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特表2022-544941網膜組織から作製された中空三次元ユニット、および網膜症の治療におけるその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-24
(54)【発明の名称】網膜組織から作製された中空三次元ユニット、および網膜症の治療におけるその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/30 20150101AFI20221017BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20221017BHJP
   A61K 9/50 20060101ALI20221017BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20221017BHJP
   A61L 27/52 20060101ALI20221017BHJP
   A61K 9/00 20060101ALI20221017BHJP
   A61F 2/14 20060101ALI20221017BHJP
   A61K 35/545 20150101ALN20221017BHJP
   A61K 47/36 20060101ALN20221017BHJP
   A61K 47/34 20170101ALN20221017BHJP
【FI】
A61K35/30
A61P27/02
A61K9/50
A61L27/38 300
A61L27/38
A61L27/52
A61K9/00
A61F2/14
A61K35/545
A61K47/36
A61K47/34
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022508984
(86)(22)【出願日】2020-08-12
(85)【翻訳文提出日】2022-04-05
(86)【国際出願番号】 EP2020072567
(87)【国際公開番号】W WO2021028456
(87)【国際公開日】2021-02-18
(31)【優先権主張番号】1909155
(32)【優先日】2019-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520174104
【氏名又は名称】ツリーフロッグ テラピューティクス
【氏名又は名称原語表記】TREEFROG THERAPEUTICS
【住所又は居所原語表記】30 AVENUE GUSTAVE EIFFEL BATIMENT A,33600 PESSAC,FRANCE
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】フェイユー,マキシム
(72)【発明者】
【氏名】アレッサンドリ,ケヴィン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C081
4C087
4C097
【Fターム(参考)】
4C076AA51
4C076AA61
4C076BB24
4C076BB32
4C076CC10
4C076EE13
4C076EE23
4C076EE36
4C076EE48
4C076FF32
4C081AB21
4C081BA12
4C081BA16
4C081CA102
4C081CA192
4C081CC01
4C081CD042
4C081CD34
4C081DA03
4C081DA11
4C081DA12
4C081DC03
4C081EA02
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB64
4C087MA37
4C087MA67
4C087NA14
4C087ZA33
4C097AA24
4C097BB01
4C097CC01
4C097CC02
4C097DD01
4C097DD15
4C097EE16
4C097EE18
4C097EE19
4C097FF01
(57)【要約】
本発明は、中空であり、内部開口部の周りに器質化されたとき、分化している、生きているヒト網膜色素上皮細胞の少なくとも1つの層を含む三次元組織ユニットに関し、各細胞の基底部面が外側に向き、頂部面が内部開口部に向く。本発明はまた、網膜症の治療における使用のためのこれらの組織ユニット、ならびにこれらの組織ユニットおよび植込みキットを調製するための方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内腔の周囲に器質化された、分化した生きているヒト網膜色素上皮細胞の少なくとも1つの層を含み、各網膜色素上皮細胞の基底部側が外側に向き、頂部側が前記内腔に向く、中空三次元網膜組織ユニット。
【請求項2】
前記網膜色素上皮細胞の前記基底部側に位置する細胞外マトリックスの外層も含むことを特徴とする、請求項1に記載の網膜組織ユニット。
【請求項3】
中空卵形、中空円柱、中空回転楕円体または中空球体の形式にあることを特徴とする、先行請求項のいずれか一項に記載の網膜組織ユニット。
【請求項4】
その最大寸法が、100~1,000μmであることを特徴とする、先行請求項のいずれか一項に記載の網膜組織ユニット。
【請求項5】
その最小寸法が、10~1,000μmであることを特徴とする、先行請求項のいずれか一項に記載の網膜組織ユニット。
【請求項6】
並置された網膜色素上皮細胞が、密着結合によってそれらの側面上で互いに接続されていることを特徴とする、先行請求項のいずれか一項に記載の網膜組織ユニット。
【請求項7】
前記網膜色素上皮細胞の前記頂部側に、前記内腔の周囲に器質化された、網膜色素上皮細胞以外の分化した生きているヒト網膜細胞の少なくとも1つの層も含むことを特徴とする、先行請求項のいずれか一項に記載の網膜組織ユニット。
【請求項8】
前記網膜色素上皮細胞以外の分化した生きているヒト網膜細胞が、桿体、錐体、神経節細胞、アマクリン細胞、双極細胞、および水平細胞から選択されることを特徴とする、先行請求項のいずれか一項に記載の網膜組織ユニット。
【請求項9】
10~100,000個の網膜細胞を含むことを特徴とする、先行請求項のいずれか一項に記載の網膜組織ユニット。
【請求項10】
前記網膜色素上皮細胞および/または任意の他の網膜細胞が、誘導多能性幹細胞(IPS)から取得されたことを特徴とする、先行請求項のいずれか一項に記載の網膜組織ユニット。
【請求項11】
ヒドロゲルカプセルにカプセル化されていることを特徴とする、先行請求項のいずれか一項に記載の網膜組織ユニット。
【請求項12】
網膜疾患の前記治療における使用のための、先行請求項のいずれか一項に記載の網膜組織。
【請求項13】
変性網膜疾患の前記治療における、先行請求項のいずれか一項に記載の使用のための網膜組織ユニット。
【請求項14】
加齢性黄斑変性症、糖尿病性網膜症、眼の外傷性網膜症および遺伝性網膜症から選択される網膜疾患の前記治療における、先行請求項のいずれか一項に記載の使用のための、網膜組織ユニット。
