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特表2022-544735ナノセルロースに基づく細胞成長因子徐放異方性ステントの構築方法及び応用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-21
(54)【発明の名称】ナノセルロースに基づく細胞成長因子徐放異方性ステントの構築方法及び応用
(51)【国際特許分類】
   A61L 33/08 20060101AFI20221014BHJP
   A61L 33/00 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
A61L33/08
A61L33/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021573348
(86)(22)【出願日】2021-01-22
(85)【翻訳文提出日】2021-12-09
(86)【国際出願番号】 CN2021073194
(87)【国際公開番号】W WO2022062282
(87)【国際公開日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】202011027301.5
(32)【優先日】2020-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521539823
【氏名又は名称】ジァンスー ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】JIANGSU UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No.301, Xuefu Road Zhenjiang, Jiangsu 212000 China
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】リウ ジュン
(72)【発明者】
【氏名】チョン ル
(72)【発明者】
【氏名】シー イーフェイ
(72)【発明者】
【氏名】ルー シュエチュウ
(72)【発明者】
【氏名】ユィ スウジエ
(72)【発明者】
【氏名】ジャオ ハイシン
(72)【発明者】
【氏名】ワン チェンチェン
(72)【発明者】
【氏名】スン ジェンジョン
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AC09
4C081CE02
(57)【要約】
【課題】本発明は、生体医用材料技術分野に関し、特に、ナノセルロースに基づく細胞成長因子徐放異方性ステントの構築方法及び応用に関する。
【解決手段】当該方法は、(1)パルプ繊維を製造するステップと、(2)パルプ繊維を洗浄してろ過するステップと、(3)きれいに洗浄されたパルプ繊維を用いて高純度ナノセルロースヒドロゲルを作製するステップと、(4)ナノセルロースヒドロゲルを用いてナノセルロースフィルムを作製するステップと、(5)線維芽細胞成長因子及び複合セルラーゼを溶解した溶液にナノセルロースフィルムを浸漬し、4℃でin situ吸着して膨潤し、異方性3次元立体ステントを同期的に形成するステップと、(6)作製された線維芽細胞成長因子及び複合セルラーゼが担持されたナノセルロースヒドロゲルステントを滅菌水で洗浄し、必要に応じて異なる形状やサイズに切断し、凍結乾燥して、ナノセルロースに基づく細胞成長因子徐放異方性ステントを作製するステップと、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノセルロースに基づく細胞成長因子徐放異方性ステントの構築方法であって、
(1)パルプ繊維を製造するステップと、
(2)前記パルプ繊維を洗浄してろ過するステップと、
(3)きれいに洗浄された前記パルプ繊維を用いて高純度ナノセルロースヒドロゲルを作製するステップと、
