800mg、850mg、900mg、950mg、1000mg、及び下記の単位投与量範囲内にあるその他の当該単位投与量を含む、例えば、5から1000mg、10から750mg、50から500mg、75mgから350mg、75mgから300mg、75mgから250mg、75mgから200mg、75mgから175mg、75mgから150mg、75mgから125mg、100mgから750mg、100mgから500mg、100mgから350mg、100mgから300mg、100mgから250mg、100mgから200mg、100mgから175mg、100mgから150mg、100mgから125mg、125mgから350mg、125mgから300mg、125mgから250mg、125mgから200mg、125mgから175mg、125mgから150mgの活性化合物を含む、単位剤形として製剤化することができる。一実施形態において、本発明は、そのような単位剤形に製剤化された化合物Iを含む組成物を提供する。所望の用量は、都合よく、単回用量で、または適切な間隔で投与される分割された用量として、例えば、1日当たり2、3、4回以上の分割用量として提示されてもよい。分割用量自体が、例えば、いくつかの大ざっぱに間隔をあけた別々の投与にさらに分割されてもよい。
【0110】
化合物Iはまた、他の治療用薬剤、例えば、虚血、失血、または再灌流傷害を処置または予防するのに有用な他の薬剤と組み合わせて投与されてもよい。
【0111】
その他の送達系としては、当該技術分野において周知であるような逐次継続放出、遅延放出、または持続放出送達系を挙げることができる。そのような系は、活性化合物の反復投与を回避して、対象及び医師に対して利便性を高めることができる。多くのタイプの放出送達系が利用可能であり、当業者に知られている。長期持続放出インプラントの使用が望ましい場合もある。長期放出は、本明細書中で使用される場合、送達系またはインプラントが治療レベルの活性化合物を少なくとも30日間、好ましくは60日間送達するよう構築及び配置されることを意味する。
【0112】
特定の実施形態において、化合物Iは、眼内投与、例えば、直接注射または眼内医療デバイス内もしくはそれと関連した挿入用に製剤化される。
【0113】
化合物Iは、医療デバイスに堆積させるために製剤化されてもよく、医療デバイスとしては、任意のさまざまな従来のグラフト、ステントグラフトを含むステント、カテーテル、バルーン、バスケット、または体管腔内に配置されるか、または永久に埋め込まれ得るその他の機器を挙げることができる。特定の例として、化合物Iを介入技術によって処置された体の領域へ送達することができるデバイス及び方法を有することが望ましいであろう。
【0114】
例となる実施形態において、化合物Iは、ステントなどの医療デバイス内に堆積させられ、体の一部の処置のために処置部位に送達されてもよい。
【0115】
ステントは、治療用薬剤(すなわち、薬物)用の送達媒体として使用されてきた。血管内ステントは、一般に、冠血管または末梢血管に永久に埋め込まれる。ステント設計としては、米国特許第4,733,655号(Palmaz)、米国特許第4,800,882号(Gianturco)、または米国特許第4,886,062号(Wiktor)のものが挙げられる。そのような設計には、金属及びポリマー両方のステント、ならびに自己拡張型及びバルーンで拡張可能なステントが含まれる。ステントはまた、例えば、米国特許第5,102,417号(Palmaz)、米国特許第5,419,760号(Narciso,Jr.)、米国特許第5,429,634号(Narciso,Jr.)、ならびに国際特許出願第WO91/12779号(Medtronic,Inc.)及びWO90/13332(Cedars-Sanai Medical Center)に開示されているとおり、血管系との接触部位に薬物を送達するために使用されてもよい。
【0116】
「堆積させる」という用語は、活性化合物が、当該技術分野において既知の方法によってデバイスにコーティングされる、吸着される、配置される、または別の方法で組み込まれることを意味する。例えば、化合物は、医療デバイスをコーティングするか、もしくはそれに広がるポリマー材料に埋め込まれ、そこから放出されるか(「マトリクスタイプ」)またはポリマー材料によって取り囲まれ、それを通して放出される(「リザーバータイプ」)。後者の例では、化合物は、当該技術分野において既知のそのような材料を生成するための1つ以上の技術を使用して、ポリマー材料内に封入されても、またはポリマー材料に結合されてもよい。その他の製剤では、化合物は、コーティングの必要なく医療デバイスの表面に、例えば、着脱可能な結合によって連結されてもよく、時間とともに放出されるか、または有効な機械的もしくは化学的プロセスによって除去されてもよい。その他の製剤では、化合物は、化合物を挿入部位に与える永久に固定された形態であってもよい。
