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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-14
(54)【発明の名称】上皮幹細胞を分化させるための方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20221006BHJP
   C12N 5/074 20100101ALI20221006BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221006BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20221006BHJP
   A61P 13/02 20060101ALI20221006BHJP
   A61P 13/10 20060101ALI20221006BHJP
   A61K 35/22 20150101ALI20221006BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/074
A61P35/00
A61P29/00
A61P13/02
A61P13/10
A61K35/22
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022508547
(86)(22)【出願日】2020-08-07
(85)【翻訳文提出日】2022-04-06
(86)【国際出願番号】 EP2020072318
(87)【国際公開番号】W WO2021028361
(87)【国際公開日】2021-02-18
(31)【優先権主張番号】19290013.2
(32)【優先日】2019-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】522052200
【氏名又は名称】ユーロスフィア
(71)【出願人】
【識別番号】507241492
【氏名又は名称】アンスティトゥート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシャルシュ・メディカル・(インセルム)
(71)【出願人】
【識別番号】522052211
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・トゥールーズ・3-ポール・サバティエ
(71)【出願人】
【識別番号】522052222
【氏名又は名称】エコール・ナショナル・ヴェトリネール・ドゥ・トゥールーズ
(71)【出願人】
【識別番号】522052956
【氏名又は名称】サントル・オスピタリエ・ウニヴェルシテール・ドゥ・トゥールーズ
(71)【出願人】
【識別番号】522052233
【氏名又は名称】アンスティテュ・ナシオナル・ドゥ・ルシェルシェ・プール・ラグリクルテュール・ラリマンタシオン・エ・ランヴィロンヌマン
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ・ルエル
(72)【発明者】
【氏名】ナタリー・ヴェルニョル
(72)【発明者】
【氏名】グザヴィエ・ゲーム
(72)【発明者】
【氏名】セリーヌ・ルジェ
(72)【発明者】
【氏名】モルガン・セベルト
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA91X
4B065AA93X
4B065BB04
4B065BB19
4B065BB23
4B065BD25
4B065BD39
4B065CA44
4B065CA46
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB40
4C087BB64
4C087CA04
4C087NA20
4C087ZA81
4C087ZB11
4C087ZB26
(57)【要約】
本発明の主題は、増殖培地、ウシ下垂体抽出物、受容体チロシンキナーゼリガンド、初代線維芽細胞の上清、及び任意選択でRhoキナーゼ阻害剤の存在下で、1つ又は複数の上皮幹細胞を細胞外マトリクスと接触させて培養する工程を含む、上皮幹細胞を分化させるための方法である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウシ下垂体抽出物(BPE)、受容体チロシンキナーゼリガンド、初代膀胱線維芽細胞の上清、及び任意選択でRhoキナーゼ阻害剤(rho関連タンパク質キナーゼ阻害剤又はROCK阻害剤)が添加された、動物細胞又はヒト細胞のための基本培地を含む増殖培地の存在下で、1つ又は複数の上皮幹細胞を細胞外マトリクスと接触させて培養する工程を含む、膀胱上皮幹細胞を分化させるための方法。
【請求項2】
増殖培地中において、受容体チロシンキナーゼリガンドが、FGF、HGF、及びEGFからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
増殖培地中において、受容体チロシンキナーゼリガンドがEGFである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
増殖培地中において、ROCK阻害剤が、ファスジル、リパスジル、ネタルスジル、RKI-1447、Y-27632、GSK429286A、C21H16F4N4O2、又はY-30141からなる群から選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
増殖培地中において、ROCK阻害剤がY-27632である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
初代膀胱線維芽細胞の上清が、ヒト膀胱組織に由来する初代膀胱線維芽細胞の上清である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
上皮幹細胞がヒト膀胱に由来する、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ウシ下垂体抽出物(BPE)、受容体チロシンキナーゼリガンド、初代膀胱線維芽細胞の上清、及び任意選択でROCK阻害剤が添加された、動物細胞又はヒト細胞のための基本培地を含む、増殖培地。
【請求項9】
ROCK阻害剤が、ファスジル、リパスジル、ネタルスジル、RKI-1447、Y-27632、GSK429286A、C21H16F4N4O2、又はY-30141からなる群から選択される、請求項8に記載の増殖培地。
【請求項10】
ROCK阻害剤がY-27632である、請求項9に記載の増殖培地。
【請求項11】
受容体チロシンキナーゼリガンドが、FGF、HGF、及びEGF、又はこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項8から10のいずれか一項に記載の増殖培地。
【請求項12】
初代線維芽細胞の上清が、膀胱線維芽細胞の上清である、請求項8から11のいずれか一項に記載の増殖培地。
【請求項13】
膀胱、特にヒト膀胱に由来する、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる又は得られるオルガノイド。
【請求項14】
非乳頭状腫瘍に由来する、請求項13に記載のオルガノイド。
【請求項15】
マウスに移植された、ヒトの膀胱腫瘍に由来する、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる又は得られるオルガノイド。
【請求項16】
創薬開発、薬剤スクリーニング、標的スクリーニング、バイオマーカースクリーニング、毒性アッセイ、組換え遺伝子発現を含む遺伝子発現研究、組織の損傷及び修復に関与するメカニズムの調査、炎症性及び感染性疾患の調査、微生物叢並びにそれに伴う腸内毒素症及び病理の調査、病原性メカニズムの研究、又は細胞形質転換のメカニズム及びがんの病因論の研究、プレシジョンメディシンのための、請求項13に記載のオルガノイド又は前記オルガノイドに由来する細胞の使用。
【請求項17】
障害、状態、又は疾患の処置において使用するための、請求項13若しくは14に記載のオルガノイド、又は前記オルガノイドに由来する細胞。
【請求項18】
膀胱がん、膀胱炎症、膀胱炎、過活動膀胱、間質性膀胱炎、化学物質性膀胱炎、神経因性膀胱、膀胱下尿道閉塞、低活動膀胱、又はあらゆる膀胱病理の処置において使用するための、請求項13に記載のオルガノイド又は前記オルガノイドに由来する細胞。
【請求項19】
患者へのオルガノイド又は細胞の移植において使用するための、請求項13若しくは14に記載のオルガノイド又は前記オルガノイドに由来する細胞。
【請求項20】
患者から上皮細胞を得る工程、及び前記上皮細胞を請求項1に記載の方法に従ってインビトロで培養する工程、及び前記培養された細胞又はオルガノイドを疾患について試験する工程を含む、患者における疾患を診断する方法。
【請求項21】
治療用化合物を選択するための、膀胱細胞の生検を得る工程、前記細胞を請求項1に記載の方法に従ってインビトロで培養する工程、及び潜在的治療分子を試験する工程で構成される、請求項1から7のいずれか一項に規定のオルガノイドの使用方法。
【請求項22】
試験した治療分子に基づいて患者を臨床試験に含めるための、請求項21に記載の使用方法。
【請求項23】
a.動物細胞若しくはヒト細胞を培養するための基本培地、ROCK阻害剤、並びに任意選択でウシ下垂体抽出物(BPE)、並びに/又はEGF、FGF、及びHGFの群の中から選択される受容体チロシンキナーゼリガンドを含む懸濁培地中の、ヒト膀胱組織に由来する上皮成体幹細胞を含む尿路上皮細胞を含む細胞の懸濁液を準備する工程であって、前記懸濁培地が初代線維芽細胞の上清を欠いている、工程、
b. 上記工程(a.)で準備された細胞を、三次元組織が得られるまでの前記ヒト膀胱組織に由来する上皮成体幹細胞の細胞増殖及び細胞分化を可能にする条件下で、前記ヒト上皮成体幹細胞の分化に適した細胞外マトリクス及び増殖培地中で培養する工程であって、1回又は複数回の細胞継代、有利には2、3、4、又は5回の継代、特に最大10回又は最大15回の継代を包含する工程、
c. 上記工程(b.)で得られた三次元組織をオルガノイド培養物として成長させ、得られたオルガノイドの細胞的及び/又は分子的特徴付けを任意選択で行う工程、
を含む、ヒト膀胱組織のオルガノイド培養物の調製方法、特に、正常な膀胱組織又はがん膀胱組織のオルガノイド培養物の調製方法であって、
増殖培地が、動物細胞又はヒト細胞を培養するための基本培地及び初代線維芽細胞の上清を少なくとも含み、増殖培地の組成がb.に記載の細胞培養物工程の際に調整され、そのため、細胞培養物の各継代で、増殖培地は最初に、ウシ下垂体抽出物(BPE)、並びに/又はEGF、FGF、及びHGFの群の中から選択される受容体チロシンキナーゼリガンド、並びに任意選択でROCK阻害剤を追加で含み、そして、増殖培地が前記各継代で交換又は補充される場合、増殖培地がROCK阻害剤を欠いており、特に、増殖培地が、連続細胞継代の間の補充のために、請求項1から12のいずれか一項に規定の通りである、
調製方法。
【請求項24】
オルガノイド培養物が、患者の膀胱腫瘍から事前に得られた膀胱組織から調製され、請求項23に規定の第1の工程(a.)の前に、以下の追加の工程:
i.患者の膀胱腫瘍組織のサンプルを準備し、前記組織を切開して、粘膜下層から分離された尿路上皮を回収し、尿路上皮細胞に富む懸濁液を、特に、解離した細胞を含む培地を撹拌した後の上清として、回収する工程、
ii. i.の尿路上皮細胞に富む懸濁液を遠心分離し、尿路上皮細胞を含有する遠心分離ペレットを回収する工程
を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
オルガノイド培養物が、膀胱の患者由来腫瘍異種移植片(PDX)から調製され、請求項23に規定の第1の工程(a.)の前に、以下の追加の工程:
i.異種移植片から以前に得られた膀胱腫瘍組織を準備し、前記膀胱腫瘍組織を小片、特に約5mm3の膀胱腫瘍組織小片に切開して、細胞を解離溶液と接触させ得る工程、
ii. i.の得られた膀胱腫瘍組織を剥離溶液と任意選択でインキュベートして、尿路上皮細胞と粘膜下層細胞との間の細胞間結合を破壊し、そして、尿路上皮細胞に富む懸濁液を、特に、解離した細胞を含む懸濁液を撹拌した後の上清として回収する工程、
iii. ii.の尿路上皮細胞に富む懸濁液を遠心分離し、尿路上皮細胞を含有する遠心分離ペレットを回収する工程
を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
