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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-13
(54)【発明の名称】リチウムイオンセル用の電解質溶液
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20221005BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20221005BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20221005BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20221005BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20221005BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/0569
H01M10/052
H01M10/0568
H01M4/13
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022502088
(86)(22)【出願日】2020-07-09
(85)【翻訳文提出日】2022-02-09
(86)【国際出願番号】 US2020041302
(87)【国際公開番号】W WO2021011275
(87)【国際公開日】2021-01-21
(31)【優先権主張番号】62/873,555
(32)【優先日】2019-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16/921,323
(32)【優先日】2020-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500575824
【氏名又は名称】ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】Honeywell International Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100120754
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 豊治
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ホイ
(72)【発明者】
【氏名】リョウ、ヤーチュン
(72)【発明者】
【氏名】ハン、イン
(72)【発明者】
【氏名】シュイ、カン
(72)【発明者】
【氏名】ホウ、チアン
(72)【発明者】
【氏名】ポン、シューウェン
(72)【発明者】
【氏名】シン、ラヴジヴ ラトナ
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ04
5H029AJ05
5H029AJ06
5H029AJ07
5H029AJ12
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029HJ02
5H050AA07
5H050AA09
5H050AA15
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB07
5H050CB08
5H050FA04
5H050HA02
(57)【要約】
リチウムイオンセル用の電解質溶液は、少なくとも1つの有機炭酸エステル溶媒と、非配位性アニオンを含む少なくとも1つのリチウム塩と、一般式I、一般式II、又は一般式III:I:RC=CH-O-R、II:RC=CH-O-CHR’R’、III:RC=CH-O-R-O-CH=CR’R’[式中、R及びR’は、それぞれ独立して、1個又は2個の炭素原子を有するフッ素化アルキル基であり、R及びR’は、それぞれ独立して、F、Cl、Br又はHであり、Rは、C(式中、nは、1~6の整数であり、x及びyは、それぞれ独立して、0~13の整数であり、かつ、x+y=2n+1又はx+y=2n-1である。)であり、Rは、C(2k+1)(式中、kは、2~4の整数である。)である。]に従う、少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンと、を含む。
【選択図】図1A

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンセル用の電解質溶液であって、前記電解質溶液は、
少なくとも1つの有機炭酸エステル溶媒と、
非配位性アニオンを含む少なくとも1つのリチウム塩と、
一般式I、一般式II、又は一般式III:
I:RC=CH-O-R、
II:RC=CH-O-CHR’R’、
III:RC=CH-O-R-O-CH=CR’R
[式中、R及びR’は、それぞれ独立して、1個又は2個の炭素原子を有するフッ素化アルキル基であり、R及びR’は、それぞれ独立して、F、Cl、Br又はHであり、Rは、C(式中、nは、1~6の整数であり、x及びyは、それぞれ独立して、0~13の整数であり、かつ、x+y=2n+1又はx+y=2n-1である。)であり、Rは、C(2k+1)(式中、kは、2~4の整数である。)である。]に従う、少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンと、を含む、電解質溶液。
【請求項2】
前記少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンは、前記電解質溶液の総重量の0.2重量%~10重量%である、請求項1に記載の電解質溶液。
【請求項3】
前記少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンは、前記少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンのトランス異性体から本質的になる、請求項1又は2に記載の電解質溶液。
【請求項4】
前記少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンは、前記少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンのシス異性体から本質的になる、請求項1又は2に記載の電解質溶液。
【請求項5】
前記少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンは、前記少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンの割合として、1重量%~99重量%の、前記少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンのトランス異性体の量を含む、請求項1又は2に記載の電解質溶液。
【請求項6】
前記少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンは、1-メトキシ-3,3,3-トリフルオロプロペンを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の電解質溶液。
【請求項7】
