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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-19
(54)【発明の名称】ガラス基材上の銀ワイヤの腐食低減
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/38 20060101AFI20221012BHJP
【FI】
C03C17/38
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022508792
(86)(22)【出願日】2020-08-11
(85)【翻訳文提出日】2022-02-10
(86)【国際出願番号】 EP2020072519
(87)【国際公開番号】W WO2021028440
(87)【国際公開日】2021-02-18
(31)【優先権主張番号】19191361.5
(32)【優先日】2019-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500374146
【氏名又は名称】サン-ゴバン グラス フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100186912
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 淳浩
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ ルトカール
(72)【発明者】
【氏名】アンチェ ユング
【テーマコード(参考)】
4G059
【Fターム(参考)】
4G059AA01
4G059AB05
4G059AB11
4G059AC11
4G059AC18
4G059DA01
4G059FA07
4G059FA22
4G059FB03
4G059GA01
4G059GA15
(57)【要約】
本発明は、ガラス基材(1)を少なくとも備えており、前記ガラス基材(1)上に、一つ又は複数のラインとして、元素銀(2)が、不連続に適用されており、前記元素銀が、チオール及び/又はシリコーン樹脂及び/又はケイ酸塩を含有しているコーティング(4)を有している、乗物ペインに関する。本発明はまた、その製造方法、及び乗物ペインを製造するためのコーティング材料の使用に関する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基材(1)を少なくとも備えており、
前記ガラス基材(1)上に、一つ又は複数のラインとして、元素銀(2)が、不連続に適用されており、
前記元素銀が、チオール及び/又はシリコーン樹脂及び/又はケイ酸塩を含有しているコーティング(4)を有している、
乗物ペイン。
【請求項2】
リアウインドウの形態を有している、請求項1に記載の乗物ペイン。
【請求項3】
前記銀(2)が、複数のラインとして適用されており、前記複数のラインが、それらの端部で互いに接続されている、請求項1又は2に記載の乗物ペイン。
【請求項4】
前記複数のラインが、加熱システムの部分を形成している、請求項3に記載の乗物ペイン。
【請求項5】
一つ又は複数のラインとして適用されている前記元素銀が、少なくとも一つのセンサー又は少なくとも一つのアンテナの、一つ又は複数の導電トラックを形成している、請求項1又は2に記載の乗物ペイン。
【請求項6】
前記コーティング(4)が、チオール、特に脂肪族C12~C20チオールを含有している、請求項1~5のいずれか一項に記載の乗物ペイン。
【請求項7】
前記コーティング(4)が、シリコーン樹脂、特にアルキル化シリコーン樹脂を含有している、請求項1~5のいずれか一項に記載の乗物ペイン。
【請求項8】
前記コーティング(4)が、亜鉛塩、亜鉛錯体、ジルコニウム塩、及びジルコニウム錯体のうちの一つ以上を追加で含有している、請求項7に記載の乗物ペイン。
【請求項9】
前記コーティング(4)が、ケイ酸塩を含有しており、好ましくはケイ酸塩でできている、請求項1~5のいずれか一項に記載の乗物ペイン。
【請求項10】
前記ガラス基材(1)が、熱処理されており、好ましくは強化ガラスである、請求項1~9のいずれか一項に記載の乗物ペイン。
【請求項11】
前記コーティング(4)が、元素銀にのみに適用されている、請求項1~10のいずれか一項に記載の乗物ペイン。
