(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-25
(54)【発明の名称】抗PD-L1シングルドメイン抗体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20221018BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20221018BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20221018BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20221018BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20221018BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20221018BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20221018BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20221018BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20221018BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20221018BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20221018BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20221018BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20221018BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20221018BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221018BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/28 ZNA
C07K16/46
C07K19/00
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
C12P21/02 C
A61K39/395 N
A61K39/395 Y
A61K47/68
A61P35/00
A61P31/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022512455
(86)(22)【出願日】2020-07-06
(85)【翻訳文提出日】2022-04-21
(86)【国際出願番号】 CN2020100462
(87)【国際公開番号】W WO2021031716
(87)【国際公開日】2021-02-25
(31)【優先権主張番号】201910777959.9
(32)【優先日】2019-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521309754
【氏名又は名称】浙江道尓生物科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】姚高峰
(72)【発明者】
【氏名】周振興
(72)【発明者】
【氏名】陳永露
(72)【発明者】
【氏名】楊志愉
(72)【発明者】
【氏名】董佳里
(72)【発明者】
【氏名】温暁芳
(72)【発明者】
【氏名】黄岩山
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE12
4B064DA05
4B065AA26X
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4B065CA44
4B065CA46
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE59
4C076FF31
4C085AA14
4C085AA21
4C085BB11
4C085CC23
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
特異的にPD-L1に対抗し、且つPD-L1/PD-1の相互作用をブロックするシングルドメイン抗体、及び、当該シングルドメイン抗体に基づき製造されるヒト化抗体、融合タンパク質、薬物組成物及びその応用を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗PD-L1シングルドメイン抗体であって、前記抗PD-L1シングルドメイン抗体の相補性決定領域CDRは、アミノ酸配列で示されるCDR1~CDR3として、
(1)SEQ ID NO:6で示されるCDR1、SEQ ID NO:15で示されるCDR2、SEQ ID NO:25で示されるCDR3、又は、
(2)SEQ ID NO:7で示されるCDR1、SEQ ID NO:16で示されるCDR2、SEQ ID NO:26で示されるCDR3、又は、
(3)SEQ ID NO:8で示されるCDR1、SEQ ID NO:16で示されるCDR2、SEQ ID NO:27で示されるCDR3、又は、
(4)SEQ ID NO:9で示されるCDR1、SEQ ID NO:17で示されるCDR2、SEQ ID NO:28で示されるCDR3、又は、
(5)SEQ ID NO:7で示されるCDR1、SEQ ID NO:16で示されるCDR2、SEQ ID NO:29で示されるCDR3、又は、
(6)SEQ ID NO:10で示されるCDR1、SEQ ID NO:18で示されるCDR2、SEQ ID NO:30で示されるCDR3、を含む抗PD-L1シングルドメイン抗体。
【請求項2】
前記抗PD-L1シングルドメイン抗体は、更にフレームワーク領域FRをそれぞれ含み、前記フレームワーク領域FRは、アミノ酸配列で示されるFR1~FR4として、
(1’)SEQ ID NO:1で示されるFR1、SEQ ID NO:11で示されるFR2、SEQ ID NO:19で示されるFR3、SEQ ID NO:31で示されるFR4、又は
(2’)SEQ ID NO:2で示されるFR1、SEQ ID NO:12で示されるFR2、SEQ ID NO:20で示されるFR3、SEQ ID NO:31で示されるFR4、又は
(3’)SEQ ID NO:3で示されるFR1、SEQ ID NO:13で示されるFR2、SEQ ID NO:21で示されるFR3、SEQ ID NO:31で示されるFR4、又は
(4’)SEQ ID NO:4で示されるFR1、SEQ ID NO:13で示されるFR2、SEQ ID NO:22で示されるFR3、SEQ ID NO:31で示されるFR4、又は
(5’)SEQ ID NO:5で示されるFR1、SEQ ID NO:12で示されるFR2、SEQ ID NO:23で示されるFR3、SEQ ID NO:32で示されるFR4、又は
(6’)SEQ ID NO:5で示されるFR1、SEQ ID NO:14で示されるFR2、SEQ ID NO:24で示されるFR3、SEQ ID NO:31で示されるFR4、を含むことを特徴とする請求項1に記載のシングルドメイン抗体。
【請求項3】
前記抗PD-L1シングルドメイン抗体は、
(a)アミノ酸配列がSEQ ID NO:33~38のいずれかで示されるシングルドメイン抗体、或いは、
(b)アミノ酸配列が、SEQ ID NO:33~38のいずれかで示される配列と80%以上の同一性を有しており、且つ、(a)のシングルドメイン抗体の機能を有するシングルドメイン抗体、を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のシングルドメイン抗体。
【請求項4】
前記抗PD-L1シングルドメイン抗体はヒト化された抗体であり、好ましくは、そのフレームワーク領域FRは、
SEQ ID NO:3で示されるFR1、
SEQ ID NO:59~61で示されるFR2、
SEQ ID NO:62~64で示されるFR3、
SEQ ID NO:65で示されるFR4、
から選択されるアミノ酸配列のFR1~FR4を含むことを特徴とする請求項1に記載のシングルドメイン抗体。
【請求項5】
前記抗PD-L1シングルドメイン抗体はヒト化抗体であり、
(i)アミノ酸配列がSEQ ID NO:39~44のいずれかで示されるシングルドメイン抗体、或いは、
(ii)アミノ酸配列が、SEQ ID NO:39~44のいずれかで示される配列と80%以上の同一性を有しており、且つ、(i)のシングルドメイン抗体の機能を有するシングルドメイン抗体、を含むことを特徴とする請求項1又は4に記載のシングルドメイン抗体。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載のシングルドメイン抗体である第1ドメインと、
体内半減期を延長する作用及び/又はエフェクター細胞に対する結合作用を有する第2ドメイン、を含む融合タンパク質。
【請求項7】
前記第2ドメインは、
好ましくはヒト免疫グロブリンFc領域である免疫グロブリンFc領域、及び/又は、
血清アルブミン又はその断片、血清アルブミンと結合するドメイン、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール-リポソーム複合体或いはそれらの組み合わせ、及び/又は、
T細胞表面分子に対し親和性を有し、及び/又は、T細胞上に存在する表面分子と結合可能な分子、を含み、
好ましくは、前記表面分子はCD3を含むことを特徴とする請求項6に記載の融合タンパク質。
【請求項8】
前記ヒト免疫グロブリンFc領域には、Fc媒介性のエフェクター機能を変化させる突然変異が含まれ、前記エフェクター機能には、CDC活性、ADCC活性、ADCP活性のうちの1又は複数の組み合わせが含まれ、或いは、
前記免疫グロブリンは、IgG、IgA1、IgA2、IgD、IgE、IgMのうちの1又は複数の組み合わせから選択され、前記IgGは、サブタイプIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4のうちの1又は複数の組み合わせから選択され、或いは、
前記免疫グロブリンFc領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:45~48のいずれかから選択され、或いは、
