(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-24
(54)【発明の名称】生分解性電気化学デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 6/06 20060101AFI20221017BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20221017BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20221017BHJP
H01M 6/02 20060101ALI20221017BHJP
H01M 50/494 20210101ALI20221017BHJP
H01M 4/06 20060101ALI20221017BHJP
H01M 6/12 20060101ALI20221017BHJP
H01M 50/105 20210101ALI20221017BHJP
H01M 50/121 20210101ALI20221017BHJP
H01M 50/131 20210101ALI20221017BHJP
H01M 50/169 20210101ALI20221017BHJP
H01M 50/188 20210101ALI20221017BHJP
H01M 50/429 20210101ALI20221017BHJP
【FI】
H01M6/06 C
H01B1/06 A
H01M50/414
H01M6/02 Z
H01M50/494
H01M4/06 D
H01M4/06 E
H01M4/06 F
H01M4/06 S
H01M4/06 T
H01M6/12 A
H01M50/105
H01M50/121
H01M50/131
H01M50/169
H01M50/188
H01M50/429
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022511202
(86)(22)【出願日】2020-08-19
(85)【翻訳文提出日】2022-04-15
(86)【国際出願番号】 US2020046932
(87)【国際公開番号】W WO2021034899
(87)【国際公開日】2021-02-25
(32)【優先日】2019-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】596170170
【氏名又は名称】ゼロックス コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
(71)【出願人】
【識別番号】506175792
【氏名又は名称】ナショナル リサーチ カウンシル オブ カナダ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【氏名又は名称】那須 威夫
(72)【発明者】
【氏名】チョプラ ナヴィーン
(72)【発明者】
【氏名】フー ナン-シン
(72)【発明者】
【氏名】マクガイア グレゴリー
(72)【発明者】
【氏名】ブラック ロバート
(72)【発明者】
【氏名】ラフォルグ アレクシス
(72)【発明者】
【氏名】ラム エドモンド
(72)【発明者】
【氏名】レオン チ ウーン
(72)【発明者】
【氏名】リウ ヤーリー
(72)【発明者】
【氏名】レニエ ソフィー
(72)【発明者】
【氏名】シャプロー ナタリー
(72)【発明者】
【氏名】モクリニ アスマエ
【テーマコード(参考)】
5G301
5H011
5H021
5H024
5H050
【Fターム(参考)】
5G301CA30
5G301CD01
5G301CE01
5H011BB03
5H011CC01
5H011DD13
5H011FF04
5H011GG08
5H011HH01
5H011JJ15
5H011KK00
5H011KK04
5H021BB15
5H021EE01
5H021EE04
5H021EE06
5H021EE39
5H021HH00
5H024AA03
5H024AA14
5H024CC04
5H024DD15
5H024EE09
5H024FF07
5H024FF10
5H024FF19
5H050AA17
5H050BA03
5H050BA04
5H050CA05
5H050CB13
5H050DA13
5H050FA02
5H050GA20
(57)【要約】
生分解性固体水性電解質組成物、電解質組成物を組み込んだ電気化学デバイス、およびそのための方法が提供される。電解質組成物は、コポリマーのヒドロゲルおよびヒドロゲル中に分散した塩を含むことができる。コポリマーは、ポリマー中心ブロックに結合している少なくとも2つのポリカプロラクトン鎖を含むことができる。電気化学デバイスは、アノード、カソード、およびアノードとカソードとの間に配置された電解質組成物を含むことができる。電解質組成物は、架橋される前に放射線硬化可能な、架橋された生分解性ポリマー材料を含むことができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード、
カソード、および
アノードとカソードとの間に配置された電解質組成物を含む電気化学デバイスであって、電解質組成物が、架橋される前に放射線硬化可能な、架橋された生分解性ポリマー材料を含む、電気化学デバイス。
【請求項2】
並行したプロセスにおける1つのアレイとしてウェブ上で同時に印刷され、任意に、独立して印刷される、または連結した要素として印刷される、請求項1に記載の複数の電気化学デバイス。
【請求項3】
生分解性ポリマー材料が、約10ミリ秒(ms)~約100msで放射線硬化可能である、請求項1に記載の複数の電気化学デバイス。
【請求項4】
架橋される前の生分解性ポリマー材料が、アクリレート、ビニルエーテル、アリルエーテル、アルケン、アルキン、チオールのうちの1種もしくは複数、またはこれらの組合せを含む放射線硬化性官能基を含む、請求項1に記載の電気化学デバイス。
【請求項5】
電解質組成物が、少なくとも1種の光開始剤を含む放射線硬化性電解質前駆体組成物から誘導される、請求項1に記載の電気化学デバイス。
【請求項6】
少なくとも1種の光開始剤が、リチウムアシルホスフィネート(LAP)、IRGACURE2959、ナトリウム4-[2-(4-モルホリノ)ベンゾイル-2-ジメチルアミノ]-ブチルベンゼンスルホネート(MBS)、モノアシルホスフィンオキシド(MAPO)塩Na-TPOおよびLi-TPO、ビスアシルホスフィンオキシド塩Na-BAPO、Li-BAPO、チオキサントン誘導体、ベンゾフェノン誘導体、Irgacure754、PEG修飾BAPOのうちの1種もしくは複数、またはこれらの組合せを含む、請求項5に記載の電気化学デバイス。
【請求項7】
架橋された生分解性ポリマー材料が、約0.10MPa~約100MPaのヤング率および約5kPa以上の降伏強度を含む、請求項1に記載の電気化学デバイス。
【請求項8】
1種または複数の生分解性基材をさらに含む、請求項1に記載の電気化学デバイス。
【請求項9】
1種または複数の生分解性基材が約120℃まで安定している、請求項8に記載の電気化学デバイス。
【請求項10】
1種または複数の生分解性基材が、約120℃への曝露後、10%未満の寸法変更で構造的完全性を維持する、請求項8に記載の電気化学デバイス。
【請求項11】
1種または複数の生分解性基材が、ポリ乳酸(PLA)、ポリ乳酸-co-グリコール酸(PLGA)、絹フィブロイン、キトサン、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリヒドロキシブチレート(PHB)、米紙、セルロースのうちの1種もしくは複数、またはこれらの組合せもしくは複合体を含む、請求項8に記載の電気化学デバイス。
【請求項12】
電解質組成物がヒドロゲルを含み、ヒドロゲルが水および架橋された生分解性ポリマー材料を含む、請求項1に記載の電気化学デバイス。
【請求項13】
電解質組成物が、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールのうちの1種もしくは複数、またはこれらの組合せを含む共溶媒をさらに含む、請求項1に記載の電気化学デバイス。
【請求項14】
アノードが、Zn、Li、C、Mg、Mg合金、Zn合金のうちの1種もしくは複数、またはこれらの組合せを含む、請求項1に記載の電気化学デバイス。
【請求項15】
カソードが、Fe、MnO
2、C、Au、Mo、W、MoO
3、Ag
2O、Cuのうちの1種もしくは複数、またはこれらの組合せを含む、請求項1に記載の電気化学デバイス。
【請求項16】
放射線硬化性電解質前駆体組成物が、ZnCl
2、NH
4Cl、NaCl、PBS、Na
2SO
4、ZnSO
4、MnSO
4、MgCl
2、CaCl
2、FeCl
3、LiPF
6、KOH、NaOHのうちの1種もしくは複数、またはこれらの組合せを含む、請求項5に記載の電気化学デバイス。
【請求項17】
放射線硬化性電解質前駆体組成物の濃度が約3M~約10Mである、請求項16に記載の電気化学デバイス。
【請求項18】
第1の生分解性結合剤を含むアノード、
第2の生分解性結合剤を含むカソード、および
アノードとカソードとの間に配置された電解質組成物を含む電気化学デバイスであって、電解質組成物が、架橋される前に放射線硬化可能な、架橋された生分解性ポリマー材料を含む、電気化学デバイス。
【請求項19】
カソードおよび/またはアノードが積層型形状で配置される、請求項18に記載の電気化学デバイス。
【請求項20】
カソードおよび/またはアノードが横方向XY平面形状で配置される、請求項18に記載の電気化学デバイス。
【請求項21】
カソードおよび/またはアノードのそれぞれが生分解性結合剤を含む、請求項18に記載の電気化学デバイス。
【請求項22】
生分解性結合剤が、キトサン、ポリ乳酸-co-グリコール酸(PLGA)、酢酸酪酸セルロース(CAB)、ポリヒドロキシブチレート(PHB)のうちの1種もしくは複数、またはこれらの組合せを含む、請求項21に記載の電気化学デバイス。
【請求項23】
カソードおよび/またはアノードのそれぞれが活性層と集電体層の両方を含む、請求項18に記載の電気化学デバイス。
【請求項24】
カソード、アノード、および電解質組成物が印刷される、請求項18に記載の電気化学デバイス。
【請求項25】
電気化学デバイスが柔軟性を有する、請求項24に記載の電気化学デバイス。
【請求項26】
架橋された生分解性ポリマー材料が、架橋される前に、約10ミリ秒(ms)~約100msで放射線硬化可能である、請求項18に記載の電気化学デバイス。
【請求項27】
生分解性基材を準備するステップ、
電極組成物を堆積させ、任意に、電極組成物を熱的に乾燥させるステップ、
生分解性放射線硬化性電解質組成物を堆積させるステップ、
任意の電極組成物の熱的乾燥の後で、生分解性放射線硬化性電解質組成物を放射線硬化するステップ
を含む、電気化学デバイスを製作するためのプロセスであって、生分解性基材が、任意の熱的乾燥と熱的適合性がある、電気化学デバイスを製作するためのプロセス。
【請求項28】
電極組成物を堆積させるステップおよび生分解性放射線硬化性電解質組成物を堆積させるステップが印刷を含む、請求項27に記載の電気化学デバイスを製作するためのプロセス。
【請求項29】
生分解性放射線硬化性電解質組成物を放射線硬化するステップが、約10ミリ秒(ms)~約100msで完了する、請求項27に記載の電気化学デバイスを製作するためのプロセス。
【請求項30】
生分解性放射線硬化性電解質組成物を放射線硬化するステップが、約0.10MPa~約100MPaのヤング率および約5kPa以上の降伏強度を有する架橋された生分解性電解質組成物をもたらす、請求項27に記載の電気化学デバイスを製作するためのプロセス。
【請求項31】
生分解性接着剤層を堆積させるステップをさらに含む、請求項27に記載の電気化学デバイスを製作するためのプロセス。
【請求項32】
生分解性基材が、さらなる接着剤を使用することなく、溶接可能/結合可能である、請求項31に記載の電気化学デバイスを製作するためのプロセス。
【請求項33】
生分解性接着剤層をタブにおいて堆積させるステップをさらに含む、請求項27に記載の電気化学デバイスを製作するためのプロセス。
【請求項34】
生分解性基材が、ウェブ供給される連続ロールとして提供される、請求項27に記載の電気化学デバイスを製作するためのプロセス。
【請求項35】
電極組成物が金属ホイル組成物である、請求項27に記載の電気化学デバイスを製作するためのプロセス。
【請求項36】
第2の電極組成物を堆積させるステップをさらに含み、第2の電極組成物が異なる金属ホイル組成物である、請求項35に記載の電気化学デバイスを製作するためのプロセス。
【請求項37】
生分解性基材が、連続的なウェブである、または連続ウェブで支持されている、請求項27に記載の電気化学デバイスを製作するためのプロセス。
【請求項38】
複数の電気化学デバイスが、並行したプロセスにおける1つのアレイとして、ウェブ上で独立したまたは連結した要素として同時に印刷される、請求項27に記載の電気化学デバイスを製作するためのプロセス。
【請求項39】
コポリマーのヒドロゲルおよびヒドロゲル中に分散した塩を含む生分解性固体水性電解質であって、コポリマーが、ポリマー中心ブロックに結合している少なくとも2つのポリカプロラクトン鎖を含む、生分解性固体水性電解質。
【請求項40】
ポリマー中心ブロックが、少なくとも2つの遊離ヒドロキシル基を有する天然に存在する生分解性ポリマーから誘導される、請求項39に記載の電解質。
【請求項41】
ポリマー中心ブロックが、ヒドロキシルを保持する多糖、生分解性ポリエステル、またはヒドロキシ脂肪酸を含む、請求項39に記載の電解質。
【請求項42】
ポリマー中心ブロックが、ポリビニルアルコールまたはポリブチレンスクシネートまたはヒマシ油を含む、請求項39に記載の電解質。
【請求項43】
ヒドロゲルが、ヒドロゲルの総質量に対して、20質量%以上、好ましくは30質量%以上、さらにより好ましくは50質量%以上のコポリマーの添加量を含む、請求項39~42のいずれか1項に記載の電解質。
【請求項44】
ヒドロゲルが、ヒドロゲルの総質量に対して、約5質量%~約50質量%のコポリマーの添加量を含む、請求項39~42のいずれか1項に記載の電解質。
【請求項45】
塩が、塩化アンモニウム(NH
