IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アールズィーノミクス・インコーポレイテッドの特許一覧

特表2022-543446APOE4 RNA特異的トランススプライシングリボザイム及びその用途
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-12
(54)【発明の名称】APOE4 RNA特異的トランススプライシングリボザイム及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20221004BHJP
   C12N 9/00 20060101ALI20221004BHJP
   C12N 15/85 20060101ALI20221004BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20221004BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20221004BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221004BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20221004BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
C12N15/113 Z
C12N9/00 ZNA
C12N15/85 Z
A61K31/7105
A61P25/28
A61P43/00 105
A61P43/00 111
A61K48/00
C12N15/63 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022507489
(86)(22)【出願日】2021-02-26
(85)【翻訳文提出日】2022-02-04
(86)【国際出願番号】 KR2021002443
(87)【国際公開番号】W WO2021172925
(87)【国際公開日】2021-09-02
(31)【優先権主張番号】10-2020-0025332
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0025822
(32)【優先日】2021-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520062823
【氏名又は名称】アールズィーノミクス・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ソン-ウク・イ
(72)【発明者】
【氏名】スン・リュル・ハン
【テーマコード(参考)】
4B050
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4B050CC04
4B050LL01
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZA161
4C084ZB211
4C084ZC411
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA16
4C086ZB21
4C086ZC41
(57)【要約】
【書類】
本発明は、アルツハイマー病の特異的トランススプライシングリボザイム、及びその用途に関する。前記トランススプライシングリボザイムは、アルツハイマー病の発症原因になったり発症危険を高める遺伝子のRNAを疾患治療に有益な遺伝子のRNAに置換して、疾患原因遺伝子の発現を低くし、疾患治療に有益な遺伝子の発現は増加させるため、アルツハイマー病の予防又は治療用途において便利に使用できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
APOE4 RNA序列を標的とする、トランススプライシングリボザイム。
【請求項2】
前記トランススプライシングリボザイムは、5’-IGS-リボザイム-エクソン-3’の構造を有することを特徴とする、請求項1に記載のトランススプライシングリボザイム。
【請求項3】
前記IGS領域は、APOE4 RNAの+21、+30、+49、+56、+71、+77、+80、+82、+95、+98、+104、+128、+140、+181、+229、+255、+263、+275、+326、+368、+830、又は+839塩基を含む領域と相補的に結合される5~10ntの長さの塩基配列からなることを特徴とする、請求項2に記載のトランススプライシングリボザイム。
【請求項4】
前記IGS領域は、序列番号2、4、又は6の塩基配列を含むことを特徴とする、請求項3に記載のトランススプライシングリボザイム。
【請求項5】
前記トランススプライシングリボザイムは、IGS領域のアップストリームにAPOE4 RNAの一部と相補的に結合される10nt~200ntの長さのAS領域をさらに含むことを特徴とする、請求項2に記載のトランススプライシングリボザイム。
【請求項6】
前記IGS領域は序列番号2の塩基配列を含み、前記AS領域は150ntの長さであることを特徴とする、請求項5に記載のトランススプライシングリボザイム。
【請求項7】
前記IGS領域は序列番号4の塩基配列を含み、前記AS領域は50ntの長さであることを特徴とする、請求項5に記載のトランススプライシングリボザイム。
【請求項8】
前記IGS領域及びAS領域は、5~10ntの長さのランダム塩基配列に連結されていることを特徴とする、請求項5に記載のトランススプライシングリボザイム。
【請求項9】
前記リボザイム領域は、序列番号5の塩基配列を含むことを特徴とする、請求項2に記載のトランススプライシングリボザイム。
【請求項10】
前記エクソン領域は、ApoE2又はApoE3クライストチャーチ突然変異(R136S)を暗号化する塩基配列の一部又は全てを含むことを特徴とする、請求項2に記載のトランススプライシングリボザイム。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載のトランススプライシングリボザイムを発現できる、発現ベクター。
【請求項12】
前記発現ベクターは、前記リボザイム遺伝子と作動可能に連結されたプロモータをさらに含むことを特徴とする、請求項11に記載の発現ベクター。
【請求項13】
前記プロモータは、神経細胞タイプの特異的なプロモータであることを特徴とする、請求項12に記載の発現ベクター。
【請求項14】
前記神経細胞タイプの特異的なプロモータは、ニューロン-、星状細胞-又は希突起膠細胞-特異的プロモータであることを特徴とする、請求項13に記載の発現ベクター。
【請求項15】
請求項1~10に記載のトランススプライシングリボザイム、請求項11~14に記載の発現ベクター、及び前記発現ベクターを含む遺伝子伝達システムからなる群から選択されるいずれか1つを有効成分として含むアルツハイマー病の予防又は治療用医薬組成物。
【請求項16】
請求項1に記載のトランススプライシングリボザイム、これを発現できるベクター、及び前記ベクターを含む遺伝子伝達システムからなる群から選択されるいずれか1つ以上を個体に投与することを含む、アルツハイマー病の予防又は治療方法。
