(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-18
(54)【発明の名称】人工血管
(51)【国際特許分類】
A61F 2/07 20130101AFI20221011BHJP
【FI】
A61F2/07
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022508999
(86)(22)【出願日】2020-08-05
(85)【翻訳文提出日】2022-04-06
(86)【国際出願番号】 EP2020071974
(87)【国際公開番号】W WO2021028286
(87)【国際公開日】2021-02-18
(31)【優先権主張番号】102019121930.2
(32)【優先日】2019-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508053212
【氏名又は名称】ヨーテック・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】JOTEC GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】クラウスマン,マルレーン
(72)【発明者】
【氏名】ウルマー,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】オズトゥルク,オズレム
(72)【発明者】
【氏名】レスマイスター,ライナー
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097AA15
4C097BB01
4C097BB04
4C097CC01
4C097CC03
4C097DD01
4C097DD09
4C097DD10
4C097EE02
4C097EE06
4C097EE08
4C097EE09
4C097FF11
(57)【要約】
本発明は、患者の血管用の人工血管(10;100)であって、補綴材(12)、長軸(L)、およびステントフレーム(13)を有する中空円筒状本体(11)を含み、該本体(11)が、近位端(14)に近位開口部(14a)を、遠位端(15)に遠位開口部(15a)を含み、人工血管(10;100)の少なくとも一方の端部(14、15)に、第1の末端ステントリング(22)が前記補綴材(12)に取り付けられており、同じ端部(14、15)に、前記遠位開口部または前記近位開口部の直径を引張負荷により縮小することができるように構成されている少なくとも1つの糸状要素(30;30a、30b)が取り付けられている、人工血管(10;100)に関する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の血管用の人工血管(10;100)であって、ステントフレーム(13)と該ステントフレームに取り付けられた補綴材(12)とを有する中空円筒状本体(11)を含み、該本体(11)が、長軸(L)、内側面(21)、外側面(20)、近位開口部(14a)を有する近位端(14)、および遠位開口部(15a)を有する遠位端(15)を有し、
該近位端(14)および/または該遠位端(15)に、圧縮された状態から拡張した状態へ移行可能な自己拡張型の第1の末端ステントリング(22)が設けられており、該第1のステントリング(22)が、周方向に蛇行した形状をなし、複数の尖頭アーチ(24)と該尖頭アーチ(24)同士を連結する支柱(25)とを有し、前記第1のステントリング(22)が、いずれの尖頭アーチ(24)も前記近位端(14)および/または前記遠位端(15)から自由に突出していない状態で、前記本体(11)の外側面(20)の前記補綴材(12)に取り付けられていること、ならびに
前記第1のステントリング(22)に、少なくとも1つの糸状要素(30;30a、30b)が設けられており、各糸状要素(30)が、第1の端部(31;31a、31b)と第2の端部(32;32a、32b)を有し、各糸状要素(30)が、その第1の端部(31;31a、31b)で前記人工血管(10;100)に固定され、該人工血管(10;100)に沿って少なくとも部分的に周方向に移動可能にガイドされていることで、前記少なくとも1つの糸状要素(30;30a、30b)による引張負荷または引張緩和により、前記第1のステントリング(22)が径方向に圧縮された状態から拡張した状態へと移行されること
を特徴とする、人工血管(10;100)。
【請求項2】
前記近位端(14)および/または前記遠位端(15)に、前記第1のステントリング(22)の圧縮および/または拡張により径方向に圧縮された状態から拡張した状態へ移行可能な第2の末端ステントリング(23)が設けられており、該第2のステントリング(23)が、周方向に蛇行した形状をなし、複数の尖頭アーチ(24)と該尖頭アーチ(24)同士を連結する支柱(25)とを有し、前記第2のステントリング(23)が、いずれの尖頭アーチ(24)も前記近位端(14)および/または前記遠位端(15)から自由に突出していない状態で、前記本体(11)の内側面(21)の前記補綴材(12)に固定されていることを特徴とする、請求項1に記載の人工血管(10;100)。
【請求項3】
前記第1の末端ステントリング(22)または前記第2の末端ステントリング(23)が前記補綴材(12)に固定されている領域において、前記少なくとも1つの糸状要素(30;30a、30b)の第1の端部(31;31a、31b)が、前記人工血管(10;100)に固定されていること、特に前記補綴材(12)および/または前記第1の末端ステントリング(22)もしくは前記第2の末端ステントリング(23)に強固に固定されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の人工血管(10;100)。
【請求項4】
前記少なくとも1つの糸状要素(30;30a、30b)が、前記第1のステントリング(22)の支柱(25)の上と下を交互に通っていることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の人工血管(10;100)。
【請求項5】
前記糸状要素(30;30a、30b)の第2の端部(32;32a)が、該糸状要素を人工血管挿入システムに着脱可能に固定するためのループ(33)を有することを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の人工血管(10;100)。
【請求項6】
前記少なくとも1つの糸状要素(30;30a、30b)が、前記第1のステントリング(22)の周方向の少なくとも1箇所(35)において、前記第1のステントリング(22)を前記補綴材に固定するために間隔を空けて設けられた2つの縫目(36、37)の間を通るようにガイドされていることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の人工血管(10;100)。
【請求項7】
2~8つ、特に2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、または8つの糸状要素(30;30a、30b)が設けられていることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の人工血管(10;100)。
【請求項8】
前記近位端(14)および/または前記遠位端(15)において、前記第1の末端ステントリング(22)の尖頭アーチ(24)と前記第2の末端ステントリング(23)の尖頭アーチ(24)が、前記本体(11)の外側面(20)および内側面(21)で重なり合わないように配置されており、前記補綴材(12)で隔てられている前記第1のステントリング(22)と前記第2のステントリング(23)が、これらの支柱(25)で交差していることを特徴とする、請求項7に記載の人工血管(10;100)。
【請求項9】
