(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-25
(54)【発明の名称】ジフルプレドナートを含むインサイチュゲル形成性眼科用製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 9/06 20060101AFI20221018BHJP
A61K 31/573 20060101ALI20221018BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20221018BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20221018BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20221018BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20221018BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20221018BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20221018BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20221018BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20221018BHJP
A61K 47/18 20060101ALI20221018BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20221018BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20221018BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20221018BHJP
A61K 33/18 20060101ALI20221018BHJP
A61K 31/7048 20060101ALI20221018BHJP
A61K 31/7036 20060101ALI20221018BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20221018BHJP
A61K 31/65 20060101ALI20221018BHJP
A61K 31/496 20060101ALI20221018BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
A61K9/06
A61K31/573
A61P27/02
A61K9/08
A61K47/36
A61K47/02
A61K47/26
A61K47/10
A61K47/34
A61K47/04
A61K47/18
A61K47/44
A61K47/32
A61K47/38
A61K33/18
A61K31/7048
A61K31/7036
A61P31/00
A61K31/65
A61K31/496
A61P29/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022510968
(86)(22)【出願日】2020-08-18
(85)【翻訳文提出日】2022-04-12
(86)【国際出願番号】 US2020046843
(87)【国際公開番号】W WO2021034850
(87)【国際公開日】2021-02-25
(32)【優先日】2019-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518144573
【氏名又は名称】アイビュー セラピューティクス,インコーポレイテッド
【住所又は居所原語表記】5 Cedar Brook Drive, Suite 2, Cranbury, NJ 08512, United States
(71)【出願人】
【識別番号】522063789
【氏名又は名称】アイビュー セラピューティクス(ズーハイ)カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】IVIEW THERAPEUTICS (ZHUHAI) CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Floor 2, Suite D, Building 20, Innovation Valley, 1889 East Huandao Road, Hengqin New District, Zhuhai, Guangdong 519000 (CN)
