(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-12
(54)【発明の名称】ポリアルデヒドの迅速合成
(51)【国際特許分類】
C08G 6/00 20060101AFI20221004BHJP
【FI】
C08G6/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022507777
(86)(22)【出願日】2020-08-10
(85)【翻訳文提出日】2022-03-30
(86)【国際出願番号】 US2020045591
(87)【国際公開番号】W WO2021030252
(87)【国際公開日】2021-02-18
(32)【優先日】2019-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504466834
【氏名又は名称】ジョージア テック リサーチ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100115749
【氏名又は名称】谷川 英和
(74)【代理人】
【識別番号】100166811
【氏名又は名称】白鹿 剛
(72)【発明者】
【氏名】コール、ポール エー.
(72)【発明者】
【氏名】エングラー、アンソニー
【テーマコード(参考)】
4J033
【Fターム(参考)】
4J033BA01
4J033HA02
4J033HA04
(57)【要約】
本開示は、解重合可能なポリアルデヒド、ならびにそれを効率的に合成するためのシステムおよび方法に関する。重合体を作製する例示的な方法は、重合化溶液を、反応装置の少なくとも一部に連続的に流通させることと、重合化溶液からポリアルデヒド重合体を生成することと、を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)重合化溶液を、反応装置の少なくとも一部に連続的に流通させることと、
(b)前記重合化溶液からポリアルデヒド重合体を生成することと、
を含む、重合体を作製する方法。
【請求項2】
前記反応装置の少なくとも一部の温度は、約0℃~約-110℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記反応装置の少なくとも一部の温度は、約-80℃である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記重合化溶液を連続的に流通させることは、約1bar~約100barの圧力で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリアルデヒド重合体は、環状である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリアルデヒド重合体は、ポリフタルアルデヒドである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ポリフタルアルデヒドは、環状である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ポリアルデヒド重合体の数平均分子量は、約1kDa~約1,000kDaである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリアルデヒド重合体は、共重合体である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記ポリアルデヒド重合体は、ポリフタルアルデヒドおよび第2のアルデヒドの共重合体である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記第2のアルデヒドは、脂肪族アルデヒドである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記重合化溶液は、第1の単量体と、触媒と、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の単量体は、フタルアルデヒドおよびその誘導体からなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の単量体は、フタルアルデヒドである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記触媒は、BF
3OEt
2、塩化ガリウム(III)、および塩化スズ(IV)からなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記触媒は、BF
3OEt
2である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記重合化溶液は、第2の単量体をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記第2の単量体は、アルデヒドである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記アルデヒドは、脂肪族アルデヒドである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記重合化溶液は、溶媒をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項21】
前記溶媒は、ジクロロメタン、クロロホルム、トルエン、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記溶媒は、ジクロロメタンである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記重合化溶液は、反応停止剤をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項24】
前記反応停止剤は、ピリジン、アミン類、およびルイス塩基類からなる群から選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記反応停止剤は、ピリジンである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記重合化溶液は、ほぼ均質である、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記方法は、単量体から重合体への変換率を約10%~約99%とする、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
(a)重合化溶液の1つ以上の成分を受け入れるように構成された1つ以上の注入口と、
(b)(i)前記重合化溶液を受け入れ、(ii)前記重合化溶液を、連続流通反応装置流路に連続的に流通させ、(iii)ポリアルデヒド重合体を生成するように構成された、連続流通反応装置流路と、