前記少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンは、1-エトキシ-3,3,3-トリフルオロプロペンを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の電解質溶液。
【請求項8】
前記少なくとも1つの有機炭酸エステル溶媒は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジエチルカーボネートの群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の電解質溶液。
【請求項9】
前記リチウム塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウム、テトラフルオロホウ酸リチウム、過塩素酸リチウム、及びリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドの群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の電解質溶液。
【請求項10】
リチウムイオン電池用のリチウムイオンセルであって、前記リチウムイオンセルは、
カソードと、
アノードと、
前記カソードと前記アノードとの間に配置された多孔性セパレータと、
前記カソードと前記アノードとの間に配置された電解質溶液と、
前記カソード及び前記アノード上に配置された固体電解質界面層であって、前記固体電解質界面層は、一般式I、一般式II、又は一般式III:
I:RC=CH-O-R、
II:RC=CH-O-CHR’R’、
III:RC=CH-O-R-O-CH=CR’R
[式中、R及びR’は、それぞれ独立して、1個又は2個の炭素原子を有するフッ素化アルキル基であり、R及びR’は、それぞれ独立して、F、Cl、Br又はHであり、Rは、C(式中、nは、1~6の整数であり、x及びyは、それぞれ独立して、0~13の整数であり、かつ、x+y=2n+1又はx+y=2n-1である。)であり、Rは、C(2k+1)(式中、kは、2~4の整数である。)である。]に従う、少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンの分解生成物を含む、固体電解質界面層と、を含む、リチウムイオンセル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リチウムイオン電池で使用するためのリチウムイオンセルの電解質に関する。より具体的には、本開示は、リチウムイオンセル用の電解質溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオンセルは、携帯電話から電気車両までの範囲の用途において特に重要である。しかしながら、実際の使用のためには、セルは、複数のサイクルにわたって性能を維持する必要があり、様々な温度で動作することができる必要がある。セルの性能及び寿命の1つの要因は、電解質が電子又は電極伝導帯のいずれかと反応するため、セル内に存在する電解質の分解である。そのような望ましくない反応に対抗するために、添加剤を電解質溶液と組み合わせる。これらの添加剤は、分解して、電極上に固体電解質界面(SEI)層を形成する。SEI層は、添加剤の分解の不溶性生成物から本質的になる。SEI層は電子トンネリングに対するバリアを提供し、したがって、電解質の分解を防止する。しかしながら、SEI層はまた、電極中へのリチウムイオンインターカレーションのバリアを導入し、これにより、セルの内部電気抵抗を増加させ、特に低温でセル性能に悪影響を与える可能性がある。
【0003】
電解質の組成は、安全性を考慮するために更に重要である。熱暴走の場合、電解質分解から生じるガス発生率が高いほど、セル内の高圧状態が生ずる可能性がある。この結果、可燃性電解質蒸気の放出が生じる可能性がある。SEI層は、電解質の分解を防止することによって、セルの電力能力、安全性貯蔵寿命、及びサイクル寿命を決定する際の重要な要素である。
【0004】
現在使用されている添加剤は、より高い電圧又はより高い温度で十分に機能しない場合がある。これらの条件下でリチウムイオンセルの性能及び安全性を改善するためには、改善された電解質溶液が必要である。
【発明の概要】
【0005】
一実施形態では、本発明は、リチウムイオンセル用の電解質溶液を提供する。電解質溶液は、少なくとも1つの有機炭酸エステル溶媒と、非配位性アニオンを含む少なくとも1つのリチウム塩と、一般式I、一般式II、又は一般式III:
I:RC=CH-O-R、
II:RC=CH-O-CHR’R’、
III:RC=CH-O-Rc-O-CH=CR’R
[式中、R及びR’は、それぞれ独立して、1個又は2個の炭素原子を有するフッ素化アルキル基であり、R及びR’は、それぞれ独立して、F、Cl、Br又はHであり、Rは、C(式中、nは、1~6の整数であり、x及びyは、それぞれ独立して、0~13の整数であり、かつ、x+y=2n+1又はx+y=2n-1である。)であり、Rは、C(2k+1)(式中、kは、2~4の整数である。)である。)に従う、少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンと、を含む。
【0006】
別の実施形態では、本発明は、リチウムイオン電池用のリチウムイオンセルを提供する。リチウムイオンセルは、カソードと、アノードと、カソードとアノードとの間の多孔質セパレータと、カソードとアノードとの間に配置された電解質溶液と、カソード及びアノード上に配置された固体電解質界面層であって、固体電解質界面層は、一般式I、一般式II、又は一般式III:
I:RC=CH-O-R、
II:RC=CH-O-CHR’R’、
III:RC=CH-O-R-O-CH=CR’R
[式中、R及びR’は、それぞれ独立して、1個又は2個の炭素原子を有するフッ素化アルキル基であり、R及びR’は、それぞれ独立して、F、Cl、Br又はHであり、Rは、C(式中、nは、1~6の整数であり、x及びyは、それぞれ独立して、0~13の整数であり、かつ、x+y=2n+1又はx+y=2n-1である。)であり、Rは、C(2k+1)(式中、kは、2~4の整数である。)である。)に従う、少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンの分解生成物を含む、固体電解質界面層と、を含む。
【0007】
更に別の実施形態では、本発明は、リチウムイオンセル用の電解質溶液を作製するための方法を提供する。本方法は、少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンを提供することと、少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンを、少なくとも1つの有機炭酸エステル溶媒及び非配位性アニオンを含む少なくとも1つのリチウム塩と組み合わせることと、を含み、少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンは、一般式I、一般式II、又は一般式III:
I:RC=CH-O-R、
II:RC=CH-O-CHR’R’、
III:RC=CH-O-R-O-CH=CR’R
