(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-12
(54)【発明の名称】ポリシアヌレートを含むコーティングを備えた医薬品パッケージ
(51)【国際特許分類】
C03C 17/32 20060101AFI20221004BHJP
A61J 1/05 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
C03C17/32 A
A61J1/05 311
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022507477
(86)(22)【出願日】2020-08-03
(85)【翻訳文提出日】2022-04-04
(86)【国際出願番号】 US2020044690
(87)【国際公開番号】W WO2021030082
(87)【国際公開日】2021-02-18
(32)【優先日】2019-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】リー,リンカァ
(72)【発明者】
【氏名】リー,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ワイケル,アーリン リー
【テーマコード(参考)】
4C047
4G059
【Fターム(参考)】
4C047AA05
4C047BB01
4C047BB28
4C047CC04
4G059AA04
4G059AB05
4G059AB09
4G059AC16
4G059FA17
4G059FB05
(57)【要約】
本開示は、ポリシアヌレートを含むコーティングを含む医薬品パッケージ、及びその製造方法を対象とする。本開示の1つ以上の実施形態では、医薬品パッケージは、第1の表面と、上記第1の表面の反対側の第2の表面とを備える、ガラスコンテナを備えてよい。上記第1の表面は、上記ガラスコンテナの外面であってよい。上記医薬品パッケージは更に、上記ガラスコンテナの上記第1の表面の少なくとも一部分を覆うように位置決めされたコーティングを備えてよい。上記コーティングはポリシアヌレートを含んでよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の表面と、前記第1の表面の反対側の第2の表面とを備える、ガラスコンテナであって、前記第1の表面は、前記ガラスコンテナの外面である、ガラスコンテナ;及び
前記ガラスコンテナの前記第1の表面の少なくとも一部分を覆うように位置決めされた、コーティングであって、前記コーティングはポリシアヌレートを含む、コーティング
を備える、医薬品パッケージ。
【請求項2】
前記ポリシアヌレートは、1つ以上のビスフェノールシアン酸エステルから形成されたモノマー単位を含む、請求項1に記載の医薬品パッケージ。
【請求項3】
前記1つ以上のビスフェノールシアン酸エステルは、ビスフェノールAシアン酸エステル、ビスフェノールEシアン酸エステル、C,C’‐((2,2,2‐トリフルオロ‐1‐(トリフルオロメチル)エチリデン)ジ‐4,1‐フェニレン)エステル、テトラメチルビスフェノールFシアン酸エステル、ビスフェノールMシアン酸エステル、C,C’‐((2,2,2‐トリフルオロ‐1‐(トリフルオロメチル)エチリデン)ジ‐4,1‐フェニレン)エステル、及びこれらの組み合わせから選択される、請求項2に記載の医薬品パッケージ。
【請求項4】
前記コーティングは100nm以下の厚さを有する、請求項1に記載の医薬品パッケージ。
【請求項5】
前記コーティングは、前記ガラスコンテナの前記第1の表面の少なくとも一部分と直接接触している、請求項1に記載の医薬品パッケージ。
【請求項6】
前記ガラスコンテナの前記第1の表面の、前記コーティングを備えた前記部分は、約0.7以下の摩擦係数を有する、請求項1に記載の医薬品パッケージ。
【請求項7】
前記ガラスコンテナの前記第1の表面の、前記コーティングを備えた前記部分は、少なくとも約250℃の温度での30分にわたる加熱処理の後、約0.7以下の前記摩擦係数を保持する、請求項6に記載の医薬品パッケージ。
【請求項8】
前記医薬品パッケージを通る光透過率は、約400nm~約700nmの波長に関して、未コーティング医薬品パッケージを通る光透過率の約55%以上である、請求項1に記載の医薬品パッケージ。
【請求項9】
前記医薬品パッケージは、少なくとも約250℃の温度での30分にわたる加熱処理の後、約400nm~約700nmの各波長に関して、前記未コーティング医薬品パッケージを通る前記光透過率の約55%以上の、前記医薬品パッケージを通る前記光透過率を保持する、請求項8に記載の医薬品パッケージ。
【請求項10】
第1の表面と、前記第1の表面の反対側の第2の表面とを備える、ガラスコンテナであって、前記第1の表面は、前記ガラスコンテナの外面である、ガラスコンテナ;及び
前記ガラスコンテナの前記第1の表面の少なくとも一部分を覆うように位置決めされた、コーティングであって、前記コーティングは1つ以上のシアン酸エステルから形成される、コーティング
を備える、医薬品パッケージ。
【請求項11】
前記1つ以上のシアン酸エステルは、1つ以上のビスフェノールシアン酸エステルから選択される、請求項10に記載の医薬品パッケージ。
【請求項12】
前記1つ以上のビスフェノールシアン酸エステルは、ビスフェノールAシアン酸エステル、ビスフェノールEシアン酸エステル、C,C’‐((2,2,2‐トリフルオロ‐1‐(トリフルオロメチル)エチリデン)ジ‐4,1‐フェニレン)エステル、テトラメチルビスフェノールFシアン酸エステル、ビスフェノールMシアン酸エステル、C,C’‐((2,2,2‐トリフルオロ‐1‐(トリフルオロメチル)エチリデン)ジ‐4,1‐フェニレン)エステル、及びこれらの組み合わせから選択される、請求項11に記載の医薬品パッケージ。
【請求項13】
前記コーティングは100nm以下の厚さを有する、請求項11に記載の医薬品パッケージ。
【請求項14】
前記コーティングは、前記ガラスコンテナの前記第1の表面の少なくとも一部分と直接接触している、請求項11に記載の医薬品パッケージ。
【請求項15】
前記ガラスコンテナの前記第1の表面の、前記コーティングを備えた前記部分は、約0.7以下の摩擦係数を有する、請求項11に記載の医薬品パッケージ。
【請求項16】
前記医薬品パッケージを通る光透過率は、約400nm~約700nmの波長に関して、未コーティング医薬品パッケージを通る光透過率の約55%以上である、請求項11に記載の医薬品パッケージ。
【請求項17】
コーティング済み医薬品パッケージを製造する方法であって、前記方法は:
コーティング前駆物質混合物を、ガラスコンテナの外面の第1の表面上に堆積させるステップであって、前記コーティング前駆物質混合物は1つ以上のシアン酸エステルを含む、ステップ;及び
前記コーティング前駆物質混合物を加熱して、前記ガラスコンテナの前記外面上にコーティングを形成するステップであって、前記コーティングはポリシアヌレートを含む、ステップ
を含む、方法。
【請求項18】
前記1つ以上のシアン酸エステルは、1つ以上のビスフェノールシアン酸エステルから選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記1つ以上のビスフェノールシアン酸エステルは、ビスフェノールAシアン酸エステル、ビスフェノールEシアン酸エステル、C,C’‐((2,2,2‐トリフルオロ‐1‐(トリフルオロメチル)エチリデン)ジ‐4,1‐フェニレン)エステル、テトラメチルビスフェノールFシアン酸エステル、ビスフェノールMシアン酸エステル、C,C’‐((2,2,2‐トリフルオロ‐1‐(トリフルオロメチル)エチリデン)ジ‐4,1‐フェニレン)エステル、及びこれらの組み合わせから選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記コーティング前駆物質混合物を加熱する前記ステップは、230℃未満の温度である、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、米国特許法第120条の下で、2019年8月9日出願の米国仮特許出願第62/884,731号の優先権の利益を主張するものであり、上記仮特許出願の内容は依拠され、その全体が参照により本出願に援用される。
【技術分野】
【0002】
本明細書は一般にガラス物品に関し、より具体的には、医薬品パッケージ等のガラス物品上のコーティングに関する。
【背景技術】
【0003】
ガラスは歴史的に、その密封性、光学的透明度、及び他の材料に比べて優れた化学的耐久性により、医薬品の梱包のための好ましい材料として使用されてきた。具体的には、医薬品の梱包に使用されるガラスは、その中に内包された医薬品の安定性に影響を及ぼさないよう、十分な化学的耐久性を有している必要がある。多くの医薬用途のための好適な化学的耐久性を有するガラスとしては、化学的耐久性に関する証明された履歴を有するASTM規格「「Type 1B」ガラス組成物に含まれるガラス組成物が挙げられる。
【0004】
しかしながら、多くの用途に関するガラスの使用は、ガラスの機械的性能によって制限される。製薬業界では、ガラスの破壊は、破壊されたパッケージ及び/又はパッケージの内容物がエンドユーザを傷つける可能性があるため、エンドユーザにとって安全上の懸案事項である。充填ラインでのガラスの破壊は、不完全な包装、又は近隣の密封されたパッケージに充填ラインからの破壊されたガラスが内包されることによって、薬物の高コストなロス、又はリコールの可能性さえ生じさせる。更に、壊滅的でない破壊(即ちガラスがひび割れているものの割れてはいない場合)により、内容物がその無菌性を失う場合があり、これは高コストの製品リコールにつながり得る。
【0005】
具体的には、ガラス製医薬品パッケージの製造及び充填に使用される高い加工速度は、ガラスが加工設備、処理設備及び/又は他のパッケージと接触する際に、擦過傷等の機械的損傷をパッケージの表面上にもたらす可能性がある。この機械的損傷は、ガラス製医薬品パッケージの強度を大幅に低下させ、割れがガラスに発生する可能性を高め、場合によってはパッケージに内包された医薬品の無菌性を損なうか又はパッケージの完全な破壊を引き起こす。
【0006】
ガラスパッケージの機械的耐久性を改善するための1つのアプローチは、ガラスパッケージの熱及び/又は化学強化である。熱強化は、成形後の急速冷却中に表面圧縮応力を誘発することによって、ガラスを強化する。この技術は、平坦なジオメトリを有するガラス物品(例えば窓)、厚さが約2mmを超えるガラス物品、及び高い熱膨張率を有するガラス組成物には良好に作用する。しかしながら、医薬品用ガラスパッケージは典型的には、複雑なジオメトリ(バイアル、チューブ、アンプル等)と薄い壁(場合によっては約1~1.5mm)を有し、低膨張率ガラスから製造されるため、ガラス製医薬品パッケージは従来の熱強化による強化に適さないものとなる。化学強化もまた、表面圧縮応力の導入によってガラスを強化する。上記応力は、溶融塩浴中に物品を浸漬させることによって導入される。ガラスからのイオンが、溶融塩浴からの比較的大きなイオンで置換されると、ガラスの表面に圧縮応力が誘発される。化学強化の利点は、複雑なジオメトリや薄い試料に対して使用できること、及びガラス基板の熱膨張特性の影響を比較的受けにくいことである。
【0007】
しかしながら、上述の強化技法は強化ガラスの、鈍い衝撃に耐える能力を改善するものの、これらの技法は、製造、輸送及び取り扱い中に発生し得る引っかき等の擦過傷に対するガラスの耐性の改善には比較的効果が低い。このような欠陥により、ガラスが破壊されやすくなる可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、機械的損傷に対する耐性が改善された代替的なガラス物品に対する需要が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の1つ以上の実施形態では、医薬品パッケージは、第1の表面と、上記第1の表面の反対側の第2の表面とを備える、ガラスコンテナを備えてよい。上記第1の表面は、上記ガラスコンテナの外面であってよい。上記医薬品パッケージは更に、上記ガラスコンテナの上記第1の表面の少なくとも一部分を覆うように位置決めされたコーティングを備えてよい。上記コーティングはポリシアヌレートを含んでよい。
【0010】
本開示の1つ以上の追加の実施形態では、医薬品パッケージは、第1の表面と、上記第1の表面の反対側の第2の表面とを備える、ガラスコンテナを備えてよい。上記第1の表面は、上記ガラスコンテナの外面であってよい。上記医薬品パッケージは更に、上記ガラスコンテナの上記第1の表面の少なくとも一部分を覆うように位置決めされたコーティングを備えてよい。上記コーティングは、少なくとも1つ以上のシアン酸エステルモノマーから形成されたポリマーを含んでよい。
