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特表2022-544171破片保持ハードコーティングを備えた肉薄のフレキシブルガラスカバー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-17
(54)【発明の名称】破片保持ハードコーティングを備えた肉薄のフレキシブルガラスカバー
(51)【国際特許分類】
   B32B 17/10 20060101AFI20221007BHJP
   C03C 17/32 20060101ALI20221007BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20221007BHJP
【FI】
B32B17/10
C03C17/32 Z
G09F9/00 313
G09F9/00 302
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022507719
(86)(22)【出願日】2020-08-07
(85)【翻訳文提出日】2022-04-07
(86)【国際出願番号】 US2020045306
(87)【国際公開番号】W WO2021026408
(87)【国際公開日】2021-02-11
(31)【優先権主張番号】62/883,836
(32)【優先日】2019-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/992,299
(32)【優先日】2020-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】519372065
【氏名又は名称】デュポン エレクトロニクス インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】591016862
【氏名又は名称】ローム アンド ハース エレクトロニック マテリアルズ エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】Rohm and Haas Electronic Materials LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】ブゥ,ルゥジア
(72)【発明者】
【氏名】ドン,ホアユン
(72)【発明者】
【氏名】デシュパンデ,スラジュ エス
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン,ロス,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,イン
【テーマコード(参考)】
4F100
4G059
5G435
【Fターム(参考)】
4F100AG00A
4F100AK25B
4F100BA02
4F100BA07
4F100GB41
4F100JB14B
4F100JK07B
4F100JK08B
4F100JK10
4F100JK12B
4F100JK17
4G059AA01
4G059AC17
4G059FA15
4G059FB05
5G435AA06
5G435BB04
5G435BB05
5G435GG43
5G435HH05
(57)【要約】
肉薄のガラス層と、肉薄のガラス層の上面に配置された光学的に透明な上部ポリマーハードコート層とを有するガラス物品。光学的に透明な上部ポリマーハードコート層は、0.1μm~200μmの範囲の厚さを有することができ、ガラス層の上面に光学的に透明な上部ポリマーハードコート層を配置して鉛筆硬度を測定したときに6H以上の鉛筆硬度を有することができる。ガラス物品は、静的2点曲げ試験中に破損するまで曲げられたときに、ガラス物品からガラス破片粒子が放出されることを回避する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス物品であって、
10μm~200μmの範囲の厚さを有するガラス層と、
前記ガラス層の上面に配置され、0.1μm~200μmの範囲の厚さと、6H以上の鉛筆硬度とを有する光学的に透明な上部ポリマーハードコート層と
を備え、
前記光学的に透明な上部ポリマーハードコート層が、化学線硬化性アクリル組成物から形成されており、前記ガラス物品が、静的2点曲げ試験中に破損まで曲げられたときに、前記ガラス物品からのガラス破片粒子の放出を回避する、
ガラス物品。
【請求項2】
前記化学線硬化性アクリル組成物が、(a)脂肪族三官能性(メタ)アクリレートモノマー、脂肪族四官能性(メタ)アクリレートモノマー、および脂肪族五官能性(メタ)アクリレートモノマーからなる群から選択される1種以上の多官能性(メタ)アクリレート系希釈剤、(b)モノマー固形分の総質量を基準として3~30質量%の、イソシアヌレート基を含有する1種以上の(メタ)アクリレートモノマー、(c)モノマー固形分の総質量を基準として5~60質量%の、6~12個の(メタ)アクリレート基を有する1種以上の脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート官能性オリゴマー、(d)総モノマー固形分を基準として2~10質量%の1種以上のラジカル開始剤、ならびに(e)1種以上の有機溶媒を含み、モノマーと官能性オリゴマーの固形分の合計量が、100%である、請求項1記載のガラス物品。
【請求項3】
前記化学線硬化性アクリル組成物が、前記総モノマー固形分を基準として合計で9~70質量%の、(a)脂肪族三官能性(メタ)アクリレートモノマー、脂肪族四官能性(メタ)アクリレートモノマー、および脂肪族五官能性(メタ)アクリレートモノマーからなる群から選択される2種以上の多官能性(メタ)アクリレート系希釈剤を含み、モノマーと官能性オリゴマーの固形分の合計量が、100%である、請求項2記載のガラス物品。
【請求項4】
前記化学線硬化性アクリル組成物が、(a)、(b)、(c)、および(d)の総質量を基準として2~30質量%の、1種以上の硫黄含有ポリオール(メタ)アクリレートをさらに含む、請求項3記載のガラス物品。
【請求項5】
前記化学線硬化性アクリル組成物が、前記総モノマー固形分を基準として20質量%以下の、1種以上の一官能性および二官能性(メタ)アクリレートをさらに含み、モノマーと官能性オリゴマーの固形分の合計量が、100%である、請求項2から4までのいずれか1項記載のガラス物品。
【請求項6】
前記(e)の量が、前記化学線硬化性アクリル組成物の総質量を基準として10~80質量%の範囲である、請求項2から5までのいずれか1項記載のガラス物品。
【請求項7】
前記光学的に透明な上部ポリマーハードコート層が、0.1μm~100μmの範囲の厚さを有し、前記ガラス層が、10μm~100μmの範囲の厚さを有する、請求項1から6までのいずれか1項記載のガラス物品。
【請求項8】
前記ガラス物品が、60℃かつ93%の相対湿度で240時間、10mmのプレート距離で2つのプレートの間に保持されたときに、静的2点曲げ試験中の破損を回避する、または
前記ガラス物品が、23℃かつ50%の相対湿度で、10mmのプレート距離まで2つのプレート間で200,000回繰り返し曲げられたときに、動的2点曲げ試験中の破損を回避する、または
ペン落下高さが、前記光学的に透明な上部ポリマーハードコート層がない前記ガラス層の対照ペン落下高さの2倍、好ましくは2.5倍、またはそれよりも高い、
のうちの少なくとも1つである、請求項1から7までのいずれか1項記載のガラス物品。
【請求項9】
前記光学的に透明なポリマーハードコート層が、1%~10%の範囲のパーセント伸びを有し、前記光学的に透明なポリマーハードコート層が、1GPa~15GPaの範囲の弾性率を有する、請求項1から8までのいずれか1項記載のガラス物品。
【請求項10】
前記ガラス物品が、前記光学的に透明な上部ポリマーハードコート層の上に配置され、前記光学的に透明な上部ポリマーハードコート層よりも高い鉛筆硬度を有する層を備えない、請求項1から9までのいずれか1項記載のガラス物品。
【請求項11】
物品であって、
請求項1から10までのいずれか1項記載のガラス物品を備えるカバー基材を備え、
前記物品が、
前面と、背面と、側面とを備えるハウジングと、
前記ハウジング内に少なくとも部分的に配置され、コントローラと、メモリと、前記ハウジングの前記前面にまたは前記前面に隣接して設けられたディスプレイとを備える電気コンポーネントと、
前記ディスプレイの上に配置されるかまたは前記ハウジングの少なくとも一部を形成する前記カバー基材と
を備える消費者向け電子製品である、
物品。
【請求項12】
ガラス物品を製造する方法であって、
(a)10μm~200μmの範囲の厚さを有するガラス層の上面に光学的に透明なポリマーハードコート組成物をコーティングするステップと、
(b)前記ガラス層の前記上面で前記光学的に透明なポリマーハードコート組成物を重合および硬化させて、0.1μm~200μmの範囲の厚さを有する光学的に透明なポリマーハードコート層を形成するステップと
を含み、
前記光学的に透明なポリマーハードコート組成物が、(a)脂肪族三官能性(メタ)アクリレートモノマー、脂肪族四官能性(メタ)アクリレートモノマー、および脂肪族五官能性(メタ)アクリレートモノマーからなる群から選択される1種以上の多官能性(メタ)アクリレート系希釈剤、(b)モノマー固形分の総質量を基準として3~30質量%の、イソシアヌレート基を含有する1種以上の(メタ)アクリレートモノマー、(c)モノマー固形分の総質量を基準として5~60質量%の、6~12個の(メタ)アクリレート基を有する1種以上の脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート官能性オリゴマー、(d)総モノマー固形分を基準として2~10質量%の1種以上のラジカル開始剤、ならびに(e)モノマー組成物のための1種以上の有機溶媒を含み、モノマーと官能性オリゴマーの固形分の合計量が、100%である、
方法。
【請求項13】
前記光学的に透明なポリマーハードコート組成物が、前記総モノマー固形分を基準として合計で9~70質量%の、(a)脂肪族三官能性(メタ)アクリレートモノマー、脂肪族四官能性(メタ)アクリレートモノマー、および脂肪族五官能性(メタ)アクリレートモノマーからなる群から選択される2種以上の多官能性(メタ)アクリレート系希釈剤を含み、モノマーと官能性オリゴマーの固形分の合計量が、100%である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
ガラス物品を製造する方法であって、
(a)0.1μm~200μmの範囲の厚さを有する光学的に透明なポリマーハードコート層を設けるステップと、
(b)10~200μmの範囲の厚さを有するガラス層の上面に前記光学的に透明なポリマーハードコート層を積層するステップと
を含み、
前記光学的に透明なポリマーハードコート層が、(a)脂肪族三官能性(メタ)アクリレートモノマー、脂肪族四官能性(メタ)アクリレートモノマー、および脂肪族五官能性(メタ)アクリレートモノマーからなる群から選択される1種以上の多官能性(メタ)アクリレート系希釈剤、(b)モノマー固形分の総質量を基準として3~30質量%の、イソシアヌレート基を含有する1種以上の(メタ)アクリレートモノマー、(c)モノマー固形分の総質量を基準として5~60質量%の、6~12個の(メタ)アクリレート基を有する1種以上の脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート官能性オリゴマー、(d)総モノマー固形分を基準として2~10質量%の1種以上のラジカル開始剤、ならびに(e)モノマー組成物のための1種以上の有機溶媒を含むアクリル組成物の重合および硬化から製造され、モノマーと官能性オリゴマーの固形分の合計量が、100%である、
方法。
【請求項15】
前記光学的に透明なポリマーハードコート組成物が、前記総モノマー固形分を基準として合計で9~70質量%の、(a)脂肪族三官能性(メタ)アクリレートモノマー、脂肪族四官能性(メタ)アクリレートモノマー、および脂肪族五官能性(メタ)アクリレートモノマーからなる群から選択される2種以上の多官能性(メタ)アクリレート系希釈剤を含み、モノマーと官能性オリゴマーの固形分の合計量が、100%である、請求項14記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、消費者向け製品用のカバー基材、例えば、ディスプレイ画面を保護するためのカバー基材、特にフレキシブルディスプレイ画面を含む消費者向けデバイス用のカバー基材に関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスのディスプレイなどの消費者向け製品用のカバー基材は、ディスプレイ画面を保護し、光学的に透明な表面を提供する。使用者は、この表面を通してディスプレイ画面を見ることができる。カバー基材は、望ましくない反射を低減し、透明な表面をきれいにし易くする方法を提供することにも役立ち得る。加えて、カバー基材は、消費者向け製品の繊細なコンポーネントを機械的損傷(例えば突き刺しや衝撃力)から保護するのに役立つ。可撓性を有する、折り畳み可能である、かつ/または鋭く湾曲する部分(例えば可撓性を有する、折り畳み可能である、かつ/または鋭く湾曲するディスプレイ画面)を備える消費者向け製品では、ディスプレイ画面を保護するためのカバー基材は、画面の光学的透明性、ならびに可撓性、折り畳み性、および/または湾曲を維持する必要がある一方で、画面を保護する必要もある。さらに、カバー基材は、遮るもののないディスプレイ画面の眺めを使用者が楽しむことができるように、例えば引掻き傷や破損などの機械的損傷に耐える必要がある。
【0003】
カバー基材として、ガラスは、使用中の引掻き傷および変形による損傷を最小限に抑えるために、湿気(および酸素)に対する優れたバリアおよび硬度特性を提供する。厚いモノリシックガラス基材は十分な機械的特性を提供できるものの、これらの基材は分厚い場合があり、折り畳み可能であるか、可撓性を有するか、または鋭く湾曲する消費者向け製品において利用するために、より狭い半径に折り畳むことが不可能な場合がある。また、高度に可撓性を有するカバー基材、例えばプラスチック基材は、一部の消費者向け製品に望まれる十分な耐突き刺し性、耐引掻き性、および/または破壊靭性を提供できない場合がある。
【0004】
肉薄のガラス層は、フレキシブルカバー基材に多くの望ましい特性を提供する。ガラス層は、望ましくはより小さな曲げ半径を実現するために、薄い厚さレベルで製造することができる。さらに、肉薄のガラス層の曲げ性は、イオン交換プロセスを使用してガラス層の表面領域に導入される圧縮応力によって向上させることができる。
【0005】
しかしながら、ガラス層を薄く可撓性にするにする努力にもかかわらず、そのような肉薄のフレキシブルガラス層は、突き刺しまたは衝撃の力の影響を受けやすいままである。ガラス層が薄くなるにつれて、ガラス層に存在する表面の欠陥は、ガラス層の強度に、より大きな影響を与え得る。曲げの間にガラス層に生じる力と組み合わされた外力および表面欠陥に対する肉薄のフレキシブルガラス層の感応性は、使用中にガラス物品の表面からガラス破片が放出される可能性を高め得る。この可能性は、イオン交換プロセス中に導入される圧縮応力によってさらに高められる場合がある。様々な理由のため、ガラス破片がガラス物品の表面から放出される可能性を減らすことが所望される。ガラス破片は安全上の懸念事項となる場合があり、ガラス物品の他の層に損傷を与える可能性があり、またガラス物品の下にあるディスプレイコンポーネントに損傷を与える可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、消費者向け製品用のカバー基材、例えばディスプレイ画面を保護するためのカバー基材、特にフレキシブルディスプレイ画面を含む消費者向けデバイス用のカバー基材の革新が継続的に求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、可撓性を有するか、折り畳み可能であるか、または鋭く湾曲するコンポーネント、例えばディスプレイコンポーネントを保護するための、コンポーネントの可撓性または湾曲にマイナスの影響を与えないながらも、損傷を与える機械的な力からのコンポーネントの保護も行うポリマーハードコート層を含むカバー基材に関する。フレキシブルカバー基材は、肉薄のガラス層と、耐衝撃性および/または耐突き刺し性を提供するための、かつガラス層が破損した場合にガラス破片粒子の放出を防止するための、肉薄のガラス層上に配置されたポリマーハードコート層とを含んでよい。
【0008】
本出願の第1の態様(1)は、ガラス物品に関する。ガラス物品は、上面と、下面と、上面から下面まで測定される10μm~200μmの範囲の厚さとを有するガラス層と、化学線硬化性アクリル組成物から形成され、ガラス層の上面に配置され、0.1μm~200μmの範囲の厚さと、6H以上の鉛筆硬度とを有する光学的に透明な上部ポリマーハードコート層とを備え、鉛筆硬度は、ガラス層の上面に配置された光学的に透明な上部ポリマーハードコート層で測定される。第1の態様によるガラス物品は、ガラスが外力下および/または外部衝撃下で破損した場合、例えば、静的2点曲げ試験中に破損まで曲げられたときに、ガラス物品から破損が生じた場合にガラス破片粒子の放出を回避する。
