(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-25
(54)【発明の名称】構造色で色付けされたコーティングフィルムの製造方法及びそのコーティングフィルムから得られた物品
(51)【国際特許分類】
B05D 5/06 20060101AFI20221018BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20221018BHJP
B05D 1/36 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
B05D5/06 104C
B05D7/24 301H
B05D1/36 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022511229
(86)(22)【出願日】2020-08-17
(85)【翻訳文提出日】2022-04-20
(86)【国際出願番号】 EP2020072955
(87)【国際公開番号】W WO2021032659
(87)【国際公開日】2021-02-25
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2019/101378
(32)【優先日】2019-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390008981
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーティングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】BASF Coatings GmbH
【住所又は居所原語表記】Glasuritstrasse 1, D-48165 Muenster,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】リン,シー
(72)【発明者】
【氏名】シェファー,クリスティアン,ゲルハルト
(72)【発明者】
【氏名】コー,チヤンピン
(72)【発明者】
【氏名】ワン,チューアン
【テーマコード(参考)】
4D075
【Fターム(参考)】
4D075AE03
4D075BB26Z
4D075CB27
4D075CB36
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4D075DC12
4D075EA07
4D075EA12
4D075EB16
4D075EB20
4D075EB22
4D075EB31
4D075EB32
4D075EB33
4D075EB35
4D075EB36
4D075EB38
4D075EB43
4D075EB45
4D075EC30
4D075EC54
(57)【要約】
本発明は、i).少なくとも2種の有機溶媒を含む溶媒混合物中に分散させたコロイド粒子を、基材上に施与して、コロイド粒子層を形成する工程、ii).コロイド粒子層を乾燥させて、フォトニック結晶構造層を形成する工程、iii).少なくとも1種の熱架橋性樹脂と少なくとも1種の架橋剤とを含むコーティング組成物を、フォトニック結晶構造層上に施与して、コーティングを形成する工程、及びiv).熱硬化させる工程を含む、構造色で色付けされたコーティングフィルムの製造方法、及び本発明の方法から得ることができる又は得られた少なくとも1種の構造色で色付けされたコーティングフィルムを有する物品を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
i). 少なくとも2種の有機溶媒を含む溶媒混合物中に分散させたコロイド粒子を、基材上に施与して、コロイド粒子層を形成する工程、
ii). 前記コロイド粒子層を乾燥させて、フォトニック結晶構造層を形成する工程、
iii). 少なくとも1種の熱架橋性樹脂と少なくとも1種の架橋剤とを含むコーティング組成物を、フォトニック結晶構造層上に施与して、コーティングを形成する工程、及び
iv). 熱硬化させる工程
を含む、構造色で色付けされたコーティングフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記溶媒混合物が、高沸点を有する少なくとも1種の溶媒と、低沸点を有する少なくとも1種の溶媒とを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
高沸点を有する前記溶媒が、グリセロール、n-ブタノール、1,5-ペンタンジオール及びプロピレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
低沸点を有する前記溶媒が、エタノール、アセトン及びイソプロパノールからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記溶媒混合物が、エタノールと、グリセロール、n-ブタノール、1,5-ペンタンジオール及びプロピレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも1種とを含む、請求項3から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
高沸点を有する前記溶媒と低沸点を有する前記溶媒との体積比が、1:10~10:1、好ましくは1:3~3:1、より好ましくは2:3~3:2である、請求項2から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記コロイド粒子の体積比が、コロイド粒子の懸濁液の合計体積に基づいて、10%~25%、好ましくは12%~23%、及びより好ましくは15%~20%である、請求項2から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1種のさらなるフォトニック結晶構造層を形成する工程の後に、少なくとも1種の熱架橋性樹脂と少なくとも1種の架橋剤とを含むコーティング組成物を施与する工程をさらに含む、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記熱架橋性樹脂が、カルボキシル基、ヒドロキシル基、ビニル基、エポキシ基及びシラノール基によって官能化された樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記熱架橋性樹脂が、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂及びフッ素樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記架橋剤が、ポリイソシアネート化合物、ブロックされたポリイソシアネート化合物、メラミン樹脂、尿素樹脂、カルボキシ官能性化合物、カルボキシ官能性樹脂、ビニル官能性樹脂、ビニル官能性化合物、エポキシ官能性樹脂及びエポキシ官能性化合物からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
