(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-18
(54)【発明の名称】免疫刺激性多量体型結合分子
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20221011BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20221011BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20221011BHJP
C12N 15/24 20060101ALI20221011BHJP
C12N 15/26 20060101ALI20221011BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20221011BHJP
C07K 14/55 20060101ALI20221011BHJP
C07K 14/54 20060101ALI20221011BHJP
C07K 14/715 20060101ALI20221011BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20221011BHJP
C07K 16/30 20060101ALI20221011BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20221011BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20221011BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20221011BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20221011BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20221011BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20221011BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221011BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/13
C12N15/12
C12N15/24
C12N15/26
C07K19/00
C07K14/55
C07K14/54
C07K14/715
C07K16/28
C07K16/30
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/02 C
A61P35/00
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K39/395 E
A61K39/395 T
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022509009
(86)(22)【出願日】2020-08-14
(85)【翻訳文提出日】2022-03-16
(86)【国際出願番号】 US2020046379
(87)【国際公開番号】W WO2021030688
(87)【国際公開日】2021-02-18
(32)【優先日】2019-08-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517252624
【氏名又は名称】アイジーエム バイオサイエンシズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】バリガ ラメシュ
(72)【発明者】
【氏名】ギフォン ティエリー
(72)【発明者】
【氏名】エン ディーン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064AG03
4B064AG05
4B064AG20
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B064DA05
4B065AA01X
4B065AA57X
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4B065AA87X
4B065AA94Y
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4C085AA13
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4C085BB11
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4C085BB33
4C085BB37
4C085CC23
4C085EE01
4C085GG01
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4C085GG03
4C085GG04
4C085GG08
4C085GG10
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045CA42
4H045DA02
4H045DA04
4H045DA50
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、免疫刺激物質を含む改変J鎖を含む多価の結合分子を提供する。結合分子またはそのサブユニットをコードするポリヌクレオチド、ならびに、当該ポリヌクレオチドを含むベクター及び宿主細胞も提供する。本開示は、免疫刺激物質を含む改変J鎖を含む多価の結合分子を作製及び/または使用するための方法をさらに提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二価の結合ユニットまたはその多量体化型バリアントもしくは多量体化型断片を2つまたは5つと、改変J鎖とを含む、多量体型結合分子であって、
結合ユニットのそれぞれが、合計で4個または10個の抗原結合ドメインとなるようにそれぞれ抗原結合ドメインと結合しているIgAもしくはIgM重鎖定常領域またはその多量体化型バリアントもしくは多量体化型断片を2つ含み、
前記結合分子の前記抗原結合ドメインのうちの少なくとも3つが、標的抗原に特異的に結合し、かつ
前記改変J鎖が、(a)J鎖またはその機能的断片もしくは機能的バリアント(「J」)と、(b)免疫刺激物質(「ISA」)とを含み、ここで、J及び前記ISAが、融合タンパク質として結合している、
前記多量体型結合分子。
【請求項2】
前記ISAが、サイトカインまたはその受容体結合断片もしくは受容体結合バリアントを含む、請求項1に記載の多量体型結合分子。
【請求項3】
前記サイトカインまたはその断片もしくはバリアントが、IL-15もしくはIL-2またはその受容体結合断片もしくは受容体結合バリアントを含む、請求項2に記載の多量体型結合分子。
【請求項4】
前記ISAが、(a)インターロイキン-15(IL-15)タンパク質、またはその受容体結合断片もしくは受容体結合バリアント(「I」)と、(b)スシドメインを含むインターロイキン-15受容体-α(IL-15Rα)断片、またはIと結合できるそのバリアント(「R」)とを含み、ここで、JとI及びRのうちの少なくとも1つとが、融合タンパク質として結合しており、I及びRが結合してISAとして機能できる、請求項1~3のいずれか1項に記載の多量体型結合分子。
【請求項5】
Jが、野生型ヒトJ鎖であり、配列番号2のアミノ酸配列またはその機能的断片もしくは機能的バリアントを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の多量体型結合分子。
【請求項6】
Jが、野生型J鎖に対する1アミノ酸の置換、欠失、または挿入を1つ以上含むバリアントJ鎖またはその断片であり、前記置換、欠失、または挿入が、前記多量体型結合分子の血清中半減期に影響を及ぼすことができ、前記多量体型結合分子が動物に投与されると、1つ以上の前記1アミノ酸の置換、欠失、または挿入以外は同一でありかつ同じ方法で同じ動物種に投与される参照多量体型結合分子と比べて、長い血清中半減期を示す、請求項1~5のいずれか1項に記載の多量体型結合分子。
【請求項7】
前記Jが、成熟野生型ヒトJ鎖(配列番号2)のアミノ酸Y102に対応するアミノ酸位置に、アミノ酸置換を含む、請求項6に記載の多量体型結合分子。
【請求項8】
配列番号2のY102に対応するアミノ酸が、アラニン(A)、セリン(S)、またはアルギニン(R)で置換されている、請求項7に記載の多量体型結合分子。
【請求項9】
配列番号2のY102に対応するアミノ酸がアラニン(A)で置換されている、請求項8に記載の多量体型結合分子。
【請求項10】
Jが、バリアントヒトJ鎖であり、配列番号3のアミノ酸配列(「J
*」)、または配列番号86の1~137番目のアミノ酸を含む、請求項9に記載の多量体型結合分子。
【請求項11】
Jが、野生型J鎖に対する1アミノ酸の置換、欠失、または挿入を1つ以上含むバリアントJ鎖またはその断片であり、前記置換、欠失、または挿入が前記J鎖の糖鎖付加を低減する、請求項1~10のいずれか1項に記載の多量体型結合分子。
【請求項12】
前記Jが、前記成熟野生型ヒトJ鎖(配列番号2)のアミノ酸N49に対応するアミノ酸位置に、アミノ酸置換を含む、請求項11に記載の多量体型結合分子。
【請求項13】
配列番号2のN49に対応するアミノ酸がアスパラギン酸(D)で置換されている、請求項12に記載の多量体型結合分子。
【請求項14】
Iが、配列番号4の成熟ヒトIL-15アミノ酸配列またはその受容体結合バリアントもしくは受容体結合断片を含む、請求項4~13のいずれか1項に記載の多量体型結合分子。
【請求項15】
前記受容体結合バリアントが、1アミノ酸の挿入、欠失、または置換を少なくとも1つ、ただし10個以下含み、前記1アミノ酸の挿入、欠失、または置換が、IL-15バリアントの、その受容体に対する親和性を低下させる、請求項14に記載の多量体型結合分子。
【請求項16】
Iが、アミノ酸置換を1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、または8個含む、請求項15に記載の多量体型結合分子。
【請求項17】
前記アミノ酸置換が、配列番号4のN1、N4、D8、D30、D61、E64、N65、N72、またはQ108に対応する位置のうちの1つ以上に存在する、請求項16に記載の多量体型結合分子。
【請求項18】
前記アミノ酸置換が、配列番号4における置換N1D、N4D、D8N、D30N、D61N、E64Q、N65D、N72D、またはQ108Eのうちの1つ以上を含む、請求項17に記載の多量体型結合分子。
【請求項19】
Iが、
(a)N1D、N4D、D8N、D30N、D61N、E64Q、N65D、N72D及びQ108Eからなる群から選択される位置における1アミノ酸の置換、
(b)N4D/N65D及びN1D/N65Dからなる群から選択される位置における2アミノ酸の置換、または
(c)位置D30N/E64Q/N65Dにおける3アミノ酸の置換
を除いては配列番号4を含む、請求項18に記載の多量体型結合分子。
【請求項20】
Iが、配列番号57、配列番号58、配列番号59、配列番号60、配列番号61、配列番号62、配列番号63、配列番号64、配列番号65、配列番号66、配列番号67、または配列番号68のアミノ酸配列を含む、請求項19に記載の多量体型結合分子。
【請求項21】
前記受容体結合バリアントが、1アミノ酸の挿入、欠失、または置換を少なくとも1つ、ただし10個以下含み、前記1アミノ酸の挿入、欠失、または置換が、IL-15バリアントの糖鎖付加を低減する、請求項14に記載の多量体型結合分子。
【請求項22】
Iが、アミノ酸置換を1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、または8個含む、請求項21に記載の多量体型結合分子。
【請求項23】
前記アミノ酸置換が、配列番号4のN71、S73、N79、またはN112に対応する位置のうちの1つ以上に存在する、請求項22に記載の多量体型結合分子。
【請求項24】
前記アミノ酸置換が、配列番号4における置換N71D、S73I、N79D、またはN112Dのうちの1つ以上を含む、請求項23に記載の多量体型結合分子。
【請求項25】
Iが、N71D、S73I、N79D、及びN112Dからなる群から選択される位置における1つ以上のアミノ酸置換を除いては配列番号4を含む、請求項24に記載の多量体型結合分子。
【請求項26】
Iが、配列番号85、配列番号87、配列番号88、配列番号89、または配列番号90の246~361番目のアミノ酸のアミノ酸配列を含む、請求項25に記載の多量体型結合分子。
【請求項27】
Rが、配列番号5のアミノ酸配列またはヒトIL-15と結合できるそのバリアントもしくは断片を含む、請求項4~26のいずれか1項に記載の多量体型結合分子。
【請求項28】
Rが、配列番号5のアミノ酸配列もしくはヒトIL-15と結合できるそのバリアントから本質的になるか、またはそれからなる、請求項4~20のいずれか1項に記載の多量体型結合分子。
【請求項29】
J及びIが融合タンパク質として結合している、請求項4~28のいずれか1項に記載の多量体型結合分子。
【請求項30】
J及びRが融合タンパク質として結合している、請求項4~28のいずれか1項に記載の多量体型結合分子。
【請求項31】
J、I、及びRが融合タンパク質として結合している、請求項4~30のいずれか1項に記載の多量体型結合分子。
【請求項32】
J、I、及びRがリンカーを介して融合されている、請求項31に記載の多量体型結合分子。
【請求項33】
前記リンカーが同じであるかまたは異なる、請求項32に記載の多量体型結合分子。
【請求項34】
少なくとも1つのリンカーが、アミノ酸配列
を含むか、その配列から本質的になるか、またはその配列からなる、請求項32または請求項33に記載の多量体型結合分子。
【請求項35】
少なくとも1つのリンカーが、アミノ酸配列
を含むか、その配列から本質的になるか、またはその配列からなる、請求項32または請求項33に記載の多量体型結合分子。
【請求項36】
JがJ
*であり、前記改変J鎖が、N末端からC末端に向かって、J
*-R-I、J
*-I-R、I-R-J
*、R-I-J
*、R-J
*-I、I-J
*-R、I-J
*、またはJ
*-Iとして配置されており、ここで、「-」がリンカーである、請求項6~35のいずれか1項に記載の多量体型結合分子。
【請求項37】
前記改変J鎖が、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号77、配列番号85、配列番号86、配列番号87、配列番号88、配列番号89、または配列番号90のアミノ酸配列を含む、請求項36に記載の多量体型結合分子。
【請求項38】
前記改変J鎖が、N末端からC末端に向かって、J
*-R-Iとして配置されている、請求項36に記載の多量体型結合分子。
【請求項39】
前記改変J鎖が、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号77、配列番号85、配列番号86、配列番号87、配列番号88、配列番号89、または配列番号90のアミノ酸配列を含む、請求項38に記載の多量体型結合分子。
【請求項40】
前記ISAがヒトIL-2のバリアント(「IL2v」)を含み、前記「IL2v」がIL-2受容体のα-サブユニットに結合しない、請求項1~3のいずれか1項に記載の多量体型結合分子。
【請求項41】
前記IL2vが配列番号31のアミノ酸配列を含む、請求項40に記載の多量体型結合分子。
【請求項42】
前記改変J鎖が配列番号32のアミノ酸配列を含む、請求項41に記載の多量体型結合分子。
【請求項43】
前記改変J鎖が抗体の抗原結合ドメインをさらに含み、前記抗原結合ドメインが前記改変J鎖に融合されている、請求項4~42のいずれか1項に記載の多量体型結合分子。
【請求項44】
前記抗原結合ドメインが、免疫エフェクター細胞上の標的に結合する、請求項43に記載の多量体型結合分子。
【請求項45】
前記免疫エフェクター細胞がCD8+T細胞である、請求項44に記載の多量体型結合分子。
【請求項46】
前記抗原結合ドメインが、CD3エプシロン(CD3ε)に特異的に結合する一本鎖Fv(scFv)抗体断片である、請求項45に記載の多量体型結合分子。
【請求項47】
前記改変J鎖が配列番号19を含む、請求項46に記載の多量体型結合分子。
【請求項48】
前記多量体型結合分子が、五量体であり、結合ユニットを5つ含み、結合ユニットのそれぞれが、IgM重鎖定常領域またはその多量体化型バリアントもしくは多量体化型断片を2つ含む、請求項1~47のいずれか1項に記載の多量体型結合分子。
【請求項49】
前記多量体型結合分子が、二量体であり、結合ユニットまたはその多量体化型バリアントもしくは多量体化型断片を2つ含み、結合ユニットのそれぞれが、IgA重鎖定常領域またはその多量体化型バリアントもしくは多量体化型断片を2つ含む、請求項1~47のいずれか1項に記載の多量体型結合分子。
【請求項50】
前記標的抗原が、T細胞応答またはNK細胞応答を調節する腫瘍関連抗原または標的を含む、請求項1~49のいずれか1項に記載の多量体型結合分子。
【請求項51】
前記標的抗原が、T細胞応答またはNK細胞応答を調節する標的を含む、請求項50に記載の多量体型結合分子。
【請求項52】
前記標的が、CD8+T細胞またはNK細胞の活性を阻害する、請求項51に記載の多量体型結合分子。
【請求項53】
前記標的が抑制性免疫チェックポイントタンパク質を含み、前記抗原結合ドメインが、前記標的をアンタゴナイズすることによって、CD8+T細胞またはNK細胞を刺激する、請求項52に記載の多量体型結合分子。
【請求項54】
前記抑制性免疫チェックポイントタンパク質が、プログラム細胞死-1タンパク質(PD-1)、プログラム細胞死リガンド-1タンパク質(PD-L1)、リンパ球活性化遺伝子3タンパク質(LAG3)、T細胞免疫グロブリン及びムチンドメイン3タンパク質(TIM3)、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA4)、B及びTリンパ球アテニュエータータンパク質(BTLA)、T細胞活性化のVドメインIgサプレッサータンパク質(VISTA)、Ig及びITIMドメインを有するT細胞免疫受容体タンパク質(TIGIT)、キラー細胞免疫グロブリン様受容体タンパク質(KIR)、B7-H3タンパク質、B7-H4タンパク質、またはこれらを任意に組み合わせたものを含む、請求項53に記載の多量体型結合分子。
【請求項55】
前記抑制性免疫チェックポイントタンパク質がPD-L1を含み、前記抗原結合ドメインが、配列番号33、配列番号91、配列番号92、または配列番号93のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号34または配列番号94のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VL)とを含む、請求項54に記載の多量体型結合分子。
【請求項56】
前記抑制性免疫チェックポイントタンパク質がPD-L1を含み、前記抗原結合ドメインが、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、前記VH及びVLが、6つの免疫グロブリン相補性決定領域であるHCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、及びLCDR3を含み、前記HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、及びLCDR3が抗体のCDRを含み、前記抗体のCDRが、それぞれ配列番号75及び配列番号76、配列番号96及び配列番号97、配列番号98及び配列番号99、配列番号100及び配列番号101、配列番号102及び配列番号103、配列番号104及び配列番号105、配列番号106及び配列番号107、配列番号108及び配列番号109、配列番号110及び配列番号111、配列番号112及び配列番号113、配列番号114及び配列番号115、配列番号116及び配列番号117、配列番号118及び配列番号119、配列番号120及び配列番号121、配列番号122及び配列番号123、配列番号124及び配列番号125、配列番号126及び配列番号127、配列番号128及び配列番号129、配列番号130及び配列番号131、配列番号132及び配列番号133、配列番号134及び配列番号135、配列番号136及び配列番号137、配列番号138及び配列番号139、配列番号140及び配列番号141、配列番号142及び配列番号143、配列番号144及び配列番号145、配列番号146及び配列番号147、配列番号148及び配列番号149、配列番号150及び配列番号151、配列番号152及び配列番号153、配列番号154及び配列番号155、配列番号156及び配列番号157、配列番号158及び配列番号159、配列番号160及び配列番号161、配列番号162及び配列番号163、配列番号164及び配列番号165、配列番号166及び配列番号167、配列番号168及び配列番号169、配列番号170及び配列番号171、配列番号172及び配列番号173、配列番号174及び配列番号175、配列番号176及び配列番号177、配列番号178及び配列番号179、配列番号180及び配列番号181、配列番号182及び配列番号183、配列番号184及び配列番号185、配列番号186及び配列番号187、配列番号188及び配列番号189、配列番号190及び配列番号191、配列番号192及び配列番号193、配列番号194及び配列番号195、配列番号196及び配列番号197、配列番号198及び配列番号199、配列番号200及び配列番号201、配列番号202及び配列番号203、配列番号204及び配列番号205、配列番号206及び配列番号207、配列番号208及び配列番号209、配列番号210及び配列番号211、配列番号212及び配列番号213、配列番号214及び配列番号215、配列番号216及び配列番号217、配列番号218及び配列番号219、配列番号220及び配列番号221、または配列番号222及び配列番号223であるVH及びVLを含み、前記HCDRもしくは前記LCDRの1つ以上に1アミノ酸置換を含まないか、1個含むか、または2個含む、請求項54に記載の多量体型結合分子。
【請求項57】
前記抑制性免疫チェックポイントタンパク質がPD-L1を含み、前記抗原結合ドメインが、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、前記VH及びVLが、成熟VHアミノ酸配列及び成熟VLアミノ酸配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または100%同一であるアミノ酸配列を含み、前記成熟VHアミノ酸配列及び成熟VLアミノ酸配列が、それぞれ配列番号75及び配列番号76、配列番号96及び配列番号97、配列番号98及び配列番号99、配列番号100及び配列番号101、配列番号102及び配列番号103、配列番号104及び配列番号105、配列番号106及び配列番号107、配列番号108及び配列番号109、配列番号110及び配列番号111、配列番号112及び配列番号113、配列番号114及び配列番号115、配列番号116及び配列番号117、配列番号118及び配列番号119、配列番号120及び配列番号121、配列番号122及び配列番号123、配列番号124及び配列番号125、配列番号126及び配列番号127、配列番号128及び配列番号129、配列番号130及び配列番号131、配列番号132及び配列番号133、配列番号134及び配列番号135、配列番号136及び配列番号137、配列番号138及び配列番号139、配列番号140及び配列番号141、配列番号142及び配列番号143、配列番号144及び配列番号145、配列番号146及び配列番号147、配列番号148及び配列番号149、配列番号150及び配列番号151、配列番号152及び配列番号153、配列番号154及び配列番号155、配列番号156及び配列番号157、配列番号158及び配列番号159、配列番号160及び配列番号161、配列番号162及び配列番号163、配列番号164及び配列番号165、配列番号166及び配列番号167、配列番号168及び配列番号169、配列番号170及び配列番号171、配列番号172及び配列番号173、配列番号174及び配列番号175、配列番号176及び配列番号177、配列番号178及び配列番号179、配列番号180及び配列番号181、配列番号182及び配列番号183、配列番号184及び配列番号185、配列番号186及び配列番号187、配列番号188及び配列番号189、配列番号190及び配列番号191、配列番号192及び配列番号193、配列番号194及び配列番号195、配列番号196及び配列番号197、配列番号198及び配列番号199、配列番号200及び配列番号201、配列番号202及び配列番号203、配列番号204及び配列番号205、配列番号206及び配列番号207、配列番号208及び配列番号209、配列番号210及び配列番号211、配列番号212及び配列番号213、配列番号214及び配列番号215、配列番号216及び配列番号217、配列番号218及び配列番号219、配列番号220及び配列番号221、または配列番号222及び配列番号223を含む、請求項54または請求項56に記載の多量体型結合分子。
【請求項58】
前記標的がTNF受容体スーパーファミリー標的を含み、前記抗原結合ドメインが、前記標的をアゴナイズできる、請求項50または請求項51に記載の多量体型結合分子。
【請求項59】
前記標的抗原が、GITR、OX40、またはこれらを組み合わせたものを含み、前記抗原結合ドメインが前記標的をアゴナイズできる、請求項58に記載の多量体型結合分子。
【請求項60】
前記標的抗原がGITRを含み、前記抗原結合ドメインが重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、前記VH及びVLが、それぞれ配列番号35及び配列番号36、配列番号37及び配列番号38、配列番号39及び配列番号40、配列番号41及び配列番号42、または配列番号43及び配列番号44であるアミノ酸配列を含む、請求項59に記載の多量体型結合分子。
【請求項61】
前記標的抗原がOX40を含み、前記抗原結合ドメインが、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、前記VH及びVLが、それぞれ配列番号45及び配列番号46または配列番号47及び配列番号48のアミノ酸配列を含む、請求項59に記載の多量体型結合分子。
【請求項62】
前記標的抗原が腫瘍関連抗原を含む、請求項1~49のいずれか1項に記載の多量体型結合分子。
【請求項63】
前記腫瘍関連抗原が、B細胞成熟抗原(BCMA)、CD19、CD20、EGFR、HER2(ErbB2)、ErbB3、ErbB4、CTLA4、PD-1、PD-L1、VEGF、VEGFR1、VEGFR2、CD52、CD30、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、CD38、GD2、SLAMF7、血小板由来成長因子受容体A(PDGFRA)、CD22、FLT3(CD135)、CD123、MUC-16、がん胎児性抗原関連細胞接着分子1(CEACAM-1)、メソセリン、腫瘍関連カルシウムシグナルトランスデューサー2(Trop-2)、グリピカン-3(GPC-3)、ヒト血液型Hタイプ1三糖(Globo-H)、シアリルTn抗原(STn抗原)、CD33、またはこれらを任意に組み合わせたものを含む、請求項62に記載の多量体型結合分子。
【請求項64】
前記標的抗原がCD20を含み、前記抗原結合ドメインが重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、前記VH及びVLが、それぞれ配列番号49及び配列番号50のアミノ酸配列を含む、請求項63に記載の多量体型結合分子。
【請求項65】
前記結合分子の前記抗原結合ドメインのうちの少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、または10個が、同じ標的抗原に特異的に結合する、請求項1~64のいずれか1項に記載の多量体型結合分子。
【請求項66】
各結合ユニットが、それぞれIgA Cα1ドメイン、IgAヒンジ、IgA Cα2ドメイン、IgA Cα3ドメイン、及びIgAテールピースドメインを含むIgA重鎖定常領域またはその多量体化型断片もしくは多量体化型バリアントを2つ含む、請求項1~47または49~65のいずれか1項に記載の多量体型結合分子。
【請求項67】
前記IgA重鎖定常領域が、配列番号53のアミノ酸配列、配列番号54のアミノ酸配列、またはその任意の多量体化型バリアントもしくは多量体化型断片を含む、請求項66に記載の多量体型結合分子。
【請求項68】
各結合ユニットが、それぞれIgM Cμ4ドメイン及びIgMテールピースドメインを含むIgM重鎖定常領域またはその多量体化型断片もしくは多量体化型バリアントを2つ含む、請求項1~46または48~65のいずれか1項に記載の多量体型結合分子。
【請求項69】
IgM重鎖定常領域またはその多量体化型断片もしくは多量体化型バリアントのそれぞれが、IgM Cμ4ドメイン及びIgMテールピースドメインのN末端側に位置するIgM Cμ3ドメイン、IgM Cμ2ドメイン、IgM Cμ1ドメイン、またはこれらを任意に組み合わせたものをさらに含む、請求項68に記載の多量体型結合分子。
【請求項70】
IgM重鎖定常領域のそれぞれが、ヒトIgM定常領域またはその多量体化型バリアントもしくは多量体化型断片であり、配列番号51のアミノ酸配列、配列番号52のアミノ酸配列、またはその多量体化型バリアントもしくは多量体化型断片を含む、請求項68または請求項69に記載の多量体型結合分子。
