(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-17
(54)【発明の名称】ユニバーサルCAR-T細胞ならびにその調製および用途
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0783 20100101AFI20221007BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20221007BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20221007BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221007BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20221007BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20221007BHJP
【FI】
C12N5/0783 ZNA
C12N5/10
A61K35/17 Z
A61P35/00
A61P37/04
C12N15/09 110
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022506164
(86)(22)【出願日】2020-08-03
(85)【翻訳文提出日】2022-03-04
(86)【国際出願番号】 CN2020106635
(87)【国際公開番号】W WO2021018311
(87)【国際公開日】2021-02-04
(31)【優先権主張番号】201910708725.9
(32)【優先日】2019-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520372940
【氏名又は名称】セルラー・バイオメディシン・グループ・エイチケー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100219265
【氏名又は名称】鈴木 崇大
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ジー,イン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ウェイチー
(72)【発明者】
【氏名】ツイ,フイジュアン
(72)【発明者】
【氏名】ルオ,シャオビン
(72)【発明者】
【氏名】フアン,ジアチー
(72)【発明者】
【氏名】チュー,シーグイ
(72)【発明者】
【氏名】ヤオ,シン
(72)【発明者】
【氏名】ヤオ,イーホン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB64
4C087CA04
4C087NA14
4C087ZB09
4C087ZB26
4C087ZB27
(57)【要約】
T記憶幹細胞の割合がC1≧50%を満たす非天然T集団が提供される。T細胞集団は、腫瘍抗原標的化ユニバーサルCAR-T細胞を含む。CAR-T細胞を調製するための方法がさらに提供される。CAR-T細胞は、増幅率がより高く、表現型、IFN-γ放出能、および標的細胞殺傷能がより優れている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非天然型T細胞集団であって、前記T細胞集団中のT記憶幹細胞(Tscm)のC1の割合が、前記T細胞集団中のT細胞の総数によって計算された50%以上であることを特徴とする、非天然型T細胞集団。
【請求項2】
前記T細胞がCAR-T細胞を含むことを特徴とする、請求項1に記載のT細胞集団。
【請求項3】
前記T記憶幹細胞が、CCR7
+CD45RA
+T細胞を含むことを特徴とする、請求項1に記載のT細胞集団。
【請求項4】
前記T細胞集団において、バイオマーカーCCR7を発現するC2の割合が、50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上であることを特徴とする、請求項1に記載のT細胞集団。
【請求項5】
前記CAR-T細胞が、腫瘍抗原を標的とするユニバーサルCAR-T細胞であることを特徴とする、請求項1に記載のT細胞集団。
【請求項6】
細胞調製物であって、前記細胞調製物が、請求項1に記載の非天然型T細胞集団と、薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤と、を含むことを特徴とする、細胞調製物。
【請求項7】
CAR-T細胞の調製方法であって、前記方法が、以下の工程:
(a)単離されたT細胞を提供する工程、
(b)IL15、IL7およびIL21の存在下で前記単離されたT細胞に対して増幅培養を行って、培養されたT細胞を得る工程、ならびに
(c)前記培養されたT細胞に対して操作修飾を行って、前記CAR-T細胞を調製する工程を含むことを特徴とする、方法。
【請求項8】
前記工程(a)において、前記単離されたT細胞が、ナイーブT細胞(Tn細胞)、Tn細胞が豊富な細胞集団、全T細胞、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記工程(b)において、前記単離されたT細胞を増幅のために培養した場合、培養系中のIL15の濃度が、1~200ng/ml、好ましくは3~100ng/ml、より好ましくは5~20ng/mlであり、IL7の濃度が、0.5~50ng/ml、好ましくは1~20ng/ml、より好ましくは3~10ng/mlであり、IL21の濃度が、1~100ng/ml、好ましくは3~50ng/ml、より好ましくは5~20ng/mlであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
CAR-T細胞の調製方法であって、前記方法が、以下の工程:
(i)単離されたTn細胞を提供する工程、
(ii)任意選択で、IL15、IL7およびIL21の存在下で前記単離されたT細胞に対して増幅培養を行って、培養されたT細胞を得る工程、ならびに
(iii)前記T細胞を修飾して、CAR-T細胞を調製する工程を含むことを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物医学の分野に関し、より具体的には、ユニバーサルCAR-T細胞ならびにその調製および用途に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫療法、特に養子T細胞療法は、血液悪性腫瘍の治療のための臨床試験において強力な有効性および有望性を示している。T細胞は、抗原認識部分およびT細胞活性化領域を含むキメラ抗原受容体(CAR)を発現するように遺伝子改変され得る。CARは、T細胞特異性および反応性を再方向付けするためにモノクローナル抗体の抗原結合特性を利用することができ、MHC非依存的な様式で標的を標的化することができる。このタイプのMHC非依存性抗原認識は、CAR発現T細胞が抗原プロセシングを必要とすることなく抗原を認識することを可能にし、したがって、腫瘍回避の主要なメカニズムが無効にされる。加えて、CARは、内因性TCRのα鎖またはβ鎖と二量体化しない。
【0003】
ユニバーサルCAR-T細胞は、T細胞免疫療法における自己T細胞の重要な代替資源であり、同種T細胞の内因性TRAC遺伝子およびB2M遺伝子は、それぞれ、移植片対宿主病および宿主免疫拒絶を予防するためにノックアウトされる。同種ドナー由来のこれらの遺伝子編集細胞は、乳児または複数ラウンドの化学療法を受けた患者など、十分な自己T細胞を提供することができない患者のために細胞免疫療法の機会を提供する。
【0004】
現在、中国国内外で市場に承認されているユニバーサルCAR-T細胞製品は存在しない。加えて、当該技術分野におけるユニバーサルCAR-T細胞に関する研究には、依然として多くの欠陥が存在する。したがって、この分野では、所望の殺傷効果および高い安全性を有する、新しいユニバーサルCAR-T細胞製品を開発することの緊急の必要性が存在している。
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的は、Tscmが富化されたユニバーサルCAR-T細胞、ならびにその調製および用途を提供することである。
【0006】
本発明の第1の態様において、非天然型T細胞集団が提供される。T細胞集団におけるT記憶幹細胞(幹細胞様記憶T細胞、Tscm)の割合C1は、T細胞集団におけるT細胞の総数に基づいて計算される50%以上である。
【0007】
別の好ましい実施形態において、C1≧60%、好ましくはC1≧70%、より好ましくはC1≧75%である。
【0008】
別の好ましい実施形態において、C1は、50~85%であり、好ましくは、60~80%である。
【0009】
別の好ましい実施形態において、T細胞は、CAR-T細胞を含む。
【0010】
別の好ましい実施形態において、CAR-T細胞は、自己または同種異系CAR-T細胞を含む。
【0011】
別の好ましい実施形態において、CAR-T細胞は、ユニバーサルCAR-T細胞を含む。
【0012】
別の好ましい実施形態において、CAR-T細胞において、以下の群から選択される免疫関連遺伝子がノックアウトまたはダウンレギュレートされる:TRAC遺伝子、B2M遺伝子、またはそれらの組み合わせ。
【0013】
別の好ましい実施形態において、T記憶幹細胞(Tscm)がCAR-T細胞であるとき、T記憶幹細胞(Tscm)の割合C1は、T細胞集団中のCAR-T細胞の総数に基づいて計算される、50%以上である。
【0014】
別の好ましい実施形態において、C1≧60%、好ましくはC1≧70%、より好ましくはC1≧75%である。
【0015】
別の好ましい実施形態において、C1は、50~85%であり、好ましくは、60~80%である。
【0016】
別の好ましい実施形態において、T記憶幹細胞は、CCR7+表現型を有する。
【0017】
別の好ましい実施形態において、T細胞集団において、T細胞C3の含有量が、細胞集団中の細胞の総数に基づいて計算される、30%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、さらにより好ましくは80%以上、90%以上、または95%以上である。
【0018】
別の好ましい実施形態において、C3は、30~100%、より好ましくは70~99.9%、さらにより好ましくは80~99%である。
【0019】
別の好ましい実施形態において、T記憶幹細胞は、CCR7+CD45RA+T細胞を含む。
【0020】
別の好ましい実施形態において、T細胞集団において、バイオマーカーCCR7を発現するC2の割合は、50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上である。
【0021】
別の好ましい実施形態において、CAR-T細胞の活性強度Q1(平均蛍光強度MFIを例としてとる)500以上、好ましくは1000以上、より好ましくは3000以上、さらにより好ましくは4000以上(例えば、1000~5000)である。
【0022】
別の好ましい実施形態において、T細胞集団は、インビトロで拡大されるか、または拡大されない。
【0023】
別の好ましい実施形態において、インビトロ増幅は、細胞培養のために好適な条件下で、培養系におけるIL15、IL7およびIL21(一般にTscm増幅因子と呼ばれる)の存在下で細胞増幅を実施することである。
【0024】
