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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-21
(54)【発明の名称】心臓血管疾患の治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/51 20150101AFI20221014BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20221014BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20221014BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20221014BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
A61K35/51
A61P9/10
A61K9/08
A61K47/20
A61P9/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022509018
(86)(22)【出願日】2020-08-20
(85)【翻訳文提出日】2022-04-07
(86)【国際出願番号】 US2020047094
(87)【国際公開番号】W WO2021034996
(87)【国際公開日】2021-02-25
(31)【優先権主張番号】62/889,225
(32)【優先日】2019-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ZIPLOC
(71)【出願人】
【識別番号】510257721
【氏名又は名称】ステムサイト インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】STEMCYTE,INC.
【住所又は居所原語表記】13800 Live Oak Avenue, Baldwin Park, CA 91706, USA
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ワン, ジョナス
(72)【発明者】
【氏名】リン, シン ゾン
(72)【発明者】
【氏名】ハーン, ホーング-イリ
(72)【発明者】
【氏名】リン, ポー-チョン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C087
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076BB11
4C076CC11
4C076DD55
4C076FF65
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB59
4C087MA16
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA36
(57)【要約】
本発明は、心臓血管疾患の細胞ベースの治療に関する。本発明はまた、神経組織を改善し、心臓血管疾患患者ならびに他の形態の神経学的ストレスまたは損傷に苦しむ患者の行動および神経学的機能を改善するための治療も提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓血管疾患または脳損傷を治療または改善する方法であって、
治療または改善を必要とする対象を特定することと、
前記対象に、有効量の、臍帯血(UCB)を含む治療用組成物を投与することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記治療用組成物が、血漿枯渇(PD)UCBまたは赤血球減少(RCR)UCBを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記治療用組成物が、凍結防止剤をさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記凍結防止剤が、ジメチルスルホキシド(DMSO)である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記PD UCBが、全血UCBと比較した場合に、赤血球が枯渇していない、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記PD UCBが、すべての赤血球体積を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記治療用組成物が、約5体積%~10体積%の凍結防止剤を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記治療用組成物が、UCBを含む保存された組成物を解凍することによって得られる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項9】
前記解凍のステップが、5分以内に完了する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記解凍のステップが、約37℃±2℃の間に維持された浴中で前記保存された組成物をインキュベートすることを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記保存された組成物が、解凍後に洗浄されず、前記治療用組成物として前記対象に投与される、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記投与のステップが、前記解凍が完了した後、1~2時間以内に完了する、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記UCBが、単核細胞を含み、前記単核細胞が、前記対象に、約2~5×10単核細胞/kg~約1×10細胞/kgで投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記治療用組成物が、注入によって投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記治療用組成物が、約5~10ml/分で投与される、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記対象に、血液脳関門(BBB)透過剤組成物を投与することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記BBB透過剤組成物が、マンニトールを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記心臓血管疾患が、脳卒中または心筋症である、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記対象が、ヒト患者である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記投与ステップの前に、前記患者が、4~32またはそれ以上の国立衛生研究所脳卒中スケール(National Institutes of Health Stroke Scale)(NIHSS)スコアを有する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記方法が、前記対象に対して4/6よりも大きいHLA適合検査をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記方法が、前記対象に対して適合性のあるABOを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記方法が、前記対象に、免疫抑制剤を投与することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記対象に、前記投与ステップの前に、線維素溶解薬が投与されない、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記線維素溶解薬が、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記心筋症が、虚血性心筋症である、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年8月20日出願された米国仮出願第62/889,225号の優先権を主張する。本出願の内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、患者における脳卒中および心筋症などの心臓血管疾患の細胞ベースの治療に関する。本発明はまた、神経組織を改善し、心臓血管疾患患者ならびに他の形態の神経学的ストレスまたは損傷に苦しむ患者の行動および神経学的機能を改善するための治療も提供する。
【背景技術】
【0003】
心臓血管疾患(CVD)は、心臓または血管に関与する一種の疾患である。CVDには、狭心症および心筋梗塞(一般に心臓発作として知られている)などの冠状動脈疾患(CAD)が含まれる。他のCVDには、脳卒中、心不全、高血圧性心疾患、リウマチ性心疾患、心筋症、異常な心拍リズム、先天性心疾患、心臓弁膜症、心臓炎、大動脈瘤、末梢動脈疾患、血栓塞栓性疾患、および静脈血栓症が含まれる。心臓血管疾患は、世界の主な死亡原因である。例えば、脳卒中は、2番目に多い死亡原因および身体障害である。世界の6人に1人が脳卒中の影響を受けており、40秒ごとに米国の誰かが脳卒中を患っている。多くの国での脳卒中治療の費用は、医療予算の5%を超えている(Mukherjee et al.,Neurosurg.2011,76,S85-S90)。高齢化する人口により、脳卒中は、世界中でさらに大きな健康および経済的負担をもたらす。小さな脳卒中は、腕または脚の衰弱などの小さな問題のみをもたらし得るが、より大きな脳卒中は、片側の麻痺または会話困難をもたらし得る。脳卒中患者の3分の2超は、急性脳卒中期に最適な治療を受けたとしても、脳卒中から完全に回復しない(Hacke et al.,Lancet 2004,363,768-774)。現在、虚血性脳卒中に対して唯一の利用可能な承認された薬理学的治療が、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)である。しかしながら、比較的少数の患者が、この療法に適している。心臓血管疾患を治療するための新しい療法が、必要である。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、いくつかの態様において上述の必要性に対応する。
【0005】
一態様では、本発明は、心臓血管疾患または脳損傷を治療または改善する方法を提供する。この方法は、治療または改善を必要とする対象を特定することと、対象に、有効量の、臍帯血(umbilical cord blood)(UCB)または臍帯血(cord blood)(CB)を含む治療用組成物を投与することと、を含む。
【0006】
治療用組成物は、血漿枯渇(PD)UCBまたは赤血球減少(RCR)UCBを含むことができる。いくつかの実施形態において、治療用組成物は、ジメチルスルホキシド(DMSO)などの凍結防止剤をさらに含むことができる。PD UCBは、全血UCBと比較した場合に、赤血球が枯渇していない。例えば、PD UCBは、少なくとも50体積%の赤血球を含むか、またはすべての赤血球体積を含むことができる。治療用組成物は、約5体積%~15体積%(例えば、5~10体積%)の凍結防止剤を含むことができる。この組成物は、UCBおよび上記の凍結防止剤を含む保存された凍結組成物を解凍することによって得ることができる。解凍のステップは、5分などの1~10分以内に完了することができる。一例では、解凍のステップは、約37℃~約41℃、好ましくは約37℃±2℃の間に維持された浴中で保存された組成物をインキュベートすることを含む。一旦解凍されると、保存された組成物は、洗浄される必要がなく、治療用組成物として対象に直接投与することができる。投与のステップは、解凍が完了してから1~2時間以内に完了することができる。UCBは、単核細胞を含み、単核細胞は、対象に、約1×10細胞/kg~約1×10細胞/kgで投与される。一例では、単核細胞は、約2~5×10単核細胞/kg~約1×10細胞/kgで投与される。治療用組成物は、約5~10ml/分などの約1~20ml/分で注入によって投与することができる。この方法は、対象に、血液脳関門(BBB)透過剤組成物を投与することをさらに含むことができる。BBB透過剤の例は、マンニトールを含む。