【請求項12】
前記コーティング(4)が、実質的に乗物ペインの表面全体に適用されている、請求項1~10のいずれか一項に記載の乗物ペイン。
【請求項13】
少なくとも下記を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の乗物ペインの製造方法:
-元素銀(2)を含有する一つ又は複数のワイヤから形成されたシステム、特に加熱システムが適用されたガラス基材(1)を提供すること、
-チオール及び/又はシリコーン樹脂及び/又はケイ酸塩を含有するコーティング(4)を前記一つ又は複数のワイヤに適用すること、及び
-任意で、前記コーティング(4)を硬化すること。
【請求項14】
元素銀(2)を含有する一つ又は複数のワイヤから形成されるシステムを備える乗物ペインの製造のための、チオール及び/又はシリコーン樹脂を含有する組成物の使用であって、
前記組成物が、コーティング(4)として、特に変色に対する保護コーティングとして、前記ワイヤに適用される、
前記組成物の使用。
【請求項15】
元素銀(2)を含有する一つ又は複数のワイヤから形成されるシステムを備える乗物ペインの製造のための、ケイ酸塩前駆体を含む組成物の使用であって、
コーティング(4)として前記ワイヤに適用されるケイ酸塩が、燃焼によって前記組成物から生成される、
前記組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物ペイン内のガラス基材上で、銀に基づいているワイヤの腐食性変色を防止又は低減するための手段、特に、この目的のために適用されている保護コーティングに関する。本発明は、また、対応するコーティングを備えている乗物ペイン、それらの製造方法、及び乗物ペインを製造するためのコーティング材料の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のリアウインドウには、現在、通常、リアウインドウを加熱するための電気加熱要素が装備されている。自動車のリアウインドウ加熱は、特に寒い季節に、リアウインドウの曇りを除去、あるいは、解氷するために使用される。
【0003】
ウインドウヒータの、現在の標準モデルは、ウインドウに適用されている、すなわち、例えば、印刷されている複数の加熱ワイヤで構成されており、これらは通常、ウインドウに水平に適用されており、バスバーを介してそれらの端で互いに電気的に接続されている。動作中、電流がこれらのバスバーを介して流れ、加熱ワイヤの抵抗によって熱が発生し、それがウインドウを加熱する。このタイプのウインドウヒータは、1960年代後半に、フォードモーターカンパニーで開発され、1974年に、連続生産で初めて乗物に搭載された。これらの加熱システムで導電性材料としてよく使用されるのは元素銀であり、これは貴金属として、可能な限り最高の電気伝導性を有しており、可能な限り少ない光の陰影を確保する。ガラスペインの、銀が適用されている側からは、黒又は灰色に見えるが、ガラスペインの、別の側からは、オレンジ色の印象を創り出すことができ、これは、銀の相互作用とガラス表面への銀の部分的な浸透によるものである。
【0004】
リアウインドウヒータの別の変形では、ワイヤは印刷されないが、代わりに、積層ガラスペインの二つの層の間に配置されている。
【0005】
DE10018276A1は、熱可塑性接着剤層に埋め込まれている導電性ワイヤを備えており、そのワイヤが少なくとも二つの導電性材料層からなる積層ペインを開示している。
【0006】
ペインにのみ印刷されている加熱システムの場合、導電トラックが元素銀を含有していると、加熱ワイヤが、部分的、表面的に黄色又は茶色に変色することが、比較的長期間にわたって発生することがある。加熱導体の不均一な変色は、しばしば、ペインの美観の喪失を招く。そして、乗物の使用者は、ワイヤの機能が損なわれていると感じるかもしれない。加熱システムの機能に関し、このような不確実性を回避するため、ウインドウヒータ内の加熱ワイヤの変色を低減又は完全に防止できる方法及びシステムが望まれていた。
【0007】
US2011/074796A1は、加熱ワイヤを備えているリアウインドウを開示しており、リアウインドウが、少なくとも部分的に加熱ワイヤを覆う保護フィルムを有していることを開示している。
【0008】
