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特表2022-544298接着および潤滑に適合した組織修復膜、およびその調製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-17
(54)【発明の名称】接着および潤滑に適合した組織修復膜、およびその調製方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/20 20060101AFI20221007BHJP
   A61L 27/22 20060101ALI20221007BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20221007BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20221007BHJP
   A61L 27/14 20060101ALI20221007BHJP
   A61L 27/44 20060101ALI20221007BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20221007BHJP
【FI】
A61L27/20
A61L27/22
A61L27/18
A61L27/36 100
A61L27/14
A61L27/44
A61L27/54
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022508917
(86)(22)【出願日】2020-08-14
(85)【翻訳文提出日】2022-03-11
(86)【国際出願番号】 US2020046309
(87)【国際公開番号】W WO2021030660
(87)【国際公開日】2021-02-18
(31)【優先権主張番号】16/992,857
(32)【優先日】2020-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/887,146
(32)【優先日】2019-08-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517415528
【氏名又は名称】アクソジェン コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】ダイスター、カート
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AB11
4C081BA12
4C081BA16
4C081CA152
4C081CA232
4C081CA242
4C081CA291
4C081CD042
4C081CD052
4C081CD062
4C081CD072
4C081CD082
4C081CD092
4C081CD34
4C081DA12
4C081DC03
4C081EA02
(57)【要約】
本明細書には、組織修復膜の使用および移植を補助するための接着および/または潤滑を提供するための、および、移植中または移植後の治癒の促進および/または隣接する例えば組織などへの損傷を回避または最小限に抑えるための、ヒドロゲルポリマーで修飾した組織修復マトリックスが提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロゲルポリマーコーティングを含む組織修復膜であって、前記ヒドロゲルポリマーコーティングは、前記組織修復膜に自己接着および潤滑のうちの1つ以上を提供する、組織修復膜。
【請求項2】
前記ヒドロゲルポリマーは、ポリアニオン性ポリマーである、請求項1に記載の組織修復膜。
【請求項3】
前記ポリアニオン性ポリマーは、ヒアルロン酸、コンドロイチン、アルギン酸塩、酸化セルロース、ヘパリン、デルマタン、これら前述のポリマーの硫酸化型またはその他の修飾型、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される請求項2に記載の組織修復膜。
【請求項4】
前記ヒドロゲルポリマーは、ポリカチオン性ポリマーとさらに組み合わされる請求項2に記載の組織修復膜。
【請求項5】
前記ポリカチオン性ポリマーは、キトサン、ポリリジン、ポリオルニチン、ポリヘキサメチレンビグアニド、ポリエチレンイミン、ジエチルアミノエチルデキストラン、ポリ(アミドアミン)、第4級アンモニウム、それらのその他の修飾型、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される請求項4に記載の組織修復膜。
【請求項6】
前記ヒドロゲルポリマーは、ヒアルロン酸を含むポリアニオン性ポリマーを含み、かつ、キトサンを含むポリカチオン性ポリマーとさらに組み合わせられる請求項4に記載の組織修復膜。
【請求項7】
前記膜は、ヒト組織および動物組織、およびそれらの組み合わせから選択される請求項1に記載の組織修復膜。
【請求項8】
前記膜は、ヒトの死体の組織、ヒト胎盤組織、ブタ組織、反芻動物組織、天然ポリマーおよび合成ポリマーのフィルムおよび織布または不織布、およびそれらの組み合わせから選択される、請求項1に記載の組織修復膜。
【請求項9】
膜の表面上の活性な化学領域を増加させるために試薬で前記膜を処理することと、
ヒドロゲルポリマー上の活性な化学領域を増加させるために試薬で前記ヒドロゲルポリマーを処理することと、
処理された前記膜を処理された前記ヒドロゲルポリマーと組み合わせることで膜-ヒドロゲル複合体を提供することと
を含む、組織修復膜-ヒドロゲルポリマー複合体を調製する方法。
【請求項10】
前記ヒドロゲルポリマーは、ポリアニオン性ポリマーである請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ポリアニオン性ポリマーは、ヒアルロン酸、コンドロイチン、アルギン酸塩、酸化セルロース、ヘパリン、デルマタン、それらの硫酸化型またはその他の修飾型、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ヒドロゲルポリマーは、ポリカチオン性ポリマーとさらに組み合わされる請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記ポリカチオン性ポリマーは、キトサン、ポリリジン、ポリオルニチン、ポリヘキサメチレンビグアニド、ポリエチレンイミン、ジエチルアミノエチルデキストラン、ポリ(アミドアミン)、第4級アンモニウム、それらのその他の修飾型、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ヒドロゲルポリマーは、ヒアルロン酸を含むポリアニオン性ポリマーを含み、かつ、キトサンを含むポリカチオン性ポリマーとさらに組み合わせられる請求項12に記載の方法。
