(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-17
(54)【発明の名称】全身投与のための腫瘍溶解性単純ヘルペスウイルスを含む医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/763 20150101AFI20221007BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221007BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20221007BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20221007BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20221007BHJP
【FI】
A61K35/763
A61P35/00
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P35/02
A61K9/08
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022509711
(86)(22)【出願日】2019-08-16
(85)【翻訳文提出日】2022-02-24
(86)【国際出願番号】 CN2019100956
(87)【国際公開番号】W WO2021030932
(87)【国際公開日】2021-02-25
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520400807
【氏名又は名称】イムヴィラ・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】IMMVIRA CO., LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】タン,ユーシン
(72)【発明者】
【氏名】リウ,シエンジエ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ルンビン
(72)【発明者】
【氏名】ジョウ,グレイス
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076AA95
4C076BB11
4C076BB13
4C076CC27
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4C085AA13
4C085AA14
4C085CC08
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4C085DD62
4C085EE01
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4C085GG02
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087MA65
4C087MA66
4C087NA05
4C087NA07
4C087NA13
4C087ZB26
4C087ZB27
(57)【要約】
全身投与によるがんの治療のための、IL-12及びPD-1抗体を発現する腫瘍溶解性単純ヘルペスウイルスを含む医薬組成物を開示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療有効量の腫瘍溶解性単純ヘルペスウイルス(oHSV)を含み、前記oHSVは野生型単純ヘルペスウイルスと比較して、(i)U
L56遺伝子のプロモーターとUs1遺伝子のプロモーターとの間の欠失、及び(ii)免疫刺激剤及び/又は免疫療法剤をコードする異種核酸配列の付加を有するように改変され、且つ対象への全身送達用に製剤化される、対象におけるがんの治療のための医薬組成物。
【請求項2】
前記免疫刺激剤がGM-CSF、IL-2、IL-5、IL-12、IL-15、IL-24及びIL-27からなる群から選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記免疫療法剤が抗PD-1剤及び抗CTLA-4剤からなる群から選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記oHSVが免疫刺激剤及び免疫療法剤の両方を発現する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記oHSVがIL-12及び抗PD-1抗体を発現する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記oHSVが単純ヘルペスウイルス血清型1(HSV-1)に由来する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記HSV-1が株F、KOS及び17から選択される、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記HSV-1がHSV-1のF株である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記oHSVがHSV-1のF株のゲノム中のヌクレオチド位置117005から132096の欠失を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記oHSVがキャリアにカプセル化されず又はキャリアと結合されていない、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記対象に静脈内投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記がんは固形がんである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記がんは白血病、リンパ腫、骨髄腫、形質細胞腫、黒色腫、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨形成性肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング肉腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸がん、膵臓がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、扁平上皮がん、基底細胞がん、腺がん、汗腺がん、脂腺がん、乳頭状がん、乳頭状腺がん、嚢胞腺がん、髄質がん、気管支原性がん、腎細胞がん、肝細胞腫、胆管がん、絨毛がん、セミノーマ、胚性がん、ウィルムス腫瘍、子宮頸がん、精巣腫瘍、肺がん、小細胞肺がん、膀胱がん、上皮がん、神経膠腫、星状細胞腫、髄芽細胞腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、乏突起膠腫、髄膜腫、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫、胃がん及び前胃がんからなる群から選択される、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記がんは医師が腫瘍内注射をしてもアクセスできない、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記対象はヒトである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記対象に2回以下全身的に送達される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記対象に1回だけ全身的に送達される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項18】
顕著な毒性を引き起こすことなく、前記対象に全身的に送達される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記oHSVが前記組成物中に自由に分布している、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記oHSVはoHSVに対する前記対象の免疫応答を防ぐ第2活性剤と組み合わせて送達されない、請求項1に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍溶解性単純ヘルペスウイルス(oHSV)を含み、全身送達用に製剤化されたがんの治療のための医薬組成物に関する。また、本発明は、腫瘍溶解性単純ヘルペスウイルス(oHSV)を対象に投与することであって、oHSVが前記対象に全身的に投与されることを含むがん治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍溶解性ウイルス療法は、腫瘍細胞内のウイルス特異的複製を利用して腫瘍細胞を殺し、体を刺激して特異的抗腫瘍免疫応答を生成させる新しい腫瘍治療法である。他の腫瘍治療法と比べて、腫瘍溶解性ウイルス療法は高い複製効率、良好な殺傷効果及び小さな副作用が特徴で、がん治療研究の分野でホットスポットとなっている。
【0003】
腫瘍溶解性単純ヘルペスウイルス(oHSV)は、固形腫瘍の治療のために広く研究されている。全体的には、従来のがん治療より多くの利点を有している。具体的には、oHSVは、通常、先天性免疫の何らかの側面による阻害を受けやすくする変異を具体化している。結果として、それらは感染に対する1種又は複数種の先天性免疫応答が損なわれているがん細胞では複製するが、先天性免疫応答が損なわれていない正常細胞では複製しない。oHSVは、通常、ウイルスが複製できる腫瘍塊に直接送達される。全身ではなく標的組織に送達されるため、抗がん剤の副作用特性はない。
【0004】
しかし、腫瘍溶解性ウイルスの腫瘍内注射は、主に固形腫瘍又は限局性腫瘍の治療に使用される。脳腫瘍や転移性腫瘍など、一般に医師が腫瘍内注射をしてもアクセスできない腫瘍に罹患する患者は、現行の腫瘍溶解性ウイルス療法から殆ど恩恵を受けることができない。全身送達は全ての腫瘍に感染する機会があり、転移性腫瘍や血液腫瘍にとってこれが特に重要なことである。しかし、oHSVの全身送達が臨床的に利用可能になる前に、多くの課題を克服する必要がある。第一に、全身的に投与された腫瘍溶解性ウイルスが血液などの循環液によって希釈されやすいことで、標的細胞に到達する腫瘍溶解性ウイルスの濃度が低下し、それは腫瘍細胞を溶解する効果を低下させる。投与量を増やして標的部位に到達するウイルスの濃度を上げると、体の炎症反応が高まる可能性がある。第二に、静脈内投与は循環する血液成分から免疫調節、抗体中和、補体活性化などの干渉を受けやすく、これは腫瘍溶解性ウイルスの不活性化又は迅速なクリアランスにつながる。さらに、腫瘍溶解性ウイルスは組織血管内皮細胞層を通過して、内皮細胞のトランスサイトーシスを回避し、そして標的細胞に形質導入される。最後に、静脈内投与は全身的な拡散を引き起こして、深刻な非標的感染などにつながる可能性がある。
【0005】
oHSVを全身的に送達することをめぐって多くの研究が行われていた。「Du,Wanlu,et al.Stem cell-released oncolytic herpes simplex virus has therapeutic efficacy in brain metastatic melanomas.Proceedings of the National Academy of Sciences(2017):201700363」では、播種性脳病変(disseminated brain lesion)に対する腫瘍溶解性ウイルスのキャリアとしての間葉系幹細胞(MSC)の有用性が報告されていた。彼らはMSCに様々なoHSV変異体を装備し(MSC-oHSV)、精製されたoHSV単独ではなく、MSC-oHSVの頸動脈内投与は転移性腫瘍病変を効果的に追跡し、脳腫瘍を有するマウスの生存を顕著に延長することを発見した。
【0006】
