(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-13
(54)【発明の名称】遺伝子改変エンテロウイルスベクター
(51)【国際特許分類】
C12N 15/86 20060101AFI20221005BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221005BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20221005BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20221005BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20221005BHJP
A61P 15/14 20060101ALI20221005BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20221005BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20221005BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20221005BHJP
【FI】
C12N15/86 Z ZNA
A61P35/00
A61P11/00
A61P1/18
A61P1/16
A61P15/14
A61K35/76
A61P35/02
C12N15/113 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022507315
(86)(22)【出願日】2020-08-05
(85)【翻訳文提出日】2022-02-24
(86)【国際出願番号】 US2020045069
(87)【国際公開番号】W WO2021026275
(87)【国際公開日】2021-02-11
(32)【優先日】2019-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522046782
【氏名又は名称】ヴァイロジン バイオテック カナダ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100111501
【氏名又は名称】滝澤 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】ルオ ホングリン
(72)【発明者】
【氏名】ジア ウィリアム ウェイ-グオ
(72)【発明者】
【氏名】リウ フイタオ
(72)【発明者】
【氏名】サムディオ イスマエル
【テーマコード(参考)】
4C087
【Fターム(参考)】
4C087AA01
4C087AA02
4C087CA12
4C087MA16
4C087MA28
4C087MA56
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA59
4C087ZA66
4C087ZA75
4C087ZA81
4C087ZB26
4C087ZB27
(57)【要約】
改変エンテロウイルスゲノム(例えば、ポリオウイルスゲノム、コクサッキーウイルスゲノムまたはエコーウイルスゲノム)を有する複製型腫瘍溶解性ウイルスベクターを提供し、改変エンテロウイルスゲノムは、エンテロウイルスゲノムの非翻訳領域(UTR)に作動可能に連結された1つ以上のmiRNA標的配列の1つ以上のコピーを有する。がん(例えば、肺癌を含む)を治療するための組成物及び方法も提供する。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
改変エンテロウイルスゲノムを含む複製型腫瘍溶解性ウイルスベクターであって、前記改変エンテロウイルスゲノムが、エンテロウイルスゲノムの非翻訳領域(UTR)に作動可能に連結された1つ以上のmiRNA標的配列の1つ以上のコピーを含む、前記複製型腫瘍溶解性ウイルスベクター。
【請求項2】
エンテロウイルスがコクサッキーウイルスである、請求項1に記載の複製型腫瘍溶解性ウイルスベクター。
【請求項3】
コクサッキーウイルスが、コクサッキーウイルスAまたはBである、請求項2に記載の複製型腫瘍溶解性ウイルスベクター。
【請求項4】
非翻訳領域(UTR)が、5’UTRまたは3’UTRである、請求項1に記載の複製型腫瘍溶解性ウイルスベクター。
【請求項5】
1つ以上のmiRNA標的配列の前記1つ以上のコピーが、2つ以上の異なるmiRNA標的配列の1つ以上のコピーを含む、請求項1に記載の複製型腫瘍溶解性ウイルスベクター。
【請求項6】
1つ以上のmiRNA標的配列の間に、2~50塩基対のサイズのスペーサーが挿入されている、請求項1に記載の複製型腫瘍溶解性ウイルスベクター。
【請求項7】
1つ以上のmiRNA標的配列の前記1つ以上のコピーが、心臓特異的miRNAまたは膵臓特異的miRNAを認識する、請求項1に記載の複製型腫瘍溶解性ウイルスベクター。
【請求項8】
1つ以上の異なるmiRNA標的配列が、miR1、miR-7、miR-30c、miR-124、miR-124
*、miR-127、miR-128、miR-129、miR-129
*、miR-133、miR-135b、miR-136、miR-136
*、miR-137、miR-139-5p、miR-143、miR-154、miR-184、miR-188、miR-204、miR-208、miR216、miR217、miR-299、miR-300-3p、miR-300-5p、miR-323、miR-329、miR-337、miR-335、miR-341、miR-369-3p、miR-369-5p、miR-375、miR-376a、miR-376a
*、miR-376b-3p、miR-376b-5p、miR-376c、miR-377、miR-379、miR-379
*、miR-382、miR-382
*、miR-409-5p、miR-410、miR-411、miR-431、miR-433、miR-434、miR-451、miR-466b、miR-485、miR-495、miR-499、miR-539、miR-541、miR-543
*、miR-551b、miR-758、及びmiR-873からなる群から選択されるmiRNAを認識する、請求項1に記載の複製型腫瘍溶解性ウイルスベクター。
【請求項9】
2つ以上の異なるmiRNA標的配列が、miR1、miR133、miR216、miR145及びmiR143の標的配列を含む、請求項8に記載の複製型腫瘍溶解性ウイルスベクター。
【請求項10】
miR1、miR133、miR216、miR145及びmiR143の標的配列の2つ、3つ、4つ、5つ、または6つのコピーを含む、請求項9に記載の複製型腫瘍溶解性ウイルスベクター。
【請求項11】
1つ以上のmiRNA標的配列の1つ以上のコピーが順方向にあり、1つ以上のmiRNA標的配列の1つ以上のコピーが逆方向にある、請求項1に記載の複製型腫瘍溶解性ウイルスベクター。
【請求項12】
改変エンテロウイルスゲノムが、免疫刺激因子、抗体、及びチェックポイント遮断ペプチドからなる群から選択される非ウイルスタンパク質をコードする少なくとも1つの核酸を含み、前記少なくとも1つの核酸が、適切な腫瘍特異的調節領域に作動可能に連結される、請求項1に記載の複製型腫瘍溶解性ウイルスベクター。
【請求項13】
非ウイルスタンパク質が、IL12、IL15、IL15受容体αサブユニット、OX40L、CD73、及びチェックポイント阻害因子からなる群から選択される、請求項12に記載の複製型腫瘍溶解性ウイルスベクター。
【請求項14】
請求項1~13のいずれかに記載の有効量の複製型腫瘍溶解性ウイルスベクターを腫瘍細胞に提供することを含む、腫瘍細胞の溶解方法。
【請求項15】
腫瘍細胞が、肺癌細胞を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
腫瘍細胞が、膵臓癌細胞、肝臓癌細胞、または乳癌細胞を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
請求項1~16のいずれかに記載の少なくとも1つの複製型腫瘍溶解性ウイルスベクター、及び薬学的に許容される担体を含む、治療用組成物。
【請求項18】
治療有効量の請求項17に記載の組成物を含む組成物を投与するステップを含む、がんに罹患している対象におけるその治療方法。
【請求項19】
がんが、肺癌、膵臓癌、肝臓癌及び乳癌からなる群から選択される、実施形態18に記載の方法。
【請求項20】
がんが、KRAS変異に関連する非小細胞肺癌(NSCLC)、一般的にTP53及びRb変異に関連する小細胞肺癌(SCLC)、または膵臓癌である、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
投与が、静脈内(IV)投与、腹腔内(IP)投与、または腫瘍内(IT)投与である、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本特許出願は、2019年8月5日に出願された米国仮特許出願第62/883,055号の35U.S.C.§119(e)に基づく利益を主張し、本出願は、あらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に援用される。
本発明は、一般的に、遺伝子改変された腫瘍溶解性エンテロウイルスベクター、及び正常組織における毒性が低減されたその使用に関する。
【0002】
配列表、表またはコンピュータプログラムの参照
配列表の公式コピーは、本明細書と同時にASCII形式のテキストファイルとして提出され、作成日は2019年8月4日、サイズは2.20KBである。配列表は本明細書の一部であり、その全体が参照により本明細書に援用される。
【背景技術】
【0003】
がんには、細胞の制御されない、または異常な増殖を含む多種多様な疾患が含まれ、がんは、体の他の組織に拡散するかまたは侵入し、最初は身体機能の(がんの種類に応じた)変化を生じさせ、最終的には死に至らしめる。毎年約1410万例のがんの新規症例が生じている(メラノーマ以外の皮膚癌を除く)。
西欧諸国の多くでは、肺癌は男性と女性でそれぞれ3番目と2番目に多いがんであり、男女のがん関連死の主要な原因である。非小細胞肺癌(「NSCLC」)は、肺癌症例の約85%を占めている。それらの中で、腺癌は最も一般的なタイプの肺癌であり、すべての肺癌のほぼ半分を占めている。遺伝的変異は、NSCLCの発症に重要な役割を果たしている。よく知られている発がん性ドライバー変異には、上皮成長因子受容体(「EGFR」)とキルステンラット肉腫ウイルス腫瘍遺伝子ホモログ(「KRAS」)があり、それぞれ肺腺癌の約15%及び約30%で発生する。EGFR変異は臨床的に標的になり得るが、KRAS変異は現在、治療が非常に困難であり、予後不良と関連している。小細胞肺癌(「SCLC」)は、すべての肺癌の約15%を占める。SCLC症例の60%~90%は、腫瘍タンパク質p53及び/または網膜芽細胞腫タンパク質(Rb)をコードする遺伝子の変異を特徴としている。SCLCの標的療法も存在しない。
【0004】
がんを治療するために、例えば、放射線療法、化学療法、がんの外科的除去、またはこれらの療法のいくつかの組み合わせを含む、多くの療法が開発されてきた。進歩を示した治療の新規分野の1つは、「標的療法」であり、組成物及び方法を使用して、腫瘍細胞を特異的に標的にして(「正常な」細胞とは対照的に)殺傷する。
標的療法の一例は腫瘍溶解性ウイルスである。簡潔に述べると、腫瘍溶解性ウイルスは、自己複製プロセスを介して、好ましくは正常組織に実質的な損傷を引き起こすことなく、腫瘍細胞の溶解を誘導することができるウイルスとして定義される。他のがん治療に対する腫瘍溶解性ウイルスの最大の利点は、候補ウイルスを遺伝子操作して、特定のがんの種類に対する効力を高めることができることである。2015年、FDAは、メラノーマの治療のための最初の遺伝子組み換え単純ヘルペスウイルス1型(タリモジーン・ラハーパレプベック、すなわち「T-VEC」)を承認した。過去数十年にわたって、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、麻疹ウイルス、及びニューカッスル病ウイルスを含むいくつかの異なる腫瘍溶解性ウイルスがすべて、がんの治療のための臨床試験で試験されてきた。しかしながら、全体的な抗がん効果と特異性は依然として低く、FDAに承認された肺癌のウイルス療法はまだ存在しない。
