(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-19
(54)【発明の名称】併用療法のための化合物
(51)【国際特許分類】
C07D 451/06 20060101AFI20221012BHJP
A61P 15/10 20060101ALI20221012BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20221012BHJP
A61K 31/46 20060101ALI20221012BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20221012BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20221012BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20221012BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
C07D451/06 CSP
A61P15/10
A61P25/24
A61K31/46
A61K9/06
A61K9/08
A61K9/107
A61K9/70 401
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022506360
(86)(22)【出願日】2020-08-06
(85)【翻訳文提出日】2022-01-28
(86)【国際出願番号】 EP2020072092
(87)【国際公開番号】W WO2021023805
(87)【国際公開日】2021-02-11
(32)【優先日】2019-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】522039795
【氏名又は名称】イニシエーター ファーマ エー/エス
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】シモンセン,ウルフ
(72)【発明者】
【氏名】コメルマ-ステッフェンセン,シモン
(72)【発明者】
【氏名】ピータース,ダン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA06
4C076AA09
4C076AA11
4C076AA17
4C076AA72
4C076BB01
4C076BB31
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4C086AA01
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4C086MA17
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4C086MA32
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4C086MA63
4C086NA14
4C086ZA12
4C086ZA81
(57)【要約】
本発明は、鬱病、勃起不全、不安、性的機能不全および/または射精障害;またはそれらの組み合わせを含む疾病または障害の治療のための化合物に関する。
【選択図】
図26
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における、
勃起不全および鬱病、
勃起不全および性的機能不全、
勃起不全および不安、
勃起不全および射精障害、
性的機能不全および鬱病、
性的機能不全および不安、
性的機能不全および射精障害、
鬱病および不安、
鬱病および射精障害、および/または
不安および射精障害、
の組み合わせの治療、予防、または緩和における使用のための、化学式(I)の化合物、
【化1】
またはその薬学的に許容可能な塩。
【請求項2】
治療、予防、および/または緩和が、勃起不全および鬱病の組み合わせの治療、予防、および/または緩和である、前記請求項のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項3】
治療、予防、および/または緩和が、性的機能不全および不安の組み合わせの治療、予防、および/または緩和である、前記請求項のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項4】
射精障害が、早漏または射精障害である、前記請求項のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項5】
射精障害を伴う不安の緩和、前記請求項のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項6】
勃起不全が、治療を原因とする勃起不全である、前記請求項のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項7】
性的機能不全が、鬱病および/または不安に起因する、前記請求項のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項8】
勃起不全が、鬱病に起因する、前記請求項のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項9】
勃起不全が、治療を原因とする勃起不全である、前記請求項のいずれか1項に記載の使用のための化合物、またはその薬学的に許容可能な塩。
【請求項10】
治療を原因とする勃起不全が、薬剤治療に由来する有害作用である、前記請求項のいずれか1項に記載の使用のための化合物、またはその薬学的に許容可能な塩。
【請求項11】
薬剤が、抗鬱薬、NSAID、フィナステライド、抗てんかん薬および神経弛緩薬から成る群から選択される、前記請求項のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項12】
勃起不全が、抗鬱薬による治療に起因する治療が原因の勃起不全である、前記請求項のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項13】
勃起不全が、抗鬱薬による鬱病の治療に起因する治療が原因の勃起不全である、前記請求項のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項14】
鬱病が、性的機能不全に起因する、前記請求項のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項15】
鬱病が、勃起不全に起因する、前記請求項のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項16】
少なくとも1種類の薬学的に許容可能な担体、賦形剤または希釈剤と共に前記請求項のいずれか1項に記載の化合物の治療有効量を含む、医薬組成物。
【請求項17】
対象が、哺乳動物である、前記請求項のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項18】
哺乳動物が、ヒトである、前記請求項のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項19】
ヒトが、男性である、前記請求項のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項20】
対象が、オスである、前記請求項のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項21】
対象が、若いオスである、前記請求項のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項22】
対象が、35歳未満など、30歳未満など、25歳未満など、20歳未満などの、40歳未満の男性である、前記請求項のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項23】
対象が、20歳超の成人男性など、25歳超の成人男性など、30歳超の成人男性など、35歳超の成人男性など、40歳超の成人男性など、45歳超の成人男性など、50歳超の成人男性など、55歳超の成人男性など、60歳超の成人男性など、65歳超の成人男性など、70歳超の成人男性など、75歳超の成人男性などの、成人男性である、前記請求項のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項24】
治療、予防、および/または緩和が、メスの対象における、性的機能不全、鬱病、および/または不安;またはそれらの任意の組み合わせの治療、予防、および/または緩和である、請求項1~18のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項25】
治療、予防、および/または緩和が、メスの対象における性的機能不全および鬱病の組み合わせの治療、予防、および/または緩和である、請求項1~18のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項26】
対象が、他の抗不安薬および/または抗鬱薬で同時に治療されない、前記請求項のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項27】
化合物が、全身投与される、前記請求項のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項28】
化合物が、経口投与される、請求項27に記載の使用のための化合物。
【請求項29】
化合物が、局所(locally)投与される、請求項1~26のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項30】
化合物が、局所(topically)投与される、請求項29に記載の使用のための化合物。
【請求項31】
局所(topical)投与が、ローション、クリーム、軟膏、ゲルの形態である、または経皮パッチによる、請求項30に記載の使用のための化合物。
【請求項32】
勃起不全および鬱病、
勃起不全および性的機能不全、
勃起不全および不安、
勃起不全および射精障害、
性的機能不全および鬱病、
性的機能不全および不安、
性的機能不全および射精障害、
鬱病および不安、
鬱病および射精障害、
および/または
不安および射精障害、
の組み合わせの治療、予防、または緩和のための方法であって、
化学式(I)の化合物:
【化2】
またはその薬学的に許容可能な塩の治療有効量をそれを必要とする対象に投与することを含む、方法。
【請求項33】
