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▶ ニューサウス イノベーションズ プロプライアタリー リミティドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-13
(54)【発明の名称】水素吸蔵合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 22/00 20060101AFI20221005BHJP
   C01B 3/00 20060101ALI20221005BHJP
   C22F 1/16 20060101ALI20221005BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20221005BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20221005BHJP
【FI】
C22C22/00
C01B3/00 B
C22F1/16 C
C22C30/00
C22F1/00 641A
C22F1/00 691B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022507519
(86)(22)【出願日】2020-08-05
(85)【翻訳文提出日】2022-03-31
(86)【国際出願番号】 AU2020050804
(87)【国際公開番号】W WO2021022330
(87)【国際公開日】2021-02-11
(31)【優先権主張番号】2019902796
(32)【優先日】2019-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507201348
【氏名又は名称】ニューサウス イノベーションズ プロプライアタリー リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】コンド-フランソワ アギュイ-ジンソウ
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ リウ
(72)【発明者】
【氏名】プージャン ジテンドラ モディ
【テーマコード(参考)】
4G140
【Fターム(参考)】
4G140AA44
(57)【要約】
本開示は、水素を吸収及び放出することが可能なTiMn系又はTiCrMn系の水素吸蔵合金に関する。好ましい実施形態では、本開示は、フェロバナジウム(VFe)を含む、TiMn系又はTiCrMn系の水素吸蔵合金に関する。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式TiZrMnCr(VFe)を有する水素吸蔵合金であって、
式中、MはV、Fe、Cu、Co、Mo、Al、La、Ni、Ce、及びHoのうちの1又は複数から選択され;
xは0.6~1.1であり;
yは0~0.4であり;
zは0.9~1.6であり;
uは0~1であり;
vは0.01~0.6であり;
wは0~0.4である、
水素吸蔵合金。
【請求項2】
vが0.02~0.6である、請求項1に記載の水素吸蔵合金。
【請求項3】
vが0.05、0.1、0.15、0.2、0.25、0.3、0.35、0.4、0.45、0.50、0.55、又は0.60である、請求項1又は2に記載の水素吸蔵合金。
【請求項4】
xが0.9~1.1である、請求項1~3のいずれか一項に記載の水素吸蔵合金。
【請求項5】
yが0.1~0.4である、請求項1~4のいずれか一項に記載の水素吸蔵合金。
【請求項6】
zが1.0~1.6である、請求項1~5のいずれか一項に記載の水素吸蔵合金。
【請求項7】
zが1.0、1.05、1.1、1.15、1.2、1.25、1.3、1.35、1.4、1.45、1.5、1.55、又は1.6である、請求項1~6のいずれか一項に記載の水素吸蔵合金。
【請求項8】
uが0、0.1、0.15、0.18、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.75、0.8、又は0.95である、請求項1~7のいずれか一項に記載の水素吸蔵合金。
【請求項9】
wが0、0.02、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、又は0.4である、請求項1~8のいずれか一項に記載の水素吸蔵合金。
【請求項10】
900℃~1200℃の温度で焼鈍されている、請求項1~9のいずれか一項に記載の水素吸蔵合金。
【請求項11】
Ti1.1CrMn(V0.85Fe0.15)0.2、Ti1.1CrMn(V0.85Fe0.15)0.4、Ti1.1CrMn(V0.85Fe0.15)0.4Zr0.2、Ti1.1CrMn(V0.85Fe0.15)0.4Zr0.3、TiMn1.5(V0.85Fe0.15)0.2、TiMn1.5(V0.85Fe0.15)0.4、TiMn1.5(V0.85Fe0.15)0.4Zr0.2、TiMn1.5(V0.85Fe0.15)0.4Zr0.3、Ti1.1CrMn(V0.85Fe0.15)0.2、Ti1.1CrMn(V0.85Fe0.15)0.3、Ti1.1CrMn(V0.85Fe0.15)0.4、Ti1.1CrMn(V0.85Fe0.15)0.5、Ti1.1Zr0.2CrMn(V0.85Fe0.15)0.4、Ti1.1Zr0.3CrMn(V0.85Fe0.15)0.4、Ti1.1Zr0.4CrMn(V0.85Fe0.15)0.4、Ti1.1CrMn(V0.85Fe0.15)0.50.1、Ti1.1CrMn(V0.85Fe0.15)0.50.2、Ti1.1CrMn(V0.85Fe0.15)0.50.4、Ti1.1CrMn(V0.85Fe0.15)0.4Fe0.05、Ti1.1CrMn(V0.85Fe0.15)0.4Fe0.1、Ti1.1CrMn(V0.85Fe0.15)0.4Fe0.2、Ti1.1Zr0.1CrMn(V0.85Fe0.15)0.4Fe0.1、Ti1.1Zr0.2CrMn(V0.85Fe0.15)0.4Fe0.2、TiZr0.1CrMn(V0.85Fe0.15)0.4Fe0.05、TiZr0.1CrMn(V0.85Fe0.15)0.4Fe0.1、Ti1.1CrMn(V0.85Fe0.15)0.4-900、Ti1.1CrMn(V0.85Fe0.15)0.4Zr0.2Fe0.2-900、Ti1.1Zr0.3CrMn(V0.85Fe0.15)0.4-900、TiZr0.1CrMn(V0.85Fe0.15)0.4Fe0.05、TiZr0.1CrMn(V0.85Fe0.15)0.4Fe0.06、TiZr0.1CrMn(V0.85Fe0.15)0.4Fe0.07、TiZr0.1CrMn(V0.85Fe0.15)0.4Fe0.09、TiZr0.15CrMn(V0.85Fe0.15)0.4Fe0.05,TiZr0.2CrMn(V0.85Fe0.15)0.4Fe0.05、TiZr0.25CrMn(V0.85Fe0.15)0.4Fe0.05、(Ti0.65Zr0.35)1.05MnCr0.8Fe0.2、(Ti0.65Zr0.35)1.05MnCr0.75(V0.85Fe0.15)0.05Fe0.2、Ti0.9Zr0.15Mn1.6Cr0.2(V0.85Fe0.15)0.25、Ti0.9Zr0.15Mn1.6Cr0.2(V0.85Fe0.15)0.3、Ti0.9Zr0.15Mn1.6Cr0.2(V0.85Fe0.15)0.35、Ti0.9Zr0.15Mn1.6Cr0.2(V0.85Fe0.15)0.4、Ti0.9Zr0.15Mn1.6Cr0.1Co0.1(V0.85Fe0.15)0.3、Ti0.9Zr0.15Mn1.6Cr0.1Fe0.1(V0.85Fe0.15)0.3、Ti0.9Zr0.15Mn1.6Cr0.1Mo0.1(V0.85Fe0.15)0.3、Ti0.9Zr0.15Mn1.5Cr0.2Co0.1(V0.85Fe0.15)0.3、Ti0.9Zr0.15Mn1.4Cr0.3Co0.1(V0.85Fe0.15)0.3、Ti0.9Zr0.15Mn1.3Cr0.4Co0.1(V0.85Fe0.15)0.3、Ti0.9Zr0.15Mn1.2Cr0.5Co0.1(V0.85Fe0.15)0.3、Ti0.9Zr0.15Mn1.1Cr0.6Co0.1(V0.85Fe0.15)0.3、Ti0.9Zr0.15Mn1.6Cr0.18Mo0.02(V0.85Fe0.15)0.2、Ti0.9Zr0.15Mn1.6Cr0.15Mo0.05(V0.85Fe0.15)0.2、Ti0.9Zr0.15Mn1.6Cr0.1Mo0.1(V0.85Fe0.15)0.2、Ti0.9Zr0.15Mn1.6Cr0.15Mo0.05(V0.85Fe0.15)0.4、Ti0.9Zr0.15Mn1.6Cr0.1Mo0.1(V0.85Fe0.15)0.4、Ti0.9Zr0.15Mn1.15Cr0.5Co0.1Fe0.05(V0.85Fe0.15)0.3、Ti0.9Zr0.15Mn1.1Cr0.5Co0.1Fe0.1(V0.85Fe0.15)0.3、Ti0.9Zr0.15Mn1.05Cr0.5Co0.1Fe0.15(V0.85Fe0.15)0.3、Ti0.9Zr0.15Mn1.1Cr0.5Co0.2(V0.85Fe0.15)0.3、Ti0.9Zr0.15MnCr0.5Co0.2(V0.85Fe0.15)0.4、Ti0.9Zr0.15Mn0.9Cr0.5Co0.2Mo0.1(V0.85Fe0.15)0.4、Ti0.88Zr0.17Mn1.15Cr0.5Co0.1Fe0.05(V0.85Fe0.15)0.3、Ti0.9Zr0.15Mn1.18Cr0.5Co0.10.02(V0.85Fe0.15)0.3、TiZr0.1Cr0.95Mn(V0.85Fe0.15)0.4Fe0.05Al0.05、Ti0.9Zr0.15Mn1.15Cr0.5Co0.10.05(V0.85Fe0.15)0.3、Ti0.9Zr0.15Mn1.1Cr0.6Co0.1(V0.85Fe0.15)0.35、Ti0.9Zr0.15Mn1.1Cr0.6Co0.1(V0.85Fe0.15)0.4、Ti0.91Zr0.14Mn1.1Cr0.6Co0.1(V0.85Fe0.15)0.4、Ti0.9Zr0.15Mn1.05Cr0.6Co0.1Fe0.05(V0.85Fe0.15)0.3、Ti0.9Zr0.15Mn0.95Cr0.6Co0.1Fe0.05(V0.85Fe0.15)0.4、Ti0.9Zr0.15Mn1.05Cr0.6Co0.1Fe0.05(V0.85Fe0.15)0.4、TiMn1.5(V0.85Fe0.15)0.2、TiMn1.5(V0.85Fe0.15)0.3、TiMn1.5(V0.85Fe0.15)0.35、TiMn1.5(V0.85Fe0.15)0.4、TiMn1.5(V0.85Fe0.15)0.5、TiZr0.05Mn1.5(V0.85Fe0.15)0.3、TiZr0.1Mn1.5(V0.85Fe0.15)0.3、TiZr0.2Mn1.5(V0.85Fe0.15)0.3、TiMn1.5(V0.85Fe0.15)0.40.1、TiMn1.5(V0.85Fe0.15)0.40.2、TiMn1.5(V0.85Fe0.15)0.40.4、TiMn1.5(V0.85Fe0.15)0.4Fe0.2、TiMn1.5(V0.85Fe0.15)0.4Fe0.1、TiMn1.5-900、TiMn1.5(V0.85Fe0.15)0.2-900、TiMn1.5(V0.85Fe0.15)0.3-900、TiMn1.5(V0.85Fe0.15)0.4-900、TiMn1.5(V0.85Fe0.15)0.5-900、TiMn1.5(V0.85Fe0.15)0.4Zr0.05-900、TiMn1.5(V0.85Fe0.15)0.4Zr0.1-900、TiMn1.5(V0.85Fe0.15)0