【0011】
本開示の更なる1つ以上の追加の実施形態では:コーティング前駆物質混合物を、ガラスコンテナの外面の第1の表面上に堆積させるステップ;及び上記コーティング前駆物質混合物を加熱して、上記ガラスコンテナの上記外面上にコーティングを形成するステップを含んでよい方法によって、コーティング済み医薬品パッケージを製造できる。上記コーティング前駆物質混合物は1つ以上のシアン酸エステルを含んでよく、上記コーティングはポリシアヌレートを含んでよい。
【0012】
コーティングガラス物品のコーティングに使用できるコーティング、コーティング済みガラス物品、並びにこれらを製造するための方法及びプロセスの、更なる特徴及び利点は、以下の「発明を実施するための形態」に記載され、その一部は、当業者には「発明を実施するための形態」から容易に明らかとなるか、又は「発明を実施するための形態」、後続の特許請求の範囲及び添付の図面を含む本明細書に記載された複数の実施形態を実施することによって認識されるだろう。
【0013】
上述の「発明の概要」及び以下の「発明を実施するための形態」の両方は、様々な実施形態を記載し、請求対象の主題の性質及び特徴を理解するための概説又は枠組みを提供することを意図したものであることを理解されたい。添付の図面は、上記様々な実施形態の更なる理解を提供するために含まれており、本明細書の一部に組み込まれて本明細書の一部を構成する。図面は本明細書に記載の上記様々な実施形態を図示し、本説明と併せて、請求対象の主題の原理及び動作を説明する役割を果たす。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本明細書で図示及び説明される1つ以上の実施形態による、低摩擦コーティングを備えるガラスコンテナの概略断面図
【
図2】本明細書で図示及び説明される1つ以上の実施形態による、単層低摩擦コーティングを備える
図1のガラスコンテナの概略断面拡大図
【
図3】本明細書で図示及び説明される1つ以上の実施形態による、2つの表面間の摩擦係数を決定するための試験用ジグの概略図
【
図4】本明細書で図示及び説明される1つ以上の実施形態による、光の波長に対する実施例2の試料の透過率のパーセンテージのプロット
【発明を実施するための形態】
【0015】
これより、コーティング、コーティングを備えたガラス物品、及びこれらを製造するための方法の様々な実施形態を詳細に参照する。これらの実施形態の例は、図面に概略図として図示されている。このようなコーティング済みガラス物品は、医薬品パッケージを含むがこれに限定されない様々な包装用途での使用に好適なガラスコンテナであってよい。上記コーティング済みガラス物品は、本開示に記載されるように、コーティング済み医薬品パッケージと呼ばれる場合もあることを理解されたい。1つ以上の実施形態では、上記コーティング及び/又は上記コーティング済み医薬品パッケージは、初期コーティング塗布及び硬化後に脱パイロジェンプロセスで使用されるような高温に曝露すると、熱的に安定したものとなる。例えば、本明細書に記載のコーティング済みガラス物品は、熱処理後に低い摩擦係数を十分に保持でき、及び/又はこのような熱処理後に有意に黄変しないものとすることができる。これらの医薬品パッケージは、医薬組成物を内包する場合もしない場合もある。1つ以上の実施形態では、上記コーティングは1つ以上のポリシアヌレートを含んでよい。いくつかの実施形態では、コーティング全体がポリシアヌレートであってよい。1つ以上の実施形態では、上記コーティングは、むき出しの状態のガラスの摩擦係数より低い摩擦係数、例えば0.7未満の摩擦係数を有するもの等の、低摩擦コーティングであってよい。本明細書で開示される1つ以上の実施形態では、ポリシアヌレートを含むコーティングは、医薬品パッケージのコーティングとして利用可能な他のポリマー材料に比べて望ましい機能及び/又は特性を有し得る。例えば、ポリシアヌレートを含むか又はポリシアヌレートからなるコーティングは、他の種類のポリマーから作製されたコーティングに比べて、摩擦係数の低減、シラン結合剤を用いない接着性の改善、及び/又は塗布中の非毒性溶媒中での可溶性を提供できる。
【0016】
コーティング、コーティングを備えたガラス物品、及びこれらを形成するための方法の様々な実施形態を、添付の図面を具体的に参照して更に詳細に説明する。本明細書に記載のコーティングの実施形態は、ガラスコンテナの外面に塗布されるが、本記載のコーティングは、非ガラス材料を含む多様な材料上、又はガラスディスプレイパネル等を含むがこれに限定されないコンテナ以外の基材上のコーティングとして使用できることを理解されたい。
【0017】
一般に、医薬品パッケージとして使用できるコンテナ等のガラス物品の表面にコーティングを塗布できる。上記コーティングは、低減された摩擦係数及び増大した損傷耐性といった有利な特性を、コーティング済みガラス物品に提供できる。低減された摩擦係数は、ガラスに対する摩擦性損傷を軽減することによって、上記ガラス物品に改善された強度及び耐久性を付与できる。更に上記コーティングは、例えば脱パイロジェン、凍結乾燥、オートクレーブ処理等の、医薬品の梱包において利用される梱包ステップ及び梱包前ステップ中に上記ガラス物品が受けるもの等の昇温及び他の条件に対する曝露後に、上述の改善された強度及び耐久性という特徴を維持できる。従って上記コーティング及び上記コーティングを有するガラス物品は、脱パイロジェンに用いられる条件等の条件下において、熱的に安定したものとなることができる。
【0018】
図1は、コーティング済みガラス物品、具体的にはコーティング済みガラスコンテナ100の、概略断面図を示す。コーティング済みガラスコンテナ100は、ガラス本体102及びコーティング120を備える。ガラス本体102は、外側表面108(即ち第1の表面)と内側表面110(即ち第2の表面)との間に延在するガラスコンテナ壁104を有する。ガラスコンテナ壁104の内側表面110は、コーティング済みガラスコンテナ100の内部容積106を画定する。コーティング120は、ガラス本体102の外側表面108の少なくとも一部分の上に位置決めされる。本明細書中で使用される場合、コーティングは基材「の上に位置決めされ(positioned on)」てよいが、例えば基材とこの基材を覆うように位置決めされたコーティングとの間に中間層が存在する場合等には、基材と直接接触しない。いくつかの実施形態では、コーティング120はガラス本体102の外側表面108の略全体の上に位置決めされていてよい。
図1に図示されているもの等のいくつかの実施形態では、コーティング120は外側表面108においてガラス本体102と直接接触してよい(即ちガラス本体102に接着されていてよい)。コーティング120は、外面122と、ガラス本体102とコーティング120との境界のガラス本体接触面124とを有する。
【0019】
1つ以上の実施形態では、コーティング済みガラスコンテナ100は医薬品パッケージである。例えばガラス本体102は、バイアル、アンプル(ampoule、ampul)、ボトル、フラスコ、薬瓶、ビーカー、バケツ、カラフェ、大桶、シリンジ本体等の形状であってよい。コーティング済みガラスコンテナ100は、いずれの組成物を内包するために使用でき、一実施形態では医薬組成物を内包するために使用できる。医薬組成物としては、疾患の医学的診断、治癒、治療、又は予防における使用を目的とするいずれの化学物質が挙げられる。医薬組成物の例としては、限定するものではないが、内服薬、薬物、薬品、薬剤、治療薬等が挙げられる。上記医薬組成物は、液体、固体、ゲル、懸濁液、粉末等の形態であってよい。
【0020】
ここで
図1及び2を参照すると、一実施形態において、コーティング120は単一層の構造を備え、これは本明細書では「単層(mono‐layer)」構造と呼ばれる場合がある。例えばコーティング120は、ポリシアヌレートのみ、又は1つ以上の追加の成分と混合されたポリシアヌレートの、略均質な組成を有してよい。コーティング120が2つ以上の成分を含む場合、コーティング120は混合されるものの完全に均質とならない場合がある。例えば、1つ以上の実施形態では、混合物中の1つ以上の化学的構成成分が、コーティング120の境界(例えばガラス本体102との境界又は外面122)に集まる場合がある。このような実施形態では、化学的構成成分の局所的濃度は、コーティング120の異なる複数のエリアにわたって異なる場合がある。しかしながら、本明細書中で使用される場合、用語「混合された(mixed)」は、少なくとも2つの化学的成分の少なくともある程度の分散を有する層を指し、完全に均質ではない層を含むことを理解されたい。一般に、混合された層は、コーティング前駆物質混合物に含有される2つ以上の化学的構成成分の混合物として、堆積させられる。
【0021】
本明細書に記載されているように、コーティング120は1つ以上のポリシアヌレートを含む。一般に、ポリシアヌレートは、少なくとも約250℃、少なくとも約260℃、少なくとも約280℃、又は少なくとも約300℃といった脱パイロジェンに好適な温度に約30分間曝露した場合にほとんど又は全く劣化しない、熱安定性ポリマーである。ポリシアヌレートは、本明細書に記載されているように、シアン酸エステルモノマーから形成されたポリマーを含む。更なる実施形態では、ポリシアヌレートは、シアン酸エステルモノマーを含むプレポリマーから形成できる。プレポリマーは、部分的に重合した物質を指し、これを更に重合させることによって、コーティング120中のポリシアヌレートが形成される。ポリシアヌレートはまた、本明細書に記載されているように、他の化学的構成成分で修飾されたポリシアヌレート骨格を有するポリマー、又は1つ以上のシアン酸エステルモノマー単位を他の非シアン酸エステルモノマーと共に含むコポリマーを含む。例えばポリシアヌレートは、本明細書に記載されているように:モノマー単位としての単一のシアン酸エステル種から形成されたホモポリマー;2つ以上のシアン酸エステル種から形成された(ランダム若しくはブロック)コポリマー;又は何らかのポリシアヌレート骨格構造を含みつつも他のモノマー種を更に含むコポリマーであってよい。ポリシアヌレートは、加熱による硬化等の重合手段又は他の方法で形成でき、これらの手段又は方法は、モノマー若しくはプレポリマー、又はこれらの組み合わせを利用する。
【0022】
コーティング120は、少なくとも10重量%、少なくとも20重量%、少なくとも30重量%、少なくとも40重量%、少なくとも50重量%、少なくとも60重量%、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、少なくとも90重量%、少なくとも95重量%、少なくとも98重量%、少なくとも99重量%、又は少なくとも99.9重量%のポリシアヌレートを含んでよい。コーティング120中のポリシアヌレートは、少なくとも10重量%、少なくとも20重量%、少なくとも30重量%、少なくとも40重量%、少なくとも50重量%、少なくとも60重量%、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、少なくとも90重量%、少なくとも95重量%、少なくとも98重量%、少なくとも99重量%、又は少なくとも99.9重量%の、シアン酸エステル由来の成分を含んでよい。上記コーティングの、いずれの単一種のシアン酸エステルに由来する部分は、ポリシアヌレートの総重量の少なくとも10重量%、少なくとも20重量%、少なくとも30重量%、少なくとも40重量%、少なくとも50重量%、少なくとも60重量%、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、少なくとも90重量%、少なくとも95重量%、少なくとも98重量%、少なくとも99重量%、又は少なくとも99.9重量%であってよい。
【0023】
本開示の実施形態では、ポリシアヌレートは3次元架橋構造を含んでよく、ここでシアン酸エステルモノマーの‐OCN官能基はトリアジン環を形成する。ポリシアヌレートは、1つ以上のシアン酸エステルから形成されたモノマー単位を含んでよい。ポリシアヌレートの形成に使用できるシアン酸エステルの一般化された化学構造を、化学構造1に示す。図示されているように、シアン酸エステルは‐OCN官能基(例えばR基で接合された2つの‐OCN官能基)を含む。
【0024】
化学構造1:
【0025】
【0026】