【請求項17】
アルツハイマー病の予防又は治療薬剤の製造のための請求項1に記載のトランススプライシングリボザイム、これを発現できるベクター、又は前記ベクターを含む遺伝子伝達システムの用途。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、APOE4遺伝子特異的トランススプライシングリボザイム及びその用途などに関する。
【背景技術】
【0002】
経済が発展するにつれて食生活及び衛生状態が良くなり、医療技術も改善されることで人の平均寿命が延び続けている。韓国では、2000年に65歳以上人口比率が7.2%に達して高齢化社会に進入し、2017年には、その比重が14%を越えて高齢社会となった。65歳以上の老人人口の比重が急激に増加することで慢性老人性疾患を患う老人人口が増加しており、これは、老人人口及び家族生活の暮らしの質を著しく低下させ、また、社会的な費用も大きく増加させる。主な老人性疾患には、認知症、パーキンソン、脳卒中があり、国民健康保険公団の資料によると、2014年から2018年まで認知症、パーキンソン、脳卒中で診療を受けた人員は605万9、437人に達する。
【0003】
アルツハイマー病(Alzheimer’s disease)は、認知症の主な原因の1つとして、アミロイドベータタンパク質、タウタンパク質などの異常たんぱく質が脳内に積もって徐々に脳神経細胞を損傷させる退行性脳疾患である。記憶力をはじめ、認知機能が次第に低下し、さらに進行すると、言語、歩行障害が現れ、一人では日常生活が難しくなる。
【0004】
アルツハイマー病の発症の機作に対する研究は、ほとんどアミロイド仮設を根拠としており、これに基づいてアミロイド前駆体タンパク質(amyloid precursor protein、APP)、ベータ-サイトアミロイド前駆体タンパク質切断酵素(β-site amyloid precursor protein cleaving enzyme、BACE)、プレセニリン(Presenilin)遺伝子に対する研究、細胞内の異なる要因との相互作用及び調節に対する研究、因子の生成、分解及び信号伝達に対する研究が主であった。
【0005】
アミロイド仮設に基づいて多くのアルツハイマー病の治療候補物質は「BACE1抑制」、「アミロイドベータフィブリル形成抑制」に焦点が当てらえている。しかし、アミロイドベータを狙った抗体であるリリーのソラネズマブ(solanezumab)は軽度認知症患者において臨床III相に失敗し、ノバルティスやアムジェンがアルツハイマー病疾患を適応症として共同開発中であったBACE1抑制剤「CNP520」もまた患者の認知機能の改善に失敗した。ここで、アルツハイマー病の発症原因と思われていたアミロイド仮設が揺れており、アルツハイマー病の治療のためには標的分子を変更するか、接近方式を変更すべきという主張が出ている。
【0006】
ApoE(Apolipoprotein E)は、肝臓及び脳などで発現するタンパク質であって、最近、脳で発現するApoEタンパク質とアルツハイマー病との関連性を裏付ける研究結果が多数提示されている。ApoEタンパク質は、ApoE2、ApoE3、及びApoE4の異形態を有し、ApoE2は神経細胞を保護する機能を行い、ApoE4はベータアミロイドの蓄積に寄与し、それ自体で神経毒性を示すことが知られている。また、メタゲノム研究に基づいた統計分析の結果、APOE4は、アルツハイマー病を誘発する遺伝的因子であることが明らかになった。ここで、アルツハイマー病の治療のために、ApoE4の機能を遮断しようとする試みが行われているが、まだ不十分な実状である。一方、ApoE3クライストチャーチ(christchurch)(ApoE3ch)突然変異は、70代の高齢の老人で発見されたApoE3の突然変異の形態であり、このような突然変異を有する人は、脳全体でアミロイドプラークが発見されるが、認知障害が発生しないことが明らかになっている(Nature medicine2019;11:1680-1683.)。
【0007】
一方、テトラヒメナサーモフィラ(Tetrahmena thermophila)からのグループIイントロンリボザイムが、試験管内でリボザイムの3’末端に付着されているエクソンRNAをトランスするように存在する5’エクソンを標的とした後に付着させることで、別に存在する転写体と相互連結させ得るトランススプライシング反応を引き起こす可能性があることが報告されている。これは、すぐにグループIリボザイムのトランススプライシング反応を介して、様々な遺伝疾患と関連のある遺伝子の転写体も補正され得ることを示唆し、実際に、最近の鎌状赤血球(sickle cell)疾病を有する患者の赤血球前駆(erythrocyte precursor)細胞からβ-グロビン遺伝子転写体がトランススプライシングリボザイムによって抗鎌状赤血球化(anti-sickling)、γ-グロビン遺伝子転写体に転換されることが明らかになった。
【0008】
遺伝子治療方法として、トランススプライシングリボザイムは、突然変異遺伝子RNAを正常RNAに補正することができ、同様の原理で特定の遺伝子の発現を減少させると共に、目的遺伝子を宿主細胞に発現させることができる。その際、リボザイムは、RNAレベルで動作するため、宿主細胞のゲノム内のランダムな位置で遺伝子の混入による好ましくない免疫反応の問題及び安全性の問題などを引き起こさないメリットがある。
【0009】
ここで、本発明者は、APOE4をターゲットとするトランススプライシングリボザイムを用いたアルツハイマー病の治療方法について鋭意研究し、本発明を完成した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Nature medicine2019;11:1680-1683.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記のような問題を解決するためのもので、安全性及び発現効率に優れたアルツハイマー病の特異的トランススプライシングリボザイム及びこれを用いたアルツハイマー病の治療用途を提供することにその目的がある。
【0012】
しかし、本発明が解決しようとする技術的課題は、以上で言及した課題に制限されず、言及されていない更なる課題は、下の記載から、当技術分野の当業者が明らかに理解できるものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、APOE4 RNAを標的とするトランススプライシングリボザイムを提供する。
【0014】
本発明の一実施形態として、前記トランススプライシングリボザイムは、5’-IGS(internal guide sequence)-リボザイム-エクソン(exon)-3’の構造を有することができる。
【0015】
本発明の他の実現形態として、前記IGS領域は、APOE4 RNAの5’UTR領域に特異的に結合し、G/Uゆらぎ塩基対(wobble base pair)を形成できる5~10ntの長さの塩基配列からなり、好ましくは、APOE4 RNAの+21、+30、+49、+56、+71、+77、+80、+82、+95、+98、+104、+128、+140、+181、+229、+255、+263、+275、+326、+368、+830、又は+839の位置、好ましくは、+21、+30、又は+56の位置を含む領域と相補的に結合し、G/Uゆらぎ塩基対を形成できる5~10ntの長さの塩基配列からなり得る。
