(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-12
(54)【発明の名称】変性エポキシ樹脂
(51)【国際特許分類】
C08G 59/14 20060101AFI20221004BHJP
【FI】
C08G59/14
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022507672
(86)(22)【出願日】2019-12-12
(85)【翻訳文提出日】2022-04-04
(86)【国際出願番号】 IB2019060704
(87)【国際公開番号】W WO2021024033
(87)【国際公開日】2021-02-11
(31)【優先権主張番号】201911032240
(32)【優先日】2019-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521345914
【氏名又は名称】アディティア・ビルラ・ケミカルズ・(タイランド)・リミテッド・(エポキシ・ディビジョン)
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アロク・クラー
(72)【発明者】
【氏名】プラディープ・クマール・デュベイ
(72)【発明者】
【氏名】ティパ・ナイヤワット
(72)【発明者】
【氏名】マリカ・ティムンギム
(72)【発明者】
【氏名】ダパワン・クンウォン
(72)【発明者】
【氏名】ジダパ・オンタワン
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・サックリー
(72)【発明者】
【氏名】スパンサ・ノガン
【テーマコード(参考)】
4J036
【Fターム(参考)】
4J036AB01
4J036AB07
4J036AD07
4J036AD11
4J036AE07
4J036CD06
4J036CD07
4J036DB06
4J036DC02
4J036FB07
4J036HA12
4J036JA01
4J036JA06
4J036JA11
(57)【要約】
本開示は、式(I)(式中、RはR1、R2、又はR1及びR2の組み合わせであり;R1及びR2は、独立に、1~32個の炭素原子を有するアルキル基、1~32個の炭素原子を有する分岐アルキル基、脂環式基、置換された脂環式基、芳香族基、置換された芳香族基、ビアリール若しくはアルキル置換されたビアリール基、メチル架橋された芳香族基、脂環式-芳香族基、又はAr-Z-Ar基であり;X及びYは、独立に、O、-C(O)O-、又はアミン基である。Zはジシクロペンタジエンであり;R3及びR4は、独立に、H、アルキル基、分岐アルキル基、アルコキシ基、置換されたビアリール基、又はメチル架橋された芳香族基のいずれかであり;R4及びR3は、任意選択により、縮合芳香環又は縮合ヘテロ芳香環を形成していてもよく;nは0~1であり、n=0>75%であり;かつ、Nは1~20である)を有する、変性エポキシ樹脂に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
(式中、
Rは、R1、R2、又はR1及びR2の組み合わせであり;
R1及びR2は、独立に、1~32個の炭素原子を有するアルキル基、1~32個の炭素原子を有する分岐アルキル基、脂環式基、置換された脂環式基、芳香族基、置換された芳香族基、ビアリール若しくはアルキル置換されたビアリール基、メチル架橋された芳香族基、脂環式-芳香族基、又はAr-Z-Ar基であり;
X及びYは、独立に、O、-C(O)O-、又はアミン基であり;
Zはジシクロペンタジエンであり;
R3及びR4は、独立に、H、アルキル基、分岐アルキル基、アルコキシ基、置換されたビアリール基、又はメチル架橋された芳香族基のいずれかであり;R4及びR3は、任意選択により、縮合芳香環又は縮合ヘテロ芳香環を形成していてもよく;
nは0~1であり、n=0>75%であり;かつ
Nは1~20である)
を有する、変性エポキシ樹脂。
【請求項2】
反応進行用触媒の存在下で、
c.式(II):
【化2】
(式中、
R3及びR4は、独立に、H、アルキル基、分岐アルキル基、アルコキシ基、置換されたビアリール基、又はメチル架橋された芳香族基であり;R4及びR3は、任意選択により、縮合芳香環又は縮合ヘテロ芳香環を形成していてもよく;
nは0~1であり、n=0>75%である)
のジシクロペンタジエン-フェノール付加物と、
d.式(IIIa)又は(IIIb):
【化3】
(式中、
R1及びR2は、独立に、1~32個の炭素原子を有するアルキル基、1~32個の炭素原子を有する分岐アルキル基、脂環式基、置換された脂環式基、芳香族基、置換された芳香族基、ビアリール若しくはアルキル置換されたビアリール基、メチル架橋された芳香族基、脂環式-芳香族基、又はAr-Z-Ar基であり;
X及びYは、独立に、O、-C(O)O-、又はアミン基であり;
Zはジシクロペンタジエンである)
のジグリシジル誘導体と
を縮合させることによって得られる反応生成物である、請求項1に記載の変性エポキシ樹脂。
【請求項3】
500~25000g/当量の範囲のエポキシド当量を有する、請求項1に記載の変性エポキシ樹脂。
【請求項4】
1000~50000ダルトンの範囲の重量平均分子量を有する、請求項1に記載の変性エポキシ樹脂。
【請求項5】
硬化性エポキシ樹脂組成物であって、
- 硬化性エポキシ樹脂組成物の質量に基づいて、請求項1に記載の変性エポキシ樹脂組成物を少なくとも10~50%含む樹脂成分10~50%;及び
- 樹脂成分の質量に基づいて、硬化剤5~25質量/質量%と
を含む、硬化性エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
硬化剤がアミノ系硬化剤及びフェノール系硬化剤からなる群から選択され、かつ硬化剤が非ビスフェノールである、請求項5に記載の硬化性エポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
変性エポキシ樹脂を製造する方法であって、反応進行用触媒の存在下で、
c.式II:
【化4】
(式中、
R3及びR4は、独立に、H、アルキル基、分岐アルキル基、アルコキシ基、置換されたビアリール基、又はメチル架橋された芳香族基であり;R4及びR3は、任意選択により、縮合芳香環又は縮合ヘテロ芳香環を形成していてもよく;
nは0~1であり、n=0>75%である)
のジシクロペンタジエン-フェノール付加物と、
d.式(IIIa)又は(IIIb):
【化5】
(式中、
R1及びR2は、独立に、1~32個の炭素原子を有するアルキル基、1~32個の炭素原子を有する分岐アルキル基、脂環式基、置換された脂環式基、芳香族基、置換された芳香族基、ビアリール若しくはアルキル置換されたビアリール基、メチル架橋された芳香族基、脂環式-芳香族基、又はAr-Z-Ar基であり;
X及びYは、独立に、O、-C(O)O-、又はアミン基であり;
Zはジシクロペンタジエンである)
のジグリシジル誘導体と
を縮合させて、式(I):
【化6】
(式中、
Rは、R1、R2、又はR1及びR2の組み合わせであり、
