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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-21
(54)【発明の名称】cPLA2e誘導剤及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/55 20060101AFI20221014BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20221014BHJP
   C12N 9/16 20060101ALI20221014BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20221014BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20221014BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20221014BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20221014BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20221014BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20221014BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221014BHJP
   C12Q 1/44 20060101ALI20221014BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20221014BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20221014BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20221014BHJP
   A61K 38/46 20060101ALN20221014BHJP
【FI】
C12N15/55 ZNA
C12N15/12
C12N9/16 D
C12N15/63 Z
C12N15/864 100Z
C12N7/01
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12Q1/44
A61P25/28
A61K48/00
A61K35/76
A61K38/46
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021577986
(86)(22)【出願日】2020-06-30
(85)【翻訳文提出日】2022-01-25
(86)【国際出願番号】 EP2020068414
(87)【国際公開番号】W WO2021001377
(87)【国際公開日】2021-01-07
(31)【優先権主張番号】19382563.5
(32)【優先日】2019-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】518411464
【氏名又は名称】フンダシオン・パラ・ラ・インベスティガシオン・メディカ・アプリカダ
【氏名又は名称原語表記】Fundacion Para La Investigacion Medica Aplicada
(71)【出願人】
【識別番号】512220891
【氏名又は名称】ウニベルシダ デ ナバーラ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSIDAD DE NAVARRA
【住所又は居所原語表記】Campus Universitario s/n E‐31009 Pamplona(Navarra) ESPANA
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア オスタ アナ マリア
(72)【発明者】
【氏名】クアドラド テヘドール マリア デル マル
(72)【発明者】
【氏名】ペレス ゴンサレス マルタ
【テーマコード(参考)】
4B050
4B063
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B050CC03
4B050DD11
4B050LL01
4B050LL03
4B063QA18
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ13
4B063QQ32
4B063QR12
4B063QR72
4B063QR77
4B063QR80
4B063QS36
4B063QS38
4B063QX01
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA87X
4B065AA90Y
4B065AA95X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA31
4B065CA44
4B065CA46
4C084AA02
4C084AA13
4C084BA44
4C084CA53
4C084DC22
4C084NA14
4C084ZA151
4C084ZA161
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZA15
4C087ZA16
(57)【要約】
本発明は、cPLA2e誘導剤、並びに薬剤として使用され、特に認知障害及び/又は認知障害と関連する疾患、例えば認知症、より具体的には加齢性認知症及び/又はアルツハイマー病の治療に使用されるcPLA2e誘導剤に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞質型ホスホリパーゼA2ε(cPLA2e)をコードするヌクレオチド配列を含む核酸コンストラクト。
【請求項2】
前記cPLA2eがヒトcPLA2e、通例、配列番号1若しくは配列番号3のヒトcPLA2e、又は配列番号1若しくは配列番号3のヒトcPLA2eに対して少なくとも70%の配列同一性を有する変異体ヒトcPLA2eである、請求項1に記載の核酸コンストラクト。
【請求項3】
cPLA2eをコードするヌクレオチド配列が配列番号2又は配列番号4である、請求項2に記載の核酸コンストラクト。
【請求項4】
前記cPLA2eをコードするヌクレオチド配列に操作可能に連結したプロモーターを更に含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の核酸コンストラクト。
【請求項5】
前記プロモーターが神経細胞特異的プロモーターであり、好ましくは該プロモーターがSYN1プロモーター又はハイブリッドSYN1プロモーターである、請求項4に記載の核酸コンストラクト。
【請求項6】
ポリアデニル化シグナル配列、好ましくはウシ成長ホルモン遺伝子のポリアデニル化シグナル配列を更に含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の核酸コンストラクト。
【請求項7】
5’ITR及び3’ITR配列、好ましくはアデノ随伴ウイルスの5’ITR及び3’ITR配列、より好ましくはAAV2血清型に由来する5’ITR及び3’ITR配列を更に含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の核酸コンストラクト。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の核酸コンストラクトを含むベクター。
【請求項9】
ウイルスベクターである、請求項8に記載のベクター。
【請求項10】
AAVベクターである、請求項9に記載のベクター。
【請求項11】
請求項2に記載の核酸コンストラクトを含む、請求項10に記載のベクター。
【請求項12】
請求項1~7のいずれか一項に記載の核酸コンストラクト又は請求項8~11のいずれか一項に記載のベクターを含むウイルス粒子。
【請求項13】
AAV粒子、好ましくはAAV2、AAV5、AAV9及びAAV TT血清型からなる群より選択されるカプシドタンパク質を含むAAV粒子の中から選択される、請求項12に記載のウイルス粒子。
【請求項14】
請求項1~7のいずれか一項に記載の核酸コンストラクト又は請求項8~11のいずれか一項に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項15】
a)請求項1~7のいずれか一項に記載の核酸コンストラクト又は請求項8~11のいずれか一項に記載のベクターを含むパッケージング細胞を培養培地中で培養することと、
b)ウイルス粒子を細胞培養上清及び/又は細胞内から採取することと、
を含む、ウイルス粒子を作製する方法。
【請求項16】
請求項1~7のいずれか一項に記載の核酸コンストラクト、請求項8~11のいずれか一項に記載のベクター、請求項12若しくは13に記載のウイルス粒子、又は請求項14に記載の宿主細胞と、薬学的に許容可能な担体又は賦形剤とを含む医薬組成物。
【請求項17】
薬剤として使用される請求項1~7のいずれか一項に記載の核酸コンストラクト、請求項8~11のいずれか一項に記載のベクター、請求項12若しくは13に記載のウイルス粒子、請求項14に記載の宿主細胞、又は請求項16に記載の医薬組成物を含む医薬組成物。
【請求項18】
薬剤として使用されるcPLA2e誘導剤。
【請求項19】
治療を必要とする被験体における認知障害及び/又は認知障害と関連する疾患の治療に使用されるcPLA2e誘導剤。
【請求項20】
前記疾患が認知症である、請求項20に記載の使用のためのcPLA2e誘導剤。
【請求項21】
前記疾患が加齢性認知症又はアルツハイマー病である、請求項20に記載の使用のためのcPLA2e誘導剤。
【請求項22】
請求項1~7のいずれか一項に記載の核酸コンストラクト、請求項8~11のいずれか一項に記載のベクター、請求項12若しくは13に記載のウイルス粒子、請求項14に記載の宿主細胞、又は請求項16に記載の医薬組成物である、請求項19~21のいずれか一項に記載の使用のためのcPLA2e誘導剤。
【請求項23】
cPLA2e活性を有するタンパク質である、請求項19~21のいずれか一項に記載の使用のためのcPLA2e誘導剤。
【請求項24】
前記cPLA2e活性を有するタンパク質が、配列番号1若しくは配列番号3を含むか若しくはそれのみからなるタンパク質、又はそれと少なくとも70%の配列同一性を有する変異体である、請求項23に記載の使用のためのcPLA2e誘導剤。
【請求項25】
a.化合物を哺乳動物アッセイ細胞と接触させる工程と、
b.cPLA2eの誘導又は増加と関連する効果が得られるかを確認する工程と、
c.かかる効果が得られる場合、認知障害及び/又は認知障害と関連する疾患の治療のための候補として前記化合物を特定する工程と、
を含む、認知障害及び/又は認知障害と関連する疾患の治療のための候補として化合物を特定する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、cPLA2e誘導剤、並びに薬剤として使用され、特に認知障害及び/又は認知障害と関連する疾患、例えば認知症、より具体的には加齢性認知症及び/又はアルツハイマー病の治療に使用されるcPLA2e誘導剤に関する。
【背景技術】
【0002】
軽度認識機能障害は、個人の日常生活に支障を来さない記憶、言語及び/又は他の重要な認知機能の障害を特徴とする。この病態は、日常生活に支障を来す程度まで認識能力が全体的に低下することを特徴とする認知症に進行することが多い。
【0003】
アルツハイマー病(AD)は現在、高齢者における認知症の主要な病型となっており、世界中で約5000万人が罹患している。ADにおいて生じる進行性かつ不可逆的な認識機能障害及び記憶喪失が、Aβペプチド凝集体及び神経原線維変化(NFT)の存在と相まって、この疾患の主な特徴となっている。
【0004】
これまで、ADについてアッセイされた療法の殆どが、これら2つの病理組織学的特徴の1つ、特にAβレベルを標的とすることに焦点を合わせたものであった。しかしながら、99%を超えるAD試験の高い失敗率及びこの疾患と関連する高いコストにより、新たな療法を見出すことを目的としてADを調査することが不可欠である。
【0005】
ADの研究は、古典的なADマーカーの出現と認知症の症状との間に不一致が見られることがあるため複雑となっている。幾つかの縦断的研究において、認知機能が正常な高齢被験体の脳に実質的なAD病変が観察されている。これらの研究結果から、古典的なAD特徴が認知症を引き起こすのに十分でないことが示唆され、AD治療の新たな潜在的標的を見出すために、このADレジリエントな(resilient)患者を研究する可能性が開かれる。
【0006】
認識機能障害は、多数の脳障害と関連する病態である。脳障害は、例えば変性状態、遺伝、外傷、感染症、栄養失調等の多くの原因を有し得る。例えば、認識機能障害は加齢及び/又は神経変性疾患、例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、精神病、パーキンソン病精神病、アルツハイマー病精神病、レビー小体型認知症、プリオン性神経変性障害、例えばクロイツフェルト-ヤコブ病及びクールー病、大脳皮質基底核変性症、前頭側頭葉変性症、多発性硬化症、正常圧水頭症、慢性器質脳症候群、ピック病、進行性核上性麻痺又は老年性認知症と関連することがある。認識機能障害は、例えばプラダー-ウィリー症候群、ダウン症候群、脆弱X症候群、アンジェルマン症候群及び自閉症スペクトラム障害のような先天的な基盤を有することもある。認識機能障害は、慢性硬膜下血腫、震盪、脳卒中、脳内出血に起因するような脳の外傷、又は感染症(例えば脳炎、髄膜炎及び敗血症)、若しくは薬物中毒若しくは乱用に起因するような他の脳損傷と関連することもある。認識機能障害は、睡眠不足、精神障害、例えば不安障害、解離性障害、気分障害、統合失調症、精神病薬による治療、ドーパミンアゴニストによる治療、並びに身体表現性及び虚偽性障害を含む、中枢神経系の正常機能を損なうか又は他の形で影響を与える他の病態と関連することもあり、慢性疼痛等の末梢神経系の病態と関連することもある。場合によっては、認識機能障害の原因は、不明又は不明確である可能性がある。
【0007】
認識機能障害は、例えば注意、情報取得、情報処理、作業記憶、短期記憶、長期記憶、前向性記憶、逆向性記憶、記憶想起、弁別学習、意思決定、言語想起、抑制反応制御、注意セットシフト、遅延強化学習、逆転学習、自発的行動の一時的統合、並びに身の回り及びセルフケアへの関心の表明を含むが、これらに限定されない学習及び/又は記憶の障害のような多くの形で現れることがある。認識機能障害は、記憶、認知、推論、実行機能、計画、判断及び情緒的安定性の進行性喪失を特徴とする場合がある。
【0008】
多くの進展が見られているが、脳障害と関連する認識機能障害の治療は、殆どが不適切なままである。ハンチントン病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー病、プラダー-ウィリー症候群、レビー小体型認知症等の疾患については、治療が限られているか又は利用可能でない場合がある。脳障害と関連する認識機能障害を治療するための付加的な治療選択肢が必要とされている。
【発明の概要】
【0009】
今回、発明者らは驚くべきことに、AAV2/9-mPLA2G4E(cPLA2eをコードするウイルスベクター)による処理によって媒介される海馬PLA2G4E(細胞質型ホスホリパーゼA2ε(cPLA2e)とも呼ばれる)の過剰発現が、定位注射による処理の2ヶ月後に高齢APP/PS1マウスにおける空間記憶障害を顕著にレスキューし、また、定位注射処理の3ヶ月後に高齢C57BL/6/SJL WTマウスにおける記憶保持を改善したことを開示する。
【0010】
したがって、第1の態様においては、本発明は、細胞質型ホスホリパーゼA2ε(cPLA2e)をコードするヌクレオチド配列を含む核酸コンストラクトに関する。
【0011】
上記核酸コンストラクトの特定の実施の形態においては、cPLA2eは、ヒトcPLA2e、通例、配列番号1若しくは配列番号3のヒトcPLA2e、又は配列番号1若しくは配列番号3のヒトcPLA2eに対して少なくとも70%の配列同一性を有する変異体ヒトcPLA2eである。
【0012】
上記核酸コンストラクトのより特定の実施の形態においては、cPLA2eをコードするヌクレオチド配列は、配列番号2又は配列番号4である。
【0013】
具体的な実施の形態においては、上記核酸コンストラクトは、cPLA2eをコードするヌクレオチド配列に操作可能に連結したプロモーターを更に含む。
【0014】
上記核酸コンストラクトのより具体的な実施の形態においては、cPLA2eをコードするヌクレオチド配列に操作可能に連結したプロモーターは、神経細胞特異的プロモーターであり、特に該プロモーターは、SYN1プロモーター又はハイブリッドSYN1プロモーターである。
【0015】
具体的な実施の形態においては、上記核酸コンストラクトは、ポリアデニル化シグナル配列、特にウシ成長ホルモン遺伝子のポリアデニル化シグナル配列を更に含む。
【0016】
具体的な実施の形態においては、上記核酸コンストラクトは、5’ITR及び3’ITR配列、好ましくはアデノ随伴ウイルスの5’ITR及び3’ITR配列、より好ましくはAAV2血清型に由来する5’ITR及び3’ITR配列を含む。
【0017】
他の実施の形態においては、本発明の核酸コンストラクトはRNA、特にmRNAである。
【0018】
一態様においては、本発明は、本発明の核酸コンストラクトを含むベクターに関する。好ましくは、上記ベクターはウイルスベクター、より好ましくはAAVベクターである。
【0019】
一態様においては、本発明は、本発明の核酸コンストラクトを含むウイルス粒子に関する。
【0020】
具体的な実施の形態においては、上記ウイルス粒子は、AAV粒子、好ましくはAAV2、AAV5、AAV9及びAAV TT血清型からなる群より選択されるカプシドタンパク質を含むAAV粒子の中から選択される。
【0021】
一態様においては、本発明は、本発明の核酸コンストラクト又は発現ベクターを含む宿主細胞にも関する。
【0022】
更なる態様においては、本発明は、
a)本発明の核酸コンストラクト又はベクターを含むパッケージング細胞を培養培地中で培養することと、
b)ウイルス粒子を細胞培養上清及び/又は細胞内から採取することと、