【0009】
第2の態様(2)では、第1の態様(1)によるガラス物品が提供され、化学線硬化性アクリル組成物は、(a)脂肪族三官能性(メタ)アクリレートモノマー、脂肪族四官能性(メタ)アクリレートモノマー、および脂肪族五官能性(メタ)アクリレートモノマーからなる群から選択される1種以上の多官能性(メタ)アクリレート系希釈剤、(b)モノマー固形分の総質量を基準として3~30質量%の、イソシアヌレート基を含有する1種以上の(メタ)アクリレートモノマー、(c)モノマー固形分の総質量を基準として5~60質量%の、6~12個の(メタ)アクリレート基を有する1種以上の脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート官能性オリゴマー、(d)総モノマー固形分を基準として2~10質量%の1種以上のラジカル開始剤、ならびに(e)1種以上の有機溶媒を含み、モノマーと官能性オリゴマーの固形分の合計量は、100質量%である。
【0010】
第3の態様(3)では、態様(2)によるガラス物品が提供され、化学線硬化性アクリル組成物は、総モノマー固形分を基準として合計で9~70質量%の、(a)脂肪族三官能性(メタ)アクリレートモノマー、脂肪族四官能性(メタ)アクリレートモノマー、および脂肪族五官能性(メタ)アクリレートモノマーからなる群から選択される2種以上の多官能性(メタ)アクリレート系希釈剤を含み、モノマーと官能性オリゴマーの固形分の合計量は、100%である。
【0011】
第4の態様(4)では、態様(3)よるガラス物品が提供され、化学線硬化性アクリル組成物は、(a)、(b)、(c)、および(d)の総質量を基準として2~30質量%の、1種以上の硫黄含有ポリオール(メタ)アクリレートをさらに含む。
【0012】
第5の態様(5)では、態様(3)または(4)によるガラス物品が提供され、化学線硬化性アクリル組成物は、総モノマー固形分を基準として3~25質量%の、1種以上の脂肪族三官能性(メタ)アクリレートモノマーを含み、モノマーと官能性オリゴマーの固形分の合計量は、100%である。
【0013】
第6の態様(6)では、態様(3)から(5)までのいずれか1つによるガラス物品が提供され、化学線硬化性アクリル組成物は、総モノマー固形分を基準として3~25質量%の、1種以上の脂肪族四官能性(メタ)アクリレートモノマーを含み、モノマーと官能性オリゴマーの固形分の合計量は、100%である。
【0014】
第7の態様(7)では、態様(3)から(6)までのいずれか1つによるガラス物品が提供され、化学線硬化性アクリル組成物は、総モノマー固形分を基準として3~25質量%の、1種以上の脂肪族五官能性(メタ)アクリレートモノマーを含み、モノマーと官能性オリゴマーの固形分の合計量は、100%である。
【0015】
第8の態様(8)では、態様(2)から(7)までのいずれか1つによるガラス物品が提供され、化学線硬化性アクリル組成物は、モノマー固形分の総質量を基準として10~30質量%の(b)を含み、モノマーと官能性オリゴマーの固形分の合計量は、100%である。
【0016】
第9の態様(9)では、態様(2)から(8)までのいずれか1つによるガラス物品が提供され、化学線硬化性アクリル組成物は、モノマー固形分の総質量を基準として10~40質量%の(c)を含み、モノマーと官能性オリゴマーの固形分の合計量は、100%である。
【0017】
第10の態様(10)では、態様(2)から(9)までのいずれか1つによるガラス物品が提供され、少なくとも1種の(c)脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート官能性オリゴマーは、1,400~10,000g/モルの質量平均分子量を有する。
【0018】
第11の態様(11)では、態様(2)から(10)までのいずれか1つによるガラス物品が提供され、化学線硬化性アクリル組成物は、総モノマー固形分を基準として20質量%以下の、1種以上の一官能性および二官能性(メタ)アクリレートをさらに含み、モノマーと官能性オリゴマーの固形分の合計量は、100%である。
【0019】
第12の態様(12)では、態様(2)から(11)までのいずれか1つによるガラス物品が提供され、(e)の量は、化学線硬化性アクリル組成物の総質量を基準として10~80質量%の範囲である。
【0020】
第13の態様(13)では、態様(1)から(12)までのいずれか1つによるガラス物品が提供され、光学的に透明な上部ポリマーハードコート層は、6H~9Hの範囲の鉛筆硬度を有し、鉛筆硬度は、ガラス層の上面に配置された光学的に透明なポリマーハードコート層で測定される。
【0021】
第14の態様(14)では、態様(1)から(13)までのいずれか1つによるガラス物品が提供され、ペン落下高さは、光学的に透明な上部ポリマーハードコート層がないガラス層の対照ペン落下高さの2倍、好ましくは2.5倍、またはそれよりも高い。
【0022】
第15の態様(15)では、態様(1)から(14)までのいずれか1つによるガラス物品が提供され、光学的に透明な上部ポリマーハードコート層は、0.1μm~100μmの範囲の厚さを有する。
【0023】
第16の態様(16)では、態様(1)から(15)までのいずれか1つによるガラス物品が提供され、ガラス層は、10μm~100μmの範囲の厚さを有する。
【0024】
第17の態様(17)では、態様(1)から(16)までのいずれか1つによるガラス物品は、ガラス層の下面に配置された光学的に透明な下部ポリマーハードコート層をさらに含み、光学的に透明な下部ポリマーハードコート層は、0.1μm~200μmの範囲の厚さと、6H以上の鉛筆硬度とを有する。
【0025】
第18の態様(18)では、態様(17)によるガラス製品が提供され、光学的に透明な下部ポリマーハードコート層は、光学的に透明な上部ポリマーハードコート層と同じ材料から製造されている。
【0026】
第19の態様(19)では、態様(1)から(18)までのいずれか1つによるガラス物品は、60℃かつ93%の相対湿度で240時間、20mmのプレート距離で2つのプレートの間に保持されたときに、静的2点曲げ試験中の破損を回避する。
【0027】
第20の態様(20)では、態様(1)から(19)までのいずれか1つによるガラス物品は、60℃かつ93%の相対湿度で240時間、10mmのプレート距離で2つのプレートの間に保持されたときに、静的2点曲げ試験中の破損を回避する。
【0028】
第21の態様(21)では、態様(1)から(20)までのいずれか1つによるガラス物品は、60℃かつ93%の相対湿度で240時間、1mmのプレート距離で2つのプレートの間に保持されたときに、静的2点曲げ試験中の破損を回避する。
【0029】
第22の態様(22)では、態様(1)から(21)までのいずれか1つによるガラス物品は、23℃かつ50%の相対湿度で、20mmのプレート距離まで2つのプレート間で200,000回繰り返し曲げられたときに、動的2点曲げ試験中の破損を回避する。
【0030】
第23の態様(23)では、態様(1)から(22)までのいずれか1つによるガラス物品は、23℃かつ50%の相対湿度で、10mmのプレート距離まで2つのプレート間で200,000回繰り返し曲げられたときに、動的2点曲げ試験中の破損を回避する。
【0031】
第24の態様(24)では、態様(1)から(23)までのいずれか1つによるガラス物品は、23℃かつ50%の相対湿度で、1mmのプレート距離まで2つのプレート間で200,000回繰り返し曲げられたときに、動的2点曲げ試験中の破損を回避する。
【0032】
第25の態様(25)では、態様(1)から(24)までのいずれか1つによるガラス物品が提供され、光学的に透明なポリマーハードコート層は、1%~10%の範囲のパーセント伸びを有する。
【0033】
第26の態様(26)では、態様(1)から(25)までのいずれか1つによるガラス物品が提供され、光学的に透明なポリマーハードコート層は、1GPa~15GPaの範囲の弾性率を有する。
【0034】
第27の態様(27)では、態様(1)から(26)までのいずれか1つによるガラス物品は、光学的に透明な上部ポリマーハードコート層とガラス層の上面との間に接着促進剤をさらに含む。
【0035】
第28の態様(28)では、態様(17)から(27)までのいずれか1つによるガラス物品が提供され、ガラス層の下面は、光学的に透明な下部ポリマーハードコート層とガラス層の下面との間に接着促進剤をさらに含む。
【0036】
第29の態様(29)では、態様(1)から(28)までのいずれか1つによるガラス物品は、光学的に透明な上部ポリマーハードコート層の上面に配置されたコーティング層をさらに備える。
【0037】
第30の態様(30)では、態様(29)によるガラス物品が提供され、コーティング層は、反射防止コーティング層、アンチグレアコーティング層、耐指紋性コーティング層、抗菌コーティング層、および防汚コーティング層の群から選択される。
【0038】
第31の態様(31)では、態様(1)から(30)までのいずれか1つによるガラス物品が提供され、光学的に透明な上部ポリマーハードコート層は、ガラス物品の一番上側の外面を規定している。
【0039】
第32の態様(32)では、態様(1)から(31)までのいずれか1つによるガラス物品が提供され、ガラス物品は、光学的に透明な上部ポリマーハードコート層の上に配置され、光学的に透明なポリマーハードコート層よりも高い鉛筆硬度を有する層を備えない。
【0040】
本出願の第33の態様(33)は、電子ディスプレイコンポーネントに関する。電子ディスプレイコンポーネントは、ディスプレイ表面と、提供される態様(1)から(32)までのいずれか1つによるガラス物品とを備える電子ディスプレイを含む。
【0041】
本出願の第34の態様(34)は、物品に関する。物品は、提供される態様(1)から(32)までのいずれか1つによるガラス物品を備えるカバー基材を備える。
【0042】
第35の態様(35)では、態様(34)による物品は、前面と、背面と、側面とを備えるハウジングと、ハウジング内に少なくとも部分的に配置され、コントローラと、メモリと、ハウジングの前面にまたは前面に隣接して設けられたディスプレイとを備える電気コンポーネントと、ディスプレイの上に配置されるかまたはハウジングの少なくとも一部を形成するカバー基材とを備える消費者向け電子製品である。
【0043】
本出願の第36の態様(36)は、ガラス物品を製造する方法に関し、この方法は、(a)上面と、下面と、上面から下面まで測定される10μm~200μmの範囲の厚さとを有するガラス層の上面に光学的に透明なポリマーハードコート組成物を直接コーティングすることと、(b)ガラス層の上面で光学的に透明なポリマーハードコート組成物を重合および硬化させて、10μm~200μmの範囲の厚さを有する光学的に透明なポリマーハードコート層を形成することとを含む。光学的に透明なポリマーハードコート組成物は、(a)脂肪族三官能性(メタ)アクリレートモノマー、脂肪族四官能性(メタ)アクリレートモノマー、および脂肪族五官能性(メタ)アクリレートモノマーからなる群から選択される1種以上の多官能性(メタ)アクリレート系希釈剤、(b)モノマー固形分の総質量を基準として3~30質量%の、イソシアヌレート基を含有する1種以上の(メタ)アクリレートモノマー、(c)モノマー固形分の総質量を基準として5~60質量%の、6~12個の(メタ)アクリレート基を有する1種以上の脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート官能性オリゴマー、(d)総モノマー固形分を基準として2~10質量%の1種以上のラジカル開始剤、ならびに(e)モノマー組成物のための1種以上の有機溶媒を含み、モノマーと官能性オリゴマーの固形分の合計量は、100%である。
【0044】
第37の態様(37)では、態様(36)による方法が提供され、光学的に透明なポリマーハードコート組成物は、総モノマー固形分を基準として合計で9~70質量%の、(a)脂肪族三官能性(メタ)アクリレートモノマー、脂肪族四官能性(メタ)アクリレートモノマー、および脂肪族五官能性(メタ)アクリレートモノマーからなる群から選択される2種以上の多官能性(メタ)アクリレート系希釈剤を含み、モノマーと官能性オリゴマーの固形分の合計量は、100%である。
【0045】
第38の態様(38)では、態様(37)による方法が提供され、光学的に透明なポリマーハードコート組成物は、(a)、(b)、(c)、および(d)の総質量を基準として2~30質量%の、1種以上の硫黄含有ポリオール(メタ)アクリレートをさらに含む。
【0046】
第39の態様(39)では、態様(36)から(38)までのいずれか1つによる方法が提供され、光学的に透明なポリマーハードコート前駆体層を上面に被着する前に、ガラス層の上面を接着促進剤でコーティングすることを含む。
【0047】
本出願の第40の態様(40)は、ガラス物品を製造する方法に関し、この方法は、(a)0.1μm~200μmの範囲の厚さを有する光学的に透明なポリマー層を設けることと、(b)10μm~200μmの範囲の厚さを有するガラス層の上面に光学的に透明なポリマーハードコート層を積層することとを含む。光学的に透明なポリマーハードコート層は、(a)脂肪族三官能性(メタ)アクリレートモノマー、脂肪族四官能性(メタ)アクリレートモノマー、および脂肪族五官能性(メタ)アクリレートモノマーからなる群から選択される1種以上の多官能性(メタ)アクリレート系希釈剤、(b)モノマー固形分の総質量を基準として3~30質量%の、イソシアヌレート基を含有する1種以上の(メタ)アクリレートモノマー、(c)モノマー固形分の総質量を基準として5~60質量%の、6~12個の(メタ)アクリレート基を有する1種以上の脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート官能性オリゴマー、(d)総モノマー固形分を基準として2~10質量%の1種以上のラジカル開始剤、ならびに(e)モノマー組成物のための1種以上の有機溶媒を含むアクリル組成物の重合および硬化から製造され、モノマーと官能性オリゴマーの固形分の合計量は、100%である。
【0048】
第41の態様(41)では、態様(40)による方法が提供され、光学的に透明なポリマーハードコート組成物は、総モノマー固形分を基準として合計で9~70質量%の、(a)脂肪族三官能性(メタ)アクリレートモノマー、脂肪族四官能性(メタ)アクリレートモノマー、および脂肪族五官能性(メタ)アクリレートモノマーからなる群から選択される2種以上の多官能性(メタ)アクリレート系希釈剤を含み、モノマーと官能性オリゴマーの固形分の合計量は、100%である。
【0049】
第42の態様(42)では、態様(41)による方法が提供され、光学的に透明なポリマーハードコート組成物は、(a)、(b)、(c)、および(d)の総質量を基準として2~30質量%の、1種以上の硫黄含有ポリオール(メタ)アクリレートをさらに含む。
【0050】
第43の態様(43)では、態様(40)から(42)までのいずれか1つによる方法は、積層の前に、ガラス層の上面に接着促進剤を追加することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0051】
本明細書に組み込まれる添付の図面は、本明細書の一部を形成し、本開示の実施形態を例示する。図面は、明細書と共に、本開示の実施形態の原理を説明し、関連技術の当業者が本開示の実施形態を製造および使用するのにさらに役立つ。これらの図面は、限定ではなく例示を意図している。本開示は、これらの実施形態との関係において概略的に説明されるが、これは本開示の範囲をこれらの特定の実施形態に限定することを意図するものではないことを理解すべきである。図面において、同様の参照番号は、同一のまたは機能的に類似した要素を示している。
図1】幾つかの実施形態によるガラス物品を示す。
図2】幾つかの実施形態によるガラス物品を示す。
図3A】幾つかの実施形態によるガラス物品の断面図を示す。
図3B】幾つかの実施形態によるガラス物品の断面図を示す。
図4】ガラス物品を曲げたときの幾つかの実施形態によるガラス物品の断面図を示す。
図5】幾つかの実施形態によるコーティング層を含むガラス物品を示す。
図6】幾つかの実施形態による消費者向け製品を示す。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下の実施例は、本開示の例示であるが、本開示を限定するものではない。本分野で通常遭遇する様々な条件およびパラメータの他の適切な修正および適合化は、当業者には明らかであり、本開示の趣旨および範囲内にある。
【0053】
