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特表2022-544529免疫チェックポイント阻害剤療法に対する患者の応答性を分類する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-19
(54)【発明の名称】免疫チェックポイント阻害剤療法に対する患者の応答性を分類する方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6886 20180101AFI20221012BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20221012BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221012BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20221012BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20221012BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20221012BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20221012BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20221012BHJP
【FI】
C12Q1/6886 Z ZNA
A61K48/00
A61P35/00
A61P35/04
A61P17/00
A61K45/00
A61K39/395 T
C12N15/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022509000
(86)(22)【出願日】2020-08-06
(85)【翻訳文提出日】2022-04-13
(86)【国際出願番号】 EP2020072203
(87)【国際公開番号】W WO2021028326
(87)【国際公開日】2021-02-18
(31)【優先権主張番号】19191783.0
(32)【優先日】2019-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518022178
【氏名又は名称】エバーハルト カール ウニヴェルジテート テュービンゲン メディツィニーシェ ファクルテート
【氏名又は名称原語表記】EBERHARD KARLS UNIVERSITAET TUEBINGEN MEDIZINISCHE FAKULTAET
【住所又は居所原語表記】Geschwister-Scholl-Platz,72074 Tuebingen Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】レッケン,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】リース,オラフ
(72)【発明者】
【氏名】ヒルケ,フランツ ヨアヒム
(72)【発明者】
【氏名】ブレナー,エレン
【テーマコード(参考)】
4B063
4C084
4C085
【Fターム(参考)】
4B063QA08
4B063QA17
4B063QA19
4B063QQ08
4B063QQ43
4B063QQ53
4B063QR08
4B063QR42
4B063QR55
4B063QR62
4B063QR66
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
4C084AA13
4C084AA17
4C084MA66
4C084NA20
4C084ZB07
4C084ZB26
4C084ZB27
4C085AA14
4C085CC23
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG01
(57)【要約】
本発明は、エクスビボにおいて、治療が必要な患者を、免疫チェックポイント阻害剤療法に不応答の患者または応答する患者として分類する方法、および治療が必要な患者を、免疫チェックポイント阻害剤療法に不応答の患者または応答する患者として分類するための、遺伝子セットの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エクスビボにおいて、治療が必要な患者を、免疫チェックポイント阻害剤療法に不応答の患者または応答する患者として分類する方法であって、
1)治療が必要な患者に由来する生体試料を提供する工程;
2)前記生体試料において、細胞老化誘導性細胞周期調節因子遺伝子および/または細胞老化抑制性細胞周期調節因子遺伝子の機能を変化させる遺伝子変化の有無を分析する工程;ならびに
3)工程(2)において、前記遺伝子変化が存在すると同定された場合に前記患者を不応答患者として分類し、前記遺伝子変化が存在しないと同定された場合に前記患者を応答患者として分類する工程
を含む方法。
【請求項2】
機能変化を起こす前記遺伝子変化が、細胞老化誘導性細胞周期調節因子遺伝子の機能喪失変異および/または細胞老化抑制性細胞周期調節因子遺伝子の機能獲得変異である、請求項2に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞老化誘導性細胞周期調節因子遺伝子が、CDKN2A、CDKN2B、CDKN2C、CDKN1A、CDKN1B、RB1、TP53、STAT1、JAK1、JAK2およびJAK3からなる群から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞老化抑制性細胞周期調節因子遺伝子が、CCND1、CCND2、CCND3、CDK4、CDKN1B、CDK6、CCNE1、RB1、E2F2、MDM2、MDM4およびMYCからなる群から選択される、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記工程(3)において、少なくとも1種、少なくとも2種、少なくとも3種、少なくとも4種、少なくとも5種、少なくとも6種、少なくとも7種、少なくとも8種、少なくとも9種、少なくとも10種、少なくとも11種または少なくとも12種の細胞老化誘導性細胞周期調節因子遺伝子および/または細胞老化抑制性細胞周期調節因子遺伝子において遺伝子変化の存在が同定された場合に、前記患者を不応答患者として分類する、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記患者が、黒色腫に罹患している患者であり、好ましくは転移性黒色腫に罹患している患者である、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記患者が、癌腫に罹患している患者であり、好ましくは転移性癌腫に罹患している患者である、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記患者が、リンパ腫に罹患している患者である、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
治療が必要な患者を、免疫チェックポイント阻害剤療法に不応答の患者または応答する患者として分類するための、(i)細胞老化誘導性細胞周期調節因子遺伝子と(ii)細胞老化抑制性細胞周期調節因子遺伝子を含む遺伝子セットの使用。
【請求項10】
前記細胞老化誘導性細胞周期調節因子遺伝子が、CDKN2A、CDKN2B、CDKN2C、CDKN1A、CDKN1B、RB1、TP53、STAT1、JAK1、JAK2およびJAK3からなる群から選択される、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記細胞老化抑制性細胞周期調節因子遺伝子が、CCND1、CCND2、CCND3、CDK4、CDK6、CCNE1、E2F2、MDM2、MDM4およびMYCからなる群から選択される、請求項9または10に記載の使用。
【請求項12】
前記遺伝子セットが、少なくとも1種、好ましくは少なくとも2種、より好ましくは少なくとも3種、より好ましくは少なくとも4種、より好ましくは少なくとも5種、より好ましくは少なくとも6種、より好ましくは少なくとも7種、より好ましくは少なくとも8種、より好ましくは少なくとも9種、より好ましくは少なくとも10種、さらに好ましくは少なくとも11種の細胞老化誘導性細胞周期調節因子遺伝子および/または細胞老化抑制性細胞周期調節因子遺伝子を含む、請求項9~11のいずれか1項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エクスビボにおいて、治療が必要な患者を、免疫チェックポイント阻害剤療法に不応答の患者または応答する患者として分類する方法、および治療が必要な患者を、免疫チェックポイント阻害剤療法に不応答の患者または応答する患者として分類するための、遺伝子セットの使用に関する。
【0002】
本発明は、コンパニオン診断分野に関し、より具体的には、分子バイオマーカーを用いて、免疫チェックポイント阻害剤療法に不応答の患者または応答する患者として患者を分類することに関する。
【背景技術】
【0003】
チェックポイント阻害療法とも呼ばれるチェックポイント阻害剤療法は、がん免疫療法の一形態である。チェックポイント阻害剤療法は、免疫系の作用を刺激または抑制する主要調節因子である免疫チェックポイントを標的とするが、腫瘍は、この免疫チェックポイントを利用して免疫系による攻撃から自身を保護している。チェックポイント阻害剤療法は、抑制性チェックポイントを遮断することにより、免疫系の機能を回復することができる。
【0004】
悪性黒色腫としても知られている黒色腫は、メラノサイトとして知られている色素含有細胞から発生するがんの一種である。黒色腫は、通常、皮膚に発生するが、まれにリンパ節、口腔、腸管または眼に原発することもある。
【0005】
現在、黒色腫患者の大部分は、抗CTLA-4モノクローナル抗体(イピリムマブおよびトレメリムマブ)、Toll様受容体(TLR)アゴニスト、CD40アゴニスト、抗PD-1抗体(例えば、ペムブロリズマブ、ピジリズマブおよびニボルマブ)、PD-L1抗体などのチェックポイント阻害剤による治療が行われている。
【0006】
チェックポイント阻害剤療法を受けている黒色腫患者の約40%は、1年間以上にわたりチェックポイント阻害剤療法に良好に応答する。このような患者は応答患者と呼ばれる。一方で、残りの黒色腫患者の多くは、免疫療法を開始してから3ヶ月以内に腫瘍が進行する。このような患者は不応答患者と呼ばれる。
【0007】
チェックポイント阻害剤療法は、費用がかかり長期間を要する。さらに、チェックポイントによる抑制に変化を及ぼすことにより、生体の器官系の大部分に様々な影響が現れることがあり、例えば、最大で患者の40%に重篤な免疫系の有害作用が認められる。このような理由から、チェックポイント阻害剤療法を開始するかどうかの判断には熟慮を要する。
【0008】
当技術分野において、チェックポイント阻害剤療法に不応答の患者を早期かつ迅速に特定できる実用的な方法は、これまで存在していなかった。
【0009】
したがって、当技術分野において、チェックポイント阻害剤療法に不応答の患者を、早期に(好ましくは実際に治療法を行う前に)特定できる方法の提供が求められている。これによって、効果が見られず費用もかかる治療法の実施を避け、副作用が起こる可能性を排除することができる。
【0010】
したがって、本発明は、当技術分野におけるこのような欠点を低減または回避することが可能な方法を提供することを目的とする。
【0011】
本発明は、このようなニーズやその他のニーズを満たすものである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、エクスビボにおいて、治療が必要な患者を、免疫チェックポイント阻害剤療法に不応答の患者または応答する患者として分類する方法であって、
1)治療が必要な患者に由来する生体試料を提供する工程;
2)前記生体試料において、細胞老化誘導性細胞周期調節因子遺伝子および/または細胞老化抑制性細胞周期調節因子遺伝子の機能を変化させる遺伝子変化の有無を分析する工程;ならびに
