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特表2022-544568斜入射光学ユニット上に炭素系反射オーバーコーティングを適用する方法
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  • 特表-斜入射光学ユニット上に炭素系反射オーバーコーティングを適用する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-19
(54)【発明の名称】斜入射光学ユニット上に炭素系反射オーバーコーティングを適用する方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/06 20060101AFI20221012BHJP
【FI】
C23C14/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022509147
(86)(22)【出願日】2020-08-13
(85)【翻訳文提出日】2022-04-07
(86)【国際出願番号】 IB2020057628
(87)【国際公開番号】W WO2021028865
(87)【国際公開日】2021-02-18
(31)【優先権主張番号】19191474.6
(32)【優先日】2019-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522055968
【氏名又は名称】イスティテュート・ナツィオナレ・ディ・アストロフィジカ
(71)【出願人】
【識別番号】501193001
【氏名又は名称】ポリテクニコ ディ ミラノ
【氏名又は名称原語表記】POLITECNICO DI MILANO
【住所又は居所原語表記】Piazza Leonardo da Vinci,3220133 MILANO-Italy
(71)【出願人】
【識別番号】522055979
【氏名又は名称】メディア・ラリオ・エッセ・エッレ・エッレ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジョヴァンニ・パレスキ
(72)【発明者】
【氏名】マルタ・マリア・チヴィターニ
(72)【発明者】
【氏名】ジョルジア・シローニ
(72)【発明者】
【氏名】ジュゼッペ・ヴァルセッキ
(72)【発明者】
【氏名】ルカ・マガーニン
(72)【発明者】
【氏名】ユージェニオ・ジベルティーニ
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029BA02
4K029BA05
4K029BA07
4K029BA12
4K029BA13
4K029BA34
4K029BA35
4K029BA62
4K029BB02
4K029BC07
4K029BD09
4K029CA01
4K029CA05
(57)【要約】
基板並びに金、白金、イリジウム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、クロム及びニッケルからなる群から選択される高密度材料又は炭素若しくはB4C等の低密度材料のコーティングを含む斜入射光学ユニット上に炭素系反射オーバーコーティングを適用する方法であって、少なくとも1種のポリマー前駆体材料を含む溶液又は気相で光学ユニットを処理して、コーティング上のポリマー材料の吸収によってオーバーコーティングを作る工程を含む、方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素系反射オーバーコーティング(5、7)を斜入射光学ユニット(1;10)上に適用する方法であって、前記光学ユニット(1;10)が、基板(2)及び第1の材料のコーティング(3)を含み、前記方法が、前記光学ユニット(1;10)を少なくとも1種の有機前駆体材料を含む溶液(4)又は気相で処理して、前記コーティング(3)上に前記前駆体材料の吸収を引き起こさせる工程を含む、方法。
【請求項2】
前記少なくとも1種の前駆体材料が、アルキル鎖並びに、-CH3、-OH、-COOH、-NH2、-HC=CH2、-CH2=CHCOO-、-CH2OCH2、-SH及び-CH=O官能基の少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記前駆体材料が、アルキルメルカプタン、アルキルジスルフィド及びアルキルスルフィドからなる群から選択される材料であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記前駆体材料が、酸素を含むことを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記前駆体材料が、ケイ素を含むことを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1種の前駆体材料が、有機シランであることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