【請求項15】
処理された前記膜の前記活性な化学領域および処理された前記ヒドロゲルポリマーの前記活性な化学領域のうちの1つ以上を安定化させるために還元剤が前記膜-ポリマー複合体に添加される請求項9に記載の方法。
【請求項16】
基材と、
前記基材の表面の少なくとも一部分上のヒドロゲルポリマーコーティングであって、コーティングされた前記基材に接着および潤滑を提供する前記ヒドロゲルポリマーコーティングと、
を含む装置。
【請求項17】
前記ヒドロゲルポリマーは、ポリアニオン性ポリマーである請求項16に記載の装置。
【請求項18】
前記ポリアニオン性ポリマーは、ヒアルロン酸、コンドロイチン、アルギン酸塩、酸化セルロース、ヘパリン、デルマタン、それらの硫酸化型またはその他の修飾型、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される請求項17に記載の装置。
【請求項19】
前記ヒドロゲルポリマーは、ポリカチオン性ポリマーとさらに組み合わせられる請求項17に記載の装置。
【請求項20】
前記ポリカチオン性ポリマーは、キトサン、ポリリジン、ポリオルニチン、ポリヘキサメチレンビグアニド、ポリエチレンイミン、ジエチルアミノエチルデキストラン、ポリ(アミドアミン)、第4級アンモニウム、それらの他の修飾型、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される請求項19に記載の装置。
【請求項21】
前記ヒドロゲルポリマーは、ヒアルロン酸を含むポリアニオン性ポリマーを含み、かつ、キトサンを含むポリカチオン性ポリマーとさらに組み合わせられる請求項19に記載の装置。
【請求項22】
前記基材は、組織由来の膜、天然ポリマーおよび合成ポリマーのフィルムおよび織布または不織布から選択される請求項16に記載の装置。
【請求項23】
基材およびヒドロゲルポリマーのうちの少なくとも1つを試薬で処理することで、前記基材および前記ヒドロゲルポリマーのうちの前記処理された少なくとも1つの上の活性な化学領域を増加させることと、
前記基材および前記ヒドロゲルポリマーを組み合わせることでそれら材料を反応させ結合させることと
を含む基材-ヒドロゲルポリマー複合材を調製する方法。
【請求項24】
前記ヒドロゲルポリマーは、ポリアニオン性ポリマーである請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記ポリアニオン性ポリマーは、ヒアルロン酸、コンドロイチン、アルギン酸塩、酸化セルロース、ヘパリン、デルマタン、ケラチン、それらの硫酸化型、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記ヒドロゲルポリマーは、少なくとも1つの領域において、ポリカチオン性ポリマーとさらに組み合わせられる請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記ポリカチオン性ポリマーは、キトサン、ポリリジン、ポリオルニチン、ポリヘキサメチレンビグアニド、ポリエチレンイミン、ジエチルアミノエチルデキストラン、ポリ(アミドアミン)、それらの第4級アンモニウム型、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記ヒドロゲルポリマーは、ヒアルロン酸を含むポリアニオン性ポリマーを含み、少なくとも1つの領域において、キトサンを含むポリカチオン性ポリマーとさらに組み合わせられる請求項26に記載の方法。
【請求項29】
アルデヒド化学によってイミン架橋が生成され、そのイミンをアミンに還元して前記処理された基材と前記処理されたヒドロゲルポリマーとの結合を安定化するように還元剤が添加される請求項23に記載の方法。
【請求項30】
基材と、
前記基材の少なくとも1つの表面上に少なくとも部分的にコーティングされたヒドロゲルポリマーであって、前記ヒドロゲルポリマーが水和状態であるとき、静止摩擦係数を減少させる前記ヒドロゲルポリマーと
を含む組織修復膜。
【請求項31】
前記基材は、組織由来の膜、天然ポリマーおよび合成ポリマーのフィルムおよび織布または不織布のうちの1つ以上を含む請求項30に記載の組織修復膜。
【請求項32】
前記基材は、小腸粘膜下組織シートである請求項30に記載の組織修復膜。
【請求項33】
前記ヒドロゲルポリマーはヒアルロン酸を含む請求項30に記載の組織修復膜。
【請求項34】
前記ヒドロゲルポリマーはアルギン酸塩を含む請求項30に記載の組織修復膜。
【請求項35】
前記ヒドロゲルポリマーは、ヒアルロン酸およびアルギン酸塩の組み合わせを含む請求項30に記載の組織修復膜。
【請求項36】
前記アルギン酸塩の少なくとも部分的なイオン架橋を提供する二価イオンをさらに含む請求項34に記載の組織修復膜。
【請求項37】
前記アルギン酸塩の少なくとも部分的なイオン架橋を提供する二価イオンをさらに含む請求項35に記載の組織修復膜。
【請求項38】
前記ヒドロゲルポリマーの少なくとも一部に隣接する、ヒアルロン酸の少なくとも部分的なコーティングをさらに含む請求項35に記載の組織修復膜。
【請求項39】
前記ヒドロゲルポリマーは、少なくとも部分的に物理的に前記基材を相互浸透する請求項30に記載の組織修復膜。
【請求項40】
基材を提供することと、
ヒドロゲルポリマーを含む溶液に前記基材を浸すことと、
ヒドロゲルポリマーの前記溶液に浸された前記基材を乾燥させることで、前記基材上に乾燥されたヒドロゲルポリマーの少なくとも部分的なコーティングを提供することと
を含む組織修復膜の調製方法。
【請求項41】
前記基材は、組織由来の膜、天然ポリマーおよび合成ポリマーのフィルムおよび織布または不織布のうちの1つ以上を含む、請求項40に記載の組織修復膜の調製方法。
【請求項42】
前記基材は小腸粘膜下組織シートを含む、請求項40に記載の組織修復膜の調製方法。
【請求項43】
前記ヒドロゲルポリマーはヒアルロン酸を含む請求項40に記載の組織修復膜の調製方法。
【請求項44】
前記ヒドロゲルポリマーはアルギン酸塩を含む請求項40に記載の組織修復膜の調製方法。
【請求項45】
前記ヒドロゲルポリマーは、ヒアルロン酸およびアルギン酸塩の組み合わせを含む請求項40に記載の組織修復膜の調製方法。
【請求項46】
前記アルギン酸塩の少なくとも部分的なイオン架橋を提供する二価イオンを添加することをさらに含む請求項44に記載の組織修復膜の調製方法。
【請求項47】
前記アルギン酸塩の少なくとも部分的なイオン架橋を提供する二価イオンを添加することをさらに含む請求項45に記載の組織修復膜の調製方法。
【請求項48】
ヒアルロン酸を含む溶液中に前記コーティングされた基材を浸すことで、前記ヒドロゲルポリマーに隣接するヒアルロン酸の少なくとも部分的なコーティングを提供することをさらに含む請求項45に記載の組織修復膜の調製方法。
