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特表2022-544010グラファイトシートおよびこれを含む電子装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-17
(54)【発明の名称】グラファイトシートおよびこれを含む電子装置
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/205 20170101AFI20221007BHJP
【FI】
C01B32/205
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022504005
(86)(22)【出願日】2019-10-29
(85)【翻訳文提出日】2022-01-20
(86)【国際出願番号】 KR2019014396
(87)【国際公開番号】W WO2021015363
(87)【国際公開日】2021-01-28
(31)【優先権主張番号】10-2019-0088084
(32)【優先日】2019-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514225065
【氏名又は名称】ピーアイ アドヴァンスド マテリアルズ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】PI Advanced Materials CO., Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム・キュン ス
(72)【発明者】
【氏名】ウォン・ドン ユン
(72)【発明者】
【氏名】チョイ・ジョン ユル
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA02
4G146AB07
4G146AC03A
4G146AC03B
4G146AC26A
4G146AC26B
4G146AC30A
4G146AC30B
4G146AD20
4G146BA15
4G146BC04
4G146BC23
4G146BC36B
4G146BC37B
(57)【要約】
平面方向に対する熱伝導度が約1,000W/m・K以上であり、厚さ方向に対する熱伝導度が約30W/m・K以上であるグラファイトシートおよびこれを含む電子装置が開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面方向に対する熱伝導度が約1,000W/m・K以上であり、厚さ方向に対する熱伝導度が約30W/m・K以上であるグラファイトシート。
【請求項2】
ブライトスポットの個数が約5個以下である、請求項1に記載のグラファイトシート。
【請求項3】
厚さが約10~約100μmである、請求項1に記載のグラファイトシート。
【請求項4】
前記グラファイトシートは、ポリイミドフィルムから製造され、
前記ポリイミドフィルムは、表面欠陥の個数が約4個以下である、請求項1に記載のグラファイトシート。
【請求項5】
前記グラファイトシートは、ポリイミドフィルムから製造され、
前記ポリイミドフィルムは、球状のポリイミド系フィラーを含む、請求項1に記載のグラファイトシート。
【請求項6】
前記ポリイミド系フィラーは、グラフェンを含有するポリイミド系フィラーを含む、請求項5に記載のグラファイトシート。
【請求項7】
前記ポリイミドフィルムは、ポリイミド鎖の少なくとも一部が平面方向に配向された多層構造の間に前記ポリイミド系フィラーの少なくとも一部が分散した構造を有する、請求項5または6に記載のグラファイトシート。
【請求項8】
前記ポリイミドフィルムから製造されたグラファイトシートは、多層グラファイト構造の層の間が架橋部で連結された構造を有し、
前記多層グラファイト構造は、前記ポリイミド鎖の多層構造の少なくとも一部が黒鉛化されて形成され、
前記架橋部は、前記ポリイミド系フィラーの少なくとも一部が黒鉛化されて形成される、請求項7に記載のグラファイトシート。
【請求項9】
前記ポリイミド系フィラーは、平均粒径が約1~約10μmである球状のポリイミド系フィラーを含む、請求項5または6に記載のグラファイトシート。
【請求項10】
前記ポリイミドフィルムは、ポリアミック酸から製造され、
前記ポリイミド系フィラーは、前記ポリアミック酸100重量部対比約0.1~約5重量部含まれる、請求項5または6に記載のグラファイトシート。
【請求項11】
前記ポリイミドフィルムは、昇華性を有する無機物系フィラーをさらに含む、請求項5または6に記載のグラファイトシート。
【請求項12】
請求項1に記載のグラファイトシートを含む電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
グラファイトシートおよびこれを含む電子装置に関する。より詳しくは、平面方向に対する熱伝導度が約1,000W/m・K以上であり、厚さ方向に対する熱伝導度が約30W/m・K以上であるグラファイトシートおよびこれを含む電子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の電子機器は、次第にその構造が軽量化、小型化、薄型化、高集積化され、単位体積あたりの発熱量が増加するにつれて、熱負荷による多くの問題が発生している。代表的な問題としては、電子機器の熱負荷による半導体の演算速度の低下とバッテリの劣化による寿命短縮など、電子機器の性能に直接的な影響を与えることを例に挙げることができる。このような理由から、電子機器の効果的な放熱は非常に重要な課題の一つに浮上している。
電子機器に用いられる放熱手段として、熱伝導度に優れたグラファイトが注目されており、なかでも、シート状に加工しやすく、銅やアルミニウムの熱伝導度と比較して約2~約7倍程度優れた熱伝導度を有する人造グラファイトシートが脚光を浴びている。
人造グラファイトシートは、高分子の炭化工程と黒鉛化工程により製造することができ、高分子の中でも、約400℃以上の温度に耐えられる耐熱性高分子がグラファイト前駆体として使用できる。このような耐熱性高分子の代表例として、ポリイミド(polyimide:PI)が挙げられる。
ポリイミドは、剛直な芳香族主鎖とともに、化学的安定性に優れたイミド環をベースとし、有機材料の中でも最高水準の耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性、耐化学性、耐候性を有する高分子材料であって、人造グラファイトシートの製造時に優れた収率、結晶化度および熱伝導度を可能にして最適なグラファイト前駆体として知られている。
【0003】
一般的に、人造グラファイトシートの物性は、前駆体であるポリイミドの物性に大きく影響されることが知られており、人造グラファイトシートの物性向上のためにポリイミドの改良が活発に行われている。特に、人造グラファイトシートの熱伝導度向上のための多くの研究が進められている。
