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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-24
(54)【発明の名称】ナノダイヤモンド粒子の離散
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/28 20170101AFI20221017BHJP
【FI】
C01B32/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022508951
(86)(22)【出願日】2020-08-13
(85)【翻訳文提出日】2022-02-16
(86)【国際出願番号】 US2020046128
(87)【国際公開番号】W WO2021030559
(87)【国際公開日】2021-02-18
(31)【優先権主張番号】62/885,901
(32)【優先日】2019-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501305844
【氏名又は名称】ザ・キュレーターズ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・ミズーリ
【氏名又は名称原語表記】THE CURATORS OF THE UNIVERSITY OF MISSOURI
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】モカリン,ヴァディム
(72)【発明者】
【氏名】久米 淳
(72)【発明者】
【氏名】稲本 吉宏
(72)【発明者】
【氏名】橋本 真澄
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA04
4G146AA15
4G146AB04
4G146AC02A
4G146AC02B
4G146AC16B
4G146AC17B
4G146AD40
4G146BA01
4G146BC04
4G146BC23
4G146BC33A
4G146BC33B
4G146CB10
4G146CB14
(57)【要約】
例えば超音波処理を用いてアルカリ性pHを有する水性スラリーの中のナノダイヤモンド凝集体を崩壊させることによって、ナノダイヤモンド集合体を離散させる方法。これらの方法を用いて組成物、例えば水性ナノダイヤモンド分散体及び乾燥微粒子組成物を製造することができる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノダイヤモンド集合体を離散させる方法であって、
溶媒を含む液体媒体の中の凝集したナノダイヤモンド集合体と、オゾン酸化されたナノダイヤモンド集合体とを混合すること
を含み、前記集合体及び前記溶媒が、約8~約11のpHを有するスラリーの中に存在し、さらに、
前記凝集したナノダイヤモンド集合体の中央粒径よりも小さい中央粒径を有するナノダイヤモンド粒子を生成するのに十分な時間にわたって前記混合物を超音波処理すること
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記凝集したナノダイヤモンド集合体を約100℃~約250℃、または約150℃~約200℃の温度でオゾンの存在下で酸化させることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法が、いかなる粉砕媒体または離散剤も存在しない状態で実施される、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記集合体及び前記溶媒が、約9~約10のpHを有するスラリーの中に存在する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記ナノダイヤモンド粒子が10ナノメートル未満の平均粒径を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ナノダイヤモンド粒子が、約50nm未満、約40nm未満、約30nm未満、約25nm未満、約20nm未満、約15nm未満、10nm未満、例えば約9nm未満、約8nm未満、約7nm未満、約6nm未満または約5nm未満の中央粒径を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ナノダイヤモンド粒子が少なくとも約2nmの中央粒径を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記ナノダイヤモンド粒子の少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%または少なくとも約99%が、約20nm未満、または約2nm~約20nmの粒径を有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記ナノダイヤモンド粒子の少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%または少なくとも約99%が、約10nm未満、または2nm~約10nmの粒径を有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記混合物が、少なくとも約20kHz、少なくとも約30kHz、約40kHzまたは約50kHzの超音波処理周波数で超音波処理される、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記混合物が、約20kHz~約100kHz、約20kHz~約80kHz、約20kHz~約60kHz、または約50kHz~約100kHzの超音波処理周波数で超音波処理される、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