【請求項71】
前記多量体型結合分子が、バリアントヒトIgM定常領域を含み、前記多量体型結合分子のCDC活性が、配列番号51のアミノ酸配列、配列番号52のアミノ酸配列、またはその多量体化型バリアントもしくは多量体化型断片を含むIgM重鎖定常領域を含む多量体型結合分子と比べて低下している、請求項69または70に記載の多量体型結合分子。
【請求項72】
IgM重鎖定常領域のそれぞれが、配列番号51または配列番号52のアミノ酸配列のバリアントを含み、前記バリアントが、配列番号51もしくは配列番号52の位置P311におけるアミノ酸置換、配列番号51もしくは配列番号52の位置P313におけるアミノ酸置換、または配列番号51もしくは配列番号52の位置P311及びP313におけるアミノ酸置換を含む、請求項71に記載の多量体型結合分子。
【請求項73】
IgM重鎖定常領域のそれぞれが、参照IgM重鎖定常領域に対する1アミノ酸の置換、欠失、または挿入を1つ以上有するバリアントヒトIgM定常領域であり、前記参照IgM重鎖定常領域が、1つ以上の前記1アミノ酸の置換、欠失、または挿入以外は、バリアントIgM重鎖定常領域と同一であり、前記多量体型結合分子が、対象動物に投与されると、前記参照IgM重鎖定常領域を含みかつ同じ方法で同じ動物種に投与される多量体型結合分子と比べて、長い血清中半減期を示す、請求項69または70に記載の多量体型結合分子。
【請求項74】
前記バリアントIgM重鎖定常領域が、配列番号51または配列番号52の野生型ヒトIgM定常領域のアミノ酸E345A、S401A、E402A、またはE403Aに対応するアミノ酸位置の1つ以上に、アミノ酸置換を含む、請求項73に記載の多量体型結合分子。
【請求項75】
請求項1~74のいずれか1項に記載の多量体型結合分子のサブユニットポリペプチドをコードする核酸を含み、
前記サブユニットポリペプチドが、
(a)抗体重鎖可変領域(VH)と結合した、IgAもしくはIgM重鎖定常領域もしくはその多量体化型バリアントもしくは多量体化型断片を含む、IgA重鎖もしくはIgM重鎖、
(b)抗体軽鎖可変領域(VL)と結合した抗体軽鎖定常領域を含む抗体軽鎖、または
(c)(i)J鎖もしくはその機能的断片もしくは機能的バリアント(「J」)、
(ii)インターロイキン-15(IL-15)タンパク質もしくはその受容体結合断片もしくは受容体結合バリアント(「I」)、もしくは
(iii)スシドメインを含むインターロイキン-15受容体-α(IL-15Rα)断片、もしくはIと結合できるそのバリアント(「R」)
のうちの2つ以上を含む改変J鎖であって、JとI及びRのうちの少なくとも1つとが、融合タンパク質として結合しており、IとRが結合して免疫刺激複合体として機能できる、前記改変J鎖、または
(d)これらを任意に組み合わせたもの
を含む、
単離ポリヌクレオチド。
【請求項76】
前記サブユニットポリペプチドが、IgM定常領域またはその多量体化型断片もしくは多量体化型バリアントを含むIgM重鎖を含む、請求項75に記載のポリヌクレオチド。
【請求項77】
前記IgM定常領域またはその断片もしくはバリアントが、配列番号51または配列番号52のアミノ酸配列を含む、請求項76に記載のポリヌクレオチド。
【請求項78】
前記サブユニットポリペプチドが前記抗体軽鎖を含む、請求項75に記載のポリヌクレオチド。
【請求項79】
前記サブユニットポリペプチドが前記改変J鎖を含む、請求項75に記載のポリヌクレオチド。
【請求項80】
前記サブユニットが、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号15、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、または配列番号32のアミノ酸配列を含む、請求項79に記載のポリヌクレオチド。
【請求項81】
前記サブユニットポリペプチドを2つ、3つ、またはそれ以上コードする核酸配列を2つ、3つ、またはそれ以上含む、請求項75~80のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項82】
請求項75~81のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含む、発現ベクター。
【請求項83】
請求項75~81のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドまたは請求項82に記載の発現ベクターを含む、宿主細胞。
【請求項84】
請求項83に記載の宿主細胞を培養することと、前記多量体型結合分子を回収することとを含む、請求項1~74のいずれか1項に記載の多量体型結合分子の作製のための方法。
【請求項85】
治療の必要な対象に、請求項1~74のいずれか1項に記載の多量体型結合分子を投与することを含む、がんの治療のための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2019年8月15日に出願された米国特許仮出願第62/887,458号に基づく利益を主張するものであり、この仮出願は、参照により、その全体が本明細書に援用される。
【0002】
配列表
本願には、ASCII形式で電子的に提出した配列表が含まれ、その配列表は、参照により、その全体が援用される。そのASCIIコピーは、2020年8月13日に作成したものであり、名称は022WO1-Sequence-Listingであり、サイズは358,808バイトである。
【背景技術】
【0003】
背景
IgA抗体及びIgM抗体など、多量体化できる抗体及び抗体様分子は、例えば、イムノオンコロジー及び感染症の分野における有望な薬物候補として頭角を現してきており、特異性の改善、アビディティの改善、及び複数の結合標的に結合する能力を可能にするものである。例えば、米国特許第9,951,134号(特許文献1)及び同第9,938,347号(特許文献2)、ならびに国際公開番号WO2016/141303(特許文献3)、WO2016/154593(特許文献4)、WO2016/168758(特許文献5)、WO2017/059387(特許文献6)、WO2017059380(特許文献7)、WO2018/017888(特許文献8)、WO2018/017763(特許文献9)、WO2018/017889(特許文献10)、WO2018/017761(特許文献11)、WO2018/187702(特許文献12)及びWO2019/169314A1(特許文献13)(これらの内容は、参照により、その全体が本明細書に援用される)を参照されたい。
【0004】
結合分子、例えば、多量体型の抗体及び抗体様分子は、例えば、エフェクター免疫細胞、例えば、CD8+T細胞またはNK細胞を刺激することによって、がん細胞のような難しい標的に対する免疫応答を増強する追加の部分を含むように操作されることができる。サイトカイン、例えば、IFN-α、IL-2、IL-12、IL-15、IL-21またはGM-CSFを用いた独立免疫療法は、がん及び感染の治療において、ある程度有効であることが示されているが、臨床転帰は、有効性を得るのに必要とされるサイトカインのうち、標的に導かれなかったサイトカインの血中濃度が高いことと関連する毒性によって限定される場合が多い。
【0005】
IL-15は、自然免疫系及び適応免疫系の両方の活性の調節、例えば、侵入した病原体に対するメモリーT細胞応答の維持、アポトーシスの阻害、樹状細胞の活性化、ならびにナチュラルキラー(NK)細胞増殖及び細胞傷害活性の誘導で機能する。例えば、国際公開番号WO2018/134784(特許文献14)(参照により、その全体が援用される)を参照されたい。成熟ヒトIL-15(配列番号4、GenBankアクセッション番号CAA71044.1の23~136番目のアミノ酸)は、成熟カニクイザルIL-15(配列番号71(GenBank EHH53989.1の48~161番目のアミノ酸)とのアミノ酸配列同一性が約96%である。成熟ヒトIL-15及び成熟マウスIL-15(配列番号72(SwissProt番号sp|P48346.1)の49~162番目のアミノ酸)は、アミノ酸配列同一性が約70%である。
【0006】
IL-15受容体は、種特異的IL-15受容体α(「IL-15Rα」)、IL-2/IL-15受容体β(別名CD122)(「β」)、及び複数のサイトカイン受容体に共通する共通γ鎖(別名CD132)(「γ」)という3つのポリペプチドからなる。例えば、Anderson,D.M.,et al.,J.Biol.Chem.270:29862-29869(1995)(非特許文献1)を参照されたい。IL-15Rαは、広範な細胞種によって発現されると考えられるが、β及びγを発現するのは、必ずしも同じ細胞ではない。例えば、国際公開番号WO2018/134784(特許文献14)を参照されたい。IL-15は、T細胞またはNK細胞上の機能的なIL-15受容体のβサブユニット及びγサブユニットに結合する前に、APC上に発現したIL-15受容体αと複合体を形成できる。上記の文献を参照されたい。IL-15Rαスシドメインは、IL-15Rαの成分のうち、β受容体サブユニット及びγ受容体サブユニットと結合する前に、IL-15と複合体を形成するための必須成分である(例えば、Wei et al.J.Immunol.167:277-82(2001)(非特許文献2)を参照されたい)。ヒトスシドメインの配列は、配列番号5(GenBankアクセッション番号NP_002180.1の31~107番目のアミノ酸)として示されている。カニクイザルスシドメインの配列は、配列番号73(GenBankアクセッション番号ACI42785.1)の4~80番目のアミノ酸として示されている(ヒト配列とのアミノ酸同一性は92%)。マウススシドメインの配列は、配列番号74(SwissProtアクセッション番号sp|Q60819.1)の34~98番目のアミノ酸として示されている(ヒト配列との同一性は約83%)。スシドメイン/IL-15融合タンパク質は、IL-15単独の場合と比べて、CD8+T細胞及びNK細胞を極めて強力に刺激することが報告されている(例えば、Mortier et al.J Biol Chem.281:1612-19(2005)(非特許文献3)及びStoklasek et al.J.Immunol.177:6072-80(2006)(非特許文献4)を参照されたい)。
【0007】
抗体のJ鎖は、IgMμ重鎖またはIgAα重鎖のC末端にある、18アミノ酸の分泌テールピース(tp)における最後から2番目のシステイン残基が関与するジスルフィド結合を介して、五量体のIgM及び二量体のIgAと結合する15kDaの酸性ポリペプチドである。ヒトJ鎖前駆体のアミノ酸配列は、配列番号1として示されており、成熟ヒトJ鎖のアミノ酸配列は、配列番号2として示されている。IgM結合ユニットの五量体構造へのアセンブルには、IgM定常領域のCμ4ドメイン及びテールピースドメインが関与すると考えられている。例えば、Braathen,R.,et al.,J.Biol.Chem.277:42755-42762(2002)(非特許文献5)を参照されたい。
【0008】
多量体型抗体の設計が進歩しているにもかかわらず、多量体型結合分子を操作することによって、免疫療法を改良するニーズが依然として存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第9,951,134号
【特許文献2】米国特許第9,938,347号
【特許文献3】WO2016/141303
【特許文献4】WO2016/154593
【特許文献5】WO2016/168758
【特許文献6】WO2017/059387
【特許文献7】WO2017059380
【特許文献8】WO2018/017888
【特許文献9】WO2018/017763
【特許文献10】WO2018/017889
【特許文献11】WO2018/017761
【特許文献12】WO2018/187702
【特許文献13】WO2019/169314A1
【特許文献14】WO2018/134784
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Anderson,D.M.,et al.,J.Biol.Chem.270:29862-29869(1995)
【非特許文献2】Wei et al.J.Immunol.167:277-82(2001)
【非特許文献3】Mortier et al.J Biol Chem.281:1612-19(2005)
【非特許文献4】Stoklasek et al.J.Immunol.177:6072-80(2006)
【非特許文献5】Braathen,R.,et al.,J.Biol.Chem.277:42755-42762(2002)
【発明の概要】
【0011】
概要
本開示は、二価の結合ユニットまたはその多量体化型バリアントもしくは多量体化型断片を2つまたは5つと、改変J鎖とを含む、多量体型結合分子を提供し、その各結合ユニットは、合計で4個または10個の抗原結合ドメインとなるようにそれぞれ抗原結合ドメインと結合しているIgAもしくはIgM重鎖定常領域またはその多量体化型バリアントもしくは多量体化型断片を2つ含み、その結合分子の抗原結合ドメインのうちの少なくとも3つが、標的抗原に特異的に結合する。示されているように、その改変J鎖は、(a)J鎖またはその機能的断片もしくは機能的バリアント(「J」)と、(b)免疫刺激物質(「ISA」)とを含み、ここで、J及びISAは、融合タンパク質として結合している。
【0012】
ある特定の実施形態では、そのISAは、サイトカイン、またはその受容体結合断片もしくは受容体結合バリアントを含む。例えば、そのサイトカイン、またはその断片もしくはバリアントは、IL-15もしくはIL-2またはその受容体結合断片もしくは受容体結合バリアントを含む。ある特定の実施形態では、そのISAは、(a)インターロイキン-15(IL-15)タンパク質、またはその受容体結合断片もしくは受容体結合バリアント(「I」)と、(b)スシドメインを含むインターロイキン-15受容体-α(IL-15Rα)断片、またはIと結合できるそのバリアント(「R」)とを含み、ここで、JとI及びRのうちの少なくとも1つとが、融合タンパク質として結合しており、I及びRは結合してISAとして機能できる。
【0013】
ある特定の実施形態では、Jは、野生型ヒトJ鎖であり、配列番号2のアミノ酸配列、またはその機能的断片もしくは機能的バリアントを含む。別の実施形態では、Jは、野生型J鎖に対する1アミノ酸の置換、欠失、または挿入を1つ以上含むバリアントJ鎖またはその断片であり、前記置換、欠失、または挿入は、本発明の多量体型結合分子の血清中半減期に影響を及ぼすことができ、その多量体型結合分は動物に投与されると、1つ以上のその1アミノ酸の置換、欠失、または挿入以外は同一でありかつ同じ方法で同じ動物種に投与される参照多量体型結合分子と比べて、長い血清中半減期を示すようなものである。例えば、Jは、成熟野生型ヒトJ鎖(配列番号2)のアミノ酸Y102に対応するアミノ酸位置に、アミノ酸置換を含むことができる。配列番号2のY102に対応するアミノ酸は、アラニン(A)、セリン(S)、またはアルギニン(R)で置換でき、特定の実施形態では、Y102は、アラニン(A)で置換できる。ある特定の実施形態では、Jは、ヒトJ鎖のバリアントであり、配列番号3のアミノ酸配列(「J*」)、または配列番号86の1~137番目のアミノ酸を含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、Jは、野生型J鎖に対する1アミノ酸の置換、欠失、または挿入を1つ以上含むバリアントJ鎖またはその断片であり、前記置換、欠失、または挿入は、そのJの糖鎖付加を低減する。いくつかの実施形態では、そのJは、成熟野生型ヒトJ鎖(配列番号2)のアミノ酸N49に対応するアミノ酸位置に、アミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態では、配列番号2のY102に対応するアミノ酸は、アスパラギン酸(D)で置換されている。
【0015】
ある特定の実施形態では、Iは、配列番号4の成熟ヒトIL-15のアミノ酸配列、またはその受容体結合バリアントもしくは受容体結合断片を含む。受容体結合バリアントは、1アミノ酸の挿入、欠失、または置換を少なくとも1つ、ただし10個以下含むことができる。ある特定の実施形態では、その1アミノ酸の挿入、欠失、または置換は、IL-15バリアントのその受容体に対する親和性を低下させるが、消失はさせない。ある特定の実施形態では、そのバリアントIは、アミノ酸置換を1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、または8個含むことができる。ある特定の実施形態では、そのアミノ酸置換は、配列番号4のN1、N4、D8、D30、D61、E64、N65、N72、またはQ108に対応する位置のうちの1つ以上に存在することができる。例えば、そのアミノ酸置換は、配列番号4における置換N1D、N4D、D8N、D30N、D61N、E64Q、N65D、N72D、またはQ108Eのうちの1つ以上を含むことができる。ある特定の実施形態では、Iは、(a)N1D、N4D、D8N、D30N、D61N、E64Q、N65D、N72D、及びQ108Eからなる群から選択される位置における、1アミノ酸の置換、(b)N4D/N65D及びN1D/N65Dからなる群から選択される位置における、2アミノ酸の置換、または(c)位置D30N/E64Q/N65Dにおける、3アミノ酸の置換を除いては配列番号4を含む。ある特定の実施形態では、Iは、配列番号57、配列番号58、配列番号59、配列番号60、配列番号61、配列番号62、配列番号63、配列番号64、配列番号65、配列番号66、配列番号67、または配列番号68のアミノ酸配列を含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、その受容体結合バリアントは、1アミノ酸の挿入、欠失、または置換を少なくとも1つ、ただし10個以下含み、その1アミノ酸の挿入、欠失、または置換は、IL-15バリアントの糖鎖付加を低減する。いくつかの実施形態では、Iは、アミノ酸置換を1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、または8個含む。いくつかの実施形態では、そのアミノ酸置換は、配列番号4のN71、S73、N79、またはN112に対応する位置のうちの1つ以上に存在する。いくつかの実施形態では、そのアミノ酸置換は、配列番号4における置換N71D、S73I、N79D、またはN112Dのうちの1つ以上含む。いくつかの実施形態では、Iは、N71D、S73I、N79D及びN112Dからなる群から選択される位置におけるアミノ酸置換を除いては配列番号4を含む。いくつかの実施形態では、Iは、配列番号85、配列番号87、配列番号88、配列番号89、または配列番号90の246~361番目のアミノ酸のアミノ酸配列を含む。
【0017】
ある特定の実施形態では、IL-15受容体-αのスシドメインであるRは、配列番号5のアミノ酸配列、またはヒトIL-15と結合できるそのバリアントもしくは断片を含む。別の実施形態では、Rは、配列番号5のアミノ酸配列もしくはヒトIL-15と結合できるそのバリアントから本質的になるか、またはそれからなる。
【0018】
ある特定の実施形態では、J及びIは、融合タンパク質として結合している。ある特定の実施形態では、J及びRが、融合タンパク質として結合している。ある特定の実施形態では、J、I、及びRが、融合タンパク質として結合している。これらの実施形態によると、J、I、及び/またはRは、リンカーを介して融合でき、それらのリンカーは、同じであることも、異なることもできる。ある特定の実施形態では、少なくとも1つのリンカーは、アミノ酸配列
を含むか、その配列から本質的になるか、またはその配列からなる。ある特定の実施形態では、少なくとも1つのリンカーは、アミノ酸配列
を含むか、その配列から本質的になるか、またはその配列からなる。ある特定の実施形態では、Jは、J
*であり、その改変J鎖は、N末端からC末端に向かって、J
*-R-I、J
*-I-R、I-R-J
*、R-I-J
*、R-J
*-I、I-J
*-R、I-J
*、またはJ
*-Iとして配置でき、ここで、「-」は、リンカーである。ある特定の実施形態では、その改変J鎖は、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号77、配列番号85、配列番号86、配列番号87、配列番号88、配列番号89または配列番号90のアミノ酸配列を含む。特定の実施形態では、その改変J鎖は、N末端からC末端に向かって、J
*-R-Iとして配置されており、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号77、配列番号85、配列番号86、配列番号87、配列番号88、配列番号89、または配列番号90のアミノ酸配列を含むことができる。
【0019】
別の実施形態では、ISAは、ヒトIL-2のバリアント、例えば、ヒトIL-2受容体のα-サブユニットに結合しない「IL2v」を含む。IL2vは、配列番号31のアミノ酸配列を含み、IL2vを含むある1つの改変J鎖は、配列番号32のアミノ酸配列を含む。
【0020】
ある特定の実施形態では、本発明で提供するような多量体型結合分子の改変J鎖は、その改変J鎖に融合された、抗体の抗原結合ドメインをISAとともにさらに含むことができる。例えば、その改変J鎖は、免疫エフェクター細胞上の標的に結合する抗原結合ドメインを含むことができる。ある特定の実施形態では、その免疫エフェクター細胞は、CD8+T細胞であり、その抗原結合ドメインは、CD3エプシロン(CD3ε)に特異的に結合する一本鎖Fv(scFv)という抗体断片であることができる。これらの実施形態によると、改変J鎖は、配列番号19のアミノ酸配列を含むことができる。
【0021】
ある特定の実施形態では、本開示が提供する多量体型結合分子は、五量体であり、結合ユニットを5つ含み、その各結合ユニットは、IgM重鎖定常領域またはその多量体化型バリアントもしくは多量体化型断片を2つ含む。別の実施形態では、本開示が提供する多量体型結合分子は、二量体であり、結合ユニットまたはその多量体化型バリアントもしくは多量体化型断片を2つ含み、その各結合ユニットは、IgA重鎖定常領域またはその多量体化型バリアントもしくは多量体化型断片を2つ含む。
【0022】
ある特定の実施形態では、本開示が提供する多量体型結合分子が結合する標的抗原は、腫瘍関連抗原、またはT細胞応答もしくはNK細胞応答を調節する標的である。例えば、その標的抗原は、T細胞応答またはNK細胞応答を調節する標的を含むことができる。ある特定の実施形態では、その標的は、CD8+T細胞またはNK細胞の活性を阻害する標的であり、そのような標的を阻害するのが望ましい。例えば、その標的は、抑制性免疫チェックポイントタンパク質であることができ、提供する結合分子の抗原結合ドメインは、その標的をアンタゴナイズすることによって、CD8+T細胞またはNK細胞を刺激する。例えば、その抑制性免疫チェックポイントタンパク質は、プログラム細胞死-1タンパク質(PD-1)、プログラム細胞死リガンド-1タンパク質(PD-L1)、リンパ球活性化遺伝子3タンパク質(LAG3)、T細胞免疫グロブリン及びムチンドメイン3タンパク質(TIM3)、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA4)、B及びTリンパ球アテニュエータータンパク質(BTLA)、T細胞活性化のVドメインIgサプレッサータンパク質(VISTA)、Ig及びITIMドメインを有するT細胞免疫受容体タンパク質(TIGIT)、キラー細胞免疫グロブリン様受容体タンパク質(KIR)、B7-H3タンパク質、B7-H4タンパク質、またはこれらを任意に組み合わせたものを含む。特定の実施形態では、その抑制性免疫チェックポイントタンパク質は、PD-L1である。この実施形態によれば、その抗原結合ドメインは、配列番号33、配列番号91、配列番号92、または配列番号93のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号34または配列番号94のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VL)とを含むことができる。
【0023】
いくつかの実施形態では、その抑制性免疫チェックポイントタンパク質は、PD-L1を含み、その抗原結合ドメインは、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、そのVH及びVLは、6つの免疫グロブリン相補性決定領域であるHCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、及びLCDR3を含み、そのHCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、及びLCDR3は抗体のCDRを含み、抗体のCDRは、それぞれ配列番号75及び配列番号76、配列番号96及び配列番号97、配列番号98及び配列番号99、配列番号100及び配列番号101、配列番号102及び配列番号103、配列番号104及び配列番号105、配列番号106及び配列番号107、配列番号108及び配列番号109、配列番号110及び配列番号111、配列番号112及び配列番号113、配列番号114及び配列番号115、配列番号116及び配列番号117、配列番号118及び配列番号119、配列番号120及び配列番号121、配列番号122及び配列番号123、配列番号124及び配列番号125、配列番号126及び配列番号127、配列番号128及び配列番号129、配列番号130及び配列番号131、配列番号132及び配列番号133、配列番号134及び配列番号135、配列番号136及び配列番号137、配列番号138及び配列番号139、配列番号140及び配列番号141、配列番号142及び配列番号143、配列番号144及び配列番号145、配列番号146及び配列番号147、配列番号148及び配列番号149、配列番号150及び配列番号151、配列番号152及び配列番号153、配列番号154及び配列番号155、配列番号156及び配列番号157、配列番号158及び配列番号159、配列番号160及び配列番号161、配列番号162及び配列番号163、配列番号164及び配列番号165、配列番号166及び配列番号167、配列番号168及び配列番号169、配列番号170及び配列番号171、配列番号172及び配列番号173、配列番号174及び配列番号175、配列番号176及び配列番号177、配列番号178及び配列番号179、配列番号180及び配列番号181、配列番号182及び配列番号183、配列番号184及び配列番号185、配列番号186及び配列番号187、配列番号188及び配列番号189、配列番号190及び配列番号191、配列番号192及び配列番号193、配列番号194及び配列番号195、配列番号196及び配列番号197、配列番号198及び配列番号199、配列番号200及び配列番号201、配列番号202及び配列番号203、配列番号204及び配列番号205、配列番号206及び配列番号207、配列番号208及び配列番号209、配列番号210及び配列番号211、配列番号212及び配列番号213、配列番号214及び配列番号215、配列番号216及び配列番号217、配列番号218及び配列番号219、配列番号220及び配列番号221、または配列番号222及び配列番号223であるVH及びVLを含み、そのHCDRもしくはLCDRの1つ以上に1アミノ酸の置換を含まないか、1個含むか、または2個含む。いくつかの実施形態では、その抑制性免疫チェックポイントタンパク質は、PD-L1を含み、その抗原結合ドメインは、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、そのVH及びVLは、6つの免疫グロブリン相補性決定領域であるHCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、及びLCDR3を含み、そのHCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、及びLCDR3は抗体のCDRを含み、抗体のCDRは、それぞれ配列番号134及び配列番号135、配列番号136及び配列番号137、配列番号138及び配列番号139、配列番号140及び配列番号141、配列番号142及び配列番号143、配列番号144及び配列番号145、配列番号146及び配列番号147、配列番号148及び配列番号149、配列番号166及び配列番号167、配列番号168及び配列番号169、配列番号170及び配列番号171、または配列番号186及び配列番号187であるVH及びVLを含み、そのHCDRもしくはLCDRの1つ以上に1アミノ酸の置換を含まないか、1個含むか、または2個含み、たとえば、アミノ酸置換を含まない。
【0024】