(4)作製された前記ナノセルロースヒドロゲルを、濃度が0.1wt%になるように滅菌水で希釈し、PVDFろ過膜付きの真空フィルタに入れて、真空ろ過し、ろ過ケーキを収集し、ホットプレス乾燥機に移転し、80℃、2.3barの圧力で20分間ホットプレス乾燥し、紫外線で30分間照射し、ナノセルロースフィルムを作製するステップと、
(5)線維芽細胞成長因子及び複合セルラーゼを溶解した一定の体積の溶液に前記ナノセルロースフィルムを浸漬し、4℃でin situ吸着して膨潤し、異方性構造を有する3次元立体ステントを同期的に形成するステップと、
(6)作製された線維芽細胞成長因子及び複合セルラーゼが担持された前記ナノセルロースヒドロゲルステントを滅菌水で洗浄し、表面に残留した前記線維芽細胞成長因子及び前記複合セルラーゼを除去し、必要に応じて異なる形状やサイズに切断し、凍結乾燥して、ナノセルロースに基づく細胞成長因子徐放性ステントを作製するステップと、を含む、
ことを特徴とする構築方法。
【請求項2】
前記ステップ(4)において、前記PVDFろ過膜の孔径は0.22ミクロンであり、真空ろ過の時間は8~12時間である、
ことを特徴とする請求項1に記載のナノセルロースに基づく細胞成長因子徐放異方性ステントの構築方法。
【請求項3】
前記ステップ(4)において、前記ろ過ケーキの上面に前記PVDFろ過膜を覆い、3層の吸収ろ紙を両面にパディングした後、前記ホットプレス乾燥機に移転する、
ことを特徴とする請求項2に記載のナノセルロースに基づく細胞成長因子徐放異方性ステントの構築方法。
【請求項4】
前記ステップ(5)において、前記線維芽細胞成長因子の濃度は500~1000ng/mlであり、前記複合セルラーゼの濃度は20~100U/mlである、
ことを特徴とする請求項3に記載のナノセルロースに基づく細胞成長因子徐放異方性ステントの構築方法。
【請求項5】
前記ステップ(6)において、凍結乾燥の条件は-50℃、0.1mbarの真空度であり、凍結乾燥の時間は72時間である、
ことを特徴とする請求項4に記載のナノセルロースに基づく細胞成長因子徐放異方性ステントの構築方法。
【請求項6】
前記ステップ(1)は、具体的に、トウヒ溶解パルプ繊維1kgを前記滅菌水30Lに分散し、攪拌して均一に分散させ、水酸化ナトリウム50~100g及び30%の過酸化水素20~40mLを加え、均一に攪拌し、120℃、高圧で60分間滅菌する、
ことを特徴とする請求項5に記載のナノセルロースに基づく細胞成長因子徐放異方性ステントの構築方法。
【請求項7】
前記ステップ(2)は、具体的に、前記ステップ(1)における前記パルプ繊維をろ液のpHが中性になるように前記滅菌水でろ過して洗浄する、
ことを特徴とする請求項6に記載のナノセルロースに基づく細胞成長因子徐放異方性ステントの構築方法。
【請求項8】
前記ステップ(3)は、具体的に、きれいに洗浄された前記パルプ繊維を前記滅菌水50Lに分散して攪拌し、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル10~15g、臭化ナトリウム50~100g、10%の次亜塩素酸ナトリウム3~5Lを加え、pH10.5に調整して維持し、室温下で3~6時間攪拌して反応させ、1.0MのHClでシステムをpH7.0に調整し、300メッシュのナイロンメッシュでろ過し、前記ろ液の導電率が5μS/cmよりも低くなるまで前記滅菌水で洗浄し、きれいに洗浄された前記パルプ繊維を前記滅菌水30~50Lに分散して均一に攪拌し、それぞれ300barと1000barの圧力で高圧ホモジナイザーを通過し、前記高純度ナノセルロースヒドロゲルを作製する、
ことを特徴とする請求項7に記載のナノセルロースに基づく細胞成長因子徐放異方性ステントの構築方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の構築方法により作製されるナノセルロースに基づく細胞成長因子徐放異方性ステント。
【請求項10】