【0007】
心臓血管疾患は、脳卒中または心筋症であり得る。脳卒中の例には、虚血性脳卒中、出血性脳卒中、急性脳卒中、または亜急性脳卒中が含まれる。好ましい実施形態において、対象は、ヒト患者である。投与ステップの前に、患者は、6~18または8~16などの4~32またはそれ以上の国立衛生研究所脳卒中スケール(National Institutes of Health Stroke Scale)(NIHSS)スコアを有し得る。心筋症の例には、虚血性心筋症が含まれる。
【0008】
この方法は、レシピエント-対象をHLA適合検査することを含み得る。好ましくは、レシピエント対象および選択された臍帯血ユニットまたは複数の臍帯血移植のユニットは、4/6以上のHLA適合度でなければならない。この方法は、レシピエント対象とドナーとの間のABO血液型の不適合性が臍帯血移植の問題として報告されていないため、レシピエント対象をABO適合検査することを含んでも含まなくてもよい。つまり、レシピエント対象とドナーとの間のABO適合または適合性は、必要ではない。
【0009】
本明細書に記載の方法は、対象に、ヒドロコルチゾンなどの免疫抑制剤を投与することをさらに含むことができる。好ましくは、対象に、細胞を投与する前、投与中、または投与後に、線維素溶解薬が、投与された細胞に損傷を与え得るため、組織プラスミノーゲン活性化因子などの線維素溶解薬が投与されない。
【0010】
本開示はまた、心臓血管疾患または脳損傷を治療するための薬剤の製造における上記の治療用組成物の使用も提供する。
【0011】
本発明の1つ以上の実施形態の詳細は、以下の説明に記載される。本発明の他の特徴、目的、および利点は、本明細書および特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】脳卒中患者の臨床試験のタイムラインを示す図である。
図2】UCB注入後のマンニトール併用投与を示す図である。
図3】UCB注入を受けた後の患者別の運動機能改善を示す図である。
図4A-4C】CB輸血の1日前(ベースライン)からCB輸血の12か月後までの神経機能の結果を示す図である。(A)NIHSS、(B)バーグバランススコア、および(C)バーセル指数スコア。
図5A-5D】脳卒中の2時間後からCB輸血の6か月後までの拡散強調画像(DWI)の結果を示す写真である。(a)脳卒中の2時間後。(b)CB輸血の1日後。(c)CB輸血の3か月後。(d)CB輸血の6か月後。
図6A-6D】脳卒中の2時間後からCB輸血の6か月後まで試験されたT2画像を示す写真である。(a)脳卒中の2時間後。(b)CB輸血の1日後。(c)CB輸血の3か月後。(d)CB輸血の6か月後。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、脳卒中および心臓病などの心臓血管疾患を治療するための方法および組成物を提供する。本発明の特定の態様は、少なくとも部分的に、同種異系UCBユニットが急性虚血性脳卒中患者を治療するのに安全かつ効果的であるという予期せぬ発見に基づいている。本明細書に開示されるように、UCBユニットは、幹細胞だけでなく、優れた免疫寛容および免疫調節活性、ならびにEGF、VEGF、G-CSF、およびIL-10などの高レベルの因子も保有する。したがって、UCB製品の注入は、免疫恒常性を回復するだけでなく、急性脳卒中患者の脳の修復を促進し得る。
【0014】
脳卒中
脳卒中は、2番目に多い死亡原因であり、3番目に多い身体障害の原因であり、6人に1人が罹患しており、世界中で大きな健康および経済的負担を示す。毎年1500万人以上が、脳卒中を患っている。これらの人々のうち、30~35%が死亡し、生存の75%近くが永続的な障害を維持する。
【0015】
脳卒中は、酸素および栄養素を脳に運ぶ血管が血餅によって遮断される(虚血性脳卒中と呼ばれる)または血管が破裂して脳への血流を妨げること(出血性脳卒中と呼ばれる)ときに発生する。それが起こると、脳の一部が必要な血液および酸素を得ることができなくなり、脳細胞が死に至る。脳卒中の約80%は、虚血性脳卒中である。虚血性脳卒中は、脳への動脈が狭くなったり遮断されたりして、血流が大幅に低減したときに発生する(虚血)。非造影コンピュータ断層撮影(CT)は、脳卒中が疑われる患者の初期評価のための主要な画像診断法である。脳卒中のCT兆候を説明するために、急性(24時間未満)、亜急性(24時間~5日)、および慢性(数週間)の3つの主要な段階が使用される。Birenbaum et al.,West J Emerg Med.2011 Feb;12(1):67-76。
【0016】
急性期の現在の治療法には、抗凝固剤、抗血小板剤、および血栓溶解剤が含まれる。このような血栓溶解剤の使用は、脳卒中から3時間以内でなければならず、せいぜい6時間しか効果がない。さらに、血栓溶解剤は、出血率を15~20%増加させる。虚血性脳卒中後、1時間あたり約1億2000万個のニューロンが死に至り、これは、脳機能の3.6年の老化に相当する(Lakhan SE et al.,Journal of Translational Medicine.2009;7:97)。さらに、死んだニューロンは再生することができないため、ニューロンおよび他の細胞を再生する方法を見つけることが重要である。細胞療法は、脳卒中の治療における大躍進をもたらす。例えば、発明者チームは、15人の慢性虚血性脳卒中患者の治療のために自己造血幹細胞(CD34+)脳移植と組み合わせたG-CSF注射を使用した。これらの結果は、その実現可能性および安全性を確認した。しかしながら、これらの結果はまた、患者の細胞年齢が改善の程度に有意な影響を与えることも示した。例えば、高齢(60歳超)の個人からの幹細胞の増殖および分化の能力は、若い人からの幹細胞ほど良くない。
【0017】
本明細書に開示されるように、第I相臨床研究は、顕著な治療の進歩を示した:同種異系のPD-臍帯血注入は、脳卒中患者を治療するために安全かつ効果的である。
【0018】
心臓病
心臓病または心臓疾患は、いくつかのクラスまたはタイプが存在する疾患(例えば、虚血性心筋症(ICM)、拡張型心筋症(DCM)、大動脈弁狭窄症(AS))であり、多くは独自の治療戦略を必要とする。したがって、心臓疾患は、単一の疾患ではないが、異なる発病のメカニズムによって異なる細胞型(例えば、心筋細胞)から生じる一群の障害である。本明細書で使用される場合、心臓病は、以下の非限定的な例を包含する:心不全(例えば、うっ血性心不全)、虚血性心筋症、肥大性心筋症、拘束型心筋症、アルコール性心筋症、ウイルス性心筋症、頻脈媒介性心筋症、ストレス誘発性心筋症、アミロイド心筋症、不整脈誘発性右心室異形成、左心室非圧密、心内膜線維弾性症、大動脈狭窄症、大動脈弁逆流、僧帽弁狭窄症、僧帽弁逆流、僧帽弁逸脱症、肺動脈弁狭窄症、肺動脈弁逆流、三尖性狭窄症、三尖弁逆流、先天性障害、遺伝性障害、またはこれらの組み合わせ。
【0019】
本明細書に開示されるいくつかの実施形態は、対象における心臓病を治療するための方法に関する。この方法は、対象に、臍帯血を含む治療用組成物を投与または提供することを含む。
【0020】
臍帯血
臍帯血(umbilical cord blood)(または臍帯血(cord blood))は、出産後に胎盤および付着した臍帯に残る血液であり、造血および遺伝性疾患を治療するために使用することができる幹細胞が含まれるため、定期的に採取される。UCBは、全血に見出されるすべての要素、つまり、赤血球、白血球、血漿、および血小板で構成されている。
【0021】
本明細書に開示されるように、体積が減少した臍帯血サンプルが、使用される。現在、臍帯血サンプルを減少させ、UCBユニットを保存するために、赤血球減少(RCR)法および血漿枯渇(PD)法の2つの方法が、使用される。1990年代初期に開発された(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92(22):10119-10122;1995)、RCR法は、高浸透圧溶液(ヘタスターチまたは卵白)で臍帯血を遠心分離し、21mlの細胞および液体を除くすべてを除去し、4mlのジメチルスルホキシド(DMSO)を添加する。Stemcyteで開発されたPD法は、血漿を除去するが、細胞をすべて保持する。PDユニットは、通常、25ml/ユニットのRCRユニットと比較して、80~120ml/ユニットの体積である。US8048619およびBiol.Blood Marrow Transplant.13(11):1346-1357;2007を参照のこと。このように調製された各方法およびUCBには賛否両論あるが(Young et al.,Cell Transplantation,Vol 23,pp.407-415,2017)、両方を使用して、本明細書に開示される発明を実施することができる。
【0022】
UCBユニットを収集して保存するために、血液銀行は、臍帯血にDMSOを添加して、凍結中、細胞を保護する。DMSOは、細胞内の氷生成を低減し、90%超の細胞が冷凍状態を生き延びることを可能にする。しかしながら、1%超のDMSOは、体温(37℃)で血球に毒性がある。そのため、患者へのDMSO投与を最小限に抑えるように注意を払う必要があることは、当該技術分野では標準的であり、細胞が30分を超える時間1%にさらされないように、DMSOを、凍結直前に臍帯血に添加し、解凍後すぐに除去する。臍帯血が1%超のDMSOに30分以上さらされると、臍帯血細胞が死滅して、凝集する。これにより、臍帯血を静脈内注入すると、心臓の塞栓、胸痛、および他の症状が発生し得る。Young et al.,Cell Transplantation,Vol 23,pp.407-415,2017。しかし、本明細書に開示されるように、PD-UCBユニットが、その中のDMSOを除去することなく、急性虚血性脳卒中患者を治療するのに安全かつ効果的であることは予想外であった。
【0023】
PD-UCB
本発明のPD-UCB組成物は、UCBユニットから実質的に枯渇した血漿、およびUCBユニットから枯渇していない赤血球(RBC)を有するという独特の特徴を有する。このようなUCBユニットは、血漿枯渇を、造血幹細胞の凍結保存、選択、解凍、および/または移植と組み合わせて、処理後の細胞回復および解凍後の注入細胞の投与量を最大化することによって、優れた臨床転帰を提供するプロセスによって調製され得る。一例では、血漿が枯渇し、RBCが枯渇していないUCBユニットは、US8048619に記載されるプロセスによって調製され得、その内容は、参照によりその全体が組み込まれる。
【0024】
簡言すれば、新生児のUCBは、抗凝固剤が入ったマルチバッグ採血バッグなどの収集容器に収集される。収集容器は、典型的には、約0.1~約100mlの抗凝固剤(例えば、約1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、または100ml)を含有する。好ましくは、収集容器は、約23ml~約35mlの抗凝固剤を含有する。抗凝固剤の非限定的な例には、クエン酸塩、リン酸塩、デキストロース、およびアデノシン混合物(CPDA)、クエン酸塩、リン酸塩、およびデキストロース混合物(CPD)、ならびに酸、クエン酸塩、およびデキストロース混合物(ACD)が含まれる。好ましくは、抗凝固剤は、CPDAであり、これは、0.299%の無水クエン酸、0.263%の二水和クエン酸ナトリウム(dehydrate sodium citrate)、0.222%の一塩基性リン酸ナトリウム(一水和物)、3.19%のデキストロース、および0.0275%のアデノシンを含み得る。CPDAは、等張性であり、中性のpHを有するため、血液に対する抗凝固剤の比率は重要ではない。しかしながら、当業者は、収集容器内の抗凝固剤の組成および/または体積が、ドナーから収集された臍帯血の量に依存し得ることを理解するであろう。収集バッグの重量を秤量して、合計重量から抗凝固剤を含む収集バッグの重量を差し引くことによって、UCB収集体積を決定することができる。バッグ内の体積は、UCBの体積および抗凝固剤の体積によって決定される。
【0025】
収集されたUCBは、生後約48時間までに凍結保存を可能にするために、好ましくは約43時間以内にUCB処理実験室に送達され得る。しかしながら、生後約72時間までの凍結保存でも、許容可能な結果が得られ得る。
【0026】