を含む、ウイルス粒子を作製する方法に関する。
【0023】
別の態様においては、本発明は、本発明の核酸コンストラクト、ベクター、又はウイルス粒子、又は宿主細胞と、薬学的に許容可能な担体又は賦形剤とを含む医薬組成物に関する。
【0024】
別の態様においては、本発明は、本発明の核酸コンストラクト、ベクター、ウイルス粒子若しくは宿主細胞、又は薬剤として使用される、該核酸コンストラクト、ベクター、ウイルス粒子若しくは宿主細胞を含む医薬組成物に関する。
【0025】
また別の態様においては、本発明は、薬剤として使用されるcPLA2e誘導剤に関する。
【0026】
関連の態様においては、本発明は、治療を必要とする被験体における認知障害及び/又は認知障害と関連する疾患の治療に使用されるcPLA2e誘導剤に関する。
【0027】
具体的な実施の形態においては、上記認知障害と関連する疾患は認知症である。
【0028】
具体的な実施の形態においては、上記認知障害と関連する疾患は加齢性認知症又はアルツハイマー病である。
【0029】
具体的な実施の形態においては、上記cPLA2e誘導剤は、a)本発明の核酸コンストラクト、b)本発明の核酸コンストラクトを含むベクター、c)本発明の核酸コンストラクト又はベクターを含むウイルス粒子、d)本発明の核酸コンストラクト又はベクターを含む宿主細胞、e)cPLA2eポリペプチド又はタンパク質、並びにf)上記核酸コンストラクト、核酸コンストラクトを含むベクター、核酸コンストラクト又はベクターを含むウイルス粒子、及びcPLA2eポリペプチド又はタンパク質のいずれかを含む医薬組成物からなる群より選択される。
【0030】
より具体的な実施の形態においては、上記cPLA2e誘導剤は、本発明の核酸コンストラクト、ベクター若しくはウイルス粒子、又は上記核酸、ベクター若しくはウイルス粒子を含む医薬組成物である。
【0031】
具体的な実施の形態においては、上記cPLA2e誘導剤は、cPLA2e活性を有するタンパク質、好ましくは配列番号1又は配列番号3のタンパク質である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1A】定位手術の2ヶ月後の高齢WT(陰性対照)、APP/PS1偽(偽注射APP/PS1マウス)及びAPP/PS1 AAV2/9-mPLA2G4E(AAV2/9-mPLA2G4Eで処理したAPP/PS1マウス)についてのMWM試験における隠しプラットホームへの逃避潜時を示す図である(二元ANOVA検定後のボンフェローニの事後検定、n=6~9、P≦0.05 APP/PS1偽対WT、**P≦0.01 APP/PS1偽対WT、+P≦0.05 APP/PS1 AAV2/9-mPLA2G4E対WT、$P≦0.05 APP/PS1 AAV2/9-mPLA2G4E対APP/PS1偽及び$$P≦0.01 APP/PS1 AAV2/9-mPLA2G4E対APP/PS1偽)。
図1B】海馬注射の2ヶ月後の高齢WT、APP/PS1偽及びAPP/PS1 AAV2/9-mPLA2G4Eについての6日目の15秒間及び60秒間の探査試行において正確な象限に滞在した時間のパーセンテージを示す図である(一元ANOVA検定後のニューマン-コイルス事後検定、n=6~9、P≦0.05 APP/PS1偽対WT、**P≦0.01 APP/PS1偽対WT及び$P≦0.05 APP/PS1 AAV2/9-mPLA2G4E対APP/PS1偽)。
図2A】高齢WT(陰性対照)、APP/PS1偽(偽注射APP/PS1マウス)及びAPP/PS1 AAV2/9-mPLA2G4E(AAV2/9-mPLA2G4Eで処理したAPP/PS1マウス)に由来するCA1海馬錐体ニューロン上の先端樹状突起の代表的なゴルジ染色画像である。スケールバー=10μm。
図2B】WT、APP/PS1偽及びAAV2/9-PLA2G4Eで処理したマウスに由来するCA1海馬錐体ニューロンの棘密度の定量化を示すヒストブロット(Histoblot)である(一元ANOVA検定後のニューマン-コイルス事後検定、n=4、+p≦0.05 WT対APP/PS1 AAV2/9-PLA2G4E、$p≦0.05 APP/PS1偽対APP/PS1 AAV2/9-PLA2G4E)。
図3A】定位手術による海馬注射の3ヶ月後の高齢WT偽(偽注射C57BL/6/SJL WTマウス)及びWT AAV2/9-mPLA2G4E(AAV2/9-mPLA2G4Eで処理したC57BL/6/SJL WTマウス)についてのMWM試験における隠しプラットホームの逃避潜時を示す図である(二元ANOVA検定後のボンフェローニの事後検定、n=4又は5)。
図3B】定位手術の3ヶ月後の高齢WT偽及びWT AAV2/9-mPLA2G4Eマウスについての5日目の15秒間及び60秒間の探査試行において正確な象限に滞在した時間のパーセンテージを示す図である(一元ANOVA検定後のニューマン-コイルス事後検定、n=4又は5、P≦0.05 WT AAV2/9-mPLA2G4E対WT偽)。
図4A】記憶機能におけるPLA2G4Eの役割を解明するために用いられる恐怖条件付けパラダイムの実験計画を示す図である。訓練段階及び試験段階のそれぞれにおけるTTマウスの凍結挙動のパーセンテージを示すグラフ。
図4B】海馬抽出物における免疫ブロッティングによって測定され、β-アクチンに対して正規化したpCREBレベルを示す図である(一元ANOVA検定後のニューマン-コイルス事後検定、n=7又は8、**P≦0.01 ナイーブ対TT、++P≦0.01 T24対TT)。
図4C】海馬抽出物における免疫ブロッティングによって測定され、β-アクチンに対して正規化したPLA2G4Eレベルを示す図である(一元ANOVA検定後のニューマン-コイルス事後検定、n=7又は8、**P≦0.01 ナイーブ対TT、++P≦0.01 T24対TT)。
図5】ビククリン(Bic)及び/又はAAV9-shPLA2G4E(shPLA)による処理後の初代神経培養物におけるpCREB、pGluA1、シナプシンIレベル及びPLA2G4Eレベルを免疫ブロッティングによって測定し、β-アクチンに対して正規化したことを示す図である(一元ANOVA検定後のニューマン-コイルス事後検定、n=3~6、**P≦0.01、***P≦0.001 対照対Bic;++P≦0.01 対照対shPLA;$P≦0.05、$$P≦0.01、$$$P≦0.001 Bic対shPLA+Bic)。データは、対照に対する任意単位(平均±SEM)として表す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
一態様においては、本発明は、薬剤として使用され、より具体的には治療を必要とする被験体における認知障害及び/又は認知障害と関連する疾患の治療に使用される細胞質型ホスホリパーゼA2ε誘導剤に関する。
【0034】
本明細書において使用される場合、「細胞質型ホスホリパーゼA2ε」及び「ホスホリパーゼA2群IVE」、「PLA2G4E」又は「cPLA2e」という用語は区別なく、sn-2位のグリセロリン脂質を選択的に加水分解する細胞質型ホスホリパーゼA2群IVファミリーのカルシウム依存性酵素のメンバーを指す。このファミリーのメンバーは、膜細管(membrane tubule)媒介性の輸送の調節に関与する。この酵素は、クラスリン非依存性エンドサイトーシス経路を介した輸送において役割を果たす。この酵素は、内在化クラスリン非依存性カーゴタンパク質を輸送して細胞表面に戻す細管の形成を介して再循環プロセスを調節する(Capestrano M. et al. Journal of Cell Science 2014; 127: 977-993)。PLA2G4Eは、ホスファチジルエタノールアミン(PE)をアシル鎖供与体として用いたN-アシルホスファチジルエタノールアミン(NAPE)のカルシウム依存性形成を触媒することができる(Ogura Y. et al. Nat Chem Biol. 2016; 12(9): 669-671)。ヒトcPLA2eは、PLA2G4E遺伝子によって天然にコードされている。ヒトcPLA2eは、例えばUniprotKB(https://www.uniprot.org/)にエントリーアクセッション番号Q3MJ16で記録されている。このエントリーは、選択的スプライシングによって産生される2つのアイソフォーム:a)「カノニカル」配列(配列番号1)として選択されるアイソフォーム1(識別子:Q3MJ16-3を用いる);及びb)アイソフォーム2(配列番号3)においてアミノ酸1~376が欠失しているという点でカノニカル配列とは異なるアイソフォーム2(識別子:Q3MJ16-2を用いる)。「cPLA2e」という用語は、酵素及びその任意の付加的な共翻訳又は翻訳後修飾を指す。
【0035】
本明細書において使用される場合、「cPLA2e誘導剤」という用語は、細胞に投与した場合に、細胞内でcPLA2e活性の獲得を直接又は間接的にもたらす作用物質(分子又は組成物)、特にcPLA2e導入遺伝子(すなわち、cPLA2eをコードするヌクレオチド配列)又は該導入遺伝子の発現産物等の酵素cPLA2eの発現の獲得をもたらす作用物質を指す。
【0036】
核酸コンストラクト
一実施形態においては、本発明の使用のためのcPLA2誘導剤は、細胞質型ホスホリパーゼA2ε(cPLA2e)をコードするヌクレオチド配列を含む核酸コンストラクトであるか又はそれを含む。
【0037】
したがって、別の態様においては、本発明は、細胞質型ホスホリパーゼA2ε(cPLA2e)をコードするヌクレオチド配列を含む核酸コンストラクトに関する。
【0038】
「核酸」及び「ポリヌクレオチド」又は「ヌクレオチド配列」という用語は、モノマーヌクレオチドから構成されるか又はそれを含む任意の分子を指すために本明細書において区別なく使用される。核酸は、オリゴヌクレオチドであっても又はポリヌクレオチドであってもよい。ヌクレオチド配列は、DNAであっても又はRNAであってもよい。ヌクレオチド配列は、化学修飾されていても又は人工であってもよい。ヌクレオチド配列には、ペプチド核酸(PNA)、モルホリノ及びロック核酸(LNA)、並びにグリコール核酸(GNA)及びトレオース核酸(TNA)が含まれる。これらの配列はそれぞれ、分子の骨格の変化によって自然発生DNA又はRNAとは区別される。また、ホスホロチオエートヌクレオチドを使用してもよい。他のデオキシヌクレオチド類似体としては、メチルホスホネート、ホスホロアミデート、ホスホロジチオエート、N3’P5’-ホスホロアミデート及びオリゴリボヌクレオチドホスホロチオエート、並びにそれらの2’-O-アリル類似体、並びに2’-O-メチルリボヌクレオチドメチルホスホネートが挙げられ、これらを本発明のヌクレオチドに使用することができる。
【0039】
本明細書において使用される場合、「核酸コンストラクト」という用語は、組み換えDNA技術の使用によって得られる非自然発生核酸を指す。特に、核酸コンストラクトは、核酸配列のセグメントを含有するように修飾され、そうでなければ天然に存在しない形で組み合わせた又は並置した、一本鎖又は二本鎖のいずれかの核酸分子である。
【0040】
幾つかの実施形態においては、本発明の核酸コンストラクトは、自然発生cPLA2e(野生型cPLA2e)、例えば自然発生ヒトcPLA2e(例えばアイソフォーム1又は2)、霊長類、マウス又は他の哺乳動物の既知のcPLA2eをコードするヌクレオチド配列を含む。幾つかの実施形態においては、cPLA2eは、自然発生cPLA2eに対して、通例、ヒトcPLA2eアイソフォーム1又は2に対して置換及び挿入、及び/又は付加、欠失及び/又は共有結合修飾を有する変異体、ペプチド又はポリペプチドである。幾つかの実施形態においては、本発明の核酸コンストラクトによってコードされるcPLA2eは、幾つかのアミノ酸(例えばタグ)又はポリペプチド(例えば担体ポリペプチド)が、例えば局在化又は標的化のために、コードされるcPLA2eに(例えばN末端又はC末端で)付加され得る融合タンパク質又はポリペプチドである。幾つかの実施形態においては、核酸コンストラクトによってコードされるcPLA2eは、cPLA2e、通例、ヒトcPLA2eアイソフォーム1又は2のカルボキシ、アミノ末端又は内部領域に位置するアミノ酸残基が任意に欠失し得るフラグメントcPLA2eである。
【0041】
一実施形態においては、本発明の核酸コンストラクトは、ヒトcPLA2e、好ましくはアイソフォーム1若しくは2にそれぞれ対応する配列番号1若しくは配列番号3のヒトcPLA2eをコードするヌクレオチド配列、又は自然発生若しくは組み換えcPLA2eのコード配列、通例、配列番号1若しくは配列番号3のヒトcPLA2eに対して少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%又は99%の配列同一性を有する変異体ヒトcPLA2eを含む。
【0042】
当業者によって認識されるように、ヒトcPLA2eアイソフォーム1又は2タンパク質フラグメント、機能性タンパク質ドメイン、変異体及び相同タンパク質(オーソログ)も本発明の核酸コンストラクトのcPLA2eの範囲内であるとみなされる。cPLA2eの異なる実施形態がヒトcPLA2eアイソフォーム1又は2と実質的に同じcPLA2e活性を有すると理解される。実質的に同じ活性は、例えば±4%、±3%、±2%、±1%以下を含む最大±5%の活性であり得る。
【0043】
上述のように、cPLA2eは、sn-2位のグリセロリン脂質を選択的に加水分解する細胞質型ホスホリパーゼA2群IVファミリーのカルシウム依存性酵素のメンバーである。これが非常に低いホスホリパーゼ(PLA)活性を示すことが記載されている。代わりに、cPLA2eは、哺乳動物細胞においてN-アシルホスファチジルエタノールアミン(NAPE)及びN-アシルエタノールアミン(NAE)を産生するカルシウム依存性N-アシルトランスフェラーゼ(Ca-NAT)活性を有することが示されている。そのトランスアシラーゼ特性は、セリンヒドロラーゼ活性と関連付けられている(Ogura et al., Nat Chem Biol. 2016, 12(9), 669-671)。
【0044】
Ca-NAT活性は、生体サンプル(例えば細胞溶解物)におけるNAPEの産生、例えばCaCl(3mM)を反応混合物に添加して又は添加せずに37℃で30分間のDPPC(40μM)及びDOPE(75μM)との反応におけるN-C16:0 DOPE産生を測定することによって決定することができる。Ca非依存性活性をCa依存性活性の算出において減算する。代替的には、NAPE産生(例えば13C16:0含有NAPE)の標的化分析は、哺乳動物細胞(例えばHEK293T細胞)を、2μmイオノマイシンを含む又は含まない血清含有培養培地中でインキュベートすることによって行うことができる。細胞を脂質抽出前に37℃で一定時間(例えば30分間)インキュベートする。抽出した脂質をクロマトグラフィーによって分離し、質量分析(例えばLC-MS/MS)によって分析することができる。
【0045】
本発明の核酸コンストラクトの好ましい実施形態においては、cPLA2eをコードするヌクレオチド配列は、配列番号2若しくは配列番号4、又は配列番号2若しくは4に対して少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%若しくは少なくとも95%の同一性を有する変異体ヌクレオチド配列である。
【0046】
本明細書において使用される場合、「配列同一性」又は「同一性」という用語は、2つのポリヌクレオチド配列又は2つのポリペプチド配列のアラインメントによる位置の一致数(同一の核酸残基又はアミノ酸残基)を指す。配列同一性は、配列ギャップを最小限に抑えた上で重複及び同一性を最大化するようにアラインメントした場合の配列を比較することによって決定される。特に、配列同一性は、2つの配列の長さに応じて、多数の数学的なグローバル又はローカルアラインメントアルゴリズムのいずれかを用いて決定することができる。同様の長さの配列は、配列を全長にわたって最適にアラインメントするグローバルアラインメントアルゴリズム(例えばNeedleman及びWunschのアルゴリズム;Needleman and Wunsch, 1970, J Mol Biol.;48(3):443-53)を用いてアラインメントするのが好ましく、実質的に異なる長さの配列は、ローカルアラインメントアルゴリズム(例えばSmith及びWatermanのアルゴリズム(Smith and Waterman, 1981, J Theor Biol. ;91(2):379-80)又はAltschulのアルゴリズム(Altschul SF et al., 1997, Nucleic Acids Res.;25(17):3389-402、Altschul SF et al., 2005, Bioinformatics;21(8):1451-6)を用いてアラインメントするのが好ましい。核酸の配列同一性%を決定する目的のアラインメントは、当該技術分野における技能の範囲内である様々な方法で、例えばhttp://blast.ncbi.nlm.nih.gov/又はhttp://www.ebi.ac.uk/Tools/emboss/等のインターネットウェブサイト上で利用可能な公開コンピュータソフトウェアを用いて達成することができる。当業者は、比較される配列の完全長にわたって最大のアラインメントを達成するのに必要とされる任意のアルゴリズムを含む、アラインメントを測定するための適切なパラメーターを決定することができる。本明細書における目的上、核酸の配列同一性%値は、Needleman-Wunschアルゴリズムを用いて2つの配列の最適なグローバルアラインメントを生じるペアワイズ配列アラインメントプログラムEMBOSS Needleを用いて生成した値を指し、ここで、全ての検索パラメーターは、デフォルト値、すなわちスコアリングマトリックス=BLOSUM62、ギャップオープン=10、ギャップ伸長=0.5、エンドギャップペナルティ=false、エンドギャップオープン=10及びエンドギャップ伸長=0.5に設定される。
【0047】
本明細書に記載される核酸コンストラクトは、異なる用途を有し得る。中でも、遺伝子療法用のウイルスベクターを生成するため、又はmRNA構造を有する核酸コンストラクト等の、同様に遺伝子療法用の非ウイルスベクターを生成するために使用することができる。
【0048】
一実施形態においては、本発明による核酸コンストラクトは、cPLA2eをコードするヌクレオチド配列及び宿主細胞におけるその発現に少なくとも好適な核酸要素を含む。
【0049】
