(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-12
(54)【発明の名称】抗PD-1/HER2二重特異性抗体を含む製剤及びその調製方法と使用
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20221004BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20221004BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20221004BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20221004BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20221004BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221004BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20221004BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221004BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20221004BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20221004BHJP
【FI】
A61K39/395 D
A61K9/08 ZNA
A61K47/22
A61K47/10
A61K47/26
A61P43/00 105
A61P35/02
A61P35/00
A61K39/395 N
C07K16/28
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022506961
(86)(22)【出願日】2020-08-06
(85)【翻訳文提出日】2022-02-02
(86)【国際出願番号】 CN2020107441
(87)【国際公開番号】W WO2021023267
(87)【国際公開日】2021-02-11
(31)【優先権主張番号】201910726334.X
(32)【優先日】2019-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】519274183
【氏名又は名称】イノベント バイオロジクス(スーチョウ)カンパニー,リミティド
(71)【出願人】
【識別番号】513311664
【氏名又は名称】ベイジン・ハンミ・ファーマシューティカル・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】BEIJING HANMI PHARMACEUTICAL CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100170852
【氏名又は名称】白樫 依子
(72)【発明者】
【氏名】リウ ヤンハン
(72)【発明者】
【氏名】マー イートン
(72)【発明者】
【氏名】ワン インチュエ
(72)【発明者】
【氏名】チョウ カイソン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076BB13
4C076BB15
4C076CC27
4C076DD38Q
4C076DD60Z
4C076DD67Q
4C076EE23
4C076FF65
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085CC02
4C085DD62
4C085EE01
4C085EE07
4C085GG02
4C085GG03
4H045AA10
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、抗PD-1/HER2二重特異性抗体を含む製剤に関し、特に、抗PD-1/HER2二重特異性抗体、緩衝剤、安定剤及び界面活性剤を含む医薬製剤に関する。また、本発明はさらに、これらの製剤の疾患を治療又は予防する使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質と、
(ii)緩衝剤と、
(iii)安定剤と、
(iv)界面活性剤と、を含む液体抗体製剤であって、
前記抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質は、PD-1と特異的に結合する第1VH/VL単位を含む第1半抗体と、HER2と特異的に結合する第2VH/VL単位を含む第2半抗体と、を含み、前記第1VH/VL単位は、配列番号12/配列番号10の対となる重鎖可変領域配列/軽鎖可変領域配列に含まれる全ての重鎖CDRと軽鎖CDRを含み、前記第2VH/VL単位は、配列番号6/配列番号2の対となる重鎖可変領域配列/軽鎖可変領域配列に含まれる全ての重鎖CDRと軽鎖CDRを含み、
好ましくは、前記液体抗体製剤のpH値が約5.0~6.5、例えば、約5.0、5.5、6.0、又は6.5である、液体抗体製剤。
【請求項2】
前記液体抗体製剤における抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質の濃度は約1~150mg/mL、好ましくは約10~100mg/mL、例えば、約10、20、30、40、50、60、70、80、90又は100mg/mLである、請求項1に記載の液体抗体製剤。
【請求項3】
前記液体抗体製剤における緩衝剤は、ヒスチジン、ヒスチジン塩酸塩及びそれらの組み合わせから選ばれ、前記緩衝剤の濃度は好ましくは約5~50mM、そしてより好ましくは約10~30mM、例えば、約10、15、20、25、又は30mMである、請求項1又は2に記載の液体抗体製剤。
【請求項4】
前記安定剤は、ポリオール(例えば、ソルビトール)、糖類(例えば、スクロース、トレハロース)及びそれらの任意の組み合わせから選ばれ、前記安定剤の濃度は好ましくは約50~500mM、そしてより好ましくは約100~400mM、例えば、約100、150、200、250、300、350、又は400mMである、請求項1~3の何れか1項に記載の液体抗体製剤。
【請求項5】
前記安定剤は、ポリオール(例えば、ソルビトール)、糖類(例えば、スクロース、トレハロース)及びそれらの任意の組み合わせと酸化防止剤との組み合わせから選ばれ、前記安定剤の総濃度は好ましくは約50~500mMで、そしてより好ましくは約100~400mM、例えば、約100、150、200、250、300、350、又は400mMであり、前記酸化防止剤の濃度は約1~50mM、好ましくは約5~40mM、例えば約5、10、20、30、又は40mMであり、前記酸化防止剤は例えばメチオニンである、請求項1~3の何れか1項に記載の液体抗体製剤。
【請求項6】
前記液体抗体製剤における界面活性剤は、ポリソルベート界面活性剤から選ばれ、そして好ましくはポリソルベート80である、請求項1~5の何れか1項に記載の液体抗体製剤。
【請求項7】
前記界面活性剤の濃度は約0.1~1mg/mL、好ましくは約0.2~0.8mg/mL、例えば約0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、又は0.8mg/mLである、請求項1~6の何れか1項に記載の液体抗体製剤。
【請求項8】
前記抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質は、PD-1と特異的に結合する第1VH/VL単位を含む第1半抗体と、HER2と特異的に結合する第2VH/VL単位を含む第2半抗体と、を含み、前記第1VH/VL単位は配列番号12/配列番号10の対となる重鎖可変領域配列/軽鎖可変領域配列、又は前記対となる重鎖可変領域配列/軽鎖可変領域配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%若しくはそれ以上の配列同一性を有する配列を含み、前記第2VH/VL単位は配列番号6/配列番号2の対となる重鎖可変領域配列/軽鎖可変領域配列、又は前記対となる重鎖可変領域配列/軽鎖可変領域配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%若しくはそれ以上の配列同一性を有する配列を含み、
好ましくは、前記第1半抗体は、NからC方向の配列番号12及び配列番号14の重鎖配列又はそれと少なくとも90%、95%、98%又は99%の同一性を有する重鎖配列と、NからC方向の配列番号10及び配列番号4の軽鎖配列又はそれと少なくとも90%、95%、98%又は99%の同一性を有する軽鎖配列とを含み、前記第2半抗体は、NからC方向の配列番号6及び配列番号8の重鎖配列又はそれと少なくとも90%、95%、98%又は99%の同一性を有する重鎖配列と、NからC方向の配列番号2及び配列番号4の軽鎖配列又はそれと少なくとも90%、95%、98%又は99%の同一性を有する軽鎖配列とを含む、請求項1に記載の液体抗体製剤。
【請求項9】
前記抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質は、HEK293細胞又はHEK293細胞を基に改変して得られたHEK293T、HEK293F、若しくはHEK293E細胞、及びCHO細胞又はCHO細胞を基に改変して得られたCHO-S、CHO-dhfr
-、CHO/DG44、若しくはExpiCHO細胞で組換え発現する、請求項1~8の何れか1項に記載の液体抗体製剤。
【請求項10】
前記液体製剤は注射剤であり、好ましくは皮下注射又は静脈内注射に用いられ、又は注入剤であり、例えば静脈内注入に用いられる、請求項1~9の何れか1項に記載の液体抗体製剤。
【請求項11】
(i)抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質約1~150mg/mLと、
(ii)ヒスチジン及び/又はヒスチジン塩酸塩約5~50mMと、
(iii)ソルビトール、スクロース、トレハロース及びそれらの任意の組み合わせ約50~500mM、又は、
ソルビトール、スクロース、トレハロース及びそれらの任意の組み合わせと、濃度が約1~50mMであるメチオニンとの、総濃度が約50~500mMである組み合わせと、
(iv)ポリソルベート80約0.1~1mg/mLと、を含み、
前記液体製剤のpH値は約5.0~6.5、好ましくは約5.5であり、
例えば、前記液体抗体製剤は、
(i)抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質約10~100mg/mLと、
(ii)ヒスチジン及び/又はヒスチジン塩酸塩約10~30mMと、
(iii)ソルビトール、スクロース、及び/又はトレハロース約100~400mM、又は、
ソルビトール、スクロース及び/又はトレハロースと、濃度が約5~40mMであるメチオニンとの、総濃度が約100~400mMである組み合わせと、
(iv)ポリソルベート80約0.2~0.8mg/mLと、を含み、
前記液体製剤のpH値は約5.0~6.5、好ましくは約5.5であり、
又は、前記液体抗体製剤は、
(i)抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質約20mg/mLと、
(ii)ヒスチジン約10mMと、
(iii)ソルビトール約50mg/mLと、
(iv)ポリソルベート80約0.3mg/mLと、を含み、
前記液体製剤のpH値は約5.0~6.5、好ましくは約5.5であり、
又は、前記液体抗体製剤は、
(i)抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質約50mg/mLと、
(ii)ヒスチジン約20mMと、
(iii)ソルビトール約50mg/mLと、
(iv)ポリソルベート80約0.2mg/mLと、を含み、
前記液体製剤のpH値は約5.0~6.5、好ましくは約5.5であり、
又は、前記液体抗体製剤は、
(i)抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質約50mg/mLと、
(ii)ヒスチジン約20mMと、
(iii)スクロース約80mg/mLと、
(iv)ポリソルベート80約0.2mg/mLと、を含み、
前記液体製剤のpH値は約5.0~6.5、好ましくは約5.5であり、
又は、前記液体抗体製剤は、
(i)抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質約50mg/mLと、
(ii)ヒスチジン約20mMと、
(iii)トレハロース約80mg/mLと、
(iv)ポリソルベート80約0.2mg/mLと、を含み、
前記液体製剤のpH値は約5.0~6.5、好ましくは約5.5であり、
又は、前記液体抗体製剤は、
(i)抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質約50mg/mLと、
(ii)ヒスチジン約20mMと、
(iii)スクロース約80mg/mL及びメチオニン約1.49mg/mLと、
(iv)ポリソルベート80約0.2mg/mLと、を含み、
前記液体製剤のpH値は約5.0~6.5、好ましくは約5.5であり、
又は、前記液体抗体製剤は、
(i)抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質約42mg/mLと、
(ii)ヒスチジン約0.85mg/mL及びヒスチジン塩酸塩約3.17mg/mLと、
(iii)スクロース約80mg/mLと、
(iv)ポリソルベート80約0.2mg/mLと、を含み、
前記液体製剤のpH値は約5.0~6.5、好ましくは約5.5である、請求項1~10の何れか1項に記載の液体抗体製剤。
【請求項12】
前記製剤は、保存後、例えば、2~8℃で少なくとも24カ月保存した後、又は室温で少なくとも3カ月保存した後、又は40℃±2℃で1カ月保存した後、安定であり、好ましくは、以下の:
(i)SEC-HPLC法で測定すると、製剤は90%よりも高い純度、好ましくは95%、96%、97%、98%、又は99%よりも高い純度を有し、
(ii)還元型又は非還元型CE-SDS法で測定すると、製剤は90%よりも高い純度、好ましくは92%、94%、96%、又は98%よりも高い純度を有し、
(iii)iCIEF法で測定すると、保存0日目の初期値に対して、製剤における抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質の各成分(主成分、酸性成分、及び塩基性成分)の変化値は合わせて50%以下、例えば40%、30%、20%、10%、又は5%以下であり、
(iv)ELISA法で測定すると、保存0日目の初期値に対して、製剤における抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質の相対結合活性は70%~130%、例えば70%、80%、90%、100%、110%、120%、又は130%である、という特徴のうちの1つ又は複数を有する、請求項1~11の何れか1項に記載の液体抗体製剤。
【請求項13】
請求項1~12の何れか1項に記載の液体抗体製剤を固化させることで得られ、例えば、注射用の凍結乾燥粉末の形態である、固体抗体製剤。
【請求項14】
請求項1~12の何れか1項に記載の液体抗体製剤又は請求項13に記載の固体抗体製剤を含む送達装置。
【請求項15】
請求項1~12の何れか1項に記載の液体抗体製剤又は請求項13に記載の固体抗体製剤を含み、静脈内注射又は筋肉内注射に用いられる薬剤充填済み注射器。
【請求項16】