【請求項49】
前記ヒドロゲルポリマーは、少なくとも部分的に物理的に前記基材を相互浸透する請求項40に記載の組織修復膜の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、損傷した組織の治療に関連する。より具体的には、本開示は、損傷した組織を強化、保護または治療し、膜に接着性および/または潤滑を提供するために用いられ得る膜に関連する。
【背景技術】
【0002】
中枢神経系(CNS)および末梢神経系(PNS)のどちらであっても、神経系への傷害は、身体的傷害、神経障害、特定の医療処置または治療法、虚血、腫瘍、代謝または栄養障害、認知障害または気分障害、化学物質や薬物への曝露、感染症、および様々な疾患によって引き起こされ得る。軸索の再生は1日あたり数ミリメートルに制限され、かつ、かなりのレベルの成長阻害剤が存在し得るので、神経系の傷害から回復するまでの期間は長いことがよくある。傷害後の神経再生を補助することができる効果的な治療および方法の開発に対する需要が依然残されている。
【0003】
神経損傷の既知の治療法は、手術中、通常、縫合糸またはマイクロクリップによって固定される膜で、負傷した神経を取り囲むか、または巻くことを用いる。この処置では、追加の医療機器(縫合糸やクリップなど)が必要であり、追加の手術時間が必要であり、特に縫合糸を用いる場合は、かなりの顕微手術スキルが必要になり得る。加えて、固定に使用される処置および追加の材料(例えば、縫合糸の結び目および/またはマイクロクリップ)は、神経および周囲の組織への潜在的な外傷、および固定装置の材料への反応による接着の虞を高め得る。
【0004】
SepraFilmなど、神経損傷の治療に使用できる既存の膜製品がいくつかある。SepraFilmは、2つの陰イオン性多糖類、すなわちヒアルロン酸ナトリウムおよびカルボキシメチルセルロースで構成される、無菌で生体吸収性の半透明の接着バリアである接着バリア膜である。加えて、羊膜嚢ベースの製品も利用できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらの製品の重大な欠点は、それらが機械的に弱いため、術野内で効果的に取り扱えないことである。この機械的な弱点はまた、それらが機械的に固定されるのを妨げるし、それら装置は神経に強く接着してもいないため、配置後の移動とその結果としての保護処置の失敗のリスクもある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、負傷した組織を取り囲むことができたり、自己接着性であったり、組織など周囲のまたは隣接する物質との摩擦といった望ましくない相互作用を低減するための潤滑を提供可能であってもよい装置に関連する。加えて、本開示は、いくつかの使用の場合において、損傷した組織を固定するために必要である製品/構成要素の数を減少させ得る。
【0007】
本開示のいくつかの態様と整合して、本開示の装置を使用することにより、外科的処置を簡素化することができ、総手術時間を短縮することができる。
いくつかの実施形態において、本開示は、線維症の虞、および組織修復に現在使用されている縫合糸およびクリップなど締結/固定装置からの合併症の低減を可能にし得る。
【0008】
本開示と整合するいくつかの実施において、周囲または隣接する物質、例えば組織への接着を最小限に抑える組織修復膜の自己接着は、組織修復膜の適用を大幅に容易にし得、その結果、組織全体の修復を大幅に容易にし得る。これにより、外科医は、損傷した組織をより良好に取り囲む/支持するために、手術中に膜の位置を調整可能であり得るので、外科医にとって、制御、適応性、および柔軟性の向上につながり得る。外科医は、膜の位置を単一回ではなく複数回調整できる場合がある(縫合糸または他の締結装置で損傷した組織に膜を固定する現在の要件のため)。
【0009】
いくつかの実施形態において、本開示は、生体適合性ヒドロゲル材料の表面層を追加することによる組織修復膜への自己接着能力を提供し得る。いくつかの例示的な実施形態において、ヒドロゲル材料は、低い細胞接着特性を示し得、そして、あったとしても最小限のバルク効果を組織修復膜に加え得る。
【0010】
いくつかの実施形態において、組織修復膜は、生体適合性ヒドロゲル材料を受け入れるように(化学的または物理的に)修飾可能であり得る。いくつかの実施形態において、組織修復膜は、ポリアニオン性および/またはポリカチオン性の材料と結合できる場合がある。
【0011】
本開示と整合する一例示的な実施形態において、組織修復膜は、組織修復膜に接着性かつ潤滑性の表面を提供するために親水性材料で処理し得る。一例示的な実施形態においては、組織修復膜は神経保護膜であり得る。本開示と整合するいくつかの実施形態においては、周囲または隣接する物質、例えば、組織に対する膜の滑走が改善され得、膜への軟組織の付着が減少され得る。潤滑はまた、早期または後期の離床(mobilization)に対する外科医の選択肢を増やし得る。
【0012】
生体適合性ヒドロゲル材料の一例には、ヒアルロン酸が含まれ得る。ヒアルロン酸は、結合組織、上皮組織、および神経組織全体に広く分布しているアニオン性の非硫酸化グリコサミノグリカンである。ヒトの滑膜ヒアルロン酸は、分子あたり約300万~700万ダルトンの範囲である。いくつかの実施形態において、ヒアルロン酸の使用は、膜のリモデリング特性を改善し得る。
【0013】
一例示的な実施形態において、本開示は、生体適合性ヒドロゲル材料の組織修復膜への結合を用い得る。一例示的な実施形態において、本開示は、生体適合性ヒドロゲル材料および組織修復膜の共有結合を提供し得る。これは、生体適合性ヒドロゲル材料と共有結合することを可能にする化学結合を膜の外面に有する組織修復膜を使用することによって達成することができる。本開示と整合するいくつかの実施形態は、適切な化学結合基を加えるための組織膜を修飾する方法を提供し得る。一例示的な実施形態において、膜は、生体適合性ヒドロゲル材料上の適切な結合基と共有結合することができる第一級アミン、または他のアルデヒド反応性基を含み得る。生体適合性ヒドロゲル材料はまた、物理的な結合などポリマー鎖の相互浸透を介して、下にある組織修復膜に組み込まれ得る。組織修復膜および生体適合性ヒドロゲル材料の結合は、非結合性コーティングで可能であるより、膜上へのコーティングのより強固な保持を提供し得る。
【0014】
加えて、ヒアルロン酸または同等の材料などの生体適合性ヒドロゲル材料は、その親水性のために、周囲または隣接する物質、例えば組織に対して膜に潤滑を提供し得る。同様の同等の材料には、アルギン酸塩、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、または同様のグリコサミノグリカンおよび関連するポリマーが含まれ得る。
【0015】