例えば、一実施形態においては、核酸コンストラクトは、cPLA2eをコードするヌクレオチド配列と、関連の標的細胞型又は組織における該コード配列の発現に必要とされる1つ以上の制御配列とを含む。概して、核酸コンストラクトはコード配列と、選択された遺伝子産物の発現に必要とされるコード配列に先行する(5’非コード配列)及び後続する(3’非コード配列)調節配列とを含む。このため、具体的な実施形態においては、上記核酸コンストラクトは少なくとも、(ii)プロモーターの制御下の(i)cPLA2eをコードするヌクレオチド配列と、(iii)通常はポリアデニル化シグナル配列及び/又は転写ターミネーターを含む3’非翻訳領域とを含む。核酸コンストラクトは、例えばエンハンサー配列、イントロン、マイクロRNA標的化配列、ベクター内のDNAフラグメントの挿入を容易にするポリリンカー配列、及び/又はスプライシングシグナル配列等の付加的な調節要素も含み得る。
【0050】
プロモーター
一実施形態においては、本発明の核酸コンストラクトは、プロモーターも含む。該プロモーターは、宿主細胞への導入後に導入遺伝子発現を開始する。
【0051】
本明細書において使用される場合、「導入遺伝子」という用語は、遺伝子療法において有効成分として使用される遺伝子産物をコードする核酸分子、DNA又はcDNAを指す。遺伝子産物はRNA、ペプチド又はタンパク質であり得る。導入遺伝子は、天然遺伝子産物又は組み換え非自然発生遺伝子産物、例えばcPLA2eをコードし得る。
【0052】
本明細書において使用される場合、「プロモーター」という用語は、それが操作可能に連結した核酸(導入遺伝子)の転写を指示する調節要素を指す。プロモーターは、操作可能に連結された核酸の転写の速度及び効率の両方を調節することができる。プロモーターを、核酸のプロモーター依存性転写を増強する(「エンハンサー」)又は抑制する(「リプレッサー」)、他の調節要素に操作可能に連結してもよい。これらの調節要素としては、限定されるものではないが、転写因子結合部位、リプレッサー及び活性化タンパク質結合部位、並びに例えばアテニュエーター、エンハンサー及びサイレンサーを含む、プロモーターからの転写量を調節するように直接又は間接的に作用する、当業者に既知のヌクレオチドの任意の他の配列が挙げられる。プロモーターは、操作可能に連結した遺伝子又はコード配列の転写開始部位の近くに、同じ鎖上に、またDNA配列の上流に(センス鎖の5’領域に向かって)配置される。プロモーターは、約100塩基対~1000塩基対の長さであり得る。プロモーターにおける位置は、特定の遺伝子の転写開始部位に対して指定される(すなわち、上流の位置は、-1から逆に数えた負の数であり、例えば-100は、100塩基対上流の位置である)。
【0053】
本明細書において使用される場合、「操作可能に連結した」という用語は、機能的関係にあるポリヌクレオチド(又はポリペプチド)要素の連結を指す。核酸は、それが別の核酸配列と機能的関係に置かれる場合に「操作可能に連結する」。例えば、プロモーター又は転写調節配列は、それがコード配列の転写に影響を与える場合にコード配列に操作可能に連結する。操作可能に連結したとは、連結しているポリヌクレオチド配列が通例、隣接することを意味し、2つのタンパク質コード領域を接合する必要がある場合、それらは隣接し、リーディングフレーム内にある。
【0054】
一実施形態においては、本発明の核酸コンストラクトは、cPLA2eをコードするヌクレオチド配列に操作可能に連結したプロモーターを更に含む。
【0055】
一実施形態においては、cPLA2eコード配列に操作可能に連結した上記プロモーターは、異種プロモーターである。本明細書において使用される場合、ヌクレオチド又はペプチド配列の属性として使用される場合(例えば異種プロモーター、異種エンハンサー等)の「異種」という用語は、別のヌクレオチド又はペプチド配列に天然では操作可能に連結していない配列を意味する。この特定の場合においては、「異種プロモーター」は、cPLA2eをコードするヌクレオチド配列に天然では操作可能に連結していないプロモーター配列を意味する。
【0056】
通例、かかるプロモーターは、組織若しくは細胞型特異的プロモーター、又は器官特異的プロモーター、又は複数の器官に特異的なプロモーター、又は全身性若しくはユビキタスプロモーターであり得る。
【0057】
特定の実施形態においては、本発明の核酸コンストラクトは、cPLA2eをコードするヌクレオチド配列に操作可能に連結したプロモーターを更に含み、該プロモーターは、少なくとも海馬のニューロンにおいてコードされたcPLA2eの発現を指示する。
【0058】
本発明の核酸コンストラクトの特定の実施形態においては、cPLA2eをコードするヌクレオチド配列に操作可能に連結したプロモーターは、神経細胞特異的プロモーターである。
【0059】
本明細書において使用される場合、「特異的プロモーター」という用語は、必ずしも活性が単一の細胞型に制限されるわけではないが、それにもかかわらず、或る群の細胞又は組織において活性であり、別の群においては活性が低いか又はサイレント型であるという選択性を示すプロモーターに関する。しかしながら、本発明の核酸コンストラクトのプロモーターは、神経細胞においてのみ検出可能なレベルで活性であるという厳密な細胞特異性を示すことが好ましい場合がある。
【0060】
このため、本明細書において使用される場合、「神経細胞特異的プロモーター」は、神経細胞又は神経細胞に由来する細胞において独自に又は主に発現される遺伝子の発現を制御するプロモーターである。神経細胞特異的プロモーターは、神経細胞又は神経細胞に由来する細胞において遺伝子の発現を指示するが、他の細胞型、例えばグリア細胞におけるその同じ遺伝子の発現を実質的に指示せず、したがって神経細胞特異的転写活性を有する。場合によっては、他の細胞型において幾らかの低レベルの発現が見られてもよいが、かかる発現は、神経細胞における発現よりも実質的に低く、例えば、神経細胞における発現は、他の細胞における発現レベルの少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍又は少なくとも10倍高い可能性がある。かかるプロモーターは、強いプロモーターであっても又は弱いプロモーターであってもよく、神経細胞若しくは神経細胞に由来する細胞における遺伝子の構成的発現を指示しても、又は或る特定の条件、シグナル若しくは細胞的事象に応答して発現を指示してもよい。
【0061】
したがって、神経細胞特異的プロモーターは、それに連結した遺伝子のニューロンにおける活性発現を可能にし、他の細胞又は組織におけるその発現を防ぐ。
【0062】
本発明の核酸コンストラクトのより特定の実施形態において、cPLA2eをコードするヌクレオチド配列に操作可能に連結したプロモーターは、シナプシン1(SYN1)遺伝子プロモーター(Kuegler S et al. Gene Ther. 2003; 10(4): 337-47)、神経細胞特異的エノラーゼ(NSE)遺伝子プロモーター(Forss-Petters S et al. Neuron. 1990;5(2):187-97、Twyman RM et a. J Mol Neurosci. 1997;8(1):63-73)、Hb9遺伝子プロモーター(Eur J Neurosci. 1997; 9:452、J Neurosci Res. 2000; 59:321)、プリオンタンパク質(Prnp)遺伝子プロモーター(Weber P et al. Eur J Neurosci. 2001; 14:1777)、α-カルシウム-カルモジュリン依存性キナーゼII(CaMKIIα)遺伝子プロモーター(Dittgen T et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2004; 101: 18206-18211)、メチルCpG結合タンパク質2(MECP2)遺伝子プロモーター(Adachi M. et al. Hum Mol Genet. 2005;14(23):3709-3722、Gray S.J. et al. Hum Gene Ther. 2011; 22(9): 1143-1153)及びチューブリンa1(Ta1)遺伝子プロモーター(Gloster A. et al. J Neurosci.1994; 14:7319)からなる群より選択される神経細胞特異的プロモーターである。
【0063】
通例、かかるプロモーター(特に、上記の選択群の神経細胞特異的プロモーター)は、コア、近位及び遠位プロモーター要素を含む完全なプロモーター;プロモーター、例えばコアプロモーターのフラグメント、若しくは標的細胞、組織若しくは器官における遺伝子発現を指示するのに十分な任意の他のフラグメント;又はキメラ若しくはハイブリッドプロモーター、例えば遺伝子のコアプロモーターと別の遺伝子若しくは合成による異種エンハンサー配列とを含むプロモーターであってもよい。「コアプロモーター」という用語は、本明細書において、転写を適切に開始するのに必要とされるプロモーターの最小部分を指す。これは、転写開始部位及び細胞又は宿主生物内の転写開始複合体(TATAボックス)の結合のための機能的配列からなる。好適な神経細胞特異的ハイブリッドプロモーターの非限定的な例は、中でも、SYN1プロモーターに基づくハイブリッドプロモーター、例えばSYN1及びCMV遺伝子のプロモーター要素の融合によって生じるハイブリッドプロモーター(例えば、Matsuzaki Y. et al. J Neurosci Methods 2014; 223:133-143)、Hb9プロモーター、例えばHsp68最小プロモーター(Singh NR et al. Exp Neurol. 2005; 196(2):224-234)又はCMV最小プロモーター(Lukashchuk V. et al. Mol Ther Methods Clin Dev. 2016; 3: 15055)に融合したマウスHb9エンハンサーである。
【0064】
本発明の核酸コンストラクトの一実施形態においては、cPLA2eをコードするヌクレオチド配列に操作可能に連結したプロモーターは、SYN1プロモーター、又はCMV遺伝子プロモーター要素に融合したコアSYN1プロモーターを含むハイブリッドSYN1プロモーター等のハイブリッドSYN1プロモーターである。
【0065】
一実施形態においては、本発明の核酸コンストラクトは、cPLA2e、通例、配列番号1又は3のcPLA2eをコードするヌクレオチド配列に操作可能に連結したハイブリッドSYN1プロモーターを含み、好ましくは、コードヌクレオチド配列は、配列番号2又は4である。
【0066】
これらのプロモーター配列は全て、少なくとも海馬のニューロンにおける核酸コンストラクトによってコードされるcPLA2eの発現を可能にする特性を有する。
【0067】
具体的な実施形態においては、本発明の核酸コンストラクトに使用されるプロモーターは、化学誘導性プロモーターであり得る。本明細書において使用される場合、化学誘導性プロモーターは、投与を必要とする上記被験体への化学誘導剤のin vivo投与によって調節されるプロモーターである。好適な化学誘導性プロモーターの例としては、限定されるものではないが、テトラサイクリン/ミノサイクリン誘導性プロモーター(Chtarto 2003, Neurosci Lett. 352:155-158)又はラパマイシン誘導性系(Sanftner 2006, Mol Ther.13:167-174)が挙げられる。
【0068】
ポリアデニル化シグナル
核酸コンストラクトの実施形態は、他の任意のヌクレオチド要素とともに又はそれを伴わずにポリアデニル化シグナル配列を含んでいてもよい。本明細書において使用される場合、「ポリアデニル化シグナル」すなわち「ポリ(A)シグナル」という用語は、前駆体mRNA分子に転写され、遺伝子転写の終結を導く、遺伝子の3’非翻訳領域(3’UTR)内の特定の認識配列を指す。ポリ(A)シグナルは、新たに形成された前駆体mRNAの3’末端でのエンドヌクレアーゼ的切断及びその3’末端へのアデニン塩基のみからなるRNAストレッチの付加(ポリアデニル化プロセス;ポリ(A)テール)のシグナルとして作用する。ポリ(A)テールは、mRNAの核外輸送、翻訳及び安定性に重要である。本発明の文脈においては、ポリアデニル化シグナルは、哺乳動物細胞における哺乳動物遺伝子及び/又はウイルス遺伝子のポリアデニル化を指示することができる認識配列である。
【0069】
ポリ(A)シグナルは通例、a)プレメッセンジャーRNA(プレmRNA)の3’末端切断及びポリアデニル化の両方に必要とされるとともに、下流の転写終結を促進することが示されているコンセンサス配列AAUAAAと、b)ポリ(A)シグナルとしてのAAUAAAの利用効率を制御するAAUAAAの上流及び下流の付加的な要素からなる。哺乳動物遺伝子中のこれらのモチーフには相当の変動が見られる。
【0070】
一実施形態においては、任意に上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と組み合わせて、本発明の核酸コンストラクトのポリアデニル化シグナル配列は、哺乳動物遺伝子又はウイルス遺伝子のポリアデニル化シグナル配列である。好適なポリアデニル化シグナルとしては、中でも、SV40初期ポリアデニル化シグナル、SV40後期ポリアデニル化シグナル、HSVチミジンキナーゼポリアデニル化シグナル、プロタミン遺伝子ポリアデニル化シグナル、アデノウイルス5 EIbポリアデニル化シグナル、成長ホルモンポリアデニル化シグナル、PBGDポリアデニル化シグナル、コンピュータ設計ポリアデニル化シグナル(合成)等が挙げられる。
【0071】
特定の実施形態においては、核酸コンストラクトのポリアデニル化シグナル配列は、ウシ成長ホルモン遺伝子をベースとしたポリアデニル化シグナル配列である。
【0072】
具体的な実施形態においては、本発明による核酸コンストラクトは、配列番号1又は3のcPLA2eをコードするヌクレオチド配列に操作可能に連結したハイブリッドSYN1プロモーター、及びウシ成長ホルモン遺伝子のポリアデニル化シグナル配列を含む。好ましい実施形態においては、上記cPLA2eをコードするヌクレオチド配列は、配列番号2又は4である。
【0073】
mRNA構造を有する核酸コンストラクト
幾つかの実施形態においては、本発明の核酸コンストラクトはRNAである。特定の態様においては、核酸コンストラクトはmRNAの構造を有する。特定の態様においては、mRNAは修飾され得る。mRNA核酸の修飾は、米国特許出願公開第20140206752号及び米国特許出願公開第20150086614号及び米国特許出願公開第20160304552号、並びに国際公開第2016011226号、国際公開第2016014846号及び国際公開第2016011306号に更に詳細に記載されている。中でも、化学修飾された核酸塩基、糖、骨格又はそれらの任意の組合せ、パターン化非翻訳領域(UTR)、マイクロRNA(miRNA)結合部位(複数の場合もある)等がある。
【0074】
このため、幾つかの実施形態においては、cPLA2eをコードするヌクレオチド配列を含む核酸コンストラクトは、以下の特徴:a)5’キャップ構造、b)5’UTR、又はc)3’UTRの少なくとも1つを更に含み得る。一態様においては、ポリヌクレオチドは特徴の2つを更に含む。一態様においては、ポリヌクレオチドは、これらの特徴の3つ全てを更に含み得る。UTRは、cPLA2eをコードするヌクレオチド配列と相同又は異種であり得る。
【0075】
非翻訳領域(UTR)は、開始コドン前(5’UTR)及び終止コドン後(3’UTR)の翻訳されないポリヌクレオチドの核酸セクションである。幾つかの実施形態においては、cPLA2eをコードするヌクレオチド配列を含む本発明の核酸コンストラクトは、UTR(例えば、5’UTR若しくはその機能的フラグメント、3’UTR若しくはその機能的フラグメント、又はそれらの組合せ)を更に含む。
【0076】
幾つかの実施形態においては、核酸コンストラクトは、同じ又は異なるヌクレオチド配列をそれぞれが有する2つ以上の5’UTR又はその機能的フラグメントを含む。幾つかの実施形態においては、核酸コンストラクトは、同じ又は異なるヌクレオチド配列をそれぞれが有する2つ以上の3’UTR又はその機能的フラグメントを含む。幾つかの実施形態においては、5’UTR若しくはその機能的フラグメント、3’UTR若しくはその機能的フラグメント、又はそれらの任意の組合せが配列最適化される。幾つかの実施形態においては、5’UTR若しくはその機能的フラグメント、3’UTR若しくはその機能的フラグメント、又はそれらの任意の組合せは、少なくとも1つの化学修飾された核酸塩基、例えば1-メチルシュードウリジン又は5-メトキシウラシルを含む。幾つかの実施形態においては、5’UTR又は3’UTRの機能的フラグメントは、それぞれ完全長5’又は3’UTRの1つ以上の調節特徴を含む。
【0077】
通例、特定の標的細胞/組織/器官の多量に発現した遺伝子に見られる特徴を操作することによって、その特定の標的細胞/組織/器官におけるポリヌクレオチドの安定性及びタンパク質産生を増強することができる。
【0078】
幾つかの実施形態においては、5’UTR及び3’UTRは、異種であり得る。幾つかの実施形態においては、5’UTRは3’UTRとは異なる種に由来し得る。
【0079】
国際公開第2014/164253号(その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)は、cPLA2eをコードするヌクレオチド配列の隣接領域として本発明のポリヌクレオチドに用いることができる例示的なUTRのリストを提示している。
【0080】
任意の遺伝子又はmRNAに由来する野生型UTRを本発明の核酸コンストラクトに組み込むことができる。幾つかの実施形態においては、例えばコードヌクレオチド配列に対するUTRの配向若しくは位置の変化、又は付加的なヌクレオチドの組入れ、ヌクレオチドの欠失、ヌクレオチドの交換若しくは転位によって、UTRを野生型又はネイティブUTRに対して変化させ、変異体UTRを作製することができる。幾つかの実施形態においては、5’又は3’UTRの変異体、例えば野生型UTRの突然変異体、又は1つ以上のヌクレオチドがUTRの末端に付加するか若しくは末端から除去された変異体を用いることができる。さらに、1つ以上の合成UTRを1つ以上の非合成UTRと組み合わせて使用することができる。例えば、Mandal and Rossi, Nat. Protoc. 2013 8(3):568-82及びwww.addgene.org/Derrick_Rossi/で利用可能な配列(それぞれの内容全体が引用することにより本明細書の一部をなす)を参照されたい。
【0081】
