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特表2022-544053非枯渇性B細胞阻害剤によって免疫原性を低下させるための方法および組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-17
(54)【発明の名称】非枯渇性B細胞阻害剤によって免疫原性を低下させるための方法および組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20221007BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20221007BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20221007BHJP
   A61K 31/436 20060101ALI20221007BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20221007BHJP
   A61K 38/48 20060101ALI20221007BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20221007BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20221007BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20221007BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K48/00
A61K39/395 U
A61K31/436
A61K39/395 M
A61P37/04
A61K38/48
C07K16/46 ZNA
C07K16/28
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022505598
(86)(22)【出願日】2020-07-30
(85)【翻訳文提出日】2022-03-28
(86)【国際出願番号】 US2020044312
(87)【国際公開番号】W WO2021022072
(87)【国際公開日】2021-02-04
(31)【優先権主張番号】62/880,240
(32)【優先日】2019-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16/943,849
(32)【優先日】2020-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521155829
【氏名又は名称】プロヴェンション・バイオ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】PROVENTION BIO, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】レオン,フランシスコ
(72)【発明者】
【氏名】ダンフォード,ポール
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084AA17
4C084AA19
4C084DA33
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA06
4C084ZB082
4C085AA14
4C085BB11
4C085BB42
4C085CC23
4C085DD62
4C085EE01
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB22
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZB07
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
一態様では、生物学的治療剤の投与を受けているまたは受けた患者に、有効量の非枯渇性であるB細胞阻害剤を投与することを含む、免疫原性を低下させる方法が本明細書中に開示されている。関連する組成物も提供される。一部の実施形態では、生物学的治療剤は、遺伝子治療剤、遺伝子編集治療剤、メッセンジャーRNA(mRNA)治療剤、腫瘍退縮ウイルス、酵素補充治療剤、抗体治療剤、タンパク質治療剤、および細胞治療剤のうちの1つまたは複数から選択される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的治療剤の投与を受けているまたは受けた患者に、有効量の非枯渇性であるB細胞阻害剤を投与するステップを含む、免疫原性を低下させる方法。
【請求項2】
前記生物学的治療剤が、遺伝子治療剤、遺伝子編集治療剤、メッセンジャーRNA(mRNA)治療剤、腫瘍退縮ウイルス、酵素補充治療剤、抗体治療剤、タンパク質治療剤、および細胞治療剤のうちの1つまたは複数から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記生物学的治療剤が、遺伝子治療剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記B細胞阻害剤が、CD32BのエピトープおよびCD79Bのエピトープと免疫特異的に結合することができるCD32B×CD79B二重特異性抗体である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記CD32B×CD79B二重特異性抗体が、
(A)配列番号1のアミノ酸配列を含むVLCD32Bドメイン、
(B)配列番号2のアミノ酸配列を含むVHCD32Bドメイン、
(C)配列番号3のアミノ酸配列を含むVLCD79Bドメイン、および
(D)配列番号4のアミノ酸配列を含むVHCD79Bドメイン
を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記CD32B×CD79B二重特異性抗体が、
(A)配列番号5のアミノ酸配列を含む第1のポリペプチド鎖、
(B)配列番号6のアミノ酸配列を含む第2のポリペプチド鎖、および
(C)配列番号7のアミノ酸配列を含む第3のポリペプチド鎖
を含むFcダイアボディである、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記Fcダイアボディを、約5mg/kg~約40mg/kgの用量で、1回の用量/2週間~1回の用量/6週間の投薬レジメンで投与することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記Fcダイアボディを、約10mg/kgの用量で、1回の用量/4週間の投薬レジメンで投与することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
3回用量の前記Fcダイアボディを、約10mg/kgの用量で、2~6週の間隔で投与することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
第1の用量を、前記生物学的治療剤の投与の約2~6週間前に、第2の用量を、前記生物学的治療剤の投与とほぼ同時に、第3の用量を、前記生物学的治療剤の投与の約2~6週間後に投与することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記Fcダイアボディが、投与の際にそれ自身の免疫原性の阻害をもたらし、増加した用量ではより低い有病率および/または抗薬物抗体(ADA)の力価を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項12】
前記ADAが前記Fcダイアボディを中和しない、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記Fcダイアボディが、用量依存的な様式で、投与の際に少なくとも80%のB細胞と結合し、最後の投与から少なくとも4週間、前記B細胞の少なくとも50%と結合したまま保たれる、請求項6に記載の方法。
【請求項14】
前記Fcダイアボディが、循環B細胞を枯渇させずに免疫グロブリン産生の持続的阻害をもたらす、請求項6に記載の方法。
【請求項15】
前記免疫グロブリンが、IgM、IgA、IgG、およびIgEを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
生物学的治療剤に対する特異的抗体の存在を検査することによって前記患者をモニタリングするステップをさらに含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
免疫原性をさらに調節するために、1回または複数回の用量の前記B細胞阻害剤を投与するステップをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
1つまたは複数の免疫調節剤を同時投与するステップをさらに含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記1つまたは複数の免疫調節剤が、シロリムス、ラパマイシン、アバタセプト、テプリズマブ、および化膿性連鎖球菌の免疫グロブリンG分解酵素から選択される、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、その全体で本明細書中に参考として組み込まれている2019年7月30日に出願の米国仮出願第62/880,240号および2020年7月30日に出願の米国実用出願第16/943,849号の優先性および優先権を主張するものである。
【0002】
[配列表]
2020年7月30日にEFS-Webを介して提出された、「010802seq.txt」と題する2020年7月30日に作成した13,267バイトのサイズのASCIIテキストファイルは、その全体が本明細書中に参考として組み込まれている。
【0003】
本開示は、一般に、生物学的治療剤の免疫原性を低下させるための組成物および方法に関し、より詳細には、枯渇性でないB細胞阻害剤によってそれを行うことに関する。
【背景技術】
【0004】
抗体およびポリペプチドなどのバイオ医薬品を治療剤として使用することには、典型的には抗薬物抗体(ADA)応答の発生によって定義される、患者において望ましくない免疫応答を発生させる関連リスクがある。そのような応答は、分子中における「外来」エピトープの存在によって引き起こされる場合があり、とりわけ、患者のゲノムおよび疾患の背景、利用する投薬および投与のレジーム、配合物、ならびに投与経路および不純物などの外因性要因によって悪化する場合がある。これらの免疫応答は、薬理学の変更から薬物クリアランスの増加または治療上の有効性の中和および喪失までの様々な結果を有する場合がある。極端な事例では、タンパク質治療剤は、患者に相当なリスクを与える重篤なアレルギーおよびアナフィラキシー反応の発生を引き起こす場合がある。
【0005】
「外来」剤に対する別の十分に特徴づけられた免疫反応は、内在性の免疫系が外来組織に対して反応してその破壊を引き起こす、いわゆるグラフトまたは移植片拒絶である(宿主対グラフト反応とも呼ばれる)。組織拒絶は液性および細胞性の免疫応答によって媒介されることができる。遺伝子の欠損コピーを取り込ませる目的で(遺伝子治療)、または患者ががん細胞を排除することを助ける(たとえばCAR-T治療)ために作製した遺伝子改変細胞の場合、細胞の遺伝子改変に利用した「機構」の一部が改変した細胞によって「提示」され、宿主によって「外来」剤として認識されるかもしれないリスクが存在する。そのような認識は拒絶反応を始動し、これは、そのような処置を潜在的に無効にさせる、または重篤な事例では自己免疫反応を潜在的に引き起こす場合があるであろう。