溶液又は気相で処理する工程の後に、前記光学ユニット(1;10)を、前記前駆体材料から酸素を除去するように適合された放射線源(6)に曝露する工程を含むことを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の材料が、金、白金、イリジウム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、クロム及びニッケルからなる群から選択される高密度材料であることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記光学ユニット(1)が、ニッケルのモノリシックシェル(2)を備え、前記第1の材料が、金であることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記オーバーコーティング(5、7)の材料が、硫黄を含む有機化合物であることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記光学ユニットが、少なくとも1つのシリコンウエハスタックで構成されるSPO光学系のモジュール(10)であり、前記第1の材料が、イリジウムで構成されることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記オーバーコーティングの材料が、ケイ素を含む有機化合物であることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の材料が、低密度材料であることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の材料が、炭素及びB4Cからなる群から選択されることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本特許出願は、その全開示が参照により本明細書に組み込まれている、2019年8月13日出願の欧州特許出願第19191474.6号の優先権を主張している。
【0002】
本発明は、斜入射光学ユニット上に炭素系反射オーバーコーティングを適用する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
本発明は、X線望遠鏡用ミラーの製造において、排他的ではないが好ましい用途を見出すことができ、それについて一般性を損なうことなくこれ以降具体的に言及する。
【0004】
本明細書では、「光学ユニット」という表現は、モノリシック構造のミラー及びセグメント化構造又は細孔を持つモジュールの両方を含むものとして使用される。
【0005】
X線望遠鏡は、地球大気がX線の波長に対して不透明であることを考慮すると、宇宙空間でのみ動作することができる。しかし、X線用の反射光学系の使用は、例えば医学物理学、放射線画像及びシンクロトロン等の粒子加速器によって生成されたX線ビームを用いた照射による材料の研究等の、他の分野にも用途を見出す。
【0006】
宇宙空間用途でのX線用斜入射ミラーでは、いわゆる「古典的」X線領域(エネルギーレベルが10keV未満の軟X線)で作動するため、通常、高密度の反射コーティング(例えば、金、白金又はイリジウム)が使用される。これにより、同じ反射角に対して効率のよい反射が存在するエネルギーバンドを広げること又は同じエネルギーに対する全反射の臨界角を広げることが可能になる。実際、全反射の臨界角θcは、入射X線のエネルギーEの逆数に比例し、反射材料の密度ρの平方根に正比例している。
【0007】
【数1】
【0008】
しかし、高密度の(したがってまた原子番号Zが大きい)材料は、特に吸収端付近(特に0.5から4keVの間のスペクトル領域)で光電吸収による反射ビームのより大きな減衰を引き起こす。
【0009】
そのため、低密度膜(例えばC、B4C及びB)は、全反射領域での反射率がより高い(100%に近い)ものの、エネルギーバンドに関して制限があり、一方高密度膜(Au、Ir、Pt、W、Cr、Ni)はバンドがより広いものの、反射率がより低いという状況が発生する。
【0010】
光電吸収による重元素の反射率低下の影響は、二重反射系が通常使用されるため、天文光学系では特に不利となる。
【0011】
この問題を克服するために、高密度金属の層のオーバーコーティングとして、炭素又は同様の材料をベースとした低密度材料の層を使用することが提案されている。このソリューションは、例えば、以下の出版物から公知である。
V.Cotroneo、D. Spiga、M. Barbera、R. Bruni、K. Chen等、Carbon overcoatings for soft x-ray reflectivity enhancement、Proc.SPIE 6688、Optics for EUV, X- Ray, and Gamma-Ray Astronomy III、66880U(2007年9月20日)及び、