熱架橋性樹脂と架橋剤との組み合わせが、カルボキシ官能性樹脂とエポキシ官能性樹脂との組み合わせ、ヒドロキシ官能性樹脂とポリイソシアネート化合物との組み合わせ、ヒドロキシ官能性樹脂とブロックされたポリイソシアネート化合物の組み合わせ、ヒドロキシ官能性樹脂とメラミン樹脂との組み合わせからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1から11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか1項に記載の方法から得ることができる又は得られた、少なくとも1種の構造色で色付けされたコーティングフィルムを有する物品。
【請求項14】
自動車のボディにおける外装パネル又は他の部品としての、請求項13に記載の物品の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コロイド粒子を伴う構造色で色付けされたコーティングフィルムの製造方法、及び得られた物品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、新しい着色技術としての構造色ベースのフォトニック結晶構造は、様々な光り輝く明るい鮮やかな色を提供し、その製造方法が環境に優しいので、ますます注目を集めている。このような構造は、基材上にコロイド粒子が自己集合(self-assembly)することによって生成される。コロイド粒子が整然と配置されている場合、フォトニック結晶構造は虹色(iridescent colors)を示す。ファンデルワールス力及び水素結合力などの、粒子間の力が比較的弱いので、自己集合構造は非常に壊れやすい。粒子間の化学結合がなければ、このような構造は水又は溶媒中で簡単に分解させることができる。
【0003】
フォトニック結晶構造の機械的安定性を改善するために、いくつかのアプローチが開発されてきた。1つのアプローチは、粒子の隙間に硬化性材料を添加し、そして材料をUV及び/又は熱によって硬化させることにより、コロイド粒子を修飾することであり、例えば、論文「Current Status and Future Developments in Preparation and Application of Colloidal Crystals」、Cong H,Yu B,et al,Chem.Soc.Rev.,2013,42,7774-7800及びCN109031476Aに記載されている。
【0004】
別のアプローチは、コアシェル構造を有するポリマー粒子を使用することであり、例えば、EP2108496Aに記載されている。ポリマー粒子のコアは硬く、自己集合する傾向がある。ポリマー粒子のシェルは、コアよりも低いガラス転移温度Tgを有し、そして自己集合したコア粒子のマトリックスを形成する傾向がある。
【0005】
さらなるアプローチは、ポリマー接着剤、例えばポリアクリレートを用いて粒子の隙間を充填することであり、例えば、論文「Rapid Fabrication of Robust,Washable,Self-Healing Superhydrophobic Fabrics with Non-Iridescent Structural Color by Facile Spray Coating」、Zeng Q,Ding C,et al,RSC Adv.,2017,7,8443-8452に記載されている。接着剤は、粒子をその場及び基材の表面に固定するために使用される。
【0006】
構造色は、様々な分野、例えば光学フィルター、ディスプレイ装置、比色センサー、塗料及び繊維の着色等に応用できる可能性がある。しかしながら、コーティングフィルムとしての構造色は使用が限られている。なぜなら所望の色度及び彩度(color saturation)を有する安定した構造色で色付けされたコーティングフィルムを大規模に製造するには、大きな課題が存在するからである。
【0007】
CN101260194Aは、スプレーコーティングによりポリマーコロイドフォトニック結晶フィルムを製造する方法を開示しており、これにより構造色で色付けされたコーティングフィルムを大規模に製造することが可能となる。
【0008】
CN107538945Aは、スプレーコーティング、ブレーディング又はインクジェット印刷による均質なフォトニック結晶コーティングの製造方法を開示しており、ここで高沸点を有する溶媒と低沸点を有する溶媒とを混合し、コロイド粒子の溶媒として使用する。高沸点を有する溶媒は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ホルムアミド及びアセトアミドから選択される少なくとも1種である。低沸点を有する溶媒は、水、エタノール及びメタノールから選択される少なくとも1種である。この方法は、粒子の不均質な分布、すなわちいわゆる「コーヒーリング」問題を回避することができると述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】CN109031476A
【特許文献2】EP2108496A
【特許文献3】CN101260194A
【特許文献4】CN107538945A
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「Current Status and Future Developments in Preparation and Application of Colloidal Crystals」、Cong H,Yu B,et al,Chem.Soc.Rev.,2013,42,7774-7800
【非特許文献2】「Rapid Fabrication of Robust,Washable,Self-Healing Superhydrophobic Fabrics with Non-Iridescent Structural Color by Facile Spray Coating」、Zeng Q,Ding C,et al,RSC Adv.,2017,7,8443-8452