【0006】
より最近では、遺伝子治療の出現は、導入遺伝子を投与するために利用するウイルスベクターの免疫原性、およびレシピエントの細胞によって発現された後の導入遺伝子タンパク質自体の免疫原性の相当な障壁を経験している。ベクターおよび導入遺伝子の免疫原性は、1)シピエントによって産生された抗体と結合し排除されるベクターおよび導入遺伝子としての有効性の減弱、2)安全性のリスクおよび費用を増加させる、用量の増加の必要性、3)先の投薬後に対象がベクターまたは導入遺伝子に対する抗体を発生した場合における再投薬の困難または不可能をもたらす。時には、レシピエントは、1回目の投与の前でさえもベクターに対する既存の抗体を有しており、天然に存在するウイルスと交差反応して死亡する。ウイルス(たとえばがんにおける腫瘍退縮ウイルス)に基づく他の治療および遺伝子編集治療(たとえばCRISPR-Cas9に基づく治療)も免疫原性に悩まされる。
【0007】
したがって、それだけには限定されないが、抗体、細胞治療剤、および遺伝子治療剤を含めた様々な生物学的治療剤によって誘導された免疫原性を低下させるための方法および組成物の必要性が存在する。
【発明の概要】
【0008】
一態様では、生物学的治療剤の投与を受けているまたは受けた患者に、有効量の非枯渇性であるB細胞阻害剤を投与することを含む、免疫原性を低下させる方法が本明細書中に開示されている。
【0009】
一部の実施形態では、生物学的治療剤は、遺伝子治療剤、遺伝子編集治療剤、メッセンジャーRNA(mRNA)治療剤、腫瘍退縮ウイルス、酵素補充治療剤、抗体治療剤、タンパク質治療剤および細胞治療剤のうちの1つまたは複数から選択される。一部の実施形態では、生物学的治療剤は、遺伝子治療剤である。
【0010】
一部の実施形態では、B細胞阻害剤は、CD32BのエピトープおよびCD79Bのエピトープと免疫特異的に結合することができるCD32B×CD79B二重特異性抗体である。一部の実施形態では、CD32B×CD79B二重特異性抗体は、
(A)配列番号1のアミノ酸配列を含むVLCD32Bドメイン、
(B)配列番号2のアミノ酸配列を含むVHCD32Bドメイン、
(C)配列番号3のアミノ酸配列を含むVLCD79Bドメイン、および
(D)配列番号4のアミノ酸配列を含むVHCD79Bドメイン
を含む。
【0011】
一部の実施形態では、CD32B×CD79B二重特異性抗体は、
(A)配列番号5のアミノ酸配列を含む第1のポリペプチド鎖、
(B)配列番号6のアミノ酸配列を含む第2のポリペプチド鎖、および
(C)配列番号7のアミノ酸配列を含む第3のポリペプチド鎖
を含むFcダイアボディである。
【0012】
一部の実施形態では、本方法は、Fcダイアボディを、約5mg/kg~約40mg/kgの用量で、1回の用量/2週間~1回の用量/6週間の投薬レジメンで投与することをさらに含むことができる。一部の実施形態では、本方法は、Fcダイアボディを、約10mg/kgの用量で、1回の用量/4週間の投薬レジメンで投与することを含むことができる。一部の実施形態では、本方法は、3回用量のFcダイアボディを、約10mg/kgの用量、2~6週の間隔で投与することを含むことができる。
【0013】
一部の実施形態では、本方法は、第1の用量を、生物学的治療剤の投与の約2~6週間前(たとえば4週間前)、第2の用量を、生物学的治療剤の投与とほぼ同時に、第3の用量を、生物学的治療剤の投与の約2~6週間(たとえば4週間)後に投与することを含むことができる。
【0014】
一部の実施形態では、Fcダイアボディは、投与の際にそれ自身の免疫原性の阻害をもたらし、増加した用量ではより低い有病率および/または抗薬物抗体(ADA)の力価を有する。一部の実施形態では、ADAはFcダイアボディを中和しない。
【0015】
一部の実施形態では、Fcダイアボディは、用量依存的な様式で、投与の際に少なくとも80%のB細胞と結合し、最後の投与から少なくとも4週間、B細胞の少なくとも50%と結合したまま保たれる。
【0016】
一部の実施形態では、Fcダイアボディは、循環B細胞を枯渇させずに免疫グロブリン産生の持続的阻害をもたらす。一部の実施形態では、免疫グロブリンは、IgM、IgA、IgG、およびIgEのうちの1つまたは複数を含む。
【0017】
一部の実施形態では、本方法は、生物学的治療剤に対する特異的抗体の存在を検査することによって患者をモニタリングすることをさらに含むことができる。一部の実施形態では、本方法は、免疫原性をさらに調節するために、1回または複数回の用量のB細胞阻害剤を投与することをさらに含むことができる。
【0018】
一部の実施形態では、本方法は、シロリムス、ラパマイシン、アバタセプト、テプリズマブ、および化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)の免疫グロブリンG分解酵素などの1つまたは複数の免疫調節剤を同時投与することをさらに含むことができる。
【0019】
また、治療上有効な単位用量で提供される(たとえば梱包されている)、本明細書中に開示されている非枯渇性B細胞阻害剤を含む医薬組成物も、本明細書中で提供される。本明細書中に開示されている投薬レジメンの指示も提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本研究の模式図全体像を示す図である。
図2A】日ごとの平均(±SD)PRV-3279血清濃度(ng/mL)対時間を直線スケールで示す図である(薬物動態解析対象集団)(図2A:1日目)。
図2B】日ごとの平均(±SD)PRV-3279血清濃度(ng/mL)対時間を直線スケールで示す図である(薬物動態解析対象集団)(図2B:15日目)。
図2C】日ごとの平均(±SD)PRV-3279血清濃度(ng/mL)対時間を直線スケールで示す図である(薬物動態解析対象集団)(図2C:29日目)。
図3A】日ごとの平均PRV-3279血清濃度(ng/mL)対時間を片対数スケールで示す図である(薬物動態解析対象集団)(図3A:1日目)。
図3B】日ごとの平均PRV-3279血清濃度(ng/mL)対時間を片対数スケールで示す図である(薬物動態解析対象集団)(図3B:15日目)。
図3C】日ごとの平均PRV-3279血清濃度(ng/mL)対時間を片対数スケールで示す図である(薬物動態解析対象集団)(図3C:29日目)。
図4A】ADA結果ごと、用量ごとのPRV-3279血清濃度(ng/mL)の平均(±SD)対時間(日数)を示す図である(薬物動態解析対象集団)(図4A:3mg/kg)。
図4B】ADA結果ごと、用量ごとのPRV-3279血清濃度(ng/mL)の平均(±SD)対時間(日数)を示す図である(薬物動態解析対象集団)(図4B:10mg/kg)。
図5】ADA結果ごと、用量ごとのPRV-3279血清薬物動態学的パラメータの箱ひげ図を示す図である(薬物動態解析対象集団)。
図6】時間および処置ごとの%抗E/K+(CD3-/CD19+)の%最大結合算術平均(±SEM)を示す図である(薬力学解析対象集団)。
図7】B細胞(CD19+)の細胞数-(細胞数/μLに戻す)の算術平均(±SEM)を示す図である(薬力学解析対象集団)。
図8】循環血清IgMレベルの低下の算術平均(±SEM)を示す図である(安全性解析対象集団)。
図9】循環血清IgEレベルの低下の算術平均(±SEM)を示す図である(安全性解析対象集団)。
図10】循環血清IgGレベルの低下の算術平均(±SEM)を示す図である(安全性解析対象集団)。
【発明を実施するための形態】
【0021】
一態様では、生物学的治療剤の投与を受けているまたは受けた患者に、有効量の非枯渇性であるB細胞阻害剤を投与することを含む、免疫原性を低下させる方法が本明細書中に開示されている。一部の実施形態では、B細胞阻害剤は、それぞれその全体が参考として本明細書の一部をなす米国特許出願公開第2016/0194396号、国際公開第2015/021089号、および国際公開第2017/214096号中に開示されているものなどの、CD32B×CD79B二重特異性抗体である。
【0022】
[定義]
便宜のため、明細書、実施例、および添付の特許請求の範囲で用いられる特定の用語をここに集める。別段に定義しない限りは、本明細書中で使用するすべての技術用語および科学用語は、本開示が属する分野の技術者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。
【0023】
単語「a」または「an」の使用は、特許請求の範囲および/または明細書中において用語「含む(comprising)」と併せて使用した場合は、「1つ」を意味し得るが、「1つまたは複数」、「少なくとも1つ」、および「1つ以上」の意味とも一貫している。
【0024】
本出願全体にわたって、用語「約」とは、値が、値を決定するために用いられる方法/装置の誤差の固有のばらつき、または研究対象間に存在するばらつきを含むことを示すために使用する。典型的には、この用語は、状況に応じて、およそ1%もしくはそれ未満、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、または20%のばらつきを包含することを意味する。
【0025】
用語「実質的に」とは、50%より高い、好ましくは80%高い、最も好ましくは90%または95%より高いことを意味する。
【0026】
特許請求の範囲中における用語「または」の使用は、代替物のみを指すまたは代替物が相互排他的であると明確に示されていない限りは、「および/または」を意味するために使用するが、本開示は、代替物のみおよび「および/または」を指す定義を支持する。
【0027】
本明細書および特許請求の範囲で使用する用語「含むこと(comprising)」(ならびに「含む(comprise)」および「含む(comprises)」などのcomprisingのあらゆる形態)、「有すること(having)」(ならびに「有する(have)」および「有する(has)」などのhavingのあらゆる形態)、「含む、挙げられる(including)」(ならびに「含む(includes)」および「含む(include)などのincludingのあらゆる形態」)、または「含有すること(containing)」(ならびに「含む(contains)」および「含む(contain)」などのcontainingのあらゆる形態)は、包括的またはオープンエンドであり、追加の列挙していない要素または方法ステップを排除しない。本明細書中に記述する任意の実施形態を、本発明の任意の方法、システム、宿主細胞、発現ベクター、および/または組成物に関して実行できることが企図される。さらに、本発明の組成物、システム、宿主細胞、および/またはベクターを使用して、本発明の方法およびタンパク質を達成することができる。
【0028】
本明細書中で使用する用語「から本質的になる」とは、所定の実施形態に必要な要素をいう。この用語は、本開示のその実施形態の基本的かつ新規または機能的な特徴に実質的な影響を与えない追加の要素の存在を許容する。
【0029】
用語「からなる」とは、本明細書中に記載の組成物、方法、および対応するその構成要素をいい、実施形態の説明中に列挙されていない、いかなる要素をも排除する。
【0030】
