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特表2022-544282再生可能な潤滑油組成物でエンジン性能を改善するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-17
(54)【発明の名称】再生可能な潤滑油組成物でエンジン性能を改善するための方法
(51)【国際特許分類】
   C10M 107/10 20060101AFI20221007BHJP
   C10M 169/04 20060101ALI20221007BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20221007BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20221007BHJP
【FI】
C10M107/10
C10M169/04
C10N20:00 Z
C10N30:00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022508799
(86)(22)【出願日】2020-08-14
(85)【翻訳文提出日】2022-03-24
(86)【国際出願番号】 IB2020057665
(87)【国際公開番号】W WO2021028877
(87)【国際公開日】2021-02-18
(31)【優先権主張番号】62/886,407
(32)【優先日】2019-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503148834
【氏名又は名称】シェブロン ユー.エス.エー. インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バン ダム、ウィレム
(72)【発明者】
【氏名】ペテル、ミハイル ケイ.
(72)【発明者】
【氏名】リー、デイビッド エス.
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA06A
4H104EA01
4H104EB04
4H104EB05
4H104EB07
4H104EB08
4H104EB20
4H104LA20
4H104PA41
(57)【要約】
本明細書で提供されるものは、性能要件ならびにより厳しい環境及び燃料経済性の規制に対処する潤滑油添加剤と組み合わせて、制御された構造特性を有する炭化水素混合物によって具体化された再生可能なベースオイルを含む潤滑油組成物である。潤滑油組成は、コールドクランクシミュレート粘度(CCS)対Noack揮発度の関係での性能を提供し、このことが、改善した燃料経済性、改善した燃料経済性保持、及び保持されたLSPI防止を備えた低粘度エンジンオイルの配合を可能にし、さらに潤滑を要する他のデバイスまたは装置に改善された特性を付与している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料経済性を改善する方法であって、潤滑油を用いて内燃エンジンを潤滑することを含み、
前記潤滑油が、
a.(a)炭化水素混合物を含む、少なくとも25重量%の再生可能なベースオイルを有するベースオイルの混合物であって、
前記炭化水素混合物が、
i.FIMSによれば、偶数の炭素数を有する分子のパーセンテージが≧80%であり、
ii.BP/BI≧-0.6037(分子あたりの内部アルキル分岐)+2.0であり、
iii.平均で分子あたり0.3~1.55+メチルが存在する、前記ベースオイルの混合物と、
b.i.分散剤と、
ii.洗剤と、
iii.阻害剤と、
iv.摩擦調整剤と、
v.流動点降下剤と、
vi.粘度調整剤と、
のうち少なくとも1つの添加剤と、を含む、前記方法。
【請求項2】
前記潤滑油組成物が、約5重量%~約30重量%の全添加剤濃縮物と、約70重量%~約95重量%の前記ベースオイル混合物と、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記組成物が、ASTM D5481に基づいて、2.3cP未満の潤滑性高温高剪断粘度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記組成物が、ASTM D445に基づいて、7.1cSt以下の100℃での潤滑動粘度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記組成物が、ASTM D5293に基づいて、6200mPa.s以下の-35℃での潤滑性低温コールドクランキング粘度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記潤滑組成物が、SAE J300に基づいて、0W~12以下の潤滑性SAE粘度グレードを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記燃料経済性が、少なくとも0.3%、好ましくは0.5%超で改善される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
燃料経済性保持を改善する方法であって、内燃エンジンを潤滑油で潤滑することを含み、
前記潤滑油が、
a.炭化水素混合物を含む、少なくとも25重量%の再生可能なベースオイルを有するベースオイル混合物であって、
前記炭化水素混合物が、
i.FIMSによれば、偶数の炭素数を有する分子のパーセンテージが≧80%であり、
ii.BP/BI≧-0.6037(分子あたりの内部アルキル分岐)+2.0であり、
iii.平均で分子あたり0.3~1.5の5+メチルが存在する、前記ベースオイル混合物と、
b.i.分散剤と、
ii.洗剤と、
iii.阻害剤と、
iv.摩擦調整剤と、
v.流動点降下剤と、
vi.粘度調整剤と、
のうち少なくとも1つの添加剤と、を含み、
前記潤滑油組成物が、約5重量%~約30重量%の全添加剤濃縮物と、約70~約95重量%の前記ベースオイル混合物を含む、前記方法。
【請求項9】
前記組成物が、ASTM D5481に基づいて、2.3cP未満の潤滑性高温高せん断粘度を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記組成物が、ASTM D445に基づいて、7.1cSt以下の100℃での潤滑動粘度を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記組成物が、ASTM D5293に基づいて、6200mPas以下の-35℃での潤滑性低温コールドクランキング粘度を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記組成物が、SAE J300に基づいて、0W~12以下の潤滑油SAE粘度グレードを有する、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
典型的な排出間隔の燃料経済性損失が、0.5%未満、好ましくは0%未満である、請求項7に記載の方法。
【請求項14】
延長された排出間隔の燃料経済性損失が、0.4%未満、好ましくは0%未満である、請求項7に記載の方法。
【請求項15】
前記平均燃料経済性損失が、潤滑油の寿命全体にわたって0.5%未満、好ましくは0%未満である、請求項7に記載の方法。
【請求項16】
前記潤滑油を長期間にわたり高温条件にさらして作動する内燃エンジンにおいて、燃料経済性保持の改善、及び低速早期着火防止の保持がある、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
炭化水素混合物と潤滑油添加剤を含む再生可能なベースオイルを含有する潤滑油組成物でエンジン性能を改善する方法が開発されており、これは独自の組成特性を有し、様々なタイプの内燃エンジンを潤滑するために用いられるときに優れた燃料経済性改善能力と潤滑油の耐用期間にわたる燃料経済性保持特性を示している。
【背景技術】
【0002】
エンジンオイル配合の業界傾向は、現在の、またはより良いレベルの性能を維持することも期待しながら、燃料経済の利点を高めるために低粘度レジーム(0W-X)に移行している。しかしながら、業界が低粘度に移行し、低いオイル消費を維持するにつれて、燃料経済性の耐久度が課題になるか、または利用可能な技術では達成できなくなる。オイルの粘度が低下すると、揮発性が高まり、エンジンオイルの蒸発が増加することになり、オイル粘度が上昇する。さらに、オイルの高温高せん断(HTHS)粘度を下げることにより、燃料経済性が向上させることができる。HTHSは、低温及び高温の粘度も調整する粘度調整剤の影響を大きく受けるため、高粘度指数(VI)オイルが望ましい。いくつかの超低粘度オイルが市販されているが、それらは最も厳しい揮発性要件を満たし得ない。
【0003】
ベースストックは、内燃エンジン、タービン、コンプレッサ、油圧システムなどのための潤滑油を含む様々な潤滑油を製造するために一般的に使用される。これらはまた、プロセスオイル、ホワイトオイル、熱伝達流体としても使用される。完成品の潤滑油は、一般的にベースオイルと添加剤の2つの成分で構成されている。1つのベースストックまたはその混合物であるベースオイルは、これらの完成品の潤滑油の主成分であり、粘度及び粘度指数、揮発性、安定性、ならびに低温性能などの性能に大きく貢献する。一般に、いくつかのベースストックは、個別のベースストックと個別の添加剤の混合物を変化させることによって、多種多様な完成品の潤滑油を製造するために使用される。
【0004】
脂肪酸エステルを含有する潤滑油組成物を用いてエンジン燃料効率を改善する方法は、米国特許第9,885,004号に記載されている。
【0005】
American Petroleum Institute(API)は、飽和炭化水素含有量、硫黄レベル、及び粘度指数に基づいて、ベースストックを5つのグループに分類している(下の表1)。グループI、II、及びIIIのベースストックは、グループIのための溶剤精製、グループII及びグループIIIのための水素化処理など、広範な処理を介して、そのほとんどが原油から得られている。特定のグループIIIベースストックはまた、ガスツーリキッドプロセス(GTL)を介して合成炭化水素液体から製造され得、天然ガス、石炭、またはその他の化石資源から取得される。グループIVのベースストックであるポリオレフィン(PAO)は、1-デセンなどのアルファオレフィンのオリゴマー化によって製造される。グループVのベースストックには、ナフテン系ベースストック、ポリアルキレングリコール(PAG)、エステルなど、グループI~IVに属さないものがすべて含まれる。大規模ベースストック製造用原料のほとんどは再生不可能である。
【表1】
【0006】