別の好ましい実施形態において、培養システムにおいて、Tscm増幅因子の濃度は以下を含む:
IL15の濃度は1~200ng/ml、好ましくは3~100ng/ml、より好ましくは5~20ng/mlであり、
IL7の濃度は0.5~50ng/ml、好ましくは1~20ng/ml、より好ましくは3~10ng/mlであり、かつ/または
IL21の濃度は1~100ng/ml、好ましくは3~50ng/ml、より好ましくは5~20ng/mlである。
【0025】
別の好ましい実施形態において、培養システムは、血清培養システムおよび無血清培養システムを含む。
【0026】
別の好ましい実施形態において、細胞増幅時間は、0.1~30日、好ましくは0.5~25日、より好ましくは1~20日、さらに最も好ましくは2~15日、または3~15日、または5~15日である。
【0027】
別の好ましい実施形態において、CAR-T細胞は、腫瘍抗原を標的とするユニバーサルCAR-T細胞である。
【0028】
別の好ましい実施形態において、腫瘍抗原は、TSHR、CD19、CD123、CD22、CD30、CD171、CS-1、CLL-1、CD33、EGFRvIII、GD2、GD3、BCMA、Tn Ag、PSMA、ROR1、FLT3、FAP、TAG72、CD38、CD44v6、CEA、EPCAM、B7H3、KIT、IL-13Ra2、メソセリン、IL-11Ra、PSCA、PRSS21、VEGFR2、ルイスY、CD24、PDGFR-β、SSEA-4、CD20、葉酸受容体α、ERBB2(Her2/neu)、MUC1、EGFR、NCAM、プロスターゼ、PAP、ELF2M、エフリンB2、IGF-I受容体、CAIX、LMP2、gp100、bcr-abl、チロシナーゼ、EphA2、フコシルGM1、sLe、GM3、TGS5、HMWMAA、o-アセチル-GD2、葉酸受容体β、TEM1/CD248、TEM7R、CLDN6、GPRC5D、CXORF61、CD97、CD179a、ALK、ポリシアル酸、PLAC1、GloboH、NY-BR-1、UPK2、HAVCR1、ADRB3、PANX3、GPR20、LY6K、OR51E2、TARP、WT1、NY-ESO-1、LAGE-1a、MAGE-A1、レグマイン、HPV E6、E7、MAGE A1、ETV6-AML、精子タンパク質17、XAGE1、Tie2、MAD-CT-1、MAD-CT-2、Fos関連抗原1、p53、p53変異体、プロステイン(prostein)、サバイビンおよびテロメラーゼ、PCTA-1/ガレクチン8、MelanA/MART1、Ras変異体、hTERT、肉腫転座切断点(Sarcoma translocation breakpoint)、ML-IAP、ERG(TMPRSS2ETS融合遺伝子)、NA17、PAX3、アンドロゲン受容体、サイクリンB1、MYCN、RhoC、TRP-2、CYP1B1、BORIS、SART3、PAX5、OY-TES1、LCK、AKAP-4、SSX2、RAGE-1、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素、RU1、RU2、腸カルボキシエステラーゼ、mut hsp70-2、CD79a、CD79b、CD72、LAIR1、FCAR、LILRA2、CD300LF、CLEC12A、BST2、EMR2、LY75、GPC3、FCRL5、IGLL1、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0029】
別の好ましい実施形態において、CAR-T細胞はキメラ抗原受容体を発現し、キメラ抗原受容体の構造は以下の式Iに示され、
L-scFv-H-TM-C-CD3ζ(I)
【0030】
式中、
各「-」は、独立して連結ペプチドまたはペプチド結合であり、
Lは、任意のシグナルペプチド配列であり、
scFvは、腫瘍抗原を標的とする抗体一本鎖可変領域配列であり、
Hは、任意のヒンジ領域であり、
TMは、膜貫通ドメインであり、
Cは、存在しないか、または共刺激シグナル分子であり、
CD3ζは、CD3ζに由来する細胞質シグナル配列である。
【0031】
別の好ましい実施形態において、CAR-T細胞は、BCMAを標的とするユニバーサルCAR-T細胞である。
【0032】
別の好ましい実施形態において、scFvは、BCMAを標的とする。
【0033】
別の好ましい実施形態において、Lは、CD8、GM-CSF、CD4、CD137、およびこれらの組み合わせからなる群から選択されるタンパク質のシグナルペプチドである。
【0034】
別の好ましい実施形態において、Hは、CD8、CD28、CD137、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるタンパク質のヒンジ領域である。
【0035】
別の好ましい実施形態において、TMは、CD28、CD3イプシロン、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154、およびこれらの組み合わせからなる群から選択されるタンパク質の膜貫通領域である。
【0036】
別の好ましい実施形態において、Cは、OX40、CD2、CD7、CD27、CD28、CD30、CD40、CD70、CD134、4-1BB(CD137)、PD1、Dap10、CDS、ICAM-1、LFA-1(CD11a/CD18)、ICOS(CD278)、NKG2D、GITR、TLR2、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるタンパク質の共刺激シグナル分子である。
【0037】
別の好ましい実施形態において、Cは、4-1BBに由来する共刺激シグナル分子、および/またはCD28に由来する共刺激シグナル分子を含む。
【0038】
別の好ましい実施形態において、T細胞は、ヒトまたは非ヒト哺乳動物に由来する。
【0039】
別の好ましい実施形態において、T細胞集団は、本発明の第3の態様に記載される方法によって調製される。
【0040】
本発明の第2の態様において、細胞調製物が提供され、この細胞調製物は、本発明の第1の態様に従う非天然のT細胞集団、および薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤を含む。
【0041】
本発明の第3の態様において、以下の工程、
(a)単離されたT細胞を提供する工程、
(b)IL15、IL7およびIL21の存在下で単離されたT細胞に対して増幅培養を行って、培養されたT細胞を得る工程、ならびに
(c)培養されたT細胞に対して操作修飾を行って、CAR-T細胞を調製する工程を含む、CAR-T細胞を調製する方法が提供される。
【0042】
別の好ましい実施形態において、工程(a)において、単離されたT細胞は、ナイーブT細胞(Tn細胞)、Tn細胞が豊富な細胞集団、全T細胞、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0043】
別の好ましい実施形態において、単離されたT細胞は、ナイーブT細胞(Tn細胞)またはTn細胞が豊富な細胞集団である。
【0044】
別の好ましい実施形態において、T細胞は、自己または同種異系T細胞を含む。
【0045】
別の好ましい実施形態において、工程(b)において、単離されたT細胞を増幅のために培養する場合、培養系中のIL15の濃度は、1~200ng/ml、好ましくは3~100ng/ml、より好ましくは5~20ng/mlであり、IL7の濃度は、0.5~50ng/ml、好ましくは1~20ng/ml、より好ましくは3~10ng/mlであり、IL21の濃度は、1~100ng/ml、好ましくは3~50ng/ml、より好ましくは5~20ng/mlである。
【0046】
別の好ましい実施形態において、本方法は、ユニバーサルCAR-T細胞を調製するために使用される。
【0047】
別の好ましい実施形態において、CAR-T細胞は、腫瘍抗原BCMAを標的とする。
【0048】
別の好ましい実施形態において、工程(a)において、T細胞は、ヒト末梢血、好ましくは末梢血単核細胞から単離される。
【0049】
別の好ましい実施形態において、単離されたT細胞は、全T細胞およびナイーブT細胞(Tn細胞)を含む。
【0050】
別の好ましい実施形態において、ナイーブT細胞は、CCR7+CD45RA+T細胞である。
【0051】
別の好ましい実施形態において、工程(b)では、増幅培養は、AIM-V培地中で実施される。
【0052】
別の好ましい実施形態において、工程(b)では、培養系は、FBS、Glutamax、Pen/Strip、またはそれらの組み合わせをさらに含み、好ましくは、FBSの濃度は5~20%である。
【0053】
別の好ましい実施形態において、工程(c)では、医薬は、T細胞活性化、T細胞ヌクレオフェクション、およびレンチウイルス形質導入を含む。
【0054】
別の好ましい実施形態において、工程(c)では、医薬は、以下の工程、
(1)CD3/CD28磁気ビーズを用いて、培養したT細胞を活性化し、次に磁気ビーズを除去して活性化T細胞を得る工程、
(2)CRISPR-Cas9系を使用して活性化T細胞に対してヌクレオフェクションを行い、T細胞のTRAC遺伝子および/またはB2M遺伝子をノックアウトし、それによって核トランスフェクトT細胞を得る工程、ならびに
(3)CAR発現カセットを含有するウイルスベクターを用いて核トランスフェクトされたT細胞を形質導入して、CAR-T細胞を調製する工程を含む。
【0055】
本発明の第4の態様において、以下の工程、
(i)単離されたTn細胞を提供する工程、
(ii)任意選択で、IL15、IL7およびIL21の存在下で単離されたT細胞に対して増幅培養を行って、培養されたT細胞を得る工程、ならびに
(iii)T細胞を修飾して、CAR-T細胞を調製する工程を含む、CAR-T細胞の調製方法が提供される。
【0056】
本発明の第5の態様において、本発明の第1の態様に記載のT細胞集団(特にCAR-T細胞)、または本発明の第2の態様に記載の細胞調製物の使用が、がんまたは腫瘍を予防および/または治療するための医薬の調製のために提供される。
【0057】
別の好ましい実施形態において、腫瘍は、血液腫瘍、固形腫瘍、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0058】
別の好ましい実施形態において、血液腫瘍は、急性骨髄性白血病(AML)、多発性骨髄腫(MM)、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、びまん性B細胞リンパ腫(DLBCL)、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0059】
別の好ましい実施形態において、固形腫瘍は、胃がん、胃がん、腹腔転移、肝臓がん、白血病、腎臓腫瘍、肺がん、小腸がん、骨がん、前立腺がん、結腸直腸がん、乳がん、結腸直腸がん、子宮頸がん、卵巣がん、リンパ腫、鼻咽頭がん、副腎腫瘍、膀胱腫瘍、非小細胞肺がん(NSCLC)、神経膠腫、子宮内膜がん、精巣がん、結腸直腸がん、尿路腫瘍、甲状腺がん、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0060】
別の好ましい実施形態において、固形腫瘍は、卵巣がん、中皮腫、肺がん、膵臓がん、乳がん、肝臓がん、子宮内膜がん、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0061】