4Cl)、塩化亜鉛(ZnCl
2)、またはこれらの混合物を含む、請求項39~44のいずれか1項に記載の電解質。
【請求項46】
塩が電解質中に少なくとも0.5Mの濃度で存在する、請求項39~45のいずれか1項に記載の電解質。
【請求項47】
塩が、電解質中に少なくとも3Mおよび最大でも10Mの濃度で存在する、請求項39~45のいずれか1項に記載の電解質。
【請求項48】
ナノ材料添加物をさらに含む、請求項39~47のいずれか1項に記載の電解質。
【請求項49】
ナノ材料添加物が、セルロースナノ結晶、キチンナノ結晶、キトサンナノ結晶、デンプンナノ結晶、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、層状ケイ酸塩、石灰、またはこれらの任意の混合物を含む、請求項48に記載の電解質。
【請求項50】
水および共溶媒をさらに含む、請求項39~49のいずれか1項に記載の電解質。
【請求項51】
共溶媒が、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールのうちの1種もしくは複数、またはこれらの組合せを含み、好ましくは共溶媒が、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項50に記載の電解質。
【請求項52】
ヒドロゲルが約1,000cP~約1.0E+6cPの粘度を含む、請求項39~51のいずれか1項に記載の電解質。
【請求項53】
アノード、
カソード、および
請求項39~51のいずれか1項に記載の生分解性固体水性電解質を含む電気化学デバイスであって、生分解性固体水性電解質がアノードとカソードとの間に配置される、電気化学デバイス。
【請求項54】
生分解性固体水性電解質がカソードまたはアノード上に印刷される、請求項53に記載の電気化学デバイス。
【請求項55】
固体水性電解質を生成するためのプロセスであって、
塩および官能化コポリマーを水溶液に溶解するステップであって、コポリマーが、ポリマー中心ブロックに結合している少なくとも2つのポリカプロラクトン鎖を含み、水溶液が紫外線光で硬化される際にヒドロゲルの形成を推進する官能基で官能化されている、ステップ、
水溶液の層を表面上に形成するステップ、および、
水溶液を紫外線光で硬化して、その中に分散した塩を有するコポリマーを含む固体ヒドロゲルを形成するステップ
を含む、プロセス。
【請求項56】
ポリマー中心ブロックが、少なくとも2つの遊離ヒドロキシル基を有する天然に存在する生分解性ポリマーから誘導される、請求項55に記載のプロセス。
【請求項57】
ポリマー中心ブロックが、ヒドロキシルを保持する多糖、生分解性ポリエステルまたはヒドロキシ脂肪酸を含む、請求項55に記載のプロセス。
【請求項58】
ポリマー中心ブロックが、ポリビニルアルコールまたはポリブチレンスクシネートまたはヒマシ油を含む、請求項55に記載のプロセス。
【請求項59】
水溶液が、硬化前に電池の一方または両方の電極上に直接形成される、請求項55~58のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項60】
ヒドロゲルが、ヒドロゲルの総質量に対して、20質量%以上のコポリマーの添加量で形成される、請求項55~59のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項61】
塩が、塩化アンモニウム(NH
4Cl)、塩化亜鉛(ZnCl
2)またはこれらの混合物を含む、請求項55~60のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項62】
塩が、少なくとも0.5Mの濃度の電解質中に存在する、請求項55~61のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項63】
塩が、少なくとも3Mおよび最大でも10Mの濃度で電解質中に存在する、請求項55~61のいずれか1項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明により開示される実施形態または実装形態は、生分解性電気化学デバイス、その固体水性電解質、およびそれを製作または合成するための方法を対象とする。
【背景技術】
【0002】
世界中で生産されている電池の数は、携帯用および遠隔電源に対する必要性が増えた結果として連続的に増加している。特に、いくつかの新規技術は、埋込型電子機器に電力を供給する電池を必要とする。例えば、埋込型電子機器、例えば、携帯用および着用式電子機器、インターネットオブシングス(IoT)デバイス、患者医療モニタリング、構造モニタリング、環境モニタリング、スマートパッケージングなどは、電力供給を電池に依存している。従来型電池は部分的にリサイクルすることはできるが、現在市販されている電池で環境に優しいまたは生分解性のものはない。よって、従来型電池の製造および使用の増加は、電池が適切に破棄またはリサイクルされなかった場合、環境に有毒および有害な廃棄物を相応に増加させる結果となる。前述を考慮して、特に廃棄される前に限られた時間の間使い捨て電池を利用する用途に対して、生分解性電池を開発する必要性がある。
【0003】
さらに、柔軟性のある、低コスト、中程度または低い性能の電池に対する需要を満たすため、単回使用の使い捨て電池として市販される全印刷電池が開発されてきた。しかし、これらの全印刷電池のいずれも生分解性ではない。
【0004】
生分解性電池の生産においてもっとも大きな難題の1つは、生分解性ポリマー電解質の開発であることが一般的に認められており、この生分解性ポリマー電解質は、全印刷電池の主要なポリマーベースの構成成分である。加えて、さらなる難題は、既存の印刷技術を使用して印刷することもできるこのような生分解性ポリマー電解質の開発である。
【0005】
従来の生分解性ポリマー電解質は、多くの場合生分解性ポリマーと伝導性塩との組合せを含む。生分解性ポリマー電解質を得るためには、生分解性ポリマーおよび伝導性塩を溶媒中で溶解し、次いで溶媒を続いて比較的遅い速度で蒸発させて、固体ポリマー電解質フィルムを生成する。これら従来の生分解性ポリマー電解質は多くの場合、生分解性ポリマー中でのイオンの移動性が低いため、周辺温度でイオン伝導率が低い(例えば、RTで約10-5S/cm未満)という問題がある。しかし、十分な伝導率は、ポリマー電解質がポリマー鎖移動性を可能にするのに十分な温度(すなわち、動作温度)に加熱され、これによって、イオンがポリマー電解質構造を介してより自由に移動することが可能になった場合達成することができる。十分な伝導率はまた、ポリマー電解質の結晶化度を抑制する添加物を組み込むことによって達成することができるが、これによってその動作温度が低減する。よって、室温で十分な伝導率で作動し得る、生分解性ポリマー電解質は限定される。
【0006】
前述の弱点に加えて、従来の生分解性ポリマー電解質はまた、製造中、溶媒を蒸発させるために必要とされる時間により、製造プロセスが非常に長いという問題もある。例えば、真空および/または温度により補助される蒸発は、多くの場合、従来の生分解性ポリマー電解質を調製するための溶媒を蒸発させるのに数時間が必要とされ、よって、従来の生分解性ポリマー電解質と、連続する層とが数分単位で互いに重なり合って印刷されなければならないハイスループットな印刷プロセスとの適合性には限界がある。
【0007】
よって、必要とされるのは、印刷可能な、生分解性電気化学デバイス、その固体水性電解質、ならびにこれを合成および製作するための方法である。
【発明の概要】
【0008】
以下は、本発明の教示の1つまたは複数の実施形態の一部の態様の基本的理解をもたらすために、簡略化された概要を提示している。この概要は、大規模な概説でもなく、本発明の教示の主要なまたは重大な要素を特定することを意図するものでもなく、本開示の範囲を線引きするものでもない。むしろ、その主要な目的は、後で提示される詳細な説明の前置きとして、1つまたは複数の概念を簡略化された形態で単に提示することである。
【0009】
本開示は、アノード、カソード、および電解質組成物を含む電気化学デバイスを提供することができる。電解質組成物はアノードとカソードとの間に配置されていてもよい。電解質組成物は、架橋される前に放射線硬化可能であり得る、架橋した、生分解性ポリマー材料を含み得る。
【0010】
一部の例では、複数の電気化学デバイスが提供される。複数の電気化学デバイスは、並行したプロセスにおける1つのアレイとしてウェブ上で同時に印刷することができる。1つの例では、複数の電気化学デバイスは、独立して印刷されてもよいし、または連結した要素として印刷されてもよい。
【0011】
一部の例では、複数の電気化学デバイスが提供される。複数の電気化学デバイスの生分解性ポリマー材料は、約10ミリ秒(ms)~約100msで放射線硬化可能であり得る。
【0012】
一部の例では、架橋する前の生分解性ポリマー材料は、放射線硬化性官能基を含むことができる。放射線硬化性官能基は、アクリレート、ビニルエーテル、アリルエーテル、アルケン、アルキン、チオールのうちの1種もしくは複数、またはこれらの組合せを含むことができる。
【0013】
一部の例では、電解質組成物は、放射線硬化性電解質前駆体組成物から誘導することができる。放射線硬化性電解質前駆体組成物は少なくとも1種の光開始剤を含んでもよい。
【0014】
一部の例では、少なくとも1種の光開始剤は、リチウムアシルホスフィネート(LAP)、IRGACURE2959、ナトリウム4-[2-(4-モルホリノ)ベンゾイル-2-ジメチルアミノ]-ブチルベンゼンスルホネート(MBS)、モノアシルホスフィンオキシド(MAPO)塩Na-TPOおよびLi-TPO、ビスアシルホスフィンオキシド塩Na-BAPO、Li-BAPO、チオキサントン誘導体、ベンゾフェノン誘導体、Irgacure754、PEG修飾BAPOのうちの1種もしくは複数またはこれらの組合せを含んでもよい。
【0015】
一部の例では、架橋された生分解性ポリマー材料は、約0.10MPa~約100MPaのヤング率を有することができる。一部の例では、架橋された生分解性ポリマー材料は約5kPa以上の降伏強度を有することができる。
【0016】
一部の例では、電気化学デバイスは1種または複数の生分解性基材を含むことができる。1種または複数の生分解性基材は約120℃まで安定していることができる。1種または複数の生分解性基材は約120℃への曝露後、10%未満の寸法変化で構造的完全性を維持することができる。1種または複数の生分解性基材は、ポリ乳酸(PLA)、ポリ乳酸-co-グリコール酸(PLGA)、絹フィブロイン、キトサン、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリヒドロキシブチレート(PHB)、米紙、セルロースのうちの1種もしくは複数、またはこれらの組合せもしくは複合体を含むことができる。
【0017】
一部の例では、電解質組成物はヒドロゲルを含むことができる。ヒドロゲルは水および架橋された生分解性ポリマー材料を含むことができる。
【0018】
一部の例では、電解質組成物は共溶媒を含むことができる。共溶媒は、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールのうちの1種もしくは複数、またはこれらの組合せを含むことができる。
【0019】
一部の例では、アノードは、Zn、Li、C、Mg、Mg合金、Zn合金のうちの1種もしくは複数、またはこれらの組合せを含むことができる。
【0020】
一部の例では、カソードは、Fe、MnO2、C、Au、Mo、W、MoO3、Ag2O、Cuのうちの1種もしくは複数、またはこれらの組合せを含むことができる。
【0021】
一部の例では、放射線硬化性電解質前駆体組成物は、ZnCl2、NH4Cl、NaCl、PBS、Na2SO4、ZnSO4、MnSO4、MgCl2、CaCl2、FeCl3、LiPF6、KOH、NaOHのうちの1種もしくは複数、またはこれらの組合せを含むことができる。一部の例では、放射線硬化性電解質前駆体組成物の濃度は約3M~約10Mであってよい。
【0022】
本開示はまた、アノード、カソード、およびアノードとカソードとの間に配置された電解質組成物を含む電気化学デバイスを提供することができる。アノードは第1の生分解性結合剤を含むことができる。カソードは第2の生分解性結合剤を含むことができる。電解質組成物は、架橋される前に放射線硬化可能な、架橋された生分解性ポリマー材料を含むことができる。
【0023】
一部の例では、カソードおよび/またはアノードは積層型形状で配置される。
【0024】
一部の例では、カソードおよび/またはアノードは横方向XY平面形状で配置される。
【0025】
一部の例では、カソードおよび/またはアノードのそれぞれは生分解性結合剤を含むことができる。生分解性結合剤は、キトサン、ポリ乳酸-co-グリコール酸(PLGA)、酢酸酪酸セルロース(CAB)、ポリヒドロキシブチレート(PHB)のうちの1種もしくは複数、またはこれらの組合せを含むことができる。
【0026】
一部の例では、カソードおよび/またはアノードのそれぞれは、活性層と集電体層との両方を含むことができる。
【0027】
一部の例では、カソード、アノード、および電解質組成物は印刷される。
【0028】
一部の例では、電気化学デバイスは柔軟性があり得る。
【0029】
一部の例では、架橋された生分解性ポリマー材料は、架橋される前に、約10ミリ秒(ms)~約100msで放射線硬化可能であり得る。
【0030】
本開示は、電気化学デバイスを製作するためのプロセスまたは方法をさらに提供することができる。本プロセスは、生分解性基材を準備するステップを含むことができる。本プロセスはまた、電極組成物を堆積させるステップ、および任意に、電極組成物を熱的に乾燥させるステップを含むことができる。本プロセスは、生分解性放射線硬化性電解質組成物を堆積させるステップをさらに含むことができる。本プロセスはまた、任意の電極組成物の熱的乾燥後、生分解性放射線硬化性電解質組成物を放射線硬化するステップも含むことができる。生分解性基材は、任意の熱的乾燥と熱的適合性があり得る。
【0031】
一部の例では、電極組成物を堆積させるステップおよび生分解性放射線硬化性電解質組成物を堆積させるステップは、印刷を含むことができる。
【0032】
一部の例では、生分解性放射線硬化性電解質組成物を放射線硬化するステップは、約10ミリ秒(ms)~約100msで完了することができる。