人工臓器、組織工学、創傷修復材料における、請求項9に記載のナノセルロースに基づく細胞成長因子徐放異方性ステントの応用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体医用材料技術分野に関し、具体的には細胞成長因子徐放性ステントの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞成長因子は、細胞の増殖を刺激し、細胞の分化と成熟を促進し、細胞の様々な活動と機能を調整可能な活性タンパク質又はペプチド物質である。例えば、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGFs)は線維芽細胞の増殖を促進し、損傷した細胞や組織を修復することができ、血小板由来成長因子(PDGF)は血管新生に重要な役割を果たしており、形質転換成長因子(TGF)は胚発生、創傷治癒、走化性及び細胞周期の制御を促進する生物学的効果を有する。細胞成長因子は、組織工学、創傷治癒、血管新生、神経系などの疾患の臨床治療において非常に大きな潜在力を示している。ところが、遊離細胞成長因子は体内で生物活性の半減期が短く、代謝が速く、酵素分解されやすいという特性があるため、体内注射又は体外培養添加では、成長因子の利用率が低く、予期される目的を達成するために複数回の投与と添加が必要となり、患者の苦痛や経済的負担を増加させる。従って、臨床治療においても、科学的研究においても、成長因子の活性を維持し、標的化及び放出を制御可能な製品の開発が切望されている。
【0003】
細胞成長因子の徐放は、科学的研究及び臨床治療のために、生物活性を有する種々の細胞成長因子を生体適合性の材料又は担体と複合することにより、細胞成長因子の活性を維持するとともにその放出速度を制御可能な製品を製造する。
【0004】
例えば、特許CN105288749Aは、成長因子をキトサン、ポリ乳酸、ゼラチンなどの生体材料と混合し、凍結乾燥することにより、成長因子を放出する生体材料ステントを作製し、特許CN102172418Aは、血管新生成長因子と無細胞マトリックス、及びポリグリコリドラクチド、ポリカプロラクトンなどの分解可能な疎水性ポリマーを乳化して凍結乾燥することにより、成長因子を長期間で安定的に放出可能な無細胞マトリックスを作製し、また、例えば、特許CN101279104Bは、表皮成長因子及び塩基性線維芽細胞成長因子を動物の皮又は結合組織に由来するコラーゲンと複合し、凍結乾燥した後に、成長因子を含むコラーゲンスポンジを作製して慢性で治癒困難な創傷の治癒の促進に用いる。
【0005】
ところが、既存の報告及び関連する発明により製造される材料は、細胞因子とマトリックス材料との結合が簡単で、マトリックス材料が分解されにくく、又は分解が制御できないため、その放出速度を正確に制御できず、急速又は過剰な放出により活性の喪失と生物学的安全の問題が発生されることがまだ存在している。
【0006】
また、動物由来のマトリックス材料には、免疫応答とバッチ間のバラツキなどの欠陥や不足があり、細胞成長因子の適用範囲と治療効果が制限され、臨床応用及び科学的研究において多くの不都合が発生される。
【0007】
ナノセルロースは製造中に、ヒドロゲルを形成しやすく、その高く水和された3次元ネットワーク構造は、ヒト臓器組織における細胞外マトリックスをうまくシミュレーションすることができるため、細胞の接着、成長、繁殖のために良好な3次元微小環境が提供される。生体適合性に優れ、物理的及び化学的特性を正確に制御可能で、且つ免疫アレルギーと拒絶反応がないため、現在、国内外で、ナノセルロースに基づく生体医用材料の開発は、人工臓器、組織工学、創傷修復などの臨床治療及び科学的研究において、ますます広く適用されている。
【0008】
組織工学的ステント材料のネットワーク構造及びトポロジー形態、特にミクロンからナノスケールで異方的に配列されたステント又はマトリックス構造は、細胞形態と細胞挙動に直接影響することができ、細胞の優位性を維持して細胞の有向分化を誘導する強力なツールである。しかしながら、現在、通常のナノセルロースを含むヒドロゲルのほとんどは、その3次元ネットワーク骨格が本質的に等方性でランダムに配列した構造であり、筋肉、軟骨、心臓弁などの天然の組織の微視的スケールでの異方性構造及び優れた力学特性が欠けている。動物の基底膜に由来するマトリゲル(Matrigel)ネットワーク構造は、組織工学的培養の研究に良好なプラットフォームを提供することもできるが、そのバッチ間のバラツキにより力学特性とネットワーク構造の制御が困難になるとともに、潜在的に保有された病原体や抗原は感染や免疫反応を引き起こしやすい。従来のナノセルロースステント、例えば、市販の製品であるUPM GrowDexヒドロゲルなどは、細胞の成長と繁殖のために理想的な3次元ネットワーク環境を提供することができるが、ステントネットワークはランダムな構造であり、天然の組織の微視的スケールでの異方性構造が欠けているので、細胞の優位性を維持して細胞の有向分化を誘導する役割を効果的に果たすことができない。