3)工程(2)において、前記遺伝子変化が存在すると同定された場合に前記患者を不応答患者として分類し、前記遺伝子変化が存在しないと同定された場合に前記患者を応答患者として分類する工程
を含む方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、次世代シーケンス(NGS)を利用して、チェックポイント阻害剤療法に応答する患者および不応答の患者の腫瘍を分析した。この結果、治療抵抗性患者群(すなわち不応答患者群)において、細胞老化誘導性細胞周期調節因子遺伝子の機能喪失と、細胞老化抑制性細胞周期調節因子遺伝子の強力な増幅を同定することができた。不応答患者では、細胞老化誘導性細胞周期調節因子遺伝子に不活性化変異が有意に多く認められ、細胞周期を加速し、老化誘導を抑制する遺伝子の増幅が4倍を超えていた。
【0014】
本発明者らは、この遺伝子パターンが、チェックポイント阻害剤療法を開始する前の、該療法に良好に応答する患者の予測に適していることを見出した。これを踏まえて、本発明者らは、チェックポイント阻害剤を用いて黒色腫などの疾患の治療を実際に行う前に、この遺伝子パターンの分析を「コンパニオン診断」として実施することを提唱している。
【0015】
本発明によれば、「治療が必要な患者」とは、チェックポイント阻害剤療法の恩恵を受ける可能性のあるヒト(例えば腫瘍患者など)や動物を含むあらゆる種類の生物を指す。
【0016】
本発明によれば、「生体試料」は、細胞周期調節因子遺伝子の有無の判定が可能な、遺伝子情報を含むあらゆる生物材料を指す。生体試料の例として、腫瘍細胞などの有核細胞や、腫瘍組織などの組織が挙げられる。
【0017】
本発明によれば、「分析する」は、生体試料中の細胞周期調節因子遺伝子の有無を判定することができるあらゆる方法を指す。このような方法の例として、核酸のシーケンスを行う方法が挙げられ、例えば、次世代シーケンス(NGS)もしくはパネルシーケンス、またはその他の遺伝学的方法が挙げられる。
【0018】
本発明によれば、「機能の変化」は、細胞周期調節因子遺伝子を野生型と比較したときの何らかの種類の機能変化を意味し、遺伝子発現もしくは遺伝子コピー数の低下、喪失、上昇、増加および増幅、または対応する遺伝子産物の活性の低下、喪失、上昇、増加および増幅を含む。
【0019】
本発明によれば、「細胞老化誘導性細胞周期調節因子遺伝子」は、細胞老化に重要な機能を有する遺伝子および/または細胞老化を制御する機能を有する遺伝子であって、該遺伝子の産物の活性が、例えば、細胞周期の進行を抑制することなどによって、細胞の老化を早める遺伝子を指す。このような遺伝子のプロトタイプは、サイクリン依存性キナーゼ阻害因子(CKI)である。
【0020】
本発明によれば、「細胞老化抑制性細胞周期調節因子遺伝子」は、細胞老化に重要な機能を有する遺伝子および/または細胞老化を制御する機能を有する遺伝子であって、該遺伝子の産物の活性が、例えば、細胞周期を促進させることなどによって、細胞周期を進行させる遺伝子を指す。このような遺伝子のプロトタイプは、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)である。
【0021】
細胞老化誘導性細胞周期調節因子遺伝子や細胞老化抑制性細胞周期調節因子遺伝子などの細胞老化関連遺伝子は、当技術分野でよく知られており、例えば、Human Ageing Genomic Resourcesにより運営されている「CellAge」データベースなどの適切なデータベースから入手することができる。このようなデータベースに関しては、Tacutu, R., Craig, T., Budovsky, A., Wuttke, D., Lehmann, G., Taranukha, D., Costa, J., Fraifeld, V. E., de Magalhaes, J. P. (2013) “Human Ageing Genomic Resources: Integrated databases and tools for the biology and genetics of ageing.” Nucleic Acids Research 41(D1):D1027-D1033を参照されたい。
【0022】
本発明によれば、「分類する」は、生体試料が採取された患者を、応答患者群または不応答患者群のいずれかに割り当てることを指す。
【0023】
本発明の根底にある課題は、本明細書に記載の方法により完全に解決することができる。
【0024】
老化を調節する遺伝子の存在は、当技術分野において知られているが、このような遺伝子がチェックポイント阻害剤療法に対する患者の応答性を予測できるものとして有用であることは、予想外の驚くべき事実であった。
【0025】
さらに、チェックポイント阻害剤療法に不応答の患者は、別の治療法または追加の治療法(併用療法)として、CDK4阻害剤、CDK6阻害剤および/またはCDK8阻害剤などの老化を直接誘導する化合物で治療することが好ましい場合があることが本発明から結論付けられた。
【0026】
本発明の一実施形態において、機能変化を起こす前記遺伝子変化は、細胞老化誘導性細胞周期調節因子遺伝子の機能喪失変異および/または細胞老化抑制性細胞周期調節因子遺伝子の機能獲得変異である。
【0027】
本発明者らの知見によれば、主にこのような種類の遺伝子変化により免疫チェックポイント阻害剤療法に対する患者の応答性が決まることが判明したことから、試料中のこのような遺伝子変化を分析する本発明の方法には利点がある。したがって、本発明の方法により業務効率を向上させることができる。
【0028】
本発明によれば、「機能喪失変異」は、遺伝子欠損、フレームシフト変異、その他の機能抑制性変異などの、コードされている遺伝子産物の機能性および/または活性の制限または不全を引き起こす、細胞周期調節因子遺伝子のヌクレオチド配列のあらゆる種類の変化を指す。
【0029】
本発明によれば、「機能獲得変異」は、ゲノムにコードされている配列が増幅されることにより、コードされている遺伝子産物の機能性および/または活性の増強を引き起こす、細胞周期調節因子遺伝子のヌクレオチド配列のあらゆる種類の変化を指す。
【0030】
本発明の別の一実施形態において、前記細胞老化誘導性細胞周期調節因子遺伝子は、CDKN2A、CDKN2B、CDKN2C、CDKN1A、CDKN1B、RB1、TP53、STAT1、JAK1、JAK2およびJAK3からなる群から選択される。
【0031】
本発明者らの知見によれば、本発明の方法は、このような細胞老化誘導性細胞周期調節因子遺伝子の分析により、特定の予測力を得ることができるという利点がある。
【0032】
「CDKN2A」は、サイクリン依存性キナーゼ阻害因子2Aとしても知られており、INK4ファミリーのメンバーであるp16(またはp16INK4a)とp14arfの2種類のタンパク質をコードする。これらのタンパク質はいずれも細胞周期を調節することにより、腫瘍抑制因子として作用する。
【0033】
「CDKN2B」は、サイクリン依存性キナーゼ4阻害因子Bを意味し、これは、MTS-2(multiple tumor suppressor 2)またはp15INK4bとしても知られている。サイクリン依存性キナーゼ4阻害因子Bは、CDK4またはCDK6と複合体を形成する。サイクリン依存性キナーゼ4阻害因子Bは、サイクリンDによるCDKキナーゼの活性化を阻止することから、細胞周期のG1期の進行を阻害する細胞増殖調節因子として機能する。
【0034】
「CDKN2C」すなわちサイクリン依存性キナーゼ4抑制因子Cは、サイクリン依存性キナーゼ阻害因子のINK4ファミリーの別の酵素である。サイクリン依存性キナーゼ4抑制因子Cは、CDK4またはCDK6と相互作用して、これらのCDKキナーゼの活性化を阻止することにより、細胞周期のG1期の進行を制御する細胞増殖調節因子として機能することが示されている。
【0035】
「CDKN1A」は、p21Cip1、サイクリン依存性キナーゼ阻害因子1またはCDK相互作用タンパク質1とも呼ばれ、あらゆるサイクリン-CDK複合体を抑制することができる重要なサイクリン依存性キナーゼ阻害因子(CKI)である。CDKN1Aは、重要な分子であるCDK4およびCDK6の抑制に中心的な役割を果たし、細胞の老化を誘導する。また、CDKN1Aは、転写因子E2F2を調節することができる別の分子であるCDK2の抑制にも強い関連性がある。
【0036】
「CDKN1B」は、サイクリン依存性キナーゼ阻害因子1Bを意味し、これはp27Kip1としても知られている。CDKN1Bは、サイクリン依存性キナーゼ阻害因子タンパク質のCip/Kipファミリーに属するタンパク質をコードする。このコードされたタンパク質は、サイクリンE-CDK2複合体またはサイクリンD-CDK4複合体に結合して、これらの複合体の活性化を阻止することにより、細胞周期のG1期の進行を制御する。CDKN1Bの活性を増強させると、変異の活性化が増強され、E2F2を活性化することができる。また、CDKN1Bの機能を失活させる変異により、E2Fを不活性化することもできる。したがって、CDKN1Bは、細胞老化誘導性細胞周期調節因子遺伝子として作用するだけでなく、細胞老化抑制性細胞周期調節因子遺伝子としても作用する。
【0037】
「RB1」は網膜芽細胞腫タンパク質1を意味し、主要ながんのいくつかでは機能不全を起こしている腫瘍抑制因子タンパク質である。Rbの機能の1つとして、細胞分裂の準備が整うまで細胞周期の進行を抑制することにより、過剰な細胞増殖を阻止するという機能がある。低リン酸化形態のRB1は、E2F2を活性化できないことから細胞周期の進行を妨げるが、リン酸化形態のRB1は、転写因子E2F2を活性化することによって細胞周期の進行を促進する。したがって、RB1は、細胞老化誘導性細胞周期調節因子遺伝子として作用するだけでなく、細胞老化抑制性細胞周期調節因子遺伝子としても作用する。
【0038】
「TP53」は、多細胞生物において極めて重要な腫瘍関連タンパク質であるp53をコードし、p53は、がんの形成を抑制することから、腫瘍抑制因子として機能する。活性化されたp53は、DNAに結合することにより、いくつかの遺伝子の発現を活性化し、例えば、マイクロRNAの一種であるmiR-34a、p21をコードするWAF1/CIP1、その他の数百種類の下流の遺伝子などが活性化される。また、p53は、G1期からS期への移行の制御点において細胞周期を停止させることによって、細胞増殖を阻止することができる。p53は、CDKN1Aを活性化することから、老化を誘導する重要な分子である。
【0039】
「STAT1」は「シグナル伝達兼転写活性化因子1」を意味し、転写因子をコードする。さらに、重要な点として、STAT1タンパク質は、サイクリンD1-CDK4複合体と直接相互作用して、細胞周期を停止させる。STAT1は、I型インターフェロンおよびII型インターフェロンのシグナルを伝達することから、MDM2/4-p21-CDK4/6-Rb1老化経路およびp16/p14-CDK4/6-Rb1老化経路の活性化に必須である。
【0040】
「JAK1」は、「ヤヌスキナーゼ1」を意味し、特定のI型サイトカインおよびII型サイトカイン(すなわち、I型インターフェロンおよびII型インターフェロン)のシグナル伝達に必須のチロシンキナーゼタンパク質をコードする。インターフェロンを介してSTAT1が活性化されると、MDM2/4-p21-CDK4/6-Rb1老化経路およびp16/p14-CDK4/6-Rb1老化経路が活性化される。Jak1の欠損は、新生児マウスにおいて致命的である。がん細胞においてJAK1の発現が欠損すると、腫瘍細胞が殺傷から逃れ、身体の別の部位に転移することが可能となることが知られている。
【0041】
「JAK2」は、「ヤヌスキナーゼ2」を意味し、II型サイトカイン受容体ファミリーのメンバーやその他のシグナル伝達分子によるシグナル伝達に関与する非受容体型チロシンキナーゼをコードする。Jak2の欠損は、胎生12日目のマウスにおいて致命的である。JAK2は、インターフェロンを介してSTAT1を活性化させるシグナルを伝達し、これにより、MDM2/4-p21-CDK4/6-Rb1老化経路およびp16/p14-CDK4/6-Rb1老化経路が活性化される。
【0042】
「JAK3」は「ヤヌスキナーゼ3」を意味する。JAK3は、サイトカイン受容体に特異的に関連しているチロシンキナーゼをコードする。JAK3は、I型サイトカイン受容体ファミリーの共通のγ鎖(γc)を利用する受容体のシグナル伝達に関与する。JAK3は、インターフェロンを介してSTAT1を活性化させるシグナルを伝達し、これにより、MDM2/4-p21-CDK4/6-Rb1老化経路およびp16/p14-CDK4/6-Rb1老化経路が活性化される。
