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特表2022-544942小児患者における腎機能を診断若しくはモニタリングする、又は腎機能障害を診断する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-24
(54)【発明の名称】小児患者における腎機能を診断若しくはモニタリングする、又は腎機能障害を診断する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20221017BHJP
【FI】
G01N33/53 B ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022509024
(86)(22)【出願日】2020-08-14
(85)【翻訳文提出日】2022-03-17
(86)【国際出願番号】 EP2020072916
(87)【国際公開番号】W WO2021028582
(87)【国際公開日】2021-02-18
(31)【優先権主張番号】19191968.7
(32)【優先日】2019-08-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514122524
【氏名又は名称】シュピーンゴテック ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100196977
【弁理士】
【氏名又は名称】上原 路子
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ベルクマン
(72)【発明者】
【氏名】サスキア デ ビルト
(57)【要約】
本発明の主題は、(a)対象における腎機能を診断若しくはモニタリングする、又は(b)対象における腎機能障害を診断する、又は(c)腎不全、腎機能の喪失及び末期腎臓病を含む腎機能の悪化若しくは腎不全、腎機能の喪失及び末期腎臓病を含む腎機能障害による死亡を含む群から選択される、疾患のある対象における有害事象のリスクを予測若しくはモニタリングする、又は(d)治療若しくは介入の成功を予測若しくはモニタリングするための方法であって、
・前記対象から得られた体液中のプロ-エンケファリン又は少なくとも5つのアミノ酸からなるその断片のレベルを測定すること、並びに
(a)前記プロ-エンケファリン若しくはその断片のレベルを対象の腎機能と相互に関連付けること、又は
(b)前記プロ-エンケファリン若しくはその断片のレベルを腎機能障害と相互に関連付けることであって、一定の閾値を超える上昇したレベルが前記対象の腎機能障害を予測若しくは診断する関連付けを行うこと、又は
(c)前記プロ-エンケファリン若しくはその断片のレベルを、疾患のある対象の有害事象の前記リスクと相互に関連付けることであって、一定の閾値を超える上昇したレベルが前記有害事象のリスクの増大を予測する関連付けを行うこと、又は
(d)前記プロ-エンケファリン若しくはその断片のレベルを、疾患のある対象における治療若しくは介入の成功と相互に関連付けることであって、一定の閾値未満のレベルが治療若しくは介入の成功を予測し、前記治療若しくは介入が腎代替療法であってもよく、腎代替を受けた患者におけるヒアルロン酸による治療であってもよく、若しくは前記治療若しくは介入の成功を予測若しくはモニタリングすることが、腎代替療法及び/若しくは薬剤介入の前後に腎機能が損なわれた患者の腎機能の回復を予測若しくはモニタリングすることであってもよい関連付けを行うこと
を含む、方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)対象における腎機能を診断若しくはモニタリングする、又は(b)対象における腎機能障害を診断する、又は(c)腎不全、腎機能の喪失及び末期腎臓病を含む腎機能の悪化若しくは腎不全、腎機能の喪失及び末期腎臓病を含む腎機能障害による死亡を含む群から選択される、疾患のある対象における有害事象のリスクを予測若しくはモニタリングする、又は(d)治療若しくは介入の成功を予測若しくはモニタリングするための方法であって、
・前記対象から得られた体液中のプロ-エンケファリン又は少なくとも5つのアミノ酸からなるその断片のレベルを測定すること、並びに
(a)前記プロ-エンケファリン若しくはその断片のレベルを対象の腎機能と相互に関連付けること、又は
(b)前記プロ-エンケファリン若しくはその断片のレベルを腎機能障害と相互に関連付けることであって、一定の閾値を超える上昇したレベルが前記対象の腎機能障害を予測若しくは診断する関連付けを行うこと、又は
(c)前記プロ-エンケファリン若しくはその断片のレベルを、疾患のある対象の有害事象の前記リスクと相互に関連付けることであって、一定の閾値を超える上昇したレベルが前記有害事象のリスクの増大を予測する関連付けを行うこと、又は
(d)前記プロ-エンケファリン若しくはその断片のレベルを、疾患のある対象における治療若しくは介入の成功と相互に関連付けることであって、一定の閾値未満のレベルが治療若しくは介入の成功を予測し、前記治療若しくは介入が腎代替療法であってもよく、腎代替を受けた患者におけるヒアルロン酸による治療であってもよく、若しくは前記治療若しくは介入の成功を予測若しくはモニタリングすることが、腎代替療法及び/若しくは薬剤介入の前後に腎機能が損なわれた患者の腎機能の回復を予測若しくはモニタリングすることであってもよい関連付けを行うこと
を含み、
前記プロ-エンケファリン又は断片が、配列番号1、配列番号2、配列番号5、配列番号6、配列番号8、配列番号9、配列番号10及び配列番号11を含む群から選択され、
前記閾値が150~1290pmol/Lの範囲にあり、
前記対象が小児である、方法。
【請求項2】
対象における腎機能を診断又はモニタリングするための方法であって、
前記対象から得られた体液中のプロ-エンケファリン又は少なくとも5つのアミノ酸からなるその断片のレベルを測定することを含み、
追跡検査測定の間、プロ-エンケファリン及びその断片の相対的な変化の低下が前記対象の腎機能の改善と相関する、又は
追跡検査測定の間、プロ-エンケファリン及びその断片の相対的な変化の増加が前記対象の腎機能の悪化と相関し、
前記プロ-エンケファリン又はその断片が、配列番号1、配列番号2、配列番号5、配列番号6、配列番号8、配列番号9、配列番号10及び配列番号11を含む群から選択され、
プロ-エンケファリン又は少なくとも5つのアミノ酸からなるその断片の前記測定が1人の患者で複数回行われ、
対象が小児である、方法。
【請求項3】
前記対象が、18歳以下、より好ましくは14歳以下、さらにより好ましくは12歳以下、さらにより好ましくは8歳以下、さらにより好ましくは5歳以下、さらにより好ましくは2歳以下、最も好ましくは1歳以下の小児である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記小児が重症の病気である、請求項1~3に記載の方法。
【請求項5】
前記対象から得られた体液中のプロ-エンケファリン(PENK)又はその断片のアミノ酸配列内の領域に結合するバインダーの少なくとも1つを使用することによって免疫反応性分析物のレベルを測定すること、及び
(a)前記免疫反応性分析物のレベルを対象の腎機能と相互に関連付けること、又は
(b)前記免疫反応性分析物のレベルを腎機能障害と相互に関連付けることであって、一定の閾値を超える上昇したレベルが前記対象の腎機能障害を予測若しくは診断する関連付けを行うこと、又は
(c)前記免疫反応性分析物のレベルを、疾患のある対象の有害事象の前記リスクと相互に関連付けることであって、一定の閾値を超える上昇したレベルが前記有害事象のリスクの増大を予測する関連付けを行うこと、又は
(d)前記免疫反応性分析物のレベルを、疾患のある対象における治療若しくは介入の成功と相互に関連付けることであって、一定の閾値未満のレベルが治療若しくは介入の成功を予測する関連付けを行うこと
を含む、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つのバインダーが、配列番号1、2、5、6、8、9、10及び11を含む群から選択されるアミノ酸配列内の領域に結合し、好ましくは前記少なくとも1つのバインダーが、配列番号1、2、5、6、8及び9を含む群から選択されるアミノ酸配列をもつ領域に結合し、好ましくは前記少なくとも1つのバインダーが、配列番号6に結合する、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
プロ-エンケファリンのレベルがイムノアッセイで測定され、前記バインダーが、プロ-エンケファリン又は少なくとも5つのアミノ酸からなるその断片に結合する抗体又は抗体断片である、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
アミノ酸133~140(LKELLETG、配列番号13)及びアミノ酸152~159(SDNEEEVS、配列番号14)であるプロ-エンケファリンの領域内の2つの異なる領域に結合する2つのバインダーを含むアッセイが使用され、前記領域のそれぞれが少なくとも4又は5つのアミノ酸を含む、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
プロ-エンケファリン又は少なくとも5つのアミノ酸からなるその断片のレベルを測定するためのアッセイが使用され、前記アッセイのアッセイ感度が、健常な対象のプロ-エンケファリン又はプロエンケファリン断片を定量でき、15pmol/L未満である、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記体液が、全血、血清、血漿、尿、脳脊髄液(CSF)、及び唾液を含む群から選択され得る、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
ベータトレースタンパク質(BTP)、シスタチンC、KIM-1、TIMP-2、IGFBP-7、血中尿素窒素(BUN)、NGAL、クレアチニンクリアランス、血清クレアチニン(SCr)、尿素、Pediatric Risk of Mortality III[PRISM-III]スコア、Pediatric Index of Mortality 2[PIM-II]スコア及びアパッチスコアを含む群から選択される、追加として少なくとも1つの臨床パラメーターが測定される、請求項1~10に記載の方法。
【請求項12】
プロ-エンケファリン又は少なくとも5つのアミノ酸からなるその断片の前記測定が1人の患者で複数回行われる、請求項1~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記モニタリングが、とられた予防及び/又は治療措置に対する前記対象の反応を評価するために行われる、請求項1~12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記対象をリスク群に層別化するために使用される、請求項1~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
アミノ酸133~140(LKELLETG、配列番号13)及びアミノ酸152~159(SDNEEEVS、配列番号14)に対する少なくとも2つの抗体又は抗体断片を含む、請求項1~14のいずれかに記載の方法を実行するためのポイント・オブ・ケア装置。
【請求項16】
アミノ酸133~140(LKELLETG、配列番号13)及びアミノ酸152~159(SDNEEEVS、配列番号14)に対する少なくとも2つの抗体又は抗体断片を含む、請求項1~15のいずれかに記載の方法を実行するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、(a)対象における腎機能を診断若しくはモニタリングする、又は(b)対象における腎機能障害を診断する、又は(c)腎不全、腎機能の喪失及び末期腎臓病を含む腎機能の悪化若しくは腎不全、腎機能の喪失及び末期腎臓病を含む腎機能障害による死亡を含む群から選択される、疾患のある対象における有害事象のリスクを予測若しくはモニタリングする、又は(d)治療若しくは介入の成功を予測若しくはモニタリングするための方法であって、
・前記対象から得られた体液中のプロ-エンケファリン又は少なくとも5つのアミノ酸からなるその断片のレベルを測定すること、並びに
(a)前記プロ-エンケファリン若しくはその断片のレベルを対象の腎機能と相互に関連付けること、又は
(b)前記プロ-エンケファリン若しくはその断片のレベルを腎機能障害と相互に関連付けることであって、一定の閾値を超える上昇したレベルが前記対象の腎機能障害を予測若しくは診断する関連付けを行うこと、又は
(c)前記プロ-エンケファリン若しくはその断片のレベルを、疾患のある対象の有害事象の前記リスクと相互に関連付けることであって、一定の閾値を超える上昇したレベルが前記有害事象のリスクの増大を予測する関連付けを行うこと、又は
(d)前記プロ-エンケファリン若しくはその断片のレベルを、疾患のある対象における治療若しくは介入の成功と相互に関連付けることであって、一定の閾値未満のレベルが治療若しくは介入の成功を予測し、前記治療若しくは介入が腎代替療法であってもよく、腎代替を受けた患者におけるヒアルロン酸による治療であってもよく、若しくは前記治療若しくは介入の成功を予測若しくはモニタリングすることが、腎代替療法及び/若しくは薬剤介入の前後に腎機能が損なわれた患者の腎機能の回復を予測若しくはモニタリングすることであってもよい関連付けを行うこと
を含み、
前記プロ-エンケファリン又は断片が、配列番号1、配列番号2、配列番号5、配列番号6、配列番号8、配列番号9、配列番号10及び配列番号11を含む群から選択され、
前記閾値が150~1290pmol/Lの範囲にあり、
前記対象が小児である
方法である。
【0002】
本発明のさらなる主題は、対象における腎機能を診断又はモニタリングするための方法であって、
前記対象から得られた体液中のプロ-エンケファリン又は少なくとも5つのアミノ酸からなるその断片のレベルを測定することを含み、
追跡検査測定の間、プロ-エンケファリン及びその断片の相対的な変化の低下が対象の腎機能の改善と相関する、又は
追跡検査測定の間、プロ-エンケファリン及びその断片の相対的な変化の増加が対象の腎機能の悪化と相関し、
前記プロ-エンケファリン又はその断片が、配列番号1、配列番号2、配列番号5、配列番号6、配列番号8、配列番号9、配列番号10及び配列番号11を含む群から選択され、
プロ-エンケファリン又は少なくとも5つのアミノ酸からなるその断片の前記測定が1人の患者で複数回行われ、
対象が小児である
方法である。
【背景技術】
【0003】