【0117】
特定の実施形態において、活性化合物は、ステントなどの医療デバイス用の生体適合性コーティングの形成中にポリマー組成物と混合されてもよい。こうした構成成分から生成されたコーティングは、一般に均質で、移植用に設計された多くのデバイスをコーティングするのに有用である。
【0118】
ポリマーは、所望の放出速度もしくは所望のポリマー安定性の程度に応じて生体安定性または生体吸収性ポリマーのいずれかであってもよいが、生体安定性ポリマーとは異なり、長期の局所的ないずれかの有害反応を引き起こすほど移植後長く存在しないため、本実施形態には生体吸収性ポリマーが好適な場合が多い。使用可能であろう生体吸収性ポリマーとしては、ポリ(L-乳酸)、ポリカプロラクトン、ポリグリコリド(PGA)、ポリ(ラクチド-co-グリコリド)(PLLA/PGA)、ポリ(ヒドロキシブチレート)、ポリ(ヒドロキシブチレート-co-バレラート)、ポリジオキサノン、ポリオルトエステル、ポリ無水物、ポリ(グリコール酸)、ポリ(D-乳酸)、ポリ(L-乳酸)、ポリ(D,L-乳酸)、ポリ(D,L-ラクチド)(PLA)、ポリ(L-ラクチド)(PLLA)、ポリ(グリコール酸-co-トリメチレンカーボネート)(PGA/PTMC)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリジオキサノン(PDS)、ポリリン酸エステル、ポリリン酸エステルウレタン、ポリ(アミノ酸)、シアノアクリラート、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(イミノカーボネート)、コポリ(エーテル・エステル)(例えば、PEO/PLA)、ポリアルキレンオキサラート、ポリホスファゼン及び生体分子、例えば、フィブリン、フィブリノーゲン、セルロース、デンプン、コラーゲン及びヒアルロン酸、ポリイプシロンカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリオルトエステル、ポリアセタール、ポリジヒドロピラン、ポリシアノアクリラート、ハイドロゲルの架橋または両親媒性ブロックコポリマー、ならびに当該技術分野において既知のその他の適した生体吸収性ポリマーが挙げられるが、これらに限定されない。また、ポリウレタン、シリコーン、及びポリエステルなどの長期的な組織反応が比較的低い生体安定性ポリマーが使用可能であり、溶解され、医療デバイス上に硬化または重合化可能な場合、その他のポリマー、例えば、ポリオレフィン、ポリイソブチレン及びエチレン・アルファオレフィンコポリマー;アクリル系ポリマー及びコポリマー、ハロゲン化ビニルポリマー及びコポリマー、例えば、ポリ塩化ビニル;ポリビニルピロリドン;ポリビニルエーテル、例えば、ポリビニルメチルエーテル;ポリハロゲン化ビニリデン、例えば、ポリビニリデンフルオライド及びポリ塩化ビニリデン;ポリアクリロニトリル、ポリビニルケトン;ポリビニル芳香属化合物、例えば、ポリスチレン、ポリビニルエステル、例えば、ポリ酢酸ビニル;互いにビニルモノマー及びオレフィンのコポリマー、例えば、エチレン・メチルメタクリレートコポリマー、アクリロニトリル・スチレンコポリマー、ABS樹脂、及びエチレン・ビニルアセタートコポリマー;ピランコポリマー;ポリヒドロキシプロピルメタクリルアミドフェノール;ポリヒドロキシエチルアスパルトアミドフェノール;パルミトイル残基で置換されたポリエチレンオキシドポリリジン;ポリアミド、例えば、ナイロン66及びポリカプロラクタム;アルキド樹脂、ポリカーボネート;ポリオキシメチレン;ポリイミド;ポリエーテル;エポキシ樹脂、ポリウレタン;レーヨン;レーヨン-トリアセタート;セルロース、セルロースアセタート、セルロースブチラート;セルロースアセタートブチラート;セロハン;ニトロセルロース;セルロースプロピオナート;セルロースエーテル;ならびにカルボキシメチルセルロースも使用可能であろう。
【0119】
ポリマー及び半透性ポリマーマトリックスが、バルブ、ステント、チューブ、プロステーシスなどの造形品に形成されてもよい。
【0120】
本発明の特定の実施形態において、化合物Iは、ステントまたはステント・グラフトデバイスとして形成されるポリマーまたは半透性ポリマーマトリックスに結合される。
【0121】
