(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-19
(54)【発明の名称】発症および疾患進行を判定するためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/497 20060101AFI20221012BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20221012BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20221012BHJP
G01N 30/72 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
G01N33/497 A
G01N27/62 C
G01N27/62 V
G01N27/62 F
G01N30/88 G
G01N30/72 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022509048
(86)(22)【出願日】2020-08-13
(85)【翻訳文提出日】2022-04-08
(86)【国際出願番号】 IL2020050896
(87)【国際公開番号】W WO2021028928
(87)【国際公開日】2021-02-18
(32)【優先日】2019-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522055337
【氏名又は名称】レスピレーション スキャン リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ラピドット,ヤロン
(72)【発明者】
【氏名】バー イラン,イガール モーシェ
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041EA06
2G041FA06
2G041FA10
2G041GA17
2G041GA19
2G041HA01
2G041LA08
2G045AA25
2G045CB22
2G045DA80
(57)【要約】
本明細書に開示される本発明は、一見健康な対象における様々な疾患状態のスクリーニングおよび早期発見に関するものであり、早期介入および治療を可能にする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象からの呼吸サンプル中の少なくとも1つの疾患関連マーカの存在を判定するための方法であって、
呼吸サンプルに、前記呼吸サンプル中の揮発性物質を可逆的に結合させることができる1つ以上の吸着領域を含む少なくとも1つのサンプリングユニットを曝露することであって、前記吸着領域が、金属表面または金属ナノ粒子とは異なる、曝露することと、
前記1つ以上の吸着領域に吸着された揮発性物質を識別するために、前記揮発性物質に曝露されている前記少なくとも1つのサンプリングユニットを分析することと、前記少なくとも1つの疾患関連マーカの存在を判定することと、を含み、
より早い時点において測定された前記マーカの量と比較した前記マーカの量の増加が、疾患状態の存在を示している、方法。
【請求項2】
より早い時点で測定された前記量と比較した前記マーカの前記量の増加が、少なくとも50%である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記マーカの前記量の変化を検出するために、様々な時点において1回以上実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つのサンプリングユニットが、ガラスまたはステンレス鋼材料である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記1つ以上の吸着領域の各々が、前記呼吸サンプル中の揮発性物質を可逆的に結合させるように構成されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記1つ以上の吸着領域が、前記揮発性物質を物理的に捕捉するように構成されている固体吸着剤から形成されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記固体吸着剤が、選択的または非選択的物質から形成されている、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記1つ以上の吸着領域が、有機多孔質ポリマー、イオン交換樹脂、炭素分子ふるい、またはスルホン化ポリマーから選択される物質から形成されている、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記1つ以上の吸着領域が、炭素吸着剤、炭素同素体、または炭素質材料の中から選択される物質のものである、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記炭素吸着剤が、20/40メッシュを有する黒鉛化カーボンブラック、60/80メッシュを有する黒鉛化カーボンブラック、およびカーボン分子ふるいから選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記黒鉛化カーボンブラックおよびカーボン分子ふるいが、Carbotrap F、Carbotrap C、Carbotrap Y、Carbotrap B、Carbotrap X、Carbopack F、Carbopack C、Carbopack Y、Carbopack B、Carbopack X、Carboxen 1016、Carboxen 569、Carboxen 1021、Carboxen 1018、Carbosieve S-III、Carboxen 1003、Carbosieve G、Carboxen 1000、およびCarboxen 1012から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記1つ以上の吸着領域が、5~1500m
2/gの表面積、0.2~0.7の密度、および/または4~300Aの間の細孔径を有する物質である、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
呼吸サンプルへの前記1つ以上の吸着領域の曝露後、前記揮発性物質が前記領域の表面に吸着され、分析されるまで捕捉される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記1つ以上の吸着領域を処理して、前記表面から前記揮発性物質の脱着または解離を引き起こし、前記脱着した揮発性物質を分析する、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記揮発性物質が、ガスクロマトグラフィ(GC)、GCライニング質量分析(GC-MS)、プロトン移動反応質量分析(PTR-MS)、電子鼻デバイス(E-nose)、石英結晶微量天秤(QCM)、赤外線分光法(IR)、または紫外線分光法(UV)によって分析される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記揮発性物質が、GC-MSによって分析される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記対象が、無症状である、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
診断時に、前記対象が、疾患に罹患しており、前記診断が、異なる疾患状態の発症を判定することを目的とする、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記対象が、換気されている対象である、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記方法が、人工呼吸器関連肺炎(VAP)を検出するためのものである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記疾患関連マーカが、細菌性、ウイルス性、または真菌性の疾患を示すマーカである、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記マーカが、細菌と関連付けられている、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記マーカが、ウイルスと関連付けられている、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記ウイルスが、エンベロープウイルスまたは非エンベロープウイルスである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記ウイルスが、ノロウイルスまたはパルボウイルスである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記ウイルスが、インフルエンザウイルスまたはコロナウイルスである、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記ウイルスが、SARS-CoV-2である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記疾患が、病院内感染(HAI)である、請求項21に記載の方法。
【請求項29】
前記HAIが、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、クロストリジウムディフィシル、アシネトバクターバウマンニまたは多剤耐性(MDR)アシネトバクター属によって引き起こされる、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
対象の体内の少なくとも1つの病原体の存在を判定するための方法であって、
呼吸サンプルに、前記呼吸サンプル中の揮発性物質を可逆的に結合させることができる1つ以上の吸着領域を含む少なくとも1つのサンプリングユニットに曝露することであって、前記1つ以上の吸着領域が、金属表面または金属ナノ粒子とは異なる、曝露することと、
前記1つ以上の吸着領域に吸着された前記揮発性物質を識別して、少なくとも1つの病原体関連マーカの存在を判定するために、少なくとも1つのサンプリングユニットを分析することと、を含み、
前記マーカの前記存在が、前記対象の体内に前記病原体が存在することを示している、方法。
【請求項31】
前記方法が、前記マーカの量の変化を判定するために、1回以上繰り返される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
より早い時点において測定された前記マーカの量と比較した前記マーカの前記量の増加が、疾患状態の存在を示している、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記病原体が、ウイルス、細菌、または真菌である、請求項30~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記対象が、無症状である、請求項1または30または33に記載の方法。
【請求項35】
前記対象が、換気されている、請求項1または30または33に記載の方法。
【請求項36】
前記換気されている対象が、VAPと関連付けられる症状を呈さない、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記病原体が、VAPを引き起こす、請求項33に記載の方法。
【請求項38】
換気されている対象の体内の少なくとも1つの病原体の存在を判定するための方法であって、
少なくとも1つのサンプリングユニットを換気されている対象からの呼吸サンプルに曝露することであって、前記少なくとも1つのサンプリングユニットが、前記サンプル中に存在する揮発性物質を可逆的に結合させることができる1つ以上の吸着領域を含む、曝露することと、
前記1つ以上の吸着領域に吸着された揮発性物質を識別して、前記少なくとも1つの病原体関連マーカの存在を判定するために、前記少なくとも1つのサンプリングユニットを分析することと、を含み、
前記マーカの前記存在は、前記換気されている対象の体内に前記病原体が存在することを示す、方法。
【請求項39】
換気されている対象内のVAPの発症を判定するための方法であって、
換気されている対象からの呼吸サンプルに、前記呼吸サンプル中の揮発性物質に可逆的に結合させることができる1つ以上の吸着領域を含む少なくとも1つのサンプリングユニットに曝露することと、
前記1つ以上の吸着領域に吸着された揮発性物質を識別して、VAPを引き起こす病原体の少なくとも1つのマーカの存在を判定するために、前記少なくとも1つのサンプリングユニットを分析することと、を含み、
前記マーカの前記存在が、VAPの発症を示している、方法。
【請求項40】
前記少なくとも1つのサンプリングユニットが、前記対象の換気に通常使用される呼吸器系内に提供される、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記方法が、
呼吸器系の出口ラインにおいて位置決めされた少なくとも1つのサンプリングユニットを、前記対象によって吐き出された呼吸サンプルに曝露することであって、前記少なくとも1つのサンプリングユニットが、前記サンプル中に存在する揮発性物質に可逆的に結合させることができる1つ以上の吸着領域を含む、曝露することと、
前記1つ以上の吸着領域に吸着された前記揮発性物質を識別して、少なくとも1つの病原体関連マーカの存在を判定するために、前記少なくとも1つのサンプリングユニットを分析することと、を含み、
前記マーカの前記存在は、前記換気されている対象の体内に前記病原体関連マーカが存在することを示す、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記少なくとも1つのサンプリングユニットが、前記1つ以上の吸着領域を含み、かつ前記1つ以上の吸着領域との前記呼吸サンプルの時限の滞留接触を許容する器の形態である、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記少なくとも1つのサンプリングユニットおよび前記呼吸器系の前記出口ラインの一方または両方に、流量調整器が設けられている、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
前記疾患を引き起こす病原体が、細菌、ウイルス、または真菌である、請求項41に記載の方法。
【請求項45】
前記方法が、前記呼吸器系の前記出口ラインから前記少なくとも前記1つのサンプリングユニットを取り外すことと、それを分析して、前記1つ以上の吸着領域に吸着された揮発性物質を判定することと、を含む、請求項41に記載の方法。
【請求項46】