天然mRNAの5’キャップ構造は、核外輸送に関与し、mRNA安定性を高め、CBPとポリ(A)結合タンパク質との会合により細胞におけるmRNA安定性及び翻訳能力に関与するmRNAキャップ結合タンパク質(CBP)に結合して、成熟環状mRNA種を形成する。キャップは、mRNAスプライシング時の5’近位イントロンの除去を更に補助する。内因性mRNA分子を5’末端キャップし、末端グアノシンキャップ残基とmRNA分子の5’末端転写センスヌクレオチドとの間に5’-ppp-5’-トリホスフェート連結を生成することができる。次いで、この5’-グアニレートキャップをメチル化し、N7-メチル-グアニレート残基を生成することができる。mRNAの5’末端の末端及び/又は末端前(ante-terminal)転写ヌクレオチドのリボース糖を任意に2’-O-メチル化してもよい。グアニレートキャップ構造の加水分解及び切断による5’-デキャッピングによって、mRNA分子等の核酸分子を分解の標的とすることができる。
【0082】
幾つかの実施形態においては、本発明の核酸コンストラクトは、5’キャップとして部分又は構造を組み込む。
【0083】
幾つかの実施形態においては、本発明の核酸コンストラクト(すなわち、cPLAeをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド)は、ポリAテールを更に含む。
【0084】
ベクター
本発明の核酸コンストラクトは、発現ベクターに含まれていてもよい。このため、一態様においては、本発明は、本発明の核酸コンストラクトを含む発現ベクターに関する。
【0085】
本明細書において使用される場合、「発現ベクター」又は「ベクター」という用語は、遺伝物質を移動させるため、特にin vitro又はin vivoのいずれかで核酸を宿主細胞に送達するためにビヒクルとして使用される核酸分子を指す。発現ベクターは、かかる配列に適合する宿主細胞又は宿主生物において遺伝子(導入遺伝子)の発現をもたらすことが可能な核酸分子も指す。発現ベクターは通例、少なくとも好適な転写調節配列と、任意に3’転写終結シグナルとを含む。正確な誘導シグナルに応答することが可能な又は或る特定の細胞、器官若しくは組織に特異的な発現エンハンサー要素等の発現をもたらす上で必要又は有益な付加的な因子(内因性又はキメラ転写因子)が存在していてもよい。ベクターとしては、プラスミド、ファスミド、コスミド、転位要素、ウイルス及び人工染色体(例えばYAC)が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、本発明のベクターは、遺伝子又は細胞療法への使用に適したベクターであり、特に神経細胞を標的とするのに適している。
【0086】
幾つかの実施形態においては、発現ベクターは、モロニーマウス白血病ウイルスベクター(MoMLV)、MSCV、SFFV、MPSV又はSNVに由来するベクター、レンチウイルスベクター(例えばヒト免疫不全ウイルス(HIV)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、ウシ免疫不全ウイルス(BIV)又はウマ感染性貧血ウイルス(EIAV)に由来する)、アデノウイルス(Ad)ベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、シミアンウイルス40(SV-40)ベクター、ウシパピローマウイルスベクター、エプスタインバーウイルス、ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、ハーベイマウス肉腫ウイルスベクター、マウス乳癌ウイルスベクター、ラウス肉腫ウイルスベクター等のウイルスベクターである。
【0087】
当該技術分野で既知のように、考慮される特定のウイルスベクターに応じて、機能的ウイルスベクターを得るために、AAVベクター用のAAV ITR又はレンチウイルスベクター用のLTR等の好適な配列を本発明のベクターに導入する必要がある。特定の実施形態においては、任意に上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と組み合わせて、上記ベクターはAAVベクターである。
【0088】
AAVは、ヒト遺伝子療法のための潜在的ベクターとして大きな関心を呼んでいる。このウイルスの有利な特性としては、任意のヒト疾患との関連性の欠如、分裂及び非分裂細胞の両方に感染する能力、並びに異なる組織に由来する広範な細胞株に感染し得ることが挙げられる。AAVゲノムは、4681個の塩基を含む線状一本鎖DNA分子から構成される(Berns and Bohenzky, 1987, Advances in Virus Research (Academic Press, Inc.) 32:243-307)。ゲノムは、DNA複製起点及びウイルスのパッケージングシグナルとしてシスで機能する逆方向末端反復(ITR)を両端に含む。ITRは、およそ145bpの長さである。ゲノムの内部非反復部分は、それぞれAAV rep及びcap遺伝子として知られる2つの大きなオープンリーディングフレームを含む。これらの遺伝子は、ビリオンの複製及びパッケージングに関与するウイルスタンパク質をコードする。特に、少なくとも4つのウイルスタンパク質が、見掛けの分子量に従って命名された、AAV rep遺伝子であるRep 78、Rep 68、Rep 52及びRep 40から合成される。AAVキャップ遺伝子は、少なくとも3つのタンパク質であるVP1、VP2及びVP3をコードする。AAVゲノムの詳細な説明については、例えば、Muzyczka, N. 1992 Current Topics in Microbiol. and Immunol. 158:97-129を参照されたい。
【0089】
このため、一実施形態においては、任意に上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と組み合わせて、本発明の核酸コンストラクト又は発現ベクター(cPLA2eをコードするヌクレオチド配列を含む)は、5’ITR及び3’ITR配列、好ましくはアデノ随伴ウイルスの5’ITR及び3’ITR配列を更に含む。
【0090】
本明細書において使用される場合、「逆方向末端反復(ITR)」という用語は、ウイルスの5’末端に位置するヌクレオチド配列(5’ITR)及び3’末端に位置するヌクレオチド配列(3’ITR)を指し、回文配列を含み、DNA複製の開始時にプライマーとして機能するT字形ヘアピン構造を形成するように折り畳むことができる。これらは、宿主ゲノムへのウイルスゲノムの組込み、宿主ゲノムからのレスキュー、及び成熟ビリオンへのウイルス核酸のカプシド形成にも必要とされる。ITRは、ベクターゲノムの複製及びそのウイルス粒子へのパッケージングにシスで必要とされる。
【0091】
本発明のウイルスベクターに使用されるAAV ITRは、野生型ヌクレオチド配列を有していても、又は挿入、欠失若しくは置換によって変化していてもよい。AAVの逆方向末端反復(ITR)の血清型は、任意の既知のヒト又は非ヒトAAV血清型から選択することができる。具体的な実施形態においては、核酸コンストラクト又はウイルス発現ベクターは、AAV1、AAV2、AAV3(3A型及び3B型を含む)、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、トリAAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、ヒツジAAV、及び現在既知であるか又は今後発見される任意の他のAAV血清型を含む任意のAAV血清型のITRを用いて得ることができる。
【0092】
好ましい一実施形態においては、核酸コンストラクト又は発現ベクターは、血清型AAV2のAAVの5’ITR及び3’ITRを更に含む。
【0093】
他の実施形態においては、本発明の核酸コンストラクト又は発現ベクターは、合成5’ITR及び/又は3’ITRを用い、また異なる血清型のウイルスに由来する5’ITR及び3’ITRを用いて得ることができる。ウイルスベクター複製に必要とされる他の全てのウイルス遺伝子は、下記のようにウイルス産生細胞(パッケージング細胞)においてトランスで提供することができる。したがって、ウイルスベクターへのそれらの組入れは任意である。
【0094】
一実施形態においては、本発明の核酸コンストラクト又はウイルスベクターは、ウイルスの5’ITR、ψパッケージングシグナル及び3’ITRを含む。「ψパッケージングシグナル」は、幾つかのウイルス(例えばアデノウイルス、レンチウイルス等)において複製時のウイルスカプシドへのウイルスゲノムのパッケージングのプロセスに不可欠なウイルスゲノムのシス作用性ヌクレオチド配列である。
【0095】
組み換えAAVウイルス粒子の構築は、当該技術分野で一般に既知であり、例えば米国特許第5,173,414号及び米国特許第5,139,941号、国際公開第92/01070号、国際公開第93/03769号、Lebkowski et al. (1988) Molec. Cell. Biol. 8:3988-3996、Vincent et al. (1990) Vaccines 90 (Cold Spring Harbor Laboratory Press)、Carter, B. J. (1992) Current Opinion in Biotechnology 3:533-539、Muzyczka, N. (1992) Current Topics in Microbiol. and Immunol. 158:97-129及びKotin, R. M. (1994) Human Gene Therapy 5:793-801に記載されている。
【0096】
ウイルス粒子
本発明の核酸コンストラクト又は発現ベクターは、ウイルスカプシドにパッケージングされ、「ウイルスベクター粒子」とも呼ばれる「ウイルス粒子」を生成することができる。
【0097】
このため、一態様においては、本発明は、本発明の核酸コンストラクト又は発現ベクターを含むウイルス粒子に関する。
【0098】
一態様においては、本発明は、cPLA2eをコードするヌクレオチド配列に操作可能に連結したプロモーターを含む核酸コンストラクト又は発現ベクターを含むウイルス粒子、並びにa)cPLA2eをコードするヌクレオチド配列に操作可能に連結したプロモーター、b)ポリアデニル化シグナル配列、並びにc)5’ITR及び3’ITRを含む核酸コンストラクト又は発現ベクターを、任意に上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と組み合わせて含むウイルス粒子に関する。
【0099】
好ましい実施形態においては、本発明のウイルス粒子は、アデノ随伴ウイルスのカプシドタンパク質を含むAAV粒子であり、すなわち、本発明の核酸コンストラクト又は発現ベクターは、AAV由来のカプシドにパッケージングされ、「アデノ随伴ウイルス粒子」すなわち「AAV粒子」を生成する。AAV粒子という用語は、遺伝子操作された、任意の組み換えAAV粒子又は突然変異体AAV粒子を包含する。組み換えAAV粒子は、特定のAAV血清型に由来するITR(複数の場合もある)を含む核酸コンストラクト又はウイルス発現ベクターを、同じ又は異なる血清型のAAVに対応する天然又は突然変異体Capタンパク質によって形成されたウイルス粒子上にカプシド形成することによって作製することができる。
【0100】
アデノ随伴ウイルスのウイルスカプシドのタンパク質には、カプシドタンパク質VP1、VP2及びVP3が含まれる。様々なAAV血清型のカプシドタンパク質配列間の差により、細胞侵入に異なる細胞表面受容体が使用される。代替的な細胞内プロセシング経路と組み合わせることで、各AAV血清型について異なる組織親和性が生じる。
【0101】
一実施形態においては、本発明によるAAV粒子は、特定のAAV血清型に由来するAAVベクター/ゲノムのウイルスベクターを、同じ特定の血清型のAAVに対応する天然Capタンパク質によって形成されるウイルス粒子上にカプシド形成することによって作製することができる。それにもかかわらず、自然発生AAVウイルス粒子の構造特性及び機能特性を修正及び改善するために幾つかの手法が開発されている(Buenning H et al. J Gene Med, 2008; 10: 717-733、Paulk et al. Mol ther. 2018; 26(1):289-303、Wang L et al. Mol Ther. 2015; 23(12):1877-87、Vercauteren et al. Mol Ther. 2016; 24(6):1042-1049、Zinn E et al., Cell Rep. 2015; 12(6):1056-68)。
【0102】
このため、別の実施形態においては、本発明によるAAVウイルス粒子は、例えば、a)同じ若しくは異なるAAV血清型に由来するカプシドタンパク質(例えば、AAV2 ITR及びAAV9カプシドタンパク質、AAV2 ITR及びAAV TTカプシドタンパク質等)で構成されたウイルス粒子、b)異なるAAV血清型若しくは突然変異体に由来するカプシドタンパク質の混合物で構成されたモザイクウイルス粒子(例えば、2つ又は複数のAAV血清型のタンパク質によって形成されたカプシドを有するAAV2 ITR)、c)異なるAAV血清型若しくは変異体の間のドメイン交換によって切断されたカプシドタンパク質で構成されたキメラウイルス粒子(例えば、AAV3ドメインを有するAAV5カプシドタンパク質を含むAAV2 ITR)、又はd)標的細胞特異的受容体との厳密な相互作用を可能にする選択的な結合ドメインを示すように操作された標的化ウイルス粒子にパッケージングされる、所与のAAV血清型のITR(複数の場合もある)が隣接したcPLA2eをコードするヌクレオチド配列を含む核酸コンストラクトを含む。
【0103】
具体的な実施形態においては、本発明によるAAV粒子のカプシドタンパク質のAAV血清型の例として、AAV2、AAV5、AAV9及びAAV TTが挙げられる。より好ましい実施形態においては、カプシドタンパク質の上記AAV血清型は、AAV9及びAAV TT血清型から選択される。
【0104】
特定の実施形態においては、任意に上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と組み合わせて、ウイルス粒子は、AAVウイルスに由来する5’ITR及び3’ITR配列を含む核酸コンストラクト又は発現ベクターを含むAAV粒子であり、好ましくは、AAV粒子はAAV2、AAV5、AAV9又はAAV TT血清型、より好ましくはAAV9血清型又はAAV TT血清型のカプシドタンパク質、及び/又はAAV2血清型の5’ITR及び3’ITR配列を含む。
【0105】
特定の実施形態においては、任意に上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と組み合わせて、ウイルス粒子は、プロモーターの制御下の配列番号1又は配列番号3のアミノ酸のヒトcPLA2eをコードするヌクレオチド配列を含む核酸コンストラクト又は発現ベクターを含み、上記プロモーターは、少なくとも海馬のニューロンにおける上記ヒトcPLA2eの発現を可能にし、上記ウイルス粒子は、少なくとも海馬のニューロンを標的とするウイルス粒子の中から選択され、通例、AAV2、AAV5、AAV9又はAAV TT血清型からなる群より選択されるカプシドタンパク質を含むAAV粒子であり、好ましくは、ヒトcPLA2eをコードするヌクレオチド配列は、配列番号2又は配列番号4であり、及び/又はプロモーターは、神経細胞特異的プロモーター、より好ましくはSYN1プロモーター又はハイブリッドSYN1プロモーターである。
【0106】
より特定の実施形態において、本発明によるかかる組み換えAAV粒子は、AAV9又はAAV TT血清型のカプシドタンパク質と、(i)ヒトcPLA2eをコードする配列番号2又は4のヌクレオチド配列に操作可能に連結したハイブリッドSYN1プロモーターを含む核酸コンストラクト、並びに(ii)該核酸コンストラクトに隣接するAAV2の5’及び3’ITR等のAAV ITRを含むAAVベクターとを含む。
【0107】
本発明によるAAVウイルス粒子がAAV1、AAV2、AAV3(3A型及び3B型を含む)、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、トリAAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、ヒツジAAV、NP40、NP59、NP84等の合成AAV変異体(Paulk et al. Mol ther. 2018.26(1):289-303)、LK03(Wang L et al. Mol Ther. 2015. 23(12):1877-87)、AAV3-ST(Vercauteren et al. Mol Ther. 2016.24(6):1042-1049)、Anc80(Zinn E et al., Cell Rep. 2015;12(6):1056-68)、及び現在既知であるか又は今後発見される任意の他のAAV血清型を含む任意のAAV血清型に由来するカプシドタンパク質を含み得ることが当業者には理解される。
【0108】
ベクター及びウイルス粒子の作製
上に開示されるような発現ウイルスベクターを含むウイルス粒子の作製は、作製される発現ベクター及びベクターのウイルス粒子の実際の実施形態によって選ばれる構造的特徴を考慮して選択される従来の方法及びプロトコルを用いて行うことができる。
【0109】
簡潔に述べると、ウイルス粒子は、ヘルパーベクター若しくはウイルス、又は他のDNAコンストラクト(複数の場合もある)の存在下で、パッケージングされる核酸コンストラクト又は発現ベクターをトランスフェクトした宿主細胞、特に特定のウイルス産生細胞(パッケージング細胞)において作製することができる。
【0110】
本明細書において使用される「パッケージング細胞」という用語は、本発明の核酸コンストラクト又は発現ベクターでトランスフェクトされる場合があり、ウイルスベクターの完全な複製及びパッケージングに必要とされる全ての欠損機能をトランスで提供する細胞又は細胞株を指す。通例、パッケージング細胞は、上記欠損ウイルス機能の1つ以上を構成的又は誘導的に発現する。上記パッケージング細胞は、接着細胞又は懸濁細胞であり得る。
【0111】
通例、ウイルス粒子を作製する方法は、a)上記のような核酸コンストラクト又は発現ベクターを含むパッケージング細胞を培養培地中で培養する工程と、b)細胞培養上清及び/又は細胞内からウイルス粒子を採取する工程とを含む。
【0112】