本発明の第6の態様において、がんまたは腫瘍を予防および/または治療するための、本発明の第1の態様に記載のT細胞集団、または本発明の第2の態様に記載の細胞調製物の使用が提供される。
【0062】
本発明の第7の態様において、適切な量の本発明の第1の態様に記載のT細胞集団または本発明の第2の態様に記載の細胞を、それを必要とする被験体に投与することを含む、疾患を治療するための方法が提供される。
【0063】
別の好ましい実施形態において、疾患は、がんまたは腫瘍である。
【0064】
本発明の範囲内で、上記の本発明の技術的特徴および以下に(例えば、実施形態において)具体的に記載される技術的特徴は、互いに組み合わせることができ、それによって、新しいかまたは好ましい技術的解決策を形成することができることが理解されるべきである。スペースの制限により、本明細書ではそれは繰り返されない。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【
図1】フロー染色によって検出されたユニバーサルT細胞におけるTRACおよびB2Mの遺伝子ノックアウトおよび精製割合を示す。
【
図2】フロー染色によって検出されたユニバーサルT細胞におけるBCMA CARの形質導入割合を示す。
【
図3】BCMA発現標的細胞とのユニバーサルCAR-T細胞の共培養後のIFN-γ放出のELISA検出を示す。
【
図4】フローサイトメトリーによってPBMCから単離したナイーブT細胞の表現型および純度を示す。
【
図5】3つのBCMA CAR-T細胞の速度を示す。
【
図6】BCMA CAR-T細胞の3つのタイプにおける種々のT細胞サブタイプの割合およびCCR7の発現を示す。
【
図7】フローサイトメトリーによって検出された3つのBCMA CAR-T細胞のCARトランスフェクション効率を示す。
【
図8】3つのタイプのBCMA CAR-T細胞およびBCMA発現標的細胞の共培養後のIFN-γの放出を示す。
【
図9】BCMA発現標的細胞に対する3つのタイプのBCMA CAR-T細胞の殺傷率を示す。
【
図10】異なる条件下で培養したT細胞におけるTscm細胞の富化および細胞増殖を示す。
【
図11】異なる条件下で培養したT細胞のBCMA CAR形質導入割合を示す。
【
図12】異なる条件下で培養したT細胞のBCMA CAR形質導入後のIFN-γ放出を示す。
【
図13】3つのタイプのBCMA CAR-T細胞のCCR7
+CD45RA
+ Tscm細胞の富化を示す。
【0066】
本発明の添付図面で使用される標識について、それらの具体的な意味は以下の通りである。
【0067】
モック:Cas9 RNPヌクレオフェクションを伴わないT細胞、モック+CAR:Cas9 RNPヌクレオフェクションを伴わないBCMA CARで形質導入されたT細胞、CAR:BCMA CARによって形質導入されたT細胞、ダブルKO:Cas9 RNPヌクレオフェクション後のTRACおよびB2Mのダブルノックアウトを有するT細胞、ダブルKO+CAR:BCMA CARを用いたダブルKO細胞によって形質導入されたT細胞、BCMA CAR:BCMA CARを用いて形質導入された従来の自己CAR-T細胞、1°U CAR:BCMA CARによって形質導入された第1世代のユニバーサルT細胞、および2°U CAR:BCMA CARを用いて形質導入された第2世代のユニバーサルT細胞。
【発明を実施するための形態】
【0068】
広範かつ詳細な研究の後、本発明者らは、T細胞がT記憶幹細胞(Tscm)増幅に有利である条件下で培養されるとき、調製されたTscm富化ユニバーサルBCMA CAR-T細胞が、第1世代の細胞と比較して、より良好な標的細胞の増幅率、表現型、IFN-γ放出能力および殺傷能力を示すことを予想外に初めて見出した。本発明のTscm富化T細胞(特に第2世代ユニバーサルCAR-T細胞)に基づいて、異なる標的に対する高度に活性なユニバーサルCAR-T細胞を調製することができる。したがって、本発明はこれに基づいて完成された。
【0069】
具体的には、ユニバーサルBCMA CAR-T細胞の有効性をさらに向上させるために、T細胞を、Tscm富化ユニバーサルCAR-T細胞の新たな第2世代が調製されるように、T記憶幹細胞(Tscm)の増幅に有利な条件下で培養した。CAR-T細胞は、標的細胞の増殖、表現型、および殺傷の点で、第1世代のユニバーサルCAR-T細胞よりもはるかに良好である。これは、第2世代のユニバーサルCAR-T細胞が、さらに最適化されたユニバーサルCAR-T産物であることを示す。
【0070】
典型的には、Cas9 RNP複合体は、内因性TRACおよびB2M遺伝子を同時にノックアウトするためのヌクレオフェクションによってT細胞に送達され得る。精製後、高純度TRACおよびB2MダブルノックアウトユニバーサルT細胞を調製することができる。次いで、T細胞に、第1世代のユニバーサルBCAM CAR-T細胞を生成するように、レンチウイルス形質導入によって、BCMA CAR発現を導入する。これらのCAR-T細胞は、標的細胞を効果的に殺傷することができる。それらの活性は、遺伝子編集を伴わない自己CAR-T細胞と同様である。
【0071】
用語
本開示を容易に理解できるように、特定の用語が最初に定義される。本出願で使用される場合、本明細書に別段の明記がない限り、以下の各用語は、以下に提供される意味を有する。追加の定義は、本出願全体を通して説明されている。
【0072】
「約」という用語は、当業者によって決定される特定の値または組成の許容誤差範囲内の値または組成物を指し得る。これは、値または組成物の測定または決定方法に部分的に依存する。
【0073】
「投与」という用語は、当業者に知られている様々な方法および送達システムのいずれか1つを使用して、本発明の産物の被験体への物理的導入を指し、これには、静脈内、筋肉内、皮下、腹腔内、脊髄、または他の非経口投与経路、例えば、注射または注入によるものが含まれる。
【0074】
「抗体」(Ab)という用語には、免疫グロブリンが含まれるが、これらに限定されない。抗原に特異的に結合することができ、ジスルフィド結合によって相互連結された少なくとも2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖、またはその抗原結合部分を含む。各H鎖は、重鎖可変領域(本明細書において、VHと略記する)および重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、3つの定常ドメイン、CH1、CH2、およびCH3を含有する。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではVLと略記する)および軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つの定常ドメインCLを含む。VHおよびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された領域が散在される相補性決定領域(CDR)と称され得る超可変領域にさらに細分化され得る。各VHまたはVLは、3つのCDRおよび4つのFRを含有し、これらは、アミノ末端からカルボキシル末端に以下の順序で配置される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。重鎖および軽鎖内の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含有する。
【0075】
本出願におけるアミノ酸の名称は、国際的に受け入れられている単一の英語の文字によって識別され、これらのアミノ酸の名称の対応する3文字の略語は、以下の通りであることが理解されるべきである。Ala(A)、Arg(R)、Asn(N)、Asp(D)、Cys(C)、Gln(Q)、Glu(E)、Gly(G)、His(H)、Ile(I)、Leu(L)、Lys(K)、Met(M)、Phe(F)、Pro(P)、Ser(S)、Thr(T)、Trp(W)、Tyr(Y)、およびVal(V)。
【0076】
ユニバーサルCAR-T細胞
ユニバーサルT細胞は、T細胞免疫療法における自己T細胞の重要な代替リソースである。移植片対宿主病および宿主免疫拒絶をそれぞれ予防するために、同種T細胞の内因性TRACおよびB2M遺伝子をノックアウトすることができる。同種ドナー由来のこれらの遺伝子編集細胞は、乳児などの十分な自己T細胞を提供できない患者、および複数ラウンドの化学療法を受けた患者に細胞免疫療法の機会を提供することができる。これらの細胞は、CARまたはTCRをコードするレンチウイルスベクターによってさらに修飾されて、同種異系CAR/TCR T細胞を生成することができる。
【0077】
本発明において、Cas9 RNP複合体は、内因性TRACおよびB2M遺伝子を同時にノックアウトするヌクレオフェクションによってT細胞に送達されている。加えて、レンチウイルス形質導入を使用してBCMA CAR発現を導入して、既製のBCAM CAR-T細胞を生成する。これらのCAR-T細胞は、標的細胞を効果的に殺傷することができる。それらの活性は、遺伝子編集を伴わない自己BCMA CAR-T細胞と同様である。
【0078】
ユニバーサルCAR-T細胞の活性をさらに高めるために、同種異系ナイーブT細胞(Tn)から遺伝子編集を行っている。加えて、T記憶幹細胞(Tscm)の増幅を誘導する特殊な培養条件を用いて、Tscmを富化した第2世代のユニバーサルBCMA CAR-T細胞を産生する。これらのCAR-T細胞は、増幅、表現型、IFN-γ放出能、および標的細胞の殺傷の点で、従来の第1世代のユニバーサルCAR-T細胞よりも顕著に優れている。
【0079】
Tn細胞
Tn細胞、すなわち、ナイーブT細胞(Tn)は、プライミングされていないT細胞としても知られている。これらは胸腺において成熟し、次いで末梢リンパ組織に移動し、そこで抗原刺激への曝露の前に比較的静止している。
【0080】
Tscm細胞
Tscm細胞は、幹細胞記憶T細胞(Tscm)としても知られているT記憶幹細胞を表す。
【0081】
BCMA
BCMAは、CD269またはTNFRSF17としても知られているB細胞成熟抗原である。これは、腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーのメンバーである。そのリガンドは、B細胞活性化因子(BAFF)および増殖誘導リガンド(APRIL)である。
【0082】
BCMAのBAFFおよびAPRILへの結合は、NF-κB活性化を引き起こし、Bcl-xL、またはBcl-2およびMcl-1などの特定の抗アポトーシスBcl-2メンバーのアップレギュレーションを誘導する。BCMAとそのリガンドの間の相互作用は、人体環境の安定したバランスを維持するために、様々な局面からの体液性免疫、ならびにB細胞の増殖および分化を調節する。
【0083】
BCMA発現はB細胞系統に限定される。これは、形質芽球、形質細胞、および成熟B細胞のサブセット上で発現する。これは、末端B細胞の分化時に増加し、ナイーブB細胞、メモリーB細胞、およびB細胞胚中心および他の臓器などのほとんどのB細胞では発現しない。BCMAの発現は、骨髄における長寿命の固着(sessile)形質細胞にとって重要であることが報告されている。したがって、BCMA欠損マウスは、骨髄内の形質細胞が減少しているが、脾臓内の形質細胞レベルは影響を受けない。成熟B細胞は、BCMAノックアウトマウスにおいて、正常に形質細胞に分化する。BCMAノックアウトマウスは正常かつ健康に見え、正常数のB細胞を有するが、それらの形質細胞は長期間生存することができない。
【0084】