R1及びR2は、独立に、1~32個の炭素原子を有するアルキル基、1~32個の炭素原子を有する分岐アルキル基、脂環式基、置換された脂環式基、芳香族基、置換された芳香族基、ビアリール若しくはアルキル置換されたビアリール基、メチル架橋された芳香族基、脂環式-芳香族基、又はAr-Z-Ar基であり;
X及びYは、独立に、O、-C(O)O-、又はアミン基であり;
Zはジシクロペンタジエンであり;
R3及びR4は、独立に、H、アルキル基、分岐アルキル基、アルコキシ基、置換されたビアリール基、又はメチル架橋された芳香族基のいずれかであり;R4及びR3は、任意選択により、縮合芳香環又は縮合ヘテロ芳香環を形成していてもよく、
nは0~1であり、n=0>75%であり;かつ
Nは1~20である)
の変性エポキシ樹脂を得る工程を含む、方法。
【請求項8】
ジシクロペンタジエン-フェノール付加物が、フェノール又はホルムアルデヒドを含まないフェノールの誘導体と、3a,4,7,7a-テトラヒドロ-4,7-メタノインデン又はジシクロペンタジエンとのディールス・アルダー反応によって、触媒存在下において高いモノマー純度で調製される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
n=0のモノマーの濃度が少なくとも75%である、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
反応進行用触媒が、式(IV):
【化7】
(式中、
Yは、N又はP原子であり;
Xは、ハロゲン又はCH
2-C(=O)-O
-基であり;
R5、R6、R7、R8は、独立に、アルキル、アリール、又は脂環式基である)
を有する第四級オニウム塩触媒である、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記触媒が、配合物全体に基づいて、約0.2質量/質量%~2質量/質量%の量で使用される、請求項7又は9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、変性エポキシ樹脂に関する。より詳細には、本開示は、ビスフェノールAを意図的に含まない(BPA-NI)エポキシ樹脂として有用な変性エポキシ樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
硬化したエポキシ樹脂は、高い衝撃強さ、高い耐摩耗性、良好な耐熱性及び耐薬品性、アルカリ、酸、油、及び有機溶媒に対する高い耐性、高い耐候性、多くの材料に対する優れた接着性、並びに高い電気絶縁能力等の、優れた機械的及び化学的特性を有する。したがって、硬化したエポキシ樹脂は、とりわけ、コーティング組成物、接着剤、絶縁材料、鋳造用途において広く使用されてきた。
【0003】
コーティング組成物、特に食品及び飲料の包装及び貯蔵に使用される金属容器へのエポキシ樹脂の利用が関連する。従来、そのような金属容器の内面をコーティングするためには、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とエピクロロヒドリンとを含むコーティング組成物が使用されている。しかし、ビスフェノールAは食品中に抽出され、人の健康に悪影響を与えることがわかっている。ビスフェノールAは、エストロゲンと同様に人体に作用する内分泌撹乱化合物であり、生殖障害を引き起こす可能性があることがわかっている。更に、ビスフェノールA及びエピクロロヒドリンから製造されたエポキシ樹脂は、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(BADGE)のいくらかの残留量を含有するコーティングをもたらす可能性がある。BADGEには発がん作用を有する可能性があることがわかっている。
【0004】
したがって、研究者らは、硬化性エポキシ樹脂ベースの組成物からビスフェノールAを排除し、ビスフェノールA-ジグリシジルエーテル(BADGE)及びビスフェノールA(BPA)を含まない樹脂組成物を調製するために取り組んでいる。
【0005】
米国特許第7682674号は、ポリ塩化ビニル(PVC)ポリマー及びアクリル樹脂を含み、BADGE及びBPAを含まない缶コーティング組成物を開示している。
【0006】
米国特許出願公開第2003/0170396号は、特定の低分子量ノボラック型エポキシ樹脂を特定の低分子量ノボラック型フェノール樹脂と反応させることによって得られる、2,500~30,000の数平均分子量を有するエポキシ樹脂と、1,500~20,000g/当量のエポキシ当量とを含み、BPAを含まないコーティング組成物を開示している。
【0007】
米国特許出願公開第2004/0147638号は、2層(コア/シェル)系であって、コアはBPA又はBPFベースのエポキシ樹脂から形成され、外層は、例えば、アクリレート樹脂から形成される系を記載している。ここでの重要な問題は、外層がBPA又はビスフェノールAジグリシジルエーテル(BADGE)の内容物への移行を本当に完全に防ぐことができるかどうかである。
【0008】
国際公開第2010/100122号は、エポキシ化植物油と、ヒドロキシル官能性化合物、例えば、プロピレングリコール、プロパン-1,3-ジオール、エチレングリコール、NPG、トリメチロールプロパン、ジエチレングリコール等との反応によって得られるコーティング系を提案している。
【0009】
国際公開第2012/091701号は、エポキシ樹脂のためのBPA又はBADGEの代替物として、BPA及び環水素化(ring-hydrogenated)BPAの誘導体、シクロブタンをベースとする脂環式ジオール、並びに親構造としてフラン環を有するジオールを含む、さまざまなジオール及びそのジグリシジルエーテルを提案している。
【0010】
米国特許第9139690号は、置換された脂環式ジオールのジグリシジルエーテルをベースとする、BPAを含まないエポキシ樹脂組成物を開示した。
【0011】
米国特許第9150685号は、構造(IV)の物質の誘導体である2-フェニル-1,3-プロパンジオールのジグリシジルエーテルを含む、エポキシ樹脂用のBPA又はBADGEの代替物を開示している。この文献は、1種又は複数のジオールを2-フェニル-1,3-プロパンジオールの1種又は複数のジグリシジルエーテルと反応させることによって調製されるオリゴマーについても言及している。その開示は、2-フェニル-1,3-プロパンジオールをベースとするグリシジルエーテル、又はそのようなグリシジルエーテルと2-フェニル-1,3-プロパンジオールとのオリゴマーの使用に限定される。しかしながら、この特許は、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、ビスフェノールFのジグリシジルエーテル、環水素化ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、環水素化ビスフェノールFのジグリシジルエーテル、クレゾールエポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、及びそれらのオリゴマーからなる群から選択される少なくとも1種のエポキシ樹脂の、樹脂成分の1つとしての使用について述べている。