前記第1ドメインと第2ドメインの間には連結ペプチドが設置されており、前記連結ペプチドは、好ましくは、アラニン及び/又はセリン及び/又はグリシンからなる柔軟なポリペプチド鎖から選択され、連結ペプチドの長さは3~30個のアミノ酸であることが好ましいことを特徴とする請求項7に記載の融合タンパク質。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか1項に記載のシングルドメイン抗体をコードするか、請求項6~8のいずれか1項に記載の融合タンパク質をコードする分離したポリヌクレオチド。
【請求項10】
請求項9に記載の分離したポリヌクレオチドを含む構造体。
【請求項11】
抗体発現システムであって、請求項10に記載の構造体、又はゲノムに外来遺伝子が組み込まれている請求項9に記載のポリヌクレオチドを含み、好ましくは、前記発現システムは細胞発現システムである抗体発現システム。
【請求項12】
前記抗体の発現に適した条件において、請求項11に記載の抗体発現システムを利用して発現を行うことにより、前記抗体又は融合タンパク質を発現し、好ましくは、更に、前記抗体又は融合タンパク質を精製・分離することを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のシングルドメイン抗体、又は請求項6~8のいずれか1項に記載の融合タンパク質の製造方法。
【請求項13】
(A)請求項1~5のいずれか1項に記載のシングルドメイン抗体、又は請求項5~7のいずれか1項に記載の融合タンパク質、及び
(B)(A)に連結される機能性分子を含む免疫複合体。
【請求項14】
前記(B)は、
細胞毒素、放射性同位体、生物活性タンパク質、腫瘍表面マーカーを標的とする分子、腫瘍を抑制する分子、免疫細胞の表面マーカーを標的とする分子又は検出可能マーカー、キメラ抗原受容体技術に基づく細胞外ヒンジ領域、膜貫通領域及び細胞内シグナル領域、或いはそれらの組み合わせを含み、
好ましくは、前記腫瘍表面マーカーを標的とする分子は、腫瘍表面マーカーに結合する抗体又はリガンドであり、或いは、前記腫瘍を抑制する分子は、抗腫瘍サイトカイン又は抗腫瘍毒素であることを特徴とする請求項12に記載の免疫複合体。
【請求項15】
請求項1~5のいずれか1項に記載のシングルドメイン抗体、又は請求項6~7のいずれか1項に記載の融合タンパク質、又は請求項13~14のいずれか1項に記載の免疫複合体を含む薬物組成物。
【請求項16】
更に、薬学的に許容可能なベクターを含むことを特徴とする請求項15に記載の薬物組成物。
【請求項17】
請求項1~5のいずれか1項に記載のシングルドメイン抗体、又は請求項6~8のいずれか1項に記載の融合タンパク質、又は請求項13~14のいずれか1項に記載の免疫複合体、又は請求項15~16のいずれか1項に記載の薬物組成物の、癌の診断、治療又は予防のための製剤、試薬キット又は薬剤キットの製造における使用。
【請求項18】
前記癌は、肺癌、黒色腫、胃癌、卵巣癌、結腸癌、肝臓癌、腎臓癌、膀胱癌、乳癌、古典的ホジキンリンパ腫、血液悪性腫瘍、頭頸部癌又は鼻咽頭癌、或いはそれらの組み合わせを含むことを特徴とする請求項17に記載の使用。
【請求項19】
請求項1~5のいずれか1項に記載のシングルドメイン抗体、又は請求項6~8のいずれか1項に記載の融合タンパク質、又は請求項13~14のいずれか1項に記載の免疫複合体、又は請求項15~16のいずれか1項に記載の薬物組成物の、感染性疾患又は慢性炎症性疾患の治療又は予防における使用。
【請求項20】
請求項1~5のいずれか1項に記載のシングルドメイン抗体、又は請求項6~8のいずれか1項に記載の融合タンパク質、又は請求項13~14のいずれか1項に記載の免疫複合体、又は請求項15~16のいずれか1項に記載の薬物組成物を含む試薬キット又は薬剤キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学分野に関し、特に、抗ヒトPD-L1シングルドメイン抗体及びその応用に関する。
【背景技術】
【0002】
プログラム細胞死1リガンド1(programmed death 1 ligand 1,PD-L1)は、最も初期にはB7タンパク質ファミリーのメンバー(B7-H1と称する)のクローンとされていた(非特許文献1)。PD-L1は、I型膜貫通型タンパク質に属しており、合計290のアミノ酸からなる。また、IgV様領域を1つ、IgC様領域を1つ、膜貫通疎水性領域を1つ、及び30のアミノ酸からなる細胞内領域を1つ含む。PD-L1は、多くの免疫細胞や上皮細胞、腫瘍細胞の表面に広く発現する。PD-L1は、プログラム細胞死-1(Programmed Death-1,PD-1)受容体に結合して負の調節シグナル伝達経路を活性化する。これにより、T細胞の活性化が抑制されるか、T細胞アポトーシスが誘発される結果、免疫反応が抑制される(非特許文献2)。腫瘍の進行過程では、癌細胞がPD-L1の発現を上昇させてT細胞のアポトーシスを誘発し、免疫系による癌細胞の除去を回避する結果、疾病の進行が招来される。近年は、PD-1/PD-L1タンパク質を標的とするモノクローナル抗体薬物を利用し、PD-1/PD-L1の結合をブロックすることで、生体内T細胞の活性化及び増殖を促進して腫瘍細胞を殺傷するとの目的を達成している。この手法は、例えば、黒色腫、リンパ癌、膀胱癌、非小細胞肺癌、頭頸部癌、結腸癌といった多くの腫瘍の治療に応用されており、顕著な治療効果を得ている。よって、PD1/PD-L1経路は抗腫瘍薬研究における重要な標的となっている。現在、PD1/PD-L1経路を抑制する抗体薬は臨床で多大な成功を収めており、ブリストル・マイヤーズ・スクイブ社のニボルマブ(Nivolumab)、MSD社のMK-3475、ロシュ社のMPDL3280Aが相次いで上市している。PD1/PD-L1経路を対象とした抗体薬は、腫瘍治療市場において最も潜在力を有する分野になると思われる。
【0003】
モノクローナル抗体は、癌の検出及び生物学的分子標的治療への応用に成功しており、腫瘍治療に変革をもたらしている。しかし、従来のモノクローナル抗体(約150kD)は分子質量が大きすぎ、組織を貫通しにくいため、腫瘍領域における有効濃度が低くなり、治療効果が不十分である。また、従来の抗体は高い免疫原性を有しており、変性した抗体は元の親和性を発揮することが大変難しい。このほか、完全にヒト化する従来の抗体は、開発サイクルの長さ、生産コストの高さ、安定性の不足といった様々な要因から、臨床における応用及び普及に限界がある。これに対し、その後登場したシングルドメイン抗体は、大人のラクダ体内の重鎖抗体に由来する最小の機能的抗原結合性断片を有しており、高い安定性と、抗原結合における高い親和性を備えている。通常の抗体と比較して、シングルドメイン抗体は多くの固有の性質を有している。
【0004】
1)シングルドメイン抗体のコード配列は、ヒトVHファミリー3及び4との相同性が高いため、免疫原性が弱い。
【0005】
2)シングルドメイン抗体は、分子量がわずか15kDa程度と小さく、構造がシンプルである。そのため、微生物中で大量に発現させやすく、精製が容易である。
【0006】
シングルドメイン抗体は、固有の性質とコストの低さから応用範囲が大幅に拡大しており、疾病の治療及び診断における価値が顕在化している。しかし、従来技術では、当業者がシングルドメイン抗体をスクリーニングするにあたり依然として困難が存在しており、高
親和性、高特異性であり、且つ産業化の見込みを有するシングルドメイン抗体を獲得することは容易でない。また、3つ相補性決定領域(CDR)で抗原との結合作用を発揮する抗体は、6つのCDR領域で抗原との結合作用を発揮する抗体よりもスクリーニングが遥かに難しい。このことから、現在実際に商品化されている抗体や、前臨床研究中の抗体の主流は依然として分子量の大きなモノクローナル抗体となっている。また、それだけでなく、現在当該分野で獲得されているシングルドメイン抗体には、例えば、その特殊な構造に起因する免疫原性(ADA)の問題といった様々な課題が存在している。TAS266は、anti-DR5受容体シングルドメイン抗体であるが、第I相臨床試験中に深刻な肝毒性が存在したため開発が中止された。また、更なる研究によって、その肝毒性が被験者体内に存在するADAと密接に関連することが明らかとなった(非特許文献3)。且つ、別のanti-TNFR1 VHH抗体(GSK1995057)の第I相臨床試験でも、被験者体内に存在するADAによってサイトカインストームが発生したため、臨床試験が中止された(非特許文献4)。単一重鎖抗体(VHH)は、軽鎖が存在しない条件で高い親和性及び安定性の維持を実現するために、フレームワーク領域とCDRが一般的なヒト由来抗体とやや異なっている。特に、CDR3の構造が大きく異なっている場合が多い。多くの場合、スクリーニングで獲得される高親和性VHHのCDR3領域は、アミノ酸の成分と長さがヒト由来抗体の配列と大きく異なっている(非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7)。例えば、高親和性VHHのCDR3領域は往々にして長さが長い。また、往々にしてCysが存在し、更にはジスルフィド結合を形成することもある(非特許文献8)。特許文献1では、SEQ ID NO:28のPDL1-56配列におけるCDR1及びCDR3(IMGTコードに基づく)がCysを1つずつ有している。この増加した2つのシステインによってジスルフィド結合のミスマッチ確率が著しく増加し、ミスフォールディングが発生する。且つ、この増加した2つのシステインが形成する一対のジスルフィド結合によってヒト抗体との違いが増大し、免疫原性リスクが増加する恐れがある。周知のように、ヒト由来配列との違いが大きいほど(分かりやすく言えば、ヒト化の度合が低いほど)、潜在的免疫原性は高くなるため、人体に使用したときに、人体における抗VHH抗体の発生可能性がより高くなる。バイオ医薬品の免疫原性の度合は、往々にして臨床応用における有効性と安全性を決定付け、臨床向け開発に成功し得るか否かのポイントの一つとなる。本発明の重要な寄与の一つは、高親和性でありながら、ヒト由来抗体の構造に非常に近いVHH配列をスクリーニングにより獲得したことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2017/020801A1号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Dong他,1999,Nature Med 5:1365
【非特許文献2】Freeman他,2000J Exp Med 192:1027
【非特許文献3】Papadopoulos,K.P.,Isaacs,R.,Bilic,S.et al.Cancer Chemother Pharmacol(2015)75:887.
【非特許文献4】Journal of Clinical Immunology,2013,Volume 33,Number 7,Page 1192M.C.Holland,J.U.Wurthner,P.J.Morley
【非特許文献5】Nature(1993)363:446-8
【非特許文献6】Protein Eng(1994)7:1129-35.
