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特表2022-543598ケメリン類似体を含む組成物とその使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-13
(54)【発明の名称】ケメリン類似体を含む組成物とその使用方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/08 20060101AFI20221005BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20221005BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20221005BHJP
   A61K 47/54 20170101ALI20221005BHJP
【FI】
C07K7/08 ZNA
A61K38/10
A61P25/02 101
A61K47/54
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022506697
(86)(22)【出願日】2020-07-29
(85)【翻訳文提出日】2022-03-25
(86)【国際出願番号】 US2020044045
(87)【国際公開番号】W WO2021021915
(87)【国際公開日】2021-02-04
(31)【優先権主張番号】62/881,725
(32)【優先日】2019-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522042913
【氏名又は名称】オーケーワイオー ファーマ リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100196977
【弁理士】
【氏名又は名称】上原 路子
(72)【発明者】
【氏名】クンワー シャイルブハイ
(72)【発明者】
【氏名】ラージクマール ブイ.パティル
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA17
4C076AA49
4C076AA95
4C076BB01
4C076BB24
4C076BB31
4C076EE59
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA06
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA18
4C084BA23
4C084MA52
4C084MA55
4C084NA14
4C084ZA211
4C084ZA212
4H045AA10
4H045BA16
4H045BA55
4H045EA21
(57)【要約】
本開示は、眼の炎症、網膜の炎症、ドライアイ、ブドウ膜炎、アレルギー性結膜炎、及び神経損傷又は神経変性に起因する炎症などの炎症状態を治療するためのペプチド組成物及び方法に関する。本明細書に開示されるペプチド組成物はまた、神経障害性疼痛、眼痛、慢性疼痛、化学療法又は放射線に起因する疼痛、神経損傷又は神経変性に起因する疼痛、及び炎症状態、感覚異常、又は異痛症に起因する疼痛などの疼痛を治療するために使用され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
-Nle-PX-Tic-X(配列番号1)の配列を有するアミノ酸を含むペプチドと
前記ペプチドに結合した脂質実体とを含む組成物(式中、
は、A、dA、及びNorVから選択され;
は、A又はGであり;
は、F又はdYであり;
は、F又はYであり;
は、S又はdSであり;
は、Q又はα-アミノアジピン酸(Aad)であり;
は、Y、F、及びfFから選択され;
は、A又はdAであり;及び
は、dA又はdSである)。
【請求項2】
前記ペプチドが、X-Nle-PX-Tic-X(配列番号1)の配列を有するアミノ酸からなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ペプチドが、AAFY-Nle-PSQYA-Tic-dA(配列番号2)、AG-dY-F-Nle-P-dS-Aad-FA-Tic-dA(配列番号3)、dA-G-dY-F-Nle-P-dS-Q-fF-dA-Tic-dA(配列番号4)、NorV-G-dY-F-Nle-P-dS-QF-dA-Tic-dA(配列番号5)、AG-dY-F-Nle-P-dS-QFA-Tic-dS(配列番号6)、及びdA-G-dY-F-Nle-P-dS-QF-dA-Tic-dA(配列番号7)から選択される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記脂質実体が、リンカー実体を介して前記ペプチドに連結されている、前記請求項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記脂質実体が、前記ペプチドのN末端又はその近くで連結されている、前記請求項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記脂質実体が、前記ペプチドのC末端又はその近くで連結されている、前記請求項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記脂質実体が、α-リノレン酸、γ-リノレン酸、ステアリドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、リノール酸、ジホモ-γ-リノレン酸、アラキドン酸、ドコサテトラエン酸、パルミトレイン酸、バクセン酸、パウリン酸、オレイン酸、エライジン酸、ゴンドイン酸、エルシン酸、ネルボン酸、ミード酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DPPE)、GM1ガングリオシド、GM2ガングリオシド、GM3ガングリオシド、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン(DOPS)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、グリコスフィンゴ脂質、スフィンゴ脂質、ホスファチジルイノシトール4,5-ビスホスフェート(PIP)、セラミド、コレステロール、エルゴステロール、フィトステロール、ホパノイド、ステロイド、及び17-カルボキシ-1-オキソ-ヘプタデシルからなる群から選択される、前記請求項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記脂質実体が、α-リノレン酸、γ-リノレン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、バクセン酸、オレイン酸、及びエライジン酸からなる群から選択される、前記請求項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記リンカー実体が、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ペプチド、アミノエチルエタノールアミン(AEEA)、イヌリン、三糖、又はこれらの組み合わせを含む、前記請求項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記リンカー実体がポリエチレングリコールを含む、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記リンカー実体が以下からなる群から選択される、前記請求項のいずれか1項に記載の組成物:
【化1-1】
【化1-2】
【化1-3】
【請求項12】
前記脂質実体と前記リンカー実体の組み合わせがパルミチン酸-PEG8を含む、請求項4~11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
前記脂質実体がペプチドに共有結合している、前記請求項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
前記組成物が水溶性である、前記請求項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載の組成物と医薬的に許容し得る担体とを含む、医薬組成物。
【請求項16】
それを必要とする被験体の疼痛を治療する方法であって、前記被験体に、治療有効量の請求項1~14のいずれか1項に記載の組成物又は請求項15に記載の医薬組成物を投与することを含む方法。
【請求項17】
前記疼痛が眼の痛みである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記疼痛が慢性疼痛である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記疼痛が神経障害性疼痛である、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記疼痛が、化学療法又は放射線療法に起因する、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
前記疼痛が、神経損傷又は神経変性に起因する、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
前記疼痛が、炎症状態、感覚異常、又は異痛症に起因する、請求項16に記載の方法。
【請求項23】
前記組成物又は前記医薬組成物が局所投与される、請求項16~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記組成物又は前記医薬組成物が、1日1回、1日2回、又は1日3回投与される、請求項16~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
鎮痛薬を投与することをさらに含む、請求項16~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記鎮痛薬が、パラセタモール、非ステロイド性抗炎症薬、COX-2阻害剤、オピオイド、又は医療用大麻である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記被験体がヒトである、請求項16~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
