(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-14
(54)【発明の名称】リチウムイオン・コンダクタ・ポリマー・セラミック膜
(51)【国際特許分類】
B01D 71/02 20060101AFI20221006BHJP
B01D 61/24 20060101ALI20221006BHJP
B01D 61/42 20060101ALI20221006BHJP
B01D 61/46 20060101ALI20221006BHJP
B01D 71/06 20060101ALI20221006BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20221006BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20221006BHJP
B01D 71/32 20060101ALI20221006BHJP
B01D 71/36 20060101ALI20221006BHJP
B01D 71/68 20060101ALI20221006BHJP
B01D 71/74 20060101ALI20221006BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20221006BHJP
C04B 35/447 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
B01D71/02
B01D61/24
B01D61/42
B01D61/46 500
B01D71/06
B01D69/12
B01D69/10
B01D71/32
B01D71/36
B01D71/68
B01D71/74
C08J5/18
C04B35/447
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022508870
(86)(22)【出願日】2020-08-12
(85)【翻訳文提出日】2022-03-24
(86)【国際出願番号】 AU2020050839
(87)【国際公開番号】W WO2021026607
(87)【国際公開日】2021-02-18
(32)【優先日】2019-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】594202523
【氏名又は名称】モナシュ ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ホーンティング
(72)【発明者】
【氏名】グエン、ニー サ
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ジョウユウ
【テーマコード(参考)】
4D006
4F071
【Fターム(参考)】
4D006GA13
4D006GA17
4D006HA47
4D006JA42Z
4D006MA03
4D006MA08
4D006MA09
4D006MB11
4D006MB15
4D006MB16
4D006MC03X
4D006MC18
4D006MC22
4D006MC23
4D006MC27
4D006MC28
4D006MC29X
4D006MC30
4D006MC54
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4D006MC61
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4D006MC63
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4D006NA05
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4F071AA26
4F071AB25
4F071AE22
4F071AF36Y
4F071AH12
4F071AH19
4F071BA03
4F071BB02
4F071BC01
(57)【要約】
イオン透過膜であり、当該膜を通して、ターゲットイオン、好ましくはリチウムを選択的に透過させるためのものであって、当該膜は、ターゲットイオン透過性コンポジットを含んで成り、当該コンポジットが、ターゲットイオン透過性セラミックと、少なくとも1つの有機ポリマーとを含んで成り、前記有機ポリマーが、前記ターゲットイオン透過性セラミックに結合しているものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットイオンを分離するための膜であって、
当該膜は、ターゲットイオン透過性ポリマー・セラミック・コンポジット材料を含んで成り、
前記材料が、ターゲットイオン透過性セラミックと、少なくとも1つのターゲットイオン透過性の有機ポリマーとを含んで成り、前記有機ポリマーが、前記ターゲットイオン透過性セラミックに結合しており、
当該膜を通して、ターゲットイオンの選択的な透過、好ましくはリチウム・ターゲットイオンの選択的な透過を可能にする、膜。
【請求項2】
前記ターゲットイオンの分離膜が、水溶液からターゲットイオンを分離するための膜である、請求項1に記載の膜。
【請求項3】
前記膜が、電位の影響下で前記ターゲットイオンを選択的に透過させることができる、請求項1または請求項2のいずれかに記載の膜。
【請求項4】
前記ターゲットイオン透過性セラミックおよび前記少なくとも1つの有機ポリマーが、1:1~15:1、好ましくは10:1の濃度(wt%)の比(セラミック:ポリマー)で前記コンポジットに存在する、請求項1~3のいずれか1項に記載の膜。
【請求項5】
前記膜が、前記ポリマーによって形成されるマトリクスにおいて、セラミック粒子の不均一な分散体を含んで成る、請求項1~4のいずれか1項に記載の膜。
【請求項6】
前記ターゲットイオン透過性ポリマー・セラミック・コンポジットが、微細構造を有しており、前記微細構造が、より狭い粒子間の空間によって特徴付けられる減少した多孔性を有するセラミック粒子が密集した上方層または上方領域と、より広い粒子間の空間によって特徴付けられる増加した多孔性を有するセラミック粒子が少なく密集した下部層または下部領域とを含んで成る、請求項1~5のいずれか1項に記載の膜。
【請求項7】
前記粒子間の空間が1以上の有機ポリマーで充填されている、請求項6に記載の膜。
【請求項8】
前記ターゲットイオン透過性ポリマー・セラミック・コンポジットが、少なくとも2層を含んで成り、
第1層が、ターゲットイオン透過性セラミックの粒子を含んで成るターゲットイオン透過性セラミックのリッチ層を含んで成り、
第2層が、有機ポリマーのリッチ層であり、
第1層が前記有機ポリマーのリッチ層よりも多くのターゲットイオン透過性セラミック粒子を含んで成る、請求項1~7のいずれか1項に記載の膜。
【請求項9】
前記少なくとも1つの有機ポリマーが、前記セラミック粒子の粒界の間の隙間を充填する、請求項1~8のいずれか1項に記載の膜。
【請求項10】
前記ターゲットイオン透過性セラミック材料の前記ターゲットイオン透過性セラミックが、圧縮されており、当該膜の垂直断面にわたって、前記圧縮のレベル、前記セラミック粒子の密度および/または前記セラミック粒子のサイズが一定でない、請求項1~9のいずれか1項に記載の膜。
【請求項11】
前記ターゲットイオン透過性セラミックの圧縮のレベルが、当該膜の垂直断面にわたって減少し、粒子の減少する圧縮の勾配、粒子の減少するサイズの勾配および/または粒子の減少する密度の勾配の形態で減少する、請求項10に記載の膜。
【請求項12】
前記ターゲットイオン透過性ポリマー・セラミック・コンポジットが、少なくとも2つの領域を含んで成り、
第1領域が、ターゲットイオン透過性セラミックのリッチ領域を含んで成り、前記領域が、より高い密度で充填されたターゲットイオン透過性セラミックの粒子を含んで成り、
第2領域が、第1領域と比べて、より低い密度で充填されたターゲットイオン透過性セラミックの粒子を含んで成る、請求項1~11のいずれか1項に記載の膜。
【請求項13】
少なくとも1つの後続の領域をさらに含んで成り、前記領域が、直前の領域よりも低い密度で充填されたターゲットイオン透過性セラミックの粒子を含んで成る、請求項12に記載の膜。
【請求項14】
前記少なくとも1つの有機ポリマーが、親水性の有機ポリマーであり、好ましくはフッ素化された有機ポリマーであり、前記有機ポリマーが、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スルホン化テトラフルオロエチレンコポリマー(ナフィオン)、キトサンおよびポリスルホンならびにそれらの組み合わせからなる群から選択され、好ましくはポリフッ化ビニリデン(PVDF)である、請求項1~13のいずれか1項に記載の膜。
【請求項15】
前記コーティングが、2以上の有機ポリマーを含んで成り、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とスルホン化テトラフルオロエチレンコポリマー(ナフィオン)との組み合わせを含んで成る、請求項14に記載の膜。
【請求項16】
前記ターゲットイオン透過性セラミックが、リチウム超イオン伝導体である、請求項1~15のいずれか1項に記載の膜。
【請求項17】
前記リチウム超イオン伝導体が、NASICONまたはLISICON材料であり、好ましくはLATP(Li
1+xAl
xTi
2-x(PO
4)
3、x=0.3~0.4)であり、最も好ましくはLi
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3であり、好ましくは純粋な相の形態である、請求項16に記載の膜。
【請求項18】
前記ターゲットイオン透過性ポリマー・セラミック・コンポジットが、ターゲットイオン多孔性サポート基体、好ましくは、織布または不織布である合成ファブリックのフィルム、多孔性ナイロンのフィルムまたは多孔性アルミナのフィルムに支持されている、請求項1~17のいずれか1項に記載の膜。
【請求項19】
前記少なくとも1つの有機ポリマーが、前記ターゲットイオン透過性セラミックのターゲットイオン・チャネルの少なくとも一部に浸入する、請求項1~18のいずれか1項に記載の膜。
【請求項20】
リチウム・ターゲットイオンをイオンの水溶液から分離するための膜であって、当該膜が、リチウム・ターゲットイオン透過性ポリマー・セラミック・コンポジット材料をサポートするリチウム・ターゲットイオン多孔性サポート基体を含んで成り、
前記ターゲットイオン透過性ポリマー・セラミック・コンポジット材料が、Li
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3(LATP)セラミックであって、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)と結合しており、PVDFが約10:1の濃度(wt%)の比(セラミック:ポリマー)でターゲットイオン透過性ポリマー・セラミック・コンポジットに存在している、膜。
【請求項21】
電気透析膜の製造方法であって、以下の工程:
揮発性の有機溶媒、好ましくはジメチルホルムアミド(DMF)において、ターゲットイオン透過性セラミック材料(好ましくは、LATP)および少なくとも1つの有機ポリマー(好ましくは、PVDF)の溶液を調製する工程、
前記溶液を所定形状のモールドにソリューション・キャスティングする工程、
ターゲットイオン透過性ポリマー・セラミック・コンポジット材料の膜を形成するために前記溶媒を蒸発させる工程
を含む、方法。
【請求項22】
前記溶媒を蒸発させる工程が、溶媒蒸発誘導型の相分離(SEIPS)のプロセスによる蒸発、あるいは製造中にセラミック集合体の優先的な沈降をもたらす他のプロセスを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