急性腎障害(AKI)は、糸球体濾過率(GFR)の低下、尿素及び他の窒素老廃物の保持、及び細胞外容量と電解質の異常調節をもたらす腎機能の急激な喪失と定義される。AKIという用語は、腎機能障害を腎機能の障害の個別所見ではなく連続的所見としてより明確に規定するので、急性腎不全に代わって広く用いられるようになった。急性腎障害(AKI)は、重症児における頻繁で重篤な合併症であり、報告されている発症率は、一般病棟では最大5%、小児集中治療室(PICU)では最大35%である(Zwiers et al. 2015. Critical Care 19: 181)。急性腎障害はさらに、死亡率、ICU滞在期間の延長及び機械的人工換気の延長に関する独立したリスク因子であることが示されている(Alkandari et al. 2011. Crit Care 15: R146)。現在のAKI診断のコンセンサス基準は、血清クレアチニン(SCr)及び尿量の変化に基づいている(Akcan-Arikan et al. 2007. Kidney International 71: 1028-1035)。しかし、SCrは腎尿細管細胞損傷よりむしろ糸球体機能の指標であり、それは典型的にはICU患者のAKIの初期段階に生じる(Andreoli 2009. Pediatr Nephrol 24:253-63)。さらに、SCrは腎機能に関連しない要因に影響され、新生児では出生直後の母体のレベルを反映する(Schwartz and Furth 2007. Pediatr Nephrol 22:1839-1848; Arant 1987. Pediatr Nephrol 1:308-13)。まとめると、SCrは特に小児においてAKIを診断するためには、遅発性であまり感度が高くないマーカーと考えられるようになってきている。「腎機能(kidney function)」及び「腎機能(renal function)」という用語は、本明細書を通して同義的に使用される。同様に、「腎不全(kidney failure)」及び「腎不全(renal failure)」という用語は、本明細書を通して同義的に使用される。尿細管細胞の損傷を検出する他のバイオマーカーとしては、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)、腎傷害分子1(KIM-1)、組織メタロプロテアーゼ阻害物質2(TIMP-2)及びインスリン様成長因子結合タンパク質7(IGFBP-7)が提案されている。しかし、それらのマーカーは糸球体濾過機能を反映せず、併存症、炎症、測定のタイミング及び選択したカットオフ値の影響を受ける可能性がある(Kim et al.2017.Ann Lab Med 37: 388-397; Ostermann et al. 2012.Critical Care 16:233)。
【0004】
糸球体濾過率(GFR)は、様々なパラメーターを含む式を用いて推定することも、糸球体で濾過される機能性バイオマーカーを介して決定することもできる。上述のように、GFRを推定するための最も一般的に使用される検査は、SCr濃度に基づくが、多くの限界が認識されている。民族、体重、及び性別によるクレアチニンの生成量の違いのほかに、クレアチニンの能動的な腎分泌(総クリアランスの最大10%~20%)が算出に影響する(Shemesh et al. 1985. Kidney Int 285:830-838)。このため、特に腎機能が低下している患者においてGFRを過大評価することになる(Miller and Winkler 1938. J Clin Invest 1938;171: 31-40)。まとめると、GFRを評価するための従来のクレアチニンベースの方法は、感度が低く、遅発性で、不正確である。
【0005】
糸球体でのみ濾過されるヨード造影剤であるイオヘキソールの血漿中クリアランスは、真のGFRを測定するための現在のゴールドスタンダードであるイヌリンのクリアランスと同等の正確さでGFRを測定できることが示されている。しかし、これらの方法は時間がかかり、その測定にも手間がかかるため、臨床診療では頻繁にしか使用されない。
【0006】
小児ではクレアチニンと身長を用いたSchwartzらの式が最もよく使用されている(Schwartz et al. 1987. Pediatr Clin North Am 34:571-590)。しかし、この方法は1歳未満の小児に対しては検証されておらず、倫理的な問題から小規模なコホートでしか調べられていない。そのうえ、ほとんどの小児の研究で用いられる年齢間隔は広く、1歳未満では身長は腎臓の発達に相関しない。腎機能の成熟は、胎児の器官形成時に始まり、幼児期までに完了する動的な過程である。GFRの発達的増加は、正常な腎形成の存在に依存し、この過程は妊娠9週目に始まり、妊娠36週目までに完了し、出生後に腎血流及び腎内血流の変化が続く。GFRは、正期産児では1.73m2あたり毎分約2~4mlであるが、早期産児では1.73m2あたり毎分0.6~0.8ml/分と低い場合がある。GFRは、生後2週間で急速に増加し、その後、8~12ヶ月で成人値に達するまで徐々に増加する。同様に、尿細管分泌は出生時には未熟であり、生後1年間で成人の能力に達する(Boer et al. 2010. Pediatr Nephrol 25:2107-2113; Kearns et al. 2003. N Engl J Med 349:1157-1167)。クレアチニンは、1年目に腎臓が成熟するにつれ急速に低下し、1年目の終わりには筋肉量が増加してクレアチニン産生が高くなるのでわずかに増加する(Boer et al.2010. Pediatr Nephrol 25:2107-2113)。
【0007】
プロエンケファリンAは、内因性オピオイドであるエンケファリンファミリーの前駆体である。これはプロホルモンであり、タンパク質分解によりプロセスされて、メチオニン-エンケファリン(Met-Enk)及びロイシン-エンケファリン(Leu-Enk)のようないくつかの活性型ペンタペプチドを、他のいくつかのペプチド断片(エンケリチン及びC末端伸長Met-Enkペプチド)とともに形成する。成熟したエンケファリンにくわえて、他のペプチドも生成され、そのうちの1つは安定したプロエンケファリンペプチド119~159である。プロエンケファリンは成熟したエンケファリンの主な供給源であるため、血漿/血清中のそのペプチド断片のレベルは、全身のエンケファリン合成の代用的な測定値として役立ちうる(Ernst et al., 2006. Peptides 27: 1835-1840)。エンケファリンは広く分泌されて、局所的に発現しているオピオイド受容体、特にδオピオイド受容体に作用する。また、これらのオピオイド受容体は広く発現しており、腎臓で最も高い密度が見られる(Denning et al.2008.Peptides 29 (1): 83-921)。受容体に結合した後のエンケファリンの生物学的な効果としては、侵害受容、麻酔、及び心血管調節が挙げられる(Holaday 1983. Annu. Rev. Pharmacol. Toxicol. 23: 541-594)。これらのδオピオイドアゴニストは、ナトリウム利尿及び利尿を刺激する(Sezen et al. 1998. J. Pharmacol. Exp. Ther. 287 (1): 238-245)。濃度の上昇が有害な事象と関連することを示す研究がいくつかあるが、その関連性は概して腎機能の変化に比例している。実際に、濃度の上昇は、敗血症(Marino et al. 2015. J Nephrol 28:717-724)、心不全(Ng et al. 2017. J. Am. Coll. Cardiol. 69 (1): 56-69; Matsue et al. 2017. J. Card. Fail. 23 (3): 231-239)、心臓手術(Shah et al. 2015. Clin. Nephrol. 83 (1):29-35)、及び心筋梗塞(Ng et al. 2014. J. Am. Coll. Cardiol. 63 (3) (2014) 280-289)を含むいくつかの集団において腎機能の低下と関連している。
【0008】
血漿中のメチオニン-エンケファリン(Met-Enk)レベル及び分子量がより大きいMet-Enk(C末端伸長Met-Enkペプチド)は、ヒトの新生児の出生時に測定されている(Martinez et al. 1991. Biol Neonate 60:102-107)。新生児のMet-Enk免疫反応性レベルは、成人の血漿中のレベルに比べて15倍と有意に高かった。対照的に、Met-Enkの総免疫反応性として測定して、高分子量型のMet-Enkは新生児と成人のレベルの間で統計的な差はなかった。
【0009】
プロ-エンケファリン及びその断片、特にプロ-エンケファリン119~159(MR-PENK、配列番号6)のレベルが、健康な状態の成人と比較して、小児の血漿中で有意に増加していることは、本発明の驚くべき発見であった。さらに、プロ-エンケファリン及びその断片、特にプロ-エンケファリン119~159(MR-PENK、配列番号6)は、腎機能が正常な小児と比較して、腎機能障害をもつ小児で有意に増加している。
【0010】
プロ-エンケファリン、プロエンケファリン及びPENKという用語は、本明細書を通して同義的に使用されている。
【0011】
本発明によるリスクは、RIFLE基準で定義されたリスクと相関する。RIFLE分類は推定クレアチニンクリアランス(eCCl)及び尿量の減少の程度に基づいて、重症度が増加する腎機能障害の3つのレベル、すなわち「Risk(R)」、「Injury(I)」、及び「Failure(F)」からなる(表1)。「R」、「I」及び「F」にくわえて、次の2つのレベルの有害な臨床転帰がある。4週間を超えて続く腎不全を意味する「Loss(L)」及び3か月を超えて続く腎不全を意味する「End-stage(E)」。RIFLE基準とは異なり、pRIFLE基準では、SCrやGFRの変化ではなくeCClの減少のみがグレードの決定に用いられる。さらに、eCClはSchwartz式を用いて推定され、これは患者の身長及びSCrレベル及び年齢調整定数(Schwartz et al. 1987. Pediatr Clin North Am 34:571-590)を組み込んでいるが、成人RIFLE分類よりも長い期間の尿量にも依存している。さらに、小児に対する追加基準(AKIN/KDIGO)が存在する(表1)。KDIGOガイドラインは、小児のAKIの定義についてはpRIFLEを参照しており、後者は、月齢1か月を超える小児に対して使用されているもののままである(Thomas et al. 2015. Kidney International 87: 62-73)。
【0012】
【表1】
【発明の概要】
【0013】
本発明の主題は、健常児及び病児における腎機能及び機能不全のマーカーとしてのプロ-エンケファリン(PENK)又はその断片の使用及びその臨床的有用性である。本発明の主題は、小児の腎機能を診断若しくはモニタリングする、又は小児の腎機能障害を診断する、又は病児の有害事象のリスクを予測するための方法である。
【0014】
また、本発明の主題は、病児における腎機能、機能不全及び予後値の診断のためのPENK又はその断片の予後予測能及び診断能の提供であった。
【0015】
驚くべきことに、PENK又はその断片は、小児における腎臓、その機能、機能不全、有害事象のリスク及び予後並びに治療又は介入の成功のモニタリングのための強力で非常に重要なバイオマーカーであることが示された。
【0016】
本発明によれば、前記プロ-エンケファリン又はその断片は、1つの特定の実施形態では、Leu-エンケファリンでもなく、Met-エンケファリンでもない。別の特定の実施形態では、前記プロエンケファリン断片は、中間領域プロ-エンケファリン(MR-PENK;配列番号6)又は少なくとも5つのアミノ酸を有するその断片である。
【0017】
さらに、本発明の主題は、(a)対象における腎機能を診断若しくはモニタリングする、又は(b)対象における腎機能障害を診断する、又は(c)腎不全、腎機能の喪失及び末期腎臓病を含む腎機能の悪化若しくは腎不全、腎機能の喪失及び末期腎臓病を含む腎機能障害による死亡を含む群から選択される、疾患のある対象における有害事象のリスクを予測若しくはモニタリングする、又は(d)治療若しくは介入の成功を予測若しくはモニタリングするための方法であって、
・前記対象から得られた体液中のプロ-エンケファリン(PENK)のアミノ酸配列内の領域に結合する少なくとも1つのバインダーを使用することによって免疫反応性分析物のレベルを測定すること、及び
(a)前記免疫反応性分析物のレベルを対象の腎機能と相互に関連付けること、又は
(b)前記免疫反応性分析物のレベルを腎機能障害と相互に関連付けることであって、一定の閾値を超える上昇したレベルが前記対象の腎機能障害を予測若しくは診断する関連付けを行うこと、又は
(c)前記免疫反応性分析物のレベルを、疾患のある対象の有害事象の前記リスクと相互に関連付けることであって、一定の閾値を超える上昇したレベルが前記有害事象のリスクの増大を予測する関連付けを行うこと、又は
(d)前記免疫反応性分析物のレベルを、疾患のある対象における治療若しくは介入の成功と相互に関連付けることであって、一定の閾値未満のレベルが治療若しくは介入の成功を予測し、前記治療若しくは介入が腎代替療法であってもよく、腎代替を受けた患者におけるヒアルロン酸による治療であってもよく、若しくは前記治療若しくは介入の成功を予測若しくはモニタリングすることが、腎代替療法及び/若しくは薬剤介入の前後に腎機能が損なわれた患者の腎機能の回復を予測若しくはモニタリングすることであってもよい関連付けを行うこと
を含み、
前記閾値が150~1290pmol/Lの範囲にあり、
前記対象が小児である
方法である。
【0018】
これは、体液中のプロ-エンケファリン(PENK)のアミノ酸配列内の領域に結合するバインダーが本発明の方法で使用される場合、「前記対象から得られた体液中のプロ-エンケファリン(PENK)又は少なくとも5つのアミノ酸からなるその断片のレベルを測定すること」という用語は、「前記対象から得られた体液中のプロ-エンケファリン(PENK)のアミノ酸配列内の領域に結合する少なくとも1つのバインダーを使用することによって免疫反応性分析物のレベルを測定すること」と同等であることを意味ずる。特定の実施形態では、体液中のプロ-エンケファリン(PENK)のアミノ酸配列内の領域に結合するバインダーが本発明の方法で使用される。特定の実施形態では、本発明の方法で使用される前記バインダーは、体液中のleu-エンケファリン又はmet-エンケファリンのアミノ酸配列内の領域に結合しない。本発明の別の特定の実施形態では、前記少なくとも1つのバインダーは、中間領域プロ-エンケファリン(MR-PENK)又は少なくとも5つのアミノ酸を有するその断片に結合する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1:典型的なプロ-エンケファリンの投与量/シグナル曲線。