【0012】
国際公開第2016/193032号は、ビスフェノールA又はビスフェノールFジグリシジルエーテル及びそれをベースとするエポキシ樹脂組成物の代替物として、テトラヒドロフランジグリコールジグリシジルエーテル誘導体及びそれをベースとする硬化性エポキシ樹脂組成物を開示している。
【0013】
先行技術に記載されているグリシジルエーテルは脂肪族及び/又は脂環式ジオールをベースとしているため、先行技術に開示されているコーティング組成物は、柔らかいコーティング、低い耐熱性及び低い耐薬品性等の制限を受ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第7682674号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2003/0170396号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2004/0147638号明細書
【特許文献4】国際公開第2010/100122号
【特許文献5】国際公開第2012/091701号
【特許文献6】米国特許第9139690号明細書
【特許文献7】米国特許第9150685号明細書
【特許文献8】国際公開第2016/193032号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、BPAをベースとするエポキシ樹脂と同等又はそれ以上の安定性、機械的及び熱機械的特性を示し、その使用に伴う健康及び環境への懸念がないエポキシ樹脂を開発する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本開示は、式(I):
【0017】
【0018】
(式中、Rは、R1、R2、又はR1及びR2の組み合わせであり;
R1及びR2は、独立に、1~32個の炭素原子を有するアルキル基、1~32個の炭素原子を有する分岐アルキル基、脂環式基、置換された脂環式基、芳香族基、置換された芳香族基、ビアリール若しくはアルキル置換されたビアリール基、メチル架橋された芳香族基、脂環式-芳香族基(cycloaliphatic-atomatic group)又はAr-Z-Ar基であり;
X及びYは、独立に、O、-C(O)O-、又はアミン基であり;
Zはジシクロペンタジエンであり;
R3及びR4は、独立に、H、アルキル基、分岐アルキル基、アルコキシ基、置換されたビアリール基、又はメチル架橋された芳香族基のいずれかであり;R4及びR3は、任意選択により、縮合芳香環又は縮合ヘテロ芳香環を形成していてもよく;
nは0~1であり、n=0>75%であり;かつ
Nは1~20である)
を有する、変性エポキシ樹脂に関する。
【0019】
上記の変性エポキシ樹脂を調製する方法も開示される。前記方法は、反応進行用触媒(advancement catalyst)の存在下で、
a.式II:
【化2】
(式中、R3及びR4は、独立に、H、アルキル基、分岐アルキル基、アルコキシ基、置換されたビアリール基、又はメチル架橋された芳香族基であり;R4及びR3は、任意選択により、縮合芳香環又は縮合ヘテロ芳香環を形成してもよく;nは0~1であり、n=0>75%である)
のジシクロペンタジエン-フェノール付加物と、
b.式(IIIa)又は(IIIb):
【化3】
(式中、R1及びR2は、独立に、1~32個の炭素原子を有するアルキル基、1~32個の炭素原子を有する分岐アルキル基、脂環式基、置換された脂環式基、芳香族基、置換された芳香族基、ビアリール若しくはアルキル置換されたビアリール基、メチル架橋された芳香族基、脂環式-芳香族基又はAr-Z-Ar基であり;
X及びYは、独立に、O、-C(O)O-、又はアミン基であり;
Zはジシクロペンタジエンである)
のジグリシジル誘導体と
を縮合させる工程を含む。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示の原理の理解を促進する目的で、ここで実施形態を参照し、特定の文言を使用して実施形態を説明する。ただし、実施形態による開示の範囲の限定は意図されておらず、開示される組成物及び方法におけるそのような変更及び更なる修正、並びに実施形態における開示の原理のそのような更なる適用は、本開示の関連技術における当業者に通常見出されるように企図されることが理解されるであろう。
【0021】
前述の概要及び以下の発明を実施するための形態は、本開示の例示的且つ説明的なものであり、本開示を限定することを意図するものではないことが当業者には理解されるであろう。
【0022】
本明細書全体を通して、「一実施態様(又は一実施形態)」、「実施形態(又は実施態様)」又は同様の文言への言及は、実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造、又は特性が、本開示の少なくとも1つの実施形態(又は実施態様)に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体を通して、「一実施形態(又は一実施態様)において」、「実施形態(又は実施態様)において」という句、及び同様の文言の出現は、必ずしもそうではないが、すべて同じ実施形態を指す場合がある。
【0023】
本開示の最も広い範囲において、本開示は、ビスフェノールを意図的に含まない(bisphenol non-intent, BPA-NI)エポキシ樹脂として有用な変性エポキシ樹脂に関する。特に、本開示は、式(I):
【化4】
(式中、Rは、R1、R2、又はR1及びR2の組み合わせであり;
R1及びR2は、独立に、1~32個の炭素(C)原子を有するアルキル基、1~32個の炭素(C)原子を有する分岐アルキル基、脂環式基、置換された脂環式基、芳香族基、置換された芳香族基、ビアリール若しくはアルキル置換ビアリール基、メチル架橋された芳香族基、脂環式-芳香族基又はAr-Z-Ar基であり;
X及びYは、独立に、O、-C(O)O-、又はアミン基であり;
Zはジシクロペンタジエンであり;
R3及びR4は、独立に、H、アルキル、分岐アルキル、アルコキシ、置換ビアリール基、又はメチル架橋された芳香族基のいずれかであり;R4及びR3は、任意選択により、縮合芳香環又は縮合ヘテロ芳香環を形成していてもよく;
nは0~1であり、n=0>75%であり;かつ
Nは1~20である)
を有する、変性エポキシ樹脂に関する。
【0024】
一つの側面によれば、上記の変性エポキシ樹脂は、反応進行用触媒の存在下で、
a.式II:
【化5】
(R3及びR4は、独立に、H、アルキル基、分岐アルキル基、アルコキシ基、置換されたビアリール基、又はメチル架橋された芳香族基であり;R4及びR3は、任意選択により、縮合芳香環又は縮合ヘテロ芳香環を形成していてもよく;
nは0~1であり、n=0>75%である)
のジシクロペンタジエン-フェノール付加物と、
b.式(IIIa)及び/又は(IIIb):
【化6】
(式中、R1及びR2は、独立に、1~32個の炭素原子を有するアルキル基、1~32個の炭素原子を有する分岐アルキル基、脂環式基、置換された脂環式基、芳香族基、置換された芳香族基、ビアリール若しくはアルキル置換されたビアリール基、メチル架橋された芳香族基、脂環式-芳香族基又はAr-Z-Ar基であり;