【非特許文献7】Mol Immunol(1997)34:1121-31
【非特許文献8】Protein Engineering,Design & Selection,24(9):727tein,2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した従来技術の欠点に鑑みて、本発明の目的は、従来技術の課題を解決する抗ヒトPD-L1シングルドメイン抗体(ナノ抗体)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的及び関連するその他の目的を実現するために、本発明は、第1の局面において、抗PD-L1シングルドメイン抗体を提供する。当該抗体の相補性決定領域CDRは、アミノ酸配列で示されるCDR1~CDR3として、(1)SEQ ID NO:6で示されるCDR1、SEQ ID NO:15で示されるCDR2、SEQ ID NO:25で示されるCDR3、又は、(2)SEQ ID NO:7で示されるCDR1、SEQ ID NO:16で示されるCDR2、SEQ ID NO:26で示されるCDR3、又は、(3)SEQ ID NO:8で示されるCDR1、SEQ ID NO:16で示されるCDR2、SEQ ID NO:27で示されるCDR3、又は、(4)SEQ ID NO:9で示されるCDR1、SEQ ID NO:17で示されるCDR2、SEQ ID NO:28で示されるCDR3、又は、(5)SEQ ID NO:7で示されるCDR1、SEQ ID NO:16で示されるCDR2、SEQ ID NO:29で示されるCDR3、又は、(6)SEQ ID NO:10で示されるCDR1、SEQ ID NO:18で示されるCDR2、SEQ ID NO:30で示されるCDR3、を含む。
【0011】
好ましい例において、前記抗PD-L1シングルドメイン抗体は、更にフレームワーク領域FRをそれぞれ含む。前記フレームワーク領域FRは、アミノ酸配列で示されるFR1~FR4として、(1’)SEQ ID NO:1で示されるFR1、SEQ ID NO:11で示されるFR2、SEQ ID NO:19で示されるFR3、SEQ ID NO:31で示されるFR4、又は(2’)SEQ ID NO:2で示されるFR1、SEQ ID NO:12で示されるFR2、SEQ ID NO:20で示されるFR3、SEQ ID NO:31で示されるFR4、又は(3’)SEQ ID NO:3で示されるFR1、SEQ ID NO:13で示されるFR2、SEQ ID NO:21で示されるFR3、SEQ ID NO:31で示されるFR4、又は(4’)SEQ ID NO:4で示されるFR1、SEQ ID NO:13で示されるFR2、SEQ ID NO:22で示されるFR3、SEQ ID NO:31で示されるFR4、又は(5’)SEQ ID NO:5で示されるFR1、SEQ ID NO:12で示されるFR2、SEQ ID NO:23で示されるFR3、SEQ ID NO:32で示されるFR4、又は(6’)SEQ ID NO:5で示されるFR1、SEQ ID NO:14で示されるFR2、SEQ
ID NO:24で示されるFR3、SEQ ID NO:31で示されるFR4、を含む。
【0012】
別の好ましい例において、前記抗PD-L1シングルドメイン抗体は、(a)アミノ酸配列がSEQ ID NO:33~38のいずれかで示されるシングルドメイン抗体、或いは、(b)アミノ酸配列が、SEQ ID NO:33~38のいずれかで示される配列と80%以上(例えば、85%、90%、93%、95%、97%又は99%以上)の同一性を有しており、且つ、(a)のシングルドメイン抗体の機能を有するシングルドメイン抗体、を含む。
【0013】
別の好ましい例において、前記抗PD-L1シングルドメイン抗体はヒト化された抗体であり、好ましくは、そのフレームワーク領域FRは、SEQ ID NO:3で示されるFR1、SEQ ID NO:59~61で示されるFR2、SEQ ID NO:62~64で示されるFR3、SEQ ID NO:65で示されるFR4、から選択されるアミノ酸配列のFR1~FR4を含む。
【0014】
別の好ましい例において、SEQ ID NO:3で示されるFR1は、(1)~(6)のいずれかの前記シングルドメイン抗体のFR1となる。
【0015】
別の好ましい例において、SEQ ID NO:59で示されるFR2は(1)の前記シングルドメイン抗体のFR2となり、SEQ ID NO:60で示されるFR2は(2)又は(5)の前記シングルドメイン抗体のFR2となり、SEQ ID NO:61で示されるFR2は、(3)、(4)又は(6)の前記シングルドメイン抗体のFR2となる。
【0016】
別の好ましい例において、SEQ ID NO:62で示されるFR3は(1)の前記シングルドメイン抗体のFR3となり、SEQ ID NO:63で示されるFR3は、(2)、(3)、(5)又は(6)の前記シングルドメイン抗体のFR3となり、SEQ ID NO:64で示されるFR3は(4)の前記シングルドメイン抗体のFR3となる。
【0017】
別の好ましい例において、SEQ ID NO:65で示されるFR4は(1)~(6)のいずれかの前記シングルドメイン抗体のFR4となる。
【0018】
別の好ましい例において、前記抗PD-L1シングルドメイン抗体はヒト化抗体であり、(i)アミノ酸配列がSEQ ID NO:39~44のいずれかで示されるシングルドメイン抗体、或いは、(ii)アミノ酸配列が、SEQ ID NO:39~44のいずれかで示される配列と80%以上(例えば、85%、90%、93%、95%、97%又は99%以上)の同一性を有しており、且つ、(i)のシングルドメイン抗体の機能を有するシングルドメイン抗体、を含む。
【0019】
本発明は、他の局面において、上述のシングルドメイン抗体である第1ドメインと、体内半減期を延長する作用及び/又はエフェクター細胞に対する結合作用を有する第2ドメインを含む融合タンパク質を提供する。
【0020】
好ましい例において、前記第2ドメインは、好ましくはヒト免疫グロブリンFc領域である免疫グロブリンFc領域、及び/又は、血清アルブミン(例えば、ヒト由来のHSA)又はその断片、血清アルブミンと結合するドメイン(例えば、シングルドメイン抗体を含む抗血清アルブミン抗体)、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール-リポソーム複合体或いはそれらの組み合わせ、及び/又は、T細胞表面分子に対し親和性を有し、及び/又は、T細胞上に存在する表面分子と結合可能な分子、を含む(ただし、これらに限らない)。好ましくは、前記表面分子はCD3を含む(ただし、これに限らない)。
【0021】
別の好ましい例において、前記ヒト免疫グロブリンFc領域には、Fc媒介性のエフェクター機能を変化させる突然変異が含まれる。前記エフェクター機能には、CDC活性、ADCC活性、ADCP活性のうちの1又は複数の組み合わせが含まれる。
【0022】
別の好ましい例において、前記免疫グロブリンは、IgG、IgA1、IgA2、IgD、IgE、IgMのうちの1又は複数の組み合わせから選択される。また、前記IgGは、サブタイプIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4のうちの1又は複数の組み合わせから選択される。
【0023】
別の好ましい例において、前記免疫グロブリンFc領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:45~48のいずれかから選択される。
【0024】
別の好ましい例において、前記第1ドメインと第2ドメインの間には連結ペプチドが設置されている。前記連結ペプチドは、好ましくは、アラニン及び/又はセリン及び/又はグリシンからなる柔軟なポリペプチド鎖から選択され、連結ペプチドの長さは3~30個の
アミノ酸であることが好ましい。
【0025】
本発明は、他の局面において、上記いずれかのシングルドメイン抗体をコードするか、上記いずれかの融合タンパク質をコードする分離したポリヌクレオチドを提供する。
【0026】
本発明は、他の局面において、前記分離したポリヌクレオチドを含む構造体を提供する。
【0027】
本発明は、他の局面において、抗体発現システムを提供する。前記発現システムは、上記の構造体、又はゲノムに外来遺伝子が組み込まれている上記のポリヌクレオチドを含む。好ましくは、前記発現システムは細胞発現システムである。
【0028】
別の好ましい例において、前記抗体の発現に適した条件において前記抗体発現システムを利用して発現を行うことにより、前記抗体又は融合タンパク質を発現し、好ましくは、更に、上記の抗体又は融合タンパク質を精製・分離することを含む。
【0029】
本発明は、他の局面において、(A)上記いずれかのシングルドメイン抗体、又は上記いずれかの融合タンパク質と、(B)(A)に連結される(共有結合、カップリング、付着、吸着を含むが、これらに限らない)機能性分子、を含む免疫複合体を提供する。
【0030】
別の好ましい例において、前記(B)は、細胞毒素、放射性同位体、生物活性タンパク質、腫瘍表面マーカーを標的とする分子、腫瘍を抑制する分子、免疫細胞の表面マーカーを標的とする分子又は検出可能マーカー、キメラ抗原受容体技術(CAR)に基づく細胞外ヒンジ領域、膜貫通領域及び細胞内シグナル領域、或いはそれらの組み合わせを含む(ただし、これらに限らない)。
