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特表2022-544752超音波誘発リポソームペイロード放出
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-21
(54)【発明の名称】超音波誘発リポソームペイロード放出
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/04 20060101AFI20221014BHJP
   B01J 13/22 20060101ALI20221014BHJP
   C12N 9/10 20060101ALI20221014BHJP
   A61K 9/127 20060101ALN20221014BHJP
   A61K 47/42 20170101ALN20221014BHJP
   A61K 47/36 20060101ALN20221014BHJP
   A61K 47/32 20060101ALN20221014BHJP
   A61K 47/34 20170101ALN20221014BHJP
   A61K 47/02 20060101ALN20221014BHJP
   A61K 47/24 20060101ALN20221014BHJP
【FI】
C12P21/04
B01J13/22
C12N9/10
A61K9/127
A61K47/42
A61K47/36
A61K47/32
A61K47/34
A61K47/02
A61K47/24
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022506582
(86)(22)【出願日】2020-07-31
(85)【翻訳文提出日】2022-03-30
(86)【国際出願番号】 GB2020051847
(87)【国際公開番号】W WO2021019253
(87)【国際公開日】2021-02-04
(31)【優先権主張番号】20190100331
(32)【優先日】2019-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GR
(31)【優先権主張番号】1911235.8
(32)【優先日】2019-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】519340400
【氏名又は名称】インペリアル・カレッジ・イノベーションズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】IMPERIAL COLLEGE INNOVATIONS LIMITED
(71)【出願人】
【識別番号】511301083
【氏名又は名称】ザ チャンセラー,マスターズ アンド スカラーズ オブ ザ ユニバーシティ オブ オックスフォード
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ニーレ,ヴァレリア
(72)【発明者】
【氏名】アームストロング,ジェームス ピー.
(72)【発明者】
【氏名】スティーブンズ,モリー エム.
(72)【発明者】
【氏名】スカッツ イプセン,キャロリン
(72)【発明者】
【氏名】グレイ,マイケル ディー.
(72)【発明者】
【氏名】コッシオス,コンスタンティン シー.
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
4C076
4G005
【Fターム(参考)】
4B050CC06
4B050LL05
4B050LL10
4B064AF17
4B064AG01
4B064AH19
4B064CA21
4B064CB30
4B064DA01
4B064DA20
4C076AA19
4C076DD21
4C076DD63
4C076EE06
4C076EE09
4C076EE11
4C076EE23
4C076EE36
4C076EE41
4C076EE43
4C076EE45
4C076FF35
4G005AA07
4G005DA13W
4G005DC56Y
4G005DC56Z
(57)【要約】
本明細書には、ゲル化のプロセスおよび酵素触媒作用のプロセスを含む、超音波誘発リポソームペイロード放出のためのプロセスおよび組成物が記載される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル化のためのプロセスであって、
a)リポソームおよびゲル前駆体を含む混合物を用意するステップであり、前記リポソームは、前記ゲル前駆体のゲル化を誘導することができるペイロードを封入している、ステップと;
b)前記混合物に超音波を適用して、前記リポソームからの前記ペイロードの放出を誘発し、前記ゲル前駆体のゲル化を誘導するステップと
を含む、プロセス。
【請求項2】
前記ペイロードが、前記前駆体に直接的に作用してゲル化を誘導するか、または前記ペイロードが、(例えば、酵素を活性化することにより)前記前駆体に間接的に作用してゲル化を誘導する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記混合物が、不活性形態の補因子依存性酵素をさらに含み、
前記ペイロードが、前記酵素を活性化することができる補因子であり、
前記混合物に超音波を適用すると、前記リポソームからの前記補因子の放出が誘発され、これが前記酵素を活性化する、
請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記補因子が、イオン性補因子である、請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
前記酵素が、トランスグルタミナーゼ、オキシドレダクターゼ、ペルオキシダーゼ、トランスフェラーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、ヒドロラーゼ、リアーゼ、イソメラーゼもしくはリガーゼ、またはこれらの組み合わせであり、任意に前記酵素がトランスグルタミナーゼである、請求項3または4に記載のプロセス。
【請求項6】
超音波誘発酵素触媒作用のためのプロセスであって、
a)リポソーム、不活性形態の補因子依存性酵素、および前記酵素の基質を含む混合物を用意するステップであり、前記リポソームは、前記酵素を活性化することができる補因子を封入している、ステップと;
b)前記混合物に超音波を適用して、前記リポソームからの前記補因子の放出を誘発し、前記酵素を活性化するステップと
を含む、プロセス。
【請求項7】
前記補因子が、イオン性補因子である、請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
前記酵素が、トランスグルタミナーゼ、オキシドレダクターゼ、ペルオキシダーゼ、トランスフェラーゼ、ヒドロラーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、リアーゼ、イソメラーゼもしくはリガーゼ、またはこれらの組み合わせであり、任意に前記酵素がトランスグルタミナーゼである、請求項6または7に記載のプロセス。
【請求項9】
前記基質が、ゲル前駆体であり、前記活性化酵素が、前記ゲル前駆体のゲル化を誘導する、請求項6~8のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記ゲル化が、ヒドロゲル化であり、前記ゲル前駆体が、ヒドロゲル前駆体である、請求項1~5または9のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記基質、ゲル前駆体、またはヒドロゲル前駆体が、フィブリノーゲン、コラーゲン、アルギン酸塩、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、もしくはメタクリレート、テトラジン、もしくはノルボルネンで修飾されたバイオポリマーであり、任意に、前記基質、ゲル前駆体、またはヒドロゲル前駆体が、フィブリノーゲンである、請求項1~10のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項12】
前記ペイロードまたは補因子が、金属イオンである、請求項1~11のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項13】
前記金属イオンが、カルシウム、亜鉛、鉄、マグネシウム、アルミニウム、バリウムもしくはストロンチウムイオン、またはこれらの組み合わせであり、任意に前記金属イオンが、カルシウムイオンである、請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
a)前記補因子が、亜鉛イオンであり、前記酵素が、アルコールデヒドロゲナーゼ、リアーゼ、もしくはヒドロラーゼである、または
b)前記補因子が、カルシウムイオンであり、前記酵素が、ホスホリパーゼA、アシルトランスフェラーゼ、もしくはトランスグルタミナーゼである、または
c)前記補因子が、鉄イオンであり、前記酵素が、アルカリホスファターゼである、または
d)前記補因子が、カルシウムイオンであり、前記酵素が、トランスグルタミナーゼであり、前記ゲル前駆体が、フィブリノーゲンである、または
e)前記補因子がカルシウムイオンであり、前記酵素が、トランスグルタミナーゼであり、前記ゲル前駆体が、ポリ(エチレングリコール)(PEG)およびヒアルロン酸(HA)を含む、または
f)前記補因子が、カルシウムイオンであり、前記酵素が、ペルオキシダーゼであり、前記ゲル前駆体が、チラミンおよびヒアルロン酸を含む、または
g)前記補因子が、カルシウムイオンであり、前記酵素が、ホスホリパーゼAであり、前記ゲル前駆体が、リン脂質である、または
h)前記補因子が、カルシウムイオンであり、前記酵素が、アシルトランスフェラーゼであり、前記ゲル前駆体が、アシル部分を含有する分子である、または
i)前記補因子が、亜鉛イオンであり、前記酵素が、アルコールデヒドロゲナーゼであり、前記ゲル前駆体が、アルコールである、または
j)前記補因子が、鉄イオンであり、前記酵素が、アルカリホスファターゼであり、前記ゲル前駆体が、ホスフェート部分を含む分子である、
請求項3または9に記載のプロセス。
【請求項15】
リポソームからペイロードを放出するためのプロセスであって、ペイロードを封入しているリポソームに超音波を適用するステップを含み、前記ペイロードが金属イオン(例えば、カルシウムイオン)である、プロセス。
【請求項16】
ペイロードを封入しているリポソームに超音波を適用することによって、リポソームからペイロードを放出するための超音波の使用であって、前記ペイロードが金属イオン(例えば、カルシウムイオン)である、使用。
【請求項17】
前記混合物が液体ビヒクル(例えば、生理食塩水などの水)をさらに含む、請求項1~16のいずれか1項に記載のプロセスまたは使用。
【請求項18】
前記リポソームがマイクロバブルにコンジュゲートされている、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法または使用。
【請求項19】
前記リポソームが、1つまたは複数のホスファチジルコリンを含み、任意に、前記リポソームが、DPPCおよびDSPE-PEG2000ビオチンを含む、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法または使用。
【請求項20】
前記リポソームが、DPPCおよびDSPE-PEG2000ビオチンを含み、
前記補因子が、カルシウムイオンであり、
前記酵素が、トランスグルタミナーゼであり、
前記ゲル前駆体が、フィブリノーゲンである、
請求項3または9に記載のプロセス。
【請求項21】
前記リポソームが、DPPCおよびDSPE-PEG2000ビオチンを含み、
前記ペイロードが、カルシウムイオンであり、
前記ゲル前駆体が、アルギン酸塩である、
請求項1に記載のプロセス。
【請求項22】
a)超音波が、少なくとも約1秒間、および/もしくは少なくとも約20kHzの周波数で適用され、ならびに/または
b)超音波が、少なくとも約0.5mmの領域に集束される、
請求項1~21のいずれか1項に記載の方法または使用。
【請求項23】
ゲル前駆体と、マイクロバブルにコンジュゲートしたリポソームとを含む組成物であって、前記リポソームは、前記ゲル前駆体のゲル化を誘導することができるペイロードを封入しており、前記リポソームは、PEG化脂質を含む、組成物。
【請求項24】
酵素と、前記酵素の基質と、マイクロバブルにコンジュゲートされたリポソームとを含む組成物であって、前記リポソームには、前記酵素を活性化するために必要な補因子が装填されている、組成物。
【請求項25】
実質的に本明細書に記載されたとおりのプロセス、使用または組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波誘発リポソームペイロード放出、およびたとえば超音波により誘発されるゲル化によるヒドロゲルの形成におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロゲルは、組織工学、ドラッグデリバリー、ソフトロボティクスおよびバイオエレクトロニクスの用途に広く使用されている、水和3次元ポリマーネットワークである。ベース材料は、天然(たとえば、コラーゲン、アルギン酸塩、フィブリン)、完全合成(たとえば、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸))または半合成(たとえば、メタクリレート、テトラジン、ノルボルネンで修飾されたバイオポリマー)であり得る、広範囲の親水性ホモポリマー、コポリマーまたはマクロマーを包含する。ヒドロゲルは、種々の非共有結合または共有結合の形成によって媒介されるゾル-ゲル転移によって形成される。たとえば、多くのヒドロゲルは、隣接するポリマー鎖同士をつなぐ化学結合を形成する、イオン、小分子、またはペプチドによって、架橋される。ただし、系に2番目の構成成分を追加する必要があるため、多くの用途、特にin vivoでのゲル化に課題がある。
【0003】
ヒドロゲル化は、温度またはpHなどの環境条件を変更することによっても開始され得る。これらの刺激は、非共有相互作用の変化を通じて材料の化学的環境を直接変更するために使用されるか、あるいは化学的因子の放出を誘発してゲル化を開始することもできる。この戦略は、生理学的条件下でゲル化するように設計された注射可能な製剤に使用されるが、これらの系は通常、時空間的制御が不十分であることによって制限される。
【0004】
高い時空間的精度を達成できる1つの方法は、合成または半合成のヒドロゲルを光架橋するために、紫外線または青色光を照射することである。ただし、光架橋用途は、ラジカル光開始剤の一般的な必要性、およびこれらの波長での光の限られた組織浸透によって妨げられる可能性がある。
【0005】
2008年、参照により内容全体が本明細書に組み込まれる、Parkら(Soft Matter、2008年、4巻、1995頁)は、超音波を使用して、2’-デオキシアデノシンベースのヒドロゲルの形成を開始し得るラジカルを生成した。ただし、ゲル化はヒドロキシルラジカルの形成によって誘導されたものであり、ヒドロキシルラジカルは生物医学的用途にとって有害であり得る。
【0006】
したがって、ヒドロゲル化、より一般的には酵素触媒作用を開始するための代替手段を提供することが望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
第1の態様では、本発明は、ゲル化(たとえば、ヒドロゲル化)のためのプロセスであって、
a)リポソームおよびゲル前駆体を含む混合物を用意するステップであり、リポソームは、ゲル前駆体のゲル化を誘導することができるペイロードを封入している、ステップと;
b)混合物に超音波を適用して、リポソームからのペイロードの放出を誘発し、ゲル前駆体のゲル化を誘導するステップと
を含むプロセスを提供する。
【0008】
ペイロードは、前駆体に間接的に作用してゲル化を誘導し得る(たとえば、酵素を活性化し、次に前駆体に作用してゲル化を誘導する)。
【0009】
混合物は、不活性形態の補因子依存性酵素をさらに含んでもよく、ペイロードは、酵素を活性化することができる補因子であってもよく、混合物に超音波を適用すると、リポソームからの補因子の放出が誘発され、これが酵素を活性化させる。
【0010】
ゲル化(たとえば、ヒドロゲル化)のプロセスは、
a)リポソーム、不活性形態の補因子依存性酵素、およびゲル前駆体を含む混合物を用意するステップであり、リポソームは、酵素を活性化することができる補因子を封入している、ステップと;
b)混合物に超音波を適用して、リポソームからの補因子の放出を誘発し酵素を活性化して、ゲル前駆体のゲル化を誘導するステップと
を含み得る。
【0011】
ゲル前駆体は、フィブリノーゲン、コラーゲン、アルギン酸塩、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、もしくはメタクリレート、テトラジン、もしくはノルボルネンで修飾されたバイオポリマーまたはこれらの混合物から選択されてもよい。好ましくは、ゲル前駆体は、フィブリノーゲンであってもよい。
【0012】
補因子は、金属イオンなどのイオン性補因子であってもよい。金属イオンは、二価または三価のカチオンであってもよい。金属イオンは、カルシウム、亜鉛、鉄、マグネシウム、アルミニウム、バリウム、もしくはストロンチウムイオン、またはこれらの組み合わせであってもよく、好ましくはカルシウムイオンであってもよい。