一般に、ポリマーは、スピンコーティング、浸漬、または噴霧によって埋め込み型デバイスの表面に塗布される。当該技術分野において既知のさらなる方法もこの目的のために利用することができる。噴霧する方法としては、従来の方法ならびにインクジェットタイプのディスペンサーを用いたマイクロデポジション技術が挙げられる。さらに、ポリマーは、ポリマーをデバイスの特定の部分にのみ配置するフォトパターニングを使用して埋め込み型デバイスに堆積させることができる。このデバイスのコーティングは、デバイスの周囲に均等な層をもたらし、これが、デバイスコーティングによりさまざまな分析物の改善された拡散を可能にする。
【0122】
本発明の特定の実施形態において、活性化合物は、ポリマーコーティングから医療デバイスが配置される環境への放出のために製剤化される。好ましくは、化合物は、溶出を制御するポリマー担体または層を伴ういくつかの周知の技術のうちの少なくとも1つを使用して延長された時間枠(例えば、何か月)にわたり制御された様式で放出される。これらの技術の一部が米国特許出願第2004/0243225A1号に記載されており、その開示全体が完全に本明細書に組み込まれる。
【0123】
さらに、例えば、全体が本明細書に組み込まれる米国特許第6,770,729号に記載されているとおり、ポリマー組成物の試薬及び反応条件は、ポリマーコーティングからの活性化合物の放出が制御可能なよう操作することができる。例えば、ポリマーコーティングからの化合物の放出を制御するために、1つ以上のポリマーコーティングの拡散係数が調節されてもよい。本主題の変形において、1つ以上のポリマーコーティングの拡散係数は、医療デバイスが配置される環境に存在する分析物(例えば、ポリマーの一部分の分解または加水分解を促進する分析物)の能力を調節して、ポリマー組成物内の1つ以上の構成成分に到達する(例えば、それによって、ポリマーコーティングからの化合物の放出を調節する)よう制御されてもよい。本発明のさらに別の実施形態は、それぞれが複数の拡散係数を有する、複数のポリマーコーティングを有するデバイスを含む。本発明のそのような実施形態において、ポリマーコーティングからの活性化合物の放出は、複数のポリマーコーティングによって調節することができる。
【0124】
本発明のさらに別の実施形態において、ポリマーコーティングからの活性化合物の放出は、1つ以上の内因性または外因性化合物の存在、あるいは、ポリマー組成物のpHなどのポリマー組成物の1つ以上の特性を調節することによって制御される。例えば、特定のポリマー組成物は、ポリマー組成物のpHの低下に応じて化合物を放出するよう設計することができる。
【0125】
キット
本発明はまた、哺乳動物における異常なカリクレイン活性を特徴とする疾患または状態を処置または予防するために化合物I及び他の治療用薬剤(複数可)を哺乳動物に投与するための、化合物I、少なくとも1つの他の治療用薬剤、包装材料、及び説明書を含むキットを提供する。一実施形態において、哺乳動物は、ヒトである。
【実施例】
【0126】
実施例1:化合物Aに関する合成プロトコル
以下のスキーム及び付随するステップは、化合物Aを合成するためのプロトコルを説明する。
【化16】
【0127】
ステップ1:(R,E)-N-(3-シアノベンジリデン)-2-メチルプロパン-2-スルフィンアミド(化合物03)
【化17】
【0128】
3-シアノベンズアルデヒド(化合物01;53.57kg、408.42mol、0.9当量)を、室温でジクロロメタン(DCM)(550.0L、10.0vol)中の(R)-(+)-2-メチルプロパン-2-スルフィンアミド(化合物02;55.0kg、453.8mol、1.0当量)の撹拌した溶液に添加した。KHSO4(46.2kg、340.35mol、0.75当量)を室温で添加し、反応混合物をこの温度で6時間撹拌した。反応の進行をHPLC分析によって監視した。反応混合物を、水(220.0L)でクエンチし、30分間撹拌した。DCM層を分離し、水層をDCM(110.0L)で再び抽出した。合わせた有機抽出物を、メタ重亜硫酸ナトリウム(DMW(165.0L)中17.24kg)で2時間洗浄した。水層をDCM(55.0L)で抽出した。合わせた有機物を、Na2SO4(13.75kg)で乾燥し、ろ過した。ろ液を減圧下、40℃で濃縮した。結晶化のためにn-ヘプタン110.0Lを添加し、10℃で2時間撹拌し、ろ過し、n-ヘプタン27.5Lで洗浄する。固体を真空トレー乾燥機において35℃で乾燥して、(R,E)-N-(3-シアノベンジリデン)-2-メチルプロパン-2-スルフィンアミド(化合物03;86.23kg、81.1%)をオフホワイトの固体として得た。1HNMR(300MHz,DMSO-d6)δ8.63(s,1H),8.42(d,J=1.7Hz,1H),8.28(dt,J=7.9,1.4Hz,1H),8.07(dt,J=7.8,1.4Hz,1H),7.76(t,J=7.8Hz,1H),1.21(s,9H);MS(ES+)235.2(M+1),257.2(M+Na).