前記1つ以上の吸着領域に吸着された前記揮発性物質が、脱着され、その後分析される、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記方法が、前記呼吸器系の入口ラインにおいて位置決めされた少なくとも1つの別のサンプリングユニットを、前記対象に送達された換気空気に曝露することを含む、請求項41に記載の方法。
【請求項48】
前記分析が、分光分析法によって実行される、請求項41に記載の方法。
【請求項49】
前記方法が、疾患を引き起こす病原体の前記存在を示す前記材料を識別するために、前記1つ以上の吸着領域に吸着された前記材料をマーカデータベースと比較することを含む、請求項41に記載の方法。
【請求項50】
前記疾患を引き起こす病原体の前記存在が、疾患の発症を示す、請求項41に記載の方法。
【請求項51】
前記呼気内で識別されたマーカが、吸気内で識別されたマーカと比較される、請求項41に記載の方法。
【請求項52】
前記疾患状態が、細菌と関連付けられている、請求項50に記載の方法。
【請求項53】
前記疾患が、病院内感染である、請求項50に記載の方法。
【請求項54】
圧縮可能な空気リザーバと、チューブのセットと、吸気チューブおよび呼気チューブを備える患者回路と、を備える呼吸器システムであって、前記患者回路が、気管挿管チューブに接続され、前記吸気チューブおよび呼気チューブの一方または両方が、換気されている対象によって吐き出される肺胞呼吸の経路内に位置決めされた少なくとも1つのサンプリングユニットを備え、前記少なくとも1つのサンプリングユニットが、前記吐き出された肺胞呼吸中に存在する少なくとも1つの揮発性物質に可逆的に結合させることができる1つ以上の吸着領域を含み、疾患状態または疾患を引き起こす病原体の存在を示す、呼吸器システム。
【請求項55】
換気されている対象内の疾患を引き起こす病原体の存在を判定するために構成されているシステムであって、前記システムが、呼気の経路内に位置決めされた複数の任意選択的に取り外し可能な収集表面が設けられた患者回路を備える換気装置を備え、前記複数の収集表面の各々が、複数の結合領域によって特徴付けられ、前記結合領域の各々が、結合分子および/または表面特徴の形態であり、前記病原体の前記存在を示す少なくとも1つの材料に可逆的に結合させるように構成されている、システム。
【請求項56】
請求項1~53のいずれか一項に記載の方法を実行するためのシステムであって、前記システムが、呼気の経路に位置決めされた任意選択的に取り外し可能なサンプリングユニットのうちの1つ以上を備え、前記サンプリングユニットの各々が、結合分子および/または表面特徴の形態の結合領域を含み、前記呼気中に存在する少なくとも1つのマーカに可逆的に結合させるように構成されている、システム。
【請求項57】
対象における細菌の状態、疾患、または障害の発症を判定するための方法であって、前記方法が、前記対象の呼吸から呼気量を収集することと、(1)細菌性疾患を示す少なくとも1つの物質の存在、および(2)前記物質の濃度の経時変化を検出することと、を含み、前記物質の前記濃度の経時的な変化が、細菌の状態、疾患、または障害を示す、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、疾患状態の発症および進行を判定するためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肺から吐き出された空気は、揮発性(および半揮発性)の化学物質と代謝物を運び、血液系を通って肺に到達する。これらの化学物質および代謝物には、ヒトの健康状態を示し得る薬剤が含まれる。単純な呼気分析装置は、関心化合物またはそれらの代謝物が周知である、法医学的な目的でアルコールまたは薬物の他の揮発性代謝物のレベルを測定するために構成されている。臨床症状の指標として揮発性化合物を識別するための呼吸分析は、呼吸中に運ばれる揮発性化合物の数が多く、その濃度がかなり低いため複雑である。
【0003】
このような分析には、ガスクロマトグラフィおよびEI質量スペクトル分析が使用された。国際特許公開第2019/173501[1]号および米国特許出願第2019/0274633[2]号は、機械的に換気されているヒトによって吐き出される呼吸中の揮発性有機化合物の存在を判定するためのシステムを記載している。これらのシステムは、人工呼吸器ユニットが吸気を加圧するため、入口および出口の両方のラインが加圧でき、そのため呼気からのサンプルを吸着剤に収集するという事実を利用している。吸着された化合物は分析ユニットによって分析される。
【0004】
米国特許第9,733,225号[3]号は、路側薬物検査用の携帯型呼気検査デバイスまたは任意の空気処理システム用の検査デバイスなどの揮発性有機化合物検査デバイスに用いられる交換可能分光検出器を記載しており、化合物を可逆的に吸着してセル内の内容物の分光を行うために構成されている単一のガスセル内で濃縮サンプルを調製する。
【0005】
米国特許出願第2008/0009761[4]号は、人工呼吸器とともに使用するための呼吸凝縮液サンプラを記載しており、呼吸凝縮液サンプラは、人工呼吸器の呼息肢内に配設されている空気流弁と、凝縮液形成手段と、凝縮液収集手段とを備える。空気流弁は、呼息肢から呼気凝縮液サンプラに空気を送り、呼気ガスの凝縮液部分は、呼気ガスのガス部分から分離される。呼気凝縮液サンプルを収集する方法も、本明細書に開示されている。
【0006】
国際特許公開第2015/187938[5]号は、侵襲性アスペルギルス症(IA)を診断し、治療し、かつその治療を監視するための方法を記載している。この方法は、IAを有することが疑われる対象の呼気中の1つ以上の揮発性有機化合物(VOC)の存在を検出することを含み得る。
【0007】
米国特許第10,261,071号[6]号は、呼気分析用の揮発性有機化合物のセットについて記載している。説明には、これらのVOCを識別する方法が含まれ、診断における方法の使用、排毒性の発症の監視も開示されている。
【0008】
背景技術
[1]WO2019/173501、
[2]US2019/0274633、
[3]US9,733,225、
[4]US2008/009761、
[5]WO2015/187938、
[6]US10,261,071。
【0009】
概要
一見健康または無症状な患者の疾患状態の早期診断は、通常、特定のタイプの疾患に罹患しやすい、または罹患している患者集団、もしくは生命を脅かす症状を繰り返す患者に対してのみ行われる。このような早期診断を達成するための方法論が存在するとしても、そのような診断には、日常の臨床検査に加えて、かなり高価な診断システムの使用、また時には侵襲的な診断を伴う可能性があり、健常者の早期診断にはあまり受け入れがたいものがある。
【0010】
本明細書に開示される本発明の発明者は、一見健康な対象における様々な疾患状態の広範なスクリーニングおよび早期発見を可能にし、早期介入および治療を可能にする方法論を開発した。本発明の方法は、非侵襲的であり、複雑な医療デバイスまたは入院を必要とせず、低コストであり、医師の診療所またはオフィスにおいて、救急治療室、臨床検査室または薬局内で、または対象の自宅においてなど、任意の時点で医師または他の医療スタッフにより診断し、かつ治療監視を行うための効率的な手段を提供する。
【0011】
本明細書に開示される本発明は、無症状の対象における、またはより広義には一般集団における疾患の早期発症を診断、予測、または識別するための方法およびシステムを提供する。この方法は、呼気サンプル中の揮発性有機化合物(VOC)または半VOC(sVOC)(ここでは一般に揮発性化合物、VC、またはマーカと呼ぶ)の存在を検出することを伴う。本発明者らが実証したように、一般集団の対象から収集された呼吸サンプルは、マーカを含むことが見出されており、このマーカの存在および量は、診断時に現れなかった既存の疾患状態に対する指標を提供する。時間の経過に伴うマーカの量の変化を検出および監視する能力は、一定期間の疾患状態の進展を評価または監視し、医療処置の関連性および成功を評定する手段も提供する。
【0012】
各疾患状態は、一意であり、特定の疾患状態を示し、ある疾患状態の発生者を他と区別するために使用できる、マーカまたはマーカ指紋の異なるクラスタによって特徴付けられ得る。例えば、細菌感染症に特徴的なマーカ指紋は、肝疾患に特徴的なマーカ指紋とは異なり得る。同様に、特定の細菌感染に特徴的なマーカ指紋は、別の細菌感染に特徴的なマーカ指紋とは異なり、別である可能性があるため、両者の区別を達成することができる。
【0013】
より独特なことに、本発明の方法論は、異なる疾患と関連付けられる症状を示す対象における疾患状態の識別を可能にし、本発明の方法論は、2つの疾患を区別することができる。この独特の能力は、複数の医学的複雑性を呈し、院内感染、すなわち病院内感染(HAI)に非常にかかりやすい入院患者、例えば、換気されている患者における進展する疾患状態の連続診断において、ほぼ例外なく現れる。このような感染症を早期に発見することで、発症し得る、生命を脅かす複雑さの影響を劇的に減らすことができる。
【0014】
したがって、その第1の態様において、本発明は、対象からの呼吸サンプル中の少なくとも1つの疾患関連マーカの存在を判定するための方法であって、
対象の呼吸サンプルに、前述の呼吸サンプル中の揮発性物質を可逆的に結合させることができる1つ以上の吸着領域を含む少なくとも1つのサンプリングユニットを曝露することと、
1つ以上の吸着領域に吸着された揮発性物質を識別するために、少なくとも1つのサンプリングユニットを分析することと、前述の少なくとも1つの病原体関連マーカの存在を判定することと、を含み、
前述のマーカのバックグラウンドレベルよりも高いレベルでの前述のマーカの存在が、疾患状態の存在を示す、方法を提供する。
【0015】
「マーカ」は、通常、揮発性化合物(VC)または半揮発性化合物(VC)であり、これは無機物質または有機物質であり得る。化合物が有機化合物である場合、それは揮発性有機化合物(VOC)または半揮発性有機化合物(sVOC)と呼ばれる。本発明の文脈内で、これらの用語は交換可能である。
【0016】
マーカは、その代謝を反映する対象の体内に由来する内因性マーカ、または食事、処方薬、および環境曝露などの外部源に由来する外因性マーカであり得る。内因性マーカの産生は体内の代謝活性に直接関連しているため、そのようなマーカのクラスタまたは組み合わせは、特定の疾患プロセスの特徴であり、対象の呼吸におけるそのような内因性マーカの存在および量(レベル、量、濃度)、また時間の経過とともにそれらの発達は、疾患状態の直接的な指標を提供する。したがって、これらのマーカは、本明細書では「疾患関連マーカ」と呼ばれる。
【0017】
最も一般的な用語では、マーカは通常、代謝、臓器機能、または疾患の病因に関与する病原体(例えば、細菌、ウイルス、または真菌)の存在および/または増殖と関連付けられている。例えば、体内の細胞または病原体の代謝を通して体内で生成されたマーカは、循環器系に放出された後、呼気を通して排出される。マーカは複数の化合物を含み得、その一部は気体、その他は(生理的温度において)液体であり得、これらは呼気中に放出され、呼吸ガスまたは小さな水滴によって運ばれるので、検出および定量が可能である。
【0018】
対象に低レベルで存在し、対象のマイクロバイオームの一部である微生物(細菌、ウイルス、真菌)を、その存在および負荷/量/質量が病因を示す微生物から区別するために、本発明の方法は、病因の定性的(すなわち、微生物、例えば、病原体の存在の判定)および定量的(すなわち、前述の微生物の負荷/量/質量の判定)の両判定を許容する。したがって、対象のマイクロバイオームに通常存在する微生物と関連付けられるマーカは、その測定量が最初の測定から2日以内に少なくとも2倍になった場合、病原性経路を示すと見なされることになる。最初の測定は、健康なヒトまたは監視されるヒトで測定されたバックグラウンドレベルである。したがって、2回の連続した測定の間に、マーカまたはマーカのクラスタの量が毎日少なくとも50%(全体として2倍超)増加することが観察された場合、それらは示される。
【0019】
本明細書で使用される場合、マーカは、単一分子またはいくつかの分子の組み合わせであり得、本発明の方法は、単一のマーカ、マーカの組み合わせ、またはマーカ指紋に基づく診断に同様に適用可能である。したがって、この用語の単数形は、複数のマーカも包含する。
【0020】
「マーカ指紋」とは、対象から得られた呼気のマーカ含有量に関する性質の集合体を指す。これらの集合的な性質は独特で有益であり、ある疾患の発症、進展、または進行を示す指紋または署名と見なすことができる。ある疾患と他の疾患を区別するプロファイルはまた、疾患の状態またはその進行に関する洞察を提供し、症状が現れる前の早い段階で疾患の発症を識別し、治療処置(既存の症状の予防または治療)の成功の判定に役立ち得る。性質は、
-疾患を示す1つ以上のマーカの有無、
-1つ以上のマーカの濃度(または量)、
-特に指数関数的成長の場合において時間の経過に伴う進展(濃度または量の増加または減少)、
-他のマーカの組み合わせの有無、
-様々なマーカ間の比率量、および
-1つ以上のマーカの存在または量の経時的な変化、のうちの1つ以上であり得る。
【0021】