本開示の実施形態では、R基は必ずしも限定されない。しかしながらいくつかの実施形態では、利用されるシアン酸エステルはビスフェノール官能基を含んでよく、これは本明細書ではビスフェノールシアン酸エステルと呼ばれる。一般にビスフェノールは、2つのフェノール基を含む化学的化合物を指し、上記フェノール基はそれぞれ、フェノール基に直接付着した酸素原子を含む。このようなビスフェノール官能基は、良好な耐熱性を提供できる。表1及び2は、ポリシアヌレートに含めることができる、考えられるビスフェノールシアン酸エステルの例を提供する。例えば、ポリシアヌレートの形成に使用されるシアン酸エステルは、ビスフェノールAシアン酸エステル、ビスフェノールEシアン酸エステル、C,C’‐((2,2,2‐トリフルオロ‐1‐(トリフルオロメチル)エチリデン)ジ‐4,1‐フェニレン)エステル(ヘキサフルオロビスフェノールAシアン酸エステルとしても公知)、テトラメチルビスフェノールFシアン酸エステル、ビスフェノールMシアン酸エステル、C,C’‐((2,2,2‐トリフルオロ‐1‐(トリフルオロメチル)エチリデン)ジ‐4,1‐フェニレン)エステル、及びこれらの組み合わせから選択できる。しかしながら、他のシアン酸エステルも利用できること、従って表1及び表2は可能なシアン酸エステルの単なる例であることを理解されたい。シアン酸エステルは、限定するものではないがSi、P、及び/又はF等のヘテロ原子を含んでよい。更に使用できると考えられるものとしては、フェニルホスフィンオキシド、スルホン、及びカルボニル基を含む芳香族ジシアン酸エステルがあり、これは良好な反応性及び熱的性能を有することができる。更に、ノボラック又はポリスチレンを含むもの等のシアン酸エステルも、本明細書中の実施形態で使用できると考えられる。ポリシアヌレートの形成に使用できるプレポリマーは、モノマー単位としてこのようなシアン酸エステルを含んでよいことを理解されたい。
【0027】
【0028】
【0029】
更なる実施形態によると、ポリシアヌレートは、本明細書中において化学構造2~56で開示されるシアン酸エステルのうちの1つ以上から形成できる。化学構造2~56で開示されているシアン酸エステルは、トリス(シアナトフェノキシ)ホスファゼン、ジシアン酸ポリ(フェニル)フェニレン、ジシアン酸ポリアリーレンエーテルケトン(PEK)、ジシアン酸ポリエーテルスルホン(PES)、ポリ(シアナトフェニルマレイミド)、ポリ(4‐シアナトフェニルスチレン)、ポリ(4‐シアナトフェニルスチレン)‐コ‐MMA、ポリ(4‐シアナトフェニルスチレン)‐コ‐BD、ビス(3‐アリル‐4‐シアナトフェニル)プロパン、ビス(3‐プロペニル‐4‐シアナトフェニル)プロパン、4‐シアナトフェニル、4‐シアナト安息香酸、及び4,4’‐ジシアナトビフェニルを含んでよいが、これらに限定されない。ポリシアヌレートは、化学構造2~56のもの等の単一のシアン酸エステル組成物から形成されても、又は複数のシアン酸エステル組成物から形成されてもよいことを理解されたい。
【0030】
化学構造2:
【0031】
【0032】
化学構造3:
【0033】
【0034】
化学構造4:
【0035】
【0036】
化学構造5:
【0037】
【0038】
化学構造6:
【0039】
【0040】
化学構造7:
【0041】
【0042】
化学構造8:
【0043】
【0044】
化学構造9:
【0045】
【0046】
化学構造10:
【0047】
【0048】
化学構造11:
【0049】
【0050】
化学構造12:
【0051】
【0052】
化学構造13:
【0053】
【0054】
化学構造14:
【0055】
【0056】
化学構造15:
【0057】
【0058】
化学構造16:
【0059】
【0060】
化学構造17:
【0061】
【0062】
化学構造18:
【0063】
【0064】
化学構造19:
【0065】
【0066】
化学構造20:
【0067】
【0068】
化学構造21:
【0069】
【0070】
化学構造22:
【0071】
【0072】
化学構造23:
【0073】
【0074】
化学構造24:
【0075】
【0076】
化学構造25:
【0077】
【0078】
化学構造26:
【0079】
【0080】
ただし化学構造25及び26について:
【0081】
【0082】
化学構造27:
【0083】
【0084】
化学構造28:
【0085】
【0086】
化学構造29:
【0087】
【0088】
化学構造30:
【0089】
【0090】
化学構造31:
【0091】
【0092】
化学構造32:
【0093】
【0094】
化学構造33:
【0095】
【0096】
化学構造34:
【0097】
【0098】
化学構造35:
【0099】
【0100】
化学構造36:
【0101】
【0102】
化学構造37:
【0103】
【0104】
化学構造38:
【0105】
【0106】
化学構造39:
【0107】
【0108】
化学構造40:
【0109】
【0110】
化学構造41:
【0111】
【0112】
化学構造42:
【0113】
【0114】
化学構造43:
【0115】
【0116】
化学構造44:
【0117】
【0118】
化学構造45:
【0119】
【0120】
化学構造46:
【0121】
【0122】
化学構造47:
【0123】
【0124】
化学構造48:
【0125】
【0126】
化学構造49:
【0127】
【0128】
化学構造50:
【0129】
【0130】
化学構造51:
【0131】
【0132】
化学構造52:
【0133】
【0134】
化学構造53:
【0135】
【0136】
化学構造54:
【0137】
【0138】
化学構造55:
【0139】
【0140】
化学構造56:
【0141】
【0142】
1つ以上の実施形態では、シアン酸エステルは、低温において、第3級アミンの存在下で、フェノール及びハロゲン化シアンから合成できる。以下の化学反応スキームAは、このような反応の一実施形態を表す。
【0143】
化学反応スキームA:
【0144】
【0145】
本明細書に記載の実施形態によると、ポリシアヌレートは、シアン酸エステルを(例えば加熱によって)硬化させることで形成できる。硬化に必要な加熱は、230℃以下等の比較的穏やかなものであってよい。シアン酸エステルからポリシアヌレートを形成するための、一般化された硬化反応を、以下の化学反応スキームBに示す。硬化プロセス中、3つのシアン酸エステル基(‐OCN)の環化三量化によってトリアジン環が形成され、これによって高架橋ポリシアヌレートポリマーネットワークが得られる。この反応は一般に、副産物を全く生成しない。更にこの反応はHCNのような毒性化合物(これは、環境及び/又はこのような物質に接触した人体に対して有害となり得る)を放出しない。従って、化学反応スキームBに示されているようなシアン酸エステルの環化三量化は、グリーンケミストリー及びクリックケミストリーのカテゴリに分類できる。例えば上記硬化は、他のいくつかの重合反応のように水を形成しない。更なる実施形態では、このような硬化では、加工設備に対する腐食を少なくすることができ、及び/又は硬化後の収縮を少なくすることができる。
【0146】
化学反応スキームB:
【0147】
【0148】
更なる実施形態では、ポリシアヌレートは、更なる試薬で官能化されてよく、又はシアン酸エステルと他のポリマーとの混合物から形成されたポリマーであってよい。例えばシアン酸エステルを、水、フェノール、エポキシ等のような多数の他の基又は試薬と反応させることができる。例えば、シアン酸エステルとエポキシとの共硬化を用いて、ポリシアヌレートを形成してよい。シアン酸エステルとエポキシとの共反応は、シアン酸エステル又はエポキシから形成されたホモポリマーに比べて耐水性及び誘電特性が改善された産物をもたらすことができる。このような共硬化ポリシアヌレートは、J. Bauer & M. Bauer (1990) Kinetic Structural Model for the Network Build‐Up During the Reaction of Cyanic Acid Esters with Glycidyl Ethers, Journal of Macromolecular Science: Part A ‐ Chemistry, 27:1, 97‐116、及びShimp, DA, H. F., Ising SJ. , Co‐reaction of epoxide and cyanate resins. 33rd Int SAMPE Symp 1988, 33, 754‐766に記載されており、これら2つの文献の教示は参照により本出願に援用される。シアン酸エステルは、エポキシド、フェノール、イミド、アルケン、及びアクリレート等の他のタイプのモノマーと共硬化させるか又は混合して、相互侵入ネットワーク(interpenetrating network:IPN)又はセミIPNを形成でき、これにより、フィルム特性及び硬化の動態を更に修正できる。
【0149】
更なる実施形態によると、シアン酸エステルをビスマレイミド(BMI)と共混合してよい。このような混合により、シアン酸エステルの良好な機械的特性と、BMIの良好な耐熱特性とを組み合わせることができる。BMIに加えて、シアン酸エステルの性能を改善するためシアン酸エステルの修飾のための混合パートナーとして、BMIの誘導体も使用してよい。
【0150】
一実施形態では、コーティング120は、未硬化コーティング前駆物質混合物として塗布した後で硬化させることができる。「コーティング前駆物質混合物(coating precursor mixture)」は、シアン酸エステル、又はガラス本体102に塗布された硬化済みポリシアヌレート材料の他の前駆物質を含有する、液体状の溶液を指す。いくつかの実施形態では、上記コーティング前駆物質混合物は、ポリマー前駆物質(例えばシアン酸エステル)と共に1つ以上の有機溶媒を含むことになる。上記コーティング前駆物質混合物は、コーティング済みガラスコンテナ100の塗布及び硬化(例えばスプレーコーティング又はディップコーティング、及びそれに続く加熱)後にコーティング120中の構成成分となる材料を含有する、1つ以上の化学的構成成分を含んでよい。即ち、前駆物質の原子のうちの一部は、形成後のコーティングの分子となる。更なる実施形態では、プレポリマー、又は完全に重合したポリシアヌレートを、コーティング前駆物質混合物に含めてもよい。
【0151】
再び
図1及び2を参照すると、コーティング120は単回堆積ステップで塗布でき、この場合コーティング120は単一の層を含む。堆積は浸漬プロセスによるものであってよく、あるいはコーティング120をスプレー又は他の好適な手段で塗布し、任意に乾燥させてよい。本明細書に記載のコーティング120の好適な堆積方法の説明は、米国特許出願第13/780,740号明細書「低摩擦コーティングを有するガラス物品(Glass Articles with Low‐Friction Coatings)」で確認でき、上記文献は参照によりその全体が本出願に援用される。更なる実施形態では、複数の堆積を利用してよい。例えば、複数のコーティング前駆物質混合物の堆積を実施した後硬化させてよく、又は2番目の前駆物質のコーティングが硬化済みの層の上に塗布されるように、各堆積ステップの後に硬化を実施してよい。堆積技法はガラス物品のジオメトリに左右され得ることを理解されたい。
【0152】
コーティング前駆物質混合物の堆積後、コーティング前駆物質混合物の有機溶媒の少なくとも一部分を、受動的な乾燥によって、又は制御された空気流若しくは温度の上昇による1つ以上の能動的な乾燥ステップによって遊離させる。その後、熱への曝露によってコーティング済みガラスコンテナ100を硬化させてよい。本明細書に記載される「硬化(curing)」は、コーティング上の材料を前駆物質材料から中間材料又は最終材料へと変化させる(通常は加熱による)いずれのプロセスを指す。例えばいくつかの実施形態は、酸化金属前駆物質から構成成分を遊離させて酸化金属を形成する、加熱による硬化を利用する。このような硬化は、コーティングされたバイアルを、ポリシアヌレートの重合に十分な温度、例えば200℃~230℃まで加熱するステップを含んでよい。硬化条件は、利用される前駆物質材料のタイプに左右され得る。理論によって束縛されるものではないが、硬化ステップは、コーティング前駆物質混合物のいずれの残留溶剤も遊離させると考えられる。
【0153】