本発明の導入遺伝子を含む核酸コンストラクト又は発現ベクター(例えばプラスミド)、rep及びcap遺伝子をコードするが、ITR配列を含まない核酸コンストラクト(例えばAAVヘルパープラスミド)、並びにAAV複製に必要とされるアデノウイルス機能を提供する第3の核酸コンストラクト(例えばプラスミド)との一過性の細胞共トランスフェクションからなる従来の方法を用いて、AAVウイルス粒子を作製することができる。AAV複製に必要とされるウイルス遺伝子は、本明細書においてウイルスヘルパー遺伝子と称される。通例、AAV複製に必要とされる上記遺伝子は、E1A、E1B、E2a、E4又はVA RNA等のアデノウイルスヘルパー遺伝子である。アデノウイルスヘルパー遺伝子は、Ad5又はAd2血清型のものであるのが好ましい。
【0113】
本開示によるAAV粒子の大規模製造は、例えば組み換えバキュロウイルスの組合せによる昆虫細胞の感染によっても行うことができる(Urabe et al. Hum. Gene Ther. 2002; 13: 1935-1943)。SF9細胞をAAV rep、AAV cap及びパッケージングされるAAVベクターをそれぞれ発現する2つ又は3つのバキュロウイルスベクターに重感染させる。組み換えバキュロウイルスベクターは、ウイルス複製及び/又はパッケージングに必要とされるウイルスヘルパー遺伝子機能を提供する。Smith et al 2009 (Molecular Therapy, vol.17, no.11, pp 1888-1896)は、昆虫細胞におけるAAV粒子の大規模製造のための二重バキュロウイルス発現系を更に記載している。
【0114】
好適な培養培地は当業者に既知である。かかる培地を構成する成分は、培養すべき細胞の種類に応じて異なり得る。栄養組成に加えて、浸透圧及びpHが培養培地の重要なパラメーターとみなされる。細胞成長培地は、アミノ酸、ビタミン、有機塩及び無機塩、炭水化物の供給源、脂質、微量元素(CuSO、FeSO、Fe(NO、ZnSO等)を含む当業者に既知の多数の成分を含み、各成分は、in vitroでの細胞の培養(すなわち細胞の生存及び成長)を支持する量で存在する。成分は、緩衝物質(重炭酸ナトリウム、Hepes、Tris等)、酸化安定剤、機械的応力に対抗するための安定剤、プロテアーゼ阻害剤、動物成長因子、植物加水分解物、固結防止剤、消泡剤等の異なる補助物質を含んでいてもよい。細胞成長培地の特性及び組成は、特定の細胞要件に応じて異なる。市販の細胞成長培地の例は、MEM(最小必須培地)、BME(イーグル基礎培地)、DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)、イスコフDMEM(イスコフ改変ダルベッコ培地)、GMEM、RPMI 1640、ライボビッツL-15、マッコイ、199培地、ハム(ハム培地)F10、及び誘導体であるハムF12、DMEM/F12等である。
【0115】
本開示に従って使用されるウイルスベクターの構築及び作製のための更なる指針は、Viral Vectors for Gene Therapy, Methods and Protocols. Series: Methods in Molecular Biology, Vol. 737. Merten and Al-Rubeai (Eds.); 2011 Humana Press (Springer)、Gene Therapy. M. Giacca. 2010 Springer-Verlag、Heilbronn R. and Weger S. Viral Vectors for Gene Transfer: Current Status of Gene Therapeutics. In: Drug Delivery, Handbook of Experimental Pharmacology 197、M. Schaefer-Korting (Ed.). 2010 Springer-Verlag; pp. 143-170、Adeno-Associated Virus: Methods and Protocols. R.O. Snyder and P. Moulllier (Eds). 2011 Humana Press (Springer)、Buenning H. et al. Recent developments in adeno-associated virus technology. J. Gene Med. 2008; 10:717-733、Adenovirus: Methods and Protocols. M. Chillon and A. Bosch (Eds.); Third Edition. 2014 Humana Press (Springer)に見ることができる。
【0116】
別の態様においては、本発明は、本発明の核酸コンストラクト又は発現ベクターを含む宿主細胞に関する。
【0117】
一実施形態においては、本発明による宿主細胞は、ヘルパーベクター若しくはウイルス又は他のDNAコンストラクトの存在下にて本発明による核酸コンストラクト又は発現ベクターでトランスフェクトされ、ウイルス粒子の完全な複製及びパッケージングに必要とされる全ての欠損機能をトランスで提供するパッケージング細胞とも呼ばれる特定のウイルス産生細胞である。上記パッケージング細胞は、接着細胞又は懸濁細胞であり得る。
【0118】
例えば、上記パッケージング細胞は、サル、ヒト、イヌ及び齧歯類の細胞を含む哺乳動物細胞等の真核細胞であり得る。ヒト細胞の例は、PER.C6細胞(国際公開第01/38362号)、MRC-5(ATCC CCL-171)、WI-38(ATCC CCL-75)、HEK-293細胞(ATCC CRL-1573)、HeLa細胞(ATCC CCL2)及びアカゲザル胎児肺細胞(ATCC CL-160)である。非ヒト霊長類細胞の例は、ベロ細胞(ATCC CCL81)、COS-1細胞(ATCC CRL-1650)又はCOS-7細胞(ATCC CRL-1651)である。イヌ細胞の例は、MDCK細胞(ATCC CCL-34)である。齧歯類細胞の例は、BHK21-F、HKCC細胞又はCHO細胞等のハムスター細胞である。
【0119】
哺乳動物供給源の代替として、ウイルス粒子の作製のためのパッケージング細胞は、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、ウズラ又はキジ等の鳥類供給源に由来し得る。鳥類細胞株の例としては、鳥類胚性幹細胞(国際公開第01/85938号及び国際公開第03/076601号)、不死化アヒル網膜細胞(国際公開第2005/042728号)、及びニワトリ細胞(国際公開第2006/108846号)又はアヒル細胞、例えばEB66細胞株(国際公開第2008/129058号及び国際公開第2008/142124号)を含む鳥類胚性幹細胞由来の細胞が挙げられる。
【0120】
別の実施形態においては、細胞は、バキュロウイルス感染及び複製パッケージング細胞に対して許容な任意の細胞であり得る。特定の実施形態においては、上記細胞は、SF9細胞(ATCC CRL-1711)、Sf21細胞(IPLB-Sf21)、MG1細胞(BTI-TN-MG1)又はHigh Five(商標)細胞(BTI-TN-5B1-4)等の昆虫細胞である。
【0121】
したがって、特定の実施形態においては、宿主細胞は、本発明によるcPLA2eをコードするヌクレオチド配列を含む核酸コンストラクト又は発現ベクター(例えば、本発明によるAAVベクター)、ITR配列を含まないAAV rep及び/又はcap遺伝子をコードする核酸コンストラクト、例えばプラスミド、及び/又はウイルスヘルパー遺伝子を含む核酸コンストラクト、例えばプラスミド又はウイルスを含む。
【0122】
別の態様においては、本発明は、本発明の発現ベクター又はウイルス粒子で形質導入された宿主細胞に関し、「宿主細胞」という用語は、本明細書において使用される場合、対象のウイルスによる感染の影響を受けやすく、in vitroでの培養に適した任意の細胞株を指す。
【0123】
他の実施形態においては、本発明の宿主細胞は、治療目的、例えば本明細書に開示される治療用途に使用することができる。
【0124】
医薬組成物
本発明の別の態様は、上述のような核酸コンストラクト、上述のようなベクター、上述のような宿主細胞又は上述のようなウイルス粒子を、1つ以上の薬学的に許容可能な賦形剤と組み合わせて含む医薬組成物である。
【0125】
別の態様においては、本発明は、認知障害及び/又は認知障害と関連する疾患の治療における使用又は投与のための上又は下に開示される実施形態のいずれかにおけるcPLA2e誘導剤を含む医薬組成物にも言及する。
【0126】
本明細書において使用される場合、「薬学的に許容可能な」という用語は、動物及び/又はヒトへの使用について規制機関又は欧州薬局方等の公認薬局方によって承認されていることを意味する。「賦形剤」という用語は、治療剤とともに投与される希釈剤、アジュバント、担体又はビヒクルを指す。
【0127】
本発明の医薬組成物又は薬剤は通例、所望の治療効果をもたらすのに十分な有効量の治療剤(例えば本発明のベクター又はウイルス粒子)と、薬学的に許容可能な担体又は賦形剤とを含む。
【0128】
好ましい実施形態においては、任意に上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と組み合わせて、本発明は次に、上に開示されるベクター又はウイルス粒子と、薬学的に許容可能な担体とを含む医薬組成物に関する。
【0129】
任意の好適な薬学的に許容可能な担体又は賦形剤は、医薬組成物の調製に使用することができる(例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, Alfonso R. Gennaro (Editor) Mack Publishing Company, April 1997を参照されたい)。医薬組成物は通例、製造及び保管の条件下で滅菌であり、安定している。医薬組成物は、溶液(例えば生理食塩水、デキストロース溶液若しくは緩衝液、又は他の薬学的に許容可能な滅菌液)、マイクロエマルション、リポソーム、又は高い製品濃度に対応するのに適した他の秩序構造(例えば、マイクロ粒子又はナノ粒子)として配合することができる。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール及び液体ポリエチレングリコール等)、及びその好適な混合物を含有する溶媒又は分散媒であり得る。適当な流動性は、例えばレシチン等のコーティングの使用、分散液の場合の所要の粒径の維持、及び界面活性剤の使用によって維持することができる。多くの場合、等張剤、例えば糖、マンニトール、ソルビトール等の多価アルコール、又は塩化ナトリウムが組成物中に含まれるのが好ましい。好ましくは、上記医薬組成物は溶液、より好ましくは任意に緩衝化された生理食塩水として配合される。
【0130】
好ましくは、上記医薬組成物は溶液、より好ましくは任意に緩衝化された生理食塩水として配合される。補助的な活性化合物を本発明の医薬組成物に組み込むこともできる。付加的な治療剤の同時投与に関する指針は、例えばカナダ薬剤師会のCompendium of Pharmaceutical and Specialties(CPS)に見ることができる。
【0131】
一実施形態においては、医薬組成物は、実質内、脳内、静脈内又は髄腔内投与に好適な組成物である。これらの医薬組成物は、例示にすぎず、他の非経口及び非経口でない投与経路に好適な医薬組成物を限定するものではない。本明細書に記載される医薬組成物は、単回単位用量又は複数回投与形態でパッケージングすることができる。
【0132】
治療用途
アルツハイマー病の動物モデル(APP/PS1マウス)及び高齢WTマウスを用いて、本発明者らは驚くべきことに、AAVに媒介されるcPLA2e発現の増強、APP/PS1マウスにおける記憶障害の改善、及び高齢WT動物における記憶機能の改善を見出した。
【0133】
これらの結果は、被験体における認知障害及び/又は認知障害と関連する疾患の治療、より具体的には認知症、例えば加齢性認知症又はアルツハイマー病の治療のための考え得る治療戦略の有力な証拠を提供する。
【0134】
したがって、本発明の別の態様は、治療を必要とする被験体において認知障害及び/又は認知障害と関連する疾患、例えば認知症、特に加齢性認知症又はアルツハイマー病を治療する方法に関し、該方法は、上記被験体に治療有効量のcPLA2e誘導剤を投与することを含む。
【0135】
更なる態様においては、本発明は、治療を必要とする被験体における薬剤として使用され、より具体的には、治療を必要とする被験体における認知障害及び/又は認知障害と関連する疾患、例えば認知症、より具体的には加齢性認知症又はアルツハイマー病の治療に使用されるcPLA2e誘導剤に関する。
【0136】
関連の態様においては、本発明は、薬剤の製造のため、より具体的には認知障害及び/又は認知障害と関連する疾患、例えば認知症、より具体的には加齢性認知症又はアルツハイマー病の治療のためのcPLA2e誘導剤の使用に関する。
【0137】
本発明による認知障害及び認知障害と関連する疾患の治療において使用又は投与されるcPLA2e誘導剤は中でも、a)上述のような本発明の核酸コンストラクト、b)上述のような本発明の核酸コンストラクトを含むベクター、c)上述のような本発明の核酸コンストラクト又はベクターを含むウイルス粒子、d)本発明による核酸コンストラクト又はベクターを含む宿主細胞、e)cPLA2eポリペプチド又はタンパク質、並びにf)上記核酸コンストラクト、核酸コンストラクトを含むベクター、核酸コンストラクト又はベクターを含むウイルス粒子、及びcPLA2eポリペプチド又はタンパク質のいずれかを含む医薬組成物からなる群より選択することができる。
【0138】
上記cPLA2eポリペプチド又はタンパク質に関して、本発明の核酸コンストラクトに含まれるヌクレオチド配列によってコードされるcPLA2eについて上述したいずれか及び全ての実施形態及び好ましい実施形態は、本発明による治療において使用又は投与されるcPLA2eポリペプチド又はタンパク質、特に、任意にタグ又は担体ポリペプチド等の別のポリペプチド(複数の場合もある)との融合タンパク質としての、配列番号1若しくは3のアミノ酸を含む若しくはそれのみからなるcPLA2e、又はそれと少なくとも70%の配列同一性を有する変異体の範囲内の実施形態である。
【0139】
好ましい実施形態においては、本発明の治療用途のためのcPLA2e誘導剤は、本発明のベクター、より好ましくはウイルスベクター若しくはウイルス粒子(例えばAAV粒子)、又はそれを含む医薬組成物である。
【0140】
本明細書において使用される場合、「認知障害」及び「認識機能障害」という用語は区別なく、以下の挙動:学習(例えば連想的学習)の少なくとも1つの形態の阻害、記憶機能(例えば実行機能)の少なくとも1つの形態の阻害、学習の阻害、記憶獲得の阻害、記憶想起の阻害、海馬における長期増強(LTP)の抑制、又はそれらの組合せの1つ以上を特徴とする病態等の任意の認知の機能障害を指す。ヒトにおいては、海馬又は脳機能の試験及び神経画像処理のための任意の好適な方法を用いて、認知及びその潜在的機能障害を決定又は評定することができる。例えば、認知(例えば記憶又は学習)及びその潜在的機能障害は、限定されるものではないが、学齢児童に最適化された空間記憶及び定位を評定するためのラジアルアーム迷路及びモリス水迷路の特徴を有する「キール運動迷路(Kiel Locomotor Maze)」、又は空間記憶範囲、空間作業記憶及び空間認識を試験するために設計された一連のコンピュータ化された非言語視覚提示型神経心理検査であるケンブリッジ神経心理学的自動検査(CANTAB:Cambridge Neuropsychological Test Automated Battery)を含む任意の好適な心理検査を用いて測定することができる。さらに、本明細書に開示される認識機能障害に関する方法の結果は、ヒトに投与される同じ組成物を用いた動物(例えばラット又はマウス)における比較試験によって示すことができる。
【0141】
本発明のcPLA2e誘導剤は、中枢神経系の正常機能を損なうか又は別の形で影響を及ぼす病態に関連する認知障害及び認知障害と関連する疾患、例えば、中でも認知症(例えば、特にアルツハイマー病、パーキンソン病、ALS若しくはプリオン病、クロイツフェルト-ヤコブ病、又はゲルストマン-ストロイスラー-シャインカー疾患のような異常なタンパク質凝集を伴う加齢性認知症(老年性認知症)、脳血管性認知症及び/又は神経変性認知症疾患)、軽度認識機能障害、注意欠陥障害の治療に特に有用である。このため、本発明のcPLA2e誘導剤は、特にこれらの病態の1つに関連する認知障害の治療に使用される。
【0142】
好ましい実施形態においては、cPLA2e誘導剤は、アルツハイマー病の患者における認知障害の治療に特に有用である。本明細書において使用される場合、アルツハイマー病(AD)は、原因不明の中枢神経系の進行性神経変性障害を指す。ADとの関連においては、決定的な特徴は認識機能障害である。ADは、高齢者に一般的な認知症の主要な形態を構成する神経変性障害と定義され、それぞれアミロイド斑及び神経原線維変化の形態のβ-アミロイドペプチド及び高リン酸化タウという2つの異常タンパク質の脳における蓄積を特徴とする。1984年に国立神経コミュニケーション障害脳卒中研究所(NINCDS:National Institute of Neurological and Communicative Disorders and Stroke)及びアルツハイマー病関連障害協会(ARRDA:Alzheimer’s disease and Related Disorders Association)が発表したAD診断のための基準としては、(1)2つ以上の病変部、(2)進行性認知症が見られること、(3)意識変容がないこと、(4)40歳~90歳で発症すること、及び(5)他の原因によって説明することができないことが挙げられる。特徴的な高信頼性のADバイオマーカーは、AD診断を確認するための構造MRI、PETによる分子神経画像、及び脳脊髄液分析によって現在利用可能である。さらに、軽度認知障害(MCI)として知られるアルツハイマー病前の前駆状態は、被験体の年齢及び教育レベルに対して客観的な異常記憶喪失として定義される。MCIの基準としては、(1)家族の一員によって確認された記憶愁訴、(2)他の認知機能が正常であること、(3)正常な日常活動、(4)年齢の割に異常な記憶、及び(5)認知症がないことが挙げられる。
【0143】