HER2シグナル伝達経路とPD-1シグナル伝達経路に関連する障害を治療、予防又は遅延する医薬の調製における、請求項1~12の何れか1項に記載の液体抗体製剤又は請求項13に記載の固体抗体製剤の使用であって、前記障害は例えば、種々の血液病と固形腫瘍であり、白血病、リンパ腫、骨髄腫、脳腫瘍、頭頸部扁平上皮がん、非小細胞肺がん、鼻咽頭がん、食道がん、胃がん、膵臓がん、胆嚢がん、胆管がん、肝がん、結腸直腸がん、乳がん、卵巣がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、子宮肉腫、前立腺がん、膀胱がん、腎細胞がん、黒色腫を含むが、これらに限定されない前記使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体製剤の分野に関する。さらに具体的に、本発明は、組換え抗プログラム細胞死受容体1(PD-1)と抗ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)である二重特異性抗体(抗PD-1/HER2二重特異性抗体とも呼ばれる)を含む医薬製剤、特に安定な液体製剤、及び前記医薬製剤を調製するための方法、並びに前記医薬製剤の治療及び/又は予防使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)(NEU、ERBB-2、CD340又はp185とも呼ばれる)の過剰発現は、乳がん、卵巣がん、胃がん、子宮がん、黒色腫や胆管がんなどを含む種々のがんに繋がっている。例えば、侵襲性・転移性乳がんにも、再発率が高い及び/又は患者の予後が悪い乳がんにも、HER2の過剰発現が認められた。
【0003】
HER2過剰発現がんを治療する方法の一つは、HER2シグナル伝達を阻害する抗HER2抗体を用いることである。例えば、トラスツズマブ(trastuzumab)は、HER2が介在する細胞内シグナル伝達を遮断する治療用抗HER2抗体であり、HER2過剰発現腫瘍の治療に広く利用されている。残念なことに、その臨床応用における抗腫瘍効果は一般的に、臨床前実験ほど好ましくない。従来の技術においては、通常、抗HER2抗体が化学療法薬などと併用投与される(Slamon DJ et al.、N Engl J Med、344:783-792、2001)。
【0004】
近年、免疫チェックポイント(immune checkpoint)分子への研究につれて、免疫チェックポイントの阻害性シグナル経路の活性化によりTリンパ球が腫瘍への致死効果を効果的に果たせないことが発見されてきて(Yao S、ZhuYとChen L.、Advances in targeting cell surface signaling molecules for immune modulation.Nat Rev Drug Discov、2013、12(2):130-146)、これは、腫瘍細胞における標的のみをターゲットとする医薬(例えばトラスツズマブ)の抗腫瘍効果が良くない要因の一つとなる。
【0005】
プログラム細胞死タンパク質-1(PD-1)は、重要な免疫チェックポイントタンパク質の一つで、55kDaのI型膜貫通タンパク質であり、主に活性化したT細胞表面に誘導的に発現され、B細胞、NK細胞、単球、DC細胞などの細胞にも発現される。PD-1の2つの細胞表面糖タンパク質リガンドはそれぞれ、プログラム細胞死タンパク質リガンド1(PD-L1)とプログラム細胞死タンパク質リガンド2(PD-L2)であることが同定された。PD-1のリガンドは、多くのがん細胞に高度に発現される。PD-1とPD-1のリガンドが結合すると、T細胞のアポトーシス、免疫不応答、T細胞の「枯渇」やIL-10の分泌などになり得るため、PD1経路を遮断することにより、がん患者においてT細胞機能を回復させることができる(Sheridan、Nature Biotechnology 30(2012)、729-730)。PD-1のモノクローナル抗体は既に記載されており、例えば、ブリストルマイヤーズスクイブ(BMS)社のニボルマブ(Nivolumab)とメルク(Merck)社のペムブロリズマブ(Pembrolizumab)である。ニボルマブ(商品名OPDIVO(登録商標))は完全ヒト化IgG4抗体分子で、ペムブロリズマブ(商品名KEYTRUDA(登録商標))はヒト化IgG4抗体分子である。前記抗PD-1モノクローナル抗体はTリンパ球におけるPD-1と結合すると、PD-1とそのリガンドPD-L1及びPD-L2との結合を阻害することができることで、Tリンパ球の活性化、増殖とIL-2のような免疫活性サイトカインの産生が促進されるとともに、PD-1による抗腫瘍活性を有するTリンパ球の免疫学的監視への阻害が解消される。
【0006】
免疫応答の調節における免疫チェックポイント分子PD-1の重要性に鑑み、本発明者は鋭意に検討することにより、腫瘍細胞におけるHER2を標的にすると同時に、Tリンパ球を活性化することができ、抗腫瘍作用を向上させるとともに副作用を低減するメリットを有する、PD-1を標的にするとともにHER2を標的にする抗PD-1/HER2二重特異性抗体を得た。前記抗PD-1/HER2二重特異性抗体の特許出願番号はPCT/CN2018/075851(出願日:2018年2月8日)で、その中に、抗PD-1半抗体と抗HER2半抗体とからなる抗PD-1/HER2二重特異性抗体が構築されて発現されている。HCC1954ヒト乳がん細胞で免疫不全NCGマウスに接種して得られた担腫瘍マウスに抗PD-1/HER2二重特異性抗体を投与した結果、抗HER2モノクローナル抗体又は抗PD-1モノクローナル抗体を投与する場合と比べて、抗PD-1/HER2二重特異性抗体は、明らかに向上した抗腫瘍活性を有し、腫瘍の体積を著しく縮小することができることが分かる。
【0007】
この分野では、HER2シグナル伝達経路及びPD-1シグナル伝達経路に関連する種々の疾患を治療、予防又は遅延可能な抗PD-1/HER2二重特異性抗体製剤が求められており、かつ、この製剤は安定性が良く、液体に配合される時に、液体溶液における抗PD-1/HER2二重特異性抗体は容易に分解したり、凝集したり、望ましくない化学的修飾を発生したりすることはしない。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、上記の需要に対応するために、PD-1及びHER2と特異的に結合する抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質を含む医薬製剤を提供する。本発明の抗体製剤は、抗体を対象への投与に適するように配合することができるとともに、保存及び後の使用期間にその安定性を維持することができる。
【0009】
一態様において、本発明は、(i)抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質と、(ii)緩衝剤と、(iii)安定剤と、(iv)界面活性剤とを含む液体抗体製剤を提供する。
【0010】
本発明の抗体製剤における抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質は、PD-1と特異的に結合する第1VH/VL単位を含む第1半抗体と、HER2と特異的に結合する第2VH/VL単位を含む第2半抗体と、を含む。幾つかの実施形態において、前記抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質は、少なくとも約107 M-1、好ましくは約108 M-1、さらに好ましくは約109 M-1又はそれ以上の親和性定数でTリンパ球表面のPD-1と結合することで、PD-1とそのリガンドとの結合を阻害し、Tリンパ球の活性化、増殖及びIL-2のような免疫活性サイトカインの産生を促進するとともに、少なくとも約107 M-1、好ましくは約108 M-1、さらに好ましくは約109 M-1又はそれ以上の親和性定数で腫瘍細胞表面のHER2と結合することで、HER2が介在する細胞内シグナル伝達を遮断して抗腫瘍作用を果たすことができる。
【0011】
一実施形態において、前記抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質は、PCT出願番号PCT/CN2018/075851(出願日:2018年2月8日)に開示された組換え抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質である。本願の目的のために、当該PCT出願の内容の全ては、ここで参考として本明細書に組み込まれる。一実施形態において、抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質は、PD-1と特異的に結合する第1VH/VL単位を含む第1半抗体と、HER2と特異的に結合する第2VH/VL単位を含む第2半抗体と、を含み、前記第1VH/VL単位は配列番号12/配列番号10の対となる重鎖可変領域配列/軽鎖可変領域配列に含まれる全ての重鎖CDRと軽鎖CDRを含み、前記第2VH/VL単位は配列番号6/配列番号2の対となる重鎖可変領域配列/軽鎖可変領域配列に含まれる全ての重鎖CDRと軽鎖CDRを含む。
【0012】
一実施形態において、抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質は、PD-1と特異的に結合する第1VH/VL単位を含む第1半抗体と、HER2と特異的に結合する第2VH/VL単位を含む第2半抗体と、を含み、前記第1VH/VL単位は配列番号12/配列番号10の対となる重鎖可変領域配列/軽鎖可変領域配列、又は前記対となる重鎖可変領域配列/軽鎖可変領域配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%若しくはそれ以上の配列同一性を有する配列を含み、前記第2VH/VL単位は配列番号6/配列番号2の対となる重鎖可変領域配列/軽鎖可変領域配列、又は前記対となる重鎖可変領域配列/軽鎖可変領域配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%若しくはそれ以上の配列同一性を有する配列を含む。
【0013】
一実施形態において、抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質は、NからC方向の配列番号12及び配列番号14の重鎖配列又はそれと少なくとも90%、95%、98%又は99%の同一性を有する重鎖配列及びNからC方向の配列番号10及び配列番号4の軽鎖配列又はそれと少なくとも90%、95%、98%又は99%の同一性を有する軽鎖配列を含む第1半抗体と、NからC方向の配列番号6及び配列番号8の重鎖配列又はそれと少なくとも90%、95%、98%又は99%の同一性を有する重鎖配列及びNからC方向の配列番号2及び配列番号4の軽鎖配列又はそれと少なくとも90%、95%、98%又は99%の同一性を有する軽鎖配列を含む第2半抗体と、を含む。
【0014】
一実施形態において、前記抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質は、HEK293細胞又はHEK293細胞を基に改変して得られたHEK293T、HEK293F、若しくはHEK293E細胞、及びCHO細胞又はCHO細胞を基に改変して得られたCHO-S、CHO-dhfr-、CHO/DG44、若しくはExpiCHO細胞で組換え発現した抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質である。
【0015】
一実施形態において、本発明の液体抗体製剤における抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質の濃度は、約1~150mg/mLである。別の実施形態において、本発明の液体抗体製剤における抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質の濃度は、約10~100mg/mLである。他の実施形態において、本発明の液体抗体製剤における抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質の濃度は、約10、20、30、40、50、60、70、80、90又は100mg/mLである。
【0016】
一実施形態において、本発明の液体抗体製剤における緩衝剤の濃度は、約5~50mMである。一実施形態において、本発明の液体抗体製剤における緩衝剤の濃度は、約10~30mM、例えば、約10、15、20、25、30mMである。
【0017】
一実施形態において、前記緩衝剤は、ヒスチジン、ヒスチジン塩酸塩及びそれらの組み合わせから選ばれる。
【0018】
一実施形態において、本発明の液体抗体製剤における安定剤の濃度は、約50~500mMである。一実施形態において、本発明の液体抗体製剤における安定剤の濃度は、約100~400mM、例えば、約100、150、200、250、300、350、400mMである。
【0019】
一実施形態において、前記安定剤はポリオール(例えば、ソルビトール)、糖類(例えば、スクロース、トレハロース)及びそれらの任意の組み合わせから選ばれる。
【0020】
また別の実施形態において、前記安定剤はポリオール(例えば、ソルビトール)、糖類(例えば、スクロース、トレハロース)及びそれらの任意の組み合わせと酸化防止剤との組み合わせから選ばれる。一実施形態において、前記液体抗体製剤における安定剤の総濃度は約50~500mMで、好ましくは約100~400mM、例えば、約100、150、200、250、300、350、400mMであり、そのうち、酸化防止剤の濃度は約1~50mM、好ましくは約5~40mM、例えば、約5、10、20、30、40mMである。一実施形態において、前記酸化防止剤はメチオニンである。
【0021】
一実施形態において、本発明の液体抗体製剤における界面活性剤の濃度は、約0.1~1mg/mLである。一実施形態において、本発明の液体抗体製剤における界面活性剤の濃度は約0.2~0.8mg/mL、例えば、約0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8mg/mLである。
【0022】
一実施形態において、前記界面活性剤は、非イオン性界面活性剤である。一実施形態において、前記界面活性剤は、ポリソルベート界面活性剤から選ばれる。一具体的な実施形態において、本発明の液体抗体製剤における界面活性剤は、ポリソルベート80である。
【0023】
一実施形態において、前記液体製剤のpH値は、約5.0~6.5である。幾つかの実施形態において、前記液体製剤のpH値は、約5.0~6.5のうちの任意の値で、例えば、約5.0、5.2、5.4、5.6、5.8、6.0、6.2、6.4である。
【0024】
一実施形態において、前記液体製剤は医薬製剤で、好ましくは注射剤、さらに好ましくは皮下注射剤又は静脈内注射剤である。一実施形態において、前記液体製剤は、静脈内注入剤である。
【0025】
一実施形態において、本発明の液体抗体製剤は、
(i)抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質約1~150mg/mLと、
(ii)ヒスチジン及び/又はヒスチジン塩酸塩約5~50mMと、
(iii)ソルビトール、スクロース、トレハロース及びそれらの任意の組み合わせ約50~500mM、又は、
ソルビトール、スクロース、トレハロース及びそれらの任意の組み合わせと、濃度が約1~50mMであるメチオニンとの、総濃度が約50~500mMである組み合わせと、
(iv)ポリソルベート80約0.1~1mg/mLと、を含み、
前記液体製剤のpH値は約5.0~6.5、好ましくは約5.5である。
【0026】
一好ましい実施形態において、本発明の液体抗体製剤は、
(i)抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質約10~100mg/mLと、
(ii)ヒスチジン及び/又はヒスチジン塩酸塩約10~30mMと、
(iii)ソルビトール、スクロース、及び/又はトレハロース約100~400mM、又は、
ソルビトール、スクロース及び/又はトレハロースと、濃度が約5~40mMであるメチオニンとの総濃度が約100~400mMである組み合わせと、
(iv)ポリソルベート80約0.2~0.8mg/mLと、を含み、
前記液体製剤のpH値は約5.0~6.5、好ましくは約5.5である。
【0027】
一好ましい実施形態において、本発明の液体抗体製剤は、
(i)抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質約20mg/mLと、
