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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-17
(54)【発明の名称】心血管疾患の処置および予防
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20221007BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20221007BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20221007BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20221007BHJP
   A61K 33/36 20060101ALI20221007BHJP
   A61K 33/04 20060101ALI20221007BHJP
   A61K 31/285 20060101ALI20221007BHJP
   A61K 31/4745 20060101ALI20221007BHJP
   A61K 31/05 20060101ALI20221007BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20221007BHJP
【FI】
G01N33/53 P
A61P9/00
A61K45/00
A61K39/395 D
A61K39/395 M
A61K39/395 N
A61K33/36
A61K33/04
A61K31/285
A61K31/4745
A61K31/05
A61K38/19
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022507706
(86)(22)【出願日】2020-08-06
(85)【翻訳文提出日】2022-03-22
(86)【国際出願番号】 US2020045219
(87)【国際公開番号】W WO2021026362
(87)【国際公開日】2021-02-11
(31)【優先権主張番号】62/884,108
(32)【優先日】2019-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522049071
【氏名又は名称】エディフィス・ヘルス・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】EDIFICE HEALTH, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ファーマン,デイビッド
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C084AA01
4C084AA02
4C084AA17
4C084DA01
4C084NA05
4C084ZA361
4C084ZB212
4C084ZC422
4C085AA13
4C085AA16
4C085CC05
4C085DD62
4C085EE01
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB22
4C086HA07
4C086HA08
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZA36
4C206AA01
4C206AA02
4C206CA20
4C206JB06
4C206KA01
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA05
4C206ZA36
(57)【要約】
本明細書中に記載される方法および組成物は、全身慢性炎症に関連する指標(炎症年齢であるiAge、心血管年齢であるcAge、および特定のマーカーのレベル)を使用して心血管転帰を改善し、患者を低リスク群と高リスク群とに階層化する。個別化免疫プロテオームシグニチャにより、cAgeの低減と高リスク患者から低リスク患者への移行とを目的とした個別化初期療法が創製される。患者にcAge、iAgeの低減および/またはCRSの改善を図る処置を与えることによって、高リスク患者を低リスク患者へと移行させることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象を処置する方法であって、心臓マーカーのレベルが該当暦年齢の最低三分位数よりも外にある対象を選択する工程と、前記心臓マーカーのレベルを下げるために有効な処置を投与する工程とを含む、方法。
【請求項2】
前記心臓マーカーはMIGである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記有効な処置は、CXCR3拮抗薬の投与を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記CXCR3拮抗薬は抗体である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記有効な処置は、内皮細胞によるMIGの産生を低下させる薬剤の投与を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記薬剤は、三酸化ヒ素、ロキサルソン、セレン、または抗MIG抗体である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記抗体は、キメラ化、ヒト化、またはヒューマニア化されたマウス抗体である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記抗体は、遅延性部位で改変されている、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
対象を処置する方法であって、心臓マーカーのレベルが該当暦年齢の最高三分位数よりも外にある対象を選択する工程と、前記心臓マーカーのレベルを上げるために有効な処置を投与する工程とを含む、方法。
【請求項10】
前記心臓マーカーのレベルは、最高四分位数よりも外にある、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記心臓マーカーのレベルは、最高五分位数よりも外にある、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記心臓マーカーは、LIFまたはSIRT3である、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記有効な処置は、内皮細胞によるSIRT3の産生を増加させる薬剤の投与を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記薬剤は、ベルベリンまたはレスベラトロールである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記有効な処置は、LIFの産生を増加させる薬剤の投与を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記薬剤は、アミオダロン、三酸化ヒ素、アザチオプリン、エストラジオール、クロラムブシル、クロミフェン、クマホス、シクロスポリン、デシタビン、シスプラチン、ビンクリスチン、ホルムアルデヒド、グルコース、過酸化水素、レトロゾール、リンデン、メトトレキサート、クェルセチン、オキシキノリン、レゾルシノール、レスベラトロール、二酸化ケイ素、トレチノイン、およびトログリタゾンである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記薬剤はサイトカインである、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
患者における複数の免疫タンパク質を検出する方法であって、前記患者から試料を得る工程と、前記試料中のMIGを検出する工程と、前記試料中のLIFを検出する工程と、前記試料中のSIRT3を検出する工程とを含む、方法。
【請求項19】
前記患者は心血管疾患を有する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記検出工程は、抗体結合アッセイからの平均蛍光強度を測定する工程を含み、さらに、適用可能な回帰係数を前記平均蛍光強度に乗ずる工程と、乗算値を合算する工程と、前記患者と類似する暦年齢の対象についてのcAge範囲と当該合算値とを比較する工程とを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
患者を処置するための方法であって、
前記患者からの試料中においてMIGを検出する工程と、
前記患者からの試料中においてLIFを検出する工程と、
前記患者からの試料中においてSIRT3を検出する工程と、
前記患者のcAgeを求める工程と、
前記患者の暦年齢にとって最年長の分位に入るcAgeを有する患者を選択する工程と、
前記患者のcAgeを下げるための薬剤の有効量を投与する工程とを含む、方法。
【請求項22】
cAgeを下げるための前記薬剤は、内皮細胞によるMIGの産生を低下させる、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
cAgeを下げるための前記薬剤は、CXCR3拮抗薬である、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
cAgeを下げるための前記薬剤は、内皮細胞によるSIRT3の産生を増加させる、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
cAgeを下げるための前記薬剤は、LIFの産生を増加させる、請求項21に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景
虚血性心疾患(IHD)および脳卒中などの心血管疾患は、ほとんどの経済先進国において主たる死因となっており、成人死亡例全体の約3分の1を占める。英国およびウェールズにおいては、1998年、15歳より年長の男女の心血管疾患死亡例が200,000件であり、この中には、心疾患および脳卒中による死亡と、これらよりは少ないが、主要な心血管リスク因子に関連するその他の心血管要因による死亡とが含まれる。
【背景技術】
【0002】
こうした疾患を引き起こす、喫煙以外の主な環境的原因としては、血圧、血漿または血清のコレステロール(以下では簡単に血清コレステロールと称する)、血漿または血清のホモシステイン(以下では簡単に血清ホモシステインと称する)、および血小板機能障害、および凝血といった既存のリスク因子を増大させる食事性要因およびその他の生活習慣要因がある。生活習慣要因を現実的に変えたとしても(食事の変更、体重減少、運動量増加など)、一般的には、心血管リスクを実質的に低減できるほど十分には心血管リスク因子を変化させることができず、そのため、薬物処置によってリスク因子を低減するということが広く実施されている。
【0003】
一般人口における心血管疾患発病率の低減を目的とするこうした薬物処置に関する現行の方針は、上記リスク因子のうち1つ(特に血圧)が特に高レベル(中年人口の分布において上から約5%、および老年人口において上から10%)である場合に限定された介入に基づく。薬物は特に、各リスク因子の高値を制御するために使用される傾向があり、高血圧とみなされてはいても血清コレステロール濃度が平均値である患者に対しては、血圧降下処置は与えられるが血清コレステロール降下処置は与えられない。血小板機能を変化させるための薬物(たとえばアスピリンなど)および血清ホモシステインを低下させるための薬物(たとえば葉酸など)が健康な人に対して薦められることは、非常に稀である。致命的ではない心臓発作または脳卒中を生じた人に対しては、血圧が高レベル(上からおよそ10%)とみなされた場合にのみ血圧降下処置が与えられ、血清コレステロールが集団におけるコレステロール分布の上からおおむね半分に入っている場合にコレステロール降下処置が与えられ、アスピリンはルーチンとして与えられ、葉酸は一般的には与えられない。
【0004】
本明細書中に記載されるのは、対象における慢性炎症の細胞内レベルまたは細胞外レベル(iAge、サイトカイン応答スコアCRS、および/またはJak-STAT応答)に基づいて心血管疾患を評価および処置するための新たなパラダイムと、これに続く心血管疾患転帰の改善を目的とした個別化療法の設計である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
概要
本開示は、心血管疾患患者または心血管疾患リスクのある患者を処置するための方法を記載するものであり、これによって、対象は、彼らの炎症性因子レベルに基づく心血管疾患リスクに基づいて階層化され得て、かつ、当該炎症性因子の処置および/または低減と、リスクプロファイル、心血管健康状態、および心血管処置に対する反応の改善とを目的とした個別化介入を受けることができる。
【0006】
炎症年齢スコアリングシステム(iAge)を使用することによって、患者を、心血管疾患リスクの比較的高い患者とそのリスクの低い患者とに分類することができる。この炎症年齢スコアリングシステムを使用することにより、炎症を標的とする初期療法を導いて、心血管疾患処置を受ける患者の転帰を改善し、無症状の患者における心血管疾患リスクを低減(たとえば、予防的処置)することができる。MIG、エオタキシン、Mip-1α、レプチン、IL-1β、IL-5、IFN-α、およびIL-4(プラスの寄与)、ならびにTRAIL、IFN-γ、CXCL1、IL-2、TGF-α、PAI-1、およびLIF(マイナスの寄与)はiAgeに関与しており、これらを使用してiAgeスコアを構成できる。MIG、LIF、およびサーチュイン3は、心臓老化および心血管疾患リスクとの関連が強く、単独でまたはその他の因子と組み合わせて使用して患者のリスクレベルを決定することができる。