図2図2:健常児における生後年齢の線形関数としてのプロエンケファリンA 119~159(PENK)の基準パーセンタイル。正方形は、我々の健常コホートにおけるすべての健常患者(n=100)のすべての実測PENK濃度(145試料)を表す。PENKの基準パーセンタイルは、2.5パーセンタイル(一点鎖線、下)、25パーセンタイル(破線、下)、50パーセンタイル(実線)、75パーセンタイル(破線、上)及び97.5パーセンタイル(一点鎖線、上)で示されている。
図3図3:挿管後の最初の48時間における非AKIと比較したAKIの重症患者のPENK濃度。血漿PENKレベルは、挿管後の5時間枠で中央値と四分位範囲として提示した。アウトカムは、時間枠ごと各患者、1つの試料を、挿管後48時間以内に「AKIなし」(緑)又は「AKI」(赤)に層別化される。各時間枠の上の括弧内の数字は、各カテゴリーの患者数を表す。**:p<.01;***:p<.001;n.s.:統計的に有意ではない(p>.05)。
図4図4:健常児及び様々なレベルのAKIをもつ病児におけるPENK濃度。100名の健常児(145試料)及びサンプリング時にRIFLEスコアに基づく様々な程度のAKIをもつ91名の重症児(試料総数561:AKIなし422、Risk86、Injure28、Failure25)における95%信頼区間でのPENK濃度中央値の概要。対応するRIFLEスコアがないため17個のPENK試料は使用されず。重症児の統計的有意性は、全試験期間中の91名の重症児のすべての試料(561試料)及び採血時の対応するRIFLEステージを用いて、反復サンプリング及びすべての共変量(RIFLEスコア、性別、生後年齢、挿管後の時間、昇圧薬の使用及び診断カテゴリー)について補正した線形混合モデル解析からの推定限界平均値の結果に基づく。重症児の推定限界平均値と健常児の平均PENK濃度(145試料)との間の差はスチューデントのt検定を用いて決定した。**:p<.01;***:p<.001;n.s:統計的に有意ではない(p>.05)。
図5A図5A~E:AKI診断のためのPENK、シスタチンC及びBTPの性能。挿管後の5つの時間枠:A(0~6時間)、B(6~12時間)、C(12~24時間)、D(24~36時間)及びE(36~48時間)での採血時のAKIとの関連についての、PENK、CysC及びBTPに対する受信者動作特性(ROC)曲線。各バイオマーカーの各時間枠におけるAUROC値、信頼区間及び試料数の一覧を表7に示す。
図5B図5A~E:AKI診断のためのPENK、シスタチンC及びBTPの性能。挿管後の5つの時間枠:A(0~6時間)、B(6~12時間)、C(12~24時間)、D(24~36時間)及びE(36~48時間)での採血時のAKIとの関連についての、PENK、CysC及びBTPに対する受信者動作特性(ROC)曲線。各バイオマーカーの各時間枠におけるAUROC値、信頼区間及び試料数の一覧を表7に示す。
図5C図5A~E:AKI診断のためのPENK、シスタチンC及びBTPの性能。挿管後の5つの時間枠:A(0~6時間)、B(6~12時間)、C(12~24時間)、D(24~36時間)及びE(36~48時間)での採血時のAKIとの関連についての、PENK、CysC及びBTPに対する受信者動作特性(ROC)曲線。各バイオマーカーの各時間枠におけるAUROC値、信頼区間及び試料数の一覧を表7に示す。
図5D図5A~E:AKI診断のためのPENK、シスタチンC及びBTPの性能。挿管後の5つの時間枠:A(0~6時間)、B(6~12時間)、C(12~24時間)、D(24~36時間)及びE(36~48時間)での採血時のAKIとの関連についての、PENK、CysC及びBTPに対する受信者動作特性(ROC)曲線。各バイオマーカーの各時間枠におけるAUROC値、信頼区間及び試料数の一覧を表7に示す。
図5E図5A~E:AKI診断のためのPENK、シスタチンC及びBTPの性能。挿管後の5つの時間枠:A(0~6時間)、B(6~12時間)、C(12~24時間)、D(24~36時間)及びE(36~48時間)での採血時のAKIとの関連についての、PENK、CysC及びBTPに対する受信者動作特性(ROC)曲線。各バイオマーカーの各時間枠におけるAUROC値、信頼区間及び試料数の一覧を表7に示す。
図6図6:健常児(20歳まで)のPENK濃度。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書で使用されると「対象」いう用語は、生きているヒト又は非ヒト生物を指す。好ましくは、本明細書において対象はヒト対象である。対象は、別段の記載がない限り、健康でも、病気があってもよい。
【0021】
本明細書で使用されると「小児」いう用語は、18歳以下、より好ましくは14歳以下、さらにより好ましくは12歳以下、さらにより好ましくは8歳以下、さらにより好ましくは5歳以下、さらにより好ましくは2歳以下、最も好ましくは1歳以下である対象を指す。
【0022】
特定の実施形態では、前記小児は新生児である。新生児とは、生後28日以内の小児を指し、早産児、正期産児、過期産児が該当する。
【0023】
「重症患者」という用語は、集中的なモニタリングとケアを必要とする、実際の又は潜在的な生命を脅かす健康問題のリスクが高い患者と定義される。それらの患者は、心血管の不安定さ(高血圧/低血圧)、致死となりうる心不整脈、気道若しくは呼吸器の障害(人工呼吸器のサポートなど)、急性腎不全、又は多臓器不全の累積的影響(現在ではより一般的に多臓器不全症候群と呼ばれる)に対するサポートを必要とする可能性がある。
【0024】
本発明の特定の実施形態では、それらの患者は、心血管の不安定さ(高血圧]/低血圧)、致死となりうる心不整脈、気道若しくは呼吸器の障害(人工呼吸器のサポートなど)、又は多臓器不全の累積的影響(現在ではより一般的に多臓器不全症候群と呼ばれる)に対するサポートを必要とする可能性があることが理解されるべきである。
【0025】
「上昇したレベル」という用語は、一定の閾値を超えたレベルを意味する。「上昇した」レベルという用語は、基準レベルとみなされている値を超えるレベルを意味する。
【0026】
本発明の文脈における「診断すること」という用語は、対象の疾患又は臨床状態の認識及び(早期)検出に関し、鑑別診断を含む場合もある。
【0027】
本発明の文脈における「予測すること」とは、対象(例えば患者)の病的状態がどのように進むことになるかを予測することを意味する。これには、前記対象の回復の可能性や有害な転帰の可能性の推定が含まれうる。
【0028】
本発明の文脈における「モニタリングすること」という用語は、対象の疾患及び/又は病態生理的状態の発症を制御することを指す。
【0029】
本発明の文脈における「治療又は介入の成功をモニタリングすること」という用語は、前記患者の治療的処置の制御及び/又は調整を指す。
【0030】
治療又は介入の成功を予測又はモニタリングすることは、例えば、プロ-エンケファリン(PENK)又は少なくとも5つのアミノ酸からなるその断片の測定を用いて、腎代替療法の成功を予測又はモニタリングすることでありうる。
【0031】
治療又は介入の成功を予測又はモニタリングすることは、例えば、プロ-エンケファリン(PENK)又は少なくとも5つのアミノ酸からなるその断片の測定を用いて、腎代替療法を受けた患者におけるヒアルロン酸による治療の成功を予測又はモニタリングすることでありうる。
【0032】
治療又は介入の成功を予測又はモニタリングすることは、例えば、PENK又は少なくとも5つのアミノ酸からなるその断片の測定を用いて、腎代替療法及び/又は薬剤介入の前後の腎機能が損なわれた患者の腎機能の回復を予測又はモニタリングすることでありうる。
【0033】
体液は、血液、血清、血漿、尿、脳脊髄液(CSF)、及び唾液を含む群から選択される。本発明の1つの実施形態では、体液は、全血、血漿、及び血清を含む群から選択される。
【0034】
プロ-エンケファリン又はその断片の測定は対象の腎機能を表す。プロ-エンケファリン又はその断片の濃度の一定の閾値レベルを超える増加は腎機能の低下を示す。追跡検査測定の間、プロ-エンケファリン又はその断片の相対的な変化は、対象の腎機能の改善(プロ-エンケファリン又はその断片の減少)及び悪化(プロ-エンケファリン又はその断片の増加)と相関する。
【0035】
プロ-エンケファリン又はその断片は腎機能障害を診断し、一定の閾値を超える上昇したレベルは前記対象の腎機能障害を予測又は診断する。追跡検査測定の間、プロ-エンケファリン又はその断片の相対的な変化は、対象の腎機能の改善(プロ-エンケファリン又はその断片の減少)及び悪化(プロ-エンケファリン又はその断片の増加)と相関する。
【0036】
プロ-エンケファリン又はその断片は、腎機能/機能不全診断及び追跡検査のためのその他のマーカー(NGAL、血中クレアチニン、クレアチニンクリアランス、シスタチンC、尿素)と比較して優れている。優れているとは、特異度がより高く、感度がより高く、臨床評価項目への相関がより良好であることを意味する。
【0037】
前記プロ-エンケファリン又はその断片のレベルを、疾患のある対象(小児)における有害事象のリスクと相互に関連付けることであって、一定の閾値を超える上昇したレベルが有害事象のリスクの増大を予測する関連付けを行うこと。この面において、プロ-エンケファリン又はその断片は、上記の臨床マーカーよりも優れている。
【0038】
腎機能は、GFR、クレアチニンクリアランス、SCr、検尿、血中尿素窒素又は尿量で測定することができる。腎機能障害とは、腎機能の低下、例えば腎不全を意味する。
【0039】
疾患のある対象(小児)は、慢性腎臓病(CKD)、急性腎臓病(AKD)又はAKIから選択される疾患に罹患しているか、又は罹患するリスクがありうる。
【0040】
腎臓の構造と機能に影響を及ぼす疾患は、その期間に応じて急性又は慢性とみなすことができる。
【0041】
AKDは、<3か月の腎臓の構造的損傷及び、AKIにも見られる機能的基準、又は<3か月の1.73m2あたり<60ml/分のGFR、若しくはGFRの>35%の低下、又は<3か月の血清クレアチニン(SCr)の>50%の上昇を特徴とする(Kidney International Supplements, Vol. 2, Issue 1, March 2012, pp. 19-36)。
【0042】
AKIは、数ある急性腎臓病及び障害のうちの1つであり、他の急性又は慢性の腎臓病及び障害を伴って、又は伴わずに発症しうる(Kidney International Supplements, Vol. 2, Issue 1, March 2012, pp. 19-36)。
【0043】
AKIは、GFRの低下及び腎不全を含む腎機能の低下と定義されている。AKIの診断の基準とAKIの重症度のステージは、SCr及び尿量の変化に基づいている。AKIでは、構造的な基準は必要ない(存在する可能性はある)が、7日以内にSCrが50%増加する、又は0.3mg/dl(26.5μmol/l)増加する、又は乏尿が見られる。AKDは、外傷、脳卒中、敗血症、SIRS、敗血症性ショック、呼吸不全、心不全(例えば急性及び心筋梗塞後の心不全)、先天性横隔膜ヘルニア、局所及び全身性細菌感染及びウイルス感染、自己免疫疾患、熱傷、手術、がん、肝疾患、肺疾患のある患者、並びにカルシニューリン阻害剤(例えばシクロスポリン)、抗生物質(例えばアミノグリコシド又はバンコマイシン)及び抗がん剤(例えばシスプラチン)などの腎毒性物質を投与されている患者で発生しうる。
【0044】
CKDは、>3か月の間1.73m2当たり60ml/分未満のGFR及び>3か月の間の腎障害を特徴とする(Kidney International Supplements, 2013; Vol.3: 19-62)。
【0045】
腎不全はCKDの1つのステージであり、GFR<15ml/分/1.73m2体表面積、又はRRTを必要とすることと定義される。
【0046】
AKD、AKI及びCKDの定義(KDIGO Clinical Practice Guideline for Acute Kidney Injury 2012 Vol 2 (1)による)を表2にまとめる。
【表2】
【0047】
<2歳の小児では、腎障害及び腎機能の低下を詳細に描写し、ステージに分けるGFR閾値は、年齢に応じて調整する必要がある(KDIGO 2012 Clinical Practice Guideline for Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease)。
【0048】
本発明の好ましい実施形態では、疾患のある対象(小児)は、腎不全、呼吸不全、先天性横隔膜ヘルニア、心不全、SIRS、敗血症、敗血症性ショック又は他の重い病気から選択される疾患に罹患していることがある。
【0049】
腎機能を補助又は代替する治療又は介入には、限定されないが、血液透析、腹膜透析、血液濾過及び腎移植を含む腎代替療法のさまざまな方法が含まれうる。
【0050】
また、腎機能を補助又は代替する治療又は介入には、薬剤介入、腎臓を補助する措置並びに腎毒性薬物の適応及び/又は中止が含まれうる。
【0051】
有害事象は、腎不全、腎機能の喪失及び末期腎臓病を含む腎機能の悪化又は腎不全、腎機能の喪失及び末期腎臓病を含む腎機能障害による死亡(小児RIFLE基準(Akcan-Arikan et al. 2007. Kidney International 71: 1028-1035)による)を含む群から選択されうる。
【0052】
本発明の1つの実施形態では、プロ-エンケファリンの断片という用語には、Leu-エンケファリン及びMet-エンケファリンも含まれることがを理解されるべきである。
【0053】
本発明による主題は、プロ-エンケファリン又は少なくとも5つのアミノ酸からなるその断片のレベルが、プロ-エンケファリン又は少なくとも5つのアミノ酸からなるその断片に対する少なくとも1つのバインダーを使用することによって測定される方法である。本発明の1つの実施形態では、前記バインダーは、プロ-エンケファリン又は少なくとも5つのアミノ酸からなるその断片に結合する抗体、抗体断片又は非Ig-スキャホールドを含む群から選択される。特定の実施形態では、前記少なくとも1つのバインダーは、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11及び12を含む群から選択される配列をもつ領域に結合する。特定の実施形態では、前記バインダーは、エンケファリンペプチドであるmet-エンケファリン配列番号3、及びleu-エンケファリン配列番号4に結合しない。特定の実施形態では、前記少なくとも1つのバインダーは、配列番号1、2、5、6、8、9、10及び11を含む群から選択される配列をもつ領域に結合する。別の特定の実施形態では、前記少なくとも1つのバインダーは、配列番号1、2、5、6、8及び9を含む群から選択される配列をもつ領域に結合する。別の非常に具体的な実施形態では、前記バインダーは、プロ-エンケファリン119~159、中間領域プロエンケファリン断片、MR-PENK、配列番号6に結合する。