少なくとも1つの第1の末端ステントリング(22)において、各支柱(25)の長さが同じであることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の人工血管(10;100)。
【請求項10】
前記第2の末端ステントリング(23)において、各支柱(25)の長さが異なることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の人工血管(10;100)。
【請求項11】
前記第2の末端ステントリング(23)が、前記人工血管(10;100)の近位開口部または遠位開口部(14a;15a)の方向に頂点を有する、高さが均一な尖頭アーチ(24)と、該開口部とは逆の方向に頂点を有する、高さが不均一な尖頭アーチ(24)とを有することを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の人工血管(10;100)。
【請求項12】
外向き側枝を有することを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の人工血管(10;100)。
【請求項13】
前記ステントフレーム(13)が、前記中空円筒状本体(11)に沿って連続して配置された複数の非末端ステントリング(13a、13b、13c、13d、13e)をさらに含み、該非末端ステントリング(13a、13b、13c、13d、13e)が、前記中空円筒状本体(11)の内側面(21)および/または外側面(20)の前記補綴材(12)に取り付けられていることを特徴とする、請求項1~12のいずれか1項に記載の人工血管(10;100)。
【請求項14】
前記ステントフレーム(13)が、前記中空円筒状本体(11)の内側面(21)および/または外側面(20)の前記補綴材(12)に取り付けられたレーザー加工ステントまたは有孔ステントをさらに含むことを特徴とする、請求項1~13のいずれか1項に記載の人工血管(10;100)。
【請求項15】
少なくとも第1の末端ステントリング(22)を有する人工血管(10;100)を患者の血管に挿入するための送達システム(46)であって、
患者の血管に挿入する前記人工血管(10;100)を装填するためのカテーテルチューブ(44)、
装填された状態の前記人工血管(10;100)を圧縮するための抜去シース(40)、
前記カテーテルチューブ(44)に設けられた軸方向に移動可能な固定具(42)、および
前記人工血管(10;100)の第1の末端ステントリング(22)を引張負荷または引張除荷により圧縮または拡張することができるように構成されている少なくとも1つの糸状要素(30;30a、30b)
を含むことを特徴とする、送達システム(46)。
【請求項16】
先行する請求項のいずれか1項に記載の人工血管(10;100)を挿入するために設計されている、請求項15に記載の送達システム(46)。
【請求項17】
前記固定具(42)を前記カテーテルチューブ(44)の軸方向に移動させることで、前記少なくとも1つの糸状要素(30;30a、30b)による引張負荷または引張緩和により、前記第1のステントリング(22)が圧縮または拡張されるように、さらに必要に応じて前記第1のステントリングを介して第2のステントリング(23)が圧縮または拡張されるように、前記固定具(42)が設計されていることを特徴とする、請求項15または16に記載の送達システム(46)。
【請求項18】
請求項15~17のいずれか1項に記載の送達システム(46)を用いて、請求項1~14のいずれか1項に記載の人工血管(10;100)を患者の血管に挿入する方法であって、
カテーテルチューブ(44)に装填された状態で抜去シース(40)により圧縮されている人工血管(10;100)を患者の血管に挿入する工程、
前記抜去シース(40)を引き抜いて、前記人工血管(10;100)の近位端(14)または遠位端(15)は固定され圧縮された状態のまま、前記人工血管(10;100)の主要部分を開放する工程、
固定具(42)を軸方向に移動させることで、少なくとも1つの糸状要素(30;30a、30b)を弛緩させ、それにより前記遠位端(15)または前記近位端(14)を拡張させる工程、ならびに
前記糸状要素(30;30a、30b)を前記送達システム(46)の固定具(42)から取り外し、前記人工血管(10;100)の遠位端(15)または近位端(14)を完全に開放する工程
を含む方法。
【請求項19】
血管疾患を治療するための、患者の血管内への移植用の請求項1~14のいずれか1項に記載の人工血管(10;100)および/または請求項15~17のいずれか1項に記載の送達システム(46)の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の血管用の人工血管であって、ステントフレームと該ステントフレームに取り付けられた補綴材とを有する中空円筒状本体を含み、該本体が長軸、内側面、外側面、近位開口部を有する近位端、および遠位開口部を有する遠位端を有する人工血管に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の人工血管は、当技術分野で一般的に知られている。血管内ステント、血管内ステントグラフト、エンドプロテーゼ、またはエンドグラフトとも呼ばれる人工血管を、脆弱な血管、損傷した血管、破裂した血管、または動脈瘤がある血管の治療に用いることは一般に知られているところである。動脈瘤の管腔内治療の目的は、病変した血管部分への圧力を完全に取り除いて、血管の破裂を確実に防ぐことである。そのために、人工血管を用いて、機能が失われた管腔を全体にわたって、特にアンカーゾーンの領域において封止する必要がある。そこで、人工血管や血管内ステントグラフトを血管の病変部位や損傷部位で開放させて、それにより、元の血管の機能を回復させ、まだ残っている血管の完全性を補う。開放したインプラントにより、病変の正常化もしくは遮蔽、および/または血流路の変更がなされ、その結果、血液が人工血管内を流れるようになり、膨張部への負担が軽減される。人工血管は、多くの場合、その径方向の力で十分に血管内に固定される。
【0003】
動脈瘤は、先天的または後天的な血管壁の変化により、動脈血管が拡大または膨張したものである。この膨らみが血管壁全体に及ぶ場合もあれば、いわゆる仮性動脈瘤や動脈解離のように、血管内腔から血管壁の層の間に血液が漏れ出し、層の間が裂けた状態になる場合もある。動脈瘤を治療しないままでいると、進行した段階で動脈が破裂し、内出血を引き起こして死亡する可能性がある。
【0004】
動脈瘤の治療に用いられる自己拡張型人工血管は、一般に、ステンレス鋼または金属合金(通常は形状記憶材料;例えば、ニチノール)で作られた中空円筒状の金属製のフレームまたは足場構造体からなる。これは通常、ワイヤーメッシュ、または、周方向に蛇行するステントスプリングが連続して配置されたものからなり、このステントスプリング同士は、ワイヤー同士を接続する支持材によって連結されていてもよく、補綴材を介して連結されているだけでもよい。この中空円筒状の金属フレームの被覆面(外被)は、多くの場合、繊維やポリマーフィルムで覆われており、これら全体で中空円筒状本体が形成される。この外被は通常、ポリエステル(ダクロン)またはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)で作られている。金属フレームは、多くの場合、非吸収性縫合材で補綴材に縫着されている。
【0005】
現在市販されている人工血管は、直径が18~46mm、シース部または被覆部の長さが90~250mmのものである。このような人工血管は、追加の人工血管を使用することによって近位または遠位に拡張することができる。また、カスタムメイドの人工血管も知られている。人工血管は通常、購入時に挿入システムと一体化した状態になっている。この挿入システムを用いて、人工血管を硬いガイドワイヤーに通して患部血管に挿入する。
【0006】