BCMAはまた、多発性骨髄腫および形質細胞白血病などの悪性形質細胞において高度に発現される。BCMAはまた、ホジキンリンパ腫患者からのHRS細胞においても検出されている。米国において、血液悪性腫瘍は全悪性腫瘍の約10%を占め、骨髄腫は全血液悪性腫瘍の15%を占める。BCMAの発現は、多発性骨髄腫における疾患進行と関連していることが文献に報告されている。BCMA遺伝子は骨髄腫試料中で高度に発現しているが、慢性リンパ性白血病、急性リンパ性白血病、および急性T細胞リンパ性白血病では非常に発現が低い。B細胞リンパ腫は、BCMAリガンドBAFFおよびAPRILを過剰発現するマウスモデルにおいて顕著に増加する。BCMAに結合するリガンドは、BCMA発現多発性骨髄腫細胞の増殖および生存を調節することが示されてきた。BCMAの、BAFFおよびAPRILへの結合は、悪性形質細胞が生存することを可能にする。したがって、BCMA発現腫瘍細胞の枯渇およびBCMAリガンドと受容体との間の相互作用の破壊は、多発性骨髄腫または他のBCMA陽性B系統悪性リンパ腫についての治療転帰を改善することができる。
【0085】
キメラ抗原受容体(CAR)
本発明のCARは、腫瘍抗原を標的とする任意の種類の抗原結合ドメインを含み得る。
【0086】
本発明において、キメラ抗原受容体(CAR)は、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞内ドメインを含む。細胞外ドメインは、標的特異的結合エレメント(抗原結合ドメインとも称される)を含む。細胞内ドメインは、共刺激シグナル伝達領域およびζ鎖部分を含む。本明細書における共刺激シグナル伝達領域は、共刺激分子を含む細胞内ドメインの一部を指す。共刺激分子は、抗原受容体またはリガンドではなく、抗原に対する効率的なリンパ球応答に必要とされる細胞表面分子である。
【0087】
リンカーは、細胞外ドメインとCARの膜貫通ドメインとの間、または細胞質ドメインとCARの膜貫通ドメインとの間に組み込むことができる。本明細書で使用される場合、「リンカー」という用語は、概して、膜貫通ドメインをポリペプチド鎖の細胞外または細胞質ドメインに連結するように機能する任意のオリゴペプチドまたはポリペプチドを指す。リンカーは、0~300アミノ酸、好ましくは2~100アミノ酸、および最も好ましくは3~50アミノ酸を含み得る。
【0088】
本発明の好ましい実施形態において、本発明によって提供されるCARの細胞外ドメインは、BCMAを標的とする抗原結合ドメインを含む。本発明のCARは、T細胞において発現される場合、抗原結合特異性に基づく抗原認識が可能である。これが同族抗原に結合するとき、これは、腫瘍細胞が増殖しないか、死滅させられるか、または他の方法で影響を受けるように、腫瘍細胞に影響を与える。これは、患者の腫瘍負荷の軽減または排除につながる可能性がある。抗原結合ドメインは、好ましくは、共刺激分子およびζ鎖のうちの1つ以上からの細胞内ドメインに融合される。好ましくは、抗原結合ドメインは、4-1BBシグナル伝達ドメインおよびCD3ζシグナル伝達ドメインとの組み合わせによって形成される細胞内ドメインに融合される。
【0089】
本明細書で使用される場合、「抗原結合ドメイン」および「単鎖抗体フラグメント」は、両方とも、抗原結合活性を有する、Fabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)2フラグメント、または単一のFvフラグメントを指す。Fv抗体は、抗体重鎖可変領域、軽鎖可変領域を含有するが、定常領域は含まず、これは、すべての抗原結合部位を有する最小の抗体断片である。典型的には、Fv抗体はまた、VHドメインとVLドメインとの間にポリペプチドリンカーを含有し、抗原結合のために必要とされる構造を形成することができる。抗原結合ドメインは通常、scFv(一本鎖可変断片)である。scFvのサイズは、概して、完全抗体の1/6である。一本鎖抗体は、好ましくは、1つのヌクレオチド鎖によってコードされるアミノ酸鎖配列である。本発明の好ましいモードとして、scFvは、BCMAを特異的に認識する抗体、好ましくは一本鎖抗体を含んでもよい。
【0090】
ヒンジ領域および膜貫通領域(膜貫通ドメイン)に関して、CARは、CARの細胞外ドメインに融合した膜貫通ドメインを含むように設計することができる。一実施形態において、膜貫通ドメインは、CAR内のドメインのうちの1つと自然に会合する。いくつかの例において、膜貫通ドメインは、このようなドメインが、同じかまたは異なる表面膜タンパク質の膜貫通ドメインへの結合を避けるために、アミノ酸置換によって、選択または修飾されてもよく、それによって、受容体複合体の他のメンバーとの相互作用を最小限に抑える。
【0091】
本発明のCARにおける細胞内ドメインは、4-1BBのシグナル伝達ドメインおよびCD3ζのシグナル伝達ドメインを含み得る。
【0092】
遺伝子サイレンシング方法
現在、一般的に使用されている遺伝子サイレンシング方法としては、CRISPR/Cas9、RNA干渉技術、TALEN(転写活性化因子様(TAL)エフェクターヌクレアーゼ)、およびジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)が挙げられ、中でもCRISPR/Cas9は、最適な用途の見込みおよび効果を有する。
【0093】
CRISPR(clustered regularly interspersed short palindromic repeats)/Cas(CRISPR関連)系は、原核生物特有の天然免疫系である。これは、ウイルスまたは異物プラスミドに対して使用される。II型CRISPR/Cas系は、直接RNA媒介性ゲノム編集のためのツールとして、多くの真核生物および原核生物に成功裏に適用されている。CRISPR/Cas9システムの開発は、DNA配列を編集し標的遺伝子の発現レベルを調節する能力に革命をもたらし、それによって、生物の正確なゲノム編集のための強力なツールを提供した。簡略化されたCRISPR/Cas9システムは、Cas9タンパク質およびsgRNAの2つの部分から構成される。作用機序は、sgRNAがそのCas9ハンドルを通じてCas9タンパク質とCas9-sgRNA複合体を形成すること、Cas9-sgRNA複合体中のsgRNAの塩基相補性ペアリング配列領域が、塩基相補性ペアリング原理に基づいて標的遺伝子の標的配列とペアリングされること、次いで、Cas9が、標的DNA配列を切断するために独自のエンドヌクレアーゼ活性を利用することである。従来のゲノム編集技術と比較して、CRISPR/Cas9システムは、使いやすさ、シンプルさ、低コスト、プログラマビリティ、および複数の遺伝子を同時に編集する能力といういくつかの明確な利点を有する。
【0094】
ベクター
所望の分子をコードする核酸配列は、例えば、遺伝子を発現する細胞からライブラリーをスクリーニングすること、遺伝子を含有することが知られているベクターから遺伝子を得ること、または標準的な技術を使用して遺伝子を含有する細胞および組織から遺伝子を直接単離することなどの、当該技術分野で既知の組換え方法を使用して得ることができる。あるいは、目的の遺伝子を合成的に産生することができる。
【0095】
本発明はまた、本発明の発現カセットが挿入されるベクターを提供する。レンチウイルス等のレトロウイルスに由来するベクターは、導入遺伝子の長期的で安定的な組み込みおよび娘細胞内でのその増殖を可能にするため、長期的な遺伝子移入を達成するために好適なツールである。レンチウイルスベクターは、肝細胞などの非増殖性細胞を形質導入することができるため、マウス白血病ウイルスなどの発がん性レトロウイルスに由来するベクターよりも利点がある。また、これらは、免疫原性が低いという利点もある。
【0096】
手短に概要を述べると、本発明の発現カセットまたは核酸配列は、典型的には、プロモーターに作用可能に連結され、発現ベクターに組み込まれる。ベクターは、真核細胞における複製および組み込みのために好適である。典型的なクローニングベクターは、転写および翻訳終結因子、初期配列、ならびに所望の核酸配列の発現を調節するために使用することができるプロモーターを含有する。本発明の発現構築物は、標準的な遺伝子送達プロトコルに基づく核酸免疫化および遺伝子治療においても使用され得る。遺伝子送達の方法は、当該分野において既知である。以下の文書、例えば、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる、米国特許第5,399,346号、同第5,580,859号、同第5,589,466号を参照することができる。別の実施形態において、本発明は、遺伝子治療ベクターを提供する。
【0097】
核酸は、様々なタイプのベクターにクローニングすることができる。例えば、核酸は、プラスミド、ファージミド、ファージ誘導体、動物ウイルス、およびコスミドを含むがこれらに限定されないベクターにクローニングされ得る。本明細書における特定の目的のベクターとしては、発現ベクター、複製ベクター、プローブ生成ベクター、および配列決定ベクターが挙げられる。
【0098】
さらに、発現ベクターは、ウイルスベクターの形態で細胞に提供することができる。ウイルスベクター技術は、当該技術分野において周知であり、例えば、Sambrook et al.(2001,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York)、および他のウイルス学および分子生物学マニュアルに記載されている。ベクターとして使用できるウイルスとしては、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、およびレンチウイルスが挙げられるが、これらに限定されない。一般に、好適なベクターは、少なくとも1つの生物において機能する複製起点、プロモーター配列、便利な制限酵素部位、および1つ以上の選択可能なマーカー(例えば、WO01/96584、WO01/29058、および米国特許第6,326,193号)を含有する。
【0099】
哺乳動物細胞への遺伝子導入のために、いくつかのウイルスベースのシステムが開発されてきた。例えば、レトロウイルスは、遺伝子送達システムのための便利なプラットフォームを提供する。選択された遺伝子は、当該技術分野において既知の技術を使用して、ベクターに挿入し、レトロウイルス粒子にパッケージすることができる。次いで、組換えウイルスを単離し、インビボまたはインビトロで対象細胞に送達することができる。当該技術分野において既知の多くのレトロウイルス系が存在する。いくつかの実施形態において、アデノウイルスベクターが使用される。当該分野において、既知の多くのアデノウイルスベクターが存在する。一実施形態において、レンチウイルスベクターが使用される。
【0100】
エンハンサーなどの追加のプロモーター要素は、転写開始の頻度を調節することができる。典型的には、これらは、開始部位の上流の30~110bpの領域に位置するが、最近、多くのプロモーターが、開始部位の下流にも機能的エレメントを含有することが示されてきた。プロモーター要素間の間隔は、要素が互いに反転または移動したときにプロモーター機能を維持することができるように、しばしば適応性がある。チミジンキナーゼ(tk)プロモーターにおいて、活性が低下し始める前に、プロモーター要素間の間隔を50bp増加させることができる。プロモーターに応じて、個々のエレメントは、協調的または独立して作用して、転写を開始し得る。
【0101】
