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特表2022-543649複合溶液中の分析物の結合動態を測定するためのシステムおよび方法
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  • 特表-複合溶液中の分析物の結合動態を測定するためのシステムおよび方法 図1
  • 特表-複合溶液中の分析物の結合動態を測定するためのシステムおよび方法 図2-1
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  • 特表-複合溶液中の分析物の結合動態を測定するためのシステムおよび方法 図5A
  • 特表-複合溶液中の分析物の結合動態を測定するためのシステムおよび方法 図5B
  • 特表-複合溶液中の分析物の結合動態を測定するためのシステムおよび方法 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-13
(54)【発明の名称】複合溶液中の分析物の結合動態を測定するためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20221005BHJP
   C12Q 1/6825 20180101ALI20221005BHJP
   C12Q 1/6816 20180101ALI20221005BHJP
   G01N 33/557 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
G01N33/543 541A
C12Q1/6825 Z
C12Q1/6816 Z
G01N33/557
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022507544
(86)(22)【出願日】2020-08-05
(85)【翻訳文提出日】2022-03-25
(86)【国際出願番号】 US2020045032
(87)【国際公開番号】W WO2021026251
(87)【国際公開日】2021-02-11
(31)【優先権主張番号】62/883,515
(32)【優先日】2019-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
3.Blu-ray
(71)【出願人】
【識別番号】513220126
【氏名又は名称】マグアレイ,インコーポレイテッド
【住所又は居所原語表記】521 COTTONWOOD DRIVE, SUITE 121, MILPITAS, CA 95035, UNITED STATES OF AMERICA
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】ユ,ヘン
(72)【発明者】
【氏名】オスターフェルド,セバスチャン,ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】チューズリー,カリディップ
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QQ03
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR48
4B063QR53
4B063QR56
4B063QR90
4B063QS34
4B063QX10
(57)【要約】
分子結合相互作用の結合動態パラメータを定量的に決定するための方法(例えば、決定に複合試料が含まれる場合)が提供される。本方法の実施形態の態様は、磁気標識された分子を含むアッセイ混合物と接触する磁気センサを含む複合試料を含む磁気センサデバイスを作成して、検出可能な分子結合相互作用を生成することと、磁気センサからリアルタイムシグナルを取得することと、リアルタイムシグナルから分子結合相互作用の結合動態パラメータを定量的に決定することとを含む。また、本方法で使用するために構成されたシステムおよびキットも提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子結合相互作用の結合動態パラメータを定量的に決定する方法であって、
磁気標識された分子を含む1重量%以上の複合試料を含むアッセイ混合物と接触する磁気センサを含む磁気センサデバイスを作成して、検出可能な分子結合相互作用を生成することと、
前記磁気センサから、リアルタイムシグナルを取得することと、
前記リアルタイムシグナルから、前記分子結合相互作用の結合動態パラメータを定量的に決定することと
を含む、方法。
【請求項2】
前記複合試料が、血液試料である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記複合試料が、全血である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記血液試料が、血漿である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記血液試料が、血清である、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記複合試料が、生物由来の非血液流体である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記生物由来の非血液流体が、脳脊髄液、尿、または唾液である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記複合試料が、細胞培養物または組織試料である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記複合試料が、ヒト、霊長類、サル、ショウジョウバエ、ラット、マウス、ブタ、またはイヌから得られるか、またはそれらに由来する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記複合試料が、ヒトから得られるか、またはヒトに由来する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記アッセイ混合物が、10重量%以上の前記複合試料を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記アッセイ混合物が、50重量%以上の前記複合試料を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記アッセイ混合物が、95重量%以上の前記複合試料を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記アッセイ混合物が、洗浄剤、防腐剤、緩衝液、界面活性剤、乳化剤、洗剤、可溶化剤、溶解剤、および安定化剤から選択される1つ以上の追加の構成要素を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記アッセイ混合物が、0.1重量%以上の前記界面活性剤を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記アッセイ混合物が、1重量%以上の前記界面活性剤を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記界面活性剤が、ポリソルベート20である、請求項14~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記アッセイ混合物が、緩衝液を含む、請求項14~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記緩衝液が、ウシ血清アルブミンを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記リアルタイムシグナルから決定される前記結合動態パラメータと、対照から決定される結合動態パラメータとの間の差が、20倍以下である、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記対照が、表面プラズモン共鳴によって決定される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記リアルタイムシグナルから決定される前記結合動態パラメータと、前記対照から決定される前記結合動態パラメータとの間の差が、5倍以下である、請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
前記リアルタイムシグナルから決定される前記結合動態パラメータと、前記対照から決定される前記結合動態パラメータとの間の差が、2倍以下である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記磁気標識された分子を含む1重量%以下の前記複合試料を含む第2のアッセイ混合物と接触する第2の磁気センサを含む第2の磁気センサデバイスを作成して、前記検出可能な分子結合相互作用を生成することと、
前記第2の磁気センサから、第2のリアルタイムシグナルを取得することと、
前記第2のリアルタイムシグナルから、前記分子結合相互作用の第2の結合動態パラメータを定量的に決定することと
をさらに含み、
前記結合動態パラメータと、前記第2の結合動態パラメータとの間の差が、10倍以下である、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記結合動態パラメータと、前記第2の結合動態パラメータとの間の差が、2倍以下である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記リアルタイムシグナルから、前記リアルタイムシグナルの平滑化された微分係数を生成することをさらに含む、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記リアルタイムシグナルの前記平滑化された微分係数が、単一の符号の変化のみを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記リアルタイムシグナルから、前記リアルタイムシグナルおよび平滑化されたリアルタイムシグナルの平滑化された微分係数の絶対値を生成することをさらに含む、請求項1~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記平滑化されたリアルタイムシグナルが、不連続性を含まず、前記不連続性は、前記リアルタイムシグナルの前記平滑化された微分係数の前記絶対値が、前記リアルタイムシグナルの前記平滑化された微分係数の平均絶対値の5倍以上であるところに位置している、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記不連続性は、前記リアルタイムシグナルの前記平滑化された微分係数の前記絶対値が、前記リアルタイムシグナルの前記平滑化された微分係数の前記平均絶対値の25倍以上であるところに位置している、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記不連続性は、前記リアルタイムシグナルの前記平滑化された微分係数の前記絶対値が、前記リアルタイムシグナルの前記平滑化された微分係数の前記平均絶対値の100倍以上であるところに位置している、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記結合動態パラメータが、結合速度定数(k)である、請求項1~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記結合動態パラメータが、解離速度定数(k)である、請求項1~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記結合動態パラメータが、拡散律速速度定数(k)である、請求項1~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記磁気センサが、前記磁気標識された分子によって特異的に結合される分子を含み、前記生成することが、前記磁気標識された分子を前記磁気センサに適用することを含む、請求項1~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記磁気センサが、捕捉プローブを含み、前記捕捉プローブおよび前記磁気標識された分子が、各々、分子に特異的に結合し、前記生成することが、前記分子、次いで、前記磁気標識された分子を、前記磁気センサに順次適用することを含む、請求項1~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記磁気センサが、捕捉プローブを含み、前記捕捉プローブおよび前記磁気標識された分子が、各々、分子に特異的に結合し、前記生成することが、前記分子および前記磁気標識された分子を含む反応混合物を生成し、次いで、前記反応混合物を前記磁気センサに適用することを含む、請求項1~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記磁気センサが、スピンバルブセンサである、請求項1~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記磁気センサが、磁気トンネル接合センサである、請求項1~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
2つ以上の異なる分子結合相互作用の結合動態パラメータを定量的に決定する方法であって、
各異なる分子結合相互作用が、異なる磁気標識された分子を含み、
磁気標識された分子を含む1重量%以上の複合試料を含むアッセイ混合物と各々接触する2つ以上の異なる磁気センサを含む磁気センサデバイスを作成して、2つ以上の異なる分子結合相互作用を生成することと、
各磁気センサから、リアルタイムシグナルを取得することと、
前記リアルタイムシグナルから、前記2つ以上の異なる分子結合相互作用の各々の結合動態パラメータを定量的に決定することと
を含む、方法。
【請求項41】
前記結合動態パラメータが、結合速度定数(k)である、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記結合動態パラメータが、解離速度定数(k)である、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
前記結合動態パラメータが、拡散律速速度定数(k)である、請求項40に記載の方法。
【請求項44】
前記分子結合相互作用が、核酸ハイブリダイゼーション相互作用、タンパク質-タンパク質相互作用、受容体-リガンド相互作用、酵素-基質相互作用、およびタンパク質-核酸相互作用からなる群から選択される結合相互作用である、請求項40に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
生物学的プロセスは、第1の分子および第2の分子の対間の分子相互作用によって決定される。かかる分子相互作用の例としては、核酸ハイブリダイゼーション相互作用、タンパク質-タンパク質相互作用、タンパク質-核酸相互作用、酵素-基質相互作用、ならびに受容体-リガンド相互作用(例えば、抗体-抗原相互作用および受容体-アゴニストまたはアンタゴニスト相互作用)が挙げられる。DNAハイブリダイゼーション、抗原-抗体結合、およびDNA-タンパク質相互作用の親和性ベースの感知は、すべて、基礎科学研究、臨床診断、生体分子工学、および薬物設計において重要な役割を果たすことが示されている。