【0016】
本発明の更なる実現形態として、前記IGS領域は、序列番号2、4、又は6の塩基配列を含むか、又はこれからなるものであってもよい。
【0017】
本発明の更なる実現形態として、前記トランススプライシングリボザイムは、IGS領域のアップストリームにAPOE4遺伝子の一部と相補的に結合できるAS(antisense sequence)領域をさらに含むことができる。
【0018】
本発明の更なる一実施形態として、前記AS領域の長さは、10nt~200nt、好ましくは、50nt~150ntであり得る。
【0019】
本発明の更なる実現形態として、前記トランススプライシングリボザイムは、序列番号2からなるIGS領域を含み、150ntの長さのAS領域を含むことができる。
【0020】
本発明の更なる実現形態として、前記トランススプライシングリボザイムは、序列番号4からなるIGS領域を含み、50ntの長さのAS領域を含むことができる。
【0021】
本発明の更なる実現形態として、前記IGS領域とAS領域との間には、5~10個のランダムのヌクレオチドが含まれてもよく、前記ランダムのヌクレオチド序列は制限酵素序列であってもよく、前記ランダムのヌクレオチド序列は、好ましくは、6ntの長さであってもよく、図10に図式化されたP1及びP10の一部と相補的な序列からなるものであってもよい。
【0022】
本発明の更なる実現形態として、前記リボザイム領域は、序列番号7の塩基配列を含むか、又はこれからなるものであってもよい。
【0023】
本発明の更なる実現形態として、前記エクソン領域は、アルツハイマー病の予防又は治療用遺伝子であってもよく、ApoE2又はApoE3クライストチャーチ(christchurch)突然変異(R136S)を暗号化する塩基配列の一部又は全てを含むことができる。
【0024】
また、本発明は、前記トランススプライシングリボザイムの塩基配列及び/又はこれと相補的な塩基配列を含むトランススプライシングリボザイム発現ベクターを提供する。
【0025】
本発明の一実施形態として、前記発現ベクターは、前記リボザイム遺伝子と作動可能に連結されたプロモータをさらに含んでもよく、前記プロモータは、神経細胞特異的なプロモータであってもよく、前記神経細胞は、ニューロン(neuron)、星状細胞(astrocyte)、及び希突起膠細胞(oligodendrocyte)を含む。
【0026】
また、本発明は、前記トランススプライシングリボザイム発現ベクターを含む遺伝子伝達システムを提供する。
【0027】
また、本発明は、前記トランススプライシングリボザイム、これを発現できるベクター、及び前記ベクターを含む遺伝子伝達システムからなる群から選択されるいずれか1つ以上を有効成分として含むアルツハイマー病の予防又は治療用医薬組成物を提供する。
【0028】
また、本発明は、前記トランススプライシングリボザイム、これを発現できるベクター、及び前記ベクターを含む遺伝子伝達システムからなる群から選択されるいずれか1つ以上を個体に投与するステップを含むアルツハイマー病の予防又は治療方法を提供する。
【0029】
本発明の一実施形態として、前記個体は、アルツハイマー病の予防又は治療が必要なヒト、より具体的に、アルツハイマー病患者、高齢者(満60歳以上)、又はAPOE4対立遺伝子の保持者であり得る。
【0030】
本発明の他の実現形態として、前記方法は、個体の認知能力の程度を測定するステップをさらに含むことができる。
【0031】
また、本発明は、アルツハイマー病の予防又は治療薬剤の製造のための前記トランススプライシングリボザイム、これを発現できるベクター、又は前記ベクターを含む遺伝子伝達システムの用途を提供する。本発明において、前記アルツハイマー病は、アミロイドベータタンパク質、タウタンパク質など異常たんぱく質が脳内に積もって徐々に脳神経細胞が損傷される神経変性疾患であり、アルツハイマー病が進行されて現れる他の疾患、例えば、アルツハイマー性認知症のような疾患を含む。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係るトランススプライシングリボザイムは、アルツハイマー病の発症原因になったり発症危険を高める遺伝子のRNAを疾患治療に有益な遺伝子のRNAに置換して、疾患の原因になったり発症危険を高める遺伝子の発現を低下させ、疾患治療に有益な遺伝子の発現を、標的遺伝子を発現する細胞又は組織特異的に増加させるため、アルツハイマー病の予防又は治療用途として有効に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1A】APOE4 RNAを標的とするトランススプライシングリボザイムの作用機序模式図である(図1A)。
図1B】APOE4 RNA標的用トランススプライシングリボザイムを製造するためにApoE RNAの変移体の序列を比較した結果図である(図1B)。
図2】本発明のAPOE4 RNA標的用トランススプライシングリボザイムを概略的に示す図である。
図3】APOE4 RNAの+56番の塩基をターゲットとする+56ターゲッティングリボザイムのトランススプライシング効果を確認したものであり、Aは、+56ターゲッティングリボザイムによるトランススプライシング産物生成の有無を確認した結果であり、Bは、生成されたトランススプライシング産物の序列分析の結果である。
図4】トランススプライシングの効率においてAS領域の効果を確認したものであり、Aは、ApoE RNA標的用トランススプライシングリボザイムの5’末端にAS領域を導入した構造を示し、Bは、AS領域の導入及び導入されたAS領域の長さによるリボザイムのトランススプライシングの効率を確認したグラフである。
図5A】神経細胞由来の細胞株でAS領域の導入及び導入されたAS領域の長さによる+56ターゲッティングリボザイムのトランススプライシングの効率を確認したものであって、図5Aは、たんぱく質レベルで確認した図である。
図5B】神経細胞由来の細胞株でAS領域の導入及び導入されたAS領域の長さによる+56ターゲッティングリボザイムのトランススプライシングの効率を確認したものであって、図5BのAは、たんぱく質レベルで確認した図であり、図5BのBは、トランススプライシング産物の序列分析の結果である。
図6】インビトロ(in vitro)上でAPOE4 RNAのリアクションサイトマッピング試験の模式図及びその結果図である。
図7】細胞内でAPOE4 RNAのリアクションサイトマッピング試験の模式図及びその結果図である。
図8】APOE4 RNAの標的位置を異にしたリボザイムのトランススプライシングの効率を確認した図である。
図9A】AS領域の導入及び導入されたAS領域の長さによる+21ターゲッティングリボザイムのトランススプライシングの効率を確認したものであり、図9Aは、たんぱく質レベルで確認した図である。
図9B】AS領域の導入及び導入されたAS領域の長さによる+21ターゲッティングリボザイムのトランススプライシングの効率を確認したものであり、図9Bは、遺伝子レベルで確認した図である。
