(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-12
(54)【発明の名称】ウイルスベクターを含む細胞組成物及び処置方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0775 20100101AFI20221004BHJP
C12N 15/55 20060101ALI20221004BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20221004BHJP
C12N 15/869 20060101ALI20221004BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20221004BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221004BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20221004BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20221004BHJP
A61K 35/763 20150101ALI20221004BHJP
A61K 35/768 20150101ALI20221004BHJP
A61K 35/545 20150101ALI20221004BHJP
【FI】
C12N5/0775
C12N15/55 ZNA
C12N15/86 Z
C12N15/869 Z
C12N5/10
A61P35/00
A61K35/28
A61K48/00
A61K35/763
A61K35/768
A61K35/545
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022507484
(86)(22)【出願日】2020-08-05
(85)【翻訳文提出日】2022-03-31
(86)【国際出願番号】 IB2020057410
(87)【国際公開番号】W WO2021024207
(87)【国際公開日】2021-02-11
(32)【優先日】2019-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516300656
【氏名又は名称】メゾブラスト・インターナショナル・エスアーエールエル
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ダン・デヴァイン
(72)【発明者】
【氏名】ニック・ロイゾス
(72)【発明者】
【氏名】シルヴィウ・イテスク
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA31
4B065CA44
4C084AA13
4C084MA56
4C084MA65
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZB262
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB64
4C087BB65
4C087BC83
4C087MA56
4C087MA65
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZB26
(57)【要約】
本開示は、組換えウイルスを導入するように改変された細胞組成物に関する。そのような組成物は、ウイルスをがん細胞に送達することによってがんを処置するために使用され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第10染色体で欠失しているホスファターゼ及びテンシンホモログアルファ(PTENα)の発現を増加させるように改変されている、間葉系前駆細胞又は幹細胞の集団。
【請求項2】
PTENαの発現の増加が、改変された細胞においてリン酸化AKTレベルを減少させるために十分である、請求項1に記載の集団。
【請求項3】
PTENα発現の増加が、腫瘍細胞の死滅を増強するために十分である、請求項1又は2に記載の集団。
【請求項4】
PTENα発現の増加が、腫瘍細胞への移動を増強するために十分である、請求項1から3のいずれか一項に記載の集団。
【請求項5】
間葉系前駆細胞又は幹細胞が、PTENαをコードするポリヌクレオチドを含む組換えウイルスを導入するように改変されている、請求項1から4のいずれか一項に記載の集団。
【請求項6】
組換えウイルスが腫瘍溶解性ウイルスである、請求項5に記載の集団。
【請求項7】
ウイルスが、単純ヘルペスウイルス(HSV)骨格を含む、請求項5又は6に記載の集団。
【請求項8】
20%から80%の間の細胞が、組換えウイルスを含む、請求項4から7のいずれか一項に記載の集団。
【請求項9】
PTENαをコードするポリヌクレオチドが、腫瘍特異的プロモーター又は誘導性プロモーターに作動可能に連結されている、請求項4から8のいずれか一項に記載の集団。
【請求項10】
腫瘍特異的プロモーターが、サバイビンプロモーター、COX-2プロモーター、PSAプロモーター、CXCR4プロモーター、STAT3プロモーター、hTERTプロモーター、AFPプロモーター、CCKARプロモーター、CEAプロモーター、erbB2プロモーター、E2F1プロモーター、HE4プロモーター、LPプロモーター、MUC-1プロモーター、TRP1プロモーター、Tyrプロモーターである、請求項9に記載の集団。
【請求項11】
組換えウイルスが、腫瘍特異的細胞表面分子に結合するカプシドタンパク質を含む、請求項4から10のいずれか一項に記載の集団。
【請求項12】
カプシドタンパク質が、ファイバー、ペントン又はヘキソンタンパク質である、請求項11に記載の集団。
【請求項13】
組換えウイルスが、配列番号1に示される核酸配列を含む、請求項4から12のいずれか一項に記載の集団。
【請求項14】
組換えウイルスがHSVである、請求項4から13のいずれか一項に記載の集団。
【請求項15】
腫瘍細胞が、乳がん又は脳がん細胞である、請求項3から14のいずれか一項に記載の集団。
【請求項16】
間葉系前駆細胞又は幹細胞がMSCである、請求項1から15のいずれか一項に記載の集団。
【請求項17】
間葉系前駆細胞又は幹細胞が、免疫選択によって精製された、請求項1から16のいずれか一項に記載の集団。
【請求項18】
間葉系前駆細胞又は幹細胞が、STRO-1を発現する、請求項1から15のいずれか一項に記載の集団。
【請求項19】
間葉系前駆細胞又は幹細胞が、多能性細胞に由来する、請求項1から18のいずれか一項に記載の集団。
【請求項20】
多能性細胞が、人工多能性幹(iPS)細胞である、請求項19に記載の集団。
【請求項21】
細胞の集団が培養増殖された、請求項1から20のいずれか一項に記載の集団。
【請求項22】
請求項1~21のいずれか一項に記載の集団に細胞を接触させる工程を含む、細胞においてPTENα発現を増加させる方法。
【請求項23】
接触される細胞ががん細胞である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
細胞においてPTENα発現を増加させることが、細胞におけるリン酸化AKTのレベルを低下させる、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項25】
in-vivoで実施される、請求項22から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
請求項1から21のいずれか一項に記載の集団を含む医薬組成物。
【請求項27】
請求項1から21のいずれか一項に記載の集団又は請求項26に記載の組成物を投与する工程を含む、対象においてがんを処置する方法。
【請求項28】
請求項1から21のいずれか一項に記載の集団又は請求項26に記載の組成物にがん細胞の集団を接触させる工程を含む、がん細胞を死滅させる方法。
【請求項29】
請求項1から21のいずれか一項に記載の集団又は請求項26に記載の組成物を投与する工程を含む、対象においてがん細胞に間葉系前駆細胞又は幹細胞を送達する方法。
【請求項30】
がんが、肺がん、膵臓がん、結腸直腸がん、肝がん、子宮頸がん、前立腺がん、乳がん、子宮内膜がん、甲状腺がん、腎臓がん、脳がん、神経膠芽腫、骨肉腫及びメラノーマからなる群から選択される、請求項27から29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
がんが乳がん又は脳がんである、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
集団又は組成物が、静脈内、動脈内、腫瘍内又は腹腔内投与によって対象に投与される、請求項27、29又は30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
がんを処置するための医薬の製造における、請求項1から21のいずれか一項に記載の集団の使用。
【請求項34】
がん細胞に間葉系前駆細胞又は幹細胞を送達するための医薬の製造における、請求項1から21のいずれか一項に記載の集団の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連特許の相互参照
本出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国仮特許出願第62/882,840号、2019年8月5日出願の優先権を主張する。
【0002】
EFS-WEBを介して電子的に提出された配列表の参照
電子的に提出された配列表(名称:3944_063PC01_SL_ST25.txt;サイズ:6,885バイト;作成日: 2020年8月3日)の内容は、37 C.F.R. §1.52(e)(5)に従って参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
本開示は、組換えウイルスを導入するように改変された細胞組成物に関する。そのような組成物は、ウイルスをがん細胞に送達することによってがんを処置するために使用され得る。
【背景技術】
【0004】
がんの処置は、がん細胞を除去する又は死滅させるための外科的切除、標準的化学療法及び/又は放射線治療を典型的には含む。しかし、これらの処置の有効性は、腫瘍の侵襲性及び/又は健康な組織への付随的損傷のためにしばしば限定される。この状況は、新規治療戦略に対する必要性を示しており、そのようなアプローチの1つは、ウイルスの使用である。
【0005】
腫瘍溶解性ウイルスは、がん細胞において特異的に増殖でき、がん細胞を破壊できるウイルスであり、この特性は、固有であるか又は遺伝的に操作されている。残念ながら、有望な実験結果から、臨床転帰の改善はまだもたらされておらず、これは、腫瘍とその微小環境、ウイルス及び宿主免疫との間の複雑な相互作用によって決まると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO 2004/85630
【特許文献2】米国特許第5486359号
【特許文献3】US 7,615,374
【特許文献4】US 2014273211
【特許文献5】US 9,453,203
【特許文献6】US 6,251,295
【特許文献7】WO 2003/082200
【特許文献8】WO 2003/080083
【特許文献9】WO 2005/086922
【特許文献10】WO 2007/088229
【特許文献11】WO 2008/110579
【特許文献12】WO 2010/108931
【特許文献13】WO 2010/128182
【特許文献14】WO 2013/112942
【特許文献15】WO 2013/116778
【特許文献16】WO 2014/204814
【特許文献17】WO 2015/077624
【特許文献18】WO 2015/166082
【特許文献19】WO 2015/089280
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J. Perbal, A Practical Guide to Molecular Cloning, John Wiley and Sons (1984)
【非特許文献2】J. Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbour Laboratory Press (1989)
【非特許文献3】T.A. Brown (編者), Essential Molecular Biology: A Practical Approach, Volumes 1 and 2, IRL Press (1991)
【非特許文献4】D.M. Glover and B.D. Hames (編者), DNA Cloning: A Practical Approach, Volumes 1-4, IRL Press (1995 and 1996)
【非特許文献5】F.M. Ausubelら(編者)、Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience (1988、現在までのすべての最新情報を含む)
【非特許文献6】Ed Harlow and David Lane (編者) Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbour Laboratory, (1988)
【非特許文献7】J.E. Coliganら(編者)、Current Protocols in Immunology, John Wiley & Sons (現在までのすべての最新情報を含む)
【非特許文献8】Hopkinsら、(2013) Science., 6144:399~402頁
【非特許文献9】Barberiら、; Plos medicine, Vol 2(6):0554~0559頁(2005)
【非特許文献10】Vodyanikら、Cell Stem cell, Vol 7:718~728頁(2010)
【非特許文献11】Obinata M., Cell, Vol 2:235~244頁(1997)
【非特許文献12】Akimovら、Stem Cells, Vol 23:1423~1433頁
【非特許文献13】Kabaraら、Laboratory Investigation, Vol 94: 1340~1354頁(2014)
【非特許文献14】Fuら、(2003) Molecular Therapy, 7:748~54頁
【非特許文献15】Guedanら、(2012) Gene Therapy, 19:1048~1057頁
【非特許文献16】Russellら、(2018) Nat Comm., 9:5006
【非特許文献17】Nakashimaら、(2014) Journal of Virology, Vol 88:345~353頁
【非特許文献18】Shenら、(2016) PlosOne 11:e0147173
【非特許文献19】Justusら、2014 J Vis Exp., 88:51046
【非特許文献20】Rissら、(2013) Assay Guidance Manual.、最終更新2016年7月
【非特許文献21】Dulbecco and Vogt (1953) Cold Spring Harbor Symp. Quant. Biol., 18: 273~279頁
【非特許文献22】Johnsonら、(1990) Quantitative Assays for Virus Infectivity. In: Aldovini A.