【0129】
ステップ2:N-(5-ブロモ-2-フルオロフェニル)-1,1,1-トリメチル-N-(トリメチルシリル)シランアミン:
【化18】
【0130】
トリメチルシリルトリフルオロメタンスルホナート(55.1kg、249.98mol)を、室温、窒素下でトリエチルアミン(95.0L)中の5-ブロモ-2-フルオロアニリン(化合物04;19.0kg、99.99mol)の撹拌した溶液に添加した。反応混合物を窒素下で還流加熱し、8~14時間撹拌した。反応の進行を1H NMRによって監視した。反応混合物を、窒素下で室温に冷まし、層分離させた。下層を窒素下で個別のHDPEドラムに回収した。上層を減圧下、70℃から80℃で濃縮した。残留物をHVDによって精製して、生成物N-(5-ブロモ-2-フルオロフェニル)-1,1,1-トリメチル-N-(トリメチルシリル)シランアミン(化合物05)を淡黄色の油(29.09kg、86.99%)として得た。
【0131】
ステップ3:(3-(ビス(トリメチルシリル)アミノ)-4-フルオロフェニル)マグネシウムブロミド:
【化19】
【0132】
THF(15L)中の乾燥機乾燥Mg削り状(4.5kg、185.15mol)及びヨウ素(50.50g、0.0013当量)の懸濁液を窒素下、室温で10分間撹拌した。N-(5-ブロモ-2-フルオロフェニル)-1,1,1-トリメチル-N-(トリメチルシリル)シランアミン(化合物05)(1.5kg、4.49mol)を、窒素下、室温でゆっくりと上記懸濁液に添加した。反応の開始の最初に発熱反応が観察された。THF(100.0L)を窒素下で反応に添加した。残った化合物05(48.5kg、145.04mol)を、5から7時間の期間にわたり45℃未満の反応温度を維持するような速度で反応混合物に添加した。反応混合物を窒素下、室温で10時間撹拌した。反応混合物をそのまま次のステップに使用した。Qty:150.0L
【0133】
ステップ4:(R)-N-((R)-(3-アミノ-4-フルオロフェニル)(3-シアノフェニル)メチル)-2-メチルプロパン-2-スルフィンアミド(化合物A):
【化20】
【0134】
トルエン(1240.0L)中の(R,E)-N-(3-シアノベンジリデン)-2-メチルプロパン-2-スルフィンアミド(化合物03)(62.0kg、264.6mol)の撹拌した溶液を、-60から-50℃に冷却した。グリニャール試薬溶液(3-(ビス(トリメチルシリル)アミノ)-4-フルオロフェニル)マグネシウムブロミド(化合物06)(450.0L)を、窒素下で2時間の期間にわたり添加して、反応温度を-60から-35℃の間に維持した。反応混合物を、窒素下、-60から-35℃で1時間撹拌した後、-60から15℃でKHSO4水溶液(DM W 744L中99.2kgのKHSO4)によりクエンチし、混合物を室温で1時間撹拌し、その後、層分離させた。下の水層を取り除き、トルエン(341.0L)により逆抽出した。合わせた有機層をブライン(DM W 527.0L中105.4kgのNaCl)によって洗浄した。有機層をNa2SO4で乾燥し(43.4kg)、ろ過し、ろ液を減圧下、65℃で濃縮して、粗製化合物A(99.0kg)を粘着性の赤みがかった粗製物として得た。
【0135】
粘着性の赤みがかった粗製化合物A(99.1kg)を、40から45℃でトルエン(893.0L)に溶解させた。溶液をゆっくりと室温に冷ました。溶液を勢いよく撹拌し、n-ヘプタン(347.2L)を室温で添加した。混合物を15~20℃で5時間撹拌し、沈殿した固体をろ過によって回収し、20部のトルエン対80部のn-ヘプタン(97.0L)の混合物で洗浄し、室温で24時間乾燥して、生成物を淡褐色の固体(40.36kg、44.16%)として得た。mp 100.6℃。