用語「たとえば」およびその対応する略記「e.g.」(斜体であるかどうかにかかわらない)の使用は、列挙した具体的な用語が代表的な例であり、別段に明確に記述した場合以外は、本発明の実施形態は、参照または引用した具体的な例に限定されることを意図しないことを意味する。
【0031】
「核酸」、「核酸分子」、「オリゴヌクレオチド」、または「ポリヌクレオチド」とは、共有結合されたヌクレオチドを含むポリマー化合物を意味する。用語「核酸」としてはポリリボ核酸(RNA)およびポリデオキシリボ核酸(DNA)が挙げられ、これらはどちらも一本鎖または2本鎖であり得る。DNAとしては、それだけには限定されないが、相補的DNA(cDNA)、ゲノムDNA、プラスミドまたはベクターDNA、および合成DNAが挙げられる。一部の実施形態では、本発明は、本明細書中に開示されているポリペプチドのうちの任意の1つをコードしているポリヌクレオチドに向けられている、たとえば、Casタンパク質またはその変異体をコードしているポリヌクレオチドに向けられている。一部の実施形態では、本発明は、Cas3、Cas9、CaslO、またはその変異体をコードしているポリヌクレオチドに向けられている。
【0032】
「遺伝子」とは、ポリペプチドをコードしているヌクレオチドのアセンブリをいい、cDNAおよびゲノムDNA核酸分子が挙げられる。また、「遺伝子」は、コード配列の前(5’非コード配列)および後(3’非コード配列)の調節配列として働くことができる核酸断片もいう。
【0033】
用語「ペプチド」、「ポリペプチド」、および「タンパク質」とは、本明細書中で互換性があるように使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマー形態をいい、コードおよび非コードアミノ酸、化学修飾もしくは生化学修飾したまたは誘導体化したアミノ酸、ならびに修飾したペプチド主鎖を有するポリペプチドを挙げることができる。
【0034】
本明細書中で使用する「抗体」または「抗体分子」とは、少なくとも1つの免疫グロブリン可変ドメイン配列を含むタンパク質、たとえば免疫グロブリン鎖またはその断片をいう。抗体分子には抗体(たとえば完全長抗体)および抗体断片が包含される。一実施形態では、抗体分子は、完全長抗体の抗原結合断片もしくは機能的断片、または完全長免疫グロブリン鎖を含む。たとえば、完全長抗体は、天然に存在する、または正常な免疫グロブリン遺伝子断片組み換えプロセスによって形成された、免疫グロブリン(Ig)分子(たとえばIgG)である。実施形態では、抗体分子とは、免疫学的に活性のある、抗体断片などの免疫グロブリン分子の抗原結合部分をいう。抗体断片、たとえば機能的断片とは、抗体の一部分、たとえば、Fab、Fab’、F(ab’)、F(ab)、可変断片(Fv)、ドメイン抗体(dAb)、または単鎖可変断片(scFv)である。機能的抗体断片は、インタクトな(たとえば完全長の)抗体によって認識されるものと同じ抗原と結合する。また、用語「抗体断片」または「機能的断片」としては、重鎖および軽鎖の可変領域からなる「Fv」断片、または軽鎖および重鎖の可変領域がペプチドリンカーによって接続されている組換え単鎖ポリペプチド分子(「scFv タンパク質」)などの、可変領域からなる単離した断片も挙げられる。一部の実施形態では、抗体断片は、Fc断片または単一アミノ酸残基などの抗原結合活性を有さない抗体の一部分は含まない。例示的な抗体分子としては、完全長抗体および抗体断片、たとえば、dAb(ドメイン抗体)、単鎖、Fab、Fab’、およびF(ab’)断片、および単鎖可変断片(scFvs)が挙げられる。用語「Fab」および「Fab断片」は互換性があるように使用され、抗体のそれぞれの重鎖および軽鎖からの1つの定常ドメインおよび1つの可変ドメイン、すなわち、V、C、V、およびC1を含む領域をいう。
【0035】
本明細書全体にわたって、IgG重鎖の定常領域中の残基の付番は、参照により明確に本明細書の一部をなすKabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, NH1, MD (1991)にあるようなEUインデックスのものである(「Kabat」)。用語「KabatにあるようなEUインデックス」とは、ヒトIgG1 EU抗体の付番をいう。免疫グロブリンの成熟重鎖および軽鎖の可変ドメインからのアミノ酸は、鎖中のアミノ酸の位置によって命名される。Kabatは、抗体の数々のアミノ酸配列を記載し、それぞれの部分群についてアミノ酸コンセンサス配列を同定し、それぞれのアミノ酸に残基番号を割り当てており、CDRは、Kabatによって定義されるように同定される(Chothia, C. & Lesk, A. M. ((1987) “Canonical structures for the hypervariable regions of immunoglobulins,”. J. Mol. Biol. 196:901-917)によって定義されたCDR1は5個前の残基から始まることを理解されたい)。Kabatの付番スキームは、保存的アミノ酸を参照して、当該の抗体をKabat中のコンセンサス配列のうちの1つとアラインメントすることによって、概論に含まれない抗体へと拡張可能である。残基番号を割り当てるこの方法は、当分野において標準的となっており、キメラまたはヒト化変異体を含めた異なる抗体中の相当する位置のアミノ酸を容易に同定する。たとえば、ヒト抗体軽鎖の位置50のアミノ酸は、マウス抗体軽鎖の位置50のアミノ酸に相当する位置を占有する。
【0036】
実施形態では、抗体分子は単一特異性である、たとえば、これは単一のエピトープに対する結合特異性を含む。一部の実施形態では、抗体分子は多特異性である、たとえば、これは複数の免疫グロブリン可変ドメイン配列を含み、第1の免疫グロブリン可変ドメイン配列が第1のエピトープに対する結合特異性を有し、第2の免疫グロブリン可変ドメイン配列が第2のエピトープに対する結合特異性を有する。一部の実施形態では、抗体分子は二重特異性抗体分子である。
【0037】
用語「二重特異性抗体分子」、「ダイアボディ」、および「二重親和性再標的化(DART(登録商標))」抗体とは、本明細書中で互換性があるように使用され、複数(たとえば、2つ、3つ、4つ、またはそれより多く)のエピトープおよび/または抗原に対する特異性を有する抗体分子をいう。一部の実施形態では、抗体は、それぞれその全体が参考として組み込まれている米国特許出願公開第2016/0194396号、国際公開第2015/021089号、および国際公開第2017/214096号中に開示されているものなどの、抗原結合が可能なダイアボディまたは足場であることができる。一部の実施形態では、抗体は、CD32B×CD79B二重特異性ダイアボディ(すなわち「CD32B×CD79Bダイアボディ」、およびFcドメインをさらに含むそのようなダイアボディ(すなわち「CD32B×CD79B Fcダイアボディ」)であることができる。一実施形態では、抗体は、チャイニーズハムスター卵巣細胞中で産生させた分子量111.5kDaのヒト化CD32B×CD79B DART(登録商標)抗体であることができる。
【0038】
本明細書中で使用する「抗原」(Ag)とは、すべてのタンパク質またはペプチドを含む高分子をいう。一部の実施形態では、抗原は、たとえば特定の免疫細胞の活性化および/または抗体の産生に関与する、免疫応答を誘発することができる分子である。抗原は抗体の産生に関与しているだけではない。T細胞受容体も抗原を認識した(ただし、そのペプチドまたはペプチド断片がMHC分子と複合体を形成している抗原)。ほぼすべてのタンパク質またはペプチドを含む任意の高分子が抗原となることができる。抗原はまた、ゲノム組換えまたはDNAに由来することもできる。たとえば、免疫応答を誘発することができるタンパク質をコードしているヌクレオチド配列または部分ヌクレオチド配列を含む任意のDNAは、「抗原」をコードしている。実施形態では、抗原は、遺伝子の完全長ヌクレオチド配列のみによってコードされている必要はなく、また、抗原は遺伝子によってコードされている必要もまったくない。実施形態では、抗原は合成であることができる、または、生体試料、たとえば、組織試料、腫瘍試料、細胞、もしくは他の生物学的構成要素の流体に由来することができる。本明細書中で使用する「腫瘍抗原」、または互換性がある「がん抗原」としては、がん、たとえば、免疫応答を誘発することができるがん細胞または腫瘍微小環境上に存在するまたはそれに関連する任意の分子が挙げられる。本明細書中で使用する「免疫細胞抗原」としては、免疫応答を誘発することができる免疫細胞上に存在するまたはそれに関連する任意の分子が挙げられる。
【0039】
抗体分子の「抗原結合部位」または「抗原結合断片」または「抗原結合部分」(本明細書中で互換性があるように使用される)とは、抗原結合に参加する、抗体分子、たとえばIgGなどの免疫グロブリン(Ig)分子の一部をいう。一部の実施形態では、抗原結合部位は重(H)および軽(L)鎖の可変(V)領域のアミノ酸残基によって形成される。重鎖および軽鎖の可変領域内の3つの高度に相違するストレッチは超可変領域と呼ばれ、「フレームワーク領域」(FR)と呼ばれる、より保存的な隣接するストレッチの間に配置されている。FRとは、自然において免疫グロブリン中で超可変領域の間かつそれに隣接して見つかるアミノ酸配列である。実施形態では、抗体分子中において、軽鎖の3つの超可変領域および重鎖の3つの超可変領域は、三次元空間中において互いに対して配置されて抗原結合表面を形成し、これは結合した抗原の三次元表面に相補的である。重鎖および軽鎖のそれぞれの3つの超可変領域は「相補性決定領域」または「CDR」と呼ばれる。フレームワーク領域およびCDRは、たとえば、Kabat, E.A., et al. (1991) Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, U.S. Department of Health and Human Services, NIH Publication No. 91-3242およびChothia, C. et al. (1987) J. Mol. Biol. 196:901-917中に定義および記載されている。それぞれの可変鎖(たとえば可変重鎖および可変軽鎖)は、典型的には3つのCDRおよび4つのFRから構成されており、アミノ末端からカルボキシ末端へとFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、およびFR4のアミノ酸順序で配置されている。可変軽鎖(VL)CDRは、一般に、位置27~32(CDR1)、50~56(CDR2)、および91~97(CDR3)の残基を含むと定義されている。可変重鎖(VH)CDRは、一般に、位置27~33(CDR1)、52~56(CDR2)、および95~102(CDR3)の残基を含むと定義されている。当業者は、ループは抗体間で様々な長さであることができ、フレームワークが抗体間で一貫した付番を有するようにKabatまたはChotiaなどの付番システムが支配することを理解されよう。
【0040】