自動車用エンジンオイルは、断然にベースストックの最大の市場になっている。自動車業界は、排出量の削減、排出間隔の延長、及び燃費の向上が求められることから、エンジンオイルにさらに厳しい性能仕様を課している。具体的には、自動車OEM(相手先ブランド供給)は、摩擦損失を低減し、燃料経済性の向上を達成するために、0W-20から0W-8、さらには0W-4などの低粘度エンジンオイルの採用を推進している。エンジンオイル中のNoack揮発度が低いベースオイルにより、配合物が設計された粘度をより長い運転時間にわたり保持することを可能にしており、向上した燃料経済性保持と、US6300291で説明されているより長い排出間隔を可能にしている。粘度グレードが0W-20未満のエンジンオイルでのグループI及びグループIIの使用は、それらが混合された配合が0W-20未満のエンジンオイルの性能仕様を満たすことができないため、非常に制限されており、グループIII及びグループIVのベースストックに対する需要増加につながっている。
【0007】
グループIIIのベースストックは、そのほとんどが水素化分解及び接触脱ロウ(水素化異性化など)を通じて真空ガスオイル(VGO)から製造されている。グループIIIのベースストックはまた、溶媒精製に由来するスラックワックスの接触脱ロウ、またはガスツーリキッドベースオイル(GTL)としても知られる、天然ガスまたは石炭ベースの原料からのフィッシャートロプシュ合成に由来するワックスの接触脱ロウによっても製造できる。
【0008】
VGOからのグループIIIベースストックの製造プロセスは、米国特許第5,993,644号及び第6,974,535号で説明されている。それらの沸点分布は、同じ粘度のPAOと比較した場合、通常は高く、PAOよりも揮発性が高くなる。さらに、グループIIIのベースストックは、通常、同等の粘度でグループIVのベースストックよりも高いコールドクランク粘度(つまり、ASTM D5293、CCSに準拠した動的粘度)を有する。
【0009】
GTLベースストック処理は、米国特許第6,420,618号及び第7,282,134号、ならびに米国特許出願公開第2008/0156697号に記載されている。例えば、後者の刊行物は、フィッシャートロプシュ合成生成物からベースストックを調製するためのプロセスを説明しており、その適切な沸点範囲を有する画分は、GTLベースストックを生成するために水素化異性化にかけられる。
【0010】
GTLベースストックのそのような構造及び特性は、例えば、米国特許第6,090,989号及び第7,083,713号、ならびに米国特許出願公開第2005/0077208号に記載されている。米国特許出願公開第2005/0077208号では、最適化された分岐を有する潤滑油ベースストックが説明されており、ベースストックのコールドフロー特性を改善するために分子の中心に向けて分岐アルキル基が集中している。それにもかかわらず、GTLベースストックの流動点は、通常、PAOまたは他の合成炭化水素ベースストックよりも劣っている。
【0011】
GTLベースストックに関するさらなる懸念は、新規GTL製造施設に対する法外に大きな資本要件の結果として、商業的供給が大幅に制限されていることである。GTLベースストックを収益性の高い方法で生産するには、低コストの天然ガスへのアクセスも必要となる。さらに、GTLベースストックは、通常、広い沸点分布を有する異性化油から蒸留されるので、このプロセスは、典型的なPAOプロセスと比較した場合、所望の粘度を有するベースストックに対して比較的低い収率になる。これらの金銭的及び収率の制約により、現在、唯一のグループIII+GTLベースストックの製造工場があり、サプライチェーン及び価格変動リスクにGTLを使用する製剤が公開されている。
【0012】
ポリアルファオレフィン(PAO)、またはグループIVベースオイルは、AlCl3、BF3、またはBF3錯体などのフリーデルクラフツ触媒の存在下でのアルファオレフィンの重合によって生成される。例えば、1-オクテン、1-デセン、及び1-ドデセンは、低分子量及び100℃で約2cStの低粘度から高分子量で、100℃で100cStを超える粘度の粘性材料まで、広範囲な粘度を有するPAOを製造するために使用されてきた。重合反応は、通常、水素の非存在下で行われ、潤滑油範囲の製品は、その後、残留不飽和を低減するために精製または水素化される。PAOベースの潤滑油を製造するためのプロセスは、例えば、米国特許第3,382,291号、第4,172,855号、第3,742,082号、第3,780,128号、第3,149178号、第4,956,122号、第5,082,986号、第7,456,329号、第7,544,850号、及び米国特許出願公開第2014/0323665号に開示されている。現代の潤滑油及び自動車用エンジンオイルのますます厳しくなる性能要件を満たすことができる様々なPAOを調製するためのこれまでの取り組みは、特に、1-デセンのみ、または他の鉱油とのブレンドから得られる低粘度のポリアルファオレフィンベースストックを支持してきた。しかしながら、1-デセンから得られたポリオレフィンは、供給が限られているために非常に高価になり得る。1-デセンの利用可能性の制約を克服する試みにより、C8~C12の混合アルファ-オレフィン原料からPAOが生成され、特性を付与するために必要な1-デセンの量を低減させた。しかしながら、性能上の懸念から、主要なオレフィン原料として1-デセンを提供する必要性を完全に排除することはできていない。
【0013】
同様に、C14~C20の範囲にある線状アルファオレフィンを使用する以前の取り組みでは、流動点が許容できないほど高いポリアルファオレフィンが製造されたが、これは0Wエンジンオイルを含む様々な潤滑油での使用には適していない。
【0014】
したがって、商業的に許容可能な範囲内で、例えば、自動車及び他の用途で使用するための特性を有する潤滑油組成物の必要性が依然としてあり、そのような特性は粘度、Noack揮発度、及び低温コールドクランキング粘度のうち1つを含んでいる。さらに、改善された特性を有する潤滑油組成物、及びその製造方法の必要性が依然としてあり、そこではベースストック組成物がその中に組み込まれる1-デセンの量を低減し、さらに好ましくは、その製造における1-デセンの使用を排除し得る。
【0015】
自動車産業に対する技術的要求に加えて、環境への意識と規制により、製造業者は、ベースストックと潤滑油の生産において、再生可能な原料と原材料を使用するようになっている。再生可能で生物学的起源のエステル及び一部のグループIII炭化水素ベースストック(米国特許第9862906B2号)が、冷却コンプレッサ潤滑油、油圧オイル、金属作動油などの用途で使用されており、最近では自動車及び工業用潤滑油(米国特許第20170240832A1号)で使用されていることが知られている。炭化水素の一般的な生物的供給源は、天然油であり、これはカノーラ油、ひまし油、ヒマワリ種子油、菜種油、ピーナッツ油、大豆油、トール油、またはパーム油などの植物源から得ることができる。炭化水素の他の商業的供給源には、藻類や酵母などの操作された微生物が含まれる。
【0016】
高性能潤滑油ベースストックの需要の高まりにより、改善された炭化水素混合物の継続的な必要性がある。業界は、これらの炭化水素混合物が、優れたNoack揮発度、及び低温粘度測定特性を有し、より厳格なエンジンオイル要件を満たすことができ、好ましくは再生可能な資源からのものであることを要求している。
【0017】
自動車業界は、現在及び将来のCO2規制を満たすために、ターボチャージャーとガソリン直接噴射とを組み合わせた小型化されたガソリンエンジンに向かっている。燃料経済性を最大化するために、これらのエンジンは通常、低速及び高エンジン負荷で動作するように調整されている。これらの小型化されたターボチャージャー付きエンジンの多くは、低速早期着火(Low Speed Pre-ignition、LSPI)として一般的に知られる、エンジンが低速-高負荷条件で動作するときに制御不能な燃焼イベントを経験した。LSPIは本質的にランダムであり、シリンダ内の圧力が突然上昇し、壊滅的なエンジン故障を引き起こす可能性がある。
【0018】
多くの研究が、カルシウム処理率の影響を評価し、カルシウム含有量を増やすとLSPIの発生が増えると結論付けている。[12-14]一部の研究者は、LSPIの発生を減らすための代替的な潤滑油配合方策を提案した。[12-14]概して、これらの潤滑油は、LSPI促進剤(カルシウム含有洗剤)の量を低減し、LSPI阻害剤(ZDDP、MoDTC、Mg含有洗剤、等)の量を増やすことによって配合された。しかしながら、カルシウム含有量を特定の制限を超えて低減することで、ピストンの堆積を増加させ、ワニスを増加させ、酸濃度を増加させ、オイル排出間隔を短くすることがある。そのため、多くの研究では、カルシウム含有洗剤の量を0.1重量%に制限している。
【0019】
したがって、LSPIを低減しながら燃料経済性保持を改善することができる潤滑油組成物が望まれている。
【発明の概要】
【0020】
本発明は、自動車用エンジンオイル用のより厳しい環境及び燃料経済規制によって推進される性能要件に対処する十分に制御された構造特性を有する飽和炭化水素混合物及び潤滑油添加剤を含有する潤滑油組成物を内燃エンジンに供給することによってエンジン性能を改善する方法に関する。ベースオイル部分の炭化水素分子の分岐特性は、-35℃での驚くべきCCS粘度(ASTM D5329)とNoack揮発度(ASTM D5800)との関係を有する組成を一貫して提供するように制御される。
【0021】
本発明の一実施形態は、潤滑油組成物を内燃エンジンに供給すること、及び高温の動作温度でのエンジンの運転が、等しい粘度の従来の潤滑油よりも少なくとも0.3%良好な燃料経済性改善(FEI)をもたらす方法である。好ましい実施形態では、FEIは、等しい粘度の従来の潤滑油よりも少なくとも0.5%優れている。
【0022】
本発明のさらなる実施形態は、潤滑油組成物を内燃エンジンに供給すること、及び長期間にわたるエンジンの運転が、等しい粘度の従来の潤滑油よりも少なくとも0.5%良好である燃料経済性保持(FER)の恩恵となる方法である。好ましい実施形態では、FERは等しい粘度の従来の潤滑油よりも少なくとも1.0%良い。
【0023】
さらなる実施形態は、潤滑油組成物を内燃エンジンに供給すること、及び高温の動作温度での長期間にわたるエンジンの運転が、添加金属濃度の増加を制限することによってLSPI防止保持利点になる方法である。好ましい実施形態では、カルシウム濃度増加は15%以下に制限される。
【0024】
本発明の重要な態様は、再生可能なベースオイルを有する潤滑油組成物に関し、FIMSによる偶数の炭素数を有する分子の80%を超える飽和炭化水素混合物を有し、BP/BI≧-0.6037(分子あたりの内部アルキル分岐)+2.0の分岐特性を示す混合物を有し、炭化水素混合物が全体として炭素NMRで分析されると、平均して分子あたり少なくとも0.3~1.5 5+のメチル分岐を有する。
【0025】