請求項21または22に記載の方法により得ることができる膜。
【請求項24】
ターゲットイオン分離技術、好ましくはリチウムイオン分離技術における、請求項1~20または23のいずれか1項に記載の膜の使用。
【請求項25】
前記ターゲットイオン分離技術が透析または電気透析である、請求項24に記載の使用。
【請求項26】
前記ターゲットイオン分離技術が、ブラインからのリチウムイオンの分離あるいはリチウムのリサイクルの方法に由来するリチウム含有溶液からのリチウムイオンの分離を含む、請求項24または請求項25に記載の使用。
【請求項27】
ブラインからのリチウムイオンの選択的な分離あるいはリチウムのリサイクルの方法に由来するリチウム含有溶液からのリチウムイオンの選択的な分離のための電気透析の方法であって、当該方法が、請求項1~20または23のいずれか1項に記載の膜に電圧を印加する工程を含む、方法。
【請求項28】
一対のアニオン交換膜の間に配置される請求項1~21または23のいずれか1項に記載の膜を含んで成る電気透析スタック。
【請求項29】
複数の膜を含んで成り、各膜が一対のアニオン交換膜の間に配置されている、請求項28に記載の電気透析スタック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、リチウムイオンの回収(又はリカバリ)ならびに液体の溶液、特に水性の溶液(例えば、ブライン(又は塩水))からの選択的なリチウムイオンの回収(又はリカバリ)のための膜(又はメンブレン)および装置(又はデバイス)に関する。
【背景技術】
【0002】
(背景)
世界的にリチウムの需要が伸びている。リチウム塩は、主に鉱床(又は鉱物沈殿物)および塩湖の両方から抽出されている。リチウム(Li)およびリチウム化合物の製造に用いられるプロセス(又は方法)には、鉱物(又はミネラル)の酸分解法および化学浸出(又はケミカル・リーチング)あるいは太陽蓄熱池(又はソーラーポンド)を用いたブライン(又は塩水)の濃縮、ならびに、その後の炭酸塩沈殿を用いたリチウムの分離が含まれる。しかし、これらのプロセスは複雑であり、時間がかかるか、あるいは化学物質(又はケミカル)が大量に必要であるか、あるいは局所的な天候が強く求められる。例えば、太陽エネルギーまたは風を使用するブラインの予備濃縮には、4~5ヶ月の期間、あるいはそれ以上の期間がかかる。さらに、これら従来の方法は、設計プロセスの複雑さ、Li回収の低さ、あるいは不純物含有量の制御など、多くの既知の問題に悩まされている。ブラインは、リチウムの最も重要な供給源の1つである。ブラインからリチウムを回収するためには、典型的には、吸着プロセス、沈殿プロセス、イオン交換および溶媒抽出プロセスのうち、少なくとも1つが関与する。しかし、リチウムとマグネシウムは化学的に類似しているため、それらの分離が難しく、そのため、ブラインから回収されるリチウム製品の純度は比較的に低い。
【0003】
また、使用済みのリチウム電池やリチウムを含む各種廃棄物からリチウムを再利用(又はリサイクル)することもできる。現在、使用済みリチウム電池から工業的にリチウムを抽出することは行われていない。
【0004】
膜(又はメンブレン)に基づくLi+の回収(又はリカバリ)のプロセスが研究されている。しかし、限られた発表報告があるのみである。例えば、ナノろ過(又はナノフィルトレーション)、電気分解(又はエレクトロリシス)、電気透析(又はエレクトロダイアリシス)、透析(又はダイアリシス)、膜溶媒抽出(又はメンブレン・ソルベント・エクストラクション)および膜タイプの吸着材(又はアドソーベント)または混合マトリクス膜の技術が議論されている。例えば、スパイラル・ワウンド・Desal-5 DL 2540C膜(GE Osmonics)を用いたブラインのナノろ過は、3.5のLi+/Mg2+分離係数(又はセパレーション・ファクター)をもたらした(X. Wenら、Sep. Purif. Technol., 49 (2006), p: 230-236.)。Desal-DK膜(GE Osmonics)では、フィード(又は供給物)のLi+およびMg2+の濃度ならびにそれらの比に応じて、2~3.2の範囲のLi+/Mg2+分離係数を示した(Y. Gangら、 Chinese Journal of Chemical Engineering, 19 (2011), p: 586-591; S.-Y. Sunら、Journal of Water Process Engineering, 7(2015), p:210-217)。
【0005】
Liuら(Colloids and Surfaces A: Physicochemical and Engineering Aspects, 468 (2015), p: 280-284)は、電気透析試験によって、ブラインからのLi+の抽出性能(又はエクストラクション・パフォーマンス)における様々なパラメータの影響を研究した。最適化された操作条件では、電極は、38.9mg/gという特筆すべきLi+交換容量(又はエクスチェンジ・キャパシティ)を示した。
【0006】
Hoshino (Fusion Engineering and Design, 88 (2013), p: 2956-2959; Desalination 317 (2013), p: 11-16)は、イオン液体(N-メチル-N-プロピルピペリジウム ビス (トリフルオロメタンスルホニル)イミド)の使用について報告しており、これを通して、電気透析の間に、主要な海水のイオン(Na、Mg、CaおよびKを含むが、Liは含まれない)だけがアノードからカソードに透過(又は浸透)する。Li+は、アノードにおいて濃縮することができ、マグネシウムの添加による化学沈殿によって回収することができる。しかし、1価のイオン(Na、KおよびLi)は、分離することができなかった。
【0007】
別の研究において、Hoshion(Desalination 359 (2015), p: 59-63)は、電気透析を用いて、Liイオン超伝導体(又はLiイオニック・スーパー・コンダクタ)によって、海水からリチウムを抽出した(印加電圧:2V)。これは、(Na、Mg、CaおよびK)に比べて、良好なリチウム選択性を示した。ここで、海水から回収溶液にLi+を抽出させるための駆動力は電位によるものであった。72時間後のリチウムの実際の回収率は7%に達することがわかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、既存のリチウム選択性の膜は、比較的に低いリチウム選択性を示し、安定性に乏しく、実際の用途が制限されている。
【0009】
本発明の目的は、従来技術の少なくとも1つの欠点を解消すること、および/または、従来技術の膜に代わる膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
用語「含む(又は含んで成る)(comprise)」、「含む(又は含んで成る)(comprises)」、「含む(又は含んで成る又は構成される)(comprised)または「含む(又は含んで成る)(comprising)」のいずれか、またはすべてが本明細書(特許請求の範囲を含む)において使用される場合、それらは、記載された特徴(又はフィーチャ)、数(又は整数又はインテジャ)、工程(又はステップ)または成分(又はコンポーネント)の存在を特定するものと解釈されるべきである。しかし、1以上の他の特徴(又はフィーチャ)、数(又は整数又はインテジャ)、工程(又はステップ)または成分(又はコンポーネント)の存在を排除するものではない。
【0011】
(発明の要旨)
本発明の第1の態様は、分離膜(又はセパレーション・メンブレン)を提供する。この分離膜は、ターゲットイオン透過性ポリマー・セラミック・コンポジット材料(又はターゲットイオン・パーミアブル・ポリマー・セラミック・コンポジット・マテリアル)を含んで成り、この材料は、ターゲットイオン透過性セラミック(又はターゲットイオン・パーミアブル・セラミック)と、少なくとも1つのターゲットイオン透過性有機ポリマー(又はターゲットイオン・パーミアブル・オーガニック・ポリマー)とを含んで成る。この有機ポリマーは、ターゲットイオン透過性セラミックと結合(又は会合又はアソシエート)している。
ここで、当該膜によって、この膜を通して、ターゲットイオンの選択的な透過(又は浸透又はパーミエーション)が可能になる。
【0012】
望ましくは、膜は、ターゲットイオンの分離膜である。より望ましくは、水溶液からターゲットイオンを分離するための膜である。好ましくは、この溶液は、ターゲットイオンと、少なくとも1つの他のイオンとを含んで成る。
【0013】
本発明の第2の態様は、イオンの水溶液からリチウムターゲットイオンを分離するための膜を提供する。この膜は、リチウム・ターゲットイオン透過性ポリマー・セラミック・コンポジット材料をサポートするリチウム・ターゲットイオン多孔質サポート基体(又はリチウム・ターゲットイオン・ポーラス・サポート・サブストレート)を含んで成る。
ここで、ターゲットイオン透過性ポリマー・セラミック・コンポジット材料は、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3(LATP)セラミックであり、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)と結合(又は会合)している。ここで、PVDFは、ターゲットイオン透過性ポリマー・セラミック・コンポジット中に約10:1の濃度(wt%)の比(セラミック:ポリマー)で存在している。
【0014】
好ましくは、水溶液は、ターゲットイオンと、少なくとも1つの他のイオンとを含んで成る。
【0015】
本発明の第3の態様は、膜の製造方法、好ましくは電気透析膜の製造方法を提供する。この製造方法は、以下の工程(又はステップ)を含んで成る。
揮発性の有機溶媒(好ましくは、ジメチルホルムアミド(DMF))において、ターゲットイオン透過性セラミック材料(好ましくは、LATP)および少なくとも1つの有機ポリマー(好ましくは、PVDF)の溶液を調製する工程(又はステップ)、
この溶液を所定形状のモールドにソリューション・キャスティング(又は溶液流延)する工程(又はステップ)、
ターゲットイオン透過性ポリマー・セラミック・コンポジット材料の膜を形成するために溶媒を蒸発させる工程(又はステップ)。
【0016】
本発明の第4の態様は、第3の態様によって得ることができる(又は得られる)膜を提供する。
【0017】
本発明の第5の態様は、ターゲットイオン分離技術、好ましくはリチウムイオン分離技術、最も好ましくは、電気透析における、第1または第4の態様の膜の使用を提供する。
【0018】
本発明の第6の態様は、ブラインからのリチウムイオンの選択的な分離あるいはリチウムのリサイクル方法に由来するリチウム含有溶液からのリチウムイオンの選択的な分離のための電気透析方法を提供する。この方法は、第1または第4の態様の膜に電圧を印加する工程(又はステップ)を含んで成る。
【0019】
本発明の第7の態様は、一対のアニオン交換膜の間に配置される第1または第4の態様の膜を含んで成る電気透析スタックを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、LATPのボールミリング前のSEM画像(a,b)と、ボールミリング後のSEM画像(c)およびXRDパターン(d)を示す。
【
図2】
図2は、純粋なPVDFの膜のSEM画像(a、c、e)およびLATP-Pの膜のSEM画像(b、d、f)を示す。
【
図3】
図3は、LATP-P膜のSEM像(a)およびエネルギー分散型X線(EDX)元素マッピング(C(b)、Al(c)、Ti(d)、P(e)、O(f))を示す。