【0033】
一部の例では、生分解性放射線硬化性電解質組成物を放射線硬化するステップは、約0.10MPa~約100MPaのヤング率および約5kPa以上の降伏強度を有する架橋された生分解性電解質組成物を結果として生じる。
【0034】
一部の例では、本プロセスは、生分解性接着剤層を堆積させるステップをさらに含むことができる。
【0035】
一部の例では、生分解性基材は、さらなる接着剤を使用することなく、溶接可能/結合可能であり得る。
【0036】
一部の例では、本プロセスは、タブにおいて生分解性接着剤層を堆積させるステップを含むことができる。
【0037】
一部の例では、生分解性基材は、ウェブ供給される連続ロールとして提供することができる。
【0038】
一部の例では、電極組成物は金属ホイル組成物であってよい。
【0039】
一部の例では、本プロセスは、第2の電極組成物を堆積させるステップを含むことができる。第2の電極組成物は異なる金属ホイル組成物であってよい。
【0040】
一部の例では、生分解性基材は連続ウェブであってもよいし、または連続ウェブにより支持されていてもよい。
【0041】
一部の例では、複数の電気化学デバイスは、並行したプロセスにおける1つのアレイとして、ウェブ上で独立したまたは連結した要素として同時に印刷することができる。
【0042】
本開示はまたコポリマーのヒドロゲルおよびヒドロゲル中に分散した塩を含む生分解性固体水性電解質を提供することができる。コポリマーは、ポリマーの中心ブロックに結合している少なくとも2つのポリカプロラクトン鎖を含むことができる。
【0043】
一部の例では、ポリマーの中心ブロックは、少なくとも2つの遊離ヒドロキシル基を有する天然に存在する生分解性ポリマーから誘導することができる。
【0044】
一部の例では、ポリマーの中心ブロックは、ヒドロキシルを保持する多糖、生分解性ポリエステル、またはヒドロキシ脂肪酸を含むことができる。
【0045】
一部の例では、ポリマーの中心ブロックは、ポリビニルアルコールまたはポリブチレンスクシネートまたはヒマシ油を含むことができる。
【0046】
一部の例では、ヒドロゲルは、ヒドロゲルの総質量に対して、20質量%以上、好ましくは30質量%以上、さらにより好ましくは50質量%以上のコポリマーの添加量を含むことができる。
【0047】
一部の例では、ヒドロゲルは、ヒドロゲルの総質量に対して、約5質量%~約50質量%のコポリマーの添加量を含むことができる。
【0048】
一部の例では、塩は、塩化アンモニウム(NH4Cl)、塩化亜鉛(ZnCl2)、またはこれらの混合物を含むことができる。
【0049】
一部の例では、塩は、少なくとも0.5Mの濃度で電解質中に存在することができる。
【0050】
一部の例では、塩は、少なくとも3Mおよび最大でも10Mの濃度で電解質中に存在することができる。
【0051】
一部の例では、電解質はナノ材料添加物をさらに含むことができる。少なくとも1つの例では、ナノ材料添加物は、セルロースナノ結晶、キチンナノ結晶、キトサンナノ結晶、デンプンナノ結晶、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、層状ケイ酸塩、石灰、またはこれらのいずれかの混合物を含むことができる。
【0052】
一部の例では、電解質は水および共溶媒をさらに含むことができる。共溶媒は、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールのうちの1種もしくは複数、またはこれらの組合せを含むことができる。好ましい例では、共溶媒は、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、およびこれらの組合せからなる群から選択することができる。
【0053】
一部の例では、ヒドロゲルは、約1,000cP~約1.0E+6cPの粘度を有するまたは含むことができる。
【0054】
本開示はまた、アノード、カソード、および段落[0042]~[0053]のうちのいずれか1つの生分解性固体水性電解質を含む電気化学デバイスを提供することができる。生分解性固体水性電解質はアノードとカソードとの間に配置することができる。
【0055】
一部の例では、生分解性固体水性電解質は、カソードまたはアノード上に印刷することができる。
【0056】
本開示は、固体水性電解質を生成するためのプロセスをさらに提供することができる。本プロセスは、塩および官能化コポリマーを水溶液に溶解するステップを含むことができる。コポリマーはポリマーの中心ブロックに結合している少なくとも2つのポリカプロラクトン鎖を含むことができ、水溶液が紫外線光で硬化される際にヒドロゲルの形成を促進する官能基で官能化されている。本プロセスは、表面上に水溶液の層を形成するステップもまた含むことができる。本プロセスは、水溶液を紫外線光で硬化して、その中に分散した塩を有するコポリマーを含む固体ヒドロゲルを形成するステップをさらに含むことができる。
【0057】
一部の例では、ポリマーの中心ブロックは、少なくとも2つの遊離ヒドロキシル基を有する天然に存在する生分解性ポリマーから誘導することができる。
【0058】
一部の例では、ポリマー中心ブロックは、ヒドロキシルを保持する多糖、生分解性ポリエステルまたはヒドロキシ脂肪酸を含むことができる。
【0059】
一部の例では、ポリマー中心ブロックは、ポリビニルアルコールまたはポリブチレンスクシネートまたはヒマシ油を含むことができる。
【0060】
一部の例では、水溶液は、硬化前に、電池の一方または両方の電極上に直接形成することができる。
【0061】
一部の例では、ヒドロゲルは、ヒドロゲルの総質量に対して、20質量%以上のコポリマーの添加量で形成することができる。
【0062】
一部の例では、塩は、塩化アンモニウム(NH4Cl)、塩化亜鉛(ZnCl2)またはこれらの混合物を含むことができる。
【0063】
一部の例では、塩は少なくとも0.5Mの濃度で電解質中に存在することができる。
【0064】
一部の例では、塩は少なくとも3Mおよび最大でも10Mの濃度で電解質中に存在することができる。
【0065】
本明細書に組み込まれ、その一部を構成する添付の図は、本発明の教示の実施形態を例示する。本開示の実施形態におけるこれらおよび/または他の態様ならびに利点は、添付の図と併せて、様々な実施形態の以下の説明から明らかとなり、より容易に認識される。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【
図1】1つまたは複数の開示された実施形態による、並列構成の例示的な生分解性電気化学デバイスの分解立体図を図示している。
【
図2】1つまたは複数の開示された実施形態による、積層型構成の別の例示的な生分解性電気化学デバイスの分解立体図を図示している。
【
図3】スキーム1に示されている合成スキームのステップ1の後のPCL-PEG-PCLマクロモノマージオールの
1H NMRスペクトルを示している。
【
図4】スキーム1に示されている合成スキームのステップ2の後のPCL-PEG-PCLマクロモノマージアクリレートの
1H NMRスペクトルを示している。
【
図5A】239-20000-239のブロック鎖長を有するPCL-PEG-PCLマクロモノマーから生成されたPCL-PEG-PCLベースの固体水性電解質に対する応力対歪み曲線を示している。
【
図5B】NH
4ClおよびZnCl
2の様々な濃度にわたる5つの異なる測定に対する、
図5AのPCL-PEG-PCLベースの固体水性電解質のヤング率を示している。
【
図6】PCL-PEG-PCLベースの固体水性電解質を含有し、放電前に10時間休止させた後、0.01mA/cm
2で放電した完全なMnO
2/Zn電気化学セルに対する、容量(mAh/cm
2)対セル電圧(V)のプロットを示している。
【
図7】PCL-PEG-PCLベースの固体水性電解質を含有するMnO
2/Zn電気化学セルのセル放電中のインピーダンス変化をモニタリングしたRe(Z)対-Im(Z)の代表的なNyquistプロットを示している。
【
図8】PCL-PEG-PCLベースの固体水性電解質を含有するMnO
2/Zn電気化学セルの無負荷電圧(OCV)安定性を、液体水溶液電解質を含有するセルと比較した、セル電圧(V)対時間(時間)のプロットを示している。
【
図9】PCL-PEG-PCLベースの固体水性電解質を含有するMnO
2/Zn電気化学セルの放電性能を、液体水溶液電解質を含有するセルと比較した、容量(mAh/cm
2)対セル電圧(V)のプロットを示している。
【
図10】実施例7で調製したZnアノードペースト剤およびMnO
2ペースト剤のそれぞれの粘度を示している。
【発明を実施するための形態】
【0067】
様々な典型的な態様の以下の説明は単に例示的な性質であり、本開示、その用途、または使用を限定することを意図するものでは決してない。
【0068】
全体にわたり使用されている範囲は、範囲内にあるありとあらゆる値を記載するための略記として使用されている。範囲内のいずれの値も範囲の末端として選択することができる。加えて、本明細書で引用されたすべての参考文献は、これら全体において参照により本明細書に組み込まれている。本開示における定義と、引用された参考文献の定義とが矛盾する場合、本開示が優先される。
【0069】
特に明記されていない限り、本明細書でおよび明細書の他の箇所で表現されているすべてのパーセンテージおよび量は、質量によるパーセンテージを指すと考えられるべきである。付与された量は、材料の活性のある質量に基づく。
【0070】
さらに、すべての数値は、「約」または「およそ」として示される値であり、当業者により予想される実験誤差および変化形を考慮に入れている。本明細書で開示されているすべての数値および範囲は、「約」が同時に使用されているどうかに関わらず、近似する値および範囲であることを認識されたい。「約」という用語は、本明細書で使用される場合、数値と併せて、その数値の±0.01%(両端の値を含む)、±0.1%(両端の値を含む)、±0.5%(両端の値を含む)、±1%(両端の値を含む)であってよい、その数値±2%(両端の値を含む)、その数値±3%(両端の値を含む)、その数値±5%(両端の値を含む)、その数値±10%(両端の値を含む)、またはその数値±15%(両端の値を含む)であってよい値を指すこともまた認識されたい。数値的範囲が本明細書で開示されている場合、範囲内に入るいかなる数値もまた具体的に開示されていることをさらに認識されたい。
【0071】
本明細書で使用される場合、「または」という用語は、両端の値を含むオペレーターであり、文脈が他を明確に指示していない限り、「および/または」という用語と同等である。「基づく」という用語は排他的ではなく、文脈が他を明確に指示していない限り、記載されていないさらなる要素に基づくことを許容する。明細書では、「A、B、およびCのうちの少なくとも1つ」という列挙は、A、B、もしくはC、A、B、もしくはCの複数の例、またはA/B、A/C、B/C、A/B/B/B/B/C、A/B/Cの組合せなどを含有する実施形態を含む。加えて、明細書全体にわたり、「a」、「an」および「the」の意味は複数の言及を含む。「in」の意味は「in」および「on」を含む。
【0072】
ここで、本発明の教示の例示的な実施形態について詳細に言及することになり、その例は添付の図において図示されている。可能な限り、同じ、類似の、または同様の部分を指すのに同じ参照番号が図全体にわたり使用されている。
【0073】
生分解性電気化学デバイスが本明細書で開示されている。本明細書で使用される場合、「生分解性」という用語は、妥当な時間内で、生命体、特にゴミ処理地内の微生物により分解されることが可能な、またはそのように設計された材料、構成成分、物質、デバイスなどを指すことができる。材料、構成成分、物質、デバイスなどは、水、天然に存在する気体、例えば、二酸化炭素およびメタン、バイオマス、またはこれらの組合せなどに分解することができる。本明細書で使用される場合、「生分解性電気化学デバイス」または「生分解性デバイス」という表現は、電気化学デバイスまたはデバイスをそれぞれ指すことができ、これらのうちの少なくとも1種以上のその構成成分が生分解性である。ある場合には、生分解性電気化学デバイスまたは生分解性デバイスの構成成分の大部分またはかなり多数が生分解性である。他の事例では、生分解性電気化学デバイスまたは生分解性デバイスのポリマー構成成分のすべてが生分解性である。例えば、電気化学デバイスのポリマーおよび/または他の有機ベース構成成分は生分解性である一方、金属および/または金属酸化物を含めた、本明細書で開示されている電気化学デバイスの無機材料は生分解性であることはできない。電気化学デバイスのすべてのポリマーおよび/または有機ベース構成成分が生分解性であれば、全部の電気化学デバイスが生分解性であると考えられることが一般的に認められることを認識されたい。本明細書で使用される場合、「電気化学デバイス」という用語または表現は、電気を化学反応に変換する、および/またはその逆を行うデバイスを指すことができる。例示的電気化学デバイスは、これらに限定されないが、電池、光増感太陽電池、電気化学的センサー、エレクトロクロミックガラス、燃料電池、電気分解装置などであってよい、またはこれらを含む。
【0074】
本明細書で使用される場合、「環境に優しい電気化学デバイス」または「環境に優しいデバイス」という用語または表現は、生態系または一般的環境に対して最小量の、より低い量の毒性を示す、またはいかなる毒性も示さない電気化学デバイスまたはデバイスをそれぞれ指すことができる。少なくとも1つの実施形態では、本明細書で開示されている電気化学デバイスおよび/またはその構成成分は環境に優しい。
【0075】
少なくとも1つの実施形態では、本明細書で開示されている生分解性電気化学デバイスは、アノード、カソード(すなわち、集電体および/または活性層)、および1つまたは複数の電解質組成物(例えば、生分解性固体水性電解質組成物)を含むことができる。別の実施形態では、生分解性電気化学デバイスは、1つもしくは複数の基材、1つもしくは複数の密閉部、またはこれらの組合せをさらに含むことができる。
【0076】