【非特許文献23】Walker B.D. (編) Techniques in HIV Research. Palgrave Macmillan, London
【非特許文献24】Remington's Pharmaceutical Sciences, 第16版、Mac Publishing Company (1980)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、腫瘍細胞にウイルスを送達する組成物及び方法の向上が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、間葉系(mesenchymal lineage)前駆細胞又は幹細胞が、腫瘍細胞の死滅を増強するように改変され得ることを同定した。例えば本発明者らは、改変間葉系前駆細胞又は幹細胞が、腫瘍細胞増殖(growth)を低下させるように腫瘍細胞にペイロードを送達できることを同定した。本発明者らは、改変間葉系前駆細胞又は幹細胞の腫瘍細胞への移動を増強できる改変も同定した。一例では、本発明者らは、間葉系前駆細胞又は幹細胞における、第10染色体で欠失しているホスファターゼ及びテンシンホモログアルファ(PTENα)の発現の増加が、腫瘍細胞に移動する及び/又はそれを死滅させるこれらの細胞の能力を増強できることを同定した。これらの発見は、本開示による改変された細胞が、有利なことに、腫瘍細胞にホーミングし治療用ペイロードを送達できることを示唆している。
【0010】
したがって、第一の態様では本開示は、第10染色体で欠失しているホスファターゼ及びテンシンホモログアルファ(PTENα)の発現を増加させるように改変されている間葉系前駆細胞又は幹細胞の集団を包含する。一例では、PTENα発現の増加は、改変細胞においてリン酸化AKTのレベルを減少させるために十分である。別の例では、PTENα発現の増加は、腫瘍細胞の死滅を増強するために十分である。別の例では、PTENα発現の増加は、腫瘍細胞への移動を増強するために十分である。別の例では、PTENα発現の増加は、腫瘍細胞への移動及び腫瘍細胞の死滅の両方を増強するために十分である。
【0011】
別の例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、組換えウイルスを導入するように改変される。例えば間葉系前駆細胞又は幹細胞は、単純ヘルペスウイルス(HSV)骨格を含む組換えウイルスを導入するように改変され得る。
【0012】
一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、PTENαをコードするポリヌクレオチドを含む組換えウイルスを導入するように改変される。一例では、組換えウイルスは腫瘍溶解性ウイルスである。
【0013】
本発明者らは、間葉系前駆細胞又は幹細胞を、単純ヘルペスウイルス(HSV)骨格を含み、PTEN導入遺伝子を発現する組換えウイルスの有効な担体としても同定し、これらのウイルス構築物での特に高い感染率及び複製を記載する。本開示による改変細胞の上に記載した能力と合わせて、本発明者らの発見は、本明細書において考察される改変を含む間葉系前駆細胞又は幹細胞が、特にHSV骨格を含む組換えウイルスを導入するように改変された場合に、商業的に大規模にできる、種々のがんを処置するための新規で有効な組成物となり得ることを示唆している。したがって、一例では組換えウイルスは、単純ヘルペスウイルス(HSV)骨格を含む。
【0014】
一例ではHSVは、間葉系前駆細胞又は幹細胞の高い感染率を有する。一例では、本明細書において開示される集団中の細胞の少なくとも10%はウイルスを含む。別の例では、本明細書において開示される集団中の細胞の少なくとも20%はウイルスを含む。別の例では、本明細書において開示される集団の細胞の20%から80%の間はウイルスを含む。
【0015】
一例では、PTEN-アルファをコードするポリヌクレオチドは、腫瘍特異的プロモーターに作動可能に連結される。更なる例では、腫瘍特異的プロモーターは、サバイビンプロモーター、COX-2プロモーター、PSAプロモーター、CXCR4プロモーター、STAT3プロモーター、hTERTプロモーター、AFPプロモーター、CCKARプロモーター、CEAプロモーター、erbB2プロモーター、E2F1プロモーター、HE4プロモーター、LPプロモーター、MUC-1プロモーター、TRP1プロモーター、Tyrプロモーターである。
【0016】
一例では、PTEN-アルファをコードするポリヌクレオチドは、誘導性プロモーターに作動可能に連結される。
【0017】
一例では組換えウイルスは、腫瘍特異的細胞表面分子に結合するカプシドタンパク質を含む。更なる例では、カプシドタンパク質は、ファイバー(fibre)、ペントン又はヘキソンタンパク質である。
【0018】
一例では組換えウイルスは、配列番号1に示される核酸配列、又は配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質に翻訳されるそのバリアントを含む。一例では配列番号1のバリアントは、配列番号2と少なくとも85%、90%、95%、99%配列同一性を共有する。
【0019】
一例では、組換えウイルスはHSVである。
【0020】
一例では、腫瘍細胞は乳がん又は脳がん細胞である。
【0021】
一例では間葉系前駆細胞又は幹細胞は、α1、α2、α3、α4及びα5、αv、β1及びβ3からなる群から選択される1つ又は複数のマーカーを発現する。一例では間葉系前駆細胞又は幹細胞は、STRO-1を発現する。別の例では間葉系前駆細胞又は幹細胞は、実質的にSTRO-1briである。一例では間葉系前駆細胞又は幹細胞は、Ang1:VEGFを少なくとも2:1から30:1の比で発現する。別の例では間葉系前駆細胞又は幹細胞は、Ang1:VEGFを少なくとも約10:1の比で発現する。更なる例では間葉系前駆細胞又は幹細胞は、Ang1:VEGFを少なくとも約20:1の比で発現する。別の例では間葉系前駆細胞又は幹細胞は、Ang1:VEGFを少なくとも約30:1の比で発現する。
【0022】
一例では間葉系前駆細胞又は幹細胞は、Ang1又はVEGFを発現するように遺伝的に改変されない。一例では間葉系前駆細胞又は幹細胞は、多能性細胞に由来する。別の例では、多能性細胞は、人工多能性幹(iPS)細胞である。
【0023】
一例では間葉系前駆細胞又は幹細胞は、STRO-1並びにα1、α2、α3、α4及びα5、αv、β1及びβ3からなる群から選択されるマーカーの2つ以上を発現する。
【0024】
一例では、細胞の集団は培養増殖される。
【0025】
一例では、本明細書に開示される集団を含む医薬組成物が提供される。
【0026】
本発明者らは、細胞を本明細書において開示される改変間葉系前駆細胞又は幹細胞の集団に接触させる工程によって細胞におけるPTENα発現を増加させることができることも明らかにした。一例では、接触される細胞は、がん細胞である。一例では、接触された細胞でのPTENα発現の増加は、細胞におけるリン酸化AKTのレベルを低下させる。
【0027】
本開示は、対象においてがんを処置する方法であって、上に提供される例のいずれか1つによる集団又は組成物を投与する工程を含む方法も包含する。一例では本開示は、がん細胞を死滅させる方法であって、がん細胞の集団を上に提供される例のいずれか1つによる集団又は組成物に接触させる工程を含む方法も包含する。別の例では、本開示は、対象におけるがん細胞に間葉系前駆細胞又は幹細胞を送達する方法であって、上に提供される例のいずれか1つによる集団又は組成物を投与する工程を含む、方法も包含する。一例ではがんは、肺がん、膵臓がん、結腸直腸がん、肝がん、子宮頸がん、前立腺がん、乳がん、子宮内膜がん、甲状腺がん、腎臓がん、脳がん、神経膠芽腫、骨肉腫及びメラノーマからなる群から選択される。更なる例では、がんは、乳がん又は脳がんである。別の例では、集団又は組成物は、静脈内、動脈内又は腹腔内投与によって対象に投与される。一例では組成物は、対象腫瘍に直接投与される。
【0028】
別の例では本開示は、がんを処置するための医薬の製造における本明細書に開示される集団の使用に関する。別の例では本開示は、がん細胞に間葉系前駆細胞又は幹細胞を送達するための医薬の製造における本明細書に開示される集団の使用に関する。
【0029】
本明細書における任意の例は、他に特に指定されない限り、変更することは変更して任意の他の例に適用されると解釈されるべきである。
【0030】
本開示は、例示のみの目的が意図される本明細書に記載される具体的な例によって範囲を限定されない。機能的に等価の産生物、組成物及び方法は、本明細書に記載のとおり、明らかに本開示の範囲内である。
【0031】
本明細書全体を通じて、他に特に指定されない限り、又は内容がそうでないと明確に示さない限り、単一のステップ、組成物、ステップの群又は組成物の群に言及することは、これらのステップ、組成物、ステップの群又は組成物の群の1つ及び複数(すなわち、1つ又は複数)を包含すると解釈されるべきである。
【0032】
本開示は、続く非限定的例の方法によって、及び添付の図を参照して本明細書以下に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】(A及びB)HSVQ(親ウイルス)及びHSV-P10(PTENα発現ウイルス)のウイルス骨格を示す図である。
【
図2】(A及びB)間葉系幹細胞(MSC)のHSV-P10ロードを示す図である。
【
図3A】HSV-P10及びHSVQロードされた間葉系幹細胞(MSC)の生存率を示す図である。
【
図3B】HSV-P10及びHSVQロードされた間葉系幹細胞(MSC)の生存率を示す図である。
【
図4】(A及びB)HSV-P10ロードされた間葉系幹細胞(MSC)のPTENα発現及びPI3K/AKTシグナル伝達経路への効果を示す図である。
【
図5】HSV-P10及びHSVQロードされた間葉系幹細胞(MSC)のヒト乳がん細胞(MDA-468)への移動を示す図である。
【
図6】(A及びB)HSV-P10ロードされた間葉系幹細胞(MSC)のヒト神経膠腫細胞への効果を示す図である。
【
図7】HSV-P10及びHSVQロードされた間葉系幹細胞(MSC)と共培養されたDB7マウス乳がん細胞の腫瘍細胞死の誘導を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
一般的技術及び選択的定義
他所に特に指定されない限り、本明細書で使用されるすべての技術的及び科学的用語は、当業者(例えば分子生物学、細胞培養、幹細胞分化、細胞療法、遺伝的改変、ウイルス学、腫瘍学、生化学、生理学及び臨床研究)によって一般に理解されるのと同じ意味を有すると解釈されるべきである。
【0035】
他に示されない限り、本開示において利用される分子及び統計技術は、当業者に十分周知の標準的手順である。そのような技術は、J. Perbal, A Practical Guide to Molecular Cloning, John Wiley and Sons (1984)、J. Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbour Laboratory Press (1989)、T.A. Brown (編者), Essential Molecular Biology: A Practical Approach, Volumes 1 and 2, IRL Press (1991)、D.M. Glover and B.D. Hames (編者), DNA Cloning: A Practical Approach, Volumes 1-4, IRL Press (1995 and 1996)及びF.M. Ausubelら(編者)、Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience (1988、現在までのすべての最新情報を含む)、Ed Harlow and David Lane (編者) Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbour Laboratory, (1988)及びJ.E. Coliganら(編者)、Current Protocols in Immunology, John Wiley & Sons (現在までのすべての最新情報を含む)等の情報源における文献全体にわたって記載及び説明される。
【0036】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形の単語及び単数形「a」、「an」及び「the」は、内容がそうでないと明確に示さない限り、例えば任意選択で複数の参照物を含む。それにより、例えば「分析物」は、任意選択で1つ又は複数の分析物を含む。
【0037】
本明細書において使用される場合、用語「約」は、そうでないと述べられない限り、指定された値の+/-10%、より好ましくは+/-5%、より好ましくは+/-1%を指す。
【0038】
用語「及び/又は」例えば「X及び/又はY」は、「X及びY」又は「X又はY」のいずれも意味すると理解されるべきであり、両方の意味又はいずれかの意味についての明確な支持を提供すると解釈されるべきである。
【0039】
本明細書全体を通じて、語「含む(comprise)」又は、「含む(comprises)」又は「含んでいる(comprising)」等の変化形は、述べられた要素、整数若しくはステップ又は要素、整数若しくはステップの群の含有を意味するが、任意の他の要素、整数若しくはステップ又は要素、整数若しくはステップの群の除外を意味しないと理解される。
【0040】
用語「第10染色体で欠失しているホスファターゼ及びテンシンホモログ(PTEN)」は、本開示の文脈ではホスファチジルイノシトール-3,4,5-トリスリン酸3-ホスファターゼ(PTEN; 遺伝子 ID: 5728; UniProtKB# P60484)をコードする遺伝子を指すために使用される。用語「PTEN-アルファ」又は「PTEN-α」は、ATG開始配列の519塩基対上流の代替翻訳開始部位から生じるPTENの576アミノ酸翻訳バリアント(P60484-2;別名PTEN-Long)を指すために使用され、正常なPTEN翻訳領域にN末端アミノ酸173個が加わっている。一例では、PTEN-アルファは、配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む。別の例では、PTEN-アルファは、Hopkinsら、(2013) Science., 6144:399~402頁に記載されている。用語「第10染色体で欠失しているホスファターゼ及びテンシンホモログ(PTEN)アルファ」は、本開示の文脈ではPTEN-アルファをコードする遺伝子を指すために使用される。一例では、PTEN-アルファは、配列番号1、又は配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするそのバリアントを含む核酸によってコードされる。したがって、一例では、本明細書に開示される細胞の集団は、配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする核酸の発現を増加させるように改変され得る。一例では、PTEN-アルファを発現する核酸は、PTEN翻訳よりも高いレベルのPTEN-アルファ翻訳を促進するように改変される。一例では、PTEN-アルファを発現する核酸は、がん細胞においてPTENに翻訳されない。
【0041】
別の例では、PTEN-アルファは、PTEN遺伝子(遺伝子ID: 5728)に対応する配列を含む核酸によってコードされており、PTEN-アルファCUG開始コドンは、AUGに変異されている。この例では、PTEN AUG開始コドンも変異されている場合がある。例えばPTEN AUG開始コドンはAUAに変異されている。これらの例では、本明細書に開示される細胞の集団は、そのような核酸の発現を増加させるように改変され得る。
【0042】