いくつかの実施形態では、その抑制性免疫チェックポイントタンパク質は、PD-L1を含み、その抗原結合ドメインは、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、そのVH及びVLは、成熟VHアミノ酸配列及び成熟VLアミノ酸配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または100%同一であるアミノ酸配列を含み、成熟VHアミノ酸配列及び成熟VLアミノ酸配列は、それぞれ配列番号75及び配列番号76、配列番号96及び配列番号97、配列番号98及び配列番号99、配列番号100及び配列番号101、配列番号102及び配列番号103、配列番号104及び配列番号105、配列番号106及び配列番号107、配列番号108及び配列番号109、配列番号110及び配列番号111、配列番号112及び配列番号113、配列番号114及び配列番号115、配列番号116及び配列番号117、配列番号118及び配列番号119、配列番号120及び配列番号121、配列番号122及び配列番号123、配列番号124及び配列番号125、配列番号126及び配列番号127、配列番号128及び配列番号129、配列番号130及び配列番号131、配列番号132及び配列番号133、配列番号134及び配列番号135、配列番号136及び配列番号137、配列番号138及び配列番号139、配列番号140及び配列番号141、配列番号142及び配列番号143、配列番号144及び配列番号145、配列番号146及び配列番号147、配列番号148及び配列番号149、配列番号150及び配列番号151、配列番号152及び配列番号153、配列番号154及び配列番号155、配列番号156及び配列番号157、配列番号158及び配列番号159、配列番号160及び配列番号161、配列番号162及び配列番号163、配列番号164及び配列番号165、配列番号166及び配列番号167、配列番号168及び配列番号169、配列番号170及び配列番号171、配列番号172及び配列番号173、配列番号174及び配列番号175、配列番号176及び配列番号177、配列番号178及び配列番号179、配列番号180及び配列番号181、配列番号182及び配列番号183、配列番号184及び配列番号185、配列番号186及び配列番号187、配列番号188及び配列番号189、配列番号190及び配列番号191、配列番号192及び配列番号193、配列番号194及び配列番号195、配列番号196及び配列番号197、配列番号198及び配列番号199、配列番号200及び配列番号201、配列番号202及び配列番号203、配列番号204及び配列番号205、配列番号206及び配列番号207、配列番号208及び配列番号209、配列番号210及び配列番号211、配列番号212及び配列番号213、配列番号214及び配列番号215、配列番号216及び配列番号217、配列番号218及び配列番号219、配列番号220及び配列番号221、または配列番号222及び配列番号223を含む。いくつかの実施形態では、その抑制性免疫チェックポイントタンパク質は、PD-L1を含み、その抗原結合ドメインは、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、そのVH及びVLは、成熟VHアミノ酸配列及び成熟VLアミノ酸配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または100%同一であるアミノ酸配列を含み、成熟VHアミノ酸配列及び成熟VLアミノ酸配列は、それぞれ配列番号134及び配列番号135、配列番号136及び配列番号137、配列番号138及び配列番号139、配列番号140及び配列番号141、配列番号142及び配列番号143、配列番号144及び配列番号145、配列番号146及び配列番号147、配列番号148及び配列番号149、配列番号166及び配列番号167、配列番号168及び配列番号169、配列番号170及び配列番号171、または配列番号186及び配列番号187を含む。
【0025】
別の実施形態では、本開示が提供する多量体型結合分子が結合する標的抗原は、TNF受容体スーパーファミリー標的である。これらの実施形態によると、その抗原結合ドメインは、その標的をアゴナイズできる。例えば、その標的抗原は、GITR、OX40、またはこれらを組み合わせたものであることができる。標的抗原がGITRであるこれらの実施形態では、その抗原結合ドメインは例えば重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、VH及びVLが、それぞれ配列番号35及び配列番号36、配列番号37及び配列番号38、配列番号39及び配列番号40、配列番号41及び配列番号42、または配列番号43及び配列番号44であるアミノ酸配列を含むことができる。標的抗原がOX40を含む実施形態では、その抗原結合ドメインは例えば重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、VH及びVLは、それぞれ配列番号45及び配列番号46または配列番号47及び配列番号48のアミノ酸配列を含むことができる。
【0026】
別の実施形態では、本開示が提供する多量体型結合分子が結合する標的抗原は、腫瘍関連抗原である。その腫瘍関連抗原は例えば、B細胞成熟抗原(BCMA)、CD19、CD20、EGFR、HER2(ErbB2)、ErbB3、ErbB4、CTLA4、PD-1、PD-L1、VEGF、VEGFR1、VEGFR2、CD52、CD30、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、CD38、GD2、SLAMF7、血小板由来成長因子受容体A(PDGFRA)、CD22、FLT3(CD135)、CD123、MUC-16、がん胎児性抗原関連細胞接着分子1(CEACAM-1)、メソセリン、腫瘍関連カルシウムシグナルトランスデューサー2(Trop-2)、グリピカン-3(GPC-3)、ヒト血液型Hタイプ1三糖(Globo-H)、シアリルTn抗原(STn抗原)、CD33、またはこれらを任意に組み合わせたものを含むことができる。特定の態様では、その標的抗原は、CD20であり、その抗原結合ドメインは例えば、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、VH及びVLは、それぞれ配列番号49及び配列番号50のアミノ酸配列を含むことができる。
【0027】
ある特定の実施形態では、その結合分子の抗原結合ドメインのうちの少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、または10個は、同じ標的抗原に特異的に結合する。
【0028】
ある特定の実施形態では、本開示が提供する多量体型結合分子の各結合ユニットは、IgA重鎖定常領域またはその多量体化型断片もしくは多量体化型バリアントを2つ含み、そのIgA重鎖定常領域はそれぞれ、IgA Cα1ドメイン、IgAヒンジ、IgA Cα2ドメイン、IgA Cα3ドメイン、及びIgAテールピースドメインを含む。ある特定の実施形態では、そのIgA重鎖定常領域は、配列番号53、配列番号54のアミノ酸配列、またはその任意の多量体化型バリアントもしくは多量体化型断片を含む。
【0029】
ある特定の実施形態では、本開示が提供する多量体型結合分子の各結合ユニットは、IgM重鎖定常領域またはその多量体化型断片もしくは多量体化型バリアントを2つ含み、そのIgM重鎖定常領域はそれぞれ、IgM Cμ4ドメイン及びIgMテールピースドメインを含む。ある特定の実施形態では、それぞれのIgM重鎖定常領域またはその多量体化型断片もしくは多量体化型バリアントは、そのIgM Cμ4ドメイン及びIgMテールピースドメインのN末端側に位置するIgM Cμ3ドメイン、IgM Cμ2ドメイン、IgM Cμ1ドメイン、またはこれらを任意に組み合わせたものをさらに含む。ある特定の実施形態では、それぞれのIgM重鎖定常領域は、ヒトIgM定常領域またはその多量体化型バリアントもしくは多量体化型断片であり、配列番号51のアミノ酸配列、配列番号52のアミノ酸配列、またはその多量体化型バリアントもしくは多量体化型断片を含む。
【0030】
ある特定の実施形態では、それぞれのIgM重鎖定常領域は、ヒトIgM定常領域のバリアント、またはその多量体化型断片であり、配列番号51、配列番号52のアミノ酸配列を含むIgM重鎖定常領域を含む多量体型結合分子と比べて、その多量体型結合分子のCDC活性を低下させるバリアントまたは断片である。例えば、それぞれのIgM重鎖定常領域は、配列番号51または配列番号52のアミノ酸配列のバリアントを含むことができ、そのバリアントは、配列番号51もしくは配列番号52のP311の位置におけるアミノ酸置換、配列番号51もしくは配列番号52のP313の位置におけるアミノ酸置換、または配列番号51もしくは配列番号52のP311及びP313の位置におけるアミノ酸置換を含む。
【0031】
ある特定の実施形態では、それぞれのIgM重鎖定常領域は、ヒトIgM定常領域のバリアントまたはその多量体化型断片であり、前記バリアントまたは断片によって、多量体型結合分子は、対象動物に投与されると、参照IgM重鎖定常領域を含みかつ同じ方法で同じ動物種に投与される多量体型結合分子と比べて、長い血清中半減期が付与される。例えば、そのバリアントIgM重鎖定常領域は、配列番号51または配列番号52の野生型ヒトIgM定常領域のアミノ酸E345A、S401A、E402A、またはE403Aに対応する1つ以上のアミノ酸位置に、アミノ酸置換を含むことができる。
【0032】
本開示は、本開示が提供する多量体型結合分子のサブユニットポリペプチドをコードする核酸を含む単離ポリヌクレオチドも提供し、そのサブユニットポリペプチドは、(a)抗体重鎖可変領域(VH)と結合した、IgAもしくはIgM重鎖定常領域、もしくはその多量体化型バリアントもしくは多量体化型断片を含む、IgA重鎖もしくはIgM重鎖、(b)抗体軽鎖可変領域(VL)と結合した抗体軽鎖定常領域を含む抗体軽鎖、または(c)(i)J鎖、もしくはその機能的断片もしくは機能的バリアント(「J」)、(ii)インターロイキン-15(IL-15)タンパク質、もしくはその受容体結合断片もしくは受容体結合バリアント(「I」)、もしくは(iii)Iと結合できるスシドメインまたはそのバリアントを含むインターロイキン-15受容体-α(IL-15Rα)断片(「R」)、のうちの2つ以上を含む改変J鎖であって、JとI及びRのうちの少なくとも1つとが、融合タンパク質として結合しており、I及びRが結合して免疫刺激複合体として機能できる、改変J鎖、または(d)これらを任意に組み合わせたものを含む。
【0033】
そのポリヌクレオチドを含む発現ベクター、ならびにそのポリヌクレオチド及び/またはその発現ベクターを含む宿主細胞も提供する。本開示は、提供する多量体型結合分子の作製のための方法を提供し、当該方法は、宿主細胞を培養することと、多量体型結合分子を回収することとを含む。
【0034】
本開示はさらに、がんの治療のための方法を提供し、当該方法は、治療の必要な対象に、提供される多量体型結合分子を有効量投与することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】Y102A変異を含む改変ヒトJ鎖(「J
*」)が、様々な配向で、IL-15(「I」。円で示されている)、及びIL-15受容体-αのスシドメイン(「R」。楕円で示されている)に融合されたものを有する例示的なIgM五量体を示す。N末端からC末端の方向の構成は、J
*RI、IRJ
*、RJ
*I、J
*IR、RIJ
*及びIJ
*Rである。
【
図2】ヒト末梢血単核球(PBMC)を用いたIL-15効力アッセイの概略図である。この概略図には、PD-L1を発現する単球が示されているが、このアッセイは、単球または他の末梢血単核球上に発現する他の抗原を標的とするのにも適用可能である。
【
図3】本発明で提供するような各種のIL-15-IL-15受容体-α(「RI」)ISA化合物のインビトロでの効力を示している。そのデータには、漸増濃度のRI化合物に応答してKi67陽性となったことによって、CD8+T細胞の増殖を示したものが示されている。h3C5 IgM+JHは、ネガティブコントロールとして示されている。
【
図4】h3C5 IgM+J
*RIが、各種のT細胞サブセットの増殖に及ぼす作用をKi67陽性性によって示したものを示している。
【
図5-1】
図5Aは、3C5 IgM+J
*RI ISAコンストラクトがCD8+T細胞またはNK細胞の増殖を誘導する効力に対して、IL-15における単一、二重及び三重の変異が及ぼす作用をKi67陽性性によって示したものを示している。単一のIL-15変異が、CD8+T細胞の増殖に及ぼす作用を示している。
図5Bは、3C5 IgM+J
*RI ISAコンストラクトがCD8+T細胞またはNK細胞の増殖を誘導する効力に対して、IL-15における単一、二重及び三重の変異が及ぼす作用をKi67陽性性によって示したものを示している。単一のIL-15変異が、NK細胞の増殖に及ぼす作用を示している。
【
図5-2】
図5Cは、3C5 IgM+J
*RI ISAコンストラクトがCD8+T細胞またはNK細胞の増殖を誘導する効力に対して、IL-15における単一、二重及び三重の変異が及ぼす作用をKi67陽性性によって示したものを示している。二重及び三重のIL-15変異が、CD8+T細胞の増殖に及ぼす作用を示している。
図5Dは、3C5 IgM+J
*RI ISAコンストラクトがCD8+T細胞またはNK細胞の増殖を誘導する効力に対して、IL-15における単一、二重及び三重の変異が及ぼす作用をKi67陽性性によって示したものを示している。二重及び三重のIL-15変異が、NK細胞の増殖に及ぼす作用を示している。
【
図6】hu3C5+J
*RIが、細胞傷害性CD8+T細胞上で、GITR及びOX-40の発現を、試験した他のISA(HRI、153+J
*RI、KD-RIまたはhu3C5+JH(ヒト血清アルブミンに融合したJ鎖)を含む)よりも大きくアップレギュレートさせることを示している。示されているデータは、5nMの各化合物に関するものである。
【
図7】GITR IgM_J
*RIモノクローナル抗体#23、GITR IgM_J
*RIモノクローナル抗体#14及びGITR IgM_J
*RIモノクローナル抗体#12という3つの異なる抗GITR IgM+J
*RIコンストラクトが、CD8+T細胞の増殖を誘導できることを示している。
【
図8-1】
図8Aは、Ki-67増殖アッセイにおける、CD8+T細胞(2つの異なるPBMCドナーの1つ)に対するh3C5 IgM+SJ
*RIの効力を示しており、「S」は、抗CD3 SP34抗体のscFv断片である。
図8Bは、Ki-67増殖アッセイにおける、CD8+T細胞(2つの異なるPBMCドナーの1つ)に対するh3C5 IgM+SJ
*RIの効力を示しており、「S」は、抗CD3 SP34抗体のscFv断片である。
【
図8-2】
図8Cは、Ki-67増殖アッセイにおける、NK細胞(2つの異なるPBMCドナーの1つ)に対するh3C5 IgM+SJ
*RIの効力を示しており、「S」は、抗CD3 SP34抗体のscFv断片である。
図8Dは、Ki-67増殖アッセイにおける、NK細胞(異なるPBMCドナーの1つ)に対するh3C5 IgM+SJ
*RIの効力を示しており、「S」は、抗CD3 SP34抗体のscFv断片である。
【
図9】
図9A~9Dは、hPD-L1-CT26マウス有効性モデルにおける、m3c5-J
*RIによる処置の作用を示している。Aは、コントロール群(ビヒクル)、ならびに処置群(m3c5-J
*RI及び抗PD-L1 IgG)における平均腫瘍サイズを示している。Bは、ビヒクル群における個々の腫瘍サイズを示している。Cは、抗PD-L1 IgG群における個々の腫瘍サイズを示している。Dは、m3c5-J
*RI群における個々の腫瘍サイズを示している。
【
図10】
図10A~10Dは、腫瘍が拒絶された処置マウス、及びナイーブコントロール群のCT26腫瘍細胞によるリチャレンジを示している。Aは、平均腫瘍サイズを示している。Bは、38日目のナイーブ群及び処置群における個々の腫瘍サイズを示している。C~Dは、ナイーブ群及び処置群における個々の腫瘍サイズを示している。
【
図11】
図11A~11Dは、薬力学的BALB/cモデルにおける、m3c5-J
*RIの用量依存的な処置の作用を示している。Aは、処置後の末梢CD8 T細胞の数を示している。Bは、処置後の末梢NK細胞の数を示している。Cは、処置後の末梢CD4 T細胞の数を示している。Dは、処置後の末梢B細胞の数を示している。
【
図12】J
*RI糖鎖付加部位の各種変異が、ヒトCD8 T細胞の増殖に及ぼす作用を示している。
【
図13】
図13A~13Bは、m3c5-J
*RIが、ヒトCD8 T細胞(A)及びカニクイザルCD8 T細胞(B)の増殖に及ぼす作用を示している。
【
図14】
図14A~14Fは、インビトロでの効力アッセイにおいて、炎症性サイトカインであるヒトIL-6(A)、ヒトIFNγ(B)、ヒトTNFα(C)、カニクイザルIL-6(D)、カニクイザルIFNγ(E)またはカニクイザルTNFα(F)の分泌の欠損が、m3c5-J
*RIによって誘発されたことを示している。
【
図15】
図15A~15Cは、インビトロ殺傷アッセイにおいて、m3c5-J
*RIが、MDA-MB-231細胞株で、ヒトのPBMC(A)、NK細胞(B)及びCD8+T細胞(C)に及ぼした作用をそれぞれ示している。
【
図16】PD-L1のアラニンスキャニング変異誘発に基づき、3C5 Fabが結合する可能性のあるエピトープを示している。
【発明を実施するための形態】
【0036】
詳細な説明
定義
「1つの(a)」または「1つの(an)」という用語が付されたものは、それが1つ以上であることを指すことに留意されたい。例えば、「1つの(a)」の付された「結合分子」は、1つ以上の結合分子を表すように理解される。したがって、「1つの(a)」(または「1つの(an)」)、「1つ以上」及び「少なくとも1つ」という用語は、本明細書では互換的に使用できる。
【0037】
さらに、「及び/または」は、本明細書で使用する場合、示されているその2つの特徴または成分のそれぞれが、もう一方を伴う状態または伴わない状態で、具体的に開示されているものとして解釈するものとする。したがって、「及び/または」という用語は、本明細書では、「A及び/またはB」という表現で使用する場合、「A及びB」、「AまたはB」、「A」(単独)、ならびに「B」(単独)を含むように意図されている。同様に、「及び/または」という用語は、「A、B及び/またはC」のような表現で使用する場合、A、B及びC、A、BまたはC、AまたはC、AまたはB、BまたはC、A及びC、A及びB、B及びC、A(単独)、B(単独)、ならびにC(単独)という実施形態のそれぞれを含むように意図されている。
【0038】
別段の定義のない場合、本明細書で使用するすべての技術用語及び科学用語は、本開示が関連する技術分野の当業者が一般的に理解する意味と同じ意味である。例えば、Concise Dictionary of Biomedicine and Molecular Biology,Juo,Pei-Show,2nd ed.,2002,CRC Press、The Dictionary of Cell and Molecular Biology,3rd ed.,1999,Academic Press及びOxford Dictionary of Biochemistry and Molecular Biology,Revised,2000,Oxford University Pressによって、当業者は、本開示で使用される多くの用語の一般的な定義を得られる。
【0039】
単位、接頭辞及び記号は、国際単位系(SI)で認められた形式で示されている。数値範囲には、その範囲を定める数値が含まれる。別段の指示がない限り、アミノ酸配列は、アミノからカルボキシの向きで、左から右に記載されている。本明細書に示されている見出しは、本開示の様々な態様を限定するものではなく、これらの態様は、本明細書全体を参照することによって得ることができる。したがって、この直後に定義されている用語は、本明細書全体を参照することによって、さらに十分に定義される。
【0040】
本明細書で使用する場合、「ポリペプチド」という用語には、単数の「ポリペプチド」及び複数の「ポリペプチド」が含まれるように意図されており、複数の単量体(アミノ酸)が、アミド結合(ペプチド結合としても知られる)によって直鎖状に連結したもので構成される分子を指す。「ポリペプチド」という用語は、2つ以上のアミノ酸からなるいずれかの鎖(1本または複数)を指し、所定の長さの生成物を指すものではない。したがって、ペプチド、ジペプチド、トリペプチド、オリゴペプチド、「タンパク質」、「アミノ酸鎖」、または2つ以上のアミノ酸からなる鎖(1本または複数)を指すために使用する他の用語は、「ポリペプチド」の定義に含まれ、「ポリペプチド」という用語は、これらの用語のいずれかの代わりに、またはこれらの用語のいずれかと互換的に使用することができる。「ポリペプチド」という用語は、ポリペプチドの発現後修飾(限定されるものではないが、糖鎖付加、アセチル化、リン酸化、アミド化、及び既知の保護基/ブロック基による誘導体化が挙げられる)、タンパク質切断、または非天然アミノ酸による修飾の産物も指すように意図されている。ポリペプチドは、生物起源から取り出すこともできるし、または組換え技術によって作製することもできるが、必ずしも、所定の核酸配列から翻訳されたものであるわけではない。ポリペプチドは、化学合成を含むいずれかの方法で生成できる。
【0041】
本明細書に開示されているようなポリペプチドは、サイズが約3アミノ酸以上、5アミノ酸以上、10アミノ酸以上、20アミノ酸以上、25アミノ酸以上、50アミノ酸以上、75アミノ酸以上、100アミノ酸以上、200アミノ酸以上、500アミノ酸以上、1,000アミノ酸以上または2,000アミノ酸以上のものであることができる。ポリペプチドは、所定の三次元構造を有することができるが、必ずしも、所定の三次元構造を有するわけではない。所定の三次元構造を有するポリペプチドは、折り畳まれたポリペプチドといい、所定の三次元構造を有するのではなく、多数の異なるコンホメーションをとることができるポリペプチドは、折り畳まれていないポリペプチドという。本明細書で使用する場合、糖タンパク質という用語は、少なくとも1つの糖鎖部分に結合したタンパク質を指し、その糖鎖部分は、アミノ酸、例えば、セリンまたはアスパラギンの酸素含有側鎖または窒素含有側鎖を介して、そのタンパク質に結合している。
【0042】
「単離」ポリペプチド、またはその断片、バリアントもしくは誘導体は、その天然の環境においては見られないポリペプチドを意図している。特定の精製レベルが求められるわけではない。例えば、単離ポリペプチドは、その天然型の環境または天然の環境から取り出すことができる。宿主細胞内で発現させた組換え生成ポリペプチド及び組換え生成タンパク質は、本明細書に開示されている場合、単離されているとみなし、いずれかの好適な技法によって分離、分画、または部分的もしくは実質的な精製を行った天然型ポリペプチドまたは組換えポリペプチドも同様である。
【0043】
本明細書で使用する場合、「非天然ポリペプチド」という用語またはその文法上の派生語のいずれも、「天然」である形態のポリペプチド、あるいは裁判官、または行政機関もしくは司法機関によって「天然」であると判定または解釈される可能性がある形態のポリペプチドを明示的に除外する(ただし、上記形態のみを除外する)条件付き定義である。
【0044】
本明細書に開示されている他のポリペプチドは、上記ポリペプチドの断片、誘導体、類似体またはバリアント、及びこれらを任意に組み合わせたものである。本明細書に開示されている場合、「断片」、「バリアント」、「誘導体」及び「類似体」という用語には、対応する天然型の抗体またはポリペプチドの特性のうちの少なくともいくつか(例えば、抗原に特異的に結合する特性)を保持するあらゆるポリペプチドが含まれる。ポリペプチドの断片には、本明細書の他の箇所で論じられている特異的抗体断片に加えて、例えば、タンパク質分解断片及び欠失断片が含まれる。例えば、ポリペプチドのバリアントには、上記のような断片、及びアミノ酸の置換、欠失、または挿入により、アミノ酸配列が改変されたポリペプチドが含まれる。ある特定の態様では、バリアントは、非天然のものであることができる。非天然バリアントは、当該技術分野で知られている変異誘発技法を用いて生成できる。バリアントポリペプチドは、アミノ酸の保存的または非保存的な置換、欠失または付加を含むことができる。誘導体は、元のポリペプチドには見られない追加的な特徴を示すように改変されたポリペプチドである。例としては、融合タンパク質が挙げられる。バリアントポリペプチドは、本明細書では、「ポリペプチド類似体」ともいうことができる。本明細書で使用する場合、ポリペプチドの「誘導体」は、官能性側鎖の反応によって化学的に誘導体化されたアミノ酸を1つ以上有する該当のポリペプチドも指すことができる。20個の標準アミノ酸の誘導体を1つ以上含むペプチドも、「誘導体」として含まれる。例えば、プロリンを4-ヒドロキシプロリンに置換でき、リジンを5-ヒドロキシリジンに置換でき、ヒスチジンを3-メチルヒスチジンに置換でき、セリンをホモセリンに置換でき、リジンをオルニチンに置換できる。
【0045】
「保存的アミノ酸置換」は、ある1つのアミノ酸残基が、類似の側鎖を有する別のアミノ酸残基に置き換えられる置換である。類似の側鎖を有するアミノ酸のファミリーは、当該技術分野において定義されており、それらの側鎖としては、塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)及び芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)が挙げられる。例えば、チロシンのフェニルアラニンへの置換は、保存的置換である。ある特定の実施形態では、本開示のポリペプチド及び抗体の配列における保存的置換によっては、本開示のアミノ酸配列を含むポリペプチドまたは抗体が、その抗体と結合する抗原に結合するのが妨げられない。ヌクレオチド及びアミノ酸の保存的置換のうち、抗原への結合を喪失させない置換を特定する方法は、当技術分野で周知である(例えば、Brummell et al.,Biochem.32:1180-1 187(1993)、Kobayashi et al.,Protein Eng.12(10):879-884(1999)及びBurks et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:.412-417(1997)を参照されたい)。
【0046】
「ポリヌクレオチド」という用語は、単数の核酸及び複数の核酸を含むように意図されており、単離核酸分子またはコンストラクト、例えば、メッセンジャーRNA(mRNA)、cDNAまたはプラスミドDNA(pDNA)を指す。ポリヌクレオチドは、従来的なホスホジエステル結合または非従来的な結合(例えば、ペプチド核酸(PNA)に見られるようなアミド結合)を含むことができる。「核酸」または「核酸配列」という用語は、ポリヌクレオチドに存在するいずれかの1つ以上の核酸セグメント、例えば、DNA断片またはRNA断片を指す。
【0047】
「単離」核酸または「単離」ポリヌクレオチドとは、その天然型の環境から分離されているいずれかの形態の核酸またはポリヌクレオチドを意図している。例えば、ゲル精製ポリヌクレオチド、またはベクターに含まれるポリペプチドをコードする組換えポリヌクレオチドは、「単離されている」ものとみなされるであろう。また、ポリヌクレオチドセグメント、例えば、クローニング用に制限部位を有するように操作したPCR産物も、「単離されている」ものとみなす。単離ポリヌクレオチドのさらなる例としては、異種宿主細胞で維持されている組換えポリヌクレオチド、または緩衝液もしくは生理食塩水などの非天然溶液中の精製ポリヌクレオチド(部分的もしくは実質的に精製されたポリヌクレオチド)が挙げられる。単離RNA分子には、ポリヌクレオチドのインビボまたはインビトロでのRNA転写物であって、天然では見られない、転写物が含まれる。単離ポリヌクレオチドまたは単離核酸にはさらに、合成によって生成されたポリヌクレオチド分子または核酸分子が含まれる。加えて、ポリヌクレオチドまたは核酸は、プロモーター、リボソーム結合部位または転写ターミネーターなどの調節エレメントであることもできるし、または調節エレメントを含むこともできる。
【0048】
本明細書で使用する場合、「非天然ポリヌクレオチド」という用語またはその文法上の派生語のいずれかは、「天然」である形態の核酸もしくはポリヌクレオチド、あるいは裁判官、または行政機関もしくは司法機関によって「天然」であると判定または解釈される可能性がある形態の核酸もしくはポリヌクレオチドを明示的に除外する(ただし、上記形態のみを除外する)条件付き定義である。
【0049】
本明細書で使用する場合、「コード領域」は、核酸の部分のうち、アミノ酸に翻訳されるコドンからなる部分である。「終止コドン」(TAG、TGAまたはTAA)は、アミノ酸に翻訳されないものの、コード領域の一部とみなすことができるが、フランキング配列、例えば、プロモーター、リボソーム結合部位、転写ターミネーター、イントロンなどは、コーディング領域の一部ではない。2つ以上のコード領域が、単一のポリヌクレオチドコンストラクト内、例えば単一のベクター上に、または別々のポリヌクレオチドコンストラクト内、例えば別々の(異なる)ベクター上に存在することができる。さらに、いずれのベクターも、単一のコード領域を含むこともできるし、または2つ以上のコード領域を含むこともでき、例えば、単一のベクターは、免疫グロブリン重鎖可変領域及び免疫グロブリン軽鎖可変領域を別々にコードすることができる。加えて、ベクター、ポリヌクレオチドまたは核酸は、別のコード領域に融合されているか、または融合されていない異種コード領域を含むことができる。異種コード領域としては、限定されるものではないが、分泌シグナルペプチドまたは異種機能ドメインなどの特殊なエレメントまたはモチーフをコードする領域が挙げられる。
【0050】