【0005】
したがって、形質転換細胞を溶解及び破壊し、その一方で健康な非形質転換細胞には実質的な損傷を引き起こさず、先行技術に関連する1つ以上の欠点を克服する、がん、例えば肺癌の改善された標的治療に対する必要性が残されている。
背景技術の節で議論した主題のすべては、必ずしも先行技術であるとは限らず、単に背景技術の節での議論の結果として先行技術であると想定されるべきではない。これらの方針に沿って、背景技術の節で説明されている、またはそのような主題に関連する先行技術の問題の認識は、先行技術であると明示的に述べられていない限り、先行技術として扱われるべきではない。代わりに、背景技術の節の主題の議論は、特定の問題に対する発明者のアプローチの一部として扱われるべきであり、それ自体も発明的であり得る。
【発明の概要】
【0006】
簡潔に述べると、本発明は、その腫瘍特異性をさらに増強するために、エンテロウイルスゲノム(例えば、B3などのコクサッキーウイルス)を改変するためのマイクロRNA(「miRNA」)ベースのアプローチに関する。
一態様では、本発明は、改変エンテロウイルスゲノム(例えば、ポリオウイルス、コクサッキーウイルスまたはエコーウイルスゲノム)を有する複製型腫瘍溶解性ウイルスベクター(すなわち、組換えベクター)を提供し、前記改変エンテロウイルスゲノム(例えば、ポリオウイルスゲノム、コクサッキーウイルスゲノムまたはエコーウイルスゲノム)には、1つ以上のmiRNA標的配列の1つ以上のコピーが含まれる。好ましい実施形態内で、miRNA標的配列は、エンテロウイルスゲノム(例えば、ポリオウイルスゲノム、コクサッキーウイルスゲノムまたはエコーウイルスゲノム)の非翻訳領域(UTR)に作動可能に連結されている。いくつかの実施形態では、コクサッキーウイルスは、コクサッキーウイルスAまたはコクサッキーウイルスBである。特定の実施形態では、エンテロウイルスはコクサッキーウイルスB3である。他の実施形態では、非翻訳領域(UTR)は、5’UTR、及び/または3’UTRである。
【0007】
いくつかの実施形態では、1つ以上のmiRNA標的配列の1つ以上のコピーは、2つ以上の異なるmiRNA標的配列の1つ以上のコピーを含む。他の実施形態では、2つ以上の異なるmiRNA標的配列は、miR-1、miR-7、miR-30c、miR-124、miR-124*、miR-127、miR-128、miR-129、miR-129*、miR-133、miR-135b、miR-136、miR-136*、miR-137、miR-139-5p、miR-143、miR-154、miR-184、miR-188、miR-204、miR-208、miR-216、miR-217、miR-299、miR-300-3p、miR-300-5p、miR-323、miR-329、miR-337、miR-335、miR-341、miR-369-3p、miR-369-5p、miR-375、miR-376a、miR-376a*、miR-376b-3p、miR-376b-5p、miR-376c、miR-377、miR-379、miR-379*、miR-382、miR-382*、miR-409-5p、miR-410、miR-411、miR-431、miR-433、miR-434、miR-451、miR-466b、miR-485、miR-495、miR-499、miR-539、miR-541、miR-543*、miR-551b、miR-758、及びmiR-873からなる群から選択されるmiRNAを認識する。慣例により、最終産物であることがより頻繁に認められる鎖はmiRNAと呼ばれ、よりまれなパートナーはmiRNA*と呼ばれる。他の実施形態では、2つ以上の異なるmiRNA標的配列は、miR-145及びmiR-143の標的配列を含む。さらに他の実施形態では、2つ以上の異なるmiRNA標的配列は、miR-145の標的配列の4つのコピー及びmiR-143の標的配列の2つのコピーを含む。他の実施形態では、1つ以上のmiRNA標的配列の1つ以上のコピーは順方向であり、及び/または1つ以上のmiRNA標的配列の1つ以上のコピーは逆方向である。いくつかの実施形態では、組換えベクターは、免疫刺激因子、抗体、及びチェックポイント遮断ペプチドからなる群から選択される非ウイルスタンパク質をコードする少なくとも1つの核酸をさらに含み、前記少なくとも1つの核酸は、適切な腫瘍特異的調節領域に作動可能に連結される。他の実施形態では、非ウイルスタンパク質は、IL12、IL15、IL15受容体αサブユニット、OX40L、及びPD-L1遮断薬からなる群から選択される。
【0008】
別の態様では、本発明は、腫瘍細胞に上記の実施形態のいずれかの有効量の複製型腫瘍溶解性ウイルスベクターを提供することを含む、腫瘍細胞の溶解方法を提供する。いくつかの実施形態では、腫瘍細胞は、肺癌細胞を含む。他の実施形態では、腫瘍細胞は、膵臓細胞を含む。
他の態様では、本発明は、上記の実施形態のいずれかの少なくとも1つの複製型腫瘍溶解性ウイルスベクター及び薬学的に許容される担体を含む治療用組成物を提供する。
他の態様では、本発明は、治療有効量の上記実施形態のいずれかの組成物を含む第1の組成物を投与するステップを含む、がんに罹患している対象のがんの治療方法を提供する。いくつかの実施形態では、がんは、非小細胞肺癌(NSCLC)または小細胞肺癌(SCLC)である。他の実施形態では、投与は、静脈内(IV)投与、腹腔内(IP)投与、または腫瘍内(IT)投与である。
【0009】
本概要は、特定の概念を簡略化された形式で紹介するために提供され、これらは、以下の発明を実施するための形態においてさらに詳細に記載される。特に明記されている場合を除き、本概要は、特許請求する主題の主要な特徴または重要な特徴を特定することを意図するものではなく、特許請求する主題の範囲を制限することを意図するものでもない。
【0010】
1つ以上の実施形態の詳細は、以下の説明において記載される。例示的な一実施形態に関連して図示または記載される特徴は他の実施形態の特徴と組み合わせてもよい。したがって、本明細書に記載の様々な実施形態のいずれかを組み合わせて、さらなる実施形態を提供することができる。実施形態の態様は、必要に応じて、本明細書で特定される様々な特許、出願及び刊行物の概念を使用して、さらにさらなる実施形態を提供するように修正することができる。他の特徴、目的、及び利点は、明細書、図面、及び特許請求の範囲から明らかになる。
【0011】
本開示の例示的な特徴、その性質及び様々な利点は、添付の図面及び様々な実施形態の以下の詳細な説明から明らかになるであろう。非限定的かつ非網羅的な実施形態は、添付の図面を参照して説明され、同様のラベルまたは参照番号は、別段の指定がない限り、様々な図全体にわたって同様の部品を指す。図面中の要素の大きさ及び相対的な位置は、必ずしも正寸ではない。例えば、描画の判読性を向上させるために、様々な要素の形状を選択し、拡大し、配置する。描画される要素の特定の形状は、図面を認識しやすくするために選択されている。以下に、添付の図面の参照とともに、1つ以上の実施形態を記載する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】A及びBは、miRNAの相対的発現レベルを示すヒストグラム図である。
【
図2】改変腫瘍溶解性コクサッキーウイルスB3(「CVB3」)ゲノムの構築の一実施形態を示す概略図である。
【
図3A】腫瘍溶解性CVB3ウイルスに感染した細胞株におけるウイルス力価及びRNAコピーを示すグラフである。
【
図3B】腫瘍溶解性CVB3ウイルスに感染した細胞株におけるウイルス力価及びRNAコピーを示すグラフである。
【
図3C】腫瘍溶解性CVB3ウイルスに感染した細胞株におけるウイルス力価及びRNAコピーを示すグラフである。
【
図4A】腫瘍溶解性CVB3ウイルスに感染した細胞株のデータを示す写真及びグラフである。
【
図4B】腫瘍溶解性CVB3ウイルスに感染した細胞株のデータを示す写真及びグラフである。
【
図4C】腫瘍溶解性CVB3ウイルスに感染した細胞株のデータを示す写真及びグラフである。
【
図4D】腫瘍溶解性CVB3ウイルスに感染した細胞株のデータを示す写真及びグラフである。
【
図5A】腫瘍溶解性CVB3ウイルスに感染した細胞株のデータを示す写真及びグラフである。
【
図5B】腫瘍溶解性CVB3ウイルスに感染した細胞株のデータを示す写真及びグラフである。
【
図5C】腫瘍溶解性CVB3ウイルスに感染した細胞株のデータを示す写真及びグラフである。
【
図6A】腫瘍溶解性CVB3ウイルスに感染した細胞株のデータを示す写真及びグラフである。
【
図6B】腫瘍溶解性CVB3ウイルスに感染した細胞株のデータを示す写真及びグラフである。
【
図6C】腫瘍溶解性CVB3ウイルスに感染した細胞株のデータを示す写真及びグラフである。
【
図6D】腫瘍溶解性CVB3ウイルスに感染した細胞株のデータを示す写真及びグラフである。
【
図7A】腫瘍溶解性CVB3ウイルスで処理したマウスモデル系(SCIDマウス)のデータを示す生存率プロット、組織学的写真、及びグラフである。
【
図7B】腫瘍溶解性CVB3ウイルスで処理したマウスモデル系(SCIDマウス)のデータを示す生存率プロット、組織学的写真、及びグラフである。
【
図7C】腫瘍溶解性CVB3ウイルスで処理したマウスモデル系(SCIDマウス)のデータを示す生存率プロット、組織学的写真、及びグラフである。
【
図7D】腫瘍溶解性CVB3ウイルスで処理したマウスモデル系(SCIDマウス)のデータを示す生存率プロット、組織学的写真、及びグラフである。
【
図7E】腫瘍溶解性CVB3ウイルスで処理したマウスモデル系(SCIDマウス)のデータを示す生存率プロット、組織学的写真、及びグラフである。
【
図7F】腫瘍溶解性CVB3ウイルスで処理したマウスモデル系(SCIDマウス)のデータを示す生存率プロット、組織学的写真、及びグラフである。
【
図8A】腫瘍溶解性CVB3ウイルスで処理したマウスモデル系のデータを示す生存率プロット、組織学的写真、及びグラフである。
【
図8B】腫瘍溶解性CVB3ウイルスで処理したマウスモデル系のデータを示す生存率プロット、組織学的写真、及びグラフである。
【
図8C】腫瘍溶解性CVB3ウイルスで処理したマウスモデル系のデータを示す生存率プロット、組織学的写真、及びグラフである。
【
図8D】腫瘍溶解性CVB3ウイルスで処理したマウスモデル系のデータを示す生存率プロット、組織学的写真、及びグラフである。
【
図8E】腫瘍溶解性CVB3ウイルスで処理したマウスモデル系のデータを示す生存率プロット、組織学的写真、及びグラフである。
【
図8F】腫瘍溶解性CVB3ウイルスで処理したマウスモデル系のデータを示す生存率プロット、組織学的写真、及びグラフである。
【
図8G】腫瘍溶解性CVB3ウイルスで処理したマウスモデル系のデータを示す生存率プロット、組織学的写真、及びグラフである。
【
図9A】3つの追加のmiRNA改変CVB3の構築、ならびにこれらの腫瘍溶解性CVB3ウイルスで処理したマウスモデル系(C57BL/6マウス)の体重変化、生存率、及び組織学的写真を示す概略図である。
【
図9B】3つの追加のmiRNA改変CVB3の構築、ならびにこれらの腫瘍溶解性CVB3ウイルスで処理したマウスモデル系(C57BL/6マウス)の体重変化、生存率、及び組織学的写真を示す概略図である。
【
図9C】3つの追加のmiRNA改変CVB3の構築、ならびにこれらの腫瘍溶解性CVB3ウイルスで処理したマウスモデル系(C57BL/6マウス)の体重変化、生存率、及び組織学的写真を示す概略図である。
【