本明細書において使用される場合、「PTEN変異又は欠損がん」は、個体由来のがんの検査試料を検査することによってPTENタンパク質に1つ又は複数の変異を有すると同定された、又は正常細胞におけるタンパク質/遺伝子のレベルと比較してPTEN遺伝子が非存在である若しくは低下しているがんである。PTEN変異又は欠損は、神経膠芽腫、子宮内膜がん、結腸がん、肺がん、乳がん、前立腺がん及び卵巣がんを含む多数のがんにおいて観察されている。一例では、PTEN変異又は欠損がんは、PTENに変異を有する。別の例では、PTEN変異又は欠損がんは、PTEN-アルファに変異を有する。
【0043】
種々の対象は、本開示による細胞組成物を投与され得る。一例では、対象は哺乳動物である。哺乳動物は、イヌ若しくはネコ等のコンパニオン動物、又はウマ若しくはウシ等の家畜動物であってよい。別の例では、対象はヒトである。「対象」、「患者」又は「個体」等の用語は、本開示で文脈において互換的に使用され得る用語である。
【0044】
本明細書において使用される場合、用語「処置」は、臨床病理の経過の際に処置される個体又は細胞の自然の経過を変更するように設計された臨床的介入を指す。処置の望ましい効果は、疾患進行の速度を減少させること、疾患状態を回復させること又は軽減すること及び寛解又は予後の改善を含む。例えば疾患に関連する1つ又は複数の症状が緩和される又は除かれる場合に、個体は良好に「処置される」。
【0045】
「有効量」は、望ましい治療的又は予防的結果を達成するために必要な投薬量での及び期間での、有効な最低量を指す。有効量は、1回又は複数回の投与で提供され得る。本開示の一部の例では、用語「有効量」は、本明細書で前述の疾患又は状態の処置をもたらすために必要な量を指すために使用される。有効量は、処置される疾患又は状態に応じて、並びに処置される哺乳動物の体重、年齢、人種的バックグラウンド、性別、健康状態及び/又は体調並びに関連する他の要因にも応じて変動する場合がある。典型的には、有効量は、医師による日常的な検査及び実験を通じて決定され得る比較的広い範囲(例えば「投薬量」範囲)内にある。有効量は、単一用量で、又は処置期間にわたって1回若しくは複数回繰り返される用量で投与され得る。
【0046】
「治療有効量」は、特定の障害(例えば、がん)の測定可能な改善をもたらすために必要な最低濃度である。本明細書において治療有効量は、患者の疾患状態、年齢、性別及び体重並びに、個体において望ましい応答を生じる細胞組成物の能力等の要因に応じて変動する場合がある。治療有効量は、組成物の治療的に有益な効果がいかなる毒性又は有害効果も上回るものでもある。がんの場合、治療有効量は、がん細胞の数を低減できる;原発腫瘍サイズを低減できる;末梢器官へのがん細胞浸潤を妨げられる(すなわち、ある程度遅くする、及び一部の例では止める);腫瘍転移を妨げられる(すなわち、ある程度遅くする、及び一部の例では止める);ある程度、腫瘍成長若しくは腫瘍進行を妨げられる若しくは遅らせられる;及び/又は障害に伴う1つ若しくは複数の症状をある程度軽減できる。既存のがん細胞の成長を予防する及び/又は死滅できる程度まで、本開示による組成物は細胞増殖抑制性及び/又は細胞傷害性であり得る。がん治療についてin vivoでの有効性は、例えば生存期間、病勢進行までの時間(TTP)、奏効率(RR)、奏功期間(duration of response)及び/又は生活の質を評価することによって測定され得る。
【0047】
一例では、具体的なマーカーのレベルは、培養状態下で決定される。用語「培養状態」は、培養中で増殖(growing)している細胞を指すために使用される。一例では、培養状態は、細胞の活発に分裂している集団を指す。そのような細胞は、一例では、対数増殖(growth)期にあり得る。例えば具体的なマーカーのレベルは、細胞培養培地の試料を採取し、試料中のマーカーのレベルを測定することによって決定され得る。別の例では、具体的なマーカーのレベルは、細胞の試料を採取し、細胞可溶化物中のマーカーのレベルを測定することによって決定され得る。当業者は、分泌マーカーを、培養物培地を試料採取することによって測定することになり、一方、細胞の表面に発現されるマーカーは、細胞可溶化物の試料を評価することによって測定し得る。一例では、試料は、細胞が対数増殖(growth)期にある際に採取される。一例では、試料は、少なくとも2日間培養された後に採取される。
【0048】
凍結保存された中間物から細胞を培養増殖することは、低温貯蔵凍結された細胞を解凍すること及び細胞の増殖(growth)のために好適な条件下でin vitro培養することを意味する。
【0049】
間葉系前駆細胞又は幹細胞
本明細書において使用される場合、用語「間葉系前駆細胞又は幹細胞」は、多分化能を維持しながら自己複製する能力並びに間葉系由来のいずれかの多数の細胞型、例えば骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、間質性細胞、線維芽細胞及び腱、又は非中胚葉由来、例えば肝細胞、神経細胞及び上皮細胞に分化する能力を有する未分化の多能性細胞を指す。種々の例では本開示は、間葉系前駆細胞又は幹細胞の集団を包含し、前記細胞は、腫瘍細胞への移動を増強するように改変される。一例では本開示は、組換えウイルスを含む間葉系前駆細胞又は幹細胞の集団を包含し、前記細胞は、腫瘍細胞への移動を増強するように改変される。例えば本開示は、間葉系前駆細胞又は幹細胞の集団を包含し、前記細胞は、腫瘍細胞への移動を増強するのに十分に、第10染色体で欠失しているホスファターゼ及びテンシンホモログアルファ(PTENα)の発現が増加するように改変される。別の例では、本開示は、間葉系前駆細胞又は幹細胞の集団を包含し、前記細胞は、PTENαをコードするポリヌクレオチドを含む組換えウイルスを導入するように改変される。この例では、ウイルスからのPTENαの発現及びPTENαタンパク質への同物の翻訳は、腫瘍細胞への移動を増強するために十分である。
【0050】
用語「間葉系前駆細胞又は幹細胞」は、親細胞及びそれらの未分化後代の両方を含む。用語は、間葉系前駆細胞又は幹細胞(MPC)、多能性間質細胞、間葉系幹細胞、血管周囲間葉系前駆細胞又は幹細胞、及びこれらの未分化後代も含む。したがって、一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、間葉系幹細胞である。
【0051】
間葉系前駆細胞又は幹細胞は、自己、同種、異種、シンジェニック(syngeneic)又は同系(isogeneic)であり得る。自己細胞は、再移植される同じ個体から単離される。同種細胞は、同じ種のドナーから単離される。異種細胞は、別の種のドナーから単離される。シンジェニック又は同系細胞は、双生児、クローン又は高度に純系の研究動物モデル等の遺伝的に同一の生物から単離される。
【0052】
一例では間葉系前駆細胞又は幹細胞は、同種である。一例では、同種間葉系前駆細胞又は幹細胞は、培養増殖され、凍結保存される。
【0053】
間葉系前駆細胞又は幹細胞は、主に骨髄に存在するが例えば、臍帯血及び臍帯、成体末梢血液、脂肪組織、海綿骨及び歯髄が挙げられる多様な宿主組織に存在することも示されている。
【0054】
一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、STRO-1及び1つ又は複数のインテグリンを発現する。インテグリンは、細胞-細胞及び細胞-細胞外マトリクス付着事象の両方を媒介する細胞接着受容体の種類である。インテグリンは、ヘテロ二量体ポリペプチドからなり、単一のα鎖ポリペプチドは、単一のβ鎖と非共有結合的に会合している。現在、細胞接着受容体のインテグリンファミリーを構成する約16種の異なるα鎖ポリペプチド及び少なくとも約8種の異なるβ鎖ポリペプチドがある。一般に、異なる結合特異性及び組織分布は、α及びβ鎖ポリペプチド又はインテグリンサブユニットの固有の組合せに由来する。特定のインテグリンが会合するファミリーは、βサブユニットによって通常特徴付けられる。しかし、インテグリンのリガンド結合活性は、αサブユニットによって大きく影響を受ける。
【0055】
一例では、本開示による間葉系前駆細胞又は幹細胞は、STRO-1及びβ1(CD29)鎖ポリペプチドを有するインテグリンを発現する。
【0056】
別の例では、本開示による間葉系前駆細胞又は幹細胞は、STRO-1並びにα1 (CD49a)、α2 (CD49b)、α3 (CD49c)、α4 (CD49d)、α5 (CD49e)及びαv (CD51)からなる群から選択されるα鎖ポリペプチドを有するインテグリンを発現する。したがって、一例では、本開示による間葉系前駆細胞又は幹細胞は、STRO-1及びα1を発現する。別の例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、STRO-1及びα2を発現する。別の例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、STRO-1及びα3を発現する。別の例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、STRO-1及びα4を発現する。別の例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、STRO-1及びα5を発現する。別の例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、STRO-1及びαvを発現する。別の例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、STRO-1、α2及びα3を発現する。別の例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、STRO-1、α2及びα5を発現する。別の例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、STRO-1、α3及びα5を発現する。別の例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、STRO-1、α2、α3及びα5を発現する。
【0057】
別の例では、本開示は、STRO-1及びα1+細胞について濃縮された間葉系前駆細胞又は幹細胞の集団を包含する。この例では、α1+細胞について濃縮された集団は、少なくとも約3%又は4%又は5%のα1+細胞を含み得る。
【0058】
別の例では、本開示は、STRO-1及びα2+細胞について濃縮された間葉系前駆細胞又は幹細胞の集団を包含する。この例では、α2+細胞について濃縮された集団は、少なくとも約30%又は40%又は50%のα2+細胞を含み得る。
【0059】
別の例では、本開示は、STRO-1及びα3+細胞について濃縮された間葉系前駆細胞又は幹細胞の集団を包含する。この例では、α3+細胞について濃縮された集団は、少なくとも約40%又は45%又は50%のα3+細胞を含む。
【0060】
別の例では、本開示は、STRO-1及びα4+細胞について濃縮された間葉系前駆細胞又は幹細胞の集団を包含する。この例では、α4+細胞について濃縮された集団は、少なくとも約5%又は6%又は7%のα4+細胞を含む。
【0061】
別の例では、本開示は、STRO-1及びα5+細胞について濃縮された間葉系前駆細胞又は幹細胞の集団を包含する。この例では、α5+細胞について濃縮された集団は、少なくとも約45%又は50%又は55%のα5+細胞を含む。
【0062】
別の例では、本開示は、STRO-1及びαv+細胞について濃縮された間葉系前駆細胞又は幹細胞の集団を包含する。この例では、αv+細胞について濃縮された集団は、少なくとも約5%又は6%又は7%のαv+細胞を含む。
【0063】
別の例では、本開示は、STRO-1、α1+、α3+、α4+及びα5+細胞について濃縮された間葉系前駆細胞又は幹細胞の集団を包含する。
【0064】
上の例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、β1鎖ポリペプチドを有する場合がある。例えば本開示による間葉系前駆細胞又は幹細胞は、α1β1、α2β1、α3β1、α4β1及びα5β1からなる群から選択されるインテグリンを発現できる。したがって、一例では、本開示による間葉系前駆細胞又は幹細胞は、STRO-1及びα1β1を発現する。別の例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、STRO-1及びα2β1を発現する。別の例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、STRO-1及びα4β1を発現する。別の例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、STRO-1及びα5β1を発現する。
【0065】
別の例では、本開示による間葉系前駆細胞又は幹細胞は、STRO-1及びβ3 (CD61)鎖ポリペプチドを有するインテグリンを発現する。一例では、本開示は、STRO-1及びβ3+細胞について濃縮された間葉系前駆細胞又は幹細胞の集団を包含する。この例では、β3+細胞について濃縮された集団は、少なくとも約8%又は10%又は15%のβ3+細胞を含む。別の例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、STRO-1及びαvβ3を発現する。別の例では、本開示による間葉系前駆細胞又は幹細胞は、STRO-1及び、β5 (ITGB5)鎖ポリペプチドを有するインテグリンを発現する。一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、STRO-1及びαvβ5を発現する。別の例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、STRO-1及びαvβ6を発現する。
【0066】
上に参照されるインテグリンを発現する間葉系前駆細胞又は幹細胞について同定すること、及び/又は濃縮することは、当技術分野において周知の種々の方法を使用して達成され得る。一例では、所望のインテグリンポリペプチド鎖又はその組合せを発現する細胞を同定及び選択するために、商業的に入手できる抗体(例えば、Thermofisher社; Pharmingen社; Abcam社)を使用する蛍光標示式細胞分取(FACS)が使用され得る。
【0067】
一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、STRO-1並びにコクサッキーウイルス及びアデノウイルス受容体を発現する。別の例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、STRO-1、コクサッキーウイルス及びアデノウイルス受容体並びに上に参照されたインテグリンの1つ又は複数を発現する。
【0068】
別の例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、STRO-1、コクサッキーウイルス及びアデノウイルス受容体、αvβ3並びにαvβ5を発現する。
【0069】
一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、上に参照されたインテグリンの1つ若しくは複数、又はコクサッキーウイルス及びアデノウイルス受容体をそれらの細胞表面に発現するように遺伝的に改変される。
【0070】
一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、STRO-1、キメラ抗原受容体(CAR)を発現する。例えば間葉系前駆細胞又は幹細胞は、STRO-1、CAR、αvβ3及びαvβ5を発現する。
【0071】
一例では、CARを発現する間葉系前駆細胞又は幹細胞は、T細胞媒介免疫応答を引き起こし得る。別の例では、CARは、間葉系前駆細胞又は幹細胞をがん細胞に付着させる手段として作用する。別の例では、CARは、間葉系前駆細胞又は幹細胞のがん細胞への付着の増強を引き起こす手段として作用する。
【0072】
