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特表2022-545027600MPa級無方向性電磁鋼板及びその製造方法
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  • 特表-600MPa級無方向性電磁鋼板及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-24
(54)【発明の名称】600MPa級無方向性電磁鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20221017BHJP
   C21D 8/12 20060101ALI20221017BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20221017BHJP
   C22C 38/06 20060101ALI20221017BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C21D8/12 A
H01F1/147 175
C22C38/06
C22C38/60
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022511372
(86)(22)【出願日】2020-08-26
(85)【翻訳文提出日】2022-02-21
(86)【国際出願番号】 CN2020111402
(87)【国際公開番号】W WO2021037061
(87)【国際公開日】2021-03-04
(31)【優先権主張番号】201910790407.1
(32)【優先日】2019-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514216801
【氏名又は名称】バオシャン アイアン アンド スティール カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】チャン、フェン
(72)【発明者】
【氏名】リウ、バオジュン
(72)【発明者】
【氏名】リ、ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ボ
(72)【発明者】
【氏名】シェン、カンイ
(72)【発明者】
【氏名】リ、グオバオ
【テーマコード(参考)】
4K033
5E041
【Fターム(参考)】
4K033AA01
4K033CA00
4K033CA02
4K033CA03
4K033CA05
4K033CA08
4K033CA09
4K033EA01
4K033EA02
4K033FA03
4K033FA10
4K033FA13
4K033FA14
4K033HA02
4K033HA04
4K033HA06
4K033KA01
4K033KA03
5E041AA02
5E041BD09
5E041CA04
5E041NN01
5E041NN13
5E041NN15
5E041NN18
(57)【要約】
化学元素として、質量%で、0<C≦0.0035%、Si:2.0~3.5%、Mn:0.4~1.2%、P:0.03~0.2%及びAl:0.4~2.0%と、Feと不可避不純物である残部とを含む、優れた磁気特性の600MPa級無方向性電磁鋼板が提供される。また、(1)転炉製錬、RH精錬及び鋳造の工程、(2)熱間圧延の工程、(3)焼準の工程、(4)冷間圧延の工程、(5)連続焼鈍の工程及び(6)絶縁被膜を施して完成した無方向性電磁鋼板を得る工程を含む、前記600MPa級無方向性電磁鋼の製造方法も提供される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学元素として、質量%で、0<C≦0.0035%、Si:2.0~3.5%、Mn:0.4~1.2%、P:0.03~0.2%及びAl:0.4~2.0%と、Fe及び不可避不純物である残部とを含む、600MPa級無方向性電磁鋼板。
【請求項2】
Sb及びSnの少なくとも1つを0.003~0.2質量%の総含有量でさらに含む、請求項1に記載の600MPa級無方向性電磁鋼板。
【請求項3】
Mg、Ca及びREMの少なくとも1つを0.0005~0.01質量%の総含有量でさらに含む、請求項1に記載の600MPa級無方向性電磁鋼板。
【請求項4】
前記不可避不純物が、S≦0.003%、Ti≦0.001%、O≦0.002%及びN≦0.002%を含むことを特徴とする、請求項1に記載の600MPa級無方向性電磁鋼板。
【請求項5】
前記600MPa級無方向性電磁鋼板が、≧25%の割合の{100}面集合組織と、≦31%の割合の{111}面集合組織を有することを特徴とする、請求項1に記載の600MPa級無方向性電磁鋼板。
【請求項6】
前記600MPa級無方向性電磁鋼板が0.5μmを超えるサイズの介在物を含み、前記介在物がAlN、CaS及びAlNとCaSとの複合介在物の少なくとも1つであることを特徴とする、請求項1に記載の600MPa級無方向性電磁鋼板。
