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特表2022-544578T細胞レパトアを決定するための標的ハイブリッドキャプチャー法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-19
(54)【発明の名称】T細胞レパトアを決定するための標的ハイブリッドキャプチャー法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6813 20180101AFI20221012BHJP
   C12Q 1/6806 20180101ALN20221012BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALN20221012BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20221012BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALN20221012BHJP
   C12N 9/12 20060101ALN20221012BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALN20221012BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALN20221012BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20221012BHJP
   C12N 5/0781 20100101ALN20221012BHJP
【FI】
C12Q1/6813 Z
C12Q1/6806 Z ZNA
C12Q1/6869 Z
C12N15/12
C12Q1/686 Z
C12N9/12
C12N5/0783
C12Q1/6876 Z
C12N15/13
C12N5/0781
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022509572
(86)(22)【出願日】2020-06-18
(85)【翻訳文提出日】2022-04-06
(86)【国際出願番号】 US2020038474
(87)【国際公開番号】W WO2021034401
(87)【国際公開日】2021-02-25
(31)【優先権主張番号】62/887,938
(32)【優先日】2019-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515138791
【氏名又は名称】レゾリューション バイオサイエンス, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】レイモンド,クリス
(72)【発明者】
【氏名】ヘルナンデス,ジェニファー
(72)【発明者】
【氏名】シェイファー,トリスタン
【テーマコード(参考)】
4B050
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B050CC08
4B050LL01
4B063QA13
4B063QA18
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR55
4B063QR62
4B063QR72
4B063QR77
4B063QS25
4B063QS34
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065CA44
(57)【要約】
本開示は、概して、再構成されたT細胞受容体を標的としたハイブリッドキャプチャー法に関する。より具体的には、いくつかの実施形態は、免疫応答遺伝子レパトアを決定するための、エラーが修正された直接的かつ定量的なゲノム配列の計数方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
再構成された適応免疫応答遺伝子を同定する方法であって、
a.ゲノムDNAを含む試料を得る工程;
b.前記試料からゲノムDNAを単離する工程;
c.i.再構成された適応免疫応答遺伝子の第1の部分に特異的な第1のプローブセットを前記ゲノムDNAにハイブリダイズさせて、ハイブリダイズされた配列を得る工程;
ii.第1のプローブセットを伸長して第1の伸長配列を得る工程;
iii.第1の伸長配列を精製または単離する工程;
iv.前記再構成された適応免疫応答遺伝子の第2の部分に特異的な第2のプローブセットを前記精製した第1の伸長配列にハイブリダイズさせる工程;および
v.第2のプローブセットを伸長して第2の伸長配列を得る工程
を含む連続ハイブリダイゼーションにより、前記単離したゲノムDNAから前記再構成された適応免疫応答遺伝子を捕捉する工程;
d.第2の伸長配列を増幅する工程;ならびに
e.第2の伸長配列をシーケンスする工程
を含む、方法。
【請求項2】
連続ハイブリダイゼーションを行う前に、前記ゲノムDNAを断片化し、末端修復を行う工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記試料が組織または生体液から得られたものである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記試料が、腫瘍組織、腫瘍組織の近傍の領域、臓器組織、末梢組織、リンパ液、尿、脳脊髄液、バフィーコートからの単離物、全血、末梢血、骨髄、羊水、母乳、血漿、血清、房水、硝子体液、蝸牛液、唾液、便、汗、膣分泌物、精液、胆汁、涙液、粘液、喀痰または嘔吐物から得られたものである、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記試料が、適応免疫細胞を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記試料が、1種以上の免疫細胞、例えばT細胞を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記再構成された適応免疫応答遺伝子が、T細胞受容体(TCR)α鎖遺伝子(TRA)、TCRβ鎖遺伝子(TRB)、TCRδ鎖遺伝子(TRD)、TCRγ鎖遺伝子(TRG)、抗体重鎖遺伝子(IGH)、抗体κ軽鎖遺伝子(IGK)、および/または抗体λ軽鎖遺伝子(IGL)によりコードされるものである、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記再構成された適応免疫応答遺伝子の第1の部分が、該再構成された適応免疫応答遺伝子のV領域、D領域またはJ領域を含むCDR3をコードする領域である、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
第1の伸長配列が、T4 DNAポリメラーゼとT4遺伝子32タンパク質を用いて複製される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記伸長が、ポリエチレングリコール(PEG)を含む溶液中で行われる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記PEGの平均分子量が8000ダルトン(PEG8000)である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記PEGの含有量が約7.5%w/vである、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
第1の伸長配列に増幅アダプターをライゲートする工程をさらに含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記増幅が、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により行われる、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
第1のプローブセットが、ヒトTCRα(TRA)、ヒトTCRβ(TRB)、ヒトTCRγ(TRG)、ヒトTCRδ(TRG)、ヒト抗体重鎖(IGH)、ヒト抗体κ軽鎖(IGK)またはヒト抗体λ軽鎖(IGL)のJ領域配列を含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
第1のプローブセットが、ヒトTRA、ヒトTRB、ヒトTRG、ヒトTRD、ヒトIGH、ヒトIGKおよび/またはヒトIGLのV領域配列を含む、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
第2のプローブセットが、ヒトTRA、ヒトTRB、ヒトTRG、ヒトTRD、ヒトIGH、ヒトIGKおよび/またはヒトIGLのJ領域配列を含む、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
第2のプローブセットが、ヒトTRA、ヒトTRB、ヒトTRG、ヒトTRD、ヒトIGH、ヒトIGKおよび/またはヒトIGLのV領域配列を含む、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
第1のプローブセットが、特定のクローンを同定するためのDNA配列タグを含む、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記DNA配列タグが、NN、NNN、NNNN、NNNNN、NNNNNN、NNNNNNN、NNNNNNNN、NNNNNNNNNまたはNNNNNNNNNN(NはA、T、GまたはCである)で示される核酸配列を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記DNA配列タグ、第1のプローブセット、第2のプローブセットおよび前記捕捉された配列がいずれも情報科学に基づいたクローンの同定に使用される、請求項19または20に記載の方法。
【請求項22】
前記試料が、複数の再構成されたゲノム配列を含む、請求項1~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記試料中の特定のT細胞クローンもしくは特定のB細胞クローンまたはその両方の頻度を測定することにより、該試料中のT細胞の免疫レパトアもしくはB細胞レパトアまたはその両方を決定する工程をさらに含む、請求項1~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
全血試料中における血中循環核酸、TCRレパトアまたは抗体レパトアのプロファイルを解析する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記プロファイル解析が、試料中の核酸集団、TCRレパトアまたは抗体レパトアの特性を決定することを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
1つの全血試料中の血中循環核酸と免疫レパトアを評価する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
解析を行う前に、全ゲノム増幅により1個の細胞中のゲノムDNAの量を増加させる、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
シングルセル解析を使用することにより、1個の細胞中のTCRのα鎖とβ鎖の組み合わせを同定する、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
第1のプローブセットが、配列番号62~128のいずれかで定義される1つ以上の配列と少なくとも90%の配列同一性を有する核酸を含む、請求項1~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
第2のプローブセットが、配列番号129~227のいずれかで定義される1つ以上の配列と少なくとも90%の配列同一性を有する核酸を含む、請求項1~29のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、再構成されたT細胞受容体を標的としたハイブリッドキャプチャー法に関する。より具体的には、いくつかの実施形態は、エラーが修正された直接的かつ定量的なゲノム配列の計数方法に関する。さらに、いくつかの実施形態は、試料中のT細胞集団の特異的な計数に関する。
【背景技術】
【0002】
T細胞は、脊椎生物の適応免疫応答に不可欠なメディエーターである。T細胞は、B細胞を共刺激して抗体の産生を制御している。さらに、T細胞は、病変を起こした標的細胞を直接物理的に攻撃することよって、病原体に感染した生理学的に欠陥のある細胞を直接排除することができる。T細胞と標的の間の細胞間相互作用は紛れもなく複雑であるが、この細胞間相互作用では、T細胞の表面に見られるT細胞受容体(TCR)と標的細胞の表面に提示される主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子の会合が中心的な役割を果たしている。TCRをコードする遺伝子は、あらゆる細胞において生殖細胞系配列としてあらかじめ用意された多種多様に構成可能な複数の遺伝子セグメントから構築される。T細胞の発達過程において、これらの遺伝子セグメントは、部位特異的なリコンビナーゼにより、T細胞受容体(TCR)となりうる配列へと構築される。自己を認識しない機能性TCRを産生するT細胞のみが最終的に成熟し、各T細胞レパトアに組み込まれる。
【0003】
がんの治療を目的とした自然免疫T細胞の刺激に基づく治療法の導入が注目を集めていることは言うまでもない。生存率の予後が良くなかった患者のうちの何人かは、この治療を受けた後、適応疾患に対する完全奏効または持続的な奏効が認められた。現在行われている臨床研究の目標は、このような治療に使用されるT細胞がどのようにして活性化されるのかを解明することにある。同様に、臨床治療では、癌性組織の根絶において、効果的なT細胞集団がいつどのようにして動員されるのかを解明することが求められている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