図9D-1】3つの追加のmiRNA改変CVB3の構築、ならびにこれらの腫瘍溶解性CVB3ウイルスで処理したマウスモデル系(C57BL/6マウス)の体重変化、生存率、及び組織学的写真を示す概略図である。
【
図9D-2】3つの追加のmiRNA改変CVB3の構築、ならびにこれらの腫瘍溶解性CVB3ウイルスで処理したマウスモデル系(C57BL/6マウス)の体重変化、生存率、及び組織学的写真を示す概略図である。
【
図10A】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10B】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10C】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10D】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10E】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10F】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10G】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10H】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10I】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10J】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10K】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10L】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10M】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10N】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10O】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10P】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10Q】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10R】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10S】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10T】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10U】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10V】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10W】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10X】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10Y】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10Z】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10AA】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10BB】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10CC】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10DD】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10EE】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10FF】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10GG】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10HH】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10II】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10JJ】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10KK】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10LL】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10MM】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10NN】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10OO】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10PP】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10QQ】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10RR】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10SS】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10TT】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10UU】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10VV】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10WW】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10XX】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10YY】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10ZZ】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
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図10AAA】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
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図10BBB】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
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図10CCC】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
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図10DDD】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
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図10EEE】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
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図10FFF】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
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図10GGG】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
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図10HHH】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
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図10III】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10JJJ】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10KKK】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10LLL】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10MMM】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10NNN】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10OOO】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10PPP】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10QQQ】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10RRR】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図10SSS】腫瘍内のマイクロRNAの選択されたリストであり、これらはすべて全体が参照により援用される。
【
図11A】腫瘍溶解性CVB3ウイルスに感染した細胞株のデータを示す写真及び細胞生存率プロットである。
【
図11B】腫瘍溶解性CVB3ウイルスに感染した細胞株のデータを示す写真及び細胞生存率プロットである。
【
図12A】組織学的写真、データを示すグラフ、腫瘍溶解性CVB3ウイルスの概略図、及びこれらの新規腫瘍溶解性CVB3ウイルスで処理した免疫適格マウスモデル系の生存率プロットである。
【
図12B】組織学的写真、データを示すグラフ、腫瘍溶解性CVB3ウイルスの概略図、及びこれらの新規腫瘍溶解性CVB3ウイルスで処理した免疫適格マウスモデル系の生存率プロットである。
【
図12C】組織学的写真、データを示すグラフ、腫瘍溶解性CVB3ウイルスの概略図、及びこれらの新規腫瘍溶解性CVB3ウイルスで処理した免疫適格マウスモデル系の生存率プロットである。
【
図12D】組織学的写真、データを示すグラフ、腫瘍溶解性CVB3ウイルスの概略図、及びこれらの新規腫瘍溶解性CVB3ウイルスで処理した免疫適格マウスモデル系の生存率プロットである。
【
図12E】組織学的写真、データを示すグラフ、腫瘍溶解性CVB3ウイルスの概略図、及びこれらの新規腫瘍溶解性CVB3ウイルスで処理した免疫適格マウスモデル系の生存率プロットである。