[式中、R及びR’は、それぞれ独立して、1個又は2個の炭素原子を有するフッ素化アルキル基であり、R及びR’は、それぞれ独立して、F、Cl、Br又はHであり、Rは、C(式中、nは、1~6の整数であり、x及びyは、それぞれ独立して、0~13の整数であり、かつ、x+y=2n+1又はx+y=2n-1である。)であり、Rは、C(2k+1)(式中、kは、2~4の整数である。)である。]に従う。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A】本開示によるリチウムイオンセルである。
図1B】本開示によるリチウムイオンセルである。
図1C】本開示によるリチウムイオンセルである。
【0009】
図2】25℃における1-メトキシ-3,3,3-トリフルオロプロペンを含むリチウムイオンセル、及び1-メトキシ-3,3,3-トリフルオロプロペンを含まないリチウムイオンセルの容量保持対サイクル数のグラフである。
【0010】
図3】45℃における1-メトキシ-3,3,3-トリフルオロプロペンを含むリチウムイオンセル、及び1-メトキシ-3,3,3-トリフルオロプロペンを含まないリチウムイオンセルの容量保持対サイクル数のグラフである。
【0011】
図4】1-メトキシ-3,3,3-トリフルオロプロペンを含むリチウムイオンセル、及び1-メトキシ-3,3,3-トリフルオロプロペンを含まないリチウムイオンセルの-20℃での放電中の電圧(mV)対容量保持のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、以下の式I、式II又は式IIIによる少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンを電解質溶液中の添加剤として使用すると、様々な条件下でリチウムイオンセルの性能が改善されることを見出した。少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンは、溶液中で分解して、電極上に固体電解質界面(SEI)層を形成する。このSEI層は、特に高温及び高電圧条件下で、業界標準添加剤によって形成されたSEI層と比較して、リチウムイオンセルにおいて改善された性能を提供する。
【0013】
高温貯蔵条件下では、SEI層は過度に厚く成長し、そのためにリチウムイオンセルの性能を低下させる可能性がある。本発明者らは、添加剤として少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンを使用すると、この特性の改善ももたらされ、高温条件下での貯蔵後でもリチウムイオンセルが良好に機能することを可能にすることを見出した。
【0014】
少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンは、水素ラジカルと反応してフッ化水素を生成し、火炎伝搬を阻害することができるフッ素化添加剤である。したがって、添加剤としての少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンは、リチウムイオンセルの安全性を改善する。
【0015】
本開示は、リチウムイオンセル用の電解質溶液を提供する。図1Aは、その最初の充電/放電サイクルの前のリチウムイオンセル100の概略図である。リチウムイオンセル100は、アノード110、カソード120、導体130、容器140、セパレータ150、及び電解質溶液160を含む。電解質溶液160は、容器140によって収容される。アノード110、カソード120、及びセパレータ150は、電解質溶液160がアノード110とカソード120との間に配置され、セパレータ150がアノード110とカソード120との間に配置されるように、電解質溶液160に少なくとも部分的に浸漬される。導体130は、例えば、ワイヤ又は導電性フィルムなどの、アノード110及びカソード120を電気的に接続する任意の導電性デバイスであり得る。
【0016】
アノード110は、炭素、人造黒鉛、又はリチウムイオンセル100などのリチウムイオンセルでの使用に好適な任意の他のアノード材料であり得る。カソード120は、リチウムコバルト酸化物(LCO)、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)、リチウムマンガン酸化物(LMO)、リチウムマンガンコバルト酸化物(LMC)、リン酸鉄リチウム(LFP)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(NCA)、チタン酸リチウム(LTO)、又はリチウムイオンセル100での使用に好適な任意の他の材料であってもよい。
【0017】
セパレータ150は、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、及びポリイミドなどのポリマー、又はこれらの材料のコポリマーで作製された多孔質膜である。セパレータ150の多孔度は、例えば、最小で約40%、約50%、若しくは約60%で、又は最大で約70%、約80%、約90%で、又は約40%~約90%、約50%~約80%、約60%~約70%、約60%~約90%、若しくは約40%~約60%などの、前述の値のうちのいずれか2つの間で定義される任意の範囲内であってもよい。
【0018】
電解質溶液160は、少なくとも1つの有機炭酸エステル溶媒、非配位性アニオンを含む少なくとも1つのリチウム塩、及び少なくとも1つのポリフッ素アルコキシオレフィンを含む。少なくとも1つの有機炭酸エステル溶媒は、例えば、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、又はそれらの組み合わせを含み得る。少なくとも1つの有機炭酸エステル溶媒は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート及びジエチルカーボネートを含み得る。少なくとも1つの有機炭酸エステル溶媒は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート及びジエチルカーボネートから本質的になり得る。少なくとも1つの有機炭酸エステル溶媒は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート及びジエチルカーボネートからなり得る。少なくとも1つの有機炭酸エステル溶媒は、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジエチルカーボネートを含み得る。少なくとも1つの有機炭酸エステル溶媒は、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジエチルカーボネートから本質的になり得る。少なくとも1つの有機炭酸エステル溶媒は、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジエチルカーボネートからなり得る。
【0019】
非配位性アニオンを有する少なくとも1つのリチウム塩は、例えば、ヘキサフルオロリン酸リチウム、テトラフルオロホウ酸リチウム、過塩素酸リチウム、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、又はそれらの組み合わせを含み得る。非配位性アニオンを有するリチウム塩は、例えば、電解質溶液160中に、最小で約0.5重量パーセント(重量%)、約1.0重量%、約1.5重量%、約2.0重量%、若しくは約2.5重量%で、又は最大で約3.0重量%、約4.0重量%、約5.0重量%、約10重量%、若しくは約15重量%で、又は約0.5重量%~約15重量%、約1.0重量%~約10重量%、約1.5重量%~約5.0重量%、約2.0重量%~約4.0重量%、約2.5重量%~約3.0重量%、約0.5重量%~約3.0重量%、約2.0重量%~約5.0重量%、若しくは約1.5重量%~約2.5重量%の、前述の値のうちのいずれか2つの間で定義される任意の範囲内で存在し得る。