オルガノイド培養物が、ヒト対象の健康な膀胱組織から事前に得られた膀胱組織から調製され、請求項23に規定の第1の工程(a.)の前に、以下の追加の工程:
i.ヒト対象の膀胱組織を準備し、前記組織を切開して、粘膜下層から分離された尿路上皮を回収し、膀胱腫瘍組織を剥離溶液と任意選択でインキュベートして、尿路上皮細胞と粘膜下層細胞との間の細胞間結合を破壊し、尿路上皮細胞に富む懸濁液を、特に、解離した細胞を含む懸濁液を撹拌した後の上清として回収する工程、
ii. i.の尿路上皮細胞に富む懸濁液を遠心分離し、尿路上皮細胞を含有する遠心分離ペレットを回収する工程
を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
工程a.において、増殖培地が、80%から40%の容積の基本培地、又はBPE及び受容体チロシンキナーゼリガンドを補った基本培地、特に完全KSFM培地、並びに20%から60%の容積の初代線維芽細胞上清(PFS)を含有し、特に、1容積の基本培地、又はBPE及び受容体チロシンキナーゼリガンドを補った基本培地、特に完全KSFM培地を含有し、並びに1容積の初代線維芽細胞上清(PFS)を更に含有し、また、培養工程b.において、培養開始後2から3日間は、増殖培地がROCK阻害剤も含み、その後の細胞培養の間は、80%から40%の容積の基本培地、又はBPE及び受容体チロシンキナーゼリガンドを補った基本培地、特に完全KSFM培地、並びに20%から60%の容積の初代線維芽細胞上清(PFS)を含む、特に、1容積の基本培地、特に完全KSFM培地と、1容積の初代線維芽細胞上清(PFS)とを含む、新鮮な増殖培地又は補充される培地が提供され、前記新鮮な増殖培地又は前記補充される培地が、ROCK阻害剤を欠いている、請求項23から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
増殖培地の提供前に細胞外マトリクスが細胞懸濁液に提供され、細胞外マトリクスがポリマー化され、細胞がそこに包埋され、その後、増殖培地が添加される、請求項23から27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
培養中のオルガノイドが、マトリゲル等の細胞外マトリクス中及び培養培地中で維持されながら少なくとも10日間、好ましくは少なくとも2週間、更に好ましくは少なくとも25週間にわたる生存能力を示す、請求項23から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
オルガノイド培養物が、少なくとも30μm、好ましくは少なくとも40μm、更に好ましくは少なくとも80μm、及び最も好ましくは少なくとも200μmの範囲のサイズを有するオルガノイドを含む、請求項23から29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
オルガノイド培養物中のオルガノイドが、CK5、CK17、CK20、GATA3、Upk3、及びKi67の群において選択される少なくとも1つの、好ましくは少なくとも2つの細胞マーカーを発現し、特に、CK5、CK17、CK20、GATA3、Upk3、及びKi67を発現する、請求項23から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
親ヒト膀胱腫瘍組織のがんのサブタイプ及び/又はがんのステージ及び/又は細胞学的形状の特徴を含む組織学的特徴、並びに親ヒト膀胱腫瘍組織のSTRフィンガープリンティング等の遺伝的特徴を有するオルガノイドであって、請求項23から32のいずれか一項に記載の方法を実施することによって得ることができ、且つ、少なくとも30μm、好ましくは少なくとも40μm、更に好ましくは少なくとも80μm、及び最も好ましくは少なくとも200μmの範囲のサイズを有し、且つ、CK5、CK17、CK20、GATA3、Upk3、及びKi67細胞マーカーを発現する、オルガノイド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、増殖培地、ウシ下垂体抽出物、受容体チロシンキナーゼリガンド、初代線維芽細胞の上清、及び任意選択でRhoキナーゼ阻害剤の存在下で、1つ又は複数の上皮幹細胞を細胞外マトリクスと接触させて培養する工程を含む、上皮幹細胞を分化させるための方法である。
【0002】
本発明の主題はまた、オルガノイドを取得及び単離する工程を更に含む方法である。
【0003】
好ましい実施形態において、上皮幹細胞はヒト成体膀胱上皮幹細胞であり、初代線維芽細胞の上清は初代膀胱線維芽細胞の上清である。
【0004】
本発明の別の主題は、創薬開発、薬剤スクリーニング、標的スクリーニング、バイオマーカースクリーニング、毒性アッセイ、組換え遺伝子発現を含む遺伝子発現研究、組織の損傷及び修復に関与するメカニズムの調査、炎症性及び感染性疾患の調査、微生物叢並びにそれに伴う腸内毒素症及び病理の調査、全ての上皮機能障害の調査、病原性メカニズムの研究、又は細胞形質転換のメカニズム及びがんの病因論及びプレシジョンメディシンの研究における、このオルガノイド又は前記オルガノイドに由来する細胞の使用である。
【背景技術】
【0005】
膀胱に関連する疾患は、最も多く、費用のかかる疾患の1つである。特に、膀胱がんは世界で10番目に多いがんであり、前立腺がんに次いで2番目に多い泌尿器がんである(GLOBOCAN、2018)。男性は女性よりも罹患が多く(3.2:0.9の比率)、疾病の発生は年齢にと共に増大する(Sanliら、Nature Reviews Disease Primers、2017、第3巻、17022頁)。したがって、この疾患は男性の間でランクが高く、男性では6番目に多いがんであり、がんによる死亡の主因の9番目である(Brayら、Ca Cancer J Clin 2018、68:394~424)。その発生は毎年1%ずつ増加しているが、死亡率は過去30年間にわたり安定したままである(Rebillardら、Progres en Urologie J. Assoc Francaise Urol、2010、S4:S211~214)。
【0006】
膀胱腫瘍の発病において、喫煙、遺伝因子、及び環境因子を含む3つの主要な危険因子が同定されている(Sanliら、2017)。新規な処置を開発するために、膀胱尿路上皮の前臨床研究のための新規なモデルの改良及び開発が必須である。
【0007】
疾患の特徴付け及び治療法開発のために現在使用されている戦略は、2D細胞培養技術と、その後の、動物モデルの利用に依拠している。膀胱がんの研究に通常利用可能なインビトロモデルは、原則的には、2Dで成長した腫瘍細胞系である。これらの腫瘍系は、実験的に扱うことが容易であり、安価で、細胞の病態生理学についての広範な情報を提供し、そして、前臨床薬理学研究における有用性が証明されている。しかし、これら2D腫瘍系のモデルは、組織の構造及び環境多様性も、インビボで見られる治療標的化の困難性も、再現しない。加えて、これら細胞系は、患者間の、及び腫瘍自体内の、腫瘍不均一性を反映しない。実際、炎症性成分及び間質がインビトロでは存在しないために、この細胞系は、原発腫瘍の遺伝的多様性及び表現型多様性を忠実には再現せず、また、これらの複雑性を完全にはまとめていない(Mo Liら、the New England Journal of Medicine、2019、380(6):569~579)。
【0008】
動物モデルは、がん調査の主要なツールの1つである。現在、化学的に誘導された腫瘍モデル、異種移植モデル、及び遺伝子操作モデル(GEM)という、3つの膀胱がんマウスモデルが存在する(Inoueら、Nature Reviews Urology、2017)。腫瘍の化学発がん物質モデル及びこれらの時間的進行は非常に不均一であり、一方で、GEMモデルは、同一の組織学を有するヒトがんの不均一性と比較して、比較的、遺伝的に均一である。したがって、これらのモデルは、腫瘍を正確に概括していない。従来の細胞系由来異種移植片(CDX)モデルは、がんの発病及び転移についての本発明者らの理解に関して有益な情報を提供してきた。これらは、薬剤スクリーニングと薬剤の作用メカニズムの理解とに使用されてきた。しかし、これらは、不適切な微小環境、並びに腫瘍の発達及び耐性の研究に必要な腫瘍不均一性の欠如という、大きな欠陥を有する。患者由来異種移植モデル(PDX)は、個々のがんの腫瘍不均一性をより反映するため、腫瘍の生物学の研究にCDXよりも適している。更に、PDXの治療は、個々の患者ドナーで見られる臨床転帰を再現する(Byrneら、Nature Reviews in Cancer、2017)。しかし、動物病態生理学のため、治療試験の臨床への外挿は慎重を要する。加えて、これらのモデルを使用するために必要な高いコスト及び時間が、ヒトにおける膀胱癌の範囲を網羅する大規模な治療試験の実現を妨げている。
【0009】
インビトロモデルの調査上の柔軟性と、構造及び組織微小環境等のインビボでの生理病理学の重要な要素との両方を考慮した、前臨床がん研究の他のモデルが新たに出現している。これら3D腫瘍細胞培養物は、スフェロイド及びオルガノイドを含む。これらの3D培養物の中でも、オルガノイドモデルは、がんの研究に最も関連があると思われる。実際、オルガノイドは、幹細胞の生存特性及び自己再生特性を理由として、患者から単離された初代細胞から発生し得、また、階層及び組織構造に関して差異を生じさせ得る(Fatehullahら、Nature Cell Biology、2016、18(3):246~254)。オルガノイドは、それが得られた元であるインビボ上皮組織に非常に類似している。これらは、分化した上皮の複雑な空間形態を再現して、生物学的に関連する細胞-細胞及び細胞-マトリクス相互作用を可能にする。理想的には、オルガノイドの物理的、細胞的、及び分子的特徴は、これらが、分化したインビボ上皮と類似の生理学的応答を共有することを意味する。オルガノイド培養物は、胃、結腸、及び膵臓といういくつかの組織タイプで、並びに、前立腺、唾液腺、及びいくつかの他の組織で、確立された(Mo Liら、the New England Journal of Medicine、2019、380(6):569~579)。
【0010】
膀胱上皮が、膀胱侵襲における正常なホメオスタシス及び応答に関与する特異的幹細胞(SC)を含む、階層的に組織化された組織であることを示唆する証拠が増えつつある。また、膀胱がんでは、とりわけ、自己再生し、分化することによって腫瘍細胞の不均一性を生じさせる能力を有する、がん幹細胞(CSC)が存在する。膀胱がん幹細胞は尿路上皮がんの開始及び進行を促すものとして提案されているため、これらの細胞は、抗がん療法のための理想的な標的である。オルガノイドモデルは、したがって、正常な及びがん性の膀胱がんの研究並びに新規な処置の開発に特に適切である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】WO2010/090513
【特許文献2】WO2012/014076
【特許文献3】WO2012/168930
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Sanliら、Nature Reviews Disease Primers、2017、第3巻、17022頁
【非特許文献2】Brayら、Ca Cancer J Clin 2018、68:394~424
【非特許文献3】Rebillardら、Progres en Urologie J. Assoc Francaise Urol、2010、S4:S211~214
【非特許文献4】Mo Liら、the New England Journal of Medicine、2019、380(6):569~579
【非特許文献5】Inoueら、Nature Reviews Urology、2017
【非特許文献6】Byrneら、Nature Reviews in Cancer、2017
【非特許文献7】Fatehullahら、Nature Cell Biology、2016、18(3):246~254
【非特許文献8】Babjukら、European Urology、2017、71:447~461
【非特許文献9】Leowら、World Journal of Urology、2019
【非特許文献10】Yoshidaら、Investigative and clinical urology、2018、59:149~151
【非特許文献11】Leeら、cell、2018、173:515~528
【非特許文献12】Southgateら、Culture of Epithelial Cells、2002、第2版、Wiley-Liss, Inc.