【0002】
最先端の技術が進歩するにつれて、分子同一性および反応の詳細を決定するための、正確で、感度が高く、高スループットで、迅速な方法に対する要求は、進化する分析方法に対して常に圧力をかけている。これらの差し迫ったニーズを満たすために、研究者は希少分子の検出の感度を向上させようと分子標識に目を向けた。しかしながら、かかる標識は、拡散および立体現象を変化させる可能性がある。加えて、高いスループット、または速度の要件は、多くの場合、古典的な平衡法の使用を禁止するため、反応速度、拡散現象、および表面固定の影響の詳細な理解が、有意義な反応パラメータの抽出に不可欠になる。
【0003】
所与の分子相互作用の動態を評価する場合、様々な定量的な動態パラメータが目的となり得る。目的の定量的動態パラメータの1つは、結合速度定数である。結合速度定数(すなわち、k、kon)とは、抗体および抗原の結合親和性など、平衡にある2つの分子の結合親和性を記述する数学的定数である。別の目的の定量的動態パラメータは、解離速度定数(すなわち、k、koff)である。解離速度定数とは、受容体/リガンド複合体がその成分の分子に解離するときのように、より大きな物体がより小さな成分に可逆的に分離(解離)する傾向を説明する数学的定数である。第3の目的の動態パラメータは、拡散速度定数kであり、これは、標識された分子がセンサに向かって拡散する速度を記述する数学的定数である。加えて、目的の結合相互作用に関与しないタンパク質または他の分子は、かかるパラメータの正確な測定を阻害する可能性がある。
【発明の概要】
【0004】
分子結合相互作用の結合動態パラメータを定量的に決定するための方法(例えば、決定に複合試料(complex sample)が含まれる場合)が提供される。本方法の実施形態の態様は、検出可能な分子結合相互作用を生成するために、磁気標識された分子を含む複合試料を含むアッセイ混合物と接触する磁気センサを含む磁気センサデバイスを作成することと、磁気センサからリアルタイムシグナルを取得することと、リアルタイムシグナルから分子結合相互作用の結合動態パラメータを定量的に決定することとを含む。また、本方法で使用するために構成されたシステムおよびキットも提供される。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1】本開示の実施形態による、抗体-抗原結合の概略図(図案は縮尺通りではない)を示す。
図2-1】本開示の実施形態の範囲内でのセンサの作成および検出の概略図を示す。磁性ナノ粒子が、標識として使用される。
図2-2】本開示の実施形態の範囲内でのセンサの作成および検出の概略図を示す。磁性ナノ粒子が、標識として使用される。
図3】実施形態の概略図を示し、プレイタンパク質で被覆されたMNPが、ベイトタンパク質で被覆されたセンサと接触して、磁気センサを作成する。
図4】抗体5405を用いた検出のために磁気センサから収集されたリアルタイムデータを示す。アッセイ混合物は、緩衝液、50%の血漿、および80%の血漿を含む。結合プロセスおよび解離プロセスに対応する最良適合の線も示されている。
図5A】異なる濃度のウシ血清アルブミン(BSA)を有する従来の表面プラズモン共鳴(SPR)機器で収集されたリアルタイムデータを示す。
図5B図5Aに示されるリアルタイムデータの一部の拡大図を示す。
図6】0.05%、0.5%、1%、および2%の濃度のTween 20(すなわち、ポリソルベート20)を含む緩衝液中の抗体5405を用いた検出についての、磁気センサから収集されたリアルタイムデータを示す。結合プロセスおよび解離プロセスの最良適合の線も示されている。
【発明を実施するための形態】
【0006】
分子結合相互作用の結合動態パラメータを定量的に決定するための方法(例えば、決定に複合試料が含まれる場合)が提供される。本方法の実施形態の態様は、検出可能な分子結合相互作用を生成するために、磁気標識された分子を含む複合試料を含むアッセイ混合物と接触する磁気センサを含む磁気センサデバイスを作成することと、磁気センサからリアルタイムシグナルを取得することと、リアルタイムシグナルから分子結合相互作用の結合動態パラメータを定量的に決定することとを含む。また、本方法で使用するために構成されたシステムおよびキットも提供される。
【0007】
本発明がより詳細に説明される前に、本発明は、説明される特定の実施形態が当然ながら変化し得るため、それらに限定されないことを理解されたい。本明細書で使用される用語は、単に特定の実施形態を説明する目的のためであり、本発明の範囲を限定することを意図するものではなく、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることも理解されたい。
【0008】
値の範囲が提供される場合、文脈が別途明確に指示しない限り、その範囲の上限と下限の間の、下限の単位の10分の1までの各介在値と、その記載された範囲内の任意の他の記載値または介在値とは、本発明に包含されることが理解される。これらのより小さな範囲の上限および下限は、独立して、より小さな範囲に含まれ得、また、記載された範囲内の任意の特に除外された限界を条件として、本発明に包含される。記載された範囲が、限界の一方または両方を含む場合、それらの含まれる限界のいずれかまたは両方を除外する範囲もまた、本発明に含まれる。
【0009】
本明細書では、「約」という用語が先行する数値を伴う、特定の範囲が提示される。「約」という用語は、本明細書では、それが先行する正確な数、ならびにその用語が先行する数に近いか、またはほぼその数の文字通りの支持を提供するために使用される。数が、具体的に列挙された数に近いか、またはほぼそうであるかを決定する際に、列挙されていない数は、それが提示される文脈において、具体的に列挙された数と実質的に同等の数を提供する数であり得る。
【0010】
別途定義されない限り、本明細書において使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書において記載されているものと類似または同等の任意の方法および材料もまた、本発明の実施または試験において使用することができるが、代表的な方法および材料を以下に記載する。
【0011】
本明細書で引用されるすべての刊行物および特許は、個々の刊行物または特許が参照により組み込まれることが具体的かつ個別に示されているかのように、参照により本明細書に組み込まれ、刊行物が引用されているものと関連した方法および/または材料を開示し、説明するために、参照により本明細書に組み込まれる。任意の刊行物の引用は、出願日以前のその開示のためのものであり、先行発明のために、本発明がかかる刊行物を先行する権利がないことを認めるものと解釈されるべきではない。さらに、提供される公開日は、実際の公開日とは異なる場合があり、独立して確認する必要があり得る。
【0012】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形の「a」、「an」、および「the」は、文脈が別途明確に指示しない限り、複数の指示対象を含むことに留意されたい。特許請求の範囲は、いずれの任意選択的な要素を除外するように起草され得ることにさらに留意されたい。したがって、この記述は、特許請求の範囲の要素の列挙、または「否定的」限定の使用に関連して、「単に(solely)」、「のみ(only)」などのかかる排他的な用語を使用するための先行詞としての役割を果たすことが意図される。
【0013】
明確にするために、別個の実施形態の文脈で説明される本発明の特定の特徴もまた、単一の実施形態で組み合わせて提供され得ることが理解される。逆に、簡潔にするために、単一の実施形態の文脈で説明される本発明の様々な特徴もまた、別個にまたは任意の好適な部分的な組み合わせ(sub-combination)で提供され得る。実施形態のすべての組み合わせは、本発明によって具体的に包含され、各々およびすべての組み合わせが個別にかつ明示的に開示されているかのように、かかる組み合わせが操作可能なプロセスおよび/またはデバイス/システム/キットを包含する程度で、本明細書に開示される。加えて、そのような変数を説明する実施形態に列挙されるすべての部分的な組み合わせもまた、本発明によって具体的に包含され、化学基のかかる部分的な組み合わせの各々およびすべてが本明細書において個別にかつ明示的に開示されているかのように本明細書に開示される。
【0014】
本開示を読むと当業者に明らかとなるように、本明細書に記載および図示される個々の実施形態の各々は、別個の構成要素および特徴を有し、本発明の範囲もしくは趣旨から逸脱することなく、他のいくつかの実施形態のいずれかの特徴から容易に分離され得るか、またはそれと組み合わせられ得る。任意の列挙された方法は、列挙された事象の順序で、または論理的に可能である任意の他の順序で、実行することができる。
【0015】
本発明の実施形態をさらに説明するにあたって、まず、本方法の実施形態の態様が、より詳細に説明される。次に、本発明の実施方法で使用され得るシステムおよびキットの実施形態が概説される。
【0016】
方法
上記で要約したように、本発明の実施形態は、複合試料中の目的の分子結合相互作用の結合動態パラメータを定量的に決定する方法を対象とする。目的の結合相互作用は、ある特定の実施形態では、第1の分子と第2の分子との間の相互作用、例えば、第1の生体分子と第2の生体分子との間の結合相互作用である。例えば、第1の分子および第2の分子のうちの1つは、磁気的に標識された分子であってもよく、第1の分子および第2の分子のうちの1つは、磁気的に標識された分子に特異的に結合する分子であってもよい。「定量的に決定する」とは、目的の結合動態パラメータを量の観点から、例えば数値として表すことを意味する。「結合動態パラメータ」とは、所与の分子相互作用を少なくとも部分的に定義し、その挙動を定義するために用いることができる測定可能な結合動態因子を意味する。目的の結合動態パラメータには、結合速度定数(すなわち、k、kon)、解離速度定数(すなわち、k、koff)、拡散律速速度定数(すなわち、k)、活性化エネルギー(すなわち、E)、輸送パラメータ(例えば、拡散率)が含まれるが、これらに限定されない。
【0017】
上記で要約したように、本方法は、以下のステップ、
1)磁気標識分子を含むアッセイ混合物と接触する磁気センサデバイスを作成することと、
2)磁気センサデバイスから、リアルタイムシグナルを取得することと、
3)リアルタイムシグナルから、分子結合相互作用の結合動態パラメータを定量的に決定することと
を含み得る。
【0018】
ここで、これらのステップの各々について、より詳細に説明する。
【0019】
磁気標識分子を含むアッセイ混合物と接触する磁気センサデバイスの作成
本方法の態様は、磁気的に標識された分子を含むアッセイ混合物と接触する磁気センサデバイスを作成することを含む。本方法は、磁気センサが、目的の結合相互作用のメンバー分子(すなわち、目的の結合相互作用の結合対メンバー)および磁気標識を含む組成物(例えば、アッセイ混合物)と接触する、デバイスまたは構築物を作成することを含み、磁気標識は、目的の結合相互作用のメンバー分子のうちの1つの部分もしくはドメイン、または別個の分子(例えば、目的の結合相互作用の2つのメンバー分子のうちの1つに特異的に結合する第3の分子)の成分であり得る。磁気センサと接触する組成物またはアッセイ混合物において、磁気標識は、結合対メンバーのうちの1つと、例えば、共有結合または非共有結合のいずれかで安定して結合して、磁気標識された分子を生成し得る。以下でさらに説明するように、磁気標識された分子を含むアッセイ混合物と接触する磁気センサデバイスを作成するステップは、例えば、結合対メンバーが互いに接触する場合、および/または磁気センサ、デバイスに対する結合対メンバーの構成などの点で、様々な異なるプロセスの部分的な組み合わせを含み得る。
【0020】
結合対
本明細書に記載の方法に従って定量的に動態的に分析される所与の結合相互作用は、第1の生体分子および第2の生体分子などの結合対の分子から構成され得る。結合対の分子は、目的の結合相互作用に応じて大きく変化し得る。目的の結合相互作用には、結合対の分子間の任意の相互作用が挙げられ、結合相互作用は、結合相互作用の環境条件下で結合対の分子間で特異的に生じる。目的の結合相互作用の例としては、核酸ハイブリダイゼーション相互作用、タンパク質-タンパク質相互作用、タンパク質-核酸相互作用、酵素-基質相互作用、および受容体-リガンド相互作用(例えば、抗体-抗原相互作用および受容体-アゴニストまたはアンタゴニスト相互作用)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
目的の分子結合相互作用を有する分子の例としては、有機または無機の低分子であり得る、バイオポリマーおよび低分子が挙げられるが、これらに限定されない。「バイオポリマー」は、1つ以上の種類の反復単位のポリマーである。生体高分子は、(合成的に作成されてもよいが)生物システムに見られ、ペプチド、ポリヌクレオチド、および多糖類、ならびにアミノ酸類似体もしくは非アミノ酸基、またはヌクレオチド類似体もしくは非ヌクレオチド基で構成されるか、またはそれらを含むかかる化合物を含んでいてもよい。したがって、バイオポリマーには、従来の骨格が、天然に存在しない骨格または合成骨格で置き換えられたポリヌクレオチド、および従来の塩基のうちの1つ以上が、ワトソン-クリック型の水素結合相互作用に関与することができる基(天然または合成)で置き換えられた核酸(または合成または天然に存在する類似体)が含まれる。例えば、「バイオポリマー」は、DNA(cDNAを含む)、RNA、オリゴヌクレオチド、およびPNA、ならびに米国特許第5,948,902号およびその中で引用されている参照文献に記載されている他のポリヌクレオチドを含み得る。「バイオモノマー」は、同じまたは他のバイオモノマーと連結されてバイオポリマーを形成し得る単一の単位を指す(例えば、2つの連結基を有する単一のアミノ酸またはヌクレオチドで、一方または両方が除去可能な保護基を有し得る)。
【0022】
本明細書で使用される「ペプチド」という用語は、あるアミノ酸のα-カルボキシル基と別の基のα-アミノ基との間のアミド形成によって生成される任意のポリマー化合物を指す。本明細書で使用される「オリゴペプチド」という用語は、約10~20個未満の残基(すなわち、アミノ酸モノマー単位)を有するペプチドを指す。本明細書で使用される「ポリペプチド」という用語は、10~20個を超える残基を有するペプチドを指す。本明細書で使用される「タンパク質」という用語は、約50個を超える残基の特定の配列のポリペプチドを指し、D型およびL型、修飾形態などを含む。「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は、互換的に使用され得る。
【0023】