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って依然として、所望の色度、彩度、及び角度依存性色を有する安定した構造色で色付けされたコーティングフィルムの製造方法、及び得られた物品を提供する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
1つの態様において、本発明は、以下の工程、
i). 少なくとも2種の有機溶媒を含む溶媒混合物中に分散させたコロイド粒子を、基材上に施与して、コロイド粒子層を形成する工程、
ii). コロイド粒子層を乾燥させて、フォトニック結晶構造層を形成する工程、
iii). 少なくとも1種の熱架橋性樹脂と少なくとも1種の架橋剤とを含むコーティング組成物を、フォトニック結晶構造層上に施与して、コーティングを形成する工程、及び
iv). 熱硬化させる工程
を含む、構造色で色付けされたコーティングフィルムの製造方法を開示する。
【0013】
本発明の第1の態様による方法の一実施形態では、溶媒混合物は、高沸点を有する少なくとも1種の有機溶媒と、低沸点を有する少なくとも1種の有機溶媒とを含む。
【0014】
本発明の第1の態様による方法の別の実施形態において、高沸点を有する有機溶媒は、グリセロール、n-ブタノール、1,5-ペンタンジオール及びプロピレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも1種であり、そして低沸点を有する有機溶媒は、エタノール、アセトン及びイソプロパノールからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0015】
本発明の第1の態様による方法の別の実施形態において、溶媒混合物は、エタノールと、グリセロール、n-ブタノール、1,5-ペンタンジオール及びプロピレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも1種とを含む。
【0016】
別の態様では、本発明は、構造色で色付けされたコーティングフィルムの本発明による製造方法から得られた、構造色で色付けされたコーティングフィルムを有する物品を開示する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1(a)及び(b)はそれぞれ、本発明の方法によって調製されたシリカコロイド粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)画像及び走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
【
図2】
図2は、比較例1.1、1.2及び1.3におけるフォトニック結晶構造のデジタル写真画像を示す。
【
図3】
図3(a)、(a’)、(b)、(b’)、(c)、(c’)、(d)、(d’)、(e)及び(e’)はそれぞれ、実施例1.1、1.2、1.3、1.4及び比較例1.4で得られたフォトニック結晶構造のデジタル写真画像及び反射スペクトルのグラフを示す。
【
図4】
図4(a)、(a’)、(b)、(b’)、(c)、(c’)、(d)及び(d’)はそれぞれ、比較例2.1、実施例2.1、実施例2.2、及び比較例2.2で得られたフォトニック結晶構造のデジタル写真画像及び光学顕微鏡画像を示す。
図4(e)は、実施例2.1、2.2及び比較例2.1、2.2で得られたフォトニック結晶構造の反射スペクトルのグラフを示し、曲線の連続番号は、各曲線のピーク高さに従って(最高から最低まで)付与されている。
【
図5】
図5(a)~(c)は、実施例3で得られた構造色で色付けされたコーティングフィルムのデジタル写真画像を示す。
図5(d)は、実施例3で得られた構造色で色付けされたコーティングフィルムの反射スペクトルのグラフを示す。
【
図6】
図6(a)~(d)は、少なくとも1種の熱架橋性樹脂と少なくとも1種の架橋剤とを含むコーティング組成物を施与する前に、実施例4で得られたSiO
2フォトニック結晶構造層のデジタル写真画像を示す。
図6(a’)~(d’)は、実施例4で得られた最終的な構造色で色付けされたコーティングフィルムのデジタル写真画像を示し、各画像の数字は、SiO
2、プロピレンカーボネート及びエタノールの体積比を表す。
【
図7】
図7(a)は、251nm、242nm、218nm及び192nm(左から右へ)の寸法をそれぞれ有するシリカ粒子を含有する、実施例5で得られた赤色、黄色がかった色、緑色及び青色の構造色で色付けされたコーティングフィルムを示す。
図7(b)は、251nm、242nm、218nm及び192nm(左から右へ)の寸法をそれぞれ有するシリカ粒子を含有する、実施例5で得られた赤色、黄色がかった色、緑色及び青色の構造色で色付けされたコーティングフィルムの光学顕微鏡画像を示す。
図7(c)は、251nm、242nm、218nm及び192nm(左から右へ)の寸法をそれぞれ有するシリカ粒子を含有する、実施例5で得られた赤色、黄色がかった色、緑色及び青色の構造色で色付けされたコーティングフィルムの走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
図7(d)は、251nm、242nm、218nm及び192nm(左から右へ)の寸法をそれぞれ有するシリカ粒子を含有する、実施例5で得られた赤色、黄色がかった色、緑色及び青色の構造色で色付けされたコーティングフィルムの反射スペクトルのグラフを示す。
【
図8】
図8(a)及び(b)はそれぞれ、実施例6で得られた紫色の構造色で色付けされたコーティングフィルムのデジタル写真画像(左)及び光学顕微鏡画像(右)を示す。
図8(c)は、実施例6で得られたSiO
2フォトニック結晶構造層及び最終的な構造色で色付けされたコーティングフィルムの反射スペクトルのグラフを示す。
【
図9】
図9(a)及び(b)はそれぞれ、実施例7で得られた21cm×29.7cmの寸法の平面基材上の構造色で色付けされたコーティングフィルムの光学画像(左)及び光学顕微鏡画像(右)を示す。
【
図10】
図10(a)は、実施例8で得られた、角度依存性色、すなわち、上からは黄色がかった緑色、そして横からは緑色がかった青色を示す、立体基材上の構造色で色付けされたコーティングフィルムのデジタル写真画像を示す。
図10(b)は、実施例9で得られた、角度依存性色、すなわち、上からは赤色、そして横からは緑色を示す、立体基材上の構造色で色付けされたコーティングフィルムのデジタル写真画像を示す。
【
図11】
