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特表2022-544573バチルス・リケニフォルミス(BACILLUS LICHENIFORMIS)における増加したタンパク質産生のための組成物及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-19
(54)【発明の名称】バチルス・リケニフォルミス(BACILLUS LICHENIFORMIS)における増加したタンパク質産生のための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20221012BHJP
   C12N 9/28 20060101ALN20221012BHJP
   C12N 15/56 20060101ALN20221012BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20221012BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12N9/28
C12N15/56
C12N15/31
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022509179
(86)(22)【出願日】2020-08-10
(85)【翻訳文提出日】2022-04-08
(86)【国際出願番号】 US2020045618
(87)【国際公開番号】W WO2021030267
(87)【国際公開日】2021-02-18
(31)【優先権主張番号】62/886,571
(32)【優先日】2019-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509240479
【氏名又は名称】ダニスコ・ユーエス・インク
(74)【代理人】
【識別番号】100071010
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 行造
(74)【代理人】
【識別番号】100118647
【弁理士】
【氏名又は名称】赤松 利昭
(74)【代理人】
【識別番号】100123892
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169993
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 千裕
(74)【代理人】
【識別番号】100173978
【弁理士】
【氏名又は名称】朴 志恩
(72)【発明者】
【氏名】フリッシュ、ライアン エル
(72)【発明者】
【氏名】フ、ホンシャン
【テーマコード(参考)】
4B050
4B065
【Fターム(参考)】
4B050CC03
4B050DD02
4B050EE10
4B050LL02
4B050LL04
4B050LL10
4B065AA15X
4B065AA15Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065CA24
4B065CA27
4B065CA32
4B065CA41
4B065CA57
4B065CA60
(57)【要約】
本開示は、概して、増加したタンパク質産生表現型を有するバチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)細胞を構築し及び得るための組成物及び方法に関する。従って、所定の他の実施形態は、親B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞に由来する改変B.リケニフォルミス(B.licheniformis)に関する。所定の実施形態は、改変rghR遺伝子座を含む改変B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞に関する。所定の実施形態は、改変rghR遺伝子座を有し、増加したタンパク質産生性表現型を含む改変B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞に関する。所定の他の実施形態では、改変rghR遺伝子座を有する改変B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞は、低減した量の赤色顔料を産生する。所定の他の実施形態では、改変B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞は、増加したタンパク質産生性表現型を含み、低減した量の赤色顔料を産生する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然rghR染色体遺伝子座を含む親B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞に由来する改変バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)細胞であって、前記改変細胞は、(a)改変rghR1遺伝子、(b)改変rghR2遺伝子、(c)改変rghR1遺伝子及び改変rghR2遺伝子、並びに(d)改変rghR1遺伝子、改変rghR2遺伝子、改変yvzC遺伝子及び改変Bli3644遺伝子から成る群から選択される前記rghR染色体遺伝子座の少なくとも1つの改変を含み、前記改変細胞は、同一条件下で培養した場合に前記親細胞と比較して、増加した量の関心対象のタンパク質を産生する、改変バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)細胞。
【請求項2】
前記改変rghR1遺伝子は、コード化RghR1タンパク質を突然変異させるか、破壊するか、部分的に欠失させるか、又は完全的に欠失させる遺伝子改変を含む、請求項1に記載の改変細胞。
【請求項3】
前記改変rghR1遺伝子は、前記rghR1遺伝子の5’-UTR配列及び/又は3’-UTR配列を突然変異させるか、破壊するか、部分的に欠失させるか、又は完全に欠失させる遺伝子改変を含み、前記改変rghR1遺伝子は、前記コード化RghR1タンパク質を発現しない、請求項1に記載の改変細胞。
【請求項4】
前記改変rghR2遺伝子は、コード化RghR2タンパク質を突然変異させるか、破壊するか、部分的に欠失させるか、又は完全的に欠失させる遺伝子改変を含む、請求項1に記載の改変細胞。
【請求項5】
前記改変rghR2遺伝子は、前記rghR2遺伝子の5’-UTR配列及び/又は3’-UTR配列を突然変異させるか、破壊するか、部分的に欠失させるか、又は完全に欠失させる遺伝子改変を含み、前記改変rghR2遺伝子は、前記コード化RghR2タンパク質を発現しない、請求項1に記載の改変細胞。
【請求項6】
前記改変rghR1遺伝子及び改変RghR2遺伝子は、前記コード化RghR1タンパク質及びRghR2それぞれを突然変異させるか、破壊するか、部分的に欠失させるか、又は完全的に欠失させる遺伝子改変を含む、請求項1に記載の改変細胞。
【請求項7】
前記改変rghR1遺伝子及び改変rghR2遺伝子は、前記rghR1遺伝子の5’-UTR配列及び/又は3’-UTR配列及び前記rghR2遺伝子の5’-UTR配列及び/又は3’-UTR配列を突然変異させるか、破壊するか、部分的に欠失させるか、又は完全に欠失させる遺伝子改変を含み、前記改変rghR1遺伝子は前記コード化RghR1タンパク質を発現せず、及び前記改変rghR2遺伝子は前記コード化RghR2タンパク質をそれぞれ発現しない、請求項1に記載の改変細胞。
【請求項8】
前記改変rghR1、rghR2、yvzC遺伝子及び改変Bli3644遺伝子は、前記コード化RghR1タンパク質、前記コード化RghR2タンパク質、前記コード化YvzCタンパク質及び前記コード化Bli3644タンパク質をそれぞれ突然変異させるか、破壊するか、部分的に欠失させるか、又は完全的に欠失させる遺伝子改変を含む、請求項1に記載の改変細胞。
【請求項9】
前記改変rghR1、rghR2、yvzC及びBli3644遺伝子は、前記rghR1遺伝子の5’-UTR配列及び/又は3’-UTR配列、前記rghR2遺伝子の5’-UTR配列及び/又は3’-UTR配列、前記yvzC遺伝子の5’-UTR配列及び/又は3’-UTR配列、並びに前記Bli3644遺伝子の5’-UTR配列及び/又は3’-UTR配列をそれぞれ突然変異させるか、破壊するか、部分的に欠失させるか、又は完全に欠失させる遺伝子改変を含むが、前記改変rghR1遺伝子は、前記コード化RghR1タンパク質を発現せず、前記改変rghR2遺伝子は前記コード化RghR2タンパク質を発現せず、前記改変yvzC遺伝子は前記コード化YvzCタンパク質を発現せず、及び前記改変Bli3644遺伝子は、前記コード化Bli3644タンパク質を発現しない、請求項1に記載の改変細胞。
【請求項10】
前記改変細胞は、前記親細胞に比較して、低減した量の赤色顔料を産生する、請求項4又は請求項5に記載の改変細胞。
【請求項11】
関心対象のタンパク質をコードする1つ以上の発現カセットを含む、請求項1に記載の改変細胞。
【請求項12】
前記1つ以上の発現カセットは、アミラーゼタンパク質をコードする、請求項11に記載の改変細胞。
【請求項13】
天然rghR2遺伝子を含む親B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞に由来する改変バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)であって、前記改変細胞は、前記rghR2遺伝子を突然変異させるか、破壊するか、部分的に欠失させるか、又は完全に欠失させる少なくとも1つの遺伝子改変を含み、前記改変細胞は、同一条件下で培養した場合に、前記親細胞に比較して、低減した量の赤色顔料を産生する改変バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)細胞。
【請求項14】
前記赤色顔料は、プルケリミン酸であるとさらに規定されている、請求項12又は請求項13に記載の改変細胞。
【請求項15】
関心対象のタンパク質をコードする1つ以上の発現カセットを含む、請求項13に記載の改変細胞。
【請求項16】
前記1つ以上の発現カセットは、アミラーゼタンパク質をコードする、請求項15に記載の改変細胞。
【請求項17】
前記改変細胞は、前記親細胞に比較して、増加した量の関心対象のタンパク質を産生する、請求項13に記載の改変細胞。
【請求項18】
改変バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)細胞内で増加した量の関心対象のタンパク質を産生するための方法であって、
(a)親B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞を入手し、及び、(i)rghR1遺伝子、(ii)rghR2遺伝子、(iii)yvzC遺伝子及び(iv)Bli3644遺伝子又はそれらの組み合わせから成る群から選択される前記rghR遺伝子座の少なくとも1つの遺伝子を遺伝子改変する工程、並びに
(b)関心対象のタンパク質を産生するための好適な条件下で前記改変細胞を発酵させる工程を含み、
前記改変細胞は、前記同一条件下で培養した場合に前記親細胞に比較して、増加した量の関心対象のタンパク質を産生する方法。
【請求項19】
前記改変rghR1遺伝子は、前記コード化RghR1タンパク質を突然変異させるか、破壊するか、部分的に欠失させるか、又は完全に欠失させる遺伝子改変を含み、及び/又は前記改変rghR1遺伝子は、前記rghR1遺伝子の5’-UTR配列及び/又は3’-UTR配列を突然変異させるか、破壊するか、部分的に欠失させるか、又は完全に欠失させる遺伝子改変を含むが、前記改変rghR1遺伝子は、前記コード化RghR1タンパク質を発現しない、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記改変rghR2遺伝子は、前記コード化RghR2タンパク質を突然変異させるか、破壊するか、部分的に欠失させるか、又は完全に欠失させる遺伝子改変を含み、及び/又は前記改変rghR2遺伝子は、rghR2遺伝子の5’-UTR配列及び/又は3’-UTR配列を突然変異させるか、破壊するか、部分的に欠失させるか、又は完全に欠失させる遺伝子改変を含むが、前記改変rghR2遺伝子は、前記コード化RghR2タンパク質を発現しない、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記改変yvzC遺伝子は、前記コード化YvzCタンパク質を突然変異させるか、破壊するか、部分的に欠失させるか、又は完全に欠失させる遺伝子改変を含み、及び/又は前記改変yvzC遺伝子は、yvzC遺伝子の5’-UTR配列及び/又は3’-UTR配列を突然変異させるか、破壊するか、部分的に欠失させるか、又は完全に欠失させる遺伝子改変を含むが、前記改変yvzC遺伝子は、前記コード化YvzCタンパク質を発現しない、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記改変Bli3644遺伝子は、前記コード化Bli3644タンパク質を突然変異させるか、破壊するか、部分的に欠失させるか、又は完全に欠失させる遺伝子改変を含み、及び/又は前記改変Bli3644遺伝子は、前記Bli3644遺伝子の5’-UTR配列及び/又は3’-UTR配列を突然変異させるか、破壊するか、部分的に欠失させるか、又は完全に欠失させる遺伝子改変を含むが、前記改変Bli3644遺伝子は、前記コード化Bli3644タンパク質を発現しない、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記細胞は、関心対象のタンパク質をコードする1つ以上の発現カセットを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
前記1つ以上の発現カセットは、アミラーゼタンパク質をコードする、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記改変細胞は、低減した量の赤色顔料を産生する、請求項18に記載の方法。
【請求項26】
改変バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)細胞内で関心対象のタンパク質を産生するための方法であって、前記改変細胞は、発酵中に低減した量の赤色顔料を産生し、前記方法は、
(a)親B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞を入手し、及び前記rghR遺伝子座の前記rghR2遺伝子を遺伝子改変する工程、並びに
(b)関心対象の前記タンパク質を産生するための好適な条件下で前記改変細胞を発酵させる工程を含み、
前記改変細胞は、前記同一条件下で培養した場合に前記親細胞に比較して、低減した量の赤色顔料を産生する方法。
【請求項27】
前記改変rghR2遺伝子は、前記コード化RghR2タンパク質を突然変異させるか、破壊するか、部分的に欠失させるか、又は完全的に欠失させる遺伝子改変を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記細胞は、関心対象のタンパク質をコードする1つ以上の発現カセットを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記1つ以上の発現カセットは、アミラーゼタンパク質をコードする、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記改変細胞は、前記同一条件下で培養した場合に、前記親細胞に比較して、増加した量の関心対象の前記タンパク質を産生する、請求項28に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、細菌学、微生物学、遺伝学、分子生物学、酵素学、工業用タンパク質産生等の分野に関する。より特別には、本開示は、増加したタンパク質産生能力を有するバチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)株を得るための組成物及び方法に関する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、その全体が参照により本明細書に援用される、2019年8月14日に出願された米国仮特許出願第62/886,571号に対する優先権を主張するものである。
【0003】
配列表の参照
「NB41514-WO-PCT_SequenceListing.txt」との名称が付けられた配列表のテキストファイルの電子的提出の内容は、2020年6月23日に作成されたものであり、サイズは316KBであり、その全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0004】
バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)及びバチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)等のグラム陽性菌は、それらの優れた発酵特性と高い収率(例えば、培養物1L当たり最大25グラム;Van Dijl and Hecker,2013)から、工業用関連タンパク質を生産するための微生物工場として頻繁に使用されている。例えば、B.サブチリス(B.subtilis)は、食品、繊維、洗濯、医療機器の洗浄、薬品工業等のために必要なα-アミラーゼ(Jensen et al.,2000;Raul et al.,2014)及びプロテアーゼ(Brode et al.,1996)を生産することでよく知られている(Westers et al.,2004)。これらの非病原性グラム陽性菌は、有害な副生成物を全く含まないタンパク質(例えば、リポ多糖類;内毒素としても公知であるLPS)を産生するので、欧州食品安全機関(European Food Safety Authority)の「安全性適格推定(Qualified Presumption of Safety)」(QPS)の評価を得ており、それらの生成物の多くは、アメリカ食品医薬品局(US Food and Drug Administration)から「安全食品認定(Generally Recognized As Safe)」(GRAS)ステータスの評価を獲得している(Olempska-Beer et al.,2006;Earl et al.,2008;Caspers et al.,2010)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、微生物宿主細胞内でのタンパク質(例えば、酵素、抗体、受容体等)の産生は、バイオテクノロジー分野において特に関心が高い。同様に、関心対象の1種以上のタンパク質を産生及び分泌させるためのバチルス属(Bacillus)宿主細胞の最適化は、特に工業バイオテクノロジーの状況においては高度に重要であり、タンパク質が工業的に大量生産される場合は、タンパク質収量の小さな改善が極めて重要な意味を有する。より特別には、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)は、工業的重要性の高いバチルス属(Bacillus)種の宿主細胞であるので、従って、強化/増加したタンパク質発現/産生のためにB.リケニフォルミス(B.licheniformis)宿主細胞を改変及び操作する能力は、新規及び改善されたB.リケニフォルミス(B.licheniformis)産生株を構築するために高度に望ましい。本開示は、従って、増加したタンパク質産生能力を有するB.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞(例えば、タンパク質産生宿主細胞)を得て構築するための高度に望ましい、未だ満たされていない必要に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、概して、増加したタンパク質産生表現型を有するバチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)細胞(株)を構築且つ得るための組成物及び方法に関する。より特別には、所定の実施形態は、天然rghR(染色体)遺伝子座を含む親B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞に由来する改変バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)細胞であって、改変細胞が、(i)改変rghR1遺伝子、(ii)改変rghR2遺伝子、(iii)改変rghR1遺伝子及び改変rghR2遺伝子、並びに(iv)改変rghR1遺伝子、改変rghR2遺伝子、改変yvzC遺伝子及び改変Bli3644遺伝子から成る群から選択されるrghR遺伝子座の少なくとも1つの改変を含み、改変細胞が、(同一条件下で培養した場合に親細胞と比較して)増加した量の関心タンパク質を産生する改変バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)細胞に関する。