人工血管は、一般に、近位端部分(10~20mm)には被覆材がない(ベアスプリング)。この「ベアスプリング」により、送達システム内での固定が保証される。したがって、「ベアスプリング」は人工血管を移植する際に必要であり、移植時に、送達システムを人工血管の露出したステントリングと連結することで、人工血管を所望の位置で狙い通りに確実に拡張させることができる。
【0007】
移植に際しては、人工血管を径方向に圧縮して、断面積を大幅に縮小させる。人工血管は送達システムのシースカテーテルの遠位端に配置されており、シースカテーテルをゆっくりと引き抜くことで開放される。
【0008】
移植時、人工血管をまず挿入/送達システムを使用して動脈瘤のある領域に送り込み、そして、適正な位置で開放させる。そのために、送達システムには、近位のステントグラフトスプリングの固定具が設けられている。第1のステントスプリング、すなわち近位端のステントスプリングは、閉鎖機構に係止して固定される。これは通常、第1のステントスプリングがステントグラフトから近位に突出していて、この部分に補綴材がないため可能である。この固定により、送達システム内に第1のステントスプリングも保持されているが、この固定は、送達システムの近位端にある開放機構を作動させることで、いつでも解除されるようになっている。
【0009】
これに関して、ステントの適正な位置は、X線マーカーにより制御することが可能であり、X線マーカーは、ステントのシースの、特に分枝血管への供給用開口部の領域、または近位端と遠位端の領域に設けられている。
【0010】
上述したように、人工血管の近位固定は、通常、好ましくは繊維シースから突出したステントスプリングを介して解除される。しかし、それによる数多くの欠点も明らかになっている。例えば、ステントスプリングは、多くの場合、尖った形をしているため、露出したステントスプリングによって血管が損傷する例がしばしば見られ、最悪の場合、新たな動脈瘤が発生することもある。さらに、フリーのステントスプリングにシースカテーテルやガイドワイヤーが絡まったり、「引っ掛かったり」する危険性もある。その結果、人工血管の位置がずれたり、機能しなくなる事態も想定される。また、露出したスプリングが、すでに配置されている人工血管にダメージを与える可能性もある。また、このような人工血管は部分展開ができないため、移植中に完全に血流が遮断されることになる。
【0011】
さらに、自己拡張型人工血管を開放する場合、一旦開放した人工血管を必要に応じて適正に配置するために血管内で回転、移動または変位させることは、血管を損傷させる恐れがあるため禁忌とされているという重要な問題もしばしば指摘される。従来技術により公知の挿入システムにはまさにこのような欠点があるが、側枝を有する人工血管を使用する場合、開放後に分枝血管内に延設することを想定しているため、この点は特に重要である。
【0012】
このような欠点を回避するために、先行技術で公知の人工血管には、例えば、近位ステントスプリングも補綴材に縫い付けられているか、補綴材で被覆されるような設計になっているものがある。この場合、人工血管を治療対象の血管に挿入するために必要な、人工血管の送達システムへの固定は、中空円筒状本体内のループによって保証されている。
【0013】
しかし、このような人工血管では、近位の装填領域で材料の不要な蓄積や密集が起こるため、カテーテル径を大きくする必要がある。したがって、血管の細い患者の治療には使用することができない。また、挿入システムのガイドフックがループに引っ掛かり、開放時に人工血管がずれる可能性があるという欠点もある。また、露出したループに血液成分が付着して血栓が形成されやすくなる可能性もある。
【0014】
別の先行技術で公知の人工血管では、被覆されたステントグラフトから金属ループが突出しており、このループにガイドワイヤーを取り付けるように設計されている。このような人工血管では、送達システムを抜去する際に、送達システムがこのループに引っ掛かり、人工血管が外れる可能性があるという欠点もある。この種の人工血管でも、血栓形成、ひいては塞栓形成のリスクがある。
【0015】
したがって、血管内への移植や血管疾患の治療に使用できる新たな人工血管に対する需要は依然として高い。特に、挿入用カテーテルへの人工血管の装填を簡便に行うことができ、患部血管への人工血管の挿入や送達が簡単に行える人工血管があれば望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
このような背景から、本発明は、人工血管、ならびに、人工血管の装填、圧縮、導入および開放を容易に行うことができ、人工血管を最終的に開放する直前までステントを適正に配置することができるような適切な送達システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明によれば、上記の目的は、患者の血管用の人工血管であって、ステントフレームと該ステントフレームに取り付けられた補綴材とを有する中空円筒状本体を含み、該本体が長軸(L)、内側面、外側面、近位開口部を有する近位端、および遠位開口部を有する遠位端を有する人工血管により達成される。この人工血管の特徴としては、前記近位端および/または前記遠位端に、圧縮された状態から拡張した状態へ移行可能な自己拡張型の第1の末端ステントリングが設けられており、該第1のステントリングが、周方向に蛇行した形状をなし、複数の尖頭アーチと該尖頭アーチ同士を連結する脚部とを有し、前記第1のステントリングが、いずれの尖頭アーチも前記近位端および/または前記遠位端から自由に突出していない状態で、前記本体の外側面の前記補綴材に取り付けられていること、ならびに前記第1のステントリングに、少なくとも1つの糸状要素が設けられており、各糸状要素が、第1の端部と第2の端部を有し、各糸状要素が、その第1の端部で前記第1のステントリングに強固に固定され、前記人工血管に沿って少なくとも部分的に周方向に移動可能にガイドされていることで、前記少なくとも1つの糸状要素による引張負荷または引張緩和により、前記第1のステントリングが径方向に圧縮された状態から拡張した状態へと移行されることが挙げられる。
【0018】
本発明の目的は、少なくとも1つの末端ステントリングを有する人工血管を患者の血管に挿入するための挿入/送達システムであって、患者の血管に挿入する前記人工血管を装填するためのカテーテルチューブ、装填された状態の前記人工血管を圧縮するための抜去シース、前記カテーテルチューブに設けられた軸方向に移動可能な固定具、および前記人工血管の末端ステントリングを引張負荷または引張除荷もしくは引張緩和により圧縮または拡張することができるように構成されている少なくとも1つの糸状要素を含む挿入/送達システムにより、さらに達成される。
【0019】
本発明の目的は、本発明の挿入システムを用いて、人工血管を患者の血管に挿入するための方法であって、
カテーテルチューブに装填された状態で抜去シースにより圧縮されている本発明の人工血管を患者の血管に挿入する工程、
前記抜去シースを引き抜いて、前記人工血管の近位端および/または遠位端は固定され圧縮された状態のまま、前記人工血管の主要部分を開放する工程、
固定具を軸方向に移動させることで、少なくとも1つの糸状要素を解放するか弛緩させ、それにより前記遠位端および/または前記近位端を拡張させる工程、ならびに
前記糸状要素を前記送達システムの固定具から取り外し、前記人工血管の遠位端および/または近位端を完全に開放する工程
を含む方法により、さらに達成される。
【0020】
本発明の目的は、血管疾患を治療するための、患者の血管内への移植用の本発明の人工血管および/または本発明の挿入/送達システムの使用により、さらに達成される。
【0021】
上記により、本発明の基礎をなす目的は完全に達成される。
【0022】