【0043】
本発明によれば、前記遺伝子および遺伝子産物のヒトバリアントが好ましい。
【0044】
本発明の別の一実施形態において、前記細胞老化抑制性細胞周期調節因子遺伝子は、CCND1、CCND2、CCND3、CDK4、CDK6、CDKN1B、CCNE1、RB1、E2F2、MDM2、MDM4およびMYCからなる群から選択される。
【0045】
本発明者らの知見によれば、本発明の方法は、このような細胞老化抑制性細胞周期調節因子遺伝子の分析により、特定の予測力を得ることができるという利点がある。
【0046】
「CCND1」は、いわゆるサイクリンD1タンパク質をコードする。サイクリンD1は、高度に保存されたサイクリンファミリーに属している。サイクリンファミリーのメンバーは、細胞周期を通してそのタンパク質量が周期的に変動することを特徴とする。サイクリンD1は、CDK4またはCDK6と複合体を形成し、CDK4またはCDK6の調節サブユニットとして機能することから、細胞周期のG1期からS期への移行にその活性が必要とされる。サイクリンD1は、腫瘍抑制因子タンパク質Rbと相互作用し、サイクリンD1遺伝子の発現は、Rbによりアップレギュレートされることが示されている。サイクリンD1遺伝子の変異、増幅および過剰発現は、様々な腫瘍においてしばしば観察され、腫瘍の発生に寄与することがある。
【0047】
「CCND2」は、サイクリンD2タンパク質をコードする。サイクリンD2もサイクリンファミリーに属する。また、サイクリンD2も、CDK4またはCDK6と複合体を形成し、CDK4またはCDK6の調節サブユニットとして機能することから、細胞周期のG1期からS期への移行にその活性が必要とされる。サイクリンD2は、腫瘍抑制因子タンパク質Rbと相互作用し、Rbのリン酸化に関与することが示されている。サイクリンD2遺伝子の高発現は、卵巣腫瘍および精巣腫瘍において観察されている。
【0048】
「CCND3」遺伝子は、サイクリンD3タンパク質をコードする。サイクリンD3も、CDK4またはCDK6と複合体を形成し、CDK4またはCDK6の調節サブユニットとして機能することから、細胞周期のG1期からS期への移行にその活性が必要とされる。サイクリンD3は、腫瘍抑制因子タンパク質Rbと相互作用し、Rbのリン酸化に関与することが示されている。サイクリンD3と関連するCDK4の活性は、UV照射後に細胞周期がG2期から有糸分裂期へと進行する際に必要であることが報告されている。CCND3の変異は、乳がんの症例に関連付けられている。
【0049】
「CDK4」は、細胞分裂プロテインキナーゼ4としても知られているサイクリン依存性キナーゼ4をコードする。CDK4は、サイクリン依存性キナーゼファミリーのメンバーである。CDK4は、細胞周期のG1期の進行に重要なプロテインキナーゼ複合体の触媒サブユニットである。CDK4の活性は、G1期からS期への移行までの間に制限されており、調節サブユニットであるサイクリンDとCDK抑制因子であるp16INK4aとによって制御されている。CDK4は、Rbのリン酸化を担うことが示されている。サイクリンD-CDK4複合体は、様々な細胞分裂促進シグナルおよび細胞分裂抑制シグナルの主要なインテグレーターである。CDK4遺伝子の変異およびその関連タンパク質(サイクリンD、p16INK4a、Rbなど)の変異は、いずれも様々ながんの腫瘍形成に関連していることが判明している。
【0050】
「CDK6」遺伝子は、別のサイクリン依存性キナーゼのメンバーであるサイクリン依存性キナーゼ6をコードする。CDK6は、細胞周期のG1期の進行およびG1期からS期への移行に重要なプロテインキナーゼ複合体の触媒サブユニットである。この複合体は、活性化サブユニットであるサイクリンDをさらに含む。CDK6の活性は、G1期の中間期に最初に現れ、CDK抑制因子のINK4ファミリーのメンバーやサイクリンDなどの調節サブユニットによって制御される。CDK6とCDK4は、腫瘍抑制因子Rbをリン酸化することにより、Rbの活性を調節していることが示されていることから、CDK6はがんの発症において重要なタンパク質であると考えられている。
【0051】
「CCNE1」は、保存されたサイクリンファミリーのメンバーであるサイクリンE1タンパク質をコードする。CCNE1は、CDK2と複合体を形成し、CDK2の調節サブユニットとして機能し、細胞周期のG1期からS期への移行にその活性が必要とされる。CDK2タンパク質は、G1期とS期の境界で蓄積し、細胞がS期を通過すると分解される。CDK2遺伝子の過剰発現は、多数の腫瘍で観察されており、染色体を不安定化させることから、腫瘍の発生に寄与することがある。
【0052】
「E2F2」遺伝子は、E2F2タンパク質をコードする。E2F2は、E2F転写因子ファミリーのメンバーである。E2Fファミリーは、細胞周期の制御および腫瘍抑制因子タンパク質の作用に極めて重要な役割を果たしており、小型DNA腫瘍ウィルスの形質転換タンパク質の標的である。E2F2は、p27により活性化され、Rb1によりリン酸化される。
【0053】
「MDM2」遺伝子は、「マウス二重微小染色体2」ホモログをコードする。MDM2は、p53腫瘍抑制因子の重要な負の調節因子である。MDM2遺伝子は、がん遺伝子であることが同定されている。軟部肉腫および骨肉腫や、乳房腫瘍などのいくつか種類のヒト腫瘍では、MDM2タンパク質レベルが増加していることが示されている。腫瘍性タンパク質であるMDM2はp53をユビキチン化して、p53に拮抗する。したがって、MDM2の抑制は、p21の活性化とCDK4およびCDK6の抑制に極めて重要である。
【0054】
「MDM4」遺伝子は、「マウス二重微小染色体4」ホモログをコードする。MDM4タンパク質は、E2F1、MDM2およびp53と相互作用することが示されている。MDM4の抑制は、p21の活性化とCDK4およびCDK6の抑制に極めて重要である。
【0055】
「MYC」遺伝子は、c-mycとも呼ばれ、転写因子をコードする調節遺伝子かつがん原遺伝子ファミリーのメンバーである。MYCは、このファミリーにおいて最初に発見された遺伝子である。MYCは、がんにおいて永続的に発現されることが多い。MYCが発現されることによって、多数の遺伝子の発現が増加し、そのうちのいくつかは細胞増殖に関与することから、がんの形成に寄与する。
【0056】
ここでも、前記遺伝子および遺伝子産物のヒトバリアントが好ましい。
【0057】
本発明の一実施形態では、前記工程(3)において、少なくとも1種、少なくとも2種、少なくとも3種、少なくとも4種、少なくとも5種、少なくとも6種、少なくとも7種、少なくとも8種、少なくとも9種、少なくとも10種、少なくとも11種または少なくとも12種の細胞老化誘導性細胞周期調節因子遺伝子および/または細胞老化抑制性細胞周期調節因子遺伝子において遺伝子変化の存在が同定された場合に、前記患者を不応答患者として分類する。
【0058】
この方法は、分析対象の遺伝子の数を増すほど、診断または分類の確実性をさらに高めることができるという利点がある。しかし、信頼性の高い診断または分類を実施して治療結果を得ようとする場合、例えば、1種類の遺伝子、2種類の遺伝子、3種類の遺伝子または4種類の遺伝子などの少ない種類の遺伝子でも十分な場合があることも判明している。特に、CDK4遺伝子、CDK6遺伝子、MDM2遺伝子またはMDM4遺伝子のいずれかに遺伝子変化が存在する場合、これらの遺伝子のうち、1種類の遺伝子、2種類の遺伝子または3種類の遺伝子のみにしか遺伝子変化が認められなくても、診断または分類の確実性は非常に高くなる。
【0059】
本発明の実施形態において、治療が必要な前記患者は、黒色腫に罹患している患者であり、転移性黒色腫および/または癌腫由来の転移性黒色腫に罹患している患者であることが好ましく、転移性癌腫および/またはリンパ腫由来の転移性癌腫に罹患している患者であることが好ましい。
【0060】
この点において、本発明による方法は、同定された遺伝子が特定の予後判定に重要な役割を果たす患者の分類に適しているという利点がある。
【0061】
本発明の別の主題は、治療が必要な患者を、免疫チェックポイント阻害剤療法に不応答の患者または応答する患者として分類するための、(i)細胞老化誘導性細胞周期調節因子遺伝子と(ii)細胞老化抑制性細胞周期調節因子遺伝子を含む遺伝子セットの使用に関する。
【0062】
本発明の方法に関して述べた実施形態、特徴、制限および利点は、本発明による使用にも同様に適用される。
【0063】
前述の特徴および後述する特徴は、各実施形態において示した組み合わせでしか使用できないわけではなく、本発明の範囲から逸脱することなくその他の組み合わせや単独でも使用することができる。
【0064】
以下の実施形態を参照することにより本発明をさらに詳しく説明する。これらの実施形態では、本発明のさらなる特徴、特性および利点について述べている。また、以下の実施形態は例示のみを目的としたものであり、本発明の趣旨または範囲を限定するものではない。特定の実施形態で述べた特徴は、本発明の全般的な特徴であり、特定の実施形態のみならず、本発明のあらゆる実施形態において単独で適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
以下の実施例および図面を参照しながら、本発明をさらに詳細に記載および説明するが、本発明はこれらの実施例および図面に限定されない。
図1】移植したRT2がんに対するp16Ink4a依存性の免疫制御を示す。(a、b、e、f)RT2マウスに由来するがん細胞(a)、RT2.Stat1-/-マウスに由来するがん細胞(b)、RT2.p16Ink4a-/-がん細胞(e)、またはRT2-CRISPR-p16Ink4a-/-がん細胞(e)を同系マウスに皮下移入した。腫瘍の直径が3mmを超えた時点から処置を開始した。免疫チェックポイント阻害剤(ICB)の非存在下(Ctr)または存在下でがんの増殖を測定した。標的とする各転移病巣の直径の変化をスパイダープロットに示す。p16Ink4a(赤色)、Ki67(青色)および核(緑色)を示した代表的な写真(N=3の腫瘍から得たもの)を示す。スケールバーは2μmを示す。(c、d)老化アッセイでは、培地のみ(Ctr)または100ng/ml IFN-γと10ng/ml TNFを含む培地中で、RT2がん細胞(c)またはRT2.p16Ink4a-/-がん細胞(d)を96時間培養し、洗浄した後、培地中でさらに4日間培養した。データは、4回の測定で得た生細胞の対数平均値を示す(c、d、左図)。また、培地(Ctr)またはエトポシド(Eto、100μM)もしくはスタウロスポリン(Sta、0.5μM)に細胞を24時間暴露してアポトーシスを誘導し、アネキシンVで染色した。陽性細胞をフローサイトメトリーで検出した。データは、3回の反復実験の幾何平均値を幾何SDとともに示す(c、d、右図)。
図2】内因性の進行性RT2がんのStat1依存的な免疫制御と、細胞傷害性免疫応答による老化の誘導を示す。(a)アイソタイプモノクローナル抗体(対照(Ctr))、T抗原特異的CD4+TH1細胞(養子T細胞移入(AT))、免疫チェックポイント阻害剤(ICB)、または免疫チェックポイント阻害剤とT抗原特異的CD4+TH1細胞の組み合わせ(ICB/AT)で処置したRT2マウスまたはRT2.Stat1-/-マウスの生存曲線を示す。(b)4週間の処置後のRT2マウス(上図)またはRT2.Stat1-/-マウス(下図)の膵臓の代表的なHE染色写真にがんの大きさを示す。(a)と同様にしてマウスを処置した。緑色のラインは、処置後のRT2がんの大きさを示す。4週目において、ICB/ATで処置したマウスの膵島の大きさは半分になっていた。(c)(a)と同様にして処置したRT2マウスまたはRT2.Stat1-/-マウスにおける血糖値の経時変化を示す(中央値±四分位範囲)。4週間処置した後にマウスを屠殺し、エクスビボ分析を行った。曲線下面積を計算して、フィッシャーの正確確率検定により統計比較を行った。(d、e)老化マーカーp16Ink4a(赤色)と、増殖マーカーKi67(青色)と、核(緑色)の三重染色を示す(d)。個々のデータ点を示した箱ひげ図(e)は、(a)と同様にして処置した個々マウスにおけるp16Ink4a+がん細胞(左図)またはKi67+がん細胞(右図)の定量を示す。各点は、個々のマウスを3回測定した結果を示す。ログランク検定(a、左図)、フィッシャーの正確確率検定(a、右図、RT2.Stat1-/-マウスは3.7週間の処置後に打ち切った)、または両側マン・ホイットニー検定(c、e)を使用して有意性を試験した。スケールバーは、200pm(b)または2pm(d)を示す。