本明細書で使用される「核酸」という用語は、ヌクレオチド(例えば、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチド)、または合成的に生成された化合物(例えば、米国特許第5,948,902号およびその中で引用されている参照文献に記載されているPNA)であって、天然に存在する2つの核酸の配列に類似して配列特異的な様式で、天然に存在する核酸とハイブリダイゼーションすることができる(例えば、ワトソン-クリック塩基対形成の相互作用に関与することができる)化合物で構成されるポリマーを意味する。核酸は、任意の長さ、例えば、2塩基以上、10塩基以上、100塩基以上、500塩基以上、1000塩基以上(10,000塩基以上を含む)の核酸であり得る。本明細書で使用される「ポリヌクレオチド」という用語は、概して、約100ヌクレオチドを超える長さのヌクレオチドモノマーで構成される一本鎖または二本鎖のポリマーを指す。ポリヌクレオチドは、単鎖または多重鎖の構成を含み、1本以上の鎖は、別の鎖と完全に整列する場合と完全に整列しない場合とがある。本明細書で使用される「リボ核酸」および「RNA」という用語は、リボヌクレオチドからなるポリマーを意味する。本明細書で使用される「デオキシリボ核酸」および「DNA」という用語は、デオキシリボヌクレオチドからなるポリマーを意味する。本明細書で使用される「オリゴヌクレオチド」という用語は、約10~約200ヌクレオチド長(例えば、約25~約175ヌクレオチド長、約50~約160ヌクレオチド長(例えば、150ヌクレオチド長)を含む)の一本鎖ヌクレオチドマルチマーを表す。
【0024】
場合によっては、結合対の分子は、リガンドおよび受容体であり、所与の受容体またはリガンドは、バイオポリマーであってもなくてもよい。本明細書で使用される「リガンド」という用語は、目的の化合物を、共有結合的に、またはその他、化学的に結合することができる部分を意味する。リガンドは、天然物または人工物であり得る。リガンドの例としては、細胞膜受容体のアゴニストおよびアンタゴニスト、毒素(toxin)および毒素(venom)、ウイルスエピトープ、ホルモン、オピエート、ステロイド、ペプチド、酵素基質、補因子、薬物、レクチン、糖、オリゴヌクレオチド、核酸、オリゴ糖、タンパク質などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
本明細書で使用される「受容体」という用語は、リガンドに対して親和性を有する部分である。受容体は、天然物または人工物であり得る。それらは、それらの未変化の状態で、または他の種との凝集体として使用されてもよい。受容体は、直接的にまたは特異的結合物質を介して、結合メンバーに共有結合的または非共有結合的に結合され得る。受容体の例としては、抗体、細胞膜受容体、モノクローナル抗体、および特定の抗原決定基に反応性の抗血清、ウイルス、細胞、薬物、ポリヌクレオチド、核酸、ペプチド、補因子、レクチン、糖、多糖類、細胞膜、オルガネラなどが挙げられるが、これらに限定されない。受容体は、当該技術分野において、抗リガンドと称されることがある。本明細書で受容体という用語が使用される場合、意味の違いは意図されない。「リガンド・受容体対」は、2つの分子が分子認識を通して結合して複合体を形成する場合に形成される。
【0026】
図3に示されるように、磁性ナノ粒子(MNP)は、プレイタンパク質で被覆され得、磁気センサは、ベイトタンパク質で被覆され得る。プレイ(prey)タンパク質とベイト(bait)タンパク質との間の相互作用は、結合動態パラメータが決定される相互作用であり得る。場合によっては、プレイタンパク質は、完全な抗体であり得る。他の場合では、プレイタンパク質は、抗体の断片であり得る。
【0027】
実際、本方法では、結合対の様々な種類の各結合メンバーを用いることができる。場合によっては、結合対の第1のメンバーは、抗体であり、結合対の第2のメンバーは、対応する抗原である。かかる抗体および抗原は、例えば、天然に存在する完全な抗体もしくは抗原であってもよく、または抗体の断片もしくは抗原の断片が使用されてもよく、あるいはその両方であってもよい。場合によっては、結合対は、ストレプトアビジンおよびビオチンを含んでもよい。
【0028】
磁気センサデバイス
目的の磁気センサデバイスは、センサの表面に結合する磁気標識に応答して電気シグナルを生成するデバイスである。目的の磁気センサデバイスには、巨大磁気抵抗(GMR)デバイスを含む、磁気抵抗センサデバイスが含まれるが、これらに限定されない。目的のGMRデバイスには、スピンバルブ検出器、および磁気トンネル接合(MTJ)検出器が含まれるが、これらに限定されない。
【0029】
スピンバルブ検出器
場合によっては、磁気センサは、スピンバルブ検出器である。スピンバルブ検出器は、非磁性層(例えば、銅)によって隔てられた2つの強磁性層の金属多層薄膜構造である。ピン止め層(pinned layer)と呼ばれる一つの強磁性層は、その磁化がある方向にピン止めされており、一方、自由層と呼ばれる他の強磁性層の磁化は、印加された磁場の下で自由に回転させることができる。スピンバルブの電気抵抗は、ピン止め層の磁化に対する自由層の磁化の相対的な向きに依存する。2つの磁化が平行な場合、抵抗が最も低く、逆平行な場合、抵抗が最も高い。抵抗の相対的な変化は、磁気抵抗(MR)比と呼ばれている。場合によっては、スピンバルブのMR比は、小さな磁場(例えば、約100Oe)において、約10%以上に達し得る。したがって、スピンバルブは、センサ表面に結合する磁気標識された分子の検出のための感知要素として機能することができる。
【0030】
ある特定の実施形態では、スピンバルブは、約1%~約20%、約3%~約15%など、約5%~約12%を含む、磁気抵抗(MR)比を有する。したがって、ある特定の実施形態では、スピンバルブは、狭い帯域幅(すなわち、約1Hz以下)で、またはロックイン検出で、約10nmサイズの単一の磁気標識を検出することができる。これらの場合、ノイズ帯域幅を狭めることで、単一のナノ粒子の検出でさえ十分なシグナル対ノイズ比(SNR)が実現される。
【0031】
スピンバルブ検出は、面内モードで行われ得る(例えば、Li,et al.,J.Appl.Phys.,vol.93(10):7557(2003))を参照されたい)。他の実施形態では、垂直モードは、検出システム内のACティックリング場による電磁干渉(EMI)シグナルが検出可能である場合、使用され得る。EMIシグナルは、ACティックリング場の周波数fを中心とする傾向があるため、周波数2fでロックイン検出を行うことによって、実質的に排除または低減することができる。さらに、場合によっては、2ブリッジ回路を使用して、残りのEMIを実質的に除去することができる。2つの異なる周波数でのAC変調センス電流およびACティックリング場を用いた他のシグナル取得および処理方法が使用され得る(例えば、S-J Han,H.Yu,B.Murmann,N.Pourmand,and S.X.Wang,IEEE International Solid-State Circuits Conference(ISSCC)Dig.Tech.Papers,San Francisco Marriott,CA,USA,February 11-15,2007を参照されたい)。
【0032】
ある特定の実施形態では、磁気標識によるスピンバルブ検出器からのシグナルは、スピンバルブ自体の幾何学的形状およびバイアス場に加えて、磁気標識とスピンバルブの自由層との間の距離に依存する。単一の磁気標識からの検出器電圧シグナルは、粒子の中心からスピンバルブ自由層の中間面までの距離が増加するにつれて減少する。
【0033】
ある特定の実施形態では、磁性粒子からの感知磁場は、センサと粒子との間の距離とともに単調に減少するため、磁気標識の検出を容易にするために、スピンバルブの自由層は、ピン止め層の上にある。スピンバルブを保護するパッシベーション層の厚さを含む、磁気標識と自由層の上面との間の距離を最小化することで、磁性粒子の検出が容易になり得る。
【0034】
ある特定の実施形態では、スピンバルブセンサは、1つ以上の検出器表面上にパッシベーション層を含み得る。一部の実施形態では、検出器は、薄い(例えば、60nm以下、例えば、50nm以下、40nm以下、30nm以下、20nm以下、または10nm以下を含む)パッシベーション層を組み合わせる(例えば、それらの実施形態では、検出器は、50nm以下の平均直径を有する磁性ナノ粒子タグとともに用いられる)。ある特定の実施形態では、より大きなミルコンサイズの磁性粒子が用いられる。場合によっては、本開示の検出器とともに使用するために好適なパッシベーションの薄層は、約1nm~約10nm、例えば、約1nm~約5nm、例えば、約1nm~約3nmを含む厚さを有することができる。ある特定の実施形態では、本開示の検出器との使用に好適なパッシベーションの薄層は、約10nm~約50nm、例えば、約20nm~約40nmなどの、約25nm~約35nmを含む厚さを有することができる。パッシベーション層には、Ta、Au、またはそれらの酸化物、それらの組み合わせなどが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0035】
スピンバルブ検出器およびその使用のためのプロトコルに関するさらなる詳細は、米国特許公開第2005/0100930号および同第2009/0104707号に提供されている(これらの開示は、参照により本明細書に組み込まれる)。
【0036】
磁気トンネル接合検出器
ある特定の実施形態では、磁気センサは、磁気トンネル接合(MTJ)検出器である。MTJ検出器は、非磁性スペーサーが、センス電流が膜面に垂直に流れるアルミナまたはMgOなどの絶縁層(例えば、絶縁性トンネル障壁)で置き換えられていることを除いて、スピンバルブ検出器と同様に構築される。2つの強磁性電極間の電子トンネリングは、2つの強磁性電極の相対磁化によって制御され、すなわち、トンネル電流は、それらが平行である場合は高く、逆平行である場合は低くなる。ある特定の実施形態では、MTJ検出器は、底部電極、トンネル障壁のいずれかの側に配置された磁性多層膜、および上部電極を含む。場合によっては、MTJ検出器は200%を超える磁気抵抗比を有し(S.Ikeda,J.Hayakawa,Y.M.Lee,F.Matsukura,Y.Ohno,T.Hanyu,and H.Ohno,IEEE Transactions on Electron Devices,vol.54,no.5,991-1001(2007))、大きなデバイス抵抗により、より高い出力電圧シグナルが得られる。
【0037】
ある特定の実施形態では、MTJ検出器は、二重層の上部電極を有する。第1の層は、金属層(例えば、金層)であり得、この層は、場合によっては、60nm以下、例えば、50nm以下、40nm以下、30nm以下、20nm以下、または10nm以下の厚さを有してもよい。第2の層は、導電性金属、例えば、銅、アルミニウム、パラジウム、パラジウム合金、パラジウム酸化物、白金、白金合金、白金酸化物、ルテニウム、ルテニウム合金、ルテニウム酸化物、銀、銀合金、銀酸化物、スズ、スズ合金、スズ酸化物、チタン、チタン合金、チタン酸化物、それらの組み合わせなどであり得る。場合によっては、第2の層における開口部は、MTJよりもわずかに小さいサイズである。ある特定の実施形態では、センサは、使用中に、結合した磁気標識と自由磁性層の上面との間の距離が、5nm~100nm、例えば、5nm~50nm(5nm~30nmを含む)、例えば、5nm~20nm(5nm~10nmを含む)の範囲となるように構成される。場合によっては、この配置は、薄い金電極のみを使用した場合に生じ得る上部電極内の電流集中(例えば、van de Veerdonk,R.J.M.,et al.,Appl.Phys.Lett.,71:2839(1997)を参照されたい)の低減または実質的な防止を促進する。
【0038】
センス電流が膜面に垂直に流れることを除いて、MTJ検出器は、適用された変調場の面内モードまたは垂直モードのいずれかで、スピンバルブ検出器と同様に動作し得る。スピンバルブ検出器に関して上述したように、ある特定の実施形態では、適用される変調場の垂直モードは、EMIを低減するために使用することができ、同様に、薄いパッシベーションも、MTJ検出器に適用される。加えて、MTJ検出器上の薄い金の第1の上部電極はまた、電気伝導、パッシベーション、および特異的な生体分子プローブの付着を促進することができる。
【0039】
ある特定の実施形態では、同じ検出器の幅および粒子検出器の距離で、MTJ検出器は、スピンバルブ検出器よりも大きなシグナルを提供することができる。例えば、接合面積が0.2μm×0.2μm、抵抗面積が1kOhm-μmであり、250mVのバイアス電圧で250%のMRで動作し、H=35Oe、H=100Oe実効値であるMTJ検出器の場合、中心が自由層の中間面から35nm離れている単一の11nm径のCoナノ粒子からの電圧シグナルは、約200μVであり得る。場合によっては、この電圧は、同様のサイズのスピンバルブ検出器の電圧よりも1桁以上大きい。
【0040】
MTJ検出器およびその使用のためのプロトコルに関するさらなる詳細は、米国特許公開第2005/0100930号および同第2009/0104707号に提供されている(これらの開示は、参照により本明細書に組み込まれる)。
【0041】
磁気センサデバイスの構成
磁気センサデバイスは、例えば、センサ構成に関して、デバイスがバッチまたはフロースルーの使用に構成されているか否かなど、様々な異なる構成を有し得る。したがって、目的の分子結合相互作用および磁気標識の結合メンバーの混合物と接触するデバイスの磁気センサを提供する任意の構成を用いてもよい。したがって、磁気センサデバイスの構成には、ウェル構成(センサが、ウェルなどの流体格納構造の底部または壁に付随している場合)、フロースルー構成(例えば、センサが、流体の入力および出力を有するフローセルの壁に付随している場合)などが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0042】
ある特定の実施形態では、目的の磁気センサデバイスは、基板表面に2つ以上の異なる磁気センサを露呈する基板表面を含む。ある特定の実施形態では、磁気センサデバイスは、磁気センサのアレイを有する基板表面を含む。
【0043】
「アレイ(array)」は、アドレス可能な領域(例えば、空間的にアドレス指定可能な領域)の任意の二次元または実質的に二次元(ならびに、三次元)配置を含む。アレイは、アレイ上の特定の所定の位置(すなわち、「アドレス」)に配置された複数のセンサを有する場合、「アドレス可能」である。アレイの特徴(すなわち、センサ)は、介在空間によって分離され得る。任意の所与の基板は、基板の前面に配置された1つ、2つ、4つ、またはそれ以上のアレイを担持することができる。使用に応じて、いずれかまたはすべてのアレイは、互いに同じ標的または異なる標的を感知し得、各々が複数の異なる磁気センサを含んでいてもよい。アレイは、2個以上、4個以上、8個以上、10個以上、50個以上、または100個以上、1000個以上、1万個以上、または10万個以上の磁気センサを含む1つ以上を含み得る。例えば、64個の磁気センサを、8×8のアレイに配置することができる。ある特定の実施形態では、磁気センサは、10cm以下、または5cm以下、例えば、1cm以下、50mm以下を含む、20mm以下、例えば、10mm以下、またはさらにそれ以下の面積を有するアレイに配置され得る。例えば、磁気センサは、10μm×10μm~200μm×200μmの範囲の寸法を有してもよく、100μm×100μm以下、例えば、90μm×90μm以下、例えば50μm×50μm以下の寸法を含む。