ガラス本体102に塗布されるコーティング120の厚さは、約100μm以下、約10μm以下、約8μm以下、約6μm以下、約4μm以下、約3μm以下、約2μm以下、又は約1μm以下であってよい。いくつかの実施形態では、コーティング120の厚さは、約800nm以下、約600nm以下、約400nm以下、300nm以下、約200nm以下、又は約100nm以下であってよい。他の実施形態、コーティング120は、厚さ約90nm未満、厚さ約80nm未満、厚さ約70nm未満、厚さ約60nm未満、厚さ約50nm未満、又は厚さ約25nm未満であってよい。実施形態では、コーティング120の厚さは、少なくとも約10nm、少なくとも約15nm、少なくとも約20nm、少なくとも約25nm、少なくとも約30nm、少なくとも約35nm、少なくとも約40nm、又は少なくとも約45nmであってよい。例示的実施形態は、約20nm~約50nm、約25nm~約45nm、又は約30nm~約40nmの厚さを有してよい。理論によって束縛されるものではないが、比較的薄い(即ち20nm未満の)コーティングはガラスを十分に保護できず、バイアル間の接触時にガラス表面上に浅い割れを発生させると考えられる。更に、このような比較的薄いコーティングは、脱パイロジェンプロセスに耐えられない可能性がある。他方、比較的厚い(即ち50nm超の)コーティングは、比較的容易に損傷する可能性があり、バイアル間の接触時にコーティングに摩耗の痕跡が現れる可能性がある。比較的厚いコーティングの場合、摩耗の痕跡は、ガラスではなくコーティングの変形であると考えられることに留意されたい。本明細書に記載の「摩耗の痕跡(wear track)」は、痕跡又は擦り傷を残すコーティング上の擦過傷によって発生した視認可能な痕跡である。いくつかの実施形態では、摩耗の痕跡は、ガラスの浅い割れ、及び/又は比較的高い摩擦係数(例えば0.7以上)を意味し得る。
【0154】
いくつかの実施形態では、コーティング120は、ガラス本体102全体にわたって均一な厚さにならない場合がある。例えば、コーティング済みガラスコンテナ100は、ガラス本体102を、コーティング120を形成する1つ以上のコーティング液と接触させるプロセスを原因として、いくつかのエリアで比較的厚いコーティング120を有する場合がある。いくつかの実施形態では、コーティング120は不均一な厚さを有する場合がある。例えば、コーティングの厚さを、コーティング済みガラスコンテナ100の様々な複数の領域にわたって変化させることができ、これにより、ある選択された領域の保護を促進できる。
【0155】
医薬品パッケージ用の他のポリマー形コーティングに対する、本開示のポリシアヌレートコーティングの複数の非限定的な利点を観察できる。このような1つの利点は、低減された摩擦係数であり得る。例えば、0.2未満、例えば約0.1の摩擦係数が、本開示の実施形態において観察された。更に、又はあるいは、シアン酸エステルは、シアン酸エステルとガラスの表面のシラノールとの間の比較的強い物理的相互作用及び化学反応によって、ガラス表面上の接着性の改善を提供できる。対照的に、ポリイミドコーティングは、コーティングの接着を強化するための結合剤としてアミノ官能化アルコキシシランを必要とする場合があり、これにより、コスト及び加工の困難さが追加される。更に、又はあるいは、シアン酸エステル、特にF‐DCBA、及びそのプレポリマーは、沸点が低い様々な環境に優しい有機溶媒に容易に溶解可能であるが、ポリイミドコーティング等の他のコーティング系の前駆物質は、沸点が極めて高い溶媒に溶解させる必要がある場合があり、例えばポリアミック酸Novastrat 800をトルエン/DMFに、及びPMDA‐ODA(ポリ(4,4’‐オキシジフェニレン‐ピロメリチミド)をNMPに、溶解させる必要がある。
【0156】
更なる実施形態では、ポリシアヌレートを形成するためのシアン酸エステルの架橋反応は、
「クリックケミストリー(click chemistry)」のカテゴリに分類でき、これは、副産物を生成せず、また架橋産物であるトリアジン環の形成を促進するための追加の試薬を必要としない。これは、ガラス上でのイミド重合及びシラン硬化といった、重縮合をベースとした架橋方法に比べて、有意な利点を有することができる。一般に、重縮合はH2Oを形成するが、シラン硬化はMeOH又はEtOHを遊離させる場合がある。これらの副産物は、化学平衡を開始材料へと逆行させるため、重合/硬化速度を妨げる可能性がある。
【0157】
更なる利点としては、ポリシアヌレートコーティングの前駆物質である、(例えばポリシアヌレートのプレポリマー中の)シアン酸エステル及びオリゴマートリアジンが、ケトン、エステル及びエーテルといった一般的に使用される環境に優しい溶媒に容易に溶解可能であるという側面が挙げられる。これに対して、PEEK及びPPSUといった高温熱可塑性プラスチックは、中程度の温度の溶媒に溶解させるのが比較的困難であるため、溶液ベースの薄膜コーティングプロセスに使用できない場合がある。
【0158】
更に、又は本開示の実施形態の代替として、ポリシアヌレートを含むコーティングは、厚さ最大1マイクロメートルのフィルムに関して略透明であってよい。これにより、透明性が求められる場合に、比較的幅広い加工ウインドウが提供される。
【0159】
更なる実施形態では、ポリシアヌレートを含む本開示のコーティング120は、熱硬化プロセス中に形成されるそのトリアジン環官能基により、非晶質材料となり得る。これにより、コーティング120に、物理的特性及び化学的特性の点で良好な異方性挙動と、良好な硬化後寸法安定性とを提供できる。
【0160】
コーティング120を塗布できる医薬品パッケージのガラスコンテナは、多様な異なるガラス組成物から形成できる。ガラス物品の具体的な組成は、ガラスが複数の物理的特性の所望のセットを有するように、具体的な用途に応じて選択できる。1つ以上の実施形態によると、ガラスは、化学的耐久性及び小さな熱膨張を呈することが知られている組成物、例えばアルカリボロシリケートガラスであってよい。別の実施形態によると、ガラスコンテナは、ASTM規格E438‐92によるType I、Class Bのガラスから形成できる。
【0161】
ガラスコンテナは、熱膨張係数が約25×10-7/℃~80×10-7/℃であるガラス組成物から形成できる。例えば、本明細書に記載のいくつかの実施形態では、ガラス本体102は、イオン交換による強化に適したアルカリアルミノシリケートガラス組成物から形成される。このような組成物は一般に、SiO2、Al2O3、少なくとも1つのアルカリ土類酸化物、並びにNa2O及び/又はK2Oといった1つ以上のアルカリ酸化物の組み合わせを含む。これらの実施形態のうちのいくつかでは、ガラス組成物は、ホウ素及びホウ素含有化合物を含まなくてよい。他のいくつかの実施形態では、ガラス組成物は更に、例えばSnO2、ZrO2、ZnO、TiO2、As2O3等の、微量の1つ以上の更なる酸化物を含んでよい。これらの成分は、清澄剤として、及び/又はガラス組成物の化学的耐久性を更に強化するために、添加できる。別の実施形態では、ガラス表面は、SnO2、ZrO2、ZnO、TiO2、As2O3等を含む酸化金属コーティングを備えてよい。
【0162】
本明細書に記載のいくつかの実施形態では、ガラス本体102はイオン交換強化等によって強化され、本明細書では「イオン交換済みガラス(ion‐exchanged glass)」と呼ばれる。例えばガラス本体102は、約300MPa以上、又は約350MPa以上の圧縮応力を有してよい。いくつかの実施形態では、上記圧縮応力は約300MPa~約900MPaであってよい。しかしながらいくつかの実施形態では、ガラスの圧縮応力が300MPa未満又は900MPa超になる場合もあることを理解されたい。いくつかの実施形態では、ガラス本体102は20μm以上の層深さを有してよい。これらの実施形態のうちのいくつかでは、上記層深さは50μm超又は75μm超であってよい。更に他の実施形態では、上記層深さは100μmまで又は100μm超であってよい。イオン交換強化は、約350℃~約500℃の温度に維持された溶融塩浴中で実施できる。所望の圧縮応力を達成するために(コーティングされていない)ガラスコンテナを、約30時間未満、又は約20時間未満にわたって塩浴に浸漬してよい。例えば一実施形態では、ガラスコンテナを、450℃の100%KNO3塩浴中に、約8時間にわたって浸漬する。
【0163】
ある特定の例示的実施形態では、ガラス本体102は、2012年10月25日出願の米国特許出願第13/660894号明細書「Glass Compositions with Improved Chemical and Mechanical Durability」に記載されているイオン交換性ガラス組成物から形成できる。
【0164】
しかしながら、本明細書に記載のコーティング済みガラスコンテナ100は、限定するものではないがイオン交換性ガラス組成物及び非イオン交換性ガラス組成物を含む、他のガラス組成物から形成してもよいことを理解されたい。例えばいくつかの実施形態では、上記ガラスコンテナは、例えばSchott Type 1Bボロシリケートガラスといった、Type 1Bガラス組成物から形成してよい。
【0165】
本明細書に記載のいくつかの実施形態では、ガラス物品は、その加水分解耐性に基づいて、USP(米国薬局方)、EP(欧州薬局方)、及びJP(日本薬局方)等の規制当局によって記載されている医薬品用ガラスの基準を満たすガラス組成物から形成してよい。USP660及びEP7によれば、ボロシリケートガラスはType Iの基準を満たし、非経口包装に日常的に使用される。ボロシリケートガラスの例としては、限定するものではないが、Corning(登録商標)Pyrex(登録商標)7740、7800、並びにWheaton 180、200及び400、Schott Duran、Schott Fiolax、KIMAX(登録商標)N‐51A、Gerrescheimer GX‐51 Flint等が挙げられる。ソーダライムガラスはType IIIの基準を満たし、後で溶液又は緩衝液を作るために溶解される乾燥粉体の包装に適している。Type IIIガラスはまた、アルカリに対する感受性が低いことが分かっている液体製剤の包装にも好適である。Type IIIソーダライムガラスの例としては、Wheaton 800及び900が挙げられる。脱アルカリ化ソーダライムガラスは、より高いレベルの水酸化ナトリウム及びカルシウムを含み、Type IIの基準を満たす。これらのガラスは、Type Iのガラスよりも溶出に対する耐性が低いが、Type IIIのガラスよりも溶出に対する耐性が高い。Type IIガラスは、その貯蔵寿命にわたってpH7未満のままである製品に使用できる。例としては、硫酸アンモニウム処理済みソーダライムガラスが挙げられる。これらの医薬品用ガラスは、様々な化学的組成を有し、20~85×10-7/℃の線熱膨張係数(CTE)を有する。
【0166】
本明細書に記載のコーティング済みガラス物品がガラスコンテナである場合、コーティング済みガラスコンテナ100のガラス本体102は、多様な異なる形態を取ることができる。例えば本明細書に記載のガラス本体を用いて、バイアル、アンプル、カートリッジ、シリンジ本体、及び/又は医薬組成物の貯蔵のための他のいずれのガラスコンテナといった、コーティング済みガラスコンテナ100を形成できる。更に、コーティング前にガラスコンテナを化学強化できる能力を利用して、ガラスコンテナの機械的耐久性を更に改善できる。従って、少なくとも1つの実施形態において、ガラスコンテナはコーティングの塗布前にイオン交換強化され得ることを理解されたい。あるいは、米国特許第7,201,965号明細書に記載されているような、熱強化、火炎研磨、及び積層といった他の強化方法を用いて、ガラスをコーティング前に強化してもよい。
【0167】
コーティング済みガラスコンテナがコーティングされてすぐの状態(即ちコーティングを塗布した後、硬化を行う場合でもそれ以外のいずれの追加の処理を行わない状態)であるときに、又は1つ以上の加工処理、例えば洗浄、凍結乾燥、脱パイロジェン、オートクレーブ処理等を含むがこれらに限定されない、医薬品充填ラインで実施される処理と同様若しくは同一の加工処理の後に、コーティング済みガラスコンテナの様々な特性(即ち摩擦係数、水平圧縮強度、4点曲げ強度)を測定してよい。
【0168】