本発明の人工血管または本発明の挿入/送達システムを用いることにより、人工血管を容易かつ極めて正確に配置することができる。これは、糸状ガイドを用いることで、人工血管の開口部を制御された方法で開放させたり、必要に応じて再び閉鎖させたりすることができるためである。したがって、シースカテーテルを引き抜いた際に、すぐに人工血管が拡張してしまい、拡張を制御できないという事態を回避することができる。人工血管の拡張を制御することで、人工血管を、狙い通りに部分的拡張から段階的に完全拡張へと移行させるという使い方が可能である。この場合、人工血管の拡張は、糸状ガイドと糸状要素の引張や弛緩によって制御される。特にこの人工血管の利点は、人工血管を一旦配置した後でも回転させることができるという点にあり、例えば、分枝血管用の側枝が設けられている人工血管において、側枝を正確に配置する際に有用である。
【0023】
本発明の人工血管によって、不安定または脆弱な血管壁や血栓が生じた血管壁の支持、特に動脈瘤のある血管の治療に使用できる新規な人工血管が提供される。この人工血管の特殊な設計により、外科医は、損傷した血管に人工血管を適正に配置しやすく、また必要に応じてその位置を修正することも容易に行うことができる。
【0024】
具体的には、本発明の中空円筒状の人工血管は、近位端に近位開口部を有し、遠位端に遠位開口部を有し、それぞれの開口部は直径(d)を有する。
【0025】
本発明において、本発明の人工血管の近位開口部および/または遠位開口部の開口角度または開口度は、少なくとも1つの糸状要素を介して制御することができ、特に、人工血管の開口部以外の部分を圧縮状態で保持していた抜去シースを抜去した後でも、制御することができる。したがって、使用者は、まず、例えば抜去シースにより長軸に沿って圧縮された状態で保持されている人工血管を、治療対象の血管内に正確に配置し、次いで、抜去シースを抜去して人工血管を拡張させ、そして、少なくとも1つの糸状要素により、人工血管の近位開口部および/または遠位開口部の開放または拡張を制御することができる。
【0026】
さらに、本発明の人工血管では、人工血管の開口部の標的拡張を可能にする糸状要素が、人工血管の拡張後、送達システム内で引っ掛からないように人工血管に固定されているため、人工血管の位置ずれが起こらないという利点がある。
【0027】
さらに、本発明の人工血管は、近位開口部を補綴材の近位端と本質的に同一面上とすることができる構成であるため、冒頭で述べたようないわゆる「ベアスプリング」を必要としないという利点を有する。好ましい一実施形態において、本発明の人工血管は、その近位端および/または遠位端、すなわち糸状要素が設けられている端部をもう一つ別の人工血管に部分的に挿入して固定し、「ステント内ステント」またはいわゆる「二次」ステントとして使用することもできる。先行技術で公知の人工血管を用いて2つの人工血管の一方をもう一方にガイドする場合、重ねた領域でのステントリング/ステントスプリングの露出によりダメージが生じることがあるが、本発明の人工血管はこのような不具合を防ぐことができる。
【0028】
つまり、第1の末端ステントリングの尖頭アーチが近位端および/または遠位端から突出している状態に関して用いられる「自由」という用語は、補綴材の末端が第1の末端ステントリングの尖頭アーチの最も外側の先端と同一面上にあること、すなわち、第1の末端ステントリングのいずれの領域または部分も人工血管の内側または外側において補綴材で覆われていることの対義の表現である。
【0029】
本発明において、第1のステントリングは、人工血管の近位端および/または遠位端において、人工血管の長軸方向に対して垂直方向に配置された、蛇行した形状の閉環状支持要素である。第1のステントリングは、複数の尖頭アーチと尖頭アーチ同士を連結する脚部/支柱で形成されたステントスプリングを有する。
【0030】
本明細書において、「蛇行した形状」は、ステントリングのループ状の線条を意味する。この場合、近位方向と遠位方向に交互に向いた尖頭アーチまたは先端が形成されており、尖頭アーチ同士は、直線形の支柱または脚部で連結されている。好ましい一実施形態において、前記ステントリングは、同一方向(すなわち近位方向または遠位方向のいずれか)に向いた尖頭アーチを少なくとも4つ、特に少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、少なくとも8つ、もしくは少なくとも9つ、または正確に4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、もしくは9つ有する。
【0031】
本明細書において、「ステント」または「ステント要素」、「ステントスプリング」または「ステントリング」は、人工血管に拡張力および/または支持機能を与える任意の構造体を意味する。したがって、ステント要素は、ステントの特性を有する要素である。本明細書において、ステントスプリングとステントリングは、区別なく使用される。
【0032】
ステントリングは、素材の特性により圧縮可能なひと続きの環状要素であり、圧縮圧力を除去すると、ばねのように再び伸張することができるものと定義される。ステントスプリング/ステントリングは、波状の周期パターンを有し、波の山と波の谷が相を形成し、これらが交互に現れる形状になっている。
【0033】
本発明において、少なくとも1つの末端ステントリングは、人工血管のステントフレームの他の部分とは連結されておらず、補綴材に取り付けられているだけであり、好ましくは補綴材に縫い付けられている。第1の末端ステントリングは、その全体が補綴材の表面に取り付けられているのではなく、特定の部分のみ、例えば、尖頭アーチの領域のみ補綴材に取り付けられていて、尖頭アーチ同士を連結する支柱/脚部は、本質的に補綴材に直接取り付けられたり、縫い付けられたりしていないことが好ましい。
【0034】
ステントリングの周方向の振幅は、すべて同じであってもよく、それぞれ異なっていてもよい。振幅が同じか異なるかは、ステントスプリングの脚部の長さが同じか異なるかによる。振幅の大きさが異なる場合、ステントグラフトを個々の血管やその特性(曲率、分枝血管、先細りなど)に適合させることができるという利点がある。
【0035】
本発明の人工血管は、ステント足場構造体またはステントフレームを有し、好ましい一実施形態において、該ステント足場構造体または該ステントフレームは、人工血管の全長にわたって延びており、その全長にわたって補綴材と連結されている。
【0036】
本発明において、「遠位」という用語は、血流に対して下流側に位置する人工血管の部分または端部を意味する。一方、「近位」という用語は、血流に対して上流側に位置する部分または端部を意味する。つまり、「遠位」という用語は、血流の方向にガイド/配設されることを意味し、「近位」という用語は、血流とは逆の方向にガイド/配設されることを意味する。
【0037】
一方、カテーテルまたはカテーテルを含む送達システムの場合は、「遠位」という用語は、カテーテルもしくは送達システムの、患者に挿入される端部または使用者から最も遠い端部を意味し、「近位」という用語は、使用者に近いほうの端部を意味する。
【0038】
本発明において、人工血管の近位端と遠位端のいずれか一方、または両方の端部に、人工血管の補綴材に強固に固定された第1の末端ステントリングを有していてもよい。特に断りがない限り、「末端」は、人工血管の近位端または遠位端を意味する。
【0039】
本発明の人工血管への第1の糸状要素の取り付けは、例えば、第1の糸状要素の端部を人工血管、特に補綴材および/またはステントリングへの縫合、結着および/または接着により行うことができる。
【0040】
本明細書において、「糸状要素」とは、特定の長さの糸または紐であって、第1の端部と第2の端部とを有するもの、特に、繊維を撚り合わせて作られた柔軟で非弾性のプラスチック製または金属製の構造体であって、主に一次元に伸びて長軸方向に均一性を有し、それによって第1の端部と、第2の端部と、特定の長さとを有するものと理解される。
【0041】