マーカは、疾患状態と関連付けられることが知られている任意のマーカであり得る。これらのマーカの一部は、1,8-ナフチリジン、10-ウンデシン-1-オール、3-メチル-1-ブタノール、1-フェニル-1H-イミダゾール、2-(2-ピリジニル)-1H-インドール、8-メチル-1H-プリン、1-メトキシフタラジン、1-ニトロ-2-プロパノール、2-ブチル-1-オクタノール、3,7-ジメチル-1-オクタノール、2-メチル-1-プロパノール、1-ウンデセン、2-(2-メチルプロピル)-3,5-ジ(1-メチルエチル)ピリジン、2,3-ジメチルシクロヘキシルアミン、2,4-ジチアペンタン、2-ベンジル-1-メチルピペリジン、2-ブタノン、3-プロピリデン-2-ヘプタノン、6-フェニルヘキサン酸、8-アミノカプリル酸、2,2’-チオビス-酢酸、アセトン、O-イソプロピルオキシムベンズアルデヒド、4-ニトロ-ベンズアミド、2-カルボキシ-ベンゼン酢酸、2-メチル-ブタナール、3-メチルブタナール、3-メチルブタン酸、ドデカメチル-シクロヘキサシロキサン、シクロヘキセン、D:C-Friedours-7-ene、ジメチルトリスルフィド、ジメチルジスルフィド、エモルファゾン(4-エトキシ-2-メチル-5-モルホリン-4-イルピリダジン-3-オン)、エチルフェニルヒダントイン、ガバペンチンラクタム、5-オキソヘキサノ酸エチル、5-ニトロ-イソキノリン、ラノスタン-12-オン、ルミノール(5-アミノ-2,3-ジヒドロフタラジン-1,4-ジオン)、4-ブチル-フェノール、無水フタル酸、プレガバリン、1-(エチニルスルフィニル)-プロパン、リボ-リボ二糖、S-(2-ベンゾチアゾリル)システイン、2-ブチル-5-エチル-チオフェン、シクロプロピルカルビノール、2-ピリジンカルボニトリル、2-ブロモ-1-(4-メチルフェニル)-エテノン、2,3,4,7-テトラヒドロ-1H-インデン、1-ブロモ-1-フェニルプロパン、2,6-ジメチルデカン、N、N-ジメチル-1-ドデカナミン、3-メチル-6-(1-メチルエチリデン)-シクロヘキセン、8-メチル-1-デセン、6-メチル-ドデカン、N、N-ジメチル-1-テトラデカナミン、ヘキサン二酸ビス(2-エチルヘキシル)エステル、(+)-4-カレン、2-カレン、2-メチル-1-プロペン、4,11,11-トリメチル-8-メチレン-ビシクロ[7.2.0]ウンデカ-4-エン、3-メチルペンタン-2-イルトリフルオロアセテート、2-メチル-5-(1-メチルエテニル)-シクロヘキサノール、(Z)-4-デセン-1-オールトリフルオロアセテート、4-メチル-1-(1-メチルエチル)-ビシクロ[3.1.0]ヘキサン-3-オール、ピルビン酸ブチルエステル、2,9-ジメチル-デカン、プロピルアミン、エチレンジアミン、1-メチル-2-(3-メチルペンチル)-シクロプロパン、(ニトロメチル)ベンゼン、5-エチル-1-ノネン、イソプロピルスルホニルクロリド、デルタシクレン、2,3,6,7-テトラメチル-オクタン、1-メチル-4-(1-メチルエテニル)-ベンゼン、3,4-ジメチル-1-ペンテン、N-ベンジル-N-メチル-2-メチル-β-アラニンメチルエステル、2,2,4-トリメチル-ペンタン、トランス-ゲラニルゲラニオール、2-エチル-4-メチル-1-ペンタノール、6-メチルヘプチルビニルエーテル、テトラヒドロ-6-メチル-2H-ピラン-2-オン、2,3,7-トリメチル-デカン、2-デセン-1-オール、(1R,4aS,8aR)-1-イソプロピル-4,7-ジメチル-1,2,4a、5,6,8a-ヘキサヒドロナフタレン、3-エチル-2-メチル-ヘキサン、2-メチル-1-ペンテン、4,5-ジメチル-ウンデカン、4-メチレン-1-メチル-2-(2-メチル-1-プロペン-1-イル)-1-ビニル-シクロヘプタン、7-メチル-(E)-4-デセン、1-ヨード-ドトリアコンタン、5-ドデシルジヒドロ-2(3H)-フラノン、ブチルドデシルエステル硫黄酸、3,4-ジメチルベンジルアルコール、1,4-ジメチル-シクロオクタン、2,3-ジメチル-ヘキサン、ドデカン酸、エストラゴール、4-エチル-1-オクチン-3-オール、5-メチル-2-(1-メチルエチル)-1-ヘキサノール、3,3-ジメチル-ヘプタン、7-メチル-(Z)-2-デセン、2-メチル-デカン、1,2,3,4,4a,5,6,7,8,9,10,10a-ドデカヒドロ-1,4a-ジメチル-7-(1-メチルエチル)-1-フェナントレンカルボン酸メチルエステル、ドデカナール、1-塩化オクタデカンスルホニル、4-tert-ブチルシクロヘキシルアセテート、4-ヘキセン-2-オン、2,5,6-トリメチルデカン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、ヘプタデカン、イソブチレンエポキシド、2,2,7,7-テトラメチルオクタン、2-エチル-1-ヘキサノールトリフルオロアセテート、プロピルシクロプロパン、アネトホール、オクタン、メチル-シクロブタン、1,12-ドデカンジオール、2-メトキシ-1-プロペン、亜硝酸、4-(1,1-ジメチルエチル)シクロヘキサノールアセテート、1,5-ジメチル-8-(1-メチルエチリデン)-(E E)-5-シクロデカジエン、4-メチル-2-プロピル-1-ペンタノール、オクタヒドロ-4-メチル-8-メチレン-7-(1-メチルエチル)-[1S-(1α,3aβ,4α,7α,7aβ)]-1,4-メタノ-1H-インデン、3-エチル-2,7-ジメチル-オクタン、ヘキシルペンチルエーテル、1,2-ジフェニル-(R*,R*)-1,2-エタンジオール、7-エチル-1,2,3,4,4a,5,6,7,8,9,10,10a-ドデカヒドロ-1,4a,7-トリメチル-メチルエステル[1S-(1α,4aα,7β,10aβ)]-1-フェナントレンカルボン酸から選択することができる。
【0022】
いくつかの実施形態において、少なくとも1つの細菌病原体と関連付けられるマーカは、1,8-ナフチリジン、10-ウンデシン-1-オール、3-メチル-1-ブタノール、1-フェニル-1H-イミダゾール、2-(2-ピリジニル)-1H-インドール、8-メチル-1H-プリン、1-メトキシフタラジン、1-ニトロ-2-プロパノール、2-ブチル-1-オクタノール、3,7-ジメチル-1-オクタノール、2-メチル-1-プロパノール、1-ウンデセン、2-(2-メチルプロピル)-3,5-ジ(1-メチルエチル)ピリジン、2,3-ジメチルシクロヘキシルアミン、2,4-ジチアペンタン、2-ベンジル-1-メチルピペリジン、2-ブタノン、3-プロピリデン-2-ヘプタノン、6-フェニルヘキサン酸、8-アミノカプリル酸、2,2’-チオビス-酢酸、アセトン、O-イソプロピルオキシムベンズアルデヒド、4-ニトロ-ベンズアミド、2-カルボキシ-ベンゼン酢酸、2-メチル-ブタナール、3-メチル-ブタナール、3-メチル-ブタン酸、ドデカメチル-シクロヘキサシロキサン、シクロヘキセン、D:C-フリードウルサ-7-エン、ジメチルトリスルフィド、ジメチルジスルフィド、エモルファゾン(4-エトキシ-2-メチル-5-モルホリン-4-イルピリダジン-3-オン)、エチルフェニルヒダントイン、ガバペンチンラクタム、5-オキソヘキサノ酸エチル、5-ニトロ-イソキノリン、ラノスタン-12-オン、ウミノール(5-アミノ-2,3-ジヒドロフタラジン-1,4-ジオン)、4-ブチル-フェノール、無水フタル酸、プレガバリン、1-(エチニルスルフィニル)-プロパン、リボ-リボ二糖、S-(2-ベンゾチアゾリル)システイン、および2-ブチル-5-エチル-チオフェンから選択される。
【0023】
いくつかの実施形態において、ウイルス病原体と関連付けられるマーカは、シクロプロピルカルビノール、2-ピリジンカルボニトリル、2-ブロモ-1-(4-メチルフェニル)-エテノン、2,3,4,7-テトラヒドロ-1H-インデン、1-ブロモ-1-フェニルプロパン、2,6-ジメチルデカン、N、N-ジメチル-1-ドデカナミン、3-メチル-6-(1-メチルエチリデン)-シクロヘキセン、8-メチル-1-デセン、6-メチル-ドデカン、N,N-ジメチル-1-テトラデカナミン、ヘキサン二酸ビス(2-エチルヘキシル)エステル、(+)-4-カレン、2-カレン、2-メチル-1-プロペン、4,11,11-トリメチル-8-メチレン-ビシクロ[7.2.0]ウンデカ-4-エン、3-メチルペンタン-2-イルトリフルオロアセテート、2-メチル-5-(1-メチルエテニル)-シクロヘキサノール、(Z)-4-デセン-1-オールトリフルオロアセテート、4-メチル-1-(1-メチルエチル)-ビシクロ[3.1.0]ヘキサン-3-オール、ピルビン酸ブチルエステル、2,9-ジメチル-デカン、プロピルアミン、エチレンジアミン、1-メチル-2-(3-メチルペンチル)-シクロプロパン、(ニトロメチル)ベンゼン、5-エチル-1-ノネン、イソプロピルスルホニルクロリド、デルタシクレン、2,3,6,7-テトラメチル-オクタン、1-メチル-4-(1-メチルエテニル)-ベンゼン、3,4-ジメチル-1-ペンテン、N-ベンジル-N-メチル-2-メチル-β-アラニンメチルエステル、2,2,4-トリメチル-ペンタン、
トランス-ゲラニルゲラニオール、2-エチル-4-メチル-1-ペンタノール、6-メチルヘプチルビニルエーテル、テトラヒドロ-6-メチル-2H-ピラン-2-オン、2,3,7-トリメチル-デカン、2-デセン-1-オール、(1R,4aS,8aR)-1-イソプロピル-4,7-ジメチル-1,2,4a,5,6,8a-ヘキサヒドロナフタレン、3-エチル-2-メチル-ヘキサン、2-メチル-1-ペンテン、4,5-ジメチル-ウンデセン、4-メチレン-1-メチル-2-(2-メチル-1-プロペン-1-イル)-1-ビニル-シクロヘプタン、7-メチル-(E)-4-デセン、1-ヨード-ドトリアコンタン、5-ドデシルジヒドロ-2(3H)-フラノン、ドデシルエステル硫黄酸ブチル、3,4-ジメチルベンジルアルコール、1,4-ジメチル-シクロオクタン、2,3-ジメチル-ヘキサン、ドデカン酸、エストラゴール、4-エチル-1-オクチン-3-オール、5-メチル-2-(1-メチルエチル)-1-ヘキサノール、3,3-ジメチル-ヘプタン、7-メチル-(Z)-2-デセン、2-メチル-デカン、1,2,3,4,4a,5,6,7,8,9,10,10a-ドデカヒドロ-1,4a-ジメチル-7-(1-メチルエチル)-1-フェナントレンカルボン酸メチルエステル、ドデカナール、1-オクタデカンスルホニルクロリド、4-tert-ブチルシクロヘキシルアセテート、4-ヘキセン-2-オン、2,5,6-トリメチルデセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、ヘプタデセン、イソブチレンエポキシド、2,2,7,7-テトラメチルオクタン、2-エチル-1-ヘキサノールトリフルオロアセテート、プロピルシクロプロパン、アネトホール、オクタン、メチル-シクロブタン、1,12-ドデカンジオール、2-メトキシ-1-プロペン、亜硝酸、4-(1,1-ジメチルエチル)シクロヘキサノールアセテート、1,5-ジメチル-8-(1-メチルエチリデン)-(E E)-5-シクロデカジエン、4-メチル-2-プロピル-1-ペンタノール、オクタヒドロ-4-メチル-8-メチレン-7-(1-メチルエチル)-[1S-(1α,3aβ,4α,7α,7aβ)]-1,4-メタノ-1H-インデン、3-エチル-2,7-ジメチル-オクタン、ヘキシルペンチルエーテル、1,2-ジフェニル-(R*,R*)-1,2-エタンジオール、および7-エチル-1,2,3,4,4a,5,6,7,8,9,10,10a-ドデカヒドロ-1,4a,7-トリメチルメチルエステル[1S-(1α,4aα,7β,10aβ)]-1-フェナントレンカルボン酸から選択される。
【0024】
「呼吸サンプル」は、対象の呼気から能動的または受動的に得られたサンプルである。受動的サンプリングは、任意の特定の介入を適用せずに揮発性物質を捕捉することを伴う。能動的サンプリングの例は、ベンチュリ効果のために設計された開口部を備えたサンプリングユニットである。能動的サンプリングは、例えば、ポンプ(機械式、電気式、ヘリウムなど)または吸引ユニットなどの実装を通じて揮発性物質を捕捉することを伴う。検出される疾患のタイプ、例えば、内臓の疾患であるかGIトラックの疾患であるかに応じて、呼吸サンプルは、肺胞呼吸サンプルまたは非肺胞呼吸サンプルであり得る。通常、サンプルはサンプリングユニット内に直接収集され、揮発性物質は1つ以上の吸着領域への吸着によって相互作用することが許容される。対象の完全な協力が提供される場合、対象はサンプリングユニットに息を吐き出し、その後サンプルは処理される。対象の協力が不可能な場合、サンプルは対象の口腔または肺から収集され得る。本明細書に開示されるように、人工呼吸器上の対象からのサンプルは、サンプリングユニットを呼吸ユニットの出口ラインに結合させることによって得ることができる。
【0025】
いくつかの実施形態では、この方法は、当技術分野で知られている任意の非侵襲的手段を採用することによって、対象から呼吸サンプルを取得することを含む。呼気サンプルを収集するための非限定的な方法は、American Thoracic Society/European Respiratory Society(ATS/ERS)によって承認された装置の使用を伴う場合があり、例えば、Silkoffら、Am.J.Respir.Crit.Care Med,2005,171,912を参照されたい。
【0026】
いくつかの実施形態では、サンプルは、測定デバイスまたは装置への直接の呼気によって得ることができる。
【0027】
呼吸サンプルは、吸着/サンプリングユニットに直接呼気を吐き出すことによって収集される。そのような実施形態によれば、呼吸サンプルは、対象と本発明の方法に従って操作されるユニットとの間の相間を提供するマウスピースを使用して捕捉され得る。ヒトの呼吸内のマーカの濃度はppm~pptの範囲内であり得るため、この方法は、分析の前に、得られた呼気のサンプルを事前に濃縮するステップを含み得る。本発明の範囲内にある呼吸濃縮器としては、参照により本明細書に組み込まれるUS2012/0326092に記載されているものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
「サンプリングユニット」は、呼吸サンプルを受容し、保持するために構成されている任意の形状またはサイズの容器または器またはキャニスタである。サンプルユニットは、単一のユニットまたは複数のそのようなユニットであり得る。サンプリングユニットは、通常、揮発性物質、または呼吸サンプルに含まれるマーカに対して実質的に非反応性であるか、または限られた相互作用を呈する物質でできている。したがって、ユニットは通常、ガラスまたはステンレス鋼などの物質で形成されている。サンプリングユニットは、1つ以上(または複数)の吸着領域を含み、各々は、前述の呼吸サンプル中の揮発性物質に可逆的に結合させることができる。吸着領域は、サンプリングユニットの容積を満たすように構成され得るか、またはサンプリングユニットの壁の内面上に形成され得るか、またはサンプリングユニットの任意の内部領域に存在し得る。それにもかかわらず、領域はある揮発性物質の選択的結合のために構成されており、その場合、他の揮発性物質は吸着されず、したがって除去または検出されない可能性があり、または、サンプルに存在する任意の材料を吸着するように構成され得る。それにもかかわらず、そのような非選択的構成は、サンプル中に存在し得、マーカおよびマーカ濃度の収集、検出、測定を複雑にし得る、水および酸素もしくは二酸化炭素などの背景ガスの結合を防止することができる。
【0029】
サンプリングユニットの各々における吸着領域または吸着剤材料の分布は、相対的な位置および/または相対的な協働および/またはパッキング形態において変化し得る。固体吸着剤は、(1)他の化合物の存在下でも目的の化合物を捕捉して保持する能力があるため、空気中の特定の化合物をサンプリングするために選択され、(2)目的の化合物を化学的に変化させず、(3)吸着された化合物を分析のために容易に脱着または抽出することを許容する。
【0030】
吸着領域は、揮発性物質を物理的に捕捉するように構成されている物質からなる。物質は、表面細孔の存在、表面粗さ、増加した表面積、および同様のものによって特徴付けられ得る。構造的特徴にもかかわらず、吸着性表面または物質は、本明細書に開示されるように、選択的吸着、または非選択的吸着のために調整され得る。
【0031】
いくつかの実施形態において、吸着領域は、ポリ(塩化ビニリデン)またはスルホン化ポリマーなどの制御熱分解によって調整されるポリ(2,6-ジフェニル-p-フェニレンオキシド(PPPO))、スルホン化ポリマー、イオン交換樹脂、炭素分子ふるいなどの有機多孔質ポリマーから選択される物質から形成される。
【0032】