約50ワット~約1500ワット、約500ワット~約1500ワット、約50ワット~約1000ワット、または約250ワット~約1500ワットの範囲内の超音波処理電力が前記混合物に送達される、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記ナノダイヤモンド粒子が、ナノダイヤモンド1グラムあたり少なくとも約0.1mmolのカルボキシル基、ナノダイヤモンド1グラムあたり少なくとも約0.5mmolのカルボキシル基、ナノダイヤモンド1グラムあたり少なくとも約1mmolのカルボキシル基、またはナノダイヤモンド1グラムあたり少なくとも約2mmolのカルボキシル基を含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記ナノダイヤモンド粒子が、ナノダイヤモンド1グラムあたり約0.1mmol~約10mmolのカルボキシル基、ナノダイヤモンド1グラムあたり約0.5mmol~約5mmolのカルボキシル基、またはナノダイヤモンド1グラムあたり約1mmol~約3mmolのカルボキシル基を含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記ナノダイヤモンドが前記スラリー中に、前記液体媒体1リットルあたり少なくとも10グラム、少なくとも約20g/L、少なくとも約30g/L、少なくとも約40g/L、または少なくとも約50g/Lの量で存在する、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記超音波処理の後の前記スラリーの粘性係数が、約25℃の温度で少なくとも約0.8mPa・sから5mPa・sまでの範囲である、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記溶媒が水を含む、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記凝集したナノダイヤモンド集合体を黒鉛化する、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記凝集したナノダイヤモンド集合体を黒鉛化すること、及び
前記黒鉛化の後に、前記凝集したナノダイヤモンド集合体を約100℃~約250℃、または約150℃~約200℃の温度でオゾンの存在下で酸化させること
をさらに含む、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記黒鉛化することが、不活性雰囲気下で、及び少なくとも約900℃の、または約900℃~1000℃の温度で行われる、請求項18または請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、ナノダイヤモンド集合体を離散させる方法、及びこれらの方法を用いて製造された組成物について記載する。
【背景技術】
【0002】
ナノダイヤモンドは、潤滑化からポリマー及び金属複合材料のためのナノフィラー、ならびに医学用途に至るまで、数々の有用な特性を有する。爆轟プロセスによって製造されたナノダイヤモンドは生体適合性であり、安価で製造され、規模変更可能である。近年、ナノダイヤモンドの水性分散体の調製における進歩によって、生物医学分野及びポリマー複合材料におけるその使用が容易になった。
【0003】
とりわけ生物医学及び薬学分野においては、多くの既存及び潜在的用途は、非常に小さい平均粒径を有するナノダイヤモンドに依拠している。例えば、10~100ナノメートルの範囲に入る粒径を有するナノ粒子は、血中に懸濁及び循環することができ、腎臓によって血流から容易に除去される。10ナノメートルよりも小さいナノ粒子は、生物医学用途において大いに望ましいいくつかの付加的特性、例えば、血液脳関門または細胞の核膜孔複合体を通り抜ける能力を有する。
【0004】
残念なことに、ナノダイヤモンドは凝集する傾向が強く、10個、20個、またはさらに言えば100個以上の一次ナノダイヤモンド粒子を含む強く結び付いた凝集体を形成する。爆轟ナノダイヤモンド粒子は特に、超音波処理または粉砕などの従来の手段では破壊できない凝集体を形成することが知られている。したがって、ナノダイヤモンド集合体を離散させ、一桁ナノダイヤモンド(すなわち、10ナノメートル未満の直径を有する一桁ナノダイヤモンド)を得る方法を開発することが大いに望ましい。
【0005】
ナノダイヤモンドを懸濁させるためのいくつかの離散方法は、ボールミリング、摩擦粉砕及びビーズ式超音波解砕(BASD)を含めて、当技術分野で知られている。これらの技術は各々、一桁ナノダイヤモンド懸濁液を得るために用いられ得る。残念なことに、既知の離散技術は各々が1つ以上の重大な欠点を有している。例えば、多くの既知の離散技術は不純物をナノダイヤモンド材料に取り込ませるが、これは生物医学の文脈において重大な懸念事項となる。加えて、多くの既知の離散方法は、複雑であり、高価なあつらえの設備を必要とし、及び/または一桁ナノダイヤモンドを得るコストを著しく増大させる。
【0006】
近年、米国特許出願公開第2015/0038593号は、参照により本明細書に援用されるが、ナノダイヤモンド集合体を離散させるべく塩化ナトリウムまたはスクロースなどの結晶質の粉砕媒体を利用する乾式媒体利用摩擦粉砕プロセスを開示した。このプロセスは、粉砕媒体としてジルコニアの使用を必要とするものである以前に知られていた湿式粉砕プロセスと比較して、いくつかの重要な改善をもたらした。
【0007】