さらなる好ましい一実施形態において、人工血管の近位端および/または遠位端に、第1のステントリングの圧縮または拡張によって圧縮状態から拡張状態に移行可能な第2の末端ステントリングが設けられており、第2のステントリングは、周方向に蛇行した形状をなし、複数の尖頭アーチと尖頭アーチ同士を連結する支柱/脚部とを有し、第2のステントリングは、いずれの尖頭アーチも人工血管の近位端および/または遠位端から自由に突出していない状態で、人工血管本体の内側面の補綴材に取り付けられている。
【0042】
別の好ましい一実施形態において、人工血管の近位端および/または遠位端において、第1の末端ステントリングの尖頭アーチと第2の末端ステントリングの尖頭アーチは、人工血管本体の内側面および外側面で重なり合っていない。よって、補綴材で隔てられている第1の末端ステントリングと第2の末端ステントリングは、支柱/脚部でのみ重なり合っているが、尖頭アーチ同士は重なり合っていない。
【0043】
この実施形態は、人工血管の少なくとも一方の末端領域が、第2の末端ステントリングによってさらに安定化されているという利点を有する。
【0044】
一実施形態において、第1の末端ステントリングおよび/または第2の末端ステントリングが補綴材に取り付けられている領域において、前記少なくとも1つの糸状要素は、その第1の端部が人工血管に強固に固定されていることが好ましい。
【0045】
したがって、前記少なくとも1つの糸状要素も、第1の末端ステントリングおよび/または第2の末端ステントリングを補綴材に固定するために使用されている縫合糸と同じ材料を用いて、第1の末端ステントリングまたは第2の末端ステントリングに強固に固定、例えば、縫合、結着および/または接着することができる。
【0046】
本発明の人工血管の好ましい一実施形態において、前記少なくとも1つの糸状要素の長さは、少なくとも2つ、好ましくは少なくとも3つの、同一方向(すなわち、近位方向または遠位方向)に向いた尖頭アーチを連結する仮想線の長さに相当することが好ましい。
【0047】
好ましい糸状要素の長さは、約10mm~100mm、特に10mm~50mmである。
【0048】
好ましい実施形態において、糸状要素の直径は、約0.05mmまたは正確に0.05mmから約1mmまたは正確に1mmの範囲とすることができる。
【0049】
本発明の人工血管の開口度を、前記少なくとも1つの糸状要素の長さによって制御できることは有利である。
【0050】
前記少なくとも1つの糸状要素は、一部が人工血管の第1の末端ステントリングに存在し、第2の端部が人工血管に強固に固定されていない自由端の状態で、周方向に移動可能にガイドされている。ここで、「周方向に」とは、糸状要素が人工血管の長軸方向に対して垂直方向にガイドされている、すなわち人工血管の周方向にガイドされていることを意味する。さらに、「移動可能にガイドされている」または「移動可能に取り付けられている」とは、糸状要素が、その第1の端部でのみ人工血管に固定されており、その他の部分、特にその第2の端部では、補綴材および/またはステントリングに強固に固定されておらず、本質的に(所定の隙間または通路を通って)移動自在にガイドされていることを意味する。このように移動自在にガイドされていることによって、糸状要素は、引張負荷により末端ステントリングを圧縮して、末端ステントリングと糸状要素を含む人工血管開口部を閉鎖または縮小し、また引張緩和により末端ステントリングを拡張させて、人工血管開口部を開放または拡大することができる。
【0051】
このように、前記少なくとも1つの糸状要素が、固定された第1の端部から、人工血管の周方向の一方、すなわち、右方向または左方向にガイドされていることは有利であり、さらなる好ましい一実施形態において、前記少なくとも1つの糸状要素は、ステントリングの支柱/脚部の上と下を規則的または不規則的に交互に通ってガイドされている。
【0052】
好ましい一実施形態において、糸状要素は、人工血管の周方向において、少なくとも部分的に、かつ/または1つ以上の箇所で所定の領域にガイドされている。
【0053】
好ましい一実施形態において、前記少なくとも1つの糸状要素が、その第2の端部が偏向部を通るようにガイドされていることはさらに好ましい。ここで、「偏向部」とは、糸状要素の固定されている第1の端部を起点とする所定の周方向とは異なる方向、例えば反対方向、および/または長軸方向への糸状要素のガイドおよび/または引張を可能にする要素を意味する。
【0054】
糸状要素が部分的にガイドされている所定の領域または偏向部は、例えば、補綴材における縫合糸および/またはループによって限定または「予め設定」することができる。このようにして、糸状要素が所定の領域に保持されている。
【0055】
したがって、好ましい一実施形態において、前記少なくとも1つの糸状要素は、末端ステントリングの周方向の少なくとも1箇所において、末端ステントリングを補綴材に固定するために間隔を空けて設けられた2つの縫合糸の間、好ましくは間隔を空けて設けられた2つの縫合糸/縫目を通るようにガイドされている。
【0056】
上述したように、この実施形態は、周方向にガイドされている糸状要素に対して偏向部が設けられているという利点を有する。糸状要素は、その第1の端部で人工血管に強固に固定され、この第1の端部が固定されている点から周方向の一方向(右方向または左方向)に、第1の末端ステントリングの支柱の上と下を通ってガイドされている。前記少なくとも1つの糸状要素が、離れて配置されている2つの縫目/縫合糸を通ってガイドされていることによって、糸状要素を別の方向に偏向できるため、それによりステントリングを圧縮し、人工血管開口部を縮小させることができる。
【0057】
2つの縫合糸の間を通るガイドは、周方向の1箇所で行われていてもよく、周方向の複数の箇所で行われていてもよい。ただし、周方向への移動は常に可能である。
【0058】
このように、前記少なくとも1つの糸状要素を、狙い通りにガイドして、必要に応じて、異なる方向に偏向させることが可能である。
【0059】
前記少なくとも1つの糸状要素は、さらに、人工血管に沿って周方向に部分的にクモの巣状(web-like)に存在していてもよい。この場合、前記少なくとも1つの糸状要素は、第1の末端ステントリングの支柱/脚部の上と下を交互に通ってガイドされ、第1のステントリングと補綴材との間を「編む」または縫うように周方向に通っている。ここでも、前記少なくとも1つの糸状要素がガイドされる領域は、補綴材と第1のステントリングを連結する縫合糸によって予め設定することができる。第1の末端ステントリングの支柱の上と下を交互に通ってガイドされている場合、規則的に、すなわち、連続する支柱の下と上を常に交互に通ってガイドされていてもよく、あるいは例えば、連続する2つの支柱の上を通って、次いで1つの支柱の下を通るといったように不規則的にガイドされていてもよい。
【0060】
さらなる一実施形態において、糸状要素の第2の端部は、糸状要素を人工血管の開放システムに取り外し可能に固定することができるループを有することが好ましい。
【0061】
このループは、例えば、糸状要素の第2の端部をループ状にして結着または接着することで形成することができる。例えば、糸状要素の第2の端部をループ状にして、その末端を糸状要素の第2の端部の手前の部分に結着、接着、溶接、またはその他の固定手段によって固定する。このように、糸状要素を固定システムに着脱可能に係止できることは有利である。
【0062】
本発明の人工血管は、一般に、拡張状態と圧縮状態という2つの(最終)状態をとる。圧縮状態は、人工血管をその長軸に沿って圧縮することによって達成され得る。例えば、抜去シースにより、人工血管はイントロデューサカテーテルに装填された状態で圧縮状態が維持される。さらに(したがってこれとは別にまたは追加的に)、前記少なくとも1つの糸状要素の引張負荷により、第1の末端ステントリングは圧縮された状態で保持される。抜去シースを引き抜くと、まず、第1の末端ステントリングまたはこのステントリングを含む人工血管開口部以外の部分の人工血管が拡張し、第1の末端ステントリングまたはこのステントリングを含む人工血管開口部は、これとは別に、糸状要素の引張緩和により開放される。