【0007】
対象のiAge、CRS、Jak-STAT応答、cAge、ならびに/または、MIG、LIF、および/もしくはSIRT3のレベルに基づいて、対象を、心血管疾患について高リスクまたは低リスクに分類できる。高リスクに分類された患者は、低リスク区分へと移行できるように、iAgeの低減、CRSの増大、Jak-STAT応答の増大、cAgeの低減、MIGの低減、LIFの増大、および/またはSIRT3の増大を図る処置を受けることができる。分類は、対象のiAge、CRS、Jak-STAT応答、cAge、ならびに/または、MIG、LIF、および/もしくはSIRT3レベルを、暦年齢が類似する患者のものと比較することによってなされ得る。対象のiAge、CRS、Jak-STAT応答、cAge、ならびに/または、MIG、LIF、および/もしくはSIRT3レベルに基づいて、対象が該当年齢のコホートと比べてより若いiAge、またはより高応答性のCRSおよび/もしくはJak-STATスコア、より低いcAge、より低いMIG、より高いLIF、ならびに/またはより高いSIRT3を有する場合には、対象は心血管疾患リスクが比較的低い。対象が、該当年齢のコホートと比べてより年長のiAge、より低いCRSおよび/もしくはJak-STATスコア、より年長のcAge、より高いMIG、より低いLIF、ならびに/またはより低いSIRT3を有する場合には、より低リスクの患者コホートへと移行できるように、iAgeの低減、CRSおよび/もしくはJak-STATスコアの増大、cAgeの低減、MIGの低減、LIFの増大、ならびに/またはSIRT3の増大を図る処置を受けることができる。
【0008】
また、対象のMIG、LIF、およびサーチュイン3レベルを使用して、心血管疾患リスクについて分類することもできる。患者を、MIG、サーチュイン3、LIFレベル、および任意にその他の因子によって分類することができる。たとえば、患者に、これらの因子のみまたはその他の因子との組み合わせに基づいて、心臓年齢を割り当てることができる。患者のMIG、SIRT3、LIFレベル、および/または心臓年齢(cAge)に基づいて、患者が該当年齢のコホートと比べてより若い四分位数、五分位数、十分位数(またはその他の分位)に入る場合には、対象は心血管疾患リスクが比較的低い。対象が、該当年齢のコホートと比べてより年長のMIG、SIRT3、LIFレベル、および/またはcAgeを有する場合には、より低リスクの患者コホートへと移行できるように、MIG、SIRT3、LIFレベル、および/またはcAgeの低減を図る処置を受けることができる。
【0009】
一態様において、本開示は、本明細書中に提供されるマーカー、ならびに/またはマーカー、処置、予防的処置、および/もしくは薬剤の組み合わせを使用する、哺乳動物における、心血管疾患の診断、心血管疾患の増悪の監視、心血管疾患の処置の監視、心血管疾患の予後診断、心血管疾患の処置、心血管疾患症状の緩和、心血管疾患の増悪の阻害、および心血管疾患の予防について記載する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】iAge、ナイーブCD8(陽性)T細胞、およびJak STATシグナル伝達応答を示すグラフである。
図1B】iAge、ナイーブCD8(陽性)T細胞、およびJak STATシグナル伝達応答を示すグラフである。
図1C】iAge、ナイーブCD8(陽性)T細胞、およびJak STATシグナル伝達応答を示すグラフである。
図2図2は、iAgeおよびCRSに基づく、がん患者のレスポンダーおよびノンレスポンダーへの階層化を示す。
図3図3は、iAgeを使用するがん患者の階層化を示す。
図4図4は、hiPSCから内皮細胞へと分化させた後で細胞を継代した後のMIG mRNAおよびSIRT3 mRNAにおける倍率変化を示す。
図5図5は、異なる細胞種におけるCXCR3の相対的な発現レベルを示す棒グラフである。
図6図6は、大動脈細胞を異なるレベルのMIGに曝露した後、アセチルコリンに応答して生じる大動脈細胞の弛緩の割合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
詳細な説明
様々な実施形態が記載される前に理解されるべきことには、本開示の教示は、記載される具体的な実施形態に限定されず、よって言うまでもなく変更され得る。また、本明細書中において使用される専門用語は、具体的な実施形態を説明することのみを目的とするものであって限定を意図するものではないことも理解されるべきである、というのは、本発明の教示の範囲は付随する特許請求の範囲によってのみ限定され得るためである。
【0012】
特に定義がなければ、本明細書中において使用されるすべての科学技術用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書中に記載されるものと類似または同等の任意の方法および材料を本発明の教示に係る実施または試験において使用できるが、以下に、いくつかの例示的な方法および材料が記載される。
【0013】
なお、本明細書および特許請求の範囲において使用される場合、不定冠詞「a」「an」および定冠詞「the」が付いた単数形は、文脈上明らかな矛盾がない限り複数の対象物も含むことに留意されたい。さらに、請求項が任意の要素をいずれも除外するように立案され得ることにも留意されたい。そのため、この記載は、クレーム要素の記載に関して「単に(solely)」、「のみ(only)」などのような排他的な用語を用いるための、または、「否定的な」限定を用いるための先行詞として機能するように意図されたものである。物質の濃度またはレベルに関して与えられる数値限定は、文脈上明らかな矛盾がない限り近似値を意図したものである。したがって、濃度が(たとえば)10μgと記載されている場合、この濃度は少なくともおよそまたは約10μgであると理解されるべきであることが意図される。
【0014】
本開示を読むことによって当業者にとって明らかになるように、本明細書中に記載および例示される個々の実施形態の各々は、本発明の教示の範囲または精神から逸脱することなく、他のいくつかの実施形態のいずれかの特徴から容易に分離され得るかまたは当該特徴と組み合わされ得る別個の構成要素および特徴を有している。記載されたいずれの方法も、事象が記載されている順序で、または論理的に可能な他の任意の順序で実行することができる。
【0015】
定義
本開示に関して、本明細書中の記載において使用される科学技術用語は、具体的に定義されていない限り、当業者によって一般的に理解される意味を有する。したがって、以下の用語は、以下に記載される意味を有することが意図されている。
【0016】
本明細書中において使用される場合、「活性化」は、物質、アレルゲン、薬物、タンパク質、化学物質、もしくはその他の刺激に曝露された際の、または物質、アレルゲン、薬物、タンパク質、化学物質、もしくはその他の刺激を除去した際の生理的条件として定義される。
【0017】
本明細書中において使用される場合、「抗体」は、機能上はリガンド結合タンパク質として規定され、構造上は、当業者が免疫グロブリンの可変領域に由来するものと認識するアミノ酸配列を含むものとして規定される、タンパク質として定義される。抗体は、免疫グロブリン遺伝子、免疫グロブリン遺伝子の断片、ハイブリッドの免疫グロブリン遺伝子(異なる動物からの遺伝情報を組み合わせて作製される)、または合成の免疫グロブリン遺伝子によって実質的にコードされる1つ以上のポリペプチドからなっていてよい。認識される天然の免疫グロブリン遺伝子は、カッパ、ラムダ、アルファ、ガンマ、デルタ、イプシロン、およびミュー定常領域の遺伝子、ならびに無数の免疫グロブリン可変領域の遺伝子、ならびに複数のDセグメントおよびJセグメントを含む。軽鎖はカッパまたはラムダのいずれかに分類される。重鎖はガンマ、ミュー、アルファ、デルタ、またはイプシロンに分類され、これらによって免疫グロブリンクラスIgG、IgM、IgA、IgD、およびIgEがそれぞれ規定される。抗体は、完全型免疫グロブリンとして、または多様なペプチダーゼによる消化によって産生されるよく特徴づけされた複数の断片として、または組換えDNA技術によって作製される多様な断片として存在する。抗体は、多くの異なる種(たとえば、ウサギ、ヒツジ、ラクダ、ヒト、または、マウスもしくはラットなどの齧歯類)に由来し得る、または合成できる。抗体は、キメラ化、ヒト化、またはヒューマニア化(humaneered)されたものであり得る。抗体は、モノクローナルまたはポリクローナル、複数本鎖または一本鎖、断片または完全型の免疫グロブリンであり得る。
【0018】
本明細書中において使用される場合、「抗体断片」は、完全型抗体の少なくとも1つの部分またはその組換えバリアントとして定義されるものであり、当該抗体断片が抗原などの標的を認識できて特異的に結合できるために十分な抗原結合ドメイン(たとえば完全型抗体の抗原決定可変領域)を指す。抗体断片の例は、Fab、Fab’、F(ab’)、およびFv断片、scFv抗体断片、直鎖状の抗体、sdAb(VまたはV)、ラクダ類VHHドメインなどのシングルドメイン抗体、および複数の抗体断片から形成される多重特異性抗体を含むが、これらに限定されない。用語「scFv」は、軽鎖の可変領域を含む少なくとも1つの抗体断片と重鎖の可変領域を含む少なくとも1つの抗体断片とを含む融合タンパク質として定義されるものであり、この軽鎖および重鎖の可変領域は、短い可動性ポリペプチドリンカーを介して連結していて、一本鎖ポリペプチドとして発現され得て、また、scFvは、由来元の完全型抗体の特異性を保持している。特に記載がない限り、本明細書中において使用される場合、scFvはV可変領域とV可変領域とを順不同で有し得るものであり、たとえば、このポリペプチドのN末端およびC末端に関して、scFvは、V-リンカー-Vを含んでもよい、またはV-リンカー-Vを含んでもよい。
【0019】
本明細書中において使用される場合、「抗原」は、免疫応答を引き起こす分子として定義される。この免疫応答は、抗体の産生もしくは特定の免疫担当細胞の活性化のいずれか、またはその両方を伴い得る。当業者には、事実上すべてのタンパク質またはペプチド(グリコシル化ポリペプチド、リン酸化ポリペプチド、およびその他の翻訳後修飾されたポリペプチド(脂質修飾ポリペプチドを含む)を含む)を含むがこれらに限定されない高分子はいずれも抗原として働き得る、ということが理解され得る。さらに、抗原は、組換えのまたはゲノムのDNAに由来するものであってもよい。よって、当業者には、免疫応答を顕在化させるタンパク質をコードするヌクレオチド配列または部分ヌクレオチド配列を含む任意のDNAは、本明細書中において使用されるところの「抗原」をコードする、ということが理解され得る。さらに、当業者には、抗原は必ずしも遺伝子の全長ヌクレオチド配列によってのみコードされるわけではないことが理解され得る。本発明は1つを超える遺伝子の部分ヌクレオチド配列の使用を含むがこれに限定されないということと、さらに、こうしたヌクレオチド配列は、所望の免疫応答を顕在化させるポリペプチドをコードするための様々な組み合わせで並んでいるということとが容易に明らかになる。また、当業者には、抗原は必ずしも「遺伝子」にコードされていなくてもよいことが理解され得る。抗原は、合成できる、または生体試料から得ることができる、またはポリペプチドでなく高分子であってもよい、ということが容易に明らかになる。こうした生体試料は、組織試料、腫瘍試料、その他の生物学的成分を含む細胞または体液を含み得るが、これらに限定されない。
【0020】
本明細書中において使用される場合、「有効量」または「治療的有効量」は区別なく使用されており、特定の生物学的結果を達成するために有効であると本明細書中に記載される化合物、調製物、材料、または組成物の量として定義される。
【0021】
本明細書中において使用される場合、「エピトープ」は、免疫応答を顕在化させることができる抗原の一部分として、または抗体に結合する抗原の一部分として定義される。エピトープは、抗体により認識されるタンパク質配列またはサブ配列であり得る。
【0022】
本明細書中において使用される場合、「発現ベクター」および「発現コンストラクト」は区別なく使用され、いずれも、細胞内でタンパク質を発現させるために設計されたプラスミド、ウイルス、またはその他の核酸として定義される。ベクターまたはコンストラクトを使用して遺伝子を宿主細胞内に導入し、これによってベクターが細胞内でポリメラーゼと相互作用して、ベクター/コンストラクトによりコードされるタンパク質が発現される。発現ベクターおよび/または発現コンストラクトは、細胞内で染色体の外に存在し得る、または染色体中に一体化され得る。染色体中に一体化される場合、発現ベクターまたは発現コンストラクトを含む核酸が、発現ベクターまたは発現コンストラクトとなり得る。
【0023】
本明細書中において使用される場合、「心不全」(しばしば鬱血性心不全(congestive heart failure(CHF)またはcongestive cardiac failure(CCF))とよばれる)は、身体からの要求を満たせるだけの血流を維持するのに十分なポンプ作用を心臓が提供できない際に生じる状態を意味する。心不全は、息切れ、脚部腫脹、および運動耐容能低下を含む複数の症状を引き起こし得る。この状態は、典型的には患者の身体検査によって診断され、心臓超音波検査によって確認される。心不全の一般的な原因は、心筋梗塞およびその他の形態の虚血性心疾患、高血圧症、心臓弁膜症、および心筋症を含む。心不全という用語は、心筋梗塞(心臓発作)または心停止などのその他の心臓関連疾病を指して誤って使用されることがあるが、これらは心不全を引き起こすことはあっても心不全と同じものではない。