【請求項15】
請求項1~11のいずれか一項に記載の網膜組織ユニットを調製するための方法であって、
-ヒドロゲルカプセル内に、
*任意選択で、前記細胞によって分泌されたか、または加えられた、少なくとも細胞外マトリックス要素、
*少なくとも網膜色素上皮細胞または少なくとも分化した網膜色素上皮細胞に分化することが可能な細胞、を含む、細胞微小区画を生成するステップ、
-前記微小区画に導入された前記細胞が、少なくとも網膜色素上皮細胞に分化することが可能な細胞である場合に、少なくとも網膜色素上皮細胞、および可能な限り他の網膜細胞を取得するように、前記細胞微小区画内での細胞分化を誘導するステップ、
-中空三次元網膜組織ユニットの形式において、前記網膜色素上皮細胞および任意の他の網膜細胞を回復するために、前記ヒドロゲルカプセルを除去するステップ、を含む、方法。
【請求項16】
前記網膜色素上皮細胞を増幅するステップ、を含むことを特徴とする、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記少なくとも網膜色素上皮細胞に分化することが可能な細胞が、多能性幹細胞であることを特徴とする、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記多能性幹細胞が、誘導多能性幹細胞(IPS)であることを特徴とする、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記組織ユニットを前記眼への注入に好適な外科用植込みデバイスに装填するさらなるステップを含むことを特徴とする、請求項15~18のいずれか一項に記載の網膜組織ユニットを調製するための方法。
【請求項20】
請求項1~11のいずれか一項に記載の組織ユニットを前記眼に植込むためのキットであって、前記キットは、
-請求項1~11のいずれか一項に記載の1~10,000の組織ユニット、
-前記組織ユニットをヒトの眼に植込むことが可能な外科用植込みデバイス、を備えることを特徴とする、キット。
【請求項21】
請求項11に記載の組織ユニットを前記眼に植込むためのキットであって、前記キットは、
-請求項11に記載の1~10,000の組織ユニット、
-ヒドロゲルカプセル除去手段、
-前記組織ユニットをヒトの眼に移植することが可能な外科用移植デバイス、を備えることを特徴とする、キット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、少なくとも1つの網膜色素上皮を含む特定の組織ユニットの使用による網膜疾患の治療に関する。本発明はまた、これらの組織ユニットを調製するための方法、および網膜のすべてまたは一部の移植を実施するために、これらの組織ユニットを眼に植込みのためのキットに関する。
【0002】
従来技術
網膜疾患、または網膜症は、世界における視覚障害の主な原因の1つである。眼の後ろに並ぶ網膜は、特に、光を受容する色素上皮細胞および神経細胞で構成されている。これらの神経細胞は、光を視神経を介して脳に伝達する電気信号に変換する。網膜の細胞、特に、網膜色素上皮の細胞が退化または機能停止すると、視野の盲目領域が現れる。
【0003】
網膜症は、様々な原因を有することができ、特に、加齢性黄斑変性症(AMD)などの加齢に関連することができ、網膜色素変性症または網膜ジストロフィーなどの遺伝性であることができ、太陽網膜症などの外傷に関連することができ、または糖尿病性網膜症または高血圧網膜症などの別の病理に由来することができる。
【0004】
AMDは、高齢者の視覚障害の主な原因である。この病態は、視覚情報のほとんどを脳に伝送する網膜の中心部である黄斑の損傷に起因する。これにより、視野の中心に盲点が現れる。AMDは、次の2つの形式で提示することができる。
-乾燥または萎縮形式:黄斑の細胞の進行性消失によって特徴付けられる。したがって、ゆっくりと発達し、AMDの最も一般的な形式を表す。
-湿潤または滲出形式:網膜の下に異常な血管が形成され、特にその剥離につながることによって特徴付けられる。
【0005】
現在、AMDの乾燥形式のための治療は、行われていない。唯一の方法は、食品サプリメント(ビタミンCおよびE、ならびに抗酸化ミネラル)を摂取することによって、それを遅らせることである。数年間、湿潤AMDの場合、疾患があまり進行していなければ、血管の激増を遮断する薬剤の眼への注入は、疾患の改善を可能にするが、この治療は、毎月の注入を必要とし、完全に満足のいく結果を取得することはできない。
【0006】
網膜色素変性症は、遺伝されることができる、遺伝性の疾患である。それは、1つ以上の遺伝子の変異に連結された網膜の細胞の変性によって特徴付けられる。疾患の進展は、失明につながるまでが遅く、現在、治療は、行われていない。
【0007】
糖尿病性網膜症は、糖尿病の背景において生じる網膜損傷である。それは、網膜の小血管に糖分が過剰に濃縮されて分解されることに関連している。酸素供給の不足は、新しい、より脆弱な血管の形成を誘発する。破裂およびその後の微小出血は、網膜剥離を引き起こす可能性がある。AMDの湿潤形式としては、抗血管新生薬の注入を行うことが可能であるが、この治療は、うまくいかない。レーザー治療はまた、異常血管を焼くために行われることができるが、有効性は、限定的である。
【0008】
最近、新しい治療的アプローチが、網膜疾患を治療することを目的として記載されている。
【0009】
最近の治療の試みでは、網膜植込み(人工網膜)を配置する可能性が検討されているが、この植込みの解決策は、低いままである。
【0010】
細胞療法の試みはまた、網膜の上皮細胞、神経細胞または血管細胞(hRPCまたはヒト網膜前駆細胞)に分化することが可能な幹細胞で退化した網膜細胞を置き換えることを目的として、実施されている。しかしながら、これまでに決定的な試みは行われておらず、特に、植込み後の細胞分化は、制御されておらず、試験された投与経路である硝子体内注入は、望ましくない副作用をもたらす生理的メカニズムに対応していない(https://clinicaltrials.gov/ct2/show/results/NCT02320182)。さらに、これらの前駆細胞は、成体網膜の再生を可能にすることなくヒトの生体内に存在する(Tang et al.“Progress of stem/progenitor cell-based therapy for retinal degeneration”Journal of Translational Medicine,10 May 2017)。
【0011】
さらに、植込みとして使用するための網膜細胞の膜またはシートが、記載されている。これは、米国出願第2016/0310637号または欧州出願第2570139号の場合であり、これは、ヒトから採取され、培養された網膜細胞から取得された網膜細胞の膜またはシートを開示し、該膜またはシートは、眼に植込まれることが意図されている。しかしながら、この技術は、移植細胞の数に対して非常に多くの細胞の生成を必要とし(品質管理を可能にするために8バッチが生成され、各バッチ中の細胞の大部分は、植込み上に配置されていない)、さらに、植込みは、開業医に特定の移植の専門知識を必要とする長期的および複雑な手術が必要とするため、満足のいくものではなく、患者にとって非常に侵襲的である。
