(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-17
(54)【発明の名称】その場で形成された吸水性ヒドロゲルを用いた植物の健康改善
(51)【国際特許分類】
A01G 7/00 20060101AFI20221007BHJP
【FI】
A01G7/00 602C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022507472
(86)(22)【出願日】2020-08-05
(85)【翻訳文提出日】2022-04-04
(86)【国際出願番号】 US2020044962
(87)【国際公開番号】W WO2021026206
(87)【国際公開日】2021-02-11
(32)【優先日】2019-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507124988
【氏名又は名称】バイエル クロップサイエンス エルピー
【氏名又は名称原語表記】BAYER CROPSCIENCE LP
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】チェンシー、チャン
(72)【発明者】
【氏名】アイリーン、シー
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ、エム.ラトリッジ
(72)【発明者】
【氏名】クリシュナン、パラニチャミー
(57)【要約】
ヒドロゲル形成成分は乾燥製剤または湿式製剤で土壌に施用してもよい。ヒドロゲル形成成分は、植物の根域、特に芝草などの標的領域に移行した後、濃度の変化などの引き金となる事象後に、その標的領域においてその場でヒドロゲルを形成する。本開示の組成物および方法は、有利には、組成物が施用される植物を耕やしたり、乱したりすることなく、既存の装置(例えば噴霧器など)を用いてヒドロゲル形成成分を直接施用することを可能にする。ヒドロゲル形成成分は、1以上の骨格、1以上の架橋剤、および任意に1以上のアジュバントを含んでなる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物が利用可能な土壌水分の保持を改善する方法であって、
a.ヒドロゲル形成成分を含んでなる組成物を土壌表面または土壌より上の植物部分に施用すること、および
b.前記土壌表面または土壌より上の植物部分に水を与えること
を含んでなり、
前記(b)の後、前記ヒドロゲル形成成分が、標的領域、任意に植物の根域においてその場でヒドロゲルを形成する
方法。
【請求項2】
前記ヒドロゲル形成成分が、1以上の骨格部分、1以上の架橋部分、および1以上のアジュバントを任意に含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
植物が利用可能な土壌水分の保持を改善する方法であって、
a.第1のヒドロゲル形成成分を、土壌表面または土壌より上の植物部分に施用すること、
b.第2のヒドロゲル形成成分を、土壌表面または土壌より上の植物部分に施用すること、
c.1以上の追加成分を、任意に土壌表面または土壌より上の植物部分に施用すること、および
d.前記土壌表面または土壌より上の植物部分に水を与えること
を含んでなり、
前記第1および第2のヒドロゲル形成成分は、独立して、1以上の骨格部分または1以上の架橋部分を含んでなり、
前記第1のヒドロゲル形成成分が1以上の骨格部分を含んでなる場合、前記第2のヒドロゲル形成成分が1以上の架橋部分を含んでなり、
前記第1のヒドロゲル形成成分が1以上の架橋部分を含んでなる場合、前記第2のヒドロゲル形成成分が1以上の骨格部分を含んでなり、
前記(a)~(d)の工程は任意の順序で行ってもよいし、前記(a)~(d)のいずれかの工程を任意に繰り返してもよい
方法。
【請求項4】
前記1以上の骨格部分がポリビニルアルコールを含んでなり、かつ前記1以上の架橋部分がホウ酸塩含有化合物を含んでなる、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記(a)において、前記ヒドロゲル形成成分が、水性製剤また乾燥製剤中に存在する、請求項1、2、または4に記載の方法。
【請求項6】
前記ホウ酸塩含有化合物が、ホウ酸カリウム、四ホウ酸カリウム、過ホウ酸カリウム、ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、または過ホウ酸ナトリウムを含んでなる、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記ホウ酸塩含有化合物がホウ酸カリウムを含んでなる、請求項4~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
1以上のアジュバントが存在し、土壌界面活性剤、湿潤剤、またはそれらの混合物を含んでなる、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
土壌界面活性剤が存在し、エチレンオキシド/プロピレンオキシド(EO/PO)共重合体を含んでなる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
土壌界面活性剤が存在し、非イオン性三元ブロック共重合体を含んでなる、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
土壌界面活性剤が存在し、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレンブロック重合体を含んでなる、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
土壌界面活性剤が存在し、式(I):
HO(C
2H
4O)
x(C
3H
6O)
y(C
2H
4O)
zH (I)、
(式中、yが少なくとも15であり、xおよびzがほぼ等しく、かつポリオキシエチレン含有量が前記化合物の総重量の10~80%である)
の化合物を含んでなる、請求項8、9、または11に記載の方法。
【請求項13】