図9C】AS領域の導入及び導入されたAS領域の長さによる+21ターゲッティングリボザイムのトランススプライシングの効率を確認したものであり、図9Cは、トランススプライシング産物の序列分析の結果である。
図10A】本発明のトランススプライシングリボザイム構造模式図であって、図10Aは、+21ターゲッティングリボザイムの構造を示す。各リボザイムのIGS領域のアップストリームには、APOE4 RNAと相補的な3つのヌクレオチド領域(P1)が含まれ、リボザイムのターゲットとの結合特異性及び結合力を増加させることができる。また、各リボザイムは、図10に図式化したように、リボザイム領域のダウンストリーム位置に前記P1領域を含む5’領域と相補的な5~10ntの長さのP10領域を含み、リボザイムのトランススプライシングの効率を向上させることができる。AS領域及びエクソン領域を除いたリボザイムの具体的な序列に関して、+21ターゲッティングリボザイムは序列番号8、+30ターゲッティングリボザイムは序列番号9、+56ターゲッティングリボザイムは序列番号10の塩基配列からなるか、これを含むものであってもよい。
図10B】本発明のトランススプライシングリボザイム構造模式図であって、図10Bは、+30ターゲッティングリボザイムの構造を示す。各リボザイムのIGS領域のアップストリームには、APOE4 RNAと相補的な3つのヌクレオチド領域(P1)が含まれ、リボザイムのターゲットとの結合特異性及び結合力を増加させることができる。また、各リボザイムは、図10に図式化したように、リボザイム領域のダウンストリーム位置に前記P1領域を含む5’領域と相補的な5~10ntの長さのP10領域を含み、リボザイムのトランススプライシングの効率を向上させることができる。AS領域及びエクソン領域を除いたリボザイムの具体的な序列に関して、+21ターゲッティングリボザイムは序列番号8、+30ターゲッティングリボザイムは序列番号9、+56ターゲッティングリボザイムは序列番号10の塩基配列からなるか、これを含むものであってもよい。
図10C】本発明のトランススプライシングリボザイム構造模式図であって、図10Cは、+56ターゲッティングリボザイムの構造を示す。各リボザイムのIGS領域のアップストリームには、APOE4 RNAと相補的な3つのヌクレオチド領域(P1)が含まれ、リボザイムのターゲットとの結合特異性及び結合力を増加させることができる。また、各リボザイムは、図10に図式化したように、リボザイム領域のダウンストリーム位置に前記P1領域を含む5’領域と相補的な5~10ntの長さのP10領域を含み、リボザイムのトランススプライシングの効率を向上させることができる。AS領域及びエクソン領域を除いたリボザイムの具体的な序列に関して、+21ターゲッティングリボザイムは序列番号8、+30ターゲッティングリボザイムは序列番号9、+56ターゲッティングリボザイムは序列番号10の塩基配列からなるか、これを含むものであってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明者は、APOE4タンパク質自体の細胞毒性及びベータアミロイド蓄積機能とアルツハイマー病患者のうちAPOE4対立遺伝子の保持者が多い統計的な結果から、APOE4をターゲットとするアルツハイマー病の予防及び治療のための遺伝子治療方法について鋭意研究し、APOE4をターゲットとするトランススプライシングリボザイムを完成した。
【0035】
より具体的に、本発明者は、様々なAPOE RNA変移体の序列分析を通じて、5’-UTR領域に共通序列を確認し、APOE4 RNAの+56番の塩基を含む領域をターゲットに設定した。APOE4 RNAと反応特異性を向上させるために、前記ターゲット領域と相補的な序列の内部ガイド序列(Internal Guide Sequence、IGS)を含むトランススプライシングリボザイム(+56ターゲッティングリボザイム)を設計し(実施例1)、+56ターゲッティングリボザイムがAPOE4 RNAの所望する位置で正確にトランススプライシングしたことを確認した(実施形態2及び3)。
【0036】
次に、本発明者は、+56ターゲッティングリボザイムの標的特異性及びトランススプライシングの効率増大のために、リボザイムの5’末端にAPOE RNAと相補的な序列を有するアンチセンス(AS)領域を導入し、3’エクソン領域にルシフェラーゼ遺伝子を導入し、ルシフェラーゼ活性測定を介してトランススプライシングの活性程度を確認した。その結果、AS領域の導入及び導入されたAS領域の長さは、リボザイムのトランススプライシングの効率に影響を及ぼすことが分かった(実施形態3-1)。
【0037】
神経細胞に特異的でより効率的なトランススプライシングリボザイムを設計するために、神経細胞由来の細胞株で同様の試験を行った結果、+56ターゲッティングリボザイムは、150ntの長さのAS領域が導入される場合、優れたトランススプライシングの効率を示すことが分かった(実施形態3-2)。
【0038】
次に、本発明者は、APOE4 RNAの+56番の塩基以外の標的領域を確保するために、APOE4 RNAとランダムライブラリーリボザイムとを混合して生成されたトランススプライシング産物の序列分析を通じてリアクションサイトを確認し、各リアクションサイトをターゲットとするリボザイムのトランススプライシング効果を確認した結果、+56番の塩基以外にもAPOE4 RNAの+21、+30、+71、及び+77サイトが効果的なターゲット領域として使用されることが分かった。そのうち、特に、APOE4 RNAの+21及び+30を標的とするリボザイムのトランススプライシングの効率が優れていることを確認した(実施例4)。
【0039】
また、本発明者は、APOE4 RNAのターゲット位置の変化による最適なAS領域の長さを探求した結果、+21ターゲッティングリボザイムは50nt長さのAS領域が導入される場合、トランススプライシングの効率が増大することが確認できた(実施例5)。
【0040】
前記の結果から本発明者は、APOE4 RNAを標的とするリボザイムにおいて、標的部位は+21、+30、及び+56番の塩基を含むことが好ましく、前記領域と相補的な5~10ntの長さのIGS序列を含むことで、APOE4 RNAの特異的に効率的なトランススプライシングを発生させ得ることが分かる。
【0041】
また、APOE4 RNAを標的とするリボザイムにおいて、IGS領域のアップストリームにAPOE4 RNAと相補的な序列のAS領域が含まれる場合、トランススプライシングの効率を向上させ得るが、効率増大のための最適なAS領域の長さは、標的部位(標的塩基)と標的細胞に応じて互いに異なることが分かる。
【0042】
本発明者は、アルツハイマー病の予防及び治療のために、特に神経細胞でAPOE4タンパク質の発現低下のためのトランススプライシングリボザイムを提供し、前記リボザイムは、5’-IGS(internal guide sequence)-リボザイム-エクソン(exon)-3’の構造、又は5’-AS(antisense)-IGS-リボザイム-エクソン-3’の構造を有することができる。
【0043】