(74)【代理人】
【識別番号】100180781
【氏名又は名称】安達 友和
(74)【代理人】
【識別番号】100182903
【氏名又は名称】福田 武慶
(72)【発明者】
【氏名】リアン,ボ
(72)【発明者】
【氏名】ザン,ミン
(72)【発明者】
【氏名】ペン,ハイゾウ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076AA12
4C076BB24
4C076CC04
4C076CC10
4C076DD01F
4C076DD09F
4C076DD22D
4C076DD22Z
4C076DD23
4C076DD23D
4C076DD23Z
4C076DD26Z
4C076DD30Z
4C076DD38D
4C076DD44F
4C076DD50Z
4C076DD67D
4C076EE06G
4C076EE16G
4C076EE23D
4C076EE30
4C076EE31G
4C076EE32G
4C076EE33G
4C076EE36
4C076EE37
4C076EE49D
4C076FF31
4C076FF35
4C076GG41
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC50
4C086DA10
4C086DA29
4C086EA08
4C086EA09
4C086GA07
4C086GA12
4C086HA09
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA17
4C086MA28
4C086MA58
4C086NA05
4C086NA12
4C086ZA33
4C086ZB11
(57)【要約】
本発明は、水、ジフルプレドナート、および生体適合性多糖をそれぞれ含む水性インサイチュゲル眼科用製剤を提供し、製剤を眼に点眼すると瞬時に粘度が上昇し、生理的温度でゲルがインサイチュで形成される。製剤において、ナノキャリアは、製剤に含まれる界面活性剤または可溶化剤によって、ジフルプレドナートと共にまたはジフルプレドナートをカプセル化することによって形成され得、ナノキャリアは、10~500nmまたは10~150nmまたは10~50nmの平均粒子径を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、ジフルプレドナート、および生体適合性多糖を含む水性インサイチュゲル眼科用製剤であって、前記製剤を眼に点眼すると瞬時に粘度が上昇し、生理的温度でゲルがインサイチュで形成される、水性インサイチュゲル眼科用製剤。
【請求項2】
ジフルプレドナートは、0.01~5.0重量%の濃度で前記製剤中に含まれる、請求項1に記載の水性インサイチュゲル製剤。
【請求項3】
前記生体適合性多糖は、脱アセチル化ジェランガム(DGG)、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、ヒアルロン酸、またはそれらの組み合わせを含む、請求項1または2に記載の水性インサイチュゲル製剤。
【請求項4】
前記生体適合性多糖は、0.01~5重量%の濃度で前記製剤に含まれる、請求項1~3のいずれか1項に記載の水性インサイチュゲル眼科用製剤。
【請求項5】
前記生体適合性多糖は、脱アセチル化ジェランガム(DGG)を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の水性インサイチュゲル製剤。
【請求項6】
浸透圧調整剤、pH調整剤、界面活性剤もしくは可溶化剤、粘度増加剤、または抗感染症薬をさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の水性インサイチュゲル製剤。
【請求項7】
前記浸透圧調整剤、前記pH調整剤、前記界面活性剤もしくは前記可溶化剤、前記粘度増加剤、または前記抗感染症薬のそれぞれは、0.01~5重量%の濃度で前記製剤に含まれる、請求項6に記載の水性インサイチュゲル製剤。
【請求項8】
前記浸透圧調整剤は、塩化ナトリウム、マンニトール、グリセロール、ポリエチレングリコール400(PEG400)、ホウ酸、またはそれらの任意の組み合わせを含む、請求項6または7に記載の水性インサイチュゲル製剤。
【請求項9】
前記pH調整剤は、水酸化ナトリウム、トリスヒドロキシメチルアミノメトアン(トリス)、塩酸塩、リン酸、ホウ酸、またはそれらの任意の組み合わせを含む、請求項6または7に記載の水性インサイチュゲル製剤。
【請求項10】
前記界面活性剤または前記可溶化剤は、ポリオキシエチレン界面活性剤、ポリオキシプロピレン界面活性剤、PEG 35ひまし油、PEG 40ひまし油、ポリオキシエチレン水素化ひまし油、ポリオキシル40ステアレート、Soluplus(ソルプラス)、またはそれらの組み合わせを含む、請求項6または7に記載の水性インサイチュゲル製剤。