【0012】
欧州出願第3211071号はまた、多能性幹細胞から取得された懸濁液中の凝集体の形式の網膜組織を記載する。次いで、懸濁液は、眼に注入される。この解決策も、満足のいくものではなく、なぜなら、注入によって機能的な構造(特に機能的極性化)を維持することを可能にしないからである:i)色素上皮の場合では、細胞の頂部側が移植片の視細胞の外部セグメントに面して提示されなければならない場合に、移植の生存率および機能性が、制限されること、ii)受容体の場合では、外側のセグメントが、色素上皮の細胞と反対側の眼の外側に向かって配置され、シナプスの終端は、残りの神経網膜を接続するために眼の中心を向いていなければならない。さらに、この技術は、大量の液体を眼に注入することを必要とし、切開または注入中に局所的な出血を引き起こすリスクを伴い、従来技術の他のすべての解決策と同様に、治療される領域よりも広い領域にわたって、網膜の著しい剥離につながる。現在の解決策はまた、Zarbin et al.(“Concise Review:Update on Retinal Pigment Epithelium Transplantation for Age-Related Macular Degeneration”Stem Cells Translational Medicine,2019;8:466-477)に記載されているように、3つまたは4つの切開を行う必要がある。
【0013】
本発明の目的は、従来技術のこれらの様々な問題を克服し、正しく極性された網膜細胞の容易、迅速および最小侵襲的な植込み、ならびに網膜の変性病態を患う患者において変性した網膜細胞を、持続的および確実な方法で置換するように、それらの宿主臓器への統合のための解決策を提案することである。
【発明の概要】
【0014】
本発明によれば、網膜組織移植の有効性は、ブルッフ(Bruch)膜における色素上皮細胞の基底部側の接着を介した移植片の好適な原位置取り込み(特に、正しい頂基極性化)に大きく依存する。したがって、本発明者らは、本発明の目的を達成するために、網膜色素上皮細胞が空洞の周囲に器質化された少なくとも1つの層を含む、特定の中空三次元細胞アレイであって、該網膜色素上皮細胞が外側に向くそれらの基底部側を有する、中空三次元細胞アレイを開発した。この組織ユニットはまた、好ましくは、一旦眼に注入されると、細胞の統合および生存を促進する、網膜色素上皮細胞の基底部側に細胞外マトリックスの外層を含む。本発明による組織ユニットは、内腔、すなわち、網膜色素上皮細胞の頂部側に、網膜色素上皮細胞層内の1つ以上の層の形式で器質化された他の網膜細胞を含み得る。これらの他の細胞は、好ましくは、網膜神経組織の全てまたは一部を形成する。
【0015】
したがって、本発明は、内腔の周囲に器質化された、網膜色素上皮細胞の少なくとも1つの層を含み、各網膜色素上皮細胞の基底部側が外側に向き、頂部側が内腔に向く、中空三次元組織ユニットに関する。本発明による組織ユニットは、好ましくは、中空卵形、中空円柱、中空回転楕円体もしくは中空球体、または平面に沿ったこれらの要素の断片の形式にある。
【0016】
本発明は、網膜疾患の治療、特に、ブルッフ膜での眼への植込みによる、そのような中空三次元組織の使用に関する。
【0017】
有利には、移植は、本発明による、器質化された、およびサブミリメートルサイズの網膜組織ユニットで行われるため、手順は、従来技術のような単一の移植片の正確な位置決めを必要としない。これは、(潜在的に外傷性の)網膜剥離の必要性、および結果として、眼からの硝子体液の排出の強度も制限する。さらに、本発明は、今日の3回または4回と比較して、外科的処置を眼の1回の切開に限定することができるという利点を有する。
【0018】
さらに、網膜色素上皮層の極性化(基底部側が外側に向き、頂部側が内腔に向かう)は、網膜組織ユニットが、眼に移植されたときに正しく位置決めし、移植の成功を確実にすることを可能にする。実際に、外側の基底部側の位置のおかげで、本発明による網膜組織ユニットは、移動して単層を形成する基質に付着した細胞を放出することによって、眼の後ろの細胞外マトリックス(ブルッフ膜)に付着する。
【0019】
本発明は、中空三次元網膜組織ユニットを調製するための方法であって、
-ヒドロゲルカプセル内に、
*網膜色素上皮細胞および任意選択で他の網膜細胞、または、
*網膜色素上皮細胞に、および可能な限り他の網膜細胞に分化することが可能な細胞、を含む、細胞微小区画を生成するステップ、
-微小区画が、網膜色素上皮細胞、および可能な限り他の網膜細胞に分化することが可能な細胞を含む場合に、網膜色素上皮細胞、および可能な限り他の網膜細胞を取得するように、細胞微小区画内での細胞分化を誘導するステップ、
-組織ユニットの形式において、網膜色素上皮細胞および任意の他の網膜細胞を回復するために、ヒドロゲルカプセルを除去するステップ、を含む、方法に関する。
【0020】
最後に、本発明は、中空三次元組織ユニットを眼に植込むためのキットに関し、該キットは、少なくとも、
-任意選択でヒドロゲルカプセルにカプセル化された、1~10,000の組織ユニットと、
-該組織ユニットをヒトの眼に植込むことが可能な外科用植込みデバイスと、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】網膜色素上皮層12および内腔14を有する、本発明による組織ユニット10の断面図の概略図であり、Aが網膜色素上皮細胞の頂部側に対応し、Bが網膜色素上皮細胞の基底部側に対応する。
図2】網膜色素上皮層12、空洞14、および細胞外マトリックス層16を有する、本発明による組織ユニット10の断面図の概略図であり、Aが網膜色素上皮細胞の頂部側に対応し、Bが網膜色素上皮細胞の基底部側に対応する。
図3】本発明によるヒドロゲルカプセル22と組織ユニット10とを備える微小区画20の断面図の概略図であり、組織ユニット10が、色素上皮層12、空洞14および細胞外マトリックス層16によって形成され、Aが網膜色素上皮細胞の頂部側に対応し、Bが網膜色素上皮細胞の基底部側に対応する。
図4】本発明によるヒドロゲルカプセル22と組織ユニット10とを備える微小区画20の断面図の概略図であり、組織ユニット10が、細胞外マトリックス層16、網膜色素上皮層12、網膜色素上皮細胞18以外の網膜細胞の層、および空洞14によって形成され、Aが網膜色素上皮細胞の頂部側に対応し、Bが網膜色素上皮細胞の基底部側に対応する。
図5】本発明による組織ユニットをカプセル化するヒドロゲル(アルギン酸塩)微小区画の顕微鏡画像を示す。
図6】本発明による小さな組織ユニット(A)および本発明による大きな組織ユニット(B)をカプセル化するヒドロゲル(アルギン酸塩)微小区画の顕微鏡画像を示す。