xが8であり、yが30であり、かつzが8である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記(b)の後、前記ヒドロゲル形成成分が、植物の根域においてその場でヒドロゲルを形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記植物が芝草である、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、土壌添加剤に関連する方法および組成物に関し、特に、従来の噴霧装置を介して根域に送達でき、その結果として土壌非流動性のヒドロゲルポリマーをその場で形成することができる土壌流動性ポリマー形成成分に関する。本開示の組成物および方法において、目的のヒドロゲルポリマーは、表面を乱すことなく地面より下の標的域に送達することができる。
【背景技術】
【0002】
高い蒸発散量(ET、または飽差)の条件下(例えば、温暖で乾燥、または他の高飽差条件)であったり、水や労働投入量が低減すると、植物が必要としている利用可能な土壌水分を十分に保持することが困難となる。特に、葉がすぐに萎れてしまう集中管理された多年生植物の系または一年生植物の系、とりわけ根張りが浅く萎れが通常許容されない細かく刈られた芝草が該当する。萎れを克服し、枯渇した根域の水分を補充して土壌疎水性によって引き起こされる局所的なドライスポット(LDS)の形成を防ぐために、面倒な圃場偵察と繰り返しの水まきが標準の作業方法である。特に、温暖で乾燥した環境条件下であったり、水や労働投入量が低減すると尚更である。管理されたゴルフコースにおいては、例えば、1年のうち少なくとも3~4か月間はそのような状況が広く認められる。その間に萎れや土壌の乾燥が土壌の疎水化を招く恐れがあるため、このような状態は、影響を受けた領域を効果的に再湿潤化させうる前に改修しておく必要がある。
【0003】
根域水分の枯渇という問題を解決するための業界での1つの試みは、土壌界面活性剤(マイナーな区別で湿潤剤としても知られている)を一年のうちの脆弱な時期に繰り返し施用することである。土壌界面活性剤の施用はいくつかの恩恵をもたらすが、それらは主に根域内の土壌疎水性を改修する役割を果たし、それにより灌漑事象時により均一な土壌湿潤を促進する。しかし、製品の謳い文句にもかかわらず、土壌界面活性剤は土壌保水能に影響を及ぼさない。実際、土壌界面活性剤は、土壌断面のより深いところに水を流すことにより、根域上部において植物が利用可能な土壌水分を減少させる恐れがある。したがって、萎れを防ぐためには、それと同等かそれ以上の頻度で、圃場偵察と水まきが必要である。
【0004】
高吸水性ポリマー(SAP)を組み込むことにより、植物が利用可能な土壌水分を改善し、健康状態を改善し、根域に更なる土壌水分を保持することによって干ばつ状況下での収量損失を減らすことができる。SAPは架橋されたポリマーネットワーク構造を有し、元のSAPの体積の数倍から数百倍の水を保持することができる。SAPとしては、例えば、デンプン-アクリロニトリルグラフトポリマーの加水分解物、カルボキシメチルセルロース、架橋ポリアクリレート、架橋ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリルおよびポリエチレンオキサイドが挙げられる。
【0005】
年間作付体形の使用のために設計された(すなわち植え付け前または植え付け時に物理的に根域に組み込む)市販のSAPがある。そのような使用では、SAPは土壌添加剤として施用され、典型的には根域の近傍内に手作業または機械的に埋設される。そのため、これらのSAPは、灌漑水を施用したときに膨潤して水を保持でき、その後、間断日数または乾燥期に水を放出することができる。SAPの埋設は、典型的には土壌からあらゆる植物を一時的に取り除くことによって達成でき、典型的にはガーデニング型の施用で行われる。しかし、すべてまたは大部分の植物および/または土壌の表層を除去することは一般に現実的ではないか、金銭的に実行不可能であるため、広範囲の芝生や地中作物への施用などの大規模作業における欠点は明白である。また、十分な遂行を達成するためには一般に大量のSAPが必要となるため、このような施用には比較的高いコストがかかる。
【0006】
SAPなどの保水性土壌改良剤の土壌組み込みは、植物の要求を満たすための必要性に対処する上で有益であることが証明されているが、それはむしろ土壌への組み込みが可能であり、それに伴う乱れに耐え得る系に対しての狭量な解決策である。そして土壌への組み込みおよび表面乱れが選択肢に入らない植物系には適用されない。つまり、SAPの耕起(till-in)施用法は、通常、例えば、管理された芝草などの多年生の系には適さず、それはこのような表面乱れに耐えられない。
【0007】
SAPをその場で注入する装置を実装することによって、それらの欠点を対処することがいくつか試みられている。例えば、ポリマーを土壌に注入する試みで、改良型または標準型の耕運機、ウォータージェット噴射器、種まき機およびコアリング機を使用している。しかし、そのような方法には問題があることが分かってきている。これら前述した方法は、表土を乱し、植物または芝生に衝撃を与えて破壊する恐れがある。そのため、これらの方法はほとんど適しておらず、芝生および/または植物を敷設する、植え付ける、または生長させる前にSAPを挿入する必要がある。加えて、これら前述の方法では、均一または効率的に、あるいはSAPを最も必要とする領域にポリマーが散布されない場合がある。歴史的に、好適なポリマーが比較的高価なことがあり、前述の施用では費用対効果の高い方法で施用できないことで、事態はより悪化する。最後に、このような方法は、管理された芝草などの多年生植物の系には適さず、それは、前述のように、機械的な埋設であれ、注入であれ(それは、しばしば、芝生および/または植物を敷設する、植え付ける、または生長させる前にSAPの挿入を要する)、物理的な根域への組み込みにより生じる乱れに耐えられない。
【0008】
したがって、土壌水分保持を改善し疎水性を防ぐ生分解性ヒドロゲルポリマーを、その表面または現存の根系を物理的に乱すことなく多年生の根域に送達するための解決策が求められている。
【発明の概要】
【0009】
本開示によれば、根域水分の枯渇という問題を解決するための解決策は、従来の施用装置を介して、表面より下の土壌断面に、噴霧可能または拡散可能な植物に安全なヒドロゲル形成成分(すなわち「骨格」および「架橋剤」)を、任意に他のアジュバント(例えば、1以上の殺生物剤および/または界面活性剤)と併用して送達することである。一実施形態において、成分は従来の装置を利用して表面または葉面に施用された後、施用後の灌水または降雨により土壌断面に流される。流されたヒドロゲル形成成分は、その場で生じる一定の物理的または化学的プロセスによりヒドロゲル形成反応を引き起こす。一実施形態において、引き金となる事象として、土壌水分の自然蒸発による成分濃度の増加が挙げられる。