【0013】
酵素は、トランスグルタミナーゼ、オキシドレダクターゼ、ペルオキシダーゼ、トランスフェラーゼ、ヒドロラーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、リアーゼ、イソメラーゼもしくはリガーゼ、またはこれらの組み合わせであってもよい。好ましくは、酵素は、トランスグルタミナーゼであってもよい。
【0014】
本プロセスは、ヒドロゲル化のプロセスであってもよく、ゲル化はヒドロゲル化であり、ゲル前駆体はヒドロゲル前駆体である。
【0015】
いくつかの実施形態において、本発明は、ヒドロゲル化のためのプロセスであって、
a)リポソーム、不活性形態のトランスグルタミナーゼ、およびフィブリノーゲンを含む混合物を用意するステップであり、リポソームは、カルシウムイオンを封入している、ステップと;
b)混合物に超音波を適用して、リポソームからのカルシウムイオンの放出を誘発し、トランスグルタミナーゼを活性化して、フィブリノーゲンのヒドロゲル化を誘導するステップと
を含み、
任意に、リポソームがDPPCおよびDSPE-PEG2000ビオチンを含む、
プロセスを提供する。
【0016】
本明細書で記載するプロセスにおいて、
a)補因子は亜鉛イオンであってもよく、酵素はアルコールデヒドロゲナーゼ、リアーゼ、もしくはヒドロラーゼであってもよい、または
b)補因子はカルシウムイオンであってもよく、酵素はホスホリパーゼA、アシルトランスフェラーゼ、もしくはトランスグルタミナーゼであってもよい、または
c)補因子は鉄イオンであってもよく、酵素はアルカリホスファターゼであってもよい、または
d)補因子はカルシウムイオンであってもよく、酵素はトランスグルタミナーゼであってもよく、ゲル前駆体はフィブリノーゲンであってもよい、または
e)補因子はカルシウムイオンであってもよく、酵素はトランスグルタミナーゼであってもよく、ゲル前駆体はポリ(エチレングリコール)(PEG)およびヒアルロン酸(HA)を含んでもよい、または
f)補因子はカルシウムイオンであってもよく、酵素はペルオキシダーゼであってもよく、ゲル前駆体はチラミンおよびヒアルロン酸を含んでもよい、または
g)補因子はカルシウムイオンであってもよく、酵素はホスホリパーゼAであってもよく、ゲル前駆体はリン脂質であってもよい、または
h)補因子はカルシウムイオンであってもよく、酵素はアシルトランスフェラーゼであってもよく、ゲル前駆体はアシル部分を含む分子であってもよい、または
i)補因子は亜鉛イオンであってもよく、酵素はアルコールデヒドロゲナーゼであってもよく、ゲル前駆体はアルコールであってもよい、または
j)補因子は鉄イオンであってもよく、酵素はアルカリホスファターゼであってもよく、ゲル前駆体はホスフェート部分を含む分子であってもよい。
【0017】
混合物は、酵素の基質である架橋剤前駆体をさらに含んでもよい。したがって、混合物に超音波を適用すると、補因子の放出が誘発され、それにより酵素が活性化されて架橋剤前駆体が架橋剤に変換され得る。次に、架橋剤がゲル前駆体に作用してゲル化を引き起こすことができる。
【0018】
ペイロードは、前駆体に直接作用してゲル化を誘導し得る。たとえば、ゲル前駆体は、イオンの存在下でゲル化するポリマーであってもよく、ペイロードは、イオンであってもよい。
【0019】
ゲル化(たとえば、ヒドロゲル化)のプロセスは、
a)リポソームおよびゲル前駆体を含む混合物を用意するステップであり、リポソームは、ゲル前駆体のゲル化を直接誘導することができるペイロードを封入している、ステップと;
b)混合物に超音波を適用して、リポソームからのペイロードの放出を誘発し、前駆体のゲル化を誘導するステップと
を含み得る。
【0020】
ゲル前駆体は、アルギン酸塩、ジェランガム、キトサン、ペクチン、ポリガラクツロン酸ナトリウムもしくはカルボキシル化セルロースナノフィブリル、もしくはこれらの混合物であってもよく、かつ/またはペイロードは、イオン(たとえば、金属イオンまたはOH)であってもよい。ゲル前駆体は、好ましくは、アルギン酸塩であってもよく、ペイロードは、Ca2+、Mg2+、Sr2+、Ba2+、Al3+およびFe3+、またはこれらの混合物から選択されてもよい。
【0021】
いくつかの実施形態において、本発明は、ヒドロゲル化のためのプロセスであって、
a)リポソームおよびアルギン酸塩を含む混合物を用意するステップであり、リポソームはカルシウムイオンを封入している、ステップと;
b)混合物に超音波を適用して、リポソームからのカルシウムイオンの放出を誘発し、アルギン酸塩のゲル化を誘導するステップと
を含み、
任意に、リポソームがDPPCおよびDSPE-PEG2000ビオチンを含む、
プロセスを提供する。
【0022】
混合物は、液体ビヒクル(たとえば、生理食塩水などの水)をさらに含み得る。
【0023】
混合物は、吸収増加材料(すなわち、混合物による超音波吸収を増加させる材料)をさらに含み得る。吸収増加材料は、ガラスマイクロスフェアであってもよい。ガラスマイクロスフェアは、約1~約100μmまたは約5~約50μmの直径を有し得る。ガラスマイクロスフェアは、固体ガラスであってもよい。ガラスマイクロスフェアは、ソーダライムガラスを含み得る。吸収増加材料は、グラファイト粉末であってもよい。吸収増加材料は、酸化アルミニウム粉末であってもよい。
【0024】
リポソームは、マイクロバブルにコンジュゲートされ得る。
【0025】
リポソームは、1つまたは複数の脂質二重層を含み得る。脂質二重層は、1つまたは複数のホスファチジルコリンを含み得る。たとえば、脂質二重層は、DPPCおよびDSPC、またはこれらの混合物を含み得る。
【0026】
超音波は、少なくとも約1ミリ秒適用され得る。好ましくは、超音波は、少なくとも約1秒間適用され得る。超音波は、少なくとも約18kHzの周波数で適用され得る。超音波は、少なくとも約20kHzの周波数で適用され得る。超音波の周波数は、少なくとも約1MHzであってもよい。超音波の周波数は、少なくとも約3MHzであってもよい。超音波の周波数は、最大約10MHzであってもよい。超音波の周波数は、約18kHz~約10MHzであってもよい。超音波は、少なくとも約0.5mmの領域に焦点を合わされてもよい。
【0027】
第2の態様では、本発明は、超音波誘発酵素触媒作用のためのプロセスであって、
a)リポソーム、不活性形態の補因子依存性酵素、および酵素の基質を含む混合物を用意するステップであり、リポソームは、酵素を活性化することができる補因子を封入している、ステップと;
b)混合物に超音波を適用して、リポソームからの補因子の放出を誘発し、酵素を活性化するステップと
を含むプロセスを提供する。
【0028】
補因子は、金属イオンなどのイオン性補因子であってもよい。金属イオンは、二価または三価のカチオンであってもよい。金属イオンは、カルシウム、亜鉛、鉄、マグネシウム、アルミニウム、バリウム、もしくはストロンチウムイオン、またはこれらの組み合わせであってもよく、好ましくはカルシウムイオンであってもよい。
【0029】
酵素は、トランスグルタミナーゼ、オキシドレダクターゼ、ペルオキシダーゼ、トランスフェラーゼ、ヒドロラーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、リアーゼ、イソメラーゼもしくはリガーゼ、またはこれらの組み合わせであってもよい。好ましくは、酵素は、トランスグルタミナーゼであってもよい。
【0030】
基質はゲル前駆体であってもよく、活性化された酵素はゲル前駆体のゲル化を誘導し得る。したがって、第2の態様のプロセスは、第1の態様と同様のゲル化のためのプロセスであってもよい。
【0031】
ゲル化はヒドロゲル化であってもよく、ゲル前駆体はヒドロゲル前駆体であってもよい。
【0032】
ゲル前駆体は、フィブリノーゲン、コラーゲン、アルギン酸塩、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、もしくはメタクリレート、テトラジン、もしくはノルボルネンで修飾されたバイオポリマーまたはこれらの混合物から選択されてもよい。好ましくは、ゲル前駆体は、フィブリノーゲンであってもよい。
【0033】
本明細書に記載のプロセスにおいて、リポソームは、DPPCおよびDSPE-PEG2000ビオチンを含んでもよく、補因子はカルシウムイオンであってもよく、酵素はトランスグルタミナーゼであってもよく、ゲル前駆体はフィブリノーゲンであってもよい。
【0034】
本明細書で記載するプロセスにおいて、
a)補因子は亜鉛イオンであってもよく、酵素はアルコールデヒドロゲナーゼ、リアーゼ、もしくはヒドロラーゼであってもよい、または
b)補因子はカルシウムイオンであってもよく、酵素はホスホリパーゼA、アシルトランスフェラーゼ、もしくはトランスグルタミナーゼであってもよい、または
c)補因子は鉄イオンであってもよく、酵素はアルカリホスファターゼであってもよい、または
d)補因子はカルシウムイオンであってもよく、酵素はトランスグルタミナーゼであってもよく、ゲル前駆体はフィブリノーゲンであってもよい、または
e)補因子はカルシウムイオンであってもよく、酵素はトランスグルタミナーゼであってもよく、ゲル前駆体はポリ(エチレングリコール)(PEG)およびヒアルロン酸(HA)を含んでもよい、または
f)補因子はカルシウムイオンであってもよく、酵素はペルオキシダーゼであってもよく、ゲル前駆体はチラミンおよびヒアルロン酸を含んでもよい、または
g)補因子はカルシウムイオンであってもよく、酵素はホスホリパーゼAであってもよく、ゲル前駆体はリン脂質であってもよい、または
h)補因子はカルシウムイオンであってもよく、酵素はアシルトランスフェラーゼであってもよく、ゲル前駆体はアシル部分を含む分子であってもよい、または
i)補因子は亜鉛イオンであってもよく、酵素はアルコールデヒドロゲナーゼであってもよく、ゲル前駆体はアルコールであってもよい、または
j)補因子は鉄イオンであってもよく、酵素はアルカリホスファターゼであってもよく、ゲル前駆体はホスフェート部分を含む分子であってもよい。
【0035】
本明細書に記載のゲル化のプロセスのいずれにおいても、ゲル化はヒドロゲル化であってもよく、したがって、ゲル前駆体はヒドロゲル前駆体であってもよい。
【0036】
混合物は、液体ビヒクル(たとえば、生理食塩水などの水)をさらに含み得る。
【0037】
混合物は、吸収増加材料をさらに含み得る。吸収増加材料は、ガラスマイクロスフェアであってもよい。ガラスマイクロスフェアは、約1~約100μmまたは約5~約50μmの直径を有し得る。ガラスマイクロスフェアは、固体ガラスであってもよい。ガラスマイクロスフェアは、ソーダライムガラスを含み得る。吸収増加材料は、グラファイト粉末であってもよい。吸収増加材料は、酸化アルミニウム粉末であってもよい。
【0038】
リポソームは、マイクロバブルにコンジュゲートされ得る。
【0039】
リポソームは、1つまたは複数の脂質二重層を含み得る。脂質二重層は、1つまたは複数のホスファチジルコリンを含み得る。たとえば、脂質二重層は、DPPCおよびDSPC、またはこれらの混合物を含み得る。
【0040】
超音波は、少なくとも約1ミリ秒適用され得る。好ましくは、超音波は、少なくとも約1秒間適用され得る。超音波は、少なくとも約18kHzの周波数で適用され得る。超音波は、少なくとも約20kHzの周波数で適用され得る。超音波の周波数は、少なくとも約1MHzであってもよい。超音波の周波数は、少なくとも約3MHzであってもよい。超音波の周波数は、最大約10MHzであってもよい。超音波の周波数は、約18kHz~約10MHzであってもよい。超音波は、少なくとも約0.5mmの領域に焦点を合わされてもよい。
【0041】
第3の態様では、本発明は、リポソームからペイロードを放出するためのプロセスであって、ペイロードを封入しているリポソームに超音波を適用するステップを含み、ペイロードが金属イオンである、プロセスを提供する。
【0042】
金属イオンは、二価または三価のカチオンであってもよい。金属イオンは、カルシウム、亜鉛、鉄、マグネシウム、アルミニウム、バリウム、もしくはストロンチウムイオン、またはこれらの組み合わせであってもよく、好ましくはカルシウムイオンであってもよい。
【0043】
リポソームは、液体ビヒクル(たとえば、生理食塩水などの水)を含む混合物中に存在してもよい。
【0044】
混合物は、吸収増加材料をさらに含み得る。吸収増加材料は、ガラスマイクロスフェアであってもよい。ガラスマイクロスフェアは、約1~約100μmまたは約5~約50μmの直径を有し得る。ガラスマイクロスフェアは、固体ガラスであってもよい。ガラスマイクロスフェアは、ソーダライムガラスを含み得る。吸収増加材料は、グラファイト粉末であってもよい。吸収増加材料は、酸化アルミニウム粉末であってもよい。
【0045】
リポソームは、マイクロバブルにコンジュゲートされ得る。
【0046】
リポソームは、1つまたは複数の脂質二重層を含み得る。脂質二重層は、1つまたは複数のホスファチジルコリンを含み得る。たとえば、脂質二重層は、DPPCおよびDSPC、またはこれらの混合物を含み得る。
【0047】
超音波は、少なくとも約1ミリ秒適用され得る。好ましくは、超音波は、少なくとも約1秒間適用され得る。超音波は、少なくとも約18kHzの周波数で適用され得る。超音波は、少なくとも約20kHzの周波数で適用され得る。超音波の周波数は、少なくとも約1MHzであってもよい。超音波の周波数は、少なくとも約3MHzであってもよい。超音波の周波数は、最大約10MHzであってもよい。超音波の周波数は、約18kHz~約10MHzであってもよい。超音波は、少なくとも約0.5mmの領域に焦点を合わされてもよい。
【0048】
第4の態様では、本発明は、ペイロードを封入しているリポソームに超音波を適用することによって、リポソームからペイロードを放出するための超音波の使用であって、ペイロードが金属イオンである、使用を提供する。
【0049】
金属イオンは、二価または三価のカチオンであってもよい。金属イオンは、カルシウム、亜鉛、鉄、マグネシウム、アルミニウム、バリウム、もしくはストロンチウムイオン、またはこれらの組み合わせから選択されてもよい。たとえば、金属イオンは、カルシウムイオンであってもよい。
【0050】
リポソームは、液体ビヒクル(たとえば、生理食塩水などの水)を含む混合物中に存在してもよい。
【0051】
混合物は、吸収増加材料をさらに含み得る。吸収増加材料は、ガラスマイクロスフェアであってもよい。ガラスマイクロスフェアは、約1~約100μmまたは約5~約50μmの直径を有し得る。ガラスマイクロスフェアは、固体ガラスであってもよい。ガラスマイクロスフェアは、ソーダライムガラスを含み得る。吸収増加材料は、グラファイト粉末であってもよい。吸収増加材料は、酸化アルミニウム粉末であってもよい。
【0052】
リポソームは、マイクロバブルにコンジュゲートされ得る。
【0053】
リポソームは、1つまたは複数の脂質二重層を含み得る。脂質二重層は、1つまたは複数のホスファチジルコリンを含み得る。たとえば、脂質二重層は、DPPCおよびDSPC、またはこれらの混合物を含み得る。
【0054】
超音波は、少なくとも約1ミリ秒適用され得る。好ましくは、超音波は、少なくとも約1秒間適用され得る。超音波は、少なくとも約18kHzの周波数で適用され得る。超音波は、少なくとも約20kHzの周波数で適用され得る。超音波の周波数は、少なくとも約1MHzであってもよい。超音波の周波数は、少なくとも約3MHzであってもよい。超音波の周波数は、最大約10MHzであってもよい。超音波の周波数は、約18kHz~約10MHzであってもよい。超音波は、少なくとも約0.5mmの領域に焦点を合わされてもよい。
【0055】
第5の態様では、本発明は、ゲル前駆体およびマイクロバブルにコンジュゲートしたリポソームを含む組成物であって、リポソームは、ゲル前駆体のゲル化を誘導することができるペイロードを封入しており、PEG化脂質を含む、組成物を提供する。
【0056】
組成物は、不活性形態の補因子依存性酵素をさらに含んでもよく、ペイロードは、酵素を活性化することができる補因子であってもよい。ゲル前駆体は、フィブリノーゲン、コラーゲン、およびアルギン酸塩、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、もしくはメタクリレート、テトラジン、もしくはノルボルネンで修飾されたバイオポリマーまたはこれらの混合物から選択されてもよい。好ましくは、ゲル前駆体は、フィブリノーゲンであってもよい。
【0057】
ゲル前駆体は、イオンの存在下でゲル化するポリマーであってもよく、ペイロードは、イオンであってもよい。ゲル前駆体は、アルギン酸塩、ジェランガム、キトサン、ペクチン、ポリガラクツロン酸ナトリウムもしくはカルボキシル化セルロースナノフィブリル、もしくはこれらの混合物であってもよく、かつ/またはペイロードは、イオン(たとえば、金属イオンまたはOH)であってもよい。ゲル前駆体は、好ましくは、アルギン酸塩であってもよく、ペイロードは、Ca2+、Mg2+、Sr2+、Ba2+、Al3+およびFe3+、またはこれらの混合物から選択されてもよい。
【0058】
本明細書に記載された組成物において、
a)ペイロードは亜鉛イオンであってもよく、酵素はアルコールデヒドロゲナーゼ、リアーゼ、もしくはヒドロラーゼであってもよい、または
b)ペイロードはカルシウムイオンであってもよく、酵素はホスホリパーゼA、アシルトランスフェラーゼ、もしくはトランスグルタミナーゼであってもよい、または