図7】異なる細胞密度を有する本発明による1つ以上の組織ユニットをカプセル化するヒドロゲル(アルギン酸塩)微小区画の顕微鏡画像を示す。
図8】網膜色素上皮の単層の形成までの異なる時間で、ヒドロゲルカプセルを含まない、本発明による網膜組織ユニットを、眼底の細胞外マトリックスを模擬する基板(ここでは、ブルッフ膜を模擬するマトリゲル)上に示す。
図9】細胞極性化がアルギン酸カプセルの内面にマトリックス層を沈着させることによって取得されることができることを示す顕微鏡画像およびグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
定義
本発明の語義での「アルギン酸塩」という用語は、β-D-マンヌロン酸塩およびα-L-グルロン酸塩から形成される直鎖多糖類、その塩および誘導体を意味する。
【0023】
本発明の語義での「ヒドロゲルカプセル」という用語は、液体、好ましくは水で膨張されたポリマー鎖のマトリックスから形成される三次元構造を意味する。
【0024】
本発明の語義での「ヒト細胞」という用語は、ヒト細胞または免疫学的にヒト化された非ヒト哺乳類細胞を意味する。特定されていない場合であっても、本発明による細胞、幹細胞、前駆細胞および組織は、ヒト細胞または免疫学的にヒト化された非ヒト哺乳類細胞によって形成されるか、またはヒト細胞から取得される。
【0025】
本発明の語義での「前駆細胞」という用語は、既に網膜細胞への細胞分化に関与しているが、まだ分化していない幹細胞を意味する。
【0026】
本発明の語義での「胚性幹細胞」という用語は、胚盤胞の内部細胞塊から派生される多能性幹細胞を意味する。胚性幹細胞の多能性は、転写因子OCT4およびNANOGなどのマーカー、ならびにSSEA3/4、Tra-1-60およびTra-1-81などの表面マーカーの存在によって評価されることができる。本発明による胚性幹細胞は、それらが由来する胚を破壊することなく、例えば、Chang et al.(Cell Stem Cell,2008,(2)):113-117)に記載された技術を用いて取得される。ヒト由来の胚性幹細胞は、潜在的に除外され得る。
【0027】
本発明の語義での「多能性幹細胞」または「多能性細胞」という用語は、起源の生物全体に存在するすべての組織を形成する能力を有し、そのような生物全体を形成することができない細胞を意味する。特に、それらは、誘導多能性幹細胞、胚性幹細胞、またはMUSE(多系統分化ストレス耐久性)細胞であり得る。
【0028】
本発明の語義での「誘導多能性幹細胞」という用語は、分化した体細胞の遺伝子再プログラミングによって多能性に誘導される多能性幹細胞を意味する。これらの細胞は、特に、アルカリホスファターゼ染色およびタンパク質NANOG、SOX2、OCT4およびSSEA3/4の発現などの多能性マーカーに対して陽性である。誘導多能性幹細胞を取得するためのプロセスの例は、Yu et al.(Science 2007,318(5858):1917-1920)、Takahashi et al(Cell,207,131(5):861-872)、およびNakagawa et al(Nat Biotechnol,2008,26(1):101-106)の記事に記載されている。
【0029】
本発明の語義での「分化した」細胞という用語は、分化していない多能性幹細胞とは対照的に、特定の表現型を示す細胞を意味する。
【0030】
組織ユニットの「フェレ-(Feret)径」という用語は、2つの接線と該組織ユニットとの間の距離「d」を意味し、これらの2つの接線は、組織ユニットの投影全体がこれらの2つの平行な接線の間に含まれるように、平行である。
【0031】
本発明の語義での眼への「植込み」または「移植」という用語は、本発明による少なくとも1つの組織ユニットを特定の位置で眼に沈着させる作用を意味する。植込みは、任意の手段、特に注入によって実行されることができる。
【0032】
本発明の語義での組織ユニットの「最大寸法」という用語は、該組織ユニットの最大フェレ-径の値を意味する。
【0033】
本発明の語義での組織ユニットの「最小寸法」という用語は、該組織ユニットの最小フェレ-径の値を意味する。
【0034】
本発明による「組織ユニット」または「網膜組織ユニット」という用語は、網膜の少なくとも1つの組織を含むユニットを意味する。網膜組織ユニットは、機能的構造化と共に組み立てられた複数の網膜組織を含み得る。本発明による組織ユニットは、少なくとも1つの網膜色素上皮組織を含み、また、別の網膜組織、特に、網膜神経組織もしくは網膜血管組織、および/または少なくとも1つの他の構成要素、例えば、細胞外マトリックスを含み得る。
【0035】
組織ユニット
その後、本発明は、三次元網膜組織ユニットに関する。
【0036】
本発明による組織ユニットは、中空である。それは、組織ユニットの中空部分を構成する、内腔または管腔を常に備える。この空洞は、増殖および成長する網膜細胞によって組織ユニットの形成時に生成される。空洞は、液体、特に、培養培地(DMEMもしくはDMEM-F12および/または神経基底部に基づく培地であって、B27もしくはN-2もしくはNS21で補充された培地など)、および/または組織ユニットの細胞によって分泌された液体を含む。有利には、網膜組織ユニットにおけるこの中空部分の存在は、眼に植込まれるときに、網膜においてより良好な統合を可能にする。
【0037】
本発明の組織ユニットは、少なくとも1つの網膜色素上皮細胞の層を含む。これらの細胞は、ヒトの生きている細胞で網膜色素上皮細胞に分化している。網膜上皮細胞の層は、内腔の周囲に器質化されている。この層を形成する細胞は、一緒に網膜色素上皮を形成し、それらの基底部側はすべて、細胞ユニットの外側に向かい、それらの頂部側はすべて、内側に向かい、すなわち、内腔に向かう。隣接する細胞は、好ましくは、密着結合によってそれらの側面上で共に連結される。
【0038】
特に好適な実施形態によれば、本発明による組織ユニットは、細胞外マトリックスの外層も含む。この細胞外マトリックスの外層は、網膜色素上皮細胞の基底部側に位置している。細胞マトリックス層は、網膜色素上皮細胞によって分泌された細胞マトリックス、および/または細胞ユニットの調製時に加えられた細胞外マトリックスによって形成されることができる。
【0039】
細胞外マトリックス層は、ゲルを形成することができる。それは、網膜色素上皮細胞の培養に必要なタンパク質および細胞外化合物の混合物を含む。好ましくは、細胞外マトリックスは、コラーゲン、ラミニン、エンタクチン、ビトロネクチンなどの構造タンパク質と、TGF-ベータおよび/またはEGFなどの成長因子とを含む。細胞外マトリックス層は、Matrigel(登録商標)および/もしくはGeltrex(登録商標)および/もしくは植物由来のヒドロゲルタイプのマトリックス、例えば、修飾アルギン酸塩、または合成由来もしくはポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)およびポリ(エチレングリコール)コポリマー(PNIPAAm-PEG)タイプのMebiol(登録商標)から構成され得、またはそれらを含み得る。