ある特定の実施形態では、ポリヌクレオチドまたは核酸は、DNAである。DNAの場合、ポリペプチドをコードする核酸を含むポリヌクレオチドは通常、1つ以上のコード領域と機能可能に結合されたプロモーター、及び/または他の転写エレメントもしくは他の翻訳制御エレメントを含むことができる。機能可能な結合とは、遺伝子産物の発現が、調節配列(複数可)の影響下または制御下に置かれるような形で、遺伝子産物、例えばポリペプチドのコード領域が、1つ以上の調節配列と結合されている場合である。プロモーター機能による誘導を受けて、所望の遺伝子産物をコードするmRNAが転写される場合、及びその2つのDNA断片間の連結の性質によって、発現調節配列がその遺伝子産物の発現を指示する能力が妨げられたり、またはそのDNA鋳型が転写される能力が妨げられたりしない場合には、2つのDNA断片(ポリペプチドのコード領域、及びその領域と結合されたプロモーターなど)は、「機能可能に結合している」。すなわち、プロモーターが、ポリペプチドをコードする核酸の転写をもたらすことができた場合には、そのプロモーター領域は、その核酸と機能可能に結合されていることになる。そのプロモーターは、所定の細胞において、DNAの実質的な転写を指示する細胞特異的プロモーターであることができる。プロモーター以外の他の転写制御エレメント、例えば、エンハンサー、オペレーター、リプレッサー及び転写終結シグナルが、細胞特異的な転写を指示するように、ポリヌクレオチドと機能可能に結合されていることもできる。
【0051】
当業者には、様々な転写制御領域が知られている。これらの領域としては、限定されるものではないが、脊椎動物細胞で機能する転写制御領域が挙げられ、限定されるものではないが、サイトメガロウイルスに由来するプロモーターセグメント及びエンハンサーセグメント(イントロンAと組み合わせた前初期プロモーター)、シミアンウイルス40に由来するプロモーターセグメント及びエンハンサーセグメント(初期プロモーター)、ならびにレトロウイルス(ラウス肉腫ウイルスなど)に由来するプロモーターセグメント及びエンハンサーセグメントなどである。他の転写制御領域としては、アクチン、熱ショックタンパク質、ウシ成長ホルモン及びウサギβ-グロビンなどの脊椎動物遺伝子に由来する領域、ならびに真核細胞での遺伝子発現を制御できる他の配列が挙げられる。追加の好適な転写制御領域としては、組織特異的なプロモーター及びエンハンサー、ならびにリンホカイン誘導性プロモーター(例えば、インターフェロンまたはインターロイキンによって誘導可能なプロモーター)が挙げられる。
【0052】
同様に、様々な翻訳制御エレメントが、当業者に知られている。これらのエレメントとしては、限定されるものではないが、リボソーム結合部位、翻訳開始コドン及び終止コドン、ピコルナウイルスに由来するエレメント(特に、内部リボソーム進入部位、すなわちIRES。CITE配列ともいう)が挙げられる。
【0053】
別の実施形態では、ポリヌクレオチドは、RNA、例えば、メッセンジャーRNA(mRNA)、トランスファーRNAまたはリボソームRNAの形態であることができる。
【0054】
ポリヌクレオチド及び核酸コード領域は、分泌ペプチドまたはシグナルペプチドをコードする追加のコード領域と結合でき、これらのペプチドは、本明細書に開示されているようなポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの分泌を指示する。シグナル仮説によれば、哺乳動物細胞によって分泌されるタンパク質は、粗面小胞体を通って伸長中のタンパク質鎖の輸送が開始されると、成熟タンパク質から切断されるシグナルペプチドまたは分泌リーダー配列を有する。脊椎動物細胞によって分泌されるポリペプチドは、そのポリペプチドのN端に融合されたシグナルペプチドを有することがあり、そのシグナルペプチドが、完全なポリペプチド、すなわち「完全長」ポリペプチドから切断されると、分泌形態、すなわち「成熟」形態のポリペプチドが作られることを当業者は認識している。ある特定の実施形態では、天然型のシグナルペプチド、例えば、免疫グロブリンの重鎖シグナルペプチドもしくは軽鎖シグナルペプチドが使用されているか、またはその配列の機能的誘導体のうち、その機能的誘導体と機能可能に結合されているポリペプチドの分泌を指示する能力を保持する機能的誘導体が使用されている。あるいは、異種哺乳動物のシグナルペプチドまたはその機能的誘導体を使用することができる。例えば、野生型リーダー配列は、ヒト組織プラスミノゲンアクチベーター(TPA)またはマウスβ-グルクロニダーゼのリーダー配列で置換されていることができる。
【0055】
本明細書で使用する場合、「結合分子」という用語は、その最も広い意味では、結合標的、例えばエピトープ、すなわち抗原決定基に特異的に結合する分子を指す。本明細書にさらに記載されているように、結合分子は、本明細書に記載されている「抗原結合ドメイン」を1つ以上含むことができる。結合分子の非限定的な例は、抗体、または本明細書に詳述されているように、抗原特異的な結合性を保持するその断片である。ある特定の態様では、「結合分子」は、本明細書に詳細に記載されているような抗体または抗体様分子を含む。
【0056】
本明細書で使用する場合、「結合ドメイン」または「抗原結合ドメイン」という用語(互換的に使用できる)は、結合分子、例えば、抗体または抗体様分子の領域のうち、結合標的、例えばエピトープに特異的に結合するために必要または十分である領域を指す。例えば、「Fv」、例えば、2つの別々のポリペプチドサブユニットまたは一本鎖のいずれかとしての抗体重鎖可変領域及び抗体軽鎖可変領域は、「結合ドメイン」であるとみなされる。その他の結合ドメインとしては、限定されるものではないが、ラクダ種に由来する抗体の重鎖可変重鎖(VHH)、またはスキャフォールド、例えばフィブロネクチンスキャフォールド内で発現させた6つの免疫グロブリン相補性決定領域(CDR)が挙げられる。本明細書に記載されているような「結合分子」または「抗体」は、「抗原結合ドメイン」を1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、またはさらにはそれ以上含むことができる。
【0057】
「抗体」及び「免疫グロブリン」という用語は、本明細書では互換的に使用できる。抗体(または本明細書に開示されているようなその断片、バリアントもしくは誘導体)は、少なくとも重鎖の可変ドメイン(ラクダ種の場合)、または少なくとも重鎖及び軽鎖の可変ドメインを含む。脊椎動物系における免疫グロブリンの基本構造は、比較的十分に理解されている。例えば、Harlow et al.,Antibodies:A Laboratory Manual,(Cold Spring Harbor Laboratory Press,2nd ed.1988)を参照されたい。別段の記載のない限り、「抗体」という用語には、抗体の小さな抗原結合断片から、フルサイズの抗体、例えば、2つの完全な重鎖と2つの完全な軽鎖を含むIgG抗体、4つの完全な重鎖と4つの完全な軽鎖を含むとともに、J鎖及び/または分泌成分を任意に含むIgA抗体、10個または12個の完全な重鎖と10個または12個の完全な軽鎖を含むとともに、J鎖を任意に含むIgM抗体、あるいはこれらの機能的断片までに及ぶいずれもが含まれる。
【0058】
「免疫グロブリン」という用語には、生物学的に区別できる様々な広範なクラスのポリペプチドが含まれる。重鎖が、ガンマ、ミュー、アルファ、デルタまたはエプシロン(γ、μ、α、δ、ε)として分類され、それらの中に、いくつかのサブタイプ(例えば、γ1~γ4またはα1~α2)があることは当業者には明らかであろう。この鎖の性質が、抗体の「アイソタイプ」をそれぞれIgG、IgM、IgA、IgDまたはIgEとして決定する。免疫グロブリンのサブクラス(サブタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2などは、十分に特徴付けられており、機能の特殊化をもたらすことが知られている。これらの免疫グロブリンのそれぞれの修飾型は、本開示に鑑みれば、当業者には容易に認識可能であり、したがって、それらは、本開示の範囲内である。
【0059】
軽鎖は、カッパ(κ)またはラムダ(λ)のいずれかとして分類される。各重鎖クラスは、κ軽鎖またはλ軽鎖のいずれかと結合できる。概して、ハイブリドーマ、B細胞または遺伝子操作宿主細胞によって、その免疫グロブリンが発現されると、軽鎖及び重鎖は、互いに共有結合し、その2つの重鎖の「テール」部分は、共有結合であるジスルフィド結合または非共有結合によって、互いに結合する。重鎖では、そのアミノ酸配列は、Y字型構造の分岐部の端部にあるN末端から、各鎖の底部にあるC末端までに及ぶ。ある特定の抗体(例えばIgG抗体)の基本構造は、2つの重鎖サブユニット及び2つの軽鎖サブユニットが、ジスルフィド結合を介して共有結合して、「Y字」構造を形成したものを含み、本明細書では、この構造は「H2L2構造」または「結合ユニット」ともいう。
【0060】
「結合ユニット」という用語は、本明細書では、結合分子、例えば、抗体、抗体様分子、その抗原結合断片またはその多量体化型断片の部分うち、標準的な「H2L2」の免疫グロブリン構造、例えば、2つの重鎖またはその断片と、2つの軽鎖またはその断片に対応する部分を指す目的で使用する。ある特定の態様では、結合ユニットは、例えばラクダ抗体における2つの重鎖に対応することができる。ある特定の態様では、例えば、その結合分子が、二価のIgG抗体またはその抗原結合断片である場合には、「結合分子」及び「結合ユニット」という用語は、同じ意味である。別の態様では、例えば、その結合分子が、多量体、例えば、二量体のIgA抗体もしくはIgA様抗体、五量体のIgM抗体もしくはIgM様抗体、または六量体のIgM抗体もしくはIgM様抗体である場合には、その結合分子は、「結合ユニット」を2つ以上含む。IgA二量体の場合には2つ、IgM五量体の場合には5つ、IgM六量体の場合には6つである。結合ユニットは、完全長抗体の重鎖及び軽鎖を含む必要はないが、典型的には二価となり、すなわち、上記で定義したように、「結合ドメイン」を2つ含む。本明細書で使用する場合、本開示で提供するある特定の結合分子は、二量体であり、IgA定常領域またはその多量体化型断片を含む二価の結合ユニットを2つ含む。本開示で提供するある特定の結合分子は、「五量体」または「六量体」であり、IgM定常領域またはその多量体型断片を含む二価の結合ユニットを5つまたは6つ含む。結合ユニットを2つ以上、例えば、2つ、5つまたは6つ含む結合分子、例えば、抗体または抗体様分子は、本明細書では、「多量体」という。
【0061】
「J鎖」という用語は、本明細書で使用する場合、いずれかの動物種の天然型配列のIgM抗体もしくはIgA抗体のJ鎖、その機能的断片、その誘導体、及び/またはそのバリアントのいずれをも指し、成熟ヒトJ鎖(そのアミノ酸配列は、配列番号2として示されている)が含まれる。本明細書には、様々なJ鎖バリアント及び改変J鎖誘導体が開示されている。当業者には認識されるように、「機能的断片」または「機能的バリアント」には、IgM重鎖定常領域と結合して五量体のIgM抗体を形成できる、断片及びバリアント(あるいは、IgA重鎖定常領域と結合して二量体のIgA抗体を形成できる、断片及びバリアント)が含まれる。
【0062】
「改変J鎖」という用語は、本明細書では、天然型配列のJ鎖ポリペプチドの誘導体のうち、その天然型配列に導入された異種の部分、例えば異種のポリペプチド、例えば外来性の結合ドメインを含む誘導体を指す目的で使用する。この導入は、ペプチドリンカーまたは化学リンカーを介した結合によって、その異種のポリペプチドまたはその他の部分を直接または間接的に融合することを含むいずれかの手段によって行うことができる。「改変ヒトJ鎖」という用語には、限定されるものではないが、配列番号2のアミノ酸配列を含む天然型配列のヒトJ鎖、またはその機能的断片もしくはその機能的バリアントのうち、異種の部分、例えば異種のポリペプチド、例えば外来性の結合ドメインの導入によって改変されたものが含まれる。ある特定の態様では、その異種部分は、IgMが効率的に重合して五量体となること、及びそのようなポリマーが標的に結合することを妨げない。例示的な改変J鎖は、例えば、米国特許第9,951,134号、米国特許出願公開第2019-0185570号及び米国特許第10,618,978号に見ることができ、これらの特許はそれぞれ、参照により、その全体が本明細書に援用される。
【0063】
本明細書で使用する場合、「IgM由来の結合分子」、「IgM様抗体」、「IgM様結合ユニット」または「IgM様重鎖定常領域」という用語は、抗体由来の結合分子、抗体、結合ユニットまたは重鎖定常領域のバリアントのうち、多量体、例えば六量体を形成するか、またはJ鎖と結合した状態で五量体を形成する能力をもたらすのに必要な、IgM重鎖の構造的な部分を保持したままであるバリアントを指す。IgM様抗体、またはIgM由来の結合分子は典型的には、少なくとも、IgM定常領域のCμ4ドメイン及びテールピース(tp)ドメインを含むが、同じ種または異なる種の他の抗体アイソタイプ、例えばIgGに由来する重鎖定常領域ドメインを含むことができる。IgM様抗体、またはIgM由来の結合分子は同様に、1つ以上の定常領域が欠失している抗体断片であることができる。ただし、そのIgM様抗体が、六量体及び/または五量体を形成できることを条件とする。すなわち、IgM様抗体、またはIgM由来の結合分子は、例えばIgM/IgGハイブリッド抗体であることもできるし、またはIgM抗体の「多量体化型断片」であることもできる。
【0064】
本明細書で使用する場合、「IgA由来の結合分子」、「IgA様抗体」、「IgA様結合ユニット」または「IgA様重鎖定常領域」という用語は、抗体由来の結合分子、抗体、結合ユニットまたは重鎖定常領域のバリアントのうち、J鎖と結合した状態の多量体、例えば二量体を形成する能力をもたらすのに必要な、IgA重鎖の構造的な部分を保持したままであるバリアントを指す。IgA様抗体、またはIgA由来の結合分子は典型的には、少なくとも、IgA定常領域のCα3ドメイン及びテールピース(tp)ドメインを含むが、同じ種または異なる種の他の抗体アイソタイプ、例えばIgGに由来する重鎖定常領域ドメインを含むことができる。IgA様抗体、またはIgA由来の結合分子は同様に、1つ以上の定常領域が欠失している抗体断片であることができる。ただし、そのIgA様抗体が、J鎖と結合した状態の二量体を形成できることを条件とする。すなわち、IgA様抗体、またはIgA由来の結合分子は、例えばIgA/IgGハイブリッド抗体であることもできるし、またはIgA抗体の「多量体化型断片」であることもできる。
【0065】
「結合価」、「二価」、「多価」という用語、及び文法的に同等の表現は、所定の結合分子、例えば、抗体もしくは抗体様分子、または所定の結合ユニットにおける抗原結合ドメインの数を指す。したがって、所定の結合分子、例えば、IgM抗体、IgM様抗体またはその多量体化型断片においては、「二価」という用語は、2つの抗原結合ドメインの存在を示し、「四価」という用語は、4つの抗原結合ドメインの存在を示し、「六価」という用語は、6つの抗原結合ドメインの存在を示す。各結合ユニットが二価である典型的なIgM抗体もしくはIgM様抗体、またはIgM由来の結合分子は、結合価が10または12であることができる。二価または多価の結合分子、例えば、抗体または抗体様分子は、単一特異性を有する(すなわち、その抗原結合ドメインのすべてが、同じである)こともできるし、または二重特異性もしくは多特異性を有する(例えば、2つ以上の抗原結合ドメインが異なり、例えば、同じ抗原上の異なるエピトープに結合するか、もしくは完全に異なる抗原に結合する)ことができる。
【0066】
「エピトープ」という用語には、抗体または抗体様分子の抗原結合ドメインに特異的に結合できるいずれの分子決定基も含まれる。ある特定の態様では、エピトープは、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリルまたはスルホニルのような分子の化学的に活性な表面基を含むことができ、ある特定の態様では、三次元構造特性または所定の荷電特性を有することができる。エピトープは、標的の領域のうち、抗体の抗原結合ドメインが結合する領域である。
【0067】
「標的」という用語は、最も広い意味で使用して、結合分子、例えば、抗体または抗体様分子が結合できる物質を含める。標的は例えば、ポリペプチド、核酸、炭水化物、脂質またはその他の分子であることができる。さらに、「標的」は例えば、結合分子、例えば、抗体または抗体様分子が結合できるエピトープを含む細胞、器官または生物であることができる。
【0068】
軽鎖及び重鎖のいずれも、構造的及び機能的相同性の領域に分けられる。「定常」及び「可変」という用語は、機能面で使用される。軽鎖の可変領域(VL)及び重鎖の可変領域(VH)のいずれも、抗原の認識及び特異性を決定する。これに対して、軽鎖の定常ドメイン(CL)及び重鎖の定常ドメイン(例えば、CH1、CH2、CH3またはCH4)は、分泌、経胎盤移行、Fc受容体の結合、補体の結合などのような生物学的特性をもたらす。慣例によれば、定常領域ドメインのナンバリングは、抗体の抗原結合部位、すなわちアミノ末端から離れるほど大きくなる。N末端部分は、可変領域であり、C末端部分は、定常領域であり、実際、CH3ドメイン(またはIgMの場合にはCH4)は、重鎖のカルボキシ末端を含み、CLドメインは、軽鎖のカルボキシ末端を含む。
【0069】
「完全長IgM抗体重鎖」は、N末端からC末端の方向で、抗体重鎖可変ドメイン(VH)、抗体重鎖定常ドメイン1(CM1またはCμ1)、抗体重鎖定常ドメイン2(CM2またはCμ2)、抗体重鎖定常ドメイン3(CM3またはCμ3)、及びテールピースを含むことができる抗体重鎖定常ドメイン4(CM4またはCμ4)を含むポリペプチドである。
【0070】
上記のように、可変領域(複数可)により、結合分子、例えば、抗体または抗体様分子が、抗原上のエピトープを選択的に認識して、そのエピトープと特異的に結合することが可能になる。すなわち、結合分子、例えば、抗体または抗体様分子のVLドメイン及びVHドメイン、または相補性決定領域(CDR)のサブセットは、組み合わさって、抗原結合ドメインを形成する。より具体的には、抗原結合ドメインは、VH鎖及びVL鎖のそれぞれの上の3つのCDRによって定めることができる。ある特定の抗体は、さらに大きい構造を形成する。例えば、IgAは、2つのH2L2結合ユニットと、ジスルフィド結合を介して共有結合したJ鎖とを含む分子を形成でき、このJ鎖はさらに、分泌成分と結合されていることができ、IgMは、H2L2結合ユニットを5つまたは6つ含むとともに、ジスルフィド結合を介して共有結合したJ鎖を任意に含む五量体分子または六量体分子を形成できる。
【0071】
抗体の抗原結合ドメイン内に存在する6つの「相補性決定領域」、すなわち「CDR」は、短い非連続的なアミノ酸配列であり、抗体が水性環境で三次元構成をとると、結合ドメインを形成するように特異的に配置される。結合ドメインにおける残りのアミノ酸は、「フレームワーク」領域といい、分子間可変性がCDRよりも小さい。フレームワーク領域は主として、βシート立体構造をとり、CDRは、そのβシート構造をつなぐループを形成し、このループは、場合によっては、その構造の一部を形成する。したがって、フレームワーク領域は、鎖間での非共有結合による相互作用によって、CDRを正しい向きで配置させるスキャフォールドを形成する働きをする。配置されたCDRによって形成される抗原結合ドメインは、標的抗原上のエピトープと相補的な表面を定める。この相補的な表面は、抗体がその同族エピトープに非共有結合するのを促進する。当業者は、いずれの所定の重鎖可変領域または軽鎖可変領域についても、CDR及びフレームワーク領域をそれぞれ構成するアミノ酸を、容易に特定できる。それらのアミノ酸は、様々な異なる方法で定義されているからである。(“Sequences of Proteins of Immunological Interest,”Kabat,E.,et al.,U.S.Department of Health and Human Services,(1983)及びChothia and Lesk,J.Mol.Biol.,196:901-917(1987)(これらの文献は、参照により、その全体が本明細書に援用される)を参照されたい)。
【0072】
当該技術分野において使用及び/または認められている用語の定義が2つ以上存在する場合、用語の定義には、本明細書で使用する場合、明らかに反対の記載のない限りは、それらの意味がすべて含まれるように意図されている。具体的な例は、「相補性決定領域」(「CDR」)という用語を用いて、重鎖ポリペプチド及び軽鎖ポリペプチドの両方の可変領域内に見られる非連続的な抗原結合部位を説明することである。これらの具体的な領域は、例えば、Kabat et al.,U.S.Dept.of Health and Human Services,“Sequences of Proteins of Immunological Interest”(1983)及びChothia et al.,J.Mol.Biol.196:901-917(1987)によって説明されてきており、これらの文献は、参照により、本明細書に援用される。Kabat及びChothiaの定義には、互いに比較した場合の重複するアミノ酸及びアミノ酸サブセットが含まれる。上記にかかわらず、抗体またはそのバリアントのCDRを指す目的で、いずれかの定義(または当業者に知られている他の定義)を適用することは、別段の指示がない限り、本明細書で定義及び使用されているような用語の範囲内であるように意図されている。上で引用した各参照文献によって定義されているようなCDRを含む適切なアミノ酸は、比較として、下記の表1に示されている。特定のCDRを網羅する正確なアミノ酸数は、そのCDRの配列及びサイズに応じて変動することになる。当業者は、抗体の可変領域アミノ酸配列を与えられれば、どのアミノ酸が特定のCDRを構成するか、常法によって判断できる。
【0073】
(表1)CDRの定義
*
*表1におけるすべてのCDR定義のナンバリングは、Kabatらが定めた、ナンバリングの慣例に従ったものである(下記を参照されたい)。
【0074】
例えば、IMGTの情報システム(imgt.cines.fr/)(IMGT(登録商標)/V-Quest)を用いて、抗体可変ドメインを解析して、CDRを含む可変領域セグメントを特定することもできる。(例えば、Brochet et al.,Nucl.Acids Res.,36:W503-508,2008を参照されたい。)
【0075】
Kabatらは、可変領域及び定常領域の配列についても、いずれの抗体にも適用可能であるナンバリングシステムを定義した。当業者は、配列そのもの以外のいずれの実験データにも頼ることなく、あらゆる可変領域配列に、「Kabatナンバリング」のこのシステムを明確に割り当てることができる。本明細書で使用する場合、「Kabatナンバリング」とは、Kabat et al.,U.S.Dept.of Health and Human Services,“Sequence of Proteins of Immunological Interest”(1983)によって定められたナンバリングシステムを指す。ただし、Kabatナンバリングシステムの使用が明示的に述べられていない限り、本開示におけるすべてのアミノ酸配列には、連続的なナンバリングが使用されている。
【0076】
ヒトIgM定常ドメインのKabatナンバリングシステムは、Kabat,et al.“Tabulation and Analysis of Amino acid and nucleic acid Sequences of Precursors,V-Regions,C-Regions,J-Chain,T-Cell Receptors for Antigen,T-Cell Surface Antigens,β-2 Microglobulins,Major Histocompatibility Antigens,Thy-1,Complement,C-Reactive Protein,Thymopoietin,Integrins,Post-gamma Globulin,α-2 Macroglobulins,and Other Related Proteins,”U.S.Dept.of Health and Human Services(1991)に見ることができる。IgM定常領域は、順次に(すなわち、1番目のアミノ酸は、定常領域の最初のアミノ酸から開始する)、またはKabatナンバリングのスキームを用いることによってナンバリングできる。以下には、ヒトIgM定常領域の2つのアレルを順次にナンバリングした場合(本明細書では、配列番号51(アレルIGHM*03)及び配列番号52(アレルIGHM*04)として示されている)と、Kabatシステムによってナンバリングした場合の比較が示されている。下線付きのアミノ酸残基は、Kabatシステムでは考慮されていない(以下で下線が二重に付された「X」は、セリン(S)(配列番号51)またはグリシン(G)(配列番号52)であることができる)。
【0077】
IgM重鎖における順次的ナンバリング(配列番号51または配列番号52)/KABATナンバリングの表
【0078】
結合分子、例えば、抗体、抗体様分子、それらの抗原結合断片、抗原結合バリアントもしくは抗原結合誘導体、及び/またはそれらの多量体化型断片としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、エピトープ結合断片、例えば、Fab、Fab’及びF(ab’)2、Fd、Fv、一本鎖Fv(scFv)、一本鎖抗体、ジスルフィド結合Fv(sdF)、VLドメインもしくはVHドメインのいずれかを含む断片、Fab発現ライブラリーによって作製した断片が挙げられるが、これらに限定されない。scFv分子は、当該技術分野において知られており、例えば米国特許第5,892,019号に記載されている。
【0079】
「特異的に結合する」とは、概して、結合分子、例えば、抗体、またはその断片、バリアントもしくは誘導体が、その抗原結合ドメインを介して、エピトープに結合すること、ならびにその結合には、抗原結合ドメインとエピトープとの間にかなりの相補性が必要であることを意味する。この定義によれば、結合分子、例えば、抗体または抗体様分子は、ランダムな無関係のエピトープに結合するよりも容易に、その抗原結合ドメインを介してエピトープに結合するときには、そのエピトープに「特異的に結合する」という。「特異性」という用語は、本明細書では、ある特定の結合分子が、ある特定のエピトープに結合する相対的な親和性を定性する目的で使用する。例えば、結合分子「A」は、所定のエピトープに対する特異性が、結合分子「B」よりも高いとみなすことができ、または結合分子「A」は、関連するエピトープ「D」に対する特異性よりも高い特異性で、エピトープ「C」に結合するということができる。
【0080】
本明細書に開示されている結合分子、例えば、抗体、またはその断片、バリアントもしくは誘導体は、5×10-2秒-1、10-2秒-1、5×10-3秒-1、10-3秒-1、5×10-4秒-1、10-4秒-1、5×10-5秒-1、10-5秒-1、5×10-6秒-1、10-6秒-1、5×10-7秒-1または10-7秒-1以下の解離速度(k(off))で、標的抗原と結合するということができる。
【0081】
本明細書で開示されている結合分子、例えば、抗体、またはその抗原結合断片、抗原結合バリアントもしくは抗原結合誘導体は、103M-1秒-1、5×103M-1秒-1、104M-1秒-1、5×104M-1秒-1、105M-1秒-1、5×105M-1秒-1、106M-1秒-1、5×106M-1秒-1または107M-1秒-1以上の会合速度(k(on))で、標的抗原と結合するということができる。
【0082】
結合分子、例えば、抗体、またはその断片、バリアント、もしくは誘導体は、参照抗体または参照抗原結合断片の所定のエピトープへの結合をある程度ブロックする範囲で、そのエピトープに優先的に結合する場合には、その参照抗体または参照抗原結合断片のそのエピトープへの結合を競合的に阻害するという。競合的阻害性は、当該技術分野で知られているいずれかの方法、例えば、競合ELISAアッセイによって求めることができる。結合分子は、参照抗体または参照抗原結合断片の所定のエピトープへの結合を少なくとも90%、少なくとも80%、少なくとも70%、少なくとも60%または少なくとも50%競合的に阻害するということができる。
【0083】
本明細書で使用する場合、「親和性」という用語は、個々のエピトープと、1つ以上の抗原結合ドメイン、例えば免疫グロブリン分子の抗原結合ドメインとの結合の強さの尺度を指す。例えば、Harlow et al.,Antibodies:A Laboratory Manual,(Cold Spring Harbor Laboratory Press,2nd ed.1988)の27~28ページを参照されたい。本明細書で使用する場合、「アビディティ」という用語は、抗原結合ドメイン集団と抗原との複合体の全体的な安定性を指す。例えば、Harlowの文献の29~34ページを参照されたい。アビディティは、その集団内の個々の抗原結合ドメインと特異的エピトープとの親和性、及び免疫グロブリンと抗原との結合価の両方に関連する。例えば、二価のモノクローナル抗体と、高度な繰り返しエピトープ構造を有する抗原(ポリマーなど)との相互作用は、アビディティの高い相互作用であろう。二価のモノクローナル抗体と、細胞表面に高密度で存在する受容体との相互作用も、アビディティの高い相互作用であろう。
【0084】
本明細書に開示されているような結合分子、例えば、抗体、またはその断片、バリアントもしくは誘導体は、その交差反応性の観点からも説明または特定できる。本明細書で使用する場合、「交差反応性」という用語は、ある抗原に特異的な結合分子、例えば、抗体、またはその断片、バリアントもしくは誘導体が、第2の抗原と反応する能力を指し、2つの異なる抗原物質間の関連性の尺度である。したがって、結合分子は、その形成を誘導したエピトープ以外のエピトープに結合する場合、交差反応性を有する。交差反応性エピトープは概して、その誘導エピトープと同じ相補的な構造上の特徴を多く含み、場合によって、実際には、元のエピトープよりも適合性が高くなることもある。
【0085】