【請求項11】
前記界面活性剤または前記可溶化剤は、Soluplus(ソルプラス)を含む、請求項6、7、または10に記載の水性インサイチュゲル製剤。
【請求項12】
前記粘度増加剤は、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、微結晶性セルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、またはそれらの任意の組み合わせを含む、請求項6または7に記載の水性インサイチュゲル製剤。
【請求項13】
前記抗感染症薬は、抗生物質または消毒剤である、請求項6または7に記載の水性インサイチュゲル製剤。
【請求項14】
前記抗感染症薬は、ポビドンヨード、ネチルマイシン、トブラマイシン、ドキシサイクリンヒクラート、またはシプロフロキサシンを含む、請求項6または7に記載の水性インサイチュゲル製剤。
【請求項15】
ナノキャリアは、ジフルプレドナートと共にまたはジフルプレドナートをカプセル化して、前記界面活性剤または前記可溶化剤によって形成され、ジフルプレドナートは、ミセル膜の一部であるかまたは前記ナノキャリア内にカプセル化され、前記ナノキャリアは、10~500nmの平均粒子径を有する、請求項6~7および11~12のいずれか1項に記載の水性インサイチュゲル眼科用製剤。
【請求項16】
前記ナノキャリアは、10~150nmまたは10~50nmの平均粒子径を有する、請求項15に記載の水性インサイチュゲル眼科用製剤。
【請求項17】
眼障害の症状の治療または緩和を必要とする対象における眼障害の症状を治療または緩和するための方法であって、治療上有効量の請求項1~16のいずれか1項に記載の水性インサイチュゲル眼科用製剤を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項18】
前記障害は、炎症性障害または眼の痛みである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記障害は、眼科手術に関連する炎症または痛みである、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2019年8月18日に出願された米国出願62/888,534号の優先権を主張し、その内容はその全体が参照をもって本明細書に組み込まれる。
【0002】
ジフルプレドナートは、眼科手術に伴う炎症および痛みの治療に有用な副腎皮質ステロイド外用薬である。それは、以下に示す構造の6α-9α-ジフルオロ酢酸プレドニゾロンの酪酸エステルである。
【化1】
【0003】
ジフルプレドナートは実質的に水に不溶性である。現在市販されているジフルプレドナートの眼科用製剤であるDUREZOL(登録商標)は、エマルジョン剤形であり、ひまし油相と水相との間に乳化された0.05%w/vのジフルプレドナートを含む。1日4回投与する場合、眼科手術および内因性前部ブドウ膜炎に伴う炎症および痛みの治療に使用されてきた。
【0004】
しかし、Durezol(登録商標)エマルジョン製剤は、深刻な欠点である長時間の作用を提供しない。それは1日4回投与する必要があり、患者の服薬不履行および投与量の不足を高率で引き起こす。さらに、Durezol(登録商標)を投与された患者(対象)で最も一般的な副反応(そのような患者の5~10%で発生)には、かすみ目、眼の刺激、眼の痛み、頭痛、眼圧(IOP)の上昇、虹彩炎、辺縁および結膜の高血症、ならびに点状角膜炎を含むことが、Durezol(登録商標)の承認されたラベルに報告され記載されている。したがって、そのような副作用が少ないかまたはまったくないジフルプレドナートの製剤が望ましい。
【0005】
さらに、米国特許第10,092,514 B2号は、黄斑浮腫を治療するためのジフルプレドナート水中油型エマルジョンを開示し、US2012/0135947は、局所投与用のジフルプレドナートおよびトブラマイシンを含む水中油型エマルジョンを開示する。Durezol(登録商標)と同様に、これらの特許で開示されている製剤は、エマルジョンを形成するための疎水性成分としてひまし油を必要とする。ひまし油は、Restasis(登録商標)およびDurezol(登録商標)などの眼科用溶液に使用されるが、かゆみ、発赤、炎症、およびその他の不快な眼の問題などの副作用を引き起こし得、それらはDurezol(登録商標)の使用でも確認されている。さらに、ひまし油は一部の患者にアレルギー反応を引き起こし得る。
【0006】