代表的に、ポリイミドを高配向性のフィルムに製造し、これをグラファイトシートの製造に用いることを例に挙げることができる。高配向性ポリイミドフィルムは、前駆体であるポリアミック酸を乾燥し、延伸や圧着などの工程により高分子鎖をフィルムの平面方向に配向させたものであってもよい。一定に配向された高分子鎖は、炭化と黒鉛化時、規則的な炭素配列をなしつつ結晶性に優れたグラファイト層を形成することができる。これにより、高配向性ポリイミドフィルムを用いると、結晶性に優れた多層グラファイト構造のグラファイトシートを製造することができる。
【0004】
しかし、このようなグラファイトシートは、2次元の平面方向への熱伝導度は非常に優れているが、厚さ方向への熱伝導度は平面方向と比較して1%以下程度である。これは、大部分のグラファイト層が電気的引力で重畳していて、層と層との間に物理的なギャップが存在することによると推測される。
したがって、平面方向への熱伝導度だけでなく、厚さ方向にも優れた熱伝導度を有するグラファイトシートとその実現を可能にするポリイミドの開発が必要なのが現状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、平面方向および厚さ方向とも優れた熱伝導度を有するグラファイトシートを提供することである。
本発明の他の目的は、前記グラファイトシートを含む電子装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1.一側面によれば、平面方向に対する熱伝導度が約1,000W/m・K以上であり、厚さ方向に対する熱伝導度が約30W/m・K以上であるグラファイトシートが提供される。
2.前記1において、前記グラファイトシートは、ブライトスポット(bright spot)の個数が約5個以下であってもよい。
3.前記1または2において、前記グラファイトシートは、厚さが約10~約100μmであってもよい。
4.前記1~3のいずれか1つにおいて、前記グラファイトシートは、ポリイミドフィルムから製造され、前記ポリイミドフィルムは、表面欠陥の個数が約4個以下であってもよい。
5.前記1~4のいずれか1つにおいて、前記グラファイトシートは、ポリイミドフィルムから製造され、前記ポリイミドフィルムは、ポリイミド系フィラーを含むことができる。
6.前記5において、前記ポリイミド系フィラーは、グラフェンを含有するポリイミド系フィラーを含むことができる。
7.前記5または6において、前記ポリイミドフィルムは、ポリイミド鎖の少なくとも一部が平面方向に配向された多層構造の間に前記ポリイミド系フィラーの少なくとも一部が分散した構造を有することができる。
8.前記7において、前記ポリイミドフィルムから製造されたグラファイトシートは、多層グラファイト構造の層の間が架橋部で連結された構造を有し、前記多層グラファイト構造は、前記ポリイミド鎖の多層構造の少なくとも一部が黒鉛化されて形成され、前記架橋部は、前記ポリイミド系フィラーの少なくとも一部が黒鉛化されて形成されたものであってもよい。
9.前記5~8のいずれか1つにおいて、前記ポリイミド系フィラーは、平均粒径が約1~約10μmである球状のポリイミド系フィラーを含むことができる。
10.前記5~9のいずれか1つにおいて、前記ポリイミドフィルムは、ポリアミック酸から製造され、前記ポリイミド系フィラーは、前記ポリアミック酸100重量部対比約0.1~約5重量部含まれる。
11.前記5~10のいずれか1つにおいて、前記ポリイミドフィルムは、昇華性を有する無機物系フィラーをさらに含むことができる。
12.他の側面によれば、前記1~11のいずれか1つに記載のグラファイトシートを含む電子装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、平面方向および厚さ方向とも優れた熱伝導度を有するグラファイトシートおよびこれを含む電子装置を提供する効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明を説明するにあたり、かかる公知の技術に関する具体的な説明が本発明の要旨を不必要にあいまいにしうると判断された場合、その詳細な説明は省略する。
本明細書上で言及した「含む」、「有する」、「なる」などが使われる場合、「~のみ」が使われない以上、他の部分が追加可能である。構成要素を単数で表現した場合に、特に明示的な記載事項がない限り、複数を含む場合を含む。
また、構成要素を解釈するにあたり、別の明示的記載がなくても誤差範囲を含むと解釈する。
本明細書で使われる第1、第2などの用語は多様な構成要素を説明するのに使われるが、構成要素は用語によって限定されてはならない。用語は、1つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ使われる。
本明細書において、数値範囲を示す「a~b」において「~」は、≧aであり、≦bであると定義する。
【0009】
一側面によれば、グラファイトシートが提供される。グラファイトシートは、平面方向に対する熱伝導度が約1,000W/m・K以上(例えば、約1,000、約1,005、約1,010、約1,015、約1,020、約1,025、約1,030、約1,035、約1,040、約1,045、約1,050、約1,055、約1,060、約1,065、約1,070、約1,075、約1,080、約1,085、約1,090、約1,095、約1,100、約1,105、約1,110、約1,115、約1,120、約1,125、約1,130、約1,135、約1,140、約1,145、約1,150、約1,155、約1,160、約1,165、約1,170、約1,175、約1,180、約1,185、約1,190、または約1,095W/m・K以上)であり、厚さ方向に対する熱伝導度が約30W/m・K以上(例えば、約30、約31、約32、約33、約34、約35、約36、約37、約38、約39、約40、約41、約42、約43、約44、約45、約46、約47、約48、約49、約50、約51、約52、約53、約54、約55、約56、約57、約58、約59、約60、約61、約62、約63、約64、約65、約66、約67、約68、約69、約70、または約71W/m・K以上)であってもよい。例えば、グラファイトシートは、平面方向に対する熱伝導度が約1,000~約1,700W/m・K(例えば、約1,000、約1,100、約1,200、約1,300、約1,400、約1,500、約1,600、または約1,700W/m・K)であり、厚さ方向に対する熱伝導度が約30~約100W/m・K(例えば、約30、約40、約50、約60、約70、約80、約90、または約100W/m・K)であってもよい。他の例として、グラファイトシートは、平面方向に対する熱伝導度が約1,000W/m・K以上であり、厚さ方向に対する熱伝導度が約60W/m・K以上であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0010】