本明細書で開示される炭化水素混合物を合成する1つの方法は、C14~C20アルファまたは内部オレフィンのオリゴマー化と、それに続くオリゴマーのヒドロ異性化によるものである。C14~C20オレフィンを使用すると、高価格の1-デセン及びその他の原油または合成ガスベースのオレフィンの原料としての需要が緩和され、C14~C20アルコールから得られたものなど、オレフィン原料の代替的な供給源が利用可能になる。炭化水素組成物は、1つ以上のオレフィンコモノマーから得られ、オレフィンコモノマーは、ダイマー、トリマー、及びより高次のオリゴマーにオリゴマー化される。オリゴマーは、次いで水素化異性化にかけられる。得られた炭化水素混合物は、優れた流動点、揮発性及び粘度特性、ならびに添加剤溶解特性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】1-デセンと1-ドデセンから製造された低粘度PAO、GTLベースオイル、水素化異性化ヘキサデセンオリゴマーなど、様々な炭化水素の分子あたりのBP/BIと内部アルキル分岐の関係を示している。プロットにおける直線は、BP/BI=-0.6037(分子あたりの内部アルキル分岐)+2.0の式を示している。
図2】1-デセンと1-ドデセンから製造された低粘度PAO、GTLベースオイル、水素化異性化ヘキサデセンオリゴマーなど、様々な炭化水素の分子あたりのBP/BIと5+メチル分岐の関係を示している。これは、本特許で開示されている炭化水素混合物の分子あたり5+メチル分岐が、0.3~1.5の固有の範囲にあることを示している。
図3】1-デセンと1-ドデセンから製造された低粘度PAO、GTLベースオイル、グループIIIベースオイル、水素化異性化ヘキサデセンオリゴマーなど、様々な炭化水素の-35℃でのNoack揮発度とCCSの関係を示している。実線と点線は、本発明の独自の炭化水素混合物である、Noack=2,750(-35℃でのCCS)(-0.8)+2とNoack=2,750(-35℃でのCCS)(-0.8)-2によって示された-35℃でのNoack対CCSの上限と下限をそれぞれ示す。
図4】-35℃でCCSの800~2,800cPの範囲にある図3の拡大図である。
図5】3つの異なる潤滑油組成物を使用する修正シーケンスVIF試験で測定された燃料経済性利点のグラフである。
図6】長期間試験で測定された3つの異なるオイルのカルシウム含有量のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本明細書における詳細な説明及び特許請求の範囲内のすべての数値は、示された値によって「約(about)」または「ほぼ(approximately)」変更され、当業者によって予想される実験誤差及び変動を考慮に入れている。
【0028】
本明細書に開示されるのは、エンジン性能を改善するための方法であり、改善された燃料経済性、改善された燃料経済性保持、及び改善されたLSPI防止保持をもたらす潤滑油組成物を具体的に供給しており、この潤滑油組成物は、高品質の合成ベースストック及び潤滑油添加剤として使用するために適合化する、NMRによって特徴付けられる独自の分岐構造を有する、飽和炭化水素混合物を含有する再生可能なベースオイルストックを含有している。炭化水素混合物は、高品質のベースストックの重要な性能属性である、非常に低い揮発性、良好な低温特性、等、優れた特性を備えている。具体的には、混合物は、FIMSによる偶数の炭素数を有する分子の80%以上を構成する。NMRによる炭化水素混合物の分岐特性は、≧-0.6037(分子あたりの内部アルキル分岐)+2.0の範囲内にあるBP/BIを含む。さらに、平均して、内部メチル分岐の少なくとも0.3~1.5は、末端炭素から4炭素以上離れて位置している。この独自の分岐構造を有する飽和炭化水素は、低粘度の自動車用エンジンオイルのブレンドに有益な、驚くべきコールドクランクシミュレート粘度(CCS)対Noack揮発度関係を示す。
【0029】
一実施形態では、本明細書に記載の炭化水素混合物は、オレフィンのオリゴマー化及びその後の水素化異性化の生成物である。C14~C20のオレフィンはオリゴマー化され、未反応の単量体、ダイマー(C28~C40)、及びトリマー、ならびに高級オリゴマー(≧C42)で構成されるオリゴマー分布を形成する。未反応の単量体は、その後のオリゴマー化で再利用できるように蒸留される。次に、残りのオリゴマーを水素化異性化して、本明細書に記載の最終的な分岐構造を達成し、これが、驚くべきコールドクランクシミュレート粘度(CCS)対Noack揮発度の関係を一貫して及ぼす。
【0030】
定義
本明細書で使用される再生可能とは、脂肪アルコール、オレフィン、またはオリゴマーを含む、生物学的に誘導された任意の組成物を意味する。そのような組成物は、非限定的な例として、WO2012/141784で論じられるように、特定のオイルを製造するように設計された生物有機体から作製され得るが、非限定的な例として、鉱油などの石油蒸留またはプロセスオイルを含んでいない。再生可能な資源に由来する材料を評価するための適切な方法は、「Standard Test Methods for Determining the Biobased Content of Solid, Liquid, and Gaseous Samples Using Radiocarbon Analysis」(ASTM D6866-12 or ASTM D6866-11)によるものである。サンプル中の14Cからのカウントは、直接的に、または二次標準を介してSRM4990Cと比較され得る。適切な基準に対して0%の14Cの測定値は、炭素が完全に化石由来(例えば、石油ベース)であることを示す。100%の14Cの測定値は、完全に近代的供給源に由来する炭素を示す(例えば、参照により本明細書に組み込まれるWO2012/141784を参照のこと)。
【0031】
粘度は、ベースストックの流動性を測定する物理的特性である。粘度は温度の強い関数である。一般的に使用される2つの粘度測定は、粘度(dynamic viscosity)と動粘度(kinematic viscosity)である。粘度は、流体の流れに対する内部抵抗を測定する。エンジンオイルの-35°Cでのコールドクランキングシミュレータ(CCS)粘度は、粘度測定の例である。粘度のSI単位はPa・sである。使用される従来の単位はセンチポアズ(cP)であり、これは0.001 Pa・s(または1 mPa・s)に相当する。業界は、次第にSI単位系に移行しつつある。動粘度は、密度に対する粘度の比率である。動粘度のSI単位はmm2/sである。業界で一般的に使用されている他の単位は、40℃(KV40)及び100℃(KV100)でのセンチストローク(cSt)と、100°F及び210°Fでのセイボルトユニバーサル秒(Saybolt Universal Second(SUS))である。便利なことに、1mm2/sは1cStに等しい。ASTM D5293及びD445は、CCS及び動粘度測定のためのそれぞれの方法である。本明細書で使用される「粘度グレード」は、SAE XW-YY潤滑油の規定(ここで、Xは0または5、YYは4、8、12、16または20であり得る)を満たすように配合された再生可能なベースオイルを含有する潤滑油組成物を指す。様々な粘度グレードの特性は、SAE J300業界標準でさらに定義されている。
【0032】
粘度指数(VI)は、温度の関数としてのベースストックの動粘度の変化を測定するために使用される経験的な数値である。VIが高いほど、温度による粘度の相対的変化は少なくなる。高VIベースストックが、ほとんどの潤滑油用途に望ましく、特にマルチグレードの自動車用エンジンオイル、及び大きな動作温度変動がある他の自動車用潤滑油での用途に望ましい。ASTM D2270は、VIを判定するために一般的に受け入れられている方法である。
【0033】
流動点は、試験片の動きが観察される最低温度である。ほとんどの潤滑油は液相で作動するように設計されているため、これはベースストックにとって最も重要な特性の1つである。特に寒冷時の潤滑では、通常、低流動点が望ましい。ASTM D97は、流動点を測定するための標準的な手動の方法である。これは、ASTM D5950やASTM D6749などの自動的方法に徐々に置き換えられている。本特許の例では、1℃の試験間隔のASTM D5950が流動点測定に使用されている。
【0034】
揮発性は、高温での蒸発によるオイル損失の測定値である。これは、特に軽量グレードのベースストックの場合、排出量と動作寿命の懸念から非常に重要な規格になっている。揮発性は、特に沸点曲線の前端で、オイルの分子組成に依存する。Noack(ASTM D5800)は、自動車用潤滑油の揮発性を測定するために一般的に受け入れられている方法である。Noack試験方法自体は、動作中の内燃エンジンなどの高温サービスでの蒸発損失をシミュレートしている。
【0035】
燃料経済性の改善:基準オイルで同じ試験条件で同じエンジンを運転した場合に観察されたものと比較した候補オイルで運転しているエンジンの燃料消費量の減少である。
【0036】
燃料経済性の保持:潤滑油が内燃エンジン内でエージング条件にさらされている期間にわたって燃料消費レベルを維持する潤滑油の能力である。燃料経済性の保持は、潤滑油が内燃エンジン内のエージング条件にさらされている期間にわたって燃料経済性の改善を維持する潤滑油の能力としても表されることができる。燃料経済性の保持は、潤滑油が内燃エンジン内のエージング条件にさらされている期間にわたる燃料経済性損失の欠如としても表されることができる。
【0037】
沸点分布は、5%及び95%の材料が蒸発する真沸点(TBP)によって規定される沸点範囲である。本明細書では、ASTM D2887によって測定される。
【0038】
炭化水素の特性評価のためにNMR分光法によって測定されたNMR分岐分析分岐パラメータには、以下が含まれる。
【0039】
分岐指数(BI):イソパラフィン系炭化水素の1H NMR化学範囲0.5~2.1ppmに現れるすべての水素のうち、化学シフト範囲0.5~1.05ppmに現れるメチル水素のパーセンテージ。
【0040】
分岐近接度(BP):13C NMR化学シフト29.8ppmで現れる末端基または分岐から除去された4つ以上の炭素原子である繰り返しメチレン炭素のパーセンテージ。
【0041】
内部アルキル炭素:末端メチル炭素から3つ以上の炭素が除去されているメチル、エチル、またはプロピル炭素の数であり、これには、3-メチル、4-メチル、5+メチル、隣接メチル、内部エチル、n-プロピル、及び13.8ppmで現れる末端メチル炭素を除く、13C NMR化学シフト0.5ppmと22.0ppmとの間に現れる未知のメチルが含まれる。
【0042】
5+メチル炭素:メチン炭素に結合しているメチル炭素の数であり、これは、平均的なイソパラフィン系分子の13C NMR化学シフト19.6ppmで現れる末端炭素から4超の炭素で離れている。
