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特表2022-543573耐食性に優れた排気系用フェライト系鋼板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-13
(54)【発明の名称】耐食性に優れた排気系用フェライト系鋼板
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20221005BHJP
   C22C 38/28 20060101ALI20221005BHJP
   C23C 8/10 20060101ALI20221005BHJP
   C21D 9/46 20060101ALN20221005BHJP
【FI】
C22C38/00 301R
C22C38/00 302Z
C22C38/28
C23C8/10
C21D9/46 E
C21D9/46 P
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022506185
(86)(22)【出願日】2020-07-07
(85)【翻訳文提出日】2022-01-28
(86)【国際出願番号】 KR2020008863
(87)【国際公開番号】W WO2021020757
(87)【国際公開日】2021-02-04
(31)【優先権主張番号】10-2019-0093218
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カン, ヒョング
(72)【発明者】
【氏名】ハ, フォン ジェ
(72)【発明者】
【氏名】キム, ヨン ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ジョ, ギュジン
(72)【発明者】
【氏名】イ, ムンスゥ
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA04
4K037EA05
4K037EA11
4K037EA12
4K037EA15
4K037EA18
4K037EA27
4K037EA28
4K037EA31
4K037EB02
4K037EB03
4K037EB09
4K037FA03
4K037FB00
4K037FG00
4K037FJ02
4K037FJ06
4K037JA06
(57)【要約】
【課題】高価な元素であるCrを低減しながらも、排気系用に優れた耐食性を備えたフェライト系鋼板を提供する。
【解決手段】本発明の耐食性に優れた排気系用フェライト系鋼板は、重量%で、C:0.02%以下、N:0.02%以下、Si:2.0%以下、Mn:0.5%以下、Cr:3.0~5.5%、Ti:0.001~0.3%、Al:1.0~4.0%を含み、残部がFeおよび不可避な不純物からなり、表面スケール層を具備し、表面から深さ0.2μmの範囲でAl含有量の最大値が15.0%以上およびSi含有量の最大値が3.0%以下を満たすことを特徴とする。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.02%以下、N:0.02%以下、Si:2.0%以下、Mn:0.5%以下、Cr:3.0~5.5%、Ti:0.001~0.3%、Al:1.0~4.0%を含み、残部がFeおよび不可避な不純物からなり、
表面スケール層を具備し、
下記のように定義されるAl被膜指数15.0以上およびSi被膜指数3.0以下を満たすことを特徴とする耐食性に優れた排気系用フェライト系鋼板。
(ここで、Al被膜指数は、表面から深さ0.2μmの範囲でAl含有量の最大値(重量%)、
Si被膜指数は表面から深さ0.2μmの範囲でSi含有量の最大値(重量%)である)
【請求項2】
前記排気系用フェライト系鋼板は、式(1)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の耐食性に優れた排気系用フェライト系鋼板。
(1)5*Al-(Cr+Si)>0
(ここで、Al、Cr、Siは、各元素の含有量(重量%)を意味する)
【請求項3】
前記排気系用フェライト系鋼板は、式(2)で表される腐食減耗率が20%未満であることを特徴とする請求項1に記載の耐食性に優れた排気系用フェライト系鋼板。
(2)腐食減耗率(%)=[(腐食試験前の重さ)-(腐食試験後の重さ)]/(腐食試験前の重さ)×100
(ここで、腐食試験後の重さは、腐食試験後に生成された腐食生成物を除去した後の重さ(g)である)