図11は、ジグザグスプレーコーティングの経路の概略を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は様々な方式で実施することができ、且つ本明細書に記載する実施形態に限定されないものと理解される。特に明確に指示のない限り、本明細書で使用されるあらゆる技術用語及び科学用語は、当業者によって認識される共通の意味を有する。文脈内で、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈が明確に指示しない限り、複数の対象を含む。
【0019】
「本発明による方法」という用語は、構造色で色付けされたコーティングフィルムの本発明による製造方法を指す。
【0020】
「コロイド粒子」という用語は、無機コロイド粒子及び/又はポリマーコロイド粒子を指す。
【0021】
「物品」という用語は、本発明による方法から得られた、その上に構造色で色付けされたコーティングフィルムが施与された製品を指す。
【0022】
「基材」という用語は、コロイド粒子の懸濁液がその上に施与されてフォトニック結晶構造層が形成される表面を有する任意の物体を指す。基材は、コロイド粒子の1つ以上の層で被覆することができる。
【0023】
「熱架橋性樹脂」という用語は、場合により触媒の存在下で加熱することによって任意の架橋剤と反応する少なくとも1種の官能基を有する任意の樹脂を指す。
【0024】
「高沸点」という用語とは、101.325kPaで110℃以上の沸点を指す。
【0025】
「低沸点」という用語は、101.325kPaで100℃未満の沸点を指す。
【0026】
本発明の第1の態様によれば、構造色で色付けされたコーティングフィルムの製造方法は、
i). 少なくとも2種の有機溶媒を含む混合物中に懸濁したコロイド粒子を、基材上に施与して、コロイド粒子層を形成する工程、
ii). コロイド粒子層を乾燥させて、フォトニック結晶構造層を形成する工程、
iii). 少なくとも1種の熱架橋性樹脂と少なくとも1種の架橋剤とを含むコーティング組成物を、フォトニック結晶構造層上に施与して、コーティングを形成する工程、及び
iv). 熱硬化させる工程
を含む。
【0027】
本発明による方法において、基材は、金属材料か、又はプラスチックなどの非金属材料のいずれかである。金属材料の例には、鉄、アルミニウム、真ちゅう、銅、スズ、ステンレス鋼、亜鉛めっき鋼、めっき鋼板等が含まれる。プラスチック材料の例には、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)、ポリアミド、アクリル、塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリウレタン、エポキシ樹脂及び繊維強化プラスチックが含まれる。
【0028】
基材は、コロイド粒子懸濁液を施与するための平面か、又は立体(stereo)である。基材表面の色は、物品の所望の色効果によって決定される。いくつかの実施形態では、基材の表面は黒色である。
【0029】
本発明による方法のいくつかの実施形態において、基材は、乗用車、トラック、オートバイ及びバスなどの自動車の外装パネル又は他の部品である。場合により、金属基材の表面には、表面処理、例えばホスフェート処理、クロメート処理及び複合酸化物処理が施与される。場合により、基材には、電気コート、プライマー及び/又はベースコートが施与される。
【0030】
本発明による方法において、コロイド粒子は、単分散無機粒子及び/又はポリマー粒子である。単分散無機粒子の例として、シリカ、チタニア、二酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、硫化亜鉛、セレン化亜鉛、硫化カドミウム、金、銀、及びパラジウムの粒子が挙げられる。無機粒子は、球状か、又は非球状のいずれかであり、既知の方法、例えば、Cong H,Yu B,et al,「Current Status and Future Developments in Preparation and Application of Colloidal Crystals」,Chem.Soc.Rev.,2013,42,7774-7800に記載されている改良Stoeber法によって調製される。
【0031】
単分散ポリマー粒子の例として、置換又は無置換のポリスチレン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリビニルアセテート、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリラクチド及びその誘導体、ポリ(メタ)アクリロニトリル、ポリウレタン及びそれらのコポリマーが挙げられる。好ましくは、単分散ポリマー粒子は、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ乳酸、ポリアクリロニトリル、ポリブチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリn-ブチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリクロロスチレン、ポリα-メチルスチレン、ポリスチレン/ブタジエン、ポリN-ヒドロキシメチルアクリルアミド、ポリスチレン-メチルメタクリレート、ポリヒドロキシアクリレート、ポリアミノアクリレート、ポリシアノアクリレート、ポリフルオロメチルメタクリレート、ポリメチルメタクリレート-ブチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート-エチルアクリレート、ポリスチレン-メチルメタクリレート、ポリウレタン及びそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種である。単分散ポリマー粒子は、乳化重合、分散重合、溶液重合及び懸濁重合の任意の既知の方法によって調製される。
【0032】
いくつかの実施形態において、単分散ポリマー粒子は、コア-シェル構造を有する。好ましくは、このようなポリマー粒子は、少なくとも1種の疎水性モノマー及び少なくとも1種の親水性モノマーの共重合から、既知の方法、例えば、Zhang Y,et al.,Fabrication of functional colloidal photonic crystals based on well-designed latex particles、第2.1項、Journal of Materials Chemistry,2011,5、及びCN101260194Aに記載されているアプローチを用いて、得ることができる。
【0033】
コロイド粒子は、150nm~400nm、好ましくは160nm~350nm、より好ましくは170nm~300nm、さらにより好ましくは180nm~270nm、及び最も好ましくは190nm~255nmの粒径を有する。
【0034】