【0031】
別の好ましい例において、前記腫瘍表面マーカーを標的とする分子は、腫瘍表面マーカーに結合する抗体又はリガンドである。或いは、上記の腫瘍を抑制する分子は、抗腫瘍サイトカイン又は抗腫瘍毒素である。
【0032】
別の好ましい例において、前記サイトカインは、例えば、IL-12、IL-15、IFN-beta、TNF-alphaである(ただし、これらに限らない)。
【0033】
別の好ましい例において、前記検出可能マーカーは、例えば、蛍光マーカー、発色マーカーである(ただし、これらに限らない)。
【0034】
別の好ましい例において、上記の腫瘍表面マーカーに結合する抗体は、PD-L1以外のその他の抗原を識別する抗体である。上記のその他の抗原は、例えば、EGFR、EGFRvIII、mesothelin、HER2、EphA2、Her3、EpCAM、MUC1、MUC16、CEA、Claudin 18.2、葉酸受容体、Claudin 6、WT1、NY-ESO-1、MAGE 3、ASGPR1又はCDH16である(ただし、これらに限らない)。
【0035】
別の好ましい例において、上記の細胞内シグナル領域は、例えば、CD3ζ鎖、FcεRIγチロシン活性化モチーフ、共刺激シグナル分子CD27、CD28、CD137、CD134、MyD88、CD40等の細胞内シグナル領域である(ただし、これらに限らない)。或いは、前記膜貫通領域は、例えばCD8又はCD28の膜貫通領域である(ただし、これらに限らない)。
【0036】
本発明は、他の局面において、薬物組成物(例えば診断用試薬といった診断用組成物を含む)を提供する。前記薬物組成物は、上記いずれかのシングルドメイン抗体、又は上記い
ずれかの融合タンパク質、又は上記いずれかの免疫複合体を含む。
【0037】
別の好ましい例において、前記薬物組成物は、更に、薬学的に許容可能なベクターを含む。
【0038】
本発明は、他の局面において、前記シングルドメイン抗体、前記融合タンパク質、又は前記免疫複合体、又は前記薬物組成物の、癌の診断、治療又は予防のための製剤、試薬キット又は薬剤キットの製造における使用を提供する。
【0039】
別の好ましい例において、前記癌は、肺癌、黒色腫、胃癌、卵巣癌、結腸癌、肝臓癌、腎臓癌、膀胱癌、乳癌、古典的ホジキンリンパ腫、血液悪性腫瘍、頭頸部癌又は鼻咽頭癌、或いはそれらの組み合わせを含む。
【0040】
本発明は、他の局面において、前記シングルドメイン抗体、又は前記融合タンパク質、又は前記免疫複合体、又は前記薬物組成物の、感染性疾患又は慢性炎症性疾患の治療又は予防における使用を提供する。
【0041】
本発明は、他の局面において、前記のシングルドメイン抗体、又は前記融合タンパク質、又は前記免疫複合体、又は前記薬物組成物を含む試薬キット又は薬剤キットを提供する。
【0042】
本発明のその他の面は、本文の開示内容から当業者にとって自明である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】
図1は、PD-L1/PD-1の相互作用に対する本発明のAnti-PDL1-Fc融合タンパク質のブロック曲線である。
【
図2】
図2は、Jurkat細胞の免疫反応に対する本発明のAnti-PDL1-Fc融合タンパク質の影響をルシフェラーゼ検出用試薬キットで検出したものである。
【
図3】
図3は、混合リンパ球のIL-2分泌に対する本発明のAnti-PDL1-Fc融合タンパク質の影響である。
【
図4】
図4は、腫瘍の成長に対する本発明のAnti-PDL1-Fc融合タンパク質の抑制作用である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明の発明者は、幅広いスクリーニング及び詳細な研究の結果、特異的にPD-L1に対抗し、且つPD-L1/PD-1の相互作用をブロックするシングルドメイン抗体を開示する。また、更に、前記シングルドメイン抗体に基づき製造されるヒト化抗体及び融合タンパク質を開示するとともに、それらの応用についても開示する。
【0045】
用語
本文中で使用する「プログラム細胞死リガンド1」、「PD-リガンド1」、「PD-L1」、「PDL1」、「B7相同体1」、「B7-H1」、「CD274」との用語は互換的に使用可能であり、バリアント、アイソタイプ、ヒトPD-L1の種相同体、及び、PD-L1と共通の少なくとも1つのエピトープを有する類似物を含む。
【0046】
本文中において、「抗体」又は「免疫グロブリン」との用語は、重鎖抗体であるか通常の4本鎖抗体であるかに関わらず、いずれも一般的な用語として用いられ、全長抗体、その1つの鎖及び全ての部分、ドメイン又は断片(例えば、VHHドメイン又はVH/VLドメインといった抗原結合ドメイン又は断片を含むがこれらに限らない)を含む。また、本
文中で使用する「配列」との用語(例えば、「免疫グロブリン配列」、「抗体配列」、「単一可変ドメイン配列」、「VHH配列」又は「タンパク質配列」等の用語)は、本文中で更に限定的な解釈を要する場合を除き、一般的に、関連のアミノ酸配列を含むとともに、前記配列をコードする核酸配列又はヌクレオチド配列を含むと解釈すべきである。
【0047】
「モノクローナル抗体」との用語は、単一の分子で構成される抗体分子生成物を意味する。モノクローナル抗体は、特定のエピトープに対する単一の結合特異性及び親和性を示す。
【0048】
(ポリペプチド又はタンパク質の)「ドメイン」との用語は、タンパク質の折り畳み構造を意味し、タンパク質の残りの部分とは独立して三次構造を維持可能である。一般的に、ドメインは、タンパク質の単一の機能及び性質を司るものであり、様々な状況において、タンパク質のその他の部分及び/又はドメインの機能を損なうことなく、その他のタンパク質に対して添加、除去又は移植することが可能である。
【0049】
「シングルドメイン抗体(VHH)」との用語は、クローナル抗体における重鎖の可変領域のことであり、1つの重鎖可変領域のみからなるシングルドメイン抗体(VHH)が作製される。この抗体は、完全な機能を有する最小の抗原結合性断片である。通常は、アルパカの免疫血清から軽鎖及び重鎖の定常領域1(CH1)を持たない天然の抗体を取得したあと、抗体の重鎖の可変領域をクローニングすることで、1つの重鎖可変領域のみからなるシングルドメイン抗体(VHH)を作製する。
【0050】
「シングルドメイン抗体(VHH)」との用語は、当該分野及び以下の部分において、「フレームワーク領域1」又は「FR1」、「フレームワーク領域2」又は「FR2」、「フレームワーク領域3」又は「FR3」、及び「フレームワーク領域4」又は「FR4」とそれぞれ称される4つの「フレームワーク領域」を含む免疫グロブリンドメインを意味する。前記フレームワーク領域は、当該分野及び以下の部分において、「相補性決定領域1」又は「CDR1」、「相補性決定領域2」又は「CDR2」、及び「相補性決定領域3」又は「CDR3」とそれぞれ称される3つの「相補性決定領域」又は「CDR」によって隔てられている。そのため、シングルドメイン抗体(VHH)の一般的な構造又は配列は、FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4で表すことができる。シングルドメイン抗体(VHH)は抗原結合部位を有しているため、抗原に対する特異性が抗体に付与される。
【0051】
「重鎖シングルドメイン抗体」、「VHHドメイン」、「VHH」、「VHH抗体断片」、「VHH抗体」及び「ナノ抗体」との用語は互換的に使用可能である。
【0052】
「IMGTナンバリングシステム」との用語は、ヒト及びその他の脊椎動物の免疫グロブリン(IG)、T細胞受容体(TCR)及び主要組織適合遺伝子複合体(MHC)に特化した統合情報システムであって、THE INTERNATIONAL IMMUNOGENETICS INFORMATION SYSTEM(登録商標)のことである(Lafranc等,2003,Dev.Comp.Immunol.27(1):55ー77)。IMGT(http://www.imgt.org/IMGT_vquest)にログインし、抗体の軽鎖及び重鎖の遺伝子を分析することで、可変領域のフレームワーク領域(framework regions,FR)及び相補性決定領域(complementarity determining regions,CDR)が特定される。免疫グロブリンの可変ドメイン構造内におけるCDRの「位置」は種間において保守的であり、且つ、環と称される構造内に存在している。そのため、構造的特徴に基づき可変ドメイン配列を整列させたナンバリングシステムを使用することで、CDRとフレームの残基が容易に鑑定される。この情報は、任意の種に由来する免疫グロブリンのCDR残基を通
常のヒト由来抗体における受容体フレームに移植及び置換するために利用可能である。また、別途説明している場合を除き、本明細書、特許請求の範囲及び図面において、抗PD-L1シングルドメイン抗体は、CDR領域とFR領域の特定のために、IMGTナンバリングシステムの方法に従ってナンバリングしている。
【0053】
