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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-13
(54)【発明の名称】KLF誘導心筋再生
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7088 20060101AFI20221005BHJP
   C12N 5/077 20100101ALI20221005BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20221005BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20221005BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20221005BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20221005BHJP
   C12N 15/63 20060101ALN20221005BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20221005BHJP
【FI】
A61K31/7088
C12N5/077 ZNA
A61P9/00
A61K48/00
C12N5/10
C12N15/12
C12N15/63 Z
C07K14/47
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022506453
(86)(22)【出願日】2020-07-30
(85)【翻訳文提出日】2022-03-23
(86)【国際出願番号】 AU2020050775
(87)【国際公開番号】W WO2021016663
(87)【国際公開日】2021-02-04
(31)【優先権主張番号】2019902703
(32)【優先日】2019-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522041271
【氏名又は名称】ビクター チャン カーディアック リサーチ インスティテュート
(71)【出願人】
【識別番号】510094724
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立循環器病研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】菊地 和
(72)【発明者】
【氏名】小川 真仁
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA02
4B065BB19
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZA36
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA67
4C086NA14
4C086ZA36
4H045AA30
4H045CA40
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本技術は、KLF1およびKLF2bのいずれか一方または両方の治療有効量を投与して、心筋細胞中のKLF1および/またはKLF2bのレベルを増加させ、それによって心筋再生を誘導することを含む心筋再生誘導方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療有効量のKLFを心筋細胞に投与すること、または心筋細胞におけるKLFの発現を誘導することを含む心筋再生誘導方法。
【請求項2】
心筋細胞が、乳児、小児、または成人の心筋細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
In vitroで行われる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
心筋細胞が対象に存在する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
KLFを対象に投与する、請求項4記載の方法。
【請求項6】
KLFを対象の心臓に投与する、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
心筋再生が、対象の心臓再生を促進する、請求項4~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
心臓再生が、駆出率、左室内径短縮率またはその両方の増加によって特徴付けられる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
心臓再生が、血管内皮細胞、心外膜細胞またはその両方の増加によって特徴付けられる、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
KLFが心筋細胞の脱分化を誘導して増殖性心筋細胞を産生し、好ましくは増殖性心筋細胞を有糸分裂させる、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
増殖性心筋細胞をKLFの存在下で増殖させて、増殖性心筋細胞の集団を産生させることをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
増殖性心筋細胞が、ペントースリン酸経路、セリン合成経路またはその両方を用いてグルコースを優先的に代謝する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
増殖性心筋細胞の集団を分化させて心筋細胞の集団を産生することをさらに含む、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
分化が、KLFの実質的な非存在下で、またはKLFの誘導が停止した後に起こる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
KLFがクロマチンリモデリングを誘導して脱分化を促進する、請求項10~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
KLFが誘導するクロマチンリモデリングが、MEF2C、GATA4、MEF2AおよびNKX2.5のうちの1つまたは任意の組み合わせの結合部位へのアクセシビリティを減少させる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
KLFが、KLF1タンパク質、KLF1核酸またはKLF1核酸を含むベクターである、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
KLF1タンパク質が、配列番号1もしくは11、または配列番号1もしくは11と少なくとも80%同一のタンパク質である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
KLF1核酸が、配列番号2、3、4、5、9もしくは10のいずれか1つ、または配列番号2、3、4、5、9もしくは10のいずれか1つと少なくとも80%同一の核酸を含む、またはそれからなる、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
KLFが、KLF2bタンパク質、KLF2b核酸またはKLF2b核酸を含むベクターである、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
KLF2bタンパク質が、配列番号6、または配列番号6と少なくとも80%同一のタンパク質である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
KLF2b核酸が、配列番号7もしくは8、または配列番号7もしくは8のいずれか1つと少なくとも80%同一の核酸を含む、またはそれからなる、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
ベクターが、プロモーターに作動的に結合したKLF核酸を含む、請求項17、19、20または22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
プロモーターが心臓特異的プロモーターである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
心臓特異的プロモーターが、α-ミオシン重鎖(α-MHC)プロモーター、ミオシン軽鎖2(MLC-2)プロモーター、心臓トロポニンC(cTnC)プロモーター、NCX1プロモーターおよびTNNT2プロモーターからなる群から選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
プロモーターが誘導性プロモーターである、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
誘導性プロモーターが、テトラサイクリン誘導性プロモーター、ステロイドホルモン誘導性プロモーター、または低酸素誘導性プロモーター、心臓損傷部位付近の領域に特異的なプロモーター、または虚血および再潅流から生じるストレスに応答するプロモーターからなる群から選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
増殖性心筋細胞が、心筋細胞前駆細胞、未成熟心筋細胞、または胚性表現型を有する心筋細胞である、請求項10~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
心筋再生が、心筋細胞の細胞系譜のリプログラミングを伴わない、請求項1~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
増殖性心筋細胞が細胞周期に再突入する、請求項10~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
増殖性心筋細胞が、心筋細胞と比較して、ペントースリン酸経路(PPP)、セリン合成経路またはその両方への依存度が高いことを特徴とする、請求項10~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
心筋再生が、心外膜細胞、血管内皮細胞またはその両方の数の増加によって特徴付けられる、請求項4~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
対象が心筋細胞の喪失に関連する心臓疾患を有する、請求項4~32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
心臓疾患が、心筋梗塞、虚血性心筋症、拡張型心筋症または心不全である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
請求項1~34のいずれか1項に記載の方法により製造された心筋細胞または増殖性心筋細胞の集団。
【請求項36】
請求項1~34のいずれか1項に記載の方法により製造された心筋細胞、増殖性心筋細胞またはその両方を含む、組成物。
【請求項37】
請求項35に記載の心筋細胞もしくは増殖性心筋細胞の集団、または請求項36に記載の組成物の治療有効量を対象に投与することを含む、対象における心臓疾患の治療方法 。
【請求項38】
心臓疾患の治療のための医薬の製造における、請求項35の心筋細胞もしくは増殖性心筋細胞の集団、または請求項36の組成物の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本技術は、KLF1もしくはKLF2bの少なくとも一方、またはKLF1もしくはKLF2b核酸の少なくとも一方を心筋細胞に投与することにより、心筋再生(すなわち、細胞分裂の結果、新しい心筋細胞の形成)を促進する方法に関する。さらに、本技術は、KLF1もしくはKLF2bタンパク質または核酸の少なくとも一方を対象に投与することにより、対象における心筋再生を促進することに関する。
【0002】
関連出願へのクロスリファレンス
本出願は、参照によりその全体が組み込まれるオーストラリア仮特許出願番号2019902703に対する優先権を主張する。
【背景技術】
【0003】
背景
成体哺乳類の心臓中の心筋細胞は、細胞周期を終了し、増殖能に限界がある最終分化細胞である。その結果、病的な心臓疾患における成熟心筋細胞の死は、高い死亡率および罹患率をもたらす。例えば、心筋梗塞に伴う死亡率および罹患率が高いのは、人間の心臓が新しい心筋細胞の再生による修復能力(心筋再生)が極めて限られていることが大きな原因である。その結果、梗塞した心筋は線維性瘢痕組織に置き換わり、コンタクトできず、心臓ポンプ活性の低下、心不全、および/または不整脈による突然死が生じる。
【0004】
哺乳類とは対照的に、硬骨魚ゼブラフィッシュなどのある種の脊椎動物は、心筋梗塞後の心臓の完全な瘢痕のない再生を示す。再生中のゼブラフィッシュの心臓では、幹細胞ではなく心筋細胞が新しい心筋の主要な供給源であることが、フェイトマッピング研究により知られている。重要なことは、新生仔マウスでも同様の再生能力が発見されたことである。しかし、哺乳類の心筋細胞の自己再生能力は、出生後すぐに低下してしまう。
【0005】
心血管系疾患は、数十億の心筋細胞(CM)の喪失の結果として、収縮性心筋組織の重篤で進行性の喪失を誘発することがある。哺乳類の心臓の再生能力は低いので、これは最終的に心不全につながり、失われたCMを強固に回復させる治療の選択肢は今のところない。
【0006】
KLF1はクルッペル様(Kruppel-like)転写因子の一種で、赤血球の発生に重要な役割を果たすことが知られており、KLF1遺伝子の変異は先天性貧血の原因となる。本発明者らは、心筋再生におけるKLF1のこれまで知られていなかった役割を発見した。さらに、本発明者らは、KLF1を成体心筋細胞で過剰発現させると、成体哺乳類の心臓の心筋再生が誘導され、心臓再生に至ることを証明している。
【発明の概要】
【0007】
要約
第1の態様において、治療有効量のKLFを心筋細胞に投与すること、または心筋細胞におけるKLFの発現を誘導すること、例えば心筋細胞におけるKLF1および/またはKLF2bのレベルを増加させ、それによって心筋再生を誘導することを含む心筋再生誘導方法が提供される。
【0008】
一実施形態では、心筋細胞の集団は、幼児、子供または成人の心筋細胞である。心筋細胞の集団は、対象から単離されてもよいし、対象中に存在してもよい。
【0009】
一実施形態では、心筋再生は、対象における心臓再生を促進する。心臓再生は、駆出率、左室内径短縮率、またはその両方の増加によって特徴付けられ得る。
【0010】
心臓再生は、血管内皮細胞、心外膜細胞またはその両方の増加によって特徴付けられ得る。
【0011】
KLFは、心筋細胞の脱分化を誘導して増殖性心筋細胞を産生してもよく、好ましくは、増殖性心筋細胞は有糸分裂性である。
【0012】
本方法は、増殖性心筋細胞をKLFの存在下で増殖させて、増殖性心筋細胞の集団を産生することをさらに含んでもよい。
【0013】
増殖性心筋細胞は、ペントースリン酸経路、セリン合成経路、またはその両方を用いて、グルコースを優先的に代謝する。
【0014】
本方法は、増殖性心筋細胞の集団を分化させて、心筋細胞の集団を産生することをさらに含んでもよい。分化は、KLFの実質的な非存在下で、またはKLFの誘導が停止された後に起きてもよい。
【0015】
いくつかの実施形態において、KLFは、クロマチンリモデリングを誘導して脱分化を促進する。
【0016】
KLFが誘導するクロマチンリモデリングは、MEF2C、GATA4、MEF2AおよびNKX2.5のうちの1つまたは任意の組み合わせの結合部位へのアクセシビリティを低下させることができる。
【0017】
KLFは、KLF1、KLF2bまたはその両方、KLF1および/またはKLF2bの核酸、またはこれらの核酸の少なくとも1つを含むベクターであり得る。ベクターは、プロモーターに作動的に結合した核酸を含んでいてもよい。プロモーターは、心臓特異的プロモーターであってもよい。心筋細胞の集団が対象に存在する実施形態では、KLFは、対象に投与される。例えば、KLFは、対象の心臓に投与されてもよい。
【0018】
KLF1タンパク質は、配列番号1、11、または配列番号1もしくは11と少なくとも80%同一のタンパク質であってもよい。KLF1核酸は、配列番号2、3、4、5、9、10のいずれか1つ、または配列番号2、3、4、5、9、10のいずれか1つと少なくとも80%同一の核酸を含む、またはそれからなり得る。
【0019】
KLF2bタンパク質は、配列番号6、または配列番号6と少なくとも80%同一のタンパク質であってもよい。KLF2b核酸は、配列番号7または8、または配列番号7または8のいずれか1つと少なくとも80%同一の核酸を含む、またはそれからなり得る。
【0020】
プロモーターは、アルファ-ミオシン重鎖(α-MHC)プロモーター、ミオシン軽鎖2(MLC-2)プロモーター、心臓トロポニン(troponin)C(cTnC)プロモーター、NCX1プロモーター、またはTNNT2プロモーターであってもよい。プロモーターは、KLF1またはKLF2bをコードするベクターのCM発現を提供するために使用されてもよい。
【0021】
プロモーターは、誘導性プロモーター、例えばテトラサイクリン誘導性プロモーター、ステロイドホルモン(例えばプロゲステロンまたはエクジソン)誘導性プロモーター、低酸素誘導性プロモーター、心臓損傷部位付近の領域に特異的なプロモーター、または虚血および再潅流から生じるストレスに応答するプロモーターであってもよい。
【0022】
増殖性心筋細胞は、心筋細胞前駆細胞、未成熟な心筋細胞、胚性表現型を有する心筋細胞、またはそれらの任意の組み合わせであってもよい。
【0023】
いくつかの実施形態では、心筋再生は、心筋細胞の細胞系譜のリプログラミングを伴わない。
【0024】
いくつかの実施形態では、増殖性心筋細胞は、細胞周期に再突入する。
【0025】
いくつかの実施形態では、増殖性心筋細胞は、心筋細胞と比較して、ペントースリン酸経路(PPP)、セリン合成経路、またはその両方への依存度が高いことによって特徴付けられる。
【0026】
一実施形態において、心筋再生としては、心外膜細胞および内皮細胞の拡張が挙げられる。
【0027】
一実施形態において、心筋再生は、心外膜細胞、血管内皮細胞またはその両方の数の増加によって特徴付けられる。
【0028】
対象は、心筋梗塞、虚血性心筋症、拡張型心筋症または心不全などの心筋細胞の喪失を特徴とする心臓疾患を有していてもよい。