【非特許文献13】Roupretら、Progres en Urologie、2018、28:S46~S78
【非特許文献14】Lang H.ら、2016、Oncotarget、第7巻、第37号:59336~59359
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
期待される展望の1つは、治療応答を予測するためのインビトロ試験の可能性を有する、現在の調査が向かっている個別化医療の道を開く新規な前臨床モデルを規定することである。これらのモデルの開発はまた、膀胱尿路上皮疾患(過活動膀胱、間質性膀胱炎、化学物質性膀胱炎、神経因性膀胱、膀胱下尿道閉塞、低活動膀胱、膀胱炎症等)の病態生理学的研究、及び細胞療法を支援するものとしても役立ち得る。膀胱がんは通常、膀胱の上皮(尿路上皮)から発生し、尿路上皮がんと呼ばれる。粘膜に留まっている又は粘膜固有層(粘膜下層)に浸潤している非筋肉浸潤性膀胱がんは、それぞれTa及びT1と分類される(Babjukら、European Urology、2017、71:447~461)。in situの癌は平らな、粘膜に留まっている、あまり分化していない腫瘍である。ステージ2の腫瘍は、筋肉層の表面に(T2a)又は深く(T2b)浸潤している。T3の腫瘍は、膀胱壁を越えて膀胱周囲脂肪に浸潤している(T3aの浸潤は顕微鏡的であり、T3bは肉眼的である)。T4aの腫瘍は前立腺、子宮、膣、及び/又は腸に浸潤しており、一方、T4bの腫瘍は骨盤壁又は腹壁に浸潤している(Leowら、World Journal of Urology、2019)。
【0014】
患者由来オルガノイド(PDO)は、診療所での患者の薬剤応答を再現するその能力についてのロバストな前臨床モデルとして最近出現し、これらはしたがって、プレシジョンメディシンプログラムに組み込むことができる。膀胱がんオルガノイドは開発されているが、得られたモデルのほとんどは、乳頭腫瘍と呼ばれる非筋肉浸潤形態の膀胱がんに由来し(成功率80%)、一方、非乳頭形態又は筋肉浸潤性腫瘍からのオルガノイドの調製の成功率は、30%未満である(Yoshidaら、Investigative and clinical urology、2018、59:149~151)。更に、Leeら(cell、2018、173:515~528)によって、彼らが開発したオルガノイド系の64%において、分子サブタイプがそれらの親腫瘍の分子サブタイプから変更されたことが観察されている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明において、本発明者らは、正常な膀胱及び筋肉浸潤性膀胱がん(MIBC)を含む膀胱がんからのオルガノイドの発生を可能にするプロトコルを開発した。実際、本発明者らは、単離された尿路上皮幹細胞が、オルガノイド構造を再現可能な様式で形成できるようになるために線維芽細胞分泌培地を必要したことを確認することができた。
【0016】
したがって、本発明の目的は、正常な器官から又はがん器官のような病原性器官からの、再現可能且つ制御された様式でのオルガノイドの培養を可能にする方法を提供することである。より正確には、本発明の目的は、正常な膀胱又はがん膀胱のような病原性膀胱からの、再現可能且つ制御された様式での膀胱オルガノイドの培養を可能にする方法を提供することである。
【0017】
本明細書において、上皮幹細胞を培養し、そして、より長い維持寿命を示し、対応するインビボ組織に存在する全ての主要な分化細胞系統に分化し得る、オルガノイドを得る方法が提供される。本方法は、全ての上皮細胞型、特に膀胱細胞型の培養に関連することが想定される。
【0018】
特に、本発明は、本明細書において記載される増殖培地の存在下で、1つ又は複数の上皮幹細胞を細胞外マトリクスと接触させて培養する工程を含む、上皮幹細胞を培養するための方法を提供する。
【0019】
一部の実施形態において、上皮幹細胞を培養する又は分化させるための方法は、1つ若しくは複数の成体幹細胞を単離する工程、又はオルガノイドを取得及び単離する工程を更に含む。一部の実施形態において、上皮幹細胞は膀胱に由来する。
【0020】
オルガノイドという用語は、本明細書において、オルガノイド培養物という表現と同じ意味で使用され、また、オルガノイド培養物の1つのオルガノイドが例えば使用のために単離されると別段の特定がされている場合、又は、オルガノイドが、選抜された生物製剤として使用され、アッセイを行うために、得られた培養物からプラークのウェル等に適切に単離される場合を除いて、オルガノイド培養物に関連すると理解される。
【0021】
また、培養培地も提供される。特に、本発明は、ウシ下垂体抽出物(BPE)、受容体チロシンキナーゼリガンド、初代線維芽細胞の上清、及び任意選択でRhoキナーゼ阻害剤(rho関連タンパク質キナーゼ阻害剤又はROCK阻害剤)が添加された、動物細胞又はヒト細胞のための基本培地を含む、増殖培地を提供する。
【0022】
好ましい実施形態において、本方法は、膀胱に由来するヒト成体上皮幹細胞の培養又は分化を対象としており、初代線維芽細胞の上清がヒト膀胱線維芽細胞から得られる。したがって、初代線維芽細胞に言及する以下において、線維芽細胞が膀胱線維芽細胞に由来する、特にヒト膀胱線維芽細胞に由来する実施形態が包含されることが理解される。
【0023】
本発明はまた、正常又は病原性器官、特にがん器官のオルガノイド培養物の調製方法であって、器官がヒト膀胱である方法にも関する。
【0024】
本発明はまた、本発明の培養方法又はオルガノイド培養物の調製方法によって得ることができるオルガノイドを提供する。本明細書において記載されるオルガノイド及びオルガノイドに由来する細胞の使用も同様に提供される。例えば、本発明はまた、創薬開発、薬剤スクリーニング、標的スクリーニング、バイオマーカースクリーニング、毒性アッセイ、組換え遺伝子発現を含む遺伝子発現研究、組織の損傷及び修復に関与するメカニズムの調査、炎症性及び感染性疾患の調査、微生物叢並びにそれに伴う腸内毒素症及び病理の調査、全ての上皮機能障害の調査、病原性メカニズムの研究、又は細胞形質転換のメカニズム、がんの病因論、及びプレシジョンメディシンの研究における、本発明のオルガノイド又は前記オルガノイドに由来する細胞の使用も提供する。プレシジョンメディシンは、患者にとって適切な時点での適切な処置を決定するためのツールだけではなく、PDX又はオルガノイドであり得るアバターを使用することによって、選択された薬剤又はバイオマーカーの発現に対するアバターの応答に基づいて、臨床試験のための患者募集を最適化する可能性も意味する。
【0025】
本発明はまた、障害、状態、又は疾患の処置において使用するための、本発明のオルガノイド、又は前記オルガノイドに由来する細胞も提供する。
【0026】
本発明はまた、再生医療において使用するための、本発明のオルガノイド又は前記オルガノイドに由来する細胞を提供し、例えば、ここで、当該使用は、患者へのオルガノイド又は細胞の移植を伴う。
【0027】
様々な組織から上皮幹細胞を培養するための方法は、WO2010/090513、WO2012/014076、及びWO2012/168930においてこれまでに記載されている。しかし、膀胱のケースでは、筋肉浸潤性膀胱がんからオルガノイドを得ること、及び再現可能なオルガノイドを得ることは、非常に困難である。
【0028】
膀胱は、腎臓から排出された尿を保存及び排泄する役割を有する器官である。膀胱は、粘膜、粘膜下層、及び筋肉という3つの主要な層に更に分けられる。粘膜は、膀胱の内側を覆っている細胞の層である。粘膜はまた、尿路上皮又は移行上皮とも呼ばれる。粘膜下層は、粘膜と筋層とを隔てる結合組織の層である。粘膜下層はまた、粘膜固有層、尿路上皮下組織、又は間質とも呼ばれる。筋層は、粘膜下層の外側に延びている2つの筋肉組織層からなる。この第3の層は、縦走筋及び外部筋肉に分けられる平滑筋細胞によって構成されている。
【0029】
尿路上皮は、表層細胞、中間細胞、及び基底細胞という3つの細胞サブタイプからなる上皮である。これらの細胞サブタイプは、異なるレベルのサイトケラチン(Ck5、7、8、10、及び20)を発現する。基底細胞は高レベルのサイトケラチン5(Ck5)及びCk17を発現し、一方、アンブレラ細胞又は表層細胞とも呼ばれる内腔細胞は、高レベルのCk7、Ck20、及びウロプラキン3を発現する。Ck5、17、及びp63は基底細胞及び中間細胞のマーカーであり、一方、Ck7、8、18、及び20、並びにウロプラキンは、アンブレラの細胞のマーカーである。
【0030】
ホメオスタシス条件下の尿路上皮は3から6ヶ月で再生するが、侵襲のケースでは、数日間で迅速に再生し得る。幹細胞は、9%の推定割合で、基底細胞層のレベルに位置する。
【0031】
本発明者らは、驚くべきことに、線維芽細胞上清を培養培地に添加することによって、いかなる不具合もなくヒト上皮幹細胞を培養することができることを見出した。
【0032】
これによって、多くの細胞及びオルガノイドが、様々な用途、例えば、様々な異なる薬剤を試験するために大量の材料が必要な薬剤スクリーニングに、利用可能となる。単一の出発源から細胞を生成する能力は、実験間で結果を比較する必要があるこのような用途に有利である。同様に、このことは、多くの細胞が移植における使用に利用可能であろうこと、及び、有用なドナーから得られた細胞を複数の患者に移植することができることを意味する。増殖培地における細胞の培養によって、細胞がそれらの幹細胞表現型又は前駆細胞表現型を保持しながら複製することが可能となる。これら幹細胞又は前駆細胞を含むオルガノイドが形成される。
【0033】
したがって、ウシ下垂体抽出物(BPE)、チロシンキナーゼリガンド、線維芽細胞上清、及び任意選択でROCK阻害剤が添加された、動物細胞又はヒト細胞のための基本培地を含む増殖培地の存在下で、1つ又は複数の上皮幹細胞を細胞外マトリクスと接触させて培養する工程を含む、上皮幹細胞を培養するための方法が提供される。
【0034】
上記で説明したように、ヒト細胞、特に膀胱細胞の長期の培養は、本発明の前には非常に困難であった。今般、本発明を使用することで、膀胱細胞を培養して再現可能なオルガノイドを得ることが可能である。膀胱オルガノイドの産生は、培養物中における、増殖及び分化が可能な膀胱成体幹細胞の存在によって可能となる。
【0035】
増殖方法において培養される膀胱上皮幹細胞は、あらゆる適切な方法によって得ることができる。好ましくは、これら細胞はヒト膀胱から得られ、したがって、ヒト膀胱上皮幹細胞である。別の実施形態において、これら細胞はまた、膀胱がんの患者由来異種移植片(PDX)からも得ることができる。
【0036】
本発明の方法において使用するための膀胱細胞は、膀胱の生検又は切除物から単離される。一部の実施形態において、膀胱細胞は、例えばSouthgateら、(Culture of Epithelial Cells、2002、第2版、Wiley-Liss, Inc.)において記載されているように、コラーゲナーゼ消化によって単離される。
【0037】
膀胱線維芽細胞は、生検又は切除物に由来し得る。膀胱線維芽細胞は、商業的供給源から、例えば、参照番号4330のヒト膀胱間質線維芽細胞及び参照番号2301のこれらの線維芽細胞基本培地を提供しているSciencell Research Laboratoires社(USA)から入手することができる。線維芽細胞はまた、線維芽細胞成長キット-低血清(参照番号ATCC(登録商標)PCS-201-041)によって完全となる線維芽細胞基本培地(参照番号ATCC(登録商標)PCS-201-030)において、参照番号ATCC(登録商標)PCS-420-013で、ATCCから入手することができる。
【0038】
本発明の上皮幹細胞は、膀胱の上皮組織又は尿路上皮組織に由来する上皮細胞である。
【0039】
本発明の増殖培地において、あらゆる適切なウシ下垂体抽出物(BPE)を使用することができる。好ましくは、BPEは、培地1mL当たり20~100ngの間に含まれる濃度で使用される。更に好ましくは、培地中のBPE濃度は、培地1mL当たり50ngである。
【0040】