【0020】
少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンは、一般式I、一般式II、又は一般式III:
I:RC=CH-O-R、
II:RC=CH-O-CHR’R’、
III:RC=CH-O-R-O-CH=CR’R
【0021】
[式中、R及びR’は、それぞれ独立して、1個又は2個の炭素原子を有するフッ素化アルキル基であり、R及びR’は、それぞれ独立して、F、Cl、Br又はHであり、Rは、C(式中、nは、1~6の整数であり、x及びyは、それぞれ独立して、0~13の整数であり、かつ、x+y=2n+1又はx+y=2n-1である。)であり、Rは、C(2k+1)(式中、kは、2~4の整数である。)である。]に従う。
【0022】
例えば、少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンが一般式Iに従い、Rがトリフルオロメチル基、RがH、n=1、x=3、及びy=0である場合、少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンは、1-メトキシ-3,3,3-トリフルオロプロペンである。別の例では、少なくとも1つのポリフッ素アルコキシオレフィンが一般式Iに従い、Rがトリフルオロメチル基、RがH、n=2、x=5、及びy=0である場合、少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンは、1-エトキシ-3,3,3-トリフルオロプロペンである。
【0023】
少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンは、例えば、電解質溶液160中に、最小で約0.2重量%、約0.5重量%、約1.0重量%、約2.0重量%、約3.0重量%、約4.0重量%、若しくは約5.0重量%で、又は最大で約6.0重量%、約7.0重量%、約8.0重量%、約9.0重量%、若しくは約10.0重量%で、又は約0.2重量%~約10.0重量%、約0.5重量%~約9.0重量%、約1.0重量%~約8.0重量%、約2.0重量%~約7.0重量%、約3.0重量%~約6.0重量%、約0.5重量%~約6.0重量%、約4.0重量%~約9.0重量%、若しくは約6.0重量%~約10.0重量%の、前述の値のうちのいずれか2つの間で定義される任意の範囲内で存在し得る。少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンの全重量パーセントは、全電解質溶液160の重量パーセントと同程度である。
【0024】
少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンは、トランスフッ素化異性体(トランス異性体)又はシスフッ素化異性体(シス異性体)として存在する。電解質溶液160の沸点は、電解質溶液160中の2つの異性体の比率に応じて変化する可能性があり、より高い沸点の溶液は、より多くの量のシス異性体を含む。例えば、フッ素化異性体が1-メトキシ-3,3,3-トリフルオロプロペンである場合、電解質溶液160の沸点は、約60℃~約102℃の範囲であり得る。したがって、所望の用途に応じて、トランス異性体のシス異性体に対するの比を変化させて、望ましい沸点を与えることができる。例えば、電気車両で使用されるリチウムイオンセルは、沸点が約80℃を超える混合物を必要とする場合がある。
【0025】
少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンは、シス異性体を含み得る。少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンは、シス異性体から本質的になり得る。少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンは、シス異性体からなり得る。少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンは、トランス異性体を含み得る。少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンは、トランス異性体から本質的になり得る。少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンは、トランス異性体からなり得る。
【0026】
少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンは、トランス異性体及びシス異性体からなり得る。少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンの割合としての(又はトランス異性体及びシス異性体の総重量の割合としての)トランス異性体の量は、例えば、最小で約1重量%、2重量%、5重量%、10重量%、20重量%、30重量%、若しくは40重量%で、又は最大で約50重量%、60重量%、70重量%、80重量%、90重量%、95重量%、98重量%、若しくは99重量%で、又は約1重量%~99重量%、約2重量%~約98重量%、約5重量%~約95重量%、約10重量%~約90重量%、約20重量%~約80重量%、約30重量%~約70重量%、40重量%~約60重量%、約40重量%~約50重量%、約1重量%~約60重量%、約5重量%~約40重量%、若しくは約90重量%~約99重量%などの、前述の値のうちのいずれか2つの間で定義される任意の範囲内で存在し得る。
【0027】
電解質溶液160は、少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンに加えて添加剤を更に含み得る。添加剤は、例えば、高温での性能の改善、非常に低温での性能の改善、電池動作中の電解質の脱ガスの低減、及び/又は内部抵抗の低減など、電池の様々な性能的側面を改善し得る。追加の添加剤には、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、2-プロピニルメタンスルホネート、シクロヘキシルベンゼン、t-アミルベンゼン、アジポニトリル、又はそれらの任意の組み合わせが含まれ得る。
【0028】
電解質溶液160は、少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンを提供することと、少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンを、少なくとも1つの有機炭酸エステル溶媒及び非配位性アニオンを含む少なくとも1つのリチウム塩と組み合わせることと、によって生成され得る。少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィン、少なくとも1つの有機炭酸エステル溶媒、及び非配位性アニオンを含む少なくとも1つのリチウム塩は、上記の通りである。