(ii)ヒスチジン約10mMと、
(iii)ソルビトール約50mg/mLと、
(iv)ポリソルベート80約0.3mg/mLと、を含み、
前記液体製剤のpH値は約5.0~6.5、好ましくは約5.5である。
【0028】
一好ましい実施形態において、本発明の液体抗体製剤は、
(i)抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質約50mg/mLと、
(ii)ヒスチジン約20mMと、
(iii)ソルビトール約50mg/mLと、
(iv)ポリソルベート80約0.2mg/mLと、を含み、
前記液体製剤のpH値は約5.0~6.5、好ましくは約5.5である。
【0029】
一好ましい実施形態において、本発明の液体抗体製剤は、
(i)抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質約50mg/mLと、
(ii)ヒスチジン約20mMと、
(iii)スクロース約80mg/mLと、
(iv)ポリソルベート80約0.2mg/mLと、を含み、
前記液体製剤のpH値は約5.0~6.5、好ましくは約5.5である。
【0030】
一好ましい実施形態において、本発明の液体抗体製剤は、
(i)抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質約50mg/mLと、
(ii)ヒスチジン約20mMと、
(iii)トレハロース約80mg/mLと、
(iv)ポリソルベート80約0.2mg/mLと、を含み、
前記液体製剤のpH値は約5.0~6.5、好ましくは約5.5である。
【0031】
一好ましい実施形態において、本発明の液体抗体製剤は、
(i)抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質約50mg/mLと、
(ii)ヒスチジン約20mMと、
(iii)スクロース約80mg/mL及びメチオニン約1.49mg/mLと、
(iv)ポリソルベート80約0.2mg/mLと、を含み、
前記液体製剤のpH値は約5.0~6.5、好ましくは約5.5である。
【0032】
一好ましい実施形態において、本発明の液体抗体製剤は、
(i)抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質約42mg/mLと、
(ii)ヒスチジン約0.85mg/mL及びヒスチジン塩酸塩約3.17mg/mLと、
(iii)スクロース約80mg/mLと、
(iv)ポリソルベート80約0.2mg/mLと、を含み、
前記液体製剤のpH値は約5.0~6.5、好ましくは約5.5である。
【0033】
別の態様において、本発明は本発明の液体抗体製剤に対して固化処理を行うことで得られる固体抗体製剤を提供する。前記固化処理は、例えば、結晶法、噴霧乾燥法、冷凍乾燥法により実施される。一好ましい実施形態において、前記固体抗体製剤は、例えば、注射用の凍結乾燥粉末の形態である。固体抗体製剤は、使用前に適切な溶媒に再構成されることにより、本発明の再構成製剤を形成することができる。前記再構成製剤も、本発明の液体抗体製剤である。一実施形態において、前記適切な溶媒は、注射用水、注射用有機溶媒から選ばれ、注射用油、エタノール、プロピレングリコールなど、又はそれらの組合せを含むが、これらに限定されない。
【0034】
本発明の液体製剤は、例えば、少なくとも24カ月又はそれ以上の期間など、長期間に安定して保存することができる。一実施形態において、本発明の液体製剤は、約-80℃から約45℃、例えば、-80℃、約-30℃、約-20℃、約0℃、約5℃、約25℃、約35℃、約38℃、約40℃、約42℃又は約45℃の条件で、少なくとも10日間、少なくとも20日間、少なくとも1カ月、少なくとも2カ月、少なくとも3カ月、少なくとも4カ月、少なくとも5カ月、少なくとも6カ月、少なくとも7カ月、少なくとも8カ月、少なくとも9カ月、少なくとも10カ月、少なくとも11カ月、少なくとも12カ月、少なくとも18カ月、少なくとも24カ月、少なくとも36カ月又はそれ以上の期間かつ安定して保存することができる。
【0035】
一実施形態において、本発明の液体製剤は、少なくとも24カ月安定して保存することができる。さらに別の一実施形態において、本発明の液体製剤は、少なくとも40℃で安定である。さらに別の一実施形態において、本発明の液体製剤は、約2℃~8℃で少なくとも3カ月、好ましくは少なくとも12カ月、さらに好ましくは24カ月安定して保持される。一実施形態において、本発明の液体製剤は、室温又は例えば約25℃で、少なくとも2カ月、好ましくは少なくとも3カ月、さらに好ましくは6カ月安定して保持される。さらに別の一実施形態において、本発明の液体製剤は、約40℃で少なくとも2週間、好ましくは少なくとも1カ月安定して保持される。
【0036】
一実施形態において、製剤の外観、可視の異物、タンパク質の含有量、濁度、純度、及び/又は電荷変異体の変化を検出することにより、保存後の製剤の安定性を示してもよい。一実施形態において、高温苛酷な強制実験では、例えば40℃±2℃で少なくとも1週間、2週間若しくは好ましくは1カ月保存した後、又は加速実験では、例えば、25℃±2℃で少なくとも1カ月若しくは2カ月保存した後、又は長期実験では、例えば5℃±3℃で少なくとも2カ月若しくは3カ月保存した後、本発明の液体製剤の安定性を検出してもよい。
【0037】
一実施形態において、保存した後、本発明の液体製剤の安定性を目で検査すると、本発明の液体製剤は、外観上で透明から薄い乳白光のままで、無色から薄黄色の液体であり、異物がない。一実施形態において、透明度検出器において目で検査すると、製剤には可視の異物がない。一実施形態において、保存した後、タンパク質の含有量の変化を測定することにより、本発明の液体製剤の安定性を検査し、ここで、例えば、紫外線分光光度(UV)法によると、保存0日目の初期値に対して、タンパク質の含有量の変化率は20%以下、好ましくは10%以下、例えば7~8%、さらに好ましくは5%以下である。一実施形態において、保存した後、本発明の液体製剤の濁度の変化を測定することにより、本発明の液体製剤の安定性を検査し、ここで、例えば、OD350nm法により検出すると、保存0日目の初期値に対して、変化値は0.06以下、好ましくは0.06以下、さらに好ましくは0.04以下である。一実施形態において、保存した後、本発明の液体製剤の純度の変化を測定することにより、本発明の液体製剤の安定性を検査し、ここで、サイズ排除高速液体クロマトグラフィー(SEC-HPLC)によると、保存0日目の初期値に対して、モノマーの純度の変化値は10%以下、例えば5%、4%、3%以下で、例えば、変化値は1~2%以下、好ましくは1%以下である。一実施形態において、保存した後、本発明の液体製剤の純度の変化を測定することにより、本発明の液体製剤の安定性を検査し、ここで、非還元型及び/又は還元型ラウリル硫酸ナトリウムキャピラリー電気泳動(CE-SDS)法によると、モノマーの純度の変化値は10%以下、例えば5%、4%、3%以下低下する。一実施形態において、保存した後、イメージングキャピラリー等電点電気泳動(iCIEF)により本発明の液体製剤の安定性を測定し、ここで、保存0日目の初期値に対して、抗体の電荷変異体(主成分、酸性成分、及び塩基性成分)の変化値は合わせて50%以下、例えば、40%、30%、20%、10%、5%以下である。一実施形態において、保存した後、カチオン交換高速液体クロマトグラフィー(CEX-HPLC法)により本発明の液体製剤の安定性を検出し、ここで、保存0日目の初期値に対して、抗体の電荷変異体(主成分、酸性成分、及び塩基性成分)の変化値は合わせて40%以下、例えば、38%、36%、34%、32%、30%以下である。
【0038】
一実施形態において、製剤は保存した後、例えば、2~8℃で少なくとも24カ月保存した後、又は室温で少なくとも3カ月保存した後、又は40℃±2℃で1カ月保存した後、安定であり、好ましくは、以下の:
(i)SEC-HPLC法で測定すると、製剤は90%よりも高い純度、好ましくは95%、96%、97%、98%、又は99%よりも高い純度を有し、
(ii)還元型又は非還元型CE-SDS法で測定すると、製剤は90%よりも高い純度、好ましくは92%、94%、96%、又は98%よりも高い純度を有し、
(iii)iCIEF法で測定すると、保存0日目の初期値に対して、製剤における抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質の各成分(主成分、酸性成分、及び塩基性成分)の変化値は合わせて50%以下、例えば40%、30%、20%、10%、又は5%以下であり、
(iv)ELISA法で測定すると、保存0日目の初期値に対して、製剤における抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質の相対結合活性は70%~130%、例えば70%、80%、90%、100%、110%、120%、又は130%である、
という特徴のうちの1つ又は複数を有する。
【0039】
一態様において、本発明は、本発明の液体抗体製剤又は固体抗体製剤を含む送達装置を提供する。一実施形態において、本発明の送達装置は、本発明の液体抗体製剤又は固体抗体製剤を含む薬剤充填済み注射器の形で提供され、例えば、静脈内、皮下、皮内又は筋肉内注射、静脈内注入に用いられる。
【0040】
さらに別の態様において、本発明は、例えば哺乳類のような対象へ抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質を送達する方法を提供し、本発明の液体抗体製剤又は固体抗体製剤を対象に投与する工程が含まれ、前記送達は、例えば、薬剤充填済み注射器を利用する送達装置により実施される。
【0041】
さらに別の態様において、本発明は、対象でHER2シグナル伝達経路とPD-1シグナル伝達経路に関連する障害を治療、予防又は遅延する送達装置(例えば、薬剤充填済み注射器)又は医薬の製造に用いられる、本発明の液体抗体製剤又は固体抗体製剤の使用を提供し、前記障害は例えば、種々の血液病と固形腫瘍であり、白血病、リンパ腫、骨髄腫、脳腫瘍、頭頸部扁平上皮がん、非小細胞肺がん、鼻咽頭がん、食道がん、胃がん、膵臓がん、胆嚢がん、胆管がん、肝がん、結腸直腸がん、乳がん、卵巣がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、子宮肉腫、前立腺がん、膀胱がん、腎細胞がん、黒色腫を含むが、これらに限定されない。
【0042】
本発明の他の実施形態は、後述する詳細な説明を参照することにより明らかになる。
以下の図面と合わせて読めば、次に詳細に記載される本発明の好ましい実施形態がより良く理解される。本発明を説明するために、図面には現在の好ましい実施形態が示されている。しかしながら、本発明は、図面に示される実施形態の精確な配置と手段に限定されないと理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】抗PD-1半抗体分子と抗HER2半抗体分子を含む抗PD-1/HER2二重特異性抗体の構造を例示する。
【
図2】抗PD-1/HER2二重特異性抗体製剤がpH5.0、5.5、6.0、6.5で40℃±2℃で異なる時間置かれた後、OD
350nm法により測定された各試料の濁度の変化トレンドグラフである。図中、横軸でのT0は0日間、1Wは1週間、2Wは2週間、1Mは1カ月を示す。
【
図3】抗PD-1/HER2二重特異性抗体製剤がpH5.0、5.5、6.0、6.5で40℃±2℃で異なる時間置かれた後、SEC-HPLC法により測定された各試料におけるタンパク質の純度の変化トレンドグラフである。図中、横軸でのT0は0日間、1Wは1週間、2Wは2週間、1Mは1カ月を示す。
【
図4】抗PD-1/HER2二重特異性抗体製剤がpH5.0、5.5、6.0、6.5で40℃±2℃で異なる時間置かれた後、非還元型CE-SDS法により測定された各試料におけるタンパク質の純度の変化トレンドグラフである。図中、横軸でのT0は0日間、1Wは1週間、2Wは2週間、1Mは1カ月を示す。
【
図5】抗PD-1/HER2二重特異性抗体製剤がpH5.0、5.5、6.0、6.5で40℃±2℃で異なる時間置かれた後、還元型CE-SDS法により測定された各試料におけるタンパク質の純度の変化トレンドグラフである。図中、横軸でのT0は0日間、1Wは1週間、2Wは2週間、1Mは1カ月を示す。
【
図6】抗PD-1/HER2二重特異性抗体製剤がpH5.0、5.5、6.0、6.5で40℃±2℃で異なる時間置かれた後、iCIEF法により測定された各試料における電荷変異体の主成分の変化トレンドグラフである。図中、横軸でのT0は0日間、1Wは1週間、2Wは2週間、1Mは1カ月を示す。
【
図7】異なる安定剤を有する抗PD-1/HER2二重特異性抗体製剤(調合法1~4)を約40℃で置いて0日間、1週間、2週間と4週間保存した後、iCIEF法により測定された電荷変異体の主成分の経時変化のグラフである。図中、横軸でのT0は0日間、1Wは1週間、2Wは2週間、4Wは4週間、F1は調合法1、F2は調合法2、F3は調合法3、F4は調合法4を示す。
【
図8】異なる安定剤を有する抗PD-1/HER2二重特異性抗体製剤(調合法1~4)を25℃±2℃で置いて0日間、1週間、2週間と4週間保存した後、iCIEF法により測定された電荷変異体の主成分の経時変化のグラフである。図中、横軸でのT0は0日間、1Mは1カ月、2Mは2カ月、F1は調合法1、F2は調合法2、F3は調合法3、F4は調合法4を示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明を詳しく説明するに先立ち、前記方法及び条件は変更可能であるため、本発明は本明細書中の特定の方法及び実験条件に限定されないと理解しておくべきである。なお、本明細書に用いられる用語は制限的ではなく、特定の実施形態を説明するためのものである。
【0045】
定義
別に定義しない限り、本明細書に用いられる全ての技術と科学用語はいずれも、当業者に通常に理解されている意味と同じ意味を有する。本発明の目的のために、以下、下記の用語を定義する。
【0046】
用語「約」は、数値と共に用いられる場合、下限として記載数値より5%小さく、上限として記載数値より5%大きい範囲における数値を含むことを意味する。
【0047】
用語「及び/又は」は、2つ又は複数のオプションの接続に用いられる場合、オプションのうちの何れか1項又はオプションのうちの何れか2項若しくは複数項を指すと理解すべきである。
【0048】
本明細書で使用されるように、「包含する」又は「含む」という用語は、前記要素、整数又は工程を含むが、任意の他の要素、整数又は工程を排除しないことを意味する。本明細書において、「包含する」又は「含む」という用語を用いる場合、特記しない限り、記載される要素、整数又は工程からなる場合も含まれる。例えば、ある具体的な配列の抗体可変領域を「包含する」ことに言及する場合、当該配列からなる抗体可変領域を含むことも意図する。
【0049】
本明細書において、「抗体」という用語は最も広い意味で使用されており、抗原結合部位を含むタンパク質を意味し、種々の構造の天然抗体及び人工抗体をカバーし、完全な抗体及び抗体の抗原結合断片を含むが、これらに限定されない。
【0050】
「全抗体」、「全長抗体」、「完全抗体」及び「完全な抗体」という用語は、本明細書において、ジスルフィド結合を介して互いに接続される少なくとも2本の重鎖(H)と2本の軽鎖(L)を含む糖タンパク質を交換可能に指す。それぞれの重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではVHと略す)と重鎖定常領域とからなる。重鎖定常領域は、CH1、CH2及びCH3の3つのドメインからなる。それぞれの軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではVLと略す)と軽鎖定常領域とからなる。軽鎖定常領域は、1つのドメインCLからなる。VH領域及びVL領域は、さらに、超可変領域(相補性決定領域(CDR)であり、その間に保存的な領域(フレームワーク領域(FR))が介在している)に分けることができる。それぞれのVH及びVLは、3つのCDRと4つのFRとからなり、アミノ末端からカルボキシル末端へ、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順に配列されている。定常領域は、抗体と抗原の結合に直接関与しないが、種々のエフェクター機能を示している。