水中油型エマルジョン製剤に加えて、US2018/0311159は、水性ビヒクル中の0.02%~0.04%の濃度で唯一の有効成分としてジフルプレドナートを含む点眼液を開示し、ここで溶液は油を含まず、溶液は1日2回投与される。この点眼液は、ジフルプレドナートが水溶液から沈殿または結晶化するのを防ぐために結晶成長阻害剤を必要とする。結晶成長阻害剤は、ポリビニルアルコールまたはその誘導体である。ポリビニルアルコールは、刺激を防ぎまたは眼の乾燥を和らげるための潤滑剤として点眼液に見いだされる。しかし、その使用により、一時的にかすみ目、軽度の灼熱感/刺痛/刺激、さらにはまれな重篤なアレルギー反応を引き起こし得る。
【0007】
従来技術で開示されるジフルプレドナート製剤では、エマルジョン(ひまし油が使用される)または結晶成長阻害剤(ポリビニルアルコールまたはその誘導体)のいずれかが、ジフルプレドナートの低い溶解度を克服するために使用されたが、これらの添加剤は非常に望ましくない副作用をもたらす。
【0008】
本発明は、既存のジフルプレドナート製剤に関連する上記の問題に対する解決策を提供する。
【0009】
(本発明の簡単な説明)
一般に、本発明は、インサイチュゲル技術に基づく新規なジフルプレドナート製剤を提供する。本発明の新規製剤は、眼における薬物保持時間を増加させ、眼におけるジフルプレドナート(有効成分)のバイオアベイラビリティを増加させる。本発明によって提供される各インサイチュゲル製剤は、水性製剤であり、油を含まず、副作用が少ない。本発明のインサイチュゲル製剤は、任意の結晶成長阻害剤を使用せずにジフルプレドナートが沈殿するのを防ぐことができる。一方、インサイチュゲル徐放技術は、眼の刺激、眼の痛み、および眼の異物感などの副反応を減らすこともできる。さらに、インサイチュゲル技術は、適切な可溶化剤/界面活性剤とさらに組み合わせて、溶解度を高めおよび/またはナノキャリアを形成して、より小さな粒子を形成し、これにより、薬物透過性および薬物効力を高めることができる。
【0010】
本発明のインサイチュゲル送達システムは、角膜の前での薬物の保持時間を延長し、これは、眼における薬物のバイオアベイラビリティを改善するのに役立つ。理想的には、インサイチュゲルシステムは、保存中の低粘度で自由流動性の液体であり、これにより、点眼液を繰り返しかつ容易に眼に使用することができる。結膜嚢に投与した後、それは眼の前に付着する半固体のゲルを形成する。粘度は、眼のせん断力に耐え、眼の前での薬物(ジフルプレドナート)の保持時間を延長するのに十分でなければならない。徐放性薬物は、バイオアベイラビリティを改善し、全身吸収を減らし、投薬の頻度を減らし、それによって患者のコンプライアンスを改善するのに役立ち得る。
【0011】
したがって、一態様では、本発明は、水、ジフルプレドナート、および生体適合性多糖を含む水性インサイチュゲル眼科用製剤を提供し、製剤を眼に点眼すると瞬時に粘度が上昇し、生理的温度でゲルがインサイチュで形成される。
【0012】
適切な生体適合性多の例は、脱アセチル化ジェランガム(DGG)、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、ヒアルロン酸、およびそれらの任意の組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、多糖はDGGである。
【0013】
ジフルプレドナートまたは多糖は、ほとんどの治療効果および最小の副作用をもたらす濃度、例えば、0.01~10.0重量%、0.01~5.0重量%、0.01~2.5重量%、または1%もしくは1.5重量%で、製剤に含まれ得る。
【0014】
本発明の水性インサイチュゲル製剤は、浸透圧調整剤、pH調整剤、界面活性剤もしくは可溶化剤、粘度増加剤、または抗感染症薬をさらに含み得る。これらの任意の添加物のそれぞれは、0.01~10.0重量%、0.01~5.0重量%、0.01~2.5重量%、または1重量%もしくは1.5重量%の濃度を有し得る。
【0015】
適切な浸透圧調整剤の例は、塩化ナトリウム、マンニトール、グリセロール、ポリエチレングリコール400(PEG400)、ホウ酸、およびそれらの任意の組み合わせを含む。適切なpH調整剤の例は、水酸化ナトリウム、トリスヒドロキシメチルアミノメトアン(トリス)、塩酸塩、リン酸、ホウ酸、およびそれらの任意の組み合わせを含む。適切な界面活性剤または可溶化剤の例は、ポリオキシエチレン界面活性剤、ポリオキシプロピレン界面活性剤、PEG 35ひまし油、PEG 40ひまし油、エトキシル化水素化ひまし油、ポリオキシル40ステアレート、Soluplus(ソルプラス)、およびそれらの任意の組み合わせを含む。適切な粘度増加剤の例は、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、微結晶性セルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、およびそれらの任意の組み合わせを含む。
【0016】