【
図12F】組織学的写真、データを示すグラフ、腫瘍溶解性CVB3ウイルスの概略図、及びこれらの新規腫瘍溶解性CVB3ウイルスで処理した免疫適格マウスモデル系の生存率プロットである。
【
図13A】様々な腫瘍溶解性CVB3ウイルスを注射したC57BL/6マウスのウイルスRNAコピー数を示す組織学的写真及びグラフである。
【
図13B】様々な腫瘍溶解性CVB3ウイルスを注射したC57BL/6マウスのウイルスRNAコピー数を示す組織学的写真及びグラフである。
【
図14A】様々な腫瘍溶解性CVB3ウイルスに感染した細胞株の細胞生存率を示すグラフである。
【
図14B】様々な腫瘍溶解性CVB3ウイルスに感染した細胞株の写真である。
【
図15B】様々な腫瘍溶解性CVB3ウイルスに感染した細胞株の写真である。
【
図15C】新規腫瘍溶解性CVB3ウイルスの概略図である。
【
図15D】新規腫瘍溶解性CVB3ウイルスに感染した細胞株の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、本発明の好ましい実施形態の以下の詳細な説明及び本明細書に含まれる実施例を参照することにより、より容易に理解され得る。
しかしながら、本発明をより詳細に説明する前に、本発明を理解するために、以下で使用する特定の用語の定義を最初に記載することが役立ち得る。
【0014】
本明細書中で使用する用語「マイクロRNA」または「miRNA」とは、動物及び植物の両方を含む広範囲の生物で発現する短い(通常21~25ヌクレオチド)内在性の一本鎖RNAのファミリーを指す。ヒトにおいて発現されている1000を上回る固有のmiRNAが存在する。miRNAは、メッセンジャーRNA(mRNA)に存在する特定の標的配列に結合する。mRNA分子の相補的または部分的に相補的な配列(標的配列)への結合は、mRNAの切断による遺伝子発現の下方制御、そのポリAテールの短縮による分解の増加、及び直接的な翻訳抑制をもたらす。腫瘍中のマイクロRNAの選択されたリスト(関連する参考文献とともに)を、
図9A~9Z、9AA~9ZZ、及び9AAA~9SSSに示し、これらのリスト及び関連する参考文献は、その全体が参照により援用される。
【0015】
「マイクロRNA標的配列(複数可)」、「miRNA標的配列(複数可)」及び「miRNA結合配列(複数可)」とは、
図10に開示されているようなmiRNA配列に相補的であるか、または結合する(すなわち、それらは100%相補的である必要はない)配列を指す。
用語「腫瘍溶解性エンテロウイルス」とは、腫瘍細胞において複製され、腫瘍細胞を死滅させることができるエンテロウイルスを指す。簡潔に述べると、エンテロウイルスは一本鎖プラス鎖RNAウイルスの属であり、糞口経路を介して伝染する哺乳類の疾患に最も一般的に関連している。エンテロウイルスの一般的な例として、ポリオウイルス、コクサッキーウイルス及びエコーウイルスが挙げられる。
用語「腫瘍溶解性コクサッキーウイルス」または「CSV」とは、一般的に、腫瘍細胞において複製され、死滅させることができるコクサッキーウイルスを指す。特定の実施形態では、腫瘍細胞をより選択的に標的化するために、及び/またはヒト宿主におけるCSVの免疫媒介中和を低減するために、ウイルスを組換え的に(または「遺伝的に」)改変することができる。コクサッキーウイルスB3(CVB3)は、5’及び3’非翻訳領域(UTR)に隣接する単一のオープンリーディングフレームをコードするプラスRNAゲノムを含む小さな非エンベロープウイルスである。
【0016】
本明細書中で使用する場合、「治療する」または「治療すること」または「治療」とは、臨床結果を含む有益なまたは所望の結果を得るためのアプローチを意味する。有益なまたは望ましい臨床結果には、検出可能か検出不可能かに関わらず、1つ以上の症状または病態の軽減または改善、疾患の程度の減少、疾患の安定した(すなわち悪化しない)状態、疾患の拡大の予防、疾患の進行の遅延または減速、病状の改善または緩和、疾患の再発の減少、及び寛解(部分的または全体的)が含まれ得るが、これらに限定されない。用語「治療すること」及び「治療」はまた、治療を受けない場合の予測生存期間と比較して、生存期間を延長することも意味し得る。
【0017】
用語「がん」とは、対象における細胞の無秩序なまたは異常な増殖によって引き起こされる病状を指す。がんの代表的な形態として、癌腫、白血病、リンパ腫、骨髄腫及び肉腫が挙げられる。さらなる例として、胆管癌、脳癌(例えば、神経膠芽腫)、乳癌、子宮頸癌、結腸直腸癌、CNSの癌(例えば、聴神経腫、星状細胞腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、神経膠芽腫、血管芽腫、髄芽細胞腫、髄膜腫、神経芽細胞腫、乏突起膠腫、松果体腫及び網膜芽細胞腫)、子宮内膜癌、造血細胞癌(例えば、白血病及びリンパ腫)、腎臓癌、喉頭癌、肺癌、肝臓癌、口腔癌、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、皮膚癌(例えば、黒色腫及び扁平上皮癌)及び甲状腺癌が挙げられる。がんには、固形腫瘍(例えば、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫及び骨肉腫などの肉腫)、びまん性(例えば、白血病)、またはこれらのいくつかの組み合わせ(例えば、固形腫瘍と播種性またはびまん性のがん細胞の両方を有する転移性がん)が含まれ得る。がんはまた、従来の治療法(例えば、従来の化学療法及び/または放射線療法)に抵抗性であり得る。
【0018】
良性腫瘍及び他の望ましくない細胞増殖の病態も治療し得る。
本明細書の様々な実施形態の理解をさらに深めるために、様々な実施形態を説明する以下の節を提供する:A.腫瘍溶解性エンテロウイルス;B.マイクロRNA;D.治療用組成物、及びE.投与。
【0019】
A.腫瘍溶解性エンテロウイルス
上記のように、エンテロウイルスは一本鎖プラス鎖RNAウイルスの属であり、糞口経路を介して伝染する哺乳類の疾患に最も一般的に関連している。エンテロウイルスの一般的な例として、ポリオウイルス、コクサッキーウイルス及びエコーウイルスが挙げられる。
【0020】
コクサッキーウイルスは、エンベロープを有さない線形のプラスセンス一本鎖RNAウイルス、ピコルナウイルス科、ならびにポリオウイルス及びエコーウイルスを含むエンテロウイルス属に属するウイルスである。エンテロウイルスは、最も一般的で重要なヒト病原体の1つであり、通常、そのメンバーは糞口経路で感染する。コクサッキーウイルスは、無菌性髄膜炎の主な病因の1つである(他の通常の病因ウイルスはエコーウイルス及びムンプスウイルスである)。コクサッキーウイルスは、ポリオウイルスと多くの特徴を共有している。世界の大部分でポリオウイルス感染が制御されているため、コクサッキーウイルスなどの非ポリオエンテロウイルスの理解に注目が集まっている。(Sean P,Semler BL. Coxsackievirus B RNA replication:lessons from poliovirus. Curr Top Microbiol Immunol 2008;323:89-121)。
【0021】
コクサッキーウイルスB3(CVB3)は、5’及び3’非翻訳領域(UTR)に隣接する単一のオープンリーディングフレームをコードするプラスRNAゲノムを含む小さな非エンベロープウイルスである。CVB3のライフサイクルは短く、通常、細胞死及び子孫ウイルスの放出が急速に進む。受容体へのウイルスの付着に続いて、ウイルスRNAが細胞内に放出され、そのRNAは細胞内でウイルスポリタンパク質の翻訳及びウイルスゲノムの複製のためのテンプレートとして機能する。
【0022】
B.マイクロRNA(miRNA)
上記のように、本発明は、エンテロウイルスの腫瘍特異性をさらに増強するために、エンテロウイルスゲノム(例えば、ポリオウイルスゲノム、コクサッキーウイルスゲノムまたはエコーウイルスゲノム)を改変するためのmiRNAベースのアプローチを提供する。miRNAは、進化的に保存された内在性の小さな非コードRNAのクラスであり、標的となるmRNAのUTRに結合することにより、幅広い基本的な細胞機能の主要な調節因子として機能する。その後、それらはmRNA分解または遺伝子発現の抑制のいずれかを促進する。最近のエビデンスからは、miRNAも腫瘍形成において重要な役割を果たしていることが示唆されている。miRNAは、様々ながん組織において下方制御されることが一般的に観察されている。このユニークな機能を利用して、miRNA感受性の腫瘍特異的腫瘍溶解性ウイルスを開発することができる。miRNA-145(miR-145)及びmiR-143は、腫瘍抑制性miRNAとして同定されており、肺癌組織において有意に下方制御される。
個々のmiRNA及びmiRNAの群は、特定の組織型で排他的または優先的に発現し得る。例示的なmiRNAとして、miR-1、miR-7、miR-30c、miR-124、miR-124*、miR-127、miR-128、miR-129、miR-129*、miR-132、miR-135b、miR-136、miR-136*、miR-137、miR-139-5p、miR-143、miR-154、miR-184、miR-188、miR-204、miR-208、miR-216、miR-217、miR-299、miR-300-3p、miR-300-5p、miR-323、miR-329、miR-337、miR-335、miR-341、miR-369-3p、miR-369-5p、miR-375、miR-376a、miR-376a*、miR-376b-3p、miR-376b-5p、miR-376c、miR-377、miR-379、miR-379*、miR-382、miR-382*、miR-409-5p、miR-410、miR-411、miR-431、miR-433、miR-434、miR-451、miR-466b、miR-485、miR-495、miR-499、miR-539、miR-541、miR-543*、miR-551b、miR-758、及びmiR-873が挙げられる。慣例により、最終産物であることがより頻繁に認められる鎖はmiRNAと呼ばれ、よりまれなパートナーはmiRNA*と呼ばれる。
【0023】
本発明の特定の実施形態においては、miRNA標的配列を、コクサッキーウイルスB3ゲノムの5’UTRまたは3’UTRに挿入することができる。特定の実施形態においては、少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、または6つのmiRNA標的配列をタンデムに挿入することができる。さらなる実施形態においては、少なくとも10個の標的配列を存在させてもよく、これらをタンデムに挿入することができる。他の実施形態においては、10、15、20、50、または100未満の標的配列が存在する。CSVB3の発現レベルをアッセイすることにより、最適な数の標的配列を決定することができる。正常細胞では、CSVB3のレベルが低いか存在しないことが望ましい。複数のmiRNA標的配列はすべて同じmiRNAに結合してもよく、または異なるmiRNAに結合してもよい。標的配列はクラスターとして存在していてもよく(例えば、
図2)、例えば、第1のmiRNAに結合する少なくとも2つの標的配列がタンデムに存在し、続いて第2のmiRNAに結合する少なくとも2つの標的配列がタンデムに存在し、任意選択で、第3のmiRNAに結合する少なくとも2つの標的配列が続く。あるいは、異なるmiRNAに結合する複数のmiRNA標的配列は、特定の順序でなくてもよい。同様に、各miRNA標的配列の単一コピーのみが存在する場合がある。いくつかの実施形態では、2~4個の異なるmiRNA標的が存在する。他の実施形態では、各標的配列の2~4個のコピーが存在する。他の実施形態では、2~4個の異なるmiRNA標的、及びこれらの標的配列のそれぞれの2~4個のコピーがクラスター内に存在する。miRNA標的配列は、任意の方向または複数の方向の組み合わせで挿入してもよい。例示的な構築物については、