受容体チロシンキナーゼリガンドに関して、上皮成長因子(EGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、若しくは肝細胞成長因子(HGF) 又はこれらの組み合わせを含む成長因子を、尿路上皮細胞の増殖及び分化を刺激するために使用することができ、これらの増殖因子は、増殖培地に含まれるのに適している。多くの受容体チロシンキナーゼリガンドは、分裂促進性の成長因子である。一部の実施形態において、増殖培地中の受容体チロシンキナーゼリガンドは、FGF、HGF、及びEGFからなる群から選択される。好ましくは、使用される受容体チロシンキナーゼリガンドは、EGFである。あらゆる適切なEGF、例えばPeprotech社から入手されるEGFを使用することができる。或いは、EGFは、EGF受容体を活性化する代替化合物で置換される。例えば、IGF(インスリン様成長因子)がEGFの代替となり得ることが想定される。
【0041】
好ましくは、幹細胞の培養の間、前記受容体チロシンキナーゼリガンドが、必要に応じて、例えば毎日又は一日おきに、培養培地に補われる。
【0042】
基本培地には、4ng/mlから10ng/mlのEGFを補うことができる。更に好ましくは、基本培地には、5ng/mlのEGFを補うことができる。
【0043】
ROCK阻害剤は、ファスジル、リパスジル、ネタルスジル、RKI-1447、Y-27632、GSK429286A、C21H16F4N4O2、又はY-30141からなる群から選択される。好ましくは、ROCK阻害剤は、Y-27632である。更に好ましくは、培地には、10μMのROCK阻害剤、特に、10μMのY-27632を補うことができる。
【0044】
添加される線維芽細胞上清は、好ましくは、線維芽細胞成長キット-低血清(例えば、参照番号ATCC(登録商標)PCS-201-041で入手可能)によって完全となる線維芽細胞基本培地(例えば、参照番号ATCC(登録商標)PCS-201-030で入手可能)において細胞(例えば、参照番号ATCC(登録商標)PCS-420-013で入手可能な細胞)を3日間から3週間培養した後に得られる初代膀胱線維芽細胞の上清である。
【0045】
増殖培地(特に完全KSFM培地)に含まれる基本培地、又はBPE及び受容体チロシンキナーゼリガンドを追加で含む基本培地(いわゆる完全基本培地)の容積に対して、容積が20から60%、特に20%から50%、又は30%から60%、又は30%から50%の線維芽細胞上清が、通常、基本培地又は完全基本培地(特に完全KSFM培地)に添加される。特定の実施形態において、50%の線維芽細胞上清が、50%の完全KSFM培地に添加される。
【0046】
本発明の一部の実施形態は、およそ8~50、例えば、10~50、15~50、20~50、20~40回の細胞継代のための増殖培地の使用を含む。例えば、一部の実施形態において、細胞は、1:1から1:3の希釈で、7~10日ごとに、2、3、4、5、又は6ヶ月間、又はそれ以上の月数にわたってスプリットしてよい。
【0047】
このような希釈は、幹細胞及び分化した上皮細胞の非対称細胞分裂を促進するために必要である。好ましくは、非対称細胞分裂の間、培地は、ROCK阻害剤を含有する。
【0048】
好ましくは、細胞はヒト細胞である。更に好ましくは、上皮幹細胞はヒト上皮幹細胞である。しかし、非ヒト哺乳動物の上皮幹細胞の培養もまた想定される。
【0049】
一部の実施形態において、幹細胞は、膀胱、膵臓、腸(例えば小腸又は結腸)、胃、前立腺、腎臓、肺、乳房、卵巣、唾液腺、毛包、皮膚、食道、及び甲状腺の上皮幹細胞から選択される。好ましい実施形態において、幹細胞は、膀胱細胞に由来する。
【0050】
上記のように、上皮幹細胞を培養するための方法は、細胞外マトリクスに包埋された1つ又は複数の上皮幹細胞を培養する工程を含む。あらゆる適切な細胞外マトリクスを使用することができる。単離された上皮幹細胞は、好ましくは、前記幹細胞が天然に存在する細胞ニッチを少なくとも部分的に模倣する微小環境内で培養される。この細胞ニッチは、幹細胞の運命を制御する重要な調節シグナルを提供する細胞外マトリクス等の生体材料の存在下で前記幹細胞を培養することによって模倣できる。
【0051】
細胞ニッチは、幹細胞及び周辺細胞、並びに、前記ニッチにある細胞によって産生される細胞外マトリクス(ECM)によって、一部には決定される。本発明の好ましい方法において、上皮幹細胞は、ECMと接触して培養される。「接触して」は、物理的又は機械的又は化学的接触を意味し、これは、前記細胞外マトリクスから前記得られたオルガノイド又は上皮幹細胞集団を分離するために、力の使用が必要であることを意味する。好ましくは、上皮幹細胞は、ECMに包埋されている。
【0052】
本発明の培養培地は、細胞外マトリクス(ECM)内に拡散してよい。本発明の好ましい方法において、単離された組織断片又は単離された上皮幹細胞は、ECMに付着している。ECMは、様々な多糖、水、エラスチン、及び糖タンパク質で構成され、ここで、糖タンパク質は、コラーゲン、エンタクチン(ニドゲン)、フィブロネクチン、及びラミニンを含む。ECMは、結合組織細胞によって分泌される。異なるタイプの糖タンパク質及び/又は異なる糖タンパク質の組み合わせを含む異なる組成を含む、異なるタイプのECMが公知である。前記ECMは、ECM産生細胞、例えば線維芽細胞等を容器内で培養し、その後、これらの細胞を取り出し、単離された組織断片又は単離された上皮幹細胞を添加することによって、提供され得る。市販されている細胞外マトリクスの例は、細胞外マトリクスタンパク質(Invitrogen社)、並びに、Engelbreth-Holm-Swarm(EHS)マウス肉腫細胞由来の基底膜調製物(例えば、ラミニン、エンタクチン、及びコラーゲンIVを含むMatrigel(商標)(BD Biosciences社))である。
【0053】
幹細胞の培養にECMを使用することによって、幹細胞の長期の生存及び未分化幹細胞の継続した存在が増強した。加えて、ECMの存在によって、ECMの不存在下では培養できない三次元組織オルガノイドを培養することが可能となった。
【0054】
一部の実施形態において、単一の幹細胞、細胞集団、又は組織断片は、場合によって成長因子が低減している及び/又はフェノールレッドフリーのマトリゲルに包埋される。一部の実施形態において、増殖培養培地は、ECMの一番上に置かれる。増殖培養培地はその後、除去し、必要に応じて、また必要な場合に、補充することができる。一部の実施形態において、培養培地は、1日、2日、又は3日ごとに補充される。成分が培地に「添加される」又は培地から「除去」される場合、このことは、一部の実施形態において、培地自体がECMから除去され、次いで、「添加される」成分を含有する又は「除去される」成分が排除された新たな培地がECMに置かれることを意味し得る。
【0055】
一部の実施形態において、本方法は、オルガノイド又は上皮幹細胞集団を少なくとも2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、又は25週間にわたり培養する工程を含む。
【0056】
増殖培養培地は、幹細胞の生存及びこれらの非対称細胞分裂を有利に誘導する。提供される細胞外マトリクスに幹細胞が包埋される相、したがって、これら幹細胞が単離細胞として提供され得る又は見られる相の間では、これらの生存を促進するために、増殖培地は、少なくとも完全基本培地(すなわち、細胞培養のためのその通常の成分の他に、BPE及び受容体チロシンキナーゼリガンドを含む培地)、初代線維芽細胞の上清、並びにY27632等のROCK阻害剤を含有する。その後、細胞分化を促進するために増殖培地が交換又は補充される場合、Y27632(又は別のROCK阻害剤)は増殖培地の組成から好ましくは除外される。
【0057】
増殖培地は、少なくとも1から2週間の培養の間、細胞の生存及び/又は増殖を好ましくは誘導又は促進する。増殖は、BrdU染色、Edu染色、Ki67染色等の当技術分野において公知の技術を使用して評価することができ、また、成長曲線アッセイの使用も、分化標識アッセイと同様に行うことができる。オルガノイド培養物の形態学的特徴付けもまた、顕微鏡的に、及び細胞分化標識アッセイを用いて、評価することができる。
【0058】
本発明に従って使用される培地は、適切な条件下で、少なくとも2、少なくとも4、少なくとも6、少なくとも8、又は少なくとも10回の継代にわたり、幹細胞集団を増殖させてオルガノイドを形成することができる。好ましくは、この段階では、増殖培養培地は、ROCK阻害剤を含有しない。
【0059】
好ましい実施形態において、増殖方法で培養される上皮幹細胞、及び/又はオルガノイドが由来する元である上皮幹細胞は、成体組織から得られ、すなわち、上皮幹細胞は、成体上皮幹細胞である。この文脈において、「成体」は成熟組織を意味し、すなわち、新生児又は小児は含むが、胚又は胎児の組織は含まない。
【0060】
生存組織から直接採取された細胞、すなわち単離されたばかりの細胞はまた、初代細胞とも呼ばれる。一部の実施形態において、上皮幹細胞は、初代上皮幹細胞である。初代細胞は、インビボ状況についての最良の実験モデルである。本発明の好ましい実施形態において、上皮幹細胞は、初代上皮幹細胞である(又は初代上皮幹細胞に由来する)。初代細胞培養物を継代して、二次細胞培養物を形成させることができる。
【0061】
上皮幹細胞は、あらゆる適切な方法によって得ることができる。一部の実施形態において、細胞は、コラーゲナーゼ消化によって単離される。一部の実施形態において、コラーゲナーゼ消化は、組織生検で行われる。
【0062】
一部の実施形態において、本方法は、上皮を含む組織の断片を培養する工程を含む。一部の実施形態において、上皮幹細胞は、組織断片から単離される。オルガノイドは、成体組織の細胞、好ましくは成体組織の上皮幹細胞を使用して、好ましくは得られる。一部の実施形態において、上皮幹細胞は正常細胞である。代替的な実施形態において、上皮幹細胞はがん幹細胞である。したがって、細胞は、必要に応じて腫瘍から得ることができる。
【0063】
更なる態様において、本明細書において記載される方法を使用して増殖培地中で上皮幹細胞を培養する工程を含む、オルガノイドを得るための方法が提供される。
【0064】
一部の実施形態において、本方法は、上皮幹細胞を培養する工程、又は単一の細胞からオルガノイド/成体上皮幹細胞集団を得る工程を含む。有利には、これによって、均一な細胞集団の形成が可能となる。
【0065】
当技術分野において公知のいくつかの物理的分離方法のいずれか1つを使用して、本発明の細胞を選択し、これらを他の細胞型から区別することができる。このような物理的方法は、本発明の細胞によって特異的に発現されるマーカーに基づくFACS及び様々な免疫親和性方法を伴い得る。
【0066】
本発明はまた、
a.動物細胞若しくはヒト細胞を培養するための基本培地、ROCK阻害剤、並びに任意選択でウシ下垂体抽出物(BPE)、並びに/又はEGF、FGF、及びHGFの群の中から選択される受容体チロシンキナーゼリガンドを含む懸濁培地中の、ヒト膀胱組織に由来する上皮成体幹細胞を含む尿路上皮細胞を含む細胞の懸濁液を準備する工程であって、前記懸濁培地が初代線維芽細胞の上清を欠いている、工程、
b. a.で準備された細胞を、三次元組織が得られるまでの前記ヒト膀胱組織に由来する上皮成体幹細胞の細胞増殖及び細胞分化を可能にする条件下で、前記ヒト上皮成体幹細胞の分化に適した細胞外マトリクス及び増殖培地中で培養する工程であって、1回又は複数回の細胞継代、有利には2、3、4、又は5回の継代を包含する工程、
c. b.で得られた三次元組織をオルガノイド培養物として成長させ、得られたオルガノイドの細胞的及び/又は分子的特徴付けを任意選択で行う工程、
を含む、ヒト膀胱組織のオルガノイド培養物の調製方法、特に、正常な膀胱組織又はがん膀胱組織のオルガノイド培養物の調製方法であって、
増殖培地が、動物細胞又はヒト細胞を培養するための基本培地及び初代線維芽細胞の上清を少なくとも含み、増殖培地の組成が工程b.の細胞培養の際に調整され、そのため、細胞培養物の各継代で、増殖培地は最初に、ROCK阻害剤並びにウシ下垂体抽出物(BPE)並びに/又はEGF、FGF、及びHGFの群の中から選択される受容体チロシンキナーゼリガンドを追加で含み、そして、増殖培地が前記各継代で交換又は補充される場合、増殖培地がROCK阻害剤を欠いている、