本明細書で開示されている生分解性電気化学デバイは柔軟性があり得る。本明細書で使用される場合、「柔軟性のある」という用語は、破損および/またはクラッキングを起こすことなく、既定の曲率半径周辺に曲げることが可能な材料、デバイス、またはその構成成分を指すことができる。本明細書で開示されている生分解性電気化学デバイスおよび/またはその構成成分は、破損またはクラッキングを起こすことなく、約30cm以下、約20cm以下、約10cm以下、約5cm以下の曲率半径の周辺に曲げることができる。
【0077】
図1は、1つまたは複数の実施形態による、並列または同一平面上の構成の例示的な生分解性電気化学デバイス100の分解立体図を図示している。
図1に図示されているように、生分解性電気化学デバイス100は、第1の基材102、第1の基材102に隣接してまたはその上に配置された第1の集電体104および第2の集電体106、第1の集電体104に隣接してまたはその上に配置されたアノード活性層108、第2の集電体106に隣接してまたはその上に配置されたカソード活性層110、アノード活性層108およびカソード活性層110に隣接してまたはその上に配置された電解質層112、ならびに電解質組成物112に隣接してまたはその上に配置された第2の基材114を含むことができる。第1の集電体104およびアノード活性層108は、生分解性電気化学デバイス100のアノード120と本明細書で総合的に称することができることを認識されたい。第2の集電体106およびカソード活性層110は、生分解性電気化学デバイス100のカソード122と本明細書で総合的に称することができることをさらに認識されたい。
図1に図示されているように、生分解性電気化学デバイス100のアノード120およびカソード122は、アノード120およびカソード122が同じXY平面に沿って配置されるよう同一平面上にあることができる。
【0078】
少なくとも1つの実施形態では、生分解性電気化学デバイス100は、生分解性電気化学デバイス100の集電体104、106、アノード活性層108、カソード活性層110、および第1の基材102と第2の基材114との間の電解質組成物112を密閉するまたは気密的に密閉することが可能なまたは密閉するように設計された1つまたは複数の密閉部(116、118の2つが示されている)を含むことができる。例えば、
図1に図示されているように、生分解性電気デバイス100は、生分解性電気化学デバイス100を密閉するまたは気密的に密閉するために、第1の基材102と第2の基材114との間ならびに集電体104、106、アノード活性層108、カソード活性層110、および電解質組成物112の周囲に挿入された2つの密閉部116、118を含むことができる。別の実施形態では、生分解性電気化学デバイス100は、密閉部116、118を含まなくてもよいし、または実質的に含まなくてもよい。例えば、基材102、114は、生分解性電気化学デバイス100を密閉するために互いに溶融または結合されていてもよい。
【0079】
図2は、1つまたは複数の実施形態に従い、積層型構成の別の例示的な生分解性電気化学デバイス200の分解立体図を図示している。
図2に図示されているように、生分解性電気化学デバイス200は、第1の基材202、第1の基材102に隣接してまたはその上に配置された第1の集電体204、第1の集電体204に隣接してまたはその上に配置されたアノード活性層208、アノード108に隣接してまたはその上に配置された電解質層212、電解質組成物212に隣接してまたはその上に配置されたカソード活性層210、カソード活性層210に隣接してまたはその上に配置された第2の集電体206、および第2の集電体206に隣接してまたはその上に配置された第2の基材214を含むことができる。第1の集電体204およびアノード活性層208は、生分解性電気化学デバイス200のアノード220と本明細書で総合的に称することができることを認識されたい。第2の集電体206およびカソード活性層210は、生分解性電気化学デバイス200のカソード222と本明細書で総合的に称することができることをさらに認識されたい。
図2に図示されているように、生分解性電気化学デバイス200のアノード220およびカソード222は、アノード220およびカソード222が互いの上または下に配置されるように積層型構成または形状で配置することができる。
【0080】
少なくとも1つの実施形態では、生分解性電気化学デバイス200は、生分解性電気化学デバイス200の集電体204、206、アノード活性層208、カソード活性層210、および第1の基材202と第2の基材214との間の電解質組成物212を気密的に密閉することが可能なまたは気密的に密閉するように設計された1つまたは複数の密閉部(216、218の2つが示されている)を含むことができる。例えば、
図2に図示されているように、生分解性電気デバイス200は、生分解性電気化学デバイス200を気密的に密閉するために、第1の基材202と第2の基材214との間ならびに集電体204、206、アノード活性層208、カソード活性層210、および電解質組成物212の周囲に挿入された、2つの密閉部216、218を含むことができる。別の実施形態では、生分解性電気化学デバイス200は、密閉部216、218を含まなくてもよいし、または実質的に含まなくてもよい。例えば、基材202、214は、生分解性電気化学デバイス200を密閉するために互いに溶融または結合されていてもよい。
【0081】
図1および2に図示されているように、集電体104、106、204、206のそれぞれは、密閉部116、118、216、218の外側まで伸びて、結合性をもたらすことができるそれぞれのタブ124、126、224、226を含むことができる。
【0082】
少なくとも1つの実施形態では、それぞれの生分解性電気化学デバイス100、200の基材102、114、202、214のうちのいずれか1つまたは複数は、これらに限定されないが、生分解性基材であってもよいし、またはこれを含んでもよい。例示的生分解性基材は、これらに限定されないが、ポリ乳酸(PLA)、ポリ乳酸-co-グリコール酸(PLGA)、絹フィブロイン、キトサン、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリヒドロキシブチレート(PHB)、米紙、セルロースのうちの1種もしくは複数、またはこれらの組合せもしくは複合体であってもよいし、またはこれらを含んでもよい。
【0083】
それぞれの生分解性電気化学デバイス100、200の生分解性基材は、約50℃~約150℃の温度で安定していることができる。本明細書で使用される場合、「安定した」または「安定性」という用語は、約50℃~約150℃の温度に曝露された場合、寸法の変化に対して抵抗し、構造的完全性を維持する基材の能力を指すことができる。例えば、生分解性基材は、約50℃~約150℃の温度に曝露された後、約20%未満、約15%未満、または約10%未満の寸法の変化で構造的完全性を維持することが可能であり、または維持するように設計することができる。1つの例では、生分解性基材のそれぞれは、約50℃、約60℃、約70℃、約80℃、約90℃、約100℃、または約110℃~約120℃、約130℃、約140℃、または約150℃の温度で安定していることができる(例えば、寸法の変化は20%未満)。別の例では、生分解性基材のそれぞれは、少なくとも100℃、少なくとも105℃、少なくとも110℃、少なくとも115℃、少なくとも120℃、少なくとも125℃、少なくとも130℃、少なくとも135℃、少なくとも140℃、または少なくとも145℃の温度で安定していることができる。少なくとも1つの実施形態では、生分解性基材は、約50℃~約150℃の温度で、約5分~約60分以上の期間安定していることができる。例えば、生分解性基材は、上述の温度で、約5分、約10分、約20分、または約30分~約40分、約45分、約50分、約60分以上の期間安定していることができる。
【0084】
少なくとも1つの実施形態では、生分解性基材は、さらなる接着剤を使用することなく、溶接可能、結合可能、および/または永久的に熱的密閉可能である。例えば、基材102、114、202、214のそれぞれの生分解性基材は、それぞれの密閉部116、118、216、218を使用することなく、互いに溶接可能なおよび/または結合可能であることができる。互いに溶接可能および/または結合可能であることができる例示的生分解性基材は、これらに限定されないが、熱可塑性、例えば、ポリ乳酸(PLA)、結晶化度を増強する核剤で修飾したポリ乳酸、例えば、核剤Dで修飾したポリ乳酸(PLA-D)および核剤Eで修飾したポリ乳酸(PLA-E)、ポリブチレンスクシネート(PBS)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、PLAとポリヒドロキシブチレート(PHB)のブレンド、PHBベースのブレンドなど、またはこれらの組合せであってもよいし、またはこれらを含んでもよい。本明細書で使用される場合、「結合可能」、「溶接可能」、および/または「永久的に熱的密閉可能」という用語または表現は、加熱または溶融を介して、2つの表面を互いに加熱密閉するまたは永久的に2つの表面を互いに連結する材料(例えば、基材)の能力を指すことができる。
【0085】
それぞれの生分解性電気化学デバイス100、200のアノード活性層108、208は、これらに限定されないが、亜鉛(Zn)、リチウム(Li)、炭素(C)、カドミウム(Cd)、ニッケル(Ni)、マグネシウム(Mg)、マグネシウム合金、亜鉛合金などのうちの1種もしくは複数、またはこれらの組合せおよび/もしくは合金であってもよいし、またはこれらを含んでもよい。例示的アノード活性層またはその材料は、これらに限定されないが、などまたはこれらの組合せであってもよいし、またはこれらを含んでもよい。少なくとも1つの実施形態では、アノード活性層は、H2ガス発生を調節または制御するために、酸化亜鉛(ZnO)を十分な量で含むことができる。
【0086】
少なくとも1つの実施形態では、生分解性電気化学デバイス100、200のそれぞれのアノード活性層108、208は、アノードペースト剤から調製または製作することができる。例えば、アノード活性層は、亜鉛アノードペースト剤から調製することができる。アノードペースト剤はアトライターミルで調製することができる。少なくとも1つの実施形態では、ステンレススチールショットはアトライターミルに配置されて、アノードペースト剤の調製を促進することができる。アノードペースト剤は、1種もしくは複数の金属もしくは金属合金、1種もしくは複数の有機溶媒、1種もしくは複数のスチレン-ブタジエンゴム結合剤、またはこれらの組合せを含むことができる。例示的な実施形態では、アノードペースト剤は、エチレングリコール、スチレン-ブタジエンゴム結合剤、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ビスマス(III)(Bi2O3)、Znダストのうちの1つもしくは複数、またはこれらの組合せを含むことができる。例示的有機溶媒は当技術分野で公知であり、これらに限定されないが、エチレングリコール、アセトン、NMPなど、またはこれらの組合せであってもよいし、またはこれらを含んでもよい。少なくとも1つの実施形態では、いずれか1種または複数の生分解性結合剤は、スチレン-ブタジエンゴム結合剤の代わりにまたはこれと組み合わせて利用することができる。
【0087】
生分解性電気化学デバイス100、200のそれぞれのカソード活性層110、210は、これらに限定されないが、鉄(Fe)、塩化鉄(VI)、酸化水銀(HgO)、酸化マンガン(IV)(MnO2)、炭素(C)、炭素含有カソード、金(Au)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、三酸化モリブデン(MoO3)、酸化銀(Ag2O)、銅(Cu)、酸化バナジウム(V2O5)、酸化ニッケル(NiO)、ヨウ化銅(Cu2I2)、塩化銅(CuCl)などのうちの1種もしくは複数、またはこれらの組合せおよび/もしくは合金であってもよいし、またはこれらを含んでもよい。例示的な実施形態では、カソード活性層110、210は酸化マンガン(IV)を含むことができる。炭素および/または炭素含有カソード活性層は、水性金属空気電池、例えば、亜鉛空気電池に利用することができる。
【0088】
少なくとも1つの実施形態では、カソード活性層110、210は、カソード活性層110、210の電子伝導率を少なくとも部分的に増強することが可能なまたはそのように設計された1種または複数の添加物を含むことができる。例示的添加物は、これらに限定されないが、炭素粒子、例えば、グラファイト、炭素ナノチューブ、カーボンブラックなど、またはこれらの組合せであってもよいし、またはこれらを含んでもよい。
【0089】
少なくとも1つの実施形態では、生分解性電気化学デバイス100、200のそれぞれのカソード活性層110、210は、カソードペースト剤から調製または製作することができる。例えば、カソード活性層110、210は、酸化マンガン(IV)カソードペースト剤から調製することができる。カソードペースト剤はアトライターミルで調製することができる。少なくとも1つの実施形態では、ステンレススチールショットは、アトライターミルに配置されて、カソードペースト剤の調製を促進することができる。カソードペースト剤は、1種もしくは複数の金属もしくは金属合金、1種もしくは複数の有機溶媒(例えば、エチレングリコール)、1種もしくは複数のスチレン-ブタジエンゴム結合剤、またはこれらの組合せを含むことができる。例示的な実施形態では、カソードペースト剤は、エチレングリコール、スチレン-ブタジエンゴム結合剤、酸化マンガン(IV)(MnO2)、グラファイトのうちの1種もしくは複数、またはこれらの組合せを含むことができる。例示的有機溶媒は当技術分野で公知であり、これらに限定されないが、エチレングリコール、アセトン、NMPなど、またはこれらの組合せであってもよいし、またはこれらを含んでもよい。少なくとも1つの実施形態では、1種または複数の有機溶媒は、水性溶媒、例えば、水で置き換えてもよいし、またはこれと組み合わせて使用してもよい。例えば、水は酸化マンガン(IV)と組み合わせて利用することができる。
【0090】