一例では、CARは、細胞外抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞内ドメインから構成される。一例では、抗原結合ドメインは、1つ又は複数の腫瘍抗原に対する親和性を有する。例示的腫瘍抗原として、HER2、CLPP、707-AP、AFP、ART-4、BAGE、MAGE、GAGE、SAGE、b-カテニン/m、bcr-abl、CAMEL、CAP-1、CEA、CASP-8、CDK/4、CDC-27、Cyp-B、DAM-8、DAM-10、ELV-M2、ETV6、G250、Gp100、HAGE、HER-2/neu、EPV-E6、LAGE、hTERT、サバイビン、iCE、MART-1、チロシナーゼ、MUC-1、MC1-R、TEL/AML及びWT-1が挙げられる。
【0073】
例示的細胞内ドメインとして、CD3-ゼータ、CD28、4-IBB等が挙げられ、一部の場合ではCARは、CD3-ゼータ、CD28、4-1BB、TLR-4の任意の組合せを含み得る。
【0074】
例示的膜貫通ドメインは、T細胞受容体のアルファ、ベータ又はゼータ鎖、CD28、CD3イプシロン、CD45、CD4、CD5、CDS、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、35CD154に由来し得る(すなわち、その膜貫通領域を少なくとも含む)。別の例では、膜貫通ドメインは、合成されてよく、その場合、ロイシン及びバリン等の主に疎水性の残基を含む。
【0075】
間葉系前駆細胞又は幹細胞は、上に参照されるもの等の宿主組織から単離され、免疫選択によって濃縮され得る。例えば対象由来の骨髄穿刺液は、間葉系前駆細胞又は幹細胞の選択を可能にするようなSTRO-1又はTNAPに対する抗体を用いて更に処置され得る。一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、Simmons & Torok-Storb, 1991に記載されるSTRO-1抗体を使用することによって濃縮され得る。
【0076】
STRO-1+細胞は、骨髄、血液、歯髄細胞、脂肪組織、皮膚、脾臓、膵臓、脳、腎臓、肝臓、心臓、網膜、脳、毛包、腸、肺、リンパ節、胸腺、骨、靱帯、腱、骨格筋、真皮及び骨膜において見出される細胞であり;中胚葉及び/又は内胚葉及び/又は外胚葉等の生殖系列に分化することができる。それにより、STRO-1+細胞は、これだけに限らないが、脂肪、骨(osseous)、軟骨、弾性、筋肉及び線維性結合組織を含む多数の細胞型に分化することができる。これらの細胞が進む特異的な分化系列決定及び分化経路は、機械的影響並びに/又は成長因子、サイトカイン、及び/若しくは、宿主組織によって確立される局所的な微小環境状態等の内在性の生理活性因子からの種々の影響に依存する。
【0077】
本明細書において使用される場合、用語「濃縮された」は、未処置の細胞集団(例えば、天然の環境にある細胞)と比較して、1つの特定の細胞型の割合又は多数の特定の細胞型の割合が増加している細胞の集団を記載する。一例では、STRO-1+細胞について濃縮された集団は、少なくとも約0.1%又は0.5%又は1%又は2%又は5%又は10%又は15%又は20%又は25%又は30%又は50%又は75%のSTRO-1+細胞を含む。これに関して、用語「STRO-1+細胞について濃縮された細胞の集団」は、用語「X%のSTRO-1+細胞を含む細胞の集団」を明確に支持すると解釈され、ここでX%は、本明細書において列挙される百分率である。STRO-1+細胞は、一部の例では、クローン原性コロニー、例えばCFU-F(線維芽細胞)を形成でき、又はそれらのサブセット(例えば、50%又は60%又は70%又は70%又は90%又は95%)はこの活性を有し得る。
【0078】
一例では、細胞の集団は、選択可能な形態でSTRO-1+細胞を含む細胞調製物から濃縮される。これに関連して、用語「選択可能な形態」は、細胞がSTRO-1+細胞の選択を可能にするマーカー(例えば、細胞表面マーカー)を発現することを意味すると理解される。マーカーは、STRO-1であり得るが、必ずしもそうではない。例えば、本明細書に記載、及び/又は例示されるとおり、STRO-2及び/又はSTRO-3(TNAP)及び/又はSTRO-4及び/又はVCAM-1及び/又はCD146及び/又は3G5を発現する細胞(例えば、MPC)は、STRO-1も発現する(及びSTRO-1強陽性(bright)であり得る)。したがって、細胞がSTRO-1+であるという表示は、細胞がSTRO-1発現によって選択されていることを意味しない。一例では、細胞は、少なくともSTRO-3発現に基づいて選択され、例えばそれらはSTRO-3+ (TNAP+)である。
【0079】
細胞又はその集団の選択を参照することは、特定の組織供給源からの選択を必ずしも必要としない。本明細書に記載されるとおり、STRO-1+細胞は、多様な供給源から選択又は単離又は濃縮され得る。そのため、一部の例では、これらの用語は、STRO-1+細胞又は血管柄付き組織又はペリサイト(例えば、STRO-1+若しくは3G5+ペリサイト)を含む組織又は本明細書で列挙される組織の任意の1つ又は複数を含む任意の組織からの選択を支持する。
【0080】
一例では、本開示の間葉系前駆細胞又は幹細胞は、TNAP+、VCAM-1+、THY-1+、STRO-2+、STRO-4+ (HSP-90β)、CD45+、CD146+、3G5+からなる群から個々に又は集合的に選択される1つ又は複数のマーカーを発現する。
【0081】
「個々に」によって、本開示が、列挙されるマーカー又はマーカーの群を別々に包含し、しかも、個々のマーカー又はマーカーの群が本明細書に別々に記載されていない場合があるにもかかわらず、添付の特許請求の範囲は、そのようなマーカー又はマーカーの群を別々に及び互いに分けることができる状態で定義できることが意味される。
【0082】
「集合的に」によって、本開示が、列挙されるマーカー又はマーカーの群の任意の数又は組合せを包含し、しかもマーカー又はマーカーの群のそのような数又は組合せが本明細書に特異的に記載されていない場合があるにもかかわらず、添付の特許請求の範囲は、そのような組合せ又はサブ組合せをマーカー又はマーカーの群の任意の他の組合せから別々に及び互いに分けることができる状態で定義できることが意味される。
【0083】
所与のマーカーについて「陽性(positive)」であると称される細胞は、マーカーが細胞表面に存在する程度に応じて、低い(低陽性(lo)若しくは弱陽性(dim)若しくは微陽性(dull))、中等度(中間値(median))又は高い(強陽性、bri)レベルのマーカーを発現でき、ここで用語は、細胞の選別プロセス又は細胞のフローサイトメトリー分析において使用される蛍光又は他のマーカーの強度に関連する。低い(低陽性若しくは弱陽性若しくは微陽性)、中等度(中間値)又は高い(強陽性、bri)の区別は、選別又は分析される特定の細胞集団で使用されるマーカーの文脈で理解される。所与のマーカーについて「陰性」であると称される細胞は、必ずしも細胞で完全に非存在でなくてもよい。この用語は、マーカーがその細胞によって比較的非常に低いレベルで発現されること、及び検出可能に標識された場合に非常に低いシグナルを生じる、又はバックグラウンドレベル、例えばアイソタイプ対照抗体を使用して検出されるレベルを超えて検出できないこと、を意味する。
【0084】
本明細書において使用される場合、用語「強陽性(bright)」又はbriは、検出可能に標識された場合に、比較的高いシグナルを生成する細胞表面上のマーカーを指す。理論によって限定されることを望まない一方で、「強陽性」細胞が、試料中の他の細胞よりも多い標的マーカータンパク質(例えば、STRO-1抗体によって認識される抗原)を発現することが提案される。例えば、STRO-1bri細胞は、FITCコンジュゲートSTRO-1抗体で標識された場合に、蛍光標示式細胞分取(FACS)分析によって決定されるとおり、非強陽性細胞(STRO-1低陽性/弱陽性/微陽性/中等度/中間値)よりも大きな蛍光シグナルを産生する。一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、骨髄から単離され、STRO-1+細胞の選択によって濃縮される。この例では、「強陽性」細胞は、出発試料に含有される最も強陽性に標識された骨髄単核細胞の少なくとも約0.1%を構成する。他の例では、「強陽性」細胞は、出発試料に含有される最も強陽性に標識された骨髄単核細胞の少なくとも約0.1%、少なくとも約0.5%、少なくとも約1%、少なくとも約1.5%又は少なくとも約2%を構成する。一例では、STRO-1強陽性細胞は、「バックグラウンド」、すなわちSTRO-1-である細胞と比較して、2logの大きさで高い発現のSTRO-1表面発現を有する。比較して、STRO-1低陽性/弱陽性/微陽性及び/又はSTRO-1中等度/中間値細胞は、STRO-1表面発現の高い発現より2logの大きさ低い、典型的には「バックグラウンド」の約1log以下である。
【0085】
一例では、STRO-1+細胞は、STRO-1強陽性である。一例では、STRO-1強陽性細胞は、STRO-1低陽性(lo)/弱陽性(dim)/微陽性(dull)又はSTRO-1中等度/中間値細胞と比較して優先的に濃縮される。
【0086】
一例では、追加的にSTRO-1強陽性細胞は、TNAP+、VCAM-1+、THY-1+、STRO-2+、STRO-4+ (HSP-90β)及び/又はCD146+の1つ又は複数である。例えば細胞は、前述のマーカーの1つ若しくは複数について選択される、及び/又は前述マーカーの1つ若しくは複数を発現すると示されている。これに関して、マーカーを発現すると示された細胞は、特異的に検査される必要はなく、むしろ予め濃縮又は単離された細胞は、検査されてよく、続いて使用、単離された又は濃縮された細胞は、同マーカーも発現すると合理的に推測され得る。
【0087】
一例では、STRO-1強陽性細胞は、血管周囲マーカー3G5の存在によって特徴付けられる、WO 2004/85630において定義される血管周囲間葉系前駆細胞又は幹細胞である。
【0088】
本明細書において使用される場合、用語「TNAP」は、組織非特異的アルカリホスファターゼのすべてのアイソフォームを包含することが意図される。例えば用語は、肝臓アイソフォーム(LAP)、骨アイソフォーム(BAP)及び腎臓アイソフォーム(KAP)を包含する。一例では、TNAPはBAPである。一例では、TNAPは、ブタペスト条約の規定下で2005年12月19日に寄託受入番号PTA-7282でATCCに寄託された融合細胞細胞株によって産生されるSTRO-3抗体に結合できる分子を指す。
【0089】
更に、一例ではSTRO-1+細胞は、クローン原性CFU-Fを生じることができる。
【0090】
一例では、顕著な割合のSTRO-1+細胞は、少なくとも2つの異なる生殖系列に分化することができる。細胞が深く関与し得る細胞系の非限定的例として、骨前駆細胞;胆管上皮細胞及び肝細胞について多能性である肝細胞前駆細胞(progenitor);オリゴデンドロサイト及びアストロサイトに進むグリア前駆細胞を生成できる神経限定細胞(neural restricted cell);神経細胞に進む神経前駆細胞;心筋及び心筋細胞についての前駆細胞、グルコース応答性インスリン分泌膵臓ベータ細胞株が挙げられる。他の細胞系として、これだけに限らないが、象牙芽細胞、象牙質産生細胞及び軟骨細胞、並びに次の細胞:網膜色素上皮細胞、線維芽細胞、ケラチノサイト等の皮膚細胞、樹状細胞、毛包細胞、腎管(renal duct)上皮細胞、平滑及び骨格筋細胞、精巣前駆細胞(progenitor)、血管内皮細胞、腱、靱帯、軟骨、脂肪細胞、線維芽細胞、骨髄間質、心筋、平滑筋、骨格筋、ペリサイト、血管、上皮、グリア、神経細胞、アストロサイト及びオリゴデンドロサイト細胞の前駆細胞が挙げられる。
【0091】
一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞はMSCである。MSCは、均一な組成物であり得る、又はMSCが濃縮された混合細胞集団であり得る。均一なMSC組成物は、接着性骨髄又は骨膜細胞を培養することによって得ることができ、MSCは、固有のモノクローナル抗体を用いて同定される特異的細胞表面マーカーによって同定され得る。MSCが濃縮された細胞集団を得るための方法は、例えば米国特許第5486359号に記載されている。従来のプラスチック接着単離によって調製されるMSCは、CFU-Fの非特異的プラスチック接着特性に依存する。STRO-1に基づく免疫選択によって骨髄から単離された間葉系前駆細胞又は幹細胞は、他のプラスチック接着骨髄集団の非存在下で骨髄集団からクローン原性間葉系前駆細胞を特異的に単離する。MSCについての代替的供給源としては、これだけに限らないが、血液、皮膚、臍帯血、筋肉、脂肪、骨及び軟骨膜が挙げられる。一例では、MSCは同種である。一例では、MSCは凍結保存される。一例では、MSCは、培養増殖され、凍結保存される。
【0092】
一例では間葉系前駆細胞又は幹細胞は、人工多能性幹細胞(iPS細胞)等の多能性細胞に由来する。一実施形態では、多能性細胞はヒト多能性細胞である。多能性細胞から間葉系前駆細胞又は幹細胞を生成するための好適なプロセスは、例えばUS 7,615,374及びUS 2014273211、Barberiら、; Plos medicine, Vol 2(6):0554~0559頁(2005)及びVodyanikら、Cell Stem cell, Vol 7:718~728頁(2010)に記載されている。
【0093】
別の例では間葉系前駆細胞又は幹細胞は、不死化される。不死化された間葉系前駆細胞又は幹細胞の生成のための例示的なプロセスは、例えば、Obinata M., Cell, Vol 2:235~244頁(1997)、US 9,453,203、Akimovら、Stem Cells, Vol 23:1423~1433頁及びKabaraら、Laboratory Investigation, Vol 94: 1340~1354頁(2014)に記載されている。
【0094】
本開示の好ましい実施形態では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、健常者の骨髄から濃縮された間葉系前駆細胞又は幹細胞に由来するマスターセルバンクから得られる。そのような供給源由来の間葉系前駆細胞又は幹細胞の使用は、間葉系前駆細胞又は幹細胞ドナーとして役立つことができる適切な家族を有さない、又は緊急処置を必要とし、間葉系前駆細胞若しくは幹細胞を生成するために必要な時間に再発、疾患に関連する減退若しくは死亡のリスクが高い対象について特に有利である。
【0095】
別の例では間葉系前駆細胞は、Cx43を発現する。別の例では、間葉系前駆細胞は、Cx40を発現する。別の例では間葉系前駆細胞は、Cx43及びCx40を発現する。別の例では、間葉系前駆細胞は、Cx45、Cx32及び/又はCx37を発現する。一例では間葉系前駆細胞は、特定のコネキシンを発現するように改変されない。
【0096】
単離された又は濃縮された間葉系前駆細胞は、培養によってin vitroで増殖され得る。単離された又は濃縮された間葉系前駆細胞は、凍結保存、解凍及び続いて培養によってin vitroで増殖され得る。
【0097】
一例では単離された又は濃縮された間葉系前駆細胞は、培養培地(血清不含有若しくは血清補充)、例えば5%ウシ胎児血清(FBS)及びグルタミンを補充されたアルファ最小必須培地(αMEM)に生細胞50,000個/cm2で播種され、一晩、37℃、20%O2で培養物容器に接着される。培養培地は、次に必要に応じて置き換えられる、及び/又は変更され、細胞は更に68から72時間、37℃、5% O2で培養される。
【0098】
当業者によって理解されるとおり、培養された間葉系前駆細胞は、in vivoでの細胞とは表現型的に異なる。例えば一実施形態では、それらは、次のマーカー、CD44、NG2、DC146及びCD140bの1つ又は複数を発現する。培養された間葉系前駆細胞は、in vivoでの細胞とは生物学的にも異なり、in vivoでの大部分が非周期の(静止状態)細胞と比較して高い増殖(proliferation)速度を有する。