「ヒト化抗体」との用語は、基本的にヒト以外の種に由来する免疫グロブリンの抗原結合部位を有する分子であって、前記分子の残りの免疫グロブリン構造がヒト免疫グロブリンの構造及び/又は配列をベースとするものを意味する。前記抗原結合部位は、定常ドメインに融合された完全な可変ドメインを含んでいてもよいし、可変ドメインの適切なフレームワーク領域に移植された相補性決定領域(CDR)のみを含んでいてもよい。抗原結合部位は、野生型であってもよいし、1又は複数のアミノ酸を置換することで修飾してもよい。例えば、修飾によってヒト免疫グロブリンにいっそう類似させてもよい。ヒト化抗体の形式によっては、全てのCDR配列を維持している(例えば、アルパカ由来の3つ全てのCDRを含むヒト化シングルドメイン抗体)。また、その他の形式としては、元の抗体から変異した1又は複数のCDRを有するものがある。
【0054】
「タンパク質凝集(aggregates)」との用語について:タンパク質の構造は、非共有結合性相互作用及び2つのシステイン残基間のジスルフィド結合によって安定する。非共有結合性相互作用には、イオン間相互作用及び弱いファンデルワールス相互作用が含まれる。イオン間相互作用は、アニオンとカチオンの間に形成されて塩橋を構成し、タンパク質の安定化に寄与する。これらは、タンパク質の二次構造において重要な役割を果たし、例えば、αヘリックス又はβシートや三次構造を形成する。また、特定のタンパク質におけるアミノ酸残基間の相互作用は、当該タンパク質の最終構造において非常に重要である。活性化タンパク質の工業製造でよく見られるように、生体外又は細胞外において、活性化タンパク質が置かれる環境(例えば、pH、濃度、イオン強度又は温度)が変化すると、アミノ酸間の非共有結合性相互作用に変化が生じる。これにより、1つのタンパク質分子における露出した疎水性部分が別のタンパク質分子における露出した疎水性領域と相互に作用することで、無定形の凝集体、オリゴマー及び高分子量の凝集物が形成される場合がある。凝集物は、活性化タンパク質の安定性に影響を及ぼす。生体内では、凝集物の形成によって免疫系の除去反応が容易に誘発され、薬物の除去が加速するとともに、有機体に免疫リスクをもたらす場合もある。
【0055】
2つのポリペプチド配列間の「配列同一性」とは、配列間における同一アミノ酸のパーセンテージを意味する。また、「配列類似性」とは、同一の、又は代表的な保守的アミノ酸で置換されたアミノ酸のパーセンテージを意味する。アミノ酸又はヌクレオチド間の配列同一性の度合を評価する方法は、当業者にとって既知のものとする。例えば、アミノ酸配列の同一性については、通常は配列解析ソフトを用いて測定する。例えば、NCBIデータベースのBLASTプログラムを用いて同一性を特定可能である。
【0056】
薬剤の「有効量」とは、その適用を受けた細胞又は組織における生理学的変化を引き起こすために必要な量のことである。
【0057】
例えば、薬物組成物のような薬剤の「治療有効量」とは、必須の投与量及び期間において所望の治療又は予防結果を効果的に実現するための量のことである。治療有効量の薬剤は、例えば、疾病による好ましくない作用を除去、低減、遅延、最小化又は予防する。
【0058】
「個体」又は「被験者」は哺乳動物である。哺乳動物には、家畜化した動物(例えば、雌牛、羊、猫、犬、馬)、霊長類(例えば、ヒト及びヒト以外のサルといった霊長類)、イエウサギ及び齧歯類(例えば、マウスやラット)が含まれるがこれらに限らない。好ましくは、前記個体又は被験者はヒトである。
【0059】
「薬物組成物」との用語は、その形式によって内部に含有される活性成分の生物学的活性が有効となり、且つ、当該組成物の適用を受ける被験者に許容不可能な毒性をもたらすその他の成分が含まれていない製剤を意味する。
【0060】
「薬学的に許容可能なベクター」とは、薬物組成物内の活性成分を除く被験者にとって無害の成分を意味する。薬学的に許容可能なベクターには、緩衝剤、賦形剤、安定剤又は防腐剤が含まれるが、これらに限らない。
【0061】
「治療/予防」との用語(及び、その語法的変形)は、個体の疾病を変化させ、治そうとする自然なプロセスのことであり、且つ、予防又は臨床病理学の過程で実施される臨床的介入とすることもできる。治療による所望の効果には、疾病の発生又は再発の予防、症状の緩和、疾病に伴うあらゆる直接的又は間接的な病理学的結果の低減、転移の予防、疾病の進行速度の低下、疾病状態の改善又は軽減、及び予後の除去又は改善が含まれるが、これらに限らない。いくつかの実施方案において、本発明の抗体は、疾病の形成遅延又は病症の進行緩和に用いられる。
【0062】
「検出可能マーカー」との用語は、抗体に接続可能であり、検出対象における特定標的の存在有無及び存在量を特定するために用いられるマーカーを意味する。前記「検出可能マーカー」は、酵素、蛍光標識、核種、量子ドット、金コロイド等とすることができるが、これらに限らない。より具体的には、例えば、ホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ(AP)、グルコースオキシダーゼ、β-D-ガラクトシダーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、又はグルコアミラーゼから選択可能である。
【0063】
本発明において、前記癌又は腫瘍は、肺癌、黒色腫、胃癌、卵巣癌、結腸癌、肝臓癌、腎臓癌、膀胱癌、乳癌、古典的ホジキンリンパ腫、血液悪性腫瘍、頭頸部癌又は鼻咽頭癌等を含むとともに、それらの組み合わせを含み、且つ、それらの転移性腫瘍又は合併症も含む(但し、これらに限らない)。
【0064】
シングルドメイン抗体
本発明は、第1の局面において、抗PD-L1シングルドメイン抗体を提供する。前記抗PD-L1シングルドメイン抗体の相補性決定領域CDRは、アミノ酸配列で示されるCDR1~CDR3として、(1)SEQ ID NO:6で示されるCDR1、SEQ ID NO:15で示されるCDR2、SEQ ID NO:25で示されるCDR3、又は、(2)SEQ ID NO:7で示されるCDR1、SEQ ID NO:16で示されるCDR2、SEQ ID NO:26で示されるCDR3、又は、(3)SEQ ID NO:8で示されるCDR1、SEQ ID NO:16で示されるCDR2、SEQ ID NO:27で示されるCDR3、又は、(4)SEQ ID NO:9で示されるCDR1、SEQ ID NO:17で示されるCDR2、SEQ ID NO:28で示されるCDR3、又は、(5)SEQ ID NO:7で示されるCDR1、SEQ ID NO:16で示されるCDR2、SEQ ID NO:29で示されるCDR3、又は、(6)SEQ ID NO:10で示されるCDR1、SEQ ID NO:18で示されるCDR2、SEQ ID NO:30で示されるCDR3、を含む。
【0065】
本発明で提供する抗PD-L1抗原のシングルドメイン抗体は、フレームワーク領域FRを含み得る。前記フレームワーク領域FRは、アミノ酸配列で示されるFR1~FR4として、(1’)SEQ ID NO:1で示されるFR1、SEQ ID NO:11で示されるFR2、SEQ ID NO:19で示されるFR3、SEQ ID NO:31で示されるFR4、又は(2’)SEQ ID NO:2で示されるFR1、SEQ ID NO:
12で示されるFR2、SEQ ID NO:20で示されるFR3、SEQ ID NO:31で示されるFR4、又は(3’)SEQ ID NO:3で示されるFR1、SEQ ID NO:13で示されるFR2、SEQ ID NO:21で示されるFR3、SEQ ID NO:31で示されるFR4、又は(4’)SEQ ID NO:4で示されるFR1、SEQ ID NO:13で示されるFR2、SEQ ID NO:22で示されるFR3、SEQ ID NO:31で示されるFR4、又は(5’)SEQ ID NO:5で示されるFR1、SEQ ID NO:12で示されるFR2、SEQ ID NO:23で示されるFR3、SEQ ID NO:32で示されるFR4、又は(6’)SEQ ID NO:5で示されるFR1、SEQ ID NO:14で示されるFR2、SEQ ID NO:24で示されるFR3、SEQ ID NO:31で示されるFR4、を含む。
【0066】
通常、抗体の抗原結合特性は、3つ相補性決定領域CDRにより決定される。前記CDR領域とFR領域は規則的に配列されており、FR領域が結合反応に直接関与することはない。これらのCDRは環状構造を形成している。CDRは、これらの間のFRが形成するβシートを通じて空間構造内で互いに近接し、抗体の抗原結合部位を構成する。CDR領域は免疫学が関心を寄せるタンパク質の配列であり、本発明の抗体のCDR領域は完全に新規なものである。
【0067】