本明細書において使用される「被験体」又は「患者」という用語は、哺乳動物を指す。開示の治療方法から利益を得ることができる哺乳動物種としては、ヒト、類人猿、チンパンジー、サル及びオランウータン等の非ヒト霊長類、イヌ及びネコを含む飼育動物、並びにウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ及びヤギ等の家畜、又は限定されるものではないが、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ハムスター等を含む他の哺乳動物種が挙げられるが、これらに限定されない。
【0144】
本明細書において使用される場合、「治療」、「治療する("treating" or "treat")」は、(i)疾患、障害及び/又は病態にかかりやすい可能性があるが、未だそれを有すると診断されていない被験体において疾患、障害若しくは病態が生じるのを予防若しくは遅延させること、(ii)疾患、障害若しくは病態を阻害すること、すなわち、その発症若しくは進行を阻止若しくは減速すること、及び/又は(iii)疾患、障害若しくは病態を緩和すること、すなわち、疾患、障害及び/又は病態の退行を生じさせることを指す。或る特定の実施形態においては、かかる用語は、疾患又は疾患と関連する症状の改善又は根絶を指す。
【0145】
認識機能障害に関して、「治療」、「治療する」は、(i)認識機能障害にかかりやすい可能性があるが、未だそれを有すると診断されていない被験体において認識機能障害が生じるのを予防若しくは遅延させること、(ii)認識機能障害を阻害すること、すなわち、その発症若しくは進行を阻止若しくは減速すること、(iii)認識機能障害を緩和すること、すなわち、その退行を生じさせること、及び/又は(iv)認知能力を向上させることを指す。「認識機能障害を治療する」という用語は、本明細書において他に指定のない限り、認識機能障害を軽減すること、認識機能障害に関連又は起因する少なくとも1つの症状(認識機能障害を引き起こし得る疾患又は障害の症状等)を改善すること、又はその両方を指す。認識機能障害の治療は、特に学習及び記憶障害の治療、並びに学習及び記憶能力の向上に関する。「学習及び記憶能力を向上させる」とは、過去の経験、知識、考え、感覚、思考又は印象を記録、保持又は想起する知的能力を改善又は増大させることを指す。
【0146】
本明細書において使用される場合、「治療有効量」は、以下の治療結果:疾患の発症又は進行の顕著な遅延、1つ以上の症状の重症度の顕著な低下、AD、アミロイド及び/又はタウ病変の特徴の顕著な減少、シナプス可塑性の顕著な増加、加齢及び/又はADと関連する死亡率の顕著な減少の1つ以上のような所望の治療結果を達成するのに必要とされる投与量及び期間で効果的な量を指す。
【0147】
治療有効量は通例、生成物又は医薬組成物の任意の毒性の又は有害な影響を治療上有益な効果が上回る量でもある。
【0148】
一実施形態においては、本発明による治療用途のための核酸コンストラクト、発現ベクター、ウイルス粒子、宿主細胞、cPLA2eポリペプチド若しくはタンパク質、又は医薬組成物は、非経口経路、例えば実質内、脳内、脳室内(icv)、髄腔内、鼻腔内、静脈内又は皮下経路によって被験体又は患者に投与される。
【0149】
通例、治療有効量の上記核酸コンストラクト、発現ベクター、ウイルス粒子、宿主細胞、cPLA2eポリペプチド若しくはタンパク質、又は医薬組成物は、好ましくは髄腔内又は実質内経路によって、後者では好ましくは海馬体又は大脳皮質等の脳の領域に投与される。実質内経路は、脳の他の領域と比較して海馬及び皮質への好ましい局所投与を促進し得る。本明細書において使用される場合、「海馬への好ましい局所投与」は、全てのcPLA2e誘導剤が上記脳領域に投与されることを意味するのではなく、cPLA2e誘導剤の大部分、例えば少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%又は少なくとも80%が上記領域に投与されることを意味する。
【0150】
cPLA2e誘導剤(例えば核酸コンストラクト、発現ベクター、ウイルス粒子、宿主細胞、又はcPLA2eポリペプチド若しくはタンパク質)、又はそれを含む医薬組成物の治療有効量は、個体の疾患状態、年齢、性別及び体重、並びに個体において所望の応答を誘発する生成物又は医薬組成物の能力等の因子に応じて異なり得る。投与計画は、最適な治療応答をもたらすように調整することができる。
【0151】
任意の特定の被験体について、特定の投与計画は、個体のニーズ及び組成物を投与するか又は投与を管理する専門家の判断に応じて経時的に調整することができる。本明細書に記載される投与量範囲は例示にすぎず、医師によって選択され得る投与量範囲を限定するものではない。
【0152】
一実施形態においては、本発明によるAAVウイルス粒子は、アルツハイマー病等の認知障害又は認知障害と関連する疾患の治療のために、ヒト被験体又は患者に10vg/kg~1014vg/kg(vg:ウイルスゲノム;kg:被験体又は患者の体重)、例えば1×1010vg/kg~5×1014vg/kgの範囲内に含まれる量又は用量で投与することができる。より特定の実施形態においては、1×1012vg/kg~1×1013vg/kgの範囲内に含まれる量を投与する。代替的な実施形態においては、1×10iu/kg~1×1011iu/kg(iu:ベクターの感染単位)の範囲内に含まれる量又は用量を投与する。
【0153】
別の態様においては、本発明は、本発明の核酸コンストラクト、発現ベクター、宿主細胞、ウイルス粒子、又は上記核酸コンストラクト、ベクター、宿主細胞若しくはウイルス粒子を含む医薬組成物を1つ以上の容器に含むキットに更に関する。キットは、キットに含まれる核酸コンストラクト、発現ベクター、ウイルス粒子、宿主細胞又は医薬組成物を患者に投与する方法を記載した説明書又は包装材料を含み得る。キットの容器は、任意の好適な材料、例えばガラス、プラスチック、金属等であってもよく、任意の好適なサイズ、形状又は構成であってもよい。或る特定の実施形態においては、キットは、本発明の生成物を好適な液体又は溶液形態で含有する1つ以上のアンプル又はシリンジを含み得る。
【0154】
以下の実施例は、説明のために提示され、本発明を限定することを意図するものではない。さらに、本発明は、本明細書に記載される特定の好ましい実施形態の考え得る全ての組合せを包含する。
【0155】
認知障害及び/又は認知障害と関連する疾患の治療において有用な新たな作用物質をスクリーニングする方法
本発明者らは、cPLA2eの誘導又は増加がカルシウム依存性N-アシルトランスフェラーゼ(Ca-NAT)活性の極めて明らかな増大をもたらすことを利用して、ペプチド、ポリペプチド(例えば抗体)又は小分子候補等の化合物候補をスクリーニングするための系の開発にも取り組んでいる。
【0156】
したがって、本発明は、
a)化合物を哺乳動物アッセイ細胞と接触させる工程と、
b)cPLA2eの誘導又は増加と関連する効果が得られるかを確認する工程と、
c)対照と比較してかかる効果が得られる場合、認知障害及び/又は認知障害と関連する疾患の治療のための候補として化合物を特定する工程と、
を含む、認知障害及び/又は認知障害と関連する疾患の治療のための候補として化合物を特定する方法も提供する。
【0157】
本発明の方法の考え得る実施形態は、アッセイされる細胞がHEK293T細胞等の哺乳動物細胞であるin vitro方法を行うことである。これらの細胞を候補化合物の存在下にて細胞の成長及び増殖に適した培地中で、イオノマイシン(例えば2μm)を用いて又は用いずに培養し(例えば30分間又は1時間)、Ca-NAT活性を、候補化合物と接触させなかった対照と比べて試験する(例えば標的化代謝産物プロファイリングによる)。Ca-NAT活性が対照細胞に対して増大することが見出された場合、化合物を認知障害及び/又は認知障害と関連する疾患の治療の潜在的候補として特定する。
【0158】
幾つかの実施形態においては、cPLA2eトランスフェクト細胞(例えば、本発明の核酸コンストラクトを用いる)がcPLA2e活性誘導の陽性対照として使用され得る。
【0159】
「誘導する又は増大する」という用語は、本明細書において使用される場合、好ましくは20%以上、より好ましくは50%以上、最も好ましくは60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%以上の全体的な増大を引き起こす能力を指すことがある。
【実施例
【0160】
PLA2G4Eが学習及び記憶機能に関与するかを決定するために、本発明者らは、PLA2G4Eを、どちらも認識機能障害に罹患しているa)APP/PS1マウス(ADのモデル)及びb)高齢野生型動物の脳内で過剰発現させた。この目的で、導入遺伝子としてハツカネズミ(Mus musculus)cPLA2eを含むAAVベクターを構築し、動物に投与した。次いで、学習及び記憶機能をMWM法によって評定した。
【0161】
実施例1. AAV2/9-mPLA2G4Eの作製
リンカーを介してflag配列に融合したマウスPLA2G4Eをコードする配列番号5のヌクレオチド配列を導入遺伝子として含むAAV2/9-mPLA2G4Eベクターを構築した。
【0162】
初めに、FLAG配列に融合したマウスPLA2G4Eを含有する3108bpフラグメントを、プラスミドpRK5-PLA2G4E(B.J Cravattによる寄贈;Ogura Y et al. Nat. Chem. Biol. 2016; 12(9): 669-671に開示される)から、どちらもCutSmart(商標)バッファー中のXmnI及びSacIでの消化によって切り出し、1%アガロースゲル上での電気泳動によって分離した後、QIAquick(商標) Gel Extractionキット(QUIAGEN)によってゲルから抽出し、QIAquick(商標) PCR Purificationキット(QUIAGEN)によって精製した。
【0163】
次に、4163bp骨格フラグメントを、プラスミドpAAV-hα-シヌクレインA53T(J. Gerez博士の厚意による寄贈)から、Xholでの消化(CutSmart(商標)バッファー中)並びにその後のクレノウポリメラーゼ、dNTP及びNEB2.1バッファーによる処理を行うことによって得た。次いで、精製後に4163骨格フラグメントをSacI(CutSmart(商標)バッファー中)で消化し、エビアルカリホスファターゼrSAP(New England Biolabs,MA,USA;Weissig, H. et al. Biochem. J. 1993; 290: 503-508)を用いて脱リン酸化し、ベクターの再ライゲーションを回避した。4163pb骨格フラグメントを最後に、3108bpフラグメントについて上記したように分離、抽出及び精製した。
【0164】
最後に、プラスミドpAAV2-mPLA2G4Eを得るために、T4 DNAリガーゼ(Invitrogen)による処理によって3108bpフラグメントを4163bp骨格フラグメントにクローニングした。
【0165】
所望のコンストラクトを含むpAAV2-mPLA2G4Eを作製した後、これを次いで幾つかの増幅工程に供し、最終ウイルス産生に適切な量のプラスミドを生成した。初めに、大腸菌(E. coli)のケミカルコンピテント細菌を、TOP10エレクトロコンピテントセル(Invitrogen)を用いてプラスミドで形質転換し、アンピシリン(50μg/ml)を含むLB培地上にプレーティングすることによって、プラスミドが組み込まれた細菌を選択した。次いで、QIAprep(商標) Spin Miniprepキット(QUIAGEN)を用いて細菌からプラスミドを得て、精製した。挿入断片の存在及び正確な配向並びにAAV2 ITRの存在を確認した後、市販のQIAGEN(商標) Plasmid Maxiキット(QUIAGEN)を用いて、アンピシリン耐性クローンから所望の量のプラスミドを得て、精製した。
【0166】
ベクタープラスミドを構築し、精製した後、プラスミドpAAV2-mPLA2G4E、並びにAAV:AAV9 cap及びAAV2 repの産生及びパッケージングに必要とされるアデノウイルス分子を発現するpDP9ヘルパープラスミドのHEK-293T細胞への二重トランスフェクションによってAAVベクター粒子を作製した(Durocher, Y., S. Perret, and A. Kamen., 2002, Nucleic Acids Research, 30(2):9e-9)。
【0167】
ベクター粒子を最後にイオジキサノール勾配によって精製し、定量PCRによって滴定した。ウイルス粒子(vp)/mlとして表されるウイルス滴定は、マウスPLA2G4E用のプライマーである、
フォワードプライマー:ATGGTGACAGACTCCTTCGAG(配列番号6)及び、
リバースプライマー:CCTCTGCGTAAAGCTGTGG(配列番号7)、
を用いる定量PCR(q-PCR)によって得た。
【0168】
得られたウイルス価は、2.6×1011vp/mlであった。
【0169】
実施例2. 一般的方法
マウス
APP/PS1マウス。マウスAPP/PS1モデルは、どちらもThy1プロモーターによって駆動される、スウェーデン突然変異(K595N/M596L)を有するアミロイド前駆体タンパク質(APP)及びL166P突然変異を有するPSEN1のためのヒト導入遺伝子を発現する。これらのマウスは、近交系C57BL/6J遺伝的背景のものである。ADマウスモデルAPP/PS1は、Tg2576よりも加速されたアミロイドーシスモデルである。これらのマウスにおいては、ヒトAPP導入遺伝子の発現は、内因性マウスAPPよりもおよそ3倍高く、ヒトAβ42がAβ40よりも優先的に生成する。さらに、アミロイド斑沈着が海馬において3ヶ月~4ヶ月で開始し(Radde et al., 2006, EMBO reports; 7(9):940-946、Maia LF et al., 2013, Science translational medicine; 5(194):94-194)、7ヶ月から認識機能障害を呈する(Serneels L et al., 2009, Science; 324(5927):639-642)。APP/PS1及びそれらの対応する陰性同腹仔の場合、雄性及び雌性の両方の16月齢~19月齢のマウスを用いた。
【0170】
高齢野生型マウス。野生型マウスは、加齢性記憶欠損を呈する。具体的には、モリス水迷路において、高齢野生型マウスは、探査試行時に若齢マウスより顕著に悪い成績であるため、隠しプラットホーム段階でのプラットホーム位置の強固な記憶を形成しない。これらのマウスは、近交系C57BL/6/SJL遺伝的背景のものであった。
【0171】
また、2月齢雄性野生型(WT)C57BL/6マウスを、シナプス活性へのPLA2G4Eの影響を試験するために用いた。
【0172】
ウイルス投与のための定位手術
海馬ニューロンにおいてPLA2G4Eを過剰発現させるために、定位手術によってマウスにAAV2/9-mPLA2G4Eを海馬のCA1領域に投与した。この手順は、脳内の2つの容易に識別可能な点であるブレグマ又はラムダを基準として、マウス脳における特定点の位置確認(ミリメートル(mm)の三次元距離で与えられる)を可能にする軸及び空間座標の三次元系に基づく。マウスアトラス(G. Paxinos and K.B.J. Franklin, The mouse brain in stereotaxic coordinates, Academic Press, 1997)を基準として用いて海馬CA1注射に選ばれた座標は、ブレグマ点(矢状縫合と冠状縫合との交差によって形成される)を用いて前-後-2.0mm、半-側±1.7mm、後-腹-2.0mmであった。ウイルス投与又は偽手順(何も注射せず、手術のみ)の前に、動物を80/10mg/Kgのケタミン/キシラジンの腹腔内(i.p.)投与によって麻酔し、0.1mg/Kg用量の鎮痛剤ブプレノルフィン(Buprex(商標))で処理した。マウスを完全に麻酔した後、頭部を完全に固定して定位装置に置いた。この部分を96度アルコールで消毒した後、メスを用いて皮膚を前-後方向に切断し、頭蓋骨を骨膜から外し、ブレグマ及びラムダ基準点を目に見えるようにした。次に、ドリルビル(drill bill)を用いて頭蓋骨に穴を開け、ベクターウイルス粒子(2.6×10ゲノムコピー)を充填した又は充填しない(偽手順のため)、5μlのハミルトンシリンジを定位固定アームに取り付けた。正確な座標上に位置付けた後、1μlの溶液を0.2μl/分で注入し、次いでシリンジを更に2分間そこに維持し、ウイルスを正確に拡散させてからシリンジをゆっくりと引き抜いた。偽注射マウスについては、シリンジを脳内に5分間留置してから引き抜いた。同じ手順をもう一方の半球についても繰り返した。動物に両側注射した後、傷口を縫合し、ポビドンヨード(Betadine(商標))を局所投与した。次いで、熱が失われるのを回避するために動物を覚醒するまで電気毛布上に置いた。最後に、手術後の摂食を容易にするため、水で軟らかくした食餌にアクセスしやすいように、動物を個別に清潔なケージに入れた。介入の間中、乾燥及び結果としての失明を回避するために、生理的血清を継続的にマウスの眼に適用した。
【0173】
MWM試験
空間記憶は、空間及び作業記憶の両方を分析するため、ヒトにおけるADの主な特徴の1つである海馬損傷の評価の一貫した試験とみなされるモリス水迷路試験を用いて試験した(D’Hooge and Deyn, 2001, Brain research reviews; 36(1):60-90)。
【0174】
この試験は、20℃の水で満たし、無毒の白色塗料を添加して不透明にした円形のプール(直径1.2m)において行う。プールを4つの仮想象限に分割し、その1つに、マウスが水から逃れ、安全となるために位置を学習する必要があるプラットホームを設置する。プールを取り囲む4つの壁のそれぞれに、マウスのガイドとなり、試験の段階に応じて覆われるか又は覆いが取られる幾何学的図形が描かれる。試験の間中、プールの真上の天井に固定したカメラによってマウスの挙動をモニタリングし、ソフトウェアSMART-LD(Panlab)を用いた逃避潜時、遊泳速度、路程、及びプールの各象限での滞在時間のパーセンテージのその後の分析が可能となるようにHVSシステムで記録した。
【0175】
MWM試験においては3つの異なる段階を区別することができる。
【0176】