(c)前記連続流通反応装置流路と流体連通する1つ以上の排出口であって、前記ポリアルデヒド重合体を排出するように構成された、1つ以上の排出口と、
を含む、連続流通反応装置。
【請求項29】
前記連続流通反応装置流路の少なくとも一部の温度を、約0℃~-100℃の間に維持するように構成された冷却ユニットをさらに含む、請求項28に記載の連続流通反応装置。
【請求項30】
前記温度は、約-80℃である、請求項29に記載の連続流通反応装置。
【請求項31】
前記反応装置は、前記重合化溶液を、約1bar~100barの圧力で、前記連続流通反応装置流路に連続的に流通させるように構成されている、請求項28に記載の連続流通反応装置。
【請求項32】
前記ポリアルデヒド重合体は、環状である、請求項28に記載の連続流通反応装置。
【請求項33】
前記ポリアルデヒド重合体は、ポリフタルアルデヒドである、請求項28に記載の連続流通反応装置。
【請求項34】
前記ポリフタルアルデヒドは、環状である、請求項33に記載の連続流通反応装置。
【請求項35】
前記ポリアルデヒド重合体の数平均分子量は、約1kDa~約1000kDaである、請求項28に記載の連続流通反応装置。
【請求項36】
前記ポリアルデヒド重合体は、共重合体である、請求項28に記載の連続流通反応装置。
【請求項37】
前記ポリアルデヒド重合体は、ポリフタルアルデヒドおよび第2のアルデヒドの共重合体である、請求項36に記載の連続流通反応装置。
【請求項38】
前記第2のアルデヒドは、脂肪族アルデヒドである、請求項37に記載の連続流通反応装置。
【請求項39】
前記重合化溶液は、第1の単量体と、触媒と、を含む、請求項28に記載の連続流通反応装置。
【請求項40】
前記第1の単量体は、フタルアルデヒドおよびその誘導体からなる群から選択される、請求項39に記載の連続流通反応装置。
【請求項41】
前記第1の単量体は、フタルアルデヒドである、請求項40に記載の連続流通反応装置。
【請求項42】
前記触媒は、BF
3OEt
2、塩化ガリウム(III)、および塩化スズ(IV)からなる群から選択される、請求項39に記載の連続流通反応装置。
【請求項43】
前記触媒は、BF
3OEt
2である、請求項42に記載の連続流通反応装置。
【請求項44】
前記重合化溶液は、第2の単量体をさらに含む、請求項39に記載の連続流通反応装置。
【請求項45】
前記第2の単量体は、アルデヒドである、請求項44に記載の連続流通反応装置。
【請求項46】
前記アルデヒドは、脂肪族アルデヒドである、請求項45に記載の連続流通反応装置。
【請求項47】
前記重合化溶液は、溶媒をさらに含む、請求項39に記載の連続流通反応装置。
【請求項48】
前記溶媒は、ジクロロメタン、トルエン、クロロホルム、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項47に記載の連続流通反応装置。
【請求項49】
前記溶媒は、ジクロロメタンである、請求項48に記載の連続流通反応装置。
【請求項50】
前記重合化溶液は、反応停止剤をさらに含む、請求項39に記載の連続流通反応装置。
【請求項51】
前記反応停止剤は、ピリジン、アミン類、およびルイス塩基類からなる群から選択される、請求項50に記載の連続流通反応装置。
【請求項52】
前記反応停止剤は、ピリジンである、請求項51に記載の連続流通反応装置。
【請求項53】
前記重合化溶液は、ほぼ均質である、請求項28に記載の連続流通反応装置。
【請求項54】
前記連続流通反応装置は、単量体から重合体への変換率を約10%~約99%とするように構成されている、請求項28に記載の連続流通反応装置。
【請求項55】
前記連続流通反応装置流路は、内径が約10μm~約1000μmである反応ラインを含む、請求項28に記載の連続流通反応装置。
【請求項56】
前記連続流通反応装置流路は、容量が約1μL~約5000μLである反応ラインを含む、請求項28に記載の連続流通反応装置。
【請求項57】
前記連続流通反応装置流路は、境界面の表面積が約100m
-1~約20000m
-1である反応ラインを含む、請求項28に記載の連続流通反応装置。
【請求項58】
(a)o-PHAとBF3OEt2とを含む重合化溶液を、連続流通反応装置の第1の注入口に連続的に流通させることと、
(b)ピリジンを含む反応停止剤溶液を、前記連続流通反応装置の第2の注入口に連続的に流通させることと、
(c)環状ポリフタルアルデヒドを生成することと、
を含む、重合体を作製する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(政府が助成する研究に関する記載)
本発明は、国防総省によって授与された補助金番号第1906BYD/GR10001685号のもと、政府の助成を受けて成されたものである。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0002】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2019年8月9日に出願された「ポリアルデヒドの迅速合成」と題した米国仮特許出願第62/884,775号に基づく優先権を主張するものであり、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0003】
(開示の分野)
本開示は、解重合可能なポリアルデヒド、ならびにそれを効率的に合成するためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0004】
解重合可能な重合体は、特に、その分解産物を高価値の単量体に再生することができる場合に、工学的応用という点で関心を集める。このような「天井温度の低い」重合体は、解重合により価値の高い単量体に戻すことが容易であるため、関心が高まっており、ケミカルリサイクルの取り組みを改善し、かつプラスチック廃棄物の蓄積という地球規模の問題に対処するのに役立ち得る。天井温度(TC)とは、所与の条件において、重合速度と解重合速度とが等しくなる温度のことをいう。TCよりも高温では、重合体は、活性中心から熱力学的に解重合を起こして、構成単量体へと戻る。活性中心がない(すなわち、反応速度論的に不活性な重合体鎖である)場合、重合体は、TCよりも高温で準安定であるため、解重合が化学的、熱的、機械的、または光分解的に誘導されるまで、使用可能である。
【0005】