本発明の製剤のいくつかの実施形態では、界面活性剤または可溶化剤は、以下の式を有する、Soluplus(ポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコールグラフトコポリマー(PCL-PVAc-PEG))である。
【化2】
【0017】
本発明のいくつかの実施形態では、抗感染症薬は、抗生物質または消毒剤である。適切な抗感染症薬の例は、ポビドンヨード(または他のヨウ素含有化合物)、ネチルマイシン、トブラマイシン、ドキシサイクリンヒクラート、およびシプロフロキサシンを含む。
【0018】
本発明のいくつかの実施形態では、製剤は、界面活性剤または可溶化剤によって形成された、ジフルプレドナートを含むまたはジフルプレドナートをカプセル化するナノキャリアを含み、ナノキャリアは、10~500nm(または10~250nm、10~200nm、10~150nm、10~100nm、または10~50nm)の平均粒子径を有する。そのようなナノキャリアは、ジフルプレドナートの溶解度も増加させる可溶化剤または界面活性剤の存在の結果として形成されるミセルであり得る。ナノキャリアがジフルプレドナートを含む界面活性剤または可溶化剤によって形成される場合、ジフルプレドナートと界面活性剤または可溶化剤が一緒になってミセル膜を形成する。一方で、ナノキャリアがジフルプレドナートをカプセル化する界面活性剤または可溶化剤によって形成される場合、ジフルプレドナートは、界面活性剤の親水性末端によって形成される膜の内側に含まれる。
【0019】
(特定の生体適合性多糖に基づく)インサイチュゲルシステムとナノキャリア/ミセル送達システムの組み合わせは、ナノキャリアを介したジフルプレドナートの膜輸送を改善するだけでなく、バイオフィルムへのジフルプレドナートの浸透性を高め得、ジフルプレドナートの安定性、薬物溶解度を改善し、そして持続的な方法でターゲットを絞った送達を提供し得る。
【0020】
本発明の別の態様は、眼障害の症状の治療または緩和を必要とする患者(対象)における眼障害の症状を治療または緩和するための方法を提供する。方法は、上記のように、治療上有効量の水性インサイチュゲル眼科用製剤を患者または対象に投与することを含む。製剤は、眼に点眼するとインサイチュでゲルを形成し、持続的にジフルプレドナートを眼に放出する。
【0021】
そのような眼の障害の例は、眼の炎症性障害または痛み、特に眼科手術(中または後)に関連する炎症または痛みを含む。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
【
図6】製剤3(インサイチュゲルミセル溶液)と製剤6(エマルジョン溶液)の経時的な放出プロファイル(パーセンテージ)を示す。
【0028】
【発明を実施するための形態】
【0029】
(発明の詳細な説明)
本発明の製剤は、製剤を眼に点眼するとインサイチュでゲルを形成する、ジフルプレドナートおよび水溶性の生体適合性多糖を含む水性組成物である。本発明の製剤は、眼の手術に関連する炎症および疼痛などの眼の炎症性障害の治療に有用である。
【0030】
具体的には、本発明の製剤は、有効成分としてジフルプレドナートを含み、インサイチュでのゲル化材料またはマトリックスとして生体適合性多糖を含む水性組成物である。
【0031】
本明細書で使用される場合、「インサイチュゲル」という用語は、溶液または懸濁液として適用され、注入時に外部刺激(温度、pHなど)によって引き起こされる急速なゾルからゲルへの変換を受けることができるシステムを指す。
【0032】
本発明の製剤に含まれる多糖は、脱アセチル化ジェランガム(DGG)、カラギーナン、およびアルギン酸ナトリウム、またはこれらの材料の混合物を含み得る。0.05%~1%(w/w)の範囲の濃度で、脱アセチル化ジェランガムが好ましい場合がある。
【0033】
本発明の製剤は、浸透圧調整剤、pH調整剤、界面活性剤、粘度増加剤、および他の医薬的に許容される成分をさらに含み得る。
【0034】
本発明の製剤に含まれる適切な浸透圧調整剤は、塩化ナトリウム、マンニトール、グリセロール、ポリエチレングリコール400(PEG400)またはホウ酸を含み得る。浸透圧調整剤の濃度は、0.1~5.0%(w/w)の範囲であり得る。
【0035】
本発明の製剤中の適切なpH調整剤は、水酸化ナトリウム、トリスヒドロキシメチルアミノメトアン(トリス)、塩酸塩(HCl)、リン酸またはホウ酸を含む。製剤の最終pHは、3.5~8.0の範囲、好ましくは4.0~6.0の範囲であり得る。
【0036】
本発明の製剤に含まれる適切な界面活性剤は、ポリオキシエチレン界面活性剤、ポリオキシプロピレン界面活性剤、PEG35ひまし油、PEG40ひまし油、ポリオキシエチレン水素化ひまし油、ポリオキシル40ステアレート、Soluplusまたはそれらの任意の組み合わせを含む。医薬組成物中の界面活性剤は、0.01%~5%の範囲の濃度を有し得る。