【0099】
一例では間葉系前駆細胞又は幹細胞は、単一のドナー、又は複数のドナーから得られ、ここでドナー試料又は間葉系前駆細胞若しくは幹細胞は、続いてプールされ、次いで培養増殖される。
【0100】
本開示によって包含される間葉系前駆細胞又は幹細胞は、対象への投与の前に凍結保存されてもよい。一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、対象への投与の前に培養増殖及び凍結保存される。
【0101】
一例では本開示は、間葉系前駆細胞又は幹細胞及びこれらの後代、それらに由来する可溶性因子及び/又はそれらから単離された細胞外小胞を包含する。別の例では本開示は、間葉系前駆細胞又は幹細胞及びそれらから単離された細胞外小胞を包含する。例えば、細胞培養培地への細胞外小胞の分泌のために好適な期間及び条件下で本開示の間葉系前駆細胞系列又は幹細胞を培養増殖することは可能である。分泌された細胞外小胞は、次に、治療における使用のために培養培地から得ることができる。
【0102】
本明細書において使用される場合、用語「細胞外小胞」は、細胞から自然に放出され、典型的にはそれらはサイズ200nm未満であるが、約30nmから10ミクロンの大きさの範囲のサイズの脂質粒子を指す。それらは、タンパク質、核酸、脂質、代謝物又は放出した細胞(例えば、間葉系幹細胞;STRO-1+細胞)からのオルガネラを含有する場合がある。
【0103】
本明細書において使用される場合、用語「エキソソーム」は、一般に約30nmから約150nmの範囲のサイズで、それから細胞膜に輸送され、放出される哺乳動物細胞のエンドソームコンパートメントから生じる細胞外小胞の一種を指す。それらは、核酸(例えば、RNA;マイクロRNA)、タンパク質、脂質及び代謝物を含有でき、それらのカーゴを送達するために、ある細胞から分泌され、他の細胞によって取り込まれることによる細胞間情報伝達において機能する。
【0104】
細胞の培養増殖
一例では間葉系前駆細胞又は幹細胞は、培養増殖される。「培養増殖された」間葉系前駆細胞又は幹細胞培地は、細胞培養培地で培養され、継代培養された(すなわち、サブカルチャーされた)点で、新鮮に単離された細胞とは区別される。一例では培養増殖された間葉系前駆細胞又は幹細胞は、約4~10回継代培養増殖される。一例では間葉系前駆細胞又は幹細胞は、少なくとも5回、少なくとも6回、少なくとも7回、少なくとも8回、少なくとも9回、少なくとも10回継代培養増殖される。例えば間葉系前駆細胞又は幹細胞は、少なくとも5回継代培養増殖され得る。一例では間葉系前駆細胞又は幹細胞は、少なくとも5~10回継代培養増殖され得る。一例では間葉系前駆細胞又は幹細胞は、少なくとも5~8回継代培養増殖され得る。一例では間葉系前駆細胞又は幹細胞は、少なくとも5~7回継代培養増殖され得る。一例では間葉系前駆細胞又は幹細胞は、10回を超えて継代培養増殖され得る。別の例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、7回を超えて継代培養増殖され得る。これらの例では、幹細胞は、中間凍結保存MLPSC集団をもたらすように凍結保存される前に培養増殖され得る。一例では本開示の組成物は、中間凍結保存MLPSC集団、又は言い換えると凍結保存中間物から細胞を培養することによって産生される。
【0105】
一例では本開示の組成物は、凍結保存中間物から培養増殖された間葉系前駆細胞又は幹細胞を含む。一例では凍結保存された中間物から培養増殖された細胞は少なくとも5回、少なくとも6回、少なくとも7回、少なくとも8回、少なくとも9回、少なくとも10回継代培養増殖される。例えば間葉系前駆細胞又は幹細胞は、少なくとも5回継代培養増殖され得る。一例では間葉系前駆細胞又は幹細胞は、少なくとも5~10回継代培養増殖され得る。一例では間葉系前駆細胞又は幹細胞は、少なくとも5~8回継代培養増殖され得る。一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、少なくとも5~7回継代培養増殖され得る。一例では間葉系前駆細胞又は幹細胞は、10回を超えて継代培養増殖され得る。別の例では間葉系前駆細胞又は幹細胞は、7回を超えて継代培養増殖され得る。
【0106】
一例では凍結保存中間物から培養増殖される間葉系前駆細胞又は幹細胞は、動物タンパク質不含有の培地で培養増殖され得る。一例では凍結保存中間物から培養増殖される間葉系前駆細胞又は幹細胞は、異種成分不含有培地で培養増殖され得る。一例では凍結保存中間物から培養増殖される間葉系前駆細胞又は幹細胞は、ウシ胎児血清不含有である培地で培養増殖され得る。
【0107】
一実施形態では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、単一のドナー、又は複数のドナーから得ることができ、ここでドナー試料又は間葉系前駆細胞若しくは幹細胞は、続いてプールされ、次いで培養増殖される。一例では培養増殖プロセスは:
i.生細胞の数を生細胞少なくとも約10億個の調製物を提供するように継代増殖によって増殖させることであって、継代増殖は、単離された間葉系前駆細胞又は幹細胞の初代培養を確立すること及び、次に先の培養物から単離された間葉系前駆細胞又は幹細胞の第1の非初代(P1)培養物を順次確立することを含む、こと;
ii.単離された間葉系前駆細胞又は幹細胞のP1培養物を間葉系前駆細胞又は幹細胞の第2の非初代(P2)培養物に継代増殖によって増殖させること;並びに、
iii.間葉系前駆細胞又は幹細胞のP2培養物から得られたインプロセス中間間葉系前駆細胞又は幹細胞調製物を調製すること及び凍結保存すること;並びに、
iv.凍結保存されたインプロセス中間間葉系前駆細胞又は幹細胞調製物を解凍し、インプロセス中間間葉系前駆細胞又は幹細胞調製物を継代増殖によって増殖させること
を含む。
【0108】
一例では増殖された間葉系前駆細胞又は幹細胞調製物は:
i.約0.75%未満のCD45+細胞;
ii.少なくとも約95%のCD105+細胞;
iii.少なくとも約95%のCD166+細胞
を含む、抗原プロファイル及び活性プロファイルを有する。
【0109】
一例では増殖された間葉系前駆細胞又は幹細胞調製物は、CD3/CD28活性化PBMCによるIL2Ra発現を、対照と比較して少なくとも約30%阻害することができる。
【0110】
一例では培養増殖された間葉系前駆細胞又は幹細胞は、約4~10回継代培養増殖されており、ここで間葉系前駆細胞又は幹細胞は、更に培養増殖される前に少なくとも2又は3回継代された後に凍結保存された。一例では間葉系前駆細胞又は幹細胞は、少なくとも1回、少なくとも2回、少なくとも3回、少なくとも4回、少なくとも5回継代培養増殖され、凍結保存され、次いで本開示の方法により培養される前に更に少なくとも1回、少なくとも2回、少なくとも3回、少なくとも4回、少なくとも5回継代培養増殖される。
【0111】
間葉系前駆細胞又は幹細胞単離及びex vivo増殖のプロセスは、当技術分野において周知の任意の装置及び細胞取り扱い(handing)方法を使用して実施され得る。本開示の種々の培養増殖実施形態は、細胞のマニピュレーションを必要とするステップ、例えば、播種、フィーディング(feeding)、接着培養の解離又は洗浄のステップを使用する。細胞をマニピュレートする任意のステップは、細胞を損傷する可能性を有する。間葉系前駆細胞又は幹細胞は、調製の際にある一定の程度の損傷に一般に耐えることができるが、細胞は、細胞への損傷を最小限にしながら所与のステップを適切に実施する取り扱い手順及び/又は装置によって好ましくはマニピュレートされる。
【0112】
一例では間葉系前駆細胞又は幹細胞は、例えば、参照により本明細書に組み込まれるUS 6,251,295に記載されるとおり、細胞源バッグ、洗浄溶液バッグ、再循環洗浄バッグ、入口及び出口ポートを有する回転膜フィルター、フィルターバッグ、混合領域、洗浄された細胞のための最終産物バッグ、並びに適切な管類を含む装置で洗浄される。
【0113】
一例では本開示により培養された間葉系前駆細胞又は幹細胞組成物は、CD105陽性及びCD166陽性であり、CD45陰性であることに関して95%均一である。一例ではこの均一性は、ex vivo増殖を通じて;すなわち複数回の集団倍加を通じて持続する。
【0114】
一例では本開示の間葉系前駆細胞又は幹細胞は、3D培養において培養増殖される。例えば本開示の間葉系前駆細胞又は幹細胞は、バイオリアクターにおいて培養増殖され得る。一例では本開示の間葉系前駆細胞又は幹細胞は、3D培養において更に増殖される前に2D培養において最初に培養増殖される。一例では本開示の間葉系前駆細胞又は幹細胞は、マスターセルバンクから培養増殖される。一例では本開示の間葉系前駆細胞又は幹細胞は、3D培養での播種の前に2D培養においてマスターセルバンクから培養増殖される。一例では本開示の間葉系前駆細胞又は幹細胞は、バイオリアクターでの3D培養での播種の前に少なくとも3日間2D培養においてマスターセルバンクから培養増殖される。一例では本開示の間葉系前駆細胞又は幹細胞は、バイオリアクターでの3D培養での播種の前に少なくとも4日間2D培養においてマスターセルバンクから培養増殖される。一例では本開示の間葉系前駆細胞又は幹細胞は、バイオリアクターでの3D培養での播種の前に3から5日間2D培養においてマスターセルバンクから培養増殖される。これらの例では2D培養は、細胞工場において実施され得る。種々の細胞工場産生物は、商業的に利用可能である(例えば、Thermofisher社、Sigma社)。
【0115】
Ang1及びVEGFレベル
別の態様では、本開示による間葉系前駆細胞又は幹細胞は、Ang1:VEGFを少なくとも約2:1の比で発現する。しかし、他の例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、Ang1:VEGFを少なくとも約10:1、15:1、20:1、21:1、22:1、23:1、24:1、25:1、26:1、27:1、28:1、29:1、30:1、31:1、32:1、33:1、34:1、35:1、50:1の比で発現する。
【0116】
間葉系前駆細胞又は幹細胞の組成物又は培養物において発現される細胞性Ang1及び/又はVEGFの量は、当業者に周知の方法によって決定され得る。そのような方法としては、これだけに限らないが、例えば定量的ELISAアッセイ等の定量的アッセイが挙げられる。この例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞の培養物からの細胞可溶化物は、ELISAプレートのウエルに加えられる。ウエルは、Ang1又はVEGFに対する一次抗体、モノクローナル又はポリクローナル抗体のいずれかを用いてコートされ得る。次にウエルは、洗浄され、次いで一次抗体に対する二次抗体、モノクローナル又はポリクローナル抗体のいずれかと接触される。二次抗体は、例えば西洋ワサビペルオキシダーゼ等の適切な酵素にコンジュゲートされている。次にウエルは、インキュベートされてよく、次にインキュベーション期間後に洗浄される。次にウエルは、二次抗体にコンジュゲートされた酵素のための適切な基質、例えば1つ又は複数の色素原等と接触される。使用される色素原としては、これだけに限らないが、過酸化水素及びテトラメチルベンジジンが挙げられる。基質が加えられた後に、ウエルは、適切な時間についてインキュベートされる。インキュベーションの完了時に、酵素と基質との反応を停止させるために「停止」溶液がウエルに加えられる。試料の光学密度(OD)は、次に測定される。試料の光学密度は、検査される幹細胞の培養物によって発現されるAng1又はVEGFの量を判定するための既知の量のAng1又はVEGFを含有する試料の光学密度と相関する。
【0117】
Ang1:VEGF発現比を決定するための方法も当業者に明らかである。例えばAng1及びVEGFの発現レベルは、上に考察したとおり定量的ELISAを介して定量され得る。Ang1及びVEGFのレベルを定量した後に、Ang1及びVEGFの定量されたレベルに基づく比は:(Ang1のレベル/VEGFのレベル) = Ang1:VEGF比として表され得る。
【0118】
一例では本開示の間葉系前駆細胞又は幹細胞は、上記の例示的なレベル又は比でAng1及び/又はVEGFを発現するように遺伝的に改変されない。Ang1及び/又はVEGFを発現するように遺伝的に改変されていない細胞は、Ang1及び/又はVEGFを発現する又はコードする核酸を用いたトランスフェクションによって改変されていない。誤解を避けるために、本開示の文脈では、Ang1及び/又はVEGFをコードする核酸を用いてトランスフェクトされた間葉系前駆細胞又は幹細胞は、遺伝的に改変されたと見なされる。本開示の文脈では、Ang1及び/又はVEGFを発現するように遺伝的に改変されていない細胞は、Ang1及び/又はVEGF1をコードする核酸を用いてトランスフェクションされることなくある程度のAng1及び/又はVEGFを自然に発現する。
【0119】
組換えウイルス
一実施形態では本明細書において定義される細胞は、組換えウイルスを導入するように改変される。用語「組換えウイルス」は、本開示の文脈では本明細書において定義される細胞(又はその集団)において目的の導入遺伝子を発現するウイルスを指すために使用される。一例では組換えウイルスは、間葉系前駆細胞又は幹細胞のがん細胞への移動を増加させる導入遺伝子を発現する。一例では組換えウイルスは単純ヘルペスウイルス骨格を含む。一例では組換えウイルスは、単純ヘルペスウイルスである。
【0120】
用語「腫瘍溶解性ウイルス」は、本開示の文脈ではがん細胞に感染し、成長を低下させることができるウイルスを指すために使用される。例えば腫瘍溶解性ウイルスは、細胞増殖(proliferation)を抑制できる。別の例では腫瘍溶解性ウイルスは、がん細胞を死滅させることができる。一例では腫瘍溶解性ウイルスは、対応する正常細胞と比較してがん細胞に優先的に感染し、成長を抑制する。別の例では、腫瘍溶解性ウイルスは、対応する正常細胞と比較してがん細胞で優先的に複製し、成長を抑制する。
【0121】
一例では腫瘍溶解性ウイルスは、がん細胞に自然な状態で感染し、成長を低下させることができる。そのようなウイルスの例としては、ニューカッスル病ウイルス、水疱性口内炎、粘液腫、レオウイルス、シンドビス、麻疹及びコクサッキーウイルスが挙げられる。腫瘍溶解性ウイルスは、がん細胞、一般に標的がん細胞に、これらの細胞において生じる細胞異常を利用することによって自然な状態で感染し、成長を低下させることができる。例えば腫瘍溶解性ウイルスは、表面付着(attachment)受容体、Ras、Akt、p53等の活性化された癌遺伝子及び/又はインターフェロン(IFN)経路欠損を利用できる。
【0122】
別の例では本開示によって包含される腫瘍溶解性ウイルスは、がん細胞に感染し、成長を低下させるように操作される。そのような操作のために好適な例示的ウイルスとしては、腫瘍溶解性DNAウイルス、例えばアデノウイルス、単純ヘルペスウイルス(HSV)及びワクチニアウイルス;並びに腫瘍溶解性RNAウイルス、例えばレンチウイルス、レオウイルス、コクサッキーウイルス、セネカバレーウイルス(Seneca Valley Virus)、ポリオウイルス、麻疹ウイルス、ニューカッスル病ウイルス、水疱性口内炎ウイルス(VSV)並びにパルボウイルス、例えばげっ歯類プロトパルボウイルスH-1PVが挙げられる。一例では、腫瘍溶解性ウイルスは、上に参照されたウイルスの骨格を含む。例えば腫瘍溶解性ウイルスは、HSV骨格を含み得る。一例では、腫瘍溶解性ウイルスはHSVである。
【0123】