【0024】
本明細書中において使用される場合、「異種」は、宿主細胞と同属ではない核酸および/またはポリペプチドを意味するものとして定義される。代替的には、「異種」は、複数の核酸部分またはポリペプチド部分が互いに結合して1つの組み合わせを作っていて、当該複数の部分が異なる種に由来し、かつ当該組み合わせが天然には存在しないということを意味する。
【0025】
本明細書中において使用される場合、用語「免疫機能障害」は、十分健康な個体と比較した際のある個体における免疫機能の任意の低下として定義される。免疫機能障害を有する個体は、CD8陽性CD28陰性細胞の量の実質的な増加により、または、さらに一般的には、サイトカイン応答の低下、ベースラインリン酸化タンパク質レベルの増加、およびその他の同時発生する指標により、容易に特定できる。
【0026】
本明細書中において使用される場合、用語「インフラマソーム」は、インフラマソーム開始センサと、アダプタータンパク質として働くCARD(カスパーゼ活性化および動員ドメイン)含有アポトーシス関連スペック様タンパク質(apoptosis-associated speck-like protein containing a CARD)と、プロテアーゼ-カスパーゼ-1とから構成されるサイトゾル型多タンパク質複合体として定義される。インフラマソーム開始センサは、NLR、パイリンおよびHINドメイン含有(PYHIN、Aim2様受容体、またはALRとしても知られる;たとえばAim2)、またはTRIM(たとえばパイリン)といったファミリーのメンバーを含む。複合体が形成されると、カスパーゼ-1依存的にプロインターロイキン1β(pro-IL-1β)およびpro-IL-18というサイトカインが切断されて、分泌型成熟形態となる。また、インフラマソームは、パイロトーシス型の細胞死を開始する。
【0027】
本明細書中において使用される場合、「一本鎖抗体」(scFv)は、抗原結合活性における機能を有する免疫グロブリン分子として定義される。scFv(一本鎖可変断片)型の抗体は、重鎖(V)および軽鎖(V)の可変領域からなり、これらは可動性ペプチドリンカーによって互いに結合している。
【0028】
免疫年齢および心臓年齢
Jak/STATシグナル伝達経路は、感染との闘いから免疫寛容の維持といった、免疫系が遭遇する複数種類の攻撃に対処するために、非常に重要である。また、STATはヒトにおける免疫系の発達および機能にも関与しており、がんの免疫監視を維持するという重要な役割を担っていることが明らかである(Nature. 2007; 450(7171):903-7; Nat Rev Cancer (2009) 9:798-809)。
【0029】
Jak-STAT経路は老化につれて著しく変化し得て、これが、高齢成人における免疫機能不全を引き起こす主要な原因の1つとなっている。サイトカイン応答スコア(CRS)を使用することにより、免疫の低下およびがん免疫監視の低下を予測することができる。
【0030】
また、炎症年齢スコアリングシステム(iAge)を使用することによって、年齢に関連する多疾病罹患および死亡率を予測することができる。iAgeは、心血管健康状態のバイオマーカーとして極めて感受性が高い可能性がある、というのは、臨床上または検査上の心血管リスク因子のない非常に健康で比較的年長の対象においても、レベルの上昇に基づいて左室リモデリングおよび動脈硬化を予測できるためである。また、iAgeによって、研究期間(長くて6年間の経過観察)中に接種したいずれのインフルエンザワクチン株に対しても反応を開始できない無症候性免疫不全の若い患者(16~35歳の対象の10%)を特定することもできる。こうした対象は、特徴として、免疫細胞組成の点で自身の年齢よりも年長の免疫学的表現型を有し、複数の急性刺激に対して生体外反応を示し、高齢に関連する遺伝子モジュールを発現している。
【0031】
サイトカイン応答スコアCRSおよびiAgeは、炎症、T細胞中におけるJak-STATシグナル伝達経路の低下、およびナイーブCD8(陽性)T細胞数の減少についての独立した指標であるため(図1A図1C)、当該指標を使用することによって、がん患者を、免疫療法に対する臨床応答に基づいて階層化できる。本明細書中に記載される方法は、血液炎症マーカーCRSおよびiAgeを使用することによって、がん患者を、免疫療法に対するレスポンダー群とノンレスポンダー群とに階層化する。ノンレスポンダーは、レスポンダー群に移行できるiAgeおよび/またはCRS(および/またはJak-STATスコア)が得られるように、iAgeの低減および/またはCRS(および/またはJak-STATスコア)の増大を図る処置を受けることができる。
【0032】
この手順は、免疫療法処置による輸液を行なう前に、静脈穿刺または任意の適切な方法によって対象がん患者から末梢血試料を採取することを伴う(図2)。免疫療法処置は、抑制性免疫受容体に対して、抗体や小分子などを含む特定の分子を使用することを含み得る。詰まった血液を遠心分離することによって、またはその他の任意の適切な方法によって、血液細胞から血清を分離する(図2)。
【0033】
iAgeの構築:血清タンパク質を測定するために、得た血清を、底部フィルタ付き96ウェルプレート中で抗体結合磁気ビーズと混合して、室温で2時間インキュベートし、続いて4℃で一晩インキュベートすることができる。室温インキュベーション工程は、オービタルシェーカー中で500~600rpmにて実施できる。プレートを真空ろ過に供し、洗浄バッファーで2回洗浄し、次いでビオチン化検出抗体と共に室温で2時間インキュベートできる。次いで、試料をろ過し、上述されるように2回洗浄して、ストレプトアビジン-PE中に再懸濁できる。室温で40分間インキュベートした後、真空洗浄をさらに2回行って、試料をリーディングバッファー(Reading Buffer)中に再懸濁できる。試料1つにつき2回または3回測定できる。Luminex200機器を使用し、試料1つおよびサイトカイン1種について下界100個のビーズにて、プレートの読み取りを実施でき、平均蛍光強度(MFI)を記録する。
【0034】
炎症年齢(iAge)を導き出すために(図2)、平均蛍光強度を正規化して、これを使用して重回帰分析を行ない、その計算には以下の回帰係数を用いる:MIGには0.6357、TRAILには-0.3760、IFNGには-0.3235、エオタキシンには0.2912、GROAには-0.2723、IL2には-0.2063、TGFAには-0.1978、PAI1には-0.1587、LIFには-0.1587、レプチンには0.1549、MIP1Aには0.1547、IL1Bには0.1471。MFIに、該当タンパク質の回帰係数を乗じて、これらの数をすべて加算することによって、対象のiAgeを得ることができる。下記表1に、各暦年齢(10年毎)におけるiAgeの範囲が列記される。
【0035】
【表1】
【0036】
回帰係数が正であるマーカーは年齢につれて血清濃度が増加し(MIG、エオタキシン、レプチン、MIP1A、およびIL1B)、回帰係数が負であるものは年齢につれて血清濃度が減少した(TRAIL、IFNG、GROA、IL2、TGFA、PAI1、およびLIF)。
【0037】
MIG(ガンマインターフェロンに誘導されるモノカイン)は、CXCケモカインファミリーに属する小さなサイトカインである。MIGは、走化性の誘導、白血球の分化および増殖の促進、ならびに組織の血管外遊出の惹起に関与するケモカインの1種である。MIGは、免疫細胞の遊走、分化、および活性化を調節する。腫瘍浸潤リンパ球は、臨床成績、およびチェックポイント阻害薬に対する反応の予測において重要である。in vivo研究から、軸が、腫瘍の増殖および転移を増大させることによって腫瘍形成性の役割を果たしていることが示唆されている。MIGは主に、病巣部位へのリンパ球の浸潤に介在し、腫瘍増殖を抑制する。MIGは、CXCR3受容体のC-X-Cモチーフケモカイン3に結合する。
【0038】
TRAIL(TNF関連アポトーシス誘導リガンド)は、ほとんどの正常組織細胞によって産生および分泌されるサイトカインである。特定のデスレセプターに結合することによって主に腫瘍細胞においてアポトーシスを引き起こすと考えられている。また、TRAILは、CD253(表面抗原分類253)およびTNFSF10(腫瘍壊死因子(リガンド)スーパーファミリー、メンバー10)とも称されている。TRAILは下記文献中に記載される:Wiley et al Immunity 1005 3: 673-82 および Pitti J. Biol. Chem. 1996 271 : 12687-90。
【0039】
INFG(インターフェロンガンマ、IFNy、またはII型インターフェロンとしても知られる)は、II型クラスのインターフェロンの唯一のメンバーである、二量体型の可溶性サイトカインである。IFNGは、ウイルス感染、いくつかの細菌感染、および原虫感染に対する自然免疫および適応免疫にとって非常に重要である。INFGは、マクロファージの重要な活性化因子であり、クラスII主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子の発現に対する誘導物質である。INFGは下記文献中に記載される:Schoenborn et al Adv. Immunol. 2007 96: 41-1O1 および Gray Nature. 1982 298: 859-63。
【0040】
エオタキシン(C-CモチーフケモカインIIまたは好酸球走化タンパク質としても知られる)は、CCケモカインファミリーに属する小さなサイトカインである。エオタキシンは、好酸球を、その走化性の誘導によって選択的に動員するため、アレルギー反応と関連付けられる。エオタキシンの作用には、ケモカイン受容体として知られるGタンパク質結合受容体への結合が介在する。CCLIIをリガンドとするケモカイン受容体は、CCR2、CCR3、およびCCR5を含む。エオタキシンは下記文献中に記載される:Kitaura et al The Journal of Biological Chemistry 1 996 271: 7725-30 および Jose et al The Journal of Experimental Medicine 1994 1 79: 881-7。
【0041】
GROA(CXCLI、GROIがん遺伝子、GROa、KC、好中球活性化タンパク質3(NAP-3)、およびメラノーマ増殖刺激活性アルファ(MSGA-a)としても知られる)は、ヒトメラノーマ細胞によって分泌され、分裂促進特性を有し、メラノーマ病態形成と関連付けられる。GROAはマクロファージ、好中球、および上皮細胞によって発現され、好中球化学誘引活性を有する。このケモカインは、その作用を、ケモカイン受容体CXCR2を経るシグナル伝達によって顕在化させる。GROAは下記文献中に記載される:Haskill et al Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 190 87 (19): 7732-6。
【0042】
IL-2は、免疫系に対して多面的作用を有する重要なサイトカインの1種である。免疫を担う白血球細胞(白血球、多くの場合はリンパ球)の活性を調節する15.5~16kDaのタンパク質である。IL-2の主要な供給源は、活性化されたCD4陽性T細胞、活性化されたCD8陽性T細胞、NK細胞、樹状細胞、およびマクロファージである。IL-2は、CD4陽性制御性T細胞を維持するための重要な因子であり、CD4陽性T細胞から様々なサブセットへの分化において非常に重要な役割を果たす。CD8陽性T細胞およびNK細胞の細胞毒性活性を促進でき、抗原に応答してT細胞の分化プログラムを調節して、ナイーブ型CD4陽性T細胞のヘルパーT17(Th17)への分化を阻害しながらヘルパーT1(Th1)細胞およびヘルパーT2(Th2)細胞への分化を促進できる。
【0043】
TGFA(形質転換増殖因子アルファ)は、EGFと一部相同性のある5.7kDaのポリペプチドである。TGFAは、上皮増殖因子受容体のリガンドである増殖因子であって、細胞の増殖、分化、および成長のためのシグナル伝達経路を活性化する。また、TGFAは、強力な細胞遊走刺激因子でもある。TGFAは、マクロファージ、脳細胞、および角化細胞において産生され得る。TGFAは、上皮の成長を誘導できる。また、TGFAは、TLRについて、その発現と、上皮表面での宿主細胞の防御機構を増強するその機能とを上方制御できる。TGFAは、膜貫通型結合リガンドとしても、可溶性リガンドとしても作用し得る。TGFAは多種のがんに関連付けられており、また、口唇口蓋裂のいくつかの症例にも関与している可能性がある。この遺伝子について、異なるアイソフォームをコードする選択的スプライシング型転写バリアントが見つかっている。
【0044】