一実施形態によれば、グラファイトシートは、これに限定されるものではないが、ブライトスポットの個数が約5個以下(例えば、0、約1、約2、約3、約4、または約5個)であってもよい。ここで、ブライトスポットの個数とは、グラファイトシートの単位面積(50mm×50mm)あたり0.05mm以上の大きさ、すなわち0.05mm以上の直径を有する突起の発生個数を意味することができ、これは、グラファイトシートの表面を顕微鏡を用いたり、写真を撮影した後に拡大して肉眼で観察して測定することができる。
【0011】
一実施形態によれば、グラファイトシートは、これに限定されるものではないが、厚さが約10~約100μm(例えば、約10、約20、約30、約40、約50、約60、約70、約80、約90、または約100μm)であってもよい。
【0012】
一実施形態によれば、グラファイトシートは、ポリイミドフィルムから製造される。例えば、グラファイトシートは、ポリイミドフィルムを炭化および/または黒鉛化して製造することができる。
炭化は、例えば、減圧下または不活性気体雰囲気下、ホットプレスおよび/または電気炉を用いて行われる。例えば、炭化は、窒素/アルゴン雰囲気下、常温から最高温度である約1,000~約1,500℃の範囲の温度まで約12時間かけて昇温および維持するステップを含むことができ、炭素の高配向性のために、ホットプレスを用いて垂直方向に圧力をかけることもできる。炭化中に約5kg/cm2以上、例えば、約15kg/cm2以上、他の例として、約25kg/cm2以上の圧力をかけることができるが、これに限定されるものではない。
黒鉛化は、例えば、ホットプレスおよび/または電気炉を用いて行われ、選択的に不活性気体(例えば、窒素、アルゴン、および少量のヘリウムを含む混合気体)雰囲気下で行われる。例えば、黒鉛化は、窒素/アルゴン雰囲気下、常温から最高温度である約2,500~約3,000℃の範囲の温度まで約10時間かけて昇温および維持するステップを含むことができ、選択的に約100kg/cm2以上、例えば、約200kg/cm2以上、他の例として、約300kg/cm2以上の圧力をかけることができるが、これに限定されるものではない。
【0013】
一実施形態によれば、グラファイトシートの製造に使用されるポリイミドフィルムは、ポリイミドフィルムの単位面積(10mm×10mm)あたり突出痕やピンホールのような表面欠陥の個数が約4個以下(例えば、0、約1、約2、約3、または約4個)であってもよい。ここで、表面欠陥の個数は、ポリイミドフィルムの表面を顕微鏡を用いたり、写真を撮影した後に拡大して肉眼で観察して測定することができる。
【0014】
一実施形態によれば、グラファイトシートの製造に使用されるポリイミドフィルムは、ポリイミド系フィラーを含むことができる。この場合、炭化および/または黒鉛化時、ポリイミドフィルムから形成されたグラファイト層の間を、炭化および/または黒鉛化されたポリイミド系フィラーが連結することにより、グラファイトシートの厚さ方向の熱伝導度が向上する効果があり得る。例えば、ポリイミドフィルムは、ポリイミド鎖の少なくとも一部が平面方向に配向された多層構造の間にポリイミド系フィラーの少なくとも一部が分散した構造を有することができる。このようなポリイミドフィルムから製造されたグラファイトシートは、前記ポリイミド鎖の多層構造の少なくとも一部が黒鉛化されて形成された多層グラファイト構造の層の間が、前記ポリイミド系フィラーの少なくとも一部が黒鉛化されて形成された架橋部で連結された構造を有することができる。架橋部は、2次元の平面形態を有するグラファイト形態またはグラファイト形態に近い炭素同素体であるか、前記2次元の炭素同素体が積層された3次元の炭素同素体であってもよいし、層間の熱伝達経路として作用できる。
【0015】
一実施形態によれば、ポリイミド系フィラーは、グラフェンを含有するポリイミド系フィラーを含むことができる。グラフェン含有ポリイミド系フィラーは、ポリイミド樹脂の内側に1つ以上のグラフェンが分散している第1複合体形態であるか、ポリイミド樹脂の外側表面に1つ以上のグラフェンが付着している第2複合体形態であるか、または前記第1複合体と第2複合体とが複合された第3複合体形態であってもよいが、これに限定されるものではない。
フィラーとしてグラフェンを単独で含む場合、グラフェンがポリアミック酸中に均一に分散しにくく、ポリアミック酸の乾燥過程でグラフェンが脱落する可能性が高く、ポリイミドとグラフェンの熱的、機械的物性の差によってゲルフィルムやポリイミドフィルムを延伸する過程でシワ、うねり、ピンホールまたはクラックなどの欠陥が誘発されるなどの問題がある。しかし、グラフェン含有ポリイミド系フィラーを使用する場合、ポリイミドフィルムと同一または類似の物性のポリイミド樹脂がグラフェンと複合体をなすため、上述した問題を解消することができる。
【0016】
ポリイミド系フィラーとしてグラフェン含有ポリイミド系フィラーを含む場合、炭化および/または黒鉛化時、ポリイミド系フィラーの少なくとも一部が黒鉛化されて形成される架橋部のほかにも、グラフェンに由来する追加の架橋部をさらに含むことができる。この場合、グラファイトシートの厚さ方向の熱伝導度が向上できる。追加の架橋部を形成しない一部のグラフェンは、多層グラファイト構造の層の間で実質的に前記層と平行に介在していてもよい。この場合、グラファイトシートの平面方向の熱伝導度が向上できる。
グラフェンの形状は特に限定されないが、例えば、板状構造でかつ、平均長径が約5~約15μm(例えば、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、約12、約13、約14、または約15μm)であり、垂直方向に対する平均長さが約1~約10nm(例えば、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、または約10nm)であってもよい。
グラフェンの含有量は特に限定されないが、例えば、ポリイミド樹脂製造用ポリアミック酸(以下、「第1ポリアミック酸」とも称される)100重量部対比約1~約5重量部(例えば、約1、約2、約3、約4、または約5重量部)でグラフェンを含有することができる。前記範囲にて、グラファイトシートの平面方向および厚さ方向の熱伝導度がすべて優れることができる。
【0017】
一実施形態によれば、ポリイミド系フィラーは、これに限定されるものではないが、球状でかつ、平均粒径が約1~約10μm(例えば、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、または約10μm)であるポリイミド系フィラーを含むことができる。この場合、ポリイミド系フィラーの分散性に優れ、ポリイミド系フィラーがポリイミドフィルムの表面に目立たないので表面欠陥を低減し、炭化および/または黒鉛化時、ポリイミド系フィラーが炭素原子の再配列を妨げずグラファイトシートを損傷させないので、グラファイトシートの平面方向および厚さ方向の熱伝導度がすべて優れた効果を有することができる。