天井温度の低い重合体は、重合体を解重合させて構成小分子である単量体へと戻すことが好都合である用途において、有用である。そのような用途としては、分解可能な電子センサ、半導体製造プロセス、および再利用可能な重合体が挙げられる。重合体の天井温度(Tc)が周囲条件よりも低いことの利点は、Tcよりも高温において単量体が熱力学的に好ましい状態であるという事実のために、単量体へと戻る解重合を起こしやすいということである。ポリアルデヒドは、天井温度が低いことが明らかにされており、これはしばしば室温よりも低温である。重合体の合成は、反応の平衡を重合体に有利となるようにするために、極低温下、すなわち室温よりもはるかに低い温度で行われる。合成温度が天井温度をはるかに下回るにつれて、収率および重合体特性が改善する。重合体は、いったん合成されると、活性鎖端が適切に終結されているか、または除去されている限り、そのTcよりも高温において準安定状態で存在することができる。より安定な化合物を用いて重合体をエンドキャッピングするか、または環状重合体(すなわち、鎖端がない)とすることによって、安定化させることができる。これらの準安定物質の保存期間を確実に長期化するためには、活性鎖端を生成させ得るいずれの不純物をも、完全に除去することが不可欠である。
【0006】
TCが-35℃であるo-フタルアルデヒド(o-PHA)は、イオン的に重合させて、またはアルデヒドおよびアルケンと共重合させて、様々な機能性解重合可能物質を生産することができる汎用的な単量体である。ポリフタルアルデヒド(PPHA)およびその誘導体は、固体の状態から素早く解重合することができる環状重合体産物を形成する。ポリフタルアルデヒドおよびその誘導体は、固体状態の重合体から素早く解重合することが可能であるため、プローブベースのリソグラフィや、その他の刺激応答性用途において有望な物質であることが明らかにされている。PPHAへと至るカチオン重合経路は、しばしば、アニオン経路よりも好まれるが、これは、重合体の保存期間が長く、分子量が高くなり、得られた物質の機械的特性が改善するためである。アニオン経路では、機能性エンドキャップを利用することで、分散度が低く、また合成の制御がより良くなる。PPHAのカチオン重合機構では、高分子量で、保存期間が改善された環状重合体の形態のPPHAを産生することができる。
【0007】
他のポリアルデヒドや2つ以上のアルデヒドからなる共重合体を用いることもできる。異なる官能基を含有し得る異なるアルデヒドによって、解重合の際の高い蒸気圧や、架橋などのさらなる反応を起こす能力を含む、新たな物理的特性および化学的特性を、重合体に付与することができる。一過性構造化合物には、使い捨て輸送担体、一過性センサ、消失型接着テープ、および一時的保護物質などの多くの用途がある。共重合用単量体を添加することによって、ポリアルデヒドの目的特異的な特性を向上させ得る。
【0008】
このような天井温度の低い重合体を合成する現在公知の方法は、バッチ処理を利用するものである。合成における重要な目的は、高分子量の重合体を得ること、および重合後に触媒と他の化学種とを除去することである。高分子量の重合体は、機械的特性を改善するのに役立つが、このことは、重合体が構造材料として機能する用途においてきわめて重要である。
【0009】
ポリフタルアルデヒドおよびその共重合体を含む、天井温度の低い重合体の現在公知のバッチプロセス合成には、問題がいくつか存在する。バッチプロセスで重合を進める際の問題の1つは、反応中に分子量が増加していくにつれて、媒体の粘度が上昇し、重合反応が物質輸送によって制限されるようになることである。粘性のある反応媒体においては、活性鎖部位へ未反応単量体が拡散する速度が遅くなるため、重合体の分子量が増加する速度が遅くなり、また重合体へ単量体を取り込む速度(単量体変換効率としても知られている)も遅くなる。したがって、バッチプロセス重合は、数時間から数日を要する。バッチプロセスは、また、冷媒と接触する表面積によって、いかに速く反応装置を冷却することができるかが制限される(大きなバッチ反応装置は、表面積対容量比が小さい傾向があり、これは、冷却に長時間を要することを意味する)。大量バッチプロセスは、熱伝達速度がより遅いために、重合反応の発熱性に起因する自己加熱によって、反応速度も抑制される。バッチプロセスのさらなる短所は、バッチ反応装置が、独立した反応停止ステップ(重合を終結させるため)と、それに続く重合体を精製するための独立した沈殿ステップとを必要とすることである。
【発明の概要】
【0010】
本開示は、重合体を作製するためのシステムおよび方法を提供する。重合体を作製する例示的な方法は、(a)重合化溶液を、反応装置の少なくとも一部に連続的に流通させることと、(b)重合化溶液からポリアルデヒド重合体を生成することと、を含む。
【0011】
本明細書に開示された実施形態のいずれかにおいて、反応装置の少なくとも一部の温度を、約0℃~約-110℃とすることができる。
【0012】
本明細書に開示された実施形態のいずれかにおいて、反応装置の少なくとも一部の温度を、約-80℃とすることができる。
【0013】
本明細書に開示された実施形態のいずれかにおいて、重合化溶液を連続的に流通させることは、約1bar~約100barの圧力で行うことができる。
【0014】
本明細書に開示された実施形態のいずれかにおいて、方法は、単量体から重合体への変換率を約10%~約99%とすることができる。
【0015】
本開示の別の実施形態は、連続流通反応装置を提供する。反応装置は、1つ以上の注入口と、連続流通反応装置流路と、1つ以上の排出口と、を含むことができる。1つ以上の注入口は、重合化溶液の1つ以上の成分を受け入れるように構成することができる。連続流通反応装置流路は、(i)重合化溶液を受け入れ、(ii)重合化溶液を、連続流通反応装置流路に連続的に流通させ、(iii)ポリアルデヒド重合体を生成するように、構成することができる。1つ以上の排出口は、連続流通反応装置流路と流体連通させることができる。1つ以上の排出口は、ポリアルデヒド重合体を排出するように構成することができる。
【0016】
本明細書に開示された実施形態のいずれかにおいて、連続流通反応装置は、連続流通反応装置流路の少なくとも一部の温度を、約0℃~-100℃の間に維持するように構成された冷却ユニットをさらに含むことができる。
【0017】
本明細書に開示された実施形態のいずれかにおいて、連続流通反応装置は、連続流通反応装置流路の少なくとも一部の温度を、約-80℃に維持するように構成された冷却ユニットをさらに含むことができる。
【0018】
本明細書に開示された実施形態のいずれかにおいて、反応装置は、重合化溶液を、約1bar~100barの圧力で、連続流通反応装置流路に連続的に流通させるように構成することができる。
【0019】
本明細書に開示された実施形態のいずれかにおいて、連続流通反応装置は、単量体から重合体への変換率を約10%~約99%とするように構成することができる。
【0020】
本明細書に開示された実施形態のいずれかにおいて、連続流通反応装置流路は、内径が約10μm~約1000μmである反応ラインを含む。
【0021】