残念なことに、公開’593に開示されているプロセスは依然として、生物医学用途のための離散したナノダイヤモンドの調製する際のその有用性を制限する複数の難点を呈する。摩擦粉砕機は、比較的高価で維持コストが高いことに加えて鋼鉄製の瓶、シャフト及びボールを使用しているが、これは金属汚染物質の供給源に相当するものであり、粉砕プロセスの間、特に塩の存在下で、過酷な摩耗及び腐食に曝される。結果として、公開’593に記載されているプロセスを用いて製造されたナノダイヤモンドは、鉄及び他の鋼鉄構成成分を含めた金属不純物で汚染されていることが多い。金属不純物の多くは酸に可溶であるが、それらは、全体効率を低下させプロセスのコスト及び複雑さを増大させる付加的な精製工程の利用を必要とする。加えて、公開’593に記載されているプロセスがナノダイヤモンド凝集体の大きさを30~50ナノメートルの平均直径にまで低減することができるとはいえ、粉砕完了時点で分散pHがおよそ11に調整されない限り、一桁ナノダイヤモンドを得ることはできない。これは、さらに別のプロセス工程の導入を必要とし、コスト及び複雑さがさらにいっそう増す。米国特許出願公開第2018/0134563号は、参照によりその開示全体が明示的に本明細書に援用されるが、超音波を用いて塩化ナトリウム水性スラリー中のナノダイヤモンド凝集体を崩壊させることでナノダイヤモンド集合体を離散させることを開示している。この塩利用超音波離散(SAUD)手法は、過飽和塩懸濁液における超音波空洞現象によって爆轟ナノダイヤモンド(DND)凝集体を一桁粒子に崩壊させることができ、高価な粉砕機及びセラミックス製マイクロビーズの必要性を両方ともなくする。
【発明の概要】
【0008】
本発明の態様は、ナノダイヤモンド集合体を離散させる様々な方法に関する。いくつかの実施形態では、方法は、(a)溶媒を含む液体媒体の中の凝集したナノダイヤモンド集合体と、オゾン酸化されたナノダイヤモンド集合体とを混合することを含み、集合体及び溶媒が、約8~約11、例えば約9~約10のpHを有するスラリーの中に存在し、さらに、(b)凝集したナノダイヤモンド集合体の中央粒径よりも小さい中央粒径を有するナノダイヤモンド粒子を生成するのに十分な時間にわたって混合物を超音波処理することを含む。
【0009】
他の態様では、本発明は、本明細書に記載の方法を用いて調製されたナノダイヤモンド粒子に関する。さらなる態様は、上記ナノダイヤモンド粒子を含む組成物に関する。
【0010】
他の目的及び特徴は、一部においては明白となろうし、一部においてはこれ以降に示されていよう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ホーン超音波処理によるDND-O及びDND-Oの離散。(i)pHの9.5への調整、及びそれに続く280分間のホーン超音波処理。(ii)12000rpmで10分間にわたる超遠心分離。(1)DND-O、(2)S-DND-O、(3)P-DND-O
図2】アルゴン雰囲気下で5時間にわたって950℃で黒鉛化されたDND表面のXRDパターンであり、ダイヤモンド構造の(111)、(220)及び(311)ピークを示す。
図3】(1)入手時DND、(2)黒鉛化DND、(3)DND-O、(4)DND-OのFTIR。
図4】a)希釈されたDND-O水性スラリーの、ホーン超音波処理期間中のZ平均直径。b)希釈された(1)DND-O及び(2)DND-Oの、ホーン超音波処理期間中の4500rpmで5分間の遠心分離の後のZ平均直径。c)280分のホーン超音波処理の後の、遠心分離管を逆さまにした時の(1)DND-O及び(2)DND-Oスラリーの写真。d)(1)S-DND-O及び(2)S-DND-Oの粒径分布。
図5】付加的処理なしでの乾燥DND粉末(0.02重量%)の水中における再分散性:(1)S-DND-O、(2)S-DND-O
図6】乾燥粉末から再分散されたS-DND-Oスラリーの粒径分布及び写真。
図7】a)(1)DND-O、(2)S-DND-O及び(3)P-DND-OのFTIR。b)(1)DND-O、(2)S-DND-O及び(3)P-DND-Oのラマンスペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ナノダイヤモンド集合体を離散させる(解凝集する)方法を本明細書に提供する。ナノダイヤモンド集合体を離散させる様々な方法は、(a)溶媒(例えば水)を含む液体媒体の中の凝集したナノダイヤモンド集合体と、オゾン酸化されたナノダイヤモンド集合体とを混合することを含み、集合体及び溶媒が、約8~約11、例えば約9~約10のpHを有するスラリーの中に存在し、さらに、(b)凝集したナノダイヤモンド集合体の中央粒径よりも小さい中央粒径を有するナノダイヤモンド粒子を生成するのに十分な時間にわたって混合物を超音波処理することを含む。
【0013】
様々な方法は、オゾン酸化されたナノダイヤモンド集合体をアルカリ性水中でホーン超音波処理によって離散させることを含む。本明細書に記載の方法は、例えば、直径10ナノメートル未満の平均粒径を有するナノダイヤモンドを含む組成物を製造するのに有用である。
【0014】
本明細書に記載の方法は、以前に知られているナノダイヤモンド離散方法と比較して複数の利点をもたらし得る。例えば、方法は、得られるナノダイヤモンドの中に除去不可能または除去困難な汚染物質を何ら取り込ませないのであるが-これは、高純度ナノダイヤモンドを必要とする用途、特に生物医学用途において重要な利点である。本明細書に記載のプロセスは全体的に高コストな材料または高価な設備、例えばジルコニアマイクロビーズまたは摩擦粉砕機を必要とせず、なおかつ事実上いかなる実験室によっても実施され得る、または大規模生産のために例えば連続流超音波処理セルの採用によって量産化され得る。加えて、本明細書に記載のプロセスを用いて製造されるナノダイヤモンドは、乾燥され得、次いで再分散されて比較的小さい粒径を保持したナノダイヤモンドのコロイド状分散体を形成し得るが、これは、以前に知られている離散技術と比較してもう1つの利点に相当するものである。
【0015】
本明細書中で使用する場合、「ナノダイヤモンド凝集体」、「凝集したナノダイヤモンド」及び「凝集したナノダイヤモンド集合体」という用語は各々、一次ナノダイヤモンド粒子の多重体を含むナノダイヤモンド凝集体、例えば、少なくとも10個、20個、30個、40個、50個、100個または1000個以上の一次ナノダイヤモンド粒子を含むナノダイヤモンド凝集体を指す。
【0016】
本明細書中で使用する場合、「離散させること」という用語は、上記凝集体集合体を、個々の一次ナノダイヤモンド粒子になった及びそれを含んだより小さい(つまり一次粒子をより少なく含有する)集合体に崩壊させることを意味する。