【0029】
少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンは、いくつかの方法で提供され得る。例えば、考えられる合成方法の1つは、例えば、その内容が参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許出願第15/606,400号に詳細に記載されているように、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、1-ブロモ-3,3,3-トリフルオロプロペン又は1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンなどのヒドロフルオロオレフィン(HFO)モノマーの、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、フルオロメタノール、2,2,2-トリフルオロエタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオールなどのアルカンアルコールとの触媒の存在下での反応である。米国特許出願第15/606,400号に開示されているように、アルコール及び触媒は、反応容器内で一緒に混合されてもよく、次いで、HFOモノマーは、反応容器内の混合物に添加されてもよい。例えば、選択されたHFOモノマーが1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンであり、選択されたアルコールがメタノールである場合、得られる化合物は、1-メトキシ-3,3,3-トリフルオロプロペンである。触媒は、例えば、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムなどのアルカリ水酸化物であり得る。HFOモノマーのアルカンアルコールに対するモル比は、10:1~1:20の範囲であり得る。HFOモノマーの触媒に対するモル比は、100:1~1:5の範囲であり得る。アルカンアルコールは、反応のための溶媒として機能する。アルカンアルコールはまた、ハロゲン置換基としても機能する。例えば、HFOモノマーが1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンであり、アルカンアルコールがメタノールである場合、メタノールは塩素置換基として機能し、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンから除去される塩素原子を置換して1-メトキシ-3,3,3-トリフルオロプロペンのメトキシ基を形成する。別の例では、HFOモノマーが1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンであり、アルカンアルコールがエチレングリコールである場合、エチレングリコールは、二重塩素置換基として機能し、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの2個の分子のそれぞれから除去された塩素原子を置換して、2つのモノマーを連結するエトキシ基を形成して、1,2-ビス(3,3,3-トリフルオロプロペンオキシ)エタンを形成する。
【0030】
図1Bは、その最初の充電/放電サイクル後のリチウムイオンセル100の概略図である。図1Bに示すように、リチウムイオンセル100は、このときアノード110及びカソード120上に配置された固体電解質界面(SEI)層180を含む。図1Bの電解質溶液160’は、図1Aを参照して上記で説明した電解質溶液160であるが、少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンが分解し、最初の充電/放電サイクル中にSEI層180の一部を形成するために、電解質溶液160’中の少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンの量は、電解質溶液160中の量から著しく減少している。電解質溶液160’中の少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンの量は、電解質溶液160’の0.1重量%未満であり得る。
【0031】
SEI層180の厚さは、少なくとも部分的に、電解質溶液160(図1A)中の少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンの濃度によって決定される。少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンの分解生成物から形成されたSEI層180は、リチウムイオンが通過するための高濃度のリチウムイオンチャネルを有すると同時に、良好な電子絶縁も提供し、アノード110及びカソード120から電解質溶液160’への電子の注入をブロックして、セルがより高い電圧で良好に機能できるようにすると考えられている。
【0032】
図1Cは、充電時のリチウムイオンセル100の概略図である。リチウムイオンセル100が充電されるとき、カソード120に層間挿入されたリチウムイオンは、カソード120から、カソード120上のSEI層180を通ってカソード120とセパレータ150との間の電解質溶液160’中に、セパレータ150の細孔を通ってセパレータ150とアノード110との間の電解質溶液160’中に流れ、アノード110上のSEI層180を通って、アノード110に層間挿入される。
【0033】
リチウムイオンセル100が放電して(図示せず)電力を供給するとき、アノード110に層間挿入されたリチウムイオンは、アノード110から、アノード110上のSEI層180を通って、アノード110とセパレータ150との間の電解質溶液160’中に、セパレータ150の細孔を通って、セパレータ150とカソード120との間の電解質溶液160’中に流れ、カソード120上のSEI層180を通り、カソード120に層間挿入されるため、流れは、図1Cに示されているものとは逆になる。
【0034】
本明細書で使用する場合、「前述の値のうちのいずれか2つの間で定義される任意の範囲内」という句は、それらの値が列挙のより低い部分にあるか又は列挙のより高い部分にあるかにかかわらず、任意の範囲がそのような句の前に列挙された値のうちのいずれか2つから選択され得ることを意味する。例えば、1対の値は、2つのより低い値、2つのより高い値、又はより低い値及びより高い値から選択されてもよい。本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈がそうでない旨を明確に指示しない限り、複数形を含む。
【0035】
不正確の用語に関して、用語「約」及び「およそ」が互換的に使用されてもよく、記述された測定値を含む測定を指し、また、記載された測定値に適度に近い任意の測定値も含む。記載された測定値に合理的に近い測定値は、当業者によって理解され、容易に確認されるように、合理的に小さい量だけ記載された測定値から逸脱する。そのような偏差は、例えば、性能を最適化するために行われる測定誤差又は微調整に起因し得る。当業者がそのような合理的に小さな差異の値を容易に確認できないと判定された場合、「約」及び「およそ」という用語は、記載された値のプラスマイナス10%を意味すると理解され得る。
【0036】
