(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-13
(54)【発明の名称】タンパク質ベースの医薬品の高レベル生産のための細胞株
(51)【国際特許分類】
C12N 5/16 20060101AFI20221005BHJP
C12N 5/02 20060101ALI20221005BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
C12N5/16
C12N5/02
C12P21/02 C
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2021573362
(86)(22)【出願日】2019-06-10
(85)【翻訳文提出日】2022-02-07
(86)【国際出願番号】 US2019036379
(87)【国際公開番号】W WO2020251537
(87)【国際公開日】2020-12-17
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521539959
【氏名又は名称】チョー プラス インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】ローレンス フォーマン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064AG27
4B064CA10
4B064CA20
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA90X
4B065AB04
4B065AC14
4B065CA24
4B065CA25
(57)【要約】
本開示は、商業生産コストを大幅に削減する、タンパク質ベースの医薬品を製造するための改善された細胞株を提供する。前記細胞株は、出発混合物中の他の細胞と比較して、小胞体、ゴルジ装置のレベル、および/または他の望ましい表現型特徴などの、非特異的にタンパク質産生をサポートする特質の1つ以上について、混合集団から細胞を選択することによって得られる。特に効果的なプロデューサー細胞株は、細胞ハイブリッドを作製することによって機能選択のための細胞を調製することにより得ることができる。目的の治療用タンパク質をコードする遺伝子は、1回以上の融合および選択サイクルの前または後に、細胞内にトランスフェクトしてもよい。発現されるタンパク質産物に応じて、培養液1リットル当たり8グラム以上のタンパク質を産生する細胞株が得られる場合がある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質ベースの医薬品の高レベル生産に適合した細胞株を調製する方法であって、
(a)培養細胞の集団を準備することと、ここで、前記集団内の細胞は、導入遺伝子からのタンパク質を発現する能力の点で不均一である、
(b)細胞1個当たりの小胞体および/またはゴルジ装置の密度に従って前記集団から細胞を選別することと、ならびに
(c)細胞1個当たりの小胞体および/またはゴルジ装置の密度が比較的高い細胞を前記集団から選択して回収し、
それにより、出発集団内の他の細胞と比較して増加した組換えタンパク質の産生および/または分泌をサポートするプロデューサー細胞株を得ることと、を含む、方法。
【請求項2】
ステップ(a)が、前記培養細胞の集団から複数の細胞ハイブリッドを形成することを含み、前記細胞ハイブリッドがそれぞれ、前記集団からの前記細胞のうちの2つ以上を含み、ステップ(c)で選択した前記細胞が、細胞ハイブリッドまたはそれらの子孫を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞ハイブリッドが、単一の細胞株から形成される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞ハイブリッドが、樹立された細胞株からの細胞と一次細胞の集団とを融合することによって形成される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(a)で準備した前記細胞が、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、CHO細胞のオートタイプハイブリッド、CHO細胞と別の細胞株からの細胞とのハイブリッド、および/またはCHO細胞と一次細胞とのハイブリッドを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(b)が、小胞体および/またはゴルジを染色する生体色素と共に前記集団内の細胞をインキュベートすることと、ならびに各細胞に関連する前記生体色素の量に従って前記細胞を選別することと、を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(b)が、前記集団内の他の細胞と比較した特定のマーカータンパク質のレベルまたは各細胞によって生成されたグリコシル化パターンに従って、前記細胞を選別することを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(c)が、前記集団内の他の細胞と比較して、細胞1個当たりの小胞体の密度が比較的高い細胞を前記集団から選択して回収することを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ステップ(c)が、前記集団内の他の細胞と比較して、細胞1個当たりのゴルジ装置の密度が比較的高い細胞を前記集団から選択して回収することを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
タンパク質ベースの医薬品の高レベル生産に適合した細胞株を調製する方法であって、
(a)培養細胞の集団を準備することと、ここで、前記集団内の細胞が、導入遺伝子からのタンパク質を発現する能力の点で不均一である、
(b)前記集団内の細胞において融合タンパク質を発現させることであって、前記融合タンパク質が、小胞体および/もしくはゴルジ装置によって加工されるペプチドと融合した、光信号を生成する蛍光または生物発光ペプチドを含む、発現させることと、ならびに
(c)前記細胞集団内の他の細胞と比較してより高レベルで前記光信号を発現する細胞を選択して回収することと、を含む、方法。
【請求項11】
細胞が、ステップ(a)で準備した前記細胞の出発集団と比較して増加した成長速度についてさらに選択される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞集団からの細胞を前記導入遺伝子でトランスフェクトして、トランスフェクト細胞集団を得ることと、ならびに、次いで前記トランスフェクト細胞集団内の他の細胞と比較して高レベルで前記導入遺伝子のタンパク質産物を産生するトランスフェクト細胞を前記トランスフェクト細胞集団から選択することと、をさらに含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記トランスフェクトすることが、ステップ(b)の前またはステップ(c)の後に実行される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
タンパク質ベースの医薬品に含めることを意図したタンパク質の高レベル産生に適合した細胞株を調製する方法であって、
(1)請求項1~11のいずれか一項に記載の方法に従って調製されたプロデューサー細胞株を得ることと、
(2)前記意図したタンパク質をコードする導入遺伝子を前記細胞株の複数の細胞のゲノムに導入することと、ならびに
(3)前記タンパク質を産生する、前記導入遺伝子でトランスフェクトされた細胞を選択することと、を含む、方法。
【請求項15】
細胞1個当たりの小胞体および/またはゴルジ装置の密度が比較的高く、それにより、タンパク質ベースの医薬品に含めることを意図したタンパク質の高レベル産生に適合するプロデューサー細胞株であって、
前記プロデューサー細胞株の細胞が、前記細胞のゲノムに組み込まれる前記意図したタンパク質をコードする導入遺伝子を含み、
前記プロデューサー細胞株が、以下のプロセス:
(a)出発細胞株からの培養細胞の集団を準備することと、ここで、前記細胞が、導入遺伝子からのタンパク質を発現する能力の点で不均一である、
(b)細胞1個当たりの小胞体および/またはゴルジ装置の密度に従って、前記細胞の細胞の集団を選別することと、
(c)前記出発細胞株と比較して、細胞1個当たりの小胞体および/またはゴルジ装置の密度が比較的高い細胞を前記細胞の集団から選択して回収することと、ならびに
(d)ステップ(c)において選択および回収された前記細胞を培養し、それにより、プロデューサー細胞株を樹立することと、
によって、前記出発細胞株から調製されている、プロデューサー細胞株。
【請求項16】
前記出発細胞株およびそれに由来する請求項15に記載のプロデューサー細胞株の両方を含む、タンパク質ベースの医薬品の高レベル生産のためのシステム。
【請求項17】
前記プロセスのステップ(a)が、前記出発細胞株から複数の細胞ハイブリッドを形成することを含み、前記細胞ハイブリッドがそれぞれ、前記集団からの前記細胞のうちの2つ以上を含み、ステップ(c)において選択した前記細胞が、細胞ハイブリッドまたはそれらの子孫である、請求項15に記載のプロデューサー細胞株または請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記細胞ハイブリッドが、単一の細胞株から形成される、請求項17に記載のプロデューサー細胞株またはシステム。
【請求項19】
前記細胞ハイブリッドが、スターター細胞株からの細胞と一次細胞の集団とを融合することによって形成される、請求項17に記載のプロデューサー細胞株またはシステム。