【0044】
ある特定の実施形態では、磁気センサは、複数の線形磁気抵抗セグメントを含み得る。例えば、磁気センサは、4以上、例えば、8以上、12以上、または16以上、例えば、32以上、例えば、64以上、または72以上、または128以上の線形磁気抵抗セグメントを含み得る。磁気抵抗セグメントは、各々、1000nm幅以下、例えば、750nm幅以下、または500nm幅以下、例えば、250nm幅以下であり得る。場合によっては、磁気抵抗セグメントは、各々、50nm厚以下、例えば、40nm厚以下、30nm厚以下を含む、または20nm厚以下、例えば、10nm厚以下であり得る。磁気抵抗セグメントは、各々、1000nm長以下、または750nm長以下、または500nm長以下、または250nm長以下、例えば、100nm長以下、または50nm長以下であり得る。
【0045】
磁気抵抗セグメントは、直列に一緒に接続されてもよく、または磁気抵抗セグメントは、並列に一緒に接続されてもよい。ある場合は、磁気抵抗セグメントは、直列および並列に一緒に接続される。これらの例では、2つ以上の磁気抵抗セグメントは、並列に一緒に接続されてもよく、これらの並列に接続された磁気抵抗セグメントの2つ以上のグループは、直列に一緒に接続されてもよい。
【0046】
ある特定の実施形態では、所与のデバイスの磁気センサもしくはセンサの少なくとも一部またはすべては、センサの表面に安定して結合した結合対メンバーを有する。結合対メンバーは、実施される特定のアッセイの性質に応じて変化し得る。したがって、結合対メンバーは、目的の分子結合相互作用の分子に特異的に結合する捕捉プローブ、または目的の分子結合相互作用に関与する分子(例えば、磁気標識された分子に特異的に結合する分子)であり得る。「安定して結合した」とは、結合対メンバーおよびセンサ表面が、使用する条件下で(例えば、アッセイ条件下で)、一過的な期間を超えて、空間内で互いに対してそれらの位置を維持することを意味する。したがって、結合対メンバーおよびセンサ表面は、非共有結合的または共有結合的に、互いに安定して結合することができる。非共有結合性の結合の例としては、非特異的吸着、静電相互作用に基づく結合(例えば、イオン対相互作用)、疎水性相互作用、水素結合相互作用、支持体表面に共有結合的に結合した特異的結合対メンバーによる特異的結合などが挙げられる。共有結合の例としては、結合対メンバーとセンサ表面に存在する官能基(例えば、-OH)との間に形成される共有結合が挙げられ、官能基は、天然に存在し得るか、または導入された連結基のメンバーとして存在し得る。したがって、結合対メンバーは、磁気センサ表面に、吸着、物理吸着、化学吸着、または共有結合され得る。
【0047】
所与のデバイスが2つ以上の磁気センサを含む場合、各センサは、その表面に結合した同じまたは異なる結合対メンバーを有し得る。したがって、磁気標識された分子に結合する異なる捕捉プローブまたは分子は、かかるデバイスのセンサ表面に存在し得、そのため、各磁気センサは、異なる分子に特異的に結合する。また、このようなデバイスは、いかなる結合対メンバーも含まないセンサを含んでもよい(例えば、かかるブランクセンサが、参照または対照の電気シグナル源として機能し得る)。
【0048】
マルチセンサデバイスでは、磁気センサ間に、いかなる分析物特異的プローブも有しない領域が存在してもよい。このようなセンサ間領域は、存在する場合、様々なサイズおよび構成であってもよい。場合によっては、これらのセンサ間領域は、例えば、センサ間領域が疎水性材料および/または流体障壁(壁など)を含む場合、異なるセンサ間の流体の移動を低減または防止するように構成され得る。
【0049】
ある特定の実施形態では、デバイスの基板は、例えば、1つ以上の異なるセンサのアレイを有し得、概して、長方形の固体として成形され(ただし、他の形状も可能である)、1mm以上および150mm以下の長さ、例えば、1mm以上および100mm以下の長さ(例えば、50mm以下または10mm以下の長さ)、1mm以上および150mm以下の幅、例えば、100mm以下の幅(50mm以下または10mm以下の幅を含む)、ならびに0.01mm以上および5.0mm以下の厚さ、例えば、0.1mm以上および2mm以下の厚さ(0.2mm以上および1.5mm以下の厚さ、例えば、0.5mm以上および1.5mm以下の厚さを含む)を有する。
【0050】
電子通信要素(例えば、導電性リード)が存在してもよく、これらは、センサ(複数可)を、デバイス構成要素(例えば、プロセッサ、ディスプレイなど)の「オフチップ」構成要素に電子的に結合するように構成される。
【0051】
以下により詳細に説明されるように、所与の磁気センサデバイスは、上記のように、センサ構造(例えば、アレイ)に加えて、様々な構成要素を含み得る。追加のデバイス構成要素には、シグナル処理構成要素、データ表示構成要素(例えば、グラフィカルユーザインターフェース)、データ入出力デバイス、電源、流体処理コンポーネントなどが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0052】
磁気標識
本方法の実施形態では、任意の便利な磁気標識を用いることができる。磁気標識は、標識部分であり、磁気センサと十分に結合すると、磁気センサによって検出可能であり、磁気センサにシグナルを出力させる。目的の磁気標識は、標識の中心とセンサの表面との間の距離が200nm以下(例えば、100nm以下、50nm以下を含む)である場合、磁気センサと十分に結合し得る。
【0053】
ある特定の実施形態では、磁気標識は、ナノ粒子である。特定の実施形態の実施において有用なナノ粒子は、磁性(例えば、強磁性)コロイド材料および粒子である。磁性ナノ粒子は、高モーメント磁性ナノ粒子であり得、これは、超常磁性ナノ粒子、または2つ以上の層の反強磁性結合高モーメント強磁性体が含まれる合成反強磁性ナノ粒子であってもよい。両方のこれらの種類のナノ粒子は、磁場の不在下で「非磁性」に見え、実質的に凝集しない。特定の実施形態によれば、使用に好適な磁化可能なナノ粒子には、常磁性、超常磁性、強磁性、およびフェリ磁性の材料、ならびにそれらの組み合わせなどの1つ以上の材料が含まれるが、これらに限定されない。
【0054】
ある特定の実施形態では、磁性ナノ粒子(本明細書で磁気タグとも称される)は、小さい残留磁化を有し、そのため、それらが溶液中で凝集しない。小さな残留磁化を有する磁性ナノ粒子の例としては、超常磁性粒子および反強磁性粒子が挙げられる。特定の場合、磁気タグは、約100Oeの磁場の下で、検出可能な磁気モーメントを有する。場合によっては、磁気タグのサイズは、磁気タグが目的の分子間の結合相互作用を妨げないように、標的生体分子のサイズと同等である。ある特定の実施形態では、磁気タグは、形状が実質的に均一であり、生物学的な環境で化学的に安定であり、これは、アッセイ条件におけるそれらの使用を容易にし得る。場合によっては、磁気タグは、生体適合性であり、すなわち、水溶性かつ機能化されており、そのため、それらは、目的の生体分子(例えば、標的分析物に特異的に結合する受容体)に容易に結合することができる。
【0055】
ある特定の実施形態では、磁性ナノ粒子は、Co、Fe、またはCoFeナノ結晶などの高モーメント磁性ナノ粒子であり、室温で超常磁性であり得る。磁性ナノ粒子は、これらに限定されないが、適切な溶液中での塩還元または化合物分解などの化学的経路によって製造することができる。このような磁性ナノ粒子の例としては、S.Sun,and C.B.Murray,J.Appl.Phys.,85:4325(1999)、C.B.Murray,et al.,MRS Bulletin,26:985(2001)、およびS.Sun,H.Zeng,D.B.Robinson,S.Raoux,P.M.Rice,S.X.Wang,and G.Li,J.Am.Chem.Soc.,126,273-279(2004)によって記載されているものが挙げられるが、これらに限定されない。ある特定の実施形態では、磁性ナノ粒子の粒子は、制御されたサイズ(例えば、約5~12nm)で合成することができ、単分散であり、オレイン酸で安定化される。本明細書での使用に好適な磁性ナノ粒子には、Co、Co合金、フェライト、窒化コバルト、酸化コバルト、Co-Pd、Co-Pt、鉄、鉄合金、Fe-Au、Fe-Cr、Fe-N、Fe、Fe-Pd、Fe-Pt、Fe-Zr-Nb-B、Mn-N、Nd-Fe-B、Nd-Fe-B-Nb-Cu、Ni、Ni合金などが含まれるが、これらに限定されない。一部の実施形態では、金の薄層が磁気コアにメッキされるか、またはポリ-L-リジンで被覆されたガラス表面が磁気コアに装着され得る。好適なナノ粒子は、例えば、Nanoprobes,Inc.(Northbrook,IL)、およびReade Advanced Materials(Providence,RI)から市販されている。
【0056】
場合によっては、磁性ナノ粒子タグは、化学的経路の代わりに、物理的方法によって作製され(例えば、W.Hu,R.J.Wilson,A.Koh,A.Fu,A.Z.Faranesh,C.M.Earhart,S.J.Osterfeld,S.-J.Han,L.Xu,S.Guccione,R.Sinclair,and S.X.Wang,Advanced Materials,20,1479-1483(2008)を参照されたい)、検出される標的生体分子の標識に好適である。磁気タグは、FeCo1-x(式中、xは、0.5~0.7である)またはFeCo1-xベースの合金などの2つ以上の強磁性層を含んでもよい。場合によっては、FeCo1-xは、24.5kガウスの飽和磁化を有する。これらの強磁性層は、例えば、Ru、Cr、Auなど、またはそれらの合金の非磁性スペーサー層によって分離され得る。特定の場合、スペーサー層は、反強磁性的に結合された強磁性層を含み、得られる粒子の正味残留磁化は、ゼロであるか、またはほぼゼロである。ある特定の実施形態では、反強磁性結合は、RKKY交換相互作用(例えば、S.S.P.Parkin,et al.,Phys.Rev.Lett.,64(19):2304(1990)を参照されたい)および静磁相互作用(J.C.Slonczewski,et al.,IEEE Trans.Magn.,24(3):2045(1988))を介して達成することができる。場合によっては、反強磁性結合の強度は、粒子が100Oeの外部磁場によって飽和され得るような強度である(すなわち、すべての層の磁化が平行になる)。場合によっては、反強磁性結合の強度は、層厚およびスペーサー層の合金組成に依存する。
【0057】
特定の実施形態では、ナノ粒子のバイオコンジュゲーション(bio-conjugation)を促進するために、金キャップ(または機能的に類似または同等の材料のキャップ)を反強磁性材料の層の上部に重層され、そのため、ナノ粒子が金-チオールまたは他の便利な結合を介して生体分子にコンジュゲートされ得る。界面活性剤は、ナノ粒子が水溶性であり得るように、ナノ粒子に適用され得る。また、ナノ粒子の縁は、化学的安定性のために、Auまたは他の不活性層で不活性化され得る。
【0058】
任意の便利なプロトコルを用いて、上記のナノ粒子を製造することができる。例えば、ナノ粒子の層は、実質的に平滑な表面を有する基材または剥離層に堆積されたナノメートルスケールの強磁性層およびスペーサー層を含むことができる。場合によっては、マスク層は、インプリンティング、エッチング、自己組織化などによって形成することができる。その後、マスク層および他の不必要な層を除去し、十分に洗浄することができる。次いで、剥離層を除去して、マスク層のネガティブ画像であるナノ粒子を持ち上げることができる。次いで、粒子を界面活性剤および生体分子と接触させることができる。場合によっては、基板は、十分な洗浄および化学的機械的研磨(CMP)後に再利用することができる。
【0059】
他の実施形態では、ナノ粒子は、減法製造法で加工される。この場合、剥離層上に、層が直接堆積され、続いて、マスク層が堆積される。層は、マスク層を通してエッチングされ、最終的に、基材から剥離される。これらのナノ粒子は、加法製造法の場合とは対照的に、マスク層のポジティブ画像から生じる。
【0060】
ある特定の実施形態では、本発明での使用に好適な磁性ナノ粒子のサイズは、ナノ粒子が目的の結合相互作用を妨げないように、目的の分子結合相互作用の生体分子のサイズと同等である。したがって、磁性ナノ粒子のサイズは、一部の実施形態では、サブミクロンサイズ、例えば、5nm~250nm(平均直径)、例えば、5nm~150nm(5nm~20nmを含む)である。例えば、5nm、6nm、7nm、8nm、9nm、10nm、11nm、12nm、13nm、14nm、15nm、16nm、17nm、18nm、19nm、20nm、25nm、30nm、35nm、40nm、45nm、50nm、55nm、60nm、70nm、80nm、90nm、100nm、110nm、120nm、130nm、140nm、150nm、および300nmの平均直径を有する磁性ナノ粒子、ならびにこれらの値のうちのいずれか2つの間の範囲の平均直径を有するナノ粒子が、本明細書で使用するために好適である。さらに、球形の形状に加えて、本明細書での使用に好適な磁性ナノ粒子は、ディスク、ロッド、コイル、ファイバーなどとして成形することができる。
【0061】
一部の実施形態では、磁気標識は、コロイド的に安定しており、例えば、ナノ粒子組成物は、安定したコロイドとして存在し得る。コロイド的に安定とは、ナノ粒子が実質的に凝集しないように、ナノ粒子が溶液中に均一に分散していることを意味する。ある特定の実施形態では、凝集を防止するために、ナノ粒子は、ゼロ磁場で(zero applied field)、正味磁気モーメントを有しない(または非常に小さな磁気モーメント)場合がある。反強磁性粒子は、すべてのサイズで、ゼロ磁場でゼロ磁気モーメントを有し得る。対照的に、強磁性粒子の場合、その大きさは、「超常磁性極限」を下回ってもよく、これは、場合によっては、約20nm以下、例えば、約15nm以下(約10nm以下を含む)である。
【0062】
ある特定の実施形態では、合成ナノ粒子は、大きなウエハおよび標準的な真空薄膜蒸着プロセスを使用して大量に作成することができる。例えば、6インチの丸いウエハでは、各粒子がウエハ上で60nm×60nmの正方形を占めると仮定して、1回当たり約5×1012粒子の割合で直径30nmのナノ粒子を作成することができる。
【0063】
場合によっては、目的の所与の結合相互作用の分子および磁気標識は、互いに安定して結合している。「安定して結合した」とは、生体分子および磁気標識が、使用する条件下で(例えば、アッセイ条件下で)、一過的な期間を超えて、空間内で互いに対してそれらの位置を維持することを意味する。したがって、生体分子および磁気標識は、非共有結合的または共有結合的に、互いに安定して結合することができる。非共有結合性の結合の例としては、非特異的吸着、静電相互作用に基づく結合(例えば、イオン対相互作用)、疎水性相互作用、水素結合相互作用、支持体表面に共有結合的に結合した特異的結合対メンバーによる特異的結合などが挙げられる。共有結合の例としては、生体分子と標識の表面に存在する官能基(例えば、-OH)との間に形成される共有結合が挙げられ、官能基は、天然に存在し得るか、または導入された連結基のメンバーとして存在し得る。