脱パイロジェンは、基材からパイロジェンを除去するプロセスである。医薬品パッケージ等のガラス物品の脱パイロジェンは、試料に対して適用される熱処理によって実施でき、この熱処理では、上記試料をある期間にわたって、ある高温まで加熱する。例えば脱パイロジェンは、ガラスコンテナを、20分、30分、40分、1時間、2時間、4時間、8時間、12時間、24時間、48時間、及び72時間を含むがこれらに限定されない、約30秒~約72時間の期間にわたって、約250℃~約380℃の温度まで加熱するステップを含んでよい。この熱処理の後、ガラスコンテナを室温まで冷却する。医薬品業界で一般に採用されている、1つの従来の脱パイロジェン条件は、約30分にわたる約250℃の温度での熱処理である。しかしながら、より高い温度を用いると熱処理の時間を短縮できると考えられる。本明細書に記載されているように、コーティング済みガラスコンテナを、ある期間にわたって、高温に曝露してよい。本明細書に記載の高温及び加熱の期間は、ガラスコンテナの脱パイロジェンに十分なものである場合も、そうでない場合もある。しかしながら、本明細書に記載の加熱の温度及び時間のうちのいくつかは、本明細書に記載のコーティング済みガラスコンテナ等のコーティング済みガラスコンテナの脱パイロジェンに十分なものであることを理解されたい。例えば本明細書に記載されているように、コーティング済みガラスコンテナを、30分の期間にわたって、約250℃、約260℃、約270℃、約280℃、約290℃、約300℃、約310℃、約320℃、約330℃、約340℃、約350℃、約360℃、約370℃、約380℃、約390℃、又は約400℃の温度に曝露してよい。脱パイロジェンプロセスは30分以外の時間を有する場合もあり、30分という時間は、本開示全体を通して、定義された脱パイロジェン条件に対する曝露後の摩擦係数試験等の比較目的のために、ある脱パイロジェン温度と共に使用されるものであることが認識される。
【0169】
本明細書中で使用される場合、凍結乾燥条件(即ちフリーズドライ化)は、タンパク質を含有する液体で試料を満たした後、-100℃等の低温で冷凍し、続いて真空下において、-15℃等の温度で20時間等の時間にわたって水を昇華させるプロセスを指す。
【0170】
本明細書中で使用される場合、オートクレーブ条件は、100℃で10分等の期間にわたって試料を蒸気パージした後に、試料を121℃の環境に曝露する20分の滞留期間が続き、その後に121℃で30分の加熱処理が続くものを指す。
【0171】
コーティング済みガラスコンテナの、コーティングを有する部分の摩擦係数(μ)は、同一のガラス組成物から形成された未コーティングガラスコンテナの表面より低い摩擦係数であってよい。摩擦係数(μ)は、2つの表面の間の摩擦の定量的測定値であり、表面粗度を含む第1及び第2の表面の機械的及び化学的特性、並びに温度及び湿度を含むがこれらに限定されない環境条件に左右される。本明細書中で使用される場合、コーティング済みガラスコンテナ100に関する摩擦係数の測定値は、(約16.00mm~約17.00mmの外径を有する)第1のガラスコンテナの外面と、第1のガラスコンテナと略同一である第2のガラスコンテナの外面との間の摩擦係数として報告され、ここで上記第1及び第2のガラスコンテナは、同一の本体及び(コーティングが適用されている場合は)同一のコーティング組成物を有し、また製作前、製作中及び製作後に同一の環境に曝露されたものである。本明細書中で特段の記載がない限り、摩擦係数は、本明細書に記載のバイアル・オン・バイアル(vial‐on‐vial)試験用ジグ上で測定される30Nの垂直な荷重を用いて測定された、最大摩擦係数を指す。しかしながら、ある特定の荷重の印加時にある最大摩擦係数を示すコーティング済みガラスコンテナは、より小さい荷重において、同一の又はより良好な(即ちより低い)最大摩擦係数も示すことになることを理解されたい。例えば、あるコーティング済みガラスコンテナが、50Nの荷重の印加において0.5以下の最大摩擦係数を示す場合、上記コーティング済みガラスコンテナは、25Nの荷重の印加において、0.5以下の最大摩擦係数も示すことになる。最大摩擦係数の測定のために、試験開始時又は開始時付近の局所的最大値は除外される。というのは、このような試験開始時又は開始時付近の最大値は静止摩擦係数を表すためである。本明細書中の実施形態において説明されるように、摩擦係数は、コンテナの互いに対する速度が約0.67mm/秒であるときに測定された。
【0172】
本明細書に記載の実施形態では、(コーティング済み及び未コーティングの両方の)ガラスコンテナの摩擦係数は、バイアル・オン・バイアル試験用ジグを用いて測定される。試験用ジグ200は、
図3に概略図で示されている。これと同じ装置を用いて、ジグ内に位置決めされた2つのガラスコンテナの間の摩擦力を測定することもできる。バイアル・オン・バイアル試験用ジグ200は、交差した構成に(即ち互いに対して垂直に)配設された第1のクランプ212及び第2のクランプ222を備える。第1のクランプ212は、第1のベース216に取り付けられた第1の固定アーム214を備える。第1の固定アーム214は第1のガラスコンテナ210にくっついて、第1のガラスコンテナ210を、第1のクランプ212に対して静止した状態に保持する。同様に、第2のクランプ222は、第2のベース226に取り付けられた第2の固定アーム224を備える。第2の固定アーム224は第2のガラスコンテナ220にくっついて、これを、第2のクランプ222に対して静止した状態に保持する。第1のガラスコンテナ210は第1のクランプ212上に位置決めされ、第2のガラスコンテナ220は第2のクランプ222上に位置決めされ、これにより、第1のガラスコンテナ210の長軸及び第2のガラスコンテナ220の長軸が、互いに対して約90°の角度で、x‐y軸によって画定された水平面上に位置決めされる。
【0173】
第1のガラスコンテナ210は、接点230において第2のガラスコンテナ220と接触した状態で位置決めされる。x‐y軸によって画定された水平面に対して直交する方向に、法線力が印加される。この法線力は、静止した第1のクランプ212上の第2のクランプ222に印加される、静的な錘又は他の力によって印加できる。例えば、錘を第2のベース226上に位置決めしてよく、第1のベース216を安定した表面上に配置してよく、これにより、接点230において、第1のガラスコンテナ210と第2のガラスコンテナ220との間に測定可能な力が誘発される。あるいは、UMT(universal mechanical tester:ユニバーサルメカニカルテスター)機械等の機械的装置によって力を印加してもよい。
【0174】
第1のクランプ212又は第2のクランプ222は、第1のガラスコンテナ210及び第2のガラスコンテナ220の長軸と45°の角度をなす方向に、互いに対して移動できる。例えば、第1のクランプ212を静止状態に保持してよく、第2のクランプ222を、第2のガラスコンテナ220が第1のガラスコンテナ210を横断してx軸の方向に移動するように、移動させてよい。同様の構成は、R. L. De Rosaらによって、「Scratch Resistant Polyimide Coatings for Alumino Silicate Glass surfaces」(The Journal of Adhesion, 78: 113‐127, 2002)に記載されている。摩擦係数の測定のために、第2のクランプ222を移動させるために必要な力と、第1のガラスコンテナ210及び第2のガラスコンテナ220に印加される法線力とを、ロードセルを用いて測定し、摩擦係数を、この摩擦力と法線力との比率として算出する。ジグは、25℃及び相対湿度50%の環境下で操作される。
【0175】
本明細書に記載の実施形態では、上記コーティング済みガラスコンテナの、上記コーティングを有する上記部分は、上述のバイアル・オン・バイアルジグを用いて決定した場合に、同様のコーティングを施されたガラスコンテナに対して約0.7以下の摩擦係数を有する。他の実施形態では、上記摩擦係数は約0.6以下、又は約0.5以下であってよい。いくつかの実施形態では上記コーティング済みガラスコンテナの、上記コーティングを有する上記部分は、約0.4以下、又は約0.3以下である摩擦係数を有する。約0.7以下の摩擦係数を有するコーティング済みガラスコンテナは一般に、摩擦による損傷に対する耐性が改善され、その結果、機械的特性が改善される。例えば(コーティングを有しない)従来のガラスコンテナは、0.7を超える摩擦係数を有し得る。
【0176】
本明細書に記載のいくつかの実施形態では、上記コーティング済みガラスコンテナの、上記コーティングを有する上記部分の摩擦係数は、同一のガラス組成物から形成された未コーティングガラスの表面の摩擦係数より少なくとも20%低い。例えば、上記コーティング済みガラスコンテナの、上記コーティングを有する上記部分の摩擦係数は、同一のガラス組成物から形成された未コーティングガラスの表面の摩擦係数より、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%、又は少なくとも50%低くなり得る。
【0177】
いくつかの実施形態では、上記コーティング済みガラスコンテナの、上記コーティングを有する上記部分は、約250℃、約260℃、約270℃、約280℃、約290℃、約300℃、約310℃、約320℃、約330℃、約340℃、約350℃、約360℃、約370℃、約380℃、約390℃、又は約400℃の温度に30分間曝露した後に、約0.7以下の摩擦係数を有してよい。他の実施形態では、上記コーティング済みガラスコンテナの、上記コーティングを有する上記部分は、約250℃、約260℃、約270℃、約280℃、約290℃、約300℃、約310℃、約320℃、約330℃、約340℃、約350℃、約360℃、約370℃、約380℃、約390℃、又は約400℃の温度に30分の期間にわたって曝露した後に、約0.7以下の(即ち約0.6以下、約0.5以下、約0.4以下、又は約0.3以下の)摩擦係数を有してよい。いくつかの実施形態では、上記コーティング済みガラスコンテナの、上記コーティングを有する上記部分は、約250℃(又は約260℃)の温度に30分の期間にわたって曝露した後に、約30%を超えて上昇しないものであってよい。他の実施形態では、上記コーティング済みガラスコンテナの、上記コーティングを有する上記部分の摩擦係数は、約250℃、約260℃、約270℃、約280℃、約290℃、約300℃、約310℃、約320℃、約330℃、約340℃、約350℃、約360℃、約370℃、約380℃、約390℃、又は約400℃の温度に30分の期間にわたって曝露した後に、約30%を超えて(即ち約25%、約20%、約15%、又は約10%を超えて)上昇しないものであってよい。他の実施形態では、上記コーティング済みガラスコンテナの、上記コーティングを有する上記部分の摩擦係数は、約250℃、約260℃、約270℃、約280℃、約290℃、約300℃、約310℃、約320℃、約330℃、約340℃、約350℃、約360℃、約370℃、約380℃、約390℃、又は約400℃の温度に30分の期間にわたって曝露した後に、約0.5を超えて(即ち約0.45、約0.4、約0.35、約0.3、約0.25、約0.2、約0.15、約0.1、又は約0.05を超えて)上昇しないものであってよい。いくつかの実施形態では、上記コーティング済みガラスコンテナの、上記コーティングを有する上記部分の摩擦係数は、約250℃、約260℃、約270℃、約280℃、約290℃、約300℃、約310℃、約320℃、約330℃、約340℃、約350℃、約360℃、約370℃、約380℃、約390℃、又は約400℃の温度に30分の期間にわたって曝露した後に、全く上昇しないものであってよい。
【0178】
いくつかの実施形態では、上記コーティング済みガラスコンテナの、上記コーティングを有する上記部分は、約70℃の温度の水浴中に10分間浸漬した後に、約0.7以下の摩擦係数を有してよい。他の実施形態では、上記コーティング済みガラスコンテナの、上記コーティングを有する上記部分は、約70℃の温度の水浴中に5分間、10分間、20分間、30分間、40分間、50分間、又は1時間浸漬した後に、約0.7以下(即ち約0.6以下、約0.5以下、約0.4以下、又は約0.3以下)の摩擦係数を有してよい。いくつかの実施形態では、上記コーティング済みガラスコンテナの、上記コーティングを有する上記部分の摩擦係数は、約70℃の温度の水浴中に10分間浸漬した後に、約30%を超えて上昇しないものであってよい。他の実施形態では、上記コーティング済みガラスコンテナの、上記コーティングを有する上記部分の摩擦係数は、約70℃の温度の水浴中に5分間、10分間、20分間、30分間、40分間、50分間、又は1時間浸漬した後に、約30%を超えて(即ち約25%、約20%、約15%、又は約10%を超えて)上昇しないものであってよい。いくつかの実施形態では、上記コーティング済みガラスコンテナの、上記コーティングを有する上記部分の摩擦係数は、約70℃の温度の水浴中に5分間、10分間、20分間、30分間、40分間、50分間、又は1時間浸漬した後に、全く上昇しないものであってよい。
【0179】