アノードおよび/またはカソードペースト剤は、約100cP~約1E6cPの粘度を有していてもよい。例えば、アノードおよび/またはカソードペースト剤は、約100cP以上、約200cP以上、約500cP以上、約1,000cP以上、約1,500cP以上、約2,000cP以上、約10,000cP以上、約20,000cP以上、約50,000cP以上、約1E5cP以上、約1.5E5cP以上、約2E5cP以上、約3E5cP以上、約4E5cP以上、約5E5cP以上、約6E5cP以上、約7E5cP以上、約8E5cP以上、または約9E5cP以上の粘度を有していてもよい。別の例では、アノードおよび/またはカソードペースト剤は、約200cP以下、約500cP以下、約1,000cP以下、約1,500cP以下、約2,000cP以下、約10,000cP以下、約20,000cP以下、約50,000cP以下、約1E5cP以下、約1.5E5cP以下、約2E5cP以下、約3E5cP以下、約4E5cP以下、約5E5cP以下、約6E5cP以下、約7E5cP以下、約8E5cP以下、約9E5cP以下、または約1E6cP以下の粘度を有していてもよい。
【0091】
少なくとも1つの実施形態では、アノード120、220およびカソード122、222、またはその活性層108、110、208、210のそれぞれは独立して生分解性結合剤を含むことができる。生分解性結合剤の機能は、それぞれの層のそれぞれの粒子を一緒に固着させ、基材の表面下への接着をもたらすことであり、それぞれの層とはアノード集電体104、204、カソード集電体106、206、アノード活性層108、208、カソード活性層110、210、またはこれらの組合せである。例示的生分解性結合剤は、これらに限定されないが、キトサン、ポリ乳酸-co-グリコール酸(PLGA)、ゼラチン、キサンタンガム、酢酸酪酸セルロース(CAB)、ポリヒドロキシブチレート(PHB)のうちの1種もしくは複数、またはこれらの組合せであってもよいし、またはこれらを含んでもよい。少なくとも1つの実施形態では、電解質組成物に関して本明細書で開示されている生分解性ポリマーのうちのいずれか1種または複数はまた、アノード120、220、カソード122、222、その構成成分、またはこれらの任意の組合せの生分解性結合剤として利用することもできる。さらに本明細書に記載されているように、1種または複数の生分解性ポリマーは架橋されていてもよい。よって、アノード120、220、カソード122、222、および/またはその構成成分に利用される生分解性結合剤は、電解質組成物に関して本明細書で開示されている架橋した生分解性結合剤を含むことができる。
【0092】
それぞれの生分解性電気化学デバイス100、200のそれぞれの電解質層112、212は、電解質組成物であってもよいし、またはこれらを含んでもよい。電解質組成物は生分解性ポリマー材料を利用することができる。電解質組成物は固体、水性電解質組成物であってよい。固体、水性電解質組成物は、コポリマーのヒドロゲルならびにヒドロゲル中におよびに/またはヒドロゲル全体にわたり分散した塩であってもよいし、またはこれらを含んでもよい。コポリマーは、ポリマー中心ブロック(CB)に結合している少なくとも2つのポリカプロラクトン(PCL)鎖を含むことができる。例えば、コポリマーは、ポリマーの中心ブロックにカップリングした少なくとも2つのPCL鎖を含むブロックコポリマーまたはグラフトコポリマー、例えば、PCL-CB-PCLであってよい。別の例では、コポリマーは、ポリマーの中心ブロックとカップリングした、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリエチレンイミン(PEI)のうちの少なくとも1種以上、またはこれらの組合せを含むブロックコポリマーまたはグラフトコポリマーであってよい。
【0093】
コポリマーまたは固体は、ヒドロゲルの総質量に対して(例えば、溶媒、ポリマー、および塩の総質量)、ヒドロゲル中に約5質量%以上~90質量%以下の量で存在し得る。例えば、コポリマーは、ヒドロゲルの総質量に対して、約5質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上、30質量%以上、35質量%以上の量で存在し得る。別の例では、コポリマーは、ヒドロゲルの総質量に対して、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、または60質量%以下の量で存在し得る。好ましい実施形態では、コポリマーまたは固体は、ヒドロゲルの総質量に対して、ヒドロゲル中に約5質量%~約60質量%、約5質量%~約50質量%、約20質量%~約40質量%、または約30質量%の量で存在し得る。また別の好ましい実施形態では、コポリマーまたは固体は、ヒドロゲルの総質量に対して、ヒドロゲル中に30質量%超~60質量%の量で存在し得る。
【0094】
コポリマーは、ヒドロゲル中に、気泡を含まない、または実質的に含まない連続的なフィルムまたは層を提供するのに十分な量で存在し得る。コポリマーはまた、ヒドロゲル中に約1,000cP~約100,000cPの粘度をもたらすのに十分な量で存在し得る。例えば、コポリマーは、ヒドロゲル中に約1,000cP、約5,000cP、約10,000cP、または約20,000cP~約30,000cP、約40,000cP、約50,000cP、約75,000cP、約90,000cP、または約100,000cPの粘度をもたらすのに十分な量で存在し得る。
【0095】
コポリマーのポリマー中心ブロックは生分解性ポリマーであってよく、これによって、固体、水性電解質組成物の生分解性が改善または増加する。ポリマー中心ブロックの生分解性ポリマーは好ましくは天然に存在するものである。ポリマーの中心ブロックは、ポリマー、例えば、ε-カプロラクトンとの反応に利用可能な少なくとも2つの遊離ヒドロキシル基を含む生分解性ポリマーであってもよいし、またはこれを含んでもよいし、またはこれから誘導されてもよい。さらに本明細書に記載されているように、少なくとも2つの遊離ヒドロキシル基を含むポリマーは、ε-カプロラクトンと反応させて、コポリマーを形成することができる。ポリマー中心ブロック(CB)を形成するために利用することができる少なくとも2つの遊離ヒドロキシル基を含む例示的ポリマーは、これらに限定されないが、ポリビニルアルコール(PVA)、ヒドロキシルを保持する多糖、生分解性ポリエステル、ヒドロキシ脂肪酸(例えば、ヒマシ油)などのうちの1種もしくは複数、またはこれらの組合せであってもよいし、またはこれらを含んでもよい。例示的ヒドロキシルを保持する多糖は、これらに限定されないが、デンプン、セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、キチン、グアーガム、キサンタンガム、寒天、プルラン、アミロース、アルギン酸、デキストランなど、またはこれらの組合せであってもよいし、またはこれらを含んでもよい。例示的生分解性ポリエステルは、これらに限定されないが、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸-co-グリコール酸、ポリイタコン酸、ポリブチレンスクシネートなど、またはこれらの組合せであってもよいし、またはこれらを含んでもよい。好ましい実施形態では、ポリマー中心ブロックは、ポリビニルアルコール(PVA)、ヒドロキシルを保持する多糖、生分解性ポリエステル、またはヒドロキシ脂肪酸のうちの1種もしくは複数であってもよいし、またはこれらを含んでもよい。
【0096】
少なくとも1つの実施形態では、コポリマーのポリマー中心ブロックは生分解性ポリマーであってよい。例えば、コポリマーのポリマー中心ブロックは、これらに限定されないが、ポリエチレングリコール(PEG)、ヒドロキシ末端ポリエステル、ヒドロキシル末端ポリオレフィン、例えば、ヒドロキシ末端ポリブタジエンなど、またはこれらの組合せであってもよいし、またはこれらを含んでもよい。
【0097】
ポリマー中心ブロックに結合した少なくとも2つのポリカプロラクトン(PCL)鎖を含むコポリマーは、グラフトコポリマーまたはブロックコポリマーであってよい。コポリマーがグラフトコポリマーであるか、またはブロックコポリマーであるかは、ポリマー中心ブロックの少なくとも2つの遊離ヒドロキシル基の数および/または配置により少なくとも部分的に決定され得る。例えば、ε-カプロラクトンを、ポリマー中心ブロック鎖の長さに沿ってモノマー上にヒドロキシル基を有するポリマー中心ブロックと反応させると、グラフトコポリマーが形成される。別の例では、ε-カプロラクトンを、ポリマー中心ブロックのそれぞれの末端にヒドロキシル基のそれぞれを有するポリマー中心ブロックと反応させると、ブロックコポリマーが形成される。例示的ブロックコポリマーは、トリブロックコポリマー、テトラブロックコポリマー、スターブロックコポリマー、またはこれらの組合せであってもよいし、またはこれらを含んでもよい。
【0098】
上で論じられた通り、電解質組成物は、コポリマーのヒドロゲルおよびヒドロゲル中に分散した塩を含む固体、水性電解質組成物であってよい。ヒドロゲルの塩は、当技術分野で公知の任意の適切なイオン性塩であってもよいし、またはこれを含んでもよい。例示的イオン性塩は、これらに限定されないが、有機ベースの塩、無機ベースの塩、室温のイオン性液体、深い共晶溶媒ベースの塩などのうちの1種もしくは複数、またはこれらの組合せもしくは混合物であってもよいし、またはこれらを含んでもよい。好ましい実施形態では、塩は、亜鉛/酸化マンガン(IV)(Zn/MnO2)電気化学において使用可能な塩であり、またはそのような塩を含む。例示的塩は、これらに限定されないが、塩化亜鉛(ZnCl2)、塩化アンモニウム(NH4Cl)、塩化ナトリウム(NaCl)、リン酸緩衝食塩水(PBS)、硫酸ナトリウム(Na2SO4)、硫酸亜鉛(ZnSO4)、硫酸マンガン(MnSO4)、塩化マグネシウム(MgCl2)、塩化カルシウム(CaCl2)、塩化第二鉄(FeCl3)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)など、またはこれらの組合せであってもよいし、またはこれらを含んでもよい。好ましい実施形態では、電解質組成物の塩は、塩化アンモニウム(NH4Cl)、塩化亜鉛(ZnCl2)、またはこれらの組合せもしくは混合物であってもよいし、またはこれらを含んでもよい。別の実施形態では、塩は、アルカリ金属塩、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化アンモニウム(NH4OH)、水酸化カリウム(KOH)、またはこれらの組合せもしくは混合物であってもよいし、またはこれらを含んでもよい。
【0099】
塩は、イオン伝導率をもたらすのに可能な量で、イオン伝導率をもたらすように設計された量で、またはイオン伝導率をもたらすのに十分な量で存在し得る。例えば、塩は、ヒドロゲル中に、少なくとも0.1M、より好ましくは少なくとも0.5M、さらにより好ましくは少なくとも2M、さらにより好ましくは少なくとも4Mの量または濃度で存在し得る。塩は、ヒドロゲル中に、10M以下、より好ましくは6M以下の濃度で存在し得る。別の例では、塩は、ヒドロゲル中に、約3M~約10M、約4M~約10M、約5M~約9M、または約6M~約8Mの量で存在し得る。例示的な実施では、塩は塩化アンモニウムおよび塩化亜鉛を含んだ。この場合、塩化アンモニウムは約2.5M~約3M、約2.8M~約2.9M、または約2.89Mの量で存在し、塩化亜鉛は約0.5M~1.5M、約0.8M~約1.2M、または約0.9Mの量で存在する。
【0100】
少なくとも1つの実施形態では、電解質組成物は、1種または複数の添加物を含むことができる。1種または複数の添加物は、これらに限定されないが、生分解性または環境に優しいナノ材料であってもよいし、またはこれらを含んでもよい。生分解性ナノ材料は、電解質層またはその電解質組成物の柔軟性を犠牲にすることなく、電解質層またはその電解質組成物の構造的強度をもたらすおよび/または改善することが可能であってもよいし、またはそのように設計されていてもよい。添加物の例示的生分解性ナノ材料は、これらに限定されないが、多糖ベースのナノ材料、無機のナノ材料など、またはこれらの組合せであってもよいし、またはこれらを含んでもよい。例示的多糖ベースのナノ材料は、これらに限定されないが、セルロースナノ結晶、キチンナノ結晶、キトサンナノ結晶、デンプンナノ結晶などのうちの1種もしくは複数、またはその組合せもしくは混合物であってもよいし、またはこれらを含んでもよい。例示的無機ナノ材料はこれらに限定されないが、酸化ケイ素(例えば、ヒュームドシリカ)、酸化アルミニウム、層状ケイ酸塩もしくは石灰のうちの1種もしくは複数、またはその組合せもしくは混合物であってもよいし、またはこれらを含んでもよい。例示的層状ケイ酸塩は、これらに限定されないが、ベントナイト、カオリナイト、ディッカイト、ナクライト、アタパルジャイト、イライト、ハロイサイト、モンモリロナイト、ヘクトライト、フルオロヘクトライト、ノントロナイト、バイデライト、サポナイト、ボルコンスコアイト、マガディアイト、メドモンタイト、ケニアイト、ソーコナイト、ムスコバイト、バーミキュライト、雲母、ヒドロ雲母、フェンジャイト、ブラマライト、セラドナイトのうちの1種もしくは複数、またはこれらの組合せもしくは混合物であってもよいし、またはこれらを含んでもよい。
【0101】
1種または複数の添加物は、ヒドロゲルの総質量に対して、少なくとも0.1質量%の量で存在し得る。例えば、1種または複数の添加物は、ヒドロゲルの総質量に対して、少なくとも0.1質量%、少なくとも0.5質量%、または少なくとも1質量%の量で存在し得る。1種または複数の添加物はまた、ヒドロゲルの総質量に対して、40質量%以下の量で存在し得る。例えば、1種または複数の添加物は、ヒドロゲルの総質量に対して、40質量%以下、20質量%以下、または10質量%以下の量で存在し得る。
【0102】
少なくとも1つの実施形態では、電解質組成物は、水性溶媒を含むことができる。例えば、電解質組成物は水を含むことができる。少なくとも1つの実施形態では、電解質組成物は共溶媒を含むことができる。例えば、電解質組成物は水およびさらなる溶媒を含むことができる。例示的共溶媒は、これらに限定されないが、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールのうちの1種もしくは複数、またはこれらの組合せであってもよいし、またはこれらを含んでもよい。共溶媒は、電解質組成物の水性溶媒の総質量または容量で、約20%超、約30超、約40%超、約50%超~約60%超、約70%超、約80%超、約85%超、または約90%超の量の水を含むことができる。
【0103】