それを必要とする対象において勃起応答の程度を増強するための方法であって、化学式(I)の化合物:
【化3】
またはその薬学的に許容可能な塩の治療有効量を対象に投与することを含む、方法。
【請求項34】
対象が、若い男性である、請求項33の方法。
【請求項35】
若い男性が、35歳未満など、30歳未満など、25歳未満など、20歳未満などの、40歳未満である、前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
それを必要とする対象において勃起応答の持続時間を延長するための方法であって、化学式(I)の化合物:
【化4】
またはその薬学的に許容可能な塩の治療有効量を対象に投与することを含む、方法。
【請求項37】
それを必要とする対象において勃起応答の頻度を増加させるための方法であって、化学式(I)の化合物:
【化5】
またはその薬学的に許容可能な塩の治療有効量を対象に投与することを含む、方法。
【請求項38】
それを必要とする対象において海綿体の弛緩を誘導するための方法であって、化学式(I)の化合物:
【化6】
またはその薬学的に許容可能な塩の治療有効量を対象に投与することを含む、方法。
【請求項39】
それを必要とする対象において陰茎血流を増加させるための方法であって、化学式(I)の化合物:
【化7】
またはその薬学的に許容可能な塩の治療有効量を対象に投与することを含む、方法。
【請求項40】
対象が、20歳超の成人男性など、25歳超の成人男性など、30歳超の成人男性など、35歳超の成人男性など、40歳超の成人男性など、45歳超の成人男性など、50歳超の成人男性など、50歳超の成人男性など、55歳超の成人男性など、60歳超の成人男性など、65歳超の成人男性など、70歳超の成人男性など、75歳超の成人男性などの、成人男性である、前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
対象が、鬱病および/または不安に罹患している、前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
対象が、射精障害に罹患している、前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、勃起不全、鬱病、性的機能不全、射精障害、および/または不安;ならびにそれらの任意の組み合わせの治療に用いるための化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
不安および鬱病(大鬱病性障害、臨床鬱病、および再発性抑鬱障害としても知られる)は、不安の中で恐怖と心配、または持続する悲しみの感情および興味喪失を引き起こす気分障害であり、この病気は感情、思考、および行動に影響を与え、様々な感情的および身体的疾患をもたらす。治療せずにおくと、鬱病は、生活の質を大きく低下させることがあり、あるいは病状からの早死または自殺をもたらすことさえあり得る。遺伝的形質の遺伝、脳におけるホルモン変化および身体的変化を含む様々な因子が、不安と鬱病の一因となることがある。様々な脳領域が、大鬱病性障害の患者において、変化した活動を示し、脳におけるこれらの不均衡が特異的に、神経伝達物質であるセロトニン、ノルアドレナリン、およびドーパミンに影響をおよぼす。これらの知見に従い、主たる最新の鬱病治療は、セロトニンの再取り込み(SSRI)、およびセロトニン・ノルアドレナリンの再取り込み(SNRI)を選択的に阻害する、またはモノアミンオキシダーゼの阻害によりセロトニン分解、ノルアドレナリン分解、およびドーパミン分解を選択的に阻害する、薬剤である。
【0003】
男性における性的機能不全または勃起不全(勃起障害、インポテンツ、または男性勃起障害と称されることもある)は、満足のいく性行為を可能にする程度の充分な勃起に到達する、あるいは維持することに関する持続的な不能である。勃起は、異なる複数の中枢神経および末梢神経機序および/または液性機序を含む。陰茎勃起を制御する中枢神経伝達物質および神経ペプチドは、複数の脳領域において作用することにより陰茎勃起を促進(例えば、ドーパミン)または阻害(例えば、オピオイドペプチド)できる。セロトニンは、関与する受容体サブタイプに応じて、促進効果および阻害効果の両方を発揮し得る。性的機能不全の悪化は、大鬱において一般的であり、一つの説明は、勃起機能制御に関係する脳領域におけるモノアミンのレベルの低下である。機能的核磁気共鳴画像法による研究は、鬱病および性的機能不全における主要な脳の領域(扁桃体、背側視床、視床下部、尾状核被殻、帯状回、島皮質、視覚野、感覚皮質、および運動皮質)の重複を示し、これは、オーガズムに達する能力および性的欲望に影響を与える。さらに、SSRIおよびSNRIなどの抗鬱薬は、男性の性的機能(欲望-覚醒-興奮-オーガズム)に負の効果を与える。性的機能不全の発生率は、SSRIに比べて、ブプロピオン、ミルタザピン、およびボルチオキセチンを含むいくつかの非定型抗鬱薬では低いが、またこれらの薬剤による抗鬱薬投与により誘発される性的機能不全(治療が原因の勃起不全)を治療するための重要な要求がある。つまり、勃起不全および鬱病の両方を治療できる薬剤は、これまで満たされていないニーズであり、また臨床的にも関心が高い。
【0004】
大鬱病性障害は、その高い有病率および関連障害のゆえに、身体精神障害の主たる原因の一つである。生涯有病率は、高所得国において14.3%である。世界の疾病負荷研究は、1990~2010年に大鬱病性障害による37.5%の負荷の増加を示し、大鬱病性障害は、2020年における障害調整生命年の予想される第2の主たる原因である。活動を阻害する、あるいは苦痛を引き起こす過剰な恐怖反応および/または心配を特徴とする不安の生涯有病率は、世界的に16.6%であり、女性は、男性に比べて2倍も罹患する可能性が高い。不安および鬱病の治療結果の評価は従来、気分症状に関する障害に焦点を当ててきた。したがって、SSRIおよびSNRIは、国際ガイドラインに準拠して不安および大鬱病性障害の第一選択治療として推奨される。しかしながら、患者達は、症状に関する結果に比べて日々の生活機能が通常レベルに戻ることのほうが重要であると報告している。機能障害は、気分症状の解消後も続くことがあり、性的機能不全を含む機能障害は、大鬱病性障害の将来の発現を経験するリスクを増加し得る。
【0005】
射精障害は、早漏および遅漏に分類され、前者は生涯型早漏(膣挿入後1分未満の射精)および獲得型早漏(膣挿入後3分未満の射精)と定義される。後者は、膣内挿入後、射精までの時間の正常平均値の2倍多い、約25分と定義される。射精障害は、遺伝的、心理学的、医原性(骨盤内手術)、およびプロラクチンおよびテストステロンに影響を与える可能性のある疾患(糖尿病、鬱病など)など様々な原因によって起こる。
【0006】
勃起不全は、高頻度で起こる加齢関連の世界的疾病であり、2025年には3億人の男性が罹患すると推定されている。射精障害は主に、早漏に代表され、世界全体での率は全年齢の男性の5%であり、遅漏については1~4%である。大鬱病性障害患者では、性機能不全の併発が68%に上り、それが抗鬱薬治療で解消する患者はわずか5%~30%に過ぎない。抗鬱薬による中枢神経系障害の治療もまた、勃起機能、オーガズムへの到達能、および性的欲望に負の影響を与え、女性よりも男性に対してより影響を与える傾向がある。現在の指針は、勃起不全の第一選択治療として必要に応じて、5型ホスホジエステラーゼ(PDE5)阻害剤、シルデナフィル、バルデナフィル、タダラフィル、およびアバナフィルを推奨するが、勃起不全男性のおおよそ30~40%がPDE5阻害剤療法に応答せず、一部の男性は、一般的な心臓薬(硝酸塩)との相互作用のためPDE5阻害剤を摂取できない。射精障害に対する治療法は少ない。早漏は、SSRIまたはダポキセチンで治療される。遅漏に対し認可された治療は存在しない。気分障害に加えて、抗鬱薬は、神経因性疼痛の治療にも用いられ、したがって抗鬱薬により誘発される性的機能不全は、さらに多くの人々に影響する。患者が鬱病および性的機能不全に関してより良く治療されれば、それにより健康になり、典型的にはより良い生活の質を得るであろう。
【0007】
鬱病患者における性的機能不全の現在の治療は、SSRIまたはSNRIによる抗鬱治療に追加として1種類の非定型抗鬱薬を用いる。別法は、抗鬱治療をボルチオキセチン単剤療法に切り替えることであるが、鬱病に対する効果が低下するリスクがある。軽度の鬱病および勃起不全の患者では、推奨される治療は、抗鬱治療への追加としての5型ホスホジエステラーゼ阻害剤であり、バルデナフィルの場合には、プラセボ群の13%に比較して正常な勃起機能を獲得した患者は38%に過ぎない。したがって、その治療ニーズが満たされていない鬱病と勃起不全の共存症を有する患者がまだ数多く存在する。しかし、正の応答を示す患者では、勃起機能改善と鬱病改善の間に相関がある。ブプロピオンは、ノルアドレナリン-ドーパミン再取り込み阻害剤でありニコチン受容体拮抗薬であり、一方ミルタザピンは、α2-アドレナリン受容体およびセロトニン受容体(5-HT2および5-HT3)に拮抗し前頭前野皮質においてドーパミンを増加させる。ブプロピオンおよびミルタザピンは、抗鬱効果を強めるための追加として用いられ、性的機能に対する他の抗鬱薬の深刻な影響を中和する。ボルチオキセチンは非定型抗鬱薬であり、それはセロトニン(5-ヒドロキシトリプタミン)再取り込みおよびノルアドレナリン再取り込みを阻害し、ならびにいくつかの5-ヒドロキシトリプタミン(5‐HT1Aおよび5-HT1B)には作用薬として働き、他の5-ヒドロキシトリプタミン受容体(5-HT1D、5-HT3、および5-HT7)には拮抗薬として働く。性的機能不全の発生率は、従来のSSRI(例えばパロキセチンおよびエスシタロプラム)に比べてボルチオキセチンによる鬱病患者治療では低いが、またボルチオキセチンによる、抗鬱薬投与により誘発された性的機能不全(治療が原因の勃起不全)をの治療に対し重要な要求がある。したがって、鬱病患者において性的機能をさらに悪化させるのではなく改善する抗鬱薬に対する、満たされていない重要なニーズおよび市場が存在する。
【発明の概要】
【0008】
上で概説したように、陰茎勃起に効果を発揮すると同時に大鬱病性障害を治療し得るが、通常の抗鬱薬の有害作用のない化合物が、強く望まれている。具体的には、通常のSSRIの鎮静効果は、勃起に到達し維持することを望む患者にとっては望ましくない。
【0009】