【請求項20】
前記スターター細胞株の細胞がチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞であり、前記プロデューサー細胞株がCHO細胞のオートタイプハイブリッド、別の細胞株からの細胞と融合したCHO細胞のハイブリッド、および/または一次細胞と融合したCHO細胞のハイブリッドを含む、請求項15~19のいずれか一項に記載のプロデューサー細胞株またはシステム。
【請求項21】
前記プロデューサー細胞株が、商業生産の目的となる標的タンパク質をコードする導入遺伝子を含有する、請求項15~20のいずれか一項に記載のプロデューサー細胞株またはシステム。
【請求項22】
前記プロデューサー細胞株の細胞が、前記プロセスに従って得られた結果として、以下の特徴のうちの1つ以上を任意の組み合わせで有する、請求項21に記載のプロデューサー細胞株またはシステム:
前記細胞は異数性である、
前記細胞は、培養液1リットル当たり少なくとも8グラムの前記標的タンパク質を産生する、
前記細胞は、50~200pg/細胞/日の前記標的タンパク質を産生する、
前記細胞は、前記スターター細胞株の細胞と比較して、細胞1個当たり2~10倍多い小胞体またはゴルジ体を含有する、
前記細胞は、前記スターター細胞株の細胞と比較して、細胞1個当たり2~10倍多い標的タンパク質を産生する。
【請求項23】
前記プロデューサー細胞株の細胞が、前記プロセスに従って得られた結果として、以下の特徴のうちの1つ以上を任意の組み合わせで有する、請求項21または22に記載のプロデューサー細胞株またはシステム:
前記細胞は、培養液1リットル当たり10~20グラムの前記標的タンパク質を産生する、
前記細胞は、少なくとも65pg/細胞/日の前記標的タンパク質を産生する、
前記細胞は、前記スターター細胞株の細胞と比較して、細胞1個当たり少なくとも4倍多い小胞体またはゴルジ体を含有する、
前記細胞は、前記スターター細胞株の細胞と比較して、細胞1個当たり少なくとも4倍多い標的タンパク質を産生する。
【請求項24】
医薬品を生産する方法であって、
請求項21~23のいずれか一項に記載の標的タンパク質をコードする導入遺伝子を含有するプロデューサー細胞株またはシステムを得ることと、
前記標的タンパク質が前記導入遺伝子から発現される条件下で、前記プロデューサー細胞株からの細胞を培養することと、
細胞培養物から前記標的タンパク質を精製することと、ならびに
前記医薬品がヒトへの投与に好適であるように前記医薬品を生産するべく前記精製タンパク質を配合することと、を含む、方法。
【請求項25】
前記医薬品が、抗体鎖、治療用酵素、ホルモン、成長因子、および血液の天然成分から選択された標的タンパク質を含有する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
請求項24または25に記載の方法に従って得られる医薬品。
以下の請求項は、米国特許出願第15/254,852号で認可されている請求項に相当する。
【請求項27】
タンパク質ベースの医薬品の高レベル生産に適合した細胞株を得る方法であって、
(a)細胞の混合物が1つ以上の細胞ハイブリッドを形成する条件下で前記混合物を培養することと、ここで、前記細胞ハイブリッドがそれぞれ、前記混合物からの2つ以上の細胞を含む、次いで、
(b)細胞1個当たりの小胞体および/またはゴルジ装置の密度に従って前記細胞の混合物を選別することと、ならびに
(c)細胞1個当たりの小胞体および/またはゴルジ装置の密度が比較的高い細胞ハイブリッドを前記混合物から選択して回収し、
それにより、出発混合物中の他のハイブリッドもしくは親細胞と比較して増加したタンパク質の産生および/または分泌をサポートするプロデューサー細胞株を得ることと、を含む、方法。
【請求項28】
ステップ(a)で培養した前記混合物が、単一の細胞株からの細胞から本質的になる、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
ステップ(a)で培養した前記混合物が、2つ以上の異なる細胞株を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記混合物が、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を含む、請求項27~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
ステップ(c)が、前記混合物中の他のハイブリッドまたは親細胞と比較して、細胞1個当たりの小胞体の密度が比較的高い細胞ハイブリッドを選択して回収することを含む、請求項27~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
ステップ(c)が、前記混合物中の他のハイブリッドまたは親細胞と比較して、ゴルジ装置の密度が比較的高い細胞ハイブリッドを選択して回収することを含む、請求項27~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
ステップ(b)が、小胞体および/またはゴルジを染色する生体色素と共に細胞をインキュベートすることと、ならびに各ハイブリッドに関連する前記生体色素の量に従って細胞ハイブリッドを選別することと、を含む、請求項27~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
タンパク質ベースの医薬品の高レベル生産に適合した細胞株を得る方法であって、
(a)細胞の混合物が1つ以上の細胞ハイブリッドを形成する条件下で前記混合物を培養することと、ここで、前記細胞ハイブリッドがそれぞれ、前記混合物からの2つ以上の細胞を含む、次いで、
(b)前記混合物中の細胞において融合タンパク質を発現させることと、ここで、前記融合タンパク質が、小胞体および/もしくはゴルジ装置によって加工されるペプチドと融合した、光信号を生成する蛍光または生物発光ペプチドを含む、ならびに
(c)前記混合物中の他の細胞と比較してより高レベルで前記光信号を発現する細胞を選択して回収し、
それにより、出発混合物中の他のハイブリッドもしくは親細胞と比較して増加したタンパク質の産生および/または分泌をサポートするプロデューサー細胞株を得ることと、を含む、方法。
【請求項35】
細胞表面リガンドに特異的な抗体と前記細胞ハイブリッドを結合することと、ならびに前記抗体で標識された細胞ハイブリッドを選択し、それにより、前記リガンドを発現する細胞ハイブリッドが富化された亜集団を得ることと、をさらに含む、請求項27~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記混合物中の他の細胞ハイブリッドと比較して、比較的高レベルのマーカータンパク質を産生する細胞ハイブリッドを選択することをさらに含み、前記マーカータンパク質が、前記細胞から分泌され、かつ/または細胞表面上に発現される、請求項27~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記混合物中の他の細胞ハイブリッドと比較して、特定のグリコシル化パターンを生成するか、または特定のマーカータンパク質を発現する細胞ハイブリッドを選択することをさらに含む、請求項27~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記プロデューサー細胞集団を培養することと、ならびに前記細胞ハイブリッド内の小胞体および/またはゴルジ装置の密度に従って、前記プロデューサー細胞集団内の細胞ハイブリッドを再選別し、それにより、細胞内小器官の密度の増加が安定して継承可能である細胞ハイブリッドが富化された亜集団を得ることと、をさらに含む、請求項27~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記プロデューサー細胞株からの細胞を目的の遺伝子でトランスフェクトして、トランスフェクト細胞集団を得ることと、ならびに前記トランスフェクト細胞集団内の他の細胞と比較して高レベルで前記目的の遺伝子のタンパク質産物を産生するトランスフェクト細胞を前記トランスフェクト細胞集団から選択することと、をさらに含む、請求項27~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記目的の遺伝子が、抗体重鎖、抗体軽鎖、または一本鎖抗体をコードする、請求項27~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記プロデューサー細胞株が、抗体重鎖と抗体軽鎖の両方を発現し、これらが組み合わさって、所望の特異性を有する抗体を産生する、請求項27~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記プロデューサー細胞株が、治療用酵素、ホルモン、成長因子、または血液の天然成分であるタンパク質を発現する、請求項27~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記プロデューサー細胞株が、組換えにより挿入された遺伝子のうちの1つまたはそれらの組み合わせから、培養液1リットル当たり少なくとも8グラムのタンパク質を発現する、請求項27~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
2つ以上の親細胞株のゲノムの一部またはすべて、前記親細胞株のうちのいずれかと比較してより高濃度の小胞体および/またはゴルジ装置、ならびに組換えにより挿入された遺伝子のうちの1つまたはそれらの組み合わせから培養液1リットル当たり少なくとも8グラムのタンパク質を産生する能力、を含む、ハイブリッド細胞株。
【請求項45】
バイオ医薬品として配合するためのタンパク質を生産する方法であって、