それを必要とする被験体の炎症状態を治療する方法であって、前記被験体に、治療有効量の請求項1~14のいずれか1項に記載の組成物又は請求項15に記載の医薬組成物を投与することを含む方法。
【請求項29】
前記炎症状態が眼の炎症である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記炎症状態がドライアイ疾患である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記炎症状態がブドウ膜炎である、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記炎症状態がアレルギー性結膜炎である、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
前記炎症状態が網膜炎症性疾患である、請求項29に記載の方法。
【請求項34】
前記炎症状態が、神経損傷又は神経変性に起因する、請求項28に記載の方法。
【請求項35】
前記組成物又は前記医薬組成物が局所投与される、請求項28~34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記組成物又は前記医薬組成物が、1日1回、1日2回、又は1日3回投与される、請求項28~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
前記被験体がヒトである、請求項28~36に記載のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
疼痛の治療に使用するための、請求項1~14のいずれか1項に記載の組成物、又は請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項39】
前記疼痛が眼痛である、請求項38に記載の使用のための組成物又は医薬組成物。
【請求項40】
前記疼痛が慢性疼痛である、請求項38に記載の使用のための組成物又は医薬組成物。
【請求項41】
前記疼痛が神経障害性疼痛である、請求項38に記載の使用のための組成物又は医薬組成物。
【請求項42】
前記疼痛が、化学療法又は放射線に起因する、請求項38に記載の使用のための組成物又は医薬組成物。
【請求項43】
前記疼痛が、神経損傷又は神経変性に起因する、請求項38に記載の使用のための組成物又は医薬組成物。
【請求項44】
前記疼痛が、炎症状態、感覚異常、又は異痛症に起因する、請求項38に記載の使用のための組成物又は医薬組成物。
【請求項45】
前記組成物又は前記医薬組成物が局所投与される、請求項38~44のいずれか1項に記載の使用のための組成物又は医薬組成物。
【請求項46】
前記組成物又は前記医薬組成物が、1日1回、1日2回、又は1日3回投与される、請求項38~45のいずれか1項に記載の使用のための組成物又は医薬組成物。
【請求項47】
前記方法が、鎮痛薬を投与することをさらに含む、請求項38~46のいずれか1項に記載の使用のための組成物又は医薬組成物。
【請求項48】
前記鎮痛薬が、パラセタモール、非ステロイド性抗炎症薬、COX-2阻害剤、オピオイド、又は医療用大麻である、請求項47に記載の使用のための組成物又は医薬組成物。
【請求項49】
前記被験体がヒトである、請求項38~48のいずれか1項に記載の使用のための組成物又は医薬組成物。
【請求項50】
炎症状態の治療に使用するための、請求項1~14のいずれか1項に記載の組成物又は請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項51】
前記炎症状態が眼の炎症である、請求項50に記載の使用のための組成物又は医薬組成物。
【請求項52】
前記炎症状態がドライアイ疾患である、請求項51に記載の使用のための組成物又は医薬組成物。
【請求項53】
前記炎症状態がブドウ膜炎である、請求項51に記載の使用のための組成物又は医薬組成物。
【請求項54】
前記炎症状態がアレルギー性結膜炎である、請求項51に記載の使用のための組成物又は医薬組成物。
【請求項55】
前記炎症状態が網膜炎症性疾患である、請求項51に記載の使用のための組成物又は医薬組成物。
【請求項56】
前記炎症状態が神経損傷又は神経変性に起因する、請求項50に記載の使用のための組成物又は医薬組成物。
【請求項57】
前記組成物又は医薬組成物が局所投与される、請求項50~56のいずれか1項に記載の使用のための組成物又は医薬組成物。
【請求項58】
前記組成物又は医薬組成物が、1日1回、1日2回、又は1日3回投与される、請求項50~57のいずれか1項に記載の使用のための組成物又は医薬組成物。
【請求項59】
前記被験体がヒトである、請求項50~58のいずれか1項に記載の使用のための組成物又は医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2019年8月1日に出願された米国特許出願公開第62/881,725号の優先権及び利益を主張し、その内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
配列表の参照による組み込み
2020年6月28日に作成され、サイズが16KBである「OKYO-006_001WO_Sequence Listing_ST25.txt」という名前のテキストファイルの内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0003】
技術分野
本開示は、一般にケメリン(chemerin)類似体、並びに、特に限定されるものではないが、炎症状態及び疼痛状態を含む様々な疾患及び状態の治療におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0004】
開示の背景
特に限定されるものではないが、眼の炎症、ドライアイ、ブドウ膜炎(例えば非感染性ブドウ膜炎)、アレルギー性結膜炎、網膜の炎症、及び神経損傷又は神経変性に起因する炎症を含む様々な炎症状態が存在する。眼の炎症は、眼の微生物感染によって引き起こされ得る。そのような感染は、真菌、ウイルス、又は細菌性であり得る。眼の炎症はまた、外傷、自己免疫疾患、化学的損傷、コンタクトレンズ、又はその他の外部刺激によっても引き起こされ得る。
【0005】
例えばドライアイは、その病因に炎症が関与する涙液及び眼表面の多因子性疾患である。ドライアイは、一般的で慢性的な課題であり、特に高齢者によく見られる。2000年には、米国での有病率は、女性で約17%、男性で約12%と推定されているが、近年増加しており、50%を超えると推定されている。ドライアイの人は、十分に涙が出ないか、涙の質が悪いかのいずれかである。涙はまぶたの中や周りのいくつかの腺によって生成される。涙の生成は、年齢とともに、さまざまな病状によって、又は特定の薬の副作用として減少する傾向がある。風や乾燥した気候などの環境条件も、涙液の蒸発が増えるため、涙液量が減少する可能性がある。通常の涙の生成量が減少したり、涙が目から急速に蒸発したりすると、ドライアイの症状が現れる可能性がある。涙の質に関しては、涙は油、水、粘液の3つの層で構成されている。各成分は、目の前面を保護し、栄養を与える。滑らかな油層は水層の蒸発を防ぎ、一方ムチン層は涙を目の表面に均等に広げる。前記3つの涙液層のいずれかの不足のために、涙液の蒸発が速すぎるか、角膜全体に均一に広がらない場合、ドライアイの症状が現れる可能性がある。
【0006】
ドライアイの一般的な形態は、涙の水層が不十分である場合に発生する。この状態は、乾性角結膜炎(KCS)とも呼ばれる。
【0007】
疼痛には、神経障害性疼痛、眼痛、慢性疼痛、化学療法又は放射線に起因する疼痛、神経損傷又は神経変性に起因する疼痛、及び炎症状態、感覚異常、又は異痛症に起因する疼痛を含む、様々な疼痛状態もある。
【0008】
例えば、神経障害性疼痛は、通常、組織損傷を伴う複雑な慢性疼痛状態である。神経障害性疼痛では、神経線維自体が傷害されたり、機能不全になったり、損傷されたりしている可能性がある。これらの傷害された神経線維は、他の疼痛センターに誤った信号を送る。神経線維損傷の影響には、損傷部位と損傷周辺の両方での神経機能の変化が含まれる。神経障害性疼痛は世界中の何百万人もの人々に影響を及ぼす深刻な健康問題であり、全人口の7%にも発生する。患者の神経障害性疼痛の管理は複雑であり、推定40~60%の人が既存の鎮痛療法に抵抗性である。高齢化、糖尿病の流行、及び癌とAIDSの患者はすべて、難治性の神経障害性疼痛の流行に寄与しており、この状態の新しい治療法を開発する差し迫った必要性を浮き彫りにしている。
【0009】
眼は、感覚神経線維によって強く神経支配されており、眼及び眼窩の炎症性、虚血性、さらには腫瘍性病変でさえ、痛みを引き起こす可能性がある。眼痛の眼科的原因には、ドライアイ及び他の形態の角膜炎、急性閉塞隅角緑内障、及び眼内炎症が含まれる。乾性角膜炎すなわちドライアイは、眼の不快感の極めて一般的な原因である。これらの状態は、最も一般的には、細隙灯による、角膜、前眼部、及び前部硝子体の検査によって診断される。ドライアイは、まばたきの頻度を減らす視覚的な作業、特にコンピューターでの作業によって悪化し、これはさまざまな原因と結果があり、涙の生成を減らすか又は涙の蒸発を増やす状態から生じる。ドライアイは、自己免疫シェーグレン症候群の特徴の1つである。フルオレセイン又はローズベンガル染色、異常な涙液層破壊時間と、又はシルマー検査の減少の証拠は、ドライアイ症候群の確認に役立つ場合がある。間接検眼鏡検査又は細隙灯生体顕微鏡検査による後眼部検査は、脈絡膜又は網膜の炎症又は後部強膜炎の証拠を示すことがある。
【0010】
化学療法又は放射線療法は、末梢神経障害(四肢の痛みを伴うしびれ)又は知覚異常(手、足、又は体の任意の四肢のしびれ及びうずき)を引き起こし得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本開示は、上記のような様々な疼痛及び/又は炎症状態に苦しむ患者の必要性に対処する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
開示の概要