一部の実施形態では、抗体の抗原結合断片(たとえば融合分子の一部として含まれる場合)は、完全Fcドメインを欠くまたは有さないことができる。ある特定の実施形態では、抗体結合断片は完全IgGまたは完全Fcを含まないが、軽鎖および/または重鎖からの1つまたは複数の定常領域(またはその断片)を含み得る。一部の実施形態では、抗原結合断片は、いかなるFcドメインをも完全に含まないことができる。一部の実施形態では、抗原結合断片は、完全Fcドメインを実質的に含まないことができる。一部の実施形態では、抗原結合断片は、完全Fcドメインの一部分(たとえば、CH2もしくはCH3ドメインまたはその一部分)を含むことができる。一部の実施形態では、抗原結合断片は完全Fcドメインを含むことができる。一部の実施形態では、Fcドメインは、IgGドメイン、たとえば、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4 Fcドメインである。一部の実施形態では、FcドメインはCH2ドメインおよびCH3ドメインを含む。
【0041】
本明細書中で使用する「投与すること」および同様の用語は、組成物を、処置する個体に送達することを意味する。好ましくは、本開示の組成物は、たとえば、皮下、筋肉内、または好ましくは静脈内経路を含む非経口によって投与する。
【0042】
本明細書中で使用する「有効量」とは、任意の医療または診断試験に伴うであろう合理的なリスク/便益比で所望の局所または全身作用を提供するために十分である、生物活性剤または診断用薬剤の量を意味する。これは、患者、疾患、行われている処置、および薬剤の性質に応じて変動する。治療上有効な量は、処置する患者および病状、患者の体重および年齢、病状の重篤度、投与の様式などに応じて変動し、これは当業者によって容易に決定することができる。投与の用量は、たとえば、約1ng~約10,000mg、約5ng~約9,500mg、約10ng~約9,000mg、約20ng~約8,500mg、約30ng~約7,500mg、約40ng~約7,000mg、約50ng~約6,500mg、約100ng~約6,000mg、約200ng~約5,500mg、約300ng~約5,000mg、約400ng~約4,500mg、約500ng~約4,000mg、約1μg~約3,500mg、約5μg~約3,000mg、約10μg~約2,600mg、約20μg~約2,575mg、約30μg~約2,550mg、約40μg~約2,500mg、約50μg~約2,475mg、約100μg~約2,450mg、約200μg~約2,425mg、約300μg~約2,000、約400μg~約1,175mg、約500μg~約1,150mg、約0.5mg~約1,125mg、約1mg~約1,100mg、約1.25mg~約1,075mg、約1.5mg~約1,050mg、約2.0mg~約1,025mg、約2.5mg~約1,000mg、約3.0mg~約975mg、約3.5mg~約950mg、約4.0mg~約925mg、約4.5mg~約900mg、約5mg~約875mg、約10mg~約850mg、約20mg~約825mg、約30mg~約800mg、約40mg~約775mg、約50mg~約750mg、約100mg~約725mg、約200mg~約700mg、約300mg~約675mg、約400mg~約650mg、約500mg、または約525mg~約625mgの範囲の、本明細書中に提供する抗体またはその抗原結合部分であることができる。投薬は、たとえば、1週間毎、2週間毎、3週間毎、4週間毎、5週間毎、または6週間毎であり得る。最適な治療反応を提供するために投薬レジメンを調節し得る。有効量とは、薬剤のいかなる毒性または有害な効果(副作用)もが、最小化されているおよび/または有益な効果に上回られているものである。投与は、静脈内で、正確にまたは約の6mg/kgもしくは12mg/kgを週に1回、または12mg/kgもしくは24mg/kgを隔週であり得る。追加の投薬レジメンは以下に記載されている。
【0043】
本明細書中で使用する「薬学的に許容される」とは、一般に安全であり、無毒性であり、生物学的にも他の様式でも望ましくないものではない医薬組成物の調製において有用であるものをいい、獣医学的使用およびヒト製薬的使用のために許容されるものが挙げられる。「薬学的に許容される液体担体」の例としては、水および有機溶媒が挙げられる。好ましい薬学的に許容される水性の液体としては、PBS、生理食塩水、およびデキストロース溶液などが挙げられる。
【0044】
用語「免疫原性」とは、抗原またはエピトープなどの特定の物質の、液性および/または細胞媒介性であることができる免疫応答を、ヒトおよび他の動物の体内において誘発する能力をいう。一部の実施形態では、本開示の組成物の投与は、治療剤などの生物学的物質の免疫原性を低下させる、および/またはそれに対する免疫寛容を増加させる。本明細書中で使用する「寛容」または「免疫寛容性」とは、それ以外は実質的に正常な免疫系の設定における、特定の抗原(たとえば治療的生物製剤)に対する免疫応答の非存在をいう。
【0045】
本明細書中で使用する「主要組織適合複合体」または「MHC」タンパク質とは、脊椎動物の免疫系において顕著な役割を果たす大きな遺伝子ファミリーによってコードされている細胞表面分子の組をいう。これらのタンパク質の主要な機能は、内在性または外因性(外来)のタンパク質に由来するペプチド断片と結合し、宿主生物の適切なT細胞による認識のためにそれらを細胞表面上に表示することである。MHC遺伝子ファミリーは、クラスI、クラスII、およびクラスIIIの3つの部分群へと分類される。ヒトMHCクラスIおよびクラスII遺伝子は、ヒト白血球抗原(HLA)-それぞれHLAクラスIおよびHLAクラスIIとも呼ばれる。ヒトにおける最も研究されているHLA遺伝子の一部は、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-DPAl、HLA-DPBl、HLA-DQAl、HLA-DQBl、HLA-DRA、HLA-DRBl、およびHLA-DRB345の9個のMHC遺伝子である。
【0046】
本開示の様々な態様は以下にさらに詳述されている。追加の定義は本明細書全体にわたって記載されている。
【0047】
<非枯渇性B細胞阻害剤および医薬組成物>
様々な実施形態では、B細胞阻害剤を、免疫原性を低下させるまたは調節するために使用することができる。一部の実施形態では、そのようなB細胞阻害剤は非枯渇性免疫調節物質である。本明細書中で使用する「非枯渇性(non-depletional)」または「非枯渇性(non-depleting)」とは、阻害剤または免疫調節物質がB細胞活性を完全には枯渇させないことを意味する。他方では、B細胞の「枯渇」とは、B細胞を排除または破壊するように働くことを意味し、抗CD20抗体、たとえばリツキシマブなどである。したがって、一実施形態では、本明細書中に開示されている非枯渇性B細胞阻害剤または免疫調節物質はリツキシマブではない。一部の実施形態では、非枯渇性B細胞阻害剤または免疫調節物質は抗CD20抗体または他のCD20阻害剤ではない。
【0048】
例示的な非枯渇性B細胞阻害剤としては、それだけには限定されないが、CD32B×CD79B二重特異性阻害剤、CD32Bモジュレーター、B細胞受容体(BCR)遮断剤、たとえば抗CD22分子、B細胞生存および活性化阻害剤、たとえばB細胞活性化因子(BAFF)またはベリムマンブ(belimumanb)などのA増殖誘導リガンド(APRIL)阻害剤、抗CD40および抗CD40L分子、ならびにイブルチニブ(PCI-32765)およびアカラブルチニブなどのブルトン(Bruton)チロシンキナーゼ(BTK)阻害剤が挙げられる。
【0049】
一部の実施形態では、B細胞阻害剤は、すべてその全体が参考として組み込まれている、米国特許出願公開第2016/0194396号、国際公開第2015/021089号、および国際公開第2017/214096号中に開示されているものなどの、CD32B×CD79B二重特異性抗体、またはその抗原結合断片であることができる。
【0050】
例示的なCD32B×CD79B二重特異性ダイアボディは2本以上のポリペプチド鎖を含むことができ、
(1)CD32B(VLCD32B)と結合する抗体のVLドメインであって、
DIQMTQSPSS LSASVGDRVT ITCRASQEIS GYLSWLQQKP GKAPRRLIYA
ASTLDSGVPS RFSGSESGTE FTLTISSLQP EDFATYYCLQ YFSYPLTFGG
GTKVEIK
の配列(配列番号1)を有するVLCD32Bドメイン
(2)CD32B(VHCD32B)と結合する抗体のVHドメインであって、
EVQLVESGGG LVQPGGSLRL SCAASGFTFS DAWMDWVRQA PGKGLEWVAE
IRNKAKNHAT YYAESVIGRF TISRDDAKNS LYLQMNSLRA EDTAVYYCGA
LGLDYWGQGT LVTVSS
の配列(配列番号2)を有するVHCD32Bドメイン
(3)CD79B(VLCD79B)と結合する抗体のVLドメインであって、
DVVMTQSPLS LPVTLGQPAS ISCKSSQSLL DSDGKTYLNW FQQRPGQSPN
RLIYLVSKLD SGVPDRFSGS GSGTDFTLKI SRVEAEDVGV YYCWQGTHFP
LTFGGGTKLE IK
の配列(配列番号3)を有するVLCD79Bドメイン
(4)CD79B(VHCD79B)と結合する抗体のVHドメインであって、
QVQLVQSGAE VKKPGASVKV SCKASGYTFT SYWMNWVRQA PGQGLEWIGM
IDPSDSETHY NQKFKDRVTM TTDTSTSTAY MELRSLRSDD TAVYYCARAM
GYWGQGTTVT VSS
の配列(配列番号4)を有するVHCD79Bドメイン
を含むことができる。
【0051】
一実施形態では、B細胞阻害剤は、PRV-3279、チャイニーズハムスター卵巣細胞中で産生させた分子量111.5kDaのヒト化CD32B×CD79B二重親和性再標的化(DART(登録商標))タンパク質であることができる。DART(登録商標)タンパク質は、2つの明白に異なる抗原と同時に結合することができる、二重特異性の、抗体に基づく分子である。PRV-3279は、Bリンパ球上のCD32B(Fcガンマ受容体IIb)およびCD79B(B細胞受容体(BCR)複合体の免疫グロブリン関連ベータサブユニット)を標的とするように設計されている。Bリンパ球上におけるCD32BおよびCD79Bの優先的なシス結合様式での同時ライゲーションは、CD32Bとカップリングさせた免疫受容体チロシンに基づく阻害性モチーフシグナル伝達を始動させ、これが、広範な枯渇なしに、抗原媒介性のナイーブおよび記憶B細胞の活性化を減少させる。インビボ半減期を延長させるために、PRV-3279は、FcγRおよび補体との望ましくない結合を大きく低下させるか排除するが、新生児FcR結合に対する親和性を保持してこの受容体によって媒介されたIgGサルベージ経路を利用するように突然変異させた、ヒト免疫グロブリンG(IgG)1 Fc領域も含有する。
【0052】
CD32B分子は、B細胞ならびにマクロファージ、好中球、および肥満細胞などの他の免疫エフェクター細胞上で広く発現される膜貫通の阻害性受容体である。PRV-3279の抗CD32B構成要素は、MacroGenics社専売のマウスモノクローナル抗体(mAb)8B5のヒト化バージョンに基づいている。CD79Bは、B細胞上で排他的に発現される、BCRの必須のシグナル伝達構成要素である。PRV-3279の抗CD79B構成要素はマウスmAb CB3のヒト化バージョンに基づいている。
【0053】
一実施形態では、PRV-3279は、以下の配列を含む(CDRには下線を引き、コイルドメインを太字で示す)。
【化1】
【化2】
【化3】
【0054】