【0007】
所定の実施形態では、改変rghR1遺伝子は、コード化RghR1タンパク質を突然変異させるか、破壊するか、部分的に欠失させるか、又は完全に欠失させる、及び/又は改変rghR1遺伝子は、rghR1遺伝子の5’-UTR配列及び/又は3’-UTR配列を突然変異させるか、破壊するか、部分的に欠失させるか、又は完全に欠失させる遺伝子改変を含み、改変rghR1遺伝子は、コード化RghR1タンパク質を発現又は産生しない。
【0008】
所定の実施形態では、改変rghR2遺伝子は、コード化RghR2タンパク質を突然変異させるか、破壊するか、部分的に欠失させるか、又は完全に欠失させる、及び/又は改変rghR2遺伝子は、rghR2遺伝子の5’-UTR配列及び/又は3’-UTR配列を突然変異させるか、破壊するか、部分的に欠失させるか、又は完全に欠失させる遺伝子改変を含み、改変rghR2遺伝子は、コード化RghR2タンパク質を発現又は産生しない。
【0009】
所定の実施形態では、改変yvzC遺伝子は、コード化YvzCタンパク質を突然変異させるか、破壊するか、部分的に欠失させるか、又は完全に欠失させる、及び/又は改変yvzC遺伝子は、yvzC遺伝子の5’-UTR配列及び/又は3’-UTR配列を突然変異させるか、破壊するか、部分的に欠失させるか、又は完全に欠失させる遺伝子改変を含み、改変yvzC遺伝子は、コード化YvzCタンパク質を発現又は産生しない。
【0010】
所定の実施形態では、改変Bli3644遺伝子は、コード化Bli3644タンパク質を突然変異させるか、破壊するか、部分的に欠失させるか、又は完全に欠失させる、及び/又は改変Bli3644遺伝子は、Bli3644遺伝子の5’-UTR配列及び/又は3’-UTRを突然変異させるか、破壊するか、部分的に欠失させるか、又は完全に欠失させる遺伝子改変を含み、改変Bli3644遺伝子は、コード化Bli3644タンパク質を発現又は産生しない。
【0011】
従って、所定の実施形態では、rghR遺伝子座の少なくとも1つの遺伝子改変を含む改変B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞は、改変rghR1遺伝子を含む。他の実施形態では、rghR遺伝子座の少なくとも1つの遺伝子改変を含む改変B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞は、改変rghR2遺伝子を含む。他の実施形態では、rghR遺伝子座の少なくとも1つの遺伝子改変を含む改変B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞は、改変rghR1遺伝子及び改変rghR2遺伝子を含む。他の実施形態では、rghR遺伝子座の少なくとも1つの遺伝子改変を含む改変B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞は、改変rghR1遺伝子、改変rghR2遺伝子、改変yvzC遺伝子及び改変bli3644遺伝子を含む。所定の他の実施形態では、改変B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞は、欠失rghR遺伝子座を含む。所定の他の実施形態では、改変細胞は、(同一条件下で培養した場合の親細胞に比較して)低減した量の赤色顔料を産生する。さらに他の実施形態では、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞は、関心対象のタンパク質をコードする1つ以上の発現カセットを含む。所定の他の実施形態では、1つ以上の発現カセットは、アミラーゼタンパク質をコードする。
【0012】
他の実施形態では、本開示は、天然rghR2遺伝子を含む親B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞に由来する改変B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞であって、改変細胞は、rghR2遺伝子を突然変異させるか、破壊するか、部分的に欠失させるか、又は完全に欠失させる少なくとも1つの遺伝子改変を含み、改変細胞は、(同一条件下で培養した場合に親細胞に比較して)低減した量の赤色顔料を産生する改変B.リケニフォルミス(B.licheniformis)に関する。所定の実施形態では、細胞は、関心対象のタンパク質をコードする1つ以上の発現カセットを含む。特定の実施形態では、1つ以上の発現カセットは、アミラーゼタンパク質をコードする。所定の他の実施形態では、改変細胞は、(同一条件下で培養した場合に親細胞に比較して)増加した量の関心対象のタンパク質を産生する。
【0013】
従って、本開示の所定の他の実施形態は、改変B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞内で増加した量の関心対象のタンパク質を産生するための方法であって、(a)B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞を入手し、及び(i)rghR1遺伝子、(ii)rghR2遺伝子、(iii)yvzC遺伝子及び(iv)Bli3644遺伝子又はそれらの組み合わせから成る群から選択されるrghR遺伝子座の少なくとも1つの遺伝子を遺伝子改変する工程、並びにb)関心対象のタンパク質の産生のために好適な条件下で工程(a)の改変細胞を発酵させる工程であって、改変細胞が(同一条件下で培養した場合に親細胞に比較して)増加した量の関心対象のタンパク質を産生する工程を含む方法に関する。
【0014】
本方法の所定の実施形態では、改変rghR1遺伝子は、コード化RghR1タンパク質を突然変異させるか、破壊するか、部分的に欠失させるか、又は完全に欠失させる、及び/又は改変rghR1遺伝子は、rghR1遺伝子の5’-UTR配列及び/又は3’-UTR配列を突然変異させるか、破壊するか、部分的に欠失させるか、又は完全に欠失させる遺伝子改変を含み、改変rghR1遺伝子は、コード化RghR1タンパク質を発現しない。
【0015】
他の実施形態では、改変rghR2遺伝子は、コード化RghR2タンパク質を突然変異させるか、破壊するか、部分的に欠失させるか、又は完全に欠失させる、及び/又は改変rghR2遺伝子は、rghR2遺伝子の5’-UTR配列及び/又は3’-UTR配列を突然変異させるか、破壊するか、部分的に欠失させるか、又は完全に欠失させる遺伝子改変を含み、改変rghR2遺伝子は、コード化RghR2タンパク質を発現しない。
【0016】
別の実施形態では、改変yvzC遺伝子は、コード化YvzCタンパク質を突然変異させるか、破壊するか、部分的に欠失させるか、又は完全に欠失させる、及び/又は改変yvzC遺伝子は、yvzC遺伝子の5’-UTR配列及び/又は3’-UTR配列を突然変異させるか、破壊するか、部分的に欠失させるか、又は完全に欠失させる遺伝子改変を含み、改変yvzC遺伝子は、コード化YvzCタンパク質を発現しない。
【0017】
本方法の所定の他の実施形態では、改変Bli3644遺伝子は、コード化Bli3644タンパク質を突然変異させるか、破壊するか、部分的に欠失させるか、又は完全に欠失させる、及び/又は改変Bli3644遺伝子は、Bli3644遺伝子の5’-UTR配列及び/又は3’-UTRを突然変異させるか、破壊するか、部分的に欠失させるか、又は完全に欠失させる遺伝子改変を含み、改変Bli3644遺伝子は、コード化Bli3644タンパク質を発現しない。
【0018】
本方法の別の実施形態では、細胞は、関心対象のタンパク質をコードする1つ以上の発現カセットを含む。所定の他の実施形態では、1つ以上の発現カセットは、アミラーゼタンパク質をコードする。本方法の別の実施形態では、改変B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞は、低減した量の赤色顔料を産生する。
【0019】
他の実施形態では、本開示は、改変B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞内で関心対象のタンパク質を産生するための方法であって、改変細胞は、発酵中に低減した量の赤色顔料を産生し、(a)B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞を入手し、及びその中のrghR2遺伝子を遺伝子改変する工程、並びに(b)関心対象のタンパク質を産生するために好適な条件下で改変細胞を発酵させる工程を含み、改変細胞は、(同一条件下で培養した場合に親細胞に比較して)低減した赤色顔料を産生する方法に関する。所定の他の実施形態では、改変rghR2遺伝子は、コード化RghR2タンパク質を突然変異させるか、破壊するか、部分的に欠失させるか、又は完全的に欠失させる遺伝子改変を含む。他の実施形態では、細胞は、関心対象のタンパク質をコードする1つ以上の発現カセットを含む。所定の他の実施形態では、1つ以上の発現カセットは、アミラーゼタンパク質をコードする。他の実施形態では、改変細胞は、(同一条件下で培養した場合に親細胞に比較して)増加した量の関心対象のタンパク質を産生する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】B.リケニフォルミス(B.licheniformis)染色体「rghR遺伝子座」の略図であって、野生型rghR遺伝子座(図1A)は、rghR1遺伝子(白矢印)、rghR2遺伝子(黒矢印)、yvzC遺伝子(灰色矢印)及びBli3644遺伝子(縞模様の矢印)を含む。下記の実施例の部でさらに記載するように、図1Bは、rghR2stop対立遺伝子(終止コドンを指示している3つの星印を示している白色矢印)、天然rghR1遺伝子(黒色矢印)、天然yvzC遺伝子(灰色矢印)及び天然Bli3644遺伝子(縞模様の矢印)を含む改変rghR遺伝子座を示している;図1Cは、欠失rghR1(ΔrghR1)対立遺伝子、天然rghR2遺伝子(白色矢印)、天然yvzC遺伝子(灰色矢印)及び天然Bli3644遺伝子(縞模様の矢印)を含む改変rghR遺伝子座を示している;図1Dは、欠失rghR2(ΔrghR2)対立遺伝子、天然rghR1遺伝子(黒色矢印)、天然yvzC遺伝子(灰色矢印)及び天然Bli3644遺伝子(縞模様の矢印)を含むrghR遺伝子座を示している;図1Eは、欠失rghR2(ΔrghR2)対立遺伝子、欠失rghR1(ΔrghR1)対立遺伝子、天然yvzC遺伝子(灰色矢印)及び天然Bli3644遺伝子(縞模様の矢印)を含む改変rghR遺伝子座を示している;並びに図1Fは、rghR2、rghR1、yvzC及びBli3644対立遺伝子の欠失(ΔrghR2/ΔrghR1/ΔyvzC/Δ3644)を含む改変(空の)rghR遺伝子座を示している。
【0021】
生物学的配列の簡単な説明
配列番号1は、S.ピオゲネス(S.pyogenes)Cas9タンパク質のアミノ酸配列である。
【0022】
配列番号2は、その核酸配列が、バチルス属(Bacillus)宿主株内での発現のためにコドン最適化されている配列番号1のCas9タンパク質をコードする核酸である。
【0023】
配列番号3は、アミノ酸N末端核局在配列(NLS)である。
【0024】
配列番号4は、アミノ酸C末端核局在配列(NLS)である。
【0025】
配列番号5は、デカ-ヒスチジン(His)タグアミノ酸配列である。
【0026】
配列番号6は、B.サブチリス(B.subtilis)aprEプロモーター核酸配列である。
【0027】
配列番号7は、合成ターミネーター核酸配列である。
【0028】
配列番号8は、フォワードプライマー核酸配列である。
【0029】
配列番号9は、リバースプライマー核酸配列である。
【0030】
配列番号10は、pKB320骨格核酸配列である。
【0031】
配列番号11は、プラスミドpKB320の核酸配列である。
【0032】
配列番号12は、フォワードプライマー核酸配列である。
【0033】
配列番号13は、リバースプライマー核酸配列である。
【0034】
配列番号14は、リバースシーケンシングプライマーである。
【0035】
配列番号15は、リバースシーケンシングプライマーである。
【0036】
配列番号16は、フォワードシーケンシングプライマーである。
【0037】
配列番号17は、フォワードシーケンシングプライマーである。
【0038】
配列番号18は、フォワードシーケンシングプライマーである。
【0039】
配列番号19は、フォワードシーケンシングプライマーである。
【0040】
配列番号20は、フォワードシーケンシングプライマーである。
【0041】
配列番号21は、フォワードシーケンシングプライマーである。
【0042】
配列番号22は、フォワードシーケンシングプライマーである。
【0043】
配列番号23は、リバースシーケンシングプライマーである。
【0044】
配列番号24は、フォワードシーケンシングプライマーである。
【0045】
配列番号25は、プラスミドpRF694の核酸配列である。
【0046】
配列番号26は、プラスミドpRF801の核酸配列である。
【0047】
配列番号27は、プラスミドpRF806の核酸配列である。
【0048】
配列番号28は、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)標的部位1(TS1)核酸配列である。
【0049】
配列番号29は、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)標的部位2(TS2)核酸配列である。
【0050】
配列番号30は、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)serAオープンリーディングフレーム核酸配列である。
【0051】
配列番号31は、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)標的部位1(TS1)PAM核酸配列である。
【0052】
配列番号32は、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)可変標的化(VT)部位1をコードする核酸配列である。
【0053】
配列番号33は、Cas9エンドヌクレアーゼ認識(CER)ドメインをコードする核酸配列である。
【0054】
配列番号34は、部位1を標的化するガイドRNA(gRNA)核酸配列である。
【0055】
配列番号35は、spacプロモーター核酸配列である。
【0056】
配列番号36は、t0ターミネーター核酸配列である。
【0057】
配列番号37は、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)serA1ホモロジーアーム1核酸配列である。
【0058】
配列番号38は、合成serA1ホモロジーアーム1フォワードプライマー配列である。
【0059】
配列番号39は、合成serA1ホモロジーアーム1リバースプライマー配列である。
【0060】
配列番号40は、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)serA1ホモロジーアーム2核酸配列である。
【0061】
配列番号41は、合成serA1ホモロジーアーム2フォワードプライマー配列である。
【0062】
配列番号42は、合成serA1ホモロジーアーム2リバースプライマー配列である。
【0063】
配列番号43は、標的部位1(TS1)gRNAをコードする発現カセットである。
【0064】
配列番号44は、合成serA1欠失編集鋳型である。
【0065】
配列番号45は、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)rghR1オープンリーディングフレーム核酸配列である。
【0066】
配列番号46は、標的化部位2(TS2)PAM核酸配列である。
【0067】
配列番号47は、可変標的化(VT)部位2をコードする核酸配列である。
【0068】
配列番号48は、部位2を標的化するgRNA核酸配列である。
【0069】
配列番号49は、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)ホモロジーアーム1核酸配列である。
【0070】
配列番号50は、合成rghR1ホモロジーアーム1フォワード配列である。
【0071】
配列番号51は、合成rghR1ホモロジーアーム1リバース配列である。
【0072】
配列番号52は、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)rghR1ホモロジーアーム2核酸配列である。
【0073】
配列番号53は、合成rghR1ホモロジーアーム2フォワード配列である。
【0074】
配列番号54は、合成rghR1ホモロジーアーム2リバース配列である。
【0075】
配列番号55は、標的部位2(TS2)gRNAをコードする合成核酸発現カセットである。
【0076】
配列番号56は、合成rghR1欠失変種鋳型配列である。
【0077】
配列番号57は、Cas9(Y155H)変異タンパク質のアミノ酸配列である。
【0078】
配列番号58は、Cas9(Y155H)フォワードプライマー配列である。
【0079】
配列番号59は、Cas9(Y155H)リバースプライマー配列である。
【0080】
配列番号60は、プラスミドpRF827の核酸配列である。
【0081】
配列番号61は、変異Cas9(Y155H)タンパク質をコードする発現カセットである。
【0082】
配列番号62は、プラスミドpRF856の核酸配列である。
【0083】
配列番号63は、合成Cas9(Y155H)断片核酸配列である。
【0084】
配列番号64は、Cas9(Y155H)断片フォワードプライマー配列である。
【0085】
配列番号65は、Cas9(Y155H)断片リバースプライマー配列である。
【0086】
配列番号66は、プラスミドpRF694の核酸配列である。
【0087】
配列番号67は、pRF694断片核酸配列である。