.4Zr0.2-900、TiMn1.5(V0.85Fe0.15)0.4Fe0.2-900、TiMn1.5(V0.85Fe0.15)0.4Fe0.1-900、TiMn1.5(V0.85Fe0.15)0.4Fe0.05-900、TiMn1.5(V0.85Fe0.15)0.35-1100、TiMn1.5(V0.85Fe0.15)0.4-1100、TiMn1.5(V0.85Fe0.15)0.45-1100、TiMn1.5(V0.85Fe0.15)0.5-1100、TiMn1.5(V0.85Fe0.15)0.55-1100、TiMn1.5(V0.85Fe0.15)0.6-1100、TiMn1.480.02(V0.85Fe0.15)0.4-1100、TiMn1.450.05(V0.85Fe0.15)0.4-1100、TiMn1.40.1(V0.85Fe0.15)0.4-1100、Ti0.95Zr0.05Mn1.5(V0.85Fe0.15)0.5-1100、Ti0.9Zr0.1Mn1.5(V0.85Fe0.15)0.5-1100、Ti0.85Zr0.15Mn1.5(V0.85Fe0.15)0.5-1100、Ti0.95Zr0.05Mn1.45Fe0.05(V0.85Fe0.15)0.5-1100、TiMn1.45Co0.05(V0.85Fe0.15)0.4-1100、TiMn1.4Co0.1(V0.85Fe0.15)0.4-1100、TiMn1.35Co0.15(V0.85Fe0.15)0.4-1100、Ti0.9Mn1.5(V0.85Fe0.15)0.45-1100、Ti1.1Mn1.5(V0.85Fe0.15)0.45-1100、Ti0.95Zr0.05Mn1.5(V0.85Fe0.15)0.45-1100、Ti0.9Zr0.1Mn1.5(V0.85Fe0.15)0.45-1100、Ti0.9Zr0.1Mn1.45Fe0.05(V0.85Fe0.15)0.45-1100、
から選択される、水素吸蔵合金。
【請求項12】
30バールにおいて、1.5重量%のH、又は少なくとも1.6重量%のH、又は少なくとも1.7重量%のH、又は少なくとも1.8重量%のH、又は少なくとも1.9重量%のH、又は少なくとも2.0重量%のH、又は少なくとも2.1重量%のH、又は少なくとも2.2重量%のH、又は少なくとも2.3重量%のH、又は少なくとも2.4重量%のH、又は少なくとも2.5重量%のH、又は少なくとも2.6重量%のH、又は少なくとも2.7重量%のH、又は少なくとも2.8重量%のH、又は少なくとも2.9重量%のH、又は少なくとも3重量%のH、又は少なくとも3.25重量%のH、又は少なくとも3.5重量%のH、又は少なくとも3.75重量%のH、又は少なくとも4重量%のHの水素吸蔵量を有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の水素吸蔵合金。
【請求項13】
100バールにおいて、少なくとも4.5重量%のH、又は少なくとも5重量%のH、又は少なくとも6重量%のHの水素吸蔵量を有する、請求項1~12のいずれか一項に記載の水素吸蔵合金。
【請求項14】
温度が50℃以下、40℃以下、30℃以下、20℃以下、又は10℃以下である、請求項12又は13に記載の水素吸蔵合金。
【請求項15】
30バールにおいて吸蔵水素の少なくとも65%、又は少なくとも75%、少なくとも80%、又は少なくとも85%、又は少なくとも90%、又は少なくとも95%を放出するように構成された、請求項1~14のいずれか一項に記載の水素吸蔵合金。
【請求項16】
少なくとも約0.5gH/分、又は少なくとも約0.75gH/分、又は少なくとも約1.0gH/分、又は少なくとも約1.25gH/分、又は少なくとも約1.4gH/分の水素の取り込み/放出速度が可能である、請求項1~15のいずれか一項に記載の水素吸蔵合金。
【請求項17】
C14ラーベス相構造を有する、請求項1~16のいずれか一項に記載の水素吸蔵合金。
【請求項18】
水素の吸蔵及び放出のための、請求項1~17のいずれか一項に記載の合金の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2019年8月5日に出願された「水素吸蔵合金」という題のオーストラリア仮特許出願第2019902796号に基づく優先権を主張するものであり、当該仮特許出願の内容全体は相互参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、水素を吸収放出することが可能な水素吸蔵合金に関する。より具体的には、本発明は、中温中圧で水素を吸収放出することが可能な水素吸蔵合金に関する。
【背景技術】
【0003】
水素は再生可能なエネルギー源として魅力的な提案物であり、化学電池、遠隔的な発電、家庭暖房、及び携帯型発電に対する、対費用効果の高い代替としての可能性を有する。水素は非常に反応性が高い気体であり、全ての化学燃料の中で単位重量当たりのエネルギー密度が最も高いが、容積エネルギー密度が非常に低い。
【0004】
商業的に実現可能な水素吸蔵系には、理想的には、高水素吸蔵量、好適な放出温度/圧力プロファイル、良好なキネティクス、良好な可逆性、汚染による中毒や酸化に対する耐性、比較的低いコスト、又はこれらの特性のうちの任意の2つ以上の組み合わせを有する、水素吸蔵物質が必要である。特に、放出温度の低さは水素を放出するのに必要なエネルギー量を低減するのに望ましく、良好な可逆性は、水素吸蔵物質が、水素吸蔵能の重大な損失無く、反復的な吸収-放出サイクルを行うことを可能にし、良好なキネティクスは水素を好適な時間枠で吸収又は放出することを可能にする。
【0005】
水素の可逆的な貯蔵には、ある特定の金属及び合金が知られている。金属系又は合金系中の固相水素吸蔵は、特定の温度/圧力下又は特定の電気化学的条件下での金属水素化物の形成を通じた水素の吸収と、これらの条件を変化させることによる水素の放出と、によって働く。結合してアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、及び希土類金属の形態の金属水素化物になると、水素は安全に貯蔵できる。金属水素化物系には、金属結晶格子内に水素原子が挿入されることによる、高密度な水素吸蔵という利点がある。
【0006】
AxBy(式中、A及びBは通常、水素化物を形成する元素及び非水素化元素をそれぞれ表す)と表示される、種々の金属間化合物が知られている。しかし、そのような合金は、一連の問題又は欠点を抱えており、そのような問題又は欠点としては、吸蔵された水素の完全な放出を妨げる高いヒステリシス(Peq_abs>>Peq_des)、酸化に対する高感受性、不純物に対する感受性、自然発火性、低い水素吸蔵量、高い水素放出プラトー圧が挙げられ、また、電解槽、水蒸気改質器などを含む水素を発生させる水素ユニット、及び、燃料電池を含む水素消費ユニットに差し込めることを含む、特定の適用要件を満たすように水素を吸収及び放出できないこと、並びに、高いコストなどが挙げられる。
【0007】
金属水素化物合金の組成は、当該合金が、水素と結合できる程度、水素を貯蔵できる程度、及び水素を放出できる程度に影響する。現在までに、商業規模のものを含んで、電解槽及び燃料電池での使用に好適な、水素吸収/放出プロファイルなどの特性を有する金属水素化物合金は開発されていない。
【0008】
代替となる水素吸蔵合金が必要とされている。また、当該技術分野において公知の合金の1又は複数の不利点又は欠点を改善又は実質的に克服し得る、水素吸蔵合金も必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、広くは、TiMn系水素吸蔵合金及びTiCrMn系水素吸蔵合金に関する。より具体的には、本発明は、フェロバナジウム(VFe)と、所望により1又は複数の追加の修飾元素とを含む、TiMn系水素吸蔵合金及びTiCrMn系水素吸蔵合金に関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第一の態様において、本発明は、式TiZrMnCr(VFe)を有する水素吸蔵合金であって、
式中、MはV、Fe、Cu、Co、Mo、Al、La、Ni、Ce、及びHoのうちの1又は複数から選択され;
xは0.6~1.1であり;
yは0~0.4であり;
zは0.9~1.6であり;
uは0~1であり;
vは0.01~0.6であり;
wは0~0.4である、
水素吸蔵合金に関する。
【0011】
好ましい実施形態では、vは0.02~0.6である。例えば、1又は複数の実施形態では、vは0.02、0.05、0.1、0.15、0.2、0.25、0.3、0.35、0.4、0.45、0.50、0.55、又は0.60である。
【0012】
好ましい実施形態では、xは0.9~1.1である。
【0013】
好ましい実施形態では、yは0.1~0.4である。
【0014】
好ましい実施形態では、zは1.0~1.6である。例えば、1又は複数の実施形態では、zは1.0、1.05、1.1、1.15、1.2、1.25、1.3、1.35、1.4、1.45、1.5、1.55、又は1.6である。
【0015】
1又は複数の実施形態では、uは0、0.1、0.15、0.18、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.75、0.8、又は0.95である。
【0016】
1又は複数の実施形態では、wは0、0.02、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、又は0.4である。
【0017】
1又は複数の実施形態では、上記合金は、30バールにおいて、少なくとも1.5重量%のH、又は少なくとも1.6重量%のH、又は少なくとも1.7重量%のH、又は少なくとも1.8重量%のH、又は少なくとも1.9重量%のH、又は少なくとも2重量%のH、又は少なくとも2.1重量%のH、又は少なくとも2.2重量%のH、又は少なくとも2.3重量%のH、又は少なくとも2.4重量%のH、又は少なくとも2.5重量%のH、又は少なくとも2.6重量%のH、又は少なくとも2.7重量%のH、又は少なくとも2.8重量%のH、又は少なくとも2.9重量%のH、又は少なくとも3重量%のH、又は少なくとも3.25重量%のH、又は少なくとも3.5重量%のH、又は少なくとも3.75重量%のH、又は少なくとも4重量%のHの水素吸蔵量を有する。
【0018】
1又は複数の実施形態では、上記合金は、100バールにおいて、少なくとも4.5重量%のH、又は少なくとも5重量%のH、又は少なくとも6重量%のHの水素吸蔵量を有する。
【0019】
1又は複数の実施形態では、上記合金は、30バールにおいて吸蔵水素の少なくとも65%、又は少なくとも75%、少なくとも80%、又は少なくとも85%、又は少なくとも90%、又は少なくとも95%を放出するように構成されている。
【0020】
1又は複数の実施形態では、上記合金は、少なくとも約0.5gH/分、又は少なくとも約0.75gH/分、又は少なくとも約1.0gH/分、又は少なくとも約1.25gH/分、又は少なくとも約1.4gH/分の水素の取り込み/放出速度(水素の取り込み及び放出の速度)が可能である。
【0021】
好ましい実施形態では、水素吸蔵合金はC14ラーベス相を有する。
【0022】
別の態様では、本発明は、水素の吸蔵及び放出のための、本発明の第一の態様の合金の使用に関する。
【0023】
定義
本明細書の全体を通じて、文脈上別の意味と解することが明確に必要でない限り、語「含む」若しくは「含むこと」などの変形は、記載された要素、整数、若しくは工程、又は要素群、整数群、若しくは工程群の包含を意味するが、他の要素、整数、若しくは工程、又は要素群、整数群、若しくは工程群の排除は意味していないと理解される。
【0024】
本明細書の全体を通じて、「から本質的になる」という用語は、挙げられた特徴が本質的な特徴であるが、本発明の働き方に実質的な変化を生じない他の非本質的又は非機能的な特徴も存在し得ることを意味する。
【0025】