全臍帯血を、この時点で分析して、全血球計算を決定することができる。抗凝固剤を使用した前処理ヘマトクリット値(すなわち、赤血球の体積パーセント)は、通常、95%超のサンプルに対して約20%~約60%の範囲を有する。赤血球濃度は、通常、約2~約10×10/μlであり、白血球濃度は、通常、約1~約30×10/mlである。
【0027】
UCBユニットは、例えば、3バッグ収集血液バッグで遠心分離して、細胞画分を上部血漿画分から分離することができる。上部血漿部分は、2番目のバッグに移すことができ、これを、密封する。場合によっては、残りの大部分の細胞部分が、60cc超含有する場合、製品は、それぞれ、独自の収集/移送バッグに、2つの部分(例えば、元のバッグおよび3番目のバッグ)に分割され得る。血漿枯渇後、UCBユニットのヘマトクリット値(HCT)およびRBC濃度の両方が、全血または赤血球枯渇ユニットと比較して、約1.2~約3倍(平均=約1.6~約1.8倍;中央値=約1.7~約1.8倍)増加する。
【0028】
次いで、各収集/移送バッグ内の製品は、滅菌ドッキングデバイスを介して1つの凍結バッグ(例えば、CRYOCYTEバッグ)に移送され得る。通常、UCBユニットは、血漿が枯渇し、事前に冷却された(つまり、約4℃)凍結防止剤を添加した後、例えば、約75ccのほぼ最大体積で1つの凍結バッグに凍結保存され得る。しかしながら、一部のUCBユニットは、例えば、ほぼ最大体積の合計が約150ccである2つのバッグに分割され得る。
【0029】
次いで、血漿枯渇UCB/抗凝固剤混合物を、約4℃に冷却してから、1つ以上の凍結防止剤を添加することができる。典型的には、溶液の形態の凍結防止剤は、UCB/抗凝固剤の体積の約25%~約50%に等しい量で添加することができる。例えば、血漿枯渇サンプルのUCB/抗凝固剤の量が60mlである場合、凍結防止剤溶液の体積は、15mlであり得る。結果として、UCBユニットは、一般に、約5体積%~約15体積%の凍結防止剤、例えば、約5体積%、6体積%、7体積%、8体積%、9体積%、10体積%、11体積%、12体積%、13体積%、14体積%、または15体積%の凍結防止剤を含む。好ましい実施形態において、凍結防止剤溶液は、約50%のDMSOおよび約5%のGentran 40の混合物(すなわち、約10:1のDMSO対Gentran 40の比)を含み、約5%~約10%の最終DMSO濃度を提供する。DMSO/Gentran 40凍結防止剤溶液は、ローテーター上のアイスパックの間に凍結バッグを備えたシリンジポンプによって毎分約0.75mlの速度で、UCB/抗凝固剤混合物に添加して、約5%~約10%の最終DMSO濃度にすることができる。抗凝固剤および凍結防止剤の両方を含有する血漿枯渇UCBユニットは、全血または赤血球枯渇ユニットと比較して、より高いヘマトクリット値(HCT)およびRBC濃度(すなわち、少なくとも約1.6倍)を有し得る。
【0030】
次いで、抗凝固剤および凍結防止剤の両方を含む血漿枯渇UCB混合物は、US8048619に記載されている方法および当該技術分野で知られている他の方法で凍結および保存することができる。処理されたUCBユニットは、典型的には、液体窒素(例えば、液相および/または気相)中において、約-135℃未満、好ましくは約-150℃未満で保存することができる。
【0031】
対象への注入または移植の前に、血漿枯渇UCBユニットは、本明細書に記載されるように解凍される。解凍されたユニットは、投与前に洗浄されるか、または洗浄されないかのいずれかである。好ましくは、解凍されたユニットは、洗浄されない。特定の例では、解凍された、洗浄されていないユニットは、直接注入によって患者に投与される。他の特定の例では、解凍された、洗浄されていないユニットは、ユニットが、例えば、ヒト血清アルブミンおよびGentran(デキストラン)を含む等張液で希釈および/または再構成された後、注入によって患者に投与される。以下の実施例に示すように、解凍後に血漿枯渇UCBユニットを洗浄しないと、そのようなユニットを移植された患者の臨床転帰が改善される。実際、血小板生着の累積発生率ならびに好中球および血小板の生着の速度は両方とも、洗浄ユニットと比較して増加しており、解凍後の洗浄が実際に造血幹細胞の生着の累積発生率を遅延または減少させることを示す。さらに、解凍後に血漿枯渇UCBユニットを洗浄しないと、有核細胞のより良好な回復が提供され、それによって洗浄したユニットと比較して、投与される有核細胞(TNC)の総投薬量が増加する。
【0032】
ヒト成人末梢血と比較して、ヒト臍帯血は、より豊富な造血原始細胞および多数の内皮原始細胞を含み、これらは、インビトロおよびインビボで強力な複製能力を有する。本明細書に開示されるように、凍結保存された血漿枯渇臍帯血製品のサンプルをアッセイして、R&D Human XL Cytokine Discovery 14 Plexパネルを使用してサイトカインプロファイルを決定した。結果を、表1Aに示す。表に示されているように、抗炎症性サイトカインであるIL-10のレベルは、IL-1-β、IL-2、IL-6、IFN-γ、およびTNF-αなどの炎症性サイトカインのレベルよりも大幅に高くなっている。EGF、FGF-塩基性、VEGF、G-CSF、およびGM-CSFなどの比較的高いレベルの成長因子(GF)が、サイトカイン、IL-1-β、IL-2、IL-4、IL-5、IL-6、IFN-γ、およびTNF-αの成長因子と比較して観察された。PD CB製品における大量のEGF、VEGF、G-CSF、およびIL-10は、発明者らが免疫恒常性を回復するだけでなく、脳卒中患者の損傷した脳神経系の修復を強化することも可能にする。
【表1】
【表2】
【0033】
さらに、臍帯血幹細胞は、増殖して、神経細胞に分化することがわかっており、いくつかの神経変性疾患の治療に効果的であった。脳卒中の場合、臍帯血単核細胞の静脈内注射は、運動能力を回復し、神経保護機能を有し得る。ヒト臍帯血単核細胞の移植後、炎症性因子(TNF-α、IL-1β、IL-2など)のレベルが、抑制された。対照的に、炎症の阻害剤(IL-10、TGF-β1など)のレベルが、増加した。その結果、ヒト臍帯血単核細胞の移植後、抗炎症プロセスは、神経細胞の保護効果を達成する。抗炎症効果があることに加えて、臍帯血単核細胞は、損傷した中枢神経系に自発的に移動し、一部は脾臓に移動し得る。したがって、臍帯血単核細胞は、リンパ球の生合成に関与し得、いくつかの研究は、リンパ球が急性脳卒中ラットの神経保護に関連していることが確認している。静脈内投与による急性虚血性脳卒中におけるヒト臍帯血単球(HUCBM)の第I相臨床試験が、実施される。本開示は、HUCBM療法の12か月後に右片麻痺からほぼ完全に回復した最初の被験者を報告する。
【0034】
用途
本発明は、対象における心臓血管疾患、脳損傷、または神経変性障害を治療または改善するための組成物および方法を提供する。一実施形態において、対象は、脳内または脳の周りの血流の乱れを有する。好ましくは、損傷または障害は、脳虚血である。そのために、本明細書に記載のUCB細胞を含む治療用組成物は、BBB透過剤とともに患者に全身投与される。BBB透過剤は、治療用組成物の前に、その後に、またはそれと同時に対象に投与することができる。
【0035】
したがって、有効量のUCB細胞、および任意に有効量のBBB透過剤を含む治療用組成物が、本発明の範囲内にある。一実施形態において、UCB細胞は、ヒト臍帯血から得られ、体積が減少した臍帯血サンプルを含む。さらなる実施形態において、細胞は、有効量の単核細胞を含む。一実施形態において、組成物は、個体への全身投与を目的としているが、他の投与方法が、企図されている。
【0036】
投与される単核細胞の数は、例えば、単回投与において、例えば、1投与あたり約1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×1010、1×1011細胞、少なくとも1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×1010、1×1011細胞、または1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×1010、1×1011超の細胞であり得る。一実施形態において、単核細胞の有効量は、約1×10~1×10細胞であり、より好ましくは、約1×10~約1×10、例えば約2~5×10である。別の実施形態において、単核細胞の有効量は、0.01~2×10細胞/kg、0.02~1×10細胞/kg、および0.5~5×10細胞/kgなどの約0.001~2×10細胞/kgである。
【0037】
本発明はまた、対象における心臓血管疾患、脳損傷、または神経変性障害を治療または改善するための方法も提供する。この方法は、有効量のUCB細胞および有効量のBBB透過剤を、状態または疾患を有する個人に投与することを含む。一実施形態において、UCB細胞は、体積が低減した臍帯血サンプルを含む。さらなる実施形態において、細胞は、有効量の単核細胞を含む。一実施形態において、単核細胞は、ヒト臍帯血から得られた後に凍結することができ、対象に投与する前に解凍する。
【0038】
静脈内投与の場合、複数のUCB細胞は、例えば、約10mL、20mL、30mL、40mL、50mL、60mL、70mL、80mL、90mL、100mL、150mL、または200mL以下を、静脈内注入によって送達することができる。細胞は、任意の医学的に許容可能な期間、注入することができる。例えば、上記の細胞の数を、約15、20、25、30、35、40、45、50、55、または60分以下の過程にわたって、投与する、例えば、静脈内または動脈内に注入することができる。
【0039】
UCB細胞は、脳またはCNS内またはその周辺の血流の乱れを有する個人に、個人における個人の乱れに起因する1つ以上の症状または神経学的欠損、例えば、低酸素損傷または無酸素損傷が発現した後の任意の時点で投与され得る。例えば、UCB細胞は、個人が示す最初の症状または神経学的欠損の発症の最初の21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、または2日以内に投与され得る。好ましくは、細胞は、個人における最初の検出可能な症状または神経学的欠損の発症の最初の8、9、または10日以内に投与される。治療は、未治療の個人における脳梗塞の体積と比較して、脳梗塞の体積の低減をもたらすと企図される。一実施形態において、体積は、約10%、15%、20%、25%、30%、35%、または40%超低減する。
【0040】
上記の組成物および方法を使用して、獣医(非ヒト動物)患者を含む患者を治療して、細胞療法が適用可能な様々な病的状態の症状を緩和することができる。例えば、本発明の細胞は、脳虚血または脳梗塞などの神経学的障害または損傷;ハンチントン病、アルツハイマー病、およびパーキンソン病などの神経変性疾患;外傷性脳損傷;脊髄損傷;てんかん;テイ・サックス病;リソソーム蓄積症;筋萎縮性側索硬化症;髄膜炎;多発性硬化症およびその他の脱髄性疾患;神経因性疼痛;トゥレット症候群;運動失調、アルコール依存症などの薬物添加;薬剤耐性;薬物依存;うつ;不安;ならびに統合失調症の症状を緩和するために患者に投与され得る。本発明の好ましい実施形態において、細胞は、脳卒中、脳虚血、または脳梗塞の症状を緩和するために投与される。
【0041】
特に、本発明は、患者における遺伝的欠陥、身体的損傷、環境障害、または脳卒中、心臓発作、もしくは心血管疾患による(多くの場合、虚血による)損傷の結果として生じる脳または脊髄の神経学的損傷を治療する方法に関するものである。この方法は、有効な数または量のUCB細胞を患者に投与することを含み、BBB透過剤が患者に同時投与される。本発明の一態様では、UCB細胞は、例えば、患者の脳または脊髄に移植され得るか、あるいは、動脈内または静脈内投与などであるがこれらに限定されない全身投与され得る。
【0042】
脳卒中の治療
本発明の組成物および方法は、脳卒中の治療に使用され得る。好ましくは、組成物および方法は、脳卒中の直後から脳卒中の約28日後(例えば、約8、9、または10日)まで利用される。1つの好ましい実施形態において、本発明の組成物および方法は、使用において、t-PAが制限される脳卒中から3時間後のウィンドウに限定されない。
【0043】