【0051】
「ヒト化」抗体という用語は、非ヒトHVR由来のアミノ酸残基とヒトFR由来のアミノ酸残基を含むキメラ抗体である。幾つかの実施形態において、ヒト化抗体に含まれる全て又はほぼ全てのHVR(例えば、CDR)は非ヒト抗体の前記HVRに対応し、全て又はほぼ全てのFR領域はヒト抗体の前記FRに対応する。ヒト化抗体は、場合により、ヒト抗体から誘導される抗体定常領域の少なくとも一部を含んでもよい。抗体(例えば、非ヒト抗体)の「ヒト化形」は、既にヒト化した抗体を指す。
【0052】
「半抗体」又は「半重合体」という用語は、1価抗原結合ポリペプチドである。幾つかの実施形態において、半抗体又は半重合体は、VH/VL単位と場合による免疫グロブリン定常ドメインの少なくとも一部を含む。幾つかの実施形態において、半抗体又は半重合体は、1本の免疫グロブリン軽鎖に結合される1本の免疫グロブリン重鎖、又はその抗原結合断片を含む。幾つかの実施形態において、半抗体又は半重合体は単一特異的であり、すなわち、単一の抗原又はエピトープと結合する。幾つかの具体的な実施形態において、半抗体は、HER2と結合するとともに、PD-1と結合しない。幾つかの具体的な実施形態において、半抗体は、PD-1と結合するとともに、HER2と結合しない。当業者であれば、半抗体は、単一可変ドメインからなる(例えば、ラクダ科(Camelidae)由来)抗原結合ドメインを有してもよいことが容易に理解される。
【0053】
「VH/VL単位」という用語は、抗体に少なくとも1つのVH CDR及び少なくとも1つのVL CDRが含まれる抗原結合領域である。幾つかの実施形態において、VH/VL単位は、少なくとも1つ、少なくとも2つ又は全3つのVH CDRと、少なくとも1つ、少なくとも2つ又は全3つのVL CDRとを含む。特定の実施形態において、VH/VL単位は、フレームワーク領域(FR)の少なくとも一部をさらに含む。幾つかの実施形態において、VH/VL単位は、3つのVH CDRと3つのVL CDRを含む。幾つかの実施形態において、VH/VL単位は、少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ又は全4つのVH FRと、少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ又は全4つのVL FRとを含む。
【0054】
本明細書において、「二重特異性抗体」という用語は、2種の異なる生体分子上のエピトープと特異的に結合する抗原結合ドメインを含む。特に説明しない限り、挙げられた二重特異性抗体の名前には、二重特異性抗体の結合する抗原の順番がランダムである。すなわち、幾つかの実施形態において、「抗PD-1/HER2二重特異性抗体」と「抗HER2/PD-1二重特異性抗体」という用語は、交換して用いてもよい。幾つかの実施形態において、二重特異性抗体は2つの半抗体を含み、それぞれの半抗体は、単一重鎖可変領域と場合による重鎖定常領域の少なくとも一部、及び単一軽鎖可変領域と場合による軽鎖定常領域の少なくとも一部を含む。幾つかの実施形態において、二重特異性抗体は2つの半抗体を含むが、それぞれの半抗体は、単一重鎖可変領域と単一軽鎖可変領域を含むとともに、1つより多い単一重鎖可変領域を含まず、1つより多い単一軽鎖可変領域を含まない。幾つかの実施形態において、二重特異性抗体は2つの半抗体を含み、それぞれの半抗体は、単一重鎖可変領域と単一軽鎖可変領域を含み、第1半抗体は第1抗原と結合するとともに第2抗原と結合せず、第2半抗体は第2抗原と結合するとともに第1抗原と結合しない。
【0055】
「抗体製剤」という用語は、活性成分である抗体の生物活性が効果的に発揮できる形であるとともに、当該製剤が投与されるべき対象にとって許容できない毒性を有する他の成分を含まない調製物を指す。これらの抗体製剤は、一般的に、滅菌のものである。通常、抗体製剤には、薬学的に使用可能な賦形剤が含まれる。「薬学的に使用可能な」賦形剤は、製剤に使用される活性成分の有効投与量が対象に送達できるように、被験哺乳類に適当に投与可能な試薬である。賦形剤の濃度は、投与方式に対応し、例えば、注射に許容可能な濃度であってもよい。
【0056】
「抗PD-1/HER2二重特異性抗体製剤」という用語は、本明細書で「本発明の抗体製剤」とも略称され、抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質を活性成分として含むとともに、薬学的に使用可能な賦形剤を含む調製物を指す。抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質と薬学的に使用可能な賦形剤を組み合わせると、活性成分である抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質は、ヒト又は非ヒト動物への治療的又は予防的投与に適するようになる。本発明の抗体製剤は、例えば、すぐに使える薬剤充填済み注射器のような水性形の液体製剤として調製してもよく、又は、使用直前に生理的に許容される溶液に溶解及び/又は懸濁されることで再構成(すなわち、再溶解)された凍結乾燥製剤として調製してもよい。幾つかの実施形態において、抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質製剤は、液体製剤形である。
【0057】
「安定な」抗体製剤とは、製剤における抗体が、所定の条件で保存された後、許容される程度の物理的安定性及び/又は化学的安定性を維持しているものである。抗体製剤に含まれる抗体は、所定の期間保存された後、その化学構造が100%維持できない恐れがあるが、一般的に、所定の期間保存された後、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%又は約99%の抗体構造又は機能が維持されれば、抗体製剤は「安定」であると考えられる。幾つかの具体的な実施形態において、本発明の抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質製剤は、製造、調製、輸送と長期保存の過程中に検出されないほど低い抗体の凝集又は分解又は化学的修飾が表れているので、抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質の生物活性の損失が極めて少なく、ひいては無くて、高い安定性を示している。幾つかの実施形態において、本発明の抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質製剤は保存後、その物理的及び化学的安定性がほぼ保たれる。好ましくは、本発明の液体製剤は、室温で又は40℃で少なくとも2週間安定し、及び/又は25℃で少なくとも2カ月安定し、及び/又は2~8℃で少なくとも24カ月安定することができる。
【0058】
この分野では、複数の解析技術がタンパク質の安定性の測定に利用できることが知られており、例えば、Peptide and Protein Drug Delivery,247~301,Vincent Lee Ed.,Marcel Dekker、Inc.,New York,N.Y.,Pubs(1991)and Jones,A.Adv.Drug Delivery Rev.10:29~90(1993)が参照される。選定された温度及び選定された保存時間で安定性を測定することができる。例えば、予期する製剤保存可能期間によって保存時間を選択してもよい。場合により、加速安定性試験を採用してもよい。幾つかの実施形態において、抗体製剤に対して種々の苛酷テストを実施することにより安定性テストが行われる。これらのテストは、調製された抗体製剤の製造、保存又は輸送期間に遭遇可能な苛酷条件を表してもよく、非製造、保存又は輸送期間に抗体製剤における抗体の不安定性を加速可能な条件を表してもよい。例えば、高温苛酷での抗体の安定性を検証するために、配合された抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質製剤をガラスバイアルに充填してもよい。
【0059】
一定の期間保存した後、製剤は凝集、沈殿、混濁及び/又は変性を示さず、又は非常に少ない凝集、沈殿、混濁及び/又は変性を示せば、抗体は製剤において「その物理的安定性が保たれる」と考えられる。製剤における抗体の凝集により、患者の免疫反応を潜在的に増加させることができるため、安全性の問題が引き起こされる。従って、製剤における抗体の凝集を最小化するか、又は凝集を防止する必要がある。光散乱法は、製剤における可視の凝集物の測定に用いることができる。SECは、製剤における可溶性凝集物の測定に用いることができる。また、製剤の外観、色及び/又は清澄さを目で検査し、又はOD350nm法で製剤の濁度を測定し、又は非還元型CEーSDS法で製剤の純度を測定することにより、製剤の安定性を示すことができる。一実施形態において、所定の温度で所定の期間保存した後の製剤における抗体モノマーの百分率を測定することにより、製剤の安定性を測定し、ここで、製剤における抗体モノマーの百分率が大きいほど、製剤の安定性が高くなる。
【0060】
「許容される程度の」物理的安定性は、所定の温度で所定の期間保存した後、製剤において少なくとも約92%の抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質モノマーが測定されることを示すことができる。幾つかの実施形態において、所定の温度で少なくとも2週間、少なくとも28日間、少なくとも1カ月、少なくとも2カ月、少なくとも3カ月、少なくとも4カ月、少なくとも5カ月、少なくとも6カ月、少なくとも7カ月、少なくとも8カ月、少なくとも9カ月、少なくとも10カ月、少なくとも11カ月、少なくとも12カ月、少なくとも18カ月、少なくとも24カ月又はそれ以上の期間保存した後、許容される程度の物理的安定性は、少なくとも約88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質モノマーのことを示す。物理的安定性を評価する場合に、医薬製剤を保存する所定の温度は、約-80℃から約45℃の任意の温度であってもよく、例えば、約-80℃、約-30℃、約-20℃、約0℃、約4℃~8℃、約5℃、約25℃、約35℃、約37℃、約40℃、約42℃又は約45℃で保存される。例えば、約40℃±2℃で1カ月又は4週間保存した後、少なくとも約88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質モノマーが検出されると、医薬製剤は安定と見なされる。約25℃で2カ月保存した後、少なくとも約88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質モノマーが検出されると、医薬製剤は安定と見なされる。約5℃で9カ月保存した後、少なくとも約88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質モノマーが検出されると、医薬製剤は安定と見なされる。
【0061】
一定の期間保存した後、製剤における抗体が著しい化学的変化を示さなければ、抗体は製剤において「その化学的安定性が保たれる」と考えられる。大部分の化学的不安定性は、抗体の共有結合修飾形を形成した(例えば、抗体の電荷変異体)ことに由来する。例えば、アスパラギン酸異性化、N及びC末端修飾により塩基性変異体を形成することができ、脱アミド化、シアル酸化及び糖化により酸性変異体を形成することができる。化学的安定性は、抗体の化学的変化形式を測定及び/又は定量することにより評価することができる。例えば、カチオン交換クロマトグラフィー(CEX)又はイメージングキャピラリー等電点電気泳動(iCIEF)により、製剤における抗体の電荷変異体を検出することができる。一実施形態において、所定の温度で所定の期間保存した後の製剤における抗体の電荷変異体の百分率の変化値を測定することにより、製剤の安定性を測定し、ここで、当該変化値が小さいほど、製剤の安定性が高くなる。
【0062】
「許容される程度」の化学的安定性は、所定の温度で所定の期間保存した後の製剤における電荷変異体(例えば、主成分、酸性成分又は塩基性成分)の百分率の変化値が50%以下、例えば30%以下、20%以下であることを示すことができる。幾つかの実施形態において、所定の温度で少なくとも2週間、少なくとも28日間、少なくとも1カ月、少なくとも2カ月、少なくとも3カ月、少なくとも4カ月、少なくとも5カ月、少なくとも6カ月、少なくとも7カ月、少なくとも8カ月、少なくとも9カ月、少なくとも10カ月、少なくとも11カ月、少なくとも12カ月、少なくとも18カ月、少なくとも24カ月又はそれ以上の期間保存した後、許容される程度の化学的安定性は、主成分電荷変異体の百分率の変化値が約50%、40%、30%、20%、15%以下になるように表われることができる。化学的安定性を評価する場合に、医薬製剤を保存する温度は約-80℃から約45℃の任意の温度であってもよく、例えば、約-80℃、約-30℃、約-20℃、約0℃、約4℃~8℃、約5℃、約25℃又は約45℃で保存される。例えば、5℃で24カ月保存した後、主成分電荷変異体の百分率の変化値が約25%、24%、23%、22%、21%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%又は0.1%未満になると、医薬製剤は安定と見なされる。25℃で2カ月保存した後、主成分電荷変異体の百分率の変化値が約20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%又は0.1%未満になると、医薬製剤も安定と見なされる。40℃で1カ月保存した後、主成分電荷変異体の百分率の変化値が約50%、40%、30%、20%、10%、5%又は4%未満になると、医薬製剤も安定と見なされる。
【0063】
「凍結乾燥製剤」という用語は、液体製剤の冷凍乾燥処理により得られ、又は取得可能な組成物を指す。好ましくは、それは5%よりも少ない、好ましくは3%よりも少ない水含有量を有する固体組成物である。
【0064】
「再構成製剤」という用語は、固体製剤(例えば、凍結乾燥製剤)を生理的に許容される溶液に溶解及び/又は懸濁することで得られた液体製剤を指す。
【0065】
本明細書で使用される「室温」という用語は、15℃から30℃、好ましくは20℃から27℃、さらに好ましくは25℃の温度を指す。
【0066】
「苛酷条件」は、化学的及び/又は物理的に抗体タンパク質に不利な環境を指し、前記環境は、許容されない抗体タンパク質が安定しなくなるようにすることができる。「高温苛酷」とは、抗体製剤を室温又はそれ以上の温度(例えば40℃±2℃)で置いて一定の期間保存することである。高温苛酷加速試験により、抗体製剤の安定性を検査することができる。
【0067】
本明細書で使用されるように、「非経口投与」という用語は、経腸及び局所投与以外の投与方式を指し、一般的に注射又は注入によるものであり、静脈内、筋肉内、動脈内、鞘内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下(subcuticular)、関節内、嚢下、クモ膜下、脊椎内、硬膜外と胸骨内の注射、及び注入を含むが、これらに限定されない。幾つかの実施形態において、本発明の安定な抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質製剤は、対象に非経口投与される。一実施形態において、本発明の抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質製剤は、皮下、皮内、筋肉内又は静脈内注射により対象に投与される。
【0068】
I. 抗体製剤