【0043】
NMRスペクトルを、5mmBBIプローブを使用したBrukerAVANCE500分光計を使用して取得した。各サンプルをCDCl3と1:1(重量:重量)で混合した。1H NMRは、500.11MHzで記録され、9.0μs(30o)のパルスを4秒間隔で適用し、各スペクトルに64スキャンを追加した。13C NMRは、7.0μsパルスを使用して125.75MHzで記録され、逆ゲート付きデカップリングを使用して、6秒間隔で適用され、各スペクトルに4096スキャンを追加した。緩和剤として少量の0.1M Cr(acac)3を添加し、内部標準としてTMSを使用した。
【0044】
本発明の潤滑油ベースストックサンプルの分岐特性は、以下の6段階のプロセスに従って判定される。手順は、米国特許第20050077208A1号に詳細に提供されており、その全体が本明細書に組み込まれている。以下の手順は、現在のサンプルセットを特徴付けるために少し変更されている。
【0045】
1)DEPTパルスシーケンス(Doddrell、D.T.;D.T. Pegg;M.R. Bendall、Journal of Magnetic Resonance 1982、48、323ff)を使用して、CH分岐中心とCH3分岐末端点を特定する。
【0046】
2)APTパルスシーケンスを使用して、複数の分岐を開始する炭素(第4炭素)がないことを検証する(Patt、S.L.;J.N. Shoolery、Journal of Magnetic Resonance 1982、46、535ff)。
【0047】
3)集計値及び計算値を使用して、様々な分岐炭素共鳴を特定の分岐位置及び長さに割り当てる(Lindeman,L.P.,Journal of Qualitative Analytical Chemistry 43,1971 1245ff;Netzel,D.A.,et.al.,Fuel,60,1981,307ff.)。
分岐NMR化学シフト(ppm)
【表2】
【0048】
4)末端メチル炭素の積分強度を単一炭素の強度(混合物中の分子あたりの総積分/炭素数)と比較することにより、様々な炭素位置での分岐発生の相対頻度を定量化する。例えば、分子あたり5+メチル分岐の数は、単一炭素の強度に対する19.6ppmの化学シフトでの信号強度から計算される。
【0049】
末端と分岐メチルの両方が同じ共鳴位置で発生する2-メチル分岐の特有なケースについて、分岐発生頻度の計算を行う前に、強度を2で割った。
【0050】
4-メチル分岐の留分を計算して集計した場合、5+メチルへの寄与は重複計算を回避するために減算されなくてはならない。
【0051】
未知のメチル分岐が、5.0ppm~22.5ppmに現れるシグナルの寄与から計算されるが、表2に報告されている分岐は含まれていない。
【0052】
5)参照によりその全体が本明細書に組み込まれている米国特許第6,090,989号に記載されている計算値を使用して、分岐指数(BI)及び分岐近接度(BP)を計算する。
【0053】
6)2-メチル分岐を除いて、ステップ3と4で見つかった分岐を合計して、分子あたりの内部アルキル分岐の合計を計算する。これらの分岐には、3-メチル、4-メチル、5+メチル、内部エチル、n-プロピル、隣接メチル、及び未知のメチルが含まれる。
【0054】
FIMS分析:本発明の炭化水素分布は、FIMS(電界イオン質量分析)によって判定される。FIMSスペクトルは、WatersGCT-TOF質量分析計を用いて取得した。サンプルは、毎分50℃の速度で約40℃~500℃に加熱された固体プローブを介して導入された。質量分析計は、ディケードごとに5秒の速度でm/z40からm/z1000までスキャンされた。取得した質量スペクトルを合計して、最大6つの環を含むパラフィン及びシクロパラフィンの炭素数分布を提供する1つの平均スペクトルを生成した。
【0055】
炭化水素構造及び特性
本明細書で開示される炭化水素混合物の構造は、FIMS及びNMRによって特徴付けられている。FIMS分析は、炭化水素混合物中の分子の80%超が、偶数の炭素数を有していることを実証している。
【0056】
本明細書で開示される炭化水素混合物の独特の分岐構造は、BP、BI、内部アルキル分岐、及び5+メチルなどのNMRパラメータによって特徴付けられる。炭化水素混合物のBP/BIは、≧-0.6037(分子あたりの内部アルキル分岐)+2.0の範囲内にある。炭化水素混合物の5+メチルは、平均して1分子あたり0.3~1.5である。
【0057】
炭化水素混合物は、炭素数の分布に基づいて、C28~C40の炭素とC42以上の炭素の2つの炭素範囲に分類され得る。概して、各炭化水素混合物に存在する分子の約95%、または約95%以上は、指定された範囲内の炭素数を有している。C28~C40の範囲の代表的な分子構造は、NMR及びFIMSの分析に基づいて提案され得る。特定の理論に縛られることを望まないが、オレフィンのオリゴマー化及び水素化異性化によって形成された構造は、構造全体に分布するメチル、エチル、ブチル分岐を有し、分岐指数及び分岐近接性は、製品の驚くほど良好な低温特性に寄与すると考えられる。本発明の炭化水素混合物の例示的な構造は以下の通りである。
【化1】
【0058】
炭化水素混合物の独特の分岐構造と狭い炭素分布により、特に低粘度のエンジンオイル用途向けに、高品質の合成ベースオイルとして使用するのに適するようになっている。炭化水素混合物は以下を示す。
・3.0~10.0cStの範囲にあるKV100
・-20から-55℃の範囲にある流動点
・Noackが2750(-35℃でのCCS)(-0.8)±2の間にあるような-35℃でのNoackとCCSの関係
【0059】
炭化水素混合物のNoackとCCSの関係を図3図4に示す。各図において、上の線はNoack=2750(-35℃でのCCS)(-0.8)+2を表し、下のグラフ線はNoack=2750(-35℃でのCCS)(-0.8)-2を表している。より好ましくは、炭化水素混合物は、Noack=2750(-35℃でのCCS)(-0.8)+0.5とNoack=2750(-35℃でのCCS)(-0.8)-2との間にあるような-35℃でのNoackとCCSの関係を有している。図3及び図4の原点に近い炭化水素混合物は、-35℃での低揮発性及び低減した粘度のために、低粘度のエンジンオイルにより有利であることが分かった。
【0060】
炭素数がC28~C40の範囲にある本発明による炭化水素混合物、及び炭素数がC28~C36の範囲にある別の実施形態、またはC32の炭素数を有する分子である別の実施形態では、本発明による炭化水素混合物は、概して、BP/BI、分子ごとの内部アルキル分岐、分子ごとの5+メチル分岐、上述のNoack/CCS関係の特性に加えて、以下の特性を示している。
・3.0~6.0cStの範囲にあるKV100
・11 ln(BP/BI)+135~11 ln(BP/BI)+145の範囲にあるVI
・33 ln(BP/BI)-45~33 ln(BP/BI)-35の範囲にある流動点
【0061】
一実施形態では、C28~C40炭化水素混合物のKV100は、3.2~5.5cStの範囲にあり、別の実施形態では、KV100は4.0~5.2cStの範囲にあり、別の実施形態では、4.1~4.5cStにある。
【0062】
C28~C40炭化水素混合物のVIは、一実施形態では125~155の範囲にあり、別の実施形態では135~145の範囲にある。
【0063】
一実施形態では、炭化水素混合物の流動点は、25~-55℃の範囲にあり、別の実施形態では、35~-45℃の範囲にある。
【0064】
一実施形態におけるC28~C40の炭化水素混合物の沸点範囲は、ASTM D2887によって測定される場合、125℃(95%でのTBP-5%でのTBP)以下であり、別の実施形態では100℃以下であり、一実施形態では75℃以下であり、別の実施形態では50℃以下であり、一実施形態では30℃以下である。好ましい実施形態では、沸点範囲が50℃以下で、さらにより好ましくは30℃以下のものは、所与のKV100に対して驚くほど低いNoack揮発度(ASTM D5800)をもたらす。
【0065】
一実施形態におけるC28~C40の炭化水素混合物は、15~25の範囲にある分岐指数(BI)を有する14~30の範囲にある分岐近接性(BP)を有し、別の実施形態では、15~28の範囲にあるBP及び16~24の範囲にあるBIを有する。
【0066】
C28~C40炭化水素混合物のNoack揮発度(ASTM D5800)は、一実施形態では16重量%未満であり、一実施形態では12重量%未満であり、一実施形態では10重量%未満であり、一実施形態では8重量%未満であり、一実施形態では7重量%未満である。一実施形態におけるC28~C40の炭化水素混合物はまた、-35℃でのCCS粘度が2700cP未満であり、別の実施形態では2000cP未満であり、一実施形態では1700cP未満であり、一実施形態では1500cP未満である。
【0067】
炭素数範囲がC42以上である炭化水素混合物は、BP/BI、分子あたりの内部アルキル分岐、分子あたりの5+メチル分岐、及び上述の-35℃でのNoackとCCSの関係の特性に加えて、概して以下の特性を示す。
・6.0~10.0cStの範囲にあるKV100
・11 ln(BP/BI)+145~11 ln(BP/BI)+160の範囲にあるVI
・33 ln(BP/BI)-40~33 ln(BP/BI)-25の範囲にある流動点
【0068】
C42以上の炭素を含む炭化水素混合物は、一実施形態では、8.0~10.0cStの範囲のKV100を有し、別の実施形態では、8.5~9.5cStの範囲のKV100を有する。
【0069】
≧42の炭素を有する炭化水素混合物のVIは、一実施形態では140~170であり、別の実施形態では150~160である。
【0070】
流動点は、一実施形態では、-15から-50℃の範囲にあり、別の実施形態では、-20~-40℃の範囲にある。
【0071】
一実施形態では、≧42の炭素を含む炭化水素混合物は、17~23の範囲のBIを有する18~28の範囲のBPを有する。別の実施形態では、炭化水素混合物は、18~28の範囲にあるBP及び17~23の範囲にあるBIを有する。
【0072】
概して、上で開示された両方の炭化水素混合物は、以下の特性を示す。
・FIMSによると分子の少なくとも80%が偶数の炭素数を有する
・3.0~10.0cStの範囲にあるKV100
・-20~-55℃の範囲の流動点
・Noackが2750(-35℃でのCCS)(-0.8)±2であるような、-35℃でのNoackとCCSの関係
・分子あたり≧-0.6037(内部アルキル分岐)+2.0の範囲のBP/BI
・分子あたり平均0.3~1.5の5+メチル分岐
【0073】
合成