請求項44に記載のハイブリッド細胞株から細胞を得ることと、ここで前記組換えにより挿入された遺伝子(複数可)が前記タンパク質の一部または全部をコードする、ならびに
前記タンパク質またはその一部が前記組換えにより挿入された遺伝子(複数可)からの前記細胞によって発現される条件下で前記細胞を培養することと、を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
米国の場合のみ、本出願は、2015年9月3日に出願された米国仮出願第62/213,880号の優先権の利益を主張する、2016年9月1日に出願された米国出願第15/254,852号(係属中、未公開)の一部継続である。これら優先権出願は、すべての目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本出願は、一般に、タンパク質をベースとする医薬化合物の生産に関する。本出願はまた、生物学的および薬理学的特質が改善された、高生産性でのタンパク質生産のための細胞株を得るための、細胞の修飾および選択ならびに目的の遺伝子によるそのような細胞のトランスフェクションにも関する。
【背景技術】
【0003】
医薬品市場に占める生物学的薬剤の割合は、継続的に上昇している。生物学的薬剤は他の薬剤よりも特異性が高く、より少ない副作用でより的を絞った有効性をもたらす。それに伴い、生産性を高め、コストを削減しながら、工業生産の手段を改善する必要性が急激に高まっている。
【0004】
一部の治療用タンパク質の治療用量および投薬スケジュールは、患者1人当たり年間10グラムを超えるタンパク質を必要とする場合がある。現在のタンパク質産生レベルは、一般には培養液1リットル当たり4g以下であり、より典型的には培養液1リットル当たり2g未満である。特定のタンパク質製品の市場に供給するためには、年間400,000kgを産生する必要があるかもしれない。これは、1億リットルの培養培地を加工する必要がある(約40個分のOlympic(登録商標)サイズのスイミングプールの容量)ことを意味し、これには、10億ドルの専用製造施設がいくつか必要になるであろう。
【0005】
哺乳類タンパク質産生における最近の進歩は、A.D.Bandaranayake and S.C.Almo,FEBS Lett 2014,588(2):253-260;およびT.Lai et al.,Pharmaceuticals 2013,6:579-603において議論されている。チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞の細胞工学および培養は、T.Omasa et al.,Current Pharmaceutical.Biotechnology,2010:11,233-240;C.A.Wilkens and Z.P.Gerdzen,PLOS ONE,March 13,2015;およびJ.Y.Kim et al.,Appl.Microbiol.Biotechnol.2012,93:917-930において検討されている。CRISPR/Cas9などのシステムを使用した多重ゲノム工学は、L.Cong et al.,Science 2013,339(6121):819-823;Y.Huang et al.,J.Immunol.Methods 2007,322:28-39;J.S.Lee et al.,Science Reports,February 25,2015;およびP.Mali et al.,Nat.Methods 2013,10(10):957-963によって検討されている。
【0006】
米国特許第5,607,845号(Spiraら、Pharmacia&Upjohn)は、融合プロトコルを使用して産生細胞株の産生を増加させる方法を提案した。米国特許第6,420,140号(Horiら、Abgenix Inc.)は、細胞融合法による多量体タンパク質の産生を提案した。CRISPR/Cas9およびCRISPyを使用したCHO細胞におけるゲノム編集は、C.Ronda et al.,Biotechnol.Bioeng.2014,111:1604-1616によって検討されている。
【0007】
以下の章で説明するように、これまでに説明した技術はいずれも、本発明の技術の特徴および利点を有していない。
【発明の概要】
【0008】
以前より利用可能な技術を使用した治療用タンパク質(抗体など)の産生は、費用が高く、大量の培養培地および複雑なインフラストラクチャを必要とするものであった。本開示は、商業生産のコストを削減し、潜在的には製品の品質を改善する、細胞ごとに実質的に増加したタンパク質産生収量を提供する。
【0009】
本開示に記載のモデル細胞株は、高レベルのタンパク質産生に適合している。原則として、本発明は、哺乳類細胞、昆虫細胞、および酵母細胞を含むがこれらに限定されない、任意の開始(originating)真核細胞株に対して実施することができる。前記細胞は、必ずしも特定のタンパク質に特異的ではない基準で、タンパク質産生をサポートする特質(例えば、出発混合物中の他の細胞と比較した、細胞内の小胞体の密度、ゴルジ装置の密度、および/または他の所望の表現型特徴のレベル)の1つ以上についてスクリーニングされる。選択された細胞は、導入遺伝子からのタンパク質または他の遺伝子産物を産生する能力が向上している。内因性遺伝子はさらなる規制的制約を受けるため、選択された細胞は、内因性遺伝子からの産生が増加していても、していなくてもよい。治療用タンパク質をコードする遺伝子は、通常、1回以上の選択サイクルの前、後または間に、細胞にトランスフェクトされる。選択されたタンパク質によっては、培養液1リットル当たり8グラム以上のタンパク質を産生する細胞株が得られる場合がある。
【0010】
本発明の一態様は、タンパク質ベースの医薬品の高レベル生産に適合した細胞株を得る方法である。開始細胞集団は、典型的には、タンパク質産生能力の点で不均一であり、かつ/または、前記開始細胞集団に含有される細胞の少なくとも一部が、細胞集団全体よりも増加した細胞1個当たりの量でタンパク質を産生する能力を有するように処理してもよい。例えば、細胞の混合物は、前記混合物が1つ以上の細胞ハイブリッドを形成するように処理され、細胞ハイブリッドはそれぞれ、前記混合物からの2つ以上の細胞のゲノムの全部または一部を含む。出発混合物中の他の細胞と比較して増加したタンパク質の産生および/または分泌をサポートする細胞が、より高密度の1つ以上の細胞内小器官が富化されたプロデューサー細胞集団を得るように集団から選択される。開始混合物は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞によって例示される単一の細胞株、または2つ以上の異なる細胞株の組み合わせからの細胞から本質的になるものでもよい。
【0011】
本開示が「プロデューサー細胞株」について言及する場合、意味するのは、商業的使用または販売などの遺伝子産物の産生に好適な細胞株である。本開示において提示される技術は、細胞が遺伝子産物を高レベル(細胞1個当たり、または培養物容量当たり)で産生することを可能にする特別な特性を備えたおよび/または特定の目的とする特徴を備えたプロデューサー細胞株を得る方法を説明する。導入遺伝子は選択の前または後に導入できるため、本技術に従って選択された細胞株は、特定の産物を産生するための組換え導入遺伝子を含有しても、しなくてもよい。導入遺伝子が存在するか否かにかかわらず、本発明に従って作製された細胞株は、導入遺伝子が細胞に導入されると、前記導入遺伝子が高レベルの産物プロデューサーであることを可能にする特別な特性を有する。このような特別な特性には、小胞体またはゴルジ装置などのタンパク質産生に関与する細胞小器官の相対的な富化が含まれてもよい。導入遺伝子からの高レベル産生のための細胞の能力は、前記細胞が内因性遺伝子からの高レベル産生のための能力をも有することを必ずしも意味するものではない:実際、産生能力の増加が、導入遺伝子によってコードされる標的遺伝子産物を産生するために選択的である場合、(総細胞産生と比較した)標的の純度も増加し、精製を容易にすることがある。
【0012】
好適な高プロデューサー細胞を選択するための前記方法は、以下の手順のうちの1つ以上を任意の組み合わせで含んでもよい:
・混合物中の他の細胞と比較して、細胞1個当たりの小胞体の密度が比較的高い個々の細胞またはハイブリッドを選択する、
・混合物中の他の細胞と比較して、ゴルジ装置の密度が比較的高い個々の細胞またはハイブリッドを選択する、
・小胞体および/またはゴルジを染色する生体色素と共に細胞をインキュベートし、各細胞に関連する生体色素の量に従って細胞を選別する、
・混合物中の細胞において融合タンパク質を発現させ(融合タンパク質は、小胞体および/またはゴルジ装置によって加工されるペプチドと融合した、光信号を生成するペプチド(GFPまたはルシフェラーゼなど)を含有する)、その結果、混合物中の他の細胞よりも高レベルで光信号を発現する細胞が選択される。
【0013】
前記高プロデューサー細胞を得るための前記方法は、以下の手順のうちの1つ以上をさらに含んでもよい:
・より速く成長する細胞、または特定の培養条件下でより良好に成長する細胞を選択する、
・細胞表面リガンドに特異的な抗体(任意選択的に、標識されたか、または粒子に連結された抗体)と細胞を結合し、抗体で標識された細胞を選択することにより、前記リガンドを発現する細胞が富化された亜集団を得る、
・混合物中の他の細胞と比較して、比較的高レベルのマーカータンパク質を産生する細胞を選択する(マーカータンパク質は、前記細胞から分泌され、かつ/または前記細胞表面上に発現される(分泌型アルカリホスファターゼまたは分泌型ルシフェラーゼなど))、
・混合物中の他の細胞と比較して、マーカータンパク質上で好ましいグリコシル化パターンまたは密度を生成する細胞を選択する、ならびに