調製方法にも関する。
【0067】
特定の実施形態において、増殖培地は、連続細胞継代を開始するための又は連続細胞継代の間に補充するための本明細書において開示されている培養培地の実施形態及び実施例のいずれか1つで規定されている通りである。
【0068】
上記の用語「最初に」又は「開始」は、細胞継代の各々の最初の期間、特に、各継代期間の前半、又は好ましくは、各継代の期間の最初の3分の1を指す。継代は通常、9から15日間続き、増殖培地は細胞の生存及び分化を促進する必要がある場合に交換又は補充され、特に、2から3日ごとに交換又は補充される。したがって、ROCK阻害剤は、各継代の開始時の2から3日間、増殖培地に存在し得る。
【0069】
細胞継代の回数を細胞増殖レベル及び細胞分化活性に従って適合させて、スクリーニングアッセイ、特に薬剤又は薬剤候補のスクリーニングにおける得られたオルガノイド培養物の使用を可能とする、三次元組織のサイズ及び成熟に達するようにすることができる。
【0070】
上記の工程a.に従った細胞懸濁液を調製するための膀胱サンプルの使用は、最初の段階で尿路上皮及び粘膜下層を保持するためにサンプルを切開して脂肪組織及び結合組織を除去する工程を必要とし得る。次いで、尿路上皮細胞と粘膜下層細胞との間の細胞間結合を破壊して尿路上皮細胞を他の細胞から解離させるための分離が行われる。次いで、得られた尿路上皮細胞は、培養工程を行うための懸濁液として提供される前に、濃縮する工程を受けることができる。
【0071】
尿路上皮細胞の培養は、継代に従って異なる組成を有し得る培養培地における、何回かの細胞継代を伴う。特に、ROCK阻害剤(Y-27632等)が、増殖培地の組成を調整するための変数の1つであり得ることが指摘され、このようなROCK阻害剤は、細胞の生存を促進するため、並びに/又は、細胞の増殖の及びこれらの非対称細胞分裂の初期の工程を行うために存在している。
【0072】
この方法の特定の実施形態に従うと、オルガノイド培養物は、患者の膀胱腫瘍から事前に得られた膀胱組織から調製され、ここで、本方法は、工程a.の前に、以下の追加の工程を含む:
i.患者の膀胱腫瘍組織のサンプルを準備し、前記組織を切開して、粘膜下層から分離された尿路上皮を回収し、そして、尿路上皮細胞を含む細胞懸濁液を、特に、解離した細胞を含む懸濁液を撹拌した後の上清として、回収する工程、
ii. i.の細胞懸濁液を遠心分離し、尿路上皮細胞を含有する遠心分離ペレットを回収する工程。
【0073】
本明細書において言及される膀胱組織を切開する工程は、膀胱組織サンプルを小片、例えば数mm3の小片に切断し、当該小片を解離溶液で処理して、組織サンプルを酵素消化、特にコラーゲナーゼ消化させて、本発明の方法に従って処置され得る細胞を準備する工程を包含する。切開工程によって、尿路上皮細胞と粘膜下層細胞との間の細胞間結合の破壊が特に可能となり得、切開工程は、サンプルを剥離溶液で処理して尿路上皮細胞と粘膜下層細胞との間の細胞間結合の破壊を促進する工程を任意選択で含み得る。
【0074】
この方法の特定の実施形態に従うと、オルガノイド培養物は、膀胱の患者由来腫瘍異種移植片(PDX)から調製され、また、本方法は、ヒト膀胱組織のオルガノイド培養物の調製方法における最初の工程(上記の工程a.)の前に、以下の追加の工程を含む:
i.異種移植片から以前に得られた膀胱腫瘍組織を準備し、前記膀胱腫瘍組織を小片、特に約5mm3の膀胱腫瘍組織小片に切開して、細胞を解離溶液と接触させ得る工程、
ii. i.の得られた切開された膀胱腫瘍組織を剥離溶液と任意選択でインキュベートして、尿路上皮細胞と粘膜下層細胞との間の細胞間結合を破壊し、そして、尿路上皮細胞に富む懸濁液を、特に、解離した細胞を含む懸濁液を撹拌した後の上清として回収する工程、
iii. ii.の尿路上皮細胞に富む懸濁液を遠心分離し、尿路上皮細胞を含有する遠心分離ペレットを回収する工程。
【0075】
解離溶液及び剥離溶液は、処理された組織の細胞の間の細胞間結合を特に破壊するための、当業者に公知の溶液である。解離溶液及び剥離溶液は、Southgateら、2002、Culture of Epithelial Cells、第2版で開示されている通りに得ることができる。解離溶液は、特に、コラーゲナーゼ、特にコラーゲナーゼIV等の消化酵素を含む。
【0076】
この方法の特定の実施形態に従うと、オルガノイド培養物は、ヒト対象の健康な膀胱組織から事前に得られた膀胱組織から調製され、ここで、本方法は、ヒト膀胱組織のオルガノイド培養物の調製方法における最初の工程(上記の工程a.)の前に、以下の追加の工程を含む:
i.ヒト対象の膀胱組織を準備し、前記組織を切開して、粘膜下層から分離された尿路上皮を回収し、膀胱腫瘍組織を剥離溶液と任意選択でインキュベートして、尿路上皮細胞と粘膜下層細胞との間の細胞間結合を破壊し、尿路上皮細胞に富む懸濁液を、特に、解離した細胞を含む懸濁液を撹拌した後の上清として回収する工程、
ii. i.の尿路上皮細胞に富む懸濁液を遠心分離し、尿路上皮細胞を含有する遠心分離ペレットを回収する工程。
【0077】
本発明に従ったオルガノイド培養物の調製方法の特定の実施形態に従うと、細胞の懸濁液を準備する工程a.において、増殖培地は、80%から40%の容積の基本培地、又はBPE及び受容体チロシンキナーゼリガンドを補った基本培地(完全KSFM培地等)、並びに20%から60%の容積の初代線維芽細胞上清(PFS)を含有し、例えば、1容積の基本培地、又はBPE及び受容体チロシンキナーゼリガンドを補った基本培地、特に完全KSFM培地を含有し、並びに1容積の初代線維芽細胞上清(PFS)を更に含有し、また、
培養工程b.において、培養開始後2から3日間は、増殖培地はROCK阻害剤も含み、一方、各継代におけるその後の培養段階の間は、80%から40%の容積の基本培地、又はBPE及び受容体チロシンキナーゼリガンドを補った基本培地、並びに20%から60%の容積の初代線維芽細胞上清(PFS)を含む、例えば、1容積の基本培地、特に完全KSFM培地と、1容積の初代線維芽細胞上清(PFS)とを含む、新鮮な増殖培地又は補充される増殖培地が提供され、前記新鮮な増殖培地又は補充される増殖培地は、ROCK阻害剤を欠いている。
【0078】
本発明に従って使用するためのROCK阻害剤は、細胞懸濁液を培養のために細胞外マトリクスに包埋する場合又は更なる継代に切り替える場合に存在する単離細胞のストレスを予防又は相殺するため、したがってこのような細胞を非対称細胞分裂させて分化させるために提供される。
【0079】
オルガノイド培養物の調製方法の特定の実施形態に従うと、培養工程b.において、培養培地の提供前に、細胞外マトリクスが細胞懸濁液に提供され、細胞外マトリクスがポリマー化され、細胞がそこに包埋され、その後、増殖培地が添加される。
【0080】
オルガノイド培養物の調製方法の特定の実施形態に従うと、培養は、5%CO2を含むインキュベーター内で、当業者に周知の条件に従って、37℃の温度で行われ、細胞の継代回数は、少なくとも2又は3回、特に最大5回、又は最大10回、又は最大15回の継代である。
【0081】
オルガノイド培養物の調製方法の特定の実施形態に従うと、本方法によって、マトリゲル等の細胞外マトリクス中及び培養培地中で維持されながら少なくとも10日間、好ましくは少なくとも2週間、更に好ましくは少なくとも25週間にわたる生存能力及び安定性を示すオルガノイドを培養で産生することが可能となる。より一般的には、10回を超える、特に15回を超える継代の後に得られたオルガノイド培養物は、それらの安定性、特にそれらの遺伝的又はプロテオミクス安定性を確認するために、使用前に分析されなくてはならない場合があることが示されている。
【0082】
オルガノイド培養物の調製方法の特定の実施形態に従うと、得られたオルガノイド培養物は、少なくとも30μm、好ましくは少なくとも40μm、更に好ましくは少なくとも80μm、及び最も好ましくは少なくとも200μmの範囲のサイズを有するオルガノイドを含む。
【0083】
オルガノイド培養物の調製方法の更なる実施形態において、得られたオルガノイドの少なくとも1つは、CK5、CK17、CK20、GATA3、Upk3、及びKi67の群において選択される少なくとも1つの、好ましくは少なくとも2つの細胞マーカーを発現し、特に、CK5、CK17、CK20、GATA3、Upk3、及びKi67を発現する。GATA3、CK20、及びUpk3細胞マーカーは膀胱の内腔区画の細胞に特異的であるため、オルガノイドの細胞でのこれらの発現は、オルガノイドの進んだ成熟段階を証明し、特に、オルガノイドが完全に分化していることを証明する。CK5及びCK17は膀胱の基底細胞の細胞マーカーであり、Ki67は細胞増殖の細胞マーカーである。
【0084】
本発明に従って得られたオルガノイド培養物は、使用前の保存のために凍結保存することができる。
【0085】
好ましい実施形態において、がん幹細胞から得られたがんオルガノイドは、ある特定の因子を培地から任意選択で排除した、正常幹細胞から得られた対応する正常組織オルガノイドの成長に適した培養培地中で、成長する。正常組織培地は、いかなる特定のがん突然変異も除外することなく、全ての遺伝的バックグラウンドを有するがんの成長を可能にする。
【0086】
本発明は、本発明の方法によって得ることができる又は得られるオルガノイド又は上皮幹細胞集団を提供する。したがって、一部の実施形態において、本方法は、オルガノイドを得る及び/又は単離する工程を更に含む。
【0087】
オルガノイドは、したがって、本発明の方法によって得ることができる又は得られる。好ましくは、このオルガノイドは、膀胱に由来する。更に好ましくは、このオルガノイドは、非乳頭状腫瘍に由来する。
【0088】
或いは、本発明の方法によって得ることができる又は得られるオルガノイドは、マウスに移植された、好ましくはヒト化された、ヒトの膀胱がん細胞を事前に移植された、及び膀胱がん細胞から形成された腫瘍を有する、ヒトの膀胱腫瘍に由来する。
【0089】
好ましい増殖オルガノイドでは、大部分の細胞が、未分化の表現型を保持する増殖中の細胞(すなわち分裂細胞)であることが理解される。画像分析を使用して、細胞形態学、細胞の構造、並びにオルガノイドの組成及び構造等の、培養物中の細胞の特徴を評価することができる。電子顕微鏡法、共焦点顕微鏡法、立体顕微鏡法、蛍光顕微鏡法等の、多くのタイプの画像分析が、当技術分野において周知である。
【0090】
本発明のオルガノイドは、三次元構造を好ましくは有し、すなわち、オルガノイドは、好ましくは三次元オルガノイドである。形態学的に、細胞は、それらの対応するインビボ組織対応物と同様に見える。上皮幹細胞のオルガノイド又は集団は、あらゆる哺乳動物組織に由来し得る。一部の実施形態において、上皮幹細胞のオルガノイド又は集団は、マウス、ウサギ、ラット、モルモット、又は他の非ヒト哺乳動物に由来する。好ましくは、オルガノイドは膀胱組織と同様に見え、更に好ましくは、細胞はヒト細胞である。
【0091】
本発明の文脈内では、組織断片は、成体組織、好ましくはヒト成体組織、更に好ましくは膀胱組織の一部である。好ましくは、本明細書において同定されるオルガノイドは、したがって、組織断片ではない。
【0092】
本発明は、親ヒト膀胱腫瘍の組織学的(がんのサブタイプ及び/又はステージ並びに細胞学的形状を含む)特徴、及び/又は親ヒト膀胱腫瘍組織の遺伝的特徴(Table 2(表3)で開示されるショートタンデムリピートフィンガープリンティング等)を有するオルガノイドであって、本明細書において開示される実施形態のいずれか1つの方法を実施することによって得ることができ、且つ、少なくとも30μm、好ましくは少なくとも40μm、更に好ましくは少なくとも80μm、及び最も好ましくは少なくとも200μmの範囲のサイズを有し、且つ、CK5、CK17、CK20、GATA3、Upk3、及びKi67細胞マーカーの群において選択される少なくとも2つの細胞マーカーを発現する、特に、CK20、GATA3、及びUpk3マーカーの少なくとも1つ、並びにCK5及びCK17マーカーの少なくとも1つを発現するオルガノイドに、特に関する。