【0054】
プロ-エンケファリンは以下の配列を有する。
配列番号1(プロ-エンケファリン1~243)
ECSQDCATCSYRLVRPADINFLACVMECEGKLPSLKIWETCKELLQLSKPELPQDGTSTLRENSKPEESHLLAKRYGGFMKRYGGFMKKMDELYPMEPEEEANGSEILAKRYGGFMKKDAEEDDSLANSSDLLKELLETGDNRERSHHQDGSDNEEEVSKRYGGFMRGLKRSPQLEDEAKELQKRYGGFMRRVGRPEWWMDYQKRYGGFLKRFAEALPSDEEGESYSKEVPEMEKRYGGFMRF
【0055】
体液中で測定できるプロ-エンケファリンの断片は、例えば、以下の断片の群から選択されうる。
配列番号2(シンエンケファリン(Synenkephalin)、プロ-エンケファリン1~73)
ECSQDCATCSYRLVRPADINFLACVMECEGKLPSLKIWETCKELLQLSKPELPQDGTSTLRENSKPEESHLLA
配列番号3(Met-エンケファリン)
YGGFM
配列番号4(Leu-エンケファリン)
YGGFL
配列番号5(プロ-エンケファリン90~109)
MDELYPMEPEEEANGSEILA
配列番号6:(プロ-エンケファリン119~159、中間領域プロ-エンケファリン断片、MR-PENK)
DAEEDDSLANSSDLLKELLETGDNRERSHHQDGSDNEEEVS
配列番号7(Met-エンケファリン-Arg-Gly-Leu)
YGGFMRGL
配列番号8(プロ-エンケファリン172~183)
SPQLEDEAKELQ
配列番号9(プロ-エンケファリン193~203)
VGRPEWWMDYQ
配列番号10(プロ-エンケファリン213~234)
FAEALPSDEEGESYSKEVPEME
配列番号11(プロ-エンケファリン213~241)
FAEALPSDEEGESYSKEVPEMEKRYGGFM
配列番号12(Met-エンケファリン-Arg-Phe)
YGGFMRF
【0056】
Leu-エンケファリン及びMet-エンケファリンを含むプロ-エンケファリン又はその断片のレベルを決定することは、Leu-エンケファリン及びMet-エンケファリンを含むプロ-エンケファリン又はその断片に対する免疫反応性を決定することを意味しうる。Leu-エンケファリン及びMet-エンケファリンを含むプロ-エンケファリン又はその断片の測定に使用されるバインダーは、結合する領域によっては、上記に示された分子のうち2つ以上に結合する場合がある。このことは当業者に明らかである。
【0057】
したがって、本発明によれば、上記のペプチド及びペプチド断片のいずれかのアミノ酸配列内の領域に結合する少なくとも1つのバインダー(すなわち、配列1~12のいずれかに記載のプロ-エンケファリン(PENK)及び断片)を使用することによる免疫反応性分析物のレベルが、前記対象から得られた体液中で測定され、臨床的に関連のある特定の実施形態に関連付けられる。
【0058】
本発明による方法のより具体的な実施形態では、MR-PENKのレベルが測定される(配列番号6:プロ-エンケファリン119~159、中間領域プロ-エンケファリン断片、MR-PENK)。より具体的な実施形態では、免疫反応性分析物のレベルは、MR-PENKに結合する少なくとも1つのバインダーを使用することによって測定され、臨床的に関連のある特定の実施形態に対する本発明による上記実施形態、例えば、
(a)前記免疫反応性分析物のレベルを対象の腎機能と相互に関連付けること、又は
(b)前記免疫反応性分析物のレベルを腎機能障害と相互に関連付けることであって、一定の閾値を超える上昇したレベルが前記対象の腎機能障害を予測若しくは診断する関連付けを行うこと、又は
(c)前記免疫反応性分析物のレベルを、疾患のある対象の有害事象の前記リスクと相互に関連付けることであって、一定の閾値を超える上昇したレベルが前記有害事象のリスクの増大を予測する関連付けを行うこと、又は
(d)前記免疫反応性分析物のレベルを、疾患のある対象における治療若しくは介入の成功と相互に関連付けることであって、一定の閾値未満のレベルが治療若しくは介入の成功を予測し、前記治療若しくは介入が腎代替療法であってもよく、腎代替を受けた患者におけるヒアルロン酸による治療であってもよく、若しくは前記治療若しくは介入の成功を予測若しくはモニタリングすることが、腎代替療法及び/若しくは薬剤介入の前後に腎機能が損なわれた患者の腎機能の回復を予測若しくはモニタリングすることであってもよい関連付けを行うこと
に関連付けられ、
前記閾値は150~1290pmol/Lの範囲にあり、
前記対象は小児である。
【0059】
代替的に、上記分析物のいずれかのレベルは、他の分析方法、例えば質量分析法によって測定することができる。
【0060】
したがって、本発明の主題は、(a)対象における腎機能を診断若しくはモニタリングする、又は(b)対象における腎機能障害を診断する、又は(c)腎不全、腎機能の喪失及び末期腎臓病を含む腎機能の悪化若しくは腎不全、腎機能の喪失及び末期腎臓病を含む腎機能障害による死亡を含む群から選択される、疾患のある対象における有害事象のリスクを予測若しくはモニタリングする、又は(d)治療若しくは介入の成功を予測若しくはモニタリングするための方法であって、
・免疫反応性分析物のレベルを、前記対象から得られた体液中の配列番号1~12のプロ-エンケファリンペプチド及び断片を含む群から選択されるペプチドのアミノ酸配列内の領域に結合する少なくとも1つのバインダーを使用することによって測定すること、及び
(a)前記プロ-エンケファリン若しくはその断片のレベルを対象の腎機能と相互に関連付けること、又は
(b)前記プロ-エンケファリン若しくはその断片のレベルを腎機能障害と相互に関連付けることであって、一定の閾値を超える上昇したレベルが前記対象の腎機能障害を予測若しくは診断する関連付けを行うこと、又は
(c)前記プロ-エンケファリン若しくはその断片のレベルを、疾患のある対象の有害事象の前記リスクと相互に関連付けることであって、一定の閾値を超える上昇したレベルが前記有害事象のリスクの増大を予測する関連付けを行うこと、又は
(d)前記プロ-エンケファリン若しくはその断片のレベルを、疾患のある対象における治療若しくは介入の成功と相互に関連付けることであって、一定の閾値未満のレベルが治療若しくは介入の成功を予測し、前記治療若しくは介入が腎代替療法であってもよく、腎代替を受けた患者におけるヒアルロン酸による治療であってもよく、若しくは前記治療若しくは介入の成功を予測若しくはモニタリングすることが、腎代替療法及び/若しくは薬剤介入の前後に腎機能が損なわれた患者の腎機能の回復を予測若しくはモニタリングすることであってもよい関連付けを行うこと
を含み、
前記閾値が150~1290pmol/Lの範囲にあり、
前記対象が小児である
方法である。
【0061】
特定の実施形態では、免疫反応性分析物のレベルは、プロ-エンケファリン又は少なくとも5つのアミノ酸からなるその断片を含む群から選択されるペプチドのアミノ酸配列内の領域に結合する少なくとも1つのバインダーを使用することによって測定される。特定の実施形態では、前記少なくとも1つのバインダーは、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11及び12を含む群から選択される配列をもつ領域に結合する。特定の実施形態では、前記バインダーは、エンケファリンペプチドである配列番号3のMet-エンケファリン及び配列番号4のLeu-エンケファリンに結合しない。特定の実施形態では、前記少なくとも1つのバインダーは、配列番号1、2、5、6、8、9、10及び11を含む群から選択される配列をもつ領域に結合する。別の特定の実施形態では、前記少なくとも1つのバインダーは、配列番号1、2、5、6、8及び9を含む群から選択される配列をもつ領域に結合する。別の非常に具体的な実施形態では、前記バインダーは、プロ-エンケファリン119~159、中間領域プロ-エンケファリン断片、MR-PENK(配列番号6)に結合する。前述のバインダーは、前記対象から得られた体液中の前記ペプチドに結合する。
【0062】
本発明の1つの実施形態では、前記バインダーは、プロ-エンケファリン又は少なくとも5つのアミノ酸からなるその断片に結合する抗体、抗体断片又は非Ig-スキャホールドを含む群から選択される。
【0063】
特定の実施形態では、プロ-エンケファリン又はその断片のレベルは、プロ-エンケファリン又はその断片に結合する抗体又は抗体の断片を用いたイムノアッセイで測定される。プロ-エンケファリン又は少なくとも5つのアミノ酸からなるその断片のレベルを測定するのに有用でありうるイムノアッセイは、実施例1で概説されるようなステップを含みうる。閾値と値はすべて、実施例1に従って使用される試験とキャリブレーションとの相関関係で見られる必要がある。当業者であれば、閾値の絶対値が、使用されるキャリブレーションに影響されうることを知っていであろう。これは、本明細書に示されているすべての値や閾値は、本明細書(実施例1)で使用されるキャリブレーションの文脈で理解されるべきであることを意味する。
【0064】
本発明によれば、プロ-エンケファリンに対する診断用バインダーは、抗体、例えば、典型的な完全長の免疫グロブリンであるIgG、又は重鎖及び軽鎖の少なくともF可変ドメインを化学結合抗体(断片抗原結合)として含む抗体断片、例えば、限定されないが、Fabミニボディを含むFab-断片、一本鎖Fab抗体、エピトープタグをもつ一価のFab抗体、例えばFab-V5Sx2;CH3ドメインと二量体化された二価のFab(ミニ抗体);二価のFab又は多価のFab、例えば異種ドメインを活用した多量化によって形成されたもの、例えばdHLXドメインの二量化によって形成されたもの、例えばFab-dHLX-FSx2;F(ab’)2-断片、scFv-断片、多量体化された多価又は/及び多重特異性scFv-断片、二価及び/又は二重特異性ダイアボディ、BITE(登録商標)(二重特異性T細胞誘導抗体)、三官能性抗体、多価抗体、例えばGとは異なるクラスに由来するもの;単一ドメインの抗体、例えばラクダ類又は魚類の免疫グロブリンに由来するナノボディからなる群より選択される。
【0065】
特定の実施形態では、プロ-エンケファリン又はその断片のレベルは、プロ-エンケファリン又はその断片に結合するアプタマー、詳しく後述する非Igスキャホールドを含む群から選択されるバインダーを使用したアッセイで測定される。
【0066】
プロ-エンケファリン又はその断片のレベルを測定するために使用できるバインダーは、プロ-エンケファリンに対する親和定数が、少なくとも107-1、好ましくは108-1であり、好ましい親和定数は109-1より大きく、最も好ましくは1010-1より大きい。当業者は、より高い投与量の化合物を適用することによって、親和性の低さを補うことが考えられうることを知っており、この手段は本発明の範囲外とはならないであろう。結合親和性は、例えば、Biaffin、カッセル、ドイツ(http://www.biaffin.com/de/)においてサービス分析として提供されているビアコア法を用いて測定することができる。
【0067】
抗体にくわえて、標的分子を複合化するバイオポリマースキャフォールドは当該技術分野において周知であり、高度な標的特異性を持つバイオポリマーの生成に使用されてきた。その例は、アプタマー、スピーゲルマー、アンチカリン及びコノトキシンである。非Igスキャホールドはタンパク質スキャホールドであってもよく、リガンドや抗原に結合できるので抗体模倣物として使用することができる。非Igスキャホールドは、以下を含む群から選択することができる。テトラネクチンベースの非Igスキャホールド(例えば米国特許出願公開第2010/0028995号に記載)、フィブロネクチンスキャホールド(例えば欧州特許第1266025号に記載)、リポカリンベースのスキャホールド(例えば国際公開第2011/154420号に記載)、ユビキチンスキャホールド(例えば国際公開第2011/073214号に記載)、トランスフェリンスキャホールドの運搬(例えば米国特許出願公開第2004/0023334号に記載)、プロテインAスキャホールド(例えば欧州特許第2231860号に記載)、アンキリン反復ベースのスキャホールド(例えば国際公開第2010/060748号に記載)、マイクロタンパク質、好ましくはシスチンノットを形成するマイクロタンパク質のスキャホールド(例えば欧州特許第2314308号に記載)、Fyn SH3ドメインベースのスキャホールド(例えば国際公開第2011/023685号に記載)、EGFR-Aドメインベースのスキャホールド(例えば国際公開第2005/040229号に記載)、クニッツドメインベースのスキャホールド(例えば欧州特許第1941867号に記載)。
【0068】
閾値レベルは、対象を、腎臓病/機能不全がある若しくは有害事象のリスクがあると診断された対象の群、又は腎臓病/機能不全がある若しくは有害事象のリスクがあると診断されていない対象の群に割り付けることを可能にするレベルである。したがって、閾値レベルは、腎臓病/機能不全がある若しくは有害事象のリスクがあると診断された対象、又は腎臓病/機能不全がある若しくは有害事象のリスクがあると診断されていない対象の群を区別できるものとする。閾値レベルをどのようにして決定できるかは、当該技術分野において公知である。閾値レベルは予め決められた値であり、例えば特異度及び/又は感度の観点から慣用的な要件を満たすように設定される。それらの要件は様々である。例えば、感度又は特異度は、それぞれある特定の限界、例えば、80%、90%、95%又は98%に設定されなければならない。
【0069】