・プロデューサー細胞集団を培養し、同じ特徴について、前記プロデューサー細胞集団内の細胞を再選別し、それにより、細胞内小器官の密度の増加が安定して継承可能である細胞がさらに富化された亜集団を得る。
【0014】
特定の標的タンパク質のためのプロデューサー細胞株は本開示に従って得ることができ、例えば、高レベルのタンパク質産生のためにすでに選択された細胞株からの細胞を、標的タンパク質をコードする導入遺伝子でトランスフェクトすることによって得ることができる。任意選択的に、トランスフェクション後も高レベル産生のためのさらなる選択を継続することができる。あるいは、目的のタンパク質をコードする導入遺伝子を出発細胞集団にトランスフェクトすることができ、その後、混合物中の他の細胞と比較して、目的の遺伝子から発現されるタンパク質産物を高レベルで産生する細胞が選択される。いずれの場合も、前記導入遺伝子は、ランダム挿入によって、またはゲノム内の他の場所と比較して高レベルの転写を許可またはサポートするものとして事前に選択された場所で、細胞のゲノムに挿入してもよい。次に、トランスフェクトされ、選択された細胞から、標的タンパク質のためのプロデューサー細胞株を樹立することができる。
【0015】
例として、前記目的の遺伝子は、抗体重鎖、抗体軽鎖、または一本鎖抗体をコードしてもよい。前記プロデューサー細胞株は、抗体重鎖と抗体軽鎖の両方を発現し、これらが組み合わさって、所望の特異性を有する抗体を産生してもよい。前記プロデューサー細胞株は、治療用酵素、ホルモン、成長因子、または血液の天然成分であるタンパク質を発現してもよい。
【0016】
本発明の別の態様は、本開示で提供される方法に従って産生された細胞株であり、この細胞株は、標的タンパク質を発現するように遺伝子改変される前または後に、高レベルのタンパク質産生のために選択されている。そのような細胞株は、以下から選択される特徴を有してもよい:2つ以上の親細胞株のゲノムの一部または全部を含むゲノム、親細胞株のうちのいずれかと比較して高濃度の小胞体および/またはゴルジ装置、ならびに本開示で後述するように定量される、組換えにより挿入された遺伝子のうちの1つまたはそれらの組み合わせから特定レベルのタンパク質を産生する能力。プロデューサー細胞株は、クローンであってもそうでなくてもよい。
【0017】
発明者にとって現在商業的に関心のある本発明の態様は、添付の特許請求の範囲によって示されている。本発明の他の態様は、以下の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】CHO細胞のオートタイプ(autotypic)ハイブリッドと比較した、天然CHO細胞における小胞体(ER)染色の細胞頻度プロファイルを示す。
【0019】
【
図2】CHO細胞のオートタイプハイブリッドと比較した、天然CHO細胞にトランスフェクトされたアルカリホスファターゼの相対的な発現レベルを示す。融合細胞における発現は、4倍よりも改善されている(p<0.05)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示は、商業生産コストを大幅に削減する、タンパク質ベースの医薬品を製造するための改善された細胞株を提供する。前記細胞株は、出発混合物中の他の細胞と比較して、小胞体、ゴルジ装置のレベル、および/または他の望ましい表現型特徴などの、非特異的にタンパク質産生をサポートする特質の1つ以上について、混合集団から細胞を選択することによって得られる。特に効果的なプロデューサー細胞株は、細胞ハイブリッドを作製することによって機能選択のための細胞を調製することにより得ることができる。目的の治療用タンパク質をコードする遺伝子は、融合および選択からなる、1回以上のサイクルの前または後に、細胞内にトランスフェクトしてもよい。
【0021】
背景
バイオシミラーの生産における競争が激化し続ける一方で、新しいバイオ医薬品は年間約100個の割合で出現している。これらの製品の生産に必要な培養物の容量およびコストを削減できる技術が明らかに必要とされている。
【0022】
本開示は、現在の基準を超える生産性(場合によっては、1リットル当たり8g以上もの)でのタンパク質生物学的製剤の製品を可能にする技術を提供する。本明細書で説明する高効率プロデューサー細胞株は、いくつかの方法で産業上の利用可能性のために使用することができる。バイオシミラーに関して、ブランド製品を保有する企業は、製品のコスト構造を下げることでマーケティング上の利点を維持することができる。同様に、バイオシミラーを生産する企業は、コスト面でブランド製品と競合するであろう。前記細胞株は、既存の工場の能力を高めることによって、かなりの生産柔軟性を提供し、より少ないまたはより小さい施設からより多くのタンパク質の産生を可能し、新製品のコストおよび臨床までの時間(time-to-clinic)を短縮する。
【0023】
高レベルの標的タンパク質を生成するプロデューサー細胞株は、細胞ごとにタンパク質をより多くまたはより迅速に産生するべく、より良好に構成された(equipped)個々の細胞について混合細胞集団をスクリーニングおよび選別することによって得られる。
【0024】
細胞ハイブリッドの作製
次章で説明するように、個々の高プロデューサー細胞は、この点で不均一である任意の細胞集団から選択できる。多くの単一細胞株(CHO細胞など)は、増殖する細胞集団における遺伝子含有量および細胞内装置の点で最初は十分に多様であるため、標準の培養物から直接高プロデューサー細胞について選別および選択できる。
【0025】
任意選択的に、最終産物の収量を改善するか、または選別プロセスを増強するために、使用者は、細胞集団内のタンパク質産生レベルの不均一性を向上させるか、または一般に細胞集団全体もしくはその亜集団のタンパク質産生レベルを増加させる技術のうちの1つまたはそれらの組み合わせを使用して、選別のための細胞を準備してもよい。好適な技術は、細胞のゲノムを改変して、例えば、タンパク質の産生または加工に関与する細胞内機構に寄与する遺伝子を増加またはシャッフルする技術である。このようにゲノムを改変またはシャッフルすると、タンパク質の産生レベルおよび成長速度を含む、様々な異なる特性のうちの1つ以上を備えた多くの遺伝的変異体が生じる場合がある。
【0026】
本発明の発明者(maker)は、タンパク質産生に好適な細胞が、他の細胞と融合することによって、より高レベルの産生を達成できることを発見した。本発明の実施を制限することなく、2つの細胞を一緒に融合することは、タンパク質産生に関与する細胞の構成要素、遺伝学、または遺伝的制御に関して部分的に相加的であると仮定される。改善された特質が受け継がれたものである(breed true)場合には、有益である。したがって、細胞が融合した後、それらは通常、複数回培養され、目的の表現型特質について選択される。得られた細胞は異数性でもよく、そうでなければタンパク質産生に関与する細胞成分をコードする親細胞のゲノムの全部または一部を保持してもよい。
【0027】
融合に適したモデル細胞は、CHO細胞、マウス骨髄腫NS0細胞、マウス骨髄腫SP2/0細胞、ヒト胎児腎臓(HEK)293細胞、およびベビーハムスター腎臓(BHK-21)細胞などの工業的タンパク質産生のために既に使用されている細胞株である。他のチャイニーズハムスター細胞型(例えば、分泌型タンパク質を作製する乳房および肝臓細胞)、ヒト細胞株、ならびに所望のグリコシル化特性を有してもよい昆虫および軟体動物細胞などの無脊椎動物細胞も好適である。本開示の文脈において、「細胞株」は、組織培養において継続的に、広範囲に、または無期限に増殖することができる細胞の集団である。出発細胞株は、通常、細胞が産生する導入遺伝子からのタンパク質の量に関連する1つ以上の表現型特徴の点で不均一である。培養されると、本開示に従って得られたプロデューサー細胞株は、不均一であるか、実質的に均一であるか、またはクローンである子孫を産生してもよい。
【0028】
細胞融合は、融合される細胞の細胞混合物を得ることによって実行される:(1つの細胞株からの複数の細胞、または複数の細胞株、または少なくとも1つの細胞株と少なくとも1つの一次細胞集団との混合物。次いで、細胞混合物は、適切な融合プロトコルに供される:例えば、ハイブリッドの形成を促進する培養条件下で培養することにより、電気融合を実施することにより、センダイウイルスなどの融合性ウイルスと組み合わせることにより、(例えば、穏やかな遠心分離によって)細胞を接触させることにより、ポリエチレングリコール(PEG)などの融合剤で処理することにより、またはそれらの任意の効果的な組み合わせを使用することにより供される。
【0029】
本開示の目的のために、2つ以上の細胞を一緒に融合することによって作製された細胞は、オートタイプハイブリッド(一緒に融合された同じ細胞株からの細胞)、アイソタイプ(isotypic)ハイブリッド(同じ遺伝子型を有する細胞)、アロタイプハイブリッド(異なる遺伝子型を有する同じ種の異なる個体からの細胞)、および異種型ハイブリッド(異なる種からの細胞)と呼ばれることがある。オートタイプハイブリッドは、通常、単一の細胞株からの細胞から本質的に(つまり、少なくとも99%)なる細胞の集団を使用して形成される。他のタイプのハイブリッドは、通常、潜在的に相補的な特性を有する2つ以上の細胞株からの細胞集団を使用して形成される。本開示はまた、一次供給源から単離または得られた1つ以上の細胞集団と、それら自体または樹立されたもしくはクローニングされた細胞株との融合を含む。
【0030】