図2を参照されたい。
【0024】
複数のmiRNA標的配列は、介在ヌクレオチドを含まずに隣接し得るか、または1~約25、または1~約20、または1~約15、または1~約10、または1~約5、または3~約10、または5~約10の介在ヌクレオチドを有し得る。介在ヌクレオチドは、5’UTRと同様のG+C含有量を有し、好ましくはポリアデニル化シグナル配列を含まないように選択してもよい。
【0025】
C.治療組成物
例えばがんなどの疾患の影響を予防、治療、または改善するために使用し得る治療用組成物を提供する。より具体的には、本明細書に記載するような少なくとも1つの腫瘍溶解性ウイルスを含む治療用組成物を提供する。
特定の実施形態では、組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含む。語句「薬学的に許容される担体」とは、腫瘍溶解性ウイルスの生物学的活性の有効性を妨害せず、それを投与する対象に対して毒性がない任意の担体、希釈剤または賦形剤を包含することを意味する(一般的には、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,Lippincott Williams & Wilkins;21st ed.(May 1,2005 and in The United States PharmacopE1A:The National Formulary(USP 40 - NF 35 and Supplementsを参照のこと)。
【0026】
本明細書に記載の腫瘍溶解性ウイルスの場合、適切な薬学的担体の非限定的な例として、リン酸緩衝生理食塩水、水、エマルジョン(例えば、油/水エマルジョン)、様々なタイプの湿潤剤、滅菌溶液などが挙げられる。追加の薬学的に許容される担体として、ゲル、生体吸収性マトリックス材料、腫瘍溶解性ウイルスを含む移植片、または任意の他の適切なビヒクル、送達または分配手段または材料(複数可)が挙げられる。そのような担体は、従来の方法によって製剤化することができ、有効な用量で対象に投与することができる。追加の薬学的に許容される賦形剤として、水、生理食塩水、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸及びエタノールが挙げられるが、これらに限定されない。薬学的に許容される塩、例えば、鉱酸塩(例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩など)及び有機酸の塩(例えば、酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩など)もその中に含めることができる。腫瘍溶解性ウイルスをがん細胞に送達するために使用し得るそのような薬学的に許容される(医薬品グレードの)担体、希釈剤及び賦形剤は、好ましくは、組成物を受け取る個体(対象)に免疫応答を誘導しない(そして好ましくは過度の毒性を伴わずに投与される)。
【0027】
本明細書中で提供する組成物は、様々な濃度で提供することができる。例えば、約106~約1011pfuの範囲の腫瘍溶解性ウイルスの用量を提供することができる。さらなる実施形態では、用量は、約106~約1010pfu/mlの範囲とすることができ、大きな病巣(例えば、>5cm)を有する患者には最大4mlを、及び小さな病巣(例えば、<0.5cm)を有する患者には少量(例えば、最大0.1ml)を治療の2~3週間ごとに注射する。
本発明の特定の実施形態において、標準よりも低い用量を利用してもよい。したがって、特定の実施形態では、約106pfu/ml未満(2~3週間ごとに最大4mlを患者に注射する)を患者に投与することができる。
【0028】
安定した貯蔵寿命をもたらす温度で組成物を保存してもよく、これには、室温(約20℃)、4℃、-20℃、-80℃、及び液体窒素が含まれる。in vivoでの使用を目的とした組成物は一般的に防腐剤を含まないため、貯蔵は一般的に低温で行われる。組成物は、乾燥状態(例えば、凍結乾燥)または液体形態で貯蔵してもよい。
【0029】
E.投与
本明細書に記載の組成物に加えて、本明細書に記載の有効用量または有効量の改変コクサッキーウイルスを対象に投与するステップを含む、疾患(例えば、がん)を治療または改善するためにそのような組成物を使用する様々な方法を提供する。
用語「有効用量」及び「有効量」とは、標的となるがんの治療を行うのに十分な腫瘍溶解性ウイルスの量、例えば、標的となる腫瘍のサイズまたは量を減らすのに有効な量、または標的となる腫瘍細胞の増殖速度を妨げる量を指す。より具体的には、そのような用語は、必要な用量及び治療期間において、所望の結果を達成するために有効である腫瘍溶解性ウイルスの量を指す。例えば、がんの治療に関して、本明細書に記載の有効量の組成物は、寛解を誘導し、腫瘍量を軽減し、及び/または腫瘍の拡散またはがんの成長を防止する量である。有効量は、対象の病状、年齢、性別、及び体重、ならびに医薬製剤、投与経路などの要因によって様々に異なり得るが、それにもかかわらず、当業者であれば日常的に決定することができる。
【0030】
治療用組成物は、がんと診断された対象、またはがんを有することが疑われる対象に投与する。対象は、ヒトまたは非ヒト動物であってもよい。
本明細書に記載のOV(例えば、コクサッキーウイルス)は、例えば、静脈内、腫瘍内、または腹腔内である経路によって与えられ得る。特定の実施形態においては、腫瘍溶解性ウイルスを、カニューレによって、カテーテルによって、または直接注射によって送達してもよい。投与部位は、腫瘍内または腫瘍から離れた部位であってもよい。投与経路は、多くの場合、標的となるがんのタイプによって異なる。本明細書に記載のOV(例えば、CSV)は、静脈内(IV)投与に特に適している。
【0031】
腫瘍溶解性ウイルスの最適または適切な投与計画は、患者データ、患者の所見、ならびに例えば対象のサイズ、体表面積、年齢、性別、及び投与する特定の腫瘍溶解性ウイルスを含む様々な臨床因子、投与の時間及び経路、治療するがんの種類、患者の健康全般、ならびに患者が受けている他の薬物療法に基づいて、担当医により、当業者の技能の範囲内で容易に決定され得る。特定の実施形態によれば、本明細書に記載の腫瘍溶解性ウイルスを使用する対象の治療を、追加のタイプの療法、例えば、エトポシド、イホスファミド、アドリアマイシン、ビンクリスチン、ドキシサイクリンなどの化学療法剤を使用する化学療法と組み合わせてもよい。
【0032】
OV(例えば、CSV)を、臨床使用のための薬剤及び医薬組成物として製剤化してもよく、薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤またはアジュバントと組み合わせてもよい。製剤は、少なくとも部分的に、投与経路に依存する。適切な製剤は、無菌培地中にウイルス及び阻害剤を含み得る。製剤は、流体、ゲル、ペーストまたは固体形態であり得る。製剤は、対象または医療専門家に提供することができる。
好ましくは治療有効量を投与する。これは、対象に恩恵をもたらすのに十分な量である。実際に投与する量及び投与の時間経過は、少なくとも部分的に、がんの性質、対象の病態、送達部位、及び他の要因に依存するであろう。
本発明のさらに他の実施形態においては、腫瘍溶解性ウイルスは、様々な方法により、例えば、腫瘍内、腹腔内、静脈内、または腫瘍の外科的切除後に投与することができる。
【0033】
以下は、本開示のさらなる例示的な実施形態である:
1.改変エンテロウイルスゲノムを含む複製型腫瘍溶解性ウイルスベクターであって、前記改変エンテロウイルスゲノムは、エンテロウイルスゲノムの非翻訳領域(UTR)に作動可能に連結された1つ以上のmiRNA標的配列の1つ以上のコピーを含む。関連する実施形態において、改変エンテロウイルスゲノムを含む複製型腫瘍溶解性ウイルスベクターを提供し、前記改変エンテロウイルスゲノムは、エンテロウイルスゲノムの非翻訳領域(UTR)に作動可能に連結された複数の1つ以上のmiRNA標的配列を含む。様々な実施形態において、前記エンテロウイルスは、ポリオウイルス、コクサッキーウイルス、またはエコーウイルスであり得る。
2.エンテロウイルスがコクサッキーウイルスである、実施形態1に記載の複製型腫瘍溶解性ウイルスベクター。
【0034】
3.コクサッキーウイルスが、コクサッキーウイルスAまたはBである、実施形態2に記載の複製型腫瘍溶解性ウイルスベクター。
4.非翻訳領域(UTR)が5’UTRである、実施形態1、2または3のいずれかの態様に記載の複製型腫瘍溶解性ウイルスベクター。他の実施形態では、UTRは3’UTRである。本発明のさらに別の実施形態において、1つ以上のmiRNA標的配列を、3’UTRに作動可能に連結してもよく、1つ以上のmiRNA標的配列を、5’UTRに作動可能に連結してもよい。
【0035】
5.1つ以上のmiRNA標的配列の1つ以上のコピーが、2つ以上の異なるmiRNA標的配列の1つ以上のコピーを含む、実施形態1、2、3または4のいずれかの態様に記載の複製型腫瘍溶解性ウイルスベクター。
6.前記1つ以上のmiRNA標的配列の間に、2~50塩基対(「bp」)のサイズのスペーサーが挿入されている、実施形態1、2、3、4、または5のいずれかの態様に記載の複製型腫瘍溶解性ウイルスベクター。様々な実施形態において、前記スペーサーは、2~10bp、10~20bpのサイズ、20~30bpのサイズ、30~40bpのサイズ、または40~50bpのサイズであり得る。
7.1つ以上のmiRNA標的配列の前記1つ以上のコピーが、心臓または膵臓に特異的なmiRNAを認識する、実施形態1に記載の複製型腫瘍溶解性ウイルスベクター。心臓特異的miRNAの代表的な例として、miR-1、miR133a/b、miR-208a/b及びmiR-499が挙げられる。膵臓特異的miRNAの代表的な例として、miR-7、miR-204、miR-216、miR-217、及びmiR-375が挙げられる。
【0036】
8.1つ以上の異なるmiRNA標的配列が、miR1、miR-7、miR-30c、miR-124、miR-124*、miR-127、miR-128、miR-129、miR-129*、miR-133、miR-135b、miR-136、miR-136*、miR-137、miR-139-5p、miR-143、miR-154、miR-184、miR-188、miR-204、miR-208、miR216、miR217、miR-299、miR-300-3p、miR-300-5p、miR-323、miR-329、miR-337、miR-335、miR-341、miR-369-3p、miR-369-5p、miR-375、miR-376a、miR-376a*、miR-376b-3p、miR-376b-5p、miR-376c、miR-377、miR-379、miR-379*、miR-382、miR-382*、miR-409-5p、miR-410、miR-411、miR-431、miR-433、miR-434、miR-451、miR-466b、miR-485、miR-495、miR-499、miR-539、miR-541、miR-543*、miR-551b、miR-758、及びmiR-873からなる群から選択されるmiRNAを認識する、実施形態1、2、3、4、5、6、または7のいずれかの態様に記載の複製型腫瘍溶解性ウイルスベクター。慣例により、最終産物であることがより頻繁に認められる鎖はmiRNAと呼ばれ、よりまれなパートナーはmiRNA*と呼ばれる。様々な実施形態において、複製型腫瘍溶解性ウイルスは、プラス鎖miRNAの1つ以上のコピー及び/またはマイナス鎖miRNAの1つ以上のコピーを含み得る。
【0037】
9.異なるmiRNA標的配列の2つ以上(または複数)が、miR1、miR133、miR216、miR145及びmiR143の標的配列を含む、実施形態1、2、3、4、5、6、7、または8のいずれかの態様に記載の複製型腫瘍溶解性ウイルスベクター。
【0038】
10.miR1、miR133、miR216、miR145及びmiR143の標的配列の2つ、3つ、4つ、5つ、または6つのコピーを含む、実施形態9に記載の複製型腫瘍溶解性ウイルスベクター。