【0037】
本明細書で使用される場合、「ナノキャリア」という用語は、「ミセル」または「ナノミセル」と交換可能であり、液体コロイド中に分散された界面活性剤分子の凝集体(または超分子集合体)を意味する。
【0038】
ミセルはほぼ球形である。楕円体、円柱、および二重層などの形状を含む他の相も可能である。ミセルの形状と大きさは、その界面活性剤分子の分子構造と、界面活性剤の濃度、温度、pH、およびイオン強度などの溶液条件の関数である。ミセルを形成するプロセスはミセル化として知られており、それらの多形性に応じて多くの脂質の相挙動の一部を形成する。
図7に示されているのは球状ミセルである。
【0039】
本発明の適切な粘度増加剤は、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、微結晶性セルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムまたはそれらの任意の組み合わせを含む。粘度増加剤の濃度は、0.01%~2%(w/w)の範囲であり得る。
【0040】
本発明の製剤は、第2の有効成分として抗感染症薬をさらに含み得る。本発明における抗感染症薬は、抗生物質、ヨウ素含有化合物、または眼科用製剤に適した他の抗感染剤であり得る。抗生物質は、ネチルマイシン、トブラマイシン、ドキシサイクリンヒクラート、シプロフロキサシンまたは他の適切な抗生物質であり得る。ヨウ素含有化合物は、ポビドンヨードなどの可溶化剤と複合体を形成したヨウ素を含むヨードフォアであり得る。
【0041】
本発明の製剤は、任意で抗菌防腐剤を含み得る。任意の抗生物質剤が自己防腐剤として機能する場合もあり得るが、複数回用量パッケージの汚染を防ぐために、適切な抗菌防腐剤が追加され得る。そのような薬剤は、塩化ベンザルコニウム、チメロサール、クロロブタノール、メチルパラベン、プロピルパラベン、フェニルエチルアルコール、EDTA、ソルビン酸、オナマーM、当業者に知られている他の薬剤、またはそれらの組み合わせを含み得る。通常、このような防腐剤は、0.001%~1.0%(w/w)のレベルで使用される。
【0042】
本発明は、特定の実施例を用いてさらに解明される。これらの実施例は、本発明を説明するためにのみ使用され、本発明の範囲を限定することを意図するものではないことが理解される。以下の実施例に特定の条件がない実験方法は、通常、文献の従来の条件下で、または賦形剤の製造業者によって提案された条件に従って調製される。特に明記しない限り、本発明におけるすべてのパーセンテージ、比率、割合または分数は、重量で計算される。本発明で特に定義されていない限り、本明細書で使用されるすべての専門的および科学的用語は、十分に訓練された要員が精通し得るのと同じ意味を有する。さらに、本発明に記録されたものと類似または同等の任意の方法および材料が本発明に適用され得る。本明細書に記載の好ましい実施形態および材料は、例示的な目的のためにのみ使用される。
【0043】
実施例1:フルプレドナートのインサイチュゲル懸濁液の製剤化
脱アセチル化ジェランガム(DGG)、キサンタンガム、カッパ-カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、およびヒアルロン酸ナトリウムを含むさまざまな多糖をスクリーニングして、最適な眼のゲル形成マトリックスを選択した。キサンタンガムまたはヒアルロン酸ナトリウムを含む製剤は、インサイチュゲル化能力を示すことができなかった。キサンタンまたはヒアルロン酸ナトリウムを含む製剤の粘度は、人工涙液と混合した後は増加しなかった。カラギーナンまたはアルギン酸ナトリウムを含む製剤は、人工涙液と混合した後に粘度の増加を示し、それはいくつかインサイチュゲル化特性を示したが、人工涙液と混合した後の粘度は低すぎ(<50cp)、したがって、製剤のインサイチュゲル化特性は最適ではない。カラギーナンまたはアルギン酸ナトリウムをゲル形成剤として使用する場合、製剤を最適化するために、適切な粘度増加剤などの追加の成分が必要である。DGGを含む製剤は一般に、DGG濃度が最適化された場合、生理学的条件下でインサイチュゲル化能力を示した。したがって、DGGが製剤中のゲル形成マトリックスとして選択された。
【0044】
製剤調製プロセス:塩化ナトリウムとマンニトールを注入用の水に溶解した。次に、ジェランガムをゆっくりと溶液に加え、60~70℃に加熱して完全に溶解させた。次に、溶液を室温まで冷却して、溶液1を提供した。ジフルプレドナートをグリセリンに分散させて懸濁液2を提供した。懸濁液2を溶液1に加え、よく混合する。最終懸濁液のpHをトロメタミンでpH5.5に調整した。典型的な製剤(製剤1)を表1に示す。懸濁液は安定しており、室温で少なくとも2ヶ月間、懸濁液から固体が沈殿しなかった。