別の態様では、本明細書中に開示されている方法において使用することができる医薬組成物、すなわち、それを必要としている対象において、たとえば顕著な免疫原性を引きおこす生物製剤の投与を受けている間もしくはその後に、免疫原性を低下させるもしくは抑制するための医薬組成物、または対象が生物療法剤に対して既存の免疫原性を有していたため(たとえば、以前の野生型アデノウイルス感染症が原因もしくはrAAV治療への以前の曝露が原因の、既存の抗AAV抗体の場合)に使用することができる医薬組成物を提供する。一部の実施形態では、本明細書中に開示されている組成物は、免疫原性を防止するおよび/または既存の抗体を低下させるために、抗体または遺伝子治療剤などの生物製剤の投与を受ける前に患者に投与することができる。
【0055】
一部の実施形態では、医薬組成物は、本明細書中に開示されているB細胞阻害剤および薬学的に許容される担体を含む。B細胞阻害剤は、薬学的に許容される担体を用いて医薬組成物内に配合することができる。さらに、医薬組成物は、たとえばそれを必要としている対象において、たとえば顕著な免疫原性を引きおこす生物製剤の投与を受けている間またはその後に免疫原性を低下させるまたは抑制するために患者を処置するための組成物の、使用説明書を含むことができる。
【0056】
本明細書中で使用する「薬学的に許容される担体」としては、任意かつすべての溶媒、分散媒、コーティング剤、抗細菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤、緩衝剤、ならびに生理的に適合性のある他の賦形剤が挙げられる。好ましくは、担体は非経口、経口、または外用の投与に適切である。投与経路に応じて、活性化合物、たとえば小分子または生物製剤は、酸の作用および化合物を失活させ得る他の天然条件から化合物を保護する材料でコーティングし得る。
【0057】
薬学的に許容される担体としては、無菌的な水溶液または分散体および無菌的な注射用溶液または分散体を即時調製するための無菌的な粉末、ならびに錠剤、丸薬、カプセルなどを調製するための慣用の賦形剤が挙げられる。製薬的に活性のある物質を配合するためのそのような媒体および薬剤の使用は当分野で知られている。いかなる慣用の媒体または薬剤も、活性化合物と不適合である場合以外は、本明細書中に提供する医薬組成物におけるその使用が企図される。補助的な活性化合物も組成物内に取り込ませることができる。
【0058】
薬学的に許容される担体としては、薬学的に許容される抗酸化剤を挙げることができる。製薬的に許容される抗酸化剤の例としては、(1)アスコルビン酸、塩酸システイン、硫酸水素ナトリウム、メタ亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウムなどの水溶性抗酸化剤、(2)パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、アルファ-トコフェロールなどの油可溶性抗酸化剤、および(3)クエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸などの金属キレート化剤が挙げられる。
【0059】
本明細書中に提供する医薬組成物において用い得る適切な水性および非水性の担体の例としては、水、エタノール、ポリオール(グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、およびその適切な混合物、ならびにオレイン酸エチルなどの注射用有機エステルが挙げられる。必要な場合は、適切な流動性を、たとえば、レシチンなどのコーティング材料の使用によって、分散体の場合は所要の粒径の維持によって、および界面活性剤の使用によって維持することができる。多くの場合、等張化剤、たとえば、糖、マンニトール、ソルビトールなどのポリアルコール、または塩化ナトリウムを組成物中に含めることが有用であり得る。注射用組成物の持続的吸収は、組成物中に吸収を遅延させる薬剤、たとえばモノステアリン酸塩およびゼラチンを含めることによってもたらすことができる。
【0060】
これらの組成物は、保存料、湿潤剤、乳化剤、および分散剤などの機能的賦形剤も含有し得る。
【0061】
治療的組成物は、典型的には、無菌的、非系統学的(non-phylogenic)、かつ製造および貯蔵の条件下で安定でなければならない。組成物は、溶液、マイクロエマルジョン、リポソーム、または高い薬物濃度に適した他の秩序構造として配合することができる。
【0062】
無菌的注射用溶液は、活性化合物を、所要量で、適切な溶媒中に、必要に応じて上に列挙した構成成分のうちの1つまたは組合せと共に取り込ませ、続いて、たとえば微量濾過によって滅菌することによって、調製することができる。一般に、分散体は、活性化合物を、基本分散媒および上に列挙したものからの所要の他の構成成分を含有する無菌的ビヒクル内に取り込ませることによって調製する。無菌的注射用溶液を調製するための無菌的粉末の場合、調製方法としては、活性成分および事前に無菌濾過したその溶液からの任意の追加の所望の構成成分の粉末を与える、真空乾燥および凍結乾燥が挙げられる。活性薬剤(複数でもよい)を、追加の薬学的に許容される担体(複数でもよい)および必要であり得る任意の保存料、緩衝剤、または噴霧剤と共に、無菌的条件下で混合し得る。
【0063】
微生物の存在の防止は、上記の滅菌手順、ならびに様々な抗細菌剤および抗真菌剤、たとえば、パラベン、クロロブタノール、フェノールソルビン酸などの包含の両方によって確実にし得る。糖、塩化ナトリウムなどの等張化剤を組成物内に含めることも望ましい場合がある。さらに、注射用製薬形態の持続的吸収は、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどの吸収を遅延させる薬剤の包含によってもたらし得る。
【0064】
最適な所望の応答(たとえば治療反応)を提供するために投薬レジメンを調節する。たとえば、単一ボーラスを投与し得る、いくつかの分割用量を経時的に投与し得る、または、治療状況の緊急性によって示されるように用量を比例的に低下または増加させ得る。
【0065】
抗体を投与するための例示的な投薬範囲としては、10~1000mg(抗体)/kg(患者の体重)、10~800mg/kg、10~600mg/kg、10~400mg/kg、10~200mg/kg、30~1000mg/kg、30~800mg/kg、30~600mg/kg、30~400mg/kg、30~200mg/kg、50~1000mg/kg、50~800mg/kg、50~600mg/kg、50~400mg/kg、50~200mg/kg、100~1000mg/kg、100~900mg/kg、100~800mg/kg、100~700mg/kg、100~600mg/kg、100~500mg/kg、100~400mg/kg、100~300mg/kg、および100~200mg/kgが挙げられる。例示的な投薬スケジュールとしては、3日毎に1回、5日毎に1回、7日毎に1回(すなわち1週間に1回)、10日毎に1回、14日毎に1回(すなわち2週間毎に1回)、21日毎に1回(すなわち3週間毎に1回)、28日毎に1回(すなわち4週間毎に1回)、1カ月に1回、5週間毎に1回、および6週間毎に1回が挙げられる。
【0066】
一部の実施形態では、約5~40mg/kg、約5~20mg/kg、または約10mg/kg/PRV-3279の用量を、2週間毎に1回、3週間毎に1回、4週間毎に1回、5週間5毎に1回、または6週間毎に1回、投与することができる。1回用量、2回用量、または3回用量などの、1回または複数回の用量を投与することができる。投与は、IV輸液を介するものであることができる。前述のものの任意の組合せ(たとえば、3回用量の10mb/kg/用量、4週間毎に1回)を、遺伝子治療製品を含めた生物療法剤の免疫原性を低下させるために使用することができる。一部の実施形態では、第1の用量を、遺伝子治療の2~6週間(たとえば4週間)前に、第2の用量を、遺伝子治療とほぼ同時に、第3の用量を、遺伝子治療の2~6週間(たとえば4週間)後に与えることができる。それ以降、遺伝子治療ベクター(たとえばrAAV)および/または導入遺伝子に対する特異的抗体の量を検査することによって、患者をモニタリングすることができる。抗体が検出されないまたはわずかしか検出されない場合は、追加のPRV-3279の必要はない。有意な量の抗体が存在する場合は、免疫原性をさらに調節するため1回または複数回の用量のPRV-3279を投与することができる。
【0067】
投与の容易性および投薬の均一性のために、非経口組成物を単位剤形で配合することが有利であり得る。本明細書中で使用する単位剤形とは、処置する患者の単位投薬に適した物理的に別個の単位をいう。それぞれの単位は、任意の所要の製薬的担体と関連して所望の治療効果を生じるように計算された、事前に決定された量の活性薬剤を含有する。単位剤形の仕様は、(a)活性化合物のユニークな特徴および達成する特定の、ならびに(b)個体において感度を処置するための、そのような活性化合物を配合する分野に固有の制限によって指示され、それに直接依存する。
【0068】
本明細書中に開示されている医薬組成物中の活性成分の実際の投薬レベルは、患者に対して毒性とならずに、特定の患者、組成物、および投与様式において所望の治療反応を達成するために有効である、活性成分の量を得るために、変動させ得る。投与のコンテキストにおいて本明細書中で使用する「非経口」とは、経腸および外用投与以外の、通常は注射による投与様式を意味し、それだけには限定されないが、静脈内、筋肉内、動脈内、くも膜下腔内、関節内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内、硬膜外、および胸骨内の注射、ならびに輸液が挙げられる。
【0069】
本明細書中で使用する語句「非経口投与」および「非経口投与した」とは、経腸(すなわち消化管を介する)および外用投与以外の、通常は注射または輸液による投与様式をいい、それだけには限定されないが、静脈内、筋肉内、動脈内、くも膜下腔内、関節内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内、硬膜外、および胸骨内の注射、ならびに輸液が挙げられる。静脈内注射および輸液が抗体投与にしばしば(であるが排他的ではなく)使用される。
【0070】
本明細書中に提供する薬剤を製薬としてヒトまたは動物に投与する場合、これらは、単独で、または、たとえば0.001~90%(たとえば0.005~70%、たとえば0.01~30%)の活性成分を薬学的に許容される担体と組み合わせて含有する医薬組成物として与えることができる。
【0071】
<治療的使用および方法>
本明細書中に開示されている組成物を使用して、コード化導入遺伝子タンパク質、遺伝子編集治療(たとえばCRISPR/Cas9)、メッセンジャーRNA(mRNA)治療(たとえばmRNAワクチン)、腫瘍退縮ウイルス(たとえば、VSV、HSV-1)、酵素補充治療(たとえば第VIII/IX因子交換)、抗体および融合タンパク質に基づく治療剤(たとえば抗TNF生物製剤)、細胞治療(たとえばCAR-T治療)を含む、様々な手段(たとえば、AAVならびに他の野生型および組換えベクター、レンチウイルス改変ヒト幹細胞)によって送達する遺伝子治療剤などの様々な生物製剤製品によって引き起こされた免疫原性を低下させるまたは抑制することができる。
【0072】
一部の実施形態では、本明細書中に開示されているB細胞免疫調節物質を使用して、
1.以下を含む、rAAV(組換えアデノ関連ウイルス)ベクターに基づく治療:
・導入遺伝子の「従来の」ウイルス送達、たとえば遺伝性酵素欠損症のためのrAAV