本発明で提供する抗PD-L1抗原のシングルドメイン抗体におけるアミノ酸配列としては、a)SEQ ID NO:33~38のいずれかで示されるアミノ酸配列、或いは、b)SEQ ID NO.33~38のいずれかと80%以上の配列同一性を有するものであって、a)で限定したアミノ酸配列の機能を有するアミノ酸配列、を含み得る。具体的に、前記b)のアミノ酸配列とは、SEQ ID NO.33~38のいずれかで示されるアミノ酸配列が、1又は複数(具体的には、1~50個、1~30個、1~20個、1~10個、1~5個又は1~3個とすることができる)のアミノ酸の置換、欠損、又は添加を経て得られるものであるか、或いは、N-末端及び/又はC-末端に対し1又は複数(具体的には、1~50個、1~30個、1~20個、1~10個、1~5個又は1~3個とすることができる)のアミノ酸を添加するか減少させることで得られるものであって、且つ、SEQ ID NO.33~38のいずれかで示されるアミノ酸からなるポリペプチド断片の機能を有するポリペプチド断片であり、例えば、PD-L1に対する特異的結合能力を有している。上記b)のアミノ酸配列は、SEQ ID NO.33~38のいずれかと80%、85%、90%、93%、95%、97%又は99%以上の相同性を有している。本発明で提供する抗PD-L1シングルドメイン抗体は、ヒトPD-L1に特異的に結合可能であり、PD-L1とPD-1の相互作用をブロック可能である。また、T細胞中のIFN-γ及び/又はIL-2の発現を上昇させることができ、且つ、腫瘍の成長を抑制することも可能である。
【0068】
本発明で提供する抗PD-L1抗原のシングルドメイン抗体はヒト化抗体とすることができる。前記ヒト化シングルドメイン抗体は、少なくとも1つの抗体の機能特性を保持可能であり、例えば、PD-L1に対する特異的結合能力、或いは、PD-L1とPD-1の相互作用をブロックする機能を有している。本発明における特定の相補性決定領域を応用することをベースに、当該分野の技術に基づいて設計されるヒト化抗体はいずれも本発明に含まれるものとする。
【0069】
本発明の好ましい方式において、本発明の発明者は、ラクダ科から入手した天然由来のシングルドメイン抗体をヒト化改変することで、薬物の安全性を更に向上させるとともに、抗体の免疫原性を効果的に低下させた。完全にヒト化した重鎖抗体は、往々にして溶解性に劣り、タンパク質が凝集するとの課題に直面することで、実際の臨床応用が不可能となる。シングルドメイン抗体のヒト化改変に起因する溶解度の低下は、天然由来のモノクローナル抗体では対になっている軽鎖がVHドメインから欠如するためと考えられる(Fr
ont Immunol.2017Nov 22;8:1603)。これに対し、本発明で得られるフレームワーク領域を改変したヒト化抗体は、高い溶解度を維持したままであるため、実際の臨床応用が可能となる。本発明の具体的実施形態において、前記抗PD-L1ヒト化シングルドメイン抗体のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:39~44で示される。
【0070】
融合タンパク質
本発明は、第2の局面において、抗PD-L1シングルドメイン抗体の融合タンパク質を提供する。当該融合タンパク質は、本発明の第1の局面で提供したシングルドメイン抗体の第1ドメインと、体内半減期を延長するために用いられ、及び/又は、エフェクター細胞に対する結合作用を有する第2ドメインを含む。前記融合タンパク質は、結合分子とすることができる。前記結合分子は、PD-L1を発現する細胞と特異的に結合可能である。
【0071】
前記第2ドメインにおいて、体内半減期を延長するために用いられる断片は、血清アルブミン又はその断片、ポリエチレングリコール、血清アルブミンと結合するドメイン(例えば、抗血清アルブミンのシングルドメイン抗体)、ポリエチレングリコール-リポソーム複合体等を含み得る。また、前記第2ドメインにおけるエフェクター細胞に対して結合作用を有する断片は免疫グロブリンFc領域等を含むことができ、好ましくは、ヒト免疫グロブリンFc領域から選択する。前記ヒト免疫グロブリンFc領域には、Fc媒介性のエフェクター機能を変化させる突然変異が含まれる。前記エフェクター機能には、CDC活性、ADCC活性、ADCP活性のうちの1又は複数の組み合わせが含まれる。前記免疫グロブリンは、IgG、IgA1、IgA2、IgD、IgE、IgM等のうちの1又は複数の組み合わせから選択可能である。前記IgGは、具体的に、サブタイプIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4等のうちの1又は複数の組み合わせから選択可能である。シングルドメイン抗体の融合タンパク質に含まれる免疫グロブリンFc領域によって、前記融合タンパク質の二量体化が可能になるとともに、前記融合タンパク質の体内半減期が延長され、且つFc媒介性の関連活性が増大する。本発明の具体的実施形態において、前記免疫グロブリンFc領域は、ヒトIgG1のFc領域とすることができ、より具体的には、野生型IgG1のFc配列とすることができる。前記配列には、Fc媒介性のエフェクター機能を変化させる突然変異を導入可能である。例えば、a)Fc媒介性のCDC活性を変化させる突然変異、b)Fc媒介性のADCC活性を変化させる突然変異、或いは、c)Fc媒介性のADCP活性を変化させる突然変異、を導入可能である。この種の突然変異については、下記の文献に記載されている。
【0072】
Leonard G Presta,Current Opinion in Immunology 2008,20:460-470
Esohe E.Idusogie et al.,J Immunol 2000,164:4178-4184
RAPHAEL A.CLYNES et al.,Nature Medicine,2000,Volume 6,Number 4:443-446
Paul R.Hinton et al.,J Immunol,2006,176:346-356
【0073】
本発明の別の具体的実施形態において、前記免疫グロブリンFc領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:45~48のいずれかから選択される。
【0074】
本発明で提供する抗PD-L1シングルドメイン抗体の融合タンパク質において、前記第1ドメインと第2ドメインの間には連結ペプチドを設置可能である。前記連結ペプチドは
、アラニン(A)及び/又はセリン(S)及び/又はグリシン(G)からなる柔軟なポリペプチド鎖とすることができる。連結ペプチドの長さは3~30個のアミノ酸とすればよく、好ましくは、3~9個、9~12個、12~16個、16~20個とする。本発明の別の具体的実施形態において、連結ペプチドの長さは8個又は15個とすることができる。
【0075】
分離したポリヌクレオチド
本発明は、第3の局面において、本発明の第1の局面で提供したシングルドメイン抗体をコードするか、本発明の第2の局面で提供した融合タンパク質をコードする分離したポリヌクレオチドを提供する。前記ポリヌクレオチドは、RNA、DNA又はcDNA等とすることができる。前記分離したポリヌクレオチドを提供する方法は、当業者にとって既知のものとする。例えば、DNAの自動合成及び/又は組換えDNA技術等で作製して取得してもよいし、適切な天然源から分離してもよい。
【0076】
構造体
本発明は、第4の局面において、構造体を提供する。前記構造体は、本発明の第3の局面で提供した分離したポリヌクレオチドを含む。前記構造体の作製方法は、当業者にとって既知のものとする。例えば、前記構造体は、生体外組換えDNA技術、DNA合成技術、生体内組換え技術等の方法で作製して取得可能であり、より具体的には、前記分離したポリヌクレオチドを発現ベクターのマルチクローニングサイトに挿入することで作製可能である。本発明における発現ベクターは、通常、当該分野において熟知されている市販の各種発現ベクター等のことであり、例えば、細菌プラスミド、ファージ、酵母プラスミド、植物細胞ウイルス、哺乳類細胞ウイルス(例えば、アデノウイルス、レトロウイルス)、又はその他のベクターとすることができる。前記ベクターは、前記ポリヌクレオチド配列に操作的に連結される1又は複数の調節配列を含んでもよい。また、前記調節配列は適切なプロモーター配列を含むことができる。通常、プロモーター配列は、発現されるアミノ酸配列のコード配列に操作的に連結される。プロモーターは、選択された宿主細胞において転写活性を示すいずれのヌクレオチド配列としてもよく、突然変異したもの、切断されたもの、及び雑種プロモーターを含む。且つ、当該宿主細胞と同種又は異種の細胞外又は細胞内のポリペプチドをコードする遺伝子から取得可能である。また、調節配列は、適切な転写ターミネーター配列、つまり、宿主細胞により識別されることで転写を終結させる配列を含むことができる。ターミネーター配列は、当該ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の3’末端に連結される。選択された宿主細胞において機能を有するあらゆるターミネーターを本発明に適用可能である
【0077】
通常、適切なベクターは、少なくとも1つの有機体において役割を発揮する複製開始点、プロモーター配列、便利な制限酵素部位、及び1又は複数の選択可能なマーカーを含むことができる。例えば、これらのプロモーターには、大腸菌のlac又はtrpプロモーター、λファージのPLプロモーター、真核プロモーター(CMV主要前初期プロモーター、HSVチミジンキナーゼプロモーター、初期及び後期SV40プロモーター、ピキア・パストリスのメタノールオキシダーゼプロモーターを含む)、及びその他の既知の制御可能な遺伝子が原核又は真核細胞或いはそのウイルス内で発現するプロモーターが含まれ得るが、これらに限らない。マーカー遺伝子は、形質転換した宿主細胞を選択するための表現型及び性状を提供するために使用可能である。例えば、真核細胞培養用のジヒドロ葉酸レダクターゼ、ネオマイシン耐性、及び緑色蛍光タンパク質(GFP)、或いは、大腸菌に用いられるテトラサイクリン又はアンピシリン耐性等が含まれ得るが、これらに限らない。前記ポリヌクレオチドを発現する場合には、発現ベクターにエンハンサー配列を含んでもよい。ベクターにエンハンサー配列を挿入すれば、転写が強化される。エンハンサー