本明細書に開示された実施形態のいずれかにおいて、連続流通反応装置流路は、容量が約1μL~約5000μLである反応ラインを含む。
【0022】
本明細書に開示された実施形態のいずれかにおいて、連続流通反応装置流路は、境界面の表面積が約100m-1~約20000m-1である反応ラインを含む。
【0023】
本開示の別の実施形態は、(a)o-PHAとBF3OEt2とを含む重合化溶液を、連続流通反応装置の第1の注入口に連続的に流通させることと、(b)ピリジンを含む反応停止剤溶液を、連続流通反応装置の第2の注入口に連続的に流通させることと、(c)環状ポリフタルアルデヒドを生成することと、を含む、重合体を作製する方法を提供する。
【0024】
本明細書に開示された実施形態のいずれかにおいて、ポリアルデヒド重合体は、環状とすることができる。
【0025】
本明細書に開示された実施形態のいずれかにおいて、ポリアルデヒド重合体は、ポリフタルアルデヒドとすることができる。
【0026】
本明細書に開示された実施形態のいずれかにおいて、ポリフタルアルデヒドは、環状とすることができる。
【0027】
本明細書に開示された実施形態のいずれかにおいて、ポリアルデヒド重合体の数平均分子量は、約1kDa~約1,000kDaとすることができる。
【0028】
本明細書に開示された実施形態のいずれかにおいて、ポリアルデヒド重合体は、共重合体とすることができる。
【0029】
本明細書に開示された実施形態のいずれかにおいて、ポリアルデヒド重合体は、ポリフタルアルデヒドおよび第2のアルデヒドの共重合体とすることができる。
【0030】
本明細書に開示された実施形態のいずれかにおいて、第2のアルデヒドは、脂肪族アルデヒドとすることができる。
【0031】
本明細書に開示された実施形態のいずれかにおいて、重合化溶液は、第1の単量体と、触媒と、を含むことができる。
【0032】
本明細書に開示された実施形態のいずれかにおいて、第1の単量体は、フタルアルデヒドおよびその誘導体からなる群から選択することができる。
【0033】
本明細書に開示された実施形態のいずれかにおいて、第1の単量体は、フタルアルデヒドとすることができる。
【0034】
本明細書に開示された実施形態のいずれかにおいて、触媒は、BF3OEt2、塩化ガリウム(III)、および塩化スズ(IV)からなる群から選択することができる。
【0035】
本明細書に開示された実施形態のいずれかにおいて、触媒は、BF3OEt2とすることができる。
【0036】
本明細書に開示された実施形態のいずれかにおいて、重合化溶液は、第2の単量体をさらに含むことができる。
【0037】
本明細書に開示された実施形態のいずれかにおいて、第2の単量体は、アルデヒドとすることができる。
【0038】
本明細書に開示された実施形態のいずれかにおいて、アルデヒドは、脂肪族アルデヒドとすることができる。
【0039】
本明細書に開示された実施形態のいずれかにおいて、重合化溶液は、溶媒をさらに含むことができる。
【0040】
本明細書に開示された実施形態のいずれかにおいて、溶媒は、ジクロロメタン、クロロホルム、トルエン、およびこれらの組み合わせからなる群から選択することができる。
【0041】
本明細書に開示された実施形態のいずれかにおいて、溶媒は、ジクロロメタンとすることができる。
【0042】
本明細書に開示された実施形態のいずれかにおいて、重合化溶液は、反応停止剤をさらに含むことができる。
【0043】
本明細書に開示された実施形態のいずれかにおいて、反応停止剤は、ピリジン、アミン類、およびルイス塩基類からなる群から選択することができる。
【0044】
本明細書に開示された実施形態のいずれかにおいて、反応停止剤は、ピリジンとすることができる。
【0045】
本明細書に開示された実施形態のいずれかにおいて、重合化溶液は、ほぼ均質とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
本開示の具体的な実施形態についての以下の詳細な説明は、添付の図面と合わせて読むと、より良く理解されるであろう。本開示を説明する目的で、具体的な実施形態を図面に示す。しかしながら、本開示が、図面に示す実施形態の厳密な配置や手段に限定されるものではないということは、理解されるべきである。
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に基づき、フタルアルデヒドのポリフタルアルデヒドへの変換をプロットしたものを示す。
【
図2】
図2は、本開示の一実施形態に基づき、[M]
0=0.746M、[M]
0/[I]
0=500として、BF
3OEt
2を-78℃で注入した場合(●)、および冷却前に3分間室温とした場合(▲)の少量バッチ重合の変換対時間プロットを示す。
【
図3】
図3は、本開示の一実施形態に基づき、例示的な連続流通反応装置を示す。
【
図4A】
図4Aは、本開示の一実施形態に基づき、以下を示す。(a)異なる触媒投入に対する時間対変換一次プロット。灰色のプロット領域および破線は、鎖融合相を示す。
【
図4B】
図4Bは、本開示の一実施形態に基づき、以下を示す。(b)両プロットに対し、[M]
0/[I]
0=500(◆)、300(▲)、160(●)、50(■)とした場合のMn対変換プロファイル。
【
図5】
図5は、本開示の一実施形態に基づき、鎖伸長(▲)および鎖融合(●)の見かけの速度定数kappを触媒濃度[BF3OEt2]に対してプロットした両対数プロットを示す。
【
図6】
図6は、本開示の一実施形態に基づき、-78℃(●)、-67℃(◆)、-57℃(■)で行った重合に対する時間対変換一次プロットを示す。全ての実験において、[M]
0/[I]
0=160とした。
【
図7】
図7は、本開示の一実施形態に基づき、分子内鎖切断(正反応)および分子間鎖融合(逆反応)を導く可逆連鎖移動反応の機構案を示す。
【
図8】
図8は、本開示の一実施形態に基づき、BF
3OEt
2触媒を用いたo-PHAのカチオン重合における温度に対する見かけの速度定数を示す。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本開示は、連続流通処理を利用して、ポリアルデヒドを含む天井温度の低い重合体を効率的に合成する方法に関する。開示されたプロセスでは、バッチプロセスを利用する合成などの公知の合成よりもかなり速い時間スケールで、高分子量および高単量体変換まで重合反応を進行させることが有利に可能となる。ある実施形態では、連続流通プロセスは、圧力駆動流通プロセスである。このような圧力駆動流通によって、反応溶液における単量体および触媒の混合を改善することができ、これによって、重合混合物および得られる重合体の均質性および均一性を向上させることができる。理論に拘束されることを望むものではないが、このように混合を改善することによって、高分子量の重合体を容易にかつ速く産生することができる。何故なら、より速い物質輸送を用いることで、拡散律速速度が克服されるからである。