本開示はしたがって、大鬱病性障害および/または勃起不全の治療での使用のための化学式(I)の化合物を提供する。特に、本開示は、大鬱病性障害と勃起不全の両方に罹患している患者における大鬱病性障害および/または勃起不全の治療での使用のための化学式(I)の化合物を提供する。発明者らは意外なことに、この化合物がラットにおける勃起に効果を有することを見いだした。発明者らは、勃起応答の持続時間および頻度の両方が若いラットに比べて成獣で高く、一方で勃起応答の程度は成獣と比較して若いラットで高かったことを見いだした。発明者らはまた意外なことに、勃起応答がより低用量でより強く、1.0mg/kgの用量よりも0.001~0.1mg/kgの低用量で、より頻繁な勃起応答をもたらすことも見出した。発明者らはまた意外なことに、この化合物が2種類の異なる動物モデル(すなわちマウスおよびラット)において抗鬱効果を有することも見出した。これらの知見は、本開示の化合物を用いる単剤療法で勃起不全と大鬱病性障害を治療する全く新しい方法を示す。最新の技術とは対照的に、本開示の化合物は、大鬱病性障害ならびに勃起不全の両方、射精障害、および不安を治療できる。これらの知見はおそらく、大鬱病性障害および勃起不全、射精障害、および/または不安、大鬱病性障害治療が原因の勃起不全、または大鬱病性障害を原因とする勃起不全に罹患している患者にとって大きく改善された生活の質をもたらすことができる。
【0010】
したがって、重要な一局面において、対象における、勃起不全、性的機能不全、鬱病、不安、および/または射精障害;またはそれらの任意の組み合わせの治療、予防、および/または緩和で用いるための、化学式(I)の化合物:
【化1】
またはその薬学的に許容可能な塩が提供される。
【0011】
別の一局面において、勃起不全および鬱病、勃起不全および性的機能不全、勃起不全および不安、勃起不全および射精障害、性的機能不全および鬱病、性的機能不全および不安、性的機能不全および射精障害、鬱病および不安、鬱病および射精障害、および/または不安および射精障害の組み合わせの治療、予防、または緩和のための方法であって、化学式(I)の化合物またはその薬学的に許容可能な塩の治療有効量をそれを必要とする対象に投与することを含む、方法が提供される。
【0012】
さらに別の一局面において、それを必要とする対象において勃起反応の程度を増強するための方法であって、化学式(I)の化合物またはその薬学的に許容可能な塩の治療有効量を対象に投与することを含む、方法が提供される。
【0013】
別の一局面において、それを必要とする対象において勃起反応の持続時間を延長するための方法であって、化学式(I)の化合物またはその薬学的に許容可能な塩の治療有効量のを対象に投与することを含む、方法が提供される。
【0014】
さらに別の一局面において、それを必要とする対象において勃起反応の頻度を増加させるための方法であって、化学式(I)の化合物またはその薬学的に許容可能な塩の治療有効量を対象に投与することを含む、方法が提供される。
【0015】
さらに別の一局面において、それを必要とする対象において海綿体の弛緩を誘導するための方法であって、化学式(I)の化合物またはその薬学的に許容可能な塩の治療有効量を対象に投与することを含む、方法が提供される。
【0016】
最後の局面において、それを必要とする対象において陰茎血流を増加させるための方法であって、化学式(I)の化合物またはその薬学的に許容可能な塩の治療有効量を対象に投与することを含む、方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】3、10および30mg/kgで経口投与してから90分後のマウス線条体における血漿中(黒色菱形)および脳中(黒丸)の化合物(I)濃度とDATトランスポーターのインビボ占有率(白抜きの棒)の関係。
【
図2】化合物(I)によるインビトロのおよびインビボのWIN結合の阻害。
【
図3】マウスにおける20mg/kg経口投与後のインビボWIN結合の経時的変化。
【
図4】麻酔したマウスの側坐核における細胞外DAレベルに対する、コカイン(黒色三角形、25mg/kg腹腔内投与、0分)、ブプロピオン(白色三角形、10mg/kg皮下、0分)、ならびに0分で30mg/kgおよび3mg/kgの化合物(I)(白色菱形、黒色菱形)の効果。細胞外DA濃度を、薬剤注射前に採取した3画分におけるモノアミンの基底値に対する割合(%)で表す(平均値±平均値の標準誤差)。
【
図5】NMRIマウスの強制水泳。化合物(I);経口、t=60分。
【
図6】マウス尾懸垂試験。オスC57、25~28g、タコニック、16/8-06。試験前の5日間、床面レベルで馴化したマウス。試験日の前に1日当たり1回で合計2回、生理食塩水を注射したマウス。22℃、N=7~8。
【
図7】ニアラミド誘導性5-HT症候群試験における化合物(I)の効果。50mg/kgニアラミド、皮下、t=120分。化合物(I);経口、t=0。n=4。
【
図8】自発運動に対する化合物(I)の効果。化合物(I);NMRIマウスに経口投与。TSE運動性。
【
図9】WAY100635(0.1mg/kg)と組み合わせた化合物(I)(活性下用量mFST)。化合物(I)(経口、60分の時点)+WAY100635(皮下、60分の時点)。
【
図10】mFSTにおいてWAY100635(1mg/kg)と組み合わせた化合物(I)(活性用量mFST)。化合物(I)(経口、60分の時点)+WAY100635(皮下、60分の時点)。
【
図11】mFSTにおいてSCH23390と組み合わせた化合物(I)(活性用量mFST)。化合物(I)(経口、60分の時点)+SCH23390(皮下、60分の時点)。
【
図12】SCH23390と組み合わせた化合物(I)(活性用量)、自発運動。化合物(I)経口+SCH23390皮下。
【
図13】ビー玉隠し。ビー玉隠し試験において、目新しい物体(ビー玉)にさらされたマウスは、それらをおがくずの床敷きに隠す。抗不安薬様活性を示す化合物は、非鎮静用量で隠されるビー玉の数を減らす。化合物(I)(IP2018)を、NMRIマウス(n=8)に経口投与し、それは、目視できるビー玉の数の用量(0.1~1.0mg/kg)依存性の増加を示し、抗不安効果を示唆する。おがくずで覆われたビー玉の数を、60分間のセッションの最後に計数した。
【
図14】ストレス誘発性異常高熱。マウスはストレスの多い出来事に直面すると、その体温が上昇する。媒体および化合物(I)(IP2018、0.1mg/kg、1mg/kg、および3mg/kg)を、NMRIマウス(各群、n=8)に経口投与し、それらは休息状態では体温を変化させなかった(上部パネル)。マウスをストレスに直面させると、媒体処置マウスではその体温が上昇したが、一方、体温上昇は、化合物(I)処置マウスでは3種類の用量のいずれにおいても有意に予防された(下部パネル)。
【
図15】マウスゼロ迷路における化合物Iの効果。マウスを7日間、媒体、デュロキセチン(10mg/kg)、および化合物I(0.1mg/kg、1mg/kg、および3mg/kg)のいずれかで処置(経口投与)した(各群、n=8)。3mg/kgの化合物Iの効果は、マウスゼロ迷路試験において10mg/kgのデュロキセチンの効果と同様であった。
【
図16】麻酔したビーグル犬における、QT間隔ペーシングのデータ(90bpm)に対する化合物(I)の効果。データを平均値±平均値の標準誤差で表し、ここでn=3であるD2t7、n=2であるD3t7、ならびにデータのないD4t7およびD4t26を除き、すべての時点でn=4である。動物は、4種類の静脈内点滴として(それぞれ、t0、D1t30、D2t30およびD3t30で開始)1、3、10、および30mg/kgの化合物(I)を受けた。各用量を、輸液ポンプを用い、5分かけて投与し、それぞれの処置についての投与容積は、3ml/kgである4番目の用量を除いて、2ml/kgであった。垂直線は、各用量の点滴の開始を表す。
【
図17】麻酔したビーグル犬におけるQT間隔ペーシングのデータ(110bpm)に対する化合物(I)の効果。データを平均値±平均値の標準誤差で表し、ここでデータのないD4t7およびD4t26を除いて、すべての時点でn=4である。動物は、4種類の静脈内点滴として(それぞれ、t0、D1t30、D2t30およびD3t30で開始)1、3、10、および30mg/kgの化合物(I)を受けた。各用量を、輸液ポンプを用い、5分かけて投与し、それぞれの処置についての投与容積は、3ml/kgである4番目の用量を除いて、2ml/kgであった。垂直線は、各用量の点滴の開始を表す。
【
図18】マウス血漿中の化合物(I)の血漿薬物動態(PK)プロファイル。
【
図19】ラット血漿中の化合物(I)の血漿薬物動態(PK)プロファイル。
【
図20】イヌにおける化合物(I)の血漿薬物動態(PK)プロファイル。
【
図21】マウスに経口投与した化合物(I)。用量対AUCは、劣線型的な動態のわずかな傾向を示している。
【
図22】ラットに皮下注で投与した化合物(I)。用量対AUCは、線型的な動態を示している。
【
図23】マウスに経口投与した化合物(I)。定常状態における血漿中濃度対用量。
【
図24】ラットに経口投与した化合物(I)。定常状態における血漿中濃度対用量。
【
図25】若いラット(6週齢のオスのウィスターラット)および老齢ラット(14~16週齢のオスラット)における化合物(I)(1mg/kg)点滴後の(A)陰茎海綿体血圧、陰茎勃起の持続時間(B)およびこれらの事象の頻度(C)の平均的自然増加。結果は、平均値±平均値の標準誤差である。
【
図26】麻酔ラットにおけるそれぞれ0.001mg/kg、0.01mg/kg、0.1mg/kg、および1mg/kgの化合物(I)の点滴後に陰茎海綿体血圧(ICP)として測定した自然勃起回数の平均的増加(n=4~6)。
【
図27】麻酔した6週齢のオスのウィスターラット(n=6)(B)および14~16週齢のオスラット(n=6)(C)における平均動脈圧(MAP)およびピーク陰茎海綿体血圧(PICP)を平均動脈圧(MAP)で割った商(PICP/MAP)として測定した勃起応答に対する、媒体(n=5)(A)および化合物(I)の平均的効果。媒体および化合物(I)を、30秒間の海綿体神経刺激に対する最大(10Hz、1ms、6V)および最大下(submax)応答(10Hz、1ms、0.6~1.55V)を確立した後に、投与した。最大下刺激を、薬剤投与または媒体投与の3分、13分、23分、および33分後に繰り返した。上部の折れ線は、平均動脈圧(MAP)を示し、棒グラフは、勃起応答((PICP/MAP)・100)を示し、ここでPICPはピーク陰茎海綿体血圧である。
【
図28】男性における第1相試験において化合物(I)を経口投与した後の、血漿中の経時的化合物(I)濃度。本図は、健康なボランティアにおける0.25mg/kg、0.5mg/kg、0.75mg/kg、および1mg/kgの投与後の血漿中濃度を示す。
【
図29】ラット海綿体の短冊状試料の休止状態に対する化合物(I)の効果を示すオリジナルのチャート。増加する濃度(10
-9~3x10