はDNAのシスエレメントであり、通常は約10~300個の塩基対を有している。エンハンサーがプロモーターに作用することで、遺伝子の転写が強化される。
【0078】
発現システム
本発明は、第5の局面において、抗体の発現システムを提供する。前記発現システムは、本発明の第4の局面で提供した構造体、或いは、ゲノムに外来遺伝子が組み込まれている本発明の第3の局面で提供したポリヌクレオチドを含む。発現ベクターの発現に適用されるあらゆる細胞は、いずれも宿主細胞となり得る。例えば、前記宿主細胞は、細菌細胞のような原核細胞、或いは、酵母細胞のような下等真核細胞、或いは、哺乳類細胞のような高等真核細胞とすることができる。具体的には、大腸菌、ストレプトマイセス属、サルモネラ・ティフィムリウムの細菌細胞、真菌細胞(例えば、酵母、糸状真菌、植物細胞)、ショウジョウバエS2又はSf9の昆虫細胞、CHO、COS、HEK293細胞、或いはBowes悪性黒色腫細胞の動物細胞等のうちの1又は複数の組み合わせを含むものとできるが、これらに限らない。前記発現システムを作製する方法は、当業者にとって既知のものとする。例えば、マイクロインジェクション法、パーティクル・ガン法、電気穿孔法、ウイルス媒介性形質転換法、電子衝撃法、リン酸カルシウム共沈殿法等のうちの1又は複数の組み合わせを含むものとできるが、これらに限らない。
【0079】
免疫複合体
本発明は、第6の局面において、免疫複合体を提供する。前記免疫複合体は、本発明の第1の局面で提供したシングルドメイン抗体、又は本発明の第2の局面で提供した融合タンパク質を含む。通常、前記免疫複合体は、更に、前記シングルドメイン抗体の融合タンパク質に連結される(共有結合、カップリング、付着、吸着を含むがこれらに限らない)機能性分子を含む。前記機能性分子は、検出可能マーカー、細胞毒素、放射性同位体、生物活性タンパク質、腫瘍表面マーカーを標的とする分子、腫瘍を抑制する分子、免疫細胞の表面マーカーを標的とする分子等、又はそれらの組み合わせを含むが、これらに限らない。
【0080】
前記免疫複合体の作製方法は、当業者にとって既知のものとする。例えば、前記シングルドメイン抗体及び/又は融合タンパク質を、直接的に、又は適切な長さのスペーサーを介して機能性分子と連結可能である。連結方式は、化学架橋又は遺伝子工学による融合発現とすればよく、これにより前記免疫複合体が得られる。
【0081】
治療を目的とする場合には、例えば放射性グループのような治療エフェクターグループが適切な場合がある。これらの放射性グループは、放射性同位体又は放射性核種(例えば、3H、14C、15N、33P、35S、90Y、99Tc、111ln、123l、125l、131l、201TI、213Bi)、毒素、或いは、細胞傷害性グループ(例えば、細胞増殖阻害剤)から構成されるか、そのグループを含む。
【0082】
前記免疫複合体は、本発明のシングルドメイン抗体又は融合タンパク質、及び検出可能マーカーを含み得る。前記検出可能マーカーには、例えば、酵素、補欠分子族、蛍光材料、発光材料、生物発光材料、放射性材料、陽電子放出金属及び非放射性常磁性金属イオンといった蛍光マーカー、発色マーカー、タンパク質マーカーが含まれる(ただし、これらに限らない)。また、1つ以上のマーカーを含んでもよい。検出及び/又は分析及び/又は診断を目的とした抗体を標識するマーカーは、使用する特定の検出/分析/診断技術及び/又は方法(例えば、免疫組織化学染色の(組織)サンプル、フローサイトメトリー技術等)に依存する。当該分野において既知の検出/分析/診断技術及び/又は方法にとって適切なマーカーを当業者は熟知している。
【0083】
本発明のシングルドメイン抗体又は融合タンパク質は、マーカーグループ(マーカーのポリペプチド)と連結可能であり、その後、例えば診断目的にこれを使用可能である。適切なマーカーグループは、放射性同位体(例えば、上記で提示したもの)、或いは、放射性同位体、放射性核種を含むグループ、蛍光グループ(例えば、GFP、RFP等の蛍光タンパク質、染料、ローダミン、フルオレセイン及びその誘導体(例えばFITC)、アントシアニジンなど)、酵素グループ(例えば、ホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ)、化学発光グループ、ビオチングループ、金属粒子(例えば、金粒子)、磁性粒子(例えば、磁鉄鉱(Fe3O4)及び/又は磁気赤鉄鉱(Fe2O3)を含む核を有する)、所定のポリペプチドグループ等から選択可能である。
【0084】
前記免疫複合体は、本発明のシングルドメイン抗体又は融合タンパク質、及び免疫細胞の表面マーカーを標的とする分子を含み得る。前記免疫細胞の表面マーカーを標的とする分子は免疫細胞を識別可能であり、本発明の抗体を免疫細胞に到達させる。且つ、本発明の抗体は、免疫細胞を腫瘍細胞にターゲティングすることが可能である。これにより、本発明の抗体の殺傷効果を利用するとともに、免疫細胞による特異的な腫瘍殺傷を誘発する。
【0085】
前記免疫複合体は、本発明のシングルドメイン抗体又は融合タンパク質、及び、腫瘍表面マーカーを標的とする少なくとも1つの分子又は腫瘍を抑制する分子を含み得る。上記の腫瘍を抑制する分子は、抗腫瘍サイトカイン又は抗腫瘍毒素である。例えば、前記サイトカインは、IL-12、IL-15、IFN-beta、TNF-alpha等とすることができる(ただし、これらに限らない)。また、上記の腫瘍表面マーカーを標的とする分子は、例えば、本発明の抗体と連携して作用し、いっそう精確に腫瘍細胞を標的可能とする。
【0086】
前記免疫複合体は、キメラ抗原受容体(Chimeric antigen receptor,CAR)としてもよい。前記キメラ抗原受容体は免疫細胞に発現可能である。上記の「免疫細胞」及び「免疫エフェクター細胞」は互換的に使用可能であり、T細胞、NK細胞又はNKT細胞等を含み、好ましくは、NK細胞及びT細胞とする。前記キメラ抗原受容体は、一般的に、順に連結される細胞外結合領域、膜貫通領域及び細胞内シグナル領域を含み、前記細胞外結合領域に本発明のシングルドメイン抗体又は融合タンパク質が含まれる。CAR技術に基づく膜貫通領域及び細胞内シグナル領域の設計は、当該分野において公知である。例えば、膜貫通領域には、CD8、CD28等の分子の膜貫通領域を使用し、細胞内シグナル領域には、免疫受容体チロシン活性化モチーフ(ITAM)のCD3ζ鎖又はFcεRIγチロシン活性化モチーフ及び共刺激シグナル分子CD28、CD27、CD137、CD134、MyD88、CD40等の細胞内シグナル領域を使用する。より具体的に、T細胞について、細胞内シグナル領域にITAMのみが含まれるものは第1世代CAR T細胞である。このキメラ抗原受容体の各部分は、scFv-TM-ITAMの形式で連結されて、抗腫瘍細胞傷害性効果を活性化可能である。一方、第2世代CAR T細胞には、CD28又はCD137(別名4-1BB)の細胞内シグナル領域が加えられている。このキメラ抗原受容体の各部分は、scFv-TM-CD28-ITAM又はscFv-TM-/CD137-ITAMの形式で連結される。細胞内シグナル領域に発生するB7/CD28或いは4-1BBL/CD137の共刺激作用によって、T細胞の持続的増殖が誘発される。且つ、T細胞によるIL-2やIFN-γ等のサイトカインの分泌レベルを上昇可能になるとともに、生体内におけるCAR Tのライフサイクル及び抗腫瘍効果が向上する。また、第3世代CAR T細胞は、キメラ抗原受容体の各部分が、scFv-TM-CD28-CD137-ITAM、或いは、scFv-TM-CD28-CD134-ITAMの形式で連結されて、生体内におけるCAR Tのライフサイクル及び抗腫瘍効果が更に向上する。
【0087】
上記に基づき、本発明のシングルドメイン抗体又は融合タンパク質を利用して製造されるキメラ抗原受容体は、本発明のシングルドメイン抗体又は融合タンパク質、CD8及びCD3ζ、本発明のシングルドメイン抗体又は融合タンパク質、CD8、CD137及びCD3ζ、本発明のシングルドメイン抗体又は融合タンパク質、CD28分子の膜貫通領域(CD28a)、CD28分子の細胞内シグナル領域(CD28b)及びCD3ζ、或いは、本発明のシングルドメイン抗体又は融合タンパク質、CD28分子の膜貫通領域、CD28分子の細胞内シグナル領域、CD137及びCD3ζ、の順序で連結される細胞外結合領域、膜貫通領域及び細胞内シグナル領域を含む。
【0088】
当該キメラ抗原受容体を免疫エフェクター細胞の表面に発現させることで、本発明の抗体の殺傷効果を利用するとともに、免疫エフェクター細胞に、PD-L1を発現する腫瘍細胞に対する高度な特異的細胞傷害性作用を持たせることが可能となる。
【0089】
薬物組成物