【0009】
従って、生体適合性の観点から組織工学的ステント材料の構造と機能に関する二重の要件を満たすために、異方性構造ネットワークを有する細胞成長因子徐放性ステント材料を構築することは、生体医用材料の研究と開発の重要な内容であり、現在差し迫って克服する必要がある難問である。
【発明の概要】
【0010】
本発明の目的は、ナノセルロースに基づく異方性構造ネットワークを有する細胞成長因子徐放性ステント及びその構築方法と応用を提供することにより、現在、細胞成長因子徐放性材料の上記欠陥を解消するとともに、異方性ステントを構築することで、細胞と組織に構造的及び機械的サポートを動的に提供し、成長因子の活性を維持して標的化及び放出を制御可能な製品を開発する目標を達成することである。
【0011】
本発明において、まず、TEMPOの触媒酸化を高圧均質化処理と組み合わせることにより、超高純度のナノセルロース及びそのフィルムを作製し、そして、ナノセルロースフィルムが細胞成長因子及びセルロース分解酵素をin situ吸着し、3次元立体ステント材料を同期的に形成し、最後に、凍結乾燥して、ナノセルロースに基づく細胞成長因子徐放異方性ステントを作製する。
【0012】
具体的に、本発明は以下の技術案を提供する。
【0013】
以下のステップを含む、ナノセルロースに基づく細胞成長因子徐放異方性ステントの構築方法である。
(1)パルプ繊維の製造:トウヒ溶解パルプ繊維1kgを滅菌水30Lに分散し、攪拌して均一に分散させ、水酸化ナトリウム50~100g及び30%の過酸化水素20~40mLを加え、均一に攪拌し、120℃、高圧で60分間滅菌する。
(2)パルプ繊維の洗浄及びろ過:ステップ(1)でのパルプ繊維をろ液のpHが中性になるように滅菌水でろ過して洗浄する。
(3)高純度ナノセルロースヒドロゲルの作製:きれいに洗浄されたパルプ繊維を滅菌水50Lに分散して攪拌し、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル10~15g、臭化ナトリウム50~100g、10%の次亜塩素酸ナトリウム3~5Lを加え、pH10.5に調整して維持し、室温下で3~6時間攪拌して反応させ、1.0MのHClでシステムをpH7.0に調整し、300メッシュのナイロンメッシュでろ過し、ろ液の導電率が5μS/cmよりも低くなるまで滅菌水で洗浄し、きれいに洗浄されたパルプ繊維を滅菌水30~50Lに分散し、均一に攪拌し、それぞれ300barと1000barの圧力で高圧ホモジナイザーを通過し、高純度ナノセルロースヒドロゲルを作製する。
(4)作製されたナノセルロースヒドロゲルを濃度が0.1%になるように滅菌水で希釈し、PVDFろ過膜付きの真空フィルタに入れて、真空ろ過し、ろ過ケーキを収集し、ホットプレス乾燥機に移転し、80℃、2.3barの圧力で20分間ホットプレス乾燥し、紫外線で30分間照射し、ナノセルロースフィルムを作製する。
(5)線維芽細胞成長因子及び複合セルラーゼを溶解した溶液にナノセルロースフィルムを浸漬し、4℃でin situ吸着して膨潤し、異方性3次元立体ステントを同期的に形成する。
(6)作製された線維芽細胞成長因子及び複合セルラーゼが担持されたナノセルロースヒドロゲルステントを滅菌水で洗浄し、表面に残留した線維芽細胞成長因子及び複合セルラーゼを除去し、必要に応じて異なる形状やサイズに切断し、凍結乾燥して、ナノセルロースに基づく細胞成長因子徐放異方性ステントを作製する。
【0014】
ここで、前記ステップ(4)において、PVDFろ過膜の孔径は0.22ミクロンであり、真空ろ過の時間は8~12時間である。