【0010】
他の実施形態において、従来の施用装置を使用することなく成分を送達する。例えば、最小限の表面乱れで直接土壌断面に成分を送達することができる。
【0011】
本開示との関係においては、ヒドロゲルは、例えば、架橋された親水性ポリマー、(共)重合親水性モノマーのポリマー、1以上の親水性モノマーを好適なグラフトベースとするグラフト(共)重合体、架橋されたセルロースエーテルまたはデンプンエーテル、架橋されたカルボキシメチルセルロース、水性液体中で膨潤性の部分架橋されたポリアルキレンオキシドまたは天然物、例えばグアー誘導体を包むと理解される。そのような親水性ポリマーおよびモノマーの更なる例は、米国特許出願公開第2010/0050506号明細書に記載されており、その文献は参照によりその全体が組み込まれる。本開示の目的上、ヒドロゲルとして機能できるものはいずれも本開示の範囲内である。
【0012】
一方では、ヒドロゲルポリマーには界面活性剤または湿潤剤とは大きく異なる種類の化学的性質がある。植物の種類に応じた最適量のヒドロゲルを根域に導入すると、潅漑および/または降雨事象時に植物が利用可能な土壌水分をそのヒドロゲルに保持させその後の土壌水分の蒸発および浸出を防ぎ止める。したがって、このような処理根域土壌では、高蒸発散条件下における植物の正常な機能をより長期間サポートするため、水分付与までの期間が延びても萎れにくくなる。ヒドロゲルの使用による更なる恩恵としては、例えば、芝生使用における植物以外の経路の水損失を防ぎ止めることが挙げられる。
【0013】
他方で、土壌水分保持能を改善するために、年間作付体系ではヒドロゲルポリマーおよびSAPを利用している。しかしながら、従来の施用によれば、根域への土壌非流動性ポリマーの物理的な組み込みを必要とする。管理された芝生のような多年生植物の系では、これらの組込み行為による表面妨害を容認できない。
【0014】
しかしながら、本開示の方法によれば、従来の噴霧装置を利用して根域に土壌流動性成分を送達した後、土壌非流動性ヒドロゲルポリマーをその場で形成する。したがって、表面を乱すことなく、地面より下の標的域にヒドロゲルポリマーを送達する。
【0015】
一実施形態において、土壌界面活性剤を本開示の組成物に組み込み土壌疎水性に対処する。本開示のヒドロゲルポリマー組成物に組み込むと、組み合わせた組成物により土壌内の疎水性ポケットを再湿潤可能で土壌の根域内に処方成分を留めることができるように、施用量を最適化することができる。したがって、目的の処方物は土壌水分保持と土壌疎水性活性の両方を同時に対処する。
【0016】
土壌非流動性である形成されたヒドロゲルを多年生植物の根域に置くことは困難である。しかしながら、植物に安全で土壌流動性の形成成分であれば、従来の装置(例えば噴霧器)を用いてそれら形成成分を標的の多年生植物の根域に効率的に置くことができ、根域におけるその後の反応によりその場でヒドロゲルを形成可能である。この革新的なアプローチによれば、多年生植物の表面を乱すことなく、根域に土壌非流動性製品(例えばヒドロゲル)の配置が可能である。実験室での概念実証試験、制御された環境および野外試験においてこのコンセプトは裏付けられており、顧客のニーズに応える革新的で差別化された水管理ツールに発展する可能性がある。一実施形態において、本開示の組成物および方法の標的は集中管理されたゴルフ芝である。
【0017】
本開示は、植物が利用可能な土壌水分の保持を改善するための組成物および方法を対象とする。
【0018】
本開示によれば、植物が利用可能な土壌水分の保持を改善するための方法は、
a.ヒドロゲル形成成分を含んでなる組成物を土壌表面または土壌より上の植物部分に施用すること、および
b.土壌表面または土壌より上の植物部分に水を与えること、
を含んでなる、から本質的になる、またはからなり、
(b)の後、前記ヒドロゲル形成成分は、標的領域、任意に植物の根域においてその場でヒドロゲルを形成する。
【0019】
また、本開示によるヒドロゲル形成成分は段階的に施用してもよい。
【0020】
また、本開示によれば、植物が利用可能な土壌水分の保持を改善する方法は、
a.第1のヒドロゲル形成成分を、土壌表面または土壌より上の植物部分に施用すること、
b.第2のヒドロゲル形成成分を、土壌表面または土壌より上の植物部分に施用すること、
c.1以上の追加成分を、任意に土壌表面または土壌より上の植物部分に施用すること、および
d.土壌表面または土壌より上の植物部分に水を与えること、
を含んでいてもよく、から本質的になってもよく、またはからなってもよく、
前記第1および第2のヒドロゲル形成成分は、独立して、1以上の骨格部分または1以上の架橋部分を含んでなる、それらから本質的になる、またはそれらからなり、
前記第1のヒドロゲル形成成分が、1以上の骨格部分を含んでなる、それらから本質的になる、またはそれらからなる場合、前記第2のヒドロゲル形成成分は、1以上の架橋部分を含んでなる、それらから本質的になる、またはそれらからなり、
前記第1のヒドロゲル形成成分が、1以上の架橋部分を含んでなる、それらから本質的になる、またはそれらからなる場合、前記第2のヒドロゲル形成成分は、1以上の骨格部分を含んでなる、それらから本質的になる、またはそれらからなり、
前記(a)~(d)の工程は任意の順序で行ってもよいし、前記(a)~(d)のいずれかの工程を任意に繰り返してもよい。
【0021】
本開示の組成物および方法において、表面を乱すことなく、地面より下の標的域に目的のヒドロゲルポリマー(またはその個別の成分)を送達することができる。あるいは、土壌表面が乱れた後に、地面より下の標的域に目的のヒドロゲルポリマー(またはその個別の成分)を施用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
本開示の非限定的な実施形態を、ここで、単なる例示としてのみ、以下の図を参照しながら説明する。
【
図1】
図1は、実施例1の研究データの根域水分保持に対する圃場容水量の割合を示す。
【
図2】
図2は、実施例2の研究データの根域体積含水率を示す。