いくつかの実施形態では、上記コーティング済みガラスコンテナの、上記コーティングを有する上記部分は、凍結乾燥条件への曝露後に、約0.7以下の摩擦係数を有してよい。他の実施形態では、上記コーティング済みガラスコンテナの、上記コーティングを有する上記部分は、凍結乾燥条件への曝露後に、約0.7以下(即ち約0.6以下、約0.5以下、約0.4以下、又は約0.3以下)の摩擦係数を有してよい。いくつかの実施形態では、上記コーティング済みガラスコンテナの、上記コーティングを有する上記部分の摩擦係数は、凍結乾燥条件への曝露後に、約30%を超えて上昇しないものであってよい。他の実施形態では、上記コーティング済みガラスコンテナの、上記コーティングを有する上記部分の摩擦係数は、凍結乾燥条件への曝露後に、約30%を超えて(即ち約25%、約20%、約15%、又は約10%を超えて)上昇しないものであってよい。いくつかの実施形態では、上記コーティング済みガラスコンテナの、上記コーティングを有する上記部分の摩擦係数は、凍結乾燥条件への曝露後に、全く上昇しないものであってよい。
【0180】
いくつかの実施形態では、上記コーティング済みガラスコンテナの、上記コーティングを有する上記部分は、オートクレーブ条件への曝露後に、約0.7以下の摩擦係数を有してよい。他の実施形態では、上記コーティング済みガラスコンテナの、上記コーティングを有する上記部分は、オートクレーブ条件への曝露後に、約0.7以下(即ち約0.6以下、約0.5以下、約0.4以下、又は約0.3以下)の摩擦係数を有してよい。いくつかの実施形態では、上記コーティング済みガラスコンテナの、上記コーティングを有する上記部分の摩擦係数は、オートクレーブ条件への曝露後に、約30%を超えて上昇しないものであってよい。他の実施形態では、上記コーティング済みガラスコンテナの、上記コーティングを有する上記部分の摩擦係数は、オートクレーブ条件への曝露後に、約30%を超えて(即ち約25%、約20%、約15%、又は約10%を超えて)上昇しないものであってよい。いくつかの実施形態では、上記コーティング済みガラスコンテナの、上記コーティングを有する上記部分の摩擦係数は、オートクレーブ条件への曝露後に、全く上昇しないものであってよい。
【0181】
本明細書に記載のコーティング済みガラスコンテナは、水平圧縮強度を有する。水平圧縮強度は、本明細書に記載されているように、コーティング済みガラスコンテナ100を、ガラスコンテナの長軸に対して平行に配向された2つの平行なプラテンの間に水平に位置決めすることによって、測定される。続いて、コーティング済みガラスコンテナ100に対して、プラテンを用いて、ガラスコンテナの長軸に対して垂直な方向に、機械的負荷を印加する。ガラスコンテナは、プラテンに配置される前に2インチ(5.08cm)のテープで巻かれ、張り出した部分は切り落とされるか、コンテナの底部の周囲に折り畳まれる。次にコンテナは、試験片の周りにステープラーで留められたインデックスカード内に位置決めされる。バイアルの圧縮の負荷率は0.5in/分(1.27cm/分)であり、これは、プラテンが互いに向かって0.5in/分(1.27cm/分)の速度で移動することを意味している。水平圧縮強度は、25℃±2℃、及び相対湿度50%±5%で測定される。いくつかの実施形態では、医薬品充填ラインの条件をシミュレートするために、脱パイロジェン後1時間以内(及び24時間以内)に水平圧縮試験を実施することが望ましい。水平圧縮強度は、破損時の負荷の尺度であり、水平圧縮強度の測定値は、選択された垂直な圧縮荷重における破損蓋然性として与えることができる。本明細書中で使用される場合、破損は、ガラスコンテナが水平圧縮下において、試料の少なくとも50%破壊された場合に発生する。従って水平圧縮は、複数の試料のグループに関して提供される。いくつかの実施形態では、コーティング済みガラスコンテナは、未コーティングバイアルより少なくとも10%、20%、又は30%大きい水平圧縮強度を有してよい。
【0182】
ここで
図1及び3を参照すると、水平圧縮強度の測定は、摩耗させたガラスコンテナに対して実施してもよい。具体的には、試験用ジグ200の動作により、コーティング済みガラスコンテナの外面上122に、コーティング済みガラスコンテナ100の強度を弱める引っかき傷又は擦過傷等の損傷を生成してよい。次にガラスコンテナを上述の水平圧縮手順に供し、ここでは上記コンテナを、2つのプラテンの間に、上記引っかき傷が上記プラテンに対して平行に外向きとなるように、配置する。バイアル・オン・バイアルジグによって印加される、選択された垂直な圧力と、引っかき傷の長さとによって、上記引っかき傷を特性決定できる。特に断りのない限り、上記水平圧縮手順のために摩耗させたガラスコンテナに関する引っかき傷は、30Nの垂直な荷重によって生成された20mmの引っかき傷長さを特徴とする。プラテンに対して90°±5°の角度の引っかき傷を有することが望ましい場合がある。
【0183】
コーティング済みガラスコンテナを、加熱処理後の水平圧縮強度に関して評価できる。この加熱処理は、30分の期間にわたる、約250℃、約260℃、約270℃、約280℃、約290℃、約300℃、約310℃、約320℃、約330℃、約340℃、約350℃、約360℃、約370℃、約380℃、約390℃、又は約400℃の温度への曝露であってよい。いくつかの実施形態では、上記コーティング済みガラスコンテナの水平圧縮強度は、上述のもの等の加熱処理に曝露してから上述のように摩耗させた後で、約20%を超えて、30%を超えて、又は40%を超えて低下しない。一実施形態では、上記コーティング済みガラスコンテナの水平圧縮強度は、約30分の期間にわたる約250℃、約260℃、約270℃、約280℃、約290℃、約300℃、約310℃、約320℃、約330℃、約340℃、約350℃、約360℃、約370℃、約380℃、約390℃、又は約400℃の加熱処理に曝露してから摩耗させた後で、約20%を超えて低下しない。
【0184】
本明細書に記載のコーティング済みガラス物品は、30分の期間にわたって少なくとも250℃(又は260℃、又は280℃、又は300℃)の温度に加熱した後に、熱的に安定していてよい。本明細書中で使用される場合、句「熱的に安定している(thermally stable)」は、ガラス物品に適用されたコーティングが、昇温への曝露後に、上記ガラス物品の表面上において略完全な状態のままであり、従って曝露後に、上記コーティング済みガラス物品の機械的特性、具体的には摩擦係数及び水平圧縮強度が、影響を受けるにしても最小限しか影響を受けないことを意味している。これは、上記コーティングが、昇温への曝露後にガラスの表面に付着したままであり、ガラス物品を擦過傷、衝突等の機械的損傷から保護し続けることを示す。
【0185】
本明細書に記載の実施形態では、コーティング済みガラス物品は、このコーティング済みガラス物品が、指定された温度に加熱され、指定された時間にわたってその温度に保持された後に、摩擦係数の基準と水平圧縮強度の基準との両方を満たす場合に、熱的に安定しているとみなされる。摩擦係数の基準が満たされていることを判断するために、第1のコーティング済みガラス物品の摩擦係数を、
図3に示されている試験用ジグ及び30Nの応力の印加を用いて、受け取ったままの状態(as‐received condition)において(即ちいずれの熱への曝露の前に)決定する。第2のコーティング済みガラス物品(即ち第1のコーティング済みガラス物品と同一のガラス組成及び同一のコーティング組成物を有するガラス物品)を、所定の条件下で熱に曝露し、室温まで冷却する。その後、
図3に示されている試験用ジグを用いて、コーティング済みガラス物品を、長さおよそ20mmの擦過傷(即ち「引っかき傷(scratch)」)をもたらす30Nの負荷の印加によって摩耗させることで、第2のガラス物品の摩擦係数を決定する。第2のコーティング済みガラス物品の摩擦係数が0.7未満であり、摩耗エリアにおいて第2のガラス物品のガラスの表面に視認可能な損傷が存在しない場合、コーティングの熱安定性を判断する目的に関して、摩擦係数の基準が満たされている。本明細書中で使用される場合、用語「視認可能な損傷(observable damage)」は、LED又はハロゲン光源を用いた倍率100倍のノマルスキー又は微分干渉(differential interference contrast:DIC)分光顕微鏡で観察したときに、ガラス物品の摩耗エリアのガラスの表面が、摩耗エリアの長さ0.5cmにつき6箇所未満のガラスのひび割れを含むことを意味する。ガラスのひび割れ(glass check)又はガラスの浅い割れ(glass checking)の標準的な定義は、G. D. Quinn, “NIST Recommended Practice Guide: Fractography of Ceramics and Glasses,” NIST special publication 960‐17 (2006)に記載されている。
【0186】
水平圧縮強度の基準が満たされていることを判断するために、第1のコーティング済みガラス物品を、
図3に示されている試験用ジグで、20mmの引っかき傷を形成するための30Nの負荷下において摩耗させる。次に第1のコーティング済みガラス物品を、本明細書に記載されているような水平圧縮試験に供し、第1のコーティング済みガラス物品の保持強度を決定する。第2のコーティング済みガラス物品(即ち第1のコーティング済みガラス物品と同一のガラス組成及び同一のコーティング組成物を有するガラス物品)を、所定の条件下で熱に曝露し、室温まで冷却する。その後、第2のコーティング済みガラス物品を、
図3に示されている試験用ジグで、30Nの負荷において摩耗させる。次に第2のコーティング済みガラス物品を、本明細書に記載されているような水平圧縮試験に供し、第2のコーティング済みガラス物品の保持強度を決定する。第2のコーティング済みガラス物品の保持強度が第1のコーティング済みガラス物品に対して約20%を超えて低下していない(即ち破損までの負荷が20%を超えて低下していない)場合、コーティングの熱安定性を判断する目的に関して、水平圧縮強度の基準が満たされている。
【0187】
上記コーティング済みガラスコンテナは、上記コーティング済みガラスコンテナを少なくとも約30分の期間にわたって少なくとも約250℃(又は260℃、又は280℃)の温度に曝露した後に、摩擦係数基準及び水平圧縮強度基準が満たされていれば(即ち上記コーティング済みガラスコンテナが、少なくとも約250℃(又は260℃、又は280℃)において約30分の期間にわたって熱的に安定であれば)、熱的に安定していると見なされる。熱安定性は、約250℃(又は260℃、又は280℃)から約400℃までの温度で評価してもよい。例えばいくつかの実施形態では、上記コーティング済みガラスコンテナは、約30分の期間にわたって少なくとも約270℃、又は約280℃の温度において上記基準が満たされていれば、熱的に安定していると見なされる。更に他の実施形態では、上記コーティング済みガラスコンテナは、約30分の期間にわたって少なくとも約290℃、又は約300℃の温度において上記基準が満たされていれば、熱的に安定していると見なされる。更なる実施形態では、上記コーティング済みガラスコンテナは、約30分の期間にわたって少なくとも約310℃、又は約320℃の温度において上記基準が満たされていれば、熱的に安定していると見なされる。更に他の実施形態では、上記コーティング済みガラスコンテナは、約30分の期間にわたって少なくとも約330℃、又は約340℃の温度において上記基準が満たされていれば、熱的に安定していると見なされる。更に他の実施形態では、上記コーティング済みガラスコンテナは、約30分の期間にわたって少なくとも約350℃、又は約360℃の温度において上記基準が満たされていれば、熱的に安定していると見なされる。他のいくつかの実施形態では、上記コーティング済みガラスコンテナは、約30分の期間にわたって少なくとも約370℃、又は約380℃の温度において上記基準が満たされていれば、熱的に安定していると見なされる。更に他の実施形態では、上記コーティング済みガラスコンテナは、約30分の期間にわたって少なくとも約390℃、又は約400℃の温度において上記基準が満たされていれば、熱的に安定していると見なされる。
【0188】
本明細書で開示されるコーティング済みガラスコンテナはまた、ある範囲の温度にわたって熱的に安定していてもよく、即ち上記コーティング済みガラスコンテナは、上記範囲内の各温度において、摩擦係数基準及び水平圧縮強度基準を満たすことにより、熱的に安定している。例えば本明細書に記載の実施形態では、上記コーティング済みガラスコンテナは、少なくとも約250℃(又は260℃、又は280℃)から約400℃以下の温度までにおいて、熱的に安定していてよい。いくつかの実施形態では、上記コーティング済みガラスコンテナは、少なくとも約250℃(又は260℃、又は280℃)から約350℃までにおいて、熱的に安定していてよい。他のいくつかの実施形態では、上記コーティング済みガラスコンテナは、少なくとも約280℃から約350℃以下の温度までにおいて、熱的に安定していてよい。更に他の実施形態では、上記コーティング済みガラスコンテナは、少なくとも約290℃から約340℃までにおいて、熱的に安定していてよい。別の実施形態では、上記コーティング済みガラスコンテナは、約300℃~約380℃の温度範囲において、熱的に安定していてよい。別の実施形態では、上記コーティング済みガラスコンテナは、約320℃~約360℃の温度範囲において、熱的に安定していてよい。