結合分子、例えば、抗体、またはその断片、バリアントもしくは誘導体は、抗原に対する結合親和性の観点から説明または特定することもできる。例えば、結合分子は、5×10-2M、10-2M、5×10-3M、10-3M、5×10-4M、10-4M、5×10-5M、10-5M、5×10-6M、10-6M、5×10-7M、10-7M、5×10-8M、10-8M、5×10-9M、10-9M、5×10-10M、10-10M、5×10-11M、10-11M、5×10-12M、10-12M、5×10-13M、10-13M、5×10-14M、10-14M、5×10-15Mまたは10-15M以下の解離定数、すなわちKDで、抗原に結合することができる。
【0086】
「抗原結合断片」は、一本鎖抗体またはその他の結合ドメインを含め、単独で存在することもできるし、またはヒンジ領域、CH1ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン、CH4ドメイン、J鎖または分泌成分のうちの1つ以上と組み合わさって存在することもできる。可変領域(複数可)と、ヒンジ領域、CH1ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン、CH4ドメイン、J鎖または分泌成分のうちの1つ以上とを任意に組み合わせたものを含むことができる抗原結合断片も含まれる。結合分子、例えば、抗体またはその抗原結合断片は、トリ及び哺乳動物を含むいずれかの動物起源に由来することができる。その抗体は例えば、ヒト、マウス、ロバ、ウサギ、ヤギ、モルモット、ラクダ、ラマ、ウマまたはニワトリの抗体であることができる。別の実施形態では、可変領域は、軟骨魚類(例えばサメ)起源であることができる。本明細書で使用する場合、「ヒト」抗体は、ヒト免疫グロブリンのアミノ酸配列を有する抗体を含むとともに、ヒト免疫グロブリンライブラリーから、または1つ以上のヒト免疫グロブリンについてトランスジェニックである動物から単離した抗体を含み、後述のように、かつ例えば、Kucherlapatiらによる米国特許第5,939,598号に記載されているように、場合によっては、内在性免疫グロブリンを発現することができ、場合によっては、内在性免疫グロブリンを発現できない。本開示の態様によれば、本発明で提供するようなIgM抗体、IgM様抗体、またはIgM由来の結合分子は、抗体の抗原結合断片、例えばscFv断片を含むことができる。ただし、そのIgM抗体またはIgM様抗体が、多量体、例えば六量体または五量体を形成できることを条件とする。
【0087】
本明細書で使用する場合、「重鎖サブユニット」という用語は、免疫グロブリン重鎖に由来するアミノ酸配列を含み、重鎖サブユニットを含む結合分子、例えば、抗体または抗体様分子は、VHドメイン、CH1ドメイン、ヒンジドメイン(例えば、アッパーヒンジ領域、ミドルヒンジ領域及び/またはローワーヒンジ領域)、CH2ドメイン、CH3ドメイン、CH4ドメイン、テールピース(tp)、あるいはそれらのバリアントまたは断片のうちの少なくとも1つを含むことができる。例えば、結合分子、例えば、抗体、抗体様分子、またはその断片、バリアントもしくは誘導体は、VHドメインに加えて、以下に限定されないが、1つ以上の抗体アイソタイプ及び/または抗体種のCH1ドメイン、ヒンジ、CH2ドメイン、CH3ドメイン、CH4ドメインまたはテールピース(tp)を任意に組み合わせたものを含むことができる。ある特定の態様では、結合分子、例えば、抗体、抗体様分子、またはその断片、バリアントもしくは誘導体は、VHドメインに加えて、CH3ドメイン及びCH4-tpドメイン、またはCH3ドメイン、CH4-tpドメイン及びJ鎖を含むことができる。さらに、本開示で使用するための結合分子、例えば、抗体または抗体様分子は、ある特定の定常領域部分、例えば、CH2ドメインの全部または一部を欠損していることができる。これらのドメイン(例えば重鎖サブユニット)は、元の免疫グロブリン分子とアミノ酸配列が異なるように改変されていることができる。本開示の態様によれば、本発明で提供するようなIgM抗体またはIgM様抗体は、IgM重鎖定常領域の部分のうち、そのIgM抗体またはIgM様抗体が、多量体、例えば六量体または五量体を形成可能となるのに十分な部分を含み、例えば、そのIgM重鎖定常領域としては、IgM重鎖定常領域の「多量体化型断片」が挙げられる。
【0088】
本明細書で使用する場合、「軽鎖サブユニット」という用語は、免疫グロブリン軽鎖に由来するアミノ酸配列を含む。軽鎖サブユニットは、少なくともVLを含み、さらに、CL(例えばCκまたはCλ)ドメインを含むことができる。
【0089】
結合分子、例えば、抗体、抗体様分子、またはその抗原結合断片、抗原結合バリアントもしくは抗原結合誘導体、あるいはその多量体化型断片は、その結合分子が認識するか、または特異的に結合する抗原のエピトープ(複数可)または部分(複数可)の観点から説明または特定することができる。標的抗原の部分のうち、抗体の抗原結合ドメインと特異的に相互作用する部分は、「エピトープ」、すなわち「抗原決定基」である。標的抗原は、1つのエピトープまたは少なくとも2つのエピトープを含むことができ、抗原のサイズ、コンホメーション及び種類に応じて、いずれかの数のエピトープを含むことができる。
【0090】
本明細書で使用する場合、「ヒンジ領域」という用語は、重鎖分子の部分のうち、IgG、IgA及びIgDの重鎖において、CH1ドメインをCH2ドメインに接合する部分を含む。このヒンジ領域は、アミノ酸を約25個含み、フレキシブルであり、それにより、N末端の2つの抗原結合領域が、独立して移動可能になる。
【0091】
本明細書中で使用する場合、「ジスルフィド結合」という用語には、2つの硫黄原子の間で形成された共有結合が含まれる。アミノ酸であるシステインは、チオール基を含み、そのチオール基は、第2のチオール基とジスルフィド結合、すなわち架橋を形成できる。
【0092】
本明細書で使用する場合、「キメラ抗体」という用語は、免疫反応性の領域または部位が、第1の種から得たかまたは誘導したものであり、定常領域(インタクトな定常領域、部分的な定常領域または修飾定常領域であることができる)が、第2の種から得たものである抗体を指す。いくつかの実施形態では、標的結合領域または標的結合部位は、ヒト以外の供給源(例えば、マウスまたは霊長類動物)に由来し、定常領域は、ヒトのものである。
【0093】
「多特異性抗体」または「二重特異性抗体」という用語は、単一の抗体分子内に、2つ以上の異なるエピトープに対する抗原結合ドメインを有する抗体または抗体様分子を指す。カノニカルな抗体構造に追加される他の結合分子は、二重の結合特異性を有するように構築できる。
【0094】
本明細書で使用する場合、「操作抗体」という用語は、重鎖及び軽鎖のいずれか、またはそれらの両方の可変ドメインが、CDRまたはフレームワーク領域のいずれかにおけるアミノ酸の1つ以上を少なくとも部分的に置き換えることによって改変されている抗体を指す。ある特定の態様では、特異性が既知である抗体に由来するCDR全体を、異種抗体のフレームワーク領域に移植することができる。フレームワーク領域の由来元である抗体と同じクラスまたは同じサブクラスの抗体から、代替的なCDRを得ることができるが、異なるクラスの抗体、例えば、異なる種に由来する抗体からCDRを得ることもできる。特異性が既知である非ヒト抗体に由来する「ドナー」CDRが1つ以上、ヒト重鎖フレームワーク領域またはヒト軽鎖フレームワーク領域に移植されている操作抗体は、本明細書では、「ヒト化抗体」という。ある特定の態様では、すべてのCDRが、ドナーの可変領域に由来する完全なCDRに置き換えられているわけではないが、それでも、そのドナーの抗原結合能をレシピエントの可変ドメインに移行できる。例えば、米国特許第5,585,089号、同第5,693,761号、同第5,693,762号及び同第6,180,370号に示されている説明を踏まえれば、慣用的な実験を行うことによって、機能的な操作抗体またはヒト化抗体を得ることは、十分に当業者の技術の範囲内であろう。
【0095】
本明細書で使用する場合、「操作」という用語には、合成手段(例えば、組換え技法、インビトロペプチド合成、ペプチド、核酸もしくは糖鎖の酵素カップリングもしくは化学カップリング、またはこれらの技法をいくつか組み合わせたもの)による、核酸分子またはポリペプチド分子の操作が含まれる。
【0096】
本明細書で使用する場合、「連結された」、「融合された」もしくは「融合」という用語、または文法的に同等の他の表現は、互換的に使用できる。これらの用語は、化学的結合または組換え手段を含むいずれかの手段によって、2つ以上のエレメントまたは成分をつなぎ合わせることを指す。「インフレーム融合」とは、元のオープンリーディングフレーム(ORF)の翻訳リーディングフレームを維持する形で、2つ以上のポリヌクレオチドORFをつないで、より長い連続的なORFを形成することを指す。したがって、組換え融合タンパク質は、元のORFによってコードされるポリペプチドに対応するセグメントを2つ以上含む単一のタンパク質である(それらのセグメントは通常、天然では、上記のように接合されることはない)。リーディングフレームは、上記のように、融合されたセグメント全体にわたって連続的になるものの、それらのセグメントは、例えばインフレームリンカー配列によって、物理的または空間的に離すことができる。例えば、免疫グロブリン可変領域のCDRをコードするポリヌクレオチドは、インフレームで融合することができるが、それらのポリヌクレオチドは、その「融合」CDRが、連続的なポリペプチドの一部として共翻訳される限りは、免疫グロブリンフレームワーク領域または追加のCDR領域を少なくとも1つコードするポリヌクレオチドで隔てられていることができる。
【0097】
ポリペプチドとの関連においては、「直線状配列」または「配列」は、ポリペプチドにおける、アミノ末端からカルボキシル末端方向でのアミノ酸の順序であり、配列内で隣り合うアミノ酸は、ポリペプチドの一次構造において連続している。あるポリペプチド部分の「アミノ末端側」、すなわち「N末端側」である別のポリペプチド部分は、連続したポリペプチド鎖において先に現れる部分である。同様に、あるポリペプチド部分の「カルボキシ末端側」、すなわち「C末端側」である別のポリペプチド部分は、連続したポリペプチド鎖において後に現れる部分である。例えば、典型的な抗体では、可変ドメインは、定常領域の「N末端側」であり、定常領域は、可変ドメインの「C末端側」である。
【0098】
本明細書で使用する場合、「発現」という用語は、遺伝子が、生化学物質、例えばポリペプチドを生成するプロセスを指す。このプロセスには、細胞内の遺伝子の機能的存在をいずれかに顕在化させることが含まれ、その顕在化としては、限定されるものではないが、遺伝子ノックダウン、ならびに一過性発現及び安定発現の両方が挙げられる。このプロセスには、限定されるものではないが、遺伝子のRNA(例えばメッセンジャーRNA(mRNA))への転写、及びこのようなmRNAのポリペプチド(複数可)への翻訳が含まれる。最終的な望ましい生成物が、生化学物質である場合、発現には、その生化学物質及び任意の前駆体の生成が含まれる。遺伝子の発現により、「遺伝子産物」が作られる。本明細書で使用する場合、遺伝子産物は、核酸、例えば、遺伝子の転写によって産生されるメッセンジャーRNA、または転写物から翻訳されるポリペプチドのいずれかであることができる。本明細書に記載されている遺伝子産物には、翻訳後修飾、例えばポリアデニル化が行われた核酸、または翻訳後修飾、例えば、メチル化、糖鎖付加、脂質の付加、他のタンパク質サブユニットとの結合、タンパク質切断などが行われたポリペプチドがさらに含まれる。
【0099】
「治療する」、「治療」、「治療すること」、「緩和する」または「緩和すること」などの用語は、診断された既存の疾患、病態または障害の症状を治癒、減速、抑制し、及び/または診断された既存の疾患、病態または障害の進行を停止もしくは減速する治療手段を指す。「予防する」、「予防」、「回避する」、「抑止」などの用語は、標的とする未診断の疾患、病態または障害の発現を予防する予防手段を指す。したがって、「治療の必要な対象」には、すでにその障害に罹患した対象、その障害に罹患する傾向のある対象、及びその障害を予防すべき対象を含めることができる。
【0100】
本明細書で使用する場合、「血清中半減期」または「血漿中半減期」という用語は、タンパク質または薬物、例えば、本明細書に記載されているような抗体、抗体様分子またはその断片といった結合分子の血清中濃度または血漿中濃度が、投与後、50%低下するのに要する時間(例えば、分単位、時間単位または日数単位)を指す。中央コンパートメント、例えば、静脈内送達の場合には血液から、末梢コンパートメント(例えば、組織または器官)への薬物再分布プロセスにより、血漿中濃度が低下する速度であるアルファ半減期、α半減期、t1/2αと、排泄または代謝のプロセスにより低下する速度であるベータ半減期、β半減期、t1/2βという2つの半減期を記載できる。
【0101】
本明細書で使用する場合、「血漿中薬物濃度-時間曲線下面積」または「AUC」という用語は、ある用量の薬物を投与した後、身体が実際に薬物に曝露される量を反映するものであり、mg・h/Lで表される。この曲線下面積は、0時点(t0)から無限大時間(∞)まで測定され、身体からの薬物の排出速度及び投与量に左右される。
【0102】
本明細書で使用する場合、「平均滞留時間」、すなわち「MRT」という用語は、薬物が体内に留まる時間の長さの平均を指す。
【0103】
「対象」、「個体」、「動物」、「患者」または「哺乳動物」は、診断、予後診断または治療が所望されるいずれかの対象、特に哺乳動物対象を意味する。哺乳動物の対象としては、ヒト、飼育動物、家畜動物、動物園の動物、スポーツ用の動物、ペット動物(イヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ラット、マウス、ウマ、ブタ、ウシ、クマなど)が挙げられる。
【0104】
本明細書で使用する場合、「治療から利益を得られる対象」及び「治療の必要な動物」のような表現は、対象と見込まれるすべてのもののうち、所定の治療剤、例えば、抗原結合ドメインを1つ以上含む結合分子(抗体または抗体様分子など)の投与から利益を得られると思われる対象のサブセットを指す。このような結合分子、例えば、抗体または抗体様分子は、例えば、診断手順、及び/または疾患の治療もしくは予防に使用できる。
【0105】
IgM抗体、IgM様抗体、及びIgM由来の結合分子
IgMは、抗原による刺激に応答して、B細胞によって産生される最初の免疫グロブリンであり、天然においては、血清中に1.5mg/ml前後で存在し、半減期は約5日である。IgMは、五量体または六量体の分子であり、すなわち、結合ユニットを5つまたは6つ含む。IgM結合ユニットは典型的には、軽鎖を2つ、及び重鎖を2つ含む。IgG重鎖定常領域が、3つの重鎖定常ドメイン(CH1、CH2及びCH3)を含むのに対して、IgMの重鎖(μ鎖)定常領域はさらに、4つ目の定常ドメイン(CH4)を含むとともに、C末端の「テールピース」(tp)を含む。いくつかのヒトアレルが存在するが、ヒトIgM定常領域は典型的には、配列番号51(IMGTアレルIGHM*03、例えば、GenBankアクセッション番号pir||S37768と同一)または配列番号52(IMGTアレルIGHM*04、例えば、GenBankアクセッション番号sp|P01871.4と同一)のアミノ酸配列を含む。ヒトCμ1領域は、配列番号51または配列番号52の5番目のアミノ酸のあたりから、102番目のアミノ酸のあたりにまでに及び、ヒトCμ2領域は、配列番号51または配列番号52の114番目のアミノ酸のあたりから、205番目のアミノ酸のあたりにまで及び、ヒトCμ3領域は、配列番号51または配列番号52の224番目のアミノ酸のあたりから、319番目のアミノ酸のあたりにまで及び、Cμ4領域は、配列番号51または配列番号52の329番目のアミノ酸のあたりから、430番目のアミノ酸のあたりにまで及び、テールピースは、配列番号51または配列番号52の431番目のアミノ酸のあたりから、453番目のアミノ酸のあたりにまで及ぶ。
【0106】
配列にわずかな違いのある他の形態のヒトIgM定常領域が存在し、その形態としては、限定されるのもではないが、GenBankアクセッション番号CAB37838.1及びpir||MHHUが挙げられる。配列番号51または配列番号52に対応する位置におけるアミノ酸の置換、挿入及び/または欠失(本開示の他の箇所に記載及び特許請求されている)も同様に、代替的なヒトIgM配列、及び他の種のIgM定常領域のアミノ酸配列に導入できる。
【0107】
それぞれのIgM重鎖定常領域は、抗原結合ドメイン、例えば、scFvもしくはVHH、または抗原結合ドメインのサブユニット、例えばVH領域と結合できる。
【0108】
5つのIgM結合ユニットは、追加の小さいポリペプチド鎖(J鎖)、またはその機能的断片、機能的バリアントもしくは機能的誘導体と複合体を形成して、五量体のIgM抗体またはIgM様抗体を形成できる。ヒトJ鎖の前駆体形態は、配列番号1として示されている。シグナルペプチド(表10で下線が付されている)は、配列番号1の1番目のアミノ酸から22番目のアミノ酸のあたりまでに及び、成熟ヒトJ鎖は、配列番号1の23番目のアミノ酸のあたりから、159番目のアミノ酸のあたりまでに及ぶ。成熟ヒトJ鎖は、配列番号2のアミノ酸配列を有する。
【0109】
例示的なバリアント及び改変J鎖は、本明細書の別の箇所に示されている。J鎖がない場合には、IgM抗体またはIgM様抗体は典型的には、六量体にアセンブルされており、6個の結合ユニットと、最大で12個の抗原結合ドメインを含む。J鎖を有する場合には、IgM抗体またはIgM様抗体は典型的には、五量体にアセンブルされており、5個の結合ユニットと、最大で10個の抗原結合ドメインを含み、さらには、そのJ鎖が、例えば、追加の抗原結合ドメイン(複数可)であることができる異種ポリペプチドを1つ以上含む改変J鎖である場合には、10個超の抗原結合ドメインを含む。5個または6個のIgM結合ユニットがアセンブルされて、五量体または六量体のIgM抗体またはIgM様抗体となるには、Cμ4ドメインとテールピースドメインとの相互作用が必要になると考えられている。例えば、Braathen,R.,et al.,J.Biol.Chem.277:42755-42762(2002)を参照されたい。したがって、本開示で提供する五量体または六量体のIgM抗体または抗体様分子の定常領域は典型的には、少なくとも、Cμ4ドメイン及び/またはテールピースドメイン(本明細書では、総称してCμ4-tpともいう)を含む。すなわち、IgM重鎖定常領域の「多量体化型断片」は、少なくともCμ4-tpメインを含む。加えて、IgM重鎖定常領域は、Cμ3ドメインまたはその断片、Cμ2ドメインまたはその断片、Cμ1ドメインまたはその断片を含むことができる。ある特定の態様では、本発明で提供するような結合分子、例えば、IgM抗体またはIgM様抗体は、例えば本発明で提供するような完全なIgM重鎖(μ鎖)定常ドメイン、例えば、配列番号51もしくは配列番号52、またはそのバリアント、誘導体もしくは類似体を含むことができる。
【0110】
ある特定の態様では、本開示は、二価の結合ユニットを5つ含む五量体のIgM抗体またはIgM様抗体を提供し、その各結合ユニットは、それぞれ抗原結合ドメインまたは抗原結合ドメインのサブユニットと結合している、IgM重鎖定常領域またはその多量体化型断片もしくは多量体化型バリアントを2つ含む。ある特定の態様では、その2つのIgM重鎖定常領域は、ヒト重鎖定常領域である。
【0111】
本発明で提供するIgM抗体またはIgM様抗体が、五量体である場合には、そのIgM抗体またはIgM様抗体は典型的には、J鎖、またはその機能的断片もしくは機能的バリアントをさらに含む。ある特定の態様では、そのJ鎖は、本明細書の他の箇所に記載されているように、そのJ鎖に結合した異種部分を1つ以上さらに含む改変J鎖またはそのバリアントである。ある特定の態様では、そのJ鎖は、本明細書の他の箇所で論じられているように、本発明で提供するIgM抗体またはIgM様抗体の血清中半減期に影響を及ぼすように、例えば、その血清中半減期を長くするように変異されていることができる。ある特定の実施形態では、そのJ鎖は、本開示の他の箇所で論じられているように、糖鎖付加に影響を及ぼすように変異されていることができる。
【0112】
いくつかの実施形態では、その多量体型結合分子は、六量体であり、二価の結合ユニット、またはそのバリアントもしくは断片を6つ含む。いくつかの実施形態では、その多量体型結合分子は、六量体であり、二価の結合ユニット、またはそのバリアントもしくは断片を6つ含み、その各結合ユニットは、IgM重鎖定常領域またはその多量体化型断片もしくは多量体化型バリアントを2つ含む。
【0113】
IgM重鎖定常領域は、Cμ1ドメイン、もしくはその断片もしくはバリアント、Cμ2ドメイン、もしくはその断片もしくはバリアント、Cμ3ドメイン、もしくはその断片もしくはバリアント、Cμ4ドメイン、もしくはその断片もしくはバリアント、及び/またはテールピース(tp)、もしくはその断片もしくはバリアントのうちの1つ以上を含むことができる。ただし、その定常領域が、そのIgM抗体またはIgM様抗体において、所望の機能を発揮できること、例えば、第2のIgM定常領域と結合して1つ、2つ、もしくはそれ以上の抗原結合ドメインと結合ユニットを形成でき、及び/または他の結合ユニット(五量体の場合にはJ鎖)と結合して六量体もしくは五量体を形成できることを条件とする。ある特定の実施形態では、個々の結合ユニット内の2つのIgM重鎖定常領域、またはその断片もしくはバリアントはそれぞれ、Cμ4ドメイン、またはその断片もしくはバリアント、テールピース(tp)、またはその断片もしくはバリアント、あるいはCμ4ドメインとtpを組み合わせたもの、またはその断片もしくはバリアントを含む。ある特定の実施形態では、個々の結合ユニット内の2つのIgM重鎖定常領域、またはその断片もしくはバリアントはそれぞれ、Cμ3ドメイン、またはその断片もしくはバリアント、Cμ2ドメイン、またはその断片もしくはバリアント、Cμ1ドメイン、またはその断片もしくはバリアント、あるいはこれらを任意に組み合わせたものをさらに含む。
【0114】
いくつかの実施形態では、IgM抗体またはIgM様抗体の結合ユニットは、軽鎖を2つ含む。いくつかの実施形態では、IgM抗体またはIgM様抗体の結合ユニットは、軽鎖の断片を2つ含む。いくつかの実施形態では、その軽鎖は、κ軽鎖である。いくつかの実施形態では、その軽鎖は、λ軽鎖である。いくつかの実施形態では、各結合ユニットは、免疫グロブリン軽鎖定常領域のアミノ末端側に位置するVLをそれぞれ含む免疫グロブリン軽鎖を2つ含む。
【0115】
血清中半減期が延長されたIgM抗体、IgM様抗体、及びIgM由来の結合分子
本発明で提供する、ある特定の、IgM由来の多量体型結合分子は、血清中半減期が長くなるように改変されていることができる。IgM由来の結合分子の血清中半減期を延長できる、IgM重鎖定常領域の例示的な変異は、国際公開番号WO2019/169314A1に開示されており、この国際公開特許は、参照により、その全体が本明細書に援用される。例えば、本発明で提供するような、IgM由来の結合分子のバリアントIgM重鎖定常領域は、野生型ヒトIgM定常領域(例えば、配列番号51または配列番号52)のアミノ酸S401、E402、E403、R344及び/またはE345に対応するアミノ酸位置に、アミノ酸置換を含むことができる。「野生型ヒトIgM定常領域のアミノ酸S401、E402、E403、R344及び/またはE345に対応するアミノ酸」とは、いずれかの種のIgM定常領域の配列内のアミノ酸のうち、ヒトIgM定常領域内のS401、E402、E403、R344及び/またはE345と相同であるアミノ酸を意味する。ある特定の態様では、配列番号51または配列番号52のS401、E402、E403、R344及び/またはE345に対応するアミノ酸は、いずれかのアミノ酸、例えばアラニンで置換されていることができる。
【0116】
CDC活性が低下したIgM抗体、IgM様抗体、及びIgM由来の結合分子
本発明で提供するような、ある特定の、IgM由来の多量体型結合分子は、補体依存性細胞傷害(CDC)活性を低下させる変異以外は同一である対応する参照ヒトIgM定常領域を有する参照IgM抗体または参照IgM様抗体と比べて、補体の存在下で、細胞に対するCDC活性が低下するように操作されていることができる。これらのCDC変異は、本明細書に示されているように、N-結合型糖鎖付加をブロックする変異及び/または血清中半減期を延長させる変異のいずれかと組み合わさっていることができる。「対応する参照ヒトIgM定常領域」とは、CDC活性に影響を及ぼす、定常領域における改変(1つまたは複数)以外は、バリアントIgM定常領域と同一であるヒトIgM定常領域またはその一部、例えばCμ3ドメインを意味する。ある特定の態様では、バリアントヒトIgM定常領域は、例えば国際公開番号WO/2018/187702(参照により、その全体が本明細書に援用される)に記載されているように、野生型ヒトIgM定常領域に対して、例えばCμ3ドメインにアミノ酸置換を1つ以上含む。CDCを測定するためのアッセイは、当業者に周知であり、例示的なアッセイは、例えば、国際公開番号WO/2018/187702に記載されている。
【0117】
ある特定の実施形態では、CDC活性を低下させるバリアントヒトIgM定常領域は、野生型ヒトIgM定常領域に対応する配列番号22(ヒトIgM定常領域のアレルIGHM*03)または配列番号23(ヒトIgM定常領域のアレルIGHM*04)のL310、P311、P313及び/またはK315の位置に、アミノ酸置換を含む。ある特定の態様では、CDC活性を低下させるバリアントヒトIgM定常領域は、野生型ヒトIgM定常領域に対応する配列番号51または配列番号52のP311の位置に、アミノ酸置換を含む。別の態様では、本発明で提供するようなバリアントIgM定常領域は、野生型ヒトIgM定常領域に対応する配列番号51または配列番号52のP313の位置に、アミノ酸置換を含む。別の態様では、本発明で提供するようなバリアントIgM定常領域は、野生型ヒトIgM定常領域に対応する配列番号51もしくは配列番号52のP311の位置、及び/または配列番号51もしくは配列番号52のP313の位置に、置換を組み合わせたものを含む。これらのプロリン残基は独立して、いずれかのアミノ酸、例えば、アラニン、セリンまたはグリシンで置換されていることができる。ある特定の実施形態では、CDC活性を低下させるバリアントヒトIgM定常領域は、野生型ヒトIgM定常領域に対応する配列番号22または配列番号23のK315の位置に、アミノ酸置換を含む。そのリジン残基は独立して、いずれかのアミノ酸、例えば、アラニン、セリン、グリシンまたはアスパラギン酸で置換されていることができる。ある特定の実施形態では、CDC活性を低下させるバリアントヒトIgM定常領域は、野生型ヒトIgM定常領域に対応する配列番号22または配列番号23のK315の位置に、アスパラギン酸でのアミノ酸置換を含む。ある特定の実施形態では、CDC活性を低下させるバリアントヒトIgM定常領域は、野生型ヒトIgM定常領域に対応する配列番号22または配列番号23のL310の位置に、アミノ酸置換を含む。そのリジン残基は独立して、いずれかのアミノ酸、例えば、アラニン、セリン、グリシンまたはアスパラギン酸で置換されていることができる。ある特定の実施形態では、CDC活性を低下させるバリアントヒトIgM定常領域は、野生型ヒトIgM定常領域に対応する配列番号22または配列番号23のL310の位置に、アスパラギン酸でのアミノ酸置換を含む。
【0118】
ヒト及びヒト以外のある特定の霊長類動物のIgM定常領域は典型的には、天然のアスパラギン(N)-結合型糖鎖付加モチーフまたはN-結合型糖鎖付加部位を5つ含む。本明細書で使用する場合、「N-結合型糖鎖付加モチーフ」は、アミノ酸配列N-X1-S/Tを含むか、またはその配列からなり、この配列中、Nは、アスパラギンであり、X1は、プロリン(P)以外のいずれかのアミノ酸であり、S/Tは、セリン(S)またはトレオニン(T)である。その糖鎖は、アスパラギン残基の窒素原子に付加される。例えば、Drickamer K,Taylor ME(2006),Introduction to Glycobiology(2nd ed.).Oxford University Press,USAを参照されたい。N-結合型糖鎖付加モチーフは、配列番号22または配列番号23のヒトIgM重鎖定常領域において、46位(「N1」)、209位(「N2」)、272位(「N3」)、279位(「N4」)及び440位(「N5」)から始まる状態で存在する。これらの5つのモチーフは、ヒト以外の霊長類動物のIgM重鎖定常領域において保存されており、その5つのうちの4つは、マウスIgM重鎖定常領域において保存されている。したがって、いくつかの実施形態では、本発明で提供するような多量体型結合分子のIgM重鎖定常領域は、N1、N2、N3、N4及びN5という5つのN-結合型糖鎖付加モチーフを含む。いくつかの実施形態では、それぞれのIgM重鎖定常領域上のN-結合型糖鎖付加モチーフのうちの少なくとも3つ(例えば、N1、N2及びN3)は、複合体糖鎖によって占められている。
【0119】
ある特定の実施形態では、N-X1-S/Tモチーフのうちの少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、または少なくとも4つは、そのモチーフにおける糖鎖付加を防ぐ、アミノ酸の挿入、欠失、または置換を含むことができる。ある特定の実施形態では、IgM由来の多量体型結合分子は、モチーフN1、モチーフN2、モチーフN3、モチーフN5、またはモチーフN1、N2、N3もしくはN5のうちの2つ以上、3つ以上もしくは4つすべてを任意に組み合わせたものにおける、アミノ酸の挿入、欠失、または置換を含むことができ、そのアミノ酸の挿入、欠失、または置換は、そのモチーフにおける糖鎖付加を防ぐ。いくつかの実施形態では、そのIgM定常領域は、配列番号22(ヒトIgM定常領域のアレルIGHM*03)または配列番号23(ヒトIgM定常領域のアレルIGHM*04)の46位、209位、272位または440位に、野生型ヒトIgM定常領域に対する置換を1つ以上含む。例えば、米国特許仮出願62/891,263号(参照により、その全体が本明細書に援用される)を参照されたい。