図3】λ-MYC誘導性のリンパ腫におけるp21Cip1依存的な免疫制御を示す。(a)抗IFN-γモノクローナル抗体の非存在下において免疫チェックポイント阻害剤(ICB)で処置したλ-MYCマウス(免疫チェックポイント阻害剤のみ)、抗IFN-γモノクローナル抗体の存在下において免疫チェックポイント阻害剤(ICB)で処置したλ-MYCマウス(免疫チェックポイント阻害剤+抗IFN-γ)または未処置のλ-MYCマウス(Ctr)の生存曲線を示す。(b、c)老化マーカーp16Ink4a(赤色、上図)またはp21Cip1(赤色、下図)と、増殖マーカーKi67(青色)と、核(緑色)の三重染色を示す。スケールバーは2pmを示す。各写真は代表的な例を示す(b)。個々のデータ点を示した箱ひげ図は、対照λ-MYCマウス(Ctr)、免疫チェックポイント阻害剤(ICB)で処置したλ-MYCマウス、免疫チェックポイント阻害剤と抗IFN-γで処置したλ-MYCマウス、または免疫チェックポイント阻害剤で処置したλ-MYC.p21Cip1-/-マウスから採取したB細胞のp16Ink4a+核(c、左図)またはKi67+核(c、右図)を示す。同じ日齢のマウスからリンパ節を摘出した。各点は、個々のマウスを3回測定した結果を示す。(d)200日目における健康なマウスの数を示す。250日目を超えてもマウスはいずれも健康な状態であった。(e)未処置λ-MYC.p21Cip1-/-マウスまたは免疫チェックポイント阻害剤(ICB)で処置したλ-MYC.p21Cip1-/-マウスの生存曲線を示す。ログランク検定(a、d)または両側マン・ホイットニー検定(c)を使用して有意性を試験した。
図4】がん免疫療法に不応答の転移性黒色腫患者において選択的に欠損する老化誘導性細胞周期調節因子遺伝子を示す。(a、b、c)30人の不応答患者と12人の応答患者におけるシーケンスデータの比較を示す。不応答患者は、3ヶ月間の免疫チェックポイント阻害療法中に疾患が進行した患者であった。応答患者は、1年を超える免疫チェックポイント阻害療法により転移が退縮した患者であった。(a)腫瘍遺伝子変異量(TMB)(コピー数多型)を示す。(b)細胞周期、Jak経路またはMyc経路に関与する19種の遺伝子の腫瘍特異的な変化の数を示す。(c)ホモ接合性欠失を有する細胞周期抑制因子遺伝子の数、または3倍以上に増幅している細胞周期促進因子遺伝子の数を示す。CDKN2A/B/C遺伝子、CDKN1A/B遺伝子、RB1遺伝子、TP53遺伝子、JAK1/2/3遺伝子、CCND1/2/3遺伝子、CDK4/6遺伝子、CCNE1遺伝子、MDM2/4遺伝子およびMYC遺伝子を分析した。(d、e、左図)老化アッセイを行うため、培地のみ(Ctr)または100ng/ml IFN-γと10ng/ml TNFを含む培地中で、患者由来細胞株を96時間培養し、洗浄した後、培地中でさらに4~6日間培養した。データは、4回の測定で得た生細胞の対数平均値を示す。(d、e、右図)培地(Ctr)またはエトポシド(Eto、100μM)もしくはスタウロスポリン(Sta、0.5μM)に細胞を24時間暴露してアポトーシスを誘導し、ヨウ化プロピジウムで染色した。G1期細胞のサブセットをフローサイトメトリー分析で検出した。データは、3回の反復実験の幾何平均値を幾何SDSとともに示す。両側マン・ホイットニー検定を使用して有意性を試験した(a~c)。
図5】移植した様々ながんの免疫制御を示す。RT2がん(Ctr)の移植では、老化マーカーであるpHP1γ、H3K9me3またはSA-β-galの発現が誘導されたが、Stat1欠損がんおよびp16欠損がんの移植では、これらの老化マーカーの発現は誘導されなかった。移植したRT2がん細胞、RT.Stat1-/-がん細胞またはRT2.p16Ink4a-/-がん細胞由来の膵島がんの核の免疫蛍光顕微鏡写真を示す。アイソタイプコントロールモノクローナル抗体(Ctr)または免疫チェックポイント阻害療法(ICB)でマウスを処置した。(a)pHP1γ(赤色)、核(白色)。(b)H3K9me3(赤色)、核(白色)。(c)pH5.5でのSA-β-gal活性と、対応する染色領域に認められたSA-β-gal陽性腫瘍細胞の割合を示す(下図)。スケールバーは、2μm(a、b)および1000μm(c)を示す。
図6】RT2がん細胞のCDKN2a欠損バリアントを示す。(a1およびa2)6つのRT2バリアント細胞株(2~7)と初代RT2細胞株(1)の染色体のイデオグラムを、野生型C3HeB/FeJマウスの染色体のイデオグラムと比較した比較ゲノムハイブリダイゼーションアレイを示す。雌性マウス(XX)において赤色で示される増幅、緑色で示される欠損および目的のゲノムを、雄性マウス(XY)の参照DNAと比較した。免疫療法に抵抗性を示す細胞を選択することによって、4番染色体(qC4.A)のCDKN2a欠損バリアントを作製した(2および3:インビトロ、4~7:インビボ)。(b)qRT-PCRで測定した、RIP-Tag2細胞(この細胞の発現量を1として設定)、RIP-Tag2.Stat1-/-細胞、RT2.p16Ink4a-/-細胞、RT2-CRISPR-Ctr細胞またはRT2-CRISPR-p16Ink4a細胞におけるSV40-Tag(左図)およびCDKN2a(右図)の相対発現量を示す。
図7】空のCRISPR-CasベクターをトランスフェクトしたRT2がん細胞と、CRISPR-Cas-p16Ink4aベクターをトランスフェクトしたRT2がん細胞とを比較したところ、インビトロでの増殖動態とアポトーシスに対する感度は同程度であったが、サイトカインによる老化誘導に対する抵抗性は異なっていた。(a、b)老化アッセイを行うため、培地のみ(Ctr)または100ng/ml IFN-γと10ng/ml TNFを含む培地中で、RT2-CRISPR-Ctrがん細胞(a)またはRT2-CRISPR-p16Ink4aがん細胞(b)を96時間培養し、洗浄した後、培地中でさらに4日間培養した。データは、4回の測定で得た生細胞の対数平均値を示す(a、b、左図)。また、培地(Ctr)またはエトポシド(Eto、100pM)もしくはスタウロスポリン(Sta、0.5pM)に細胞を24時間暴露してアポトーシスを誘導し、アネキシンVで染色した。陽性細胞をフローサイトメトリー分析で検出した。データは、3回の反復実験の幾何平均値を幾何SDとともに示す(a、b、右図)。(c)RT2がん細胞(1×106個)を皮下移植したマウスの数と、RT2-CRISPR-Ctrがん細胞またはRT2-CRISPR-p16Ink4aがん細胞の生着性を示す。
図8】免疫チェックポイント阻害療法の開始時における10週齢のRlP-TagZマウス(RT2がん)の進行性膵島がんを示す。10週齢のRIP-Tag2マウスの代表的な磁気共鳴画像を示す。冠状断像(左図)および横断像(右図)を示す。矢印はRT2がんを示す。脾臓(S)、胃(St)、腎臓(K)、肝臓(Li)を示す。
図9】RT2がんにおいて、強力な細胞傷害性免疫応答によりStat1依存的に誘導されたp21Cip1およびその他の老化マーカーを示す。がんが確立された後、アイソタイプコントロール(Ctr)、免疫チェックポイント阻害療法(ICB)もしくは養子T細胞移入(AT)、またはこれらの組み合わせ(ICB/AT)で処置したRT2マウスまたはRT2.Stat1-/-マウスから採取したRT2がんの新鮮なクリオスタット凍結切片の代表的な写真を示す。(a)p21Cip1(赤色)、Ki67(青色)、核(緑色)。(b)pHP1γ(赤色)、核(白色)。(c)H3K9me3(赤色)、核(白色)。(d)pH5.5でのSA-β-gal活性と、対応する染色領域に認められたSA-β-gal陽性腫瘍細胞の割合を示す(下図)。(e)SA-β-galを染色したRT2がんの電子顕微鏡(EM)写真を示す。スケールバーは、2pm(a~c)、1000μm(d)、1pm(e)を示す。
図10】養子T細胞移入を行った後のRT2マウスまたはRT2.Stat1-/-マウスの腫瘍微小環境を示す。RT2マウスまたはRT2.Stat1-/-マウスをアイソタイプコントロール(Ctr)または養子T細胞移入(AT)で処置し、2回目の処置を行った2日後に膵臓を摘出した。(a)インビボにおける2Dライトシート蛍光顕微鏡写真(LSFM)を示す。(b)3Dライトシート蛍光顕微鏡写真(LSFM)を示す。CD4+(赤色)、CD11b+(緑色)、自家蛍光(青色)。臓器を採取する2時間前に、標識モノクローナル抗体を注射した(スケールバー100μm)。(c~e)2回目の養子T細胞移入(AT)を行った2日後のRT2膵臓またはRT2.Stat1-/-膵臓における腫瘍浸潤白血球のフローサイトメトリー分析を示す。(c)CD4+T細胞およびCD8+T細胞の割合を示す。(d)CD45+免疫細胞の数を示す。(e)CD45+CD11b+CD11c+樹状細胞の数を示す。各ドットは1匹のマウスを示す。
図11】Stat1がRT2がん細胞の老化誘導に必要とされるが、RT2がん細胞のアポトーシスやT細胞による殺傷には必要ではないことを示す。(a)RT2がん細胞(N=4)またはRT2.Stat1-/-がん細胞(N=4)を、培地(Ctr)またはエトポシド(Eto、100pM)もしくはスタウロスポリン(Sta、0.5pM)に24時間暴露してアポトーシスを誘導し、アネキシンVで染色した。陽性細胞をフローサイトメトリー分析で検出した。データは、3回の反復実験の幾何平均値を幾何SDとともに示す(a、d、右図)。(b)B16-F10黒色腫細胞もしくはOVA発現B16黒色腫細胞(いずれもC57BL/6マウス由来)、またはRT2がん細胞もしくはStat1-/- RT2がん細胞(いずれもC3HeB/FeJマウス由来)を、OVAに反応性を示すC57BL/6 CD8+細胞傷害性T細胞と共培養し、1.5時間後に特異的なクロムの放出を測定した。(c)老化アッセイ:培地のみ(Ctr)または100ng/ml IFN-γと10ng/ml TNFを含む培地中で、RT2がん細胞(左図)またはRT2.Stat1-/-がん細胞(右図)を96時間培養し、洗浄した後、培地中でさらに4日間培養した。データは、4回の測定で得た生細胞の対数平均値を示す。(d)SA-β-galの染色を示す。両側マン・ホイットニー検定を使用して有意性を試験した。
図12】免疫制御を行ったλ-MYCマウスにおいて、正常なリンパ節構造が保持され、p21Cip1依存的に老化B細胞表現型が誘導されることを示す。λ-MYCマウスまたはλ-MYC.p21Cip1-/-マウスから採取した代表的なリンパ節の新鮮凍結したクリオスタット切片を示す。λ-MYCマウスは、抗CTLA-4モノクローナル抗体と抗PD-1モノクローナル抗体を併用して処置するか(免疫チェックポイント阻害療法(ICB))、抗CTLA-4モノクローナル抗体と抗PD-1モノクローナル抗体と抗IFN-γモノクローナル抗体を併用して処置するか(免疫チェックポイント阻害療法+抗IFN-γ)、あるいは処置を行わなかった(Ctr)。λ-MYC.p21Cip1-/-マウスは免疫チェックポイント阻害療法で処置した(ICB p21Cip1-/-)。(a)CD20(赤色)、CD3(緑色)、核(白)。スケールバーは500μmを示す。(b)pHP1γ(赤色)、核(白色)。(c)H3K9me3(赤色)、核(白色)。(d)pH5.5でのSA-β-gal活性と、対応する染色領域に認められたSA-β-gal陽性腫瘍細胞の割合を示す(下図)。
図13】細胞周期調節遺伝子における機能喪失変異および機能獲得変異を示した変異オンコプロットを示す。重篤な体細胞変異を有する細胞周期調節遺伝子を示す。各群の各遺伝子の変異頻度は、オンコプロットの左側(不応答患者)または右側(応答患者)に示す。CCND2遺伝子、CDKNZB遺伝子、CDKNZC遺伝子、CDKN1a遺伝子、CDKN1B遺伝子、RB1遺伝子、JAK1遺伝子またはJAK3遺伝子に変化は検出されなかった。