【0189】
本明細書に記載のコーティング済みガラスコンテナは、4点曲げ強度を有する。ガラスコンテナの4点曲げ強度を測定するために、コーティング済みガラスコンテナ100の前駆物品であるガラスチューブを測定に利用する。上記ガラスチューブはガラスコンテナと同一の直径を有するが、ガラスコンテナのベース部分又はガラスコンテナの口の部分を含まない(即ちチューブをガラスコンテナへと成形する前である)。そしてガラスチューブを4点曲げ応力試験に供し、機械的破損を誘発する。この試験は、相対湿度50%で、外側接触部材を9インチ(22.86cm)離間させ、内側接触部材を3インチ(7.62cm)離間させ、10mm/分の負荷率で実施される。
【0190】
4点曲げ応力測定は、コーティング済みチューブ及び摩耗させたチューブに対しても実施してよい。試験用ジグ200の動作により、摩耗させたバイアルの水平圧縮強度の測定において説明したように、チューブの強度を弱める表面の引っかき傷等の擦過傷をチューブ表面に生成してよい。次にガラスチューブを4点曲げ応力試験に供し、機械的な破損を誘発する。この試験は、試験中に引っかき傷が張力下に置かれるようにチューブを位置決めしたまま、25℃及び相対湿度50%で、9インチ(22.86cm)離間させた外側プローブ及び3インチ(7.62cm)離間させた内側接触部材を用いて、10mm/分の負荷率で実施される。
【0191】
いくつかの実施形態では、コーティングを有するガラスチューブの摩耗後の4点曲げ強度は、同一条件下で摩耗させた未コーティングガラスチューブの4点曲げ強度に比べて、平均して少なくとも10%、20%、又は50%高い機械的強度を示す。
【0192】
いくつかの実施形態では、コーティング済みガラスコンテナ100を、同一のガラスコンテナによって、30Nの法線力を用いて摩耗させた後、コーティング済みガラスコンテナ100の摩耗したエリアの摩擦係数は、同一のスポットにおける同一のガラスコンテナによる30Nの法線力を用いた別の1回の摩耗の後で約20%を超えて上昇せず、又は全く上昇しない。他の実施形態では、コーティング済みガラスコンテナ100を、同一のガラスコンテナによって、30Nの法線力を用いて摩耗させた後、コーティング済みガラスコンテナ100の摩耗したエリアの摩擦係数は、同一のスポットにおける同一のガラスコンテナによる30Nの法線力を用いた別の1回の摩耗の後で約15%若しくは10%を超えて上昇せず、又は全く上昇しない。しかしながら、コーティング済みガラスコンテナ100の全ての実施形態がこのような特性を示す必要はない。
【0193】
コーティング済みコンテナの透明性及び色は、分光光度計を用いて400~700nmの波長範囲内でのコンテナの光透過率を測定することによって評価できる。これらの測定は、光ビームをコンテナの壁に対して垂直に配向することにより、ビームがコーティングを、最初にコンテナに入るときとその後コンテナから出るときとの2回通過するようにして、実施される。いくつかの実施形態では、コーティング済みガラスコンテナを通る光透過率は、約400nm~約700nmの波長に関して、未コーティングガラスコンテナを通る(コンテナの2つの壁を通過する)光透過率の約55%以上であってよい。本明細書に記載されているように、光透過率は、本明細書に記載の加熱処理等の熱処理の前又は熱処理の後に測定できる。例えば、約400nm~約700nmの各波長に関して、光透過率は、未コーティングガラスコンテナを通る光透過率の約55%以上であってよい。他の実施形態では、約400nm~約700nmの波長に関して、コーティング済みガラスコンテナを通る光透過率は、未コーティングガラスコンテナを通る光透過率の約55%以上、約60%以上、約65%以上、約70%以上、約75%以上、約80%以上、又は約90%以上であってよい。
【0194】
本明細書に記載されているように、光透過率は、本明細書に記載の熱処理等の環境処理の前、又は環境処理の後に測定できる。例えば、30分の期間にわたる、約250℃、約260℃、約270℃、約280℃、約290℃、約300℃、約310℃、約320℃、約330℃、約340℃、約350℃、約360℃、約370℃、約380℃、約390℃、若しくは約400℃の加熱処理の後、又は凍結乾燥条件への曝露後、又はオートクレーブ条件への曝露後、約400nm~約700nmの波長に関して、コーティング済みガラスコンテナを通る光透過率は、未コーティングガラスコンテナを通る光透過率の約55%以上、約60%以上、約65%以上、約70%以上、約75%以上、約80%以上、又は約90%以上である。
【0195】
加熱処理への曝露によって引き起こされる黄変は、
図13に示されているような、本明細書で提供される実施例と共に議論される、CEI 1931色空間によるx及びy座標によって測定できる。脱パイロジェン条件に続くx及びy座標の変化は、コーティング済みガラス物品の黄変を示している可能性がある。
【0196】
いくつかの実施形態では、コーティング済みガラスコンテナ100は、ヒトの裸眼には、どの角度で見ても無色透明なものとして知覚されるものであってよい。他のいくつかの実施形態では、コーティング120は、コーティング120が有色のポリマーを含む場合等に、知覚可能な色味を有してよい。
【0197】
いくつかの実施形態では、コーティング済みガラスコンテナ100は、接着性ラベルを受け入れることができるコーティング120を有してよい。即ちコーティング済みガラスコンテナ100は、コーティング済み表面上に接着性ラベルを、接着性ラベルがしっかりと付着するように受け入れることができる。しかしながら、接着性ラベルを取り付けることができることは、本明細書に記載のコーティング済みガラスコンテナ100の全ての実施形態の要件ではない。
【実施例】
【0198】
コーティングを備えたガラスコンテナの様々な実施形態を、以下の実施例によって更に明らかにする。これらの実施例は例示的な性質のものであり、本開示の主題を限定するものと理解してはならない。これらの実施例では、報告されている全てのCoFデータは、本明細書に記載されているような最大CoFではなく、平均CoFである。
【0199】
実施例1
複数のシアン酸エステルモノマーを比較して、一般的に使用される様々な溶媒中での可溶性を評価した。選択されたモノマーは、ビスフェノールAシアン酸エステル(DCBA)、C,C’‐[(ジメチルシリレン)ジ‐4,1‐フェニレン]エステル(Si‐DCBA)、及びC,C’‐((2,2,2‐トリフルオロ‐1‐(トリフルオロメチル)エチリデン)ジ‐4,1‐フェニレン)エステル(F‐DCBA)であった。選択された溶媒は、エタノール、メタノール、アセトン、ブタノン(メチルエチルケトン(methyl ethyl ketone:MEK)としても公知)、塩化メチレン(CH2Cl2)、酢酸プロピレングリコールメチルエーテル(propylene glycol methyl ether acetate:PGMEA)、及びアセトニトリルであった。50mgのシアン酸エステルモノマー粉末を10mLの溶媒に溶解させることによって、試料溶液を調製した。各モノマーの、各溶媒中の試料溶液を調製した。試料溶液を観察して、モノマーが完全に溶解するまでに経過した時間量、即ち試料溶液が完全に透明になるまでに経過した時間量を決定した。完全に透明になるまでに30分を超える時間が経過した試料溶液のモノマーは、完全な溶解が不可能なものとみなした。結果を以下の表1で報告する。
【0200】
【0201】
表1に示されているように、DCBAは数秒から数分以内に、CH2Cl2、PGMEA、アセトン、MEK、及びアセトニトリル中に完全に溶解させることができたが、エタノール又はメタノール中に完全に溶解させることはできなかった。F‐DCBAは優れた可溶性を示し、数秒以内に全ての溶媒中に完全に溶解させることができた。Si‐DCBAは最も低い可溶性を示し、どの溶媒中にも完全に溶解させることができなかった。Si‐DCBAは、エタノール及びメタノール溶液中で、特に低い透明性を示した。
【0202】
実施例2
2組のコーティング済みガラスウェハを、透過率のパーセンテージに関して試験して、UV~可視光範囲における様々なシアン酸エステルコーティングの透明性を評価した。第1の組(ガラス1~5)は厚さ1mmであり、第2の組(ガラス6~10)は厚さ2mmであった。ガラス1及び7を、未コーティング条件において、透過率のパーセンテージに関して試験した。ガラス2を、F‐DCBAプレポリマーコーティングでスピンコートした後、透過率のパーセンテージに関して試験した。ガラス3~6を、それぞれ30mg/mL、20mg/mL、10mg/mL、及び5mg/mLのF‐DCBAモノマーコーティングでスピンコートした後、透過率のパーセンテージに関して試験した。ガラス8を、DCBAプレポリマーコーティングでスピンコートした後、透過率のパーセンテージに関して試験した。ガラス9~10を、それぞれ30mg/mL及び20mg/mLのDCBAモノマーコーティングでスピンコートした後、透過率のパーセンテージに関して試験した。結果を
図4にグラフで示し、以下の表2で報告する。
図4では、線301はガラス1~5に関するデータを表し、線302はガラス6~10に関するデータを表している。
【0203】
【0204】
表2に示されているように、ガラスウェハの厚さ、シアン酸エステル、コーティング液の濃度、及びプレポリマー溶液の形成のためにコーティング液を還流させるかどうかは、ガラスの最終的な光学特性にほとんど影響を及ぼさなかった。未コーティングガラスウェハをコーティング済みガラスウェハと比較した場合の透過率のパーセンテージの低下は、0.5%を超えなかった。更に、
図4を参照すると、コーティング済みバイアルの2つの組の透過率のパーセンテージの間の略全ての差異は、完全にUV範囲(10~400nm)内にある。即ち、これらの特性が透過率のパーセンテージに及ぼすいずれの影響も、目視検査では検出できない。
【0205】
実施例3
医薬品パッケージ用バイアルをF‐DCBAモノマーコーティングでディップコートし、続いてこのコーティングを硬化させた(初期硬化)。硬化後、本明細書に記載されているような試験手順によって、コーティング済みバイアルをCoFに関して試験した。次にコーティング済みバイアルを、260℃で30分の更なる加熱処理(第2の加熱処理)に供し、再びCoFに関して試験した。最後にコーティング済みバイアルを、335℃で16時間の更に別の加熱処理(最終加熱処理)に供し、CoFに関して試験した。結果を以下の表3で報告する。
【0206】
【0207】
表3に示されているように、コーティング済みバイアルは、初期硬化プロセス後に優れたCoF値を有している。しかしながら加熱処理の後、CoF値は大幅に上昇する。このCoF値の上昇は、コーティングによる完全な硬化の欠如が原因である可能性があり、これは、完全な架橋及び良好な耐熱性のために200℃を超える温度が必要となり得ることを示す。更にこのCoF値の上昇は、コーティング及び硬化プロセス中の副反応によって引き起こされるF‐DCBAの分解が原因である可能性がある。DCBAに比べて、F‐DCBAは、シアン酸エステル部分の活性が高いことにより安定性が低く、これは、水及び未乾燥溶媒といったルイス酸及び塩基の両方との副反応を引き起こす。しかしながら、第2の加熱処理後のCoFは、むき出しの状態のガラスよりも低いままであった。
【0208】
実施例4
F‐DCBAモノマーコーティングを接触角に関して試験して、コーティング表面上の液体の濡れ性を特性決定した。50mm×50mm×1.1mmと測定されたガラスウェハを、F‐DCBAモノマーコーティングでスピンコートした。スピンコート後、F‐DCBAモノマーを、180℃で1時間、そして200℃で更に1時間、硬化させた。硬化後、コーティング済みガラスウェハを335℃で16時間の加熱に供した。2.0μLの水滴とシアン酸エステルコーティング済み表面との間の接触角を測定することによって、接触角を測定した。接触角は、合計6回の測定のために、硬化後に1回、及び耐熱性試験の様々なステージにおいて1回、測定された。結果を以下の表4で報告する。
【0209】
【0210】