本発明は、(i)抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質と、(ii)緩衝剤と、(iii)安定剤と、(iv)界面活性剤とを含む、pHが約5.0~6.5である安定な液体抗体製剤を提供する。一好ましい形態において、本発明の液体抗体製剤は、注射製剤形である。
【0069】
(i)抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質
本発明の抗体製剤における「抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質」は、PD-1と特異的に結合する第1VH/VL単位を含む第1半抗体と、HER2と特異的に結合する第2VH/VL単位を含む第2半抗体と、を含む。幾つかの実施形態において、前記抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質は、少なくとも約107 M-1、好ましくは約108 M-1、さらに好ましくは約109 M-1又はそれ以上の親和性定数でTリンパ球表面のPD-1と結合することができるとともに、少なくとも約107 M-1、好ましくは約108 M-1、さらに好ましくは約109 M-1又はそれ以上の親和性定数で腫瘍細胞表面のHER2と結合することができることで、前記抗体は、二重特異的にPD-1分子とHER2分子を標的にする治療剤及び/又は予防剤として用いることができる。
【0070】
前記PD-1又はHER2と特異的に結合するVH/VL単位は、従来技術に報告されている抗PD-1抗体と将来開発される抗PD-1抗体VH/VL単位の何れかから誘導される6つのCDR、又は前記6つのCDRのうちの1つ又は複数のCDRに対して1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ若しくはそれ以上のアミノ酸変異(例えば、アミノ酸置換又は欠損)を有する配列を含み、或いは、従来技術に報告されている抗HER2抗体と将来開発される抗HER2抗体VH/VL単位の何れかから誘導される6つのCDR、又は前記6つのCDRのうちの1つ又は複数のCDRに対して1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ若しくはそれ以上のアミノ酸変異(例えば、アミノ酸置換又は欠損)を有する配列を含む。
【0071】
一実施形態において、抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質のPD-1と特異的に結合する第1VH/VL単位は、抗PD-1半抗体から誘導される配列番号12/配列番号10の対となる重鎖可変領域配列/軽鎖可変領域配列に含まれる全6つの重鎖CDRと軽鎖CDR、又は前記6つのCDRのうちの1つ又は複数のCDRに対して1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ若しくはそれ以上のアミノ酸変異(例えば、アミノ酸置換又は欠損)を有する配列を含む。
【0072】
一実施形態において、抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質のHER2と特異的に結合する第2VH/VL単位は、抗HER2半抗体から誘導される配列番号6/配列番号2の対となる重鎖可変領域配列/軽鎖可変領域配列に含まれる全6つの重鎖CDRと軽鎖CDR、又は前記6つのCDRのうちの1つ又は複数のCDRに対して1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ又はそれ以上のアミノ酸変異(例えば、アミノ酸置換又は欠損)を有する配列を含む。
【0073】
「CDR」又は「相補性決定領域」又は「CDR領域」(本明細書では超可変領域「HVR」と交換して使用可能)という用語は、抗体可変領域において主に抗原エピトープとの結合を担当するアミノ酸領域である。重鎖と軽鎖のCDRは通常、CDR1、CDR2とCDR3と呼ばれ、N-末端から順に番号付けられる。この分野においては、既定のVH又はVL又はVHHアミノ酸配列にそのCDR配列を決定する方法が多く公知されている。例えば、Kabat相補性決定領域(CDR)は、配列変異性によって決定され、最もよく用いられるものである(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda、Md.(1991))。Chothiaは、構造リングの位置を指す(ChothiaとLesk,J.Mol.Biol.196:901~917(1987))。AbM HVRは、Kabat HVRとChothia構造リングとの間のトレードオフであり、Oxford MolecularのAbM抗体モデリングソフトウェアによって使用される。「接触性」(Contact)HVRは、取得可能な複雑な結晶構造の分析に基づくものである。
【0074】
前記アミノ酸変異、例えば、アミノ酸置換は、好ましくは保存的なアミノ酸置換である。「保存的なアミノ酸置換」は、特定のアミノ酸が化学的に類似するアミノ酸に置換されるようにするアミノ酸変動を指す。機能的に類似するアミノ酸を提供する保存的置換表は、この分野でよく知られているものである。本発明の何れか1つの実施形態において、一好ましい態様では、保守的な置換残基は、下記の保守的な置換表Aから来るもので、好ましくは、表Aに示される好ましい置換残基である。
【0075】
【0076】
一実施形態において、抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質は、PD-1と特異的に結合する第1VH/VL単位を含む第1半抗体と、HER2と特異的に結合する第2VH/VL単位を含む第2半抗体と、を含み、前記第1VH/VL単位は配列番号12/配列番号10の対となる重鎖可変領域配列/軽鎖可変領域配列、又は前記対となる重鎖可変領域配列/軽鎖可変領域配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%若しくはそれ以上の配列同一性を有する配列を含み、前記第2VH/VL単位は配列番号6/配列番号2の対となる重鎖可変領域配列/軽鎖可変領域配列、又は前記対となる重鎖可変領域配列/軽鎖可変領域配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%若しくはそれ以上の配列同一性を有する配列を含む。
【0077】
抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質における第1半抗体と第2半抗体の重鎖定常領域のタイプについては、特に制限しないが、好ましくは、IgG1、IgG2若しくはIgG4免疫グロブリンの重鎖定常領域、又はそれと実質的に同一(例えば、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%若しくはそれ以上に同一)の配列である。さらに好ましくは、前記重鎖定常領域は、ヒトIgG1免疫グロブリンの重鎖定常領域、又はそれと実質的に同一(例えば、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%又はそれ以上に同一)の配列である。
【0078】
一実施形態において、抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質は、IgG1(例えば、ヒトIgG1)に使用される重鎖定常領域を含む。別の実施形態において、抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質は、IgG4(例えば、ヒトIgG4)に用いられる重鎖定常領域を含む。例えば、抗PD-1/HER2二重特異性抗体の2本の重鎖のFcドメインには、それぞれ「CPPC」アミノ酸残基を有するヒンジ領域が含まれ、及び/又は、それぞれY349CとS354C(Kabatの「EU番号方式」による)が含まれることで、抗PD-1半抗体と抗HER2半抗体はFc領域において鎖間ジスルフィド結合を形成することになり、これにより、抗PD-1半抗体と抗HER2半抗体との正確なペアリングが安定化される。
【0079】
一実施形態において、抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質の抗PD-1半抗体及び/又は抗HER2半抗体は、Fcドメインにおいて抗体エフェクター機能に影響を与えるアミノ酸変異が含まれる。一具体的な実施形態において、前記エフェクター機能は、抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)である。一実施形態において、前記アミノ酸変異は、Fc領域のCH2ドメインに存在し、例えば、前記抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質は、抗PD-1半抗体及び/又は抗HER2半抗体Fc領域第234位と第235位(EU番号方式)でのアミノ酸置換を含む。一具体的な実施形態において、前記アミノ酸置換は、L234AとL235A(「LALA変異」とも呼ばれる)である。
【0080】
別の実施形態において、抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質の軽鎖は、κ軽鎖定常領域又はλ軽鎖定常領域、例えば、ヒトκ軽鎖定常領域又はヒトλ軽鎖定常領域を含む。
【0081】
一実施形態において、抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質の2本の重鎖のそれぞれのFcドメインには、それぞれ突起(「ノブ(knob)」)又は空洞(「ホール(hole)」)が含まれ、かつ、一方の重鎖Fcドメインにおける前記突起又は空洞は、それぞれ他方の重鎖Fcドメインにおける前記空洞又は突起に置くことができるので、前記2本の重鎖同士は「ノブ-イン-ホール(knob-in-hole)」という安定な結合となる。一実施形態において、前記2本の重鎖の一方にはアミノ酸置換T366Wが含まれ、前記2本の重鎖の他方にはアミノ酸置換T366S、L368AとY407V(EU番号方式)が含まれる。これにより、一方の鎖における突起は他方の鎖における空洞に置くことができ、抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質の2本の重鎖の正確なペアリングに寄与する。
【0082】
一実施形態において、抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質の各半抗体における重鎖と軽鎖の免疫グロブリンCH1ドメインとCLドメインには、それぞれ突起又は空洞が含まれ、かつ、CH1ドメインにおける前記突起又は空洞は、それぞれCLドメインにおける前記空洞又は突起に置くことができるので、各半抗体における重鎖と軽鎖同士も「ノブ-イン-ホール」という安定な結合となる。
【0083】
一実施形態において、抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質は、NからC方向の配列番号12及び配列番号14の重鎖配列又はそれと少なくとも90%、95%、98%又は99%の同一性を有する重鎖配列と、NからC方向の配列番号10及び配列番号4の軽鎖配列又はそれと少なくとも90%、95%、98%又は99%の同一性を有する軽鎖配列とを含む第1半抗体と、NからC方向の配列番号6及び配列番号8の重鎖配列又はそれと少なくとも90%、95%、98%又は99%の同一性を有する重鎖配列と、NからC方向の配列番号2及び配列番号4の軽鎖配列又はそれと少なくとも90%、95%、98%又は99%の同一性を有する軽鎖配列とを含む第2半抗体と、を含む。
【0084】
本明細書において、「配列同一性」は、比較ウィンドウにおけるヌクレオチドごと又はアミノ酸ごとに基づく配列同士がどの程度同じであるかを指す。次の方法により、「配列同一性百分率」を算出することができる。2つの最適に照合される配列を比較ウィンドウで比較し、2つの配列における同じ核酸塩基(例えば、A、T、C、G、I)又は同じアミノ酸残基(例えば、Ala、Pro、Ser、Thr、Gly、Val、Leu、Ile、Phe、Tyr、Trp、Lys、Arg、His、Asp、Glu、Asn、Gln、CysとMet)の存在する位置の数を確定してマッチング位置の数を取得し、マッチング位置の数を比較ウィンドウにおける全位置数(すなわち、ウィンドウサイズ)で割り、その結果に100をかけることで、配列同一性百分率を生成する。配列同一性パーセントを確定するために行われる最適な照合は、この分野で知られている種々の方式により実現することができ、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェアのような公的に入手可能なコンピュータソフトウェアが使用される。当業者は、比較されている全長配列範囲内又は目標配列領域内での最大の照合を実現するために必要な任意のアルゴリズムを含め、配列を照合するための適切なパラメータを決定することができる。
【0085】
本発明の抗体製剤における抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質は、同時にPD-1とHER2タンパク質と結合することができるとともに、各親抗体の親和性定数を維持していることで、HER2シグナル伝達経路の遮断とPD-1シグナル伝達経路の遮断が可能になるので、種々のHER2シグナル伝達経路及び/又はPD-1シグナル伝達経路に関連する疾患又は障害の治療、予防又は遅延に用いられる。
【0086】
一好ましい実施形態において、本発明の抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質は、PCT出願番号PCT/CN2018/075851(出願日:2018年2月8日)に開示された組換え抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質であり、それは、全ヒト抗PD-1半抗体とヒト化抗HER2半抗体を含み、そのうち、全ヒト抗PD-1半抗体は、重鎖配列がNからC方向へ配列番号12及び配列番号14で、軽鎖配列がNからC方向へ配列番号10及び配列番号4であり、ヒト化抗HER2半抗体は、重鎖配列がNからC方向へ配列番号6及び配列番号8で、軽鎖配列がNからC方向へ配列番号2及び配列番号4である。
【0087】
一実施形態において、当該抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質は、HEK293細胞又はHEK293細胞を基に改変して得られたHEK293T、HEK293F、若しくはHEK293E細胞、及びCHO細胞又はCHO細胞を基に改変して得られたCHO-S、CHO-dhfr-、CHO/DG44、若しくはExpiCHO細胞で組換え発現することで発生され、かつ精製されたものである。好ましくは、本発明の液体製剤における前記抗体は、著しい抗腫瘍活性を示している。HCC1954ヒト乳がん細胞で免疫不全NCGマウスに接種して得られた担腫瘍マウスに抗PD-1/HER2二重特異性抗体を投与した結果、抗PD-1モノクローナル抗体又は抗HER2モノクローナル抗体を投与する場合と比べて、抗PD-1/HER2二重特異性抗体を投与する方は、明らかに向上した抗腫瘍活性を有し、腫瘍の体積を著しく縮小することができる。
【0088】
本発明の抗体製剤に含まれる抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質の量は、製剤の特定の目的特性、特定の環境と、製剤を使用する特定の目的によって変えることができる。幾つかの実施形態において、抗体製剤は液体製剤であり、約1~150mg/mL、好ましくは約10~100mg/mL、例えば、約10、20、30、40、50、60、70、80、90又は100mg/mLの抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質を含んでもよい。
【0089】
(ii)緩衝剤
緩衝剤は、溶液のpH値を許容される範囲に維持することができる試薬である。幾つかの実施形態において、本発明の製剤に用いられる緩衝剤は、本発明の製剤のpHを約5.0~6.5のpH範囲、例えば、pH約5.5に制御することができる。幾つかの具体的な実施形態において、本発明の抗体製剤は、約5.0、5.2、5.4、5.6、5.8、6.0、6.2、6.4のpHを有する。