【0029】
第2の態様では、第1の態様の方法によって産生された心筋細胞または増殖性心筋細胞の集団が提供される。
【0030】
第3の態様では、第1の態様の方法によって産生された心筋細胞または増殖性心筋細胞を含む組成物が提供される。
【0031】
第4の態様では、第2の態様の心筋細胞または増殖性心筋細胞の集団、または第3の態様の組成物を対象に投与することを含む、対象における心臓疾患を治療する方法が提供される。
【0032】
第5の態様では、心臓疾患の治療のための医薬の製造における、第2の態様の心筋細胞もしくは増殖性心筋細胞の集団、または第3の態様の組成物の使用が提供される。
【0033】
定義
本明細書で使用される場合、文脈上明らかに他に要求されない限り、用語「KLF」は、KLF1およびKLF2bのいずれかまたは両方を意味する。
【0034】
本明細書を通じて、文脈上明らかに他に要求されない限り、単語「含む(comprise)」、または「含む(comprises)」もしくは「含む(comprising)」のような変形は、記載された要素、整数もしくはステップ、または要素、整数もしくはステップの群を含むことを意味するが、他の要素、整数もしくはステップ、または要素、整数もしくはステップの群を除外しないことを意味すると理解されるであろう。
【0035】
本明細書を通じて、用語「からなる(consisting of)」は、のみからなることを意味する。
【0036】
本明細書に含まれる文書、行為、材料、装置、物品等に関するいかなる議論も、本技術の文脈を提供する目的だけのものであり、これらの事項のいずれかまたはすべてが、本明細書の各請求項の優先日前に存在した、従来技術ベースの一部を形成するか、本技術に関連する分野における共通の一般的知識だったことを認めるものと解釈されないようにしなければならない。
【0037】
文脈上他に要求されない限り、または反対のことが明確に述べられない限り、単数の整数、ステップ、または要素として本明細書に記載された技術の整数、ステップ、または要素は、明らかに、記載された整数、ステップ、または要素の単数形と複数形の両方を包含する。
【0038】
本明細書の文脈では、用語「a」および「an」は、冠詞の文法的対象物の1つまたは2つ以上(すなわち、少なくとも1つ)を指すために使用される。例として、「ある要素」への言及は、1つの要素、または2つ以上の要素を意味する。
【0039】
本明細書の文脈では、用語「約(about)」は、数値または値への言及が絶対的な数値または値としてとらえられるのではなく、典型的な誤差または機器の制限の範囲内を含む当業者が当技術に従って理解するであろうものに沿って数値または値の上または下の変動の余地を含むことを意味している。言い換えれば、用語「約」の使用は、同じ機能または結果を達成するという文脈で当業者が言及された値と同等であると考える範囲または近似値を指すと理解される。
【0040】
本明細書で使用される場合、「治療(treat)」、「治療(treating)」等の用語は、所望の薬理学的および/または生理学的効果を得ることを指す。その効果は、疾患またはその症状を完全にまたは部分的に予防する観点から予防的であってもよく、および/または疾患および/または疾患に起因する副作用を部分的にまたは完全に治癒させる観点から治療的であってもよい。「治療(treatment)」は、本明細書で使用される場合、哺乳動物、特にヒトにおける疾患の任意の治療を対象とし、以下が挙げられる:(a)疾患の素因を有する可能性があるが、まだ疾患であると診断されていない対象において疾患が発生するのを防止すること;(b)疾患を抑制すること、すなわち疾患の発生を阻止すること;および(c)疾患を緩和すること、すなわち疾患の退縮を引き起こすこと。
【0041】
本明細書において互換的に使用される用語「個体」、「対象」、および「患者」は、限定されないが、魚(例えば、ゼブラフィッシュ)、齧歯類(ラット、マウス)、非ヒト霊長類、ヒト、イヌ、ネコ、および有蹄動物(例えば、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウズラ)などの動物を指す。いくつかの実施形態では、対象はヒトである。
【0042】
「治療上有効な量」または「効能量」とは、哺乳動物または他の対象に投与された場合、疾患に対するそのような治療を効果的に行うのに十分な化合物の量を意味する。「治療上有効な量」は、化合物または細胞、疾患およびその重症度、ならびに治療される対象の年齢、体重等によって変化する。
【0043】
当業者は、本明細書に記載された技術が、具体的に記載されたもの以外の変形および修正の影響を受けやすいことを理解するであろう。本技術は、そのようなすべての変形および修正を含むと理解される。疑問を回避するために、本技術はまた、本明細書で言及または示された全てのステップ、特徴、および化合物を、個別にまたは集合的に、ならびに前記ステップ、特徴、および化合物の任意の2つ以上のあらゆる全ての組み合わせを含む。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1図1:ゼブラフィッシュの心臓再生におけるKlf1発現。(A)非損傷(No injury)および損傷(7dpi)心室のqPCR 解析。(B)Semi-qPCR。Tg(cmlc2:EGFP)、Tg(fli1a:EGFP)およびTgBAC(tcf21:DsRed2)魚の非損傷の心室および損傷後7日(dpi)の心室からそれぞれ心筋細胞(CM)、心内膜細胞(End)、心外膜細胞(Epi)を蛍光活性化細胞選別(FACS)で精製した。(C)RNAScope解析。矢頭は心筋中のklf1 mRNA。矢印は血球前駆細胞様細胞中のklf1 mRNA。***p < 0.005。
【0045】
図2図2:ゼブラフィッシュの心臓再生におけるKlf1機能。(A)コントロール(KlfDN-OFF)またはドミナントネガティブKlf1を発現するトランスジェニックゼブラフィッシュ(KlfDN-ON)からの心室のピクロマロリー染色。点線は切除面。dpiは損傷後日数。KlfDNを発現するトランスジェニック系統の詳細は、図11Aに記載されている。(B)筋細胞核マーカー、筋細胞エンハンサー因子2(Mef2)、および増殖細胞核抗原(PCNA)の免疫蛍光によって検出された増殖CMの定量化。*P < 0.05。
【0046】
図3図3:再生ゼブラフィッシュ心臓におけるklf1の発現と機能解析。(A)損傷した心室におけるklf1の定量的逆転写PCR(RT-qPCR)解析(平均±SEM、n = 5-6)。遺伝子発現は、0dpi(損傷後日数)で示される非損傷のコントロール群におけるレベルとの相対値で示される。(B)精製心臓細胞におけるklf1のRT-qPCR解析(平均値±SEM)。心筋細胞(CM)、心内膜細胞(End)および心外膜細胞(Epi)は、それぞれTg(cmlc2:EGFP)、Tg(fli1a:EGFP)およびTgBAC(tcf21:DsRed2)魚の未損傷心室および7 dpi心室から蛍光活性細胞選別(FACS)を用いて精製された。遺伝子発現は、未損傷の心筋細胞におけるレベルとの相対値で示される。RNAscopeを用いたklf1 mRNAのin situハイブリダイゼーションと再生心臓のTnCに対する免疫蛍光(図示せず)により、klf1 mRNAが造血細胞と心筋に検出されたことが示された。(C)klf1ctの非変異原性配向から変異原性配向へのCre依存的な変換。klf1ctの構築と特徴づけの詳細は図9を参照。(D)コントロール(klf1-CT)およびklf1欠失心臓(klf1-MT)の心室切片のピクロマロリー染色を行い、再生を定量化した(n = 20-22)。(E、F)平滑筋タンパク質22α(Sm22)またはAlcamのいずれかを用いたミオシン重鎖(MHC)または心臓トロポニンC(TnC)の免疫蛍光染色、およびSm22MHC+(E)またはAlcamTnC(F)領域の定量化を示すために作成した箱ひげ図(n = 5-6)。(G)筋細胞核マーカー、筋細胞エンハンサー因子2(Mef2)、および増殖細胞核抗原(PCNA)の免疫蛍光染色。Mef2+PCNA+細胞の定量化を示すために箱ひげ図を作成した(n = 7-9)。独立t検定による *p < 0.05、**p < 0.01、****p < 0.001(E、F、G)。
【0047】
図4図4:ゼブラフィッシュKlf1誘導CM脱分化。Klf1過剰発現に伴う脱分化マーカー(runx1;A)の発現誘導と分化筋マーカー(vmhc、actc1a、myom2a;B)の抑制。Klf1過剰発現(ON)後7日目におけるKlf1-ONおよびOFF心室のqPCR解析。Klf1過剰発現に用いたトランスジェニック系統の詳細は、図12Aに記載した。*P<0.05; **P<0.01; ***P<0.005。
【0048】
図5図5: CM増殖におけるゼブラフィッシュのKlf1機能。(A)ON後9から11日目にEdUを1日1回注射し,ON後12日目にS期CMをEdU+CMとして定量化した。(B)有糸分裂期CMはホスホヒストン(phospho-histone)H3(pHH3)+CMとしてON後12日目に定量化した。(C)細胞増殖マーカーのqPCR解析。Klf1過剰発現に使用したトランスジェニック系統の詳細は、図12Aに記載されている。*P<0.05; **P<0.01; ***P<0.005; ****P<0.001。NDは検出不能。
【0049】
図6図6:マウスKlf1機能。(A)半qPCR解析。新生仔マウスの心臓を生後3日目に損傷させ、6日目に回収した。(B)CM増殖は、心臓トロポニンT(TnT)とKi67との共標識によって評価し、コントロール(GFP)またはKLF1アデノウイルス(KLF1)を注入した非損傷の成体マウス心臓において定量化した。xzおよびyz平面で共標識が確認された。(C)S期CMの解析。EdU+核をWGAで包含し、定量化した。*P<0.05; **P<0.01。dptはトランスフェクション後の日数;LVは左心室。
【0050】
図7図7:心筋修復におけるマウスKlf1機能。(A)CM増殖は、TnTとKi67の共標識によって評価し、心筋梗塞(MI)後14日目に定量化した。(B)CM有糸分裂は、TnTとpHH3の共標識によって評価し、M1後14日目に定量化した。(C)コントロール(Ad-GFP)またはKLF1アドノウイルス(Ad-Klf1)で処置した心臓のMI後28日でのゴモリトリクローム染色による解析。(D)Ad-GFPまたはAd-Klf1で処置した心臓のエコー解析。
【0051】
図8図8:(A)Zwitch2遺伝子トラップカセット。(B)Creを介したklf1遺伝子の不活性化の模式図。(C)心筋特異的なklf1遺伝子発現の不活性化。(D)klf1遺伝子発現の心筋特異的不活性化によるCM増殖の抑制。(E、F)klf1遺伝子発現の心筋特異的不活性化によるCM脱分化マーカーの減少。
【0052】
図9図9:ゼブラフィッシュklf1コンディショナルアレルの作製と特徴付け。Zwitch2は、スプライスアクセプター部位に続くトリプレットポリA配列(3xBGHpA)とフリパーゼ認識ターゲット(FRT)に挟まれた取り外し可能なカセット(LG-tag)からなり、この中で水晶体特異的アルファAクリスタリン(cryaa)プロモーターの制御下で強化緑蛍光タンパク質(EGFP)を発現させてスクリーニングに使用される。スプライスアクセプター部位、P2Aペプチド配列および3xBGHpAを含むセグメントは、両端に逆向きでタンデムloxPとlox5171部位によって挟まれている。このCre標的部位の配置に対するCreを介した組換えはカセットを永久に反転させ、スプライスアクセプターは正常なスプライシングパターンを妨害する。(A)ゼブラフィッシュのklf1野生型(+)アレル、イントロン1にDNA二本鎖切断を誘導するために使用された転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、および得られた条件付きklf1ctアレルの模式図。エクソンは番号のついた塗りつぶしのボックスで示している。TALENペアの結合部位は青色でハイライトされ、TALEN標的部位は破線矢印で示されている。(B)Zwitch2が正しく挿入されていることを、(A)で示したプライマーを用いてゲノムPCR解析した。LA内のプライマーをコントロールとして使用した。(C)Zwitch2修飾klf1アレルのサザンブロット解析。HpaI認識部位は(A)で示した。(D)水晶体におけるEGFPの発現を示す(矢印)Zwitch2が正しく挿入された胚の代表画像。(E) 胚におけるZwitch2逆位のゲノムPCR解析。klf1ct/+魚とTg(ubb:Cre-GFP)を交配し、各遺伝子型の4-7 dpf胚からのゲノムDNAを(A)で示したプライマーでのPCRを使用して解析した。コントロールプライマーは(B)で使用したものと同じであった。Cre-FおよびCre-RプライマーはCre-GFPの確認のために用いた。(F)各遺伝子型の7dpf胚のRT-qPCR解析(平均±SEM,n = 3-4)。RT-qPCR 解析には、1試料あたり1個の胚を使用した。(G)成体心臓における4-ヒドロタモキシフェン(hydrotamoxifen)(4-HT)依存性Zwitch2逆位のゲノムPCR解析。klf1-CTおよびklf1-MTは、それぞれklf1ct/ctおよびcmlc2:CreER; klf1ct/ctトランス遺伝子を保持するゼブラフィッシュを示す。コントロールプライマーは(B)と同じものを使用した。(H)klf1-CTおよびklf1-MT魚の4-HT処置、非損傷および7dpi心室のRT-qPCR解析(平均±SEM、n=4)。BGHp(A)はウシ成長ホルモンポリアデニレーションシグナル;cryaaはアルファA-クリスタリン;dpfは受精後日数;dpiは損傷後日数;klf1+/+はクラッチメイトコントロール;LAは左アーム;NSは有意ではない;RAは右アーム。*p < 0.05、独立t検定。
【0053】
図10図10:ゼブラフィッシュの発生におけるKlf1機能。(A)7dpfのubb:Cre-GFP; klf1ct/ct胚で重度の心臓浮腫が観察されたが、ubb:Cre-GFP; klf1+/+胚(クラッチメイトコントロール)では観察されなかった。n =3(+/+)、4(ct/+)または4(ct/ct)。(B)7dpfのubb:Cre-GFP; actb2-BS-dn-klf1胚では重度の心臓浮腫が観察されたが(矢頭)、ubb:Cre-GFP胚では観察されなかった(クラッチメイトコントロール)(n = 7)。actb2-BS-dn-klf1の詳細は、図11Aに記載されている。(C)klf1-CTおよびklf1-MT胚の心室切片を用いた筋細胞エンハンサー因子2(Mef2)およびミオシン重鎖(MHC)の免疫蛍光。胚は1から3dpfまで4-ヒドロキシタモキシフェン(4-HT)で処置し、7dpfで解析した。単一光学面におけるMef2+核の定量化(平均±SEM,n = 7-9)。(D)actb2:BS-dn-klf1(クラッチメイトコントロール)およびcmlc2:CreER; actb2:BS-dn-klf1 胚の心室切片を用いたMef2およびMHCの免疫蛍光。胚は1から3dpfまで4-HTで処置し、7dpfに解析した。単一光学面におけるMef2+核の定量化(平均±SEM,n = 6-8)。(E) 4dpfにおけるklf1ct/ct(クラッチメイトコントロール)およびubb:Cre-GFP; klf1ct/ct胚の心室切片を用いた Mef2およびMHCの免疫蛍光。単一光学面におけるMef2+核の定量化(平均±SEM、n = 5-7)。(F)4dpfにおけるactb2:BS-dn-klf1(クラッチメイトコントロール)およびubb:Cre-GFP; actb2:BS-dn-klf1胚の心室切片を用いたMef2およびMHCの免疫蛍光。単一光学面におけるMef2+核の定量化(平均±SEM、n = 8-9)。心臓浮腫は5dpf以降に顕著に見られるが、4dpfでは見られないことに注意。dpfは受精後日数。χ検定(A)、フィッシャーの直接確率検定(B)、または独立t検定(C-F)による*p < 0.05、****p < 0.001。
【0054】
図11図11:ゼブラフィッシュのドミナントネガティブKlf1の発現による心臓再生の障害。(A)Tg(actb2:loxP-TagBFP-STOP-loxP-dn-klf1)vcc22ゼブラフィッシュ系統(以下actb2:BS-dn-klf1)を確立し、4-ヒドロキシタモキシフェン(4-HT)処置で心筋細胞特異的にdn-Klf1を発現するcmlc2:CreERと交配させた。EnRはエングレイルドリプレッサードメイン(engrailed repressor domain)。(B)ピクロマロリー染色を行い、再生を定量化した(n = 5-7)。(C)平滑筋タンパク質22α(Sm22)およびミオシン重鎖(MHC)の免疫蛍光を行い、Sm22+MHC+領域の定量化を示す箱ひげ図を作成した(n = 4-5)。(D)筋核マーカーMef2および増殖細胞核抗原(PCNA)の免疫蛍光を行い、Mef2+PCNA+細胞の定量化を示す箱ひげ図を作成した(n = 9-10)。フィッシャーの直接確率検定(B)または独立t検定(C、D)による***p < 0.005、****p < 0.001。スケールバーは50μm。
【0055】
図12図12:ゼブラフィッシュ心筋Klf1の機能獲得解析。(A)Tg(actb2:loxP-TagBFP-STOP-loxP-3xHA-klf1)vcc29魚を cmlc2:CreER 魚と交配し、ダブルトランスジェニック魚とCreネガティブクラッチメイトをそれぞれklf1-ON、klf1-OFF と称する。(B)klf1-OFF魚とklf1-ON魚に用いた4-ヒドロキシタモキシフェン(4-HT)処置計画。ミオシン重鎖(MHC)、平滑筋タンパク質22α(Sm22)、トロポニンC(TnC)またはAlcamの免疫蛍光を行った。サルコメア分解は7日目以降、アクチニンの免疫蛍光とTEMにより検出された。(C)筋細胞核マーカーである筋細胞エンハンサー因子2(Mef2)と増殖細胞核抗原(PCNA)の免疫蛍光を行い、定量化した(平均±SEM、n = 7)。(D)EdU取り込みアッセイ。拡大した区画領域のxzおよびyz平面上に画像を収集し、定量化した(平均±SEM、n = 8)。EdU+心筋細胞は、z平面でEdU+核がcmlc2:GFP+心筋であった場合のみカウントした。(E)ホスホヒストンH3(pHH3)の免疫蛍光を行い、定量化した(平均±SEM、n=6)。pHH3+心筋細胞は、pHH3+核がz平面でcmlc2:GFP+心筋にあったときのみカウントされた。(F)Tg(cmlc2:3xHA-klf1-ER; cryaa:TagBFP)vcc32(以下、klf1-ER)、心筋細胞におけるKlf1の一過性の核移行を可能にしたトランスジェニック系。(G)、klf1-ER魚に用いた4-HT処置計画。klf1-ER魚にビヒクルまたは4-HT O/Nで7日間処置し、その後通常の水槽条件下で30日間の回復期間を設けた。(H)ビヒクルまたは4-HTで7日間処置した30日後のklf1-ER心臓の総形態を解析した。(I)(H)の心臓切片のピクロマロリー染色。(J)(I)の定量化。(K、L)(H)の解離したCMの細胞サイズ定量(K)[n = 332(ビヒクル)、326(4-HT)]、細胞数カウント(L)(平均±SEM、n = 3)。2つの独立した解析による代表データを(K)および(L)に示している。atは心房(atrium); baは動脈球(bulbus arteriosus); DAPIは4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール;dptは処置後日数;5dUは5-エチニル-2’-デオキシウリジン(5-ethynyl-2'-deoxyuridine);O/Nはオーバーナイト(overnight); TEMは透過型電子顕微鏡(transmission electron microscope); Vehはビヒクル(Vehicle); vtは心室(ventricle)。Mann-Whitney U検定(C、D、E)または 独立t検定(K、L)による、*p < 0.05、**p < 0.01、****p < 0.001。スケールバーは(H、I)で500μm。