開示された炭化水素混合物を製造するための可能なプロセスまたは方法が、本明細書で提供されている。本明細書で開示される新規の炭化水素混合物は、オレフィンオリゴマー化を介して所望の炭素鎖長を達成し、続いて流動異性化によって、流動点及びCCS、等といった、それらのコールドフロー特性を改善することで合成されることができる。一実施形態では、長さがC14~C20のオレフィンは、酸触媒を使用してオリゴマー化され、オリゴマー混合物を形成する。オレフィンは、原油やガスベースのオレフィンなどの天然分子から、またはエチレン重合から供給され得る。いくつかの変形例では、本明細書に記載のオレフィン原料中の炭素原子の約100%は、再生可能な炭素源に由来し得る。例えば、アルファオレフィンコモノマーは、再生可能な炭素源から生成されたエタノールの脱水に由来するエチレンのオリゴマー化によって生成され得る。いくつかの変形例では、アルファオレフィンコモノマーは、再生可能な炭素源から生成されるエタノール以外の第一級アルコールの脱水によって生成され得る。前述の再生可能なアルコールは、ガンマアルミナまたは硫酸を使用して脱水してオレフィンにすることができる。いくつかの実施形態では、再生可能資源に由来する修飾された、または部分的に水素化されたテルペン原料は、再生可能資源に由来する1つ以上のオレフィンと結合される。
【0074】
一実施形態では、C14~C20の間のオレフィンモノマーは、BFの存在下で、及び/または、直鎖アルコール及び酢酸アルキルエステルなどの、アルコール及び/またはエステルの混合物で促進されたBFの存在下で、平均滞留時間が60~400分の連続撹拌槽型反応器(CSTR)を用いてオリゴマー化されている。別の実施形態では、C14~C20のオレフィンモノマーは、BF及び/または促進されたBFの存在下で、平均滞留時間が90~300分の連続撹拌槽型反応器を使用してオリゴマー化されている。さらに別の実施形態では、C14~C20のオレフィンモノマーは、BF及び/または促進されたBFの存在下で、平均滞留時間が120~240分の連続撹拌槽型反応器を使用してオリゴマー化されている。オリゴマー化反応の温度は、10℃~90℃の範囲であり得る。しかしながら、1つの好ましい実施形態では、温度は、反応の間、15~75℃の範囲に、最も好ましくは20℃~40℃の範囲に維持される。
【0075】
オリゴマー化プロセスに適したルイス酸触媒には、例えば、AlCl、BF、BF錯体、BCl、AlBr、TiCl、TiCl、SnCl、及びSbClなど、フリーデルクラフツ触媒として通常使用されるメタロイドハライド及びメタルハライドが含まれる。メタロイドハライドまたはメタルハライド触媒のいずれも、助触媒プロトン促進剤(例えば、水、アルコール、酸、またはエステル)の有無にかかわらず使用することができる。一実施形態では、オリゴマー化触媒は、ゼオライト、フリーデルクラフト触媒、ブロンステッド酸、ルイス酸、酸性樹脂、酸性固体酸化物、酸性シリカアルミノホスフェート、グループIVB金属酸化物、グループVB金属酸化物、グループVIB金属酸化物、第VIII族金属の水酸化物または遊離金属形態、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0076】
ダイマー部分が異性化せずに100mgBr/100g未満のBr指数(ASTM D2710)に飽和させる場合、オリゴマー化生成物のダイマー部分(C28~C40)が、25~35の間で、好ましくは27~35の間で、より好ましくは27~33の間で、最も好ましくは28~32の間で分岐近接度(BP)を有することを確実にするために、CSTR内のオリゴマー化反応温度及び滞留時間の適切な制御が必要とされる。水素化異性化前の分岐近接度が低すぎると、図1の実線の下に位置する異性化炭化水素混合物となり、-35℃で、所与のNoack揮発度の値が図3及び4に示す範囲内になる、より望ましくない高いCCS粘度になる。逆に、分岐の近接度が高すぎると、許容可能な流動点に到達するためにより多くの異性化が必要になり、このことで-35℃でのNoackの揮発性とCCSが同時に増加する。一実施形態では、未反応の単量体を除去するために不飽和オリゴマー生成物が蒸留される。例えば、未反応の単量体は、蒸留などによってオリゴマー生成物から分離され得、そのオリゴマー化のために第1及び/または第2の原料の混合物の中へ再循環されることができる。
【0077】
次に、オリゴマー生成物を水素化異性化して、理想的な分岐特性を達成するために必要な追加の内部アルキル分岐を提供する。一実施形態では、ダイマー(C28~C40)及びより重いオリゴマー(≧C42)の両方を含むオリゴマー生成物全体が、蒸留による分離の前に水素化異性化される。次に、水素化異性化生成物は、蒸留によって最終的な炭化水素生成物に分離される。別の実施形態では、ダイマー及びより重いオリゴマーは、別個に分別され、水素化異性化される。
【0078】
本発明で有用な水素化異性化触媒は、通常、形状選択的モレキュラーシーブ、水素化に対して触媒的に活性である金属または金属混合物、及び耐火性酸化物担体を含む。水素化成分の存在は、製品の改善、特にVIと安定性につながる。典型的な触媒活性水素化金属には、クロム、モリブデン、ニッケル、バナジウム、コバルト、タングステン、亜鉛、白金、及びパラジウムが含まれる。白金とパラジウムが特に好ましく、白金が最も好ましい。白金及び/またはパラジウムが使用される場合、金属含有量は、典型的には全触媒の0.1~5重量パーセントの範囲内であり、通常は0.1~2重量パーセントであり、10重量パーセントを超えない。水素化異性化触媒は、例えば、米国特許第7,390,763号及び第9,616,419号、ならびに米国特許出願公開第2011/0192766号及び第2017/0183583号に記載されている。
【0079】
水素化異性化の条件は、上述のように、特定の分岐特性を備えた異性化炭化水素混合物を達成するように調整され、そのため、使用される原料の特性に依存する。反応温度は、一般に約200℃~400℃の間であり、好ましくは260℃~370℃の間であり、最も好ましくは288℃~345℃の間であり、液時空間速度(LHSV)は一般に約0.5時間-1~約20時間-1の間である。圧力は、典型的には、約15psig~約2500psigであり、好ましくは約50psig~約2000psigであり、より好ましくは約100psig~約1500psigである。低圧は異性化選択性を高め、その結果、異性化が進み、原料のクラッキングが少なくなり、収率が向上する。
【0080】
水素は、水素化異性化プロセス中に反応ゾーンに存在し、通常、水素対原料比が約0.1~10MSCF/bblであり、(1バレルあたり1000標準立方フィート)、好ましくは約0.3~約5MSCF/bblである。水素は生成物から分離され、反応ゾーンにリサイクルされる。
【0081】
一実施形態では、水素化の追加のステップが、水素化異性化の前に追加されて、下流の水素化異性化触媒を保護する。別の実施形態では、炭化水素混合物の飽和及び安定性をさらに改善するために、水素化異性化の後に水素化または水素化仕上げの追加のステップが追加される。
【0082】
水素化異性化炭化水素混合物は、C28~C40の範囲の炭素数を有するダイマーと、C42以上の炭素数を有するトリマー+の混合物と、で構成される。各炭化水素混合物は、分子あたり≧-0.6037(内部アルキル分岐)±2.0の範囲のBP/BIを示し、平均して、分子あたり5番目以上の位置で0.3~1.5のメチル分岐を示す。重要なことに、各組成の分子の少なくとも80%がまた、FIMSによって判定された均一な炭素数を有している。別の実施形態では、炭化水素組成物の各々はまた、Noackが2750(-35℃でのCCS)(-0.8)±2の間であるような、-35℃でのNoackとCCSの関係も示す。これらの特性が、低粘度エンジンオイルや他の多くの高性能潤滑油製品の配合を可能にする。
【0083】
一実施形態では、C16オレフィンは、オリゴマー化反応のための原料として使用されている。原料としてC16オレフィンを使用する場合、水素化異性化ダイマー生成物は一般に4.3cStのKV100を示し、Noack損失は<8%であり、-35℃でのCCSは約1,700cPである。Noack揮発度が非常に低いのは、他の3.9~4.4cStの合成ベースストックと比較した場合、開始沸点が高く、沸点分布が狭いためである。このことが、厳しい揮発度要件を有する低粘度エンジンオイルでの使用に対して理想的なものにしている。優れたCCS及び流動点の特性は、上述の分岐特性によるものである。一実施形態では、材料は、≦-40℃の流動点を有する。このことは、Mini-Rotary Viscosity(ASTM D4684)及びScanning Brookfield Viscosity(ASTM D2983)規格を含む、0W配合の重要なエンジンオイル配合要件に合格するために必要となる。
【0084】
エンジン性能を向上させるための完成した潤滑油の配合
本明細書では、従来のベースオイルと比較して、再生可能なベースオイルを使用して配合された超低粘度エンジン油の燃料経済性の改善、ならびに燃料経済性の保持およびLSPI防止について説明する。本明細書に記載の再生可能ベースオイルを含有する完成した潤滑油組成物は、摩擦を低減し、その結果、フレッシュな時に燃費を改善するだけでなく、従来のベースオイル配合物と比較して、エージング時に予想外に低減した摩擦を維持する。これらの利点は、完成したエンジンオイルの配合に活用され、変更されたシーケンスVIF燃料経済性エンジン試験スタンドを使用して、燃料経済性の改善と燃料経済性保持の利点を実証した。試験結果は、完成したエンジンオイル配合に再生可能なベースオイルを使用することで、再生可能なベースの潤滑油の粘度測定では説明できない、予期しない大幅なフレッシュなオイルの燃料経済の改善がもたらされることを示している。さらに、エージングしたオイルの燃料経済性は、従来のベースオイルのエンジンオイル配合物と比較して著しく良好に保持され、エンジン内の潤滑油の寿命にわたって前例のない燃料経済性の改善及び保持になる。
【0085】
また、本明細書では、シーケンスVIFエンジンにおいて高温にさらされる長期間にわたるカルシウム増加量の低減も記載されており、これにより潤滑油組成物のLSPI防止特性を保持する能力が向上する。
【0086】
本明細書に記載の再生可能ベースオイルを含有する潤滑油組成物は、潤滑油関連の様々な最終用途に使用することができ、例えば、可動及び/または相互作用する機械部品、構成要素、または表面の潤滑を必要とするデバイスまたは装置用の潤滑油またはグリースが挙げられる。有用な装置には、エンジンや機械が含まれる。より具体的な機器には、ガソリン燃焼エンジン、ディーゼル燃焼エンジン、天然ガス燃焼エンジン、ギアボックス、風力タービン、及び循環油圧ポンプが含まれるが、これらに限定されない。本明細書に記載のベースオイルを含有する潤滑油組成物は、自動車用クランクケース潤滑油、自動車用ギアオイル、トランスミッションオイル、及び循環潤滑油、産業用ギア潤滑油、グリース、圧縮機用オイル、ポンプ用オイル、冷蔵用潤滑油、油圧潤滑油、金属作動流体を含む多くの産業用潤滑油の配合に使用できる。