本明細書の全体を通じて、「からなる」という用語は、それのみからなることを意味する。
【0026】
本願に含まれている文書、行為、材料、装置、物品、又は同種のものの説明は、単に本発明の技術の背景を提供することを目的とするものである。これらの事項のいずれか又は全てが、本願の各請求の優先日以前に存在していたことから、先行技術の基礎の一部を形成しているとも、本発明の技術に関連する分野で共通の一般知識であったことを認めるものとも、解釈してはならない。
【0027】
文脈上別の意味と解する必要がない限り、又は特に反対のことが述べられない限り、単数の整数、工程、又は要素として本明細書に記載される技術の整数、工程、又は要素は、記載された整数、工程、又は要素の単数形及び複数形の両方を明確に包含する。
【0028】
本明細書の文脈においては、「a」及び「an」という語は、その冠詞の文法上の目的語が1つ又は2つ以上であること(すなわち、少なくとも1つであること)、を指す。例として、「要素」又は「整数」という場合、1つの要素若しくは整数、又は2つ以上の要素若しくは整数が意図される。
【0029】
値又は整数の範囲が本明細書で与えられた場合、記載された範囲は、範囲の端点を画定している値又は整数を含んで、当該範囲内のあらゆる単一の値又は整数を包含することが意図される。よって、例として、本明細書において、範囲「1~6」と言う場合、1、2、3、4、5、及び6、並びに、それらの間に存在するあらゆる値(例えば、2.1、3.4、4.6、5.3など)が包含される。同様に、範囲「0.1~0.6」と言う場合、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、及び0.6、並びに、それらの間に存在するあらゆる値(例えば、0.15、0.22、0.38、0.47、0.59など)が包含される。
【0030】
本明細書の文脈において、「約」という語は、数又は値と言う場合に、絶対的な数又は値と見なすべきではなく、誤差又は装置限界という典型的なマージンの範囲内を包含した、当該技術分野に従って当業者が理解するであろうことと一致する、その数又は値の上下への変動のマージンを包含することを意味する。換言すれば、「約」という語の使用は、同じ機能又は結果を達成するという観点から、記載された数又は値と等価であると当業者が見なすであろうという、近似を指すと理解されたい。
【0031】
本明細書の文脈において、水素吸蔵合金を「調節する」と言う場合、水素合金の組成若しくは構造などの水素合金の特性若しくは特徴、及び/又は、所望の特性プロファイルを達成するために合金が焼鈍される温度、を調整、変更、又は洗練することを指す。この文脈において、「特性プロファイル」とは、水素吸蔵特性プロファイルを指し、水素吸蔵量、水素取り込み/放出圧、水素取り込み又は水素放出の速度、プラトー圧、プラトーの傾き、及びヒステリシスを包含するが、これらに限定はされない。
【0032】
本明細書に記載の技術に、具体的に説明されたもの以外の変形形態及び変更形態が可能であることは、当業者には理解される。本技術が全てのそのような変形形態及び変更形態を包含することを理解されたい。疑義を避けるために明記すれば、本技術はまた、本明細書において言及又は指示された工程、特徴、及び化合物の全てを個別的又は集合的に包含し、また、上記工程、特徴、及び化合物の任意の2以上のあらゆる全ての組み合わせを包含する。すなわち、本発明の種々の別個の又は好ましい実施形態が開示されたが、本開示が、本明細書で開示された実施形態の科学的に実現可能な組み合わせの全てを、それらの組み合わせが明示的に開示されていなくても、暗に包含することは、理解されよう。
【0033】
本発明の技術のより明確な理解を可能にするために、以下の図面及び実施例を参照しながら、好ましい実施形態を説明する。
略語
Peq 平衡プラトー圧
Peq_abs 吸収プラトー圧
Peq_des 放出プラトー圧
PCT 圧力-組成 温度
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1図1は、例えば電解槽/燃料電池適用などの特定の最終用途に適合するように水素吸蔵特性を調節するための、本発明の合金組成の変更及び用途の広い方法を示している。
図2図2は、ベース合金Ti1.1CrMnの、(A)水素吸収速度、(B)水素放出速度、及び(C)H放出/取り込みプラトー圧を示している。
図3図3は、合金組成Ti1.1CrMn(V0.85Fe0.150.2(LHS)及びTi1.1CrMn(V0.85Fe0.150.4(RHS)の、水素吸収速度、水素放出速度、及びH放出/取り込み圧を示している。
図4図4は、合金組成Ti1.1CrMn(V0.85Fe0.150.3の、(A)水素吸収速度、(B)水素放出速度、及び(C)H放出/取り込み圧を示している。
図5図5は、合金組成Ti1.1CrMn(V0.85Fe0.150.4Zr0.2(LHS)及びTi1.1CrMn(V0.85Fe0.150.4Zr0.4(RHS)の、水素吸収速度、水素放出速度、及びH放出/取り込み圧を示している。ジルコニウムの添加が、プラトー圧特性を調節しており、例えば、水素放出/取り込み圧を減少させている。
図6図6は、TiMn1.5合金(未焼鈍)の、(A)水素吸収速度、(B)水素放出速度、及び(C)H放出/取り込み圧を示している。
図7図7は、TiMn1.5合金(焼鈍後)の、(A)水素吸収速度、(B)水素放出速度、及び(C)H放出/取り込み圧を示している。焼鈍がプラトーの傾きを低減させている。
図8図8は、TiMn1.5(V0.85Fe0.150.4合金(未焼鈍)の、H放出/取り込み圧を示している。フェロバナジウムの添加が水素吸蔵量を増加させている。
図9図9は、合金Ti0.9Zr0.15Mn1.1Cr0.6Co0.1(V0.85Fe0.150.3の室温での水素の取り込み(30バール)及び放出(0.5バール)の一例を示しており、95%超の効率、且つ極めて速い水素収着速度(全容量に達するのに2分未満)の、完全な取り込み及び完全な水素放出が示されている。
図10図10は、合金配合を、多様な温度-圧力運転範囲を満たすように、本発明に従ってどのように調節できるかを示している。
図11図11は、空気中で、自然発火性を示すことなく、取り扱われている本発明の合金の代表的な試料を示している。
図12図12は、約2分間の保温時間を含む、室温、30バール水素圧下での、本発明の代表的な合金Ti0.9Zr0.15Mn1.05Cr0.5Co0.1Fe0.15(V0.85Fe0.150.3の活性化を示している。
図13図13は、代表的なTiCrMn系合金の水素吸蔵量を変更する際の、フェロバナジウム(V0.85Fe0.15)の効果を示している。フェロバナジウムの添加が水素吸蔵量を増加させている。
図14図14は、TiCrMn系合金の平衡プラトー圧に対するFeの効果を示している。
図15図15は、TiCrMn系合金、(a)Ti1.1CrMn(V0.85Fe0.150.4Fe0.1、(b)TiZr0.1CrMn(V0.85Fe0.150.4Fe0.1のプラトーの傾きを制御する際の、TiのZrとの部分置換の効果を示している。これは、プラトー圧の勾配を制御するための、添加及び微調整の一例である。
図16図16は、TiCrMn系合金のヒステリシスを制御する際の、Mn/Cr比の効果を示している。
図17図17は、Ti0.9Zr0.15Mn1.2Cr0.5Co0.1(V0.85Fe0.150.3が、吸蔵量が多く、電解槽及び燃料電池と組み合わされた水素吸蔵に好適なプラトー圧を有することを示している。
図18】Ti0.9Zr0.15Mn1.2Cr0.5Co0.1(V0.85Fe0.150.3の、当該合金のC14ラーベス相を示す、XRDパターン。
図19図19は、TiMn系合金の水素吸蔵量を増加させる際の、フェロバナジウム(V0.85Fe0.15)の効果を示している。
図20図20は、TiMn系合金のプラトーの傾きを制御する際の、焼鈍処理の効果を示している。900℃よりも高い温度、特に1000℃よりも高い温度での焼鈍処理が、TiMn系合金のプラトーの傾きを低減させるのに特に有効であることが分かった。
図21図21は、TiMn系合金のヒステリシスを制御する際の、焼鈍処理の効果を示している。焼鈍処理は、吸収プラトーを減少させ、一方で、放出プラトー圧を増加させることで、ヒステリシスを低減させた。
図22図22は、TiMn1.5(V0.85Fe0.150.45が、吸蔵量が多く、電解槽及び燃料電池と組み合わされた水素吸蔵に好適なプラトー圧を有することを示している。
図23】1100℃で焼鈍されたTiMn1.5(V0.85Fe0.150.5の、当該合金のC14ラーベス相を示す、XRDパターン。
図24】150サイクル後は分解が示されていない、合金Ti0.9Zr0.15Mn1.2Cr0.5Co0.1(V0.85Fe0.150.3のサイクル。これは、上記合金が90%超の効率を有し、その吸蔵量を失わず、水素を完全に放出/吸収することを示す、長寿命サイクルの実例である。
図25図25は、圧力-組成-温度に関する、水素吸蔵の理想的な例を示している。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は、広くは、可逆的な水素吸蔵のための、好ましくは環境温度及び中圧における可逆的な水素吸蔵のための、水素吸蔵合金に関する。したがって、本発明の水素吸蔵合金は、電解槽及び/又は燃料電池と組み合わせた、実用的な用途を有する可能性がある。本明細書で開示される本発明の他の態様は、空気中での安定性を向上させることを含む、水素吸蔵合金を製造し取り扱うためのアプローチを対象とする。本明細書で開示される本発明のさらなる態様は、水素吸蔵合金の特性を変更又は調節する方法を対象とする。
【0036】
本明細書で開示される本発明の実施形態は、TiMn系合金又はTiCrMn系合金であって、本発明に従って、VFeと、所望により1又は複数の追加の修飾元素(M)と、の添加により、上記合金物質の1又は複数の特性を調整又は調節することで、改質することができる、TiMn系合金又はTiCrMn系合金に関する。
【0037】
一つの態様では、本発明は、式TiZrMnCr(VFe)を有する水素吸蔵合金に関し、
式中Mは、V、Fe、Cu、Co、Mo、Al、La、Ni、Ce、及びHoのうちの1又は複数から選択される修飾元素であり;
xは0.6~1.1であり;
yは0~0.4であり;
zは0.9~1.6であり;
uは0~1であり;
vは0.01~0.6であり;
wは0~0.4である。
【0038】
整数x、y、z、u、v、及びwは、合金の式中のモル数を表す。整数wは、修飾元素Mの合計割合(モル数)を表し、修飾元素Mは、単一の元素から構成されてもよいし、あるいは、2種以上の元素の組み合わせから構成されてもよい。Mが2種以上の元素の組み合わせを含む場合、各元素は、合計が値wを超えないような、任意の含有量又は比で存在してもよい。好ましい実施形態では、wは0.01~0.4である。
【0039】
本明細書で開示される別の態様は、ある特性プロファイルを有するTiMn系水素吸蔵合金又はTiCrMn系水素吸蔵合金を製造する方法であって、上記合金の組成を変更することで、上記特性プロファイルを達成することを含み、
上記合金の組成の変更が、
(a)VFeと、所望により1又は複数の追加の修飾元素(M)と、を上記合金に含ませること;
(b) 上記合金中の2種以上の元素の比を変更すること;及び
(c) 上記合金を900℃~1200℃の焼鈍温度で焼鈍すること、
のうちの少なくとも1つを含む、方法に関する。
【0040】
本明細書において、合金組成は、各成分元素のモル数と、さらには特定の焼鈍温度を示すように書かれる場合がある。例えば、式TiMn1.40.1(V0.85Fe0.150.4-1100において、接尾部の「-1100」は、上記合金が1100℃の温度で焼鈍されたことを示している。
【0041】