前述の説明は、本開示の単なる例示に過ぎないことが理解されるべきである。本開示から逸脱することなく、当業者によって様々な代替形態及び修正形態を考案することができる。したがって、本開示は、添付の特許請求の範囲内に含まれる全てのかかる代替形態、修正形態、及び変動を包含することを意図する。
【実施例
【0037】
以下の実施例1~3では、2つのリチウムイオンセルを試験して、様々な条件下でのそれらの性能的側面を実証した。第1のセル(セル1)は、1,000mAhの容量を有する4.2Vのパウチセルであった。カソードは、LiNi0.3Co0.3Mn0.3(NMC)で作製され、アノードは、人造黒鉛(AG)で作製された。電解質溶液は、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、及びエチルメチルカーボネート(EMC)を3:2:5(重量:重量:重量)の比で含む溶媒と、1モル濃度のヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)と、SEI層を形成するための業界標準の添加剤、すなわちビニレンカーボネート(VC)及びLiOPFを含む添加剤と、で構成されていた。電解質含有量は、3.5g/Ahであった。第2のセル(セル2)は、業界標準の添加剤が電解質溶液の総重量の1%の量で1-メトキシ-3,3,3-トリフルオロプロペンに置き換えられたことを除いて、セル1と同一であった。
実施例1-効率、放電容量、及び抵抗試験
【0038】
この実施例では、上記のリチウムイオンセルのそれぞれを0.2Cで試験する(充電電流は、動作電流の20%である。)。効率(セルに蓄積された充電電流の割合)及びセルの放電容量を測定する。この試験の結果を表1に示す。
【0039】
次に、室温及び50%充電での充電及び放電の両方における直流内部抵抗(DCIR)を測定した。2つのセルのそれぞれについての2つの実験のそれぞれからの結果を表1に示す。
【表1】
【0040】
DCIR試験の結果は、セルのそれぞれで類似している。しかしながら、効率及び放電容量の両方で、1-メトキシ-3,3,3-トリフルオロプロペンの分解生成物から形成されたSEI層を備えたセル2は、セル1よりも優れている。
実施例2-変動温度での容量保持
【0041】
それぞれのセルを様々な温度で試験する。最初に、低温(LT)放電を示すよう、容量保持率を-20℃、30%の充電率で測定する。次に、60℃で30日間保管した後、セルを試験して、高温(HT)保管後の性能を測定する。容量保持、容量回復、及び増加インピーダンスをそれぞれ測定し、それぞれのセルの2回の実験のそれぞれについて結果を表2に示す。
【0042】
最後に、それぞれのセルを室温(RT)及び高温(HT)のサイクル条件下で測定して、容量保持を決定する。RTサイクルでは、セルを、850サイクルにわたる充電及び放電の両方について1Cで25℃で試験する。HTサイクルでは、600サイクルにわたる充電率及び放電率の両方について、1Cで45℃でセルを試験する。結果を表2に示す。
【表2】
【0043】
LT放電の条件下では、セル1は、セル2よりも良好に動作した。しかしながら、他の全ての試験条件(HT保管、RTサイクル、及びHTサイクル)では、1-メトキシ-3,3,3-トリフルオロプロペンの分解生成物から形成されたSEI層を備えたセル2は、より優れた性能を発揮し、業界標準を上回る改善を示した。
実施例3-変動温度での充電及び放電
【0044】
2つのリチウムイオンセルを試験して、HT、RT、及びLT条件下での充電と放電を実証する。セルは、1,000mAhの容量を有する4.4Vパウチセルである。カソードは、LiNi0.5Co0.2Mn0.3(NMC)であり、アノードは、人造黒鉛(AG)である。溶媒は、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、及びエチルメチルカーボネート(EMC)の3:2:5(重量:重量:重量)の比の混合物であり、1.0モル濃度のヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を含む。第1のセル(セル1)は、業界標準添加剤を含む。第2のセル(セル2)は、1%の量で1-メトキシ-3,3,3-トリフルオロプロペンを含む。
【0045】
最初に、セルをRT(25℃)で3.0V~4.4Vで、900サイクルにわたる1Cで充填及び放電の両方で試験する。結果を容量保持対サイクル数として図2に示す。次に、セルをHT(45℃)で3.0V~4.4Vで、900サイクルにわたり1Cで充電及び放電の両方で試験する。結果をサイクル数に対する容量保持として図3に示す。両方の場合において、セル2(1-メトキシ-3,3,3-トリフルオロプロペンの分解生成物から形成されたSEI層を有する)は、セル1よりも優れた性能を発揮し、より多くのサイクルでより高い容量を維持する。
【0046】
次に、セルをLT(-20℃)で0.3Cで4.4Vから3.0Vまで放電させた。結果を電圧(mV)対容量保持として図4に示す。この場合、1-メトキシ-3,3,3-トリフルオロプロペンを含むセルは、業界標準の添加剤を含むセルよりも良好には動作しなかった。これらの結果は、電解質溶液の添加剤として1-メトキシ-3,3,3-トリフルオロプロペンを使用しても、LT保管条件下でのリチウムイオンセルの性能は向上しないが、HT保管条件下でのRTでのサイクル中の性能が向上することを示している。
実施例4-1-メトキシ-3,3,3-トリフルオロプロペンの生成
【0047】
この実施例では、1-メトキシ-3,3,3-トリフルオロプロペンを作製するための方法が実証される。300mLのオートクレーブに30mLのメタノール及び33.6gの固体水酸化カリウムを投入し、オートクレーブを密閉した。80gの1-クロロ-3,3,3-トリフルオプロプロペンを、バルブを通してオートクレーブ中に凝縮させた。オートクレーブを70℃に加熱し、70℃で4時間維持した。4時間後、オートクレーブを冷却し、次いで開放した。オートクレーブの内容物を水に注ぎ、次いで混合物を振盪した。振盪後、下部有機層が形成され、混合物から分離された。下部有機層の内容物を塩化カルシウムで乾燥させた。得られた乾燥有機混合物を蒸留し、1-メトキシ-3,3,3-トリフルオロプロペンを得た。
実施例5-1-エトキシ-3,3,3-トリフルオロプロペンの生成
【0048】
この実施例では、1-エトキシ-3,3,3-トリフルオロプロペンを作製するための方法が実証される。300mLのオートクレーブに40mLのエタノール及び33.6gの固体水酸化カリウムを投入し、次いでオートクレーブを密閉した。80gの1-クロロ-3,3,3-トリフルオプロプロペンを、バルブを通してオートクレーブ中に凝縮させた。オートクレーブを70℃に加熱し、70℃で4時間維持した。4時間後、オートクレーブを冷却し、次いで開放した。オートクレーブの内容物を水に注ぎ、次いで混合物を振盪した。振盪後、下部有機層が形成され、混合物から分離された。下部有機層の内容物を塩化カルシウムで乾燥させた。得られた乾燥有機混合物を蒸留し、1-エトキシ-3,3,3-トリフルオロプロペンを得た。
態様
【0049】
態様1は、リチウムイオンセル用の電解質溶液であり、電解質溶液は、少なくとも1つの有機炭酸エステル溶媒と、非配位性アニオンを含む少なくとも1つのリチウム塩と、一般式I、一般式II、又は一般式III:
I:RC=CH-O-R、