【0087】
これらの利点は、長い時間/持続時間と高温用に変更されたシーケンスVIFエンジン試験で観察された。ASTM D8226に記載されているシーケンスVIFエンジン試験は、当業者には既知であるように、低粘度オイルのための反復可能な実験室条件下での自動車用エンジンオイルの燃料節約能力の比較燃料経済性改善(FEI)評価を含む。
【0088】
試験パラメータは、以下の通りである。(1)試験期間は196時間である。(2)燃料消費量は、SAE 20W-30ベースライン(BL)潤滑油の6つの速度/負荷/温度試験条件で測定され、一貫したエンジン応答を確実にした。(3)候補の潤滑油を導入し、エージング条件で16時間にわたりエージングし、次いでFEI1の6つの試験条件で燃料消費量が測定された。(4)候補の潤滑油をエンジンに残し、FEI2のエージング条件で109時間にわたりエージングした。(5)BLの6つの試験条件の各々の燃料消費量は、試験の最後に繰り返され、試験期間中の一貫したエンジン応答をさらに確実にした。(5)FEI1、FEI2、及びFEI合計(FEI1にFEI2を加算)が、候補オイルの燃費測定値とベースライン潤滑油(BL)の燃費測定値との比較から計算される。
【0089】
燃料消費量は、SAE 20W-30ベースライン(BL)潤滑油の6つの速度/負荷/温度試験条件で測定され、一貫したエンジン応答を確実にした。候補の潤滑油を導入し、エージング条件で16時間にわたりエージングした後、6つの試験条件で燃料消費量が測定された(表3)。BLの6つの試験条件の各々の燃料消費量は、試験の最後に繰り返され、試験期間中の一貫したエンジン応答をさらに確実にした。
【表3】

このシーケンスVIFエンジン試験条件への変更が示されている。
【表4】
【0090】
本発明の潤滑油は、ベースオイル混合物に使用される再生可能なベースオイルを含み、さらに、以下の添加剤のうちの1つ以上を含み、それらは、分散剤、抑制剤、酸化防止剤、洗剤、摩擦調整剤、流動点降下剤、粘度調整剤、等である。
【0091】
一実施形態では、ベースオイルの総量中の再生可能なベースオイルの量は、少なくとも20重量%である。別の実施形態では、ベースオイルの総量中の再生可能なベースオイルの量は、約20重量%~約100重量%である。当技術分野で知られているように、内燃エンジンの燃料経済性は、潤滑油の粘度によって、かつ摩擦特性によって部分的に決定される。潤滑油の摩擦特性は、洗剤、耐摩耗添加剤、摩擦調整剤などの界面活性添加剤が、エンジン内の潤滑接点の金属表面に固体の摩擦変化表面層を形成できるという意味で、添加剤の化学的性質によって決定される。潤滑油の粘度が変化しない限り、ベースオイルがエンジンの摩擦を変化させる役割を果たすことは、当業者によって予期されていない。
【0092】
本発明の一実施形態は、再生可能なベースオイルを含み、粘度が等しく、再生可能なベースオイルを含有しない比較用潤滑油と同じ添加剤を有する潤滑油から燃料経済性の改善を引き出す方法を説明する。
【0093】
一実施形態では、90重量%の再生可能なベースオイルと、分散剤、洗浄剤、抑制剤、摩擦調整剤、及び流動点降下剤を含む、10重量%の添加剤の組み合わせと、を含む潤滑油組成物を使用するときの燃料経済性の改善は、再生可能なベースオイルを含まない等粘度の従来の潤滑油よりも少なくとも0.3%、好ましくは0.5%優れている。
【0094】
当技術分野で知られているように、燃料経済性改善測定は、フレッシュな潤滑油、または適度に厳しい運転条件を表す条件で少量のエージングにさらされた潤滑油に対して行われる。また、多くの場合、高温化した周囲条件によって、またはオイル交換間隔が延長された場合など、長期間のエージング条件に潤滑油をさらすことによって、運転条件がより厳しくなる可能性があることも知られている。しかしながら、より厳しいエージング条件にさらされた潤滑油の燃料経済性を判定するための標準化されたツールは存在せず、本明細書に記載するような厳しいエージング条件については、表4の5行目を参照されたい。
【0095】
本発明は、再生可能なベースオイルを含み、再生可能なベースオイルを全く含まない比較用潤滑油と同等の粘度及び同じ添加剤を有する潤滑油から燃料経済性保持(FER)の利点を引き出す方法を説明する。燃料経済性保持(FER)は、典型的なより短いオイル交換間隔を表すエージング期間の後に評価される。これとは別に、FERは、延長したオイル交換間隔を表すエージング期間の後に評価される。
【0096】
一実施形態では、より短いオイル交換間隔を表す条件での燃料経済性保持は、潤滑油組成物が、90重量%の再生可能なベースオイルと、分散剤、洗浄剤、抑制剤、摩擦調整剤、及び流動点降下剤を含む10重量%の添加剤の組み合わせと、を含むものを使用する場合、再生可能なベースオイルを含まない等しい粘度の従来の潤滑油よりも少なくとも1.0%、好ましくは1.5%優れている。
【0097】
一実施形態では、より短いオイル交換間隔を表す条件での燃料経済性保持は、45重量%の再生可能なベースオイルと、45%の再生不可能なベースオイルと、分散剤、洗浄剤、抑制剤、摩擦調整剤、及び流動点降下剤を含む10重量%の添加剤の組み合わせと、を含む潤滑油組成物を使用する場合、再生可能なベースオイルを含まない等しい粘度の従来の潤滑油よりも少なくとも0.5%、好ましくは1.0%優れている。
【0098】
一実施形態では、延長されたオイル交換間隔を表す条件での燃料経済性保持(FER)は、90重量%の再生可能なベースオイルと、分散剤、洗浄剤、抑制剤、摩擦調整剤、及び流動点降下剤を含む10重量%の添加剤の組み合わせと、を含む潤滑油組成物を使用する場合、再生可能なベースオイルを含まない等しい粘度の従来の潤滑油よりも少なくとも1.0%、好ましくは1.5%優れている。
【0099】
一実施形態では、延長されたオイル交換間隔を表す条件での燃料経済性保持(FER)は、45重量%の再生可能なベースオイルと、45%の再生不可能なベースオイルと、分散剤、洗浄剤、抑制剤、摩擦調整剤、及び流動点降下剤を含む10重量%の添加剤の組み合わせと、を含む潤滑油組成物を使用する場合、再生可能なベースオイルを含まない等しい粘度の従来の潤滑油よりも少なくとも0.5%、好ましくは1.0%優れている。
【0100】
一実施形態では、潤滑油の寿命にわたる燃料経済性保持は、45重量%の再生可能なベースオイルと、45%の再生不可能なベースオイルと、分散剤、洗浄剤、抑制剤、摩擦調整剤、及び流動点降下剤を含む10重量%の添加剤の組み合わせと、を含む潤滑油組成物を使用する場合、再生可能なベースオイルを含まない等しい粘度の従来の潤滑油よりも少なくとも0.5%、好ましくは1.0%優れている。
【0101】
本明細書に記載の「潤滑油の寿命」は、潤滑油がエンジンに投入されてから、潤滑油を補充しないとエンジン損傷が生じ得るレベルまで潤滑油の状態が劣化するまでの期間を含む。
【0102】
一実施形態では、潤滑油の寿命にわたる燃料経済性保持は、90重量%の再生可能なベースオイルと、分散剤、洗浄剤、抑制剤、摩擦調整剤及び流動点降下剤を含む10重量%の添加剤の組み合わせと、を含む潤滑油組成物を使用する場合、再生可能なベースオイルを含まない等しい粘度の従来の潤滑油よりも少なくとも1.0%、好ましくは1.5%優れている。
【0103】
本発明のさらなる実施形態は、長期間にわたる内燃エンジンの運転において、低速早期着火(LSPI)防止能力を保持しながら、FERを改善する方法である。潤滑油配合物は、ダイナモメーターに取り付けられたGM High Feature 3.6L LY7 V6エンジン内で高温にさらすことによってエージングされた。潤滑油配合物は2段階でエージングされた。エージング段階1では、潤滑油配合物を120℃で16時間にわたりさらした。次のエージング段階では、潤滑油配合物を140℃で288時間にわたりさらした。エージング段階の間、25時間ごとに潤滑油をサンプリングして、使用済みオイルの分析と化学的特性評価を行い、試験中の潤滑油添加剤の変化を観察した。
【0104】
表9及び図6に示すように、比較オイル(実施例1、2及び3)はすべて、それらがエンジン中で時間を経るにつれてカルシウム含有量において有意な増加を示した。比較オイルのカルシウム含有量は、試験の終わりに20%~76%の範囲で増加した。比較すると、本明細書に記載されている本発明の潤滑油組成物は、試験期間を通じて元の値に非常に近いカルシウム濃度を維持した。
【0105】
以前の研究では、より高い粘度のベースストックはLSPIを増加させ、潤滑油の揮発度はLSPIの発生にわずかな影響しか及ぼさないと結論付けている。現在の作業では、すべての潤滑油は、同様の動粘度を有するベースストックで配合されている。以前の研究からの結論に基づいて、4つのオイルすべてがLSPIの発生に関して同じ挙動を示すと予測される。しかしながら、以前の研究は、カルシウムの濃度を上げるとLSPI率が上昇すると結論付けている。比較オイル1、2、及び3は、これらの潤滑油がより高い温度と長時間のエージングにさらされたため、カルシウム含有量の大幅な増加を示している。以前の研究の結論と表9に示される結果に基づいて、3つの比較オイルすべてが、エージングとともに増加するLSPI発生を示すと予測している。対照的に、本明細書に記載の潤滑油組成物は、試験を通じてそのLSPI防止性能を保持することになる。
【0106】
特定の変形例では、本明細書に記載の方法に従って調製されたベースストックは、1つ以上の追加のベースストックとブレンドされており、それらは例えば、1つ以上の市販のPAO、ガスツーリキッド(GTL)ベースストック、1つ以上のミネラルベースストック、植物油ベースストック、藻類由来ベースストック、本明細書に記載の第2のベースストック、または再生可能なベースストックの他のいずれかのタイプである。追加のベースストックの任意の有効量が、所望の特性を有するブレンドしたベースオイルに到達するために追加され得る。例えば、ブレンドしたベースオイルは、本明細書に記載の第1のベースオイルの第2のベースオイル(例えば、市販のベースオイルPAO、GTLベースオイル、1つ以上の鉱物ベースオイル、植物油ベースオイル、藻類由来のベースストック、本明細書に記載の第2のベースストック)に対する比率を含むことができ、この比率は、作製され得る組成物の総重量に基づいて、約1~99%、約1~80%、約1~70%、約1~60%、約1~50%、約1~40%、約1~30%、約1~20%、または約1~10%である。
【0107】