図14】IFN-JAK1-STAT1シグナル伝達経路により細胞周期が調節されることを示す。(a)IFN受容体のシグナル伝達を示す。(b)細胞周期調節機構を示す。略語:IFN-γ:インターフェロンγ;IFNGR1/2:IFNGR1鎖とIFNGR2鎖からなるインターフェロンγ受容体;JAK1/2/3:ヤヌスキナーゼ1、ヤヌスキナーゼ2、ヤヌスキナーゼ3;STAT1:シグナル伝達兼転写活性化因子タンパク質ファミリー;MDM2:E3ユビキチンタンパク質リガーゼMdm2;MDM4:P53調節因子;TP53:腫瘍タンパク質P53;CDKN1A:サイクリン依存性キナーゼ阻害因子1A(p21、Cip1);CDKN1B:サイクリン依存性キナーゼ阻害因子1B(P27、Kip1);CDK2:サイクリン依存性キナーゼ2;CCNE1:G1/S期特異的サイクリンE1;CDKN2A:サイクリン依存性キナーゼ阻害因子2a/ZB(p16Ink4a/p14Arf);CDKN2C:サイクリン依存性キナーゼ阻害因子2C(p18(CDK4を抑制する));CDK4:サイクリン依存性キナーゼ4;CDK6:サイクリン依存性キナーゼ6;CCND1;サイクリンD1;CCND2;サイクリンD2;CCND3:サイクリンD3。
【実施例
【0066】
1.序論
がんの免疫制御の大部分では、細胞傷害性応答によりがんが排除されるが1-5、細胞傷害性免疫応答を逃れたがん細胞に対する防御を行うためには、さらに別の機構が必要である6-8。サイトカインによる老化誘導(CIS)により、がん細胞の増殖を安定に阻止できることから10、がんの免疫制御において、細胞傷害性免疫応答を逃れたがん細胞を阻止するためには、老化を誘導する細胞周期調節因子が必要であるかどうかを調査した。本研究では、自然免疫応答および治療誘導性免疫応答により、マウスにおいてがんの大部分が排除されるが、これらの免疫応答による排除を逃れたがん細胞では、老化が誘導されることを示す。p16Ink4aまたはp21Cip1が欠損したがんでは、アポトーシスおよび細胞溶解に対する感受性が保持されていたにもかかわらず、無秩序な増殖が認められたことから、がんの制御には老化誘導が必要であることが示された。老化とがん免疫制御の誘導には、インターフェロン(IFN)-γ-STAT1シグナル伝達カスケードによるp16Ink4aおよびp21Cip1の活性化とT細胞が必要であった。この結果と一致して、免疫チェックポイント阻害療法(ICB)を実施したところ、3ヶ月以内にがんが進行した転移性ヒト黒色腫は、老化誘導性遺伝子が減少しており、老化抑制因子が3倍以上に増幅しており、サイトカインによる老化誘導に抵抗性を示し、アポトーシスに感受性であった。このような変異は、免疫チェックポイント阻害療法により1年未満で転移性黒色腫が退縮した患者ではまれにしか見られなかった。以上の結果から、根絶を逃れたがん細胞をがんの免疫制御により安定に阻止するには、がんが元来備えている老化誘導性細胞周期調節因子のIFN依存的な活性化が必要であることが判明した。
【0067】
2.材料と方法
動物
C3HeB/FeJ(C3H)マウスは、ジャクソン研究所(米国メイン州バー・ハーバー)から購入した。同系トランスジェニックTCR2マウス32は、タグペプチド362-384に特異的なT細胞受容体(TCR)をCD4+T細胞上に発現する。RIP-Tag2(RT2)マウスは、ラットインスリンプロモーター(RIP)の制御下でT抗原を発現することから、膵島がん(RT2がん)を発症する10,33。二重トランスジェニックRT2.Stat1-/-マウス(129S6/SvEv-Stat1tm1Rdsマウスの戻し交配34)は、Taconic社から入手し、C3Hマウスに戻し交配した10。これらのマウスはいずれも特定病原体不在条件下で飼育した。λ-MYCマウスおよび二重トランスジェニックλ-MYC.p21-/-マウス(いずれもC57BL/6を遺伝背景とする)は、免疫グロブリン軽鎖エンハンサーの制御下でヒトMYCがん遺伝子を発現し、内因性にB細胞リンパ腫を発症する31。C3HeB/FeJを遺伝背景とするマウスは、テュービンゲンの動物施設で飼育した。C57BL/6を遺伝背景とするマウスは、ミュンヘンの動物施設で飼育した。動物実験は、動物福祉法に従って実施し、地方自治体(Regierung von Oberbayern and Regierungsprasidium Tubingen)による承認を受けたものであった。
【0068】
C3HマウスにおけるRT2がんの処置
抗CD8モノクローナル抗体100μg(Rm-CD8-2 AK、Helmholtz-Zentrum Munch社のCore Facility mAb)を投与してCD8細胞を除去し、その3日後に、合計1×106個(100μlのNaCl中に懸濁)のRT2がん細胞、RT2.Stat1-/-がん細胞、RT2.p16-/-がん細胞またはRT2.p16CRISP-Casがん細胞を皮下移植した。腫瘍病巣が触知可能となるまで、CD8細胞の除去処置を10日ごとに行った。腫瘍の大きさが3mm以上になった時点で、抗PD-L1モノクローナル抗体と抗LAG-3モノクローナル抗体を用いて週1回マウスを処置した(初回投与では500μgの用量とし、これ以降は200μgの用量とした)。対照マウス(Ctr)にはアイソタイプコントロール抗体(クローンLTF-2およびクローンHRPN、Bio X Cell社)を投与した。ノギスを用いて腫瘍の成長をモニターし、アキュチェックセンサーを用いて血糖値を週2回、8週間後まで測定した。4サイクルの処置を終えた後、腫瘍の直径が15mmを超えた時点または血糖値が2回にわたり30mg/dl未満に低下した時点でマウスを屠殺した。腫瘍を採取し、エクスビボで分析を行った。
【0069】
RT2マウスまたはRT2.Stat1 -/- マウスの処置
10~11週齢の雌性のRIP-Tag2(RT2)マウスまたはRT2.Stat1-/-マウスに2Gyの放射線を照射し、その翌日に、1×107個の腫瘍抗原特異的TH1細胞(TAA-TH1細胞、過去の報告に従って、雌性TCR2マウスから単離して作製した細胞35)の初回の腹腔内移入を行った。細胞の移入は週1回行った。その後、抗PD-L1モノクローナル抗体(クローン10F.9G2、Bio X Cell社)と抗LAG-3モノクローナル抗体(クローンC9B7W、Bio X Cell社)を週2回腹腔内注射した(初回投与では500μgの用量とし、これ以降は200μgの用量とした)。対照マウス(Ctr)にはアイソタイプ適合コントロール抗体(クローンLTF-2およびクローンHRPN、Bio X Cell社)とPBSを投与した。HemoCueグルコース201+システム(HemoCue社)を用いて血糖値を週2回測定した。腫瘍組織のエクスビボ分析を目的とした4サイクルの処置を終えた時点、またはマウスの血糖値が2回にわたり30mg/dl未満に低下した時点、または疾患の発症が証明された時点で処置を終了した。マウスには食事制限を行わなかった。
【0070】
λ-MYCマウスの処置
λ-MYCマウスおよび二重トランスジェニックλ-MYC.p21-/-マウスに、誕生から55日目から、抗PD-1モノクローナル抗体100μg(クローンJ43、Bio X Cell社)と抗CTLA-4モノクローナル抗体100μg(クローンUC10-4B9、BioLegend社)(免疫チェックポイント阻害療法)を10日ごとに2~4回腹腔内(i.p.)注射した。対照マウス(Ctr)には処置を行わなかった。IFN-γを中和するため(免疫チェックポイント阻害療法と抗IFN-γモノクローナル抗体を用いた処置を行うため)、54日目に、抗IFN-γモノクローナル抗体(クローンXMG1.235、Helmholtz-Zentrum Munchen社のCore Facility mAb)をマウスに投与し(初回投与では500μgの用量とし、これ以降は300μgの用量とした)、その6時間後に、抗PD-1モノクローナル抗体と抗CTLA-4モノクローナル抗体をさらに注射した。その後、マウスがリンパ腫を発症するまで、IFN-γモノクローナル中和抗体100μgの投与を10日間の間隔で継続した。X日目、B日目およびD日目に、YYYモノクローナル抗体CCCμgを注射してT細胞を除去した。臨床的に視認可能な腫瘍が確認され次第、マウスを屠殺した。
【0071】
免疫蛍光染色
免疫蛍光分析は、過去に報告されている方法と実質的に同様にして行った10。より詳細には、λ-MYCマウスから採取したリンパ節、RT2マウスおよびRT2.Stat1-/-マウスから採取した膵臓全体、または単離したRT2がん細胞、Stat1欠損RT2がん細胞もしくはp16Ink4a欠損RT2がん細胞から、新鮮凍結した5μmの連続凍結切片を作製し、過ヨウ素酸-リジン-パラホルムアルデヒドで固定した。ロバ血清で切片をブロックし、ウサギ抗p16Ink4a抗体(Serotec社)、ラット抗Ki67抗体(eBioscience社)、ラット抗p21Cip1抗体(Abcam社)、ヤギ抗CD20抗体(Santa Cruz社)、ウサギ抗CD3抗体(DCS社)、ウサギ抗pHP1γ phospho S93抗体(Abcam社)またはウサギ抗H3K9me3抗体(Abcam社)とともにインキュベートした。次に、Cy3標識ロバ抗ウサギ抗体(Dianova社)、Alexa 647標識ロバ抗ラット抗体(Dianova社)、Cy3標識ロバ抗ラット抗体、Cy3標識ロバ抗ヤギ抗体またはAlexa 488標識ロバ抗ウサギ抗体を使用して、結合した抗体を可視化した。核染色は、Yopro(インビトロジェン社)またはDAPI(シグマ社)を用いて行った。LSM 800共焦点レーザー顕微鏡(ツァイス社、オーバーコッヘン)を用いて切片を分析した。撮影した写真は、ZEN 2.3ソフトウェア(blue edition)とImage Analysisモジュールで処理した。
【0072】
免疫蛍光染色の定量
1つの組織試料につき、3つの染色凍結切片から撮影した腫瘍領域の写真を分析した。Ki67染色の定量では、Yoproで染色された4500個の核(スライド1枚あたり1500個)を計数してKi67+細胞の数を求めた。p16Ink4aの定量では、Yoproで染色された4500個の核(スライド1枚あたり1500個)に由来する核内p16Ink4aシグナル陽性領域(μm2)を測定した。
【0073】
ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色
連続凍結切片のHE染色は標準的な操作により行った。
【0074】
老化関連酸性β-ガラクトシダーゼ(SA-β-gal)の検出
20μmの連続凍結切片を2%ホルムアルデヒド/0.25%グルタルアルデヒドで固定し、PBS/MgCl2で洗浄した。X-gal染色液(5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-D-ガラクトピラノシド)中でスライドをインキュベートした。染色したスライドをPBS/MgCl2ですすぎ、Nikon Eclipse 80i顕微鏡を用いて4倍で分析した。各組織試料は、pH4.0、pH5.5およびpH7.0で染色した。
【0075】
Adobe Photoshop CS6を使用したSA-β-gal陽性率の推定
ホワイトバランスツールですべて写真を分析して、白色の背景が同じ白色となるようにを調節した後(ホワイトバランスツール)、クイックマスクモードを使用して腫瘍領域を特定した。この特定した腫瘍領域において、ぼかし(平均)フィルタツールを使用して、青緑色の数値の相加平均を得た。スポイトツールを使用してRGBカラーコードを特定し、対応するカラーフィールドを得た。次に、先に作製しておいたクイックマスクモードレイヤを使用して腫瘍領域を再選択した。選択領域を反転して腫瘍領域の外側のピクセルを削除した。ヒストグラムのピクセル数は、腫瘍領域と相関している。次に、ポスタリゼーションツールを使用して、異なる色調値を分離した(本実験では青色と緑色)。自動選択ツールを使用して、白色のピクセルを選択し、削除した。ピクセル数は、β-galが染色された腫瘍細胞の面積と相関することから、β-galが染色された腫瘍細胞の定量値をパーセンテージとして計算した。
【0076】
電子顕微鏡法によるSA-β-gal活性の検出
薄切組織試料(準超薄切片:0.5μmおよび電顕用超薄切片:20nm)を固定液(0.25%グルタルアルデヒドの2%PFA溶液)中で固定し、PBS/MgCl2溶液で洗浄した。X-Gal染色液を加えて12時間インキュベートした。次に、PBS/MgCl2溶液で試料を洗浄した後、Karnovsky固定液で固定した。Glycidエーテル中に試料を包埋して、電子顕微鏡分析を行った。
【0077】
電子顕微鏡法