WO2005/117494A1は、ポリカーボネートでできている乗物リアウインドウを開示しており、乗物リアウインドウが、加熱システムとシリコーンハードコートでできている保護コーティングを備えていることを開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ウインドウヒータ内の加熱ワイヤの望ましくない変色を低減又は完全に防止することができる方法及びシステムの必要性に対処するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
驚くべきことに、本願が根拠とする調査で、ウインドウヒータの加熱ワイヤ内の銀が前述のように変色するのは、銀の表面酸化に起因し、大気中に微量に存在し得る硫化水素の作用によって、AgSが形成されることを知見した。AgSとして形成されたものは、ワイヤで観察される黄色又は茶色の変色の原因である。これらの知見に基づき、本願では、ウインドウヒータの加熱ワイヤ及びケーブル内の元素銀のためのコーティングを提案する。このようなコーティングは、加熱ワイヤ及び加熱ケーブル内の元素銀を、特に、望ましくない変色から保護する。
【0011】
その結果、第一態様によれば、本発明は、元素銀が不連続に適用されているガラス基材を少なくとも備えている乗物ペインに関し、元素銀はコーティングを有している。コーティングは、チオール及び/又はシリコーン樹脂及び/又はケイ酸塩を含有していてよい。コーティングは、特に、変色から保護するコーティングである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
「不連続に」という用語は、元素銀が表面全体に適用されているのではなく、また、ペイン上の均一な領域としてではなく、コーティングされていない領域が、個々のコーティングされている領域の間に位置するように、元素銀が適用されていることを意味する。例えば、銀は、複数のストリップ又はラインの形態でガラス基材に適用されていてよく、複数のストリップ又はラインには、それらの間で、ガラス基材に、コーティングされていない領域がある。ストリップ又はラインは、例えばバスバーとして形成されたストリップにその端部でのみ接続されていてよいが、ストリップ又はラインが交差していてもよいし、一つ以上のポイント(例えば、ストリップとラインによって形成されるアンテナの場合)で他の複数のストリップ又はラインと交差する、追加のストリップを設けてもよい。好ましくは、元素銀は、一つ又は複数のライン又はトラックとして、ガラス基材上に適用されている。本発明の意味するところにおいて、適用されているラインは「ワイヤ」と呼んでもよい。
【0013】
「その基材上で元素銀が適用されている」という記載について、ガラス基材は、関連する領域において、元素銀を含有するが、必ずしもそれだけでできているわけではないコーティングを有していることを意味すると解される。
【0014】
ここで説明する本発明において、「適用されている」という用語は、当業者に周知の方法を用いて銀を適用することを含み、当業者に周知の方法としては、スクリーン印刷、インクジェット印刷、エアロゾル印刷、グラビア印刷、又はフレキソ印刷等の印刷方法が挙げられ、押出しペーストとして銀を基材にプレスする方法も含まれる。
【0015】
「元素銀がコーティングを有している」という用語は、特に、好ましくは一つ又は複数のライン又はトラックとして、不連続に適用されている元素銀に、少なくとも、コーティングが適用されていることであると解され、すなわち、好ましくは一つ又は複数のライン又はトラックとして不連続に適用されている元素銀が、少なくとも、コーティングで覆われていることであると解される。
【0016】
「乗物ペインが少なくともガラス基材を備えている」という記載は、特に、乗物ペインがガラス基材でできている単一のペインとして実装されていることであると解される。あるいは、乗物ペインは、ガラス基材と別のガラスペインでできている積層ガラスとして実装されていてもよく、ガラス基材と別のガラスペインは、熱可塑性中間層を介して一緒に結合されている。
【0017】
好ましくは、乗物ペインはリアウインドウである。また、ガラス基材を形成しているガラスは、熱処理されており、強化ガラスであることが好ましい。このようなガラスは、例えば、サンゴバンからSekurit(登録商標)の商標名で市販されており、約600℃に加熱されたペインを、冷気の流れで急冷することによって製造される。これにより、表面に強い圧縮応力が発生し、曲げ強度、特にガラスの耐熱衝撃性が大幅に向上する。