-5M)の化合物(I)を、添加した。化合物(I)は、わずかな弛緩を誘起し、一方で最高濃度(3x10
-5M)で収縮が観察されることもあった(下部のチャート)。これらのチャートは、媒体、シルデナフィル(10
-7M)、グアネチジン(10
-5M)、およびL-NOARG(10
-4M)の存在下での、化合物(I)応答を示す。
【
図30】ラット海綿体の短冊状試料の休止状態に対する化合物(I)の効果を示す平均的結果。増加する濃度(10
-9~3x10
-5M)の化合物(I)を、添加した。化合物(I)は、わずかな弛緩を誘起し、一方で最高濃度(3x10
-5M)で収縮が観察されることもあった(下部のチャート)。化合物(I)応答は、媒体、シルデナフィル(10
-7M)、グアネチジン(10
-5M)、およびL-NOARG(10
-4M)の存在下で得られた。結果は、5匹のラットからの調製試料の平均値±平均値の標準誤差である。
【
図31】フェニレフリン(Phe)で収縮させたラット海綿体の短冊状試料における化合物(I)に対する弛緩を示すオリジナルのチャート。代表的なチャートは、フェニレフリンにより収縮させた調製試料における、媒体、グアネチジン(10
-5M)、L-NOARG(10
-4M)、シルデナフィル(10
-7M)の存在下での化合物(I)弛緩が起こることを示す。
【
図32】ラット海綿体の短冊状試料において化合物(I)により誘導される平均的弛緩。フェニレフリンにより収縮させた調製試料における、増加する濃度(10
-9~3x10
-5M)の化合物(I)。化合物(I)弛緩は、媒体、グアネチジン(10
-5M)、シルデナフィル(10
-7M)、およびL-NOARG(10
-4M)の存在下で得られた。結果は、5匹のラットからの調製試料の平均値±平均値の標準誤差である。
*化合物(I)に関する対照曲線と比較して、P<0.05。
【
図33】マウス勃起機能からの血流レーザードップラー生データ(上部パネル)、およびマウス勃起組織における平均的血流変化(EF)(下部パネル)。化合物(I)(1mg/kg)によって誘導される陰茎血流の増加は、非常に顕著であり、4.99倍増加した(n=2)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本開示は、勃起不全および/または鬱病、射精障害および/または不安を含む、疾病または障害、あるいは疾病群または障害群の治療における使用のための化学式(I)の化合物(化合物(I))に関する。上記化合物の投与によるそのような疾病または障害の治療を、本明細書中で説明する。より具体的には、化合物(I)がマウスおよびラットにおいて抗鬱薬として作用することを示す。化合物(I)がラットにおいて勃起を誘導し、かつ抗不安効果を有することも示す。
【0019】
定義
「薬学的に許容可能な」は、それが、通常は安全で、無毒であり、生物学的にもそれ以外でも望ましくなくない医薬組成物の調製に有用であることを意味し、かつそれが獣医用途ならびにヒトの医薬用途に許容可能であるということを含む。
【0020】
化合物の「薬学的に許容可能な塩」という用語は、本明細書で定義されるように、薬学的に許容可能であり、かつ親化合物の所望の薬理活性を保持する塩を指す。薬学的に許容可能な塩としては、無機酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸)の添加によって形成される酸付加塩;または有機酸(例えば、酢酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、カンファースルホン酸、クエン酸、エタンスルホン酸、フマル酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリコール酸、ヒドロキシナフトエ酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ムコン酸、2-ナフタレンスルホン酸、プロピオン酸、サリチル酸、コハク酸、酒石酸、p-トルエンスルホン酸、トリメチル酢酸)で形成される酸付加塩;または親化合物に存在する酸性プロトンが金属イオン(例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類イオン、またはアルミニウムイオン)による置換で形成される塩;あるいは親化合物に存在する酸性プロトンが有機塩基または無機塩基に配位するときに形成される塩が挙げられる。許容可能な有機塩基としては、例えば、ジエタノールアミン、エタノールアミン、N-メチルグルカミン、トリエタノールアミン、モルホリン、およびトロメタミンが挙げられる。許容可能な無機塩基としては、例えば、アンモニア、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムおよび水酸化ナトリウムが挙げられる。
【0021】
「治療有効量」は、化合物の量であって、病態治療のために対象に投与されるときに、病態治療に対するそのような治療をもたらすのに充分である、量を意味する。「治療有効量」は、治療する疾病または障害の状態、治療する障害の重症度、対象の年齢と相対的健康度、投与経路と投与形態、通院する担当医師または獣医師の判断などによって異なるであろう。
【0022】
本明細書中の用語「治療」または「治療すること」は、臨床結果を含む有益な結果または所望の結果を得るためのアプローチである。有益なまたは所望の臨床結果としては、検出可能であっても検出不能であっても1種類以上の症状または病状の緩和または改善、疾病または障害の程度の減弱、疾病または障害の状態の安定化(すなわち、悪化しないこと)、疾病または障害の予防、疾病または障害の進行の遅延または緩徐、病状の改善または緩和、および寛解(部分的あるいは完全な寛解のいずれか)が挙げられるが、これらのみに限定されない。
【0023】
化学構造物中に不斉炭素が存在するときはいつでも、他で特記しない限りその不斉炭素に関連するすべての立体異性体が構造物に含まれるものとする。カーン・インゴルド・プレローグ(RS)表記法を用いて、不斉炭素原子は、(R)-配位または(S)-配位で表されてよく、化合物は、その立体異性体の混合物、例えばラセミ体混合物、または一方の立体異性体のみとして表されてよい。本明細書に開示の二環式部分に関しては、置換基は、endo配位、exo配位、もしくはその両方で接着されてよい。二環状部分に関連するすべての立体異性体が、他で特記しない限り、構造物に含まれるものとする。
【0024】
本発明の化合物は、互変異性型で存在してよい。任意のそのような互変異性体は、本発明の範囲に含まれると見なされる。
【0025】
また、本明細書中で特定される化学式(I)の化合物中で、いずれの水素原子も重水素(2H)で置換されてよく、かつ対応する数の水素原子の代わりに1つ以上の重水素原子を含む、化学式(I)のそのような重水素化された化合物はいずれも、本発明の範囲に含まれると見なされる。
【0026】
プロドラッグを作製し得ることは、当該技術分野において公知である。当業者であれば、プロドラッグを作製するためにいかなる種類の分子部分を薬剤に導入できるかを理解するであろう。化学式(I)の化合物に関連するプロドラッグは本発明の範囲に含まれると見なされる。
【0027】
用語「P2018」、「化合物(I)」、および「化学式(I)の化合物」は、本明細書において同義語として用いられる。
【0028】
使用のための化合物
本開示の一実施態様において、勃起不全、鬱病、性的機能不全、不安、および/または射精障害;またはそれらの任意の組み合わせの治療、予防、および/または緩和における使用のための、化学式(I):
【化2】
の化合物(化合物(I))またはその薬学的に許容可能な塩が、提供される。実施例の節で概説した試験は、ラットの勃起機能に対する化合物の正の効果を明らかにし、一方で鬱病の治療のためのこの化合物の使用が確立された。
【0029】
本開示の一実施態様において、化学式(I)の化合物またはその薬学的に許容可能な塩が、鬱病に起因する性的機能不全の治療、予防、または緩和のために用いられる。
【0030】
本開示の一実施態様において、化学式(I)の化合物またはその薬学的に許容可能な塩が、鬱病に起因する勃起不全の治療、予防、または緩和のために用いられる。
【0031】
本開示の一実施態様において、化学式(I)の化合物またはその薬学的に許容可能なその塩が、勃起不全および/または鬱病の治療、予防、または緩和のために用いられ、ここで勃起不全は、治療が原因の勃起不全である。治療が原因の勃起不全は、勃起不全が他の疾病、障害、または病態の治療に起因する、勃起不全を意味する。
【0032】
本開示の一実施態様において、治療が原因の勃起不全は、薬剤誘導性勃起不全であり、ここで対象における他の疾病、障害、または病態の治療のために用いられた薬剤が、有害作用として勃起不全を起こす。薬剤の有害作用は、例えば、本質的に心理的(性欲低下など)であり、それは、勃起に到達するまたはそれを維持することを困難にし得る。あるいは、薬剤の有害作用は本質的に生理的(ホルモンなど)であり、それは、勃起に到達するまたはそれを維持することを困難にし得る。また、精神障害の心理的側面(悲しみの感情、不安、または無関心など)が鬱病に罹患している人のリビドーを低下させることがあり、それにより勃起に到達する、またはそれを維持するその人の能力に悪影響を及ぼすことも考えられる。
【0033】
一実施態様において、本発明はそれを必要とする対象に化学式(I)の化合物を投与することによる、鬱病および勃起不全、鬱病治療が原因の勃起不全、または鬱病を起因とする勃起不全、大鬱病性障害に関連する不安、射精障害を伴う大鬱病性障害、射精障害を伴う不安、性的機能不全による不安、大鬱による不安と合併する性的機能不全、射精障害と合併し性的機能不全を伴う大鬱、および/または射精障害を伴う性的機能不全に関連する不安の治療に関する。
【0034】
本開示の一実施態様において、化学式(I)の化合物またはその薬学的に許容可能な塩が、勃起不全の治療、予防、または緩和のために用いられ、ここで勃起不全は、抗鬱薬、NSAID、フィナステライド、抗てんかん薬、または神経弛緩薬である薬剤に起因する、治療が原因の勃起不全である。
【0035】
本開示の一実施態様において、化学式(I)の化合物またはその薬学的に許容可能な塩が、勃起不全の治療、予防、または緩和のために用いられ、ここで勃起不全は、抗鬱薬である薬剤に起因する、治療が原因の勃起不全である。
【0036】