【0064】
アッセイ混合物の生成
磁気標識された分子を含むアッセイ混合物と接触する磁気センサを含む磁気センサデバイスは、任意の数の異なるプロトコルを使用して作成され得る。場合によっては、アッセイ混合物は、1つ以上の複合試料(例えば、1つの複合試料)を含む。場合によっては、アッセイ混合物は、1つ以上の単純試料(例えば、単一の単純試料)を含み、複合試料を含まない。
【0065】
複合試料および単純試料
センサ表面と接触する試料は、単純試料であっても、複合試料であってもよい。「単純試料」とは、結合相互作用の1つ以上のメンバーを含み、かつ溶媒以外で他の分子種が(もし存在していても)少ない試料を意味する。「複合試料」とは、目的の結合相互作用の1つ以上のメンバーを含み、かつ目的ではない多くの異なるタンパク質および他の分子も含む試料を意味する。ある特定の実施形態では、本発明の方法でアッセイされる複合試料は、分子構造に関して互いに異なる10個以上、例えば、20個以上(100個以上を含む)、例えば、10個以上、10個以上(例えば、15,000、20,000、またはさらに25,000個以上)の、別個の(すなわち、異なる)分子実体を含む試料である。
【0066】
ある特定の実施形態では、複合試料は、血液試料である。場合によっては、血液試料は、全血である。場合によっては、血液試料は、全血の一部(例えば、血清または血漿)である。
【0067】
場合によっては、複合溶液は、生物由来の非血液流体である。場合によっては、生物由来の非血液流体は、脳脊髄液(CSF)、唾液、精液、膣液、リンパ液、尿、涙、乳、または皮膚、呼吸器、腸管、もしくは泌尿生殖器の外部セクションである。
【0068】
場合によっては、複合試料は、組織試料である。場合によっては、組織試料は、腫瘍に由来する。場合によっては、組織試料は、非腫瘍性組織に由来する。場合によっては、複合試料は、細胞培養物、または細胞培養物の一部である。場合によっては、細胞培養物または組織試料は、ヒトまたは動物のものである。
【0069】
複合試料は、任意の生物に由来してもよく、ヒト、霊長類、サル、ショウジョウバエ、ラット、マウス、ブタ、またはイヌを含むが、これらに限定されない。
【0070】
場合によっては、複合試料は、ヒト、マウス、ラット、ブタ、イヌ、またはサルの全血、血漿、または血清である。場合によっては、複合試料は、ヒト、マウス、ラット、ブタ、イヌ、またはサルの脳脊髄液、唾液、または尿である。
【0071】
場合によっては、複合試料は、従来の方法で結合動態パラメータの正確な測定を阻害するために十分な濃度の目的ではない構成要素を含む。例えば、場合によっては、複合混合物の阻害構成要素は、表面プラズモン共鳴(SPR)を用いてそのようなパラメータを正確に決定することを阻害し得るが、一方で、そのようなパラメータは、本発明の磁気センサ方法を用いて、相対的精度で決定することができる。いくつかの方法を使用して、各方法が結合動態パラメータをどの程度正確に決定するかを評価することができる。かかる方法は、平滑化されたリアルタイムデータの微分係数が、単一の符号の変化を有するか、または複数の符号の変化を有するかを含み得る。他の場合、かかる方法は、リアルタイムデータ内に不連続性が存在するか否かを含み得る。
【0072】
アッセイ混合物は、様々な量の複合試料を含むことができ、例えば、アッセイ混合物中の複合試料の量は、重量で、0.1%以上、例えば、1%以上、2%以上、5%以上、10%以上、25%以上、50%以上、75%以上、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、または100%であり得る。場合によっては、アッセイ混合物中の複合試料の量は、0.1%~98%、例えば、1%~95%、5%~90%、または10%~80%である。
【0073】
アッセイ混合物の生成
磁気標識された分子を含むアッセイ混合物と接触する磁気センサを含む磁気センサデバイスは、任意の数の異なるプロトコルを使用して作成され得る。例えば、磁気標識された分子に特異的に結合する第1の分子は、センサ表面上の捕捉プローブに結合し、次いで、磁気標識された分子(例えば、磁気標識され得る第2の生体分子)と接触し得る。これらの例では、方法は、第1の分子に特異的に結合し、磁気標識された分子にも特異的に結合する捕捉プローブを呈示する、磁気センサを有する磁気センサデバイスを提供することと、次いで、磁気センサを第1の分子および磁気標識された分子と接触させることとを含み得る。接触させることは、表面に結合し、かつ磁気標識された分子に特異的に結合することができる第1の分子を順次適用し、次いで、磁気標識された分子を磁気センサに適用することを含み得る。
【0074】
代替的に、磁気標識された分子および磁気標識された分子に特異的に結合する第1の分子は、センサと接触する前に、組み合わされて複合体を形成し得、得られた複合体は、センサ上の捕捉プローブに結合することが可能になり得る(例えば、第1の分子と捕捉プローブとの間の結合相互作用の結合動態が目的である場合)。これらの例では、接触させることは、磁気標識された分子および磁気標識された分子に特異的に結合する第1の分子を含む反応混合物を生成し、次いで、反応混合物を磁気センサに適用することを含む。
【0075】
さらに他の実施形態では、磁気標識された分子に特異的に結合する第1の分子は、最初にセンサ上に配置され、次いで、磁気標識された第2の分子と接触する。これらの例では、本方法は、(介在する捕捉プローブなしで)第1の分子を呈示する磁気センサを有する磁気センサデバイスを提供することと、次いで、磁気センサを磁気標識された分子と接触させることとを含む。
【0076】
図4は、結合動態の定量分析に用いられ得るアッセイプロトコルの例示的な概略図を提供する。図2-1および図2-2に示されるプロトコルに従ってデバイスを調製する際、捕捉結合メンバー(例えば、捕捉抗体または捕捉DNA)と標的メンバー(例えば、分析物または標的DNA)との間の相互作用の結合動態が目的であり得る。かかる実施形態では、最初に、標的メンバーおよび標識メンバーを、結合条件下で互いに接触させ、得られた複合体を、センサ表面と接触させる。代替的に、図2-1および図2-2に示されるプロトコルに従ってデバイスを調製する際、標識された結合メンバー(例えば、標識された抗体または標識されたDNA)と標的メンバー(例えば、分析物または標的DNA)との間の相互作用の結合動態が目的であり得る。かかる実施形態では、最初に、標的メンバーおよび捕捉メンバーを、結合条件下で互いに接触させ、得られたセンサ表面結合複合体を、標識メンバーと接触させる。
【0077】
上記の接触(適用を含む)ステップは、目的の結合相互作用が生じ得る条件下で行われる。温度は変化し得るが、場合によっては、温度は、1~95℃、例えば、5~60℃(20~40℃を含む)の範囲である。アッセイの様々な構成要素が、水性媒体中に存在し得、いくつかの追加の成分(例えば、塩、緩衝剤など)を含んでいても、含んでいなくてもよい。場合によっては、接触は、厳密な条件下で行われる。厳密な条件は、プローブ標的二重鎖の融解温度よりも20~30℃低い温度など、15~35℃の範囲の温度によって特徴付けられ得、この融解温度は、例えば、温度、緩衝液組成物、プローブおよび標的のサイズ、プローブおよび標的の濃度などのいくつかのパラメータに依存する。したがって、ハイブリダイゼーションの温度は、約55~70℃、通常、約60~68℃の範囲であり得る。変性剤の存在下では、温度は、約35~45℃、通常、約37~42℃の範囲であり得る。厳密なハイブリダイゼーション条件は、ハイブリダイゼーション緩衝液の存在によって特徴付けられ得、緩衝液は、(a)高い塩濃度を有すること(例えば、3~6×SSC、または類似の濃度を有する他の塩)、(b)洗剤の存在(SDS(0.1~20%)、triton X100(0.01~1%)、monidet NP40(0.1~5%)など)、(c)他の添加剤(EDTA(例えば、0.1~1μM)、テトラメチルアンモニウムクロリドなど)、(d)促進剤(例えば、PEG、デキストラン硫酸(5~10%)、CTAB、SDSなど)、(e)変性剤(例えば、ホルムアミド、尿素など)などの特徴のうちの1つ以上によって特徴付けられる。厳密な条件は、厳密性が、上記の特定の条件と少なくとも同じくらい大きい条件である。
【0078】
場合によっては、アッセイ混合物は、複合試料と、1つ以上の他の成分との組み合わせであり得る。場合によっては、アッセイ混合物は、洗浄剤、防腐剤、緩衝液、界面活性剤、乳化剤、洗剤、可溶化剤、溶解剤、水、安定化剤、またはそれらの組み合わせを含み得る。場合によっては、追加の成分は、界面活性剤である。場合によっては、追加の成分は、複合混合物内の1つ以上の要素の磁気センサへの非選択的結合を阻害するように構成される。場合によっては、追加の成分は、複合混合物内の1つ以上の成分(例えば、タンパク質)の溶解度を増加させるように構成される。場合によっては、防腐剤は、血液試料の防腐剤である。場合によっては、緩衝液は、ウシ血清アルブミン(BSA)の緩衝液である。
【0079】
アッセイ試料中の1つ以上の追加の構成要素の量は、様々な量であり得る。例えば、アッセイ混合物中の各成分の量は、重量で、0.1%以上、例えば、0.5%以上、1%以上、2%以上、5%以上、10%以上、25%以上、50%以上、75%以上、90%以上、または95%以上であり得る。
【0080】
場合によっては、アッセイ混合物は、血液試料と、緩衝液、界面活性剤、および防腐剤のうちの1つ以上とを含む。場合によっては、アッセイ混合物は、血漿(例えば、10%以上の血漿)、BSA緩衝液、および0.1%以上のポリソルベート20界面活性剤を含む。場合によっては、アッセイ混合物は、血清(例えば、10%以上の血清)、BSA緩衝液、および0.1%以上のポリソルベート20界面活性剤を含む。場合によっては、アッセイ混合物は、10%以上の血漿または血清と、BSA緩衝液とを含む。場合によっては、血液試料は、血漿および血清の両方を含む。場合によっては、アッセイ混合物は、血液試料、緩衝液、界面活性剤、および防腐剤を含む。場合によっては、アッセイ混合物は、血液試料、緩衝液、および防腐剤を含む。場合によっては、アッセイ混合物は、血液試料および防腐剤を含み、緩衝液を欠く。一部のかかる場合では、アッセイ混合物は、50重量%以上、例えば、75重量%以上、80重量%以上、90重量%以上、または95重量%以上の血液試料を含む。
【0081】
場合によっては、複合溶液は、全血の一部(例えば、血清または血漿)を含み、アッセイ混合物は、界面活性剤も含む。場合によっては、アッセイ混合物は、緩衝液(例えば、BSA)をさらに含む。場合によっては、アッセイ混合物は、全血の一部および防腐剤を含む。場合によっては、アッセイ混合物は、全血の一部、緩衝液、界面活性剤、および、任意選択的に、防腐剤を含む。
【0082】
場合によっては、界面活性剤は、ポリソルベート20であり、Tween 20およびポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートとしても知られている。場合によっては、界面活性剤は、非イオン性界面活性剤である。場合によっては、界面活性剤は、Triton X-100であり、ポリエチレングリコールp-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-フェニルエーテルとしても知られている。場合によっては、追加の成分は、HAPS、DOC、NP-40、オクチルチオグルコシド、オクチルグルコシド、またはドデシルマルトシドである。場合によっては、界面活性剤は、双性イオン界面活性剤である。
【0083】
磁気センサからのリアルタイムシグナルの取得
アッセイ混合物(例えば、上記のように、目的の結合相互作用の結合メンバーおよび磁気標識を含む)と接触する磁気センサを含むデバイスの作成後、本方法の態様は、磁気センサからリアルタイムシグナルを取得することを含む。したがって、特定の実施形態は、デバイスからリアルタイムシグナルを取得することを含む。したがって、目的の結合相互作用の発生に関連するシグナルのリアルタイムでの伸展が観察され得る。リアルタイムシグナルは、目的の所与の期間にわたって取得された2つ以上のデータポイントで構成され、ある特定の実施形態では、取得されたシグナルは、目的の所与の期間にわたって連続的に取得されたデータポイントの連続的なセット(例えば、トレースの形態の)である。目的の期間は、場合によっては、1秒~10時間、例えば10秒~1時間、および1分~15分を含む範囲で変化し得る。また、シグナルのデータポイントの数も変化し得、場合によっては、データポイントの数は、リアルタイムシグナルの時間経過にわたって、連続的なストレッチのデータを提供するために十分である。
【0084】
一部の実施形態では、シグナルは、アッセイシステムが「湿った」状態、すなわち、アッセイ構成要素(例えば、結合メンバーおよび磁気標識)を含む溶液が、依然としてセンサ表面と接触している間に観察される。したがって、結合していない分子または関係がない分子を、すべて洗い流す必要はない。この「湿った」検出は、磁気タグナノ粒子(例えば、他箇所に記載されるような直径が150nm以下の粒子)によって生成される磁場が、ナノ粒子からの距離が増加するにつれて急速に減少するため可能である。したがって、センサにおける、捕捉された結合メンバーに結合した標識の磁場は、溶液中の結合していない磁気標識(検出器からより遠い距離にあり、かつブラウン運動をしている)からの磁場を超える。本明細書で使用される「近接検出(proximity detection)」という用語は、結合したナノ粒子のセンサにおけるこの優位性を指す。「近接検出」スキームの下で、センサ表面で特異的に結合した磁気標識コンジュゲートは、溶液中の非特異的磁気ナノタグを洗い流すことなく定量され得る。
【0085】
目的の所与の結合相互作用に関して、アッセイは、2以上、3以上、5以上、10以上、100以上、またはさらに1,000以上などの異なる濃度の、単一の結合対メンバーの濃度もしくは複数の結合対の濃度のリアルタイムシグナルを得ることを含み得る。所与のアッセイは、同じ濃度の捕捉プローブを有する同じセンサを、複数の異なる濃度の結合対メンバーと接触させてもよく、もしくはその逆でもよく、または、所望に応じて、異なる濃度の捕捉プローブおよび結合対メンバーの組み合わせと接触させてもよい。
【0086】
図3に示されるように、磁性ナノ粒子(MNP)は、プレイタンパク質で被覆され得、磁気センサは、ベイトタンパク質で被覆され得る。プレイ(prey)タンパク質とベイト(bait)タンパク質との間の相互作用は、結合動態パラメータが決定される相互作用であり得る。
【0087】
このようなパラメータを正確に決定するために使用することができるリアルタイムデータを取得するために、プレイタンパク質およびベイトタンパク質の絶対濃度を変化させることができる。場合によっては、プレイおよびベイトの絶対濃度は、リアルタイムシグナルの結合セクションおよび解離セクションが単一速度動態方程式に適合され得るように、十分に小さく調整することができる。したがって、プレイタンパク質およびベイトタンパク質の絶対濃度を調整することは、結合動態パラメータの正確な決定を容易にすることができる。加えて、場合によっては、プレイタンパク質とベイトタンパク質との相対量を変化させて、単一速度動態方程式との適合および結合動態パラメータの正確な決定を容易にすることができる。図4および図6に示すリアルタイムシグナルは、単一速度動態方程式との適合を容易にする濃度で得られた。