【0048】
連続流通反応装置を利用することができる開示されたプロセスでは、拡散距離を有利に低減することができる。すなわち、重合体の活性反応部位に到達するために単量体が拡散する必要のある距離を有利に低減することができる。これによって、単量体をより容易に変換することができる。さらに、開示されたプロセスでは、反応装置の表面対容量比を大きくすることができ、熱伝達速度が改善されて、反応物の急速冷却が可能となる。反応物の急速冷却によって、反応混合物が冷却されるのを待つ長い誘導期なしに、重合反応を開始させることが可能となる。したがって、開示されたプロセスは、誘導期を有利に短縮し、より速い重合反応が起きるのを可能にする。
【0049】
本明細書において開示されたプロセスにしたがって重合を行うことの別の利点は、いくつかの単位操作を1つの連続プロセスへと集約できるということである。例えば、マイクロミキサーを介して、反応装置のラインに反応停止試薬を有利に導入することができ、その後、これを重合体の沈殿および精製用の非溶媒浴へと供給することができる。よって、本明細書に開示された多段階連続流通プロセスにより、時間、設備、および費用が節約される。
【0050】
本明細書において、ある実施形態では、(a)重合化溶液を、反応装置の少なくとも一部に連続的に流通させることと、(b)重合化溶液からポリアルデヒド重合体を生成することと、を含む、重合体を作製する方法が開示される。
【0051】
重合化溶液は、所望の条件下で重合反応が進行するのに必要な様々な成分を含むことができる。ある実施形態では、重合化溶液は、1つ以上の単量体と、触媒と、を含む。ある実施形態では、重合化溶液は、反応停止剤溶液をさらに含む。ある実施形態では、重合化溶液は、溶媒をさらに含む。ある実施形態では、重合化溶液は、第1の単量体と、第2の単量体と、触媒と、溶媒と、反応停止剤溶液と、を含む。必要な成分を全て含む単一の溶液として、重合化溶液を連続流通反応装置に添加することもできるし、あるいは、各成分を別々に反応装置に添加することもできる。ある実施形態では、1つ以上の単量体、触媒、および溶媒は、反応停止剤溶液とは別に連続流通反応装置に添加され、反応停止剤溶液は、連続流通反応装置において重合反応を所望の時間進行させた後、添加することができる。
【0052】
ある実施形態では、重合反応は、約20℃~約-110℃の温度で起こる。したがって、ある実施形態では、反応装置の少なくとも一部の温度は、約-40℃~約-90℃である。
【0053】
ある実施形態では、重合反応は、加圧下で起こる。ある実施形態では、反応は、約1bar~約100barの圧力下で起こる。より具体的には、ある実施形態では、反応は、約1bar~約10barの圧力下で起こる。
【0054】
当業者であれば、開示された重合体は、対応する単量体を適切な触媒および/または開始剤と反応させて、鎖伸長重合を誘導することで形成されるということを理解するであろう。ある実施形態では、ポリアルデヒドは、単一の単量体から形成される。ある実施形態では、ポリアルデヒドは、少なくとも2つの異なる単量体から形成される共重合体である。ある実施形態では、第1の単量体および第2の単量体は、どちらもアルデヒドである。このようなアルデヒド単量体としては、o-フタルアルデヒド(o-PHA)、直鎖アルデヒド類、分岐鎖アルデヒド類、アルキルアルデヒド類、ハロゲン化アルデヒド類、および酸素原子、窒素原子、リン原子、硫黄原子、またはケイ素原子を含有するアルデヒド類が挙げられるが、これらに限定されない。ある実施形態では、単量体は、o-フタルアルデヒド(o-PHA)である。ある実施形態では、第1の単量体はo-フタルアルデヒド(o-PHA)であり、第2の単量体は脂肪族アルデヒドである。
【0055】
ある実施形態では、上述した単量体から形成されるポリアルデヒドは、ポリフタルアルデヒド(PPHA)である。ある実施形態では、ポリアルデヒドは、ポリフタルアルデヒド(PPHA)である。ある実施形態では、ポリアルデヒド重合体は、環状重合体である。ある実施形態では、ポリアルデヒド重合体は、直鎖重合体である。
【0056】
ある実施形態では、重合体分子量は、約1,000ダルトン~約1,000,000ダルトンである。本明細書に開示された重合体分子量は、本明細書の実施例に開示されたGPC法によって決定される数平均分子量(Mn)である。
【0057】
ある実施形態では、本明細書に開示された方法で形成されたポリアルデヒドは、天井温度の低い重合体である。ある実施形態では、ポリアルデヒドの天井温度は、約-80℃~約30℃である。
【0058】
ある実施形態では、触媒は、カチオン触媒またはアニオン触媒である。ある実施形態では、触媒は、カチオン触媒である。ある実施形態では、カチオン触媒は、三フッ化ホウ素ジエチルエーテラート(BF3OEt)、ならびに塩化スズ(IV)(例えば、四塩化スズ)および塩化ガリウム(III)(例えば、三塩化ガリウム)などの他のルイス酸から選択される。アニオン触媒としては、金属アルコキシド類、アミン類、ホスファゼン塩基類、および有機リチウム試薬類が挙げられる。
【0059】
ある実施形態では、重合反応は、適切な溶媒中で起こる。したがって、ある実施形態では、重合化溶液は、溶媒を含む。ある実施形態では、溶媒は、ジクロロメタン、トルエン、ペンタン、クロロホルム、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0060】
ある実施形態では、所望の重合体分子量に到達するように、重合反応を適切な時間進行させる。ある実施形態では、重合反応時間は、約1秒~約10分である。ある実施形態では、重合反応時間は、約1秒~約7分、約1秒~約5分、約1秒~約3分、約1秒~約2分、約1秒~約60秒、約1秒~約45秒、約1秒~約30秒、約1秒~約20秒、または約1秒~約10秒である。ある実施形態では、重合反応時間は、約5秒~約60秒、約5秒~約45秒、約5秒~約30秒、約5秒~約20秒、または約5秒~約10秒である。ある実施形態では、反応時間は、約10秒である。
図1は、本明細書に開示された方法に基づき、反応時間10秒の場合を示す。本明細書で用いられる「反応時間」とは、重合開始から、重合を停止または終結させる時点までの時間のことをいう。この図における反応時間は、反応混合物が反応装置の反応区画/反応流路に存在している時間の合計に相当する。ある実施形態では、単量体から重合体への重合変換率は、約10%~約99%である。
【0061】