【
図4】
図4は、電気透析システムの写真(a)および電気透析スタックの概略図(b)を示す。
【
図5】
図5は、LATP構造を通るLi
+イオンの移動の模式図を示す。Li1(安定サイト)とLi3(遷移サイト)からなるLiサイト(ピンク色の球)は、イオンを使用することで結晶格子を通して拡散させてよい。ピンク色の棒(又はバー)は、Liの拡散チャンネル、青色の八面体はTiO
6/AlO
6、緑色の四面体はPO
4に対応する。
【
図6】
図6は、aがLATP-PVDFコンポジット膜のデジタル写真(スケールバー:5cm)を示し、bがXRDを示し、cがXPSを示し、dがスキン層のSEM画像(スケールバー:1μm)を示し、eがLATP-PVDF膜の下部層のSEM画像(スケールバー:5μm)を示し、fが断面SEM像(スケールバー:50μm)を示し、gがスキン層断面SEM画像(スケールバー:1μm)を示し、hが下部層断面SEM画像(スケールバー:5μm)を示す。
【
図7】
図7は、リチウムの分離性能(又はセパレーション・パフォーマンス)を示す。 aは、透過側(又は透過物側又はパーミエート・サイド)のLiCl、NaClおよびMgCl
2のイオンの濃度を示す。 bは、膜の対応するイオンフラックスを電気透析時間の関数として示す(フィード:それぞれ、LiCl、NaClおよびMgCl
2の0.1Mのシングル・イオン溶液である)。 cは、透過側(又は透過物側又はパーミエート・サイド)のLiClイオンの濃度を示す。 dは、膜の対応するLi
+イオンフラックスを電気透析時間の関数として示す(フィード:それぞれ、LiClの0.1M、0.01Mおよび0.0001Mのシングル・イオン溶液である)。 eは、ICP測定に基づく透過側(又は透過物側又はパーミエート・サイド)のLi
+、Na
+およびMg
2+イオンの濃度を示す。 fは、膜の対応するイオンフラックスを示す(フィード:0.3M混合イオン溶液、LiCl:NaCl:MgCl
2=1:1:1(モル比))。 すべての実験は室温で行った。
【
図8】
図8は、LATP-PVDF膜の安定性(又はスタビリティ)と現実世界での性能(又はリアル・ワールド・パフォーマンス)を示す。 aは、0.1MのLiClの新鮮な溶液をフィード溶液として用いて、7回の電気透析および洗浄のサイクルを行った場合の透過側(又は透過物側又はパーミエート・サイド)のLiCl濃度を示す。 bは、0.02MのLiClのフィード溶液を用いて160時間の連続電気透析試験を行った後のフィード溶液および透過溶液のLiClの濃度を示す。 cは、合成のブライン水をフィード溶液として用いた場合の透過側(又は透過物側又はパーミエート・サイド)のLi
+およびその他のイオンの濃度を示す。 dは、cの電気透析(ED)試験終了時のフィード溶液中の全利用可能なイオンの対応するイオンフラックスを示す。 eは、合成の海水をフィード溶液として用いた場合の透過側(又は透過物側又はパーミエート・サイド)のLi
+およびその他のイオンの濃度を示す。 fは、eの電気透析(ED)試験終了時のフィード溶液中の全利用可能なイオンの対応するイオンフラックスを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(発明の詳細な説明)
本発明は、イオンの水溶液(例えば、ブライン溶液、またはリチウムイオンもしくはリチウム・バッテリ・リサイクリング・プロセスから生じるリチウムイオンを含む溶液)から、ターゲットイオンを分離するための膜(又はメンブレン)を提供する。この膜は、ターゲットイオン透過性セラミックと、少なくとも1つのターゲットイオン透過性の有機ポリマーとを含み、この有機ポリマーは、ターゲットイオン透過性セラミックと結合(又は会合又はアソシエート)している。ここで、この膜によって、この膜を通して、ターゲットイオンを選択的に透過(又は浸透又はパーミエーション)させることができる。本発明の膜は、ターゲットイオン透過性ポリマー・セラミック・コンポジット材料(又はターゲットイオン・パーミアブル・ポリマー・セラミック・複合材料又はターゲットイオン・パーミアブル・ポリマー・セラミック・コンポジット・マテリアル)を含んで成り、この材料は、関心(又は注目)のターゲットイオンをイオン伝導する(又はイオン的に伝導する)ものである。好ましくは、この膜は、この膜を介した所望のアルカリ金属イオンの選択的な透過(又は浸透又はパーミエーション)をサポートする。望ましくは、ターゲットイオンは、リチウムイオンである。
【0022】
適切には、少なくとも1つの有機ポリマーが、ポリマー・マトリクスの形態であってよい。ここで、セラミック粒子は、埋め込まれるか、またはカプセル化されている。適切には、少なくとも1つの有機ポリマーが、ターゲットイオン透過性セラミック粒子の少なくとも一部を被覆(又はコーティング)またはカプセル化する。望ましくは、少なくとも1つの有機ポリマーが、ターゲットイオン透過性セラミック粒子のすべてを被覆(又はコーティング)またはカプセル化する。適切には、ターゲットイオン透過性セラミック粒子は、1以上の有機ポリマーのマトリクス(又は母材)に埋め込まれている(又は埋設されている)。好ましくは、少なくとも1つの有機ポリマーは、ターゲットイオンに選択的に透過性(又は浸透性)である。好ましくは、少なくとも1つの有機ポリマーは、多孔質構造(又は多孔性の構造又はポーラス・ストラクチャ)を有する。適切には、この有機ポリマーの細孔(又はポア)は、ターゲットイオンではないイオン(例えば、非リチウムイオン(又はノン・リチウムイオン))を排除する。
【0023】
適切には、このイオン透過性セラミックは、固体粒子を含んでいてよい。この固体粒子には、粒(又はグレイン)、顆粒(又はグラニュー)、結晶(又はクリスタル)、結晶子(又は晶子又はクリスタライト)、ならびに、粒、顆粒、結晶および結晶子の粒子集合体(又は粒子凝集体又はパーティクル・アグリゲート)が含まれる。
【0024】
好ましくは、セラミック粒子は、特定の平均粒径分布(又は平均粒子径分布又は平均粒度分布又は平均の粒子サイズの分布)を有する。例えば、セラミック粒子は、200nm~50μmの範囲の粒径分布を有していてよい。粒子、顆粒、結晶および結晶子の粒子集合体は、約0.05μm~約50μmの平均直径、好ましくは約0.1μm~約30μmの平均直径、より好ましくは約0.2μm~約10μmの平均直径の範囲の粒径分布を有していてよい。粒子集合体は、1以上の粒子、顆粒、結晶および結晶子の焼結(又はシンタリング)または圧縮(又はコンパクション)から生じてよい。個々の粒子、顆粒、結晶または結晶子は、200nm~約300nmの直径の範囲の粒径分布を有していてよい。結晶および結晶子は、多結晶であっても単結晶であってもよい。適切には、結晶または結晶子は、1以上の粒(又はグレイン)を含んで成る。粒(又はグレイン)は、粒界(又はグレイン・バウンダリ(grain boundaries))と結合(又は会合又はアソシエート)していてよい、粒界とは、粒子の異なる配向の粒の間において、界面(又はインターフェース)を形成する表面欠陥または面積欠陥である。粒および結晶子は、セラミック材料において、サイズ(又は寸法)および配向(又はオリエンテーション)が一定でなくてもよい(又は変動してよい)。本明細書で使用される場合、「粒子(又はパーティクル)」という用語は、粒子、顆粒、結晶および結晶子ならびに粒子集合体(又は粒子凝集体)を包含(又はカバー)することを意図している。好ましい平均粒径分布は、セラミック材料の粉砕から生じてよい(例えば、ボールミリングによる粉砕)。適切には、ボールミリングの前において、好ましいターゲットイオン透過性セラミックの平均粒径は、100μm以上であってよい。望ましくは、セラミック出発原料は、粉砕されてよく(例えば、ボールミルによって粉砕されてよく)、それにより、所望の粒径範囲分布を有するセラミック粉末を与えてよい。一実施形態では、粒子および粒子集合体は、実質的に規則的であってよく、不規則的であってもよく、規則的または不規則的な形状の混合物であってもよい(例えば、実質的に立方体、直方体、六角形、ピラミッド形、ダイヤモンド形、球形または楕円形の形状)。いくつかの実施形態において、形状は繊維状または棒状ではない。
【0025】
好ましくは、膜のターゲットイオン透過性ポリマー・セラミック・コンポジット材料は、1回以上、焼結および/または圧縮される。好ましい膜は、ターゲットイオン透過性ポリマー・セラミック・コンポジット材料を含んで成る。これは、板状(又はプレート様)の焼結コンパクトの形態で提供されるものである。いくつかの実施形態において、板状(又はプレート様)の焼結コンパクト材料は、ターゲットイオン透過性セラミックの粒子がセラミックの焼結、圧縮および/または密集化(又は高密度化)された粒子のインターロック構造の形態をとる材料を含んで成る。いくつかの実施形態では、セラミック粒子の一部が一緒に融けてセラミックの集合粒子(又は凝集粒子)を形成する。密集化(又は高密度化又はデンシフィケーション)は、材料の多孔性(又は多孔率又は空隙率又はポロシティ)が減少し、それによって、材料の密度がより高くなるところで起こる。所定の面積または体積において、粒子の充填をより高めることによって、密度を低下させることができる(これは粒径を小さくすることによって達成され得ることである)。密度は、膜の特定の単位体積または単位面積における粒子の平均数の値(又は測定値)である。膜の密度がより高い部分では、セラミック粒子の間の隙間(又はギャップ)がより少ない。それに対して、セラミックの密度が低い部分では、粒子の間の隙間(又はギャップ)がより多くなる。膜のより密度が高い部分では、かかる単位面積または単位体積の領域は、膜の密度が低い部分と比べて、より高い平均数の粒子を有する。この膜の密度がより低い部分は、密度がより高い部分と比べて、より少ない平均数の粒子を有する。より小さい粒子を保持する領域は、より高い平均粒子数を有することから、より密度が高い(又はより高密度である)と理解される。対して、等しい面積/体積を保持するより大きい粒子は、より低い平均粒子数を保持することから、密度が低いと理解される。
【0026】
他の実施形態では、粒子間の粒界(又はグレイン・バウンダリ)は、焼結および/または圧縮の時に形成される。望ましくは、少なくとも1つの有機ポリマーが、セラミック粒子における粒界の間の隙間(又はギャップ)を充填してよい。有機ポリマーは、粒界の間の隙間(又はギャップ)を実質的に全て充填してよい。あるいは、粒界の間の隙間(又はギャップ)の少なくとも一部を充填してよい。有利には、第2(又は更なる)有機ポリマーを含ませること(又は包含又は包括又は含有又はインクルージョン)によって、セラミックと、少なくとも1つの有機ポリマーとの間の隙間(又はギャップ)をさらに充填してよい。
【0027】
望ましくは、ターゲットイオン透過性セラミックおよび少なくとも1つの有機ポリマーは、約1:1~約20:1、より好ましくは約1:1~約15:1、最も好ましくは約10:1の濃度(wt%)の比(セラミック:ポリマー)でターゲットイオン透過性ポリマー・セラミック・コンポジットに存在してよい。いくつかの実施形態では、セラミックおよび少なくとも1つの有機ポリマーは、コンポジットにおいて、約1:1~約18:1、好ましくは約5:1~約15:1、さらにより好ましくは約8:1~約12:1、最も好ましくは約10:1の濃度(wt%)の比で存在する。
【0028】
本明細書中に記載されるものは、この膜を通して、ターゲットイオン(好ましくは、リチウムターゲットイオン)を選択的に透過させるためのターゲットイオン透過性ポリマー・セラミック・コンポジット材料の膜である。当該膜は、ターゲットイオン透過性セラミックと、少なくとも1つの有機ポリマーとを含んで成り、この有機ポリマーは、ターゲットイオン透過性セラミックと結合(又は会合又はアソシエート)している。望ましくは、この膜は、好ましくは、膜が電位の影響下にある場合、ターゲットイオンに対して選択的に透過性(又は浸透性又はパーミアブル)である。適切には、膜は、電位に供されてよい。