1又は複数の実施形態では、特性プロファイルは、増加したH吸蔵量、増加したH取り込み/放出圧、減少したH取り込み/放出圧、低減したプラトーの傾き、低減したヒステリシス、及び実質的にフラットな平衡プラトー圧から選択される少なくとも1つの特性を含む。
【0042】
本明細書で開示される別の態様は、水素吸蔵合金の特性を調節する方法であって、
上記水素吸蔵合金がTiMn系合金又はTiCrMn系合金であり、
(a)VFeと、所望により1又は複数の追加の修飾元素(M)(ここでMは、Fe、Cu、Co、Ti、Zr、Al、Cr、La、Ni、Ce、Ho、V、Moのうちのいずれか1つ又は複数から選択される)とを上記水素吸蔵合金に含ませること;
(b)上記合金中の2種以上の成分元素の比を変更すること;
(c)適切な焼鈍処理を用いて上記合金を焼鈍すること、
のうちの1又は複数を含む、方法に関する。
【0043】
好ましい実施形態では、焼鈍処理は、約800℃~約1200℃の温度で焼鈍することを含み、好ましくは約850℃~約1150℃、より好ましくは約900℃~約1100℃の温度で焼鈍することを含む。
【0044】
本明細書で開示される実施形態は、Ti(18~40%)、Mn(25~60%)、Cr(0~25%)、M(0.1~35%)の元素組成範囲を含み、MはVFe、Fe、Cu、Co、Ti、Zr、Al、Cr、La、Ni、Ce、Ho、Mo、及びVのうちの1又は複数から選択される修飾元素である、水素吸蔵合金に関する。好ましい実施形態では、上記合金は、Ti(18~40重量%)、Mn(25~60重量%)、Cr(0~25重量%)、M(0.5~35重量%)の元素組成範囲を含む。
【0045】
好ましい実施形態では、修飾元素Mは、フェロバナジウム(VFe)、Fe、Cu、Co、Ti、Zr、Al、Cr、La、Ce、Mo、Hoのうちのいずれか1つ又は複数から選択される。特に好ましい実施形態では、修飾元素Mは、VFe、Fe、及びZrから選択されるか、又はそれらの任意の組み合わせである。好ましい実施形態では、上記合金はVFeを含む。好ましい実施形態では、上記合金は、VFeと、所望により1又は複数の追加の修飾元素と、を含む。好ましい実施形態では、上記合金は、VFeと、Zr、V、Fe、Co、Moから選択される1又は複数の追加の修飾元素と、を含む。
【0046】
好ましい実施形態では、フェロバナジウムは、Fe(15-65)V(35-85)という元素組成範囲を有し、例えば、Fe(15-50)V(50-85)という元素組成範囲を有する。好ましい実施形態では、フェロバナジウムは、(V0.85Fe0.15)又は(V0.5Fe0.5)である。特に好ましい実施形態では、フェロバナジウムは、(V0.85Fe0.15)である。
【0047】
好ましい実施形態では、修飾元素Mは、VFe(0~10重量%)、Fe(0~10重量%)及びZr(10~15重量%)を含むか、又は本質的にそれらからなり、好ましくは、VFe(1~10重量%)、Fe(0~10重量%)及びZr(10~15重量%)を含むか、又は本質的にそれらからなる。
【0048】
他の好ましい実施形態では、修飾元素Mは、VFe(0~50重量%)、Fe(0~10重量%)、及びZr(10~15重量%)を含むか、又は本質的にそれらからなり、好ましくは、VFe(1~50重量%)、Fe(0~10重量%)、及びZr(10~15重量%)を含むか、又は本質的にそれらからなる。
【0049】
上記合金中に1又は複数の修飾元素を含ませることで、水素吸蔵合金の特性を変更又は調節することが可能である。例えば、1又は複数の実施形態では、フェロバナジウム(VFe)を含ませることで、水素吸蔵量を増加させる。1又は複数の実施形態では、Fe、Cu、Co、及びTiのうちのいずれか1つ又は複数を含ませることで、水素取り込み/放出圧を増加させる。1又は複数の実施形態では、Zr、Al、Cr、La、Ni、Ce、Ho、Mo、及びVのうちのいずれか1つ又は複数を含ませることで、水素取り込み/放出圧を減少させる。1又は複数の実施形態では、TiのZrとの部分置換、又はMnのCoとの部分置換によって、プラトーの傾きの低減が達成されてもよい。別の実施形態では、上記合金の適切な焼鈍処理を選択することによって、プラトーの傾きの低減が達成されてもよい。他の実施形態では、Vの添加又はTiのZrとの部分置換など、1又は複数の修飾元素(M)を上記合金に添加することによって、あるいは、Mn/Cr比を変更するなど、上記合金中の各元素の比を変更することによって、ヒステリシスが低減されてもよい。
【0050】
好ましい実施形態では、上記合金は、少なくとも2重量%のH、又は少なくとも2.5重量%のH、又は少なくとも3重量%、又は少なくとも3.5重量%、又は少なくとも4重量%、又は少なくとも4.5重量%、又は少なくとも5重量%、又は少なくとも5.5重量%、又は少なくとも6重量%の水素吸蔵量を有する。別の実施形態では、上記合金は、30バールにおいて、少なくとも2重量%のH、又は少なくとも2.5重量%のH、又は少なくとも3重量%、又は少なくとも3.5重量%、又は少なくとも4重量%の水素吸蔵量を有する。他の実施形態では、上記合金は、100バールにおいて、少なくとも5重量%、又は少なくとも5.5重量%、又は少なくとも6重量%の水素吸蔵量を有する。
【0051】
1又は複数の好ましい実施形態では、本発明の合金は、燃料電池に好適な、30バールの水素インプット圧、且つ少なくとも3バールの水素アウトプット圧という、必要条件を満たす。
【0052】
1又は複数の好ましい実施形態では、本発明は、中温中圧で水素を吸収し放出することが可能な水素吸蔵合金に関する。有利な点として、1又は複数の好ましい実施形態では、本発明の合金は、水素の急速な取り込み(例えば、30バール)及び放出(例えば、0.5バール)が可能であり、好ましい実施形態では、これを中温(例えば、室温)で達成できる。1又は複数の好ましい実施形態では、本発明の合金は、少なくとも約0.5gH/分、又は少なくとも約0.75gH/分、又は少なくとも約1.0gH/分、又は少なくとも約1.25gH/分、又は少なくとも約1.4gH/分の充填/放出速度を達成でき、公知の合金に優る重要な利点となる。
【0053】
本発明の1又は複数の好ましい実施形態のさらなる利点は、出発原料/元素が豊富である、水素の大量吸蔵用の、費用対効果の高い合金が提供される点である。さらなる利点として、本発明の1又は複数の好ましい実施形態における合金は、穏やかな条件下で大量の水素を吸収し放出できる。
【0054】
本発明の合金は、TiMn合金又はTiCr合金をベースとしており、本発明に従って、1又は複数の修飾元素(M)の添加により、上記合金物質の特性を調整又は調節することで、改質することができる。好ましい実施形態では、本発明は、TiMn系合金(例えば、TiMn1.5系合金)又はTiCrMn系合金(例えば、Ti1.1CrMn系合金)であって、本発明に従って、1又は複数の修飾元素(M)の添加により、上記合金物質の特性を調整又は調節することで、改質することができる、上記合金に関する。
【0055】
一つの態様では、本発明は、Ti(18~40%)、Mn(25~60%)、Cr(0~25%)、M(0.5~35%)の元素組成範囲を含み、MがVFe、Fe、Cu、Co、Ti、Zr、Al、Cr、La、Ni、Ce、Ho、及びVのうちの1又は複数から選択される修飾元素である、水素吸蔵合金に関する。すなわち、種々の実施形態では、金属水素化物水素吸蔵合金は、TiMn-M又はTiMnCr-Mという元素組成を有していてもよい。
【0056】
好ましい実施形態では、修飾元素Mは、フェロバナジウム(VFe)、Fe、Cu、Co、Ti、Zr、Al、Cr、La、Ce、Hoのうちのいずれか1つ又は複数から選択される。特に好ましい実施形態では、修飾元素Mは、VFe、Fe、及びZrから選択されるか、又はそれらの任意の組み合わせである。特に好ましい実施形態では、修飾元素MはVFeである。他の好ましい実施形態では、上記合金は、VFeと、所望により1又は複数の追加の修飾元素と、を含む。
【0057】
好ましい実施形態では、修飾元素Mは、VFe(0~10重量%)、Fe(0~10重量%)及びZr(10~15重量%)を含み、より好ましくは、VFe(0.5~10重量%)、Fe(0~10重量%)、及びZr(10~15重量%)を含む。
【0058】
修飾元素を含ませることで、水素吸蔵合金の特性を変更又は調節することが可能である。例えば、1又は複数の実施形態では、フェロバナジウム(VFe)を含ませることで、水素吸蔵量を増加させる。1又は複数の実施形態では、Fe、Cu、Co、及びTiのうちのいずれか1つ又は複数を含ませることで、水素取り込み/放出圧を増加させる。1又は複数の実施形態では、Zr、Al、Cr、La、Ni、Ce、Ho、Mo、及びVのうちのいずれか1つ又は複数を含ませることで、水素取り込み/放出圧を減少させる。
【0059】
VFeと略記されるフェロバナジウムの組成は、各成分元素の含有量に応じて変化してもよい。本明細書の全体を通じて、「フェロバナジウム」及び「VFe」という用語は、そのような変種全てを包含する。好ましい実施形態では、フェロバナジウムは(Fe15-6535-85)に相当し、当該フェロバナジウム中のバナジウム含有量は35%~85%の範囲をとり、当該フェロバナジウム中の鉄は15%~65%の範囲をとる。好ましい実施形態では、フェロバナジウムは(V0.85Fe0.15)又は(V0.5Fe0.5)に相当する。フェロバナジウムには純粋なバナジウムに優る利点があり、入手性が高いことと、費用が低いことが挙げられる。加えて、大量のバナジウムは重大なヒステリシスをもたらし、水素吸蔵用途では不利となる。
【0060】
好ましい実施形態では、本発明のTiMn系合金は、約30バールの水素インプット圧及び少なくとも3バールの水素アウトプット圧を有する。そのような合金は、燃料電池での使用に特に好適であり得る。
【0061】
本発明は、合金の組成を調節して合金の各種特性のバランスを取ることにより、必要な水素吸蔵特性プロファイルを有する水素吸蔵合金を当業者が製造することを可能にする、一般的な適用の原則を提供する。有利な点として、本発明は、応用の幅が広く、特定の合金組成、選択された若しくは好ましい特性、又は達成されるべき所望の結果に対して、融通が利く。本明細書で提供される教示に基づき、どの変更が合金のどの特性に影響したかを理解することで、当業者は、本発明を水素吸蔵合金の製造に適用することができる。有利な点として、本発明は、一連の水素吸蔵特性の変更又は調節を可能にし、選択又は生産される合金を、特定の最終用途に適合させることが可能となる。本発明の水素吸蔵合金の特性を変更又は調節できることが図1に示されており、図1は本発明の特に好ましい実施形態を示している。図1は、合金の水素吸蔵特性を調節するための様々なアプローチを本発明者らが認識、開発、応用したことを前提とした、本発明の多用途性を要約している。有利な点として、各種特性を調節するための仕組みは、その1つ又は全てを、任意の順番で、個々の場合に応じて、必要に応じて実行することができる。
【0062】
本発明の1又は複数の実施形態では、TiMn系合金はTiMn1.5である。他の実施形態では、TiCrMn系合金はTi1.1CrMnである。1又は複数の実施形態では、修飾元素は、VFe、Fe、Cu、Co、Ti、Zr、Al、Cr、La、Ce、Ho、V、Moのうちのいずれか1つ又は複数から選択され、好ましくは、VFeと、所望により少なくとも1つの追加の修飾元素である。
【0063】
1又は複数の実施形態では、フェロバナジウム(VFe)を合金に添加することで、水素吸蔵量が増加される。1又は複数の実施形態では、フェロバナジウムは、Fe(15~65%)V(35~85%)又はFe(15~50%)V(50~85%)という組成式を有する。1又は複数の実施形態では、x=0.1~0.8又は0.2~0.6である、[Fe(15~65%)V(35~85%)]又は[Fe(15~50%)V(50~85%)]が合金に含まれる。1又は複数の好ましい実施形態では、x=0.2~0.6である、(V0.85Fe0.15が、合金に含まれる。