【請求項4】
前記排気系用フェライト系鋼板の表面のL*a*b*表色系のL*値は、50以上であることを特徴とする請求項1に記載の耐食性に優れた排気系用フェライト系鋼板。
【請求項5】
前記表面のL*a*b*表色系のa*値が-10~+10およびb*値が-10~+10の範囲であることを特徴とする請求項4に記載の耐食性に優れた排気系用フェライト系鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気系用フェライト系鋼板に係り、より詳しくは、排気系システムに適合した耐食性に優れた排気系用フェライト系鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、二輪車の排気系システムは、外部に露出していて、冬季に除雪用塩による汚染から容易に腐食される環境に曝されており、また、化石燃料の排気から発生する酸性凝縮水から容易に腐食される環境に曝されている。
【0003】
排気ガス温度がますます高まる環境下で、腐食を防止するために、排気系システムに使用される素材は、熱容量の大きい鋳物から熱容量の小さいステンレス鋼が主として使用されてきた。特に、オーステナイト系ステンレス鋼材に比べて高価な合金元素の添加が少ないフェライト系ステンレス鋼材は、耐食性も優れていて、価格競争力が高いため、常温~800℃の排気ガスの温度範囲に対応する排気系部品など(Muffler、Ex-manifold、Collector coneなど)に主に使用されてきた。
【0004】
耐腐食性および耐酸化性を確保するための最も一般的な方法は、Cr含有量の高いステンレス鋼を使用することであるが、Crを最小11重量%以上含むフェライト系ステンレス鋼は高価である。また、ステンレス鋼は、Cr含有量が高くて、難酸洗性および酸洗費用が大きく、Nbなどを多量で含むので、冷延焼鈍温度も高くする必要がある。このため、価格上昇を招くCrを低減しながらも、優れた耐食性を確保する排気系用鋼板の必要性が生じている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、高価な元素であるCrの含量を低減しながら、排気系用に優れた耐食性を備えたフェライト系鋼板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の耐食性に優れた排気系用フェライト系鋼板は、重量%で、C:0.02%以下、N:0.02%以下、Si:2.0%以下、Mn:0.5%以下、Cr:3.0~5.5%、Ti:0.001~0.3%、Al:1.0~4.0%を含み、残部がFeおよび不可避な不純物からなり、表面スケール層を具備し、下記のように定義されるAl被膜指数15.0以上およびSi被膜指数3.0以下を満たすことを特徴とする。

[Al被膜指数]:表面から深さ0.2μmの範囲でAl含有量の最大値(重量%)
[Si被膜指数]:表面から深さ0.2μmの範囲でSi含有量の最大値(重量%)
【0007】
また、本発明のAl、Cr、Si各元素の含有量は、式(1)を満たし、

(1)5*Al-(Cr+Si)>0

式(2)で表される腐食減耗率が20%未満であることを特徴とする。

(2)腐食減耗率(%)=[(腐食試験前の重さ)-(腐食試験後の重さ)]/(腐食試験前の重さ)×100

ここで、腐食試験後の重さは、腐食試験後に生成された腐食生成物を除去した後の重さ(g)である。
【0008】
また、本発明の耐食性に優れた排気系用フェライト系鋼板表面のL*a*b*表色系のL*値が50以上であり、
表面のL*a*b*表色系のa*値が-10~+10およびb*値が-10~+10の範囲であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のフェライト系鋼板によれば、排気系用途に使用される既存のステンレス鋼に比べて原料価格および工程費用を大きく節減できると共に、優れた耐食性を示すことができる。
また、最終酸洗工程を経ないで、L*a*b*表色系のL*値が50以上、a*およびb*値が-10~+10の範囲の明るい無彩色の金属性を示し、表面性状に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】L*a*b*表色系を示す色空間(COLOR SPACE)である。
図2】本発明による発明鋼2の表面から深さ方向に0.2μmの範囲に対するグロー放電発光分析法で分析した合金成分の分布である。