一例では腫瘍溶解性ウイルスの腫瘍特異性は、がん細胞において増殖可能であるが、正常細胞におけるウイルスの生存のために必要な遺伝子を変異させる又は欠失させるように操作され得る。誤解を避けるために、変異された又は欠失された遺伝子を有する腫瘍溶解性ウイルスは、がん細胞への移行を可能にするために十分な期間について間葉系前駆細胞又は幹細胞において生存することができる。例えば腫瘍溶解性ウイルスは、核酸代謝のために必要な酵素、チミジンキナーゼをコードする遺伝子を変異させる又は欠失させることによって操作され得る。この例ではウイルスは、増殖性(proliferation)がん細胞において高いが、正常細胞において抑制されている細胞性チミジンキナーゼ発現に依存する。別の例では腫瘍溶解性ウイルスは、腫瘍特異的細胞表面分子に結合するカプシドタンパク質を含むように操作される。一例ではカプシドタンパク質は、ファイバー、ペントン又はヘキソンタンパク質である。別の例では、腫瘍溶解性ウイルスは、がん細胞を形質導入で標的化するための腫瘍特異的細胞表面分子を含むように操作される。例示的腫瘍特異的細胞表面分子としては、インテグリン、EGF受容体ファミリーメンバー、プロテオグリカン、ジシアロガングリオシド、B7-H3、CA-125、EpCAM、ICAM-1、DAF、A21、インテグリン-α2β1、血管内皮増殖(growth)因子受容体1、血管内皮増殖(growth)因子受容体2、CEA、腫瘍関連糖タンパク質、CD19、CD20、CD22、CD30、CD33、CD40、CD44、CD52、CD74、CD152、CD155、MUC1、腫瘍壊死因子受容体、インスリン様増殖(growth)因子受容体、葉酸受容体a、膜貫通糖タンパク質NMB、C-Cケモカイン受容体、PSMA、RON-受容体及び細胞傷害性T-リンパ球抗原4が挙げられる。
【0124】
別の例では腫瘍溶解性ウイルスは、感染された間葉系前駆細胞又は幹細胞のウイルスペイロードをがん細胞に送達する能力を増加させるように操作される。例えば腫瘍溶解性ウイルスは、がん細胞への間葉系前駆細胞系列又は幹細胞融合の誘導を媒介するためにウイルス膜融合性膜糖タンパク質を発現するように操作され得る。ウイルス膜融合性膜糖タンパク質の例としては、テナガザル類人猿白血病ウイルス(GLAV)エンベロープ糖タンパク質、麻疹ウイルスタンパク質F(MV-F)及び麻疹ウイルスタンパク質H(MV-H)が挙げられる。
【0125】
一例ではウイルス膜融合性膜糖タンパク質は、アデノウイルス主要後期プロモーター等の後期プロモーターの調節下にある。一例ではウイルス膜融合性膜糖タンパク質は、ウイルスDNA複製の開始後だけ活性であるUL38p (WO 2003/082200)等の厳密な後期プロモーター(strict late promoter)の調節下にある。そのようなプロモーター及び操作されたウイルスの例は、Fuら、(2003) Molecular Therapy, 7:748~54頁及びGuedanら、(2012) Gene Therapy, 19:1048~1057頁に開示されている。
【0126】
一例では腫瘍溶解性ウイルスは、複製コンピテントである。一例では腫瘍溶解性ウイルスは、対応する正常細胞及び/又は間葉系前駆細胞若しくは幹細胞と比較した場合に、がん細胞において選択的に複製する。一例では、腫瘍溶解性ウイルスの腫瘍特異性は、がん細胞において構成的に活性化される転写活性への依存によってウイルス複製を制限するように操作され得る(すなわち、条件的複製(conditional replication))。一例では腫瘍溶解性ウイルスは、条件的複製レンチウイルスである。別の例では、腫瘍溶解性ウイルスは、条件的複製アデノウイルス、レオウイルス、麻疹、単純ヘルペスウイルス、ニューカッスル病ウイルス又はワクシニアである。
【0127】
一例では条件的複製は、重要な遺伝子の発現を駆動する腫瘍特異的プロモーターの挿入によって達成される。そのようなプロモーターは、腫瘍、対応する周囲組織及び/又は間葉系前駆細胞若しくは幹細胞の間の遺伝子発現における差異に基づいて同定され得る。例えば、適切な腫瘍特異的プロモーターを同定する1つの方法は、腫瘍において高レベルで、対応する健康な組織及び/又は間葉系前駆細胞若しくは幹細胞において低レベルで発現される遺伝子を同定するために、腫瘍、対応する正常組織及び間葉系前駆細胞又は幹細胞の間の遺伝子発現レベルを比較することである。腫瘍特異的プロモーターは、天然又は複合であってよい。例示的な天然のプロモーターとしては、AFP、CCKAR、CEA、erbB2、Cerb2、COX2、CXCR4、E2F1、HE4、LP、MUC1、PSA、サバイビン、TRP1、STAT3、hTERT及びTyrが挙げられる。例示的な複合プロモーターとしては、AFP/hAFP、SV40/AFP、CEA/CEA、PSA/PSA、SV40/Tyr及びTyr/Tyrが挙げられる。当業者は、適切な腫瘍特異的プロモーターは、一部の場合では、標的腫瘍によって決まることを理解する。例えばcerb2プロモーターは、乳房及び膵臓がんについて適切であり得る一方で、PSAプロモーターは前立腺がんについて適切であり得る。
【0128】
別の例では、腫瘍特異的プロモーターは、対応する正常細胞及び/又は間葉系前駆細胞若しくは幹細胞と比較したがん細胞におけるプロモーター活性の差異に基づいて同定され得る。例えば、適切な腫瘍特異的プロモーターを同定する1つの方法は、がん細胞において高い活性で、対応する正常細胞及び/又は間葉系前駆細胞若しくは幹細胞において低い活性を有するプロモーターを同定するために、がん細胞、対応する正常細胞及び/又は間葉系前駆細胞又は幹細胞の間のプロモーター活性を比較することである。一例では腫瘍特異的プロモーターは、後期又は厳密な後期ウイルス性プロモーターであり得る。用語「後期」及び「厳密な後期」は、その活性がウイルス性DNA複製の開始に依存するプロモーターを指すために使用される。それにより、後期及び厳密な後期プロモーターは、がん細胞において複製できるが、非分裂正常細胞における複製能力が限定されている腫瘍溶解性ウイルスに含めるのに好適である。例示的な後期又は厳密な後期プロモーターとしては、主要後期プロモーター(MLP)及びUL38pが挙げられる。
【0129】
一例では腫瘍溶解性ウイルスは、単純ヘルペスウイルス又は、後期若しくは厳密な後期プロモーターを含むアデノウイルスである。例えば腫瘍溶解性ウイルスは、UL38pプロモーターを含む単純ヘルペスウイルスである。別の例では腫瘍溶解性ウイルスは、MLPを含むアデノウイルスである。
【0130】
別の例では腫瘍溶解性ウイルスの腫瘍特異性は、腫瘍特異的親和性を利用するように操作され得る。別の例では腫瘍溶解性ウイルスは、正常細胞及び/又は間葉系前駆細胞若しくは幹細胞において発現され、がん細胞では低レベルで発現される又は非存在であるオリゴヌクレオチド又は結合タンパク質に感受性である。例えば腫瘍溶解性ウイルスは、間葉系前駆細胞若しくは幹細胞及び/又は正常細胞によって発現され、がん細胞によって発現されないオリゴヌクレオチドに相補性(complimentary)であるヌクレオチド配列を挿入するように操作され得る。例えば腫瘍溶解性ウイルスは、miRNA等の抑制性オリゴヌクレオチドに感受性であり得る。一部のがん細胞において低レベルで、及び対応する正常細胞において高レベルで発現される例示的miRNAとしては、let-7a-5p、miR-122-5p、miR-125b-5p、miR-141-3p、miR-143-3p、miR-15a-5p、miR-16-5p、miR-181a-5p、miR-181b-5p、miR-192-5p、miR-195-5p、miR-200b-3p、miR-200c-3p、miR-211-5p、miR-215-5p、miR-22-3p、miR-29a-3p、miR-29b-3p、miR-29c-3p、miR-30a-5p、miR-30c-5p、miR-34a-5p、miR-34c-5p、miR-424-5p、miR-497-5p、miR-7-5p、miR-101-3p、miR-124-3p、miR-126-3p、miR-137、miR-138-5p、miR-140-5p、miR-152-3p、miR-185-5p、miR-214-3p、miR-25-3p、miR-26a-5p、miR-26b-5p、miR-372-3p、miR-517a-3p、miR-520c-3p、miR-128-3p、miR-145-5p、miR-200a-3p、miR-502-5p、let-7d-5p、let-7e-5p、let-7f-5p、miR-155-5p、miR-98-5p、let-7b-5p、miR-1、miR-100-5p、miR-125a-5p、miR-133a-3p、miR-133b、miR-146a-5p、miR-150-5p、miR-193a-3p、miR-193b-3p、miR-196b-5p、miR-206、miR-218-5p、miR-223-3p、miR-23b-3p、miR-24-3p、miR-34b-3p、miR-449a、miR-542-5p、miR-99a-5p、let-7c-5p、let-7g-5p、let-7i-5p、miR-142-3p、miR-216b-5p、miR-622、miR-96-5p、miR-1291、miR-370-3p、miR-296-5p、miR-335-5p、miR-483-3p、miR-483-5p、miR-486-5pが挙げられる。
【0131】
別の例ではウイルスは、感染されたがん細胞において遺伝子を発現するように操作され得る。例えばウイルスは、PTEN等の遺伝子を発現するように操作され得る。一例ではウイルスはPTEN-アルファ(PTENα)を発現する。一例では、ウイルスは、配列番号1に示される核酸配列又は機能性PTENタンパク質(例えば、配列番号2)に翻訳されるそのバリアントを含む。一例ではウイルスは、発現され、配列番号2に示すアミノ酸を有するタンパク質に翻訳される導入遺伝子を発現する。これらの例では腫瘍溶解性ウイルスは、HSV骨格を含み得る。一例では、ウイルスはHSVである。一例ではHSVは、Russellら、(2018) Nat Comm., 9:5006に記載されている。これらの例ではウイルスは、感染されたがん細胞において、配列番号2に示されるアミノ酸を有するタンパク質のレベルを上昇させることができる。
【0132】
一例では遺伝子は、感染された腫瘍細胞に対する免疫応答を増強する。例えば遺伝子は、GM-CSF、FLT3L、CCL3、CCL5、IL2、IL4、IL6、IL12、IL15、IL 18、IFNA1、IFNB1、IFNG、CD80、4-1BBL、CD40L、ヒートショックタンパク質(HSP)又はこれらの組合せであり得る。
【0133】
種々のウイルスは、上記参考文献に概説されるとおり操作され得る。一例では腫瘍溶解性ウイルスは、改変HSV、レンチウイルス、バキュロウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス(AdV)、アデノ随伴ウイルス(AAV)又は、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)等の組換え体及び、自己相補性AAV (scAAV)並びに非組み込み(non-integrating)AV等のその派生物である。例えば、腫瘍溶解性ウイルスは改変HSVであってよい。例えば腫瘍溶解性ウイルスは、改変レンチウイルスであってよい。他の例示的ウイルスとしては、ワクチニア(vaccina)ウイルス、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、麻疹ウイルス及びマラバウイルスが挙げられる。
【0134】
他の例では腫瘍溶解性ウイルスは、種々のAV又はAAV血清型の1つであり得る。一例では、腫瘍溶解性ウイルスは血清型1である。別の例では、腫瘍溶解性ウイルスは血清型2である。他の例では腫瘍溶解性ウイルスは、血清型3、4、7、8、9、10、11、12又は13である。別の例では腫瘍溶解性ウイルスは、血清型5である。別の例では、腫瘍溶解性ウイルスは血清型6である。
【0135】
本開示による間葉系前駆細胞又は幹細胞に導入され得る例示的腫瘍溶解性ウイルスとしては、T-Vec (HSV-1; Amgen社)、JX-594 (ワクチニア; Sillajen社)、JX-594 (AdV; Cold Genesys社)、Reolysin (レオウイルス; Oncolytics Biotech社)が挙げられる。腫瘍溶解性ウイルスの他の例は、WO 2003/080083、WO 2005/086922、WO 2007/088229、WO 2008/110579、WO 2010/108931、WO 2010/128182、WO 2013/112942、WO 2013/116778、WO 2014/204814、WO 2015/077624及びWO 2015/166082、WO 2015/089280に開示されている。
【0136】
一例では腫瘍溶解性ウイルスは、複製欠損である。例えば複製遺伝子は、変異、欠失又は腫瘍特異的プロモーターを含む発現カセットを用いて置き換えられ得る。一例ではE1/E3遺伝子は、変異、欠失又は置き換えられる。別の例では、E1A/E1B遺伝子は、変異、欠失又は置き換えられる。例えばAVの文脈では、E1/E3遺伝子は、変異、欠失又は置き換えられ得る。AAVの文脈では、E1A及びE1B遺伝子は、変異、欠失又は置き換えられ得る。好適な腫瘍特異的プロモーターの種々の例は、上に考察されている。
【0137】
他の例では腫瘍溶解性ウイルスは、変異されたE1、E3、E1A又はE1B遺伝子を含み得る。例えばE1A遺伝子は、網膜芽細胞腫タンパク質(RB)結合部位をコードする領域中で変異され得る。別の例ではE3遺伝子は、小胞体保持ドメインをコードする領域中で変異され得る。別の例では腫瘍溶解性ウイルスは、ガンマ-34.5遺伝子及び/又はアルファ-47遺伝子中に変異を含み得る。
【0138】
一例では腫瘍溶解性ウイルスは、間葉系前駆細胞又は幹細胞において複製欠損であり、腫瘍細胞において複製コンピテントである。複製欠損ウイルスが複製コンピテントウイルスに切り替わる例は、Nakashimaら、(2014) Journal of Virology, Vol 88:345~353頁に記載されている。この種類の他の例示的ウイルスとしては、Shenら、(2016) PlosOne 11:e0147173に記載されているもの等のRGD変異体、pRb若しくはp53不活性がん細胞における複製、及び/又はα-ケモカインSDF-1受容体(CXCR4)、サバイビン、シクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)及びミッドカイン等の腫瘍細胞特異的プロモーターの調節下でのE1の発現制御を可能にする、E1中のデルタ24変異を含むウイルス等が挙げられる。
【0139】
一例では本明細書において開示されるウイルスは、腫瘍特異的プロモーターに作動可能に連結されているポリヌクレオチドを含む。例えばウイルスは、腫瘍特異的プロモーターに作動可能に連結されているPTENαをコードするポリヌクレオチドを含み得る。
【0140】
別の例では本明細書において開示されるウイルスは、構成的プロモーターに作動可能に連結されているポリヌクレオチドを含む。例えばウイルスは、構成的プロモーターに作動可能に連結されているPTENαをコードするポリヌクレオチドを含み得る。
【0141】
改変
本開示の間葉系前駆細胞又は幹細胞は、がん細胞の死滅及び/又はがん細胞への移動を増強するように改変され得る。一例では、そのような改変は、PTENαの発現の増加を含む。遺伝子発現を増加させる種々の改変の例は、当技術分野において周知である。例えば本明細書において開示される細胞は、ウイルスベクター等の、導入遺伝子を発現するベクターを使用して改変され得る。したがって、一例では本開示の間葉系前駆細胞又は幹細胞は、導入遺伝子を発現する組換えウイルスを導入するように改変され得る。例えば本開示の間葉系前駆細胞又は幹細胞は、HSV骨格を含み、PTENαをコードするポリヌクレオチドを発現するウイルス等の組換えウイルスを導入するように改変され得る。一例では間葉系前駆細胞又は幹細胞は、ウイルスが人工マニピュレーションの任意の好適な手段によって細胞に移行された場合、又は細胞がウイルスを保有する最初に変更された細胞の後代である場合に「改変された」と見なされる。一例では導入遺伝子をコードする「ネイキッド」核酸分子を用いてトランスフェクトされた細胞は、「改変された」と見なされない。例えば、導入遺伝子をコードする「ネイキッド」mRNA分子を用いてトランスフェクトされた細胞は、「改変された」と見なされない。
【0142】