【0063】
人工血管を送達カテーテルに装填する前(また、血管内で拡張した形態にあるとき)、前記少なくとも1つの糸状要素は、人工血管に沿って周方向に部分的に(例えば、尖頭アーチ2~4つ分の長さにわたって)固定されていない状態でガイドされている。したがって、前記少なくとも1つの糸状要素の、人工血管に強固に固定されていない端部は露出した状態になっている。この端部を、例えばループ状にしてもよい。これにより、この糸状要素を容易に引っ張ることができ、送達カテーテルに容易に固定することができる。
【0064】
人工血管の第1の末端ステントリングを圧縮するために、糸状要素の固定されていない自由端である第2の端部を引っ張って張力をかけることができる。これにより、人工血管の遠位開口部および/または近位開口部の直径を小さくすることができる。また、糸状要素の固定されている端部と固定されていない自由な部分との間の距離が短くなり、第1のステントリングが収縮/圧縮される。糸状要素は、自由端である第2の端部を介して、人工血管の挿入システムに着脱可能に取り付けることができる。例えば、糸状要素用に設けられた固定システムに、例えばループ状にした第2の端部を引っ掛けることによって、糸状要素を取り付けることができる。人工血管または第1のステントリングを開放させるには、ループが再び解放されるように、糸状要素用の固定システムをイントロデューサカテーテルに沿って軸方向に移動させる。これにより、張力が緩和され、第1のステントリングまたは開口部が拡張する。ここで、「着脱可能に」取り付けるとは、人工血管を装填して、前記少なくとも1つの末端ステントリングを圧縮する際に、糸状要素の第2の端部を、送達カテーテルまたは送達カテーテルに設けられた固定システムに一旦固定するが、後で糸状要素の第2の端部を固定システムから(例えば、送達カテーテルまたは固定システムを機械的に動作させる/操作することで)取り外すことができ、それにより少なくとも1つのステントリングを開放することが可能であることを意味する。
【0065】
したがって、引張負荷は、糸状要素に作用する張力または引張運動であると理解される。この引張負荷により、糸状要素はステントリングを少なくとも部分的に圧縮する。一方、引張緩和は、糸状要素が、張力がかかっていない状態で人工血管に沿ってガイドされている状態と理解される。
【0066】
移植時にシースカテーテルを引き抜く際、人工血管の末端ステントリングの拡張、ひいてはステントリングが位置する開口部の拡張は、糸状要素の第2の端部を狙い通りに解放することによって、または糸状要素の「固定を解除」するか糸状要素を弛緩することによって制御することができる。このように、血管内での人工血管の末端ステントリングの拡張は、送達システム内での固定と「固定の解除」によって制御することができる。人工血管を圧縮するシースチューブを抜去することで、まず、人工血管の開口部以外の部分が開放され、さらに糸状要素による固定を解除することで、人工血管が完全に拡張される。開放時、糸状要素はステントリングの支柱の下および/または上を通ってガイドされた状態で人工血管に沿って周方向に巻きついているため、血管内で人工血管が拡張された後、糸状要素も人工血管と血管壁との間に挟まれた状態で保持される。
【0067】
本発明の一実施形態において、前記少なくとも1つの糸状要素は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの人工血管の補綴材と同じ材料で構成されていてもよく、もしくは該材料を含んでいてもよく、かつ/または、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)などの、少なくとも第1の末端ステントリングを補綴材に取り付けるために使用されている縫合材と同じ材料で構成されていてもよく、かつ/または、NiTiなどの超弾性材やその他の一般的な外科用縫合材で構成されていてもよい。
【0068】
本明細書において、中空円筒状本体とは、ステントフレームと少なくとも一部が補綴材で構成された、少なくとも一方の端部が被覆されている人工血管の本体を意味する。ステントフレームは、相互に連結されていない複数のステントリング/ステントスプリングで構成されていてもよく、各要素が相互に連結された編組ステントフレームまたはレーザー加工ステントフレームで構成されていてもよい。
【0069】
本発明の人工血管の一実施形態において、第1のステントリングに少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、もしくは少なくとも8つ、または正確に2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、もしくは8つの糸状要素が存在しており、各糸状要素が、その第1の端部で人工血管に強固に固定されていることが好ましい。好ましい一実施形態において、本発明の人工血管は、5つの糸状要素を有し、各糸状要素の第1の端部が、特に第1のステントリングの領域で、人工血管に固定されている。
【0070】
本発明の人工血管の一実施形態において、第2の糸状要素、第3の糸状要素、さらに場合により設けられているさらなる糸状要素は、それぞれの第1の端部を第1の末端ステントリングに固定することにより、人工血管に強固に固定することができる。
【0071】
本発明の人工血管が2つ以上の糸状要素を有し、それらが全て第1のステントリングの領域で人工血管に固定されている場合、各糸状要素は好ましくは同じ長さで、ステントリングの周方向に沿って分散して設けられ、それぞれステントリングの一部の区間、例えば2つまたは3つの尖頭アーチにわたって存在するか、または2つまたは3つの尖頭アーチを縫うように通っている。各糸状要素用に設けられた偏向部を介して、各糸状要素から対応するステントリングの一部の区間に引張負荷が加わると、その部分が圧縮される。
【0072】
したがって、人工血管の好ましい一実施形態において、前記偏向部は、糸状要素の数に対応する数が設けられており、すなわち、好ましくは2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、または8つの偏向部が設けられている。
【0073】
各糸状要素の自由端である第2の端部は、上述したように、例えば、第2の端部に形成されたループを介して、挿入システムの固定システムに着脱可能に取り付けられ、それにより、第1のステントリングが圧縮される。
【0074】
前記少なくとも1つの糸状要素の好ましい特徴について説明してきたが、当然のことながら、これらの特徴は、さらなる糸状要素にも適用されるものである。
【0075】
本発明の人工血管の別の一実施形態において、第1の末端ステントリングに直接隣接して、人工血管のもう一方の端部の方向に配置される1つ以上のステントリングの領域/ステントリングに、糸状要素が設けられていてもよい。この場合、糸状要素が存在する人工血管の端部をより長い区間にわたって制御することが可能であり、その開口を狙い通りに制御することができる。それにより、人工血管の再配置により長い時間をかけられるため、有利である。
【0076】
糸状要素の長さによって、その数が決まることは有利である。糸状要素が長いほど、人工血管開口部の開放と圧縮を制御するために必要な糸状要素の数は少なくなる。
【0077】
別の一実施形態において、本発明の人工血管は、放射線不透過性マーカーを有する。
【0078】
放射線不透過性マーカーは、人工血管を移植する際に、血管内での人工血管の配置をモニターすることができるという利点がある。これに関して、前記マーカーは、好ましくは、人工血管の近位端部分および/または遠位端部分に配置される。これに関して、X線マーカーは、補綴材に縫着または接着されていることが好ましい。本発明において、前記マーカーは、放射線不透過性材料を含むか、または放射線不透過性材料のみからなる。
【0079】