無機粒子又はポリマー粒子を溶媒混合物中に分散させて、コロイド粒子の懸濁液を形成する。溶媒混合物は、高沸点を有する少なくとも1種の溶媒と、低沸点を有する少なくとも1種の溶媒とを含む。
【0035】
高沸点を有する溶媒と低沸点を有する溶媒との体積比は、好ましくは1:10~10:1、より好ましくは1:3~3:1、さらにより好ましくは2:3~3:2である。
【0036】
好ましくは、高沸点を有する溶媒は、グリセロール、n-ブタノール、1,5-ペンタンジオール及びプロピレンカーボネートからなる群から選択され、そして低沸点を有する溶媒は、エタノール、アセトン及びイソプロパノールからなる群から選択される。
【0037】
いくつかの実施形態において、溶媒混合物は、エタノールと、グリセロール、n-ブタノール、1,5-ペンタンジオール及びプロピレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも1種とを含む。
【0038】
懸濁液中の無機粒子又はポリマー粒子の体積比は、コロイド粒子の懸濁液の合計体積に基づいて、好ましくは10%~25%、より好ましくは12%~23%、及びさらにより好ましくは15%~20%である。
【0039】
コロイド粒子の懸濁液は、任意の既知の方法、例えば、エアスプレーコーティング、エアレススプレーコーティング、静電スプレーコーティング、ロータリーアトマイズコーティング、スピンコーティング及びロールコーティングを用いて、基材上に施与される。コーティング層を乾燥させて、基材の表面(単数又は複数)上にフォトニック結晶構造層を形成する。乾燥工程は、15℃~160℃、好ましくは45℃~130℃、より好ましくは50℃~110℃、及び最も好ましくは55℃~90℃の温度で行う。
【0040】
いくつかの実施形態において、熱架橋性樹脂と架橋剤とを含むコーティング組成物を施与する前に、少なくとも2層のフォトニック結晶構造層を形成する。複数のフォトニック結晶構造層を形成するためのコロイド粒子の懸濁液は、互いに同一であるか、又は異なる。1種類のコロイド粒子の懸濁液を用いて2層以上のフォトニック結晶構造層を形成すると、彩度が向上する。一方で、1種類を超えるコロイド粒子の懸濁液を用いて2層以上のフォトニック結晶構造を形成すると、色効果が現れる。例えば、粒径の異なるコロイド粒子の懸濁液を2種以上用いると、混色層が生成される。コロイド粒子懸濁液を基材に施与して、複数の層を形成する。一実施形態では、複数の層を一緒に乾燥させる。そして別の実施形態では、下層を乾燥させた後に上層を被覆する。複数の層を乾燥させた後、少なくとも1種の熱架橋性樹脂と少なくとも1種の架橋剤とを含むコーティング組成物を、前記複数の層の最外層上に施与する。
【0041】
以下、少なくとも1種の熱架橋性樹脂と少なくとも1種の架橋剤とを含むコーティング組成物を、代替的に「熱硬化性コーティング組成物」とも称する。
【0042】
熱硬化性コーティング組成物は、有機溶媒系か、又は水系のいずれかである。
【0043】
好ましくは、熱架橋性樹脂は、カルボキシル基、ヒドロキシル基、ビニル基、エポキシ基及び/又はシラノール基の群から選択される少なくとも1種の熱架橋性官能基を有する。熱架橋性樹脂の例として、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂及びフッ素樹脂が挙げられる。
【0044】
架橋剤の例として、ブロック化及び非ブロック化ポリイソシアネート、メラミン樹脂、尿素樹脂、カルボキシル官能性化合物、ビニル官能性化合物及びエポキシ官能性化合物が挙げられる。
【0045】
熱架橋性樹脂と架橋剤との組み合わせの例として、カルボキシル官能性樹脂とエポキシ官能性樹脂との組み合わせ、ヒドロキシル官能性樹脂とポリイソシアネート化合物との組み合わせ、ヒドロキシル官能性樹脂とブロックされたポリイソシアネート化合物との組み合わせ、及びヒドロキシル官能性樹脂とメラミン樹脂との組み合わせ、好ましくは、ヒドロキシ官能アクリル樹脂とメラミン-ホルムアルデヒド樹脂との組み合わせ、ヒドロキシル官能アクリル樹脂とポリイソシアネート化合物との組み合わせ、ヒドロキシル官能アクリル樹脂とブロックされたポリイソシアネート化合物との組み合わせ、ヒドロキシル官能ポリエステル樹脂とメラミン-ホルムアルデヒド樹脂との組み合わせ、ヒドロキシル官能ポリエステル樹脂とポリイソシアネート化合物との組み合わせ、ヒドロキシル官能ポリエステル樹脂とブロックされたポリイソシアネート化合物との組み合わせ、ヒドロキシル官能アルキド樹脂とメラミン-ホルムアルデヒド樹脂との組み合わせ、ヒドロキシル官能アルキド樹脂とポリイソシアネート化合物との組み合わせ、ヒドロキシル官能アルキド樹脂とブロックされたポリイソシアネート化合物との組み合わせ、ヒドロキシル官能ウレタン樹脂とメラミンホルムアルデヒド樹脂との組み合わせ、ヒドロキシル官能ウレタン樹脂とポリイソシアネート化合物との組み合わせ、ヒドロキシル官能ウレタン樹脂とブロックされたポリイソシアネート化合物との組み合わせ、及びそれらの混合物が挙げられる。
【0046】
熱硬化性コーティング組成物は、さらに、UV吸収剤、光安定剤、消泡剤、増粘剤、防食剤、表面制御剤等を含む。場合により、熱硬化性コーティング組成物は、さらに、顔料、染料等を、構造色で色付けされたコーティングフィルムの色に悪影響を与えない量で含む。
【0047】
熱硬化性コーティング組成物は、一液型(one-pack)か、又は多液型(multi-pack)のいずれかである。
【0048】
いくつかの実施形態において、基材は、自動車のボディ又は部品に使用され、そして熱硬化性コーティング組成物は、任意の自動車用クリアコート配合物である。
【0049】
好ましくは、熱硬化性コーティング組成物は、30質量%~40質量%の熱架橋性樹脂、15質量%~30質量%の架橋剤、35質量%~50質量%の溶媒、及び場合により4質量%~8質量%の添加剤を含む。
【0050】
一実施形態では、熱硬化性コーティング組成物は、30質量%~40質量%のヒドロキシル官能性アクリル樹脂、15質量%~30質量%のポリイソシアネート、35質量%~50質量%の溶媒、及び場合により4質量%~8質量%の添加剤を含む。
【0051】
熱硬化性コーティング組成物は、既知の方法、例えば、エアスプレーコーティング、エアレススプレーコーティング、及びロータリーアトマイズコーティングなどのスプレーコーティングを用いて、フォトニック結晶構造層上に施与される。
【0052】
熱硬化性コーティング組成物の熱硬化は、既知の方法、例えば熱風加熱、赤外線加熱又は高周波加熱により、60℃~200℃の温度で15~60分間行われる。硬化温度は、基材材料及び熱硬化性コーティング組成物に応じて変わる。プラスチック基材の場合、硬化温度は、好ましくは60~90℃である。