ある実施形態では、所望の時間経過後に反応停止剤を連続流通反応装置に添加して、重合反応を停止することができる。ある実施形態では、反応停止剤は、ピリジン、脂肪族アミン類、およびルイス塩基類から選択される。ある実施形態では、反応停止剤を、当該反応停止剤と適切な反応停止剤用溶媒とを含む反応停止剤溶液の形態で添加することができる。このような反応停止剤用溶媒は、ジクロロメタン、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)などから選択され得る。しかしながら、本開示は、そのように限定されない。むしろ、「良溶媒」、すなわち重合体を溶解する溶媒であれば、いずれの溶媒も用いることができる。
【0062】
本明細書に開示された方法の利点の1つは、再現可能かつ均質な重合溶液を形成できるということである。したがって、ある実施形態では、重合化溶液は、ほぼ均質である。本明細書で用いられる「ほぼ均質」とは、重合体積の全体が、ほぼ同じ物質伝達条件下および熱伝達条件下にあり、その結果、同等の特性を有する重合体が、体積全体にわたって形成されることをいう。重合システムの中には、均質な反応装置(すなわち、システム中に1つの相のみが存在する)と考えてもよい反応装置内で実行されるものもあるが、物質伝達/熱伝達が遅いバッチ反応装置では、「高温部」が形成され得る。このような高温部は、反応速度および品質の異なる重合体産物へとつながり得る。
【0063】
ある実施形態では、本明細書に開示された方法を、連続流通反応装置内で実行する。
図3は、例示的な連続流通反応装置の概要を示す。
図3に示すように、連続流通反応装置は、重合化溶液の1つ以上の成分を受け入れるように構成された1つ以上の注入口105を含むことができる。連続流通反応装置は、(i)重合化溶液を受け入れ、(ii)重合化溶液を、連続流通反応装置流路110に連続的に流通させ、(iii)ポリアルデヒド重合体を生成するように構成された連続流通反応装置流路110をさらに含むことができる。連続流通反応装置は、連続流通反応装置流路と流体連通する1つ以上の排出口115をさらに含むことができる。1つ以上の排出口は、ポリアルデヒド重合体を排出するように構成することができる。連続流通反応装置は、連続流通反応装置流路110の少なくとも一部の温度を約-90℃~約0℃の間に維持するように構成された冷却ユニットをさらに含むことができる。当該技術分野で公知の多種多様な冷却ユニットを、冷却ユニットとすることができ、例えば、氷(例えば、ドライアイス)、冷蔵ユニット、冷却器などが挙げられるが、これらに限定されない。ある実施形態では、連続流通反応装置は、連続流通反応装置流路110に所望の圧力で重合化溶液を連続的に流通させ、単量体から重合体への変換率を所望の変換率とするように構成されている。
【0064】
ある実施形態では、連続流通反応装置流路110は、内径が約10μm~約1cmである反応ラインを含むことができる。ある実施形態では、連続流通反応装置流路110は、容量が約1μL~約5000μLである反応ラインを含むことができる。ある実施形態では、連続流通反応装置流路110は、境界面の表面積が約100m-1~約20000m-1である反応ラインを含むことができる。なお、本明細書に記載の連続反応装置は、並行する連続流通反応装置流路を複数構築することによって、大容量へと拡張することができる。第2の流路を構築すると、反応装置システムのスループットが2倍になる。多くの並行する流路を用いると、小型の流通反応装置の利点を維持しながら、より速い速度で重合体を合成することができる。また、長さ、直径、および流速(より速い、またはより遅い、圧力駆動流通による)の観点から単流路反応装置をさらに改変することによって、収率や重合体産生速度を最適化することができる。したがって、ある実施形態では、連続流通反応装置の表面対容量比を、1000m-1~10,000m-1とすることができる。
【0065】
本明細書において値および範囲が与えられる場合は、常に、これらの値および範囲に包含される全ての値および範囲が、本出願の範囲に包含されることが意図されるということは、理解されるべきである。さらに、これらの範囲内にある全ての値のみならず、値の範囲の上限または下限も、本出願によって想定される。
【0066】
以下の実施例によって、本出願の態様をさらに説明する。しかしながら、本明細書で説明されるような本出願の教示または開示が、これらに限定されることは決してない。
【実施例】
【0067】
重合触媒として三フッ化ホウ素ジエチルエーテラートを用いたo-フタルアルデヒドのカチオン重合を、微小流通反応装置を用いて検討した。270kDaを越える高分子量の重合体を10秒で形成した。反応速度論的データおよび分子量データは、重合相が2つ存在していることを示す。第1の相は、分子量が中程度の重合体となるように制御された伸長速度によって特徴付けられる。第2の相は、分子間連鎖移動が重合反応速度論において支配的となり、その結果、隣接する重合体鎖の融合によって重合体分子量が指数関数的に増大する、閾値濃度よりも高い濃度で生じる。このような重合結果を説明するために、環拡大重合モデルが提唱される。このような知見により、ポリアルデヒドにおいて目標とする重合体特性を達成するためのより良い合成制御が可能となり、他の重合触媒の活性を評価するのに用いることができる反応速度論的方法が特定される。
【0068】
(実験の詳細)
【0069】
特に明記しない限り、出発物質は全て、商用供給業者から入手し、さらなる精製は行わずに用いた。無水ジクロロメタン(DCM)は、EMDミリポア社より購入した。ACS規格適合テトラヒドロフラン(THF)およびメタノール(MeOH)は、BDHケミカルズ社より購入した。o-フタルアルデヒド(>99.7%)は、TCI社より購入し、受け取ってそのまま用いた。三フッ化ホウ素ジエチルエーテラート(BF3:約48%)は、アクロス・オーガニクス社より購入した。ピリジン(99%)は、アルファ・エイサー社より購入した。ドライアイスおよびアセトンまたはイソプロピルアルコールを用いて、-78℃浴を作製した。凍結MeOH/水混合物をドライアイスと共に用いて、-57℃浴および-67℃浴とした。熱電対によってこれらの浴槽の温度を常に監視し、報告された値から±1.5℃の変動を観察した。
【0070】
ステンレス鋼(316等級)製の配管および連結部は、スウェージロック社から購入した。PTFE製の管材およびルアーロックアダプターは、ハミルトン社から購入し、これらを用いて、ステンレス鋼製の配管にシリンジを接続した。PDMS製の可撓性管材は、マクマスター・カー社から購入し、MeOH沈殿用フラスコに滴を落とす、反応装置の排出口として用いた。PHD2000モデルのシリンジポンプは、ハーバード・アパレイタス社から購入した。
【0071】
ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)解析の測定は、溶離液をHPLCグレードのTHF(流速1mL/分、30℃)とし、屈折率検出器とショウデックス(Shodex)カラム(KF-805L)とを利用した、島津製作所製GPCユニット(DGU-20A、LC-20AD、CTO-20A、およびRID-20A)からなるシステムで行った。GPCは、一連のショウデックス製直鎖単分散ポリスチレン標準試料を用いて較正した。