したがって、本開示の一態様では、試料中の適応免疫応答遺伝子のプロファイルを解析する方法が提供される。
【0005】
本明細書で提供される実施形態のいくつかは、再構成された適応免疫応答遺伝子を同定する方法に関する。いくつかの実施形態において、この方法は、
ゲノムDNAを含む試料を得る工程;
前記試料からゲノムDNAを単離する工程;
連続ハイブリダイゼーションにより、前記単離したゲノムDNAから再構成された適応免疫応答遺伝子を捕捉する工程;
第2の伸長配列を増幅する工程;および
第2の伸長配列をシーケンスする工程
を含む。
いくつかの実施形態において、前記連続ハイブリダイゼーションは、
前記再構成された適応免疫応答遺伝子の第1の部分に特異的な第1のプローブセットを前記ゲノムDNAにハイブリダイズさせて、ハイブリダイズされた配列を得る工程;
第1のプローブセットを伸長して第1の伸長配列を得る工程;
第1の伸長配列を精製または単離する工程;
前記再構成された適応免疫応答遺伝子の第2の部分に特異的な第2のプローブセットを前記精製した第1の伸長配列にハイブリダイズさせる工程;および/または
第2のプローブセットを伸長して第2の伸長配列を得る工程
を含む。
【0006】
いくつかの実施形態において、前記試料は、組織または生体液から得られたものである。いくつかの実施形態において、前記試料は、腫瘍組織、腫瘍組織の近傍の領域、臓器組織、末梢組織、リンパ液、尿、脳脊髄液、バフィーコートからの単離物、全血、末梢血、骨髄、羊水、母乳、血漿、血清、房水、硝子体液、蝸牛液、唾液、便、汗、膣分泌物、精液、胆汁、涙液、粘液、喀痰および/または嘔吐物から得られたものである。いくつかの実施形態において、前記試料は適応免疫細胞を含む。いくつかの実施形態において、前記試料は1種以上の免疫細胞(T細胞など)を含む。
【0007】
いくつかの実施形態において、前記再構成された適応免疫応答遺伝子は、T細胞受容体(TCR)α鎖遺伝子(TRA)、TCRβ鎖遺伝子(TRB)、TCRδ鎖遺伝子(TRD)、TCRγ鎖遺伝子(TRG)、抗体重鎖遺伝子(IGH)、抗体κ軽鎖遺伝子(IGK)、および/または抗体λ軽鎖遺伝子(IGL)によりコードされるものである。
【0008】
いくつかの実施形態において、前記再構成された適応免疫応答遺伝子の第1の部分は、該再構成された適応免疫応答遺伝子のV領域、D領域またはJ領域を含むCDR3をコードする領域である。いくつかの実施形態において、第1の伸長配列は、T4 DNAポリメラーゼとT4遺伝子32タンパク質を用いて複製される。
【0009】
いくつかの実施形態において、前記伸長は、ポリエチレングリコール(PEG)を含む溶液中で行われる。いくつかの実施形態において、前記PEGの平均分子量は8000ダルトン(PEG8000)である。いくつかの実施形態において、前記PEGの含有量は、2~40%w/vであり、例えば、2%w/v、2.5%w/v、3%w/v、3.5%w/v、4%w/v、4.5%w/v、5%w/v、5.5%w/v、6%w/v、6.5%w/v、7%w/v、7.5%w/v、8%w/v、8.5%w/v、9%w/v、9.5%w/v、10%w/v、15%w/v、20%w/v、25%w/v、30%w/v、35%w/vもしくは40%w/v、またはこれらの数値のいずれか2つを上下限とする範囲内の量である。
【0010】
いくつかの実施形態において、前記方法は、連続ハイブリダイゼーションを行う前に、前記ゲノムDNAを断片化し、末端修復を行う工程をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、第1の伸長配列に増幅アダプターをライゲートする工程をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記増幅は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により行われる。
【0011】
いくつかの実施形態において、第1のプローブセットは、ヒトTCRα(TRA)、ヒトTCRβ(TRB)、ヒトTCRγ(TRG)、ヒトTCRδ(TRG)、ヒト抗体重鎖(IGH)、ヒト抗体κ軽鎖(IGK)および/またはヒト抗体λ軽鎖(IGL)のJ領域配列を含む。いくつかの実施形態において、第1のプローブセットは、ヒトTRA、ヒトTRB、ヒトTRG、ヒトTRD、ヒトIGH、ヒトIGKおよび/またはヒトIGLのV領域配列を含む。いくつかの実施形態において、第2のプローブセットは、ヒトTRA、ヒトTRB、ヒトTRG、ヒトTRD、ヒトIGH、ヒトIGKおよび/またはヒトIGLのJ領域配列を含む。いくつかの実施形態において、第2のプローブセットは、ヒトTRA、ヒトTRB、ヒトTRG、ヒトTRD、ヒトIGH、ヒトIGKおよび/またはヒトIGLのV領域配列を含む。
【0012】
いくつかの実施形態において、第1のプローブセットは、特定のクローンを同定するためのDNA配列タグを含む。いくつかの実施形態において、前記DNA配列タグは、2~10塩基長の核酸配列であり、その長さは、例えば、2塩基長、3塩基長、4塩基長、5塩基長、6塩基長、7塩基長、8塩基長、9塩基長、10塩基長などから無作為に選択される。いくつかの実施形態において、前記DNA配列タグは、NN、NNN、NNNN、NNNNN、NNNNNN、NNNNNNN、NNNNNNNN、NNNNNNNNNまたはNNNNNNNNNN(NはA、T、GまたはCである)で示される配列を含む。いくつかの実施形態において、前記DNA配列タグ、第1のプローブセット、第2のプローブセットおよび前記捕捉された配列はいずれも情報科学に基づいたクローンの同定に使用される。いくつかの実施形態において、前記試料は、複数の再構成されたゲノム配列を含む。
【0013】
いくつかの実施形態において、前記方法は、前記試料中の特定のT細胞クローンもしくは特定のB細胞クローンまたはその両方の頻度を測定することにより、該試料中のT細胞の免疫レパトアもしくはB細胞レパトアまたはその両方を決定する工程をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、全血試料中における血中循環核酸、TCRレパトアおよび/または抗体レパトアのプロファイルを解析する工程をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記プロファイル解析は、試料中の核酸集団、TCRレパトアおよび/または抗体レパトアの特性を決定することを含む。
【0014】
いくつかの実施形態において、前記方法は、1つの全血試料中の血中循環核酸と免疫レパトアを評価する工程をさらに含む。いくつかの実施形態において、解析を行う前に、全ゲノム増幅により1個の細胞中のゲノムDNAの量を増加させる。いくつかの実施形態において、シングルセル解析を使用することにより、1個の細胞中のTCRのα鎖とβ鎖の組み合わせを同定する。いくつかの実施形態において、第1のプローブセットは、配列番号62~128のいずれかで定義される配列と少なくとも90%の配列同一性を有する核酸を含む。いくつかの実施形態において、第2のプローブセットは、配列番号129~227のいずれかで定義される配列と少なくとも90%の配列同一性を有する核酸を含む。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】T細胞の発達過程におけるTCR遺伝子の成熟を示した模式図を示す。
【0016】
図2】すべての機能性TCR鎖(α鎖またはβ鎖)のヌクレオチド配列の組成(上図)と、これらのヌクレオチド配列から推定されるアミノ酸配列の組成(下図)を示す。このアミノ酸配列の組成には、一方の末端にあるV領域が有する保存されたシステイン残基(CまたはCys)と、もう一方の末端にあるJ領域が有する保存されたフェニルアラニン残基(FまたはPhe)とが含まれる。
【0017】
図3】一実施形態において、標的濃縮によりTCRのプロファイルを解析するための各工程の模式図を示す。
【0018】
図4図3の工程3に概要を示した、J領域を有するゲノムクローンの濃縮を示した模式図を示す。
【0019】
図5図3の工程4に概要を示した、J領域クローンの精製とプライマーの伸長を示した模式図を示す。
【0020】
図6図3の工程5に概要を示した、J領域クローンへの増幅セグメントのライゲーションと、これに続くPCR増幅を示した模式図を示す。
【0021】
図7図3の工程6と工程7に概要を示した、濃縮されたJ領域とV領域プローブのハイブリダイゼーション工程、精製工程、およびプライマー伸長工程を示した模式図を示す。
【0022】
図8A-8C】各試料から得られたV-CDR3-J領域を含むクローンの増幅と、このクローンへのインデックスの付加を示した模式図を示す。図8Aは、フォワードプライマーの全長(FLFP)を示す。図8Bは、特異的なシーケンシングプライマーを使用した3つの工程よる増幅産物のシーケンスを示す。図8Cは、元のゲノム断片(囲んだ部分)の複製物の複製を示す。
【0023】
図9】ビオチンで標識されたオリゴ587に相補的な47ヌクレオチド長のテール配列と、タグと、10ヌクレオチド長のスペーサー配列と、40ヌクレオチド長のV領域ゲノム配列とを含むV領域プローブ(左側)を示す。さらに、ビオチンで標識されたオリゴ588に相補的な45ヌクレオチド長のテール配列と、タグと、40ヌクレオチド長のJ領域プローブとを含むJ領域プローブ(右側)を示す。
【0024】
図10】T細胞レパトアのデータ解析におけるTCRのヒートマップを示す。2430通りのV領域とJ領域の可能な組み合わせのそれぞれにプロットされたクローンの数を示しており、色の濃い領域は、特定の組み合わせにおいて観察されたTCRの数が少ないことを示しており、色の薄い領域は、特定の組み合わせにおいて観察されたTCRの数が多いことを示している。
【0025】
図11】生殖細胞系ゲノム(上図)と再構成されたT細胞ゲノム(下図)を示した模式図を示す。
【0026】
図12A-12D】J領域プローブを用いてすべてのJ領域にタグを付加して捕捉する方法の模式図を示す。図12Aに示すように、捕捉されたJ領域の大部分は、再構成されていないゲノムセグメントであり、再構成されたCDR3配列を有するクローンはごくわずかしか存在しない。捕捉された産物を増幅することにより、J領域を含む捕捉クローンが濃縮される(図12B)。図12Cに示すように、2回目の捕捉はV領域を標的としている。2回目の捕捉により捕捉された産物を増幅してシーケンスを行う(図12D)。
【0027】
図13A-13B】各リードの構成を示した模式図を示す。図13Aは、各リードの構成要素を示し、図13Bは、リード1(配列番号60)とリード2(配列番号61)の観察された配列出力を示す。
【0028】
図14】T4 DNAポリメラーゼは、3’→5’エキソヌクレアーゼ活性を有することから、配列を捕捉していないプローブ分子に平滑末端を形成することができ、この形成された平滑末端が、P1アダプター配列のライゲーション基質となることを示した模式図を示す。
【0029】
図15】抑制PCR法による後処理、全長の増幅またはシーケンスを行うことができるオリゴヌクレオチド(配列番号1~10を含む)を示す。
【0030】
図16】それぞれ独立した捕捉事象を構築するためのヘキサマータグを有するタグ付きV2プローブセットを示し、捕捉後の増幅工程で発生した兄弟クローンにおいて同じ部位からシーケンスが開始される。これらのV2プローブの配列を配列番号11~59で示す。
【0031】
図17】ライブラリーを使用しない実験で得た未処理gDNAと超音波処理したgDNAを泳動したゲルの写真を示す。F、S、CおよびLは、4種のgDNAを示す。
【0032】
図18】ライブラリーを使用せずに調製した4つの試験試料を4連で増幅した増幅プロットのグラフを示す。
【0033】
図19A-19B】ライブラリーを使用しない増幅反応により得たPCR産物を泳動したゲルの写真を示す。図19Aは、ライブラリーを使用しない増幅反応から得た未精製のPCR産物を泳動したゲルの写真を示す。図19Bは、ライブラリーを使用しない増幅反応から得たPCR産物をビーズで精製してから泳動したゲルの写真を示す。
【0034】
図20】ライブラリーを使用せずに調製した試料から得られたライブラリーのqPCR解析の結果を示す。
【0035】
図21】ポリメラーゼ(P)、リガーゼ(L)、T4遺伝子32タンパク質(32)またはこれらの組み合わせを使用した実験を示した増幅プロットをグラフに示す。3種の酵素すべてを組み合わせた場合に、増幅可能なライブラリー材料を大量に生成することができた。
【0036】
図22】ポリメラーゼ(P)、リガーゼ(L)、T4遺伝子32タンパク質(32)またはこれらの組み合わせを用いて捕捉したPCR産物を泳動したゲルの写真を示す。3種の酵素すべてを組み合わせた場合に、捕捉されたPCR産物を効率的に生成することができた。
【0037】
図23】ライブラリーを使用しないシーケンスライブラリーの作製に使用した各試料を泳動したゲルの写真を示す。
【0038】
図24】X染色体の量を様々に変えた試料における、標準化の基準となる常染色体のKRAS遺伝子座およびMYC遺伝子座に対するPLP1遺伝子のコピー数の変化を示したグラフを示す。より具体的には、X染色体の量を様々に変えた試料における、標準化の基準となる常染色体のKRAS遺伝子座およびMYC遺伝子座に対するPLP1遺伝子のコピー数多型(CNV)を示している。これらの試料は、ライブラリーを使用しない方法により調製した。
【0039】
図25】捕捉プローブ配列に対して4倍量の試料を使用した場合のX染色体の領域15におけるDNAシーケンスの開始点を示したグラフを示す。各リードを左側から右側へと示し、使用した試料は、ライブラリーを使用しない方法で調製した。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本明細書で提供される実施形態は、試料中の適応免疫応答遺伝子のプロファイルを解析する方法に関し、この方法は、試料中の適応免疫応答遺伝子レパトアを決定することを含む。
【0041】