本開示と整合するいくつかの実施形態は、組織修復膜の表面へのポリカチオン性およびポリアニオン性表面領域の組み込みを提供し得る。これらの領域は、互いに接触すると、高分子電解質複合体を形成し得る。正に帯電した基と負に帯電した基との間のこの相互作用は、それ自体への膜の接着を提供し得る(例えば、いくつかの実施形態において、周囲の組織への限定された接着のみを伴う)。
【0016】
本開示は、組織修復膜上にポリアニオン性およびポリカチオン性の様々な程度のコーティングを有し得る。1:99のポリアニオン性/ポリカチオン性から99:1のポリアニオン性/ポリカチオン性までのコーティングのレベルは、本開示の範囲内である。一例示的な実施形態において、ポリアニオン性コーティングは、膜領域の大部分にわたって用いられ得る。これにより、組織などの周囲または隣接する物質への膜の摩擦および/または接着性が低下するが、なお膜がそれ自体に接着することを可能にするため、ポリカチオン性領域との接着が可能になり、また、組織修復膜が適用され得る組織に対する高度の潤滑が可能になり得る。
【0017】
本開示は、ヒドロゲル材料を組織修復膜に適用する方法を提供し得る。
本開示は、あらゆるタイプの組織修復に恩恵を提供し得る。本発明に適切であり得る組織のタイプには、神経組織、筋肉組織、腱、靭帯、皮膚組織、心臓組織、血管組織、硬膜組織、筋膜組織、器官周囲の漿膜組織、または骨膜が含まれる。
【0018】
本発明は、ヒトでの使用に限定されず、獣医学的使用とも適合性があるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】一例示的な実施形態による「アルデヒドHA」構造の例示的な一例を示す図。
図2】一例示的な実施形態によるヒドロゲルポリマーの骨格内に生成されたアルデヒドの例示的な一例を示す図。
図3】一例示的な実施形態による、穏やかな還元剤で還元されたイミン残基(非共有結合アルデヒドモチーフ)の例示的な一例を示す図。
図4】一例示的な実施形態による正に帯電したポリマーが負に帯電したポリマーとイオン的に相互作用して、固体/ゲルを生成するときに生じ得る高分子電解質の複合体形成の例示的な一例を示す図。
図5】一例示的な実施形態によるヒドロゲルポリマー/膜およびポリカチオン性ポリマー複合体形成の例示的な一例を示す図。
図6】一例示的な実施形態によるいくつかの試験サンプルの静摩擦係数の実験的評価を示すチャートを示す図。
図7】一例示的な実施形態によるいくつかの試験サンプルの静摩擦係数の実験的評価を示すチャートを示す図。
図8】一例示的な実施形態によるいくつかの試験サンプルの静摩擦係数の実験的評価を示すチャートを示す図。
図9】一例示的な実施形態によるいくつかの試験サンプルの静摩擦係数の実験的評価を示すチャートを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
ここで、本開示と整合する複数の実施形態の記載が与えられる。本開示は、他の多くの形態および形状をとることができると予想されるため、以下の開示は、例示的であり、限定的ではないことを意図しており、開示の範囲は、添付の特許請求の範囲を参照することによって決定されるべきである。
【0021】
適切なヒドロゲル材料の例には、限定するものではないが、コンドロイチン硫酸およびヒアルロン酸などのポリアニオンポリマー(ポリマーに対する正味の負電荷)の細胞外マトリックス成分が含まれ得る。これらの材料は、両方の材料が天然の細胞外マトリックスの要素であるため、通常、比較的高度な生体適合性を有する親水性の高い多糖類である。適切なポリマーは、細胞接着性が乏しい場合がある。細胞膜は通常、負電荷電位(ほとんどの細胞の通常の値は-40~-80mVの範囲)を有し得る。したがって、コンドロイチン硫酸やヒアルロン酸またはそれらの同等物などの負に帯電したポリマーは、一般に細胞組織に接着しない(または弱くのみ接着する)。加えて、これは、ヒドロゲルポリマーの潤滑の恩恵を提供し得る手段の1つであり得る。
【0022】
ヒアルロン酸は、複雑な分子量駆動の相互作用を有し得る。特定の実施形態では、高分子量ヒアルロン酸は、抗細胞接着を提供し得、細胞遊走を遮断および/または阻害し得る。これは損傷した組織に追加のバリアを提供し得る。他の複数の実施形態において、低分子量ヒアルロン酸は血管新生因子として作用し得る。
【0023】
追加のアニオン性ポリマー材料は、限定するものではないが、コンドロイチン、アルギン酸塩、酸化セルロース、特に非再生酸化セルロース(酸化セルロースのグレードがカルボン酸基およびアルデヒド基の両方を含む)、ヘパリン、およびこれら前述のポリマーの硫酸化型、およびそれらの組み合わせから選択することができる。
【0024】
追加のカチオン性ポリマー材料は、限定するものではないが、ポリリジン、ポリオルニチン、ポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)、ポリエチレンイミン(PEI)、ジエチルアミノエチルデキストラン(DEAE-デキストラン)、ポリ(アミドアミン)(PAMAM)、およびこれら前述のポリマーの第4級アンモニウム型、およびそれらの組み合わせから選択され得る。
【0025】
本開示に関連して、使用するのに適切な組織修復膜は、死体の組織を含むヒト組織、限定するものではないが、ブタ組織および反芻動物組織などの動物組織、胎盤組織、幹細胞組織、またはそれらの組み合わせから調製され得る。他の実施形態によれば、天然材料、および織布コラーゲンまたは不織布コラーゲン、ポリカプロラクトンまたはポリ乳酸繊維の膜などであるがこれらに限定されない合成材料の両方を含む、様々な追加および/または代替の組織修復膜を利用し得る。
【0026】
本開示と整合する膜は、様々な処置によってヒドロゲル材料を受け入れることができることがある。そのような一処置は、アルデヒド反応基と第一級アミンとの間の共有結合を提供することを含み得る。ポリカチオン性材料はまた、共有結合または他の既知の方法のいずれかを介して膜に結合され得る。
【0027】
本開示と整合する複数の実施形態は、酸化処置を用いて、ヒドロゲル材料の多糖骨格(ヒアルロン酸など)の複素環の一部を切断して、2つのアルデヒドモチーフをもたらし、ポリマー自体は元の骨格の結合のエーテル結合によって維持され得る。
【0028】
適切な例示的な酸化剤には、過ヨウ素酸ナトリウムおよび四酢酸鉛が含まれ得る。あるいは、第1級アルコール基は、TEMPO触媒または同等のケミストリーによって部分的にアルデヒドに酸化し得る。
【0029】
図1は、例示的な一例の実施形態と整合する、膜表面上の第1級アミンへの結合の調製において酸化されたヒアルロン酸モノマー(例えば、「アルデヒドHA」構造の一例)を示したものである。
【0030】
本開示と整合するいくつかの実施形態は、様々な程度の置換を有するヒドロゲルポリマーを用い得る。例示的な置換レベルの一例は、おおよそ5%であり得る。約1%~約100%の置換レベルは、本開示の範囲内である。