Karnovsky固定液中で組織を24時間固定した。カコジル酸バッファー中に1.5%フェロシアン化カリウムを含む1%四酸化オスミウム液を使用して後固定を行った。標準的な方法に従ってその後の工程を実施した後、組織ブロックをグリシドエーテル中に包埋し、ウルトラミクロトーム(Ultracut、Reichert社、オーストリア、ウィーン)を使用して薄切した。超薄切片(30nm)を銅製グリッドに貼付し、120kVで動作するツァイス社製のLIBRA 120透過型電子顕微鏡(カールツァイス社、ドイツ、オーバーコッヘン)を使用して分析した。
【0078】
細胞培養
培養器に接着した状態のRT2がん細胞は、10%ウシ胎仔血清(FCS)、非必須アミノ酸、ピルビン酸ナトリウム、抗生物質および50μM 2-メルカプトエタノールを添加したダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)中において37℃、7.5%CO2で培養した。マウス黒色腫細胞株B16およびB16-OVAは、10%FCSおよびペニシリン/ストレプトマイシン(各100U/ml;いずれもBiochrom AGから入手した)を含むDMEM培地中において37℃、5%CO2で培養した。ヒトTuMel細胞株および患者由来の異種移植片(PDX)細胞株は、10%FCS、非必須アミノ酸、ピルビン酸ナトリウム、抗生物質および5μg/ml PlasmocinTM(インビトロジェン社)を添加したRPMI 1640培地中において37℃、5.0%CO2で培養した。
【0079】
初代マウスRT2細胞株または初代マウスRT2.Stat1 -/- 細胞株の作製
過去に報告されている方法と同様にして、雌性RT2マウスまたは雌性RT2.Stat1-/-マウスの膵臓をコラゲナーゼ(1mg/ml、Serva社、ドイツ、ハイデルベルク)で消化することによって、RT2がんを単離した10,35。簡潔に述べると、完全被包腫瘍を解剖顕微鏡下(ライカマイクロシステムズ社)で分離し、さらに処理を行って、免疫蛍光顕微鏡分析、免疫組織化学分析または遺伝子発現分析を行った。別の方法として、単一の腫瘍細胞を作製するため、0.05%トリプシン/EDTA溶液(インビトロジェン社)中で腫瘍を37℃で10分間インキュベートした。インキュベーション後、RT2がん細胞を組織培養プレートに播種した。
【0080】
初代p16 Ink4a 欠損RT2細胞株の作製
4番染色体(qC4.A)のCDKN2a欠損バリアントは、サイトカインによる老化誘導または免疫チェックポイント阻害療法に抵抗性を示すRT2がん細胞から無作為に選択することにより作製した。
【0081】
CRISPRを利用した初代RT2細胞株におけるp16 Ink4a 欠損の作製
CRISPRdirectを使用して、マウスCdkn2aInk4aのエキソン2(120~142番目と125~157番目)(Ensemblゲノムブラウザ97から得た配列)を標的とするgRNAを複数設計した36。BbsI制限部位を使用して、pSpCas9(BB)-2A-GFP(pX458;Addgene社、プラスミドID:48138)に各gRNAをクローニングした37(gCdkn2a_1:5’-gcg tcg tgg tgg tcg cac agg-3’(配列番号1)、gCdkn2a_2:5’-gac acg ctg gtg gtg ctg cac-3’(配列番号2))。シグマ アルドリッチ社からDNAオリゴを入手し、Zhangのプロトコルに従って互いにアニールした。BbsI制限部位を使用して、アニールしたDNAオリゴをpSpCas9(BB)-2A-GFP(pX458;Addgene社、プラスミドID:48138)にクローニングした。キアゲン社のEndoFreeMaxiキットを使用して、プラスミドのマキシプレップを行った。Quiagene Effecteneトランスフェクション試薬を使用して、初代RT2細胞株にトランスフェクトした。
【0082】
初代ヒト黒色腫細胞株の作製
過去の報告に従って、患者の組織試料を直接消化して細胞株(TuMel)を作製するか、あるいは、消化した腫瘍組織をPDXマウスモデルに皮下移植することによって増殖させた38,39
【0083】
老化アッセイ
RT2がん細胞、RT2.Stat1-/-がん細胞、RT2.p16Ink4aがん細胞、RT2-CRISPER対照がん細胞もしくはRT-CRISPER-p16Ink4aがん細胞、またはヒト黒色腫由来細胞(PDX)を、100ng/ml IFN-γおよび10ng/ml TNFを含む培地または培地のみ(Ctr)で96時間培養し、洗浄し、培地中でさらに4~6日間(対照細胞がコンフルエントに達するまで)培養し、計数した10
【0084】
インビトロにおけるSA-β-ガラクトシダーゼ活性アッセイ
過去の報告に従って、RT2がん細胞をIFN-γおよびTNFで処理した後、室温で15分間固定し、β-ガラクトシダーゼ染色キット(United States Biological社)を使用して37℃で16時間染色した10。さらに、4’,6-ジアミジン-2-フェニルインドール(DAPI;インビトロジェン社)で細胞核を染色した。Visiviewソフトウェアを備えたツァイス社製Axiovert 200顕微鏡を使用して、SA-β-gal陽性細胞およびSA-β-gal陰性細胞を計数し、ImageJソフトウェア(NIH)で分析した。
【0085】
アポトーシスアッセイ
アポトーシスを誘導するため、エトポシド(Eto、100μM、ブリストル・マイヤーズ スクイブ社、ETOPOPHOS(登録商標))、スタウロスポリン(Sta、0.5μM、BioVision社)または培地(対照(Ctr))にRT2がん細胞を24時間暴露させ、ヨウ化プロピジウムおよびアネキシンVで染色した。フローサイトメトリー分析で陽性細胞を検出した。
【0086】
クロム放出アッセイ
過去の報告に従って、クロム放出アッセイにより、細胞傷害性T細胞を介した細胞傷害性を測定した10。簡潔に述べると、2.5×106個の標的細胞を250μCi(9.25MBq)の51NaCr(Hartmann Analytic社)で37℃で1.5時間かけて標識した。B16-OVA細胞を陽性対照として使用し、B16-F10黒色腫細胞を陰性対照として使用した。
【0087】
患者および検体採取
転移性黒色腫を有する患者を、抗PD-1モノクローナル抗体の単独投与、または抗PD-1モノクローナル抗体と抗CTLA-4モノクローナル抗体の併用投与により処置した。治療期間の最初の3ヶ月で腫瘍が進行した不応答患者は30人であった(女性43.3%、年齢中央値61.5歳、22~89歳)。1年を超えて部分的な腫瘍退縮(>30%)または完全な腫瘍退縮を示した応答患者は12人であった(女性33.3%、年齢中央値56.5歳、27~75歳)。対照組織としての安全域から採取した正常組織と腫瘍生検を比較した。本研究は、テュービンゲンの倫理委員会からの倫理承認を受けた上で実施した。すべての患者から、研究分析を目的とする旨のインフォームド・コンセントに書面で署名を得た。本研究は、ヘルシンキ宣言および医薬品の臨床試験の実施基準(GCP)に従って行った。
【0088】
シーケンシング
患者試料はいずれも、ハイブリダイゼーションを利用したカスタム遺伝子パネルを使用して分析した。患者試料は臨床ルーチンで採取したため、3つのバージョンのパネル(ssSCv2、ssSCv3およびssSCv4)を使用した。バージョンが上がることに標的遺伝子の数を増加させ、337種の遺伝子を含むssSCv2、678種の遺伝子を含むssSCv3、および693種の遺伝子を含む現行のssSCv4を使用した。これらのパネルは、体細胞変異(SNV)、小さな挿入および欠失(INDEL)、コピー数変化(CNA)および選択された構造変化を検出できるように設計した(付録のデータ表1~3(カスタム遺伝子パネルssSCv2、ssSCv3および ssSCv4)参照)。アジレント社のSureSelectXT試薬キットとSureSelectXT HS試薬キット(アジレント社、カリフォルニア州サンタクララ)を使用して、標的部位のライブラリー調製と溶液中での捕捉を行った。75bpのペアエンドリードを用いたイルミナ社のNextSeq500システムを使用して、腫瘍(ホルマリン固定パラフィン包埋試料)から得たDNAと同一患者の正常対照(血液)を並行してシーケンスした。腫瘍試料は、511×の平均シーケンス深度(カバレッジ)でシーケンスし、正常対照試料は、521×の平均シーケンス深度(カバレッジ)でシーケンスした。研究室内で構築した「megSAP」という名称のパイプラインを使用してデータ解析を行った(https://github.com/imgag/megSAP、バージョン:0.1-733-g19bde95および0.1-751-g1c381e5)。簡潔に述べると、BWAソフトウェア(バージョン0.7.15)を使用して、シーケンシングリードをヒトゲノム参照配列(GRCh37)にアライメントした43。バリアントは、Strelka2ソフトウェア(バージョン2.7.1)を使用して検出し、SNPeff/SnpSiftソフトウェア(バージョン4.3i)を使用してアノテーション付けを行った44,45。総変異率は過去の報告に従って測定した46。妥当性および臨床的関連性を得るには、検出された変異(SNV、INDEL)のアレル頻度が5%以上であること(すなわち、腫瘍細胞画分の10%以上に影響が認められること)が必要であった。コピー数変化(CNA)は、ClinCNVソフトウェア(論文未発表、https://github.com/imgag/ClinCNV)を使用して同定した。この方法は、標的とするゲノムのNGSデータまたは全ゲノムのNGSデータを使用して、複数の試料中のコピー数多型を検出する方法である。簡潔に述べると、この方法は、i)1つの標的領域あたりのリード数の定量、ii)同じNGSパネルでシーケンスした試料群でのGC含有量、ライブラリーのサイズ、およびカバレッジの中央値による正規化、iii)腫瘍と正常試料の間でのlog2の倍率変化の計算、ならびにiv)セグメント化およびコピー数多型の検出の4つの工程からなる。ClinCNVソフトウェアは、試料の大部分において病巣領域が二倍体であると仮定して、log2の倍率変化を利用することにより、1領域あたりのコピー数の差異を示す統計モデルを推定し(ただし、腫瘍試料の純度により左右される)、各統計モデルの尤度を報告する。二倍体モデルの対数尤度を対立モデルから差し引くことによって、真の対立仮説のコピー数状態の陽性尤度を得ることができる。最後に、陽性の対数尤度比を有する連続した領域の最も長いセグメントを反復解析により同定する。対数尤度比が40以上であり、かつコピー数状態が1.5以下または3以上の領域を少なくとも3つ有するセグメントをコピー数多型として報告する。品質管理(QC)パラメーターはすべての解析工程で収集した47
【0089】
比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)アレイ
製造業者の説明書に従ってDNeasy血液&組織キット(キアゲン社)を使用して、RT2がん細胞または対照の(雄性野生型マウス由来の)脾臓組織からDNAを単離した。SureTag Complete DNA標識キット(アジレント・テクノロジー社)を使用してDNAを標識し、アジレント社のマウスゲノムCGHマイクロアレイ2×105K(アジレント・テクノロジー社)にハイブリダイズし、Feature Extractionソフトウェア10.5.1.1と、Genome Reference Consortium Mouse Build 38を参照として使用したアジレント社のGenomic WorkbenchソフトウェアLiteエディション6.5とを使用して画像を分析した。
【0090】
定量PCR
RT2がん細胞をトリプシン消化により回収し、液体窒素中で急速凍結した。Nucleospin RNAミニキット(Macherey-Nagel GmbH & Co. KG)を使用して、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)を含むRL1バッファー中に細胞を溶解し、DNase(インビトロジェン社)で消化することにより、RNAを調製した。アガロースゲル上で電気泳動し、フォトメーター(エッペンドルフ社)でOD600を測定することによって、RNAの品質を管理した。相補的DNAは、iScript cDNA合成キット(Bio-Rad Laboratories GmbH)を使用して調製した。定量PCRは、LightCycler 480(ロシュ社)を使用し、SybrGreenを用いて行った。参照遺伝子は、geNormを用いて評価し42、遺伝子発現は、qbaseソフトウェア(Biogazelle社)を使用してΔΔCT法により分析した。以下のプライマーを使用した。