TCRは各T細胞に固有のシグネチャーであることから、TCRレパトアを決定することによって、適応免疫応答の活性について直接的な洞察を得ることができる。TCRのプロファイル解析は、その他にも様々な臨床応用が可能であり、例えば、T細胞リンパ腫における微小残存病変のモニタリング、獲得免疫系を刺激する目的でのワクチンに対する個人の応答、感染症に対する適応免疫応答などが挙げられる。
【0042】
図2に示すように、すべての機能性TCR鎖(α鎖またはβ鎖)のヌクレオチド配列の組成と、これらのヌクレオチド配列から推定されるアミノ酸配列の組成には、一方の末端にあるV領域が有する保存されたシステイン残基(CまたはCys)と、もう一方の末端にあるJ領域が有する保存されたフェニルアラニン残基(FまたはPhe)とが含まれる。V領域とJ領域の間にある「CDR3多様性領域」は、各CDR3に固有の配列である。
【0043】
TCRに特異的なPCRプライマーを使用して、再構成されたTCRセグメントをゲノムDNAから増幅し、シーケンスする方法が報告されている(Robins H, Desmarais C, Matthis J, Livingston R, Andriesen J, Reijonen H, et al. Ultra-sensitive detection of rare T cell clones. J Immunol Methods. 2012 Jan 31; 375(1-2):14-9(この文献は引用によりその全体が本明細書に明示的に援用される))。市販されている方法のいくつかでは、再構成されたTCRがメッセンジャーRNAとして発現されるということを利用しており、これらの方法では、RNA-seq法を利用してTCRレパトアを解析する(例えば、Archer Dx社のImmunoverseキット、CD-Genomics社の免疫レパトアシーケンス法、10xgenomics社の全長V(D)Jシーケンス法などがある)。分子識別子を使用することによって、エラーを修正し、解析用に定量する枠組みを提供することができる(Shugay M, Britanova OV, Merzlyak EM, Turchaninova MA, Mamedov IZ, Tuganbaev TR, et al. Towards error-free profiling of immune repertoires. Nat Methods. 2014 Jun; 11(6):653-5(この文献は引用によりその全体が本明細書に明示的に援用される))。しかしながら、ゲノムPCRやmRNAのプロファイルの解析では、分子タグを使用したとしても、T細胞レパトアを間接的にしか測定できない。ゲノムを用いる方法は、マルチプレックスPCRに依存しており、増幅バイアスが見られる。さらに、ゲノムを用いる方法には、エラーを修正する方法がないことから、TCRの多様性を過大評価してしまう傾向がある。また、発現に基づく方法では、T細胞集団の数ではなくTCRの発現量を測定しており、TCRの発現量はT細胞の活性化状態に左右されることが立証されていることから(Paillard F, Sterkers G, and Vaquero C. Transcriptional and post-transcriptional regulation of TCR, CD4 and CD8 gene expression during activation of normal human T lymphocytes. EMBO J. 1990 Jun; 9(6): 1867-1872(この文献は引用によりその全体が本明細書に明示的に援用される))、T細胞集団を正しく評価できない可能性がある。このような認識は、特に、不活性であるが腫瘍特異的キラーT細胞に応答性を示す可能性のある既存の細胞集団に依存して有効性が示される免疫チェックポイント阻害薬を使用する腫瘍学分野において極めて重要である。
【0044】
本明細書で提供される実施形態のいくつかは、TCRレパトアにタグを付加し、回収し、かつ/または定量する方法に関する。次世代シーケンス(NGS)の読み取り値から、分析試料中のT細胞数を正確に知ることができる。この方法では、標的ハイブリッドキャプチャー技術を利用する。この技術では、タグを付加した捕捉プローブを利用することにより、T細胞において機能性TCR遺伝子に再構成された複数の遺伝子セグメントのうちの1つを結合パートナーとして回収し、これを複製する。この第1の捕捉工程では、捕捉可能なあらゆる遺伝子セグメントが捕捉されることには注意されたい。捕捉される遺伝子セグメントの大部分は、T細胞以外の細胞では再構成されない遺伝子セグメントである。第2の捕捉工程では、TCR遺伝子の発達過程において第1の結合パートナーに隣接する位置に配置される別の遺伝子セグメントを結合パートナーとする特異的なプローブを利用して、最初の捕捉工程で得たライブラリーから、再構成されたTCR遺伝子を回収する。いくつかの実施形態において、2つの捕捉工程を利用したこの方法を、本明細書において「連続キャプチャー法」と呼ぶ。いくつかの実施形態において、この方法では、多様性の高い抗原結合性CDR3領域の読み取り値が個々のT細胞のシグネチャーとして提供される。重要な点として、短期間のうちに個体から回収されたTCRレパトアは類似性が高いと考えられるが、別の個体から回収されたレパトアは、これとは大幅に異なっていると考えられる。いくつかの実施形態において、この方法は、再現性があり、特異的である。
【0045】
いくつかの実施形態において、(例えば、前述の2つの捕捉工程を含む)連続した捕捉を行うことによって、遺伝子再構成を経た獲得免疫系の適応免疫応答遺伝子レパトアを決定してもよい。いくつかの実施形態において、例えば、TCRα遺伝子およびTCRβ遺伝子を標的として連続した捕捉を行うことによって、TCRレパトアを決定してもよい。一方で、本明細書で述べる方法は、その他の標的に対して使用してもよく、例えば、通常、消化器系に存在するT細胞のその他のTCR(例えばγ鎖やδ鎖)などに対して使用してもよい。また、抗体を産生するB細胞も、ゲノムの再構成により形成された遺伝子レパトアを持つ。いくつかの実施形態において、本明細書で述べる方法は、このような細胞集団のプロファイルの解析にも同様に適用することができる。
【0046】
いくつかの実施形態において、免疫レパトアのプロファイルを解析する本発明の方法は、α鎖とβ鎖を有する血中循環T細胞に対して実施される。いくつかの実施形態において、免疫レパトアのプロファイルを解析する本発明の方法は、抗体を産生するB細胞およびδ鎖とγ鎖を有する消化管T細胞レパトアに対して実施される。いくつかの実施形態において、免疫レパトアのプロファイルを解析する本発明の方法は、捕捉を利用した核酸ハイブリダイゼーション法である。重要な点として、本明細書で述べる方法は、PCRを利用したその他のプロファイル解析法とは異なる。本明細書で述べる方法では、DNAを増幅するためにPCRを使用してもよいが、本開示による方法は、TCR遺伝子の一方の末端(例えばJ領域またはV領域)に第1のプローブをハイブリダイズし、ハイブリダイズされたクローンを濃縮し、濃縮したクローンのTCRのもう一方の末端に第2のプローブをハイブリダイズすること(J→VまたはV→Jの順で捕捉)を含む「連続ハイブリダイゼーション法」であるという点で標準的な技術とは異なっている。
【0047】
さらに、いくつかの実施形態において、免疫レパトアのプロファイルを解析する本発明の方法は、ゲノムDNAを精査するゲノム法である。本発明の方法とは対照的に、他の市販の技術はmRNA転写産物の解析によるものであり、これらの市販の方法では、mRNAをcDNAに変換した後、特異的なPCRプライマーによりcDNAを濃縮する。これらの標準的な技術に関する問題の1つとして、臨床医はTCRの発現量よりもT細胞集団の数に関心を持っていることが挙げられる。また、このような標準的な技術の別の問題として、試験結果が不正確であることが挙げられる。例えば、2つのT細胞集団を有する系において、一方のT細胞集団が感染症を撃退すると想定する。このT細胞集団は、猛烈な速度でTCRのメッセージを転写する。もう一方のT細胞集団はがんを撃退することができるが、このT細胞集団に対する腫瘍の応答性は弱くなる。したがって、このT細胞集団によるTCRのメッセージの量は大幅に減少する。メッセンジャーRNAに基づいてTCRレパトアのプロファイルを解析した場合、たとえ実際にはこれらのT細胞集団の数が等しくても、がんと戦うT細胞よりも感染症と戦うT細胞の方がはるか多いという誤った結論が得られると考えられる。
【0048】
本明細書で提供される実施形態のいくつかは、第1のハイブリダイゼーション工程においてタグを導入することにより、個々のT細胞クローンを定量分析または計数する方法に関する。このタグは、ハイブリダイゼーション工程、捕捉工程およびシーケンス工程を通して保持され、シーケンス後の解析においてT細胞クローンを計数する目的で使用される。本明細書で提供される方法は、PCRを利用した標準的なプロファイル解析方法に従ったものではない。
【0049】
いくつかの実施形態において、このタグは、偽のTCRクローンを排除するという目的を果たす。PCRのみを使用する場合は、まれにしか存在しない真の陽性クローンと、エラー(シーケンシングエラーなど)の結果として生じる偽陽性クローンとを区別することはできない。特に、数百万個の配列が作製される次世代シーケンスの場合、このような偽陽性クローンは厄介である。莫大な量のデータが作製されるため、分析にかけた生体試料中に実際には存在しない機能性TCR配列がエラーにより作製される可能性がある。しかし、タグを使用する本明細書に記載の方法では、サンプリング後のエラーにより生じたプロセスに起因する関連配列を判別することができる。
【0050】
T細胞クローンの定量分析は、T細胞レパトアのプロファイルの解析およびその変化の調査に重要である。例えば、免疫療法を実施する前後でのT細胞レパトアのプロファイルの解析は、治療中に有効性をモニターするのに有用である。何らかの理論に拘束されることを望むものではないが、例えば、新たなクラスの免疫療法の多くは、免疫チェックポイント分子(PD-L1など)により不活性化された既存のTCRクローンを刺激することに基づいている。(例えば、モノクローナル抗体を用いて)PD-L1の影響を遮断することによって、抗腫瘍T細胞レパトアを活性化することができる。PD-L1チェックポイント阻害薬の投与前およびその後にT細胞レパトアのプロファイルを解析することによって、治療の経過を追うことができる。本明細書で述べる方法は、がんなどの疾患を治療または抑制する方法などの治療法の実施中に有効性をモニターするのに有用であり、このような利点は、活性化に応答する腫瘍と活性化に応答しない腫瘍が存在するという点で有益である。
【0051】
また、何らかの理論に拘束されることを望むものではないが、各DNA:DNAハイブリダイゼーション反応は、別の一連の配列を利用した別の反応とは無関係に起こる。さらに、各反応がシンプルな二分子複合体の形態で起こる限り、1つの反応容器内において、何千個ものプローブ:ゲノム標的捕捉工程を同時に実施することが可能である。さらには、捕捉方法を含む本明細書で述べる方法は、1つの反応において、TCR、抗体産生遺伝子、MHC遺伝子、腫瘍関連がん遺伝子およびその他の適応免疫応答遺伝子を同時に捕捉し、回収することができる。一方、本発明の方法とは異なり、PCRに基づく方法は、ゲノム断片、第1のプライマーおよび第2のプライマーがいずれも同じゲノム配列と特異的に相互作用する3分子間のハイブリダイゼーションの特異性にのみに依存している。高度に濃縮されたPCRプライマーとのわずかな相互作用によりハイブリダイゼーションの結果が左右されうることから、PCRの方がはるかに複雑な反応である。したがって、マルチプレックスPCR系は、非常に限定的にしか利用できず、煩雑である。本明細書で述べるハイブリダイゼーションに基づいた方法は、既存のマルチプレックスPCR法とは根本的に異なる原理で作動する。
【0052】
I.用語の定義
別段の記載がない限り、本明細書で使用されている技術用語および科学用語は、当技術分野の当業者によって一般に理解される意味を有する。本明細書で引用されたすべての特許、出願、公開出願およびその他の刊行物は、別段の記載がない限り、いずれも引用によりその全体が本明細書に明示的に援用される。本明細書に記載の用語に対して複数の定義がある場合には、別段の記載がない限り、この節に記載の定義を優先するものとする。
【0053】
本明細書において、「獲得免疫系」という用語は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、非常に特化した機能を有することにより、病原体による攻撃を排除することができる体循環細胞および体全体のプロセスを指す。獲得免疫系を担う細胞は、リンパ球と呼ばれる種類の白血球である。主な種類のリンパ球として、B細胞およびT細胞がある。
【0054】
本明細書において、「免疫細胞」という用語は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、免疫応答を担う細胞を指す。免疫細胞は造血細胞に由来し、B細胞やT細胞などのリンパ球;ナチュラルキラー(NK)細胞;単球、マクロファージ、好酸球、肥満細胞、好塩基球および/または顆粒球などの骨髄系細胞を含む。
【0055】
本明細書において、「T細胞」という用語は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、CD4+T細胞およびCD8+T細胞を含む。さらに、T細胞は、1型ヘルパーT細胞、2型ヘルパーT細胞、17型ヘルパーT細胞および/または抑制性T細胞も含む。また、「抗原提示細胞」は、抗原提示細胞(例えば、Bリンパ球、単球、樹状細胞および/またはランゲルハンス細胞)、ならびにその他の抗原提示細胞(例えば、ケラチノサイト、内皮細胞、アストロサイト、線維芽細胞および/またはオリゴデンドロサイト)を含む。本明細書で提供される実施形態のいくつかは、免疫応答を必要とする対象にT細胞を提供または投与することに関する。さらに、本明細書で提供される実施形態のいくつかは、T細胞コンパートメントのプロファイルを解析することに関する。細胞表面の特異的マーカーと蛍光活性化セルソーティングとを組み合わせたT細胞の選別は、免疫学研究の基礎的な技術である。また、本明細書において、「T細胞コンパートメント」という用語は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、同一の表面マーカーを有する特定のT細胞のサブセットを指す。