【0056】
図13図13:Klf1関連ファミリーメンバーの機能解析とKlf1発現の心筋以外への影響。klf1-ONまたはklf1-OFFの心臓組織切片を用いて、血管系(A)(平均±SEM、n=4)および心外膜細胞領域(B)(平均±SEM、n=3-4)の定量化を行った。(C)Klf1、Klf2a、Klf2bおよびKlf4を発現する心臓の切片におけるpHH3+アクチニン+心筋細胞の定量化(平均±SEM、n=4)。Klf2a、Klf2bおよびKlf4は、klf1-ONについて述べたように、誘導性様式で心筋細胞に発現した(図12A)。z平面におけるアクチニン+心筋内のpHH3+核を有糸分裂心筋細胞としてカウントした。pHH3はホスホヒストン(phospho-histone)H3。独立t検定による、*p<0.05、****p<0.001。
【0057】
図14図14:klf1-ONゼブラフィッシュにおける心機能不全。(A)12dptにおけるklf1-ON魚の、鱗の盛り上がり(かっこ)、血液の鬱血(矢印)および腹部浮腫(矢頭)などの心不全様表現型。(B)、klf1-ON魚の生存率が有意に低下していることを証明するKaplan-Meier生存曲線(n = 10; p < 0.0001、log-rank検定)。
【0058】
図15図15:ゼブラフィッシュにおけるKlf1誘導心臓再成長のエピジェネティック解析。(A、B)7dptでのklf1-OFFおよびON心室から3xHA-Klf1 ChIP-seqリード密度のヒートマップを作成し(A)、Klf1ピークの頂上から±100 bp以内のモチーフを濃縮した(B)。(C)GREATを用いたKlf1ピークの機能的アノテーション。(D)7dptでのklf1-OFFおよびON心室におけるKlf1 ChIP-seqピークでの5-メチルシトシン(5mC)レベル、およびH3K27ac、H3K4me1またはH3K4me3の正規化ChIP-seqリード密度のソートされたヒートマップ。Klf1 ChIP-seqピークはH3K27ac/H3K4me1(エンハンサー)およびH3K4me3プロファイル(プロモーター)に基づいて2つのカテゴリーに分けられ、ヒートマップはそれに応じて表示されている。(E)7dptでのklf1-OFFとON心室から得られたATAC-seqのリードのヒートマップ。(F)(E)で得られた差次濃縮ATAC-seqピークを中心としたH3K27ac ChIP-seqピークのヒートマップ。(G)(E)のklf1-ON心臓における全遺伝子と減少したATAC-seqピークに最も近い遺伝子のmRNA発現を示す箱ひげ図。(H)GREATを用いたklf1-ON心臓の減少したATAC-seqピークの機能的アノテーション。(I)7dptでのklf1-OFFおよびON心臓のRNA-seqデータにおける心筋収縮転写物のKEGG遺伝子セットの濃縮スコアを証明するGSEAプロット(FDR < 1.0 × 10-6)。Bpは塩基対(base pairs); ChIPはクロマチン免疫沈降(chromatin immunoprecipitation); dptは処置後日数(day post-treatment); FCは倍率変化(fold-change); FDRは偽陽性の割合(false discovery rate); GREATはゲノム領域エンリッチメントアノテーションツール(genomic regions enrichment of annotations tool); GSEAは遺伝子セットエンリッチメント解析(gene set enrichment analysis); KEGGは遺伝子およびゲノムの京都百科事典(Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes)。
【0059】
図16図16:Klf1誘導ゼブラフィッシュの心臓再成長のトランスクリプトームおよびメタボローム解析。(A、B) GOバイオプロセス(A)とKEGG経路(B)からのアップレギュレートおよびダウンレギュレートされた遺伝子セットを証明する7dptでのklf1-OFFとON心臓のRNA-seqデータのエンリッチメント解析。(C-E)、細胞分裂(C)、DNA複製(D)および前駆代謝物およびエネルギーの生成(E)などの遺伝子シグネチャの濃縮スコアを証明する7dptでのklf1-OFFとON心臓のRNA-seqデータの解析によるGSEAプロット。(F)klf1-OFFおよびONの心室心筋のミトコンドリアの超微細構造をTEMで解析し、クリスター数を定量化した(平均±SEM、n = 30-32)。(G)7dptでのklf1-OFFおよびON心室におけるミトコンドリアDNA量(mtDNA)のqPCRを用いた定量化(平均±SEM、n = 3)。mtDNA(mt-co1、mt-nd1)の発現は核DNA(nDNA、actb2)の発現で正規化し、klf1-OFFコントロールにおけるレベルとの相対値で示した。(H-K)klf1-OFFおよびON心室における7dptでのNADH(H)、NAD+(I)、NADH/NAD+比(J)、ATP(K)の定量化(平均±SEM、n = 3-4)。(L)7dptでのklf1-OFFおよびON心室のRNA-seqデータから得られたミトコンドリア生合成および機能を制御する遺伝子の発現値(FPKM単位)(平均±SEM、n = 4)。(M-P)7dptでのklf1-OFFおよびON心室におけるグルコース6-リン酸(M)、リボース5-リン酸(N)、セドヘプツロース7-リン酸(O)、セリン(P)の質量分析による定量化(平均±SEM、n = 5)。定量値はklf1-OFFコントロールのレベルとの相対値で示した。(Q-S)7dptでのklf1-OFFおよびON心室におけるNADPH (Q)、NADP+ (R)、NADPH/NADP+比(S)の定量化(平均±SEM、n = 3)。FDRは偽陽性の割合(false discovery rate)、FPKMはマッピングされた100万リードあたりのエクソン1キロベースあたりのフラグメント(fragments per kilobase of exon per million mapped reads);GOは遺伝子オントロジー(gene ontology); GSEAは遺伝子セットエンリッチメント解析(gene set enrichment analysis); KEGGは遺伝子およびゲノムの京都百科事典(Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes)、独立t検定による、*p < 0.05、**p < 0.01、*** p < 0.005、****p < 0.001。
【0060】
図17図17:マウス心臓におけるKlf1機能の広範な解析。(A)心筋梗塞後の新生仔および成体マウス心臓におけるマウスKlf1(mKlf1)発現の時間経過qRT-PCR解析(平均±SEM、n=3-4)。遺伝子発現は、非損傷のコントロール群(0dpi)のレベルとの相対値で示す。MIは、成体マウスおよび出生後2日目の新生仔マウスにおいて左前下行(LAD)冠動脈の永久結紮により誘発された。(B)本研究に用いたアデノウイルスベクター。(C)本研究で行った実験と解析。Echoは心エコー図。(D)Ad-mKlf1からの強化緑蛍光タンパク質(EGFP)レポーター発現の免疫組織化学。点線は梗塞部位を概説する。(E-G)Ad-GFP(コントロール)およびAd-mKlf1注入心臓の時間経過心エコー図(平均±SEM、n=7-11)。駆出率(E)および左室内径短縮率(F)、ならびに代表的なBモードおよびMモード画像(G)を示している。ベースラインの心機能はMI前に測定し、0dpiと表示した(E、F)。(H)Ad-GFP処置またはAd-mKlf1処置した心臓からの組織切片のゴモリトリクローム染色。各処置群について2つの独立した心臓が示されている。(I、J)(H)の心臓修復(I)および瘢痕組織サイズ(J)の定量化(平均±SEM、n=8)。(K)断面における損傷境界域心筋のTnTおよびWGAの免疫蛍光を行い、定量化した(平均±SEM、n=5)。(L-N)Ad-GFP(コントロール)およびAd-mKlf1注入心臓におけるKi67+TnT+心筋細胞(L;平均±SEM、n=5)、EdU+TnT+心筋細胞(M;平均±SEM、n=3-4)、pHH3+TnT+心筋細胞(N;平均±SEM、n=5)の定量化。dpiは処置後日数(day post-treatment); EdUは5-エチニル-2’-デオキシウリジン(5-ethynyl-2'-deoxyuridine); pHH3はホスホヒストン(phospho-histone)H3; WGAは小麦胚芽凝集素(wheat germ agglutinin)。x2検定で解析した(I)を除くすべてのパネルで、独立t検定による、*p < 0.05、*** p < 0.005。
【0061】
図18図18:マウスの生存率および非心筋組織におけるmKlf1過剰発現の効果。(A)Ad-GFPまたはAd-mKlf1を静脈内注射したマウスの肝臓組織切片におけるKi67の免疫蛍光を行い、mKlf1発現の検証のためにEGFPの免疫染色を示した。Ki67+肝細胞は自家蛍光で可視化し、画像中で形態学的に同定し、定量化した(平均±SEM、n = 10)。(B)Ad-GFPおよびAd-mKlf1を注射したMI後のマウスの心室切片におけるCD31の免疫蛍光を行い、毛細血管を定量化した(平均±SEM、n=5)。Ad-GFPは緑色蛍光タンパク質コンストラクトを含むアデノウイルスベクター(コントロール)(adenovirus vector containing green fluorescent protein construct (control));Ad-mKlf1はmKlf1コンストラクトを含むアデノウイルスベクター(adenovirus vector containing mKlf1 construct);独立t検定による、***p < 0.005(A、B)。
【0062】
図19図19:Klf1誘導心筋再生におけるHippoおよびErbBシグナル伝達経路の役割。(A、B)7dptでのklf1-OFFおよびON心臓のRNA-seqデータにおけるHippoシグナル伝達(A)およびErbBシグナル伝達(B)経路に関連するKEGG遺伝子セットの濃縮スコアを証明するGSEAプロット。(C、D)YAPまたはErbBの薬理学的阻害を行った7dpt klf1-ON心臓における筋細胞エンハンサー因子2(Mef2)および増殖細胞核抗原(PCNA)の免疫蛍光は、Mef2とPCNAで共ラベル化した増殖心筋細胞を示した。YAP(C;平均±SEM、n = 4)またはErbB(D;平均±SEM、n = 4)を阻害した心臓でMef2+PCNA+細胞を定量化した。dptは処置後日数(day post-treatment); FDRは偽陽性の割合(false discovery rate)、GSEAは遺伝子セットエンリッチメント解析(gene set enrichment analysis); KEGGは遺伝子およびゲノムの京都百科事典(Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes)、YAPはyes関連タンパク質(yes-associated protein)。
【0063】
実施形態の説明
成人の心筋細胞は増殖能に限界のある最終分化細胞であるため、多くの心疾患は置換されない心筋細胞の喪失を伴う。本明細書で証明するように、KLFまたはKLF核酸の投与は、心筋再生の促進に有用である。本明細書で証明するように、KLF1およびKLF2bの各々は、心筋再生を促進するのに有用である。このプロセスは、その後増殖し、続いて心筋細胞へと分化する成体心筋細胞の脱分化を含む。すなわち、少なくとも1つのKLFの投与は、成体心臓における心筋再生を促進または誘導するのに有用である。
【0064】
一実施形態では、KLF誘導心筋再生は、細胞系譜をリプログラムすることによってではなく、成体心筋細胞の状態を増殖状態にリプログラムすることによって生じる。これは、リプログラムされた心筋細胞が近隣の組織における成長を促進することを伴ってもよい。
【0065】
いくつかの実施形態では、心筋再生としては、心外膜細胞および内皮細胞の拡張が挙げられる。
【0066】
方法
例えば、少なくとも1つのKLF核酸を心臓組織に投与することによりKLFのレベルまたは活性を高めることは、in vitroまたはin vivoでの心筋再生の促進または誘導に有用である。したがって、少なくとも1つのKLF、または少なくとも1つのKLF核酸、またはKLF核酸を含む少なくとも1つの発現ベクターを対象に投与することを含む心筋再生の促進または誘導のための方法が提供される。一実施形態では、心筋再生は、心筋細胞脱分化、例えば成体心筋細胞の脱分化と関連している。
【0067】
好適な対象としては、心臓疾患を有する個体(例えば、ヒトなどの哺乳類対象;非ヒト霊長類;マウス、ラットなどの実験的非ヒト哺乳類対象)が挙げられる。心臓疾患は、虚血性心臓組織、例えば、冠動脈疾患を有する個体;などをもたらしうる。好適な対象としては、心不全、または家族性心筋症、拡張型心筋症、肥大型心筋症、拘束型心筋症、または虚血性心筋症をもたらす冠動脈疾患などの変性心疾患を有するものが挙げられる。
【0068】
対象は、乳児、子供、または成人であってもよい。
【0069】
一実施形態では、該方法は、KLF、KLF核酸、またはKLF核酸を含む発現ベクターを、対象の心筋細胞または心筋組織に投与することを含む。代替的にまたは追加的に、本方法は、対象の心筋細胞におけるKLFの発現を誘導することを含み得る。心筋細胞における活性型KLFの添加または発現は、心筋細胞を脱分化させる。得られた細胞(増殖性心筋細胞)は、その後、例えば虚血イベントにより失われた心筋細胞の少なくとも一部を置換するために増殖することができる。増殖後、脱分化した細胞は、機能的な心筋細胞へと再分化する。
【0070】
いくつかの実施形態では、KLF、KLF核酸、またはKLF核酸を含む発現ベクターは、心筋細胞または心臓組織に投与される。心筋細胞および/または心臓組織への投与は、in vitroまたはin vivoで行われ得る。KLF、KLF核酸、またはKLF核酸を含む発現ベクターは、細胞に直接接触させる、すなわち細胞に直接適用することができ、あるいは代わりに、例えばKLF、KLF核酸、または発現ベクターを対象の血流に注入し、それによって分子を細胞へ運び、間接的に細胞と結合させることも可能である。代替的にまたは追加的に、KLF、KLF核酸、またはKLF核酸を含む発現ベクターは、例えば心筋への注射によって、心臓に直接投与され得る。
【0071】
これらの方法において、治療上有効な量のKLF、KLF核酸または発現ベクターが対象に投与される。いくつかの実施形態では、投与としては、KLF、KLF核酸または発現ベクターを心臓組織へまたは心筋細胞へ直接送達することが挙げられる。
【0072】
KLF、KLF核酸または発現ベクターの投与は、当技術分野で公知の任意の方法によって達成することができる。いくつかの実施形態では、細胞とKLFまたはKLF核酸を接触させることは、in vitroまたはin vivoで起こる。KLFまたはKLF核酸は、細胞と直接接触させてもよく、すなわち心筋細胞に直接適用してもよく、あるいは代わりに、例えばKLF1またはKLF1核酸を対象の心臓組織に注入することによって、細胞と間接的に結合させてもよい。
【0073】
いくつかの実施形態では、KLF、KLF核酸または発現ベクターを投与することにより、内因性KLFレベルと比較して心筋細胞または心臓組織におけるKLFのレベルが増加する。この文脈で使用される用語「内因性」は、KLF、KLF核酸または発現ベクターを投与する前のKLFの発現および/または活性の「天然に存在する」レベルを指す。
【0074】
心筋再生
心筋再生は、心臓の筋肉組織(心筋)を形成する心筋細胞(CM)が分裂し、新しい細胞を作る複雑なプロセスである。本明細書で開示するように、KLF誘導心筋再生は、CMのリプログラミングおよびそれらの細胞の拡張(増殖)に続き、成熟した収縮性CMへの再分化によって媒介される。
【0075】
KLFは、心筋細胞の脱分化を誘導し、増殖性心筋細胞を産生する。すなわち心筋細胞は、正常な成人個体では他の細胞種を形成または再生するための分化が不可能な最終分化細胞である。一般に、心筋細胞は出生後、2核化や中心体の分解を特徴とする最終分化を起こし、心臓の再生が不可能になると認められている。しかし、本明細書で証明するように、KLFを投与すると、CMが増殖性CMに脱分化することが誘導される。いくつかの実施形態では、増殖性CMは有糸分裂性である。
【0076】
いくつかの実施形態では、本方法としては、増殖性心筋細胞をKLFの存在下で増殖させることが挙げられる。これは、適切な細胞または組織培養条件下でin vitroで発生してもよく、またはin vivoで発生してもよい。増殖の結果は、各CMが増殖性心筋細胞の集団を産生することである。
【0077】
一旦KLFが除去されると、または一旦KLFが代謝されるかそうでなければ分解されると、増殖性心筋細胞の集団は自発的に分化して心筋細胞の集団を産生する。このようにして、KLFは、in vitroまたはin vivoで心筋細胞の数を増加させるために使用することができる
【0078】
いくつかの実施形態において、KLFは、脱分化を促進するためにクロマチンリモデリングを誘導する。
【0079】