【0017】
本明細書中で使用する場合、「粒径」という用語は、粒子(粒子の凝集体を含む)が自由に通過できる最も小さい円形穴の直径として定義される。例えば、球形凝集体の粒径が凝集体の直径と等価である一方、楕円体形凝集体の粒形は、最も長い短軸の長さに対応している。
【0018】
上記のように、超音波処理は、ナノダイヤモンドの中央粒径を所望範囲内に低減するのに十分な時間にわたって行われ得る。超音波処理の好適な周波数、強度及び継続時間は、所望のナノダイヤモンド粒径、及び使用される特定の設備によって決まるであろう。例えば、超音波処理の期間は、約5分~約500分の範囲であり得る。超音波処理は、少なくとも約5分間、約10分間、約15分間、約20分間、約30分間または約60分間にわたって行われ得る。例示的な範囲としては、約5分~約400分、約5分~約360分、及び約30分~約280分が挙げられる。
【0019】
超音波処理周波数は約20kHz~約100kHzの範囲であり得る。例えば、超音波処理周波数は、少なくとも約20kHz、少なくとも約30kHz、約40kHzまたは約50kHzであり得る。例示的な範囲としては、約20kHz~約80kHz、約20kHz~約60kHz、及び約50kHz~約100kHzが挙げられる。
【0020】
超音波処理装置によって送達される電力は、例えば約50ワット~約1500ワットの範囲内であり得る。超音波処理電力は、少なくとも約100ワット、少なくとも約250ワット、約500ワットまたは約1000ワットであり得る。例示的な範囲としては、約500ワット~約1500ワット、約50ワット~約1000ワット、及び約250ワット~約1500ワットが挙げられる。
【0021】
ナノダイヤモンド表面官能化
本明細書に記載のプロセスでは、精製された、概して汚染物質を含まないナノダイヤモンドを使用することが望ましい場合がある。さらには、親水性表面基を含むナノダイヤモンド、特に、表面カルボキシル基及び酸無水物を含むナノダイヤモンドを利用することが望ましい場合がある。
【0022】
いくつかの実施形態では、ナノダイヤモンドは、ナノダイヤモンド1グラムあたり少なくとも約0.5mmolのカルボキシル基、例えば、ナノダイヤモンド1グラムあたり少なくとも約0.1mmolのカルボキシル基、ナノダイヤモンド1グラムあたり少なくとも約0.5mmolのカルボキシル基、ナノダイヤモンド1グラムあたり少なくとも約1mmolのカルボキシル基、またはナノダイヤモンド1グラムあたり少なくとも約2mmolのカルボキシル基を含む。例えば、ナノダイヤモンドは、ナノダイヤモンド1グラムあたり約0.1mmol~約10mmolのカルボキシル基、ナノダイヤモンド1グラムあたり約0.5mmol~約5mmolのカルボキシル基、またはナノダイヤモンド1グラムあたり約1mmol~約3mmolのカルボキシル基を含み得る。
【0023】
特定の理論に拘泥するわけではないが、本明細書に記載のプロセスは、表面に多数のカルボキシル基を有する親水性ナノダイヤモンドに適用されるとより効率的であると考えられる。
【0024】
かくして、本明細書に記載の方法は、離散工程の前にナノダイヤモンド凝集体が精製されるオゾン/酸素ガス混合物酸化工程を含み得る。オゾンは、温和な条件下でsp炭素と選択的に反応する強力な酸化剤である。DNDのオゾン酸化は、高含有量の酸素含有表面基をもたらす。空気酸化とは対照的に、オゾン酸化は150~200℃の著しくより低い温度で進行し、その結果、ダイヤモンド炭素の燃焼が最小限に抑えられる。オゾン酸化は、ナノダイヤモンド試料を約100~250℃、例えば150~200℃の温度で少なくとも約72時間の期間にわたって加熱することによって実施される。適切な混合物は、酸素ガス中に0.1ppmのオゾンを含む。
【0025】
特定の理論に拘泥するわけではないが、アニオン性表面基(例えばカルボキシル基)によってもたらされる静電反発は離散過程の助けになり得、ナノダイヤモンド粒子の再凝集を防止し得ると考えられる。表面カルボキシレート基は、解離する程度が表面カルボキシル基よりも大きくなり得、それゆえ、離散過程のさらなる強化をもたらし得る。
【0026】
様々な実施形態において、本明細書に記載の方法は、凝集したナノダイヤモンド集合体を黒鉛化して表面官能基を除去し、表面化学を均質化することをさらに含み得る。いくつかの実施形態では、方法は、凝集したナノダイヤモンド集合体を黒鉛化すること、及び黒鉛化の後に、凝集したナノダイヤモンド集合体を約100℃~約250℃、または約150℃~約200℃の温度でオゾンの存在下で酸化させることをさらに含み得る。ある実施形態では、黒鉛化することは、不活性雰囲気(例えば、アルゴンなどの希ガス)下で、及び少なくとも約900℃、または約900℃~1000℃(例えば950℃)の温度で行われる。
【0027】
pH
好ましい実施形態では、スラリーのpHは少なくとも約8、例えば約8~約11に調整される。1つの好ましい実施形態では、スラリーpHは約9~約10、例えば9.2~9.8に調整される。pH調整剤は、例えば9.5であり得る。一例において、pH調整剤は1Mの水酸化アンモニウム溶液である。
【0028】
成分比率
液体媒体中のナノダイヤモンドの濃度も、効率的な離散を可能にするのに十分に高くなくてはならない。例えば、ナノダイヤモンドは、液体媒体1リットルあたり少なくとも10グラム、例えば少なくとも約20g/L、少なくとも約30g/L、少なくとも約40g/L、または少なくとも約50g/Lの量で存在し得る。
【0029】
粒径の低減
本明細書に記載の方法は、約50nm未満、約40nm未満、約30nm未満、約25nm未満、約20nm未満または約15nm未満の中央粒径を有するナノダイヤモンド粒子を製造するために使用され得る。ナノダイヤモンド粒子は、少なくとも約2nm、好ましくは10nm未満、例えば約9nm未満、約8nm未満、約7nm未満、約6nm未満、またはさらに言えば約5nm未満の中央有効粒径を有する。
【0030】