【
図3】
図3A~Dは、実施例2の5日目(
図3A)、9日目(
図3B)、13日目(
図3C)、および22日目(
図3D)の評価日における時間領域反射で測定した試料土壌水分データを示す。
【
図4】
図4は、実施例3の芝品質の視覚的評価を示す。
【
図5】
図5A~Bは、実施例4の区画面積に対する局所ドライスポットの発生率の割合を示す。
【発明の具体的説明】
【0023】
本開示によれば、植物が利用可能な土壌水分の保持を改善するための方法は、
a.ヒドロゲル形成成分を含んでなる組成物を土壌表面または土壌より上の植物部分に施用すること、かつ
b.土壌表面または土壌より上の植物部分に水を与えること、
を含んでなる、から本質的になる、またはからなり、
ここで、(b)の後、ヒドロゲル形成成分は、標的領域、任意に植物の根域においてその場でヒドロゲルを形成する。
【0024】
また、本開示によるヒドロゲル形成成分は段階的に施用してもよい。
【0025】
また、本開示によれば、植物が利用可能な土壌水分の保持を改善する方法は、
a.第1のヒドロゲル形成成分を、土壌表面または土壌より上の植物部分に施用すること、
b.第2のヒドロゲル形成成分を、土壌表面または土壌より上の植物部分に施用すること、
c.1以上の追加成分を、任意に土壌表面または土壌より上の植物部分に施用すること、および
d.土壌表面または土壌より上の植物部分に水を与えること、
を含んでいてもよく、から本質的になってもよく、またはからなってもよく、
前記第1および第2のヒドロゲル形成成分は、独立して、1以上の骨格部分または1以上の架橋部分を含んでなる、それらから本質的になる、またはそれらからなり、
前記第1のヒドロゲル形成成分が、1以上の骨格部分を含んでなる、それらから本質的になる、またはそれらからなる場合、前記第2のヒドロゲル形成成分は、1以上の架橋部分を含んでなる、それらから本質的になる、またはそれらからなり、
前記第1のヒドロゲル形成成分が、1以上の架橋部分を含んでなる、それらから本質的になる、またはそれらからなる場合、前記第2のヒドロゲル形成成分は、1以上の骨格部分を含んでなる、それらから本質的になる、またはそれらからなり、かつ
ステップ(a)~(d)を任意の順序で行ってもよく、ステップ(a)~(d)のいずれかを任意に繰り返してもよい。
【0026】
例えば、第1の追加成分を土壌表面または土壌より上の植物部分に施用してもよく、土壌表面または土壌より上の植物部分に灌水してもよく、第1のヒドロゲル形成成分を土壌表面または土壌より上の植物部分に施用してもよく、第2の追加成分を土壌表面または土壌より上の植物部分に施用してもよく、土壌表面または土壌より上の植物部分に灌水してもよく、第2のヒドロゲル形成成分を土壌表面または土壌より上の植物部分に施用してもよく、土壌表面または土壌より上の植物部分に灌水してもよい。
【0027】
本開示の組成物および方法においては、表面を乱すことなく、地面より下の標的域に目的のヒドロゲルポリマー(またはその個別の成分)を送達することができる。あるいは、土壌表面が乱れた後に、地面より下の標的域に目的のヒドロゲルポリマー(またはその個々の成分)を施用することもできる。
【0028】
一実施形態において、組成物は1以上のアジュバントをさらに含んでなる。一実施形態において、1以上のアジュバントは、湿潤剤、土壌界面活性剤、またはそれらの混合物を含んでなる。
【0029】
一実施形態において、組成物は1以上の殺生物剤、消泡剤、農薬、殺虫剤、除草剤、および/または殺菌剤をさらに含んでなる。
【0030】
一実施形態において、1以上の追加成分は1以上のアジュバント、殺生物剤、農薬、殺虫剤、除草剤、および/または殺菌剤を含んでなる。一実施形態において、1以上のアジュバントは、湿潤剤、土壌界面活性剤、またはそれらの混合物を含んでなる。
【0031】
[骨格および架橋部分]
ヒドロゲルの合成に適したポリマーの非限定的な例としては、ポリ(プロピレングリコール)もしくはポリ(エチレングリコール)のような化学的または物理的に架橋された官能基化または非官能基化ポリアルキルオキシベースポリマー、デキストラン、キトサン、ヒアルロン酸やその誘導体、アルギン酸塩、キシラン、マンナン、カラギーナン、アガロース、セルロース、デンプン、ヒドロキシエチルスターチ(HES)や他の炭水化物ベースポリマー、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(オキサゾリン)、ポリ(無水物)、ポリ(オルトエステル)、ポリ(カーボネート)、ポリ(ウレタン)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(ヒドロキシプロピルメタクリルアミド)(HMPA)などのポリ(アクリルアミド)、ポリ(アクリレート)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)のようなポリ(メタクリレート)、ポリ(オルガノホスファゼン)、ポリ(シロキサン)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(シアノアクリレート)、ポリ(乳酸)またはポリ(グリコール酸)などのポリ(エステル)、ポリ(イミノカーボネート)、ポリ(グルタミン酸)またはポリリジンなどのポリ(アミノ酸)、コラーゲン、ゼラチン、共重合体、グラフト共重合体、架橋ポリマー、ヒドロゲル、および例示したポリマーのブロック共重合体が挙げられる。
【0032】
これらのポリマーは、骨格部分または架橋部分として機能することができる。オリゴマーやポリマー架橋部分の他に、親水性の高分子量骨格部分をヒドロゲル形成に使用する場合は特に、低分子量架橋部分を使用してもよい。
【0033】
好ましい物理的または化学的な架橋方法は当業者に公知であって、W. E. Hennink and C. F. van Nostrum, Adv. Drug Del. Rev. 2002, 54, 13-36に記載されており、当該記載は参照されることにより本願明細書の開示の一部とされる。
【0034】
一実施形態において、骨格部分は、ポリビニルアルコール(PVA)を含んでなる、それから本質的になる、またはそれからなる。
【0035】