一実施形態によれば、ポリイミド系フィラーは、ポリアミック酸から製造することができる。前記ポリイミド系フィラー製造用ポリアミック酸(以下、「第1ポリアミック酸」とも称される)は、ポリイミドフィルム製造用ポリアミック酸(以下、「第2ポリアミック酸」とも称される)と同一でも異なっていてもよい。
一実施形態によれば、ポリイミド系フィラーの使用量は、これに限定されるものではないが、ポリイミド系フィラーは、ポリアミック酸100重量部対比約0.1~約5重量部(例えば、約0.1、約0.2、約0.3、約0.4、約0.5、約0.6、約0.7、約0.8、約0.9、約1、約1.1、約1.2、約1.3、約1.4、約1.5、約1.6、約1.7、約1.8、約1.9、約2、約2.1、約2.2、約2.3、約2.4、約2.5、約2.6、約2.7、約2.8、約2.9、約3、約3.1、約3.2、約3.3、約3.4、約3.5、約3.6、約3.7、約3.8、約3.9、約4、約4.1、約4.2、約4.3、約4.4、約4.5、約4.6、約4.7、約4.8、約4.9、または約5重量部)含まれる。この場合、ポリアミック酸中のポリイミド系フィラーの分散性に優れ、ポリイミド系フィラーがポリイミドフィルムの表面に目立たないので表面欠陥を低減し、炭化および/または黒鉛化時、ポリイミド系フィラーが炭素原子の再配列を妨げずグラファイトシートを損傷させないので、グラファイトシートの平面方向および厚さ方向の熱伝導度がすべて優れた効果を有することができる。
【0018】
ポリイミド系フィラーは、多様な方法で製造可能であり、その製造方法が特に限定されない。ポリイミド系フィラーの製造方法は、例えば、溶媒、ジアミン単量体、およびジアンハイドライド単量体を混合し、重合させて、第1ポリアミック酸溶液を製造するステップと、前記第1ポリアミック酸溶液を約60~約100℃の温度で約2~約6時間熟成するステップと、前記熟成させた第1ポリアミック酸溶液を過剰の溶剤に吐出して固形化させながら、前記重合に使用された溶媒を除去するステップと、前記固形化された吐出物を粉砕させて、粉末粒状体であるポリイミド系フィラーを得るステップと、を含むことができる。グラフェン含有ポリイミド系フィラーの製造方法は、例えば、溶媒、ジアミン単量体、およびジアンハイドライド単量体を混合し、重合させて、第1ポリアミック酸溶液を製造するステップと、前記第1ポリアミック酸溶液中にグラフェンを投入し撹拌するステップと、前記グラフェン含有の第1ポリアミック酸溶液を約60~約100℃の温度で約2~約6時間熟成するステップと、前記熟成させた第1ポリアミック酸溶液を過剰の溶剤に吐出して固形化させながら、前記重合に使用された溶媒を除去するステップと、前記固形化された吐出物を粉砕させて、粉末粒状体であるポリイミド系フィラーを得るステップと、を含むことができる。前記グラフェン投入ステップは、例えば、第1ポリアミック酸溶液中にグラフェン全量を投入し撹拌するステップ、または第1ポリアミック酸の粘度調節中にグラフェン全量を投入し撹拌するステップを含むことができる。ここで、第1ポリアミック酸の粘度調節とは、第1ポリアミック酸が所望の粘度に達するまで、ジアミン単量体、およびジアンハイドライド単量体のうち相対的に過小モル量であるいずれか1つの単量体を少量ずつ分割投入しながら粘度を調節する過程を意味することができ、この過程でジアミン単量体とジアンハイドライド単量体が実質的に等モルをなすことができる。ポリイミド系フィラーの製造時に使用可能な溶媒、ジアミン単量体、およびジアンハイドライド単量体の種類は、後述する第2ポリアミック酸の製造時に使用可能な溶媒、ジアミン単量体、およびジアンハイドライド単量体の種類を参照して理解できる。
【0019】
一実施形態によれば、ポリイミドフィルムは、ポリイミド系フィラーのほかに、昇華性を有する無機物系フィラーをさらに含むことができる。無機物系フィラーは、ポリイミドフィルムの炭化および/または黒鉛化時に昇華して所定の発泡現象を誘導することができる。このような発泡現象は、炭化および/または黒鉛化時に発生する昇華ガスの排気を円滑にして良質のグラファイトシートの収得を可能にし、発泡によって形成される所定の空隙は、グラファイトシートの耐屈曲性(柔軟性)を向上させる効果があり得る。ただし、過度な発泡現象とそれによる多数の空隙はグラファイトシートの熱伝導度と機械的物性を大きく悪化させることがあり、表面不良を引き起こすことがあるので商品としての価値を損なうことがあるので、無機物系フィラーの種類、含有量および粒子サイズは愼重に選択されなければならない。
一実施形態によれば、無機物系フィラーは、約1.5~約4.5μm(例えば、約1.5、約2、約2.5、約3、約3.5、約4、または約4.5μm)の平均粒径を有することができる。前記範囲にて、無機物系フィラーの分散性に優れ、無機物系フィラーがポリイミドフィルムの表面に目立たないので表面欠陥を低減し、炭化および/または黒鉛化時に適切な発泡現象を誘導して良質のグラファイトシート(例えば、平面方向および厚さ方向の熱伝導度に優れ、ブライトスポットが約5個以下であるグラファイトシート)を得る効果があり得る。
一実施形態によれば、無機物系フィラーは、ポリアミック酸100重量部対比約0.2~約0.5重量部(例えば、約0.2、約0.3、約0.4、または約0.5重量部)使用できる。前記範囲にて、無機物系フィラーの分散性に優れ、無機物系フィラーがポリイミドフィルムの表面に目立たないので表面欠陥を低減し、炭化および/または黒鉛化時に適切な発泡現象を誘導して良質のグラファイトシート(例えば、平面方向および厚さ方向の熱伝導度に優れ、ブライトスポットが約5個以下であるグラファイトシート)を得る効果があり得る。
一実施形態によれば、無機物系フィラーは、第2リン酸カルシウム、硫酸バリウム、および/または炭酸カルシウムを含むことができるが、これに限定されるものではない。
【0020】
一実施形態によれば、ポリイミドフィルムは、前駆体組成物、例えば、ポリアミック酸溶液、ポリイミド系フィラー、および選択的に無機物系フィラーを含む前駆体組成物から製造される。ポリアミック酸溶液は、例えば、芳香族ジアミン単量体および芳香族ジアンハイドライド単量体を実質的に等モル量となるように溶媒中に溶解させ、重合して製造することができる。
前記重合方法は、例えば、
(1)ジアミン単量体全量を溶媒中に入れて、その後、ジアンハイドライド単量体をジアミン単量体と実質的に等モルとなるように添加して重合する方法;
(2)ジアンハイドライド単量体全量を溶媒中に入れて、その後、ジアミン単量体をジアンハイドライド単量体と実質的に等モルとなるように添加して重合する方法;