SV40-Tagセンス鎖:5’-tccactccacaattctgctct-3’(配列番号3)と、そのアンチセンス鎖:5’-ttgcttcttatgttaatttggtacaga-3’(配列番号4);
Cdkn2aセンス鎖:5’-ttgcccatcatcatcacct-3’(配列番号5)と、そのアンチセンス鎖:5’-gggttttcttggtgaagttcg-3’(配列番号6);
Actbセンス鎖:5’-ctaaggccaaccgtgaaaag-3’(配列番号7)と、そのアンチセンス鎖:5’-accagaggcatacagggaca-3’(配列番号8);
Eef1a1センス鎖:5’-acacgtagattccggcaagt-3’(配列番号9)と、そのアンチセンス鎖:5’-aggagccctttcccatctc-3’(配列番号10)
【0091】
磁気共鳴イメージング
磁気共鳴イメージングは、過去の報告に従って、小動物用7T磁気共鳴断層撮影装置(ClinScan、Bruker Biospin MRI GmbH、ドイツ、エットリンゲン)を使用して、1.5%イソフルランで麻酔した10週齢のRT2マウスに対して行った40
【0092】
ライトシート蛍光顕微鏡法(LSFM)
過去の報告に従って、5週齢のRT2マウスまたはRT2.Stat1-/-マウスを、TAA-TH1細胞またはNaClで処置した。2回目の処置を行ってから48時間後に、各50μgのAlexa Fluor(登録商標)700抗マウスCD4モノクローナル抗体クローンGK1.5とAlexa Fluor 647抗マウスCD11bモノクローナル抗体クローンM1/70(BioLegend社)をマウスに静脈内注射した。2時間後に臓器を採取し、4%パラホルムアルデヒド/PBS溶液中において4℃で8時間固定した。エタノールの濃度上昇系列(30%、50%、70%、80%、90%)中に室温で2時間ずつ浸漬し、次いで4℃の100%エタノール中に一晩浸漬することによって、組織を脱水した。n-ヘキサン中で組織を2時間インキュベートし、次に、安息香酸ベンジル2部とベンジルアルコール1部(いずれもシグマ アルドリッチ社)の混合液中に30分間浸漬させることにより透徹を3回行った。この工程では、空気への暴露を厳密に避けた。次に、各試料を可視化し、開口数の大きいレンズを備えた特注のレーザー走査型ライトシート顕微鏡を用いて20倍で分析し41、IMARISソフトウェア(Bitplane社)を使用して画像を再構築した。
【0093】
フローサイトメトリー
過去の報告に従って、5週齢のRT2マウスまたはRT2.Stat1-/-マウスを、TAA-TH1細胞またはNaClで処置し35、2回目の処置を行った48時間後にマウスを屠殺した。各マウスの膵臓組織から膵リンパ節を分離し、200μmのセルストレーナーを用いて、20%FCSを含むDMEM培地中で膵臓を4℃でホモジナイズし、ACK溶解バッファー(Cambrex社)中で赤血球を溶解し、得られた試料を、蛍光色素標識抗体(Pacific Blue標識抗マウスCD4抗体(クローンGK1.5);PE-Cy7標識抗マウスCD8a抗体(クローン53-6.7);APC-Cy7標識抗マウスCD45.2抗体(クローン104);APC標識抗マウスCD11c抗体(クローンN418);Pacific blue標識抗マウスCD11b抗体(クローンM1/70)(いずれもBioLegend社))で染色した。50μmのセルストレーナーで再度細胞を分離した。FACS Ariaを使用してフローサイトメトリーを行い、DIVAソフトウェア(ベクトン・ディッキンソン社)で分析した。別の方法として、TH1細胞またはRT2がん細胞のフローサイトメトリー分析は、蛍光色素標識抗体(PE標識抗マウスIFN-γ抗体、PE標識抗マウスTNF-α抗体、PE標識抗マウスIL-4抗体、PE標識抗マウスβ2ミクログロブリン抗体;PE/Cy7標識抗マウス CD274(B7-H1、PD-L1)抗体(いずれもBioLegend社))で染色し、LSRIIサイトメーター(BDバイオサイエンス社)で測定し、FlowJoソフトウェアバージョン10により分析することにより行った。
【0094】
統計解析
実験の無作為化は行わなかった。研究者は、実験中または結果の評価中に各群への割り当てを知らされていた。検出力の計算は行わなかったが、サンプルサイズは過去の実験に基づいて選択した。結果の再現性を確保するため、インビトロ実験の結果は、3つの独立した実験から得た。統計ソフトウェアJMPバージョン12.2.0(SAS Institute社)およびGraphPad Prismバージョン6(GraphPadSoftware社、米国カリフォルニア州)を使用して、統計解析とグラフの作成を行った。2つの遺伝子型間で治療効果が異なっていたのかどうかを調べるため、共分散分析により腫瘍体積の常用対数値を分析した。名義因子として、(「処置」および「遺伝子型」の下位にネストした)「マウスID」、「処置」および「遺伝子型」、ならびに「処置」と「遺伝子型」の組み合わせを使用し、連続因子として「時間」を使用した。最終的には、「マウスID」と「時間」の組み合わせ、「処理」と「時間」の組み合わせ、および「遺伝子型」と「時間」の組み合わせを使用し、最も重要な組み合わせとして、「処理」と「遺伝子型」と「時間」の組み合わせを使用した。正規化を行うため、腫瘍体積の常用対数値を解析に使用した。常用対数を計算する前に、ゼロ値の結果は正値の最小値の半値で置き換えた。群間の比較は、対応のないノンパラメトリック両側マン・ホイットニー(ウィルコクソン)検定により行い、等分散でなければ、ウェルチの補正を行った対応のないパラメトリック両側t検定により行った。ログランク検定を用いて、λ-MYCマウスとRT2マウスの生存率の比較と、腫瘍潜伏曲線の作成を行った。RT2マウスとRT2.Stat1-/-マウスの打ち切り時点が異なっていたため、(教科書に記載されている)フィッシャーの正確確率検定を使用して生存率を比較した。Nは、患者の人数、マウスの頭数、または異なるマウスから得た試料の数および細胞株の数を指す。
【0095】
3.結果
自然免疫応答と免疫チェックポイント阻害療法とを調べたところ、ヒト体内において、腫瘍に浸潤した細胞傷害性T細胞およびナチュラルキラー細胞が活性化されると、細胞溶解とアポトーシスを介してがんが退縮することが明らかとなった。しかし、がん細胞は完全には排除されないことが多く、明確な特徴付けはされていないものの、制御された休眠状態で生存し続ける2,4,11-14。休眠状態のがん細胞の再活動が原因となって治療抵抗性が生じることが多く、この治療抵抗性は、不適切な免疫活性化、腫瘍に関連するコピー数多型(CNV)の減少、溶解またはアポトーシスに対する抵抗性、およびその他の未解明の機構により生じることがある2,6,11-13,15-18。黒色腫の進行およびがんの治療抵抗性と、IFN-JAK1-STAT1シグナル伝達経路の機能低下とを結びつける数多くのデータが示されている11,12,14,16,19-23。IFN-JAK1-STAT1シグナル伝達により、重要な2つの老化誘導因子p16Ink4aおよびp21Cip1が活性化されることから10,22,24-27、がんの免疫制御において、細胞傷害を逃れたがん細胞を阻止するためには、腫瘍が元来備えている老化誘導性細胞周期調節因子であるp16Ink4a-CDK4/6-Rb1およびMDM-p53-p21Cip1の誘導が必要であるかどうかを調べた。
【0096】
インビトロの腫瘍細胞においてp16Ink4aおよびp21Cip1を活性化させるには、IFN-γのシグナル伝達が必要であるref。したがって、まず、インビボのがん細胞におけるp16Ink4aの活性化、老化の誘導およびがんの免疫制御でも、IFN-γの機能性シグナル伝達カスケードが必要であるかどうかを調べた。これを確認するため、ラットインスリンプロモーター(RIP)の制御下におけるT抗原の発現により膵島がん(RT2がん)を発症するRIP-Tag2マウス10からStat1陽性がん細胞またはStat1陰性がん細胞を採取し、同系マウスに移植した。STAT1陽性RT2がんおよびSTAT1陰性RT2がんの大部分が排除された(>80%)。しかし、CD8細胞を除去すると腫瘍が増殖し、増殖性のKi67+p16Ink4a-表現型が認められた(図3a図3b)。
【0097】
これらのがんでも免疫系による制御が行われるのかどうかを調べるため、腫瘍の直径が3mm以上になった時点で、免疫チェックポイント阻害療法により免疫系を刺激した。Stat1陽性RT2がんの増殖の停止または退縮が見られ、わずかに残存したがん細胞は、p16Ink4a+Ki67-の老化表現型を呈し、さらに細胞老化特異的ヘテロクロマチン構造(SAHF)のリン酸化ヘテロクロマチンタンパク質1γ(S93)(pHP1γ)が陽性であり、H3K9me3および老化関連β-ガラクトシダーゼ(SA-β-gal)も陽性であった(図3a図11a~c)(図3a)。これに対して、Stat1陰性RT2がんは、免疫チェックポイント阻害療法の有無にかかわらず急速に増殖した。Stat1陰性RT2がん細胞は、p16Ink4a陰性であり、Ki67を発現したが、pHP1γ、H3K9me3、SA-β-galはいずれも発現しなかった(図3b)。
【0098】
STAT1は、CD8+細胞による腫瘍の排除には必要ではなかったが、p16Ink4aの誘導と効率的ながんの免疫制御には必要であったという結果から、排除されなかったがん細胞を免疫制御により抑制するには、腫瘍細胞が元来備えている老化誘導性細胞周期調節因子p16Ink4aの活性化が必要であることが示唆された。この疑問を解決するため、インビトロ選択またはインビボ選択により、p16Ink4a遺伝子座(Cdkn2a)を欠損したp16Ink4a欠損RT2がん細胞株を作製した。比較ゲノムハイブリダイゼーションを行ったところ、6つの細胞株すべてに共通する唯一の遺伝子異常として、4番染色体(qC4.A)のp16Ink4aが欠損していることが示された(図10a)。p16Ink4a発現の欠損はPCR分析により確認された(図10b)。親細胞株は、IFN-γおよびTNFによる老化誘導とアポトーシスに感受性を示し(図3a図3c)、CDKN2a欠損変異細胞株も、インビトロにおいてアポトーシスに感受性を示したが、サイトカインによる老化誘導には抵抗性を示した(図3d)。インビボでのp16Ink4aによる腫瘍の制御を調べるため、同系マウスに腫瘍を注射し、腫瘍の直径が3mmに達した時点で免疫チェックポイント阻害療法を開始した。免疫チェックポイント阻害療法によりp16Ink4a発現RT2がん細胞株が効率的に制御され、Ki67が陰性であり、p16Ink4a、pHP1γ、H3K9me3およびSA-β-galが陽性の老化表現型が誘導されたが(図3a図11a~c)、p16Ink4a欠損RT2がん細胞株は、いずれも免疫チェックポイント阻害療法の有無にかかわらず急速に増殖した。重要な点として、免疫チェックポイント阻害療法を行ったp16Ink4a欠損RT2がんでは、Ki67+p16Ink4a-、pHP1γ-、H3K9me3-、SA-β-gal-の表現型が示されたことから、免疫チェックポイント阻害療法により老化が誘導されなかったことが示された(図3e図11a~c)。免疫チェックポイント阻害療法に対するこの抵抗性が、p16Ink4a欠損に特異的に生じたものであるのかどうかを調べるため、CRISPR-Cas9を利用してp16Ink4aを欠損させた(gCdkn2a)。対照sgGFPコンストラクトをトランスフェクトしたインビトロRT2がん細胞と、gCdkn2aコンストラクトをトランスフェクトしたインビトロRT2がん細胞は、いずれも類似した動態で増殖した。これらのRT2がん細胞はいずれもアポトーシスに感受性を示したのに対して、p16Ink4a欠損細胞はサイトカインによる老化誘導に抵抗性を示した(図12a図12b)。CRISPR-Cas9対照細胞株はいずれも、CD8細胞を除去したマウスおいて排除された。これに対して、CRISPR-Cas9によりp16Ink4aを欠損させたRT2がん細胞株の80%が同系マウスにおいて増殖した(図12c)。ここでも、免疫チェックポイント阻害療法により、これらのp16Ink4a欠損RT2がんの増殖は抑制されず、これらのp16Ink4a欠損RT2がんはいずれもKi67+、p16Ink4a-、pHP1γ-、H3K9me3-、SA-β-gal-の増殖表現型を示した(図3f図11c)。したがって、細胞傷害性免疫応答は、p16Ink4a欠損RT2がんを直接排除することができるが、細胞傷害性免疫応答を生き延びたがん細胞を抑制するには、IFN-γを介した細胞周期調節因子p16Ink4aの活性化による老化誘導が必須であることが明らかとなった。