本明細書に記載の炭化水素混合物を含む潤滑油組成物も本明細書に開示される。いくつかの変形例では、潤滑油組成物は、本明細書に記載の方法のいずれかによって生成される炭化水素混合物の少なくとも一部を含むベースオイルと、酸化防止剤、粘度調整剤、注入点降下剤、発泡防止剤、洗剤、分散剤、染料、マーカー、防錆剤または他の腐食防止剤、乳化剤、脱乳化剤、耐摩耗剤、摩擦調整剤、熱安定性向上剤、多機能添加剤(例えば、酸化防止剤と分散剤の両方として機能する添加剤)またはこれらの任意の組み合わせの群から選択される1つ以上の添加剤と、を含む。潤滑油組成物は、本明細書に記載の炭化水素混合物、及び任意の潤滑油添加剤、潤滑油添加剤の組み合わせ、または利用可能な添加剤パッケージを含み得る。
【0108】
ベースストックとして使用される本明細書に記載の組成物のいずれも、完成した潤滑油組成物の総重量に基づいて、約1%を超えて存在し得る。特定の実施形態では、配合物中のベースストックの量は、配合物の総重量に基づいて、約2、5、15または20重量%を超える。いくつかの実施形態では、組成物中のベースオイルの量は、組成物の総重量に基づいて、約1~99%、約1~80%、約1~70%、約1~60%、約1~50%、約1~40%、約1~30%、約1~20%、または約1~10%である。特定の実施形態において、本明細書で提供される製剤中のベースストックの量は、約1%、5%、7%、10%、13%、15%、20%、30%、40%、5である。業界で知られているように、潤滑油添加剤の種類と量は、完成した潤滑油組成が特定の用途向けの特定の業界標準または仕様を満たすように、ベースオイルと組み合わせて選択される。概して、組成物中の各添加剤の濃度は、使用される場合、組成物の総重量に基づいて、約0.001重量%~約20重量%、約0.01重量%~約10重量%、約0.1重量%~約5重量%、または約0.1重量%~約2.5重量%の範囲であり得る。さらに、組成物中の添加剤の総量は、組成物の総重量に基づいて、約0.001重量%~約50重量%、約0.01重量%~約40重量%、約0.01重量%~約30重量%、約0.01重量%~約20重量%、約0.1重量%~約10重量%、または約0.1重量%~約5重量%の範囲であり得、配合物の総重量に基づいて、0%、60%、70%、80%、90%、または99%であり得る。
【0109】
いくつかの変形例では、本明細書に記載のベースオイルは、2サイクルエンジンオイルとして、トランスミッションオイルとして、油圧流体として、コンプレッサオイルとして、タービンオイル及びグリースとして、自動車用エンジンオイルとして、ギアオイルとして、船舶用潤滑油として、及びプロセスオイルとして使用するための潤滑油組成物に配合されている。プロセスオイルの用途には、圧延機油、コーニングオイル、可塑剤、スピンドルオイル、ポリマー加工、剥離剤、コーティング、接着剤、シーラント、ポリッシュとワックス用ブレンド、引き抜き油、スタンピングオイル、ゴム配合、医薬品プロセスエイド、パーソナルケア製品、及びインクが含まれるが、これらに限定されない。
【0110】
さらに他の変形例では、本明細書に記載のベースオイルは、工業用オイルまたはグリース配合物として配合され、抗酸化剤、耐摩耗剤、極圧剤、脱泡剤、洗剤/分散剤、防錆剤及び腐食防止剤、増粘剤、粘着付与剤、ならびに解乳化剤から選択される少なくとも1つの添加剤を含んでいる。本発明のベースストックは、芳香族炭化水素、ポリアルファオレフィン、ポリオールエステル、及び天然植物油から選択される化合物の比較的純粋なブレンドに流動点を改善し、安定性を増し、酸化速度を低減するための添加剤を加えたものから構成される誘電性熱伝達流体として配合され得ることも企図される。
【0111】
本発明は、以下の実施例によって、さらに説明され、これらは限定的であることを意図していない。
【実施例
【0112】
実施例1~6(C28~C40の炭化水素混合物)
実施例1
8%未満の分岐及び内部オレフィンを含む1-ヘキサデセンを、ブタノールと酢酸ブチルの助触媒組成を用いBF下でオリゴマー化した。オレフィンと助触媒を半連続的に添加している間に、反応を20℃で保持した。滞留時間は90分であった。次に、未反応の単量体を蒸留除去し、0.1%未満の単量体蒸留残渣を残した。その後の蒸留が行われ、ダイマーをトリマー+から分離し、ダイマー留分に残っているトリマーは5%未満であった。
【0113】
次に、ダイマーを、アルミナと結合したMRE構造タイプの触媒である貴金属を含浸させたアルミノシル酸塩で水素化異性化した。反応は、固定床式反応器内で500psig及び307℃で実施された。分解された分子は、オンラインストリッパ(online stripper)を用いて水素化異性化C16ダイマーと分けられた。
【0114】
実施例2
オリゴマー化及びそれに続く蒸留は、実施例1と同様に実施された。次に、アルミナと結合されたMRE構造タイプの触媒である、貴金属を含浸させたアルミノシル酸塩を用いてダイマーを水素化異性化した。反応は、固定床式反応器内で500psig及び313℃で実施された。分解された分子は、オンラインストリッパを用いて、水素化異性化C16ダイマーと分けられた。
【0115】
実施例3
オリゴマー化及びそれに続く蒸留は、実施例1と同様に実施された。次に、アルミナと結合したMRE構造タイプの触媒である、貴金属を含浸させたアルミノシル酸塩を用いてダイマーを水素化異性化した。反応は、固定床式反応器内で500psig及び324℃で実施された。分解された分子は、オンラインストリッパを用いて、水素化異性化C16ダイマーと分けられた。
【0116】
実施例4
オリゴマー化及びそれに続く蒸留は、実施例1と同様に実施された。次に、アルミナと結合したMTT構造タイプの触媒である、貴金属を含浸させたアルミノシル酸塩を用いてダイマーを水素化異性化した。反応は、固定床式反応器内で500psig及び316℃で実施された。分解された分子は、オンラインストリッパを用いて、水素化異性化C16ダイマーと分けられた。
【0117】
実施例5
オリゴマー化及びそれに続く蒸留は、実施例1と同様に実施された。次に、アルミナと結合したMTT構造タイプの触媒である、貴金属を含浸させたアルミノシル酸塩を用いてダイマーを水素化異性化した。反応は、固定床式反応器内で500psig及び321℃で実施された。分解された分子は、オンラインストリッパを用いて、水素化異性化C16ダイマーと分けられた。
【0118】
実施例6
オリゴマー化及びそれに続く蒸留は、実施例1と同様に実施された。次に、アルミナと結合したMTT構造タイプの触媒である、貴金属を含浸させたアルミノシル酸塩を用いてダイマーを水素化異性化した。反応は、固定床式反応器内で500psig及び332℃で実施された。分解された分子は、オンラインストリッパを用いて、水素化異性化C16ダイマーと分けられた。
【0119】
実施例7~12(C≧42炭化水素混合物)
実施例7
8%未満の分岐及び内部オレフィンを含む1-ヘキサデセンを、ブタノールと酢酸ブチルの助触媒組成を用いBF下でオリゴマー化した。オレフィンと助触媒を半連続的に添加している間に、反応を20℃で保持した。滞留時間は90分であった。次に、未反応の単量体を蒸留除去し、0.1%未満の単量体蒸留残渣を残した。その後の蒸留を行って、ダイマーをトリマーおよびより高次のオリゴマーから分離し、得られたダイマーは、5%未満のトリマーを有する。
【0120】
次に、トリマー及びより高次のオリゴマー(トリマー+)留分が、アルミナと結合したMRE構造タイプ触媒である貴金属を含浸させたアルミノシル酸塩で水素化異性化した。反応は、固定式床反応器内で500psig及び313℃で実施された。分解された分子は、オンラインストリッパを用いて、水素化異性化C16トリマー+と分けられた。
【0121】
実施例8
オリゴマー化及びそれに続く蒸留は、実施例7と同様に実施された。次に、アルミナと結合したMRE構造タイプの触媒である、貴金属を含浸させたアルミノシル酸塩を用いてトリマー+留分を水素化異性化した。反応は、固定式床反応器内で500 psig及び318℃で実施された。分解された分子は、オンラインストリッパを用いて、水素化異性化C16トリマー+と分けられた。
【0122】
実施例9
オリゴマー化及びそれに続く蒸留は、実施例7と同様に実施された。次に、アルミナと結合したMRE構造タイプの触媒である、貴金属を含浸させたアルミノシル酸塩を用いてトリマー+留分を水素化異性化した。反応は、固定床式反応器内で500psig及び324℃で実施された。分解された分子は、オンラインストリッパを用いて、水素化異性化C16トリマー+と分けられた。
【0123】
実施例10
オリゴマー化及びその後の蒸留は、実施例7と同様に実施された。次に、アルミナと結合したMTT構造タイプの触媒である、貴金属を含浸させたアルミノシル酸塩を用いてトリマー+留分を水素化異性化した。反応は、固定床式反応器内で500psig及び321℃で実施された。分解された分子は、オンラインストリッパを用いて、水素化異性化C16トリマー+と分けられた。
【0124】
実施例11
オリゴマー化及びその後の蒸留は、実施例7と同様に実施された。次に、アルミナと結合したMTT構造タイプの触媒である、貴金属を含浸させたアルミノシル酸塩を用いてトリマー+留分を水素化異性化した。反応は、固定床式反応器内で500psig及び327℃で実施された。分解された分子は、オンラインストリッパを用いて、水素化異性化C16トリマー+と分けられた。
【0125】
実施例12
オリゴマー化及びその後の蒸留は、実施例7と同じように実施された。次に、アルミナと結合したMTT構造タイプの触媒である、貴金属を含浸させたアルミノシル酸塩を用いてトリマー+留分を水素化異性化した。反応は、固定床式反応器内で500psig及び332℃で実施された。分解された分子は、オンラインストリッパを用いて、水素化異性化C16トリマー+と分けられた。
【0126】
実施例1~12で得られた炭化水素混合物の検査結果は、以下の表3にその概要が示されている。
【表5】
【0127】
比較によるGTLベースストック及びPAOベースストック
図1~4で使用されている比較によるGTLサンプル及びPAOサンプルの特性評価の結果は、表4にその概要が示されている。GTLの比較例は、次の刊行物、GTL#1はWO2007068795、GTL#2はWO2007068795、GTL#3はUS2005007720に示されている。PAOの比較例は、市販で入手可能なサンプルに関しては上記の技法を用いて測定された。
【表6】
【0128】
前述のデータをグラフ的に表す場合、本発明の炭化水素混合物を先行技術の炭化水素混合物と比較すると、重要な構造的な違いおよび特性的な違いは、明白に確認されており、本発明の炭化水素混合物の特性を驚くほど向上させることを立証している。図1図4は、上記の特性評価のうちの一部をグラフ的に表している。
【0129】
図1は、種々の炭化水素混合物について、BP/BIと分子あたりの内部アルキル分枝鎖との関係を示している。プロットで用いた直線は、BP/BI-0.6037(分子あたりの内部アルキル分枝鎖)+2.0という式を表す。本発明の全ての炭化水素混合物は、線より上に存在する。先行技術の炭化水素混合物のうち、いくつかの炭化水素もまた、線より上に存在する一方で、これらは図2図4に示されているように、本発明の炭化水素混合物の他の重要な特徴と合致していない。