診断及び/又は予後予測ための検査の感度及び特異度は、単に検査の分析の「質」だけでなく、何をもって異常な結果とするかの定義にも依存する。実際、受信者動作特性曲線(ROC曲線)は典型的に、「参照群」(見かけ上、健康で、かつ/又は腎不全の兆候や症状がない)及び「疾患」集団(すなわち腎不全の患者)における変数の値をその相対的な頻度に対してプロットすることによって計算される。任意の特定のマーカーについて、疾患をもつ対象ともたない対象のマーカーレベルの分布はおそらく重なることになる。そのような状況下では、検査は100%の精度で正常と疾患を完全に鑑別できず、重複領域は検査で正常と疾患を鑑別できない領域を示す。閾値が選択され、それを超えれば(又はそれ未満であれば)(疾患でマーカーがどのように変化するかによって異なる)検査が異常とみなされ、それ未満であれば検査が正常であるとみなされる。ROC曲線下面積は、知覚された測定値が状態の正しい識別を可能にすることになる確率の尺度である。ROC曲線は、検査結果が必ずしも正確な数値を示していない場合でも使用することができる。結果をランク付けすることができる限り、ROC曲線を作成することができる。例えば、「疾患」試料の検査の結果は、程度に応じてランク付けすることができうる(例えば1=低い、2=正常、及び3=高い)。このランキングは、「参照」群の結果と相関させることができ、ROC曲線を作成することができる。これらの方法は当該技術分野において周知である(例えばHanley et al.1982.Radiology 143: 29-36を参照)。好ましくは、ROC曲線は、約0.5より大きい、より好ましくは約0.7より大きい、さらにより好ましくは約0.8より大きい、さらにより好ましくは約0.85より大きい、最も好ましくは約0.9より大きいAUCをもたらす。この文脈における「約」とは、所定の測定値の±5%を指す。
【0070】
参照群は、例えば疾患の兆候や症状がない健康な集団であることができる。本発明のさらなる態様では、参照群は、腎機能障害の徴候及び症状も、腎機能の悪化もなく、疾患又は障害、特に非重症疾患又はそれに対する介入(例えば鼠径ヘルニア修復、整形外科手術、気管支鏡検査、高ビリルビン血症、睡眠時無呼吸試験)、又は重い疾患(例えば呼吸不全、先天性横隔膜ヘルニア、心不全、SIRS、敗血症、敗血症性ショック若しくは他の重い病気)を患う対象の集団でありうる。参照群は複数の対象から構成されうる。
【0071】
ROC曲線の横軸は(1-特異度)を表し、偽陽性の率とともに増加する。曲線の縦軸は感度を表し、真陽性の率とともに増加する。したがって、選択された特定のカットオフ閾値に対して、(1-特異度)の値を決定でき、対応する感度を得ることができる。ROC曲線下の面積は、測定されたマーカーレベルが疾患又は状態の正確な識別を可能にすることになる確率の尺度である。したがって、ROC曲線下の面積を使用して、検査の有効性を判断ることができる。
【0072】
さらに、閾値レベルは、例えばカプランマイヤー分析からも得ることができ、そこでは、集団における疾患の発生が心血管マーカーの四分位群と相関している。この分析によれば、心血管マーカーのレベルが75パーセンタイルを超える対象は、本発明による疾患に罹患する有意に高いリスクを有する。この結果は、古典的な危険因子を完全に調整したコックス回帰分析によってさらに支持される。他のすべての対象と比べて最も高い四分位群は、本発明による疾患に罹患するリスクの増加と非常に有意に関連している。
【0073】
他の好ましい閾値は、例えば、正常な集団の90、95又は99パーセンタイルである。75パーセンタイルよりも高いパーセンタイルを使用することによって、識別される偽陽性の対象の数を減らすが、まだリスクが増加しているにもかかわらず、中程度のリスクの対象を識別しそこなう可能性がある。したがって、「偽陽性」を識別することを犠牲にして、リスクのある対象のほとんどを識別することがより適切であると考えられるか、又は中程度のリスクの対象をいくらか見逃すことを犠牲にして、主に高リスクの対象を識別することがより適切であると考えられるかに応じて、閾値を採用することができうる。
【0074】
例えば、75パーセンタイル、より好ましくは90パーセンタイル、さらにより好ましくは95パーセンタイル、最も好ましくは99パーセンタイルの値を正常範囲の上限に使用することができる。
【0075】
閾値レベルは、年齢、性別又は亜母集団などの様々な生理学的パラメーター、並びに本明細書で言及されているプロ-エンケファリン及びその断片の測定に使用される手段によって異なりうる。
【0076】
本発明の特定の実施形態では、前記閾値レベルは年齢に依存する。実施例に示されるように、MR-PENKの値は、対象の年齢に応じた複数の閾値の使用を明らかにした。対象の年齢が上がるにつれて閾値は減少した。
【0077】
本発明の1つの実施形態では、対象を年齢群に分けることができ、特定の閾値がそれらの年齢群のそれぞれに割り当てられる。
【0078】
本発明の1つの実施形態では、小児におけるプロ-エンケファリン又はその断片の閾値は150~1290pmol/Lの範囲である。
【0079】
プロ-エンケファリン又はその断片の閾値は、特定の年齢間隔でグループに分けてもよい。代替として、小児の年齢に応じて連続的な閾値を適用してもよい。例えば、年齢間隔が1歳以下の小児に対して、閾値を250~1000pmol/、好ましくは400~650pmol/Lに設定することができる。
【0080】
1つの特定の実施形態では、プロエンケファリン又はその断片のレベルはイムノアッセイで測定され、前記バインダーが、プロ-エンケファリン又は少なくとも5つのアミノ酸からなるその断片に結合する抗体又は抗体断片である。
【0081】
1つの特定の実施形態では、使用されるアッセイは、アミノ酸133~140(LKELLETG、配列番号13)及びアミノ酸152~159(SDNEEEVS、配列番号14)であるプロ-エンケファリンの領域内の2つの異なる領域に結合する2つのバインダーを含み、前記領域のそれぞれは少なくとも4又は5つのアミノ酸を含む。
【0082】
本発明の1つの実施形態では、試料中のプロ-エンケファリン又は断片を測定するためのアッセイは、健常児のプロ-エンケファリン又はプロエンケファリン断片を定量することができ、<15pmol/L、好ましくは<10pmol/L、最も好ましくは<6pmol/Lである。
【0083】
本発明の主題は、(a)対象における腎機能を診断若しくはモニタリングする、又は(b)対象における腎機能障害を診断する、又は(c)腎不全、腎機能の喪失及び末期腎臓病を含む腎機能の悪化若しくは腎不全、腎機能の喪失及び末期腎臓病を含む腎機能障害による死亡を含む群から選択される、疾患のある対象における有害事象のリスクを予測若しくはモニタリングする、又は(d)治療若しくは介入の成功を予測若しくはモニタリングするための方法であって、前記対象が小児である方法における、前記対象から得られた体液中の配列番号1~12のペプチド及び断片を含む群から選択されるペプチドのアミノ酸配列内の領域に結合する少なくとも1つのバインダーの使用である。
【0084】
本発明の1つの実施形態では、前記バインダーは、プロ-エンケファリン又は少なくとも5つのアミノ酸からなるその断片に結合する抗体、抗体断片又は非Igスキャホールドを含む群から選択される。特定の実施形態では、前記少なくとも1つのバインダーは、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11及び12を含む群から選択される配列をもつ領域に結合する。特定の実施形態では、前記バインダーは、エンケファリンペプチドであるmet-エンケファリン(配列番号3)及びleu-エンケファリン(配列番号4)に結合しない。特定の実施形態では、前記少なくとも1つのバインダーは、配列番号1、2、5、6、8、9、10及び11を含む群から選択される配列をもつ領域に結合する。別の特定の実施形態では、前記少なくとも1つのバインダーは、配列番号1、2、5、6、8及び9を含む群から選択される配列をもつ領域に結合する。別の非常に具体的な実施形態では、前記バインダーは、プロ-エンケファリン119~159、中間領域プロ-エンケファリン断片、MR-PENK(配列番号6)に結合する。
【0085】
より具体的な実施形態では、少なくとも1つのバインダーは、前記対象から得られた体液中のプロ-エンケファリン119~159、中間領域プロエンケファリン断片、MR-PENK(配列番号6)のアミノ酸配列、より具体的にはアミノ酸133~140(LKELLETG、配列番号13)及び/又はアミノ酸152~159(SDNEEEVS、配列番号14)内の領域に結合し、前記領域のそれぞれは少なくとも4又は5つのアミノ酸を含む。
【0086】
したがって、本発明の方法によれば、上記バインダーの免疫反応性のレベルが、前記対象から得られた体液中で測定される。免疫反応性のレベルは、そのような分析物に対するバインダーの結合反応によって、定量的、半定量的、又は定性的に決定される分析物の濃度を意味し、好ましくは、バインダーは、分析物に対する結合の親和定数が少なくとも108-1であり、バインダーは抗体でも抗体断片でも非Igスキャホールドでもよく、結合反応はイムノアッセイである。
【0087】
PENK及びその断片、特にMR-PENKを使用する本発明の方法は、(a)対象における腎機能を診断若しくはモニタリングする、又は(b)対象における腎機能障害を診断する、又は(c)腎不全、腎機能の喪失及び末期腎臓病を含む腎機能の悪化若しくは腎不全、腎機能の喪失及び末期腎臓病を含む腎機能障害による死亡を含む群から選択される、疾患のある対象における有害事象のリスクを予測若しくはモニタリングする、又は(d)治療若しくは介入の成功を予測若しくはモニタリングするために先行技術に従って使用される方法及びバイオマーカーよりもはるかに優れている。
【0088】
また、本発明の主題は、(a)対象における腎機能を診断若しくはモニタリングする、又は(b)対象における腎機能障害を診断する、又は(c)腎不全、腎機能の喪失及び末期腎臓病を含む腎機能の悪化若しくは腎不全、腎機能の喪失及び末期腎臓病を含む腎機能障害による死亡を含む群から選択される、疾患のある対象における有害事象のリスクを予測若しくはモニタリングする、又は(d)血液透析、腹膜透析、血液濾過及び前述の実施形態のいずれかによる腎移植を含むがこれらに限定されない腎代替療法の様々な方法を含む腎機能を補助又は代替する治療又は介入の成功を予測若しくはモニタリングするための方法であって、前記対象から得られた体液中のプロ-エンケファリン又は少なくとも5つのアミノ酸からなるその断片のレベルを、単独で、又は他の予後的に有用な検査又は臨床パラメーターと組み合わせて使用し、以下の選択肢、
・「健康な」又は「健康にみえる」対象の集団の所定の試料のアンサンブルにおいて、前記対象から得られた体液中のプロ-エンケファリン又は少なくとも5つのアミノ酸からなるその断片のレベルの中央値との比較、
・「健康な」又は「健康にみえる」対象の集団の所定の試料のアンサンブルにおいて、前記対象から得られた体液中のプロ-エンケファリン又は少なくとも5つのアミノ酸からなるその断片のレベルの分位との比較、
・コックス比例ハザード分析に基づく、又はNRI(純再分類改善度(Net Reclassification Index))やIDI(統合識別改善度(Integrated Discrimination Index))などのリスク指標を使用することによる計算
から選択することができ、
前記対象が小児である
方法である。
【0089】
測定されうる前記さらに少なくとも1つの臨床パラメーターは、ベータトレースタンパク質(BTP)、シスタチンC、KIM-1、TIMP-2、IGFBP-7、血中尿素窒素(BUN)、NGAL、クレアチニンクリアランス、血清クレアチニン(SCr)、尿素、Pediatric Risk of Mortality III[PRISM-III]スコア、Pediatric Index of Mortality 2[PIM-II]スコア及びアパッチスコアを含む群から選択される。
【0090】
本発明の1つの実施形態では、前記方法は、前記対象の機能若しくは機能不全若しくはリスクをモニターするために、又は腎臓及び/若しくは疾患の治療の経過をモニターするために複数回行われる。1つの特定の実施形態では、前記モニタリングは、とられた予防及び/又は治療措置に対する前記対象の反応を評価するために行われる。
【0091】
本発明の1つの実施形態では、本発明の方法は前記対象をリスク群に層別化するために使用される。
【0092】
さらに、本発明の主題は、試料中のプロ-エンケファリン及びプロエンケファリン断片を測定するための、アミノ酸133~140(LKELLETG、配列番号13)及びアミノ酸152~159(SDNEEEVS、配列番号14)であるプロ-エンケファリンの領域内の2つの異なる領域に結合する2つのバインダーを含むアッセイであり、前記領域のそれぞれは少なくとも4又は5つのアミノ酸を含む。
【0093】
本発明の1つの実施形態では、そのアッセイは、いわゆるPOC検査(ポイント・オブ・ケア)、すなわち、完全に自動化されたアッセイシステムを必要とせず、患者の近くで1時間未満以内に検査できる検査技術でありうる。この技術の1つの例は、イムノクロマト検査技術である。
【0094】
本発明の1つの実施形態では、そのようなアッセイは、酵素標識、化学発光標識、電気化学発光標識、好ましくは完全に自動化されたアッセイを含むが、それらに限定されない任意の種類の検出技術を使用したサンドイッチイムノアッセイである。本発明の1つの実施形態では、そのようなアッセイは酵素標識サンドイッチアッセイである。自動化又は完全に自動化されたアッセイの例には、以下のシステムの1つに使用できるアッセイが含まれる。ロシュElecsys(登録商標)、アボットArchitect(登録商標)、シーメンスCentauer(登録商標)、Brahms Kryptor(登録商標)、Biomerieux Vidas(登録商標)、Alere Triage(登録商標)。
【0095】
多種多様なイムノアッセイが知られており、本発明のアッセイ及び方法に使用することができ、それらには、ラジオイムノアッセイ(「RIA」)、均一系競合的酵素免疫分析法(homogeneous enzyme-multiplied immunoassays)(「EMIT」)、酵素結合免疫吸着法(「ELISA」)、アポ酵素再活性化免疫測定法(apoenzyme reactivation immunoassay)(「ARIS」)、ディップスティック免疫測定法及びイムノクロマトグラフィーアッセイが含まれる。
【0096】
本発明の1つの実施形態では、前記2つのバインダーのうちの少なくとも1つは検出のために標識される。
【0097】
好ましい検出方法には、例えばラジオイムノアッセイ(RIA)、化学発光-及び蛍光-イムノアッセイ、酵素結合イムノアッセイ(ELISA)、Luminexベースのビーズアレイ、タンパク質マイクロアレイアッセイなどの様々な形式のイムノアッセイ、及び例えばイムノクロマトストリップテストなどの迅速なテスト形式が含まれる。
【0098】
好ましい実施形態では、前記標識は、化学発光標識、酵素標識、蛍光標識、放射性ヨウ素標識を含む群から選択される。
【0099】