c)ペイロードは鉄イオンであってもよく、酵素はアルカリホスファターゼであってもよい、または
d)ペイロードはカルシウムイオンであってもよく、酵素はトランスグルタミナーゼであってもよく、ゲル前駆体はフィブリノーゲンであってもよい、または
e)ペイロードはカルシウムイオンであってもよく、酵素はトランスグルタミナーゼであってもよく、ゲル前駆体はポリ(エチレングリコール)(PEG)およびヒアルロン酸(HA)を含んでもよい、または
f)ペイロードはカルシウムイオンであってもよく、酵素はペルオキシダーゼであってもよく、ゲル前駆体はチラミンおよびヒアルロン酸を含んでもよい、または
g)ペイロードはカルシウムイオンであってもよく、酵素はホスホリパーゼAであってもよく、ゲル前駆体はリン脂質であってもよい、または
h)ペイロードはカルシウムイオンであってもよく、酵素はアシルトランスフェラーゼであってもよく、ゲル前駆体はアシル部分を含む分子であってもよい、または
i)ペイロードは亜鉛イオンであってもよく、酵素はアルコールデヒドロゲナーゼであってもよく、ゲル前駆体はアルコールであってもよい、または
j)ペイロードは鉄イオンであってもよく、酵素はアルカリホスファターゼであってもよく、ゲル前駆体はホスフェート部分を含む分子であってもよい。
【0059】
組成物は、液体ビヒクル(たとえば、生理食塩水などの水)をさらに含み得る。
【0060】
組成物は、吸収増加材料をさらに含み得る。吸収増加材料は、ガラスマイクロスフェアであってもよい。ガラスマイクロスフェアは、約1~約100μmまたは約5~約50μmの直径を有し得る。ガラスマイクロスフェアは、固体ガラスであってもよい。ガラスマイクロスフェアは、ソーダライムガラスを含み得る。吸収増加材料は、グラファイト粉末であってもよい。吸収増加材料は、酸化アルミニウム粉末であってもよい。
【0061】
リポソームは、マイクロバブルにコンジュゲートされ得る。
【0062】
リポソームは、1つまたは複数の脂質二重層を含み得る。脂質二重層は、1つまたは複数のホスファチジルコリンを含み得る。たとえば、脂質二重層は、DPPCおよびDSPC、またはこれらの混合物を含み得る。
【0063】
第6の態様では、本発明は、酵素、前記酵素の基質、およびマイクロバブルにコンジュゲートされたリポソームを含む組成物であって、リポソームには、前記酵素を活性化するために必要な補因子が装填されている、組成物を提供する。
【0064】
補因子は、金属イオンなどのイオン性補因子であってもよい。金属イオンは、二価または三価のカチオンであってもよい。金属イオンは、カルシウム、亜鉛、鉄、マグネシウム、アルミニウム、バリウム、またはストロンチウムイオン、またはこれらの組み合わせから選択されてもよい。たとえば、金属イオンは、カルシウムイオンであってもよい。
【0065】
酵素は、トランスグルタミナーゼ、オキシドレダクターゼ、ペルオキシダーゼ、トランスフェラーゼ、ヒドロラーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、リアーゼ、イソメラーゼもしくはリガーゼ、またはこれらの組み合わせであってもよい。好ましくは、酵素は、トランスグルタミナーゼであってもよい。
【0066】
基質は、ゲル前駆体(たとえば、ヒドロゲル前駆体)であってもよい。ゲル前駆体は、フィブリノーゲン、コラーゲン、およびアルギン酸塩、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、もしくはメタクリレート、テトラジン、もしくはノルボルネンで修飾されたバイオポリマーまたはこれらの混合物から選択されてもよい。好ましくは、ゲル前駆体は、フィブリノーゲンである。
【0067】
組成物は、液体ビヒクル(たとえば、生理食塩水などの水)をさらに含み得る。
【0068】
組成物は、吸収増加材料をさらに含み得る。吸収増加材料は、ガラスマイクロスフェアであってもよい。ガラスマイクロスフェアは、約1~約100μmまたは約5~約50μmの直径を有し得る。ガラスマイクロスフェアは、固体ガラスであってもよい。ガラスマイクロスフェアは、ソーダライムガラスを含み得る。吸収増加材料は、グラファイト粉末であってもよい。吸収増加材料は、酸化アルミニウム粉末であってもよい。
【0069】
リポソームは、マイクロバブルにコンジュゲートされ得る。
【0070】
リポソームは、1つまたは複数の脂質二重層を含み得る。脂質二重層は、1つまたは複数のホスファチジルコリンを含み得る。たとえば、脂質二重層は、DPPCおよびDSPC、またはこれらの混合物を含み得る。
【0071】
第7の態様では、本発明は、実質的に本明細書に記載されたとおりのプロセス、使用または組成物を提供する。
【0072】
本発明の第1の態様に関連して本明細書に記載された実施形態は、必要な変更を加えて、本発明の第2から第7の態様に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0073】
図1】超音波誘発による(a)酵素触媒作用および(b)ヒドロゲル化の概略図を示す。
図2】0.4M塩化カルシウムを使用して装填されたDPPC/DSPE-PEG2000ビオチンリポソームのSANS分析を示す。SANS(標識)を使用して(a)非整粒化および(b)整粒化リポソームが分析され、ラメラモデル(線)にフィッティングされた。
図3】0.4M塩化カルシウムを使用して装填されたDPPC/DSPE-PEG2000ビオチンリポソームの代表的なクライオTEM画像を示す。クライオTEMを使用して(a)非整粒化および(b)整粒化リポソームが画像化された。スケールバー:200nm
図4】0.4M塩化カルシウムを使用して装填されたDPPC/DSPE-PEG2000ビオチンリポソームのサイジング分析を示す。(a)DLS測定(b)NTA測定。
図5】脂質水和中のCaCl濃度の影響を示す。(a)NTA粒子計数を使用して、異なるCaCl溶液を使用して水和したリポソームの収量を測定した。(b)o-CPCアッセイを使用して、異なるCaCl溶液を使用して水和したリポソームへのカルシウム装填を定量し、この値をリポソームの数により正規化した。
図6】0.4M塩化カルシウムを使用して装填されたDPPC/DSPE-PEG2000ビオチンリポソームからのカルシウム漏出を示す。カルシウムを装填したリポソームを25℃で5日間インキュベートし、放出されたカルシウムを、o-CPCアッセイを使用して間隔を置いて測定した。
図7】カルシウム装填リポソームを使用した、超音波誘発酵素触媒作用およびヒドロゲル化を示す。a)カルシウム装填リポソームを0~50秒間超音波に曝露し、放出されたカルシウムを、o-CPCアッセイを使用して定量した。(b)カルシウム装填リポソームを0~50秒間超音波に曝露した後、ダンシルカダベリンの酵素触媒変換を測定した。(c) ダンシルカダベリン変換の速度を超音波曝露の関数として測定した。3(d)、10(e)、または50(f)秒の超音波を適用した後、時間掃引レオロジーを使用して、トランスグルタミナーゼ触媒によるフィブリノーゲンのヒドロゲル化を測定した。
図8】超音波に曝露されないリポソームのレオロジー制御実験を示す。超音波に曝露されていないカルシウム装填リポソーム、トランスグルタミナーゼ、およびフィブリノーゲンの溶液に対して、(a)周波数および(b)ひずみ掃引を行った(6時間後に測定)。
図9】超音波誘発トランスグルタミナーゼ触媒作用を示す。トランスグルタミナーゼ、ダンシルカダベリン、およびカルシウム装填リポソームを0、1、3、および5秒間超音波に曝露した後の、結合したダンシルカダベリンの21時間のエンドポイント測定。
図10】DSPC/DSPE-PEG2000/DSPE-PEG2000ビオチンマイクロバブルのサイズ分析を示す。(a)明視野顕微鏡法。スケールバー:20μm。(B)890個のマイクロバブルの明視野画像分析によって決定された、マイクロバブルの直径分布を示す平均値シフトヒストグラム。
図11】カルシウム装填マイクロバブル-リポソームコンジュゲートを使用した超音波誘発ヒドロゲル化を示す。(a)マイクロバブル-リポソームコンジュゲーション形成の概略図。(b)DiO標識リポソーム(青色で表示)と共局在化した、DiI標識マイクロバブル(黄色で表示)を示す、共焦点蛍光顕微鏡法。スケールバー:20μm。(c)構造化照明顕微鏡法を使用して得られた単一のマイクロバブルにコンジュゲートしたDiO標識リポソーム(青色で表示)の超解像Z投影。スケールバー:3μm。d)超音波曝露の前後で無傷のマイクロバブル-リポソームコンジュゲートを示す、カメラ画像および明視野顕微鏡法。スケールバー:20μm。(e)超音波曝露(20kHz、25%デューティサイクル、20%振幅、5秒)後に用量に適合したリポソームおよびリポソーム-マイクロバブルコンジュゲートから測定された放出カルシウムの百分率。(f)周波数および(g)5秒間の超音波曝露および42時間の静的ゲル化後に得られたフィブリノーゲンヒドロゲルのひずみ掃引。(h)カルシウム装填リポソーム-マイクロバブルコンジュゲートを超音波に曝露して42時間後のフィブリノーゲンヒドロゲルの写真。
図12】マイクロバブル-リポソームコンジュゲート形成を示す。o-CPCアッセイを使用して総カルシウムを測定し、次にマイクロバブル-リポソーム濃度によって正規化した。
図13】超音波に曝されないマイクロバブル-リポソームコンジュゲートの対照実験を示す。超音波に曝露されていないカルシウム装填マイクロバブル-リポソームコンジュゲート、トランスグルタミナーゼおよびフィブリノーゲンの溶液に対して、(a)周波数および(b)ひずみ掃引を行った(42時間後に測定)。(c)カルシウム装填マイクロバブル-リポソームコンジュゲートに超音波を適用していない対照フィブリノーゲン溶液の写真。42時間後に捕捉された画像。
図14】異なる温度でのインキュベーション時にリポソームから放出されたカルシウムの百分率を示す。
図15】カルシウム装填リポソームとアルギン酸塩の混合物に超音波(1.1 MHz、72%デューティサイクル、65mVpp)を5分間適用した場合の、温度モニタリング(上)およびパッシブキャビテーション検出(下)を示す。
図16】ワンポット超音波誘発フィブリノーゲンヒドロゲル化を示す。超音波が、フィブリノーゲン、カルシウム装填リポソームおよびトランスグルタミナーゼの混合物に対して10秒間適用された。
図17】トランスグルタミナーゼ濃度を変化させた超音波誘発フィブリノーゲンヒドロゲル化を示す。カルシウム装填リポソームを50秒間超音波に曝露し、(a)1.25μM、(b)5μMおよび(c)10μMのトランスグルタミナーゼの添加時に、時間掃引レオメトリーを使用してフィブリノーゲンのゲル化を測定した。
図18】フィブリノーゲン濃度を変化させた超音波誘発ヒドロゲル化を示す。カルシウム装填リポソームを超音波に50秒間曝露し、時間掃引レオメトリーを使用して、(a)11.2mg・mL-1、(b)22.4mg・mL-1および(c)33.6mg・mL-1のフィブリノーゲン溶液を測定した。
図19】33.6mg mL-1フィブリノーゲン溶液を使用し、架橋時間を増加させた超音波誘発フィブリノーゲンヒドロゲル化を示す。カルシウム装填リポソームに50秒間超音波を適用した後、時間掃引レオロジーを使用してゲル化を測定した。
図20】2重量/体積%のアルギン酸塩、カルシウム装填リポソーム、および6体積/体積%ガラスマイクロスフェアの混合物を1.1MHzで作用する超音波に曝露することによって得られた、アルギン酸塩ヒドロゲルの(a)周波数(b)およびひずみ掃引を示す。
図21】2重量/体積%のアルギン酸塩、カルシウム装填リポソーム、および6体積/体積%ガラスマイクロスフェアの混合物を3.3MHzで作用する超音波に曝露することによって得られた、アルギン酸塩ヒドロゲルの(a)周波数(b)およびひずみ掃引を示す。
【発明を実施するための形態】
【0074】
本開示は、超音波誘発リポソームペイロード放出、およびたとえば超音波誘発ゲル化によるヒドロゲルの形成におけるその使用に関する。さらに、本開示は、超音波誘発酵素触媒作用、たとえば、超音波によって誘発される酵素的ゲル化によるヒドロゲルの形成に関する。
【0075】
ゲル化にとって潜在的に価値のある1つの誘因は、超音波、すなわち、高周波(約18kHz以上、たとえば約20kHz以上)で振動し、様々な熱的および非熱的効果を生成し得る機械的圧力波である。たとえば、周囲の媒体による超音波エネルギーの吸収は、局所的なハイパーサーミアおよび音響流を生成し得るが、超音波圧力振動は、音響放射力を生成し、ガス状マイクロバブルの核形成、成長、および振動を調節することができる。これらの効果は、in vitro組織工学のための細胞配列のパターン化、骨折治癒の加速のための骨形成の刺激、全身薬物送達のための血液脳関門の一時的な破壊、切除療法のための局所的高体温の誘導、超音波検査を使用した解剖学的構造および血液灌流の視覚化などの、さまざまな生物医学的用途に利用されている。
【0076】
本明細書に記載されているのは、リポソームに封入されたペイロードの超音波誘発放出を介して達成される超音波誘発ゲル化であり、ペイロードは、ゲル前駆体(たとえば、ヒドロゲル前駆体)のゲル化を誘導することができる。ペイロードは、ゲル前駆体に直接作用してゲル化を誘導し得る。あるいは、ペイロードは、ゲル前駆体に間接的に作用して、(たとえば、酵素の活性化によって)ゲル化を誘導することができる。したがって、本プロセスは、超音波変調酵素触媒作用のプロセスになり得る。たとえば、超音波は、リポソーム内に封入された補因子(カルシウムイオンなど)を放出して、補因子依存性酵素(たとえばトランスグルタミナーゼ)を活性化するために、使用され得る。次に、超音波活性化酵素は、ゲル前駆体分子同士の分子間共有結合性架橋を触媒してゲルを形成することができる(たとえば、フィブリノーゲンヒドロゲルを生成するための、可溶性フィブリノーゲン分子のリジンおよびグルタミン側鎖残基間の架橋)。
【0077】
そのようなプロセスは、超音波曝露時間に依存する、補因子放出、触媒作用速度、およびゲル化速度により、ゲル形成に対する高度の制御を実現し得る。
【0078】
全体として、これらのプロセスは、ラジカル種または刺激応答性ポリマーを使用せずに、必要に応じた超音波誘発ゲル化を可能にし得る。実際、基礎となる原理は、様々な補因子依存性酵素および/またはゲル系に容易に適用可能である。この多様性は、材料科学、生物医学工学、ドラッグデリバリー等の分野におけるin vitroおよびin vivo用途に多くの機会をもたらす。
【0079】
さらに、本発明は、超音波誘発酵素ゲル化によって実証されるように、超音波誘発酵素触媒作用を達成するための新しいアプローチを提供する。超音波の使用は、光、pH、温度、および化学物質の添加という従来的な誘因に並ぶ、酵素活性およびゲル化のためのまったく新しい種類の刺激となっている。本研究ではトランスグルタミナーゼを見本として使用したが、多くのオキシドレダクターゼ、トランスフェラーゼ、ヒドロラーゼ、リアーゼ、イソメラーゼ、およびリガーゼなどの、補因子を有する他の酵素にも同じ原理を適用することができる。
【0080】
この技術の多様性は、フィブリノーゲンヒドロゲル化を超えて広がり、超音波誘発分子生物学、合成生物学および材料科学にとって幅広い好機をもたらす。
【0081】
したがって、第1の態様では、本開示は、ゲル化のためのプロセスであって、
a)リポソームおよびゲル前駆体を含む混合物を用意するステップであり、リポソームは、ゲル前駆体のゲル化を誘導することができるペイロードを封入している、ステップと;
b)混合物に超音波を適用して、リポソームからのペイロードの放出を誘発し、ゲル前駆体のゲル化を誘導するステップと
を含むプロセスを提供する。
【0082】
「ゲル化」は、ゲル前駆体からのゲルの形成を指す。ゲル前駆体は、架橋を受けてゲルを形成し得る、ポリマー、ポリマーの混合物、またはポリマーとモノマーの混合物である。本明細書で言及されるゲル化は、好ましくはヒドロゲル化である。
【0083】
「ヒドロゲル化」は、ヒドロゲルの形成を指す。ヒドロゲルは、たとえば、大量の水を吸収し保持して安定した構造を形成することができる、水和した三次元ポリマーネットワークである。ヒドロゲルは、ヒドロゲル前駆体分子の架橋によって形成され得る。
【0084】
「ヒドロゲル前駆体」は、ヒドロゲルを形成することができる、ポリマーまたはポリマーおよび/もしくはモノマーの混合物を指す。
【0085】
ゲルまたはヒドロゲル前駆体は、イオン(たとえば、Ca2+などの金属イオン)の存在下でゲル化するポリマーであってもよい。ゲルまたはヒドロゲル前駆体は、酵素(たとえば、活性化された補因子依存性酵素)の存在下でゲル化するポリマーであってもよい。
【0086】
ゲルまたはヒドロゲル前駆体は、親水性ホモポリマー、コポリマーまたはマクロマーであってもよい。ゲルまたはヒドロゲル前駆体は、天然起源のポリマー(たとえば、多糖類)、完全に合成されたポリマー(たとえば、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸))、もしくは半合成ポリマー(たとえば、メタクリレート、テトラジン、もしくはノルボルネンで修飾されたバイオポリマー)、またはこれらの組み合わせであってもよい。
【0087】
メタクリレート、テトラジン、またはノルボルネンで修飾されたバイオポリマーは、メタクリレート、テトラジン、もしくはノルボルネン部分で修飾されたポリヌクレオチド(たとえばDNAおよびRNA)、ポリペプチドまたは多糖であってもよい。
【0088】