前記マーカーを人工血管の特定の位置に配置することにより、移植中および移植後の人工血管の正確な位置を速やかに判断することができる。放射線不透過性マーカーは、例えば、金、パラジウム、タンタル、クロム、銀などの材料から選択される1種以上で構成されていることが好ましい。前記マーカーの形状は、例えば円形、角形などの任意の形状であってよく、かつ/または例えば、血管内での人工血管の方向づけに役立つ文字、数字または図の形状であってもよい。
【0080】
好ましい一実施形態において、第1の末端ステントリングおよび/または第2の末端ステントリングにおいて、リング内の各支柱の長さは同じであるか、または異なる。
【0081】
好ましい一実施形態において、第2の末端ステントリングは、人工血管の開口部の方向に頂点を有する、高さが均一な尖頭アーチと、人工血管の開口部とは逆の方向に頂点を有する、高さが不均一な尖頭アーチとを有する。
【0082】
この実施形態は、複数の箇所でより良い圧縮が行われ、材料の蓄積が抑えられるという利点がある。
【0083】
さらなる一実施形態において、人工血管は外向きの側枝を有する。
【0084】
この実施形態は、特に、治療対象の血管が複数の外向き側枝を有し、この部分に側枝のない人工血管を設置すると、外向き側枝に血液が流れなくなるといった場合に好ましい。したがって、使用する人工血管の側枝の数は、治療対象となる血管の外向き側枝血管の数によって決まる。
【0085】
一般に、人工血管の直径が治療対象の患者の血管の直径とほぼ一致するように、人工血管の直径を治療対象の患者の血管に合わせることが好ましい。これは、人工血管が、その自己拡張性により、血管に嵌合して脱離できないようにするためである。例えば、人工血管の直径が小さすぎると、血流によって人工血管が意図せずずれてしまうことがある。
【0086】
さらなる一実施形態において、補綴材は、繊維またはポリマーから選択される材料を含み、特にポリエステル、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、超高分子量ポリエチレン(UHMPE)、およびこれらの混合物から選択される材料を含むか、そのような材料で構成されている。
【0087】
さらなる一実施形態において、本発明の人工血管は自己拡張型である。ステントフレームおよび/または第1のステントリングおよび/または第2のステントリングは、自己拡張性材料、例えばニチノールで作られていることが好ましい。
【0088】
好ましい一実施形態において、ステントフレームは、中空円筒状本体に沿って連続して配置された複数の非末端ステントリングを有し、該非末端ステントリングは、中空円筒状本体の内側面および/または外側面の補綴材に取り付けられている。
【0089】
これら複数の非末端ステントリングは、相互に連結されていない状態であってもよく、前記少なくとも1つの末端ステントリングと同様に、周方向に蛇行した形状をなし、複数の尖頭アーチと尖頭アーチ同士を連結する支柱とを有するステントリングである。非末端ステントリングは、例えば、縫合糸、接着剤、または他の適切な固定手段により、人工血管の外側面および/または内側面に強固に固定することができる。
【0090】
別の一実施形態において、ステントフレームは、中空円筒状の足場構造体の内側面または外側面の補綴材に取り付けられたレーザー加工ステントまたは編組ステントを含むことが好ましい。
【0091】
上述したように、本発明はまた、本発明の人工血管を患者の血管内に挿入/送達するための挿入/送達システムに関し、この挿入システムは、血管に挿入する人工血管を装填するためのカテーテルチューブと、装填された状態の人工血管を圧縮するための抜去シースと、人工血管の少なくとも1つの糸状要素を取り外し可能に取り付けるための、カテーテルチューブに設けられた軸方向に移動可能な固定具とを含む。
【0092】
一実施形態において、固定具をカテーテルチューブの軸方向に移動させることで、前記少なくとも1つの糸状要素による引張負荷または引張緩和により、第1のステントリングが圧縮または拡張されるように、さらに必要に応じて第1のステントリングを介して第2のステントリングが圧縮または拡張されるように、固定具が設計されていることが好ましい。
【0093】
上述した特徴および以下に説明する特徴は、個々に明記した組み合わせだけでなく、本発明の範囲から逸脱しない限りは、他の組み合わせまたは単独でも利用可能であることは理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0094】
本発明の実施形態の例を図面に示し、以下の記載においてより詳細に説明する。各図は以下の通りである。
【0095】
【
図1A】本発明による人工血管の第1の実施形態を示す概略図である。
【
図1B】本発明による人工血管の第2の実施形態を示す概略図である。
【
図2】本発明による人工血管の断面概略図である。この図では、人工血管の開口部は部分的に開放されており、糸状要素は挿入/送達システムに連結されたままの状態である。
【発明を実施するための形態】
【0096】
図1Aおよび
図1Bは、本発明による例示的な人工血管の2つの実施形態を示している。この2つの実施形態は、以下に説明するように、遠位端領域が異なる。
図1Aと
図1Bで対応する特徴には同じ参照番号を付しているが、明瞭性の観点から、図中の特徴のすべてに参照番号を付してはいない。
【0097】
図1Aおよび
図1Bにおいて、10(
図1A)および100(
図1B)は、患者の血管内への移植用の本発明による人工血管の第1の実施形態の全体像を概略的に示したもの(原寸に比例して描写したものではない)であり、
図1Aおよび
図1Bに示す人工血管10、100は拡張した状態である。
【0098】
人工血管10、100は、補綴材12とこれに取り付けられたステントフレーム13とを有する中空円筒状の基体または本体11を有する。
図1に示す実施形態では、ステントフレーム13は、連続して配置された複数のステントリング13a、13b、13c、13d、13eを含む。先に説明したように、ステントフレーム13は、レーザー加工ステントフレームまたは編組ステントフレームの形態であってもよく、この場合、ステントフレームは、編組またはレーザー加工されたステント材の間にセルを有するものと理解される。
【0099】
図1Aおよび
図1Bの人工血管10、100は、近位開口部14aを有する近位端14、遠位開口部15aを有する遠位端15、長軸L、外面/外側面20、および内面/内側面21を有する。
【0100】
近位端14は、第1の末端ステントリング22と第2の末端ステントリング23をさらに含み、第2の末端ステントリング23は、
図1Aおよび
図1Bにおいて破線で示されている。
図1Aおよび
図1Bに示す実施形態において、ステントリング22は、人工血管10、100の外面20に取り付けられており、第2の末端ステントリング23は、人工血管10、100の内面21に取り付けられている。
【0101】
図1Aおよび
図1Bに示す実施形態において、ステントリング13a~13e、22および23は、それぞれ、近位方向pと遠位方向dに交互に向いた複数の尖頭アーチ24を有しており、各リングの尖頭アーチ24同士は、支柱/脚部25により連結されている。ステントリング13a~13b、22、および23は、図中、複数の短線で示される縫合糸27により補綴材に固定されている。
【0102】
図1から分かるように、補綴材の末端と、末端のステントスプリング22、23の近位方向に向いた尖頭アーチ24の最も外側の先端とは同一面上にあり、いずれの尖頭アーチも補綴材12から自由に突出しておらず、かつ、両ステントリング22、23は補綴材12で完全に覆われている。
【0103】
人工血管10、100の遠位端15は、
図1Aと
図1Bで異なっており、
図1Aに示す人工血管10の遠位端15にある末端ステントリング26は、その尖頭アーチ24と支柱25の一部が補綴材12から突出している。
【0104】