【0093】
特定の実施形態において、オルガノイドは、非乳頭状腫瘍に由来する。
【0094】
本発明の分化培地及び方法を使用して生成されるオルガノイドの典型的な例を、添付の図面に示す。培地の成分が培養の間に使われるため、本発明の方法は、培養の過程の間に増殖培地を新鮮な培地に交換する工程を含み得る。培地を新鮮な培地に交換する必要がある頻度は、当業者に明らかであろう。一部の実施形態において、培地は1日おきに交換されるが、培地が毎日又は2日ごと又は必要に応じて交換され得ることも想定される。
【0095】
増殖培地又は分化培地中で上皮幹細胞を培養する及び/又はオルガノイドを得るための方法は、インビトロで行われる。
【0096】
本発明は、ウシ下垂体抽出物(BPE)、受容体チロシンキナーゼリガンド、初代線維芽細胞の上清、及び任意選択でROCK阻害剤が添加された、動物細胞又はヒト細胞のための基本培地を含む、増殖培地を提供する。
【0097】
好ましくは、本発明の増殖培地において、ROCK阻害剤は、ファスジル、リパスジル、ネタルスジル、RKI-1447、Y-27632、GSK429286A、C21H16F4N4O2、又はY-30141からなる群から選択される。更に好ましくは、ROCK阻害剤は、Y-27632である。
【0098】
好ましくは、増殖培地において、受容体チロシンキナーゼリガンドは、FGF、HGF、及びEGFから選択されるもの等の増殖因子からなる群から選択され、更に好ましくはEGFであるか、又はLY2156299、PGE2、SB202190、ガストリン、Wnt3a等の中から選択される。
【0099】
本発明の増殖培地は、初代線維芽細胞の上清を含有する。好ましくは、上清は、膀胱線維芽細胞の上清、特にヒト膀胱線維芽細胞の上清である。
【0100】
本発明の方法において使用される増殖培地は、あらゆる適切な基本培地を含む。本発明において使用するための基本培地は、文献及び以下に更に詳細に記載されているような、アミノ酸、ビタミン、脂質補給物、無機塩、炭素エネルギー源、及びバッファー等の標準的な細胞培養成分を含む栄養溶液を一般に含む。一部の実施形態において、培養培地は、アミノ酸、ビタミン、脂質補給物、無機塩、炭素エネルギー源、及びバッファーから例えば選択される、1つ又は複数の標準的な細胞培養成分を更に補われている。当業者には、一般知識から、本発明の細胞培養培地において基本培地として使用され得る培養培地のタイプが理解されよう。適切と思われる細胞培養培地は商業的に入手可能であり、これとしては、限定はしないが、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)、最少必須培地(MEM)、ノックアウト-DMEM(KO-DMEM)、グラスゴー最少必須培地(G-MEM)、基本培地イーグル(BME)、DMEM/ハムF12、Advanced DMEM/ハムF12、イスコブ変法ダルベッコ培地及び最少必須培地(MEM)、ハムF-10、ハムF-12、培地199、RPMI 1640培地、並びにKSFM培地が含まれる。
【0101】
本発明は、本発明の増殖培地、細胞外マトリクス、及び本発明の上皮幹細胞を含む、組成物を提供する。本発明はまた、本発明の増殖培地、細胞外マトリクス、及び本発明の1つ又は複数のオルガノイドを含む、組成物も提供する。
【0102】
本発明のオルガノイドは、創薬開発、薬剤スクリーニング、標的スクリーニング、バイオマーカースクリーニング、毒性アッセイ、組換え遺伝子発現を含む遺伝子発現研究、組織の損傷及び修復に関与するメカニズムの調査、炎症性及び感染性疾患の調査、微生物叢並びにそれに伴う腸内毒素症及び病理の調査、病原性メカニズムの研究、又は細胞形質転換のメカニズム及びがんの病因論の研究、プレシジョンメディシン、及び/又はエクスビボでの細胞/器官モデル、例えば疾患モデルにおいて使用される。
【0103】
本発明のオルガノイド又は前記オルガノイドに由来する細胞は、障害、状態、又は疾患を処置するために使用することができる。特に、これらのオルガノイド又はこれらのオルガノイドに由来する細胞は、膀胱がん、膀胱炎症、膀胱炎、過活動膀胱、間質性膀胱炎、化学物質性膀胱炎、神経因性膀胱、膀胱下尿道閉塞、低活動膀胱、又はあらゆる膀胱病理の処置に有用である。
【0104】
本発明のオルガノイド又は前記オルガノイドに由来する細胞は、患者へのオルガノイド又は細胞の移植におけるその使用に有用である。
【0105】
本発明のオルガノイドはまた、動物モデルに移植することもできる。
【0106】
本発明の培地及び方法に従って培養された細胞及びオルガノイドは、インビボでの状況を忠実に表すと考えられる。このことは、正常組織から成長した増殖細胞集団及びオルガノイドと、罹患した組織から成長した増殖細胞集団及びオルガノイドとの両方に当てはまる。したがって、通常のエクスビボ細胞/器官モデルの提供と同様に、本発明のオルガノイドを、エクスビボ疾患モデルとして使用することができる。
【0107】
本発明のオルガノイドはまた、病原体の培養にも使用することができ、したがって、エクスビボ感染モデルとして使用することができる。本発明のオルガノイドを使用して培養され得る病原体の例としては、その動物宿主において疾患を生じさせるウイルス、細菌、プリオン、又は真菌が含まれる。したがって、本発明のオルガノイドは、感染状態を表す疾患モデルとして使用することができる。本発明の一部の実施形態において、オルガノイドは、ワクチンの開発及び/又は生産において使用することができる。本発明のオルガノイドによって研究され得る疾患としては、したがって、遺伝子疾患、代謝性疾患、病原性疾患、炎症性疾患、及び機能的疾患が含まれる。
【0108】
短期間で本発明の有用なオルガノイドを得る能力は、特異的薬剤に対する個々の患者の応答を試験して、その応答性に従った処置を適合させるのにオルガノイドが非常に有用であることを示す。オルガノイドが患者の生検又は切除物から得られる場合、オルガノイドは、21日間未満にわたり培養される。
【0109】
この手段で薬剤を同定するためのオルガノイドの使用の追加の利点は、正常オルガノイド(健康な組織に由来するオルガノイド)をスクリーニングして、健康な組織に対してどの薬剤及び化合物の影響が最も少ないかを確認することも可能であることである。このことによって、オフターゲット活性又は望ましくない副作用が最小の薬剤をスクリーニングすることが可能となる。
【0110】
したがって、本発明は、患者から上皮細胞を得る工程、及び前記上皮細胞を本発明に従ってインビトロで培養する工程、及び前記培養された細胞又はオルガノイドを疾患について試験する工程を含む、患者における疾患を診断するための方法を包含する。
【0111】
更に、患者のための治療用化合物(特異的薬剤)を選択するための、本発明のオルガノイドの使用方法が提供される。この方法は、患者の膀胱細胞の生検を得る工程、前記細胞を本発明に従ってインビトロで培養する工程、及び潜在的治療分子をこの患者で試験する工程を含む。
【0112】
治療用化合物のこの選択方法によって、試験した治療分子に基づいて、患者を臨床試験に含めることが可能となる。
【0113】
本発明の方法によって、かなりの数のオルガノイド及び上皮幹細胞を短期間で生成させることが可能となり、これにより、十分な細胞が目的の用途において確実に利用可能となる。
【0114】
以下の実施例は、例示的な目的で提供されているにすぎず、本発明の範囲を限定することを意図したものでは全くない。
【0115】
他の対象が、以下の詳細な説明、実施例、及び図面を読むことによって明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0116】
図1】異なる培養培地の存在下での健康な膀胱オルガノイドの培養を示す図である。a)培地KSFM+BPE+hEGF 10倍。
図2】異なる培養培地の存在下での健康な膀胱オルガノイドの培養を示す図である。b)培地KSFM+BPE+hEGF+線維芽細胞上清、20倍。
図3】10倍の腫瘍オルガノイドを示す図である。a)二葉のオルガノイド、b)クラスター状のオルガノイド。
図4】10倍の倍率の、15日目の健康なオルガノイドc)と腫瘍オルガノイドd)との間の形態学的比較を示す図である。
図5】10倍の倍率の、15日目の健康なオルガノイドc)と腫瘍オルガノイドd)との間の形態学的比較を示す図である。
図6】健康な膀胱の1:アクチン(Actine)、2:Ck5、3:Ck17、4:Ck20、5:UPK3A、及び6:Dapiに由来するオルガノイドのIF特徴付けを示す図である。
図7】BLHOU-40組織の1)健康な組織、2)がん組織で行った免疫蛍光を示す図である。
図8】BLHOU-40組織の1)健康な組織、2)がん組織で行った免疫蛍光を示す図である。
図9】BLHOU-40組織の1)健康な組織、2)がん組織で行った免疫蛍光を示す図である。
図10】BLHOU-40組織の1)健康な組織、2)がん組織で行った免疫蛍光を示す図である。
図11】L987 PDXモデルの組織学的分析を示す図である。PDXモデルの分析を、患者の腫瘍(Patient’s tumor)と比較して行った。以下の特徴が観察された:+ がんのタイプ及びサブタイプ:悪性度の高い類表皮嚢腫尿路上皮がん+悪性度の高い乳頭癌、悪性度の高い(G3)尿路上皮がんの再発+ 腫瘍ステージ:pTNM:pT4a+ Basal-like表現型+ FGFR3突然変異:R248C+ PPARg突然変異:突然変異なし
図12】L987における薬理学アッセイを示す図である。評価は、PDXを移植したマウスにエルロチニブ(30mg/kg)又はビヒクル(媒体)(10mg/kg)を経口投与して行った。L987の抗腫瘍応答は示されていない。
図13】L987における薬理学アッセイを示す図である。評価は、エルロチニブ(100mg/kg)を経口投与して、又はビヒクル(媒体)(10mg/kg)を腹腔内経路を介して投与して行った。抗腫瘍応答はエルロチニブで得られ、腫瘍成長阻害(TGI)は、コントロールと比較して62,4%のレベルであった。
図14】PDX由来のがんオルガノイドモデルでのスクリーニングアッセイ(細胞生存能力)のための研究設計を示す図である。アッセイは、オルガノイドモデルを前臨床ツールとして使用するための概念実証を確立するのに適している。読み出し:- 免疫蛍光CK5、CK17、CK20、GATA3、Upk3、及びKi67- オルガノイド培養物における代謝活性(発光によるATPの濃度)によって反映される生存能力アッセイ:キットCell Titer Glo 3D(Promega社)を使用する。薬理学的処置(3重)-2回のラン- 5日間の処置- 化合物:エルロチニブ(ラン1:0.04-0.2-1-5-10-20μM、ラン2:0.02-0.04-0.1-0.2-0.5-1μM)- 媒体:DMSO 2%
図15】オルガノイド系BLOU-026の細胞組成を示す図である。特異的マーカーウロプラキン3:Upk3標識(オレンジ)、DAPI核標識(シアン)、アクチン標識(緑)での免疫蛍光染色。オルガノイドをOpera Phenix(Perkin Elmer社)(×20 N.A=1.20)で分析した。Upk3の発現を示す代表的なz-スタックスライスからの、1つの選択されたオルガノイドのコア部における1つの共焦点スタック。A- 全z-スタックスライスの最大値投影法B- 1つの選択されたオルガノイドのコア部における1つの共焦点スタック:構造全体(核及びアクチン)を示す代表的なz-スタックスライスC- Upk3標識、アクチン標識、及び核標識のマージ表示。スケールバー=100μm
図16】オルガノイド系BLOU-026の細胞組成を示す図である。特異的内腔マーカー:GATA3標識(赤)、DAPI核標識(シアン)、アクチン標識(緑)での免疫蛍光染色。オルガノイドをOpera Phenix(Perkin Elmer社)(×20 N.A=1.20)で分析した。A- 1つの選択されたオルガノイドのコア部における1つの共焦点スタック:GATA3の発現を示す代表的なz-スタックスライス。全z-スタックスライスの最大値投影法B- GATA3標識、アクチン標識、及び核標識のマージ表示。スケールバー=100μm