【請求項7】
前記600MPa級無方向性電磁鋼板が、鉄損P15/50≦2W/kg、磁束密度B50≧1.69T及び引張強度≧600MPaを有することを特徴とする、請求項1に記載の600MPa級無方向性電磁鋼板。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の600MPa級無方向性電磁鋼板の製造方法であって、前記製造方法が、
転炉製錬、RH精錬及び鋳造の工程と、
熱間圧延の工程と、
焼準の工程と、
冷間圧延の工程と、
連続焼鈍の工程であって、冷間圧延鋼板を急速加熱の初期温度T急速加熱初期から均熱温度まで加熱速度50~2000℃/秒で急速に加熱して、焼鈍炉におけるHの体積含有率を≧55%とし、前記焼鈍炉における露点を≦-30℃として急速加熱焼鈍を行うこと、及び前記急速加熱焼鈍の後に、前記鋼板を冷却速度≦5℃/秒でゆっくりと冷却することを含む連続焼鈍の工程と、
絶縁被膜を施して完成した無方向性電磁鋼板を得る工程と
を含む、製造方法。
【請求項9】
前記連続焼鈍の工程において、前記加熱速度が100~600℃/秒であることを特徴とする、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記連続焼鈍の工程において、前記急速加熱の初期温度T急速加熱初期が、室温から750℃までの範囲であることを特徴とする、請求項8に記載の製造方法。
【請求項11】
前記RH精錬の工程において、t/ΣAlの値は0.30~0.65の範囲であり、ここで、tは、元素Mg、Ca及びREMの少なくとも1つの添加と元素Alの添加との間の分単位の時間間隔を表し、及びΣAlは、元素Alの添加からRH精錬の完了までの分単位の総時間を表すことを特徴とする、請求項8に記載の製造方法。
【請求項12】
前記熱間圧延の工程において、仕上げ圧延温度が≦850℃となるように制御されること、及び巻取り温度が500~750℃となるように制御されることを特徴とする、請求項8に記載の製造方法。
【請求項13】
前記冷間圧延の工程において、1回の冷間圧延加工または中間焼鈍を有する2回の冷間圧延加工が利用されることを特徴とする、請求項8に記載の製造方法。
【請求項14】
前記冷間圧延の工程において、
各パスまたはスタンドにおける少なくとも1対の作業ロールは、表面粗さが≦0.40μmであり、及び/または
各パスまたはスタンドは累積圧下率が75~85%であること、及び最終パスまたはスタンドは圧下率が≦20%であることを特徴とする、請求項13に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、鋼板及びその製造方法、特に、無方向性電磁鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
ますます厳しくなる高効率、省エネ及び環境保護に対するユーザー市場からの要求を背景に、モーターやコンプレッサーの鉄心を製造するための無方向性電磁鋼板には、価格競争優位性を保証したうえで良好な電磁気特性(即ち、超低鉄損かつ超高磁束密度)を備えることが求められている。同時に、動力駆動機器のミニチュア化、高精度及び高効率の開発需要を背景に、無方向性電磁鋼板の強度への要求が厳しくなっている。
【0003】
中国公開公報CN104726794A(2015年6月24日付公開の「無方向性電磁鋼板及びその製造方法」)は、無方向性電磁鋼板及びその製造方法を開示する。この開示において、鉄損の低減は、Si及びAlを鋼にできるだけ多く添加して完成鋼板の電気抵抗率を顕著に上昇させることによる鉄損の低減と、所定量のP及びCrを添加して完成鋼板の鉄損、及び特に高周波状態における鉄損の低減によって実現される。ただし、これらの方法では、焼準温度の上昇に限界があり得るほか、冷間圧延の製造容易性のある程度の低下や、完成鋼板の磁束密度の低下を起こし得る。
【0004】
中国公開公報CN103882293A(2014年6月25日付公開の「無方向性電磁鋼板及びその製造方法」)は、無方向性電磁鋼板及びその製造方法を開示する。この開示においては、熱間圧延や熱処理の過程での硫化物介在物の析出が、製鋼過程におけるカルシウム及び希土類による処理で有利に抑制できる。Si<1%での加熱には、カルシウム及び希土類で処理した後に鋼中の大きい介在物の除去と変性を行えば非常に効果的であり、析出物は数を大幅に減らして粗大化され、鉄損は焼準なしで0.4~0.8W/kg低減できる。Siを0.8%~1.6%含有する電磁鋼には、希土類元素Pr及びNdの適量添加と適切な圧延加工の利用により、結晶粒の粗大化も可能にして、磁気ヒステリシス損を効果的に低減できるとともに、鋼板の構造をさらに改善して磁束密度を向上させる。
【0005】