PAI1(プラスミノーゲンアクチベーターインヒビター1)は、セリンプロテイナーゼ阻害薬(セルピン)スーパーファミリーのメンバーである。PAI1は、組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)およびウロキナーゼ(uPA)の主要な阻害薬であり、よって、線維素溶解の阻害薬である。また、PAI1は細胞遊走の制御因子でもある。PAI1は、たとえば炎症、アテローム性動脈硬化、インスリン抵抗性、肥満、併存疾患、およびウェルナー症候群を含む、年齢に関連した複数の状態に関与し得る。PAI1は、感染の急性期において、インターフェロンガンマの放出を調節することにより、宿主防御性の役割を果たし得る。IFNGはPAI-1の発現を調節するが、このことからPAI-1とIFNGとの複雑な相互作用が示唆される。また、PAI1は、Toll様受容体4(TLR4)を介してマクロファージを活性化でき、がん促進性M2マクロファージの腫瘍への遊走を促進し得る。
【0045】
LIF(白血病抑制因子)は、いくつかの異なる機序に影響を及ぼす多面的作用を有するインターロイキン・クラス6のサイトカインである。LIFレベルが低下すると、細胞が分化する。LIFは、白血病細胞への最終分化を誘導する能力を有する。その活性は、正常細胞および骨髄性白血病細胞における血球分化の誘導、神経細胞分化の誘導、および肝細胞における急性期タンパク質合成の刺激を含む。この遺伝子によりコードされるタンパク質は多面的作用を有するサイトカインであって、いくつかの異なる機序に関与している。正常細胞および骨髄性白血病細胞における血球分化の誘導、神経細胞分化の誘導、腎臓発達中における間葉から上皮への転換の調節に関与しており、また、母体胎児界面における免疫寛容性の役割も有し得る。この遺伝子について、複数のアイソフォームをコードする選択的スプライシング型転写バリアントが見つかっている。LIFは、自己分泌型および傍分泌型の両方の様式で機能する。LIFは、その特異的な受容体であるLIFRに結合し、次いでgp130を動員して高親和性受容体複合体を形成して、JAK/STAT3、PI3K/AKT、ERK1/2、およびmTORシグナル伝達を含む下流のシグナル経路の活性化を誘導する。さらなる研究によって、LIFが神経、肝臓、内分泌系、炎症、および免疫系といった広範囲の生物学的機能をもつ多機能性タンパク質であることが明らかにされている。LIFは、胚性幹細胞の自己複製を調節しており、マウス胚性幹細胞の多能性維持にとって不可欠な因子である。抗炎症薬としてのLIFの発現は、炎症ストレス下で誘導される。
【0046】
レプチンは、白色脂肪細胞によって循環中に分泌され、エネルギー恒常性の調節において主要な役割を果たす。レプチンは、脳内のレプチン受容体に結合し、これにより、摂食抑制とエネルギー消費亢進とを担う下流のシグナル伝達経路が活性化される。また、レプチンはいくつかの内分泌機能を有し、免疫反応および炎症反応の調節、造血、血管新生、生殖、骨形成、ならびに創傷治癒に関与している。レプチンは、栄養状態と炎症誘発性Tヘルパー1免疫応答とを直接結びつけ得て、飢餓状態においてレプチン血漿濃度が低下すると免疫機能障害が導かれ得る。レプチンは慢性炎症の病態形成に関与しており、肥満状態において循環レプチンレベルが上がると軽微な炎症をもたらし得ると考えられ、これにより、肥満個体における心血管疾患、II型糖尿病、および変性疾患(自己免疫およびがんを含む)の罹患リスクがさらに上がりやすくなる。栄養不良の個体においてみられるようなレプチンレベルの低下は、感染リスクの増大および細胞性免疫応答の低下に関連付けられている。この遺伝子およびその調節領域における変異は、ヒト患者において、性腺機能低下を伴う高度肥満および病的肥満を引き起こす。また、この遺伝子における変異は、2型糖尿病の発生とも関連付けられている。
【0047】
MIP1A(マクロファージ炎症性タンパク質)は、CCまたはベータケモカインサブファミリーのメンバーである。MIP1Aは、白血球の活性化および輸送を調節する。MIP1Aは、単球、T細胞、B細胞、および好酸球を含む様々な細胞に対する走化性因子として働く。MIP1Aは、受容体CCR1、CCR4、およびCCR5への結合を介して炎症反応に関与する。
【0048】
IL-1B(インターロイキン1ベータ)は、インターロイキン1サイトカインファミリーのメンバーである。IL-1Bは重要な炎症反応メディエータであり、細胞の増殖、分化、およびアポトーシスを含む様々な細胞活性に関与している。LI-1Bは、活性化されたマクロファージによってプロタンパク質として産生され、これがカスパーゼ1(CASP1/ICE)によるタンパク質分解処理を受けて活性型になる。
【0049】
iAgeによって、心血管健康状態と相関関係にある脈波伝播速度(動脈硬化度の指標、または圧力波が血管中を下方移動する速度)を予測できる。
【0050】
CRSの構築:免疫細胞の分離は、密度勾配による血液の分画遠心の使用を含んでよい(図2)。得られた細胞ペレットを、温めた培地中に懸濁し、2回洗浄して、生細胞数0.5×10^6個/mLにて再懸濁してよい。細胞試料200uLを、96ウェルのディープウェルプレートの各ウェルに播種してよい。37℃において1時間静置した後、サイトカイン(IFNa、IFNg、IL-6、IL-7、IL-10、IL-2、またはIL-21)を50ul添加することによって細胞を刺激してよく(図2)、37℃において15分間インキュベートしてよい。この細胞をパラホルムアルデヒドで固定し、メタノールで透過処理して、-80Cで一晩維持してよい。次いで、Pacific Orange色素およびAlexa-750色素(インビトロジェン、Carlsbad、CA)を組み合わせて使用して各ウェルをバーコード化して、チューブにプールしてよい。この細胞をFACSバッファー(2%FBSおよび0.1%アジ化ナトリウムを添加したPBS)で洗浄し、以下の抗体(すべて入手元はBD Biosciences、San Jose、CA)で染色してよい:CD3 Pacific Blue、CD4 PerCP-Cy5.5、CD20 PerCp-Cy5.5、CD33 PE-Cy7、CD45RA Qdot 605、pSTAT-1 AlexaFluor488、pSTAT-3 AlexaFluor647、pSTAT-5 PE。試料をFACSバッファー中で洗浄および再懸濁してよい。LSRIIフローサイトメーター(BD Biosciences)を使用しDIVA 6.0ソフトウェアを用いて、1つの刺激条件について100,000個の細胞を集める。データ分析は、FlowJo v9.3を用い、前方対側方散乱プロファイルに基づいて生細胞についてゲーティングし、次いで前方散乱の領域対高さを使用して1重項に対してゲーティングし、続いて細胞サブセット特異的にゲーティングすることによって行なってよい。
【0051】
細胞、サイトカイン刺激、リン酸化タンパク質指標と、同じプレート上で測定した未処理、未正規化、細胞-リン酸化タンパク質マッチングベースラインとの比率として、刺激に起因する倍数変化差異を算出できる。測定日のアッセイの平均を使用して各個体について倍率変更を行なうことによって、データを正規化できる。
【0052】
サイトカイン応答スコア(CRS)を構築するために(図2)、再現性があり年齢関連性であり正規化した15のサイトカイン応答をベースライン(未刺激)からの倍増加として表すことができ、以下のものについての倍増加を総計することができる:CD8陽性細胞をIFNaで刺激してpSTAT1、3、および5を測定;CD8陽性細胞をIL6で刺激してpSTAT1、3、および5を測定、CD8陽性細胞をIFNgで刺激してpSTAT1を測定、CD8陽性細胞をIL21で刺激してpSTAT1を測定;CD4陽性細胞をIFNaで刺激してpSTAT5を測定、CD4陽性細胞をIL6で刺激してpSTAT5を測定、CD20陽性細胞をIFNaで刺激してpSTAT1を測定、単球をIL10で刺激してpSTAT3を測定、単球をIFNgで刺激してpSTAT3を測定、単球をIFNaで刺激してpSTAT3を測定、および、単球をIL6で刺激してpSTAT3を測定。
【0053】
IFNA(インターフェロンアルファ)は、I型クラスのインターフェロンのメンバーである。そして、ヒトにおいて13通りのバリアントを有する。IFNAは造血細胞、主に形質細胞様樹状細胞によって分泌される。IFNAは、防御的な役割または有害な役割を有し得る。IFNAは、ウイルスまたは細菌からのssRNA、dsRNA、およびサイトゾルDNAによって誘導され得る。IFNAはカスパーゼ11の発現を誘導でき、これが、標準的ではないインフラマソームの活性化に寄与する。組換えIFNAの使用が感冒の症状軽減および持続期間短縮に有効であることが示されている。
【0054】
INFG(インターフェロンガンマ)は、II型クラスのインターフェロンのメンバーである。コードされるタンパク質は、自然免疫系と適応免疫系の両方の細胞によって分泌される。活性タンパク質はホモダイマーであり、インターフェロンガンマ受容体に結合して、ウイルスおよび微生物による感染に対する細胞応答を誘発する。この遺伝子における変異は、ウイルス、細菌、および寄生虫による感染ならびにいくつかの自己免疫疾患に対する易罹患性の増大に関連する。
【0055】
IL6は、炎症、免疫応答、および造血に対する多面的作用を有するサイトカインである。IL6は、感染および組織傷害に応答して迅速かつ一時的に産生され、急性期応答、造血、および免疫反応の刺激を経て宿主防御に寄与する。IL6は、炎症、およびB細胞の成熟において機能する。さらに、IL6は、自己免疫疾患または感染を有する人において発熱を誘導できる内因性発熱物質であることが示されている。IL6は、主に、急性および慢性の炎症部位において産生され、血清中に分泌されて、インターロイキン6受容体アルファを経て転写性炎症反応(transcriptional inflammatory response)を誘導する。IL6は、糖尿病および全身性若年性関節リウマチに対する易罹患性を含む多種多様な炎症関連疾患状態と関連付けられる。IL-6の調節不全性連続合成は、慢性炎症および自己免疫に対して病理学的な作用を及ぼす。選択的スプライシングの結果として、複数の転写バリアントが生じる。
【0056】
IL10は、免疫調節および炎症における多面的作用を有するサイトカインである。IL-10は抗炎症性サイトカインであり、感染の間、Th1細胞、NK細胞、およびマクロファージの活性を阻害する(これらはいずれも、最適な病原体除去に必要であるが、組織損傷にも寄与する)。IL10は、リンパ節におけるT細胞の活性化および分化を制限して組織における炎症誘発反応を抑制することによって、Th1およびTh2の自然応答および適応応答を直接調節できる。また、B細胞の生存、増殖、および抗体産生を亢進させる。このサイトカインはNF-カッパB活性を遮断でき、JAK-STATシグナル伝達経路の調節に関与する。マウスにおけるノックアウト研究によって、このサイトカインが腸管内で必須の免疫調節因子として機能していることが示唆されている。
【0057】
IL21は、免疫調節活性を有する共通ガンマ鎖サイトカインファミリーのメンバーである。IL21は、マクロファージ、ナチュラルキラー細胞、B細胞、細胞傷害性T細胞、および上皮細胞を含む複数の標的細胞の分化、増殖、および活性を誘導するにより、自然免疫応答および適応免疫応答の両方に関与する。IL21は、抗腫瘍性および抗ウイルス性の反応にとって重要であり、また、自己免疫疾患および炎症性障害の発生を促進する炎症反応に対して大きな影響を及ぼす。
【0058】
pSTAT1(リン酸化シグナル伝達兼転写活性化因子1)は、インターフェロン(IFN)、サイトカインKITLG/SCF、ならびにその他のサイトカインおよびその他の増殖因子に対する細胞応答に介在する。I型IFN(IFNアルファおよびIFNベータ)が細胞表面の受容体に結合すると、これに続いて、プロテインキナーゼを経るシグナル伝達によって、Jakキナーゼ(TYK2およびJAK1)の活性化が導かれて、STAT1およびSTAT2のチロシンリン酸化が導かれる。リン酸化されたSTATは二量体となり、ISGF3G/IRF-9と結合して、ISGF3転写因子と呼ばれる複合体を形成し、これが核内に移行する(PubMed:28753426)。ISGF3は、IFN刺激応答エレメント(ISRE)に結合してIFN応答遺伝子(ISG)の転写を活性化し、これにより細胞が抗ウイルス状態になる。II型IFN(IFNガンマ)に応答して、STAT1はチロシンリン酸化およびセリンリン酸化される(PubMed:26479788)。次いで、IFNガンマ活性化因子(GAF)と呼ばれるホモダイマーを形成し、核内移行してIFNガンマ活性化配列(GAS)に結合し、標的遺伝子の発現を駆動して、細胞を抗ウイルス状態へと誘導する。
【0059】
pSTAT3(リン酸化シグナル伝達兼転写活性化因子3)は、インターロイキン、KITLG/SCF、LEP、およびその他の増殖因子に対する細胞応答に介在する。活性化されると、NCOA1またはMED1などのコアクチベーターを標的遺伝子のプロモーター領域へと動員する。様々な急性期タンパク質遺伝子のプロモーターにおいて同定されているインターロイキン6(IL-6)応答配列に結合する。IL31により、IL31RAを経て活性化される。ナイーブ型CD4陽性T細胞からTヘルパーTh17または制御性T細胞(Treg)への分化を調節することによって、炎症反応の制御因子として働く:LOXL3によるリシン残基の脱アセチル化および酸化は、STAT3の二量体化を妨げてその転写活性を阻害する。
【0060】
pSTAT5(リン酸化シグナル伝達兼転写活性化因子5)は、サイトカイン受容体の下流にあるヤヌス活性化キナーゼ(JAK)によって活性化される。STAT5タンパク質は多種多様な造血性および非造血性のサイトカインおよび増殖因子(いずれも、JAK-STATシグナル伝達経路をその主要なシグナル伝達様式として使用する)によって活性化される。STAT5タンパク質は、増殖、分化、および生存などの重要な細胞機能を決定的に調節する。STAT5は、正常な免疫機能および恒常性の維持において重要な役割を果たしており、これらはいずれも、受容体複合体中で共通ガンマ鎖(γ(c))を有するIL-2サイトカインファミリーの特定のメンバーによって調節される。STAT5は、免疫系におけるγ(c)サイトカインファミリーのメンバーの生物学的作用に決定的に介在する。本質的に、STAT5はTregの機能および発生において非常に重要な役割を果たし、一貫して活性化されているSTAT5は、抗腫瘍免疫の抑制と、腫瘍細胞の増殖、浸潤、および生存の増大とに関与する。