いくつかの実施形態では、吸着性物質は、カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレン、カーボンブラック、活性炭等の炭素同素体または炭素質材料、セルロースナノ結晶、セルロース繊維、ナノフィブリル化セルロースなどのセルロース系材料、シリカゲル、およびその他の中から選択される。
【0033】
いくつかの実施形態では、吸着剤は、Carbotrap F、Carbotrap C、Carbotrap Y、Carbotrap B、Carbotrap X、Carbopack F、Carbopack C、Carbopack Y、Carbopack B、Carbopack X、Carboxen 1016、Carboxen 569、Carboxen 1021、Carboxen 1018、Carbosieve S-III、Carboxen 1003、Carbosieve G、Carboxen 1000、およびCarboxen 1012などの炭素吸着剤である。
【0034】
いくつかの実施形態において、炭素吸着剤はまた、20/40メッシュを有する黒鉛化カーボンブラック、60/80メッシュを有する黒鉛化カーボンブラック、およびカーボン分子ふるいの中から選択され得る。
【0035】
いくつかの実施形態では、吸着剤は、5~1500m2/gの表面積、0.2~0.7の密度、および/または4~300Åの細孔径を有している。
【0036】
代替的に、吸着領域は、揮発性物質に可逆的に結合させることができる複数の結合分子が施された基板材料からなり得る。これらの結合分子は、分子を表面に会合させる少なくとも1つの機能性、および揮発性物質に可逆的に結合させることができる少なくとも1つの他の機能性を有する少なくとも二機能性(すなわち、2つ以上の機能性を有し得る)分子である。結合は、イオン結合、共有結合、水素結合または錯化を含む、可逆的である任意の化学的結合であり得る。
【0037】
本発明から除外されるのは、金属ベースの任意の吸収領域である。これには、あらゆる種類の金属ナノ粒子、金属表面、金属マトリックスなどが含まれる。言い換えれば、吸着領域は自由であるか、または上記の金属形態のいずれも含まないか、または除外しない。
【0038】
少なくとも1つのサンプリングユニットを対象の呼吸に曝露することは、ユニットを呼気の経路内に置くことによって達成可能であり得る。これは、本明細書に開示されるように、例えば、マウスピースを介して、対象をユニット内に直接呼吸させることによって、または対象が接続されている換気ユニットにユニットを結合させることによって、またはサンプルを対象の肺から取り出すことによって達成され得る。手段にかかわらず、曝露は、単一の曝露、複数の曝露、ある期間にわたる連続的な曝露、または時限曝露であり得、例えば、ユニットは、所定の期間、ある時点において曝露される。呼吸中のマーカの存在を判定する目的で、サンプリングユニットは、異なるセッションで、すなわち、異なる時点で、かつ異なるまたは同じ期間曝露され得、各曝露時に、本明細書に開示されるように、ユニットは、マーカの存在を判定するために分析され得る。各曝露セッションの持続時間は、同じまたは異なり得、数分から数時間以上の間で変化し得る。マーカの存在を識別する最初のセッションは、以下でさらに考察されるように、疾患発病と見なされ得る。
【0039】
曝露セッションはまた、マーカ濃度の変化(増加または減少)に関する情報を提供するように構成され得る(時間および期間)。マーカ濃度の、例えば指数関数的な増加であり得る、経時的な増加は、通常、例えば、細菌またはバイアルの量または質量または負荷の増加を示す。そのような増加は、本明細書でさらに開示されるように、治療の開始、医療処置の成功、治療の調節などを判定するために使用され得る。
【0040】
呼吸サンプルへの吸着領域の曝露後、開示されているように、様々な揮発性物質が領域の表面または機能に吸着され、分析されるまで捕捉/結合される。吸着された揮発性物質の分析を可能にするために、吸着領域は、表面からの揮発性物質の脱着または解離を引き起こすように処理され、その後、揮発性物質は分析される。吸着領域からの揮発性物質の脱着または解離は、熱的に、不活性ガスの流れの下で、真空下で、または揮発性物質を分析器に放出することができる任意の手段を採用することによって達成することができる。したがって、本明細書で使用されるように、「…少なくとも1つのサンプリングユニットを分析して、1つ以上の吸着領域に吸着された揮発性物質を識別して…の存在を判定する」という表現は、吸着され、その後吸着領域から放出された揮発性物質を分析することを指す。分析では、サンプル内のすべての物質または揮発性物質を特定する必要はないが、所望のマーカの識別を提供すべきである。したがって、利用される分析システムまたは分析器は、揮発性物質の化学的または分光学的識別を可能にする任意の機器またはデバイスであり得る。分析は、ガスクロマトグラフィ(GC)、GCライニング質量分析(GC-MS)、プロトン移動反応質量分析(PTR-MS)、電子鼻デバイス(E-nose)、石英結晶微量天秤(QCM)、赤外線分光法(IR)、または紫外線分光法(UV)のうちの任意の1つ以上によって達成され得る。分析は、単一のマーカ分子または分子のクラスタを識別するように構成することができる。場合によっては、マーカの化学的識別は必要ではなく、むしろ、本明細書で定義されているように、化学的プロファイル(指紋)の判定が必要となり得る。
【0041】
いくつかの実施形態では、脱着した揮発性物質の分析に利用される分析システムは、GC、MSおよびGCMSの中から選択される。いくつかの実施形態では、分析システムは、TOFを有するGCMS、Marke BenchTOF-HD、異なる衝突エネルギーを同時に収集するオプションを含むGC Agilent 7890およびGC×GCモジュレータ用の飛行時間型質量分析計、四重極GCMS、Agilent MSD5975を有するAgilent GC 6890、Agilent MSD 5977Bを有するAgilent GC 7890B、四重極GCMS、Agilent MSD 5973を有するAgilent GC 6890、GCMS、Agilent 7250 GC/Q-TOF、GCMS、Agilent 7010Bトリプル四重極GC/MS、GCMS、Thermo Scientific Q Exactive(商標)GC Orbitrap(商標)GC-MS/MSなどから選択される。
【0042】
いくつかの実施形態では、分析システムは、0.5ml/分(一定流量/圧力)のHe流量を有するSGEPN99054140(SN:073438A23)、20Mx0.18mmID-BPX5x0.18μm dfから選択される第1(主非極性)カラム、および1.5ml/分(一定流量/圧力)のHe流量を有するAgilent DB5-ms 30Mx0.25mmIDx0.50μm dfから選択される(極性カラムである)第2のカラムを備える。
【0043】
分析に使用される方法に応じて、いくつかの実施形態では、マーカの識別は、それらの保持時間および相対的な保持時間によって達成される。このように、場合によっては、疾患別マーカまたは病原体別マーカは、放出される化合物または化合物の組み合わせの特徴的な指紋を有しており、その存在および濃度は、その特定の疾患または病原体を示す。したがって、例えば、2つの異なる細菌が異なる濃度で同一のマーカを放出する可能性がある。したがって、場合によっては、マーカの同一性および濃度を含む完全な指紋のみが、病気または病原体の存在の証拠として機能する。その他の場合、単一のマーカを使用することができる。
【0044】
本発明の方法に従って診断される対象は、ヒトまたは非ヒト対象である。最も一般的な用語では、本明細書に開示されるように、対象は、健康な対象、すなわち、慢性または急性の学的状態を患っていることが知られていない対象であり得る。健康な対象はまた、慢性的な健康状態を患っている対象であり得るが、本明細書に開示される方法論に従った診断の時点において、対象は慢性的な疾患と関連付けられる症状を呈さない。対象はまた、診断時に活動性疾患の状態を呈する、すなわち疾患と関連付けられる症状を有する、罹患対象であり得る。
【0045】
いくつかの実施形態では、対象は無症状の対象である。
【0046】
いくつかの実施形態では、診断時に、対象は疾患に罹患しており、診断は、異なる疾患状態の発症を判定することを目的としている。
【0047】
いくつかの実施形態では、対象は換気されている対象である。いくつかの実施形態では、この方法は、呼吸器系に接続された対象(換気または挿管されている対象)における人工呼吸器関連肺炎(VAP)を検出することを目的としている。
【0048】
人工呼吸器関連肺炎は、気管内挿管の少なくとも48時間後に発症する肺炎である。この疾患は、機械的換気を受けていない入院患者の入院後少なくとも48時間で発症する肺炎である院内肺炎とは異なる。両方の状態の診断は、不完全である。実際には、発熱、分泌物の増加、低酸素血症の悪化、白血球増加などの新たな症状または徴候が出現した場合に、その評価のために撮影した胸部X線に新たな浸潤物が出現したことから、人工呼吸器関連肺炎を疑うことが多い。症状、徴候、またはX線所見は診断に十分な感度または特異性を持たないため、早期診断は言うまでもなく、ほとんどの場合、診断は症状の出現時にのみ開始され、症状発現後の段階で広域または病原体別の抗生物質治療を行ったとしても、必ずしも対象の症状が改善されるとは限らない。
【0049】
本発明の方法は、病原体が罹患した臓器、例えば肺から他の臓器に広がる前、かつ症状が表れる前の段階で、対象の呼吸器系における様々な病原体の存在の早期検出の可能性を提供する。病原体は病院内感染であるか、または空気を通して(気中浮遊曝露)、直接または間接接触によって、性的接触を通して、または血液、母乳、精液などの様々な体液との接触を通して感染し得る。
【0050】
病原体は、通常、細菌、ウイルス、および真菌の中から選択される。いくつかの実施形態において、病原体は細菌である。いくつかの実施形態では、病原体はウイルスであり、他の実施形態では、病原体は真菌である。
【0051】
本発明の方法は、ウイルスファミリーである、コロナウイルス科、アデノウイルス、アルボウイルス、アレナウイルス、脳炎、オルソミクソウイルス、パピロマウイルス、パラミクソウイルス、ピコルナウイルス、ポックスウイルス、レトロウイルス、ラブドウイルスおよびライノウイルスのいずれかから選択されるウイルスの存在を検出することを目的とする。
【0052】
いくつかの実施形態では、ウイルスは、コロナウイルス、天然痘ウイルス、および他のポックスウイルス、ジュニンウイルス、マチュポウイルス、ガナリトウイルス、交感神経性脈絡髄膜炎ウイルス、ラッサウイルスなどのアレナウイルス、ハンタウイルス、リフトバレー熱ウイルスなどのブニヤウイルス、デング熱ウイルスなどのフラウイルス、エボラウイルス、マールブルグウイルスなどのフィロウイルス、東部ウマ脳炎ウイルス、西部ウマ脳炎ウイルス、ベネズエラウマ脳炎ウイルス、ラクロスウイルス、日本脳炎ウイルス、キャサヌール森林ウイルス、カリフォルニア脳炎ウイルス、カルシウイルスなどの食品および水系病原体、A型肝炎ウイルス、ニパウイルス、黄熱病ウイルス、インフルエンザウイルス、狂犬病ウイルス、およびその他のハンタウイルスの中から選択される。
【0053】
いくつかの実施形態において、ウイルスは、エンベロープウイルスまたは非エンベロープウイルスである。いくつかの実施形態では、ウイルスは、ノロウイルスまたはパルボウイルスなどの非エンベロープウイルスである。
【0054】
いくつかの実施形態では、ウイルスは、インフルエンザウイルスなどのエンベロープウイルス、またはSARS-CoV-2などのコロナウイルスである。
【0055】
いくつかの実施形態では、ウイルスはコロナウイルスである。
【0056】
いくつかの実施形態では、ウイルスはSARS-CoV-2である。
【0057】
病原体が細菌である場合、細菌は炭疽菌、ボツリヌス菌、野兎病菌、ペスト菌、類鼻疽菌、鼻疽菌、ウェルシュ菌、コクシエラ・バーネティ、マルタ熱菌、流産児、スイスおよびカニス、黄色ブドウ球菌、発疹チフスリケッチア、オウム病クラミジア、大腸菌、コレラ菌、サルモネラ種、赤痢菌種、リステリア菌、カンピロバクター・ジェジュニ、腸炎エルシニアなどの食品および水系病原菌、結核菌、および他のリケッチアから選択することができる。
【0058】
いくつかの実施形態では、微生物は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などの、いわゆる病院内感染(HAI)を引き起こすものである。他のHAIによって引き起こされる微生物には、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、クロストリジウムディフィシル、アシネトバクターバウマニ、および多剤耐性(MDR)アシネトバクター属が含まれる。
【0059】
真菌は、カンジダ、アスペルギルス、クリプトコッカス、ヒストプラズマ、ニューモシスチスおよびスタキボトリスから選択することができる。
【0060】
いくつかの実施形態では、真菌は、カンジダアルビカンス、カンジダアンフィキシアエ、カンジダアンタルクチカ、カンジダアルゲンテア、カンジダアスカラフィダルム、カンジダアトランティカ、カンジダアトモスファエリカ、カンジダアウリス、カンジダブランキー、カンジダブラッテ、カンジダブラカレンシス、カンジダブロメリアセアルム、カンジダカルポフィラ、カンジダカルバハリス、カンジダケラムビキダルム、カンジダチャウリオデス、カンジダコリダリス、カンジダドッセイ、カンジダドゥブリニエンシス、カンジダエルガテンシス、カンジダフェルメンタティ、カンジダフルクタス、カンジダグラブラタ、カンジダギリエルモンディ、カンジダハエムロニ、カンジダフミリス、カンジダインセクタメンス、カンジダインセクトルム、カンジダインターメディア、カンジダイェフレシイ、カンジダケフィール、カンジダケロセニエ、カンジダクルーセイ、カンジタルシタニアエ、カンジタリクソソフィラ、カンジタマルトーセ、カンジタマリナ、カンジダメンブラニファシエンス、カンジダモギ、カンジダオレオフィラ、カンジダオレゴネンシス、カンジダパラプシソーシス、カンジダクエルシトルーサ、カンジダリゾフォリエンシス、カンジダルゴサ、カンジダサケ、カンジダシャルキエンシス、アスペルギルスフミガツス、アスペルギルスフラバス、クリプトコックスネオフォルマンス、クリプトコックスロウレンテイ、クリプトコックスアルビダス、クリプトコックスガッティ、ヒストプラズマカプスラーツム、ニューモシスチスイロベチイ(またはニューモシスチスカリニ)、およびスタキボトリスカルタルムから選択される。
【0061】
病院内感染肺炎または人工呼吸器関連肺炎が関係する場合、病原体はグラム陰性菌、緑膿菌、肺炎桿菌、セラチアマルセッセンス、エンテロバクター、シトロバクター、アシネトバクター、黄色ブドウ球菌、およびメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などの抗生物質耐性菌である。上記のリストは、VAPに関連する病原体の80%超を表している。
【0062】