本明細書で提供される方法に従って治療可能な脳卒中は、任意の原因に起因する脳卒中であり得る。一実施形態において、脳卒中は、虚血性脳卒中であり得る。虚血性脳卒中は、血栓性脳卒中または塞栓性脳卒中であり得る。別の実施形態において、脳卒中は、全身性低灌流、すなわち、体のすべての部分への血流の減少に起因し得る、または静脈血栓症に起因するものである。他の実施形態において、虚血性脳卒中は、心臓の細動、例えば、心房細動;発作性心房細動;リウマチ性疾患;僧帽弁または大動脈弁疾患;人工心臓弁;心房または心房の心臓血栓;洞不全症候群;持続的な心房粗動;心筋梗塞;28%未満の駆出率を伴う慢性心筋梗塞;30%未満の駆出率を伴う症候性うっ血性心不全;心筋症;心内膜炎、例えば、リブマンサックス心内膜炎、衰弱性心内膜炎、もしくは感染性心内膜炎;乳頭状弾性線維腫;左心房粘液腫;冠状動脈バイパス移植手術;僧帽弁輪部石灰化症;卵円孔開存;心房中隔動脈瘤、血栓のない左心室動脈瘤、僧帽弁狭窄症もしくは心房細動のない心エコー検査での孤立した左心房脳卒中;および/または上行大動脈もしくは近位アーチの複雑なアテロームによって引き起こされる。
【0044】
別の実施形態において、脳卒中は、出血性脳卒中であり得る。出血性脳卒中は、軸内出血(脳内の血液の漏出)によって引き起こされ得る。出血性脳卒中は、軸外出血(頭蓋骨の内側であるが脳の外側の血液)によっても引き起こされ得る。さらに特定の実施形態において、脳卒中は、実質内出血、脳室内出血(心室系の血液)、硬膜下血腫(硬膜と頭蓋骨の間の出血)、硬膜下血腫(硬膜下腔の出血)、またはくも膜下出血(くも膜と軟膜の間)によって引き起こされ得る。ほとんどの出血性脳卒中症候群は、特定の症状(例えば、頭痛、以前の頭部損傷)を有する。他のより多くの実施形態において、出血性脳卒中は、高血圧、外傷、出血障害、アミロイド血管症、違法な薬物使用(例えば、アンフェタミンまたはコカイン)、または血管奇形によって引き起こされるか、またはそれらに関連し得る。
【0045】
本明細書で提供される治療方法は、脳もしくはCNS内またはその周辺の血流の乱れ、または脳もしくはCNS内またはその周辺の血流の乱れに起因する神経学的欠損、例えば、脳卒中、例えば、低酸素性損傷または無酸素性損傷を引き起こす、1つ以上の症状の排除、検出可能な改善、重度の低下、または進行遅延をもたらす。特定の実施形態において、症状または神経学的欠損は、片麻痺(体の片側の麻痺);片麻痺(体の片側の脱力感);顔の筋力低下;しびれ;感覚の低下;嗅覚、味覚、聴覚、もしくは視覚の変化;嗅覚、味覚、聴覚、もしくは視力の喪失;眼瞼の下垂(眼瞼下垂症);眼筋の弱化;咽頭反射の低下;飲み込む能力の低下;光に対する瞳孔反射の低下;顔の感覚の低下;バランスの低下;眼振;呼吸数の変化;心拍数の変化;胸鎖乳突筋の衰弱と、頭を片側に向ける能力の低下または能力の低下;舌の弱化;失語症(言語を話すまたは理解することができない);失行症(随意運動の変化);視野欠損;記憶障害;半側空間無視または半側空間無視(病変の反対側の視野側の空間への注意の欠如);混乱した思考;錯乱;性欲過剰行為の発生;病態失認(障害の存在が絶えず認識できないこと);歩行困難;運動協調の変化;めまい;不均衡;意識失調;頭痛;および/または嘔吐を含む。
【0046】
脳またはCNS内またはその周辺の血流の乱れの重症度、例えば、脳卒中の重症度、または脳卒中の症状および/または脳卒中に起因する神経学的欠損の重症度は、1つ以上の広く容認されている神経機能スケールを使用して評価することができる。例えば、対象の神経機能は、修正ランキンスケール、NIH脳卒中スケール、カナダ神経スケール(CNS)、グラスゴーコーマスケール(GCS)、ヘンピスフェリック脳卒中スケール、Hunt&Hessのスケール、マシュー脳卒中スケール、ミニメンタルステート検査(MMSE)、オルゴゴゾ脳卒中スケール、オクスフォードシャーコミュニティ脳卒中プロジェクト分類(Bamford)、スカンジナビア脳卒中スケール、日本式昏睡尺度(JCS)、バーセルインデックス、および/または日本脳卒中スケール(JSS)の1つ以上によって評価され得る。特定の実施形態において、改善は、初期評価後、およびUCB細胞の1回以上の投与後、1、2、3、4、5、もしくは6日以内、または1、2、3、4、5、6、8、9、10、11、もしくは12週間以内に検出可能である。
【0047】
本明細書に開示されるように、健康なドナーからの凍結保存された臍帯血単核細胞は、療法の成功を保証するためのより安定した品質を有する。例えば、以下の実施例に示されているのは、急性虚血性脳卒中を患った45~80歳の患者を対象とした第1相試験からの結果である。血漿枯渇で処理した臍帯血ユニットは、ABO/Rhの血液型適合度、HLA6/6適合度、および総有核細胞(例えば、0.5~5×10細胞/kgの間の範囲)に基づいたStemCyteの公共の臍帯血バンクから選択された。この研究の主な目的には、12か月のフォローアップ中の有害事象(AE)および重篤なAE、ならびに輸血後100日以内の移植片対宿主病(GVHD)が含まれた。二次的な目的には、NIHSS、バーセル指数、およびバーグバランススケールの変更が含まれた。示された結果は、同一のABO/Rh、HLA適合度6/6、および使用可能な2.63×10単核細胞を有する登録された46歳の男性から示された結果を含んだ。12か月の観察では、重篤なAEまたはGVHDは見出されなかった。患者のNIHSSは、9から1ポイントに改善し、バーグバランススケールは、0から48ポイントに改善し、バーセル指数は、0から90ポイントに改善した。これらの結果は、同種異系の臍帯血を使用した後、12か月以内に患者の片麻痺がほぼ完全に回復したことを示した。
【0048】
心臓病の治療
本発明の組成物および方法は、心臓病の治療にも使用され得る。好ましくは、この組成物および方法は、疾患の発症直後から利用される。
【0049】
本開示のいくつかの実施形態は、対象において心筋再生を促進するための方法に関する。この方法は、対象に、本明細書に開示されるように治療用組成物を投与または提供することを含む。いくつかの実施形態において、本明細書に開示される対象における心臓病を治療するかまたは心筋再生を促進するための方法は、任意に、心臓病を有するまたはそれを有すると疑われるものとして対象を特定または選択するプロセスを含む。特定または選択するプロセスは、1つ以上の治療用組成物および治療薬または療法を投与する前に実施することができる。
【0050】
いくつかの実施形態において、心臓病は、心筋梗塞、虚血性心疾患、心不全(例えば、うっ血性心筋症)、虚血性心筋症、肥大性心筋症、拘束型心筋症、アルコール性心筋症、ウイルス性心筋症、頻脈媒介性心筋症、ストレス誘発性心筋症、アミロイド心筋症、不整脈誘発性右心室異形成、左心室非圧密、心内膜線維弾性症、大動脈狭窄症、大動脈弁逆流、僧帽弁狭窄症、僧帽弁逆流、僧帽弁逸脱症、肺動脈弁狭窄症、肺動脈弁狭窄症、肺動脈弁逆流症、三尖性狭窄症、三尖弁逆流、先天性障害、遺伝性障害、またはこれらの組み合わせである。いくつかの特定の実施形態において、心臓病は、心筋梗塞である。いくつかの他の特定の実施形態において、心臓病は、心筋再生が必要とされる虚血性心疾患である。
【0051】
BBB透過剤
本明細書で使用される場合、「血液脳関門透過剤」または「BBB透過剤」という用語は、血液脳関門を破壊することができる物質である。一実施形態において、破壊は、一時的なものである。UCB細胞とともに投与されるBBB透過剤の量は、BBBを破壊し、神経栄養性成長因子が増加した量で脳に入るのを可能にし、および/または細胞が脳に入るのを可能にするのに有効な量である。一実施形態において、BBBは、投与後0~10日で測定されたときに、神経栄養因子または細胞の脳への侵入の増加を可能にする。
【0052】
様々なBBB透過剤が、当該技術分野で知られている。BBB透過剤は、マンニトール、セレポート、脂溶性小分子、グルコース、アミノ酸、ジヒドロキシフェニルアラニン、コリン、およびプリン塩基ならびにヌクレオシドまたはそれらの誘導体からなる群から選択されるものであり得る。一実施形態において、BBB透過剤は、マンニトールである。別の実施形態において、BBB透過剤は、セレポートである。マンニトールは、約0.1M~約10M、例えば、約0.5~5M、または約1.0M~2.0Mの濃度で投与され得る。一実施形態において、マンニトールの濃度は、約1.07M(または20%)である。セレポートは、約1μg/kg~約50μg/kg、例えば、約5~20μg/kgの濃度で投与され得る。一実施形態において、セレポートの濃度は、約9μg/kgである。
【0053】
BBB透過剤は、UCB細胞とほぼ同時に対象に投与されることが企図されているが、BBBは、細胞とは別の組成物で投与され得る。BBB透過剤は、細胞の投与の前、それと同時に、またはその後に投与され得ることが企図される。加えて、本発明の方法は、最初の投与から約1~72時間後に、さらなる細胞の投与を伴ってまたは伴わずにBBB透過剤を個人に再投与すること、またはその後、脳卒中の結果に応じて毎日、毎週、毎月、または毎年投与することをさらに含み得ることが企図される。
【0054】
追加の治療薬
本明細書に記載される治療方法は、対象への1つ以上の第2の治療薬の投与をさらに含むことができる。そのような第2の治療薬は、UCB細胞の投与前、細胞の投与中、または細胞の投与後に投与することができる。第2の治療薬は、細胞が投与されるより少なく、より多く、または同じ回数投与することができる。
【0055】
第2の治療薬は、脳またはCNS内またはその周辺の血流の乱れを有する個人に治療上の利益をもたらす任意の薬剤であり得る。一実施形態において、治療薬は、脳卒中、低酸素損傷または無酸素損傷を治療するために使用される薬剤、例えば、薬物である。特定の実施形態において、第2の治療薬は、神経保護剤である。
【0056】
個人が出血性脳卒中を患う一実施形態において、第2の治療薬は、前記個人の血圧を低下させる治療薬であり得る。いくつかの実施形態において、第2の治療薬は、降圧薬、例えば、β遮断薬または利尿薬、利尿薬とカリウム保持性利尿薬の組み合わせ、β遮断薬と利尿薬の組み合わせ、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤と利尿薬、アンジオテンシンIIアンタゴニストと利尿薬、および/またはカリウムチャネル遮断薬とACE阻害剤の組み合わせであり得る。別の実施形態において、第2の治療薬は、頭蓋内圧を低下させるために投与することができる。より具体的な実施形態において、第2の治療薬は、利尿薬であり得る。
【0057】
有用な追加の治療薬には、抗血小板療法、血栓溶解、一次血管形成術、ヘパリン、硫酸マグネシウム、インスリン、アスピリン、コレステロール低下薬、およびアンジオテンシン受容体遮断薬(ARB)も含まれるが、これらに限定されない。特に、ACE阻害剤は、慢性心不全および高リスクの急性心筋梗塞を有する患者を治療するために使用される場合に明確な利点を有する。これは、おそらく、ACE阻害剤が、アンジオテンシンIIによる炎症性サイトカインの生成を阻害するからである。追加の治療薬および療法の非限定的な列挙には、ACE阻害剤、例えば、カプトプリル、エナラプリル、リジノプリル、もしくはキナプリル;アンジオテンシンII受容体遮断薬、例えば、バルサルタン;β遮断薬、例えば、カルベジロール、メトプロロール、およびビソプロロール;血管拡張薬(一酸化窒素を介する)、例えば、ヒドララジン、硝酸イソソルビド、および一硝酸イソソルビド;スタチン、例えば、シンバスタチン、アトロバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、ロスバスタチン、もしくはプラバスタチン;抗凝固薬、例えば、アスピリン、ワルファリン、もしくはヘパリン;または変力薬、例えば、ドブタミン、ドーパミン、ミルリノン、アムリノン、ニトロプルシド、ニトログリセリン、もしくはネシリチド;強心配糖体、例えば、ジゴキシン;抗不整脈薬、例えば、ベラパミルおよびジルチアゼムなどのカルシウムチャネル遮断薬、またはクラスIII抗不整脈薬、例えば、アミオダロン、ソタロール、もしくはデフェチリド(defetilide);利尿薬、例えば、フロセミド、ブメタニド、もしくはトルセミドなどのループ利尿薬、ヒドロクロロチアジドなどのチアジド利尿剤、スピノロラクトンもしくはエプレレノンなどのアルドステロンアンタゴニストが含まれる。あるいはまたはさらに、心臓病の他の処置、例えば、ペースメーカー、除細動器、カウンタパルセイションデバイス(大動脈内バルーンポンプまたは非侵襲性カウンタパルセイション)などの機械的循環補助、心肺補助装置、または左心室補助装置、手術、例えば、心臓移植、心肺移植、もしくは心臓腎移植、または免疫抑制剤、例えば、ミコフェノール酸モフェチル、アザチオリン、シクロスポリン、シロリムス、タクロリムス、コルチコステロイド抗胸腺細胞グロブリン、例えば、サイモグロブリンもしくはATGAM、OKT3、IL-2受容体抗体、例えば、バシリキシマブまたはダクリズマブもまた、好適である。