【0040】
網膜色素上皮層と接触する細胞外マトリックス層の表面において、細胞外マトリックスは、任意選択で、1つ以上の網膜色素上皮細胞を含み得る。
【0041】
細胞外マトリックスが存在するときに、内腔の周囲に三次元的に器質化された網膜細胞は、細胞外マトリックスと既に有利に相互作用し、網膜へのそれらの植込みを促進する。
【0042】
本発明による組織ユニットは、網膜色素上皮細胞以外の網膜細胞の1つ以上の他の層を含み得る。これらの細胞は、生きている、および網膜色素上皮細胞以外の網膜細胞に分化している、ヒト細胞である。網膜色素上皮細胞以外の網膜細胞の層は、網膜色素上皮細胞層内、すなわち、網膜色素上皮細胞の頂部側に配置され、管腔の周囲に器質化される。
【0043】
一実施形態では、網膜色素上皮細胞以外の網膜細胞は、桿体、錐体、神経節細胞、アマクリン細胞、双極細胞、および水平細胞から選択される。細胞ユニットが網膜色素上皮細胞以外の網膜細胞の少なくとも2つの層を含むときに、異なる層は、内腔の周囲に連続して器質化される。
【0044】
好ましくは、本発明による組織ユニットは、10~100,000個の網膜細胞を含む。
【0045】
本発明の特定の実施形態によれば、図1に示されるように、中空三次元網膜組織ユニット10は、排他的に、
-内腔14と、
-網膜色素上皮細胞の基底部側Bが組織ユニットの外側に向けられ、網膜色素上皮細胞の頂部側Aが内腔に向けられた、内腔の周囲に器質化された網膜色素上皮の層12と、からなる。
【0046】
本発明の別の特定の実施形態によれば、図2に示されるように、中空三次元網膜組織10は、排他的に、
-内腔14と、
-網膜色素上皮細胞の基底部側Bが組織ユニットの外側に向けられ、網膜色素上皮細胞の頂部側Aが内腔に向けられた、内腔の周囲に器質化された網膜色素上皮の層12と、
-該網膜色素上皮細胞の基底部側の網膜色素上皮細胞の層の周囲に配置された細胞外マトリックス16の層と、からなる。
【0047】
本発明による組織ユニットを構成する種々の分化した細胞は、実施形態にかかわらず、任意選択で、多能性幹細胞、特にヒト多能性幹細胞から取得され得、もしくは任意選択で、例えば、線維芽細胞または末梢血単核細胞などの成体細胞から直接再プログラムされ得る。
【0048】
本発明による組織ユニットは、任意の三次元形式であることができ、すなわち、空間内の任意の物体の形状を有することができる。好ましくは、本発明による組織ユニットは、中空卵形、中空円柱、中空回転楕円体または中空球体の形式にある。それは、組織ユニットの外層、すなわち、存在するときに、網膜色素上皮層または細胞外マトリックス層であり、これは、本発明による組織ユニットにそのサイズおよび形状を付与する。
【0049】
好ましくは、本発明による組織ユニットの最大寸法は、1cm未満であり、さらにより好ましくは0.5cm未満である。好適および好ましい実施形態によれば、本発明による組織ユニットの最大寸法は、100~1,000μmである。それはまた、200~1,000μmまたは300~1,000μmであり得る。この寸法は、最大寸法が非常に小さなサイズの事前切開で植込まれるのに大きすぎであるべきではないので、特に注入によって、眼への容易な植込みを保証する。寸法が大きくなればなるほど、眼を切開する大きさも大きくなり、リスクおよび治療を受ける患者への影響を制限するために、できるだけ切開の大きさを制限することが重要である。好ましくは、組織ユニットの最小寸法は、1,000μm未満である。一実施形態によれば、それは、10~1000μm、好ましくは100~400μm、さらにより好ましくは200~300μmである。このより小さい寸法は、試験管内での移植片の生存のために、特に、網膜組織ユニット内の網膜細胞の生存を促進し、眼への植込み後の組織ユニットの再器質化および血管形成を最適化するために重要である。
【0050】
組織ユニットにおける網膜色素上皮細胞層の厚さは、好ましくは5μm~200μmである。本発明の組織ユニットが、網膜色素上皮細胞ではない網膜細胞の2つ以上の他の層を含むときに、この層または一緒にこれらの層は、20μm~500μmの厚さを有することが好ましい。本発明による組織ユニットにおいて細胞外マトリックスの外層が存在するときに、細胞外マトリックスのこの外層の厚さは、好ましくは30mm~500mmである。
【0051】
空洞は、好ましくは、本発明による組織ユニットの体積の10%~90%を表す。
【0052】
本発明による網膜組織ユニットは、特に網膜疾患の治療のために、ヒトの眼における植込み可能な移植片として特に有用である。本発明による網膜細胞ユニットの形状、サイズ、および構成は、植込みに先立つ組織ユニット内の細胞の生存、ならびに眼に植込まれた移植片の植込み、再器質化、および血管形成を成功させることを可能にする。
【0053】
植込みまで、組織ユニットは、任意選択で、優先的に調製されているヒドロゲルカプセルにカプセル化され得る。この場合、ヒドロゲルカプセルは、好ましくは眼への植込み前に除去される。
【0054】
本発明による組織ユニットは、植込みまで保管するために凍結されることができる。
【0055】
植込みキット
本発明はまた、少なくとも1つの組織ユニットを植込むためのキットに関する。
【0056】
本発明による植込みキットは、少なくとも、
-本発明による1~10,000の組織ユニットであって、組織ユニットが任意選択でヒドロゲルカプセルにカプセル化されている、組織ユニット、
-カプセルユニットがヒドロゲルカプセルにカプセル化されている場合に、任意選択で、ヒドロゲルカプセル除去手段、
-該組織ユニットをヒトの眼に植込むことが可能な外科用植込みデバイス、を備える。
【0057】
ヒドロゲルカプセル除去手段は、任意の生体適合性手段、すなわち、細胞にとって無毒である手段による加水分解、溶解、穿刺、および/または破裂によって、カプセルを除去することを可能にしなければならない。除去手段は、好ましくは、緩衝液(リン酸緩衝生理食塩水、PBSとも称される)、二価イオンのキレート剤を含有する緩衝液(EDTAなど)から選択され、これらは、(ヒドロゲルの性質に応じて選択される)ヒドロゲルを溶解することができる酵素である。
【0058】
外科用植込みデバイスは、内径が移植されるべき本発明による組織ユニットの通過を可能にし、好ましくは100μm~1mmであり、その外径が治療された眼の構造に対してあまり外傷性ではなく、好ましくは2mm未満である針またはカニューレであり得る。
【0059】
デバイスに存在する本発明による組織ユニットの数は、1~10,000、好ましくは10~1,000である。この数は、治療される網膜疾患およびもはや機能しなくなった網膜の領域の大きさによって異なる。
【0060】
植込みキットにおいて、組織ユニットは、植込みデバイスの外側にあることができ、および/または外科用植込みデバイスに既に全体または一部が導入されていることができる。
【0061】