少なくとも1つの実施形態では、電解質組成物は、コポリマーのヒドロゲルおよびヒドロゲル中に分散した塩、溶媒(例えば、水または水および共溶媒)、1種もしくは複数の光開始剤、任意の1種もしくは複数の添加物、またはこれらの組合せを含む。例えば、電解質組成物は、コポリマーのヒドロゲル、ヒドロゲル中に分散した塩、溶媒、1種もしくは複数の添加物、またはこれらの組合せもしくは混合物を含む。少なくとも1つの実施形態では、電解質組成物は、コポリマーのヒドロゲル、ヒドロゲル中に分散した塩、および溶媒(例えば、水または水および共溶媒)からなるまたはこれらから本質的になる。別の実施形態では、電解質組成物は、コポリマーのヒドロゲル、ヒドロゲル中に分散した塩、溶媒、および1種または複数の添加物からなるまたはこれらから本質的になる。水または水と共溶媒の組合せであってよい溶媒は、ヒドロゲルの平衡状態をもたらすことができる。
【0104】
固体、水性電解質組成物は、スキーム(1)に従い生成することができる:
ステップ1:
【化1】
ステップ2:
【化2】
ステップ3:
【化3】
【0105】
スキーム(1)のステップ1は、ε-カプロラクトン1および少なくとも2つの遊離ヒドロキシル基を含むポリマー中心ブロック(CB(OH)x)2を、触媒(すなわち、光開始剤)の存在下で開環重合するステップを含むことができる。ε-カプロラクトン1およびポリマー中心ブロック(CB(OH)x)2の開環重合は、(PCL)x-CBマクロモノマー3(式中、xは2以上の整数であってよい)を生成することができる。任意の適切な開環重合触媒をステップ1で利用することができることを認識されたい。少なくとも1つの例では、触媒は、スズ触媒、例えば、スズ2-エチルヘクサノエートであってもよいし、またはこれを含んでもよい。
【0106】
ステップ1の開環重合は、高温で適切な期間の間一般的に実行する、または行うことができる。少なくとも1つの実施形態では、開環重合は、約50℃~約200℃の温度、より好ましくは約100℃~約150℃の温度で行うことができる。開環重合は、約5時間~約48時間、より好ましくは約24時間の期間の間行うことができる。
【0107】
(PCL)x-CBマクロモノマー3は一般的に公知の方法で精製することができる。例えば、(PCL)x-CBマクロモノマー3は、抽出、沈殿、および濾過により精製することができる。精製を1回または複数回繰り返すことにより、純度の比較的高い生成物を提供することができる。少なくとも1つの実施形態では、マクロモノマー3のPCL鎖は、遊離ヒドロキシル基を有するまたは含む。(PCL)x-CBマクロモノマー3の遊離ヒドロキシル基は官能化に対して利用可能であり得る。
【0108】
スキーム(1)のステップ2は、官能化剤(FM)4を用いて(PCL)x-CBマクロモノマー3を官能化して、官能化マクロモノマー(FG-PCL)x-CB5を生成するステップを含むことができる。例示的官能化剤(FM)は、これらに限定されないが、塩化アクリロイル、塩化メタクリロイル(methacroyl chloride)、メタクリル酸無水物、マレイン酸無水物、またはこれらの組合せもしくは混合物であってもよいし、またはこれらを含んでもよい。官能化薬剤(FM)は、官能化マクロモノマー(FG-PCL)x-CB5を生成するために、官能基(FG)を(PCL)x-CBマクロモノマー3に導入する、付加する、またはさもなければ添加することが可能であってもよいし、またはそのように設計されていてもよい。例示的官能基は、これらに限定されないが、アクリレート、ビニルエーテル、アリルエーテル、アルケン、アルキン、チオールのうちの1種もしくは複数、またはこれらの組合せであってもよいし、またはこれらを含んでもよい。官能化マクロモノマー(FG-PCL)x-CB5を生成するための(PCL)x-CBマクロモノマー3の官能化は、官能化マクロモノマー(FG-PCL)x-CB5の水溶液が放射エネルギー、例えば、紫外線光で架橋される場合、ヒドロゲルの形成を促進する。
【0109】
官能化マクロモノマー(FG-PCL)x-CB5を生成するための官能化剤(FM)4による(PCL)x-CBマクロモノマー3の官能化は、溶媒中、塩基の存在下で実施または行うことができる。塩基は、アミン、例えば、トリメチルアミンまたはトリエチルアミンであってもよいし、またはこれらを含んでもよい。溶媒は、極性非プロトン性溶媒、例えば、ジクロロメタンであってもよいし、またはこれを含んでもよい。官能化は不活性雰囲気下で実施することができる。例えば、官能化は不活性ガス、窒素、アルゴンなどの下で行うことができる。官能化は、反応を促進するために加熱下で行うことができる。例えば、反応は約60℃までの温度で行うことができる。官能化マクロモノマー(FG-PCL)x-CB5は、一般的に公知の方法(例えば、抽出、沈殿、および濾過)で精製することができる。
【0110】
スキーム(1)のステップ3は、水性溶媒または媒体中で、官能化マクロモノマー(FG-PCL)x-CB5、塩6、および光開始剤7を互いに混合する、組み合わせる、またはさもなければ接触させて、水溶液を調製するステップを含むことができる。ステップ3はまた、水溶液に放射エネルギー、例えば、紫外線(UV)光を照射し、水溶液を架橋して、ヒドロゲル8の形態の固体水性電解質を形成するステップを含むこともできる。
【0111】
官能化マクロモノマー(FG-PCL)x-CB5、塩6、および光開始剤7を互いに接触させることにより調製した水溶液は、水溶液に放射エネルギーを照射する前に、基材またはその表面上に配置することができる。例えば、水溶液は、基材またはその表面上にコーティング、キャスト、または印刷することにより(例えば、印刷プロセスを介して)、基材またはその表面上に水溶液の層を調製または形成することができる。好ましい実施形態では、水溶液の層は、印刷プロセスまたは方法を介して基材上に印刷して、電解質層112、212を形成する。さらに本明細書に記載されているように、水溶液の層は、生分解性電気化学デバイス100、200のそれぞれのアノード活性層108、208および/またはカソード活性層110、210のうちの隣接する一方または両方に直接印刷することにより、それぞれの電解質層112、212を形成することができる。少なくとも1つの実施形態では、水溶液は、印刷プロセスを促進または補助するために、1種または複数のインク添加物を含むことができる。
【0112】
光開始剤7はUV架橋光開始剤であってよい。光開始剤7は水溶性であってよい。例示的光開始剤7は、これらに限定されないが、リチウムアシルホスフィネートまたはリチウムフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィネート(LAP)、IRGACURE(商標)2959、DAROCUR(商標)1173、ナトリウム4-[2-(4-モルホリノ)ベンゾイル-2-ジメチルアミノ]-ブチルベンゼンスルホネート(MBS)、モノアシルホスフィンオキシド(MAPO)塩Na-TPOおよびLi-TPO、ビスアシルホスフィンオキシド塩Na-BAPO、Li-BAPO、チオキサントン誘導体、ベンゾフェノン誘導体、IRGACURE(商標)754、PEG-修飾BAPO、またはこれらの組合せであってもよいし、またはこれらを含んでもよい。好ましい実施形態では、利用される光開始剤7は、リチウムアシルホスフィネート(LAP)であるか、またはこれを含む。これは、LAPが水溶性であり、細胞毒性を示さず、不活性雰囲気を必要としないからである。
【0113】
放射エネルギーによる水溶液の架橋は室温で行うことができる。放射エネルギーによる水溶液の架橋はまた不活性雰囲気なしで行うこともできる。水溶液の架橋は、十分および/または適当な波長および出力で水溶液を紫外光に曝露するステップを含むことができる。紫外光の波長は少なくとも部分的に、光開始剤7の活性化波長に依存し得ることを認識されたい。少なくとも1つの実施形態では、光開始剤7の活性化波長は約250nm~約500nmであってよい。紫外光の出力は、水溶液の硬化時間を少なくとも部分的に決定し得ることをさらに認識されたい。例えば、紫外光の出力の増加は、水溶液の硬化時間を低減し得る。60分間(min)未満の期間の間、水溶液を紫外光に曝露することがヒドロゲルを形成するために必要とされることもある。好ましい実施形態では、水溶液は紫外光に、約30分間以下、より好ましくは約20分間以下、さらにより好ましくは約10分間以下の間曝露される。一部の実施形態では、水溶液は約10ミリ秒(ms)~約100msの時間の間架橋される。よって、紫外光の出力は、所望の期間で水溶液の適当な、十分な、または完全な架橋を提供するために変化させることができる。水溶液を架橋することにより生成されたヒドロゲルは「そのまま」利用することができる。例えば、水溶液を架橋することにより生成されたヒドロゲルは、生分解性電気化学デバイス100、200のそれぞれの電解質層112、212として利用することができる。
【0114】
以前に論じた通り、生分解性電気化学デバイス100、200のそれぞれの電解質層112、212は、固体、水性電解質組成物であってもよいし、またはこれを含んでもよい。固体、水性電解質組成物は、市販の印刷電池または商業的に有用な印刷電池に対して必要とされる十分な機械的および電気化学的特性を有することができる。例えば、固体、水性電解質組成物は、約0.10メガパスカル(MPa)を超える、約0.15MPaを超える、または約0.20MPaを超えるヤング率または貯蔵弾性率を有することができ、よって応力下での破損を防止するための十分な柔軟性を維持しながら、十分な強度を有する固体、水性電解質組成物を提供する。固体、水性電解質組成物は、約100MPa以下、約80MPa以下、約60MPa以下、またはこれよりも低いヤング率を有することができる。
【0115】
本明細書で使用される場合、「降伏強度」という用語または表現は、材料が永久的に変形し始める前に、材料が受けるまたは受け取ることができる最大応力を指すことができる。固体、水性電解質組成物は、約5kPa以上の降伏強度を有することができる。例えば、固体、水性電解質組成物は、約5kPa以上、約8kPa以上、約10kPa以上、約12kPa以上、約15kPa以上、または約20kPa以上の降伏強度を有することができる。
【0116】
固体、水性電解質組成物は、生分解性電気化学デバイス100、200のそれぞれのアノード活性層108、208とカソード活性層110、210の両方に対して電気化学的に安定していることができる。例えば、固体、水性電解質組成物は、長期間にわたり安定した無負荷電圧を維持することができ、これによって、生分解性電気化学デバイス100、200のそれぞれのアノード活性層108、208とカソード活性層110、210の両方に対して電気化学的安定性を実証する。少なくとも1つの実施形態では、固体、水性電解質組成物は、少なくとも1カ月、少なくとも2カ月、少なくとも3カ月、少なくとも4カ月、少なくとも5カ月、少なくとも6カ月、少なくとも1年、またはそれよりも長い間、電極層と接触して電気化学的に安定していることができる。
【0117】
本明細書で開示されている固体、水性電解質組成物は、任意の電気化学デバイス、例えば、電気化学セル、電池、および/または本明細書で開示されている生分解性電気化学デバイス100、200において利用することができる。好ましい実施形態では、固体、水性電解質組成物は、Znアノード活性層およびMnO2カソード活性層を含む電池において利用することができる。
【0118】
生分解性電気化学デバイス100、200のそれぞれの集電体104、106、204、206は、電気を受け取る、伝導する、および送達することが可能であってもよいし、またはそのように設計されていてもよい。例示的集電体104、106、204、206は、これらに限定されないが、銀、例えば、銀マイクロ粒子および銀ナノ粒子、炭素、例えば、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素ナノ粒子、例えば、炭素ナノチューブ、グラフェン、還元型グラフェンオキシド(RGO)など、またはこれらの任意の組合せであってもよいし、またはこれらを含んでもよい。
【0119】
方法
本開示の実施形態は、電気化学デバイス、例えば、本明細書で開示されている生分解性電気化学デバイス100、200を製作するための方法を提供することができる。本方法は生分解性基材を準備するステップを含むことができる。本方法はまた、生分解性基材に隣接してまたはその上に電極および/または電極組成物を堆積させるステップを含むことができる。電極を堆積させるステップは、電極の集電体を堆積および乾燥させるステップ、ならびに集電体に隣接してまたはその上に活性層(すなわち、アノードまたはカソード材料)を堆積および乾燥させるステップを含むことができる。本方法はまた、電極および/または電極組成物を乾燥させるステップを含むことができる。電極組成物は熱的に(例えば、加熱)乾燥させてもよい。本方法はまた、電極組成物の上にまたはこれに隣接して、生分解性の、放射線硬化性電解質組成物を堆積させるステップを含むことができる。本方法は生分解性の放射線硬化性電解質組成物を放射線硬化するステップをさらに含むことができる。生分解性放射線硬化性電解質組成物は、電極組成物の乾燥前または後で放射線により硬化することができる。生分解性基材は任意の熱的乾燥と熱的適合性があってもよい。例えば、生分解性基材は、熱的に乾燥した場合、寸法的に安定していることができる(例えば、湾曲および/またはカーリングがない)。本方法は、生分解性、放射線硬化性電解質組成物の上にまたはこれと隣接して第2の電極および/または電極組成物を堆積させるステップを含むことができる。少なくとも1つの実施形態では、第1のおよび第2の電極組成物のそれぞれは金属ホイル組成物である。第1の電極の金属ホイル組成物は、第2の電極の金属ホイル組成物と異なってもよい。
【0120】
少なくとも1つの実施形態では、電気化学デバイス、その構成成分のすべて、またはその構成成分の実質的にすべては、印刷プロセスを介して製作される。印刷プロセスは、堆積させること、スタンピング、スプレー、スパッタリング、ジェッティング、コーティング、層化などを含むことができる。例えば、1種もしくは複数の集電体、1種もしくは複数の電極組成物、生分解性、放射線硬化性電解質組成物、またはこれらの組合せは印刷プロセスを介して堆積させることができる。例示的印刷プロセスは、これらに限定されないが、スクリーン印刷、インクジェット印刷、フレキソ印刷(例えば、スタンプ)、グラビア印刷、オフセット印刷、エアブラシ、エアゾール印刷、植字、ロールツーロール法などのうちの1種もしくは複数、またはこれらの組合せであってもよいし、またはこれらを含んでもよい。好ましい実施形態では、電気化学デバイスの構成成分は、スクリーン印刷を介して印刷される。