ゲルまたはヒドロゲル前駆体は、フィブリノーゲン、コラーゲン、アルギン酸塩、またはこれらの組み合わせから選択される天然起源のポリマーであってもよい。特に、ゲルまたはヒドロゲル前駆体は、フィブリノーゲンであってもよい。
【0089】
ゲルまたはヒドロゲル前駆体は、合成ポリマー、たとえば、ポリ(エチレングリコール)(PEG)またはヒアルロン酸(HA)ベースのポリマーであってもよい。天然または合成ポリマーは、(たとえば、グルタミンおよびリジン残基を有する)ペプチドにより官能化され得、ポリマーは、酵素(たとえば、トランスグルタミナーゼ)の存在下でゲル化する。たとえば、PEGベースまたはHAベースのポリマーは、2つの異なるペプチド配列により官能化され得、1つはグルタミン残基を含み、もう1つはリジン残基を含み、トランスグルタミナーゼ架橋PEG-HAヒドロゲルが得られる。(たとえば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Biomacromolecules、2016年、17巻、5号、1553~1560頁を参照されたい)。
【0090】
前駆体ポリマーは、自己架橋することができる場合がある(すなわち、2つの同じポリマー分子間で架橋を形成することができる場合がある)。たとえば、フィブリノーゲンは、自己架橋することができる。あるいは、あるポリマーをある官能基により官能化することができ、別のポリマーを別のポリマーにより官能化することができ、したがって、ゲル前駆体は、ポリマーの混合物を含むことになる。たとえば、全内容が参照により本明細書に組み込まれる、A. Rangaら、Biomacromolecules、2016年、17巻、5号、1553~1560頁で論じられているヒドロゲルを参照されたい。たとえば、ペイロードは、それ自体が、混合物中に存在するゲル前駆体のゲル化を誘導することができるゲル前駆体であってもよい。したがって、混合物は第1のゲル前駆体を含有し、ペイロードは第2のゲル前駆体であってもよく、ここで、ゲル化は、第1および第2の前駆体が組み合わされた場合にのみ起こる。したがって、超音波が混合物に適用され、ペイロードがリポソームから混合物に放出されると、ゲル化が起こる。
【0091】
たとえば、フィブリノーゲンへの言及は、このポリマーがその非ゲル化(たとえば、液体)形態(すなわち、(ヒドロ)ゲル化の前)であることを示す。ゲル化が起こると、このポリマーはフィブリノーゲン(ヒドロ)ゲルと呼ばれる。
【0092】
ゲル化は、レオメーターによる時間分解レオロジーを使用してモニターすることができる。弾性率(G’)が粘性率(G”)を超えると、ゲル化が起こる。いくつかの実施形態では、弾性率(G’)は、超音波曝露後の最初の30分以内に粘性率(G”)を超えることがある。弾性率および粘性率G’およびG”は、たとえば、8mmの鋼製平行板を備えたAR2000レオメーター(TA instruments社)および溶媒の蒸発を防ぐためのオイルチャンバーを使用して、1%のひずみおよび1rad・秒-1で、5時間にわたって、時間掃引実験を実行することによって、決定され得る。試料はレオメータープレートに装填することができ、8mmの鋼鉄製平行プレート(上部プレート)を下げて1mmのギャップを設けることができる。測定は、1%のひずみおよび1rad・秒-1で経時的に行うことができる。レオメーターの出力値は、弾性率および粘性率G’およびG”である。
【0093】
第1の態様によるゲル化は、ユーザーにより定義された、リポソームの超音波への曝露によって制御可能になり得る。超音波の使用は、ゲル化の時空間的制御を可能にし得る。補因子の放出、酵素反応速度論およびゲル化速度は、超音波曝露時間を変えることによって調整することができる。酵素の活性化を介して誘導されるゲル化については、酵素の濃度を変えることによってゲル化速度を調整することもできる。ゲルの機械的特性は、ゲル前駆体の濃度を変えることによって調整することができる。
【0094】
ペイロードは、(たとえば、触媒または試薬として)ゲル前駆体に直接作用してゲル化を誘導し得る。たとえば、アルギン酸塩は、Ca2+、Mg2+、Sr2+、およびBa2+などの小さな二価陽イオン、またはAl3+またはFe3+などの三価陽イオンと混合されると、ゲル化する。さらに、ジェランガムは、イオンの存在下、またはNaClによりゲル化し得る。キトサンは、OHイオンの存在下でゲルを形成し得る(全内容は参照により本明細書に組み込まれる、J. Nieら、Nature Scientific Reports、2016年、6巻、36005頁を参照されたい)。ペクチンは、カルシウムイオンとゲル化する多糖である。ポリガラクツロン酸ナトリウムは、カルシウム、亜鉛、バリウム、およびマグネシウムイオンによりゲル化するアニオン性線状ホモポリマーである(全内容が参照により本明細書に組み込まれる、U. Huynhら、Carbohydrate Polymers、2018年、190巻、121~128頁)。カルボキシル化セルロースナノフィブリルは、Ca2+、Zn2+、Cu2+、Al3+、およびFe3+によりゲルを形成することができる(全内容が参照により本明細書に組み込まれる、H. Dongら、 Biomacromolecules、2013年、14巻、9号、3338~3345頁)。したがって、本明細書では、ゲル化(たとえば、ヒドロゲル化)のためのプロセスであって、
a)リポソームおよびゲル前駆体を含む混合物を用意するステップであり、リポソームは、ゲル前駆体のゲル化を直接誘導することができるペイロードを封入している、ステップ(たとえば、ゲル前駆体は、イオンの存在下でゲル化するポリマーであってもよく、ペイロードは、イオンであってもよい)と;
b)混合物に超音波を適用して、リポソームからのペイロードの放出を誘発し、前駆体のゲル化を誘導するステップと
を含むプロセスが記載される。
【0095】
ゲル前駆体は、アルギン酸塩、ジェランガム、キトサン、ペクチン、ポリガラクツロン酸ナトリウムもしくはカルボキシル化セルロースナノフィブリル、またはこれらの混合物であってもよく、ペイロードは、イオンであってもよい。ゲル前駆体は、好ましくは、アルギン酸塩であってもよく、ペイロードは、Ca2+、Mg2+、Sr2+、Ba2+、Al3+およびFe3+、またはこれらの混合物から選択されてもよい。あるいは、ゲル前駆体はジェランガムであってもよく、ペイロードは金属イオンまたはNaClから選択されてもよい。ゲル前駆体はキトサンであってもよく、ペイロードはOHであってもよい。ゲル前駆体はペクチンであってもよく、ペイロードはCa2+であってもよい。ゲル前駆体はポリガラクツロン酸ナトリウムであってもよく、ペイロードは、カルシウム、亜鉛、バリウムおよびマグネシウムイオン、またはこれらの混合物から選択されてもよい。ゲル前駆体は、カルボキシル化セルロースナノフィブリルであってもよく、ペイロードは、Ca2+、Zn2+、Cu2+、Al3+、およびFe3+、またはこれらの混合物から選択されてもよい。
【0096】
ペイロードは、ゲル前駆体に間接的に作用して、(たとえば、酵素の活性化によって)ゲル化を誘導し得る。
【0097】
第1の態様によるプロセスにおいて、混合物は、不活性形態の補因子依存性酵素をさらに含んでもよく、ペイロードは、酵素を活性化することができる補因子であってもよい。したがって、混合物に超音波を適用すると、酵素を活性化する補因子の放出を誘発し得る。次に、酵素はゲル前駆体に作用してゲル化を触媒することができる。
【0098】
したがって、本明細書では、ゲル化(たとえば、ヒドロゲル化)のためのプロセスであって、
a)リポソーム、不活性形態の補因子依存性酵素、およびゲル前駆体を含む混合物を用意するステップであり、リポソームは、酵素を活性化することができる補因子を封入している、ステップと;
b)混合物に超音波を適用して、リポソームからの補因子の放出を誘発し、酵素を活性化するステップと
を含むプロセスが記載される。したがって、このプロセスは、ゲル前駆体に対する酵素の作用を誘発し、ゲル前駆体のゲル化をもたらす。
【0099】
ゲル(たとえば、ヒドロゲル)前駆体が酵素の基質であることが理解されよう。したがって、酵素の活性化は、ゲル前駆体基質に対する酵素の作用を誘発して、ゲルの形成を触媒する。
【0100】
酵素の基質とは、その酵素が作用する任意の分子を指す(たとえば、酵素が、基質を含む化学反応を触媒する場合)。
【0101】
混合物に超音波を適用して、リポソームからの補因子放出を誘発し、酵素を活性化するというステップb)では、ゲル前駆体に対する活性化補因子依存性酵素の作用により、ゲル(たとえば、ヒドロゲル)前駆体がゲル化(たとえば、ヒドロゲル化)され、ゲル(例:ヒドロゲル)が得られる。
【0102】
あるいは、第1の態様によるプロセスにおいて、混合物は、酵素および酵素の基質である架橋剤前駆体をさらに含み得る。したがって、混合物に超音波を適用すると、補因子の放出が誘発され、それにより酵素が活性化されて架橋剤前駆体が架橋剤に変換され得る。次に、架橋剤がゲル前駆体に作用してゲル化を引き起こすことができる。
【0103】
あるいは、第1の態様によるプロセスにおいて、混合物は、酵素をさらに含んでもよく、ペイロードは、酵素の基質である架橋剤前駆体であってもよい。したがって、混合物に超音波を適用すると、酵素によって架橋剤に変換され得る架橋剤前駆体の放出が誘発され得る。次に、架橋剤がゲル前駆体に作用してゲル化を引き起こすことができる。
【0104】
ゲル化(たとえば、ヒドロゲル化)のための改変プロセスにおいて、リポソームは、不活性形態の補因子依存性酵素を封入しており、混合物は、リポソーム、酵素を活性化することができる補因子、およびゲル前駆体を含む。したがって、改変プロセスは、
a)リポソーム、補因子、およびゲル前駆体を含む混合物を用意するステップであり、リポソームは不活性形態で補因子依存性酵素を封入しており、補因子は酵素を活性化することができる補因子である、ステップと;
b)混合物に超音波を適用して、リポソームからの補因子の放出を誘発して補因子により酵素が活性化されるようにし、ゲル前駆体のゲル化を誘導するステップと
を含む。
【0105】
第2の態様では、本開示は、超音波により誘発される酵素触媒作用のためのプロセスであって、
a)リポソーム、不活性形態の補因子依存性酵素、および酵素の基質を含む混合物を用意するステップであり、リポソームは、酵素を活性化することができる補因子を封入している、ステップと;
b)混合物に超音波を適用して、リポソームからの補因子の放出を誘発し、酵素を活性化するステップと
を含むプロセスを提供する。
【0106】
混合物に超音波を適用して、リポソームからの補因子放出を誘発し、酵素を活性化するというステップb)は、基質上での活性化された補因子依存性酵素の作用を通じて、基質を含む反応の触媒作用を可能にする。
【0107】
基質はゲル前駆体であってもよく、活性化された酵素はゲル前駆体のゲル化を誘導し得る。このプロセスは、ゲル化のためのプロセスであってもよい。好ましくは、ゲル化はヒドロゲル化であり、ゲル前駆体はヒドロゲル前駆体である。
【0108】
「リポソーム」は、空洞(たとえば、水性空洞)を取り囲む少なくとも1つの脂質二重層を有する小胞を指す。好ましくは、本発明によるリポソームは単層リポソームである。より好ましくは、リポソームは、たとえば、約1000nm未満、好ましくは約500nm未満、好ましくは約200nm未満(たとえば、約50~約200nm、好ましくは約100~約200nm)の平均流体力学的径を有する、小さな単層リポソームである。
【0109】
リポソームは、リポソームの流体力学的径を得るために、動的光散乱法(DLS)を使用して、さらに特徴付けられ得る。本明細書で使用される場合、平均流体力学的径は、光散乱検出器を使用して動的光散乱法(DLS)によって測定されたサイズの分布のz平均を指す。測定は、Malvern社製ZetaSizerを使用して行うことができ、正規化された強度、体積、および数の分布が流体力学的径の関数として報告される。
【0110】
リポソームの直径は、ナノ粒子追跡分析(NTA)を使用して測定することもできる。
【0111】
大きなリポソームは循環中の血管を妨害するか、または辺縁化効果を受け得るのに対し、小さなリポソーム(たとえば、約200nm未満)は、血管の無細胞層内を自由に循環することができるため、小さなリポソームが本明細書での使用には一般に好ましい。一般に、小さなリポソームは、ミクロンサイズの粒子と比較して、より長い循環半減期を示すことがある。たとえば、全内容が参照により本明細書に組み込まれる、E. Blancoら、Nature Biotechnology、2015年、33巻、9号、941~951頁を参照されたい。
【0112】
リポソームは、少なくとも1つの脂質二重層を含み、そのそれぞれは、1つまたは複数の脂質から独立して形成され得る。脂質は、1つまたは複数のホスファチジルコリンら選択されてもよい。脂質は、PEG化脂質(たとえば、PEG化ホスファチジルコリン)であってもよい。PEG化脂質の存在は、リポソームの凝集を防ぐのに役立ち得る。「PEG化脂質」とは、ポリエチレングリコール(PEG)で修飾された脂質を指す。
【0113】
脂質は、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[ビオチニル(ポリエチレングリコール)-2000](DSPE-PEG2000ビオチン)、またはこれらの組み合わせから選択されてもよい。いくつかの実施形態において、リポソームは、少なくとも1つのビオチン化脂質(たとえば、DSPE-PEG2000ビオチン)を含む。さらなる実施形態において、脂質は、DPPCおよびDSPE-PEG2000ビオチンを含み得る。いくつかの実施形態において、脂質は、約10%以下のDSPE-PEG2000ビオチン(たとえば、約5%以下または約1%以下のDSPE-PEG2000ビオチン)を含む。
【0114】
混合物は、液体ビヒクル(たとえば、生理食塩水などの水)をさらに含み得る。
【0115】
「補因子」とは、酵素がその活性のために必要とする分子を指す。補因子は、補因子の非存在下では機能的に不活性である関連酵素と結合して、活性酵素を形成する。自らの活性のために補因子を必要とする酵素は、「補因子依存性酵素」と呼ばれることがある。機能的に不活性な酵素は、「アポ酵素」と呼ばれることがある。活性酵素は、「ホロ酵素」と呼ばれることがある。当業者によって理解されるように、本明細書に記載のプロセスにおいて、補因子は、特定の酵素を活性化することができる補因子である(すなわち、補因子は酵素に対して相補的である)。
【0116】
第1および第2の態様で提供される混合物は、複数の補因子(たとえば、少なくとも2つの補因子)を含有し得る。
【0117】
本明細書における酵素の「活性化」に対する言及は、活性が増加するように酵素の活性を調節することを含むと理解されよう。「不活性形態の酵素」への言及は、低活性状態の酵素を含み、ここで、酵素に対して相補的な補因子の添加はその酵素の活性を増加させ、酵素は活性がより高い活性化状態になる。
【0118】
補因子はリポソーム内に封入されていてもよい(すなわち、リポソームには補因子が装填されている)。補因子は、リポソームペイロードと呼ばれることがある。補因子を装填したリポソームは安定したリポソームであり、ユーザー定義の超音波曝露時にペイロードを放出することができる。
【0119】
補因子はイオン性補因子であってもよい。イオン性補因子は金属イオンであってもよい。金属イオンは、二価または三価のカチオンであってもよい。金属イオンは、カルシウム、亜鉛、または鉄イオンであってもよい。いくつかの実施形態において、イオン性補因子は、カルシウムイオン(すなわち、Ca2+)である。好ましくは、イオン性補因子は、リポソームの空洞内に封入される。
【0120】
補因子は補酵素であってもよい。たとえば、補因子は、補酵素A、キノン、またはビタミンであってもよい。補酵素は、リポソームの空洞内に封入され得る。あるいは、補酵素は、リポソーム脂質二重層の一部を形成することによって封入され得る。
【0121】
不活性形態の補因子依存性酵素は、代替的にアポ酵素と呼ばれることもある。補因子依存性酵素は、トランスグルタミナーゼ、オキシドレダクターゼ、ペルオキシダーゼ、トランスフェラーゼ、ヒドロラーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、リアーゼ、イソメラーゼまたはリガーゼであってもよい。特に、酵素はトランスグルタミナーゼであってもよい。トランスグルタミナーゼは、リジンのε-アミンとグルタミンの側鎖アミドとの間のイソペプチド結合形成を触媒する酵素のクラスである。カルシウムイオンは、トランスグルタミナーゼに結合し、酵素構造のコンフォメーション変化を引き起こすうえで重要な役割を果たす。このコンフォメーション変化により、活性部位のシステインが露出し、このシステインはイソペプチド結合の形成を開始することができ、ヒドロゲル化が起こることが可能になる。トランスグルタミナーゼファミリーに属する酵素としては、トロンビンおよびカルシウムが活性化されることを必要とする血漿由来第XIII因子、ならびに組織トランスグルタミナーゼ(tTGase)を挙げることができる。本明細書では、組織トランスグルタミナーゼが例として使用される。たとえば、酵素が第XIII因子である場合、トロンビンは酵素の活性化にも必要とされ、混合物中に存在してもよい。
【0122】
いくつかの実施形態では、補因子は亜鉛イオンであり、酵素はアルコールデヒドロゲナーゼ、リアーゼ、またはヒドロラーゼである。いくつかの実施形態では、補因子はカルシウムイオンであり、酵素はホスホリパーゼA、アシルトランスフェラーゼ、またはトランスグルタミナーゼである。いくつかの実施形態では、補因子は鉄イオンであり、酵素はアルカリホスファターゼ(たとえば、微生物アルカリホスファターゼ)である。