好適なプロモーターの例は、前初期サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター配列である。このプロモーター配列は、それに作用可能に結合した任意のポリヌクレオチド配列の高レベル発現を駆動することができる強力な構成的プロモーター配列である。好適なプロモーターの別の例は、伸長成長因子-1α(EF-1α)である。しかしながら、シミアンウイルス40(SV40)初期プロモーター、マウス乳がんウイルス(MMTV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)長末端反復(LTR)プロモーター、MoMuLVプロモーター、鳥類白血病ウイルスプロモーター、エプスタイン-バーウイルス前初期プロモーター、Ruse肉腫ウイルスプロモーター、ならびにアクチンプロモーター、ミオシンプロモーター、ヘムプロモーター、およびクレアチンキナーゼプロモーターなどであるがこれらに限定されないヒト遺伝子プロモーターを含むが、これらに限定されない、他の構成的プロモーター配列も本明細書で使用され得る。さらに、本発明は、構成的プロモーターの使用に限定されない。誘導性プロモーターもまた、本発明の一部として考慮される。誘導性プロモーターの使用は、そのような発現が所望されるときに、誘導性プロモーターに作用可能に連結されたポリヌクレオチド配列の発現をオンにすることができるか、またはそのような発現が所望されないときに発現をオフにすることができる分子スイッチを提供する。誘導性プロモーターの例としては、メタロチオネインプロモーター、グルココルチコイドプロモーター、プロゲステロンプロモーター、およびテトラサイクリンプロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。
【0102】
CARポリペプチドまたはその一部の発現を評価するために、細胞に導入された発現ベクターはまた、ウイルスベクターによってトランスフェクトまたは感染されることが求められる細胞の集団からの発現細胞の識別および選択を容易にするために、選択可能なマーカー遺伝子およびレポーター遺伝子のいずれかまたは両方を含有してもよい。別の態様において、選択可能なマーカーは、単一のDNA上に保持されてもよく、共形質導入手順において使用されてもよい。選択可能なマーカーとレポーター遺伝子の両方は、宿主細胞におけるそれらの発現を可能にするために適切な調節配列に隣接することができる。有用な選択マーカーとしては、例えば、neoなどの抗生物質耐性遺伝子が挙げられる。
【0103】
レポーター遺伝子は、潜在的にトランスフェクトされた細胞を識別し、調節配列の機能性を評価するために使用される。典型的には、レポーター遺伝子は、レシピエント生物または組織に存在しないか、またはレシピエント生物または組織によって発現され、ポリペプチドをコードする遺伝子であり、加えて、ポリペプチドの発現は、酵素活性などのいくつかの容易に検出可能な特性によって明確に示される。DNAがレシピエント細胞に導入された後、レポーター遺伝子の発現は、適切な時点で測定され得る。好適なレポーター遺伝子としては、ルシフェラーゼ、ベータ-ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、分泌アルカリホスファターゼ、および緑色蛍光タンパク質をコードする遺伝子が挙げられる(例えば、Ui-Tei,et al.,2000 FEBS Letters 479:79-82)。好適な発現系は周知であり、既知の技術を使用して調製することができるか、または商業的に入手することができる。典型的には、レポーター遺伝子発現の最高レベルを示す最小5の隣接領域を有する構築物は、プロモーターとして識別される。プロモーター領域は、レポーター遺伝子に連結され、プロモーター駆動転写を調節する作用物質の能力を評価するために使用することができる。
【0104】
遺伝子を細胞に導入しそこで発現するための方法は、当該技術分野において既知である。発現ベクターの文脈において、ベクターは、当該技術分野で既知の任意の方法、例えば、哺乳動物、細菌、酵母または昆虫細胞によって、宿主細胞に容易に導入することができる。例えば、発現ベクターは、物理的、化学的、または生物学的手段によって宿主細胞に移入することができる。
【0105】
ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入する物理的方法としては、リン酸カルシウム沈殿、リポフェクション、粒子爆撃、マイクロインジェクション、エレクトロポレーションなどが挙げられる。ベクターおよび/または外因性核酸を含有する細胞を産生する方法は、当該技術分野においてよく知られている。例えば、Sambrook et al.(2001,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York)に対して参照がなされ得る。宿主細胞にポリヌクレオチドを導入する好ましい方法は、リン酸カルシウムトランスフェクションである。
【0106】
目的のポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための生物学的方法としては、DNAベクターおよびRNAベクターの使用が挙げられる。ウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターは、ヒト細胞などの哺乳動物細胞に遺伝子を挿入する最も広く使用される方法となっている。他のウイルスベクターは、レンチウイルス、ポックスウイルス、単純ヘルペスウイルスI、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルスなどに由来し得る。例えば、米国特許第5,350,674号および同第5,585,362号への参照がなされ得る。
【0107】
ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入する化学的手段としては、巨大分子複合体、ナノカプセル、マイクロスフィア、ビーズなどのコロイド分散系、ならびに水中油エマルション、ミセル、混合ミセル、およびリポソームを含む脂質ベースの系が挙げられる。インビトロおよびインビボ送達ビヒクルとしての使用のための例示的なコロイド系は、リポソーム(例えば、人工膜小胞)である。
【0108】
非ウイルス送達系が使用される場合、例示的な送達ビヒクルは、リポソームである。脂質製剤の使用は、(インビトロ、エキソビボ、またはインビボで)宿主細胞に核酸を導入するために考慮され得る。別の態様において、核酸は、脂質と会合することができる。脂質に付随した核酸は、リポソームの水性内部にカプセル化され、リポソームの脂質二重層内に散在され、リポソームおよびオリゴヌクレオチドの両方に付したリンカー分子を介してリポソームに結合され、リポソームに閉じ込められ、リポソームと複合体化され、脂質含有溶液中に分散され、脂質と混合され、脂質に付随され、特定の懸濁液として脂質に含有され、ミセルに含有され、またはミセルと複合体化され、またはそれ以外の場合、脂質に付随され得る。組成物に付随する脂質、脂質/DNA、または脂質/発現ベクターは、溶液中の任意の特定の構造に限定されない。例えば、それらは、ミセルとして二重層構造中に存在してもよく、または「崩壊した」構造を有してもよい。これらはまた、単純に溶液中に分散させることができ、場合によっては、サイズまたは形状が均一ではない凝集体を形成する。脂質は脂肪物質である。これらは、特定の天然に存在する脂質または合成脂質であり得る。例えば、脂質は、脂肪滴を含み得る。これらは、細胞質内、および長鎖脂肪族炭化水素およびそれらの誘導体、例えば、脂肪酸、アルコール、アミン、アミノアルコールおよびアルデヒドなどを含むそのような化合物中に天然に存在し得る。
【0109】
本発明の好ましい実施形態において、ベクターはレンチウイルスベクターである。
【0110】
調製
本発明は、本発明の第1の態様を含むCAR-T細胞と、薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤とを提供する。一実施形態において、調製物は、液体調製物である。好ましくは、調製物は、注射剤である。好ましくは、調製物中のCAR-T細胞の濃度は1×103~1×108細胞/mlであり、より好ましくは1×104~1×107細胞/mlである。
【0111】
一実施形態において、調製物は、中性緩衝生理食塩水、硫酸緩衝生理食塩水などの緩衝液、グルコース、マンノース、スクロースまたはデキストラン、マンニトールなどの炭水化物、タンパク質、ポリペプチドまたはグリシンなどのアミノ酸、抗酸化剤、EDTAなどのキレート剤、グルタチオン、アジュバント(例えば、水酸化アルミニウム)、および保存剤を含み得る。本発明の調製物は、静脈内投与のために好ましく製剤化される。
【0112】
治療用途
本発明は、本発明の第1の態様に記載されるCAR-T細胞の治療用途を含む。形質導入されたT細胞は、腫瘍細胞マーカーBCMAを標的とし、T細胞を相乗的に活性化し、T細胞免疫応答を引き起こし、それによって、腫瘍細胞に対する殺傷効率を著しく向上させることができる。
【0113】
上記に鑑み、本発明はさらに、哺乳動物における標的細胞集団または組織に対するT細胞媒介性免疫応答を刺激する方法を提供する。この方法は、哺乳動物に本発明のCAR-T細胞を投与する工程を含む。
【0114】
一実施形態において、本発明は、細胞治療方法のクラスを含む。患者の自己T細胞(または同種ドナー)を単離し、活性化し、遺伝子改変して、CAR-T細胞を産生し、次いでこれは、患者に注射される。このように、移植片対宿主病のリスクは極めて低くなり得る。抗原は、MHCを含まない方法でT細胞によって認識される。加えて、1つのCAR-Tは、同じ抗原を発現するすべてのがんを治療することができる。抗体療法とは異なり、CAR-T細胞はインビボで複製することができ、持続的な腫瘍制御をもたらすことができる長期持続性をもたらす。
【0115】
一実施形態において、本発明のCAR-T細胞は、長期間、堅牢なインビボT細胞増殖を受けることができる。加えて、CAR媒介性免疫応答は、CAR修飾T細胞が、CAR内の抗原結合ドメインに特異的な免疫応答を誘導する養子免疫療法手順の一部であり得る。例えば、抗BCMA CAR-T細胞は、BCMA発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導することができる。
【0116】
本明細書に開示されるデータは、抗BCMA scFv、ヒンジおよび膜貫通領域、ならびに4-1BBおよびCD3ζシグナル伝達ドメインを含むレンチウイルスベクターを具体的に開示するが、本発明は、構築物の各構成要素に対する任意の数のバリエーションを含むと解釈されるべきである。
【0117】
治療され得るがんとしては、血管新生していない、または実質的に血管新生していない腫瘍、ならびに血管新生している腫瘍が挙げられる。がんは、非固形腫瘍(血液腫瘍、例えば、白血病およびリンパ腫など)を含んでもよく、または固形腫瘍を含んでもよい。本発明のCARを用いて治療されるがんの種類としては、がん腫、芽細胞腫および肉腫、ならびに特定の白血病またはリンパ系悪性腫瘍、良性および悪性腫瘍、ならびに悪性腫瘍が挙げられるが、これらに限定されない。例としては、肉腫、がん腫および黒色腫が挙げられる。がんには、成人腫瘍/がんおよび小児腫瘍/がんも含まれる。
【0118】