PVAには、分子量、重合度および加水分解度が異なる多様な種類が存在する。当技術分野の業界では一般に分子量の違いを溶液粘度で表している。本開示によれば、PVAを含んでなる、それから本質的になる、またはそれからなる骨格部分は、当業者に許容可能な任意の一般的な分子量、重合度、および加水分解度であってもよい。一実施形態において、PVAの重合度は、約150~約2200の範囲である。一実施形態において、ブルックフィールド同期モーター回転型(synchronized-motor rotary type)を用いて測定した20℃におけるPVAの4%重量/重量溶液の粘度は、約3~約72cpsの範囲である。一実施形態において、PVAの加水分解度は、約70%から約99.8%の範囲である。一実施形態において、PVAの平均分子量の範囲は、約13,000~約186,000の範囲である。
【0036】
一実施形態において、本開示のPVAは適度な重合度と加水分解度を有するものであり、例えば、加水分解度が88%で20℃での4%水溶液の粘度が5cpsであるPVAを例示できる。
【0037】
一実施形態において、カルボキシレート側鎖を有するPVA代替物などのように、PVAを修飾してもよい。
【0038】
架橋部分または架橋剤は、2以上の重合性官能基を有する化合物である。架橋剤の例としては、グルタルアルデヒドやグリオキサールなどの脂肪族ジアルデヒド、マレイン酸、フマル酸やスルホコハク酸などの脂肪族ジカルボン酸、フタル酸やテレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、クエン酸やアコニット酸などの脂肪族トリカルボン酸、ヘキサメチレンジイソシネートなどの脂肪族ジイソシアネート、ホウ酸や他のホウ酸塩含有化合物などの非直鎖架橋剤、およびそれらの組み合わせなどが挙げられる。
【0039】
他の架橋剤としては、限定するものではないが、TEGDMA(テトラエチレングリコールジメタクリレート)、TrEGDMA(トリエチレングリコールジメタクリレート)、EGDMA(エチレングリコールジメタクリレート)、およびそれらの組み合わせなどが挙げられる。
【0040】
一実施形態において、架橋剤はホウ酸塩含有化合物である。一実施形態において、ホウ酸塩含有化合物は、ホウ酸カリウム、四ホウ酸カリウム、過ホウ酸カリウム、ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、もしくは過ホウ酸ナトリウムを含んでなる、それから本質的になる、またはそれからなる。
【0041】
一実施形態において、ホウ酸塩含有化合物は、ホウ酸カリウムを含んでなる、それから本質的になる、またはそれからなる。ホウ酸カリウムは、例えば、水酸化カリウムとホウ酸とを水溶液中で反応させることによって得てもよいし、ホウ酸カリウムを水に溶解することによって得てもよい。ポリビニルアルコールとホウ酸カリウムとの組み合わせは、良好な効率とし、優れた植物安全性を提供し、環境に優しい。
【0042】
他の実施形態において、ホウ酸塩含有化合物は、四ホウ酸カリウム四水和物を含んでなる、それから本質的になる、またはそれからなる。他の実施形態において、ホウ酸塩含有化合物は、例えばナトリウムなどの他のカウンターカチオン(すなわち、ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、ホウ砂など)を含んでなる。
【0043】
[アジュバント]
一実施形態において、本開示の組成物はさらに1以上のアジュバントを含んでなる、それから本質的になる、またはそれからなる。あるいは、少なくとも1つの追加成分は、1以上のアジュバントを含んでなる、それから本質的になる、またはそれからなる。一実施形態において、1以上のアジュバントは、土壌界面活性剤、湿潤剤、またはそれらの混合物を含んでなる。
【0044】
一実施形態において、土壌界面活性剤は、乳化型または湿潤型であってよく、カチオン性、アニオン性または非イオン性であってよい。
【0045】
他の実施形態において、土壌界面活性剤は、アニオン性または非イオン性であることが好ましい。
【0046】
アニオン性土壌界面活性剤は限定されるものではなく、例えばポリアクリル酸の塩もしくはリグノスルホン酸の塩、フェノスルホン酸の塩もしくはナフタレンスルホン酸の塩、スルホコハク酸の塩もしくはエステル塩、またはポリエトキシル化リン酸エステルなどのリン酸エステルが挙げられる。
【0047】
非イオン性土壌界面活性剤は限定されるものではなく、例えばエチレンオキシドと、脂肪アルコールまたは脂肪酸または脂肪アミンまたは置換フェノール(特にアルキルフェノールまたはアリールフェノール)との重縮合物、ストレートブロック共重合体やリバースブロック共重合体の両方を含むブロック共重合体のほか、変性メチルキャップドブロック共重合体、アルキルポリグルコシド界面活性剤、フミン物質再分配分子、およびランダム共重合体やスター型高分子界面活性剤などの多分岐再生湿潤剤が挙げられる。例えば、アルキルポリグルコシドとブロック共重合体の両方を含有するものなど、ブレンドされた非イオン性土壌界面活性剤も非イオン性土壌界面活性剤の例として企図される。一実施形態において、界面活性剤は、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレンブロック重合体を含んでなる。一実施形態において、界面活性剤は、式(I):
HO(C2H4O)x(C3H6O)y(C2H4O)zH (I)、
(式中、yが少なくとも15であり、xおよびzがほぼ等しく、かつポリオキシエチレン含有量が化合物の総重量の10~80%である)の化合物を含んでなる。一実施形態において、界面活性剤は、xが8であり、yが30であり、かつzが8である式(I)の化合物を含んでなる。
【0048】
例えば、1層以上の撥水性または疎水性土壌層がある場合、土壌への水の浸透を促進するためにいくつかの用途で界面活性剤を使用することができる。そのような例では、水は疎水性層の上部を横方向に流れる傾向があり、その後に排水路(例えば優先流路)に方向転換され、そうして疎水性層を通して水が流れる。この効果は、分配流(distribution flow)またはフィンガー流としても知られ、疎水性層の下での均一な湿潤を低減させるが、表面活性剤としての界面活性剤の使用により解消することができる。疎水性表面または疎水性ポケットを有する土壌に本開示の組成物を施用する場合、組成物に含まれるアジュバントは、標的となる根域や部分への進入と、局所ドライスポットへの送達の両方を促進する。
【0049】
[根域]