【0064】
1又は複数の実施形態では、1又は複数の修飾元素(M)を合金中に含ませることで、水素取り込み/放出圧が増加される。好ましい実施形態では、修飾元素はZr、Fe、Cu、Co、及びTiから選択される。好ましい実施形態では、y=0.1~0.6、w=0.1~0.6であり、好ましくは、y=0.1~0.4、w=0.1~0.4である、Zr、Fe、Cu、Co、及びTiのうちの1又は複数が、合金に含まれる。
【0065】
1又は複数の実施形態では、1又は複数の修飾元素(M)を合金に添加することで、水素取り込み/放出圧が減少される。好ましい実施形態では、修飾元素はZr、Al、Cr、La、Ni、Ce、Ho、V、及びMoから選択される。好ましい実施形態では、y=0.1~0.6、u=0.01~1、w=0.01~0.6である、好ましくはy=0.1~0.4、w=0.01~0.4である、Zr、Al、Cr、La、Ni、Ce、Ho、V、及びMoのうちの1又は複数が、合金に添加される。
【0066】
1又は複数の実施形態では、1又は複数の修飾元素(M)を合金に添加することで、プラトーの傾きの低減が達成される。好ましい実施形態では、TiのZrとの部分置換によって、プラトーの傾きの低減が達成される。例えば、TiがZrと部分置換されてもよい(y=0.02~0.40、好ましくはy=0.05~0.35)。別の実施形態では、MnのCoとの部分置換によって、プラトーの傾きの低減が達成される。例えば、MnがCoと部分置換されてもよい(w=0.05~0.3、好ましくはw=0.1、0.2)。別の実施形態では、合金の適切な焼鈍処理を選択することによって、プラトーの傾きの低減が達成される。好ましい実施形態では、焼鈍は、約800℃~約1200℃の温度で実行され、好ましくは約850℃~約1150℃、より好ましくは約900℃~約1100℃の温度で実行される。
【0067】
さらなる実施形態はヒステリシスを低減する方法に関する。1又は複数の実施形態では、これは、1若しくは複数の修飾元素を合金に添加することで、又は、合金中の各元素の比を変更することで、達成される。例えば、Mn/Cr比を約1.6/0.2~約1.0/0.8の比に変更することでヒステリシスが低減され、好ましくは約1.5/0.2~約1.1/0.6の比に変更される。別の実施形態では、バナジウムを合金に添加することで、ヒステリシスが低減される。好ましい実施形態では、y=0.05~0.5である含有量Vで、バナジウムが合金に添加されてもよく、好ましくはy=0.1~0.4である。別の実施形態では、TiのZrとの部分置換によって、ヒステリシスが低減される。例えば、TiがZrと部分置換されてもよい(y=0.02~0.40、好ましくはy=0.05~0.35)。別の実施形態では、合金の適切な焼鈍処理を選択することによって、ヒステリシスの低減が達成される。好ましい実施形態では、約800℃~約1200℃、好ましくは約900℃~約1100℃の温度で焼鈍が実行される。
【0068】
本明細書で開示される他の実施形態では、本発明は、1又は複数の修飾元素の添加により水素平衡プラトー圧を制御する方法を提供する。本明細書で開示されるさらなる実施形態は、修飾元素を合金に添加することにより水素取り込み/放出の温度を調節する方法に関する。
【0069】
有利な点として、上記合金組成物の特性は、1又は複数の修飾元素を添加することで調節することができる。好適な修飾元素としては、バナジウム、フェロバナジウム、鉄、ジルコニウム、コバルト、銅、銅、パラジウム、モリブデン、ニオブ、タングステン、白金、銀、又はこれらの組み合わせが挙げられる。好ましい実施形態では、好適な修飾元素は、フェロバナジウム(VFe)、鉄(Fe)、及びジルコニウム(Zr)から選択され得る。高濃度の純粋バナジウムは生産費用が高く、フェロバナジウムは調達が容易であり得ることから、本発明の各実施形態においては、概してフェロバナジウムがバナジウムよりも好ましい。好ましい実施形態では、フェロバナジウムはV0.85Fe0.15である。別の実施形態では、フェロバナジウムはV0.5Fe0.5である。
【0070】
本発明の1又は複数の実施形態では、合金組成はニッケルを含まない。
【0071】
本発明の1又は複数の実施形態では、合金組成は純粋なバナジウムを含まない。
【0072】
本発明の各実施形態においては、フェロバナジウムの合金への添加によって、水素吸蔵量を増加させる。有利な点として、水素吸蔵量の向上は環境温度での水素放出を容易にする。
【0073】
本発明の各実施形態においては、Feの添加はプラトー圧を増加させ、Zrの添加はプラトー圧を減少させる。これには、特定の合金のプロファイルを、特定の配置環境を反映するように調節することを可能にするという利点がある。好ましい実施形態では、本発明の合金は、水素吸収圧と水素放出圧との間に示される差異が比較的小さい。本発明の好ましい実施形態は、ヒステリシスが少なく、且つ吸収/放出の圧力が実質的に一定であることの反映である、実質的にフラットなプラトー圧を有する合金を考案することを可能にする。
【0074】
本発明の好ましい実施形態では、上記合金は、Ti(18~40重量%)、Mn(25~60重量%)、Cr(0~25重量%)、VFe(0~10重量%)、Fe(0~10重量%)、及びZr(10~15重量%)という元素組成範囲を含むか、又は本質的にそれらからなり、好ましくは、Ti(18~40重量%)、Mn(25~60重量%)、Cr(0~25重量%)、VFe(0.5~10重量%)、Fe(0~10重量%)、及びZr(10~15重量%)という元素組成範囲を含むか、又は本質的にそれらからなる。
【0075】
本発明のTi1.1CrMn系合金又はTiMn1.5系合金から得られる例示的な合金組成として、以下が挙げられる:
Ti 1.1 CrMn TiMn 1.5
Ti1.1CrMn(V0.85Fe0.15)0.2 TiMn1.5(V0.85Fe0.15)0.2
Ti1.1CrMn(V0.85Fe0.15)0.4 TiMn1.5(V0.85Fe0.15)0.4
Ti1.1CrMn(V0.85Fe0.15)0.4Zr0.2 TiMn1.5(V0.85Fe0.15)0.4Zr0.2
Ti1.1CrMn(V0.85Fe0.15)0.4Zr0.3 TiMn1.5(V0.85Fe0.15)0.4Zr0.3
Ti1.1CrMn(V0.85Fe0.15)0.4Zr0.4 TiMn1.5(V0.85Fe0.15)0.4Zr0.4
【0076】
好ましい実施形態では、金属水素化物合金はTiMn1.5(V0.85Fe0.150.4という組成を有する。
【0077】
有利な点として、本発明の好ましい実施形態の合金は、中温中圧の条件下を含んで、比較的大量の水素(例えば、少なくとも2重量%のH、又は少なくとも2.5重量%のH、又は少なくとも3重量%、又は少なくとも3.5重量%、又は少なくとも4重量%、又は少なくとも4.5重量%のH、又は少なくとも5重量%のH、又は少なくとも5.5重量%のH、又は少なくとも6重量%のH)を吸蔵することが可能である。好ましい実施形態では、好適な温度は、40℃以下、30℃以下、25℃以下、20℃以下、15℃以下、又は10℃以下とすることができる。好ましい実施形態では、圧力は、最大100バールとすることができ、例えば、30バール~100バール又は30バール~50バールの範囲内の圧力である。例示的な好ましい実施形態では、水素吸蔵条件は約10℃、30~100バールの圧力であり、より好ましくは、約10℃、約30バールである。
【0078】
好ましい実施形態では、本発明の金属水素化物合金は、比較的低い圧力でかなりの量の水素(例えば、65%超、又は70%超、又は75%超、又は80%超、又は85%超、又は90%超)を放出することが可能であり、例えば、約30バールの圧力で放出することが可能である。
【0079】
本発明は、可逆的な水素吸蔵のための水素吸蔵合金に関する。より具体的には、本発明は、水素の取り込み及び放出が可能な金属水素化物合金であって、好ましくは、30~3バールの圧力、約25℃で、1分当たり0.749gのHと等しい、1時間当たり500リットルの範囲内の水素流量で概ねそれぞれ作動する、電解槽及び燃料電池の厳密なインプット/アウトプット条件下で、水素の取り込み及び放出が可能な金属水素化物合金に関する。したがって、本発明の特に好ましい実施形態の利点は、金属水素化物合金が、水素の急速な取り込み及び放出を可能とする点である。例えば、好ましい実施形態では、金属水素化物合金は、少なくとも約0.5gH/分、又は少なくとも約0.75gH/分、又は少なくとも約1.0gH/分、又は少なくとも約1.25gH/分、又は少なくとも約1.4gH/分の充填/放出速度を有することができ、従来公知の合金に優る重要な利点となる。
【0080】
本発明の特に好ましい実施形態は、約10℃の温度での水素の取り込み又は放出に関して、少なくとも1.44g/分を達成することが可能な金属水素化物合金に関する。有利な点として、本発明の合金の好ましい実施形態では、上記水素の少なくとも70%、又は少なくとも75%、又は少なくとも80%が、約10℃の温度で吸蔵又は放出される。
【0081】
本発明者らは、驚くべきことに、好適な水素吸蔵合金が、圧力-組成 温度(Pressure-Composition Temperature)(PCT)とも呼ばれる、その平衡プラトー圧によって特定及び特徴付けできることを発見した。これにより、合金の組成を、適切な修飾元素の添加及び/又は合金中の各元素の比の変更によって、特定の最終用途又は環境に好適な所望の又は理想的なPCTに基づいて調節することが可能となる。
【0082】
図25(Klebanoff, L.、Hydrogen storage technology: materials and applications;CRCプレス社、2012年より抄出)は、圧力-組成-温度(PCT)に関する、水素吸蔵の理想的な例を図示している。
【0083】
すなわち、図25に図示されるような理想的な水素吸蔵特性に基づいて、本発明の合金を特定又は特徴付けすることができる。
【0084】
図25に示されているように、理想的な例は、水素の吸収に最適な水素吸蔵物質が使用されている場合のものである。このグラフは2つの単一相(α及びβ)と、1つの平衡プラトー(α+β)領域を示している。水素ガスが特定の温度の純粋金属又は合金を保持する吸蔵用容器内に導入されると、水素ガスはまず当該金属の表面上で解離し、原子状水素を形成する。この原子状水素がその後、上記物質内に拡散し、固溶体(水素が上記物質中に溶けている)、いわゆるα相、を形成する。
【0085】
平衡プラトーを超えて水素圧を上昇させるほど、より多くの水素を上記金属に吸収させることができる。この過程の間、容器内の圧力は一定を保ち(フラットなプラトー)、上記金属中に溶けた水素は上記金属と結合し始め、金属水素化物(MHx)といわゆるβ相を形成する。その過程の間、全ての金属部位が水素と結合するまで、すなわち、上記金属が水素化物に完全に変換されるまで、α相及びβ相の両相は共存する。この段階に達すると、容器内の圧力が上昇する。
【0086】
フラットなプラトー圧を有することは、水素を一定の圧力で吸収できることを意味する(電解槽による送達)。逆も同様で、フラットなプラトーを有することは、水素を燃料電池に一定の流量及び圧力で送達できることを意味する。ヒステリシス(すなわち、平衡吸収プラトーと平衡放出プラトーとの間の圧力差)がない又は最小限であることが、実用的な用途に、また、電解槽/水素吸蔵系/燃料電池を連結することを試みる際に電解槽及び燃料電池の工業設計及び経済的運用を単純化するために、望ましい。
【0087】