図17】オルガノイド系BLOU-026の細胞組成を示す図である。特異的マーカーCK20(内腔)及びCK17(基底):CK20標識(オレンジ)、CK17標識(赤)、DAPI核標識(シアン)、アクチン標識(緑)での免疫蛍光染色。オルガノイドをOpera Phenix(Perkin Elmer社)(×20 N.A=1.20)で分析した。A- 1つの選択されたオルガノイドのコア部における1つの共焦点スタック:核を示す代表的なz-スタックスライス。B- 1つの選択されたオルガノイドのコア部における1つの共焦点スタック:アクチン標識を示す代表的なz-スタックスライス。C- 1つの選択されたオルガノイドのコア部における1つの共焦点スタック:CK20発現を示す代表的なz-スタックスライス。D- 1つの選択されたオルガノイドのコア部における1つの共焦点スタック:CK17発現を示す代表的なz-スタックスライス。E- CK20標識、CK17標識、アクチン標識、及び核標識のマージ表示。スケールバー=100μm
図18】オルガノイド系BLOU-026の細胞組成を示す図である。特異的マーカーCK5(基底)及び増殖マーカーKi67:CK5標識(赤)、Ki67標識(オレンジ)、DAPI核標識(シアン)、アクチン標識(緑)での免疫蛍光染色。オルガノイドをOpera Phenix(Perkin Elmer社)(×20 N.A=1.20)で分析した。スケールバー=100μm
図19】BLOU-026系を使用する薬理学的アッセイを示す図である。- エルロチニブ(Erlotinib)での処置を5日間行った- エルロチニブを、媒体としてのDMSO 2%中で投与し、使用した用量は以下の通りであった:エルロチニブ(ラン1:0.04-0.2-1-5-10-20μM、ラン2:0.02-0.04-0.1-0.2-0.5-1μM)。オルガノイド系の薬剤応答(ATP活性を参照することによる生存能力試験)がこの図で示されている。EGFR阻害剤エルロチニブで処置されたBLOU-026オルガノイドの用量応答曲線。各データポイントは、3つの生物学的反復に対応する。誤差のバーは、平均に対する1標準誤差に対応する。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0117】
(実施例1)
研究された集団
ヒト膀胱のオルガノイド培養を、50から70歳のヒト患者の尿路上皮膀胱がんの膀胱切除術の間に術中回収された膀胱標本から行った。
【0118】
外科的標本を抽出した後、膀胱の前面に垂直方向の切開をし、2つのサンプル:一方は肉眼的に「健康な」区域(コントロール群-培養物A)、及び一方は肉眼的に「腫瘍の」区域(腫瘍オルガノイド-培養物B)を採取した。膀胱切除術及び腫瘍の解剖病理学的分析の後、2つの腫瘍が筋肉浸潤性(少なくともpT2以上)且つ低分化(高い悪性度)と分類され、2つが非浸潤性(pT1)に分類された(1973年及び2004年のWHO悪性度分類に従った)。
【0119】
【表1】
【0120】
(実施例2)
膀胱細胞の取得
膀胱サンプルを切開して、脂肪組織及び結合組織を除去し、尿路上皮及び粘膜下層を保持した。「剥離」溶液(Southgateら、2002、Culture of Epithelial Cells、第2版)を粘膜下層に注入する。尿路上皮を「剥離溶液」中で、4℃で終夜、穏やかに振盪しながらインキュベートして、細胞間結合を破壊する。翌日、切開鉗子を使用して尿路上皮を筋層/間質から取り出し、コラーゲナーゼIV溶液(100U/ml)中に20分間、37℃で置く。次いで、解離を停止するために、Y27632(10μM-Sigma Aldrich社、フランス)を補った3mlのKSFM培地(ケラチン生成細胞無血清培地-Thermo Fischer社)を添加する。手動で強力に撹拌した後、尿路上皮細胞に富む上清を、250×gで5分間、4℃で遠心分離する。上清を廃棄し、尿路上皮細胞を含有するペレットを、50ng/mLのBPE及び5ng/mLのEGFを含有するKSFM補給培地に再懸濁する。遠心分離及び大量の4℃のマトリゲル(マトリゲルhESC-qualifiedマトリクス、BD Biosciences社)中での懸濁の後、マトリゲル1mL当たり2×106個細胞の濃度が得られる。
【0121】
(実施例3)
スライド内での培養細胞
8ウェルのLab-teks(Lab-tek II Chamber Slidesシステム、Dutscher社)又は96ウェルのμ-アンジオジェネシス-Ibidiプレートを使用する(8ウェルのlabteckでは25μLのマトリゲルに6万個の細胞が、96ウェルプレートでは10μLのマトリゲルに2万5千個の細胞が播種される)。マトリゲルを37℃で20分間ポリマー化し、次いで、完全培地を添加する(1容積の完全KSFM培地、及びヒト膀胱線維芽細胞の培養物から単離された1容積の初代線維芽細胞上清(PFS))。線維芽細胞成長キット-低血清(ATCC-PCS-201-041)を補った線維芽細胞基本培地(ATCC-PCS-201-030)において線維芽細胞(ATCC-PCS-420-013)を3から4日間培養した後に、線維芽細胞の上清を得る。培養の最初の3日間は、この完全増殖培地にY27632(10μM)を補った。培地を、2~3日ごとに、Y27632を有さない完全培地に対応する新鮮な増殖培地に交換する(48ウェルプレート及びlabtekでは250μL/ウェル、96ウェルプレートでは100μL/ウェル)。プレートを、37℃で、正常酸素圧条件下(5%CO2)でインキュベートする。
【0122】
(実施例4)
「健康な」オルガノイドの形態学的研究
a)培養培地の比較:
培養物中にPFSを有する及び有さない健康なコントロール細胞の培養ウェル(A培養物)を作成する。次いで、細胞をモニタリングし、14日目に比較する。
【0123】
PFSを補った培養培地に供されたオルガノイドで、より多くの構造及び実質的に大きな直径が、14日目に観察される(図2)(KSFMを伴う場合には直径20ミクロンの多くの構造(図1)に対して、ウェルごとにおよそ40個の80μmのオルガノイド)。これは、行ったオルガノイド培養の全てで観察された。
【0124】
初代線維芽細胞上清(PFS)を補った培養培地は、したがって、EGF及びBPEのみを補足したKSFM培養培地と比較して、オルガノイドの増殖及び成長を促進すると考えられる。
【0125】
b)オルガノイドの成長のモニタリング:
健康なオルガノイドの全部で6回の培養を、PFSを補った培養培地で行った。本発明者らは次いで、14日に、これらの培養物のオルガノイド区域(固体構造)の中央値を比較した。14日目のオルガノイド区域の中央値に有意な増大があった(p=0.0013)。
【0126】
(実施例5)
健康な膀胱及び腫瘍膀胱に由来するオルガノイドの形態学の比較研究。
健康なコントロールオルガノイド(A培養物)又は膀胱がん(B培養物)を有する患者に由来するオルガノイドの成長及び形態学を7日目にモニタリングした。
【0127】
10倍倍率のワイドフィールド顕微鏡(Apotome Zeiss社、10倍の対物レンズ)下で観察を行った。画像を得たら、視野の選択をランダムに行った。画像処理ソフトウェアImage Jを使用して、オルガノイドのサイズを評価した。
【0128】
腫瘍培養物では、健康な培養物で従来から見られる固形オルガノイドだけではなく、新たな形態も見られた。実際、腫瘍培養物から生じる新たな固体構造は、完全に多葉化したオルガノイド、すなわち「二葉」(図3a)又は「クラスター状」(図3b)として分類され得る。これらの異なる形態は、健康な培養物では今までに観察されたことはない。
【0129】
腫瘍オルガノイドのサイズは、健康な培養物(A)と腫瘍培養物(B)との間で示されているように、健康なオルガノイドよりも高いと考えられた(図4及び図5)。比較は、170の健康なオルガノイド及び170の腫瘍オルガノイドの、340のオルガノイドを測定して行った。
【0130】
(実施例6)
オルガノイドの免疫標識
- 組織切片の免疫標識
免疫標識を、凍結された膀胱切片で行う。新鮮なサンプルをOCT(最適切断温度)に入れ、縦方向に切断し、そしてドライアイスですぐに凍結し、そして-80℃で保存した。これらを次いで、クリオスタットで5μmの切片に切断し、スライド(Superfrost Plus、Thermo Scientific社)に載せ、そして、使用する抗体に応じて、3.7%ホルムアルデヒドで20分間、室温で、又は50%アセトン/50%メタノールで蒸発するまで、固定する。非特異的な抗原性部位のブロッキング及び透過化を、PBS/1%BSA/0.5%トリトンX100を含有する溶液によって行った。サンプルを、ブロッキングバッファー中で、終夜、4℃で、加湿チャンバ内で、希釈された一次抗体とインキュベートする。カルシウム/マグネシウム1×を有さないPBSで洗浄した後、これらを、室温の暗所で、二次抗体と1時間インキュベートする。使用した異なる抗体を以下のTable 1(表2)にまとめる。DAPI(4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール)核標識(1/200希釈、室温で20分間インキュベート)を行い、スライドにProlong gold封入培地の液滴を載せ、カバースリップを載せる。
【0131】
【表2】
【0132】
- オルガノイドの免疫標識
オルガノイドを、培養7日目又は14日目に、3.7%ホルムアルデヒドで40分間(labteks)又は20分間(96ウェル)、室温で固定する。これらを0.5%Triton(PBS中)で透過処理し、非特異的な抗原性部位を、1.5時間、37℃で、PBS中の3%BSA溶液でブロックする。次いで、オルガノイドを、4℃で終夜、一次抗体とインキュベートし、その後、37℃で1時間インキュベートする。洗浄した後、二次抗体を、1時間、37℃で、暗所でインキュベートする。DAPI核標識(1/200e希釈)及びAlexa Fluor-488ファロイジン(phalloidin、DAPI溶液中で1:500希釈)によるアクチン標識を行う。室温の暗所で20分間インキュベートした後、洗浄を行い、DAPIを有さないVectashield封入培地(Vector Labs社)の液滴を各ウェルに載せる。
【0133】
オルガノイド及びスライドを、20倍及び40倍の対物レンズを備えたZeiss LSM 710共焦点顕微鏡を使用して観察した。各実験で、いずれの抗体も用いずに(自家蛍光コントロール)、又は二次抗体のみを用いて、切片又はコントロールウェルを画像化する。同一の顕微鏡パラメーターを用いてコントロール画像を得、Image Jソフトウェアを使用して同様に処理した。
【0134】
オルガノイドもまた、20倍の水浸対物レンズを備えた自動画像化装置(Opera Phenix、Perkin Elmer社)で画像化した。装置を駆動するHarmonyソフトウェアで画像を処理した。
【0135】
(実施例7)
免疫蛍光(IF)による健康なオルガノイドの特徴付け
これらの構造を、14日目に、Zeiss LSM 710共焦点顕微鏡を使用して観察した。上皮マーカーCk5及びCk17は、未分化基底細胞において生理学的に発現する。Ck20は、表面の分化細胞での優勢な上皮マーカーである。その結果、未分化細胞マーカーが末梢に配置され、構造の中心ではCk20が優勢であった。加えて、構造の中心でウロプラキン-3Aスポットが視覚化される。ウロプラキン-3A(UPK3A)は、尿路上皮障壁機能において主要な役割を有するタンパク質であり、したがって、分化した細胞の特徴である。細胞の分化は、したがって、階層的であり、これらのオルガノイドの外側から内側に向かって生じると思われる(図6を参照されたい)。
【0136】
(実施例8)
免疫蛍光による腫瘍組織及びオルガノイドの特徴付け