【0123】
いくつかの実施形態では、補因子はカルシウムイオンであり、酵素はトランスグルタミナーゼであり、ヒドロゲル前駆体は、天然起源のポリマー(たとえば、フィブリノーゲン)から選択される。いくつかの実施形態では、補因子はカルシウムイオンであり、酵素はトランスグルタミナーゼであり、ヒドロゲル前駆体はポリ(エチレングリコール)(PEG)およびヒアルロン酸(HA)であり、PEG-HAヒドロゲルの形成がもたらされる。いくつかの実施形態では、補因子はカルシウムイオンであり、酵素はペルオキシダーゼであり、ヒドロゲル前駆体はチラミンおよびヒアルロン酸であり、HA-チラミンヒドロゲルの形成がもたらされる。
【0124】
いくつかの実施形態では、補因子はカルシウムイオンであり、酵素はホスホリパーゼAであり、基質はリン脂質である。いくつかの実施形態では、補因子はカルシウムイオンであり、酵素はアシルトランスフェラーゼであり、基質はアシル部分を含有する分子である。いくつかの実施形態では、補因子は亜鉛イオンであり、酵素はアルコールデヒドロゲナーゼであり、基質はアルコールである。いくつかの実施形態では、補因子は鉄イオンであり、酵素はアルカリホスファターゼであり、基質はホスフェート部分を含有する分子である。
【0125】
補因子が装填された(すなわち、封入された)リポソームを形成するためのプロセスも本明細書に開示される。装填されるリポソームは、その成分脂質(リポソームが複数の脂質を含む場合)と補因子の溶液(たとえば、水溶液)との混合物から形成され得る。したがって、第1および第2の態様のプロセスは、ステップa)の前に、リポソームを形成する最初のステップをさらに含み得る。
【0126】
リポソームを形成するためのプロセスは、装填された多層リポソームの多分散混合物をもたらし得る。これらの多層リポソームは、押し出されて、主に単層リポソームを形成し得る。単層リポソームは、溶媒(たとえば、エタノール)で処理されて、リポソーム融合および二重層の交互嵌合を誘導することができる。たとえば50℃を超えて温度を上げると、大きな単層リポソームを生成することができ、次にこれらが押し出されて小さな単分散単層リポソームを形成することができる。好ましくは、本明細書で使用されるリポソームは単分散である。
【0127】
中性子小角散乱(SANS)およびラメラモデルフィットを使用し、リポソームを分析して、リポソーム二重層の厚さを決定することができる。測定は25℃で実行することができる。リポソームは、約1~約10nm、好ましくは約5nmの二重層の厚さを有し得る。
【0128】
補因子が装填されたリポソームを形成するための方法は、補因子の装填が多いリポソームを生成する方法であってもよい。たとえば、本方法は、少なくとも約10-22mol・リポソーム-1(好ましくは、少なくとも約10-21mol・リポソーム-1、少なくとも約10-20mol・リポソーム-1、少なくとも約10-19mol・リポソーム-1、少なくとも約10-18mol・リポソーム-1、少なくとも約10-17mol・リポソーム-1、少なくとも約10-16mol・リポソーム-1、または少なくとも約10-15mol・リポソーム-1)のイオン補因子装填量をもたらし得る。いくつかの実施形態において、装填されたリポソームを形成するための方法は、(たとえば、本明細書の実施例に記載される)交互嵌合融合小胞法(interdigitation fusion vesicle method)であってもよい。代替方法としては、脂質膜水和法または凍結融解サイクリングが挙げられる。
【0129】
脂質膜水和法は、1)乾燥脂質膜を調製するステップと;2)乾燥脂質膜を水溶液(たとえば、イオンを含有する水溶液)により水和するステップと;3)(たとえば、ボルテックスシェーカー上で、または磁気攪拌子により)水和膜を振とうするステップとを含み得る。
【0130】
凍結融解サイクリング法は、1)乾燥脂質フィルムを調製するステップと;2)乾燥脂質膜を水溶液(たとえば、イオンを含有する水溶液)により水和するステップと;3)(たとえば、約-80℃~約55℃にて)水和脂質膜に対して熱サイクルを実行するステップとを含み得る。
【0131】
脂質膜水和法と凍結融解サイクリング法の両方において、脂質懸濁液が振とうされる温度または解凍ステップが実行される温度は、脂質転移温度(T)よりも高い。転移温度は脂質二重層がなす相を決定する。転移温度より下では、脂質二重層はゲル相をなし、転移温度より上では、脂質二重層は液晶相をなす。
【0132】
リポソームを形成するためのプロセスは、有機溶媒-水混合物中で実施されてもよい。このプロセスは、ペイロードを封入しており、有機溶媒中に分散した、水性コアを取り囲む逆ミセルの形成につながる。これらのミセルは、オルガノゲル(すなわち、溶媒が有機溶媒であるゲル)を形成するために使用されてもよい。(たとえば、参照により全体が本明細書に組み込まれる、Journal of Controlled release、271巻、1~20頁を参照されたい)。リン脂質は、逆ミセルを形成するために使用されてもよい。リポソームとは異なり、逆ミセルは二重層構造を有していない。逆ミセルは、中央にリン脂質のヘッドグループを有し、リン脂質のテールが伸びて広がっている。これにより、ミセル内部に水性空洞が形成され得る。
【0133】
補因子はカルシウムイオンであってもよく、補因子溶液は水性CaClであってもよい。いくつかの実施形態において、補因子溶液は、CaClの濃度が0.1~1M、好ましくは0.3~0.5Mであるとき、水性CaClであり得る。
【0134】
補因子がカルシウムイオンである場合、リポソーム装填量は、オルトクレゾールフタレインコンプレクソン(o-CPC)比色分析アッセイおよびNTA粒子計数法を使用して測定され得る。これは、装填されるリポソームの形成に使用するイオン補因子溶液の最適な濃度を決定するために使用され得る。
【0135】
リポソームの装填量は、混合物中の少なくとも50μMのペイロード(たとえば、補因子)濃度をもたらし得る。
【0136】
他の補因子については、使用される特定の補因子に適したアッセイが選択されてもよい。そのようなアッセイは、当業者に知られており、イオン濃度に依存する吸光度/蛍光スペクトルの特徴的な変化を与える、イオンと色素との間の複合体の形成に基づいている。
【0137】
イオン補因子の濃度は、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)によっても決定され得る。ICP-MSは、たとえば、カルシウム、マグネシウム、鉄、バリウムおよび亜鉛イオンの測定に使用され得る(たとえば、参照により全内容が本明細書に組み込まれる、The Easy Guide to: Inductively Coupled Plasma-Mass Spectrometry (IPC-MS)を参照されたい)。
【0138】
第1および第2の態様のプロセスによる混合物は、液体ビヒクル(たとえば、生理食塩水などの水)をさらに含み得る。混合物は、有機溶媒-水ビヒクルを含み得る。リポソーム(または逆ミセル)からの補因子(たとえば、金属イオンなどのイオン性補因子)の放出を誘発するために混合物に超音波を適用すると、ゲル前駆体のゲル化が誘導され、オルガノゲルの形成がもたらされ得る。
【0139】
当業者は、混合物が複数のリポソームを含み得ることを理解するであろう。混合物が液体ビヒクルを含む場合、混合物は、リポソーム、補因子依存性酵素、およびヒドロゲル前駆体を好ましい濃度で含み得る。
【0140】
第1および第2の態様のプロセスによる混合物は、吸収増加材料(すなわち、混合物による超音波吸収を増加させる材料)をさらに含み得る。吸収増加材料の存在は、誘発プロセスの効率および制御を向上させ得る。吸収増加材料は、たとえば、ガラス微小球、グラファイト粉末、および/または酸化アルミニウム粉末であってもよい。
【0141】
吸収増加材料は、ガラスマイクロスフェアであってもよい。ガラスマイクロスフェアは当業者に知られているであろう。ガラスマイクロスフェアは、実質的に球形であってもよく、約1~約1000pmの直径を有していてもよい。ガラスマイクロスフェアは、たとえば、参照により全内容が本明細書に組み込まれる、Mylonopoulouら、Int.J.Hyperthermia、2013年;29巻(2号):133~144頁に記載された通りのものである。好ましくは、ガラスマイクロスフェアは、約1~約100μmまたは約5~約50μmの直径を有する。ガラスマイクロスフェアは、固体ガラスであってもよい。ガラスマイクロスフェアは、ソーダライムガラスを含み得る。ガラスマイクロスフェアは、Cospheric LLC社から商業的に入手することができる(たとえば、ソーダライム固体ガラスマイクロスフェア2.5g/cc 5~50μm)。
【0142】
吸収増加材料は、たとえば、全内容が参照により本明細書に組み込まれる、Burlewら、Radiology、1980年;134巻:517~520頁に記載された、グラファイト粉末であってもよい。
【0143】
吸収増加材料は、たとえば、全内容が参照により本明細書に組み込まれる、Ramnarineら、Ultrasound in Med.&Biol.、2001年;27巻(2号):245~250頁に記載されている、酸化アルミニウム粉末であってもよい。
【0144】
ステップb)は、第1および第2の態様によれば、装填されたリポソームに超音波を適用することを含む。
【0145】
超音波は、プローブソニケーターを使用して適用することができる。プローブソニケーターは、たとえば、実施例に記載のとおり、約2mmの歯先円直径を有してもよい。
【0146】
あるいは、超音波は、集束超音波法を使用して適用され、ユーザー定義領域内でゲル化を誘発することができる。たとえば、超音波変換器を使用して、特定の領域に超音波を適用してゲル化を誘発する(つまり、局所的なゲル化が生じるようにする)ことができる。熟練した人は、変換器の焦点径が超音波曝露の領域を決定することを理解するであろう。たとえば、変換器は、約0.5mm~約3mm(たとえば、約1.0mm、約1.5mm、または約2.0mm)の焦点径を有し得る。したがって、ゲル化は、超音波が適用される領域内でのみ誘導され得る。
【0147】
超音波は、少なくとも約0.5mm(たとえば、約1mm)の領域(すなわち、混合物の設定体積)に集束させることができる。
【0148】
超音波は、リポソームから、補因子の少なくとも約1%、少なくとも約10%、少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、または少なくとも約90%の放出をもたらす、時間枠、周波数および振幅により、適用され得る。補因子がカルシウムイオンである場合、放出されたカルシウムを定量するために、o-CPCアッセイが実施されてもよい。
【0149】
超音波は、少なくとも1ミリ秒間適用され得る。好ましくは、超音波は、少なくとも1秒間(たとえば、3、10または50秒間)適用され得る。超音波の周波数は、少なくとも約18kHz、好ましくは少なくとも約20kHzであってもよい。超音波は、約20%の振幅、および約25%のデューティサイクルであってもよい。超音波の周波数は、少なくとも約1MHzであってもよい。超音波の周波数は、少なくとも約3MHzであってもよい。超音波の周波数は、最大約10MHzであってもよい。超音波の周波数は、約18kHz~約10MHzであってもよい。超音波は、約75%のデューティサイクルであってもよい。超音波は、所定の間隔ごとに分離されて繰り返し適用されてもよい(たとえば、40秒間隔で25秒を2回適用する)。
【0150】
超音波は、周波数が約1~約3MHzの場合、たとえば、少なくとも約0.5MPaの圧力振幅を有し得る。
【0151】
補因子依存性酵素の活性化は、その酵素に適したアッセイを使用して監視することができる(たとえば、トランスグルタミナーゼ活性は、ダンシルカダベリンベースのアッセイを使用して評価することができる)。
【0152】
いくつかの実施形態では、リポソームにカルシウムイオンが装填され、リポソームが超音波に曝露された後にカルシウムイオンが放出される。カルシウムイオンは、トランスグルタミナーゼ触媒によるフィブリノーゲンのヒドロゲル化を誘発するために使用され得る。トランスグルタミナーゼは分子内および分子間フィブリノーゲン架橋を触媒し、分子間フィブリノーゲン架橋はフィブリノーゲンヒドロゲルを形成するために使用される。
【0153】
本明細書に記載の技術の能力は、装填されたリポソームを、in vivo薬物送達に一般的に使用されるマイクロバブルの表面にコンジュゲートさせることによって、さらに拡張された。これらのマイクロバブル-リポソームコンジュゲートは、適用された音場に対してさらに大きな応答を示し、超音波誘発ゲル化(elation)にも使用され得る。
【0154】
したがって、いくつかの実施形態では、リポソームはマイクロバブルにコンジュゲートされている。「マイクロバブル」とは、ガスで満たされた、好ましくは直径が約10μm以下である、気泡を指す。
【0155】
マイクロバブルへのリポソームのコンジュゲーションは、リポソームペイロードの超音波誘発放出を増強し、リポソームペイロード放出の効率を高め得ると理解される。
【0156】
マイクロバブルは、ビオチン化マイクロバブルであってもよい。マイクロバブルは、フルオロカーボン(たとえば、パーフルオロヘキサン)もしくは空気またはこれらの混合物、好ましくはパーフルオロヘキサンと空気の混合物を含み得る。
【0157】
マイクロバブルは、脂質膜を水和することによって調製され得る。脂質膜は、ホスファチジルコリン、たとえば、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)もしくは1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)、またはこれらの混合物から形成され得る。いくつかの実施形態において、脂質フィルムは、DSPC、DSPE-PEGもしくはDSPE-PEG2000ビオチン、またはこれらの混合物を含む。PEG化脂質は、脂質膜中に存在し得る。あるいは、カチオン性脂質は、気泡合体を防ぐために、かつ/またはPEGの代わりに安定性を強化するために、使用され得る。PEG化脂質が存在する場合、脂質膜は、少なくとも約1%のPEG化脂質を含み得る。
【0158】
さらなる実施形態において、脂質膜は、DSPC、DSPE-PEGおよびDSPE-PEG2000ビオチンを、任意に約86:9:5のモル比で含み得る。
【0159】
マイクロバブルは、算術平均径を視覚的に決定するために、明視野顕微鏡法および画像分析を使用して視覚化され得る。いくつかの実施形態では、平均マイクロバブル径は、約1~約10μmであってもよい。
【0160】
リポソームは、マイクロバブルの表面に結合し得る。いくつかの実施形態において、リポソームおよびマイクロバブルは両方とも、ビオチン部分を有する脂質を含み、前記ビオチンは、リポソームとマイクロバブルをコンジュゲートするために使用される。リポソームおよびマイクロバブル上に存在するビオチン部分は、アビジン(たとえば、ニュートラアビジン)を使用して結合され得る。あるいは、コンジュゲーションは、全内容が参照により本明細書に組み込まれる、Y. Yoonら、Theranostics、2014年、4巻(11号)、1133~1144頁に記載のとおり、チオール官能化マイクロバブルおよびチオール官能化リポソームを使用して実施され得る。マレイミド官能化リポソームおよびチオール官能化マイクロバブルはJ.M. Escoffreら、IEEE Transactions on Ultrasonics, Ferroelectrics, and Frequency Control、2013年、60巻、1号に記載のとおり、使用され得る。
【0161】
共焦点蛍光顕微鏡法は、蛍光標識されたリポソームおよび蛍光標識されたマイクロバブルを使用することにより、リポソームとマイクロバブルのコンジュゲーションを確認するために使用されてもよい。蛍光標識されたマイクロバブルの表面における蛍光標識されたリポソームの共局在が観察されることは、コンジュゲーションの成功を示している。
【0162】
さらに、マイクロバブル表面全体におけるリポソームの分布を決定するために、構造化照明顕微鏡法(超解像イメージング技術)が使用され得る。いくつかの実施形態において、リポソームは、マイクロバブル表面全体に均一に分布している。
【0163】
補因子がカルシウムイオンである場合、カルシウムイオンの装填量を測定するために、o-CPCカルシウムアッセイが使用され得る。カルシウムイオンの装填量は、コンジュゲートあたり少なくとも10-16molであってもよい。
【0164】
超音波への曝露後、マイクロバブル-リポソームコンジュゲートは、明視野顕微鏡法を使用して評価されてもよく、補因子がカルシウムイオンである場合、o-CPCカルシウムアッセイを使用して評価されてもよい。超音波曝露後にマイクロバブル-リポソームコンジュゲートが存在しないことは、マイクロバブル群が広範囲に破壊されていることを示している。
【0165】
第3の態様では、本発明は、リポソームからペイロードを放出するためのプロセスであって、ペイロードを封入しているリポソームに超音波を適用するステップを含み、ペイロードが金属イオンである、プロセスを提供する。
【0166】