植物の根域は、他の要因の中でも、植物、土壌の種類、土壌の履歴、栽培活動などに応じて一般的に多様であるが、通常、土壌表面より下、約6m未満にある。一実施形態において、本開示のヒドロゲル形成成分によりその場でヒドロゲルを形成する深さは、土壌表面より下、6m以内であり、より典型的には0.3~1.8mである。
【0050】
[植物または植物部位]
「植物」とは、植物全体、植物の器官(例えば、葉、茎、根など)、種子、植物細胞、栄養繁殖体、胚やそれらの子孫を意図している。植物細胞は、分化したものでも、未分化のものでもよい(例えば、カルス、懸濁培養細胞、プロトプラスト、葉の細胞、根の細胞、師管細胞、花粉)。「植物部位」とは、シュート、葉、花、根など、地上や地下の植物のすべての部分や器官を意味すると理解されるものであり、例えば、葉、針葉樹の葉、花梗、茎、花、子実体、果実や種子、さらには根、塊茎および根茎が挙げられる。
【0051】
[取り扱われる植物]
本明細書に示される組成物、成分、および方法は、園芸、プランテーション、都市林、芝生、景観、ゴルフコース、スポーツ場、公園、および商業地域で使用される植物に施用することができる。
【0052】
[芝草]
本発明は、芝草などの芝生または他の観賞目的に使用されるものや、食物として使用されたり、人間や動物の消費のための穀物を生産するためのものを含む、すべての草に対して実施することができる。芝草のなかには、ライグラスなどの、食物にも美観目的にも使用できるものがある。
【0053】
一実施形態において、本発明の組成物、成分、および方法は、芝草に施用されるが、芝草は典型的には寒地型芝草と暖地型芝草に分類される。本発明の組成物、成分、および方法は、暖地型芝草または寒地型芝草のいずれにも施用することができる。
【0054】
使用可能な芝生の種類としては、クリーピングベントグラス、コロニアルベントグラス、アニュアルブルーグラス、他のポア種の芝生、バミューダグラス、ライグラスの他、ゴルフコース、スポーツ場、商業地レクリエーションエリアや芝生農場の他の一般的な芝生が挙げられる。
【0055】
寒地型芝草の例としては、ケンタッキーブルーグラス(ポア・プランテンスィス(Poa pratensis)L.)、ラフブルーグラス(ポアトリビアリス(Poa trivialis)L.)、カナダブルーグラス(ポアコンプレッサ(Poa compressa)L.)、一年生ブルーグラス( ポア・アンヌア(Poa annua)L.)、アップランドブルーグラス(ポア・グラウカンサ(Poa glaucantha)Gaudin)、ウッドブルーグラス(ポア・ネモラリス(Poa nemoralis)L.)、およびバルバスブルーグラス(Poa bulbosa L.)などのブルーグラス(ポア属);クリーピングベントグラス(アグロスティス・パルストリス(Agrostis palustris)Huds.)、コロニアルベントグラス(アグロスティス・テヌイス(Agrostis tenius)Sibth.)、ベルベットベントグラス(アグロスティス・カニーナ(Agrostis canina)L.)、サウスジャーマンミックスドベントグラス(アグロスティス・テヌイス(Agrostis tenuis)Sibth.、アグロスティス・カニーナ(Agrostis canina)L.、およびアグロスティス・パルストリス(Agrostis palustris)Huds.を含むアグロスティス(Agrostis)属)、およびレッドトップ(アグロスティス・アルバ(Agrostis alba)L.)などのベントグラスおよびレッドトップ(アグロスティス(Agrostis)属);レッドフェスク(フェスツカ・ルブラ(Festuca rubra)L.エスピーピー・ルブラ(rubra))、クリーピングフェスク(フェスツカ・ルブラ(Festuca rubra)L.)、チューイングフェスク(フェスツカ・ルブラ(Festuca rubra)コムタタ(commutata)Gaud.)、シープフェスク(フェスツカ・オビナ(Festuca ovina)L.)、ハードフェスク(フェスツカ・ロンギホリア(Festuca longifolia)Thuill.)、ヘアフェスク(フェスツカ・カピラタ(Festucu capillata)Lam.)、トールフェスク(フェスツカ・アルンディナセア(Festuca arundinacea)Schreb.)、およびメドウフェスク(フェスツカ・エラノル(Festuca elanor)L.)などのフェスキュ(フェスク(Festucu)属);一年生ライグラス(ロリウム・ムルティフロルム(Lolium multiflorum)Lam.)、多年生ライグラス(ロリウム・ペレンヌ(Lolium perenne)L.)、イタリアンライグラス(ロリウム・ムルティフロルム(Lolium multiflorum)Lam.)などのライグラス(ロリウム(Lolium)属);ならびにフェアウェイウィートグラス(アグロピロン・クリステータム(Agropyron cristatum)(L.)Gaertn.)、クレステッドウィートグラス(アグロピロン・デセルトルム(Agropyron desertorum)(Fisch.)Schult.)、およびウェスタンウィートグラス(アグロピロン・スミチイ(Agropyron smithii)Rydb.)などのウィートグラス(アグロピロン(Agropyron)属)が挙げられる。他の寒地型芝草の例としては、ビーチグラス(アンモフィラ・ブレビリグラタ(Ammophila breviligulata)Fern.)、スムースブロムグラス(ブロムス・イナミス(Bromus inermis)Leyss.))、ガマ、例えばチモシー(フレウム・プラテンセ(Phleum pratense)L.)、サンドカットテイル(フレウム・サブラタム(Phleum subulatum)L.)、オーチャードグラス(ダクチリス・グロメラタ(Dactylis glomerata)L.)、ウィーピングアルカリグラス(プッシネリア・ディスタンス(Puccinellia distans)(L.)Parl.)およびクシガヤ(シノスルス・クリステータス(Cynosurus cristatus)L.)が挙げられる。
【0056】