11.1つ以上のmiRNA標的配列の1つ以上のコピーが順方向にあり、1つ以上のmiRNA標的配列の1つ以上のコピーが逆方向にある、実施形態1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10のいずれかの態様に記載の複製型腫瘍溶解性ウイルスベクター。
【0039】
12.改変エンテロウイルスゲノムが、免疫刺激因子、抗体(例えば、二重特異性抗体を含む)、及びチェックポイント遮断ペプチド(「チェックポイント阻害因子」または「チェックポイント調節因子」とも呼ばれる)からなる群から選択される非ウイルスタンパク質をコードする少なくとも1つの核酸を含み、前記少なくとも1つの核酸が、適切な腫瘍特異的調節領域に作動可能に連結する、実施形態1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、または11のいずれかの態様に記載の複製型腫瘍溶解性ウイルスベクター。本発明の様々な実施形態において、前記二重特異性抗体は、腫瘍抗原を認識する第1の抗原結合ドメイン、及びエフェクター細胞上の細胞表面分子を認識する第2の抗原結合ドメインを含む。本発明の他の実施形態において、前記チェックポイント調節因子は、ペプチドリガンド、天然受容体の可溶性ドメイン、RNAi、アンチセンス分子または抗体である。本発明のさらなる実施形態において、免疫調節剤は、例えば、PD-1、PD-L1、PD-L2、LAG3、Tim3、BTLA及び/またはCTLA4などの抑制性免疫チェックポイント(複数可)の活性を少なくとも部分的に弱める。
【0040】
13.非ウイルスタンパク質が、IL12、IL15、IL15受容体αサブユニット、OX40L、CD73、及びチェックポイント阻害因子からなる群から選択される、実施形態12に記載の複製型腫瘍溶解性ウイルスベクター。本発明のさらなる実施形態において、実施形態1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、または12のいずれかに記載の複製型腫瘍溶解性ウイルスは、腫瘍細胞に感染し、溶解させる能力を保持しているが、同じ株の未改変の野生型ウイルスと比較して、in vitro及び/またはin vivoでの毒性が低下している(例えば、同じ株の未改変の野生型コクサッキーウイルスと比較して、in vitro及び/またはin vivoでの毒性が、5%、10%、25%、50%、75%、80%、または90%超低下したmiR改変コクサッキーウイルス)。特定の実施形態においては、心筋細胞、及び/または正常膵臓細胞において毒性が低下している。
【0041】
14.実施形態1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、または13のいずれかに記載の有効量の複製型腫瘍溶解性ウイルスベクターを腫瘍細胞に提供することを含む、腫瘍細胞の溶解方法。腫瘍細胞は、例えば、本明細書に記載のがん内においてin vivoで見出すことができる。
15.腫瘍細胞が、肺癌細胞を含む、実施形態14に記載の方法。
16.腫瘍細胞が、膵臓癌細胞を含む、実施形態14に記載の方法。
17. 上記の実施形態1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、または13のいずれかに記載の少なくとも1つの複製型腫瘍溶解性ウイルスベクター、及び薬学的に許容される担体を含む、治療用組成物。
【0042】
18.治療有効量の実施形態17に記載の組成物を含む組成物を投与するステップを含む、がんに罹患している対象におけるがんの治療方法。がんの代表的な例として、本明細書に記載のがんが挙げられる。特に好ましいがんとして、肺癌、膵臓癌、肝臓癌、及び乳癌が挙げられる。
19.がんが、肺癌、膵臓癌、肝臓癌及び乳癌からなる群から選択される、実施形態18に記載の方法。
20.がんが、KRAS変異に関連する非小細胞肺癌(NSCLC)、一般的にTP53及びRb変異に関連する小細胞肺癌(SCLC)、または膵臓癌である、実施形態18に記載の方法。
21.投与が、静脈内(IV)投与、腹腔内(IP)投与、または腫瘍内(IT)投与である、実施形態18、19、または20に記載の方法。
【0043】
<実施例>
以下の実施例は、例示として示されており、限定するために示されているものではない。
【実施例1】
【0044】
miR-145及びmiR-143は、肺癌細胞において下方制御される
本実施例では、肺細胞及び心筋細胞におけるmiR-145及びmiR-143の発現を調べる実験について記載する。miRNAレベルは、以下のステムループプライマーを用いて実施した逆転写反応によって検出した:miR-145:CTCAACTGGTGTCGTGGAGTCGGCAATTCAGTTGAGAGGGATTC(配列番号1);miR-143:GTCGTATCCAGTGCTGGGTCCGAGTGATTCGCACTGGATACGACTGAGCTACA(配列番号2);及びmiR93:CTCAACGGTGTCGTGGAGTCGGCAATTCAGTTGAGCTACCTGC(配列番号3)。これらのプライマーを使用して、細胞のmiR-145、miR-143及びmiR-93(内部対照)を、対応する相補的DNAに変換した。簡潔に述べると、様々な肺細胞及び心筋細胞由来の1μgの総RNAを、15μlのヌクレアーゼフリー水中の各miRNA用の50nM RTプライマーを含む2μlのRTプライマーミックスと混合した。反応物を65℃で5分間、次いで氷上で2分間インキュベートして、ステムループを形成させた。次いで、iScript cDNA合成キット(Biorad、1708890)を使用して、25℃で5分間、42℃で30分間、及び85℃で5分間、この混合物を4ul 5×iScript反応ミックス及び1μl逆転写酵素と混合することにより、逆転写に使用した。次いで、混合物を80μlのヌクレアーゼフリー水で希釈した。qPCRについては、3つのプライマーペアを使用して、miR-145及びmiR-143の相対的な発現レベルを測定した:miR-145(順方向:CGGCGGGTCCAGTTTTCCCAGG(配列番号4);逆方向:CTGGTGTCGTGGAGTCGGCAATTC(配列番号5))、miR-143(順方向:CCTGGCCTGAGATGAAGCAC(配列番号6);逆方向:CAGTGCTGGGTCCGAGTGA(配列番号7))、miR-93(順方向:CGGCGGCAAAGTGCTGTTCGTG(配列番号8);逆方向:CTGGTGTCGTGGAGTCGGCAATTC(配列番号9))。簡潔に述べると、1μlのcDNA産物を10μlの反応混合物に加え、LunaユニバーサルqPCRマスターミックス(Neb、M3003)を使用してメーカーが推奨するプライマー濃度にした。反応を以下のように繰り返した:95℃で1分間、[95℃で10秒間、65℃で30秒間]を45サイクル、次いで融解曲線をViiA 7リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)で設定した。試料は3つ組で実行し、対照試料を使用した比較CT(2-ΔΔCT)法を使用して分析し、相対定量(RQ)として示した。
【0045】
結果を、
図1A(miR-145の発現レベル)及び
図1B(miR-143の発現レベル)に示す。これらの相対定量の結果は、正常な肺上皮細胞及び心筋細胞と比較して、KRAS変異を有する肺腺癌細胞株(H2030、H23、A549)及びTP53変異を有するSCLC細胞株(H524、H526)において、miR-145とmiR-143の両方が有意に下方制御されることを示している。
【実施例2】
【0046】
miRNA改変CVB3の構築
正常組織に対するウイルス毒性が低下した組換えCVB3ベクターを作製するために、
図2に示すようにmiRNA改変CVB3を構築した。miR-145の標的配列の4コピーとmiR-143の標的配列の2コピーを、5’UTRとVP4の開始コドンの間の位置に挿入して、miR-CVB3として示すmiRNA改変CVB3を構築した。CVB3(カンドルフ株)のインタクトなゲノムを含むプラスミドpCVB3/T7をバックボーンとして使用して、miR-CVB3を作製した。簡潔に述べると、pCVB3/T7をXbaIで消化して、5’UTR-VP4領域を残しながらBamHI部位を削除した。次いで、得られたプラスミドを、5’UTRとVP4の開始コドンとの間にBamHI部位及びコザックコンセンサス配列を含む配列GTTGATACTTGAGCTCCCATTTTGCTGTATGGATCCTTTGCTGTATTCAACTTAACAATG 配列番号10)を有するプライマーを用いて変異導入した。変異体バックボーンを、プライマーペア(順方向:AATGGATCCTTAATTAACGAAGGGATTCCTGG(配列番号11);逆方向:AATGGATCCTTAATTAAATCGATAGCGTCCAGTTTTC(配列番号12))を使用してプラスミドpCMV-ICP27-145Tから増幅した4コピーのmiR-145標的配列及びClaI部位を含むBamHI消化したPCR産物を挿入することによってさらに改変した。次いで、得られたプラスミドのCVB3ゲノムを、BglII-SalI断片からpCVB3/T7の対応する断片に置き換えて修復し、pCVB3-miR145を構築した。最後に、2コピーのmiR-143標的配列を含むアニーリングされたオリゴペア(順方向:CGTGAGCTACAGTGCTTCATCTCACGATTGAGCTACAGTGCTTCATCTCATCTAGAAT(配列番号13);逆方向:CGATTCTAGATGAGATGAAGCACTGTAGCTCAATCGTGAGATGAAGCACTGTAGCTCA(配列番号14))をClaIサイトへ挿入することによって、プラスミドpCVB3-miR145-miR143を作製した。ここで使用するすべての制限酵素は、Thermo Fisher Scientific製である。
【0047】
miR-CVB3及び野生型CVB3ストックを作製するために、HiScribe(商標)T7 Quick High Yield RNA合成キット(#E2050S、New England Biolabs)を使用して、SalI消化によって直鎖状化したpCVB3-miR145-miR143及びpCVB3/T7からウイルスゲノムをそれぞれ合成した。続いて、ウイルスRNAをHeLa細胞にトランスフェクトし、トランスフェクションの約72時間後に細胞変性効果が最も顕著になった時点で上清を回収した。ウイルス力価が保存に望ましいレベルに達するまで、ウイルスを含む上清をHeLa細胞でさらに増殖させた。
【実施例3】
【0048】
心筋細胞におけるmiR-CVB3 RNAレベル、ウイルス力価、及び細胞毒性の低下
miRNA改変CVB3がmiRNA依存性の下方制御の影響を受けやすい場合、miR-145及びmiR-143の発現が豊富な細胞は、ウイルスの増殖またはmiR-CVB3の複製を選択的に抑制し、一方、野生型CVB3の増殖は影響を受けないと予測される。この予測を試験するために、細胞株のパネルをMOI 0.1にてmiR-CVB3または野生型CVB3で処理し、感染の36時間後に上清中のウイルス粒子の滴定を行った。
図3Aに示すように、miR-CVB3の力価は、miR-145及びmiR-143が高度に発現しているHL-1マウス心筋細胞において、野生型CVB3と比較して有意に低下した。対照的に、miR-CVB3の力価は、miRNAレベルが下方制御されているNSCLC細胞株、SCLC細胞株及びHeLa細胞の野生型CVB3と比較して有意に低下しなかった。
【0049】
心筋細胞HL-1及び肺癌KRAS
mutH2030及びTP53
mutH526細胞株におけるウイルスゲノムコピー数(
図3B)及びウイルス力価(