図3】本発明による比較鋼5の表面から深さ方向に0.2μmの範囲に対するグロー放電発光分析法で分析した合金成分の分布である。
図4】本発明による発明鋼2の酸洗後に表面から深さ方向に0.2μmの範囲に対するグロー放電発光分析法で分析した合金成分の分布である。
図5】本発明による比較鋼10の冷延焼鈍鋼板試験片の表面を示す写真である。
図6】本発明による発明鋼2の冷延焼鈍鋼板試験片の表面を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の耐食性に優れた排気系用フェライト系鋼板は、重量%で、C:0.02%以下、N:0.02%以下、Si:2.0%以下、Mn:0.5%以下、Cr:3.0~5.5%、Ti:0.001~0.3%、Al:1.0~4.0%を含み、残部がFeおよび不可避な不純物からなり、表面スケール層を具備し、下記のように定義されるAl被膜指数15.0以上およびSi被膜指数3.0以下を満たす。
[Al被膜指数]:表面から深さ0.2μmの範囲でAl含有量の最大値(重量%)
[Si被膜指数]:表面から深さ0.2μmの範囲でSi含有量の最大値(重量%)
【0012】
以下では、本発明の実施例を添付の図面を参照して詳細に説明する。以下の実施例は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者に本発明の思想を十分に伝達するために提示するものである。本発明は、ここで提示した実施例のみに限定されず、他の形態に具体化されることもできる。図面は、本発明を明確にするために説明と関係ない部分の図示を省略し、理解を助けるために構成要素のサイズを多少誇張して表現することができる。
また、任意の部分が或る構成要素を「含む」というとき、これは、特に反対になる記載がない限り、他の構成要素を除くものではなく、他の構成要素をさらに含むことができることを意味する。
単数の表現は、文脈上、明白に例外がない限り、複数の表現を含む。
【0013】
排気系用ステンレス鋼、特にフェライト系ステンレス鋼には、高温強度の向上のためにNbを添加したり、これの代わりにSnなどを添加し、耐酸化性の向上のためにCr含有量を高めることが一般的である。しかしながら、Nb、Snなどの固溶強化元素の添加とCr含有量の増加は、製造コストを上昇させる原因となって、好ましい開発方向ではない。
【0014】
排気系用フェライト系ステンレス鋼の原料価格を節減するためには、相対的に含有量の高い高価な元素であるCr含有量の低減が必須である。しかしながら、Crは、排気系用フェライト系ステンレス鋼において耐食性を確保する核心元素であるから、Cr低減のためには、耐食性を確保できる他の方案が必要である。本発明では、ステンレス鋼としてCrの最小含有量である11重量%より低いCr含有量を有する鋼板でありながらも、従来ステンレス鋼と同等以上の耐食性を確保して原料価格を節減できるフェライト系鋼板を提供する。
【0015】
本発明の耐食性に優れた排気系用フェライト系鋼板は、重量%で、C:0.02%以下、N:0.02%以下、Si:2.0%以下、Mn:0.5%以下、Cr:3.0~5.5%、Ti:0.001~0.3%、Al:1.0~4.0%を含み、残部がFeおよび不可避な不純物からなる。
【0016】
以下、本発明の実施例における合金成分の元素含有量の数値限定理由について説明する。以下では、特別な言及がない限り、単位は、重量%である。
【0017】
Cの含有量は、0超過0.02%以下である。
C含有量が0.02%を超過する場合、溶接部の靭性が低下することがあり、Crと結合してCr23析出物が生成されて素地内局部Cr枯渇により耐食性および耐酸化性が低下する。なお、Cは、不可避な不純物として0超過で含まれ、極低含有量の制御のためには、製鋼VOD工程費用が増加するところ、好ましくは、0.005%以上含まれ得る。
【0018】
Nの含有量は、0超過0.02%以下である。
鋼中Nが0.02%を超過する場合、固溶Nの濃度は限界に至り、Crと結合してCrN析出物が生成されて素地内局部Cr枯渇により耐食性および耐酸化性が低下する。なお、Nは、不可避な不純物として0超過で含まれ、極低含有量の制御のためには、製鋼VOD工程費用が増加するところ、好ましくは、0.005%以上含まれ得る。
【0019】
Siの含有量は、2.0%以下である。
Siは、固溶強化元素であると同時に、表層部にSi濃化酸化膜を形成して耐酸化性を増加させる。しかしながら、本発明では、後述する「酸洗の省略」を具現するために、焼鈍熱処理後にSi被膜指数を3.0以下に制限する必要があり、このために、総含有量を2.0%以下に制限する。しかしながら、変色の防止をより容易に制御するための観点から、1.5%以下含んでもよく、1.0%以下含んでもよい。