【0088】
配列番号68は、pRF694断片フォワードプライマー配列である。
【0089】
配列番号69は、pRF694リバースプライマー配列である。
【0090】
配列番号70は、プラスミドpRF869の核酸配列である。
【0091】
配列番号71は、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)rghR2オープンリーディングフレーム核酸配列である。
【0092】
配列番号72は、合成rghR2stop断片核酸配列である。
【0093】
配列番号73は、合成rghR2stop編集鋳型配列である。
【0094】
配列番号74は、rghR2 gRNA発現カセットである。
【0095】
配列番号75は、合成断片フォワードプライマーである。
【0096】
配列番号76は、合成断片リバースプライマーである。
【0097】
配列番号77は、pRF862骨格の核酸配列である。
【0098】
配列番号78は、pRF862骨格フォワードプライマーである。
【0099】
配列番号79は、pRF862骨格リバースプライマーである。
【0100】
配列番号80は、プラスミドpRF874の核酸配列である。
【0101】
配列番号81は、pRF874標的部位及びPAM核酸配列である。
【0102】
配列番号82は、pRF874編集鋳型である。
【0103】
配列番号83は、プラスミドpRF879の核酸配列である。
【0104】
配列番号84は、pRF879標的部位及びPAM核酸配列である。
【0105】
配列番号85は、pRF879編集鋳型である。
【0106】
配列番号86は、プラスミドpRF899の核酸配列である。
【0107】
配列番号87は、pRF899及びpRF901標的部位並びにPAM核酸配列である。
【0108】
配列番号88は、pRF899編集鋳型である。
【0109】
配列番号89は、プラスミドpRF901の核酸配列である。
【0110】
配列番号90は、pRF901編集鋳型である。
【0111】
配列番号91は、野生型rghR2遺伝子座核酸配列である。
【0112】
配列番号92は、LysAオープンリーディングフレーム核酸配列である。
【0113】
配列番号93は、serA_α-アミラーゼ発現カセットである。
【0114】
配列番号94は、合成p3プロモーター核酸配列である。
【0115】
配列番号95は、aprE 5’-非翻訳領域(UTR)核酸配列である。
【0116】
配列番号96は、amyLシグナル配列をコードする核酸配列である。
【0117】
配列番号97は、α-アミラーゼタンパク質をコードする核酸配列である。
【0118】
配列番号98は、amyLターミネーター配列をコードする核酸配列である。
【0119】
配列番号99は、合成amyL_α-アミラーゼ発現カセットである。
【0120】
配列番号100は、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)amyLプロモーター配列である。
【0121】
配列番号101は、pB1.comK核酸配列である。
【0122】
配列番号102は、スペクチノマイシンマーカーをコードする核酸配列である。
【0123】
配列番号103は、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)xylRオープンリーディングフレームである。
【0124】
配列番号104は、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)xylAプロモーター配列である。
【0125】
配列番号105は、ComKタンパク質をコードする核酸配列である。
【0126】
配列番号106は、フォワードプライマー配列である。
【0127】
配列番号107は、リバースプライマー配列である。
【0128】
配列番号108は、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)rghR2標的化領域核酸配列である。
【0129】
配列番号109は、合成rghR2stop核酸配列である。
【0130】
配列番号110は、フォワードプライマー配列である。
【0131】
配列番号111は、フォワードプライマー配列である。
【0132】
配列番号112は、リバースプライマー配列である。
【0133】
配列番号113は、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)天然rghR1配列である。
【0134】
配列番号114は、rghR1欠失PCR産物である。
【0135】
配列番号115は、フォワードプライマー配列である。
【0136】
配列番号116は、リバースプライマー配列である。
【0137】
配列番号117は、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)天然rghR2PCR産物である。
【0138】
配列番号118は、rghR2欠失PCR産物である。
【0139】
配列番号119は、フォワードプライマー配列である。
【0140】
配列番号120は、リバースプライマー配列である。
【0141】
配列番号121は、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)天然rghR1 rghR2 PCR産物である。
【0142】
配列番号122は、rghR1 rghR2欠失PCR産物である。
【0143】
配列番号123は、フォワードプライマー配列である。
【0144】
配列番号124は、リバースプライマー配列である。
【0145】
配列番号125は、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)天然遺伝子座PCR産物である。
【0146】
配列番号126は、合成遺伝子座欠失PCR産物である。
【0147】
配列番号127は、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)LDN143株rghR2遺伝子座核酸配列である。
【0148】
配列番号128は、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)BF314株rghR2遺伝子座核酸配列である。
【0149】
配列番号129は、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)BF324株rghR2遺伝子座核酸配列である。
【0150】
配列番号130は、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)BF377株rghR2遺伝子座核酸配列である。
【0151】
配列番号131は、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)BF389株rghR2遺伝子座核酸配列である。
【0152】
配列番号132は、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)BF391株rghR2遺伝子座核酸配列である。
【発明を実施するための形態】
【0153】
本開示は、概して、増加したタンパク質産生表現型を有するバチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)細胞(株)を構築且つ得るための組成物及び方法に関する。従って、所定の他の実施形態は、親B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞に由来する改変B.リケニフォルミス(B.licheniformis)に関する。所定の他の実施形態では、改変B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞、改変rghR遺伝子座であって、それが由来した親細胞が、野生型rghR遺伝子座を含む改変rghR遺伝子座を含む。所定の実施形態では、改変rghR遺伝子座を有する改変B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞は、増加したタンパク質産生性表現型を含む。所定の他の実施形態では、改変rghR遺伝子座を有する改変B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞は、低減した量の赤色顔料を産生する。所定の他の実施形態では、改変B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞は、増加したタンパク質産生性表現型を含み、低減した量の赤色顔料を産生する。
【0154】
I.定義
本開示の改変バチルス種(Bacillus sp.)細胞及び本明細書に記載したそれらの方法を考慮して、以下の用語及び語句を定義する。本明細書で定義されていない用語には、当該技術分野で通常使用されている意味が与えられるべきである。
【0155】
他に定義されていない限り、本明細書で使用する技術用語及び科学用語は全て、本発明の組成物及び方法が属する分野の当業者が一般に理解する意味と同一の意味を有する。本明細書に記載のものに類似又は同等の任意の方法及び材料は、本発明の組成物及び方法を実施又は試験するためにも使用できるが、以下では例示的な方法及び材料について記載する。本明細書で引用した刊行物及び特許は全て、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0156】
特許請求の範囲が任意選択的な要素を排除するように記載され得ることにもさらに留意されたい。従って、この記述は、特許請求項の構成要素の列挙に関連して「唯一(solely)」、「ただ~のみ(only)」、「~を除いて(excluding)」、「~を含まない(not including)」等の排他的な用語の使用、又はその「否定的な」限定若しくは条件の使用のための先行文として機能することを意図している。
【0157】
本開示を読めば当業者には明らかなように、本明細書に記載及び例示する個々の実施形態のそれぞれは、本明細書に記載する本組成物及び方法の範囲又は精神から逸脱することなく、他の幾つかの実施形態の何れかの特徴から容易に分離する、又は組み合わせることができる別個の構成要素及び特徴を有する。記載した方法は何れも、記載した事象の順序で、又は論理的に可能な他の任意の順序で実施することができる。
【0158】
本明細書で使用する「宿主細胞」は、新たに導入されるDNA配列のための宿主又は発現ビヒクルとして作用する能力を有する細胞を指す。従って、本開示の所定の実施形態では、宿主細胞は、例えば、バチルス種(Bacillus sp.)細胞又はE.コリ(E.coli)細胞である。
【0159】
本明細書で使用する「改変細胞」は、改変細胞がそれに由来する「親」宿主細胞内に存在しない少なくとも1つの遺伝子改変を含む組み換え(宿主)細胞を指す。
【0160】
例えば、所定の実施形態では、「親」細胞は、その「改変」(娘)細胞を生成するために(例えば、親細胞に導入された1つ以上の遺伝子改変によって)変化させられる。
【0161】
所定の実施形態では、親細胞は、特に、「改変」バチルス種(Bacillus sp.)(娘)細胞と比較される場合、又はそれに対して、「対照細胞」と称し得る。本明細書で使用するように、「未改変」(親)細胞(例えば、対照細胞)における関心対象のタンパク質(POI)の発現及び/又は産生が、「改変」(娘)細胞における同一POIの発現及び/又は産生と比較される場合、「改変」及び「未改変」細胞は、同一条件(例えば、培地、温度、pH等の同一条件)下で増殖/培養/発酵されることは理解されるであろう。
【0162】
本明細書で使用する「バチルス属(Bacillus)」又は「バチルス種(Bacillus sp.)」細胞には、当業者に知られているように、「バチルス属(Bacillus)」内の全ての種、例えば、以下に限定されないが、B.サブチリス(B.subtilis)、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)、B.レンツス(B.lentus)、B.ブレビス(B.brevis)、B.ステアロサーモフィルス(B.stearothermophilus)、B.アルカロフィルス(B.alkalophilus)、B.アミロリケファシエンス(B.amyloliquefaciens)、B.クラウシイ(B.clausii)、B.ハロデュランス(B.halodurans)、B.メガテリウム(B.megaterium)、B.コアグランス(B.coagulans)、B.サークランス(B.circulans)、B.ラウツス(B.lautus)及びB.チューリンギエンシス(B.thuringiensis)が含まれる。バチルス属(Bacillus)が分類学的再編成を受け続けていることは認識されている。従って、この属は、再分類された種、例えば、「ゲオバチルス・ステアロテルモフィルス(Geobacillus stearothermophilus)」と現在称されている「B.ステアロテルモフィルス(B.stearothermophilus)」等の生物を含むがそれらに限定されないことが意図されている。
【0163】
本明細書で使用する用語「野生型」及び「天然」は、互換的に使用され、天然において見出される遺伝子、タンパク質、タンパク質ミックス、細胞又は株を指す。
【0164】
本明細書で使用する「天然B.リケニフォルミス(B.licheniformis)rghR2遺伝子」は、「天然RghR2タンパク質」をコードするヌクレオチド配列を含み、及び「変異-18-BPB.リケニフォルミス(B.licheniformis)rghR2遺伝子」は、国際公開第2018/156705号パンフレット(その全体として参照により本明細書に組み込まれる)に記載された「変異RghR2タンパク質」(RghR2dup)をコードするヌクレオチド配列を含む。例えば、変異-18-BP rghR2遺伝子(以下では、「rghR2dup」)は、変異RghR2タンパク質(以下では、「RghR2dup」)をコードするヌクレオチド配列を含み、その変異RghR2dupは、6つのアミノ酸残基重複/反復を含む(即ち、残基「AAASIR」が重複している)。
【0165】
本明細書で使用する「天然rghR1遺伝子」は天然RghR1タンパク質をコードし、「天然rghR2遺伝子」は天然RghR2タンパク質をコードし、「天然yvzC遺伝子」は天然YvzCタンパク質をコードし、「天然Bli3644遺伝子」は天然Bli3644タンパク質をコードする。
【0166】
本明細書で使用する「天然B.リケニフォルミス(B.licheniformis)(染色体)rghR遺伝子座」(以下では、「天然rghR遺伝子座」)は、図1Aで略図により示したように、「天然rghR1遺伝子」、「天然rghR2遺伝子」、「天然yvzC遺伝子」及び「天然Bli3644遺伝子」を含む。
【0167】
本明細書で使用する「LDN143」と指定された親B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞は、天然rghR遺伝子座を含む。
【0168】
本明細書で使用する「改変B.リケニフォルミス(B.licheniformis)(染色体)rghR遺伝子座」(以下では、「改変rghR遺伝子座」)は、天然rghR遺伝子座と比較して、遺伝子(又はそのオープンリーディングフレーム)のrghR1、rghR2、yvzC及び/又はBli3644から選択される少なくとも1つの遺伝子改変を含む。所定の実施形態では、改変rghR遺伝子座を含む改変B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞は、天然rghR遺伝子座を含む親B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞に由来する。
【0169】
本明細書で使用する「BF314」と指定された改変B.リケニフォルミス(B.licheniformis)(娘)細胞は、図1Bに略図により示したように、天然rghR1遺伝子、改変rghR2遺伝子(「rghRSTOP」と指定された;3個の未熟終止コドンを含む)、天然yvzC遺伝子及び天然Bli3644遺伝子を含む改変rghR遺伝子座を含む。
【0170】
本明細書で使用する「BF324」と指定された改変B.リケニフォルミス(B.licheniformis)(娘)細胞は、図1Cで略図により示したように、欠失rghR1遺伝子(ΔrghR1)、天然rghR2遺伝子、天然yvzC遺伝子及び天然Bli3644遺伝子を含む改変rghR遺伝子座を含む。
【0171】
本明細書で使用する「BF377」と指定された改変B.リケニフォルミス(B.licheniformis)(娘)細胞は、図1Dに略図により示したように、天然rghR1遺伝子、欠失rghR2遺伝子(ΔrghR2)、天然yvzC遺伝子及び天然Bli3644遺伝子を含む改変rghR遺伝子座を含む。
【0172】
本明細書で使用する「BF389」と指定された改変B.リケニフォルミス(B.licheniformis)(娘)細胞は、図1Eで略図により示したように、欠失rghR1遺伝子(ΔrghR1)、欠失rghR2遺伝子(ΔrghR2)、天然yvzC遺伝子及び天然Bli3644遺伝子を含む改変rghR遺伝子座を含む。
【0173】
本明細書で使用する「BF391」と指定された改変B.リケニフォルミス(B.licheniformis)(娘)細胞は、図1Fで略図により示したように、欠失rghR1遺伝子(ΔrghR1)、欠失rghR2遺伝子(ΔrghR2)、欠失yvzC遺伝子(ΔyvzC)及び欠失Bli3644遺伝子(ΔBli3644)を含む改変(空)rghR遺伝子座を含む。
【0174】
本明細書で使用する用語「等価位置」は、特定のポリペプチド配列と整列させた後のアミノ酸残基位置を意味する。
【0175】
用語「改変」及び「遺伝子改変」は互換的に使用され、以下を含む:(a)遺伝子(若しくはそのORF)における1つ以上のヌクレオチドの導入、置換、若しくは除去、又は遺伝子若しくはそのORFの転写若しくは翻訳に必要な調節要素における1つ以上のヌクレオチドの導入、置換、若しくは除去、(b)遺伝子破壊、(c)遺伝子変換、(d)遺伝子欠失、(e)遺伝子のダウンレギュレーション、(f)特異的変異誘発、及び/又は(g)本明細書に開示される任意の1つ以上の遺伝子のランダム変異誘発。例えば、本明細書で使用する遺伝子改変には、rghR1、rghR2、yvzC、BLi3644等から成る群から選択される1つ以上の遺伝子の改変が含まれるがそれらに限定されない。
【0176】
本明細書で使用する「遺伝子の破壊」、「遺伝子破壊」、「遺伝子の不活性化」及び「遺伝子不活性化」は、互換的に使用され、宿主細胞は、機能的遺伝子産物(例えば、タンパク質)を産生することを実質的に妨げる任意の遺伝子改変を広く指す。例示的な遺伝子破壊方法には、ポリペプチドコード配列、プロモーター、エンハンサー又はまた別の調節エレメントを含む遺伝子の任意の部分の完全若しくは部分的な消失又は同一物の突然変異誘発が含まれるが、ここで突然変異誘発は、標的遺伝子を破壊/不活性化し、機能的遺伝子産物(即ち、タンパク質)の産生を実質的に低減若しくは防止する、置換、挿入、欠失、逆位並びにそれらの任意の組み合わせ及び変形形態を包含する。
【0177】
本明細書で規定した、例えば語句「改変(宿主)細胞は親(宿主)細胞と比較して関心対象のタンパク質の増加した量を発現/産生する」において使用する複合用語「発現/産生する」は、本開示の宿主細胞内の関心対象のタンパク質の発現及び産生に関与する任意の工程を含むことが意図されている。
【0178】