本明細書で使用される「または」という用語は包括的である。より具体的には、「AまたはB」という語句は、「A、B、またはAとBの両方」を意味する。排他的な「または」は、本明細書では、例えば「AまたはBのいずれか」などの用語によって表される。
【0054】
要素またはコンポーネントを説明するための不定冠詞「a」および「an」は、これらの要素またはコンポーネントのうちの1つまたは少なくとも1つが存在することを意味する。これらの冠詞は、通常、修飾名詞が単数名詞であることを示すために使用されるものの、本明細書で使用される冠詞「a」および「an」は、具体的な事例で別段の記載がない限り、複数形も含む。同様に、本明細書で使用される定冠詞「the」も、同様に具体的な事例で別段の記載がない限り、修飾名詞が単数形であっても複数形であってもよいことを意味する。
【0055】
特許請求の範囲で使用される「含む」は、非制限的な移行句である。「含む」という移行句に続く要素のリストは非排他的なリストであり、そのため、リストに具体的に記載されている要素の以外の要素も存在し得る。特許請求の範囲で使用される「本質的に~からなる」または「本質的に~から構成される」は、材料の組成を、特定の材料および材料の基本的なかつ新規な特徴に実質的に影響を及ぼさないものに限定する。特許請求の範囲で使用される「~からなる」または「完全に~構成される」は、材料の組成を特定の材料に限定し、特定されていないあらゆる材料を除外する。
【0056】
「であって(wherein)」という用語は、構造の一連の特徴の列挙を導入するために、非制限的な移行句として使用される。
【0057】
特定の状況において別段の記載がない限り、上限値および下限値を含む数値の範囲が本明細書に記載されている場合、範囲は、その終点、ならびにその範囲内の全ての整数および分数を含むことが意図されている。範囲を規定する際に列挙される特定の値に特許請求の範囲が限定されることは意図されていない。さらに、量、濃度、または他の値もしくはパラメータが範囲、1つ以上の好ましい範囲、または上側の好ましい値と下側の好ましい値の列挙として与えられる場合、そのようなペアが別々に開示されているかどうかにかかわらず、任意の範囲の上限または好ましい値と、任意の範囲の下限または好ましい値との任意のペアから形成される全ての範囲を具体的に開示するものとして理解されるべきである。最後に、「約」という用語が値または範囲の終点の記述において使用される場合、本開示は、言及される特定の値または終点を含むと理解されるべきである。範囲の数値または終点が「約」を表すか否かにかかわらず、範囲の数値または終点は、「約」によって修正されている実施形態と、「約」によって修正されていない実施形態の、2つの実施形態を含むことが意図されている。
【0058】
本明細書において使用される「約」という用語は、量、サイズ、配合物、パラメータ、ならびに他の量および特徴は厳密ではなく、また厳密である必要はないが、必要に応じて、公差、換算係数、四捨五入、測定誤差など、および当業者に知られている他の因子を反映して、概算であってよいこと、および/またはより大きくてもより小さくてもよいことを意味する。
【0059】
本明細書で使用される「実質的な」、「実質的に」という用語、およびそれらの変形は、記述されている特徴が値または記述と等しいかまたはほぼ等しいことに特に言及することが意図されている。例えば、「実質的に平面の」表面は、平面であるかほぼ平面である表面を指すことが意図されている。
【0060】
本明細書で使用される「ガラス」という用語は、ガラスおよびガラスセラミックを含む、少なくとも部分的にガラスでできている任意の材料を含むことが意図されている。「ガラスセラミック」には、ガラスの制御された結晶化により製造される材料が含まれる。
【0061】
本明細書で使用される「上面」または「最上面」および「下面」または「最下面」という用語は、上面が使用者に面している状態で、通常の意図された使用の際にデバイス上で方向付けられる、層または物品の上面および下面を指す。例えば、電子ディスプレイを有する携帯型の消費者向け電子製品に組み込まれる場合、ガラス物品の「上面」は、ガラス物品を介して電子ディスプレイを見る使用者によって保持されたときに向けられることになるその物品の上面を指す。
【0062】
「アルキル」は、別段の記載がない限り、直鎖、分岐、および環状のアルキルを指す。「オリゴマー」という用語は、二量体、三量体、四量体、およびさらに硬化することができる他の高分子材料を指す。「硬化」という用語は、材料組成物の分子量を増加させる、重合や縮合などの任意のプロセスを意味する。「硬化性」は、使用条件下で硬化することができる任意の材料を指す。「フィルム」および「層」という用語は、本明細書全体を通じて互いに言い換え可能である。「(メタ)アクリレート」という用語は、「メタクリレート」、「アクリレート」、およびこれらの組み合わせのいずれかを指す。「コポリマー」という用語は、重合単位としての2種以上の異なるモノマーから構成されるポリマーを指し、ターポリマーやテトラポリマーなどが含まれる。
【0063】
本明細書で開示されるカバーガラスなどのカバー基材は、別の物品、例えば、ディスプレイ(またはディスプレイ物品)を備えた物品(例えば携帯電話、タブレット、コンピュータ、ナビゲーションシステム、ウェアラブルデバイス(例えば時計)などの消費者向け電子製品)、建築用品、輸送用品(例えば自動車、列車、航空機、船舶など)、電化製品、またはある程度の透明性、耐引掻き性、耐摩耗性、もしくはこれらの組み合わせからの恩恵を受け得る任意の物品に組み込むことができる。本明細書に開示のガラス物品のいずれかが組み込まれた例示的な物品は、前面と、背面と、側面とを備えるハウジング、少なくともコントローラと、メモリと、ハウジングの前面またはそれに隣接するディスプレイとを備え、かつハウジングの少なくとも部分的に内部または完全に内部にある電気コンポーネント、およびハウジングの前面にあるか前面の上にあることでディスプレイを被覆するカバー基材を備える消費者向け電子デバイスである。幾つかの実施形態では、カバー基材は、本明細書に開示のガラス物品のいずれかを含み得る。幾つかの実施形態では、ハウジングまたはカバー基材の少なくとも一部は、本明細書に開示のガラス物品を含む。
【0064】
本明細書に記載のガラス物品は、ガラス層と、ガラス層の1つ以上の表面上に配置された光学的に透明なポリマーハードコート層とを含む。本明細書に記載の光学的に透明なハードコート材料は、優れた降伏強度および弾性変形特性を有する。ガラス層の表面と直接接触させて被着すると、これらの特性のため、外力および/または衝撃、例えば曲げ事象に起因するガラス層の破損の際にガラスの破片のかけらを封じ込めることができることが見出された。この組み合わせは、ガラス層が破損した場合のガラス破片粒子の放出を防ぎ、ガラス層の耐突き刺し性および/または耐衝撃性を向上させる。耐突き刺し性および耐衝撃性を付与し、ガラス破片粒子の放出を防止することにより、ポリマーハードコートは、使用中の機械的損傷から消費者向け製品の繊細なコンポーネントを十分に保護することができるフレキシブルカバー基材を製造するためのコーティング層の数および/または厚さを減らすことができる。コーティング層の数を減らすと、追加の層によって付加される可撓性の低下を排除することもできる。ガラス破片粒子の放出を防止することにより、ポリマーハードコート層は、ガラス層よりも大幅に薄い厚さで耐飛散性を改善し、その結果ガラス物品の可撓性を高めることができる。
【0065】
本明細書に記載の、ガラス層上に配置された透明なポリマーハードコート層は、以下の利点のうちの1つ以上を提供することができる。(1)日常的なデバイスの使用によって引き起こされる表面の欠陥を減らすことができる。(2)ガラス層の上面および/または下面に被着した場合に、ガラスの透明性および曲げ性(可撓性)を損なうことなしに、耐衝撃性および耐突き刺し性を高めることができる。(3)ガラス層の上面および/または下面に被着された場合に、例えばガラス層が設計限界を超えて曲げられて破損した場合に、ガラス破片粒子の放出を回避することができる。言い換えると、上部および/または下部のポリマー層は、ガラス層が破損した場合に、ガラス層からのガラス破片粒子の放出を回避することができる。(4)別のポリマー層または接着剤層の上に配置されるハードコーティングと比較して、ガラス層の表面に直接コーティングされたポリマーハードコートは、はるかに高い鉛筆硬度を有する。これにより、優れた耐引掻き性を提供することができる。(5)光学的に透明な高分子ハードコートは、硬いガラス表面上に直接設けられるため、ハードコート材料の変形が材料の弾性変形範囲内にある限り、衝撃事象後の凹みの形成は最小限に抑えられる。光学的に透明なポリマーハードコートの前にガラス層が破損することが見出された。(6)光学的に透明なポリマーハードコートはガラス表面に直接コーティングされているため、硬化中にポリマーハードコート前駆体の収縮によって形成される圧縮応力を導入することにより、ガラス層の曲げ性能を改善することができる。(7)ポリマー中間層または接着剤が存在しないため、ガラス表面に直接設けられたポリマーハードコーティングは、層間剥離、破壊、およびしわに耐性を有する。様々な曲げ事象の後に、はるかに少ない残留反りが観察される。
【0066】
本明細書で説明されるポリマーハードコート層は、ガラス層の表面上に配置される(例えばガラス表面上に形成または堆積される)。本明細書で使用される「~上に配置される」は、第1の層および/またはコンポーネントが第2の層および/またはコンポーネントと直接接触していることを意味する。第2の層および/またはコンポーネント「の上に配置されている」第1の層および/またはコンポーネントは、第2の層および/またはコンポーネントの上に直接堆積、形成、配置することができ、あるいは他の方法で設けることができる。言い換えると、第1の層および/またはコンポーネントが第2の層および/またはコンポーネント上に配置される場合、第1の層および/またはコンポーネントと第2の層および/またはコンポーネントとの間に配置される層は存在しない。表面処理、例えば接着促進表面処理は、第1の層および/またはコンポーネントと第2の層および/またはコンポーネントとの間に配置された層またはコンポーネントとはみなされない。第1の層および/またはコンポーネントが第2の層および/またはコンポーネント「の上に配置されている」と記述されている場合、第1の層および/またはコンポーネントと第2の層および/またはコンポーネントとの間に他の層が存在していても存在していなくてもよい。
【0067】
図1は、幾つかの実施形態によるガラス物品100を示す。ガラス物品100は、ガラス層110と、ガラス層110の上面114上に配置されている光学的に透明なポリマーハードコート層120とを含み得る。光学的に透明なポリマーハードコート層120は、「光学的に透明な上面ハードコート層」と呼ばれる場合もある。
【0068】
ガラス層110は、ガラス層110の上面114から下面116まで測定される厚さ112を有する。幾つかの実施形態では、厚さ112は、0.1μm~200μmの範囲(この中の部分範囲を含む)であってよい。例えば、ガラス層110は、0.1μm、0.5μm、1μm、10μm、20μm、25μm、30μm、40μm、50μm、60μm、70μm、75μm、80μm、90μm、100μm、125μm、150μm、175μm、または200μm、またはこれらの値のうちのいずれか2つを終点として有する範囲内(終点を含む)の厚さ112を有し得る。例えば、幾つかの実施形態では、厚さ112は、10μm~100μmの範囲であってよい。
【0069】
幾つかの実施形態では、ガラス層110は、10μm~125μmの範囲の厚さ112を有し得る。例えば、ガラス層110は、10μm、20μm、25μm、30μm、40μm、50μm、60μm、70μm、80μm、90μm、100μm、110μm、120μm、もしくは125μm、またはこれらの値のうちのいずれか2つを終点として有する範囲内(終点を含む)の厚さ112を有し得る。
【0070】
幾つかの実施形態では、ガラス層110は、超薄ガラス層であってよい。本明細書で使用される「超薄ガラス層」という用語は、0.1μm~75μmの範囲の厚さ112を有するガラス層を意味する。幾つかの実施形態では、ガラス層110は、フレキシブルガラス層であってよい。本明細書で使用される「フレキシブル」ガラス層110、ガラス物品100、またはコンポーネントは、60℃かつ93%の相対湿度で240時間、20mmのプレート距離で2つのプレートの間に保持されたときに、静的2点曲げ試験中の破損を回避するガラス層110、ガラス物品100、またはコンポーネントの能力によって特徴付けられる、層、物品、またはコンポーネントである。プレート距離は、2点曲げ試験中のガラス層110、ガラス物品100、または基材の対向する外面間の直線の直線距離である。例えば、「D」は、図4の基材220に接合されたガラス物品100のプレート距離を表し、「d」は、ガラス層110のプレート距離を表す。
【0071】
幾つかの実施形態では、ガラス層110は、非強化ガラス層、例えばイオン交換プロセスまたは熱強化プロセスを受けていないガラス層であってよい。幾つかの実施形態では、ガラス層110は、イオン交換プロセスを受けたものであってよい。そのような実施形態では、ガラス層は、イオン交換ガラス層と呼ばれる場合がある。イオン交換プロセスにより、ガラス層110の上面114および/または下面116のうちの少なくとも1つに圧縮応力を有するガラス層110、ならびにガラス層110の厚さを通る少なくとも2点の異なる金属酸化物の濃度が得られる。金属酸化物は、アルカリ金属酸化物であってよい。濃度差は0.2モル%以上であってよい。例えば、幾つかの実施形態では、濃度差は、0.2モル%~2モル%の範囲であってよい。
【0072】
幾つかの実施形態では、ガラス層110は、光学的に透明なガラス層であってよい。本明細書において使用される「光学的に透明」とは、400nm~700nmの波長範囲において200μmの厚さの材料片を通る最小透過率が70%以上であることを意味する。幾つかの実施形態では、光学的に透明な材料は、400nm~700nmの波長範囲において200μmの厚さの材料片を通る75%以上、80%以上、85%以上、または90%以上の最小透過率を有し得る。400nm~700nmの波長範囲における最小透過率は、400nm~700nmの全ての整数波長の透過率を測定し、最小の透過率のパーセント値を選択することによって計算される。別段の明記がない限り、光学的透明性は、分光光度計、例えばX-Riteまたは同等のデバイスから入手可能なColor i7分光光度計によって測定される。
【0073】
幾つかの実施形態では、光学的に透明な上部ポリマーハードコート層120は、化学線硬化性アクリル組成物から生じた硬化アクリレート樹脂材料を含み得る。化学線硬化性アクリル組成物は、(a)(a1)脂肪族三官能性(メタ)アクリレート、好ましくはアクリレートモノマー、(a2)脂肪族四官能性(メタ)アクリレートモノマー、または(a3)脂肪族五官能性(メタ)アクリレート、好ましくはアクリレートモノマーから選択される1種以上、または2種以上、または3種全ての多官能性(メタ)アクリレート系希釈剤、(b)モノマー固形分の総質量を基準として3~30質量%、または10~30質量%の、1種以上の(メタ)アクリレート、好ましくはアクリレート、イソシアヌレート基を含有するモノマー、(c)モノマー固形分の総質量を基準として5~60質量%、または5~55質量%、または10~50質量%、または5~40質量%、または10~40質量%の、1種以上の脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート、好ましくはアクリレート、6個以上24個まで、または6~12個、または6~10個の(メタ)アクリレート、好ましくはアクリレート基を有する官能性オリゴマー、(d)モノマーの総固形分を基準として2~10質量%、または3~8質量%、または3~7質量%の、1種以上のラジカル開始剤を含み、モノマーと官能性オリゴマーの固形分の合計量は100質量%である。化学線硬化性アクリル組成物は、(e)1種以上の有機溶媒をさらに含むことができる。
【0074】
幾つかの実施形態では、化学線硬化性アクリル組成物は、9~70質量%、または9~60質量%、または3~30質量%、または3~20質量%、または3~15質量%の、(a)(a1)脂肪族三官能性(メタ)アクリレート、好ましくはアクリレートモノマー、(a2)脂肪族四官能性(メタ)アクリレートモノマー、または(a3)脂肪族五官能性(メタ)アクリレートから選択される1種以上、または2種以上、または3種全ての多官能性(メタ)アクリレート系希釈剤、を含むことができる。
【0075】