薄厚化、高い機械的特性及び良好な電磁気特性の間の矛盾を緩和するために、特開平11-61257(1999年3月5日付公開の「鉄損が低く且つ磁気異方性の小さい無方向性電磁鋼板及びその製造方法」)は、電磁鋼板とその製造方法を開示する。この開示では、低温加熱処理を連続鋳造ビレットに対して950~1150℃で行い、熱間圧延における粗圧延後の中間ビレットに熱を保持させ、ここで、仕上げ圧延前の温度低下が40℃以内となるように制御を要求し、仕上げ圧延の仕上げ圧延温度がAr1(相変態点)+20℃以上となるように制御を要求し、及び巻取り温度が640~750℃となるように制限する。このような制御方法を使用することで、異方性の小さい無方向性電磁鋼板が得られる。
【0006】
特開平11-189824(1999年7月13日付公開の「鉄損の低い無方向性電磁鋼板の製造方法」)は、高強度かつ低鉄損の無方向性ケイ素鋼を開示する。この開示では、Sの含有量は10ppm以内になるように制限され、Pの含有量は0.03~0.15%になるように制限される。2回の冷間圧延と中間焼鈍の前に、熱間圧延後の鋼帯がH雰囲気中(H濃度が60%以上)で焼準され、1~6時間均熱される。こうすることで、その後の高温連続焼鈍後に、より低い鉄損かつより高い機械強度が得られる。
【0007】
中国公開公報CN102453837A(2012年5月16日付公開の「高い磁束密度を有する無方向性ケイ素鋼の製造方法」)は、高い磁束密度を有する無方向性ケイ素鋼を開示する。この開示では、製造方法は、1)製錬及び鋳造の工程であって、無方向性ケイ素鋼の化学成分を重量%でSi:0.1~1%、Al:0.005~1%、C≦0.004%、Mn:0.10~1.50%、P≦0.2%、S≦0.005%、N≦0.002%及びNb+V+Ti≦0.006%とし、残部をFeとして、製鋼、2次精錬及び鋳造ビレットへの鋳造を行う工程と、2)熱間圧延工程であって、加熱温度が1150℃~1200℃、仕上げ圧延温度が830~900℃、及び巻取り温度が≧570℃である工程、3)平坦化工程であって、圧下率2~5%で冷間圧延を行う工程、4)950℃以上の温度で熱保持時間30~180秒で行う焼準工程、5)酸洗い及び冷間圧延の工程であって、冷間圧延を酸洗い後に累積圧下率70~80%で行う工程、及び6)焼鈍工程であって、加熱速度≧100℃/秒とし、800~1000℃で5~60秒間熱保持を行った後に、600~750℃まで3~15℃/秒でゆっくり冷却する工程を含む。
【発明の概要】
【0008】
概要
本発明の目的の1つは、優れた磁気特性の高強度無方向性電磁鋼板を提供することである。高強度無方向性電磁鋼板の化学組成の設計を最適化することにより鋼の清浄度を改善し、これにより優れた磁気特性の高強度無方向性電磁鋼板が得られる。
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、化学元素として、質量%で、0<C≦0.0035%、Si:2.0~3.5%、Mn:0.4~1.2%、P:0.03~0.2%及びAl:0.4~2.0%と、Fe及び不可避不純物である残部とを含む、優れた磁気特性の高強度無方向性電磁鋼板を提供する。
【0010】
本発明に従う優れた磁気特性の高強度無方向性電磁鋼板のための、各化学元素の設計原理は以下のとおりである。
【0011】
C:本発明に従う高強度無方向性電磁鋼板において、Cは、完成鋼板の結晶粒成長を強く抑制し、Nb、V、Ti等と容易に結合して微細析出物を形成し、これにより損失増加を引き起こし磁気時効を生ずる。そのため、本発明に従う高強度無方向性電磁鋼板におけるCの質量%は、0<C≦0.0035%となるように制御される。
【0012】
Si:本発明に従う高強度無方向性電磁鋼板において、Siは、材料の電気抵抗率を増加させ、鋼の鉄損を効果的に低減することができる。Siの質量%が3.5%を超えると鋼の磁束密度が大幅に低下し、冷間圧延の圧延容易性が大幅に低下する。また、Siの質量%が2.0%未満では鉄損を効果的に低減する効果が得られない。そのため、本発明に従う高強度無方向性電磁鋼板におけるSiの質量%は、2.0~3.5%となるように制御される。
【0013】
Mn:本発明に従う高強度無方向性電磁鋼板において、Mnの質量%が0.4%未満では鋼の強度を向上させる効果が得られず、Mnの質量%が1.2%を超えると鋼の製造コストが増加し、鋼の再結晶効果も抑制される。そのため、本発明に従う高強度無方向性電磁鋼板におけるMnの質量%は、0.4~1.2%となるように制御される。
【0014】
P:本発明に従う高強度無方向性電磁鋼板において、Pの質量%が0.03%未満では電気抵抗率と{100}成分の増加に資さない。また、Pの質量%が0.2%を超えると低温脆化現象が発生しやすくなり、冷間圧延の製造容易性を低下させる。そのため、本発明に従う高強度無方向性電磁鋼板におけるPの質量%は、0.03~0.2%となるように制御される。
【0015】
Al:Alは、材料の電気抵抗率を増加させ、鋼の鉄損を効果的に低減することができる。Alの含有量が2.0%を超えると鋼の磁束密度が大幅に低下し、冷間圧延の圧延容易性も大幅に低下する。また、Alの含有量が0.4%未満では鉄損を効果的に低減する効果が得られない。そのため、本発明に従う高強度無方向性電磁鋼板におけるAlの質量%は、0.4~2.0%となるように制御される。
【0016】
好ましくは、本発明に従う高強度無方向性電磁鋼板は、Sb及びSnの少なくとも1つを0.003~0.2質量%の総含有量でさらに含む。
【0017】
上記解決手段において、Sb及びSnの少なくとも1つの総含有量は、Sn及びSbの質量%が0.003%未満であると、鋼の集合組織を向上させる効果と鋼の磁束密度を向上させる効果が得られないことと、Sn及びSbの質量%が0.2%を超えると結晶粒が細かくなり、鋼の磁気特性が悪化することから、0.003~0.2%となるように設定される。
【0018】
好ましくは、本発明に従う高強度無方向性電磁鋼板は、Mg、Ca及びREM(希土類金属)の少なくとも1つを0.0005~0.01質量%の総含有量でさらに含む。
【0019】
上記解決手段において、Mg、Ca及びREMの少なくとも1つの総含有量は、Mg、Ca及びREMの質量%が0.0005%未満では酸化物介在物及び硫化物介在物を除去する効果が得られないことと、Caの質量%が0.01%を超えると結晶粒が細かくなる傾向があり冷間圧延の圧延容易性が低下することから、0.0005~0.01%となるように設定される。
【0020】
好ましくは、本発明に従う高強度無方向性電磁鋼板において、不可避不純物は、S≦0.003%、Ti≦0.001%、O≦0.002%及びN≦0.002%を含む。
【0021】
上記解決手段において、不可避不純物はできる限り少なくなるように制御されるべきである。Sの質量%が0.003%を超えると、MnS及びCuS等の有害な介在物の量が大幅に増加して結晶粒の成長を強く制限し、鋼の磁気特性が悪くなる。
【0022】
Nの質量%が0.002%を超えると、Nb、V、Ti及びAl等のNの析出物が大幅に増加して結晶粒の成長を強く抑制し、鋼の磁気特性が悪くなる。
【0023】
Oの質量%が0.002%を超えると、酸化物介在物の量が大幅に増加して結晶粒が細かくなり、鋼の磁気特性が悪くなる。
【0024】
Tiの質量%が0.001%を超えると、C及びNとTiとの介在物が大幅に増加して結晶粒の成長を強く抑制し、鋼の磁気特性が悪くなる。
【0025】
好ましくは、本発明に従う高強度無方向性電磁鋼板において、{100}面集合組織の割合は、≧25%であり、{111}面集合組織の割合は≦31%である。なお、ここで、{100}面集合組織及び{111}面集合組織は、「Metal material - Quantitative pole figure preparing method(金属材料定量分裂極図の測定)」(YB/T 5360-2006)規格に従いSmartLab社のX線回折計で測定した。
【0026】
好ましくは、本発明に従う高強度無方向性電磁鋼板は、0.5μmを超えるサイズの介在物を含み、介在物は、AlN、CaS及びAlNとCaSとの複合介在物の少なくとも1つである。
【0027】
好ましくは、本発明に従う高強度無方向性電磁鋼板は、鉄損P15/50≦2W/kg、磁束密度B50≧1.69T及び引張強度≧600MPaである。ここで、電磁気特性は、エプスタイン測定法(Epstein square method、GB 10129-1988)に従いBrockhaus社の磁気測定機器(ドイツ)を使用して測定した。ここで、P10/50は1.0T及び50Hzの条件下で試験した鉄損の値を表し、B50は5000A/mの条件下で試験した磁束密度の値を示す。機械的特性は、「Metallic materials - Test pieces for tensile testing(金属材料 - 引伸試験用試験サンプル)」(GB/T 6397-1986)規格に従い250kN/500kN鋼板引張試験機を使用して測定した。
【0028】
これに対応して、本発明の他の目的は、上記高強度無方向性電磁鋼板の製造方法を提供することである。この製造方法を使用することにより、改善した清浄度及び優れた磁気特性を有する高強度無方向性電磁鋼板を得ることができる。
【0029】
上記の発明の目的を達成するため、本発明は、上記高強度無方向性電磁鋼板の製造方法を提供し、この製造方法は、
転炉製錬、RH精錬及び鋳造の工程と、
熱間圧延の工程と、
焼準の工程と、
冷間圧延の工程と、
連続焼鈍の工程であって、冷間圧延鋼板(冷間圧延した鋼板)を急速加熱の初期温度T急速加熱初期から均熱温度まで加熱速度50~2000℃/秒で急速に加熱して急速加熱焼鈍を行うこと(ここで、焼鈍炉におけるHの体積含有率は≧55%、焼鈍炉における露点は≦-30℃である)、及びこの急速加熱焼鈍の後に、鋼板を冷却速度≦5℃/秒でゆっくりと冷却することを含む連続焼鈍の工程と、
絶縁被膜を施して完成した無方向性電磁鋼板を得る工程と
を含む製造方法である。
【0030】