【0056】
本明細書において、「免疫応答」という用語は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、T細胞共刺激の調節の影響を受けるT細胞介在性免疫応答および/またはB細胞介在性免疫応答を含む。典型的な免疫応答には、例えば、サイトカインの産生および/または細胞傷害などのT細胞応答が含まれる。さらに、「免疫応答」には、T細胞活性化の影響を間接的に受ける免疫応答も含まれ、例えば、抗体産生(体液性応答)および/またはサイトカイン応答性細胞(例えばマクロファージ)の活性化が挙げられる。適応免疫応答では、抗体やTCRなどの超可変分子により抗原が認識されるが、これらの超可変分子は、あらゆる抗原を認識することができるように十分な多様性を備えた構造とともに発現される。抗体は、抗原の表面のあらゆる部位に結合することができる。一方、TCRの結合部位は、APCの表面上の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI分子またはクラスII分子に結合している短いペプチドに制限されている。TCRがペプチド/MHC複合体を認識すると、T細胞の活性化(クローンの増殖)が惹起される。
【0057】
本明細書において、「T細胞受容体(TCR)」という用語は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、T細胞受容体またはT細胞抗原受容体とも呼ばれ、T細胞の細胞膜上に発現されて免疫系を調節し、かつ抗原を認識する受容体を指す。TCRには、α鎖、β鎖、γ鎖およびδ鎖があり、これらがαβ二量体またはγδ二量体を構成する。α鎖とβ鎖の組み合わせからなるTCRはαβTCRと呼ばれ、γ鎖とδ鎖の組み合わせからなるTCRはγδTCRと呼ばれる。このようなTCRを有するT細胞は、αβT細胞またはγδT細胞と呼ばれる。TCRの構造は、B細胞により産生される抗体のFab断片と非常によく似ており、MHC分子に結合した抗原分子を認識する。成熟したT細胞のTCR遺伝子は遺伝子再構成を経ていることから、多様なTCRを持ち、様々な抗原を認識することができる。さらに、TCRは、可変性を持たない細胞膜上のCD3分子に結合して複合体を形成する。CD3は、ITAM(免疫受容体活性化チロシンモチーフ)と呼ばれるアミノ酸配列を細胞内領域に有する。このモチーフは細胞内シグナル伝達に関与すると考えられている。各TCR鎖は、可変部位(V)と定常部位(C)とで構成されている。定常部位は細胞膜を貫通しており、短い細胞質部分を持つ。可変部位は細胞外に存在し、抗原-MHC複合体に結合する。可変部位は、超可変部位または相補性決定領域(CDR)と呼ばれる3つの領域を有し、このCDRを介して抗原-MHC複合体に結合する。この3つのCDRは、それぞれCDR1、CDR2およびCDR3と呼ばれる。TCRでは、CDR1とCDR2がMHCに結合し、CDR3が抗原に結合すると考えられている。TCRの遺伝子再構成は、免疫グロブリンとして知られているB細胞受容体の遺伝子再構成とよく似ている。αβTCRの遺伝子再構成では、β鎖のVDJ再構成が最初に行われ、次にα鎖のVJ再構成が行われる。α鎖が再構成される際に、染色体からδ鎖遺伝子が欠損するため、αβTCRを持つT細胞は、γδTCRを同時に持つことはない。これに対して、γδTCRを有するT細胞では、γδTCRを介したシグナルによりβ鎖の発現が抑制される。したがって、γδTCRを持つT細胞は、αβTCRを同時に持つことはない。
【0058】
本明細書において、「B細胞受容体(BCR)」という用語は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、B細胞受容体またはB細胞抗原受容体とも呼ばれ、膜結合型免疫グロブリン(mIg)と会合したIgα/Igβ(CD79a/CD79b)ヘテロ二量体(α/β)で構成される受容体を指す。mIgのサブユニットは、抗原に結合して受容体の凝集を誘導し、α/βサブユニットは、細胞内にシグナルを伝達する。BCRが凝集すると、Lyn、Blk、FynなどのSrcファミリーキナーゼや、SykやBtkなどのチロシンキナーゼを急速に活性化することが知られている。BCRのシグナル伝達機構は複雑であることから、この活性化により非常に様々な帰結がもたらされ、例えば、生存、抵抗性(アナジー;抗原に対する過敏性反応の欠失)またはアポトーシス、細胞分裂、抗体産生細胞またはメモリーB細胞への分化などが起こる。様々なTCR可変領域配列を有する数億種類のT細胞が産生され、様々なBCR(または抗体)可変領域配列を有する数億種類のB細胞が産生される。個々のTCR配列およびBCR配列は、ゲノム配列への変異の導入またはゲノム配列の再構成により様々なバリエーションがある。したがって、TCR/BCRのゲノム配列またはmRNA(cDNA)の配列を決定することによって、T細胞またはB細胞の抗原特異性の手掛かりを得ることができる。
【0059】
本明細書において、「V領域」という用語は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、TCR鎖またはBCR鎖の可変領域の可変部位(V)を指す。本明細書において、「D領域」という用語は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、TCR鎖またはBCR鎖の可変領域のD領域を指す。本明細書において、「J領域」という用語は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、TCR鎖またはBCR鎖の可変領域のJ領域を指す。本明細書において、「C領域」という用語は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、TCR鎖またはBCR鎖の定常部位(C)領域を指す。
【0060】
α鎖のVセグメントとJセグメントが組み合わさって連結され、かつβ鎖のVセグメントとDセグメントとJセグメントが組み合わさって連結されることによって、多種類の分子が産生され、その結果、多様なTCRが産生される。複数の遺伝子セグメントの選択的な結合によっても、TCRの多様性を得ることができる。免疫グロブリンとは異なり、β遺伝子セグメントとδ遺伝子セグメントは、選択的な結合により連結されうる。β遺伝子セグメントおよびδ遺伝子セグメントでは、組換えシグナル配列(RSS)に隣接する遺伝子セグメントから、β鎖のVJ領域およびVDJ領域と、δ鎖のVJ領域、VDJ領域およびVDDJ領域とが産生されうる。免疫グロブリンの場合と同様に、複数の遺伝子セグメントが様々に連結されることによって多様性が得られる。本明細書に提供される実施形態のいくつかは、T細胞受容体α鎖V領域(TRAV)、T細胞受容体β鎖V領域(TRBV)、T細胞受容体α鎖J領域(TRAJ)、またはT細胞受容体β鎖J領域(TRBJ)を含む遺伝子セグメントに関する。
【0061】
いくつかの実施形態において、適応免疫応答遺伝子には、TCRα鎖遺伝子(TRA)、TCRβ鎖遺伝子(TRB)、TCRδ鎖遺伝子(TRD)、TCRγ鎖遺伝子(TRG)、抗体重鎖遺伝子(IGH)、抗体κ軽鎖遺伝子(IGK)、および/または抗体λ軽鎖遺伝子(IGL)が含まれていてもよい。
【0062】
本明細書において、「再構成」という用語は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、免疫グロブリンの重鎖遺伝子座または軽鎖遺伝子座を再配置することを指し、VセグメントがD-Jセグメントのすぐ隣に配置されて、実質的に完全なVHドメインをコードする配列が得られ、あるいはVセグメントがJセグメントのすぐ隣に配置されて、実質的に完全なVLドメインをコードする配列が得られる。再構成された免疫グロブリンの遺伝子座は、生殖細胞系DNAと比較することによって同定することができ、再構成された遺伝子座は、少なくとも1つの再結合されたヘプタマー/ノナマー相同領域エレメントを有する。
【0063】
本明細書において、Vセグメントに関して使用される「再構成されていない」または「生殖細胞系の構成」という用語は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、DセグメントまたはJセグメントのすぐ隣に位置するようにVセグメントが再連結されていない構成を指す。
【0064】
「遺伝子」という用語は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、ポリペプチド鎖の産生に関与するDNAのセグメントを含む。より具体的には、「遺伝子」には、コード領域の前にある領域(プロモーターなど)およびコード領域の後ろにある領域(3’非翻訳領域など)、ならびにコードセグメント(エキソン)と別のコードセグメント(エキソン)の間にある介在配列(イントロン)が含まれるが、これらに制限されない。また、本明細書において、「ゲノムDNA」は染色体DNAを指し、これに対立するものとして、RNA転写物から複製された相補的DNAがある。「ゲノムDNA」は、本明細書において、1個の細胞中に含まれるすべてのDNAであってもよく、1個の細胞中に含まれるDNAの一部であってもよい。
【0065】
本明細書において、「核酸」または「ポリヌクレオチド」という用語は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、一本鎖または二本鎖の形態のデオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチドまたはこれらのポリマーを含む。特に制限がない限り、「核酸」または「ポリヌクレオチド」という用語には、基準となる核酸と類似した結合特性を有し、天然のヌクレオチドの公知の類似体を含む核酸が含まれ、この類似体を含む核酸は、天然のヌクレオチドと同様の方法で代謝される。また、別段の記載がない限り、特定の核酸配列は、保存的修飾されたバリアント(例えば同義コドン置換)、アレル、オーソログ、SNPおよび相補的配列、ならびに本明細書中に明示された配列も明確に包含する。より具体的には、1つ以上の選択されたコドン(またはすべてのコドン)の3番目の塩基が、混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作製することによって、同義コドン置換を行ってもよい(Batzer et al., Nucleic Acid Res., 19:5081 (1991); Ohtsuka et al., J. Biol. Chem., 260:2605-2608 (1985); Rossolini et al., Mol. Cell. Probes, 8:91-98 (1994)(これらの文献はいずれも引用によりその全体が本明細書に明示的に援用される))。また、「核酸」という用語は、「遺伝子」、「cDNA」、および「遺伝子によってコードされるmRNA」と同じ意味で使用される。
【0066】
本明細書において、「核酸」および「ポリヌクレオチド」という用語は同じ意味で使用され、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、リン酸ジエステル結合または修飾された結合で構成された核酸を指す。修飾された結合としては、例えば、リン酸トリエステル結合、ホスホロアミダート結合、シロキサン結合、カーボネート結合、カルボキシメチルエステル結合、アセトアミダート結合、カーバメート結合、チオエーテル結合、架橋ホスホロアミダート結合、架橋メチレンホスホネート結合、架橋ホスホロアミダート結合、架橋ホスホロアミダート結合、架橋メチレンホスホネート結合、ホスホロチオエート結合、メチルホスホネート結合、ホスホロジチオエート結合、架橋ホスホロチオエート結合および/もしくはスルホン結合、またはこれらの組み合わせが挙げられる。また、「核酸」および「ポリヌクレオチド」という用語は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、より具体的には、生体内に見られる5種の塩基(アデニン、グアニン、チミン、シトシンおよびウラシル)以外の塩基からなる核酸も含む。
【0067】
本明細書において、「抗体」という用語は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、全長抗体およびその抗原結合断片(すなわち「抗原結合部分」)または一本鎖抗体を含む。また、「抗体」は、ジスルフィド結合によって相互連結された少なくとも2本の重鎖(H)と2本の軽鎖(L)とを含む糖タンパク質、またはその抗原結合部分を指す。それぞれの重鎖は、重鎖可変領域(本明細書においてVHと略す)と重鎖定常領域とで構成されている。重鎖定常領域は、CH1、CH2およびCH3の3つのドメインで構成されている。それぞれの軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書においてVLと略す)と軽鎖定常領域とで構成されている。軽鎖定常領域は、CLと呼ばれる1つのドメインで構成されている。VH領域およびVL領域は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域にさらに区分することができ、超可変領域と超可変領域の間にはフレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存性の高い領域が点在している。各VH領域およびVL領域は、3つのCDRと4つのFRから構成されており、これらはアミノ末端からカルボキシ末端の方向に、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順で配置されている。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。
【0068】