【0058】
投与された細胞が治療される対象に対して自己移植ではない実施形態において、第2の治療薬は、免疫抑制剤であり得る。免疫抑制剤は、当該技術分野で周知であり、例えば、抗T細胞受容体抗体(モノクローナルもしくはポリクローナル、またはその抗体断片もしくは誘導体、例えば、ムロモナブ-CD3)、抗IL-2受容体抗体(例えば、バシリキシマブ(SIMULECT)またはダクリズマブ(ZENAPAX)、アザチオプリン、コルチコステロイド、シクロスポリン、タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチル、シロリムス、カルシニューリン阻害剤などを含む。特定の実施形態において、免疫抑制剤は、コルチコステロイド、またはマクロファージ炎症性タンパク質(MIP)-1αもしくはMIP-1βに対する中和抗体であり得る。
【0059】
本明細書に開示される治療用組成物、薬学的製剤、および追加の治療薬または療法は、特定の意図された用途に適した最終的な薬学的調合剤に製剤化され得る。いくつかの実施形態において、治療用組成物および追加の治療薬または療法は、単一の製剤で投与され得る。いくつかの実施形態において、治療用組成物および追加の治療薬または療法のそれぞれは、別個の製剤で投与される。本明細書に開示される方法のいくつかの実施形態において、治療用組成物および/または追加の治療薬もしくは療法は、単回用量で対象に投与され得る。いくつかの実施形態において、治療用組成物および/または追加の治療薬もしくは療法は、複数の投薬量で対象に投与され得る。いくつかの実施形態において、投薬量は、互いに等しい。いくつかの実施形態において、投薬量は、互いに異なる。いくつかの実施形態において、治療用組成物および/または追加の治療剤もしくは療法は、経時的に徐々に増加する投薬量で対象に投与される。いくつかの実施形態において、治療用組成物および/または追加の治療薬もしくは療法は、経時的に徐々に減少する投薬量で投与される。
【0060】
適合性
本発明の一態様において、ドナー細胞源の適合性は、ドナー細胞とレシピエントとの間のHLA視差を評価することによって実施することができる。ある特定の態様において、ドナー細胞の移植は、ドナー細胞移植片が、HLA-A、HLA-B、およびHLA-DRB1の6つのHLA遺伝子座のうちの4つ以上で適合する場合にのみ行われる。
【0061】
本発明の他の実施形態において、細胞は、現在臨床的に行われている標準的なHLA適合度を使用して適合され得る。臍帯血に許容される適合度の度合いは、HLA-A、HLA-B、およびHLA-DRB1から選択された4/6遺伝子座であり得る。HLA-AおよびHLA-Bは、標準的な2段階の補体依存性微小細胞毒性アッセイ、および世界保健機関(WHO)のHLA命名委員会によって定義されたとおりに割り当てられた抗原を使用して分類され得る。HLA-DRB1タイプは、必要に応じてシークエンシングを行い、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で増幅されたDNAと配列特異的オリゴヌクレオチドプローブ(SSOP)のハイブリダイゼーションによって決定され得る。
【0062】
したがって、本発明の実施形態において、HLA 4/6遺伝子座適合性および/または混合リンパ球反応適合性のいずれかと適切に適合されたレシピエントへの臍帯血またはその画分の投与が含まれる。
【0063】
以下の実施例は、いかなる洗浄ステップも実行することなく、本発明の血漿枯渇凍結保存された臍帯血ユニットの解凍および直接注入のための例示的なプロトコルを示す。洗浄することなく直接注入する方法では、洗浄ステップがないために細胞の損失が最小限に抑えられ、再構成のより長い操作を未然に防ぐ。StemCyteの臍帯血製品を使用する移植センターから入手可能な臨床データは、DMSO、赤血球、および溶解ヘモグロビンの量が多く、患者によっては臨床的に重要な事象を引き起こし得るものの、洗浄後の注入製品と比較して優れた結果をもたらすことができることを示している。StemCyteの臍帯血製品は、赤血球が減少していないため、他の銀行の臍帯血ユニットとは異なり、したがって、StemCyteのプロトコルに従って製品の正しい投与を確実にすることが重要である。
【0064】
製品は希釈されておらず、細胞毒性の高い10%DMSOにさらされているため、解凍から注入までの時間を最小限に抑える必要があり、したがって、解凍の開始から20分以内に注入を完了させる必要がある。注入中、解凍された製品の粘度により、点滴重力式点滴がうまく機能しない場合がある。注入の有害な遅延を回避するために、大きな(60cc以上)シリンジおよび広穿孔(wide bore)針による点滴プッシュが必要になる場合がある。
【0065】
ABO/Rh不適合である可能性のある大量のDMSOおよび溶解・無傷の赤血球を含む任意の凍結保存された造血幹細胞製品の投与により予想され得る有害反応の可能性のため、治療/移植センターは、前投薬、患者のモニタリングおよび予想される有害反応のいずれかを治療するための介入に関する独自の内部プロトコルに従う必要がある。治療/移植センターは、ABO/Rh適合検査、HLA適合検査、生存率、CBC、CD34+細胞の列挙、クローン形成能などを含むがこれに限らず、臍帯血製品の解凍後の検査について独自の内部プロトコルに従うべきである。しかしながら、使用されるプロトコルによっては、CFUアッセイは、より高い細胞密度を有するStemCyteの臍帯血ユニットの真の機能的能力を計数するために最適化されない場合がある。移植センターは、解凍後のStemCyteの臍帯血ユニットのCFU試験のプロトコルについてStemCyteまたはStem Cell Technologiesに問い合わせることができる。
【0066】
添付されたセグメントは、HLAまたはABO/Rhタイプの同一性検査、CFU、CD34+および/TNC(総有核細胞)カウント、ならびに微生物検査の目的で使用され得る。サンプリングサイトカプラーは、サンプル検査のためにCBU凍結バッグまたは最終的な解凍/洗浄されたCBUバッグのいずれかに挿入され得る。サンプリングのために除去された臍帯血の量は、移植施設の判断に委ねられている。臍帯血製品、空の輸液バッグ、および臍帯血製品に接触したすべての備品は、連邦、州、地方、および/または施設の要件に従って生物医学的廃棄物として処分すること。
【0067】
細胞注入後に有害反応が起こり得る。本明細書に記載された副作用のすべてが起こるとは限らないが、もし副作用が起こった場合には、すぐに患者の医師または看護師からの医学的な配慮が必要であり得る。
【0068】
軽度から中等度:
高頻度:吐き気、嘔吐、高血圧、低血圧、徐脈、血色素尿症、震え、スイートクリームコーンまたはニンニクの味(DMSOの有効期限から)。
低頻度:頭痛、腹部けいれん、下痢、顔面紅潮、悪寒、発熱、顔面紅潮、胸部圧迫感、めまい、脳症、発作、徐脈、高ビリルビン血症、血清トランスアミナーゼレベルの上昇。
【0069】
重度から生命を脅かすまで:
極めて稀であり(1,410人の患者の最大の公表された研究では約0.4%)、通常は自己限定的である:
心臓-徐脈、心臓ブロック、不整脈、ショック、および心停止。
神経学的-脳症(おそらく、2g DMSO/kgレシピエント体重以上に関連し、血漿交換によって治療可能)、発作(おそらく、3.7×108有核細胞/ml以上の非常に高い細胞濃度に関連する;StemCyteの製品は、通常、この濃度の10分の1である)。
肺-呼吸抑制。
免疫学-アナフィラキシー反応。
腎-高濃度の遊離ヘモグロビンによる急性腎不全(抗ヒスタミン薬およびコルチコステロイドによる前投薬、適切な水分補給、尿中アルカリ化、マンニトール利尿により軽減)。
【0070】
潜在的な副作用の原因は、次のとおりである:
DMSO毒性:
ヒトに対するDMSOの急性毒性用量は決定されていないが、DMSOの静脈内投与で報告されているLD50値(試験動物の50%を殺すのに必要なDMSOの量)は、マウスで3.1~9.2g/kg、イヌで2.5/kg、サルで11g/kg超である(参照文献10.14)。ほとんどの公表された報告は、DMSOの投与量を1g/kgレシピエント体重以下に押させている(参照文献10.8)。典型的なStemCyte臍帯血ユニットでは、DMSOの最大投与量は、7.5(1バッグ)~15.0g(2バッグ)となるため、腎機能が低下した患者および小柄な患者(1バッグで7kg未満、2バッグの同時投与で15.0kg未満)で、十分な細胞量の確保に問題がない場合は、製品の洗浄が強く推奨される。文献によると、10%DMSO凍結保存幹細胞製品の推奨注入速度は、1分間に5~20mlとされており、当社では1分間に5~10mlの注入速度を推奨している。
【0071】
体積過剰:
輸血する最大量は、5~15ml/kg/用量の範囲にすることを強く推奨する。
【0072】
主なABO式血液型不適合:
臍帯血移植において、患者とドナーのABO式血液型不適合は問題として報告されていないが、主な血液型不適合の場合(例えば、患者が血液型Oであり、臍帯血はO型でない)、以下の追加情報が提供される。大量の主なABO不適合赤血球の輸血が、抗Aおよび/または抗Bの有意な力価を有する患者に輸血反応を引き起こすことが知られているが、Bensingerら(Transplantation 33:427-429(1982))は、レシピエントの抗Aおよび抗Bヘマグルチニン力価が1:16以下であれば、ABO不適合RBCのユニットすべてを安全に輸血され得ると述べている。Sauer-Heilbornら(Transfusion 44:907-916(2004)は、ABO不適合の末梢血幹細胞および骨髄ユニットの輸血の経験を説明し、BM成分(RBC体積300~400ml)と比較してPBSCユニット(RBC体積75~100ml)のリスクが低いと述べている。StemCyte臍帯血ユニットのRBCの量は、約40~100mlである(処理後)。この量のRBCが深刻な副作用を引き起こすことは知られていないが、まれに、体温の上昇、脈拍の増加、および筋肉の痛みなどの症状が発生し得る。臍帯血サンプルの溶血のため、暗色または赤色の尿および血漿が予想される。
【0073】
ABO不適合のRBCを含む幹細胞製品の注入に関する追加の公開された経験を以下に示す:Dinsmoreら(Br J Haematol.1983;54:441-449)は、それぞれ、68mlおよび45mlのRBCを投与された2人の患者が、腎機能障害を伴わずに一過性血色素尿症を発症したと報告した。さらに7人の患者が微熱を発症し、10人の追加の患者は副作用を経験しなかった。Warkentin et al Vox Sang.1985;48:89-10は、最大21mlのRBCを含む骨髄製品が、一部の患者で溶血の測定可能な証拠をもたらしたが、臨床的に重症であると判断された反応を示した患者はいなかったと報告した。Braineら(Blood 1982;60:420-425)は、最大38mlのABO不適合RBCを含むユニットの輸血後の25人の患者のうち10人に症候性反応を報告した。症状には、一過性の発熱、高血圧、悪寒、血色素尿症、徐脈、および錯乱が含まれた。
【0074】
患者を注意深く監視しながら、注入速度を約5~10ml/分にすることを推奨する。Sauer-Heilbornら(Transfusion 2004;44:907-916)は、患者に解熱剤および/または抗ヒスタミン剤を前投与し、十分に水分補給すべきであると推奨した。他の研究者らはまた、コルチコステロイドも前投与する。副作用は、通常、注入中に発生し、注入を停止すると解消する。しかしながら、一部の反応は、注入の完了後6~7時間で発生する可能性があるため、その期間中は患者を監視する必要がある。重大な副作用は、臍帯血バンクに報告する必要がある。
【0075】
一般的な前投薬レジメンには、十分な水分補給(特に主要なABO不適合を伴う)、抗ヒスタミン薬(特に主要なABO不適合を伴う)、コルチコステロイド、マンニトール、制吐薬、および解熱薬(特に主要なABO不適合を伴う)が含まれる。有害事象に対する一般的な治療的介入には、利尿薬(体液量過剰)、抗けいれん薬(発作)、アトロピン(徐脈)、血漿交換(脳症(eencephalopathy))、O(肺うつ病)、および麻薬(nnarcotic)が含まれる。