図1Bに示す人工血管100の遠位端15では、近位端14と同様に、ステントリング22、23が補綴材12で完全に覆われた形態になっている。
【0105】
図1Cは、
図1Aの人工血管10の近位端14の拡大断面を示しているが、本発明において、遠位端15もまた同じ設計とすることができる。人工血管10は、移植後に血管壁に面する外面/外側面16と、血流に面する内面/内側面17とを有する。
【0106】
図1Aおよび
図1Bから分かるように、人工血管10は、端部に2つのステントリング18、19を有し、人工血管10の外側面16に固定された第1の末端ステントリング18と、人工血管10の内側面17に固定された第2の末端ステントリング19とを有する。2つのステントリング18、19は、縫合糸20によって補綴材12に固定されているが、縫合糸20は、ステントリング18、19全体には配置されておらず、それぞれ特定の間隔を空けて特定の位置に配置されている。
【0107】
図1Cは、人工血管10、100の近位端14の拡大図である。
【0108】
近位端には2つの糸状要素30a、30bが設けられており、それぞれ第1の端部31a、31bと、第2の端部32a(第2の糸状要素30bの第2の端部は図示外)と、第1の端部と第2の端部の間の長さQとを有する。第1の端部31a、31bのいずれも、近位端14の内側面24に取り付けられたステントリング23を介して補綴材12に強固に固定されている。
【0109】
明瞭性の観点から、
図1Cでは2つの糸状要素30a、30bのみを示しているが、
図1に示す実施形態では、原理上、さらなる糸状要素が設けられており、これらによって、ステントリング22とステントリング23の全体を圧縮して人工血管10、100の開口部14aを閉鎖できるようになっている。
【0110】
糸状要素は、支柱25および/または尖頭アーチ24に固定されていてもよく、例えば、ステントリング22もしくは23および/または補綴材12への接着および/または縫合により固定されていてもよい。
【0111】
糸状要素30aの第2の端部32は、ループ33を有する。糸状要素30aは、固定されている点34aを起点として、第1の支柱25aの上、次いで第2の支柱25bの下へと、支柱の上下を交互に通り、周方向Uに移動可能にガイドされている。
図1Cから分かるように、糸状要素30aの長さQは、実質的に3つの尖頭アーチ24、すなわち、近位方向pを向いた2つの尖頭アーチと遠位方向dを向いた1つの尖頭アーチ24を横断する長さである。
【0112】
上述したように、人工血管10、100の近位開口部14aを閉鎖および開放するために、周方向Uにさらなる糸状要素30(図示外)が設けられている。さらなる糸状要素は、それぞれ周方向Uに延びて、さらに続く複数の尖頭アーチまたは支柱を横断する長さを有する。
【0113】
そして、糸状要素30aは、末端ステントリング22の周方向Uの位置35において、間隔を空けて設けられた2つの縫合糸36、37の間、すなわち2つの縫合糸36、37により設けられた偏向部を通る。間隔を空けて設けられたこの2つの縫目/縫合糸36、37は、ステントリング22を補綴材21に取り付けるために使用されているものと同じであってもよい。
【0114】
糸状要素30aは、少なくともこの位置35では近位方向pと遠位方向dの非常に限られた範囲、すなわち2つの縫目/縫合糸36、37で囲まれた領域内しか移動できないようにステントリング22に沿ってガイドされているが、一方で、周方向Uには移動可能にガイドされている。
【0115】
糸状要素30aの第2の端部32aを引っ張ると、引張負荷により、ステントリング22の一部、すなわち糸状要素30aが横断しているステントリング22の部分が、2つの縫目/縫合糸36、37によって設けられた偏向部により圧縮される。近位端における引張負荷により、ループ33aまたは糸状要素30aの第2の端部32aは、人口血管10、100の近位端14を越えて延びることができ、挿入/送達システム(後述)への装填時に、ループ33aを介して該システム内に取り外し可能に係止/固定することができる。
【0116】
第2の糸状要素30b(およびさらなる糸状要素30)も同様にガイドされ、引張負荷によって、この糸状要素30bが横断する区間のステントリング部分が圧縮される。
【0117】
糸状要素30a、30bの長さによって、その数が決まることは理解されるであろう。糸状要素が長いほど、人工血管の開口部14aの開放または圧縮の制御に必要な糸状要素の数は少なくなる。
【0118】
図1に示す例においては、5つの糸状要素が設けられている。
【0119】
図2は、
図1Aおよび
図1Bに示した人工血管の近位端14が部分的に開放および拡張された状態で示されている。人工血管10、100の第1のステントリング22と第2のステントリング23は、部分的に拡張されており、人工血管10、100のその他の部分は、挿入システム46(
図2には一部のみ示している)の抜去シース40により圧縮された状態で保持されている。
【0120】
図2では、4つの糸状要素30a、30b、30c、30dがさらに示されており、それぞれの第2の端部32a、32b、32c、32dがカテーテルチューブ44の固定具42に着脱可能に固定されている。人工血管10、100の開放(開口)または拡張は、糸状要素の長さQに応じて制御することができる。例えば、固定具42を軸に沿って矢印45の方向に動かすことにより、糸状要素30a、30b、30c、30dの送達システム46への近位固定を解除した後、糸状要素30a、30b、30c、30dの第2の端部32a、32b、32c、32dを取り外して、人工血管10、100を自己拡張させることができる。ここで、糸状要素30a、30b、30c、30dは、再び、それぞれの偏向部を通って人工血管10、100の周方向にガイドされ、血管内で人工血管10、100と血管壁との間に配置される。
【0121】
人工血管10、100を挿入システム46に装填する際には、人工血管10、100をカテーテルチューブ44に取り付け、抜去シース40により長軸に沿って圧縮した状態で保持する。人工血管10、100の近位端14(または遠位端15)または近位開口部14a(遠位開口部15a)は、糸状要素30a、30b、30c、30dの第2の端部32a、32b、32c、32dをそれぞれのループ33を介して固定具42に係止することで、各糸状要素の引張負荷により追加的に閉鎖する。
【0122】
図2に示す固定具は、複数の細長い固定棒を用いたシステムであり、固定棒の数は糸状要素の数に対応していることが好ましい。固定棒は、カテーテルチューブにおいて軸方向に移動可能/摺動可能にガイドされている。また、1本の固定棒に複数の糸状要素を取り付けることも可能である。本明細書に記載されるような固定具を有する例示的な挿入システムは、例えば、EP 1 920 739に詳細に開示されており、その内容は、その全体が本明細書に援用される。
【0123】
挿入システム46を用いて患者の血管に本発明の人工血管を挿入する際には、カテーテルチューブ44に装填された状態で抜去シース40により圧縮されている人工血管10、100を患者の血管に挿入し、適切に配置した後、抜去シースを引き抜いて、人工血管の近位(または遠位)端は固定され圧縮された状態のまま、すなわち近位(または遠位)開口部は閉鎖された状態のまま、人工血管10、100の主要部分を開放する。これにより、万が一、人工血管の位置を変更する必要が生じた際に、その部分の血管を傷つけることなく、容易に位置を変更することができる。その後、固定具を軸方向に移動させて、糸状要素30a、30b、30c、30dにかかる張力を緩和する。それにより、糸状要素30a、30b、30c、30dにかかる張力を狙い通りに、所望に応じて徐々に緩和することができるため、人工血管10、100の開口部14a、15aを段階的に開放することができる。糸状要素30a、30b、30c、30dの第2の端部が固定具からすべて取り外されると、人工血管10、100の近位端/遠位端14、15は完全に開放される。
【国際調査報告】