本開示の一実施態様において、化学式(I)の化合物またはその薬学的に許容可能な塩が、勃起不全の治療、予防、または緩和のために用いられ、ここで勃起不全は、抗鬱薬による鬱病治療に起因する、治療が原因の勃起不全である。一実施態様において、該抗鬱薬は例えば、SSRIまたはSNRIである。化学式(I)の化合物はセロトニン/ドーパミン再取り込み二重作用阻害剤であるので、化合物は、勃起不全および鬱病の両方の治療において有用である。したがって、一実施態様において、上記抗鬱薬による治療を中止し、化学式(I)の化合物を、代わりに投与して、勃起不全および鬱病の両方を治療する。さらに別の一実施態様において、抗鬱薬による治療を中止しないが、本開示の化合物を投与して、この抗鬱薬に起因する治療が原因の勃起不全の症状を緩和する。
【0037】
本開示の一実施態様において、化学式(I)の化合物またはその薬学的に許容可能な塩が、性的機能不全および/または上記性的機能不全に起因する鬱病の治療、予防、または緩和のために用いられる。
【0038】
本開示の一実施態様において、化学式(I)の化合物またはその薬学的に許容可能な塩が、勃起不全および/または該勃起不全に起因する鬱病の治療、予防、または緩和のために用いられる。化合物は、それがセロトニン/ドーパミン再取り込み二重作用阻害剤であるので、勃起不全に起因する鬱病の治療に特に有用と考えられる。
【0039】
一実施態様において、化学式(I)の化合物またはその薬学的に許容可能な塩が、性的機能不全および/または勃起不全、および/または鬱病および/または不安の組み合わせの治療、予防、または緩和のために用いられる。
【0040】
本開示の一実施態様では、化学式(I)の化合物を含む組成物が、検討される。組成物は、少なくとも1種類の薬学的に許容可能な担体、賦形剤、または希釈剤をさらに含む。
【0041】
本開示の一実施態様において、本開示の化合物が、性的機能不全、勃起不全、および/または鬱病、または射精障害を治療するために、それを必要とする対象に投与される。好ましい一実施態様において、対象は、哺乳動物である。さらなる好ましい一実施態様において、哺乳動物は、ヒトである。さらに好ましい一実施態様において、ヒトは、男性である。
【0042】
化学式(I)の化合物は、セロトニン/ドーパミン再取り込み二重作用阻害剤である。したがって、本開示の一実施態様において、化学式(I)の化合物が、勃起不全、鬱病、性的機能不全、および/または射精障害;またはそれらの任意の組み合わせ;勃起不全および不安、性的機能不全および不安、鬱病および不安、または不安および射精障害の組み合わせの治療、予防、または緩和のために用いられる。さらなる一実施態様において、化学式(I)の化合物が、勃起不全および鬱病、勃起不全および性的機能不全、勃起不全および不安、勃起不全および射精障害、性的機能不全および鬱病、性的機能不全および不安、性的機能不全および射精障害、鬱病および不安、鬱病および射精障害、および/または不安および射精障害の組み合わせの治療、予防、または緩和のために用いられる。化学式(I)の化合物は、それがセロトニン/ドーパミン再取り込み二重作用阻害剤であるので、上記の疾病または障害およびそれらの組み合わせの治療、予防、または緩和に特に有用である。
【0043】
本開示の化合物は、医薬組成物中に含まれてよい。組成物は、所望の治療法に適合するいずれかの利便的な経路で投与されてよい。好ましい投与経路としては、経口投与、特に、錠剤による、カプセルによる、糖衣による、散剤による、または液体形態による経口投与、吸入による、パッチによるなどの局所投与、および非経口投与、特に皮膚、皮下、筋肉内、または静脈注射が挙げられる。
【0044】
表皮への局所投与の場合、本発明の化合物は、軟膏、クリーム、またはローション、ゲル、あるいは経皮パッチとして製剤化されてよい。軟膏およびクリームは、例えば、好適な増粘剤および/またはゲル化剤を添加して水性または油性の基剤で製剤化されてよい。ローションは、水性または油性の基剤で製剤化されてよく、一般的には1種類以上の乳化剤、安定化剤、分散剤、懸濁化剤、増粘剤、または着色剤をさらに含む。
【0045】
治療の方法
本明細書中に後述する実施例に示されるように、化学式(I)の化合物は、勃起不全、鬱病、性的機能不全、不安、および/または射精障害などの疾病または障害の治療のために有用である。すなわち、本開示の一実施態様は、勃起不全、鬱病、性的機能不全、および/または射精障害;またはそれらの任意の組み合わせ、あるいは勃起不全および不安、性的機能不全および不安、鬱病および不安、または不安および射精障害の組み合わせを治療、予防、または緩和するための方法であって、化学式(I)の化合物の治療有効量をそれを必要とする対象に投与することを含む、方法を提供する。実施例25に示されるように、化合物(I)は、若いラットおよび成獣ラットの両方において勃起を誘導する。
図25に概要を示すように、化合物(I)は、勃起応答の程度を増強でき、勃起応答の持続時間を延長し、および/または勃起応答の頻度を増加させる。したがって、本開示の一実施態様は、それを必要とする対象において勃起応答の程度を増強するための方法であって、化学式(I)の化合物の治療有効量を対象に投与することを含む、方法を提供する。勃起応答の増強された程度は、若い被検動物において特に顕著であった。すなわち、本開示のさらなる一実施態様において、対象は、若い男性である。本開示の特定の一実施態様において、男性は、40歳未満(35歳未満など、30歳未満など、25歳未満など、20歳未満など)である。本開示の別の一実施態様は、それを必要とする対象において勃起応答の持続時間を延長するための方法であって、化学式(I)の化合物の治療有効量を対象に投与することを含む、方法を提供する。勃起応答の持続時間の延長は、オスの成獣被検動物において特に顕著であった。すなわち、本開示のさらなる一実施態様において、対象は、成人男性である。特定の実施態様において、対象は、20歳超の成人男性(25歳超の成人男性など、30歳超の成人男性など、35歳超の成人男性など、40歳超の成人男性など、45歳超の成人男性など、50歳超の成人男性など、55歳超の成人男性など、60歳超の成人男性など、65歳超の成人男性など、70歳超の成人男性など、75歳超の成人男性など)である。本開示の他の一実施態様は、それを必要とする対象において勃起応答の頻度を増加させるための方法であって、化学式(I)の化合物の治療有効量を対象に投与することを含む、方法を提供する。勃起応答の頻度の増加は、オスの成獣被検動物において特に顕著であった。すなわち、本開示のさらなる一実施態様において、対象は、成人男性である。特定の実施態様において、対象は、20歳超の成人男性(25歳超の成人男性など、30歳超の成人男性など、35歳超の成人男性など、40歳超の成人男性など、45歳超の成人男性など、50歳超の成人男性など、55歳超の成人男性など、60歳超の成人男性など、65歳超の成人男性など、70歳超の成人男性など、75歳超の成人男性など)である。
【0046】
実施例27に示されるように、化合物(I)は、海綿体の弛緩を誘導できる。すなわち、本開示の一実施態様において、それを必要とする対象において海綿体の弛緩を誘導するための方法であって、化学式(I)の化合物の治療有効量を対象に投与することを含む、方法が提供される。
【0047】
実施例28に示されるように、マウスへの化合物(I)の投与は、被検動物において陰茎血流を増加させた。すなわち、本開示の一実施態様は、それを必要とする対象において陰茎血流を増加させるための方法であって、化学式(I)の化合物の治療有効量を対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0048】
勃起不全および/または関連する副作用(勃起反応の程度の減少、勃起応答の持続時間の短縮、勃起応答の頻度の低下、海綿体の弛緩障害、または陰茎血流の減少など)を治療するための上記の方法はいずれも、勃起不全および/または鬱病、不安、および/または射精障害を合併する上記関連副作用に罹患した対象の治療のためにさらに有用であり得る。すなわち、本開示の一実施態様は、それを必要とする対象において、勃起不全を治療、予防、または軽減するための、勃起応答の程度を増強するための、勃起応答の持続時間を延長するための、勃起応答の頻度を増加させるための、海綿体の弛緩を誘導するための、および/または陰茎血流を増加させるための方法であって、対象がさらに、鬱病、不安、または射精障害に罹患している、方法を提供する。
【0049】
実施例
実施例1:化合物安定性
純度および安定性試験を、エキソ-7-(8-アザ-ビシクロ[3.2.1]オクト-3-イルオキシ)-クロメン-2-オン(化合物(I))塩酸塩無水物について実施し、化合物は固体状態でも溶液状態でも化学的および熱力学的に安定であるが、溶液状態の場合には光に対し感受性であることを示す。結果を、表1にまとめる。
【0050】
【0051】
結論
化合物(I)は、様々なpH値にわたり溶液中で良好な安定性を示すが、酸化および光に対し感受性である。固体状態では、化合物(I)は26日にわたって安定である。
【0052】
実施例2:インビトロでの効力
化合物(I)は、一連の機能アッセイにおけるプロファイルに基づき、モノアミン再取り込み阻害剤として特徴付けられている(表2)。ヒトとラットの系の間の良好な相関関係が、5-HT結合アッセイにおいて認められたが、NAトランスポーターについてより低い程度で認められた(表3)。
【0053】
【0054】
【0055】
結論
インビトロで、化合物(I)は、5-HTトランスポーターの強力な阻害剤であり、ヒトのNAトランスポーターおよびDAトランスポーターに対して、それぞれ26倍および56倍低い親和性を有する。しかしながら、5-HT:NA:DAの比は、利用したアッセイ系に依存する(表4も参照のこと)。
【0056】
実施例3:インビトロでの選択性
様々な自家製ニコチン結合アッセイを追加したMDSリードプロファイリングスクリーン(LeadProfilingScreen)(67種類の異なる受容体、トランスポーターおよびイオンチャネルから成る)において、化合物(I)は、10μMで50%超の阻害を示す少数の例外を除き、関連する分子標的に対しかなり選択的であることが分かった(表4)。IC50またはKI値を次に、初回のスクリーニングで>60%阻害が観察された標的について、決定した。
【0057】
【0058】
化合物(I)は、ニコチン性アセチルコリン受容体および5-HT3受容体に対しマイクロモル範囲で親和性を示した(表5)。
【0059】
【0060】
結論
化合物(I)は、目的とする受容体であるSERT、NET、およびDATに対し非常に選択的であり、一方で少数の他の受容体へは実質的により低い阻害を有してのみ結合する。
【0061】
実施例4:インビボでの作用の神経化学的機構-微小透析