X及びYは、独立に、O、-C(O)O-、又はアミン基であり;
Zはジシクロペンタジエンである)
のジグリシジル誘導体と
を縮合させることによって得られる反応生成物である。
【0025】
一つの側面によれば、ジグリシジル誘導体は、式(IIIa)若しくは式(IIIb)を有する単一のジグリシジル樹脂、又はそれぞれが式(IIIa)若しくは(IIIb)を有する2種以上のジグリシジル樹脂の混合物、のいずれかである。一実施態様においては、それぞれが式(IIIa)を有する2種のジグリシジル樹脂が使用される。別の実施態様においては、一方は式(IIIa)を有し、もう一方は式(IIIb)を有する、2種のジグリシジル樹脂が使用される。式(IIIa)及び/又は(IIIb)を有するジグリシジル誘導体の選択に応じて、式(I)を有する変性エポキシ樹脂中のRは、R1、R2、又はR1及びR2の組み合わせであり得る。
【0026】
高いモノマー純度のジシクロペンタジエン-フェノール付加物を用いたジグリシジル誘導体への反応進行により製造された、開示される変性エポキシ樹脂は、ビスフェノールA又はビスフェノールFジグリシジルエーテルの代替物としての用途が見出されている。
【0027】
従来のビスフェノールA及びビスフェノールFエポキシ樹脂では、高い耐薬品性及び耐腐食性のために芳香環が重要であると考えられているが、本明細書で開示する変性エポキシ樹脂は、内分泌撹乱を引き起こす疑いのあるエポキシ樹脂にたよることなく、オリゴマー性エポキシ樹脂における芳香族成分及び脂肪族又は脂環式成分の部分のバランスが取れている。
【0028】
本発明の方法は、開示した樹脂のいずれの前駆体もビスフェノールAに由来することなく、芳香族含有量、第二級ヒドロキシル基及びエポキシ官能基の典型的な組み合わせを組み込んでいる。本発明者らは、式(IIIa)又は(IIIb)のジグリシジル誘導体に含まれない又は十分に利用可能でない、式(II)のジシクロペンタジエン-フェノール付加物を用いた式(IIIa)又は(IIIb)のジグリシジル誘導体への反応進行によって、芳香環を組み込み、開示されるエポキシ分子のヒドロキシル及びエポキシド当量の値を制御することで、開示される樹脂の分子量を、化学組成及び性能の点で従来のタイプ7又はタイプ9のBisAエポキシ樹脂に典型的なものに制御した。
【0029】
一つの側面によれば、本開示の変性エポキシ樹脂は、500~25,000g/当量、好ましくは1,000~20,000g/当量の範囲のエポキシド当量(epoxy equivalent weight, EEW)を有する。前記の変性エポキシ樹脂は、1,000~50,000ダルトン、好ましくは2,000~45,000ダルトンの範囲の平均分子量を有する。本開示で開示されるBPA-NI型エポキシ樹脂は、標準的な市販されている従来のビスフェノールAベースの缶コーティンググレードのタイプ7及びタイプ9と同等のエポキシド当量及び分子量を有する。開示される樹脂は、缶及びコイルコーティング等の金属化された表面へのコーティングとしての用途が見出されている。
【0030】
変性エポキシ樹脂を調製する方法も開示されている。前記の方法は、反応進行用触媒の存在下で、
a.式(II):
【化7】
(R3及びR4は、独立に、H、アルキル基、分岐アルキル基、アルコキシ基、置換されたビアリール基、又はメチル架橋された芳香族基であり;R4及びR3は、任意選択により、縮合芳香環又は縮合ヘテロ芳香環を形成していてもよく;
nは0~1であり、n=0>75%である)
のジシクロペンタジエン-フェノール付加物と、
b.式(IIIa)及び/又は(IIIb):
【化8】
(式中、R1及びR2は、独立に、1~32個の炭素原子を有するアルキル基、1~32個の炭素原子を有する分岐アルキル基、脂環式基、置換された脂環式基、芳香族基、置換された芳香族基、ビアリール若しくはアルキル置換されたビアリール基、メチル架橋された芳香族基、脂環式-芳香族基又はAr-Z-Ar基であり;
X及びYは、独立に、O、-C(O)O-、又はアミン基であり;
Zはジシクロペンタジエンである)
のジグリシジル誘導体と
縮合させる工程を含む。
【0031】
一実施形態によれば、式(II)のジシクロペンタジエン-フェノール付加物、並びに式(IIIa)及び/又は(IIIb)のジグリシジル誘導体は、目標とするエポキシド当量を達成可能な量で反応させる。式(II)のジシクロペンタジエン-フェノール付加物(「成分II」)の活性水素当量並びに式(IIIa)及び/又は(IIIb)(「成分III」)のジグリシジル誘導体のエポキシド当量に基づき、先行技術で知られている以下の標準式:
【数1】
を使用して、変性エポキシ樹脂(「I」)の好ましいエポキシド当量を達成するように反応原料の量を定めることができる。
【0032】
一実施形態によれば、前記の方法は、120℃~200℃の範囲、好ましくは120℃~160℃の範囲の昇温した温度で実施される。一実施形態によれば、前記の方法は、窒素パージの有無にかかわらず、大気圧下で実施される。
【0033】
一実施形態によれば、式(II)のジシクロペンタジエン-フェノール付加物は、フェノール又はホルムアルデヒドを含まないその誘導体と、3a,4,7,7a-テトラヒドロ-4,7-メタノインデン又はジシクロペンタジエンとのディールス・アルダー反応によって、触媒存在下において、高いモノマー純度で調製される。一実施形態によれば、式IIのジシクロペンタジエン-フェノール付加物は、少なくとも75%のモノマー純度を有し、すなわち、n=0のモノマーの濃度は75%より高い。好ましくは、式IIのジシクロペンタジエン-フェノール付加物は、少なくとも75%のモノマー純度を有する。これにより、反応進行あるいは縮合反応中のゲル化が回避される。
【0034】
一実施形態によれば、式(IIIa)又は(IIIb)の前記ジグリシジル誘導体は、ジグリシジルエポキシ樹脂である。前記エポキシ樹脂は、ジグリシジルエーテル又はジグリシジルエステルであり得る。前記ジグリシジルエーテル及びエステルは、本質的に脂環式、脂肪族、又は芳香族であり、内分泌撹乱特性を有するエポキシ樹脂を実質的に含まない。前記ジグリシジルエポキシ樹脂としては、以下のものが含まれるがそれらに限定されない:ビスフェノールFジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、レゾルシノールジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、塩素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ノボラックジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、オルトクレゾールノボラックジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、水素化ビスフェノールAグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ビスフェノールAアルキレンオキシド添加ジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂。このような化学物質は、エポキシウレタン樹脂、グリセリントリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ペンタエリスリトールグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、及び(グリシジルエーテルフェニル)メタン;又は、ジグリシジルエーテルエステル型エポキシ樹脂、例えば、p-オキシ安息香酸グリシジルエーテル型エポキシ樹脂などのその他のグリシジルエーテル類;又は、グリシジルエステル型エポキシ、例えば、ジグリシジルフタレート型エポキシ樹脂、ジグリシジルテトラヒドロフタレート型エポキシ樹脂、ジグリシジルヘキサヒドロフタレート型エポキシ樹脂まで広げることができるが、これらに限定されない。好ましい実施形態によれば、前記のジグリシジルエーテル及びエステルは、本質的に脂肪族、脂環式、又は芳香族であり、内分泌撹乱特性が疑われるビスフェノールA型ジグリシジルエーテルを実質的に含まない。例示の実施形態によれば、式(IIIa)又は(IIIb)の前記ジグリシジル誘導体は、シクロヘキサンジメタノールに基づくジグリシジルエーテル、環アルキル化ビスフェノール-Fジグリシジルエーテル、ジシクロペンタジエンジグリシジルエーテル、脂肪族ジグリシジルエーテル、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルからなる群から選択され、好ましくは、脂環式ジグリシジルエーテル、例えばCHDMGE、又はDCPD-フェノールノボラックに基づくグリシジルエーテルである。
【0035】
一実施形態によれば、式(IIIa)及び(IIIb)の、それぞれ異なるR1及びR2を有する2種以上のジグリシジル誘導体が使用される。例示の実施形態によれば、R1がジシクロペンタジエンフェノール付加物であるジシクロペンタジエンフェノールエポキシ樹脂、及びR2がジシクロヘキサンジメタノールであるシクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテルが使用される。
【0036】
一実施形態によれば、式(IIIa)又は(IIIb)の前記ジグリシジル誘導体は、相間移動触媒の存在下でエピクロロヒドリンを脂肪族ジオール、例えば、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6ヘキサンジオール等と反応させることによって、又はエピクロロヒドリンをジシクロペンタジエン-フェノール付加物と反応させることによって調製される。
【0037】
一実施形態によれば、式(II)のジグリシジルエーテルへの反応を進めることは、反応進行用触媒の存在下でジシクロペンタジエン-フェノール付加物を用いて実施される。任意の既知の反応進行用触媒を使用することができる。一実施形態によれば、触媒は、第四級ホスホニウム塩及び第四級アンモニウム塩からなる群から選択される。好ましい実施形態によれば、反応進行用触媒は、式(IV):
【化9】
(式中、YはN又はP原子であり;
Xはハロゲン又はCH
2-C(=O)-O
-基であり;
互いに独立してR5、R6、R7、R8は、アルキル、アリール、又は脂環式基である)
を有する第四級オニウム塩触媒である。
【0038】
一実施形態によれば、前記の反応進行用触媒(advancement catalyst)は、配合物全体の約0.2w/w%~2w/w%の量で使用される。当業者に知られているように、触媒の量は、反応速度論及び反応熱に応じて変えることができる。
【0039】
本開示は更に、硬化性エポキシ樹脂組成物に関する。前記の硬化性エポキシ樹脂組成物は、前記変性エポキシ樹脂組成物を少なくとも10~50%含む樹脂成分、及び硬化剤を含む。
【0040】
一実施形態によれば、前記樹脂成分は、硬化性エポキシ樹脂組成物に基づいて少なくとも10質量%、好ましくは硬化性エポキシ樹脂組成物基づいて少なくとも25質量%の量で前記変性エポキシ樹脂組成物を含む。
【0041】
一実施形態によれば、硬化剤は、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、及びそれらの誘導体に基づくもの以外の、アミノ硬化剤及びフェノール系硬化剤からなる群から選択される。硬化剤との反応により、ポリエポキシド化合物が不融性の3次元的に「架橋」された熱硬化性材料に変換される。
【0042】
本発明の変性エポキシ樹脂の硬化性エポキシ樹脂組成物に好適な硬化剤の例としては、ポリフェノール、ポリカルボン酸、ポリメルカプタン、ポリアミン、第一級モノアミン、スルホンアミド、アミノフェノール、アミノカルボン酸、及びカルボン酸無水物、フェノール性ヒドロキシル基含有カルボン酸、スルファニルアミド、並びにそれらの混合物が挙げられる。ここでの開示との関連では、各ポリ化合物(例えば、ポリアミン)は、更に対応するジ化合物(二官能化合物)(例えば、ジアミン)も含む。
【0043】
本発明の硬化性エポキシ樹脂組成物にとって好ましい硬化剤は、アミノ硬化剤及びフェノール系硬化剤である。
【0044】
一実施形態によれば、本開示の硬化性エポキシ樹脂組成物に好適なアミノ硬化剤は、少なくとも1つの第一級アミノ基又は少なくとも2つの第二級アミノ基を有する。好ましいアミノ硬化剤は、ジシアンジアミド(DICY)、イソホロンジアミン(IPDA)、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン(PACM)、メチレンジアニリン(例えば、4,4’-メチレンジアニリン)、ポリエーテルアミン、例えば、ポリエーテルアミンD230、ジアミノジフェニルメタン(DDM)、ジアミノジフェニルスルホン(DDS)、2,4-トルエンジアミン、2,6-トルエンジアミン、2,4-ジアミノ-1-メチルシクロヘキサン、2,6-ジアミノ-1-メチルシクロヘキサン、2,4-ジアミノ-3,5-ジエチルトルエン、2,6-ジアミノ-3,5-ジエチルトルエン、1,2-ジアミノベンゼン、1,3-ジアミノベンゼン、1,4-ジアミノベンゼン、ジアミノジフェニルオキシド、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、及び3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニル、並びにまた、アミノプラスト樹脂、例えばホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、クロトンアルデヒド又はベンズアルデヒドなどのアルデヒド類と、メラミン、尿素、又はベンゾグアナミンの縮合生成物、さらにまたそれらの混合物である。本発明の硬化性組成物のために特に好ましいアミノ硬化剤は、ジメチルジシカン(Dimethyl Dicykan, DMDC)、ジシアンジアミド(DICY)、イソホロンジアミン(IPDA)、及びメチレンジアニリン(4,4’-メチレンジアニリン等)、並びにアミノプラスト樹脂、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、クロトンアルデヒド、又はベンズアルデヒドなどのアルデヒド類と、メラミン、尿素、又はベンゾグアナミンとの縮合生成物である。