II:RC=CH-O-CHR’R’、
III:RC=CH-O-R-O-CH=CR’R
[式中、R及びR’は、それぞれ独立して、1個又は2個の炭素原子を有するフッ素化アルキル基であり、R及びR’は、それぞれ独立して、F、Cl、Br又はHであり、Rは、C(式中、nは、1~6の整数であり、x及びyは、それぞれ独立して、0~13の整数であり、かつ、x+y=2n+1又はx+y=2n-1である。)であり、Rは、C(2k+1)(式中、kは、2~4の整数である。)である。]に従う、少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンと、を含む。
【0050】
態様2は、少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンが、電解質溶液の総重量の0.2重量%~10重量%である、態様1に記載の電解質溶液である。
【0051】
態様3は、少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンが、少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンのトランス異性体から本質的になる、態様1又は2に記載の電解質溶液である。
【0052】
態様4は、少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンが、少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンのシス異性体から本質的になる、態様1又は2に記載の電解質溶液である。
【0053】
態様5は、少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンが、少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンの割合として、1重量%~99重量%の少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンのトランス異性体の量を含む、態様1又は2に記載の電解質溶液である。
【0054】
態様6は、少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンが、1-メトキシ-3,3,3-トリフルオロプロペンを含む、態様1~5のいずれか1つに記載の電解質溶液である。
【0055】
態様7は、少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンが、1-エトキシ-3,3,3-トリフルオロプロペンを含む、態様1~6のいずれか1つに記載の電解質溶液である。
【0056】
態様8は、少なくとも1つの有機炭酸エステル溶媒が、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジエチルカーボネートの群から選択される少なくとも1つを含む、態様1~7のいずれか1つに記載の電解質溶液である。
【0057】
態様9は、少なくとも1つの有機炭酸エステル溶媒が、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、及びジエチルカーボネートを含む、態様8に記載の電解質溶液である。
【0058】
態様10は、少なくとも1つの有機炭酸エステル溶媒が、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、及びエチルメチルカーボネートを含む、態様8に記載の電解質溶液である。
【0059】
態様11は、リチウム塩が、ヘキサフルオロリン酸リチウム、テトラフルオロホウ酸リチウム、過塩素酸リチウム、及びリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドの群から選択される少なくとも1つを含む、態様1~10のいずれか1つに記載の電解質溶液である。
【0060】
態様12は、リチウム塩が、電解質溶液の総重量の0.5重量%~15重量%である、態様1~11のいずれか1つに記載の電解質溶液である。
【0061】
態様13は、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、2-プロピニルメタンスルホネート、シクロヘキシルベンゼン、t-アミルベンゼン及びアジポニトリルの群から選択される少なくとも1つの添加剤を更に含む、態様1~12のいずれか1つに記載の電解質溶液である。
【0062】
態様14は、リチウムイオン電池用のリチウムイオンセルであり、リチウムイオンセルは、カソードと、アノードと、カソードとアノードとの間に配置された多孔性セパレータと、カソードとアノードとの間に配置された電解質溶液と、カソード及びアノード上に配置された固体電解質界面層であって、固体電解質界面層は、一般式I、一般式II、又は一般式III:
I:RC=CH-O-R、
II:RC=CH-O-CHR’R’、
III:RC=CH-O-R-O-CH=CR’R
[式中、R及びR’は、それぞれ独立して、1個又は2個の炭素原子を有するフッ素化アルキル基であり、R及びR’は、それぞれ独立して、F、Cl、Br又はHであり、Rは、C(式中、nは、1~6の整数であり、x及びyは、それぞれ独立して、0~13の整数であり、かつ、x+y=2n+1又はx+y=2n-1である。)であり、Rは、C(2k+1)(式中、kは、2~4の整数である。)である。]に従う、少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンの分解生成物を含む、固体電解質界面層と、を含む。
【0063】
態様15は、電解質溶液が、少なくとも1つの有機炭酸エステル溶媒と、非配位性アニオンを含む少なくとも1つのリチウム塩と、を含む、態様14に記載のリチウムイオンセルである。
【0064】
態様16は、リチウム塩が、ヘキサフルオロリン酸リチウム、テトラフルオロホウ酸リチウム、過塩素酸リチウム、及びリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドの群から選択される少なくとも1つである、態様15に記載のリチウムイオンセルである。
【0065】
態様17は、リチウム塩が、ヘキサフルオロリン酸リチウムを含む、態様16に記載のリチウムイオンセルである。
【0066】
態様18は、カソードが、リチウム、ニッケル、コバルト、マンガン、及び酸素を含む、態様14~17のいずれか1つに記載のリチウムイオンセルである。
【0067】
態様19は、リチウムイオンセル用の電解質溶液を作製するための方法であり、方法は、少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンを提供することと、少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンと、非配位性アニオンを含む少なくとも1つのリチウム塩とを組み合わせることと、を含み、少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンは、一般式I、一般式II、又は一般式III:
I:RC=CH-O-R、
II:RC=CH-O-CHR’R’、
III:RC=CH-O-R-O-CH=CR’R