本発明で使用された「リボザイム」という用語は、酵素のように作用するRNA分子又はそのRNA分子を含むタンパク質で構成される分子であって、RNA酵素又は触媒的RNAとも呼ばれる。明確な3次構造を有するRNA分子として化学反応を行い、触媒的又は自己触媒的な特性を有する。一部のリボザイムは、自己又は他のRNA分子を切断して活性を阻害し、他のリボザイムは、リボソームのアミノ伝達酵素(aminotransferase)の活性を触媒するものと知られている。このようなリボザイムには、ハンマーヘッド(hammerhead)リボザイム、VSリボザイム、及びヘアピン(hairpin)リボザイムなどが含まれてもよい。
【0044】
本明細書でにおいて、「トランススプライシング(trans-splicing)」は、互いに異なる遺伝子からのRNAを互いに連結することを意味する。
【0045】
本明細書において、リボザイムは、APOE4 RNAを切断して自己RNA(特に、リボザイムの3’エクソン領域)に置換して宿主細胞内でAPOE4タンパク質の発現を阻害し、エクソン領域に暗号化された遺伝子の発現を誘導するトランススプライシングリボザイムを意味する。本発明において、リボザイムは、5’-IGS(internal guide sequence)-リボザイム-エクソン(exon)-3’、又は5’-AS(antisense)-IGS-リボザイム-エクソン-3’の構造を有してもよい。前記構造内のリボザイム領域は、トランススプライシングリボザイム内でAPOE4 RNAの切断及び/又はエクソン領域における置換の機能を行う領域を意味し、序列番号7の塩基配列を含むか、又はこれからなるものであってもよい。本明細書において特別な言及がない限り、リボザイムは実質的な機能を行う領域であるリボザイム領域を含む前記全体構造を含むトランススプライシングリボザイムを称する。
【0046】
本発明において、リボザイムの3’エクソン(exon)領域に暗号化される遺伝子は、神経細胞の保護活性があるものと知られている公知のタンパク質(又は、ペプチド)を暗号化する遺伝子であり、好ましくは、APOE2又はAPOE3クライストチャーチ(christchurch)遺伝子であってもよい。
【0047】
本明細書において、ベクターは、適切な宿主細胞でトランススプライシングリボザイムを発現できる発現ベクターであって、ベクター内に含まれたリボザイム遺伝子の挿入物が発現されるように、作動可能に連結された必須の調節要素を含む遺伝子構造物を指す。
【0048】
本明細書において、「作動可能に連結された(operably linked)」とは、一般的な機能を行う核酸発現調節の序列と目的とする遺伝子をコーディングする核酸序列が機能的に連結(functional linkage)されていることを指す。
【0049】
例えば、リボザイムの暗号化序列をプロモータに作動可能に連結すれば、リボザイムの暗号化序列の発現は、プロモータの影響又は調節下にある。2つの核酸序列(リボザイムの暗号化序列及びこの序列の5’末端のプロモータ部位の序列)は、プロモータ作用が誘導されてリボザイムの暗号化序列が転写されれば、作動可能に連結されたものであり、前記2つの序列間の連結特性がフレーム変更の突然変異(frameshift mutation)を誘導することなく、発現調節序列がリボザイムの発現を阻害しなければ、作動可能に連結されたものと見ることができる。再調合ベクターとの作動可能な連結は、この技術分野で公知の遺伝子の再調合技術を用いて製造することができ、部位-特異的DNA切断及び連結は、この技術分野で一般に知られた酵素などを用いてもよい。
【0050】
本発明に係るベクターは、プロモータ、オペレーター、開始コドン、終結コドン、ポリアデニル化シグナル、エンハンサーのような発現調節要素の他にも、膜の標的化又は分泌のための信号序列又はリーダー序列を含み、目的に応じて多様に製造され得る。ベクターのプロモータは、構成的又は誘導性であってもよい。また、発現ベクターは、ベクターを含有する宿主細胞を選択するための選択性マーカーを含み、複製可能な発現ベクターである場合、複製の起源を含み得る。ベクターは、自己複製するか、又は宿主DNAに統合されてもよい。
【0051】
本発明に係るベクターは、好ましくは、プラスミドベクター、コスミドベクター又はウイルスベクターなどであってもよく、最も好ましくは、ウイルスベクターであってもよい。前記ウイルスベクターは、好ましくは、レトロウイルス(Retrovirus)、例えば、ヒト免疫欠乏ウイルス(Human immunodeficiency virus、HIV)、マウス白血病ウイルス(Murine leukemia virus、MLV)、鳥類肉種/白血病ウイルス(Avian sarcoma/leucosis virus、ASLV)、脾臓壊死ウイルス(Spleen necrosis virus、SNV)、ラウス肉腫ウイルス(Rous sarcoma virus、RSV)、マウス乳房腫瘍ウイルス(Mouse mammary tumor virus、MMTV)など、アデノウイルス(Adenovirus)、アデノ関連ウイルス(Adeno-associated virus、AAV)、又は単純ヘルペスウイルスウイルス(Herpes simplex virus、HSV)などに由来するベクターであってもよいが、これらに制限されることはない。本発明に係る再調合ベクターは、最も好ましくは、再調合アデノ関連ウイルスベクターであってもよい。
【0052】
本発明で使用された「プロモータ」という用語は、DNAの一部分として転写を開始できるようにRNA重合酵素の結合に関与する。一般に、標的遺伝子に隣接してこの上流に位置し、RNA重合酵素又はRNA重合酵素を誘導するタンパク質である転写因子(transcription factor)が結合する個所であって、前記酵素又はタンパク質が正しい転写の開始部位に位置するように誘導することができる。即ち、センス鎖(sense strand)で転写しようとする遺伝子の5’部位に位置し、RNA重合酵素が直接又は転写因子を介して該当位置に結合して標的遺伝子に対するmRNA合成を開始するように誘導することで、特定の遺伝子序列を有する。
【0053】
本発明に係るプロモータは、神経細胞で遺伝子の発現を高めるための観点から神経細胞タイプの特異的なプロモータであってもよく、前記神経細胞は、ニューロン、星状細胞、及び希突起膠細胞を含む。
【0054】
本明細書において、「遺伝子伝達システム(gene delivery system)」は、リボザイム遺伝子及び/又は核酸序列の細胞内部における伝達効率を高め、発現効率を向上させ得るシステムを意味し、ウイルス媒介システム及び非ウイルスシステムに分類されてもよい。
【0055】
ウイルス媒介システムは、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクターのようなウイルス性ベクターを用いて、ヒト細胞に感染を引き起こすウイルス固有の細胞内浸透機序を使用するため、非ウイルス性システムよりも細胞内の遺伝子伝達の効率が比較的に高いことが知られている。また、細胞中に入った後の非ウイルス性ベクターは、エンドソームがリソソームと融合した後、エンドリソソームで遺伝子が分解される問題があるが、ウイルス性ベクターは、リソソームを通過することなく核内に遺伝子を伝達する機序によって遺伝子の損失が小さく、遺伝子伝達の効率が高いという長所がある。