【0020】
Mnの含有量は、0.5%以下である。
Mnは、鋼中に不可避に含まれる不純物であり、オーステナイトを安定化させる役割をする。Mn含有量が0.5%を超過する場合、熱延または冷延後の焼鈍熱処理時にオーステナイト逆変態が発生することになって、伸び率に悪影響を及ぼすことになる。したがって、Mnの含有量を上記のように制限する。
【0021】
Crの含有量は、3.0~5.5%である。
Crは、耐食性を向上させる元素であるが、原料価格の節減のための本発明の趣旨によって5.5%以下に制限する。ただし、最小限の耐食性を確保するために、3.0%以上添加する。
【0022】
Tiの含有量は、0.001~0.3%である。
Tiは、C、Nと結合してTi(C、N)析出物を形成して固溶C、Nの量を低減し、Cr枯渇層の形成を抑制する役割をし、Tiは、溶接部の耐食性および靭性の向上のために、必須的に0.001%以上添加しなければならない。しかしながら、Ti含有量が多すぎる場合、鋳造に悪影響を与えるので、0.3%以下に制限する。
【0023】
Alの含有量は、1.0~4.0%である。
本発明では、Alが焼鈍熱処理時に酸化被膜を形成させることができるように、1.0%以上十分に添加する。しかしながら、過量添加する場合、鋳造と圧延が難しくなり得るので、上限を4.0%以下に制限する。
【0024】
本発明の残部の成分は、鉄(Fe)である。ただし、通常の製造過程では、原料または周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入することがあるので、これを排除することはできない。前記不純物は、通常の製造過程の技術者であれば、誰でも知ることができるから、すべての内容について特に本明細書では言及してはいない。
【0025】
ただし、上述した合金成分系だけでは耐食性の確保に不十分である。本発明者らが検討したところによれば、原料価格の節減のために、Cr含有量を低減する場合、外部に露出したとき、腐食が発生するなど腐食抵抗性がきわめて弱くなる問題があった。これより、本発明では、耐食性を確保するために特別な方法を導入した。
【0026】
排気系用ステンレス鋼の冷延鋼鈑は、冷間圧延後に軟化のために焼鈍熱処理を実施した後、表面のスケール除去のために酸洗処理して製品を出荷することが一般的である。本発明では、上述した合金成分系組成の冷延鋼鈑を焼鈍熱処理するに際して、下記のように定義されるAl被膜指数およびSi被膜指数の範囲を満たす表面を有するように焼鈍熱処理した後、酸洗処理することなく、最終製品を製造する。すなわち、本発明によるフェライト系鋼板は、冷延焼鈍鋼板であって、表面にスケール層を有する。
【0027】
従来、スケール層が耐食性に不利なFeを多量を含有している点から回避の対象であったが、本発明では、耐食性に有利なAl濃化酸化被膜を形成して意図的に含む意味を有する。焼鈍熱処理を通じて表層に濃化して酸化するAlとSiの含有量を制御することによって、3.0~5.5%Crのフェライト系鋼板においても、ステンレス鋼と同等水準以上の耐食性および耐酸化性を確保できる。
【0028】
本発明の排気系用フェライト系鋼板は、表面から深さ方向にスケール層を含む深さ0.2μmの範囲でのAl被膜指数が15.0以上、そしてSi被膜指数が3.0以下を満たす。Al被膜指数とSi被膜指数は、下記のように定義される。
[Al被膜指数]:表面から深さ0.2μmの範囲でAl含有量の最大値(重量%)
[Si被膜指数]:表面から深さ0.2μmの範囲でSi含有量の最大値(重量%)
【0029】
一般的に、Siは、表層部にSi濃化酸化膜を形成して高温耐酸化性を増加させることが知られている。ところで、酸洗を実施しない本発明では、Si被膜指数が3.0を超過する場合に、表面に暗茶色のスケール層が形成されて、表面状態が不良になり、これによって、Si被膜指数は、3.0以下に制限しなければならない。
【0030】
Alも、表層部の酸素と反応して不均一な酸化層を形成するが、本発明によるAl含有量である1.0~4.0%を添加した後、焼鈍熱処理を実施する場合、Siの表層への移動および反応を妨害して、優先的にAl濃化酸化膜が形成される。Al酸化膜が緻密に形成されて、Al被膜指数が15.0以上である場合、明るい金属性色相を示すことができる。
【0031】