本開示は、神経障害性疼痛、眼痛、慢性疼痛、化学療法又は放射線に起因する疼痛、神経損傷又は神経変性に起因する疼痛、炎症状態 感覚異常、又は異痛症に起因する疼痛、神経損傷又は神経変性に起因する炎症、眼の炎症、網膜の炎症、ブドウ膜炎、アレルギー性結膜炎、及び/又はドライアイの少なくとも1つの症状を、治療又は改善するための組成物及び方法を提供する。
【0013】
1つの態様において、本開示は、以下を含む組成物を提供する:X-Nle-PX-Tic-X(配列番号1)の配列を有するアミノ酸を含むペプチド、及びこのペプチドに連結された脂質実体、ここで、Xは、A、dA、及びNorVから選択され;Xは、A又はGであり;Xは、F又はdYであり;Xは、F又はYであり;Xは、S又はdSであり;Xは、Q又はα-アミノアジピン酸(Aad)であり;Xは、Y、F、及びfFから選択され;Xは、A又はdAであり;Ticは、(S)-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-3-カルボン酸であり;Xは、dA又はdSである。
【0014】
いくつかの実施態様において、ペプチドは、X-Nle-PX-Tic-X(配列番号1)の配列を有するアミノ酸からなる。
【0015】
いくつかの実施態様において、ペプチドは、AAFY-Nle-PSQYA-Tic-dA(配列番号2)、AG-dY-F-Nle-P-dS-Aad-FA-Tic-dA(配列番号3)、dA-G-dY-F-Nle-P-dS-Q-fF-dA-Tic-dA(配列番号4)、NorV-G-dY-F-Nle-P-dS-QF-dA-Tic-dA(配列番号5)、AG-dY-F-Nle-P-dS-QFA-Tic-dS(配列番号6)、及びdA-G-dY-F-Nle-P-dS-QF-dA-Tic-dA(配列番号7)から選択される。
【0016】
いくつかの実施態様において、脂質実体は、リンカー実体を介してペプチドに連結されている。
【0017】
いくつかの実施態様において、脂質実体は、ペプチドのN末端又はその近くで連結されている。
【0018】
いくつかの実施態様において、脂質実体は、ペプチドのC末端又はその近くで連結されている。
【0019】
いくつかの実施態様において、脂質実体は、α-リノレン酸、γ-リノレン酸、ステアリドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、リノール酸、ジホモ-γ-リノレン酸、アラキドン酸、ドコサテトラエン酸、パルミトレイン酸、バクセン酸、パウリン酸、オレイン酸、エライジン酸、ゴンドイン酸、エルシン酸、ネルボン酸、ミード酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DPPE)、GM1ガングリオシド、GM2ガングリオシド、GM3ガングリオシド、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン(DOPS)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、グリコスフィンゴ脂質、スフィンゴ脂質、ホスファチジルイノシトール4,5-ビスホスフェート(PIP)、セラミド、コレステロール、エルゴステロール、フィトステロール、ホパノイド、ステロイド、及び17-カルボキシ-1-オキソ-ヘプタデシルからなる群から選択される。
【0020】
いくつかの実施態様において、脂質実体は、α-リノレン酸、γ-リノレン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、バクセン酸、オレイン酸、及びエライジン酸からなる群から選択される。
【0021】
いくつかの実施態様において、リンカー実体は、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ペプチド、アミノエチルエタノールアミン(AEEA)、イヌリン、三糖、又はこれらの組み合わせを含む。
【0022】
いくつかの実施態様において、リンカー実体は、ポリエチレングリコール(PEG)を含む。
【0023】
いくつかの実施態様において、リンカー実体は、以下からなる群から選択される:
【化1-1】
【化1-2】
【化1-3】
【0024】
いくつかの実施態様において、脂質実体とリンカー実体の組み合わせは、パルミチン酸-PEG8を含む。
【0025】
いくつかの実施態様において、脂質実体は、ペプチドに共有結合している。
【0026】
いくつかの実施態様において、組成物は水溶性である。
【0027】
1つの態様において、本開示は、本明細書に記載のペプチド組成物と医薬的に許容し得る担体とを含む医薬組成物に関する。
【0028】
1つの態様において、本開示は、被験体に治療有効量の本明細書に記載のペプチド組成物又は医薬組成物を投与することを含む、それを必要とする被験体の疼痛を治療する方法に関する。
【0029】
いくつかの実施態様において、疼痛は、眼痛、慢性疼痛、神経障害性疼痛、化学療法又は放射線に起因する疼痛、神経損傷又は神経変性に起因する疼痛、又は炎症状態、感覚異常、若しくは異痛症に起因する疼痛である。
【0030】
いくつかの実施態様において、ペプチド組成物又は医薬組成物は、局所投与される。
【0031】
いくつかの実施態様において、ペプチド組成物又は医薬組成物は、1日1回、1日2回、又は1日3回投与される。
【0032】
いくつかの実施態様において、本方法は、鎮痛薬(例えばパラセタモール、非ステロイド性抗炎症薬、COX-2阻害剤、オピオイド、又は医療用大麻)を投与することをさらに含む。
【0033】
いくつかの実施態様において、被験体はヒトである。
【0034】
別の態様において、本開示は、被験体に治療有効量の本明細書に記載のペプチド組成物又は医薬組成物を投与することを含む、それを必要とする被験体の炎症状態を治療する方法に関する。
【0035】
いくつかの実施態様において、炎症状態は、眼の炎症である。
【0036】
いくつかの実施態様において、炎症状態は、ドライアイ疾患、ブドウ膜炎(例えば非感染性ブドウ膜炎)、アレルギー性結膜炎、又は網膜炎症性疾患である。
【0037】
いくつかの実施態様において、炎症状態は、神経損傷又は神経変性に起因する。
【0038】
いくつかの実施態様において、ペプチド組成物又は医薬組成物は、局所投与される。
【0039】
いくつかの実施態様において、ペプチド組成物又は医薬組成物は、1日1回、1日2回、又は1日3回投与される。
【0040】
いくつかの実施態様において、被験体はヒトである。
【0041】
本明細書に記載の任意の態様又は実施態様は、本明細書に開示される任意の他の態様又は実施態様と組み合わせることができる。本開示は、その詳細な説明と併せて説明されているが、前述の説明は、添付の特許請求の範囲によって定義される本開示の範囲を説明することを意図しており、限定するものではない。その他の態様、利点、及び修飾は、以下の特許請求の範囲内にある。
【0042】
本明細書で参照される特許及び科学文献は、当業者に利用可能な知識を確立する。本明細書に引用されているすべての米国特許及び公開済み又は未公開の米国特許出願は、参照により本明細書に組み込まれる。本明細書で引用されるすべての公開された外国特許及び特許出願は、参照により本明細書に組み込まれる。本明細書で引用されている他のすべての公開された参考文献、刊行物、原稿、及び科学文献は、参照により本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】ドライアイによる角膜透過性の上昇が、OK-101により大幅に低下したことを示すグラフである。OK-101の効力は、Restasis(登録商標)(Allergan)の有効成分であるシクロスポリン(CS)に匹敵した。動物実験は単回投与で行われた。OK-101は以下の構造を有する:
【化2】
【0044】
図2】ドライアイによる角膜透過性の上昇が、OK-113により大幅に低下したことを示すグラフである。OK-113の効力は、Restasis(登録商標)(Allergan)の有効成分であるシクロスポリン(CS)に匹敵した。動物実験は単回投与で行われた。 OK-113は以下の構造を有する:
【化3】
【0045】
図3】OK-101が、炎症の既知のバイオマーカーであるドライアイ誘発性のCD4 T細胞浸潤を有意に低下させたことを示すグラフである。
【0046】
図4】OK-101が、ドライアイによって誘発された杯細胞密度の喪失を正常化したことを示すグラフである。
【0047】
図5】OK-113が、ドライアイによって誘発されたCD4T細胞浸潤を有意に低下させたことを示すグラフである。
【0048】
図6】OK-113が、ドライアイによって誘発された杯細胞密度の喪失を正常化したことを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0049】
開示の詳細な説明
本明細書でさらに詳細に説明されるように、疼痛、特に世界中の何百万もの人々に影響を及ぼし、人口の7%もの人に存在する疾患である神経障害性疼痛を治療するための新規戦略に対する満たされていない必要性がある。神経障害性疼痛のある患者の管理は複雑であり、多くの患者は治療に応答していないか、部分的な緩和しか経験していない。極端な場合、中等度から重度の慢性難治性疼痛を伴う実質的な亜集団があり、より効果的で長期間作用する治療法が緊急に必要とされている。
【0050】
CMKLR1は、侵害受容を調節することが示されているGタンパク質共役受容体である。この受容体は、グリア細胞、後根神経節ニューロン、及び免疫細胞で発現される。CMKLR1の内因性リガンド(アゴニスト)は、163アミノ酸のタンパク質であるケメリンである。レチノイン酸受容体応答タンパク質2(RARRES2)、タザロテン誘導遺伝子2タンパク質(TIG2)、又はRAR応答タンパク質TIG2としても知られるケメリンは、ヒトではRARRES2遺伝子によってコードされるタンパク質である。ケメリンのホモサピエンスのアミノ酸配列は、以下の配列番号8で示される。
【0051】
NCBI参照配列:NP_002880.1
MRRLLIPLAL WLGAVGVGVA ELTEAQRRGL QVALEEFHKH PPVQWAFQET SVESAVDTPF PAGIFVRLEF KLQQTSCRKR DWKKPECKVR PNGRKRKCLA CIKLGSEDKV LGRLVHCPIE TQVLREAEEH QETQCLRVQR AGEDPHSFYF PGQFAFSKAL PRS(配列番号8)。
【0052】