本明細書中で使用する場合、「中央有効粒径」及び「中央粒径」という用語は、ナノダイヤモンド粒子の50%が指定値未満の粒径を有することを意味する。本明細書に記載の方法を用いて、上記粒子の50%超が、上に列挙される値のうちの1つを下回る粒径を有するナノダイヤモンド粒子が製造され得る。例えば、ナノダイヤモンド粒子の少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%または少なくとも約99%は、上に列挙される値のうちの1つを下回る粒径を有し得る。
【0031】
ナノダイヤモンドコロイドの粘性係数は、当業者に知られている従来の方法によって測定され得る。例えば、本明細書に記載の方法を用いて調製された離散したナノダイヤモンドのスラリー(超音波処理後のスラリー)の粘性係数は、約25℃の温度で少なくとも約0.8mPa・sから5mPa・sまでの範囲であり得る。
【0032】
非限定的な例を挙げると、一系列の実施形態では、本明細書に記載の方法を用いて、上記ナノダイヤモンド粒子の少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%または少なくとも約99%が約20nm未満、例えば2nm~約20nmの粒径を有するナノダイヤモンド粒子が製造され得る。別系列の実施形態では、本明細書に記載の方法を用いて、上記ナノダイヤモンド粒子の少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%または少なくとも約99%が約10nm未満、例えば2nm~約10nmの粒径を有するナノダイヤモンド粒子が製造され得る。
【0033】
所与の試料の中のナノダイヤモンド粒子の大きさは、当業者に知られている従来の粒径測定技術によって測定され得る。好適な粒径測定技術の非限定的な例としては、沈降場流動分画法、光子相関分光法、ディスク遠心法、ならびに静的及び動的光散乱法が挙げられる。
【0034】
ナノダイヤモンド粒子及び組成物
他の態様において、本発明は、本明細書に記載の方法を用いて調製されたナノダイヤモンド粒子に関する。さらに他の態様は、上記ナノダイヤモンド粒子を含む組成物に関する。本発明の範囲に含まれる組成物の非限定的な例としては、上記ナノダイヤモンド粒子を含む乾燥粉末、水性分散体及びコロイド分散体が挙げられる。
【0035】
例えば、本明細書に記載の方法を用いて調製されたナノダイヤモンド粒子を含む医薬組成物は本発明の範囲に含まれる。
【0036】
ナノダイヤモンドは、上記範囲内に入る中央粒径を特徴とし得る。同様に、組成物は、上記範囲内に入る中央粒径を有するナノダイヤモンドを含むことを特徴とし得る。
【0037】
本明細書に記載の方法に従って調製されたナノダイヤモンドの水性分散体は、約250nmよりも大きい、約200よりも大きい、約100nmよりも大きい、約90nmよりも大きい、約70nmよりも大きい、約60nmよりも大きいまたは約50nmよりも大きい粒径を有する凝集体を実質的に含まないものであり得る。本明細書中で使用する場合、「凝集体を実質的に含まない」という用語は、分散体が、分散体中に存在するナノダイヤモンドの総固体体積に対して相対的に10体積%未満、例えば5体積%未満、2体積%未満、またはさらに言えば1体積%未満の上記凝集体を含むことを意味する。
【0038】
本明細書に記載の方法に従って調製されたナノダイヤモンドの水性分散体は、有益な保存安定性をさらなる特徴とし得る。例えば、上記水性分散体は、周囲条件下で少なくとも約1日間、少なくとも約1週間、少なくとも約1ヶ月または少なくとも約4ヶ月にわたって保存されたとき、感知できるほどのナノダイヤモンド相の析出を示さないものであり得る。
【0039】
本明細書に記載の方法に従って調製された乾燥ナノ粒子組成物も、本発明の範囲に含まれる。有益なことに、本明細書に記載されるとおりに離散させた乾燥ナノダイヤモンドは、水中に容易に再分散されて、ほんのわずかだけ大きい平均粒径(例えば、約50nm未満、約40nm未満、約30nm未満、約20nm未満、約10nm未満または約5nm未満の平均粒径)を有する水性分散体を形成し得る。乾燥ナノダイヤモンド組成物のこの特徴は、乾燥及びその後の再分散によって1μm以上の平均粒径を有する凝集体が形成されるものであった従来の離散技術を用いて調製されたナノダイヤモンドに比べて、著しく有益である。
【0040】
本開示の本文は凝集及び離散したナノダイヤモンドに焦点を絞っているが、他の硬質材料を離散させるために同じ原理及び考察が適用され得ることは理解されるべきである。
【0041】
本発明を詳しく記載してきたが、別記の特許請求の範囲に定義される本発明の範囲から逸脱することなく改変形態及び変形形態が可能であることは明らかであろう。
【実施例
【0042】
以下の非限定的実施例は、本発明をさらに例示するために提供される。ここでは、本発明者らは、オゾン酸化されたDNDと、酸素の存在下で標準的な高温気相酸化がなされたDNDとの定量的な差を、X線光電子分光法(XPS)及び酸塩基電位差逆滴定を用いて分析する。加えて、粉砕なしでオゾン処理されたDNDの解凝集の可能性を調べるためにアルカリ性水におけるホーン超音波処理を採用する。
【0043】
3 実験手順
3.1 試料
この試験で使用した全てのDND粉末は、Daicel Corporation(Osaka,Japan)によって製造された。DNDを製造するために50:50のTNT:RDX装薬をCO雰囲気下で爆轟させ、爆轟煤を、70重量%の硝酸と濃硫酸との1:6の体積比での合剤の中で5時間にわたって150℃で精製した。これに続いて、DI水洗浄と噴霧乾燥とのサイクルを複数回行った。以下、本発明者らはこの材料を「入手時DND」と名付ける。入手時DNDを、Daicelにて管状炉(KTF045N1、Koyo Thermo Systems Co.,Ltd)を使用して400℃で3時間にわたって酸素及び水素ガス流(体積表示で酸素4%、窒素96%)中で酸化させた。得られた材料をDND-Oと名付ける。
【0044】
3.2 DNDのオゾン酸化