素材表面の金属性色相は、国際照明委員会が制定したL*a*b*表色系で示すことができる。L*a*b*表色系は、物体の色を表現するにあたって、現在あらゆる分野において最も大衆的に使用される表色系であって、図1では、L*a*b*表色系を示す色空間(COLOR SPACE)を示している。この際、L*は、0のとき、黒色、100のとき、白色を強く示し、a*は、正数のとき、赤色(Red)方向、負数のとき、緑色(Green)方向を示し、b*は、正数のとき、黄色(Yellow)方向、負数のとき、青色(Blue)方向を示す。a*、b*が両方と0である場合、無彩色となる。
【0032】
本発明の一実施例によれば、Al濃化酸化被膜を形成して、L*a*b*表色系のL*値が50以上である明るい金属性表面を得ることができる。また、50以上のL*値と共に、a*値とb*値が同時に-10~+10の範囲の明るい無彩色の金属性表面を得ることができる。
【0033】
図2図4は、本発明による実施例を表面から深さ方向に0.2μmまでグロー放電発光分析法で分析した合金成分の分布である。
【0034】
図2は、本発明の実施例による冷延鋼鈑を焼鈍熱処理後に酸洗を実施しない試験片の合金成分の分布を示す。深さ方向への測定値中、Al含有量の最大値であるAl被膜指数が15.0以上である。
【0035】
図3は、SiとAlの含有量の範囲が一般排気系用フェライト系ステンレス鋼と同一であり、原料価格の節減のために、Cr含有量だけを低減した冷延鋼鈑を、同一に焼鈍熱処理後、酸洗を実施しない試験片の合金成分の分布を示す。すなわち、CrとAlの含有量の範囲が本発明の組成範囲から外れる冷延焼鈍鋼板に該当する。図3に示すとおり、Al被膜指数が低く、最表層でSi被膜指数が5.0に近く現れる。このような場合、耐食性および耐酸化性が不十分であり、Si酸化膜に起因して表面変色も発生することになる。
【0036】
図4は、図2と同じ合金成分系試験片を本発明の実施例によって冷延鋼鈑を焼鈍熱処理し、以後、酸洗まで実施した後の合金成分の分布を示す。同じ含有量のCr、Al、Siを含んでいても、本発明において提示する焼鈍熱処理後に酸洗の省略を行わない場合、Al被膜指数が低く現れる。
【0037】
また、Al被膜指数およびSi被膜指数を同時に満たすために、フェライト系鋼板は、下記の式(1)を満たすことができる。

(1)5*Al-(Cr+Si)>0

Alを式(1)のように十分に含有する場合、焼鈍中に十分なAl濃化酸化被膜を形成できる。一方、そうでない場合、CrとSiの酸化によってAl濃化酸化被膜を形成する酸素が不十分になるか、CrまたはSi酸化被膜の形成によって一部のAl濃化酸化被膜の形成に必要な酸素の移動が制限され得るので、避けなければならない。
【0038】
なお、スケール層の厚さは、焼鈍熱処理温度および時間によって異なるが、本発明では、Al被膜指数が半分となる地点での厚さと定義できる。例えば、図1でのスケール層の厚さは、Al含有量の最大値であるAl被膜指数の中間値に該当する約0.1μmである。
【0039】
本発明によるAl被膜指数およびSi被膜指数を満足するための焼鈍熱処理は、雰囲気ガスのうち高純度水素を75%以上使用する高価な光輝焼鈍(BAL)工程を利用しなくてもよく、低価のガスを使用する連続焼鈍工程を経ることで可能である。例えば、燃料ガスを熱源として使用し、排ガスの過剰酸素を0.1~10%範囲に制限することで、本発明の目的を達成可能である。
【0040】
過剰酸素を0.1%以上にして酸素を付与することによって、焼鈍熱処理中に本発明の含有量の範囲によるAlが酸素と反応して高耐食性を付与する被膜を形成する。過剰酸素が不足すると、十分なAl濃化酸化被膜が形成されないことがある。一方、過剰酸素が10%を超過すると、素材のFe、CrまたはSiと酸素が反応してAl濃化酸化被膜の他にFe、Cr、Si酸化被膜が形成されることがあり、この場合、変色が発生するので、不適切である。
【0041】
なお、容易な製造のために、酸素を0.1%以下に制限したい場合、雰囲気ガス中の水素を0.1%~10%の範囲で混合すると、Fe、Cr、Siとの酸化が抑制されて、0.1%以下の少ない量の酸素でもAl濃化酸化被膜の形成が可能である。10%以上で混合することは、上述したように、費用の上昇を招くので、不要であり、0.1%未満の水素では、Fe、Cr、Siの酸化を抑制する能力が不十分で、Al濃化酸化被膜の形成が不十分になる。
【0042】