金属イオンは、二価または三価のカチオンであってもよい。金属イオンは、カルシウム、亜鉛、鉄、マグネシウム、アルミニウム、バリウム、またはストロンチウムイオン、またはこれらの組み合わせから選択されてもよい。金属イオンは、前記金属イオンを利用する下流用途で使用するためのものであってもよい。
【0167】
いくつかの実施形態では、金属イオンはカルシウムイオンである。カルシウムイオンは、本明細書に記載のとおり、ゲル化のプロセスまたは酵素触媒作用のプロセスにおいて使用され得る。カルシウムイオンは、トランスフェクションを調節するために使用され得る(たとえば、Biochimica et Biophysics Acta(BBA)-Biomembranes、1463巻(2号)、2000年、279~290頁を参照されたい)。
【0168】
本明細書の記載および特許請求の範囲全体を通じて、「含む(comprise)」および「含有する(contain)」という単語、ならびにこれらの単語の変化形、たとえば「含んでいる(comprising)」および「含む(comprises)」は、他の構成要素を除外することを意図していない(除外しない)。本明細書に記載の実施形態のいずれかにおいて、「を含んでいる(comprising)」への言及は、「から本質的になる(consisting essentially of)」をも含む。
【0169】
本発明の前述の実施形態に対する変形は、依然として本発明の範囲内で行われたものであることが理解されよう。本明細書に開示されているそれぞれの特徴は、特に明記しない限り、同一、同等、または同様の目的を果たす代替的な特徴に置き換えることができる。したがって、特に明記しない限り、開示されているそれぞれの特徴は、同等または類似の特徴の包括的な群における一例にすぎない。
【0170】
本明細書に開示されている特徴のすべては、そのような特徴および/またはステップの少なくともいくつかが相互に排他的である組み合わせを除いて、任意の組み合わせで組み合わせることができる。特に、本発明の好ましい特徴は、本発明のすべての態様に適用可能であり、任意の組み合わせで使用することができる。同様に、非本質的な組み合わせで記載されている特徴は、(組み合わせてではなく)個別に使用することができる。
【0171】
上記の特徴の多く、特に好ましい実施形態の特徴は、本発明の実施形態の一部としてだけでなく、それ自体で発明性を有することが理解されよう。現時点で特許請求の範囲に記載された発明に付加される、またはその代替となる、これらの特徴に対しては、独立した保護を求めることができる。
【0172】
次に、本発明を非限定的に説明する以下の実施例を参照する。
【実施例
【0173】
実施例1~6のための材料
1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N- [ビオチニル(ポリエチレングリコール)-2000](DSPE-PEG2000ビオチン)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)および1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N- [メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](アンモニウム塩)(DSPE-PEG2000 )をAvanti Polar Lipids社から購入した。他のすべての試薬はSigma Aldrich社から購入した。超純水(18.2MΩ・cm)をTR Duo10 UFポリッシャートリプル(Triple Red社、Avidity Science社)から採取した。プローブソニケーターを使用して音波処理を実行したとき、ソニケーターは直径2mmのマイクロチップを備えたVibraCell VC750(Sonics&Materials社)であった。
【実施例1】
【0174】
フィブリノーゲンヒドロゲルの超音波誘発ゲル化
図1は、超音波誘発による酵素触媒作用およびヒドロゲル化の概略図を示す。図1a:Ca2+イオンを遊離させ、トランスグルタミナーゼを活性化するために、カルシウム装填リポソームに超音波を適用する。次に、活性なトランスグルタミナーゼは、タンパク質基質とダンシルカダベリンとの反応を触媒することができる。このコンジュゲーションプロセスにより、最大蛍光発光波長がシフトし、505nmでの蛍光が増加する。図1b:同様のプロセスを使用して、可溶性フィブリノーゲン分子の架橋を触媒する。分子間架橋により、フィブリノーゲンヒドロゲルが形成される。
【0175】
リポソーム製剤
確立された交互嵌合融合ベシクル法(Biochim.Biophys.Acta-Biomembr.、1994年、1195巻、237頁)を使用して、カルシウム装填リポソームを製剤化した。要約すると、99mol%のDPPCと1mol%のDSPE-PEG2000ビオチンの溶液をクロロホルムで調製し、ガラスバイアル内で窒素ガス流で乾燥させ、次に少なくとも3時間真空下に置いた。一定の攪拌下で、55℃にて1時間、CaCl水溶液により、脂質濃度20mg・mL-1まで、脂質膜を水和した。55℃にて、100nmのポリカーボネートメンブレンを通して25回、および50nmのポリカーボネートメンブレン(Whatman(登録商標)Nucleopore Track-Etched(商標)メンブレン)を通して31回、リポソーム溶液を押し出した。交互嵌合を誘導するために、撹拌しながら最終濃度4Mになるようにエタノールを添加した。交互嵌合されたゲルを4℃にて一晩保存した。8000gで8分間、5回の遠心洗浄を行ってエタノールを除去し、その後、脂質ゲルを55℃にて2.5時間インキュベートして、大きな単層リポソームを形成した。次に、これらのリポソームを、55℃にて400nmのポリカーボネートメンブレン(Whatman(登録商標)Nucleopore Track-Etched(商標)メンブレン)を通して31回押し出して、単層ベシクルの単分散群を得た。カルシウム装填リポソームを等浸透圧緩衝液(0.6MのNaCl)に対して透析して遊離カルシウムを除去し、次に、使用前に4℃にて保存した。
【0176】
中性子小角散乱(SANS)
Rutherford Appleton Laboratory(Didcot、UK)におけるISISパルス化中性子源のSANS2Dビームラインにて、SANS測定を実行した。パス長1mmの石英キュベットセルに試料を装填し、25℃にて測定した。線源から試料までの距離および試料から検出器までの距離をL=L=4mに設定して、散乱ベクトル(Q)の範囲を0.004~0.722Å-1にした。飛行時間によって同時に使用される波長(λ=1.75~16.5Å)の中性子について散乱角(θ)を測定した。散乱ベクトルQの係数は次のとおりである。
【0177】
【数1】
【0178】
MantidPlot (Nucl.Instruments Methods Phys.Res.Sect.A Accel.Spectrometers、Detect.Assoc.Equip.、2014年、764巻、156頁)を使用してデータを換算し、ラメラモデルを使用するSasView v4.1.0(http://www.sasview.org/、参照2018-10)によりSANS曲線のフィッティングを行った。このモデルは、均一な散乱長密度およびランダム分布を持つリオトロピックラメラ相を表す。1D散乱強度I(Q)は次のとおりである。
【0179】
【数2】
【0180】
式中、
【0181】
【数3】
【0182】
は目盛係数、Qは散乱ベクトルの係数、δは総層厚、P(Q)は形状係数であり、次のように定義される。
【0183】
【数4】
【0184】
この場合、Δρは散乱長密度の差である。15%のガウス多分散関数を二重層の厚さに使用して、PEG化脂質の存在を説明した。
【0185】
極低温透過型電子顕微鏡(Cryo-TEM)
自動プランジ凍結装置(Leica EM GP)を使用して、クライオTEM用のリポソーム試料を調製した。簡単に説明すると、4μLの試料を、相対湿度90%および20℃にて環境制御チャンバー内のQuantiFoil R2/1銅グリッド(Electron Microscopy Supplies社)上に堆積させた。堆積の前に、Gatan SOLARISプラズマクリーナーを使用して、グリッドをプラズマ処理した(O/H 1:1で15秒間)。
【0186】
濾紙上に過剰な懸濁液をブロッティングした後、試料を液体エタンでガラス化した。試料を液体窒素中に保存し、200kVにてJEOL2100Plus透過型電子顕微鏡内のGatan914クライオホルダーを使用して-170℃にて画像化した。イメージングにMinimum Dose Systemソフトウェアを使用し、Gatan Orius SC 1000カメラを使用して、5秒間の露光時間、倍率30000または15000、画像ビニングなしで、顕微鏡写真を得た。
【0187】
リポソームのサイジングおよび定量
等浸透圧緩衝液中で1.2×1012粒子mL-1に希釈することにより、動的光散乱(DLS)用の試料を調製した。Malvern ZetaSizerを使用して測定を行い、流体力学的径の関数として、正規化された強度、体積、および数分布を報告した。等浸透圧緩衝液中で10~10粒子・mL-1の濃度に希釈された試料を使用して、ナノ粒子追跡分析(NTA)測定を行った。カメラレベル13でNanoSight NS300を使用して3つの60秒のビデオを取得し、検出しきい値5のNTA V3.0ソフトウェアを使用して分析した。
【0188】
リポソームへのカルシウム装填の定量
上記のとおり、0.2、0.4、または0.6MいずれかのCaCl水溶液により、リポソームを製剤化した。封入カルシウムの総量を定量するために、リポソームを5体積%のTriton X-100により55℃にて40分間撹拌しながら溶解(lyzed)させ、次にo-クレゾールフタレインコンプレクソン(o-CPC)アッセイを実施した。24.4μLの各試料を、24.4μLの0.1M HCl、およびホウ酸ナトリウム緩衝液中の10mg・mL-1のo-CPCを含有する132.2μLの溶液と混合した。適量の2M NaOHの水溶液を0.25Mホウ酸の水溶液に添加して最終pHを10にすることによって、ホウ酸ナトリウム緩衝液を得た。SpectraMax M5マイクロプレートリーダーを使用して、黒色の透明底96ウェルハーフエリアプレートにおいて570nmの吸光度を測定した。ナノ粒子追跡分析を使用してリポソーム濃度を測定し(完全な詳細については上記を参照)、その測定値を使用して、封入カルシウム全体を正規化した。
【0189】
リポソームカルシウム漏出の定量
0.4M CaCl溶液により調製したリポソームを、0.6M NaCl溶液中で25℃にて5日間にわたりインキュベートした。異なる時点でアリコートを採取し、遊離カルシウムを測定するためにo-CPCアッセイを実施した。o-CPCアッセイの線形範囲内に収まるように、実験の前にリポソームを2.55mMの総封入カルシウム濃度に希釈した。カルシウム装填リポソームと同じ粒子濃度で、CaClおよび0.6M NaClを封入しているリポソームを含有する標準曲線を使用して、未知の試料のカルシウムを計算した。
【0190】
リポソームからの超音波誘発カルシウム放出
20kHz、20%の振幅、25%のデューティサイクルを使用するプローブソニケーター(VibraCell社)により超音波を適用した。実施例1、2、4、5、および6のすべての超音波誘発研究に、これらのパラメーターを使用した。500μLのLoBind DNA Eppendorfチューブ内の250μLのカルシウム装填リポソームに、1、3、5、10、または20秒間、超音波を適用した。50秒間の曝露では、超音波(20kHz、振幅20%、デューティサイクル25%)の2回の25秒間適用を40秒間隔で行った。放出されたカルシウムを定量するために、o-CPCアッセイを実施した。o-CPCアッセイの線形範囲内に収まるように、実験の前にリポソームを2mMの総封入カルシウム濃度に希釈した。0.6M NaCl中の遊離CaClの標準曲線を使用して、未知の試料中のカルシウムの量を計算した。
【0191】
超音波誘発触媒作用
総封入カルシウム濃度が1mMになるように、カルシウム装填リポソームを希釈した。250μLのアリコートを500μLのLoBind DNA Eppendorfチューブに移し、前述のとおりに超音波を適用した。ダンシルカダベリンベースのアッセイによりトランスグルタミナーゼ活性を評価した。50mM TRIS-HCl緩衝液中のダンシルカダベリンと25体積%のDMSO、N,N-ジメチルカゼイン、DTT、およびプローブソニケーターにより0、1、3、5、10、または20秒間超音波処理したリポソームを使用して、アッセイ溶液を作製した。50秒間の曝露では、40秒間隔で2回の25秒間適用を行って、超音波を適用した。ダンシルカダベリン、N,N-ジメチルカゼインおよびDTTの最終濃度は、それぞれ47.7μM、0.298mg・mL-1、および2.98mMであった。7.86μLの1.91μMトランスグルタミナーゼ水溶液を、黒色の透明底96ウェルハーフエリアプレート内の142.2μLのアッセイ混合物に添加した。トランスグルタミナーゼの最終濃度は100nMであった。試料の蒸発を防ぐためにカバーフィルムを使用し、SpectraMax M5マイクロプレートリーダー(ex:360nm、em:505nm、ボトムリード)を使用して21時間にわたって蛍光強度を測定した。エンドポイント測定では、前述と同じ比率でアッセイ溶液とトランスグルタミナーゼの混合物に0、1、3、または5秒間、超音波を適用した。次に、試料を黒色の透明底96ウェルハーフエリアプレート(150μL/ウェル)に移し、PCRカバーフィルムで覆い、21時間インキュベートした後、SpectraMax M5マイクロプレートリーダー(ex:360nm、em:505nm、ボトムリード)を使用して蛍光強度を測定した。すべての実験を25℃で実施した。
【0192】
酵素反応速度論
標準曲線を使用して、蛍光強度を反応したダンシルカダベリンの濃度に変換した。50mM TRIS-HCl緩衝液中のダンシルカダベリンと25体積%のDMSO、N,N-ジメチルカゼインおよびDTTを使用して、アッセイ溶液を作製した。ダンシルカダベリン、N,N-ジメチルカゼインおよびDTTの最終濃度は、それぞれ47.7μM、0.298mg・mL-1、および2.98mMであった。次に、0.6M NaCl中の塩化カルシウムの溶液を混合物に添加して、1mMの最終濃度にし、トランスグルタミナーゼと一緒に100nMの最終濃度にした。トランスグルタミナーゼの代わりに等量の脱イオン水を添加するか、塩化カルシウム溶液の代わりに等量の0.6M NaClを添加することによって、対照試料を調製した。43時間のインキュベーション後、トランスグルタミナーゼ含有試料と陰性対照試料の比率を混合することにより、標準曲線を作成した。SpectraMax M5マイクロプレートリーダー(ex:360nm、em:505nm)を使用して、黒色の透明底96ウェルハーフエリアプレートにおいて蛍光強度を測定した。これにより、結合したダンシルカダベリンの濃度を、超音波誘発触媒作用の時間の関数としてプロットすることが可能になった。このグラフを使用して、曲線の線形部分(最大3時間)の勾配を測定し、超音波曝露時間の関数としてプロットした。OriginPro 2017ソフトウェアを使用して、このデータを、漸近回帰モデル(R=0.94)にフィッティングした。
【0193】
カルシウム装填リポソームを使用した超音波誘発ヒドロゲル化
250μLのカルシウム装填リポソーム(53.6mMの総封入カルシウム)を500μL LoBind DNA Eppendorfチューブに移し、プローブソニケーターにより0、3、10、または50秒間超音波処理した。次に、100μLの各リポソームグループを、脱イオン水中のDTT(最終DTT濃度8.69mM)および0.6M NaCl中のフィブリノーゲン(最終フィブリノーゲン濃度22.42mg・mL-1)と混合した。次に、レオロジー測定の直前に、最終濃度が5μMになるようにトランスグルタミナーゼを添加した。溶媒の蒸発を防ぐための8mmの鋼製平行板およびオイルチャンバーを備えたAR2000レオメーター(TA instruments社)を使用して、1%のひずみおよび1rad・秒-1にて5時間にわたって時間掃引を実行した。曝露されていないグループは、周波数およびひずみ掃引を使用して特性決定した。周波数掃引測定(0.1~100rad・秒-1)を1%ひずみで実行し、ひずみ掃引測定(0.1~100%ひずみ)を1rad・秒-1で実行した。すべての実験を25℃で実施した。
【0194】
結果と考察
我々のフィールド応答システムは、超音波曝露時にペイロードを放出することができるカルシウム装填リポソームの安定した製剤を必要とした。我々は、2つの脂質からなるリポソーム製剤:1mol%の1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[ビオチニル(ポリエチレングリコール)-2000](DSPE-PEG2000ビオチン)によりドープされた1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)を選択した。DPPCメンブレンは、41℃より低い温度でゲル相にあり、超音波を介したカルシウム放出の前に高いカーゴ保持率を実現しなければならない。一方、ビオチン化脂質のごく一部は、リポソーム機能化の反応性ハンドルとしての役割を果たした。我々は、管腔内カルシウム装填量の高いリポソームを製造するために、交互嵌合融合ベシクル法を選択した(Biochim.Biophys.Acta-Biomembr.、1994年、1195巻、237頁)。我々は、脂質混合物を水性CaClで水和して、カルシウム装填多層リポソームの多分散混合物を生成した。エタノールを使用して二重層交互嵌合を誘導し、大きな単層リポソームを生成し、次に、それらを押し出して小さな単層リポソームを形成した。中性子小角散乱(SANS)およびラメラモデルフィットを使用して、押し出されていないリポソームと押し出されたリポソームを分析した。これにより、二重層の厚さがそれぞれ49.1±0.1Åおよび50.9±0.1Åと推定した(図2)。データを両対数スケールでプロットした。