【0061】
心臓年齢の構築。
心臓年齢(cAge)を導き出すために、iAgeについての上述の説明と同様にして、患者試料を採取および処理する。平均蛍光強度を正規化して、重回帰分析に使用できる。MIG、LIF、およびSIRT3のレベルを使用して、心血管健康状態のリスクを診断できる。心臓年齢を算出するために使用できるその他のパラメータは、たとえば、血管硬化度の指標である大動脈脈波伝播速度;心室リモデリングの指標である相対的壁厚(RWT)、および心室弛緩の指標である拡張早期僧帽弁輪速度(e’)を含む。さらなる他のパラメータは、たとえば、性別、BMI、心拍数、収縮期血圧、空腹時血糖、および総コレステロールとHDLの比率を含む。対象のMIG、LIF、SIRT3、および/またはその他の測定値のレベルを、年齢が同じおよび/または年齢が異なる他の対象のものと比較することにより、個々の因子またはすべての因子について、年齢が異なる対象に対する当該対象の分位を求めることができる。MIGについての分位ランクが低い場合には心血管疾患のリスクが低いと診断でき、MIGについての分位ランクが高い場合には心血管疾患のリスクが比較的高いと診断できる。LIFおよび/またはSIRT3についての分位ランクが高い場合には心血管疾患のリスクが低いと診断でき、LIFおよび/またはSIRT3についての分位ランクが高い場合には心血管疾患のリスクが比較的高いと診断できる。また、その他のパラメータ(因子)についても分析に含めることができ、たとえば、脈波伝播速度についての分位ランクが高い場合には心血管疾患のリスクが比較的高いと診断でき、異常なRWTについての分位ランクが高い場合には心血管疾患のリスクが比較的高いと診断でき、また、拡張早期僧帽弁輪速度についての分位が比較的低い場合には心血管疾患のリスクが比較的高いと診断できる。複数のパラメータおよび/または因子を組み合わせることによって心臓年齢を算出でき、たとえば、MIG、LIF、およびSIRT3を使用して心臓年齢を導き出すことができる、またはこれらの因子をその他のパラメータ(たとえば、大動脈脈波伝播速度、RWT、および/または拡張早期僧帽弁輪速度)と組み合わせることによって心臓年齢を導き出すことができる。これらの因子および/またはパラメータを組み合わせる場合、高い分位ランクは比較的年長の心臓年齢および比較的高い心血管疾患リスクと相関関係にあると考えられ、低い分位ランクは比較的若い心臓年齢および比較的低い心血管疾患リスクと相関関係にあると考えられる。分位ランクは、たとえば、四分位数、五分位数、または十分位数を含んでよい。
【0062】
SIRT3(サーチュイン3(Situin-3)、NAD依存性脱アセチル化酵素)は哺乳動物のサーチュインタンパク質ファミリー(酵母のSir2タンパク質のホモログ)のメンバーである。SIRT3は、NAD+依存性の脱アセチル化酵素活性を呈する。SIRT3は、代謝リプログラミングおよび抗酸化防御機構などのミトコンドリアの対ストレス適応応答の制御因子である。SIRT3は、ゲノムの安定性およびミトコンドリアの完全性を維持することによって、様々な形態のストレスに対する細胞抵抗性に介在する。SIRT3は、酸化ストレスの制限、反応性酸素種(ROS)産生の低減、およびミトコンドリア膜電位の低減による適切なミトコンドリア機能の維持において、最も重要である。SIRT3は心保護特性を有し、老化におけるミトコンドリアの恒常性維持、幹細胞および組織の維持に関与し、心血管健康状態および長寿の維持において食事、カロリー制限、および運動が有する有益な効果に関連している。
【0063】
MIGと、動脈硬化度の指標であるPWV(R=0.22)および心臓リモデリングの指標であるRWT(R=0.3)といった心血管老化マーカーとの間には正の相関があり、LIFとPWV(R=-0.27)との間、およびRWT(R=-0.22)との間には負の相関がある。無症候性の心組織リモデリングおよび動脈硬化度の増大が、他の点では健康な高MIGレベルおよび低LIFレベルを有する個体において見られ得る。
【0064】
無症候性の心組織リモデリングおよび動脈硬化度の増大を有する患者は、他の点では健康な、MIGレベルが高くSIRT-3およびLIFのレベルが低い個体であり得る。心組織リモデリングおよび動脈硬化度の増大は、比較的不良な心血管疾患転帰に関連するリスク因子である。炎症時計への寄与が最も大きいMIGは、心血管疾患についての臨床上または検査上のエビデンスがみられない健康で比較的年長の成人においてさえも、無症候性レベルの動脈硬化度および心臓リモデリングとの間に正の相関を有していた。また、炎症時計(iAge)は、心血管機能不全の初期の分子マーカーとしても使用できる。
【0065】
出願人らの知見に基づけば、MIG介在性炎症の少なくとも2つの原因が老化と共に確認できる;1つは年齢固有であって老化内皮で観察され、もう1つは年齢に依存しない(おそらくは、環境侵襲への曝露が蓄積したことに対する応答として生じる)。その一方、周知の疾患リスク因子(BMI、喫煙、脂質異常症)およびMIG遺伝子またはタンパク質発現のレベルとの間には著しい相関はみられなかった。MIGの過産生は本質的には細胞老化によって引き起こされ得て、これが、代謝機能不全と、これに伴うアデニンおよびN4-アセチルシチジンなどの損傷関連分子パターン(DAMP)の産生とを誘発する。次いで、これらのDAMPが、NLRC4などのインフラマソーム機構を経て働き得て、IL-1βおよびMIGを含む複数の炎症シグナルを制御し得る。
【0066】
内皮は、高血圧症および動脈硬化の病因において非常に重要な役割を果たしており、組織リモデリングおよび心肥大などの比較的進行した心血管老化兆候は、多くの場合、老化した内皮の機能不全が先行して生じており、かつこれによって開始され得る。内皮細胞は、時間依存性のMIG転写物レベルの増加を示し、これに付随して、SIRT3発現の低下と、内皮細胞により形成される血管ネットワークの数の減少とが生じた。若い内皮は、その他の産生源からのMIGにとっての標的であり、MIGは内皮細胞におけるSIRT3発現を下方制御する。さらに、hiPSC(ヒト、人工多能性幹細胞)産生の心筋細胞ではなくhiPSC産生の内皮細胞は、MIGの受容体であるCXCR3を発現する。MIGは、傍分泌様式(免疫源から生じるこのケモカインのレベルの増加が内皮細胞機能に影響を及ぼす)と自己分泌様式との両方にて、内皮細胞に対して作用し得て、これがおそらくは、当該細胞中でのMIGの量とその受容体の発現との増加により老化において内皮機能が漸減するという正のフィードバックループを生じ得る。また、内皮細胞をMIGに曝露すると、内皮細胞の管状ネットワーク形成能力が低下し得て、MIGは大動脈における血管弛緩を低下させ得る。
【0067】
iAgeを下げるための薬剤
iAgeを使用して患者を分類することに加えて(図3)、これを使用して、対象の各タンパク質レベルと集団(たとえば、暦年齢が類似)のそれとを比較することにより、個体の炎症プロファイルを導き出すこともできる。得られるシグニチャ(またはバーコード)を使用して、drugbankデータベース(www.drugbank.ca)使用によるタンパク質-化合物結合(PCI)分析を行なって、iAgeを下げるための個別化初期療法を得ることができる(図3)。個別化された推奨に従っている患者について、そのiAgeの変化を、これが最適なレベル(所与の年齢区分における集団平均よりも低い)に到達して処置表現型レスポンダーに移行できるようになるまで、週1回監視できる(図3)。次いで、患者がレスポンダーに分類されて、免疫療法処置にとって好適となる。
【0068】
対象は、TRAIL、IFNG、GROA、IL2、TGFA、PAI1、および/またはLIFのレベルを人間の暦年齢にとって最適なレベルに下げる処置により、iAgeが下がり得る。また、対象は、MIG、エオタキシン、レプチン、IL-1B、またはMIP1Aのレベルを人間の年齢にとって最適なレベルに上げる処置により、iAgeが下がり得る。
【0069】
また、対象は、全身慢性炎症がある場合には、以下のものの単独または組み合わせでの使用によりこれを低減することによって、iAgeが下がり得る:(1)抗炎症薬(NSAID、たとえばアスピリン、イブプロフェン、ナプロキセン、ジクロフェナク、セレコキシブ、オキサプロジン、ピロキシカム、インドメタシン、メロキシカム、フェノプロフェン、ジフルニサル、エトドラク、ケトロラック、メクロフェナム酸、ナブメトンなど)またはコルチコステロイド(たとえば、グルココルチコイド、ミネラルコルチコイド)を含むがこれらに限定されない薬理学処置;(2)魚油、リポ酸、ならびにクルクミン、もしくは、ショウガ、ニンニク、ターメリック(turmeric)、ヒソップ(hyssop)、タイマ(cannabis)、ライオンゴロシ(Harpagophytum procumbens)、およびカイエン(cayenne)などのスパイス/ハーブを含むがこれらに限定されない、栄養補助剤または栄養補助食品;(3)オリーブ油、葉菜類(たとえばケールおよびホウレンソウ)、ブロッコリ、アボカド、緑茶、ピーマン(bell peppers)、チリペッパー(chili peppers)、キノコ類、ブラックチョコレート(dark chocolate)、ココア(cocoa)、トマト、脂肪の多い魚類(たとえば、サーモン(salmon)、サーディン(sardines)、ニシン(herring)、アンチョビ(anchovies)、およびサバ(mackerel))、ナッツ(クルミおよびアーモンド)、および果実(たとえば、サクランボ(cherries)、ブラックベリー(blackberries)、ブルーベリー(blueberries)、ラズベリー(raspberries)、イチゴ(strawberries)、ブドウ(grapes)、およびオレンジ(oranges))などの抗酸化物質およびポリフェノールに富む食物の摂取増加、ならびに/または、精製炭水化物(たとえば、白パン(white bread)およびペストリー(pastries))、ブドウ糖果糖液糖(high-fructose corn syrup)、精製糖、加工包装食品、揚げ物、赤身肉、過剰量のアルコール、および加工肉などの、炎症を増大させ得る食物の摂取低減を含むがこれらに限定されない、食事における変化;ならびに、(4)喫煙および飲酒の除去もしくは低減、健康体重の維持、およびストレスレベルの低減を含むがこれらに限定されない、生活習慣の変化。
【0070】
心臓マーカーを改善するための薬剤
心臓マーカーは、心臓マーカーのレベルを改善する(cAgeを下げる)処置を対象に与えることによって改善できる。対象の心臓マーカースコア(cAge)は、患者におけるMIGの低減、患者におけるサーチュイン3の増大、患者におけるLIFの増大、および/またはCXCR3(MIGの受容体)からの細胞シグナル伝達の低減によって下げることができる。MIG発現の低減、サーチュイン3発現の増大、LIF活性(またはLIF様活性)の増大が可能であるおよび/またはCXCR3(MIGの受容体)の拮抗薬として作用できる様々な薬剤が知られている。
【0071】
MIGを低下させることができる(これにより心臓マーカーおよびiAgeマーカーを改善できる)薬剤は、たとえば三酸化ヒ素、ロキサルソン、セレン、および/または様々な抗体を含む。抗体は、たとえば、MIG-2F5.5(抗ヒトCXCL9抗体、BioLegend Cat.#740072)、抗ヒトCXCL9抗体、NSJ Bioreagents、Cat#R30501、マウスMAbクローン49106(抗ヒトCXCL9、R&D Systems Cat#MAB392)、ヒトCXCL9に対するマウスモノクローナルMAb(中和型、GeneTex、Cat#GTX52673)、マウスモノクローナル抗ヒトCXCL9抗体(OriGene、Cat#PM1209P)、MIG抗体(MM0220-7F11)(Novus Biologicals、NBP2-12236)、MIG抗体(1F5)(Novus Biologicals、H00004283-M06)、およびマウスMAb抗ヒトCXCL9(ThermoFisher Cat#MA5-23746、Cat#MA5-30320、Cat#MA5-23628、Cat#MA5-23544)。
【0072】
中医学の薬の成分である三酸化ヒ素(As)を使用して急性前骨髄球性白血病(APL)の処置が可能となっており、Asは、その他の前骨髄球性の悪性病変、および乳がんを含むいくつかの固形腫瘍の処置において治療効果を有する可能性がある。Asによる処置は、細胞周期調節、シグナル伝達、およびアポトーシスに関与するいくつかの遺伝子の発現レベルを変化させた。とりわけ、Asによる処置は、細胞周期阻害タンパク質p21およびp27のmRNAおよびタンパク質のレベルを増加させた。興味深いことに、p21またはp27を個々にノックダウンしても、Asに誘導されるアポトーシスおよび細胞周期停止は変化しなかったが、しかしながら、p21とp27とを同時に下方制御すると、G1、G2/Mの停止が緩和され、アポトーシスが低減されたことから、p21およびp27がAsの主たる分子標的であることが示された。
【0073】