従って、本明細書で使用するタンパク質産生を「増加させる」又は「増加した」タンパク質産生は、産生したタンパク質(例えば、内因性及び/又は異種POI)の増加した量を指す。タンパク質は、宿主細胞の内部で産生されても、培養培地中へ分泌(又は、輸送)されてもよい。所定の実施形態では、関心対象のタンパク質は、培養培地中へ産生(分泌)される。タンパク質産生の増加は、例えば、親宿主細胞と比較して、より高い最大レベルのタンパク質若しくは酵素活性(例えば、プロテアーゼ活性、アミラーゼ活性、セルラーゼ活性、ヘミセルラーゼ活性等)として、又は産生される総細胞外タンパク質として検出され得る。
【0179】
本明細書で使用する「核酸」は、ヌクレオチド若しくはポリヌクレオチド配列及びそれらの断片若しくは部分並びにセンス鎖又はアンチセンス鎖の何れを表していても、二本鎖であっても又は一本鎖であってもよい、ゲノム又は合成起源のDNA、cDNA及びRNAを指す。遺伝子コードの縮重の結果として、多くのヌクレオチド配列が所与のタンパク質をコードし得ることは理解されよう。
【0180】
本明細書に記載したポリヌクレオチド(若しくは核酸分子)には、「遺伝子」、「ベクター」及び「プラスミド」が含まれることは理解されている。
【0181】
従って、用語「遺伝子」は、タンパク質のコード配列の全部又は一部を含む、アミノ酸の特定配列をコードするポリヌクレオチドを指し、例えば、遺伝子が発現する条件を決定する、プロモーター配列等の調節(非転写)DNA配列を含み得る。遺伝子の転写領域は、イントロン、5’-非翻訳領域(UTR)及び3’-UTRを含む非翻訳領域(UTR)並びにコード配列を含み得る。
【0182】
本明細書で使用する用語「コード配列」は、その(コードする)タンパク質産物のアミノ酸配列を直接特定するヌクレオチド配列を指す。コード配列の境界は、一般に、オープンリーディングフレーム(以下では、「ORF」)によって決定され、通常はATG開始コドンで始まる。コード配列には、典型的には、DNA、cDNA及び組み換えヌクレオチド配列が含まれる。
【0183】
本明細書で使用する用語「プロモーター」は、コード配列又は機能的RNAの発現を制御できる核酸配列を指す。一般に、コード配列は、プロモーター配列の3’(下流)に位置する。プロモーターは、それらの全体が天然遺伝子に由来してもよい、又は天然に存在する種々のプロモーターに由来する種々のエレメントから構成されていてもよい、又は合成核酸セグメントを含んでいてさえよい。種々のプロモーターが、種々の細胞型で、又は種々の生育段階で、又は種々の環境若しくは生理的条件に応答して、遺伝子の発現を指示し得ることは、当業者には理解されている。殆どの細胞型で遺伝子の発現を最も多く引き起こすプロモーターは、一般に、「構成的プロモーター」と呼ばれている。さらに、殆どの場合に調節配列の正確な境界は完全には明らかになっていないため、種々の長さのDNA断片が同じプロモーター活性を有し得ることは確認されている。
【0184】
本明細書で使用する「作動可能に連結される」という用語は、一方の機能が他方により影響されるような、単一の核酸断片上の核酸配列の結合を指す。例えば、プロモーターは、それがそのコード配列の発現に影響を及ぼすことができる場合(即ち、そのコード配列がプロモーターの転写制御下にある場合)、コード配列(例えば、ORF)に作動可能に連結している。コード配列は、センス又はアンチセンス配向で調節配列に作動可能に連結され得る。
【0185】
核酸は、それが他の核酸配列と機能的関係に置かれている場合、「作動可能に連結」している。例えば、分泌リーダー(即ち、シグナルペプチド)をコードするDNAは、ポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現している場合は、ポリペプチドのためのDNAに作動可能に連結している;プロモーター若しくはエンハンサーは、それがコード配列の転写に影響を及ぼす場合、そのコード配列に作動可能に連結している;又はリボソーム結合部位は、翻訳を促進するように配置されている場合、コード配列に作動可能に連結している。一般に、「作動可能に連結した」は、連結されるDNA配列が隣接している、及び分泌リーダーの場合には、隣接してリーディング期にあることを意味する。しかしながら、エンハンサーは、隣接している必要はない。連結は、便宜的な制限部位でのライゲーションによって行われる。そのような部位が存在しない場合は、従来の手法に従って、合成オリゴヌクレオチドアダプター又はリンカーが使用される。
【0186】
本明細書で使用する「関心対象のタンパク質コード配列の遺伝子に連結した関心対象の遺伝子の発現を制御する機能的プロモーター配列(又はそれらのオープンリーディングフレーム)」は、バチルス属(Bacillus)におけるコード配列の転写及び翻訳を制御するプロモーター配列を指す。例えば、所定の実施形態では、本開示は、5’プロモーター(又は、5’プロモーター領域若しくはタンデム5’プロモーター等)を含むポリヌクレオチドであって、そのプロモーター領域が関心対象のタンパク質をコードする核酸配列に作動可能に連結しているポリヌクレオチドに向けられる。従って、所定の実施形態では、機能的プロモーター配列は、本明細書に開示したタンパク質をコードする遺伝子の発現を制御する。他の実施形態では、機能的プロモーター配列は、バチルス属(Bacillus)細胞内、より特別にはB.リケニフォルミス(B.licheniformis)宿主細胞内の関心対象のタンパク質をコードする異種遺伝子(若しくは内在性遺伝子)の発現を制御する。
【0187】
本明細書で規定した「好適な調節配列」は、コード配列の上流(5’非コード配列)、コード配列内又はコード配列の下流(3’非コード配列)に位置しており、関連するコード配列の転写、RNAプロセシング若しくは安定性又は翻訳に影響を及ぼすヌクレオチド配列を指す。調節配列には、プロモーター、翻訳リーダー配列、RNAプロセシング部位、エフェクター結合部位及びステムループ構造が含まれ得る。
【0188】
本明細書で定義した、例えば「細菌細胞内に導入すること」又は「B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞内に少なくとも1つのポリヌクレオチドオープンリーディングフレーム(ORF)、又はその遺伝子、又はそのベクターを導入すること」等の語句に使用される用語「導入すること」は、プロトプラスト融合法、天然若しくは人工形質転換(例えば、塩化カルシウム、エレクトロポレーション)法、形質導入法、トランスフェクション法、共役法等を含むがそれらに限定されない、ポリヌクレオチドを細胞内に導入するための当技術分野で公知の方法を含む(例えば、Ferrari et al.,1989を参照されたい)。
【0189】
本明細書で使用する「形質転換された」又は「形質転換」は、細胞が組み換えDNA技術の使用によって形質転換されていることを指す。形質転換は、典型的には、1つ以上のヌクレオチド配列(例えば、1つのポリヌクレオチド、ORF若しくは遺伝子)を細胞内に挿入することによって発生する。挿入されたヌクレオチド配列は、異種ヌクレオチド配列(即ち、形質転換対象の細胞には天然に存在しない配列)であってもよい。例えば、本開示の所定の実施形態では、親B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞は、親細胞に、関心対象のタンパク質をコードする核酸配列に作動可能に連結したプロモーターを含むポリヌクレオチド構築物を導入することによって改変(例えば、形質転換)され、それによって結果として、親細胞に由来する改変B.リケニフォルミス(B.licheniformis)(娘)宿主細胞が生じる。
【0190】
本明細書で使用する「形質転換」は、DNAが、染色体組込体又は自己複製染色体外ベクターとして維持されるように、外来DNAを宿主細胞内に導入することを指す。本明細書で使用する「形質転換DNA」、「形質転換配列」及び「DNA構築物」は、配列を宿主細胞又は生物に導入するために使用されるDNAを指す。形質転換DNAは、配列を宿主細胞又は生物に導入するために使用されるDNAである。このDNAは、インビトロでPCR又は任意の他の好適な技術によって生成され得る。幾つかの実施形態では、形質転換DNAは、入来配列を含むが、他の実施形態では、形質転換DNAは、ホモロジーボックスに隣接された入来配列をさらに含む。さらに別の実施形態では、形質転換DNAは、末端に付加された、他の非相同配列(即ち、スタッファー配列又はフランキング配列)を含む。末端は、例えば、ベクターへの挿入等のように、形質転換DNAが閉環を形成するように閉じることができる。
【0191】
核酸配列を細胞内に導入する状況において本明細書で使用する用語「導入(された)」は、核酸配列を細胞内に移すために好適な任意の方法を指す。導入のためのこのような方法には、プロトプラスト融合法、トランスフェクション法、形質転換法、エレクトロポレーション法、接合法及び形質導入法が含まれるが、これらに限定されない(例えば、Ferrari et al.,1989を参照されたい)。
【0192】
本明細書で使用する「入来配列」は、バチルス属(Bacillus)染色体内に導入されるDNA配列を指す。幾つかの実施形態では、入来配列は、DNA構築物の一部である。他の実施形態では、入来配列は、1種以上の関心対象のタンパク質をコードする。幾つかの実施形態では、入来配列は、形質転換対象の細胞のゲノム内に既に存在していても存在していなくてもよい(即ち、相同配列であっても非相同配列であってもよい)配列を含む。幾つかの実施形態では、入来配列は、1種以上の関心対象のタンパク質、遺伝子及び/又は突然変異若しくは改変遺伝子をコードする。代替の実施形態では、入来配列は、機能的な野生型遺伝子若しくはオペロン、機能的な変異遺伝子若しくはオペロン又は非機能的な遺伝子若しくはオペロンをコードする。幾つかの実施形態では、非機能的配列は、遺伝子の機能を破壊するために遺伝子に挿入され得る。別の実施形態では、入来配列は、選択マーカーを含む。さらに別の実施形態では、入来配列は、2つのホモロジーボックスを含む。
【0193】
本明細書で使用する「ホモロジーボックス」は、バチルス属(Bacillus)染色体内の配列と相同である核酸配列を指す。より詳細には、ホモロジーボックスは、本発明に従って、欠失する、破壊される、不活化される、ダウンレギュレートされる等の遺伝子又は遺伝子の幾つかの直接隣接するコード領域と約80~100%の配列同一性、約90~100%の配列同一性又は約95~100%の配列同一性を有する上流又は下流領域である。これらの配列は、バチルス属(Bacillus)染色体内にDNA構築物が組み込まれる場所を指示し、バチルス属(Bacillus)染色体のどの部分を入来配列で置換するかを指示する。本開示を限定することを意図するものではないが、ホモロジーボックスには、約1塩基対(bp)~200キロ塩基(kb)が含まれ得る。好ましくは、ホモロジーボックスは、約1bp~10.0kb;1bp~5.0kb;1bp~2.5kb;1bp~1.0kb、及び0.25kb~2.5kbを含む。ホモロジーボックスは又、約10.0kb、5.0kb、2.5kb、2.0kb、1.5kb、1.0kb、0.5kb、0.25kb及び0.1kbを含み得る。幾つかの実施形態では、選択マーカーの5’及び3’末端は、ホモロジーボックスによって隣接されるが、ここでホモロジーボックスは、遺伝子のコード領域に直接隣接する核酸配列を含む。
【0194】
本明細書で使用する用語「選択可能マーカーをコードするヌクレオチド配列」は、宿主細胞内で発現可能であり、選択可能マーカーの発現が発現された遺伝子を含む細胞に、対応する選択剤の存在下又は必須栄養素の欠如下で増殖する能力を付与するヌクレオチド配列を指す。
【0195】
本明細書で使用する用語「選択可能マーカー」及び「選択マーカー」は、ベクターを含有するそれらの宿主の選択を容易にさせる、宿主細胞内で発現することができる核酸(例えば、遺伝子)を指す。そのような選択可能マーカーの例としては、抗微生物剤が挙げられるが、それらに限定されない。従って、用語「選択可能マーカー」は、宿主細胞が目的入来DNAを取り込めたか、又は何らかの他の反応が発生したことの兆候を提供する遺伝子を指す。典型的には、選択可能マーカーは、形質転換中に外因性配列を受け入れていない細胞から外来DNAを含有する細胞を区別することを可能にする抗微生物剤耐性又は代謝有利性を宿主細胞に付与する遺伝子である。
【0196】
「存在する選択可能マーカー」は、形質転換対象の微生物の染色体上に所在するマーカーである。存在する選択可能マーカーは、形質転換DNA構築物上の選択可能マーカーとは異なる遺伝子をコードする。選択マーカーは、当業者にはよく知られている。上記で示したように、マーカーは、抗微生物耐性マーカー(例えば、amp、phleo、spec、kan、ery、tet、cmp及びneo(例えば、Guerot-Fleury,1995;Palmeros et al.,2000;及びTrieu-Cuot et al.,1983を参照されたい)であり得る。幾つかの実施形態では、本発明は、クロラムフェニコール耐性遺伝子(例えば、pC194上に存在する遺伝子、並びにバチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)のゲノム内に存在する耐性遺伝子)を提供する。この耐性遺伝子は、本発明において、並びに染色体に組み込まれたカセット及び統合的プラスミドの染色体増幅を包含する実施形態において、特に有用である(例えば、Albertini and Galizzi,1985;Stahl and Ferrari,1984を参照されたい)。本発明により有用な他のマーカーとしては、セリン、リシン、トリプトファン等の栄養要求性マーカー及びβ-ガラクトシダーゼ若しくは蛍光タンパク質等の検出マーカーが挙げられるが、これらに限定されない。
【0197】
本明細書で規定した宿主細胞「ゲノム」、細菌(宿主)細胞「ゲノム」又はB.リケニフォルミス(B.licheniformis)(宿主)細胞「ゲノム」は、染色体遺伝子及び染色体外遺伝子を含む。
【0198】
本明細書で使用する用語「プラスミド」、「ベクター」及び「カセット」は、細胞の中央代謝には典型的には関与しない遺伝子を運ぶことが多い、通常は環状の二本鎖DNA分子の形態にある染色体外要素を指す。そのような要素は、多数のヌクレオチド配列が、選択された遺伝子産物のためのプロモーター断片及びDNA配列を適切な3’-非翻訳配列と共に細胞内に導入できる固有の構成に接合又は再結合されている任意の起源に由来する、線状若しくは環状の、一本鎖若しくは二本鎖のDNA若しくはRNAの自己複製配列、ゲノム組み込み配列、ファージ又はヌクレオチド配列であってよい。
【0199】
本明細書で使用する「形質転換カセット」は、遺伝子(又は、そのORF)を含み、外来遺伝子に加えて、特定の宿主細胞の形質転換を促進する要素を有する特異的ベクターを指す。
【0200】
本明細書で使用する用語「ベクター」は、細胞内で複製(増殖)することができ、新たな遺伝子又はDNAセグメントを細胞内に運ぶことができる任意の核酸を指す。従って、この用語は、様々な宿主細胞間を輸送するために設計された核酸構築物を指す。ベクターとしては、「エピソーム」(即ち、自律的に複製するか、又は宿主生物の染色体に組み込むことができる)である、ウイルス、バクテリオファージ、プロウイルス、プラスミド、ファージミド、トランスポゾン、並びにYAC(酵母人工染色体)、BAC(細菌人工染色体)、PLAC(植物人工染色体)等の人工染色体が挙げられる。
【0201】
「発現ベクター」は、細胞内で異種DNAを組み込んで発現させる能力を有するベクターを指す。多数の原核生物及び真核生物の発現ベクターが市販されており、当業者には知られている。適切な発現ベクターの選択は、当業者の知識の範囲内である。
【0202】
本明細書で使用する用語「発現カセット」及び「発現ベクター」は、標的細胞内の特定の核酸の転写を許容する一連の特定の核酸要素を用いて、組み換え又は合成的に生成される核酸構築物(即ち、これらは、上述したベクター若しくはベクターエレメントである)を指す。組み換え発現カセットは、プラスミド、染色体、ミトコンドリアDNA、プラスチドDNA、ウイルス又は核酸断片内に組み込むことができる。典型的には、発現ベクターの組み換え発現カセット部分には、他の配列の中でも、転写対象の核酸配列及びプロモーターが含まれる。幾つかの実施形態では、DNA構築物には、標的細胞内の特定の核酸の転写を許容する一連の特定の核酸要素も含まれる。所定の実施形態では、本開示のDNA構築物は、本明細書で定義する選択マーカー及び不活化染色体セグメント又は遺伝子セグメント又はDNAセグメントを含む。
【0203】
本明細書で使用する「ターゲティングベクター」は、その中にターゲティングベクターが形質転換される宿主細胞の染色体内の領域に相同なポリヌクレオチド配列を含み、その領域で相同組み換えを駆動できるベクターである。例えば、ターゲティングベクターは、相同組み換えによって宿主細胞の染色体に変異を導入する際に使用される。幾つかの実施形態では、ターゲティングベクターは、例えば末端に付加された他の非相同配列(即ち、スタッファー配列又はフランキング配列)を含む。幾つかの実施形態では、ターゲティングベクターには、RNA誘導エンドヌクレアーゼ、DNA誘導エンドヌクレアーゼ及びリコンビナーゼを含むがそれらに限定されない相同組み換えを増加させるための要素が含まれる。末端は、例えば、ベクターへの挿入等のように、ターゲティングベクターが閉環を形成するように閉じることができる。
【0204】
本明細書で使用する用語「プラスミド」は、クローニングベクターとして使用され、且つ多くの細菌及び幾つかの真核生物において染色体外の自己複製遺伝要素を形成する、環状の二本鎖(ds)DNA構築物を指す。幾つかの実施形態では、プラスミドは宿主細胞のゲノムに組み込まれる。
【0205】
本明細書で使用する用語「関心対象のタンパク質」若しくは「POI」は、バチルス種(Bacillus sp.)宿主細胞内で発現するのが望ましい関心対象のポリペプチドを指すが、POIは、好ましくは増加したレベルで発現する。従って、本明細書で使用するPOIは、酵素、基質結合タンパク質、界面活性タンパク質、構造タンパク質、受容体タンパク質等であり得る。所定の実施形態では、本開示の改変細胞は、親細胞に比較して、増加した量の異種POI若しくは増加した量の内因性POIを産生する。特定の実施形態では、本開示の改変細胞によって産生したPOIの増加した量は、親細胞と比較して、少なくとも0.5%の増加、少なくとも1.0%の増加、少なくとも5.0%の増加又は5.0%超の増加である。
【0206】
同様に、本明細書で定義した「関心対象の遺伝子」若しくは「GOI」は、POIをコードする核酸配列(例えば、ポリヌクレオチド、遺伝子又はORF)を指す。「関心対象のタンパク質」をコードする「関心対象の遺伝子」は、天然型遺伝子、突然変異遺伝子又は合成遺伝子であってよい。
【0207】
本明細書で使用する用語「ポリペプチド」及び「タンパク質」は、互換的に使用され、ペプチド結合によって連結されたアミノ酸残基を含む任意の長さのポリマーを指す。本明細書では、アミノ酸残基に対し、従来の1文字コード又は3文字コードを使用する。ポリペプチドは、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、改変アミノ酸を含んでもよく、及び非アミノ酸によって分断されていてもよい。ポリポチペプチドという用語は又、自然に、或いは介入;例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化又は標識化成分との結合等の任意の他の操作若しくは改変によって改変されているアミノ酸ポリマーを包含する。されに、この定義の範囲には、例えば、アミノ酸の1つ以上のアナログ(例えば、非天然アミノ酸等を含む)を含有するポリペプチド、及び当該技術分野において知られる他の改変も含まれる。