したがって、その別の態様では、本発明は、(例えば、病原体の存在と関連付けられるか、またはその存在を示す症状が進展するか、または明らかになる前に)対象の体内における少なくとも1つの病原体の存在を判定するための方法を提供し、この方法は、
呼吸サンプルに、前述の呼吸サンプル中の揮発性物質を可逆的に結合させることができる1つ以上の吸着領域を含む少なくとも1つのサンプリングユニットを曝露することと、
1つ以上の吸着領域に吸着された揮発性物質を識別して、少なくとも1つの病原体関連マーカ(または病原体と関連付けられる少なくとも1つのマーカ)の存在を判定するために、少なくとも1つのサンプリングユニットを分析することと、を含み、
前述のマーカの存在は、対象の体内に病原体が存在することを示す。
【0063】
いくつかの実施形態において、病原体は、本明細書で定義され、選択されるように、ウイルス、細菌または真菌である。
【0064】
いくつかの実施形態において、対象は、無症状の対象、すなわち、病原体と関連付けられる症状を示さない対象である。
【0065】
いくつかの実施形態では、対象は、換気されている対象(人工呼吸システム上の対象)である。いくつかの実施形態では、換気されている対象は、VAPと関連付けられる症状を呈さない。いくつかの実施形態において、病原体は、VAPを引き起こすものであり、VAPを引き起こすことが開示され、知られている細菌のいずれかから選択される。
【0066】
したがって、本発明はまた、(例えば、病原体の存在と関連付けられるか、またはその存在を示す症状が進展するか、または明らかになる前に)換気されている対象の体内における少なくとも1つの病原体の存在を判定するための方法を提供し、この方法は、
少なくとも1つのサンプリングユニットを換気されている対象からの呼吸サンプルに曝露することであって、少なくとも1つのサンプリングユニットが、前述のサンプル中に存在する揮発性物質を可逆的に結合させることができる1つ以上の吸着領域を含む、曝露することと、
1つ以上の吸着領域に吸着された揮発性物質を識別して、前述の少なくとも1つの病原体関連マーカの存在を判定するために、少なくとも1つのサンプリングユニットを分析することと、を含み、
前述のマーカの存在は、換気されている対象の体内に病原体が存在することを示す。
【0067】
より具体的には、本発明はまた、(例えば、VAPと関連付けられるか、またはVAPを示す症状が進展するか、または明らかになる前に)換気されている対象内でのVAPの発症を判定するための方法を提供し、この方法は、
換気されている対象からの呼吸サンプルに、前述の呼吸サンプル中の揮発性物質に可逆的に結合させることができる1つ以上の吸着領域を含む少なくとも1つのサンプリングユニットに曝露することと、
1つ以上の吸着領域に吸着された揮発性物質を識別して、VAPを引き起こす病原体の少なくとも1つのマーカの存在を判定するために、少なくとも1つのサンプリングユニットを分析することと、を含み、
前述のマーカの存在は、VAPの発症を示す。
【0068】
いくつかの実施形態では、第1の呼吸サンプルは、0日目、すなわち、対象が人工呼吸器に接続された日に、換気されている対象から採取される。他の実施形態では、第1のサンプルは、機械に接続されてから1、2、3、4、または5日目において、およびその後の任意の期間において採取される(すなわち、第2およびさらなるサンプルは、第1のサンプルが採取されてから数時間または数日後に採取される)。
【0069】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つのサンプリングユニットは、対象の人工呼吸に通常使用される呼吸器系内に提供される。したがって、いくつかの実施形態では、この方法は、
呼吸器系の出口ラインにおいて位置決めされた少なくとも1つのサンプリングユニットを、対象によって吐き出された呼吸サンプル(例えば、肺胞サンプル)に曝露することであって、少なくとも1つのサンプリングユニットが、前述のサンプル中に存在する揮発性物質に可逆的に結合させることができる1つ以上の吸着領域を含む、曝露することと、
1つ以上の吸着領域に吸着された揮発性物質を識別して、少なくとも1つの病原体関連マーカの存在を判定するために、少なくとも1つのサンプリングユニットを分析することと、を含み、
前述のマーカの存在は、換気されている対象の体内に病原体関連マーカが存在することを示す。
【0070】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つのサンプリングユニットは、1つ以上の吸着領域を含み、例えば、肺胞呼吸サンプルと1つ以上の吸着領域との時限滞留接触を許容する器の形態である。
【0071】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つのサンプリングユニットおよび呼吸器系の出口ラインの一方または両方には、流量調整器(例えば、弁)が設けられている。
【0072】
いくつかの実施形態において、疾患を引き起こす病原体は、本明細書で定義され、選択されるように、細菌、ウイルスまたは真菌である。
【0073】
いくつかの実施形態では、方法は、呼吸器系の出口ラインから少なくとも1つのサンプリングユニットを取り外すことと、それを分析して、1つ以上の吸着領域に吸着された揮発性物質を判定することと、をさらに含む。
【0074】
いくつかの実施形態では、1つ以上の吸着領域に吸着された揮発性物質は、脱着され、その後分析される。
【0075】
いくつかの実施形態では、方法は、呼吸器系の入口ラインにおいて位置決めされた少なくとも1つの別のサンプリングユニットを、対象に送達された人工呼吸空気に曝露することをさらに含む。
【0076】
いくつかの実施形態では、分析は、定義されているように、分光分析法または分光光度法によって実行される。
【0077】
いくつかの実施形態では、方法は、疾患を引き起こす病原体の存在を示す材料を識別するために、1つ以上の吸着領域に吸着された材料をマーカ物質のデータベースと比較することをさらに含む。
【0078】
いくつかの実施形態において、疾患を引き起こす病原体の存在は、疾患の発症を示す。
【0079】
いくつかの実施形態では、呼気内で識別されたマーカは、吸気内で識別されたマーカと比較される。外因性の、すなわち対象の周囲に由来するマーカまたは物質は、無視されるか、分析の背景として使用され得る。
【0080】
本明細書で使用される場合、「疾患状態」という用語は、本発明の方法論を利用して診断が望まれる医学的状態を指す。疾患状態の存在は、通常、代謝、臓器機能、または疾患状態の病因に関与する病原体(例えば、細菌、ウイルスまたは真菌)の存在および/または増殖と関連付けられる、対象の呼吸サンプル中のマーカの存在を判定することによって結論付けられる。疾患状態は、WHO International Classification of Diseases(http://apps.who.int/classifications/icd10/browse/2016/en)によって識別されるあらゆる疾病である。最も一般的な用語では、疾患状態は、対象に痛み、機能障害、苦痛、社会問題、および/または死を引き起こし得る任意の状態である。このような状態は、心臓病、炎症、腎臓病、がん、病原体に起因する病気などであり得るか、またはこれらをもたらし得る。これらの条件はすべて、当技術分野に精通している人にはよく知られている。
【0081】
いくつかの実施形態において、疾患状態は、定義されるように、病原体と関連付けられている。いくつかの実施形態では、疾患状態は、細菌と関連付けられている。疾患状態は、本明細書に開示される病原体によって引き起こされるものの中から選択することができる。感染症罹患率および死亡率が高い原因となる菌には、肺に発現する傾向が高い、コレラ(コレラ菌によって引き起こされ、急激で激しい体液および塩分の消耗を伴う激しい下痢を特徴とする小腸の急性感染症)、ジフテリア(コリネバクテリウムジフテリアエという桿菌によって引き起こされ、通常は上気道内の一次病変と、細菌毒素が全身に広がることによる全身症状を特徴とする)、髄膜炎(髄膜炎菌によって引き起こされ、H.インフルエンザは乳児および幼児に多く発生し、高齢者にはまれであり、肺炎連鎖球菌は成人の髄膜炎の一般的な原因である。その他、連鎖球菌、肺炎球菌、ブドウ球菌、結核菌の様々な菌株が髄膜炎を引き起こすことがある)、破傷風(破傷風菌が作り出す毒素によって引き起こされ、随意筋の硬直および痙攣を特徴とする)を含み、ライム病は、米国でのライム病ボレリア、米国中西部でのBマヨニ、ヨーロッパおよびアジアでのBアフゼリおよびBガリニを含む、いくつかの近縁種のスピロヘータによって引き起こされる。スピロヘータは様々な種類の野良犬に噛まれることでヒトの血流に伝わる)、梅毒-梅毒トレポネーマによって引き起こされる全身性疾患である。梅毒は通常STD(性感染症)であるが、感染者との性行為でない直接的な接触で感染することもあり、母親の感染を通して胎児が感染する可能性もある。
【0082】
いくつかの実施形態において、病原体によって引き起こされる疾患は、病院内感染である。いくつかの実施形態において、病原体によって引き起こされる疾患状態は、VAPまたは病院内肺炎である。
【0083】
いくつかの実施形態では、疾患状態は、がんである。がんの非限定的な例には、がん腫、扁平上皮がん、骨髄系またはリンパ系の造血器腫瘍、間葉系由来の腫瘍、中枢および末梢神経系の腫瘍、メラノーマ、セミノーマ、奇形がん、骨肉腫、色素性乾皮症、角膜カントーマ、甲状腺濾胞がんおよびカポジ肉腫が含まれる。乳がん、肺がん、大腸がん、前立腺がん、卵巣がん、子宮内膜がん、胃がん、明細胞腎細胞がん、グリア芽腫、ブドウ膜メラノーマ、多発性骨髄腫、横紋筋肉腫、ユーイング肉腫、および髄芽腫も含まれる。
【0084】
いくつかの実施形態において、疾患状態は、肝臓または腎臓の疾患である。
【0085】
いくつかの実施形態では、疾患は、肺と関連付けられている。非限定的な例には、気管支拡張症、肺気腫、慢性気管支炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、肺炎、胸水(PE)および人工呼吸器関連肺炎(VAP)、嚢胞性線維症、ARDS(急性呼吸困難症候群)、喫煙、アスベストなどが含まれる。
【0086】
無症状の対象に言及する場合、本明細書で説明するように、対象は、疾患状態と関連付けられることが知られているいずれか1つの症状も呈さないと見なされる。場合によっては、本発明は、症状が明らかになる前、または対象が医学的状態を識別する健康診断または検査を受ける前に、無償である、または疾患の初期段階にある対象内の疾患の原因を検出することを企図する。例えば、VAPを引き付ける換気されている対象の場合、感染と関連付けられる症状が出ていない状態、すなわち発熱または低体温および低酸素血症などの症状が発生する前の段階で、換気されている対象において病原体の検出が望まれる。このように、「疾患状態の発症」とは、身体検査または臨床検査で検出可能な兆候および症状を示さない、疾患の不顕性の段階を指す。より具体的には、病原体に起因する疾患の発症は、当技術分野で知られているように、潜伏期間を指し、場合によっては前駆症状期間を指す。
【0087】
また、「罹患状態」または発病の早期発見は、マーカ濃度の経時的な任意の上昇が測定された時点と見なすことができる。このような上昇は、罹患状態を示す細菌量またはウイルス負荷に直接関連付けられている。本明細書に記載のように、あるマーカが対象微生物叢に通常存在する微生物の存在を示す場合、発症点は、マーカレベルが上昇したとき、または少なくともバックグラウンドレベルと比較して、すなわち、最初の事例において、もしくは以前の時点において測定されたレベルと比較して、上昇したときと見なされるであろう。
【0088】
本発明はさらに、換気されている患者の障害または疾患を判定するための方法を対象とし、この方法は、
弁を備え、吸着物質を含む少なくとも1つの収集またはサンプリングユニットを、弁の開放時に収集ユニット内に通過する呼気および/または吸気中に存在する揮発性および半揮発性化合物を吸着により捕捉するために、呼吸器系の出口および/または入口ラインに接触させることであって、弁が、入口および出口ラインと少なくとも1つの収集またはサンプリングユニットとの間に位置し、それによって、収集またはサンプリングユニットを通過する空気中に存在する化合物が前述の吸着物質に吸着することが許容される、接触させることと、
少なくとも1つの収集またはサンプリングユニットに吸着された化合物を脱着し、分析のために移送することと、
脱着した化合物を化学的に識別するための分析ユニットを提供し、検出された化合物の各々の相対量を任意選択的に判定することと、
検出された化合物の各々の相対量を含む化合物の第1のリストを最初に創出するための分析システムを提供することであって、分析システムが、識別された化合物のさらなる分析のためのデータベースをさらに備える、提供することと、を含む。
【0089】
いくつかの実施形態では、弁は、呼気および/または吸気が少なくとも1つの収集ユニットを通過することを許容するために、1日に数回、その都度、ある期間だけ開放される。各開放の持続時間および弁が開放される回数は、既定され得るか、、または必要に応じて行われ得る。
【0090】
本発明はさらに、医療処置中の対象の医療処置の成功を判定するための方法を提供し、方法は、
対象からの呼吸サンプル中の揮発性物質に可逆的に結合することができ、前述の呼吸サンプル中の揮発性物質を前述の1つ以上の吸着領域に吸着させることができる1つ以上の吸着領域を含む少なくとも1つのサンプリングユニットを曝露することと、
疾患を示すマーカの存在および/または量を判定するために、少なくとも1つのサンプリングユニットを分析することと、を含み、
前述のマーカの有無、および/または前述のマーカの量の、より早い時点における測定量に対する変化により、医療処置の成否が提供される。
【0091】
本明細書で使用される場合、医療処置は、疾患と関連付けられる望ましくない症状を改善し、発生する前にそのような症状の発現を防止し、疾患の進行を遅らせ、症状の悪化を遅らせ、寛解期の発症を増強し、疾患の進行性慢性期に引き起こされる不可逆的ダメージを遅らせ、前述の進行期の発症を遅らせ、疾患の重症度を軽減し、疾患を治癒し、生存率またはより迅速な回復を改善し、または疾患の発生を防止することを目的とする任意のそのような治療であり得る。前述の目的のいずれかを達成することにおいて成功した医療処置として注目することができるが、本発明の方法により、成功した医療処置は、(1)対象の呼吸サンプル中にマーカがもはや検出されない場合、(2)マーカの量が経時的に減少する場合、(3)マーカの量が呼吸サンプル中に存在する別のマーカと比較して減少する場合、および(4)提案する発明による最初の識別に続いて判定された罹患状態に関連する臨床徴候および症状の減少のうちの1つ以上において注目され得る。
【0092】