【0120】
IgA抗体、IgA様抗体、及びIgA由来の結合分子
IgAは、粘膜免疫において重要な役割を果たし、産生される免疫グロブリン全体の約15%を占める。IgAは、単量体または多量体であることができ、主として二量体分子を形成するが、三量体、四量体及び/または五量体としてもアセンブルできる。例えば、de Sousa-Pereira,P.,and J.M.Woof,Antibodies8:57(2019)を参照されたい。
【0121】
いくつかの実施形態では、その多量体型結合分子は、二量体であり、二価の結合ユニット、またはそのバリアントもしくは断片を2つ含む。いくつかの実施形態では、その多量体型結合分子は、二量体であり、二価の結合ユニット、またはそのバリアントもしくは断片を2つ含み、本明細書に記載されているようなJ鎖またはその機能的断片もしくは機能的バリアントをさらに含む。いくつかの実施形態では、その多量体型結合分子は、二量体であり、二価の結合ユニット、またはそのバリアントもしくは断片を2つ含み、本明細書に記載されているようなJ鎖またはその機能的断片もしくは機能的バリアントをさらに含み、その各結合ユニットは、IgA重鎖定常領域またはその多量体化型断片もしくは多量体化型バリアントを2つ含む。
【0122】
いくつかの実施形態では、その多量体型結合分子は、四量体であり、二価の結合ユニット、またはそのバリアントもしくは断片を4つ含む。いくつかの実施形態では、その多量体型結合分子は、四量体であり、二価の結合ユニット、またはそのバリアントもしくは断片を4つ含み、本明細書に記載されているようなJ鎖またはその機能的断片もしくは機能的バリアントをさらに含む。いくつかの実施形態では、その多量体型結合分子は、四量体であり、二価の結合ユニット、またはそのバリアントもしくは断片を4つ含み、本明細書に記載されているようなJ鎖またはその機能的断片もしくは機能的バリアントをさらに含み、その各結合ユニットは、IgA重鎖定常領域またはその多量体化型断片もしくは多量体化型バリアントを2つ含む。
【0123】
ある特定の態様では、本開示が提供する多量体型結合分子は、合計で4つの抗原結合ドメインとなるようにそれぞれ抗原結合ドメインと結合しているIgA重鎖定常領域またはその多量体化型断片を含む二量体の結合分子でありる。本発明で提供するように、IgA抗体、IgA由来の結合分子またはIgA様抗体は、結合ユニットを2つと、J鎖、例えば、本明細書の他の箇所に記載されているように、そのJ鎖に融合されたIL-15及び/またはIL-15受容体-αスシドメインを含む改変J鎖を含む。提供するような各結合ユニットは、IgA重鎖定常領域またはその多量体化型断片もしくは多量体化型バリアントを2つ含む。ある特定の態様では、その多量体型結合分子の抗原結合ドメインの少なくとも3つまたは4つすべては、同じ標的抗原に結合する。ある特定の態様では、その多量体型結合分子の結合ポリペプチドの少なくとも3つまたは4つすべては、同じである。
【0124】
IgA由来の二価の結合ユニットは、IgA重鎖定常領域を2つ含み、IgA由来の二量体の結合分子は、結合ユニットを2つ含む。IgAは、Cα1(あるいはCA1またはCH1)、ヒンジ領域、Cα2(あるいはCA2またはCH2)、Cα3(あるいはCA3またはCH3)、及びC末端の「テールピース」という重鎖定常ドメインを含む。ヒトIgAには、IgA1及びIgA2という2つのサブタイプがある。ヒトIgA1定常領域は典型的には、配列番号53のアミノ酸配列を含む。ヒトCα1ドメインは、配列番号53の6番目のアミノ酸のあたりから、98番目のアミノ酸のあたりにまで及び、ヒトIgA1ヒンジ領域は、配列番号53の102番目のアミノ酸のあたりから、124番目のアミノ酸のあたりにまで及び、ヒトCα2ドメインは、配列番号53の125番目のアミノ酸のあたりから、219番目のアミノ酸のあたりまでに及び、ヒトCα3ドメインは、配列番号53の228番目のアミノ酸のあたりから、330番目のアミノ酸のあたりにまで及び、テールピースは、配列番号53の331番目のアミノ酸のあたりから、352番目のアミノ酸のあたりにまで及ぶ。ヒトIgA2定常領域は典型的には、配列番号54のアミノ酸配列を含む。ヒトCα1ドメインは、配列番号54の6番目のアミノ酸のあたりから、98番目のアミノ酸のあたりまでに及び、ヒトIgA2ヒンジ領域は、配列番号54の102番目のアミノ酸のあたりから、111番目のアミノ酸のあたりにまで及び、ヒトCα2ドメインは、配列番号54の113番目のアミノ酸あたりから、206番目のアミノ酸のあたりにまで及び、ヒトCα3ドメインは、配列番号54の215番目のアミノ酸のあたりから、317番目のアミノ酸のあたりにまで及び、テールピースは、配列番号54の318番目のアミノ酸のあたりから、340番目のアミノ酸のあたりにまで及ぶ。
【0125】
2つのIgA結合ユニットは、2つの追加のポリペプチド鎖、すなわち、J鎖(配列番号2)及び分泌成分(前駆体は配列番号55、成熟形態は配列番号56)と複合体を形成して、本発明で提供するような、IgA(sIgA)由来の二価の分泌型結合分子を形成できる。理論に束縛されることを望まないが、2つのIgA結合ユニットがアセンブルされて、IgA由来の二量体の結合分子になるには、Cα3ドメイン及びテールピースドメインが必要と考えられている。例えば、Braathen,R.,et al.,J.Biol.Chem.277:42755-42762(2002)を参照されたい。したがって、本開示で提供する、IgA由来の二量体の多量体化型結合分子は典型的には、少なくともCα3ドメイン及びテールピースドメインを含むIgA定常領域を含む。同様に、4つのIgA結合ユニットは、J鎖を有する四量体の複合体を形成できる。sIgA抗体も、高次の多量体、例えば四量体として形成できる。
【0126】
加えて、IgA重鎖定常領域は、Cα2ドメインもしくはその断片、IgAヒンジ領域もしくはその断片、Cα1ドメインもしくはその断片、及び/または他のIgA(もしくはその他の免疫グロブリン、例えばIgG)重鎖ドメイン(例えば、IgGヒンジ領域を含む)を含むことができる。ある特定の態様では、本発明で提供するような結合分子は、完全なIgA重鎖(α鎖)定常ドメイン(例えば、配列番号53もしくは配列番号54)、またはそのバリアント、誘導体もしくは類似体を含むことができる。いくつかの実施形態では、そのIgA重鎖定常領域またはその多量体化型断片は、ヒトIgA定常領域である。
【0127】
ある特定の態様では、本発明で提供するような多量体型結合分子の各結合ユニットは、IgA重鎖定常領域またはその多量体化型断片もしくは多量体化型バリアントを2つ含み、そのIgA重鎖定常領域はそれぞれ、少なくともIgA Cα3ドメイン及びIgAテールピースドメインを含む。ある特定の態様では、そのIgA重鎖定常領域はそれぞれ、IgA Cα3ドメイン及びIgAテールピースドメインのN末端側に位置するIgA Cα2ドメインをさらに含むことができる。例えば、そのIgA重鎖定常領域は、配列番号53の125~353番目のアミノ酸、または配列番号54の113~340番目のアミノ酸を含むことができる。ある特定の態様では、そのIgA重鎖定常領域はそれぞれ、IgA Cα2ドメインのN末端側に位置するIgAヒンジ領域またはIgGヒンジ領域をさらに含むことができる。例えば、そのIgA重鎖定常領域は、配列番号53の102~353番目のアミノ酸、または配列番号54の102~340番目のアミノ酸を含むことができる。ある特定の態様では、そのIgA重鎖定常領域はそれぞれ、IgAヒンジ領域のN末端側に位置するIgA Cα1ドメインをさらに含むことができる。
【0128】
いくつかの実施形態では、IgA抗体、IgA様抗体、またはIgA由来のその他の結合分子の各結合ユニットは、軽鎖を2つ含む。いくつかの実施形態では、IgA抗体、IgA様抗体、またはIgA由来のその他の結合分子の各結合ユニットは、軽鎖断片を2つ含む。いくつかの実施形態では、その軽鎖は、κ軽鎖である。いくつかの実施形態では、その軽鎖は、λ軽鎖である。いくつかの実施形態では、その軽鎖は、κ-λのキメラ軽鎖である。いくつかの実施形態では、各結合ユニットは、免疫グロブリン軽鎖定常領域のアミノ末端側に位置するVLをそれぞれ含む免疫グロブリン軽鎖を2つ含む。
【0129】
改変J鎖及び/またはバリアントJ鎖
ある特定の態様では、本発明で提供するような五量体のIgM抗体もしくはIgM様抗体、または二量体のIgA抗体もしくはIgA様抗体のJ鎖は、例えば、そのIgM抗体もしくはIgM様抗体、またはIgA抗体もしくはIgA様抗体が、アセンブルされる能力及びその結合標的(複数可)に結合する能力を妨げずに、1つの異種部分または2つ以上の異種部分、例えばポリペプチドを導入することによって、改変されていることができる。米国特許第9,951,134号、国際公開番号WO2017/059387及び国際公開番号WO2017/059380(それぞれ、参照により、その全体が本明細書に援用される)を参照されたい。したがって、本明細書の他の箇所に記載されているような多特異性のIgM抗体またはIgM様抗体を含め、本発明で提供するようなIgM抗体もしくはIgM様抗体、またはIgA抗体もしくはIgA様抗体は、J鎖、またはその断片もしくはバリアントに導入された異種部分、例えば異種ポリペプチドをさらに含む改変J鎖、またはその機能的断片もしくは機能的バリアントを含むことができる。ある特定の態様では、異種部分は、J鎖、またはその断片もしくはバリアントにインフレームで融合されているか、または化学的にコンジュゲートされているペプチドまたはポリペプチドであることができる。例えば、その異種ポリペプチドは、J鎖、またはその機能的断片もしくは機能的バリアントに融合されていることができる。ある特定の態様では、その異種ポリペプチドは、J鎖、またはその機能的断片もしくは機能的バリアントに、リンカー、例えば、少なくとも5つのアミノ酸、ただし、典型的には25個以下のアミノ酸からなるペプチドリンカーを介して融合されている。ある特定の態様では、そのペプチドリンカーは、
からなる。ある特定の態様では、その異種部分は、J鎖にコンジュゲートした化学部分であることができる。J鎖に結合した異種部分としては、限定されるものではないが、結合部分、例えば、抗体もしくはその抗原結合断片、例えば、一本鎖Fv(scFv)分子、そのIgM抗体もしくはIgM様抗体の半減期を延長できる安定化ペプチド、またはポリマーもしくは細胞毒素のような化学部分を挙げることができる。いくつかの実施形態では、異種部分は、その結合分子の半減期を延長できる安定化ペプチド、例えば、ヒト血清アルブミン(HSA)またはHSA結合分子を含む。
【0130】
いくつかの実施形態では、改変J鎖は、抗原結合ドメイン、例えば、標的抗原に特異的に結合できるポリペプチドをさらに含むことができる。ある特定の態様では、改変J鎖と結合した抗原結合ドメインは、本明細書の他の箇所に記載されているように、抗体またはその抗原結合断片であることができる。ある特定の態様では、その抗原結合ドメインは、例えば、ラクダ抗体または軟骨魚類抗体に由来する一本鎖Fv(scFv)抗原結合ドメインまたは一本鎖抗原結合ドメインであることができる。その抗原結合ドメインは、J鎖の機能、または結合されたIgM抗体もしくはIgA抗体の機能を妨げずに、その抗原結合ドメインをその結合標的に結合可能にするいずれかの位置で、J鎖に導入できる。挿入位置としては、限定されるものではないが、C末端もしくはC末端近傍、N末端もしくはC末端近傍、またはJ鎖の三次元構造に基づき利用可能である内側の位置が挙げられる。ある特定の態様では、その抗原結合ドメインは、配列番号2の成熟ヒトJ鎖に、配列番号2の92位のシステイン残基と101位のシステイン残基との間で導入することができる。さらなる態様では、その抗原結合ドメインは、配列番号2のヒトJ鎖に、糖鎖付加部位またはその近傍で導入できる。さらなる態様では、その抗原結合ドメインは、配列番号2のヒトJ鎖に、そのC末端から約10アミノ酸残基以内、またはそのN末端から約10アミノ酸以内で導入できる。
【0131】
本明細書に詳細に記載されているいくつかの実施形態では、改変J鎖は、サイトカイン、例えば、インターロイキン-2(IL-2)もしくはインターロイキン-15(IL-15)、またはその受容体結合断片もしくは受容体結合バリアントをさらに含むことができ、ある特定の態様では、そのサイトカイン、またはその受容体結合断片もしくは受容体結合バリアントは、結合または共有結合のいずれかを介して、その受容体の一部分、例えば、IL-15受容体-αのスシドメインに結合できる。
【0132】
ある特定の態様では、本発明で提供するようなIgM抗体、IgM様抗体、またはIgM由来の結合分子のJ鎖は、本発明で提供するIgM抗体、IgM様抗体、IgA抗体、IgA様抗体、またはIgMもしくはIgA由来の結合分子の例えば血清中半減期を改変できるアミノ酸置換を1つ以上含むバリアントJ鎖である。例えば、ある特定の、アミノ酸の置換、欠失、または挿入は、そのバリアントJ鎖における1つ以上の1アミノ酸の置換、欠失、または挿入以外は同一でありかつ同じ方法を用いて同じ動物種に投与されるIgM由来参照結合分子と比べて、対象動物に投与されると長い血清中半減期を示す、IgM由来結合分子をもたらすことができる。ある特定の実施形態では、バリアントJ鎖は、参照J鎖に対する、1アミノ酸の置換、欠失、または挿入を1つ、2つ、3つ、または4つ含むことができる。
【0133】
いくつかの実施形態では、多量体型結合分子は、糖鎖付加を低減させるか、または1つ以上のポリメリックIg受容体(例えば、pIgR、Fc α-μ受容体(FcαμR)またはFc μ受容体(FcμR))への結合を低下させるバリアントJ鎖配列(本明細書に記載されているバリアント配列など)を含むことができる。例えば、国際公開番号WO2019/169314(参照により、その全体が本明細書に援用される)を参照されたい。ある特定の実施形態では、そのバリアントJ鎖は、成熟野生型ヒトJ鎖(配列番号2)のアミノ酸Y102に対応するアミノ酸位置に、アミノ酸置換を含むことができる。「成熟野生型ヒトJ鎖のアミノ酸Y102に対応するアミノ酸」とは、いずれかの種のJ鎖の配列内のアミノ酸のうち、ヒトJ鎖におけるY102と相同であるアミノ酸を意味する。国際公開番号WO2019/169314A1(参照により、その全体が本明細書に援用される)を参照されたい。配列番号2におけるY102に対応する位置は、少なくとも43種の他の種のJ鎖アミノ酸配列において保存されている。米国特許第9,951,134号の
図4(参照により、本明細書に援用される)を参照されたい。配列番号2のY102に対応する位置におけるある特定の変異は、変異体J鎖を含むIgM五量体へのある特定の免疫グロブリン受容体、例えば、ヒトもしくはマウスのFcαμ受容体、マウスFcμ受容体、及び/またはヒトもしくはマウスのポリメリックIg受容体(pIg受容体)の結合を阻害できる。配列番号2のY102に対応するアミノ酸に変異を含むIgM抗体、IgM様抗体、及びIgM由来の結合分子は、動物に投与したときの血清中半減期が、その置換以外は同一でありかつ同じ種に同じ方式で投与される対応する抗体、抗体様分子、または結合分子よりも改善されている。ある特定の態様では、配列番号2のY102に対応するアミノ酸は、いずれかのアミノ酸で置換されていることができる。ある特定の態様では、配列番号2のY102に対応するアミノ酸は、アラニン(A)、セリン(S)、またはアルギニン(R)で置換されていることができる。特定の態様では、配列番号2のY102に対応するアミノ酸は、アラニンで置換されていることができる。特定の態様では、そのJ鎖、またはその機能的断片もしくは機能的バリアントは、バリアントヒトJ鎖であり、配列番号3のアミノ酸配列を含み、このJ鎖は、「J
*」という。
【0134】
野生型J鎖は典型的には、N-結合型糖鎖付加部位を1つ含む。ある特定の実施形態では、本発明で提供するような多量体型結合分子のバリアントJ鎖またはその機能的断片は、例えば、成熟ヒトJ鎖(配列番号2)またはJ*(配列番号3)の49番目のアミノ酸(モチーフN6)に対応するアミノ酸位置から始まるN-X1-S/Tというアスパラギン(N)-結合型糖鎖付加モチーフ内に変異を含み、このNは、アスパラギンであり、X1は、プロリン以外のいずれかのアミノ酸であり、S/Tは、セリンまたはトレオニンであり、この変異により、そのモチーフでの糖鎖付加が防止される。例えば、いくつかの実施形態では、そのJ鎖は、N49に置換を含む(N49Dなど)。いくつかの実施形態では、そのJ鎖は、配列番号86の1~137番目のアミノ酸を含む。国際公開番号WO2019/169314に示されているように、N49での糖鎖付加を防ぐ変異により、本発明で提供するような多量体型結合分子であって、対象動物に投与されると、そのバリアントJ鎖における上記変異または糖鎖付加を防ぐ変異以外は同一でありかつ同じ方法で同じ動物種に投与される参照多量体型結合分子と比べて、長い血清中半減期を示す、多量体型結合分子がもたらされることができる。
【0135】
例えば、ある特定の実施形態では、本発明で提供するような、J鎖を含む結合分子のバリアントJ鎖またはその機能的断片もしくは機能的バリアントは、配列番号2または配列番号3のアミノ酸N49またはアミノ酸S51に対応するアミノ酸位置に、アミノ酸置換を含むことができ(ただし、S51に対応するアミノ酸が、トレオニン(T)で置換されていないことを条件とする)、あるいは、そのバリアントJ鎖は、配列番号2または配列番号3のアミノ酸N49及びS51の両方に対応するアミノ酸位置に、アミノ酸置換を含む。ある特定の実施形態では、配列番号2または配列番号3のN49に対応する位置は、いずれかのアミノ酸、例えば、アラニン(A)、グリシン(G)、トレオニン(T)、セリン(S)またはアスパラギン酸(D)で置換されている。特定の実施形態では、配列番号2または配列番号3のN49に対応する位置は、アラニン(A)で置換されていることができる。別の特定の実施形態では、配列番号2または配列番号3のN49に対応する位置は、アスパラギン酸(D)で置換されていることができる。いくつかの実施形態では、配列番号2または配列番号3のS51に対応する位置は、アラニン(A)またはグリシン(G)で置換されていることができる。いくつかの実施形態では、配列番号2または配列番号3のS51に対応する位置は、アラニン(A)で置換されている。
【0136】
免疫刺激物質を発現する改変J鎖を有する多量体型結合分子
本開示は、免疫刺激特性を有する多量体型結合分子を提供する。ある特定の態様では、本開示は、二価のIgA結合ユニットもしくはIgA様結合ユニットを2つ、二価のIgM結合ユニットもしくはIgM様結合ユニットを5つ、またはその多量体化型バリアントもしくは多量体化型断片と、改変J鎖とを含む、多量体型結合分子を提供する。各結合ユニットは、2つのIgA重鎖定常領域もしくは2つのIgM重鎖定常領域のいずれか、またはその多量体化型バリアントもしくは多量体化型断片を含み、その定常領域は、合計で4個または10個の抗原結合ドメインとなるようにそれぞれ抗原結合ドメインと結合しており、それらの抗原結合ドメインは、同じであることも、異なることもできるが、ある特定の態様では、その結合分子の抗原結合ドメインのうちの少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、または10個が、標的抗原に特異的に結合する。それらの抗原結合ドメインは、同じであることもできるし、または異なることもでき、例えば、同じ標的抗原の異なるエピトープに結合する。
【0137】
提供する多量体型結合分子の改変J鎖は、(a)J鎖またはその機能的断片もしくは機能的バリアント(「J」)と、(b)免疫刺激物質(「ISA」)とを含み、ここで、J及びISAは、融合タンパク質として結合している。本明細書で使用する場合、「ISA」という用語は、J鎖に融合された異種部分であって、免疫刺激活性を有する、異種部分を指すこともできるし、または免疫刺激活性を有する多量体型結合分子全体を指すこともできる。ある特定の態様では、ISAは、サイトカイン、またはその受容体結合断片もしくは受容体結合バリアントを含む。例えば、ISAは、インターロイキン-15(IL-15)、インターロイキン-2(IL-2)、インターフェロン(IFN)-α、インターロイキン12(IL-12)、インターロイキン-21(IL-21)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、またはその受容体結合断片もしくは受容体結合バリアントのいずれかを含むことができる。下記のように、ISAは、加えて、受容体サブユニットの一部分またはその他の免疫刺激部分を含むことができる。
【0138】
IL-15は、IL-15Rαのスシドメインと複合体を形成すると、CD8+T細胞及びNK細胞を刺激できる極めて強力なISAを形成する。したがって、ある特定の態様では、本開示は、J鎖またはその機能的断片もしくは機能的バリアント(「J」)と、(a)インターロイキン-15(IL-15)タンパク質、もしくはその受容体結合断片もしくは受容体結合バリアント(「I」)、及び/または(b)スシドメインを含むインターロイキン-15受容体-α(IL-15Rα)断片、もしくはIと結合できるそのバリアント(「R」)とを含む、改変J鎖を提供し、JとI及びRのうちの少なくとも1つとは、融合タンパク質として結合しており、I及びRは、結合してISAとして機能できる。「J」は、いずれかの種の野生型J鎖、例えば、配列番号2のアミノ酸配列を含む野生型ヒトJ鎖、またはその機能的断片もしくは機能的バリアントであることができる。
【0139】
あるいは、「J」は、国際公開番号WO2019/169314A1に記載されているように、野生型J鎖に対する1アミノ酸の置換、欠失、または挿入を1つ以上含むバリアントJ鎖またはその断片であることができ、前記置換、欠失、または挿入は、例えば、J鎖を含むその多量体型結合分子の血清中半減期に影響を及ぼすことができる。ある特定の態様では、「J」は、バリアントヒトJ鎖であり、配列番号3のアミノ酸配列を含み、本明細書では(「J*」)ともいう。
【0140】
ある特定の態様では、その免疫刺激物質のインターロイキン-15(IL-15)タンパク質、またはその受容体結合断片もしくは受容体結合バリアント(「I」)は、配列番号4のアミノ酸配列を含む野生型ヒトIL-15タンパク質である。野生型ヒトIL-15を含む改変J鎖ISAの非限定的な例は、本明細書に示されており、例えば、配列番号6、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25または配列番号26である。
【0141】
本発明で提供するような免疫刺激物質(ISA)を含む多量体型結合分子は、免疫エフェクター細胞、例えば、CD8+細胞傷害性Tリンパ球またはナチュラルキラー(NK)細胞の増殖及び活性化を効率的に刺激できる。したがって、本発明で提供するようなISAを含む多量体型結合分子は、例えば、がんまたは感染症を治療するための有効な治療剤として機能できる。しかしながら、ある特定の状況では、エフェクター細胞を十分に増殖させながら、サイトカイン放出症候群(CRS)のような毒性副作用を最小限に抑えるために、エフェクター細胞を刺激する効力を調節する、例えば低下させるのが望ましいこともある。したがって、本開示は、ISA活性の効力を調節、例えば、改変または低下させる多量体型結合分子を提供する。ある特定の態様では、「I」は、ヒトIL-15の受容体結合バリアントであって、受容体の結合を低下させるが、消失はさせない、バリアントを含む。ある特定の態様では、ヒトIL-15の受容体結合バリアントは、1アミノ酸の挿入、欠失、または置換を少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、または少なくとも9個含み、その1アミノ酸の挿入、欠失、または置換は、そのIL-15バリアントの、その受容体に対する親和性を低下させる。ヒトIL-15のバリアント型のうち、この目標を達成する型は、国際公開番号WO2018/071918A1に記載されている。ある特定の態様では、バリアントヒトIL-15は、1アミノ酸の挿入、欠失、または置換を少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、または少なくとも9個含むが、1アミノ酸の挿入、欠失、または置換は、10個以下である。ある特定の態様では、Iは、1アミノ酸の置換を1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、または9個含むバリアントヒトIL-15を含む。ある特定の態様では、そのアミノ酸置換は、配列番号4のN1、N4、D8、D30、D61、E64、N65、N72、またはQ108に対応する位置のうちの1つ以上に存在する。ある特定の態様では、そのアミノ酸置換は、配列番号4における置換N1D、N4D、D8N、D30N、D61N、E64Q、N65D、N72D、またはQ108Eのうちの1つ以上を含む。例えば、本発明で提供するある特定の多量体型結合分子では、Iは、N1D、N4D、D8N、D30N、D61N、E64Q、N65D、N72D、及びQ108Eからなる群から選択される位置における1アミノ酸の置換、N4D/N65D及びN1D/N65Dからなる群から選択される位置における2アミノ酸の置換、あるいは位置D30N/E64Q/N65Dにおける3アミノ酸の置換を除いては配列番号4を含む。ある特定の態様では、Iは、配列番号57、配列番号58、配列番号59、配列番号60、配列番号61、配列番号62、配列番号63、配列番号64、配列番号65、配列番号66、配列番号67、または配列番号68のアミノ酸配列を含む。ある特定の態様では、J*RI ISAは、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、または配列番号18のアミノ酸配列を含む。
【0142】
実施例に示されているように、J*RIの構成の改変J鎖ISAを含むとともに、これらの変異のうちの1つ、2つまたは3つを含む抗PD-L1 IgM五量体は依然として、CD8+T細胞及びNK細胞の増殖を誘導できるが、野生型ヒトIL-15を含む対応するISAと比べて、その効力は低下している。
【0143】
ある特定の態様では、「R」は、ヒトIL-15受容体-αのスシドメインを含む。ある特定の態様では、Rは、配列番号5のアミノ酸配列、またはヒトIL-15と結合できるそのバリアントもしくは断片を含む。ある特定の態様では、Rは、配列番号5のアミノ酸配列もしくはヒトIL-15と結合できるそのバリアントから本質的になるか、またはそれからなる。
【0144】
IL-15と、IL-15Rαのスシドメインとを含む改変J鎖ISAは、いくつかの方法で構成させることができる。典型的には、少なくともIまたはRが、融合タンパク質としてJと結合している。例えば、JがJ
*である場合、その構成は、J
*I、IJ
*、J
*RまたはRJ
*であることができる。これらの実施形態では、IまたはRは、J
*に融合されたRまたはIと結合できる別のタンパク質サブユニットとして供給できる。ある特定の態様では、I及びRの両方が、J鎖に融合されている。例えば、JがJ
*である場合、その構成は、J
*RI、J
*IR、RIJ
*、IRJ
*、IJ
*RまたはRJ
*Iであることができる。典型的には、異種部分は、J鎖またはそのバリアントもしくは断片に、アミノ酸からなる小さいフレキシブルな鎖であるリンカー、典型的には、小さいアミノ酸、例えば、グリシン(G)及び/またはセリン(S)を含むリンカーを介して融合されている。例示的なリンカーは、(GGGGS)nを含み、この配列中、nは、1~10の整数である(配列番号226)。例えば、そのリンカーは、配列番号80、配列番号81、配列番号82または配列番号83を含むか、その配列からなるか、またはその配列から本質的になることができる。そのJ鎖、例えば、JまたはJ
*が、I及びRの両方に融合している場合、合計で少なくとも2つのリンカーとなるように、リンカーは典型的には、各エレメントの間に使用されている。その少なくとも2つのリンカーは、同じであることも、異なることもできる。ある特定の態様では、少なくとも1つのリンカーは、アミノ酸配列
を含むか、その配列から本質的になるか、またはその配列からなる。ある特定の態様では、少なくとも1つのリンカーは、アミノ酸配列
を含むか、その配列から本質的になるか、またはその配列からなる。ある特定の態様では、多量体型結合分子は、免疫刺激活性を有する改変J鎖を含み、その改変J鎖は、J
*の変異を含み、その改変J鎖は、N末端からC末端に向かって、J
*-R-I、J
*-I-R、I-R-J
*、R-I-J
*、R-J
*-I、I-J
*-R、I-J
*、またはJ
*-Iとして配置されており、その配置中、「-」は、リンカーである。ある特定の態様では、その多量体型結合分子の改変J鎖は、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、または配列番号26のアミノ酸配列を含む。
【0145】
ある特定の態様では、その改変J鎖は、N末端からC末端に向かって、J*-R-Iとして配置されている。本発明で提供するような多量体型結合分子に含めるための、この構成の例示的なISAは、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、または配列番号18のアミノ酸配列を含む。
【0146】