ケメリンはプレプロケメリン(配列番号8を有する)として不活性であり、C末端及びN末端の切断を介して活性化されて、配列番号8の21位~157位のアミノ酸配列を有するケメリン断片を形成し、これはCMKLR1のアゴニストとして機能し得る。このケメリン断片は、以下のアミノ酸配列を有する。
ELTEAQRRGL QVALEEFHKH PPVQWAFQET SVESAVDTPF PAGIFVRLEF KLQQTSCRKR DWKKPECKVR PNGRKRKCLA CIKLGSEDKV LGRLVHCPIE TQVLREAEEH QETQCLRVQR AGEDPHSFYF PGQFAFS(配列番号9)。
【0053】
特に本開示は、例えばCMKLR1のアゴニストとして機能する、配列番号9のアミノ酸配列の生物学的機能のいくつか又はすべてを保持することができるケメリン類似体を含む組成物を提供する。ケメリン類似体は、ケメリンの全長又は断片のいずれかの類似体であり得る。
【0054】
1つの態様において、本開示は、以下を含む組成物を提供する:X-Nle-PX-Tic-X(配列番号1)の配列を有するアミノ酸を含むペプチド、及びこのペプチドに連結された脂質実体。いくつかの実施態様において、ペプチド中の任意の1つ又は2つ以上のアミノ酸は、L-アミノ酸又はD-アミノ酸のいずれかであり得る。いくつかの実施態様において、ペプチド中の任意の1つ又は2つ以上のアミノ酸は、フッ素化され得る。本明細書で使用されるフッ素化アミノ酸は、1つ以上の水素がフッ素で置き換えられたアミノ酸である。本明細書で使用されるNleはノルロイシンを指し、Ticは(S)-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-3-カルボン酸を指す。
【0055】
いくつかの実施態様において、Xは、A、dA、及びNorVから選択され;Xは、A又はGであり;Xは、F又はdYであり;Xは、F又はYであり;Xは、S又はdSであり;Xは、Q又はα-アミノアジピン酸(Aad)であり;Xは、Y、F、及びfFから選択され;Xは、A又はdAであり;Xは、dA又はdSである。
【0056】
本明細書で使用されるNorVは、ノルバリンを指す。
【0057】
本明細書で使用されるアミノ酸の前の小文字のdは、そのアミノ酸のD-アミノ酸であることを示す。たとえば、dAはD-アラニンを示し、dYはD-チロシンを示し、そしてdSはD-セリンを示す。
【0058】
本明細書で使用されるアミノ酸の前の小文字のfは、そのアミノ酸がフッ素化されていることを示す。たとえば、fFはフッ素化フェニルアラニンを示す。
【0059】
いくつかの実施態様において、ペプチドは、20個以下のアミノ酸、19個以下のアミノ酸、18個以下のアミノ酸、17個以下のアミノ酸、16個以下のアミノ酸、15個以下のアミノ酸、14個以下のアミノ酸、13個以下のアミノ酸、又は12個以下のアミノ酸を有する。
【0060】
いくつかの実施態様において、ペプチドは、少なくとも9個のアミノ酸、少なくとも10個のアミノ酸、少なくとも11個のアミノ酸、又は少なくとも12個のアミノ酸を有する。
【0061】
アミノ酸の数についての上記範囲の組み合わせも可能である。例えばペプチドは、約9~20個のアミノ酸、約10~20個のアミノ酸、又は約10個の~18個のアミノ酸を有することができる。
【0062】
いくつかの実施態様において、ペプチドは、X-Nle-PX-Tic-X(配列番号1)の配列を有するアミノ酸からなる。
【0063】
いくつかの実施態様において、ペプチドは、AAFY-Nle-PSQYA-Tic-dA(配列番号2)、AG-dY-F-Nle-P-dS-Aad-FA-Tic-dA(配列番号3)、dA-G-dY-F-Nle-P-dS-Q-fF-dA-Tic-dA(配列番号4)、NorV-G-dY-F-Nle-P-dS-QF-dA-Tic-dA(配列番号5)、AG-dY-F-Nle-P-dS-QFA-Tic-dS(配列番号6)、又はdA-G-dY-F-Nle-P-dS-QF-dA-Tic-dA(配列番号7)を含む。
【0064】
いくつかの実施態様において、ペプチドは、AAFY-Nle-PSQYA-Tic-dA(配列番号2)、AG-dY-F-Nle-P-dS-Aad-FA-Tic-dA(配列番号3)、dA-G-dY-F-Nle-P-dS-Q-fF-dA-Tic-dA(配列番号4)、NorV-G-dY-F-Nle-P-dS-QF-dA-Tic-dA(配列番号5)、AG-dY-F-Nle-P-dS-QFA-Tic-dS(配列番号6)、又はdA-G-dY-F-Nle-P-dS-QF-dA-Tic-dA(配列番号7)を含む。
【0065】
本開示に従って、様々な脂質実体のいずれかを利用することができる。様々な実施態様によれば、脂質実体は、脂質二重層(例えば細胞膜)に挿入することができる実体を含むことができる。いくつかの実施態様において、脂質実体は、脂質二重層(例えば細胞膜)の脂質ラフトに取り込むことができる。
【0066】
いくつかの実施態様において、脂質実体は、飽和又は不飽和脂肪酸を含み得る。脂質名の中の数字は、脂質の脂肪酸鎖を説明するために使用される。数値は通常、(脂肪酸鎖の炭素数):(脂肪酸鎖の二重結合の数)の形式で表され、例えば16:0は、脂肪酸鎖中16個の炭素があり二重結合がゼロであることを示す。飽和又は不飽和脂肪酸は、脂肪酸鎖中に少なくとも4個の炭素、少なくとも5個の炭素、少なくとも6個の炭素、少なくとも7個の炭素、少なくとも8個の炭素、少なくとも9個の炭素、少なくとも10個の炭素、又は少なくとも15個の炭素を含むことができる。いくつかの実施態様において、飽和又は不飽和脂肪酸は、脂肪酸鎖中に約4~24個の炭素を含み得る。脂肪酸鎖中の二重結合の数は、0~10の範囲、例えば、0~8、0~6、1~8、1~6であり得る。たとえば、脂質実体は、C22:0、C22:1、C22:2、C22:3、C22:4、C22:5、C22:6、C20:0、C20:1、C20:2、C20:3、C20:4、C20:5、C20:6、C18:0、C18:1、C18:2、C18:3、C18:4、C18:5、C18:6、C10:0、C10:1、C10:2、C10:3、C10:4などであり得る。
【0067】
例えば脂質実体は、α-リノレン酸、γ-リノレン酸、ステアリドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、リノール酸、ジホモ-γ-リノレン酸、アラキドン酸、ドコサテトラエン酸、パルミトレイン酸、バクセン酸、パウリン酸、オレイン酸、エライジン酸、ゴンドイン酸、エルシン酸、ネルボン酸、ミード酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DPPE)、GM1ガングリオシド、GM2ガングリオシド、GM3ガングリオシド、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン(DOPS)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、グリコスフィンゴ脂質、スフィンゴ脂質、ホスファチジルイノシトール4,5-ビスホスフェート(PIP)、セラミド、コレステロール、エルゴステロール、フィトステロール、ホパノイド、ステロイド、フッ素化-GM1、フッ素化-GM2、フッ素化-GM3、17-カルボキシ-1-オキソ-ヘプタデシル、及びイソプレノイド脂質(例、ファルネシル(C-15)又はゲラニルゲラニル(C-20))からなる群から選択される。いくつかの実施態様において、脂質実体はα-リノレン酸であり得る。いくつかの実施態様において、脂質実体はγ-リノレン酸であり得る。いくつかの実施態様において、脂質実体はパルミチン酸であり得る。いくつかの実施態様において、脂質実体はバクセン酸であり得る。いくつかの実施態様において、脂質実体はオレイン酸であり得る。いくつかの実施態様において、脂質実体はエライジン酸であり得る。いくつかの実施態様において、脂質実体はミリスチン酸であり得る。いくつかの実施態様において、脂質実体は17-カルボキシ-1-オキソ-ヘプタデシルであり得る。
【0068】
脂質実体のペプチドへの付着は、本明細書では脂質化と呼ばれる。いくつかの実施態様において、脂質実体は、ペプチドに共有結合している。いくつかの実施態様において、脂質化は、細胞膜に可溶である任意の化合物とのペプチドの付着(例えば平衡定数Kassoc≧10において10:1)を含む。
【0069】
いくつかの実施態様において脂質化は、以下の1つ以上を含み得る:硫黄原子を介したペプチドのN末端システインの側鎖へのジアシルグリセロールの付着;ペプチドのセリン又はスレオニンへのO-オクタノイルの結合;及びペプチドのシステインへのS-アーキオールの付着。いくつかの実施態様において脂質化は、例えば任意のリジン、グルタミン酸、アスパラギン酸、セリン、スレオニン、システイン、及び/又はチロシンで起こり得る。
【0070】
いくつかの実施態様において、脂質化はフッ素化を含み得る。フッ素化は、1つ以上のC13鎖の付加を含む場合がある。理論に拘束されることを望まないが、1つ以上のC13鎖の存在は、脂質実体が炭化水素脂質膜成分から分離することを可能にし得ると考えられている(J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 9037-9043; J. Phsy. Chem. B, 2008, 112, 8250-8256; J. Am. Chem. Soc., 2009, 131, 12091-12093を参照)。
【0071】
いくつかの実施態様において、脂質実体は、ペプチドのN末端又はその近くにあり得るアミノ酸残基に付着され得る。いくつかの実施態様において、脂質実体は、ペプチドのC末端又はその近くにあるアミノ酸残基に付着され得る。
【0072】
いくつかの実施態様において、脂質実体の構造における少なくとも1つのアルケンの存在は、少なくとも1つのアルケンを欠く同様の脂質実体と比較して、膜内の流動性の増加(すなわち膜内を移動するより大きな能力)を提供する。いくつかの実施態様において、より流動性の高い脂質実体は、膜内の低密度の標的(例えば受容体、イオンチャネル、又は酵素)に対して増強された活性を提供することができる。理論に拘束されることを望まないが、膜内を移動する能力が高い脂質実体は、膜内の移動性が低い脂質実体よりも速く、低密度の標的に遭遇することができる可能性がある。
【0073】