ロキサルソンは、有機基が4-ヒドロキシ-3-ニトロフェニルである有機アルソン酸である。抗コクシジウム薬、抗菌薬、農薬、および動物成長促進剤としての役割を有する。有機アルソン酸であり、2-ニトロフェノール類のメンバーである。ロキサルソンは、AsIIIと比較して、より低濃度においてより高い血管新生指数を呈することが見いだされた。内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)活性の増大が、ロキサルソン誘導性血管新生については観察されたが、AsIII誘導性血管新生については観察されなかった。しかしながら、AsIIIは、より迅速かつ顕著なeNOSのリン酸化を生じた。
【0074】
セレン(Se)は、発癌抑制型栄養剤である可能性があり、細胞増殖においてSeが不可欠であることは十分に認識されているが、ある特定のがん細胞はSeが欠失した条件下において生存できる能力を獲得しているようである。Seは、液性防御遺伝子(A2M)および腫瘍抑制関連遺伝子(IGFBP3、HHIP)の発現を上昇させ、炎症誘発性遺伝子(MIG、HSPB2)の発現を低下させることを通じて、その作用を発揮できる。
【0075】
サーチュイン3レベルを上げる薬剤は、たとえばベルベリンおよびレスベラトロールを含む。ベルベリン(分子式C2019NO、および分子量353.36)は、数千年にわたって糖尿病の処置に使用されている伝統的な中国のハーブCoptis chinensis Frenchの主要活性成分である。ベルベリンは一般用医薬品(OTC)であり、中国では胃腸感染の処置に使用される。ベルベリンは、in vitroおよびin vivoにおいてグルコースおよび脂質の代謝を調節することが示されている。また、ベルベリンは、脂質代謝に対して有益な作用を有する高効力の経口血糖降下薬である。
【0076】
レスベラトロール(3,5,4’-トリヒドロキシ-trans-スチルベン)は、ポリフェノールであるスチルベノイドの群に属しており、エチレン架橋によって互いに結合した2つのフェノール環を有する。この天然のポリフェノールは70種を超える植物種において、特にブドウの皮および種子において検出されており、赤ワインおよび様々な人間の食物において様々な量にて見いだされている。細菌および真菌を含む病原体に対する作用を示すフィトアレキシンである。天然の食品成分として、レスベラトロールが非常に高い抗酸化能力を有することが、非常に多くの研究によって実証されている。また、レスベラトロールは抗腫瘍活性を呈し、いくつかの種類のがんの予防および処置に使用できると考えられる。実際、レスベラトロールの抗がん特性は多くのin vitroおよびin vivo研究によって確認されており、これらは、レスベラトロールはすべての発癌ステージ(たとえば、開始、進行、および増悪)を阻害できることを示している。さらには、その他の生理活性作用についても、すなわち抗炎症、発癌抑制、心保護、血管弛緩、植物エストロゲン性、および神経保護作用についても報告されている。
【0077】
LIFレベルを上げる薬剤は、アミオダロン、三酸化ヒ素、アザチオプリン、エストラジオール、クロラムブシル、クロミフェン、クマホス、シクロスポリン、デシタビン、シスプラチン、ビンクリスチン、ホルムアルデヒド、グルコース、過酸化水素、レトロゾール、リンデン、メトトレキサート、クェルセチン、オキシキノリン、レゾルシノール、レスベラトロール、二酸化ケイ素、トレチノイン、およびトログリタゾンを含む。
【0078】
LIFの発現は多くのサイトカインによって調節される。正常ヒト骨髄間質細胞においては、IL-1α、IL-1β、TGF-β、および腫瘍壊死因子α(TNF-α)のすべてがLIFのmRNAの転写を増大させることができる。また、歯肉線維芽細胞およびヒト気道内のいくつかの細胞種において、IL-1βおよびTNF-αによるLIFの誘導が観察された。さらに、気道平滑筋およびMT-2細胞を含む異なる細胞種において、IL-6、IL-2を含むその他のサイトカインによるLIF発現の誘導が観察されている。また、LIFの発現は、1α、25-ジヒドロキシビタミンD3、およびデキサメタゾンを含むいくつかの因子によって阻害され得る。LIFプロモーターの分析から、転写因子STAT5がLIFのプロモーターに結合して骨髄系細胞系におけるその発現を誘導できることが明らかになった。さらに、LIFのプロモーター領域は、いくつかのETS結合部位を含有する。LIFプロモーターへのETS転写因子の結合は、T細胞活性化因子に応答したLIFの誘導にとって非常に重要である。
【0079】
アミオダロンは、第一にはIIIクラスの抗不整脈薬であり、最も一般的に使用される抗不整脈薬の1種である。米国FDAは、アミオダロンの表示を重篤な心室性不整脈の処置としているが、この薬物は、一般的に、適応外で、心房細動などの上室性頻脈性不整脈の処置および高リスク患者における心室性頻脈性不整脈(VT)の予防に使用される。このクラスの他の抗不整脈薬と同様、アミオダロンも、主として、心臓の活動電位の第3相における心臓再分極を担うカリウム整流電流を遮断することによって働く。このカリウムチャネル遮断作用によって、心筋細胞における活動電位持続時間が長くなり、有効不応期が長くなる。また、他のIIIクラスの薬剤とは異なって、アミオダロンはベータアドレナリン作動性受容体、カルシウムチャネル、およびナトリウムチャネルを妨害する。
【0080】
クロミフェンは、2-[p-(2-クロロ-1,2-ジフェニルビニル)フェノキシ]トリエチルアミンシトレート(1:1)として化学的に称される排卵促進薬である。分子式はC26H28ClNO・C6H8O7であり、分子量は598.09である。クロミフェンは、視床下部、下垂体、卵巣、子宮内膜、膣、および子宮頸部を含むエストロゲン受容体含有組織と相互に作用できる。エストロゲン受容体結合部位を求めてエストロゲンと競合し得て、細胞内エストロゲン受容体の補充を遅延させ得る。クロミフェンは、一連の内分泌系事象を開始させ、その結果として、排卵前のゴナドトロピンの急激な上昇と、それに続く卵胞破裂とをもたらす。クロミフェン療法に応答して生じる最初の内分泌系事象として、下垂体のゴナドトロピンの放出が増加する。
【0081】
クマホスは、有機チオリン酸系殺虫剤、有機チオリン酸塩、および有機塩素系化合物である。農薬、殺ダニ剤、抗線虫薬、殺鳥剤、およびEC3.1.1.8(コリンエステラーゼ)の阻害薬としての役割を有する。クマホスは、畜牛につく多種多様な昆虫およびミツバチにつく寄生ダニ(Varroa jacobson)をコントロールするために使用される。また、獣医学においては、家畜につくラセンウジ(screwworms)、ウジ(maggots)、および耳ダニの処置に使用される。ヒトにおいては、クマホスは、コリン作動系の過剰刺激に関連して、ムスカリン性作用(副交感神経性)、ニコチン性作用(交感神経性および運動)、およびCNS作用を引き起こす。
【0082】
リンデンは、ガンマ-ヘキサクロロシクロヘキサン(γ-HCH)、ガンマキセン、およびガンマリンとしても知られ、有機塩素系の化学物質であり、農業用殺虫剤としても、シラミおよび疥癬の処置薬としても使用されているヘキサクロロシクロヘキサンの異性体である。リンデンは、ピクロトキシン結合部位においてGABA受容体-塩素イオンチャネル複合体と相互作用することによって神経伝達物質GABAの機能を妨げる神経毒である。ヒトにおいて、リンデンは神経系、肝臓、および腎臓に影響を及ぼし、発癌性物質でもあり得る。
【0083】
オキシキノリンは複素環式フェノールであり、硫酸オキシキノリンはその塩であって、これらはいずれも、美容用製剤において使用するための美容用殺生物剤として記載される。オキシキノリンは殺菌剤、消毒薬として使用でき、農薬特性を有する。また、オキシキノリンは、金属イオンの定量に使用されているキレート剤である。
【0084】
デシタビン(5-アザ-2’-デオキシシチジンまたは5-アザ-Cdr)は、1960年代初期にPlimlおよびSormによって最初に合成されたシトシン類似体であり、現在はエーザイ(東京、日本)からDacogen(登録商標)として市販されている。これは、ピリミジン環の5位の炭素が窒素に置換されている点で、デオキシシチジンとは異なる。細胞株において抗白血病性作用を有し、in vitroにおける効力がシタラビンより高いことが注目された。最初、その細胞毒性は、他の代謝拮抗薬と同じように、DNA合成に障害を与えてDNAに損傷を与えることができるためであるとされた。低用量では、デシタビンは、DNAのメチル化に誘導される遺伝子サイレンシングを元に戻すことによって、分化を誘導する。細胞内に入ると、デシタビンは、酵素デオキシシチジンキナーゼによりリン酸化されてそのトリホスフェート形態であるアザdCTPとなって活性化される。その後、プロモーター領域においてクラスタ状で存在するCpG(シトシン-グアノシンジヌクレオチド)島においてシトシンと競合してこれを置き換える。続いて起こる細胞分裂の間、アザdCTPは、酵素DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)と共有結合を形成することによって、プロモーターのメチル化を阻害し、これによって、この酵素を捕獲して、その分解に寄与する。
【0085】
クロラムブシルおよびシスプラチンは、がんの処置に使用されるアルキル化剤である。クロラムブシルはナイトロジェンマスタードのクラスに属し、シスプラチンは白金に基づく薬剤である。クロラムブシルは、DNA複製を妨げて細胞内でDNAに損傷を与えることによって、その抗がん作用を生じる。このDNA損傷により、サイトゾルのp53の蓄積と、これに続いて起こるアポトーシス促進因子であるBcl-2結合Xタンパク質の活性化とを通じて、細胞周期の停止と細胞のアポトーシスとが誘導される。シスプラチンはいくつかの異なる様式でDNAを架橋して、有糸分裂による細胞分裂を妨げる。損傷をうけたDNAはDNA修復機構を顕在化させて、アポトーシスを活性化する。
【0086】
ビンクリスチンは、ビンカアルカロイドとよばれる薬物のグループに属する化学療法薬である。ビンクリスチンは、がん細胞が2つの新しい細胞に分割するのを停止させることによって働く。ビンクリスチンは、一部、チューブリンタンパク質に結合し、チューブリンダイマーが重合して微小管を形成するのを停止させて、細胞が中期の間に染色体を分離できなくすることによって働く。この後、この細胞はアポトーシスを受ける。
【0087】
レトロゾールは、外科手術後のホルモン反応性乳がんの処置において使用されるアロマターゼ阻害薬である。また、レトロゾールは排卵誘発にも使用される。レトロゾールは、チトクロームP450ユニットのヘムに競合的かつ可逆的に結合することによって、エストロゲンの産生を遮断する。レトロゾールは、エストロゲンレベルを98パーセント下げてテストステロンレベルを上げることが示されている。
【0088】
トレチノインはビタミンAの誘導体である。軽度から中程度のざ瘡の処置において皮膚(局所的)に使用され、また、過度の日光曝露により損傷をうけた皮膚にも使用される。トレチノインは皮膚に刺激を与え、皮膚の細胞の成長(分裂)および死の速度を速めて、細胞のターンオーバーを増大させる。また、トレチノインは、急性前骨髄球性白血病細胞の分化を誘導でき、かつこれらの増殖を停止でき、また、ヒトでは、初期のがん性前骨髄球を分化させてその最終形態にするというエビデンスがある。
【0089】
エストラジオールは、女性における主要な循環エストロゲンであり、閉経前には血漿濃度30~400pg/mLに達する。エストラジオールは、生殖器系の生育および発達を調節し、さらに、骨組織、中枢神経系、および血管組織中の血管拡張の維持を助ける。脈管構造におけるおよび心血管疾患(CVD)に対するエストラジオールの保護作用は、いくつかのホルモン補充研究において実証されている。エストラジオールは、β1サブユニットの存在を要するプロセスを介して、BKチャネルを活性化する。Valverdeらが最初に、エストラジオールがβ1に結合することによりBKチャネルに作用することを提案したが、BKチャネルに対するエストラジオールの作動的作用がβ1サブユニットまたはα/β1複合体のいずれに対する結合によって生じているのかについては、依然として議論がある。また、エストラジオール結合部位の分子特性およびこのホルモンの作用様式は、現時点ではまだ分かっていない。エストラジオール(100nM)の短期(acute)適用は、BKチャネルの活性化によって平滑筋の興奮性を低下させる。とりわけ、エストラジオールまたはその膜不透過形態(E2-BSA)は、80pMのEC50にて、MCF-7乳房上皮がん細胞におけるBKチャネル活性の急増を誘導でき、その作用は10nMにおいて最大に達する34。エストラジオールの迅速な作用は最後野のニューロンにおいても報告されており、ここでは、ナノモル濃度レベルのE2が、恐らくはBK電流を増大させることによって、発火頻度を低下させ得る35。これらの例はいずれも、E2によるBKチャネル調節の生理学的重要性を明らかに示すものであり、このホルモンとBKチャネルとの相互作用の分子特性を調べるために価値のある努力を費やしたものである。
【0090】
シクロスポリンは、免疫調節異常障害および臓器移植の両方における免疫抑制の中心的要素である。眼科系、皮膚系、血液系、胃腸系、神経系、または筋骨格系に関与する免疫異常に対して、シクロスポリンは、臨床症状の軽減および病理進行の緩和において顕著な効力を有することが実証されている。さらに、移植医学においてこの薬物を適用した後には、急性拒絶反応および1年移植片生着の比率が劇的に改善されている。
【0091】