V.Cotroneo、D. Spiga、R. Bruni、W. Burkert、M. Freyberg等、New developments in light material overcoating for soft x-ray reflectivity enhancement、Proc.SPIE 7011、Space Telescopes and Instrumentation 2008:Ultraviolet to Gamma Ray、701119(2008年7月15日)。
【0012】
これにより、広い通過帯域を維持しながら、低エネルギーでより大きな反射率を得ることができる。このことを考慮して、白金の単層、炭素の単層及び10nm厚さの炭素のオーバーコーティングを有する白金の層に対して計算された反射率を示す図1を参照されたい。
【0013】
炭素又はB4Cをベースとしたオーバーコーティングのソリューションは、Athena(ESA)、Lynx(NASA)及びeXTP(CAS)等、いくつかの宇宙ミッションに提案されている。
【0014】
炭素(又はホウ素若しくはその誘導体)をベースにした低密度材料でのオーバーコーティングの適用は、電子ビーム若しくはジュール効果(物理蒸着)又はスパッタリングによる蒸発によって、高真空中で蒸着によって行われる。
【0015】
前述の高真空適用方法は、非常に高価であり、すべての種類のミラーに適用できるわけではない。
【0016】
公知の方法では適用制限がある第1の事例は、モノリシックシェル、例えば金コーティングを有するニッケルによって形成され、レプリケーションによって製造されたミラーの事例であるが、これは、直径5~70cmの天文ミラーを製造する標準方法の1つである。Beppo-SAX、XMM-Newton、Swift、eRosita、Einstein Probeミッションのミラーは、この方法を使用して作製された。この方法は以下の、
・ ミラーのネガ形態を構成する、ニッケル/リン合金コーティングを有する超研磨アルミニウムマンドレルを作製する工程と、
・ マンドレルに約100nm厚さの金コーティングを蒸着する工程と、
・ 金でコーティングされたマンドレルにニッケルの壁を電鋳する工程と、
・ 金コーティングを有するニッケルシェルをマンドレルから分離する工程(金層は反射層としてだけでなく、マンドレルとの密着性が低いため、分離剤としても作用する)と
を提供する。
【0017】
この製造方法と組み合わせて、公知の金層に炭素系オーバーコーティングを適用する公知の技術を使用することは、炭素層を金層より先にマンドレルに配置するという前提及び、シェルをマンドレルから分離した後に炭素層を金層に配置するという前提の両方において、非常に問題がある。
【0018】
実際、炭素系層は、蒸発室を汚してしまい、いずれにせよマンドレルに密着してしまってレプリケーションを妨げるため、金よりも先にマンドレルに蒸着することはできない。
【0019】
マンドレルからシェルを分離した後、金層に炭素系層を蒸着するには、例えばシェル内部からスパッタリングを介してリニア蒸着源を使用する必要があるが、この方法は比較的大きなシェル(20cmより大きい直径)にのみ実行可能であり、いずれにせよ非常に高価である。
【0020】
モノリシックミラーは、レプリカ技術並びにシェル表面のモデレーション(moderation)及び直接超洗浄の両方によって、他の方法及び材料でも製造できるが、それらは高密度反射層(金、炭素、イリジウム又はタングステン)に炭素系材料でオーバーコーティングを適用する場合にも同様の問題を等しく有する。
【0021】
大きなサイズ及び小さなサイズの両方のミラーを作製する別の公知の方法は、ミラーモジュールの組み立てによるものであり、それらのそれぞれは、一連の「細孔」を作るように平行リブを設けたシリコン又は他の材料、例えばガラス薄板のウェーハのスタックで構成される。ATHENA(ESA)ミッションのために低温レプリケーション(cold replication)で製造された、いわゆるシリコンポア光学系(Silicon Pore Optics)(SPO)も、このX線用光学系の部類に含まれる。
【0022】
ミラーがWolter-I型、すなわち連続する放物面部及び双曲面部からなる場合、モジュールはそれぞれ放物面(SPO-P)及び双曲面(SPO-H)の2つのウェーハスタックで構成され、互いに精密に結束されている。
【0023】
低密度層の適用もまた、この場合問題となる。
【0024】
ウェーハの高密度反射コーティングは、一般にイリジウムのそれであり、組み立て前にスパッタリングを介して個々のウェーハに適用される。炭素層の適用は、炭素が処理室を汚してしまうため、組み立て方法とは相容れず、ホウ素、炭化ホウ素(B4C)又は炭化ケイ素等の炭素の代替材料が試験されたが、構造抵抗(オーバーコーティングの剥離傾向)、適用困難性及び/又は光学特性が不満足であるという理由で満足できる結果は得られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0025】