【0031】
図2に示されるように、上に示したヒアルロン酸内などのヒドロゲルポリマーの骨格内で生成されたアルデヒドは、タンパク質ベースの膜内に存在する遊離アミン基と容易に反応し、イミン結合を介してヒアルロン酸ポリマーを膜につなぎ留める場合がある。他の結合は、本開示の範囲内にある。他の結合の例には、異なるケミストリーによるペプチド結合、エーテル結合、エステル結合、およびジスルフィド結合が含まれる。
【0032】
その後、図3に示すように、イミン残基(非共有結合したアルデヒドモチーフ)をシアノ水素化ホウ素、トリアセトキシ-ボロルビドリド(tri-acetoxy-bororbydride)、または水素化ホウ素(特にこれらのイオンのナトリウム塩)などの穏やかな還元剤で還元し得る。あるいは、場合によっては、フォラミド(foramide)、固体亜鉛、アスコルビン酸、チオ硫酸ナトリウム、亜ジチオン酸ナトリウムなどのさらに穏やかな還元剤が有用である場合がある。イミンを還元することは、関連する色(例えば、通常は赤茶色)の脱色と安定性の向上に役立つことがある。
【0033】
反応条件を注意深く監視し、適用して、ヒドロゲルポリマーおよび膜、特にポリマーで処理された各材料の領域への修飾を制限し得る。
本開示と整合するいくつかの実施形態は、ヒドロゲル材料と組織修復膜との間の結合を提供し得る。特定の実施形態は、2つの成分間に高度の結合を有し得る。例示的な一例の実施形態において、結合のレベルは、ポリマー内のおおよそ全てのモノマー(100%の修飾)から1000モノマーごと(0.1%の修飾)であり得る。他の実施形態は、おおよそ20分の1(5%)から5分の1(20%)の結合を有するであろう。
【0034】
ヒドロゲル材料と膜との間の他の結合技術は、本開示の範囲内にある。ヒドロゲル材料は、他の既知の結合技術を介して膜表面にグラフトされ得る。可能な技術には、限定するものではないが、EDC/NHSエステル、スルフヒドリル/ジスルフィド結合、チオエン反応(thio-ene reaction)、マレイミド、エポキシド、イミドエステル、任意の「クリック」ケミストリー、またはそれらの組み合わせが含まれる。
【0035】
EDC(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド)は、カルボキシル基またはホスフェート基を第一級アミンに結合するために使用される長さゼロの架橋剤である。EDCを使用してアミド結合を形成し得る。EDCの安定性を高めるために、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)またはN-ヒドロキシスルホクスクシンイミド(hydroxysulfoxuccinimide、スルホ-NHS)を使用し得る。スルホ-NHSの添加は、アミン反応性中間体をアミン反応性スルホ-NHSエステルに変換することにより、そのアミン反応性中間体を安定化し、EDCを介したカップリング反応の効率を高め得る。
【0036】
一例示的な実施形態において、マレミド(malemide)化学と同様に、ヒアルロン酸の酸化(前述)は、アルデヒドがカルボン酸に変換されるまで継続し得る。2つのカルボン酸は、空間的に近接した配置のため、マレミド化学の活性を模倣し得、それにより、2つのカルボン酸部分が単一の中心炭素に結合し、アミンとの異常に強いイオン結合を生成する。
【0037】
第一級アミン、第三級アミン、第四級アミン、または同様の化学的性質を有する置換基などのアルデヒド反応基を有する膜は、本開示に組み込まれ得る。これらの膜は、アルデヒド基または同等の結合置換基との結合を形成するヒドロゲル材料と同様に反応して、本明細書に記載の組織修復膜としての使用に適切な膜/ヒドロゲルポリマー材料を形成し得る。
【0038】
加えて、物理的結合は、乾燥前に膜をゾルゲルに浸すことによって得られ、ミクロまたはマクロスケールの相互浸透ポリマーネットワーク(基底膜およびヒドロゲル)をもたらす場合がある。
【0039】
本開示と整合するヒドロゲルポリマー-膜複合体を調製するために使用され得る様々な方法がある。
一例示的な実施形態において、膜は、乾燥および滅菌前にヒドロゲルポリマーの溶液に浸され得る。水和すると、ヒドロゲルポリマーは、膜の表面、および、膜の大部分に存在し得、本明細書に記載されるのと同様の機能(接着および/または潤滑)を提供し得るが、膜に共有結合され得ない。これは、ヒドロゲルポリマーが膜の表面に保持されることを可能にし得、および、膜の周りのヒドロゲルポリマーの移動および拡散を容易にさせ得る。そのような一例示的な実施形態において、結合相互作用はポリマー鎖の物理的絡み合いであり得るので、ヒドロゲルポリマーと膜との間に反応種は必要とされない場合がある。アルギン酸塩塩または別のイオン性架橋ポリマーが存在する場合、この物理的絡み合い効果は、カルシウムイオンを導入してポリマー成分をイオン的に架橋することによってさらに増大させることができる。
【0040】
例示的な別の例の実施形態において、膜との複合体形成の前に、ヒドロゲルポリマーを部分的に酸化して、ポリマー鎖の特定のモノマー内に反応基を生成し得る。一実施形態において、ヒアルロン酸を過ヨウ素酸ナトリウムで酸化して、ポリマー鎖内に反応性アルデヒド基を生成し得る。そのアルデヒド基は、その後、組織ベースの膜内の第一級アミン基と反応して、イミン結合および膜/ヒドロゲルポリマー複合体を形成し得る。その後、残りの反応性基(アルデヒド)をアルコール基に還元し得る。適切な還元剤の例には、限定するものではないが、シアノ水素化ホウ素ナトリウムが含まれ得る。本開示に関連して用いられ得る他の還元剤は、場合によっては、トリアセトキシホウ酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム(特にこれらのイオンのナトリウム塩)、ホルアミド、固体亜鉛、アスコルビン酸、チオ硫酸ナトリウムおよび亜ジチオン酸ナトリウムを含み得る。
【0041】
本開示と整合するさらなる実施形態において、ポリカチオン性ポリマーは、ポリアニオン性ヒドロゲルポリマー/膜複合体の少なくとも一部の上にさらに添加され得る。あるいは、適用の順序を逆にする場合がある(例えば、ポリカチオン性ポリマー、その後ポリアニオン性)。
【0042】
高分子電解質の複合体形成は、正に帯電したポリマーが負に帯電したポリマーとイオン的に相互作用して、固体/ゲルを生成するときに生じ得る。これは、一般に図4に示されるように、生理学的条件でキトサンおよびヒアルロン酸で生じ得る。
【0043】
アルデヒド基を含むように修飾されたヒアルロン酸塩(例えば、図5に示されるホルミルヒアルロン酸ナトリウム)は、膜と、その後キトサンと、連続的に反応され得る。これにより、ヒアルロン酸と膜の表面(およびおそらく膜の大部分内も)との間にイミン結合を生成し、また、キトサンとヒアルロン酸表面修飾膜との間にイミン結合を生成し得る。高分子電解質の複合体形成も生じ得る。図5は、一般に、ヒドロゲルポリマー-膜およびポリカチオン性ポリマー複合体形成を含む、本開示と整合する実施形態を示す。