【0018】
ガラス基材は、ウインドウペインで一般的であるように、ソーダライムガラスでできていることが好ましいが、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸ガラス、又は石英ガラス等の他のタイプのガラスでできていてもよい。ガラス基材の厚さは、典型的には0.5mm~10mm、好ましくは1mm~5mmである。
【0019】
乗物ペインのガラス基材上に適用されている元素銀の場合、それらの終端で互いに接続されている複数のラインとして適用されていることが好ましい。適用されている銀のそのような構成は、図1に示されるように、乗物ペインを加熱することができる加熱装置に、乗物ペインを組み入れるための前提条件である。別の好ましい実施形態では、乗物ペインのガラス基材に適用されている複数のラインは、加熱システムの一部である。そのような加熱システムは、通常、ラインに加えて、個々のラインを電流源に接続することができるラインの接続要素と、電源への接続をアクティブまたは非アクティブにすることができる制御システムとを備えている。
【0020】
本発明は、加熱システムに限定されない;銀は、センサー、アンテナ、又は類似の技術デバイスの導体トラックを形成してもよい。
【0021】
「ライン」という用語は、本発明においては、「トラック」と同義で使用され、その幅及び厚さよりも、その長さについて、実質的に遠くまで延在している構造を意味し、すなわち、構造の長さは、構造の幅及び厚さの、好ましくは、少なくとも100倍、特に好ましくは、少なくとも250倍である。
【0022】
「複数」という用語は、好ましくは、少なくとも三つ、特に少なくとも五つのライン、及び/又は、好ましくは、最大で二十、特に最大で十五のラインを意味する。
【0023】
乗物ペインのガラス基材が複数のラインを有しているとき、ラインで覆われている領域を、可能な限り小さくするべきであり、すなわち、ガラス基材の全領域の5%未満、特に2%未満を、ラインで覆われているようにするべきである一方、ラインは、ガラス基材の全領域にわたって可能な限り均一に分布されるべきであり、例えば、ラインの間に位置するガラス基材の領域を含んで、ラインが、ガラス基材の全領域を覆うようにするべきであり、ガラス基材の全割合の、少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、特に好ましくは少なくとも80%を覆うべきである。
【0024】
あるいは、乗物ペインのガラス基材が、単一のラインを有していてもよく、好ましくは、単一のラインが、蛇行するように、実質的に、ガラス基材の全領域(すなわち、少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、そして特に好ましくは少なくとも80%)にわたって延在していてもよい。
【0025】
ラインの厚さに関して、本発明は、関連する制限を受けないが、厚さは、可能な限り薄くしなければならず、それによって、視野を邪魔し制限するものとして、ユーザに知覚されないようにする;一方で、ラインは、例えば、加熱ワイヤとしてのラインの機能が悪影響を受けないように、充分に厚くなければならない。ラインの厚さとして、1~200μm(ミクロン)、特に5~100μm、特に好ましくは約20~50μmの範囲を指定することができる。特に好ましい場合には、10~20μmの範囲の厚さも実現することができる。
【0026】
ラインの幅も同様に関連する制限を受けないが、ここでも、可能な限り最小の幅にして、必要以上に視野を狭めないことが好ましい。好ましくは、ラインは10μm~1cmの幅であり、より好ましくは、100μm~2mmの幅である。
【0027】
好ましくは、本発明の意味するところにおいて、コーティング自体は、ガラス基材上に位置する元素銀の視覚的印象を変えない。このことから、本発明の意味するところでは、着色コーティングは、除外されることが好ましい。
【0028】
好適なコーティング剤は、チオールを含むコーティング剤である。このようなチオールは、銀の表面を効果的に不動態化することができる。これは、チオールで処理する前の銀の色の印象とは異なるが、均一/均質で安定しており、コーティングされた基材をさらなに使用しても、その使用期間にわたって、変化しない色の印象をもたらすことができる。チオールには、Ag-S相互作用により、銀表面でのみ選択的に吸収されるという利点もある。