キットにおいて存在する本発明による組織ユニットは、デバイスの外側に凍結され、および/または外科用植込みデバイス内に凍結されることができる。この場合、本発明による組織ユニットは、組織ユニットのすべての特性を保存することを可能にする任意の好適な手段によって、使用に先立ち解凍されなければならない。これは、特に、不凍液としてDMSOを使用する標準的な細胞生物学的プロトコル、またはスクロースなどの糖類およびエチレングリコールなどのアルコールを使用して試験管内で受精胚を凍結するために適用されるプロトコルを含み得る。
【0062】
組織ユニットがヒドロゲルカプセルにカプセル化されて凍結している場合、カプセル化された組織ユニットが最初に解凍され、次いでヒドロゲルカプセルが除去されるべきである。
【0063】
調製方法
本発明はまた、本発明による組織ユニットを調製するための方法に関する。特に、本方法は、
-分化した網膜色素上皮細胞および任意選択で他の分化した網膜細胞、もしくは、
-網膜細胞に、少なくとも網膜色素上皮細胞に分化することが可能な幹細胞または前駆細胞、もしくは、
-カプセルにおける、
*網膜細胞、少なくとも網膜色素上皮細胞へのトランス分化か、
*または網膜細胞に、少なくとも網膜色素上皮細胞に分化することが可能な誘導多能性幹細胞になるように、カプセルにおける再プログラミングすることのいずれか、を受けることが意図された分化した細胞、を取り囲むヒドロゲルカプセルを備える細胞微小区画を作製することによって、本発明による少なくとも1つの組織ユニットを作製することからなる。
【0064】
次いで、カプセルは、好ましくは、組織ユニットの細胞が、眼への移植後に網膜に植込むことを可能にするように除去される。
【0065】
本発明による組織ユニットを調製するための方法は、少なくとも、
-細胞微小区画を生成するステップであって、ヒドロゲルカプセルの内側に、
*好ましくは、細胞によって分泌されたか、またはオペレータによって提供された、少なくとも細胞外マトリックスの要素、好ましくは、細胞によって自然に分泌される細胞外マトリックスに加えて提供される、少なくとも細胞外マトリックスの一部、
*少なくとも網膜色素上皮細胞または少なくとも分化した網膜色素上皮細胞に分化することが可能な細胞、を含む、生成するステップ、
-微小区画に導入された細胞が、少なくとも網膜色素上皮細胞に分化することが可能な細胞である場合に、少なくとも網膜色素上皮細胞、および可能な限り他の網膜細胞を取得するように、細胞微小区画内での細胞分化を誘導するステップ、
-内腔の周囲に器質化された少なくとも1つの網膜色素上皮層と、その外側を向く各網膜色素上皮細胞の基底部側と、空洞に向かう頂部側とを含む、中空三次元網膜組織の形式で、網膜色素上皮細胞および可能な限り他の網膜細胞を回復するために、ヒドロゲルカプセルを除去するステップ、の実施を含む。
【0066】
有利には、ヒドロゲルにおける全カプセル化または部分カプセル化、および細胞外マトリックスの提供が組み合わされたものは、網膜色素上皮細胞の極性化を可能にすることができる手段である。実際に、該細胞の極性化は、細胞の基底部側を配置するヒドロゲルカプセルの内面上にマトリックスの層を沈着させることによって取得されることができ、組織は、この分極の指標に続いて空洞の周囲に自身を器質化する(図9に示されるように、アルギン酸塩シェルに固定された細胞外マトリックス層は、組織の形状を決定するゲルの高い引張強度に起因するアルギン酸塩に対する組織の平坦化によって証明されるように、細胞の極性化を誘導する)。使用されるヒドロゲルは、好ましくは生体適合性であり、すなわち、細胞に対して毒性ではない。ヒドロゲルカプセルは、微小区画に含まれる細胞を供給するための酸素および栄養素の拡散を可能にし、それらの生存を可能にしなければならない。一実施形態によれば、カプセルは、アルギン酸塩を含む。それは、排他的に、アルギン酸塩で形成されることができる。特に、アルギン酸塩は、平均分子量が100~400kDaであり、総濃度が0.5~5重量%である、80%のα-L-グルロン酸塩および20%のβ-D-マンヌロン酸塩からなるアルギン酸ナトリウムであり得る。
【0067】
ヒドロゲルカプセルは、外部環境から細胞を保護し、細胞の制御されない激増を制限することを可能にし、細胞を網膜細胞、少なくとも網膜色素上皮細胞への制御された分化を可能にする。カプセルは、非常に好ましくは、本発明による単一の組織ユニットを取り囲み、各組織ユニットが、単一のヒドロゲルカプセルによって取り囲まれる。
【0068】
本発明の網膜組織ユニットが取得されると、すなわち、細胞が、網膜色素上皮細胞の少なくとも1つの層を含む網膜細胞に分化しており、形状およびサイズが所望の通りであるとき、カプセルは、除去される。カプセルの除去は、方法の終了時、または眼への植込み前の時間に後で実行されることができる。カプセルの除去は、特に、任意の生体適合性手段、すなわち、細胞にとって無毒である手段による加水分解、溶解、穿刺、および/または破裂によって、達成されることができる。例えば、除去は、リン酸緩衝生理食塩水、二価イオンのキレート剤、ヒドロゲルがアルギン酸塩および/またはレーザー微小切断を含む場合のアルギン酸リアーゼなどの酵素を使用して達成されることができる。
【0069】
ヒドロゲルの除去が完了しているため、本発明による組織ユニットは、眼に植込まれたときにヒドロゲル無しである。
【0070】
ヒドロゲルカプセル内に、少なくとも網膜色素上皮細胞または少なくとも網膜色素上皮細胞を生じることが可能な細胞、ならびに任意選択で網膜色素上皮細胞または少なくとも網膜色素上皮細胞以外の網膜細胞を生じることが可能な細胞以外の細胞外マトリックスおよび/または網膜細胞を含む細胞微小区画を生成するための任意の方法が、使用されることができる。好適な方法は、特に、国際出願第2018/096277号に記載されている。
【0071】
特定の実施形態では、本発明による調製方法の細胞微小区画を生成することのステップは、
-培養培地、好ましくは、DMEM、もしくはDMEM-F12、FGF-2もしくはその細胞への作用を複製する分子、TGF-ベータまたはその細胞への作用を複製する分子に基づく培養培地において、多能性幹細胞をインキュベートするステップと、
-多能性幹細胞を細胞外マトリックスと混合するステップと、
-混合物をヒドロゲル層においてカプセル化するステップと、を含む。
【0072】
本発明による組織ユニットの調製のためのカプセル化された細胞は、好ましくは、
-少なくとも網膜色素上皮細胞に分化することが可能な細胞であって、これらの細胞が、
*網膜細胞に、少なくとも網膜色素上皮細胞に分化することが可能な幹細胞、好ましくは胚性幹細胞もしくは誘導多能性幹細胞、非常に好ましくは誘導多能性幹細胞、および/または、
*網膜細胞に、少なくとも網膜色素上皮細胞に分化することが可能な前駆細胞である、細胞、
-および/または分化した網膜色素上皮細胞、および可能な限り網膜色素上皮細胞以外の分化した網膜色素上皮細胞、
-および/または網膜細胞、少なくとも網膜色素上皮細胞へのトランス分化を受けることが可能な分化した細胞、