【0208】
所定の実施形態では、本開示の遺伝子は、酵素(例えば、アセチルエステラーゼ、アミノペプチダーゼ、アミラーゼ、アラビナーゼ、アラビノフラノシダーゼ、炭酸脱水酵素、カルボキシペプチダーゼ、カタラーゼ、セルラーゼ、キチナーゼ、キモシン、クチナーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、エピメラーゼ、エステラーゼ、α-ガラクトシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、α-グルカナーゼ、グルカンリアーゼ(glucan lysase)、エンド-β-グルカナーゼ、グルコアミラーゼ、グルコースオキシダーゼ、α-グルコシダーゼ、β-グルコシダーゼ、グルクロニダーゼ、グリコシルヒドロラーゼ、ヘミセルラーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、ヒドロラーゼ、インベルターゼ、イソメラーゼ、ラッカーゼ、リパーゼ、リアーゼ、マンノシダーゼ、オキシダーゼ、酸化還元酵素、ペクチン酸リアーゼ、ペクチンアセチルエステラーゼ、ペクチンデポリメラーゼ、ペクチンメチルエステラーゼ、ペクチン分解酵素、ペルヒドロラーゼ、ポリオールオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、フェノールオキシダーゼ、フィターゼ、ポリガラクツロナーゼ、プロテアーゼ、ペプチダーゼ、ラムノ-ガラクツロナーゼ、リボヌクレアーゼ、トランスフェラーゼ、輸送タンパク質、トランスグルタミナーゼ、キシラナーゼ、ヘキソースオキシダーゼ及びこれらの組み合わせ)等の商業的に関連する工業用の関心対象のタンパク質をコードする。
【0209】
本明細書で使用する「変異」ポリペプチドは、一般的には組み換えDNA技術による、1個以上のアミノ酸の置換、付加又は欠失による親(若しくは参照)ポリペプチドに由来するポリペプチドを指す。変異ポリペプチドは、少数のアミノ酸残基によって親ポリペプチドとは異なる可能性があり、親(参照)ポリペプチドとの一次アミノ酸配列の相同性/同一性のレベルによって定義され得る。
【0210】
好ましくは、変異ポリペプチドは、親(参照)ポリペプチド配列と、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%又は少なくとも99%さえのアミノ酸配列同一性を有する。本明細書で使用する「変異」ポリヌクレオチドは、変異ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを指し、この「変異ポリヌクレオチド」は、親ポリヌクレオチドと特定の程度の配列相同性/同一性を有するか、又はストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で親ポリヌクレオチド(又は、その相補体)とハイブリダイズする。好ましくは、変異ヌクレオチドは、親(参照)ポリヌクレオチド配列と、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%さえのヌクレオチド配列同一性を有する。
【0211】
本明細書で使用する「突然変異」は、核酸配列内の任意の変更又は変化を指す。点突然変異、欠失突然変異、サイレント突然変異、フレームシフト突然変異、スプライシング突然変異等を含む数種のタイプの突然変異が存在する。突然変異は、特異的に(例えば、部位特異的変異誘発によって)又はランダムに(例えば、化学薬品、修復マイナス細菌株を通しての継代によって)行われ得る。
【0212】
本明細書で使用するポリペプチド若しくはその配列に関連して、用語「置換」は、1つのアミノ酸とまた別のアミノ酸との取り換え(即ち、置換)を意味する。
【0213】
本明細書で規定した「内在性遺伝子」は、生物のゲノム中の天然の位置に存在する遺伝子を指す。
【0214】
本明細書で規定した「異種」遺伝子、「非内在性」遺伝子又は「外来」遺伝子は、通常は宿主生物中では見出されないが、遺伝子導入によって宿主生物に導入された遺伝子(若しくはORF)を指す。本明細書で使用する用語「外来」遺伝子は、非天然生物中に挿入された天然遺伝子(若しくはORF)及び/又は天然若しくは非天然生物中に挿入されたキメラ遺伝子を含む。
【0215】
本明細書で定義する「異種」核酸構築物又は「異種」核酸配列は、その中でそれが発現する細胞に対して天然ではない配列の部分を有する。
【0216】
本明細書で定義する「異種制御配列」は、天然では関心対象の遺伝子の発現を調節(制御)するために機能しない遺伝子発現制御配列(例えば、プロモーター又はエンハンサー)を指す。一般に、異種核酸配列は、その中にそれらが存在する細胞又はゲノムの一部に対して内因性(天然)ではなく、感染、トランスフェクション、形質転換、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション等によって細胞に加えられている。「異種」核酸構築物は、天然宿主細胞内で見出される制御配列/DNAコード配列の組み合わせと同一又は異なる制御配列/DNAコード(ORF)配列の組み合わせを含有し得る。
【0217】
本明細書で使用する用語「シグナル配列」及び「シグナルペプチド」は、成熟タンパク質又はタンパク質の前駆体形の分泌又は直接輸送に関与する可能性があるアミノ酸残基の配列を指す。シグナル配列は、典型的には、前駆体又は成熟タンパク質配列のN末端に位置する。シグナル配列は、内因性であっても外来性であってもよい。シグナル配列は、通常、成熟タンパク質には存在しない。シグナル配列は、典型的には、タンパク質が輸送された後にシグナルペプチダーゼによってタンパク質から切断される。
【0218】
用語「由来する」には、用語「~から生じた」、「~から得られた」、「~から入手可能な」及び「~から作成された」が含まれ、一般には、1つの特定の材料若しくは組成物が別の材料若しくは組成物にその起源が見出されるか、又は他の特定の材料若しくは組成物を参照して記載できる特徴を有することを示す。
【0219】
本明細書で使用する用語「相同性」は、相同ポリヌクレオチド又は相同ポリペプチドに関する。2つ以上のポリヌクレオチド又は2つ以上のポリペプチドが相同である場合、これは、それらの相同のポリヌクレオチド又はポリペプチドが、少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より一層好ましくは少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、及び最も好ましくは少なくとも98%の「同一性度」を有することを意味している。2つのポリヌクレオチド配列又はポリペプチド配列が、本明細書で定義するように相同であるほどの十分に高い同一性度を有するか否かは、当該技術分野で知られるコンピュータープログラム、例えば、GCGプログラムパッケージで提供される「GAP」(Program Manual for the Wisconsin Package、Version 8,August 1994、Genetics Computer Group,575 Science Drive,Madison,Wisconsin,USA 53711)を使用して2つの配列を整列させることにより好適に調べることができる(Needleman and Wunsch,(1970)。DNA配列比較のために以下の設定でGAPを使用:GAP作成ペナルティ(creation penalty)5.0及びGAP伸長ペナルティ(extension penalty)0.3。
【0220】
本明細書で使用する用語「同一性パーセント(%)」は、配列アラインメントプログラムを使用して整列させた場合の、ポリペプチドをコードする核酸配列間又はポリペプチドのアミノ酸配列間の核酸又はアミノ酸配列の同一性のレベルを指す。
【0221】
本明細書で使用する用語「比生産性」は、所定の期間に渡って、細胞1個当たり、単位時間当たりに産生するタンパク質の総量を指す。
【0222】
本明細書で定義する用語「精製(された)」、「単離(された)」又は「濃縮(された)」は、生体分子(例えば、ポリペプチド又はポリヌクレオチド)が、それが本来結合している、天然型の一部若しくは全部の構成要素から分離することによって、その天然状態から改変されることを指す。そのような単離若しくは精製は、最終組成物中の望ましくない全細胞、細胞残屑、不純物、外来タンパク質又は酵素を除くための、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、疎水性分離、透析、プロテアーゼ処理、硫酸アンモニウム沈澱若しくは他のタンパク質塩析、遠心分離、サイズ排除クロマトグラフィー、濾過、精密濾過、ゲル電気泳動又は勾配による分離等の当該技術分野で知られる分離技術によって実施することができる。精製又は単離した生体分子組成物には、その後さらに、追加の便益を付与する構成要素、例えば、活性化剤、抗阻害剤、望ましいイオン、pH調節化合物又は他の酵素若しくは化学物質を添加することができる。
【0223】
本明細書で使用する用語「ComKポリペプチド」は、DNA結合及び取り込み並びに組み換えに関与する後期コンピテンス遺伝子の発現の活性化に関与する、コンピテンスの発達の前の最終自己調節制御スイッチとして作用する転写因子であるcomK遺伝子の産物であると定義されている(Liu and Zuber,1998,Hamoen et al.,1998)。
【0224】
本明細書で使用する「相同遺伝子」は、異なるが通常は関連する種に由来する、相互に対応し、且つ相互に同一又は極めて類似する1対の遺伝子を指す。この用語は、種分化(即ち、新規な種の発生)によって分離された遺伝子(例えば、オルソロガス遺伝子)、及び遺伝子重複によって分離されてきた遺伝子(例えば、パラロガス遺伝子)を包含する。
【0225】
本明細書で使用する「オルソログ」及び「オルソロガス遺伝子」は、種分化によって共通の先祖遺伝子(即ち、相同遺伝子)から生じた異なる種の遺伝子を指す。典型的には、オルソログは、進化の過程中に同じ機能を保持している。オルソログの同定は、新しく配列が決定されたゲノムにおける遺伝子機能の信頼性の高い予測に使用される。
【0226】
本明細書で使用する「パラログ」及び「パラロガス遺伝子」は、ゲノム内での重複に関係する遺伝子を指す。オルソログは進化の過程を通して同じ機能を保持し、一方、パラログは幾つかの機能は多くは元の機能に関連するものの新しい機能を生じる。パラロガス遺伝子の例としては、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ及びトロンビン(これらは何れも、セリンプロテイナーゼであり、同じ種において同時に発生する)をコードする遺伝子が挙げられるが、これらに限定されない。
【0227】
本明細書で使用する「相同性」は、配列類似性又は同一性を指すが、同一性が好ましい。この相同性は、当該技術分野で知られる標準技術を使用して決定される(例えば、Smith and Waterman,1981;Needleman and Wunsch,1970;Pearson and Lipman,1988;Wisconsin Genetics Software Package(Genetics Computer Group,Madison,WI)のGAP、BESTFIT、FASTA及びTFASTA等のプログラム;並びにDevereux et al.,1984を参照されたい)。
【0228】
本明細書で使用する用語「ハイブリダイゼーション」は、当該技術分野で知られているように、核酸鎖がその相補鎖と塩基対を形成することによって結合するプロセスを指す。核酸配列は、2つの配列が中~高ストリンジェンシーなハイブリダイゼーション条件下及び洗浄条件下で互いに特異的にハイブリダイズする場合、参照核酸配列に「選択的にハイブリダイズ可能」であると考えられる。ハイブリダイゼーション条件は、核酸結合複合体又はプローブの融解温度(T)に基づいている。例えば、「最大ストリンジェンシー」は、通常、T 5℃(プローブのTを5℃下回る)程度で、「高ストリンジェンシー」はTを約5~10℃下回って、「中間ストリンジェンシー」はプローブのTを約10~20℃下回って、そして「低ストリンジェンシー」はTを約20~25℃下回って、起こる。
【0229】
機能上、最大ストリンジェンシー条件はハイブリダイゼーションプローブと厳密な同一性、又はほぼ厳密な同一性を有する配列を同定するために用いることができ、一方、中間又は低ストリンジェンシーハイブリダイゼーションは、ポリヌクレオチド配列ホモログを同定又は検出するために用いることができる。中~高ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件は当該技術分野でよく知られている。高ストリンジェンシー条件の例としては、50%のホルムアミド、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%のSDS及び100pg/mLの変性キャリアDNA中における約42℃でのハイブリダイゼーション、その後の2×SSC及び0.5%のSDS中における室温(RT)での2回の洗浄、並びに0.1×SSC及び0.5%のSDS中における42℃でのさらなる2回の洗浄が挙げられる。中程度のストリンジェント条件の例としては、20%のホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハルト溶液、10%の硫酸デキストラン及び20mg/mLの変性断片処理済みサケ精子DNAを含む溶液中、37℃で一晩インキュベートし、続いて1×SSC中、約37~50℃でフィルターを洗浄することが挙げられる。当業者は、プローブ長等の因子を適合させるために必要な温度、イオン強度等を調整する方法を知っている。
【0230】
本明細書で使用する場合、「組み換え」は、異種核酸配列の導入によって改変されている、又は細胞がそのように改変された細胞に由来する細胞又はベクターへの言及が含まれる。従って、例えば、組み換え細胞は、細胞の天然(非組み換え)形態内の同一形態においては見出されない遺伝子を発現する、又はヒトが意図的に介入した結果として、さもなければ異常に発現する、過少発現する、若しくは全く発現しない天然遺伝子を発現する。「組み換え」、「組み換える(こと)」又は「組み換え」核酸を生成することは、一般に、2つ以上の核酸断片の組み立てであり、この組み立ては、キメラ遺伝子を発生させる。
【0231】
本明細書で使用する場合、「フランキング配列」は、考察対象の配列の上流又は下流にある任意の配列を指す(例えば、遺伝子A-B-Cでは、遺伝子BがA及びCの遺伝子配列にフランキングされている)。所定の実施形態では、入来配列は、両側でホモロジーボックスにフランキングされている。また別の実施形態においては、入来配列及びホモロジーボックスは、両側でスタッファー配列によってフランキングされている単位を含む。幾つかの実施形態では、フランキング配列は、一方の側(3’又は5’)にのみ存在するが、好ましい実施形態では、フランキングされている配列の両側に存在する。各ホモロジーボックスの配列は、バチルス属(Bacillus)染色体内の配列と相同である。これらの配列は、バチルス属(Bacillus)染色体のどこに新規な構築物が組み込まれ、バチルス属(Bacillus)染色体のどの部分が入来配列により置換されるかを指示する。他の実施形態では、選択マーカーの5’及び3’末端は、不活化染色体セグメントの一部を含むポリヌクレオチド配列によってフランキングされている。幾つかの実施形態では、フランキング配列は、一方の側(3’又は5’)にのみ存在するが、他の実施形態では、フランキングされている配列の両側に存在する。幾つかの実施形態では、ホモロジーボックスは、構築物がゲノム内で再結合すると、遺伝子Eは、ゲノムから取り除かれるであろうように、直接的に相互にフランキングする又は介入配列(例えば、遺伝子D-E-Fに対して構築物D~F)を欠如する。
【0232】
II.バチルス・リケニフォルミス(BACILLUS LICHENIFORMIS)RGHR遺伝子座
バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)yvaN遺伝子は、rapG、rapH及びrapD遺伝子のリプレッサーであると同定されており、「rghR」と指定されている(即ち、rapG及びrapHリプレッサー;Hayashi et al.,2006;Ogura & Fujita,2007)。例えば、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)rghR遺伝子座は、「RghR1」及び「RghR2」と指定されているB.サブチリス(B.subtilis)RghR/YvaO(転写制御因子)の2つのホモログをコードする。B.リケニフォルミス(B.licheniformis)rghR1遺伝子の上流(5’)(例えば、図1Aを参照されたい)は、それぞれ転写制御タンパク質YvzC及びBli3644をコードする2つの追加の遺伝子であるyvzC(Bli3645)及びBli3644である。より特別には、上記で概して規定したように、天然B.リケニフォルミス(B.licheniformis)rghR(染色体)遺伝子座は、図1Aで示したように、天然rghR1遺伝子、天然rghR2遺伝子、天然yvzC遺伝子及び天然Bli3644遺伝子を含む。例えば、国際公開第2018/156705号パンフレットは、「RghR2dup」と指定された変異RghR2タンパク質をコードするヌクレオチド配列を有する(即ち、「AAASIR」の6アミノ酸リピートを含む)突然変異rghR2遺伝子を含む突然変異B.リケニフォルミス(B.licheniformis)株について開示している。概して国際公開第2018/156705号パンフレットに記載されたように、rghR2dup配列からの18bp重複の欠失(即ち、対立遺伝子rghR2restを生じる)は、異種タンパク質産生における同時の増加を伴ってバイオマスの低減を生じさせた。
【0233】
本明細書及び下記の実施例の部に記載したように、本出願人は、rghR遺伝子座を評価するため、及び強化されたタンパク質産生(若しくは他の有益な)表現型を有するB.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞を同定するために改変B.リケニフォルミス(B.licheniformis)をさらに設計し、構築し、及び試験した。より特別には、本実施例では、serA及びlysA遺伝子の欠失を伴う天然rghR遺伝子座(図1A)を含む、及び2つの異種α-アミラーゼ発現カセットを含む、LDN143と指定された親B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞を、改変rghR遺伝子座を含む改変B.リケニフォルミス(B.licheniformis)(娘)細胞(即ち、LDN143親に由来する)に対して評価した。従って、本明細書に記載した改変B.リケニフォルミス(B.licheniformis)(娘)細胞は、親B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞(LDN143)に導入された一連の改変rghR遺伝子座対立遺伝子を用いて構築した。
【0234】