【0029】
容易に処理することができるチオールの一つの好適なクラスは、チオカルボン酸であり、これは、例えば、水性エマルジョンに適用され、銀表面によく付着する。チオカルボン酸は、乳化剤を使用せずに水性エマルジョンとして配合できるという利点があり、これは、チオカルボン酸が、親水性のカルボキシル基を有しており、部分的に水溶性であるためである。一方、チオカルボン酸の水性エマルジョンは、貯蔵寿命が短く、取り扱いが困難である。
【0030】
別のクラスの好適なチオールは、より長い鎖(すなわち、少なくとも6個のC原子を有している)疎水性チオール、あるいは、親水性カルボキシル基を有さないそれらのエステル化生成物である。このようなチオールは、酸化変色に対する適切な保護効果という利点を有するだけでなく、水性エマルジョンとしても使用することができる。この種の利用法は、例えば、EP0492487B1に詳細に記載されている。
【0031】
特に好ましいのは、鎖中に少なくとも12個のC原子を有している疎水性脂肪族チオ化合物であり、最も特に好ましいのは、鎖中に多くても20個のC原子を有している疎水性脂肪族チオ化合物である。C原子が12個未満の場合、個々のケースでは、良好な密着性を備えている保護コーティングを実現できない場合、あるいは、強い臭気妨害を発生する場合がある。これに対して、20個を超えるC原子を有している疎水性脂肪族チオ化合物は、その粘度が非常に硬く、場合によっては、有機溶媒なしではエマルジョンとして処理できないため、チオールの適用は技術的に困難である。この意味で、最も特に好ましい疎水性脂肪族チオ化合物は、ヘキサデカンチオールである。
【0032】
上に示したチオールは、非常に細かく乳化でき、長期安定性があり、薄くても緻密な層で保護する表面に塗布できるため、特に有利である。このために、任意で、乳化剤を添加することができ、乳化剤は、例えば、特に、9~20C原子、好ましくは10~15C原子を有する脂肪アルコールであり、分岐脂肪アルコールは、好ましくはアルコキシル化、特にエトキシル化され、そして2~10のアルコキシル化度を有している。
【0033】
チオールベースのコーティング剤の場合、1~10のpHが適切であり、1~8のpHが好ましく、2~4のpHが特に好ましく、これは、このpHで、乳化剤を、堆積したチオール層の大部分から、水で完全に洗い流すことができ、このことは、信頼性の高い表面保護にとって重要であるためである。pHが規定範囲を超えると、洗い流される抑制剤が少なくなり、保護効果と潤滑効果が高まるが、表面に、外観を妨げる汚れが発生することがある。pHが10を超えると、エマルジョンが分離する危険性がある。
【0034】
チオールは銀と選択的に反応するため、通常、チオール処理中に約1分子層のチオールが銀表面に堆積する。このことから、チオールコーティングの層の厚さは、通常、チオールの鎖長によって決定され、通常、1μm未満である。
【0035】
チオールを銀に固定するために、コーティングを別の薬剤で覆うことが可能であり、これは、例えば、機械的作用(引っかき傷)に対するより良好な耐性を提供し、及び/又は、チオールが洗い流されるのを抑制若しくは防止する。
【0036】
無色であり、酸化変色に対して元素銀に有益な保護効果を提供する別の好適なコーティング剤は、シリコーン樹脂を含有するコーティング剤である。シリコーン樹脂には、摩耗、化学薬品、又は紫外線放射に対して有利な特性を提供するという利点もある。
【0037】
好適なシリコーン樹脂としては、例えば、ベコライトM-6552-60又はM-6650-60(それぞれ大日本インキ化学株式会社製)、バイシロン樹脂UD-460M又は180(それぞれバイエル株式会社製)として入手可能なもの等、アルキル化シリコーン樹脂であってよい。
【0038】
JP2012-056251Aに記載されているシリコーン樹脂は、別の好適なクラスのシリコーン樹脂である。
【0039】
JPH09-241532Aに記載されているシロキサンアクリル共重合体は、元素銀の酸化変色を抑制するための別の好適なクラスのシリコーン樹脂である。
【0040】