「Kanzaki,A,et al.Antitumor efficacy of oncolytic herpes simplex virus adsorbed onto antigen-specific lymphocytes.Cancer Gene Therapy 19.4(2012):292-298」では、腫瘍溶解性単純ヘルペスウイルス1型の変異体R3616を、抗腫瘍免疫を獲得したマウスから採取したリンパ球に吸着させた。彼らは吸着したR3616を腹膜播種腫瘍に投与し、この治療の有効性を分析した。吸着したR3616を投与されたマウスは、非特異的リンパ球に吸着されたR3616を投与されたマウス、又はウイルスもしくは腫瘍抗原特異的リンパ球単独を投与されたマウスよりも顕著に長く生存していた。
【0007】
「Shikano,T.,et al.High Therapeutic Potential for Systemic Delivery of a Liposome conjugated Herpes Simplex Virus.Current Cancer Drug Targets 11.1(2011):111-122」では、腫瘍溶解性HSVをリポソームにカプセル化させた。中和抗体の存在下でのリポソームを伴う又は伴わない単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)の変異体hrR3の感染特性を、インビトロでの複製と細胞毒性アッセイを用いて評価していた。中和抗体の存在下でのリポソームによる血管内ウイルス療法の有効性を評価するために、複数の肝転移を有する免疫マウスに、hrR3又はリポソームと複合させたhrR3を門脈内又は腹腔内に投与していた。結果は、抗HSV抗体がhrR3の感染性と細胞毒性を弱めるのに対し、hrR3/リポソーム複合体はこれらの抗HSV抗体によって弱められなかったことを示した。hrR3単独で治療された非免疫マウスの生存率がhrR3/リポソーム複合体で治療されたマウスに似たが、hrR3/リポソーム複合体で治療されたマウスと比べて、hrR3単独で治療された免疫マウスの生存率が顕著に低下していた。彼らは、既存の中和抗体の存在下でのhrR3/リポソーム複合体の全身血管内送達が複数の肝転移を治療するのに効果的であると結論付けていた。
【0008】
「Yoo,J.Y.,et al.Copper Chelation Enhances Antitumor Efficacy and Systemic Delivery of Oncolytic HSV.Clinical Cancer Research 18.18(2012):4931-4941」では、全身的ATN-224(銅キレート剤)とoHSVの併用により、腫瘍成長が顕著に低下し、動物の生存が延長することが示された。免疫組織化学とDCE-MRIイメージングにより、ATN-224がoHSV誘発性の血管密度と血管漏出を減少させることが確認された。生理学的に適切な濃度の銅がoHSVの複製と神経膠腫細胞死を阻害し、しかもこの効果はATN-224によって救済されていた。ATN-224はoHSVの血清安定性を高め、全身送達の有効性を向上させていた。当該研究は、ATN-224をoHSVと組み合わせると、oHSVの血清安定性が顕著に向上し、その複製と抗腫瘍効果が顕著に向上することを示した。
【0009】
前臨床と臨床条件で広範な研究と試験が行われていたが、無傷の免疫系の存在下で腫瘍を治療するための腫瘍溶解性単純ヘルペスウイルスの全身送達方法は、なおも完全には実現されていないのである。
【発明の概要】
【0010】
本発明者らは、担がんマウスの尾静脈からのoHSV単独の単回注射が、顕著な毒性を引き起こすことなく腫瘍成長を顕著に阻害したことを発見して驚いた。分布分析では、ウイルスが単回注射後に4週間以上まで腫瘍に選択的に集中することが示された。
【0011】
本開示の一態様は、治療有効量の腫瘍溶解性単純ヘルペスウイルス(oHSV)を含む、対象におけるがんの治療のための医薬組成物に関し、oHSVは野生型単純ヘルペスウイルスと比較して、(i)UL56遺伝子のプロモーターとUs1遺伝子のプロモーターとの間の欠失、及び(ii)免疫刺激剤及び/又は免疫療法剤をコードする異種核酸配列の付加を有するように改変され、且つ前記医薬組成物は前記対象への全身送達用に製剤化される。
【0012】
本開示の別の態様では、治療有効量の腫瘍溶解性単純ヘルペスウイルス(oHSV)を含む医薬組成物を前記対象に全身的に投与することを含む、対象におけるがんの治療方法に関し、oHSVは野生型単純ヘルペスウイルスと比較して、(i)UL56遺伝子のプロモーターとUs1遺伝子のプロモーターとの間の欠失、及び(ii)免疫刺激剤及び/又は免疫療法剤をコードする異種核酸配列の付加を有するように改変される。
【0013】
本開示の別の態様では、対象におけるがんの治療方法で使用する腫瘍溶解性単純ヘルペスウイルス(oHSV)に関し、oHSVは野生型単純ヘルペスウイルスと比較して、(i)UL56遺伝子のプロモーターとUs1遺伝子のプロモーターとの間の欠失、及び(ii)免疫刺激剤及び/又は免疫療法剤をコードする異種核酸配列の付加を有するように改変され、且つ前記oHSVは前記対象に全身的に投与される。
【0014】
いくつかの実施形態において、oHSV又は医薬組成物は対象に2回以下全身的に送達される。いくつかの実施形態において、oHSV又は医薬組成物は対象に1回だけ全身的に送達される。
【0015】
いくつかの実施形態において、oHSV又は医薬組成物は顕著な毒性を引き起こすことなく対象に全身的に送達される。
【0016】
いくつかの実施形態において、oHSVは組成物中に自由に分布している。いくつかの実施形態において、oHSVはカプセル化されず又はキャリアによって担持されていない。
【0017】
いくつかの実施形態において、oHSVはoHSVに対する対象の免疫応答を防ぐ第2活性剤と組み合わせて投与されない。いくつかの実施形態において、第2活性剤は銅キレート剤である。
【0018】
下記の説明を読めば、本発明の他の態様は得られるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】パネルAは生体内分布である。平均70mm
3のA549腫瘍を有する4匹1群のマウスに、1日目に1×10
7PFUのT3011を腫瘍内に単回注射した。腫瘍に注射したウイルス又はPBSの量は100μLであった。指定された器官から抽出されたウイルスDNAをqRT-PCRによって定量化した。パネルBは有効性である。平均70mm
3のA549腫瘍を有する6匹1群のマウスに、1×10
5又は1×10