(3)ジアミン単量体中の一部の成分を溶媒中に入れた後、反応成分に対してジアンハイドライド単量体中の一部の成分を約95~約105モル%の比率で混合した後、残りのジアミン単量体成分を添加し、これに連続して残りのジアンハイドライド単量体成分を添加して、ジアミン単量体およびジアンハイドライド単量体が実質的に等モルとなるようにして重合する方法;
(4)ジアンハイドライド単量体を溶媒中に入れた後、反応成分に対してジアミン化合物中の一部の成分を約95~約105モル%の比率で混合した後、他のジアンハイドライド単量体成分を添加し、引き続き、残りのジアミン単量体成分を添加して、ジアミン単量体およびジアンハイドライド単量体が実質的に等モルとなるようにして重合する方法;または
(5)溶媒中にて一部のジアミン単量体成分と一部のジアンハイドライド単量体成分をいずれか1つが過剰となるように反応させて、第1組成物を形成し、他の溶媒中にて一部のジアミン単量体成分と一部のジアンハイドライド単量体成分をいずれか1つが過剰となるように反応させて第2組成物を形成した後、第1、第2組成物を混合し、重合を完了する方法であって、この時、第1組成物を形成する時、ジアミン単量体成分が過剰の場合、第2組成物ではジアンハイドライド単量体成分を過剰にし、第1組成物でジアンハイドライド単量体成分が過剰の場合、第2組成物ではジアミン単量体成分を過剰にして、第1、第2組成物を混合してこれらの反応に使用される全体ジアミン単量体成分とジアンハイドライド単量体成分が実質的に等モルとなるようにして重合する方法などが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0021】
ポリアミック酸溶液の製造に利用可能なジアンハイドライド単量体としては、ピロメリティックジアンハイドライド、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボキシリックジアンハイドライド、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボキシリックジアンハイドライド、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライド、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパンジアンハイドライド、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボキシリックジアンハイドライド、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパンジアンハイドライド、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタンジアンハイドライド、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタンジアンハイドライド、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタンジアンハイドライド、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタンジアンハイドライド、オキシジフタリックアンハイドライド、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホンジアンハイドライド、p-フェニレンビス(トリメリティックモノエステルアシッドアンハイドライド)、エチレンビス(トリメリティックモノエステルアシッドアンハイドライド)、およびビスフェノールAビス(トリメリティックモノエステルアシッドアンハイドライド)、およびこれらの類似物を含み、これらを単独でまたは任意の比率で混合した混合物として用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0022】
ポリアミック酸溶液の製造に利用可能なジアミン単量体として、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3’-ジクロロベンジジン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(4,4’-オキシジアニリン)、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル(3,3’-オキシジアニリン)、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル(3,4’-オキシジアニリン)、1,5-ジアミノナフタレン、4,4’-ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’-ジアミノジフェニルシラン、4,4’-ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’-ジアミノジフェニルN-メチルアミン、4,4’-ジアミノジフェニルN-フェニルアミン、1,4-ジアミノベンゼン(p-フェニレンジアミン)、1,3-ジアミノベンゼン、1,2-ジアミノベンゼン、およびこれらの類似物を含み、これらを単独でまたは任意の比率で混合した混合物として用いることができるが、これに限定されるものではない。
ポリアミック酸溶液は、固形分含有量が、例えば、約5~約35重量%(例えば、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、約12、約13、約14、約15、約16、約17、約18、約19、約20、約21、約22、約23、約24、約25、約26、約27、約28、約29、約30、約31、約32、約33、約34、または約35重量%)、他の例として、約10~約30重量%の濃度で得られる。前記範囲にて、ポリアミック酸溶液は、フィルムを形成するのに適当な分子量と溶液粘度を有することができる。
【0023】
溶媒は、ポリアミック酸が溶解可能な溶媒であれば特に限定されず、例えば、非プロトン性極性溶媒(aprotic polar solvent)であってもよい。非プロトン性極性溶媒の非制限的な例として、N,N’-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N’-ジメチルアセトアミド(DMAc)などのアミド系溶媒、p-クロロフェノール、o-クロロフェノールなどのフェノール系溶媒、N-メチル-ピロリドン(NMP)、ガンマブチロラクトン(GBL)、ジグリム(Diglyme)などが挙げられ、これらは、単独でまたは2種以上組み合わされて使用可能である。場合によっては、トルエン、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、水などの補助的溶媒を用いて、ポリアミック酸の溶解度を調節してもよい。一実施形態において、溶媒は、アミド系溶媒であってもよく、例えば、N,N-ジメチルホルムアミドおよびN,N-ジメチルアセトアミドであってもよい。
【0024】