本明細書において、「CDR3」という用語は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、第3の相補性決定領域(CDR)を指す。この定義に関して、CDRは、抗原と直接接触する領域であり、可変領域の中でも特に大きな変化を受け、超可変領域とも呼ばれる。軽鎖および重鎖の各可変領域は、3つのCDR(CDR1~CDR3)と、これらを取り囲む4つのFR(FR1~FR4)とを有する。CDR3領域は、V領域、D領域およびJ領域のすべてに存在すると考えられていることから、CDR3領域は可変領域の重要な構成要素であると考えられ、したがって、解析の対象として使用される。本明細書において、「CDR3の前のリファレンスV領域」は、本開示において標的とするCDR3の前にあるV領域に相当する配列を指す。本明細書において、「CDR3の後ろのリファレンスJ領域」は、本開示において標的とするCDR3の後ろにあるJ領域に相当する配列を指す。
【0069】
本明細書において、抗体の「抗原結合部分」(または単に「抗体部分」)という用語は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、抗原(例えば、PD-1、PD-L1および/またはPD-L2)に特異的に結合する能力を保持する1つ以上の抗体断片を指す。全長抗体に由来する断片は、その抗体の抗原結合能を発揮しうることが示されている。抗体の「抗原結合部分」に包含される結合断片の例として、
(i)Fab断片(VHドメイン、VLドメイン、CLドメインおよびCH1ドメインからなる1価の断片);
(ii)F(ab’)2断片(ヒンジ領域のジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含む二価の断片);
(iii)VHドメインおよびCH1ドメインからなるFd断片;
(iv)抗体の片方の腕のVHドメインおよびVLドメインからなるFv断片;
(v)VHドメインからなるdAb断片;ならびに
(vi)単離された相補性決定領域(CDR);または
(vii)合成リンカーによって連結されていてもよい単離された2つ以上のCDRの組み合わせ
が挙げられる。
【0070】
本明細書において、「バリアント」という用語は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、基準配列としてのポリヌクレオチド(またはポリペプチド)と実質的に類似した配列を有するポリヌクレオチド(またはポリペプチド)を指す。ポリヌクレオチドの場合、バリアントは、基準配列としてのポリヌクレオチドと比較して、5’末端、3’末端および/または配列内の1つ以上の位置に1つ以上のヌクレオチドの欠失、置換、付加を有しうるポリヌクレオチドである。バリアントと基準配列であるポリヌクレオチドの間での配列の類似性および/または相違性は、当技術分野で知られている慣用の技術、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)およびハイブリダイゼーション技術を用いて検出することができる。また、ポリヌクレオチドのバリアントには、例えば、部位特異的変異導入により作製されたポリヌクレオチドなどの、合成的に作製されたポリヌクレオチドも包含される。一般に、DNA(ただしこれに限定されない)などのポリヌクレオチドのバリアントと基準配列であるポリヌクレオチドとの配列同一性は、当業者に公知の配列アラインメントプログラムで決定した場合、少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上であってもよい。また、ポリペプチドの場合、バリアントは、基準配列としてのポリペプチドと比較して、1つ以上のアミノ酸の欠失、置換、付加を有していてもよい。バリアントと基準配列であるポリペプチドの間での配列の類似性および/または相違性は、当技術分野で知られている慣用の技術、例えば、ウエスタンブロットを用いて検出することができる。一般に、ポリペプチドのバリアントと基準配列であるポリペプチドとの配列同一性は、当業者に公知の配列アラインメントプログラムで決定した場合、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上であってもよい。
【0071】
本明細書において、「プロファイル」という用語は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、腫瘍、腫瘍細胞および/またはがんに関連した示差的特徴または示差的特性を示すデータセットを含む。さらに、「プロファイル」という用語は、1つ以上の遺伝子マーカーを解析する「核酸プロファイル」、1つ以上の生化学的マーカーまたは血清学的マーカーを解析する「タンパク質プロファイル」、およびこれらの組み合わせを包含する。核酸プロファイルの例として、遺伝子型プロファイル、遺伝子コピー数プロファイル、遺伝子発現プロファイル、DNAメチル化プロファイル、およびこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。タンパク質プロファイルの例として、タンパク質発現プロファイル、タンパク質活性化プロファイル、およびこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、「遺伝子型プロファイル」は、腫瘍、腫瘍細胞および/またはがんに関連した1つ以上の遺伝子の遺伝子型を示す遺伝子型データセットを含む。同様に、「遺伝子コピー数プロファイル」は、腫瘍、腫瘍細胞および/またはがんに関連した1つ以上の遺伝子の増幅を示す遺伝子コピー数データセットを含む。同様に、「遺伝子発現プロファイル」は、腫瘍、腫瘍細胞および/またはがんに関連した1つ以上の遺伝子のmRNA量を示す遺伝子発現データセットを含む。さらに、「DNAメチル化プロファイル」は、腫瘍、腫瘍細胞および/またはがんに関連した1つ以上の遺伝子のDNAメチル化レベル(例えばメチル化状態)を示すメチル化データセットを含む。さらに、「タンパク質発現プロファイル」は、腫瘍、腫瘍細胞および/またはがんに関連した1つ以上のタンパク質量を示すタンパク質発現データセットを含む。さらに、「タンパク質活性化プロファイル」は、腫瘍、腫瘍細胞および/またはがんに関連した1つ以上のタンパク質の活性化(例えばリン酸化状態)を示すデータセットを含む。
【0072】
本明細書において、「可変領域レパトア」は、何らかの方法を介してTCRまたはBCRの遺伝子再構成により形成されたV(D)J領域の集団を指す。「TCRレパトア」や「BCRレパトア」といった用語も使用され、これらは、場合によっては、例えば、「T細胞レパトア」や「B細胞レパトア」などと呼ばれることもある。例えば、「T細胞レパトア」は、抗原認識において重要な役割を果たすT細胞受容体(TCR)の発現を特徴とするリンパ球集団を指す。T細胞レパトアの変化は、特定の生理学的状態および病態において免疫状態を示す重要な指標となる。本明細書で提供される実施形態のいくつかにおいて、レパトアの決定には、T細胞の免疫レパトアの決定、B細胞レパトアの決定、血中循環核酸レパトアの決定、TCRレパトアの決定、および/または抗体レパトアの決定が含まれていてもよい。
【0073】
「同定」という用語は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、目的の最終産物の存在、不在、同一性、品質および/または量を評価、測定または確認することを指す。例えば、再構成された適応免疫応答遺伝子を同定することは、試料中の適応免疫応答遺伝子の存在および/またはその量を決定することを指してもよく、適応免疫応答遺伝子の同一性を決定することを含んでいてもよい。
【0074】
「試料」という用語は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、対象から得られたあらゆる生体試料を含む。試料として、生体液、全血、末梢血、血漿、血清、赤血球、白血球(例えば末梢血単核細胞)、唾液、尿、便、汗、涙液、膣分泌物、乳頭吸引液、羊水、母乳、精液、胆汁、粘液、喀痰、嘔吐物、リンパ液、細針吸引液、脳脊髄液、バフィーコートからの単離物、房水、硝子体液、蝸牛液、その他の体液、骨髄、組織試料、腫瘍組織、腫瘍組織の近傍の領域、臓器組織、末梢組織、および/またはそれらからの細胞抽出物が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、試料は、全血またはその画分(血漿、血清または細胞ペレットなど)である。
【0075】
II.T細胞
T細胞はそれぞれ固有のT細胞受容体(TCR)を持つ。TCRは、細胞表面上にあるタンパク質二量体である。TCRは、血中循環T細胞の場合はα鎖とβ鎖からなり、腸管に存在するT細胞の場合はγ鎖とδ鎖からなる(発達の過程で発現されるタンパク質鎖にはさらに別の種類のものもある)。図1は、T細胞の発達過程で見られるTCR遺伝子の成熟を示す。T細胞は、感染症および潜在的がん細胞を撃退する獲得免疫系の一部を構成する。腫瘍に対抗するためにT細胞を活性化させる治療法は、高い将来性が期待されている。一方、B細胞は、抗体を産生することにより、適応免疫応答の別の主要な部隊として活動する。B細胞のレパトアに関する知見が非常に有益な臨床応用も数多く存在する。α鎖とβ鎖からなるTCRを有するT細胞は、生体を循環しており、がん細胞および腸管以外の感染症の撃退を担っており、腫瘍学に関連している。
【0076】
免疫レパトアのプロファイル解析には、少なくとも2つの目標がある。第1の目標は、TCRに固有の配列を決定することである。CDR3領域は、個々のT細胞に固有の認識特異性を与えるタンパク質セグメントである。V領域とJ領域が結合することにより、CDR3のコード配列が形成される。V領域とJ領域の間に短いD領域が存在することがある。V領域とJ領域の間を連結するこのD領域は、設計時にエラーが起きやすいため、これらのセグメントが融合する際にランダムなDNA塩基が意図的に挿入される。このランダムな塩基の挿入によりTCRの多様性がさらに増す。いくつかの実施形態では、本明細書で提供される方法により、様々なT細胞のV-J領域のDNA配列を決定することができる。
【0077】
第2の目標は、T細胞クローンを計数することである。感染症が起こると、侵入物に対して効果的な特定のT細胞クローンが増殖する(このT細胞クローンはTCRにより定義される)。各クローンの数を計数することによって、たとえこれらのクローンが同じTCRを有している場合であっても、TCRのプロファイルを提供することができる。
【0078】
T細胞を含む全血試料などの試料からゲノムDNAを単離する場合、例えば、DNA分子タグを各ゲノム断片に付加してからゲノムDNAの増幅を行う。このようにすれば、各TCR遺伝子が固有のタグを有することができる。たとえTCR配列が同じであっても、タグを付加することによって、異なるT細胞に由来するクローンと、同じ細胞から複製されたクローンとを区別することができる。
【0079】
通常、すべてのV領域セグメントおよびJ領域セグメントは、これらのセグメントの間に位置する長いゲノム配列によって互いに隔てられている。TCR遺伝子や抗体をコードする遺伝子などの適応免疫応答遺伝子においてのみ、V領域配列とJ領域配列が隣接した位置に配置される。同じ断片上にV領域とJ領域を有する短いゲノム断片を選択することによって、機能性TCR遺伝子を濃縮することができる。短いゲノム断片は、約400塩基対未満の断片であってもよく、例えば、400塩基対未満、350塩基対未満、300塩基対未満、250塩基対未満、200塩基対未満、150塩基対未満、100塩基対未満、90塩基対未満、80塩基対未満、70塩基対未満、60塩基対未満、50塩基対未満、もしくは40塩基対未満の断片、またはこれらの数値のいずれか2つを上下限とする範囲内の長さの断片であってもよい。機能性TCR遺伝子の濃縮は、J領域に特異的なプローブを使用することによりすべてのJ領域を回収する連続ハイブリダイゼーション法により行われる。回収される配列の大部分は、再構成されていない生殖細胞系のJセグメントであってもよい。このJ領域が濃縮されたクローンプールを増幅し、次に、V領域に特異的なプローブを使用して、V領域を含む断片を最初の捕捉工程で得たJプールから回収する。
【0080】
図11は、生殖細胞系ゲノムと再構成されたT細胞ゲノムの違いを示す。T細胞はそれぞれT細胞受容体(TCR)を持つ。各TCRは2つの鎖すなわちα鎖とβ鎖を有していてもよい。これらの2つの鎖は、類似したプロセスにより産生される。具体的には、多数のV領域セグメントのうちの1つが、多数のJ領域セグメントのうちの1つに結合され、これらの2つのセグメントの間に約15残基のランダムなアミノ酸配列(約45塩基のランダムなコード配列)が付加される。Vセグメントとランダムな配列とJセグメントからなるコード領域は、CDR3領域と呼ばれることが多い。固有のCDR3配列を計数することによって、個々のT細胞を計数してもよい。
【0081】
III.標的ハイブリッドキャプチャー法を使用したTCRの濃縮
本明細書で提供される実施形態のいくつかは、標的ハイブリッドキャプチャー法を用いてTCRを濃縮する方法およびそのためのシステムに関する。図3は、標的ハイブリッドキャプチャー法を用いてTCRの濃縮を行う一実施形態の模式図を示す。いくつかの実施形態において、以下の工程が含まれていてもよい。
【0082】
1.試料からのゲノムDNAの抽出。試料は、腫瘍組織、腫瘍組織の近傍の領域、臓器組織、末梢組織、リンパ液、尿、脳脊髄液、バフィーコートからの単離物、全血、末梢血、骨髄、羊水、母乳、血漿、血清、房水、硝子体液、蝸牛液、唾液、便、汗、膣分泌物、精液、胆汁、涙液、粘液、喀痰もしくは嘔吐物、またはT細胞を含むと考えられるその他の検体から得られる。ゲノムDNAは、例えば、塩析法、有機抽出法、塩化セシウム密度勾配法、陰イオン交換法、シリカを用いた方法などの、当技術分野で公知の方法により抽出する(Green, M.R. and Sambrook J., 2012, Molecular Cloning (4th ed.), Cold Spring Harbor, NY: Cold Spring Harbor Laboratory Press)。
【0083】