脂質実体は、リンカー実体を介してペプチドに連結することができる。このように、組成物は以下の式を有することができる:
【化4】
【0074】
いくつかの実施態様において、リンカー実体は約2Å~300Å(両端を含む)の長さを有することができる。いくつかの実施態様において、リンカー実体は30Å~150Å(両端を含む)である。
【0075】
いくつかの実施態様において、リンカー実体は、ペプチドのN末端又はその近くにあり得るアミノ酸残基に付着している。いくつかの実施態様において、リンカー実体は、ペプチドのC末端又はその近くにあり得るアミノ酸残基に付着することができる。
【0076】
いくつかの実施態様において、リンカー実体は、1つ以上のアミノ酸を含むことができ、これは、天然又は合成のいずれかであり得る。例えばリンカー実体は、グリシン、アラニン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、リジン、グルタミン、グルタミン酸、セリン、プロリン、バリン、イソロイシン、システイン、チロシン、ヒスチジン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、スレオニン、又はこれらの組み合わせを含むことができる。
【0077】
いくつかの実施態様において、リンカー実体は、ペプチド(「ペプチドリンカー」)、例えば長さが約2~20アミノ酸残基、又は長さが約5~10アミノ酸残基を含むことができる。様々な実施態様によれば、ペプチドリンカーは、1つ以上のαらせんが、本明細書に記載のペプチドと脂質実体との間に形成されるように設計することができる。いくつかの実施態様において、ペプチドリンカーは複数のαらせんを含み得る。いくつかの実施態様において、複数のαらせんは連続している。いくつかの実施態様において、複数のαらせんは、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、又はそれ以上のαらせんである。
【0078】
いくつかの実施態様において、ペプチドリンカーは、反復単位、例えば複数の反復グリシン-アスパラギン(GN)単位を含むことができる。いくつかの実施態様において、ペプチドリンカーは、エピトープタグ(例えばc-Mycタグ)又は他のマーカーを含むことができて、提供される薬剤及びそれらのインビトロ及び/又はインビボでの運命の同定及び/又は特性決定を可能にする。
【0079】
いくつかの実施態様において、ペプチドリンカーはGGK又はGGのアミノ酸配列を含むことができる。
【0080】
いくつかの実施態様において、リンカー実体は非ペプチド実体(「非ペプチドリンカー」)を含むことができる。いくつかの実施態様において、リンカー実体はエチレングリコール及び/又はアミノエチルエタノールアミン(AEEA)を含み得る。いくつかの実施態様において、非ペプチドリンカーは合成ポリマーであり得る。様々な実施態様によれば、合成ポリマーは様々な長さのいずれかであり得る。いくつかの実施態様において、合成ポリマーを含むリンカー実体は、ポリマーのモノマー単位を含む。いくつかの実施態様において、合成ポリマーを含むリンカー実体は、合成ポリマーの2つ以上のモノマー単位(例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、100以上のモノマー単位)を含む。
【0081】
いくつかの実施態様において、リンカー実体は、ポリエチレングリコール(PEG)を含むことができる。いくつかの実施態様において、PEG中のエチレングリコール単位の平均数は2~20であり、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20である。いくつかの実施態様において、リンカー実体はPEG8を含むことができ、これは、エチレングリコール単位の平均数が8であることを意味する。
【0082】
適切なポリマーリンカーの非限定的な例には、以下の式の1つによる1つ以上のモノマー単位を有するリンカーが含まれる:
【化5】
式中、nは1以上の整数を表す。いくつかの実施態様において、nは2~50、4~24、及び/又は8~24(両端を含む)の整数である。
【0083】
いくつかの実施態様において、リンカー実体は、以下の構造のいずれか1つを有することができる:
【化6-1】
【化6-2】
【化6-3】
【0084】
いくつかの実施態様において、リンカー実体は、単糖、オリゴ糖、又は多糖、例えばグルコース、フルクトース、ガラクトース、イヌリン、又は三糖を含み得る。
【0085】
いくつかの実施態様において、リンカー実体は、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDAC)、ベンゾフェノン-4-イソチオシアネート、ビス-((N-ヨードアセチル)ピペラジニル)スルホンローダミン、スクシンイミジル2-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)、4-アジド-2,3,5,6-テトラフルオロ安息香酸(ATFB)、(N-((2-ピリジルチオ)エチル)-4-アジドサリチルアミド)、スクシンイミジルトランス-4-(マレイミジルメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(SMCC)、及び/又はN-(t-BOC)-アミノオキシ酢酸を含み得る。当業者は、既知の方法に従って追加のリンカー実体候補を同定することができるであろう。
【0086】
いくつかの実施態様において、リンカー実体は、ペプチド及び非ペプチド実体の両方を含み得る。例えばリンカー実体は、PEG8とペプチド(例えばGGK又はGGのアミノ酸配列を有するペプチド)の両方を含み得る。
【0087】
いくつかの実施態様において、リンカー実体は、少なくとも部分的に、クリック反応、例えばアジド-アルキンヒュスゲン環化付加反応の結果として形成される。
【0088】
脂質実体、リンカー実体、及び脂質化の方法の追加の例は、US20160052982及びUS20190022168に見出すことができ、これらのそれぞれの内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0089】
本明細書に記載の脂質実体の任意の実施態様と本明細書に記載のリンカー実体の任意の実施態様を組み合わせることができる。例えば、脂質実体とリンカー実体の組み合わせは、パルミチン酸-γ-グルタミン酸、パルミチン酸-リジン、パルミチン酸-γ-グルタミン酸-リジン、ミリスチン酸-リジン、17-カルボキシ-1-オキソ-ヘプタデシル-γ-グルタミン酸-(AEEA)、AEEA-PEG、又は17-カルボキシ-1-オキソ-ヘプタデシル-γ-グルタミン酸-(AEEA)-リジンを含み得る。
【0090】
いくつかの実施態様において、脂質実体とリンカー実体の組み合わせは、
【化7】
でもよく、ここで、波線はペプチドへの結合点を示す。
【0091】
いくつかの実施態様において、脂質化がペプチドのN末端で起こる場合、パルミチン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸-γ-グルタミン酸、パルミチン酸-γ-グルタミン酸-2xOEG、17-カルボキシ-1-オキソ-ヘプタデシル-γ-グルタミン酸-(AEEA)、又はコレステロールは、ペプチドのN末端に結合し得る。
【0092】
いくつかの実施態様において、脂質化がペプチドのC末端で起こる場合、パルミチン酸-リジン、パルミチン酸-γ-グルタミン酸-リジン、ミリスチン酸-リジン、又は17-カルボキシ-1-オキソ-ヘプタデシル-γ-グルタミン酸-(AEEA)-リジンは、ペプチドのC末端に結合し得る。
【0093】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載の組成物は水溶性である。
【0094】
組成物の投与
本開示による組成物の治療有効量は、広い範囲内で変動することができ、当技術分野で公知の方法で決定することができる。例えば、組成物は体重に応じて投与することができる。そのような投与量は、投与される特定の組成物、投与経路、治療される状態、並びに治療される患者を含む各特定の場合における個々の要件に合わせて調整される。別の実施態様において、組成物は、固定用量、例えば体重に応じて調整されない用量で投与することができる。一般に、成人への経口投与又は非経口投与の場合、1日あたりの投与量は約0.5mg~約1000mgが適切であるが、指示された場合は上限を超えてもよい。投与量は、1日あたり約5mg~約500mg、例えば約5mg~約400mg、約5mg~約300mg、約5mg~約200mgであり得る。1日の投与量は、単回投与量又は分割投与量として投与することができ、非経口投与の場合は、持続点滴として投与することができる。
【0095】
組成物の治療有効量は、臨床医又は他の資格のある観察者によって認識されるように、客観的に識別可能な改善を提供する量である。
【0096】
本開示はまた、本明細書に記載のペプチド組成物と医薬的に許容し得る担体とを含む医薬組成物を提供する。医薬組成物は、容器、パック、又はディスペンサーに、投与の説明書とともに含めることができる。本明細書に記載の組成物は、局所、経口、鼻腔内、経皮、肺、吸入、バッカル、舌下、腹腔内、皮下、筋肉内、静脈内、直腸、胸膜内、髄腔内、又は非経口的に投与することができる。1つの実施態様において、組成物は局所投与される。例えば、組成物は点眼薬の形態で投与される。1つの実施態様において、組成物は経口投与される。いくつかの実施態様において、組成物は静脈内投与される。いくつかの実施態様において、組成物は髄腔内に投与される。当業者は、特定の投与経路の利点を認識しているであろう。
【0097】
本明細書に記載の組成物を利用する投与計画は、患者の種、民族、年齢、体重、性別、及び病状;治療される状態の重症度;投与経路;患者の腎機能及び肝機能;そして使用される特定の組成物を含む様々な要因に従って選択される。通常の熟練した医師又は獣医師は、状態の進行を予防、対抗、又は阻止するために必要な薬物の有効量を容易に決定及び処方することができる。
【0098】
本明細書に記載の組成物は、1日1回、1日2回、1日3回、1日4回以上、又は数日毎に1回投与することができる。
【0099】