・遺伝子編集技術(たとえば、クラスター化された規則的な間隔の短い回文構造リピート(CRISPR)関連ヌクレアーゼCas9(「CRISPR/Cas9」)のインビボ送達のためのrAAV
・ワクチン抗体(たとえばインフルエンザ)の送達のためのrAAV
2.レンチウイルス改変HSCを用いたヒト幹細胞(HSC)治療、
3.Cas9タンパク質送達(Cas9は細菌由来および免疫原性である)、ならびに
4.水疱性口内炎ウイルス(VSV)および単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)などの腫瘍退縮ウイルス
などの遺伝子および細胞に基づく治療の複数の既存または新興プラットフォームを改善させることができる。
【0073】
一部の実施形態では、本明細書中に開示されているB細胞免疫調節物質を使用して、全身性、筋肉内、眼球(高い局所用量を必要とし、局所免疫応答をもたらす)、および中枢神経系(CNS)(CNSからのウイルスカプシドの漏出が、CNS中におけるAAVの取り込みを減弱させる全身性応答を誘導する)などの複数の送達経路(認知されている免疫特権部位でえさも)によって誘発される制限免疫応答を調節することができる。
【0074】
一部の実施形態では、本明細書中に開示されているB細胞免疫調節物質を使用して、
・中和抗体(nAb)の開発
・抗体依存性細胞介在性細胞毒性
・抗体依存性補体媒介性細胞毒性
・自律的B細胞活性化、たとえばトール様受容体(TLR)を介したもの
を含むB細胞依存性である複数の制限免疫経路を調節することができる。
【0075】
一部の実施形態では、本明細書中に開示されているB細胞免疫調節物質を使用して、繰り返し投薬および/またはAAV用量の増加などのB細胞調節を通じて複数のAAVの臨床応用を改善させることができる。
【0076】
一部の実施形態では、PRV-3279の投与後、ピーク血漿濃度は二重特異性分子の輸液の終わりに起こり、複数の投薬の際に蓄積は最小限であった。これは、PRV-3279が良好な薬物動態学的特性を有することを示す。
【0077】
一部の実施形態では、PRV-3279二重特異性剤の投与は、それ自身の免疫原性の阻害、すなわち、薬物の用量の増加に伴ってより低い有病率および/または抗薬物抗体(ADA)の力価をもたらすことができる。このことは、他の免疫調節剤とは対照的である。さらに、これは、20mg/kg、30mg/kg、または40mg/kgなどの増加したPRV-3279の用量が、追加の免疫原性なしで十分に許容されうることを示唆している。
【0078】
一部の実施形態では、PRV-3279 ADAが薬物動態学(PK)、薬力学(PD)、安全性、または有効性に影響を与えないことが観察されている。ADAは通常は少なくともPKおよびPDに影響を与えるため、このことは驚くべきである。理論に束縛されないが、ADAはPRV-3279を中和しないことが仮定されている。
【0079】
一部の実施形態では、PRV-3279二重特異性剤は、用量依存的な様式で、投与の際、ネイティブおよび記憶表現型の両方を含むB細胞のほとんど(たとえば>80~90%)と結合し、薬物の特定のより高用量での最後の投与から少なくとも4週間にわたって、B細胞の少なくとも50%と結合したまま保たれる。これは、PRV-3279のPD効果の持続的耐久性を示しており、1カ月(またはより長い期間)に1回の投与を支持する。
【0080】
一部の実施形態では、用量依存性およびPRV-3279二重特異性薬物による持続的B細胞結合は、B細胞を含むいかなる循環細胞サブセットも枯渇していない場合に、免疫グロブリン産生の耐久性のある阻害をもたらす。末梢血中で低下している免疫グロブリンとしては、IgM、IgA、IgG、およびIgEが挙げられる。阻害は、抗原刺激の非存在または存在(たとえばワクチン接種)において観察することができる。これは、患者が、B細胞などの循環細胞を免疫系の一部として機能するように保持することができるための、PRV-3279の非枯渇剤としての有利な安全機能である。対照的に、枯渇剤(たとえば、リツキシマブ、オクレリズマブ、イネビリズマブ)を受けている患者は回復に時間がかかる(たとえば1年)。
【実施例
【0081】
実施した実験および達成された結果を含む以下の実施例は、例示目的のみで提供し、本開示を限定するものと解釈されるべきでない。
【0082】
[実施例1]
<組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)に対する免疫原性の低下>
特定の実験では、薬理学的カバレッジを維持するために、CD32B×CD79B二重特異性抗体を、単独療法として、または、たとえば、シロリムス、ラパマイシン、アバタセプト、テプリズマブ、および化膿性連鎖球菌の免疫グロブリンG分解酵素などの他の免疫調節剤と組み合わせて、マウスに、潜在的に治療的である導入遺伝子をコードしているrAAVベクターを投与する前に、およびそれ以降の続く時点に投与することができる。特定の時点(たとえば15~45日)で、マウスを安楽死させることができ、免疫学的評価およびアデノ随伴ウイルス遺伝子移入効率の評価をすることができる。免疫学的エンドポイントとしては、それぞれrAAVベクターおよび導入遺伝子に対する全抗体(IgM、IgG)、補体の活性化、ベクターおよび導入遺伝子に対するB細胞およびT細胞の機能アッセイ、ならびに表現型の特徴づけが挙げられる。アデノ随伴ウイルス遺伝子移入の効率の測度としては、PCRによる血中ベクターゲノムコピー数、ならびに、それだけには限定されないが、心臓、骨格筋、肝臓、および脾臓を含む組織中における導入遺伝子の活性が挙げられる。
【0083】
プラセボ対照と比較して、CD32B×CD79B二重特異性抗体をrAAVレシピエント動物に投与することで達成された結果としては、抗rAAVおよび導入遺伝子特異的抗体の応答の減弱、補体の活性化の減少、ならびに抗rAAV特異的T細胞活性の低下を挙げることができる。ベクターゲノムコピー数および導入遺伝子の活性は、プラセボ動物と比較して、CD32B×CD79B二重特異性抗体の投与で増加させることができ、CD32B×CD79B二重特異性抗体の投与が組換えAAVの免疫原性を低下させるという仮説を支持する。
【0084】
[実施例2]
<組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)の繰り返し投薬に対する免疫原性の低下>
特定の実験では、薬理学的カバレッジを維持するために、CD32B×CD79B二重特異性抗体を、単独療法として、または、他の免疫調節剤、たとえばシロリムスと組み合わせて、マウスに、潜在的に治療的である導入遺伝子をコードしているrAAVベクターを投与する前に、およびそれ以降の続く時点に投与することができる。特定の時点(たとえば、45、90、135日)で、マウスは、同じrAAVベクター/導入遺伝子の追加の投与(複数回でもよい)を受けることができる。マウスは、特定の時点(たとえば、90、135、180日)で安楽死させ、免疫学的エンドポイントおよびアデノ随伴ウイルス遺伝子移入の効率の評価を行う前は、薬理学的に関連性のある用量のCD32B×CD79B二重特異性抗体を受け続けることができる。測定した免疫学的エンドポイントとしては、それぞれrAAVベクターおよび導入遺伝子に対する全抗体、補体の活性化、ベクターおよび導入遺伝子に対するB細胞およびT細胞機能アッセイ、ならびに表現型の特徴づけが挙げられる。アデノ随伴ウイルス遺伝子移入の効率の測度としては、PCRによるベクターゲノムコピー数、ならびに、それだけには限定されないが、心臓、骨格筋、肝臓、および脾臓を含む様々な組織中における導入遺伝子の活性が挙げられる。
【0085】
プラセボ対照と比較して、CD32B×CD79B二重特異性抗体をrAAVレシピエント動物に投与することで達成された結果としては、抗rAAVおよび導入遺伝子特異的抗体の応答の減弱、補体の活性化の減少、ならびに抗rAAV特異的T細胞活性の低下を挙げることができる。ベクターゲノムコピー数および導入遺伝子の活性は、プラセボ動物と比較して、CD32B×CD79B二重特異性抗体の投与で増加させることができる。これらの効果は、rAAVベクターの単回投与後およびrAAVベクターの続く投与後に観察されることができ、CD32B×CD79B二重特異性抗体の投与が免疫原性組換えAAVの繰り返し投薬および有効性の増加を可能にし得るという仮説を支持する。
【0086】
[実施例3]
<組換えアデノ随伴ウイルスを投与する前のAAVまたはrAAVに対する既存の免疫応答の低下>
特定の実験では、野生型AAVまたはrAAVに対する既存の免疫を、潜在的に治療的である導入遺伝子をコードしている、同じAAV血清型のそれぞれのAAVまたはrAAVの投与によって、マウスにおいて発生させることができる。続いて、特定の時点、たとえば、15日目に、薬理学的カバレッジを維持するために、CD32B×CD79B二重特異性抗体を、単独療法として、または、他の免疫調節剤、たとえばシロリムスと組み合わせて、同じマウスに、特定の期間、たとえば、潜在的に治療的である導入遺伝子をコードしている同じrAAVベクターの再投与の14日前、およびそれ以降の続く時点に投与することができる。特定の時点(たとえば、45、90、135日)で、一部のマウスは、同じrAAVベクター/導入遺伝子の追加の投与(複数回でもよい)を受けることができる。これらのマウスは、特定の時点(たとえば、90、135、180日)で安楽死させ、免疫学的エンドポイントおよびアデノ随伴ウイルス遺伝子移入の効率の評価を行う前は、薬理学的に関連性のある用量のCD32B×CD79B二重特異性抗体を受け続けることができる。測定した免疫学的エンドポイントとしては、それぞれ野生型AAVおよび/またはrAAVベクターならびに導入遺伝子に対する全抗体、補体の活性化、AAVおよび/またはベクターならびに導入遺伝子に対するB細胞およびT細胞機能アッセイ、表現型の特徴づけが挙げられる。アデノ随伴ウイルス遺伝子移入の効率の測度としては、PCRによるベクターゲノムコピー数、ならびに、それだけには限定されないが、心臓、骨格筋、肝臓、および脾臓を含む組織中における導入遺伝子の活性が挙げられる。
【0087】
プラセボ対照と比較して、CD32B×CD79B二重特異性抗体をAAVおよび/またはrAAV免疫前動物に投与することで達成された結果としては、既存の抗AAVおよび/またはrAAVならびに導入遺伝子特異的抗体の応答の減弱、補体の活性化の減少、抗rAAV特異的T細胞活性の低下を挙げることができる。rAAVの続く投与後、抗rAAVおよび導入遺伝子特異的抗体の応答の減弱、補体の活性化の減少、ならびに抗rAAV特異的T細胞活性の低下が観察され得る。ベクターゲノムコピー数および導入遺伝子の活性は、プラセボ動物と比較して、CD32B×CD79B二重特異性抗体の投与で増加させることができる。これらの効果は、以前に免疫性の動物へのrAAVベクターの単回投与後、および以前に免疫性の動物へのrAAVベクターの続く投与後に観察されることができ、CD32B×CD79B二重特異性抗体の投与が、AAVまたはrAAVに対する既存の免疫応答が存在する場合での免疫原性組換えAAVの投薬を可能にし得るという仮説を支持する。
【0088】
[実施例4]
<酵素補充治療(ERT)の反復投薬に対する免疫原性の低下>