【表1】
【0045】
人工涙液(水中で0.678%のNaCl、0.218%のNaHCO
3、0.0084%のCaCl
2・2H
2O、および0.138%のKCl)と混合した場合と混合しない場合のサンプルの粘度を33℃で試験した。サンプルと人工涙液の混合比は3:7である。表2および
図1は、さまざまなせん断速度での粘度を示した。粘度は、両方の条件でせん断速度の増加とともに減少した。人工涙液と混合した後、粘度が有意に増加し、インサイチュゲル特性を示すことが見出された。
【表2】
【0046】
実施例のインサイチュゲル懸濁液は、ジフルプレドナートの凝集および沈殿を防ぎ得る。しかしながら、それは溶解度を増加させず、したがって薬物の透過性を増加させなかった。より良い溶解度とバイオアベイラビリティを提供するために、粒子径を小さくすると溶解度および浸透性を改善できるため、微粉化されたジフルプレドナートが必要になり得る。
【0047】
実施例2:適切な界面活性剤/可溶化剤の選択
ジフルプレドナートの溶解度を改善するために、さまざまな界面活性剤/可溶化剤を調査して、適切な可溶化剤を発見した。ポロキサマー188、ポロキサマー407、ポリソルベート80、PEG 40ひまし油、PEG 60ひまし油、PEG 40水素化ひまし油、ポリオキシル40ステアレート、およびSoluplusなどのさまざまな界面活性剤/可溶化剤をさまざまな濃度の水に溶解した。ジフルプレドナートを、0.05%の最終ジフルプレドナート濃度で界面活性剤溶液に添加した。ジフルプレドナートの溶解度を測定した。表3は、異なる界面活性剤/可溶化剤とのジフルプレドナートの溶解度を示す。ポロキサマー188、ポリソルベート80などの一般的な可溶化剤は、ジフルプレドナートの溶解度を効果的に高めることができないことが見い出された。驚くべきことに、製剤中のジフルプレドナートの溶解度がわずか0.6%のSoluplus添加で99%を超えたため、Soluplusはジフルプレドナートの最適な可溶化剤であることが見い出された。Soluplusは、ポリエチレングリコール、ポリ酢酸ビニル、およびポリビニルカプロラクタム系グラフトコポリマー(PVAc-PVCap-PEG)である。水または他の水溶液中でナノミセルを形成し、難溶性のジフルプレドナートを可溶化し得る。
【0048】
Soluplusに加えて、ポリオキシエチレンひまし油界面活性剤もジフルプレドナートの溶解度を向上させ得る。ジフルプレドナートの溶解度は、5%ポリオキシエチレンひまし油(EL-40)で99.5%、5%ポリオキシエチレンひまし油(RL-40)で>98%である。ポリオキシエチレン(60)ひまし油およびポリオキシエチレンひまし油(EL-35)も、ジフルプレドナートの溶解度を95%超に高める得るが、ジフルプレドナートの95%超の溶解度を達成するには、そのような可溶化物の少なくとも4または5%が必要であることが見い出された。したがって、Soluplusが好ましい可溶化剤であった。
【表3】
【0049】
実施例3:可溶化剤としてSoluplusを用いたジフルプレドナートインサイチュゲル溶液の製剤化
ジフルプレドナートのインサイチュゲルナノミセル溶液は、可溶化剤としてSoluplusを使用して調製された。製剤は、実施例1に記載されたのと同様の方法で調製された。Soluplusを使用した2つの溶液は、表4に示す製剤で得られた。
【表4】
【0050】
粒子径を測定したところ、平均粒子径は、製剤2では74.5nm、製剤3では67.0nmであり、Soluplusの添加によってナノミセルが形成されたことを示す。2つの製剤の粘度を試験した。表5、
図2および
図3は、人工涙液を使用した場合と使用しない場合で試験した上記の2つの製剤の粘度を示す。製剤2の場合、粘度が製剤1と比較してはるかに低いため、インサイチュゲルは非常に弱かった。したがって、インサイチュゲル化製剤への可溶化剤としてのSoluplusの添加は、実際にジェランガムのゲル形成特性を弱め、より低い粘度をもたらすことが見出された。塩化ナトリウム濃度が0.20%から0.25%に増加した製剤3の場合、人工涙液と混合した後、有意なインサイチュゲルが形成された。したがって、我々は、製剤のイオン強度を最適化して、より優れたインサイチュゲルナノミセル製剤を実現し得る。
【表5】
【0051】
実施例4:可溶化剤としてRH-40を用いたジフルプレドナートインサイチュゲル製剤の製剤化
ジフルプレドナートインサイチュゲル製剤は、実施例1に記載されたのと同様の方法で、可溶化剤としてポリオキシエチレン水素化ひまし油(RH-40)を用いて調製された。表6に示す製剤を有する2つの溶液が得られた。RH-40のFDA IIG安全要件は1%以下であるため、これらの製剤には1%RH-40および0.8%RH-40が使用された。
【表6】
【0052】