より詳細には、下記の改変rghR遺伝子座:天然rghR1遺伝子、改変rghR2遺伝子(rghR2STOP)、天然yvzC遺伝子及び天然Bli3644遺伝子を含むB.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞BF314(図1B)、欠失rghR1遺伝子(ΔrghR1)、天然rghR2遺伝子(rghR2STOP)、天然yvzC遺伝子及び天然Bli3644遺伝子を含むB.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞BF324(図1C)、天然rghR1遺伝子、欠失rghR2遺伝子(ΔrghR2)、天然yvzC遺伝子及び天然Bli3644遺伝子を含むB.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞BF377(図1D)、欠失rghR1遺伝子(ΔrghR1)、欠失rghR2遺伝子(ΔrghR2)、天然yvzC遺伝子及び天然Bli3644遺伝子を含むB.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞BF389(図1E)並びに欠失rghR1遺伝子(ΔrghR1)、欠失rghR2遺伝子(ΔrghR2)、欠失yvzC遺伝子(ΔyvzC)及び欠失Bli3644遺伝子(ΔBli3644)を含むB.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞BF391(図1F、空rghR遺伝子座)の1つを含む、LDN143親に由来する下記のB.リケニフォルミス(B.licheniformis)(娘)細胞を構築した。
【0235】
従って、下記の実施例4に記載したように(例えば、表20を参照されたい)、rghR遺伝子座における突然変異を伴う改変B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞は、rghR遺伝子座に対する野生型である、匹敵する親細胞(LDN143)よりも約23~62%多いアミラーゼタンパク質を産生した、増加した産生表現型を証明している。このため本開示の所定の実施形態は、改変rghR遺伝子座を有する、及び増加したタンパク質産生性表現型を含むそのような改変バチルス属(Bacillus)細胞に関する。所定の他の実施形態は、そのような組成物及び改変バチルス属(Bacillus)細胞を構築且つ入手するための方法に関する。従って、所定の他の実施形態は、本開示の改変バチルス属(Bacillus)細胞である関心対象の内因性及び/又は異種タンパク質の発現/産生に関する。
【0236】
III.低減した量の赤色顔料を産生するバチルス・リケニフォルミス(BACILLUS LICHENIFORMIS)細胞
当業者には一般に理解されているように、バチルス属(Bacilli)は、天然及び組み換えタンパク質を産生するための宿主系として明確に理解されている。しかしながら、所定のバチルス(Bacillus)種(例えば、B.サブチリス(B.subtilis)、B.セレウス(B.cereus)、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)等)は、シクロ-L-ロイシル-L-ロイシルに由来するプルケリミン酸であって、このプルケリミン酸は、増殖培地中に分泌し、鉄イオンを(非酵素的反応によって)キレートしてプルケリミンとして公知の細胞外赤色顔料を産生する(MacDonald,1965;Uffen and Canale-Parola,1972)。従って、目に見える赤色顔料を(即ち、発酵/培養中に)生成するために十分な量でプルケリミンを産生するバチルス種(Bacillus sp.)(宿主)細胞は、一般に関心対象のタンパク質の回収及び/又は精製中の1つ以上のプルケリミン回収工程を必要とする、又はプルケリミン(赤色顔料)は、関心対象のタンパク質と共精製され得る。
【0237】
例えば、所望の表現型(例えば、増加したタンパク質産生等)を備えるバチルス種(Bacillus sp.)は、必ずしも宿主細胞により産生した関心対象のタンパク質の上首尾の発酵、回収及び/又は精製のために最も所望の特性(例えば、赤色顔料表現型等)を有する必要はない。従って、バチルス属(Bacillus)細胞内でプルケリミンの産生を軽減するための所定の遺伝的アプローチは、プルケリミン産生を軽減するための手段としてバチルス属(Bacillus)におけるcypX遺伝子及び/又はyvmC遺伝子の欠失について記載している国際公開第2004/011609号パンフレット等、当該技術分野において記載されてきた。
【0238】
本明細書及び下記の実施例の部に記載したように、出願人は、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)細胞における赤色顔料(プルケリミン)の産生を軽減するための新規な手段を同定した。より詳細には、下記の実施例5に提示及び記載したように、rghR遺伝子座の同定された特徴は、鉄捕捉顔料であるプルケリミン酸を産生することに責任を担うオペロンの転写制御である。この実施例で説明したように、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞BF314(即ち、改変(rghR2STOP)遺伝子を含む)及びBF377(即ち、欠失(ΔrghR2)遺伝子を含む)は、どちらも赤色顔料の産生における約30~50%への低減を証明するが、他方、いくつかの他の突然変異は、プルケリミンの産生を約10~20%へ増加させたので(例、表21を参照されたい)、これはrghR遺伝子座における突然変異がプルケリミン酸の生合成を制御することを示している。
【0239】
このため本開示の所定の実施形態は、低減した量の赤色顔料を産生する改変rghR遺伝子座を有するような改変バチルス属(Bacillus)細胞に関する。所定の他の実施形態は、そのような組成物及び低減した量の赤色顔料を産生する改変バチルス属(Bacillus)細胞を構築且つ入手するための方法に関する。従って、所定の他の実施形態は、本開示の改変バチルス属(Bacillus)細胞である関心対象の内因性及び/又は異種タンパク質の発現/産生に関する。
【0240】
IV.分子生物学
上記で説明したように、本開示の所定の実施形態は、天然rghR遺伝子座を含む親B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞に由来する改変B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞に関する。特定の他の実施形態では、改変B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞は、改変rghR遺伝子座を含む。そこで、所定の他の実施形態は、改変B.リケニフォルミス(B.licheniformis)(娘)細胞を生成するために親B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞を遺伝子改変するための組成物及び方法に関する。
【0241】
本開示の所定の実施形態は、このため、バチルス属(Bacillus)細胞を遺伝子改変するための方法であって、その改変が、(a)遺伝子(若しくはそのORF)内での1つ以上のヌクレオチドの導入、置換若しくは除去又は遺伝子若しくはそのORFの転写若しくは翻訳のために必要とされる調節要素内の1つ以上のヌクレオチドの導入、置換若しくは除去、(b)遺伝子の破壊、(c)遺伝子の変換、(d)遺伝子の欠失、(e)遺伝子の下方制御、(f)部位特異的変異誘発及び/又は(g)ランダム突然変異誘発を含むがそれらに限定されない方法に向けられる。例えば、本明細書で使用する遺伝子改変には、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)rghR1遺伝子、rghR2遺伝子、yvzC遺伝子及びBLi3644遺伝子から成る群から選択される1つ以上の遺伝子の改変が含まれるがそれらに限定されない。
【0242】
そこで、所定の実施形態では、本開示の改変バチルス属(Bacillus)細胞は、当該技術分野において周知である方法、例えば、挿入、破壊、置換又は欠失を使用して、上記に規定した遺伝子の発現を低減させる、又は排除することによって構築される。改変又は不活化対象の遺伝子の部分は、例えば、コード領域、又はコード領域を発現させるために必要とされる調節エレメントであってよい。
【0243】
そのような調節配列又は制御配列の例は、プロモーター配列又はその機能的部分(即ち、核酸配列の発現に十分に影響を及ぼす部分)であり得る。改変のための他の制御配列としては、リーダー配列、プロペプチド配列、シグナル配列、転写ターミネーター、転写活性化因子等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0244】
所定の他の実施形態では、改変バチルス属(Bacillus)細胞は、本開示の上記の遺伝子の少なくとも1つの発現を排除若しくは低減させるための遺伝子欠失によって構築される。遺伝子欠失技術は、遺伝子の部分的又は完全な除去を可能にし、それによりそれらの発現を排除する、又は非機能的(若しくは活性が低減した)タンパク質産物を発現させる。そのような方法では、遺伝子の欠失は、遺伝子にフランキングする5’及び3’領域を隣接して含有するように構築されているプラスミドを用い、相同組み換えによって遂行され得る。隣接する5’及び3’領域は、例えば、プラスミドが細胞内で樹立されることを可能にする許容温度で第2の選択可能マーカーと会合しているpE194等の感温性プラスミドでバチルス属(Bacillus)細胞内に導入され得る。細胞はその後、相同フランキング領域の1つで染色体内に組み込まれたプラスミドを有する細胞を選択するために非許容温度へシフトされる。プラスミドを組み込むための選択は、第2の選択可能マーカーの選択によって実施される。組み込み後、第2の相同フランキング領域での組み換え事象が、選択せずに細胞を数世代にわたり許容温度へシフトすることによって刺激される。細胞をプレーティングして単一コロニーを得、このコロニーを両方の選択可能マーカーの消失について試験する(例えば、Perego,1993を参照されたい)。従って、当業者であれば(例えば、rghR1、rghR2、yvzC、bli3644(核酸)配列及びそのコードされたタンパク質配列を参照することによって)、完全又は部分的欠失に好適な遺伝子のコード配列及び/又は遺伝子の非コード配列中のヌクレオチド領域を容易に同定することができる。
【0245】
他の実施形態では、本開示の改変バチルス属(Bacillus)細胞は、それらの転写又は翻訳のために必要とされる遺伝子又は調節エレメント内の1つ以上のヌクレオチドを導入するか、置換するか、又は除去することによって構築される。例えば、終止コドンの導入、開始コドンの除去、又はオープンリーディングフレームのフレームシフトを生じさせるように、ヌクレオチドを挿入又は除去し得る。そのような改変は、当該技術分野で知られる方法に従って、部位特異的変異誘発又はPCR生成変異誘発によって行われ得る(例えば、Botstein and Shortle,1985;Lo et al.,1985;Higuchi et al.,1988;Shimada,1996;Ho et al.,1989;Horton et al.,1989及びSarkar and Sommer,1990を参照されたい)。従って、所定の実施形態では、本開示の遺伝子は、完全又は部分的欠失によって不活化される。
【0246】
別の実施形態では、改変バチルス属(Bacillus)細胞は、遺伝子変換のプロセスによって構築される(例えば、Iglesias and Trautner,1983を参照されたい)。例えば、遺伝子変換法では、遺伝子に対応する核酸配列は、インビトロで変異させられて欠陥のある核酸配列を産生し、これは、その後親バチルス属(Bacillus)細胞に形質転換されて欠陥のある遺伝子を産生する。相同組み換えによって、欠陥のある核酸配列は、内在性遺伝子に取って代わる。欠陥のある遺伝子又は遺伝子断片は又、欠陥のある遺伝子を含む形質転換体の選択に使用することができるマーカーをコードすることが望ましい場合がある。例えば、欠陥のある遺伝子は、選択可能マーカーと会合して、非複製又は温度感受性プラスミドに導入され得る。プラスミドを組み込むための選択は、プラスミドを複製させない条件下でのマーカー選択によって達成される。遺伝子置換をもたらす第2の組み換え事象の選択は、選択可能マーカーの欠損及び変異遺伝子の獲得についてコロニーを調べることによって達成される(Perego,1993)。或いは、欠陥のある核酸配列は、以下に記載する通り、遺伝子の1つ以上のヌクレオチドの挿入、置換又は欠失を含有し得る。
【0247】
他の実施形態では、改変バチルス属(Bacillus)細胞は、遺伝子の核酸配列と相補的であるヌクレオチド配列を使用する確立されたアンチセンス技術によって構築される(Parish and Stoker,1997)。より詳細には、バチルス属(Bacillus)細胞による遺伝子の発現は、この遺伝子の核酸配列に相補的なヌクレオチド配列を導入することにより低減(下方制御)又は排除することができ、それは細胞内で転写され得、細胞内で産生されるmRNAにハイブリダイズすることができる。相補的アンチセンスヌクレオチド配列がmRNAにハイブリダイズすることをできる条件下では、従って、翻訳されるタンパク質の量は低減又は排除される。このようなアンチセンス法としては、以下に限定されないが、RNA干渉(RNAi)、低分子干渉RNA(siRNA)、マイクロRNA(miRNA)、アンチセンスオリゴヌクレオチド等が挙げられ、これらの全てが当業者によく知られている。
【0248】
他の実施形態では、改変バチルス属(Bacillus)細胞は、CRISPR-Cas9編集によって作製/構築される。例えば、rghR1、rghR2、yvzC及び/又はBli3644をコードする遺伝子は、DNA上の標的配列にエンドヌクレアーゼを動員するガイドRNA(例えば、Cas9)及びCpfl又はガイドDNA(例えば、NgAgo)の何れかに結合することによってそれらの標的DNAを見出す核酸誘導型エンドヌクレアーゼによって破壊(又は欠失若しくは下方制御)されてもよく、ここで、エンドヌクレアーゼは、DNAにおいて一本鎖又は二本鎖切断を生成することができる。この標的化DNA切断は、DNA修復のための基質となり、遺伝子を破壊又は欠失させるために提供された編集鋳型と再結合し得る。例えば、核酸誘導型エンドヌクレアーゼをコードする遺伝子(この目的のためには、S.ピオゲネス(S.pyogenes)由来のCas9)又はCas9ヌクレアーゼをコードするコドン最適化遺伝子は、バチルス属(Bacillus)細胞内で活性なプロモーター及びバチルス属(Bacillus)細胞内で活性なターミネーターに作動可能に連結されており、これによりバチルス属(Bacillus)Cas9発現カセットを生成する。同様に、関心対象の遺伝子に固有の1つ以上の標的部位は、当業者であれば容易に同定できる。例えば、関心対象の遺伝子内の標的部位に向けられたgRNAをコードするDNA構築物をストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)Cas9を用いて構築するためには、可変標的化ドメイン(VT)は、そのヌクレオチドが、S.ピオゲネス(S.pyogenes)Cas9に対するCas9エンドヌクレアーゼ認識ドメイン(CER)をコードするDNAに融合している、(PAM)プロトスペーサー隣接モチーフ(NGG)の5’である標的部位のヌクレオチドを含むであろう。VTドメインをコードするDNAとCERドメインをコードするDNAとの組み合わせは、それによりgRNAをコードするDNAを生成する。従って、gRNAのためのバチルス属(Bacillus)発現カセットは、バチルス属(Bacillus)細胞内で活性なプロモーター及びバチルス属(Bacillus)細胞内で活性なターミネーターにgRNAをコードするDNAを作動可能に連結させることによって作製される。
【0249】
所定の実施形態では、エンドヌクレアーゼによって誘導されたDNA切断は、入来配列を用いて修復/置換される。例えば、上述したCas9発現カセット及びgRNA発現カセットによって生成されたDNA切断を精密に修復するためには、細胞のDNA修復機構が編集鋳型を利用できるように、ヌクレオチド編集鋳型が提供される。例えば、標的化遺伝子の約500bpの5’は、編集テンプレートを生成するために標的化遺伝子の約500bpの3’に融合させることができ、そのテンプレートは、RGENによって生成されたDNA切断を修復するためにバチルス属(Bacillus)宿主の機構によって使用される。
【0250】
Cas9発現カセット、gRNA発現カセット及び編集鋳型は、多数の様々な方法を使用して細胞に同時に送達され得る。形質転換細胞は、遺伝子座をフォワードプライマー及びリバースプライマーを用いて増幅させることにより、標的遺伝子座をPCR増幅させることによってスクリーニングされる。これらのプライマーは、野生型遺伝子座又はRGENによって編集されている改変遺伝子座を増幅させることができる。これらの断片は、次に編集されたコロニーを同定するためにシーケンシングプライマーを使用してシーケンシングされる(例えば、下記の実施例の部を参照されたい)。
【0251】
さらに他の実施形態では、改変バチルス属(Bacillus)細胞は、化学的突然変異誘発(例えば、Hopwood,1970を参照されたい)及び転座(例えば、Youngman et al.,1983を参照されたい)を含むがそれらに限定されない当該技術分野においてよく知られる方法を使用して、ランダム突然変異誘発又は特異的変異誘発によって構築される。遺伝子の改変は、親細胞に突然変異誘発を受けさせること、及びその中で遺伝子の発現が低減若しくは排除されている突然変異細胞についてスクリーニングすることによって実施され得る。特異的であってもランダムであってもよい突然変異誘発は、例えば、好適な物理的若しくは化学的突然変異誘発剤の使用によって、好適なオリゴヌクレオチドの使用によって、又はDNA配列をPCR生成突然変異誘発(PCR-generated mutagenesis)にかけることによって実施され得る。さらに、この突然変異誘発は、これらの突然変異誘発法の任意の組み合わせの使用により実施され得る。
【0252】
本発明のために好適な物理的若しくは化学的突然変異誘発剤の例としては、紫外線(UV)照射、ヒドロキシルアミン、N-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(MNNG)、N-メチル-N’-ニトロソグアニジン(NTG)、O-メチルヒドロキシルアミン、亜硝酸、メタンスルホン酸エチル(EMS)、亜硫酸水素ナトリウム、蟻酸及びヌクレオチドアナログが挙げられる。そのような薬剤を使用する場合、突然変異誘発は、典型的には、好適な条件下で最適な突然変異誘発剤の存在下で突然変異誘発対象の親細胞をインキュベートする工程、及び遺伝子の低減した発現を示す、又は発現を示さない突然変異細胞を選択する工程によって実施される。
【0253】
国際公開第2003/083125号パンフレットは、E.コリ(E.coli)を迂回するためにPCR融合を使用する、例えばバチルス属(Bacillus)欠失株及びDNA構築物の作成等の、バチルス属(Bacillus)細胞を改変するための方法を開示している。国際公開第2002/14490号パンフレットは、(1)統合的プラスミド(pComK)の構築及び形質転換、(2)コード配列、シグナル配列及びプロペプチド配列のランダム突然変異誘発、(3)相同組み換え、(4)形質転換DNAに非相同フランクを付加することにより形質転換効率を増加させること、(5)二重交差組み込みを最適化すること、(6)部位特異的突然変異誘発、及び(7)マーカーレス欠失を含むバチルス属(Bacillus)細胞を改変するための方法を開示している。