【0015】
ここで、前記ステップ(4)において、ろ過ケーキの上面にPVDFろ過膜を覆い、3層の吸収ろ紙を両面にパディングした後、ホットプレス乾燥機に移転する。
【0016】
ここで、前記ステップ(5)において、線維芽細胞成長因子の濃度は500~1000ng/mlであり、複合セルラーゼの濃度は20~100U/mlである。
【0017】
ここで、前記ステップ(6)において、凍結乾燥の条件は-50℃、0.1mbarの真空度であり、凍結乾燥の時間は72時間である。
【0018】
また、本発明は人工臓器、組織工学、創傷修復材料における、本発明にかかるナノセルロースに基づく細胞成長因子徐放異方性ステントの応用を提供する。
【0019】
従来技術に比べると、本発明は下記の有益な効果を有する。
【0020】
本発明は、構造の生体模倣及び機能の生体模倣の観点から、他の細胞成長因子徐放性材料マトリックスと成長因子との結合が簡単であるため、その放出速度を正確に制御できず、急速又は過剰な放出により活性の喪失と生物学的安全の問題が発生されることが解決され、動物由来のマトリックス材料における免疫応答及びバッチ間のバラツキなどの欠陥や不足が解決され、成長因子をin situ吸着し、異方性構造ネットワークを有する細胞成長因子徐放性ステント材料を同期的に形成することにより、生体適合性の観点から組織工学的ステント材料の構造と機能に関する二重の要件が満たされる。
【0021】
本発明により作製されたナノセルロースに基づく細胞成長因子徐放異方性ステント材料は、良い生体適合性を有し、細胞毒性がなく、生分解可能性があり、天然の組織の細胞外マトリックスにおける細胞成長因子とヘパリンなどのアニオン多糖類との緊密な結合をシミュレーションしており、得られたステント材料は、成長因子を安定的に貯蔵し、成長因子を必要に応じて放出し、ステントマトリックス材料の分解を制御可能であるといった利点を有し、その高く水和された3次元立体ネットワーク構造は、本物の細胞外マトリックスの微小環境と構造を最大限にシミュレーションして復元し、細胞の接着、成長、繁殖、分化のために理想的な微小環境を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施例3にかかる塩基性線維芽細胞の徐放曲線である。
図2】実施例3にかかる塩基性線維芽細胞の徐放による細胞の増殖への促進の様子である。
図3】実施例3にかかる線維芽細胞の成長因子徐放異方性ステント材料おける分布である。
図4】実施例1で作製されたナノセルロースに基づく細胞成長因子徐放異方性ステントの凍結乾燥製品の写真である。
図5】実施例2にかかる成長因子をin situ吸着し、異方性構造ネットワークを有するステントを同期的に形成した顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施例における図面と合わせて、本発明の実施例における技術案を明らかで完全に説明するが、無論、説明される実施例は、単に本発明の実施例の一部であり、全ての実施例ではない。本発明の実施例に基づき、当業者が創造的な工夫をせずに得られた他の実施例の全ては、本発明の請求範囲に属する。
【0024】
実施例1
以下のステップを含む、ナノセルロースに基づく細胞成長因子徐放異方性ステントの構築方法である。
(1)トウヒ溶解パルプ繊維1kgを滅菌水30Lに分散し、攪拌して均一に分散させ、水酸化ナトリウム50~100g及び30%の過酸化水素20~40mLを加え、均一に攪拌し、120℃、高圧で60分間滅菌する。
(2)ステップ(1)でのパルプ繊維をろ液のpHが中性になるように滅菌水でろ過して洗浄する。
(3)ステップ(2)でのきれいに洗浄されたパルプ繊維を滅菌水50Lに分散して攪拌し、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル)10~15g、臭化ナトリウム50~100g、10%の次亜塩素酸ナトリウム3~5Lを加え、pH10.5に調整して維持し、室温下で3~6時間攪拌して反応させ、1.0MのHClでシステムをpH7.0に調整する。300メッシュのナイロンメッシュでろ過し、ろ液の導電率が5μS/cmよりも低くなるまで滅菌水で洗浄する。きれいに洗浄されたパルプ繊維を滅菌水30~50Lに分散し、均一に攪拌し、それぞれ300barと1000barの圧力で高圧ホモジナイザーを通過し、高純度ナノセルロースヒドロゲルを作製する。