本発明に従う製造方法において、加熱速度は、加熱速度が速すぎると、装置の性能に対する要求が厳しくなりすぎてコストが高くなることと、高温段階で冷間圧延鋼板の滞留時間が長くなりすぎると結晶粒構造の均一性が悪くなることから、50~2000℃/秒となるように制御される。同時に、高温の焼鈍条件下では完成鋼板の表面で(内部)酸化及び窒化が生じやすいことから、結晶粒が細かくなり、完成鋼板の鉄損の悪化及び完成鋼板の表面品質の低下をもたらす。したがって、焼鈍炉内のHの体積含有率は≧55%となるように制御され、焼鈍炉内の露点は≦-30℃となるように制御される。
【0031】
急速加熱焼鈍の後、完成鋼板はゆっくりと冷却する必要があり、冷却速度を≦5℃/秒となるように制限する必要があり、これにより、完成鋼板の形状を制御し、鋼板における応力を減少させて、最終的に得られる無方向性電磁鋼板が良好な表面状態を有し、高い磁束密度、低鉄損及び高強度という特徴を備えるようにする。
【0032】
好ましくは、本発明に従う製造方法において、連続焼鈍の工程において、加熱速度は100~600℃/秒である。
【0033】
好ましくは、本発明に従う製造方法において、連続焼鈍の工程における初期温度T急速加熱初期は、室温から750℃までの範囲である。ここで、750℃を急速加熱の最高初期温度として選択した際の主な考慮事項は、温度が750℃を超えると、後続の急速加熱処理において、適切な均熱温度及び加熱速度を確保するために、急速加熱装置の構成に対する要求が厳しくなりすぎ、経済性及び安定性が不十分になることである。
【0034】
好ましくは、本発明に従う製造方法において、RH精錬の工程におけるt/ΣAlの値は0.30~0.65であり、ここで、tは、元素Mg、Ca及びREMの少なくとも1つの添加と元素Alの添加との間の分単位の時間間隔を表し、ΣAlは、元素Alの添加からRH精錬の完了までの分単位の総時間を表す。
【0035】
上記解決法においては、適切な量のPを製錬過程中に鋼に添加する必要があり、これにより熱間圧延鋼板の再結晶効果を改善でき、完成鋼板の結晶粒のサイズを制御できるようにする。鋼中のP含有量を適切に制御することによって、及び(連続鋳造ビレットの通常のタッピング温度条件下の)熱間圧延の仕上げ温度及び巻取り温度を制御することによって、熱間圧延鋼板の良好な再結晶効果が得られ、熱間圧延鋼板の繊維構造の再結晶速度が増加し、熱間圧延鋼板の構造の均一性を向上することができる。P含有量の制御は不可欠である。一方で、P含有量は、Si及びAlの含有量と相関する(Si及びAlの含有量が高いほど、Pの含有量は低くすべきである)。Pは、冷間圧延加工において低温脆化現象を発生させやすく、これにより完成鋼板に耳割れや及び圧延破壊の発生をもたらす。熱間圧延及び冷間圧延した繊維構造が発達すると、粗い変形した結晶粒の発生をさらにもたらし、完成鋼板の表面に波状のしわがよる欠陥を生じやすくなり、また、完成鋼板において結晶粒が細かくなって完成鋼板の電磁気特性が悪化する。他方で、上述の通り、Siと同様に、Pには、完成鋼板の電気抵抗率を大幅に向上させる効果と完成鋼板において結晶粒の成長を加速する効果があり、これにより、完成鋼板の磁束密度を向上させ、完成鋼板の鉄損を低減する。したがって、適切な含有量のPは、優れた磁気特性の無方向性電磁鋼板を得るために不可欠である。
【0036】
完成鋼板の磁束密度の向上には、鋼中のTiの含有量が≦0.001%となるように制御される必要があり、これにより、完成鋼板中の結晶粒サイズの成長に対してTiN介在物が抑制効果を発揮するのを連続焼鈍処理において効果的に回避することができ、完成鋼板の磁束密度を効果的に向上させることができる。
【0037】
RH精錬処理において、脱炭素後に脱酸素合金化を行う際にSiを脱酸素に利用することで、アルミニウムを脱酸素に直接使用することと微細介在物の形成を回避する。ケイ素鉄合金の添加後は、酸化ケイ素介在物の浮上と除去が容易である。その後、溶融鋼の粘性が増加するので、アルミナ介在物の浮上と除去は容易でなく、それゆえ、アルミナ介在物をMg、Ca及びREMで処理して、低融点のアルミン酸塩化合物を発生させると同時に、微細で分散した小粒子介在物の発生を抑制する。Mg、Ca及びREMの処理効果を確実にするには、Mg、Ca及びREMの添加量の制御に加えて、t/ΣAlの値が、溶融鋼中のMg、Ca及びREMの効果的な濃度を確実にするように、0.30~0.65となるように好ましくは制御されてもよく、これにより、介在物を十分に変性させることができる。溶融鋼中のMg、Ca及びREMの滞留時間を制御することによって溶融鋼がMg、Ca及びREMと十分に反応することができるので、介在物を改善する良好な効果が得られる。
【0038】
好ましくは、本発明に従う製造方法において、熱間圧延の工程における仕上げ圧延温度は≦850℃となるように制御され、巻取り温度は500~750℃となるように制御される。ここで、仕上げ圧延温度が850℃を超えると、圧延加工中の硫化物介在物及び窒化物介在物の析出が加速し、熱間圧延鋼板の再結晶効果を抑制する。同時に、熱間圧延加工中の温度低下範囲を考慮して、巻取り温度の上限を750℃となるように設定する。さらに、巻取り温度が低すぎると鋼板巻取りがより困難になったり、巻き取った鋼板の形状が悪い等の問題が生じたりすることを考慮して、巻取り温度の下限は500℃となるように設定される。