【0076】
定義
「臍帯血」または「UCB」という用語は、本明細書では、新生児または胎児、最も好ましくは新生児から得られる血液を指し、好ましくは、臍帯または新生児の胎盤から得られる血液を指す。好ましくは、臍帯血は、ヒト新生児から単離される。単核細胞の供給源としての臍帯血の使用は、それが比較的容易に、かつドナーへの外傷なしに得ることができるため有利である。対照的に、ドナーからの骨髄細胞の収集は、外傷的経験である。臍帯血細胞は、必要に応じて、自家移植または同種移植に使用され得る。臍帯血は、好ましくは、臍帯からの直接排液および/または娩出された胎盤の根および膨張した静脈からの針吸引によって得られる。本明細書で使用される場合、「臍帯血細胞」という用語は、臍帯血内に存在する細胞を指す。一実施形態において、臍帯血細胞は、当業者に知られている方法を使用して、臍帯血からさらに単離される単核細胞である。さらなる実施形態において、臍帯血細胞は、患者に投与する前に、さらに拡大および/または分化され得る。
【0077】
本明細書で使用される「臍帯血ユニット」および「UCBユニット」という用語は、単一のドナーから収集される臍帯血の体積を指す。本発明のUCB組成物は、典型的に、1つのUCBユニットを含むが、複数のUCBユニット、例えば、細胞投薬量をさらに増加させるために患者に投与することができる二重臍帯血ユニットも含み得る。
【0078】
「臍帯血幹細胞」という用語は、出産時に収集されたヒト臍帯血および/またはヒト胎盤血に由来する、造血幹細胞に富む、または造血幹細胞および前駆細胞に富む集団を指す。造血幹細胞、または造血幹細胞と前駆細胞は、他のタイプの造血細胞と比較して、造血幹細胞または造血幹細胞と前駆細胞で増加したレベルで発現される特定のマーカーに対して陽性であり得る。例えば、そのようなマーカーは、CD34、CD43、CD45RO、CD45RA、CD59、CD90、CD109、CD117、CD133、CD166、HLA DR、またはそれらの組み合わせであり得る。さらに、造血幹細胞、または造血幹細胞と前駆細胞は、他のタイプの造血細胞と比較して、発現されたマーカーに対して陰性であり得る。例えば、そのようなマーカーは、Lin、CD38、またはそれらの組み合わせであり得る。特定の実施形態において、造血幹細胞、または造血幹細胞および前駆細胞は、CD34+細胞である。
【0079】
「幹細胞」という用語は、無期限に分裂し、特殊な細胞を生じさせる能力を有する任意の細胞を指す。幹細胞は、すべての胚葉(すなわち、外胚葉、中胚葉、および内胚葉)から発出する。幹細胞の典型的な供給源には、胚、骨髄、末梢血、臍帯血、胎盤血、および脂肪組織が含まれる。幹細胞は、万能性(pluripotent)であり、これは、それらが生物体のほとんどの組織を生成し得ることを意味する。例えば、万能性幹細胞は、皮膚、肝臓、血液、筋肉、骨などの細胞を生み出すことができる。対照的に、多能性(multipotent)または成体幹細胞は、通常、限られた種類の細胞を生み出す。例えば、造血幹細胞は、通常、リンパ系、骨髄系、および赤芽球系の細胞を生み出す。生存細胞は、生きており、しばしば、増殖および分裂が可能である細胞である。当業者は、例えば、トリパンブルー色素を排出する能力によって、生物の生存能力を判定するための方法を承知している。本明細書で使用される幹細胞という用語は、特に断りのない限り、前駆細胞を含む。
【0080】
「有核細胞」とは、核を有する細胞、すなわち染色体DNAを含む細胞小器官を指す。有核細胞には、例えば、白血球および幹細胞が含まれる。「無核細胞」には、例えば、成体赤血球が含まれる。
【0081】
本明細書で使用される場合、「血漿が実質的に枯渇している」および「血漿が枯渇している」という用語は、約40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、または95%を超える血漿の体積が取り除かれた本発明の臍帯血組成を指す。好ましい実施形態において、血漿は、臍帯血-抗凝固剤混合物を遠心分離し、血漿画分から細胞画分を分離することによって実質的に枯渇させる。実質的な枯渇後に残っている血漿の体積は、典型的には、約0体積%から約30体積%、好ましくは約10体積%から約30体積%である。
【0082】
本明細書で使用される「非赤血球枯渇」および「赤血球が枯渇していない」という用語は、赤血球の体積の約30%、25%、20%、15%、10%、5%、4%、3%、2%、または1%未満が取り除かれた、臍帯血組成を指す。本明細書で使用される場合、「赤血球が実質的に枯渇している」および「赤血球が枯渇している」という用語は、約30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、または95%を超える赤血球の体積が取り除かれた処理された臍帯血ユニットを指す。本発明は、臍帯血ユニットから赤血球を除去するステップを含まないが、当業者は、血漿ユニットを枯渇させるステップおよび/または任意の他の処理ステップが、少容量の赤血球を除去し得ることを理解するであろう。
【0083】
本明細書で使用される場合、「凍結防止剤」という用語は、凍結された時の細胞の生存能力を強化するために使用される薬剤を指す。凍結防止剤には、ジメチルスルホキシド(DMSO)、グリセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ホルムアミド、およびヒドロキシエチルスターチ(HES)が含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、デキストラン(例えば、Gentran 40)などの低分子量多糖を、凍結防止剤混合物に添加する。好ましい実施形態において、凍結防止剤溶液は、例えば、50%DMSO対5%Gentran 40などのDMSO対Gentran 40を約10:1の比(体積/体積)で含み、これを、臍帯血および抗凝固剤混合物に添加して、約5%~約10%のDMSOの最終濃度を得る。
【0084】
細胞に関して本明細書で交換可能に使用される「増殖(proliferation)」および「増殖(expansion)」という用語は、分裂による同じタイプの細胞の数の増加を指す。「分化」という用語は、細胞が特定の機能に特化するようになる発達過程を指し、例えば、細胞は、最初の細胞型のものとは異なる1つ以上の形態学的特徴および/または機能を獲得する。臍帯血幹細胞増殖の方法は当該技術分野で知られている。このような増殖技術には、米国特許第7,399,633号、WO/2013/086436、WO/2013/179633、米国特許出願第2018/0353541号、Delaney et al.,2010,Nature Med.16(2):232-236、Zhang et al.,2008,Blood 111:3415-3423、およびHimburg et al.,2010,Nature Med.16,475-482に記載されているものが含まれる。
【0085】
本明細書で使用される場合、「治療すること」または「治療」は、障害、障害の症状、障害に続発する病態、または障害に対する素因を、治癒する、軽減する、緩和する、治療する、その発症を遅延する、予防する、または改善する目的での、障害を有する、または障害を発症するリスクがある対象への化合物または薬剤の投与を指す。「予防する」、「予防すること」、「予防」、「予防的治療」等の用語は、障害または状態を発症していないが、発症するリスクがあるかまたは発症しやすい対象において障害または状態を発症する可能性を低減することを指す。「改善する」とは、一般に、疾患または障害の徴候または症状の数または重症度の低下を指す。
【0086】
「予防的治療」は、状態の兆候または症状を示さない対象に施される治療を含み、その状態の発症のリスクを減少、予防、または減少させる目的で治療が施される。「治療的治療」は、状態の症状または徴候を示す対象に投与される治療を含み、状態の重症度または進行を軽減する目的で対象に投与される。治療的治療はまた、状態を部分的または完全に解決することができる。
【0087】
薬剤、例えば細胞の「有効量」は、所望の効果、例えば、疾患または疾患に関連する症状の予防または治療を生じさせるのに十分な量である。治療上有効な量の細胞は、個人の年齢および/またはサイズ、ならびに虚血領域のおおよその体積に応じて異なり得る。虚血領域のおおよその体積および位置は、例えば、連続磁気共鳴画像画像またはコンピュータ断層撮影(CT)スキャンによって推定することができる。
【0088】
本明細書で使用される場合、「投与すること」という用語は、任意の好適な経路による本発明の組成物の送達を指す。本発明の細胞は、非経口(静脈内および動脈内ならびに他の好適な非経口経路を指すような用語)、冠動脈内、心筋内、髄腔内、脳室内、実質内(脊髄、脳幹、または運動皮質を含む)、嚢内、頭蓋内、線条体内、黒質内、鼻腔内、腹腔内、筋肉内、皮下、皮内、経皮、または経粘膜投与を含むが、これらに限定されない、いくつかの経路で投与することができ、とりわけ、この用語は、本発明の細胞が必要な最終的な部位に移動することが可能である。好ましくは、患者には、本発明の方法に従って調製された1つ、2つ、3つ、またはそれ以上の臍帯血ユニットが注入される。二重臍帯血ユニットなどの複数のユニットを、患者に、同時にまたは連続して(例えば、数分間、数時間、または数日間にわたる過程にわたって)投与することができる。
【0089】
投与は、しばしば治療される疾患または状態に依存し、好ましくは、非経口経路を介して、例えば、静脈内に、脳脊髄液に投与することによって、または脳の罹患組織に直接投与することによって行うことができる。脳卒中の場合、好ましい投与経路は、脳卒中の場所に依存するが、罹患組織(MRIまたは他の画像診断技術を使用して容易に決定され得る)への直接投与であり得るか、または全身投与され得る。本発明の好ましい実施形態において、個々の脳卒中後を治療するための投与経路は、静脈内または動脈内投与を介した全身投与である。
【0090】
本発明の細胞は、無傷の臍帯血またはその画分(このような用語は、高濃度の幹細胞または前駆細胞を含む、その単核画分または単核細胞の画分を含む)の形態で投与することができる。本発明による組成物は、動員剤または分化剤による処理なし(「未処理」、すなわち、臍帯血サンプル内の細胞の分化を促進するためのさらなる処理なし)あるいはニューロンおよび/またはグリアの表現型などの分化した表現型を示す細胞に分化させるために臍帯血サンプル内のある特定の幹および/または前駆細胞を生じさせる分化剤または他の薬剤を用いた処理後(「処理済み」)に使用することができる。
【0091】
「移植する(grafting)」および「移植する(transplanting)」および「移植片(graft)」および「移植(transplantation)」という用語は、患者の中枢神経系への損傷の修復(損傷によって引き起こされる認知または行動の欠陥を減らすことができる)、神経変性疾患の治療、または脳卒中、心臓血管疾患、心臓発作もしくは身体的傷害もしくは外傷もしくは遺伝的障害、または脳および/もしくは脊髄に対する環境的傷害によって引き起こされる神経障害の効果の治療など、細胞が好ましい効果を発揮することが意図されている部位に細胞が送達されるプロセスを説明するために使用される。細胞はまた、移植を達成するために、適切な領域への細胞の移動に依存して、上記のような任意の投与様式によって、体の遠隔領域に送達することもできる。好ましくは、細胞は、血液脳関門透過剤で投与することができる。
【0092】
「神経変性疾患」という用語は、中枢神経系への損傷によって引き起こされ、本明細書に記載の細胞の投与によって損傷を軽減および/または緩和することができる疾患を説明するために本明細書で使用される。例示的な神経変性疾患には、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側方硬化症、アルツハイマー病、レット症候群、リソソーム蓄積症(例えば、Folkerth,J.Neuropath.Exp.Neuro.,September 1999,58:9によって記載される、「白質病」またはグリア/脱髄疾患)、例えば、サンフィリポ病、ゴーシェ病、テイ・サックス病(βヘキソサミニダーゼ欠損症)、他の遺伝病、多発性硬化症、虚血、事故、環境傷害などによって引き起こされる脳の損傷および/または外傷、脊髄損傷、失調症、ならびにアルコール症が含まれる。加えて、本発明は、患者における脳卒中または心臓発作の中枢神経系に対する影響、そうでなければ、当該患者の脳内の部位への血流の欠如または虚血によって引き起こされるか、あるいは、脳および/または脊髄への身体的傷害によって起きる影響を軽減および/または解消するために使用され得る。神経変性疾患はまた、例えば、自閉症、および統合失調症のような関連する神経疾患を含む神経発達疾患も含む。