暖地型芝草の例としては、バミューダグラス(サイノドン(Cynodon)属 L.C.Rich)、ゾイシアグラス(ゾイシア(Zoysia)属 Willd.)、セントオーガスティングラス(ステノタフルム・セクンダツム(Stenotaphrum secundatum)Walt Kuntze)、センティペデグラス(エレモクロア・オフィウロイデス(Eremochloa ophiuroides) Munro Hack.)、カーペットグラス(アクソノプス・アフィニス(Axonopus affinis)Chase)、バヒアグラス(パスパラム・ノテータム・フルッゲ(Paspalum notatum Flugge))、キクイグサ(ペンニセツム・クランデスチヌム(Pennisetum clandestinum) Hochst. ex Chiov.)、バッファローグラス(ブクロエ・ダクチロイデス(Buchloe dactyloids)(Nutt.)Engelm.)、ブルーグラマ(ボウテロウア・グラシリス(Bouteloua gracilis) (H.B.K.) Lag. ex Griffiths)、シーショアパスパラム(パスパラム・バギナタム・スワルツ(Paspalum vaginatum Swartz))、およびアゼガヤモドキ(ボウテロウア・カルチペンデュラ(Bouteloua curtipendula)(Michx.Torr.))が挙げられる。
【0057】
既述の組成物および成分は、健康な芝や病気の芝に施用してもよい。水灌漑が低減する状態の前に芝に予防的に施用すると、水ストレスを軽減し、芝生の品質、密度、色、および/または植物細胞の膨潤を改善するのに役立つ可能性がある。何らの理論に限定されるものではないが、本発明の組成物および成分を芝生に施用すると、ダラースポット、葉腐病、炭疽病、灰斑病の他、ゴルフコース、スポーツ場や芝生農場の病害など、1以上の芝の病害の治療にも役立つ可能性がある。既述の組成物および成分は夏場における減水状態時に、芝の品質、密度、色、および/または植物細胞の膨潤を改善するのにも役立つ可能性がある。
【0058】
[施用量]
本発明の組成物および成分を使用する場合、施用の種類に応じて、比較的広い範囲で施用量を変更することができる。組成物の施用量は、一般に約0.1~約50,000g/haである。一実施形態において、組成物の施用量は、約0.5~約20,000g/haであってもよい。
【0059】
また、1ヘクタールあたりとして、約9~約935リットル、約9~約470リットル、約1~約94リットル、約1~約47リットル、約1~約37リットル、約1~約28リットル、約19~約94リットル、約19~約47リットル、約9~37リットル、約9~約28リットルで実施形態の組成物を施用してもよい。
【0060】
他の実施形態において、1,000平方メートルあたりとして、約41~約4,100リットル、約41~約2,050リットル、約41~約410リットル、約41~約205リットル、または約41~約82リットルで組成物を施用してもよい。
【0061】
他の実施形態において、1,000平方メートルあたりとして、約31~31,800ml、約310~約15,900ml、約310~約3,100ml、または約310~約1,900mlで組成物を施用してもよい。
【0062】
[組成物処方]
本開示によれば、水性または乾燥製剤中に様々な濃度で骨格および架橋剤を組合せてもよい。1以上のアジュバントを任意に処方物に添加する。
【0063】
一実施形態において、骨格および架橋剤を、組成物としてではなく、個別に(例えば段階的に)施用してもよい。
【0064】
一実施形態において、架橋剤に対する骨格の重量比は、約20:1~約1:10の範囲である。一実施形態において、骨格の重量比は、約15:1~約1:5の範囲、約12:1~約1:2の範囲、または約10:1~約1:1の範囲である。一実施形態において、架橋剤に対する骨格の重量比は、約12:1、約11:1、10:1、約9:1、約8:1、約7:1、約6:1、約5:1、約4:1、約3:1、約2:1、約1.5:1、約1:1、約0.5:1、約1:0.5、約1:1.5、約1:2、約1:3、約1:4、約1:5、約1:6、約1:7、約1:8、約1:9、約1:10、約1:11、または約1:12である。
【0065】
土壌表面または土壌より上の植物部分に、任意に噴霧することにより、ヒドロゲル形成成分(すなわち、骨格や架橋剤の他、任意の1以上の界面活性剤)を含んでなる水性または乾燥処方物を局所的に施用し、根域を潅水する。本開示の成分は標的域、任意に植物の根域に移行する。
【0066】
一実施形態において、ヒドロゲル形成成分を含んでなる組成物、または個別のヒドロゲル成分および任意の1以上の追加成分を乱れた土壌に施用してもよい。一実施形態において、組成物または個々の成分を植物の根域に直接施用してもよい。
【0067】
例えば、水の除去(例えば浸出、蒸発、蒸散など)による骨格および架橋剤の濃度の増加などの引き金となる事象の後、骨格および架橋剤の間で架橋が起こり、ヒドロゲルが形成される(濃度の変化のほかに、他の引き金となる事象としては、限定するものではないが、pH値、温度、表面特性、放射線、微小環境パラメーターや土壌または外部源からの他の物理化学的特性の変化が挙げられる)。一実施形態において、形成されたヒドロゲルは、その元の体積の約10倍を超える水を吸収することができる。他の実施形態において、形成されたヒドロゲルは、元の体積の約10倍~約100倍を超える水を吸収することができる。
【0068】
界面活性剤を含む場合、任意に添加された界面活性剤は他の成分の土壌断面への浸透を促進して土壌内での疎水性土壌ポケットを改修する。
【0069】
一実施形態において、例えば噴霧装置、拡散/散布装置を使用したり、灌漑水を介した(例えば灌漑ライン注入)ヒドロゲル形成成分の液体製剤の根域または土壌表面への施用と配置は段階的に起きる。他の実施形態において、施用と配置は同時に起きる。その場でポリマー(ヒドロゲル)の形成は、施用と配置の後に起きる。
【0070】
他の実施形態において、骨格部分、架橋部分、および1以上の任意のアジュバントは、乾燥製剤として調製され、施用される。
【0071】
本明細書に明示的に記載以外の実施形態も、本発明の特許請求の範囲の意図と範囲に含まれることは明らかである。したがって、本発明は、上記の記載によって画定されず、あらゆるかつ全ての等価な組成物および方法を包含するように、特許請求の範囲の全範囲が与えられるものである。
【実施例】
【0072】
本開示による非限定的な実施例をここに記載する。
【0073】