2.平均で約300bpまたは300bpへのゲノムDNAの断片化とそれに続く末端修復。再構成されていないゲノムでは、通常、V領域とJ領域は長い距離(>1000bp)を隔てて離れており、再構成されたTCR遺伝子においてのみ、隣接した位置(<100bp)に移動することから、前述のサイズへの断片化を行った後に、断片がJ領域とV領域の両方を有していなければならないという要求が満たされることによって、TCRをコードする遺伝子が高度に濃縮される。断片化は、例えば、せん断、超音波破砕、酵素による消化(制限消化を含む)、もしくはその他の方法、またはこれらの方法の組み合わせなどの、標準的な断片化技術により行うことができる。特定の実施形態において、当技術分野で公知のDNA断片化方法であればどのような方法であっても本開示で使用することができる。
【0084】
3.図4に示すように、断片化したDNAを変性してから、タグが付加されたJ領域特異的プローブにアニールさせる。各J領域プローブには固有の分子IDタグが含まれている。これにより、J領域プローブにハイブリダイズした各断片に固有のマーカーが付加される。J配列を含む多数のゲノム領域が存在するが、その大部分は、再構成されていないJセグメントである(図12A)。ゲノム断片内においてJ領域は様々な位置に存在する。これらのJ領域のごく一部が、T細胞において再構成されたJ配列である。すべてのJ領域がJ領域プローブにアニールされる(表1参照)。すべてのJ領域プローブはタグ配列を有する。このタグ配列は、下流の工程のバイオインフォマティクス解析においてT細胞の計数に使用されるため重要である。同じタグを含む同一のシーケンスリードは、同じT細胞に由来する複製クローンであると推定される。異なるタグを含むが同じV-CDR3-J領域配列を有するシーケンスリードは、別のT細胞クローンに由来すると推定される。T細胞は侵襲に応答して増殖するため、全く同じV-CDR3-J配列を有するT細胞が複数存在することも多い。プライマーを伸長することによって、捕捉されたすべてのJ領域のタグ付きの複製物が得られる。J領域プローブが最初に使用されるため、このJ領域プローブのタグ(例えば、単純なNNNNテトラマー配列)が、TCRを識別するための固有の分子識別子として機能する。
【0085】
J領域プローブの全長は89ntであってもよい。J領域プローブは、ビオチンで標識されたオリゴ588(例えば配列番号232)に相補的な45ntのテールを含んでいてもよい。このテールの後ろには4ntのランダムな配列(NNNN)が続いてもよい。さらに特定された配列や長い配列を使用してもよい。テールとその後ろに続くランダムな配列を除いた40ntのJ領域プローブ配列は、Fをコードする保存されたトリプレットコドンのすぐ後ろに続く(Fをコードするトリプレットを含む)Jコード領域の様々な組み合わせであってもよい。しかしながら、Jコード領域は短いため、J領域プローブは、Jコード領域の3’末端のみに見られるゲノム配列も含んでいる。
【0086】
J領域プローブは、ビオチンで標識された相補的配列(例えば、Jプローブ相補鎖588、GGTAGTGTAGACTTAAGCGGCTATAGGGACTGGTCATCGTCATCG/3BioTEG/(配列番号232)、表3)にアニールされるテール配列を有していてもよい。このビオチン部分を利用して、ストレプトアビジンでコーティングされた磁気ビーズにプローブ:ゲノムDNA複合体を結合させることによって精製を行う。
【0087】
TCRのJ領域プローブ(図9の右側)は、45ヌクレオチド長のテール配列を含み、その後ろにランダムなヌクレオチド配列からなるタグが続き(例えばNNNN)、その後ろにJ領域プローブ配列が続く。ここでNは、A、T、CまたはGである。このタグは、2~10ヌクレオチド長であってもよく、例えば、2ヌクレオチド長、3ヌクレオチド長、4ヌクレオチド長、5ヌクレオチド長、6ヌクレオチド長、7ヌクレオチド長、8ヌクレオチド長、9ヌクレオチド長または10ヌクレオチド長であってもよい。このJ領域プローブを表1に示す。


【表1】
【0088】
4.図5に示すように、J領域を含むゲノム断片をJ捕捉プローブにアニールした後、ストレプトアビジンでコーティングされた磁気ビーズに結合させ、磁気捕捉により精製する。アーチファクトとして生じた部分的にアニールした二本鎖を洗浄工程で除去した後、約7.5%のポリエチレングリコール8000MW(PEG8000)を含む溶液中でT4 DNAポリメラーゼとT4遺伝子32タンパク質を使用して、捕捉したゲノム領域に沿ってJ領域プローブを伸長させる。これにより平滑末端が得られ、これを利用して次の工程で平滑末端クローニングを行う。この伸長工程の偶発的な特徴の1つとして、プライマーを伸長させるための反応条件が、図6に詳述するライゲーション工程でも最適であった。J領域プローブのプライマー伸長は多少なりとも通常のものとは異なっている。このJ領域プローブの伸長は、プライマー伸長鎖と複製されたゲノム鎖の間で完全な平滑末端を形成させることを目的としている(もう一方の末端も、恐らくは充填されて平滑末端が形成される)。T4 DNAポリメラーゼは、平滑末端の形成に優れているが、実際には、単独ではその作用は非常に弱い。T4遺伝子32タンパク質と7.5%の分子クラウディング剤(PEG8000)を添加することによって、DNAポリメラーゼが1回の結合あたりに合成できるヌクレオチドの数を「見かけ上」大幅に向上させることができる(Jarvis TC, Ring DM, Daube SS, and von Hippel PH. Macromolecular crowding: thermodynamic consequences for protein-protein interactions within the T4 DNA replication complex. J Biol Chem. 1990 Sep 5;265(25):15160-7(この文献は引用によりその全体が本明細書に明示的に援用される))。
【0089】
5.J領域クローンに増幅セグメントがライゲートされ、次にPCRで増幅される(図6および図12B)。濃縮したJ領域を増幅させるため、伸長したJ領域に、特異的な増幅アダプターをライゲートする。増幅アダプターは、2本のオリゴヌクレオチドからなる二本鎖である。この2本のオリゴヌクレオチドのうち、伸長したJ領域に結合されるのは、リン酸化されたライゲーション鎖オリゴ597(/5Phos/GGTAGTGTAGACTTAAGCGGCTATAGG(配列番号234))である。オリゴ597は、パートナー鎖であるオリゴ596(CCGCTTAAGTCTACACTAC/3ddC/(配列番号233))に結合して二本鎖を形成する。オリゴ596の3’末端はブロックされていることから、ライゲーション反応性を持たない。増幅アダプターがライゲートされると、捕捉(かつ複製)されたJ領域は、両末端に所定の配列を持つことになる。さらに、これらの末端配列は、全く同じ配列を有する逆方向反復配列であることから、単一のプライマー(ACC4_27、オリゴ489、CCTATAGCCGCTTAAGTCTACACTACC(配列番号228))でこれらの末端配列を増幅することができる。このプロトコルを実施するにあたっては、この工程において単一のプライマーを使用して増幅を行うことが重要である。この理由として、T4ポリメラーゼで修飾され「ペイロードとしてのゲノム」を含まないプローブに増幅アダプターが直接ライゲートしたアーチファクトを排除できることがある。さらに、この増幅工程では、十分に濃縮されたJ領域ゲノム材料を得ることができ、実際に、次のV領域プローブのアニーリング工程にそのまま使用することができる。何らかの理論に拘束されることを望むものではないが、ハイブリダイズされたすべてのJセグメントを回収して、次のV領域プローブのハイブリダイゼーション工程に直接使用することが可能だと考えられる。したがって、この増幅工程は「任意」で行われる。実際に、増幅アダプターに一時的にライゲートし(真のV-CDR3-Jクローンでは除去されるため、一時的にライゲートされる)、10サイクル増幅することによって、TCRクローンの収率を大幅に向上させることができる。
【0090】
6.図7に示すように、Jクローンプールを変性してから、V領域に特異的なプローブとハイブリダイズさせる(Jクローンの大部分は、付随するV領域を持っていない(図12Cおよび図12Dを参照されたい))。
【0091】
V領域プローブの全長は101ntであってもよい(図9の左側)。左側から右側に見て、V領域プローブは、ビオチンで標識されたオリゴヌクレオチドに相補的な47ntの「テール」配列を含んでいてもよい。このビオチンは精製に利用される。テール配列の後ろには4ntのタグが続いてもよい。この後ろに続く10ntの配列は、効率的にシーケンスを行うためのスペーサー配列であってもよい。3’末端の40ntの配列は、C残基をコードするトリプレット領域まで延びるV領域ゲノム配列である。
【0092】
TCRのV領域プローブは、45ヌクレオチド長のテール配列を含み、その後ろにランダムなヌクレオチド配列からなるタグが続き(例えばNNNN)、その後ろにJ領域プローブ配列が続く。ここでNは、A、T、CまたはGである。このタグは、2~10ヌクレオチド長であってもよく、例えば、2ヌクレオチド長、3ヌクレオチド長、4ヌクレオチド長、5ヌクレオチド長、6ヌクレオチド長、7ヌクレオチド長、8ヌクレオチド長、9ヌクレオチド長または10ヌクレオチド長であってもよい。このV領域プローブを以下の表に示す。


【表2】
【0093】
7.アニールされたV領域プローブを伸長する。この複製により得られた複製物が実際にシーケンスされるものとなり、V領域プローブに特異的なプライマーとJ領域プローブに特異的なプライマーによる増幅を行った後にシーケンスが行われる。一時的な増幅アダプターは除去される。
【0094】
8.図8A~8Cに示すように、V-J領域を含むTCRクローンを増幅させ、シーケンスを行う。いくつかの実施形態において、イルミナ社のシーケンサーを使用してペアエンドシーケンスを行ってもよく、このペアエンドシーケンスは、長い第1のリードと短い第2のリードで構成されていてもよい。これらを合わせたデータから、V-CDR3-J配列(である可能性のある配列)(リード1)とJ領域プローブに由来する固有の分子IDタグ(リード2)が得られる。
【0095】
まず、イルミナ社のシーケンスに必要な配列と、複数の試料を同時に分析するための「インデックス」とを各試料に付加することができるプライマーを使用してクローンを増幅する。インデックスは、各試料に固有のプライマー対で各試料を増幅することによって付加することができる。クローンを増幅した後、特異的なシーケンスプライマーを使用した3つの工程でシーケンスを行う。1つのPCRプライマー(CAC3 FLFP、オリゴ568、AATGATACGGCGACCACCGAGATCTACACGTGACTGGCACGGGAGTTGATCCTGGTTTTCAC(配列番号229))は、すべての試料において共通して使用される。その他のプライマー(オリゴ607~638(配列番号236~267)から選択される)は試料ごとに固有であり、それぞれの「インデックス」を付加することによって、個々の試料に目印を付けることができる。図8A~8Cにおいて、FLFPはフォワードプライマーの全長であり、HTはハイスループットを意味し、FSPはフォワードシーケンシングプライマーであり、ISPはインデックス付きシーケンシングプライマーであり、RSPはリバースシーケンシングプライマーである。


【表3】
【0096】
図13Aは各リードの構成要素を示し、図13Bは実際に観察された配列出力を示す。観察された配列の大部分は、プローブに由来する。左側から右側に見て、リード1の最初の4個の塩基は、NNNNタグである。次の10個の塩基は、シーケンスランの初期に塩基のバランスを取るための人工スペーサー配列であり、V領域プローブに固有のタグである。次の40個の塩基は、実際のV領域プローブ配列である。次の塩基鎖(平均で45ntだが、3で割り切れる長さで大幅に変動する)は、TCRゲノムの再構成過程で挿入されたCDR3配列のコアである。次の40個の塩基は、J領域プローブの逆相補鎖である。最後の塩基配列は、4塩基のUMIコードと(許容できる長さの)ベクター配列の逆相補鎖である。リード2の最初の4個の塩基はUMIコードであり、その後ろに20塩基のJ領域プローブ配列が続く。
【0097】
9.次に、シーケンスしたクローンのインフォマティクス解析を行う。得られたシーケンスデータには、T細胞レパトアの情報が埋め込まれている。この場合の「レパトア」は、観察されたすべてのV-CDR3-J配列の定量値を意味する。IDタグを付加することにより、同じTCRを有する別のT細胞を2つの異なる事象として計数することが可能となる。これは、免疫応答を評価する場合、例えば、免疫療法によって刺激される腫瘍指向性のT細胞応答を評価する際に重要である。
【0098】
1つの試料から得られるT細胞レパトア全体のデータは非常に大きい。例えば、1μgの全血DNA中には、約5000個の様々なTCRα鎖配列と約5000個の様々なTCRβ鎖配列が含まれうる。また、1μgのヒトゲノムDNA中には、約167,000個の二倍体ゲノムが含まれ、ゲノムの約5%はT細胞に由来することから、1つの分析試料につき約8000個の固有のT細胞(固有のTCRα鎖と固有のTCRβ鎖)が計数されると予想される。全く同一の配列が複数回観察されることが多々あるが、シーケンス後解析の一機能を利用することにより、これらの配列を1つの固有のコンセンサスTCRに集約することができる。
【0099】
図10は、データ解析の代表的な一実施形態を示し、複雑なデータセットを表示するための一方法を示している。各TCRα鎖は、45種のα鎖V領域のうち1つと、形成されうる54種のα鎖J領域のうち1つとを組み合わせることによって構成されている。図10のヒートマップは、(45×54=)2430通りのV領域とJ領域の可能な組み合わせのそれぞれにプロットされたクローンの数を示す。各ピクセルの濃淡は、可能な組み合わせのそれぞれにおいて独立して観察されたTCRの数を反映しており、色が濃いほどTCRの数が少なく、色が薄いほどTCRの数が多いことを示している。各ピクセルにプロットされたすべてのTCRの完全な配列を取り出すことができる。
【0100】