【0136】
ステップ5:(R)-N-((R)-(3-アミノ-4-フルオロフェニル)(3-シアノフェニル)メチル)-2-メチルプロパン-2-スルフィンアミド(化合物A)の再結晶:
【化21】
【0137】
(R)-N-((R)-(3-アミノ-4-フルオロフェニル)(3-シアノフェニル)メチル)-2-メチルプロパン-2-スルフィンアミド(化合物A)(81.0kg)を40~50℃でトルエン(567.0L)に溶解させた。反応混合物を室温に冷ました後、ハイフローベッドを通してろ過し、トルエン(162.0L)で洗浄した。溶液を反応器に充填した。溶液を勢いよく撹拌し、n-ヘプタン(324.0L)を室温で添加した。混合物を15~20℃で5時間撹拌し、沈殿した固体をろ過によって回収し、10部のトルエン対90部のn-ヘプタンの混合物(81.0L)で洗浄し、室温で24時間乾燥して、生成物(R)-N-((R)-(3-アミノ-4-フルオロフェニル)(3-シアノフェニル)メチル)-2-メチルプロパン-2-スルフィンアミド(化合物A)をオフホワイトの固体(67.96kg、83.9%)として得た。1HNMR(300MHz,DMSO-d6)δ7.82(d,J=1.7Hz,1H),7.70(ddt,J=8.1,5.2,1.4Hz,2H),7.54(t,J=7.7Hz,1H),6.93(dd,J=11.4,8.3Hz,1H),6.73(dd,J=8.8,2.3Hz,1H),6.57(ddd,J=8.4,4.4,2.2Hz,1H),5.99(d,J=6.0Hz,1H),5.48(d,J=6.0Hz,1H),5.14(s,2H),1.13(s,9H);MS(ES+)346.3(M+1).
【0138】
実施例2:化合物I・2HClに関する合成プロトコル
以下のスキーム及び付随するステップは、化合物Iの結晶ビス(塩酸)塩を合成するためのプロトコルを説明する。
【化22】
【0139】
ステップ0:化合物B HClの調製(100kg規模)
化合物A(151kg)及び2-プロパノール(501L)を反応器に充填し、35±5℃で透明な溶液が得られるまで撹拌した。30~35℃に温度調節後、濃塩酸(37%水溶液、64kg、1.5当量)を少なくとも10分かけて反応器に移して、反応器温度を≦35℃に維持した。反応器内容物の温度を25±5℃に調節し、6±1時間の撹拌後に内容物を10±5℃に冷却し、IPC HPLCによる変換分析のためにIPCサンプルを回収した。反応生成物、化合物B HClへの変換が<99.5%だった場合、反応混合物を25±5℃にし、さらに3±1時間撹拌した後、10±5℃に再び冷却し、新しいIPCサンプルを分析のために回収した。
【0140】
反応器の内容物を10±5℃で20~35時間熟成させた。生成物スラリーを遠心分離機に移し、生成物を遠心分離によって単離し、2-プロパノールで洗浄した。生成物をドライスピニング後、化合物B HCl(wet)を遠心分離機から排出した。生成物を減圧下、≦30℃で3時間以上及び≦40℃で2時間以上乾燥した。収率(約80%)。1HNMR(300MHz,DMSO-d6)δ9.28(s,3H),8.04(s,1H),7.88-7.79(m,2H),7.63(t,J=7.8Hz,1H),7.10-6.98(m,1H),6.76(d,J=10.3Hz,2H),5.58(s,1H),5.32(s,2H).