【0044】
すべてのカルボン酸基および第一級アミン基が生理学的条件で適切にイオン化されるわけではない。必要な反応条件を提供するために、形成溶液のpHまたは他の特質を調整するために試薬が必要になる場合がある。酸化ヒアルロン酸など、ヒドロゲルの残留アルデヒド基は、所望の場合、様々な化学物質によって中和し得る。一実施形態において、アルデヒドは、トリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウムなどの還元剤と反応することによってアルコール基に還元され得る。他の適切な還元剤は、場合によっては、限定するものではないが、トリアセトキシ-ホウ酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム(特にこれらのイオンのナトリウム塩)、ホルアミド、固体亜鉛、アスコルビン酸、チオ硫酸ナトリウム、および亜ジチオン酸ナトリウムを含み得る。
【0045】
いくつかのさらなる例示的な例の実施形態において、中和は、例えば、グリシンなど小分子アミンを用いて行われ得、追加のイミン結合をもたらすか、または、亜硫酸水素ナトリウムまたは亜ジチオン酸ナトリウムなどの硫黄ベースの還元剤を用いて行われ得、それはバイサルファイト付加物(bisulfite adducts)を生成する。バイサルファイト付加物の追加の利点は、高分子電解質の複合体形成にも関与できることである。
【0046】
ポリカチオンポリマーおよびポリアニオンポリマーの分子量は、膜-ポリマー複合体の結合強度に影響を与え得る。具体的には、より大きい分子量は、相互作用および結合力の増加と相関し得る。ポリアニオン性ポリマーの分子量の例は、10,000Daから4,000,000Daを超える範囲である。いくつかの実施形態において、ポリアニオン性ポリマーの分子量は、1,000,00~2,000,000Daの範囲である。ポリカチオン性ポリマーの分子量の例は、10,000Daから4,000,000Daを超える範囲である。いくつかの実施形態において、ポリカチオン性ポリマーの分子量は、80,000~120,000Daの範囲である。加えて、分子量が増加した分岐ポリマーまたは架橋ポリマーも使用し得る。
【0047】
特にヒアルロン酸に関しては、分子量がポリマー-膜複合体の細胞間相互作用/生体適合性の重要な特徴であり得る。分子あたりのアルデヒドの数などの置換度を調整することは、複合体を形成したヒアルロン酸断片の平均サイズに影響を与え得る。いくつかの実施形態において、約1000kダルトン以上の範囲の分子量は、炎症および細胞遊走の防止に関連し得る。より小さな分子量の断片、特に分子量が約10kダルトン未満のポリマーは、血管新生および創傷治癒の促進に関連し得る。これらの低分子量ポリマーはまた、炎症の増加と関連し得る。最大分子量ポリマーは、いくつかの実施形態において、ポリマーフラグメントサイズを減少させ続けることがある細胞外環境で一般的である多くの酵素の観点から、バイオ再生の利点を提供し得る。
【0048】
加えて、いくつかの実施形態において、高分子量のアルデヒド修飾分子は、より大きな水力半径を有し得、これにより、ポリマーが膜表面とのより高度な相互作用および結合を有することが可能になる場合がある。対照的に、より低分子量のポリマーは、状況によっては、膜をより高度に浸透する場合がある。
【0049】
前述と整合して、一般に、本開示は、周囲または隣接する物質、例えば組織に対してほとんど接着性を示さずに、独自に自己接着し得る(すなわち、組織修復膜がそれ自体に接着し得る)組織修復膜を一般に提供し得るか、および/または、組織修復膜と周囲または隣接する物質、例えば組織との間に潤滑効果および/または比較的低い摩擦係数を提供することさえあり得る。いくつかの実施において、組織修復膜は、組織修復膜上のポリアニオン性表面領域およびポリカチオン性表面領域を含み得る。いくつかの実施において、これらのポリアニオン性表面領域およびポリカチオン性表面領域は、それらが互いに接触するとき、高分子電解質複合体を形成し得る。正および負に帯電した基の間の相互作用は、組織修復膜のそれ自体への優先的な接着を提供し得、周囲または隣接する物質、例えば組織への接着があったとしても制限される。いくつかの実施において、ポリアニオン性表面領域は、周囲または隣接する、例えば、組織(すなわち、組織修復膜によって接触される組織)に関して、組織修復膜の潤滑層として作用し得る。潤滑層として作用する場合、ポリアニオン性表面領域は、いくつかの実施形態において、周囲、例えば、組織(すなわち、組織修復膜によって接触される組織)に対する組織修復膜の摩擦および/または接着性を低下させ得るが、なお組織修復膜がそれ自体に接着することを可能にし得る。上記のように一般的に、いくつかの例示的な実施形態において、高分子電解質の複合体形成は、正に帯電したポリマーが負に帯電したポリマーとイオン的に相互作用するときに生じ得、いくつかの実施において、固体および/またはゲル物質をもたらす。いくつかの例示的な実施形態において、高分子電解質複合体形成は、生理学的条件において、キトサンを含むポリカチオン性ポリマーとヒアルロン酸を含むポリアニオン性ポリマーとの間で生じ得る。上記のように、他の適切なポリカチオン性ポリマーおよびポリアニオン性ポリマーもまた、所望の性能を達成するために使用され得る。
【0050】
いくつかの実施形態と整合して、ポリカチオン性ポリマーおよびポリアニオン性ポリマーのうちの1つ以上を含む本明細書のヒドロゲルポリマーは、組織修復マトリックス以外の実施に関連して使用され得る。例えば、いくつかの実施形態において、本明細書に記載のヒドロゲルポリマーを使用して、神経修復に関連しておよび/または他の治療分野または治療事業に関連して使用され得る布地、ガーゼ、他のタイプの材料の少なくとも一部を処理および/またはコーティングし得る。そのような実施において、ヒドロゲルは、任意の適切な基材に適用され得る。例示的な基材は、ポリマー材料、フィルム、布地、紙などを含む、天然材料および/または合成材料を含み得る。ヒドロゲル材料でコーティングされた基材は、周囲または隣接する物質に対してほとんど接着性を示さず、および/またはコーティングされた材料と周囲または隣接する物質との間の潤滑効果および/または比較的低い摩擦係数さえ提供する一方で、自己接着特性を提供し得る。
【0051】