ラジカル開始剤としては、限定するものではないが、ベンゾフェノン、ベンジル(1,2-ジケトン)、チオキサントン、(2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノン)、2,4,6-トリメチル-ベンゾイル)ジフェニルホスフィンオキシド、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-1-ケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-プロパノン)、オリゴマー状の2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノン、ジヒドロ-5-(2-ヒドロキシ-2-メチル-1-オキソプロピル)-1,1,3-トリメチル-3-(4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-1-オキソプロピル)フェニル)-1H-インデン、およびビス-ベンゾフェノンが挙げられ、あるいは好ましくは、オリゴマー状の2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノン、ジヒドロ-5-(2-ヒドロキシ-2-メチル-1-オキソプロピル)-1,1,3-トリメチル-3-(4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-1-オキソプロピル)フェニル)-1H-インデン、またはα-[(4-ベンゾイルフェノキシ)-アセチル]-ω-[[2-(4-ベンゾイルフェノキシ)-アセチル]オキシ]-ポリ(オキシ-1,4-ブタンジイル)を挙げることができる。
【0076】
有機溶媒としては、限定するものではないが、メチルエチルケトンなどのケトン、エーテル、脂肪族もしくは芳香族炭化水素、芳香族アルコールもしくはアルカノール、エステル、または1つの鎖上の複数の官能基の組み合わせ、例えばヒドロキシケトンまたはプロピレングリコールメチルエーテルアセテートを挙げることができる。組成物は、組成物の総質量を基準として、10~90質量%、または25~60質量%の有機溶媒を含むことができる。
【0077】
組成物は、粘度計(ASVM 3001, Anton Parr, Ashland, VA)を使用して、25℃かつプロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGMEA)などの有機溶媒中の50質量%の固形分で、ASTM D7042-16(2016)に従って測定される、10~2000センチポアズ(cPs)(10~2000mPa・s)、または20~400cPs(20~400mPa・s)、10~200cPs(10~200mPa・s)、または20~150cPs(20~150mPa・s)の範囲の粘度を有し、ここでのモノマーと官能性オリゴマーの固形分の合計量は100%である。
【0078】
一実施形態では、化学線硬化性アクリル組成物は、総モノマー固形分を基準として、3~25質量%、または3~20質量%、または3~15質量%の量の、(a)(a1)1種以上の脂肪族三官能性(メタ)アクリレート、好ましくはアクリレートモノマーの、多官能性(メタ)(メタ)アクリレート系希釈剤を含み、ここでのモノマーと官能性オリゴマーの固形分の合計量は100%である。
【0079】
別の実施形態では、化学線硬化性アクリル組成物は、総モノマー固形分を基準として、3~25質量%、または3~20質量%、または3~15質量%の量の、(a)(a2)1種以上の脂肪族四官能性(メタ)アクリレート、好ましくはアクリレートモノマーの多官能性(メタ)(メタ)アクリレート系希釈剤を含み、ここでのモノマーと官能性オリゴマーの固形分の合計量は100%である。
【0080】
さらに別の実施形態では、化学線硬化性アクリル組成物は、総モノマー固形分を基準として、3~25質量%、または3~20質量%、または3~15質量%の量の、(a)(a3)1種以上の脂肪族五官能性(メタ)アクリレート、好ましくはアクリレートモノマーの多官能性(メタ)(メタ)アクリレート系希釈剤を含み、ここでのモノマーと官能性オリゴマーの固形分の合計量は100%である。
【0081】
幾つかの実施形態では、化学線硬化性アクリル組成物は、少なくとも1種の(c)脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート官能性オリゴマーを含み、これは、1400~10000、または1500~6000g/モルの式分子量を有し、1種以上の(c)脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート、好ましくはアクリレート官能性オリゴマーの、固体としての組成物の反応したイソシアネート(カルバメート)含有率は、5~60質量%、または10~50質量%の範囲である。
【0082】
本出願の化学線硬化性アクリル組成物は、(a)、(b)、(c)、および(d)の総質量を基準として、0.1~30質量%、または1~30質量%、または2~30質量%、または3~30質量%、または10~30質量%、または3~25質量%、5~25質量%、または3~20質量%の、硫黄含有ポリオール(メタ)アクリレートの1種以上のチオール化合物、または(メタ)アクリレートを含まないチオールをさらに含む。そのような化合物は、本組成物から製造された化学線硬化コーティングの表面硬化を促進するために使用することができる。適切な硫黄含有ポリオール(メタ)アクリレートは、少なくとも2個、または少なくとも3個、または6個以下、または5個以下、または2~6個の(メタ)アクリレート官能基を有する。例示的な硫黄含有ポリオール(メタ)アクリレートは、EBECRYL(商標)LED 02またはLED 01(Allnex Coating Resins, Frankfurt am Main, Germany)として販売されているメルカプト変性ポリエステルアクリレートであってよい。
【0083】
化学線硬化性アクリル組成物は、固形分として、合計5質量%以下、または3.5質量%以下の、充填剤、例えばシリカ、アルミナ、セリア、チタニア、ジルコニア、または任意の適切な金属もしくは金属酸化物のナノ粒子を含み、これらは、Brunauer-Emmett-Teller分析器で測定される一次粒子サイズの直径が1000nm以下、または最長寸法が500nm以下、もしくは100nm以下である平均粒子サイズを有する。ナノ粒子は、球のように対称であっても、棒のように非対称であってもよい。それらは、中身が詰まっていても中空であってもよく、あるいはメソポーラスであってもよい。ナノ粒子は、個々に分散させることができ、あるいは組成物中に凝集体として分散させることができる。使用されるナノ粒子が凝集体である場合、それらは動的レーザー光散乱によって測定されたときに10000nm未満の二次平均粒子サイズを有する。
【0084】
本開示の化学線硬化性アクリル組成物は、20~150℃、または60~150℃などの適切な温度で図1のガラス層110の上面114上に直接コーティングすることができる。コーティングは、限定するものではないが、ドローダウンバーコーティング、ワイヤーバーコーティング、スリットコーティング、フレキソ印刷、インプリンティング、スプレーコーティング、ディップコーティング、スピンコーティング、フラッドコーティング、スクリーン印刷、インクジェット印刷、グラビアコーティングなどの任意の適切な手段によって行うことができる。幾つかの実施形態では、光学的に透明なポリマーハードコート層120は、コーティングされた組成物を乾燥することによって形成することができ、これは、50~200℃、または150℃以下、または120℃以下、または100℃以下、または90℃以下の温度で溶媒を留去すること、および100~600nm、または150nm~600nm、または190nm~600nmの範囲にピーク極大を有する化学線(紫外光から可視光の範囲)への曝露によって乾燥した組成物を硬化させることを含む。
【0085】
適切な放射は、例えば太陽光または人工光源からの光に存在する。光源は特に限定されるものではなく、目的に応じて適切に選択することができる。点光源とアレイ(「ランプカーペット」)は共に適している。その例としては、カーボンアークランプ、キセノンアークランプ、場合により金属ハロゲン化物でドープされている低中圧-、高圧-、および超高圧-水銀ランプ(金属ハロゲンランプ)、マイクロ波刺激金属蒸気ランプ、エキシマランプ、超化学線蛍光管、蛍光ランプ、アルゴン白熱灯、電子閃光、写真用投光器、発光ダイオード(LED)、電子ビーム、およびX線が挙げられる。使用される具体的な波長は、組成物中で使用される具体的なラジカル開始剤次第である。そのような波長の選択および光照射量は、十分に当業者の能力の範囲内である。本組成物で使用される光照射量は、30~8,000ミリジュール/平方センチメートル(mJ/cm)、200~8,000mJ/cm、または400~6,000mJ/cm、または500~5,000mJ/cm、または550~3,000mJ/cmで変動し得る。一実施形態では、0.24m/sの速度のDランプを備えたFusion Systems紫外線(UV)ベルトシステムデバイス(Heraeus Noblelight American, LLC, Gaithersburg, MD)が使用される。
【0086】
幾つかの実施形態では、図1のガラス層110の上面114に化学線硬化性アクリル組成物を直接コーティングする前に、上面114上に接着促進剤をコーティングすることができる。接着促進剤は、ガラス層110の上面114と光学的に透明な上部ポリマーハードコート層120の下面126との間の接合を改善し、それにより、上面114と下面126との間の界面の機械的強度を改善する。利用される接着促進剤は、光学的に透明なポリマーハードコート層120の材料に基づいて選択することができる。多様な接着促進剤を使用することができ、それらは当該技術分野で周知である。接着促進剤の例としては、限定するものではないが、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、8-メタクリロキシオクチルトリメトキシシラン、((クロロメチル)フェニルエチル)トリクロロシラン、1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン、およびN,N’-ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミンなどのシランカップリング剤;JEFFAMINE(商標) D230およびJEFFAMINE(商標) T403(Huntsmanから市販)などのポリエーテルアミンが挙げられる。
【0087】
一実施形態では、(3-アクリロキシプロピル)トリメトキシシランが接着促進剤である。シラン溶液は、酸性化されたエチルアルコール(酢酸によりpH4.5~5.5)中の0.1質量%のシランを混合し、5~10分間撹拌することによって調製することができる。シラン溶液は、例えば、スピンコーティング、ディップコーティング、スプレーコーティング、または蒸気プライミングによってガラス層110の表面に被着することができる。過剰のシランは、エタノールを使用して上面114から洗い流される。その後、ガラス層110に対して、被着後ベーキング処理が120℃で1分間行われ得る。化学線硬化性アクリル組成物および製造は、2017年12月15日に公開された米国特許出願公開第2019/0185602号明細書に開示されており、これは、これらへの参照により、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0088】
光学的に透明な上部ポリマーハードコート層120は、光学的に透明なポリマーハードコート層120の上面124から下面126まで測定される厚さ122を有する。幾つかの実施形態では、厚さ122は、0.1μm~200μmの範囲(この中の部分範囲を含む)であってよい。例えば、厚さ122は、0.1μm、0.5μm、1μm、5μm、10μm、20μm、25μm、30μm、40μm、50μm、60μm、70μm、75μm、80μm、90μm、100μm、110μm、120μm、125μm、130μm、140μm、150μm、160μm、170μm、175μm、180μm、190μm、または200μm、またはこれらの値のうちのいずれか2つを終点として有する範囲内(終点を含む)であってよい。幾つかの実施形態では、光学的に透明なポリマーハードコート層120の厚さ122は、0.1μm~100μmの範囲であってよい。
【0089】
ガラス層110の上面114上にハードコート層120を配置してハードコート層120の鉛筆硬度を測定したときに、光学的に透明な上部ポリマーハードコート層120は6H以上の鉛筆硬度を有する。幾つかの実施形態では、光学的に透明なポリマーハードコート層120は、ハードコート層120の鉛筆硬度が、ガラス層110の上面114上に配置されたハードコート層120で測定されたときに、6H~9Hの範囲(この中の部分範囲を含む)の鉛筆硬度を有し得る。例えば、光学的に透明なポリマーハードコート層120の鉛筆硬度は、6H、7H、8H、または9H、またはこれらの値のうちのいずれか2つを終点として有する範囲内(終点を含む)であってよい。別段の記載のない限り、ガラス層110の上面114にハードコート層120が配置されたハードコート層120の鉛筆硬度は、750グラムの試験荷重で、日本規格JIS K 5600-5-4に準拠したGardco HA-3363鉛筆硬度試験機を用いて測定される。
【0090】
ガラス層110の表面に配置された本明細書に記載の光学的に透明な上部ポリマーハードコート層120は、ハードコート層の鉛筆硬度を、柔らかいポリマー基材または層の表面に配置されたハードコート層で測定したときに、相対的に柔らかいポリマー基材または層の表面に配置された同じ光学的に透明なハードコート層よりも優れた鉛筆硬度を有する。例えば、ガラス層110の表面に配置されたハードコート層120は、2Hの鉛筆硬度を有するPET(ポリエチレンテレフタレート)またはPI(ポリイミド)基材の表面に配置された同じ層よりも優れた鉛筆硬度を有する。別の例として、ガラス層110の表面に配置されたハードコート層120は、ガラス層も含む基材の一部を形成するPETまたはPI層の表面に配置された同じ層よりも優れた鉛筆硬度を有する。基材は、ガラス層上に配置されたPETまたはPI層を含み、PETまたはPI層はガラス層上に配置されたときに3Hの鉛筆硬度を有する。幾つかの実施形態では、ガラス層110の表面に配置されたハードコート層120は、PETまたはPIの基材または層の表面に配置された同じ層の2倍以上の鉛筆硬度を有し得る。
【0091】
幾つかの実施形態では、光学的に透明な上部ポリマーハードコート層120は、破断時に1%~10%の範囲(この中の部分範囲を含む)のパーセント伸びを有し得る。例えば、光学的に透明な上部ポリマーハードコート層120は、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、または10%、またはこれらの値のうちのいずれか2つを終点として有する範囲内(終点を含む)のパーセント伸びを有し得る。別段の明記がない限り、材料のパーセント伸び(破断点伸びまたは破壊ひずみ)は、EN ISO 527に準拠した引張試験によって決定される。伸びの測定のために、本開示の化学線硬化性アクリル組成物は、50μmのPETフィルム上にコーティングされ、硬化される。
【0092】
幾つかの実施形態では、光学的に透明な上部ポリマーハードコート層120は、1GPa(ギガパスカル)~15GPaの範囲の弾性率を有し得る。例えば、光学的に透明な上部ポリマーハードコート層120は、1GPa、2GPa、3GPa、4GPa、5GPa、6GPa、7GPa、8GPa、9GPa、10GPa、11GPa、12GPa、13GPa、14GPa、または15GPa、またはこれらの値のうちのいずれか2つを終点として有する範囲内(終点を含む)の弾性率を有し得る。別段の記載がない限り、材料の弾性率はASTM E111-17に従って測定される。
【0093】
幾つかの実施形態では、光学的に透明なポリマーハードコート層120は、単一のモノリシック層であってよい。本明細書において使用される「単一のモノリシック層」とは、その体積全体にわたって概して一定の組成を有する単一の一体に形成された層を意味する。
【0094】
幾つかの実施形態では、光学的に透明なポリマーハードコート層120は、複数のモノリシック層であってよい。本明細書において使用される「複数のモノリシック層」または「複数のハードコート層」は、材料の2つ以上の層を層状にすることによって、または異なる層を機械的に取り付けることによって製造される層を意味する。
【0095】
幾つかの実施形態では、複数のハードコート層は、2つのハードコート層を含む。ガラス層の上面に設けられる第2のハードコート層のインデンテーション弾性率(E)は、一番上側のハードコート層として設けられる第1のハードコート層のインデンテーション弾性率(E)よりも大きい。一実施形態では、E/Eは、1.1以上、または1.5以上であってよい。第1のハードコート層は、第2のハードコート層よりも高い靭性を有する。複数のハードコート層の合計の厚さは、10μm以上、または15μm以上であってよい。
【0096】