7PFUのT3011を腫瘍内に単回注射した。腫瘍に注射したウイルス又はPBSの量は100μLであった。注射後の指定された日に腫瘍体積を測定した。エラーバーは各群の±SEMを表す。
【
図2】パネルAは生体内分布である。平均108mm
3のKYSE30腫瘍を有する4匹1群のマウスに、1日目に1×10
7PFUのT3011を尾静脈内に単回注射した。腫瘍に注射したウイルス又はPBSの量は100μLであった。指定された器官から抽出されたウイルスDNAをqRT-PCRによって定量化した。パネルBは有効性である。平均108mm
3のKYSE30腫瘍を有する7匹1群のマウスに、1日目に1×10
5又は1×10
7PFUのT3011を尾静脈内に単回注射した。腫瘍に注射したウイルス又はPBSの量は100μLであった。注射後の指定された日に腫瘍体積を測定した。エラーバーは各群の±SEMを表す。
【
図3】パネルAは生体内分布である。4匹1群のマウスに、左脇腹にHCT116、右脇腹にECA109を移植した。腫瘍体積が平均160mm
3(HCT116)、140mm
3(ECA109)になったら、マウスは尾静脈注射にて1×10
7PFUのT3011を受け入れる。パネルBは有効性である。6匹1群のマウスに、左脇腹にHCT116、右脇腹にECA109を移植した。腫瘍体積が平均160mm
3(HCT116)、140mm
3(ECA109)になったら、マウスは尾静脈注射にて1×10
5又は1×10
7PFUのT3011を受け入れる。腫瘍に注射したウイルス又はPBSの量は100μLであった。注射後の指定された日に腫瘍体積を測定した。エラーバーは各群の±SEMを表す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明の詳細な説明
定義
用語「一(a)」又は「1つ(an)」のエンティティとは当該エンティティの1つ又は複数を指すことに留意されたい。例えば、「1つのエクソソーム」は1つ又は複数のエクソソームを表すと理解される。したがって、用語「1つ」と「1つ又は複数」と「少なくとも1つ」は本明細書で入れ替えて使用される。
【0021】
本明細書で使用される場合に、用語「全身投与」又は「全身的に投与される」とは、特定の投与経路、例えば、全身作用のための血液への吸収による全身効果の発生/生成を指す。ここで、投与経路は静脈内投与(静脈内注射など)、筋肉内投与(筋肉内、皮下、皮下注射など)、消化管投与(経口投与など)、粘膜投与(舌下投与、経口スプレー、経口フィルム、点眼液、直腸及び膣の坐剤)を含む。
【0022】
「相同性(homology)」又は「同一性(identity)」又は「類似性(similarity)」とは、2つのペプチド間又は2つの核酸分子間の配列類似性を指す。相同性は比較のためで整列され得る各配列の位置を比較することによって決定することができる。比較された配列の位置が同じ塩基又はアミノ酸によって占められている場合に、分子はその位置で相同である。配列間の相同性の程度は配列で共有する一致する又は相同の位置の数の関数である。「無関係」又は「非相同」の配列は、本開示の配列の1つと、40%未満の同一性、好ましくは25%未満の同一性を有する。
【0023】
ポリヌクレオチドもしくはポリヌクレオチド領域(又はポリペプチドもしくはポリペプチド領域)が別の配列と特定のパーセンテージ(例えば、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%又は99%)の「配列同一性」を有するとは、比較するために整列された2つの配列において、そのパーセンテージの塩基(又はアミノ酸)が同じでることを意味する。この整列とパーセンテージ相同性又は配列同一性は、本分野で知られているソフトウェアプログラムを用いて決定することができる。
【0024】
本明細書で使用される場合に、用語「治療する」又は「治療」とは治療的な処置と予防的な手段の両方を指し、その目的は、腫瘍の進行などの望ましくない生理学的変化又は障害を予防又は減速(軽減)することである。有益な又は望ましい臨床結果には、検出可能か検出できないかに関わらず、症状の緩和、疾患の程度の減少、腫瘍の安定した(即ち、悪化しない)状態、腫瘍成長の阻害、腫瘍体積の減少、腫瘍の進行の遅延又は減速、腫瘍状態の改善又は緩和、及び寛解(部分的又は全体的)が含まれるが、それらに限定されない。治療を必要とする対象には、既に腫瘍を持っている対象と腫瘍を起こしやすい対象が含まれる。
【0025】
「対象」又は「個体」又は「動物」又は「患者」又は「哺乳動物」とは、診断、予後又は治療が望まれる任意の対象、特に哺乳動物対象を意味する。哺乳動物対象には、ヒト、家畜、農場及び動物園で飼育される動物、競技用動物、又はイヌなどの愛玩動物、ネコ、モルモット、ウサギ、ラット、マウス、ウマ、ウシ(畜牛)が含まれる。対象はヒトであることが好ましい。
【0026】
本明細書で使用される場合に、「治療を必要とする患者に」又は「治療を必要とする対象」などの句には検出、診断手順及び/又は治療のための、本開示の組成物の投与から利益を得るであろう哺乳動物対象などの対象が含まれる。
【0027】
「治療有効量」とは本開示の腫瘍溶解性ウイルス及び/又はエクソソームが、上記の「治療」に十分な量で投与されることを意味する。特定の個体の障害又は状況の治療で治療上有効な量は疾患の症状及び重症度に依存し、標準的な臨床技術によって決定することができる。また、最適な投与量範囲を決定することの手助けとして、インビトロ又はインビボアッセイを任意選択で利用することができる。製剤に使用される正確な投与量は投与経路、疾患又は障害の重症度にも依存し、開業医の判断及び各患者の状況に応じて決定する必要がある。インビトロ又は動物モデル試験システムから導き出される用量反応曲線より有効な投与量を推定することができる。
【0028】