本明細書に開示される方法のいずれも、疾患または状態のさらなる進行を防止するために、疾患または状態を有すると識別された対象を治療するステップを含み得る。治療には、活性物質の投与、または疾患と関連付けられ得る症状を改善する、または発生する前にそのような症状の発現を防止する、疾患または状態の進行を遅らせる、生じ得る症状の悪化を遅らせる、疾患の進行性慢性期において生じ得る不可逆的なダメージを遅らせるか、または進行期の発症を遅らせる、発症した疾患または状態の重症度を軽減する、生存率を改善する、または疾患の発生を防止することを意図した治療プロトコルの投与を伴い得る。
【0093】
本発明はさらに、本発明の方法を実行するための装置、デバイスまたはシステムを提供する。装置、デバイスまたはシステムは、一般に、本明細書に開示されるように、対象からの呼吸サンプル中の揮発性物質に可逆的に結合することができる1つ以上の吸着領域を含む少なくとも1つのサンプリングユニットを備え、少なくとも1つのサンプリングユニットは、任意選択的に、上記のデバイスから取り外し可能であり、別々に取り扱うことができる。そのようなデバイスの1つは、本明細書に開示されるような呼吸器系である。
【0094】
サンプリングユニットがデバイスから取り外し可能である場合、例えば別の場所において、分析のために手動または自動で取り外され得る。分析は、現場でも達成可能であり得る。サンプリングユニットが取り外し可能でない場合、またはデバイスから別個の様式として存在するように構成されていない場合、サンプリングユニットには、呼吸サンプルをそこに連通させることができる開口部と、直接分析のために脱着後の揮発物質を除去することができる開口部が設けられ得る。場合によっては、ユニットは両方の目的を満たす単一の開口部を備える。他の実施形態では、サンプリングユニットはさらに2つの開口部を備える。開口部の各々には、弁または弁アセンブリを設けることができる。
【0095】
本明細書に開示されるように、少なくとも1つの吸着領域を含むサンプリングユニットも提供され、この領域は、多孔質物質または呼吸サンプル中の揮発性物質を捕捉、または結合することができる複数の機能で形成される。いくつかの実施形態では、サンプリングユニットは、その中への呼吸サンプルの流れを可能にするように構成され、かつ動作可能な開口部を有する。開口部は、ユニットに出入りする物質の流れの制御を可能にする弁ユニットに適合させることができる。ユニットは、任意選択的に、デバイスまたはシステムに緊密に結合するように適合可能な手段またはポートをさらに備えるか、または設けられ得る。
【0096】
本発明はまた、圧縮可能な空気リザーバと、チューブのセットと、吸気チューブおよび呼気チューブを備える患者回路と、備える呼吸器システムであって、患者回路が、気管挿管チューブに接続され、吸気チューブと呼気チューブの一方または両方が、換気されている対象によって吐き出される肺胞呼吸の経路内に位置決めされた少なくとも1つのサンプリングユニットを備え、少なくとも1つのサンプリングユニットが、吐き出された肺胞呼吸中に存在する少なくとも1つの揮発性物質に可逆的に結合させることができる1つ以上の吸着領域を含み、疾患状態または疾患を引き起こす病原体の存在を示す。
【0097】
換気されている対象内の疾患を引き起こす病原体の存在を判定するために構成されているシステムも提供され、システムは、呼気の経路内に位置決めされた複数の任意選択的に取り外し可能な収集表面が設けられた患者回路を備える人工呼吸装置を備え、複数の収集表面の各々が、複数の結合領域によって特徴付けられ、結合領域の各々が、結合分子および/または表面特徴の形態であり、病原体の存在を示す少なくとも1つの材料に可逆的に結合させるように構成されている。
【0098】
本発明の方法またはシステムのいずれも、呼吸サンプル中の存在が、例えば、疾患の発症またはある病原体の存在を定義するマーカの初期の知識および理解にある程度依存し得る。とりわけ、ある疾患を他の疾患と区別する特性、疾患状態の発症を定義する特性、および良好な医療処置の適切な進展を定義する特性を特徴付けることも重要である。対象の呼吸中に入り込み、病気または微生物とともに進展するか、またはそれによって引き起こされることが知られており、それによって疾患状態または微生物の存在を示すマーカの大部分が知られている。このような疾患状態または病原体間の関連を、対象の呼吸中に検出され得るマーカで判定することは、当技術分野で周知の方法論によって達成することができる。このような方法論には、密閉された器内の異常細胞または病原体の上のヘッドスペースからマーカを収集すること、または血液またはその他の体液サンプル中のマーカの同一性を判定することが伴われ得る。
【0099】
既知の疾患別または病原体別マーカを用いて、本発明のある方法から得られたデータを、収集されてデータベースに保存されたデータと比較することができる。例えば、医療処置の成功の判定において、または特定のマーカ指紋の変化が疾患状態の初期の進展を示すかどうかの判定において、呼吸サンプルで測定されたマーカおよびマーカ濃度または量またはレベルを対照と比較することができる。対照とは、疾患に罹患していない対象、すなわち、試験されて疾患の影響を受けていないことが判明した対象、または疾患に罹患していないことが分かっている対象、ならびに疾患に罹患している対象から得られたマーカ指紋の任意の構成要素を指す。これらは、「健康グループ」、すなわち疾患に罹患していない対象のグループ、および「病気グループ」、すなわち疾患に罹患している対象のグループを定義するために使用され得る。マーカ指紋を対照のマーカプロファイルと比較すると、その指紋が病気または病原体にかかった対象を示しているか、またはそうでない対象をしめしているかを判定することができる。同様に、医療処置が成功したかどうかを診断的に判定するために、対象から採取したマーカ指紋を、治療開始前または後の1つまたは異なる時点において同じ対象から得られた対照サンプルと比較することができる。
【0100】
疾患の有無を判定する目的で得られた対照サンプルは、通常、健康または病気として識別された複数の(1つ以上の)対象から採取される。対象の数は、少なくとも10から数千の対象の間であり得る。
【0101】
そこに記載されているように、例えば対称と比較した場合の、VCプロファイルの変化とその経時的な進展は、限定されないが、人工ニューラルネットワーク、多層知覚(MLP)、一般化回帰ニューラルネットワーク(GRNN)、ファジー推論システム(FIS)、自己組織化マップ(SOM)、放射状バイアス関数(RBF)、遺伝アルゴリズム(GAS)、神経ファジーシステム(NFS)、適応共鳴理論(ART)などのアルゴリズム、および主成分分析(PCA)、部分最小二乗法(PLS)、多重線形回帰(MLR)、主成分回帰(PCR)、線形判別分析(LDA)を含む判別関数分析(DFA)、または最近傍を含むクラスタ分析を含むが、これらに限定されない統計手法を利用して判定され得る。
【0102】
対称データは、開示されているように、疾患または病原体のマーカとして示すと以前に判定されたグループ化された化合物の定性的および定量的リストをまとめたデータベースに格納することができる。データベースは、各々が特定の識別された病原体、例えば、細菌または疾患状態に起因する、マーカの組み合わせまたは指紋をさらに含み得る。
【0103】
本明細書で使用される場合、罹患状態または病原体の存在の可能性についての予測指示を提供するマーカのグループは、指紋またはクラスタと見なされる。微生物叢が異なれば、クラスタも異なる。したがって、特定のクラスタまたは指紋の検出により、微生物叢を定義することができる。指紋に包含される分子のリストに加えて、アルゴリズムは濃度の変化およびマーカ間の関係を分析して、クラスタの内容および/または連続する患者サンプル間の濃度の変化(正または負)を定義する。アルゴリズムは、また、クラスタパラメータの変化率(「勾配」)、疾患、障害または状態の発症を判定することができる変化、医療スタッフへの報告の必要性および緊急性を定義するようにも設定されている。クラスタコンポーネントのレベルの上昇率(勾配)も、脅威の深刻さに起因している可能性がある。勾配は、特定の分子の傾向だけでなく、組成の傾向を定義する。
【図面の簡単な説明】
【0104】
本明細書に開示されている主題をより良く理解し、実際にそれがどのように実行され得るかを例証するために、添付の図面を参照して、非限定的な例としてのみ、実施形態をここで説明する。
【0105】
【
図1】本発明の実施形態による、サンプリングまたは収集ユニットのいくつかの位置を示す人工呼吸器(MV)の概略図である。
【
図2】本発明のある実施形態による、いくつかのサンプリングまたは収集ユニットのいくつかの位置を示す人工呼吸器(MV)の並列およびタンデム配置の概略図である。
【
図3】本発明の例示的なVADS(人工呼吸関連検出システム)の概略図であり、単一の分析化学ユニットが展開され、クラウドサーバで処理され、異なる形態で患者のステータスを提供する。
【
図4】本発明で使用する分析化学ユニットの概略図である。
【
図5】データ分析用のクラウドサーバサブシステムの概略図である。
【
図6A】データ分析ソフトウェアエンティティで処理した後、GC-MS生データのコンピュータ化された出力を提供する。
【
図6B】患者の呼気中にある細菌が存在することを示す特定の標的分子の拡大画像を提供する。
【
図6C】微生物叢を示す特徴的なマーカを示す患者の細菌負荷を提供する。
【
図7A-7C】患者のブドウ球菌(MRSA)、アシネトバクター(9)、およびクレブシエラの細菌負荷をそれぞれ提供する。
【
図8A-8C】患者の黄色ブドウ球菌、アクト、アシネトバクター、およびシュードモナスをそれぞれ提供する。
【
図9A-9E】ある細菌に特徴的であることが以前に判明した「指紋」(化合物のクラスタ)を検出することにより、細菌負荷の検出を提供する。
【
図10A-10D】ある細菌に特徴的であることが以前に判明した官能基を検出することにより、細菌負荷の検出を提供する。
【
図11A-11D】ある細菌に特徴的であることが以前に判明した特定の単一化合物を検出することにより、細菌負荷の検出を提供する。
【
図12A-12E】呼気中の特定の化合物(1-エチル-4-メチルベンゼン-
図11B)の濃度を判定する方法を提供する。
【
図13A-13F】肺炎と診断された患者と健常人における3つの特定の細菌を示す化合物の濃度を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0106】
本発明は、本明細書に開示されるような方法およびシステムに関する。
【0107】
技術の独自性を実証する目的で、複雑な医学的状態を試験として選択した。VAPは、病原体、通常非協力的で、既存の活発な医学的状態を有する対象、早期発見が強く求められる潜在的に進展する生命を脅かす疾患を伴う。したがって、本明細書で提供される実施例は、(a)病原体の早期検出(病原体と関連付けられる症状が明らかになる前)、(b)病原体または疾患を早期に検出し、早期に検出されなければ致命的となり得る合併症を予防する能力、(c)すでに活動性疾患に罹患している対象における病原体の検出、(d)病原体と関連付けられるマーカと他の疾患を引き起こす要因とを区別する能力、(e)非協力的な対象からのサンプル採取において、(f)治療を監視し、それをマーカのレベルに関連付ける能力、[すなわち、マーカレベルの減少は、病原体の活性の減少に関連しうる(治療の有効性)。対照的に、治療中のマーカレベルの上昇は、治療が有効でなく、治療(抗生物質の使用、異なる抗生物質の使用、理学療法、体位変換など)を変更する必要があることを示す場合がある]、(g)汚染物質について人工呼吸器を定期的にスキャンすること、(h)ICUユニット内のすべての人工呼吸器(MV)のマーカレベルを比較して、常在菌による汚染を検出することなどにおいて、本明細書に開示される技術の能力を実証している。
【0108】
したがって、本発明の方法は、対象における細菌の状態、疾患または障害を早期に検出するための方法、対象における細菌の状態、疾患または障害の発症を判定するための方法、対象における細菌の状態、疾患または障害の発生を予防するか、または進行または発症を遅らせるための方法を提供することを目的としている。これらの方法は、対象から出てくる呼気をサンプリングすることであって、サンプリングが呼気中に存在する物質/化合物を吸着することによって実行される、サンプリングすること、吸着した物質/化合物を脱着すること、それらを分析すること、および細菌によって周囲に放出されるそのような物質/化合物に関する情報を包含する所定の既知のデータベースとそれらを比較することによって、本発明に従って実施される。
【0109】
本発明はまた、生きている動物、好ましくは哺乳動物、好ましくはヒトの呼吸器系からの呼気および/または吸気中に存在する化合物の正確かつ定量的な判定のためのシステムに関する。これらの化合物は、揮発性および半揮発性化合物(VOC、sVOC)、好ましくは有機化合物である。システムは、ヒトの肺から吐き出されて吸入される空気をサンプリングすることによってそのような化合物を検出し、サンプリングされた空気が、好ましくはそれらの科学的性質および構造を変化させない方法でこれらの化合物を吸着する適切な吸着剤を含む適切なユニットを通過する間に、空気中に存在する化合物を吸着する。そのようなサンプリングは、適切なユニットを通過するためにかなりの量の空気を必要とし、したがって、本発明によれば、システムは、人工呼吸器によって与えられる圧力が十分な量の呼気および/また吸気を許容するための導出力を提供するように、機械的に換気されている患者に使用され得る。受動的なサンプリングも可能で、例えば、口腔内の細菌/ウイルス/真菌群をサンプリングしないように、鼻から吐き出した空気をサンプルとして採取する。
【0110】
適切なユニットの吸着剤に吸着された化合物は、通常、吸着された化合物の沸点より高い温度に加熱することによって脱着されるが、その温度より低いと、吸着剤は化学的に分解し始める。脱着した化合物は、化合物を分離および識別する分析ユニットに転送される。識別とは、これらの化合物の化学的性質および化学的特性の両方、アルキル、アルケン、アルキン、アルコール、アミン、芳香族、環状、上記のグループのいずれかに存在するP、N、O、Sなどのヘテロ原子などのグループ化、およびサンプリングした空気中の相対量を識別することを意味する。さらなる分析システムは、分析ユニットによって特定されたデータを受信し、化学的画像、すなわち検出され識別された化合物のリストを提供し、空気がサンプリングされた個人の呼吸器系に存在する化合物の指示を提供する。
【0111】
この得られた化合物のリストには、多数の化合物およびその強度が含まれており、障害または病期との関連は単純ではなく、解明すべきである。そのような解明のために、本発明は、分析システムに存在する他の2つの特徴を利用する。他の2つの特徴は、独自のデータベースおよび独自のアルゴリズムであり、両方とも本発明の一部である。
【0112】