【0099】
p16Ink4aおよびp21Cip1による老化誘導と、強力なT細胞応答によりがんを破壊する内因性がんの制御にも、IFNのシグナル伝達が必要であるのかどうかを確認するため、過去に報告されている方法と同様にして、大きながん負荷をRT2マウスに与え、磁気共鳴イメージングで撮影した(図6)。予測された死亡時期の4週間前に、がん細胞の大部分を排除するのに最も効率的な免疫チェックポイント阻害療法の組み合わせとして29、抗LAG-3モノクローナル抗体/抗-PD-L1モノクローナル抗体(ICB)と養子T細胞移入(AT)を併用してマウスを処置した。本研究でも実際に、免疫チェックポイント阻害療法と養子T細胞移入療法の併用によりがんが破壊され、4週間以内に膵島の大きさが有意に縮小し(p<0.05)、RT2マウスの寿命が延長し、血糖値の制御機能が回復した(図2a~c)。免疫チェックポイント阻害療法と養子T細胞移入療法の併用によりRT2がんの大部分が破壊されたが、がん細胞のすべてを根絶することはできなかった(図2b~d;図7a~d)。残存したがん細胞は、p16Ink4a、p21Cip1、H3K9me3、pHP1γおよびSA-β-galを発現し、Ki67が陰性であったことから老化表現型を示した(図2d図2e図7a~d)。電子顕微鏡で撮影したところ、老化表現型の腫瘍細胞において、SA-β-galが核内に蓄積していることが確認された(図7e)。この腫瘍進行期では、免疫チェックポイント阻害療法と養子T細胞移入療法の併用は、それぞれの単独療法よりも優れており、これらの単独療法を行っても中程度の結果しか得られなかった(図2a~e;図7a~d)。偽処置したマウスでは、大きな腫瘍が認められ(図2b)、p16Ink4a、p21Cip1、H3K9me3、pHP1γ、SA-β-galがいずれも陰性のKi67+RT2がん細胞が高密度に集まっていた(図2d図2e図7a~d)。免疫チェックポイント阻害療法と養子T細胞移入療法の併用によるp16Ink4aおよびp21Cip1の誘導とがんの制御に、完全なIFNシグナル伝達経路が必要であるのかどうかを確認するため、RT2.Stat1-/-マウスにおいて免疫チェックポイント阻害療法と養子T細胞移入療法による併用療法を調べた。Stat1欠損マウスにおいて免疫チェックポイント阻害療法と養子T細胞移入療法を併用しても、p16Ink4aもp21Cip1も誘導することはできず、がんの大きさも縮小せず、寿命を延長することもできず、がんの進行を遅延させることもできなかった(図2a~c)。三次元イメージングおよびFACS分析を行ったところ、Stat1-/-マウスおよびStat1+/+マウスにおいて、養子移入されたT細胞と樹状細胞がRT2がんに浸潤し、その動態もよく似ていることが明らかとなった(図8a~e)。Stat1-/-がん細胞は、インビトロにおいてアポトーシスまたはT細胞による殺傷に完全な感受性を示したが、サイトカインによる老化誘導には抵抗性を示した(図9a~d)。また、インビボにおいても、Stat1欠損がん細胞はサイトカインによる老化誘導に抵抗性を示し、免疫チェックポイント阻害療法と養子T細胞移入療法を併用して免疫系を活性化したにもかかわらず、Stat1欠損マウスのがん細胞は、Ki67が陽性であり、かつp16Ink4a、p21Cip1、H3K9me3、pHP1γおよびSA-β-gal活性が陰性の表現型を維持した(図2d図2e図7a~d)。したがって、免疫チェックポイント阻害療法と養子T細胞移入療法を併用しても、がん細胞のすべてを根絶することはできなかったが、残存したがん細胞において、Stat1依存性にp16Ink4aとp21Cip1を発現する老化表現型が誘導された。Stat1欠損がん細胞は、T細胞を介した細胞溶解およびアポトーシスには通常感受性であったことから、これらのデータから、強力な細胞傷害性免疫応答によって腫瘍の大部分が破壊されたとしても、がんの免疫制御を行うには、腫瘍細胞においてSTAT1を介して細胞周期調節因子p16Ink4aおよびp21Cip1を活性化させることが必要であるという概念が支持された。
【0100】
Stat1欠損がんでは、p21Cip1もp16Ink4aも発現されないことから、がんの免疫制御には、p21Cip1の活性化も必要である可能性がある。がんの免疫制御に老化誘導性のp21Cip1が必要であるのかどうかを試験し、かつRT2がん以外の腫瘍にも老化誘導が必要とされるのかどうかを確認するため、リンパ腫の免疫制御におけるp21Cip1の役割を調べた。λ-MYCマウスにおいて試験を行った。このマウスでは、免疫グロブリン軽鎖エンハンサーの制御下のヒトMYCがん遺伝子により、内因性のB細胞リンパ腫の発症が誘導される。処置をしなかったマウスはKi67+p16Ink4a-CD20lowB細胞リンパ腫により150日以内に死亡し(図1a)、このB細胞リンパ腫によりリンパ節と脾臓が破壊された(図1b図1c図5a)。さらに、Ki67+B細胞では、p21Cip1、pHP1γ、H3K9me3、SA-β-galがいずれも陰性であったことから、腫瘍の増殖能が高く、老化が誘導されていないことが示された(図1b図5b~d)。驚くべきことに、抗CTLA-4モノクローナル抗体と抗PD-1モノクローナル抗体を併用した免疫チェックポイント阻害療法(ICB)を行ったところ、λ-MYCマウスの20%~40%がリンパ腫から保護され、250日間を超えても健康な状態が維持され(図1a)、他の治療法では達成できなかった寿命が得られた。また、これらのモノクローナル抗体のいずれか一方で処置しても、リンパ腫からマウスをレスキューすることはできなかった。リンパ腫からの保護はT細胞に極めて依存していたにもかかわらず、免疫チェックポイント阻害療法で処置した健康なλ-MYCマウスから採取したリンパ節では、正常なB細胞領域とT細胞領域が見られ、T細胞の浸潤や組織の破壊は認められないという正常な構造を示した(図1b図3b(新たな図);図5a)。また、免疫チェックポイント阻害療法で処置した健康なλ-MYCマウスから採取したリンパ節B細胞は、Ki67が陰性であったが、核内においてp16Ink4aおよびp21Cip1図1b図1c)ならびにpHP1γ、H3K9me3およびSA-β-gal(図5b~d)が強発現されていたことから、老化表現型であったことが示された26。この結果から、免疫チェックポイント阻害療法によるB細胞リンパ腫からの保護には、がん細胞の殺傷以外の機構も含まれていることが示唆された。免疫チェックポイント阻害療法によるリンパ腫の予防に、老化誘導性のp21Cip1が必要とされるのかどうかを調べるため、同系のλ-MYC.p21Cip1-/-マウスを構築した。このマウスは、λ-MYCマウス対照と比較してリンパ腫の発症が遅延した(図1d)。λ-MYC.p21Cip1-/-マウスを免疫チェックポイント阻害療法で処置したところ、死亡は有意に遅延せず、すべてのマウスがリンパ腫で死亡した(図1d)。組織学的分析を行ったところ、Ki67+CD20lowB細胞によりリンパ節が破壊され(図1b図5a)、このB細胞は、老化マーカーp16Ink4a、p21Cip1、pHP1γ、H3K9me3、SA-β-Galのいずれもが欠損していたことが明らかとなった(図1b図1c図5b~d)。抗IFN-γモノクローナル抗体(mAb)の存在下で免疫チェックポイント阻害療法を行ったマウスは、未処置マウスと同じくらい早期にCD20lowB細胞リンパ腫で死亡したことから(図1a)、免疫チェックポイント阻害療法によりp21Cip1の誘導とリンパ腫の予防を行うには、IFN-γが必須であることが示された。このB細胞は、Ki67陽性であり、かつp21Cip1およびp16Ink4aが陰性(図1b図1c)であり、pHP1γ、H3K9me3およびSA-β-Galが陰性(図5b~d)であったことから、インビボにおいて細胞周期制御因子であるp16Ink4a分子およびp21Cip1分子の活性化により老化を誘導するには、IFN-γが必要であることが示された。したがって、λ-MYCマウスのB細胞において、免疫チェックポイント阻害療法により免疫を活性化して、前悪性B細胞からB細胞リンパ腫への転換を阻止するには、老化誘導性の細胞周期制御因子であるp21Cip1をIFN-γ依存的に活性化することが必須である。
【0101】
免疫チェックポイント阻害療法は、転移性黒色腫およびその他のいくつかのがんに対して承認された標準的な治療法であり、転移性黒色腫患者の約40%に有効である。残りの40%の患者は、免疫チェックポイント阻害療法を行ったとしても急速な進行が見られることが多い不応答患者である11,12,14,16,19-23,30。本発明者らは、実験データに基づいて、老化誘導を制御する細胞周期調節因子遺伝子が、ヒトがんの免疫制御に必要であるのかどうかを調べた。これを確認するため、3ヶ月未満の免疫チェックポイント阻害療法中に転移が進行した継続的な不応答患者から得た30個の黒色腫試料における遺伝子変化と、1年以上の免疫チェックポイント阻害療法により転移が退縮した12人の応答患者における遺伝子変化とを、標的パネルシーケンスにより比較した。過去に報告されているデータと一致して、応答患者の腫瘍遺伝子変異量は、不応答患者よりも有意に多かった15図4a)。インビボでの前臨床データに基づいて、特に老化関連遺伝子に関して調査を行った。体細胞変異、すなわち、重要な細胞周期調節遺伝子(CCND1/2/3;CDKN2A/B/C、CDK4/6、CCNE1、CDKN1A/B、RB1、TP53、MDM2/4)、ならびにJAK1、JAK2、JAK3およびMYCにおけるコピー数多型(CNV)と一塩基バリアント(SNV)に注目して実験を行った。いずれの群でも、すべての体細胞変異(SNVおよびCNV)を含めた場合、JAK1、JAK2、JAK3、MYCおよび各細胞周期調節遺伝子における遺伝子異常の分布は類似していた(図4b)。これに対して、完全に失活した変異の数(ホモ接合性欠失およびヘテロ接合性の消失(LOH))または3倍以上に増幅した変異の数を比較したところ、不応答患者では、応答患者と比べて、老化誘導性細胞周期遺伝子(CDKN2A/B/C;CDKN1A/B;RB1;TP53;JAK1/2/3)において完全に失活した変異の数が有意に多く、細胞周期の進行を促進する遺伝子(CCND1/2/3;CDK4/6;CCNE1;MDM2/4;MYC)の3倍以上の増幅も多かった(図4c図13および図10)。これらの遺伝子データは、インビトロにおける機能解析の結果からも裏付けられ、この結果、不応答患者由来の黒色腫細胞株は、サイトカインによる老化誘導に抵抗性であったが、アポトーシスには感受性を示し(図4d)、一方で、応答患者由来の黒色腫細胞株は、サイトカインによる老化誘導とアポトーシスの両方に感受性を示すことが明らかとなった(図4d)。これらの知見により、免疫系によりがん細胞が直接的に排除されることが実証されたが、細胞傷害性のみではがんを抑制できない可能性が示された。以上の結果から、がんの免疫制御には、細胞傷害を逃れたがん細胞に対する第2の保護機構として、がんが元来備えている老化誘導性細胞周期調節因子のIFN依存的な活性化がさらに必要であると結論付けられた。

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図1a-b】
図1c-d】
図1e-f】
図2a-b】
図2c-d】
図2e
図3a-b】
図3c-e】
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図6a1
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図6b
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図8
図9a-b】
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図10a-b】
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図11a-d】
図12a-d】
図13
図14a
図14b
【配列表】
2022544529000001.app
【国際調査報告】