メトトレキサートは、化学療法薬および免疫系抑制薬である。がん、自己免疫疾患、子宮外妊娠の処置、および薬剤誘発性人工流産のために使用される。これが使用されるがんの種類は、乳がん、白血病、肺がん、リンパ腫、および骨肉腫を含む。これが使用される自己免疫疾患の種類は、乾癬、関節リウマチ、およびクローン病を含む。経口で、または注射によって投与できる。メトトレキサートは、葉酸代謝拮抗型の代謝拮抗薬である。2通りの異なる経路によってがんおよび関節リウマチに影響を及ぼすと考えられている。がんに対しては、メトトレキサートは、テトラヒドロ葉酸の合成に関与する酵素であるジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)を競合的に阻害する。DHFRに対するメトトレキサートの親和性は、葉酸の約1000倍である。DHFRは、ジヒドロ葉酸から活性型のテトラヒドロ葉酸への変換を触媒する。葉酸は、DNA合成に必要なヌクレオシドであるチミジンの新規合成に必要である。また、葉酸はプリン塩基およびピリミジン塩基の生合成にとっても不可欠であり、したがって、合成が阻害され得る。よって、メトトレキサートは、DNA、RNA、チミジル酸、およびタンパク質の合成を阻害する。関節リウマチの処置(免疫抑制)に関しては複数の機序の関与が考えられ、これらには、プリン代謝に関与する酵素の阻害による、アデノシンの蓄積;T細胞活性化の阻害、およびT細胞による細胞内接着分子の発現の抑制;B細胞の選択的下方制御;活性化T細胞のCD95感受性の増大;ならびに、メチルトランスフェラーゼ活性の阻害による、免疫系機能に関連する酵素活性の不活性化が含まれる。MTXのもうひとつの機序は、インターロイキン1-ベータとその細胞表面受容体との結合の阻害である。
【0092】
トログリタゾンは抗糖尿病性および抗炎症性の薬物であり、チアゾリジンジオン薬物クラスのメンバーである。トログリタゾンは、主にインスリン抵抗性を低下させることによって働く経口型の抗高血糖薬である。トログリタゾンは、II型糖尿病の管理において使用される。トログリタゾンは、グルコースおよび脂質の代謝制御にとって非常に重要な複数のインスリン応答性遺伝子の転写を調節する核内受容体(PPAR)に結合する。トログリタゾンは、核因子カッパ-B(NF-κB)を減少させ、その阻害因子(IκB)を増大させる。
【0093】
アザチオプリンは、細胞傷害性および免疫抑制性の活性を有するプリンアナログである。アザチオプリンは、肝臓のキサンチンオキシダーゼによってその活性代謝産物6-メルカプトプリン(6-MP)へと変換されるプロドラッグである。6-MPは、ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT)によってさらに代謝されて、6-チオグアノシン-5’-リン酸(6-チオ-GMP)および6-チオイノシン一リン酸(6-チオ-IMP)になり、これらはいずれも、ヌクレオチドの変換と新規のプリン合成とを阻害する。これによって、DNA、RNA、およびタンパク質の合成阻害が導かれる。その結果、特にリンパ球および白血球において、細胞増殖が阻害され得る。アザチオプリンは免疫抑制薬であり、臓器移植においては拒絶反応を予防し、自己免疫疾患においてはコルチコステロイド使用量を低減する薬剤として使用される。
【0094】
クェルセチンは、果実および野菜においてみられるフラボノイドであり、精神および身体の能力を改善し得て感染リスクを低減し得るという固有の生物学的特性を有する。こうした特性は、発癌抑制性、抗炎症性、抗ウイルス性、抗酸化性、および精神刺激性の活性、ならびに、脂質過酸化、血小板凝集、および毛細血管透過性を阻害しミトコンドリア新生を刺激する能力を含む、全般的健康および疾患抵抗性にとっての潜在的利益のベースとなる。クェルセチンは、天然に存在するオーキシン極性移動阻害薬である。クェルセチンは、マクロファージにおけるリポ多糖(LPS)誘導性の腫瘍壊死因子α(TNF-α)の産生、および肺A549細胞におけるLPS誘導性のIL-8の産生を阻害する。また、グリア細胞においては、クェルセチンがLPS誘導性のTNF-αおよびインターロイキンIL-1αのmRNAレベルを阻害でき、クェルセチンが有するこの作用が、ミクログリアの活性化により誘導されるアポトーシス性の神経細胞死の減少をもたらしたことも示されている。クェルセチンは、炎症産生酵素(シクロオキシゲナーゼ(COX)およびリポキシゲナーゼ(LOX))の産生を阻害する。SrcおよびSyk介在性のホスファチジルイノシトール-3-キナーゼ(PI3K)-(p85)チロシンリン酸化を阻害し、続いてToll様受容体4(TLR4)/MyD88/PI3K複合体が形成され、これがRAW264.7細胞中において下流のシグナル伝達経路の活性化を制限することによって、LPS誘導性の炎症を制限する。また、ヒト臍帯血由来培養マスト細胞(hCBMC)からの炎症性サイトカイントリプターゼおよびヒスタミンのFcεRI介在性の放出を阻害することもでき、この阻害は、カルシウム流入およびホスホプロテインキナーゼC(PKC)の阻害に関与しているようである。
【0095】
レゾルシノールは、式C(OH)の有機化合物である。レゾルシノールは、ざ瘡、脂漏性皮膚炎、湿疹、乾癬、鶏眼、胼胝、および疣贅などの皮膚障害および感染の処置における外用薬に含まれる殺菌消毒剤として使用される。また、鶏眼、胼胝、および疣贅の処置にも使用される。角質溶解活性を示す。
【0096】
CXCR3(MIGの受容体)の発現を低減する薬剤は、たとえば、ホルムアルデヒドおよびタウリンを含む。CXCR3の拮抗薬である薬剤は、たとえば、ピペラジニル-ピペリジン(たとえば、SCH546738)、8-アザキナゾリノン(たとえば、AMG487)、3-フェニル-3H-キナゾリン-4-オン、アリールピペラジン、4-アリール-5-ピペラジニルチアゾール、アリールピペラジン、ベンゼチミド誘導体、イミダゾリジン、イミダゾリウム、リゼルギン酸誘導体、ジアミノシクロブテンジオン、亜鉛フタロシアニン、およびNBI-74330を含む。(Andrews et al., J. Med. Chem. 59:2894-917 (2016)を参照、この全体をあらゆる目的において引用により本明細書に援用する)。具体的なCXCR3拮抗薬の化学構造はAndrews (2016)に記載されており、その全体をあらゆる目的において引用により本明細書に援用する。こうした具体的な構造のうちのいくつかを以下に示す。
【0097】
【化1】
【0098】
【化2】
【0099】
【化3】
【0100】
【化4】
【0101】
【化5】
【0102】
【化6】
【0103】
【化7】
【0104】
【化8】
【0105】
その他の小分子拮抗薬が、たとえばUS20060036093およびWO2009/105435に記載されており、これらの全体をあらゆる目的において引用により本明細書に援用する。
【0106】
上述される抗体またはそれらの断片(集合的に抗体と称する)は、いずれも、たとえば、当技術分野において周知されるキメラ化、ヒト化、ヒューマニア化などの方法によって、ヒトで使用できるように操作できる。
【0107】
さらに、上述される抗体またはそれらの断片(集合的に抗体と称する)は、いずれも、当該抗体の半減期(T1/2)または/および作用持続時間を長くする遅延性部位を含み得る。遅延性部位は、当該抗体の、循環T1/2、血液T1/2、血漿T1/2、血清T1/2、末梢T1/2、生物学的T1/2、除去T1/2、または機能的T1/2、またはこれらの任意の組み合わせを長くすることができる。1つ以上の遅延性部位が抗体と結合(共有結合または非共有結合)していてよい。遅延性部位は、たとえば、親水性ポリマー(たとえば、PEG、デキストランなど)、合成ポリマー、グリコシル化、新生児型Fc受容体(FcRn)に結合するヒト血清アルブミン(HSA)もしくはその一部(たとえばドメインIII)、または末端カルボキシ化ペプチド(CTP)を含む。
【0108】
心血管疾患
心血管疾患は、心臓、血管(動脈、毛細血管、および静脈)、またはその両方に関連する疾患クラスを含む。心血管疾患とは、心血管系に影響を及ぼす任意の疾患を指し、主として、心筋症、脳および腎臓の血管疾患、ならびに末梢動脈疾患を含む心疾患を指す。心血管疾患は主として心臓に影響を及ぼす疾患を指し得て、心疾患と称され得る。心血管疾患は、心臓の損傷、機能不全、または形成異常が、心臓から離れた部位に存在する原発病態の結果として生じる疾患(たとえば、別の疾患または状態の併存疾患としての心血管疾患)とは対照的に、心臓の損傷、機能不全、または形成異常から病態が始まる疾患を指し得る。たとえば、心不全、不整脈(QT期間の増大ならびに心房粗動および/または細動を含む、心臓リズムの異常)、心内膜炎(心臓の内側層、心内膜、最も一般的には心臓弁の炎症)を含む炎症性心疾患;炎症性の心臓の肥大および/または拡大(inflammatory cardiomegaly)(肥大した心臓(enlarged heart)、心肥大(cardiac hypertrophy));心筋炎(心筋の炎症);心臓弁膜症;先天性心疾患;ならびにリウマチ性心疾患(連鎖球菌感染が引き起こすリウマチ熱による心筋および弁の損傷)が、原発病態が心臓であるまたは心臓内に存在していてその結果として血管またはその他の全身疾患を生じるような心臓の損傷、機能不全、または形成異常の例である。一方、冠動脈心疾患(虚血性心疾患または冠動脈疾患とも);高血圧性心疾患(高血圧に続発する心臓の疾患);肺性心(呼吸器系が関与する心臓の右側の不全);脳血管疾患(脳卒中などの、脳に供給する血管の疾患);末梢動脈疾患(腕および脚に供給する血管の疾患);および動脈硬化症(artherosclerosis)は、元は心臓から離れた部位に存在していた病態の結果として生じる。心臓でまたは心臓から離れた部位で始まった心血管疾患は、その結果として心不全を生じ得る。心血管疾患は、最初の病態が心臓から離れた部位にある疾患を含み得る。また、心血管疾患は、身体の心臓、心臓弁、および脈管構造(たとえば、動脈および静脈)に影響を及ぼす状態を含むものであり、かつ、動脈硬化症、アテローム性動脈硬化、心筋梗塞、急性冠症候群、狭心症、鬱血性心不全、大動脈瘤、大動脈解離、腸骨または大腿の動脈瘤、肺塞栓症、原発性高血圧症、心房細動、脳卒中、一過性脳虚血発作、収縮不全、拡張障害、心筋炎、心房頻拍、心室細動、心内膜炎、動脈症、血管炎、アテローム硬化性プラーク、不安定プラーク、急性冠症候群、急性虚血発作、心臓突然死、末梢血管疾患、冠動脈疾患(CAD)、末梢動脈疾患(PAD)、および脳血管疾患を含むがこれらに限定されない疾患および状態を包含するものである。
【0109】
心筋症は、QT期間の増大、不整脈、心筋虚血、高血圧症および血栓塞栓性の合併症、心筋機能不全、心筋症、心不全、心房細動、心筋症および心不全、心不全およびLV機能不全、心房粗動および細動、ならびに、心臓弁損傷および心不全からなる群より選択される1種以上(たとえば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれを超える)の状態を含む。特定の実施形態において、心筋症は、別の疾患または状態の併存疾患としての心筋症を含まない。
【0110】
心不全(しばしば鬱血性心不全(congestive heart failure(CHF)またはcongestive cardiac failure(CCF))とよばれる)は、身体からの要求を満たせるだけの血流を維持するのに十分なポンプ作用を心臓が提供できない際に生じる状態を含む。心不全は、息切れ、脚部腫脹、および運動耐容能低下を含む複数の症状を引き起こし得る。この状態は、典型的には患者の身体検査によって診断され、心臓超音波検査によって確認される。心不全の一般的な原因は、心筋梗塞およびその他の形態の虚血性心疾患、高血圧症、心臓弁膜症、および心筋症を含む。
【0111】
心血管疾患は、脂質の堆積および内膜の線維症が大~中サイズの動脈中に不規則に分布していることを特徴とする慢性疾患プロセスである、アテローム性動脈硬化を含む。この疾患は進行型であり、非常に多くの場合に、中年および老年において臨床的に顕在化する。重症になると、アテローム硬化性プラークが、血栓症を伴ってまたは伴わずに、動脈内腔の断面積の減少を引き起こす。アテローム硬化性プラークは、実質的に、身体のいずれのまたはすべての血管に生じ得て、その結果、心臓(たとえば、急性冠症候群、心不全、および心筋梗塞)、脳(たとえば、脳卒中、一過性脳虚血発作、および脳梗塞)、腎臓(たとえば、急性および慢性の腎臓疾患、高血圧症)、および四肢(たとえば、末梢血管疾患、下肢および/または上肢の跛行、ならびに下肢および/または上肢の虚血)に関連する心血管疾患を引き起こし得る。これによって生じる虚血性の所見は、狭心症、心筋梗塞、脳卒中、間欠性跛行、下肢の壊疽、および腎血管性高血圧症を含む。アテローム性動脈硬化は、炎症性疾患であると考えられている。たとえば、アテローム性動脈硬化の病変は、炎症性疾患と表現され得る一連の特殊な細胞性および分子性の反応を示すようである。たとえば以下を参照のこと:Ross, "Atherosclerosis--An inflammatory disease" N Engl J Med (1999), 340:115-126; Ross (1999)中で引用される出版物;および、これに続く、Ross (1999)を引用している出版物(これらの全体をあらゆる目的において引用により本明細書に援用する)。
【0112】
対象は、確認された冠動脈疾患、確認された脳血管疾患、確認された頸動脈疾患、確認された末梢動脈疾患、またはこれらの組み合わせのうちのいずれか1つが存在すれば、心血管疾患を有するとされる。また、対象は、対象が45歳以上であり、かつ、(a)2本の主要な心外膜冠動脈内に50%を超える狭窄を1つ以上有する;(b)確認されたMIの前病歴がある;(c)虚血の客観的なエビデンス(たとえば、ST部分偏位および/またはバイオマーカー陽性)を有する高リスクNSTE ACSのために入院したことがある;(d)確認された虚血性脳卒中の前病歴がある;(e)少なくとも50%の頸動脈の動脈狭窄を伴う症候性動脈疾患を有する;(0 血管造影もしくはduplex超音波で確認された少なくとも70%の頸動脈の動脈狭窄を伴う無症候性の頸動脈の動脈疾患を有する;(g)足関節・上腕血圧指数(「ABI」)が0.9未満であり、間欠性跛行の症状がある;および/または、(h)大動脈腸骨動脈もしくは末梢動脈の介入(カテーテル使用または外科的)の病歴があれば、心血管疾患を有するとされる。