【0045】
一実施形態によれば、変性エポキシ樹脂及びアミノ硬化剤は、エポキシド及びアミノ官能基に関してほぼ化学量論比で使用される。エポキシド基とアミノ官能基の特に好適な比は、1:0.8~0.8:1である。
【0046】
一実施形態によれば、本開示の硬化性エポキシ樹脂組成物のために好適なフェノール樹脂は、少なくとも2つのヒドロキシル基を有する。フェノール樹脂は、エポキシド化合物に対して化学量論比で、及び化学量論量より少ない量比(substoichiometric ratio)の両方で使用できる。化学量論量より少ない当量のフェノール樹脂を使用する場合、既存のエポキシ樹脂の第二級ヒドロキシル基とエポキシド基との反応が、好適な触媒の使用によって促進される。一実施形態によれば、好適なフェノール樹脂は、一般に、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、並びにアルデヒド(好ましくはホルムアルデヒド及びアセトアルデヒド)のフェノールとの縮合生成物である。好ましいフェノール類は、フェノール、クレゾール、キシレノール、p-フェニルフェノール、p-tert-ブチルフェノール、p-tert-アミルフェノール、シクロペンチルフェノール、並びにp-ノニル-及びp-オクチルフェノールである。
【0047】
一実施形態によれば、硬化剤は、樹脂成分に基づいて約5~25質量%、好ましくは樹脂成分に基づいて約5~15質量%の量で使用される。樹脂の硬化剤に対する比は、硬化剤の構造及び官能性によって異なりうる。架橋剤に対する樹脂の比が高いと、レトルト試験後に部分硬化及び付着不良が起こる可能性がある一方で、架橋剤に対する樹脂の比が低いと、コーティングが脆くなる可能性がある。
【0048】
一実施形態によれば、硬化性エポキシ樹脂組成物は、促進剤、希釈剤、潤滑剤、界面活性剤、接着促進剤、安定剤、軟化剤、顔料等からなる群から選択される添加剤を含む。
【0049】
一実施形態によれば、促進剤は、イミダゾール、イミダゾール誘導体、及び尿素誘導体からなる群から選択される。
【0050】
一実施形態によれば、希釈剤は、従来の希釈剤及び反応性希釈剤からなる群から選択される。従来の希釈剤には、有機溶媒又はそれらの混合物が含まれる。例えば、ケトン類、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、ジエチルケトン、又はシクロヘキサノン;脂肪族カルボン酸のエステル、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸メトキシプロピル、又は酢酸ブチル;グリコール類、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、又はプロピレングリコール;グリコール誘導体、例えば、エトキシエタノール、エトキシエタノールアセテート、エチレン又はプロピレングリコールモノメチル又はジメチルエーテル;芳香族炭化水素例えば、トルエン又はキシレン;脂肪族炭化水素、例えば、ヘプタン;及び、アルカノール、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール又はイソプロパノール又はブタノールである。エポキシ樹脂の硬化の過程で、これらの希釈剤は樹脂組成物から蒸発する。
【0051】
本開示は更に、前記の硬化性エポキシ樹脂組成物を硬化させる方法に関する。一実施形態によれば、硬化は、大気圧下及び250℃未満の温度で、好ましくは235℃未満の温度で、より好ましくは40℃~220℃の範囲の温度で行われる。
【0052】
一実施形態によれば、硬化性エポキシ樹脂組成物の成形品への硬化は、寸法安定性が達成され、硬化した成分を型から取り出せるようになるまで、型内で実施される。硬化した成分の固有応力を除去するため、及び/又は硬化性エポキシ樹脂組成物の架橋を完了させるためのその後の操作は、熱処理(熱によるコンディショニング)といわれる。或いは、熱処理プロセスは、硬化した成分を型から取り外す前に、架橋を完了させる目的で行われる。熱処理操作は、通常、耐変形性(dimensional stiffness)の限界の温度で行われる。熱処理は、120℃~220℃の範囲の温度で、好ましくは150℃~220℃の温度で実施される。関連する実施形態によれば、硬化した成分は、30~240分の時間、熱処理条件にさらされる。硬化した成分の寸法に応じて、時間を延長してもよい。
【0053】
一実施形態によれば、硬化性エポキシ樹脂組成物を使用してコーティングを形成する場合、コーティングされる基材は、最初に前記の硬化性エポキシ樹脂組成物で処理され、その後、基材上の硬化性エポキシ樹脂組成物が硬化される。
【0054】
一実施形態によれば、硬化性エポキシ樹脂組成物の処理は、液体配合物の場合は浸漬、噴霧、ローラー塗布、スプレッド塗布、ナイフコーティング等によって、又は粉体塗装材料の塗布によって、所望の物品の成形の前又は後に実施される。塗布は、個々の部品(例えば、缶部品)又は、例えば、コイルコーティングの場合における鋼のストリップロール等の基本的に連続した基材に行うことができる。好適な基材は、通常、鋼(スチール)、ブリキ(亜鉛メッキ鋼)、又はアルミニウム(例えば、飲料缶用)の基材である。基材へ塗布した後の硬化性エポキシ樹脂組成物の硬化は、20℃~250℃、好ましくは50℃~220℃、より好ましくは100℃~220℃の範囲の温度で行われる。関連する実施形態によれば、硬化は、0.1~60分、好ましくは0.5~20分、より好ましくは1~10分の時間実施される。
【0055】
具体的な実施形態
式(I):
【化10】
(式中、
RはR1、R2、又はR1及びR2の組み合わせであり;
R1及びR2は、独立に、1~32個の炭素原子を有するアルキル基、1~32個の炭素原子を有する分岐アルキル基、脂環式基、置換された脂環式基、芳香族基、置換された芳香族基、ビアリール若しくはアルキル置換されたビアリール基、メチル架橋された芳香族基、脂環式-芳香族基(cycloaliphatic-aromatic group)又はAr-Z-Ar基であり;
X及びYは、独立に、O、-C(O)O-、又はアミン基であり;
Zはジシクロペンタジエンであり;
R3及びR4は、独立に、H、アルキル基、分岐アルキル基、アルコキシ基、置換されたビアリール基、又はメチル架橋された芳香族基のいずれかであり;R4及びR3は、任意選択により、縮合芳香環又は縮合ヘテロ芳香環を形成してもよく;
nは0~1であり、n=0>75%であり;かつ、
Nは1~20である)
を有する、変性エポキシ樹脂。
【0056】
反応進行用触媒の存在下で、
a.式II:
【化11】
(式中、
R3及びR4は、独立に、H、アルキル基、分岐アルキル基、アルコキシ基、置換されたビアリール基、又はメチル架橋された芳香族基であり;R4及びR3は、任意選択により、縮合芳香環又は縮合ヘテロ芳香環を形成してもよく;
nは0~1であり、n=0>75%である)