他の例では組換えウイルスを導入するように改変された細胞集団は、細胞表面に抗体又はその断片等の結合タンパク質を発現するようにも改変され得る。例えば細胞集団は、抗上皮増殖(growth)因子受容体(EGFR; ErbB1)結合タンパク質を発現するようにも改変され得る。
【0143】
本明細書において開示される改変細胞の移動の増強は、トランスウエル細胞遊走及び浸潤アッセイ等の当技術分野において周知の種々の移動アッセイを使用して評価され得る(例えば、概要についてJustusら、2014 J Vis Exp., 88:51046を参照されたい; Sigma社及びMerck社等の供給者から商業的に入手できる;生細胞分析システムは商業的にも入手でき、リアルタイムでの移動を追跡するために適切である)。本明細書において開示されるがん細胞の死滅の増強は、下に例示される細胞生存率/細胞傷害性アッセイ等の当技術分野において周知の種々のアッセイを使用しても評価され得る(例えば、フローサイトメトリーによるサイトゾル活性(aqua生/死色素(aqua live/dead dye))の評価;例えば Rissら、(2013) Assay Guidance Manual.、最終更新2016年7月も参照されたい; Promega社等の供給者から商業的に入手できるキット; 生細胞分析システムは商業的にも入手でき、リアルタイムでの細胞生存率を追跡するために適切である)。同様に、遺伝子発現の増加は、例えば、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応を含む、日常的な増幅に基づく検出技術等の種々の方法を使用して定量され得る。一部の場合では、遺伝子発現の増加に対応するタンパク質発現の増加は、ウエスタンブロット等の日常的方法を使用しても定量され得る。
【0144】
間葉系前駆細胞又は幹細胞は、当技術分野において周知の種々の方法を使用して改変され得る。一例では間葉系前駆細胞又は幹細胞は、in vitroでウイルスと接触される。例えば、ウイルスは、間葉系前駆細胞又は幹細胞培養培地に加えられてよい。別の例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、ウイルスと共に遠心分離される。
【0145】
感染の効率は、まれにしか100%ではなく、良好に改変された細胞の集団を濃縮することは通常望ましい。一例では改変細胞は、新規遺伝子型の機能的特性の利益を取ることによって濃縮され得る。改変細胞を濃縮する1つの例示的方法は、ネオマイシン等の薬物への抵抗性を使用する正の選択、又はlacZの発現に基づく比色選択である。本発明者らは、PTEN-アルファ導入遺伝子を発現するHSVが間葉系前駆細胞又は幹細胞において高率の感染性を有することを見出した。例えば本開示によるHSVは、少なくとも15%感染性を有する。別の例では、本開示によるHSVは、少なくとも20%感染性を有する。別の例では本開示によるHSVは、少なくとも25%感染性を有する。別の例では本開示によるHSVは、少なくとも30%感染性を有する。別の例では、本開示によるHSVは、少なくとも40%感染性を有する。別の例では本開示によるHSVは、少なくとも50%感染性を有する。別の例では、本開示によるHSVは、15から80%の間の感染性を有する。別の例では本開示によるHSVは、20から80%の間の感染性を有する。別の例では、本開示によるHSVは、30から80%の間の感染性を有する。別の例では本開示によるHSVは、35から80%の間の感染性を有する。別の例では本開示によるHSVは、45から80%の間の感染性を有する。別の例では本開示によるHSVは、55から80%の間の感染性を有する。
【0146】
ウイルス感染力は、プラークアッセイ等の種々の日常的方法(Dulbecco and Vogt (1953) Cold Spring Harbor Symp. Quant. Biol., 18: 273~279頁; Johnsonら、(1990) Quantitative Assays for Virus Infectivity. In: Aldovini A.、Walker B.D. (編) Techniques in HIV Research. Palgrave Macmillan, Londonに記載されている例示的アッセイ)を使用して決定され得る。
【0147】
本発明者らは、PTEN-アルファ導入遺伝子を発現するHSVが間葉系前駆細胞又は幹細胞において高い率で複製することを見出した。例えば、PTEN-アルファ導入遺伝子を発現するHSVは、対応するHSV対照と比較して複製が少なくとも10%増加し得る。一例では、PTEN-アルファ導入遺伝子を発現するHSVは、対応するHSV対照と比較して複製が少なくとも20%増加する。別の例では、PTEN-アルファ導入遺伝子を発現するHSVは、対応するHSV対照と比較して複製が少なくとも30%増加する。別の例では、PTEN-アルファ導入遺伝子を発現するHSVは、対応するHSV対照と比較して複製が20%から40%の間で増加する。
【0148】
がん細胞への送達
本発明者らは、間葉系前駆細胞又は幹細胞が、がん細胞に向けて移動し、同物によって発現されたウイルス又は導入遺伝子等のペイロードを移行することを同定した。したがって、一例では本開示は、本明細書において開示される間葉系前駆細胞又は幹細胞を対象に投与することによって、上に参照される腫瘍溶解性ウイルスをがん細胞に送達する方法を包含する。一例では、ウイルスペイロードは、がん細胞を、上に参照された腫瘍溶解性ウイルスを導入するように改変された間葉系前駆細胞又は幹細胞と接触させることによって移行され得る。誤解を避けるために、がん細胞に送達される腫瘍溶解性ウイルスは、間葉系前駆細胞又は幹細胞に導入された腫瘍溶解性ウイルスである。別の例では、本開示は、細胞においてPTENα発現を増加させる方法であって、細胞を本明細書において開示される集団と接触させることを含む方法を包含する。この例では、細胞はがん細胞であり得る。一例では、細胞においてPTENα発現を増加させることは、細胞においてリン酸化AKTのレベルを低下させる。一例では、方法はin vivoで実施される。例えば、本明細書において開示される集団は、対象に投与され得る。
【0149】
用語「接触させること」は、本開示の文脈では「直接的」又は「間接的」接触を指すために使用される。「直接的接触」は、本開示の文脈ではがん細胞と、同物によって発現される腫瘍溶解性ウイルス及び/又は導入遺伝子等のペイロードの移行を促進する改変間葉系前駆細胞又は幹細胞との物理的接触を指すために使用される。例えば、がん細胞及び改変間葉系前駆細胞又は幹細胞は、共通のコネキシン(すなわち、がん細胞及び改変間葉系前駆細胞又は幹細胞の両方によって発現されるコネキシン)を介して直接接触し得る。この例では、共通のコネキシンは、gap接続を介して間葉系前駆細胞又は幹細胞からがん細胞へのペイロードの移行を促進する。
【0150】
「間接的接触」は、本開示の文脈では、直接的接触を伴わない改変間葉系前駆細胞又は幹細胞からがん細胞への腫瘍溶解性ウイルスの送達を指すために使用される。例えば、がん細胞に近接近している改変間葉系前駆細胞又は幹細胞は、がん細胞と間接的に接触し得る。一例では、がん細胞と間接的に接触している改変間葉系前駆細胞又は幹細胞は、エキソソームを介してペイロードをがん細胞に送達できる。別の例では、がん細胞と間接的に接触している改変間葉系前駆細胞又は幹細胞は、周辺環境への分泌を介してペイロードをがん細胞に送達できる。
【0151】
一例では直接的及び間接的の両方の接触は、本明細書において開示される集団を対象に投与することによって媒介され得る。
【0152】
別の例ではがん細胞と直接接触した改変間葉系前駆細胞又は幹細胞は、共通のコネキシンを介して、及び間接的にエキソソームを介してペイロードをがん細胞に送達できる。
【0153】
改変間葉系前駆細胞又は幹細胞からペイロードを受け取るがん細胞は、腫瘍溶解性ウイルスの移行を促進するように、改変間葉系前駆細胞又は幹細胞に直接的又は間接的にそれらが接触され得る限り具体的に限定されない。一例ではがん細胞は、脳がん細胞である。例えば、がん細胞は神経膠芽腫由来であり得る。一例ではがん細胞は、神経膠腫細胞である。一例ではがん細胞は、膵臓がん細胞である。別の例ではがん細胞は、肺がん細胞である。別の例ではがん細胞は、子宮頸がん細胞である。別の例ではがん細胞は、結腸直腸がん細胞である。別の例ではがん細胞は、肝がん細胞である。別の例ではがん細胞は、骨肉腫細胞である。別の例ではがん細胞は、前立腺がん細胞である。別の例ではがん細胞は、メラノーマ細胞である。一例ではがん細胞は、乳がん細胞である。一例ではがん細胞は、PTEN欠損がん細胞である。
【0154】
別の例では、がん細胞は、シンシチウムがん細胞である。本開示の文脈では用語「シンシチウム」は、活動電位において電気的に同期されたgap接続を含む特殊化した膜によって相互接続された細胞からなるがん性組織又は腫瘤を指すために使用される。
【0155】
改変間葉系前駆細胞又は幹細胞からがん細胞への腫瘍溶解性ウイルスの送達は、種々の例示的経路を介してin vivoで促進され得る。例えば、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、例えば、静脈内、動脈内又は腹腔内投与によって等、全身性に投与され得る。他の例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、鼻腔内又は筋肉内投与によって投与され得る。一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、周囲組織等のがん細胞に近接近の部位に投与される。別の例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、がんに直接投与される。
【0156】
処置方法
一例では、本開示による細胞集団及び同物を含む組成物は、がんの処置のために投与され得る。用語「がん」は、制御されていない細胞増殖(growth)によって典型的には特徴付けられる、哺乳動物における生理学的状態を指す又は記載する。がんの例としては、これだけに限らないが、癌、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫及び白血病又はリンパ系腫瘍が挙げられる。そのようながんの更に詳細な例としては、これだけに限らないが、扁平上皮細胞がん(例えば、上皮扁平上皮細胞がん)、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、肺腺癌及び肺の扁平上皮癌が挙げられる肺がん、腹膜のがん、肝細胞がん、胃腸がん及び消化管間質がんが挙げられる胃(gastric)又は胃(stomach)がん、膵臓がん、神経膠芽腫、子宮頸がん、卵巣がん、肝がん、膀胱がん、尿路のがん、肝細胞癌、乳がん、結腸がん、直腸内がん、結腸直腸がん、子宮内膜又は子宮癌、唾液腺癌、腎(kidney)又は腎がん、前立腺がん、外陰部がん、甲状腺がん、肝癌、肛門癌、陰茎癌、メラノーマ、表在拡大型メラノーマ、悪性黒子由来メラノーマ、末端黒子型メラノーマ、結節性メラノーマ、多発性骨髄腫及びB細胞リンパ腫(低悪性度/濾胞非ホジキンリンパ腫(NHL);小リンパ球性(SL)NHL;中悪性度/濾胞NHL;中悪性度びまん性NHL;高悪性度免疫芽細胞NHL;高悪性度リンパ芽球性NHL;高悪性度小型非切れ込み核細胞性NHL;巨大腫瘤病変NHL;マントル細胞リンパ腫;AIDS関連リンパ腫;及びワルデンストレーム高ガンマグロブリン血症を含む);慢性リンパ性白血病(CLL);急性リンパ芽球性白血病(ALL);ヘアリー細胞白血病;慢性骨髄芽球性白血病;及び移植後リンパ球増殖性障害(PTLD)、並びに母斑(phakomatoses)に関連する異常な血管増殖、浮腫(脳腫瘍に関連する等)、メグズ症候群、脳及び頭頸部がん並びに関連転移が挙げられる。
【0157】
一例では、がんは脳がんである。一例では、がんは神経膠芽腫である。一例では、がんは膵臓がんである。別の例では、がんは肺がんである。別の例では、がんは子宮頸がんである。別の例では、がんは結腸直腸がんである。別の例では、がんは肝がんである。別の例では、がんは骨肉腫である。別の例では、がんは前立腺がんである。別の例では、がんはメラノーマである。
【0158】
一例では、がんは、PTEN変異又は欠損がんである。一例では、がんは、PTEN変異又は欠損神経膠芽腫、子宮内膜がん、結腸がん、肺がん、乳がん、前立腺がん及び卵巣がんである。一例では、がんは、PTEN変異又は欠損乳がんである。別の例では、がんは、PTEN変異又は欠損脳がんである。一例では、本開示による細胞集団及び同物を含む組成物は、がん細胞を死滅させる方法において使用され得る。一例では、そのような方法を使用して死滅されるがん細胞は、上に参照されるがんの種類に由来し得る。
【0159】
細胞組成物
本開示は、間葉系前駆細胞系列又は幹細胞の集団を包含する。そのような集団は、組成物中に提供され得る。例えば、本開示の方法を実施することにおいて間葉系前駆細胞又は幹細胞は、対象への投与のために好適な組成物中に提供され得る。
【0160】
本開示による例示的組成物は、HSVを導入するように改変された間葉系前駆細胞又は幹細胞を含み得る。例示的HSVは、上に記載されている。一例では、本開示による組成物は、上に参照された腫瘍溶解性ウイルス又はこれらの組合せを導入するように改変された間葉系前駆細胞又は幹細胞を含み得る。例えば、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、PTEN-アルファ導入遺伝子を含むHSVを導入するように改変され得る。一例では、PTEN-アルファ導入遺伝子は、配列番号1に示される核酸配列を含む。
【0161】
別の例では、本開示による組成物は、間葉系前駆細胞又は幹細胞における高レベルの感染性を有するHSVを導入するように改変された間葉系前駆細胞又は幹細胞を含み得る。一例では、感染性のレベルは間葉系前駆細胞又は幹細胞の15%を超える。別の例では、感染性のレベルは間葉系前駆細胞又は幹細胞の25%を超える。別の例では、感染性のレベルは間葉系前駆細胞又は幹細胞の35%を超える。別の例では、感染性のレベルは間葉系前駆細胞又は幹細胞の45%を超える。
【0162】
別の例では、本開示による組成物は、間葉系前駆細胞又は幹細胞の生存率に実質的に影響を与えないHSVを導入するように改変された間葉系前駆細胞又は幹細胞を含み得る。
【0163】
別の例では、本開示による組成物は、腫瘍溶解性ウイルスをがん細胞に送達する前に、間葉系前駆細胞又は幹細胞を死滅させないHSVを導入するように改変された間葉系前駆細胞又は幹細胞を含み得る。
【0164】
一例では、そのような組成物は、薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤を含む。
【0165】
用語「担体」及び「賦形剤」は、活性化合物の保存、投与及び/又は生物学的活性を促進するように当技術分野において従来から使用されている組成物を指す(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences、第16版、Mac Publishing Company (1980)を参照されたい。担体は、活性化合物の任意の望ましくない副作用を低減する場合もある。好適な担体は、例えば安定である、例えば担体中の他の成分と反応することができない。一例では担体は、処置のために使用される投与量及び濃度でレシピエントにおいて顕著な局所又は全身性の有害作用を生じない。
【0166】
本開示のための好適な担体としては、従来使用されているもの、例えば、水、生理食塩水、水溶性ブドウ糖、乳糖、リンゲル溶液、緩衝液、ヒアルロンが挙げられ、グリコールは、特に(等張の場合)溶液についての、例示的液体担体である。好適な医薬用担体及び賦形剤としては、デンプン、セルロース、グルコース、乳糖、ショ糖、ゼラチン、麦芽、コメ、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアレート、塩化ナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール、水、エタノール等が挙げられる。