1)可視プラットホーム段階:この段階においては、位置の確認を容易にするために動物に明らかに認識され得る部品によって識別されるプラットホームを、象限の1つの中央に水面より1cm高くして設置した。ここで、マウスがプールに慣れ、水から逃れるためにプラットホームに行くことを学習するように、視覚的な手掛かりを隠したままにする。可視プラットホーム段階については、マウスを3日連続で1日8回訓練した。各試験において、マウスはプラットホームを見つけるために60秒与えられ、この期間にプラットホームに到達することができなかった場合には、プラットホーム上に置かれた。動物は、プラットホーム上に置かれた後、15秒間プラットホームの確認が許され、その後ケージに戻された。
【0177】
2)隠しプラットホーム段階:試験の第2の段階においては、プラットホームを可視プラットホーム段階とは逆の象限に設置した。プラットホームは、その上に任意の部品がないように水面より1cm下に沈めた。この段階において、マウスは、この時点で覆われていない壁に表示された手掛かりを用いてプラットホームを見つける方法を学習する必要がある。そのため、マウスを7日間にわたって1日4回訓練した。先の段階と同様、マウスはプラットホームに到達するために60秒与えられた。プラットホームを60秒以内に見つけられなかった場合、プラットホームに誘導された。どちらの場合も、プラットホーム上に15秒間留められた。マウスに軌跡の嗜好性が生じるのを回避するために、3つのランダムな開始位置をプラットホームのない象限のそれぞれに設けた。
【0178】
3)探査試行:隠しプラットホーム段階の6日目及び8日目に、これらの日の隠しプラットホーム試験の開始直前に行った探査試行において記憶保持を評価した。この試験については、プラットホームをプールから取り外し、動物を60秒間泳がせた。隠しプラットホーム段階においてプラットホームが設置されていた象限にマウスが滞在した時間を記憶保持度の推定値とみなす。25%を超える保持率は、学習を示唆すると考えられ、25%未満の保持率はランダムとみなされる。MWM試験の感度がより短い探査試行を与えることによって増大し得ることが示唆されているため、試験の最初の15秒間及び60秒間全体の両方で正確な象限に滞在した時間を分析した(Gerlai, 2001, Behavioural Brain Research; 125(1-2):269-277)。
【0179】
ゴルジ-コックス染色による樹状突起棘の密度測定
樹状突起棘の密度及び形態を分析するために、修正ゴルジ-コックス法を用いた(Glaser, Edmund M. and Hendrik Van der Loos, 1981, Journal of Neuroscience Methods 4(2):117-25)。初めに、頭蓋骨から取り出した直後の半脳をゴルジ-コックス溶液(1%重クロム酸カリウム、1%塩化水銀、0.8%クロム酸カリウム)中にて室温で48時間、遮光してインキュベートした。その後、溶液を新しくし、組織を更に3週間そこで維持した。その後、脳を蒸留水で洗浄し、ビブラトームを用いて200μm厚の冠状切片に加工するまで90度エタノール中で30分間維持した。その後、切片を70度エタノール中でインキュベートし、蒸留水で洗浄し、16%アンモニアで1時間還元し、1%チオ硫酸ナトリウム中で7分間固定した。更に洗浄した後、切片を顕微鏡スライドに置き、アルコールを漸増させて脱水し、DPX Mountant(VWR, BDH Prolabo(商標))でマウントした。
【0180】
海馬のCA1領域内に位置する錐体細胞の二次先端樹状突起における棘密度を決定した。選択した各ニューロンを、Nikon Eclipse E600光学顕微鏡を用いて撮影し、画像をデジタルカメラ(Nikon DXM 1200F)により1000ドット毎インチ(dpi)~1500dpiの解像度で記録した。CA1錐体ニューロンにおいて棘密度が比較的均一な(Megias, M., Z. Emri, TF Freund, and AI Gulyas, 2001, Neuroscience 102(3):527-40)、細胞体から100μm~200μm離れて撮影した二次樹状突起を定量化に使用した。各マウス(1群当たりn=4)について、9つの異なるニューロンから3つの樹状突起を分析に使用した。
【0181】
恐怖条件付け試験(FC)
FCパラダイムを用いて、恐怖記憶に対するPLA2G4E発現の影響を分析した。この挙動試験は、馴化、訓練及び試験の3つの段階からなる。試験はStartFearシステム(Panlab)において行った。馴化段階において、3分間刺激を与えずにマウスを条件付けチャンバーに馴化させた。24時間後に、訓練段階において、マウスを再び同じチャンバーに入れ、2分間探索させた。その後、30秒の間隔を空けた2秒間で2回のフットショック(0.3mA)を与え、更に30秒後にホームケージに戻した。翌日、マウスを条件付けチャンバーに戻し、2分間状況を探索させた。凍結挙動をこの時間に記録し、凍結スコアをパーセンテージで表した。T24群を訓練の24時間後、TT群を試験の1時間後に屠殺した。ナイーブ群は、パラダイムのいかなる工程も行わずに屠殺した。
【0182】
タンパク質抽出物
全タンパク質抽出物を得るために、プロテアーゼ阻害剤を含む溶解バッファー(10mM Tris-HCl pH=7.5、1mM NaF、0.1mM NaVO、2%SDS)中で脳サンプルをホモジナイズし、2分間超音波処理し、20分間氷上に静置し、15700gにて8℃で13分間遠心分離した。上清を-80℃で保管した。Pierce(商標) BCAタンパク質アッセイキット(Thermo Scientific)を用いて全タンパク質濃度を決定した。
【0183】
免疫ブロッティング
タンパク質サンプルを6倍Laemmliサンプルバッファーと混合し、95℃で5分間沸騰させ、SDS-ポリアクリルアミドゲル上で分解し、ニトロセルロース膜に転写した。
【0184】
次いで、膜をTBS中の5%乳でブロッキングし、対応するバッファー中の以下の一次抗体:ウサギポリクローナル抗pGluA1-Ser831(1:1000、Millipore)、ウサギモノクローナル抗pCREB(Ser133)(1:1000、Cell Signaling)、マウスモノクローナル抗シナプシンI(1:1000、Synaptic Systems)、ウサギポリクローナル抗PLA2G4E(1:1000、Proteintech)及びマウスモノクローナル抗β-アクチン(1:100000、Synaptic Systems)とともに一晩インキュベートした。TBS/Tween-20で2回、TBS単独で1回洗浄した後、免疫標識したタンパク質バンドをHRPコンジュゲート抗ウサギ又は抗マウス抗体(1:5000、Santa Cruz)で検出した。次いで、抗体結合を増強化学発光システム(ECL、GE Healthcare Bioscience)及びHyperfilm(商標) ECL(GE Healthcare Bioscience)へのオートラジオグラフィー露光によって可視化した。Quantity One(商標)ソフトウェアv.4.6.3(Bio-Rad)をタンパク質定量化に用いた。
【0185】
初代神経培養物中のPLA2G4Eのノックダウン
初代神経培養物におけるPLA2G4E発現を阻害するために、特異的な低分子干渉RNA(siRNA)を用いた。RNAiの効果的な標的化配列を特定するために、異なるアルゴリズムを用いてマウスPLA2G4Eの完全長コード配列を分析した。PLA2G4E発現を阻害する高い有効性を探査した後、候補配列を用いて、ポリ(T)終結シグナルが後に続くshRNA配列(配列番号8;すなわち、ヘアピンループ(TCAAGAGA)で接続した21塩基のセンス及びアンチセンス配列)に操作可能に連結したH1プロモーターを含むコンストラクトを設計した。次いで、安定なsiRNA送達のために、shRNAを含むコンストラクトをアデノ随伴ウイルス血清型9(AAV9-shPLA2G4E)にクローニングした(Unitat de Produccio de Vectors,Barcelona)。
【0186】
PLA2G4Eによる活性依存性シグナル伝達の選択的阻害を評価するために、機能的神経ネットワークにおける誘発バーストシグナルによるシナプス応答を研究するモデルとして初代神経培養物を用いた。初代神経培養物を胎生16日(E16)の野生型(WT)マウスの海馬及び皮質から得て(A. Ricobaraza Neuropsychopharmacology, (2009); 34: 1721-1732)、AAV9-shPLA2G4E又はAAV9-shスクランブル対照をin vitro培養日(DIV)1に感染させた。次いで、活動電位発火のバーストを誘発するために、これらの培養物をDIV 14にGABA A受容体アンタゴニストであるビククリン(50μM、1時間)で処理した(Arnold et al., 2005 J. Physiol. 564: 3-19、Rao et al., Nat. Neurosci., 2006; 9: 887-895)。タンパク質を2%SDSバッファーで抽出し、CREB(Ser133でリン酸化)、pGluA1及びシナプシンI発現の活性化を溶解物中で免疫ブロットによって試験した。
【0187】
実施例3. APP/PS1マウスの記憶機能に対するAAV2/9-mPLA2G4Eの効果
雄性及び雌性の16月齢~19月齢のAPP/PS1マウスの第1の群(n=9)を、上記のように定位手術によってAAV2/9-mPLA2G4Eで処理した。同様に、16月齢~19月齢のAPP/PS1マウス(偽注射)の第2の群(n=6)及び同齢の非トランスジェニックマウス(n=9)の第3の群(n=9)を、陽性対照(記憶欠損を有する)及び陰性対照(AD関連記憶障害を有しない)として含めた。定位手術の2ヶ月後に、空間記憶を上記のようにMWM試験によって試験した。マウスは、3日間の可視プラットホーム段階に続いて7日間の隠しプラットホーム段階を受けた。6日目及び8日目に、対応する隠しプラットホーム段階試験の開始直前に行った探査試行において記憶保持を試験した。
【0188】
可視プラットホーム段階の最後の試行においては、群間で有意差は観察されず(データは示さない)、全ての動物が同じ条件で課題を行うことができたことが示された。
【0189】
隠しプラットホーム段階においては、予想されたように、APP/PS1マウスがWTマウスよりも有意に悪い挙動を示し、このADマウスモデルと関連する空間記憶障害が確認された(図1A)。興味深いことに、AAV2/9-mPLA2G4Eによる処理によって、空間作業記憶障害がレスキューされた(図1A)。
【0190】
さらに、図1Bに示されるように、AAV2/9-mPLA2G4Eで処理したマウスは、6日目の探査試行において偽注射マウスよりも長時間正しい象限に滞在した。同様の結果が8日目に行った探査試行において得られ(データは示さない)、PLA2G4E過剰発現がAPP/PS1高齢マウスが呈する記憶保持障害を逆転させることも示された。
【0191】
一方、AAV2/9-mPLA2G4Eを注射したAPP/PS1及び非トランスジェニックマウスにおけるそれぞれ10%及び0%と比較して、偽注射APP/PS1マウスにおいて33%の死亡率が観察された。
【0192】
結論として、AAV2/9-mPLA2G4E処理によって媒介される高齢APP/PS1マウスにおける海馬PLA2G4Eの過剰発現は、定位注射の2ヶ月後の空間記憶障害を有意にレスキューした。
【0193】
ゴルジ-コックス法を用いて、PLA2G4E過剰発現によって誘導される挙動回復が樹状突起棘密度の構造変化に反映されるかを分析した。具体的には、海馬のCA1領域の錐体ニューロンに由来する先端樹状突起を研究した。
【0194】
図2A及び図2Bに示されるように、2/9-PLA2G4Eウイルスは、WT及びAPP/PS1偽マウスの両方に対して樹状突起棘密度を有意に増加させることができた。WTとAPP/PS1偽マウスとには差は見られなかった。
【0195】
これらの結果から、棘密度の変化がPLA2G4E過剰発現APP/PS1マウス群において観察される記憶回復を説明し得ることが示唆される。
【0196】
実施例4. 高齢野生型マウスの記憶機能におけるAAV2/9-mPLA2G4Eの効果
雌性17月齢C57BL/6/SJL WTマウスにおける記憶機能に対するPLA2G4E過剰発現の効果も評価した。C57BL/6/SJL WTマウスの第1の群(n=5)を定位手術によってAAV2/9-mPLA2G4Eで処理し、C57BL/6/SJL WTマウスの第2の対照群(n=4)には偽注射を行った。定位手術手順の3ヶ月後に、空間記憶を上記のようにMWM試験によって試験した。この場合、隠しプラットホーム段階を6日間のみ行い、探査試行を5日目及び7日目に行った。
【0197】
可視プラットホーム段階において群間で有意差は観察されず(データは示さない)、全てのマウスが同様に課題を行うことができたことが示された。
【0198】
隠しプラットホーム段階において2つの群間で有意差は認められなかったが(図3A)、AAV2/9-mPLA2G4Eで処理したマウスは、5日目(図3B)及び7日目(データは示さない)に行った探査試行において偽注射マウスよりも長時間正しい象限に滞在し、ウイルスPLA2G4Eの海馬過剰発現が高齢WTマウスにおいて記憶保持率を改善することが示された。
【0199】
要約すると、AAV2/9-mPLA2G4E処理によって媒介される海馬PLA2G4Eの過剰発現は、注射の3ヶ月後に高齢C57BL/6/SJL WTマウスにおいて記憶保持を改善した。
【0200】
実施例5. 記憶機能におけるPLA2G4Eの役割:恐怖条件付け記憶想起後のPLA2G4E発現の上方調節
学習及び記憶におけるPLA2G4Eの機能的役割についてより直接的な証拠を得るために、恐怖条件付け(FC)試験においてPLA2G4E発現が調節されるかを試験した。この課題は、海馬依存性の転写及びタンパク質合成を必要とし、記憶形成の生化学的要件を特徴付けるために広く用いられている(Huff et al., 2006 J. Neurosci., 26, pp. 1616-1623)。
【0201】
脳におけるpCREB及びPLA2G4E発現を、FCパラダイムにおける試験の1時間後に屠殺した2月齢C57BL/6J WTマウス(TT群;n=8)における恐怖記憶の固定後に免疫ブロットにおいて分析し、FCの訓練段階の24時間後に屠殺したマウス(T24群;n=7)及びFC試験のいかなる局面にも供しなかったマウス(ナイーブ群;n=8)と比較した。
【0202】
予想の通り、ケージに再導入したマウス(TT群)においては、訓練段階と比べて試験段階において凍結時間(記憶形成の指標)の有意な増加(P<0.001)が見られた(図4A)。
【0203】
状況恐怖記憶の固定及び再固定にはCREB媒介性転写が必要とされることから(Kida et al., 2002 Nat. Neurosci., 5, pp. 348-355)、動物の海馬における神経可塑性の指標としてpCREBを初めに分析した。海馬におけるpCREBの上方調節がケージに再導入したマウスの群において観察された。
【0204】
また、驚くべきことに、PLA2G4E発現は、この群のマウスにおいて他と比較してこれらの両方の領域でより強かった(図4C)。
【0205】
要約すると、これらのデータから、状況記憶保持の際、固定記憶の想起後に海馬においてPLA2G4Eの増加が見られることが示唆される。
【0206】
実施例6. シナプス可塑性におけるPLA2G4Eの役割:PLA2G4Eのノックダウンは、シナプス伝達に関与するシナプスタンパク質の活性化を遮断する
記憶機能におけるPLA2G4Eの妥当な役割を考慮し、シナプス活性に対するその役割を更に特徴付けるためにin vitroアッセイを行った。
【0207】
興奮性シナプスでのシナプス効力を誘導及び/又は増大し得るGABA(A)受容体アンタゴニストビククリン(50μM、1時間)への曝露に基づく、皮質及び海馬一次ニューロンにおいてよく特徴付けられたプロトコル(Rao et al., 2006 Nat. Neurosci., 9: 887-895)を用いた。
【0208】
NMDA受容体の活性化を実証するために、CREB活性化(活性化部位残基Ser133でのCREBのリン酸化)を分析した(Ginty et al., 1993 Science 260: 238-241)。図5に示され、数人の著者によって記載されているように(Hardingham et al., 2002 Nat. Neurosci., 5: 405-414)、ビククリンが(NMDA受容体の活性化によって)Ser133で持続的なCREBリン酸化を引き起こすとともに、pGluA1レベルの測定によって分析されるようにAMPA受容体活性化を増大させる(Rao et al., 2006 Nat. Neurosci., 9: 887-895)ことを実証した。
【0209】
このシナプス前タンパク質が長期増強(LTP)時に海馬において増加し(Sato et al., 2000 Brain Res., 872: 219-222)、シナプス接合の形成、維持及び再配置において基本的な役割を果たすことから(Cesca et al., 2010 Prog. Neurobiol., 91: 313-348における概説)、シナプシンIレベルも分析した。また、ビククリンで活性化した神経培養物中でシナプシンIの有意な増加が観察された。
【0210】
次に、PLA2G4E発現を同じ条件で分析し、興味深いことに、これが強くビククリンによって誘導することが観察され、ニューロン活性化が実際にPLA2G4E発現を上方調節することが示された。
【0211】
次いで、AAV-shPLA2G4Eを用いた慢性的なPLA2G4Eノックダウンの効果を分析した。初代神経培養物において、AAV-shPLA2G4Eによる処理がビククリン誘導性PLA2G4E発現を遮断し、ビククリンによって誘導されるCREB及びGluA1の活性化を効果的に遮断することが実証された(図5)。同様に、急性的なPLA2G4Eノックダウンは、ビククリンに応答してシナプシンI発現をもはや増大させなかった。
【0212】
要約すると、これらのデータから、PLA2G4Eノックダウンによってシナプス形成及び/又は安定性が変化し得ることが示唆される。
【0213】
本開示の配列
配列番号1 ヒト細胞質型ホスホリパーゼA2ε(アイソフォーム1)