のジシクロペンタジエン-フェノール付加物と、
b.式(IIIa)又は(IIIb):
【化12】
(式中、
R1及びR2は、独立に、1~32個の炭素原子を有するアルキル基、1~32個の炭素原子を有する分岐アルキル基、脂環式基、置換された脂環式基、芳香族基、置換された芳香族基、ビアリール若しくはアルキル置換されたビアリール基、メチル架橋された芳香族基、脂環式-芳香族基又はAr-Z-Ar基であり;
X及びYは、独立に、O、-C(O)O-、又はアミン基であり;
Zはジシクロペンタジエンである)
のジグリシジル誘導体と
を縮合させることによって得られる反応生成物である、上記の変性エポキシ樹脂。
【0057】
500~25,000g/当量の範囲のエポキシド当量を有する、上記の変性エポキシ樹脂。
【0058】
1,000~50,000ダルトンの範囲の重量平均分子量を有する、上述した変性エポキシ樹脂。
【0059】
硬化性エポキシ樹脂組成物であって、
- 硬化性エポキシ樹脂組成物の質量に基づいて、上記の変性エポキシ樹脂組成物を少なくとも10~50%含む樹脂成分10~50%と、
- 樹脂成分の質量に基づいて、硬化剤5~25wt/wt%と
を含む、硬化性エポキシ樹脂組成物。
【0060】
硬化剤がアミノ系硬化剤及びフェノール系硬化剤からなる群から選択され、硬化剤が非ビスフェノールである、上記の硬化性エポキシ樹脂組成物。
【0061】
変性エポキシ樹脂を調製する方法であって、反応進行用触媒の存在下で、
a.式II:
【化13】
(式中、
R3及びR4は、独立に、H、アルキル基、分岐アルキル基、アルコキシ基、置換されたビアリール基、又はメチル架橋された芳香族基であり;R4及びR3は、任意選択により、縮合芳香環又は縮合ヘテロ芳香環を形成してもよく;
nは0~1であり、n=0>75%である)
のジシクロペンタジエン-フェノール付加物と、
b.式(IIIa)又は(IIIb):
【化14】
(式中、
R1及びR2は、独立に、1~32個の炭素原子を有するアルキル基、1~32個の炭素原子を有する分岐アルキル基、脂環式基、置換された脂環式基、芳香族基、置換された芳香族基、ビアリール若しくはアルキル置換されたビアリール基、メチル架橋された芳香族基、脂環式-芳香族基又はAr-Z-Ar基であり;
X及びYは、独立に、O、-C(O)O-、又はアミン基であり;
Zはジシクロペンタジエンである)
のジグリシジル誘導体と
を縮合させて、式(I):
【化15】
(式中、
Rは、R1、R2、又はR1及びR2の組み合わせであり;
R1及びR2は、独立に、1~32個の炭素原子を有するアルキル基、1~32個の炭素原子を有する分岐アルキル基、脂環式基、置換された脂環式基、芳香族基、置換された芳香族基、ビアリール若しくはアルキル置換されたビアリール基、メチル架橋された芳香族基、脂環式-芳香族基又はAr-Z-Ar基であり;
X及びYは、独立に、O、-C(O)O-、又はアミン基であり;
Zはジシクロペンタジエンであり;
R3及びR4は、独立に、H、アルキル基、分岐アルキル基、アルコキシ基、置換されたビアリール基、又はメチル架橋された芳香族基のいずれかであり;R4及びR3は、任意選択により、縮合芳香環又は縮合ヘテロ芳香環を形成し;
nは0~1であり、n=0>75%であり;かつ、
Nは1~20である)
の変性エポキシ樹脂を得る工程を含む、方法。
【0062】
ジシクロペンタジエン-フェノール付加物が、フェノール又はホルムアルデヒドを含まないフェノール誘導体と、3a,4,7,7a-テトラヒドロ-4,7-メタノインデン又はジシクロペンタジエンとのディールス・アルダー反応によって、触媒存在下において高いモノマー純度で調製される、上記の方法。
【0063】
n=0のモノマーの濃度が少なくとも75%である、上記の方法。
【0064】
反応進行用触媒が、式(IV):
【化16】
(式中、
Yは、N又はP原子であり;
Xは、ハロゲン又はCH
2-C(=O)-O
-基であり;
R5、R6、R7、R8は独立して、アルキル、アリール、又は脂環式基である)
を有する第四級オニウム塩触媒である、上記の方法。
【0065】
前記の触媒が、配合物全体に基づいて約0.2w/w%~2w/w%の量で使用される、上記の方法。
【実施例】
【0066】
本発明をよりよく理解するために、以下の実施例が記載されている。これらの実施例は、例示のみを目的としており、示される正確な組成、調製方法、及び実施形態は、本発明を限定するものではなく、任意の自明である修正は、当業者には明らかであろう。
【0067】
実施例1:ジシクロペンタジエン-フェノール付加物の調製
撹拌装置、コンデンサー、温度計、ヒーター、滴下漏斗を備えた2,000mlの四つ口フラスコに、温度を65℃に保ちながら、フェノール1,000g(10.64モル)、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体10g(フェノールの1.0質量%)を投入した。次いで、ジシクロペンタジエン(DCPD)468.8g(3.55モル)を3時間かけて滴下により添加した。温度を上昇させ、100℃で5時間維持した。反応完了後、中和が行われ、未反応のフェノールを160℃及び40mbarで回収した。
【0068】
軟化点が119.1℃でモノマーが33.2%である暗褐色のジシクロペンタジエン-フェノール樹脂992gが得られた。
【0069】
実施例2:ジシクロペンタジエン-フェノール付加物の調製
実施例1と同様のフラスコに、温度を65℃に保ちながら、フェノール1,000g(10.64モル)、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル5g(フェノールの0.5質量%)を投入した。次いで、DCPD234.7g(1.78モル)を2時間かけて滴下により添加した。温度を上昇させ、100℃で5時間維持した。反応完了後、中和が行われ、未反応のフェノールを160℃及び40mbarで回収した。
【0070】
軟化点が93.1℃でモノマーが57.19%である暗褐色のジシクロペンタジエンフェノール樹脂528gが得られた。
【0071】
実施例3:ジシクロペンタジエン-フェノール付加物の調製
実施例1と同様のフラスコに、温度を65℃に保ちながら、フェノール1,000g(6.38モル)、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル5g(フェノールの0.5質量%)を投入した。次いで、DCPD70.3g(0.53モル)を1時間かけて滴下により添加した。温度を上昇させ、100℃で5時間維持した。反応完了後、中和をし、未反応のフェノールを160℃及び40mbarで回収した。
【0072】
軟化点が79.9℃でモノマーが82.01%である暗褐色のジシクロペンタジエンフェノール樹脂167.9gが得られた。
【0073】
表1は、実施例1~3で調製したジシクロペンタジエン-フェノール付加物の特性を示している。
【0074】
【0075】
実施例4:エポキシ化ジシクロペンタジエンフェノールの調製