提供する多量体型結合分子の改変J鎖は、(a)J鎖またはその機能的断片もしくは機能的バリアント(「J」)と、(b)免疫刺激物質(「ISA」)とを含み、ここで、J及びISAは、融合タンパク質として結合している。ある特定の態様では、そのISAは、サイトカインIL-2またはそのバリアントを含むことができる。野生型ヒトIL-2は、がん免疫療法として使用すると、ヒトにおいて重篤な副作用を引き起こすことがある。したがって、親和性の低い二量体のβ/γ受容体には結合するが、親和性の高い三量体のα/β/γ受容体には結合しない、IL-2のバリアントが開発されている。そのため、それらのバリアントは、効力が低減されており、毒性副作用のレベルも低い。バリアントの1つであるIL-2vが米国特許第9,266,938号に記載されており、本明細書には、配列番号31として示されている。IL-2vを含む改変J鎖ISAは、本明細書には、配列番号32として示されている。
【0147】
ある特定の態様では、本発明で提供するような多量体型結合分子の改変J鎖は、そのJ鎖に融合された、抗体の抗原結合ドメインをISAとともにさらに含むことができる。例えば、本発明で提供するJ*RIのような改変J鎖は、バリアントJ鎖のN末端に融合された一本鎖Fv結合ドメインをさらに含むことができる。このような抗原結合ドメインを用いて、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)またはNK細胞のような免疫エフェクター細胞を標的とすることができ、その際、その細胞は、ISAに応答して、刺激されて増殖できる。したがって、ある特定の態様では、本発明で提供するような改変J鎖は、免疫エフェクター細胞、例えば、CTLまたはNK細胞の上の標的に結合するscFv抗原結合ドメインをさらに含むことができる。NK細胞を標的とするのが望ましい場合には、そのscFvは、CD16を特異的に標的とできる。CD8+細胞傷害性T細胞を標的とするのが望ましい場合には、そのscFvは、CD3、例えばCD3εを特異的に標的とすることができる。S-J*-R-Iを含む例示的な改変J鎖が示されており、このSは、マウス抗ヒトCD3モノクローナル抗体SP34のVH領域及びVL領域を含むscFvであり、J*は、ヒトJ鎖配列にY102A変異を含むヒトJ鎖バリアントであり、Iは、ヒトIL-15であり、Rは、ヒトIL-15受容体-αのスシドメインであり、各「-」は、リンカーを含む。ある特定の態様では、この構成の改変J鎖は、配列番号19のアミノ酸配列を含む。他のCD3ε抗原結合ドメインも使用でき、そのドメインとしては、限定されるものではないが、ビシリズマブ、OKT3、または国際公開番号WO2018/208864に開示されているCD3結合物質のVH及びVLが挙げられる。
【0148】
改変J鎖に融合されたサイトカインまたはサイトカインバリアントを含む他のISAを提供し、当業者は、本開示に基づき、それらを容易に予期するであろう。
【0149】
抗原結合ドメイン
本発明で提供するような多量体型結合分子は、該当とする標的に特異的に結合する結合ドメイン、例えば抗原結合ドメインと結合した重鎖定常領域を少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個、少なくとも11個または12個含む。ある特定の態様では、その標的は、標的エピトープ、標的抗原、標的細胞、標的器官または標的ウイルスである。標的としては、限定されるものではないが、腫瘍抗原、その他の腫瘍標的、免疫チェックポイント阻害剤のようなイムノオンコロジーの標的、感染細胞の表面上に発現するウイルス抗原のような感染症抗原、血液脳関門での輸送に関与する標的抗原、神経変性疾患及び神経炎症性疾患に関与する標的抗原、ならびにこれらを任意に組み合わせたものを挙げることができる。例示的な標的、及びそのような標的に結合する結合ドメインは、本明細書の別の箇所に示されているとともに、例えば、米国特許出願公開第2019-0100597号もしくは同第2019-0185570号、国際公開番号WO/2017/196867、WO2018/017888、WO2018/017889、WO2018/017761、WO2018/017763、WO2018/187702、WO2019/165340、WO2019/169314A1もしくはWO2020/086745A1、または米国特許第9,951,134号、同第9,938,347号、同第8,377,435号、同第9,458,241号、同第9,409,976号、同第10,351,631号、同第10,570,191号、同第10,604,559号もしくは同第10,618,978号に見ることができる。これらの出願及び/または特許のそれぞれは、参照により、その全体が本明細書に援用される。
【0150】
ある特定の態様では、本発明で提供するような多量体型結合分子は、標的抗原に特異的に結合する抗原結合ドメインを少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、少なくとも8つ、少なくとも9つ含み、その標的抗原は、腫瘍特異的抗原、腫瘍関連抗原、またはT細胞応答もしくはNK細胞応答を調節する標的を含む。
【0151】
ある特定の態様では、その抗原結合ドメインは、T細胞応答またはNK細胞応答を調節する標的に結合する。例えば、通常の活性状態におけるある特定の標的は、細胞傷害性CD8+T細胞またはNK細胞の活性を阻害することによって、腫瘍の成長を促進でき、これらの標的をアンタゴナイズする抗原結合ドメインは、CD8+細胞またはNK細胞の活性を促進できる。このような標的としては、限定されるものではないが、抑制性免疫チェックポイントタンパク質が挙げられる。ある特定の態様では、その抑制性免疫チェックポイントタンパク質は、プログラム細胞死-1タンパク質(PD-1)、プログラム細胞死リガンド-1タンパク質(PD-L1)、リンパ球活性化遺伝子3タンパク質(LAG3)、T細胞免疫グロブリン及びムチンドメイン3タンパク質(TIM3)、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA4)、B及びTリンパ球アテニュエータータンパク質(BTLA)、T細胞活性化のVドメインIgサプレッサータンパク質(VISTA)、Ig及びITIMドメインを有するT細胞免疫受容体タンパク質(TIGIT)、キラー細胞免疫グロブリン様受容体タンパク質(KIR)、B7-H3タンパク質、B7-H4タンパク質、またはこれらを任意に組み合わせたものを含み、本発明で提供する多量体型結合分子の抗原結合ドメインは、その標的をアンタゴナイズすることによって、免疫エフェクター細胞の活性を促進する。
【0152】
ある特定の態様では、その抑制性免疫チェックポイントタンパク質は、PD-L1を含む。本開示では、現在、臨床または市場で利用可能な抗体(ペムブロリズマブ、ニボルマブ、アテゾリズマブまたはデュルバルマブなど)を含め、PD-L1に特異的に結合して、PD-L1を阻害するいずれの抗原結合ドメインも企図されている。ある特定の態様では、その抗原結合ドメインは、米国特許出願公開第2019/0338031号(参照により、本明細書に援用される)に開示されているヒト化抗PD-L1抗体h3C5の重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含む。そのVHは、配列番号33、配列番号91、配列番号92または配列番号93のアミノ酸配列を含み、そのVLは、配列番号34または配列番号94のアミノ酸配列を含む。あるいは、そのPD-L1抗体は、米国特許第8,217,149号に開示されているような、ファージライブラリー由来の抗PD-L1抗体YW243.55.S70のVH及びVLを含むことができ、その抗原結合ドメインは、配列番号75のVHアミノ酸配列及び配列番号76のVLアミノ酸配列を含む。あるいは、そのPD-L1抗体は、置換を含まない、1個含む、もしくは2個含む、CDRを含むことができるか、または、VH配列及びVL配列を含むことができ、前記VH配列及びVL配列が、それぞれ配列番号96及び配列番号97、配列番号98及び配列番号99、配列番号100及び配列番号101、配列番号102及び配列番号103、配列番号104及び配列番号105、配列番号106及び配列番号107、配列番号108及び配列番号109、配列番号110及び配列番号111、配列番号112及び配列番号113、配列番号114及び配列番号115、配列番号116及び配列番号117、配列番号118及び配列番号119、配列番号120及び配列番号121、配列番号122及び配列番号123、配列番号124及び配列番号125、配列番号126及び配列番号127、配列番号128及び配列番号129、配列番号130及び配列番号131、配列番号132及び配列番号133、配列番号134及び配列番号135、配列番号136及び配列番号137、配列番号138及び配列番号139、配列番号140及び配列番号141、配列番号142及び配列番号143、配列番号144及び配列番号145、配列番号146及び配列番号147、配列番号148及び配列番号149、配列番号150及び配列番号151、配列番号152及び配列番号153、配列番号154及び配列番号155、配列番号156及び配列番号157、配列番号158及び配列番号159、配列番号160及び配列番号161、配列番号162及び配列番号163、配列番号164及び配列番号165、配列番号166及び配列番号167、配列番号168及び配列番号169、配列番号170及び配列番号171、配列番号172及び配列番号173、配列番号174及び配列番号175、配列番号176及び配列番号177、配列番号178及び配列番号179、配列番号180及び配列番号181、配列番号182及び配列番号183、配列番号184及び配列番号185、配列番号186及び配列番号187、配列番号188及び配列番号189、配列番号190及び配列番号191、配列番号192及び配列番号193、配列番号194及び配列番号195、配列番号196及び配列番号197、配列番号198及び配列番号199、配列番号200及び配列番号201、配列番号202及び配列番号203、配列番号204及び配列番号205、配列番号206及び配列番号207、配列番号208及び配列番号209、配列番号210及び配列番号211、配列番号212及び配列番号213、配列番号214及び配列番号215、配列番号216及び配列番号217、配列番号218及び配列番号219、配列番号220及び配列番号221、または配列番号222及び配列番号223であるVH配列及びVL配列に対して85%、90%、95%、99%、または100%の配列同一性を有する。いくつかの実施形態では、そのPD-L1抗体は、置換を含まない、1個含む、もしくは2個含む、CDRを含むことができるか、または、VH配列及びVL配列を含むことができ、前記VH配列及びVL配列が、それぞれ配列番号134及び配列番号135、配列番号136及び配列番号137、配列番号138及び配列番号139、配列番号140及び配列番号141、配列番号142及び配列番号143、配列番号144及び配列番号145、配列番号146及び配列番号147、配列番号148及び配列番号149、配列番号166及び配列番号167、配列番号168及び配列番号169、配列番号170及び配列番号171、または配列番号186及び配列番号187であるVH配列及びVL配列に対して85%、90%、95%、99%、または100%の配列同一性を有する。
【0153】
ある特定の態様では、その標的は、免疫エフェクター細胞の活性、例えば、CD8+T細胞またはNK細胞の活性を増強する標的であり、本発明で提供する多量体型結合分子の抗原結合ドメインは、その標的をアゴナイズすることによって、免疫エフェクター活性を刺激する。例えば、ある特定の態様では、標的は、免疫エフェクター細胞に作用するTNF受容体スーパーファミリー標的を含み、抗原結合ドメインは、その標的をアゴナイズできる。このカテゴリーにおける例示的なTNFrSF標的としては、グルココルチコイド誘導TNFR関連タンパク質(GITR)及びOX40が挙げられる。これらの標的の両方の発現は、本発明で提供するある特定のISAによってアップレギュレートされる。例えば、
図6を参照されたい。
【0154】
GITRは、T細胞及び他の免疫細胞の表面上に発現する活性化受容体である。腫瘍抗原への暴露により、T細胞が活性化すると、その表面上のGITR受容体の数が増加する。GITRは、活性化T細胞上で共刺激受容体として作用して、CD8+T細胞の増殖を増強する。また、GITRを介したシグナル伝達により、制御性T細胞が阻害される。GITRを標的とする多量体型アゴニスト抗体は、例えば、米国特許出願公開第2019/0330360A1号及びPCT出願番号PCT/US2020/017083(参照により、それらの全体は、本明細書に援用される)に開示されている。ある特定の態様では、そのGITR抗原結合ドメインは、いずれの抗GITRアゴニスト抗体であることもでき、限定されるものではないが、米国特許出願公開第2019/0330360A1号に列挙されているものが挙げられる。ある特定の態様では、その抗GITR抗原結合ドメインは重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、VH及びVLは、それぞれ配列番号35及び配列番号36、配列番号37及び配列番号38、配列番号39及び配列番号40、配列番号41及び配列番号42、または配列番号43及び配列番号44であるアミノ酸配列を含む。
【0155】
OX40は、活性化細胞傷害性T細胞及び制御性T細胞(Treg)の表面上に発現する活性化受容体である。OX40を介したシグナル伝達は、免疫応答において、二重の役割を果たし、T細胞応答の活性化及び増幅の両方を行う。細胞傷害性T細胞は、腫瘍細胞を認識して、その細胞を攻撃することができる。OX40は、細胞傷害性T細胞上で、そのリガンド(OX40L)に結合し、その結果、T細胞の産生、機能及び生存を促進する刺激シグナルが生成される。Tregは、免疫応答を制限するように作用する。OX40-OX40Lシグナル伝達は、TregがT細胞を抑制する能力をブロックするとともに、Tregの生成を減少させる。OX40は、Tregの免疫抑制作用を阻害し、Tregの集団を制限することによって、T細胞活性化の効果をさらに増幅する。OX40を標的とする多量体型アゴニスト抗体は、例えば、米国特許出願公開第2019/0330374号(参照により、その全体が本明細書に援用される)に開示されている。ある特定の態様では、そのOX40抗原結合ドメインは、いずれの抗OX40アゴニスト抗体であることもでき、以下に限定されるわけではないが、米国特許出願公開第2019/0330374号に列挙されているものが挙げられる。ある特定の態様では、その抗原結合ドメインは重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、VH及びVLは、それぞれ配列番号45及び配列番号46または配列番号47及び配列番号48のアミノ酸配列を含む。
【0156】
ある特定の態様では、その標的は、腫瘍特異的抗原、すなわち、概ねまたは主に、腫瘍もしくはがん細胞のみに発現するか、または成人の正常な健常細胞において、低いレベルもしくは検出不能なレベルのみで発現することがある標的抗原である。ある特定の態様では、その標的は、腫瘍関連抗原、すなわち、健常細胞上及びがん細胞上の両方で発現するが、正常な健常細胞上よりも、がん細胞上の方で、高密度で発現する標的抗原である。例示的な腫瘍特異的抗原及び腫瘍関連抗原としては、限定されるものではないが、B細胞成熟抗原(BCMA)、CD19、CD20、上皮細胞成長因子受容体(EGFR)、ヒト上皮細胞成長因子受容体2(HER2、ErbB2ともいう)、HER3(ErbB3)、受容体チロシンタンパク質キナーゼErbB4、細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA4)、プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)、プログラム死リガンド1(PD-L1)、血管内皮成長因子(VEGF)、VEGF受容体-1(VEGFR1)、VEGFR2、CD52、CD30、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、CD38、ガングリオシドGD2、シグナル伝達リンパ球活性化分子ファミリーメンバー7(SLAMF7)の自己リガンド受容体、血小板由来成長因子受容体A(PDGFRA)、CD22、FLT3(CD135)、CD123、MUC-16、がん胎児性抗原関連細胞接着分子1(CEACAM-1)、メソセリン、腫瘍関連カルシウムシグナルトランスデューサー2(Trop-2)、グリピカン-3(GPC-3)、ヒト血液型Hタイプ1三糖(Globo-H)、シアリルTn抗原(STn抗原)またはCD33が挙げられる。これらの標的抗原は、文献において、いくつかの異なる名称で記載されているが、これらの周知の治療標的は、オンライン、例えばEXPASY.org.で入手可能なデータベースを用いて容易に特定できることを当業者は理解するであろう。
【0157】
他の腫瘍関連抗原及び/または腫瘍特異的抗原としては、限定されるものではないが、DLL4、Notch1、Notch2、Notch3、Notch4、JAG1、JAG2、c-Met、IGF-1R、Patched、Hedgehogファミリーポリペプチド、WNTファミリーポリペプチド、FZD1、FZD2、FZD3、FZD4、FZD5、FZD6、FZD7、FZD8、FZD9、FZD10、LRP5、LRP6、IL-6、TNFα、IL-23、IL-17、CD80、CD86、CD3、CEA、Muc16、PSCA、CD44、c-Kit、DDR1、DDR2、RSPO1、RSPO2、RSPO3、RSPO4、BMPファミリーポリペプチド、BMPR1a、BMPR1b、TNF受容体スーパーファミリータンパク質(TNFR1(DR1)、TNFR2、TNFR1/2など)、CD40(p50)、Fas(CD95、Apo1、DR2)、CD30、4-1BB(CD137、ILA)、TRAILR1(DR4、Apo2)、DR5(TRAILR2)、TRAILR3(DcR1)、TRAILR4(DcR2)、OPG(OCIF)、TWEAKR(FN14)、LIGHTR(HVEM)、DcR3、DR3、EDARまたはXEDARが挙げられる。
【0158】
その標的抗原が、腫瘍関連抗原を含む、請求項39に記載の多量体型結合分子。
【0159】
その腫瘍関連抗原が、B細胞成熟抗原(BCMA)、CD19、CD20、EGFR、HER2(ErbB2)、ErbB3、ErbB4、CTLA4、PD-1、PD-L1、VEGF、VEGFR1、VEGFR2、CD52、CD30、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、CD38、GD2、SLAMF7、血小板由来成長因子受容体A(PDGFRA)、CD22、FLT3(CD135)、CD123、MUC-16、がん胎児性抗原関連細胞接着分子1(CEACAM-1)、メソセリン、腫瘍関連カルシウムシグナルトランスデューサー2(Trop-2)、グリピカン-3(GPC-3)、ヒト血液型Hタイプ1三糖(Globo-H)、シアリルTn抗原(STn抗原)、CD33、またはこれらを任意に組み合わせたものを含む、請求項51に記載の多量体型結合分子。
【0160】
ある特定の態様では、その標的抗原は、CD20を含む。いずれのCD20抗原結合ドメインを使用することもできる。例示的な抗原結合ドメインは重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域を含み、VH及びVLは、それぞれ配列番号49及び配列番号50のアミノ酸配列を含む。
【0161】
ある特定の態様では、その結合分子の抗原結合ドメインのうちの少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、または10個が、同じ標的抗原に特異的に結合する。ある特定の態様では、その少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、または10個の抗原結合ドメインは、同じである。
【0162】
ポリヌクレオチド、ベクター、及び宿主細胞
本開示は、本発明で提供するような多量体型結合分子のポリペプチドサブユニットをコードする核酸配列を含むポリヌクレオチド、例えば、単離ポリヌクレオチド、組換えポリヌクレオチド及び/または非天然ポリヌクレオチドをさらに提供する。「ポリペプチドサブユニット」とは、結合分子、結合ユニット、IgM抗体、IgM様抗体、IgA抗体もしくはIgA様抗体、または抗原結合ドメインの部分のうち、独立して翻訳できる部分を意味する。例としては、限定されるものではないが、抗体可変ドメイン(例えば、VHもしくはVL)、本発明で提供するような改変J鎖を含むJ鎖、分泌成分、一本鎖Fv、抗体重鎖、抗体軽鎖、抗体重鎖定常領域、抗体軽鎖定常領域、及び/またはそれらの断片、バリアントもしくは誘導体のいずれかが挙げられる。
【0163】
ある特定の態様では、本開示は、本発明で提供するいずれかの多量体型結合分子のサブユニットポリペプチドをコードする核酸を含む単離ポリヌクレオチドを提供し、そのサブユニットポリペプチドは、(a)抗体重鎖可変領域(VH)と結合した、IgAもしくはIgM重鎖定常領域、もしくはその多量体化型バリアントもしくは多量体化型断片を含む、IgA重鎖もしくはIgM重鎖、(b)抗体軽鎖可変領域(VL)と結合した抗体軽鎖定常領域を含む抗体軽鎖、または(c)(i)J鎖、もしくはその機能的断片もしくは機能的バリアント(「J」)、(ii)インターロイキン-15(IL-15)タンパク質、もしくはその受容体結合断片もしくは受容体結合バリアント(「I」)、(iii)スシドメインを含むインターロイキン-15受容体-α(IL-15Rα)断片、もしくはIと結合できるそのバリアント(「R」)、もしくは(iv)インターロイキン-2vタンパク質(IL-2v)、のうちの2つ以上を含む改変J鎖であって、そのJと、I、RもしくはIL-2vのうちの少なくとも1つが、融合タンパク質として結合しており、IとRが結合して免疫刺激複合体として機能できる、改変J鎖、または(d)これらを任意に組み合わせたものを含む。
【0164】
ある特定の態様では、そのポリペプチドサブユニットは、IgM重鎖定常領域もしくはIgM様重鎖定常領域またはその多量体化型断片、あるいはIgA重鎖定常領域もしくはIgA様重鎖定常領域またはその多量体化型断片を含むことができ、この領域または断片は、いずれも本発明に示されているように、抗原結合ドメインまたはそのサブユニット、例えば、抗原結合ドメインのVH部分に融合できる。ある特定の態様では、そのポリヌクレオチドは、ヒトIgM重鎖定常領域、ヒトIgM様重鎖定常領域、ヒトIgA重鎖定常領域、ヒトIgA様重鎖定常領域、またはそれらの多量体化型断片、例えば、配列番号51、配列番号52、配列番号53または配列番号54を含むポリペプチドサブユニットをコードでき、このサブユニットのいずれも、抗原結合ドメインまたはそのサブユニット、例えば、VHのC末端に融合できる。
【0165】
ある特定の態様では、そのポリペプチドサブユニットは、本明細書の別の箇所に記載されているように、抗原結合ドメインの抗体VL部分を含むことができる。ある特定の態様では、そのポリペプチドサブユニットは、VLのC末端に融合できる、抗体の軽鎖定常領域、例えば、ヒト抗体の軽鎖定常領域、またはその断片を含むことができる。
【0166】
ある特定の態様では、そのポリペプチドサブユニットは、本発明で提供するような、J鎖、改変J鎖、またはその任意の機能的断片もしくは機能的バリアントを含むことができる。ある特定の態様では、そのポリペプチドサブユニットは、ヒトJ鎖またはその機能的断片もしくは機能的バリアント(いずれかの改変J鎖を含む)を含むことができる。ある特定の態様では、そのJ鎖は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号6、配列番号7、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、または配列番号32のアミノ酸配列を含むことができる。
【0167】
ある特定の態様では、本発明で提供するようなポリヌクレオチド、例えば、プラスミドのような発現ベクターは、ポリペプチドサブユニットを1つ、例えば、IgM重鎖もしくはIgM様重鎖、軽鎖またはJ鎖をコードする核酸配列を含むこともできるし、あるいは本発明で提供するようなIgM抗体またはIgM様抗体のポリペプチドサブユニットの2つ以上または3つすべてをコードする核酸配列を2つ以上含むこともできる。あるいは、その3つのポリペプチドサブユニットをコードする核酸配列は、別々のポリヌクレオチド、例えば別々の発現ベクター上に存在できる。本開示は、このような1つまたは複数の発現ベクターを提供する。本開示は、提供するポリヌクレオチド(複数可)または発現ベクター(複数可)をコードする1つ以上の宿主細胞も提供する。
【0168】
本開示は、ポリヌクレオチドを2つ以上含む組成物をさらに提供し、その2つ以上のポリヌクレオチドは連動して、本発明で提供するような多量体型結合分子をコードできる。
【0169】
本開示は、本発明で提供するような多量体型結合分子、またはその任意のサブユニットをコードする1つのポリヌクレオチドまたは2つ以上のポリヌクレオチド、あるいは本発明で提供するようなIgM抗体もしくはIgM様抗体、またはその任意のサブユニットを連動してコードする、本発明で提供するようなポリヌクレオチド組成物、または1つのベクター、2つ、3つもしくは4つ以上のベクターを含む宿主細胞、例えば、原核宿主細胞または真核宿主細胞をさらに提供する。
【0170】
関連する態様では、本開示は、本開示によって提供するような多量体型結合分子を作製する方法を提供し、当該方法は、本発明で提供するような宿主細胞を培養することと、その多量体型結合分子を回収することを含む。
【0171】
使用方法
本開示は、治療の必要な対象における疾患または障害の治療方法をさらに提供し、当該方法は、その対象に、本発明で提供するようなISAを含む多量体型結合分子を治療有効量投与することを含む。「治療上有効な投与量もしくは量」または「有効量」とは、多量体型結合分子の量であって、投与したときに、対象の治療に関連して、免疫療法に対する良好な応答をもたらす、量が意図されている。
【0172】
がんを治療するための組成物の有効な用量は、投与手段、標的部位、対象の生理的状態、その対象が、ヒトであるか、または動物であるか、他の投与薬、及び治療が予防的なものであるか、または治療的なものであるかを含め、多くの異なる要因に応じて変動する。通常、対象はヒトであるが、トランスジェニック哺乳動物を含め、ヒト以外の哺乳動物も治療できる。当業者に知られている常法を用いて、治療投与量を漸増・漸減して、安全性及び有効性を最適化できる。
【0173】
治療する対象は、治療の必要ないずれの動物、例えば哺乳動物であることもでき、ある特定の態様では、その対象は、ヒト対象である。
【0174】
最も簡潔な形態では、対象に投与する調製物は、従来の剤形で投与される、本発明で提供するようなISAを含む多量体型結合分子、またはその多量体型抗原結合断片であり、本明細書の他の箇所に記載されているような医薬品賦形剤、担体、または希釈剤と組み合わせることができる。
【0175】
本開示の組成物は、いずれかの好適な方法によって投与でき、例えば、非経口投与、脳室内投与、経口投与、吸入噴霧による投与、局所投与、直腸内投与、経鼻投与、口腔内投与、膣投与または移植リザーバーによる投与を行うことができる。本明細書で使用する場合、「非経口」という用語には、皮下、静脈内、筋肉内、関節内、滑液嚢内、胸骨内、髄腔内、肝臓内、病巣内及び頭蓋内への注射技法または注入技法が含まれる。
【0176】
医薬組成物及び投与方法
本発明で提供するようなISAを含む多量体型結合分子を調製し、かつ及びその結合分子をその必要がある対象に投与する方法は、当業者に周知であり、当業者は、本開示に鑑みれば、決定するのは容易である。投与経路は、例えば、腫瘍内経路、経口経路、非経口経路、吸入による経路または局所経路であることができる。本明細書で使用する場合、非経口という用語には、例えば、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与、筋肉内投与、皮下投与、直腸内投与または膣投与が含まれる。これらの投与形態が、好適な形態として企図されているが、投与形態の別の例は、注射用溶液、特に、腫瘍内、静脈内または動脈内への注射または点滴用の溶液であろう。好適な医薬組成物は、緩衝液(例えば、酢酸塩緩衝液、リン酸塩緩衝液またはクエン酸塩緩衝液)、界面活性剤(例えばポリソルベート)、任意に、安定剤(例えばヒトアルブミン)などを含むことができる。
【0177】
本明細書で論じられているように、本発明で提供するようなISAを含む多量体型結合分子は、その必要がある対象の治療のために、薬学的に有効な量で投与できる。この点では、ISAを含む、開示されている多量体型結合分子は、その活性剤の投与を容易にするとともに、その活性剤の安定性を促すように調合できることは明らかであろう。したがって、医薬組成物は、薬学的に許容される無毒な無菌の担体(生理食塩水など)、無毒性の緩衝剤、保存剤などを含むことができる。本発明で提供するようなISAを含む多量体型結合分子の薬学的に有効な量とは、標的への有効な結合をもたらして、治療効果を得るのに十分な量を意味する。好適な製剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences、例えば21st Edition(Lippincott Williams & Wilkins)(2005)に記載されている。
【0178】
本明細書で提供するある特定の医薬組成物は、許容される剤形で経口投与することができ、このような剤形としては、例えば、カプセル剤、錠剤、水性懸濁剤または液剤が挙げられる。ある特定の医薬組成物は、点鼻エアゾールまたは経鼻吸入によって投与することもできる。このような組成物は、生理食塩水中の溶液として、ベンジルアルコールもしくはその他の好適な保存剤、バイオアベイラビリティを高めるための吸収促進剤、及び/またはその他の従来の可溶化剤もしくは分散剤を用いて調製できる。
【0179】