元素銀の酸化変色を抑制するための別の好適なクラスのシリコーン樹脂は、例えば、WO1999/062646A1に記載されている。このようなシリコーン樹脂は、主成分として、シリコーンアクリル樹脂、シリコーンアルキド樹脂、及び多機能架橋シリコーン樹脂からなる群より選択される少なくとも一つの樹脂タイプを含み、多機能架橋シリコーン樹脂は、式RSiO(4-n)/2の平均組成式と、500~1000の数平均分子量を有している。式中、Rは、水素原子、低級アルキル基(C1~C6)、フェニル基、又は置換フェニル基を表し;nは1.2~1.4までの数値である。
【0041】
シリコーン樹脂を乗物ペインのガラス基材に適用することによって、ガラス基材上にある銀のみが、シリコーン樹脂で覆われていてもよいが;シリコーン樹脂が、ガラス基材上にある銀よりも、多くを覆っていてもよい(すなわち、たとえば、銀で覆われている領域を50%又は100%超えて延在している領域を覆うため;ガラス基材上にラインとして適用されている銀の場合、コーティングは、ラインの幅よりも、例えば、50%又は100%広い)。シリコーン樹脂が、ガラス基材の全領域を覆っていてもよい。
【0042】
シリコーン樹脂に基づいているコーティング組成物の場合、コーティング組成物が、シリコーン樹脂に加えて、好ましくは0.01~5重量部の割合で金属化合物を含むことが有利であってよい。特に好適な金属化合物は、例えば、亜鉛塩又は亜鉛錯体である。
【0043】
好ましい亜鉛塩には、特に、3~20個の炭素原子を有するカルボン酸の亜鉛塩及びリン酸亜鉛塩が含まれる;特に好ましい亜鉛塩は、脂肪族飽和又は不飽和カルボン酸、例えば、特に、2-エチルヘキシルカルボン酸、ネオデカンカルボン酸、ラウリン酸、リシノール酸、ステアリン酸、又はウンデシレンカルボン酸の亜鉛塩である。特に好適な亜鉛塩は、リン酸亜鉛塩である。特に好適な亜鉛錯体は、アセチルアセトナート等のカルボニル化合物との亜鉛錯体である。
【0044】
そのような塩又は複合体を含むコーティング組成物の場合、コーティングに浸透する硫化水素は、塩又は複合体によって吸収され、これにより、それらを硫化亜鉛に変換すると考えられている。その結果、硫化水素は、コーティングの下の元素銀まで浸透できなくなる。
【0045】
これに代えて、あるいは、さらに、コーティング組成物は、ジルコニウム塩又は錯体、特にカルボン酸、好ましくは低級カルボン酸(C1~C10、特にC2~C6)のジルコニウム錯体を含有していてもよく、これらは、ベンゾイル基又はメチルベンゼン基で置換されていてもよい。4-メチル-γ-オキソ-ベンゼン-ブタン酸またはp-トルオイル-プロパン酸のジルコニウム錯体は、この観点で特に好ましい。
【0046】
任意で、シリコーン組成物はまた、慣用の添加剤を含有していてもよく、周知の添加剤としては、特に、シリコーン樹脂のための縮合触媒、溶媒、平滑化剤、カップリング剤、泡抑制剤、艶消し剤、UV吸収剤、抗酸化剤等であり、これらは、当業者に周知である。
【0047】
シリコーンコーティングの好適な厚さとしては、約1~150μm、好ましくは5~100μm、特に好ましくは8~50μmの範囲を指定することができる。
【0048】
上記のコーティング組成物は、従来のコーティング方法を用いてガラス基材に適用することができ、従来のコーティング方法としては、ディップコーティング若しくはスプレーコーティング若しくは気相コーティング等が挙げられる。チオールでコーティングする場合、未結合のチオールは、その後、基材から洗い流してよい。
【0049】
別の好適なコーティング剤は、ケイ酸塩(SiO:x~2)である。そのようなコーティングは、例えば、揮発性シラン前駆体を用いて製造することができ、前駆体は、火炎中で燃焼されてケイ酸塩を形成し、火炎からのケイ酸塩は、コーティングされる材料上に直接堆積される。そのようなケイ酸塩コーティングを適用するための装置は、例えば、FTMという名前のものを、Arcotech社から入手可能である。ケイ酸塩コーティングの場合、コーティングの非常に薄い適用で通常は充分であり、コーティングの厚さは、約10~50nm、特に15~30nmが好適である。
【0050】
さらなる態様によれば、本発明は、システム、特に加熱システムを備えている乗物ペインに関し、システムは、一つ又は複数のワイヤで形成されており、ワイヤは、元素銀を備えており、また、システムは、少なくとも、ワイヤ、あるいは、コーティングで覆われているワイヤを有している。特に有用なコーティングは、上記で詳細に説明したように、チオール及び/又はシリコーン樹脂及び/又はケイ酸塩を含有しているコーティングである。最も特に好ましいのは、言及されたこれらの選択肢のうち、一つのみを含有しているコーティングである。