【0056】
本発明で用いられるウイルス性ベクターは、前記再調合ベクターで説明したように、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルスなどに由来するベクターであってもよい。このようなウイルス性ベクターは、ウイルス粒子に組み立てられた後、感染(infection)のような形質導入(transduction)方法で細胞内部に導入することができる。
【0057】
前記非ウイルス性システムは、核酸及び/又は遺伝子の伝達媒介体で陽イオン性脂質伝達体又は陽イオン性高分子伝達体などを用いるか、又は電気穿孔法を使用する方法である。
【0058】
陽イオン性脂質伝達体は、主に陽イオン性脂質からなるナノメートルサイズのリポソームや脂質素材ナノ粒子の陽電荷を用いて陰電荷である遺伝子、遺伝子を含む発現ベクター又は核酸と複合体を形成させた後、この複合体を貪食作用により細胞内に伝達する方法である。細胞内に伝達された複合体は、エンドソームからリソソームに1次伝達された後、細胞質に抜け出て発現する。陽イオン性高分子伝達体は、脂質の代わりに高分子を使用することを除外すれば、陽イオン性脂質伝達体に類似の方式で遺伝子を伝達し、代表的な陽イオン性高分子として、ポリエチレンイミン(polyethyleneimine)、ポリライシ(poly-L-lysine)、キトサン(chitosan)などがある。
【0059】
従って、本発明の再調合ベクターが陽イオン性脂質伝達体又は陽イオン性高分子伝達体と結合して形成された複合体は、遺伝子伝達体として使用されることができる。
【0060】
本発明において、前記遺伝子伝達システムは、前記説明した再調合ベクターを含み、ウイルス媒介システム及び非ウイルスシステムの全てが使用されるが、ウイルス媒介システムを使用することが好ましい。
【0061】
一方、本発明のトランススプライシングリボザイムは、神経細胞でAPOE4 RNAをターゲットにしてAPOE4タンパク質発現を阻害し、APOE4は、アルツハイマー病の主な発症危険誘発遺伝子として知られているが、本発明のトランススプライシングリボザイム、前記リボザイム発現ベクター、及び前記ベクターを含む遺伝子伝達システムは、アルツハイマー病の予防又は治療のための医薬組成物に用いられることができる。
【0062】
本発明で使用された「予防」という用語は、本発明に係る医薬組成物の投与によりアルツハイマー病を抑制するか、又は発症を遅延させる全ての行為を意味する。
【0063】
本発明で使用された「治療」という用語は、本発明に係るベクターを含む組成物の投与によりアルツハイマー病が好転したり、その症状を有利に変更したりする全ての行為を意味する。
【0064】
本発明に係る医薬組成物は、薬学的に許容可能な担体、賦形剤又は希釈剤をさらに含むことができる。本発明の医薬組成物に用いられる薬学的に許容可能な担体、賦形剤及び希釈剤の例として、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルジネート、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシ安息香酸、プロピルヒドロキシ安息香酸、タルク、ステアリン酸マグネシウム、鉱物油などが挙げられる。
【0065】
本発明の医薬組成物は、目的とする方法により経口投与したり、非経口投与したりしてもよいが、非経口として投与することが好ましい。
【0066】
本発明の一実施形態によれば、本発明に係る医薬組成物は、静脈内、動脈内、脳組織内、皮下投与又は大槽内投与(intracisternal injection)であってもよい。本発明に係る注射剤は、患者に投与するときそのまま利用できるように滅菌媒質に分散した形態であってもよく、投与時に注射用蒸留水を加えて適切な濃度で分散させてから投与する形態であってもよい。また、注射剤で製造されるとき、緩衝剤、保存剤、無痛化剤、可溶化剤、等張化剤、安定剤などと混合されてもよく、単位投薬アンプル又は多重投薬の形態に製造されてもよい。
【0067】
本発明の医薬組成物の投与量は、患者の状態及び体重、病気の程度、薬物形態、投与経路、及び時間により異なるが、当業者により適切に選択されてもよい。一方、本発明に係る医薬組成物は単独に使用されるか、又は他のアルツハイマー病の治療剤又は治療方法と並行して使用されてもよい。
【0068】
本発明において、いずれかの部分がいずれかの構成要素を「含む」とするとき、これは特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含むことを意味する。
【実施例
【0069】
以下、本明細書を具体的に説明するために実施形態の例を挙げて詳説する。しかし、本明細書に係る実施形態は異なる形態に変形されてもよく、本明細書の範囲が以下で上述する実施形態に限定されるものと解釈されない。本明細書の実施形態は、当業界で平均的な知識を有する者にとって本明細書をより完全に説明するために提供される。
【0070】
実施形態1.APOE4 RNA+56ターゲッティングトランススプライシングリボザイムの設計及び製造
【0071】
ターゲットRNAの部位を選定するために、NCBIに公開されたAPOE RNA変移体V1~V5の序列を比較し、5’-UTRの共通序列(23bp)のうち、リボザイムとG-Uゆらぎ塩基対(wobble base pair)を形成できるウラシル(U)塩基が含まれた序列(GCCAAU:序列番号1)をターゲット部位として選定した(図1)。
【0072】
前記ターゲット部位は、APOE4 RNA(序列番号11)の+56位置の塩基を含み、5’末端に前記ターゲット部位を標的できるIGS(GUUCCG:序列番号2)と、3’末端には置換しようとする目的遺伝子であるApoE2の導入されたAPOE4 RNAを標的とするトランススプライシングリボザイム(以下、「+56ターゲッティングリボザイム」という)を製造した(図2)。
【0073】
前記+56ターゲッティングリボザイムをpcDNAベクターにクローニングしてトランススプライシングリボザイムの発現用ベクターを製造した。
【0074】
実施形態2.+56ターゲッティングリボザイムのトランススプライシングの効果確認
【0075】
上記の実施形態1で製造した+56ターゲッティングリボザイムの効果を下記のように確認した。
【0076】
リボザイム1pmole及びAPOE4 RNA1pmoleをトランススプライシング反応バッファ(50mM HEPES、150mM NaCl、5mM MgCl、pH7.0)と混合した後、体積を9μlに合わせ、95℃で1分間加熱した。37℃で3分間放置した後、1mM GTP1μlを添加して体積を10μlに合わせ、37℃で3時間反応させた。反応の終了したRNA産物は、フェノール抽出/エタノール沈殿方法で回収し、DEPC(diethyl pyrocarbonate)の処理された蒸留水(D.W)10μlに溶かした。回収したRNAにRY-RTプライマー(5’-ATGTGCTGCAAGGCGATT-3’)10pmoleを入れて95℃で1分間加熱し、常温で10分間放置した。その後、RNAに10mM dNTP1μl、5x RTaseバッファ4μl、RTase1μl及びDEPCが処理されたD.Wを添加して体積を20μlに合わせ、42℃で50分間反応させてcDNAを合成した。