細胞は、任意の好適な技術を使用して、ハイブリッドに融合してもよい。例えば、細胞は、融合剤の存在下で、および/もしくはハイブリッドの形成を促進する培養条件下で、培養してもよく、または、例えば、穏やかな遠心分離によって、任意選択的にはポリエチレングリコール(PEG)などの融合剤と組み合わせて、強制的に接触させてもよい。通常、融合細胞は、2つの細胞を一緒に融合することによって得られるが、3つ以上の細胞の融合も可能である。2つの異なる細胞集団を融合することにより、混合細胞産物(親細胞株に応じて、アイソタイプ(isotopic)ハイブリッド、アロタイプハイブリッド、または異種型ハイブリッド)、およびオートタイプハイブリッドが得られることが認識されている。オートタイプハイブリッドまたは同位体ハイブリッドは、必要に応じて、混合物中の細胞株のうちの1つで発現するが、他では発現しないリガンドに特異的な蛍光標識抗体または表面結合抗体を使用して、アロタイプハイブリッドまたは異種ハイブリッドから分離できる。
【0031】
そのような組み合わせはすべて、特に明記しない限り、本発明の範囲内にある。効果をさらに高めるためにハイブリッドの集団内で細胞融合を繰り返す、および/または最終的な細胞株に追加の有益な特質を付与するために他の細胞株とクロスハイブリダイズすることが有益である場合がある。したがって、融合および選択ステップは、2回、3回もしくは4回、またはそれ以上繰り返し実行してもよい。
【0032】
高プロデューサー細胞株の選択
本開示の価値ある洞察は、出発混合物中の他のハイブリッドまたは親細胞と比較して、増加したタンパク質産生をサポートする、より高レベルの細胞内機構または生化学について、混合細胞集団から細胞を選択することによってタンパク質産生を増加させることができるという着想である。表現型特徴のうちの、特定のタンパク質の産生に必ずしも特異的ではない、少なくとも1つが選択される。この特徴は、単に目的のタンパク質または代用物の発現レベルではない。むしろ、それは様々な異なるタンパク質の産生をサポートする特徴である。このような特徴には、細胞内小器官、特に細胞からのタンパク質の分泌に関与する細胞内小器官の相対密度、および様々な異なるタンパク質の仕上げもしくは分泌を助ける酵素の相対レベルまたは濃度が含まれる。
【0033】
タンパク質産生に関与する細胞内小器官としては、小胞体(ER)およびゴルジ装置が挙げられる。これらのいずれかまたは両方を測定し、生体色素を用いて細胞に損傷を与えることなく、選別または選択の基準として使用することができ、関連する色素の量に基づいて細胞を選択することができる。
【0034】
そのような色素は、例えば、Molecular Probes社から商業的に入手することができる。ERの生体色素の例としては以下のものが挙げられる:
・ER-Tracker(商標)Blue-White DPX(E12353)
・ER Tracker(商標)Green(グリベンクラミドBODIPY(登録商標)FL)(E34251)
・ER-Tracker(商標)Red(グリベンクラミドBODIPY(登録商標)TR)(34250)
・DiOC6(D273)
・DiOC5(D272)。
ゴルジ装置用の生体色素としては以下のものが挙げられる:
・NBD C6-6-セラミド(N1154)
・NBD C6-スフィンゴミエリン
・BODIPY(登録商標)FL C5-セラミド(cerimide)(D3521)
・BODIPY(登録商標)TRセラミド(D7540)。
【0035】
あるいは、またはさらに、使用者は、ERまたはゴルジを標的とする蛍光タンパク質を導入するであろう発現ベースの標識系を試験することができる。標識系は、光学的標識を発現する部分を含む融合タンパク質であり、標識される小器官を標的とするか、または細胞小器官によって加工されるタンパク質配列と融合している。例としては、以下のものが挙げられる:
Invitrogen:
・CellLight(商標)ER-GFP(C10590)
・CellLight(商標)ER-GFP(C10591)
・CellLight(商標)ゴルジ-GFP(C10592)
・CellLight(商標)ゴルジ-GFP(C10593)
Evrogen:
・pmKate2-ER(FP324)
・pFusionRed-ER(FP420)
・pTagRFP-ゴルジi(FP367)
・pTagRFP-ゴルジi(FP367)
・pFusionRed-ゴルジ(FP419)
Clontech:
・pDsRed2-ERベクター(632409)
・pDsRed-モノマー-ゴルジベクター(632480)
・pAcGFP1-ゴルジベクター(632464)。
【0036】
これらの色素のうちのいずれかで染色した後、1つ以上の親細胞株よりも平均して少なくとも1.2倍、1.5倍、2倍、または2倍超の高い染色レベルを有する細胞を、例えば、ER、ゴルジ、または光学的に標識された遺伝子産物の染色について、(例えば、フローサイトメトリーおよびソーティングによって)選択することができる。
【0037】
選択する他の特徴としては、表現型特徴、免疫学的特徴、およびタンパク質産生レベルが挙げられるが、これらに限定されない。免疫学的特徴としては、細胞による所望のリガンドの発現(例えば、細胞によって分泌されるか、または表面上に発現される)が含まれてもよい。親株よりも少なくとも1.5倍、2倍、3倍、または5倍高いそのようなマーカーの平均発現レベルを有する細胞は、例えば、直接的もしくは間接的な抗体標識とそれに続くFACSによって、または抗体でコーティングされたマイクロビーズへの結合とそれらマイクロビーズからの放出によって、選択されることができる。目的の免疫学的マーカーとしては、グリコシル化酵素などの分泌型タンパク質の産生に関与するリガンドが挙げられる。本開示に従って細胞をスクリーニングするために使用できる他の選別方法には、PCR活性化細胞選別、蛍光インサイチュハイブリダイゼーションフローサイトメトリー(FISH-PC)、またはFISHとそれに続くレーザーキャプチャーが含まれてもよい。
【0038】
同時に、または別個のステップとして、製造目的で所望される特徴(特定の培養条件下でより良好に成長する細胞、または1つ以上の望ましくない汚染物質を比較的低レベルで発現する細胞など)について、混合細胞集団から個々の細胞を選択することもできる。
【0039】
生物学的薬剤を製造するために使用するのに十分安定な細胞株を生成するために、選択した細胞を数回の細胞分裂を通して培養下で成長させ、次いで再試験して、所望の特徴が安定しているかどうかを、所望の特徴ごとに2回、3回、またはそれ以上確認する。
【0040】
目的の遺伝子による細胞のトランスフェクション
目的のタンパク質(標的タンパク質)を発現する細胞株を生成するために、プロデューサー細胞またはそれらの前駆体は、宿主細胞株における発現を引き起こす遍在性または哺乳類プロモーターの制御下で、前記タンパク質をコードする遺伝子でトランスフェクトすることができる。標的タンパク質の産生レベルは、タンパク質発現カセットを挿入するための一過性トランスフェクション法を使用した加工過程で決定することができる。あるいは、またはその後、目的の遺伝子またはマーカー遺伝子を細胞株のゲノムに組み込む恒久的なトランスフェクションを行うことができる。トランスフェクションは、リポソームベースの試薬(例えば、Lipofectamine(商標)2000もしくはFuGENE(商標)6)、リン酸カルシウム、エレクトロポレーション、またはアデノウイルス、レトロウイルスもしくはレンチウイルスベースのベクターによる感染を使用して行うことができる。
【0041】
トランスフェクション後、細胞は、例えば、酵素免疫測定法(ELISA)によって、標的タンパク質の産生または分泌について試験される(通常、クローニングまたは限界希釈培養後)。所望のタンパク質の産生が増加した細胞またはクローンが選択される。課題は、親細胞株より1.5倍、2倍、4倍、8倍、12倍、16倍もしくは20倍高いタンパク質産生の増加、および/または通常の製造条件下での培養液1リットル当たり6g、8g、10g、12g、15gもしくは20gのレベルでの産生であることができる。目的のタンパク質は、シアリル化の質またはグリコシル化の他の側面などの他の望ましい特質についても試験できる。
【0042】
原則として、トランスフェクションは、1回以上の融合および他の特徴についての選択サイクルの前、間、または後に行うことができる。例えば、目的の遺伝子をトランスフェクトする前に融合および選択を行うことができるため、使用者が選択したタンパク質の高レベル産生に好適な親細胞株を樹立できる。あるいは、トランスフェクションを開始(originating)親細胞株に対して行うことができ、その後の融合および選別ステップ中に産生レベルを追跡するため、またはそのような選別のための別の基準を提供するために使用することができる。あるいは、トランスフェクションは中間ステップとして行うこともでき、細胞は既に、1回以上の融合およびERまたはゴルジなどの何らかの他の特徴についての選択サイクルに供されており、得られたハイブリッドは、目的のタンパク質を発現するようにトランスフェクトされ、次いで、目的のタンパク質および/または本開示で先に言及した他の特徴を発現するための融合および選択のさらなるサイクルに供される。
【0043】
目的のタンパク質は、製造を目的とした生物学的薬剤であってもよい:例えば、抗体重鎖、抗体軽鎖、一本鎖抗体、治療用酵素、ホルモン、成長因子、または通常は血液成分であるタンパク質であってもよい。
【0044】
別の選択肢は、最終的に製造されるであろうタンパク質の代用物としてマーカータンパク質(例えば、分泌型アルカリホスファターゼまたは分泌型ルシフェラーゼ)を使用して細胞株を開発することである。この場合もまた、トランスフェクションは、複数回の融合および選択サイクルの前、間または後に、任意選択的に、1回以上のサイクルにおいて選択基準としてマーカーの発現レベルを使用して行うことができる。これにより、マーカータンパク質の発現に最適化された親細胞株が作製され、細胞株の有益な特質が、商業的に関心のある生物学的産物を産生するためのさらなる遺伝子改変後に保持されることが期待される。