【0167】
別の例では、担体は培地組成物であり、例えば、それで細胞は成長する又は懸濁される。そのような培地組成物は、それが投与される対象にいかなる有害作用も誘導しない。
【0168】
例示的担体及び賦形剤は、細胞の生存率及び/又は疾患を処置する若しくは予防する細胞の能力に有害な影響を及ぼさない。
【0169】
一例では、担体又は賦形剤は、それによって生物学的活性を発揮する好適なpHに細胞及び/又は可溶性因子を維持するための緩衝活性を提供する、例えば担体又は賦形剤は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)である。PBSは、細胞及び因子とごくわずかしか相互作用せず、細胞及び因子の急速な放出を可能にすることから、魅力的な担体又は賦形剤であり、そのような場合、本開示の組成物は、血流への、或いは組織又は組織の周辺若しくは近接領域への、例えば注射による、直接適用のための液体として産生され得る。
【0170】
本明細書に記載される細胞組成物は、単独で又は他の細胞との混合物として投与され得る。異なる種類の細胞は、本開示の組成物と投与の直前若しくは短時間前に混合され得る、又はそれらは投与前の一定期間について合わせて共培養され得る。
【0171】
一例では、組成物は、有効量又は治療有効量の細胞を含む。例えば組成物は、細胞約1x105個から細胞約1x109細胞又は細胞約1.25x103個から細胞約1.25x107個を含む。投与される細胞の正確な量は、対象の年齢、体重及び性別並びに処置される障害の程度及び重症度が挙げられる種々の要因に依存する。
【0172】
例示的投薬量は、細胞少なくとも約1.2 x 108から約8 x 1010個、例えば細胞約1.3 x 108から約8 x 109個の間、細胞約1.4 x 108から約8 x 108個の間、細胞約1.5 x 108から約7.2 x 108個の間、細胞約1.6 x 108から約6.4 x 108個の間、細胞約1.7 x 108から約5.6 x 108個の間、細胞約1.8 x 108から約4.8 x 108個の間、細胞約1.9 x 108から約4.0 x 108個の間、細胞約2.0 x 108から約3.2 x 108個の間、細胞約2.1 x 108から約2.4 x 108個の間を含む。例えば用量は、細胞少なくとも約1.5 x 108個を含み得る。例えば用量は、細胞少なくとも約2.0 x 108個を含み得る。
【0173】
言い換えると、例示的用量は、細胞少なくとも約1.5 x 106個/kg (対象80kg)を含む。一例では、用量は、細胞少なくとも約2.5 x 106個/kgを含み得る。他の例では、用量は、細胞約1.5 x 106から約1x109個/kg、細胞約1.6 x 106から約1 x 108個/kg、細胞約1.8 x 106から約1 x 107個/kg、細胞約1.9 x 106から約9 x 106個/kg、細胞約2.0 x 106から約8 x 106個/kg、細胞約2.1 x 106から約7 x 106個/kg、細胞約2.3 x 106から約6 x 106個/kg、細胞約2.4 x 106から約5 x 106個/kg、細胞約2.5 x 106から約4 x 106個/kg、細胞約2.6 x 106から約3 x 106個/kgを含み得る。
【0174】
一例では、改変間葉系前駆細胞又は幹細胞は、組成物の細胞集団の少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約99%を構成する。
【0175】
本開示の組成物は、凍結保存され得る。間葉系前駆細胞又は幹細胞の凍結保存は、当技術分野において周知の低速冷却法又は「高速」凍結プロトコールを使用して実行され得る。好ましくは、凍結保存の方法は、未凍結細胞と比較して凍結保存された細胞の同様の表現型、細胞表面マーカー及び成長速度を維持する。
【0176】
凍結保存された組成物は、凍結保存溶液を含み得る。凍結保存溶液のpHは、典型的には6.5から8、好ましくは7.4である。
【0177】
凍結保存溶液は、例えば、PlasmaLyte A(商標)等の滅菌、非発熱性等張溶液を含み得る。100mLのPlasmaLyte A(商標)は、526mgの塩化ナトリウム、USP(NaCl);502mgのグルコン酸ナトリウム(C6H11NaO7); 368mgの酢酸ナトリウム三水和物、USP (C2H3NaO2・3H2O); 37mgの塩化カリウム, USP (KCl);及び30mgの塩化マグネシウム、USP (MgCl2・6H2O)を含有する。抗菌性薬剤は含有されない。pHは、水酸化ナトリウムを用いて調整される。pHは7.4(6.5から8.0)である。
【0178】
凍結保存溶液は、Profreeze(商標)を含み得る。凍結保存溶液は、培養培地、例えばαMEMを追加的又は代替的に含み得る。
【0179】
凍結を促進するために、例えばジメチルスルホキシド(DMSO)等の凍結保護物質は、通常凍結保存溶液に加えられる。理想的には、凍結保護物質は、細胞及び患者に無毒、非抗原性、化学的に不活性であるべきであり、解凍後に高い生存率をもたらし、洗浄を伴わない移植を可能にする。しかし、最も一般的に使用される凍結保護剤(cryoprotector)、DMSOは、いくらかの細胞傷害性を示す。ヒドロキシルエチルデンプン(HES)は、凍結保存溶液の細胞傷害性を低下させるために代わりとして、又はDMSOとの組合せで使用され得る。
【0180】
凍結保存溶液は、DMSO、ヒドロキシエチルデンプン、ヒト血清成分及び他のタンパク質バルク剤の1つ又は複数を含み得る。一例では、凍結保存された溶液は、約5%ヒト血清アルブミン(HSA)及び約10% DMSOを含む。凍結保存溶液は、メチルセルロース(methycellulose)、ポリビニルピロリドン(PVP)及びトレハロースの1つ又は複数を更に含み得る。
【0181】
一実施形態では、細胞は、42.5% Profreeze(商標)/50% αMEM/7.5% DMSOに懸濁され、速度制御(controlled-rate)冷凍庫で冷却される。
【0182】
凍結保存された組成物は、解凍され、対象に直接投与される又は別の溶液、例えばヒアルロン酸を含む、に加えられ得る。代替的に、凍結保存された組成物は解凍され、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、投与前に代替的担体に再懸濁され得る。
【0183】
一例では、本明細書に記載される細胞組成物は、単一用量として投与され得る。別の例では、細胞組成物は、複数用量として投与される。例えば、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10用量。
【0184】
一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、投与の前に培養増殖され得る。間葉系前駆細胞又は幹細胞培養の種々の方法は、当技術分野において周知である。一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、投与の前に無血清培地で培養増殖される。例えば間葉系前駆細胞又は幹細胞は、少なくとも1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10又はそれを超えて、投与前に継代され得る。
【0185】
間葉系前駆細胞又は幹細胞は、例えば、静脈内、動脈内又は腹腔内投与によって等、全身性で投与され得る。間葉系前駆細胞又は幹細胞は、鼻腔内、筋肉内又は心臓内投与によっても投与され得る。一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、対象の腫瘍に直接投与される。
【実施例】
【0186】
(実施例1)
間葉系幹細胞(MSC)のHSV-P10ロード
PTENα発現単純ヘルペスウイルス(HSV-P10)、腫瘍溶解性ウイルスを改変PTENα遺伝子配列を使用して生成し、それによりPTENα CUG開始コドンを、N末端が伸長された全長タンパク質の翻訳を増強するためにAUGに変異させ、内部カノニカル(canonical) PTEN AUG開始コドンを構築物からのカノニカルPTEN発現を抑止するようにAUAに変異させる。PTENαをウイルスのICP6遺伝子遺伝子座内のγ34.5の両方のコピーについて欠失させた腫瘍溶解性HSV1骨格に組み込んだ。
図1は、対照(HSVQ)及び研究で使用したHSV-P10ウイルスのICP6遺伝子座内で操作された遺伝的マニピュレーションの構造を示す。
【0187】
間葉系幹細胞にHSVQ又はHSV-P10のいずれかを感染多重度(MOI) 0.025、0.05、0.1、0.2及び0.5でロードし、感染を細胞中のGFPの検出によって経時的に決定した(
図2A及び
図2E)。GFPをCytation 5 Cell Imaging Multi-Mode ReaderをBioSpa 8 Automated Incubator (Biotek Instruments, INC.社)と併せて利用して経時的にモニターした。GFP対象物数を定量し、処置群あたり4ウエルの平均±SEMとしてグラフ化した。細胞での複製速度は、間葉系幹細胞を感染させるために使用したHSVQ又はHSV-P10のMOIと相関した。
【0188】
間葉系幹細胞におけるHSV-P10及びHSVQウイルス複製の動態を決定するために、HSV-P10及びHSVQをロードした間葉系幹細胞の比較を実施した(
図2A)。間葉系幹細胞を細胞3x10
6個で6ウエルプレートに蒔き、24時間培養した。蒔いた間葉系幹細胞を1 MOIのHSVQ又はHSV-P10を用いて1時間感染させた。インキュベーション後、培地を除去し、新鮮DMEMで置き換え、更に24時間培養した。HSVQ又はHSV-P10をロードした間葉系幹細胞及び条件培地を回収し、タイトレーション研究をvero細胞で実施した。
【0189】
HSVQと比較してHSV-P10は、ウイルス複製の優れた動態を有すると考えられた(
図2A)。しかし、HSV-P10をロードした間葉系幹細胞のウイルス力価は、HSVQをロードした間葉系幹細胞のウイルス力価に匹敵した(
図2B)。HSV-P10及びHSVQのウイルス複製をin vitroでの5回継代後でさえ、ロードした間葉系幹細胞において観察した。
【0190】
間葉系幹細胞の生存率へのウイルスロードの影響を決定するために、サイトゾル活性(aqua生/死色素)及びGFP発現をフローサイトメトリーによって評価して、ロードした間葉系幹細胞において決定し、定量し、ヒストグラムとして表した(
図3)。データは、HSV-10及びHSVQをロードした間葉系幹細胞が感染後24時間生存可能であったことを実証する(
図3A)。フローサイトメトリー四象限を
図3Bに示す。
【0191】
(実施例2)
HSV-P10をロードした間葉系幹細胞(MSC)によって発現された機能性PTENαの評価
HSV-P10によって発現されたPTENαの機能性を評価するために、HSV-P10をロードされた間葉系幹細胞のPI3K/AKTシグナル伝達経路へのHSV-P10の影響を決定した。ウエスタンブロット分析は、HSVQをロードされた間葉系幹細胞におけるAKTの増加を明らかにし、一方、PTENαを発現するHSV-P10をロードされた間葉系幹細胞は、対照ウイルスロードと比較してリン酸化AKTが低下していた(
図4A)。PTENαは、HSV-P10をロードされた間葉系幹細胞の条件培地において検出され、HSV-P10をロードされた間葉系幹細胞によるPTENαの分泌を示唆している(
図4B)。
【0192】
(実施例3)
HSV-P10をロードされた間葉系幹細胞の腫瘍細胞への効果
HSV-P10をがん細胞に送達するHSV-P10をロードされた間葉系幹細胞の能力を決定するために、ボイデンチャンバーアッセイ(Boyden chamber assay)を実施し、ウイルスGFPをCytation 5 Cell Imaging Multi-Mode ReaderをBioSpa 8 Automated Incubator (Biotek Instruments, INC.社)と併せて利用して経時的にモニターすることによって移動を実施した。しかし、HSVQ及びHSV-P10をロードされた間葉系幹細胞移動の分析は、HSVQをロードされた間葉系幹細胞と比較して、HSV-P10をロードされた間葉系幹細胞のヒト乳がん細胞(MDA-468)への増加した動態を驚くべきことに明らかにした(
図5)。
【0193】
(実施例4)
原発ヒト神経膠腫細胞へのHSV-P10をロードされた間葉系幹細胞の効果
HSVQ及びHSV-P10をロードされた間葉系幹細胞をRPF発現GMB12原発ヒト神経膠腫細胞と共培養した(
図6A)。PI3K/AKTシグナル伝達経路への、HSV-P10をロードされた間葉系幹細胞によって発現されたPTENαの機能を決定した。ウエスタンブロット分析は、MSCとの同時培養後の神経膠腫細胞におけるPTENαの増加及びリン酸化AKTの低下を明らかにした(
図6B)。
【0194】
(実施例5)
乳がん細胞へのHSV-P10をロードされた間葉系幹細胞の効果
HSV-P10をロードされた間葉系幹細胞とDB7マウス乳がん細胞の共培養は、サイトゾル活性(aqua生/死色素)及びGFP発現によって決定したところ、HSV-P10のがん細胞への移行及びこれらのがん細胞における細胞死の誘導を生じた。死DB7マウス乳がん細胞の総数の増加が、ロードされていない間葉系幹細胞(対照)と比較してHSV-Qをロードされた間葉系幹細胞との共培養後に観察された(
図7)。死DB7マウス乳がん細胞の総数の更なる増加が、ロードされていない間葉系幹細胞(対照)及びHSV-Qをロードされた細胞と比較してHSV-P10をロードされた間葉系幹細胞との共培養後に観察された(
図7)。
【0195】
(実施例6)
がん治療
PTEN変異又は欠損がんを有すると診断された対象に投与する前に、第10染色体で欠失しているホスファターゼ及びテンシンホモログアルファ(PTENα)をコードするポリヌクレオチドを含む組換えウイルスを間葉系前駆細胞又は幹細胞にロードする。約2億個のロードされた間葉系前駆細胞を対象に投与する。
【0196】
処置した対象を約2~6週間にわたって治療の安全性及び有効性について評価する。ロードされた間葉系前駆細胞又は幹細胞の更なる用量を必要に応じて投与する。
【0197】
(実施例7)
がん治療
がんを有すると診断された対象に投与する前に、単純ヘルペスウイルス(HSV)骨格及び、第10染色体で欠失しているホスファターゼ及びテンシンホモログアルファ(PTENα)をコードするポリヌクレオチドを含む組換えウイルスを間葉系前駆細胞又は幹細胞にロードする。間葉系前駆細胞又は幹細胞培養培地へのウイルスの添加によって、間葉系前駆細胞又は幹細胞に約10~50感染単位(i.u.)/MPCをロードする。約2億個のロードされた間葉系前駆細胞又は幹細胞を対象に投与する。
【0198】
処置した対象を約2~6週間にわたって治療の安全性及び有効性について評価する。ロードされた間葉系前駆細胞又は幹細胞の更なる用量を必要に応じて投与する。
【0199】
多数の変化及び/又は変更が、広範に記載された本開示の精神又は範囲から逸脱することなく、具体的な実施形態において示される本開示に行われ得ることは当業者によって理解される。したがって本実施形態は、あらゆる点で例示的であり、限定的でないと見なされる。
【0200】
上に考察したすべての刊行物は、その全体が本明細書に組み込まれる。
【0201】
本出願は、その開示全体が本明細書に組み込まれる第62/882840号、2019年8月5日出願の優先権を主張する。
【0202】
本明細書に含まれる文書、行為、材料、デバイス、物品等の任意の考察は、本開示についての文脈を与える目的のためのみである。任意の又はすべてのこれらの事柄は、本出願の各請求の優先日より前に存在したことで、先行技術基準の一部を形成すること又は本開示に関連する分野の共通の一般的知識であったことの承認として解釈されない。
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【配列表】
【国際調査報告】