【0029】
適切には、本発明の膜において、ターゲットイオン透過性ポリマー・セラミック・コンポジット材料におけるターゲットイオン透過性セラミックス粒子は焼結されている。望ましくは、膜は、ポリマー・マトリクスにおいて、セラミック粒子の均質(又は均一)な分散体(又はディスパージョン)を含まない。好ましくは、膜は、ポリマー・マトリクス中のセラミック粒子の不均質(又は不均一)な分散体(又はディスパージョン)を含んで成る。
【0030】
望ましくは、ターゲットイオン透過性セラミック粒子は、膜の中で圧縮(又はコンパクト化)されている。適切には、ポリマー・マトリクスの全体を通して、セラミック粒子の圧縮(又はコンパクション)は、均質(又は均一)ではない。適切には、セラミック粒子の圧縮は、ポリマー・マトリクスの全体を通して、不均質(又は不均一)である。
【0031】
好ましくは、圧縮のレベルは、膜の垂直断面にわたって、一定でない(又は可変である又はバリアブルである)。これは、ターゲットイオン透過性セラミックの圧縮レベル(又はコンパクション・レベル)が、膜の垂直断面にわたって、一定でなくてよい(又は可変であってよい)ことを意味する。いくつかの実施形態において、ターゲットイオン透過性コンパクションのレベルは、膜の垂直断面にわたって、粒子の減少する圧縮の勾配(又はコンパクション・グラジエント)の形態で減少する。いくつかの実施形態において、ターゲットイオン透過性セラミックの密度のレベルは、膜の垂直断面にわたって、粒子の減少する密度の勾配(又はデンシティ・グラジエント)の形態で減少する。いくつかの実施形態において、ターゲットイオン透過性セラミックの特定のサイズ(又は寸法)のレベルは、膜の垂直断面にわたって、粒子の減少するサイズ(又は寸法)の勾配(又はサイズ・グラジエント)の形態で減少する。
【0032】
望ましくは、ターゲットイオン透過性ポリマー・セラミック・コンポジットは、少なくとも2つの領域を含んでいてよい。ここで、第1領域は、ターゲットイオン透過性セラミックのリッチ領域(又は豊富領域又は多い領域)を含んで成り、これはターゲットイオン透過性セラミックが密に充填された粒子を含んで成る。第2領域は、第1領域と比べて、ターゲットイオン透過性セラミックが密に充填されていない粒子を含んで成る。いくつかの実施形態において、好ましい膜は、少なくとも1つの後続の領域を含んでよく、これは、直前の領域よりもターゲットイオン透過性セラミックが密に充填されていない粒子を含んで成る。
【0033】
いくつかの実施形態において、ターゲットイオン透過性ポリマー・セラミック・コンポジットは、少なくとも2つの層を含んでいてよい。ここで、第1層は、ターゲットイオン透過性セラミックのリッチ層(又は豊富層又は多い層)を含んで成り、これは、ターゲットイオン透過性セラミックの粒子を含んで成る。第2層は、有機ポリマーのリッチ層(又は豊富層又は多い層)である。ここで、第1層は、有機ポリマーのリッチ層(又は豊富層又は多い層)と比べて、より多くのターゲットイオン透過性セラミックの粒子を含んで成る。
【0034】
好ましくは、製造中において、ターゲットイオン透過性セラミック・コンポジットおよび少なくとも1つの有機ポリマーの溶媒懸濁液(又はソルベント・サスペンジョン)を、所望の膜の形状を有する容器にキャスト(又はキャスティング)する。溶液から溶媒を蒸発(又はエバポレーション)させることによって、上記のような望ましい微細構造(又はミクロストラクチャ)を有する膜の形成がもたらされる。セラミック材料が大小セラミック粒子の粒径分布(又は粒子径分布)を含むところでは、溶媒蒸発の過程(又はプロセス)において、より大きなセラミック粒子がキャスト・サスペンジョンの下部(又はボトム)領域に優先的に移動する。その一方で、より小さな粒子がキャスト・サスペンジョンの上方(又はアッパー)領域で懸濁したままとなる。溶媒が蒸発すると、粒子は互いに密集し、蒸発中に形成されるポリマーのマトリクス中に埋め込まれる(又は埋没する)。膜の下部領域では、より大きな粒子の沈降と圧縮によって、粒子間に比較的に大きな隙間(又はギャップ)および空間(又はスペース)(多孔質(又はポロシティ))が残され、これらは、ポリマー・マトリクスによって充填され、膜の下部領域が多孔性(又はポーラス)になる。これに対して、膜の上方領域では、より小さな粒子が圧縮されるため、セラミック粒子のより高い密度の領域が形成され、それにより、セラミック粒子間の隙間や空間が非常に小さくなる。上方領域は隙間や空間がより小さいので、これらの隙間や空間を充填するために必要なポリマーは少ない。これにより、異なる粒子密度の領域、および異なる密度のポリマーを有する膜が得られる。いくつかの実施形態では、結果として得られる微細構造は、膜の垂直断面にわたって、粒子のサイズ(又は寸法)の勾配(又はサイズ・グラジエント)の形態をとることがある。より大きく、密に充填されていないセラミック粒子は、膜の下部領域に存在する。その一方で、より小さく、より密に充填されたセラミック粒子は、膜の上方領域に存在する。有機ポリマー・マトリクスは、すべての膜領域に見いだされ得る。しかし、セラミック粒子間の隙間や空間のサイズ(又は寸法)に比例して、その量は、一定でない(又は変化する)。したがって、好ましい膜は、セラミック粒子のリッチ領域(又は豊富領域又は多い領域)と、ポリマーのリッチ領域(又は豊富領域又は多い領域)とを含んで成る。いくつかの実施形態において、膜の中間領域は、粒子間において、対応する中間のサイズの隙間(又はギャップ)および空間(又はスペース)を有する即座(又は即時)の粒子サイズのセラミック粒子を含んで成る。
【0035】
一実施形態において、イオン透過性セラミックは、固体状態の反応(共沈法、ゾル・ゲル法または溶融急冷法が挙げられ、好ましくはゾル・ゲル法である)によって形成されてよい。好ましくは、セラミックは、実質的に純粋なものであり、不純物の相を有しておらず、このような不純物の相は、走査型電子顕微鏡写真(SEM)の画像および/またはX線回折(XRD)分析などの技術を使用して識別可能である。望ましくは、ターゲットイオン透過性セラミックは、リチウム超イオン伝導体(又はリチウム・スーパー・イオニック・コンダクタ)であってよく、これは、リチウムイオン・チャネルを有するものであり、LISICON型、アルジロダイト類(argyrodites)、LGPSおよびLMPS化合物を含むものである。好ましくは、セラミック材料は、NASICONまたはLISICON材料から選択され、好ましくは、セラミック材料として、LATP(Li
1+xAl
xTi
2-x(PO
4)
3、x=0.3~0.4)であり、最も好ましくはLi
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3であり、これは水安定性およびリチウムイオン伝導性に優れるものである。一実施形態において、ターゲットイオン透過性セラミックは、LATPセラミックであり、好ましくは、
図1のXRDパターンおよびSEM画像のそれぞれによって示されるように、結晶相および形態(又はモルホロジー)を有する。望ましくは、LATPセラミックは、結晶性であり、例えば、X線回折によって確認されるように、例えば、菱面体の格子を有するものである。好ましいLATPセラミックは、不純物、特にAlPO
4不純物を含まない。
【0036】
適切には、イオン透過性セラミックは、セラミック材料を通るイオンの移動(又はムーブメント)、輸送(又はトランスポート)または通過(又はパッセージ)を選択的に可能にする複数のイオン・トランスポート・チャネルを含んで成る。望ましくは、イオンチャネルは、金属イオンチャネルである。イオンの移動、輸送または通過は、コンポジットの一方の側から他方の側、例えばコンポジットの互いに対向する側に起こるものと考えられる。コンポジットの互いに対向する側は、コンポジットが膜状である場合、互いに対向する面に対応する。
【0037】
好ましくは、ターゲットイオン透過性セラミックと少なくとも1つの有機ポリマーとの界面、有機ポリマーとターゲットイオン透過性セラミックとの界面は、互いに絡み合っていて(又はインタートゥワインド)および/または相互融着(又はインターウェルデッド)している。有利には、これは、有機ポリマーとターゲットイオン透過性セラミックとの間の特に強固な物理的な結合(又は付着(adhesion))をもたらし得る。いくつかの実施形態において、ポリマーは、セラミック中のターゲットイオン・トランスポート・チャネルの少なくとも一部に出入(又は進入)してよい。
【0038】
好ましくは、ターゲットイオン透過性ポリマー・セラミック・コンポジットは、少なくとも2つの層(第1層および第2層)を含んで成る。ここで、第1層は、ターゲットイオン透過性セラミックのリッチ層(又は豊富層又は多い層)を含んで成り、これは、ターゲットイオン透過性セラミックの粒子を含んで成る。第2層は、有機ポリマーのリッチ層(又は豊富層又は多い層)である。ここで、第1層は、有機ポリマーのリッチ層と比べて、より多くのターゲットイオン透過性セラミック粒子を含んで成る。ターゲットイオン透過性セラミックのリッチ層は、有機ポリマーのリッチ層と比べて、より多くのセラミック系材料の粒子を含んで成ると理解される。好ましくは、第2層は、内側本体(又はインナー・ボディ)(ターゲットイオン透過性セラミックの第1層を含んで成る)の上に外被膜(又はアウター・コート)を形成してよい。
【0039】
さらに、イオン透過性ポリマー・セラミック・コンポジットは、3層から構成されてよい。それによって、セラミック系材料は、セラミック中間層を形成し、これは、少なくとも1つの有機ポリマー層によって、対向する面同士で結合するものである。別の実施形態では、より複雑なイオン透過性ポリマー・セラミック・コンポジットの構造を形成するために、異なる有機ポリマーのさらなる層によって、中間層の配置(又は配列又はアレンジメント)が拘束されてよい。ある特定の実施形態では、少なくとも1つの有機ポリマーがターゲットイオン透過性セラミックの対向する表面をコーティング(又は被覆)する。ポリマー・コートは、対向する表面において、同じであっても、異なっていてもよい。
【0040】
いくつかの実施形態において、ターゲットイオン透過性セラミック粒子は、本明細書中に記載される方法の1以上の方法によって、少なくとも1つの有機ポリマーと結合(又は会合又はアソシエート)している。
【0041】
いくつかの実施形態において、セラミックおよび第1有機ポリマー(セラミックに結合(又は会合又はアソシエート)している)は、粒子のコーティングおよび/またはセラミック材料の層のコーティングの形態である。適切には、少なくとも1つの有機ポリマーが、ターゲットイオン透過性セラミックの粒子(および粒子集合体(又は粒子凝集体))の少なくとも一部をコーティングしてよい。換言すると、いくつかの実施形態において、セラミックの粒子の一部(ただし、全てではない)(少数(又はマイノリティ))が有機ポリマーでコーティングされてよい。いくつかの実施形態において、ターゲットイオン透過性セラミックのうち、より多く(又は多数)(マジョリティ)の粒子が、そうでないものと比べて、有機ポリマーでコーティングされている。他の実施形態において、セラミックのそれぞれの粒子の大部分はコーティングされていない(又はアンコートである)。他の実施形態では、少なくとも1つの有機ポリマーがターゲットイオン透過性セラミックの粒子の実質的に全てをコーティングする。
【0042】