本明細書に開示された組成物の製剤化及び投与のための技術は、 Remington: the Science and Practice of Pharmacy, 19thedition, Mack Publishing Co., Easton, Pa. (1995)に見出すことができる。ある実施態様において、本明細書に記載の脂質化ペプチド、及びその医薬的に許容し得る塩は、医薬的に許容し得る担体又は希釈剤と組み合わせて、医薬調製物で使用される。医薬的に許容し得る適切な担体には、不活性な固体充填剤又は希釈剤、並びに無菌水溶液又は有機溶液が含まれる。脂質化ペプチドは、そのような医薬組成物中に、本明細書に記載の範囲内の所望の投与量を提供するのに十分な量で存在するであろう。
【0100】
いくつかの実施態様において、医薬組成物は局所投与のために製剤化され得る。局所投与に適した製剤には、特に限定されるものではないが、液体及び/又は半液体調製物、例えば塗布剤、ローション、水中油型及び/又は油中水エマルジョン、例えばクリーム、軟膏、及び/又はペースト、及び/又は液剤、及び/又は懸濁剤が含まれる。局所投与可能な製剤は、例えば、約1%~約10%(重量/重量)の有効成分を含み得るが、有効成分の濃度は、溶媒中の有効成分の溶解限度と同じくらい高くてもよい。局所投与用の製剤は、1つ以上の追加の成分をさらに含み得る。
【0101】
いくつかの実施態様において、医薬組成物は、経口投与のために製剤化され得る。本明細書に記載の医薬組成物を含む経口製剤は、任意の通常使用される経口形態、例えば錠剤、カプセル剤、丸薬、トローチ(troche)、トローチ(lozenge)、香錠、カシェ剤、ペレット、薬用チューインガム、顆粒、バルク粉末、発泡性又は非発泡性粉末又は顆粒、液剤、エマルジョン、懸濁剤、液剤、ウェーハー、スプリンクル、エリキシル剤、シロップ、バッカル形態、及び経口液剤に製剤化することができる。カプセル剤は、活性化合物と、不活性充填剤及び/又は希釈剤[例えば、医薬的に許容し得るデンプン(例えばトウモロコシ、ジャガイモ、又はタピオカデンプン)、糖、人工甘味剤、粉末セルロース、例えば結晶性及び微結晶性セルロース、細粉、ゼラチン、ガムなど]との混合物を含み得る。有用な錠剤は、従来の圧縮法、湿式造粒又は乾式造粒法によって作製することができ、医薬的に許容し得る希釈剤、結合剤、潤滑剤、崩壊剤、表面改質剤(界面活性剤を含む)、懸濁剤、又は安定剤(限定されるものではないが、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム、微結晶セルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、アルギン酸、アカシアガム、キサンタンガム、クエン酸ナトリウム、複合ケイ酸塩、炭酸カルシウム、グリシン、デキストリン、スクロース、ソルビトール、リン酸二カルシウム、硫酸カルシウム、ラクトース、カオリン、マンニトール、塩化ナトリウム、タルク、乾燥デンプン、粉砂糖を含む)を利用する。いくつかの実施態様において、表面改質剤は非イオン性及び陰イオン性表面修飾剤を含む。例えば、表面改質剤は、特に限定されるものではないが、ポロキサマー188、塩化ベンザルコニウム、ステアリン酸カルシウム、セトステアリルアルコール、セトマクロゴール乳化ワックス、ソルビタンエステル、コロイド状二酸化ケイ素、リン酸塩、ドデシル硫酸ナトリウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、及びトリエタノールアミンを含む。本明細書の経口製剤は、標準的な遅延又は時間放出製剤を利用して、活性化合物の吸収を変化させることができる。経口製剤はまた、必要に応じて適切な可溶化剤又は乳化剤を含む水又はフルーツジュース中の有効成分を投与することからなり得る。
【0102】
治療法
本明細書に記載の組成物は、神経障害性疼痛、眼痛、慢性疼痛、化学療法又は放射線に起因する疼痛、神経損傷又は神経変性に起因する疼痛、及び炎症状態、感覚異常、又は異痛症に起因する疼痛などの疼痛を含む様々な状態を治療するために使用することができる。本明細書に記載の組成物はまた、眼の炎症、網膜の炎症、ドライアイ、ブドウ膜炎、アレルギー性結膜炎、及び神経損傷又は神経変性に起因する炎症などの炎症状態を治療するために使用することもできる。
【0103】
1つの態様において、本開示は、本明細書に記載の組成物を用いて神経障害性疼痛を治療する方法を提供する。本開示による神経障害性疼痛は、神経系の原発性病変又は機能不全によって開始又は引き起こされる疼痛である。神経障害性疼痛は、「末梢性」(末梢神経系に起因する)と「中枢性」(脳又は脊髄に起因する)に分けることができる。たとえば、神経障害性疼痛症候群には、ヘルペス後神経痛(帯状疱疹ウイルスによって引き起こされる)、神経根ひきぬき損傷、痛みを伴う外傷性単神経障害、痛みを伴う多発神経障害(特に糖尿病による)、中枢性疼痛症候群(神経系のあらゆるレベルの実質的にあらゆる病変によって引き起こされる可能性がある)、術後疼痛症候群(例えば、乳房切除後症候群、胸郭切開後症候群、又はファントム疼痛)、及び複合性局所疼痛症候群(例、反射性交感神経性ジストロフィー又は灼熱痛)が含まれる。
【0104】
神経障害性疼痛は、感覚異常(自発的又は誘発された灼熱痛、しばしば重複する刺痛成分を伴う)のような典型的な症状を有するが、この疼痛はまた、深く痛む可能性がある。知覚過敏、痛覚過敏、異痛症(正常酸素刺激による痛み)、及び過敏症(特に不快で誇張された痛みの反応)のような他の感覚も発生する可能性がある。本開示の組成物を投与して、これらの症状の少なくとも1つを改善することができる。
【0105】
神経障害性疼痛に対する現在の治療法は、一般に神経の活動を抑制することによって症状を軽減することのみを目的としている。従って、治療オプション、例えば非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDS)、抗うつ薬、抗けいれん薬、バクロフェン、神経調節法、又はオピエートは、特定の病因を標的にするのではなく、主にューロンの過興奮の非特異的減少を介して症状を緩和する。本開示の組成物は、神経障害性疼痛を治療するための現在の治療法と組み合わせて投与することができる。例えば、本開示の組成物は、神経障害性疼痛を治療するための、NSAID、抗うつ薬、抗けいれん薬、バクロフェン、神経調節法、又はオピエートと組み合わせて投与することができる。
【0106】
別の態様において、本開示は、本明細書に記載の組成物を用いて眼痛を治療する方法を提供する。眼痛は、特に限定されるものではないが、偶発的又は外科的損傷による外傷、ブドウ膜炎、ドライアイ、及び糖尿病性神経障害を含む多くの状態と同時発生する可能性がある。眼痛の標準治療は、通常、NSAIDの局所投与、又はNSAIDS若しくはヒドロコドンなどのオピオイドなどの鎮痛薬の経口投与のいずれかである。いくつかの実施態様において、本開示の組成物は、眼痛を治療するためにNSAID又はオピオイドと組み合わせて投与することができる。
【0107】
別の態様において、本開示は、本明細書に記載の組成物を用いて慢性疼痛を治療する方法を提供する。本明細書に記載の組成物は、慢性疼痛を治療するための非オピオイド鎮痛薬として使用することができる。
【0108】
別の態様において、本開示は、化学療法又は放射線に起因する疼痛を治療する方法を提供する。硫酸ビンクリスチン、パクリタキセル、シスプラチンなどの一般的に使用される化学療法薬は、化学療法誘発性末梢神経障害又は知覚異常として知られているものを引き起こす可能性がある。
【0109】
別の態様において、本開示は、本明細書に記載の組成物を用いて、神経損傷又は神経変性に起因する疼痛を治療する方法を提供する。
【0110】
別の態様において、本開示は、本明細書に記載の組成物を用いて、炎症状態、感覚異常、又は異痛症に起因する疼痛を治療する方法を提供する。
【0111】
本明細書に記載の組成物は、疼痛を治療するために鎮痛薬と組み合わせて投与することができる。鎮痛薬の例には、特に限定されるものではないが、パラセタモール、NSAID、COX-2阻害剤、オピオイド、及び医療用大麻が含まれる。
【0112】
別の態様において、本開示は、本明細書に記載の組成物を用いて、眼の炎症又は網膜の炎症を治療する方法を提供する。眼の炎症は、眼の微生物感染によって引き起こされる可能性がある。このような感染は、真菌、ウイルス、又は細菌性である可能性がある。眼の炎症を治療するための現在の治療法には、抗サイトカイン又は抗炎症剤の局所投与が含まれる。いくつかの実施態様において、本開示の組成物は、眼の炎症を治療するための抗サイトカイン又は抗炎症剤と組み合わせて投与することができる。
【0113】
抗サイトカイン又は抗炎症剤には、特に限定されるものではないが、NFカッパB阻害剤、例えばコルチコステロイド、フルシノロノンなどの糖質コルチコイド;スリンダクやテポキサリンなどのNSAID;ジチオカルバメートなどの抗酸化剤;及びスルファサラジン[2-ヒドロキシ-5-[-4-[C2-ピリジニルアミノ)スルホニル]アゾ]安息香酸]、クロニジン、及びオルトカインなどの自己血由来生成物などの他の化合物が含まれる。
【0114】
本明細書に記載の組成物はまた、ドライアイを治療するために使用することができる。ドライアイは主に、眼前涙液膜の破壊によって引き起こされ、露出した外面の脱水を引き起こす。ドライアイは、包括的な目の検査によって診断することができる。目によって生じる涙の量と質の評価に重点を置いた検査には、以下が含まれ得る:(a)患者の症状を判断し、ドライアイの問題の原因となり得る一般的な健康上の問題、薬物療法、又は環境要因に注目するための患者の病歴;(b)眼の外部検査(まぶたの構造とまばたきを含む);(c)明るい光と拡大を使用するまぶたと角膜の評価;及び(d)異常のある涙の量と質の測定。特殊な染料を目に入れて、涙の流れをよりよく観察し、不十分な涙液によって引き起こされる目の外面の変化を強調させることができる。
【0115】
理論に拘束されることを望まないが、炎症促進性サイトカイン及び成長因子の結果としての眼の炎症が、ドライアイの根本的な原因において主要な役割を果たすという理論的根拠がある。そのため、局所投与された抗サイトカイン又は抗炎症剤が、しばしばドライアイの治療に使用される。いくつかの実施態様において、本開示の組成物は、ドライアイを治療するために抗サイトカイン又は抗炎症剤と組み合わせて投与することができる。
【0116】
いくつかの実施態様において、眼の炎症を治療するための治療有効量は、被験体における炎症の程度を、プラセボと比較して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、又は少なくとも95%低下させる量である。