一実施形態では、KLFを発現するCMは、パラクライン効果を有する。例えば、本明細書で例示するように、KLFの発現は、心外膜細胞および血管内皮細胞の数を増加させる。
【0080】
一実施形態では、ミオシン重鎖(MHC)プロモーターの制御下でCMにおけるKLFの発現は、心外膜および内皮細胞のマーカーであるRaldh2(レチナアルデヒド脱水素酵素2;Aldh1a2としても知られている)の発現を導出することはない。従って、CMにKLFを発現させても細胞系譜は変化しない。また、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12日間増殖させても、細胞系譜は変化しない。いくつかの実施形態では、MHCプロモーターによるKLFの発現は、正常なCMと比較して低下したレベルである。
【0081】
すなわち、成人の心臓におけるKLF誘導心筋再生は、細胞系譜のリプログラミングを伴わない。むしろ、KLF誘導心筋再生は、隣接する組織の成長を促進する能力とともに、成人CMの状態を極めて増殖的な状態にリプログラムすることによって特徴付けられる。
【0082】
いくつかの実施形態では、KLF誘導心筋再生は、酸化的リン酸化(OXPHOS)からペントースリン酸経路(PPP)および/またはセリン合成経路(SPP)へのスイッチ型のエネルギー産生によって特徴付けられる。
【0083】
KLF1
本明細書で使用する場合、「クルッペル様(Kruppel-like)因子」または「KLF」は、任意の種(例えば、マウス、ヒト、非ヒト霊長類)由来のKLF1またはKLF2bの任意のタンパク質変異体、ならびにKLF活性を保持するその任意の突然変異体および断片を指す。同様に、「KLF核酸」は、KLFをコードする任意の核酸配列、例えば、任意の種、例えば、マウス、ヒト、または非ヒト霊長類からの核酸配列を指す。ヒトKLF1のアミノ酸配列を配列番号1に示し、ヒトKLF1のヌクレオチド配列を配列番号2に下線で示し、コード配列を配列番号3に示す。マウスKLF1のヌクレオチド配列を配列番号4に、コード配列を配列番号5に示す。KLF1は、赤血球クルッペル様転写因子(EKLF)、クルッペル様因子1、INLU、またはHBFQTL6としても知られている。ゼブラフィッシュKLF2bのアミノ酸配列を配列番号6に、ゼブラフィッシュKLF2bのヌクレオチド配列を配列番号7に、コード配列を配列番号8に示す。また、ゼブラフィッシュKLF1アミノ酸配列を配列番号11に、ゼブラフィッシュKLF1のヌクレオチド配列を配列番号9に、コード配列を配列番号10に示す。[KK1]
【0084】
いくつかの実施形態では、KLFは、非ヒトまたは非哺乳類種由来であってもよい。例えば、KLFは、ゼブラフィッシュ、またはサンショウウオもしくはヘビのような再生種由来であってよい。
【0085】
本明細書に記載されるように、KLFまたはKLFをコードする核酸(KLF核酸)は、in vitroまたはin vivoで心筋再生を誘導するために使用しうる。したがって、KLFおよびKLF核酸は、心筋細胞の脱分化、増殖またはその両方が望ましいであろう状態、例えば心筋梗塞(MI)後の虚血性損傷;心臓毒性薬剤(例、ドキソルビシンなどのアントラサイクリン系抗生物質)、コカイン、メタンフェタミン、環系抗うつ薬、カルシウムチャンネル遮断薬、ベータ遮断薬およびジゴキシン)または、外傷後(偶発的か手術の結果としての意図的か)などによる心臓損傷後;心不全;または老化に伴う心機能低下などの治療に使用されうる。
【0086】
本明細書に開示された方法は、心臓再生に使用することができる。この文脈では、「心臓再生」は、損傷した心臓の構造的および/または機能的な再生または改善を指す。例えば、構造的な改善は、KLFの投与後の心臓における心筋細胞の量または数の増加であり得る。機能的な改善の例としては、KLF投与後の心臓の収縮力または駆出率の増加が挙げられる。
【0087】
例えば、駆出率、左室内径短縮率、またはその両方は、FLK投与前の駆出率または左室内径短縮率と比較して、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、またはそれ以上で増加することができる。
【0088】
いくつかの実施形態では、心臓再生は、KLFの投与後、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28日後までに起こる。
【0089】
本明細書に開示された方法は、KLF変異体またはKLF機能的断片を利用することができる。変異体または機能的断片は、野生型KLFと同じ特異性でDNAを結合することができ、野生型KLFの少なくとも1つの機能を保持するものである。例えば、一実施形態では、変異体または機能的断片は、DNA結合活性を保持するKLFの任意の変異体である。
【0090】
いくつかの実施形態では、KLFは、コンジュゲートまたは融合タンパク質であってもよい。例えば、KLF融合タンパク質である。融合タンパク質は、別のタンパク質、ペプチドまたはポリペプチドの少なくとも一部、例えば核局在配列または追加のKLFまたはそのドメイン、例えばトランス活性化ドメインにペプチド結合を介して結合したKLFの少なくとも一部を含む。いくつかの実施形態では、KLFは、別のタンパク質からのトランス活性化ドメイン、例えば、トランス活性化ドメインp53またはVP16と融合され得る。融合タンパク質は、マーカータンパク質(例えば、GFPなどの蛍光タンパク質)、または単離および/もしくは精製を補助するタンパク質(例えば、FLAGまたはHisタグ)を含むこともできる。非KLF配列は、KLF配列のアミノ末端またはカルボキシ末端とすることができる。
【0091】
いくつかの実施形態では、KLFは、1つ以上の核局在化配列と融合している。
【0092】
いくつかの実施形態では、KLF核酸は、KLF融合タンパク質をコードする。
【0093】
いくつかの実施形態では、本方法は、成熟KLFアミノ酸配列を含むKLFを投与することを必要とする。代替的に、KLFは、成熟KLFアミノ酸配列と少なくとも80%同一であってもよい。一般に、本明細書に記載の方法に有用なKLFは、野生型KLFアミノ酸配列と少なくとも80%同一であり、例えば、野生型アミノ酸配列に対して、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%の配列同一である。有用なKFLタンパク質は、日常的な実験によって同定することができる。一般に、KLFタンパク質は、野生型KLFとして機能する。
【0094】
本方法としては、成熟KLFコード配列を含むKLF核酸を投与することが挙げられる。代替的に、KLF核酸は、成熟KLFコード配列と少なくとも80%同一であってもよい。一般に、本明細書に記載の方法に有用なKLF核酸は、野生型KLF核酸と少なくとも80%同一であり、例えば、野生型核酸に対して、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99%配列同一である。有用な核酸は、日常的な実験によって同定することができる。一般に、核酸は、野生型KLFとして機能するタンパク質をコードしていなければならない。
【0095】
いくつかの実施形態では、KLF核酸は、ssRNA、dsRNA、dsDNAまたは発現ベクター、例えば、KLF核酸を含むプラスミド発現ベクターのウイルス発現ベクターであり得る。KLF核酸は、1つ以上の修飾を含んでもよい。
【0096】
いくつかの実施形態では、KLF核酸は、糖の2’位置で修飾された少なくとも1つのヌクレオチド、例えば2’-O-アルキル、2’-O-アルキル-O-アルキルまたは2’-フルオロ修飾ヌクレオチドを含む。他の実施形態では、RNA修飾としては、ピリミジンのリボース上の2’-フルオロ、2’-アミノおよび2’-O-メチル修飾、RNAの3’末端の塩基性残基または反転した塩基が挙げられる。
【0097】
多くのヌクレオチドおよびヌクレオシドの修飾は、それらが組み込まれた核酸をヌクレアーゼ消化に対してより抵抗性にする。修飾KLF核酸の具体例としては、修飾骨格、例えばホスホロチオエート、ホスホトリエステル、メチルホスホネート、短鎖アルキルもしくはシクロアルキル糖間結合または短鎖ヘテロ原子もしくは複素環式糖間結合を含むものが挙げられる。いくつかの実施形態では、KLF核酸の修飾は、ホスホロチオエート骨格またはヘテロ原子骨格、特にCH2-NH-O-CH2、CH、-N(CH3)-O-CH2(メチレン(メチルイミノ)またはMMI骨格として知られている)、CH2-O-N(CH3)-CH2、CH2-N(CH3)-N(CH3)-CH2もしくはO-N(CH3)-CH2-CH2骨格(ここでネイティブホスホジエステル骨格はO-P-O-CHとして表される);アミド骨格;モルホリノ骨格構造;ペプチド核酸(PNA)骨格(ここで、オリゴヌクレオチドのホスホジエステル骨格はポリアミド骨格で置換されており、ヌクレオチドはポリアミド骨格のアザ窒素原子に直接または間接的に結合されている)である。リン含有結合としては、ホスホロチオエート、キラルホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホトリエステル、アミノアルキルホスホトリエステル、3’アルキレンホスホネートおよびキラルホスホネートを含むメチルおよび他のアルキルホスホネート、ホスフィネート、3’-アミノホスホルアミデートおよびアミノアルキルホスホルアミデートを含むホスホルアミデート、チオノホスホルアミデート、チオノアルキルホスホネート、チオノアルキルホストリエステル、またはボランホスフェートが挙げられるが、これらに限定されない。
【0098】
その中にリン原子を含まない修飾核酸骨格は、短鎖アルキルもしくはシクロアルキルヌクレオシド間結合、混合ヘテロ原子およびアルキルもしくはシクロアルキルヌクレオシド間結合、または1以上の短鎖ヘテロ原子もしくは複素環ヌクレオシド間結合により形成されているck骨格を有している。これらは、モルホリノ結合(一部はヌクレオシドの糖部分から形成される);シロキサン骨格;スルフィド、スルホキシドおよびスルホン骨格;ホルムアセチルおよびチオホルムアセチル骨格;メチレンホルムアセチルおよびチオホルムアセチル骨格;アルケン含有骨格;スルファメート骨格;メチレンイミノおよびメチレンヒドラジノ骨格;スルホネートおよびスルホンアミド骨格;アミド骨格;および混合N、O、SおよびCH2構成部分を有するその他を有するものを含む。
【0099】
また1つ以上の置換された糖部分は、例えば、2’位置に以下のうちの1つ:OH、SH、SCH3、F、OCN、OCH3OCH3、OCH3O(CH2)n CH3、O(CH2)n NH2 またはO(CH2)n CH3(nは1から約10である);C1~C10低級アルキル、アルコキシアルコキシ、置換低級アルキル、アルカリールまたはアラルキル;Cl;Br;CN;CF3;OCF3;O-、S-またはN-アルキル;O-、S-またはN-アルケニル;SOCH3;SO2;CH3;ONO2;NO2;N3;NH2; ヘテロシクロアルキル;ヘテロシクロアルカリール;アミノアルキルアミノ;ポリアルキルアミノ;置換シリル;核酸の薬物動態特性を改善するための基;または核酸の薬力学特性を改善するための基および同様の特性を有する他の置換基を含みうる。別の例として、核酸配列としては、2’-デオキシ、2’-デオキシ-2’-フルオロ、2’-O-メチル、2’-O-メトキシエチル(2’-O-MOE)、2’-O-アミノプロピル(2’-O-AP)、2’-O-ジメチルアミノエチル(2’-O-DMAOE)、2’-O-ジメチルアミノプロピル(2’-O-DMAP)、2’-O-ジメチルアミノエチルオキシエチル(2’-O-DMAEOE)、または2’-O-N-メチルアセタミド(2’-O-NMA)などの2’-修飾ヌクレオチドが挙げられ得る。
【0100】
別の例として、KLF核酸配列としては、少なくとも1つの2’-O-メチル修飾ヌクレオチドを含むことができ、いくつかの実施形態では、ヌクレオチドの全てが2’-O-メチル修飾を含む。別の実施形態では、修飾は、2’-メトキシエトキシ[2’-O-CH2CH2OCH3、2’-O-(2-メトキシエチル)としても知られている]である。他の修飾としては、2’-メトキシ(2’-O-CH3)、2’-プロポキシ(2’-OCH2CH3)または2’-フルオロ(2’-F)などが挙げられる。また、核酸上の他の位置、特に3’末端ヌクレオチド上の糖の3’位置、5’末端ヌクレオチドの5’位置でも同様の修飾を行うことができる。また、核酸は、ペントフラノシル基の代わりにシクロブチルなどの糖模倣物を有してもよい。
【0101】
KLF核酸はまた、追加的または代替的に、塩基修飾または置換を含むことができる。本明細書で使用されるように、「非修飾」または「天然の」核酸塩基としては、アデニン(A)、グアニン(G)、チミン(T)、シトシン(C)およびウラシル(U)が挙げられる。修飾核酸塩基としては、天然の核酸にまれにしか存在しないか、または一過性にしか存在しない核酸塩基、例えば、ヒポキサンチン、6-メチルアデニン、5-Meピリミジン、特に5-メチルシトシン(5-メチル-2’デオキシシトシンとも呼ばれ、当技術分野でしばしば5-Me-Cと呼ばれる)、5-ヒドロキシメチルシトシン(HMC)、グリコシルHMCまたはゲントビオシルHMC、ならびに合成核酸塩基として、例えば、2-アミノアデニン、2-(メチルアミノ)アデニン、2-(イミダゾリルアルキル)アデニン、2-(アミノアルキルアミノ)アデニンまたは他のヘテロ置換アルキルアデニン、2-チオウラシル、2-チオチミン、5-ブロモウラシル、5-ヒドロキシメチルウラシル、8-アザグアニン、7-デアザグアニン、N6(6-アミノヘキシル)アデニンもしくは2,6-ジアミノプリンが挙げられる。イノシンも含まれ得る。他の修飾としては、5-メチルシトシン(5-me-C)、5-ヒドロキシメチルシトシン、キサンチン、ヒポキサンチン、2-アミノアデニン、アデニンおよびグアニンの6-メチルおよび他のアルキル誘導体、アデニンおよびグアニンの2-プロピルおよび他のアルキル誘導体、2-チオウラシル、2-チオチミンおよび2-チオシトシン、5-ハロウラシルおよびシトシン、5-プロピニルウラシルおよびシトシン、6-アゾウラシル、シトシンおよびチミン、5-ウラシル(擬似ウラシル)、4-チオウラシル、8-ハロ、8-アミノ、8-チオール、8-チオアルキル、8-ヒドロキシルまたは他の8-置換アデニンおよびグアニン、5-ハロ、特に5-ブロモー、5-トリフルオロメチルもしくは5-置換ウラシルおよびシトシン、7-メチルグアニンおよび7-メチルアデニン、8-アザグアニンおよび8-アザアデニン、7-デアザグアニンおよび7-デアザアデニン、3-デアザグアニンおよび3-デアザアデニンなどの他の合成および天然の核酸塩基が挙げられる。
【0102】
所定の核酸内のすべての位置が均一に修飾される必要はなく、前述の修飾のうちの1つを超える単一のオリゴヌクレオチド内に、あるいはオリゴヌクレオチド内の単一のヌクレオシド内にさえ組み込まれればよい。
【0103】
いくつかの実施形態では、核酸は、オリゴヌクレオチドの活性、細胞分布、または細胞への取り込みを強化する1つ以上の部位またはコンジュゲートに化学的に連結されている。そのような部分は、コレステロール部分、チオエーテル、例えば、ヘキシル-S-トリチルチオール、脂肪族鎖、例えば、ドデカンジオールまたはウンデシル残基、リン脂質、例えば、ジ-ヘキサデシル-rac-グリセロールまたはトリエチルアンモニウム1,2-ジ-O-ヘキサデシル-rac-グリセロ-3-H-ホスホネート、ポリアミンまたはポリエチレングリコール鎖、またはアダマンタン酢酸、パルミチル部分、またはオクタデシルアミンまたはヘキシルアミノカルボニル-tオキシコレステロール部分を含むが、それらに限定されない。
【0104】
いくつかの実施形態では、KLF核酸は、プロモーター配列に作動的に結合している。プロモーター配列は、構成的に活性であってもよいし、組成的に活性であってもよい。いくつかの実施形態では、プロモーター配列は心臓特異的であり、例えば、心臓特異的プロモーター配列は、アルファ-ミオシン重鎖(α-MHC)プロモーター、ミオシン軽鎖2(MLC-2)プロモーター、心臓トロポニンC(cTnC)プロモーター、NCX1プロモーターまたはTNNT2プロモーターであってよい。
【0105】
いくつかの実施形態では、KLF核酸は、誘導性プロモーター、例えばテトラサイクリン誘導性プロモーター、ステロイドホルモン(例えばプロゲステロンまたはエクジソン)誘導性プロモーター、または低酸素応答性プロモーターに作動的に結合している。
【0106】
他の実施形態では、KLF核酸は、損傷部位に隣接する心臓の領域で活性または選択的に活性なプロモーターに作動的に結合している。そのようなプロモーターとしては、例えば、GATA-4プロモーターが挙げられる。
【0107】
他の実施形態では、KLF核酸は、虚血および再灌流から生じるストレスに応答して心臓組織で過剰発現される遺伝子のプロモーターに作動的に結合している。これらの遺伝子として、アミノアジピン酸セミアルデヒド合成酵素、アポリポプロテインE、フラビン含有モノオキシゲナーゼ2、NADPH酸化酵素4、プロスタグランジンエンドペルオキシド合成酵素2、組み換え活性化遺伝子2、ステアロイルコエンザイムAデサチュラーゼ1、または溶質キャリアファミリー38(メンバー1)などが挙げられる。
【0108】
KLFの投与
本明細書に記載の方法において、KLFまたはKLF核酸は、対象に投与される。特に、KLFまたはKLF核酸は、標的細胞、組織または器官に投与される。いくつかの実施形態では、KLFまたはKLF核酸は、標的細胞、組織または器官に投与され、あるいはKLF核酸をコードする発現ベクターは、KLF核酸が発現される標的細胞、組織または器官へ投与される。いくつかの実施形態では、投与は全身的であり、発現ベクターは標的細胞、組織、または器官に取り込まれる。いくつかの実施形態では、発現ベクターは、非標的細胞、組織または器官に取り込まれる可能性があるが、好ましくは、そのような細胞または組織、または対象全体に対して重大な悪影響を与えない。
【0109】
核酸および発現コンストラクトを標的細胞に投与または送達する方法は、当技術分野で知られており、以下に簡単に説明する方法が挙げられる。標的細胞は、例えば、心筋細胞であり得る。いくつかの実施形態では、KLF、KLF核酸または発現ベクターは、in vivoで標的細胞、組織または器官に送達される。いくつかの実施形態では、KLF、KLF核酸または発現ベクターは、標的細胞にex vivoで投与される。いくつかの実施形態では、KLF、KLF核酸または発現ベクターは、in vitroで標的細胞に送達される。
【0110】
いくつかの実施形態では、標的細胞は、心筋細胞である。心筋細胞は、対象内に存在してもよいし、対象外の培養物中に存在してもよい。いくつかの実施形態では、KLF、KLF核酸または発現ベクターは、心臓または心臓組織に投与される。