所望に応じて、コーティングは、2以上の有機ポリマーを含んでよい。例えば、単一のコポリマー・コーティングの形態、あるいは個々のポリマーの別個のコーティングの形態、あるいはコポリマーの別個のコーティングまたはそれらの組み合わせであってよい。いくつかの実施形態において、有機ポリマーは、膜のターゲットイオン透過性ポリマー・セラミック・コンポジットを形成するためにターゲットイオン透過性セラミックに結合(又は会合又はアソシエート)するものであり、かかる有機ポリマーは、2以上の個別の層の有機ポリマーの組み合わせを含む。個々のポリマーコーティングは、同じポリマーであっても、異なるポリマーであってもよい。
【0043】
適切には、少なくとも1つの有機ポリマーは、親水性ポリマー、あるいは2以上の有機ポリマーの組み合わせまたはブレンド(又は混合物)である。有機ポリマーは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スルホン化されたテトラフルオロエチレン系フルオロポリマー・コポリマー(例えば、ナフィオン(Nafion))、キトサン、ポリスルホンおよびこれらの組み合わせからなる群から選択されてよい。最も好ましくは、有機ポリマーは、PVDFである。PVDFは、市販の膜材料であり、熱安定性、機械的強度および耐薬品性に優れる。200kDa~600kDaの分子量を有する高い分子量のPVDFが好ましい。450kDa~575kDaの分子量を有するPVDFがより好ましい。一実施形態では、534kの分子量を有するPVDFが特に好ましい。
【0044】
いくつかの実施形態では、ブレンドまたは2以上の有機ポリマーを使用することができ、好ましくはPVDFおよびNafionである。PVDFおよびナフィオンが含まれる場合、適切には、ナフィオンは、PVDFコーティング上のオーバーコートの形態で提供されてよい。第2ポリマーは、有機ポリマーの第1コーティング上の第2コーティングとして、または添加剤として、提供することができる。一実施形態において、第2有機ポリマーを含むことによって、Li+/K+の選択性が増加する。一実施形態において、ナフィオン(Nafion)は優れた第2有機ポリマーであることが見出されている。例えば、一実施形態では、1ミクロン(μm)の薄いナフィオン層が有機ポリマーの第1のコーティングの上にコーティングされ、Li+/Na+の選択性が9.64から13.33に増加する。
【0045】
好ましくは、リチウムイオン透過性セラミックがLATPであり、有機ポリマーがPVDFであり、または有機ポリマーがPVDFとナフィオンとの組合せである。
【0046】
粒子、すなわち、ターゲットイオン透過性セラミックの個々の粒子(又はパーティクル)、粒(又はグレイン)、顆粒(又はグラニュ)および/または粒子(又はパーティクル)の集合体(又は凝集体又はアグロメレーション)は、少なくとも1つの有機ポリマーによって、実質的または完全にラッピングまたはコーティングされてよく、あるいは部分的にラッピングまたはコーティングされてよい。ラッピングまたはコーティングは、ポリマーまたはコポリマーの1以上の層またはコート、例えば、同一または異なる有機ポリマーの第1層または第2層から得られてよい。適切には、このような効果によって、セラミック粒子をポリマー・マトリクスに埋め込んでよい(又は埋没させてよい)。
【0047】
いくつかの実施形態では、ターゲットイオン透過性セラミックの粒子は、セラミック系材料の第1層を形成してよい。セラミック系の材料は、それ自体が、1以上の有機ポリマーのさらなる層でコーティングされてよい。別の実施形態では、セラミック系材料は、有機ポリマーの層の間に配置され、例えば、セラミック系材料は、1以上の層の有機ポリマー層の間にサンドイッチされ、セラミック系材料の中間層を提供する。例えば、セラミック系材料は、PVDF層の間にサンドイッチされ、その後、さらにナフィオンによってサンドイッチされてもよい。
【0048】
好ましくは、ターゲットイオン透過性ポリマー・セラミック・コンポジットは、平面の形状または板(又はプレート)の形状で提供される。平面の形状とは、膜が、1方向に対して、2方向に実質的により大きい次元を有することを意味すると理解される。換言すると、膜は、実質的に2Dの形状であり、3Dの形状とは対照的である。膜は、板状(又はプレート様)の形状、好ましくは円板形(又はディスク形)の板状の形状、四角形(又はスクエア形)の板状の形状、または矩形(又はレクタンギュラ形)の板状の形状であってよい。適切には、形状は、板状(又はプレート形状)または円板状(又はディスク形状)の構成を含む。しかし、これは、膜材料のロール可能なシートの形態で提供されてもよい。適切には、焼結された板状のコンパクトの形態でイオン透過性セラミックを基体上に提供する。
【0049】
適切には、イオン透過膜は、1以上のターゲットイオンに対して選択的な透過性(又は浸透性)を有し(又はパーミアブルであり)、望まない他のイオンを排除する。好ましくは、ターゲットイオンは、金属イオンである。適切には、金属イオンは、1価のカチオンであり、好ましくはアルカリイオンであり、最も好ましくはナトリウムイオンまたはリチウムイオンであり、特にリチウムイオンである。他のアルカリイオンとして、カリウム、ルビジウムおよびセシウムが挙げられる。一実施形態において、イオン透過膜は、非リチウム一価イオン(K+、Na+などが挙げられる)に対して、透過性(又は浸透性)を有していない。一実施形態において、イオン透過膜は、2価および3価の金属イオン(例えば、Mg2+)に対して、透過性(又は浸透性)を有していない。リチウムイオンに対する選択性が特に好ましい。適切には、選択性は、裸のイオン(又はベア・イオン)に対するものである。すなわち、水和イオン種でない金属イオン、例えば、リチウムイオンに対するものであり、これは水和リチウムイオンとは対照的である。
【0050】
望ましくは、有機ポリマーは、ターゲット金属イオン、好ましくはリチウムイオンに対して透過性(又は浸透性)である(又はパーミアブルである)。より好ましくは、ターゲット金属イオン、好ましくはリチウムイオンに対して選択的に透過性である。より望ましくは、有機ポリマーは、電位の影響下、ターゲット金属イオン、好ましくはリチウムイオンに対して透過性である。
【0051】
好ましくは、リチウムイオン透過性セラミックは、25℃において、1×10-4Scm-1よりも大きいリチウムイオン伝導度(又はリチウムイオン伝導率又はリチウムイオン・コンダクティビティ)を有し、より好ましくは1×10-3Scm-1よりも大きいリチウムイオン伝導度を有する。リチウムイオン透過性コンポジットは、好ましくは、25℃で1×10-4Scm-1よりも大きいリチウムイオン伝導度を有し、より好ましくは1×10-3Scm-1よりも大きいリチウムイオン伝導度を有する。好ましくは、ターゲットイオン透過性セラミックは、リチウム超イオン伝導体の材料(又はリチウム・スーパー・イオニック・コンダクタ・マテリアル)である。
【0052】
かかる膜は、液体の溶液(特にブラインなどの水溶液)からリチウムイオンを回収するのに有用である。この膜は、溶液から、リチウムを抽出することが可能である。溶液は濃縮され、関心(又は注目)の特定のリチウム塩の溶解度に等しい濃度のレベルまで、リチウムが濃縮される。高濃度リチウム溶液からリチウムを回収することは、経済的な実行可能性の観点でより容易である。しかし、原則的には、任意の所望の溶液について、実質的に全てのリチウムイオンを回収することが可能である(ppmレベル、例えば1ppm程度であっても可能である)。特に、本明細書中に記載の実験において、本発明者らは、300ppmおよび1000ppmの濃度を有する溶液からの効果的な回収を示している。
【0053】
好ましい一実施形態において、本発明は、イオンの水溶液から、リチウム・ターゲットイオンを分離するための膜を提供する。このような膜は、リチウム・ターゲットイオン多孔性サポート基体(又はリチウム・ターゲットイオン・ポーラス・サポート・サブストレート)を含んでよく、これによって、リチウム・ターゲットイオン透過性ポリマー・セラミック・コンポジット材料(又はリチウム・ターゲットイオン透過性ポリマー・セラミック・コンポジット・マテリアル)をサポート(又は支持)する。ターゲットイオン透過性ポリマー・セラミック・コンポジット材料は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)と結合(又は会合又はアソシエート)したLi1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3(LATP)セラミックであってよい。望ましくは、PVDFは、約10:1の濃度(wt%)の比(セラミック:ポリマー)でターゲットイオン透過性ポリマー・セラミック・コンポジットに存在してよい。
【0054】
また、以下を含んで成る膜について説明する。
ターゲットイオン多孔性サポート基体、
ターゲットイオン透過性ポリマー・セラミック・コンポジット材料(これは多孔性サポート基体に支持されている)
ここで、ターゲットイオン透過性ポリマー・セラミック・コンポジット材料は、ターゲットイオン透過性セラミックおよび少なくとも1つの有機ポリマー(これはターゲットイオン透過性セラミックに結合(又は会合又はアソシエート)している)を含んで成る。ここで、この膜は、膜を通して、ターゲットイオン、好ましくはリチウム・ターゲットイオンを選択的に透過させるためのものである。
【0055】
また、リチウム・ターゲットイオンを選択的に透過させるためのリチウムイオン透過膜(又は浸透膜)(又はリチウムイオン・パーミアブル・メンブレン)について説明する。この膜は、以下含む。
リチウム・ターゲットイオン多孔性サポート基体
リチウム・ターゲットイオン透過性ポリマー・セラミック・コンポジット材料(これは多孔性サポート基体にサポート(又は支持)されている)
ここで、ターゲットイオン透過性ポリマー・セラミック・コンポジット材料は、LATPセラミックおよび少なくとも1つの有機ポリマー(これはターゲットイオン透過性セラミックと結合(又は会合またはアソシエート)したPVDFを含んで成る)を含んで成る。ここで、少なくとも1つの有機ポリマーが、約10:1の濃度(wt%)の比(セラミック:ポリマー)でターゲットイオン透過性ポリマー・セラミック・コンポジットの中に存在する。
【0056】
適切には、イオン透過膜は、ターゲットイオン多孔性サポート基体にサポート(又は支持)されている。
【0057】
第1の態様において上記で説明したターゲットイオン透過性ポリマー・セラミック・コンポジットは、膜として単独(又はスタンドアローン)で使用することができる。その一方で、いくつかの実施形態において、ターゲットイオン透過性ポリマー・セラミック・コンポジット材料をターゲットイオン多孔性サポート基体でサポート(又は支持)することは、ターゲットイオン透過性ポリマー・セラミック・コンポジット材料のより薄い層を関連の分離の用途で使用できる点で有利である。
【0058】
好ましくは、基体サポートは、ターゲットイオン透過性ポリマー・セラミック・コンポジットの厚さよりも小さい平均の厚さを有する。
【0059】
望ましくは、ターゲットイオン多孔性基体サポートは、織布または不織布である合成ファブリック(又は合成布製品)であってよい。ファブリック(又は布製品)は、以下の1以上から形成されてよい。
ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリアミド、および、これらのコポリマー、または多孔性の膜(例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、ポリエーテルアミド(polyethermide)、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリアクリレート、セルロースアセテート、ポリプロピレン、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)、ポリイニリデン(polyinylidene)フルオリド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、および、これらのコポリマーに基づくもの)