【非特許文献1】V.Cotroneo、D. Spiga、M. Barbera、R. Bruni、K. Chen等、Carbon overcoatings for soft x-ray reflectivity enhancement、Proc.SPIE 6688、Optics for EUV, X- Ray, and Gamma-Ray Astronomy III、66880U(2007年9月20日)
【非特許文献2】V.Cotroneo、D. Spiga、R. Bruni、W. Burkert、M. Freyberg等、New developments in light material overcoating for soft x-ray reflectivity enhancement、Proc.SPIE 7011、Space Telescopes and Instrumentation 2008: Ultraviolet to Gamma Ray、701119(2008年7月15日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
本発明の目的は、上記の公知の方法に付随する問題を解決する、斜入射光学素子上に反射炭素系オーバーコーティングを適用する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上述の目的は、斜入射光学ユニット上に反射炭素系オーバーコーティングを適用する方法であって、光学ユニットが、基板並びに、金、白金及びイリジウム、タングステン、クロム及びニッケルからなる群から選択される高密度コーティングを含み、方法が、少なくとも有機前駆体材料を含む溶液又は気相中に光学ユニットを浸して、高密度材料のコーティング上に前駆体材料の蒸着を引き起こさせる工程を含む、方法によって達成される。
【0028】
これにより、典型的には約1~2nmの厚さの、炭素系材料の非常に薄い層でも蒸着することが可能である。この方法を繰り返すことによって、所望の厚さ、例えば6~10nmの層を得ることができる。
【0029】
必要に応じて、この方法は、オーバーコーティング層を紫外(UV)線若しくは他の放射(レーザー又はX線)源又は高温に曝露して、ポリマー鎖から酸素及び、必要に応じて水素も除去する工程を含むことができる。
【0030】
本発明のより良い理解のために、以下、純粋に非限定的な例として、添付の図面を参照しながら2つの好ましい実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】入射光線のエネルギーの関数として、比較された異なるコーティング材料の反射率を示すグラフである。
図2】モノリシックシェルミラーを製造するための、本発明の方法の連続した工程の概略図である。
図3】モノリシックシェルミラーを製造するための、本発明の方法の連続した工程の概略図である。
図4】モノリシックシェルミラーを製造するための、本発明の方法の連続した工程の概略図である。
図5】モノリシックシェルミラーを製造するための、本発明の方法の連続した工程の概略図である。
図6】モノリシックシェルミラーを製造するための、本発明の方法の連続した工程の概略図である。
図7】セグメント化光学モジュール(SPO)を製造するための、本発明の方法の連続した工程の概略図である。
図8】セグメント化光学モジュール(SPO)を製造するための、本発明の方法の連続した工程の概略図である。
図9】セグメント化光学モジュール(SPO)を製造するための、本発明の方法の連続した工程の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図2を参照すると、参照番号1は、全体として天文X線ミラーのためのモノリシックシェル光学ユニットを示す。
【0033】
ユニット1は、例えばニッケル製のモノリシックシェル2及び、金製のインナーコーティング3を備える。ユニット1は、本明細書の冒頭に記したように、マンドレル上のレプリカ法によって公知の方法で製造することができる。
【0034】
本発明の一実施形態(図3)によれば、ユニット1は、硫黄を含み、好ましくは、Xが例えば-CH3、-OH又は-COOHで構成されている末端基を表わす、アルキルチオール[HS(CH2)nX]、アルキルジスルフィド[X(CH2)mS-S(CH2)nX]及びアルキルスルフィド[X(CH2)mS(CH2)nX]からなる群から選択される、1つ又は複数の有機化合物を含む有機前駆体材料を含む溶液4中に浸漬されるか又は気相に曝露される。
【0035】
本発明の別の実施形態によれば、前駆体材料は、Xが、例えば、-CH3、-OH、-COOH、-NH2、-HC=CH2、-CH2=CHCOO-、-CH2OCH2、-SH、-CH=O又はそれらの組み合わせで構成されている末端基を表す、クロロシラン[X(CH2)nSiCl4]及びアルコキシシラン[X(CH2)nSi(OR')]からなる群から選択される1つ又は複数の有機シラン化合物を含んでいる。
【0036】
代替として、異なる前駆体材料を連続して使用することができ、例えば、上記に示したような、1つ又は複数の硫黄を含む有機化合物と1つ又は複数の有機シラン化合物とを組み合わせて使用することができる。