本試験の目的は、麻酔ラットおよびマウスの腹側海馬(Hipp)、前頭前野皮質(PFC)、線条体(STR)および側坐核(N.Acc)において、セロトニン、ノルアドレナリンおよびドーパミンの脳内レベルに対する化合物(I)の投与後の影響を、インビボ微小透析技術によって、調べることであった。化合物(I)は、セロトニン/ドーパミン再取り込み二重作用性阻害剤であり、セロトニン選択性の取り込み阻害剤であるシタロプラムと比較して試験された。化合物(I)を、0.25~30mg/kgの用量での皮下注射の後、試験した。化合物(I)は、前頭前野皮質(PFC)において用量依存性にセロトニン(5-HT)を増加させた(下記の表6に曲線下面積(AUC0-160分)として示す):0.25mg/kgの用量は、190±15%の増加を誘導し、1mg/kgで(AUC0-160分)252±48%までのほぼ最大の増加であった。その理由は10mg/kgの用量はさらなる増加を誘導しなかった(すなわち、263±47%)からである。5-HT1A自己受容体拮抗薬であるWAY-100635による前処理は、前頭前野皮質(PFC)の5-HTレベルにおける化合物(I)(0.25mg/kg)が誘導する増加の軽微な増加をさらに誘導した。
【0062】
化合物(I)は、前頭前野皮質(PFC)において、1mg/kgでドーパミン(DA)レベルのわずかな増加(132±9%)を誘導し、10mg/kgでさらなる増加(211±40%)を誘導した。
【0063】
10mg/kgで化合物(I)は、前頭前野皮質(PFC)においてノルアドレナリン(NA)(AUC0-160分)を中程度にしか増加(135±4%)させなかった。10~30mg/kgで化合物(I)は、側坐核(N.Acc)において、DAレベルを用量依存的に大幅に増加させた(それぞれ、192±42および604±88%)。3mg/kgおよび10mg/kgの皮下注で試験し化合物(I)は、線条体でのDA(AUC0-160分)にわずかな効果しか発揮しなかった(それぞれ、137±21および134±43%)。
【0064】
腹側海馬(Hipp)で試験した場合、3mg/kgの皮下で化合物(I)は、5-HTレベル(AUC0-160分)を顕著に増加させた(433±53%)が、ノルアドレナリンのレベル(AUC0-160分)(138±13%)およびドーパミンのレベル(AUC0-160分)(142±36%)はそれほど効果的に増加させなかった。
【0065】
類似試験からの比較データを、シタロプラム5mg/kgの腹腔内投与で得た。結果は、5mg/kgで投与したシタロプラムの効果は、でラット腹側海馬(Hipp)での5-HTレベルに対する測定された3mg/kgでの化合物(I)とほぼ同一の効果を誘導したことを示した。前頭前野皮質(PFC)において、化合物(I)およびシタロプラムの両方が、5-HTレベルを増加させたが、化合物(I)のみが、DAレベルに対する効果およびNAレベルに対するわずかな効果を誘導した。
【0066】
【0067】
結論
全体の結果は、化合物(I)がインビボのセロトニンおよびドーパミン再取り込みの強力な阻害剤であり、PFCにおいて5-HTレベルとDAレベルのバランスのとれた増加をもたらし、NAレベルにはわずかな影響しか与えないことを示した。
【0068】
実施例5:インビボでの作用の神経化学的機構-DAT阻害のMPTPモデル
さらにMPTP枯渇モデルは、化合物(I)がインビボで、C57マウスの線条体組織においてドーパミントランスポーター(DAT)の阻害剤としての効力を有し、15mg/kgの用量でおおよそ90%の保護および30mg/kgでわずかなさらなる効果ををもたらすことを、明確に示す(表7)。このモデルにおいて化合物(I)は、MPTP代謝産物MPP+がC57マウスの線条体組織のドーパミン性終末に流入することより誘導されるドーパミン枯渇に対し保護を誘導した。
【0069】
【0070】
結論
化合物(I)は、C57マウスの線条体組織においてドーパミントランスポーター(DAT)の阻害剤としての効力を有する。
【0071】
実施例6:マウスおよびラットにおけるPD/PK試験
化合物(I)の脳内濃度とトランスポーター占有率の間の関係を、マウスにおけるインビボ
3H-WIN35.428結合で調べた。用量レベルにおけるそれぞれの増加に伴う血漿中濃度および脳内濃度の増加、および投与90分後の中枢神経系でのインビボDAトランスポーター占有率の対応する増加の間の関係。いずれの場合にも、血漿中濃度および脳内濃度と脳におけるインビボのトランスポーター占有率の間に密接な相関関係があり、脳対血漿比は、3、10および30mg/kgでおおよそ4であった(
図1)。化合物(I)は、線条体においてインビトロおよびインビボでWIN結合を濃度依存的に阻害する(
図2)。インビボWIN結合の阻害を、化合物の経口投与後90分で測定した。
【0072】
実施例7:インビボにおけるトランスポーター占有率
化合物(I)のインビボ受容体占有率(RO%)を、計算式:
RO%(推定)= DOSE・100 / (ED50 + DOSE)
を用いてマウス強制水泳試験(mFST)およびマウス運動性試験において、MED値(DOSE)にて算出した。計算は、5-HTおよびNAのエクスビボ取り込みならびにインビボWIN結合におけるED50値に基づいた。結果を表8に示す。
【0073】
【0074】
実施例8:乱用傾向
インビボ結合の経時的変化に関する試験では、20mg/kgで経口投与したマウスにおいて、WIN結合の阻害が経時的に増加し、このことはDAトランスポーターのインビボ阻害の発現が遅いことを示している(
図3)。ラットにおける化合物(I)の30mg/kg皮下注射は、ブプロピオンの10mg/kg皮下およびコカインの25mg/kg腹腔内投与に比べて微小透析(側坐核)において遅い動態パターンを示す。インビボ結合データを
図4に示す。ドーパミン作動薬の精神異常発現副作用に関する主要因子は、DA放出それ自身の増加よりもむしろDAトランスポーターの阻害速度であることが知られている。このより遅い動態パターンは、乱用の可能性に関するリスクが低いことを示しているのかもしれない。
【0075】
実施例9:インビボでの薬理学的活性-鬱病に対するインビボ効力とその機構
化合物(I)を、抗鬱薬の臨床効果を予測するために最も広く利用されている行動スクリーニング法の2つ:マウス強制水泳試験(mFST)およびマウス尾懸垂試験(mTST)、で試験した。これらのパラダイムは、主要なタイプの抗鬱薬治療(三環化合物、モノアミンオキシダーゼ阻害剤、非定型抗鬱薬、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)、セロトニン-ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI))および電気けいれんショックに対するそれらの感受性により明らかなように、高い薬理学的妥当性を示す。表9ならびに
図5および
図6に要約されるように、化合物(I)は、媒体処置マウスに比較して、mFSTおよびmTSTにおいてそれぞれ、有意に泳ぐ距離を増加させおよび不動時間を短縮した。これらの効果は、潜在的な抗鬱薬様活性を示唆する。mFSTでは、化合物(I)の効果は、参照化合物による処置後の効果よりも強力であった(mFST:化合物(I)>シタロプラム>デュロキセチン)。mTSTでは、化合物(I)の効果は、参照化合物による処置後の効果と同等の効力、あるいはより強力であった(化合物(I)=シタロプラム>フルオキセチン)。
【0076】
【0077】
化合物(I)を、インビボでの5-HT再取り込みをブロックする(ニアラミド誘導性5-HT症候群(m5-HT))化合物の能力を評価するためによく用いられる古典的試験で試験した。さらに、化合物(I)を、DA再取り込みをブロックしそれにより運動性を惹起する能力の尺度としての自発運動パラダイム(mLA)で試験した。>60%のDAトランスポーター阻害がこの試験で運動性増加を誘導するために必要であることが、一般的に受け入れられている。表10ならびに
図7および
図8に要約されるように、化合物(I)は、ニアラミド前処理マウスにおいて5-HT症候群様の行動(インビボ5-HT再取り込み阻害の指標となる活動)を強力に増強した。化合物(I)の効果は、試験した参照化合物の効果よりも100倍強力であった。さらに、化合物(I)は、10mg/kg(2時間試験)および30mg/kg(6時間試験)で自発運動を増加させ、これはDA再取り込み阻害剤特性を示唆する。一方、デュロキセチンおよびシタロプラムは、効果がなかった。運動性に対する化合物(I)の効果は、発現は遅いが持続は長いものであった。
【0078】
【0079】
化合物(I)の抗鬱薬様効果において5-HTおよびDA作動性神経伝達が果たした役割をさらに特徴付けるために、5-HT1A受容体およびD1受容体の潜在的な関与を、mFSTで調べた。化合物の活性下/活性用量を、WAY1006351(5-HT1A受容体拮抗薬)およびSCH23390(D1受容体拮抗薬)のそれぞれと組み合わせて試験した。表11ならびに
図9および
図10に示すように、低用量のWAY100635(シナプス前5-HT1A受容体を阻害する可能性が最も高い)と通常の活性下用量の化合物(I)の組み合わせは、mFSTにおける顕著な抗鬱薬様活性をもたらし(MED:0.1mg/kg、用量に応答して左に10倍シフト)、このことは化合物(I)の作用機構において5-HT機能が増加したことを示唆する。これらのデータはまた、化合物(I)がWAY100635と組み合わされるとPFCにおいて5-HTを増強することを示す微小透析試験とよく一致する。対照的に、より高用量のWAY100635(シナプス前およびシナプス後5-HT
1A受容体の両方をブロックする可能性が最も高い)と活性用量の化合物(I)の組み合わせは、化合物の活性に影響を与えなかった(MED:1mg/kg)。この結果は、DAが1mg/kg程度に低い用量ですでに寄与し得ることを示唆している。
図11および
図12に示すように、化合物(I)の抗鬱薬様活性は、mFSTにおいて活性用量を非鎮静用量のSCH23390と組み合わせた場合、減弱し(MED:10mg/kg、用量に応答して右に10倍シフト)、このことは活性用量(D1受容体媒介性)におけるDA機能の増加を示唆する。この仮説は、類似の用量でPFCにおける増強されたDA放出を示す微小透析試験とよく整合し、より高用量のWAY100635を用いて得られたデータを説明する可能性がある。興味深いことに、化合物(I)とSCH23390の組み合わせは、化合物(I)の全体的な自発運動プロファイルに影響を与えず、このことは化合物の抗鬱薬様活性が、PFCおよび、線条体でなく、おそらくは側坐核の5-HT/DA相互作用により介在される可能性が最も高いことを示唆している。
【0080】
【0081】
結論