-および/または網膜細胞に、少なくとも網膜色素上皮細胞に分化することが可能な誘導多能性幹細胞になるように再プログラミングを受けることが可能な分化した細胞、
から選択される。
【0073】
カプセル化された細胞は、拒絶のリスクを回避するために、組織ユニットを受容することを意図された人との免疫適合性であり得る。一実施形態では、カプセル化された細胞は、1つ以上の組織ユニットが植込まれる人から従前に回収されている。
【0074】
網膜色素上皮細胞への分化は、任意の好適なプロセスによって達成されることができる。これは、Leach et al.(“Concise Review:Making Stem Cells Retinal:Methods for Deriving Retinal Pigment Epithelium and Implications for Patients With Ocular Disease」,Stem Cells 2015;33:2363-2373)に記載された方法の1つなど、既知の方法を含み得る。基本培地は、KSR-XF(「KnockOut DMEM培地」)またはN-2および/またはB27、1%GlutaMax、および1%非必須アミノ酸溶液で補充されることができる、DMEM(「ダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s modified Eagle’s medium)」)またはDMEMF12であることができる。誘導はまた、Choudhary et al.(“Directing Differentiation of Pluripotent Stem Cells Toward Retinal Pigment Epithelium Lineage”STEM CELLS TRANSLATIONAL MEDICINE 2016;5:1-12)に公表されたようなシーケンスで達成されることができる。
【0075】
網膜色素上皮細胞以外の網膜細胞への分化は、任意の好適な方法によって達成されることができる。これは、Barnea-Cramer et al.(「Function of human pluripotent stem cell-derived photoreceptor progenitor in blind mice」Nature,Scientific Reports,2016年7月13日発行)に記載された方法などの方法を含み得る。したがって、分化は、KSR-XF(「KnockOut DMEM培地」)またはN-2および/またはB27、1%GlutaMax、および1%非必須アミノ酸溶液で補充されることができる、DMEMF12で実行されることができる。
【0076】
特定の実施形態では、本発明による調製方法の細胞分化誘導ステップは、
-少なくとも10個の細胞、好ましくは100個の細胞が取得されるまで、多能性細胞培養培地において微小区画を成長するステップと、
-N-2およびB27、1%GlutaMax、ならびに1%非必須アミノ酸溶液、ならびにLDN193189およびSB431542、ならびに20μg/mlのヒトインスリンで補充されたDMEMF12培養培地において、微小区画を成長するステップと、
-N-2およびB27、1%GlutaMax、ならびに1%非必須アミノ酸溶液、ならびにLDN193189およびSB431542で補充されたDMEMF12培養培地において、微小区画を成長するステップと、
-N-2およびB27、1%GlutaMax、ならびに1%非必須アミノ酸溶液、ならびに10ng/mlのヒトBDNF、10ng/mlのヒトCNTF、2μMのレチノイン酸、および10μMのDAPTで補充されたDMEMF12培養培地において、微小区画を成長するステップと、を含む。
【0077】
微小区画は、好ましくは少なくとも18日間、好ましくは18~50日間成長させる。
【0078】
網膜色素上皮層および他の網膜細胞の少なくとも1つの層を含む組織ユニットの実施形態では、本方法は、網膜色素上皮細胞および他の細胞を共カプセル化することからなる。各分化の数日から取得された細胞は、好ましくは、網膜色素上皮および神経網膜を含む構造を形成するために、共カプセル化されている。次いで、細胞は、本発明による組織ユニットを取得する前に、カプセルにおいて5~50日間、より好ましくは10~25日間成熟される。
【0079】
空洞は、細胞が増殖および成長することによって、三次元組織ユニットの形成時に生成される。空洞は、液体、具体的には、方法を実施するために使用される培養培地を含み得る。
【0080】
本発明による方法は、微小区画において、網膜色素上皮細胞を増幅するステップを含み得る。
【0081】
本発明による中空三次元組織ユニット10を備える微小区画20の実施形態が、図3に示されている。この実施形態では、微小区画は、排他的に、
-ヒドロゲル層22と、
-組織ユニット10であって、
*内腔14、
*網膜色素上皮細胞の基底部側Bが組織ユニットの外側に向けられ、網膜色素上皮細胞の頂部側Aが内腔に向けられた、内腔の周囲に器質化された網膜色素上皮の層12、
*該網膜色素上皮細胞の基底部側の網膜色素上皮細胞の層の周囲に配列された細胞外マトリックス16の層、から形成される、組織ユニット10と、から形成される。
【0082】
本発明による中空三次元網膜組織ユニットを備える微小区画20の別の実施形態が、図4に示されている。この実施形態において、微小区画は、排他的に、
-ヒドロゲル層22と、
-組織ユニット10であって、
*内腔14、
*網膜色素上皮細胞以外の網膜細胞の層18、好ましくは神経網膜の層、
*膜色素上皮細胞の基底部側Bが組織ユニットの外側に向けられ、網膜色素上皮細胞の頂部側Aが内腔に向けられた、内腔の周囲に器質化された網膜色素上皮の層12、
*該網膜色素上皮細胞の基底部側の網膜色素上皮細胞の層の周囲に配列された細胞外マトリックス16の層、から形成される、組織ユニット10と、からなる。
【0083】
分化ステップ後、眼への組織ユニットの植込みに先立つ任意の時点で、本発明による方法は、カプセルに含まれる細胞の表現型を検証するステップを含み得る。この検証は、ある実施形態では、組織ユニットの外側位置における色素上皮によるRPE65の発現を特定することによって、実行されることができ、特に、組織ユニットの内側位置における回復の神経網膜要素を含む組織要素の場合、全ての光受容体およびロッドについてのロドプシン/PDE6ベータによって発現される空洞で、ある実施形態では、管腔は、ビトロシンおよびオプチシンを含むことができる。
【0084】
本発明による方法は、ヒドロゲル層の除去前に本発明による組織ユニットを含む微小区画を凍結するステップ、またはヒドロゲルカプセル除去のステップ後に組織ユニットを凍結するステップを含み得る。凍結は、好ましくは、-190℃~-80℃の温度で実行される。
【0085】
ヒドロゲル層の除去前の本発明による組織ユニットを含む微小区画、またはヒドロゲルカプセルの除去のステップ後の組織ユニットは、+4℃~室温の以下の条件下で保管されることができる。本発明による組織ユニットはまた、保管することなく、本発明による方法を実行後に直接使用されることができる。