【0051】
乗物ペインは、ワイヤが、ガラスペインとして実装されているガラス基材の外部からアクセス可能な表面に、ワイヤが配置されるように設計することができるが;積層ガラス板の一部として、ワイヤをガラス基材に取り付けてもよく、それによって、ガラスペインはワイヤの上下方に位置する。しかし、このような構造は通常、製造が非常に複雑であり、大気成分と相互作用するワイヤの変色の可能性の問題は、積層ガラスペインの場合、それほど問題とはならないため、乗物ペインは、ガラスペインの外部からアクセス可能な領域に、上記で指定された材料でコーティングされたワイヤを配置することが好ましい。この意味において、「ガラスペインの外部からアクセス可能な領域」とは、乗物内又は外部環境に直接隣接する領域を意味する。
【0052】
さらなる態様によれば、本発明は、乗物ペインの製造方法に関し、少なくとも下記のステップを含む:
-元素銀を含有する一つ又は複数のワイヤから形成されたシステム、特に加熱システムが適用されたガラス基材を提供すること、
-チオール及び/又はシリコーン樹脂及び/又はケイ酸塩を含有するコーティングを前記一つ又は複数のワイヤに適用すること、及び
-任意で、前記コーティングを硬化すること。
【0053】
適用は、上述したように、コーティングを噴霧するか、コーティングを含む溶液に浸漬することによって、気相コーティングによって、あるいは、好適な揮発性前駆体の燃焼でケイ酸塩を適用することによって、好都合に行うことができる。適用されるコーティング組成物は、チオール及び/又はシリコーン樹脂及び/又はケイ酸塩を含有し、特に好ましくは、特に好適であるとして上述したチオール及び/又はシリコーン樹脂及び/又はケイ酸塩を含有する。特に好ましくは、コーティング組成物は、言及された選択肢のうちの一つのみを含有する。
【0054】
説明した方法のガラス基材は、乗物ペインとして、あるいは、仕上げによって乗物ペインを製造することができる乗物ペイン前駆体として適切に設計されている。これに必要なステップ、例えば、硬化、成形、又は曲げは、これが適用されるコーティングに悪影響を及ぼさない限り、コーティングされたガラス基材を使用して行うこともできる。ここでは、特に、ケイ酸塩コーティングされたガラス基材を使用することができ、これは、コーティングが、必須の熱安定性を有する。
【0055】
最後に、本発明のさらなる態様は、乗物ペインの製造のためのチオール及び/又はシリコーン樹脂を含有する組成物の使用に関し、乗物ペインは、一つ又は複数のワイヤから形成されるシステム、特に加熱システムを備えており、一つ又は複数のワイヤは、元素銀を含有し、組成物は保護コーティングとしてワイヤに適用される。この使用の意味するところにおいて、コーティングは、特に変色に対する保護コーティングとして適用される。類似の態様は、乗物ペインの製造のためのケイ酸塩前駆体を含む組成物の使用に関し、乗物ペインは、システム、特に加熱システムを備え、システムは、元素銀を含有する一つ又は複数のワイヤから形成され、保護コーティングとしてワイヤに適用されるケイ酸塩は、燃焼によって組成物から生成される。
【図面の簡単な説明】
【0056】
本発明は、図面及び例示的な実施形態を参照して詳細に説明される。図面は概略図であり、原寸ではない。これらの図面は、本発明を制限するものではない。これらは、下記を示す。
【0057】
図1図1は、リアウインドウとして実装されている乗物ペインの概略図であり、乗物ペインは、ガラス基材1を備えており、ガラス基材1上には、元素銀2でできている複数のワイヤが適用されており、複数のワイヤは、共通のバスバー3を介して、それらの端部で互いに接続されている。本発明によれば、少なくともワイヤにはコーティングが提供されている。
図2図2は、元素銀2でできているワイヤの断面の概略図であり、ガラス基材1上のワイヤは、チオールでできている表面コーティング4を備えている。ワイヤは、例えば、加熱ワイヤである。
図3図3は、元素銀2でできているワイヤの断面の概略図であり、ガラス基材1上のワイヤは、シリコーンでできている表面コーティング4を備えており、ガラス基材1の表面全体がシリコーンで覆われている。ワイヤは、例えば、加熱ワイヤである。
【0058】
全体を通じて、本発明の実施は、上記で強調された態様及び上記の実施例に限定されず、むしろ、添付の特許請求の範囲内で、多数の変形例においても可能である。
図1
図2
図3
【国際調査報告】