【0077】
合成したcDNA2μl、5X PCRバッファ10μl、10mM dNTP1μl、ApoE4の全方向プライマー(5’-CTACTCAGCCCCAGCGGAGGTGAAGG-3’)10pmole、RY-TSプライマー(5’-TGTAAAACGACGGCCAGTG-3’)10pmole及びPhusion DNA taq polymerase0.2μlを混合した。これに、D.Wを添加して体積を50μlに合わせ、98℃で30秒、55℃で30秒、及び72℃で15秒の条件で30サイクルを増幅させ、トランススプライシング産物DNAを収得した。PCR産物5μlを2%TBEアガロースゲルで電気泳動してトランススプライシング産物の生成の有無を確認し、生成物の序列分析を行った。
【0078】
電気泳動の結果、APOE4 RNAがリボザイムの3’エクソンRNAに置換されたとき生成されるトランススプライシング産物(131bp)を確認し、序列分析(sequencing)の結果、生成物はAPOE4 RNAの5’-UTRにリボザイムの3’エクソンRNAが連結されていることが分かった(図3)。
【0079】
実施形態3.+56ターゲッティングトランススプライシングリボザイムの最適化
【0080】
3-1.アンチセンス(anti-sense:AS)領域導入の効果確認
【0081】
実施形態1で製造した+56ターゲッティングリボザイムの標的特異性及びトランススプライシングの効率増加のために、リボザイムの5’末端にAPOE4 RNAと相補的な序列を有するアンチセンス(AS)領域を導入した。前記AS領域の長さによるトランススプライシングの効率を確認するために、前記リボザイムの3’エクソン領域にルシフェラーゼ遺伝子を導入した。AS領域の長さが0nt、50nt、100nt、又は150ntであるとき、ルシフェラーゼ活性を測定した。
【0082】
より具体的に、ApoEを発現するHuh-7.5細胞株と、これを発現しない293A細胞株にそれぞれのリボザイム発現ベクターを形質注入させ、ルシフェラーゼアッセイを行った。ルシフェラーゼ信号を確認した結果、Huh-7.5細胞株では、アンチセンス序列50個を導入したトランススプライシングリボザイムのトランススプライシングの効率が著しく優れているが、293A細胞株では、各リボザイムのトランススプライシングの効率にそれ程の差がないことが確認された(図4のB)。
【0083】
前記の結果から、AS領域の導入とAS領域の長さは、リボザイムのトランススプライシングの効率に影響を及ぼすことが確認された。
【0084】
3-2.ターゲット細胞株によるAS領域の長さの最適化
【0085】
アルツハイマー病の予防及び治療ターゲットとして、APOE4遺伝子発現の減少のために、前記トランススプライシングリボザイムは、神経細胞でトランススプライシングを効率よく実行しなければならない。ここで、神経細胞由来の細胞株において、上記の実施形態3-1の試験を繰り返し実行し、AS領域の長さによるトランススプライシングの効率を確認した。
【0086】
より具体的に、1×10個のCCF-STTG1(E3/E4、astrocyte)細胞を12ウェルプレートに24時間培養し、互いに異なる長さ(0nt、50nt、100nt、又は150nt)のAS領域を含む+56ターゲッティングリボザイムを発現するプラスミドベクター500ngと、pTK-レニラルシフェラーゼ(renilla luciferase)プラスミドベクター50ngを48時間の間に同時導入(co-transfection)した。次に、培養液を全て除去した後、1xPBS500ulで1回洗浄し、受動溶解緩衝液(passive lysis buffer)(Promega、E1980、Dual-Luciferase Reporter Assay System)100ulを各ウェル(well)に入れた後、常温で15分間シェイクして細胞を溶解させた。溶解物を回収して13000rpmで1分間遠心分離した後、10ulの上層液を取ってルシフェラーゼ活性を測定した(Promega、E1980、Dual-Luciferase Reporter Assay System)。陽性対照(Positive control)(CF)は、CMV promoter-Firefly luciferaseを使用した。
【0087】
その結果、AS領域の導入有無及びAS領域の長さに関わらず、CCF-STTG1細胞でリボザイムによるAPOE4 RNAのトランススプライシングが誘導されることが確認され、特に、150ntの長さのAS領域を含むリボザイムによるトランススプライシングの効率が優れていることが確認された(図5A)。
【0088】
前記結果を遺伝子レベルで再検証するために、電気泳動を行ってトランススプライシング産物(trans-splicing product)を検出した。より具体的に、2×10個のCCF-STTG1、又はU118MG(E2/E4)細胞を6ウェルプレートに24時間培養し、2.5ugの+56ターゲッティングリボザイムの発現ベクターで形質転換を誘導した。48時間が経過した後、培養液を全て除去し、1xPBS1mLで1回洗浄して回収された細胞と、クロロホルム100uLを混合してトータルRNAを抽出した。抽出したtotal RNA 1ugにRTプライマー(5’-CCCATATCGTTTCATAGCTTCTGCC-3’)を入れた後、20uLボリュームの条件で逆転写を行ってcDNAを生成した。前記cDNA 2uLを正方向プライマー(5’-CAGCGGAGGTGAAGGACGT-3’)、逆方向プライマー(5’-ATGTTCACCTCGATATGTGCATC-3’)と混合して95℃30秒、58℃30秒、72℃30秒の条件で30サイクルPCRを行い、2%TBEアガロースゲルでPCRバンドを確認した。その結果、トランススプライシング産物と予想される211bp PCR DNAバンドを確認することができ、特に、150ntの長さのAS領域を含むリボザイムが形質転換された細胞で最も濃いバンドを確認することができた(図5Bの(A))。
【0089】
次に、所望する位置でトランススプライシングが実行されたかを確認するために、前記211bp PCR DNAの序列分析を行った結果、トランススプライシング予想サイトで正確にトランススプライシングが生じ、APOE RNA+reporter RNA(Firefly luciferase)fusion RNAが生成されたことが確認できた(図5Bの(B))。
【0090】
実施形態4.IGS領域の最適化
【0091】
4-1.インビトロマッピング(in vitro mapping)
【0092】
神経細胞でAPOE4タンパク質を除去するための様々なツールを確保するために、試験管でAPOE4 RNAとランダムライブラリーリボザイム(random library ribozyme)を混合して反応させた後、RT-PCRを行ってからトランススプライシング産物として予想されるPCR DNAバンドの序列分析を通じて、トランススプライシングが発生したAPOE4 RNAサイトを確認した。
【0093】