血液がんは、血液または骨髄のがんであり得る。血液がん(または造血性がん)の例としては、急性白血病(急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病、急性骨髄性白血病および骨髄芽球、前骨髄球性白血病、骨髄単球性白血病、単球性白血病、および赤血球性白血病)、慢性白血病(慢性骨髄性(顆粒球性)白血病)、慢性骨髄性白血病、および慢性リンパ球性白血病)、真性赤血球増加症、リンパ腫、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫(無痛性および進行性の型)、多発性骨髄腫、ヴァルデンストロームマクログロブリン血症、重鎖病、骨髄異形成症候群、毛細胞白血病、および骨髄異形成を含む白血病が挙げられる。
【0119】
固形腫瘍は、典型的には嚢胞または液体の領域を含まない組織の異常な塊である。固形腫瘍は、良性または悪性であり得る。異なる型の固形腫瘍は、それらを形成する細胞型(肉腫、がん腫、およびリンパ腫など)にちなんで命名される。肉腫およびがん腫などの固形腫瘍の例としては、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、中皮腫、リンパ系悪性腫瘍、膵臓がん、および卵巣がんが挙げられる。
【0120】
本発明のCAR修飾T細胞はまた、哺乳動物のエキソビボ免疫化および/またはインビボ療法のためのワクチンの一種として使用され得る。好ましくは、哺乳動物はヒトである。
【0121】
エキソビボ免疫については、細胞を哺乳動物に投与する前に、i)細胞を拡大すること、ii)CARをコードする核酸を細胞に導入すること、および/またはiii)細胞を凍結保存することのうちの少なくとも1つをインビトロで行う。
【0122】
エキソビボ手順は、当技術分野において周知であり、以下に詳細に説明する。簡潔に述べると、細胞を哺乳動物(好ましくはヒト)から単離し、本明細書に開示されるCARを発現するベクターを用いて遺伝子組換え(例えば、インビトロで形質導入またはトランスフェクト)する。CAR修飾細胞は、治療的利益を提供するために哺乳動物レシピエントに投与することができる。哺乳動物レシピエントは、ヒトであってもよく、CAR修飾細胞は、レシピエントに対して自己由来であり得る。任意選択で、細胞は、レシピエントに対して同種異系、同系、または異種であり得る。
【0123】
細胞ベースのワクチンをエキソビボ免疫のために使用することに加えて、本発明は、患者において抗原に対する免疫応答を誘発するためのインビボ免疫化のための組成物および方法も提供する。
【0124】
本発明は、腫瘍を治療する方法であって、それを必要とする対象に、本発明による治療有効量のCAR修飾T細胞を投与することを含む、方法を提供する。
【0125】
本発明のCAR修飾T細胞は、単独で、あるいは、希釈剤および/またはIL-2、IL-17もしくは他のサイトカインもしくは細胞集団などの他の成分と組み合わせた薬学的組成物として、投与することができる。簡潔に述べると、本発明の薬学的組成物は、1つ以上の薬学的または生理学的に許容される、担体、希釈剤または賦形剤と組み合わせて、本明細書に記載の標的細胞集団を含み得る。このような組成物には、中性緩衝生理食塩水、硫酸緩衝生理食塩水などの緩衝液、グルコース、マンノース、スクロースまたはデキストラン、マンニトールなどの炭水化物、タンパク質、ポリペプチドまたはグリシンなどのアミノ酸、抗酸化剤、EDTAまたはグルタチオンなどのキレート剤、アジュバント(例えば、水酸化アルミニウム)、および保存剤が含まれ得る。本発明の組成物は、好ましくは、静脈内投与のために調製される。
【0126】
本発明の医薬組成物は、治療される(または予防される)疾患に適切な方法で投与され得る。投与の量および頻度は、患者の状態、ならびに患者の疾患の型および重症度などの要因によって決定され得るが、適切な用量は、臨床試験によって決定され得る。
【0127】
「免疫学的に有効な量」、「抗腫瘍有効量」、「腫瘍抑制有効量」、または「治療量」に言及する場合、投与される本発明の組成物の正確な量は、医師によって決定することができ、それは、患者(被験体)の年齢、体重、腫瘍サイズ、感染もしくは転移の程度、および状態における個人差を考慮に入れるべきである。本明細書に記載のT細胞を含む医薬組成物は、一般に、104~109細胞/kg体重、好ましくは105~106細胞/kg体重(範囲内のすべての整数値を含む)の用量で投与され得ることが示され得る。T細胞組成物は、これらの用量で複数回投与することもできる。細胞は、免疫療法において周知の注入技術を使用することによって投与され得る(Rosenberg et al.,New Eng.J.Med.319:1676,1988)。個々の患者に対する最適な投与量および治療レジメンは、疾患の兆候について患者を監視し、次いでそれに応じて治療を調整することによって、医療分野の当業者によって容易に決定することができる。
【0128】
組成物の対象への投与は、噴霧、注射、嚥下、注入、インプラント、および移植を含む任意の都合の良い方法で実施することができる。本明細書に記載の組成物は、皮下、皮内、腫瘍内、結節内、脊椎内、筋肉内、静脈内(i.v.)注射、または腹腔内で患者に投与することができる。一実施形態において、本発明のT細胞組成物は、皮内または皮下注射によって患者に投与される。別の実施形態において、本発明のT細胞組成物は、好ましくは、i.v.注射によって投与される。T細胞の組成物は、腫瘍、リンパ節、または感染部位に直接注射することができる。
【0129】
本発明のいくつかの実施形態において、活性化および増幅された細胞は、本明細書に記載の方法または当該技術分野で既知の他の方法を使用して、任意の数の関連する治療様式と組み合わせて、T細胞を治療レベルまで拡大し(例えば、前に、同時に、または後に)、患者に投与することができる。このような処置様式としては、以下の薬剤を用いる処置が挙げられるが、これらに限定されず、この薬剤は、抗ウイルス療法において使用され得、シドフォビルおよびインターロイキン-2、シタラビン(ARA-Cとしても知られる)、MS患者のためのナタリズマブ療法、乾癬患者のためのエルフェズマブ、またはPML患者のための他の処置であり得る。さらなる実施形態において、本発明のT細胞は、化学療法、放射線、シクロスポリン、アザチオプリン、メトトレキサート、ミコフェノール酸モフェチル、およびFK506などの免疫抑制剤、抗体または他の免疫療法剤と組み合わせて使用され得る。さらなる実施形態において、本発明の細胞組成物は、骨髄移植、フルダラビン等の化学療法剤、外部ビーム放射線療法(XRT)、シクロホスファミドと組み合わせて(例えば、前に、同時に、または後に)投与され、次いで患者に投与される。例えば、一実施形態において、対象は、高用量化学療法、続いて末梢血幹細胞移植による標準治療を受け得る。いくつかの実施形態において、移植後、被験体は、本発明の拡大した免疫細胞の注入を受ける。さらなる実施形態において、増幅細胞は、手術の前または後に投与される。
【0130】
患者に投与される上記治療の用量は、治療される状態の正確な性質および治療のレシピエントによって異なり得る。ヒト投与用の用量比は、当該技術分野で許容される慣行に従って実施され得る。典型的には、本発明の1×106~1×1010修飾T細胞(例えば、CAR-T20細胞)は、例えば、静脈内注入によって、各治療または各治療過程で患者に投与され得る。
【0131】
本発明の主な利点は以下の通りであり、
(a)本発明は、Tscm富化された第2世代のユニバーサルCAR-T細胞を提供し、これは、第1世代のユニバーサルCAR-T細胞よりも良好な増殖速度、表現型、IFN-γ放出能力および標的細胞に対する殺傷能力を示す。本発明のTscm富化T細胞(特に第2世代のユニバーサルCAR-T細胞)に基づいて、異なる標的に対する高度に活性なユニバーサルCAR-T細胞を調製することができる。
(b)本発明はまた、腫瘍標的(例えば、BCMAのC-CAR088を標的とするユニバーサルT細胞)を標的とするユニバーサルT細胞を調製し、これは、対応する腫瘍標的(例えば、BCMA腫瘍抗原)を発現する標的細胞を特異的に認識および殺傷することができる。
(c)本発明は、Tscm富化T細胞を作製する方法を提供し、この方法は、Tscm富化T細胞集団、特にユニバーサルCAR-T細胞集団を効率的に調製することができる。
【0132】
本発明を、特定の実施形態と併せて以下にさらに説明する。これらの実施形態は、本発明を例証するためにのみ使用され、本発明の範囲を限定するために使用されるものではないことが理解されるべきである。特定の実験条件を伴わない以下の実施形態の実験方法については、従来の実験条件に従って、例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)に記載されるように、または製造業者によって示唆されるように行った。本明細書で使用されるパーセンテージおよび部は、別段の指示がない限り、重量である。
【実施例】
【0133】
一般的な実験方法
1.BCMA-CARレンチウイルスの調製
本発明において、BCMAは、腫瘍細胞を標的とするCAR-T細胞を調製するための代表的な腫瘍関連特異的標的として使用される。
【0134】
0日目に、5×106 293T細胞を、ポリリジンで前処理した10mlのDMEM培地を含有する10cmのディッシュに配置した。細胞を37℃で一晩インキュベートした。1日目に、トランスフェクション試薬を調製した。リポフェクタミン3000試薬45.5μlをOMEMに合計500μl添加し、次いで室温で5分間インキュベートした。別のOMEMを、全容量500μlで調製し、次いで、10.7μgのBCMA-CARレンチウイルスベクター、34μgのPRP2プラスミド、1.8μgのPRP3プラスミド、2.3μgのPRM2プラスミド、および36.4μlのP3000試薬を添加した。2つの試薬を混合し、1.5mlのチューブに添加し、室温で15分間インキュベートした。すべてのトランスフェクション試薬を293T細胞培養液に添加し、細胞を37℃で6時間インキュベートした。完全培地を廃棄し、次いで、10mlのあらかじめ温めたDMEM培地を細胞に添加した。細胞を37℃で48時間インキュベートした。3日目に、培養上清を15mlのチューブに移し、2000gで10分間、室温で遠心分離した。次に、1mlごとの上清を1.5mlのチューブに慎重に分取し、後で使用するために-80℃で貯蔵した。
【0135】
2.抗CD3(クローンOKT3)抗体を用いるT細胞の刺激(3日目)
5μg/mlのフィブロネクチンおよび5μg/mlの抗CD3抗体を含有するPBS500μlを24ウェルプレートのウェルに添加し、プレートを37℃で3時間インキュベートした。PBSを除去し、ウェルを1mlのPBSで2回完全に洗浄した。プレートはT細胞刺激の準備ができていた。T細胞数を計数し、5×106個のT細胞を各ウェルに添加し、室温で5分間、100gで遠心分離した。上清を廃棄し、細胞を2.5mlのAIM-V培地中に再懸濁し、次いで抗CD3抗体をコーティングしたプレートに移した。次いで、プレートを37℃で72時間インキュベートした。
【0136】
3.CD3/CD28磁気ビーズによるT細胞の活性化
T細胞を、Dynabeads HumanT-Activator CD3/CD28磁気ビーズで活性化し、AIM-V培地中の細胞と1:1の比で混合した。72時間後、磁気ビーズを除去した。
【0137】
4.細胞培養
Tscm細胞培養:10% FBS、Glutamax、Pen/Strip、10ng/ml IL15、5ng/ml IL7、および10ng/ml IL21を含有するAIM-V培地中で、約1×106細胞/mlの密度で細胞培養を実行した。
【0138】
従来のT細胞培養:10% FBS、Glutamax、Pen/Strip、および200IU/ml IL2を補充したAIM-V培地で106細胞/mlの密度で細胞培養を行った。