製剤4および5の粒子径が測定され、これらの2つの製剤についてミセルが形成されなかったことが見出された。室温での保存中にわずかに白い懸濁液が観察され得るが、製剤から固体が沈殿することはない。驚くべきことに、ジフルプレドナートを含む5%RH-40を追加しても、ミセルが形成されないことが見い出された。3日以上の保存後に少量の懸濁液が観察され得るため、溶液の安定性はインサイチュゲルミセル溶液ほど良くはない。
【0053】
表7、
図4および
図5は、人工涙液と混合する前後の上記の2つの製剤の粘度を示した。製剤4の人工涙液と混合する前でもゲルが形成されていることが見い出された。同じ濃度のジェランガムと塩化ナトリウムを使用した製剤1と製剤2とを比較すると、可溶化剤としてRH-40を使用するとゲル形成が増加し、したがって、人工涙液と混合する前でもゲルが形成されることが見い出された。ジェランガム、塩化ナトリウム、およびRH-40(製剤5)の濃度を下げると、最初のゲル形成を防ぐことができ、人工涙液と混合した後にのみインサイチュゲルが形成された。また、5%RH-40および0.2%ジェランガム、塩化ナトリウムを含む製剤は、適切なインサイチュゲル製剤を形成するために必要ではないことが見い出された。粘度は6RPMで100cpであったが、人工涙液と混合した後、粘度は160cpに増加した。
【表7】
【0054】
実施例5: In-vitro溶解研究
インサイチュゲルミセル製剤のin-vitro放出を評価するために、実施例3の製剤3は、それが粘度試験に基づいて適切なインサイチュゲルを形成することができ、ミセルの形成により溶液の安定性が最適であるため、溶解研究のために選択された。
【0055】
ジフルプレドナートエマルジョン製剤(製剤6)は、表8に示されているのと同じ市販のDurezol(登録商標)製剤を使用して対照として調製された。簡単に説明すると、ジフルプレドナートを油相としてひまし油に溶解した。グリセリン、ポリソルベート80、ホウ酸、酢酸ナトリウム、EDTAナトリウム、およびソルビン酸を注入用に水に溶解した。水相として水溶液のpHをpH5.5に調整した。油相を水相に加え、混合物をホモジナイザーで均一化した。得られた溶液の粒子径を測定し、平均径は123.7nmであり、エマルジョンが首尾よく形成されたことを示している。製剤6は、インサイチュゲル溶液の徐放性能を研究するための対照として使用された(製剤3)。
【0056】
溶解法を用いてin-vitro放出研究を実施した。まず、1gのサンプル(インサイチュゲル溶液またはエマルジョン溶液)と4gの人工涙液を50mlのプラスチックチューブに入れ、それを5分間置いて、ンサイチュゲル溶液用のンサイチュゲルを形成した。次に、35gのPBS緩衝剤(0.05%SDSを含むpH 7.4)をチューブの壁からゆっくりと加え、底部の溶液が撹拌されないようにした。上から1gの溶液サンプルを、10分、20分、30分、および1時間で収集した。毎回溶液サンプルを収集した後、溶解媒体を合計40gに保つために、1gのPBS緩衝剤を添加した。ジフルプレドナートの濃度は、HPLC法を使用して測定した。各製剤のジフルプレドナートの総濃度は、溶解溶液を振とうし、HPLC分析用に1gのサンプルを採取することによって得られた。
【表8】
【0057】
人工涙液と混合すると、製剤3のインサイチュゲルミセル溶液に対してゲルが形成されることが観察された。PBS溶液を加えると、ゲルはゆっくりと膨潤し、ゲルマトリックスはチューブの底から上に向かって徐々に膨張した。in vitro溶解研究は60分間実施され、ゲルは研究の終わりに維持され、完全に侵食されなかった。製剤6については、ゲルが形成されず、チューブ内の全溶液がすぐに均一になることが発見された。
【0058】
図6は、製剤3および製剤6のジフルオプレドナートの累積放出パーセンテージを示す。驚くべきことに、製剤3では1時間後にジフルプレドナートの40%しか放出されなかったのに対し、製剤6では10分以内に100%の放出が達成された。インサイチュゲルは製剤3で形成され、ゲルは膨潤したが、研究を通してゲルマトリックスを維持した。ジフルプレドナートの60%はまだゲル内に含まれており、現在のin-vitro研究では1時間後に放出されなかった。現在のin-vitro研究ではゲルは分解されなかった。in-vivoの条件は、現在のin-vitroの条件とは異なると予想される。ゲルはin-vivoでゆっくりと分解し、涙で洗い流されると予想され、したがって、ゲルに充填された薬剤は、眼にゆっくりと放出されると予想される。in-vitro放出研究は、形成されたインサイチュゲルがジフルプレドナートの一部を放出し(製剤3では40%)、残りのジフルプレドナート(60%)の放出を延長し得ることを示した。インサイチュゲルは、in-vivoでゆっくりと崩壊し、延長された方法でジフルプレドナートを放出すると予想される。
【国際調査報告】