【0090】
幾つかの実施形態において、本発明の製剤に用いられる緩衝剤は、ヒスチジン、ヒスチジン塩酸塩とそれらの組み合わせから選ばれる。一実施形態において、本発明の液体抗体製剤における緩衝剤の濃度は、約5~50mMである。一実施形態において、本発明の液体抗体製剤における緩衝剤の濃度は、約10~30mM、例えば、約10、15、20、25、30mMである。
【0091】
一実施形態において、本発明の製剤に用いられる緩衝剤は、約10mMのヒスチジンである。別の実施形態において、本発明の製剤に用いられる緩衝剤は、約20mMヒスチジンである。
【0092】
さらに別の実施形態において、本発明の製剤に用いられる緩衝剤は、ヒスチジン約5.5mMとヒスチジン塩酸塩約15mMとの組み合わせである。
【0093】
(iii)安定剤
本発明に用いられる適切な安定剤は、糖類、ポリオール及びそれらの組み合わせから選ばれてもよい。さらに、本発明の安定剤は、酸化防止剤を含んでもよい。
【0094】
安定剤となる糖類は、二糖、三糖と多糖であってもよく、糖類は、スクロース、右旋性グルコース、ラクトース、マルトース、トレハロース、シクロデキストリン、マルトデキストリンとデキストランから選ばれてもよいが、これらに限定されない。一実施形態において、安定剤となる糖類は、スクロース及び/又はトレハロースである。
【0095】
安定剤となるポリオールは、マンニトール、ソルビトールとキシリトールから選ばれてもよいが、これらに限定されない。一実施形態において、安定剤となるポリオールは、ソルビトールである。
【0096】
幾つかの実施形態において、安定剤となる糖類及び/又はポリオールは、本発明の液体製剤において約50~500mM、好ましくは約100~400mM、例えば、約100、150、200、250、300、350、400mMの濃度で存在する。
【0097】
本発明の安定剤にさらに包含可能な酸化防止剤は、ホモシステイン、システイン、シスタチオニン、メチオニン、グルタチオン、及びホモシステイン、システイン、シスタチオニン、メチオニンとグルタチオンのうちの何れか1つを含むペプチドから選ばれるが、これらに限定されない。酸化防止剤を含む場合に、安定剤の総濃度は約50~500mM、好ましくは総濃度は約100~400mM、例えば、約100、150、200、250、300、350、400mMであり、そのうち、酸化防止剤の濃度は約1~50mM、好ましくは約5~40mM、例えば、約5、10、20、30、40mMである。
【0098】
一実施形態において、本発明の液体製剤は、ソルビトールを安定剤として含む。本発明の液体製剤におけるソルビトールの量は、約50~400mMであってもよく、例えば、約50、100、150、200、250、300、350、400mMである。
【0099】
一実施形態において、本発明の液体製剤は、スクロースを安定剤として含む。本発明の液体製剤におけるスクロースの量は、約50~300mMであってもよく、例えば、約50、100、150、200、250、300mMである。
【0100】
一実施形態において、本発明の液体製剤は、トレハロースを安定剤として含む。本発明の液体製剤におけるトレハロースの量は、約50~300mMであってもよく、例えば、約50、100、150、200、250、300mMである。
【0101】
一実施形態において、本発明の液体製剤は、スクロースとメチオニンの組み合わせを安定剤として含む。当該組み合わせにおいて、安定剤の総濃度は約50~500mM、好ましくは総濃度は約100~400mM、例えば、約100、150、200、250、300、350、400mMであり、そのうち、メチオニンの濃度は約1~50mM、好ましくは約5~40mM、例えば、約5、10、20、30、40mMである。
【0102】
(iv)界面活性剤
本明細書で使用されるように、「界面活性剤」という用語は、両親媒性構造を有する有機物質を指し、すなわち、これらは反対の溶解性傾向を持つ基からなり、一般的に、油溶性の炭化水素鎖及び水溶性のイオン基からなる。
【0103】
一実施形態において、本発明の液体製剤における界面活性剤は、非イオン性界面活性剤で、例えば、アルキルポリ(オキシレン)である。本発明の製剤に包含可能な特定の非イオン性界面活性剤は、例えば、ポリソルベート20、ポリソルベート80、ポリソルベート60、ポリソルベート40のようなポリソルベート、及びプルロニックなどを含む。一好ましい実施形態において、本発明の液体製剤は、ポリソルベート80を界面活性剤として含む。
【0104】
本発明の抗体製剤に含まれる界面活性剤の量は、製剤の特定の目的特性、特定の環境、及び製剤を使用する特定の目的によって変えることができる。幾つかの好ましい実施形態において、製剤は約0.1~1mg/mL、好ましくは約0.2~0.8mg/mL、例えば、約0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8mg/mLのポリソルベート界面活性剤(例えば、ポリソルベート80)を含んでもよい。
【0105】
(v)他の賦形剤
本発明の抗体液体製剤は、他の賦形剤を含んでも含まなくてもよい。例えば、本発明の抗体液体製剤は、張力調整剤を含んでもよい。張力調整剤は、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウムと塩化カルシウムからなる群から選ばれる。
【0106】
これらの賦形剤、その他の既知の医薬賦形剤、及び/又は本発明の製剤に適用される添加剤は、この分野で公知されているものであり、例えば、「The Handbook of Pharmaceutical Excipients,4th edition,edited by Rowe et al.,American Pharmaceuticals Association(2003)」、及び「Remington: the Science and Practice of Pharmacy,21th edition,edited by Gennaro,Lippincott Williams & Wilkins(2005)」に挙げられたものである。
【0107】
II. 製剤の調製
本発明は、抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質を含む安定な製剤を提供する。本発明の製剤に用いられる抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質は、この分野で知られている抗体を製造するための技術により調製することができる。例えば、抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質を組換え調製することができる。一好ましい実施形態において、本発明の抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質は、HEK293細胞又はHEK293細胞を基に改変して得られたHEK293T、HEK293F、若しくはHEK293E細胞、及びCHO細胞又はCHO細胞を基に改変して得られたCHO-S、CHO-dhfr-、CHO/DG44、若しくはExpiCHO細胞で組換え発現することにより調製され、例えば、PCT出願番号PCT/CN2018/075851に記載されるように、抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質が組換え調製される。
【0108】
現在、抗体は医薬の活性成分として幅広く適用されている。治療性抗体を薬用レベルまで精製するための技術は、この分野で公知されているものである。例えば、Tugcuら(Maximizing productivity of chromatography steps for purification of monoclonal antibodies,Biotechnology and Bioengineering 99(2008)599~613.)により、タンパク質A捕捉工程の後にイオン交換クロマトグラフィー(アニオンIEX及び/又はカチオンCEXクロマトグラフィー)を利用する抗体3カラム精製法が記載されている。Kelleyら(Weak partitioning chromatography for anion exchange purification of monoclonal antibodies,Biotechnology and Bioengineering 101(2008)553~566)により、タンパク質Aアフィニティークロマトグラフィーの後に弱分配性アニオンで樹脂を交換する2カラム精製法が記載されている。
【0109】
一般的に、組換えにより産生される抗体は、抗体製剤調製用として十分な繰返し性及び適切な純度を有する医薬物質を提供するために、通常の精製法により精製することができる。例えば、抗体が組換え発現細胞から培地に分泌された後、商業的に入手可能なタンパク質濃縮フィルター、例えば、Amiconの限外ろ過装置により、当該発現系からの上清液を濃縮することができる。その後、例えば、クロマトグラフィー、透析、アフィニティー精製などにより抗体の精製を行うことができる。タンパク質Aは、アフィニティーリガンドとしてIgG1、IgG2及びIgG4型抗体の精製に適用される。例えば、イオン交換クロマトグラフィーなど、他の抗体精製法を使用してもよい。十分な純度の抗体を得た後に、この分野における既知の方法により、抗体が含まれる製剤を調製してもよい。
【0110】
例えば、(1)発酵完了後に、上清が得られるように発酵液を遠心分離して細胞などの不純物を除去する工程と、(2)アフィニティークロマトグラフィー(例えば、IgG1、IgG2及びIgG4型抗体に対して特異的な親和性を有するタンパク質Aカラム)により抗体を捕捉する工程と、(3)ウィルスの不活化を行う工程と、(4)(一般的にCEXカチオン交換クロマトグラフィーを採用することができる)精製することにより、タンパク質における不純物を除去する工程と、(5)(ウイルス力価が例えば4log10以上低減されるように)ウィルスをろ過する工程と、(6)(タンパク質をその安定性に寄与する製剤緩衝液に置換して注射用として適切な濃度に濃縮するために用いることができる)限外ろ過/浸透ろ過する工程と、により調製してもよい。例えば、B.Minow,P.Rogge,K.Thompson,BioProcess International,Vol.10,No.6,2012,pp.48~57が参照される。
【0111】
III. 製剤の解析方法
抗体製剤の保存過程において、抗体の凝集、分解又は化学的修飾が発生されることで、抗体不均一性(サイズ不均一性及び電荷不均一性を含む)及び凝集物と断片などが引き起こされ、抗体製剤の品質に影響を与える恐れがある。従って、抗体製剤の安定性を監視する必要がある。
【0112】
この分野では、抗体製剤の安定性の測定に利用可能な方法は、複数知られている。例えば、還元型CE-SDS、非還元型CE-SDSとSEC-HPLCなどの方法により、抗体製剤の純度の解析及び抗体の凝集レベルの評価を行うことができ、キャピラリー等電点電気泳動(CIEF)、イメージングキャピラリー等電点電気泳動(iCIEF)とイオン交換クロマトグラフィー(IEX)などにより、抗体製剤における電荷変異体を解析することができる。また、製剤の外観を目で検出することにより、製剤の安定性を迅速に判断することができる。可溶性及び不溶性の凝集物の量に関する情報を出すことができるOD350nm法により、製剤の濁度の変化を検出することもできる。また、紫外線分光光度法(UV法)により、製剤におけるタンパク質の含有量の変化を検出することができる。
【0113】
非還元型CE-SDS法は、キャピラリーを分離通路とする抗体純度の測定法である。CE-SDSにおいて、タンパク質の移行は、SDS結合による表面電荷により駆動されるが、当該表面電荷は、タンパク質の分子量に正比例する。全てのSDS-タンパク質複合物は、類似の質量電荷比を有するため、キャピラリーのモレキュラーシーブゲルマトリックスにおいて、分子のサイズ又は流体力学半径に基づく電気泳動分離を実現することができる。当該方法は、変性された完全な抗体の純度の監視に広く適用されている。一般的に、非還元型CE-SDS法では、供試品をSDS試料緩衝液及びヨードアセトアミドと混合する。そして、混合物を68~72℃で約10~15分間インキュベートし、室温まで冷却した後に遠心分離した上清液を解析に用いる。紫外線検出器によりタンパク質の移行を検出し、電気泳動図を得る。抗体製剤の純度は、全てのピーク面積の合計に対するIgGメインピークのピーク面積の百分率として算出することができる。CE-SDS法についての更なる記載は、例えば、Richard R.et al.,Application of CE SDS gel in development of biopharmaceutical antibody-based products,Electrophoresis,2008,29,3612~3620を参照してよい。
【0114】
サイズ排除高速液体クロマトグラフィーであるSEC-HPLC法は、抗体の基準及び品質管理に用いられるもう1つの重要な方法である。当該方法は、主に、分子のサイズ又は流体力学半径の差によって分子の分離を行う。SEC-HPLCにより、抗体は、高分子量形(HMMS)、メインピーク(主に抗体モノマー)と低分子量形(LMMS)という3つの主要な形に分離することができる。抗体の純度は、クロマトグラフィーにおける全てのピーク面積の合計に対するメインピーク面積の百分率として算出することができる。SEC-HPLC法により、製剤製品における抗体モノマーのパーセントを測定して、可溶性凝集物及びせん断物の含有量の情報を出すことができる。SEC-HPLC法についての更なる記載は、例えば、J.Pharm.Scien.,83:1645~1650,(1994);Pharm.Res.,11:485(1994);J.Pharm.Bio.Anal.,15:1928(1997);J.Pharm.Bio.Anal.,14:1133~1140(1986)を参照してよい。また、例えば、R.Yang et al.,High resolution separation of recombinant monoclonal antibodies by size exclusion ultra-high performance liquid chromatography(SE-UHPLC),Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis(2015),http://dx.doi.org/10.1016/j.jpba.2015.02.032、及びAlexandre Goyon et al.,Protocols for the analytical characterization of therapeutic monoclonal antibodies.I-Non-denaturing chromatographic techniques,Journal of Chromatography,http://dx.doi.org/10.1016/j.jchromb.2017.05.010を参照してもよい。
【0115】