本明細書で使用される場合に、用語「腫瘍」とは、制御不能に成長する形質転換細胞を含む悪性組織(即ち、過剰増殖性疾患)を指す。腫瘍には、白血病、リンパ腫、骨髄腫、形質細胞腫など、及び固形腫瘍が含まれる。本発明に従って治療できる固形腫瘍の例には、黒色腫、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨形成性肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング肉腫(Ewing’s tumor)、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸がん、膵臓がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、扁平上皮がん、基底細胞がん、腺がん、汗腺がん、脂腺がん、乳頭状がん、乳頭状腺がん、嚢胞腺がん、髄質がん、気管支原性がん、腎細胞がん、肝細胞腫、胆管がん、絨毛がん、セミノーマ、胚性がん、ウィルムス腫瘍(Wilms’ tumor)、子宮頸がん、精巣腫瘍、肺がん、小細胞肺がん、膀胱がん、上皮がん、神経膠腫、星状細胞腫、髄芽細胞腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、乏突起膠腫、髄膜腫、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫、胃がん、前胃がんなどの肉腫及びがん腫が含まれるが、それらに限定されない。
【0029】
本明細書で使用される場合に、「抗体」又は「抗原結合ポリペプチド」とは、1種又は複数種の抗原を特異的に認識してそれと結合するポリペプチド又はポリペプチド複合体を指す。抗体は抗体全体及びその任意の抗原結合フラグメント又は一本鎖であってもよい。そのために用語「抗体」には、抗原と結合する生物学的活性を有する免疫グロブリン分子の少なくとも一部を含む、任意のタンパク質又はペプチドを含む分子が含まれる。そのような例には、重鎖もしくは軽鎖の相補性決定領域(CDR)又はそのリガンド結合部分、重鎖もしくは軽鎖可変領域、重鎖もしくは軽鎖定常領域、フレームワーク(FR)領域、又はそれらの任意の部分、又は結合タンパク質の少なくとも一部が含まれるが、それらに限定されない。用語「抗体」には、活性化時に抗原結合能力を有するポリペプチド又はポリペプチド複合体も含まれる。
【0030】
本明細書で使用される用語「抗体フラグメント」又は「抗原結合フラグメント」は、F(ab’)2、F(ab)2、Fab’、Fab、Fv、scFvなどの抗体の部分である。構造に関係なく、抗体フラグメントは無傷な抗体によって認識されるのと同じ抗原と結合する。用語「抗体フラグメント」には、アプタマー、異性体、及びダイアボディが含まれる。用語「抗体フラグメント」には、特定の抗原と結合して複合体を形成することによって抗体のように機能する、合成された又は遺伝子操作されたタンパク質も含まれる。
【0031】
本開示で抗体、抗原結合ポリペプチド、変異体又は誘導体には、ポリクローナル、モノクローナル、多重特異性、ヒト、ヒト化、霊長類化、又はキメラ抗体、一本鎖抗体、エピトープ結合フラグメント(例えば、Fab、Fab’とF(ab’)2、Fd、Fvs、一本鎖Fvs(scFv)、一本鎖抗体、ジスルフィド結合Fvs(sdFv))、VK又はVHドメインのいずれかを含むフラグメント、Fab発現ライブラリーによって生成されるフラグメント、及び抗イディオタイプ(抗-Id)抗体(例えば、本明細書に開示されているLIGHT抗体に対する抗Id抗体を含む)が含まれるが、それらに限定されない。本開示で免疫グロブリン又は抗体分子は免疫グロブリン分子の任意のタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA及びIgY)、又はクラス(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2)であってもよい。
【0032】
「特異的に結合する」又は「特異性を有する」とは、一般に、抗体がその抗原結合ドメインを介してエピトープと結合し、その結合が抗原結合ドメインとエピトープとの間のある程度の相補性を伴うことを意味する。当該定義によれば、抗体はランダムな無関係のエピトープと結合するよりも容易に、その抗原結合ドメインを介してそのエピトープと結合する時に、エピトープと「特異的に結合する」と言う。本明細書で用語「特異性」は特定の抗体が特定のエピトープと結合する相対的な親和性を定量するために使用される。例えば、抗体「A」は抗体「B」よりも特定のエピトープと高い特異性を有し、又は抗体「A」は関連するエピトープ「D」よりもエピトープ「C」と高い特異性で結合すると表現することができる。
【0033】
本明細書で使用される用語「IL-12」とは、強力な抗腫瘍効果を有するサイトカインである「インターロイキン12」を指す。そのためIL-12は、耐久性のある抗腫瘍効果を提供できるTH-1型免疫応答を誘導する。IL-12はインビボではその抗腫瘍効果に寄与するとされる抗血管新生活性を有すると報告されている。IL-12は、CTL、ナチュラルキラー細胞、マクロファージの活性化を刺激し、クラスII MHC抗原の発現を誘導/増強する能力など、複数の免疫調節効果を持つ高レベルのIFN-γの生成を刺激することが最近報告されている。IFN-γは腫瘍部位へのT細胞の遊走を誘導するプロセスにおいて重要な役割を果たす。IFN-γの腫瘍内レベルの増加は、担持腫瘍のサイズの減少に相関している。
【0034】
プログラム細胞死1(PD-1)はアポトーシスを起こしているマウスT細胞株のサブトラクティブハイブリダイゼーションによって最初に同定された50-55kDaのI型膜貫通型受容体である。CD28遺伝子ファミリーのメンバー、PD-1は活性化されたT細胞、B細胞及び骨髄系細胞において発現される。ヒトとネズミのPD-1は約60%のアミノ酸同一性を有し、4つの潜在的なN-グリコシル化部位及びIg-Vドメインを定義する残基が保存されている。PD-1はT細胞の活性化を負に調節し、当該阻害機能はその細胞質ドメインの免疫受容体チロシンベース阻害モチーフ(ITIM)に関連している。PD-1のこの阻害機能の破壊は自己免疫につながる可能性がある。
【0035】
本明細書で説明された改変ゲノムは、それらが由来する改変ポリヌクレオチドとヌクレオチド配列が違うように改変されてもよいことが当業者に理解されるであろう。例えば、指定されたDNA配列に由来するポリヌクレオチド又はヌクレオチド配列は類似していてもよく、例えば、開始配列と特定のパーセンテージの同一性を有し、例えば、開始配列と60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%又は99%の同一性を有する。