【0037】
前駆体は、非水溶媒、例えばアルコール又はこれらに限定されないが、ヘキサン、ヘプタン、ヘキサデカン、トルエン、クロロベンゼン、エーテル、二硫化炭素及びクロロホルムを含む無水飽和及び不飽和炭化水素、に溶解される。
【0038】
連続的な浸漬によって、オーバーコーティング5のより厚い、好都合には約6~10nm厚さの、層を作製することが可能である。
【0039】
オーバーコーティング処理の一例によれば、Xnmの薄い金層でプレコートされたウェーハは、無水エタノール中のメルカプトウンデカン酸の1mM溶液200ml中に24時間浸漬される。その後、ウェーハを取り出し、エタノールで充分に洗浄する。得られたオーバーコーティングの厚さは約10Åである。この方法を繰り返すことにより、オーバーコーティングの厚さを増加させることが可能である。
【0040】
場合により、分子単層で処理したウェーハを、トルエン中のアミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)の別の2%v/v溶液200mlに2~4時間浸漬し、O-H-N結合で最初のものと化学結合したオーバーコーティングの更なる単層を形成する。この方法を繰り返すことで、オーバーコーティングの厚さを増加させることができる。場合により、二重分子層で処理したウェーハを、ヘキサン中のオクタデシルトリクロロシラン(OTS)の1mM溶液200mlに24時間浸漬する。このウェーハをヘキサン中で充分に洗浄し、空気中で120℃で30分間加熱する。第3の分子層は、オーバーコーティングの厚さに約2.5nmを加える。
【0041】
前述の前駆体材料は、吸収によって、金層上にナノメートルの厚さの分子単層二重オーバーコーティング(di overcoating)を形成する傾向がある(図4)。
【0042】
場合により、前駆体材料の分子が酸素を含む場合、オーバーコーティング5の層は、酸素を含まないアルキル層7(図6)を得るように、紫外線(例えば、シェル2内に配置された紫外線ランプ6によって、図5参照)又は他の好適な放射(レーザー若しくはX線)に曝露することができる。
【0043】
同様の方法を使用して、必要に応じて変更を加えて、いわゆる「細孔」光学系(シリコンポア光学系-SPO、シリコン基板をベースとする場合)を形成するように、必要に応じてスタックに組み立てられたセグメント化光学系を製造することができる。
【0044】
この場合、モノリシックシェルを溶液に浸すのではなく、光学系を構成するセグメントスタックで形成された個々のセグメント又はモジュール10(図8)を浸す。
【0045】
処理の一例によれば、Xnmのイリジウムの薄層でプレコートされたウェーハは、オゾンプラズマに30秒間暴露されることで活性化される。次に、ヘキサン中のオクタデシルトリクロロシラン(OTS)の1mM溶液200mlにウェーハを24時間浸漬する。このウェーハをヘキサンで充分に洗浄し、空気中で120℃で30分間加熱する。こうして得られた単層は、約2.5nmの厚さを有する。
【0046】
更なる処理例によれば、Xnmのイリジウムの薄層でプレコートされたウェーハは、オゾンプラズマに30秒間暴露されることで活性化される。次に、ヘキサン中のオクタデシルトリクロロシラン(OTS)の1mM溶液200mlにウェーハを7日間浸漬する。このウェーハをヘキサンで充分に洗浄し、空気中で120℃で30分間加熱する。こうして得られた単層は、約9nmの厚さを有する。
【0047】
材料が酸素を含む場合、酸素を除去するために、モジュールを紫外線、レーザー又はX線の源に曝露することができる(図9)。
【0048】
こうして、方法の最後に(図11)、イリジウム上に酸素を含まないアルキル層のオーバーコーティングが得られる。
【0049】
上記の方法の特徴の検査から、それによって達成できる利点は明らかである。
【0050】
浸漬によるコーティングの技術により、公知の真空蒸着方法(電子ビーム、物理蒸着及びスパッタリング)に関連するすべての問題が除去される。
【0051】
このようにして、最適な光学的及び物理学的特性を有する低密度オーバーコーティングが、公知の技術に対して大幅に低コストで得られる。
【0052】
更に、本発明の方法は極めて単純であり、上記の適用制限を受けることがなく、任意の種類のモノリシックミラー又はセグメント化ミラーに利用可能である。必要に応じて、本方法を用いて、下地の膜を保護し、それらをより安定させるために、すでに高真空方法(例えばスパッタリング又はジュール効果による蒸発)で蒸着した炭素膜又はB4C膜を炭素系膜で覆うことさえできる。
【符号の説明】
【0053】
1 天文X線ミラーのためのモノリシックシェル光学ユニット
2 ニッケル製のモノリシックシェル
3 金製のインナーコーティング
4 溶液
5 オーバーコーティング
6 紫外線ランプ
7 酸素を含まないアルキル層
10 光学系を構成するセグメントスタックで形成された個々のセグメント又はモジュール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】