【0039】
好ましくは、本発明に従う製造方法において、冷間圧延の工程において、1回の冷間圧延加工または中間焼鈍を有する2回の冷間圧延加工が使用される。ここで、1回の冷間圧延加工を使用することにより、生産プロセスを大幅に短縮でき、製造コストを削減することができ、かつ鋼板の生産量も増加させることができる。したがって、1回の冷間圧延加工が推奨される。他の側面において、中間焼鈍を有する2回の冷間圧延加工が使用される場合、冷間圧延の圧延の困難性が大幅に低減でき、かつ中間鋼板の微細構造のより良好な再結晶効果が達成できる。したがって、圧延機器が電磁気特性に有利なまたは特別な条件を有する場合には、中間焼鈍を有する2回の冷間圧延加工を使用し得る。
【0040】
好ましくは、本発明に従う製造方法において、冷間圧延の工程において、各パスまたはスタンドにおける少なくとも1対の作業ロールは、表面粗さが≦0.40μmであり、及び/または、各パスまたはスタンドは累積圧下率が75~85%であり、最終パスまたはスタンドは圧下率が≦20%である。
【0041】
いくつかの好ましい実施態様において、連続鋳造ビレットの熱間圧延加工において、熱間圧延鋼板の厚さは、熱間圧延の粗圧延及び仕上げ圧延の後0.8~2.0mmとなるように制御し得る。したがって、熱間圧延鋼板の厚さを減らすことにより、熱間圧延加工における熱間圧延鋼板の全体的な温度を上昇させることができ、熱間圧延鋼板の中央、上面及び下面の間の温度差を低減でき、これにより、十分な再結晶及び結晶粒の成長を促進して鋼中に好ましい{100}面集合組織と{110}面集合組織の割合を増加させる。
【0042】
また、上記解決手段において、1回の冷間圧延加工または中間焼鈍を有する2回の冷間圧延加工を利用し得、各パスまたはスタンドにおける少なくとも1対の作業ロールは表面粗さが≦0.40μmであり、最終パスまたはスタンドは、圧下率が≦20%であり、これにより完成鋼板の形状が確実に、圧延後の完成鋼板に耳割れがないようにし、その後の焼鈍及び被膜加工に好ましい条件を提供するようにする。各パスまたはスタンドの累積圧下率が75~85%となるように制御することで、壊れた粗い柱状結晶粒の発生の抑制、P含有鋼の圧延破壊や耳割れの制御、粗い変形した結晶粒の発生の抑制、及び完成鋼板の焼鈍処理における十分な再結晶のための好ましい条件の提供を確実にする。他の側面において、冷間圧延における最終パスの圧下率を小さくすると、冷間圧延鋼板中の転位の数が減少し、大量の格子ひずみの発生を起こしにくくなり、低エネルギー貯蔵が維持される。したがって、その後の連続焼鈍処理において、結晶の再生が効果的に抑制され、再結晶前の残存する保存された変形エネルギーを増加させることができ、こうして、核生成のための推進力が増加し、<111>//ND再結晶集合組織成分の強度が低下し、これが電磁気特性の改善をもたらす。
【0043】
先行技術と比較して、本発明により開示される優れた磁気特性の高強度無方向性電磁鋼板及びその製造方法は、本発明に従う高強度無方向性電磁鋼板の化学組成の設計を最適化することによって鋼の清浄度を改善し、これにより、優れた磁気特性の高強度無方向性電磁鋼板が得られる、という利点と有利な効果を有する。
【0044】
また、本発明に従う製造方法も、上記の利点と有利な効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1図1は、異なる焼鈍処理、即ち、本願の技術的解決法と従来の処理を使用した、焼鈍処理の曲線図である。
図2図2は、比較例A2における従来の鋼板のSEM画像である。
図3図3は、実施例A17における高強度無方向性電磁鋼板のSEM画像である。
図4図4は、鉄損に対する異なるt/ΣAl値の効果を示す図である。
図5図5は、{100}面集合組織の割合に対する異なる加熱速度の効果を示す図である。
図6図6は、{111}面集合組織の割合に対する異なる加熱速度の効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
詳細な説明
本発明に従う優れた磁気特性の高強度無方向性電磁鋼板及びその製造方法を添付の図面及び具体的な実施態様と組み合わせてさらに詳細に説明及び図解する。ただし、本発明の技術的解決法は、これらの説明や図解に限定されない。
【0047】
実施例A9~A20及び比較例A1~A8
実施例A9~A20における高強度無方向性電磁鋼板及び比較例A1~A8における従来の鋼板を以下の工程によって製造した。
【0048】
(1)表1に示す組成に従って溶融鉄及び鋼のスクラップを調製した。転炉製錬後、脱炭素、脱酸素及び合金化を含むRH精錬を行い、その後、溶融鋼を連続鋳造により鋳造して連続鋳造ビレットを得た。
【0049】
(2)熱間圧延:熱間圧延鋼板の厚さが0.8~2.0mmとなるように制御し、仕上げ圧延温度が≦850℃となるように制御し、巻取り温度は500~750℃となるように制御した。
【0050】