イメージングキャピラリー等電点電気泳動(iCIEF)は、抗体の電荷不均一性の解析に用いることができる。当該方法は、電荷変異体の定量的な分布状況を提供することができる。iCIEFは、pH勾配における分子の電荷差(見掛けのpI値)に基づき、分子分離の目的を達成させる。iCIEFにおいて、分離カラムは通常、短いキャピラリー(例えば、長さが5cm、内径が100μmのシリカキャピラリー)であり、タンパク質は高電圧でキャピラリーカラムにおいてフォーカスされ、そして280nMで操作される全カラムイメージング検出システムによりフォーカスがオンラインでリアルタイム監視される。当該技術の利点の一つとして、当該全カラムイメージング検出システムにより、抗体試料の種々の電荷変異体を同時に記録することができる。一般的に、iCIEFでは、試料を尿素及びiCIEF緩衝液と混合するが、ここで、前記緩衝液にはメチルセルロース、pI分子量基準及び両性電解質が含まれる。そして、iCIEFアナライザー、例えば、iCE280アナライザー(Protein Simple,Santa Clara,CA)において、iCIEFカラム、例えばProtionSimpleで組立てられたiCIEFカラムにより、試料が一定の期間フォーカスされた後、280nmの吸光度を測定し、抗体電荷変異体にフォーカスされたクロマトグラフィーを得ることができる。iCIEFクロマトグラフィーにおいて、メインピーク(すなわち、主成分)の前に溶出されたタンパク質関連ピークは酸性成分に分類されるのに対して、メインピークの後に溶出されたタンパク質関連ピークは塩基性成分に分類される。主成分、酸性成分、及び塩基性成分の相対的な量は、全ピーク面積に対するパーセントで示すことができる。iCIEFについての更なる記載は、例えば、Salas-Solano O et al.,Robustness of iCIEF methodology for the analysis of monoclonal antibodies:an interlaboratory study,J Sep Sci.2012 Nov;35(22):3124~9.doi:10.1002/jssc.201200633.Epub 2012 Oct 15、及びDada OO et al.,Characterization of acidic and basic variants of IgG1 therapeutic monoclonal antibodies based on non-denaturing IEF fractionation,Electrophoresis.2015 Nov;36(21~22):2695~2702.doi:10.1002/elps.201500219.Epub 2015 Sep 18を参照してよい。
【0116】
カチオン交換高速液体クロマトグラフィー(CEX-HPLC)により、抗体製剤における抗体の電荷変異体を測定することもできる。当該測定法において、メインピークの保持時間よりも早くCEX-HPLCカラムから溶出されたピークは、「酸性ピーク」と標識され、メインピークの保持時間よりも遅くCEX-HPLCカラムから溶出されたピークは、「塩基性ピーク」と標識される。
【0117】
加速安定性の研究は、製品の安定性の性質の検査に用いることができ、安定な医薬製剤の形式のふるい分けに寄与する。例えば、製剤試料を上昇された温度、例えば、約40℃±2℃、25℃±2℃の条件で置き、加速安定性の研究を行うことができる。検出指標は、外観、可視の異物、タンパク質の含有量、濁度、純度(SEC-HPLC法、非還元型CEーSDS法)及び電荷変異体(iCIEF法、CEX-HPLC法)を含むことができる。
【0118】
また、抗体の効能又は生物活性を測定することができる。例えば、製剤における抗体とその抗原分子(HER2分子とPD-1分子)との結合能力を測定することができる。当業者には、抗体と抗原との特異的結合を定量するために利用可能な方法、例えば、免疫測定試験、ELISAなどが複数知られている。
【0119】
本発明の抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質製剤は、安定である。一実施形態において、約5℃、25℃、37℃、40℃又は45℃で少なくとも1カ月、2カ月又は3カ月保存した後、例えば、5℃±3℃で3カ月保存した後、本発明の抗体製剤における抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質の純度は、サイズ排除クロマトグラフィー法により又は非還元型CS-SDSにより測定されるように、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%以上である。一実施形態において、約5℃、25℃、37℃、40℃又は45℃で少なくとも1カ月、2カ月又は3カ月保存した後、例えば、5℃±3℃で3カ月保存した後、本発明の抗体製剤における抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質の少なくとも60%、好ましくは少なくとも65%は、iCIEF法により測定されるように、非塩基性及び非酸性形式(すなわち、メインピーク又は主な電荷形式)である。
【0120】
IV. 製剤の使用
本発明の抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質を含む本発明の抗体製剤は、種々のHER2シグナル伝達経路及び/又はPD-1シグナル伝達経路に関連する疾患又は障害の治療、予防又は遅延に用いることができる。「HER2シグナル伝達経路に関連する疾患又は障害」及び/又は「PD-1シグナル伝達経路に関連する疾患又は障害」は本明細書において、本発明の抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質製剤により治療(例えば、改善)又は予防可能な疾患又は障害を指す。本発明の抗体製剤による治療から利益を得ることができるいずれの疾病や障害も、本発明に適用される。
【0121】
抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質を含む本発明の製剤は、白血病、リンパ腫、骨髄腫、脳腫瘍、頭頸部扁平上皮がん、非小細胞肺がん、鼻咽頭がん、食道がん、胃がん、膵臓がん、胆嚢がん、胆管がん、肝がん、結腸直腸がん、乳がん、卵巣がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、子宮肉腫、前立腺がん、膀胱がん、腎細胞がん、黒色腫を含むが、これらに限定されない対象の種々の血液病と固形腫瘍の予防又は治療に用いることができる。
【0122】
本発明は、哺乳類に抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質を送達し、又は前記疾患と障害のうちの1つ又は複数を治療、予防又は改善するための医薬の調製における本発明の製剤の使用をさらに提供する。好ましくは、哺乳類はヒトである。
【0123】
様々な方法で本発明の抗体製剤を対象又は患者に投与することができる。例えば、投与は、注入により、又は注射器により行われてもよい。従って、一態様において、本発明は、本発明の抗体製剤(例えば、薬剤充填済み注射器)を含む送達装置(例えば、注射器)を提供する。患者は、疾病又は障害の治療、改善又は予防に十分な量である有効量の抗PD-1/HER2二重特異性抗体タンパク質を主な活性成分として受ける。
【0124】
治療効果は、生理的な症状の軽減を含むことができる。任意の特定の対象に用いられる抗体の最適な有效量と濃度は、患者の年齢、体重、体調及び/又は性別、疾患の性質と程度、特定の抗体の活性、抗体に対する体のクリアランスを含むとともに、前記抗体製剤と組み合わせて投与される任意の可能な他の治療も含む種々の要因によって決定される。具体的な場合に、伝達される有効量は、臨床医の判断範囲内で決定することができる。治療すべき適応症に応じて、有効投与量は、約0.005mg/kg体重から約50mg/kg体重、又は約0.1mg/kg体重から約20mg/kg体重であってもよい。この点において、既知の抗体に基づく医薬の適用は、一定の指導を与えることができる。投与量は、単回投与量案又は複数回投与量案であってもよい。
【0125】
本発明の理解を補助するために、以下の実施例を記載する。如何なる方法によっても、実施例を、本発明の請求範囲を制限するものと解釈する意図はなく、そうすべきでもない。
【0126】
略語の説明
CE-SDS:ラウリル硫酸ナトリウムキャピラリーゲル電気泳動
ELISA:酵素結合免疫吸着測定法
iCIEF:イメージングキャピラリー等電点電気泳動
SEC-HPLC:サイズ排除高速液体クロマトグラフィー
【実施例】
【0127】
製品の使用期限(少なくとも24カ月)での品質が管理可能になるように、組換え抗プログラム細胞死受容体1(PD-1)と抗ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)である二重特異性抗体注射液が長期間安定して保存される製剤調合法を開発するために、調合法ふるい分け試験を設計し、異なる補助材料の抗PD-1/HER2二重特異性抗体製剤の安定性への影響を調べた。試験に用いられる材料と方法は、下記の通りである。
【0128】
【0129】
【0130】
1.3. 製剤の安定性の検出項目及び検出方法
抗体製剤に対して下記の項目を検出した。(1)外観及び可視の異物の有無を検出した(2)紫外線法(UV法)により製剤におけるタンパク質の含有量を測定した(3)350nmでの吸光度を検出することにより、濁度を測定した(4)サイズ排除クロマトグラフィー、例えば、サイズ排除高速液体クロマトグラフィー(size-exclusion chromatography-HPLC;SEC-HPLC)により、抗体製剤の純度(全てのピーク面積の合計に対するモノマーの面積のパーセントで示す)を測定した(5)還元型ラウリル硫酸ナトリウムキャピラリーゲル電気泳動(還元型CE-SDS)及び/又は非還元型ラウリル硫酸ナトリウムキャピラリーゲル電気泳動(非還元型CE-SDS)により抗体製剤の純度(全てのピーク面積の合計に対するモノマーの面積のパーセントで示す)を測定した(6)イメージングキャピラリー等電点電気泳動(iCIEF法)により抗体製剤における電荷変異体(主成分、酸性成分、及び塩基性成分のパーセントで示す)を測定した(7)免疫測定法、例えば、直接ELISA法により、抗体製剤における抗PD-1/HER2二重特異性抗体のPD-1抗原とHER2抗原に対する相対結合活性を測定した。
【0131】
可視の異物の測定
国家薬典委員会、中華人民共和国薬典(2015年版、四部通則0904「可視の異物の検査法」、北京:中国医薬科技出版社、2015)に記載されている方法に従って、透明度検出器(天津天大天発製、型番YB-2)により、試料における可視の異物を検査した。
【0132】
タンパク質の含有量の測定
紫外線分光光度計(日本島津製、型番UV-1800)により、試料におけるタンパク質の含有量を測定した。
【0133】
濁度の測定
紫外線分光光度計(日本島津製、型番UV-1800)により、350nmで試料の吸光度を測定し、試料の濁度を確認した。
【0134】
純度(SEC-HPLC法)
体積排除クロマトグラフィーカラムにより分離したが、流動相はリン酸塩緩衝液(リン酸二水素ナトリウム二水和物3.12g、塩化ナトリウム8.77gとアルギニン34.84gを秤量し、超純水で溶解した後塩酸でpH6.8に調整し、1000mLに定容した)で、クロマトグラフィーカラム保護液は0.05%(w/v)のNaN3であり、注入量50μl、流速0.5mL/分、採取時間30分間、カラム温度25℃、検出波長280nmである。測定すべき試料を取って超純水で2mg/mLまで希釈し、供試品溶液とした。製剤緩衝液を取って上記と同様に希釈した後、ブランク溶液とした。ブランク溶液を取り、供試品溶液をそれぞれ50μl取って液体クロマトグラフに注ぎ込み、検出し始めた。
【0135】
純度(還元型CE-SDS法)
キャピラリーゲル電気泳動法により検出した。キャピラリーはコーティングされていないキャピラリーで、内径50μm、全長30.2cm、有効長さ20.2cmである。電気泳動前に、それぞれ0.1mol/Lの水酸化ナトリウム、0.1mol/Lの塩酸、超純水、電気泳動ゲルにより70psiでキャピラリーカラムを洗浄した。測定すべき試料を適量の超純水で2.0mg/mLまで希釈し、上記希釈された試料50μlを1.5mLの遠心分離管に取り込み、その中にpH6.5の試料緩衝液45μl(クエン酸一水和物0.32g、リン酸水素二ナトリウム十二水和物2.45gを秤量し、超純水45mLに溶解し、50mLに定容し、クエン酸-リン酸塩緩衝液を調製し、精密に当該緩衝液200μlを量り取り、10%(w/v)のラウリル硫酸ナトリウム溶液80μlを入れて、1mLになるまで水を加え、均一に混合することで得た)、内部標準液1μl(10kDaのタンパク質、5mg/mL)(Beckman Coulter、製品番号:390953)とβ-メルカプトエタノール5μlをそれぞれ加え、十分に均一に混合した後、70±2℃で10±2分間加熱し、室温まで冷却してから試料瓶に移転して供試品溶液とした。供試品と同じ体積の製剤緩衝液を取り、上記方法と同様に操作して、ブランク溶液を得た。試料注入条件:-5kV 20秒間、分離電圧:-15kV 35分間。キャピラリーカラムの温度は25℃に制御され、検出波長は220nmである。
【0136】
純度(非還元型CE-SDS法)
キャピラリーゲル電気泳動法により検出した。キャピラリーはコーティングされていないキャピラリーで、内径50μm、全長30.2cm、有効長さ20.2cmである。電気泳動前に、それぞれ0.1mol/Lの水酸化ナトリウム、0.1mol/Lの塩酸、超純水、電気泳動ゲルにより70psiでキャピラリーカラムを洗浄した。測定すべき試料を適量の超純水で2.0mg/mLまで希釈し、上記希釈された試料50μlを1.5mLの遠心分離管に取り込み、その中にpH6.5の試料緩衝液45μl(クエン酸一水和物0.32g、リン酸水素二ナトリウム十二水和物2.45gを秤量し、超純水45mLに溶解し、50mLに定容し、クエン酸-リン酸塩緩衝液を取得し、精密に当該緩衝液200μlを量り取り、10%(w/v)のラウリル硫酸ナトリウム溶液80μlを入れて、1mLになるまで水を加え、均一に混合することで得た)、内部標準液1μl(10kDaのタンパク質、5mg/mL)(Beckman Coulter、製品番号:390953)と250mmol/LのNEM溶液5μl(N-エチルマレイミド62mgを秤量し、超純水2mLに溶解する)5μlをそれぞれ加え、十分に均一に混合した後、70±2℃で10±2分間加熱し、室温まで冷却してから試料瓶に移転して供試品溶液とした。供試品と同じ体積の製剤緩衝液を取り、上記方法と同様に操作して、ブランク溶液を得た。試料注入条件:-5kV 20秒間、分離電圧:-15kV 35分間。キャピラリーカラムの温度は25℃に制御され、検出波長は220nmである。
【0137】
電荷変異体(iCIEF法)
イメージングキャピラリー等電点電気泳動法(iCIEF法)により検出した。キャピラリーは、内径100μm、全長5cmである。試料の電気泳動前に、それぞれ0.5%のメチルセルロース溶液(以下、MC溶液とも略す)、超純水によりキャピラリーカラムを洗浄する必要がある。真空注入方式が採用され、プリフォーカス電圧及び時間は1.5kV、1分間、フォーカス電圧及び時間は3kV、8分間、注入時間は55秒間、試料盤の温度は10℃、検出波長は280nmである。陰極安定剤(Cathodic Stabilizer)は、500mmol/Lのアルギニン溶液で、0.5%のMC溶液によりタンパク質とキャピラリーとの密着が低減される。供試品を水で1.0mg/mLまで希釈し、希釈された供試品溶液20μlを取り、その中に予混合液(予混合液の配合比は、pI 0.5%のMC溶液70μl、両性電解質(pH3~10)4μl、陰極安定剤2μl、pI 5.85マーカー1μl、pI 9.99マーカー1μlである)78μlを加え、十分に均一に混合して測定すべき試料溶液を得た。インジェクション分析して、面積正規化法により、主成分、酸性成分、及び塩基性成分の含有量を算出した。
【0138】
相対結合活性(直接ELISA法)