【0088】
リアルタイムシグナルからの結合動態パラメータの定量的な決定
上記で要約したように、リアルタイムシグナルの取得後、本方法は、リアルタイムシグナルから分子結合相互作用の結合動態パラメータを定量的に決定することを含み得る。言い換えると、リアルタイムシグナルは、目的の結合動態パラメータを定量的に決定するために用いられ、その結果、目的の結合動態パラメータがリアルタイムシグナルから取得される。
【0089】
場合によっては、目的の結合動態パラメータは、適合アルゴリズムでリアルタイムシグナルを処理することによって、定量的に決定される。適合アルゴリズムとは、例えば、上記のように、所与のアッセイから得られたリアルタイムシグナルまたはシグナルに、方程式を適合させることによって、目的の結合動態パラメータを決定する一連のルールを意味する。任意の便利な適合アルゴリズムを用いることができる。
【0090】
結合動態パラメータは、任意の好適な方法で、リアルタイムシグナルから決定することができる。場合によっては、パラメータが決定され、kon、koff、およびKの値が、以下の式から計算される。
結合曲線:S=S・[1-exp{-(c・kon+koff)・t}) (1)
解離曲線:S=a・exp{-koff・t) (2)
=koff/kon (3)
【0091】
本明細書に記載の方法を使用して、アッセイ混合物が複合試料溶液を含む場合でも、結合動態パラメータの正確な測定を行うことができる。例えば、アッセイ混合物が複合試料溶液(例えば、血液試料)の1重量%以上を含む場合であっても、結合動態パラメータの正確な測定を行うことができる。
【0092】
場合によっては、特定の相互作用の動態結合パラメータが、別の方法で測定されているか、または測定され得る。例えば、単純な溶液(すなわち、複合溶液ではない)を有する表面プラズモン共鳴(SPR)は、特定の相互作用のkonを測定するために使用されていた場合がある。しかしながら、本方法は、複合試料溶液を含むアッセイ混合物および磁気センサ(例えば、GMRセンサ)を用いて、同じパラメータの測定が可能になり、その結果、以前の値と現在の値との間で良好な一致が得られる。したがって、複合試料溶液の存在は、測定の精度に著しく悪影響を及ぼさない。
【0093】
場合によっては、本方法および対照方法(例えば、50倍以下の単純溶液を用いたSPR)から、kon値の差が得られる。例えば、本方法は、10-1の推定kon値をもたらし得、一方、単純溶液の測定によるSPRは、2×10-1の値をもたらし得、すなわち、本方法の値よりも5倍小さい。場合によっては、本方法のリアルタイムシグナルから決定される結合動態パラメータと、対照方法から決定される結合動態パラメータとの間の差は、20倍以下、例えば、15倍以下、10倍以下、5倍以下、2倍以下、1倍以下、50%以下、または25%以下である。場合によっては、アッセイ混合物が、1重量%以上、例えば、5重量%以上、10重量%以上、25重量%以上、75重量%以上、または95重量%以上の複合溶液を含んでいても、このようなパラメータの差を得ることができる。
【0094】
場合によっては、本方法は、他のそのような方法(例えば、単純溶液を用いたSPR)の実施を含まない。これらの場合、本方法により得られるパラメータ値は、別の方法によって別の時点で得られる値、またはそれらの組み合わせに対して相対的である。
【0095】
場合によっては、複合試料溶液を用いた本方法の使用により、単純溶液を用いたパラメータと比較的良好に一致する測定パラメータがもたらされる。例えば、単純溶液を用いた測定から得られるパラメータは、複合試料溶液を用いて得られるパラメータの50倍以下、例えば、20倍以下、例えば、15倍以下、10倍以下、5倍以下、2倍以下、1倍以下、50%以下、または25%以下の範囲内であり得る。場合によっては、1つのアッセイ混合物が、1重量%未満(例えば、0重量%)の複合試料を含み、一方、他のアッセイ混合物が、2重量%以上、例えば、5重量%以上、10重量%以上、25重量%以上、75重量%以上、または95重量%以上の複合試料を含んでいても、そのようなパラメータの差を得ることができる。
【0096】
場合によっては、本方法の精度および有用性は、動態パラメータを推定するために好適なリアルタイムデータを生成することによって例示される。したがって、推定の精度は、基礎となる相互作用を正確に反映するデータを有することによって増加し得る。場合によっては、この精度は、測定されたGMR値が一定時間増加し(結合を反映する)、続いて、測定されたGMR値が一定時間減少する(解離を反映する)場合に例示される。例えば、図4は、実施例のセクションで論じるように、GMR値のそのような変化を示す。かかる場合、リアルタイムデータの微分係数は、単一の符号の変化を有し、例えば、微分係数は、結合相(association phase)では正であり、解離相(dissociation phase)では負である。
【0097】
加えて、リアルタイムデータは、例えば、統計誤差に起因する測定値の一時的な増減を有する場合がある。したがって、このような誤差は、例えば、微分係数の符号の変化の評価において考慮されない。実際、データ処理の間、リアルタイムデータは、統計的ノイズを低減し、それによって、得られたパラメータの精度を増加させるために、例えば、平滑化された様式で供され、処理され得る。
【0098】
したがって、本方法の精度は、例えば、結合相および解離相に対応する単一の符号の変化のみを有する平滑化されたリアルタイムデータによって例示され得る。
【0099】
同様に、本方法の精度は、データにおける不連続性の不在によっても例示され得る。様々な種類の不連続は、リアルタイムデータに存在し得るが、正確な結合動態パラメータを得る精度に対する複合試料溶液の影響に関連する特定の種類の不連続性が存在する。例えば、以下の実施例3で論じるように、また図5Aおよび図5Bに示されるように、特定の濃度の緩衝剤BSAの存在は、測定されたSPRシグナルを急激に増加させ、次いで、減少させた。10%のBSA試料では、この増減が、急激な増加および減少として示され、右および左から急激な増加および減少に近づく曲線は、同じ値に向かう傾向がない。
【0100】
このような不連続性および誤差は、様々な方法で分類することができるが、場合によっては、不連続性は、平滑化されたリアルタイムシグナルの微分係数の絶対値が、平滑化されたリアルタイムシグナルの微分係数の平均絶対値の2倍以上、例えば5倍以上、10倍以上、25倍以上、50倍以上、または100倍以上であるところに位置している。例えば、図5Aでは、10%のBSA試料の急増/急減付近の微分係数の絶対値が、他の場所の曲線の漸増および漸減(すなわち、小さな微分係数)と比較して、著しく増加している(すなわち、急増/急減の急な傾きによって示される)。実際、図5Bに示されるように、より低濃度のBSAでも、リアルタイムデータは、微分係数の比較的急激な変化を示し、データから動態パラメータを正確に得る能力に悪影響を及ぼす不連続性を示す。
【0101】
したがって、本方法は、研究されている構成要素ではないアッセイ混合物中の構成要素(すなわち、複合試料溶液を含む成分)によって引き起こされるリアルタイムデータに対する負の影響を低減または排除することによって、結合動態パラメータの正確な測定を提供する。例えば、本方法は、1%以上の緩衝液または10%以上の血液試料であっても、結合動態パラメータの正確な測定を可能にする。対照的に、複合試料を含むアッセイ混合物でそのようなパラメータを測定しようとする他の方法(すなわち、SPR)は、不正確なパラメータ推定を提供する誤ったデータおよび不連続なデータをもたらす。
【0102】
場合によっては、生のリアルタイムデータは、結合パラメータを決定する前に平滑化される。他の場合では、生のリアルタイムデータは、平滑化されることなく結合パラメータを決定するために使用される。場合によっては、本方法は、決定ステップを行う前に、生のリアルタイムデータを平滑化することをさらに含む。生データを平滑化する方法は、当該技術分野で既知であり、任意の適切な方法を、本方法で使用することができる。
【0103】
場合によっては、リアルタイムデータを分析することができ、結合動態パラメータは、米国特許第10,101,299B2号に記載されているものなどの適合アルゴリズムを使用して決定される(その開示は参照により組み込まれる)。
【0104】
必要に応じて、上記の定量的決定プロトコルは、上述したプロトコルを実行するように構成されたソフトウェアおよび/またはハードウェアを用いて行うことができる。
【0105】
データ処理
本方法は、アッセイ混合物が複合試料を含む場合でも、結合動態パラメータの正確な定量的決定を提供する。このような利点は、様々な方法で例示され得る。
【0106】
このような利点を例示するために、リアルタイムシグナルは、当該技術分野で知られている数学的方法、統計的方法、またはそれらの組み合わせを使用して処理され得る。場合によっては、そのようなデータ処理は、絶対値を取ること、微分係数を取ること、およびシグナルを平滑化することのうちの1つ以上の演算を伴う場合がある。データ処理がそのようなステップのうちの1つ以上を含む場合、そのようなステップを任意の好適な順序で行うことができることを理解されたい。
【0107】
場合によっては、リアルタイムシグナルは、リアルタイムデータの微分係数を生成するために使用される。
【0108】
場合によっては、リアルタイムシグナルは、演算を平滑化すること、および微分係数を取ることの両方を行うことによって、リアルタイムシグナルの平滑化された微分係数を生成するために使用される。演算の平滑化を最初に行ってから微分演算を行っても、微分係数を最初に取ってから平滑化を行ってもよい。
【0109】
場合によっては、リアルタイムシグナルを使用して、リアルタイムシグナルの平滑化された微分係数の絶対値を生成する。したがって、このような手順は、絶対値を取ること、微分係数を取ること、平滑化することを伴う。このような演算を任意の好適な順序で行うことができる。例えば、リアルタイムシグナルを使用して、リアルタイムシグナルの平滑化された微分係数を生成し、次いで、絶対値の演算を行うことができる。別の例では、絶対値を最初に取り、次いで、微分係数を取り、平滑化の演算を任意の順序で行うことができる。
【0110】
場合によっては、本方法は、そのようなデータ処理ステップを含む。他の場合では、本方法は、そのようなデータ処理ステップを含まず、むしろ、磁気センサデバイスは、そのようなデータ処理ステップが実行された場合、本方法、システム、およびキットが、アッセイ混合物に複合試料が含まれている場合であっても、結合動態パラメータの正確な定量的決定を提供することを、得られた処理データが例示するように、構成される。
【0111】
例えば、場合によっては、磁気センサデバイスは、リアルタイムシグナルの平滑化された微分係数がリアルタイムシグナルから生成された場合、次いで、リアルタイムシグナルの平滑化された微分係数が単一の符号の変化のみを含むように、構成される。
【0112】
他の場合では、磁気センサは、リアルタイムシグナルの平滑化された微分係数の絶対値がリアルタイムシグナルから生成された場合、次いで、平滑化されたリアルタイムシグナルが不連続性(リアルタイムシグナルの平滑化された微分係数の絶対値が、リアルタイムシグナルの平滑化された微分係数の平均絶対値の5倍以上である)を含むように、構成される。
【0113】
場合によっては、本方法は、対照(例えば、表面プラズモン共鳴(SPR))から結合動態パラメータを決定することを含む。かかる場合、リアルタイムシグナルから決定される結合動態パラメータと、対照から決定される結合動態パラメータとの差は、5倍以下である。他の場合では、本方法は、対照を用いたかかる決定を含まない。しかし、磁気センサデバイスは、リアルタイムシグナルから決定された結合動態パラメータと、対照から決定された結合動態パラメータとの間の差が5倍以下であるように構成される(例えば、対照のパラメータの値が以前に科学文献で報告されているか、または別の時点で決定されていた場合)。
【0114】
多重分析
本発明の態様は、同じセンサとの2つ以上の異なる結合相互作用の多重分析を含む。「多重分析」とは、結合分子および/または磁気標識された分子が互いに異なる(例えば、異なる配列によって異なる)結合分子の異なるセット間の2つ以上の異なる結合相互作用が定量的に分析されることを意味する。いくつかの例では、セットの数は、2以上、例えば、4以上、6以上、8以上など、最大20以上、例えば、50以上(100以上を含む)、または1000以上の異なるセットである。したがって、場合によっては、磁気センサデバイスは、各々、2つ以上、または4つ以上、6つ以上、8つ以上などの異なる結合相互作用を特異的に検出する、2つ以上の異なる磁気センサ(最大20以上、例えば、50以上(100以上を含む)、または1000以上の異なる磁気センサ)を含み得る。ある特定の実施形態では、2~1000の異なる結合相互作用(例えば、2~50または2~20の異なる結合相互作用)の多重分析が目的である。したがって、これらの実施形態では、磁気センサデバイスは、各々、異なる結合相互作用を特異的に分析する2~1000個の異なる磁気センサ(例えば、4~1000個の異なる磁気センサ)を含んでもよい。他の場合では、磁気センサデバイスは、各々、異なる結合相互作用を特異的に分析する20個以下の異なる磁気センサ(例えば、10個以下、4個以下を含む異なる磁気センサ)を含んでもよい。
【0115】
デバイスおよびシステム
本発明の態様は、目的の分子結合相互作用の1つ以上の結合動態パラメータを定量的に決定するように構成されている磁気センサデバイスおよびシステムをさらに含む。デバイスおよびシステムは、概して、磁気センサと、磁気センサからリアルタイムシグナルを受信し、リアルタイムシグナルから分子結合相互作用の結合動態パラメータを定量的に決定するように構成された定量分析モジュール(例えば、プロセッサ)とを含む。これらの2つの構成要素は、単一のデバイスとして、または、(例えば、システムとして)2つ以上の異なるデバイス間で分散されて(2つ以上の異なるデバイスは、例えば、有線または無線通信プロトコルを介して互いに通信する)、同じ製造物品に統合されてもよい。
【0116】
したがって、本発明の態様は、上記のように結合相互作用を定量的に評価するように構成されたシステム(例えば、コンピュータベースのシステム)をさらに含む。「コンピュータベースのシステム」とは、本発明の情報を解析するために使用されるハードウェア手段、ソフトウェア手段、およびデータストレージ手段をいう。コンピュータベースのシステムの実施形態の最小ハードウェアは、中央処理装置(CPU)(例えば、プロセッサ)、入力手段、出力手段、およびデータストレージ手段を含む。現在利用可能なコンピュータベースのシステムのうちのいずれか1つは、本明細書に開示される実施形態における使用に好適であり得る。データストレージ手段は、上記のような本情報の記録を含む任意の製造物、またはそのような製造物にアクセスすることができるメモリアクセス手段を含み得る。
【0117】