特定の実験では、薬理学的カバレッジを維持するために、CD32B×CD79B二重特異性抗体を、単独療法として、または、他の免疫調節剤、たとえばシロリムスと組み合わせて、特定の酵素の固有の欠損を有するマウス(本明細書中に参考として組み込まれているFront Immunol. 2019 Mar 13;10:416に開示されているノックアウトマウスなど)に、酵素補充治療を投与する前およびそれ以降の続く時点に投与することができる。特定の時点で(たとえば、7、14、21、28日など)、マウスは、同じERTの追加の投与(複数回でもよい)を受けることができる。マウスは、特定の時点(たとえば、14、21、28、35日など)で安楽死させ、免疫学的エンドポイントおよび酵素補充治療の効率の評価を行う前は、薬理学的に関連性のある用量のCD32B×CD79B二重特異性抗体を受け続けることができる。免疫学的エンドポイントとしては、1)酵素に対する全抗体(IgM、IgG)、B細胞機能アッセイ、および表現型の特徴づけ、2)酵素欠損の生理的結果の逆転ならびに実験全体にわたる酵素および基質の活性の生化学分析を含む、酵素導入の効率の測度が挙げられる。
【0089】
プラセボ対照と比較して、CD32B×CD79B二重特異性抗体を酵素補充レシピエント動物に投与することで達成された結果としては、プラセボ動物と比較して、抗酵素特異的抗体の応答の減弱、酵素依存性の生理的結果の改善、酵素活性の持続期間の増加、およびCD32B×CD79B二重特異性抗体の投与で観察された基質の蓄積の低下を挙げることができ、CD32B×CD79B二重特異性抗体の投与が、酵素補充治療に対する免疫原性を減少させ、酵素補充治療の繰り返し投薬および有効性の増加を可能にし得るという仮説を支持する。
【0090】
[実施例5]
<抗体および融合タンパク質に基づく治療剤の繰り返し投薬に対する免疫原性の低下>
特定の実験では、薬理学的カバレッジを維持するために、CD32B×CD79B二重特異性抗体を、単独療法として、または、他の免疫調節剤、たとえばシロリムスと組み合わせて、マウスに、ヒト抗体および融合タンパク質に基づく治療と同様に抗体または融合タンパク質を投与する前に、およびそれ以降の続く時点に投与することができる。特定の時点(たとえば、7、14、21、28日など)で、マウスは、同じ抗体または融合タンパク質の追加の投与(複数回でもよい)を受けることができる。マウスは、特定の時点(たとえば、14、21、28、35日など)で安楽死させ、免疫学的エンドポイントおよび抗体または融合タンパク質の活性の評価を行う前は、薬理学的に関連性のある用量のCD32B×CD79B二重特異性抗体を受け続けることができる。免疫学的エンドポイントとしては、1)酵素に対する全抗体(IgM、IgG)、B細胞機能アッセイ、および表現型の特徴づけ、ならびに、2)実験全体にわたる抗体または融合タンパク質の活性、たとえば抗体または融合タンパク質がその標的タンパク質を阻害する能力の、薬物動態学的、免疫学的、および/または薬力学的な分析を含む、抗体または融合タンパク質の効率の測度が挙げられる。
【0091】
プラセボ対照と比較して、CD32B×CD79B二重特異性抗体を抗体または融合タンパク質レシピエント動物に投与することで達成された結果としては、抗抗体または融合タンパク質抗体応答の減弱、クリアランスの減少、および半減期(t1/2)の増加を挙げることができる。プラセボ動物と比較して、改善かつ延長された有効性の薬力学的な測度も観察することができ、CD32B×CD79B二重特異性抗体の投与が、免疫原性抗体または融合タンパク質の繰り返し投薬および有効性の増加を可能にし得るという仮説を支持する。
【0092】
[実施例6]
<健康な対象においてPRV-3279の安全性、許容性、薬物動態学、薬力学、および免疫原性を評価するための第1b相、二重盲検、プラセボ対照、複数漸増用量研究>
本研究では、複数用量のPRV-3279の安全性、許容性、および免疫原性を、健康な対象において、持続的な高いレベルの受容体カバレッジをもたらすと予想される用量レベルで評価した。ADAの発生を混乱させる可能性がある背景医薬品ならびに許容性の評価を混乱させる可能性がある徴候および症状を回避するために、本研究には健康な対象を選択し、したがって、PRV-3279の反復投薬の免疫原性および許容性のより徹底的かつ安全な検査が可能となった。
【0093】
2つのコホートに逐次の登録を予定した。コホートAは、PRV-3279 3mg/kgを2週間毎に、合計3回用量で評価した。コホートBは、PRV-3279 10mg/kgを2週間毎に、3回用量で評価した。それぞれのコホートは、PRV-3279またはプラセボのどちらかに3:1の比でランダムに割り当てた8人の対象から構成されていた(すなわち、PRV-3279はn=6人、プラセボはn=2人)。研究薬物(PRV-3279またはプラセボ)の3回用量は、それぞれのコホートにおいて1日目、15日目、および29日目に2時間のIV輸液として投与した。
【0094】
対象は、1日目のランダム化および第1の用量の投与の28日前以内に、適格性を決定するためのスクリーニング評価を受けた。-1日目に、対象は臨床研究ユニット(CRU)に入所し、その適格性を確認するためにベースライン試験を受けた。1日目に、それぞれの対象を、PRV-3279またはプラセボのどちらかの2時間のIV輸液を二重盲検様式で受けるようにランダムに割り当て、投薬後4時間モニタリングした。2日目に、対象に安全性の臨床検査、PK、およびAEの評価を行い、CRUから退所した。対象は、その割り当てられた処置の第2の用量(15日目)および第3の用量(29日目)を受けるためにCRUに戻った。第1の用量と同様、対象は投薬の前日にCRUに入所し、投薬の翌日に退所した。
【0095】
それぞれのコホートは2人のセンチネル対象を含んでおり、二重盲検様式で1人はPRV-3279を受け、1人はプラセボを受けた。センチネル対象は、コホート中の残りの対象がその最初の輸液を受ける前に、第1の輸液の開始から少なくとも7日目までAE(たとえば、輸液反応、遅延型過敏症)について評価した。センチネル対象および時差投薬スケジュールの使用により、潜在的かつ高頻度の反応(たとえばADAに関連する輸液反応)が存在する場合はすべて、全コホートの繰り返し投薬の前に認識されることが確実となる。
【0096】
安全性評価としては、過敏症または輸液反応を含む報告されたAE、生命徴候測定、身体検査、ECG、および臨床検査が挙げられる。身体検査は、ベースラインを確立し、AEに関連する身体的徴候を確認するために行った。有害事象を各訪問時に収集し、重篤度および研究薬物との関連性について評価した。1日目、15日目、および29日目に、生命徴候(体温、脈拍数、血圧、および呼吸数)をすぐに時間0(用量前、輸液の5分前まで)、0.5時間、1時間(輸液の中間点)、2時間(輸液の終わり)、および輸液の開始の6時間後(輸液の終わりの4時間後)に記録した。IV輸液の開始を時間「0」時と指定した。生命徴候は予定された時点の±5分間で得た。身長はスクリーニング訪問時にのみ記録した。体重は-1日目、14日目、および28日目に得た。
【0097】
PK、免疫原性、およびPDのための血清試料を選択された時点で得た。研究設計の略図を図1に提供する。
【0098】
<有害事象の概要>
研究中にAESI、重篤なTEAE、SAE、または死をもたらしたTEAEは存在しなかった。4件の軽度であるが再発性のTEAEが1人(16.7%)のPRV-3279 10mg/kgの対象からの離脱をもたらした。他のTEAEは研究からの対象の離脱をもたらさなかった(表エラー!文書中に指定スタイルのテキストが存在しません。)。
【0099】
全体的に、34件のTEAEが9人(56.3%)の対象によって報告された。18件のTEAEが5人(83.3%)のPRV-3279 10mg/kgの対象において報告され、12件のTEAEが3人(50.0%)のPRV-3279 3mg/kgの対象において報告され、4件のTEAEが1人(25.0%)のプラセボ対象において報告された(表エラー!文書中に指定スタイルのテキストが存在しません。)。4人(66.7%)のPRV-3279 10mg/kgの対象における12件のTEAEおよび1人(16.7%)のPRV-3279 3mg/kgの対象における4件のTEAEが調査員によって研究薬物に関連しているとみなされ、すべての他の報告されたTEAEは非関連とみなされた(表エラー!文書中に指定スタイルのテキストが存在しません。)。
【0100】
【表1】
【0101】
研究中、調査員によって非TEAEであるとみなされた2件のAEが、2人(9.2%)の対象において報告された。どちらも研究薬物に非関連であるとみなされた(表2)。
【0102】
【表2】
【0103】
処置ごとおよび全体の、SOCおよびPTごとのTEAEの概要を表中に提示する。SOCおよびPTごとの、処置ごとの、重篤度ごとのTEAEの概要を表中に提示し、関連するTEAEの概要を表中に提示する。SOCおよびPTごとの、処置ごとおよび全体の、中断をもたらしたTEAEの概要を表中に提示する。
【0104】
【表3-1】
【表3-2】
【0105】
【表4-1】
【表4-2】
【表4-3】
【0106】
【表5】
【0107】
【表6】
【0108】
<薬物動態学的濃度データ>
PRV-3279をヒト血清からECLを使用して定量的に測定する。本アッセイでは、コーティングされていないMSDMulti-Array(登録商標)標準結合プレートを、PRV-3279の捕捉試薬としてウサギ抗h8B5抗体でコーティングする。PRV-3279を含有する試料をコーティングしたプレート上でインキュベートする。結合したPRV-3279をビオチン標識した2A5抗体で検出する。ストレプトアビジンスルホタグのコンジュゲートを加え、一次検出抗体と結合させる。トリプロピルアミン(TPA、MSD Gold Read Buffer)をプレートに加え、電荷を与えた際に電気化学発光シグナルが発生し、それをMSD SECTOR S 600プレートリーダーで検出する。
【0109】
算術平均(±SD)PRV-3279血清濃度-時間データを図2A~2Cに表示する。BLQ=定量限界未満、LLOQ、定量下限、SD=標準偏差。エラーバー:SD。用量前にBLQであった値および最初の定量可能な濃度の前に吸収相にあった値はゼロで置換した。それ以降、評価可能な濃度間のBLQ値はLLOQ/2によって置換した。LLOQ=1.5ng/mL
【0110】
算術平均PRV-3279血清濃度-時間データを図3A~3Cに表示する。BLQ=定量限界未満、LLOQ、定量下限、SD=標準偏差。用量前にBLQであった値および最初の定量可能な濃度の前に吸収相にあった値はゼロで置換した。それ以降、評価可能な濃度間のBLQ値はLLOQ/2によって置換した。LLOQ=1.5ng/mL。
【0111】
3mg/kgおよび10mg/kgのPRV-3279の2時間の輸液の投与の後、平均ピーク濃度は、1、15、および29日目について輸液の終わり(2時間)で起こった。平均濃度は、両方の用量レベルについて、29日目の投与の後1344時間まで定量下限(LLOQ、1.5ng/mL)を上回っていた。15、29、および43日目の平均用量前濃度は、3mg/kg用量ではそれぞれ6145ng/mL、7590ng/mL、および12440ng/mLであり、10mg/kg用量ではそれぞれ48383ng/mL、60460ng/mL、および77140ng/mLであった。これらの日の用量前濃度は増加し続けており、5回未満の半減期が経過していたため、定常状態は15日目にも29日目にも達成されていなかった。
【0112】