(3)焼準:熱間圧延鋼板を焼準のための均熱温度を800~1000℃となるように設定し、かつ均熱時間が1~180秒となるように設定して、焼準した。
【0051】
(4)冷間圧延:1回の冷間圧延加工を使用して、鋼板を完成品の厚さに圧延し、ここで、厚さは0.1~0.3mmであった。
【0052】
(5)連続焼鈍:冷間圧延鋼板を初期温度T急速加熱初期から均熱温度まで加熱速度50~2000℃/秒で急速に加熱して、焼鈍炉におけるHの体積含有率を≧55%とし、焼鈍炉における露点を≦-30℃として急速加熱焼鈍を行い、この急速加熱焼鈍の後に、鋼板を冷却速度≦5℃/秒でゆっくりと冷却した。急速加熱の初期温度T急速加熱初期は、室温から750℃の範囲であった。
【0053】
(6)絶縁被膜を施して、完成した無方向性電磁鋼板を得た。
【0054】
いくつかの好ましい実施態様において、RH精錬の工程におけるt/ΣAl値は0.30~0.65の範囲であり、ここで、tは、元素Mg、Ca及びREMの少なくとも1つの添加と元素Alの添加との間の分単位の時間間隔を表し、ΣAlは、元素Alの添加からRH精錬の完了までの分単位の総時間を表す。
【0055】
いくつかの好ましい実施態様において、工程(4)において、1回の冷間圧延加工または中間焼鈍を有する2回の冷間圧延加工が利用される。及び/または、工程(4)において、各パスまたはスタンドにおける少なくとも1対の作業ロールは表面粗さが≦0.40μmであり、及び/または、各パスまたはスタンドは累積圧下率が75~85%であり、及び最終パスまたはスタンドは圧下率が≦20%である。
【0056】
表1は、実施例A9~A20に従う高強度無方向性電磁鋼板及び比較例A1~A8に従う従来の鋼板の化学元素の質量%を列挙する。
【0057】
【表1】
【0058】
表2は、実施例A9~A21に従う高強度無方向性電磁鋼板及び比較例A1~A8に従う従来の鋼板の特定の加工処理のパラメータを列挙する。比較例A1及びA4の急速加熱の初期温度T急速加熱初期は「/」であり、これは急速加熱処理が利用されなかったことを示す。
【0059】
【表2】
【0060】
表3は、実施例A9~A20に従う高強度無方向性電磁鋼板と比較例A1~A8に従う従来の鋼板の性能の値を列挙する。
【0061】
【表3】
【0062】
図1図3から分かる通り、全実施例において、高強度無方向性電磁鋼板は清浄度が高く、介在物についても量は少なくサイズは大きく、しかも、完成鋼板は再結晶効果が良好であり、均一で粗い結晶粒サイズ、高い割合の好ましい集合組織及び優れた電磁気特性を有しており、各実施例に従う高強度無方向性電磁鋼板において、鉄損P15/50は≦2W/kg、磁束密度B50は≧1.69T及び引張強度は≧600MPaであった。
【0063】
図1は、異なる焼鈍処理、即ち、本願の技術的解決法と従来の処理を使用した、焼鈍処理の曲線図である。
【0064】
図1に示すとおり、本発明に従う製造方法において、従来の加熱焼鈍処理とは異なる急速加熱焼鈍が利用された。本発明において、加熱速度は、加熱速度が速すぎると、装置の性能に対する要求が厳しくなりすぎてコストが高くなることと、高温段階で冷間圧延鋼板の滞留時間が長くなりすぎると結晶粒構造の均一性が悪くなることを考慮して、50~2000℃/秒となるように制御した。同時に、高温の焼鈍条件下では完成鋼板の表面で(内部)酸化及び窒化が生じやすいことを考慮すれば、これは結晶粒が細かくなり、完成鋼板の鉄損の悪化や完成鋼板の表面品質の低下をもたらす。したがって、焼鈍炉内のHの体積含有率は≧55%となるように制御され、焼鈍炉内の露点は≦-30℃となるように制御される。急速加熱焼鈍の後、完成鋼板はゆっくりと冷却する必要があり、また、完成鋼板の形状を制御し、鋼板における応力を減らすには冷却速度は≦5℃/秒となるように制限する必要があり、このようにして、最終的に得られる無方向性電磁鋼板が良好な表面状態を有し、高い磁束密度、低鉄損及び高強度という特徴を備えるようにする。
【0065】
図2は、比較例A2における従来の鋼板のSEM画像である。図3は、実施例A17における高強度無方向性電磁鋼板のSEM画像である。
【0066】
図2及び図3から分かるとおり、比較例A2と比べて、実施例A17の高強度無方向性電磁鋼板は清浄度が高く、介在物の量は少なくサイズは大きい。
【0067】
比較例A2及び実施例A17に対応する完成品のサンプル中の介在物をHITACHI S4200走査電子顕微鏡を使用して観察した。各サンプルは、10視野で連続で観察した。介在物のタイプ、サイズ及び量の分布を計測して表4及び表5に列挙した。
【0068】
表4は、比較例A2に従う完成品のサンプルにおける介在物のタイプ、サイズ及び量を列挙する。
【0069】
【表4】
【0070】
表5は、実施例A17に従う完成品のサンプル中の介在物のタイプ、サイズ及び量の分布を列挙する。
【0071】
【表5】
【0072】