【0036】
さらに、「非必須」アミノ酸領域における保存的置換又は変化を得るために、ヌクレオチド又はアミノ酸の置換、欠失、又は挿入を行うことができる。例えば、指定されたタンパク質に由来するポリペプチド又はアミノ酸配列は、1つ又は複数の個別のアミノ酸置換、挿入、又は欠失(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20又はそれ以上の個別のアミノ酸の置換、挿入又は欠失)を除いて、開始配列と同一であってもよい。特定の実施形態において、指定されたタンパク質に由来するポリペプチド又はアミノ酸配列は、開始配列に対して1から5個、1から10個、1から15個、又は1から20個の個別のアミノ酸置換、挿入又は欠失を有する。
【0037】
腫瘍溶解性単純ヘルペスウイルス
本開示では、oHSVは野生型単純ヘルペスウイルスと比較して、(i)UL56遺伝子のプロモーターとUs1遺伝子のプロモーターとの間の欠失、及び(ii)免疫刺激剤及び/又は免疫療法剤をコードする異種核酸配列の付加を有するように改変される。本発明の全身送達に適するoHSVの詳細な説明は、WO2017/181420に記載されている(段落[0040]から[0092]を参照し、その開示の全体が引用により本明細書に組み込まれる)。本開示では、上記のWO文献に記載されている全ての組換えoHSVが本開示に利用できることが望まれる。
【0038】
いくつかの実施形態において、oHSVはUL56遺伝子のプロモーターとUs1遺伝子のプロモーターとの間の欠失を有し、IL-12及び抗PD-1抗体の両方を発現する遺伝子操作されたHSV-1 F株である(本開示ではT3011とも言う)。
【0039】
医薬組成物
本発明のいくつかの実施形態において、上記で確定させたoHSVは、対象への全身送達のための医薬組成物として製剤化される。
【0040】
本開示において、組成物中のoHSVは医薬組成物中に自由に分布している。「自由に分布している」とは、ウイルスが組成物、例えば、滅菌注射液に均一に分散していることを意味する。
【0041】
いくつかの実施形態において、組成物中のoHSVは、いかなる形態でも、キャリア、例えば、細胞と結合されない。いくつかの実施形態において、oHSVは間葉系幹細胞と結合されない。いくつかの実施形態において、oHSVは抗原特異的リンパ球に吸着されない。
【0042】
いくつかの実施形態において、組成物中のoHSVは、いかなる形態でもキャリア、例えば、リポソームにカプセル化されない。
【0043】
いくつかの実施形態において、組成物中のoHSVは、oHSVに対する対象の免疫応答を防ぐ第2活性剤と組み合わせて送達されない。
【0044】
利用可能な滅菌水性媒体は、本開示に照らせば当業者に知られるものであろう。例えば、1回の投与量を1mLの等張NaCl溶液に溶解し、1000mLの皮下溶解液に加えるか、又は提案された注入部位に注射することができる。治療を受ける対象の状態に応じて投与量の変動は必ず発生することであるが、いずれにせよ、投与実施者は個々の対象に適切な投与量を決定する。さらに、人間への投与の場合、製剤はFDAが求める無菌性、発熱性(pyrogenicity)、一般的な安全性及び純度の基準を満たす必要がある。
【0045】
滅菌注射液は、必要な量のoHSVを必要に応じて上記に列挙した他の様々な成分と適切な溶媒に組み込んだ後、濾過滅菌することによって調製される。一般に、分散液は様々な滅菌された有効成分を、基本的な分散媒体及び上記に列挙したものからの必要な他の成分を含む滅菌ビヒクルに組み込むことによって調製される。滅菌注射溶液の調製のための滅菌粉末である場合に、好ましい調製方法は、事前に滅菌濾過された溶液からoHSVと任意の追加の所望の成分の粉末を生成する真空乾燥及び凍結乾燥技術である。
【0046】
方法と治療法
本開示の別の態様は、治療有効量の本発明のoHSV又は組成物をそれを必要とする対象に全身的に投与することを含む、対象におけるがんの治療方法を提供する。
【0047】
いくつかの実施形態において、組換えoHSVは1回だけ全身的に投与される。いくつかの実施形態において、組換えoHSVは2回以下全身的に投与される。いくつかの実施形態において、oHSVは2回を超えて、例えば、3回、4回又はそれ以上に全身的に投与される。そのような場合には、各回の投与をそれぞれ約12から72時間以内に対象に行うと考えられる。状況によっては、治療期間を顕著に延長することが望ましい場合があり、それぞれの投与の間には数日(2、3、4、5、6又は7日)から数週間(1、2、3、4、5、6、7又は8週)が経過する。
【0048】
特定の実施形態において、oHSV又は医薬組成物は静脈内、筋肉内、経口、経皮及び皮内など、全身的に投与される。いくつかの実施形態において、oHSV又は医薬組成物は静脈内に投与されることが好ましい。
【0049】
本開示は、固形腫瘍か非固形腫瘍かに関わらず、様々な腫瘍を治療することを企図している。本発明に従って治療できる固形腫瘍の例には、白血病、リンパ腫、骨髄腫、形質細胞腫、及び、黒色腫、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨形成性肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング肉腫(Ewing’s tumor)、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸がん、膵臓がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、扁平上皮がん、基底細胞がん、腺がん、汗腺がん、脂腺がん、乳頭状がん、乳頭状腺がん、嚢胞腺がん、髄質がん、気管支原性がん、腎細胞がん、肝細胞腫、胆管がん、絨毛がん、セミノーマ、胚性がん、ウィルムス腫瘍(Wilms’ tumor)、子宮頸がん、精巣腫瘍、肺がん、小細胞肺がん、膀胱がん、上皮がん、神経膠腫、星状細胞腫、髄芽細胞腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、乏突起膠腫、髄膜腫、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫、胃がん、前胃がんなどの肉腫及びがん腫が含まれるが、それらに限定されない。