幾つかの実施形態では、第1のハードコート層は、ナノ粒子を添加することなしに、本開示の化学線硬化性アクリル組成物を重合および硬化するによって得ることができる。第2のハードコート層は、ナノ粒子を添加して本開示の化学線硬化性アクリル組成物を重合および硬化することにより得ることができる。
【0097】
幾つかの実施形態では、第1のハードコート層は、本開示と同じ高分子材料を有する。一実施形態では、第2のハードコート層は、エポキシ-シロキサンオリゴマーと、平均径50~250nmの有機粒子と、1つ以上のエポキシ部位またはオキセタン部位を有する反応性担体とを含むハードコート組成物から製造することができる。組成物および得られるハードコート層は、米国特許出願公開第2019/0185710号明細書に開示されており、その内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる。別の実施形態では、第2のハードコート層は、シロキサンオリゴマーまたはシリカもしくは金属酸化物のナノ粒子を含むシロキサンオリゴマーを含有するハードコート組成物から製造することができる。組成物およびハードコート層は、米国特許出願公開第2017/0369654号明細書および同第2019/0185633号明細書に開示されており、その内容全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0098】
幾つかの実施形態では、光学的に透明なポリマーハードコート層120の上面124は、ガラス物品100の最も上の外面であってよい。幾つかの実施形態では、光学的に透明なポリマーハードコート層120の上面124は、ガラス物品100によって規定されるかガラス物品100を含むカバー基材の、最も上の使用者に面した外面であってよい。幾つかの実施形態では、ガラス物品100は、光学的に透明なポリマーハードコート層120よりも大きい鉛筆硬度を有する光学的に透明なポリマーハードコート層120の上に配置された層を有さなくてよい。
【0099】
幾つかの実施形態では、例えば図2に示されているように、ガラス物品100は、ガラス層110の下面116に配置された光学的に透明なポリマーハードコート層130を含み得る。光学的に透明なポリマーハードコート層130は、「光学的に透明な下部ポリマーハードコート層」と呼ばれ得る。
【0100】
光学的に透明な下部ポリマーハードコート層130は、光学的に透明な下部ポリマーハードコート層130の上面134から下面136まで測定される厚さ132を有する。幾つかの実施形態では、厚さ132は、0.1μm~200μmの範囲(この中の部分範囲を含む)であってよい。例えば、厚さ132は、0.1μm、0.5μm、1μm、5μm、10μm、20μm、25μm、30μm、40μm、50μm、60μm、70μm、75μm、80μm、90μm、100μm、110μm、120μm、125μm、130μm、140μm、150μm、160μm、170μm、175μm、180μm、190μm、または200μm、またはこれらの値のうちのいずれか2つを終点として有する範囲内(終点を含む)であってよい。幾つかの実施形態では、光学的に透明なポリマーハードコート層130の厚さ132は、0.1μm~100μmの範囲であってよい。
【0101】
光学的に透明な下部ポリマーハードコート層130は、ハードコート層130の鉛筆硬度が、ガラス層110の下面116に配置されたハードコート層130で測定されたときに、6H以上の鉛筆硬度を有する。幾つかの実施形態では、光学的に透明なポリマーハードコート層130は、ハードコート層130の鉛筆硬度が、ガラス層110の下面116上に配置されたハードコート層130で測定されたときに、6H~9Hの範囲(この中の部分範囲を含む)の鉛筆硬度を有し得る。例えば、光学的に透明なポリマーハードコート層130の鉛筆硬度は、6H、7H、8H、または9H、またはこれらの値のうちのいずれか2つを終点として有する範囲内(終点を含む)であってよい。別段の記載のない限り、ガラス層110の下面116に配置されたハードコート層130の鉛筆硬度は、750グラムの試験荷重で、日本規格JIS K 5600-5-4に準拠したGardco HA-3363鉛筆硬度試験機を用いて測定される。
【0102】
幾つかの実施形態では、光学的に透明な下部ポリマーハードコート層130は、破断時に1%~10%の範囲(この中の部分範囲を含む)のパーセント伸びを有し得る。例えば、光学的に透明なポリマーハードコート層130の材料は、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、または10%、またはこれらの値のうちのいずれか2つを終点として有する範囲内(終点を含む)のパーセント伸びを有し得る。
【0103】
幾つかの実施形態では、光学的に透明な下部ポリマーハードコート層130は、1GPa~15GPaの範囲の弾性率を有し得る。例えば、光学的に透明な下部ポリマーハードコート層130の材料は、1GPa、2GPa、3GPa、4GPa、5GPa、6GPa、7GPa、8GPa、9GPa、10GPa、11GPa、12GPa、13GPa、14GPa、または15GPa、またはこれらの値のうちのいずれか2つを終点として有する範囲内(終点を含む)の弾性率を有し得る。
【0104】
光学的に透明な下部ポリマーハードコート層130は、単一または複数のモノリシック層であってよい。幾つかの実施形態では、光学的に透明な下部ポリマーハードコート層130の下面136は、ガラス物品100の最も下の内面であってよい。幾つかの実施形態では、光学的に透明な下部ポリマーハードコート層130の下面136は、ガラス物品100によって規定されるかガラス物品100を含むカバー基材の、最も下の内面であってよい。
【0105】
幾つかの実施形態では、光学的に透明な下部ポリマーハードコート層130は、光学的に透明な上部ポリマーハードコート層120と同じ材料から製造されていてよく、上部ポリマーハードコート層120と同じまたは異なる厚さを有し得る。幾つかの実施形態では、光学的に透明な下部ポリマーハードコート層130は、光学的に透明な上部ポリマーハードコート層120と異なる材料から製造されていてよく、上部ポリマーハードコート層120と同じまたは異なる厚さを有し得る。
【0106】
幾つかの実施形態では、光学的に透明な下部ポリマーハードコート層130は、2つのハードコート層を有する複数のハードコート層を含む。ガラス層の下面に近接して設けられる第2のハードコート層のインデンテーション弾性率(EB’)は、最も下部のハードコートとして設けられる第1のハードコート層のインデンテーション弾性率(EA’)よりも大きい。一実施形態では、EB’/EA’は、1.1以上、または1.5以上であってよい。第1のハードコート層は、第2のハードコート層よりも高い靭性を有する。複数のハードコート層の合計の厚さは、10μm以上、または15μm以上であってよい。
【0107】
幾つかの実施形態では、第1のハードコート層は、ナノ粒子を添加せずに、本開示の化学線硬化性アクリル組成物を重合および硬化することにより得ることができる。第2のハードコート層は、ナノ粒子を添加した本開示の化学線硬化性アクリル組成物を重合および硬化することにより得ることができる。
【0108】
幾つかの実施形態では、第1のハードコート層は、本開示と同じ高分子材料を有する。一実施形態では、第2のハードコート層は、エポキシ-シロキサンオリゴマーと、平均径50~250nmの有機粒子と、1つ以上のエポキシ部位またはオキセタン部位を有する反応性担体とを含むハードコート組成物から製造することができる。組成物および得られるハードコート層は、米国特許出願公開第2019/0185710号明細書に開示されており、その内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる。別の実施形態では、第2のハードコート層は、シロキサンオリゴマーまたはシリカもしくは金属酸化物のナノ粒子を含むシロキサンオリゴマーを含有するハードコート組成物から製造することができる。組成物およびハードコート層は、米国特許出願公開第2017/0369654号明細書および同第2019/0185633号明細書に開示されており、その内容全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0109】
幾つかの実施形態では、光学的に透明な下部ポリマーハードコート層130をガラス層110の下面116に直接接着するために、接着促進剤をガラス層110の下面116に追加することができる。接着促進剤は、光学的に透明な下部ポリマーハードコート層130の下面116と上面134との間の接合を改善することができ、下面116と上面134との間の界面の機械的強度が改善される。接着促進剤は、上述したものと同じである。
【0110】
幾つかの実施形態では、例えば図3Aおよび3Bに示されているように、ガラス物品は、ガラス層110の周囲表面142上に配置された光学的に透明なポリマーハードコート層140を含み得る。光学的に透明なポリマーハードコート層140は、「光学的に透明な周囲ポリマーハードコート層」と呼ばれる場合がある。光学的に透明なポリマーハードコート層140は、周囲表面142の一部または全ての面にコーティングされていてよい。光学的に透明なポリマーハードコート層140は、光学的に透明なポリマーハードコート層120および/または130と同じであってよく、あるいは類似していてよい。
【0111】
図4は、一定の曲げ力202を使用する2つの平行なプレート200間のガラス物品100の2点内側折り曲げ試験を示しており、この中で、ガラス物品100は、ハードコート層120が互いに向き合うように折り曲げられる。曲げ力202は、内側折り曲げ試験中に2つのプレート200がガラス物品100に押し付けられる2点曲げ試験装置を使用して加えられる。曲げ力202の下では、ガラス物品100は、可変の曲率半径で楕円形に変形し、それにより、中間の長さで最大の、および平行プレート200との接触線で最小の、曲げ応力を受ける。必要に応じて、曲げ力202がプレート200を介してガラス物品100に加えられるときに、試験装置に関連する固定具により、ガラス物品100が折り目210に対して確実に対称に曲げられるようにされる。プレート200は、特定のプレート距離が達成されるまで揃って一緒に移動することができる。本明細書において使用される曲げ力の下での「破損」という用語は、折損、破壊、層間剥離、亀裂の伝播、永久変形、または物品もしくは物品の層をその意図された目的に不適切にする他の機構を指す。また、本明細書に記載の静的曲げ試験では、曲げ力は、静的曲げ試験のために特定のプレート距離に予め設定されたプレート200の間でガラス物品100を押すことによって加えられる。
【0112】
ガラス物品100は、2つのプレート200間での2点外側折り曲げ(図4で図示せず)においても試験され、この中で、ガラス物品100は、ハードコート層120を外側に向けてプレート200に面するように折り曲げられる。内側折り曲げと同様に、一定の曲げ力202は、外側折り曲げ試験中に2つのプレート200がガラス物品100に押し付けられる2点曲げ試験装置を使用して加えられる。必要に応じて、曲げ力202がプレート200を介してガラス物品100に加えられるときに、試験装置に関連する固定具により、ガラス物品100が折り目210に対して確実に対称に曲げられるようにされる。プレート200は、特定のプレート距離が達成されるまで揃って一緒に移動することができる。本明細書において使用される曲げ力の下での「破損」という用語は、破折、破壊、層間剥離、亀裂の伝播、永久変形、または物品もしくは物品の層をその意図された目的に不適切にする他の機構を指す。また、本明細書に記載の静的曲げ試験では、曲げ力は、静的曲げ試験のために特定のプレート距離に予め設定されたプレート200の間でガラス物品100を押すことによって加えられる。
【0113】
幾つかの実施形態では、ガラス物品100は、60℃かつ93%の相対湿度で240時間、20mmのプレート距離で2つのプレート200の間に保持されたときに、静的な2点内側または外側曲げ試験(「2点曲げ試験」、以降、2点内側曲げ試験および/または外側曲げ試験という)中の破損を回避する。幾つかの実施形態では、ガラス物品100は、60℃かつ93%の相対湿度で240時間、10mmのプレート距離で2つのプレート200の間に保持されたときに、静的2点曲げ試験中の破損を回避する。幾つかの実施形態では、ガラス物品100は、60℃かつ93%の相対湿度で240時間、1mmのプレート距離で2つのプレート200の間に保持されたときに、静的2点曲げ試験中の破損を回避する。
【0114】
幾つかの実施形態では、ガラス物品100は、60℃かつ93%の相対湿度で240時間、20mm~1mmのプレート距離(D)で2つのプレートの間に保持されたときに、静的2点曲げ試験中の破損を回避する。2つのプレート間のプレート距離(D)は、例えば、20mm、19mm、18mm、17mm、16mm、15mm、14mm、13mm、12mm、11mm、10mm、9mm、8mm、7mm、6mm、5mm、4mm、3mm、2mm、または1mmであってよい。この静的曲げ試験のためには、ガラス物品100は、試験基材に、例えば100μmのPET基材に、50μmの接着剤層によって接合されていない。
【0115】
ガラス物品100が、より大きなプレート距離(D)、例えば30mmから、20mm以下のプレート距離(D)まで、22℃かつ50%の相対湿度で2つのプレート間で200,000回繰り返し曲げられるときに、動的2点曲げ試験が行われる。例えば、幾つかの実施形態では、ガラス物品100は、22℃かつ50%の相対湿度で20mm~1mmのプレート距離(D)まで2つのプレート間でガラス物品が200,000回繰り返し曲げられたときに、動的2点曲げ試験中の破損を回避する。プレート距離(D)は、例えば、20mm、19mm、18mm、17mm、16mm、15mm、14mm、13mm、12mm、11mm、10mm、9mm、8mm、7mm、6mm、5mm、4mm、3mm、2mm、または1mmであってよい。本明細書に記載の動的曲げ試験では、曲げ力は、プレート200間のガラス物品を毎分30サイクルの速度で予め設定されたプレート距離まで繰り返し曲げることによって加えられる。
【0116】
幾つかの実施形態では、ガラス物品100は、22℃かつ50%の相対湿度で20mmのプレート距離(D)まで2つのプレート間でガラス物品100が200,000回繰り返し曲げられたときに、動的2点曲げ試験中の破損を回避する。幾つかの実施形態では、ガラス物品100は、22℃かつ50%の相対湿度で10mmのプレート距離(D)まで2つのプレート間でガラス物品100が200,000回繰り返し曲げられたときに、動的2点曲げ試験中の破損を回避する。幾つかの実施形態では、ガラス物品100は、23℃かつ50%の相対湿度で1mmのプレート距離(D)まで2つのプレート間でガラス物品100が200,000回繰り返し曲げられたときに、動的2点曲げ試験中の破損を回避する。この動的曲げ試験のためには、ガラス物品100は、試験基材に、例えば100μmのPET基材に、50μmの接着剤層によって接合されていない。
【0117】
幾つかの実施形態では、ガラス物品100は、光学的に透明な上部ポリマーハードコート層120および/または光学的に透明な下部ポリマーハードコート層130を含まないガラス層110の対照ペン落下高さの「Y」倍以上であるペン落下高さにおける、ガラス物品100の損傷を回避する能力によって定義される耐衝撃性を有し得る。幾つかの実施形態では、「Y」は2であってよい。幾つかの実施形態では、「Y」は2.5であってよい。幾つかの実施形態では、「Y」は3であってよい。幾つかの実施形態では、「Y」は、3.5であってよい。幾つかの実施形態では、「Y」は4であってよい。ペン落下高さおよび対照ペン落下高さは、以下の「ペン落下試験」に従って測定される。
【0118】
本明細書で説明および言及される「ペン落下試験」は、ガラス物品のサンプルが、厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)の層に、厚さ50μmの光学的に透明な接着剤層で接合されたガラス物品の反対側の面でガラス物品の表面に加えられた荷重(例えば特定の高さにおけるペン落下による)を用いて試験されるように行われる。ペン落下試験におけるPET層は、フレキシブル電子ディスプレイデバイスをシミュレートすることが意図されている。試験中、PET層に接合されたガラス物品は、PET層がアルミニウムプレートに接触した状態でアルミニウムプレート(6063アルミニウム合金、400番のサンドペーパーで研磨した表面粗さ)の上に配置される。アルミプレートの上に載っているサンプルの面にはテープは使用されない。
【0119】