焼鈍熱処理後に酸洗は省略しなければならない。酸洗を未実施することによって、AlおよびSi被膜指数を満足し、スケール層が除去されない最表層を得ることができ、硝酸および/またはフッ酸の混酸溶液を使用する酸洗工程の省略を通じて製造費用をも節減できる。
【0043】
焼鈍熱処理および酸洗省略前の冷延鋼鈑は、通常の製造工程を経て製造でき、例えば、上述した合金成分の組成を含むスラブを熱間圧延し、熱間圧延した熱延鋼板を焼鈍熱処理し、酸洗後に冷間圧延して、冷延鋼鈑に製造できる。
【0044】
本発明の耐食性に優れた排気系用フェライト系鋼板は、式(2)で表される腐食減耗率が20%未満である。

(2)腐食減耗率(%)=[(腐食試験前の重さ)-(腐食試験後重さ)]/(腐食試験前の重さ)×100

ここで、腐食試験後の重さは、腐食試験後に生成された腐食生成物を除去した後の重さ(g)である。
【0045】
耐食性、すなわち腐食に対する抵抗性は、任意に組成した腐食環境に露出させることで知ることができる。例えば、水中に5%の体積比になるように、NaClを含有する溶液を素材に噴霧した後、4時間維持し、60℃程度で4時間の間加熱して乾燥させる過程を計30回繰り返して、後述する方法で腐食程度を評価できる。評価環境は、多様に構成できるので、本発明に限定するものではない。
【0046】
本発明では、[(腐食試験前の重さ)-(腐食試験後重さ)]/(腐食試験前の重さ)を減耗率と定義し、100を掛けて%単位で表示した。このように腐食試験後に生成された腐食生成物を除去した後の重さ、すなわち「腐食試験後の重さ」を測定し、「腐食試験前の重さ」と比較することによって、減耗率を測定できる。減耗率が腐食生成物の除去が必要であるという点から容易でない場合、重さの代わりに厚さに変えることができる。この場合、腐食生成物の除去は不要であり、断面を光学顕微鏡で観察して、腐食生成物を除いた母材金属の部分の厚さを比較すればよい。
【0047】
本発明において代替しようとする11%Crが含有された鋼において同時にAlを1.0%以上添加すると、加工性が悪くなる。Siも同様であり、このような現象は、Al、Siだけでなく、CrがFeと原子位置を置換して加工性の代表的な指標である伸び率を阻害するためである。一方、本発明が提示する式(1)を満たす場合、Alを1.0%以上含有していても、伸び率を28%以上確保できる。この点は、Al濃化酸化被膜のための効果とともに、本発明を通じて付随的に得ることができる効果である。
【0048】
以下、本発明の好ましい実施例に基づいてより詳細に説明することとする。
実施例
表1に記載した合金成分系で鋳造後に3mmまで熱間圧延した。熱間圧延開始温度は、過度な組織成長を防止し、十分な熱間加工性を得るために好ましい1,200℃前後に調節した。表面酸洗後に1mmまで冷間圧延した後、過剰酸素が5%の雰囲気ガスで900℃以上の温度で10秒以上焼鈍した。以後、発明鋼と比較鋼に対して酸洗を実施および未実施した試験片をそれぞれ用意し、外部露出と同一環境での腐食発生の有無を評価し、表2に示した。外部露出に関するシミュレーションは、水中体積比で5%NaClを含有する溶液を噴霧した後、72時間放置した後、表面に点錆の発生の有無によって判断した。腐食の発生は○で表示し、腐食の未発生は×で表示した。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
表2は、本発明による合金成分系の組成範囲を満たしても、焼鈍熱処理後に酸洗を実施した素材は、外部に露出したとき、腐食が発生することを示している。ただし、比較鋼1と比較鋼2は、本発明において低減しようとする高価な元素であるCrを多量含有するフェライト系ステンレス鋼であり、外部露出環境においても腐食が発生しなかった。本発明による発明鋼は、同じ合金成分系の試験片であるにもかかわらず、焼鈍熱処理後に酸洗を未実施の結果、腐食が発生しないことを確認できた。
【0052】
表3には、Al被膜指数およびSi被膜指数と、酸洗を実施しない試験片の腐食減耗率と、腐食減耗率20%を基準として判断した腐食適合性を示した。腐食適合性に適合した場合を○で表示し、適合しない場合を×で表示した。
【0053】
Al被膜指数およびSi被膜指数は、グロー放電発光分析法で分析でき、この方法は、本技術分野において広く知られた方法で学界で通用するグロー放電発光分析法に準ずる方法で分析できる。ただし、データを十分に確保するために、表面から深さ方向に距離による成分を分析するとき、その解像度は、10nm以下であることが要求される。
【0054】
【表3】
【0055】