【0141】
ステップ1:化合物Cシュウ酸塩の調製(100kg規模)
化合物B HCl(94kg)及びメタノール(412L)を反応器に充填し、内容物の温度を-10±5℃に調節した。メタノール中の30%ナトリウムメトキシド(46kg、0.76当量)を充填して、内部反応器温度を-10±5℃で維持した。反応混合物を60分以上撹拌し、pHをチェックし、必要に応じて、メタノール中の30%ナトリウムメトキシドの任意の部分(2.6kg、0.04当量)を使用してpH=7~8にさらに調節した。反応混合物を-22±4℃に冷却し、予め計量したシクロプロパンカルボキサルデヒド(23.4kg、0.99当量)を5回で充填して、反応器内部温度≦-10℃を維持した。反応器内容物を、その後、温度-20±5℃で1.5時間以上撹拌した。
【0142】
水素化ホウ素ナトリウム(4.5kg、0.35当量)を同時に1回で充填して反応器温度-20±5℃を維持した。反応器内容物を、その後、温度-20±5℃で30分以上撹拌し、化合物Cへの変換に関してIPCアッセイをした。必要であれば、水素化ホウ素ナトリウム(0.32kg、0.025当量)の任意の部分を充填し、続いて-20±5℃で30分間、反応器内容物の撹拌を行った。反応が完了したら(化合物Cへの変換≧95.0%)、体積基準(およそ213L)になるまで、ジャケット温度≦50℃でメタノールの減圧蒸留を行った。トルエン(339L)及びプロセス水(121L)での抽出を内部温度30±5℃で行い、続いて15分以上分離を行った。下の水相を捨てた。10%塩化ナトリウム(99kg)及びプロセス水(121L)を予め混合した後、30±5℃で反応器に充填し、続いて15分以上分離を行った。下の水相を捨てた。トルエンの減圧蒸留、ジャケット温度≦50℃によるプロセスを特定の体積基準(およそ221L)まで継続した。
【0143】
シュウ酸二水和物(42kg、1当量)及び2-プロパノール(254L)を反応器に充填し、内容物温度を30±5℃に調節した。その後、内容物を透明な溶液が得られるまで30分以上撹拌した。その後、上のステップからの濃縮されトルエン相を移し、反応器温度を30±5℃に調節し、30分以上撹拌し、結晶化をチェックした。反応器内容物を20±5℃に冷却し、6時間以上撹拌した。沈殿生成物を遠心分離機に移し、予め混合したトルエン(59L)及び2-プロパノール(62L)で洗浄した。生成物をドライスピニング後、化合物Cシュウ酸塩(wet)を遠心分離機から排出した。化合物Cシュウ酸塩(wet)の排出されたバッチ全体を反応器に充填し、続いて予め加熱した(80~83℃)2-プロパノール(516L)及びトルエン(348L)を充填することによって再結晶を行った。反応器内容物を、79±3℃に急速に加熱し、透明な溶液が得られるまで撹拌した。プロセス水(6.1L、1当量)を反応器内容物に充填し、内容物を20±3℃に冷却し、結晶化が起こるまで少なくとも12時間撹拌した。生成物を遠心分離によって単離し、予め混合したイソプロパノール(62L)及びトルエン(59L)で洗浄した。生成物を排出し、IPCサンプルを採取し、前に記載したのと同じ手順で第2の再結晶を行い、IPCサンプルを採取した(化合物B≦0.05%、RRT 1.39≦1.04%)。生成物を、コーンドライヤー中でまず≦30℃で3時間以上、その後、≦40℃で3時間以上乾燥した。乾燥した材料を排出し、化合物Cシュウ酸塩(収率約77%)を得た。1HNMR(300MHz,酸化ジューテリウム)δ7.77(d,J=3.3Hz,2H),7.73(s,1H),7.58(t,J=7.8Hz,1H),7.11(dd,J=10.9,8.4Hz,1H),6.98(dd,J=8.2,2.3Hz,1H),6.86(dt,J=7.0,3.2Hz,1H),5.51(s,1H),2.88(d,J=7.4Hz,2H),1.03(tq,J=7.9,3.9,3.0Hz,1H),0.63(d,J=7.7Hz,2H),0.24(p,J=5.5,5.1Hz,2H).