化合物(I)が5-HT症候群(MED:0.1mg/kg)アッセイにおいて有意な活性を示したことは、この化合物が5-HT再取り込み阻害剤であることと整合する。化合物はまた、より高用量(10および30mg/kg、経口投与)で自発運動の有意な増加を誘導し(>60%DAトランスポーター阻害に相当する)、強力なDA再取り込み阻害剤特性を示唆する。さらに、単純効能アッセイ(mFST、mTST)で試験した場合、化合物(I)は、強力な抗鬱薬特性を示した。これらのアッセイにおける効能は、選択的拮抗薬を用いる組み合わせ試験からも明らかなように、同じ用量範囲内で5-HTおよびDA機構の両方を含むと考えられた。結論として、化合物(I)は新規の抗鬱薬様の特性を潜在的に有する5-HT/DA再取り込み阻害剤であると考えられる。
【0082】
実施例10:不安に対するインビボ効力
化合物(I)を、臨床的抗不安効果を予測するために広く利用される3種類の行動スクリーニング法:マウスのビー玉隠し試験(mMB)、マウスゼロ迷路(mZM)およびマウスのストレス誘発性異常高熱試験(mSIH)、で試験した。
【0083】
【0084】
表12ならびに
図13、14および15に要約されるように、化合物Iは、デュロキセチンと同様に、反復処置後に有意にmMB試験において隠し行動を減少させかつmZM試験において開放区間で過ごす時間を増加させた。化合物Iの抗不安剤様効果は、mMB試験においてデュロキセチンよりも強力であり、mZM試験において同等の効力であった。非常に興味深いことに、化合物Iは、mSIH試験においてストレス誘発性異常高熱を減弱させたが、デュロキセチン処置後にこのような効果はなかった。一般に、第2世代および第3世代の抗鬱薬は、この試験において不活性であり、したがって予期神経症の動物モデルにおける化合物I固有の特性を強調する。
【0085】
実施例11:前臨床安全性薬理学-HERGチャンネル試験
hERGに対するKv11.3およびKCNE1(minK)を安定に発現するHEK293細胞株を、確立した。hERGチャンネルにより運ばれる電流量に対する化合物(I)の効果を、細胞全膜パッチクランプ実験で評価した。チャンネルを、ヒトの心臓活動電位を模倣するように設計した電圧プロトコルにより活性化した。10μMで、化合物(I)は電流をブロックし推定されるKiは>10μMであった。
【0086】
実施例12:前臨床安全性薬理学-麻酔したイヌにおける心臓血管の安全性
動脈圧(平均、収縮期および拡張期)における一貫性のある変化は、化合物(I)を10および30mg/kgで投与した後の見かけの用量依存性の減少を除き、α-クロラロースで麻酔したイヌへの化合物(I)の1、3、10および30mg/kg静脈投与後に観察されなかった。用量依存性の心拍数増加が、1、3、10および30mg/kgの化合物(I)の投与後に認められ、これは、RR間隔における同時の用量依存性の短縮を伴った。
【0087】
PR間隔およびQRS時間は、1、3、10および30mg/kgでの化合物(I)投与の影響を比較的受けなかったが、PR間隔の例外は、化合物(I)を30mg/kgで投与した後にこの間隔が潜在的に短縮されたことである。QT間隔における一貫性のある変化は、1、3、10および30mg/kgの化合物(I)の投与後に観察されなかった。QTcF間隔およびQTcV間隔を得るために心拍数/RR間隔における変化の補正を行った場合、明確な用量依存性の増加が認められた。これはまた、心臓が90または110bpmのいずれかで拍動した期間の後にも認められた(
図16および
図17)が、表13に示されるように、これは、6500~15,000ng/mlの血漿中濃度で発生した。
【0088】
【0089】
実施例13:マウスおよびラットにおける生体可用性
生体可用性試験を、メスのNMRIマウスおよびオスのウィスターラット(N=4)で実施した。血漿試料を、24時間まで採取した。これらの試験は、生体可用性がマウスにおいて最大である(74%)ことを示す。ラットでの生体可用性は3%であり、そのためラットで行った後の試験は皮下投与を用いる。化合物(I)は即座に吸収される。マウスにおける血漿PKプロファイルは、1次除去速度論を示す(
図18および
図19を参照のこと)。T
1/
2は、静脈投与後に比較的速く、マウスおよびラットでそれぞれ0.6時間および0.8時間である。表14は、齧歯類における生体可用性試験のPKパラメータの要約である。
【0090】
【0091】
実施例14:イヌにおける生体可用性
生体可用性試験を、イヌにおいても実施した。1匹のメスイヌおよび1匹のオスイヌに、2.5mg/kgの経口投与、および0.5mg/kgの静脈投与を行った。2.5mg/kgの用量の投与後に、幾らかの中枢神経系効果が、オスおよびメスのイヌの両方において観察された。7日後に行った静脈投与は、観察可能な中枢神経系効果を防止するために0.5mg/kgの用量を選択した。経口投与および静脈投与間の差異は、ある程度生体可用性を過大評価する可能性がある。生体可用性は、オスのイヌで84%、メスで114%であった。血漿中除去速度論は、静脈投与後に1次速度論を示した(
図20)。T
1/
2は、2匹のイヌのいずれにおいても、また経口投与および静脈投与後のいずれにおいても、同じ範囲である(1.4~1.7時間)。
【0092】
【0093】
実施例15:単回投与後のマウスおよびラットにおける線型性試験
比較的低用量で皮下注投与したラットからのPKデータは、AUC対用量として表すと、非常に明確な線型的動態を示す。しかし、比較的高用量を経口投与したマウスからのPKデータは、劣線型的な動態の傾向を示した。
【0094】
化合物(I)を、マウスに30および60mg/kgで経口投与した。血漿試料を、24時間まで採取した。結果を表16および
図21に示す。
【0095】
【0096】
化合物(I)を、1、5および10mg/kgでラットに皮下投与した。2血漿試料を、24時間まで採取し分析した。結果を、表17および
図22に示す。
【0097】
【0098】
実施例16:マウスおよびラットにおける反復投与後の線型性
単時点データは、両方の性に投与したマウスおよびラットでの14日間の反復投与試験の2セットから利用可能である。3種類の低用量投与を、1つの試験として一緒に実施し、最大用量投与を、単一の付随試験として別の機会に実施した。
【0099】
マウスは、劣線型的な動態の傾向を示すようであるが、ラットは、やや優線型的な動態の傾向を示す。この差異は、投与方法における固有の差異の結果であるかもしれない。これらの試験において化合物は、単回投与試験でのようにTween80中でなく5%グルコース(透明溶液)中で投与されたことに留意されたい。
【0100】
化合物(I)を、15、30、60および90mg/kgで14日間経口投与した。試料を、最後の投与の2時間後に採取した。マウスは、反復投与後に劣線型的な動態の傾向をしめすようである。特にオスのマウスは、90mg/kgの最後の経口投与で血漿中濃度の相当な上昇を示す。15~60mg/kg用量では、メスのマウスはオスより高い血漿中濃度を示すが、90mg/kgで曲線が交差し、オスのマウスがより高い濃度を示す(
図23)。
【0101】
化合物(I)を、5、10、15および25mg/kgで14日間皮下投与した。試料を、最後の投与から2時間後に採取した。オスおよびメスのラットはいずれも、反復投与後にわずかに優線型的な動態の傾向を示した。オスのラットは、メスに比べてより高い血漿濃度を示した。この図は5~25mg/kgで一貫している(
図24)。
【0102】
実施例17:単回投与後の組織分布
化合物(I)を、10mg/kgでメスのNMRIマウスに経口投与した。血漿を、投与の0.5、1、2、4、6および24時間後に採取した。脳、肝臓および肺を、投与の1、4および24時間後に採取した。
【0103】
血漿プロファイルは、生体可用性試験と本質的に同じであり(表20)、1.1時間の同じT1/2を示した。データは臓器に関して非常にまばらであるが、AUCおよびT1/2を、血漿および臓器について算出した。化合物(I)は、マウスにおいて肝臓および肺に著しい選択性を示すが、脳に対する比は最適である。
【0104】
【0105】
化合物(I)を、5mg/kgでオスのウィスターラットに皮下投与した。血漿を、投与の0.5、1、2、4、6および24時間後に採取した。脳、肝臓および肺を、投与の1、4および24時間後に採取した。
【0106】
血漿プロファイルはまた、単回投与試験と本質的に同じであり、の0.8時間の同じT1/2を示した。データは臓器に関して非常にまばらであるが、AUCおよびT1/2を、血漿および臓器について算出した。マウスとは対照的に、化合物(I)は、肝臓では高濃度で見出されなかった(表19)。これは、肝臓をバイパスする皮下投与、および/または化合物を代謝するラットのはるかに高い能力のためかもしれない。脳への分布は、マウスと同じである。肺への分布は、マウスに比べて少し高い。
【0107】
【0108】
実施例18:反復投与後の組織分布
化合物(I)を、15、30および60mg/kgでオスおよびメスのNMRIマウスに14日間経口投与した。血漿、脳および肝臓を、最後の投与から2時間後に採取した。
【0109】
脳に対する比は、単回投与と反復投与を比較して依然として概算で同じである。肝臓に対する比も、オスのマウスへの低用量投与のものを除き、単回投与のものと同じである。オスのマウスからの単回投与のデータはない。
【0110】
【0111】
化合物(I)を、5、10および15mg/kgでオスおよびメスのウィスターラットに14日間皮下投与した。血漿、脳および肝臓を、最後の投与から2時間後に採取した。
【0112】
ラットに関しては、脳に対する比は、単回投与に比較して反復投与後でより高い。これは肝臓でも同様である。マウスに比較して、肝臓に対する比は、やはりかなり低い。このことはまた、ラットでの肝臓のより高い代謝能に起因すると思われる。マウスとは対照的に、オスのラットは、メスよりも高い濃度を示し、肝臓に対する比は、一致して低い。
【0113】
【0114】
実施例19:代謝-肝臓ミクロソームにおける代謝安定性
化合物(I)の代謝安定性を、1および5μMにて、すべての自家で利用可能な生物種からの肝臓ミクロソームで試験した。親化合物よりも16質量単位高い一つの代謝産物が、ヒト肝臓ミクロソームを除き、全てのインキュベーションで検出された。この代謝産物は、全ての生物種で同じ滞留時間を示し、このことは、それが同じ代謝産物である可能性が最も高いことを示唆する。化合物(I)は、ラットを除くすべての被検生物種で比較的安定である。
【0115】
【0116】
実施例20:代謝-ヒト肝細胞における代謝安定性
化合物(I)の安定性を、10μMで120分間インキュベートしてヒト肝細胞で試験した。化合物は、ヒト肝細胞中で安定であった。
【0117】
実施例21:代謝-CYP阻害
化合物(I)を、選択的基質のカクテルを用いてCYP450阻害に関して試験した。IC50を、代謝産物生成を50%阻害する、化合物(I)の濃度として評価した(表23)。化合物(I)により有意に阻害されるのは、CYP1A2のみである。これは、臨床試験において後に着目されることかもしれない。