【0117】
いくつかの実施態様において、ドライアイを治療するための治療有効量は、被験体における涙の生成を、プラセボと比較して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも100%、又は少なくとも150%増加させる量である。
【0118】
本明細書に記載の組成物は、非感染性ブドウ膜炎などのブドウ膜炎を治療するために使用することができる。ブドウ膜炎は、患者の片方又は両方の目の炎症を意味する。ブドウ膜炎は、眼の、特にブドウ膜の、広範囲の炎症性疾患である。目の基本的な層は3つあり、外側の強膜と角膜、内側の網膜、そしてその間のブドウ膜である。ブドウ膜は、主に血管と色素細胞を含む結合組織とで構成されている。ブドウ膜のさまざまな部分は、前部の虹彩、中央の毛様体、及びこれらの後ろにある脈絡膜であり、これは目の大部分の周りにある。時に、ブドウ膜炎は、網膜、硝子体、視神経など、ブドウ膜以外の眼の部分に影響を与える。ブドウ膜炎の種類は、目のどの部分が影響を受けているかに基づくことがある。たとえば、前部ブドウ膜炎は、虹彩炎又は虹彩毛様体炎と呼ばれる目の前部の炎症;中間ブドウ膜炎は、目の中間部の炎症、又は扁平上皮炎又は硝子体炎;後部ブドウ膜炎は、眼の後部の炎症、例えば脈絡膜炎、網膜血管炎、網膜炎、神経網膜炎、網膜脈絡膜炎、又は脈絡網膜炎である。
【0119】
ブドウ膜炎の症状は、一般に発赤、かすみ目、痛み、光過敏症、及び飛蚊症や閃光を含む。
【0120】
非感染性ブドウ膜炎は、眼の損傷、又は患者の体の他の場所の疾患に起因する可能性がある。通常、非感染性ブドウ膜炎を治療するために、ステロイド又は免疫抑制剤が使用される。いくつかの実施態様において、本明細書に記載の組成物は、非感染性ブドウ膜炎を治療するために、ステロイド又は免疫抑制剤と組み合わせて使用することができる。
【0121】
本明細書に記載の組成物は、アレルギー性結膜炎を治療するために使用することができる。アレルギー性結膜炎は、花粉やカビの胞子などの物質に対するアレルギー反応によって引き起こされる目の炎症である。通常、アレルギー性結膜炎の治療には、抗ヒスタミン薬、充血除去薬、又はステロイドが使用される。いくつかの実施態様において、本明細書に記載の組成物は、アレルギー性結膜炎を治療するために、抗ヒスタミン薬、充血除去薬、又はステロイドと組み合わせて使用することができる。
【0122】
本明細書に記載の組成物は、神経損傷又は神経変性に起因する炎症を治療するために使用することができる。
【0123】
本明細書に記載の組成物は、本明細書に記載の疾患、障害、又は状態の任意の1つを予防するために使用することができる。例えば、本明細書に記載の組成物は、神経障害性疼痛、眼痛、眼の炎症、ドライアイ、ブドウ膜炎、又はアレルギー性結膜炎を予防するために使用することができる。
【0124】
第1の治療薬(例えば本開示の組成物)及び第2の治療薬(例えば抗炎症剤、オピオイド、NSAID、又は抗うつ薬)を含む併用療法に関して、第1の治療薬は、第2の治療薬と同時に投与することができ;第1の治療薬は、第2の治療薬の前に投与することができ;又は、第1の治療薬は、第2の治療薬の後に投与することができる。第1及び第2の治療薬の投与は、数分又は数時間、例えば、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、又は6時間で離れていてもよい。
【0125】
定義
特に他に定義しない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が関係する当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載されているものと類似又は同等の他の方法及び材料を本発明の実施において使用することができるが、好ましい材料及び方法が本明細書に記載されている。本明細書で使用される用語は、特定の実施態様を説明することのみを目的としており、限定することを意図するものではないことを理解されたい。
【0126】
1つ以上の要素のリストに関連して本明細書で使用される「少なくとも1つ」という用語は、要素のリスト内の任意の1つ以上の要素から選択される少なくとも1つの要素を意味すると理解されるべきである。ただし、必ずしも要素のリスト内に具体的にリストされているすべての要素の少なくとも1つを含み、要素のリスト内の要素の組み合わせを除外する必要はない。この定義はまた、「少なくとも1つ」という用語が参照する要素のリスト内で具体的に特定された要素以外の要素が、具体的に特定された要素に関連するかどうかにかかわらず、任意に存在し得ることを可能にする。従って非限定的な例として、「A及びBの少なくとも1つ」(又は、同等に「A又はBの少なくとも1つ」、又は同等に「A及び/又はBの少なくとも1つ」)は、1つの実施態様において、少なくとも1つのAであって、任意選択的に2つ以上のAを含み、Bが存在しない(及び任意選択的にB以外の要素を含む)こと;別の実施態様において、少なくとも1つのBであって、任意選択的に2つ以上Bを含み、Aが存在しない(及び任意選択的にA以外の要素を含む)こと;さらに別の実施態様において、少なくとも1つのAであって、任意選択的に2つ以上のAを含み、かつ少なくとも1つのBを含み、任意選択的に2つ以上のBを含む(及び任意選択的に他の要素を含む)ことを指し得る。
【0127】
本明細書で使用される「及び/又は」という用語は、そのように結合された要素、すなわちある場合には結合的に存在し、他の場合には分離的に存在する要素の「いずれか又は両方」を意味すると理解されるべきである。「及び/又は」でリストされた複数の要素は、同じ方法で、すなわちそのように結合された要素の「1つ以上」であると解釈する必要がある。具体的に特定された要素に関連するかどうかにかかわらず、「及び/又は」という用語によって具体的に特定された要素以外の他の要素が、任意選択的に存在し得る。従って、非限定的な例として「A及び/又はB」への言及は、「含む」などの制限のない言語と組み合わせて使用される場合、1つの実施態様において、Aのみ(任意選択的にB以外の要素を含む)を指し;別の実施態様において、Bのみ(任意選択的にA以外の要素を含む)を指し;さらに別の実施態様において、A及びBの両方(任意選択的に他の要素を含む)を指し得る;などである。
【0128】
「ペプチド」、「ポリペプチド」、及び「タンパク質」という用語は、本明細書では交換可能に使用され、典型的には、2つ以上のアミノ酸の鎖(例えば、最も典型的にはL-アミノ酸であるが、例えばD-アミノ酸、修飾アミノ酸、アミノ酸類似体、及びアミノ酸模倣物も含む)を含む分子を指す。ペプチドは、天然に存在するか、合成的に産生されるか、又は組換え発現され得る。ペプチドはまた、アミノ酸鎖を修飾する追加の基、例えば翻訳後修飾を介して追加される官能基を含み得る。翻訳後修飾の例には、特に限定されるものではないが、アセチル化、アルキル化(メチル化を含む)、ビオチン化、グルタミル化、グリシル化、グリコシル化、イソプレニル化、リポイル化、ホスホパンテテイニル化、リン酸化、セレン化、及びC末端アミド化が含まれる。ペプチドという用語はまた、アミノ末端及び/又はカルボキシル末端の修飾を含むペプチドを含む。末端アミノ基の修飾には、特に限定されるものではないが、デスアミノ、N-低級アルキル、N-ジ-低級アルキル、及びN-アシル修飾が含まれる。末端カルボキシ基の修飾には、特に限定されるものではないが、アミド、低級アルキルアミド、ジアルキルアミド、及び低級アルキルエステル修飾(例えば、低級アルキルがC~Cアルキルである場合)が含まれる。ペプチドという用語はまた、例えば、上記されたものに限定されるものではないが、アミノ末端とカルボキシ末端との間にあるアミノ酸の修飾を含む。ペプチドという用語はまた、1つ以上の検出可能な標識物を含むように修飾されたペプチドを含むことができる。
【0129】
本明細書で使用される「アミノ酸残基」という用語は、アミド結合又はアミド結合模倣物によってペプチドに組み込まれるアミノ酸を指す。アミノ酸は、天然又は合成のいずれかであり得る。
【0130】
ペプチド鎖の一端の末端アミノ酸は、典型的には遊離アミノ基(すなわちアミノ末端)を有する。鎖のもう一方の末端の末端アミノ酸は、通常、遊離のカルボキシル基(すなわちカルボキシ末端)を有する。通常、ペプチドを構成するアミノ酸は、アミノ末端から始まりペプチドのカルボキシ末端の方向に向かって、順に番号が付けられる。
【0131】
本明細書で使用される「類似体」という用語は、野生型と比較して、1つ以上のアミノ酸修飾を有する変種又は変異体ポリペプチドを指す。
【0132】
本明細書で使用される「治療する」、「治療している」、「治療」などの用語は、障害及び/又はそれに関連する症状を軽減又は改善することを指す。排除するものではないが、障害又は状態を治療することは、障害又はそれに関連する症状が完全に除去されることを必要としないことが理解されるであろう。「治療する」、「治療している」、又は「治療」という用語は予防を含まない。
【0133】
本明細書で使用される「予防する」という用語は、疾患、状態、又は障害の症状又は合併症の発症を軽減又は排除することを指す。
【0134】
本明細書で使用される「被験体」は、任意の哺乳動物、例えばヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ラクダであり得る。いくつかの実施態様において、被験体はヒトである。
【0135】
「医薬組成物」という用語は、本明細書に開示されるペプチド組成物と、希釈剤又は担体などの他の化学成分との混合物を指す。医薬組成物は、ヒトなどの生物へのペプチド組成物の投与を容易にする。医薬組成物はまた、化合物を、無機又は有機酸、例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、サリチル酸などと反応させることによって得ることができる。
【0136】