ペンをサンプルに導くために、ペン落下試験ではチューブが使用され、チューブは、チューブの縦軸がサンプルの上面に実質的に垂直になるように、サンプルの上面と接触させて配置される。チューブは、2.54cm(1インチ)の外径、1.4cm(9/16インチ)の内径、および最大90cmの長さを有する。各試験でペンを望みの高さに保持するために、アクリロニトリルブタジエン(「ABS」)シムが使用される。各落下の後、ペンをサンプル上の異なる衝撃位置に導くように、チューブはサンプルに対して再配置される。ペン落下試験で使用されるペンは、直径0.7mmのタングステンカーバイドボールペンチップを有し、キャップを含めて5.8グラム(キャップなしで4.68g)の質量を有する、BIC(登録商標)Easy Glide Pen, Fineである。同様の質量、空力特性、および直径0.7mmのタングステンカーバイドボールチップを備えた同等のペンのような物体も使用することができる。
【0120】
ペン落下試験では、ボールペンが試験サンプルと相互作用できるように、キャップが上端(すなわち先端の反対側の端部)に取り付けられた状態でペンが落下する。ペン落下試験による落下シーケンスでは、初期高さ1cmで1回のペン落下が行われ、その後、20cmまで1cm刻みで増加させて連続して落下が行われ、20cmの後、試験サンプルが破損するまで2cm刻みで行われる。各落下が行われた後、ガラス物品への観察可能な何らかの破損、破壊、またはその他の損傷の証拠の存在が、具体的なペンの落下高さと共に記録される。統計値が改善された母集団を生成するために、ペン落下試験を使用して、同じ落下シーケンスに従って複数のサンプルを試験することができる。ペン落下試験では、ペンは5回の落下ごとに新しいペンに交換され、新しいサンプルごとに試験される。加えて、全てのペン落下は、サンプルの中心またはその近傍のサンプル上のランダムな位置で行われ、サンプルの端部の近傍または端部ではペン落下は行われない。「平均ペン落下高さ」については、ペン落下試験に従って少なくとも3つのサンプルが試験され、平均ペン落下高さが報告される。
【0121】
ペン落下試験の目的のためには、「破損」は、20/20の視力を有する肉眼で見えるガラス物品中の機械的欠陥の形成を意味する。機械的欠陥は、亀裂または塑性変形(例えば表面の凹み)である場合がある。亀裂は、表面亀裂または貫通亀裂である場合がある。亀裂は、ガラス物品の内面または外面に形成される場合がある。亀裂は、ガラス物品の層の全部または一部を通って延びている場合がある。
【0122】
本開示のガラス物品は、外力および/または外部衝撃下でのガラス物品からのガラス破片粒子の放出を回避することができる耐飛散性を有する。外力は、ガラス物品からガラス破片粒子を放出させる任意の力であってよい。外力の例としては、限定するものではないが、ガラス物品をひねること、ガラス物品を硬い物体(硬いボールや岩など)で叩くこと、およびガラス物品を曲げることが含まれ得る。
【0123】
幾つかの実施形態では、ガラス物品100は、静的2点曲げ試験中に破損まで曲げられたときに、ガラス物品からガラス破片粒子が放出されるのを回避するガラス物品100の能力によって定義される耐飛散性を有し得る。ガラス物品の耐飛散性を決定する目的で、以下の試験が行われる。光学的に透明なポリマーハードコート層が、ガラス層110の上面、下面、および/または周囲表面に配置される。次いで、ガラス物品は、ガラス層の下面がPET試験基材に面するように、厚さ50μmの光学的に透明な接着剤を用いて、厚さ100μmのPET試験基材に接合される(図4の基材220を参照)。ガラス層の下面に配置された光学的に透明なポリマーハードコート層を含まない試験サンプルでは、ガラス層の下面は、光学的に透明な接着剤でPET試験基材に直接接合される。PET試験基材に接合された後、ガラス物品は、例えば、図4に示されているように、曲げ力202を使用して2つのプレート200の間で折り曲げられる。図4は、内側折り曲げ構成を示している。内側折り曲げでは、ガラス層110の上面114はそれ自体に向かって曲げられる。ガラス物品100は、図4に示されるように反対方向に曲げられることによって、外側折り曲げ構成で試験され得る。外側折り曲げでは、上面114がそれ自体から離れるように曲げられる。
【0124】
長さ160mm幅100mmのガラス物品100が、その長さの中心まわりで8mmのプレート距離(D)まで幅方向に折り曲げられ、一点の鋭い接触によりガラス破壊が手動で誘発され、その結果、ガラス層110は折り目210に沿って破壊される。破壊後、ガラス物品は、顕微鏡、例えば、Zeissデジタル顕微鏡を使用して20倍で画像化され、ガラス破片粒子がガラス物品から放出されたか否かが決定される。ガラス物品から放出されたガラス破片粒子は、光学的に透明なハードコート層を貫通し、かつ光学的に透明なハードコート層の外面によって規定されるガラス物品の外面に露出または静止する、破壊事象により生じたガラス破片粒子である。試験で使用される尖りは、歯科用スクレーパーのようなタングステンカーバイドまたはステンレス鋼製の工具であってよい。ガラス破壊は、工具を光学的に透明な上部ハードコート層120を通してガラス層110に突き刺してガラス破壊を引き起こすことによって、線210の周りの曲げ領域から離れた位置で開始される。ガラス破壊により、曲げ領域内のガラス層110が破壊されるように、複数の破壊線が曲げ領域に伝わるはずである。
【0125】
ガラス破片粒子の放出を回避する能力によって規定される耐飛散性を有することを特徴とするガラス物品では、以下の試験パラメータが満たされる必要がある。第1に、ガラス物品100は、ガラス層110のみを含み、指定された光学的に透明なポリマーハードコート層が、ガラス層110の上面、下面、および/または周囲表面に配置される。ガラス物品100上に他の層は存在しない。例えば、ガラス物品が1つ以上の光学的に透明なポリマーハードコート層を「含む」と記述される場合、それらの層のみが耐飛散性試験のためのガラス物品上に存在する。試験の目的のみのために存在する層または基材(例えば基材220)は、ガラス破片粒子の放出を回避する能力によって定義される耐飛散性を有するとして特徴付けることを目的としたガラス物品のコンポーネントではない。第2に、ガラス物品100は、内側曲げ試験または外側曲げ試験に合格する必要がある。内側曲げ試験については、ガラス物品100は、内側曲げ構成で8mmのプレート距離(D)まで曲げられたときに、ガラス破片粒子の放出を回避する必要がある。外側曲げ試験については、ガラス物品100は、外側折り曲げ構成で8mmのプレート距離(D)まで曲げられたときに、ガラス破片粒子の放出を回避する必要がある。
【0126】
幾つかの実施形態では、例えば図5に示されているように、ガラス物品100は、上面154、下面156、および厚さ152を有するコーティング層150でコーティングされていてよい。幾つかの実施形態では、コーティング層150は、光学的に透明な上部ポリマーハードコート層120の上面124に配置することができる。幾つかの実施形態では、同じまたは異なるタイプの複数のコーティング層150をガラス物品100上にコーティングすることができる。
【0127】
幾つかの実施形態では、コーティング層150は、反射防止コーティング層であってよい。反射防止コーティング層における使用に適した例示的な材料としては、SiO、Al、GeO、SiO、AlO、AlN、SiN、SiO、SiAl、Ta、Nb、TiO、ZrO、TiN、MgO、MgF、BaF、CaF、SnO、HfO、Y、MoO、DyF、YbF、YF、CeF、フルオロポリマー、プラズマ重合ポリマー、シロキサンポリマー、シルセスキオキサン、ポリイミド、フッ素化ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、アクリルポリマー、ウレタンポリマー、ポリメチルメタクリレート、および耐引掻き性の層における使用に適しているとして上で列挙したその他の材料が挙げられる。反射防止コーティング層は、異なる材料の副層を含んでいてよい。
【0128】
幾つかの実施形態では、反射防止コーティング層は、六方充填されたナノ粒子層、例えば、限定するものではないが、2016年3月1日に発行された米国特許第9,272,947号明細書に記載されている六方充填されたナノ粒子層を含むことができ、この文献は、これへの参照によりその全体が参照により本明細書に組み込まれる。幾つかの実施形態では、反射防止コーティング層は、ナノポーラスSi含有コーティング層、例えば、限定するものではないが、2013年7月18日に公開された国際公開第2013/106629号に記載されているナノポーラスSi含有コーティング層を含み得る。この文献は、これへの参照によりその全体が参照により本明細書に組み込まれる。幾つかの実施形態では、反射防止コーティングは、多層コーティング、例えば、限定するものではないが、2013年7月18日に公開された国際公開第2013/106638号、2013年6月6日に公開された国際公開第2013/082488号、および2016年5月10日に発行された米国特許第9,335,444号明細書に記載されている多層コーティングを含み得る。これら全ての文献は、これらへの参照によりその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0129】
幾つかの実施形態では、コーティング層150は、防汚コーティング層であってよい。幾つかの実施形態では、防汚コーティング層は、フルオロアルキルシラン、パーフルオロポリエーテルアルコキシシラン、パーフルオロアルキルアルコキシシラン、フルオロアルキルシラン-(非フルオロアルキルシラン)コポリマー、およびフルオロアルキルシランの混合物からなる群から選択される材料を含み得る。幾つかの実施形態では、防汚コーティング層は、全フッ素化基を含む選択されたタイプのシランである1種以上の材料、例えば式(RSiX4-yのパーフルオロアルキルシラン[式中、RFは直鎖C6~C30パーフルオロアルキル基であり、X=Cl、アセトキシ、-OCH、および-OCHCHであり、y=2または3である]を含み得る。パーフルオロアルキルシランは、Dow-Corning(例えばフルオロカーボン2604および2634)、3MCompany(例えばECC-1000およびECC-4000)、およびその他のフルオロカーボン供給業者、例えばDaikin Corporation, Ceko(韓国)、Cotec-GmbH(DURALON UltraTec材料)、およびEvonikなどの多くの供給元から商業的に入手することができる。幾つかの実施形態では、防汚コーティング層としては、2013年6月6日に公開された国際公開第2013/082477号に記載されている防汚コーティング層を挙げることができ、この文献は、これへの参照によりその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0130】
幾つかの実施形態では、コーティング層150は、光学的に透明なポリマーハードコート層120の上面124上に形成されたアンチグレア層であってよい。適切なアンチグレア層としては、限定するものではないが、米国特許出願公開第2010/0246016号明細書、同第2011/0062849号明細書、同第2011/0267697号明細書、同第2011/0267698号明細書、同第2015/0198752号明細書、および同第2012/0281292号明細書に記載のプロセスによって製造されるアンチグレア層が挙げられ、これらは全て、これらへの参照によりその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0131】
幾つかの実施形態では、コーティング層150は、耐指紋性コーティング層であってよい。適切な耐指紋性コーティング層としては、限定するものではないが、例えば2011年8月25日に公開された米国特許出願公開第2011/0206903号明細書に記載されているようなガス捕捉機能を含む疎油性表面層、ならびに例えば2013年5月23日に公開された米国特許出願公開第2013/0130004号明細書に記載されているような、ガラスまたはガラスセラミック基材の表面との反応性を有する無機側鎖を含む未硬化のもしくは部分硬化したシロキサンコーティング前駆体から形成された親油性コーティング(例えば部分的に硬化した直鎖アルキルシロキサン)が挙げられる。米国特許出願公開第2011/0206903号明細書および米国特許出願公開第2013/0130004号明細書の内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。他の耐指紋性コーティングとしては、例えば2011年11月2日に公開された韓国特許出願公開第20110128140号明細書に記載されているような、フッ素含有(メタ)アクリル変性有機ケイ素などの、シロキサンとアクリレート官能基とを含む化合物から製造されたものを挙げることができ、この文献の内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0132】
幾つかの実施形態では、コーティング層150は、光学的に透明なポリマーハードコート層120の上面124上に形成された抗菌および/または抗ウイルス層であってよい。適切な抗菌および/または抗ウイルスウイルス層としては、限定するものではないが、例えば2012年2月9日に公開された米国特許出願公開第2012/0034435号明細書、および2015年4月30日に公開された米国特許出願公開第2015/0118276号明細書に記載されているような、ガラス物品の表面上に適切な濃度のAg+1イオンを有する、ガラス物品の表面からガラス物品の深さまで延びる抗菌性Ag+領域が挙げられる。米国特許出願公開第2012/0034435号明細書および米国特許出願公開第2015/0118276号明細書の内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0133】
図6は、幾つかの実施形態による消費者向け電子製品800を示している。消費者向け電子製品800は、前(使用者に面した)面804と、背面806と、側面808とを有するハウジング802を含み得る。電気コンポーネントは、少なくとも部分的にハウジング802内に配置され得る。電気コンポーネントは、特に、コントローラ810、メモリ812、およびディスプレイコンポーネント、例えば電子ディスプレイ814を含み得る。幾つかの実施形態では、ディスプレイ814は、ハウジング802の前面804にあってよく、あるいはそれに隣接していてよい。ディスプレイ814は、電子ディスプレイ、例えば発光ダイオード(LED)ディスプレイまたは有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイであってよい。ディスプレイ814は、使用者に面したディスプレイ表面816を含む。使用者は、この表面を通してディスプレイ814に表示された内容を見ることができる。ディスプレイ814は、フレキシブルディスプレイであってよい。
【0134】
例えば図6に示されているように、消費者向け電子製品800は、カバー基材820を含み得る。カバー基材820は、ディスプレイ814および電子製品800の他のコンポーネント(例えばコントローラ810およびメモリ812)を損傷から保護するのに役立ち得る。幾つかの実施形態では、カバー基材820は、ディスプレイ814のディスプレイ表面816上に配置することができる。幾つかの実施形態では、カバー基材820は、光学的に透明な接着剤層を用いてディスプレイ814に接合することができる。幾つかの実施形態では、カバー基材820は、光学的に透明な接着剤層を用いてディスプレイ表面816に接合することができる。そのような実施形態では、カバー基材820の最も下側の表面は、光学的に透明な接着剤層を用いてディスプレイ表面816に直接接合することができる。
【0135】
幾つかの実施形態では、カバー基材820は、本明細書で説明されるガラス物品によって全体的または部分的に規定されるカバーガラスであってよい。カバー基材820は、2D、2.5D、または3Dのカバー基材であってよい。幾つかの実施形態では、カバー基材820は、ハウジング802の前面804を規定し得る。幾つかの実施形態では、カバー基材820は、ハウジング802の前面804およびハウジング802の側面808の全部または一部を規定し得る。幾つかの実施形態では、消費者向け電子製品800は、ハウジング802の背面806の全部または一部を規定するカバー基材を含み得る。ディスプレイ814およびカバー基材820は、一緒に、電子ディスプレイコンポーネント830を規定し得る。電子ディスプレイコンポーネント830は、ハウジング802に結合され得る。幾つかの実施形態では、電子ディスプレイコンポーネント830は、ハウジング802の一部を規定することができる。
【0136】
本開示におけるガラス層は、ガラスおよびガラスセラミックなどの、少なくとも部分的にガラスである任意の材料から製造することができる。「ガラスセラミック」には、ガラスの制御された結晶化により製造された材料が含まれる。幾つかの実施形態では、ガラスセラミックは、約30%~約90%の結晶化度を有する。使用され得るガラスセラミック系の非限定的な例としては、LiO×Al×nSiO(すなわちLAS系)、MgO×Al×nSiO(すなわちMAS系)、およびZnO×Al×nSiO(すなわちZAS系)が挙げられる。
【0137】