アッセイは、均一系アッセイ、不均一系アッセイ、競合的アッセイ及び非競合的アッセイであることができる。1つの実施形態では、アッセイはサンドイッチアッセイの形態であり、非競合的イムノアッセイであり、検出及び/又は定量される分子が第1の抗体及び第2の抗体に結合している。第1の抗体は、固相、例えばビーズ、ウェル若しくは他の容器の表面、チップ又はストリップに結合していてもよく、第2の抗体は、例えば色素、放射性同位元素、又は反応性若しくは触媒活性のある部分で標識された抗体である。次いで、分析物に結合した標識抗体の量は適切な方法で測定される。「サンドイッチアッセイ」に関わる一般的な構成及び手順は、確立されており、当業者に周知である。
【0100】
別の実施形態では、アッセイは2つの捕捉分子、好ましくは抗体を含み、それらはともに液体反応混合物中に分散して存在し、第1の標識成分は第1の捕捉分子に結合し、前記第1の標識成分は蛍光-若しくは化学発光-消光又は増幅に基づく標識系の一部であり、前記マーキング(marking)系の第2の標識成分は、第2の捕捉分子に結合し、その結果、両捕捉分子が分析物に結合すると、測定可能なシグナルが生じ、試料を含む溶液中で形成されたサンドイッチ複合体の検出が可能になる。
【0101】
別の実施形態では、前記標識系は、希土類クリプテート又は希土類キレートと、蛍光色素又は化学発光色素、特にシアニンタイプの色素との組み合わせを含む。
【0102】
本発明の文脈において、蛍光に基づくアッセイは色素の使用を含み、その色素は例えば以下を含む群から選択することができる。FAM(5-又は6-カルボキシフルオレセイン)、VIC、NED、フルオレセイン、フルオレセイン-イソチオシアネート(FITC)、IRD-700/800、シアニン色素、例えばCY3、CY5、CY3.5、CY5.5、Cy7、キサンテン、6-カルボキシ-2’,4’,7’,4,7-ヘキサクロロフルオレセイン(HEX)、TET、6-カルボキシ-4’,5’-ジクロロ-2’,7’-ジメトキシフルオレセイン(dimethodyfluorescein)(JOE)、N,N,N’,N’-テトラメチル-6-カルボキシ-ローダミン(TAMRA)、6-カルボキシ-X-ローダミン(ROX)、5-カルボキシローダミン-6G(R6G5)、6-カルボキシローダミン-6G(RG6)、ローダミン、ローダミングリーン、ローダミンレッド、ローダミン110、BODIPY色素、例えばBODIPY TMR、オレゴングリーン、クマリン、例えばウンベリフェロン、ベンズイミド、例えばヘキスト33258、フェナントリジン、例えばテキサスレッド、Yakima Yellow、アレクサフルオル、PET、エチジウムブロマイド、アクリジニウム色素、カルバゾール色素、フェノキサジン色素、ポルフィリン色素、ポリメチン色素、及び同種のもの。
【0103】
本発明の文脈において、化学発光に基づくアッセイは、(Kirk-Othmer, Encyclopedia of chemical technology, 4th ed., executive editor, J. I. Kroschwitz; editor, M. Howe-Grant, John Wiley & Sons, 1993, vol.15, p.518-562、551~562ページの引用を含め、参照により本明細書に援用される)の化学発光材料について記載されている物理的原理に基づく色素の使用を含む。化学発光標識は、アクリジニウムエステル標識、ステロイド標識、例えばイソルミノール標識、及び同種のものであることができる。好ましい化学発光色素はアクリジニウムエステルである。
【0104】
本明細書で言及される場合、「アッセイ」又は「診断アッセイ」は、診断の分野で適用されるどのタイプのものでもあることができる。そのようなアッセイは、検出すべき分析物が1つ又は複数の捕捉プローブに、ある特定の親和性で結合することに基づきうる。捕捉分子と標的分子又は目的の分子との相互作用については、親和定数が108-1より大きいことが好ましい。
【0105】
本発明の文脈において、「バインダー分子」は、試料から標的分子又は目的の分子、すなわち分析物(すなわち本発明の文脈ではPENK及びその断片)を結合するのに使用できる分子である。したがって、バインダー分子は、空間的にも、表面電荷、疎水性、親水性、ルイス・ドナー及び/又はアクセプターの有無などの表面特性の観点からも、標的分子や目的の分子と特異的に結合するように適切に形成されていなければならない。これにより、結合は、例えば、捕捉分子と標標的分子又は目的の分子との間のイオン、ファンデルワールス、パイ-パイ、シグマ-パイ、疎水性若しくは水素結合相互作用、又は前述の相互作用のうちの2つ以上の組み合わせによって媒介されうる。本発明の文脈において、バインダー分子は、例えば、核酸分子、炭水化物分子、PNA分子、タンパク質、抗体、ペプチド、又は糖タンパク質を含む群から選択することができる。好ましくは、バインダー分子は抗体であり、例えば標的又は目的の分子に充分な親和性をもつその断片、組換え抗体又は組換え抗体断片、及び前記抗体の化学的かつ/又は生化学的に修飾された誘導体、又はその少なくとも12個のアミノ酸の長さをもつバリアント鎖に由来する断片が含まれる。
【0106】
化学発光標識は、アクリジニウムエステル標識、ステロイド標識、例えばイソルミノール標識、及び同種のものであることができる。
【0107】
酵素標識は、乳酸脱水素酵素(LDH)、クレアチンキナーゼ(CPK)、アルカリホスファターゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、酸性ホスファターゼ、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)などであることができる。
【0108】
本発明の1つの実施形態では、前記2つのバインダーのうちの少なくとも1つは、磁性粒子として固相及びポリスチレン表面に結合している。
【0109】
本発明による試料中のプロ-エンケファリン又はプロエンケファリン断片を測定するためのアッセイの1つの実施形態では、そのようなアッセイはサンドイッチアッセイであり、好ましくは完全に自動化されたアッセイである。完全に自動化されたELISAでもよく、手動のものでもよい。いわゆるPOC検査(ポイント・オブ・ケア)であってもよい。自動化又は完全に自動化されたアッセイの例としては、以下のシステムの1つに使用できるアッセイが挙げられる。ロシュElecsys(登録商標)、アボットArchitect(登録商標)、シーメンスCentauer(登録商標)、Brahms Kryptor(登録商標)、Biomerieux Vidas(登録商標)、Alere Triage(登録商標)、Ortho Vitros(登録商標)。検査フォーマットの例は上に示されている。
【0110】
本発明による試料中のプロ-エンケファリン又はプロエンケファリン断片を測定するためのアッセイの1つの実施形態では、前記2つのバインダーのうちの少なくとも1つは検出のために標識されている。標識の例は上に示されている。
【0111】
本発明による試料中のプロ-エンケファリン又はプロエンケファリン断片を測定するためのアッセイの1つの実施形態では、前記2つのバインダーのうちの少なくとも1つは固相に結合している。固相の例は上に示されている。
【0112】
本発明による試料中のプロ-エンケファリン又はプロエンケファリン断片を測定するためのアッセイの1つの実施形態では、前記標識は、化学発光標識、酵素標識、蛍光標識、放射性ヨウ素標識を含む群から選択される。本発明のさらなる対象は本発明のアッセイを含むキットであり、前記アッセイの構成要素は1つ又は複数の容器に入っていてよい。
【0113】
1つの実施形態では、本発明の主題は、本発明による方法を実行するためのポイント・オブ・ケア装置であり、前記ポイント・オブ・ケア装置は、アミノ酸133~140(LKELLETG、配列番号13)又はアミノ酸152~159(SDNEEEVS、配列番号14)のいずれかに対する少なくとも1つの抗体又は抗体断片を含み、前記領域のそれぞれは少なくとも4又は5つのアミノ酸を含む。
【0114】
1つの実施形態では、本発明の主題は、本発明による方法を実行するためのポイント・オブ・ケア装置であり、前記ポイント・オブ・ケア装置は、アミノ酸133~140(LKELLETG、配列番号13)及びアミノ酸152~159(SDNEEEVS、配列番号14)に対する少なくとも2つの抗体又は抗体断片を含み、前記領域のそれぞれは少なくとも4又は5つのアミノ酸を含む。
【0115】
1つの実施形態では、本発明の主題は、本発明による方法を実行するためのキットであり、前記ポイント・オブ・ケア装置は、アミノ酸133~140(LKELLETG、配列番号13)又はアミノ酸152~159(SDNEEEVS、配列番号14)のいずれかに対する少なくとも1つの抗体又は抗体断片を含み、前記領域のそれぞれは少なくとも4又は5つのアミノ酸を含む。
【0116】
1つの実施形態では、本発明の主題は、本発明による方法を実行するためのキットであり、前記ポイント・オブ・ケア装置は、アミノ酸133~140(LKELLETG、配列番号13)及びアミノ酸152~159(SDNEEEVS、配列番号14)に対する少なくとも2つの抗体又は抗体断片を含み、前記領域のそれぞれは少なくとも4又は5つのアミノ酸を含む。
【0117】
上記に関連して、以下の連続した番号を付した実施形態は、本発明のさらに具体的な態様を提供する。
1.(a)対象における腎機能を診断若しくはモニタリングする、又は(b)対象における腎機能障害を診断する、又は(c)腎不全、腎機能の喪失及び末期腎臓病を含む腎機能の悪化若しくは腎不全、腎機能の喪失及び末期腎臓病を含む腎機能障害による死亡を含む群から選択される、疾患のある対象における有害事象のリスクを予測若しくはモニタリングする、又は(d)治療若しくは介入の成功を予測若しくはモニタリングするための方法であって、
・前記対象から得られた体液中のプロ-エンケファリン又は少なくとも5つのアミノ酸からなるその断片のレベルを測定すること、並びに
(a)前記プロ-エンケファリン若しくはその断片のレベルを対象の腎機能と相互に関連付けること、又は
(b)前記プロ-エンケファリン若しくはその断片のレベルを腎機能障害と相互に関連付けることであって、一定の閾値を超える上昇したレベルが前記対象の腎機能障害を予測若しくは診断する関連付けを行うこと、又は
(c)前記プロ-エンケファリン若しくはその断片のレベルを、疾患のある対象の有害事象の前記リスクと相互に関連付けることであって、一定の閾値を超える上昇したレベルが前記有害事象のリスクの増大を予測する関連付けを行うこと、又は
(d)前記プロ-エンケファリン若しくはその断片のレベルを、疾患のある対象における治療若しくは介入の成功と相互に関連付けることであって、一定の閾値未満のレベルが治療若しくは介入の成功を予測し、前記治療若しくは介入が腎代替療法であってもよく、腎代替を受けた患者におけるヒアルロン酸による治療であってもよく、若しくは前記治療若しくは介入の成功を予測若しくはモニタリングすることが、腎代替療法及び/若しくは薬剤介入の前後に腎機能が損なわれた患者の腎機能の回復を予測若しくはモニタリングすることであってもよい関連付けを行うこと
を含み、
前記プロ-エンケファリン又は断片が、配列番号1、配列番号2、配列番号5、配列番号6、配列番号8、配列番号9、配列番号10及び配列番号11を含む群から選択され、
前記閾値が150~1290pmol/Lの範囲にあり、
前記対象が小児である方法。
【0118】
2.対象における腎機能を診断又はモニタリングするための方法であって、
前記対象から得られた体液中のプロ-エンケファリン又は少なくとも5つのアミノ酸からなるその断片のレベルを測定することを含み、
追跡検査測定の間、プロ-エンケファリン及びその断片の相対的な変化の低下が対象の腎機能の改善と相関する、又は
追跡検査測定の間、プロ-エンケファリン及びその断片の相対的な変化の増加が対象の腎機能の悪化と相関し、
前記プロ-エンケファリン又はその断片が、配列番号1、配列番号2、配列番号5、配列番号6、配列番号8、配列番号9、配列番号10及び配列番号11を含む群から選択され、
プロ-エンケファリン又は少なくとも5つのアミノ酸からなるその断片の前記測定が、1人の患者で複数回行われ、
対象が小児である
方法。
【0119】
3.前記対象が、18歳以下、より好ましくは14歳以下、さらにより好ましくは12歳以下、さらにより好ましくは8歳以下、さらにより好ましくは5歳以下、さらにより好ましくは2歳以下、最も好ましくは1歳以下の小児である実施形態1及び2に記載の方法。
【0120】
4.前記小児が重症の病気である実施形態1~3に記載の方法。
【0121】
5.前記対象から得られた体液中のプロ-エンケファリン(PENK)又はその断片のアミノ酸配列内の領域に結合するバインダーの少なくとも1つを使用することによって免疫反応性分析物のレベルを測定すること、及び
(a)前記免疫反応性分析物のレベルを対象の腎機能と相互に関連付けること、又は
(b)前記免疫反応性分析物のレベルを腎機能障害と相互に関連付けることであって、一定の閾値を超える上昇したレベルが前記対象の腎機能障害を予測若しくは診断する関連付けを行うこと、又は
(c)前記免疫反応性分析物のレベルを、疾患のある対象の有害事象の前記リスクと相互に関連付けることであって、一定の閾値を超える上昇したレベルが前記有害事象のリスクの増大を予測する関連付けを行うこと、又は
(d)前記免疫反応性分析物のレベルを、疾患のある対象における治療若しくは介入の成功と相互に関連付けることであって、一定の閾値未満のレベルが治療若しくは介入の成功を予測する関連付けを行うこと
を含む実施形態1~4のいずれかに記載の方法。
【0122】
6.前記少なくとも1つのバインダーが配列番号1、2、5、6、8、9、10及び11を含む群から選択されるアミノ酸配列内の領域に結合する、好ましくは前記少なくとも1つのバインダーが配列番号1、2、5、6、8及び9を含む群から選択されるアミノ酸配列をもつ領域に結合する、好ましくは前記少なくとも1つのバインダーが配列番号6に結合する実施形態1~5のいずれかに記載の方法。
【0123】
7.プロ-エンケファリンのレベルがイムノアッセイで測定され、前記バインダーが、プロ-エンケファリン又は少なくとも5つのアミノ酸からなるその断片に結合する抗体又は抗体断片である実施形態1~6のいずれかに記載の方法。
【0124】
8.アミノ酸133~140(LKELLETG、配列番号13)及びアミノ酸152~159(SDNEEEVS、配列番号14)であるプロ-エンケファリンの領域内の2つの異なる領域に結合する2つのバインダーを含むアッセイが使用され、前記領域のそれぞれが少なくとも4又は5つのアミノ酸を含む実施形態1~7のいずれかに記載の方法。
【0125】
9.プロ-エンケファリン又は少なくとも5つのアミノ酸からなるその断片のレベルを測定するためのアッセイが使用され、前記アッセイのアッセイ感度が、健常な対象のプロ-エンケファリン又はプロエンケファリン断片を定量でき、<15pmol/Lである実施形態1~8のいずれかに記載の方法。