【0072】
最小二乗直線回帰を行い、時間対変換一次プロットから傾きの値を得ることによって、見かけの速度定数を算出した。これらの値において報告された不確実性を、傾きの標準誤差とした。
【0073】
バッチ重合について。使用前に、全てのガラス器具をDCMを用いて数回洗浄し、150℃の乾燥器で一晩乾燥した。反応の準備は、H2Oを<0.1ppm、O2を<100ppmに維持した窒素雰囲気下で、グローブボックス内にて行った。100mL丸底フラスコに、任意量のo-PHAを添加した。後で添加する触媒溶液の体積を考慮しつつ、モノマーの総濃度が0.746Mとなるように、無水DCMを添加した。この原液を、それぞれが等しく0.25gのo-PHAを含むように、別々の容器に小分けした。BF3OEt2原液および無水DCMを用いて、別の20mL容器に触媒希釈溶液を調製した。この溶液0.1mLを、シリンジを介して反応容器に添加した。ドライアイスおよびアセトンを用いて-78℃としたVWRシンフォニー超音波洗浄機(モデル97043-992、動作周波数35kHz、出力密度36mW/cm3)内で、重合化を行った。所望の時間経過後、ピリジン0.2mLを注入して重合化を停止した。反応物をピリジンと2分間混合した後、MeOH中に激しく撹拌しながら滴下して沈殿させた。1時間超、沈殿浴槽を撹拌した後、濾過し、白色の固体状重合体を一晩風乾した。
【0074】
流通重合について:ガラス器具の準備および反応の準備は、バッチ実験と同様に行った。実験は、溶液中のo-PHA量0.50gを基準として行った。触媒を容器に添加した後、重合溶液をエアタイトシリンジに取り込み、グローブボックスから取り出して、反応装置を設置したドラフトへと移した。ニードルキャップを、反応装置アダプターに素早く交換し、シリンジをポンプ内に装着した。あらかじめ準備しておいた20%v/vピリジンのTHF溶液が入った等容量のシリンジを、ポンプの第2のスロットに装着した。シリンジポンプを特定の流速で動作させて、反応装置内における滞留時間(τR)を制御した後、停止流と混合した。グローブボックス内で触媒を添加してから反応装置で実験を開始するまでの時間は、4分であった。反応装置による産物を、MeOH浴に激しく撹拌しながら供給し、重合体を沈殿させ、未反応の単量体から精製した。変換は、重量で測定した乾燥重合体の収量とした。
【0075】
(結果)
【0076】
開始について。PPHA重合反応速度論の検討を、溶液の混合を向上させるために超音波浴を用いて、少量バッチ実験から開始した。これは、高分子量のPPHA溶液は、重合中にマグネティックスターラーバーを停止させるほど粘性が高くなるからである。初めの実験では、-78℃に冷却した単量体溶液に触媒を注入した。しかし、この手順は、約20秒の誘導期間が必要であり、60秒での変換は28%となった(
図2)。理論に拘束されることを望むものではないが、長い誘導期間は、触媒が単量体と会合して安定な環状重合体を形成するのに必要な時間に起因すると考えることができ、すなわち、BF
3OEt
2は真の重合開始剤ではないということが示唆され得る。理論に拘束されることを望むものではないが、BF
3OEt
2のみでは、アルデヒドやアセタールの重合化を開始することができない場合があり、外来性の水またはアルデヒド水和物などのカチオン助触媒が必要となると考えられる。この開始の遅れによって、カチオンPPHA合成で得られるより高いモル質量の分散値(小さいk
i/k
p比)、ここでは、2.13~2.30という値を説明することができる。開始の遅れを克服するために、BF
3OEt
2の反応混合物への注入を室温で行い、重合化に対して有効な触媒分子の画分を増大する実験を行った。温度をより高くすることによって、真の活性触媒の開始速度が高まり、T
Cを越えるシステムにおいて反成長反応が優勢となるため、単量体の成長は無視できる。T
C未満に反応混合物を冷却する数分前にBF
3OEt
2を添加することは、最終的なPPHA産物にほとんど影響を及ぼさないことが示されている
18。触媒調整によって、重合速度が約2倍増大し、60秒での変換が56%に達した。さらに、モル質量の分散値は、1.96~2.00とわずかに低下したが、これは恐らく、k
i/k
p比の値が増大したことによる。原位置熱電対を用いて重合混合物の冷却速度を測定すると、溶液の冷却速度によって反応速度が制限されていることが明らかになった。重合装置において混合速度および冷却速度が制限されていることが確認されたので、微小流通反応装置を用いて反応速度論をより詳細に検討した。
【0077】
分子量の増加について。本検討において用いた流通反応装置構成の概要を、
図3に示す。反応速度論的実験の結果をまとめて表1に示す。-78℃で重合化を行った4つの異なる初期単量体触媒投入に対する時間対変換一次プロットを
図4Aに示す。線形フィットの傾きによって、各実験に対する見かけの速度定数が得られる。各実験セットに対して線形相が2つ存在し、70%~80%の変換が生じるところで、この2つの線形相間の遷移が起こることが分かった。この遷移は、分子量の急な増加とほぼ一致する。
図4Bは、変換に伴う分子量の非定型的S字曲線トレンドを示す。重合中の分子量の変化によって、所与の条件におけるk
p、k
t、およびk
fの相対値に関する見通しが得られる。低変換および中変換においては、新しい鎖の生成によって変換が進行するが、分子量が急速に増加した後は、さらなる成長はほとんどない。このような相を、今後、鎖「成長」相という。機構的には、このような観察については、低変換におけるシステムにおいて支配的な成長によって説明することができる。すなわち、変換が10%未満で、単量体濃度が高い場合には、k
p>>k
tである。この初期段階を越えて変換が進み、単量体濃度が低下するにつれて、漸次的な、または最低限の、分子量変化が生じ、変換が20%から70%に進行する。このことは、触媒解離速度k
tの上昇によって説明される。これらの遊離活性触媒は、平均分子量に有意な影響を及ぼすことなく、新しい鎖を開始することができるが、変換率の向上に寄与し続ける。
【0078】
【0079】
75%変換付近での反応速度論的遷移後、Mnの公称値は、最後の20%変換でほぼ倍増する。これを「融合」相と命名する。この点において、単量体濃度が低下し、ポリアセタール結合濃度が非常に高くなるにつれて、分子間連鎖移動反応がシステムにおいて支配的になり始め、効果的にkf>kpとなる。連鎖移動による重合体鎖の融合によって、分子量が急速かつ大幅に増加する一方、成長に伴う残された単量体の消費は、より緩やかになる。このように重合化が変化する間、ずっと、単一の触媒分子が、開始、成長、および解離に複数回関与することができる。このことは、また、触媒が、重合体鎖との複合体生成よりも解離状態を好むという見解を支持するものである。このような現象により、環拡大メタセシス重合において、ジャイヤ(Xia)らによって説明されているような段階的成長重合の分子量増加プロファイルと同様の分子量増加プロファイルがもたらされ得る。