【0045】
最終的に、マーカータンパク質の所望のレベルの発現を有する細胞株が開発されると、マーカーは目的のタンパク質と置き換えられる。上記技術を使用して、ゲノムへのトランスフェクションを再度ランダムに行うことができ、マーカータンパク質の発現が抑制される。あるいは、マーカータンパク質の遺伝子を、標的化組み込み技術を使用して、目的のタンパク質をコードする遺伝子で置換することができる。このような技術には、例えば、CRISPR/Cas9、ジンクフィンガーリコンビナーゼ(ZFR)、または転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)が含まれる。このように、目的の遺伝子は、ゲノム内の他の場所と比較して高レベルの転写を許可またはサポートするものとして事前に選択された場所で、プロデューサー細胞株または混合物から細胞のゲノムに挿入される。
【0046】
標的化組み込み技術の使用のさらなる情報については、L.Cong et al.,Science 2013,339(6121):819-823;Y.Huang et al.,J.Immunol.Methods 2007,322:28-39;J.S.Lee et al.,Science Reports,February 25,2015;およびP.Mali et al.,Nat.Methods 2013,10(10):957-963;およびC.Ronda et al.,Biotechnol.Bioeng.2014,111:1604-1616を参照されたい。
【0047】
さらなる特徴の組み込み
本開示で提供されるシステムおよび技術は、製造の目的で細胞成長またはタンパク質産生を増強するための1つ以上の代替戦略と組み合わせることができる。このような技術としては、ベクターおよび発現プラットフォームエンジニアリング、オミクスベースの手法、遺伝子送達および組み込みの進歩、クロマチン開口要素を使用したタンパク質生産の増強、クローンスクリーニング戦略の改善などが挙げられる。
【0048】
このような手法については、例えば、A.D.Bandaranayake and S.C.Almo,FEBS Lett 2014,588(2): 253-260;T.Lai et al.,Pharmaceuticals 2013,6:579-603;T.Omasa et al.,Current Pharmaceutical.Biotechnology,2010:11,233-240;C.A.Wilkens and Z.P.Gerdzen,PLOS ONE,March 13,2015;J.Y.Kim et al.,Appl.Microbiol.Biotechnol.2012,93:917-930;およびC.Ronda et al.,Biotechnol.Bioeng.2014,111:1604-1616で議論されている。
【0049】
組み込みに適したそのような特徴の1つは、迅速な増殖である。混合細胞集団は、プロデューサー細胞株の開発中いつでも、小胞体および/またはゴルジの含有量に基づいて、細胞ごとに高レベルのタンパク質産生を行うべく構成された細胞の選択と同時に、またはそれとは別のステップとしてスクリーニングできる。生存不能または成長の遅い細胞は、より速い成長のために選択中に集団から除去または希釈される。
【0050】
例証として、細胞は、適切な培養培地および適切な条件下で培養される。細胞の一般的な種濃度は、2×105細胞/mLである。細胞を2日間培養した後、細胞を2×105細胞/mLの濃度に希釈して継代培養する。成長がより遅い細胞が希釈されるように、必要に応じて繰り返す。混合培養物中の成長がより速い細胞の割合が増加するにつれて、継代培養ステップ間の時間を短縮することができ、かつ/あるいは各ステップでの細胞希釈の程度を増加することができる。
【0051】
プロデューサー細胞の特質
高レベルのタンパク質産生のために選択された細胞株または混合細胞集団は、いくつかの異なるパラメーターのうちのいずれか1つ以上によって、親または開始細胞株と比較して特徴付けられてもよい。例えば、選択したセルは、(1)2つ以上の親細胞株(同じであってもそうでなくてもよい)のゲノムの一部またはすべてを含む、出発細胞よりも異数性であるゲノム、(2)親細胞株のうちのいずれか1つまたはすべてと比較して高い小胞体および/またはゴルジ装置濃度(例えば、2~5倍もしくは4~8倍、または2倍、4倍もしく8倍よりも高い)、(3)細胞1個当たりまたは培養液1リットル当たりのレベルが親細胞株よりも実質的に高い(例えば、2~5倍もしくは4~8倍、または2倍、4倍もしくは8倍よりも高い)標的タンパク質を生成する能力、(4)細胞1個当たり特定の量(例えば、50、65、75、100、150、200、300もしくは500pg/細胞/日、または50~200もしくは75~300pgpg/細胞/日)の標的タンパク質を産生する能力、あるいは(5)培養液の容量当たり一定の量(例えば、培養液1リットル当たり少なくとも5、8、12、20もしくは30グラム、または8~20もしくは10~50グラムのタンパク質)の標的タンパク質を産生する能力、を有してもよい。
【0052】
このような比較を行うために、プロデューサー細胞株を、同じシステムの一部として手元にあったか、または参照供給源から得た、元の細胞株の標準化された集団と比較することができる。例えば、CHO由来のプロデューサー細胞は、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC(登録商標))からのCRL-12023細胞と比較してもよい。本開示は、出発細胞株、ならびに、例えば、上記の生体色素のうちの1つ以上を使用して決定されるように、細胞1個当たりの密度が比較的高い小胞体および/またはゴルジ装置を有する、それに由来するプロデューサー細胞株の両方を含む、タンパク質ベースの医薬品の高レベル生産のためのシステムを含む。
【0053】
本技術の利点
実施および適用の形態に応じて、本開示に記載される本発明の態様は、以下の利点のうちのいずれかを任意の組み合わせで提供することができる:
・市場規模の拡大に伴い、新しいGMP生産施設を拡大または建設する必要性を減らす、
・比較的小さいまたは少ないバイオリアクターを用いてキログラム量の最終タンパク質製品のGMP生産を提供する、
・実証済みの生物学的薬剤の生産コストを削減する、
・所望の生物学的薬剤のファミリーの高レベル発現に好適な産生細胞株を作成する、
・発現される遺伝子の組み込み後に必要とされるクローニングまたは選択ステップを減らす、
・製品の品質を向上させる(例えば、グリコシル化)、ならびに
・高品質で分量が少ない研究資料を提供し、臨床試験までの時間を短縮する。
【実施例】
【0054】
実施例1
本発明の技術は、CHO細胞のK1株(ATCC(登録商標)CCL-61)を使用して実施することができる。次のプロトコルに従って、培養下で成長したCHO細胞の集団を融合して、アイソタイプハイブリッドを作製する:
1.107個の細胞を遠心分離する。
2.上澄みを廃棄する。
3.チューブの底を軽くタッピングしてペレットを壊す。
4.ピペットチップで細胞を混合しながら、1分間にわたって100μLの50%PEGを添加する。
5.さらに1分間、細胞を攪拌し続ける。
6.混合しながら1分にわたって100μLの成長培地を添加する。
7.混合しながら3分にわたって300μLの成長を添加する。
8.mLの成長培地をゆっくりと添加する。
9.37℃で5分間インキュベートする。
10.遠心分離する。
11.ペレットを20mLの成長培地に再懸濁し、125mLの培養フラスコに移す。
12.通常通り培養する。
【0055】
あるいは、ECM2001パルス発生器(BTX)を使用して電気融合手順を使用する。107個の細胞を遠心分離し、1mLのCytofusion(商標)培地Cに再懸濁してから、融合チャンバーに移す。細胞を、150V/cmの交流パルスで10秒間整列させる。細胞融合は、1200V/cmの単一の方形波直流パルスによって25μ秒間トリガーされる。細胞を5分間静置し、遠心分離した後、成長培地に再懸濁し、通常通り培養する。
【0056】
あるいは、ウイルス誘導性融合プロトコルを使用してもよい。センダイウイルスを使用する様々なプロトコルが存在する:例えば、GenomONE(商標)HVJ-Eキット(Cosmo Bio USA)を使用。細胞を遠心分離し、2×105細胞/25μLで氷冷細胞融合バッファーに再懸濁する。2.5μLの氷冷HVJ-E(センダイウイルス膜)懸濁液を細胞に添加し、タッピングによって混合する。混合物を氷上で5分間、次いで37℃で15分間インキュベートする。成長培地を混合物に添加し、6ウェルプレートに移して培養する。
【0057】
細胞内小器官の標識および分類は、次のように行うことができる。細胞を遠心分離し、HBSSバッファーで1回洗浄する。ER-Tracker Greenおよび/またはER-Tracker Blue/Whiteの1μM溶液をHBSSにおいて調製する。細胞を染色液に再懸濁し、37℃で30分間インキュベートする。次に、細胞をPBSで洗浄する。
【0058】
細胞を分析FACSに使用する場合は、PBSに再懸濁する。細胞を選別する場合は、1%FBSを添加したPBSに再懸濁する。ER-Tracker色素による染色量が最も多い生存集団の10%を収集した。細胞を、成長培地を含有するチューブに収集し、遠心分離し、新鮮な培地に再懸濁し、次いで通常通り培養する。
【0059】
実施例2