【0053】
場合により、本発明による方法は、物品の様々な用途に応じて、熱硬化性コーティング層又は任意の他の所望の後処理上に、追加のコーティング層を形成するさらなる工程を含む。
【0054】
第2の態様において、本発明は、本発明による方法から得ることができる又は得られた、構造色で色付けされたコーティングフィルムを有する物品を提供する。いくつかの実施形態において、物品は、乗用車、トラック、オートバイ及びバスなどの自動車の外装パネル又は部品である。
【0055】
本発明を、本発明の範囲を限定することを意図しない実施例によってさらに説明する。
【実施例】
【0056】
以下の装置を使用して、実施例及び比較例で調製された試料のデジタル写真画像、任意の画像、任意の顕微鏡画像及び反射スペクトルを得た。
(1) デジタル写真画像:One Plus6、背面カメラ、中国
(2) 光学画像:オリンパスBXFM、日本
(3) 光学顕微鏡画像:オリンパスBXFM、日本
(4) 反射スペクトル:プローブ型スペクトロメータ、Ocean Optics Maya2000、米国。
【0057】
以下のコーティング配合物を、実施例及び比較例において使用した。
黒色塗料処方物は、
(1) 100体積部のGlasurit(登録商標)90-A926 Black Tinter(BASF Coatings GmbH社)
(2) 40体積部のGlasurit(登録商標)93-E3 Adjusting Base(BASF Coatings GmbH社)、及び
(3) 5体積部のGlasurit(登録商標)590-100 Basecoat Activator(BASF Coatings GmbH社)
を含む。
【0058】
クリアコート処方物は、
(1) 100体積部のGlasurit(登録商標)MS Clear923-155(BASF Coatings GmbH社、約41質量%又は約35体積%の固形分を有するヒドロキシル官能性アクリル樹脂の溶液)、
(2) 50体積部のGlasurit(登録商標)MS929-91(BASF Coatings GmbH社、約45質量%又は約38体積%の固形分を有するポリイソシアネート架橋剤の溶液)、及び、
(3) 15体積部のGlasurit(登録商標)352-91 Reducer(BASF Coatings GmbH社、希釈剤)
を含む。
【0059】
シリカコロイド粒子の調製(改良Stoeber法)
アルギニン0.087mgと水87mlを混合し、25℃で10分間撹拌した。その後、テトラエチルオルトシリケート(TEOS、質量濃度98%、Sinopharm Chemical Reagent Co.Ltd.社、中国)5.55mlを加え、そして得られた混合物を70℃で24時間撹拌した。TEMで測定したおよそ20nmの寸法を有する粒子を含有するシリカ種の溶液を得た。
【0060】
アンモニア水(NH
3・H
2O、質量濃度28%)40ml、エタノール(質量濃度99.9%)1000ml及び水1000mlを混合し、25℃で10分間撹拌した。シリカ種の溶液600μLを撹拌しながら添加し、次いでテトラエチルオルトシリケート(TEOS、98%)80mlを加えた。得られた混合物を70℃で24時間撹拌した。遠心分離及びエタノールによる4回の洗浄後に、218nmの寸法を有する約22gの単分散シリカ球粒子(
図1に示す)を得た。
【0061】
190nm、192nm、242nm及び251nmの粒径を有する単分散シリカ球粒子を、それぞれ1000μL、990μL、450μL及び400μLのシリカ種の溶液を用いて、上記の方法により調製した。
【0062】
黒色基材の調製
カソード電気泳動CG800(BASF Coatings GmbH社から市販されている)のコーティングを有するスチールパネル上に、空気スプレーガン(SATAjet(登録商標)5000-120 Digital、SATA GmbH&Co.KG社、ドイツ、ノズル径1.3mm)を用いて、0.35MPaの空気圧で、2℃の温度で黒色塗料を施与し、そして同温度で3分間フラッシュオフした。
【0063】
構造色で色付けされたコーティングフィルムの一般的な調製手順
単分散シリカ球粒子を溶媒中に分散させ、シリカコロイド粒子の懸濁液を得た。シリカコロイド粒子の懸濁液を、エアブラシ(U-STAR S-120、U-STAR Model Tools Co.Ltd.社、台湾から入手可能)を使用し、0.17MPaの空気圧下、基材から6cm離れた距離で、黒色基材上に手動で噴霧した。スプレーコーティングは、
図11に示すように、基材上のコーティング層が連続的且つ均質であるように、ジグザグの経路でエアブラシを動かして行った。コーティング層を90℃の温度で10分間乾燥させ、シリカフォトニック結晶構造層を得た。
【0064】
このシリカフォトニック結晶構造層上に、エアブラシ(U-STAR S-120、U-STAR Model Tools Co.Ltd.社、台湾から入手可能)を使用し、0.17MPaの空気圧下、基材から6cmの距離で、クリアコート組成物を噴霧した。スプレーコーティングは、
図11に示すように、ジグザグの経路でエアブラシを動かして、基材上のコーティング層が連続的且つ均質であることを確実にした。得られたコーティングを24℃で5分間フラッシュオフした。被覆した基材を60℃の対流オーブン中で20分間硬化させ、構造色で色付けされたコーティングフィルムを得た。
【0065】
特に示されない限り、以下の実施例は、上述の一般的な手順を使用した。
【0066】
実施例1.1
190nmの粒径を有する単分散シリカ球粒子15体積部、プロピレンカーボネート25体積部、及びエタノール60体積部を、6cm×7cmの寸法を有する水平に置いた黒色基材上に噴霧した。乾燥後の基材上に、良好な色効果及び接着強度を示すフォトニック結晶構造層を形成することができた(
図3(a)及び(a’)に示す)。
【0067】
実施例1.2
グリセロール25体積部及びエタノール60体積部を用いて単分散シリカ球粒子15体積部を分散させたことを除き、実施例1.1のプロセスを繰り返した。基材上に、許容可能な色効果及び接着強度を示すフォトニック結晶構造層を形成することができた(
図3(b)及び(b’)に示す)。
【0068】
実施例1.3
ブタノール25体積部及びエタノール60体積部を用いて単分散シリカ球粒子15体積部を分散させたことを除き、実施例1.1のプロセスを繰り返した。基材上に、良好な色効果及び接着強度を示すフォトニック結晶構造層を形成することができた(
図3(c)及び(c’)に示す)。
【0069】
実施例1.4