本発明者らは、健康な膀胱及び腫瘍の切片に、異なる尿路上皮マーカーで標識を行った(図7及び図8)。本発明者らは、サンプルA及びBでこれらのマーカーの分布が類似していることを見出した。実際、Ck17は基底膜のレベルで優先的であり、Ck20は光と接していることが分かった(ここでは、上向きに面している画像)。しかし、腫瘍の切断を理由とした、表層細胞へのCk17の通常とは異なる取り込みがあった(白い矢印で示されている)。同様に、腫瘍切片の粘膜下層レベルでの、Ck5の通常とは異なる固定があった(白い矢印で示されている)。ウロプラキン-3Aもまた、膀胱光と接触した表層細胞で観察された。Ki67(細胞増殖マーカー)及びGATA3(核転写因子)の標識に使用した腫瘍組織切片はおそらく、組織学的態様及び尿路上皮の厚さによって証明されるように、乳頭の縁のレベルに位置していた。Ki67及びGATA3の過剰発現がこれらの腫瘍切片で観察され、細胞増殖の増大を引き起こしていた。
【0137】
オルガノイドを次いで、14日目に、共焦点顕微鏡下で観察し、ここで、組織切片で使用したものと同一の抗体でIF標識を行った(図9及び図10)。
【0138】
本発明者らは次いで、Upk3Aを含む異なる尿路上皮マーカーの発現を観察したが、これは、分化した細胞の発現を示し、これらの構造の尿路上皮の特徴を裏付けている。細胞分化は、構造の外側から内側に向かっていると思われる。実際、健康な培養物又は腫瘍のいずれにおいても、Ck17(基底マーカー)は、構造の周辺で主に見られ、一方、Ck20又はUPK3A(内腔マーカー)は、これらのオルガノイドの中心に向かって発現していた。
【0139】
共焦点顕微鏡下で、健康又は腫瘍の特徴に従って、オルガノイドのIF標識間で特異的な違いは存在していない。
【0140】
(実施例9)
処置後のオルガノイドの薬理学的応答
オルガノイドを、96ウェル黒色プレート内のマトリゲル中で15日間培養した。健康な及び腫瘍オルガノイド培養物を、培養の8日目から、シスプラチン及びゲムシタビンで処置した。使用した濃度は、シスプラチンでは2μM、20μM、及び200μMであり、ゲムシタビンでは0.05μM、0.5μM、及び5μMである。これらの分子を培養培地に添加し、この培養培地を培養の15日目まで2日ごとに交換した。ゲムシタビン及びシスプラチンは、膀胱がんを処置するために使用されている化学療法薬である(Roupretら、Progres en Urologie、2018、28:S46~S78)。
【0141】
細胞の生存能力を、培養の15日目に、CellTiter-Glo(登録商標)3Dキット(Promega社、番号9683)を使用して分析した。簡潔に述べると、オルガノイドを解離させるために、オルガノイドを、Tryple Express溶液(Gibco社)と40分間、37℃で、通常通りピペッティングしながらインキュベートした。構造が解離した後、CellTiter-Glo(登録商標)3D試薬を各ウェルの培養培地に添加し(容積1:1)、製造者の指示に従って、30分間、暗所の室温で、撹拌しながらインキュベートした。発光をルミノメーター(Varioskan Flash-Thermo Scientific社、Illkirch、France)で測定した。条件当たり3つのウェルを測定し、分析した。Excelソフトウェアを使用してデータ分析を行い、非線形回帰を使用してIC50値を計算した。対応のある又は対応のないスチューデントt検定を使用して、群間の比較を行った。維持された有意性のレベルは、p<0.05であった。PRISM(Graph Pad Prism(登録商標)Version 5.0、Software, Inc.社、California、USA)を使用して統計分析を行った。
【0142】
腫瘍培養物に対するシスプラチンのIC50は1.75μMであり、一方、健康な培養物に対するIC50は4.2μMであった(係数2.4)。これらの結果は、同一濃度では腫瘍細胞に対する処置の有効性がより大きいことを示している。腫瘍培養物に対するゲムシタビンのIC50は1.2μMであり、一方、健康な培養物に対するIC50は2.8μMであり、これもまた、腫瘍培養物に対する化学療法の効率が、より高いことを示している(係数2.3)。
【0143】
(実施例10)
PDXに由来するオルガノイド
オルガノイドを、膀胱がんから得られた新鮮な又は凍結されたPDXのいずれかから発生させる。オルガノイドを得るために、PDX組織は、それが患者の腫瘍組織であるかのように、実施例2のプロトコルに従って扱われる。次いで、実施例3、5、6、8、及び9と同一のプロトコルを使用して、オルガノイドをPDXから誘導し、得る。
【0144】
(実施例11)
膀胱がんのPDXモデル(患者由来の腫瘍異種移植モデル)に由来するオルガノイドに対する薬理学的結果
1.1. PDXモデルL987の説明:
L987は、膀胱の筋肉に浸潤している(pT4a)悪性度の高い(G3)膀胱癌に由来する基底様モデルである。L987は、以前に記載されているように開発された(Lang H.ら、2016、Oncotarget、第7巻、第37号:59336~59359)。L987は、患者の腫瘍の特徴の保存を確実にするために、様々なレベルで特徴付けされている。様々な分析は、以下の通りであった:
- 組織学(H&E染色)及びIHC
- トランスクリプトミクス
- ゲノミクス(シングルタンデムリピート-STR、シーケンシング)
【0145】
L987(図11)及びその親腫瘍の組織学的プロファイルは、それらの分子分類(基礎腫瘍)と相関していた。
【0146】
STRの結果(Table 2(表3))によって、3回の継代(P3)後に見られたPDXモデルと患者の腫瘍との間の高い同一性率が確認された。患者の腫瘍及びPDXモデルの両方が、R284C位にFGFR3突然変異を有している。
【0147】
【表3】
【0148】
1.2. L987での薬理学アッセイ
本発明者らは、L987 PDX腫瘍に対するEGFR阻害剤エルロチニブの抗腫瘍応答を評価した。分娩時に4週であったオスのSwissヌードマウス(Charles River Laboratories社)の背中に、PDXを移植した。
【0149】
最初の実験では、マウスを、経口の(p.o.)ビヒクル(媒体)で週に5回、又はp.o.の30mg/kgのエルロチニブで週に5日、4週間にわたり、処置した。
【0150】
エルロチニブの効果はこの投与では見られなかった(図12)。
【0151】
第2の実験では、マウスを、腹腔内経路によってビヒクル(媒体)で週に4回、又は、経口の100mg/kgのエルロチニブで週に6日、4週間にわたり、処置した。
【0152】
結果は、腫瘍が処置に応答したことを示した。腫瘍成長の阻害は、62,5%であった(図13)。
【0153】
1.3. PDXモデルL987に由来するオルガノイド系BLOU-026の生成及び特徴付け
オルガノイド系BLOU-026を、実施例3、5、6、8、及び9と同一のプロトコルに従って得た。
【0154】
1週間の培養の後、観察されたオルガノイドは未成熟であった(嚢胞構造)か、又は分化していた(出芽構造)。
【0155】
オルガノイドの大きさは、それらの分化状態に従って、40から500μmまで変化した。
【0156】
オルガノイドが4回以上継代されているため、オルガノイド培養物は長期にわたり維持され得る。
【0157】
得られたオルガノイドは、基底細胞(CK5、CK17)及び内腔細胞(CK20、Upk3)の特異的マーカーを発現するヒト膀胱形態の代表である。
【0158】
研究の設計を図14に示す。
【0159】
オルガノイド系BLOU-026の細胞組成を、様々なマーカーを使用して調べた。ウロプラキン3は、膀胱の基底側にある細胞上に発現しているマーカーとは対照的に、膀胱の内腔側に存在するアンブレラ細胞に特異的なマーカーである。ウロプラキン3は、オルガノイドの後期の分化段階のマーカーであり、得られたオルガノイドが内腔区画を包含する可能性があることを示す。膀胱内の内腔区画の他のマーカーもまた検出され、これらはGATA-3及びCK20である。基底細胞、及び増殖能力を有する細胞、すなわち腫瘍細胞の存在の証明を提供する、更なるマーカーが同定された。マーカーの同定は、様々な尿路上皮細胞サブタイプ、すなわち、表面のアンブレラ細胞、中間細胞、及び基底細胞の分化細胞でのオルガノイド形成を証明し、後期の分化段階のアンブレラ細胞は、成熟オルガノイドが得られていることを示す。
【0160】
図15は、したがって、オルガノイド系BLOU-26の細胞組成を示す。特異的マーカーウロプラキン3:Upk3標識(オレンジ)、DAPI核標識(シアン)、アクチン標識(緑)での免疫蛍光染色。オルガノイドをOpera Phenix(Perkin Elmer社)(×20 N.A=1.20)で分析した。
A- 1つの選択されたオルガノイドのコア部における1つの共焦点スタック:CK5の発現を示す代表的なz-スタックスライス
B- 1つの選択されたオルガノイドのコア部における1つの共焦点スタック:Ki67の発現を示す代表的なz-スタックスライス
C- 1つの選択されたオルガノイドのコア部における1つの共焦点スタック:核を示す代表的なz-スタックスライス
D- 1つの選択されたオルガノイドのコア部における1つの共焦点スタック:アクチン標識を示す代表的なz-スタックスライス
E- CK5標識、Ki67標識、アクチン標識、及び核標識のマージ表示
【0161】
図16は、オルガノイド系BLOU-026の細胞組成を開示する。特異的内腔マーカー:GATA3標識(赤)、DAPI核標識(シアン)、アクチン標識(緑)での免疫蛍光染色。オルガノイドをOpera Phenix(Perkin Elmer社)(×20 N.A=1.20)で分析した。
A- 1つの選択されたオルガノイドのコア部における1つの共焦点スタック:GATA3の発現を示す代表的なz-スタックスライス
B- 全z-スタックスライスの最大値投影法
C- GATA3標識、アクチン標識、及び核標識のマージ表示。
【0162】
図17:オルガノイド系BLOU-026の細胞組成。特異的マーカーCK20(内腔)及びCK17(基底):CK20標識(オレンジ)、CK17標識(赤)、DAPI核標識(シアン)、アクチン標識(緑)での免疫蛍光染色。オルガノイドをOpera Phenix(Perkin Elmer社)(×20 N.A=1.20)で分析した。
A- 1つの選択されたオルガノイドのコア部における1つの共焦点スタック:核を示す代表的なz-スタックスライス。
B- 1つの選択されたオルガノイドのコア部における1つの共焦点スタック:アクチン標識を示す代表的なz-スタックスライス。
C- 1つの選択されたオルガノイドのコア部における1つの共焦点スタック:CK20発現を示す代表的なz-スタックスライス。
D- 1つの選択されたオルガノイドのコア部における1つの共焦点スタック:CK17発現を示す代表的なz-スタックスライス。
E- CK20標識、CK17標識、アクチン標識、及び核標識のマージ表示。
【0163】
基底バイオマーカー(CK5、CK17)並びに内腔バイオマーカー(CK20、GATA3、及びUpk3)の存在は、実験条件がBLOU-026系からのオルガノイドの正確な分化を可能にしたことを示唆した。GATA3を腫瘍細胞のマーカーとして使用した。Ki67の存在は、オルガノイドの増殖を証明した。
【0164】
1.4. BLOU-026での薬理学的アッセイ
BLOU-026が由来した元であるPDXモデルL987のように、BLOU-026系を使用する薬理学的アッセイを設定し、検証し、そしてエルロチニブに対する濃度-応答曲線を構築した。
【0165】
オルガノイド培養物における代謝活性によって反映される生存能力アッセイを、市販のキットCell Titer Glo 3D(Promega社)に基づいて使用し、発光によってオルガノイドにおけるATP濃度を評価した。
【0166】
薬理学的処置(3重)-2回のラン
- 5日間の処置
- 媒体:DMSO 2%
- 化合物:エルロチニブ(ラン1:0.04-0.2-1-5-10-20μM、ラン2:0.02-0.04-0.1-0.2-0.5-1μM)
【0167】
結果を図19に示す。
【0168】
1.5.結論
本発明者らの実験条件において、エルロチニブは、濃度依存性の様式でオルガノイド培養物の代謝活性を阻害する。この結果は、対応するPDXモデルL987で観察された結果と合致している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16A
図16B
図16C
図17A
図17B
図17C
図17D
図17E
図18
図19
【国際調査報告】