CHO-K1細胞を、PEG支援融合手順に曝露した。細胞を1週間回復させた後、この手順を合計3回繰り返した。3回目の融合から回復させた後、細胞を生体ER追跡色素(ER-Tracker(商標)Green(グリベンクラミドBODIPY(登録商標)FL);Invitrogen、E34251)で染色し、FACSAriaII(商標)セルソーター(BD Biosciences)を使用して選別した。ER-Tracker色素による染色量が最も多い生存集団の10%を収集した。培養下で2週間回復させた後、細胞を最終融合に曝露し、ER追跡色素で染色し、LSRII(商標)フローサイトメーター(BD Biosciences)を使用して分析した。
【0060】
融合細胞および親CHO集団におけるタンパク質産生を測定するために、細胞をトランスフェクトして分泌型アルカリホスファターゼ(SEAP)を発現させた。トランスフェクションは、次のように実行した。
1.106個の細胞を遠心分離する。
2.上澄みを廃棄する。
3.100μLのCell Line Nucleofector(商標)溶液Tに再懸濁する。
4.2μgのSEAP発現プラスミドを添加する。
5.エレクトロポレーションキュベットに移す。
6.Amaxa(商標)NucleofectorIIおよび事前設定プログラムU-023を使用してエレクトロポレーションする。
7.0.5mlの成長培地を添加する。
8.1ウェル当たりmLの成長培地を含有する6ウェルプレートに細胞を移す。
【0061】
図1は、小胞体(ER)のレベルについての、融合および染色後のCHO細胞のFACS(蛍光活性化セルソーティング)プロファイルである。融合細胞は、出発CHO細胞株と比較してより高い平均ERレベルを示した。
【0062】
図2は、トランスフェクションの結果(分泌型アルカリホスファターゼの比生産性)を示す。融合細胞におけるマーカータンパク質の発現は、4倍を超える改善を示す。
【0063】
アメリカ合衆国におけるすべての目的のために、本開示で言及されるすべての刊行物および特許文書は、あたかもそのような各刊行物または文書が参照により本明細書に組み込まれるように具体的かつ個別に示されるのと同じ程度に、すべての目的のために、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0064】
本発明を特定の実施形態を参照して説明してきたが、変更を加え、かつ同等物を代用して、本発明を特定の状況または常套的な実験の問題としての使用目的に適合させることができ、それにより、特許請求の範囲から逸脱することなく、本発明の利点を達成することができる。
【手続補正書】
【提出日】2022-06-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質
の高レベル生産に適合した細胞株を調製する方法であって、
(a)培養細胞の集団を準備することと、ここで、前記集団内の細胞は、導入遺伝子からのタンパク質を発現する能力の点で不均一である、
(b)細胞1個当たりの小胞体および/またはゴルジ装置の密度に従って前記集団から細胞を選別することと、ならびに
(c)細胞1個当たりの小胞体および/またはゴルジ装置の密度が比較的高い細胞を前記集団から選択して回収し、
それにより、出発集団内の他の細胞と比較して増加した組換えタンパク質の産生および/または分泌をサポートするプロデューサー細胞株を得ることと、を含む、方法。
【請求項2】
ステップ(a)が、前記培養細胞の集団から複数の細胞ハイブリッドを形成することを含み、前記細胞ハイブリッドがそれぞれ、前記集団からの前記細胞のうちの2つ以上を含み、ステップ(c)で選択した前記細胞が、細胞ハイブリッドまたはそれらの子孫を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞ハイブリッドが、単一の細胞株から形成される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞ハイブリッドが、樹立された細胞株からの細胞と一次細胞の集団とを融合することによって形成される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(a)で準備した前記細胞が、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、CHO細胞のオートタイプハイブリッド、CHO細胞と別の細胞株からの細胞とのハイブリッド、および/またはCHO細胞と一次細胞とのハイブリッドを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(b)が、小胞体および/またはゴルジを染色する生体色素と共に前記集団内の細胞をインキュベートすることと、ならびに各細胞に関連する前記生体色素の量に従って前記細胞を選別することと、を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(b)が、前記集団内の他の細胞と比較した特定のマーカータンパク質のレベルまたは各細胞によって生成されたグリコシル化パターンに従って、前記細胞を選別することを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(c)が、前記集団内の他の細胞と比較して、細胞1個当たりの小胞体の密度が比較的高い細胞を前記集団から選択して回収することを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ステップ(c)が、前記集団内の他の細胞と比較して、細胞1個当たりのゴルジ装置の密度が比較的高い細胞を前記集団から選択して回収することを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
タンパク質
の高レベル生産に適合した細胞株を調製する方法であって、
(a)培養細胞の集団を準備することと、ここで、前記集団内の細胞が、導入遺伝子からのタンパク質を発現する能力の点で不均一である、
(b)前記集団内の細胞において融合タンパク質を発現させることであって、前記融合タンパク質が、小胞体および/もしくはゴルジ装置によって加工されるペプチドと融合した、光信号を生成する蛍光または生物発光ペプチドを含む、発現させることと、ならびに
(c)前記細胞集団内の他の細胞と比較してより高レベルで前記光信号を発現する細胞を選択して回収することと、を含む、方法。
【請求項11】
細胞が、ステップ(a)で準備した前記細胞の出発集団と比較して増加した成長速度についてさらに選択される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞集団からの細胞を前記導入遺伝子でトランスフェクトして、トランスフェクト細胞集団を得ることと、ならびに、次いで前記トランスフェクト細胞集団内の他の細胞と比較して高レベルで前記導入遺伝子のタンパク質産物を産生するトランスフェクト細胞を前記トランスフェクト細胞集団から選択することと、をさらに含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記トランスフェクトすることが、ステップ(b)の前またはステップ(c)の後に実行される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
タンパク質の高レベル産生に適合した細胞株を調製する方法であって、
(1)請求項1~11のいずれか一項に記載の方法に従って調製されたプロデューサー細胞株を得ることと、
(2)前記意図したタンパク質をコードする導入遺伝子を前記細胞株の複数の細胞のゲノムに導入することと、ならびに
(3)前記タンパク質を産生する、前記導入遺伝子でトランスフェクトされた細胞を選択することと、を含む、方法。
【請求項15】
細胞1個当たりの小胞体および/またはゴルジ装置の密度が比較的高く、それにより、
タンパク質の高レベル産生に適合するプロデューサー細胞株であって、
前記プロデューサー細胞株の細胞が、前記細胞のゲノムに組み込まれる前記意図したタンパク質をコードする導入遺伝子を含み、
前記プロデューサー細胞株が、以下のプロセス:
(a)出発細胞株からの培養細胞の集団を準備することと、ここで、前記細胞が、導入遺伝子からのタンパク質を発現する能力の点で不均一である、
(b)細胞1個当たりの小胞体および/またはゴルジ装置の密度に従って、前記細胞の細胞の集団を選別することと、
(c)前記出発細胞株と比較して、細胞1個当たりの小胞体および/またはゴルジ装置の密度が比較的高い細胞を前記細胞の集団から選択して回収することと、ならびに
(d)ステップ(c)において選択および回収された前記細胞を培養し、それにより、プロデューサー細胞株を樹立することと、
によって、前記出発細胞株から調製されている、プロデューサー細胞株。
【請求項16】
前記出発細胞株およびそれに由来する請求項15に記載のプロデューサー細胞株の両方を含む、タンパク質
の高レベル生産のためのシステム。
【請求項17】
前記プロセスのステップ(a)が、前記出発細胞株から複数の細胞ハイブリッドを形成することを含み、前記細胞ハイブリッドがそれぞれ、前記集団からの前記細胞のうちの2つ以上を含み、ステップ(c)において選択した前記細胞が、細胞ハイブリッドまたはそれらの子孫である、請求項15に記載のプロデューサー細胞株または請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記細胞ハイブリッドが、単一の細胞株から形成される、請求項17に記載のプロデューサー細胞株またはシステム。
【請求項19】
前記細胞ハイブリッドが、スターター細胞株からの細胞と一次細胞の集団とを融合することによって形成される、請求項17に記載のプロデューサー細胞株またはシステム。
【請求項20】
前記スターター細胞株の細胞がチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞であり、前記プロデューサー細胞株がCHO細胞のオートタイプハイブリッド、別の細胞株からの細胞と融合したCHO細胞のハイブリッド、および/または一次細胞と融合したCHO細胞のハイブリッドを含む、請求項15~19のいずれか一項に記載のプロデューサー細胞株またはシステム。