【0144】
ステップ2:化合物Dの調製(100kg規模;トルエン溶液500kg、20w/w%化合物D)
水(141L)及び水酸化カリウム(24kg、85%、2.1当量)を充填することによってKOH溶液の予め混合したものを調製した。混合物を透明な溶液が得られるまで20±5℃で撹拌した。化合物Cシュウ酸塩(67kg)、2-プロパノール(10L)及びトルエン(292L)を反応器に充填し、反応器内容物を20±5℃で15分以上撹拌した。調製した水酸化カリウム溶液を、温度≦50℃で別の反応器に移した。その後、反応混合物を50±5℃に加熱し、透明な溶液が得られるまで撹拌した。下の水相のpH(≧13)をチェックした後、反応器内容物を10分以上分離させて、下の水相を捨てた。
【0145】
残ったトルエン相を50±5℃でプロセス水(156L)により洗浄し、15分以上分離させ、続いて下の水相を除去した。その手順を繰り返し、有機相のIPCサンプルを採取した(RRT 0.85、NMT 0.10%)。トルエン相を減圧下、ジャケット温度≦70℃で蒸留して特定の体積(173L)にした。トルエン(192L)を充填し、蒸留を同じ手順で繰り返した。
【0146】
別の反応器に化合物F(100%として73.5kg、1.1当量)をマンホールより充填し、反応器を20±5℃で15分以上撹拌し、ピリジンの第1の部分(13.7kg、1.0当量)を充填した。その後、内容物を透明な溶液が得られるまで撹拌した。
【0147】
EtOAc中のT3P、50%(148.7kg、50%、1.35当量)を温度≦3℃で上の溶液に充填した。反応器の内容物を20±5℃に加熱し、混合物を1.5~2.5時間撹拌した後、ピリジンの第2の部分(6.9kg、0.5当量)を充填した。20±5℃における2~4時間の内容物の撹拌後、変換分析のために(水及び有機相の両方を含む)反応混合物のIPCサンプルを採取した(化合物D≧99.6%)。プロセス水(265L)及びピリジンの第3の部分(20.6kg)を反応器に充填した。反応混合物を35~40℃で15分撹拌した後、20分以上分離させ、下の水相を捨てた。有機相をプロセス水(265L)で洗浄し、35~40℃で15分以上撹拌した後、20分以上分離させて、続いて、下の水相を除去した。必要に応じて、その手順を繰り返した。次に、水溶性重炭酸ナトリウム(5%)、水(487L)及びNaHCO3(24.8kg、1.7当量)の予め混合した溶液を移し、内容物を38±3℃で20分以上撹拌し、20分以上分離させ、下の水相を捨てた。反応器中において35~40℃で内容物をプロセス水(266L)で洗浄するプロセスを継続し、続いて分離及び下の水相の除去を行った。
【0148】
反応器内容物の減圧蒸留を、反応器中においてTm<70℃で≦284Lの体積まで行った。トルエン(およそ280L)を特定の目標体積(およそ563L)になるまで充填した。生成物(化合物D)溶液を4±5℃に冷却し、サンプルを採取し、窒素フラッシュしたバレルに排出した後、冷却容器中で4±5℃で保存した。1HNMR(300MHz,DMSO-d6)δ10.56(s,1H),7.89(t,J=1.6Hz,1H),7.74(d,J=7.7Hz,1H),7.69-7.61(m,2H),7.58(s,1H),7.54-7.31(m,7H),7.22(dd,J=10.3,8.5Hz,1H),4.93(s,1H),4.19(d,J=6.2Hz,2H),2.25(s,2H),1.37(s,9H),1.26(s,1H),1.00-0.80(m,1H),0.48-0.30(m,2H),0.10--0.03(m,2H);19FNMR(282MHz,DMSO)a-60.62,-123.00;MS(ES+)663.5(M+1)。
【0149】
ステップ3:化合物I 2×HClの調製(100kg規模)