【0254】
当業者は、細菌細胞(例えば、E.コリ(E.coli)及びバチルス属(Bacillus)種)にポリヌクレオチド配列を導入するための好適な方法をよく知っている(例えば、Ferrari et al.,1989;Saunders et al.,1984;Hoch et al.,1967;Mann et al.,1986;Holubova,1985;Chang et al.,1979;Vorobjeva et al.,1980;Smith et al.,1986;Fisher et.al.,1981及びMcDonald,1984を参照されたい)。実際に、プロトプラスト形質転換及び会合、形質導入、並びにプロトプラスト融合を含む形質転換等の方法が知られており、本開示における使用に適している。形質転換法は、本開示のDNA構築物を宿主細胞に導入するのに特に好ましい。
【0255】
一般に使用される方法に加えて、幾つかの実施形態では、宿主細胞は、直接的に形質転換させられる(即ち、宿主細胞内に導入する前にDNA構築物を増幅させるために、又はさもなければプロセシングするために、中間細胞が使用されない)。DNA構築物の宿主細胞内への導入には、プラスミド又はベクター内へ挿入することなく、DNAを宿主細胞内に導入するために当該技術分野において知られるそれらの物理的及び化学的方法が含まれる。このような方法としては、以下に限定されないが、塩化カルシウム沈降法、エレクトロポレーション法、裸のDNA法、リポソーム法等が挙げられる。追加の実施形態では、DNA構築物は、プラスミドに挿入することなく、プラスミドと共に同時形質転換される。さらなる実施形態では、選択マーカーは、当該技術分野において知られる方法によって改変バチルス属(Bacillus)株から欠失、又は実質的に切除される(例えば、Stahl et al.,1984;Palmeros et al.,2000)。幾つかの実施形態では、宿主染色体由来のベクターの分解は、染色体内のフランキング領域を残すが、一方、固有の染色体領域を除去する。
【0256】
バチルス属(Bacillus)細胞内での遺伝子の発現において使用するためのプロモーター及びプロモーター配列、それらのオープンリーディングフレーム(ORF)及び/又はそれらの変異配列は、一般に当業者に知られている。本開示のプロモーター配列は、一般に、それらがバチルス属(Bacillus)細胞内で機能的であるように選択される。所定の例示的なバチルス属(Bacillus)プロモーター配列としては、B.サブチリス(B.subtilis)アルカリプロテアーゼ(aprE)プロモーター、B.サブチリス(B.subtilis)のα-アミラーゼプロモーター、B.アミロリケファシエンス(B.amyloliquefaciens)のα-アミラーゼプロモーター、B.サブチリス(B.subtilis)由来の中性プロテアーゼ(nprE)プロモーター、突然変異aprEプロモーター(例えば国際公開第2001/51643号パンフレット)又はB.リケニフォルミス(B.licheniformis)若しくは他の関連するバチルス属(Bacilli)由来の任意の他のプロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。バチルス属(Bacillus)細胞において広範囲の活性(プロモーター強度)を有するプロモーターライブラリーをスクリーニング及び作製する方法は、国際公開第2003/089604号パンフレットに記載されている。
【0257】
V.関心対象のタンパク質を産生するための改変細胞の培養
概して上記で記載したように、所定の他の実施形態は、増加したタンパク質産生表現型を有するバチルス属(Bacillus)細胞/株を構築且つ得るための組成物及び方法に関する。従って、所定の実施形態は、好適な培地中で細胞を発酵/培養することによってバチルス属(Bacillus)細胞内での関心対象のタンパク質を産生する方法に関する。本開示の親及び改変(娘)バチルス属(Bacillus)細胞を発酵させるためには、当該技術分野でよく知られた発酵方法を適用することができる。
【0258】
幾つかの実施形態では、細胞は、バッチ又は連続発酵条件下で培養する。古典的なバッチ発酵は、閉鎖系であり、培地の組成は発酵の開始時に設定し、発酵中には変更しない。発酵の開始時に、培地に所望の生物を接種する。この方法では、系にいかなる成分も添加することなく発酵を行わせる。典型的には、バッチ発酵は、炭素源の添加に関して「バッチ」であると見なされ、pH及び酸素濃度等の因子を制御することが頻繁に行われる。バッチ系の代謝産物及びバイオマス組成物は、発酵が停止される時点まで絶えず変化する。典型的なバッチ培養では、細胞は静的誘導期を経由して高増殖対数期へ進行し、最終的には増殖率が低減又は停止する静止期に進み得る。処理されなければ、静止期にある細胞は最終的には死滅する。一般に、対数期にある細胞は、産生物の大量産生に寄与する。
【0259】
標準バッチ系に対する好適な変形形態は、「フェドバッチ発酵」系である。典型的なバッチ系のこの変形形態では、発酵の進行に伴い基質が徐々に加えられる。フェドバッチ系は、カタボライト抑制が細胞の代謝を阻害する可能性が高い場合、及び培地中の基質量が限られた量であることが望ましい場合に有用である。フェドバッチ系では、実際の基質濃度の測定は困難であり、従って、pH、溶存酸素、及びCO等の廃ガスの分圧等の測定可能な因子の変化に基づいて推定される。バッチ及びフェドバッチ発酵は、当該技術分野において一般的であり、知られている。
【0260】
連続発酵は、規定の発酵培地がバイオリアクターに連続的に加えられ、処理のために等量の馴化培地が同時に除去される開放系である。連続発酵は、一般に、細胞が主として対数増殖期にある一定の高密度で培養を維持する。連続発酵は、細胞の増殖及び/又は産生物の濃度に影響する1つ以上の因子の調節を可能にする。例えば、一実施形態では、炭素源又は窒素源等の制限栄養素は一定比率で維持されるが、他の全てのパラメータは調節することができる。他の系では、培地の濁度によって測定される細胞濃度を一定に保ちながら、増殖に影響を及ぼす多数の因子は連続的に変化させることができる。連続系は、定常状態の増殖条件を維持しようとする。従って、培地を取り出すことによる細胞損失は、発酵中の細胞増殖速度に対して平衡が保たれなければならない。連続発酵プロセスで栄養素及び増殖因子を調節する方法、並びに産生物形成速度を最大化するための手法は、工業微生物学の技術分野においてはよく知られている。
【0261】
所定の実施形態では、本開示のバチルス属(Bacillus)細胞によって発現/産生した関心対象のタンパク質は、遠心若しくは濾過によって培地から宿主細胞を分離する、又は必要であれば、細胞を破壊し、上清を細胞分画及び細胞破片から取り除くことによって、培養培地から回収することができる。典型的には、清浄化後、上清若しくは濾液のタンパク質成分は、塩、例えば、硫酸アンモニウムによって沈澱させられる。その後、沈澱したタンパク質は可溶化され、様々なクロマトグラフ法、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過によって精製され得る。
【0262】
VI.関心対象のタンパク質
本開示の関心対象のタンパク質(POI)は、任意の内因性又は異種タンパク質であってよく、そのようなPOIの変異体であってもよい。タンパク質は、1つ以上のジスルフィド架橋を含有し得る、又はその機能的形態が単量体若しくは多量体であるタンパク質である、即ち、タンパク質は、四次構造を有し、複数の同一(相同)若しくは非同一(異種)サブユニットから構成されるが、ここで、POI若しくはその変異POIは、好ましくは関心対象の特性を備えるタンパク質である。例えば、所定の実施形態では、本開示の改変バチルス属(Bacillus)細胞は、その未改変(親)細胞と比較して、少なくとも約0.5%超、少なくとも約1%超、少なくとも約5%超、少なくとも約6%超、少なくとも約7%超、少なくとも約8%超、少なくとも約9%超又は少なくとも約10%以上のPOIを産生する。
【0263】
所定の実施形態では、本開示の改変バチルス属(Bacillus)細胞は、(非改変)親バチルス属(Bacillus)細胞と比較して、POIの増加した比生産性(Qp)を示す。例えば、比生産性(Qp)の検出は、タンパク質の産生を評価するために好適な方法である。比生産性(Qp)は、下記の方程式:
「Qp=gP/gDCW・hr」
(式中、「gP」は、タンク中に産生されるタンパク質のグラムであり、「gDCW」は、タンク中の乾燥細胞重量(DCW)のグラムであり、「hr」は、接種時点からの発酵時間(時間)であり、これは、産生時間及び増殖時間を含む)
を使用して決定することができる。
【0264】
従って、所定の他の実施形態では、本開示の改変バチルス属(Bacillus)細胞は、未改変(親)細胞と比較して、少なくとも約0.1%、少なくとも約1%、少なくとも約5%、少なくとも約6%、少なくとも約7%、少なくとも約8%、少なくとも約9%又は少なくとも約10%以上の比生産性(Qp)の増加を含む。
【0265】
所定の実施形態では、POI若しくはその変異POIは、アセチルエステラーゼ、アミノペプチダーゼ、アミラーゼ、アラビナーゼ、アラビノフラノシダーゼ、炭酸脱水酵素、カルボキシペプチダーゼ、カタラーゼ、セルラーゼ、キチナーゼ、キモシン、クチナーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、エピメラーゼ、エステラーゼ、α-ガラクトシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、α-グルカナーゼ、グルカンリアーゼ(glucan lysases)、エンド-β-グルカナーゼ、グルコアミラーゼ、グルコースオキシダーゼ、α-グルコシダーゼ、β-グルコシダーゼ、グルクロニダーゼ、グリコシルヒドロラーゼ、ヘミセルラーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、ヒドロラーゼ、インベルターゼ、イソメラーゼ、ラッカーゼ、リガーゼ、リパーゼ、リアーゼ、マンノシダーゼ、オキシダーゼ、酸化還元酵素、ペクチン酸リアーゼ、ペクチンアセチルエステラーゼ、ペクチンデポリメラーゼ、ペクチンメチルエステラーゼ、ペクチン分解酵素、ペルヒドロラーゼ、ポリオールオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、フェノールオキシダーゼ、フィターゼ、ポリガラクツロナーゼ、プロテアーゼ、ペプチダーゼ、ラムノ-ガラクツロナーゼ、リボヌクレアーゼ、トランスフェラーゼ、輸送タンパク質、トランスグルタミナーゼ、キシラナーゼ、ヘキソースオキシダーゼ及びこれらの組み合わせから成る群から選択される。
【0266】
従って、所定の実施形態では、POI若しくはその変異POIは、酵素番号(EC)のEC1、EC2、EC3、EC4、EC5若しくはEC6から選択される酵素である。
【0267】
所定の他の実施形態では、本開示の改変バチルス属(Bacillus)細胞は、アミラーゼをコードする発現構築物を含む。多種多様なアミラーゼ酵素及びその変異体が、当業者に知られている。例えば、国際公開第2006/037484号パンフレット及び同第2006/037483号パンフレットは、溶媒安定性が改善された変異α-アミラーゼを記載しており、国際公開第1994/18314号パンフレットは、酸化的に安定なα-アミラーゼ変異体を開示しており、国際公開第1999/19467号パンフレット、同第2000/29560号パンフレット及び同第2000/60059号パンフレットは、Termamyl様α-アミラーゼ変異体を開示しており、国際公開第2008/112459号パンフレットは、バチルス種(Bacillus sp.)707番に由来するα-アミラーゼ変異体を開示しており、国際公開第1999/43794号パンフレットは、マルトジェニックα-アミラーゼ変異体を開示しており、国際公開第1990/11352号パンフレットは、超耐熱性α-アミラーゼ変異体を開示しており、国際公開第2006/089107号パンフレットは、粒状デンプン加水分解活性を有するα-アミラーゼ変異体を開示している。
【0268】
細胞内及び細胞外で発現されたタンパク質の活性を検出及び測定するためには、当業者に知られる様々なアッセイがある。
【0269】
国際公開第2014/164777号パンフレットは、本明細書に記載したアミラーゼ活性の検出のために有用なCeralpha α-アミラーゼ活性アッセイを開示している。
【実施例
【0270】
本発明の特定の態様は、以下の実施例に照らしてさらに理解することができるが、それらの実施例は限定するものと解釈すべきでない。材料及び方法の変更は、当業者には明白であろう。
【0271】
実施例1
RGHR遺伝子座を標的とするCAS9ベクターの構築
S.ピオゲネス(S.pyogenes)(配列番号1)由来のCas9タンパク質は、N末端核局在化配列(NLS、「APKKKRKV」;配列番号3)、C末端NLS(「KKKKLK」;配列番号4)及びデカ-ヒスチジンタグ(「HHHHHHHHHH」;配列番号5)、B.サブチリス(B.subtilis)由来のaprEプロモーター配列(配列番号6)及びターミネーター配列(配列番号7)が加えてバチルス属(Bacillus)(配列番号2)に対してコドン最適化し、製造業者の使用説明書に従って、下記の表1に示したフォワード(配列番号8)プライマー及びリバース(配列番号9)プライマー対を用いてQ5 DNAポリメラーゼ(NEB)を使用して増幅させた。
【表1】
【0272】
プラスミドpKB320(配列番号11)の骨格(配列番号10)は、製造業者の使用説明書に従って、以下の表2に示したフォワード(配列番号12)プライマー及びリバース(配列番号13)プライマー対を用いて、Q5 DNAポリメラーゼ(NEB)を使用して増幅させた。
【表2】
【0273】
PCR産物は、Zymo clean and concentrate 5カラムを製造業者の使用説明書に従って使用して精製した。続いて、PCR産物は、2個の断片を等モル比で混合し、Q5ポリメラーゼ(NEB)を用いる長時間オーバーラップエクステンションPCR(POE-PCR)により組み立てた。以下のPOE-PCR反応サイクルを実行した:98℃で5秒間、64℃で10秒間、72℃で4分15秒間を30サイクル。5μLのPOE-PCR(DNA)は、製造業者の使用説明書に従って、Top10 E.コリ(E.coli)(Invitrogen)内に形質転換させ、50μg/mLの硫酸カナマイシンを含有する、溶原性(L)ブロス(Millerの処方;1重量/容積%のトリプトン、0.5重量/容積%の酵母抽出物、1重量/容積%のNaCl)上で選択し、1.5%の寒天を用いて固化させた。コロニーを37℃で18時間増殖させた。コロニーを採取し、Qiaprep DNAミニプレップキットを製造業者の使用説明書に従って使用してプラスミドDNAを調製し、55μLのddHO中に溶出させた。このプラスミドDNAについてサンガーシーケンシングを行い、以下の表3に示すシーケンシングプライマーセットを使用して、正しい組み立てを確認した。
【表3】
【0274】
正確に組み立てられたプラスミドpRF694(配列番号25)を使用して、下記に記載するように標的部位1(TS1;配列番号28)及び標的部位2(TS2;配列番号29)でB.リケニフォルミス(B.licheniformis)ゲノムを編集するためのプラスミドpRF801(配列番号26)及びpRF806(配列番号27)を構築した。
【0275】
B.リケニフォルミス(B.licheniformis)のserA1オープンリーディングフレーム(配列番号30)は、リバース方向に固有の標的部位(TS)である標的部位1(TS1;配列番号28)を含有する。TS1は、リバース方向にプロト-スペーサー隣接モチーフ(PAM;配列番号31)に隣接する。標的部位は、可変標的化(VT)ドメイン(配列番号32)をコードするDNAに変換され得る。VTドメイン(配列番号32)をコードするDNA配列は、細菌細胞のRNAポリメラーゼによって転写されると、標的部位1を標的化する機能的ガイドRNA(gRNA)(配列番号34)を産生するように、Cas9エンドヌクレアーゼ認識ドメイン(CER、配列番号33)をコードするDNA配列に作動可能に融合される。gRNAをコードするDNAは、プロモーターが、gRNAをコードするDNA(配列番号33)の5’に位置し、ターミネーターが、gRNAをコードするDNA(配列番号33)の3’に位置するように、バチルス種(Bacillus sp.)細胞において作動可能なプロモーター(例えば、spacプロモーター;配列番号35)及びバチルス種(Bacillus sp.)細胞において作動可能なターミネーター配列(例えば、ラムダファージのt0ターミネーター配列;配列番号36)に作動可能に連結された。
【0276】
Cas9/gRNA開裂に応答してserA1遺伝子を欠失させるための編集鋳型は、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)ゲノムDNA(gDNA)に由来する2本のホモロジーアームの増幅によって作製した。第1断片(ホモロジーアーム1)は、serA1 ORF(配列番号37)の直ぐ上流(5‘)の500ヌクレオチドに一致する。この断片は、製造業者の使用説明書に従ってQ5 DNAポリメラーゼ(NEB)並びに下記の表4に列挙したフォワード(配列番号38)プライマー及びリバース(配列番号39)プライマーを用いて増幅させた。これらのプライマーは、第1断片の3’末端上の第2断片の5’末端と相同である18ヌクレオチド及び第1断片の5’末端のpRF694と相同である20ヌクレオチドを組み込んでいる。
【表4】
【0277】
第2断片(ホモロジーアーム2)は、serA1 ORF(配列番 号40)の3’末端の直ぐ下流の500ヌクレオチドに一致する。この断片は、製造業者の使用説明書に従って、Q5 DNAポリメラーゼ並びに下記の表5に列挙したフォワード(配列番号41)プライマー及びリバース(配列番号42)プライマーを用いて増幅させた。これらのプライマーは第2断片の5’末端上の第1断片の3’末端と相同である28ヌクレオチド及び第2断片の3’末端上のpRF694と相同である21ヌクレオチドを組み込んでいる。
【表5】
【0278】
標的部位1のgRNA発現カセット(配列番号43)、第1ホモロジーアーム(配列番号37)及び第2ホモロジーアーム(配列番号40)をコードするDNAは、標準分子生物学技術を用いてpRF694(配列番号25)内に組み立て、プラスミドpRF801(配列番号26)、Cas9発現カセット(配列番号2)を含有するE.コリ(E.coli)-B.リケニフォルミス(B.licheniformis)シャトルプラスミド、serA1 ORF内のgRNA標的化TS1aをコードするgRNA発現カセット(配列番号43)並びに第1ホモロジーアーム(配列番号37)及び第2ホモロジーアーム(配列番号40)から構成される編集鋳型(配列番号44)を含有するプラスミドpRF694(配列番号25)を組み立てた。プラスミドは、上記の表3に示したオリゴヌクレオチド(プライマー)を用いるサンガーシーケンシングによって検証した。
【0279】