1,5-ペンタンジオール25体積部及びエタノール60体積部を用いて単分散シリカ球粒子15体積部を分散させたことを除き、実施例1.1のプロセスを繰り返した。基材上に、許容可能な色効果及び接着強度を示すフォトニック結晶構造層を形成することができた(
図3(d)及び(d’)に示す)。
【0070】
比較例1.1
190nmの粒径を有する単分散シリカ球粒子15体積部を、プロピレンカーボネート85体積部の溶媒中に分散させ、シリカコロイド粒子の懸濁液を得た。この懸濁液を、6cm×7cmの寸法を有する水平に置いた黒色基材上に噴霧し、そして被覆した基材を乾燥させた。基材上に、色の彩度が良好な基材から剥離しやすいフォトニック結晶構造層が形成された(
図2に示す)。
【0071】
シリカ球粒子の体積部は、単分散シリカ球粒子の質量を、P.Jiang et al,Single-Crystal Colloidal Multilayers of Controlled Thickness,Chem. Mater.1999,11,2132-2140に記載されている2.04g/mlの密度で除することによって計算した。
【0072】
比較例1.2
エタノール85体積部を用いて単分散シリカ球粒子15体積部を分散させたことを除き、比較例1.1のプロセスを繰り返した。割れ(cracks)を伴うフォトニック結晶構造層を得た(
図2に示す)。
【0073】
比較例1.3
エチレングリコール85体積部を用いて単分散シリカ球粒子15体積部を分散させたことを除き、比較例1.1のプロセスを繰り返した。フォトニック結晶構造層は基材から容易に剥離し、深刻な収縮を示した(
図2に示す)。
【0074】
プロピレンカーボネート、エタノール及びエチレングリコールを溶媒として単独で使用した場合、欠陥を有するフォトニック結晶構造層が得られることが分かった。
【0075】
比較例1.4
エチレングリコール25体積部及びエタノール60体積部を用いて単分散シリカ球粒子15体積部を分散させたことを除き、比較例1.1のプロセスを繰り返した。
図3(e)及び(e’)に示すように、かなり乏しい色効果を有するフォトニック結晶構造層が得られた。
【0076】
驚くべきことに、エタノールと、プロピレンカーボネート、グリセロール、n-ブタノール及び1,5-ペンタンジオールからなる群から選択される少なくとも1種とを含む混合溶媒を単分散シリカ球粒子の分散に使用した場合、良好な色効果及び基材への十分な接着強度を有するフォトニック結晶構造層を形成できることが分かった。対照的に、エタノールとエチレングリコールとの混合溶媒を使用した場合、許容できない欠陥を伴うフォトニック結晶構造層が得られた。
【0077】
実施例2.1
190nmの粒径を有する単分散シリカ球粒子15体積部を、プロピレンカーボネート42.5体積部とエタノール42.5体積部との溶媒混合物中に分散させ、シリカコロイド粒子の懸濁液を得た。このシリカコロイド粒子の懸濁液を、6cm×7cmの寸法を有する水平に置いた黒色基材上に噴霧し、そして被覆した基材を乾燥させた。
【0078】
良好な色効果及び接着強度を有するフォトニック結晶構造層が基材上に形成された(
図4(b)、(b’)及び(e)に示す)。
【0079】
実施例2.2
プロピレンカーボネート40体積部とエタノール40体積部との溶媒混合物を用いて単分散シリカ球粒子20体積部を分散させたことを除き、実施例2.1のプロセスを繰り返した。基材上に、良好な色効果及び接着強度を有するフォトニック結晶構造層が形成された(
図4(c)、(c’)及び(e)に示す)。
【0080】
比較例2.1
190nmの粒径を有する単分散シリカ球粒子10体積部を、プロピレンカーボネート45体積部とエタノール45体積部との溶媒混合物中に分散させ、シリカコロイド粒子の懸濁液を得た。このシリカコロイド粒子の懸濁液を、6cm×7cmの寸法を有する水平に置いた黒色基材上に噴霧した。フォトニック結晶構造層が、基材の噴霧していない領域にも形成された(
図4(a)、(a’)及び(e)に示す)。
【0081】
比較例2.2
プロピレンカーボネート37.5体積部とエタノール37.5体積部との溶媒混合物を用いて単分散シリカ球粒子25体積部を分散させたことを除き、比較例2.1のプロセスを繰り返した。フォトニック結晶構造層は、不十分な結晶の集合により乏しい色効果を示した(
図4(d)、(d’)及び(e)に示す)。
【0082】
実施例3
251nmの粒径を有する単分散シリカ球粒子の懸濁液(a)、(b)及び(c)を、垂直に置いた黒色基材上にそれぞれ噴霧したことを除き、実施例1.1のプロセスを繰り返してフォトニック結晶構造層を得た。その後、クリアコート組成物をフォトニック結晶構造層上に施与し、構造色で色付けされたコーティングフィルムを得た。このようにして、3つの試料を調製した。
懸濁液(a):15体積部の単分散シリカ球粒子、及び42.5体積部のプロピレンカーボネートと42.5体積部のエタノールとの溶媒混合物を含有する懸濁液。
懸濁液(b):18体積部の単分散シリカ球粒子、及び41体積部のプロピレンカーボネートと41体積部のエタノールとの溶媒混合物を含有する懸濁液。
懸濁液(c):20体積部の単分散シリカ球粒子、及び40体積部のプロピレンカーボネートと40体積部のエタノールとの溶媒混合物を含有する懸濁液。
【0083】
図5(a)~(d)に示すように、各場合とも良好な色効果及び接着強度を有する赤色のコーティングフィルムを基材上に形成することができた。そして単分散シリカ球粒子の体積比が懸濁液の全体積に対して18%の場合に、コーティングフィルムは最も均質であり且つ飽和色を示した。
【0084】
実施例4
251nmの粒径を有する単分散シリカ球粒子18体積部を、表1に記載の量のプロピレンカーボネートとエタノールとの溶媒混合物中に分散させ、シリカコロイド粒子の一連の懸濁液を得た。その後、これらの懸濁液を6cm×7cmの寸法を有する垂直に置いた黒色基材上に噴霧し、そして被覆した基材を乾燥させた。
図6(a)~(d)に示すように、得られたフォトニック結晶構造層No.4.1~4.4(左から右)は、良好な色効果を有していた。
【0085】
クリアコート組成物をフォトニック結晶構造層上に施与し、構造色で色付けされたコーティングフィルムを得た。各基材上に、良好な色効果及び接着強度を示す赤色のコーティングフィルムが形成された(
図6(a’)~(d’)に示す)。そして、構造色で色付けされたコーティングフィルムは、プロピレンカーボネート対エタノールの体積比が1:1のときに、最も飽和した且つ均質な色を示した(
図6(c’)に示す)。
【0086】
【0087】
実施例5