【0139】
5.T細胞ヌクレオフェクション(0日目)
PCRチューブ内で、90pmolのAlt-R CRISPR-Cas9 crRNA抗TRAC(AGA GUC UCU CAG CUG GUA CAG UUU UAG AGC UAU GCU、配列番号1)を、90pmolのAlt-R CRISPR-Cas9 tracRNA(AGC AUA GCA AGU UAA AAU AAG GCU AGU CCG UUA UCA ACU UGA AAA GUG GCA CCG AGU CGG UGC UUU U、配列番号2)と混合した。
【0140】
別のPCRチューブにおいて、90pmolのAlt-R CRISPR-Cas9 crRNA抗B2M(GGC CAC GGA GCG AGA CAU CUG UUU UAG AGC UAU GCU、配列番号3)を、90pmolのAlt-R CRISPR-Cas9 tracRNAと混合した。
【0141】
上記チューブを95℃で5分間、次いで37℃で25分間インキュベートした。反応後、2つの試薬を試験管内で十分に混合した。9μgのCas9タンパク質を添加し、次いで室温で10分間インキュベートした。1×106個の活性化T細胞を100gで10分間、室温で遠心分離した。上清を除去し、細胞を、16.4μlのP3緩衝液および3.6μlの補充緩衝液を含有する20μlのヌクレオフェクション緩衝液中に再懸濁した。工程12で調製したCas9 RNP複合体を添加し、次いで十分に混合した。サンプルをヌクレオフェクションのためにストリップに移し、T細胞をヌクレオフェクションプログラムCA137でトランスフェクトした。トランスフェクションプロセスが完了した後、80μlのAIM-V培地をストリップに添加し、次いで試料を24ウェルプレート中のウェルに移し、最終総体積1mlに達するようにAIM-V培地を添加した。次いで、プレートを37℃で2時間インキュベートして、ウイルス形質導入の準備をした。
【0142】
6.T細胞のBCMA-CARレンチウイルス形質導入。
調製した凍結BCMA-CARレンチウイルス上清を、37℃の水浴中で完全に解凍するまで解凍した。1mlのBCMA-CARレンチウイルス上清をT細胞培養物に移し、最終総体積2mlの培養培地に到達させ、硫酸プロタミンを添加して最終濃度1μg/mlに到達させ、これを5回上下にピペッティングすることにより混合した。細胞を2000gで2時間、32℃で遠心分離した後、プレートを37℃のインキュベーターに移し、一晩培養した。1日目に上清1.5mlを慎重に取り出し、次いで、新鮮なAIM-V培地1.5mlを添加した。細胞増殖条件に応じて、培地を変更して、少なくとも1×106細胞/mlの細胞密度を維持した。
【0143】
7.T細胞精製(通常、6~8日目)
4×106T細胞を1.5mlのチューブに移し、100gで10分間、室温で遠心分離した。上清を廃棄し、細胞を、2%FBSを含有する100μlのPBS中に再懸濁した。2μlのビオチン-コンジュゲート抗HLA A/B/Cおよび2μlのビオチン-コンジュゲート抗CD3抗体を試料に添加し、4℃で30分間インキュベートした。4μlのビオチン単離混合物を試料に添加し、室温で15分間インキュベートした。5μlの急速球(rapidspheres)を添加し、試料を室温で10分間インキュベートした。試料を5mlのチューブに移し、次いで1.9mlのAIM-V培地を添加した。チューブをマグネット上に5分間配置した。上清を新しいチューブに移し、マグネット上に5分間置いた。T細胞を含有する上清を、24ウェルプレートのウェルに移した。
【0144】
8.FACS分析
(a).1×105T細胞を1.5mlのチューブに移し、1500rpmで10分間、室温で遠心分離した。上清を廃棄し、次いで、900μlのPBSを添加し、次いで、1500rpmで10分間、室温で遠心分離した。上清を廃棄し、細胞を、1μg/mlの組換えヒトBCMA Fcキメラタンパク質を含有する100μlのPBS中に再懸濁し、氷上で1時間インキュベートした。900μlのPBSを添加し、1500rpmで10分間、室温で遠心分離し、上清を廃棄した。細胞をPBS(1:1000Live/Dead aqua orange染色色素を含有する)中で再懸濁し、氷上で15分間インキュベートした。900μlのPBSを添加した後、1500rpmで10分間、室温で遠心分離し、上清を廃棄した。細胞を、2.5μlのAPC-Cy7-コンジュゲート抗CD3抗体、および2.5μlのV605-コンジュゲート抗HLA A/B/C抗体および100μlのPBS中の1;100APCコンジュゲート抗BCMA Fcキメラタンパク質抗体を含有するPBS中に再懸濁し、次いで氷上で30分間インキュベートした。900μlのPBSを添加し、1500rpmで10分間、室温で遠心分離し、上清を廃棄した。細胞は、300μlのPBS中に再懸濁し、試料は、FACS分析のために5mlのチューブに移した。
【0145】
T細胞集団は、まず、FSCおよびSSCによってグループ化した。Aqua orangeチャネルを生細胞と死細胞を区別するために使用し、APCチャネルを使用してBCMA-CAR陽性細胞を区別するために使用した。CD3およびHLA A/B/Cを使用して、CD3とHLA A/B/CダブルノックアウトT細胞を区別した。
【0146】
(b).1×105T細胞を1.5mlのチューブに移し、1500rpmで10分間、室温で遠心分離した。上清を廃棄し、次いで、900μlのPBSを添加し、1500rpmで10分間、室温で遠心分離した。上清を廃棄し、細胞をPBS(1:1000Live/Dead aqua orange染色色素を含有する)中に再懸濁し、氷上で15分間インキュベートした。900μlのPBSを添加し、1500rpmで10分間、室温で遠心分離し、上清を廃棄した。細胞を、2.5μlのAPCコンジュゲート抗CCR7抗体を含有する100μlのPBS中に再懸濁し、37℃で30分間インキュベートし、その後、2.5μlのPE-Cy7コンジュゲート抗CD45RA抗体、2.5μlのFITCコンジュゲート抗CD8抗体、および2.5μlのAPC-Cy7コンジュゲート抗CD3抗体を添加し、次いで氷上で30分間インキュベートした。900μlのPBSを添加し、1500rpmで10分間、室温で遠心分離し、上清を廃棄した。細胞は、300μlのPBS中に再懸濁し、試料は、FACS分析のために5mlのチューブに移した。
【0147】
9.ELISA
ELISAプレートを、ヒトIFN-γ Mabで1日、事前にコーティングした。ヒトIFN-γ Mabを1×PBSで希釈(1:1000)して1μg/mLにし、100μlの抗体を各ウェルに添加し、ELISAプレートをシーリングフィルムで密封し、4℃で一晩保存した。ELISAプレート内の液体を速やかに除去し、次いで、100μlのアッセイ緩衝液を各ウェルに添加し、シーリングフィルムで密封し、室温で30分間静置した。プレートを洗浄した:プレート内の液体を速やかに除去し、ピペットを用いてウェル当たり200μlで洗浄緩衝液を添加し、プレートを前述の手順で再度洗浄した。ヒトIFN-γビオチン標識Mabを調製し、アッセイ緩衝液(1:500)で希釈し、ウェル当たり50μlでELISAプレートに添加した。ヒトIFN-γ ELISA標準もまた、8つの勾配濃度(単位pg/ml)、2000、1000、500、250、125、62.5、31.25、および0で調製した。
【0148】
試料および標準物質を、100μl/ウェルでELISAプレートに添加した。次に、試料および標準物質を所望の濃度までアッセイ緩衝液で希釈し、シーリングフィルムで密封し、室温で1.5時間インキュベートした。プレートを洗浄した:プレート内の液体を速やかに除去し、ピペットを用いてウェル当たり200μlで洗浄緩衝液を添加し、プレートを4回洗浄した。HRPコンジュゲートストレプトアビジンを調製し、アッセイバッファー(1:5000)で希釈し、ELISAプレートのウェルごとに100μlを添加し、シーリングフィルムで密封し、室温で30分間インキュベートした。プレートを洗浄した:プレート内の液体を速やかに除去し、ピペットを用いてウェル当たり200μlで洗浄緩衝液を添加し、プレートを2回洗浄した。TMB基質を30分前に室温まで温め、ELISAプレートのウェル当たり100μlを添加した。室温で5~10分間の反応後、50μl/ウェルで停止溶液を添加した。450nmの波長での吸光度をマイクロプレートリーダーで検出した。標準品の濃度およびOD値に従って標準曲線を生成し、テスト試料のIFN-γ濃度を試料のOD値に従って計算した。
【0149】
10.細胞殺傷のRTCAリアルタイム分析
1日目:RTCA MPのオペレーティングソフトウェアを入力し、実験情報を入力した。RTCA用の96ウェルEプレート培養プレートを取り出し、50μlのF12完全培地をプレートの各ウェルに添加し、気泡を回避した。プレートをRTCA装置に追加し、操作ソフトウェアはセルを追加する前にバックグラウンドを読み取った。読み取り値が正常であることを確認した。培養したA549およびA549-BCMA細胞をトリプシン処理し、AO/PI細胞生存率キットを用いて、生存細胞をカウントし、続いて遠心分離を行った。これらの2つのタイプの腫瘍細胞を、F12完全培地中で4×105細胞/mlに到達するように再懸濁した。実験プロトコルに従って、バックグラウンドを読み取った後、Eプレートの各ウェルに、50μlの細胞懸濁液(すなわち、2×104個のA549細胞またはA549-BCMA細胞)を添加した。対照群、すなわち、T細胞をその後添加せずに腫瘍細胞単独として含めた3つのウェルとともに、各実験群に3つの複製ウェルを設定した。プレートを、細胞が均等に接着することを可能にするために、30分間、清潔なベンチに置いた。次いで、プレートをRTCA機器に配置し、操作ソフトウェアは、細胞インデックスの変化を記録し始めた。これは、15分に1回の読み取りとして設定し、総録画時間を4日超とした。
【0150】
2日目:T細胞を計数し、遠心分離後、T細胞をT細胞培地に再懸濁し、以下のように異なる濃度に希釈した:1×105/ml、5×104/ml、2.5×104/ml、および1.25×104/ml。RTCAソフトウェア記録を一時停止し、Eプレートを器具からクリーンベンチに取り出し、A549細胞の培養ウェルに100μlの1×105/mlのT細胞懸濁液を添加し、すなわち、T細胞対標的細胞の最終比率は0.5:1であり、A549-BCMA細胞の培養ウェルに1×105/ml、5×104/ml、2.5×104/ml、1.25×104/mlの100μlのT細胞懸濁液を添加し、すなわち、T細胞対標的細胞の最終比率は、それぞれ0.5:1、0.25:1、0.125:1、および0.0625:1である。EプレートをRTCA器具に戻し、細胞指標を、設定された終了時間に達するまで15分ごとに読み取った。実験後、データ解析を行った。一般に、T細胞添加前の最終時点を参照として使用し、T細胞を含まない腫瘍細胞単独の読み取り値を100%として設定し、T細胞の添加後の腫瘍細胞指数の変化を殺傷曲線に変換した。
【0151】
実施形態1 ユニバーサルT細胞におけるTRACおよびB2M遺伝子ノックアウトならびに精製率の分析
TRACのノックアウトは、細胞表面上のCD3発現の消失をもたらし得、B2Mのノックアウトは、細胞表面上のHLA A/B/C発現の消失をもたらし得る。したがって、遺伝子編集されたT細胞を抗HLA A/B/C抗体および抗CD3抗体で染色し、フローサイトメトリー分析を行い、TRACおよびB2Mのノックアウト率を調べた。