撹拌機、コンデンサー、温度計、ヒーター、及び滴下漏斗を備えた反応器に、実施例3によるジシクロペンタジエンフェノール150g(0.94当量)、エピクロロヒドリン869.5g(9.4モル)、及び50%水酸化ナトリウム2.8gを投入した。その溶液を加熱し、65℃で4時間保持した。続いて、50%水酸化ナトリウム70.5gを1時間かけて添加し、同時に水を除去した。
【0076】
未反応のモル過剰のエピクロロヒドリンを除去し、トルエンを添加して反応塊を溶解させた。残留苛性を除去するために、反応塊の洗浄を繰り返し行った。溶媒を除去して、褐色の固体生成物が得られた。
【0077】
生成物のエポキシ当量は228g/当量、加水分解性塩素含有量は1000ppm未満、軟化点は45℃であった。
【0078】
表2は、実施例4で得られたエポキシ化ジシクロペンタジエンフェノールの組成及び特性を示している。
【0079】
【0080】
実施例5:変性エポキシ樹脂の調製
撹拌機、コンデンサー、温度計、及びヒーターを備えた500mlの四つ口フラスコに、実施例4によるエポキシ化ジシクロペンタジエンフェノール70.1g及び実施例3で調製したジシクロペンタジエン-フェノール付加物38.2gを投入した。その混合物を撹拌し、窒素下で120℃に加熱した。次いで、エチルトリフェニルホスホニウムアセテート(ETPPAc)0.08gを反応進行用触媒として添加した。反応温度を160℃に上昇させ、9時間維持した。
【0081】
得られた変性エポキシ樹脂のエポキシ当量は1662g/当量、かつ軟化点は158℃であった。
【0082】
実施例6:変性エポキシ樹脂の調製
実施例5と同様に装備された反応器中に、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル165g(EEW 131.5g/当量)及び実施例3のジシクロペンタジエン-フェノール付加物178.8g(AHEW 160)を投入した。混合物を撹拌し、窒素下で120℃に加熱した。続いて、ETPPAc0.9gを反応進行用触媒として添加した。反応温度を160℃に上昇させ、7時間維持した。
【0083】
得られた変性エポキシ樹脂のエポキシ当量は2691g/当量、軟化点は113.6℃であった。
【0084】
実施例7:変性エポキシ樹脂の調製
実施例5と同様に装備された反応器に、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル48g、実施例4のシクロペンタジエンフェノールのジグリシジルエーテル12g、及び実施例3によるジシクロペンタジエン-フェノール付加物59.1gを投入した。その混合物を撹拌し、窒素下で120℃に加熱した。次いで、ETPPAc0.3gを反応進行用触媒として添加した。反応温度を160℃に上昇させ、5.30時間維持した。
【0085】
得られた変性エポキシ樹脂のエポキシ当量は2716g/当量、軟化点は120.7℃であった。
【0086】
実施例8:変性エポキシ樹脂の調製
実施例5と同様に装備された反応器に、ビフェノールジグリシジルエーテル60g(EEW 187.6g/当量)及び実施例3によるジシクロペンタジエン-フェノール付加物41.6gを投入した。その混合物を撹拌し、窒素下で120℃に加熱した。次いで、ETPPAc0.15gを反応進行用触媒として添加した。反応温度を160℃に上昇させ、7時間維持した。
【0087】
得られた変性エポキシ樹脂のエポキシ当量は2511g/当量、軟化点は142.7℃であった。
【0088】
表3は、実施例4で得られた変性エポキシ樹脂の組成及び特性を示している。
【0089】
【0090】
実施例9
実施例6と同様に装備された反応器に、シクロヘキサンジメタノールのジグリシジルエーテル57g(EEW 159g/当量)及び実施例3のジシクロペンタジエン-フェノール付加物50.5gを投入した。反応器を90℃に加熱し、続いてETPPAc0.25gを添加した。その反応混合物を160℃に加熱し、160℃に7時間維持した。
【0091】
反応の最後に、EEWが2358g/当量及び軟化点が92.4℃である褐色の反応生成物が得られた。
【0092】
実施例10
実施例5と同様に装備された反応器に、シクロヘキサンジメタノールのジグリシジルエーテル167.5g(EEW 137.8g/当量)及び実施例3によるジシクロペンタジエン-フェノール付加物173.5gを投入した。その混合物を撹拌し、窒素下で120℃に加熱した。次いで、ETPPAc0.9gを反応進行用触媒として添加した。反応温度を160℃に上昇させ、5時間維持した。
【0093】
得られた変性樹脂のエポキシ当量は2889g/当量、軟化点は110.4℃であった。
【0094】
表4に示すように、実施例6、9、及び10で得られた反応生成物の特性を比較することにより、変性エポキシ樹脂の品質に対するジグリシジルエポキシ樹脂(EEW)の品質の影響を調べた。
【0095】
【0096】
観察結果:ジグリシジルエーテルの純度が高いほど、変性エポキシ樹脂の軟化点が高くなることが観察された。
【0097】
実施例11:変性エポキシ樹脂に基づくコーティング組成物の調製
コーティング組成物を、実施例6の変性エポキシ樹脂を使用して調製した。金属表面コーティング用のコーティング組成物の成分及びそれらの特性を表5に示す。
【0098】
【産業上の利用可能性】
【0099】
本開示の変性エポキシ樹脂は安全で、非内分泌撹乱型二官能性エポキシ樹脂を使用し、ビスフェノールAを意図的に含まず(BPA-NI)、かつホルムアルデヒドを含まないエポキシ樹脂としての用途が見出されている。本開示の変性エポキシ樹脂は、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、又は内分泌撹乱物質であることが証明されている任意のそのような分子に基づくエポキシ樹脂と比較して、内分泌撹乱化合物を放出する可能性が低い。
【0100】
式(II)のジシクロペンタジエン-フェノール付加物は、内分泌撹乱ホルモンであるエストラジオールと構造的に類似しておらず、また、ホルムアルデヒドの使用もない。ビスフェノールA及びFのような内分泌撹乱物質の疑いがあるものを、ある種の容器コーティングにおける使用から段階的に廃止するという欧州機関の現在の決定において、そのようなエストラジオールとの構造的類似性は重要な因子であると考えられる。
【0101】
一般式(II)の既存の脂環式、脂肪族、ビアリールフェノールグリシジルエーテルの領域を、式(II)のジシクロペンタジエン-フェノール付加物を用いて前進させて、本開示の変性エポキシ樹脂を得ることができる。
【0102】
開示した変性エポキシ樹脂は、従来の缶コーティンググレードのエポキシ樹脂、すなわちタイプ7及びタイプ9のBPA型樹脂と同様の性能を示すが、後者による健康及び環境への懸念はない。
【0103】
上記の変性エポキシ樹脂は、良好な付着性、優れた耐食性、優れたレトルト耐性及び耐衝撃特性を示し、先行技術において別段の言及があるようにシラン誘導体でさらに変性することなく、金属表面のためのワニス及びコーティングに使用することができる。特に、本開示の変性エポキシ樹脂を含む硬化性エポキシ樹脂組成物は、接着剤、複合材料、成形品、並びにコーティング、より詳細には、食品及び飲料用容器のコーティングに用途が見出されている。
【国際調査報告】