コンピュータ可読媒体上でデータ、プログラミング、または他の情報を「記録する」ためには、当該技術分野で知られているような任意のかかる方法を使用して、情報を記憶するプロセスを指す。記憶された情報にアクセスするために使用される手段に基づいて、任意の便利なデータストレージ構造が選択され得る。様々なデータプロセッサプログラムおよびフォーマットは、例えば、ワード処理テキストファイル、データベースフォーマットなどのストレージに使用することができる。
【0118】
「プロセッサ」とは、その必要な機能を実行するハードウェアおよび/またはソフトウェアの組み合わせを指す。例えば、本明細書の任意のプロセッサは、電子コントローラ、メインフレーム、サーバ、またはパーソナルコンピュータ(例えば、デスクトップまたはポータブル)の形態で利用可能であるような、プログラム可能なデジタルマイクロプロセッサであり得る。プロセッサがプログラム可能である場合、好適なプログラミングは、遠隔地からプロセッサに通信され得るか、またはコンピュータプログラム製品(例えば、磁気ベース、光学ベース、または固体デバイスベースのポータブルもしくは固定コンピュータ可読記憶媒体)に事前に保存され得る。例えば、磁気媒体または光ディスクは、プログラミングを担持してもよく、対応するステーションで各プロセッサと通信する好適なリーダによって読み取ることができる。
【0119】
本システムの実施形態は、(a)通信モジュール(例えば、ユーザコンピュータまたはワークステーションを介して、システムと1人以上のユーザとの間の情報転送を容易にする)と、(b)処理モジュール(本開示の定量分析方法に関与する1つ以上のタスクを実行する)との構成要素を含み得る。
【0120】
ある特定の実施形態では、コンピュータ使用可能媒体を含む(その中に記憶された制御論理(プログラムコードを含むコンピュータソフトウェアプログラム)を有する)、コンピュータプログラム製品が説明される。制御論理は、プロセッサによって実行されると、コンピュータは、プロセッサに本明細書に記載の機能を実行させる。他の実施形態では、一部の機能は、主に、例えば、ハードウェアステートマシンを使用するハードウェアで実装される。本明細書に記載の機能を実行するためのハードウェアステートマシンの実装は、任意の便利な方法および技術を使用して達成され得る。
【0121】
センサデバイスおよび定量分析モジュールに加えて、本発明のシステムおよびデバイスは、データ出力デバイス(例えば、モニタ、プリンタ、および/またはスピーカ)、データ入力デバイス(例えば、インターフェースポート、キーボードなど)、流体処理コンポーネント、電源などのいくつかの追加のコンポーネントを含み得る。
【0122】
ユーティリティ
本方法、システム、およびキットは、目的の結合相互作用の結合動態パラメータの定量的決定が望まれる様々な異なる用途で使用される。ある特定の実施形態では、結合相互作用は、これらに限定されないが、核酸ハイブリダイゼーション、タンパク質-タンパク質相互作用(例えば、以下の実験セクションでより詳細に記載される)、受容体-リガンド相互作用、酵素-基質相互作用、タンパク質-核酸相互作用などの結合相互作用である。
【0123】
場合によっては、本方法、システム、およびキットは、分子結合相互作用のリアルタイムの観察が望まれ得る医薬品開発プロトコルに有用である。例えば、医薬品開発プロトコルは、本発明の方法、システム、およびキットを使用して、抗体と抗原との間の結合相互作用、または核酸間のハイブリダイゼーション相互作用、またはタンパク質間の結合相互作用、または受容体とリガンドとの間の結合相互作用、または酵素と基質との間の結合相互作用、またはタンパク質と核酸との間の結合相互作用などをリアルタイムで監視することができる。例えば、CEAおよびVEGFは、腫瘍マーカーであり、ベバシズマブ(Avastin;Genentech/Roche)などの抗VEGF抗体薬は、有効な抗がん薬である。別の例は、化学療法薬のエドレコロマブに製剤化された抗EpCAM抗体である。これらのような結合相互作用を監視することは、他の抗体ベースの薬物の開発を促進することができる。
【0124】
本方法、システム、およびキットはまた、複合試料に含まれる結合対間の分子結合相互作用を分析する際にも有用である。場合によっては、複合試料は、目的の結合分子を試料中に存在し得る目的ではない他のタンパク質または分子から分離することなく、直接分析され得る。特定の場合、目的ではないタンパク質または分子の非特異的結合、および結合していない磁性ナノ粒子は、本方法、システム、およびキットにおいて、実質的に検出可能なシグナルを生成しない。したがって、本方法、システム、およびキットは、複合試料が使用され得、目的の結合相互作用が、目的の結合相互作用の検出に必要なセンサの洗浄をすることなく、リアルタイムで監視され得るアッセイプロトコルに有用である。
【0125】
本明細書に開示されるリアルタイム結合アッセイおよび動態モデルは、エピトープマッピングなどの用途に有用であり得る。例えば、GMRセンサアレイは、高度に並列化された様式でエピトープマッピングを行う能力を有する。捕捉抗体を使用して、抗原を、センサ表面上の特定の分子内構成で選択的に固定化することができる。捕捉された抗原上の曝露されたエピトープの動態相互作用は、様々な受容体または抗体への親和性に対してプローブすることができる。例えば、上皮増殖因子受容体(EGFR)は、EGF自体ならびにEpCAMなどのEGF様リピートを含むタンパク質と結合することができる。異なるモノクローナル抗体を使用してEGF様リピートを有するタンパク質を捕捉すること、およびこれらの指向性タンパク質へのEGFRの結合を調べることによって、エピトープマップを決定して、EGF様リピートを含む様々なリガンドに対するEGFRの親和性を評価することができる。曝露されたエピトープをプローブするためにGMRセンサを使用することは、特定の標的との薬物相互作用の大規模なスクリーニングから、プロテオーム内の目的の特定のドメインの並列スクリーニングまでの範囲の用途を有する。
【0126】
本方法、システム、およびキットはまた、空間および時間の両方で、分子結合相互作用を監視する際にも有用である。例えば、本方法、システム、およびキットを使用して、細胞タンパク質セクレトーム分析を介して、局在化細胞間コミュニケーションを監視することができる。空間および時間における細胞のタンパク質分泌の拡散を監視することによって、細胞間コミュニケーションのメカニズムを決定することができる。
【0127】
本方法、システム、およびキットはまた、細胞生物学におけるシグナル伝達に関与する受容体-リガンド結合相互作用を理解するため、またはプロテオーム全体に対して目的の特定の化合物をプロファイリングするための基礎科学研究においても有用である。加えて、臨床医学への応用は、指向性タンパク質進化の研究における大規模スクリーニングから、薬物のオンターゲットおよびオフターゲット交差反応の結合動態の調査まで、広範囲に及ぶ。
【0128】
本方法、システム、およびキットは、アッセイ混合物が複合試料を含む場合に結合動態パラメータの決定を可能にすることによって、かかる用途に有用である。
【0129】
コンピュータ関連の実施形態
特定の実施形態の態様は、様々なコンピュータ関連の実施形態をさらに含む。具体的には、前のセクションで説明したデータ解析方法を、コンピュータを使用して行うことができる。したがって、実施形態は、目的の結合相互作用の結合動態パラメータの定量的決定を提供するために、上記の方法を使用して生成されたデータを分析するための、コンピュータベースのシステムを提供する。
【0130】
ある特定の実施形態では、本方法は、「プログラミング」の形態でコンピュータ可読媒体にコードされる。本明細書で使用される「コンピュータ可読媒体」という用語は、実行および/または処理のためにコンピュータに命令および/またはデータを提供することに関与する任意の記憶媒体または伝送媒体を指す。記憶媒体の例としては、磁気ディスク、磁気テープ、CD-ROM、DVD、Blu-Ray、ハードディスクドライブ、ROMもしくは集積回路、光磁気ディスク、またはPCMCIAカードもしくはフラッシュメモリカードなどのコンピュータ可読カードなどが挙げられ、これらのデバイスは、コンピュータの内部であるか、または外部であるかにかかわらない。情報を含むファイルは、コンピュータ可読媒体上に「記憶」され得、「記憶すること」は、それがコンピュータによって後日にアクセス可能かつ取り出し可能であるような情報を記録することを意味する。媒体として興味深いものは、非一時的媒体、すなわち、プログラミングが物理的構造に記録されるような物理的媒体である。非一時的媒体は、無線プロトコルを介して送信される電子シグナルを含まない。
【0131】
コンピュータ可読媒体に関して、「永久メモリ」は、永久的であるメモリを指す。永久メモリは、コンピュータまたはプロセッサへの電源供給の終了によって消去されない。コンピュータハードドライブ、CD-ROM、Blu-Ray、磁気ディスク、およびDVDは、すべて永久メモリの例である。ランダムアクセスメモリ(RAM)は、非永久メモリの一例である。永久メモリ内のファイルは、編集可能であり、書き換え可能であり得る。
【0132】
キット
また、上記の方法の1つ以上の実施形態を実施するためのキットも提供される。本キットは、様々であり得、様々なデバイスおよび試薬を含んでもよい。目的の試薬およびデバイスは、磁気センサデバイスまたはその構成要素(磁気センサアレイまたはチップなど)、磁性ナノ粒子、結合剤、緩衝液などに関して本明細書で言及されるものを含む。
【0133】
場合によっては、キットは、少なくとも(例えば、上述した)方法に有用な試薬と、コンピュータ可読媒体であって、その上に記憶されたコンピュータプログラムを有し、コンピュータプログラムが、コンピュータにロードされると、磁気センサから得られたリアルタイムシグナルから、第1の分子と第2の分子との間の結合相互作用の結合動態パラメータを定量的に決定するようにコンピュータを操作する、コンピュータ可読媒体と、コンピュータプログラムを取得するためのアドレスを有する物理的基板とを含む。
【0134】
上記の構成要素に加えて、本キットは、本方法を実施するための説明書をさらに含んでもよい。これらの説明書は、様々な形態で本キットに存在してもよく、そのうちの1つ以上がキットに存在してもよい。これらの説明書が存在し得る1つの形態は、好適な媒体または基板に印刷された情報である(例えば、情報が印刷された1枚または複数枚の紙、キットのパッケージ、パッケージ添付文書など)。さらに別の手段は、情報が記録されたコンピュータ可読媒体、例えば、ディスケット、CD、DVD、Blu-Rayなどである。存在し得るさらに別の手段は、削除されたサイトで情報にアクセスするために、インターネットを介して使用され得るウェブサイトアドレスである。任意の便利な手段がキットに存在し得る。
【0135】
以下の実施例は、例示として提供され、限定として提供されるものではない。
【0136】
実施例
一般的な方法論
Osterfield et al.,Proc.Nat’l Acad.Sci USA(2008)150:20637-206340 and Xu et al.,Biosens.Bioelectron(2008)24:99-103に記載されている巨大磁気抵抗(GMR)センサアレイを、以下の一般的なプロトコルで用いた。
【0137】
表面の機能化:センサ表面を機能化して、結合対メンバー(例えば、捕捉抗体、第1の生体分子など)をセンサ表面上に安定した結合を提供した。ポリエチレンイミン(PEI)などのカチオン性ポリマーを使用して、物理吸着を介してセンサ表面に荷電抗体を非特異的に結合することができる。代替的に、抗体または遊離チオール基上の遊離アミンを利用して、共有結合化学を使用することができる。表面の機能化に関する追加の詳細は、オリゴヌクレオチドの安定した付着については、Xu et al.,Biosens.Bioelectron(2008)24:99-103に記載されており、抗体については、Osterfield et al.,Proc.Nat’l Acad.Sci USA(2008)150:20637-206340に提供されている。次いで、目的の結合対メンバーを、センサ表面と接触させて、結合メンバーをセンサ表面に安定して結合させる。
【0138】
表面のブロッキング:表面の機能化および結合対の結合後、センサ表面をブロックして、アッセイ中の非特異的結合を防止した。表面をブロッキングするために、PBS中の1%のBSAからなるブロッキング緩衝液を、反応ウェルに1時間添加した。有用であり得る追加のブロッキングのプロトコルは、Xu et al.,Biosens.Bioelectron(2008)24:99-103 and Osterfield et al.,Proc.Nat’l Acad.Sci USA(2008)150:20637-206340に記載されている。
【0139】
第1の生体分子:ブロック後、センサ表面を、目的の第1の生体分子の溶液(例えば、第1の生体分子の精製溶液または第1の生体分子を含む複合試料)と接触させた。このステップでは、約1nL~100μLの溶液を含む反応ウェルを使用し、インキュベーション時間は、用途に応じて、5分~2時間の範囲であった。
【0140】
第2の生体分子:インキュベーション後、目的のタグ(例えば、磁性ナノ粒子の粒子)で予め標識された第2の生体分子を含む溶液をセンサ表面と接触させた。
【0141】
結合の監視:次に、第1の生体分子への第2の生体分子の結合動態を監視し、結合トラジェクトリに基づいて結合速度定数を計算するために使用した。
【0142】
GMRセンサ
実験で使用された巨大磁気抵抗(GMR)センサは、Si/Ta(5)/シード層/IrMn(8)/CoFe(2)/Ru(0.8)/CoFe(2)/Cu(2.3)/CoFe(1.5)/Ta(3)のタイプの底部スピンバルブ構造を有した。なお、括弧内の数字はすべてナノメートルである。各チップには、GMRセンサのアレイが含まれ、厚さ300nmのTa/Au/Taリードによって周辺ボンディングパッドに接続されていた。センサおよびリードを腐食から保護するために、2つのパッシベーション層をイオンビームスパッタリングによって堆積させた。第1に、SiO(10nm)/Si(20nm)/SiO(10nm)の薄いパッシベーション層を、すべてのセンサおよびリードの上に堆積させ、ボンディングパッド領域のみを露出させた。第2に、SiO(100nm)/Si(150nm)/SiO(100nm)の厚いパッシベーション層を、参照センサおよびリードの上に堆積させ、アクティブセンサおよびボンディングパッド領域を露出させた。パターニング後の磁気抵抗比は、約12%であった。スピンバルブのピン止め方向は面内であり、センサストリップに対して垂直であった。遊離層の容易軸は、形状異方性によってセンサストリップと平行に設定した。この構成により、GMRセンサは、MR伝達曲線の最も感度の高い領域で動作することができた。
【0143】
GMR効果により、センサの抵抗は、銅スペーサー層によって分離された2つの磁性層の磁化の向きとともに変化した。
【0144】
【数1】
【0145】
ここで、Rはゼロ磁場下の抵抗、δRmaxは最大抵抗変化、θは2つの磁性層の磁化間の角度である。下部スピンバルブ構造では、下部磁性層(ピン止め層)の磁化を、固定方向にピン止めし、一方、上部磁性層(自由層)の磁気配向を、外部磁場により自由に回転させることができた。その結果、磁気標識からの浮遊場は、自由層の磁化を変化させ、したがって、センサの抵抗を変化させることができる。