【0050】
いくつかの実施形態において、本開示の方法は、医師が腫瘍内注射をしてもアクセスできない腫瘍、例えば、脳腫瘍、転移性腫瘍の治療を企図するものである。
【0051】
いくつかの実施形態において、本開示の方法は、1種の転移性腫瘍又は複数種の転移性腫瘍を有する対象を治療するために用いられることが好ましい。
【0052】
いくつかの実施形態において、本開示の方法は、顕著な又は命を脅かす毒性を示さない。下記の動物実験で示されるように、実験を通して死亡したマウスはなかった。
【実施例】
【0053】
実施例
我々は全身的に投与可能なoHSV療法の開発について説明する。また、我々は改変HSV-1ゲノムを含み且つIL-12及び抗PD-1抗体を同時に発現する全身的に投与される組換え腫瘍溶解性HSV-1 F株である(以下、「T3011」とも呼ばれる)ネズミoHSV T3シリーズの腫瘍溶解活性に相対的に耐性のあるネズミ腫瘍を特定した。前記改変は、(i)全てのダブルコピー遺伝子の1つのコピーが存在せず、(ii)欠失後のウイルスDNAに存在する全てのオープンリーディングフレーム(ORF)の発現に必要な配列が無傷であるように、野生型HSV-1ゲノムのUL56のプロモーターとUs1のプロモーターとの間の欠失を含む。
【0054】
実施例では、静脈内注射されたT3011を含む組成物が、自然免疫系の中和抗体又は免疫細胞によって完全には除去されず、T3011が腫瘍細胞に到達し、腫瘍内注射と顕著な差がない抗腫瘍効果を発揮できることが示されていた。
【0055】
材料と方法
腫瘍である。本研究で使用された腫瘍はヒト肺がん(A549)、ヒト食道扁平上皮がん(KYSE30)、ヒト結腸直腸がん(HCT116)、及びヒト食道がん(ECA109)であった。
【0056】
oHSVの構築である。例示的なoHSVの構築物(例えば、T3011)は、(a) (i)全てのダブルコピー遺伝子の1つのコピーが存在せず、(ii)欠失後のウイルスDNAに存在する全てのオープンリーディングフレーム(ORF)の発現に必要な配列が無傷であるように、野生型HSV-1ゲノムのUL56遺伝子のプロモーターとUs1遺伝子のプロモーターとの間の欠失を含むように改変されたHSV-1ゲノムと、(b)改変されたHSV-1ゲノムの少なくとも欠失領域に安定的に組み込まれる、免疫刺激剤及び/又は免疫療法剤をコードする異種核酸配列とを含む、全身的に投与される組換え腫瘍溶解性単純ヘルペスウイルスI型を含む。免疫刺激剤又は免疫療法剤をコードする異種核酸配列が1つだけ挿入された場合に、異種核酸配列がゲノムの欠失領域に組み込まれることが好ましい。免疫刺激剤及び/又は免疫療法剤をコードする異種核酸配列が複数組み込まれる場合に、第1異種核酸配列がゲノムの欠失領域に挿入されることが好ましい。第2又は更なる異種核酸配列がゲノムのL成分に挿入されてもよい。腫瘍溶解性単純ヘルペスウイルス(oHSV)の構築と特性のより詳細な説明はWO2017/181420に記載されている。
【0057】
結果
T3011を腫瘍内に単回注射したことがA549腫瘍の成長を阻害した
この一連の実験の最初のステップでは、「材料と方法」で説明したようにoHSV T3011を構築していた。次に、平均70mm
3のA549腫瘍を有する4匹1群のマウスに、1日目に1×10
7PFUのT3011を腫瘍内に単回注射した。腫瘍に注射したウイルス又はPBSの量は100μLであった。注射後の4日目、7日目、14日目、28日目に、指定された器官から抽出されたウイルスDNAをqRT-PCRによって定量化した(
図1A)。
【0058】
このセクションの結果は、T3011の腫瘍内単回注射後に、ウイルスDNA分子がA549腫瘍に大量に集中し、その遺伝子を発現し始めることを示した。また、一部のウイルスは、心臓、肝臓、脾臓、肺、腎臓、脳、性腺、血液などの他の器官にも集中している。正常な組織で遺伝子を発現する能力がないため、ウイルスDNA分子は宿主細胞が生き残る限り残っている。
【0059】
次に、平均70mm
3のA549腫瘍を有する6匹1群のマウスに、1×10
5又は1×10
7PFUのT3011を腫瘍内に単回注射した。腫瘍に注射したウイルス又はPBS(コントロール)の量は100μLであった。注射後26日まで3日又は4日ごとに腫瘍体積を測定した(
図1B)。
【0060】
このセクションの結果は、コントロール及び1×105PFUのT3011を注射したマウスのA549腫瘍体積が注射後に徐々に増加していたことを示した。1×105PFUのT3011を注射したマウスの腫瘍体積はコントロールのそれより遅く増加していた。1×107PFUのT3011を注射したマウスの腫瘍体積は最初に徐々に増加し、次に徐々に減少していた。注射から26後に、コントロールの腫瘍体積が最大で、1×105PFUのT3011を注射したマウスの腫瘍体積がそれに続き、1×107PFUのT3011を注射したマウスの腫瘍体積が最小であった。
【0061】
この一連の実験は、T3011の腫瘍内注射後に、ウイルスDNA分子が腫瘍に最も多く分布していることを示した。一部のウイルスDNA分子は、心臓、肝臓、脾臓、肺、腎臓、脳、性腺、血液などの組織にも分布していた。同時に、T3011の腫瘍内注射は腫瘍成長を効果的に阻害することができ、1×107PFUのT3011は1×105PFUのT3011よりも抗腫瘍効果が優れている。
【0062】
T3011を尾静脈から単回注射することがKYSE30腫瘍成長を阻害した
この一連の実験の目的は、T3011の静脈内投与が腫瘍内注射と同じ効果を達成できるかどうかをテストすることであった。
【0063】
この目的のために、まず、平均108mm
3のKYSE30腫瘍を有する4匹1群のマウスに、1日目に1×10
7PFUのT3011を尾静脈内に単回注射した。腫瘍に注射したウイルス又はPBSの量は100μLであった。注射後の4日目、7日目、14日目、28日目に、指定された器官から抽出されたウイルスDNAをqRT-PCRによって定量化した。
図2Aに示すように、T3011の単回静脈内注射後に、ウイルスDNA分子がKYSE30腫瘍に大量に集中し、その遺伝子を発現し始める。また、一部のウイルスは、心臓、肝臓、脾臓、肺、腎臓、脳、性腺、血液などの他の器官にも集中している。正常な組織で遺伝子を発現する能力がないため、ウイルスDNA分子は宿主細胞が生き残る限り残っている。