CBSで抗原(PD-1に対する抗PD-1/HER2二重特異性抗体の抗PD-1端の相対結合活性を検出する場合は、Sinobiologicalから購入された組換えヒトPD-1、製品番号:10377-H08Hを使用し、HER2に対する抗PD-1/HER2二重特異性抗体の抗HER2端の相対結合活性を検出する場合は、Sinobiologicalから購入されたHuman HER2/ErbB2 Protein(His Tag)、製品番号:10004-H08H-100を使用した)を0.5μg/mLまで希釈し、100μl/ウェルで、4℃で96ウェルELISAプレートにて一晩被覆した。プレートを洗った後、封止液(2%のBSA-PBST、300μl/ウェル)を入れて37℃で2h封止した。2%のBSA-PBSTで抗PD-1/HER2二重特異性抗体を3μg/mLまで希釈し、3倍の勾配で11番目の濃度(0.05~3000ng/mL)まで希釈した。勾配希釈された供試品を100μl/ウェルで、シール液が除去されたELISAプレートに加入し、1ウェル当たり希釈液(2%のBSA-PBST)100μlのみが入れられるように陰性対照を設け、37℃で恒温培養器にて60minインキュベートした。プレートを洗った後、2%のBSA-PBSTで希釈されたHRP複合ヤギ抗ヒトIgG-Fc断片(アメリカ BETHYL、製品番号A80-104P)を二次抗体(100000倍希釈され、100μl/ウェル)として加え、37℃で30min反応した。プレートを洗った後、1ウェル当たりTMB発色液100μlを加え、10min発色した後、1ウェルあたり1mol/LのH2SO4 100μlを入れて反応を止めた。620nmを参照波長として、450nmでのOD値を測定した。各濃度勾配試料の濃度値を横軸として、各勾配試料のOD450nm~OD620nm値を縦軸として、Prism4パラメータフィッティングによりEC50を算出し、抗体と各抗原との結合活性を反映した。
【0139】
実施例1. 抗PD-1/HER2二重特異性抗体の調製と精製
PCT出願番号PCT/CN2018/075851の記載により、抗PD-1/HER2二重特異性抗体を調製して精製した。
【0140】
具体的に、抗ヒトPD-1の抗体重鎖と軽鎖を含むX0GC発現ベクター(X0GC発現ベクターの構築は中国特許出願番号200780038403.3を参照する)をそれぞれ構築し、ここで、軽鎖可変領域ヌクレオチド配列は配列番号9に示され、アミノ酸配列は配列番号10に示され、軽鎖定常領域ヌクレオチド配列は配列番号3に示され、アミノ酸配列は配列番号4に示され、重鎖可変領域ヌクレオチド配列は配列番号11に示され、アミノ酸配列は配列番号12に示され、重鎖定常領域ヌクレオチド配列は配列番号13に示され、アミノ酸配列は配列番号14に示される。
【0141】
抗ヒトHER2の抗体重鎖と軽鎖を含むX0GC発現ベクターをそれぞれ構築し、ここで、軽鎖可変領域ヌクレオチド配列は配列番号1に示され、アミノ酸配列は配列番号2に示され、軽鎖定常領域ヌクレオチド配列は配列番号3に示され、アミノ酸配列は配列番号4に示され、重鎖可変領域ヌクレオチド配列は配列番号5に示され、アミノ酸配列は配列番号6に示され、重鎖定常領域ヌクレオチド配列は配列番号7に示され、アミノ酸配列は配列番号8に示される。
【0142】
前記抗ヒトPD-1抗体の重鎖と軽鎖を含む発現ベクターを293F細胞(FreeStyleTM 293-F Cells、製品番号R79007、invitrogen)にそれぞれトランスフェクションし、発現・精製して還元プロセスを経て、1本の重鎖と1本の軽鎖を含む抗ヒトPD-1半抗体分子を得た。
【0143】
同様に、前記抗ヒトHER2抗体の重鎖と軽鎖を含む発現ベクターを293F細胞(FreeStyleTM 293-F Cells、製品番号R79007、invitrogen)にそれぞれトランスフェクションし、発現・精製して還元プロセスを経て、1本の重鎖と1本の軽鎖を含む抗ヒトHER2半抗体分子を得た。
【0144】
還元された抗PD-1半抗体分子及び還元された抗HER2半抗体分子を等モル比で混合し、4℃の条件で24時間組換え反応を行うと、抗PD-1半抗体分子及び抗HER2半抗体分子を含むヘテロ二量体の二重特異性抗体の溶液を得た。前記溶液を限外ろ過濃縮管により限外ろ過して濃縮した後、AKTA explorer 100型タンパク質精製システム(GE Healthcare)及びイオンクロマトグラフィーカラムSource 15S(16mm I.D.、17mL、GE Healthcare)により4℃で精製し、純度99.96%の抗PD-1/HER2二重特異性抗体を得た。
【0145】
実施例2. pHによる製剤の安定性への影響試験の一つ
本実施例は、抗PD-1/HER2二重特異性抗体を含む製剤のpH5.0~6.5での安定性を調べた。それぞれ5.0、5.5、6.0と6.5である合計4つのpH値を設計した。
【0146】
2.1 実験手順
ヒスチジン10mM、5%(w/v)のソルビトール緩衝液を調製し、希塩酸でpH5.0、5.5、6.0と6.5にそれぞれ調整し、実施例1の精製された抗PD-1/HER2二重特異性抗体を限外ろ過して前記異なるpH値の溶液に置換した。置換が完了した後、試料における二重特異性抗体タンパク質の含有量を約20mg/mLに調整し、そしてポリソルベート80の最終濃度が0.30mg/mLになるようにポリソルベート80を加え、ろ過してバイアル瓶に分注し、プラグを入れて蓋をした。各試料に対して40℃±2℃の条件で安定性を調べたが、具体的な実験方法は表1に示されている。
【0147】
【0148】
2.2 判断基準
試料が変化したか否かを判断するために、製品に対する認識及び器具と方法の精密度に基づき、試料検出指標数値を初期値と比べて品質の変化がない判定基準を設定したが、詳細は表2に示されている。
【0149】
【0150】
2.3 調合法ふるい分け試験の一つの実験結果
(1)外観と可視の異物
40℃±2℃の条件で1カ月置かれた後、pH5.0、pH5.5、pH6.0とpH6.5の試料は、外観と可視の異物がいずれも合格である。
【0151】
(2)タンパク質の含有量
pH5.0、5.5、6.0と6.5で40℃±2℃で異なる時間置かれた後、各試料のタンパク質の含有量の検出結果は表3に示されている。その結果から明らかなように、40℃±2℃の条件で1カ月置かれた後、各pH値の試料のいずれにも著しい変化がなかった。
【0152】
【0153】
(3)濁度
pH5.0、5.5、6.0と6.5で40℃±2℃で異なる時間置かれた後、各試料の濁度の検出結果は表4に示され、その変化の傾向は
図2に示されている。その結果から明らかなように、40℃±2℃の条件で1カ月置かれた後、各pH値の試料の濁度はいずれも高くなり、かつ、pHが高いほど、濁度の変化速度が早くなった。
【0154】
【0155】
(4)純度
pH5.0、5.5、6.0と6.5で40℃±2℃で異なる時間置いた後、SEC-HPLC法により各試料のタンパク質の純度を測定した。結果は表5に示され、その変化の傾向は
図3に示されている。その結果から明らかなように、40℃±2℃の条件で1カ月調べたところ、異なるpH値の試料の純度のいずれにも明らかな変化がなかった。
【0156】
【0157】
pH5.0、5.5、6.0と6.5で40℃±2℃で異なる時間置いた後、非還元型CE-SDS法により各試料のタンパク質の純度をそれぞれ測定した。結果は表6に示され、その変化の傾向は
図4に示されている。その結果から明らかなように、40℃±2℃の条件で1カ月調べたところ、各pH値の試料の純度はいずれも低下し、0日間の試料の純度と比べてそれぞれ2.6%、2.5%、2.5%と3.2%低下した。
【0158】
【0159】
pH5.0、5.5、6.0と6.5で40℃±2℃で異なる時間置いた後、還元型CE-SDS法により各試料のタンパク質の純度をそれぞれ測定した。結果は表7に示され、その変化の傾向は
図5に示されている。その結果から明らかなように、40℃±2℃の条件で1カ月調べたところ、各pH値の試料の純度は、0日間の試料の純度と比べてそれぞれ0.4%、0.7%、0.6%と1.4%低下した。
【0160】
【0161】
(5)電荷変異体
pH5.0、5.5、6.0と6.5で40℃±2℃で異なる時間置いた後、iCIEF法により各試料の電荷変異体を測定した。結果は表8に示され、その変化の傾向は
図6に示されている。その結果から明らかなように、40℃±2℃の条件で1カ月調べたところ、各pH値の試料は、主成分及び酸性成分と塩基性成分がいずれも明らかに変化した。pH値が高いほど、試料の主成分が速く低下し、酸性成分が速く向上した。
【0162】
【0163】
(6)相対結合活性
pH5.0、5.5、6.0と6.5で40℃±2℃で異なる時間置いた後、直接ELISA法により各試料の相対結合活性を測定した。結果は表9に示されている。その結果から明らかなように、40℃±2℃の条件で2週間調べたところ、PD-1抗原及びHER2抗原と結合する各試料の相対結合活性はいずれも70%よりも高く、pH6.0とpH6.5の試料の抗HER2端の相対結合活性は明らかに低下し、いずれも70%よりも低くなり、40℃±2℃の条件で1カ月調べたところ、PD-1抗原と結合する各試料の相対結合活性は依然として70%よりも高く、HER2抗原と結合するpH6.0とpH6.5の試料の相対結合活性のみが70%より低いものの、やはり50%より高かった。
【0164】
【0165】
上記のように行われたpHの製剤の安定性への影響試験の結果から、抗PD-1/HER2二重特異性抗体はpH5.0~6.5で40℃±2℃で2週間置かれた後、試料の外観と可視の異物がいずれも合格で、タンパク質の含有量に著しい変化がないとともに、HER2抗原及びPD-1抗原との相対結合活性にも明らかな変化がなく、また、抗PD-1/HER2二重特異性抗体はpH5.0~6.5で40℃±2℃で1カ月置かれた後、試料の外観と可視の異物がいずれも合格で、タンパク質の含有量に著しい変化がないとともに、PD-1抗原との相対結合活性にも明らかな変化がなく、抗PD-1/HER2二重特異性抗体は、pH6.0とpH6.5の場合のみ、HER2抗原と結合する相対結合活性が低下したものの、依然として50%よりも高いことが明らかになる。その後の実施例においては、pH5.0~6.5からpH5.5を選択して実験を行った。
【0166】
実施例3. 調合法ふるい分け試験
3.1 安定剤ふるい分け試験
ポリオールとしてのソルビトール、糖類としてのスクロース、トレハロース、酸化防止剤としてのメチオニンなどの異なる安定剤の、抗PD-1/HER2二重特異性抗体を含む製剤の安定性への影響を調べた。
【0167】
3.1.1 安定剤ふるい分け試験工程
合計4つの調合法を設計したが、詳しい調合法情報は表10に示されている。表10に従って各調合法の緩衝液を調製し、抗PD-1/HER2二重特異性抗体を限外ろ過してそれぞれの調合法溶液に置換した。置換完了後、各調合法のタンパク質の含有量を約50.0mg/mLに調整し、ポリソルベート80の最終濃度が0.20mg/mLになるように、ポリソルベート80を入れ、ろ過してバイアル瓶に分注し、プラグを入れて蓋をした。各試料に対して40℃、25℃、5℃の条件で安定性を調べたが、具体的な方法は表11に示されている。検出指標は、外観、可視の異物、タンパク質の含有量、純度(SEC-HPLC法、非還元型CE-SDS法)及び電荷変異体(iCIEF法)である。
【0168】
【0169】
【0170】
3.1.2 判定基準
判定基準の詳細は、実施例2における表2に示されている。
3.1.3 安定剤ふるい分け試験
【0171】
(1)外観、可視の異物
40℃の条件で1カ月、25℃±2℃の条件で2カ月、5℃±3℃の条件で3カ月観察した結果から明らかなように、各調合法の試料は、外観、可視の異物がいずれも合格である。
【0172】
(2)タンパク質の含有量
40℃の条件で1カ月、25℃±2℃の条件で2カ月、5℃±3℃の条件で3カ月観察したが、各調合法試料のタンパク質の含有量の測定結果は表12に示されている。その結果から明らかなように、40℃、25℃±2℃と5℃±3℃でこの3つの異なる温度条件で、4つの調合法におけるタンパク質の含有量のいずれにも変化がなかった。
【0173】
【0174】
(3)純度
純度(SEC-HPLC法):結果は表13に示されている。その結果から明らかなように、40℃の条件で4週間調べたところ、各調合法の試料の純度のいずれにも著しい変化がなく、25℃±2℃の条件で2カ月した後、各調合法の試料の純度のいずれにも明らかな変化がなく、5℃±3℃の条件で3カ月した後、各調合法の試料の純度にも明らかな変化がなかった。
【0175】
【0176】
純度(非還元型CEーSDS法、%):結果は表14に示されている。その結果から明らかなように、40℃の条件で4週間調べたところ、各調合法の試料の純度のいずれにも著しい変化がなく、25℃±2℃の条件で2カ月した後、各調合法の試料の純度のいずれにも明らかな変化がなく、5℃±3℃の条件で3カ月した後、各調合法の試料の純度のいずれにも著しい変化がなかった。
【0177】
【0178】
純度(還元型CE-SDS法):結果は表15に示されている。その結果から明らかなように、40℃の条件で4週間調べたところ、各調合法の試料の純度のいずれにも著しい変化がなく、25℃±2℃の条件で2カ月した後、各調合法の試料の純度のいずれにも明らかな変化がなく、5℃±3℃の条件で3カ月した後、各調合法の試料の純度のいずれにも著しい変化がなかった。
【0179】
【0180】
(4)電荷変異体(iCIEF法)
電荷変異体(iCIEF法):結果は表16に示されている。40℃と25℃±2℃で、各調合法の電荷変異体の主成分の変化の傾向は、それぞれ
図7と
図8に示されている。
【0181】
その結果から明らかなように、40℃の条件で4週間調べたところ、各調合法の電荷変異体の主成分及び酸性成分と塩基性成分は明らかな変化が発生され、主成分が低下し、酸性成分が向上し、その変化の傾向がほぼ一致しており、調合法1~4の間には明らかな差異がなかった。25℃±2℃の条件で2カ月加速した後、各調合法の電荷変異体の主成分及び酸性成分と塩基性成分は何れも明らかな変化が発生され、主成分が低下し、酸性成分が向上し、その変化の傾向がほぼ一致しており、調合法1~4の間には明らかな差異がなかった。5℃±3℃の条件で3カ月調べたところ、各調合法の電荷変異体の主成分及び酸性成分と塩基性成分のいずれにも明らかな変化がなかった。
【0182】
【0183】
調合法決定実験の結果から明らかなように、調合法1~4の間は変化の傾向が比較的一致しており、それらの間に明らかな差異がなかった。調合法の簡単さから考えると、単一の安定剤を使用する調合法1、調合法2と調合法3はタンパク質への保護に明らかな差異がないが、後の凍結乾燥製剤の開発を考慮した上で、調合法2を選定した。後の生産安全性から考えると、調合法2の緩衝系は、pHの調整のために濃塩酸からヒスチジンとヒスチジン塩酸塩へ調整した。調整後の製剤の調合法の安定性を確保するために、次の実験をさらに実施した。
【0184】
実施例4. 調合法確認実験
4.1 調合法の設計と実験方法
調合法5を設計したが、調合法5の詳細は表17に示されている。
【0185】
【0186】
調合法確認実験方法は表18に示されている。
【表21】
【0187】
4.2 実験結果
40℃強制実験の結果は表19に示されている。40℃の条件で4週間置き、外観、可視の異物と生物学的活性はいずれも合格で、タンパク質の含有量、純度(SEC-HPLC法とCE-SDS法)のいずれにも著しい変化がなく、電荷変異体(iCIEF法)の主成分のみが16.0%低下し、酸性成分が14.0%向上し、塩基性成分が2.0%向上した。
【0188】
【0189】
その結果から明らかなように、42.0mg/mLの本発明の組換え全ヒト抗プログラム細胞死受容体1(PD-1)とヒト化抗ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)である二重特異性抗体は、調合法5(ヒスチジン0.85mg/mL、ヒスチジン塩酸塩3.17mg/mL、スクロース80.00mg/mL、ポリソルベート80 0.2mg/mL、pH5.5)において、実施例3における調合法2と比較的一致する変化の傾向を有する。
【0190】
これにより、最適な製剤として、組換え全ヒト抗プログラム細胞死受容体1(PD-1)とヒト化抗ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)二重特異性抗体約42.0mg/mL、ヒスチジン0.85mg/mL、ヒスチジン塩酸塩3.17mg/mL、スクロース80.00mg/mL、ポリソルベート80 0.2mg/mL、pH5.5が決定された。
【0191】
以上、本発明の例示的な実施形態について説明したが、当業者は、これらの開示が例示的なものに過ぎず、本発明の範囲内で種々の他の置換、適用と修正を行うことができると理解すべきである。従って、本発明は、本明細書に列挙された具体的な実施形態に限定されない。
【配列表】
【国際調査報告】