好ましい実施形態において、基体サポートは、多孔性(又は多孔質)のナイロンまたは多孔性(又は多孔質)のアルミナを含んで成る。
【0060】
本発明の膜は、分離技術、好ましくは、透析(又はダイアリシス)または電気透析(又はエレクトロダイアリシス)に使用することができる。
【0061】
膜は、分離技術、好ましくは透析または電気透析、最も好ましくはリチウムイオンの透析または電気透析の分離技術に使用されてよい。適切には、リチウムイオンの分離技術は、塩水溶液(例えば、ブライン、海水またはリチウムイオンのリサイクルもしくは回収のプロセスに由来する水溶液)からのリチウムイオンの分離を含む。
【0062】
塩水溶液(好ましくは、ブラインまたは海水あるいはリチウムイオンのリサイクルまたは回収のプロセスに由来する水溶液)から、選択的にリチウムイオンを分離する電気透析の方法は、第1の態様または第2の態様に従う膜に電圧を印加するステップ(又は工程)を含んで成る。電気透析スタック(又はエレクトロダイアリシス・スタック)は、本明細書中に記載されるような1以上の膜を含んでよい。電気透析スタックにおいて、各膜は、一対のアニオン交換膜の間に配置されてよい。望ましくは、好ましい電気透析スタックは、複数の膜を含んで成り、各膜は、一対のアニオン交換膜の間に配置される。
【0063】
また、本発明は、記載されるような膜(好ましくは、電気透析のための膜)を製造するための方法(又はプロセス)に関する。このような方法は、ターゲットイオン透過性セラミック材料(好ましくは、LATP)および少なくとも1つの有機ポリマー(好ましくは、PVDF)の溶液を調製すること(又は工程)を含んでよい。好ましくは、この溶液は、有機溶媒、好ましくはジメチルホルムアミド(DMF)などの揮発性の有機溶媒中で調製される。得られる溶液は、懸濁液(又はサスペンジョン)が形成されるまで、例えば、24時間にわたって撹拌することができる。その後、所定の形状、例えば、板(又はプレート)の形状のモールド(又は鋳型)にソルベント・キャスティング(又は溶液をキャスト)することによって、膜を形成することができる。適切なモールド(又は鋳型)として、ガラス容器が挙げられる。その後、溶媒を蒸発させてよく、それよって、ターゲットイオン透過性ポリマー・セラミック・コンポジット材料の膜(又はメンブレン)を形成してよい。好ましくは、溶媒を蒸発させるステップ(又は工程)は、溶媒蒸発誘導型の相分離(又はソルベント・エバポレーション・インデュースト・フェーズ・セパレーション(solvent evaporation-induced phase separation))(SEIPS)のプロセスを介した蒸発(又はエバポレーション)を含む。所望の膜のサイズ(又は寸法)に依存して、蒸発ステップは、最大で24時間かかってよい。蒸発は、温度によってアシスト(又は補助)されてよい。例えば、約60℃で溶媒を蒸発させることで、良好な結果が達成されている。
【0064】
一実施形態において、好ましい膜は、溶媒蒸発誘導型の相分離(SEIPS)のプロセスから製造されてよい。この実施形態では、セラミック粒子は、1以上のポリマー材料に埋め込まれている(又は埋設されている)。1以上のポリマーが、セラミック粒子の周囲のマトリクスの形態である。コンポジット中のセラミック粒子の密度およびポリマーの密度は、領域によってバリエーションを示す。換言すると、セラミック粒子は、ポリマー・マトリクスにおいて均質(又は均一)に分散していない。膜は、単一のセラミック密度または単一のポリマー密度を有していない。むしろ、粒子およびポリマーの分散は、不均一であり、それによって、特定の微細構造(又はミクロストラクチャ)を与える。これは、膜の異なる水平領域において、一定でない(又は可変又はバリアブルの)粒子密度と、一定でない(又は可変又はバリアブルの)ポリマー密度とを含む。いくつかの実施形態において、好ましい微細構造は、減少した多孔性(又は多孔率又は空隙率又はポロシティ)を有する高い密度の上方層(又はアッパー層)または上部領域と、増加した多孔性(又は多孔率又は空隙率又はポロシティ)を有するより低い密度の下部層(又はボトム層)または下部領域とを有する膜を含む。下部層または下部領域は、製造中にモールド(又は鋳型)に最も近い膜の部分に相当する。このような膜の断面SEM画像は、特定の微細構造に関連してよく、これは、セラミック粒子の配置から生じ得るものであり、さらに、それらがポリマーのマトリクス内にどのように埋め込まれているか(又は埋没されているか)によって生じるものである。例えば、より小さなセラミック粒子は、膜の上方領域(又はアッパー領域)(スキン層(又は表面層)に近い)に位置してよい。その一方で、より大きなセラミック粒子は、膜の下部領域(又はボトム領域)に位置してよい。いくつかの実施形態では、中間サイズの粒子が、膜の中間領域に位置してよい。これらの層または領域は、膜の上面および下面を通る垂直断面領域を参考にしている。
【0065】
望ましくは、好ましい微細構造は、膜の垂直断面にわたって、セラミック粒子のサイズ(又は寸法)の勾配(又はサイズ・グラジエント)が通っているものである。望ましくは、好ましい微細構造は、膜の垂直断面にわたって、セラミック粒子の密度の勾配(又はデンシティ・グラジエント)が通っている。好ましい微細構造は、膜の特定の水平領域において、セラミック粒子の密度の勾配またはセラミック粒子のサイズの勾配に反比例するポリマー密度を有する。好ましくは、より小さく、より圧縮されたセラミック粒子は、膜の粒子密度のより高い上方層または上方領域に位置している。適切には、より大きく圧縮されていないセラミック粒子は、膜のより少ない粒子密度の下部層または下部領域に位置している。逆に、より大きな割合のポリマーを含む膜の小さい粒子密度の下部層または下部領域と比べて、膜の上方層または上方領域は、より少ない割合のポリマーを含んで成る。いくつかの実施形態において、この微細構造は、膜を通る高いターゲットイオンのフラックスに関連していてよい。
【0066】
好ましい微細構造を有する膜を形成する方法の1つは、溶媒蒸発誘起型の相分離(SEIPS)のプロセス中にセラミック粒子のより大きな集合体(又は凝集体)を急速に沈降させることに関する。SEIPSの間、溶媒がポリマーの溶解度の限界を超えて蒸発すると、ポリマーは、大気(好ましくは、湿度40~60%)から、水蒸気を吸収し続ける。そして、ポリマーは、相分離を受け、固相ポリマーの密度が高いフィルムがセラミック沈降物の周囲にゆっくりと形成される。ポリマーで充填されたセラミック粒子の間において、粒子間の空間(又はインターパーティクル・スペース)は、さらに狭くなっていた。このとき、ポリマーは、流体からガラスの領域へと徐々に相変化する。SEIPSの完了によって、セラミック・ポリマーの膜をもたらし、この膜には、密度の高い上方層または上方領域と、セラミック・ポリマー混合マトリクスとが存在する。
【0067】
いくつかの実施形態において、一定でない(又は可変又はバリアブルの)圧縮(又はコンパクション)または勾配(又はグラジエント)の構造によって、高性能な膜(又はハイ・パフォーマンス・メンブレン)の達成が支援(又はアシスト)されてよい。その理由として、イオン透過率が膜の厚さに影響され得ることが挙げられる。記載される非対称の微細構造/勾配構造(例えば、
図6fに示す断面)は、より速いイオンの輸送を可能にしてよい。このとき、上部(又はトップ)/上方(又はアッパー)の層(単数または複数)または上部(又はトップ)/上方(又はアッパー)の領域(単数または複数)は、選択的なバリアとして作用する。その一方で、下部(又はボトム)の層(単数または複数)または下部(又はボトム)の領域(単数または複数)は、この膜に機械的強度および剛性を与える。
【0068】
このような実施形態における膜の全体的なイオン伝導度(又はイオン伝導率又はイオン・コンダクティビティ)は、スキン層(又は表層)とボトム層(又は下部層)との間の膜の断面にわたる領域的な伝導度に基づくものである。例えば、PVDF鎖は、非常に低い導電率(10-12S/cmのオーダー)を有し、優れた機械的特性および耐薬品性をこの膜に与えるのに役立つ。一方、LATP粒子の全伝導度(又は全伝導率又はトータル・コンダクティビティ)は、粒の伝導度(又は粒伝導率又はグレイン・コンダクティビティ)および粒界抵抗(又はグレイン・バウンダリ・レジスタンス)からもたらされるもの(又は結果)である。ここで、粒界をわたる(又は越える)伝導度は、数桁の程度でより小さくなる。膜の1つの理想的な構造は、密度の高い選択性のバリア(又はデンス・セレクティブ・バリア)を含んでよく、これは、この膜に高いリチウム選択性を与えるものである。このバリアは、この膜を横切る高速のイオン輸送が可能になる膜の断面を膜に与えてよい。イオン輸送は、上部(又はトップ)/上方(又はアッパー)の層(単数または複数)または上部(又はトップ)/上方(又はアッパー)の領域と、より多孔質の下部(又はボトム)のサポート層(又は支持層)(単数または複数)またはサポート領域(又は支持領域)の両方によって支配され得る可能性が高いと考えられる。
【0069】
(本発明の実施形態の説明)
本発明者らは、非対称のリチウム選択性の混合マトリクスの膜(又はメンブレン)を作製している。これは、NASICON型のLATP超イオン伝導体(又はNASICONタイプLATPスーパーイオニック・コンダクタ)と、PVDFとに基づくものである。このLATP-PVDF膜を用いて、本発明者らは、様々な供給源(又はソース)(例えば、リチウムイオンが100~200ppbの範囲にある海水)から、リチウムを低エネルギーで回収(又はリカバリ)することを実証している。
【実施例】
【0070】
実施例1
リチウム抽出用のポリマー系(又はポリマー・ベース)の膜、特に電気透析プロセス(又はエレクトロダイアリシス・プロセス)によるリチウム抽出用のポリマー系の膜を開発した。ポリマー系の膜は、多くの利点(例えば、高い耐酸性、低いコスト、高い長期安定性、スケールアップの容易さ)を示す。本開示では、優れた単一のLiイオン選択性および高いLiイオンの透過性(又は浸透性又はパーミエーション)を示したポリマー系のリチウム抽出膜について説明する。選択性は、15日後でも安定性を維持していた。本研究で報告する方法は、容易にスケールアップすることが可能である。
【0071】
膜の調製
Li
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3(LATP)は、NASICON型の化合物であり、これは室温で最高のリチウム伝導度(又はリチウム伝導率又はリチウム・コンダクティビティ)を示したものである。まず、LATPをゾル・ゲル法によって調製した。簡単に説明すると、1.46gの硝酸リチウムおよび1.24gの硝酸アルミニウムの混合物を一定のモル比で蒸留水に溶解し、次いで、室温で1時間にわたって撹拌した。この分散液(又はディスパージョン)に、5.3gのチタンイソプロポキシドをゆっくりと添加した。その後、水溶液(3.79gのオルトリン酸水素二アンモニウムを予め溶解させて含むもの)を激しく撹拌しながら添加した。6時間の撹拌を続けた後、よく混合された溶液を得た。最終混合物をさらに48時間、室温で静置させた後、100℃に加熱して、3時間にわたって保持し、水性溶媒を蒸発させた。次に、この固体を900℃で2時間にわたって5℃min
-1の遅い加熱速度で焼成し、室温に冷却した後、微粉末に粉砕した。次に、得られた乾燥ゲルを900℃で2時間にわたって1℃min
-1の昇温速度で焼成し、5℃min