実施例1:PVAおよびホウ酸塩系のその場で架橋されるヒドロゲルで処理したカラムの土壌水分枯渇の遅延を示す、制御された環境において構築された根域カラム研究。比較した処理は、未処理、19,000g/ha×3回施用の使用率での土壌界面活性剤(アルキル化EO/POブロック共重合体)、および20,000g/ha×3回施用の使用率でのPVAおよびホウ酸塩系のその場で架橋されるヒドロゲルである。全ての処理において、標準的な噴霧ノズルで作動させた圧縮空気により表面に施用した後、土壌断面に軽く水をかけた。土壌水分は精密重量法により測定した。圃場容水量(飽和含水量から質量含水率を引いたもの)で構築されたカラムの土壌水分は、最適な土壌水分状態のベンチマークとして用いられる。研究設計は4反復による完全乱塊法であった。
【0074】
シュミレートされた土壌乾燥工程の間、PVAおよびホウ酸塩系のその場で架橋されるヒドロゲルで処理した根域は、課した高蒸発散条件下(例えば、2kPa付近またはそれを超える蒸気圧不足)において、水分枯渇の遅延を示した。この観察された恩恵は、葉の萎れが典型的に発生する土壌水分枯渇の中期の間で特に顕著であった。さらに乾燥させると、保持されていた土壌水分がやがて放出された。根域水分保持に対する圃場容水量の割合を示した研究データを
図1に示す。
【0075】
実施例2:既成の「チャンピオン」ウルトラドワーフバミューダグラスのパッティンググリーンでの灌漑不足研究。表面より下2インチ(5cm)での根域含水率を、遷移帯気候(ノースカロライナ州中部)で夏に2ヶ月間にわたって監視した。比較した処理は、未処理、14日間隔で9,500g/haの使用率での土壌界面活性剤(アルキル化EO/POブロック共重合体)、および14日間隔で20,000g/haの使用率でのPVAおよびホウ酸塩系のその場で架橋されるヒドロゲルである。全ての処理において、圧縮CO2作動の標準噴霧装置を用いて表面に施用した。圃場区画には、各施用後に1/10インチ(2.5mm)の灌漑水を供給した。時間領域反射(TDR)ベースの土壌水分プローブを用いて、体積含水率として土壌水分を定量的に決定した。設計は4反復による完全乱塊法であった。
【0076】
試験で観察された広範囲の土壌含水率にわたって、PVAおよびホウ酸塩系のその場で架橋されるヒドロゲルで処理した区画は、特に灌漑不足による土壌乾燥期により高い根域水分を維持した。この恩恵は、土壌水分が体積含水率約10%近くか、またはそれ未満に減少したときに特に顕著であった(根域体積含水率を示した研究データを
図2に示す。)。これはほぼ臨界土壌水分レベルであり、その付近はその試験地で萎れが発生する可能性が非常に高い。土壌乾燥中により良好に維持された土壌水分は、水分の与えすぎを防ぎ、萎れを遅らせて、水まき回数を減らすのに役に立つ。数評価日における時間領域反射で測定した試料土壌水分データを
図3A~Dに示す。
【0077】
実施例3:既成の「プロクラメイション」クリーピングベントグラス研究用のパッティンググリーンにおける夏季ストレスと灌漑不足研究。研究は、遷移帯気候(ノースカロライナ州中央部)で2か月間行った。比較した処理は、未処理、28日間隔で19kg/haの使用率での土壌界面活性剤(アルキル化EO/POブロック共重合体)、14日間隔で20kg/haの使用率でのPVAおよびホウ酸塩系のその場で架橋されるヒドロゲルである。全ての処理において、圧縮CO2作動の標準噴霧装置を用いて表面に施用した。圃場区画には、各施用後に2/10インチ(5mm)の灌漑水を供給した。設計は4反復による完全乱塊法であった。
【0078】
夏の自然ストレスと基準蒸発散量のおおよそ80%までの灌漑不足の場合、PVAおよびホウ酸塩系のその場で架橋されるヒドロゲルで処理した区画は試験期間中、全体的に芝生の品質をより良好に維持した(
図4に研究データを示す)。芝生品質視覚的評価は、色、密度、均一性、病気の発生、環境ストレスまたは他の因子の視覚的な差異を反映するための業界標準の評価方法である(全米芝草評価プログラム(National Turfgrass Evaluation Program)(NTEP)、http://www.ntep.org/reports/ratings.htm#qualityを参照)。それは芝の美観および機能面を考慮したものである。ほとんどの視覚的評価は、1~9の評価スケールに基づいている。品質は、9が傑出したまたは理想的な芝と評価され、1が最も劣るまたは枯れていると評価される。6以上の評価であれば、一般的に許容可能と判断される。品質評価値としての9は、完璧なまたは理想的な芝に保たれているが、それは絶対的に傑出した処理区画を反映するものでもある。また、土壌界面活性剤(アルキル化EO/POブロック共重合体)処理では、施用後に短期間(数日間)の変色をもたらした一方でPVAおよびホウ酸塩系のその場で架橋されるヒドロゲルでは、そのような悪影響は関連づけられなかった。
【0079】
実施例4:USGA仕様により構築された根域をもつ、既成の「L-93」クリーピングベントグラスの研究用パッティンググリーンにおける夏季のストレスおよび灌漑不足研究。研究は、遷移帯気候(米国ミズーリ州中部)で3ヶ月間行われた。比較した処理は、未処理、28日間隔(EOPO-28)で19kg/haの使用率および14日間隔(EOPO-14)で9.5kg/haの使用率での土壌界面活性剤(アルキル化EO/POブロック共重合体)、28日毎(F1-28およびF2-28)に10kg/haの使用率および14日毎(F1-14およびF2-14)に10kg/haの使用率でのPVAおよびホウ酸塩系のその場で架橋されるヒドロゲル(2種の製剤(F1およびF2))である。全ての処理において、圧縮CO2作動の標準噴霧装置を用いて表面に施用した。圃場区画には、各施用後に深さ2.5mmの灌漑水を供給した。設計は4反復による完全乱塊法であった。
【0080】
夏の自然ストレスおよび課した根域水分不足(14日ごとにおける代替最適蒸発散量と基準蒸発散量の60%)の場合、PVAおよびホウ酸塩系のその場で架橋されるヒドロゲルで処理した区画では試験期間中、処理区画内の局所ドライスポットの発生を顕著に減少した(
図5A:処理開始後最初の30日、
図5B:処理開始後70~80日)。PVAおよびホウ酸塩ベースのその場で架橋されるヒドロゲルに関して観察された恩恵は、両方の製剤(F1およびF2)、両方の施用計画(10kg/haで14日間および28日間)、両方の時期で明らかであった(
図5A:中度のストレス、
図5B:重度のストレス)。
【国際調査報告】