図3C)を測定することにより、両方のウイルスの細胞内複製及びワンステップ増殖曲線も評価し、細胞レベルごとに正規化した。野生型CVB3と比較したmiR-CVB3の増殖パターンにおいて、HL-1細胞株と2つの肺癌細胞株の間に有意差が確認された。特に、HL-1細胞におけるmiR-CVB3の複製は、ウイルスRNAコピーレベル及びウイルス力価に反映されたように厳密に抑制された一方で、野生型CVB3ゲノム及びウイルス力価は増幅し続けた。対照的に、H2030細胞とH526細胞の両方で、両方のウイルスの複製はほぼ同じレベルまで増幅し続けた。
【0050】
肺癌細胞に比べて比較的高レベルのmiR-145及びmiR-143を発現するマウス心筋細胞HL-1細胞株において、野生型CVB3と比較したmiR-CVB3の毒性を試験した。
図4A~Cに示すように、初期ウイルス感染MOIが0.01~100の場合、ウイルス感染の72時間後にmiR-CVB3の毒性が有意に低下することが観察された。野生型CVB3は0.01~0.1のMOIでHL-1細胞の損傷を引き起こし、一方、HL-1細胞に細胞変性効果を明確に誘導するには、はるかに高い用量のmiR-CVB3(10~100のMOI)が必要であった。形態アッセイの結果(
図4A)は、野生型CVB3処理細胞において空のウェルを示したクリスタルバイオレット染色試験(
図4B)において、及び細胞生存率の差分値により、細胞生存率アッセイ(
図4C)においても反映された。HL-1細胞株は腫瘍細胞に由来するため、ヒトiPSC誘導心筋細胞(iCM)を使用して細胞生存率アッセイを検証したが、その結果はHL-1細胞株で試験した結果と一致していた(
図4D)。
【実施例4】
【0051】
miR-CVB3は、KRAS
mut肺癌細胞を溶解する能力を維持する
miRNA改変がKRAS
mut腺癌細胞に対するmiR-CVB3の溶解能力を損なうかどうかを判定するために、変異型KRASを含む3つの一般的な細胞株H2030(G12C)、H23(G12C)、及びA549(G12S)を評価に使用した。
図5A及び5Bに示すように、miR-CVB3は、野生型CVB3で観察されたのと同様の細胞溶解パターンで、3つの細胞株に対する溶解能力を維持している。さらに、miR-CVB3は、腫瘍細胞の生存率を抑制する能力(
図5C)において、0.1というMOIで野生型CVB3よりも弱いことが観察された。CVB3の人工miRNA改変は、正常細胞とがん細胞の両方でmiRNA改変CVB3に対する自然免疫または抗ウイルス能力を選択的に高め、それによってがん細胞で観察されるmiR-CVB3の溶解能力が野生型CVB3に比べてわずかに低下することを説明していると推測することができる。心筋細胞におけるmiR-145及びmiR-143の存在量はがん細胞よりもかなり高いため、心筋細胞はより大きな抗miR-CVB3能力を獲得するはずであると予測される。
【実施例5】
【0052】
野生型CVB3とmiR-CVB3はいずれも小細胞肺癌(SCLC)細胞を死滅させ、一方、ヒト正常肺上皮細胞は、野生型CVB3とmiR-CVB3の両方に対して非許容性である。肺腺癌と比較して、SCLCは、喫煙とより密接な相関関係を有する。もともと2人の喫煙者患者から寄贈された2つの浮遊SCLC細胞株であるH524とH526を播種して、1)CVB3がTP53
mutSCLCを治療する可能性があるかどうか、及び2)miR-CVB3がSCLC細胞株の増殖を抑制する同等の能力を維持するかどうかを調べ始めた。
図6Aに示すように、野生型CVB3及びmiR-CVB3で処理した細胞は、「シャム(擬似)」ウェル内の未処理の対照細胞と比較して、両方とも異常な細胞形態(例えば、サイズの収縮)を示した。この観察結果は、ウイルス誘発性の細胞毒性を反映しており、これは細胞生存率アッセイの結果にも反映されている(
図6B)。正常な肺上皮細胞株であるBEAS2Bもこれらの実験で試験した。
図6C及び6Dに示すように、BEAS2Bは、MOIが100の高さであっても、野生型CVB3とmiR-CVB3の両方に対して非許容性または抵抗性である。
【実施例6】
【0053】
マウスモデルにおけるmiR-CVB3のin vivo試験
野生型CVB3と比較したmiR-CVB3の安全性試験を、免疫無防備状態のNOD-SCIDマウスにおいて、ウイルス注射後14日目のエンドポイントで行った。6週齢のマウスに、野生型CVB3(4匹のマウス)またはmiR-CVB3(5匹のマウス)を1×10
8PFUの単回投与で腹腔内投与した。次いで、処置したマウスを、体重、外観、行動の変化、及び腫瘍細胞注射部位での感染の徴候について毎日モニタリングした。エンドポイントの14日目までマウスをケージ内で維持し、その後安楽死させた。心臓、膵臓、肺、肝臓、腎臓、及び脾臓を、H&E及びウイルスキャプシドタンパク質VP1染色、ならびにウイルスプラークアッセイのために回収した。
図7Aに示すように、野生型CVB3で処置したNOD-SCIDマウスは重度の毒性を示し、タイムコースを通じて1匹のマウスのみが生存した(25%生存率)が、一方、miR-CVB3で処置したすべてのマウスが実験終了時に生存していた(100%生存率)。
図7Bに示すH&E染色スライドから、主要臓器間で、2つの群のマウス間で肺、膵臓、肝臓、脾臓に有意な病理学的差異は観察されず、病理学的スコアに基づいて、組織は正常であるように思われる(
図7C)。それにもかかわらず、野生型CVB3で処置したマウスの心臓スライドでは、紫色の領域で示される重度の壊死または組織損傷が観察され、これは、miR-CVB3で処置したマウスの組織スライドには存在しなかった。病理学的スコア評価(
図7C)では、野生型CVB3で処置したマウスの心臓に高スコアの組織損傷が観察されたが、miR-CVB3で処置したマウスでは観察されなかった。miR-CVB3で処置したマウスでは心毒性がほとんどなくなったと推測される。VP1免疫染色によるウイルス定量(
図7D及び7E)は、野生型CVB3マウスと比較して、ウイルスタンパク質VP1発現の有意な減少(miR-CVB3処置マウスの心臓ではほとんど検出されない)を示し、このことは、miR-CVB3マウスにおける心臓損傷の減少が、主にウイルス複製の減少によるものであることを示している。VP1発現が、miR-CVB3処置マウスの膵臓ではほとんど検出できないことも観察された。
図7Fに示すように、両方の群由来のマウスの心臓、肺、及び膵臓の生存ウイルスも測定し、miR-CVB3の力価は、心臓の野生型CVB3と比較して有意に低下しているが、膵臓及び肺ではそれほど有意ではない。miR-CVB3による有意な心毒性はなかったが;低レベルではあるものの、心臓にはまだ生存しているmiR-CVB3が存在していた。
【0054】
miR-CVB3腫瘍溶解性ウイルスの有効性試験では、TP53
mutSCLC細胞株H526を使用して異種移植マウスモデルを確立した。簡潔に述べると、H526細胞(1×10
7細胞)を8週齢の雄NOD-SCIDマウスの左右の脇腹に皮下注射した。腫瘍のサイズが約100mm
3に達した時点(約10日)で、マウスにPBS(8匹のマウス)、野生型CVB3(5匹のマウス)、またはmiR-CVB3(8匹のマウス)のいずれかを単回投与(1×10
8PFU)で腹腔内注射した。マウスを、一般的な外観、行動、体重、及び腫瘍細胞注射部位での感染の徴候について毎日モニタリングした。腫瘍サイズを週2回測定し、腫瘍体積を、長さ×幅×幅/2として計算した。マウスを、CVB3注射に関連する重篤な症状を示した場合か、または腫瘍の直径が2.0cmを超えない限りはエンドポイントの25日目までに安楽死させた。生存率(
図8A)が示すように、エンドポイントの25日目まで、8匹のmiR-CVB3処置マウスはすべて正常に見えたが、8匹のPBS処置シャムマウスのうち6匹は腫瘍サイズ超過のため、安楽死させた。野生型CVB3で処置した5匹のマウスはすべて、死亡するかまたは14日目に病的状態であったために安楽死させた。腫瘍増殖曲線(
図8B)が示すように、PBS処置マウスの腫瘍は、エンドポイント25日目まで増殖を続けたが、両方のウイルス処置マウス群の腫瘍は、縮小を続けるか、または腫瘍増殖が低レベルに維持された。予想通り、野生型CVB3で処置したマウスは、14日目以降は生存しなかった。移植した腫瘍及び様々な臓器を、25日目に採取した。腫瘍重量(平均±SD)(
図8C)及びウイルス力価(平均±SD)(
図8D)を測定し、H&E染色(
図8E)を実施した。PBSのシャム対照と比較して#p<0.01。miR-145(
図8F)及びmiR-143(
図8G)の発現レベルを、PBS処置マウスの心臓、膵臓、肺、肝臓、脾臓、腎臓、腸、脳、及びH526由来腫瘍において、qRT-PCRによって定量化した。結果を、平均±SD(n=3)として表す。異なるマウス組織とH526を移植した腫瘍の間のmiRNAレベルを比較するために、独立スチューデントt検定を実行した。移植した腫瘍と比較して、*、p<0.05;#、p<0.01。これらのデータは、miR-145及びmiR-143のレベルが、正常なマウス組織と比較して、移植したSCLCで有意に低いことを示している。まとめると、これらの結果は、miR-CVB3が、心毒性が実質的に低下したマウス異種移植モデルで腫瘍増殖を阻害する能力を維持していることを示している。
【実施例7】
【0055】
追加のmiRNA改変CVB3の構築及び免疫適格マウスモデルでのin vivo試験
miR145の標的配列の4つのコピーとmiR-143、miR-1、miR-133、またはmiR-216の標的配列の2~4個のコピーを、CVB3ゲノムの5’UTRに挿入することにより、miR-CVB3-A、miR-CVB3-B、及びmiR-CVB3-Cとして示される3つの追加の組換えmiRNA改変CVB3ベクターを構築した(
図9Aを参照のこと)。
【0056】
約4週齢の雄のC57BL/6マウスに、野生型CVB3(n=3)、miR-CVB3(n=3)、miR-CVB3-A(n=3)、miR-CVB3-B(n=3)、またはmiR-CVB3-C(n=3)を、1×10
8PFUで単回腹腔内接種するか、またはPBS(n=3)で14日間シャム(擬似)感染させた。野生型CVB3及びmiR-CVB3を接種したマウスで体重の減少が観察されたが、miR-CVB3-A、miR-CVB3-B、またはmiR-CVB3-Cを接種したマウスは、PBS対照を接種したマウスと同様の速度で体重が増加し続けた(
図9Bを参照のこと)。興味深いことに、12日で人道的なエンドポイントに到達して安楽死させなければならなかった野生型CVB3処置マウスとは極めて対照的に、miR改変CVB3ベクターのいずれかで処置したマウスは、14日後に毒性の徴候を示さなかった(
図9Cを参照のこと)。H&E染色のためにマウスの臓器を採取し、各動物の心臓、肺、膵臓、肝臓、及び脾臓から単離した組織に病理学的スコアを割り当て、膵臓で最も高い病理学的スコアが観察された(
図9Dを参照のこと)。
【実施例8】
【0057】
多重miRNA調節CVB3変種のin vitro心毒性
miR-145標的配列の4つのコピーのみ(順方向または逆方向のいずれかで)、またはmiR-143標的配列の2つのコピーと組み合わせて、CVB3ゲノムの5’UTRまたは3’UTRに挿入されたいくつかのmiRNA改変CVB3を作製した。マウスHL-1心筋細胞に対し、シャム(擬似)感染させるか、または野生型CVB3もしくは様々な改変CVB3を異なるMOIで72時間接種した。
図11Aに示すように、細胞毒性をクリスタルバイオレット染色によって評価した。
図11Bに示すように、細胞生存率を、alamarBlueアッセイによって測定した(平均±SD、n=3)。miR-145の4つのコピーとmiR-143標的配列の2つのコピーを、CVB3ゲノムの5’UTRまたは3’UTRのいずれかに挿入したmiRNA調節CVB3は、in vitroで最小の心毒性を示した。これらの結果に基づいて、miR-145/143(5’UTR)-CVB3(本明細書中ではmiR-CVB3と表記)をさらなる試験のために選択した。
【実施例9】
【0058】
追加のmiRNA標的配列によるCVB3の改変は、免疫適格マウスにおける野生型CVB3誘発性の心毒性と膵臓毒性の両方をさらに低下させる
本実験では、約4週齢の雄のC57Bl/6マウスに、PBS(シャム、n=5)、野生型CVB3(1×10
8PFU、n=5)、またはmiR145/143-CVB3(1×10