図4及び図5から分かるとおり、介在物の統計データによれば、比較例A2における完成品のサンプルについて、0.5μm以下のサイズの大量のAlN、MnS及びCuS介在物があり、0.5μm以上のサイズの介在物は主にAlN+MnS複合介在物またはMnS+CuS複合介在物であり、これらは量は多いがサイズは小さいものであった。またさらに、サンプルは、少量の酸化物介在物も含んでいた。対照的に、実施例における完成品のサンプルについては、0.5μm以下のサイズの介在物はほとんどなく、また、0.5μm以上のサイズの介在物は主にAlNとCaSであり、少量の酸化物介在物とAlN+CaS複合介在物を伴い、これらのサイズは比較的大きかった。
【0073】
その理由は以下のとおりである。比較例の溶融鋼の凝固過程では、サイズの大きい酸化物介在物が最初に析出し、その後、溶融鋼の温度が下がり続けるにつれてMnS介在物が析出し始め、最後にAlNとCuSの介在物が、それぞれMnS介在物をコアとして析出する。対照的に、実施例の溶融鋼の凝固過程では、サイズの大きい酸化物介在物が完全に浮遊しており、元素SとのMg、Ca及びREMの結合能力のほうが、元素Cu及びSとの元素Mn及びSの結合能力よりはるかに大きいので、2500℃もの高い融点を有する、MgS、CaS及びREM-S介在物がより析出し易くなり、これにより効果的にMnS及びCuS介在物の析出を抑制する。そして溶融鋼の温度が下がり続けるに従いAlN介在物が析出し始める。溶融鋼の大部分がこの時点で凝固しているので、少量のAlN介在物だけがCaS介在物と結合することができ、浮遊し易く除去しやすい比較的大きいサイズのAlN+CaS複合介在物を形成する。
【0074】
図4は、鉄損に対する異なるt/ΣAl値の効果を示す図である。
【0075】
図4に示すとおり、RH精錬の工程において、t/ΣAl値が0.30~0.65となるように制御した場合、得られた無方向性電磁鋼板はより良い磁気特性であった。その理由は次のとおりである。脱炭素後に脱酸素合金化を行う際に、Siを脱酸素に利用することで、アルミニウムを脱酸素に直接使用することと微細介在物の形成を回避する。ケイ素鉄合金の添加後、酸化ケイ素介在物の浮上と除去が容易になる。その後、溶融鋼の粘性が増加するので、アルミナ介在物の浮上と除去は容易でなく、それゆえ、アルミナ介在物をMg、Ca及びREMで処理して、低融点のアルミン酸塩化合物を発生させると同時に、微細で分散した小粒子介在物の発生を抑制する。Mg、Ca及びREMの処理効果を確実にするために、Mg、Ca及びREMの添加量の制御に加えて、t/ΣAlの値が、溶融鋼中のMg、Ca及びREMの効果的な濃度を確実にするように、0.30~0.65となるように好ましくは制御されてもよく、これにより、介在物を十分に変性させることができる。溶融鋼中のMg、Ca及びREMの滞留時間を制御することによって溶融鋼が、Mg、Ca及びREMと十分に反応することができるので、介在物を改善する良好な効果が得られる。
【0076】
tは、Mg、Ca及びREMの少なくとも1つの元素の添加と元素Alの添加との間の分単位の時間間隔を表し、ΣAlは、元素Alの添加からRH精錬の完了までの分単位の総時間を表すことが留意されるべきである。
【0077】
図5は、{100}面集合組織の割合に対する異なる加熱速度の効果を示す図である。図6は、{111}面集合組織の割合に対する異なる加熱速度の効果を示す図である。
【0078】
図5及び図6から分かるとおり、加熱速度が50~2000℃/秒となるように制御された場合に、{100}面集合組織の割合が≧25%となるように制御することができ、また、{111}面集合組織の割合も≦31%となるように制御できた。したがって、本発明に従う製造方法を利用することにより、高強度無方向性電磁鋼板が、良好な再結晶効果、均一かつ粗い結晶粒サイズ、高い割合の好ましい集合組織及び優れた電磁気特性を有していたことが証明された。
【0079】
結論として、高強度無方向性電磁鋼板の化学組成の設計を最適化することにより、鋼の清浄度が改善され、これにより本発明において優れた磁気特性の高強度無方向性電磁鋼板が得られた。
【0080】
また、本発明に従う製造方法も、上記の有利な効果及び有益な効果を有する。
【0081】
本願開示の保護範囲の先行技術の部分について、この出願書類に示される例に限定されないことが留意されるべきである。先行技術文献、先行開示文献、先行する公用等を含むがこれに限定されない、本願開示に矛盾しない全ての先行技術は、本願開示の保護範囲に含まれ得る。
【0082】
また、本願開示における様々な技術的特徴の組合せは、請求項に記載の組合せまたは具体的な実施態様に記載の組合せに限定されない。本願開示に記載の全ての技術的特徴は、互いに矛盾を生じない限り、自由に組み合わせることができ、またどのようにも組み合わせられるものである。
【0083】
上記の実施例は、本願開示の単なる具体的な実施態様であることが留意されるべきである。明らかに、本願開示は上記実施態様に限定されず、本願開示から直接に派生するまたは当業者が容易に相当し得る変更または改良した類似のものも本願開示の範囲に含まれるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】