【0121】
少なくとも1つの実施形態では、生分解性の放射線硬化性電解質組成物を放射線硬化するステップは、電解質組成物を放射エネルギーに曝露するステップを含む。放射エネルギーは紫外線光であってよい。生分解性放射線硬化性電解質組成物を放射エネルギーに曝露することにより、生分解性放射線硬化性電解質組成物を少なくとも部分的に架橋することができ、これによってヒドロゲルを形成する。生分解性放射線硬化性電解質組成物は室温で放射線により硬化することができる。少なくとも1つの実施形態では、生分解性放射線硬化性電解質組成物は不活性雰囲気で硬化する。例えば、生分解性放射線硬化性電解質組成物は、窒素下、アルゴン下などで硬化することができる。別の実施形態では、生分解性放射線硬化性電解質組成物は不活性でない大気下で硬化してもよい。
【0122】
少なくとも1つの実施形態では、生分解性放射線硬化性電解質組成物は、約5ms~約100msの期間で放射線により硬化することができる。例えば、生分解性放射線硬化性電解質組成物は、約5ms、約10ms、約15ms、約20ms、約30ms、約40ms、または約50ms~約60ms、約70ms、約80ms、約85ms、約90ms、約95ms、または約100msの期間で放射線により硬化することができる。生分解性放射線硬化性電解質組成物を放射線により硬化するのに十分な期間は、紫外光の出力により少なくとも部分的に決定され得る。
【0123】
少なくとも1つの実施形態では、本方法はまた、接着剤、例えば、生分解性接着剤を堆積させ、これによって生分解性電気化学デバイス100、200のそれぞれの密閉部116、118、216、218を得るステップを含むこともできる。例えば、本方法は、接着剤の層を堆積させて、電気化学デバイスの基材または基材の一部(例えば、タブ124、126、224、226の周辺領域)を互いにカップリングするステップを含むことができる。一部の実施形態では、接着剤はホットメルト接着剤であってよい。別の実施形態では、電気化学デバイスは任意の接着剤を含まなくてもよいし、または実質的に含まなくてもよい。例えば、生分解性基材は、さらなる接着剤を使用せずに、溶接可能および/または加熱密閉可能であることができる。
【0124】
少なくとも1つの実施形態では、生分解性基材は連続的なウェブであってよいし、または連続ウェブで支持されていてもよい。本明細書で使用される場合、「ウェブ」という用語は、移動する支持表面、例えば、コンベヤーベルトを指すことができる。少なくとも1つの例では、複数の電気化学デバイスは、連続ウェブ上の独立したまたは連結した要素または構成成分として同時に印刷される。例えば、複数の電気化学デバイスのそれぞれの構成成分は、並行したプロセスにおける1つのアレイとして、連続ウェブ上で独立したまたは連結した構成成分として同時に印刷することができる。本明細書で使用される場合、「連結した要素」または「連結した構成成分」という用語または表現は、互いに物理的に接している、重複している、またはさもなければ接触している電気化学デバイスのそれぞれの要素または構成成分を指すことができる。例示的な連結した要素は、集電体層と隣接してまたはこれらの上に配置された活性層(例えば、カソード活性層またはアノード活性層)、集電体層および銅テープタブ、または活性カソード/アノード層の上の電解質層であってもよいし、またはこれらを含んでもよい。
【0125】
本開示の実施形態は、固体水性電解質を製作する、生成する、またはさもなければ合成するための方法を提供することができる。本方法は、塩および官能化コポリマーを水溶液に溶解して、水性混合物を調製するステップを含むことができる。官能化コポリマーは、ポリマー中心ブロックと結合しているまたはカップリングした少なくとも2つのポリカプロラクトン(PCL)鎖を含むことができる。官能化コポリマーは、水性混合物が放射エネルギー、例えば、紫外光に曝露されるまたはこれによって硬化される際に、ヒドロゲルの形成を促進するまたは推進する任意の適切な官能基で官能化することができる。本方法はまた、表面上に水性混合物の層を形成するステップを含むことができる。表面は電池のアノードおよび/またはカソードであってよい。本方法は紫外光の形態の放射エネルギーで水溶液を架橋して、固体水性電解質を形成するステップをさらに含むことができ、この固体水性電解質は、官能化コポリマーおよび官能化コポリマー中に分散した塩を含む固体ヒドロゲルであってよい。
【実施例】
【0126】
本明細書に記載されている実施例および他の実装形態は例示的であり、本開示の組成物および方法の完全な範囲の記載を限定することを意図するものではない。特定の実装形態、材料、組成物および方法の同等の変化、修正および変化形は本開示の範囲内で生成することができ、実質的に類似の結果を生じる。
【0127】
(実施例1)
例示的な固体、水性電解質組成物を調製した。特に、PCL-PEG-PCLマクロモノマーを合成し、PCL-PEG-PCLアクリレートを合成し、続いてPCL-PEG-PCLアクリレートを利用して、固体、水性電解質を生成することにより、PCL-PEG-PCLベースの固体、水性の電解質を調製した。
【0128】
スキーム2に図示されているプロセスまたは反応は、PCL-PEG-PCLマクロモノマーを合成するために、その内容が本開示と一致する範囲内に限り本明細書に組み込まれているXu et al.(Xu, C., Lee, W., Dai, G., and Hong, Y. ACS Appl. Mater. Interfaces 2018, 10, 12, 9969-9979)から適応した。
【0129】
【0130】
特に、約5gのε-カプロラクトン、約21.9gのポリエチレングリコール(PEG;MW=20,000Da)、および約34.8mgのスズ2-エチルヘクサノエート触媒を、丸底フラスコ内で互いに合わせ、混合し、またはさもなければ接触させ、磁気撹拌棒で撹拌した。丸底フラスコをパージし、窒素を3回充填し、次いで撹拌しながら、約120℃に約24時間加熱して、反応混合物を調製した。反応混合物を室温に冷却し、ジクロロメタン(CH
2Cl
2)に溶解し、粗生成物を冷たい無水ジエチルエーテル中で沈殿させた。粗生成物の
1H NMRが
図3に示されている。
図3に示されているように、ジエチルエーテルからのマクロモノマーの最初の沈殿から合成した粗生成物は、未反応ε-カプロラクトンの存在をもたらした。未反応ε-カプロラクトンを除去または分離するため、粗生成物を約50mLのジクロロメタンに室温で溶解した。約200mLのジエチルエーテルを最短期間約1時間にわたり室温で滴下添加して、懸濁液を調製した。懸濁液を室温で一晩撹拌し、ブフナー漏斗を介して濾過した。室温で維持された真空オーブン内で生成した固体を終夜乾燥させた。
図4に示されているように、
1H NMRスペクトルにおいてε-カプロラクトンに起因するピークがもはや観察されなくなるまで沈殿を繰り返した。
【0131】
様々な量のポリエチレングリコールを利用して、上述のプロセスを繰り返し、これによって、表1に要約されているように、ポリカプロラクトン(PCL)のポリエチレングリコール(PEG)に対する様々な比率を有する様々なマクロモノマーまたはマクロモノマー製剤を合成した。1H NMRスペクトルを使用して、それぞれのPCL-PEG-PCLマクロモノマー製剤のそれぞれのブロック鎖長を決定した。
【0132】
【0133】
スキーム3に図示されているプロセスまたは反応は、PCL-PEG-PCLアクリレートを合成するため、その内容が本開示と一致する範囲内に限り本明細書に組み込まれているXu et al.(Xu, C., Lee, W., Dai, G., and Hong, Y. ACS Appl. Mater. Interfaces 2018, 10, 12, 9969-9979)から適応した。
【0134】
【0135】
特に、約5gのPCL-PEG-PCLマクロマーを約15mLのジクロロメタンに溶解し、約0.6mLのトリエチルアミンを、撹拌しながら、約30分間、窒素下、氷浴内で混合物に加えた。約0.33mLの塩化アクリロイルおよび約15mLのジクロロメタンを含む溶液を反応混合物に30分間にわたり滴下添加し、これによって溶液の色が黄色に変わった。次いで、溶液を、約40℃で、約24時間窒素下で加熱した。加熱後、続いて反応混合物を室温に冷却し、ジエチルエーテルの滴下添加により生成物を沈殿させた。1H NMRスペクトルにおいて、ビニル性プロトンの存在によりPCL-PEG-PCLアクリレートの形成を確認した。
【0136】
固体、水性電解質、すなわち、PCL-PEG-PCLヒドロゲル固体水性電解質を生成するため、約400mgのPCL-PEG-PCLアクリレート(表1の製剤C)および約2.5mgのリチウムフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィネート(LAP)を1mLの塩化アンモニウムの4M水溶液(NH4Cl/H2O)に溶解した。塩化アンモニウムのモル濃度は、合成/プロセスにおける任意の変化または修正なしに、約0.5M~約6Mの任意の濃度に変化させてもよいことを認識されたい。生成した溶液を沈降させて気泡を除去したが、溶液の窒素脱気は実施しなかった。溶液のpHは約3~4の間であった。生成した溶液は、ガラスプレート上にテーピングした25×75×1mmガラス顕微鏡スライド上に均一に配置した。溶液を、DYMAX(商標)Bluewave 200(波長約300~約450nm)に約10分間曝露して、溶液に約8mW/cm2照射で照射し、これによってヒドロゲルを形成した。
【0137】
ヒドロゲルは黄色であり、その中に分散した塩化アンモニウムを含有した。ヒドロゲルはまた柔軟性があり、破損することなく延伸することができた。ヒドロゲルの分析から、ヒドロゲルは乾燥および再水和することができ、再水和したヒドロゲルは柔軟性を維持したことが示された。PCL-PEG-PCLアクリレートが約10質量%以下の量/濃度で存在する場合、安定した、固体ヒドロゲルを生成することができないことが発見された。言い換えると、安定した、固体ヒドロゲルを調製するのに必要なPCL-PEG-PCLアクリレートの量は約20質量%以上であることが驚くことにおよび予想外に発見された。
【0138】
(実施例2)
実施例1で製剤Cから調製したPCL-PEG-PCLヒドロゲル固体水性電解質の機械的特性を評価した。INSTRON(商標)5548マイクロテスターを使用した標準的圧縮試験を利用して、試料1つ当たり5回の異なる測定にわたり応力対歪み曲線を得た。ヤング率は試料が変形に耐える能力を表し、これはまたロバスト性と呼ぶこともできる。様々な濃度の塩化アンモニウムおよび塩化亜鉛にわたる5回の異なる測定に対するヤング率が
図5Aおよび5Bに要約されている。
図5Aおよび5Bに示されているように、ヒドロゲルは0.3MPaを超えるヤング率を示し、このヤング率は、電池における固体ゲルポリマー電解質としての使用に対して十分である。ヒドロゲルは、電池の電極間の分離体としての使用または用途に対して十分な機械的特性を示すことを認識されたい。約0.5M~約6Mの塩濃度は、
図5Bに示されているように、塩モル濃度を変化させても、測定されたヤング率に著しい差異が観察されなかったため、ヒドロゲルの機械的特性に対して影響がないことをこの結果がさらに実証した。
【0139】
(実施例3)
実施例1で製剤Cから調製したPCL-PEG-PCLヒドロゲル固体水性電解質の電気化学的特性を評価した。特に、金属亜鉛の表面上の電解質安定性を評価した。通常、亜鉛表面は、水溶液と接触し、これによって酸化亜鉛および水酸化亜鉛が生成された場合、時間の経過と共に腐蝕する。これらの酸化亜鉛および水酸化亜鉛は電解質中に移動し、pHを塩基性化する。酸化物および水酸化物の電解質への移動ならびに塩基性化は、ジアミンクロリドの沈殿または塩化アンモニウムもしくは塩化亜鉛からの塩素化した亜鉛酸塩をもたらし得るまたは生じ得ることを認識されたい。これらの沈殿物は、電解質を飽和させ、固体水性電解質における伝導率の減少または損失をもたらし得る。
【0140】
電解質安定性を評価するため、実施例1で製剤Cから調製したPCL-PEG-PCLヒドロゲル固体水性電解質を、1週間、亜鉛表面と直接接触させるように配置した。1週間後、亜鉛の表面が腐食して酸化亜鉛となったことが観察された。しかし、酸化亜鉛の形成は最小量であった。さらに、ヒドロゲル本体がいかなる塩沈殿物も有さないことが驚くことにおよび予想外に発見され、これは亜鉛表面不活性化が生じ、亜鉛表面と固体電解質との境界面が定常状態に到達して、さらなる腐食が生じなかったことを示している。したがって、PCL-PEG-PCLヒドロゲル固体水性電解質が、亜鉛ベースの電池またはシステムにおけるポリマー電解質としての使用に対して十分な耐食性を示すことが実証された。
【0141】
(実施例4)
実施例1で製剤Cから調製したPCL-PEG-PCLヒドロゲル固体水性電解質を利用して、様々な電池を製作し、評価した。亜鉛をアノードとして利用し、酸化マンガン/炭素をカソードとして利用した。電池を製作するため、PCL-PEG-PCLヒドロゲル固体水性電解質をアノードとカソードとの間に配置した。PCL-PEG-PCLヒドロゲル固体水性電解質を分離体と電解質の両方として利用した。10時間の休止時間後、それぞれの電池を0.01mA/cm
2で連続的に放電し、放電中のセル電圧をモニタリングし、放電終了時のセル容量を測定することにより、セルの電気化学的性能を評価した。電池の代表的な放電曲線が
図6に示されている。放電の様々な段階における、関連する電池の抵抗性の変化が
図7に示されており、
図7は電気化学的インピーダンス分光法測定から得たNyquistプロットである。
【0142】
図6に示されているように、セルは、0.01mA/cm
2電流の適用で比較的小さな過電位約100mVを示し、水性MnO
2/Znセルに典型的な傾斜放電曲線(sloping discharge curve)をさらに示した。