一実施形態によれば、ポリイミドフィルムは、(a)溶媒、ジアミン単量体、およびジアンハイドライド単量体を混合してポリアミック酸溶液を製造するステップと、
(b)前記ポリアミック酸溶液にポリイミド系フィラー、および選択的に無機物系フィラーを混合して前駆体組成物を製造するステップと、
(c)前記前駆体組成物を支持体にキャスティングし、乾燥して、ゲルフィルムを製造するステップと、
(d)前記ゲルフィルムを熱処理してポリイミドフィルムを形成するイミド化ステップと、を含んで製造される。ただし、単量体の種類および所望のポリイミドフィルムの物性によって、前記(a)ステップにおいて、すべての単量体が一度に添加されるか、または各単量体が順次に添加されてもよいし、この場合、単量体間の部分的重合が起こりうる。ポリイミド系フィラーおよび無機物系フィラーの添加方法は特に限定されず、公知のいかなる方法を利用してもよい。
【0025】
一実施形態によれば、前記(b)ステップにおいて、ポリアミック酸溶液に線状構造の第1触媒および環構造の第2触媒を追加的に投入することができる。この時、前記第2触媒の含有量は、前記第1触媒および第2触媒の総量を基準として約10~約30モル%(例えば、約10、約11、約12、約13、約14、約15、約16、約17、約18、約19、約20、約21、約22、約23、約24、約25、約26、約27、約28、約29、または約30モル%)であってもよい。この場合、ポリアミック酸高分子鎖のパッキング性を向上させ、適切なイミド化率を達成することができる。ここで、パッキング性とは、ポリアミック酸高分子鎖が規則的に配列および重畳してポリアミック酸の全体分子構造が規則的であることを意味する特性であり得る。パッキング性が向上したポリアミック酸からポリイミドフィルムを製造する場合、ポリイミドフィルム高分子鎖のパッキング効率が向上でき、これにより、ポリイミドの全体分子構造が規則性を有しながら、結晶性部分を多く含むことができる。したがって、このようなポリイミドフィルムを用いてグラファイトシートを製造する場合、ポリイミドの規則的な分子構造から炭素が規則的に配列されながら、結晶化度に優れたグラファイトシートを製造することができ、優れた結晶化度は、グラファイトシートの熱伝導度、特に平面方向の熱伝導度の向上に寄与することができる。
一実施形態によれば、第1触媒および第2触媒の総投入量は、第2ポリアミック酸中のアミック酸基1モルに対して約1.5~約4.5モル(例えば、約1.5、約2、約2.5、約3、約3.5、約4、または約4.5モル)の範囲内、他の例として、約2.5~約3.5モルの範囲内)であってもよい。前記範囲にて製造されるポリイミドフィルムまたはグラファイトシートの熱的および/または機械的物性に優れることができる。
第1触媒の例としては、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジエチルホルムアミド(DEF)などが挙げられ、これらは、単独でまたは2種以上混合して使用可能であるが、これに限定されるものではない。一実施形態によれば、第1触媒は、ジメチルホルムアミドであってもよいし、この場合、熱伝導度の改善効果があり得る。
第2触媒の例としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N-エチルピロリドン(NEP)、N-ビニルピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンなどが挙げられ、これらは、単独でまたは2種以上混合して使用可能であるが、これに限定されるものではない。一実施形態によれば、第2触媒は、N-メチルピロリドンであってもよい。
【0026】
前記前駆体組成物をイミド化してポリイミドフィルムを製造する方法は、例えば、熱イミド化法、化学イミド化法、または熱イミド化法と化学イミド化法とを併用した複合イミド化法を使用することができる。
熱イミド化法は、脱水閉環剤などを適用せず、加熱だけでイミド化反応を進行させる方法であって、ポリアミック酸を支持体上に製膜した後、約40~約400℃、例えば、約40~約300℃の温度範囲で徐々に昇温させ、約1~約8時間熱処理して、ポリアミック酸がイミド化されたポリイミドフィルムを得る方法である。
化学イミド化法は、ポリアミック酸溶液に脱水剤および/またはイミド化剤を適用してイミド化を促進する方法である。
複合イミド化法は、ポリアミック酸溶液に脱水剤およびイミド化剤を投入して支持体上に製膜した後、約80~約200℃、例えば、約100~約180℃で加熱して脱水剤およびイミド化剤を活性化し、部分的に硬化および乾燥した後に、約200~約400℃で約5~約400秒間加熱することにより、ポリイミドフィルムを得る方法である。
【0027】
一実施形態によれば、本発明のイミド化法は、化学イミド化法または複合イミド化法であってもよい。したがって、例えば、前記(b)ステップにおいて、ポリアミック酸溶液に脱水剤およびイミド化剤を追加的に投入することができる。
脱水剤とは、ポリアミック酸に対する脱水作用により閉環反応を促進するものであり、例えば、脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物、N,N’-ジアルキルカルボジイミド、ハロゲン化低級脂肪族、ハロゲン化低級脂肪酸無水物、アリールホスホン酸ジハロゲン化物、チオニルハロゲン化物などが挙げられ、これらは、単独でまたは2種以上混合して使用可能である。なかでも、入手の容易性、および費用の観点から、酢酸無水物、プロピオン酸無水物、乳酸無水物などの脂肪族酸無水物を単独でまたは2種以上混合して使用することができる。
イミド化剤とは、ポリアミック酸に対する閉環反応を促進する効果を有する成分を意味し、例えば、脂肪族3級アミン、芳香族3級アミン、および複素環式3級アミンなどが用いられる。なかでも、触媒としての反応性の観点から、複素環式3級アミンが使用可能である。その例としては、キノリン、イソキノリン、β-ピコリン、ピリジンなどがあり、これらは、単独でまたは2種以上混合して使用可能である。
脱水剤およびイミド化剤の添加量は特に限定されるものではないが、脱水剤は、第2ポリアミック酸中のアミック酸基1モルに対して約0.5~約5モル、例えば、約0.5、約1、約1.5、約2、約2.5、約3、約3.5、約4、約4.5、または約5モル、他の例として、約1.0~約4モルであってもよく、イミド化剤は、第2ポリアミック酸中のアミック酸基1モルに対して約0.05~約3モル、例えば、約0.05、約0.1、約0.2、約0.3、約0.4、約0.5、約0.6、約0.7、約0.8、約0.9、約1、約1.1、約1.2、約1.3、約1.4、約1.5、約1.6、約1.7、約1.8、約1.9、約2、約2.1、約2.2、約2.3、約2.4、約2.5、約2.6、約2.7、約2.8、約2.9、または約3モル、他の例として、0.2~2モルであってもよいし、前記範囲にてイミド化が十分であり、フィルム状にキャスティングすることが容易であり得る。