オゾン酸化に先立って、入手時DNDを、表面官能基を除去してその表面化学を均質化するために管状炉(GSL-1800X、MTI CORPORATION)を使用して950℃で5時間にわたってアルゴン流中で黒鉛化した。この黒鉛化DND粉末(0.5g)を、72時間にわたって湿潤オゾン/酸素合剤を連続的に流しながら電気マントルヒーター(HM0250VF1 HEAT MANTLES、BRISKHEAT)を使用して200℃に加熱される250ml容丸底ガラスフラスコの中に配置した。合剤はオゾン発生装置(Ozone Generator B1065、RDEXPAM)によって生成され、500mlのDI水が充填された三角フラスコを介して反応器内に流されて、HO利用オゾン分解のための十分な湿度を反応器内に提供した。このプロトコールに従って調製された試料をDND-Oと名付けた。
【0045】
3.3 超音波処理利用加水分解
0.6gのDND-O及びDND-Oを別々にDI水と混合して6.0重量%のスラリーを得た。1Mの水酸化アンモニウム溶液でスラリーのpHを9.5に調整した。Fisher Scientific Model 705 Sonic Dismembratorを50%出力電力で使用してスラリーを280分間にわたって超音波処理した(図1)。超音波処理の過程における離散の進行を追跡するために、スラリーの20μlのアリコートを一定時間間隔で採取し、6mlの水酸化アンモニウム溶液(pH9.6)で希釈し、希釈したアリコートにおけるDNDの粒径分布をDLSによって測定した。ホーン超音波処理が完了した時点でDND-O及びDND-Oスラリーを、Eppendorf遠心分離機5810-Rを用いて12000rpmで10分間、25℃で遠心分離に掛け、各試料からの上清をピペットで慎重に回収した(それぞれS-DND-O及びS-DND-O)。DND-Oの析出部分をP-DND-Oと名付けた(図1)。DND-Oから析出した部分は回収しなかった。
【0046】
3.4 特性評価
3.4.1 フーリエ変換赤外分光法(FTIR)
Thermo Nicolet NEXUS 470 FT-IR分光計を使用してFTIRスペクトルを500~4000cm-1の範囲で1cm-1の分解能で測定した。DNDのスペクトルは、100mgのKBrと1mgのDNDとの混合物を15トンの負荷の下で押圧することによって作った臭化カリウムペレットで記録された。
【0047】
3.4.2 X線光電子分光法(XPS)
XPS測定は、単色AlKaのX線源を備えたPHI5800 ESCA(ULVAC-PHI Inc.)を用いて実施された。DND試料を導電性炭素テープに接着した。テープからの電位干渉を回避するために、本発明者らは、DNDの層がXPS信号収集の深度に比べてよりはるかに厚くなることを確保した。O1s及びC1sピーク面積の2つの異なる高分解能スキャンからの平均を用いてO対Cの原子パーセント比率を算出した。高分解能スキャンは0.25eVのステップで58.7eVのパスエネルギーで行われた。
【0048】
3.4.3 UV-ラマン
HORIBA LabRAM HR Evolution LabSpec 6を用い、励起波長を0.8mWで325nmとしてラマンシフト範囲900~1900cm-1でラマンスペクトルを記録した。36個のマッピング点を有する20×20μmの領域にわたってスペクトルを平均した。各スペクトルは、レーザーによって引き起こされる試料の損傷を最小限に抑えるために曝露を4秒にして2回蓄積された。
【0049】
3.4.4 比表面積(SSA)解析
NOVA表面積解析装置2000e(Quantachrome Instruments)を用いて比表面積(SSA)を決定した。測定に先立って、DND試料を真空下で2時間、200℃で脱気した。-196℃での窒素吸着から、Brunauer-Emmett-Teller(BET)等温線を用いてSSAを算出した。
【0050】
3.4.5 酸塩基電位差逆滴定
酸塩基電位差逆滴定を用いてDND表面上のカルボン酸(COOH)基を定量した。COOH基を選択的に中和するために0.05MのNaHCO水溶液を調製した。溶存COを除去するために溶液にアルゴンガスを室温で24時間バブリングした。その後、密封された50ml容プラスチック遠心分離管(Karter Scientific 208L2)内で0.1gのDND試料を、Arパージされた0.05MのNaHCO溶液15mlと共に24時間にわたって撹拌した。0.1gのDND粉末と、アルゴンガスで脱気された0.05MのNaHCO溶液15mlとの反応の後、12000rpmで30分間の遠心分離によって上清を分離した。上清から3mlのアリコートを採取し、アルゴンガスで脱気された0.01MのNaNO溶液25mlによって希釈して、pHガラス電極を浸すのに十分な体積を得た。NaNO溶液は、ここでは滴定の最中に同じイオン強度を維持するために採用された。上清を12000rpmでの30分間の遠心分離によって分離し、pHガラス電極LL Unitrode Pt1000及び5ml投入ビュレットを備えた888 Titrando(Metrohm AG)を使用して0.1M(0.1002N)HC1による動的当量点滴定モードで滴定した。基準として、50ml容プラスチック遠心分離管内で15mlのNaHCO溶液をDNDなしで24時間撹拌し、上記と同じ条件で滴定した。DND表面上のCOOHと反応したNaHCOの量を基準溶液と試料上清のアリコートとの当量点間の差として決定した(表1)。
【0051】
当量点をpH4.0~4.5の範囲の滴定曲線の一次導関数のピーク位置として決定し、3つの異なる測定結果を平均した。その後、COOH含有量を:
【数1】
として算出し、式中、EPブランクは、0.01MのNaHCO溶液3mlの当量点であり、EP試料は、DND粉末とNaHCOとの混合物から分離された上清3mlの当量点であり、NHClは、滴定に使用したHClの規定度(0.1002)であり、mDNDは、滴定のためのDNDの質量である。NaHCO取込量は3mlのブランク溶液から算出され、試料に5を乗じて(15ml/3ml)、DND粉末による総NaHCO取込量を得たが、これはCOOH含有量に対応する。
【表1】
【0052】