【0126】
10.前記体液が、全血、血清、血漿、尿、脳脊髄液(CSF)、及び唾液を含む群から選択されうる実施形態1~9のいずれかに記載の方法。
【0127】
11.ベータトレースタンパク質(BTP)、シスタチンC、KIM-1、TIMP-2、IGFBP-7、血中尿素窒素(BUN)、NGAL、クレアチニンクリアランス、血清クレアチニン(SCr)、尿素、Pediatric Risk of Mortality III[PRISM-III]スコア、Pediatric Index of Mortality 2[PIM-II]スコア及びアパッチスコアを含む群から選択されるさらに少なくとも1つの臨床パラメーターが測定される実施形態1~10に記載の方法。
【0128】
12.プロ-エンケファリン又は少なくとも5つのアミノ酸からなるその断片の前記測定が1人の患者で複数回行われる実施形態1~11のいずれかに記載の方法。
【0129】
13.前記モニタリングが、とられた予防及び/又は治療措置に対する前記対象の反応を評価するために行われる実施形態1~12のいずれかに記載の方法。
【0130】
14.前記対象をリスク群に層別化するために使用される実施形態1~13のいずれかに記載の方法。
【0131】
15.アミノ酸133~140(LKELLETG、配列番号13)及びアミノ酸152~159(SDNEEEVS、配列番号14)に対する少なくとも2つの抗体又は抗体断片を含む、実施形態1~14のいずれかに記載の方法を実行するためのポイント・オブ・ケア装置。
【0132】
16.アミノ酸133~140(LKELLETG、配列番号13)及びアミノ酸152~159(SDNEEEVS、配列番号14)に対する少なくとも2つの抗体又は抗体断片を含む実施形態1~15のいずれかに記載の方法を実行するためのキット。
【実施例
【0133】
実施例1
抗体の開発
ペプチド
ペプチドを合成した(JPT Technologies、ベルリン、ドイツ)。
【0134】
免疫用ペプチド/複合体
免疫用ペプチド(表3)は、ペプチドをウシ血清アルブミン(BSA)に結合させるために、N末端にシステイン残基を追加して合成した(JPT Technologies、ベルリン、ドイツ)。ペプチドはSulfo-SMCC(Perbio Science、ボン、ドイツ)を使用することによってBSAに共有結合させた。カップリングの手順はPerbio社のマニュアルに従って行った。
【表3】
【0135】
抗体を以下の方法に従って作製した。
BALB/cマウスに、0日目と14日目に100μgのペプチド-BSA複合体(100μlの完全フロイントアジュバントで乳化)、21日目と28日目に50μg(100μlの不完全フロイントアジュバントで乳化)を免疫した。融合実験を行う3日前に、100μlの生理食塩水に溶かした50μgの複合体を、腹腔内に1回及び静脈内に1回注射した。
【0136】
免疫したマウスの脾細胞と骨髄腫細胞株SP2/0の細胞を1mlの50%ポリエチレングリコールを用いて37℃で30秒間融合させた。洗浄後、細胞を96ウェルの細胞培養プレートに播いた。ハイブリッドクローンを、HAT培地(RPMI1640培養培地に20%のウシ胎仔血清とHATサプリメントを加えたもの)で培養することによって選択した。2週間後、HAT培地をHT培地に交換し、3回継代した後、通常の細胞培養培地に戻す。
【0137】
融合の3週間後に細胞培養上清を抗原特異的IgG抗体の一次スクリーニングした。陽性と判定された微小培養物を増殖のために24ウェルプレートに移した。再試験の後、選択した培養物を、限界希釈法を用いて再びクローン化し、アイソタイプを決定した(Lane, R.D. 1985 J. Immunol. Meth. 81: 223-228; Ziegler, B. et al. 1996. Horm. Metab. Res. 28: 11-15)。
【0138】
モノクローナル抗体作製
抗体を標準的な抗体作製法(Marx et al. 1997. ATLA 25, 121)で作製し、プロテインAクロマトグラフィーで精製した。SDSゲル電気泳動分析に基づく抗体の純度は95%以上であった。
【0139】
抗体の標識及びコーティング
抗体をすべて、以下の手順に従ってアクリジニウムエステルで標識した。
標識化合物(トレーサー):100μg(100μl)の抗体(PBS中1mg/ml、pH7.4)を、10μlのアクリジニウムNHS-エステル(アセトニトリル中1mg/ml、InVent GmbH、ドイツ)(欧州特許第0353971号)と混ぜ、室温で20分間インキュベートした。標識抗体を、Bio-Sil SEC 400-5(バイオ・ラッドラボラトリーズ社(Inc)、米国)のゲルろ過HPLCで精製した。精製した標識抗体を(300mmol/lリン酸カリウム、100mmol/l NaCl、10mmol/l Na-EDTA、5g/lウシ血清アルブミン、pH7.0)で希釈した。最終濃度は、200μlあたり約800.000相対発光単位(RLU)の標識化合物(約20ngの標識抗体)であった。アクリジニウムエステルの化学発光をAutoLumat LB 953(Berthold Technologies GmbH & Co. KG)を使用することによって測定した。
【0140】
固相抗体(コーティング抗体):ポリスチレンチューブ(Greiner Bio-One International AG、オーストリア)に抗体(1.5μg抗体/0.3ml、100mmol/l NaCl、50mmol/l Tris/HCl、pH7.8)をコーティングした(室温で18時間)。5%ウシ血清アルブミンでブロッキングした後、チューブをPBS、pH7.4で洗浄し、真空乾燥させた。
【0141】
抗体の特異性
抗体の交差反応性は以下のようにして測定した。1μgのペプチドを300μlのPBS、pH7.4でポリスチレンチューブにピペッティングし、室温で1時間インキュベートした。インキュベーション後、チューブを5回(各1ml)、PBS、pH7.4中の5%BSAで洗浄した。各標識抗体を加え(PBS、pH7.4中の300μl、800.000RLU/300μl)、室温で2時間インキュベートした。5回洗浄(各1mlの洗浄溶液(20mmol/l PBS、pH7.4、0.1%トリトンX-100))を行い、残った発光(標識抗体)をAutoLumatルミノメーター953で定量した。合成MR-PENKペプチドを参照物質(100%)として使用した。
【0142】
異なる抗体の交差反応性を表4に示す。
【表4】
【0143】
すべての抗体がMR-PENKペプチドに結合し、免疫に使用されたペプチドと同等であった。NT-MR-PENK-抗体(EEDDSLANSSDLLKと10%の交差反応)を除き、個々の抗体の免疫に使用されていないMR-PENK断片との交差反応を示した抗体はなかった。
【0144】
プロ-エンケファリンのイムノアッセイ
50μlの試料(又はキャリブレーター)を、コーティングしたチューブにピペッティングし、標識抗体(200ul)を加えた後、チューブを18~25℃で2時間インキュベートした。洗浄溶液(20mmol/l PBS、pH7.4、0.1%トリトンX-100)で5回(各1ml)洗浄することによって結合していないトレーサーを取り除いた。チューブに結合した標識抗体を、ルミノメーター953を使用して測定した。固定濃度1000pmol/のMR-PENKを使用すること。様々な抗体の組み合わせの、シグナル(1000pmol MR-PENK/lでのRLU)対ノイズ(MR-PENKなしでのRLU)の比を表5に示す。抗体はすべて、他のいずれの抗体ともサンドイッチ複合体を形成することができた。驚くべきことに、MR-MR-PENK-抗体とCT-MR-PENK-抗体を組み合わせることによって、最も強いS/N比(最高感度)を得ることができた。続いて、この抗体の組み合わせを使用して、さらなる研究のためのMR-PENK-イムノアッセイを行った。MR-MR-PENK抗体はチューブコーティング抗体として使用し、CT-MR-PENK抗体は標識抗体として使用した。
【表5】
【0145】
キャリブレーション
20mM K2PO4、6mM EDTA、0.5%BSA、50μM アマスタチン、100μM ロイペプチン、pH8.0で、合成MR-PENKを希釈した希釈物を使用してアッセイをキャリブレーションした。図1は、典型的なプロ-エンケファリンの投与量/シグナル曲線を示す。アッセイ感度はキャリブレーター0(MR‐PENK無添加)+2SD)5.5pmol/Lの20回測定であった。
【0146】
実施例2
1歳未満の小児における急性腎障害のバイオマーカーとしてのプロエンケファリンA119~159の基準値及び性能
【0147】
序論
急性腎障害(AKI)は入院中の小児によく見られ、小児病棟及び小児集中治療室(PICU)での有病率は5~51%1-3の範囲である。AKIは独立して罹患率や死亡率と関連しており、その原因の一部は、腎排泄された薬物4-6を含む血漿中の(毒性のある)溶質の蓄積にあると考えられている。
【0148】
ほとんどのPICUでは、糸球体濾過率(GFR)の代用マーカーとして血清クレアチニン濃度(SCr)を用いてAKIを診断する。SCrは、GFRの安価で低侵襲かつ迅速な推定を可能にするが、幼児のGFRのバイオマーカーとして次のようないくつかの欠点がある。AKI後の増加が遅れること、尿細管分泌に起因してGFRを過大評価する可能性があること、産生が筋肉量に依存すること、及び胎盤移行7-10により生後数日の母体のGFRを反映すること。
【0149】
シスタチンC(CysC)及びβ-トレースタンパク質(BTP)のような他のバイオマーカーは、機能的なマーカー11-13としてGFRを正確に推定する。CysCは重症患者においてAKIをSCr14よりも最大で2日早く検出するが、濃度は炎症及び年齢15,16に影響される。BTPは年齢、人種又は性別による影響は少ないが、他のバイオマーカー11,17に比べて正確さで劣る。これらの機能的なバイオマーカーにくわえて、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)及び腎損傷分子‐1(KIM‐1)のような尿細管損傷の尿バイオマーカーが迅速なAKI検出のために提案されているが、両者はいくつかの病態生理学的因子14,15,18による影響を受ける。したがって、これらのバイオマーカーはいずれも、AKIの診断のための正確で、内因性でかつ強力なバイオマーカーとして機能するのに限界がある。
【0150】
プロエンケファリンA 119~159(PENK)は、エンケファリンペプチド19とともに、プレプロエンケファリンAから切断された内因性の単量体ペプチドである。エンケファリンはオピオイド受容体に結合し、中枢神経系、腎臓、筋肉、肺、腸及び心臓20などで生成される。腎臓はオピオイド受容体の密度が最も高いので、エンケファリンは腎機能21の調節に関与している。さらに、PENKは理想的なGFRバイオマーカーとしての特徴を備えている。それは内因性であり、その分子サイズ(4.5kDa)が小さいため糸球体で自由にろ過され、既知の尿細管処理又は腎外クリアランスがなく、血漿タンパク質に結合せず、炎症及び他の腎外性の因子22とは無関係に様々な病的状態で安定した産生を示す。
【0151】
これまで、健康な成人及び疾患のある成人におけるPENKに関する研究は、腎機能のマーカーとしてPENKを支持している。PENKはAKIの初期指標であり、独立して将来の腎機能の障害を予測し、心臓手術後及び敗血症の患者22-32において推定GFR及び実測GFRと高い相関を示す。
【0152】
現在、小児におけるPENKのデータは不足している。小児集団では、小児の腎機能は特に生後1年9で急速に変化しているので、バイオマーカー研究は年齢調整した基準値33を明らかにすることに焦点を当てるべきである33。したがって、PENK濃度に対する年齢の影響を知ることは重要である。本研究の目的は、0~1歳の健康な小児におけるPENKの基準値を決定し、重症児におけるAKI時のPENK濃度の変化を特定し、PENKをGFR及びAKIに関する他の血漿バイオマーカーと比較することである。
【0153】
材料及び方法
概要
この前向きコホート研究は、重症児におけるAKIバイオマーカーに関する研究プロジェクト(Sophia Foundation for Scientific Research、助成番号633)34-37の一部である。そのプロジェクトの主な目的は、0~1歳の健常児におけるAKIバイオマーカーの基準値を確立し、重症児におけるAKIの予測能力を明らかにすることである。
【0154】
設定
0~1歳の腎臓の(前)病理病変がない健康な、満期産児及び機械的な人工呼吸にサポートされている重症児を対象とした。腎疾患の既往がある児、急速に死亡が予想される児、又はECMO治療を受けている児は除外した。除外基準、収集患者データ、試料収集及び試料分析などの詳細は、これまでの文献34-37に見ることができる。本研究は、Erasmusメディカルセンター医療倫理委員会の承認を得た。すべての試験対象の両親及び/又は介護者から繰り延べインフォームドコンセントを得た。
【0155】
患者の臨床データ
各対象の人口統計学的パラメーター(性別、診断名、生後年齢、民族、体重)を収集した。くわえて、重症患者について、在胎期間、出生体重、重症度スコア(Pediatric Risk of Mortality[PRISM-III]スコア、Pediatric Index of Mortality[PIM-II]スコア)、機械的人工呼吸、昇圧剤治療、入院期間及び死亡率を収集した。
【0156】
試料の収集と分析
血液試料は、留置動脈ライン、毛細血管又は静脈穿刺によって採取した。健常児では、手術やその他の医療処置の前に少なくとも1つの試料を得た。重症患者では、本試験への組み入れ後7日目までに複数の血液試料を採取した。血漿試料は、過去の研究34-36にあるSCr(酵素アッセイ)、CysC(イムノアッセイ)及びBTP(タンパク質アッセイ)について測定した。PENKは、市販のダブルモノクローナルサンドイッチイムノアッセイ(sphingotec GmbH、ヘニングスドルフ、ドイツ)38を使用して測定した。
【0157】
AKI診断
健常児はAKIを発症していないとみなし、文献9から引用した年齢調整済みSCrのzスコアで比較対照した。SCrのzスコアが-2から+2の間であれば正常とみなし、この範囲外のzスコアをもつ患者は除外した。
【0158】