【0111】
他の実施形態では、標的細胞は、増殖性心筋細胞である。すなわち、KLF、KLF核酸または発現ベクターは、既にKLF誘導脱分化を受けた心筋細胞に投与することができる。
【0112】
いくつかの実施形態では、KLF核酸または発現ベクターは、対象の細胞にex vivoでトランスフェクトまたは形質導入され得る。KLFを発現することができる、トランスフェクトまたは形質導入された細胞は、その後、増幅し対象に投与されうる。いくつかの実施形態では、細胞は対象に対して自己由来である。適切な細胞としては、成体造血幹/前駆細胞のような血液または骨髄から単離されたものが挙げられる。
【0113】
いくつかの実施形態では、KLF、KLF核酸または発現ベクターは、静脈内注射など、全身的に送達される。追加の投与経路としては、例えば、経口、局所、心臓内、および筋肉内が挙げられうる。いくつかの実施形態では、KLF、KLF核酸または発現ベクターは、対象から採取した細胞にex vivoで送達することができ、その後、KLF、KLF核酸または発現ベクターを含む細胞を対象に再導入することができる。
【0114】
いくつかの実施形態では、KLF、KLF核酸または発現ベクターは、心臓カテーテル法を介して投与される。
【0115】
核酸(KLF核酸など)の送達のための多数の方法が当技術分野で知られている。これら方法としては、アデノ随伴ウイルス(AAV)またはレンチウイルス媒介送達、ナノ粒子媒介送達、ゲルフォーム媒介心膜内送達;および心臓への核酸の直接筋肉内投与が挙げられる。
【0116】
KLF核酸を投与する好ましい方法は、アデノ随伴ウイルス(AAV)の使用によるものである。いくつかの実施形態では、KLF核酸は、継続的または条件付きで発現させることができる。さらに、心臓作用性AAV血清型または変異体の使用は、組織特異性を改善する。したがって、例えば、該方法としては、KLF核酸を心臓作用性AAVで送達することが挙げられる。好適なAAVとしては、Pacak and Byrne, Mol Ther, 2011, 19(9), pp1582-1590に記載されたものなどの心臓特異的AAVが挙げられる。
【0117】
他のウイルス、例えばレトロウイルス、レンチウイルス、HSVまたはアデノウイルスを使用することもできる。
【0118】
発現のために心臓組織特異的プロモーター(例えば、NCX1、TNNT2)を使用することにより、AAV血清型に加えてさらなる特異性を得ることができる。
【0119】
いくつかの実施形態では、KLF、KLF核酸または発現ベクターは、トランスフェクション剤または送達ビヒクルを用いたトランスフェクションによって投与される。本明細書で使用されるように、用語「送達ビヒクル」は、KLF核酸の細胞への進入を増強する化合物を指す。送達ビヒクルの例としては、タンパク質とポリマーの複合体(ポリプレックス)、ポリマーと脂質の組み合わせ(リポポリプレックス)、多層およびリチャージ粒子、脂質およびリポソーム(リポプレックス、例えば、カチオン性リポソームおよび脂質)、ポリアミン、リン酸カルシウム沈殿、ポリカチオン、ヒストンタンパク質、ポリエチレンイミン、ポリリシンおよびポリアンホライト複合体などが挙げられる。いくつかの実施形態では、送達ビヒクルは、トランスフェクション剤を含む。トランスフェクション剤は、核酸を縮合するために使用されてもよい。トランスフェクション剤はまた、官能基をポリヌクレオチドに関連付けるために使用されてもよい。官能基の非限定的な例としては、細胞標的部位、細胞受容体リガンド、核局在シグナル、エンドソームまたは他の細胞内小胞からの内容物の放出を増強する化合物(膜活性化合物など)、およびそれらが結合している化合物または複合体の挙動または相互作用を変更する他の化合物(相互作用修飾物質)が挙げられる。in vivoでの送達のために、中和以下の量のカチオン性トランスフェクション剤で作られた複合体を使用することができる。
【0120】
いくつかの実施形態では、KLF核酸または発現ベクターは、エクソソームまたはエクソソーム様小胞を使用して送達することができる。例えば、KLF核酸をエクソソーム産生細胞に導入し、KLF核酸を含むエクソソームをそれらの細胞から単離してもよい。あるいは、当技術分野で知られている任意の方法に従ってエクソソームを単離または調製し、KLF核酸をエクソソームに導入してもよい。
【0121】
いくつかの実施形態では、KLF核酸または発現ベクターは、リポポリマー、リポソーム、ゼラチン複合体、ポロキサミンナノスフィア、またはリポプロテインを使用して送達することができる。
【0122】
KLF核酸または発現ベクターの心臓特異的送達を達成するための代替技術は、超音波標的マイクロバブル破壊(UTMD)である。この技術は、超音波によって音波化されたときに破壊に振動するガス充填マイクロバブルである超音波造影剤の物理的性質に基づく。マイクロバブルにKLF核酸または発現ベクターを搭載し、静脈内注入し、超音波により心臓内で破壊することにより、心臓にトランスフェクションを行うことができる。
【0123】
いくつかの実施形態において、KLF核酸または発現ベクターは、全身的に送達され得る。いくつかの実施形態では、KLF核酸または発現ベクターは、1つ以上の医薬上許容される担体と組み合わせて送達することができる。KLF核酸または発現ベクターを送達するためのポリマー試薬は、その有用性を高める化合物を組み込んでいてもよい。これらの基は、ポリマー形成前にモノマーに組み込むことができ、またはその形成後にポリマーに結合させることができる。ベクター転移増強部位は、核酸複合体を修飾し、培養中または全生物中のいずれかの細胞位置(組織細胞など)または細胞内の位置(核など)にそれを誘導することができる分子である。複合体の細胞または組織の位置を変更することにより、KLF核酸または発現ベクターの所望の局在および活性を増強させうる。転移増強部位は、例えば、タンパク質、ペプチド、脂質、ステロイド、糖、炭水化物、核酸、細胞受容体リガンドまたは合成化合物でありうる。転移増強部位は、いくつかの実施形態において、受容体への細胞結合、核への細胞質輸送、およびエンドソームまたは他の細胞内小胞からの核侵入または放出を増強することができる。
【0124】
核局在化シグナル(NLS)は、mir-1核酸または発現ベクターの核の近傍への標的化および/または核への進入を増強するためにも使用することができる。このような核輸送シグナルは、SV40ラージタグNLSやヌクレオプラスミンNLSのようなタンパク質またはペプチドでありうる。これらの核局在化シグナルは、NLS受容体(カリオフェリンアルファ)のような様々な核輸送因子と相互作用し、次にカリオフェリンベータと相互作用する。核輸送タンパク質自体も、いくつかの実施形態では、核膜孔および核に標的化されるため、NLSとして機能することができる。
【0125】
当業者は、過度の実験をすることなく、KLF核酸または発現ベクターを心臓もしくは心臓組織に、または心筋細胞もしくは他の標的細胞にin vitro、ex vivoまたはin vivoで送達するための適切なシステムを選択し使用することができるだろう。
【0126】
いくつかの実施形態では、KLF核酸または発現ベクターの局所送達が望ましい。特に、心臓へのKLF核酸または発現ベクターの送達が望ましい。
【0127】
KLF、KLF核酸または発現ベクターの心臓への局所的送達を可能にする戦略は数多くある。例えば、Alzet(登録商標)浸透圧ポンプなどの浸透圧ミニポンプは、持続可能な治療濃度でのKLF、KLF核酸または発現ベクターの効果的な局所送達に使用することが可能である。リザーバー付きのポンプは、一般的に皮下組織に移植され、シリコンチューブまたはカニューレを介してKLF、KLF核酸または発現ベクターを標的組織に送達する。浸透圧ミニポンプは、定常的な薬物送達を浸透圧に依存し、既に臨床応用されている。
【0128】
KLF、KLF核酸または発現ベクターの局所的な送達は、細胞を移植することによって達成してもよい。細胞置換療法に加えて、KLF、KLF核酸または発現ベクターを含む細胞を心筋に移植してもよい。
【0129】
KLF投与量
投与されるKLF、KLF核酸、または発現ベクターの有効量レベルは、治療される状態の種類および状態の段階;採用されるKLF、KLF核酸または発現ベクターの活性および性質;採用される組成;対象の年齢、体重、一般健康、性別および食事;投与の時間;投与の経路;治療の期間;治療と組み合わせてまたは同時に用いられる薬、ならびに医学において周知の他の関連要因などの様々な要因に依存するだろう。
【0130】
当業者であれば、日常的な実験によって、適用可能な状態を治療するために必要とされる有効かつ無毒な投与量を決定することができるだろう。これらは、ほとんどの場合、ケースバイケースで決定されるだろう。
【0131】
一般に、有効量は、24時間当たり体重1kg当たり約0.0001mgから約1000mg;典型的には、24時間当たり体重1kg当たり約0.001mgから約750mg;24時間当たり体重1kg当たり約0.01mgから約500mg;24時間当たり体重1kg当たり約0.1mgから500mg;24時間当たり体重1kg当たり約0.1mgから約250mg;または24時間当たり体重1kg当たり約1.0mgから約250mgの範囲であると予想される。より典型的には、有効量範囲は、24時間当たり体重1kg当たり約10mgから約200mg20の範囲であると予想される。
【0132】
あるいは、有効投与量は、最大約5000mg/m2であってもよい。一般に、有効量は、約10から約5000mg/m2、典型的には約10から約2500mg/m2、約25から約2000mg/m2、約50から約1500mg/m2、約50から約1000mg/m2、または約75から約600mg/m2の範囲であることが予想される。
【0133】
さらに、個々の投与量の最適な量および間隔は、治療される状態の性質および程度、投与の形態、経路および部位、ならびに治療される特定の個体の性質によって決定されることが当業者には明らかであろう。また、そのような最適な条件は、従来の技術によって決定することができる。
【0134】
また、最適な治療コース、例えば、定義された日数について1日に投与される組成物の投与回数は、治療決定試験の従来のコースを用いて当業者によって確認できることは、当業者には明らかであろう。
【0135】
また、治療の有効性は、KLF、KLF核酸または発現ベクターで治療した対象からの試料におけるKLFの発現レベルを決定することによって評価してもよい。一定期間後、対象からのさらなる試料におけるKLF核酸の発現レベルが決定され、KLF核酸の発現レベルの変化が治療計画の有効性を表示してもよい。試料は、血漿または血清を含んでもよい。
【0136】
代替的にまたは追加的に、治療の有効性は、例えば、KLF、KLF核酸または発現ベクターで治療した対象からの試料における増殖性心筋細胞のレベルを決定することによって評価することができる。
【0137】
心筋細胞集団/心筋前駆細胞集団
KLF、KLF核酸または発現ベクターの投与は、増殖性心筋細胞の集団を生成する。増殖性心筋細胞は、未成熟な心筋細胞の集団、胚の表現型を持つ心筋細胞、または心筋前駆細胞集団、あるいはそれらの任意の組み合わせとすることができる。この増殖性心筋細胞の集団は、対象への投与のための医薬組成物に組み込むことができる。いくつかの実施形態では、増殖性心筋細胞の集団は、医薬組成物に組み込む前に心筋細胞へ分化させることができる。
【0138】
KLF、KLF核酸または発現ベクターは、心筋再生を誘導するために、対象(または他の場所)から採取した成人の心筋細胞へ投与することができる。得られた細胞が、心筋細胞の集団もしくは増殖性心筋前駆細胞の集団のいずれであっても、該細胞を、生理学的に許容できる担体(すなわち、心筋細胞の活性を妨げない非毒性物質)をさらに含む医薬組成物、例えば無菌水性または非水性溶液、懸濁液またはエマルジョンとして調製することができる。当業者に知られている任意の適切な担体が、医薬組成物中に使用され得る。担体の選択は、部分的には、投与される物質(すなわち、細胞または化学化合物)の性質に依存するであろう。
【0139】
適切な担体としては、生理食塩水、ゼラチン、水、アルコール、天然または合成油、糖質溶液、グリコール、オレイン酸エチルなどの注射用有機エステル、またはこれらの材料の組合せが挙げられる。医薬組成物は、さらに、防腐剤および/または例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤および/もしくは不活性ガスなどの他の添加剤、ならびに/あるいは他の有効成分を含んでもよい。いくつかの実施形態では、心筋細胞集団または心筋前駆細胞集団が、公知のカプセル化技術に従って、カプセル化される。
【0140】
いくつかの実施形態において、心筋細胞集団または心筋前駆細胞集団は、マトリックス中に存在する。
【0141】
心筋細胞集団または心筋前駆細胞集団の単位剤形は、約103細胞から約109細胞、例えば、約103細胞から約104細胞、約104細胞から約105細胞、約105細胞から約106細胞、約106細胞から約107細胞、約107細胞から約108細胞、または約108細胞から約109細胞などを含有することができる。
【0142】
いくつかの実施形態において、in vitroで心筋細胞集団に心筋再生を誘導し、心筋細胞集団を対象の心臓に移植する方法が提供される。心筋細胞の集団は、それを必要とする個体への同種移植または自家移植のために使用することができる。
【0143】
併用療法
KLF、KLF核酸またはベクターを1つ以上の他の薬剤と共に使用することを定義する際の「併用療法」または「補助療法」という用語は、薬剤の組み合わせの有益な効果をもたらす計画(regimen)において各剤を逐次的に投与することを包含し、これらの活性剤を固定比率で有する単一の製剤、または各剤の複数の別々の製剤などにおいて、実質的に同時の方法でこれらの薬剤を共投与することを包含するように意図されている。
【0144】
本発明の様々な実施形態に従って、KLF、KLF核酸またはベクターの1つ以上を、1つ以上の追加の療法剤と組み合わせて製剤化または投与してもよい。したがって、本発明の様々な実施形態に従って、KLF、KLF核酸またはベクターの少なくとも1つは、手術および/または他の公知の治療剤または療法剤、および/または補助剤または予防剤との併用治療計画に含まれてもよい。
【0145】
多くの薬剤が商業的に利用可能であり、臨床評価中および前臨床開発中であり、これらは併用薬物療法の一部として上に挙げた疾患および状態の治療のために選択され得る。併用療法に使用され得る適切な薬剤は、当業者には認識されるであろう。適切な薬剤は、例えば、Merck Index, An Encyclopaedia of Chemicals, Drugs and Biologicals, 12th Ed., 1996, およびそれ以降の版に列挙されており、その内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0146】
組合せ計画は、それぞれの場合に適切なように、活性剤を一緒に、逐次、または間隔をあけて投与することを含んでもよい。少なくとも1つのKLF、KLF核酸またはベクターなどの活性薬剤の組み合わせは、相乗的であってもよい。
【0147】
KLF、KLF核酸またはベクターの少なくとも1つと追加の薬剤との共投与は、薬剤が別の活性薬剤と同じ単位用量であることによって効果を発揮してもよく、または1つ以上の他の活性薬剤(複数可)が、投与計画またはスケジュールに従って同じ時間または同様の時間に、または異なる時間に投与される個々の個別の単位用量に存在してもよい。逐次投与は、必要に応じてどのような順序でもよく、特に累積効果または相乗効果が望まれる場合には、2番目以降の化合物が投与されるときに、1番目または最初の化合物の生理学的効果が現在進行中であることが要求されることもある。
【0148】
広く説明された本発明の精神または範囲から逸脱することなく、特定の実施形態に示されるような本発明に多数の変形および/または修正がなされ得るとは、当業者には理解されるであろう。したがって、本実施形態は、すべての点で例示的なものであり、制限的なものではないとみなされる。
【0149】
本発明の技術をより明確に理解するために、好ましい実施形態について、以下の図面および例を参照して説明する。
【実施例
【0150】
実施例1:損傷がゼブラフィッシュの心臓再生中にklf1の心筋発現を誘導する。
本発明者らは、ゼブラフィッシュの心臓再生の分子機構を調べる中で、亜鉛フィンガー転写因子KLF1/EKLFのゼブラフィッシュオーソログをコードする遺伝子であるクルッペル様因子1(klf1)(図1A)の損傷誘発性、心筋の発現を同定した。哺乳類では、KLF1は造血組織で発現し赤血球の発生に必須であるが、非造血器官でのKLF1の役割は本研究以前では不明であった。
【0151】
解析では、定量的逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-qPCR)を用いて、心筋細胞(CM)の再生増殖の最大反応に相当する損傷後7日(dpi)(図1B)にklf1の発現が一過性にピークに達することを示した。細胞種特異的レポーター系統の7dpi心室から得た精製心筋細胞を用いて蛍光活性細胞選別(FACS)でRT-qPCRを行ったところ、klf1の転写物がCMで検出されたが、心外膜と心内膜の細胞では検出されなかった(図1B)。4-ヒドロキシタモキシフェン(4-HT)処置により出血を伴わず心筋を特異的に損傷することができる遺伝子CMアブレーションモデルを用いてklf1の発現も評価した。発明者らは、CM欠損心臓の切片を用いて、細胞質筋マーカーであるトロポニンC(TnC)に対する高感度in situハイブリダイゼーションと免疫蛍光を行ったところ、再生心筋においてklf1 mRNAシグナルとTnCの共局在化を検出した(図1C、矢頭)。これらのデータは、ゼブラフィッシュの心臓再生の間、損傷がklf1の心筋発現を誘導することを示す。
【0152】
実施例2:Klf1は、ゼブラフィッシュの心臓再生に必須である。
本発明者らは、Klf1の心臓再生における機能を調べるために、心筋特異的Creドライバー系統Tg(cmlc2:CreER)(以下、cmlc2:CreER)と組み合わせてCMにドミナントネガティブ型のKlf1(dn-Klf1)を誘導した、ゼブラフィッシュ系統Tg(actb2:loxP-TagBFP-STOP-loxP-dn-klf1)vcc22(以下actb2:BS-dn-klf1)を確立した。我々は、cmlc2:CreER; actb2:BS-dn-klf1(KlfDN-ON)とコントロールの actb2:BS-dn-klf1(KlfDN-OFF)魚を4-HTで処置し、30dpiの再生を解析した。驚くべきことに、すべてのKlfDN-ONの心臓は、創傷部に極めて重度の瘢痕を示した(7個中7個、図2A)一方、コントロールKlfDN-OFFの心臓ではそのような表現型は観察されなかった(7個中0個、図2A)。dn-Klf1の心筋発現は、筋核マーカーMef2とPCNAの共ラベリングの減少によって検出されるように、CMの増殖を有意に減少させた(図2B)。これらのデータは、Klf1がゼブラフィッシュの心臓再生に必須の転写因子であることを示している。