【0086】
本発明による調製方法はまた、ヒドロゲル層または組織ユニットの除去に先立ち組織ユニットを含む微小区画の解凍を可能にする前または後に、本発明による少なくとも1つの組織ユニット、好ましくは10~1,000個の組織ユニット、さらにより好ましくは10~100個の組織ユニットで外科用植込みデバイスを装填する追加のステップを含み得る。
【0087】
眼における組織ユニットの植込み
本発明はまた、網膜疾患、特にそれを必要とする患者の治療における使用のため、内腔の周囲に器質化された、網膜色素上皮細胞の少なくとも1つの層を含み、各網膜色素上皮細胞の基底部側が外側に向き、頂部側が内腔に向く、中空三次元組織ユニットに関する。「治療」という用語は、予防的、治療的または対症療法的な治療、すなわち、人の視力を一時的にまたは永久的に改善することを意図し、好ましくはまた、疾患を根絶すること、および/または疾患の進行を停止もしくは遅延させること、および/または疾患の退縮を促進することを意図する任意の行為を意味する。
【0088】
実際に、本発明による組織ユニットは、ヒトにおける網膜疾患、特に変性網膜疾患、好ましくは、加齢性黄斑変性症、糖尿病性網膜症、眼に対する外傷に関連する網膜症および遺伝性網膜症から選択される疾患の治療のために使用されることができる。
【0089】
治療は、植込むこと、詰まり、本発明による組織ユニットを眼の中へ、網膜で、および特にブルッフ膜で、すなわち、ブルッフ膜と神経網膜との間に移植することからなる。眼への植込みに好適な外科用植込みデバイスは、非常に好ましく使用される。これは、特に、動脈へのステントの植込みまたは外科用マイクロ植込みのために使用されるような、組織ユニットを沈着させるための針、カニューレ、または他のデバイスを含み得る。植込みは、特に、
-治療領域において外科用植込みデバイスを使用して網膜に貫通すること、または切開を行うステップと、
-網膜の下に、好ましくはブルッフ膜で、すなわち、ブルッフ膜と神経網膜の間に組織ユニットを注入するステップと、
-外科用植込みデバイスを取り外し、細胞が硝子体液中に押し戻されるのを防止するステップと、からなるステップを実行することによって実行されることができる。
【0090】
実施形態では、単一の植込みの間、本発明による1~10,000の組織ユニットが、植込まれる。
【0091】
必要に応じて、網膜の異なる領域に、好ましくはブルッフ膜で、特に、様々な別個の領域が疾患の影響を受ける場合、または移植を1箇所のみで実行するためには植込みを行う領域が広範囲である場合に、複数同時または連続的な植込みを実行するために可能である。
【0092】
同様に、単一の植込みが1つの領域において十分でない場合、複数の移植は、同じ領域で短期間または長期間にわたって繰り返し実行されることができる。
【0093】
本発明による組織ユニットの植込みは、網膜疾患、特に変性網膜疾患に罹患している患者が、少なくとも部分的視力を取り戻すことを可能にする。
【0094】
ここで、本発明は、図5~8に示される結果によって示される。
【0095】
これらの様々な図に示される網膜上皮組織は、
-ヒドロゲルカプセル内に、
*オペレータによって提供される細胞外マトリックス要素、
*網膜色素上皮細胞、を含む、細胞微小区画を生成するステップを含む方法を実施することによって取得された。
これらの網膜色素上皮細胞は、以下の方法、
-i)数十個の細胞を含むコロニーが取得されるまでペトリ皿内で、ii)少なくとも10個の細胞、好ましくは100個の細胞が微小区画において取得されるまで、多能性細胞培養培地におけるマイクロコンパートメント内で、誘導多能性幹細胞を成長させること、
-N-2およびB27、1%GlutaMax、ならびに1%非必須アミノ酸溶液、ならびにLDN193189およびSB431542、ならびに20μg/mlのヒトインスリンで補充されたDMEMF12培養培地において、i)コロニー、ii)微小区画を成長させること、
-N-2およびB27、1%GlutaMax、ならびに1%非必須アミノ酸溶液、ならびにLDN193189およびSB431542で補充されたDMEMF12培養培地において、i)コロニー、ii)微小区画を成長させること、
-N-2およびB27、1%GlutaMax、ならびに1%非必須アミノ酸溶液、ならびに10ng/mlのヒトBDNF、10ng/mlのヒトCNTF、2μMのレチノイン酸、および10μMのDAPTで補充されたDMEMF12培養培地において、i)コロニー、ii)微小区画を成長させること、において取得されることができる。
【0096】
図5では、誘導細胞の分化に由来する網膜色素上皮細胞のカプセル化によって取得されたカプセルが、極性された組織ユニットの形式でそれ自身が器質化されるために、微小区画内で激増される。図5は、生体内の網膜色素上皮細胞の組織構造に典型的な成熟扁平上皮(黒矢印)(典型的には、密着結合(白矢印)の形成によって可能となる)の形成を明瞭に示す。
【0097】
図6では、誘導多能性細胞の分化に由来する網膜色素上皮細胞のカプセル化によって取得されたカプセルは、生体内の網膜色素上皮細胞の組織構造に典型的な組織における細胞の数に関わらず(左におよそ100個の細胞、サイズ:50μm、挿入図A、および右におよそ1,000個の細胞、サイズ:250μm、挿入図B)、色素上皮シート構造を示す。
特に、頂部側が組織ユニットの内側に向き、基底部側がアルギン酸塩層に接触している組織ユニットの外側に向くということを特徴とする頂底極性化に従って、細胞が中空回転楕円体(挿入図B)および中空卵形(挿入図E)に器質化されていることが、図6では見られることができる。特に、細胞外色素は、生体内で遭遇されたトポロジーに対応する核の基底部器質(挿入図B、DAPI、白矢印)を有する細胞の頂部側(挿入図D、透過光、白矢印)に位置する。
【0098】
図7では、誘導多能性細胞の分化に由来する網膜色素上皮細胞のカプセル化によって取得されたカプセルは、4週間で10倍増幅され(図7aおよび7b)、4週間で4倍増幅された(図7cおよび7d)。これらの図は、本発明による網膜組織ユニットが可変細胞密度を有することができることを示す。
【0099】
最後に、図8の連続した画像では、本発明による様々な網膜組織ユニット(ヒドロゲルカプセルなし)は、眼底の細胞外マトリックスを模擬する基板上に配列されている(ここでは、ブルッフ膜を模擬するマトリゲル)。網膜組織ユニット(黒矢印)は、その基底部側が外側に配置されているおかげで、基質に付着した細胞(白矢印)を放出することによって、眼底の細胞外マトリックスを模擬する基質に付着することができ(灰色矢印)、基質を覆い、単層を形成する(122時間の培養に対応する右下に挿入)ことを見られることができる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7a)】
図7b)】
図7c)】
図7d)】
図8
図9
【国際調査報告】