【0195】
一方、極低温透過型電子顕微鏡(クライオTEM)を使用して、リポソームが押し出し前(図3a)と押し出し後(図3b)に単層であることを確認した。クライオTEM画像に表示されるスケールバーは200nmである。さらに、動的光散乱法(DLS)を使用して、押し出されたリポソーム個体群を特性決定した。DLS測定では、数(点線)、体積(破線)および強度(黒線)の分布に単一のピークが見られ、z平均流体力学的径は122±43nmであり、多分散度は0.125であった(図4a)。この値は、ナノ粒子追跡分析(NTA)を使用して測定された144±51nmのリポソーム径と高い相関を示した(図4b)。
【0196】
脂質水和中のCaCl濃度の範囲(0.2、0.4、0.6M)を試験し、オルト-クレゾールフタレインコンプレクソン(o-CPC)比色分析およびNTA粒子カウントを使用してリポソームカルシウム装填量を測定した(図5)。我々は、濃度を0.2M((3.4±0.3)×10-19mol・リポゾーム-1)から0.4M((4.6±0.1)×10-19mol・リポゾーム-1)に上げると、リポソームあたりの封入カルシウムが37%増加することを観察した。ただし、0.6M CaCl((0.5±0.06)×10-19mol・リポソーム-1)の最高試験濃度では、リポソームの収量の減少およびカルシウム装填量の低下も観察した(図5)。異なるリポソームバッチからデータを収集し、平均および標準偏差としてデータを示した。
【0197】
これらの研究に基づいて、以降のすべての研究の水和溶液として0.4M CaClを選択した。次に、o-CPCアッセイを使用して、超音波の非存在下および存在下におけるこのリポソーム製剤からのカルシウムの放出を調べた。我々のリポソームは、制御されていないカルシウム漏出に対して安定しており、25℃で5日後に封入カーゴの2%未満が放出されることを観察した(図6)。各間隔での値を、溶解したリポソーム対照から測定した総カルシウムレベルに正規化することによって、放出百分率を計算した。データはリポソームの同じバッチを使用した3回の技術的反復実験の平均および標準偏差として示す。
【0198】
このベースラインを確立した後、超音波を使用してリポソームからのカルシウム放出を誘発できるかどうかを評価することを試みた。この研究では、20kHzの超音波を20%の振幅と25%のデューティサイクルで適用し、曝露時間を1~50秒の間で変化させた。これらのパラメーターを使用して、超音波曝露時間に依存する放出量で、封入されたカルシウム全体の最大92%を解放することができた(図7a)。カルシウムを装填したリポソームを25℃で5日間インキュベートし、放出されたカルシウムを、o-CPCアッセイを使用して間隔を置いて測定した。
【0199】
超音波を使用してカルシウム放出を制御して誘発させる機能は、幅広い用途を可能にする。ここでは、カルシウム依存性酵素であるトランスグルタミナーゼの触媒活性を調節するためにこの技術を適用することを試みた。トランスグルタミナーゼは、リジンのε-アミンとグルタミンの側鎖アミドとの間のイソペプチド結合形成を触媒する酵素のクラスである。カルシウムイオンは、トランスグルタミナーゼに結合し、酵素構造のコンフォメーション変化を引き起こすうえで重要な役割を果たす。このプロセスを測定するために、モデルタンパク質(N,N-ジメチルカゼイン)と蛍光プローブ(ダンシルカダベリン)の間のトランスグルタミナーゼ触媒による架橋中に発生する蛍光変化をモニターした。具体的には、超音波誘発カルシウム放出が21時間にわたってトランスグルタミナーゼ活性を調節できるかどうかを試験した。我々は、超音波曝露時間を1~50秒の間で変化させた場合の、用量依存的な酵素活性化を観察し、重要な点として、超音波を適用しなかった場合の、無視できる程度の触媒作用を観察した。カルシウム装填リポソームを0~50秒間超音波に曝露した後、ダンシルカダベリンの酵素触媒変換を測定した(図7b)。示したデータは、3回の技術的反復実験の平均および標準偏差である。ダンシルカダベリン変換率を、超音波曝露の関数として測定した(図7c)。示されているデータは、平均および標準偏差である。反応速度論を漸近回帰モデルy=a-b*c^x[式中、a=6.85、b=6.78、c=0.87、およびR^(2)=0.94である]にフィッティングした。初期反応速度は、超音波曝露時間の増加とともに直線的に増加し、50秒間の超音波曝露でプラトーに達し、その時点で、封入カルシウム全体の92%がリポソームから放出される。ただし、速度論的分析に必要な初期段階の触媒活性を測定するために、トランスグルタミナーゼを曝露後および蛍光モニタリングの直前に添加したことに留意すべきである。それにもかかわらず、エンドポイントの蛍光読み取りにより、曝露中にトランスグルタミナーゼが存在する場合でも、超音波が用量依存的に酵素活性を誘発し得ることを確認した(図9)。超音波処理されたリポソームの同じバッチからの3回の技術的反復実験の平均および標準偏差としてデータを示す。
【0200】
超音波誘発酵素活性のための方法を確立した後、我々は次に、超音波を使用してヒドロゲル化プロセスを開始することができるかどうかを調べた。具体的には、超音波に曝露されたリポソームによって放出されたカルシウムを、トランスグルタミナーゼ触媒によるフィブリノーゲンのヒドロゲル化を誘発するために使用することができると仮定した。トランスグルタミナーゼは分子内および分子間フィブリノーゲン架橋を触媒し、分子間フィブリノーゲン架橋はフィブリノーゲンヒドロゲルを形成するために使用される。超音波を3、10、または50秒間(周波数20kHz、デューティサイクル25%、振幅20%)カルシウム装填リポソームの溶液に適用し、時間分解レオメトリー(1%ひずみ、周波数1rad・秒-1)を使用して、トランスグルタミナーゼ触媒によるフィブリノーゲンのヒドロゲル化をモニターした。すべての場合で比較的急速なゲル化を観察し、最初の30分以内に弾性率(G’)が粘性率(G”)を超えたことを観察した(図7d-f)。示したデータは、1回の反復実験に関するものである。1rad・秒-1の周波数、および1%のひずみにて、測定を実行した。5時間の終点での弾性率は、初期超音波照射時間に依存しており、3、5、および10秒間で、それぞれ34、55、および177Paであった。重要なことに、超音波曝露のないリポソームのレオロジー対照実験では、非曝露対照が6時間の時点で液体であることが明らかになり、ヒドロゲル化プロセスにおける超音波の役割が確認された(図8)。超音波に曝露されていないカルシウム装填リポソーム、トランスグルタミナーゼ、およびフィブリノーゲンの溶液に対して、周波数掃引(図8a)およびひずみ掃引(図8b)を行った(6時間後に測定)。この分析は、これらの陰性対照が液体の形態をとり、弾性率(G’、黒丸の記号)が粘性率(G”、白丸の記号)を超えないことを示した。周波数掃引は1%のひずみで実行され、ひずみ掃引は1rad・秒-1の周波数で実行した。
【実施例2】
【0201】
リポソーム-マイクロバブルコンジュゲートを使用したフィブリノーゲンヒドロゲルの超音波誘発ゲル化
マイクロバブルの形成とサイジング
以前に報告されたプロトコル(Small、2014年、10巻、3316頁)から採用した方法を使用して、マイクロバブルを製剤化した。1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)、DSPE-PEG2000およびDSPE-PEG2000ビオチンを86:9:5のモル比で含む脂質膜を、0.6M NaClにより水和して、6.32mg・mL-1の最終脂質濃度にした。脂質懸濁液を15秒間ボルテックスし、75℃で2分間加熱した後、ボルテックスおよび加熱を再度行った。ペルフルオロヘキサン/空気混合物を脂質懸濁液にポンプで送り、VibraCellプローブソニケーターを使用して試料を超音波処理した(20kHz、振幅40%、デューティサイクル100%、3秒)。過剰な脂質を除去するために、4回の遠心洗浄(100g、3分)を実行した。60倍の油浸対物レンズを備えた明視野モードのOlympus IX71倒立顕微鏡上で、試料を画像化した。ImageJを使用して画像解析の自動化を実行した。BuriakグループデータプロッターのWebサイト(https://maverick.chem.ualberta.ca/plot/ash)を介して、平均シフトヒストグラムを生成した。
【0202】
マイクロバブル-リポソームコンジュゲーション
コンジュゲートを形成するために、400μLのビオチン化マイクロバブルを、Eppendorf社製Thermomixer Comfort内で、21μLの10mg・mL-1ニュートラアビジン水溶液により、300rpmおよび22℃にて15分間インキュベートした。未結合のニュートラアビジンを除去するために、4回の遠心洗浄(100g、3分)を実行した。次に、200μLのニュートラアビジン官能化マイクロバブルを、Eppendorf社製Thermomixer Comfort内で、200 μLのカルシウム装填リポソームにより、300rpmおよび22℃にて30分間インキュベートした。マイクロバブルあたり7×10のリポソームにより、混合物を調製した。未結合のリポソームを除去するために、4回の遠心洗浄(100g、3分)を実行した。63倍の油浸対物レンズを備えた明視野蛍光モードのLeica SP5倒立共焦点顕微鏡上で、マイクロバブル-リポソームコンジュゲートも画像化した。この実験のために、DiO標識リポソームおよびDiI標識マイクロバブルを使用して、マイクロバブル-リポソームコンジュゲートを調製した。1,1’-ジオクタデシル-3,3,3’,3’-テトラメチルインドカルボシアニン過塩素酸塩(DiI)および3,3’-ジオクタデシルオキサカルボシアニン過塩素酸塩(DiO)は、脂質蛍光色素である。
【0203】
構造化照明顕微鏡(SIM)
DiO標識リポソームおよび非標識マイクロバブルを使用してコンジュゲートを調製し、次に、グリセロール中で6×10コンジュゲート・mL-1の濃度に希釈した。この懸濁液5μLをスライドガラス上に置き、カバーガラスで覆い、イメージングの前に10分間静置した。Plan-Apochromat 63×1.4NA油浸DIC対物レンズを使用し、sCMOS PCO Edgeを備えたZeiss Elyra PS.1顕微鏡(Carl Zeiss社)上で、顕微鏡写真を取得した。励起グリッドの3つの配向角度、および画像平均化なしで1ピクセルあたり8ビットで画像化され、110nmのzステップおよび32nmのピクセルサイズを有する画像ごとに取得した5つの位相により、各画像を記録した。イメージングには488nmレーザーを使用した。Zenソフトウェアパッケージ(Carl Zeiss社)のSIMモジュールを使用して、SIM処理を実行し、Fiji ImageJソフトウェア(NIH)を使用して、3D SIM再構成を実行した。
【0204】
マイクロバブル-リポソームコンジュゲートからの超音波誘発カルシウム放出
o-CPCアッセイを使用して、溶解したリポソームおよびマイクロバブル-リポソームコンジュゲート懸濁液の総封入カルシウムレベルを定量した。次に、残ったリポソームおよびコンジュゲート懸濁液を、100mMの総封入カルシウム濃度に希釈した。次に、これらの用量に適合した試料を分注し、250μLを500μLのDNA LoBindチューブに移した。2番目のo-CPCアッセイを使用して、放出されたカルシウムの量を測定する前に、超音波をプローブソニケーターにより5秒間適用した。超音波曝露の前後にカメラおよび明視野顕微鏡(Olympus IX71)により、コンジュゲートも画像化した。
【0205】
マイクロバブル-リポソームコンジュゲートからの超音波誘発酵素ヒドロゲル化
125μLのマイクロバブル-リポソームコンジュゲート(総封入カルシウム420μM)を500μLのDNA LoBindチューブに移した。超音波をプローブソニケーターにより5秒間適用し、超音波曝露なしで陰性対照が残った。500μLのProtein LoBindチューブ内の0.6M NaCl中のフィブリノーゲン溶液(最終フィブリノーゲン濃度22.68mg・mL-1)および水性DTT(最終DTT濃度10mM)溶液に、100μLの各懸濁液を添加した。最終濃度が5μMになるようにトランスグルタミナーゼを添加し、試料を25℃にて42時間インキュベートした。8mmの鋼平行板およびオイルチャンバーを備えたAR2000レオメーター(TA Instruments社)を使用して、42時間後に、周波数掃引(1%のひずみで0.1~10rad・秒-1)およびひずみ掃引(1rad・秒-1で0.1~100%)を実行した。
【0206】
結果と考察
カルシウム装填リポソームを使用した超音波誘発酵素触媒作用およびヒドロゲル化の実証に成功し、ドラッグデリバリー、超音波イメージング、および熱アブレーションで広く使用されている、超音波応答性ガス状マイクロバブルと我々の技術を統合することで、我々の能力の拡張を目指した。マイクロバブルへのリポソームのコンジュゲーションは、以前は、リポソームカーゴの超音波誘発放出を増強するために使用されてきた。したがって、超音波誘発フィブリノーゲンヒドロゲル化が可能なマイクロバブル-リポソームコンジュゲートを設計できるかどうかを調べた。我々は、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)、DSPE-PEGおよびDSPE-PEG2000ビオチンを86:9:5のモル比で含む脂質膜を水和し、次に、ペルフルオロヘキサンと空気の混合物を含む溶液をポンピングすることにより、ビオチン化マイクロバブルを生成した。明視野顕微鏡を使用してマイクロバブルを視覚化し、画像分析を使用して平均マイクロバブル径2.5±1.6 μmを測定した(図10)。ニュートラアビジンを使用して、両方の成分上に存在するビオチン部分と結合することにより、リポソームをマイクロバブルの表面にコンジュゲートした。共焦点蛍光顕微鏡法を使用して、蛍光標識マイクロバブルの表面に蛍光標識リポソームの共局在を観察した。これはコンジュゲーションの成功を示していた。マイクロバブル表面全体に均一に分布したリポソームを明らかにした超解像イメージング技術である構造化照明顕微鏡法によって、さらなる洞察を得た(図11)。マイクロバブル-リポソームコンジュゲーションの概略図を図11aに示す。共焦点蛍光顕微鏡法は、DiI標識マイクロバブル(黄色で表示)と共局在する蛍光標識リポソーム(青色で表示)を示し、コンジュゲーションの成功を示した(図11b)。構造照明顕微鏡法を使用して得られたz投影は、得られた単一のマイクロバブルにコンジュゲートしたDiO標識リポソーム(青色で表示)を示した(図11c)。カメラ画像および明視野顕微鏡法は、超音波曝露(20kHz、デューティサイクル25%、振幅20%、5秒)の前後で無傷のマイクロバブル-リポソームコンジュゲートを示した(図11d)。無傷のコンジュゲートによって引き起こされる散乱は、溶液に不透明な白い外観を与える。超音波曝露(20kHz、デューティサイクル25%、振幅20%、5秒)後に用量に適合したリポソームおよびリポソーム-マイクロバブルコンジュゲートから測定された放出カルシウムの百分率を図11eに示す。5秒間の超音波曝露および42時間の静的ゲル化後に得られたフィブリノーゲンヒドロゲルの周波数(図11f)およびひずみ(図11g)掃引を示す。ひずみ掃引を1rad・秒-1の周波数にて実行し、周波数掃引を1%のひずみにて実行した。カルシウム装填リポソーム-マイクロバブルコンジュゲートを5秒間の超音波に曝露してから42時間後の、フィブリノーゲンヒドロゲルの写真を図11hに示す。
【0207】
o-CPCカルシウムアッセイを使用して、コンジュゲートあたり約(4.6±0.6)×10-16molを測定した(図12)が、これは超音波誘発ヒドロゲル化を試験するのに十分な量であった。示したデータは、3つの独立バッチの平均および標準偏差である。
【0208】
コンジュゲートを超音波に5秒間曝露した後、明視野顕微鏡法およびo-CPCカルシウムアッセイを使用して懸濁液を評価した。超音波曝露後、マイクロバブル-リポソームコンジュゲートを特定することはできなかった。このことはマイクロバブル群が広範囲に破壊されたことを示している。これらの条件下で、マイクロバブル-リポソームコンジュゲートは、用量に適合したリポソーム(24±3%)の約2倍の量のカルシウム(50±7%)を遊離させた。この観察結果から、マイクロバブルコンジュゲーションがリポソームカルシウム放出の効率を高め得るという我々の仮説が確認された。次に、我々は、カルシウム装填コンジュゲートを超音波に5秒間曝露することにより、トランスグルタミナーゼ触媒によるフィブリノーゲンのヒドロゲル化を誘発し得ることを示した。42時間の終点において、超音波曝露系内で21PaのG’を測定したが、非曝露対照群ではゲル化は観察されなかった。この分析は、これらの陰性対照が液体の形態をとり、弾性率(G’、黒丸の記号)が粘性率(G”、白丸の記号)を超えないことを示した。周波数掃引は1%のひずみで実行され、ひずみ掃引は1rad・秒-1の周波数で実行した(図13)。
【0209】