ISAを含む多量体型結合分子の量であって、担体材料と組み合わせて、単一剤形を作製できる、量は、例えば、治療する対象及び特定の投与方法に応じて変動することになる。その組成物は、1回投与、複数回投与、または一定の期間にわたる注入を行うことができる。投与レジメンも、最適な所望の応答(例えば、治療的または予防的な応答)が得られるように調節できる。
【0180】
本開示の範囲に合わせて、本発明で提供するようなISAを含む多量体型結合分子を、治療の必要な対象に、治療効果を得るのに十分な量で投与できる。本発明で提供するようなISAを含む多量体型結合分子は、その対象に、本開示の抗体、またはその多量体型抗原結合断片、多量体型抗原結合バリアントもしくは多量体型抗原結合誘導体と、薬学的に許容される従来の担体または希釈剤とを既知の技法に従って組み合わせることによって調製した従来の剤形で投与できる。その薬学的に許容される担体または希釈剤の形態及び特徴は、組み合わせる活性成分の量、投与経路及びその他の周知の変動要因によって決定され得る。
【0181】
本開示は、がんを治療、予防または管理するための医薬の製造に、本発明で提供するようなISAを含む多量体型結合分子を使用することも提供する。本開示は、がんを治療、予防または管理するための用途用に、本発明で提供するようなISAを含む多量体型結合分子も提供する。
【0182】
本開示では、別段の指示がない限り、細胞生物学、細胞培養、分子生物学、トランスジェニック生物学、微生物学、組換えDNA及び免疫学の従来の技法が使用され、これらの技法は、当該技術分野の技術の範囲内である。このような技法は、文献において十分に説明されている。例えば、Green and Sambrook,ed.(2012)Molecular Cloning A Laboratory Manual(4th ed.;Cold Spring Harbor Laboratory Press)、Sambrook et al.,ed.(1992)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,(Cold Springs Harbor Laboratory,NY)、D.N.Glover and B.D.Hames,eds.,(1995)DNA Cloning 2d Edition(IRL Press),Volumes 1-4、Gait,ed.(1990)Oligonucleotide Synthesis(IRL Press)、Mullisらの米国特許第4,683,195号、Hames and Higgins,eds.(1985)Nucleic Acid Hybridization(IRL Press)、Hames and Higgins,eds.(1984)Transcription And Translation(IRL Press)、Freshney(2016)Culture Of Animal Cells,7th Edition(Wiley-Blackwell)、Woodward,J.,Immobilized Cells And Enzymes(IRL Press)(1985)、Perbal(1988)A Practical Guide To Molecular Cloning;2d Edition(Wiley-Interscience)、Miller and Calos eds.(1987)Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells,(Cold Spring Harbor Laboratory)、S.C.Makrides(2003)Gene Transfer and Expression in Mammalian Cells(Elsevier Science)、Methods in Enzymology,Vols.151-155(Academic Press,Inc.,N.Y.)、Mayer and Walker,eds.(1987)Immunochemical Methods in Cell and Molecular Biology(Academic Press,London)、Weir and Blackwell,eds.及びAusubel et al.(1995)Current Protocols in Molecular Biology(John Wiley and Sons)を参照されたい。
【0183】
抗体工学の一般原理は、例えば、Strohl,W.R.,and L.M.Strohl(2012),Therapeutic Antibody Engineering(Woodhead Publishing)に記載されている。タンパク質工学の一般原理は、例えば、Park and Cochran,eds.(2009),Protein Engineering and Design(CDC Press)に記載されている。免疫学の一般原理は、例えば、Abbas and Lichtman(2017)Cellular and Molecular Immunology 9th Edition(Elsevier)に記載されている。さらに、当該技術分野で知られている免疫学の標準的な方法は、例えば、Current Protocols in Immunology(Wiley Online Library)、Wild,D.(2013),The Immunoassay Handbook 4th Edition(Elsevier Science)、Greenfield,ed.(2013),Antibodies,a Laboratory Manual,2d Edition(Cold Spring Harbor Press)及びOssipow and Fischer,eds.,(2014),Monoclonal Antibodies:Methods and Protocols(Humana Press)で追うことができる。
【0184】
上記で引用されているすべての参照文献、及び本明細書で引用されるすべての参照文献は、参照により、その全体が本明細書に援用される。
【0185】
下記の実施例は、例示として示されており、限定するものではない。
【実施例】
【0186】
実施例1:IL-15及びIL-15Rαスシドメインを発現する改変J鎖を有する、IgMベースの免疫刺激物質(ISA)の構築及び特性評価
IgMベースの免疫刺激物質(ISA)を作製するために、融合タンパク質として、成熟ヒトIL-15(配列番号4)、及びヒトIL-15Rα(配列番号5)のスシドメインを発現する改変J鎖を以下のように構築し、特性評価を行った。その改変J鎖の出発点は、102位に、YからAへのアミノ酸置換を含む成熟ヒトJ鎖バリアント(「Y102A」または「J
*」。このバリアントのアミノ酸配列は、配列番号3として示されている)であった。この置換は、このJ鎖バリアントを含むIgM五量体の血清中半減期を長くするものである。国際公開番号WO2019/169314A1を参照されたい。まず、PD-L1に結合する抗原結合ドメインを含むIgM抗体と、J
*、成熟IL-15(「I」)及びIL-15Rαスシドメイン(「R」)という3つのすべてのドメインを様々な配向で含む各種融合タンパク質とをアセンブルした。評価する改変J鎖には、J
*RI(配列番号6)、J
*IR(配列番号20)、IRJ
*(配列番号21)、RIJ
*(配列番号22)、RJ
*I(配列番号23)及びIJ
*R(配列番号24)を含めた。
図1を参照されたい。加えて、J
*I(配列番号26)またはIJ
*(配列番号25)のみ、及びヒト血清アルブミン(HSA)に融合したヒトJ鎖(配列番号84。米国特許第10,618,978号(参照により、その全体が本明細書に援用される)に開示されているような「J15HSA」)を含む融合タンパク質を構築した。米国特許出願公開第2019/0338031号(参照により、その全体が本明細書に援用される)に開示されているように、ヒト化抗ヒトPD-L1抗体h3C5のVHアミノ酸配列(配列番号33)を含む抗PD-L1 IgM重鎖、及びh3C5のVLアミノ酸配列(配列番号34)を含む抗PD-L1 IgM軽鎖をコードするDNAコンストラクトとともに、これらのJ鎖融合タンパク質をコードするDNAコンストラクトを発現させた。これらの抗体が、五量体として適切にアセンブルされたかを評価した。
【0187】
米国特許出願公開第2019/0338031号に記載されているようにして、上記の改変J鎖を有するIgM五量体、及び対応するIgG抗体を構築し、発現させた。
【0188】
IgM五量体としての、様々な配向の改変J鎖の概略図が
図1に示されている。J
*RI(配列番号6)において、優れた発現が見られ、IgMとしてアセンブルされたので、さらなる特性評価用には、J
*RIを選択した。米国特許第10,407,502号に記載されているように、その抗体のC末端に融合されたヒトIL-15Rαスシドメイン及びヒトIL-15を含む抗PD-L1 IgG抗体である「KD-RI」(重鎖融合タンパク質は、配列番号29として示されており、軽鎖は、配列番号30として示されている)と、上記のコンストラクトとを比較した。
【0189】
このIgMコンストラクト及びIgGコンストラクトは、ELISAによって、表2に示されている結合親和性で、PD-L1に結合することが示された。
【0190】
【0191】
上記の代わりに、IgM重鎖及びIgM軽鎖がそれぞれ、米国特許第8,217,149号に開示されている抗体のVH及びVLのアミノ酸配列(本明細書では、VHは配列番号75、VLは配列番号76として示されている)を含む抗PD-L1ヒトIgM五量体として、改変J鎖J*RI(配列番号6)をアセンブルした。改変J鎖J*RIを用いて、抗GITR IgM抗体#23(配列番号39を含むVH、及び配列番号40を含むVL)、抗GITR IgM抗体#14(配列番号41を含むVH、及び配列番号42を含むVL)、抗GITR IgM抗体#12(配列番号43を含むVH、及び配列番号44を含むVL)、抗CD20 IgM抗体153(配列番号49を含むVH、及び配列番号50を含むVL)を含む追加のIgM五量体もアセンブルした。最後に、IL-15及びIL-15受容体αスシドメインがヒト血清アルブミンに融合されているJ鎖不含のコンストラクト(配列番号27の「HRI」、及び配列番号28の「IRH」)を発現させた。
【0192】
実施例2:IgMベースのISAのKi-67 インビトロ効力アッセイ
実施例1で調製した各種のIgM J
*RI ISAコンストラクトのインビトロでの効力をKi-67増殖アッセイで、以下のようにして評価した。このアッセイでは、IL-15に応答した初代細胞(huPBMC、ヒト末梢血単核球)の増殖を測定する。IL-15が、その受容体に結合すると、細胞の増殖に至り、その増殖は、いくつかの技法によって可視化でき、その1つは、細胞周期関連タンパク質アッセイである。最も広く用いられている細胞周期関連タンパク質は、G1期、S期、G2期及びM期でのみ発現するKi-67である。細胞傷害性CD8 T細胞及びナチュラルキラーNK細胞(IL-15受容体のβ及びγサブユニットを生理的に発現する細胞)の核内のKi-67タンパク質レベルをフローサイトメトリーによって求めるのが、実際の細胞増殖に対する代替的なアッセイである。そのアッセイの概略が
図2に示されている。
【0193】
簡潔に述べると、漸増用量の試験化合物の存在下で、健常なドナーPBMCを3~5日間インキュベートしてから、T細胞マーカー及びNK細胞マーカーに対して表面を染色し、Ki-67に対して細胞内を染色した。染織した細胞について、フローサイトメーターでデータを取得し、そのフローデータ解析では、CD8 T細胞及びNK細胞のKi-67含有量に着目する。その化合物濃度に対する、Ki-67陽性のCD8 T細胞及びNK細胞のパーセンテージをグラフ化することによって、EC50を求める。
【0194】
プロトコール
huPBMCを解凍、計数し、10%ウシ胎児血清(FBS)を含むRPMI-1640培地に、1×106細胞/mLで再懸濁させ、U底マイクロタイタープレート(カタログ番号351177、Falcon)に、細胞懸濁液を1ウェルあたり180μL加えた。10%FBSを含むRPMI-1640において、実施例1に記載されているようにして作製したISA、またはコントロールの用量漸増(1:3の希釈系列)を行い、huPBMCを含むウェルに、適切な希釈液20μLを加えた。細胞を3~5日間、37℃、5%CO2でインキュベートした。
【0195】
続いて、細胞/ISA混合物をV底プレート(カタログ番号82.1583.001、Sarstedt)に移し、抗CD3 PerCP-Cy5.5(Biolegendカタログ番号300430)、抗CD4-Brilliant Violet-421(Biolegendカタログ番号300532)、抗CD8a APC-Fire 750(Biolegendカタログ番号344746)及び抗NKp46 PE-Cy7(Biolegendカタログ番号331916)という抗体を含むFACS染色緩衝液(BD Biosciencesカタログ番号554656)において、表面を30分、室温で染色した。その細胞を2回洗浄し、固定し、Foxp3/Transcription Factor Staining Buffer Set(カタログ番号00-5523-00、eBiosciences/ThermoFisher Scientific)を用いて、Ki67(抗Ki-67 APC、Biolegendカタログ番号350514)及びFoxP3(抗FoxP3 PE、Biolegendカタログ番号320108)に対して、細胞内を染色した。最後に、細胞を2回洗浄し、FACSCalibur-DxP8(BD/Cytek Biosciences)でデータを取得した。
【0196】
FACSデータをFlowJoソフトウェア(FlowJo LLC.)で、以下のようにして解析した。CD4 T細胞(CD3+/CD4+)、CD8 T細胞(CD3+/CD8+)、NK細胞(CD3-/NKp46+)及び制御性T細胞(Treg、CD4+/FoxP3+)のサブセットに、ゲーティングを行い、各集団におけるKi67陽性細胞のパーセンテージを抗体濃度に対してグラフ化した。GraphPad Prism(GraphPad Software Inc.)で、可変勾配による非線形フィット(4パラメーター)を用いて、生物学的活性のEC50を計算した。
【0197】
漸増濃度のh3C5 IgM+J
*RI、HRI、KD-RI及び153IgM J
*RIに応答して、CD8 T細胞が増殖したことを示す例示的な結果が、
図3及び表3に示されている。NK細胞の増殖についても、同様の結果が得られた(データは示されていない)。
【0198】
(表3)IL-A15 ISAに応答したCD8+の増殖
【0199】
別のアッセイでは、漸増濃度のh3C5 IgM+J
*RIに応答したCD8+T細胞及びCD4+T細胞、ならびに制御性CD4+/FoxP3+T細胞(Treg)の増殖を比較した。
図4に示されているように、3C5 IgM+J
*RIでは、CD8+T細胞の増殖が誘導されたが、CD4+T細胞またはTreg細胞の増殖は誘導されなかった。
【0200】
実施例3:受容体結合性が低下されたIL-15バリアントを含むISAの評価
ある特定の態様では、例えば、治療用ISAの毒性副作用の可能性を制御するために、IL-15β/γ受容体への結合を低下させることによって、IL-15 ISAの効力を改変するのが望ましい。他の者が以前に、成熟ヒトIL-15(配列番号4)において、受容体結合性を低下させる能力のある残基として、9個の残基を特定した。国際公開番号WO2018/071918A1を参照されたい。この残基には、IL-15におけるN1D(配列番号57)、N4D(配列番号58)、D8N(配列番号59)、D30N(配列番号60)、D61N(配列番号61)、E64Q(配列番号62)、N65D(配列番号63)、N72D(配列番号64)及びQ108E(配列番号65)が含まれる。これらの変異IL-15配列を、N4D/N65D(配列番号66)及びN1D/N65D(配列番号67)という二重の変異、ならびにD30N/E64Q/N65D(配列番号68)という三重の変異とともに、改変J鎖に、J*RIという構成で導入して、配列番号7~18の配列をそれぞれ有する融合タンパク質を得た。9つのすべての変異を有するIL-15配列を含む改変J鎖(配列番号77)も構築した。
【0201】
単一のIL-15変異を有する各種のISAコンストラクトが、CD8+T細胞の増殖を誘導する能力が
図5Aに、NK細胞の増殖を誘導する能力が
図5Bに示されており、二重または三重のIL-15変異を有するISAコンストラクトが、CD8+T細胞の増殖を誘導する能力が
図5Cに、NK細胞の増殖を誘導する能力が
図5Dに示されている。各種のIL-15変異を1つ有するISAでは、受容体活性化の様々な程度の低下が見られた。9つすべての変異を有するコンストラクトは、活性を有さなかった(データは示されていない)。J
*RI N4D/N65Dという二重変異体では、WT IL-15を有するコンストラクトと比べて、CD8+T細胞の増殖については50分の1、NK細胞の増殖については100分の1への効力低下が見られたのに対して、N1D/N65Dという二重変異体及び三重変異体は、いずれの種類の細胞でも増殖を誘導しなかった。
【0202】
実施例4:h3C5 IgM+J
*RIは、細胞傷害性CD8 T細胞上のGITR及びOX-40をアップレギュレートする
h3C5 IgM+J
*RIをISAとして用いて、huPBMCを、示されている5nMの各ISAとともに5~6日インキュベートした以外は、実施例2に記載されている方法に従って、Ki-67増殖アッセイを行い、CD8ゲーティングを行ったT細胞上でのGITR、OX-40及びKi-67の発現をフローサイトメトリーによって分析した。
図6に示されているように、PD-L1を標的とするIgMベースのISAは、CD8+T細胞上で、GITR及びOX40の発現を、HRI、153IgM J
*RI、KD-RIまたはh3C5 IgM_JH(IL-15を含まない)よりも大きくアップレギュレートさせた。
【0203】
実施例5:抗GITR IgM+J
*RI ISAは、Ki-67 CD8+T細胞増殖アッセイにおいて、インビトロでの効力を示す
実施例1に記載されているようにして調製した3つの抗GITR IgM+J
*RI ISA化合物において、Ki-67アッセイで、CD8+T細胞の増殖を誘導する能力を試験した。GITR IgM_J
*RIモノクローナル抗体#23のVH配列は、配列番号39として、VL配列は、配列番号40として示されている。GITR IgM_J
*RIモノクローナル抗体#14はそれぞれ、配列番号41及び配列番号42として示されている。GITR IgM_J
*RIモノクローナル抗体#12はそれぞれ、配列番号43及び配列番号44として示されている。モノクローナル抗体番号は、PCT出願番号PCT/US2020/017083(参照により、その全体が本明細書に援用される)に開示されているGITR結合物質に対応する。実施例2に記載されているようなヒトPBMCに対して、Ki-67アッセイを行った。結果は、h3C5 IgM+J
*RIと比較したものが、
図7に示されている。それらの3つの抗GITRコンストラクトではそれぞれ、抗PD-L1コンストラクトの約5~10分の1のレベルで、CD8+T細胞の増殖を誘導する効力が見られた。
【0204】
実施例6:h3C5 IgM+SJ
*RIは、Ki-67 CD8+T細胞増殖アッセイにおいて、効力が上昇した
次に、本発明者らは、IgMベースのISAのJ
*RIエレメント上に、T細胞を標的とする抗原結合ドメインを融合すると、効力を上昇させることができるか調べた。N末端からC末端の方向で、マウス抗ヒトCD3モノクローナル抗体SP34のVH及びVLを含むscFv、J
*、R、ならびにI(J
*、R及びIは、実施例1に記載されているようなものである)を含む改変J鎖を構築し(配列番号19)、この改変J鎖は、IgM h3C5の重鎖及び軽鎖ときちんとアセンブルされて、五量体を形成したことが示された。Ki-67増殖アッセイ(60時間インキュベート)において、CD8+T細胞(
図8A及び
図8Bに、2つの異なるPBMCドナーについて示されている)、またはCD3陰性NK細胞(
図8C及び
図8Dに、2つの異なるPBMCドナーについて示されている)についてゲーティングを行って、上記の五量体を試験した。このコンストラクトでは、h3C5 IgM+SJ
*、h3C5 IgM+J
*RIまたはh3C5 IgM J
*と比べて、CD8+T細胞の増殖については、効力は中程度であり、NK細胞の増殖についても、効力は中程度であった。
【0205】
それらの2つの異なるドナーにおけるCD8+T細胞の増殖についてのEC50(nMで表されている)が、表4に示されており、それらの2つの異なるドナーにおけるNK細胞の増殖ついてのEC50(NMで表されている)が、表5に示されている。
【0206】
【0207】
【0208】
実施例7:インビボのマウス腫瘍有効性モデルにおける抗PD-L1 J*RIの効力
改変J鎖J*RI(配列番号6)を抗PD-L1ヒトIgM五量体としてアセンブルし、その五量体は、IgMの重鎖が、配列番号224のVHアミノ酸配列を含み、その軽鎖が、配列番号225のVLアミノ酸配列を含むものである(以下、「m3c5-J*RI」という)。標準的な技法を用いて、配列番号75のVHドメイン、及び配列番号76のVLドメインを含む抗PD-L1 IgG抗体を作製した。
【0209】
遺伝子操作したマウスモデルで、m3c5-J*RIの抗腫瘍作用を評価した。マウスのPD-1分子及びCTLA-4分子の代わりに、ヒトPD-1分子及びヒトCTLA-4分子を発現するBALB/cマウス群の左側腹部に、mPD-L1の代わりに、ヒトPD-L1を発現するマウス大腸癌細胞株CT-26を移植した。その腫瘍が60~100mm3に達したら、マウスを10匹からなる群に無作為に分け、表6に示されているようにして処置した。処置の開始から合計38日の期間、腫瘍サイズを週に3回測定した。
【0210】
(表6)処置群
+ip BIW×3:腹腔内に週2回、合計3回注射
*ip Q3d×6:腹腔内に週2回、合計3回注射
#ip Q2d×3:腹腔内に週2回、合計3回注射
【0211】
各腫瘍群の平均腫瘍サイズが、
図9Aに示されている。処置群1における個々の腫瘍サイズは、
図9Bに、処置群2における個々の腫瘍サイズは、
図9Cに、処置群3における個々の腫瘍サイズは、
図9Dに示されている。22日目(エンドポイント:平均腫瘍サイズ1,500mm
3超)に、群1を殺処分し、39日目まで、群2及び3をモニタリングした。群1~5における非担癌マウスの数が、表7に示されている。
【0212】
【0213】
群3~5の非担癌マウス(n=合計19匹)、及び15匹のナイーブマウスの右側腹部に、野生型CT-26腫瘍細胞でリチャレンジを行った。腫瘍細胞の成長を最長で48日間、モニタリングした。各腫瘍群の平均腫瘍サイズが、
図10Aに示されている。ナイーブマウスにおける個々の腫瘍サイズが、
図10Cに示されており、処置マウスにおける個々の腫瘍サイズが、
図10Dに示されている。腫瘍は、ナイーブ群では、15匹中10匹のマウスで成長したが、m3C5-J
*RI群では、成長は見られなかった(0匹/19匹)ことから、m3C5-J
*RIによる3種類の最初の処置によって誘発された抗腫瘍免疫が、長く継続したことが示された。
図10Bは、ナイーブ群と治療群との腫瘍成長差が、統計的に有意であることを示している。(P<0.0001)。
【0214】
実施例8:インビボマウスの薬力学モデルにおける抗PD-L1 J*RIの効力
BALB/cマウスモデルにおいて、m3C5-J*RIの薬力学的作用を評価した。表8に示されているようにして、5匹のマウスからなる群を処置した。
【0215】
(表8)BALB/c薬力学的モデルにおける処置群
#ip Q2d×3:腹腔内に2日置きに、合計3回注射
【0216】
以下のようにして、末梢血のNK細胞、B細胞、CD8細胞及びCD4T細胞の計数をフローサイトメトリーによって行った。K2-EDTAを用いて、血液を採取し、抗体を用いて、CD45(白血球)、CD3(T細胞))、CD4(CD4 T細胞)、CD8(CD8 T細胞)、CD19(B細胞)及びCD49b(NK細胞)に対して染色を行い、フローサイトメーターの機械で、計数ビーズを用いて解析して、細胞の数を評価した。
【0217】
CD8+T細胞の結果が
図11Aに、NK細胞の結果が
図11Bに、CD4+T細胞の結果が
図11Cに、CD19+B細胞の結果が
図11Dに示されている。マウスCD8 T細胞及びマウスNK細胞について、m3c5-J
*RIの用量に依存的な一過性の増加が見られる。ビヒクルのみの場合には、増加は観察されない。m3c5-J
*RIの増殖作用は、CD4 T細胞またはB細胞には及ばない。
【0218】
実施例9:糖鎖付加部位を変異させた、IL-15バリアントを含むISAの評価
J
*RI上における、アスパラギンベースの4つの糖鎖付加部位を除去した影響を評価した。J
*RI上における、アスパラギンベースの第1の糖鎖付加部位(「N
1」)は、J
*(配列番号3)の49位である。J
*RI上における、アスパラギンベースの他の3つの糖鎖付加部位は、IL-15部分において、配列番号4の71位(「N
2」)、79位(「N
3)及び112(「N
4」)に位置する。N
1、N
2、N
3、N
4、またはN
1~N
4の組み合わせをアスパラギン酸に変異させて、糖鎖付加部位を除去したJ
*RI配列を作製した(それぞれ、配列番号86~90)。h3C5 IgM(VH:配列番号33、VL:配列番号34)+J
*RI N
1D、N
2D、N
3D、N
4DまたはN
1D/N
2D/N
3D/N
4D変異を作製し、精製して、効力について、実施例2に記載されている方法に従って試験した。その結果は、
図12に示されている。このアッセイでは、変異が1つの場合も、変異を組み合わせた場合も、野生型J
*RI配列と比べて、効力の有意な低下はまったく見られなかった。
【0219】
実施例10:複数の種に由来するCD8 T細胞に対する抗PD-L1 J
*RIの評価
m3c5-J
*RIの増殖活性及びサイトカイン放出活性をカニクイザルPBMCにおいて評価した。このアッセイでは、6つの健常なヒトドナーPBMC、及び4つの健常なカニクイザルドナーPBMCを並行して使用し、漸増用量のm3c5-J
*RI、及びIL-15 ISAを含まない抗PD-L1 IgMコントロール「m3c5 IgM」(VH:配列番号224、VL:配列番号225)とともに、3日間、実施例2に記載されている方法に従ってインキュベートした。
図13A~13Bには、m3c5-J
*RIが、ヒト及びカニクイザルのCD8 T細胞において、同等の増殖活性を有することが示されている。表9は、ヒト及びカニクイザルのCD8 T細胞における増殖EC50の平均を示している。
【0220】
(表9)m3c5-J
*RI及びh3C5 IgMに応答した、ヒト由来及びカニクイザル由来CD8+ T細胞の増殖
【0221】
この増殖アッセイから得た上清を解析して、Cytometric Bead Arra(CBA)アッセイを用いて、サイトカイン濃度を求めた。ヒトTH1/TH2 サイトカインキットIIをメーカーの指示に従って用いて、ヒトサイトカイン(IL-2、IL-4、IL-6、IL-10、IFNγ及びTNFα)の濃度を評価した。非ヒト霊長類TH1/TH2キットをメーカーの指示に従って、カニクイザルサイトカイン(IL-2、IL-4、IL-5、IL-6、IFNγ及びTNFα)を評価した。得られた濃度が、ヒトIL-6については
図14Aに、ヒトIFNγについては
図14Bに、ヒトTNFαについては
図14Cに、カニクイザルIL-6については
図14Dに、カニクイザルIFNγについては
図14Eに、カニクイザルTNFαについては
図14Fに示されている。他のすべてのサイトカインは、検出限界未満であった。
【0222】
実施例11:細胞依存性細胞傷害性アッセイにおける抗PD-L1 J
*RIの評価
インビトロ細胞依存性細胞傷害性アッセイを用いて、m3c5-J
*RIが腫瘍細胞殺傷性を増大させる能力を評価した。PD-L1を発現するとともに、操作して、ルシフェラーゼ(Luc)を発現するようにしたヒト乳癌細胞株MDA-MB-231-Lucを標的腫瘍細胞として選択した。健常なドナーから得たPBMC、精製NK細胞または精製CD8 T細胞をMDA-MB-231-Lucと、示されているE:T(エフェクター:標的)比で共培養した。漸増用量の抗体をその共培養液に加えた。細胞を3日間または6日間インキュベートし、MDA-MB-231-Lucの殺傷に起因する発光をEnVision Luminescenceプレートリーダー(Perkin-Elmer In.)で読み取った。PMBCの結果は
図15Aに、NK細胞の結果は
図15Bに、CD8 T細胞の結果は
図15Cに示されている。m3c5-J
*RIは、PBMC、NK細胞及びCD8 T細胞がインビトロで腫瘍細胞を殺傷する潜在能力を向上させる。
【0223】
実施例12:ヒトPD-L1上で3C5が結合するエピトープの評価
アラニンスキャニング変異誘発を用いて、ヒトPD-L1上で、3C5 H2L2(VH:配列番号91、VL:配列番号94)抗体が結合するエピトープをマッピングした。ヒトPD-L1のアラニンスキャンライブラリーを構築することによって、エピトープマッピングを行い、その後、ヒトPD-L1をHEK-293T細胞上に発現させた。HEK-293にトランスフェクションした各PD-L1変異型への3C5 H2L2 F(ab’)2の結合をハイスループットフローサイトメトリーによって評価した。3C5の結合に重要であることが見出されたPD-L1アミノ酸は、R113、Y123及びR125であり、PD-L1の結晶構造上での、これらのアミノ酸の位置をZhangらが特定したもの(Oncotarget,2017,8(52):90215-90224)が、
図16に示されている。
【0224】
(表10)本開示に示されている配列(シグナルペプチドには下線が付けられており、それ以外のタンパク質は、成熟タンパク質である)
【0225】
(表11)さらなる抗PD-L1のVH配列及びVL配列
【配列表】
【国際調査報告】