【0028】
一実施形態において、ゲルフィルムを形成するための前記(c)ステップでは、支持体(例えば、ガラス板、アルミニウム箔、エンドレス(endless)ステンレスベルト、ステンレスドラムなど)にキャスティングされた前駆体組成物を、約40~約300℃、例えば、約80~約200℃、他の例として、約100~約180℃、さらに他の例として、約100~約130℃の温度範囲で乾燥してゲルフィルムを得ることができる。これにより、脱水剤およびイミド化剤が活性化され、部分的に硬化および/または乾燥が起こることにより、ゲルフィルムが形成される。ゲルフィルムは、ポリアミック酸からポリイミドへの硬化の中間段階にあり、自己支持性を有することができる。
場合によっては、最終的に得られるポリイミドフィルムの厚さおよび大きさを調節し、配向性を向上させるために、ゲルフィルムを延伸させるステップを含むことができ、延伸は、機械搬送方向(MD)および機械搬送方向に対する横方向(TD)の少なくとも1つの方向に行われる。
前記ゲルフィルムの揮発分含有量は、これに限定されるものではないが、約5~約500重量%、例えば、約5~約200重量%、他の例として、約5~約150重量%であってもよいし、前記範囲にて、以後、ポリイミドフィルムを得るために熱処理する過程中、フィルム破断、色シミ、特性変動などの欠点が発生することを回避する効果があり得る。ここで、ゲルフィルムの揮発分含有量は、下記式1を用いて算出することができ、式1中、Aはゲルフィルムの重量、Bはゲルフィルムを450℃で20分間加熱した後の重量を意味する。
<式1>
(A-B)×100/B
【0029】
一実施形態によれば、前記(d)ステップでは、ゲルフィルムを約50~約700℃、例えば、約150~約600℃、他の例として、約200~約600℃の範囲の可変的な温度で熱処理してゲルフィルムに残存する溶媒などを除去し、残っている大部分のアミック酸基をイミド化してポリイミドフィルムを得ることができる。
場合によっては、前記のように得られたポリイミドフィルムを約400~約650℃の温度に約5~約400秒間加熱仕上げして、ポリイミドフィルムをさらに硬化させてもよいし、得られたポリイミドフィルムに残留しうる内部応力を緩和させるために、所定の張力下でこれを行ってもよい。
【0030】
他の側面によれば、上述したグラファイトシートを含む電子装置が提供される。
以下、本発明の好ましい実施例を通じて本発明の構成および作用をさらに詳細に説明する。ただし、これは本発明の好ましい例として提示されたものであり、いかなる意味でもこれによって本発明が制限されると解釈されない。
【実施例
【0031】
製造例1
1Lの容器にN,N’-ジメチルアセトアミド(DMAc)200gを添加して、0℃に温度を下げた後、4,4’-オキシフェニレンジアミン(ODA)17.23g(84.4mmol)を添加して溶解させた。これに1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボキシリックジアンハイドライド(PMDA)18.4g(84.4mmol)を滴加させながら投入した。反応温度が40℃を超えないように調節しながら30分間撹拌させた後、80℃にゆっくり昇温した後、4時間同じ温度で撹拌して熟成させることにより、ポリアミック酸溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液の粘度は75poiseと測定され、固有粘度は1.31dl/gであった。前記得られたポリアミック酸溶液をメタノール800gに浸漬させて糸状に吐出し、10時間放置させた。3時間に1回ずつ糸状のポリアミック酸浸漬物上に浮いているメタノール上清を除去し、600gのメタノールを投入して溶媒を除去させた。10時間経過後、メタノールをすべて注ぎ出し、残りの固体化された物質を粉砕機を用いて粉砕し、水とメタノールで洗浄および濾過をした後、40℃の真空オーブンにて10時間乾燥して、平均粒径3μmの粉末状ポリイミド系フィラーを得た。
製造例2
ポリアミック酸溶液の粘度を30poiseにしたことを除けば、製造例1と同様の方法を用いて、平均粒径1μmのポリイミド系フィラーを得た。
製造例3
ポリアミック酸溶液の粘度を200poiseにしたことを除けば、製造例1と同様の方法を用いて、平均粒径10μmのポリイミド系フィラーを得た。
【0032】
製造例4
1Lの容器にN,N’-ジメチルアセトアミド(DMAc)200gを添加して、0℃に温度を下げた後、4,4’-オキシフェニレンジアミン(ODA)17.23g(84.4mmol)を添加して溶解させた。これに1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボキシリックジアンハイドライド(PMDA)18.4g(84.4mmol)を滴加させながら投入した。反応温度が40℃を超えないように調節しながら30分間撹拌させた後、80℃にゆっくり昇温した後、4時間同じ温度で撹拌して熟成させることにより、ポリアミック酸を得た。
得られたポリアミック酸に、板状構造でかつ、平均長径が10μmであり、垂直方向に対する平均長さが2nmであるグラフェン0.97g(3重量部)を添加して均一に分散させた。
以後、ポリアミック酸をメタノール800gに浸漬させて糸状に吐出し、10時間放置させた。3時間に1回ずつ糸状のポリアミック酸浸漬物上に浮いているメタノール上清を除去し、600gのメタノールを投入して溶媒を除去させた。
10時間経過後にメタノールをすべて注ぎ出し、残りの固体化された物質を粉砕機を用いて粉砕し、水とメタノールで洗浄および濾過をした後、40℃の真空オーブンにて10時間乾燥して、平均粒径3μmのグラフェン含有ポリイミド系フィラーを製造した。
製造例5
ポリアミック酸溶液の粘度を30poiseにしたことを除けば、製造例5と同様の方法を用いて、平均粒径1μmのグラフェン含有ポリイミド系フィラーを製造した。
製造例6
ポリアミック酸溶液の粘度を200poiseにしたことを除けば、製造例5と同様の方法を用いて、平均粒径10μmのグラフェン含有ポリイミド系フィラーを製造した。
【0033】
実施例1
0.5Lの反応器に、窒素雰囲気下、有機溶媒としてジメチルホルムアミド(DMF)404.8gを投入した。温度を25℃に設定した後、ジアミン単量体としてODAを45.59g投入し、30分程度撹拌して単量体が溶解したことを確認した後に、ジアンハイドライド単量体としてPMDAを49.66g投入し、最終的に粘度20万cP~25万cPとなるように最後の投入量を調節してポリアミック酸を重合した。以後、無機物系フィラーとして平均粒径が3μmの第2リン酸カルシウム0.26gおよび製造例1のポリイミド系フィラー0.86gを投入し、温度を維持しながら1時間撹拌して前駆体組成物を得た。比較のための換算時、前駆体組成物においてポリアミック酸固形分100重量部に対する無機物系フィラーの含有量は0.3重量部であり、ポリイミド系フィラーの含有量は1重量部である。