例示的な配合物の潤滑性は、セルロースシートに対してサンプル配合物で処理された試験膜の静止摩擦係数を試験することによって実験的に評価された。実験の目的で、Axogen Corporationから入手可能なAxoguard Nerve Protectorと一致する小腸粘膜下組織(small intestine submucosa、SIS)シートを試験膜として使用し、印刷用紙をセルロースシート基材として使用して組織をシミュレートした。SIS膜は、そのまま(適用された試験配合物なし)で、ヒアルロン酸、アルギン酸、および/またはコンドロイチン硫酸を含む様々な配合物で使用された。SIS膜(そのままおよび/または試験配合物で処理)を、生理的濃度(約1.3mM)の塩化カルシウムを含有する生理食塩水(おおよそ0.9wt%のNaCl)でおおよそ15秒間水和し、金属ブロックに巻き付けた。SIS膜(処理済みおよび未処理)を生理食塩水および塩化カルシウム溶液に沈めたセルロースシートの上に置き、ストリングプーリーシステム(string-pulley system)を使用して吊り下げ式質量ホルダーをブロックに取り付けた。ブロック(セルロースシートに対して配置されたSIS膜を含む)がセルロースシートを横切って滑り始めるポイントまで、ピペットを使用して少量の質量(水の形で)を質量ホルダーに加えた。質量ホルダーと加えられた水を足した重量を記録し、静止摩擦係数を次のように計算した:静止摩擦係数=質量(吊り下げ)/質量(重いブロック)。静止摩擦係数の評価は、0日目に実施し、塩化カルシウムを含む生理食塩水でSIS膜(未処理および処理済み)をおおよそ15秒間水和させ、セルロース表面に対して試験した。静止摩擦係数の評価はまた、1日目に実施し、塩化カルシウムを含む生理食塩水にSIS膜(未処理および処理済み)を4℃で24時間浸したままにした。
【0052】
異なる試験配合物の試験サンプルは、約3.5X5cmのSIS膜を約40mlの所望の配合物を含有する50mlのコニカルチューブに4℃で約27時間沈めることによって調製した。27時間後、膜を配合物から取り出し、タイベックシート上に置き、別のタイベックシートで覆った。その後、膜を真空オーブン内に置き、15mbarの圧力かつ35℃で一晩適合性のあるセットで覆い、潤滑剤配合物の薄い乾燥層の形成を可能にした。タイベックシートの上に2層のシリコンパッド(それぞれおおよそ5mmの厚さ)を追加して、乾燥中に膜を平らに保った。過剰の乾燥した潤滑剤を膜の縁から除去した。その後、膜を気密容器に保存し、使用するまで4℃で保存した。
【0053】
図6に示されるように、ヒアルロン酸は、未処理のSISと比較して、アルギン酸塩より、静止摩擦係数のより大きい低減を示した。しかしながら、アルギン酸塩は、0日目の結果と1日目の結果の比較によって示されるように、潤滑特性のより良好な保持を示した。ヒアルロン酸およびアルギン酸塩の両方は、標準物質としてのPVAより大きい潤滑特性を示した。加えて、以下の図7および表1に示されるように、0日目の結果および1日目の結果の比較によって示されるようにより高分子量のヒアルロン酸(HMW HA試験済み=100~150万ダルトン)は、より低分子量のヒアルロン酸(LMW HA試験済み=80~100万ダルトン)より大きい潤滑特性を保持することを示す。加えて、より高粘度のアルギン酸塩(MV ALG試験済み=1%水溶液で1320MPA)は、より低粘度のアルギン酸塩(LV ALG試験済み=2%水溶液で2,000CP以上)と比較して潤滑特性の保持が長いことを示した。図7に示された結果の参照配合物番号を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
本開示のいくつかの実施形態と整合して、比較的高度の潤滑性を有する膜は、膜基材へのポリマーの物理的相互浸透によって提供され得る。例えば、SISまたは他の適切な基材などの膜基材は、ヒアルロン酸およびアルギン酸塩の配合物に浸され得る。溶液の固体含有量がより高いと、より粘性の高い溶液になり得、取り扱いおよび適用が困難になり得る。ポリマーが少なくとも部分的に膜中に拡散するために十分な時間、膜を溶液に曝露し得る。この時間は、より大きな分子量はよりゆっくりと拡散するので、ポリマーの分子量によって、および、より大きな細孔はより少ない拡散時間を必要とするので、膜基材の細孔サイズがことによって、影響を受けるであろう。しかしながら、ほとんどの場合、最小時間を超えて溶液のインキュベーションを延長するリスクはほとんどないであろう。ポリマー溶液の溶媒およびpHは、ポリマーが可溶性であるように選択するべきである。イオン性ゲル化ポリマーを使用する場合は、溶液が早めにゲル化し得るため、浸す間、カルシウムまたは他の多価カチオンを避けるように注意するべきである。水中の2%MV(medium viscosity、中粘度)アルギン酸塩および2%HMW(high molecular weight、高分子量)ヒアルロン酸塩の場合、ポリマー溶液による水和は急速に(例えば、いくつかの実施形態において20分以内に)起こるように思われるが、均一さ(consistency)および飽和を確実にするために4℃でおおよそ27時間まで延長され得る。膜基材がヒアルロン酸およびアルギン酸塩の配合物で所望の程度まで飽和されると、膜基材を乾燥させ得る。いくつかの実施形態において、アルギン酸塩は、カルシウムイオンおよび/または他の二価カチオンの存在下でいくらかの程度のイオン性架橋を提供し得る。二価カチオン源の例には、限定するものではないが、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、塩化マグネシウム、および酢酸マグネシウムが含まれる。いくつかの実施形態において、イオン性架橋は、イオン性架橋の程度が低いかまたはイオン性架橋がない実施形態と比較して、ヒアルロン酸およびアルギン酸塩の経時的な保持を改善し、処理された膜の潤滑性を経時的に向上させ得る。
【0056】
図8を参照すると、ヒアルロン酸およびアルギン酸塩の組み合わせ(Alg/HA)を含む配合物の比較が0日目および1日目に示される。加えて、示された比較には、膜基材(例えば、SIS)に適用されたヒアルロン酸およびアルギン酸塩の最初のコーティングと、最初のコーティングの上に適用されたヒアルロン酸の追加層(Alg/HA+HA)から形成された二層コーティングが含まれる。ヒアルロン酸およびアルギン酸塩コーティングは、上記と概ね同様の方法で形成され得る(例えば、SIS膜または他の膜を所望の配合物溶液に浸し、続いてコーティングされた膜を乾燥させる)。一例示的な実施形態において、二層コーティングは、ヒアルロン酸およびアルギン酸塩コーティングを含む乾燥膜をヒアルロン酸の溶液に浸すことによって形成し得る。望ましくは、第2のコーティングのための溶液の粘度は、膜の均一なコーティングを可能にするのに十分に低くあり得、かつ、溶液の総固体含有量を制限し得る。第2のヒドロゲル層は、第1のヒドロゲル層と相互作用することだけを必要とし、膜基材に拡散する必要がないため、より短いインキュベーション時間を使用できる。一例では、水中の高分子量ヒアルロン酸ナトリウムの2%溶液をおおよそ2分間適用することができるが、他の期間を使用して許容可能なコーティングを提供してよい。静止摩擦係数を以前の試験プロトコルに概ね対応する方法で評価した。示されるように、ヒアルロン酸およびアルギン酸塩でコーティングされた膜は、改善された潤滑性を提供する(例えば、図6および7および表1に関して記載された単一成分コーティングと比較して)。加えて、二層構成により、潤滑性がさらに向上した。いくつかの実施形態において、(例えば、単一成分コーティングと比較して)経時的なヒアルロン酸およびアルギン酸塩コーティングの改善された潤滑性は、アルギン酸塩ヒドロゲル間に連結されたヒアルロン酸の徐放によって提供され得る。加えて、いくつかの実施形態において、二層コーティングの改善された潤滑性は、ヒアルロン酸の外層によって提供される初期の潤滑性から生じ得る。