表4に示されているように、接触角は、加熱時間の延長と共に漸減した。これは、耐熱性試験中にF‐DCBAコーティングが次第に分解されることを示す可能性がある。この接触角の減少は、コーティングの厚さの減少によって、コーティング表面の濡れ性が、むき出しの状態のガラスのものに近づいていることが原因であると考えられる。表4の結果に基づいて、335℃において4時間後に測定された接触角を、シアン酸エステルコーティングの耐熱特性を判定するための重要な加熱時間として選択した。この時点において、初期状態と比較したときに接触角の変化が明らかなものとなる。
【0211】
実施例5
実施例4と同様にして、DCBAモノマーコーティングを接触角及びCoFに関して試験した。50mm×50mm×1.1mmと測定されたガラスウェハを、MEK中のDCBAモノマーでスピンコートした。スピンコート後、DCBAモノマーを、180℃で1時間、そして200℃で更に1時間、硬化させた。硬化後、コーティング済みバイアルを335℃で8時間の加熱に供した。接触角は、硬化後に1回、及び耐熱性試験の様々なステージにおいて1回、測定された。結果を以下の表5で報告する。
【0212】
【0213】
表5に示されているように、DCBAコーティングは実施例4のF‐DCBAコーティングよりも疎水性である。F‐DCBAのようなフッ素化化合物は、比較的高い疎水性及び潤滑性を有するはずであるが、上述の結果は、DCBAコーティングが、実施例4で測定されたF‐DCBAコーティングの最も大きな接触角である80.1に比べて、102.4もの大きな接触角を有することができることを示している。更に、4時間にわたる耐熱性試験の後であっても、DCBAコーティングは、表4で報告されているF‐DCBAコーティングの初期接触角よりも優れた接触角を有していた。これは、硬化プロセス中のF‐DCBAの不安定性によるものである可能性があり、これは、F‐DCBAコーティングが、比較的安定したDCBAコーティングよりも急速に分解される傾向を有し得ることを示している。
【0214】
実施例6
医薬品パッケージ用バイアルの2つのバッチを、MEK溶媒中のDCBAモノマーでディップコートした。第1のバッチ(DCBA‐1)を、180℃で1時間、そして200℃で更に1時間、硬化させた。第2のバッチ(DCBA‐4)を、180℃で1時間、そして200℃で更に4時間、硬化させた。硬化後、本明細書に記載されているような試験手順によって、コーティング済みバイアルをCoFに関して試験した。次にコーティング済みバイアルを、320℃で35分の更なる加熱処理に供し、再びCoFに関して試験した。最後にコーティング済みバイアルを、335℃で9時間の更に別の加熱処理に供し、CoFに関して試験した。結果を以下の表6で報告する。
【0215】
【0216】
表6に示されているように、DCBA‐1のCoFは、第2の加熱処理の後にわずかに低下したが、延長された最終加熱処理の後には大幅に上昇した。DCBA‐4のCoFは、DCBA‐1と同様に、第2の加熱処理の後にわずかに低下したが、このCoF値は、初期硬化後及び加熱後の両方において、DCBA‐1のものよりも高かった。これらの結果に基づくと、効果時間の延長は、DCBAコーティングのCoF又は耐熱性に対してほとんど影響を及ぼさないと思われる。
【0217】
実施例7
スピンコートによって塗布されたDCBAコーティングの厚さを、走査電子顕微鏡(scanning electron microscopy:SEM)で観察した。50mm×50mm×1.1mmと測定されたガラスウェハを、20mg/mLのDCBAモノマーコーティング、及び30mg/mLのプレポリマーコーティングでスピンコートした。スピンコート後、DCBAコーティングを、180℃で1時間、そして200℃で更に1時間、硬化させた。次に、硬化済みコーティングの厚さを、SEMを用いて測定した。DCBAモノマーコーティングの平均コーティング厚さは37.7nmであった。プレポリマーコーティングはより濃縮されて粘性を有しており、平均コーティング厚さは221nmであった。更に、プレポリマーコーティングとガラス表面との間に小さな空隙が観察された。これは、硬化プロセス中の残留溶媒によって、コーティングの接着性が影響を受ける場合があることを示している可能性がある。
【0218】
実施例8
スピンコートによって塗布されたF‐DCBAコーティングの厚さを、SEMで観察した。50mm×50mm×1.1mmと測定されたガラスウェハを、20mg/mLのF‐DCBAモノマーコーティング、30mg/mLのF‐DCBAモノマーコーティング、及び20mg/mLのプレポリマーコーティングでスピンコートした。スピンコート後、F‐DCBAコーティングを、180℃で1時間、そして200℃で更に1時間、硬化させた。次に、硬化済みコーティングの厚さを、SEMを用いて測定した。20mg/mLのF‐DCBAモノマーコーティングの平均コーティング厚さは58.2nmであった。30mg/mLのF‐DCBAモノマーコーティングの平均コーティング厚さは158nmであった。プレポリマーコーティングはここでもより濃縮されて粘性を有しており、平均コーティング厚さは480nmであった。更に、コーティングの濃度の上昇に従ってコーティング厚さが増大するだけでなく、ガラスの表面にわたる厚さの変動も増大することが観察された。
【0219】
以上により、本明細書に記載の低摩擦コーティングを備えたガラスコンテナが、低摩擦コーティングの塗布の結果として、機械的損傷に対する耐性の改善を示し、従ってガラスコンテナが向上した機械的耐久性を有することが、理解されるはずである。この特性により、ガラスコンテナは、医薬品パッケージ用材料を含むがこれに限定されない多様な用途での使用に非常に適したものとなる。
【0220】
請求対象の主題の精神及び範囲から逸脱することなく、本明細書に記載した実施形態に、様々な修正例及び変形例を行うことができることは、当業者には明らかであろう。従って、本明細書は、上記修正例及び変形例が添付の請求の範囲及びその均等物の範囲内にある場合、本明細書に記載される様々な実施形態の修正例及び変形例を包含することが意図されている。
【0221】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0222】
実施形態1
第1の表面と、上記第1の表面の反対側の第2の表面とを備える、ガラスコンテナであって、上記第1の表面は、上記ガラスコンテナの外面である、ガラスコンテナ;及び
上記ガラスコンテナの上記第1の表面の少なくとも一部分を覆うように位置決めされた、コーティングであって、上記コーティングはポリシアヌレートを含む、コーティング
を備える、医薬品パッケージ。
【0223】
実施形態2
上記ポリシアヌレートは、1つ以上のビスフェノールシアン酸エステルから形成されたモノマー単位を含む、実施形態1に記載の医薬品パッケージ。
【0224】
実施形態3
上記1つ以上のビスフェノールシアン酸エステルは、ビスフェノールAシアン酸エステル、ビスフェノールEシアン酸エステル、C,C’‐((2,2,2‐トリフルオロ‐1‐(トリフルオロメチル)エチリデン)ジ‐4,1‐フェニレン)エステル、テトラメチルビスフェノールFシアン酸エステル、ビスフェノールMシアン酸エステル、C,C’‐((2,2,2‐トリフルオロ‐1‐(トリフルオロメチル)エチリデン)ジ‐4,1‐フェニレン)エステル、及びこれらの組み合わせから選択される、実施形態2に記載の医薬品パッケージ。
【0225】
実施形態4
上記コーティングは100nm以下の厚さを有する、実施形態1に記載の医薬品パッケージ。
【0226】
実施形態5
上記コーティングは、上記ガラスコンテナの上記第1の表面の少なくとも一部分と直接接触している、実施形態1に記載の医薬品パッケージ。
【0227】
実施形態6
上記ガラスコンテナの上記第1の表面の、上記コーティングを備えた上記部分は、約0.7以下の摩擦係数を有する、実施形態1に記載の医薬品パッケージ。
【0228】
実施形態7
上記ガラスコンテナの上記第1の表面の、上記コーティングを備えた上記部分は、少なくとも約250℃の温度での30分にわたる加熱処理の後、約0.7以下の上記摩擦係数を保持する、実施形態6に記載の医薬品パッケージ。
【0229】
実施形態8
上記医薬品パッケージを通る光透過率は、約400nm~約700nmの波長に関して、未コーティング医薬品パッケージを通る光透過率の約55%以上である、実施形態1に記載の医薬品パッケージ。
【0230】
実施形態9
上記医薬品パッケージは、少なくとも約250℃の温度での30分にわたる加熱処理の後、約400nm~約700nmの各波長に関して、上記未コーティング医薬品パッケージを通る上記光透過率の約55%以上の、上記医薬品パッケージを通る上記光透過率を保持する、実施形態8に記載の医薬品パッケージ。
【0231】
実施形態10
第1の表面と、上記第1の表面の反対側の第2の表面とを備える、ガラスコンテナであって、上記第1の表面は、上記ガラスコンテナの外面である、ガラスコンテナ;及び
上記ガラスコンテナの上記第1の表面の少なくとも一部分を覆うように位置決めされた、コーティングであって、上記コーティングは1つ以上のシアン酸エステルから形成される、コーティング
を備える、医薬品パッケージ。
【0232】
実施形態11
上記1つ以上のシアン酸エステルは、1つ以上のビスフェノールシアン酸エステルから選択される、実施形態10に記載の医薬品パッケージ。
【0233】
実施形態12
上記1つ以上のビスフェノールシアン酸エステルは、ビスフェノールAシアン酸エステル、ビスフェノールEシアン酸エステル、C,C’‐((2,2,2‐トリフルオロ‐1‐(トリフルオロメチル)エチリデン)ジ‐4,1‐フェニレン)エステル、テトラメチルビスフェノールFシアン酸エステル、ビスフェノールMシアン酸エステル、C,C’‐((2,2,2‐トリフルオロ‐1‐(トリフルオロメチル)エチリデン)ジ‐4,1‐フェニレン)エステル、及びこれらの組み合わせから選択される、実施形態11に記載の医薬品パッケージ。
【0234】
実施形態13
上記コーティングは100nm以下の厚さを有する、実施形態11に記載の医薬品パッケージ。
【0235】
実施形態14
上記コーティングは、上記ガラスコンテナの上記第1の表面の少なくとも一部分と直接接触している、実施形態11に記載の医薬品パッケージ。
【0236】
実施形態15
上記ガラスコンテナの上記第1の表面の、上記コーティングを備えた上記部分は、約0.7以下の摩擦係数を有する、実施形態11に記載の医薬品パッケージ。
【0237】
実施形態16
上記医薬品パッケージを通る光透過率は、約400nm~約700nmの波長に関して、未コーティング医薬品パッケージを通る光透過率の約55%以上である、実施形態11に記載の医薬品パッケージ。
【0238】
実施形態17
コーティング済み医薬品パッケージを製造する方法であって、上記方法は:
コーティング前駆物質混合物を、ガラスコンテナの外面の第1の表面上に堆積させるステップであって、上記コーティング前駆物質混合物は1つ以上のシアン酸エステルを含む、ステップ;及び
上記コーティング前駆物質混合物を加熱して、上記ガラスコンテナの上記外面上にコーティングを形成するステップであって、上記コーティングはポリシアヌレートを含む、ステップ
を含む、方法。
【0239】
実施形態18
上記1つ以上のシアン酸エステルは、1つ以上のビスフェノールシアン酸エステルから選択される、実施形態17に記載の方法。
【0240】
実施形態19
上記1つ以上のビスフェノールシアン酸エステルは、ビスフェノールAシアン酸エステル、ビスフェノールEシアン酸エステル、C,C’‐((2,2,2‐トリフルオロ‐1‐(トリフルオロメチル)エチリデン)ジ‐4,1‐フェニレン)エステル、テトラメチルビスフェノールFシアン酸エステル、ビスフェノールMシアン酸エステル、C,C’‐((2,2,2‐トリフルオロ‐1‐(トリフルオロメチル)エチリデン)ジ‐4,1‐フェニレン)エステル、及びこれらの組み合わせから選択される、実施形態18に記載の方法。
【0241】
実施形態20
上記コーティング前駆物質混合物を加熱する上記ステップは、230℃未満の温度である、実施形態18に記載の方法。
【符号の説明】
【0242】
100 コーティング済みガラスコンテナ
102 ガラス本体
104 ガラスコンテナ壁
106 内部容積
108 外側表面(即ち第1の表面)
110 内側表面(即ち第2の表面)
120 コーティング
122 外面
124 ガラス本体接触面
200 試験用ジグ
210 第1のガラスコンテナ
212 第1のクランプ
214 第1の固定アーム
216 第1のベース
220 第2のガラスコンテナ
222 第2のクランプ
224 第2の固定アーム
226 第2のベース
230 接点
【国際調査報告】