次いで、COOH表面密度を:
【数2】
として算出し、式中、nはDND表面上のCOOHのモル数であり、Nはアボガドロ数(6.02×1023mol-1)であり、mDND(g)は、滴定に使用したDND試料の質量であり、SBET(m/g)は、BET測定によって決定されるDND試料の比表面積(1018を乗じることでmがnmに変換される)である。
【0053】
3.4.6 動的光散乱(DLS)
DLS(ZetasizerNano ZS、Malvern Instruments Ltd)を使用してDND分散体の粒径分布を、25℃での水の粘度(0.82cP)を用いて決定した。体積分布(Dv50)のための分布及び中央直径を、試料1つあたり10個の異なる測定結果から算出した。体積基準での分布に加えて、水酸化アンモニウム溶液(pH9.6)による希釈スラリーのZ平均を算出して、相関関数の最初の部分を単一指数関数的減衰モデルに近似することで大きな弱凝集体の粒径分布を得た。希釈スラリーを5分間にわたって浴中で超音波処理し、その後、DLS測定及びZ平均直径を試料1つあたり3つの測定結果から算出した。
【0054】
4.結果及び考察
4.1 DND表面の官能化及び特性評価
オゾン酸化の前に官能基の含有量を最小限に抑えてより一様な表面を作り出すために、入手時DNDをアルゴン雰囲気下で950℃で5時間にわたって部分的に黒鉛化し、82.2重量%の収率を得た。XRDによれば、部分黒鉛化DNDは概してそのダイヤモンド構造を依然として保持していた(図2)。入手時及び改質DNDの表面化学を図3中のFTIRによって評価した。入手時DNDのスペクトル(図3のスペクトル(1))は、O-H伸縮(3200~3600cm-1)及び変角(1620~1630cm-1)振動、ならびに1700~1865cm-1でのC=O伸縮振動に対応する酸素含有表面基のバンドを明らかにしている。表面黒鉛化によって1733cm-1のカルボニルバンドが消失したが、OHバンドは残っていた(図3のスペクトル(2))。オゾン/酸素中での表面黒鉛化DNDのさらなる酸化によって表面にC=O含有基が再導入されたが(図3のスペクトル(3))、1771cm-1にC=Oピークを示しているDND-O図3のスペクトル(4))とは対照的に、DND-OのC=Oピークはより高い周波数1812cm-1にシフトして無水物基(C=O>1800cm-1)を示唆している。しかも、DND-OのFTIRスペクトルは、1626cm-1のO-H変角ピークと比較して1812cm-1にC=Oピークの著しくより高い強度を示している。
【0055】
酸塩基電位差逆滴定及びXPS測定を実施してDND中の表面COOH基の含有量を定量した。表2に示すように、実験で決定されたDND-OのCOOHの表面密度は、DND-Oのほぼ2倍である0.927nm-2に達しする。試料の総酸素含有量をXPSによって測定した。DND-OのO1s/C1sのXPS比率は0.146であり、DND-Oと比較して約40%高い。原理的にはO1s/C1s比率は一次粒径の影響を受け得る、というのも、酸素含有表面基がDND表面に結合しているのに対して炭素原子はDND粒子の表面上にもコア中にも存在しているからである。しかしながら、BET測定結果は、DND-OのSSAがDND-Oのそれとほぼ等しいことを示唆しており、これはO1s/C1s比率がこれらの2つの試料の間での粒径の差ではなくDND表面の総酸素含有量の差を表していることを意味している。このため、オゾン酸化によって酸素含有表面官能基の含有量はより高くなる。比較のために、400℃で24時間にわたって空気中で酸化されたDNDの文献データにおいて滴定は、長時間の空気酸化で0.15~0.80nm-2のCOOH含有量に達し、SSAが331m/gから292m/gに劇的に減少したことを明らかにした。400℃よりも高い温度では、空気酸化は酸素含有表面基の生成と小さなDNDの焼失とが同時にもたらされるようである。オゾン酸化はより制御しやすいものである、というのも、それは200℃で進行し、DND焼失を最小限に抑えながら高い含有量の酸素含有官能性を生み出すからである。
【表2】
【0056】
4.2 ホーン超音波処理によるDNDの離散
DND溶液のpHは、コロイド安定性に影響を及ぼす重要な因子である。pKよりも高いpHではCOOHの解離が有利となり、負に帯電したDND表面をもたらす。それゆえ、本発明者らは、pHを9.5に調整してからDND-O及びDND-O水性懸濁液のホーン超音波処理を行った。ジルコニアビーズによる湿式ボールミリングまたはホーン超音波処理を用いた過剰な離散プロセスが、初めは凝集体の破壊につながるが後には再凝集を招き得ることは、よく知られている。BASDの間のDNDの再凝集も報告されている。それゆえ、ホーン超音波処理プロセスの間、DNDの粒径を追跡するために測定を実施した。図4は、ホーン超音波処理期間中の希釈DND-OスラリーのZ平均直径を示す。DND-Oの大きめの凝集体の粒径は最初の90分間にわたって連続的に減少したが、120分の超音波処理の後に再凝集が認められた。しかしながら、スラリーを4500rpmで5分間遠心分離して大きめの凝集体を除去した後に行ったDLS測定は、280分のホーン超音波処理の間、DND-Oの離散が進行してZ平均直径が71nmとなった一方、DND-Oの離散効率が280分後にゼロに落ち込んで77nmの最小Z平均直径となったことを示している(図4のb)。Z平均は大きな凝集体に対してより敏感であるため、この実験からは、ホーン超音波処理中にDND-Oがより高い再凝集耐性を有していることが明らかである。これらのDLS測定では、20μlのアリコートを6mlの水酸化アンモニウム溶液(pH9.6)で希釈してから測定を行った。これらの測定を行っている間に本発明者らは、DND-Oスラリーが遠心分離管の疎水性の壁により良好に貼り付くことに気付き、これは、より親水性が低いDND-Oの性質、またはスラリーの粘度の上昇を示唆していると思われる(図4のc)。
【0057】