【0057】
また、図9を参照すると、図8に関して論じられたヒアルロン酸およびアルギン酸塩コーティングを含むコーティングについて、長期間にわたる潤滑性が示されている。示された実施形態において、サンプルは、初期の水和の0、1、3、および5日後に試験され、1セットのサンプルが0日目および1日目に試験され、第2のセットのサンプルが3日目および5日目に試験された。試験されていないとき、サンプルは、13mMのCaClを含む0.9%NaClの溶液に4~8℃で保存された。示されるように、ヒアルロン酸およびアルギン酸塩でコーティングされた膜は、未処理のSIS対照サンプルと比較して、長期間の試験で有意に改善された潤滑性を示した。
【0058】
前述のものを続けると、いくつかの例示的な実施形態において、組織修復膜は、SISなどの膜基材の1つより多い層から形成され得る。特定の例示的な実施形態において、組織修復膜は、4層のSISを含み得るが、より多くのまたはより少ない数の層が利用され得る(例えば、1~8層、2~6層、2~4層など、および、数値範囲に含まれる様々な追加の層)ことが理解されるであろう。一実施形態において、SISの層は2%アルギン酸塩および2%ヒアルロン酸(例えば、ヒアルロン酸ナトリウムなど様々な形態で提供され得る)の溶液に浸され得、溶液濃度は、溶液の総重量に対する相対重量パーセントを示す。他の溶液濃度を利用し得、および、アルギン酸塩およびヒアルロン酸塩の相対濃度が同じである必要はないことが理解されるであろう。アルギン酸塩およびヒアルロン酸の濃度範囲は約0.5~5%であり得るが、組み合わせは数値範囲の上限側において溶解度制限を受けることがある。溶液に浸した層状SISをその後乾燥させて、層状SIS膜の両面にコーティングをもたらし得る。膜に浸透する「ゾル」ゲルは、アルギン酸塩/ヒアルロン酸のポリマー鎖とSISコラーゲンとの相互浸透を提供し得る。乾燥組織修復膜の製造プロセス中のおよび/または乾燥組織修復膜のその後の水和中(例えば、使用時)のいずれでも、カルシウムイオンへの曝露は、アルギン酸塩をイオン的に架橋し得、これは、ゲル層を保持することを補助し得る。
【0059】
いくつかの実施形態において、SIS膜ベースは、所望の取り扱い特性を提供し得る。例えば、組織修復膜を、術野内で容易に動かしたり取り扱うことができる。加えて、SIS膜は、組織修復膜を縫合糸またはクリップで固定できるようにされ得る。加えて、他のSISベースの製品と同様に、SISのリモデリングも生じ得、正しい使用例において新しい結合組織層をもたらし得る。
【0060】
本開示のいくつかの実施形態と整合して、高分子量ヒアルロン酸(例えば、100万ダルトン以上)は、非常に生体適合性のある潤滑層を提供し得る(例えば、ヒアルロン酸分子は、ヒト組織に天然に存在するものと厳密に/実質的に同じであるため)。アルギン酸塩はまた、それ自体にある程度の潤滑性を提供し得る。さらに、アルギン酸塩は、イオン性架橋ポリマーとして機能し得、これは、ヒアルロン酸塩を移植部位に長期間保持することを容易にし得る。形成されるヒドロゲルフィルムは、滑走する組織に見られる力を低減する潤滑層として機能することがある。ゲルはまた、一時的なバリア層としても機能し得、ゲルは通常、数日から数週間で溶解する(例えば、いくつかの実施形態において、7~10日で溶解する)。この一時的なバリアは、少なくとも2つの注目すべき恩恵を提供し得る。第1に、初期治癒中に組織を物理的に分離し得る。これにより、経時的に、とりわけ、正常な動きおよび組織の滑走を妨げ、軟組織の付着のリスクを高めることがある、組織修復膜が関連して使用される障害が副木をあてられる場合、発生し得る初期の軟組織の付着が防止され得る。加えて、一時的なバリアは、ゲル層が変形可能であるため、神経ラップ製品(すなわち、組織修復膜)のある程度の自己サイジング(self-sizing)を提供し得る。例えば、止血帯を取り外した後、または早期治癒中に神経が腫れる場合、ゲル層が神経ラップ製品から「絞り出され」、神経の圧迫の程度を防止および/または減少させ得る(ゲル層の厚さを超えない限り)。ヒアルロン酸およびアルギン酸塩の両方は、細胞に対して実質的に非接着性である。
【0061】
いくつかの実施形態によれば、ヒアルロン酸を含む組織修復膜は、幅広い見込まれる恩恵および用途を提供し得る。例えば、組織修復膜は、組織面の維持および長期的な組織の滑走を補助し得る。たとえば、本態様は、少なくとも部分的には、SISが新しい結合組織層にリモデリングする能力によって促進され得る。加えて、状況によっては、本開示と整合する組織修復膜は、早期離床のための選択肢を改善し得る(例えば、摩擦力を低減し、刺激または破裂のリスクを低減することによって)。さらに、状況によっては、本開示と整合する組織修復膜はまた、外科的状況および患者のニーズに応じて、後期離床の選択肢を改善し得る(例えば、副木をあてられている間の早期付着形成を防ぐのに役立ち得る一時的な層を提供することによって)。いくつかの実施において、本開示と整合する組織修復膜は、止血帯が取り除かれた後、または早期治癒中に、例えば、ゲル層の変形によって神経が腫れる場合、神経圧迫を防止および/または低減することを補助し得る。いくつかの実装において、本開示と整合する組織修復膜によって提供される潤滑はまた、「粘着性」(ずり流動性流体などの一部の潤滑剤の逆説的な挙動)であり得、これは外科的配置に役立ち得る。組織修復膜が配置された場所に留まる傾向があるが(例えば、高いゼロせん断粘度を示すことにより)、なお摩擦力を低減し得るためである(たとえば、せん断下で低い粘度を示すことにより)。本開示と整合する組織修復膜によって、様々な追加の利益および利点が提供され得る。
【0062】
前述の説明および例は、単に本開示を説明するために記載されており、限定することを意図していない。本開示の技術的思想および本質を組み込んだ記載された実施形態の変更は当業者に想定され得るので、本開示は、添付の特許請求の範囲およびその均等物を含むがこれらに限定されない、本出願の範囲内のすべての変形を含むと広く解釈されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】