【0064】
次に、平均108mm
3のKYSE30腫瘍を有する7匹1群のマウスに、1日目に1×10
5又は1×10
7PFUのT3011を尾静脈内に単回注射した。腫瘍に注射したウイルス又はPBS(コントロール)の量は100μLであった。その後、注射後14日まで3日又は4日ごとに腫瘍体積を測定した。結果は、コントロールの腫瘍体積が注射後に徐々に増加し、注射後10日目に最大に達してから減少し始めることを示した。1×10
5PFUのT3011と1×10
7PFUのT3011を注射したマウスの腫瘍体積は注射後に顕著に変化しなかった。注射後7日目に、1×10
5PFUのT3011を注射したマウスの腫瘍体積は徐々に減少し始め、1×10
7PFUのT3011を注射したマウスの腫瘍体積は徐々に増加し始めた。注射から26日後に、コントロールの腫瘍体積が最大で、1×10
7PFUのT3011を注射したマウスの腫瘍体積がそれに続き、1×10
5PFUのT3011を注射したマウスの腫瘍体積が最小であった(
図2B)。
【0065】
この一連の実験は、T3011の腫瘍内注射の結果と同様に、T3011の単回静脈内注射後に、ウイルスDNA分子が腫瘍に最も多く分布しており、一部のウイルスDNA分子は、心臓、肝臓、脾臓、肺、腎臓、脳、性腺、血液などの組織にも分布していた。同時に、1×105PFUのT3011の単回静脈内注射は腫瘍成長を効果的に阻害することができる。
【0066】
T3011を尾静脈から単回注射することがHCT116及びECA109腫瘍の成長を阻害した
体内に2種の腫瘍がある場合に、T3011の静脈内注射が腫瘍の成長を効果的に阻害するかどうかを検証するために、いくつかの実験が行われた。
【0067】
まず、4匹1群のマウスに、左脇腹にHCT116、右脇腹にECA109を移植した。腫瘍体積平均が160mm3(HCT116)、140mm3(ECA109)になったら、マウスは尾静脈注射にて1×107PFUのT3011を受け入れる。腫瘍に注射したウイルス又はPBSの量は100μLであった。注射後の2日目、4日目、7日目、14日目、28日目、42日目及び56日目に、指定された器官から抽出されたウイルスDNAをqRT-PCRによって定量化した。
【0068】
このセクションの結果(
図3A)は、T3011の単回静脈内注射後に、ウイルスDNA分子がHCT116腫瘍及びECA109腫瘍に最も多く分布しており、その遺伝子を発現し始めることを示した。また、一部のウイルスは心臓、肝臓、脾臓、肺、腎臓、血液などの他の器官にも分布していた。正常な組織で遺伝子を発現する能力がないため、ウイルスDNA分子は宿主細胞が生き残る限り残っている。
【0069】
次に、6匹1群のマウスに、左脇腹にHCT116、右脇腹にECA109を移植した。腫瘍体積が平均160mm3(HCT116)、140mm3(ECA109)になったら、マウスは尾静脈注射にて1×105又は1×107PFUのT3011を受け入れる。腫瘍に注射したウイルス又はPBSの量は100μLであった。その後、注射後21日又は27日まで3日又は4日ごとに腫瘍体積を測定した。
【0070】
このセクションの結果は、注射後に各群の腫瘍体積が徐々に増加していたことを示した。
図3Bは、1×10
5PFUのT3011を注射したマウスのHCT116腫瘍体積が、コントロールのHCT116腫瘍体積とほぼ同じ速さで増加し、1×10
7PFUのT3011を注射したマウスのHCT116腫瘍体積はコントロールより遅く増加していたことを示した。注射から27日後に、1×10
5PFUのT3011を注射したマウスのHCT116腫瘍体積はコントロールのそれと顕著な差がなかったが、1×10
7PFUのT3011を注射したマウスのHCT116腫瘍体積は、1×10
5PFUのT3011を注射したマウス及びコントロールより顕著に小さかった。
図3Cでは、注射後の10日以内に、1×10
5PFUのT3011又は1×10
7PFUのT3011を注射したマウスのECA109腫瘍体積はコントロールのECA109腫瘍体積とほぼ同じ速さで増加していた。注射から10日後に、10
5PFUのT3011を注射したマウスのECA109腫瘍体積の増加が最も早く、コントロールの腫瘍体積がそれに続き、10
7PFUのT3011を注射したマウスのECA109腫瘍体積の増加が最も遅かった。注射から21日後に、1×10
5PFUのT3011を注射したマウスのECA109腫瘍体積が最大で、コントロールの腫瘍体積がそれに続き、1×10
7PFUのT3011を注射したマウスのECA109腫瘍体積が最小であった。
【0071】
この一連の実験の結果は、体内に2種の腫瘍がある場合に、T3011の静脈内注射後に、ウイルスDNA分子が腫瘍に最も多く分布していることを示した。一部のウイルスDNA分子は心臓、肝臓、脾臓、肺、腎臓、血液などの他の器官にも分布していた。また、体内に複数種の腫瘍が含まれている場合に、1×105PFUのT3011の単回静脈内注射は、そのいずれの腫瘍にも成長を阻害するのに効果的ではなかった。しかし、T3011の単回静脈内注射の量を1×107PFUに増やすと両方の腫瘍のそれぞれの成長を効果的に阻害することができる。
【0072】
各生体内分布実験では、実験マウスの死亡はなかった。これはT3011の静脈内注射が安全で、顕著な毒性を引き起こさないことを示した。
【0073】
上記の実験の結果は、T3011の腫瘍内注射の結果と同様に、T3011を静脈内注射した場合、ウイルスDNA分子が腫瘍に最も多く分布しており、他の正常な組織では少ないことを示した。さらに、1×105PFUのT3011の単回静脈内注射は腫瘍の成長を効果的に阻害することができる。体内に複数種の腫瘍が含まれている場合に、T3011の静脈内注射量を増やすことで複数種の腫瘍を同時に治療する効果を得ることができる。
【0074】
本開示は、好ましい実施形態及び任意の特徴によって具体的に開示されているが、本明細書で具体化される開示の修正、改善及び変形を当業者は行うことができ、そのような修正、改善、及び変形は本開示の範囲内であると見なされる。ここに提供される材料、方法、及び例は好ましい実施形態の代表であり、例示的なもので、本開示の範囲を制限することを意図するものではない。
【国際調査報告】