251nm、242nm、218nm及び192nmの粒径をそれぞれ有する単分散シリカ球粒子18体積部を、プロピレンカーボネート41体積部とエタノール41体積部との溶媒混合物中に分散させ、シリカコロイド粒子の一連の懸濁液を得た。その後、これらの懸濁液を6cm×7cmの寸法を有する垂直に置いた黒色基材上に噴霧し、そして被覆した基材を乾燥させた。フォトニック結晶構造層上にクリアコート組成物を施与して構造色で色付けされたコーティングフィルムを得た。
【0088】
図7(a)に示すように、251nm、242nm、218nm及び192nmの粒径をそれぞれ有するシリカ粒子を用いて得られたコーティングフィルムは、赤色、黄色、緑色及び青色を呈した。これらの光学顕微鏡画像、SEM画像及び反射スペクトルを
図7(b)~(d)に示す。このように1つのアプローチとして、構造色効果は、シリカ粒子の粒径によって調整される。
【0089】
実施例6
251nmの粒径を有する単分散シリカ球粒子18体積部を、プロピレンカーボネート41体積部とエタノール41体積部との溶媒混合物中に分散させ、シリカコロイド粒子の懸濁液(1)を得た。6cm×7cmの寸法を有する水平に置いた黒色基材上に、エアブラシ(U-STAR S-120、U-STAR Model Tools Co.Ltd.社、台湾から入手可能)を使用し、0.17MPaの空気圧下、基材から6cm離れた距離で、懸濁液(1)を噴霧し、そして被覆した基材を25℃で乾燥させた。
【0090】
続いて、192nmのシリカ粒径を有する単分散シリカ球粒子18体積部を、プロピレンカーボネート41体積部とエタノール41体積部との溶媒混合物中に分散させ、シリカコロイド粒子の懸濁液(2)を得た。懸濁液(2)を、懸濁液(1)と同じ条件下で基材上に噴霧した。
【0091】
スプレーコーティングは、
図11に示すように、基材上のコーティング層が連続的且つ均質であるように、ジグザグの経路でエアブラシを動かして行った。被覆した基材を90℃の温度で10分間乾燥させ、そしてクリアコート組成物でさらに被覆して、構造色で色付けされたコーティングフィルムを得た。
【0092】
図8(a)~(c)に示すように、紫色のコーティングフィルムが得られた。「紫色」効果は、下の赤色フォトニック結晶構造層と、上の青色フォトニック結晶構造層との組み合わせからもたらされる。
【0093】
実施例7
218nmの粒径を有する単分散シリカ球粒子18体積部を、プロピレンカーボネート41体積部とエタノール41体積部との溶媒混合物中に分散させ、シリカコロイド粒子の懸濁液を得た。そして25μmの厚さの黒色コーティングを有する21cm×29.7cmの寸法の黒色基材を調製した。垂直に置いた黒色基材上に、スプレーガン(SATAjet(登録商標)5000-120 Digital、SATA GmbH&Co.KG社、ドイツ、ノズル径1.3mm)を用いて、0.35MPaの空気圧で、基材から14cm離れた距離で懸濁液を噴霧した。スプレーコーティングは、
図11に示すように、基材上のコーティング層が連続的且つ均質であるように、ジグザグの経路でエアブラシを動かして行った。被覆した基材を90℃の温度で10分間乾燥させて、シリカフォトニック結晶構造層を得た。
【0094】
シリカフォトニック結晶構造層に、スプレーガン(SATAjet(登録商標)5000-120 Digital、SATA GmbH&Co.KG社、ドイツ、ノズル径1.3mm)を用いて、0.35MPaの空気圧で、基材から14cm離れた距離でクリアコート組成物を噴霧した。スプレーコーティングは、
図11に示すように、基材上のコーティング層が連続的且つ均質であるように、ジグザグの経路でエアブラシを動かして行った。得られたコーティングを24℃で5分間フラッシュオフした。被覆した基材を60℃の対流オーブン中で20分間乾燥させ、構造色で色付けされたコーティングフィルムを得た。
【0095】
図9(a)及び(b)に示すように、得られたコーティングフィルムは高い飽和色を示した。
【0096】
コーティングフィルムの均質性は、磁気厚さ計Aicevoos AS-X6(Wuhan Zhongce Hongtu Measuring Instrument Co.,Ltd.社、中国から市販されている)によって、コーティングフィルムの厚さを5cm×8cmの領域内の9つの異なる地点で測定することにより、試験した(
図9(a)に示す)。
【0097】
厚さ測定結果を表2に示す。
【0098】
【0099】
フォトニック結晶コーティングフィルムの平均膜厚は23.5μm、標準偏差は2.1%であり、これは比較的均質なフォトニック結晶コーティングフィルムが得られたことを意味する。
【0100】
実施例8
18cm×8cm×6cmの立体自動車模型を用いて、自動車車体のコーティング過程をシミュレートした。この模型に空気塗装噴霧器(SATAjet(登録商標)5000-120 Digital、SATA GmbH&Co.KG社、ドイツ、ノズル径1.3mm)を用いて、0.35MPaの空気圧で、約24℃の温度で黒色塗料を被覆し、それから同温度で3分間フラッシュオフして、黒色の立体基材を得た。
【0101】
プロピレンカーボネート41体積部とエタノール41体積部との溶媒混合物中の218nmの粒径を有する単分散シリカ球粒子18体積部で、シリカコロイド粒子の懸濁液を得た。スプレーガン(SATAjet(登録商標)5000-120 Digital、SATA GmbH&Co.KG社、ドイツ、ノズル径1.3mm)を用いて、0.35MPaの空気圧で、基材から14cm離れた距離で、実施例7に記載のようにジグザグの経路で、懸濁液を黒色立体基材上に噴霧し、そして60℃の温度で乾燥させて、シリカフォトニック結晶構造層を得た。
【0102】
シリカフォトニック結晶構造層に、スプレーガン(SATAjet(登録商標)5000-120 Digital、SATA GmbH&Co.KG社、ドイツ、ノズル径1.3mm)を用いて、0.35MPaの空気圧で、基材から14cm離れた距離で、実施例7に記載のようにジグザグの経路でクリアコート組成物を噴霧した。得られたコーティング層を24℃で5分間フラッシュオフした。被覆した基材を60℃の対流オーブン中で20分間乾燥させ、構造色で色付けされたコーティングフィルムを得た。
【0103】
図10(a)に示すように、上面視で黄緑色(yellow green color)を有し、そして側面視で緑青色(green blue color)を有するコーティングフィルムが形成され、良好な色飽和を示した。
【0104】
実施例9
粒径251nmのシリカ球粒子の懸濁液を用いたことを除き、実施例8のプロセスを繰り返した。
図10(b)に示すように、上面視で赤色(red color)、側面視で緑色(green color)を有するコーティングフィルムが形成され、良好な色飽和を示した。
【国際調査報告】