【0113】
iAgeおよび心臓マーカーを使用する心血管処置
心血管疾患を有するまたは心血管疾患リスクのある対象の血液を採取して、iAge、CRS、心臓マーカーレベル(MIG、LIF、SIRT3)、およびcAgeを上述の通りに計算する。対象のiAge、CRS、心臓マーカーレベル(MIG、LIF、SIRT3)、および/またはcAgeに基づいて、対象が該当年齢群の中で最も若い四分位数に入る場合には、対象を低心血管疾患リスクに分類することができ、標準的治療を進める(CVD患者)または治療なしとする(有リスクではあるがその時点ではCVDを有していない患者)ことができる。対象のiAge、CRS、心臓マーカーレベル(MIG、LIF、SIRT3)、および/またはcAgeに基づいて、対象が中間2つの四分位数に入る場合には、対象の血液細胞(たとえば、CD4陽性およびCD8陽性細胞)を、Jak-STAT活性(たとえば、以下の実施例1を参照)について試験することができる。Jak-STAT活性に基づいて最高四分位数に入る対象は、低リスクに分類することができ、標準的治療を進める(CVD患者)または治療なしとする(有リスクではあるがその時点ではCVDを有していない患者)ことができる。Jak-STAT活性に基づいて下位3つの四分位数に入る対象は、比較的高い心血管疾患リスクに分類することができ、低リスク群に移行できるようにiAge、CRS、心臓マーカーレベル(MIG、LIF、SIRT3)、および/またはcAgeの低減(およびJak-STATスコアの増大)を図る処置を受けることができる。対象のiAge、CRS、心臓マーカーレベル(MIG、LIF、SIRT3)、および/またはcAgeに基づいて、対象が最も年長の四分位数に入る場合には、比較的高リスクの患者に分類することができ、低リスク群に移行できるようにiAge、CRS、心臓マーカーレベル(MIG、LIF、SIRT3)、および/またはcAge(上記を参照)の低減を図る処置を受けることができる。
【0114】
代替的には、対象のiAge、CRS、心臓マーカーレベル(MIG、LIF、SIRT3)、および/またはcAgeに基づいて、対象が、iAge、CRS、心臓マーカーレベル(MIG、LIF、SIRT3)、および/またはcAgeについて、該当年齢群の中で最も若い五分位数に入る場合には(表1を参照)、対象を低リスクに分類することができ、標準的治療を進める(CVD患者)または治療なしとする(その時点ではCVDを有していない患者)ことができる。対象のiAge、CRS、心臓マーカーレベル(MIG、LIF、SIRT3)、および/またはcAgeに基づいて、対象が中間3つの五分位数に入る場合には、対象の血液細胞(たとえば、CD4陽性およびCD8陽性細胞)を刺激して、Jak-STAT活性を測定する(たとえば、以下の実施例1を参照)。Jak-STAT活性に基づいて最高四分位数に入る対象は、低リスクに分類することができ、標準的治療を進める(CVD患者)または治療なしとする(有リスクではあるがその時点ではCVDを有していない患者)ことができる。Jak-STAT活性に基づいて下位3つの四分位数に入る対象は、比較的高リスクに分類することができ、低リスク群に移行できるようにiAge、CRS、心臓マーカーレベル(MIGの低減、LIFの増大、SIRT3の増大)、および/またはcAge(およびJak-STATスコアの増大)の低減を図る処置を受けることができる。対象のiAgeに基づいて、対象が最も年長の五分位数に入る場合には、比較的高リスクに分類することができ、iAgeについて比較的若い五分位数に入る低リスク群に移行できるようにiAge、CRS、心臓マーカーレベル(MIGの低減、LIFの増大、SIRT3の増大)、および/またはcAge(上記を参照)の低減を図る処置を受けることができる。
【0115】
さらに代替的には、対象のiAge、CRS、心臓マーカーレベル(MIG、LIF、SIRT3)、および/またはcAgeに基づいて、対象がiAgeについて該当年齢群の中で最も若い三分位数に入る場合には(表1を参照)、低リスクに分類することができ、標準的治療を進める(CVD患者)または治療なしとする(有リスクではあるがその時点ではCVDを有していない患者)ことができる。対象のiAge、CRS、心臓マーカーレベル(MIG、LIF、SIRT3)、および/またはcAgeに基づいて、対象が中間の三分位数に入る場合には、対象の血液細胞(たとえば、CD4陽性およびCD8陽性細胞)を刺激して、Jak-STAT活性を測定する(たとえば、以下の実施例1を参照)。Jak-STAT活性に基づいて最高四分位数に入る対象は、低リスクに分類することができ、標準的治療を進める(CVD患者)または治療なしとする(有リスクではあるがその時点ではCVDを有していない患者)ことができる。Jak-STAT活性に基づいて下位3つの四分位数に入る対象は、比較的高リスクに分類することができ、低リスク群に移行できるようにiAge、CRS、心臓マーカーレベル(MIGの低減、LIFの増大、SIRT3の増大)、および/またはcAge(およびJak-STATスコアの増大)の低減を図る処置を受けることができる。対象のiAge、CRS、心臓マーカーレベル(MIG、LIF、SIRT3)、および/またはcAgeに基づいて、対象が最も年長の三分位数に入る場合には、比較的高リスクに分類することができ、iAge、CRS、心臓マーカーレベル(MIG、LIF、SIRT3)、および/またはcAgeについて比較的若い三分位数に入る低リスク群に移行できるようにiAge、CRS、心臓マーカーレベル(MIGの低減、LIFの増大、SIRT3の増大)、および/またはcAge(上記を参照)の低減を図る処置を受ける。
【0116】
本明細書中に開示される本発明は、以下の実験の詳細によって、理解がより深まるであろう。しかしながら、当業者であれば、記載される具体的な方法および結果は本発明の説明のみを目的とするものであり、本発明は付随の特許請求の範囲においてさらに十分に記載されるということを容易に理解するであろう。特記しない限り、本開示は具体的な手順または材料などに限定されず、よって変更され得る。また、本明細書中において使用される専門用語は、具体的な実施形態を説明することのみを目的とするものであって、限定を意図するものではないということが理解される。
【実施例
【0117】
実施例1:iAgeは、ナイーブCD8(陽性)T細胞、および刺激に対するex vivo Jak-STATシグナル伝達応答と相関関係にある
高iAgeにおいて循環ナイーブCD8(陽性)T細胞の頻度が低下すること(A)、および刺激に対するex vivo Jak-STATシグナル伝達応答の低下をiAgeによって予測できること(BおよびC)を、Stanford 1KIP提供のデータを使用して示した。サイトカイン-細胞-STATの組み合わせ(合計96通り)を、対象のiAgeに関して分析した。ここには、B細胞、CD4(陽性)T細胞(ならびに、そのCD45(陽性)および(陰性)サブセット)、CD8(陽性)T細胞(ならびに、そのCD45(陽性)および(陰性)サブセット)、および単球という8種の細胞種と、インターロイキン-6(IL-6)、IL-10、IL-21、およびインターフェロン-アルファという4種のサイトカインと、3種のSTATタンパク質(STAT1、3、および5)を含めた。Bは、ボルケーノプロット(volcano plot)であり、並べ替え検定を伴う重回帰分析の結果であって、年齢、性別、およびサイトメガロウイルス状態について調整した後のiAgeについて得られる回帰係数の関数として偽発見率(Benjamini-Hochberg FDR)(y軸)を推定するものである。Cは、インターロイキン-6に対するex vivo CD8(陽性)T細胞蛍光体-STAT-1応答を正規化したものである。iAgeの三分位数が低い場合には、iAgeの三分位数が高い場合よりも応答が有意に強いということを示す(C)。このデータは図1A図1C中に示される。
【0118】
iAgeと、ナイーブCD8(陽性)T細胞との間、および刺激に対するex vivo Jak-STATシグナル伝達応答との間には、負の相関があった。
【0119】
実施例2:iAgeおよびCRSを使用するがん患者の階層化
免疫療法処置の前に、患者から血液試料を得る。標準的な方法により、血清と免疫細胞とを分離する。血清試料を使用してタンパク質濃度を測定して、炎症年齢(iAge)を求める;そして、細胞をex vivoにおいてサイトカインで刺激して、細胞内シグナル伝達兼転写活性化因子(STAT)タンパク質のリン酸化を測定し、サイトカイン応答スコア(CRS)を導き出す。iAgeおよびCRSは、独立して、免疫療法処置に対する患者の反応を予測することができる。図2は、このプロセスのフロー図を示す。
【0120】
処置の前に、iAgeおよびCRSを使用して、がん患者を免疫療法に対するレスポンダーとノンレスポンダーとに階層化できる。
【0121】
実施例3:iAgeを使用するがん患者の階層化
iAgeを使用して、がん患者を免疫療法処置に対するレスポンダーとノンレスポンダーとに分類することができ(A)、かつ、iAge別の炎症性タンパク質シグニチャ(バーコード)を導き出すことができて、これをiAge別の推奨エンジンに入力すると、iAgeの低減を目的とした個別化初期療法を創出でき、医療判断を通知でき、これにより、ノンレスポンダー患者を(免疫療法に適した)レスポンダー患者に移行させることができる(B)。図3は、このプロセスのフロー図を示す。
【0122】
iAgeを使用して、がん免疫療法に関して患者を階層化し、免疫療法に対するノンレスポンダーからレスポンダーへの移行を補助する。
【0123】
実施例4:hiPSC由来内皮細胞がMIGを産生する
山中因子(Takahashi and Yamanaka, 2006)を使用して単離線維芽細胞(N=5、二通り)からヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)を得て、これらを、以前(Hu et al., 2016)に記載される通りの、詳細に明らかにされた条件下において、内皮細胞(hiPSC-EC)に分化させた。
【0124】
MIGおよびSIRT3の発現レベルをRT-PCRによって測定した。MIGのmRNA発現レベルにおける年齢依存性の有意な増加が観察され(P<0.01)、これが6回目の細胞継代後にプラトーに達する。(図4を参照)MIGの増加に付随して、2回目の細胞継代後にSIRT3のmRNAの下方制御を観察できる(P<0.01)。(図4を参照)
実施例5:内皮細胞におけるCXCR3の発現
実施例4中に記載されるとおりに、ヒト人工多能性幹細胞を作製した。MIG受容体CXCR3の発現を、hiPSC由来の若い心筋細胞(hiPSC-CM)において測定し、hiPSC-EC(hiPSC由来の内皮細胞)、HUVEC細胞、新たに単離した線維芽細胞およびhiPSCにおいても行なった。
【0125】
hiPSC-EC、HUVEC細胞においてCXCR3の発現増加が観察されるが、その他の細胞種では観察されず(F)、このことは、内皮はMIGおよびおそらくはその他のCXCR3リガンドの標的であるが、他の細胞サブセットはそうではないことを示唆する。(図5を参照)
実施例6:MIGは内皮細胞機能に損傷を与える
マウス胸部大動脈を慎重に切除して、血管を切り出して小さな環状とし、等尺性ワイヤーミオグラフチャンバ(Danish Myo Technology)に載せて、正規化プロトコールに供した。正規化の後、血管を、PBSまたは異なる濃度の組換えマウスMIG(R&D systems、カタログ番号:492-MM)のいずれかと共にインキュベートした。プロスタグランジン作動薬U46619を累積的に添加することによって、濃度依存性の収縮曲線が得られた。続いて、これらの血管にアセチルコリンの濃度依存性の弛緩曲線を適用して、各用量について弛緩の割合を計算した。
【0126】
図6は、異なる量のMIGに曝露した後の、アセチルコリンに対するマウス胸部大動脈切片の弛緩の割合についての折れ線グラフを示す。図6は、MIG濃度の増加につれて血管の反応性が低下することを示す。MIGは、処置した大動脈における血管弛緩に対して用量依存性の作用を引き起こし(このことはMIGが血管の機能に損傷を与えることを示す)、動脈硬化度および心血管系の早期老化に寄与し得る。
【0127】
本明細書中に記載および引用されるすべての出版物、特許、および特許出願の全体を、引用により本明細書に援用する。開示される発明は、記載される具体的な方法、プロトコール、および材料に限定されず、これらは変更され得るということが理解される。また、本明細書中において使用される専門用語は、具体的な実施形態を説明することのみを目的とするものであって、本発明の範囲の限定を意図するものではなく、本発明の範囲は付随の特許請求の範囲によってのみ限定されるということも理解される。
【0128】
当業者であれば、ルーチン的な実験法を使用するだけで、本明細書中に記載される本発明の具体的な実施形態に対する多くの等価物について認識または確認できるであろう。このような等価物は、付随の特許請求の範囲に包含されることが意図される。
図1A
図1C
図2
図3
図4
図5
図6
【図
【図
【図
【図
【図
【国際調査報告】