この実証では、比較的低レベルの総封入カルシウムを使用したため、リポソーム系よりもヒドロゲル化プロセスが長くなったが、より高濃度のコンジュゲートを使用することでヒドロゲル化速度を上げる余地がある。
【実施例3】
【0210】
アルギン酸ヒドロゲルの超音波誘発ゲル化
カルシウム装填リポソームもまた、アルギン酸塩のヒドロゲル化を誘発することができることが示された。アルギン酸塩は、二価カチオン(例えば、Ca2+)により架橋され得るアニオン性多糖類であり、in vitro細胞研究およびヒト臨床試験の両方で広く使用されている。
【0211】
超音波誘発酵素ゲル化論文に記載されているものと同じリポソーム製剤を使用した。簡単に説明すると、リポソーム(DPPC:DSPE PEGビオチン= 99:1のモル比)を、交互嵌合-融合ベシクル法によって製剤化した。Triton X-100によるリポソーム溶解後のo-クレゾールフタレイン(o-CPC)アッセイにより、総封入カルシウムを測定したところ、32.4±0.8mMであった。
【0212】
温度依存性カルシウム放出
超音波曝露実験の前に、温度依存放出実験を実施した。ここでは、50μLの試料を、所望のTに設定した水浴に浸漬させた500μLチューブに入れた。試料を各温度にて15分間インキュベートし(表1を参照)、熱電対を試験管内に配置してその温度をインキュベーション時間全体にわたりモニターした。インキュベーション時間の終わりに、試料を20℃まで冷却した。
【0213】
【表1】
【0214】
o-CPCアッセイにより放出カルシウムを測定するために、試料を希釈して、総封入カルシウム濃度が2mMになるようにした。この場合、適合する粒子濃度でのカルシウムなしのリポソームおよびスパイクしたカルシウムによる標準曲線を使用した。温度の関数として放出カルシウムの百分率を図14に報告する(リポソームの同じバッチからのn=2の実験的反復の平均±標準偏差を報告する)。37℃では、放出カルシウムは全体の約6%であるが、39℃にてリポソームをインキュベートすると、総封入カルシウムの約73%が放出される。総封入カルシウムの最大85%が、40~45℃のさらなる温度上昇時に放出される。
【0215】
超音波誘発アルギン酸塩ヒドロゲル化
アルギン酸塩のゲル化を誘発する高周波超音波の能力を試験するために、焦点径1.9mmのソーストランスデューサーおよび水槽に浸漬した空洞化検出用受信器を備えた装置を使用した。実験の全期間中、水浴の温度を35℃にて一定に保った。
【0216】
簡単に説明すると、525μLのカルシウム装填リポソームを、0.6M NaCl中の175μLの4重量/体積%アルギン酸塩溶液と混合し、試料チャンバーに装填した。超音波(1.1MHz、デューティサイクル72%、65mVpp)を5分間適用し、熱電対を介してモニターした試料温度を41~42℃の間に維持した(図15a)。さらに、パッシブキャビテーション検出(PCD)マップ(図15b)に示されているように、空洞化は検出されなかった。
【0217】
超音波曝露後、試料を冷却させ、試料ホルダーから抽出した。ゲル化が達成され、アルギン酸ヒドロゲルを手動で処理することができた。
【0218】
対照として、カルシウム装填/アルギン酸塩混合物を超音波(1.1MHz、デューティサイクル72%、65mVpp、パルスモード:20秒オン、20秒オフ)に約14分間曝露して、温度を37~38℃の間に保ちながら、同じ合計電力を供給した。この場合も、温度および空洞化が常にモニターされていた。この場合、ゲル化は観察されず、試料は液体のままであり、したがって、この系は、in vivoでのオンデマンドの超音波誘発ヒドロゲル化に適している可能性があることを示唆している。
【実施例4】
【0219】
ワンポット超音波誘発フィブリノーゲンヒドロゲル化
以下の変形形態を用いて、実施例1(「リポソーム製剤」、「カルシウム装填リポソームを使用する超音波誘発ヒドロゲル化」)に記載されているものと同じプロトコルに従った。カルシウム装填リポソーム、トランスグルタミナーゼ、およびフィブリノーゲンを混合し、超音波に10秒間曝露した。100μLのカルシウム装填リポソームを、脱イオン水中のDTT1μL(最終DTT濃度8.69mM)および0.6M NaCl中のフィブリノーゲン24.4μL(最終フィブリノーゲン濃度22.42mg・mL-1)と混合した。超音波を混合物に適用し(20kHz、デューティサイクル25%、振幅20%)、1%のひずみと1rad・秒-1を使用した時間掃引レオメトリーを、溶剤の蒸発を防ぐための8mm鋼平行板およびオイルチャンバーを備えたAR2000レオメーター(TA instruments社)を使用して25℃で実行した。
【0220】
結果と考察
カルシウム装填リポソーム、フィブリノーゲン(最終濃度22.4mg・mL-1)、およびトランスグルタミナーゼ(最終濃度5mM)の混合物を10秒間超音波処理した。1%のひずみと1rad・秒-1を使用した時間掃引レオメトリーを25℃にて実行した(超音波刺激の約10分後)。図16に示すとおり、弾性率(G’)が粘性率(G”)を超えると、ゲル化が比較的迅速に発生した。したがって、本実施例は、すべての成分が超音波曝露中に存在する場合、超音波が酵素触媒ヒドロゲル化を効果的に誘発できることを実証する。
【実施例5】
【0221】
トランスグルタミナーゼ濃度を変化させた超音波誘発ヒドロゲル化
以下の変形形態を用いて、実施例1(「リポソーム製剤」、「カルシウム装填リポソームを使用する超音波誘発ヒドロゲル化」)に記載されているものと同じプロトコルに従った。カルシウム装填リポソームを超音波に50秒間曝露した。レオロジー測定の直前に、最終濃度が1.25、5または10μMになるようにトランスグルタミナーゼを添加した。溶媒の蒸発を防ぐための8mmの鋼製平行板およびオイルチャンバーを備えたAR2000レオメーター(TA instruments社)を使用して、1%のひずみおよび1rad・秒-1にて3時間にわたって時間掃引を実行した。
【0222】
結果と考察
(a)1.25μM、(b)5μMおよび(c)10μMのトランスグルタミナーゼの添加時に、時間掃引レオメトリーを使用してフィブリノーゲンのゲル化を測定した(図17)。トランスグルタミナーゼ濃度の増加に伴い、ゲル化速度の増加を観察した。さらに、トランスグルタミナーゼ濃度を5μMから10μMへと2倍にすることで、ゲル化速度を上げることができることを実証した(図17)。ここでは、ゲル化が非常に速く発生したため、レオメーターで測定された最初のデータポイントは線形領域をはるかに超えており、測定された最初のデータポイントにおいてG’はすでに90Paを超えていた。トランスグルタミナーゼ濃度を1.25 pMに下げることにより、ゲル化を遅らせ得ることも示した。
【0223】
この実施例は、トランスグルタミナーゼ濃度をそれぞれ増加または減少させるだけで、より速いまたはより遅いヒドロゲル化を達成できることを示しており、したがって、ゲル化速度の調整が可能になる。
【実施例6】
【0224】
フィブリノーゲン濃度を変化させた超音波誘発ヒドロゲル化
以下の変形形態を用いて、実施例1(「リポソーム製剤」、「カルシウム装填リポソームを使用する超音波誘発ヒドロゲル化」)に記載されているものと同じプロトコルに従った。カルシウム装填リポソームを超音波に50秒間曝露した。レオロジー測定の直前に、最終濃度が11.2mg・mL-1、22.4mg・mL-1、または33.6mg・mL-1になるようにフィブリノーゲンを添加した。溶媒の蒸発を防ぐための8mm鋼製平行板およびオイルチャンバーを備えたAR2000レオメーター(TA instruments社)を使用して、1%のひずみおよび1rad・秒-1にて5時間にわたって時間掃引を実行した。最終濃度33.6mg・mL-1になるようにフィブリノーゲンを添加した場合、23時間にわたって時間掃引も実行した。
【0225】
結果と考察
カルシウム装填リポソームに超音波を50秒間適用した後、時間掃引レオロジーを使用して、超音波曝露時のトランスグルタミナーゼ触媒によるフィブリノーゲンのゲル化を測定した。5時間後、弾性率は、(a)11.2mg・mL-1、(b)22.4 mg・mL-1、および(c)33.6mg・mL-1のフィブリノーゲンについてそれぞれ90、110、および211 Paと測定された(図18)。
【0226】
33.6mg・mL-1のフィブリノーゲン溶液を使用して、架橋時間を増加させた超音波誘発ヒドロゲル化を実行した(図19)。カルシウム装填リポソームに超音波を50秒間適用した後、時間掃引レオロジーを使用して、超音波曝露時のトランスグルタミナーゼ触媒によるフィブリノーゲンのゲル化を測定した。23時間後、弾性率は1009Paであった。フィブリノーゲンの初期濃度を33.6mg・mL-1に上げることによって、弾性率(G’)が増加した(図18)。さらに、この濃度では、ゲルは5時間後も弾性率が増加し続け、測定の23時間後に1kPaを超えた(図19)。
【0227】
この実施例は、フィブリノーゲン濃度を変更するか、架橋時間を長くすることで弾性率を調整できることを示し、したがって、ヒドロゲルの機械的特性を調整することが可能になることを示している。
【実施例7】
【0228】
ガラスマイクロスフェアの存在下でのアルギン酸ヒドロゲルの超音波誘発ゲル化
材料
1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)および1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](アンモニウム塩)(DSPE-PEG2000)をSigma Aldrich社から購入し、Avanti Polar Lipids社が製造した。他のすべての試薬はSigma Aldrich社から購入した。超純水(18.2MΩ・cm)をTR Duo10 UFポリッシャートリプル(Triple Red社、Avidity Science社)から採取した。ガラスマイクロスフェア(ソーダライム固体ガラスマイクロスフェア2.5g/cc 5~50um)をCospheric社から購入した。
【0229】
リポソーム製剤
確立された交互嵌合融合ベシクル法(Biochim.Biophys.Acta-Biomembr.、1994年、1195巻、237頁)を使用して、カルシウム装填リポソームを製剤化した。要約すると、99mol%のDPPCと1mol%のDSPE-PEG2000の溶液をクロロホルムで調製し、ガラスバイアル内で窒素ガス流で乾燥させ、次に少なくとも3時間真空下に置いた。一定の攪拌下で、55℃にて1時間、0.2M CaClを含有する水溶液により、脂質濃度20mg・mL-1まで、脂質膜を水和した。55℃にて、100nmのポリカーボネートメンブレンを通して25回、および50nmのポリカーボネートメンブレン(Whatman(登録商標)Nucleopore Track-Etched(商標)メンブレン)を通して31回、リポソーム溶液を押し出した。交互嵌合を誘導するために、撹拌しながら最終濃度4Mになるようにエタノールを添加した。交互嵌合されたゲルを4℃にて一晩保存した。エタノールを除去するために、5回の遠心洗浄(1回目の洗浄は8500gで8分間、2回目の洗浄は8000gで8分間、残りの洗浄は8000gで6分間)を行い、その後脂質ゲルを65℃で2.5時間(650rpm)インキュベートして、大きな単層リポソームを形成した。次に、これらのリポソームを、55℃にて400nmのポリカーボネートメンブレン(Whatman(登録商標)Nucleopore Track-Etched(商標)メンブレン)を通して31回押し出して、単層ベシクルの単分散群を得た。カルシウム装填リポソームを等浸透圧緩衝液(0.3MのNaCl)に対して透析して遊離カルシウムを除去し、次に、使用前に4℃にて保存した。
【0230】
超音波誘発アルギン酸塩ヒドロゲル化
水槽に浸漬したキャビテーション検出のための集束トランスデューサおよび共焦点レシーバを備えた装置を用いてアルギン酸塩のゲル化を誘発する高周波超音波の能力を試験した。実験の全期間中、水浴の温度を35℃にて一定に保った。簡単に説明すると、500μLのカルシウム装填リポソームを、60mMの2-[4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-イル]エタンスルホン酸(HEPES)および150mgのガラスマイクロスフェアを含有するMilliQ水中の500μLの4重量/体積%アルギン酸塩溶液と混合し、試料チャンバーに装填した(2重量/体積%のアルギン酸塩および6体積/体積%のガラスマイクロスフェアを含有する混合物を得た)。超音波を適用する前に、混合物を真空チャンバー内で3分間3回脱気した。超音波(1.1MHz、デューティサイクル75%、ピーク圧力1.3MPa、焦点径1.9mm)を適用して、熱電対を介してモニターした試料温度が、39.5~40.5℃の間に60秒間維持されるようにした。代替的に、より高い周波数の超音波(3.3MHz、デューティサイクル75%、ピーク圧力3.8MPa、焦点径0.63mm)を使用した。超音波曝露後、試料を冷却させ、試料ホルダーから抽出した。ゲル化が達成され、アルギン酸ヒドロゲルを手動で処理することができた。
【0231】
超音波誘発ヒドロゲルのレオロジー
得られたヒドロゲルの機械的性質を、レオメトリーによって特性決定した。AntonPaar社製MCR302レオメーター溶媒の蒸発を防ぐための25mmの鋼製平行板およびウォータートラップを備えていた。試料をレオメータープレートに装填し、25mmの鋼鉄製平行プレート(上部プレート)を下げて0.3mmのギャップを設けた。周波数掃引(0.1~100rad・秒-1)を0.5%ひずみで実行され、ひずみ掃引(0.01~100%)を1rad・秒-1で実行した。レオメーターからの出力値は、弾性率および粘性率G’およびG”である。
【0232】
結果と考察
これらの結果は、アルギン酸塩、ガラスマイクロスフェア、およびカルシウム装填リポソームの混合物を、1.1MHz(70mVpp、デューティサイクル75%、曝露40秒)または3.3MHz(126 mVpp、デューティサイクル75%、曝露60~80秒)にて作用する超音波に曝露することにより、アルギン酸塩ゲル化を達成することが可能であることを示している。得られたヒドロゲルのひずみおよび周波数掃引を図20(1.1MHz)および図21(3.3MHz)に示す。これらの図に示したデータは、3回の反復実験の平均および標準偏差である。
【0233】
低MHz周波数の超音波(例えば、1.1MHzまたは3.3MHz)を使用することの有用性は、確立された超音波デバイスおよび物理学を使用したin vivo用途の非侵襲的誘発を可能にすることである。周波数を上げると、波長が短くなり、固定された超音波源サイズの誘発の空間精度が向上する。有益なことに、超音波エネルギーを熱に変換する固有の能力(超音波吸収)は、周波数とともに増大する。
【0234】
アルギン酸塩混合物の吸収をさらに高めるために、ガラスマイクロスフェアを使用した。in vivoでの使用の場合、製剤の超音波吸収を増加させて、それが少なくとも周囲の組織と同じ高さになるようにすると、意図されたゲル化部位で優先的に熱が発生する。原則として、これにより最も制御された効率的な誘発プロセスが得られる。
【0235】
本発明は、超音波誘発酵素ヒドロゲル化によって実証されるように、超音波誘発酵素触媒作用を達成するための新しいアプローチを提供する。我々は、超音波への短時間の曝露(1~50秒)を使用してリポソームカルシウムを制御可能に遊離させ、その後トランスグルタミナーゼ触媒作用を活性化することができることを示した。我々は、この超音波誘発触媒作用を使用して、フィブリノーゲンを酵素的に架橋し、自立型粘弾性ヒドロゲルを形成した。これはアルギン酸塩でも実証した。重要なことに、カルシウム放出、酵素反応速度論、およびゲル化速度はすべて、超音波曝露時間を変えることによって調整することができる。我々はまた、カルシウム装填リポソームをガス状マイクロバブルにコンジュゲートして、超音波曝露時のペイロード放出を強化できることも実証した。これらのカルシウム装填マイクロバブル-リポソームコンジュゲートはまた、フィブリノーゲンの超音波活性化ヒドロゲル化にも使用された。我々はまた、トランスグルタミナーゼの濃度を変えることでゲル化速度を調整できること、およびフィブリノーゲン濃度を変えることによって、または架橋時間を長くすることによって、ヒドロゲルの機械的特性を調整できることも示した。超音波の使用は、光、pH、温度、および化学物質の添加という従来的な誘因に並ぶ、酵素活性およびヒドロゲル化のためのまったく新しい種類の刺激となっている。本研究ではトランスグルタミナーゼを見本として使用したが、多くのオキシドレダクターゼ、トランスフェラーゼ、ヒドロラーゼ、リアーゼ、イソメラーゼ、およびリガーゼなどの、イオン性補因子を有する他の酵素にも同じ原理を適用することができる。
【0236】
この技術の多様性は、フィブリノーゲンおよびアルギン酸塩ヒドロゲル化を超えて広がり、超音波誘発分子生物学、合成生物学および材料科学にとって幅広い好機をもたらす。
【0237】
当業者は、本発明が様々な実施形態で実施することができ、前述の説明および実施例は、例示を目的とするものであり、以下の特許請求の範囲を限定するものではないことを認識するであろう。依然として本発明の範囲内である、記載された実施形態の変形がなされ得ることが理解されるであろう。特許請求の範囲の意味および均等性の範囲内にある変更は、それに包含されることが意図されている。
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【国際調査報告】