前記前駆体組成物70gに、イミド化剤としてベータピコリン(BP)2.25g、脱水剤として無水酢酸(AA)16.73g、および触媒としてDMF9.5gおよびNMP3.2gを投入した後、均一に混合して、SUS plate(100SA、Sandvik)にドクターブレードを用いて350μmでキャスティングし、100℃~200℃の温度範囲で乾燥させた。その後、フィルムをSUS Plateから剥離してピンフレームに固定させて、高温テンターに搬送した。フィルムを高温テンターで200℃から600℃まで加熱した後、25℃で冷却させた後、ピンフレームから分離して、横×縦20cm×20cm、厚さ50μmのポリイミドフィルムを得た。
ポリイミドフィルムを、炭化可能な高温炉を用いて、窒素気体下、3℃/分の速度で1,200℃まで昇温して約2時間維持させた(炭化)。次いで、超高温炉を用いて、アルゴン気体下、5℃/分の昇温速度で2,800℃まで昇温して1時間維持(黒鉛化)させた後、冷却して、30μmの厚さを有するグラファイトシートを製造した。
実施例2
製造例2のポリイミド系フィラーを用いたことを除けば、実施例1と同様の方法を用いて、グラファイトシートを製造した。
実施例3
製造例3のポリイミド系フィラーを用いたことを除けば、実施例1と同様の方法を用いて、グラファイトシートを製造した。
実施例4
ポリイミド系フィラーの含有量が0.1重量部となるようにポリイミド系フィラーの投入量を変更したことを除けば、実施例1と同様の方法を用いて、グラファイトシートを製造した。
実施例5
ポリイミド系フィラーの含有量が5重量部となるようにポリイミド系フィラーの投入量を変更したことを除けば、実施例1と同様の方法を用いて、グラファイトシートを製造した。
実施例6
無機物系フィラーの含有量が0.5重量部となるように無機物系フィラーの投入量を変更したことを除けば、実施例1と同様の方法を用いて、グラファイトシートを製造した。
実施例7
無機物系フィラーとして第2リン酸カルシウムの代わりに平均粒径3μmの硫酸バリウムを用い、無機物系フィラーの含有量が0.3重量部となるように硫酸バリウムの投入量を変更したことを除けば、実施例1と同様の方法を用いて、グラファイトシートを製造した。
【0034】
実施例8
0.5Lの反応器に、窒素雰囲気下、有機溶媒としてジメチルホルムアミド(DMF)404.8gを投入した。温度を25℃に設定した後、ジアミン単量体としてODAを45.59g投入し、30分程度撹拌して単量体が溶解したことを確認した後に、ジアンハイドライド単量体としてPMDAを49.66g投入し、最終的に粘度10万cP~15万cPとなるように最後の投入量を調節してポリアミック酸を重合した。以後、無機物系フィラーとして平均粒径が3μmの第2リン酸カルシウム0.26gおよび製造例4のポリイミド系フィラー0.56gを投入し、温度を維持しながら1時間撹拌して前駆体組成物を得た。比較のための換算時、前駆体組成物においてポリアミック酸固形分100重量部に対する無機物系フィラーの含有量は0.3重量部であり、ポリイミド系フィラーの含有量は1重量部である。
製造された前駆体組成物70gに、イミド化剤としてベータピコリン(BP)2.25g、脱水剤として無水酢酸(AA)16.73g、および触媒としてDMF9.5gおよびNMP3.2gを投入した後、均一に混合して、SUS plate(100SA、Sandvik)にドクターブレードを用いて350μmでキャスティングし、100℃~200℃の温度範囲で乾燥させた。その後、フィルムをSUS Plateから剥離してピンフレームに固定させて、高温テンターに搬送した。フィルムを高温テンターで200℃から600℃まで加熱した後、25℃で冷却させた後、ピンフレームから分離して、横×縦20cm×20cm、厚さ50μmのポリイミドフィルムを得た。
ポリイミドフィルムを、炭化可能な高温炉を用いて、窒素気体下、3℃/分の速度で1,200℃まで昇温して約2時間維持させた(炭化)。次いで、超高温炉を用いて、アルゴン気体下、5℃/分の昇温速度で2,800℃まで昇温して1時間維持(黒鉛化)させた後、冷却して、30μmの厚さを有するグラファイトシートを製造した。
実施例9
製造例5のポリイミド系フィラーを用いたことを除けば、実施例8と同様の方法を用いて、グラファイトシートを製造した。
実施例10
製造例6のポリイミド系フィラーを用いたことを除けば、実施例8と同様の方法を用いて、グラファイトシートを製造した。
実施例11
ポリイミド系フィラーの含有量が0.1重量部となるようにポリイミド系フィラーの投入量を変更したことを除けば、実施例8と同様の方法を用いて、グラファイトシートを製造した。
実施例12
ポリイミド系フィラーの含有量が5重量部となるようにポリイミド系フィラーの投入量を変更したことを除けば、実施例8と同様の方法を用いて、グラファイトシートを製造した。
実施例13
無機物系フィラーの含有量が0.5重量部となるように無機物系フィラーの投入量を変更したことを除けば、実施例8と同様の方法を用いて、グラファイトシートを製造した。
実施例14
無機物系フィラーとして第2リン酸カルシウムの代わりに平均粒径3μmの硫酸バリウムを用い、無機物系フィラーの含有量が0.3重量部となるように硫酸バリウムの投入量を変更したことを除けば、実施例8と同様の方法を用いて、グラファイトシートを製造した。
【0035】
比較例1
ポリイミド系フィラーを投入しないことを除けば、実施例1と同様の方法を用いて、グラファイトシートを製造した。
比較例2
ポリイミド系フィラーを投入しないことを除けば、実施例8と同様の方法を用いて、グラファイトシートを製造した。
【0036】
評価例1
実施例および比較例で製造したポリイミドフィルムの単位面積(10mm×10mm)あたりの表面欠陥の個数を肉眼で測定し、その結果を表1に示した。
評価例2
拡散率測定装置(モデル:LFA467、Netsch社)を用いて、laser flash法で実施例および比較例で製造したグラファイトシートの厚さ方向および平面方向に対する熱拡散率を測定し、前記熱拡散率測定値に密度(重量/体積)および比熱(DSCを用いた比熱測定値)を乗じて熱伝導度を算出した。
評価例3
実施例および比較例で製造したグラファイトシートの単位面積(50mm×50mm)あたり0.05mm以上の大きさを有する突起の発生個数を肉眼で測定し、それをブライトスポットの個数として表1に示した。
【0037】
【表1】
【0038】
前記表1から確認できるように、本発明の実施例1~14のグラファイトシートは、平面方向および厚さ方向に対する熱伝導度がすべて優れているのに対し、比較例1、2のグラファイトシートは、厚さ方向の熱伝導度が非常に低いことが分かる。
本発明の単純な変形乃至変更はこの分野における通常の知識を有する者によって容易に実施可能であり、このような変形や変更はすべて本発明の領域に含まれると見なされる。
【国際調査報告】