より具体的に、APOE4 RNAをインビトロ転写(in-vitro transcription)過程を介して合成し、5’endにランダムの序列を(GNNNNN)有するトランススプライシングリボザイムRNAライブラリーを、インビトロ転写過程を介して合成した。APOE4 RNA0.1pmole、リボザイムライブラリーRNA1pmoleを1Xインビトロトランススプライシングリアクションバッファ(50mM Hepes(pH7.0)、150mM NaCl、5mM MgCl)と混合してトータル9uLにした後、95℃1分、37℃3分で反応させ、1mM GTP 1uLを入れ、final0.1mM GTPで濃度を合わせた後、37℃で3時間反応させた。反応液をフェノール抽出(phenol extraction)/EtOH沈殿(precipitation)過程を経て、RNAを回収した後、RT-PCRを行った。次に、ribozyme specific RTプライマー(5’-ATGTGCTGCAAGGCGATT-3’)を入れた後、20uLボリュームの条件で、逆転写(reverse transcription)でcDNAを合成した。合成されたcDNA 2uLを用いて、APOE4 RNA specific5’プライマー(5’-CTACTCAGCCCCAGCGGAGG-3’)、ribozyme specific3’プライマー(RY-TS)(5’-TGTAAAACGACGGCCAGTG-3’)をそれぞれ10pmoleずつ使用し、95℃30秒、55℃30秒、72℃30秒の条件で35サイクルPCRを行い、2%TBEアガロースゲルでPCRバンドを確認し、確認された全てのPCRバンドを、ゲル抽出過程を経て溶出した後、APOE4 RNAのどの部位でトランススプライシング反応が生じたかを塩基配列分析を通じて確認した。その結果、APOE4 RNA(序列番号11)でトランススプライシングが発生したリアクションサイト及び発生頻度は下記の表1のとおりである。
【0094】
【表1】
【0095】
前記表1で確認されるように、APOE4 RNAの+21番の部位で最も多いトランススプライシングが生じたことが確認された。前記結果から、APOE4 RNAの+21番の塩基をターゲットとするトランススプライシングリボザイム(以下、「+21ターゲッティングリボザイム」という)がAPOE4タンパク質の発現減少に効率的であることが分かる。
【0096】
4-2.セルマッピング(Cell mapping)
【0097】
試験管上でAPOE4 RNAのトランススプライシングリアクションサイトマッピング(trans splicing reaction site mapping)の結果に続いて、これと同じ試験をAPOE4 RNAとランダムライブラリーリボザイムを同時導入して293A細胞内で実行した(図7)。その結果、APOE4 RNA(序列番号11)でトランススプライシングが発生したリアクションサイト及び発生頻度は下記の表2のとおりである。
【0098】
【表2】
【0099】
4-3.各リアクションサイトをターゲットとするリボザイムのトランススプライシング効果の確認
【0100】
インビトロ及びセルのマッピングを介して確認されたターゲットサイトのうち重複して確認された+30、+71、+77、+80、+82サイトと、インビトロマッピングに最もトランススプライシング頻度の高い+21サイトを選別し、前記各サイトをターゲットとするリボザイムを製造してインビトロトランススプライシングリアクションを行ってトランススプライシングの有無を確認した。+56ターゲッティングリボザイムは対照群として使用した。
【0101】
より具体的には、APOE4 RNA 0.1pmoleを各トランススプライシングリボザイムライブラリーRNA 1pmoleと混合して、トランススプライシングリアクションを誘導した。各反応液でRNAを回収し、RT-PCRを行って製造されたcDNAをAPOE4 RNA specific5’プライマー(5’-CTACTCAGCCCCAGCGGAGG-3’)、ribozyme specific3’プライマー(5’-TGTAAAACGACGGCCAGTG-3’)を用いてPCR増幅し(95℃30秒、55℃30秒、72℃30秒、35サイクル)、各増幅産物をアガロースゲルで電気泳動を介して確認した。
【0102】
その結果、APOE4 RNAの+21、+30、+71、及び+77サイトをターゲットとするリボザイムによるトランススプライシングの効率に優れ、特に、+21ターゲッティングリボザイムと+30ターゲッティングリボザイムの効率が格別に優れていることが確認できた(図8)。
【0103】
APOE4 RNAにおいて、+21番の塩基を含むターゲット領域は5’-GGAGGU-3’(序列番号3)であり、+21ターゲッティングリボザイムのIGSは、5’-GCCUCC-3’(序列番号4)を有する。また、APOE4 RNAにおいて、+30番の塩基を含むターゲット領域は、5’-GGACGU-3’(序列番号5)であり、+30ターゲッティングリボザイムのIGSは、5’-GCGUCC-3’(序列番号6)を有する。
【0104】
実施形態5.+21ターゲッティングトランススプライシングリボザイムの最適化
【0105】
次に、APOE4 RNAの標的部位を異にしたトランススプライシングリボザイムの標的特異性及びトランススプライシングの効率増加のために、上記の実施形態3と同様に長さの異なるAS領域を導入したリボザイムを製造した後、Huh-7.5細胞、CCF-STTG1細胞、及びU118MG細胞に形質転換した後、トランススプライシングの発生程度をたんぱく質レベル及び遺伝子レベルで確認した。
【0106】
たんぱく質レベルで確認した結果、APOE4 RNAの+21塩基をターゲットとするリボザイムは、AS領域の導入有無及びAS領域の長さに関わらず、APOE4を発現する細胞でAPOE4 RNAのトランススプライシングを誘導し、特に、50ntの長さのAS領域が導入されたリボザイムで著しく優れたトランススプライシングの効率を確認することができた(図9A)。
【0107】
遺伝子レベルで、トランススプライシング産物の確認結果もたんぱく質レベルの確認結果と同一であり(図9B)、トランススプライシング産物の序列分析の結果、全てのトランススプライシングの予想位置で正確に反応が生じたことが確認された(図9C)。
【0108】
以上で本発明の内容の特定部分を詳細に記述したが、当業界における通常の知識を有する者にとって、このような具体的な技術は単に好ましい実施形態に過ぎず、これによって本発明の範囲が制限されないことを明らかにする。従って、本発明の実質的な範囲は、添付された請求項とこれらの等価物によって定義されるものと言える。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明のAPOE4標的のトランススプライシングリボザイムは、それ自体でアルツハイマー病の発症率を高めるAPOE4タンパク質の発現を抑制し、アルツハイマー病の予防又は治療のための薬剤として用いられることができ、トランススプライシングによってアルツハイマー病の発症率を低下させる遺伝子の発現を誘導でき、アルツハイマー病の治療遺伝子導入のためのプラットフォームとして用いられる。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B
図10C
【配列表】
2022543446000001.app
【国際調査報告】