【0118】
【0119】
実施例22:代謝-インビボ代謝産物
ラット尿中の化合物(I)を定量することにより、親化合物の尿中への移行量は、投与量の6~10%であると推定された(0~24時間)。
【0120】
実施例23:蛋白質結合
血漿蛋白質結合を、平衡透析によりラット、マウス、イヌおよびヒトの血漿において試験した。この化合物の血漿蛋白質結合は、著しく低い(表24)。
【0121】
【0122】
実施例24:毒性試験-最大耐量および反復投与
下記の用量レベル:
試験1: 3、5、15mg/kg
および
試験2: 30、60mg/kg
で5日間メスのマウスに経口(非GLP)投与された化合物(I)は、活動(鎮静および常同行為)の増加をもたらしたが、体重には有意な変化がなかった。
【0123】
下記の用量レベル:
30、60、90mg/kg、で5日間メスのラットに経口(非GLP)投与された化合物(I)は、増加した活動をもたらしたが、体重増加についての変化は認められなかった。ラットでの生体可用性は低いので、後述のラット試験を、皮下注投与(~100%生体可用性)を用いて実施した。
【0124】
14日間の反復投与試験では、8匹のオスおよび8匹のメスNMRIマウスの4群を、15、30、および60mg/kgの用量の経口投与での化合物(I)(群2、3および4)、あるいは媒体である5%グルコースの皮下投与(群1)により毎日処置した。サテライト群(群5)の90mg/kg経口投与をそれに応じて、曝露および効力を増強するために実施した。60mg/kgで投与された化合物(I)(群4)は、オスおよびメスの両方における活動の増加、メスの群での有意な体重減少、ならびに両方の性での相対的肝臓重量の有意な減少をもたらした。90mg/kg(群5)は、オスおよびメスの両方における活動の増加、両方の性での有意な体重減少および相対的肝臓重量の有意な減少をもたらした。終了時に、処置に関連する肉眼的所見は、オスにもメスにも認められなかった。
【0125】
結論
15~90mg/kg/日の用量で14日間経口投与で処置されたオスおよびメスのマウスは、体重および相対的肝臓重量において処置に関連した有意な変化を示したが、処置に関連した肉眼的所見は、オスにもメスにも認められなかった。
【0126】
14日間の反復投与試験では、4匹のオスおよび4匹のメスのウィスターラットの4群を、5、10および15mg/kgの用量の皮下での化合物(I)(群2、3および4)、あるいは媒体である5%グルコースの皮下投与(群1)により毎日処置した。サテライト群(群5)の25mg/kg皮下注投与をそれに応じて、曝露および効力を増強するために実施した。15mg/kgで投与された化合物(I)(群4)は、オスおよびメスの両方における活動の増加をもたらした。体重増加における変化は、メスのラットでは認められなかったが、群4のオスで体重増加の傾向があった。終了時に、処置に関連する肉眼的所見は認められなかったが、相対的肝臓重量が、群4のメスで減少し、群4のオスで増加した。群5(25mg/kg)は、オスおよびメスの両方における活動の増加、および最小限の減少体重を生じた。肝臓重量の変化は、群5において認められなかった。
【0127】
結論
オスおよびメスのウィスターラットを、5~25mg/kg/日の用量で、14日間皮下投与で処置した。高用量群(25mg/kg皮下)は、オスおよびメスのラットの両方で最小限の体重減少を示したが活動性を増加させた。
【0128】
化合物を、サルモネラ菌TA100株およびTA98株を用いるエームズスクリーニング試験で遺伝毒性に関して試験した。化合物(I)を、S-9ミックスの存在下または非存在下において、1.6~5000μg/プレートの用量レベルで試験した。化合物(I)は、この試験でいかなる変異原作用の証拠も示さなかったと結論づけられた。
【0129】
実施例25:ラットにおける勃起の誘導
化合物(I)を、1mg/kgでラットに投与し、
図25で説明されるように勃起機能の改善をもたらした。媒体および化合物(I)を、30秒間の海綿体神経刺激に対する最大の(10Hz、1ms、6V)および最大下の(submax)応答(10Hz、1ms、0.6~1.55V)を確立した後に投与した。最大下刺激を、薬剤または媒体の投与後に3、13、23、および33分繰り返した(
図27)。化合物(I)は、若いラットおよび成獣ラットの両方において勃起を誘導すると見出された。
【0130】
実施例26:ラットにおける用量依存的な勃起頻度
化合物(I)を、0.001、0.01、0.1、および1.0mg/kgの用量でラットに静脈内投与し、自然勃起の回数を、測定した。勃起回数は、0.001~0.1mg/kgで用量の増加に伴い増加したが、1.0mg/kgの用量で突然低下した(
図26)。したがって、化合物(I)は、低濃度でラットでの勃起の誘導においてより効率的である。
【0131】
実施例27:海綿体収縮性に対する化合物(I)の効果
休息状態の海綿体の短冊状試料において、増加する濃度の化合物(I)(10
-9~3x10
-5M)を添加し、わずかな弛緩をもたらした(
図29)。ごくたまに、収縮が、最高濃度(3x10
-5M)の化合物(I)で認められた。弛緩は、一酸化窒素合成酵素阻害剤であるL-NOARG(10
-4M)および5型ホスホジエステラーゼ阻害剤の阻害剤であるシルデナフィルの存在下で不変であり、一方でノルアドレナリン枯渇をもたらすグアネチジンでの処置は、収縮を阻害したが、弛緩を変化させなかった(
図29、
図30)。
【0132】
フェニレフリン(10
-6M)で収縮させた短冊状試料において、低濃度の化合物(I)は、急速な弛緩を誘導し、その後に、収縮が起こった。一方、濃度依存性の弛緩が、より高濃度で認められた(
図31)。シルデナフィルは、これらの弛緩を顕著に増強し、一方で一酸化窒素合成酵素阻害剤であるL-NOARG(3x10
-5M)は、これらの弛緩を阻害する傾向を有した(
図32)。これらの知見は、低濃度の化合物(I)は一酸化窒素放出を介してラット海綿体組織を弛緩させること、およびこの効果は化合物の勃起効果に寄与することを示唆する。これらの結果は、化合物(I)が陰茎にあるいは陰茎の近傍に(経皮的にまたは陰茎海綿体内でなど)局所的に投与されてよいことを強く示唆する。
【0133】
実施例28:マウスの陰茎血流に対する化合物(I)の効果
レーザードップラー流量ローブを、化合物(I)の存在下または非存在下での陰茎基礎血流の測定のためにマウス勃起組織中にin situで配置した。陰茎血流は、化合物(I)の点滴(1mg/kg)により顕著に増加した(
図33)。これらの結果は、化合物(I)が陰茎にあるいは陰茎の近傍に(経皮的にまたは陰茎海綿体内でなど)局所的に投与されてよいことを強く示唆する。
【手続補正書】
【提出日】2021-07-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における勃起不全および鬱病の組み合わせの治療、予防、または緩和における使用のための、化学式(I)の化合物、
【化1】
またはその薬学的に許容可能な塩。
【請求項2】
勃起不全が、治療を原因とする勃起不全である、請求項1に記載の使用のための化合物。
【請求項3】
勃起不全が、欝病に起因する、請求項1および請求項2のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項4】
治療を原因とする勃起不全が、薬剤治療に由来する有害作用である、請求項2に記載の使用のための化合物、またはその薬学的に許容可能な塩。
【請求項5】
薬剤が、抗鬱薬、NSAID、フィナステライド、抗てんかん薬および神経弛緩薬から成る群から選択される、請求項4に記載の使用のための化合物。
【請求項6】
勃起不全が、抗鬱薬による治療に起因する治療が原因の勃起不全である、請求項4および請求項5のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項7】
勃起不全が、抗鬱薬による鬱病治療に起因する治療が原因の勃起不全である、請求項4~6のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項8】
鬱病が、勃起不全に起因する、請求項1に記載の使用のための化合物。
【請求項9】
対象が、哺乳動物である、請求項1~8のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項10】
哺乳動物が、ヒトである、請求項9に記載の使用のための化合物。
【請求項11】
ヒトが、男性である、請求項10に記載の使用のための化合物。
【請求項12】
対象が、オスである、請求項1~8のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項13】
対象が、35歳未満など、30歳未満など、25歳未満など、20歳未満などの、40歳未満の男性である、請求項1~12のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項14】
対象が、20歳超の成人男性など、25歳超の成人男性など、30歳超の成人男性など、35歳超の成人男性など、40歳超の成人男性など、45歳超の成人男性など、50歳超の成人男性など、55歳超の成人男性など、60歳超の成人男性など、65歳超の成人男性など、70歳超の成人男性など、75歳超の成人男性などの、成人男性である、請求項1~12のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項15】
対象が、他の抗不安薬および/または抗鬱薬で同時に治療されない、請求項1~14のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項16】
化合物が、全身投与される、請求項1~15のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項17】
化合物が、経口投与される、請求項16に記載の使用のための化合物。
【請求項18】
化合物が、局所(locally)投与される、請求項1~14のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項19】
化合物が、局所(topically)投与される、請求項18に記載の使用のための化合物。
【請求項20】
局所(topical)投与が、ローション、クリーム、軟膏、ゲルの形態である、または経皮パッチによる、請求項19に記載の使用のための化合物。
【請求項21】
勃起不全および鬱病の組み合わせの治療、予防、または緩和のための方法であって、化学式(I)の化合物:
【化2】
またはその薬学的に許容可能な塩の治療有効量をそれを必要とする対象に投与することを含む、方法。
【国際調査報告】