驚くべきことに、本発明者らは、フェロバナジウム(VFe)、鉄(Fe)、銅(Cu)、コバルト(Co)、及びチタン(Ti)を含む特定の修飾元素を添加することで、水素取り込み/放出のプラトー圧を増加させるように、TiMn系合金及びTiCrMn系合金を調節できることを見出した。さらに、本発明者らは、ジルコニウム(Zr)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、ホルミウム(Ho)、モリブデン(Mo)、及びバナジウム(V)を含む修飾元素を添加することで、水素取り込み/放出のプラトー圧を減少させることができることも見出した。
【0088】
すなわち、本発明に従って1又は複数の修飾元素を含めることで、合金物質が水素を放出することが可能な圧力値を変更又は調節することが可能になるという利点が得られる。例えば、1又は複数の修飾元素を、合金組成に組み入れることで、プラトー圧を上へシフトさせて、水素をより高い圧力値で吸収及び放出できるようにしてもよく、あるいは逆に、1又は複数の修飾元素を、合金組成に組み入れることで、プラトー圧を下へシフトさせて、水素をより低い圧力値で吸収及び放出できるようにしてもよい。これにより、変更又は調節対象の合金及びその特性を、様々な環境に適合させることができる。さらに、修飾元素に、合金の吸蔵量及びプラトー圧の調節を補助することができる追加の水素化物相を形成させてもよい。
【0089】
特に好ましい実施形態において、本発明者らは、TiMn系合金及びTiCrMn系合金の水素吸蔵量を、フェロバナジウム(VFe)の添加によって、増加させることができることを見出した。フェロバナジウムには、入手が容易であり、高純度バナジウムよりも安価であるという利点がある。加えて、過剰な純粋バナジウムはヒステリシスを大きくし、水素吸蔵用途では不利となる。
【0090】
本発明のさらなる利点としては、入手しやすく比較的安価な金属の使用を含む点であり、すなわち、上記合金は、産業環境及び居住環境における電解槽又は燃料電池でのものを含む、様々な商業的応用に好適であり得る。
【0091】
別の態様では、本発明は、Ti(18~40重量%)、Mn(25~60重量%)、Cr(0~25重量%)、M(0.1~35重量%)という元素組成範囲を含み、MはVFe、Fe、Cu、Co、Ti、Zr、Al、Cr、La、Ni、Ce、Ho、Mo、及びVのうちの1又は複数から選択される修飾元素である、合金の、水素を吸蔵するための使用であって、各修飾元素の含有量又は割合は独立して選択される、上記使用に関する。
【0092】
さらなる態様では、本発明は、Ti(18~40重量%)、Mn(25~60重量%)、Cr(0~25重量%)、M(0.1~35重量%)という元素組成範囲を含み、MはVFe、Fe、Cu、Co、Ti、Zr、Al、Cr、La、Ni、Ce、Ho、Mo、及びVのうちの1又は複数から選択される修飾元素である、合金を製造する方法であって、1又は複数のアーク溶解工程で成分金属をアーク溶解して合金を形成すること、及び上記合金を焼鈍すること、を含む、方法に関する。
【0093】
水素の吸収及び放出
真空技術を用いて、希土類金属及び遷移金属を融解して合金にすることができる。これらの合金は気相から水素を吸収することができる。このような合金は、室温及び特定の水素圧下で、固体金属水素化物の形成を介して大量の水素を吸収することが可能である。水素圧が特定の値を下回るように低下した場合、この水素吸収プロセスは逆転し得る。水素化物形成及び水素吸収に関与する化学反応は環境への熱の放出を伴い、一方で、水素ガスの放出は環境からの熱の吸収を伴う。
【0094】
本発明の1又は複数の実施形態の特徴
特に好ましい実施形態では、本発明は、少なくとも2重量%の可逆的水素吸蔵重量及び少なくとも100kgm-3の重量密度を有するTi-Mn合金に関する。好ましい実施形態では、Ti-Mn合金は、少なくとも2.5重量%、又は少なくとも2.75重量%、又は少なくとも3重量%、又は少なくとも3.5重量%、又は少なくとも4重量%、又は少なくとも4.5重量%、又は少なくとも5重量%、又は少なくとも5.5重量%、又は少なくとも6重量%の可逆的水素吸蔵重量を有する。
【0095】
好ましい実施形態では、本発明は、環境温度及び中圧という条件下で水素を吸収及び放出することが可能なTi-Mn合金に関する。好ましい実施形態では、合金の特性を調節する工程は、水素取り込み/放出の平衡プラトー圧を低減させる1又は複数の修飾元素を添加すること含む。
【0096】
好ましい実施形態では、上記合金は、その周囲からの環境熱を利用することで、約-20℃~約50℃の温度範囲で水素を放出することができる。
【0097】
好ましい実施形態では、上記合金は、理想的には、水素吸収と水素放出の平衡プラトー間に、最小限(例えば、ほぼゼロ)のヒステリシスしか示さない。この特性は、上記合金が電解槽及び燃料電池と組み合わせて作動しやすくなるなり得るため、特に有利である。
【0098】
好ましい実施形態では、本発明は、約3バールの圧力でHを送達することが可能な合金に関する。有利な点として、このような合金は、現在の市販燃料電池に約500L/時の流量で供給が可能である。
【0099】
別の好ましい実施形態では、本発明は、30バールの最大圧力において、少なくとも250L/時、又は少なくとも300L/時、又は少なくとも350L/時、又は少なくとも400L/時、又は少なくとも450L/時、又は少なくとも500L/時の流量でHを取り込むことができ、好ましくは少なくとも500L/時の流量でHを取り込むことができる、合金に関する。
【0100】
好ましい実施形態では、本発明の金属水素化物合金は、約10分間に満たない期間内に、好ましくは約5分間に満たない期間内に、少なくとも70%(最大容量に対して)の水素取り込みを達成することが可能である。特に好ましい実施形態では、本発明の金属水素化物合金は、約3分間以内に、少なくとも80%の水素取り込みを達成することが可能である。
【0101】
本発明の合金のさらなる利点は、比較的安価な入手しやすい金属から構成され、純粋バナジウムなどの高価又は希少な金蔵に依存しない点である。
【0102】
本発明の1又は複数の実施形態では、上記合金は、水素を合金から放出するためのエネルギー源として環境熱を利用できるように、温度、すなわち水素吸蔵系の地理的位置、に応じたH取り込み/放出圧における需要の変化に対応するために調節することができる。好ましい実施形態では、合金から水素を放出するための唯一のエネルギー源として、環境熱を利用できる。
【0103】
別の実施形態では、本発明は、一度活性化させると自然発火性でなくなる合金に関する。これは、上記合金物質を収容している容器を、安全性を損なわずに、すなわち容器に誤って穴が開いたり損なわれた場合に存在する火災のリスクなく、保持し易くすることができるため、さらなる利点となる。
【0104】
好ましい実施形態では、本発明の合金は、有利な点として、一度活性化させた後は空気に曝すことができ、実質的に酸化は起こらず、水素吸蔵量の減少も最小限である。
【0105】
好ましい実施形態では、本発明は、H活性化及びH吸蔵量を損なわずに、空気中で製造することが可能なTi-Mn合金に関する。
【0106】
有利な点として、1又は複数の好ましい実施形態では、本発明の合金は、高速な水素キネティクスを示すことができ、例えば、90%超の吸蔵量の取り込み/放出にかかる時間が15分間未満である。特に好ましい実施形態では、これらのキネティクスは触媒を使用せずに達成される。公知の合金は通常、Pd、Pt、Ruなどの高価な遷移金属をベースとした触媒を必要とし、それらを利用していることから、これは重要な利点である。
【0107】
好ましい実施形態では、本発明の合金は、非常に多くのサイクル(例えば、5,000超、10,000超、又は15,000超のサイクル)に耐えることが可能であってもよく、サイクル後の不均化が起こりにくい。すなわち、本発明の好ましい実施形態では、複数回の水素吸収/放出サイクル後に、吸蔵された水素の少なくとも80%、又は少なくとも85%、又は少なくとも90%、又は少なくとも95%を可逆的に放出することができる。
【0108】
本明細書で開示される本発明の1又は複数の好ましい実施形態の利点は、出発原料/元素が豊富である、水素の大量吸蔵用の、費用対効果の高い合金が提供される点である。
【0109】
1又は複数の好ましい実施形態では、本発明は、燃料電池(すなわち、少なくとも2バールで水素を送達する)と、電解槽(すなわち、少なくとも35バールから水素を取り込む)の厳密な要件を満たし、且つ、両デバイスと組み合わせて効率的に働くように、具体的に調節することができる合金に関する。
【0110】
1又は複数の好ましい実施形態では、本発明は、電解槽及び燃料電池と組み合わせて働くように調節又は構成された合金に関する。上記合金の好適な特性としてフラットな平衡プラトー圧が含まれていることから、上記合金は、一定の圧力で、電解槽によって送達される一定の水素供給から水素を取り込み、燃料電池に水素を放出することができる。本明細書に開示されているように、また、本発明に従って、これは、800℃~1200℃、好ましくは900℃~1100℃、例えば少なくとも1000℃、の温度での焼鈍を通じた、Zrを用いたTiの部分置換、CoによるMnの部分置換、MoによるMnの部分置換、V及びAlの含有量の調整、並びにこれらの組み合わせなどを含む、1又は複数の仕組みによって、達成されてもよい。
【0111】
1又は複数の好ましい実施形態では、本発明は、水素の放出にも取り込みにも追加の加熱を必要とせず、環境温度において、80%超の効率で、好ましくは85%超、90%超、又は95%超の効率で、水素を完全に吸蔵できる、室温合金に関する。すなわち、好ましくは高速な水素取り込み/放出速度で、実質的に全ての水素を完全に吸収し、当該合金に水素を実質的に残すことなく当該合金から放出することができる。このことは、本発明の代表的な合金の場合で、図9に示されている。図9は、代表的な合金Ti0.9Zr0.15Mn1.1Cr0.6Co0.1(V0.85Fe0.150.3の室温での水素の取り込み(30バール)及び放出(0.5バール)を示しており、95%超の効率、且つ極めて速い水素収着速度(全容量に達するのに2分未満)の、完全な取り込み及び完全な水素放出が示されている。
【0112】
1又は複数の好ましい実施形態では、本発明は、領域性の温度変動(例えば、50~-10℃又は38~-40℃の運転温度)など、多様な温度-圧力運転範囲を満たすように、環境温度(及び環境圧力)に応じてその水素取り込み/放出条件を調整するように、調節することができる、合金に関する。有利な点として、図10に示されているように、これは、本技術が電解槽及び/又は燃料電池と組み合わせて使用される場合(示された実施例では、電解槽からの30バール供給及び燃料電池への1バール供給)、特に有用である。
【0113】
1又は複数の好ましい実施形態では、本発明は、平衡吸収プラトーと平衡放出プラトーとの間のヒステリシスが狭い、合金に関する。有利な点として、そのような合金は、電解槽及び燃料電池と組み合わせて作動するための要件を満たすことが可能である。特に、狭いヒステリシスを有するそのような合金は、環境温度条件に関連した所定の温度窓内で作動するのに好適であり、水素の取り込み又は放出を補助するための追加の熱管理を必要としない。これは、Mn/Cr比の変化、TiのZr部分置換、MnのCo、V部分置換、Co調整、Al、及び合金の焼鈍を含む、本明細書で開示された本発明の各実施形態においての、一連の戦略又はそれらの組み合わせによって、達成できる。
【0114】
1又は複数の好ましい実施形態では、本発明は、電解槽及び燃料電池と組み合わせて作動するための要件を満たしながら、少なくとも1.5重量%、好ましくは少なくとも1.8重量%という可逆的水素吸蔵量を有し、25℃、30バールの水素収着圧では2重量%よりも良好な可逆的水素吸蔵量を有する、合金に関する。これは、本明細書で開示された各実施形態に従って、例えば、Ti、Zr、Mn、Cr、VFe、V、Fe、Co、及びAlの含有量を含む一連の元のうちの1又は複数を微調整することによって、達成できる。
【0115】
1又は複数の好ましい実施形態では、本発明の合金は、C14ラーベス相結晶微細構造を有する。C14ラーベス相は、水素吸蔵量及びプラトー圧などを含む、上記合金の有利な水素吸蔵特性を与えることができる。