【請求項21】
前記プロデューサー細胞株が、商業生産の目的となる標的タンパク質をコードする導入遺伝子を含有する、請求項15~20のいずれか一項に記載のプロデューサー細胞株またはシステム。
【請求項22】
前記プロデューサー細胞株の細胞が、前記プロセスに従って得られた結果として、以下の特徴のうちの1つ以上を任意の組み合わせで有する、請求項21に記載のプロデューサー細胞株またはシステム:
前記細胞は異数性である、
前記細胞は、培養液1リットル当たり少なくとも8グラムの前記標的タンパク質を産生する、
前記細胞は、50~200pg/細胞/日の前記標的タンパク質を産生する、
前記細胞は、前記スターター細胞株の細胞と比較して、細胞1個当たり2~10倍多い小胞体またはゴルジ体を含有する、
前記細胞は、前記スターター細胞株の細胞と比較して、細胞1個当たり2~10倍多い標的タンパク質を産生する。
【請求項23】
前記プロデューサー細胞株の細胞が、前記プロセスに従って得られた結果として、以下の特徴のうちの1つ以上を任意の組み合わせで有する、請求項21または22に記載のプロデューサー細胞株またはシステム:
前記細胞は、培養液1リットル当たり10~20グラムの前記標的タンパク質を産生する、
前記細胞は、少なくとも65pg/細胞/日の前記標的タンパク質を産生する、
前記細胞は、前記スターター細胞株の細胞と比較して、細胞1個当たり少なくとも4倍多い小胞体またはゴルジ体を含有する、
前記細胞は、前記スターター細胞株の細胞と比較して、細胞1個当たり少なくとも4倍多い標的タンパク質を産生する。
【請求項24】
医薬品を生産する方法であって、
請求項21~23のいずれか一項に記載の標的タンパク質をコードする導入遺伝子を含有するプロデューサー細胞株またはシステムを得ることと、
前記標的タンパク質が前記導入遺伝子から発現される条件下で、前記プロデューサー細胞株からの細胞を培養することと、
細胞培養物から前記標的タンパク質を精製することと、ならびに
前記医薬品がヒトへの投与に好適であるように前記医薬品を生産するべく前記精製タンパク質を配合することと、を含む、方法。
【請求項25】
前記医薬品が、抗体鎖、治療用酵素、ホルモン、成長因子、および血液の天然成分から選択された標的タンパク質を含有する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
請求項24または25に記載の方法に従って得られる医薬品。
以下の請求項は、米国特許出願第15/254,852号で認可されている請求項に相当する。
【請求項27】
タンパク質ベースの医薬品の高レベル生産に適合した細胞株を得る方法であって、
(a)細胞の混合物が1つ以上の細胞ハイブリッドを形成する条件下で前記混合物を培養することと、ここで、前記細胞ハイブリッドがそれぞれ、前記混合物からの2つ以上の細胞を含む、次いで、
(b)細胞1個当たりの小胞体および/またはゴルジ装置の密度に従って前記細胞の混合物を選別することと、ならびに
(c)細胞1個当たりの小胞体および/またはゴルジ装置の密度が比較的高い細胞ハイブリッドを前記混合物から選択して回収し、
それにより、出発混合物中の他のハイブリッドもしくは親細胞と比較して増加したタンパク質の産生および/または分泌をサポートするプロデューサー細胞株を得ることと、を含む、方法。
【請求項28】
ステップ(a)で培養した前記混合物が、単一の細胞株からの細胞から本質的になる、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
ステップ(a)で培養した前記混合物が、2つ以上の異なる細胞株を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記混合物が、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を含む、請求項27~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
ステップ(c)が、前記混合物中の他のハイブリッドまたは親細胞と比較して、細胞1個当たりの小胞体の密度が比較的高い細胞ハイブリッドを選択して回収することを含む、請求項27~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
ステップ(c)が、前記混合物中の他のハイブリッドまたは親細胞と比較して、ゴルジ装置の密度が比較的高い細胞ハイブリッドを選択して回収することを含む、請求項27~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
ステップ(b)が、小胞体および/またはゴルジを染色する生体色素と共に細胞をインキュベートすることと、ならびに各ハイブリッドに関連する前記生体色素の量に従って細胞ハイブリッドを選別することと、を含む、請求項27~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
タンパク質ベースの医薬品の高レベル生産に適合した細胞株を得る方法であって、
(a)細胞の混合物が1つ以上の細胞ハイブリッドを形成する条件下で前記混合物を培養することと、ここで、前記細胞ハイブリッドがそれぞれ、前記混合物からの2つ以上の細胞を含む、次いで、
(b)前記混合物中の細胞において融合タンパク質を発現させることと、ここで、前記融合タンパク質が、小胞体および/もしくはゴルジ装置によって加工されるペプチドと融合した、光信号を生成する蛍光または生物発光ペプチドを含む、ならびに
(c)前記混合物中の他の細胞と比較してより高レベルで前記光信号を発現する細胞を選択して回収し、
それにより、出発混合物中の他のハイブリッドもしくは親細胞と比較して増加したタンパク質の産生および/または分泌をサポートするプロデューサー細胞株を得ることと、を含む、方法。
【請求項35】
細胞表面リガンドに特異的な抗体と前記細胞ハイブリッドを結合することと、ならびに前記抗体で標識された細胞ハイブリッドを選択し、それにより、前記リガンドを発現する細胞ハイブリッドが富化された亜集団を得ることと、をさらに含む、請求項27~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記混合物中の他の細胞ハイブリッドと比較して、比較的高レベルのマーカータンパク質を産生する細胞ハイブリッドを選択することをさらに含み、前記マーカータンパク質が、前記細胞から分泌され、かつ/または細胞表面上に発現される、請求項27~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記混合物中の他の細胞ハイブリッドと比較して、特定のグリコシル化パターンを生成するか、または特定のマーカータンパク質を発現する細胞ハイブリッドを選択することをさらに含む、請求項27~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記プロデューサー細胞集団を培養することと、ならびに前記細胞ハイブリッド内の小胞体および/またはゴルジ装置の密度に従って、前記プロデューサー細胞集団内の細胞ハイブリッドを再選別し、それにより、細胞内小器官の密度の増加が安定して継承可能である細胞ハイブリッドが富化された亜集団を得ることと、をさらに含む、請求項27~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記プロデューサー細胞株からの細胞を目的の遺伝子でトランスフェクトして、トランスフェクト細胞集団を得ることと、ならびに前記トランスフェクト細胞集団内の他の細胞と比較して高レベルで前記目的の遺伝子のタンパク質産物を産生するトランスフェクト細胞を前記トランスフェクト細胞集団から選択することと、をさらに含む、請求項27~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記目的の遺伝子が、抗体重鎖、抗体軽鎖、または一本鎖抗体をコードする、請求項27~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記プロデューサー細胞株が、抗体重鎖と抗体軽鎖の両方を発現し、これらが組み合わさって、所望の特異性を有する抗体を産生する、請求項27~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記プロデューサー細胞株が、治療用酵素、ホルモン、成長因子、または血液の天然成分であるタンパク質を発現する、請求項27~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記プロデューサー細胞株が、組換えにより挿入された遺伝子のうちの1つまたはそれらの組み合わせから、培養液1リットル当たり少なくとも8グラムのタンパク質を発現する、請求項27~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
2つ以上の親細胞株のゲノムの一部またはすべて、前記親細胞株のうちのいずれかと比較してより高濃度の小胞体および/またはゴルジ装置、ならびに組換えにより挿入された遺伝子のうちの1つまたはそれらの組み合わせから培養液1リットル当たり少なくとも8グラムのタンパク質を産生する能力、を含む、ハイブリッド細胞株。
【請求項45】
バイオ医薬品として配合するためのタンパク質を生産する方法であって、
請求項44に記載のハイブリッド細胞株から細胞を得ることと、ここで前記組換えにより挿入された遺伝子(複数可)が前記タンパク質の一部または全部をコードする、ならびに
前記タンパク質またはその一部が前記組換えにより挿入された遺伝子(複数可)からの前記細胞によって発現される条件下で前記細胞を培養することと、を含む、方法。
【国際調査報告】