【0080】
なお、PPHAシステムの平衡のために、-78℃において反応が完全変換まで進むことはない。250kDaよりも大きい重合体を産生しようとすると、高圧力が低下し、ポンプが失速した。アルデヒド重合が、外来性の不純物に対して非常に影響されやすいという性質を有するため、バッチ間で分子量が変動するものと考えられる。ガラス器具を乾燥器で一晩乾燥させるなど、この影響を軽減するために努力を払ったが、バッチ間にはいくらかの変動性が存在するものと考えられる。触媒の投入は、観察された分子量に対して弱い正のトレンドを示すが、変換率には強く影響を及ぼす。[M]0/[I]0投入が異なる場合に分子量も異なる反応速度論的遷移において、変換レベルが同様であるということに基づくと、システムの粘度が反応座標に沿う相遷移の位置に及ぼす影響は最小限だと思われる。理論に拘束されることを望むものではないが、kf/kpが1よりも大きい臨界値により速く到達するので、[M]0を大きくすると、重合座標において相変化がより早く起こるであろうという仮設が立てられる。
【0081】
図5は、k
appを[BF
3OEt
2]に対してプロットした両対数プロットを示し、どちらの相に対しても線形フィットとなっている。直線の傾きから、触媒投入に対して、鎖成長相の次数は1.36±0.23となり、鎖融合相の次数は1.24±0.16となる。反応次数が分割される性質は、環拡大重合に関与する機構の複雑な動的性質に起因し得る。直線の傾きは、誤差の範囲内でほぼ等しく、単量体が同じ機構で消費されているが、連鎖移動反応に対する活性触媒の競合によりその全体的な速度は遅くなっていることを示している。
【0082】
温度効果について。-57℃および-67℃でさらなる実験を行い、速度定数の温度依存性を調べ、システムのT
Cを予測する能力を評価した。時間対変換一次プロットは、わずかに下向きの曲率を示し(
図6)、これは、恐らく、システムが、変換平衡を制限するT
Cに近いことによる。これは、直線部よりも上部の変換に水平域が存在する-57℃において特に明白である(補足情報を参照のこと)。これは、また、直線部の最後の120kDaから重合時間を13秒追加した後の69kDaまで、システムの分子量が全体的に低下することも伴っていた。一旦、単量体と重合体との間で変換平衡に達すると、連鎖移動反応により、可能な限りの低熱力学的エネルギー状態において、分子量を平衡状態へと導くことができる。ここでの結果は、より高い温度が、より低分子量の環状種を生成する重合体切断反応を介して、分子間連鎖移動(すなわち、より高いk
-f)を促進することに役立つことを示唆している。このような条件下において、高分子の全体濃度がより低いために、重合体の切断が融合よりも起こりやすく、そのため、分子間の反応よりも分子内の反応の方が促進される。
【0083】
本発明者らは、これらの観察に基づいて、以下のような、分子間鎖融合現象および分子内切断現象を引き起こす可逆的な連鎖移動機構を提案する(
図7)。正方向のステップは、n+mユニット長の活性環状鎖に対するトランスアセタール化反応によって、どのように、1つは現時点で反応速度論的に不活性なmユニット長であり、1つは反応速度論的に活性であり続けているnユニット長である、2つの娘鎖を生成するように切断が起こり得るのかを詳述している。このようなトランスアセタール化は、立体的に拘束されていない重合体鎖に沿う繰り返しユニットのいずれかによって開始され得る。また、逆反応は、隣接する2つの重合体鎖が、どのように、単一の環状鎖に融合し、重合の後期に観察される指数関数的な分子量の増加を引き起こし得るのかを説明している。
図7は、一般的なカチオン触媒(X)を用いて表されているが、これは、活性触媒の正確な形態が、実験的に立証されていないためである。オキソニウム部位に負のホウ酸種(X
-=-BF
3
-)を形成するBF
3を用いた求電子性双性イオン環拡大機構が妥当である。しかしながら、本明細書で観察されたカチオン性成長や有意な誘導期間を促進する別のカチオン触媒からの証拠を仮定すると、錯イオン(例えば、外来性の水との反応で形成されるX
-=-H(BF
3OH)
-が真の活性触媒であるという仮説は、除外することができない。このような触媒は、錯アニオンとの水素結合による一過性のヒドロキシル鎖端への近接を維持することで、環状化を促進し得る。
【0084】
図8は、温度に対するk
appを示す。この直線をk
app=0まで外挿することによって、このシステムにおいてT
C=-27℃±6℃であると予測されたが、これは、平衡単量体濃度法で求められた、文献に引用された値とほぼ一致する。このような反応速度論的方法は、平衡単量体変換研究ほどは確立されていないので、そのような結果と比べてT
Cを過大評価することは、恐らく、熱入射効果や反応熱などの、本解析においてその原因が説明されていない現象による。成長速度は、本明細書に示された反アレニウス挙動に従うのではなく、温度と共に上昇するはずである。温度がT
Cに近付くにつれて生じる、
図8に示す重合反応速度論における遅延は、反成長反応がより支配的になる(k
app=k
p-k
d[M])ためであり、これは、他の重合システムにおいて観察されていた
37。より低い温度まで冷却することによって、最大正味重合速度が得られるであろう。反成長反応が無視できるようになるまでさらに冷却することによって、期待されるアレニウス型の、見かけの成長速度定数が示されるであろう。このシステムの実際的な問題(例えば、DCM凍結や、液体窒素寒剤の必要性)は、これらの効果のさらなる調査を困難にしている。
【0085】
結論。BF3OEt2を用いたo-PHAのカチオン重合反応速度論を、少量バッチ重合および微小流通反応装置システムによって調査した。驚くことには、バッチ重合に伴う物質伝達および熱伝達に対するシステムの抵抗を低下させることによって、迅速反応速度論となり、適切な触媒投入によって、10秒で、公称分子量が270kDaを越えた。観察された反応速度論的データおよび分子量データを説明するために、環拡大重合機構を提案したが、これは、2つの重合相が存在するという主張を支持するものである。具体的には、開始、成長、触媒解離、および連鎖移動などの反応の相対速度によって、反応速度論的に制御された分子量分布が決定される。第1の相では、成長速度が速く、触媒が迅速に解離し新規鎖を形成することができ、その結果、最大で70%~80%の変換までの水平域分子量プロファイルが得られる。第2の相では、重合体濃度が上昇するにつれて、鎖融合速度が成長速度よりも優位になり始め、その結果、分子間連鎖移動により、分子量が指数関数的に増加する。
【国際調査報告】