【0152】
結果を
図1に示す。TRAC遺伝子およびB2M遺伝子のダブルノックアウト効率は、Cas9 RNPおよびBCMA CAR形質導入を用いる遺伝子編集後7日目にT細胞において81.2%であった。精製後、ダブルノックアウト細胞は81.4%から99.4%に富化された。しかし、HLA A/B/Cゲートラインの下には、低いHLA A/B/C発現を有する少数のT細胞が存在した。
【0153】
実施形態2 BCMA CARのユニバーサルT細胞形質導入の効率
BCMA CARで形質導入されたT細胞のフローサイトメトリー分析を7日目に実施した。
【0154】
結果を
図2に示し、BCMA CAR形質導入効率は、異なる群間で類似していた(モック:Cas9 RNPヌクレオフェクションを伴わないT細胞、モック+CAR:Cas9 RNPヌクレオフェクションを伴わないがBCMA CARで形質導入されたT細胞、CAR:BCMA CARで形質導入されたT細胞、ダブルKO:Cas9 RNPヌクレオフェクション後のTRACおよびB2Mのダブルノックアウトを有するT細胞、ダブルKO+CAR:上記ダブルKO細胞をBCMA CARで形質導入することにより得られたT細胞)。
【0155】
以上の結果は、ヌクレオフェクションの遺伝子編集プロセスがCARの形質導入効率に影響を及ぼさないことを示す。
【0156】
実施形態3 標的細胞に対するユニバーサルBCMA CAR-T細胞の反応性
上記の異なるBCMA CAR-T細胞と、BCMA抗原を発現する標的A549-BCMA細胞との共培養後の上清中のIFN-γのレベルをELISAにより検出した。
【0157】
結果を
図3に示し、ダブルKO+CAR、標的細胞に関して遺伝子編集されたBCMA CAR-T細胞の反応性、すなわちIFN-γを放出する能力は、他の未編集の従来のBCMA CAR-T細胞と同様である。
【0158】
上記の結果は、ユニバーサルCAR-T細胞および自己CAR-T細胞の機能が類似していることを示す。
【0159】
実施形態4 第2世代のユニバーサルCAR-T細胞の調製
末梢血からナイーブT細胞(Tn)を富化し、フローサイトメトリー分析を行ってCCR7+CD45RA+ナイーブT細胞(Tn)を富化する効率を調べた。
【0160】
4.1 末梢血からのTn細胞の富化
その方法は以下の通りである。サイトカインを含まないAIM-V培地を使用してヒトPBMCを解凍し、次いで細胞を計数した。細胞を遠心分離し(300g、5分)、上清を廃棄し、細胞をPBSで5mlチューブ中に再懸濁した。ビオチン単離カクテルおよび抗TCRγ/δ抗体を添加し、室温で5分間インキュベートした。rapidSpheresを添加し、室温で3分間インキュベートした。サイトカインを含まないAIM-V培地を添加して2.5mlに到達させ、チューブを磁気スタンド上に3分間置いた。上清を新しい5mlチューブに移し、3分間磁気スタンド上に置いた。Tn細胞含有上清を新しい15mlチューブに移し、続いて細胞計数を行った。
【0161】
結果を
図4に示す。富化および精製の後、Tnの割合はPBMCの54.8%から97.3%に増加された。必要に応じて、富化および精製されたTn細胞をさらに拡大および培養することができる。例えば、拡大は、10%FBS、Glutamax、Pen/Strip、10ng/ml IL15、5ng/ml IL7、および10ng/ml IL21を含有するAIM-V培地中で、約10
6細胞/mlで行うことができる。
【0162】
4.2 第2世代ユニバーサルCAR-T細胞の調製
従来のT細胞を、4.1で調製した高精製Tn細胞に置き換えたことを除き、実施形態1~3を繰り返した。
【0163】
4.1で調製した高精製Tn細胞については、TRAC遺伝子およびB2M遺伝子をノックアウトした後、細胞にレンチウイルスを形質導入してBCMA CARを導入し、第2世代のユニバーサルCAR-T細胞を調製した。
【0164】
4.3 直接拡大法による第2世代ユニバーサルCAR-T細胞の調製(Tnの富化操作は省略)
第2世代のユニバーサルCAR-T細胞を調製するための別の方法は、以下の通りである。
【0165】
末梢血から富化した全T細胞(全T細胞)から開始して、細胞の拡大および培養のプロセスを、好適な条件下(例えば、10%FBS、Glutamax、Pen/Strip、10ng/ml IL15、5ng/ml IL7、および10ng/ml IL21を含むAIM-V培地中)で、約106細胞/mlの密度で実施した。これにより、Tn富化されたT細胞の集団が得られた(これらの条件下において、Tn細胞はより優先的かつ効率的に拡大する)。
【0166】
続く遺伝子ノックアウト(TRACおよび/またはB2Mのノックアウトなど)、レンチウイルス形質導入、および他の工程をさらに実施して、Tscm富化ユニバーサルCAR-T細胞、すなわち、第2世代のユニバーサルCAR-T細胞を得た。
【0167】
実施形態5 第2世代ユニバーサルT細胞の拡大効率
実施形態4.2で調製した第2世代のユニバーサルT細胞を計数した。
【0168】
結果を
図5に示し、第2世代のユニバーサルT細胞の増殖効率は他の2種類のCAR-T細胞よりも高い。7日後、これらの細胞の相対増殖率は16倍に達し、他の2種類のCARから得られた3~4倍よりもはるかに高かった。これは、第2世代のユニバーサルT細胞を調製するための培養条件が、CARを調製するための従来の条件よりもCAR-T細胞の増殖のためにより有利であることを示す。
【0169】
実施形態6 第2世代のユニバーサルCAR-T細胞産物における種々のT細胞サブタイプの割合
フローサイトメトリー表現型分析は、実施形態4.2で調製された第2世代のユニバーサルCAR-T細胞産物に対して実施した。
【0170】
結果を
図6に示すと、第2世代のユニバーサルCAR-T細胞産物におけるTscmの割合は70%近くであり、第1世代のユニバーサルCAR-T細胞産物(約30%)および自己CAR-T細胞(約20%)よりもはるかに高い。
【0171】
意外なことに、第2世代のユニバーサルCAR-T細胞において、de/弱分化細胞のバイオマーカーCCR7の割合は、76%まで高かった。加えて、第2世代のユニバーサルCAR-T細胞のMFI値は4534に達し、これは、第1世代のユニバーサルCAR-T細胞産物および自己CAR-T細胞の対応するMFI値よりもはるかに高かった。
【0172】
上記の結果は、本発明における第2世代のユニバーサルCAR-T細胞を調製するための条件が、高い割合のde/弱分化CAR-T細胞、すなわち、Tscm富化CAR-T細胞の産生を誘導するだけでなく、産生されたCAR-T細胞がより高い生存能および殺傷活性を有することを可能にすることを示す。
【0173】
実施形態7 第2世代のユニバーサルT細胞におけるBCMA CARの形質導入の効率
実施形態4.2で調製した第2世代のユニバーサルCAR-T細胞産物を、CAR発現率のフロー分析に供した。
【0174】
結果を
図7に示す。第2世代のユニバーサルCAR-T細胞産物においてBCMA CARの割合は83.4%に達し、第1世代のユニバーサルCAR-T細胞産物(60.8%)および自己CAR-T細胞(60.2%)よりも高かった。
【0175】
上記の結果は、本発明によって調製される第2世代のユニバーサルCAR-T細胞におけるCARの形質導入率は減少しないが、増加することを示す。
【0176】
実施形態8 標的細胞に対する第2世代のユニバーサルBCMA CAR-T細胞の反応性
上記の異なるBCMA CAR-T細胞とBCMA抗原を発現するA549-BCMA細胞との共培養後の上清中のIFN-γのレベルをELISAによって検出した。
【0177】
結果を
図8に示す。標的細胞に対する第2世代のBCMA CAR-T細胞の反応性、すなわち、IFN-γを放出する能力は、第1世代のユニバーサルBCMA CAR-T細胞および自己BCMA CAR-T細胞よりも有意に高かった。
【0178】
加えて、異なるエフェクター細胞:標的細胞比(1:2~1:16)において、第2世代ユニバーサルCAR-T細胞の標的細胞に対する反応性は、他の2つのタイプのCAR-T細胞のものよりも有意に良好である。これは、本発明の第2世代ユニバーサルCAR-T細胞が、対応する標的部位(腫瘍抗原、例えば、BCMAまたは他の標的部位など)を有する標的細胞に対して、より有意な反応性を有することを示唆する。
【0179】
実施形態9 標的細胞に対する第2世代のユニバーサルBCMA CAR-T細胞の殺傷能力
RTCAプラットフォームを使用した場合、上記3つのBCAM CAR-T細胞による標的細胞の死滅を4日間監視した。
【0180】
結果を
図9に示し、上述したIFN-γ放出実験の結果を繰り返して、第2世代のユニバーサルBCMA CAR-T細胞は標的細胞に最良の殺傷力を有する。
【0181】
図9の左パネルの細胞溶解曲線は、第2世代のユニバーサルBCMA CAR-T細胞が、他の2つのタイプのCAR-T細胞よりも標的細胞の殺傷においてより有効であることを示す。本明細書に示される結果は、1:8としての標的細胞に対するCAR-T細胞の比率の例である。しかしながら、同じ結論は、1:2、1:4、1:16の他のケースについても適用される(データは示されていない)。
【0182】
図9の右パネルのKT80グラフは、標的細胞の80%を殺傷するために必要な時間のグラフである。標的細胞に対するCAR-T細胞の異なる比率の下で、第2世代のユニバーサルBCMA CAR-T細胞による標的細胞の80%を殺傷するために要する時間は、他の2つのタイプのCAR-T細胞のものよりも有意に低いことが見て取れる。例えば、CAR-T細胞の数および標的細胞の数が1:8であった場合、第2世代のユニバーサル細胞が標的細胞の80%を殺傷するために約70時間を要したのに対し、他の2つのタイプのCAR-T細胞が同様の結果を得るためには約100時間を要し、これは第2世代のCAR-T細胞の約1.5倍の長さであった。
【0183】
CAR-T細胞の数が標的細胞よりもはるかに少ない場合(1:16)、他の2つのタイプのCAR-T細胞は、標的細胞の80%を殺傷するという目的さえ達成できず、第2世代のユニバーサルBCMA CAR-T細胞のみがこの殺傷目的を達成することができる。
【0184】
上記の結果は、第2世代のユニバーサルCAR-T細胞が、他の2つのタイプのCAR-T細胞よりも標的細胞の殺傷に有効であり、これは、標的細胞が多数存在する場合に特に顕著であることを示す。
【0185】
実施形態10
本実施形態において、T細胞を異なる条件下で拡大のために培養したが、添加したサイトカインが実施形態4と比較して変化したことを除いて、他の培養条件は同じのままであった。
【0186】
図10~13に示すように、異なる条件下、特に異なるサイトカインの存在下で、T細胞を培養し、IL1、IL7、およびIL21を添加することにより、Tscm細胞の富化を有意に増加させ、細胞増殖を促進し、BCMA CAR形質導入率を増加させ、IFN-γ放出を増加させることができた。
【0187】
本明細書に言及されるすべての文書は、各文書が個別に参照により本明細書に組み込まれるかのように、本出願に参照により組み込まれる。加えて、本発明の上記教示内容を読んだ後、当業者は、本発明に対して様々な変更または修正を行うことができることが理解されるべきである。これらの等価物はまた、本明細書に添付される特許請求の範囲によって規定される範囲内にある。
【手続補正書】
【提出日】2022-03-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】変更
【補正の内容】
【配列表】
【国際調査報告】