いくつかの実施形態において、数週間の間隔で回収されたヒト試料間において同一のデータ解析結果(TCRのヒートマップなど)が得られてもよい。したがって、いくつかの実施形態において、T細胞レパトアは経時的に適度に安定している。T細胞レパトアは、感染症または疾患に応答して劇的に変化することがあり、また、がん患者の免疫チェックポイント遮断療法に応答して劇的に変化することもある。さらに、いくつかの実施形態において、ヒートマップは各個体間で異なる。
【0101】
TCR解析は、計数を主な目的としている。真の配列はそれぞれ固有のT細胞に由来するものであり、最終的に得られる結果は、全血ゲノムDNA 1μg中に含まれるすべてのT細胞を計数したものである。
【0102】
各α鎖は、形成されうる45種のV領域と形成されうる54種のJ領域を組み合わせたペア(合計で2430通りの組み合わせが可能)に由来することから、特定のV領域と特定のJ領域とが結合した個々のα鎖クローンの数を図表形式にまとめたものに基づいて細胞集団を分類することができ、これを元にT細胞集団の全体像を実用的に把握することができる。同様に、各β鎖は、形成されうる45種のV領域と形成されうる12種のJ領域(合計540通りの組み合わせが可能)に由来することから、図表形式にまとめることにより容易に視覚化することができる。
【0103】
T細胞集団の計数を目的とする場合、少なくとも以下の4つの要素を考慮に入れてもよい。
1)J領域プローブのUMI配列-リード2の最初の4塩基
2)J領域プローブ配列-リード2の最後の20塩基(この20塩基の配列が固有のものではないこともあるため、2つまたは3つのα鎖配列を一緒に集約する。)
3)V領域プローブ配列-リード1の5~14番目の塩基(各V領域プローブに固有のタグを付加する識別子である。)
4)CDR3配列(例えば、リード1の60~69番目の塩基)
【0104】
さらに、得られるデータには少なくとも以下の2種類のアーチファクトが存在しうる。
1)プローブ同士の相互作用により形成されたクローン。これらのクローンから形成されたリードは短く、ベクターの末端配列(例えば、GCCGTCTTCTGCTTG(配列番号268))またはJ領域プローブのACC4プライマー配列(例えば、GGTAGTGTAGACTTA(配列番号269))を有しうる。このアーチファクトによって、計数すべきでないクローンの数が増加する。
2)一塩基の読み取りエラーによるクローンの喪失。本明細書で述べる分類システムは、読み取りエラーのない30塩基(J領域の20塩基とV領域の10塩基)をクローンとして計数するものであってもよい。ミスマッチに寛容な解析では、現在の計数要件では除外されているクローンの数も計数に含まれるため、計数されるクローンの数が増加しうる。
【0105】
別のアーチファクトは、配列を捕捉していない大量のプローブにより発生しうる。T4 DNAポリメラーゼは、3’→5’エキソヌクレアーゼ活性を有することから、これらのプローブ分子に平滑末端を形成することができ、形成された平滑末端が、P1アダプター配列のライゲーション基質となる(図14)。この形成された短い「オリゴダイマー」産物は、何も処置を講じなければ、この後のPCR反応を圧倒してしまう。このようなアーチファクトを回避するため、いくつかの実施形態では、P1アダプターに25ntのP2セグメントを導入する抑制PCR設計を採用する。このP2セグメントを使用して抑制PCR法による増幅を行った後、P1またはP2に特異的にフォワードプライマーおよびリバースプライマーを伸長させることによって、インデックス配列を付加し、かつフローセルに適合した伸長を行ってもよい。
【実施例
【0106】
以下の実施例において、さらなる実施形態をさらに詳細に開示するが、以下の実施例は請求項の範囲を何ら限定するものではない。
【0107】
実施例1
ライブラリーを使用しない標的ゲノム解析
様々な供給源から回収したゲノムDNA試料を、Oragene唾液採取キットで精製した。抑制PCR法による後処理、全長の増幅またはシーケンスを行うことができるオリゴヌクレオチドを図15に示す。抑制PCR法による後処理、全長の増幅またはシーケンスを行うことができるこれらのオリゴヌクレオチドには、アダプターのパートナー鎖(配列番号1)、アダプターのライゲーション鎖(配列番号2)、インデックス1付きシーケンスプライマー(配列番号3)、ライブラリーを使用しないフォワードシーケンスプライマー(配列番号4)、後処理用増幅プライマー(配列番号5)、ライブラリーを使用しない増幅フォワードプライマー(配列番号6)、インデックスN701付きリバースプライマー(配列番号7)、インデックスN702付きリバースプライマー(配列番号8)、インデックスN703付きリバースプライマー(配列番号9)、およびインデックスN703付きリバースプライマー(配列番号10)が含まれていた。この研究においてシーケンスした試料を表4に示す。
【表4】
【0108】
使用したプローブを図16に示し、配列番号11~59で示される配列で定義する。ヘキサマータグ(NNNNNNで示し、ここでNはA、T、CまたはGである)を使用することにより、それぞれに独立した捕捉事象を構築し、捕捉後の増幅工程で発生した兄弟クローンにおいて同じ部位からシーケンスを開始する。
【0109】
4つのgDNA試料(F、S、CおよびL)を20ng/μLに希釈して最終量を150μLとした。各試料を超音波処理して500bpに断片化し、断片化した試料125μLにビーズ125μLを加えて精製した。各出発材料をそのままゲル泳動した結果、および各出発試料を断片化し、精製したgDNA試料をゲル泳動した結果を図17に示す。各gDNAの濃度は、137ng/μL(試料F)、129ng/μL(試料S)、153ng/μL(試料C)および124ng/μL(試料L)であった。
【0110】
捕捉を行うため、各gDNA試料10μLを98℃で2分間加熱して(DNA鎖を解離させ)、氷上で冷却した。4×結合バッファー5μLと、49種のプローブを含むタグ付きV2プローブプール5μL(図16に記載のプローブ)(1nMの各プローブと50nMのユニバーサルオリゴ61とを混合したもの)を加え、アニールさせた(98℃で2分間インキュベートした後、1℃ずつ温度を下げながら4分間ずつ連続的にインキュベートして69℃まで温度を低下させた)。形成された複合体を、TEzeroバッファー180μL中に懸濁したMyOneストレプトアビジンビーズ2μL(全量200μL)に30分間かけて結合させた後、25%ホルムアミドを含む洗浄バッファーを用いた5分間の洗浄を計4回行い、TEzeroバッファーで1回洗浄し、ビーズに結合した複合体から上清を除去した。
【0111】
後処理とアダプターのライゲーションを行うため、水60μL、NEB社の「CutSmart」バッファー10μL、50%PEG8000 15μL、10mM ATP 10μL、1mM dNTP混合物1μL、T4遺伝子32タンパク質(NEB社)1μLおよびT4 DNAポリメラーゼ(NEB社)0.5μLを含むT4ミックス100μLを調製した。このT4ミックス25μLを4つの試料のそれぞれに加え、20℃で15分間インキュベートした後、70℃で10分間インキュベートしてT4ポリメラーゼを熱不活性化した。次に、アダプター1.25μL(パートナー鎖に事前にアニールしたライゲーション鎖10μM)と、HC T4 DNAリガーゼ1.25μLを加えた。得られた混合物を22℃で30分間インキュベートし、さらに65℃で10分間インキュベートした。
【0112】
ライブラリーを使用しない本発明の技術の興味深い特徴の1つとして、複合体を後処理した後であっても、少なくとも理論上は、ビーズへの結合が維持されることがある。ライゲーションバッファーからビーズを磁気分離した後、TEzeroバッファー200μLで1回洗浄した。次に、2μLのバッファー中に複合体を再懸濁した。増幅を行うに際して、単一のプライマーを20μLの量で使用して増幅を行うことにより、標的断片の増幅と、プローブの「突出部」から延びた長いゲノム断片の濃縮とを行うという着想を取り入れた。増幅後、プライマーの全長を有する多量のPCR反応物を使用して、「直接シーケンス可能な」ライブラリーを作製する。
【0113】
水57μL、5×Q5反応バッファー20μL、単一のプライマー117(前記表を参照されたい)10μL、10mM dNTP混合物2μLおよびQ5ホットスタートポリメラーゼ1μLを混合することにより、Q5ポリメラーゼを使用して単一のプライマーから増幅を行うためのPCR増幅バッファーを調製した。PCR増幅バッファー18μLを各チューブに加え、20サイクルで増幅した(98℃で30秒;98℃で10秒、69℃で10秒、72℃で10秒を20サイクル;10℃で維持)。次に、ビーズを磁気分離して、増幅を行った上清を得た後、水163.5μL、5×Q5バッファー60μL、フォワードプライマー118(10μM)15μL、リバースプライマー119(10μM)15μM、10mM dNTP混合物6μL、EvaGreen+ROX色素混合物13.5μL(EvaGreen 1.25部とROX 1部の混合物)、およびQ5ホットスタートポリメラーゼ3μLを含むPCRミックス280μL中にこの上清20μLを移した(色素は反応の一部のみに加えた)。得られた混合物を2つに分割して100μLずつとし、従来のPCRで増幅(98℃で10秒、69℃で10秒、72℃で10秒)した後、qPCR条件下で10μLの分割試料を4連で増幅した。4つの試料すべての結果を図18の増幅プロットに示す。この増幅プロットでは、蛍光が直ちに増加するという通常とは異なる特性が観察された。このPCR反応では、PCRに通常見られる屈曲/プラトーを通過したとみられ、従来見られるPCR反応は20サイクルで停止した(現行のPCR反応では計40サイクルで停止する)。この増幅反応で得られた産物を示した2%アガロースゲルを図19Aに示す。これにより、PCR反応物を使用したライブラリーが、探索が行われるシーケンスライブラリーに実際によく似ていたという予想外の良好な結果が得られた。ビーズ精製後(図19B)のライブラリーでは、「引きずって流れたような筋」が見られたが、このライブラリーは高度に増幅されていたことから、この結果は想定内であった。
【0114】
qPCR捕捉アッセイを行うことにより、遺伝子特異的な標的が捕捉され、選択的に増幅されたかどうかを調べた。様々なアッセイを行うための標的領域を表2に示す。
【表5】
【0115】
qPCR解析では、試料Fから得た10ng/μLのゲノムDNA(2μLのゲノムDNAを8μLのPCRミックスに加えることにより、最終量を10μLとし、最終濃度を2ng/μLとした)を対照として使用した。試料Fから精製した材料と試料Sから精製した材料を0.01ng/μLすなわち10pg/μLに希釈し、各8μLのPCRミックスにそれぞれ2μLずつ加えることにより、最終濃度を2pg/μLとした。これらの条件は、捕獲反応を評価する標準的なqPCRアッセイ条件とほぼ同様である。この結果を図20に示す。
【0116】
この実験の結果、ライブラリーを出発材料として使用せずとも、有望だと考えられる多数のライブラリーがスメアとして得られた。実際に、このqPCRデータから、本発明の技術は、標的とするゲノム領域の回収に非常に効果的であり、オフターゲット領域を検出しないことが示された(アッセイ6およびアッセイ8)。500,000倍を超える精製倍率が頻繁に認められたことから、本発明の技術は、本発明者らが現在使用しているSOP技術に直接匹敵するものである。
【0117】
実施例2
増幅可能なライブラリー材料の作製
実施例1で述べた予備調査において十分に良好な結果が得られたことを踏まえて、複合体の処理における酵素の要件を調査した。表3に実験計画を示す。
【表6】
【0118】
解析用の捕捉複合体を作製するため、同一の12個の反応を構築した。前述と同様にして、超音波処理した135ng/μLのgDNA 10μLを融解し、タグ付きV2プローブにアニールし、ストレプトアビジンコーティングビーズに結合させ、洗浄し、TEzeroバッファー中に再懸濁した。水270μL、10×CutSmartバッファー50μL、10mM ATP 50μL、50%PEG8000 75μLおよび10mM dNTP混合物 5μLを混合して、処理用マスターミックス500μLを調製した。このマスターミックスを90μLずつ10個に小分けし(2連で試験した)、各酵素を前述の量で加えた(マスターミックス90μLあたり、T4遺伝子32タンパク質1μL、T4ポリメラーゼ0.5μL、アダプター5μLおよび/またはHC T4リガーゼ5μLを加えた)。前述と同様にして、T4酵素によるヌクレオチドの連結およびライゲーションを行った後、得られた複合体を、処理用マスターミックスを含まないTEzeroバッファーで洗浄し、TEzeroバッファー2μL中に再懸濁した。単一のプライマーを含む各増幅ミックスに複合体を再懸濁して最終量を20μLとし、前述と同様にして20サイクルで増幅した。次に、磁石を用いてビーズを分離し、精製した増幅産物20μLを希釈して、全長フォワードプライマーと全長リバースプライマー(プライマー118+プライマー119)を含むPCR増幅ミックス180μLを調製した。PCR増幅ミックス50μLを小分けしてqPCR解析に使用し、残りの150μLは2つに分けて従来のPCRで増幅した。50μLのqPCR試料を2.5μLの色素混合物と混合し、10μLの分割試料の蛍光の変化をモニターした。この実験の経時変化を図21に示す。増幅可能なライブラリー材料を大量に作製するには、3種すべての酵素が必要である。従来のPCRで増幅した2つの分割試料のうちの一方は、PCRの10サイクル目で回収し、もう一方はPCRの16サイクル目で回収した。これらの未精製PCR反応物を分割して(各反応につき5μL)、2%アガロースゲル上で分析した。この結果を後掲のゲルの写真に示す。増幅可能なライブラリー材料を効率的に作製するには、3種すべての酵素が必要であるという顕著な結果が得られた。また、それほど顕著ではなかったが、3種すべての酵素を使用し、10サイクル目で回収した試料のサイズ分布が、ポリメラーゼ(P)+リガーゼ(L)のみを使用し、16サイクル目で回収した試料のサイズ分布よりも有意に大きいという結果も得られた。この結果は、T4遺伝子32タンパク質が、その二次構造を介して、1回の結合あたりに合成できるヌクレオチドの数を増加させ、かつ複製を補助していることが示唆された研究の結果と一致する。さらに、ポリメラーゼ(P)+リガーゼ(L)の反応またはリガーゼ(L)のみの反応では、非常に抑制的なPCR法を20サイクル経ていることから、プライマーとアダプターからなるダイマーがはっきりと確認されたことも、顕著な結果の1つである。「プライマーダイマー」の存在が観察されたことから、ポリメラーゼ(P)+リガーゼ(L)(T4遺伝子32タンパク質を含まない)により得られたPCR産物の大部分がダイマーであり、複製されたゲノムクローンではないことが示唆される。予備調査でのqPCR解析の結果と、これらのデータを合わせると、分子クラウディング剤であるPEG8000の存在下において(PEG8000の寄与は評価していない)、T4 DNAポリメラーゼとT4遺伝子32タンパク質を併用すると、捕捉プローブ上に捕捉されたゲノム材料を効率的に複製することができることが分かった。