【0093】
「治療用組成物」または薬学的組成物」という用語は、組成物をインビボまたはエクスビボでの診断または治療用途に特に適したものにする、活性薬剤と不活性または活性な担体との組み合わせを指す。
【0094】
本明細書で使用される場合、「治療用細胞」は、患者の状態、疾患、および/または損傷を改善する細胞集団を指す。治療用細胞は、自家(すなわち、患者に由来する)、同種異系(すなわち、患者とは異なる同じ種の個人に由来する)、または異種(すなわち、患者とは異なる種に由来する)であり得る。治療用細胞は、同種(すなわち、単一の細胞型からなる)または異種(すなわち、複数の細胞型からなる)であり得る。「治療用細胞」という用語は、治療的に活性な細胞と、治療的に活性な細胞に分化することができる前駆細胞の両方を含む。
【0095】
「薬学的に許容される」という句は、健全な医学的判断の範囲内で、妥当な利益/リスク比に見合って、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題もしくは合併症なしに、ヒトおよび動物の組織との接触における使用に適した、これらの化合物、材料、組成物および/または剤形を指すように、本明細書で使用される。「薬学的に許容される担体」は、対象に投与された後、または対象において、望ましくない生理学的効果を引き起こさない。薬学的組成物中の担体は、活性成分に適合性があり、それを安定化させることができるという意味においても「許容」されなければならない。1つ以上の可溶化剤を、活性化合物の送達のための薬学的担体として利用することができる。薬学的に許容される担体の例として、限定されないが、剤形として使用可能な組成物を得るための生体適合性のビヒクル、アジュバント、添加剤、および希釈剤が挙げられる。他の担体の例として、コロイド状酸化ケイ素、ステアリン酸マグネシウム、セルロース、およびラウリル硫酸ナトリウムが挙げられる。
【0096】
「対象」という用語は、ヒトおよびヒト以外の動物を含む。治療の好ましい対象はヒトである。本明細書で使用される場合、「対象」および「患者」という用語は、対象が何らかの形態の治療を受けてきているかまたは現在受けているかに関係なく、交換可能に使用される。本明細書で使用される場合、「対象(複数可)」という用語は、哺乳動物(例えば、ウシ、ブタ、ラクダ、ラマ、ウマ、ヤギ、ウサギ、ヒツジ、ハムスター、モルモット、ネコ、イヌ、ラット、およびマウス、非ヒト霊長類(例えば、カニクイザル、チンパンジーなどのサル)およびヒト)を含むが、これらに限定されない任意の脊椎動物を指し得る。一実施形態において、対象はヒトである。別の実施形態において、対象は、実験的な非ヒト動物または疾患モデルとして好適な動物である。
【0097】
「患者」という用語は、本発明による細胞を用いて予防的治療を含む治療が実施される動物、好ましくはヒトを説明するために本明細書で使用される。「ドナー」という用語は、患者に使用するために臍帯血または臍帯血細胞を提供する個体(ヒトを含む動物)を説明するために使用される。
【0098】
本明細書で使用される場合、「心筋症」という用語は、当該技術分野で使用される従来の意味を有する。つまり、一般的に、何らかの理由による、心筋(心臓の筋肉)の機能が低下する。「虚血性心筋症」とは、心筋への不十分な酸素供給に起因する心臓の筋肉の衰弱を指し、一般に、その血液供給の欠如または相対的な不足に起因する。
【0099】
本明細書で使用される場合、「心筋」という用語は、当該技術分野で使用される従来の意味を有する。つまり、一般的に、心臓の筋肉である。対象の心筋への細胞を含む組成物の直接投与は、本発明によって想定され、これは、組成物が、いかなる介在組織(例えば、冠状血管)も横断することなく、投与装置(特に想定される注射カテーテル)から心筋組織に移されることを意味する。「心筋内注射」は、注射による対象の心筋への直接投与を指す。
【0100】
本明細書に開示されるように、いくつかの範囲の値が提供される。文脈上明確に別段の指示のない限り、下限のユニットの10分の1までの、その範囲の上限と下限との間にある各介在値もまた具体的に開示されることを理解されたい。任意の記載される値または記載される範囲内の介在値と、その記載される範囲内の任意の他の記載される値または介在値との間の各小さい範囲は、本発明に含まれる。これらのより小さい範囲の上限および下限は、その範囲に独立して含まれてもまたは除外されてもよく、記載される範囲内に任意の具体的に除外される限界があることを条件として、より小さい範囲にいずれか一方もしくは両方の限界が含まれるか、またはどちらも含まれていない各範囲も本発明に包含される。記載される範囲が限界の一方または両方を含む場合、それらの含まれる限界のいずれかまたは両方を除外した範囲も本発明に含まれる。
【0101】
「約」または「およそ」という用語は、当業者によって決定される特定の値の許容範囲内を意味し、これは、値がどのように測定または決定されるか、例えば、測定システムの限界に一部依存する。例えば、「約」は、所与の値の最大20%、好ましくは最大10%、より好ましくは最大5%、なおもより好ましくは最大1%の範囲を意味することができる。特に記載されない限り、「約」という用語は、特定の値の許容可能な誤差範囲内を意味する。
【実施例
【0102】
実施例1
この実施例は、いかなる洗浄ステップも実行することなく、本発明の血漿枯渇凍結保存された臍帯血ユニットの解凍および直接注入のためのプロトコルを示す。この実施例および実施例2~3では、StemCyteの臍帯血製品が使用されている。
【0103】
サンプル/標本
StemCyte臍帯血ユニットは、DMSOで凍結保存され、-150℃未満で保存される。
【0104】
試薬/機器/供給品
●37℃±2℃の水浴
●止血鉗子またはクランプ
●滅菌水
●水浴内の37℃の温度を測定するために使用される較正済み温度計
●大きなビニール袋、好ましくは滅菌して密封可能。(例えば、ZIPLOC)
●液体窒素貯蔵容器
●アルコールワイプス
●複数の60cc滅菌シリンジ
●滅菌広穿孔針(16または18ゲージ)
●0.9%NaCl注射液500ml中の10%Gentran 40
●50mlの緩衝希釈液中のヒト血清アルブミン(HSA)25%12.5gアルブミン50ml。
【0105】
較正/品質管理
解凍手順は、検証されており、無菌性、実行可能性、およびTNCの最小損失を維持することが示されている。
【0106】
手順
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【0107】
凍結保存された血漿枯渇臍帯血製品のサンプルをアッセイして、R&D Human XL Cytokine Discovery 14 Plexパネルを使用してサイトカインプロファイルを決定した。結果を、上記の表1Aに示す。結果は、抗炎症性サイトカインであるIL-10のレベルは、IL-1-β、IL-2、IL-6、IFN-γ、およびTNF-αなどの炎症性サイトカインのレベルよりも大幅に高くなっていることを示した。加えて、EGF、FGF-塩基性、VEGF、G-CSF、およびGM-CSFである比較的高いレベルのGFが、サイトカイン、IL-1-β、IL-2、IL-4、IL-5、IL-6、IFN-γ、およびTNF-αのGFと比較して観察された。したがって、大量のEGF、VEGF、G-CSF、およびIL-10が、PD CB製品に検出されたため、PD CB製品の注入は、免疫恒常性を回復するだけでなく、急性脳卒中患者の脳の修復を促進し得る。
【0108】
実施例2
この実施例は、急性虚血性脳卒中の成人に対する同種異系PD-UCB注入に関連する第1相臨床試験の設計およびプロトコルを示す。これは、t-PA療法なしで急性脳卒中を持続する45~80歳の患者における多施設共同研究である。下記の試験対象患者基準および除外基準に従って、合計6人の被験者が登録される。被験者には、一連のベースライン神経学的評価、血液検査、およびMRIが施される。臍帯血ユニットは、0.5~5x10の全有核細胞/kgの範囲を標的とする、ABO/Rhの血液型適合度、HLA適合度、および細胞用量に基づいた公共の臍帯血バンクから選択される。
【0109】
StemCyte Taiwanの血漿が枯渇した処理済み臍帯血は、脳卒中後3~10日の間に単回注入として静脈内投与される。被験者は、注入後6時間監視され、24時間後にフォローアップされる。その後のフォローアップ電話は、脳卒中後のリハビリテーションおよび機能に関する電話調査を含め、1、6、および12か月に発生する。90日間のフォローアップクリニック訪問には、神経学的検査、MRI、および血液検査が含まれる。
【0110】
臍帯血ユニットの選択
移植センターからのHLA適合検査を含む被験者の情報を受け取り次第、検索を行う。それに応じて、急性脳卒中臨床試験の要約検索レポートが作成され、以下の基準を満たす候補CBユニットが含まれる:(1)低解像度HLA適合検査で被験者と少なくとも4/6の適合度、(2)被験者とドナーとの間の同一のABO/Rhの血液型、および(3)総細胞(TNC)の単核数が2~5×10である。
【0111】
UCBユニット
PD-UCBユニットは、Stemcyteから入手した。ユニットは、HIV-1/2、HTLV-I/II、HCV、HBc、CMV IgM+IgG、syphilis RPR、HBSAg、およびWNVについてスクリーニングされ、陰性であることが試験された。必要に応じて、UCB細胞を、被験者のABO/RhまたはHLAに適合するように選択された。被験者に同種異系UCBを投与するために、単回静脈内注入が使用された。投与後、被験者に、8±2時間の間隔をおいて、20%マンニトール200mlを30±10分間2回静脈内投与した。あるいは、被験者に、20%マンニトール100ml/60分を4時間ごとに静脈内投与した。どちらも血液脳関門を透過性にするのに効果的であった。
【0112】
対象
虚血性脳卒中の成人に対するUCB注入のこの研究は、それぞれが虚血性脳卒中を経験した6人の成人への単一の同種異系UCBの静脈内注入の安全性および実現可能性を研究する多施設の第I相探索的臨床試験であった。この研究は、Hualien Tzu Chi Hospital,Buddhist Tzu Chi Medical Foundation(Taiwan,Republic of China)で実施された。この研究は、各臨床施設の地域の施設内治験審査委員会によって承認された。
【表7】
【表8】
【0113】
試験期間および進捗状況
試験の各被験者は、試験の開始時から終了までの合計12か月間追跡される。
【0114】
研究デザインおよび手順
細胞の準備および操作:
一度解凍すると、臍帯血細胞の活性が低下し始めるので、臍帯血の解凍プロセスは、病院の現場で実行する必要がある。液体または血液製品を加温するために医療施設で使用される液体加温器を使用して、細胞を解凍することができる。
【0115】
臨床手順
この研究は、個別の方法で実施される第I相研究である。この研究には、6人の被験者が入院している。四肢片麻痺を示す被験者の場合、脳卒中の発症後9日目にUCBを投与した。被験者に同種異系UCB(MNC 2~5×10を含有する)を投与するために、単回静脈内注入が使用される。投与後、被験者に、8±2時間の間隔をおいて、20%マンニトール200mlを30±10分間2回静脈内投与する。あるいは、被験者に、20%マンニトール100ml/60分を4時間ごとに静脈内投与する。
【0116】
以下は、試験および定期検査に参加するための手順である。
1.基本的な情報、健康上の病気の病歴、および投薬の病歴(研究への入院の3か月前までさかのぼる)。
2.バイタルサインの測定。
3.身体検査。
4.以下のための血液検査:
1)組織適合検査HLA-HLA-ABC複数抗原、組織適合検査HLA-HLA-DR複数抗原、およびABO血液型検査(A、B、AB、O血液型判定、RH(D)。
2)CBC-I(WBC、RBC、Hb、Hct、血小板数、MCV、MCH、MCHC)およびWBC白血球百分率。
3)APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)、プロトロンビン時間、ならびにプロトロンビン時間および国際標準化比(INR)。