算術平均PRV-3279濃度-時間データを処置およびADA結果ごとに図4A~4Bに表示する。このプロットにおけるADA結果は、それぞれの具体的な時点での免疫原性試料結果に基づいて定義する。ADA=抗薬物抗体、BLQ=定量限界未満、LLOQ、定量下限、SD=標準偏差。用量前にBLQであった値および最初の定量可能な濃度の前に吸収相にあった値はゼロで置換した。それ以降、評価可能な濃度間のBLQ値はLLOQ/2によって置換した。LLOQ=1.5ng/mL。3mg/kgでは、日ごとのADA陰性/陽性:1および8日目=6/0人(N=6人)、15、22、および29日目=5/1人(N=6人)、36日目=4/2人(N=6人)、43日目=3/3人(N=6人)、57日目=2/4人(N=6人)、71日目=1/5人(N=6人)、85日目 0/6人(N=6人)。10mg/kgでは、日ごとのADA陰性/陽性:1、8、15、および22日目=6/0人(N=6人)、29日目=5/0人(N=5人)、36日目=5/0人(N=5人)、43日目=5/0人(N=5人)、57日目=5/0人(N=5人)、71日目=3/2人(N=5人)、85日目 2/3人(N=5人)。
【0113】
<免疫原性データの評価>
ヒト血清中の抗PRV-3279抗体を、ヒト血清中において、MSD-ECLアッセイにおける多段階手法を使用して検出および確認する。本アッセイでは、試料、陽性対照(PC)、および陰性対照(NC)を300mMの酢酸中の1:10の最小要求希釈(MRD)に供する。その後、酸性化した試料を中和し、NeutrAvidin高容量プレート上にコーティングしたビオチン-PRV-3279と共に終夜プリインキュベートする。ヒト血清中に存在する抗薬物抗体(ADA)はすべてビオチン-PRV-3279と結合する。終夜のインキュベーション後、ビオチン-PRV-3279:ADAの複合体を、複合体を破壊するための第2の酸処理に供する。その後、酸性化したADA試料を裸のMSD高結合プレート上にコーティングする。ブロッキング後、ADA試料を、スルホタグ-PRV-3279を用いて、電位を与えた場合に発生する化学発光シグナルによって検出する。生じる電気化学発光(ECL)シグナルまたは相対発光量(RLU)は、ヒト血清中に存在するADAの量に正比例する。
【0114】
全体的に、ADAは経時的に増加した。85日目にADAを有していた対象が6人中4人しかいかなかった、10mg/kg用量を受けた対象と比較して、3mg/kg用量を受けた対象中における抗薬物抗体は、より早くADAを発生し(15日目対36日目)、すべての対象が85日目までにADAを発生した。ベースラインからの経時的なPRV-3279に対するADAの力価を表7に示し、<10~270および<10~2430の範囲であった。これは、PRV-3279がそれ自身の免疫原性を阻害することを示している。
【0115】
【表7】
【0116】
<薬物動態学的/免疫原性データの評価>
PRV-3279の薬物動態学的パラメータ(C最大およびAUC0~336)を表8にADA結果、処置、および日ごとに記述的に要約する。PRV-3279のC最大およびAUC0~336パラメータの箱ひげ図を図5に提示し、これはADAがPKに影響を与えないことを示している。ADA=抗薬物抗体、N=対応するADA分類中の薬物動態解析対象集団中の対象の人数。箱内部の記号は平均を表す。箱の上(下)端は75(25)パーセンタイルを表す。箱の上(下)端から、箱の端より1.5×四分位範囲上(下)以内の最大(最小)値まで、ひげが描かれている。ひげの外側の値は記号で同定される。
【0117】
【表8-1】
【表8-2】
【0118】
<薬力学的データの評価>
PRV-3279飽和試料中において得られる最大結合を含む、B細胞(CD19+)、記憶B細胞(CD19+/CD27+)、およびナイーブB細胞(CD19+/CD27-)上の抗PRV-3279(抗EK)の染色による、PRV-3279結合(パーセント結合B細胞)ならびに絶対およびパーセント受容体占有(MESF)を検査する。%結合B細胞および%受容体占有の計算には、それぞれの個々の試料中におけるPRV-3279のB細胞との最大結合は、それぞれの時点での抗PRV-3279(抗EK)によって結合された%細胞および等価な可溶性蛍光色素(MESF)の絶対受容体占有分子の値を、PRV-3279飽和試料(合計)の対応する値と比較することによって計算した。
【0119】
図6に示すように、3および10mg/kgのPRV-3279の用量の後、どちらの用量群においても全利用可能なB細胞(CD19+)の>85%が投薬の1日後に薬物によって結合された。どちらの用量群においても、結合は第2の用量の前に約80%までわずかに減少し、第2の用量の後に再度約90%まで増加した。10mg/kgの用量群では、%結合B細胞はおよそ57日目までこの高いレベルで維持され、その後、85日目に50%未満まで下がった(図6を参照)。3mg/kgの用量では、%結合B細胞は最初の22日間はより高い用量に匹敵しており、43日目まで70%あたりに保たれたが、この用量レベルでは投与間に結合は一般によりゆらいだ。パーセント結合B細胞は85日目に<20%であり、これはプラセボと同じ範囲内であった。データのばらつきは低度から中等度であった。
【0120】
次に、リンパ球、単球(CD14+)、T細胞(CD3+)、Tヘルパー細胞(CD3+/CD4+)、細胞毒性T細胞(CD3+/CD8+)、ナチュラルキラー細胞(CD3-/CD16+)、ナチュラルキラーT細胞(CD3+/CD16+/CD56+)、およびB細胞(CD19+)の百分率および絶対数を調査した。B細胞の絶対数の時間経過を処置ごとに図7に示す。他の細胞種は同様のパターンを示す(データ示さず)。B細胞の数は、3および10mg/kgのPRV-3279の投薬の後に1日以内にそれぞれ平均して-39%および-47%下がったが、1週間後にベースラインレベルまで戻った。プラセボで処置した対象では匹敵する低下は観察されなかった。細胞数の下落は、PRV-3279の第2および第3の用量の後はわずかにそれほど明白でなかった。第3の用量の後、細胞数は3mg/kgよりも10mg/kgで低く保たれたが、85日目には両方の数が同様であり、再度ベースラインに匹敵していた。
【0121】
要約すると、研究により末梢B細胞数の初期の一過性の減少が実証され、これは、PRV-3279の第2および第3の用量の後にそれほど明白でなくなり、それぞれの用量の後に素早く回復した。B細胞の持続的枯渇は本研究で起こらなかった。また、調査した他の免疫細胞型はいずれも臨床的に関連のある枯渇を示さなかった。
【0122】
次に、免疫グロブリンM(IgM)、IgE、およびIgGの循環レベルを、既知の方法を使用して測定する。図8に示すように、3および10mg/kgのPRV-3279の投薬後の免疫グロブリンMのレベルはおよそ36日目まで着実に減少し、85日目までそのレベルに留まった。しかし、減少は明白に用量依存的ではなく、36および85日目に10mg/kgよりも3mg/kgで明白さが低い傾向にあった。10mg/kgのPRV-3279の投薬後の免疫グロブリンEのレベルは、ベースラインからの平均%変化がプラセボの-5.0%と比較して10mg/kgで-28.2%であった、85日目の最後の時点以外は、研究の過程でプラセボで観察された値と類似であった(図9を参照)。3および10mg/kgのPRV-3279の投薬後の免疫グロブリンGのレベルは高度に可変であり、研究の過程で一般にプラセボと異ならないように見えた。IgGレベルのベースラインからの%変化は、すべての処置について大部分は±5%以内であった(図10を参照)。
【0123】
<結論>
この第1b相、二重盲検、プラセボ対照のMAD研究の主な目的は、健康な対象におけるPRV-3279の2つの用量レベル(3および10mg/kg)の複数(3)のIV輸液の安全性および許容性を評価することであった。2番目の目的は、PRV-3279の複数用量PKおよび免疫原性を特徴づけることであった。予備的目的は、標的結合およびB細胞機能に関する潜在的なバイオマーカーに及ぼすPRV-3279の効果を探索することであった。
【0124】
合計16人の対象を登録し、ランダム化し、投薬した。2つのコホートにPRV-3279またはプラセボを、2週間毎に合計3回用量投与した。研究薬物(PRV-3279 3mg/kgおよび10mg/kgまたはプラセボ)の3回用量を、1日目、15日目、および29日目にIVでそれぞれのコホートに投与した。14人の対象が予定されたすべての処置をプロトコル通りに受け、研究を完了した。1人のプラセボ対象は1日目および15日目のプラセボ投与を受けた後に同意を撤回し、1人のPRV-3279 10mg/kgの対象は29日目のPRV-3279 10mg/kgの投与を3分間受けた後にAEが原因で離脱させた。
【0125】
16人(100.0%)の対象すべてを安全性、PD、および免疫原性集団に含めた。研究薬物を受けた12人(75.5%)の対象すべてをPK集団に含めたが、すべてのPK概要プロットおよび概要統計学には、AEが原因で離脱させた1人のPRV-3279 10mg/kgの対象については29日目以降のデータを排除した。
【0126】
この第1b相研究は、ファーストインヒューマン研究において得られた許容性およびPD情報に基づいており、PRV-3279を再投薬することの実現可能性に取り組むものである。研究の結果は、ADAによって影響を受けることのない、深く、持続的な方法で、B細胞機能を枯渇させずに機能的に抑制するPRV-3279の能力を確認している。
【0127】
PRV-3279は十分に許容されており、SAEがなかった。PK特徴は、隔週または場合によってはより低い頻度の投薬を支持する。抗薬物抗体はより高い用量群においてより低く、これは、PRV-3279がそれ自身の免疫原性を阻害する能力と一貫している。
【0128】
PRV-3279の受容体占有PD効果は投薬の休止をはるかに超えて持続し、10mg/kg用量でより持続され、最終用量の少なくとも28日後に>50%の結合が観察され、これは、最適なB細胞調節のために必要な結合の最小レベルであるとみなされている。
【0129】
経過観察期間にわたって持続したIgMレベルの明確な低下があり、これは拡張PD効果を示唆している。重要なことに、かつ予想どおり、B細胞枯渇はなく、免疫細胞またはサイトカインに対するいかなる観察可能な有害効果もなかった。
【0130】
結論として、優秀な安全性プロフィールおよびより低い免疫原性を有する10mg/kgでの優れたPD効果に基づいて、10mg/kg以上の用量を、遺伝子治療製品を含めた生物療法剤の免疫原性を低下させるために使用することができる。
【0131】
[改変]
本開示の記載した方法および組成物の改変および変形は、本開示の範囲および精神から逸脱せずに当業者に明らかとなるであろう。本開示は具体的な実施形態に関連して記載されているが、特許請求した本開示はそのような具体的な実施形態に過度に制限されるべきでないことが理解されよう。実際、記載した発明を実施するための形態の様々な改変は、以下の特許請求の範囲によって表される本開示の範囲内にあることが意図され、本開示が属する関連分野の技術者によってそう理解される。
【0132】
[参照による組み込み]
本明細書中で言及したすべての特許および出版物は、それぞれの独立した特許および出版物が、参考として組み込まれていると具体的かつ個々に示されている場合と同じ程度に、本明細書中に参考として組み込まれている。
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図5-4】
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
2022544053000001.app
【国際調査報告】