-1の冷却速度で冷却した後、粉砕して、粒径0.1~2μmの微粉末を得た。ボールミリング(又はボールミル)を用いて、この粉末を粉砕した。LATPの結晶相(又はクリスタル・フェーズ)および形態(又はモルホロジー)をSEM画像およびXRDパターンで
図1に示す。
図1(a,b)は、粒径が約100μmであり、対して、ボールミル後では、粒径が10μmであり、大幅に減少していることを示す。
図1(d)では、不純物の相は確認されず、この粉末は、純粋なLATPの相であることを示している。
【0072】
次に、LATP(5%、wt%)およびPVDF(5%、wt%、Mw=180k)をDMFに溶解し、24時間にわたって撹拌した。次いで、9cmのペトリ皿(又はシャーレ)に5mlの懸濁液(又はサスペンジョン)を流し込み、60℃で4時間にわたって乾燥させた。より大きな膜のために、より長い蒸発時間を採用してよい。このサンプル(又は試料)をLATP-Pと称する。純粋なPVDF膜(
図2(a、c、e)参照)と比較すると、LATPは、PVDFに首尾よく包まれている(又はラッピングされている)(図(2b、d、f)参照)。この形態(又はモルホロジー)は、EDXマッピング分析によって、さらに確認することができる(
図3参照)。この結果は、すべてのLATP粒子が、PVDFの層の間にうまく包み込まれて(又はラッピングされて)、分散していることを示している。
【0073】
LATPとポリマー(PVDF)との比率を最適化するために、LATPとPVDFとの比率が異なるLATP-Pの膜(LATP-P-1(2:1)およびLATP-P-2(10:1))を調製した。さらに、高分子量のPVDF(Mw=534k)を用いて、本開示ではLATP-PH(5:1)と称される膜をさらに調製した。
【0074】
電気透析スタック(又はエレクトロダイアリシス・スタック)の準備(又はセットアップ)
図8(a,b)は、電気透析スタックを含んで成るシステムの概略図を示す。3つの溶液(すなわち、リチウム濃縮溶液(又はリチウムが濃縮された溶液又はリチウム濃縮液)、リチウムフィード溶液(又はリチウム供給物溶液又はリチウム供給液)、電極溶液(又は電極液))を膜の間のカラムに順次投入する。リチウムフィード溶液として、特定量のLiCl、NaClおよびMgCl
2を使用する。電極溶液として、300ppmのNaCl溶液を使用する。リチウムは、時間の経過とともに、リチウム濃縮溶液において、徐々に濃縮される。
【0075】
このシステムを2~5Vで運転し、最大70%のリチウムの抽出率を達成した。このサンプルは、リチウム/マグネシウムの選択性が最大で46であること、リチウム/ナトリウムの選択性が最大で10であることをそれぞれ示している(表1参照)。他のポリマー(例えば、ナフィオン(LATP-N)、キトサン(LATP-C)およびポリスルホン(LATP-PS))についても調査した。これらの試験では、PVDFが膜の調製に好ましい候補であることがわかった。
【0076】
【0077】
他のLATP-P(x)膜のリチウム抽出性能を表2において比較する。LATP-P膜のLATPの比率を上げることで、Li+のフラックスが向上し得ることがわかる。LATP-P-2は、23.06g/(m2・h)と最も高いLiフラックスを示した。Li+/Mg2+およびLi+/Na+の選択性は、それぞれ、46.12および9.468であった。
【0078】
【0079】
また、本発明者らは、選択性を確認するために、LiCl/NaCl/MgCl2の混合液(300ppm)をフィード溶液として用いて、LATP-P-2について試験を行った。フィード溶液中のLi+を除いて、Na+およびMg2+は全て拒絶された。Li+のフラックスは、0.5g/(m2・h)であることがわかった。Li+のフラックスは、比較的に低かったが、Li+のみがLATP-P膜を透過することが確認された。このことから、LATP-Pは混合溶液からのリチウムの回収において、より高い性能(又はパフォーマンス)を示すことを示した。
【0080】
システムのスケールアップ
本発明者らは、Li+抽出のために、より大きな電気透析システムを組み立てた。この実験では、1000ppmのLiCl/MgCl/NaClをフィード溶液として使用した。作動電位は、20Vであった。Li+のフラックスは、48.26g/(m2・h)であった。到達した回収率は、98.5%であった。Li+/Mg2+およびLi+/Na+の選択性は、それぞれ、39.6と10.3であった。
【0081】
実施例2
別の例示的な実施形態では、本発明者らは、リチウム超イオン伝導体(又はリチウム・スーパーイオニック・コンダクタ)(Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3)およびポリフッ化ビニリデン(PVDF)のコンポジット(又は複合体)から、溶液で処理することが可能なリチウム選択性の膜(又はソリューション・プロセッサブル・リチウム・セレクティブ・メンブレン)を作製した。この膜について、フィード溶液として合成の塩のブライン(又はシンセチック・ソルト・ブライン)を用いた電気透析装置(又はエレクトロダイアリシス)(ED)のセットアップで試験したところ、Li+/Na+およびLi+/Mg2+の選択性が、それぞれ、9107および2239を達成した。従来のリチウムのマイニング(又は採掘)と比較して、本開示のリチウム回収プロセスは、エネルギー効率が高く、ブラインから1.84kWh(塩化リチウム1kgあたり)の電力を消費する。最も重要なことは、この膜は、170ppbという低いリチウムイオン濃度の水源(又はウォーター・ソース)から、リチウムイオンを抽出できるという点である。このような拡張性のある選択性の膜(又はスケーラブル・セレクティブ・メンブレン)は、持続可能なリチウムの採掘(又はサステイナブル・リチウム・マイニング)のための新しい道を提供する。
【0082】
LATP粒子は、ゾル・ゲル法(Kunshina, Gら、Russian Journal of Inorganic Chemistry 59, 424-430 (2014))を用いる。LATP粒子は、AlPO4が不純物として検出されない。LATP類の構造を解析するために、粉末X線回折(XRD)を用いた。XRDパターンは、Miniflex 600回折計(Rigaku,Japan)、Cu-Kα線照射(15mA,40kV)によって、2θ範囲(10~60°)、2°min-1(室温)のスキャンレートで得た。表面の形態、膜厚および組成は、Nova NanoSEM 450(FEI,USA)を用いて、電界放出型走査電子顕微鏡(又はフィールド・エミッション・スキャニング・エレクトロン・マイクロスコピー)(FESEM)を用いて、5kVで操作して研究した。すべてのサンプルをSEM検査の前に白金でコーティングした。X線光電子分光法(又はX線フォトエレクトロン・スペクトロスコピー)(XPS)は、VG Multilab 2000光電子分光装置(VG Inc.)、2×10-6Paの単色Al Kα線照射によって特徴付けた。結合エネルギーは、試料中の表面外因性炭素(surface adventitious carbon)の284.8eVのC 1sのピークを基準とした。合成のブラインおよび海水をフィード(又は供給物)として、Perkin-Elmer NexION 2000 ICP質量分析計を使用して、透過溶液(又は浸透溶液又はパーミエート溶液)のイオン濃度を測定した。透過溶液のイオン濃度は、等モルで混合されたイオン・フィード(又はイオン供給物)の場合、外部試験機関であるALSで測定した。
【0083】
LATP-PVDF膜を溶媒蒸発誘導型の相分離(又はソルベント・エバポレーション・インデュースト・フェーズ・セパレーション(solvent evaporation-induced phase separation))(SEIPS)によって調製する。所定量のLATP粉末をジメチルホルムアミド(DMF)中でポリビニリデンジフルオライド(PVDF)と混合した。この混合物を80℃で8時間撹拌した。次いで、この混合物を平底ガラス容器(又はフラット・ボトム・ガラス・コンテナ)に移し、6時間にわたってSEIPSを受けた。60℃で12時間にわたって加熱した後、LATP-PVDF膜を回収した。LATP-PVDFドープ溶液をガラス容器にキャスティングすることによって、LATP-PVDF膜を作製した。ここで、溶液が溶媒蒸発誘導型の相分離(SEIPS)を受け、その結果、オフホワイトの膜が形成された(
図6a)。
【0084】
LATP-PVDF膜の製造のスケーラビリティ(又はスケール能力)を強調するために、25cm×30cmサイズの膜シートを調製した(
図6a)。LATP-PVDF膜は、LATP粉末と同様のXRD特性ピークおよびXPSスペクトルを示した(
図6bおよび6c)。LATP膜への加工後も純粋なLATP相が維持されていたことが示唆される。LATP-PVDF膜の上部層(又はトップ・レイヤー)(
図6f)および下部層(又はボトム・レイヤー)(
図6f)のSEM画像から、密度の高いスキン層(又は表層又はデンス・スキン・レイヤー)および多孔性(又は多孔質)のボトム層(又はポーラス・ボトム・レイヤー)が現れた。「スキン層(又は表層)」とは、空気に面する上方層(又はアッパー・レイヤー)を指す。一方で、ボトム層(又は下部層又は下方層又は底部層)とは、SEIPS中にガラス容器に面する層を指す。LATP-PVDF膜の垂直断面のSEM画像から、不均質(又は不均一)な微細構造(又はミクロストラクチャ)が明らかになった。これは、非対称またはセラミック粒子のサイズ(又は寸法又は粒子径又は粒径)の密度の勾配(又はデンシティ・グラジエント)と、非対称のセラミック粒子の圧縮の勾配(又はコンパクション・グラジエント)の構造とを含んで成る。かかる構造は、PVDFポリマーのマトリクス内に埋め込まれた(又は埋設された)LATP粒子からなる(
図6f)。ここで、セラミック粒子のサイズ(又は寸法)の勾配(又はサイズ・グラジエント)が明らかであり、これは、粒子の一定でない(又は可変又はバリアブルの)密度および圧縮をもたらすものである。より小さくて圧縮されたLATP粒子は、スキン層により近いところで観察された(
図6g)。その一方で、より大きなLATP粒子は、膜の底部セクション近くに見られた(
図6h)(少ない圧縮が適用され、より多孔質な領域である)。このユニークな微細構造は、望ましいものであり、SEIPSの間にLATP粒子のより大きな集合体(又は凝集体)が急速に沈降したことから得られるものである。従来、SEIPSを受ける膜溶液は、しばしば、等方性で低い多孔性の構造をもたらす。例えば、純粋なPVDF膜を作製すると、それにより、等方性で多孔性の構造が観察された。今回の場合、高フラックスに必要な非対称構造が達成された。SEIPSの間、PVDFの溶解度の限界(又はソルビリティ・リミット)を超えて溶媒が蒸発し続け、その一方で、PVDFは、大気(湿度40~60%)から、水蒸気を吸収し続け、PVDFは相分離を受けて、LATP沈降物(又は沈殿物)の周囲に固相PVDFの密度の高いフィルム(又はデンス・フィルム)をゆっくりと形成した。
【0085】
PVDFドープで充填されたLATP粒子間の粒子間の空間(又はスペース)は、PVDFドープが流体(又はフルード)からガラス領域(又はグラシー領域)へと徐々に相変化するにつれて狭くなった。SEIPSの完了によって、LATP-PVDF膜がもたらされ、これは、密度の高い上部層(又はトップ層)と、LATP/PVDF混合マトリクスとを有する。SEIPSによるLATP-PVDF膜の形成の模式図は
図5から利用可能である。
【0086】