4)Na(ナトリウム)、K(カリウム)、およびCl(塩化物)濃度、血糖値(acまたはpc)、血清グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ(S-GOT)、血清グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(SGPT)、血中尿素窒素(BUN)、クレアチニン(B)CRTNを含む、血液生化学的検査。
5)赤血球沈降速度(E.S.R)、C.R.P(C反応性タンパク質)-ネフェロメトリー。
6)IL-2、IL-6、IL-10、IL-17、IFN-γ、およびTNF-αを含むサイトカイン。
5.グラスゴーコーマスケール(GCS)。
6.心電図(EKG)。
7.胸部X線。
8.脳MRI。
9.腹部超音波検査。
10.NIHSS、バーグバランススケール(BBS)、およびバーセル指数(BI)。
【0117】
来院1:スクリーニング(以下の活性は病院で実施される):
被験者を調べて、上記の10のカテゴリの情報を取得する。それらの中で、NIHSSは、ベースライン/ベースラインを確立するために24±1時間間隔で2回取得する。
【0118】
来院2:ヒト臍帯血注入(0日目)
1.被験者の同意書に署名されていることを確認する。
2.組織適合検査HLA-HLA-ABC複数抗原によると、組織適合検査
HLA-HLA-DR複数抗原、ならびにABO血液型検査(A、B、AB、O血液型判定、およびRH(D))は、適合する臍帯血ユニットを特定する。適合した凍結臍帯血ユニットを、病院に送る。
3.注入前に、被験者のバイタルサインを監視する。
4.上記の手順に従って、院内検査室で凍結臍帯血ユニットを解凍する。
5.臍帯血(約2~5×10単球を含む)を、1回の注射で静脈内注射する。マンニトール(20%マンニトール、200mlの静脈内、30±10分間)を、2回の注射(8時間±2時間の間隔)で被験者に投与する。投与後、バイタルサインは、以下のように監視される:
.注入開始後15±5分ごとに4回。
.最初のマンニトール注射後1回。
.2回目のマンニトール注射の直前に1回。
.2回目のマンニトール注射後6時間±30分ごとに4回。
【0119】
来院3:回復期間(UCB注入後24±8時間)
UCB注入後24±8時間で、被験者は、以下について確認される:
1.バイタルサイン
2.GCS
3.以下のための血液検査:
1)CBC-I(WBC、RBC、Hb、Hct、血小板数、MCV、MCH、MCHC)およびWBC白血球百分率、
3)APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)、プロトロンビン時間、ならびにプロトロンビン時間および国際標準化比(INR)、
4)Na(ナトリウム)、K(カリウム)、およびCl(塩化物)濃度、血糖値(acまたはpc)、血清グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ(S-GOT)、血清グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(SGPT)、血中尿素窒素(BUN)、クレアチニン(B)CRTNを含む、血液生化学的検査、
5)赤血球沈降速度(E.S.R)、C.R.P(C反応性タンパク質)-ネフェロメトリー、ならびに
6)IL-2、IL-6、IL-10、IL-17、IFN-γ、およびTNF-αを含むサイトカイン。
4.脳MRI、
5.腹部超音波検査、
6.NIHSS、バーグバランススケール(BBS)、およびバーセル指数(BI)、
7.有害事象を観察および記録し、被験者がGVHDであるかどうかを評価する、
8.投薬記録を確認する、ならびに
9.被験者の医療記録を確認し、研究用に匿名でデータを記録する。
【0120】
来院4:回復期間(UCB注入後48±8時間)
UCB注入後48±8時間で、被験者は、来院3の項目1~3および6~9について再度検査される。
【0121】
来院5:回復期間(UCB注入後72±8時間)
UCB注入後72±8時間で、被験者は、来院3の項目1~3および5~9について再度検査される。
【0122】
来院6:回復期間(UCB注入後7±1日または退院の1日前)
被験者は、バイタルサイン、GCS、NIHSS、BBS、BI、有害事象(GVHDを含む)について検査される。被験者の投薬および医療記録も見直される。
【0123】
来院7:観察期間(UCB注入後1か月±7日)
被験者は、バイタルサイン、脳MRI、NIHSS、BBS、BI、有害事象(GVHDを含む)について検査される。被験者の投薬および医療記録が見直され、記録される。
【0124】
来院8、9、10、および11:観察期間(UCB注入後3、6、9、12か月±7日):
被験者は、バイタルサイン、来院3の方法と同じ方法で血液検査、腹部超音波検査(UCB注入後3および12か月±7日)、脳MRI(UCB注入後6および12か月±7日)、NIHSS、BBS、BI、および有害事象(GVHDを含む)について検査される。被験者の投薬および医療記録が見直され、記録される。
【0125】
実施例3
この実施例は、血漿が実質的に枯渇しているが、赤血球が枯渇していない同種異系UCBユニットが、急性虚血性脳卒中の成人患者にとって安全かつ効果的であることを示す。
患者の特徴:
1.年齢:46歳
2.性別:男性
3.脳卒中の設定時間:2019年6月3日午後9時
4.NIHSS:ベースライン8、24時間後9
5.2019年6月6日にICFに登録し、急性脳卒中研究に登録した
6.Dx:左片麻痺を伴う右MCA/ACA梗塞
【0126】
他の身体的病歴:胃潰瘍、高血圧、血液透析(HD)中の末期腎疾患(ESRD)を伴う慢性腎疾患(CKD)2011年以降QW1、3、5、アンギナ、および副甲状腺機能亢進症s/p部分副甲状腺摘出術。
【0127】
患者のHLAタイプに応じて、適合するUCBユニットが、次のUCBプロファイルで特定された:
1.TW-02-04191;
2.2002年7月22日にStemCyte Taiwanによって収集された
3.注入前に17年間保管された、
4.血漿枯渇法により処理された、
5.HLA適合度=6/6、
6.事前凍結TNC=65.28×10、および
7.事前凍結CD34=105.8×10
【0128】
患者は、脳卒中後8日目に上記の方法でUCB(2.63×10)を投与された。UCB注入は、午前12時47分に開始し、午後13時13分に終了した。患者の状態は、UCB注入中、安定していた。30分の休憩の後、患者は、4時間ごとに20%100mlのマンニトールの静脈内注射を4回投与された(マンニトール100ml/60分、4時間ごとに静脈内投与)。
【0129】
UCB注入の24時間後(脳卒中の発症後約9日)に、患者は、上記の方法で検査された。脳MRIは、時間が経つにつれて浮腫が最大に進行したことを示した。
【0130】
UCB注入後7~14日で、患者は、運動機能の改善を示した。UCB注入から1か月後、患者は、さらにより有意な運動機能の改善を示した。この期間中の関連するNIHSS、BI、およびBBSの変化を、図3に示す。特に、臍帯血を注入する前の0日目に、患者は、左側麻痺を示した。UCBの注入から7日後の7日目に、患者の左指は、動かせた。UCBの注入後1か月で、患者は、左手/指および脚を動かし、拳を作ることができた。患者のNIHSSは、9から3.5に低減した。
【0131】
上記の結果は、血漿枯渇法によって処置されたHLA 6/6適合度を有する同種異系臍帯血を受け取った後、短期間で虚血性脳卒中の成人患者に有意な回復を示した。このような回復は、前例のないものであり、他の臨床試験では観察されていない。
【0132】
患者は、CB輸血の8日後に退院し、NIHSS、神経学的機能、およびMRI検査のために、上記の方法で1、3、6、および12か月後にフォローアップされた。臍帯血輸血後、患者の神経学的機能は、徐々に改善することが見出された。患者のNIHSSは、ベースラインの9ポイントからCB輸血後12か月の1ポイント(図4A)に改善し、バーグバランススコアは、0ポイントから48ポイント(図4B)に改善し、バーセル指数スコアは、0ポイントから90ポイント(図4C)に改善した。腹部超音波検査による12回の観察で脾腫は、認められなかった。不眠症および上気道感染症を含む2つの有害事象が発生し、投薬による治療に成功した。重篤な有害事象は、観察されなかった。脳卒中の2時間後および8日後の拡散強調画像(DWI)により、右放射冠の梗塞(白色強度の増加)が明らかになり、3か月後に散乱し、6か月後に消失した(図5A~5D)。梗塞の2時間後、8日後、3か月後、および6か月後に検出されたT2強調画像は、右放射冠の白色強度の増加を示した(図6A~6D)。
【0133】
脳卒中に対する細胞療法の有効性は、細胞の種類、細胞の起源、細胞数、細胞治療のタイミング、細胞送達の経路を含む要因に依存する。脳卒中の開始後の損傷神経細胞の修復または神経細胞の更新の時間枠は短く、例えば、動物実験に基づいて72時間以内である。脳卒中の急性期または亜急性期の早期細胞療法は、より良い結果をもたらし得る。上記の患者は、脳卒中の3か月後にMRI検査から特定された無症状の2回目の脳卒中を経験した。T2画像は、2回目の脳卒中の領域ではなく、急性期における細胞療法によって治療された1回目の脳卒中の領域においてのみ脳実質およびCSFの先鋭の損失を示す(図6Cおよび6D)。
【0134】
CB細胞は、脳卒中の急性期および亜急性期においてより優れた治療可能性を示す。CB細胞は、再生効果に加えて免疫調節作用および抗炎症作用を持っているため、脳卒中後の炎症反応によって誘発されるさらなる損傷から半影組織を保護することができる。CB細胞は、脾細胞の表現型を変化させることによって免疫調節活性を発揮することもできる。急性または亜急性期においては、静脈内送達によるCB療法は、全身性免疫調節の修正を考えた神経保護を達成することができる。
【0135】
間充織幹細胞(MSC)療法の利点は、実験室で達成および拡大される。MSCの安全性は、多くの臨床試験で文書化されているが、有効性は、不明である。ドナー幹細胞の質、活性、および発生能は、成功した幹細胞療法のためには重要である。細胞の状態は、ドナーの起源に大きく依存する。自家細胞移植では、障害を有する患者から回収されたドナー細胞は、満足のいく品質、活性、または発生能を有し得ない。自家移植とは異なり、健康なドナーからの同種移植のための凍結保存されたHUCMBは、はるかに優れた安定性および品質を備えた代替手段を提供する。
【0136】
脳卒中療法に適切な幹細胞の数は、当業者によって決定され得る。MSCの静脈内注射のための最小限の獲得は、8億4000万の単回投与で推奨された(Borlongan CV et al.Stem Cells Translational Medicine.2019;8(9):983-8)。当業者は、細胞数および毒性のリスクおよびベネフィットの考慮が最大のベネフィットおよび最小の細胞投薬量であるべきであることを理解するであろう(Sarmah D,et al.,Translational stroke research.2018;9(4):356-74)。BBBを横切る幹細胞の透過性を高めることは、幹細胞の量を減らすのに役立ち得る。そのために、マンニトールを使用して、BBBを破壊し、幹細胞の末梢送達を促進することができる。この報告された症例の細胞量は、約2億6300万であったが、細胞注入の30分後にマンニトールを使用してBBBを開放した。幹細胞の透過性を高めることに加えて、マンニトールは、神経栄養因子および神経成長因子をBBB全体にまで高めることができる。したがって、本明細書に記載の方法は、CB細胞の再生に加えて、シナプス形成、未成熟ニューロンの増殖、およびニューロン細胞の移動を含む、移植されたCB細胞のそれらの細胞および他のものからの有益な効果を利用することを可能にする。
【0137】
前述の実施例および好ましい実施形態の記載は、特許請求の範囲によって定義される本発明を限定するものではなく、例示するものとして解釈されるべきである。容易に理解されるように、上記の特徴の多数の変形例および組み合わせは、特許請求の範囲に記載される本発明から逸脱することなく用いられ得る。そのような変形例は、本発明の範囲からの逸脱とはみなされず、そのようなすべての変形例は、以下の特許請求の範囲に含まれることが意図される。本明細書において言及されるすべての参考文献は、その全体が参考により組み込まれる。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A-5D】
図6A-6D】
【国際調査報告】