反応器に、化合物D(119.9kg、19.5%トルエン溶液614.7kgとして)を充填し、溶液をトルエンの除去のためにジャケット温度≦70℃で283Lの体積含量になるまで減圧蒸留した。2-プロパノール(807L)を反応器に充填し、続いてTm<70℃で283Lの体積含量になるまで減圧蒸留を行うことによって溶媒交換を行った。その手順を一度繰り返し、蒸留した溶液を、その後、2-プロパノール(306L)及び水(542L)で希釈し、温度を20±5℃に調節した。37%塩酸(115.2kg;6.46当量)を反応器に充填して、反応器内部温度≦45℃を維持した。次に、反応混合物を40~47℃で5~12時間撹拌した後、変換制御(化合物I≧98%)のためにIPCサンプルを採取した。反応器の内容物をトルエン(420L)で洗浄し、35~40℃で少なくとも15分撹拌し、続いて生成物相(下の水相)の分離を35~40℃で15分以上行った。有機廃棄相(上相)を捨てた。この手順を2回繰り返した(最初は540Lのトルエンで、その後、633Lのトルエンで)。トルエン(662L)を水溶性の生成物相に充填し、25%アンモニア水(137kg、11.2当量)を温度≦40℃で反応器にガラス容器により充填し、塩基性混合物を35~40℃で少なくとも30分撹拌し、pHをチェックし(pH≧10)、続いて撹拌の停止をして、下の水相と、生成物化合物I遊離塩基を含む上の有機相とを分離させた。下の水相を捨てた。有機生成物相を、温度35~40℃でプロセス水(614L)により洗浄し、水相を捨てた。この手順を一度繰り返した。トルエン相を、反応器中において減圧下、ジャケット温度≦70℃で特定の体積(314L)まで蒸留した。MTBE(627L)への溶媒交換をTm<70℃での減圧蒸留下で行った。その手順を一度繰り返し、反応器中の残った内容物を、MTBEのさらなる添加またはさらなる蒸留によって調節して、20±5℃で制御された特定の体積(最大1372L、最低1262L)を得た。次に、内容物を-7±3℃に冷却した。
【0150】
37%塩酸水溶液(38.1kg、32.3L、2.14当量)をきれいな空の結晶化容器に充填し、メタノール(228.9kg、39.5当量)をすすぎ添加し、内容物を-7±3℃に冷却した。先行するステップからのMTBE相を、温度-5±5℃でポリッシングフィルターにより結晶化容器にろ過した。MTBEですすいだ後、予め計量した化合物I 2×HCl種晶(1.39kg、0.012当量)をマンホールより充填した。容器内容物を30~33℃に加熱し、撹拌速度を25~50rpmに設定した。結晶化の確認後、スラリーをさらに3から4時間撹拌した。生成物スラリーを遠心分離機に移し、遠心分離によって単離し、生成物をMTBE(585L)で洗浄した。生成物をドライスピニング後、化合物I 2×HCl(wet)を遠心分離機から排出し、生成物をコーンドライヤー中において減圧下、≦40℃で乾燥した。一般的な収率=74~86%。
【0151】
1H NMR(300MHz,DMSO-d
6)データを以下の表に示す。
【表1】
【0152】
19F NMR(282MHz,DMSO-d
6)データを以下の表に示す。
【表2】
【0153】
化合物Iは、2つの塩基性部位を有する。第一級アミンの共役酸は、8.89のpKa値を有することが算出され、第二級アミンの共役酸は、7.86のpKa値を有することが算出された。
【0154】
実施例3:化合物アッセイ
ヒト血漿カリクレイン活性の阻害を判定するインビトロ生化学的アッセイにおいて化合物Iをアッセイした。実験プロトコル及びアッセイの結果は、(ともに参照により組み込まれる)WO2015/134998及び米国特許出願公開第2017/0073314A1号で見つけられる。この生化学的アッセイの結果は、化合物Iがヒト血漿カリクレイン活性の強力な阻害剤であることを示す。
【0155】
参照による組み込み
本明細書において言及される米国特許ならびに米国及びPCT公開特許出願のすべては、個々の特許または公開出願のそれぞれが参照により組み込まれることが具体的に個別に示されたようにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。矛盾する場合、本明細書におけるあらゆる定義を含む本出願が優先される。
【0156】
等価物
主題の発明の特定の実施形態が述べられてきたが、上の明細書は、説明のためのものであり、制限するものではない。本明細書及び添付の特許請求の範囲を見れば、本発明の多くの変形が当業者には明らかになるであろう。本発明の完全な範囲は、その等価物の完全な範囲とともに特許請求の範囲及びそのような変形とともに明細書を参照することによって判断されるべきである。
【国際調査報告】