(4)ステップ(4)で作製されたナノセルロースを適量取り、濃度が0.1%になるように滅菌水で希釈し、孔径が0.22ミクロンのPVDFろ過膜付きの真空フィルタに入れる。8~12時間真空ろ過し、ろ過ケーキを収集し、上層にPVDFろ過膜を覆い、3層の吸収ろ紙を両面にパディングする。ホットプレス乾燥機に移転し、80℃、2.3barの圧力で20分間ホットプレス乾燥し、紫外線で30分間照射し、ナノセルロースフィルムを作製する。
(5)500~1000ng/mlの線維芽細胞成長因子及び20~100U/mlの複合セルラーゼを溶解した溶液1~5mlに、ステップ(4)で作製されたナノセルロースフィルムを浸漬し、4℃でin situ吸着して膨潤し、異方性構造を有する3次元立体ステントを同期的に形成する。
(6)ステップ(5)で作製された細胞成長因子及びセルラーゼが担持されたナノセルロースヒドロゲルステントを滅菌水で洗浄し、表面に残留した成長因子及びセルラーゼを除去し、必要に応じて異なる形状やサイズに切断し、-50℃、0.1mbarの真空度で72時間凍結乾燥して、低電荷密度のナノセルロースに基づく細胞成長因子徐放性ステントを作製し、製品の写真を図4に示す。
【0025】
実施例2
以下のステップを含む、ナノセルロースに基づく細胞成長因子徐放異方性ステントの構築方法である。
(1)トウヒ溶解パルプ繊維1kgを滅菌水30Lに分散し、攪拌して均一に分散させ、水酸化ナトリウム50~100g及び30%の過酸化水素20~40mLを加え、均一に攪拌し、120℃、高圧で60分間滅菌する。
(2)ステップ(1)でのパルプ繊維をろ液のpHが中性になるように滅菌水でろ過して洗浄する。
(3)ステップ(2)でのきれいに洗浄されたパルプ繊維を滅菌水50Lに分散して攪拌し、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル)10~15g、臭化ナトリウム50~100g、10%の次亜塩素酸ナトリウム5~10Lを加え、pH10.5に調整して維持し、室温下で12~24時間攪拌して反応させ、1.0MのHClでシステムをpH7.0に調整する。300メッシュのナイロンメッシュでろ過し、ろ液の導電率が5μS/cmよりも低くなるまで滅菌水で洗浄する。きれいに洗浄されたパルプ繊維を滅菌水30~50Lに分散し、均一に攪拌し、それぞれ500barと1500barの圧力で高圧ホモジナイザーを通過し、高純度ナノセルロースヒドロゲルを作製する。
(4)ステップ(4)で作製されたナノセルロースを適量取り、濃度が0.1%になるように滅菌水で希釈し、孔径が0.22ミクロンのPVDFろ過膜付きの真空フィルタに入れる。12~24時間真空ろ過し、ろ過ケーキを収集し、上層にPVDFろ過膜を覆い、3層の吸収ろ紙を両面にパディングする。ホットプレス乾燥機に移転し、80℃、2.3barの圧力で20分間ホットプレス乾燥し、紫外線で30分間照射し、ナノセルロースフィルムを作製する。
(5)500~1000ng/mlの線維芽細胞成長因子及び20~100U/mlの複合セルラーゼを溶解した溶液5~10mlに、ステップ(4)で作製されたナノセルロースフィルムを浸漬し、4℃でin situ吸着して膨潤し、異方性構造を有する3次元立体ステントを同期的に形成する。
(6)ステップ(5)で作製された細胞成長因子及びセルラーゼが担持されたナノセルロースヒドロゲルステントを滅菌水で洗浄し、表面に残留した成長因子及びセルラーゼを除去し、必要に応じて異なる形状やサイズに切断し、-50℃、0.1mbarの真空度で72時間凍結乾燥して、高電荷密度のナノセルロースに基づく細胞成長因子徐放性ステントを作製する。
【0026】
実施例3 ナノセルロースに基づく細胞成長因子徐放異方性ステントの性能の検証