【0119】
実施例3
ライブラリーを使用しないシーケンスライブラリーの作製
実施例1および実施例2で述べた方法を使用して、Coriell医学研究所から入手した4つの試料からDNAシーケンスライブラリーを作製した。最終的なPCR工程において、4つの試料のそれぞれに個別のインデックスコードを付加してコード化した。このようなライブラリーの作製の顕著な特徴として、ライブラリーを使用しない方法を採用する場合、収集した試料のすべてを個別に処理することが必要であるが、このような方法は望ましいものではない。最終的なライブラリーの構成成分(プール前のものを別々に示す)を図23のゲルの写真に示す。「一般的な」ライブラリーでは、通常、175bp以上からスメアが延びる。このゲルの写真において、最も小さな断片は300bpを超えている。同様に、最も大きな断片も750bp以上だと見られる。大きな断片を使用すると、最適なライブラリーは得られない。これらの試料をいずれも、各試料に対して80%の比率のビーズを使用して2回精製した。これらの試料をプールして、16.9ng/μLすなわち約65nMのプールを作製した。平均インサートサイズは400bpと推定された。プールしたこれらの試料をシーケンスした。
【0120】
コピー数多型(CNV)解析を行ったところ、ライブラリーを使用しない本発明の方法は良好に機能したことが示された。X連鎖性のPLP1遺伝子として判定された固有のリードカウントを、常染色体のKRAS遺伝子座およびMYC遺伝子座に対して標準化した。このデータのプロットを図24に示す。このデータから、ライブラリーを使用しない操作において、絶対コピー数が変化していることが示された(MYCに対するKRASの「コピー数」が一定でない)。一方で、相対的なコピー数(常染色体対照に対するPLP1遺伝子の相対的な変化)が明確に検出された。また、シーケンス結果から、プローブに対する読み取り開始点に関連した顕著な特徴が示された。
【0121】
図25は、プローブから検出されたリードが900bpにも達することを示す。X軸の座標1100~1300において、すべての開始点が複数回使用されている。これらのデータから、あらゆる塩基位置において読み取りが開始され、ライゲーションバイアスやプロセシングバイアスがほとんどないことが示された。さらに、100bp以下のプローブにおいて読み取りを開始したリードもほとんど存在せず、ゲル上で非常に大きいサイズ分布のライブラリーが観察されたことと一致していた。
【0122】
実施例4
ゲノムDNAのプロファイル解析
以下の実施例では、1μgのゲノムDNAのプロファイル解析について実証する。このゲノムDNAは、全血細胞、バフィーコート、末梢血単核細胞、または本明細書で述べるその他の試料もしくは組織から単離されたものであってもよい。実際に、このような試料はいずれも、α鎖とβ鎖からなるTCRを持つT細胞を含む有核白血球の供給源として類似したものである。このプロトコルで述べる各工程を図3~9に示す。
【0123】
本実施例で使用するアダプターは、オリゴ596(J領域プローブのパートナー鎖、CCGCTTAAGTCTACACTAC/3ddC/(配列番号233))とオリゴ597(J領域プローブのライゲーション鎖、/5Phos/GGTAGTGTAGACTTAAGCGGCTATAGG(配列番号234))で構成されている。25mMのNaClを含むTEzeroバッファー160μL中で各オリゴ20μLを混合して最終濃度が10μMの二本鎖を作製した。
【0124】
この実験のPCRプライマーとして、オリゴ489(ACC4_27、CCTATAGCCGCTTAAGTCTACACTACC(配列番号228))を使用した。オリゴ489 50μLをTEzeroバッファー450μLと混合して10μMのPCRプライマーを得た。
【0125】
以下のオリゴヌクレオチドも使用した。
・V領域へのハイブリダイゼーション後に使用するPCRプライマー568(配列番号229)
・フォワードシーケンシングプライマー571(配列番号230)
・リバースシーケンシングプライマー573(配列番号231)
・インデックス付きシーケンシングプライマー606(配列番号235)
【0126】
別々の反応において、患者試料VSC7-2、VSC7-3、VSC7-4およびVSC7-5から単離した各gDNA 130μLを超音波処理して300bpに断片化した。超音波処理したgDNA 125μLをビーズ150μLに加えた。得られた混合物を70%エタノールで2回洗浄した。得られたペレットをTEzeroバッファー50μL中に再懸濁した。超音波処理したgDNA 1000ngを新しいチューブに入れた。標準的な末端修復を行った(ST1、ST2)。末端修復した各試料を、1.0nM TRA Jプローブ12.5μLと1.0nM TRB Jプローブ12.5μLとで捕捉した。得られた混合物を98℃で2分間加熱し、ハイブリダイゼーションバッファー112.5μLを加えた。65℃で一晩ハイブリダイゼーションを行った。
【0127】
ハイブリダイゼーション後、以下のようにして混合物を洗浄した。洗浄したMyOneストレプトアビジンビーズ40μLをTTバッファー1mL中に懸濁し、このビーズとハイブリダイゼーション反応液150μLを混合した。時々混合しながら混合物を30分間インキュベートした。ビーズを磁気分離し、TTバッファー400μL中に再懸濁した。懸濁液を2つに分割して200μLずつPCRストリップチューブに入れた。ビーズを遠心分離してチューブ1本あたり200μLの洗浄バッファー中に再懸濁し、45℃で5分間インキュベートし、ビーズを磁気分離してTEzeroバッファー200μL中に再懸濁し、再度ビーズを磁気分離して、チューブ1本あたり20μLのTEzeroバッファー中に再懸濁した。
【0128】
次に、T4 DNAポリメラーゼによる伸長を行うため、水52.5μL、10×CutSmartバッファー10μL、50%PEG8000 15μL、10mM dNTP混合物1μL、T4遺伝子32タンパク質1μL、およびT4 DNAポリメラーゼ0.5μLを含むT4ミックス80μLを調製した。得られた混合物を20℃で15分間インキュベートし、さらに70℃で10分間インキュベートした。ビーズを磁気分離し、TEzeroバッファー200μL中に再懸濁し、再度ビーズを磁気分離し、TEzeroバッファー50μL中に再懸濁した。アダプター20μLを加えた後、標準的なライゲーションカクテル30μL(10×ライゲーションバッファー10μL、50%PEG8000 15μL、T4 DNAライゲーションバッファー5μL)を加えた。標準的なライゲーションプロトコルを実行した(20℃で60分間の後、65℃で10分間)。
【0129】
ビーズを磁気分離し、TEzeroバッファー20μL中に再懸濁した。「C+P」PCRミックス80μL(2×マスターブレンド50μL、TCR用PCRプライマー489(配列番号228)10μLおよび水20μL)を加えた。TCR配列を5サイクルで増幅した。
【0130】
次に、ビーズを磁気分離し、上清60μLを後処理用C+P PCRミックス240μL(2×マスターブレンド120μL、TCR用プライマー489(配列番号228)24μL、および水96μL)に加えた。qPCRにより増幅をモニターした。
【0131】
各試料はいずれも(qPCRの結果に関わらず)10サイクル増幅した。ビーズを精製し、水20μL中に再懸濁して合計40μLの水中懸濁液とした。各試料40μLに、1.0nM TRA Vプローブ10μLと1.0nM TRB Vプローブ10μLを加えて捕捉を行った。得られた混合物を98℃で2分間加熱した。ハイブリダイゼーションバッファー90μLを加え、65℃で一晩ハイブリダイゼーションを行った。
【0132】
ハイブリダイゼーション後、洗浄したMyOneストレプトアビジンビーズ40μLをTTバッファー1mL中に懸濁し、このビーズとハイブリダイゼーション反応液150μLを混合することにより洗浄を行った。時々混合しながら混合物を30分間インキュベートした。ビーズを磁気分離し、TTバッファー400μL中に再懸濁した。懸濁液を2つに分割して200μLずつPCRストリップチューブに入れた。ビーズを磁気分離し、チューブ1本あたり200μLの洗浄バッファー中に再懸濁し、45℃で5分間インキュベートした。ビーズを磁気分離し、TEzeroバッファー200μL中に再懸濁し、再度ビーズを磁気分離し、チューブ1本あたり20μLのTEzeroバッファー中に再懸濁した。
【0133】
「C+P」PCRミックス80μL(2×マスターブレンド50μL、TCR用PCRプライマー568(配列番号229)10μL、TCR用PCRインデックスプライマー10μLおよび水20μL)を加えた。得られた混合物を5サイクル増幅し、ビーズを磁気分離し、上清60μLを後処理用C+P PCRミックス240μL(2×マスターブレンド120μL、TCR用PCRプライマー568(配列番号229)12μL、TCR用PCRインデックスプライマー12μL(患者試料7-2用のインデックスプライマー607(配列番号236)、患者試料7-3用のインデックスプライマー608(配列番号237)、患者試料7-4用のインデックスプライマー623(配列番号252)、および患者試料7-5用のインデックスプライマー624(配列番号253)を含む)ならびに水96μL)に加えた。qPCRにより増幅をモニターした。TEZバッファー20μL中にビーズを再懸濁して合計40μLのTEZバッファー中懸濁液とすることによりビーズを精製した。
【0134】
標準的なMiSeqプロトコルに従う。対応するMiSeqウェルにおいて以下のプライマーを使用する。プライマー571 FTCSP(配列番号23)を18番のプライマーウェルに投入し、プライマー606 ITCSP(配列番号235)を19番のプライマーウェルに投入し、プライマー573 RTCSP(配列番号231)を20番のプライマーウェルに投入する。
【0135】
イルミナ社のMiSeqのランによる生の出力から約800万個のシーケンシングリードが得られ、各試料のインデックス情報を利用してデータを解析したところ、各患者から得た1試料あたり約200万個のリードが得られた。各患者から得たデータは、いくつかの工程により精製した。より具体的には、このデータの精製は、真のV領域プローブ配列や真のJ領域プローブ配列を持たないリードを除外する工程;V領域プローブとJ領域プローブの間のCDR3領域に、オープンリーディングフレームをコードするタンパク質を持たないリードを除外する工程(重要な点として、観察されたCDR3配列の長さの分布(平均値=α鎖で36塩基かつβ鎖で39塩基)は、過去の研究による報告と一致していた);1つの「固有の」コンセンサスTCR配列に相当する冗長なリードを同定する工程;固有のリードセットをα鎖またはβ鎖に分類する工程;固有のα鎖リードまたは固有のβ鎖リードを、それらのV領域およびJ領域に応じて分類する工程;各V領域とJ領域の交差点(ピクセル)においてTCRの数を計数する工程;ならびにヒートマップにおいて、患者7-2~7-5のTCRの数の分布を提示する工程を含んでいた。
【0136】
各試料において、約5000個の固有のTCRα鎖配列と約5000個の固有のTCRβ鎖配列が観察された(3217~7684個の固有の配列が得られた)。1試料中のα鎖のヒートマップの一例を図10に示す。
【0137】
1μgのヒトゲノムDNAは約150,000個の二倍体ゲノムに相当し、換言すれば、150,000個の細胞に相当する。全血中において、T細胞は有核細胞の約4~7%を占める。したがって、各試料につき6000~10,500個の固有のTCRが観察されると予想される。約5000個という密度で固有のTCRが観察されたという結果は、この予想と一致しており、特に、がん患者の免疫系は治療により抑制されることが多いということを考慮に入れると、この結果は妥当である。本明細書で提供される方法により決定されたTCRレパトアは、試料中に存在する末梢血由来の循環T細胞の一面を反映するものである。J領域プローブのタグをわずかに変更することによって、冗長性を有するクローンの検出が可能となり、切除された腫瘍組織の腫瘍浸潤T細胞のプロファイルを詳しく解析することが可能となる。
【0138】
本明細書で提供される方法の開発には、アッセイを推測することでは容易にその結果を解明することができない反復試験を繰り返すことが必要である。本明細書で提供される方法は、様々な適用において重要な臨床的有用性を有し、例えば、感染症のモニタリングや免疫学的腫瘍療法の有効性の評価に適用することができる。
【0139】
典型的な実施形態を示す本明細書に記載の説明、特定の実施形態およびデータは、単に例示を目的として提示されているものであり、本開示の様々な実施形態を限定することを意図するものではない。本明細書に記載の説明およびデータに基づき、本開示の範囲を逸脱することなく様々な変更および改良が可能であることは当業者には明らかである。したがって、そのような変更および改良も、本開示の様々な実施形態の一部と見なされる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A-8C】
図9
図10
図11
図12A-12B】
図12C-12D】
図13A-13B】
図14
図15
図16
図17
図18
図19A-19B】
図20
図21
図22
図23
図24
図25
【配列表】
2022544578000001.app
【国際調査報告】