280分のホーン超音波処理の後、12000rpmでの10分間にわたる超遠心分離を各試料に対して実施して大きな凝集体を完全に除去して、非常に暗い色の透明なコロイド(S-DND-O及びS-DND-O)が得られた。S-DND-O及びS-DND-Oの粒径分布は、それぞれ5.9及び10.4nmのDv50に対応する鋭いピークを示している(図4のd)。しかも、水酸化アンモニウム溶液(pH9.6)で0.02重量%に希釈されたS-DND-O及びS-DND-OのZ平均直径は、S-DND-Oが39.2nmであり、これはS-DND-O(46.5nm)に比べてより小さく、これは、S-DND-Oの方がS-DND-Oよりも凝集が少ないことを示唆している。ホーン超音波処理プロセスは、初期DND質量に対して上清中のDNDの収率が80%超であり、この点において、より高価で困難なBASDの収率に匹敵する。かくして、本発明者らの結果は、粉砕媒体を何ら有さず超遠心分離を伴うホーン超音波処理を用いてオゾン酸化DNDが空気酸化DNDよりも良好に一桁水性コロイドに解凝集され得ることを示唆している(表3)。
【0058】
S-DND-O及びS-DND-Oを回収し、ロータリーエバポレーターを使用して乾燥させた。乾燥粉末(各4mg)を20mlのDI水と混合した(図5)。驚いたことに、乾燥S-DND-Oはいかなる手段も伴わずにDI水中で完全な再分散性を示した一方、S-DND-Oは沈んで底に留まった。この観察結果に着想を得て、本発明者らは、S-DND-O粉末を含んだDI水から濃厚な6重量%のスラリーを調製し、1Mの水酸化アンモニウム溶液でそのpHを9.5に調整した。低電力の浴中での超音波処理を30分行い、12000rpmでのスラリーの超遠心分離を25℃で30分間行った後、一桁DND水性コロイドはS-DND-Oの初期質量に対して70%超の収率で回収された(図6及び表4)。異なる製造業者からのSAUD解凝集DNDにおいて乾燥状態からの同様の再分散性が観察された。
【表3】

【表4】
【0059】
25℃での水の粘度(0.82cP)を用いてDLSによって分布を決定した。体積分布(Dv50)のための中央直径を10個の異なる測定結果から算出した。体積基準での分布に加えて、水酸化アンモニウム溶液(pH9.6)による希釈スラリー(0.02重量%)のZ平均直径を3つの異なる測定結果の平均から得た。
【0060】
4.3 S-DND-Oの特性評価
S-DND-Oについて、その構造及び表面化学を明らかにするためにUV-ラマン及びFTIRによってさらに調べた。S-DND-Oの分散体安定性が改善された理由を理解するために、本発明者らは、DND-OとS-DND-OとP-DND-Oとの間で表面化学の差異を分析した。P-DND-Oは、離散プロセスによって超遠心分離後の析出物として得られた(図1の(3))。S-DND-OのFTIRは、DND-O(1812cm-1)と比較してより低い周波数のC=Oピーク(1787cm-1)を示し、表面酸無水物の加水分解が示唆される。ピーク位置から判断してP-DND-OはS-DND-Oよりも少なく加水分解されている(図7のa)。加えて、S-DND-OのSSA(344m/g)はDND-O(299m/g)よりも大きいが、両者は同じ入手時DNDから得られたものである。SSAの差は、UVラマンスペクトル(図7のb)から推察されるように粒径の差に関係している。DND-O、S-DND-O及びP-DND-OのUVラマンスペクトルはどれも、小さめ(1250cm-1)及び大きめ(1327cm-1)のダイヤモンド散乱ドメインからの寄与、黒鉛状炭素のGバンド(1580cm-1)、O-H変角(1640cm-1)及びC=O伸縮(1725cm-1)を示している。P-DND-Oは、他の試料に比べてより強いダイヤモンドピークを1327cm-1に有するが、これは、析出物中の大きめのDND粒子のより高い含有量によるものであり得る。したがって、SSA及びUVラマンデータは、入手時DNDの不均一な一次粒径分布を示唆しており、オゾン酸化DNDのホーン超音波処理とそれに続く超遠心分離がDND分画を容易にしていることを裏付けている。この効果の考えられ得る説明は、DNDの大きめの一次粒子がオゾンに対してより低い反応性を有し、それゆえホーン超音波処理によって解凝集され難い、ということである可能性がある。
【0061】
5 結論
オゾン酸化DNDについて、酸塩基電位差逆滴定及びXPSによって定量的に調べ、その結果、空気酸化DNDに比べて大量の酸素含有表面基が明らかになった。しかも、オゾン酸化DNDはホーン超音波処理プロセス中の再凝集に対する高い耐性を有し、粉砕媒体を何ら伴わずに(一桁DND分散体に至るまでの)より小さい粒子を生成するためのより長い超音波処理時間を可能にしている。オゾン処理及び解凝集されたDNDの最も顕著な特徴は、乾燥粉末からのその水中における再分散性であるが、これは、オゾン処理によって生成してさらにはホーン超音波処理中にCOOHに加水分解された多数の酸素含有表面基(主に無水物)によって生じるものである。オゾン酸化DNDの超音波処理利用加水分解は、空気酸化と比較してより良好な制御、より温和な条件、及び最小DND粒子のより少ない焼失ゆえに、COOH末端を有する一桁DNDコロイドを得るための商業的に実用可能な技術である可能性がある。
【0062】
本発明またはその実施形態(複数可)の要素を導入する場合、「a」、「an」、「the」及び「上記」という冠詞は、要素の1つ以上が存在するという意味を意図したものである。「含んでいる(comprising)」、「含んでいる(including)」及び「有している」という用語は、列挙された要素以外に付加的な要素が存在し得るという意味を意図したものである。
【0063】
上記に鑑みれば、本発明のいくつかの目的が達成され、他の有益な結果が得られることが分かるであろう。
【0064】
本発明の範囲から逸脱することなく上記の組成物及びプロセスに様々な変更がなされる可能性があるが、上記記載に含まれる及び添付の図面の中に示される全ての事物が限定の意味ではなく例示的なものとして解釈されるべきであることを意図する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】