【0153】
定量的転写解析を用いて、klf1の発現は、心筋細胞における再生誘導増殖が最大となる期間と同時に、損傷後(dpi)7日目にピークに到達することが観察された(図3A)。この一過性のklf1発現は精製心筋細胞に限られ、心外膜(Epi)および心内膜(End)の細胞では検出されなかった(図3B)。心臓出血を起こさずに心筋を損傷する条件付き4-ヒドロキシタモキシフェン(4-HT)誘導心筋細胞アブレーションモデルを用いて、klf1 mRNAと細胞質筋マーカー、トロポニンCの共局在化が観察された。このことは、ゼブラフィッシュの心臓再生の間、再生心筋細胞がKlf1を発現していることを示している。
【0154】
実施例3:Klf1発現がゼブラフィッシュ心臓のCM脱分化を誘導する。
cmlc2:CreERでCMに3xHA-tagged Klf1を過剰発現させるトランスジェニックゼブラフィッシュ系統Tg(actb2:loxP-TagBFP-STOP-loxP-3xHA-klf1)vcc29を確立した。ダブルトランスジェニック魚とCreネガティブクラッチメイトをそれぞれklf1-ONとklf1-OFFと呼ぶ。klf1-ON; cmlc2:GFPとコントロールのklf1-OFF;cmlc2:GFP魚を4-HTで処置し、cmlc2:GFPで標識したCMにおける脱分化マーカーSm22α(Sm22)の発現を評価した。驚くべきことに、コントロール心臓(12d klf1-OFF)と比較して、Klf1過剰発現心臓では、Sm22の発現レベルが著しく上昇し、4-HT処置後(dpt)7日目に最初に心室の最外層心筋に発現が検出され、その後12dptで内側の海綿状心筋にも観察された。ゼブラフィッシュCMにおける別の脱分化マーカーであるTg(gata4:EGFP)(以下、gata4:GFP)を用いた解析でも、Sm22と同様のgata4:GFPの空間的・時間的パターンが明らかになった。Z線の主要な構成要素であるアルファ-アクチニンの免疫蛍光により、klf1-ON心筋ではklf1-OFF心筋に比べサルコメア構造が高度に乱れていることが明らかになった。さらに、組織学的なCM脱分化の証拠と一致して、klf1-ONの心臓では、マウスの幹細胞およびCM脱分化マーカーであるrunx1の発現が著しく増加し(図4A)、ミオシン重鎖(vmhc)、心筋アクチン(actc1a)、マイオメシン(myom2a)などの収縮遺伝子の発現も減少した(図4B)。これらのデータは、Klf1の発現は、ゼブラフィッシュの心臓においてCMを成熟していない状態に脱分化させるのに十分であることを示している。
【0155】
実施例4:Klf1発現がゼブラフィッシュ心臓のCM増殖を誘導する。
CM脱分化により獲得した収縮力の低下した状態は、細胞分裂を促進することが示唆されているので、本発明者らは次に、Klf1過剰発現によりCM増殖が促進されるかどうかをEdU取り込みアッセイを用いて検討した。驚くべきことに、klf1-OFF心臓の増殖のバックグラウンドレベル(EdU+CM)と比較して(図5A)、klf1-ON心臓の増殖は約200倍に増加した(図5A)。次に、我々は、ホスホヒストンH3(pHH3)に対する抗体を用いた免疫蛍光により、CM有糸分裂を評価した。おそらく細胞周期における有糸分裂期の期間が短いため、再生中のゼブラフィッシュの心臓でも有糸分裂CMを同定することは極めて困難である。しかし、本発明者らは、Klf1-ONの心臓では1切片あたり6個程度のpHH3+ CMを常に観察し、コントロールの心臓では有糸分裂CMが検出されなかったことから(図5B)、CMにおける細胞周期再突入に対するKlf1過剰発現の強力な効果が強く示された。また、CMの増殖のレベルが著しく促進されることと一致して、Klf1-ONの心臓では、FoxM1、PCNA、E2F2、Cdc25b、サイクリン依存性キナーゼ(Cdk1/2)、G1/Sサイクリン(CyclinD1)およびG2/Mサイクリン(CyclinB2/A2)などの広範囲の細胞周期制御物質の発現が有意に増加した(図5C)。同時に、これらのデータは、Klf1の発現が、成体ゼブラフィッシュの心臓において、静止しているCMを細胞周期に再突入させるのに十分であることを示している。
【0156】
実施例5:成体マウス心臓におけるKLF1機能
ゼブラフィッシュの心臓と同様に、マウスKlf1(mKlf1)mRNAは、梗塞後の再生新生仔心臓においてベースラインレベルからアップレギュレートした(新生仔;図6A)。しかし、興味深いことに、mKlf1の発現は、梗塞した成体心臓(Adult;図6A)では誘導されず、その発現レベルとマウス心臓の再生能力との相関が示された。
本発明者らは、成体マウス心臓におけるKLF機能を調べるため、感染細胞を可視化するためにmKlf1 cDNAをP2Aペプチド配列を介してEGFP cDNAに連結した組み換えアデノウイルスベクターを作製した(Ad-Klf1)。また、EGFP cDNAのみを含むコントロールベクターも作製した(Ad-GFP)。精製したAd-GFPまたはAd-Klf1ウイルスを成体C57BL/6マウスの非損傷の心臓の心筋に注入し、Ki67免疫蛍光分析によりCMの増殖を評価した。その結果、Ad-Klf1ウイルスを注入すると、コントロールウイルス(GFP; 図6B)を注入した場合と比較して、Ki67とトロポニン-T(TnT)(KLF1; 図6B)の共標識が著しく増加することが判明した。GFPの免疫蛍光検出により、増殖CMにmKlf1が発現していることが示された。
【0157】
この結果を確認するために、本発明者らは、浸透圧ミニポンプを用いてEdUを送達し、TnTの免疫蛍光と合わせて膜マーカー小麦胚芽アグルチニン(WGA)でCMを同定しながら、CMの増殖を評価した。これは、成体マウスの心臓切片で増殖しているCMを同定する、より感度の高い方法である。Ki67とTnTの免疫標識の結果と一致して、WGA染色を用いた解析でも、Ad-Klf1ウイルス(KLF1;図6C)を注入した心臓では、EdU+ CMが有意に増加することが検出された。同時に、これらのデータは、mKlf1はマウスのCM増殖において保存された機能を有し、損傷がない場合でもin vivoでCM細胞周期の再突入を誘導できることを示す。
【0158】
心筋梗塞(MI)後の成体マウスの心臓にもKlf1を送達した。Ad-Klf1導入によりCM増殖(図7A)および有糸分裂(図7B)の有意な増加も観察され、mKlf1がマウスで保存された再生機能を有することが示された。CM再生の増加と一致して、我々は、損傷領域での心筋形成の増加(図7C)、心機能の有意な回復(図7D)と一緒に、Ad-Klf1を導入した心臓では、心臓瘢痕が著しく減少していることを見出した。同時に、これらのデータは、mKlf1はマウスのCMの増殖と再生に保存された機能を持つことを示している。
【0159】
実施例6:条件付き遺伝子トラップ系統
Klf1の心臓再生における役割を調べるため、本発明者らは、既述のように、Zwitch2と呼ばれるCre依存性の遺伝子トラップカセットを、相同組換えによりklf1遺伝子の第1イントロンに挿入することにより、条件付き遺伝子トラップ系統、Tg(klf1:Zwitch2)vcc33Gt(以下klf1-ctまたはklf1ctという)を作製した(図8A、B)。Zwitch2は、スプライスアクセプター(SA)部位とトリプレットポリA配列(3xBGHpA)からなり、スクリーニング用に強化緑蛍光タンパク質(EGFP)を発現する取り外し可能な水晶体特異的タグを有している(図8A)。SAと3xBGHpAを含むセグメントは、逆向きでタンデムloxPとlox5171部位によって挟まれ、Cre媒介組換えを介して永久に反転し、異常なスプライシングを介してklf1の発現を不活性化しうる(変異原性;図8B)。
【0160】
確立された系統において、Zwitch2の正確な挿入は、ゲノムPCR、サザンブロットおよびDNA配列決定分析によって確認された(図9A-D)。また、本発明者らは、klf1-ct/+と、Creが強力でユビキタスに発現されているユビキチンB(ubb)プロモーターによって発現する株であるTg(ubb:iCre-P2A-EGFP)を交配して、確立されたアレルを特徴づけた。我々は、交配により、WTおよび/または変異原性klf1アレルを持つ胚を得(図9E、F)、これらの胚の表現型を解析した結果、ゼブラフィッシュの赤血球発生において進化的に保存されたKlf1の役割を確認した(図10A)。
【0161】
本発明者らは、klf1-ct/+魚と、4ヒドロキシタモキシフェン(4-HT)誘導性Creが収縮遺伝子心臓ミオシン軽鎖2(cmlc2/myl7)の調節配列によって発現する系統であるTg(cmlc2:CreER)(cmlc2:CreER)を交配して心筋におけるklf1の発現を不活性にした。本発明者らは、klf1-ct/ctおよびcmlc2:CreER; klf1-ct/ctの魚を入手し、3日間連続して4-HTで一晩処置し、最後の処置から2日後に切除損傷を実施した。4-HT処置計画により、7dpiのcmlc2:CreER; klf1-ct/ct心室において、心筋のklf1発現を損傷していないコントロールレベルまで減少させることに成功した(図8C図9H)。CMの増殖を筋核マーカーMef2および増殖細胞核抗原(PCNA)に対する免疫蛍光で解析し、心筋発現klf1の不活性化に伴う増殖Mef2+、PCNA+CMの数の有意な減少を同定した(図8D)。平滑筋タンパク質22アルファ(Sm22a;トランスジェリンともいう)(図8E)および活性化白血球細胞接着分子a(Alcama;DM-GRASPともいう)(図8F)などの胎児CMマーカーに対して免疫蛍光を実施した。これにより、klf1の発現を欠く心臓では、これらのマーカーの発現が有意に減少した(図8F)。同時に、これらのデータは、Klf1は赤血球生成や先天性貧血に重要な役割を持ちながら、ゼブラフィッシュの心臓再生においてCM脱分化と増殖の新規なメカニズムを駆動していることを示す。
【0162】
klf1ctの生成と特徴づけの詳細を記載(図9A-D)。ユビキタスに発現するCre誘導klf1ct活性化の網羅的な活性化(図9E)だけでなく、klf1の発現が著しく減少し(図9F)、重度の貧血による心臓浮腫が起こる(図10A)。klf1ctの組織特異的な活性化は、心筋細胞制限Cre株Tg(cmlc2:CreER)を用いて成体心筋で達成された。この心筋トラップ株とcmlc2:CreERネガティブコントロール株をそれぞれklf1-MTおよびklf1-CT(図3C)と呼び、4-HT処置後に心室切除を行ったところ、Cre依存性の、心臓klf1-CT逆転の誘導(図9G)および7dpiでの心室のklf1発現が非損傷のコントロールと同レベルまで減少した(図9H)ことが検証された。心筋klf1の発現を不活性化すると、持続的なフィブリンとコラーゲン性の瘢痕を示す再生心臓の割合が有意に増加し(図3D)、心筋klf1がゼブラフィッシュの心臓再生に必要であることが示された。
【0163】
平滑筋タンパク質22α/トランスジェリン(Sm22;図3E)および活性化白血球細胞接着分子(Alcam;図3F)などの公知の心筋細胞脱分化マーカーは、klf1-MT心臓で顕著に減少した。これは、筋細胞エンハンサー因子2(Mef2)と増殖細胞核抗原(PCNA)を二重ポジティブとする増殖心筋細胞数の著しい減少を伴っていた(図3G)。同様に、我々は、Klf1のドミナントネガティブ型(dn-Klf1;図11A-D)の条件付き発現下で、心筋細胞の脱分化と増殖が有意に低下し、心再生が著しく損なわれることを観察し、心再生におけるさらなるKlf1の重要な役割のエビデンスを提供している。まとめると、これらのデータは、心筋再生におけるKlf1の新規な非造血機能、すなわちKlf1が心筋細胞の脱分化および増殖をうまく誘導するのに重要な役割を果たすことを証明している。
【0164】
klf1は、心臓の発生中には事実上検出されなかった(調べた81の心室心筋切片につき1つのmRNA punctum)。Klf1が心筋の発生において機能的な役割を担っているかどうかが検証された。驚くべきことに、Klf1の網羅的な阻害で観察された貧血表現型(図10A、B)とは対照的に、心筋のklf1ct活性化(図10C)も心筋のdn-Klf1過剰発現(図10D)も発生中の心筋形態形成と心筋細胞増殖に影響を与えなかった。また、ユビキタスに発現するCreドライバーを用いてklf1ct活性化またはdn-Klf1発現を構成的に誘導した心臓についても、心臓浮腫が生じる前に解析を行ったところ、同様の表現型が観察された(図10E、F)。同時に、これらのデータは、心筋におけるKlf1の再生に特異的な役割を示している。
【0165】
実施例8:Klf1が損傷非依存性再生応答の引き金を引く
klf1の強制発現が非損傷の心臓において再生表現型を誘導するかどうかを調べるために、本発明者らは、条件付き戦略を用いて心筋に3xHAタグ付きKlf1を駆動させた(klf1-ON;図12A)。我々は、klf1-ON魚またはCreネガティブコントロール(klf1-OFF;図12A)を4-HTで一晩処置し(図12B)、免疫蛍光で心筋の3xHA-Klf1の核局在を検出した。klf1-ONの心臓では、Sm22とAlcamの心筋発現が処置後7日目(dpt)で増加し、4-HT処置後12日目(dpt)でより増加した。心筋再生中、心筋細胞の分裂は収縮力の低下により促進されそうであり、未成熟な増殖状態に関連した遺伝子の発現を伴う。7dptのklf1-ON心臓では、部分的な心筋細胞の脱分化と一致して、皮質層心筋中のα-アクチン(Z線の主要成分)障害サルコメアが観察され、12dptの海綿状心筋にさらに広範囲に観察された。これらの構造異常は、7および12dptに透過型電子顕微鏡(TEM)により、拡散したZ-ディスクとして可視化された。
【0166】
Klf1誘導心筋細胞脱分化が心筋細胞増殖の増加を伴うかどうかを調べるために、増殖マーカーPCNAを調べたところ、klf1-ON心室ではPCNA+Mef2+心筋細胞の数が大幅に増加していることが確認された(図12C)。klf1-ONの心筋細胞では、5-エチニル-2'-デオキシウリジン(EdU)の取り込みが大幅に増加し、多くの心筋細胞がDNA合成を行ったことが確認された(図12D)。有糸分裂したホスホヒストンH3+(pHH3+)心筋細胞の可視化は、旺盛に再生するゼブラフィッシュの心臓でも極めて稀である。しかし、klf1-ONの心室では、多くのpHH3+心筋細胞が検出され(図12E)、心筋細胞が有糸分裂を経て後期に進むことに成功したことが明確に示された。同時に、これらのデータは、klf1の過剰発現は、強固な心筋細胞脱分化反応を引き起こすのに十分であり、非損傷のゼブラフィッシュ心臓において心筋細胞の細胞周期再突入と増殖を強く促進することを示している。
【0167】
klf1-ON心臓で観察された広範な増殖反応の過程で、EGFPで遺伝子標識された心筋細胞は心筋系譜の細胞に限られ、心内膜細胞や心外膜細胞などの他の心臓細胞系譜には寄与していなかった。これらのデータは、Klf1が心筋細胞の増殖を誘導するのは、成熟心筋細胞を増殖性のある多能性前駆細胞にリプログラムするためではなく、むしろ系譜の可塑性に影響を与えずに心筋細胞の自己再生を広範囲にアップレギュレートするためであることを示している。klf1-ONの心臓では、血管内皮細胞数や心外膜細胞数の増加が観察され(図13A、B)、心筋のKlf1発現が他の心筋細胞内の再生プログラムを間接的に刺激していることが示された。
【0168】
KLF1サブファミリーのメンバーであるKLF2およびKLF4は、心臓血管の発生と機能を制御している。我々は、klf1-ONについて述べたように、ゼブラフィッシュのKLF2およびKLF4オーソログ、Klf2a、Klf2b、およびKlf4を誘導可能に発現させて、KLF1サブファミリーの心筋再生能力を比較した(図12A、B)。特に、心筋細胞の有糸分裂が最も強く誘導されたのは、Klf1過剰発現中であった(図13C)。Klf2bの過剰発現中に、心筋細胞の有糸分裂は中程度に誘導されたが(図13C)、Klf2aおよびKlf4の過剰発現に伴い、そのような誘導は無視できる程度であった(図13C)。Klf1のファミリーメンバーであるKlf2およびKlf4と比較して、Klf1の比較的高い効力は、成体特異的心筋再生標的の制御におけるKlf1のユニークな役割を証明している。
【0169】
哺乳類のKLF1は、体細胞を多能性幹細胞にリプログラムする顕著な機能を有するKLF2およびKLF4と同様のドメイン構造を有している。KLF2やKLF4よりもはるかに低い効率ではあるが、KLF1は他のリプログラミング因子を用いて人工多能性幹細胞を生成することもでき、Klf1誘導心筋再生は、CMリプログラミングおよび前駆細胞の増幅に続いて心筋への再分化を介する機構であることが示された。興味深いことに、klf1-ON心室では心外膜細胞や血管内皮細胞が有意により多く観察され、klf1+CMのパラクライン効果が示されたが、リプログラムされたklf1+CMからのde novo分化によっても説明できる。細胞リプログラミングの関与について検討するため、本発明者らは、タモキシフェン依存性指標トランス遺伝子を導入したklf1-ON魚を用いて遺伝的フェイトマッピング解析を行い、klf1誘導開始時にCMを永久的に標識することを可能にした。遺伝子標識された細胞は、減少したとはいえ、12dptでもミオシン重鎖(MHC)を発現し、心外膜細胞や内皮細胞のマーカーであるRaldh2(レチナアルデヒド脱水素酵素2;Aldh1a2としても知られている)を発現しないことから、klf1+CMが広範囲な増殖期間中に細胞系譜を変化させなかったことが示されている。このように、Klf1の過剰発現は、成体CMを増殖性のある多能性心臓前駆細胞にリプログラムするのではなく、成体CMを増殖性のある未成熟な状態に脱分化し、近隣組織の増殖を促進する能力とともに、成体心臓の広範囲なレベルの心筋再生を達成した。
【0170】
実施例9:Klf1誘導心筋細胞過形成が心筋再生を駆動する
klf1-ONのゼブラフィッシュは、鱗の盛り上がり(図14A)、嗜眠、および9dptまでに生存に影響を与える急速な呼吸などの心不全の兆候を進行性で示した(図14B)。Klf1の一過性の治療デリバリーをモデル化するために、Tg(cmlc2:3xHA-klf1-ER; cryaa:TagBFP)vcc32(以下、klf1-ER)を確立した。klf1-ERでは4-HTに応答してKlf1が核に可逆的に転位する(図12F)。