MSLQASEGCPGLGTNVFVPQSPQTDEEGSRSGRSFSEFEDTQDLDTPGLPPFCPMAPWGSEEGLSPCHLLTVRVIRMKNVRQADMLSQTDCFVSLWLPTASQKKLRTRTISNCPNPEWNESFNFQIQSRVKNVLELSVCDEDTVTPDDHLLTVLYDLTKLCFRKKTHVKFPLNPQGMEELEVEFLLEESPSPPETLVTNGVLVSRQVSCLEVHAQSRRRRKREKMKDLLVMVNESFENTQRVRPCLEPCCPTSACFQTAACFHYPKYFQSQVHVEVPKSHWSCGLCCRSRKKGPISQPLDCLSDGQVMTLPVGESYELHMKSTPCPETLDVRLGFSLCPAELEFLQKRKVVVAKALKQVLQLEEDLQEDEVPLIAIMATGGGTRSMTSMYGHLLGLQKLNLLDCASYITGLSGATWTMATLYRDPDWSSKNLEPAIFEARRHVVKDKLPSLFPDQLRKFQEELRQRSQEGYRVTFTDFWGLLIETCLGDERNECKLSDQRAALSCGQNPLPIYLTINVKDDVSNQDFREWFEFSPYEVGLQKYGAFIPSELFGSEFFMGRLVKRIPESRICYMLGLWSSIFSLNLLDAWNLSHTSEEFFHRWTREKVQDIEDEPILPEIPKCDANILETTVVIPGSWLSNSFREILTHRSFVSEFHNFLSGLQLHTNYLQNGQFSRWKDTVLDGFPNQLTESANHLCLLDTAFFVNSSYPPLLRPERKADLIIHLNYCAGSQTKPLKQTCEYCTVQNIPFPKYELPDENENLKECYLMENPQEPDAPIVTFFPLINDTFRKYKAPGVERSPEELEQGQVDIYGPKTPYATKELTYTEATFDKLVKLSEYNILNNKDTLLQALRLAVEKKKRLKGQCPS
配列番号2 ヒトcPLA2eアイソフォーム1をコードするヌクレオチド配列
ATGAGTCTCCAGGCCTCGGAAGGCTGTCCTGGCCTGGGAACTAATGTGTTTGTCCCACAGAGCCCACAAACGGATGAAGAAGGCAGCAGGTCAGGAAGAAGTTTCAGTGAGTTCGAGGATACACAGGACCTGGACACTCCTGGTCTCCCACCTTTCTGTCCTATGGCTCCTTGGGGCTCTGAGGAGGGGCTGTCTCCATGCCACCTGTTGACAGTGAGGGTCATCCGGATGAAAAATGTCCGGCAGGCTGATATGCTGAGCCAGACAGACTGTTTTGTGAGCCTCTGGCTGCCCACCGCCTCTCAGAAGAAGCTGAGGACAAGGACCATCTCCAACTGCCCAAATCCAGAGTGGAATGAAAGCTTCAACTTCCAGATCCAGAGCCGAGTGAAGAACGTGCTAGAGTTGAGTGTCTGTGATGAAGACACAGTGACACCAGATGACCATCTCCTGACAGTTCTCTATGACCTCACCAAGCTCTGTTTCCGAAAGAAAACCCACGTGAAGTTTCCACTCAACCCGCAGGGCATGGAAGAGCTGGAGGTGGAGTTCCTGCTGGAGGAGAGTCCCTCTCCACCTGAGACCCTCGTCACCAATGGCGTGCTGGTGTCTCGACAAGTCTCCTGCCTGGAGGTTCATGCACAATCCAGGAGGCGGAGGAAGAGGGAGAAAATGAAGGACCTCCTGGTGATGGTGAACGAATCCTTTGAGAACACCCAGCGTGTCCGGCCCTGCTTGGAACCCTGCTGCCCAACCTCTGCCTGCTTCCAAACCGCTGCCTGCTTCCACTACCCCAAGTACTTCCAGTCCCAGGTGCACGTGGAAGTGCCCAAGAGTCACTGGAGCTGTGGGCTTTGCTGCCGCTCTCGCAAGAAGGGCCCCATCAGCCAGCCCCTCGACTGCCTTTCCGATGGTCAGGTGATGACCCTGCCTGTGGGTGAGAGTTATGAATTACACATGAAGTCTACACCCTGCCCTGAGACACTGGACGTGCGGCTGGGCTTCAGCCTGTGCCCAGCAGAGCTGGAGTTTCTGCAGAAGCGGAAGGTCGTGGTGGCCAAGGCCCTGAAGCAGGTGCTGCAGCTGGAGGAAGACCTGCAGGAGGACGAGGTGCCGCTGATAGCCATCATGGCCACTGGGGGTGGAACAAGATCCATGACCTCCATGTATGGCCACCTGCTGGGGCTGCAGAAGCTGAACCTCCTGGACTGTGCCAGCTACATCACCGGTCTATCAGGGGCCACCTGGACCATGGCTACCTTGTACCGTGACCCTGACTGGTCCTCCAAAAACTTGGAGCCTGCTATCTTTGAGGCTCGGAGACATGTGGTAAAGGACAAGCTACCCTCCCTGTTCCCAGACCAGCTCCGCAAATTCCAGGAGGAGCTCCGGCAGCGCAGCCAGGAAGGCTACAGGGTCACCTTTACAGACTTCTGGGGCCTGCTGATAGAGACCTGCCTGGGGGACGAGAGAAATGAATGCAAACTGTCAGATCAGCGTGCTGCTTTGAGCTGCGGCCAGAACCCCCTGCCCATCTACCTCACCATCAATGTCAAGGATGATGTAAGCAACCAGGACTTCAGAGAGTGGTTCGAGTTCTCCCCCTACGAGGTGGGCCTGCAGAAGTATGGGGCCTTCATCCCCTCCGAGCTCTTCGGCTCCGAGTTCTTCATGGGGCGGCTGGTGAAGAGGATCCCGGAGTCTCGAATCTGCTACATGCTAGGCCTGTGGAGCAGCATCTTCTCCCTGAACCTGCTGGATGCCTGGAACCTGTCACACACCTCGGAGGAGTTTTTCCACAGGTGGACAAGGGAGAAAGTGCAGGACATCGAAGACGAGCCGATCCTGCCTGAAATCCCCAAATGTGATGCTAACATCCTGGAGACCACGGTAGTGATCCCAGGGTCATGGCTGTCCAATTCTTTCCGAGAAATCCTTACCCATCGGTCCTTCGTGTCTGAGTTTCACAACTTCCTGTCTGGGCTGCAGCTGCACACCAACTACCTCCAGAATGGCCAGTTCTCTAGGTGGAAAGACACAGTGCTAGATGGTTTCCCAAACCAGCTGACCGAGTCCGCGAACCACCTGTGCCTGCTGGACACTGCGTTCTTTGTCAACTCCAGCTACCCGCCCCTCCTCAGGCCAGAGCGAAAAGCCGACCTCATCATCCACCTCAACTACTGTGCTGGGTCCCAGACAAAGCCCCTGAAACAAACCTGTGAGTACTGCACTGTGCAGAACATCCCCTTCCCCAAATACGAGCTGCCAGATGAGAATGAAAATCTCAAGGAATGCTACCTGATGGAGAACCCCCAGGAACCCGATGCCCCCATCGTGACTTTCTTCCCACTCATCAATGACACTTTCCGAAAATACAAGGCACCAGGTGTAGAGCGAAGCCCTGAGGAGCTGGAGCAGGGCCAGGTGGACATTTATGGTCCCAAAACTCCCTATGCCACCAAGGAGCTGACATACACAGAGGCCACCTTTGACAAGCTGGTGAAACTCTCAGAGTATAACATCCTGAATAATAAGGACACTCTCCTCCAGGCTCTGCGGCTCGCAGTGGAGAAGAAGAAGCGCCTGAAGGGCCAGTGTCCCTCCTAG
配列番号3 細胞質型ホスホリパーゼA2εのヒトアイソフォーム2
MATGGGTRSMTSMYGHLLGLQKLNLLDCASYITGLSGATWTMATLYRDPDWSSKNLEPAIFEARRHVVKDKLPSLFPDQLRKFQEELRQRSQEGYRVTFTDFWGLLIETCLGDERNECKLSDQRAALSCGQNPLPIYLTINVKDDVSNQDFREWFEFSPYEVGLQKYGAFIPSELFGSEFFMGRLVKRIPESRICYMLGLWSSIFSLNLLDAWNLSHTSEEFFHRWTREKVQDIEDEPILPEIPKCDANILETTVVIPGSWLSNSFREILTHRSFVSEFHNFLSGLQLHTNYLQNGQFSRWKDTVLDGFPNQLTESANHLCLLDTAFFVNSSYPPLLRPERKADLIIHLNYCAGSQTKPLKQTCEYCTVQNIPFPKYELPDENENLKECYLMENPQEPDAPIVTFFPLINDTFRKYKAPGVERSPEELEQGQVDIYGPKTPYATKELTYTEATFDKLVKLSEYNILNNKDTLLQALRLAVEKKKRLKGQCPS
配列番号4 ヒトcPLA2eアイソフォーム2をコードするヌクレオチド配列
ATGGCCACTGGGGGTGGAACAAGATCCATGACCTCCATGTATGGCCACCTGCTGGGGCTGCAGAAGCTGAACCTCCTGGACTGTGCCAGCTACATCACCGGTCTATCAGGGGCCACCTGGACCATGGCTACCTTGTACCGTGACCCTGACTGGTCCTCCAAAAACTTGGAGCCTGCTATCTTTGAGGCTCGGAGACATGTGGTAAAGGACAAGCTACCCTCCCTGTTCCCAGACCAGCTCCGCAAATTCCAGGAGGAGCTCCGGCAGCGCAGCCAGGAAGGCTACAGGGTCACCTTTACAGACTTCTGGGGCCTGCTGATAGAGACCTGCCTGGGGGACGAGAGAAATGAATGCAAACTGTCAGATCAGCGTGCTGCTTTGAGCTGCGGCCAGAACCCCCTGCCCATCTACCTCACCATCAATGTCAAGGATGATGTAAGCAACCAGGACTTCAGAGAGTGGTTCGAGTTCTCCCCCTACGAGGTGGGCCTGCAGAAGTATGGGGCCTTCATCCCCTCCGAGCTCTTCGGCTCCGAGTTCTTCATGGGGCGGCTGGTGAAGAGGATCCCGGAGTCTCGAATCTGCTACATGCTAGGCCTGTGGAGCAGCATCTTCTCCCTGAACCTGCTGGATGCCTGGAACCTGTCACACACCTCGGAGGAGTTTTTCCACAGGTGGACAAGGGAGAAAGTGCAGGACATCGAAGACGAGCCGATCCTGCCTGAAATCCCCAAATGTGATGCTAACATCCTGGAGACCACGGTAGTGATCCCAGGGTCATGGCTGTCCAATTCTTTCCGAGAAATCCTTACCCATCGGTCCTTCGTGTCTGAGTTTCACAACTTCCTGTCTGGGCTGCAGCTGCACACCAACTACCTCCAGAATGGCCAGTTCTCTAGGTGGAAAGACACAGTGCTAGATGGTTTCCCAAACCAGCTGACCGAGTCCGCGAACCACCTGTGCCTGCTGGACACTGCGTTCTTTGTCAACTCCAGCTACCCGCCCCTCCTCAGGCCAGAGCGAAAAGCCGACCTCATCATCCACCTCAACTACTGTGCTGGGTCCCAGACAAAGCCCCTGAAACAAACCTGTGAGTACTGCACTGTGCAGAACATCCCCTTCCCCAAATACGAGCTGCCAGATGAGAATGAAAATCTCAAGGAATGCTACCTGATGGAGAACCCCCAGGAACCCGATGCCCCCATCGTGACTTTCTTCCCACTCATCAATGACACTTTCCGAAAATACAAGGCACCAGGTGTAGAGCGAAGCCCTGAGGAGCTGGAGCAGGGCCAGGTGGACATTTATGGTCCCAAAACTCCCTATGCCACCAAGGAGCTGACATACACAGAGGCCACCTTTGACAAGCTGGTGAAACTCTCAGAGTATAACATCCTGAATAATAAGGACACTCTCCTCCAGGCTCTGCGGCTCGCAGTGGAGAAGAAGAAGCGCCTGAAGGGCCAGTGTCCCTCCTAG
配列番号5 flag配列に融合したマウスPLA2G4Eをコードするヌクレオチド配列
ATGCAGTCTATTCCACACTCCGATGAAGCAGACGTGGCTGGGATGACCCACGCCTCAGAAGGCCACCATGGCCTGGGGACCAGCATGCTTGTCCCAAAGAACCCACAAGGGGAAGAAGACAGCAAGCTAGGAAGAAACTGCAGTGGATTTGAAGATGCACAGGACCCACAGACTGCTGTGCCCTCCTCACCTTTACTTTCCATGGCTTCTTGCAGTTCTCAGGAGGGGTCATCTCCATGCCATCTGTTGACAGTGAGGATCATTGGCATGAAAAACGTCCGGCAGGCTGATATACTGAGTCAGACAGACTGCTTTGTGACCCTCTGGCTGCCTACTGCCTCTCAGAAGAAGCTGAAGACCAGAACCATCTCCAACTGCCTACACCCAGAGTGGGACGAAAGCTTCACCTTTCAGATCCAGACTCAAGTAAAGAATGTGCTAGAGCTGAGCGTCTGTGACGAAGACACCCTGACACAAAATGACCATCTCTTGACAGTCCTCTATGACCTCTCTAAGCTTTGCCTCCGGAATAAAACCCATGTGAAGTTCCCACTCAACCCAGAGGGCATGGAAGAACTGGAGGTGGAGTTCCTACTCGAAGAGAATTTCTCCTCATCAGAGACCCTCATCACCAACGGCGTGCTGGTGTCTCGCCAAGTCTCTTGCCTGGAGGTTCATGCAGAATCCAGGAGGCCGAGGAAGAGGAAGAAAAACAAAGACCTTCTGGTGATGGTGACAGACTCCTTCGAGAACACCCAGCGTGTCCCGCCTTGCCAGGAGCCCTGCTACCCCAATTCTGCCTGCTTCCACTACCCCAAGTACTCCCAGCCACAGCTTTACGCAGAGGCGCCTAAGAGCCACTGTAACTTTAGGCTTTGCTGCTGCGGAACACACAGGAATGACCCTGTCTGCCAGCCCCTCAATTGCCTTTCTGATGGCCAGGTGACAACCCTGCCTGTGGGAGAGAACTATGAGCTACACATGAAGTCCTCACCCTGCTCTGACACACTGGATGTGCGGCTTGGATTCAGCCTGTGCCAGGAAGAGGTGGAGTTTGTGCAGAAGCGGAAGATGGTGGTGGCCAAGACACTAAGTCAGATGCTGCAGCTGGAGGAAGGCCTGCATGAGGATGAGGTACCGATAATAGCCATCATGGCCACAGGAGGTGGCACAAGGTCTATGGTCTCCTTGTATGGCCACCTGCTGGGGTTGCAGAAGCTGAACTTTCTGGACGCTTCTACTTACATCACCGGCTTGTCAGGTGCAACCTGGACTATGGCTACCTTGTACAGTGATCCTGAGTGGTCCTCCAAAAACCTGGAGACTGTTGTCTTTGAGGCCCGGAGACATGTTGTCAAAGACAAGATGCCTGCCCTGTTCCCAGATCAGCTCTACAAATGGCGAGAGGACCTCCAAAAGCATAGCCAGGAGGGCTATAAGACCACGTTTACAGACTTTTGGGGCAAGCTGATCGAGTACAGTCTGGGAGATAAAAAAAACGAATGCAAGCTGTCAGATCAGCGAGCTGCTCTGTGCAGGGGACAGAACCCTCTGCCCATCTACCTCACCATCAATGTCAAGGATGATGTAAGCAACCAGGATTTCAGAGAATGGTTCGAGTTCTCCCCCTACGAGGTGGGCATGCAGAAGTACGGAGCCTTCATCCCCAGCGAGTTATTTGGCTCCGAGTTCTTCATGGGGCGGCTGATGAAGAGGATTCCTGAGCCGGAGATGTGCTACATGCTAGGGTTGTGGAGTAGCATCTTTTCCCTGAACCTGCTTGATGCCTGGAATTTGTCTCACACCTCAGAGGAGTTTTTCTATAGGTGGACAAGGGAGAGACTGCATGACATCGAAGATGATCCCATCCTGCCTGAAATCCCTAGGTGTGACGATAACCCCCTAGAGACCACAGTAGTGATCCCAACGACATGGCTGTCCAACACCTTCCGAGAAATCCTCACACGCAGGCCCTTCGTGTCTGAGTTCCACAACTTCCTGTACGGGATGCAGCTGCATACTGACTACTTACAGAACAGGCAGTTCTCTATGTGGAAAGACACAGTACTGGACACCTTCCCAAACCAGCTGACACAGTTTGCAAAACACCTGAACCTGCTGGACACTGCGTTCTTTGTCAACTCCAGCTACGCACCCCTCCTTAGGCCAGAGAGAAAAGTCGACCTTATCATCCACCTCAATTACTGCGCAGGATCCCAGACAAAGCCCCTGAAACAAACCTGTGAGTACTGTACCGAGCAGAAGATCCCCTTCCCCAGCTTCTCCATCCTGGAAGATGACAACAGTCTCAAGGAGTGCTACGTGATGGAGAATCCCCAGGAGCCCGACGCCCCCATCGTGGCTTACTTCCCACTCATCAGTGACACCTTCCAGAAGTACAAGGCTCCAGGTGTAGAGCGAAGTCCTGACGAGCTGGAACTGGGCCAGCTGAACATCTATGGACCAAAGTCTCCCTATGCCACCAAGGAGCTGACGTACACAGAGGCCGCCTTCGACAAGCTGGTGAAGCTCTCAGAATATAATATCCTCAATAACAGAGATAAGCTCATTCAGGCCTTGAGACTAGCAATGGAGAAGAAACGCATGAGGAGCCAGTGTCCCTCCGCGGCCGCAGGAGGTGGAGGTGACTACAAGGATGACGATGACAAGTGA
配列番号6 フォワードプライマーfwPLA2G4E
ATGGTGACAGACTCCTTCGAG
配列番号7 リバースプライマーrvPLA2G4E
CCTCTGCGTAAAGCTGTGG
配列番号8 PLA2G4EのshRNA(shPLA2G4E)
GGTCTATGGTCTCCTTGTATCAAGAGTACAAGGAGACCATAGACC
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
2022544740000001.app
【国際調査報告】