【0146】
個別にアドレス可能な磁気応答性ナノセンサのアレイを用いて結合動態を測定し、センサ表面上に固定化されている対応する標的に結合する多数の異なるタンパク質の動態を同時に監視する方法が提供される。これらの磁性ナノセンサを、チップ面積1mm当たり1,000個超のセンサに拡張することに成功した。分析物のエピトープマッピングを実証し、溶液中のタンパク質拡散の空間ダイナミクスを可視化した。これらの実験と併せて、表面に固定化されたタンパク質への標識タンパク質のリアルタイム結合を正確に記述する分析動態モデルを導出した。分析モデルは、表面プラズモン共鳴および文献からのデータを使用した同様の実験と密接な一致を有した。このモデルは、20ゼプトモル(20×10-21)以下の溶質の感度で、抗体-抗原結合に適用され得る。
【0147】
可溶性リガンドを磁性ナノ粒子(MNP)で予め標識し、センサ表面に固定化された抗原へのリガンド複合体のリアルタイム結合動態を監視した。複合体がリアルタイムで捕捉されると、抗体-MNP複合体からの磁場が、下にあるGMRセンサにおいて、電気抵抗の変化を誘導した。GMRセンサアレイの迅速なリアルタイム読み出し(readout)により、結合の動態を監視し、定量化して、関連する動態速度定数を決定した。
【0148】
目的のタンパク質または抗体を標識するMNPは、TEM分析によって決定されるように、デキストランポリマーに埋め込まれた12個の10nmの酸化鉄コアであった。ナノ粒子全体の平均直径は46±13nmであった(数重み付き動的光散乱から)。ストークス・アインシュタイン関係に基づくと、これらの粒子の並進拡散係数は約8.56×10-12-1であった。MNPは、-11mVのゼータ電位を有した。これらの粒子は超常磁性であり、コロイド的に安定しているため、反応中に凝集または沈殿することはなかった。加えて、GMRセンサは、磁気タグ由来の双極子場の近接ベースの検出器として動作し、したがって、センサ表面から150nm以内のタグのみが検出された。したがって、結合していないMNPタグは、結合の不在下のシグナルの寄与が無視できた。結合した磁気標識抗体のみが、下にあるGMRセンサによって検出されることになり、このMNP-GMRナノセンサシステムは、リアルタイムの動態分析に有用である。
【0149】
1mmのチップ領域に1,008個のセンサを有するGMRセンサアレイが製造された。GMRセンサの計算された特徴密度は、1cm当たり10万個超であった。センサアレイは、各サブアレイが90μm×90μmの面積を占めるサブアレイのセットとして設計された。センサアレイは、ロボットスポッターと互換性であった。サブアレイ内の各センサは、VLSI技術で製造された共有6ビット制御バスを介して、行および列デコーダによって個別にアドレス可能であった。GMRセンサアレイにより、タンパク質の結合動態の並列多重監視が可能になった。
【0150】
磁気標識
磁気標識(「MACS」粒子と称される)は、Miltenyi Biotech Inc.から入手した。各MACS粒子は、デキストランのマトリックスによって一緒に保持された10nmのFeナノ粒子のクラスターであった。Feナノ粒子のサイズが小さいため、MACS粒子は超常磁性であり、全体の直径が50nmであり、10%の磁性材料(wt/wt)を含有した。MACS粒子を、研究対象の対応する分析物とともに機能化した。
【0151】
センサ表面
センサ表面を、最初に、アセトン、メタノール、およびイソプロパノールですすいだ。続いて、センサを、酸素プラズマに3分間曝露した。脱イオン水中の2%(w/v)ポリアリルアミン溶液を、センサに5分間塗布した。アンヒドライズ、ポリアリルカルボキシレートなどを含むがこれらに限定されない溶液など、他の溶液を必要に応じて使用してもよい。次いで、チップを、脱イオン水ですすぎ、150℃で45分間焼成した。次いで、カルボキシル化された表面の場合、センサ表面に、10%(w/v)のEDC溶液および10%(w/v)のNHS溶液を、室温で1時間添加した。
【0152】
動態アッセイ
センサ表面を適切な捕捉タンパク質で機能化した後、GMRセンサアレイを試験ステーションに配置し、リアルタイムで監視した。BSAブロッキング緩衝液を洗い流し、磁気標識された検出抗体(上述したように作製)の50μL溶液を、反応ウェルに添加した。磁気標識された検出抗体が対応するタンパク質に結合する際、GMRセンサアレイを経時的にモニタリングした。次いで、各タンパク質に固有の結合曲線をプロットすることで、結合速度定数を決定することができる。アッセイを5分間実行した。
【0153】
モデリングおよびフィッティング
従来の擬似ラングミュアカーブフィッティングを、リアルタイムシグナルに適用した。したがって、kon、koff、およびKの値を、以下の式から計算した。
結合曲線:S=S・[1-exp{-(c・kon+koff)・t}) (1)
解離曲線:S=a・exp{-koff・t) (2)
=koff/kon (3)
【0154】
フィッティング誤差は、N個のシグナル曲線が1つのチップから測定され、曲線jがn個のデータポイントを有し、Di,jが曲線jのi番目のデータポイント、Si,jが模擬曲線jのi番目のデータポイントとして表される場合、シグナル曲線jのフィッティング誤差は、下記のようになる。
【0155】
【数2】
【0156】
式中、Dmax,jは、シグナル曲線の最大シグナルである。このようにして、センサアレイの実験的な結合曲線が、モデルから予測される結合曲線と比較される。次いで、この誤差を最小化して、最良適合を得、konを計算する。絶対誤差は、シグナル曲線の最大シグナルで表され、そのため、フィッティング誤差は、シグナルレベルのパーセンテージであった。したがって、大きなシグナル曲線のパーセンテージベースの相対フィッティング誤差は、小さいシグナル曲線の誤差と類似していた。総フィッティング誤差は次のとおりである。
【0157】
【数3】
【0158】
本明細書に提示される動態データのフィッティングにおいて、この総フィッティング誤差が最小化される。
【0159】
実施例1:GMRセンサを用いた複合試料の結合動態パラメータの測定
GMRセンサを使用して、結合動態パラメータを測定した。異なる濃度で天然ヒトTSHタンパク質を適用することによって、センサ表面を調製し、そこから動態分析のための最適条件(濃度)を選択した。
【0160】
市販のTSH抗体を磁性ナノ粒子(MNP)に個別にコンジュゲートした。非特異的相互作用を防止するために、センサ表面および修飾MNPの両方を従来の方法に従ってブロッキングした。
【0161】
結合シグナルのリアルタイム読み取りは、修飾MNPをセンサに直接適用することによって実現された。近接シグナルのみが検出されるため、MNPと表面タンパク質との特異的な結合のみを反映する。図1図2-1および図2-2に、相互作用のメカニズムを示す。
【0162】
TSHタンパク質と抗体との相互作用を研究した。ここで、アッセイ混合物には、(i)緩衝液を含むが血液試料を含まない単純溶液、(ii)血漿を含む複合溶液、および(iii)異なる量の界面活性剤Tween 20(別名、ポリソルベート20)を含む緩衝液が含まれた。最大80%の血漿、および最大2%のTween 20を使用した。2つのTSH抗体5405および5409を用いた。
【0163】
単純緩衝液、25%の血漿、50%の血漿、および80%の血漿を用いて結合試験を行った。図4に、単純試料、50%の試料、80%の試料の結果を示す。各図で、生データと、式(2)~(4)を使用した動態最良適合曲線を示す。kon、koff、およびKの値は、最良適合曲線に基づいて計算し、以下の表1に示されるように、血漿の増加に伴ってシグナルが減少しても、すべての場合で、変動が10倍未満である値を得た。通常、異なる試料(例えば、80%の血漿対して単純緩衝液)の値は、差が1倍未満(すなわち、100%未満)であった。
【0164】
【表1】
【0165】
図4に示されるように、平滑化されたリアルタイムデータの値は、一定時間(すなわち、約3分から約35分まで)増加し、その後、値は減少する。したがって、平滑化されたリアルタイムデータの微分係数、すなわち、傾きは、単一の符号の変化を有する。特に、微分係数は、約3分から35分の間で正であり、微分係数は、約35分以降で負である。約3分から35分までの間は、結合プロセス(すなわち、kon)に対応し、35分以降の時間は、解離プロセス(すなわち、koff)に対応する。図4に示される最良適合の線は、上述した式(2)および(3)で得られた適合に対応する。
【0166】
加えて、図4の50%および80%の試料データに最も明確に示されるように、リアルタイムデータは、正または負のいずれかの方向における微小で一時的な変動を含み、値が約3分から約35分までの間で全体的に増加して、その後に減少するというシグナルの全体的な進行には関係しない。このような微小な変動および一時的な変動は、統計的ノイズとみなすことができ、このような微小な変動および一時的な変動を除去することによって、生のリアルタイムデータを、平滑化されたリアルタイムデータに変換することができる。このような生データの平滑化の方法は、当該技術分野で既知であり、生データを平滑化する任意の好適な方法を用いることができる。
【0167】
実施例2:複合試料およびGMRセンサを用いて得られたパラメータの文献値との比較
実施例1で計算された結合動態パラメータは、以前に、単純溶液および表面プラズモン共鳴(SPR)を使用して測定されている(すなわち、「文献値」)。以下の表2は、実施例1の測定値から計算されたパラメータが、常に文献値の1倍の差の範囲内であり、通常、著しく近いことを示している。したがって、実施例1の計算されたパラメータは、文献値と一致した。
【0168】
【表2】
【0169】
実施例3:SPRセンサを用いた複合試料の結合動態パラメータの測定
次に、実施例1と同じ結合動態パラメータを測定したが、GMRセンサの代わりに表面プラズモン共鳴(SPR)を使用するBiacore X100機器で測定した。実施例1と同じTSHタンパク質および抗体を用いた。緩衝液は、0%、0.01%、0.1%、1%、および10%の濃度のBSAであった。
【0170】
しかしながら、図5Aおよび図5Bに示されるように、Biacore X100機器による測定は、BSAの濃度に基づいて有意差を示した。したがって、このような有意差は、SPR機器を使用する場合、BSA緩衝液の存在により、結合動態パラメータの正確な測定が妨げられることを示した。
【0171】
目的の構成要素以外の構成要素からの負の干渉は、いくつかの方法で評価することができる。場合によっては、負の干渉により、平滑化されたリアルタイムデータの微分係数が、符号の変化を複数有することになる。実際、図5Bに示されるように、すなわち、図5Aの一部分の拡大図であるが、4つの最も低い濃度の試料は、シグナルが急増/急減するまで常に増加し、10%の試料は、減少する前の短時間、最初に増加した。急増/急減した後、10%の試料のシグナルが再び増加した。
【0172】
したがって、10%の試料に急増/急減が存在しなかったとしても、シグナルが増加し、減少し、次いで、再び増加し、微分係数の符号に2つの変化をもたらした。対照的に、本方法の磁気センサを用いた図4のデータは、微分係数の単一の符号の変化のみを有した。
【0173】
さらに、図5Aおよび図5Bに示されるBiacrore X100機器からの各試料は、測定されたシグナルにおける一時的な急激な変化の変動(例えば、10%の試料の急増/急減および他の試料の同時の急激な変化)を示した。したがって、そのような変化は、リアルタイムデータの微分係数の2つの余分な符号の変化を加える。
【0174】
加えて、図5Bの10%の試料において明確に示されるように、シグナルは、値が急速に増加し、次いで、減少し、その後、より緩やかな変化を再開することを示す。したがって、平滑化された10%の試料のリアルタイムデータの微分係数の絶対値は、微分係数の絶対値よりも、微分係数の平均絶対値よりも有意に高かった(すなわち、5倍以上高かった)。このような値の急激な変化は、本明細書では不連続性の例であるとみなされ、これは、試験された条件下でBiacore X100機器により得られたリアルタイムデータが、結合動態パラメータの正確な推定を生成する能力が低いデータを生成したことを例示する。
【0175】
実施例4:GMRセンサを用いた界面活性剤を含む複合試料の結合動態パラメータの測定
測定された結合動態パラメータに対するポリソルベート20(Tween 20およびポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートとしても知られる界面活性剤)の効果を調べた。0.05%、0.5%、1%、および2%のポリソルベート20を含むアッセイ混合物を生成し、5405抗体のTSHタンパク質との結合を測定した。図6は、得られた生データおよび最良適合の線を示し、一方、以下の表3は、計算された結合動態パラメータを示している。図6に示されるように、各試料のリアルタイムデータの微分係数は、単一の符号の変化を含む。加えて、図6のリアルタイムデータは、結合パラメータを正確に計算する能力を阻害する値の急激な変化を含まない。
【0176】
【表3】
【0177】
したがって、ポリソルベート20の濃度が少なくとも最大2%でさえ、一貫した値のパラメータが得られることが見出された。
【0178】
前述の発明は、理解を明確にする目的のために、例示および実施例としてある程度詳細に説明されているが、添付の特許請求の範囲の趣旨または範囲から逸脱することなく、それに対して特定の変更および修正を行うことができることは、本発明の教示に照らして、当業者には容易に明らかである。
【0179】
したがって、上記は、単に、本発明の原理を例示しているに過ぎない。当業者は、本明細書に明示的に記載または示されていないが、本発明の原理を具現化し、その趣旨および範囲に含まれる様々な構成を考案することができることが理解される。さらに、本明細書に列挙されるすべての実施例および条件的文言は、主に、本発明の原理および本発明者が当該技術を促進するために提供する概念を、読者が理解することを助ける点を意図しており、そのような具体的に列挙された実施例および条件に限定されないと解釈されるべきである。さらに、本発明の原理、態様、および実施形態、ならびにその特定の実施例を列挙する本明細書のすべての記述は、その構造的均等物および機能的均等物の両方を包含することが意図される。さらに、かかる均等物は、現在知られている均等物および将来開発される均等物(すなわち、構造に関係なく、同じ機能を実行する開発された任意の要素)の両方を含むことが意図される。したがって、本発明の範囲は、本明細書において示され、記載される例示的な実施形態に限定されることを意図するものではない。むしろ、本発明の範囲および精神は、添付の特許請求の範囲によって具現化される。
【0180】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年8月6日に出願された米国特許出願第62/883,515号に対する優先権の利益を主張し、その開示は、その全体が参照により本明細書に組込まれる。
図1
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5A
図5B
図6
【国際調査報告】