(1)実施例1及び2で作製された成長因子徐放性ステントによる細胞成長因子の放出制御を検証するために、マウスb-FGF/FGF-2 ABC-ELISA酵素結合免疫測定キットを使用して、ステント材料のDMEM細胞培地における細胞成長因子の放出状況を検出した。
【0027】
実施例1及び2における成長因子徐放性ステント(3mm×3mm×50μm)を1枚取り、1mlのDMEM完全培地に入れ、それぞれ0.5時間、1.0時間、3.0時間、6.0時間、12.0時間、1日、3日、7日で上清を取って成長因子の濃度を測定し、放出曲線を描いた。その結果、図1に示すように、細胞成長因子はステント材料から徐々に放出することができ、放出時間が7日にも達し、且つ徐放中に、ステント材料はセルラーゼ加水分解の作用下で徐々に分解され、成長因子の生物学的利用率がさらに向上し、細胞成長と自身の細胞外マトリックスの分泌にスペースが提供される。
【0028】
また、ナノセルロースの表面電荷密度が低いステント材料の方は、より速く、より多くの成長因子を放出することができる。それに対し、高電荷密度ナノセルロースステント材料は、細胞成長因子がステントネットワークと緊密に結合しているため、成長因子をより緩く放出することができるので、成長因子の速すぎて過剰な放出及び活性の喪失が効果的に回避されることで、ナノセルロース表面の電荷密度を制御することにより細胞成長因子の放出速度を制御することができる。
【0029】
(2)実施例1及び2で作製された成長因子徐放性ステントによる細胞成長因子の放出制御、細胞の成長と繁殖への促進を検証するために、3D細胞の培養を採用し、細胞の増殖状況を検出した。
【0030】
実施例1及び2における成長因子徐放性ステント(3mm×3mm×50μm)を1枚取って24ウェルプレートに置き、3×10個のマウス胚線維芽細胞を接種し、1mlのDMEM完全培地(200mMのL-グルタミン、1000IU/mLのペニシリンとストレプトマイシン、10%の不活化ウシ胎児血清を含む)に入れ、37℃、5%のCO、95%の湿度で3日間培養した。同時に、24ウェルプレートに通常の細胞平板培養を行うことと、24ウェルプレートで平板培養された細胞に遊離細胞成長因子を加えることとをそれぞれ対照にした。MTT細胞増殖と毒性検出キットにより細胞の増殖状況を分析した。生細胞/死細胞蛍光染色キットにより細胞を染色し、蛍光写真を撮った。結果はそれぞれ図2~3に示される。線維芽細胞の細胞成長因子徐放性ステントにおける増殖速度は、通常の細胞培養よりも顕著に高い(高電荷密度ステント***の場合はp<0.01、低電荷密度ステント*の場合はp<0.05)。そして、低電荷密度ステントは、細胞増殖への促進効果がより顕著である。遊離細胞成長因子を加えて培養された細胞の増殖速度は、通常の培養と対照すると、有意差がない。
【0031】
これにより、本発明の細胞成長因子徐放性ステントは、細胞の成長と増殖を顕著に促進する能力を有するとともに、遊離成長因子の変性と不活性化を効果的に回避することが証明される。蛍光顕微鏡写真には、高密度の生細胞がステントの内部に分布していることが示され、明らかな細胞クラスターが見られるので、本発明により製造されたステント材料は、細胞の成長と繁殖の速度を効果的に向上させることが再び証明され、また、ステントマトリックスが徐々に分解されることに伴い、細胞クラスターの生成を促進し、さらに徐々に分泌して自身の細胞外マトリックスを生成することができる。
【0032】
(3)実施例2で作製されたナノセルロースに基づく細胞成長因子徐放性ステントの異方性構造を検証するために、実施例2で作製されたステント材料の断面を、走査型電子顕微鏡で撮影して観察した。図5から分かるように、ステント材料は、規則的な細孔構造と配向配列構造を有し、細胞の優位性を維持して細胞の有向分化を誘導するために強力なサポートを提供することができる。
【0033】
本発明の実施例を示して説明したが、当業者は、本発明の原理及び精神を逸脱することなく、これらの実施例に対して、様々な変更、修正、置換及び変形を行うことができ、本発明の範囲は添付された特許請求の範囲及びその等価物により限定されると理解すべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】