本研究によるLATP-PVDF膜は、電気透析によるリチウム回収を目的として設計されており、膜の片側(例えば、上方層(又はアッパー層)/表層(又はスキン層)(ただし、これに限定されるものではない))がフィード溶液に面し、他方の側(例えば、下部層(又はボトム層)(ただし、これに限定されるものではない))が透過溶液(又は透過物溶液又はパーミエート溶液)(プロダクト溶液)に面する。透過サイトの伝導度(又は伝導率)は、0.055μS/cm~202.2mS/cmの範囲である。すなわち、脱イオン水と濃縮LiCl溶液の伝導度(又は伝導率)の間である。実際の透過溶液の伝導度(又は伝導率)は、EDプロセスのパラメータ(例えば、電流密度、温度、pHなど)およびフィード(又は供給物)の組成(例えば、ブライン、海水、Liリサイクル供給源(又はLiリサイクリング・フィード・ソース)など)に依存する。SEIPSを選択して非対称構造のLATP-PVDF膜を作製することによって、少なくとも10-4S/cm以上の高いLi+伝導度(液体の電解質に近い伝導度)を達成する膜が得られる。そのため、透過溶液の濃度にかかわらず、高いLi+フラックスが可能になった。さらに、SEIPSによって達成されるユニークなLATP-PVDFの構造は、電気透析(ED)セルの両端に位置する電極に電流を印加した場合に膜の電気抵抗を低減させることも期待される。
【0087】
LATP-PVDF膜の密度の高いPVDF成分は、水溶液中の水分子に対するバリアを提供し、塩分の膜外への漏れ(これにはEDプロセスの全体的な選択性(および効率)を妥協する(又は損なう)可能性がある)を確実に防止する。理論にとらわれることなく、このイオン選択性は、表層(又はスキン層)にある密に詰められた(又はパックされた)LATP粒子から生じると考えられ、Li
+イオンは、密に詰められた(又はパックされた)LATP粒子によって形成されたLATPチャネルを通って、膜マトリックスを横切って、膜の底部側へと移動する。LATP-PVDF膜の底部領域により近づくと、LATP粒子間のより広い粒子間の空間(又はスペース)(
図6h)がPVDFポリマー鎖によって部分的に充填され、より多孔質の構造が残されることになる。このLATP-PVDF膜をEDプロセスに使用すると、多孔性(又は多孔質)の構造が透過溶液で充填され、イオン輸送が促進されることにもなる。伝導度(又は伝導率)への透過溶液およびLATPチャンネルの寄与の程度は、透過溶液の伝導度(又は伝導率)およびLATPの伝導度(又は伝導率)(溶液中)に依存する。このプロセスは、LATPの沈降およびPVDFのSEIPSによって部分的に行われるため、スキン層からボトム層まで、常にLATPのネットワークが維持され、Li
+に対して排他的な(又はLi
+専用)の輸送可能なイオンチャネルを形成する。
【0088】
実施例3
LATP-PVDF膜のリチウム分離性能
EDシステムを用いて、膜のリチウムイオンの分離性能を試験した。今回の研究で使用したEDプロセスは、3枚の膜(AEM、LATP-PVDF膜およびAEMからなる)をこの順番でスタック(又は積層)させたものである(AEM:アニオン交換膜)。EDは、印加する電位の差によって、イオンの動きを制御するものであり、ブラッキッシュ・ウォーター脱塩、水処理、イオン回収の用途が見出されているものである。本開示のED実験では、市販のカチオン交換膜の代わりに、LATP-PVDF膜を使用した。
【0089】
LATP-PVDF膜のイオン分離性能を、LiCl、NaCl、MgCl2またはこれら3種類の塩からなる様々なフィード溶液で調査した。
【0090】
【0091】
0.1MのLiCl、NaClおよびMgCl
2をそれぞれフィード溶液として用いる単一イオン透過試験(又はシングル・イオン・パーミエーション・テスト)において、透過側(又は透過物側又はパーミエート・サイド)のLi
+イオンの濃度は、ED時間とともに増加する。その一方で、Na
+およびMg
2+イオンは、ごくわずかに膜を透過(又は浸透)した(
図7a)。膜は、23.35g/(m
2・h)のLi
+フラックスを示し、ED実験終了時の最小のNa
+およびMg
2+のフラックスは、それぞれ、0.62g/(m
2・h)および0.35g/(m
2・h)を示す(
図7b)。これにより、LATP膜には、Li
+/Na
+およびLi
+/Mg
2+の理想的な選択性として、それぞれ、37.7および65.7が与えられる(12時間後)。
【0092】
様々な供給源(又はフィード・ソース)からのLi
+の回収に関して、LATP-PVDF膜の実用性を判断するために、フィード(又は供給物)として様々な濃度のLiCl溶液を用いてED実験を行った(
図7c)。
図7cに示すように、透過側(又は透過物側又はパーミエート・サイド)のLi
+濃度は、フィード溶液のLi
+濃度および操作時間の両方とともに増加する。このことは、予想通りであり、Li
+の濃度がより高いフィード溶液を使用するほど、一度に膜表面に接触するLi
+イオンの数が多くなることからわかる。0.0001MのLi
+(約4.2ppm)のフィード溶液では、Li
+イオンフラックスが0.37g/(m
2h)であることが測定されたに過ぎない(
図7d)。しかし、対応する12時間後のフィード溶液300mlからのLi
+の回収率は、90.4%であった。このようにLATP-PVDF膜が、低いLi
+濃度源に適用できることが実証されている。しかし、Li
+の回収がフィードの濃度に応じて非線形に増加することから、LATP-PVDF膜がフィード溶液を濃縮することによって達成できる最大のイオンフラックスに上限があることが観察されて示唆されている。これは、リチウム鉱業において、Li
+の回収の効率を高めるために共通して行われているステップ(又は工程)である。様々な供給源に由来するLi
+濃度は著しく変化し得るため(例えば、海水およびブラインの平均のLi
+の濃度は、それぞれ、170ppbおよび300ppmであり)、様々なフィード濃度へのLATP-PVDF膜の幅広い適用は、現実世界の条件におけるリチウム分離にとって、大きな利点となる。さらに、LATP-PVDF膜の代わりに純粋なPVDF膜を用いたED試験において、LATP-PVDF膜のLATPチャネルがLi
+イオンの透過と選択性に果たす役割を検証した。PVDF膜を用いた場合、全てのED実験を通して、フィードおよび透過物(又はパーミエート)の濃度は同じのままであった。このことは、膜のPVDF成分がいかなるイオンに対しても透過可能でなかったことを示している。また、フィード溶液および透過溶液の体積は、すべてのED実験を通して、同じままであった。
【0093】
リチウム選択性の膜の現実世界での用途には、塩の混合物の分離が必要である。本研究では、ED試験において、0.1MのLiCl、0.1MのNaClおよび0.1MのMgCl
2で調製した塩溶液を使用した。
図7eに示すように、透過側(又は透過物側又はパーミエート・サイド)のNa
+およびMg
2+の濃度は、一貫して、ICP-OES分光器の検出限界未満であった(サンプルは、第3者試験認証会社であるALSに送付した)。これにより、LATP-PVDF膜がLi
+イオンに対してのみ透過性であることを確認している。その結果、Li
+フラックスは、単一イオン実験と比較してほぼ半減している(
図7f)。これは、膜の表面へのイオン吸収が競合しているためと考えられる。LATP-PVDFの実際のイオンの選択性は、透過溶液がLi
+のみを含むため、理想的な選択性よりも顕著に高い(すなわち、Li
+/Na
+およびLi
+/Mg
2+=無限大(∞))。これまで報告されているリチウム分離膜の性能とより比較しやすいように、透過溶液中のNa
+およびMg
2+の濃度を約1ppmと仮定すると、対応の最小値および過小評価のLi
+/Na
+およびLi
+/Mg
2+の選択性は、134である。試験の結果、本研究のLATP-PVDF膜は、現行のすべてのLi
+分離膜よりも有意に大きいLi
+フラックスおよび選択性を有することが示された。
【0094】
膜の安定性
LATP-PVDF膜の強さ(又は堅牢性)およびLATPチャネルの安定性を決定するために、0.1MのLiCl溶液をフィード(又は供給物)として用いる12時間のEDおよび循環DI水による12時間の膜洗浄からなる7サイクルに膜を供した。
図8aは、LATP-PVDF膜の性能が7サイクルを終えた後も安定したままであったことを示す。各サイクルにおいて、膜は、各サイクルの終わりに24.8から25.7g/(m
2・h)の間で一貫して同じイオンフラックスを示した。さらに、LATP-PVDF膜の安定性は、Li
+がほとんど回収されるまで、0.02MのLiCl濃度で電気透析を行うことで実証された。約0.02M(または1000ppm)のフィード濃度は、7サイクルの安定性試験と同様の実験時間内において、Li
+が膜を透過し得るように選択された(
図8b)。
【0095】
安定性試験前後のLATP-PVDF膜のXRDパターンや形態(又はモルホロジー)には、特筆すべき違いは見られなかった。膜性能、結晶性および膜の形態に基づいて、この膜は、機械的に堅牢であり、安定であると考えられる。
現実世界での性能およびエネルギー消費
LATP-PVDF膜の現実世界での性能は、合成のブライン溶液および海水を用いて実証された(表3参照)。フィード溶液として300ppmのLi+(または約0.007MのLi+)からなるブラインを用いた場合、LATP-PVDF膜に同様のイオン選択性の挙動が観察された。ここで、Li+以外のすべてのイオンが膜によってほぼ完全に拒絶される。300mlのブライン・フィード溶液を用いた場合、12時間以内に65.3%のLi+の回収が達成できる。対応のLi+のイオンフラックスは、12.23g/(m2h)であった。これは、0.01MのLi+で行った単一イオン実験と同様であった。透過溶液の濃度(ICP-MSを用いて検出した。検出限界はpptレベルであった。方法(Methods)を参照のこと)に基づいて、9107のLi+/Na+選択性が達成された。この結果から、ブライン溶液からのリチウムイオンの回収が十分に実現可能であることが示された。
【0096】
合成の海水をフィードとして用いる場合(Li+濃度:170ppb)、12時間で41.8%のLi+を合成の海水から回収することができた。合成の海水中のLi+濃度が非常に低いため、Li+フラックスは、かなり低かった。それでも、実際のイオン選択性は、Li+/Na+、Li+/K+、Li+/Mg2+およびLi+/Ca2+が、それぞれ、13.0、43.7、46.6および123.6であり、海水からのリチウム回収がまだ効率的に達成できることを示唆している。しかし、ブラインをフィードとした場合と比べて、選択性は著しく低い。海水フィード溶液中のLi+:Na+の比率が1:61765と高いことを考慮すると、Li+/Na+の選択性が13.0であることは非常に顕著である。なお、Li+およびNa+の等モル混合物の場合であっても、このようなLi+/Na+の選択性を達成できる膜は、全く市販されていない。
【0097】
合成の海水やブラインをフィード溶液として使用した場合、LATP-PVDF膜によって示されるLi+/Na+およびLi+/K+イオンの選択性は、1価イオンの部分脱水によりイオン分離が達成されていることを強く示唆する。Na+が海水溶液を支配するフィード溶液に関して、このことは特に本当である。ブラインからのリチウム回収の場合、Li+:Na+は、1:77であり、Li+/Na+の選択性は、9107であり、このことから、膜の表層(又はスキン層)または上部層(又はトップ層)は十分に密度が高く、それにより、水が漏れるのを防止することを示した。これによって、望ましくないイオンが膜を越えて透過側(又は透過物側又はパーミエート・サイド)へと漏出し得るのを防ぐ。
【0098】
研究室の実験で得られた膜性能データおよび市販の電気透析システム(400mm×1600mmの大面積の膜をスタック(又は積層)させて成り、総膜面積は665.6m2である)の典型的なエネルギー消費を用いて、商業規模での現実世界でのエネルギー消費は、リチウム回収量1kgあたり、約1.84kWhであると試算した。
【国際調査報告】