独自のデータベースには、細菌によって周囲に放出されたグループ化された識別された化合物のリストを含む以前に取得されたデータが含まれ、細菌の周囲に生成および放出された揮発性および半揮発性化合物は補足され、識別され、比較のベースとして機能する。各細菌は、特定の相対量において独自の化合物を放出し、化合物のリスト全体が、バイオマーカを含むこの特定の細菌の「指紋」である。バイオマーカは、本発明による分析に役立つ。
【0113】
本発明の独自のアルゴリズムは、データベースに存在するバイオマーカのクラスタであるバイオマーカのグループと、呼気中で識別された化合物または複数の化合物とを比較する。したがって、個人の分析されたサンプリングされた空気によって得られた化合物とデータベース内のクラスタとの間の一致は、個人の呼吸器系における特定の細菌を示す特定の微生物叢の存在の指示として機能し、したがってそのような細菌と関連付けられる障害または疾患が識別される。
【0114】
個人の周囲およびその周辺の装置に由来する個人の呼吸器系に存在するバックグラウンド化合物は、(バックグラウンドを差し引くことによって)考慮される場合または考慮されない場合がある。これらには、人工呼吸器システムの空気源に存在する化合物、特定の病院の微生物叢、個人が位置している診療所、および個人の周囲の医療機器によって放出される化合物が含まれる。これらの化合物は、肺に入る空気を通して呼吸器系に入るため、人工呼吸器の吸気チューブで空気をサンプリングし、呼気に対して行われたように化合物を解明し、呼気中に存在し識別された化合物から差し引くことにより、障害または疾患により呼吸器系で発生する化合物のよりきれいな画像を提供することができる。
【0115】
したがって、本発明は、様々な細菌によって放出される化合物のグループの関連部分を実証し、例示し、これらの細菌によって産出される化合物の性質および相対量を識別し、サンプリングされる空気中のこれらの細菌の存在を示す様々な特定の化合物のリストを生成する。これらの化合物は標的分子と呼ばれ、この特定の細菌を示す。化合物のグループおよびそれらの相対量は、ある細菌(または複数の細菌)を示し、したがって、細菌または複数の細菌を明確に識別するバイオマーカとして機能する。本発明によれば、ある測定において呼気中の1つ以上の細菌のバイオマーカを識別し、その濃度が以前の測定と比較して増加することは、この特定の識別された細菌と関連することが知られている障害、状態または疾患を示す。1つの細菌のバイオマーカまたはバイオマーカのクラスタ、つまり2つ以上のバイオマーカのグループを特定することは、障害、状態、または罹患状態を示す。
【0116】
各細菌は、その特徴的な化合物によって識別されることを理解すべきである。所与の状況におけるある細菌は、1つ以上の化合物を生成し、周囲に放出することがあり、ある細菌と別の異なる細菌を比較した場合、生成および排出される化合物または複数の化合物の量が異なる。2つの異なる細菌が放出する化合物のうちの単一(1つ以上)の重複は頻繁に見られるが、特定の十分に識別された細菌の完全に識別されたスペクトルは、特定の細菌の化合物の量と全体のリストが他の細菌と異なるという事実によって、別の細菌のものと異なっている。さらに、生成および放出される化合物の各々は、分析システム内でその保持時間(RT)によって識別される。特定の細菌から放出される化合物の各セットの相対保持時間(RRT)を計算することにより、特定の細菌のより正確な証拠が提供される。そのため、ある個人の呼吸器系からサンプリングした空気中の化合物、それも1つの化合物を識別するだけでは、異なる細菌が(濃度は異なるものの)同じ化合物を生成して周囲に放出することがあるため、ある細菌の存在を識別するには十分ではない。
【0117】
したがって、本発明は、細菌が細菌の周囲に放出する揮発性および半揮発性化合物を収集し、これらの化合物およびそれらの強度を識別し、既知の細菌が放出する化合物の性質およびその化合物ごとの強度に関する過去の収集データを含むデータベースと比較することを許容することにより、細菌の感染と関連付けられる疾患および障害を識別することを目的とするものである。
【0118】
特に、本発明は、肺と関連付けられる障害、疾患または状態を識別することを目的とし、非限定的な例は、気管支拡張症、肺気腫、慢性気管支炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、肺炎、胸水(PE)および人工呼吸器関連肺炎(VAP)である。
【0119】
図1および2は、機械的または他のタイプの人工呼吸器ユニット1を概略的に描いている。ユニットの適切な操作に従って、空気はユニットから吸入チューブ2を通って、矢印で示す方向に、挿管チューブ7を経て患者の肺に送り込まれる。肺に存在する化合物、好ましくは揮発性有機化合物(VOC)、マーカは、肺からの呼気とともに挿管チューブ7および呼気チューブ3を通って、矢印で示す方向に取り出される。呼気は、受動的に、またはユニットが対象の呼吸システムに及ぼす圧力によって、肺の外に排出される。代替的に、ポンプによっても排出され得る。任意選択的に各々弁5またはT字型接続部を備えた1つ以上のサンプリングユニット4は、吸気チューブ2および呼気チューブ3のいずれかまたは両方に設置され、VOCを受動的および/または能動的に吸着する。
【0120】
場合によっては、1つ以上のサンプリングユニット4の位置は、吸気および/または呼気チューブの内側、および/または吸気および/または呼気チューブに垂直であり得る。吸気および/または呼気チューブに垂直に位置する場合、その位置は、通常、呼気チューブから吸気チューブを分離する分岐部6から1~200cm、1~20cm、10~60cm、50~100cm、100~150cm、または150~200cmの距離にある。吸気および/または呼気チューブ内のユニットの数は変動する可能性があり、吸気または呼気チューブごとに1つ以上であり得る。
【0121】
吸気または呼気チューブに垂直なサンプリングユニットの位置は、ベンチュリ効果およびサンプリングユニット内で生じる乱流を最小限に抑えるため、流れから通常1~50mm、1~30cm、1~20cm、1~10cmまたは1~5cmの距離にある。流量リミッタ(図示せず)をユニットの遠位端に位置させて、流量を制御し、VOCの取り込みを増加させ、変動を最小化し、したがって高い再現性を提供することができる。任意選択的な(かつ例示のみである)弁5は、ユニット4が接続されていないとき、または取り外されたときに、吸気チューブ2または呼気チューブ3との接続を閉じるように位置決めされる。ユニットを閉じると先端が閉じるT字型コネクタなど、他の手段も可能である。
【0122】
図1には、チューブ2に対して垂直に位置決めされた単一のサンプリングユニット4が示され、単一のユニットは、チューブ3に対して位置決めされている。
図2には、各チューブ2および3において均等にグループ化された複数のサンプリングユニットが示されている。サンプリングユニットの数は1つ以上であり得、ユニットは、吸気チューブ2または呼気チューブ、もしくはその両方において位置決めされ得る。通常、少なくとも1つのサンプリングユニットは、呼気チューブ3に位置決めされている。チューブの数が1を超える場合、つまり2つ以上の場合、および2つ以上のサンプリングユニットが呼気チューブまたは吸気チューブにおいて位置決めされている場合、ユニットは、
図2に示すように、並列またはタンデムに配置することができる。吸気チューブにおいて位置決めされた並列設定および呼気チューブにおいて位置決めされたタンデム設定が示されているが、これは限定的ではなく、吸気および呼気チューブの各々の設定の任意の組み合わせを使用することができる。
【0123】
図3に目を向けると、人工呼吸関連検出システム(VADS)100が示されている。このシステムは、(収集ユニットとして)CU1、CU2、CU3…などとラベル付けされた複数のサンプリングユニット(50)を備え、これらの化学物質含有量は、オートサンプラ(60)であり得るサンプル接続によって分析化学ユニット101に転送される。分析化学ユニット101から得られたデータは、中央サーバ(図示せず)またはクラウドサーバ201に伝達される。中央サーバ/クラウドにおいて、データが分析アルゴリズムに挿入され、メタデータバンクと、かつ患者の過去のサンプルと比較される。メタデータバンクには、(本発明に従って判定される)特定の疾患または病原体に固有のいくつかのVOCである「クラスタ」のセットが含まれる。「クラスタ」はまた、特定の病原体(例えば、疾患を引き起こす特定の細菌)または患者の特定の亜集団(例えば、VAPを有する糖尿病患者のグループ)に下位分類され得る。メタデータには、患者に関するデータと、既知の微生物叢および病院の微生物叢に関するデータベースも含まれ、これらは、患者の状態の評定にも使用することができる。アルゴリズムは、感染の発症、心血管の状態、栄養状態、がんの状態、およびスタッフに伝えられるレポートを示し得る患者のステータスの変化について統計的な確率を判定する。「変化」とは、連続するいくつかのサンプリングイベントにおけるクラスタ要素の濃度における予め定められた勾配(変化)を意味する。次に、出力は、さらなるアクション/治療または保管のために伝達される。次に、出力は、看護師/医師ステーション301、モバイルアプリケーション401、病院情報システム501に、かつその他に伝達され得る。
【0124】
図4には、分析化学ユニット101が提供されている。これは、PC 102に接続され、103に示されるソフトウェアを実行する101Aおよび101Bなどの1つ以上のGC-MS機器を含む。患者のサンプルを包含する(
図1および
図2に示す)収集ユニット4の内容は、デジタル変換およびデジタル生データの生成のためにオートサンプラを介してGC-MSに供給されている。GC-MS出力生データはデータ分析ソフトウェアエンティティで処理され、患者固有のデータ測定が提供され、パッキングされ、暗号化されてIPプロトコルを使用してインターネットネットワークで送信される。パッキングされたデータには、現在の測定値、ならびに患者ID、タイムスタンプ、および/またはその他の関連情報が含まれる。ユーザインターフェイス(UI)は、GC-MSの動作を監視および制御する能力、ならびに分析プロセスを監視および制御する能力を技術者に提供する。
【0125】
図5では、クラウドサーバサブシステムが201Aに示されている。クラウドサーバは、システムに配置された複数の分析化学ユニットから情報を受信して、管理する。この図で提供される本発明の非限定的な実施形態は、システムを2つの主要なグループ202および203に分割することである。システム202は、クラウド間で化学ユニットおよびリモートステーションに対して情報を送受信するIPプロトコルと、各患者データを暗号化および復号化を行い、情報にアクセスするための認可を提供するセキュリティおよび認可エンティティと、を含むソフトウェアを含む。また、クラウドサーバのイベント管理エンティティも含む。これらには、受信した新しいデータ、患者のアラーム、障害の表示、またはその他のシステムイベント、およびユーザおよび/またはその他のソフトウェアエンティティが必要とする問い合わせのための統計/分析クエリが含まれ得る。システム203は、本発明に関連する主要なソフトウェア処理を含む。クラウドサーバデータベース204は、異なる時間間隔で取得された特定の患者からの測定履歴を格納する患者データベースと、特定の疾患の予測に使用される特徴的な特定の分子信号に関連するクラスタデータベースと、を含む。データアクセスおよび管理ソフトウェアエンティティは、関連するデータベースからデータを保存し、取得するためのインターフェイスである。クラスタ分析ソフトウェアアルゴリズムは、患者から新しい測定値を取得し、クラスタデータベースおよび以前の患者測定値から回収した情報と比較して処理する。患者ステータス評価アルゴリズムソフトウェアは、特定のタイプの患者の疾患および/または治療効果の指示を予測し、および/または1つ以上のリモートステーションのアラームを生成することを担っている。アルゴリズムは、患者がICUに到着した時のベースラインから最新の測定値までの連続した測定値間の変化のレベルを判定し、その勾配特性に基づいて、患者のステータスおよび特定の疾患の統計的予測、ならびに早期発見に基づく治療の効果を提供する。機械学習(ML)アルゴリズムエンティティは、システムで収集された患者の履歴データ全体を使用した勾配測定に基づいて行われる予測を継続的に改善するために使用される。これは、システムの統計的な誤警報および誤検出を経時的に改善するために使用される。
【0126】
図6Aは、GC-MS生データをデータ分析ソフトウェアエンティティで処理し、患者固有のデータ測定値を生成した後のコンピュータ化された出力を明示している。
図6Bは、患者の呼気中のある細菌の存在を示す特定の標的分子の拡大画像を提供する。
図6Cは、患者の細菌負荷を提供し、患者の微生物叢の特徴的な標的分子を示している。
【0127】
図7A、7Bおよび7Cには、本発明に従って診断されたある患者における3つの既知の細菌の細菌負荷が表示されている。特に、ブドウ球菌(MRSA)、アシネトバクター(9)、およびクレブシエラがそれぞれ明示されている。
【0128】
図8A、8Bおよび8Cには、本発明に従って診断されたあの患者における3つの既知の細菌の細菌負荷が表示されている。特に、黄色ブドウ球菌、アクト、アシネトバクター、およびシュードモナスがそれぞれ明示されている。
【0129】
図9A~9Eに目を向けると、アシネトバクター(
図9B、
図9C)、シュードモナス(
図9D)、およびクレブシエラ(
図9E)の細菌負荷の検出が示されている。「1日目」、「5日目」など、特定の日の指示で「アシネトバクター」と言及しているのは、肺から洗浄液を採取し、適切な基板で増殖させ、飛行時間によって検出する従来の方法による菌の所見に関連する。従来の方法でアシネトバクターのみが発見される理由は、それが運ばれるメカニズム、すなわち肺の正確な位置で洗浄液を採取し、増殖培地上でコロニーを発育させ、分析のためにサンプルを採取するという、メカニズムと関連付けられている。本発明の結果は、時間とともに量が変化する標的分子を表すピークの濃度として与えられる。したがって、GC-Msシステムで検出された2461化合物(
図9A)のうち、41の化合物(以前に解明された)のみの濃度が選出される(
図9B)。
図9Cは、(以前に解明された)アシネトバクターに特徴的な20の化合物の濃度と、その経時変化を明示している。従来の手段(X線)によるVAPの検出に先立ち、4日目には明らかにアシネトバクターが増殖していることが確認された。
図9Dは、シュードモナスについても同じことを明示し、
図9Eはクレブシエラについても同じことを明示している。したがって、従来のルートでは、洗浄液の抽出における効率(肺の中の深さと場所)に制限されるのに対し、本発明では、呼気中のすべての化合物をサンプリングし、したがって、これらの細菌の各々がその特徴的な化合物である標的化合物によって反映されるため、存在するALL細菌のより完全で詳細な画像が提供される。
【0130】
図10A~10Dに目を向けると、アシネトバクター(
図10C)およびシュードモナス(