図7に示されているように、Re(Z)対-Im(Z)としてプロットした周波数応答は、時間の経過による溶液抵抗のほんのわずかな変化、および電荷移動抵抗(charge transfer resistance)に伴う非常にわずかな変化を示し、よって放電中のPCL-PEG-PCLヒドロゲル固体水性電解質の安定性を実証している。したがって、前の記載は、セル放電中のその中とそれ自体の両方の安定性、ならびにZn電極とMnO
2電極の両方に対する安定性を実証した。
【0143】
(実施例5)
実施例4で調製した電池の無負荷電圧(OCV)安定性を評価し、液体水溶液電解質を含有するセルと比較した。固体水性セルを実施例1と同じ方式で製作した。液体水性電解質の比較のため、同じ塩濃度をMilli-Qの低い抵抗性の水(>18MΩ.cm)に溶解した。ガラス繊維分離体をこの新しく調製した電解質に浸漬し、アノードとカソードとの間に配置した。固体セルと液体ベースのセルの両方を室温で静置させ、定電位電解装置/ガルバノスタットを使用して、特定期間の間、連続的にセルのOCVをモニターした。液体水溶液電解質を利用した電池およびセルのOCV安定性が
図8に示されている。
【0144】
図8に示されているように、実施例4で調製した電池は、約120時間の一定期間にわたり電圧安定性を示した。
図8にさらに示されているように、実施例4で調製した電池の電圧安定性は、液体水溶液電解質を利用したセルの電圧安定性と少なくとも同じくらい良好であった。
【0145】
(実施例6)
実施例4で調製した電池の放電性能を評価し、液体水溶液電解質を含有するセルと比較した。特に、放電性能を比較するため、容量(mAh/cm
2)を電圧(V)と対比して測定した。OCVで24時間休止した後、セルを0.06mA/cm
2で放電した。セル放電は、セル電圧が0.5Vに到達した時点で完了と考えた。利用したカソードは炭素ベースの集電体上に堆積させたMnO
2活性層で構成され、利用したアノードは銀ベース集電体上に堆積させたZn活性層で構成された。電圧はZnアノードを参照した。放電性能は
図9に要約されている。
【0146】
図9に示されているように、4M NH
4Clを有するPCL-PEG-PCLベースの固体水性電解質を含有するMnO
2/Zn電気化学セルの放電性能は、同じ濃度で同じ塩を有する液体水性電解質を含有するセルと少なくとも同じくらい良好であった。
【0147】
(実施例7)
例示的な生分解性電気化学デバイス、特に、生分解性電気化学セルを調製した。生分解性電気化学デバイスを調製するため、アノードペースト剤を調製し、カソードペースト剤を調製し、生分解性電気化学デバイスの電極を印刷し、電解質マクロモノマーを調製し、硬化性電解質インクを調製し、印刷し、生分解性電気化学デバイスを組み立てた。
【0148】
アノードペースト剤、すなわち、亜鉛(Zn)アノードペースト剤を調製するため、75mLステンレススチールアトライターを装着したアトライターミルに、約150gの約3mmステンレススチールショット、約16.1gのエチレングリコール、MTI Corporation、Richmond、CAから市販の約5.0gのスチレン-ブタジエンゴム(SBR)結合剤、約8.3gの酸化亜鉛(ZnO)、約12.2gの酸化ビスマス(III)(Bi2O3)、および約78.3gのZnダストを充填した。Znアノードペースト剤がクリーム状ペースト剤の粘稠度を有するまで、アトライターミルを作動した。次いで、Znアノードペースト剤をショットから分離し、密閉容器に移して、エチレングリコールの蒸発を防止した。
【0149】
カソードペースト剤、すなわち、二酸化マンガン(MnO2)カソードペースト剤を調製するため、75mLステンレススチールアトライターを装着したアトライターに、約150gの約3mmステンレススチールショット、約21gのエチレングリコール、約1gのスチレン-ブタジエンゴム(SBR)結合剤、約30gの酸化マンガン(IV)(MnO2)、および約7.6gのグラファイトを充填した。MnO2カソードペースト剤がクリーム状ペースト剤の粘稠度を有するまでアトライターミルを作動した。次いで、MnO2カソードペースト剤をショットから分離し、密閉容器に移して、エチレングリコールの蒸発を防止した。
【0150】
剪断スイープ法を使用して、Znアノードペースト剤およびMnO
2カソードペースト剤のそれぞれの粘度を評価して、そのレオロジー特性を決定した。それぞれのZnアノードペースト剤およびMnO
2カソードペースト剤のそれぞれの粘度は
図10に要約されている。アノードペースト剤もカソードペースト剤もスクリーン印刷可能なペーストインクと一致する非ニュートンずり減粘挙動(non-Newtonian shear thinning behavior consistent)を示した。粒径はインク粘度に有意な影響を与えないことが観察された。
【0151】
生分解性電気化学デバイスの電極を、印刷を介して調製した。特に、80デュロメータースキージーと共に180メッシュナイロンスクリーンを使用して、銀ペーストインク(DUPONT(登録商標)5025または炭素ペーストインク(CI-2042;NAGASE AMERICA、LLC.)をPLA-D基材上にスクリーン印刷して、それぞれの集電体を調製した。次いで、スクリーン印刷した集電体を、約120℃で維持した熱風乾燥器(forced air oven)内で約9分間乾燥させて、ペーストインク中に含有された溶媒を除去または蒸発させ、ペーストインクを乾燥させた。乾燥した集電体は厚さ約6μmを有した。
【0152】
以前に調製したZnアノードペーストを有するそれぞれの集電体に隣接してZnアノード層を堆積させることによりZn電極を調製した。特に、80デュロメータースキージーと共に80メッシュナイロンスクリーンを使用して、Znアノードペーストを集電体上にスクリーン印刷し、続いて熱風乾燥器内で、約120℃で約9分間乾燥させて、ペースト中に含有された溶媒を除去または蒸発させ、Zn電極を調製した。乾燥したZn電極は厚さ約40μmを有した。
【0153】
以前に調製したMnO2カソードペーストを有するそれぞれの集電体に隣接してカソード活性層を堆積させることによりMnO2電極を調製した。特に、80デュロメータースキージーと共に80メッシュナイロンスクリーンを使用して、MnO2カソードペーストを集電体上にスクリーン印刷し、続いて熱風乾燥器内で、約120℃で約9分間乾燥させて、ペースト中に含有された溶媒を除去または蒸発させ、MnO2電極を調製した。乾燥したMnO2電極は厚さ約40μmを有した。
【0154】
電極を調製するためのMnO2およびZnペーストのスクリーン印刷は、ピンホール形成の証拠なしに、基材上での効率的な湿潤化を示すことが観察された。
【0155】
電解質マクロモノマーを調製するため、PCL-PEG-PCLジオールおよびPCL-PEG20-PCL-ジアクリレートを調製した。
【0156】
硬化性電解質インクを調製するため、約39.4gのZnCl2、約4.87gのNH4Cl、約80gの水および約20gのエチレングリコールを合わせて、約2.9M ZnCl2、約0.9M NH4Cl、および約20質量%のエチレングリコールを含有する電解質溶液を作った。次いで、約6gの電解質溶液を約2gのマクロモノマーと合わせて、溶解を促進するための混合はせずに、終夜浸漬させた。約0.5gのリチウムフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィネート(LAP)のストック溶液を、約10gの電解質溶液および約20滴のBYK-24シリコーン脱泡剤添加物(BYK-CHEMIS GMBH of Wesel、Germanyから市販)と合わせて、硬化性電解質インクを調製した。
【0157】
スクリーン印刷を介して、Zn電極に隣接して硬化性電解質インクを堆積させることにより、電解質層を調製した。60メッシュスクリーンおよび80デュロメータースキージーを使用して、Zn電極に隣接して硬化性電解質インクをスクリーン印刷した。次いで、14W、395nm LEDランプ下で、約500msの間、硬化性電解質層を硬化して、厚さ約15μmを有するゲル状電解質層を形成した。
【0158】
スクリーン印刷を介して、MnO2カソードに隣接して硬化性電解質インクを堆積させることにより、別の電解質層を同様に生成した。60メッシュスクリーンおよび80デュロメータースキージーを使用して、MnO2カソードに隣接して硬化性電解質インクをスクリーン印刷した。次いで、14W、395nm LEDランプ下、約500msの間、硬化性電解質層を硬化して、厚さ約15μmを有するゲル状電解質層を形成した。
【0159】
生分解性電気化学デバイスを製作または組み立てるために、ゲル状電解質層、Zn層、および集電体層を含むZn電極は、積層型方向性で配置し、ゲル状電解質層、MnO2層、および集電体層を含むMnO2電極上に配置した。Zn電極およびMnO2電極は、それぞれの電極のそれぞれの電解質層が互いに対向するように方向づけられた。ローラーを用いて軽い圧力を適用して、それぞれのZn電極およびMnO2電極のそれぞれの電解質層の間の密接な接触を促進させ、密閉されていない生分解性電気化学デバイスを生成した。
【0160】
次いで、密閉されていない生分解性電気化学デバイスを80μmシートのポリイミドフィルム(KAPTON(登録商標)DuPont of Wilmington、DEから市販)の間に配置して、その後の密閉ステップの間に基材が破壊的に溶融されないように保護した。約170℃で維持したダイによるデバイスの加熱密閉を使用して、生分解性電気化学デバイスの積層型電極の縁を加熱密閉した。密閉した生分解性電気化学デバイスをポリイミドフィルムから取り出して、冷却した。
【0161】
(実施例8)
実施例7で調製した生分解性電気化学デバイスの曝露されたタブの全域での無負荷電圧は、デジタルマルチメーターを使用して1.46ボルトと測定された。
【0162】
(実施例9)
生分解性中心ブロックを含む例示的な固体、水性電解質組成物を調製した。特に、PVA-PCLマクロモノマーを合成することにより、PVA-PCLベースの固体、水性電解質を調製した。
【0163】
PVA-PCLマクロモノマーを合成するために、スキーム3に示されているプロセスまたは反応が導入された。
【0164】
【0165】
特に、磁気撹拌機および冷却器を備えた丸底フラッシュ内に、約10gのポリ(ビニルアルコール)(平均MW=3000g/モル)を配置した。固体を真空下で約2時間乾燥させた。約20mLのジメチルスルホキシドを加え、生成した混合物を、完全に可溶化するまで、撹拌しながら約80℃で加熱した。可溶化したら、温度を約40℃に冷却し、約186μLのε-カプロラクトンおよび約175μLのスズ(II)(2-エチルヘクサノエート)2を加え、反応混合物を約100℃で約24時間加熱した。加熱後、反応混合物を約40℃に冷却させておいた。約30mLの水を加え、生成した自由流動性溶液を、撹拌しながら約500mLのアセトンに注入して、懸濁液を調製した。生成した懸濁液を約10分間遠心分離して、生成したペレットをアセトン中で再分散し、同じ条件で2回遠心分離した。生成した固体を真空下で終夜乾燥させた。約6.7gのPVA-PCLブロックを生成し、これは黄色の固体であった。
【0166】
磁気撹拌機および冷却器を備えた丸底フラスコ内で、約6.7gのPVA-PCLブロックを約200mLのN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)と合わせ、完全に可溶化するまで約60℃で加熱した。さらなるアリコートのDMFを加えて可溶化を促進させた。次いで、可溶化した反応混合物を約10℃まで冷却させておき、約1.94mLのトリメチルアミンを加えた。約1.94mLの塩化アクリロイルを反応混合物に滴下添加し、続いて約40℃で約24時間加熱した。次いで、反応混合物をアセトンに注入して、生成物の大きなペレットを形成した。ペレットを真空下で終夜乾燥させ、これによって約1.6gのPVA-PCLアクリレートを生成した。
【0167】
(実施例10)
様々な生分解性基材を評価した。特に、20cm幅のフラットダイを備えた押出機を使用して、表2の生分解性バイオポリエステル基材を押し出してシートにした。次いで、シートのそれぞれを2本のローラー間でカレンダー加工した。ポリ乳酸ベースのブレンドの別個のフィルムはまた3D印刷して、異なる表面品質を得た。シートの一部をアニーリングして、結晶化を増強し、温度抵抗性を改善した。
【0168】
シートのそれぞれの温度抵抗性を、これらをオーブン内の約120℃または約150℃の温度のフラット金属プレート上に配置することにより、評価した。具体的には、シートのそれぞれを、特定された温度で維持したオーブン内の平らな面上に約10分間配置した。加熱後、寸法安定性(例えば、平坦性および均一性)を評価した。寸法安定性に合格するためには、それぞれのシートは変形がないことを示さなければならなかった。オーブン試験の結果は表2に要約されている。
【0169】
生分解性基材のそれぞれの寸法安定性を評価することに加えて、インクとの適合性および接着性もまた評価した。基材のそれぞれへのインクの適合性および接着性を評価するために、以前に調製した炭素ベースおよび銀ベースのインクをそれぞれの生分解性基材上にスクリーン印刷し、接着性について評価した。約120℃で乾燥後、寸法安定性もまた評価した。インク接着評価に合格するためには、インクは、(1)約45℃の角度で屈曲する間、および(2)表面全域をスワブでぬぐう間、基材への接着性を維持しなければならない。約120℃での乾燥後の寸法安定性に合格するためには、120℃で10分間乾燥させた後、それぞれのシートは変形がないことを示さなければならなかった(例えば、平坦性および均一性を維持すること)。結果は表2に要約されている。
【0170】
【0171】
表2に示されているように、評価した基材のそれぞれは、溶融したPBATを除いて、120℃オーブン試験に合格した。表2にさらに示されているように、基材のそれぞれは、PBATおよびPBSを除いて、150℃オーブン試験に合格した。また表2に示されているように、基材の大部分は、インク乾燥プロセスの間に熱的不安定さを示した。
【0172】
本開示は例示的な実装形態を参照して記載されている。限定された数の実装形態が示され、記載されているが、先行する詳細な説明の原理および趣旨を逸脱することなく、これらの実装形態において変更がなされ得ることを当業者であれば認識している。すべてのこのような修正および改変は、これらが添付の特許請求の範囲またはその同等物の範囲内にある限り、本開示に含まれると解釈されることを意図している。
【国際調査報告】