B.リケニフォルミス(B.licheniformis)のrghR1オープンリーディングフレーム(配列番号45)は、リバース鎖上の固有の標的部位(TS)である標的部位2(TS2;配列番号28)を含有する。この標的部位は、リバース鎖上のプロト-スペーサー隣接モチーフ(PAM;配列番号46)に隣接する。この標的部位は、可変標的化(VT)ドメイン(配列番号47)をコードするDNAに変換され得る。VTドメイン(配列番号47)をコードするDNA配列は、細菌細胞のRNAポリメラーゼによって転写されると、標的部位2を標的化する機能的gRNA(gRNA)(配列番号48)を産生するように、Cas9エンドヌクレアーゼ認識ドメイン(CER;配列番号33)をコードするDNA配列に作動可能に融合される。gRNAをコードするDNAは、プロモーターが、gRNAをコードするDNA(配列番号48)の5’に位置し、ターミネーターが、gRNAをコードするDNA(配列番号48)の3’に位置するように、バチルス種(Bacillus sp.)細胞において作動可能なプロモーター(例えば、B.サブチリス(B.subtilis)、配列番号35由来のspacプロモーター)及びバチルス種(Bacillus sp.)細胞において作動可能なターミネーター(例えば、ラムダファージのt0ターミネーター配列;配列番号36)に作動可能に連結された。
【0280】
Cas9/gRNA開裂に応答してrghR1遺伝子を改変するための編集鋳型は、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)ゲノムDNA(gDNA)に由来する2本のホモロジーアームの増幅によって作製した。第1断片は、rghR1 ORF(ホモロジーアーム1;配列番号49)の直ぐ上流(5‘)の500ヌクレオチドに一致する。この断片は、製造業者の使用説明書に従って、Q5 DNAポリメラーゼ(NEB)並びに下記の表6に列挙したフォワード(配列番号50)プライマー及びリバース(配列番号51)プライマーを用いて増幅させた。これらのプライマーは、第1断片の3‘末端上の第2断片の5’末端と相同である23ヌクレオチド及び第1断片の5’末端のpRF694に相同である20ヌクレオチドを組み込んでいる。
【表6】
【0281】
第2断片は、rghR1 ORF(ホモロジーアーム2;配列番号52)の3’末端の直ぐ下流の500ヌクレオチドに一致する。この断片は、製造業者の使用説明書に従って、Q5 DNAポリメラーゼ並びに下記の表7に列挙したフォワード(配列番号53)プライマー及びリバース(配列番号54)プライマーを用いて増幅させた。これらのプライマーは第2断片の5’末端上の第1断片の3’末端と相同である20ヌクレオチド及び第2断片の3’末端上のpRF694と相同である21ヌクレオチドを組み込んでいる。
【表7】
【0282】
標的部位2のgRNA発現カセット(配列番号55)、第1ホモロジーアーム(配列番号49)及び第2ホモロジーアーム(配列番号52)をコードするDNAは、標準分子生物学技術を用いてpRF694(配列番号25)内に組み立て、pRF806(配列番号27)、Cas9発現カセット(配列番号2)を含有するE.コリ(E.coli)-B.リケニフォルミス(B.licheniformis)シャトルプラスミド、rghR1 ORF内のgRNA標的部位2をコードするgRNA発現カセット(配列番号55)並びに第1ホモロジーアーム(配列番号49)及び第2ホモロジーアーム(配列番号52)から構成される編集鋳型(配列番号56)を含有するプラスミドpRF694(配列番号25)を組み立てた。プラスミドは、上記の表3に示したオリゴヌクレオチド(プライマー)を用いるサンガーシーケンシングによって検証した。
【0283】
実施例2
CAS9 Y155H変異体及び関連標的化プラスミドの構築
本実施例では、S.ピオゲネスCas9(配列番号57)Y155H変異体をpRF801(配列番号26)及びpRF806プラスミド(配列番号27)において構築した。pRF801プラスミド(配列番号26)若しくはpRF806プラスミド(配列番号27)内に(Cas9)Y155H変異体を導入するために、部位特異的突然変異誘発は、製造業者の取り扱い説明書に従って、Quikchange突然変異誘発キット並びに鋳型DNAとしてpRF801プラスミド(配列番号26)若しくはpRF806プラスミド(配列番号27)を用いて、下記の表8に示したフォワード(配列番号58)プライマー及びリバース(配列番号59)プライマーを使用して実施した。
【表8】
【0284】
結果として生じた反応産物であるpRF827(配列番号60)は、(Cas9)Y155H変異発現カセット(配列番号61)、serA1 ORF内のgRNA標的化部位1(TS1)をコードするgRNA発現カセット(配列番号43)、並びに第1(配列番号37)及び第2(配列番号40)ホモロジーアームから構成される編集鋳型(配列番号44);又は(Cas9)Y155H変異発現カセット(配列番号61)、rghR1 ORF内のgRNA発現カセット(配列番号55)標的化部位2(TS2)並びに第1(配列番号49)及び第2(配列番号52)ホモロジーアームから構成される編集鋳型(配列番号56)から構成されたpRF856(配列番号62)を含んでいた。これらのプラスミドDNAは、上記の表3に示すシーケンシングプライマー(プライマー)を使用して、正確な組み立てを検証するためにサンガーシーケンシングを行った。
【0285】
プラスミドpRF862の構築
プラスミドpRF862(配列番号77)は、pRF827(配列番号60)からのY155H(変異体)置換を含むCas9 ORFの断片(配列番号63)を移動させることによって構築され、下記の表9に示したフォワード(配列番号64)プライマー及びリバース(配列番号65)プライマーを用いて増幅させた。
【表9】
【0286】
第2断片(配列番号67)は、それが上記のpRF827断片(配列番号60)上に含有される断片を除く全プラスミドを含むように、pRF694(配列番号66)から増幅させた。この断片は、組み立てのためにpRF827断片(配列番号 60)の5’及び3’末端とホモロジーを共有しており、下記の表10に記載したフォワード(配列番号68)プライマー及びリバース(配列番号 69)プライマーを用いて増幅させた。
【表10】
【0287】
2つの断片は、NEBuilderを製造業者の取り扱い説明書に従って使用して組み立て、E.コリ(E.coli)コンピテント細胞内に形質転換させた。プラスミド配列は、上記の表3に示したオリゴヌクレオチド(プライマー)を用いるサンガー法によって検証した。配列が検証された単離物は、プラスミドpRF862(配列番号77)として保存した。
【0288】
rghR2 ORF(配列番号71)を標的化し、3個のイン-フレーム終止コドンを挿入するプラスミドであるpRF869(配列番号70)は、2つの部分を使用して構築した。rghR2 ORF(配列番号71)を改変するための編集鋳型(配列番号73)及びrghR2 ORF(配列番号71)を標的化するgRNA発現カセット(配列番号74)を含む第1部(配列番号72)は、IDTによって合成し、下記の表11に示したフォワード(配列番号75)プライマー及びリバース(配列番号76)プライマーを用いた組み立てのために増幅させた。
【表11】
【0289】
Cas9発現カセットを含むpRF862(配列番号77)由来の第2部(配列番号77)及び全てのプラスミド成分は、下記の表12に示したフォワード(配列番号78)プライマー及びリバース(配列番号79)プライマーを用いて増幅させた。
【表12】
【0290】
これら2つの部分は、NEBuilderを製造業者の取り扱い説明書に従って使用して組み立て、E.コリ(E.coli)内に形質転換させた。プラスミド配列は、上記の表3に示したオリゴヌクレオチド(プライマー)を用いるサンガー法によって検証した。配列検証済み単離物は、pRF869(配列番号70)として保存した。
【0291】
数個の追加のCas9プラスミドは、上記の実施例1及び2に記載したように組み立てた。それらのプラスミドは、標的部位(TS)配列及び編集鋳型作用と一緒に、下記の表13に列挙した。下記の表13で使用したように、用語「SID」は、「配列」番号の略語である。
【表13】
【0292】
実施例3
様々なRGHR遺伝子座対立遺伝子を含むバチルス属(BACILLUS)株を発現するアミラーゼの構築
本実施例では、一連のrghR遺伝子座対立遺伝子は、変異サイトファガ種(Cytophaga sp.)α-アミラーゼ(例えば、全体として参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第2017/100720号パンフレットに記載された変異サイトファガ種(Cytophaga sp.)α-アミラーゼ)をコードする発現カセットを含む親B.リケニフォルミス(B.licheniformis)株内に導入した。より特別には、LDN143と指定された親B.リケニフォルミス(B.licheniformis)株は、(a)天然rghR遺伝子座、(b)serA遺伝子(配列番号30)の欠失、lysA遺伝子(配列番号92)の欠失及び2個のα-アミラーゼ発現カセットを含む。
【0293】
例えば、serA遺伝子座内に統合された第1発現カセット(配列番号93)は、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)amyL転写ターミネーター(配列番号98)に作動可能に連結したサイトファガ種(Cytophaga sp.)をコードするDNA配列に作動可能に連結したサイトファガ種(Cytophaga sp.)変異αアミラーゼ(配列番号97)に作動可能に連結したB.リケニフォルミス(B.licheniformis)amyLシグナル配列(配列番号96)をコードするDNAに作動可能に連結したB.サブチリス(B.subtilis)aprE 5’-UTR(配列番号95)をコードするDNAに作動可能に連結したserA ORF(配列番号30)及び合成p3プロモーター(国際公開第2017/152169号パンフレットに記載された配列番号94)を含む。amyL遺伝子座内に統合された第2発現カセット(配列番号99)は、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)amyL転写ターミネーター(配列番号98)に作動可能に連結したサイトファガ種(Cytophaga sp.)変異αアミラーゼ(配列番号97)をコードするDNA配列に作動可能に連結したamyLシグナル配列(配列番号96)をコードするDNAに作動可能に連結したB.サブチリス(B.subtilis)aprE 5’-UTR(配列番号95)をコードするDNAに作動可能に連結したlysA栄養要求性マーカー(配列番号92)及びB.リケニフォルミス(B.licheniformis)amyLプロモーター(配列番号100)を含む。
【0294】
スペクチノマイシンマーカー(配列番号102)、XylRリプレッサー(配列番号103)をコードするDNA及びB.リケニフォルミス(B.licheniformis)ComKタンパク質(配列番号105)をコードするDNAに作動可能に連結したxylAプロモーター(配列番号104)(例えば、Liu and Zuber,1998;Hamoen et al.,1998;米国特許出願公開第2006/0199222号明細書を参照されたい)を含有するpBl.comKプラスミド(配列番号101)を含むLDN143細胞/株の1バージョンは、ローリングサークル増幅法(TruePrime RCA,Lucigen)を使用して、pRF869(配列番号70)、pRF874(配列番号80)、pRF879(配列番号83)、pRF899(配列番号86)若しくはpRF901(配列番号89)プラスミドを用いて形質変換させた。
【0295】
手短には、LDN143/pBl.comKコンピテント細胞を生成した。LDN143/pBl.comK株は、100ppmのスペクチノマイシンを含有する37℃のLブロス内で250RPMでの振とうにより一晩増殖させた。培養物は、100ppmのスペクチノマイシンを含有する新鮮Lブロス内で0.7のOD600に希釈した。この新規培養物を1時間に渡り37℃及び250rpmで増殖させた。D-キシロースを0.1重量/容積%に添加し、培養物をさらに4時間増殖させた。細胞を7分間に渡り1700gで収穫した。細胞を10重量/容積%のDMSOを含有する使用済み培地の4分の1の培養液量中に再懸濁させた。100μLの細胞を10μLのpRF869(配列番号70)、pRF874(配列番号80)、pRF879(配列番号83)、pRF899(配列番号86)若しくはpRF901(配列番号89)のプラスミドRCA増幅産物と混合した。細胞/DNA混合物を1時間半に渡り37℃、1400RPMでインキュベートした。この混合物を次に、20ppmのカナマイシンを含有するL寒天プレート上でプレーティングした。接種したプレートを48~72時間に渡り37℃でインキュベートした。20ppmのカナマイシンを含有するL寒天上で形成されたコロニーは、下記に記載するように遺伝子座の改変を確証するためにコロニーPCRを用いてスクリーニングした。
【0296】
pRF869(配列番号70)を用いて形質変換させた細胞については、rghR2遺伝子は、標準PCR技術を使用して、下記の表14に列挙したフォワード(配列番号106)プライマー及びリバース(配列番号107)プライマーを用いて増幅させた。
【表14】
【0297】
このPCR産物、rghR2(配列番号108)の標的化領域を含む1,164ヌクレオチド断片は、下記の表15に示したフォワード(配列番号110)プライマーを用いる3つのインフレームナンセンス突然変異を含むrghR2stop対立遺伝子(配列番号109)の導入を確証するためにサンガー法を用いてシーケンシングした。rghR2stop対立遺伝子(配列番号109)を備える単離物は、株BF314として保存した。
【表15】
【0298】
pRF874(配列番号80)を用いて形質変換させた細胞については、rghR1遺伝子領域は、下記の表16に示したフォワード(配列番号111)プライマー及びリバース(配列番号112)プライマーを用いて増幅させた。
【表16】
【0299】
表16におけるプライマーによって産生した天然rghR1断片(配列番号113)は、長さが1,499ヌクレオチドである。rghR1遺伝子が欠失している場合(ΔrghR1)、表16においてプライマーによって産生された断片(配列番号114)は、長さが1,097ヌクレオチドであり、電気泳動法上では明らかにより短い。欠失rghR1対立遺伝子(ΔrghR1;配列番号114)を含むLDN143の単離物は、株BF324として保存した。
【0300】
pRF879(配列番号83)を用いて形質変換させた細胞については、rghR2遺伝子座は、下記の表17に示したフォワード(配列番号115)プライマー及びリバース(配列番号116)プライマーを用いて増幅させた。
【表17】
【0301】
表17におけるプライマーによって産生した天然rghR2断片(配列番号117)は、長さが1,629ヌクレオチドである。rghR2遺伝子が欠失している場合(ΔrghR2)、表17においてプライマーによって産生した断片(配列番号118)は、長さが1,248ヌクレオチドであり、電気泳動法上では明らかにより短い。rghR2遺伝子座対立遺伝子(配列番号118)を含むLDN143の単離物は、株BF377として保存した。
【0302】
pRF899(配列番号86)を用いて形質変換させた細胞については、rghR2 rghR1領域は、下記の表18に示したフォワード(配列番号119)プライマー及びリバース(配列番号120)プライマーを用いて増幅させた。
【表18】
【0303】
親株LDN143から表18におけるプライマーによって産生した天然rghR2rghR1断片(配列番号121)は、長さが2,353ヌクレオチドである。rghR2及びrghR1遺伝子が欠失している場合(ΔrghR2 ΔrghR1)、表18においてプライマーによって産生された断片(配列番号122)は、長さが1,401ヌクレオチドであり、電気泳動法上では明らかにより短い。ΔrghR2遺伝子 ΔrghR1対立遺伝子(配列番号122)を含むLDN143の単離物は、株BF389として保存した。
【0304】
pRF901(配列番号89)を用いて形質変換させた細胞については、rghR2遺伝子座は、下記の表19に示したフォワード(配列番号123)プライマー及びリバース(配列番号124)プライマーを用いて増幅させた。
【表19】
【0305】
親株LDN143から表19におけるプライマーによって産生した天然rghR2断片(配列番号125)は、長さが3,265ヌクレオチドである。rghR2、rghR1、yvzC及び3644遺伝子が欠失している場合(ΔrghR2、ΔrghR1、ΔyvzC及びΔ3644)、表19におけるプライマーによって産生した断片(配列番号126)は、長さが1,596ヌクレオチドであり、電気泳動法上では明らかにより短い。ΔrghR2、ΔrghR1、ΔyvzC及びΔ3644対立遺伝子エオ含むLDN143の単離物は、BF391として保存した。
【0306】
実施例4
改変RGHR遺伝子座を備えるバチルス(BACILLUS)株におけるアミラーゼの産生
様々なrghR遺伝子座対立遺伝子がα-アミラーゼの産生に及ぼす作用を決定するために、株を(その全体として参照により本明細書に組み込まれる)国際公開第2018/156705明細書に一般に記載されたように、3回ずつ標準的小規模アッセイ条件下で増殖させた。変異(サイトファガ種(Cytophaga sp.))α-アミラーゼの収率は、製造業者の取り扱い説明書に従って、ブラッドフォードタンパク質アッセイ(Peirce)を使用することによって決定した。従って、各株に対する平均α-アミラーゼ産生は、下記の表20に示したように決定し、親株LDN143に標準化した。
【表20】
【0307】
従って表20に記載したように、rghR遺伝子座における突然変異を伴うB.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞/株は、rghR遺伝子座に対する野生型である、匹敵する親細胞(LDN143)よりもおよそ23~62%多い異種アミラーゼタンパク質の、増加した産生を証明している。
【0308】
実施例5
改変RGHR遺伝子座を備えるバチルス属(BACILLUS)株内でのプルケリミン産生
上記のセクションIIIにおいて手短に記載したように、rghR遺伝子座の特定の特徴は、鉄捕捉顔料であるプルケリミン酸を産生することに責任を担うオペロンの転写制御である。例えば、プルケリミン酸は、細胞外で鉄イオンと反応して不溶性の赤色顔料を産生することが知られている。この赤色顔料は、ナトリウム塩として再可溶化され得、410nmでの吸光度を用いて定量することができる(Uffen and Canale-Parola,1972)。手短には、10mLの培養上清を10分間に渡り4000RPMで採取した。ペレットは、水を用いて2回洗浄した。ペレットを1mLの1NのNaOH中に再懸濁させ、室温で10分間に渡りインキュベートし、不溶性のプルケリミンを可溶性のプルケリミン酸ナトリウムに変換させた。残留している破片は、14000RPMでの短時間の遠心分離によって取り除いた。410nmでの吸光度を1NのNaOHブランクに対して測定した。
【表21】
【0309】
従って、上記の表21に示したように、rghR遺伝子座における数個の突然変異は、親に比較してプルケリミンの産生を約30~50%有意に低減させたが(例えば、BF314及びBF377)、他方数個の他の突然変異は、プルケリミンに産生を親に比較して約10~20%増加させたので(例えば、BF324、BF389及びBF391)、これはrghR遺伝子座における突然変異がプルケリミン酸の生合成を制御することを示している。
【0310】
異種アミラーゼタンパク質を産生する間の様々な株についての生合成の相対収率を測定するために、下記の表22に提示したように、200μLの培養物の光学密度(OD)を600nmで測定した。
【表22】
【0311】
参考文献
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