[式中、R及びR’は、それぞれ独立して、1個又は2個の炭素原子を有するフッ素化アルキル基であり、R及びR’は、それぞれ独立して、F、Cl、Br又はHであり、Rは、C(式中、nは、1~6の整数であり、x及びyは、それぞれ独立して、0~13の整数であり、かつ、x+y=2n+1又はx+y=2n-1である。)であり、Rは、C(2k+1)(式中、kは、2~4の整数である。)である。]に従う。
【0068】
態様20は、少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンを提供することが、アルカンアルコール及びHFOモノマーを提供することと、触媒の存在下でアルカンアルコール及びHFOモノマーを反応させて少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンを形成することと、を含む、態様19に記載の方法である。
【0069】
態様21は、触媒が、アルカリ水酸化物である、態様20に記載の方法である。
【0070】
態様22は、少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンが、電解質溶液の総重量の0.2重量%~10重量%である、態様19~21のいずれか1つに記載の方法である。
【0071】
態様23は少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンが、少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンのトランス異性体から本質的になる、態様19~21のいずれか1つに記載の方法である。
【0072】
態様24は、少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンが、少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンのシス異性体から本質的になる、態様19~21のいずれか1つに記載の方法である。
【0073】
態様25は、少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンが、少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンの割合として、1重量%~99重量%の1つの少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンのトランス異性体の量を含む、態様19~21のいずれか1つに記載の方法である。
【0074】
態様26は、少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンが、1-メトキシ-3,3,3-トリフルオロプロペンを含む、態様19~25のいずれか1つに記載の方法である。
【0075】
態様27は、少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンが、1-エトキシ-3,3,3-トリフルオロプロペンを含む、態様19~25のいずれか1つに記載の方法である。
【0076】
態様28は、少なくとも1つの有機炭酸エステル溶媒が、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジエチルカーボネートの群から選択される少なくとも1つを含む、態様19~27のいずれか1つに記載の方法である。
【0077】
態様29は、少なくとも1つの有機炭酸エステル溶媒が、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、及びジエチルカーボネートを含む、態様28に記載の方法である。
【0078】
態様30は、少なくとも1つの有機炭酸エステル溶媒が、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、及びエチルメチルカーボネートを含む、態様28に記載の方法である。
【0079】
態様31は、リチウム塩が、ヘキサフルオロリン酸リチウム、テトラフルオロホウ酸リチウム、過塩素酸リチウム、及びリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドの群から選択される少なくとも1つを含む、態様19~30のいずれか1つに記載の方法である。
【0080】
態様32は、リチウム塩が、電解質溶液の総重量の0.5重量%~15重量%である、態様19~31のいずれか1つに記載の方法である。
【0081】
態様33は、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、2-プロピニルメタンスルホネート、シクロヘキシルベンゼン、t-アミルベンゼン及びアジポニトリルの群から選択される少なくとも1つの添加剤を更に含む、態様19~32のいずれか1つに記載の方法である。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2022-02-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンセル用の電解質溶液であって、前記電解質溶液は、
少なくとも1つの有機炭酸エステル溶媒と、
非配位性アニオンを含む少なくとも1つのリチウム塩と、
一般式I、一般式II、又は一般式III:
I:RC=CH-O-R、
II:RC=CH-O-CHR’R’、
III:RC=CH-O-R-O-CH=CR’R
[式中、R及びR’は、それぞれ独立して、1個又は2個の炭素原子を有するフッ素化アルキル基であり、R及びR’は、それぞれ独立して、F、Cl、Br又はHであり、Rは、C(式中、nは、1~6の整数であり、x及びyは、それぞれ独立して、0~13の整数であり、かつ、x+y=2n+1又はx+y=2n-1である。)であり、Rは、C(2k+1)(式中、kは、2~4の整数である。)である。]に従う、少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンと、を含む、電解質溶液。
【請求項2】
前記少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンは、1-メトキシ-3,3,3-トリフルオロプロペンを含む、請求項1に記載の電解質溶液。
【請求項3】
リチウムイオン電池用のリチウムイオンセルであって、前記リチウムイオンセルは、
カソードと、
アノードと、
前記カソードと前記アノードとの間に配置された多孔性セパレータと、
前記カソードと前記アノードとの間に配置された電解質溶液と、
前記カソード及び前記アノード上に配置された固体電解質界面層であって、前記固体電解質界面層は、一般式I、一般式II、又は一般式III:
I:RC=CH-O-R、
II:RC=CH-O-CHR’R’、
III:RC=CH-O-R-O-CH=CR’R
[式中、R及びR’は、それぞれ独立して、1個又は2個の炭素原子を有するフッ素化アルキル基であり、R及びR’は、それぞれ独立して、F、Cl、Br又はHであり、Rは、C(式中、nは、1~6の整数であり、x及びyは、それぞれ独立して、0~13の整数であり、かつ、x+y=2n+1又はx+y=2n-1である。)であり、Rは、C(2k+1)(式中、kは、2~4の整数である。)である。]に従う、少なくとも1つのポリフッ素化アルコキシオレフィンの分解生成物を含む、固体電解質界面層と、を含む、リチウムイオンセル。

【国際調査報告】