【0171】
4-HTで1日1回、7日間処置すると(図12G)、核内klf1-ER局在および心室での再生応答が誘導された。klf1-ONとは対照的に、4-HT処置停止後のklf1-ER魚の生存には影響がなかったため、本発明者らは、Klf1誘導応答が静止した30日後の心臓を解析した(図12G)。興味深いことに、実験用心臓の肉眼的解析により、4-HT処置klf1-ER魚から採取した心臓の大規模な肥大が確認された(図12H)。肥大した心臓の切片は、病理学的な拡張や線維化を示さず(図12I)、心筋の面積は有意に大きかった(~2倍;図12J)。Mef2+核の数はklf1-ER心室で著しく増加し、α-アクチニン染色ではZバンドのはっきりした、よく組織化された筋模様が観察された。さらに、肥大した心室の個々の心筋細胞のサイズは小さく(図12K)、したがって肥大していなかったが、コントロール心室のものと比較して約5倍と有意に数が増加していた(図12L)。このように、Klf1の活性化のわずか7日間で、心筋細胞は非損傷ゼブラフィッシュの心臓の約5倍に増殖し、成体心臓の心筋再生を刺激するKlf1の極めて高い増殖促進(pro-proliferative)能が浮き彫りにされた。
【0172】
実施例10:Klf1がクロマチンリモデリングを誘導して心筋の遺伝子プログラムを抑制する
Klf1の心筋機能についての知見を得るために、本発明者らは、7dptでの抗HA-tag抗体を用いてklf1-OFFおよびklf1-ON心室において、クロマチン免疫沈降(ChIP)に続いて配列決定(ChIP-sequon)を実施した。3xHA-Klf1 ChIPピークはklf1-ON心室において特異的に検出された(図15A)。これらのピークはKLF1モチーフに最も顕著に濃縮されており(図15B)、抗HA抗体を用いたKlf1精製の特異性が検証された。Klf1ピーク下の潜在的な標的遺伝子をゲノム領域エンリッチメントアノテーションツール(GREAT)で解析し、心筋発生などの器官形成経路に関わる遺伝子を同定した(図15C)。
【0173】
Klf1結合部位を特徴付けるために、活性プロモーターマーク(ヒストンH3K4me3)と活性エンハンサーマーク(ヒストンH3K4me1およびH3K27ac)に対するChIP-seqを行い、得られたヒストンピークをKlf1ピークに対してプロットした(図15D)。予想に反して、活性化プロモーターにおいてKlf1ピークはごく一部(98ピーク;8.6%)しか見いだせず、残りの大部分(1,039ピーク;91.4%)は、活性エンハンサーに見出され、活性エンハンサーは、Klf1の発現や心筋再生応答にかかわらず、DNAメチル化(5-メチルシトシン、5mC;図15D)の減少ならびにH3K27acとH3K4me1が構成的にマークされていた。さらに、本発明者のデータを既報のデータセットと相互参照したところ、Klf1標的エンハンサーは受精後(hpf)48時間という早い時期に活性化エピジェネティックプロファイルを獲得し、いくつかのKlf1標的部位はVISTAエンハンサーブラウザから機能検証された発生的に活性なエンハンサーのゲノム位置と一致することが示された。これらのデータは、Klf1が成体心筋細胞において発生的に活性化されたエンハンサーおよび構成的に活性化されたエンハンサーを優先的に標的としていることを示すものである。
【0174】
本発明者らは、次に、配列決定を用いたトランスポザーゼアクセシブルクロマチンのアッセイ(ATAC-seq)により、klf1-ON心臓におけるクロマチンアクセシビリティの網羅的な変化を評価した。驚くべきことに、差次的に濃縮されたATACピークの大部分は、klf1-ON心臓においてクロマチンアクセシビリティが低下した領域に注釈付けられ(図15E)、H3K27acの減少(図15F)および最も近い遺伝子の転写(図15G)に付随していた。驚くべきことに、アクセシビリティが低下した領域は、MEF2C、GATA4、MEF2AおよびNKX2.5の結合部位に富んでいた(図15H)。これらは、心筋細胞の運命、構造、形態形成および収縮遺伝子発現を制御する心臓制御ネットワークの中核を成していた。この結果に一致して、心臓組織の発生を制御する経路は、アクセシビリティの低下した領域と最も有意に関連していた(図15I)。さらに、klf1-ON心室のRNA-seq解析は、心筋細胞脱分化マーカー遺伝子がアップレギュレートされる一方で、心筋構造および制御遺伝子が大きくダウンレギュレートされていることを証明した(図15I)。総合すると、これらのデータは、心筋細胞脱分化に対するモデル:Klf1は成体心臓の既存の心筋エンハンサーに結合し、心臓転写因子結合部位の中心でクロマチンアクセシビリティを低下させ、それによって心筋の発生と機能を制御する遺伝プログラムを抑制する、を証明している。
【0175】
実施例11:Klf1は多様な細胞周期遺伝子をアップレギュレートし、心筋細胞の増殖および分裂を促進する
klf1-ONの心臓で心筋細胞の増殖が増加しているという組織学的証拠(図12D、E)と一致して、本発明者らは、klf1の過剰発現でアップレギュレートされる遺伝子シグネチャの大部分が細胞周期機構に関連していることを見出した(図16A、B)。klf1-ONの心臓では、DNA複製、細胞周期および細胞質分裂の必須調節因子をコードする遺伝子の発現において強固な増加が観察された(図16C、D)。特に、本発明者らは、サイクリンD(ccnd1、ccnd2a、ccnd2b)、サイクリンE(ccne1、ccne2)、サイクリンA(ccna2)およびサイクリンB(ccnb1、ccnb2)などの多くの種類のサイクリンならびサイクリン依存性キナーゼ(cdk1、cdk2)をコードする遺伝子は大きくアップレギュレートしたが、Cdk阻害遺伝子(cdkn1ca)の発現はダウンレギュレートしていることを明らかにした。これらのサイクリン遺伝子のうち、本発明者らは、ccnd1およびccnd2a遺伝子のKlf1結合調節領域を検出し、Klf1がD型サイクリンの発現を直接調節していることを証明した。
【0176】
本発明者らは、Hippo-yes関連タンパク質(YAP)経路およびニューレグリン-ErbB2経路などの、成体心筋再生に関する公知の遺伝子経路とKlf1の相互作用も解析した。klf1-ONとklf-OFFの心臓のRNA-seqデータを用いて遺伝子セットのエンリッチメント解析を行ったところ、Klf1の過剰発現により、Hippo経路(図19A)の遺伝子シグネチャの有意な濃縮は検出されたが、ErbB経路(図19B)では検出されなかった。本発明者らは、これらの経路の阻害がklf1-ON心臓の心筋細胞増殖に影響するかどうかを評価し、ErbB(図19D)ではなく、YAP(図19C)の薬理学的阻害がklf1-ON心臓の心筋細胞増殖を有意に減少させることを見いだした。これらの知見は、Klf1がHippo-YAP経路を部分的に介して心筋細胞の増殖を仲介していることを証明している。klf1-ONの心臓では、多くのYAP標的遺伝子の発現が増加したが、Hippo経路のコア構成要素をコードする遺伝子の発現は有意に変化せず、これらのコア構成遺伝子にはKlf1のピークが見られなかった(データなし)ことから、Klf1が間接的なメカニズムを介してHippo-YAP経路を活性化することが証明された。
【0177】
実施例12:Klf1は、強固な心筋細胞増殖をサポートするために、代謝的リプログラミングを誘導する。
klf1-ONの心臓でダウンレギュレートされた遺伝子シグネチャの大部分は、ミトコンドリア代謝および生体エネルギー産生に関連していた(図16A、B、E)。klf1-ON心筋のTEM解析では、クリスターが減少しマトリックスが肥大化したミトコンドリア(図16F)、胚性および新生仔期のマウス心臓における機能的に未熟なミトコンドリアと同様の形態的表現型が明らかとなった。klf1-ONの心臓では、ミトコンドリアDNA(mtDNA)量も著しく減少し(図16G)、トリカルボン酸(TCA)サイクルや酸化的リン酸化などのミトコンドリアのエネルギー代謝を制御する遺伝子の網羅的なダウンレギュレーションを伴っていた。NADH、NAD+およびATPなどのこれらの経路の主要な代謝産物もklf1-ON心臓では有意に減少し(図16H-K)、klf1過剰発現中のミトコンドリアエネルギー代謝の低下のさらなるエビデンスを提供している。これらのデータは、Klf1経路が、他の心原性経路と同様に、生後心筋細胞における細胞周期停止の主要なメカニズムであるOXPHOSを減弱させることにより、心筋細胞の増殖を促進することを示す。
【0178】
Klf4は、ミトコンドリア生合成およびオートファジー性クリアランスを調節することにより、心臓ミトコンドリアのホメオスタシスを制御することが示されている。我々は、klf1-ONの心臓では、オートファジー遺伝子の有意な濃縮もオートファジー性フラックスの増加も検出しなかった。むしろ、我々は、klf1-ONの心臓では、ミトコンドリアのホメオスタシスと機能を制御する核遺伝子の発現が有意に減少していることを見出した(図16L)。特に、我々は、ミトコンドリアの生合成と酸化機能を制御するマスター制御転写因子であるPPARγコアクチベーター-1α(PGC-1α/PPARGC1a)をコードする遺伝子のダウンレギュレーションを見出した(図16L)。また、klf1-ONの心臓において、ppargc1a遺伝子のエンハンサーにKlf1のChIPピークがあることやH3K27acレベルが減少していることから、Klf1がppargc1aの発現を直接低下させてミトコンドリア機能を調節する機構であることを示していることを見出した。
【0179】
Warburg効果として知られるOXPHOSから好気性解糖へのエネルギー産生の転換は、癌細胞などの高増殖性細胞を支えており、最近では心筋再生も支えていることが示されている。しかし、kfl1-ONの心臓では解糖系酵素遺伝子の発現がダウンレギュレートし、kfl1-ONの心筋細胞は異なる代謝機構を利用して増殖を支えていることが証明された。Klf1の代謝的役割についての知見をさらに得るために我々は、7dptのklf1-ON心室とOFF心室のメタボロームを解析した。我々は、グルコース6-リン酸(図16M)とラクテートが有意に減少していることから、klf1-ONの心臓での解糖のダウンレギュレーションを確認した。一方、ペントースリン酸経路(PPP;図16N、O、Q、S)およびセリン合成経路(SSP;図16P)の重要代謝物、ならびにそれらの調節酵素の遺伝子は、klf1-ON心臓でアップレギュレートし、klf1過剰発現によって、グルコース代謝が解糖系からPPPとSSPに分岐していることが証明された。癌では、PPPとSSPは、高分子(核酸、アミノ酸など)と抗酸化物質(NADPHなど)の合成に重要な役割を果たし、細胞の増殖と成長を支えている。したがって、我々のデータは、Klf1が酸化的呼吸経路の代謝的再配列(rewiring)を誘導し、心筋細胞の広範な増殖に必要なバイオマスおよび抗酸化防御を提供することを示す。
【0180】
実施例13:マウス心臓におけるKlf1の保存された再生機能
マウスの心臓におけるKlf1の機能を調べた。RT-qPCRを用いて、心筋梗塞(MI)後の新生仔マウス心臓におけるマウスKlf1(mKlf1)遺伝子発現の有意なアップレギュレーションが検出された(図17A)。高解像度in situハイブリダイゼーションにより、梗塞部位の境界心筋でmKlf1 mRNAと心筋トロポニンT(TnT)染色の共局在化が検出された。これらの知見は、ゼブラフィッシュの心臓と同様に、新生仔マウスの心臓でも損傷を受けるとmKlf1の発現が誘導されることを示している。しかし、成体マウスのMI後の心臓ではmKlf1遺伝子の発現は有意にアップレギュレートせず(図17A)、加齢に伴う再生能力の低下の一因となっている。
【0181】
mKlf1の発現が成体マウス心臓における再生能力を解き放つかどうかに対処するために、我々は、心エコー法によってベースライン心機能を測定した後にMIを誘導し、コントロールレポーター(Ad-GFP;図17B)またはmKlf1コンストラクト(Ad-mKlf1;図17B)のいずれかを有するアデノウイルスベクターをMI心臓の梗塞心筋周辺に注入した(図17C、D)。心エコー図を用いて、我々は、3dpiでの両群における左心室駆出率(図17E)および左室内径短縮率(図17F)の顕著な減少を観察し、これらのコホートにおけるMIの誘導を実証した。心エコーの時間経過解析では、コントロール心臓の心機能は28dpiでさらに低下し(図17E、F)、虚血性心不全の発生を示唆した。一方、Ad-mKlf1処置心臓の心機能は7dpiで有意に改善し、14dpiまでにベースラインレベルのほぼ50%まで回復し(図17E-G)、コントロール群に対する有意な改善は28dpiでも維持されていた(図17G、H)。
【0182】
これらの結果と一致して、組織学的解析は、コントロールの心臓が重度の心臓リモデリングを発症したのに対し、Ad-mKlf1処置心臓は、28dpiにおいて瘢痕化が有意に少なく、著しく優れた心臓形態(図17H、I)を維持した(図17H、J)ことを証明した。我々は、小麦胚芽アグルチニン(WGA)で包含したTnT+領域で限定した心筋細胞サイズを測定し、Ad-mKlf1処置心臓の境界域心筋に沿って心筋細胞が有意に小さくなっていることを見出し(図17K)、mKlf1導入が心筋細胞の過形成を誘導することを示した。この観察と一致して、我々はまた、細胞増殖マーカーKi67(図17L)、S期マーカーEdU(図17M)および有糸分裂マーカーpHH3(図17N)と共標識したTnT+心筋細胞数の有意な増加を見出した。成体マウスの再生能の高い臓器である肝臓におけるAd-mKlf1導入の効果を評価した。細胞増殖に有意な変化は観察されず(図18A)、Klf1の再生促進機能は心臓に特異的であることが示された。同時に、これらのデータは、ゼブラフィッシュのKlf1と同様に、マウスKlf1は成体心臓において再生促進機能を有し、MI後の心臓において修復を誘導することを証明する。
【0183】
これらのデータは、Ad-mKlf1注入によるMI後の心臓の回復において、生存促進経路が主要な役割を果たしそうもないことを示す。ゼブラフィッシュのklf1-ON心臓における血管の増加の観察(図13A)と同様に、マウスのAd-mKlf1処置心臓の創傷部付近の冠状血管は有意に多く観察された(図18B)。これらのデータは、ゼブラフィッシュの心臓と同様に、マウスの心臓でもKlf1経路の活性化により、冠動脈も関与する再生プログラムが刺激され、血管の増加が、少なくとも部分的には、Klf1過剰発現によるより良い修復に寄与していることを示している。まとめると、Klf1の心筋での役割は成体ほ乳類では減衰しているが、Klf1を外来投与すると心筋再生が再開されることから、KLF1は損傷したヒト心臓の予備心筋内から心筋を再生する適切な治療戦略であることが示された。
【0184】
実施例14:方法
14.1 動物
4月から12月齢の外来種エクウィル(EK)バックグラウンド株の野生型および遺伝子的修飾ゼブラフィッシュを本研究で使用した。klf1ct系統を除き、すべてのトランスジェニック株をヘミ接合体として解析した。本研究で用いた公開遺伝子組換え系統は以下の通りである:
Tg(cmlc2:EGFP) - Burns, C. G. et al. Nat Chem Biol 1, 263-264 (2005),
TgBAC(tcf21:DsRed2) - Kikuchi, K. et al. Development 138, 2895-2902 (2011),
Tg(fli1a:EGFP) - Lawson, N. D. & Weinstein, B. M. Dev Biol 248, 307-318 (2002),
Tg(cmlc2:CreER) - Kikuchi, K., et al. Nature 464, 601-605 (2010),
Tg(bactin2:loxP-mCherry-STOP-loxP-DTA176) - Wang, J. et al. Development 138, 3421-3430 (2011),
Tg(gata4:EGFP) - Heicklen-Klein & Evans. Dev Biol 267, 490-504 (2004)、および
Tg(ubb:iCRE-GFP) - Sugimoto, K. et al Elife 6, e24635 (2017)。
【0185】
新規トランスジェニック株の作製の詳細は後述する。魚は1リットルあたり約5匹で飼育し、1日3回給餌した。水温は28℃に維持した。切除損傷は、既述のようにトリケインで麻酔したゼブラフィッシュに行った(Poss, K. D., Wilson, L. G. & Keating, M. T. Science 298, 2188-2190 (2002))。遺伝的心筋細胞枯渇は、記載されたように行った(Wang, J. et al. Development 138, 3421-3430 (2011))。
【0186】
8週齢から12週齢までの雄のC57BL/6Jマウスを本研究に用いた。マウスは、12:12時間の明暗サイクルでラックにケージあたり最大5匹で飼育し、餌と水への自由なアクセスを与えた。すべての動物実験は、機関および国の動物倫理ガイドラインに従って行われ、Garvan Institute of Medical Research/St Vincent's Hospital Animal Ethics Committeeにより承認された。
【0187】
14.2 心筋梗塞
キシラジン(13mg/kg)およびケタミン(100mg/kg)の腹腔内注射により麻酔したマウスに対して、既述のように、MIを実施した(Naqvi, N. et al. Cell 157, 795-807 (2014))。麻酔したマウスを、ミニベントベンチレーター(Harvard Apparatus, Hollistion, MA, USA)を用いて、酸素中1.5%-2%のイソフルランで換気した(毎分120ストロークで0.5 mLストローク量)。第4肋骨腔を開き、左前下行(LAD)動脈をテーパー針に8-0プロレン縫合糸を使用して永久結紮し、胸部を6-0プロレン縫合糸で閉じた。
【0188】
14.3 actb2:BS-klf1、klf2a、klf2bおよびklf4の作製