重症患者は、年齢調整したSCr基準値9に基づき、挿管の48時間以内に達した最も高いRIFLEスコア39によって2つの小群(AKIと非AKI)に分類した。SCrの増加が150%未満の患者を非AKIとし、150~200%、200~300%及び300%超の患者をそれぞれRisk、Injury、Failureに分類した39。PENK分析に充分な量の血漿試料がない患者や、挿管の48時間以内の試料がない患者は除外した。さらに、入院中に腎機能が変化することがあるので、重症患者の動的な腎機能を考慮するために、採血時のRIFLEスコアを用いて混合モデル解析及び受信者動作特性(ROC)解析を行った。
【0159】
統計解析
連続データは、その分布パターンに応じて、平均値又は中央値を95%信頼区間(CI)値又は四分位範囲(IQR)とともに表示した。カテゴリー変数はパーセンテージ(%)の割合で表す。
【0160】
PENKの基準値は,R40の位置、尺度、形状の一般化加法モデル(Generalized Additive Models for Location, Scale and Shape)(GAMLSS)パッケージを使用して健常児で算出した。赤池情報量規準(AIC)値を使用して、これらの基準値に最適なモデルを決定し、PENK濃度の年齢に関連したパターンを特定した。これらの基準値を、正規分布に従うzスコアに変換し、次に重症コホートの混合モデル解析に使用した。
【0161】
重症児では、連続変数に対するマン・ホイットニーのU検定とカテゴリー変数に対するピアソンのカイ二乗検定を用いて、ベースラインと臨床的特徴をAKIと非AKI小群の間で比較した。複数のカテゴリーのカテゴリーデータをクラスカル・ウォリス検定とボンフェローニ調整p値による事後ダン検定を用いて比較してカテゴリー間の差を評価した。
【0162】
混合モデル解析
重症患者では、PENK濃度の試料の数が様々であった。したがって、線形混合モデル解析を用いて、全試験期間中の全試料を用いて反復測定と独立変数を説明した。この解析を用いて、健常児と、様々な重症度のAKIをもつ重症児との間でPENKが有意に異なるかどうかを明らかにした。従属変数(PENK濃度)をzスコアに変換して、モデル残差のほぼ正規分布を確実にした。このモデルにおける独立変数は、採血時のRIFLEスコア、性別、生後年齢、挿管後の時間、昇圧薬の使用及び従属変数に対する影響の可能性に基づく診断カテゴリーであった。対象内相関を説明するためにランダム切片を含めた。結果は、欠側データ及び独立変数の影響を調整したアウトカムの予測値(PENK zスコア)である推定限界平均値を用いて提示した。これらの推定限界平均値をzスコア式の逆を用いて逆変換し、PENK中央値及びその95%CIの推定予測を出す。重症児におけるPENK zスコアの推定限界平均値をスチューデントのT検定を用いて健常児と比較した。
【0163】
探索的解析 - PENK及び他のバイオマーカーとAKI診断との関連
受信者動作特性(ROC)曲線を用いて、挿管後の様々な時間枠(0~6時間、6~12時間、12~24時間、24~36時間及び36~48時間)で、バイオマーカー濃度とAKIの関連を評価した。この解析では、各時間枠内患者1人につき最初の試料のみを含めて、欠測値を除いて反復サンプリングを補正した。ROC曲線下面積(AUROC)及びその95%CIを、PENK、CysC及びBTPに対し決定した。AKI診断はSCrに基づいていたので、このバイオマーカーは含めなかった。
【0164】
統計解析は、SPSS統計バージョン25.0(IBM、シカゴ、イリノイ州、米国)、グラフパッドプリズム バージョン5.03(グラフパッドソフトウェア社、ラホヤ、カリフォルニア州、米国))及びRバージョン3.5.1(R Core Team 2013)を用いて行った。両側p値0.05を統計的有意性の限界とした。
【0165】
結果
健常児
当初登録された健常児116名のうち、PENKの測定に充分な血漿試料で入手可能でなかったこと、又はSCrのz-スコアが予め定義された範囲外であったことから、16名を除外した。残りの100名の小児患者の特徴を表1に示す。
【0166】
健常児において、PENKと最初の1年間の年齢との間に明確な関連性は存在しなかった。わずか0.952のAIC差から示されるように、年齢を共変量として含むGAMLSSモデルは、年齢を含まないモデルに比べて、ほんのわずかに良い結果が得られた。したがって、最初の1年間はPENK濃度がBox-Cox変換後に正規分布すると仮定したGAMLSSモデルを使用した。PENKのzスコアは、GAMLSSモデルから得られた以下の式で計算した。
【数1】
【0167】
PENK濃度は合計145個の試料で測定した。図2に示されるように、ここから得られたPENK濃度の中央値は、517.3pmol/L(95%CI 488.9~547.4、2.5及び97.5パーセンタイルはそれぞれ265.2pmol/L及び1017.1pmol/L)であった。
【0168】
重症児 - 患者の特徴
前述の研究の重症児101名のうち、10名を除外した。6名の患者はPENKの分析に必要な血漿量が不充分であり、4名の患者は挿管の48時間以内の試料がなく、91名の重症児が残った。全患者、AKI及び非AKI小群の患者の特徴を表6に示す。
【0169】
挿管後48時間以内に、40人の患者(44%)がAKI小群に分類され、最高RIFLEスコアでRisk、Injury、Failureがそれぞれ20、11、9例であった。非AKIとAKI小群間で性別、年齢、民族性及び体重に有意差はなかった。疾患重症度スコア、入院期間及び死亡率はAKI小群で高かったが、差は統計的に有意ではなかった(表6)。
【表6-1】
【表6-2】
【0170】
重症児 - PENK濃度
重症児のPENKについて、合計578個の血漿試料を分析した。非AKI小群の初期PENK濃度の中央値(IQR)は416.5(316.4~557.6)pmol/Lであったのに対し、AKI患者では669.4(434.3~982.3)pmol/Lであった(p<.001)。挿管後48時間までの時間枠では、PENK濃度はAKI小群で有意に高かった(挿管後36-48時間(p=0.123)を除いて、すべての時間枠でp<.01)(図3)。
【0171】
重症児 - 混合モデル解析
最終モデルに含まれる共変量のうち、PENK濃度に有意な影響を示したのは年齢のみであった。重症児におけるPENKの予測値(逆変換した推定限界平均値)の概要を図4に示し、健常児の濃度と比較する。PENK濃度の中央値は、健常児(517.3pmol/l[95%CI 488.9~547.4]、p<.001)と比較して、AKIを伴わない重症児(432.2pmol/l[95%CI 398.2~469.2])で有意に低かった。AKIを発症した重症患者は、健常児(最高RIFLEスコアがRiskの患者を除く)及びAKIを発症していない重症患者と比較して、PENK濃度の中央値が有意に高かった(Risk 507.9pmol/L[95%CI 454.3~567.9]、Injury 704.0pmol/L[595.8~832.3]、Failure 930.5pmol/L[763.2-~1135.2]、Risk(p=0.746)を除くすべての小群間で健常児に対してp<.01)。
【0172】
重症児 - 他のバイオマーカーとの相関
PENKと他のバイオマーカーのAKI診断への関連を比較するために、挿管後の5つの時間枠でROC曲線を作成した(図5A~E)。PENKによるAKIのAUROCは挿管後48時間までで1枠を除くすべての時間枠で最も高く、CysCはAKIと2番目に高い相関を示した。12~24時間の時間枠でのみ、PENKはBTPより低いAUROCを示した。各バイオマーカーのAUROC値、95%CI及び試料数の一覧を表7に示す。
【表7】
【0173】
考察
小児のAKIのバイオマーカーとしてのPENKに関する初めてのデータを提示する。成人では、このバイオマーカーはGFR、AKI、腎機能22,24,26,28の低下と強く相関し、有望な結果が示されている。本研究では、0~1歳の健常児におけるこのバイオマーカーの基準値を示す。小児では非常に高い濃度であるにもかかわらず、PENKの濃度は、AKIを発症した重症児と発症していない重症児とを明確に区別する。さらに、本データは、頻繁に使用されている他のAKIバイオマーカーよりも優れている可能性を示唆している。
【0174】
小児のバイオマーカー開発では、正常値の年齢に応じた変化を無視することは、小児33では正確に機能しないことにつながる可能性があるので、年齢に応じた基準値が重要である。本研究では、1歳までの小児のPENKの基準値が、成人健常者の10倍を超えるので(中央値45pmol/L、99パーセンタイル80pmol/L)26、この重要性は明らかである。さらに、PENKの我々の基準値は、SCr9及び(程度は低いが)CysC16,41とは対照的に、最初の1年間は年齢に応じた変化を示さなかった。それでもなお、PENKの基準値を成人と小児で比較すると、PENK濃度が小児期に低下することは明らかであり、これは、BTPに関する我々の以前の研究34でも見られ、成人42と比較して最初の1年間を通して(わずかに)高い基準値を示した。
【0175】
これらのより高い濃度は、幼児では生後1年間43を通して腎機能が成熟するので、クリアランス(絶対値)が低いことで説明できうる。しかし、幼児のGFRは成人健常者のGFRに比べて10倍も低くはないので、エンケファリンの生成は小児で増加する可能性がある。また、PENKと同じ前駆体に由来する別の内因性オピオイドであるMet-エンケファリンの濃度も、小児では成人44に比べて10倍を超えて高かった。さらに、12名の小児モヤモヤ病患者(1~16歳)では、脳脊髄液(CSF)中のPENK濃度が高かったが、CSF中の濃度は血清PENK濃度45を反映していなかった。
【0176】
健常児ではこのようにPENK濃度の中央値が高いにもかかわらず、重症児のAKIとの関連は顕著である。これは、PENKが24名の敗血症集中治療患者25で測定されたGFRと高い相関を示し、101名の敗血症患者26の別のコホートでRIFLEステージと独立して関連した成人の報告と一致する。本研究では、反復サンプリングと共変量を補正しても、AKIがより重症であるほどPENK濃度も有意に上昇した。これは小児におけるAKIのバイオマーカーとしてPENKを用いた初めてのデータであるので、他のバイオマーカーとの比較が重要である。他のバイオマーカーと比較して、PENKは成人においてクレアチニンクリアランスと比較してGFRとの相関性が高く(R2はそれぞれ、0.91対0.68)25、NGALよりもAKIの予測値が高かった(AUROCはそれぞれ、0.73対0.68)24。小児では、CysC及びBTPがAKIの診断のバイオマーカー41,46,47のなかで最良とみなされているが、我々の探索的解析ではPENKがAKIと最も高い関連を示した。さらに、この集団における比較的軽度のAKIとの高い関連性は、CysCと比較してPENKの感度が高く、AKIの早期スクリーニングにより適したバイオマーカーになることを示唆すると思われる。これらの有望な結果は、小児AKIにおけるPENKの診断可能性のさらなる検討を必要とする。
【0177】
興味深いことに、AKIがない重症患者ではPENK濃度は、健常児の基準値と比較して低かった。これは、重症時のいくつかの病態生理学的過程によって説明される可能性がある。心拍出量や腎灌流の増加によりよって腎クリアランスが上昇することがあり、これは「過大腎クリアランス」と呼ばれる現象で、成人48及び小児49において文献で充分に裏付けられている。さらに、重症患者の血漿中のPENK濃度は、大量の輸液負荷及び浮腫によって希釈される可能性がある。このパターンが本研究の他のすべての血漿バイオマーカー(SCr、CysC、及びBTP)で見られたという事実は、その可能性を支持している(データは示されていない)。
【0178】
本研究において、複数の患者は直接リクルートされておらず、入院の数日後のPENK濃度しかないので、入院後48時間よりも、挿管後最初の48時間のAKIを評価項目として使用した。それにより、以前の報告36よりもわずかに多いAKI患者となった。これらの追加患者はほとんど、軽度で一時的なSCrの増加を示した。この軽度のAKI患者の増加により、AKI小群と非AKI小群のハードエンドポイントの差が、入院後のAKIをアウトカム4-6、36として用いた場合に我々のグループや他のグループが示したものよりもあまり顕著ではない結果になった可能性がある。
【0179】
また、本研究にはいくつかの限界がある。このコホートに含まれるのは1歳までの小児であり、他の小児年齢群への外挿には限界がある。さらに、SCr及び/又はCysCを用いた小児のGFRの計算式が1歳未満の小児50,51では検証されていないこと、GFRのゴールドスタンダード測定が行われていないこと、並びに大多数の患者が挿管前36にAKIの兆候を示していたことから、小児におけるGFRのバイオマーカーとしてのPENKも、AKIの予測能力も検証することができなかった。そして、尿量に関する詳細な情報が病院の記録から得られなかった。それがあれば、KDIGO基準52を用いることによって、より確実なAKIの診断が可能であったと思われる。AKIに対する新たなバイオマーカーとしてのPENKについての今回の結果は有望ではあるものの、小児のPENKに関する今後の研究では、小児の全年齢範囲にわたるPENKの基準値を特定して、(長期的な)年齢に関連したパターンを明らかにすることに焦点を当てるべきである。さらに、この集団におけるGFRとAKIに対する新しいバイオマーカーとしてPENKを確立するために、成人23,27,38で行われたのと同じように、(重症の)小児でGFRの測定値とPENK濃度の追加比較を行うべきである。
【0180】
結論
この研究は、小児におけるAKIのバイオマーカーとしてのPENKに関する初めてのデータである。PENKの濃度は、生後1年間は安定しているようであるが、個人間のばらつきが大きく、基準値は成人よりも小児の方がかなり高い。それでも、小児のAKIを診断するためのこのバイオマーカーの結果は非常に有望である。PENKはAKIの診断と最も強い関連性を示し、現在利用可能で最良と考えられている他の血漿バイオマーカーよりも優れていた。進行中の研究により、このバイオマーカーが単独で、又は他のマーカーと組み合わせて、AKIの小児の診断と治療を向上させる可能性があるかどうかを検証しなければならない。
【0181】
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【0182】
実施例3
健常児のPENK
既知の腎障害がない健常児(n=38、55.3%女児、平均[範囲]年齢11.3[1-20]歳、SCr49.7[23~98]μmol/L)をMR-PENKアッセイを使用して測定した。
【0183】
PENKのレベルは年齢に応じて減少した(図6)。PENKと年齢の間には強い相関関係があった(r=-0.86、p<0.0001)。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6
【配列表】
2022544942000001.app
【国際調査報告】