比較鋼1~5は、C、Si、Mn、Al、Ti、Nの含有量が類似し、単にCrの含有量を次第に低減した試験片である。表3に示すとおり、比較鋼1および2は、Cr含有量が11%以上のフェライト系ステンレス鋼に該当し、十分な耐食性を有するので、腐食減耗率が低く、腐食適合性も適合した。ただし、本発明によって酸洗を未実施した結果、Si被膜指数が10.6と高く現れ、これによる表面変色が発生した。
【0056】
比較鋼3、4、5は、Al含有量が低くて、酸洗の未実施時にもAl被膜指数が低くなり、減耗率が高くて、腐食適合性が不適合であった。また、Si含有量は適正量であるが、スケール層を含む酸化被膜内Si最大値であるSi被膜指数が高くて、変色が発生したことが分かった。特に、比較鋼5は、Al含有量を除いた残りの合金元素の含有量が本発明の範囲を満たすが、発明鋼1~3を参照すると、酸洗の未実施時にAl被膜指数を確保するためのAl含有量が不足していることを確認できた。Al含有量が式(1)を満たすように含まれる場合、発明鋼1~3のように、Si被膜指数を低減し、Al被膜指数を高めることができることが分かった。
【0057】
比較鋼6、7、8は、Si含有量を高めた試験片に該当する。一般的に、耐食性および耐酸化性に効果的であると知られているSi含有量が高いとしても、酸洗の未実施の場合には、Al含有量が十分でなくて、腐食評価が不適合であり、表面変色も発生したことが分かった。
【0058】
比較鋼9は、Alを0.9%含有するが、Al含有量の範囲および式(1)を満たさないので、Al被膜指数が目標範囲に達しておらず、これによって、腐食評価が不適合であった。これは、Al含有量が不十分で、Siの酸化膜の形成を妨害しなかったと判断でき、これによって、Si酸化膜が優勢に形成されて、変色が発生した。
【0059】
比較鋼10は、Al含有量が十分に含まれていて、Al被膜指数が15以上と現れ、腐食評価も適合したが、式(1)を満たさないので、Si被膜指数が高まる結果をもたらした。比較鋼10は、表面変色が発生したが、Al被膜指数を満足して腐食評価が適合であるとしても、Si被膜指数が3.0を超過する場合には、表面の変色を抑制できないことが分かった。
【0060】
発明鋼1、2、3は、本発明の合金成分系の組成範囲を満たし、酸洗の未実施後に、Al被膜指数15.0以上およびSi被膜指数3.0以下を全部満たし、腐食評価が優れており、変色も発生しなかった。
【0061】
発明鋼4は、本発明の組成範囲内でCr含有量が多少低い方に属するが、式(1)を満たすように、SiおよびAl含有量を調節することによって、Al被膜指数およびSi被膜指数を目的範囲内に制御できた。
【0062】
なお、発明鋼5は、本発明の組成範囲内でSi含有量が多少高い方に属するが、式(1)を満たすように、SiおよびAl含有量を調節することによって、Al被膜指数およびSi被膜指数を目的範囲内に制御できた。
【0063】
【表4】
【0064】
表4は、比較鋼および発明鋼のL*a*b*表色系値を示し、表3の変色についてより詳しく示している。焼鈍後に酸洗を実施しない場合、比較鋼1~5は、Crの酸化による赤色を呈するスケール層を示した。また、比較鋼6~10は、Si被膜を制御しないため、紫色ないし青色を呈するスケール層を示した。一方、発明鋼1~5は、本発明が提示する製造方法を通じて明るい金属性色相を呈するスケール層を示した。
【0065】
図5は、本発明による比較鋼10の冷延焼鈍鋼板試験片の表面を示す写真である。図5を通じて、通常の鋼種と同様に、焼鈍熱処理により表面に暗茶色のスケールが形成されたことを確認できる。
【0066】
図6は、本発明による発明鋼2の冷延焼鈍鋼板試験片の表面を示す写真である。図6を通じて、発明鋼2の試験片は、酸洗の未実施時にも、明るい金属性の光沢を示すことを確認でき、L*a*b*表色系の値は、L*:79、a*:0、b*:+1であった。
【0067】
以上、本発明の例示的な実施例を説明したが、本発明は、これに限定されず、当該技術分野における通常の知識を有する者なら、下記に記載する請求範囲の概念と範囲を逸脱しない範囲内で多様な変更および変形が可能であることを理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明による排気系用フェライト系鋼板は、排気系部品など(Muffler、Ex-manifold、Collector coneなど)の素材に適用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】