図10D)の細菌負荷が明示されている。「1日目」、「5日目」など、特定の日の指示で「アシネトバクター」または「シュードモナス」と言及しているのは、肺から洗浄液を採取し、適切な基板で増殖させ、飛行時間によって検出する従来の方法による菌の所見に関連する。本発明の方法による結果は、時間とともに量が変化する分子を表すピークの濃度として与えられる。
図10Aは、(以前に解明された)細菌に特徴的なアルコール(277の化合物)の検出を明示している。
図10Bは、(以前に解明された)細菌に特徴的なアルコール(789の化合物)の検出を明示している。
図10Cは、その(以前に解明された)19の化合物に基づくアシネトバクターの検出を提供し、
図10Dは、その(以前に解明された)16の化合物に基づくシュードモナスの検出を提供する。
【0131】
図11A~11Dに目を向けると、(以前に解明された)特定の化合物に基づく3つの異なる細菌の細菌負荷の検出が明示されている。「1日目」、「5日目」など、特定の日の指示で「ブドウ球菌培養」と言及しているのは、肺から洗浄液を採取し、適切な基板で増殖させ、飛行時間によって検出する従来の方法による菌の所見に関連する。したがって、
図11Aは、これらの細菌に属するものとして以前に解明された40の標的化合物の濃度を提供する。
図11Bは、ブドウ球菌の存在を示す1-エチル,4-メチルベンゼンの検出を示している。
図11Cは緑膿菌の存在を示す1,3-ジメチルベンゼンの検出を示し、
図11Dはクレブシエラの存在を示すベンズアルデヒドの検出を示している。
【0132】
図12A~12Dには、本発明による化合物の各々の量を判定するための方法が与えられている。
図12Aは、保持時間に従って識別された1-エチル,4-メチルベンゼン(
図12E)などの多数の化合物を含むクロマトグラムの一部を示している。しかし、それは他の多くの化合物の下に埋もれている。
図12Bは、この特定の化合物のピークをより具体的に検出するために行われるデコンボリューションを明示している。
図12Cは、デコンボリューションの結果をさらに拡大して明示している。
図12Dは、この化合物の孤立ピークを示し、その面積(曲線下面積)を計算することで、呼気中のその濃度を判定することができる。
【0133】
図13A~13Fに目を向けると、肺炎と関連付けられる3つの典型的な細菌の濃度が与えられている。肺炎と診断された患者は、0.2~20x10
6のスケールで特定の細菌を示す化合物の濃度を有しているが、健常人は、0.2~200x10
3のスケールで特定の細菌を示す化合物の濃度を有している。したがって、
図13A、13C、および13Eは肺炎と診断された患者を明示し、
図13B、13D、および13Fは健常人を明示している。
【0134】
実験
使用されたサンプリングまたは収集ユニットには、TENAX(商標)、すなわちポリ(2,6-ジフェニル-p-フェニレンオキシド)(PPPO)、Carboxen(商標)、すなわちスルホン化ポリマー、ポリ(塩化ビニリデン)またはスルホン化ポリマーの制御された熱分解によって調製されるカーボン分子ふるいから選択された吸着剤が包含されていた。本発明に従って使用される炭素吸着剤には、Carbotrap F、Carbotrap C、Carbotrap Y、Carbotrap B、Carbotrap X、Carbopack F、Carbopack C、Carbopack Y、Carbopack B、Carbopack X、Carboxen 1016、Carboxen 569、Carboxen 1021、Carboxen 1018、Carbosieve S-III、Carboxen 1003、Carbosieve G、Carboxen 1000、およびCarboxen 1012が含まれる。
【0135】
炭素吸着剤はまた、20/40メッシュを有する黒鉛化カーボンブラック、60/80メッシュを有する黒鉛化カーボンブラック、およびカーボン分子ふるいの中から選択され得る。いくつかの実施形態では、吸着剤は、5~1500m2/gの表面積、0.2~0.7の密度、および/または4~300Aの細孔径を有している。
【0136】
サンプリングユニットに吸着された揮発性物質を脱着するための熱脱着ユニットは、ステンレス鋼の熱脱着吸着剤チューブを含むMarkes TD100-xr(オートサンプラ)、TD-100コールドトラップから選択された。ステンレス鋼の熱脱着吸着剤チューブを含む、Perkin Elmer Turbo Matrix 650 ATD熱脱着システム。ステンレス鋼熱脱着吸着剤チューブを含む、Shimadzu TD-20またはTD-30熱脱着システム。ステンレス鋼の熱脱着吸着剤チューブを含む、Gerstel TDS3C/TDS-A2熱脱着システム。ステンレス鋼の熱脱着吸着剤チューブを含む、Scientific Instrument Services(SIS)TD-5熱脱着システム。ステンレス鋼の熱脱着吸着剤チューブを含む、CDS7550オートサンプラを備えたCDS9300熱脱着システム。ステンレス鋼の熱脱着吸着剤チューブを含む、CDS7550Sスタンドアロン72ポジション熱脱着システム。
【0137】
分析システム、GC、MS、およびGCMSは、異なる衝突エネルギーを同時に収集するオプションを含む、TOFを有するGCMS、Marke BenchTOF-HD、GC Agilent 7890用の飛行時間型質量分析計、およびGC×GCモジュレータから選択された。四重極GCMS、Agilent MSD 5977Bを有するAgilent GC 7890B、Agilent MSD 5975を有するAgilent GC 6890、四重極GCMS、Agilent MSD 5975を有するAgilent GC 7890、四重極GCMS、Agilent MSD 5973を有するAgilent GC 6890、GCMS、Agilent 7250 GC/Q-TOF、GCMS、Agilent 7010Bトリプル四重極GC/MS、GCMS、ThermoScientificQExactive(商標)GC Orbitrap(商標)GC-MS/MS。
【0138】
GCカラムサンプル:GCは、2つのキャピラリカラムを使用して分析対象物を分離する。第1の(無極性主カラム)カラムは、以下から選択された:SGEPN 99054140(SN:073438A23)、20Mx0.18mmID-BPX5x0.18μm df、He流量0.5ml/分(定流量/圧力)、2edカラムは極性カラムである。GCキャピラリカラム:Agilent DB5-ms 30Mx0.25mmIDx0.50μm df、He流量1.5ml/分(定流量/圧力)。GCキャピラリカラム:Zebron ZB-5、30Mx0.25mmIDx0.25μm df、He流量1.2ml/分(定流量/圧力)。GCキャピラリカラム:Agilent DB5-ms 60Mx0.25mmIDx1.0μm df、He流量1.5ml/分(定流量/圧力)。GCキャピラリカラム:Agilent DB5-ms 60Mx0.53mmIDx1.4μm df、He流量5ml/分(定流量/圧力)。GCキャピラリカラム:Agilent DB1 60Mx0.32mmIDx0.5μm df、He流量2ml/分(定流量/圧力)。GCキャピラリカラム:Agilent DB1 30Mx0.18mmIDx0.25μm df、He流量0.6ml/分(定流量/圧力)。GCキャピラリカラム:Agilent DB1 30Mx0.15mmIDx0.15μm df、He流量0.3ml/分(定流量/圧力)。
【0139】
細菌/ウイルス/真菌の質量の増大を判定するための面積ピークの計算
サンプリングユニットから脱着した化合物は、キャピラリGCカラムでのクロマトグラフィ分離後、GCMS機器を使用して分析される。結果として得られるMSクロマトグラムでは、分離されたすべての物質が、それらの保持時間順に並べられたクロマトグラフィのピークとして表示される。各ピークは、いくつかの点を結ぶ連続した線からなり、各点は物質分子が断片化されて生成したフラグメントイオンの存在量の合計である。ピーク面積は、式1から導き出されるように、ピークの開始点から終了点までの時間(d
abundance/dt)に従ってイオンの存在量の積分導関数を実行することによって計算される。
【数1】
ここで、式1では、PS-Tはピーク開始時間、PE-Tはピーク終了時間、daはイオンの存在量の導関数、dtは保持時間の導関数である。
【0140】
ピーク面積の値は、GCMS機器間、ならびに使用する統合ソフトウェアによって異なることに注意されたい。ただし、発病または細菌/ウイルス/真菌の負荷は、同じGCMS機器を使用して、対象ごとに2つの連続する測定値間の変化を判定することによって判定されるため、その判定は指示的であり、決定的である。
【0141】
各マーカのピーク面積を較正するために、既知の物質が内部標準(IS)として使用され、サンプリングユニットに挿入される。ISは、既知の濃度、容量、および圧力で使用される(例えば、25psiの入口圧力における、3ppmのIS化合物を有する1ml容量の標準ガス)。ピーク面積は、既知の受け入れられているIS計算方法を利用して、IS面積に従って正規化される。本発明に従って使用されるISの3つの非限定的な例が、表1に示されている。
【表1】
【0142】
上記の式(1)で計算された1,000(103)のマーカ領域サイズは、IS-1の0.006ppm(v/v)の濃度とほぼ同等である。1,000,000(106)の面積は、IS-1の6.4ppm(v/v)の濃度とほぼ同等である。
【0143】
計算された面積に基づく病気の発症の評定
長期入院のために到着/連れてこられた各患者は、彼ら自身の医学的背景があるため、本発明に従って到着時に患者の呼気を分析することによって、特定の患者を特徴付けるベースラインが創出される(患者ベースライン)。患者のベースラインまたはマーカのバックグラウンドレベルは、呼気に現れるマーカのピークについて測定されたすべての領域の合計によって計算される。
【0144】
感染症の発症の評定は、入院期間中、マーカピークの合計面積を監視しながら実行される。これらは、患者の呼吸器系、すなわち肺における細菌負荷(BL)、ウイルス負荷(VL)、または真菌負荷(FL)の変化/進展に関する指標を与える。ピーク面積の約50%以上の増加は、細菌負荷の増加を反映する重要な変化と見なされる。マーカのピークの面積が約50%増加した場合、感染症の発症をアルゴリズム的に説明すると次のようになる。
【0145】
2日目の総バイオマーカ化合物(TBCM)面積が患者のベースライン(1日目)と比較して大きく(50%超)、3日目のTBCM面積が2日目のTBCM面積よりも大きい(50%超)場合、これは細菌/ウイルス/真菌の負荷(BL/VL/FL)の大幅な増加を示しており、報告して継続的に監視する必要がある。
【0146】
VAPなどの感染症の発症の評定
細菌またはウイルス負荷の増加の兆候を示すアルゴリズムにより、細菌群もしくはウイルスまたは真菌のタイプに関する評定を行うことができる。アルゴリズムは、バイオマーカのピーク面積サイズ、バイオマーカ数、バイオマーカのタイプ、およびそれらの間の比率を考慮した様々な測定基準を包含している。したがって、アルゴリズムは、とりわけ、細菌/ウイルス/真菌の負荷、マーカ、総マーカ化合物、一般的なマーカ、細菌/ウイルス/真菌の数などに関するデータを含む。
【0147】
以下の例は、治験に登録された36人の患者に基づいている。(少なくとも3日間のサンプリングを必要とする)実際の治験には、28人の患者が含まれていた。本発明による換気されている患者の呼気サンプルの分析を使用することによって、28人の患者のうち6人の患者が、潜在的なVAP症例(
【数2】
20%)として認識された。
【0148】
VAPと関連付けられる細菌に起因する特定の細菌量の増加を示す標的分子(TM)が、6人の患者すべてで検出された。以下に例示するように、VAPの標準治療の臨床兆候が見つかる1日前、2日前、および3日前の患者の呼気からTMが検出されたことに気付くことが重要である。これらの標準治療の臨床兆候には、新規で持続的(>48時間)または進行性のX線浸潤に加えて、>38℃または<36℃の体温、>10,000個/mlまたは<5,000個/mlの血中白血球数、化膿性気管分泌物、ガス交換低下、気管内分泌物サンプルの著しい細菌増殖のうちの2つが含まれる。したがって、この6名の患者を潜在的なVAP症例として分離し、その後、ICU滞在中の患者の臨床兆候および症状の監視を通じて、ICUの担当医/医療スタッフによりVAPが確認された。
【0149】
実施例1:
56歳男性、一般に健康であるが、急性インフルエンザ(ウイルス性上気道感染症)を発症し、人工呼吸器サポートのために、Sheba病院(イリノイ州Ramat Gan)のICUに入院した。患者は9日間換気を続け、12日目に退院した。臨床パラメータを表2に示す。
【表2】
【0150】
患者の呼気の分析により、マーカが検出された。特に、4つの特定のシュードモナス特定マーカが、臨床徴候の検出に先立つ1日目にすでに検出された。したがって、呼気の分析では、X線に先立つ2日前、および培養による検出に先立つ2~3日前にバイオマーカが検出された。したがって、VAPは、日常的に使用される臨床兆候よりもはるかに早く検出された。
【0151】
すべてのバイオマーカは、5日目に急増した。No.4と指定されたマーカの急増は、他のマーカを大幅に上回っていた。これは、指数関数的成長と関連付けられる。したがって、このように、VAPは抗生物質治療中の患者に発生した。その検出の結果、抗生物質治療は、VAPの臨床的兆候の後に見直された。
【0152】
実施例2:
24歳の男性、高所からの重大な転落により、頭蓋底骨折、硬膜外出血、肺挫傷および外傷性気胸を患った後、Rambam病院(イリノイ州ハイファ)の脳神経外科ICUに入院した。男性は、13日間人工呼吸器サポートを受けた。患者は、15日目に死亡した。臨床パラメータを表3に示す。
【表3】
【0153】
呼気の分析により、バイオマーカが検出された。特に、濃度が異なり、かつ日々の出現状況も異なる3つの異なる細菌が検出された。培養により、1つの細菌源(MRSA)のみが検出された。検出された総菌量は、VAPを示す臨床診断の2日前、かつ培養(それ自体は分析に1または2日必要)の2~3日前である5日目に急増した。
【0154】
【0155】
呼気の分析により、バイオマーカが検出された。特に、3つのバイオマーカ、すなわち、濃度が異なり、かつ日々の出現状況が異なる3の異なる細菌が検出され。これらの所見とは逆に、培養では1つの細菌源のみが検出された。検出された総細菌量は、5日目に急増した。これらの所見は、X線診断の2日前および培養の1または2日前(培養の分析には1、2日必要)に明らかになった。
さらに、細菌量により、2日目のデータが一意である2つの急増(2日目および5日目)が検出されたことに留意されたい。
【0156】
実施例4:
黄色ブドウ球菌について識別されたマーカは、ブロモクロロメタン、1,4-ジフルオロベンゼン、クロロベンゼン、p-ブロモフルオロベンゼン、3-メチルブタナール、2-メチルブタナール、およびジメチルトリスルフィドであった。
【国際調査報告】