「医薬的に許容し得る担体」とは、一般に安全で、毒性がなく、生物学的にも他の方法でも有害ではない医薬組成物を調製するのに有用な担体であり、獣医用及びヒト用医薬用途に許容し得る賦形剤を含む担体を意味する。本明細書の組成物の調製に有用な医薬担体は、固体、液体、又は気体であり得る;すなわち組成物は、錠剤、丸薬、カプセル剤、坐剤、散剤、腸溶コーティング、又は他の保護された製剤(例えば、イオン交換樹脂への結合又は脂質-タンパク質小胞へのパッケージング)、徐放性製剤、液剤、懸濁剤、エリキシル剤、エアロゾルなどの形態をとることができる。担体は、石油、動物、植物、又は合成由来のものを含む様々な油、例えばピーナッツ油、大豆油、鉱油、ごま油などから選択することができる。水、生理食塩水、水性デキストロース、及びグリコールは、特に(血液と等張である場合)注射可能な溶液のために好ましい液体担体である。例えば、静脈内投与用の製剤は、固形の有効成分を水に溶解して水溶液を生成し、その溶液を滅菌することによって調製される有効成分の滅菌水溶液を含む。適切な医薬賦形剤には、デンプン、セルロース、タルク、グルコース、ラクトース、タルク、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカ、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノールなどが含まれる。組成物は、防腐剤、安定剤、湿潤剤、又は乳化剤、浸透圧を調整するための塩、緩衝液などの従来の医薬添加剤に供され得る。適切な医薬担体及びそれらの製剤は、Remington's Pharmaceutical Sciences by E. W. Martinに記載されている。そのような組成物は、いずれにせよ、受容者への適切な投与のための適切な剤形を調製するために、適切な担体と共に有効量の活性化合物を含むであろう。
【0137】
本明細書で使用される「治療有効量」という用語は、特定された疾患又は状態を治療、改善、又は予防するための、又は検出可能な治療又は阻害効果を示すための製剤の量を指す。この効果は、当技術分野で公知の任意のアッセイ方法によって検出することができる。被験者にとって正確な有効量は、被験者の体重、サイズ、及び健康状態;状態の性質と程度;及び投与のために選択された治療薬又は治療薬の組み合わせによって異なる。所定の状況に対する治療有効量は、臨床医の技能及び判断の範囲内である日常的な実験によって決定することができる。
【0138】
本明細書で使用される単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が明らかに他のことを示さない限り、複数の指示対象を含む。従って例えば、「溶媒」への言及は、2つ以上のそのような溶媒の組み合わせを含み、「ペプチド」への言及は、1つ以上のペプチド、又はペプチドの混合物を含み、「薬物」への言及は、1つ以上の薬物を含み、「デバイス」への言及は、1つ以上のデバイスなどを含む。本明細書で使用されるように、具体的に述べられていないか又は文脈から明らかでない限り、「又は」という用語は包括的であると理解され、「又は」及び「及び」の両方を包含する。
【0139】
本明細書全体を通して、「含む(comprising)」という単語、又は「含む(comprises)」又は「含む(comprising)」などの変形は、記載された要素、整数、又は工程、又は要素、整数、又は工程の群を含むことを意味すると理解されるが、他の要素、整数、工程、又は要素、整数、工程の群を除外するものではない。
【0140】
本明細書で使用されるように、具体的に述べられていないか又は文脈から明らかでない限り、「約」という用語は、記載された値の10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、0.05%、又は0.01%以内として理解される。文脈から明確でない限り、本明細書で提供されるすべての数値は、「約」という用語によって修飾される。
【実施例
【0141】
実施例1
脂質化ペプチドの合成
【0142】
すべてのペプチドは、Fmoc-tBu方法を使用して調製された。これは、存在する特定の官能基に応じてtBu又はTrtのいずれかである側鎖保護基を有するN末端のFmoc保護基を利用する。活性化には、DMF内のラセミ化を最小限に抑えるために、ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBT)の存在下でジイソプロポイルカルボジイミドを利用した。Fmocの除去は、DMF中の20%ピペリジンを10ml/g樹脂の比率を用いて促進される。ペプチド樹脂は、非ブロック化工程とカップリング工程の後に、DMFとIpOH(樹脂1g当たり溶媒10ml)で洗浄される。線状ペプチド配列が完了したら、ペプチドは固体支持体から切断され、同時に、TFAと、特定の側鎖保護基の存在に応じて添加されるカチオン性スカベンジャー(水、トリイソプロプリルシラン、3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール(DODT)、チオアニソール、フェノール)を用いて、酸分解切断を使用して側鎖で脱保護される。切断時間は通常60分~120分である。粗ペプチドを濾過により単離して、使用済み樹脂ビーズを除去し、続いて氷冷メチルt-ブチルエーテル中で沈殿させる。沈殿したペプチドは、焼結ガラス漏斗を使用して収集され、乾燥オーブン中で一定の重量が得られるまで乾燥される。
【0143】
続いて、粗ペプチドを適切な緩衝系(例えば水中の20%AcOH)に再溶解し、分取逆相HPLCによって精製する。精製後、95%を超える最小プール基準を満たす画分をプールし、続いて凍結乾燥する。最終的な凍結乾燥ペプチドは、分析RP-HPLC、ESI-MS、及び水分析用のカールフィッシャー法、ペプチド含量用の窒素の元素分析、アミノ酸分析などのなどの他の分析方法によって分析される。
【0144】
細胞培養アッセイ
【0145】
ProLink(商標)(PK)タグ付きGPCR(ヒトケモカイン様受容体1、CMKLR1)及び酵素アクセプター(EA)タグ付きβ-アレスチンを共発現するPhatHunter(登録商標)β-アレスチンGPCR細胞株を使用した。GPCR-PKの活性化は、β-アレスチン-EAの動員を誘導し、2つのβ-ガラクトシダーゼ酵素断片(EA及びPK)の補完性を強制する。得られた機能性酵素は基質を加水分解して化学発光シグナルを生成する。PathHunter(登録商標)β-アレスチンアッセイは、機能性レポーターとしてβ-ガラクトシダーゼ(β-Gal)を用いる酵素断片補完(Enzyme Fragment Complementation;EFC)と呼ばれるDiscoverXによって開発された技術を使用して、均質な非イメージングアッセイ形式でGPCRの活性化を監視する。酵素は、細胞内で融合タンパク質として発現される2つの不活性な相補的部分(酵素アクセプターのEAとProLinkのPK)に分割される。EAはβ-アレスチンに融合され、PKは目的のGPCRに融合される。GPCRが活性化され、β-アレスチンが受容体に再動員されると、ED及びEAの補完が起き、化学発光PathHunter(登録商標)検出試薬を使用して測定されるβ-Gal活性が回復する。
【0146】
アッセイ設計:
【0147】
(a)細胞処理:1.ProLink(商標)(PK)タグ付きGPCR(ヒトケモカイン様受容体1、CMKLR1)及び酵素アクセプター(EA)タグ付きβ-アレスチンを共発現するPathHunter細胞株を、標準的な手順に従って冷凍庫のストック物から増殖させた。2.細胞を総量20μLで、白い壁の384ウェルマイクロプレートに播種し、37°Cで適切な時間インキュベートした後試験した。
【0148】
(b)アゴニストフォーマット:1.アゴニスト測定のために、細胞をペプチドと共にインキュベートして、応答を誘導した。2.ペプチドストック物の中間希釈を行い、アッセイバッファーで5X試料を生成した。3.5μLの5Xペプチドを細胞に添加し、37℃又は室温で90~180分間インキュベートした。ビヒクル濃度は1%であった。
【0149】
(c)シグナル検出:1.12.5又は15μL(50%v/v)のPathHunter検出試薬カクテルの単回添加と、続いて室温での1時間インキュベートして、アッセイシグナルが生成された。2.シグナル生成後に、化学発光シグナル検出用のPerkinElmer Envision(登録商標)装置を使用してマイクロプレートを読んだ。
【0150】
(d)データ分析:1.化合物の活性は、Chemical and Biological Information System(CBIS)データ分析スイート(ChemInnovation, CA)を使用して分析された。2.アゴニストモードアッセイの場合、活性パーセントを次の式を使用して計算した:%活性=100%×(試験試料の平均RFU-ビヒクル対照の平均RFU)/(平均MAX対照リガンド-ビヒクル対照の平均RFU)。RFUは相対蛍光単位を意味する。
【0151】
【表1】
【0152】
実施例2
図1及び図2において、角膜バリア機能の評価は以下のように行われる。角膜染色は、オレゴングリーンデキストラン(OGD)の透過によって測定された。ベースライン評価のために、0.5μLのOGDを両眼の角膜に注入し、マウスを暗所で1分間飼育した後、平衡塩類溶液(BSS)で洗浄し画像化した。5日目の角膜透過性評価のために、0.5μLのOGDを両眼の角膜に注入し、マウスを直ちに暗所に1分間収容し、続いて安楽死させ、直ちに画像化した。眼を2mLのBSSで洗浄した。デジタル画像をキャプチャし、平均蛍光強度をNIS Elementsイメージングソフトウェア(Nikon)を用いて測定した。
【0153】
図3及び5において、免疫組織化学を使用してCD4+T細胞を検出する。無傷の結膜を有する脱核したマウスの眼を最適切断温度(OCT)化合物に懸濁し、液体窒素で瞬間冷凍した。6マイクロメートルの凍結切片で免疫組織化学を実施して、CD4、ビオチン化二次抗体、及びNovaREDペルオキシダーゼが陽性に染色された結膜上皮の細胞数を検出及びカウントした。Nikonイメージングソフトウェアを使用して、結膜中の陽性に染色された細胞をカウントした。
【0154】
図4及び6において、結膜杯細胞(GC)測定は以下のように実施される。無傷の結膜を有する脱核したマウスの眼を10%ホルマリンで固定し、パラフィンに包埋した。6マイクロメートルの切片を過ヨウ素酸シッフ試薬で染色した。上結膜と下結膜のGC密度を、Nikonイメージングソフトウェアを使用して測定した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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【国際調査報告】