8PFU、n=5)を単回腹腔内接種した。H&E染色のために12日目にマウスの臓器を採取した(
図12A)。様々なマウス臓器及びヒトSCLC H526細胞由来腫瘍におけるmiR-1及びmiR216のレベルをRT-PCRで測定した(
図12B)。
図12Cに示すように、新規miR-CVB3を構築した。miR-145とmiR-143は腫瘍抑制性であり、一方、miR-1は筋肉組織において豊富であり、miR-216は膵臓で特異的に発現する。これらの配列は、マウスとヒトの間で100%の相同性を示す。C57BL/6マウスに上記のようにmiR145/143/1/216-CVB3(n=3)を注射し、H&E染色のために処置後14日目に臓器を回収した(
図12D)。
図12A及び12Dに示すH&E染色の病理学的スコアを
図12Eに示す。野生型CVB3群と比較して、*、p<0.05;#、p<0.01。生存率のカプランマイヤープロットを
図12Fに示す。
C57BL/6マウスに上記のように様々なタイプのCVB3を注射し、ウイルスタンパク質VP1のIHC染色(
図13A)及び様々な臓器または血液中のウイルスRNAのRT-PCR分析のために、処置後13~14日目に臓器を回収した(
図13B)。
【実施例10】
【0059】
miRNA145/143/1/216-CVB3は、野生型CVB3と同等のレベルでSCLC細胞を強力に死滅させる
TP53
mut/Rb1
mutSCLC細胞株(H524及びH526)を、示されるように、擬似処理するか、または野生型CVB3もしくはmiR145/143/1/216-CVB3に異なるMOIで72時間感染させた。細胞生存率を、alamarBlueアッセイ(平均±SD、n=3)を介して評価した。野生型CVB3と比較して、*、p<0.05(
図14A)。トランスジェニックマウスから単離されたマウスTP53
-/-/Rb1
-/-/PTEN
-/-SCLC細胞を上記のように処置し、クリスタルバイオレット染色によって細胞毒性を評価した(
図14B)。
【実施例11】
【0060】
miRNA改変CVB3は、様々なマウス腫瘍細胞を効率的に死滅させる
本実験で使用する様々なマウス腫瘍細胞株、がんの種類、及び宿主情報を
図15Aに示す。細胞株をシャム(擬似)感染させるか、またはmiR145/143-CVB3に様々なMOIで72時間感染させた後、クリスタルブルー染色を行った(
図15B)。
図15Cに示すように、3つのmiR-CVB3(miR-145/143-CVB3(
図9Aでは「miR-CVB3」と呼ばれる)、miR-145/143/133/216-CVB3(
図9Aでは「miR-CVB3-C」と呼ばれる)、miR-145/143/1/216-CVB3(
図9Aでは「miR-CVB3-B」と呼ばれる)、及びmiR-145/143/216-CVB3(
図9Aでは「miR-CVB3-A」と呼ばれる)を構築した。
【0061】
ヒトKRAS
mutH23細胞及び上記の様々なマウス腫瘍細胞株を、シャム(擬似)感染させるか、またはMOI 0.1、1、もしくは10で72時間、様々なmiR-CVB3に感染させた後、クリスタルバイオレット染色を行った(
図15D)。
本明細書において、本発明を広範かつ一般的に説明した。全般的開示の範囲内に含まれるより狭い種及び亜属種も、それぞれ本発明の一部を形成する。これには、本発明の全般的説明に、除外される材料が本明細書中に具体的に記載されているか否かに関わらず、その属から任意の対象を除外するという条件または否定的限定が付く場合も含まれる。
【0062】
本明細書中及び添付の特許請求の範囲中で使用する場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が明確に別段の指示をしない限り、複数形の参照を含み、用語「X及び/またはY」は、「X」または「Y」、あるいは「X」と「Y」の両方を意味し、名詞に続く文字「s」は、その名詞の複数形と単数形の両方を示すむことも理解されたい。さらに、本発明の特徴または態様がマーカッシュグループで記載される場合、マーカッシュグループの任意の個々のメンバー及び任意の部分群もまた、本発明に包含され、それによって記載されることが意図されており、また、当業者はそのことを認識するであろう。出願人は、マーカッシュグループの個々のメンバーまたはメンバーのサブグループを具体的に参照するために本出願または特許請求の範囲を改訂する権利を留保する。
本明細書中で使用する用語は、特定の実施形態を説明するためのものであり、制限することを意図しないことを理解されたい。本明細書中で具体的に定義されない限り、本明細書中で使用する用語は、関連技術で知られているようなその伝統的な意味を与えられるべきであることをさらに理解すべきである。
【0063】
本明細書全体を通して、「一実施形態(one embodiment)」または「実施形態(an embodiment)」及びその変形への言及は、実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造、または特性が少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。本明細書全体を通して、様々な箇所において出現する語句「一実施形態では(in one embodiment)」または「実施形態では(in an embodiment)」は、必ずしもすべて同一の実施形態を参照するものではない。さらに、特定の特性、構造、または特徴を、1つ以上の実施形態において任意の好適な方法で組み合わせてもよい。
本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用される、単数形「a」、「an」、及び「the」は、内容及び文脈により別様に明確に示されない限り、複数形の指示対象、すなわち1つ以上を含む。また、接続詞「及び」及び「または」は、包括性または排他性を内容及び文脈により明確に別様に示されない限り、場合により、一般的に「及び/または」を含む最も広い意味で使用されることに留意すべきである。したがって、選択肢(例えば、「または」)の使用は、選択肢の一方、両方またはその任意の組み合わせのいずれかを意味することを理解すべきである。さらに、本明細書中で「及び/または」として記載される場合の「及び」及び「または」の構成は、関連する項目またはアイデアのすべてを含む実施形態、及び関連する項目またはアイデアのすべてより少ないものを含む1つ以上の他の代替の実施形態を包含することを意図する。
【0064】
文脈上別段の定めがない限り、本明細書及び以下の特許請求の範囲全体を通じて、用語「含む(comprise)」ならびに「有する(have)」及び「含む(include)」などのその同義語及び変形、ならびに「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」などのその変形は、非限定的かつ包括的な意味、例えば、「含むがこれに限定されない」で解釈されるべきである。用語「~から本質的になる」は、特許請求の範囲を、特定した材料もしくはステップに、または請求項にかかる発明の基本的及び新規な特徴に実質的に影響を及ぼさないものに限定する。
本明細書内で使用される見出しは、読者によるレビューを促進するためにのみ使用されており、いかなる方法によっても本発明または特許請求の範囲を制限するものと解釈すべきではない。したがって、本明細書中で提供する見出し及び開示の要約は、便宜上のものであり、実施形態の範囲または意味を解釈するものではない。
【0065】
本明細書中に値の範囲が提供される場合、文脈が明確に別様に指示しない限り、下限値の単位の10分の1までの、その範囲の上限値から下限値の間の各介在値、ならびにその表示範囲の任意の他の表示値または介在値が、本発明に包含されることが理解される。これらのより小さい範囲の上限値及び下限値は、より小さい範囲内に独立して含まれてもよく、また、表示範囲内の任意の具体的な除外限度に従って、本明細書にも包含される。表示範囲が一方または両方の限界値を含む場合、それらの含まれる限定値の片方または両方を除外する範囲もまた、本発明に含まれる。
【0066】
例えば、本明細書中に提供する任意の濃度範囲、パーセンテージ範囲、比率範囲、または整数範囲は、特に別段の指定のない限り、言及される範囲内の任意の整数の値を含み、必要に応じて、その分数(整数の1/10及び1/100など)を含むものと理解されるべきである。また、ポリマーサブユニット、サイズまたは厚さなどの任意の物理的特性に関連して本明細書に記載される任意の数の範囲は、特に明記しない限り、記載される範囲内の任意の整数を含むものと理解されるべきである。本明細書中で使用する場合、用語「約」とは、特に明記しない限り、示される範囲、値、または構造の±20%を意味する。
【0067】
本明細書中で言及され、及び/または出願データシートに記載される全ての米国特許、米国特許出願公開、米国特許出願、外国特許、外国特許出願及び非特許文献は、その全体が参照により本明細書に援用される。そのような文書は、例えば、刊行物に記載された材料及び方法論を記載及び開示する目的で参照により援用され得、本発明に関連して使用され得る。上記及び本文全体を通して考察された刊行物は、単にそれらの開示が本出願の出願日以前であるために提供される。本明細書におけるいずれの内容も、先行発明により任意の参照される刊行物に先行する資格がないことを発明者らが認めるものと解釈されるべきではない。
【0068】
本明細書中で参照または言及されるすべての特許、刊行物、科学論文、ウェブサイト、及び他の文献及び資料は、本発明が関係する当業者の技能のレベルを示し、そのような参照される各文献及び資料は、あたかもその全体が参照により個別に援用されたか、またはその全体が本明細書に記載されている場合と同程度に、参照により本明細書に援用される。出願人は、そのような特許、刊行物、科学論文、ウェブサイト、電子的に入手可能な情報、及び他の参照資料または文献からの任意及びすべての資料及び情報を本明細書に物理的に組み込む権利を留保する。
【0069】
一般的に、以下の特許請求の範囲において、使用される用語は、特許請求の範囲を本明細書及び特許請求の範囲に開示された特定の実施形態に限定するものと解釈されるべきではないが、そのような特許請求の範囲が権利を与える均等物の全範囲とともに、すべての可能な実施形態を含むものと解釈されるべきである。したがって、特許請求の範囲は本開示によって限定されない。
さらに、本特許明細書部分には、すべての請求項が含まれる。さらに、すべてのオリジナル請求項及び任意及びすべての優先権書類に由来するすべての請求項を含むすべての請求項は、その全体が参照により本明細書の書面による明細書部分に援用され、出願人は書明細書、または本出願の任意の他の部分、任意及びすべてのそのような請求項に物理的に組み込む権利を留保する。したがって、例えば、いかなる場合でも、特許は、請求項の寸分違わぬ用語が、特許の明細書部分においてこれらの言葉で記載されていないという主張に基づいて、請求項に関する書面による記載を提供していないものとして申し立てるように解釈すべきではない。
【0070】
請求項は、法律に従って解釈される。しかしながら、任意の請求項またはその部分の解釈の容易さまたは困難さの申し立てまたは認識にかかわらず、いかなる場合でも、本発明に繋がる本出願の遂行中における請求項またはその任意の部分のいかなる調整または補正も、本特許が、先行技術の一部を形成しないその任意及びすべての均等物に対するいかなる権利をも喪失したことと解釈すべきではない。
【0071】
他の非限定的な実施形態は、以下の特許請求の範囲内である。本特許は、本明細書中で具体的に及び/または明示的に開示される特定の実施例または非限定的な実施形態または方法に限定されると解釈すべきではない。いかなる場合でも、本特許は、特許及び商標局のいずれかの審査官またはいずれかの他の職員もしくは被雇用者によりなされるいずれかの言明によって、その言明が出願人による応答書面内に具体的かつ但し書きまたは留保なしに明白に採用されない限り、限定されるものと解釈すべきではない。
【配列表】
【国際調査報告】