【0130】
図2は、種々の炭化水素混合物について、BP/BIと分子あたりの5+メチル分枝鎖との関係を示している。これは本発明の炭化水素混合物に対する分子あたりの5+メチル分枝鎖が、0.3~1.5の固有の範囲内に収まっていることを示している。先行技術の全ての混合物は、範囲外である。
【0131】
図3および図4は、種々の炭化水素混合物について、Noack揮発度と-35℃でのCCSとの関係を示している。いくつかの市販で入手可能なグループIIIのベースオイルは、FIMSによる80%の偶数の炭素数といった要件と合致していないものだが、これが追加で含まれる。実線と点線は、本発明の固有の炭化水素混合物によって呈示されたNoack対-35℃でのCCSの上限と下限を表しており、この上限と下限はそれぞれ、Noack=2,750(-35℃でのCCS)(-0.8)+2およびNoack=2,750(-35℃でのCCS)(-0.8)-2である。本発明の全ての炭化水素混合物は範囲に該当している一方、本質的には先行技術の全てのサンプルは、図1および図2にて見られるような望ましい分枝を有さない高粘度のPAOを除いて、範囲外に存在していることが明らかにされ得る。図4は、-35℃にてCCSが800~2,800cPの範囲にて、図3を拡大した図である。一般に、エンジンオイルの配合に関して、-35℃での所与のCCS粘度についての低Noack揮発度が、0W-20~0W-8配合物といった最近のエンジンオイル配合物にとって理想的であるため、好ましいベースストックは、図3および図4の開始点に対してできる限り近接した範囲にある。
【0132】
前述のデータおよび図は、NMRによって特徴付けられるような本発明の炭化水素混合物の固有の分枝特徴、および生じた固有の特性を示している。構造的特徴の新規組合せは、高品質のベースストックの重要な性能属性である、極度に低い揮発度および良好な低温特性を含む傑出した特性をもたらすことが明らかとなっている。
実施例13
【0133】
表7は、3つの潤滑油組成物の比較を示しており、燃料経済性の改善の利点のために修正されたシーケンスのVIF試験で使用される場合の、本明細書に記載されるような本発明の従来の能力、高揮発度及び潤滑油組成物を示している。表7に示すように、90重量%の再生可能なベースオイルと、分散剤、洗浄剤、阻害剤、摩擦調整剤、及び流動点降下剤を含む10重量%の添加剤パッケージと、を含有する本発明の潤滑油を、SAE 0W-8潤滑油の粘度グレード規定を満たすように混合した。100℃での潤滑油の動粘度は5.47cSt、-35℃でのCCS粘度は2400cP、Noack揮発度は7%であった。比較用潤滑油1は、90%のAPIグループIVベースオイルと、分散剤、洗剤、抑制剤、摩擦調整剤、及び流動点降下剤を含む10重量%の同じ添加剤パッケージと、で作成された。この比較用潤滑油もまた、SAE 0W-8潤滑油の粘度グレード規定を満たすようにブレンドされた。比較用潤滑油の100℃での動粘度は4.82cStで、-35℃でのCCS粘度は2000cPで、Noack揮発度は10.8%であった。比較のために使用した第3のオイルは、市販で入手可能な潤滑油であるために購入した。この潤滑油はまた、SAE 0W-8潤滑油の粘度グレード規定にも適合した。第3の市販で入手可能な潤滑油の100℃での動粘度は5.31cStで、-35℃でのCCS粘度は1236cPで、Noack揮発度は30.8%であった。
【表7】
【0134】
基準潤滑油(候補潤滑油に対する各試験の前後に評価した)の残留物をすべて排除するための3度のフラッシング手順に続いて、本発明の潤滑油の5900mlのサンプルと2つの比較用潤滑油をGM3.6L V-6エンジンに添加した。燃料経済性改善(FEI)は、SAE 20W-30粘度グレードオイルである基準潤滑油で消費された燃料に対する燃料消費量の増減のパーセンテージとして表される。表7は、SAE 0W-8粘度グレードの比較用潤滑油が、2.5~3.0%の燃料経済性改善(FEI)の範囲で、その低粘度に基づいた燃料経済性の利点を示すことを示している。本発明の潤滑油で見出された3.7%のFEIは、高品質のグループIVベースオイルを使用したクラス最高の結果を表す従来能力の比較例1と比較してFEを1.2%改善することから、非常に驚くべき結果である。これらの潤滑油の粘度がほぼ同じであり、摩擦特性の原因となる添加剤システムが完全に同じであることを考えると、この結果は特に驚くべきものである。
【0135】
実施例14
【表8】
【0136】
表8は、本明細書に記載されるように燃料経済性保持利点のための修正されたシーケンスVIF試験で使用されるときの4つの潤滑油組成物の比較を示しており、2つは、従来の能力を示しており、2つは本発明の潤滑油組成物を示している。表8に示すように、45重量%の再生可能なベースオイルと、45%の再生不可能なベースオイルと、分散剤、洗剤、抑制剤、摩擦調整剤、及び流動点降下剤を含有する10重量%の添加剤パッケージと、を含有する本発明の潤滑油組成物1が、SAE0W-8潤滑油粘度グレードの規定を満たすようにブレンドされた。100℃での潤滑油の動粘度は4.4cStで、-35℃でのCCS粘度は1394cPで、Noack揮発度は14%であった。90重量%の再生可能なベースオイルと、分散剤、洗剤、抑制剤、摩擦調整剤、及び流動点降下剤を含む10重量%の添加剤パッケージと、を含有する本発明の潤滑油組成物2が、SAE0W-8潤滑油の粘度グレード規定を満たすためにブレンドされた。100℃での潤滑油の動粘度は5.5cStで、-35℃でのCCS粘度は2400cPで、Noack揮発度は7%であった。市販で入手可能な潤滑油であるため、比較のための比較オイル1を購入した。この潤滑油もまた、SAE0W-8潤滑油粘度グレード規定を満たした。第3の市販の潤滑油の100℃での動粘度は5.31cStで、-35℃でのCCS粘度は1236cPで、Noack揮発度は30.8%であった。比較用潤滑油2は、90%のAPIグループIVベースオイルと、分散剤、洗剤、抑制剤、摩擦調整剤、及び流動点降下剤を含む10重量%の同じ添加剤パッケージと、で作成された。この比較用潤滑油もまた、SAE0W-8潤滑油の粘度グレード規定を満たすためにブレンドされた。比較用潤滑油の100℃での動粘度は4.82cStで、-35℃でのCCS粘度は2000cPで、Noack揮発度は10.8%であった。
【0137】
基準潤滑油(候補潤滑油に対する各試験の前後に評価した)の残留物をすべて排除するための3度のフラッシング手順に続いて、本発明の潤滑油の5900mlのサンプルと2つの比較用潤滑油をGM3.6L V-6エンジンに添加した。燃料経済性改善(FEI)は、SAE20W-30粘度グレードオイルである基準潤滑油で消費された燃料に対する燃料消費量の増減のパーセンテージとして表される。
【0138】
GM3.6Lエンジンは、長時間のエージング期間中に120℃から140℃に上昇した潤滑油温度を除いて、ASTMシーケンスVIFエンジン試験でより詳細に規定された条件で運転された。修正された試験条件の詳細な説明を表4にまとめる。各候補試験は、フレッシュな状態の潤滑油の燃料経済性測定で開始され、その後、潤滑油エージング後172時間で追加の燃料経済性測定が続き、328時間後に再度行われた。172時間のエージング後、潤滑油は通常の排出間隔条件と同様に劣化する。したがって、172時間の試験期間後に実施された燃料経済性測定は、通常の排出間隔条件での燃料経済性の劣化を表している。328時間のエージング後、潤滑油は、延長した排出間隔条件と同様に劣化する。したがって、328時間の試験期間後に実施された燃料経済性測定は、延長された排出間隔条件での燃料経済性の劣化を表している。エージング条件は、ASTMシーケンスVIFエンジン試験でより詳細に規定されている。燃料経済性の評価は、表3でより詳細に規定されている6段階の総燃料消費量の測定値に基づいている。
【0139】
表8はまた、潤滑油が通常の延長された排出間隔条件と同様にエージングされた後の基準オイルに対する燃料経済性の変化(%)をまとめたものである。さらに、表8は、潤滑油の寿命全体にわたる燃料経済性の平均変化(%)をまとめたものである。燃料経済性値の平均変化は、通常の延長された排出間隔での燃料経済性の変化(%)の値を平均することによって計算された。
【0140】
表8に示されるように、高温でエンジン内においてエージングした後の比較用潤滑油は、本発明の潤滑油と比較して急速に増大する不利な点を示し、これは燃料経済性の恩恵の損失を受けず、潤滑油の寿命全体にわたって優れた燃料経済性保持力を備えている。例えば、比較例1と比較例2を通常の排出間隔条件と同様にエージングすると、これらは1%~2%の範囲で燃料経済性の向上を示した。一方で、本発明の潤滑油は、3%~4%の範囲で燃料経済性改善の利点を保持している。
【0141】
さらに、比較例1を延長した排出間隔条件と同様にエージングすると、その燃料経済性改善の利点がすべて失われ、基準オイルよりも高い燃料消費量が示された。比較例2は、延長された排出間隔条件と同様にエージングしたときに、燃料経済性の利点を約2%維持した。一方で、本発明の潤滑油は、延長された排出間隔条件でエージングされた場合、3%~4%の範囲で燃料経済性の改善の利点を保持した。
【0142】
典型的な延長された排出間隔条件では、本発明の潤滑油1及び2は、比較例よりも約1%~2%優れた燃料経済性保持の利点を示し、これは、高品質のグループIVベースオイルを使用するクラスで最高の結果を表している。これらの結果は非常に驚くべきものである。燃料経済性保持の利点での向上は、Noack揮発度の違いでは説明することができない。例えば、延長された排出間隔条件では、高揮発度の比較例1とクラス最高である例2は、20%のNoack揮発度の差異と、約2%の燃料経済性の利点を示した。これに基づくと、当業者は、比較例2と本発明の潤滑油2との間の4%のNOACK揮発度差異に基づいて、本発明の潤滑油2が、0.4%の燃料経済性の利点をもたらすと予想する。しかしながら、この結果は、比較例2と本発明の潤滑油2との間で> 2%の燃料経済性の利点があることを示した。さらに、本発明の潤滑油1は、クラス最高の比較例2と比較して、そのNoack揮発度が約4%高いにもかかわらず、1.3%の燃料経済性改善を示した。
【表9】
【0143】
表9は、4つの潤滑油組成物の比較を示しており、2つは従来の能力を示し、2つは本明細書に記載の本発明の2つの潤滑油組成物を示し、修正されたシーケンスVIF試験で使用されたときに、延長された排出間隔の期間にわたってエンジン内の高温にさらされた後の低減したカルシウム濃度増加レベルを示している。
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図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】