【0116】
1又は複数の好ましい実施形態では、本発明は、非自然発火性の合金に関する。そのような合金は、安全性の点で有利であり、大規模生産及び製造コスト削減に好適であるというさらなる利点を有する場合もある。例えば、合金は、個々の元素を融解して合金を形成させた炉から取り出されると、合金は、空気中での完全な取り扱いが可能となり、吸蔵容器内で最終的に使用される前にさらなる加工を行うことができる。図11は、空気に曝されていても、自然発火性を示していない、本発明の代表的な合金を示している。
【0117】
1又は複数の好ましい実施形態では、本発明は、室温で、数分間以内に活性化させることができる、例えば、約1~10分間以内に、より好ましくは約1~5分間以内に活性化させることができる、例えば、約1分間以内に、約1.5分間以内に、約2分間以内に、約2.5分間以内に、約3分間以内に、約3.5分間以内に、約4分間以内に、約4.5分間以内に、約5分間以内に、約6分間以内に、約7分間以内に、約8分間以内に、約9分間以内に、又は約10分間以内に活性化させることができる、合金に関する。この実施形態においては、上記合金は、1回目のサイクル後も、追加の加熱の必要なく、標準的な電解槽の圧力に相当する、約30バールの水素圧などの好適な水素圧を単に印加するだけで、完全且つ可逆的に水素を吸蔵することができる。このことは、約2分間のみの保温時間を用いた、室温、30バールの水素圧下での、代表的な合金(Ti0.9Zr0.15Mn1.05Cr0.5Co0.1Fe0.15(V0.85Fe0.150.3)の活性化を示す、図12によって示されている。これにより、大規模製造のためのコストに関連した利点を含む、さらなる利点が得られる。
【0118】
合成
本発明の合金は、誘導炉、真空技術、例えば、アーク溶解、プラズマ炉、又は、不活性雰囲気中、例えば99.99%アルゴン中、若しくは同種のもの中で典型的には実行される同様の方法など、当業者に周知の従来法によって製造することができる。当業者に公知の他の方法としては、以下が挙げられる:
・プラズマ噴霧法を含む、合金粉末製造のためのガス噴霧法;
・電子ビーム融解(「eビーム」、又は「EBM」)、及び粉末化された出発元素から出発する方法を含む、付加製造法;並びに、
・燃焼合成を含む、乾式製錬法。
【0119】
アーク融解は、小規模又は実験室規模の合金製造に特に有用である場合がある。工業規模の製造には、誘導融解及びプラズマ電子ビーム融解を用いることができる。工業規模融解の一般的な手順は以下の通りである:
1)原料乾燥:融解炉への投入前に、原料を概ね100~150℃のオーブン内で一晩乾燥させて、吸収された水分を除去する。
2)誘導融解又はプラズマ融解:原料を概ね層ごとに融解炉内に投入する。次に、炉室を高純度Ar(99.99%)で少なくとも3回パージすることで、炉室内の空気を除去する。次に原料を、融解力を段階的に増加させながら、1~6回、典型的には2~6回融解させる。
3)冷却:この合金を次に、室温に冷却し、その後炉を開けて、合金インゴットを回収する。
【0120】
実施例を含む、本明細書で開示された好ましい実施形態では、合金はアーク溶解法によって合成される。
【0121】
本発明の合金組成物中に用いられた各種元素の融解温度は以下の通りである:Ti:1668℃;Mn:1246℃;Cr:1907℃;VFe:1480℃;Fe:1538℃、Zr:1855℃。
【0122】
合金の製造に用いられた合成温度は、特定の材料組成に応じて変更することができる。典型的な合成温度は、約1300℃~2000℃の範囲内であり、好ましくは1200℃~900℃の範囲内である。本発明の合金の焼鈍処理の好ましい上限は約1200℃であり、これはMnの融解温度(1246℃)以下である。よって、焼鈍処理は、約800℃~約1200℃の範囲内の温度で、例えば、約800℃、又は約850、又は約900℃、又は約950℃、又は約1000℃、又は約1100℃、又は約1150℃、又は約1200℃の温度で、実行することができる。
【0123】
通常、アーク溶解法を実行する際は、他の金属からの発煙を低減するために、また、適切な組成に到達するために元素損失を最小限にするために、より高い融解温度を有する金属を先に融解させる。他の金属に必要なより高い融解温度に曝された際の損失を考慮するために、混合物への、融解温度がより低い金属の添加量を調整することが必要な場合があることは、当業者には理解される。例として、TiMn1.5(V0.85Fe0.150.4などの例示的な合金を製造する方法は、まず、各成分元素をアーク融解装置に全て一緒に加えることを含む。通常のアプローチでは、Ti(及び、Cr又はVが使用される場合もある)などの高融解温度金属に融解の焦点を当て、その後、その高融解温度金属を融解させながら、Mnなどのより低融解温度金属を、合金を形成中の融解元素へと注入する。一般的な工程段階は以下の通りである:
1)全ての元素を適量準備して、必要となる合金の組成を構成させる。
2)全ての元素を不活性雰囲気下、アーク融解装置内に配置する。
3)Tiなどの高融解温度金属の融解を開始し、その後、VFe、Cr、Zr、Mnなどの融解温度がより低い元素を融解させる。
【0124】
好ましい実施形態では、上記方法は、Mnなどの個々の元素の蒸発率を、0.2%未満に、好ましくは0.1%未満に管理(すなわち、制御、又は好ましくは低減)することを含む。好ましい実施形態では、これは、出力及び各種元素を合金にするのに用いられる熱の量を制御することにより達成できる。出力は漸増的な出力増加によって制御できる。例として、実施形態では、出力は、全出力の0~30%を1~5分間程度、次に、全出力の30%~50%を1~5分間程度、そして、全出力の50%~80%を1~5分間など、漸増的な出力増加によって制御できる。最後の再融解の際に、蒸発を制限し、最終元素組成が制御された最終合金を得るために、好ましくは0.2%以下、より好ましくは0.1%以下となるように、低沸点元素を合金に添加してもよい。
【0125】
好ましくは、上記方法では、99%以上の純度など、高純度の出発元素が利用される。好ましい実施形態では、出発物質の純度及びそれらの再処理は、真空下で再融解させて、酸素、窒素、及び塩化物を含む揮発性物質を除去することで、制御できる。
【0126】
好ましい実施形態では、上記方法には高真空が用いられる。そのような実施形態では、上記方法は、炉を真空状態にし、アルゴン、ヘリウム、又は窒素などの不活性ガスを再充填することで、炉融解室から酸素及び残留水を除去することを含む、数回のパージ工程を含んでいてもよい。
【0127】
合金の均一性を向上させるために、合金を1回又は複数回再融解させてもよい。例えば、合金には通常、その状況下で適切であるように又は必要に応じて、2~10回、2~8回、又は4~6回の融解サイクルを行ってもよい。例えば、上記方法は、各回の融解が3~15分間の、アーク融解装置を用いた、インゴットのサイズ(例えば、1g~1Kg)に応じた、再融解工程を少なくとも3回含んでいてもよい。有利な点として、融解時間及び再融解の回数の調整は、合金の高い均一性及び/又は好ましい微細構造を達成するために用いることができる。特に好ましい実施形態では、本発明の合金は、C14ラーベス相を有し、好ましくは、162~169Åの結晶セル体積を有するC14ラーベス相を有する。
【0128】
上記方法は、C14ラーベス相微細構造などの好ましい微細構造を達成するために、冷却速度(例えば、100℃~70℃/分/グラム合金)を制御することをさらに含んでいてもよい。
【0129】
融解させたら、融解した合金を冷却して合金インゴットにしてもよい。実施形態において、銅るつぼの下などに、アーク融解炉は、インゴットの冷却を助け、急速焼入れ工程の使用を避ける、水冷系を有していてもよく、これには、製造方法を単純化する利点がある。よって、本発明の1又は複数の好ましい実施形態では、合金を製造するための合成方法は、急速焼入れ工程を含まない。
【0130】
アーク融解工程の後、合金を、破砕、粉砕、又は微粉砕して小粒子を形成させてもよく、好ましくは10mm以下の粒径を有する、より好ましくは5mm以下の粒径を有する、小粒子が形成される。水素化物層の膨張を踏まえて、理想的な粒径を求めて必要ならば調整してもよい。
【0131】
通常、合金の活性化は、複数(例えば、10以上、15以上、又は20以上)の完全な充填/放出水素サイクルを通じて実行される。通常、高純度水素は、約30バールの圧力、約25℃の温度で合金を収容した容器に供給され、約1バールで当該容器から放出される。容器の完全な吸収又は放出にはそれぞれ、通常はおよそ1時間かかる。活性化プロセスの際に使用される水素は、好ましくは、99.999%以上の純度を有する。
【0132】
合金は酸素や水蒸気に暴露された場合に腐食しやすい場合がある。さらに、活性化された合金は空気に暴露されると発火しやすい場合がある。これを受けて、別の実施形態では、本発明は、酸化を低減又は軽減し、重大な腐食も発火リスクもなく合金を空気などの毒(すなわち、酸素、水蒸気、一酸化炭素など)に暴露することを可能にする、方法を提供する。本発明のこの実施形態においては、ポリマー及び界面活性剤を用いて、合金組成物をコーティングすることで、酸化に対する耐性を与え、合金が水素活性化後に空気に暴露された場合の燃焼を防ぐことができる。好適なポリマーは、疎水性ポリマーであり、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、例えば、Teflon(登録商標))、アクリロニトリルブタジエンゴム(Buna N)、フルオロエラストマー(例えば、Viton A(登録商標))、及び同種のものが挙げられる。好適な界面活性剤は、シラン系界面活性剤が挙げられ、シラン系界面活性剤はチタンに選択的に結合し疎水性表面を形成する。さらなる利点として、合金にポリマーコートを適用することによる耐中毒性及び耐腐食性の向上は、水素吸収-放出サイクル性能も向上させ得る。好ましくは、ポリマー又は界面活性剤によるコーティングは、合金の活性化の前に適用され得る。
【0133】
さらなる実施形態
本明細書で開示されるさらなる実施形態は、TiMn系水素吸蔵合金又はTiCrMn系水素吸蔵合金を製造する方法であって、フェロバナジウム(VFe)と、所望により1又は複数の修飾元素(M)を上記合金中に含ませることで、上記合金の特性を変更又は調節することを含む、方法に関する。
【0134】
1つのさらなる実施形態は、ある特性プロファイルを有するTiMn系水素吸蔵合金又はTiCrMn系水素吸蔵合金を製造する方法であって、上記合金の組成を変更することで、上記特性プロファイルを達成することを含み、
上記合金の組成の変更が、
(a)1又は複数の修飾元素(M)を上記合金に含ませること;
(b)上記合金中の2種以上の元素の比を変更すること;及び
(c)上記合金を900℃~1200℃の焼鈍温度で焼鈍すること、
のうちの少なくとも1つを含む、方法に関する。
【0135】
1又は複数の実施形態では、上記合金の組成の変更は、VFeと、所望により1又は複数の追加の修飾元素(M)と、を上記合金に含ませることを含む。
【0136】
1又は複数の実施形態では、特性プロファイルは、増加したH吸蔵量、増加したH取り込み/放出圧、減少したH取り込み/放出圧、低減したプラトーの傾き、低減したヒステリシス、及び実質的にフラットな平衡プラトー圧から選択される少なくとも1つの特性を含む。
【0137】
1又は複数の実施形態では、上記特性プロファイルは増加したH吸蔵量を含み、組成の変更はVFeを上記合金に含ませることを含む。
【0138】
1又は複数の実施形態では、上記特性プロファイルは増加したH取り込み/放出圧を含み、組成の変更はFe、Cu、Co、及びTiから選択される少なくとも1つの修飾元素を含ませることを含む。
【0139】