1つ以上の実施形態では、アモルファス基材は、強化されていても非強化であってもよいガラスを含み得る。適切なガラスの例としては、ソーダライムガラス、アルカリアルミノケイ酸ガラス、アルカリ含有ホウケイ酸ガラス、およびアルカリアルミノホウケイ酸ガラスが挙げられる。幾つかの変形形態では、ガラスはリチアを含んでいてもよく、あるいはリチアを含まなくてもよい。1つ以上の代替の実施形態では、基材は、結晶性基材、例えばガラスセラミック基材(強化であっても非強化であってもよい)を含んでいてよく、あるいは単結晶構造、例えばサファイアを含んでいてよい。1つ以上の特定の実施形態では、基材は、アモルファスベース(例えばガラス)および結晶性クラッド(例えばサファイア層、多結晶アルミナ層、および/またはスピネル(MgAl)層)を含む。
【0138】
幾つかの実施形態では、本明細書で説明されるガラス層のためのガラス組成物は、40モル%~90モル%のSiO(酸化ケイ素)を含み得る。幾つかの実施形態では、ガラス組成物は、40モル%、45モル%、50モル%、55モル%、60モル%、65モル%、70モル%、75モル%、80モル%、85モル%、もしくは90モル%のSiO、またはこれらの値のうちのいずれか2つを終点として有する任意の範囲内(終点を含む)のモル%を含み得る。幾つかの実施形態では、ガラス組成物は、55モル%~70モル%のSiOを含み得る。幾つかの実施形態では、ガラス組成物は、57.43モル%~68.95モル%のSiOを含み得る。
【0139】
幾つかの実施形態では、本明細書で説明されるガラス層のためのガラス組成物は、1モル%~10モル%のB(酸化ホウ素)を含み得る。幾つかの実施形態では、ガラス組成物は、1モル%、2モル%、3モル%、4モル%、5モル%、6モル%、7モル%、8モル%、9モル%、もしくは10モル%のB、またはこれらの値のうちのいずれか2つを終点として有する任意の範囲内(終点を含む)のモル%を含み得る。幾つかの実施形態では、ガラス組成物は、3モル%~6モル%のBを含み得る。幾つかの実施形態では、ガラス組成物は、3.86モル%~5.11モル%のBを含み得る。幾つかの実施形態では、ガラス組成物は、Bを含まなくてよい。
【0140】
幾つかの実施形態では、本明細書で説明されるガラス層のためのガラス組成物は、5モル%~30モル%のAl(酸化アルミニウム)を含み得る。幾つかの実施形態では、ガラス組成物は、5モル%、10モル%、15モル%、20モル%、25モル%、もしくは30モル%のAl、またはこれらの値のうちのいずれか2つを終点として有する任意の範囲内(終点を含む)のモル%を含み得る。幾つかの実施形態では、ガラス組成物は、10モル%~20モル%のAlを含み得る。幾つかの実施形態では、ガラス組成物は、10.27モル%~16.10モル%のAlを含み得る。
【0141】
幾つかの実施形態では、本明細書で説明されるガラス層のためのガラス組成物は、1モル%~10モル%のP(酸化リン)を含み得る。幾つかの実施形態では、ガラス組成物は、1モル%、2モル%、3モル%、4モル%、5モル%、6モル%、7モル%、8モル%、9モル%、もしくは10モル%のP、またはこれらの値のうちのいずれか2つを終点として有する任意の範囲内(終点を含む)のモル%を含み得る。幾つかの実施形態では、ガラス組成物は、2モル%~7モル%のPを含み得る。幾つかの実施形態では、ガラス組成物は、2.47モル%~6.54モル%のPを含み得る。幾つかの実施形態では、ガラス組成物は、Pを含まなくてよい。
【0142】
幾つかの実施形態では、本明細書で説明されるガラス層のためのガラス組成物は、5モル%~30モル%のNaO(酸化ナトリウム)を含み得る。幾つかの実施形態では、ガラス組成物は、5モル%、10モル%、15モル%、20モル%、25モル%、もしくは30モル%のNaO、またはこれらの値のうちのいずれか2つを終点として有する任意の範囲内(終点を含む)のモル%を含み得る。幾つかの実施形態では、ガラス組成物は、10モル%~20モル%のNaOを含み得る。幾つかの実施形態では、ガラス組成物は、10.82モル%~17.05モル%のNaOを含み得る。
【0143】
幾つかの実施形態では、本明細書で説明されるガラス層のためのガラス組成物は、0.01モル%~0.05モル%のKO(酸化カリウム)を含み得る。幾つかの実施形態では、ガラス組成物は、0.01モル%、0.02モル%、0.03モル%、0.04モル%、もしくは0.05モル%のKO、またはこれらの値のうちのいずれか2つを終点として有する任意の範囲内(終点を含む)のモル%を含み得る。幾つかの実施形態では、ガラス組成物は、0.01モル%のKOを含み得る。幾つかの実施形態では、ガラス組成物は、KOを含まなくてよい。
【0144】
幾つかの実施形態では、本明細書で説明されるガラス層のためのガラス組成物は、1モル%~10モル%のMgO(酸化マグネシウム)を含み得る。幾つかの実施形態では、ガラス組成物は、1モル%、2モル%、3モル%、4モル%、5モル%、6モル%、7モル%、8モル%、9モル%、もしくは10モル%のMgO、またはこれらの値のうちのいずれか2つを終点として有する任意の範囲内(終点を含む)のモル%を含み得る。幾つかの実施形態では、ガラス組成物は、2モル%~6モル%のMgOを含み得る。幾つかの実施形態では、ガラス組成物は、2.33モル%~5.36モル%のMgOを含み得る。幾つかの実施形態では、ガラス組成物は、MgOを含まなくてよい。
【0145】
幾つかの実施形態では、本明細書で説明されるガラス層のためのガラス組成物は、0.01モル%~0.1モル%のCaO(酸化カルシウム)を含み得る。幾つかの実施形態では、ガラス組成物は、0.01モル%、0.02モル%、0.03モル%、0.04モル%、0.05モル%、0.06モル%、0.07モル%、0.08モル%、0.09モル%、もしくは0.1モル%のCaO、またはこれらの値のうちのいずれか2つを終点として有する任意の範囲内(終点を含む)のモル%を含み得る。幾つかの実施形態では、ガラス組成物は、0.03モル%~0.06モル%のCaOを含み得る。幾つかの実施形態では、本明細書で説明されるガラス層のためのガラス組成物は、0.01モル%~5モル%のCaOを含み得る。幾つかの実施形態では、ガラス組成物は、0.01モル%、0.1モル%、0.5モル%、1モル%、1.5モル%、2モル%、2.5モル%、3モル%、3.5モル%、4モル%、4.5モル%、もしくは5モル%のCaO、またはこれらの値のうちのいずれか2つを終点として有する任意の範囲内(終点を含む)のモル%を含み得る。幾つかの実施形態では、ガラス組成物は、CaOを含まなくてよい。
【0146】
幾つかの実施形態では、本明細書で説明されるガラス層のためのガラス組成物は、0.01モル%~0.05モル%のFe(酸化鉄)を含み得る。幾つかの実施形態では、ガラス組成物は、0.01モル%、0.02モル%、0.03モル%、0.04モル%、もしくは0.05モル%のFe、またはこれらの値のうちのいずれか2つを終点として有する任意の範囲内(終点を含む)のモル%を含み得る。幾つかの実施形態では、ガラス組成物は、0.01モル%のFeを含み得る。幾つかの実施形態では、ガラス組成物は、Feを含まなくてよい。
【0147】
幾つかの実施形態では、本明細書で説明されるガラス層のためのガラス組成物は、0.5モル%~2モル%のZnO(酸化亜鉛)を含み得る。幾つかの実施形態では、ガラス組成物は、0.5モル%、1モル%、1.5モル%、もしくは2モル%のZnO、またはこれらの値のうちのいずれか2つを終点として有する任意の範囲内(終点を含む)のモル%を含み得る。幾つかの実施形態では、ガラス組成物は、1.16モル%のZnOを含み得る。幾つかの実施形態では、ガラス組成物は、ZnOを含まなくてよい。
【0148】
幾つかの実施形態では、本明細書で説明されるガラス層のためのガラス組成物は、1モル%~10モル%のLiO(酸化リチウム)を含み得る。幾つかの実施形態では、ガラス組成物は、1モル%、2モル%、3モル%、4モル%、5モル%、6モル%、7モル%、8モル%、9モル%、もしくは10モル%のLiO、またはこれらの値のうちのいずれか2つを終点として有する任意の範囲内(終点を含む)のモル%を含み得る。幾つかの実施形態では、ガラス組成物は、5モル%~7モル%のLiOを含み得る。幾つかの実施形態では、ガラス組成物は、6.19モル%のLiOを含み得る。幾つかの実施形態では、ガラス組成物は、LiOを含まなくてよい。
【0149】
幾つかの実施形態では、本明細書で説明されるガラス層のためのガラス組成物は、0.01モル%~0.3モル%のSnO(酸化スズ)を含み得る。幾つかの実施形態では、ガラス組成物は、0.01モル%、0.05モル%、0.1モル%、0.15モル%、0.2モル%、0.25モル%、もしくは0.3モル%のSnO、またはこれらの値のうちのいずれか2つを終点として有する任意の範囲内(終点を含む)のモル%を含み得る。幾つかの実施形態では、ガラス組成物は、0.01モル%~0.2モルのSnOを含み得る。幾つかの実施形態では、ガラス組成物は、0.04モル%~0.17モル%のSnOを含み得る。
【0150】
幾つかの実施形態では、本明細書で説明されるガラス層のためのガラス組成物は、10モル%~30モル%の範囲のRO(アルカリ金属酸化物)+RO(アルカリ土類金属酸化物)の値を含む組成物であってよい。幾つかの実施形態では、RO+ROは、10モル%、15モル%、20モル%、25モル%、もしくは30モル%、またはこれらの値のうちのいずれか2つを終点として有する任意の範囲内(終点を含む)のモル%であってよい。幾つかの実施形態では、RO+ROは、15モル%~25モル%の範囲であってよい。幾つかの実施形態では、RO+ROは、16.01モル%~20.61モル%の範囲であってよい。
【0151】
強化された基材または層を形成するために、基材または層を強化することができる。本明細書で使用される「強化基材」または「強化層」という用語は、例えば基材/層の表面でより大きなイオンをより小さなイオンへとイオン交換することによって化学的に強化された基材/層を示し得る。強化された基材/層を形成するために、当該技術分野で公知の他の強化方法、例えば熱強化や、圧縮応力および中心張力領域を形成するために基材/層の一部の間の熱膨張係数の不一致を利用することも利用できる。
【0152】
基材/層がイオン交換プロセスによって化学的に強化される場合、基材/層の表面層のイオンは、同じ原子価または酸化状態を有するより大きなイオンによって置き換えられるか、または交換される。イオン交換プロセスは、典型的には、基材/層を、基材内の小さなイオンと交換される大きなイオンが入っている溶融塩浴に浸漬することによって行われる。限定するものではないが、浴の組成および温度、浸漬時間、塩浴(または複数の浴)への基材/層の浸漬の回数、複数の塩浴の使用、追加の工程、例えばアニーリング、洗浄などを含むイオン交換プロセスのパラメータが、通常、基材/層の組成および望まれる圧縮応力(CS)、強化の実施の結果得られる基材の圧縮応力層の深さ(または層の深さ)によって決定されることは当業者に理解されるであろう。例として、アルカリ金属含有ガラス基材/層のイオン交換は、例えば、限定するものではないが、より大きなアルカリ金属イオンの硝酸塩、硫酸塩、および塩化物などの塩が入っている少なくとも1つの溶融浴の中に浸漬することによって実現することができる。溶融塩浴の温度は、典型的には約380℃から最大約450℃の範囲であり、浸漬時間は約15分から最大約40時間の範囲である。ただし、上述したものとは異なる温度および浸漬時間も使用することができる。
【0153】
さらに、ガラス基材/層が複数のイオン交換浴の中に浸漬され、浸漬の合間に洗浄および/またはアニーリング工程が行われるイオン交換プロセスの非限定的な例は、ガラス基材が異なる濃度の塩浴中での複数の連続したイオン交換処理における浸漬によって強化される、2008年7月11日に出願された米国仮特許出願公開第61/079,995号に基づく優先権を主張してDouglas C. Allanらによって2009年7月10日に出願された「Glass with Compressive Surface for Consumer Applications」という表題の米国特許出願公開第12/500,650号明細書、およびガラス基材が第1の浴中でのイオン交換により強化され、流出イオンで希釈された後、第1の浴よりも流出イオン濃度が低い第2の浴に浸漬される、2008年7月29日に出願された米国仮特許出願公開第61/084,398号に基づく優先権を主張してChristopher M. Leeらによって2012年11月20日に特許取得された「Dual Stage Ion Exchange for Chemical Strengthening of Glass」という表題の米国特許第8,312,739号明細書に記載されている。米国特許出願公開第12/500,650号明細書および米国特許第8,312,739号明細書の内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0154】
様々な実施形態が本明細書に記載されているが、それらは例示として示されており、限定ではない。本明細書に提示されている教示および指針に基づいて、適合化および修正が、開示された実施形態の均等物の意味および範囲内にあることが意図されていることは明白なはずである。したがって、本開示の趣旨および範囲から逸脱することなしに、本明細書に開示の実施形態に対して形態および詳細事項の様々な変更を行い得ることは、当業者には明らかであろう。本明細書に提示の実施形態の要素は、必ずしも相互に排他的ではないが、当業者によって理解されるように、様々な状況を満たすために交換される場合がある。
【0155】
本開示の実施形態は、添付の図面に示されているようなその実施形態を参照して本明細書で詳細に説明されており、その中で、同様の参照番号は、同一または機能的に類似の要素を示すために使用されている。「一実施形態」、「実施形態」、「幾つかの実施形態」、「特定の実施形態では」などへの言及は、記載されている実施形態が特定の特徴、構造、または特性を含み得るが、全ての実施形態が必ずしもその特定の機能、構造、または特徴を含まなくてよいことを示す。さらに、そのような語句は、必ずしも同じ実施形態を指すとは限らない。加えて、特定の特徴、構造、または特性がある実施形態に関連して説明される場合、明示的に記述されているか否かにかかわらず、別の実施形態と関連してそのような特徴、構造、または特性に影響を与えることは当業者の知識の範囲内であると考えられる。
【0156】
実施例は、本開示の例示であるが、本開示を限定するものではない。この分野で通常遭遇する様々な条件およびパラメータの他の適切な修正および適合化は、当業者には明らかであり、本開示の趣旨および範囲内にある。
【実施例
【0157】
ハードコーティング組成物の製造
コーティング組成物は、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(166.67質量部、Sigma-Aldrich)中で、Ebecryl(商標) 8602(45質量部、Allnexから市販)、Photomer(登録商標) 4356(20質量部、IGM Resinsから市販)、Sartomer SR399(20質量部、Arkema Inc.から市販)、Ebecryl(商標) LED 02(10質量部、Allnexから市販)、およびEsacure KTO 46(5質量部、IGM Resinsから市販)を混合することによって製造した。得られた混合物を濾過し(孔径0.2μm、Whatman(商標))、次いでOPTOOL DAC-HP(1質量部、Daikin Industries, Ltd.から市販)およびNANOBYK-3601(1質量部、BYK USA Inc.から市販)を添加し、続いて濾過した(孔径1.0μm、Whatman(商標))。コーティング組成物の最終濃度範囲は、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(Sigma-Aldrich)、メチルイソブチルケトン(Sigma-Aldrich)、または2-ペンタノン(Sigma-Aldrich)のいずれかでさらに希釈することにより、20~60質量%固形分に調整した。
【0158】
ガラス層上にハードコート層を備えたガラス物品の製造
コーティングの前に、全てのガラスサンプルを、接着促進剤としての(3-アシルロキシプロピル)トリメトキシシランで前処理する。ガラスを前処理するためには、酸性化(pH約5)した95:5エタノール:H2O溶液中に2%(w/w)の(3-アシルオキシプロピル)トリメトキシシランが入っている溶液の中に、ガラスを2分間浸漬し、次いでエタノールで2分間すすぎ洗いする。エタノールすすぎ洗い溶液から取り出して乾燥させた後、サンプルを120℃で1分間ベークし、追加的なコーティングプロセスの準備を整える。
【0159】