pTagBFP-C(Evrogen, Moscow, Russia)からTagBFP cDNAをPCR増幅し、Ultramer Oligo Synthesis(IDT Technologies, Coralville, IA, USA)を用いて3xHA-tagを合成した。actb2:loxP-DsRed-STOP-loxP-EGFPコンストラクト(Kikuchi, K. et al., Nature 464, 601-605 (2010))のDsRedとEGFPは、それぞれTagBFPと3xHA-tagに置き換えた。Klf1、Klf2a、Klf2bおよびKlf4 cDNAは、野生型(Ekkwill)ゼブラフィッシュcDNAライブラリを用いたPCRによって増幅し、3xHA-tagで下流およびインフレームにクローニングした。各コンストラクトにおいて、メガヌクレアーゼ法を用いて、カセット全体をトランスジェネシスのためのI-SceI部位で挟んだ(Thermes, V. et al. Mech Dev 118, 91-98 (2002))。これらのトランスジェニック系統のフルネームは以下の通りである:Tg(actb2:loxP-TagBFP-STOP-loxP-3xHA-klf1)vcc29; Tg(actb2:loxP-TagBFP-STOP-loxP-3xHA-klf2a)vcc36; Tg(actb2:loxP-TagBFP-STOP-loxP-3xHA-klf2b)vcc38;およびTg(actb2:loxP-TagBFP-STOP-loxP-3xHA-klf4)vcc35。各系統について少なくとも2つのファウンダー系統を単離し、cmlc2:CreERと交配して、3xHA-tagに対する免疫蛍光染色により成体心臓におけるKlf1、Klf2a、Klf2bおよびKlf4タンパク質の発現を調べた。3xHA-Klf2a、Klf2bまたはKlf4が、3xHA-Klf1と同程度かそれ以上に発現している系統を本研究に用いた。
【0189】
14.4 actb2:BS-dn-klf1の作製
Klf5のドミナントネガティブ型の構築で採用した戦略(Oishi, Y. et al. Cell Metab 1, 27-39 (2005))に基づき、エングレイルドリプレッサードメイン(EnR)を用いてKlf1のドミナントネガティブ型を作製した。
【0190】
EnRをpCS2-EnRからPCR増幅し、Klf1 cDNAの5'末端とインフレームで融合させた。p026 pCS2-EnRはDr. Ramesh Shivdasaniから贈られた(Addgene plasmid #11028; http://n2t.net/addgene:11028; RRID: Addgene_11028)。得られたEnR-Klf1キメラ遺伝子をactb2:loxP-TagBFP-STOP-loxP骨格コンストラクトのloxP-flanked STOPカセットの下流にクローニングした。メガヌクレアーゼ法を用いて、カセット全体をトランスジェネシスのためのI-SceI部位で挟んだ。このトランスジェニック系統のフルネームは、Tg(actb2:loxP-TagBFP-STOP-loxP-dn-klf1)vcc22である。
【0191】
14.5 ubb:loxP-TagBFP-STOP-loxP-EGFPの作製
このトランスジェニックコンストラクトは、Red/ET組み換え(GeneBridges, Heidelberg, Germany)を用いて、ubb翻訳開始コドン後のCH211-202A12 BACにloxP-TagBFP-STOP-loxP-EGFPカセットを挿入して作製された。最終コンストラクトを精製し、SfiIで直鎖化し、単細胞期胚に注入した。このトランスジェニック系統のフルネームは、TgBAC(ubb:loxP-TagBFP-STOP-loxP-EGFP)vcc18である。
【0192】
14.6 klf1-ERの作製
3xHA-Klf1 cDNAをactb2:BS-klf1コンストラクトからPCR増幅し、5.1kb cmlc2プロモーターの下流にサブクローニングした。ヒトエストロゲン受容体(ER)cDNAはpBabepuro-myc-ERからPCR増幅し、3xHA-Klf1で下流およびインフレームにサブクローニングした。pBabepuro-myc-ERはWafik El-Deiry (Addgene plasmid #19128; http://n2t.net/addgene:19128; RRID:Addgene_19128)から贈られた。水晶体蛍光によるトランスジェニック動物の視覚的識別を可能にする水晶体特異的アルファA-クリスタリンプロモーターによって制御されるTagBFPカセットも、cmlc2プロモーターの上流に逆向きで挿入された。メガヌクレアーゼ法を用いて、カセット全体をトランスジェニックのためのI-SceI部位で挟んだ。このトランスジェニック系統のフルネームは、Tg(cmlc2:3xHA-klf1-ER;cryaa:TagBFP)vcc32である。
【0193】
14.7 条件付きklf1アレルの作製
公開されたプラスミドpZwitchを修飾して、そのサイズを小さくするようにTagRFP配列および5x BGHpAの2つの繰り返しを除去した。得られたプラスミドをpZwitch2と称した。野生型ゼブラフィッシュ成体(EK)から単離したゲノムDNAから、LA増幅プライマーklf1-LA-Fとklf1-LA-RおよびRA増幅プライマーklf1-RA-Fとklf1-RA-Rを用いて相同性配列のLAとRAを増幅した。LAとRAのPCR産物は、制限酵素消化によりpZwitch2の対応する制限酵素部位にクローニングされた。得られた産物であるpZwitch2-klf1-int1を、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)と共に1細胞期胚に共注入し、注入した胚をスクリーニングして、前述(Sugimoto,K. et al Elife 6, e24635 (2017))のようにファウンダーフィッシュを同定した。このトランスジェニック系統のフルネームは、Tg(klf1:Zwitch2)vcc33Gtである。
【0194】
Platinum TALENの構築に使用したTALENキットは、Dr. Takashi Yamamotoから贈られた(Addgene kit #1000000043)。Prime-a-Gene Labeling System (Promega, Madison, WI, USA)を用いて、放射能標識したプローブでサザンブロッティングを実施した。検出プローブは、野生型ゲノムDNAと増幅プライマーklf1-probe-Fおよびklf1-probe-Rを用いたPCRで作製した(補表1)。DNAバンドはFLA-5100 Bio-Imaging Analyzer(FujiFilm, Tokyo, Japan)で画像化した。
【0195】
14.8 RT-PCR
TRIzol試薬を用いて全RNAを抽出し、その後、Transcriptor first strand cDNA synthesis kit(Roche, Basel, Switzerland)またはSensiFAST cDNA synthesis kit(Bioline, Eveleigh, Australia)のいずれかを用いてcDNAを合成した。RT-qPCR は LightCycler 480 System(Roche)または CFX384 Touch Real-Time PCR Detection System(Bio-Rad, Hercules, CA, USA)を用いて実施した。cDNAの総量は、RT-qPCR実験におけるactb2またはrpl13aの増幅に正規化した。すべてのRT-qPCRアッセイは、SYBR Select Master Mix(Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA, USA)またはTaqMan Universal Master Mix(Thermo Fisher Scientific)を用いて実施した。プライマーの詳細については、補足表1を参照。
【0196】
14.9 細胞選択(Cell sorting)
心筋細胞、心内膜細胞および心外膜細胞を、記載(Hui, S. P. et al. Dev Cell 43, 659-672.e5 (2017年))されているように蛍光活性細胞選別(FACS)を用いて、cmlc2:EGFP、tcf21:DsRed2またはfli1a:EGFPを有するトランスジェニックレポーターゼブラフィッシュの心室からそれぞれ精製した。
【0197】
14.10 In situ ハイブリダイゼーション
ゼブラフィッシュのklf1およびマウスのKlf1のmRNAは、RNAscopeプローブ(Advanced Cell Diagnostics, Hayward, CA, USA)を用いて検出した。ゼブラフィッシュklf1およびマウスKlf1 RNAscopeプローブは、Advanced Cell Diagnostics社によって設計および合成された。RNAscope 2.5 HD Detection Kit-Red(Advanced Cell Diagnostics)の製造元のプロトコルを用いてシグナルを検出し、次いで抗トロポニンC抗体または抗トロポニンT抗体を用いて免疫蛍光を行った。画像化は、Zeiss LSM 710共焦点顕微鏡を用いて、記載のように行った(Hecksher-Sorensen, J. & Sharpe, J. Mech Dev 100, 59-63 (2001))。
【0198】
14.11 組織学的アッセイ
ピクロマロリー染色、3,3'-ジアミノベンジジン(DAB)染色およびゴモリトリクローム染色を標準プロトコルで実施した。免疫蛍光は、パラホルムアルデヒド固定した10μm凍結切片において、既述のように行った(Hui, S. P. et al. Dev Cell 43, 659-672.e5 (2017))。補足表2に、本研究で使用した一次抗体および二次抗体の詳細を示す。胚のヘモグロビン染色は、Detrichら、Proc Natl Acad Sci U S A 92, 10713-10717 (1995)に記載の通り、o-ジアニシジン (Sigma Aldrich, St. Louis, MO, USA)を用いて実施した。
【0199】
14.12 顕微鏡
ピクロマロリー法、DAB法またはゴモリトリクローム法で染色した切片をLeica DM4000 B顕微鏡(Leica Camera AG, Wetzlar, Germany)で画像化した。免疫蛍光切片は、Zeiss AXIO imager M1 microscope(Carl Zeiss AG, Oberkochen, Germany)を用いて画像化し、共焦点画像は、Zeiss LSM 710 confocal microscope (Carl Zeiss AG)で撮影した。ゼブラフィッシュ胚のホールマウント画像は,MVX10 顕微鏡(Olympus、東京、日本)を用いて撮影した。
【0200】
14.13 透過型電子顕微鏡法
ゼブラフィッシュの心室を0.1Mカコジル酸ナトリウム緩衝液中の2.5%グルタルアルデヒドで固定し、PELCO BioWaveマイクロ波プロセッサー(Ted Pella Inc.、米国カリフォルニア州レディング)で新しい固定液で再固定した。後固定はカコジル酸緩衝液中の1%OsO4で行った。組織はProcure 812 resin(ProSciTech, Kirwan, Australia)で包埋し、Leica Ultracut EM UC6(Leica Camera AG)を用いて切片を作成した。超薄切片を銅グリッド上に取り、FEI Tecnai G220透過型電子顕微鏡(FEI社、Hillsboro, OR, USA)上で200kVにて画像化した。
【0201】
14.14 4-HT投与
ゼブラフィッシュを、記載されているように(Kikuchi, K. et al. Development 138, 2895-2902 (2011))、5 μMの4-HTを添加した水槽水の小ビーカーに10-12時間一晩入れた。ゼブラフィッシュを新鮮な水槽水ですすぎ、給餌のために循環水システムに戻した。このサイクルを複数の処置について繰り返した。ゼブラフィッシュの胚は、給餌しないことを除いて、同様に処置した。
【0202】
14.15 EdUアッセイ
klf1-OFFおよびON魚に、4-HT処置後5、6、7日目に8mM EdU 50μLを1日1回腹腔内注射した。マウスについては、MI手術の1週間後に浸透圧ミニポンプ(ALZET, Charles River, MA, USA)を皮下に埋め込み、EdUを毎日10 mg/kgずつ7日間注入した。
【0203】
14.16 心筋脱分化の定量化
ミオシン重鎖(MHC)とSm22で共標識したゼブラフィッシュ心室組織をImageJ(NIH, Bethesda, MD, USA)によりピクセル単位で定量化した。総MHC+領域もピクセル単位で定量化し、総MHC+領域に対するSm22+MHC+領域の割合を求めた。各心臓について、選択した3つの切片を解析した。心筋のマーカーとしてトロポニンCを用いた以外は、Alcamの心筋発現を同様に定量化した。
【0204】
14.17 ゼブラフィッシュの心臓における心筋細胞増殖の定量化
PCNA+心筋細胞は、既述のように損傷した心臓で定量化した(Hui, S. P. et al. Dev Cell 43, 659-672.e5 (2017))。簡単に説明すると、Zeiss AXIO imager M1顕微鏡(垂直方向約185μm)を用いて損傷境界域の画像を撮影し、ImageJソフトウェア(NIH)を用いてMef2+細胞およびMef2+PCNA+細胞の数を手動で数えた。各心臓について3つの選択された切片を分析した。心室中部の心筋の画像(縦490μm×横420μm)を定量化に使用した以外は、非損傷の心室における定量化を同様に実施した。
【0205】
非損傷のゼブラフィッシュ心室におけるEdU+心筋細胞を定量化するために、心室中部の心筋(縦490μm×横420μm)の共焦点画像を、心筋厚全体に及ぶz-スタックで撮影した。cmlc2::EGFP+心筋内に埋め込まれたEdU+核の数を手動で数え、ImageJソフトウェア(NIH)を用いて定量化した全cmlc2:EGFP+領域に対して正規化した。各心臓について3つの選択された切片を分析した。pHH3+心筋細胞の定量化は、心室全体の中のpHH3+核を数えることを除いて、同様に実施した。
【0206】
14.18 マウス心臓における心筋細胞増殖の定量化
Ki67+心筋細胞の定量化のために、瘢痕組織に隣接する領域の断面画像を乳頭筋レベルで撮影した。瘢痕から約700μmの距離内の領域中の健常心筋と定義された損傷境界域心筋のKi67+核の数を手動で数えた。WGA染色で囲まれたKi67+核は非心筋細胞と定義し、カウントから除外した(Ang, K. L. et al. Am J Physiol Cell Physiol 298, C1603-9 (2010))。数値は、ImageJソフトウェア(NIH)を用いて定量化された総トロポニンT+領域に対して正規化した。EdU+心筋細胞またはpHH3+心筋細胞の定量化も同様に行った。
【0207】
14.19 心筋細胞数およびサイズの測定
ゼブラフィッシュ胚の心筋細胞数を、既述のように定量化した(Sugimoto, K. et al Elife 6, e24635 (2017))。成体心臓の心筋細胞数を、以下のように測定した。心室を3%PFAで5分間簡単に固定し、1mg/mLコラゲナーゼ4型(Worthington Biochemical, Lakewood, NJ, USA)を含むPBS中4℃で一晩インキュベートした。解離した細胞をPBSに再懸濁し、明瞭なエッジと明確な筋を有する棒状の細胞を、血球計を用いて心筋細胞として手動で数えた。
【0208】
心筋細胞のサイズを測定するために、ゼブラフィッシュの心室を3%PFAで5分間固定し、1mg/mLコラゲナーゼ4型(Worthington Biochemical)を添加したPBS中で4℃、一晩インキュベートした。心筋細胞をピペットの穏やかなトリチュレーションによって解離させた後、細胞をPBSに再懸濁し、Cyto-Tek Cytocentrifuge(Sakura Finetek, Tokyo, Japan)を用いてスライド上に沈着させ、その後、抗α-アクチニン抗体を用いて免疫蛍光を行った(補足表2)。α-アクチニン細胞の共焦点画像を使用して、ImageJソフトウェア(NIH)を使用して各心筋細胞のサイズを測定した。
【0209】
14.20 心室面積の測定
成体のゼブラフィッシュ心室の切片をピクロマロリー染色し、ImageJソフトウェア(NIH)を用いて心室筋面積を定量化した。各心臓について3つの選択された切片を解析した。
【0210】
実施例15:まとめ
本開示は、成体心筋細胞の再生可塑性におけるKlf1の機能を提供するものである。Klf4とドメイン構造が類似しているにもかかわらず、Klf1は、細胞のリプログラミングにおけるKlf4の公知の機能とは全く異なるメカニズムで心筋細胞の可塑性を制御する。Klf4は、メチル化DNAと結合する能力を有し、パイオニア因子としてサイレントクロマチンを標的として多能性遺伝子の発現を誘導する。一方、Klf1は低メチル化の構成的な活性心筋エンハンサーと会合し、心筋の発生と機能を制御するコア転写因子の結合部位のクロマチンアクセシビリティを低下させる。最近、ゼブラフィッシュの心筋細胞再生中に、活性クロマチンのゲノムワイドな減少が起こることが示されている。本明細書に示されたデータは、この知見を支持し、さらに、Klf1が心筋細胞脱分化の引き金となる心筋遺伝子プログラムの網羅的な抑制に重要な役割を果たすことを証明している。
【0211】
本明細書に提示されたデータは、Klf1がYAPを介して部分的に心筋細胞増殖を誘導することを示す(図19A、C)。YAPの心筋活性化は、細胞骨格およびサルコメアの変化に起因する機械的シグナルによって制御される。Klf1は、心臓収縮とアクチン細胞骨格構成を制御する遺伝子のダウンレギュレーションによって誘導されるサルコメアの減少の結果として、Hippoシグナル伝達を活性化するかもしれない(図15H、I)。Klf1のChIP-seqのモチーフ解析では、YAPの補因子であるTEAドメイン転写因子4(TEAD4)の結合部位に濃縮が同定され(図15B)、本作用のメカニズムの1つとして、核内のYAP-TEAD4複合体との会合を介してKlf1がHippo経路を制御することが示された。
【0212】
Klf1は、成体心筋細胞の代謝的リプログラミングを、細胞呼吸経路からペントースリン酸経路(PPP)およびセリン合成経路(SSP)へと誘導する。これらの経路は、高分子と抗酸化物質の合成をアップレギュレートし、klf1-ON心筋細胞が広範囲に増殖するのを助けるため、心筋細胞の再生治療においてこれらの経路を標的とする可能性を示している。しかし、PPPとSSPはATPを産生しないため、これらの経路が活性化し続けると、エネルギー不足に陥り(図16K)、致命的な心機能不全に陥る可能性が高い(図14A、B)。
図1
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【配列表】
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【国際調査報告】