1又は複数の実施形態では、上記特性プロファイルは減少したH取り込み/放出圧を含み、組成の変更はZr、Al、Cr、La、Ni、Ce、Ho、V、及びMoから選択される少なくとも1つの修飾元素を含ませることを含む。
【0140】
1又は複数の実施形態では、上記特性プロファイルは低減されたプラトーの傾きを含み、組成の変更はZr及びCoから選択される少なくとも1つの修飾元素を含ませることを含む。1又は複数の実施形態では、ZrはTiの部分置換として添加される。1又は複数の実施形態では、CoはMnの部分置換として添加される。
【0141】
1又は複数の実施形態では、上記特性プロファイルは低減されたヒステリシスを含み、組成の変更は、
(i)上記合金中のMn及びCrの比を変更すること、
(ii)VFeを上記合金に含ませること、並びに
(iii)Tiの部分置換としてZrを含ませること、
のうちの少なくとも1つを含む。
【0142】
1又は複数の実施形態では、上記方法は、上記合金を900℃~1100℃の温度で焼鈍することを含む。
【0143】
1又は複数の実施形態では、上記特性プロファイルは、上記合金が、電解槽及び燃料電池と組み合わせて働くのに好適なものである。1又は複数の実施形態では、上記合金の特性プロファイルは、実質的にフラットな平衡プラトー圧を含む。1又は複数の実施形態では、上記実質的にフラットな平衡プラトー圧は、上記合金が、一定の圧力で、電解槽によって送達される一定の水素供給から水素を取り込み、燃料電池に水素を放出することを可能にする。
【0144】
1又は複数の実施形態では、上記合金は、30バールにおいて、少なくとも1.5重量%、少なくとも1.6重量%、少なくとも1.7重量%、少なくとも1.8重量%、少なくとも1.9重量%、又は少なくとも2重量%、又は少なくとも2.25重量%、又は少なくとも2.5重量%、又は少なくとも2.75重量%、又は少なくとも3重量%の可逆的な水素吸蔵量を有する。
【0145】
1又は複数の実施形態では、上記合金は、環境温度で、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、又は少なくとも95%の効率で、水素を吸蔵することが可能である。
【0146】
1又は複数の実施形態では、水素吸蔵合金は、式TiZrMnCr(VFe)を有し、
Mは、V、Fe、Cu、Co、Mo、Al、La、Ni、Ce、及びHoのうちの1又は複数から選択される修飾元素であり;
xは0.6~1.1であり;
yは0~0.4であり;
zは0.9~1.6であり;
uは0~1であり;
vは0~0.6であり(好ましくは、vは0.01~0.6である)
wは0~0.4である
【0147】
1又は複数の実施形態では、vは0.05~0.6である。1又は複数の実施形態では、VFeは(V0.85Fe0.15)である。1又は複数の実施形態では、xは0.9~1.1である。1又は複数の実施形態では、yは0.1~0.4である。1又は複数の実施形態では、zは1.0~1.6である。1又は複数の実施形態では、uは0.1~1である。1又は複数の実施形態では、wは0.02~0.4である。
【0148】
1又は複数の実施形態では、上記合金はC14ラーベス相構造を有する。
【実施例
【0149】
実施例1:例示的なTiMn1.5合金の製造(実験室規模)
工程1:アーク融解
アーク融解は、不活性高純度雰囲気(例えば、99.99%アルゴン)下、銅ハースるつぼ内で行った。
【0150】
TiMn1.5の場合、チタン及びマンガンを、合金において1:1.5の化学量論比を達成するように融解させる必要がある。融解工程の際は、他の金属からの発煙を低減するために、融解温度が高い金属を最初に融解させる。本実施例では、チタンを最初に融解させ、マンガンを当該チタン金属と密着させておくことで、全てのチタン及びマンガンが共に融解するのに充分な時間、マンガンを融解したチタン金属中に溶け込ませた。この融解工程を6回繰り返し、サイクル毎に合金を叩いて、均質な合金を形成させた。
注1:マンガンはチタンよりもかなり低い温度で融解するため、若干多めな量を使用する必要があった。
注2:チタンは酸素に対する親和性が強いため、チタンの酸化を最小限にするために、上記融解を不活性雰囲気下で行うことが重要である。
【0151】
工程2:焼鈍処理
焼鈍は、高純度不活性雰囲気(99.99%のアルゴン)下、900℃の温度(10℃/分のランプレート)で行った。合金を加熱し、900℃の温度で2~24時間の範囲の期間維持し、合金の均質化を促した。合金はその後自然に放冷させた。
【0152】
工程3:粉砕
合金は、所望により、通常の周囲雰囲気下、約5mmの直径を有する粒子へと粉砕される場合がある。
【0153】
表1は、上記の方法に従って製造された種々の代表的な合金組成をまとめたものである。
【0154】
【表1】
【0155】
実施例2:一般的方法:合金組成の水素吸蔵特性の評価
本発明の水素吸蔵合金に対し、その水素吸収特性を求めるための試験を行った。吸収-放出キネティクス及び圧力-組成 温度(PCT)を測定するために、これらの物質を、シーベルト社(Sievert)製装置の原理に基づいた自動ガス収着装置に設置した。容器内に配置された上記物質は、10℃に維持された水浴の補助により一定の温度に維持される。全ての合金について、水素吸収-放出速度を、それぞれ30~1バールのHガス(99.999%の純度)圧下で、測定した。PCT測定は、少量の漸増量の2~5バールのHガス圧(吸収の場合は漸増量、放出の場合は漸減量)を供給することにより実行した。最大100バールのHガス圧まで、Ti1.1CrMn系合金及びTiMn1.5系合金の水素吸蔵量を求めた。(注:Ti1.1CrMnはTiMn1.5と比べてプラトー圧が高いため、Ti1.1CrMnが水素を吸収するためにはより高い圧力が必要となる)。
【0156】
実施例3:TiCrMn系合金の水素吸蔵特性
表2は、例示的なTiCrMn系合金組成の水素吸蔵(吸収/放出)特性をまとめたものである。図2図5及び図13図15は代表的な合金に関する結果を示している。
【0157】
【表2】
【0158】
図2~4及び図13は、TiCrMn系合金の水素吸蔵量を変更する際の、フェロバナジウム(V0.85Fe0.15)の添加の効果を示している。フェロバナジウムの添加は水素吸蔵量を増加させる。図5は、ジルコニウムの添加がプラトー圧特性を調節する、例えば、水素放出/取り込み圧を減少させること、を示している。図14は、TiCrMn系合金の平衡プラトー圧の制御に対するFeの効果を示している。図15は、TiCrMn系合金のプラトーの傾きを制御する際のTiのZrとの部分置換の効果を示している。
【0159】
本実施例によって、TiのZrとの部分置換によるプラトー圧の勾配の制御を含む、水素吸蔵特性の調節に対する、TiCrMn系合金への各種修飾元素の添加及び焼鈍の効果が明らかにされたことから、合金の水素吸蔵特性は特定の温度範囲内で働くように調節可能である。
【0160】
これらの結果は、電解槽及び燃料電池と組み合わせた使用に適合するように合金の水素吸蔵特性を調節するときなどの、VFe(V0.85Fe0.15)、V、Fe、Zr、及びZr-Feの添加の効果を明らかにしており、本発明の多用途性を実証している。
【0161】
実施例4:TiCrMn系合金の水素吸蔵特性
表3は、電解槽及び燃料電池との組み合わせに適した元素の変動を含む、水素容量、プラトー圧、プラトーの傾き、及びヒステリシスの調節に応じた、各TiCrMn合金組成の水素吸蔵特性をまとめたものである。図16及び図17は、代表的な合金に関する結果を示している。
【0162】
【表3】
【0163】
【表4】
【0164】
図16は、TiCrMn系合金のヒステリシスを制御する際のMn/Cr比の効果を示している。これは、ヒステリシスを低減するための微調整の一例であり、例えば、図16に示される例では、ΔP=8バールからΔP=0.8バールに下げることができている。
【0165】
図17は、Ti0.9Zr0.15Mn1.2Cr0.5Co0.1(V0.85Fe0.150.3が、吸蔵量が多く、電解槽及び燃料電池と組み合わされた水素吸蔵に好適なプラトー圧を有することを示している。これは、微調整後の組成の一例であり、30バールの水素圧において2.8重量%の吸蔵量、ΔP=3バールという非常に狭いヒステリシス、そしてフラットなプラトー圧が得られている。
【0166】
これらの結果は、合金組成を変更することで、電解槽及び燃料電池と組み合わせた使用に適合するように水素吸蔵特性を調節できることを明らかにしている。
【0167】
実施例5:TiMn系合金の水素吸蔵特性
表4は、代表的なTiMn系合金組成の水素吸蔵特性をまとめたものであり、また、電解槽及び燃料電池と組み合わせた使用に向けて上記合金の水素吸蔵特性を調節するときなどの、VFe(V0.85Fe0.15)、V、Fe、Zr、及びZr-Feの添加の効果を明らかにしており、本発明の多用途性がさらに実証されている。図19は、TiMn系合金の水素吸蔵量を制御する際の、フェロバナジウム(V0.85Fe0.15)の効果を示している。V0.85Fe0.15の添加は上記合金の吸蔵量を増加させた。
【0168】
【表5】
【0169】
実施例6:TiMn系合金の水素吸蔵特性
表5は、電解槽及び燃料電池との組み合わせのための元素の変動を含む、水素容量、プラトー圧、プラトーの傾き、及びヒステリシスの調節に応じた、TiMn系合金組成の水素吸蔵特性をまとめたものであり、本発明の多用途性がさらに実証されている。図20図22は、代表的な合金に関する結果を示している。
【0170】
【表6】
【0171】
図20は、TiMn系合金のプラトーの傾きを制御する際の焼鈍処理の効果を示している。900℃よりも高い温度、好ましくは1000℃よりも高い温度での焼鈍処理は、TiMn系合金のプラトーの傾きを低減させるのに有効な手段であることが分かった。
【0172】
図21は、TiMn系合金のヒステリシスを制御する際の焼鈍処理の効果を示している。焼鈍処理は、吸収プラトーを減少させ、一方で、放出プラトー圧を増加させることで、ヒステリシスを低減させた。
【0173】
図22は、TiMn1.5(V0.85Fe0.150.45が、吸蔵量が多く、電解槽及び燃料電池と組み合わされた水素吸蔵に好適なプラトー圧を有することを示している。これは、微調整後の組成の一例であり、30バールの水素圧において2.9重量%という有利な吸蔵量、ΔP=4バールという非常に狭いヒステリシス、そしてフラットなプラトー圧が得られている。
【0174】
実施例7:TiCrMn系合金及びTiMn系合金のXRD分析
アーク融解によって得られた代表的な合金を、45kV、40mAで作動するX線回折(XRD)システム又はPhilips X’pert多目的XRDシステムにより、単色化したCu Kα線(λ=1.541Å)を用いて、特性評価した。
【0175】
図18は、Ti0.9Zr0.15Mn1.2Cr0.5Co0.1(V0.85Fe0.150.3のXRDパターンを示しており、当該合金のC14ラーベス相が示されている。これは、本発明のこの新規のTiCrMn合金ファミリーの典型的な回析パターンであり、燃料電池及び電解槽の要件を満たせる水素吸蔵特性を可能にする好ましい結晶構造を示している。
【0176】
図23は、1100℃で焼鈍されたTiMn1.5(V0.85Fe0.150.5のXRDパターンを示しており、当該合金のC14ラーベス相が示されている。これは、本発明の新規合金TiMnファミリーの典型的な回析パターンである。
【0177】
実施例8:さらなる水素特性
図24は、Ti0.9Zr0.15Mn1.2Cr0.5Co0.1(V0.85Fe0.150.3合金のサイクルを示しており、有利な点として、150サイクル後は分解が示されていない。これは、上記合金が90%超の効率を有し、その吸蔵量を失わず、水素を完全に放出/吸収することを示す、長寿命サイクルの一例である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
【国際調査報告】