上記のように製造したコーティング組成物を、約30mm/sのコーティング速度および30~200μL/sのコーティング流量で2ミルのシム厚さを使用して、nRadスロットダイコーター(nTact)において、上記の前処理で製造したイオン交換アルカリアルミノケイ酸ガラスの肉薄板ガラス物品上にコーティングした。コーティング後、溶媒を90℃で10分間除去し、続いてD電球を備えたFusion F300S UV硬化システム(Heraeus Noblelight America LLC)の中で、および5000mJ/cmのUV照射量で、乾燥したフィルムを硬化させた。機械的および光学的特性を試験するために、厚さ50μmのガラス層と、厚さ20μm、30μm、40μm、および50μmの光学的に透明な上部ポリマーハードコート層とを備えたガラス物品のサンプルを準備した。その結果は表1および4にまとめられている。機械的特性を試験するために、30μmの厚さのガラス層と10μm、20μm、および30μmの厚さの光学的に透明な上部ポリマーハードコート層とを備えたガラス物品のサンプルを準備した。その結果は表2にまとめられている。機械的特性を試験するために、75μmの厚さのガラス層と15μm、30μm、および40μmの厚さの光学的に透明な上部ポリマーハードコート層とを備えたガラス物品のサンプルを準備した。その結果は表3にまとめられている。
【0160】
ガラス物品の機械的特性
上記の通り準備したガラス物品を、機械的特性について試験した。試験されたガラス物品のサンプルには、光学的に透明なポリマーハードコート層のない厚さ50μmのガラス層(対照)と、厚さ50μmのガラス層の上面に配置された20μm、30μm、40μm、または50μmの厚さの光学的に透明な上部ポリマーハードコート層が含まれる。
【0161】
1.静的曲げ試験
静的2点内側および外側曲げ試験は、背面基材としてのPET層なしで上述したものに基づいて行った。上の通りに準備したガラス物品のサンプルを、60℃および相対湿度93%で240時間曲げた。破損が回避されるガラス物品のプレート距離が表1に示されている。
【0162】
2.動的折り曲げ試験
動的2点内側および外側曲げ試験は、背面基材としてのPET層なしで上述したものに基づいて行った。上の通りに準備したガラス物品のサンプルを、22℃および相対湿度50%で200,000サイクル曲げた。破損が回避されるガラス物品のプレート距離が表1に示されている。
【0163】
3.ガラス破片放出試験
上述した2点内側静的曲げ試験の後、ガラス物品を、破損するまで連続的に曲げた。次いで、割れたガラスを20倍のKeyence VHX-6000顕微鏡で画像化した。対照サンプルを除いて、全てのガラス物品サンプルはガラス破片の放出がゼロであった。
【0164】
4.ペン落下試験
ペン落下試験は、上述したものに基づいて行った。上の通りに準備したガラス物品を、50μmの光学的に透明な接着剤層(3M(商標)Optically Clear Adhesives 8212)を使用して100μmのPETに接着した。試験用のペンは、直径0.7mm、質量5.8グラムのタングステンカーバイドボールペンチップを有する。表1に、ガラス物品の平均ペン落下高さが列挙されている。
【0165】
5.鉛筆硬度試験
ガラス物品の鉛筆硬度は、750グラムの試験荷重で、日本規格JIS K 5600-5-4に準拠したGardco HA-3363鉛筆硬度試験機を使用して測定した。試験結果を表1に示す。
【0166】
6.テーバー摩耗試験
上の通りに準備したガラス物品の耐引掻き性は、テーバー摩耗試験によって測定した。テーバー摩耗試験は、Taber Linear Abrader(Taber Industries, North Tonawanda, NY)を用いて、750gのスチールウールパッドNo.0000を45サイクル/分で使用して行った。ガラス物品のサンプルは、試験の前にエタノールできれいにした。2500サイクル後、試験したサンプルでのマイクロコピーで非常にわずかな引掻き傷が観察された。
【0167】
7.水接触角試験(WCA)
水接触角は、テーバー摩耗試験機での摩耗の前後に測定した。10000サイクル後に水接触角が10度を超えて低下しない場合には、サンプルは試験に合格する。10000サイクル後に水接触角が10度を超えて低下する場合には、サンプルは不合格である。摩耗は以下の通りに行う。試験は、1kgの荷重、40サイクル/分、40mmのストローク距離でTaber Abrasion 5900試験機で行う。1回の前後の動きが1サイクルとみなされる。ガラス表面(ハードコートでプレコートされている)を引っ掻くために、Bon Star #0000スチールウールを使用した。スチールウールはヘッドよりもわずかに大きいサイズ(2cm×2cm)にカットし、その真下に置いた。繊維の配向は動きの方向に沿っている。サンプルを試験する前に、スチールウールを上と同じ条件でPETシート上を100サイクル移動させることにより、予め条件調整した。サンプルのガラス面を滑らかなガラス板上にテープで留め、ハードコートされた表面を上に向けてステージ上に置き、スチールウールにかけた。
【0168】
表1は、様々な試験サンプルの機械的試験の結果を示している。表1に示されているように、対照のサンプルは平均3.6のペン落下高さを示した。ガラス層の上面がコーティングされている場合、ペンの平均落下高さが劇的に増加した。これらの結果は、本明細書に記載のようにガラス層の上面に直接光学的に透明なハードコート層を配置することにより、ガラス層のペン落下性能、およびその結果としてのガラス層の耐突き刺し性および耐衝撃性を大幅に改善できることを示している。さらに、対照サンプルを除いて、全てのガラス物品サンプルは、内側折り曲げ後のガラス破片の放出がゼロであった。
【0169】
【表1】
【0170】
【表2】
【0171】
【表3】
【0172】
ガラス物品の光学特性
上記の通りに準備したガラス物品の光学特性(透過率およびb)は、BYK Haze Gard Plus装置(BYK-Gardner GmbH, Germanyから市販)を用いて測定した。透過率は、材料を通過する光の量を測定し、材料に入る光エネルギーに対して材料を透過した光エネルギーを比較したパーセント割合である。透過率は、380nm~780nmの波長範囲で測定した。b値(知覚される黄変の程度に相関)は、10度の視野角およびD65昼光光源を用いて、380~780nmの透過率%に基づいて計算した。b値は、環境エージングの前後で得た。ガラス物品の環境エージングは、キセノンアーク電球(340nmで0.9W/m/nm)の下で、55℃、相対湿度30%で96時間行った。ガラス物品の光学特性を表2に示す。
【0173】
【表4】
【0174】
本実施形態を、特定の機能およびそれらの関係の実現を示す機能的コンポーネントの助けを借りて上で説明してきた。これらの機能的コンポーネントの境界は、説明の便宜上、本明細書では任意に定義されている。特定の機能およびその関係が適切に実行される限り、代替の境界を定義することができる。
【0175】
本明細書で使用されている表現または用語は、説明を目的とするものであり、限定するものではないことを理解すべきである。本開示の幅および範囲は、上述した例示的な実施形態のいずれによっても限定されるべきではなく、以下の特許請求の範囲およびそれらの均等物に従って定義されるべきである。
【0176】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0177】
実施形態1
ガラス物品であって、
10μm~200μmの範囲の厚さを有するガラス層と、
前記ガラス層の上面に配置され、0.1μm~200μmの範囲の厚さと、6H以上の鉛筆硬度とを有する光学的に透明な上部ポリマーハードコート層と
を備え、
前記光学的に透明な上部ポリマーハードコート層が、化学線硬化性アクリル組成物から形成されており、前記ガラス物品が、静的2点曲げ試験中に破損まで曲げられたときに、前記ガラス物品からのガラス破片粒子の放出を回避する、
ガラス物品。
【0178】
実施形態2
前記化学線硬化性アクリル組成物が、(a)脂肪族三官能性(メタ)アクリレートモノマー、脂肪族四官能性(メタ)アクリレートモノマー、および脂肪族五官能性(メタ)アクリレートモノマーからなる群から選択される1種以上の多官能性(メタ)アクリレート系希釈剤、(b)モノマー固形分の総質量を基準として3~30質量%の、イソシアヌレート基を含有する1種以上の(メタ)アクリレートモノマー、(c)モノマー固形分の総質量を基準として5~60質量%の、6~12個の(メタ)アクリレート基を有する1種以上の脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート官能性オリゴマー、(d)総モノマー固形分を基準として2~10質量%の1種以上のラジカル開始剤、ならびに(e)1種以上の有機溶媒を含み、モノマーと官能性オリゴマーの固形分の合計量が、100%である、実施形態1記載のガラス物品。
【0179】
実施形態3
前記化学線硬化性アクリル組成物が、前記総モノマー固形分を基準として合計で9~70質量%の、(a)脂肪族三官能性(メタ)アクリレートモノマー、脂肪族四官能性(メタ)アクリレートモノマー、および脂肪族五官能性(メタ)アクリレートモノマーからなる群から選択される2種以上の多官能性(メタ)アクリレート系希釈剤を含み、モノマーと官能性オリゴマーの固形分の合計量が、100%である、実施形態2記載のガラス物品。
【0180】
実施形態4
前記化学線硬化性アクリル組成物が、(a)、(b)、(c)、および(d)の総質量を基準として2~30質量%の、1種以上の硫黄含有ポリオール(メタ)アクリレートをさらに含む、実施形態3記載のガラス物品。
【0181】
実施形態5
前記化学線硬化性アクリル組成物が、前記総モノマー固形分を基準として20質量%以下の、1種以上の一官能性および二官能性(メタ)アクリレートをさらに含み、モノマーと官能性オリゴマーの固形分の合計量が、100%である、実施形態2から4までのいずれか1つ記載のガラス物品。
【0182】
実施形態6
前記(e)の量が、前記化学線硬化性アクリル組成物の総質量を基準として10~80質量%の範囲である、実施形態2から5までのいずれか1つ記載のガラス物品。
【0183】
実施形態7
ペン落下高さが、前記光学的に透明な上部ポリマーハードコート層がない前記ガラス層の対照ペン落下高さの2倍、好ましくは2.5倍、またはそれよりも高い、実施形態1から6までのいずれか1つ記載のガラス物品。
【0184】
実施形態8
前記光学的に透明な上部ポリマーハードコート層が、0.1μm~100μmの範囲の厚さを有し、前記ガラス層が、10μm~100μmの範囲の厚さを有する、実施形態1から7までのいずれか1つ記載のガラス物品。
【0185】
実施形態9
前記ガラス物品が、60℃かつ93%の相対湿度で240時間、10mmのプレート距離で2つのプレートの間に保持されたときに、静的2点曲げ試験中の破損を回避する、または
前記ガラス物品が、23℃かつ50%の相対湿度で、10mmのプレート距離まで2つのプレート間で200,000回繰り返し曲げられたときに、動的2点曲げ試験中の破損を回避する、
のうちの少なくとも1つである、実施形態1から8までのいずれか1つ記載のガラス物品。
【0186】
実施形態10
前記光学的に透明なポリマーハードコート層が、1%~10%の範囲のパーセント伸びを有し、前記光学的に透明なポリマーハードコート層が、1GPa~15GPaの範囲の弾性率を有する、実施形態1から9までのいずれか1つ記載のガラス物品。
【0187】
実施形態11
前記ガラス層の前記上面と前記光学的に透明な上部ポリマーハードコート層との間に接着促進剤をさらに含む、実施形態1から10までのいずれか1つ記載のガラス物品。
【0188】
実施形態12
前記光学的に透明な上部ポリマーハードコート層の上面に配置されたコーティング層をさらに備え、前記コーティング層が、反射防止コーティング層、アンチグレアコーティング層、耐指紋性コーティング層、抗菌コーティング層、および防汚コーティング層からなる群から選択される、実施形態1から11までのいずれか1つ記載のガラス物品。
【0189】
実施形態13
前記ガラス物品が、前記光学的に透明な上部ポリマーハードコート層の上に配置され、前記光学的に透明な上部ポリマーハードコート層よりも高い鉛筆硬度を有する層を備えない、実施形態1から12までのいずれか1つ記載のガラス物品。
【0190】
実施形態14
物品であって、
実施形態1から13までのいずれか1つ記載のガラス物品を備えるカバー基材を備え、
前記物品が、
前面と、背面と、側面とを備えるハウジングと、
前記ハウジング内に少なくとも部分的に配置され、コントローラと、メモリと、前記ハウジングの前記前面にまたは前記前面に隣接して設けられたディスプレイとを備える電気コンポーネントと、
前記ディスプレイの上に配置されるかまたは前記ハウジングの少なくとも一部を形成する前記カバー基材と
を備える消費者向け電子製品である、
物品。
【0191】
実施形態15
ガラス物品を製造する方法であって、
(a)10μm~200μmの範囲の厚さを有するガラス層の上面に光学的に透明なポリマーハードコート組成物をコーティングするステップと、
(b)前記ガラス層の前記上面で前記光学的に透明なポリマーハードコート組成物を重合および硬化させて、0.1μm~200μmの範囲の厚さを有する光学的に透明なポリマーハードコート層を形成するステップと
を含み、
前記光学的に透明なポリマーハードコート組成物が、(a)脂肪族三官能性(メタ)アクリレートモノマー、脂肪族四官能性(メタ)アクリレートモノマー、および脂肪族五官能性(メタ)アクリレートモノマーからなる群から選択される1種以上の多官能性(メタ)アクリレート系希釈剤、(b)モノマー固形分の総質量を基準として3~30質量%の、イソシアヌレート基を含有する1種以上の(メタ)アクリレートモノマー、(c)モノマー固形分の総質量を基準として5~60質量%の、6~12個の(メタ)アクリレート基を有する1種以上の脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート官能性オリゴマー、(d)総モノマー固形分を基準として2~10質量%の1種以上のラジカル開始剤、ならびに(e)モノマー組成物のための1種以上の有機溶媒を含み、モノマーと官能性オリゴマーの固形分の合計量が、100%である、
方法。
【0192】
実施形態16
前記光学的に透明なポリマーハードコート組成物が、前記総モノマー固形分を基準として合計で9~70質量%の、(a)脂肪族三官能性(メタ)アクリレートモノマー、脂肪族四官能性(メタ)アクリレートモノマー、および脂肪族五官能性(メタ)アクリレートモノマーからなる群から選択される2種以上の多官能性(メタ)アクリレート系希釈剤を含み、モノマーと官能性オリゴマーの固形分の合計量が、100%である、実施形態15記載の方法。
【0193】
実施形態17
前記光学的に透明なポリマーハードコート組成物が、(a)、(b)、(c)、および(d)の総質量を基準として2~30質量%の、1種以上の硫黄含有ポリオール(メタ)アクリレートをさらに含む、実施形態16記載の方法。
【0194】
実施形態18
ガラス物品を製造する方法であって、
(a)0.1μm~200μmの範囲の厚さを有する光学的に透明なポリマーハードコート層を設けるステップと、
(b)10~200μmの範囲の厚さを有するガラス層の上面に前記光学的に透明なポリマーハードコート層を積層するステップと
を含み、
前記光学的に透明なポリマーハードコート層が、(a)脂肪族三官能性(メタ)アクリレートモノマー、脂肪族四官能性(メタ)アクリレートモノマー、および脂肪族五官能性(メタ)アクリレートモノマーからなる群から選択される1種以上の多官能性(メタ)アクリレート系希釈剤、(b)モノマー固形分の総質量を基準として3~30質量%の、イソシアヌレート基を含有する1種以上の(メタ)アクリレートモノマー、(c)モノマー固形分の総質量を基準として5~60質量%の、6~12個の(メタ)アクリレート基を有する1種以上の脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート官能性オリゴマー、(d)総モノマー固形分を基準として2~10質量%の1種以上のラジカル開始剤、ならびに(e)モノマー組成物のための1種以上の有機溶媒を含むアクリル組成物の重合および硬化から製造され、モノマーと官能性オリゴマーの固形分の合計量が、100%である、
方法。
【0195】
実施形態19
前記光学的に透明なポリマーハードコート組成物が、前記総モノマー固形分を基準として合計で9~70質量%の、(a)脂肪族三官能性(メタ)アクリレートモノマー、脂肪族四官能性(メタ)アクリレートモノマー、および脂肪族五官能性(メタ)アクリレートモノマーからなる群から選択される2種以上の多官能性(メタ)アクリレート系希釈剤を含み、モノマーと官能性オリゴマーの固形分の合計量が、100%である、実施形態18記載の方法。
【0196】
実施形態20
前記光学的に透明なポリマーハードコート組成物が、(a)、(b)、(c)、および(d)の総質量を基準として2~30質量%の、1種以上の硫黄含有ポリオール(メタ)アクリレートをさらに含む、実施形態18または19記載の方法。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
【国際調査報告】