本発明は、第7の局面において、本発明の第1の局面で提供した抗PD-L1シングルドメイン抗体、又は本発明の第2の局面で提供した抗PD-L1シングルドメイン抗体の融合タンパク質、又は本発明の第6の局面で提供した免疫複合体を含む薬物組成物を提供する。
【0090】
前記薬物組成物は、更に、当該分野において薬学的に許容可能な各種ベクターを含むことができる。薬学的に許容可能なベクターとは、使用する投与量及び濃度が適用者にとって無害なものであり、具体的には、緩衝剤(例えば、アセテート、Tris、リン酸塩、クエン酸塩及びその他の有機酸)、抗酸化剤(アスコルビン酸及びメチオニンを含む)、防腐剤(例えば、ベンジルジメチルオクタデシルアンモニウムクロリド、塩化ヘキサメトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、フェノール、ブタノール又はベンジルアルコール、p-ヒドロキシ安息香酸炭化水素基エステル、(例えば、p-ヒドロキシ安息香酸メチル又はp-ヒドロキシ安息香酸酢酸プロピル)、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール、3-ペンタンアルコール、m-クレゾール)、タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチン又は免疫グロブリン)、親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン)、アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン又はリシン)、単糖類、二糖類及びその他の炭水化物(グルコース、マンノース又はデキストリンを含む)、キレート剤(例えば、EDTA)、張度調節剤(例えば、トレハロースや塩化ナトリウム)、糖類(例えば、ショ糖、マンニトール、トレハロース又はソルビトール)、界面活性剤(例えば、ポリソルベート)、塩対イオン(例えばナトリウム)、金属複合体(例えば、Zn-タンパク質複合体)、及び/又は、非イオン界面活性剤(例えば、TWEEN(登録商標)、プルロニック(PLURONICS、登録商標)又はポリエチレングリコール(PEG))を含むものとできるが、これに限らない。また、生体内に適用する製剤は一般的に無菌である。製剤の無菌化を実現する方法は当業者にとって既知のものとし、例えば、滅菌用フィルターによる濾過等の方法で実現すればよい。更に、当業者は、薬物組成物に求められる剤形に応じて適切な薬学的に許容可能なベクターを選択することで、異なる剤形に製造することが可能である。例えば、本発明の薬物組成物は、タブレット、注射剤、凍結乾燥剤等の各種剤形を含み得るが、これらに限らない。
【0091】
前記薬物組成物において、通常、前記融合タンパク質及び免疫複合体の含有量は有効量とする。また、前記有効量に対応する活性成分の含有量は、治療の対象及び特定の投与方式に基づき決定可能である。例えば、薬物組成物の総質量で算出する場合、前記融合タンパク質及び免疫複合体の含有量の範囲は、約0.01~99%、0.1~70%、1~30
%、0.01~0.05%、0.05~0.1%、0.1~0.3%、0.3~0.5%、0.5~1%、1~3%、3~5%、5~10%、10~20%、20~30%、30~50%、50~70%又は70~99%とすればよい。
【0092】
本発明の融合タンパク質、免疫複合体及び薬物組成物は、単一の有効成分として適用してもよいし、併用療法において適用してもよい。即ち、その他の薬剤と併用してもよい。例えば、前記併用療法では、前記融合タンパク質、免疫複合体、薬物組成物をその他の少なくとも1つの抗腫瘍薬と併用することが可能である。また、例えば、前記併用療法では、前記融合タンパク質、免疫複合体、薬物組成物を、その他の腫瘍特異性抗原を標的とする抗体と併用することが可能である。上記のその他の腫瘍特異性抗原を標的とする抗体には、抗EGFR抗体、抗VEGF抗体、抗HER2抗体、又は抗Claudin18A2抗体等のうちの1又は複数の組み合わせが含まれる(ただし、これらに限らない)。好ましくは、前記阻害剤はモノクローナル抗体とすることができる。
【0093】
検出用試薬キット
本発明は、第8の局面において、本発明の第1の局面で提供したシングルドメイン抗体、本発明の第2の局面で提供した融合タンパク質、又は本発明の第6の局面で提供した免疫複合体を含む検出用試薬キットを提供する。前記試薬キットは、必要に応じて、容器、対照物(陰性又は陽性対照)、緩衝剤、助剤等を更に含んでもよく、当業者は、具体的状況に応じてこれらを選択可能である。また、前記試薬キットは、当業者が操作しやすいように、取扱説明書を含んでもよい。
【0094】
本発明は、更に、前記シングルドメイン抗体を利用してPD-L1タンパク質を検出する検出方法を提供する。当該検出方法には、定性的検出、定量的検出及び位置特定検出が含まれるが、これらに限らない。具体的に、前記検出方法には、免疫蛍光測定、免疫組織化学及び放射免疫測定等が含まれるが、これらに限らない。
【0095】
サンプル中にPD-L1タンパク質が存在するか否かを検出する方法には、以下が含まれ得る。即ち、サンプルを本発明のシングルドメイン抗体に接触させて、抗体複合体が形成されたか否かを観察する。そして、抗体複合体が形成されていれば、サンプル中にPD-L1タンパク質が存在することを意味する。前記サンプルは、細胞及び/又は組織サンプルとすることができる。サンプルは媒体中に固定又は溶解可能であり、上記の固定又は溶解したサンプル中のPD-L1タンパク質のレベルを検出する。いくつかの実施形態において、検出対象は、細胞保存液中に存在する細胞含有サンプルとすることができる。別のいくつかの実施形態において、前記シングルドメイン抗体には、更に、検出に使用可能であるか、その他の試薬により検出可能な蛍光染料、化学物質、ポリペプチド、酵素、同位体、タグ等が組み合わされている。
【0096】
使用
本発明は、第9の局面において、本発明の第1の局面で提供したシングルドメイン抗体、又は本発明の第2の局面で提供した融合タンパク質、又は本発明の第6の局面で提供した免疫複合体、又は本発明の第8の局面で提供した薬物組成物の、PD-L1を発現する細胞に関連する疾病の診断、治療又は予防における使用を提供する。
【0097】
本発明で提供する融合タンパク質、免疫複合体、薬物組成物の「治療有効量」は、好ましくは、疾病症状の重大性の低下、疾病の無症状期の頻度及び継続時間の増加、或いは、疾病の苦痛に伴う傷害又は機能喪失の防止をもたらす。例えば、PD-L1関連腫瘍の治療(例えば黒色腫を含む)の場合、未治療の対象と比較して、「治療有効量」は、好ましく
は、細胞の成長又は腫瘍の成長を少なくとも約10%抑制する。また、好ましくは、少なくとも約20%、より好ましくは、少なくとも約30%、より好ましくは、少なくとも約40%、より好ましくは、少なくとも約50%、より好ましくは、少なくとも約60%、より好ましくは、少なくとも約70%、より好ましくは、少なくとも約80%抑制する。腫瘍の成長を抑制する能力は、ヒト腫瘍に対する治療効果を予測するための動物モデルシステムで評価可能である。或いは、細胞の成長を抑制する能力を検査することで評価してもよい。このような抑制は、当業者にとって公知の実験を通じて生体外で測定可能である。治療有効量の融合タンパク質、免疫複合体、薬物組成物によって、通常は、腫瘍の大きさを縮小することが可能である。或いは、その他の方式で対象の症状を緩和することができる。当業者は、例えば、対象の大きさ、対象の症状の重大性、及び選択した特定の組成物又は投与経路といった実際の状況に応じて適切な治療有効量を選択すればよい。治療の処方(例えば、投与量の決定等)は医師により定められる。また、通常考慮する要因には、治療しようとする疾病、患者の個別の状況、送達部位、適用方法及びその他の要因等が含まれるがこれらに限らない。また、予防有効量とは、必須の投与量及び時間内で効果的に所望の予防効果が実現される量のことである。通常(必然ではない)、予防投与量は疾病の発症前又は疾病の初期に被験者に用いられるため、「予防有効量」は一般的に「治療有効量」よりも低くなる。本発明において、診断、治療及び/又は予防可能なPD-L1を発現する細胞に関連する疾病の実施例には、PD-L1を発現する全ての癌及び固形腫瘍が含まれ得る。具体的には、肺癌、黒色腫、胃癌、卵巣癌、結腸癌、肝臓癌、腎臓癌、膀胱癌、乳癌、古典的ホジキンリンパ腫、血液悪性腫瘍、頭頸部癌と鼻咽頭癌を含み得るが、これらに限らない。また、これらの癌は、初期、中期又は末期とすることができ、例えば転移癌とすることができる。
【0098】
以下に、特定の具体的実施例を通じて、本発明の実施形態につき説明する。なお、当業者であれば、本明細書で開示する内容から本発明のその他の利点及び効果を容易に理解可能である。更に、本発明は、その他の異なる具体的実施形態によっても実施又は応用可能である。また、本明細書の各詳細は、異なる視点及び応用に基づき、本発明の精神を逸脱しないことを前提に各種の補足又は変更が可能である。
【0099】
本発明の具体的実施形態について更に記載する前に、本発明の保護の範囲は後述する特定の具体的実施方案に限らないと解釈すべきである。また、本発明の実施例で使用する用語は特定の具体的実施方案を記載するためのものであって、本発明の保護の範囲を制限するものではないと解釈すべきである。
【0100】
実施例で数値範囲を示している場合には、本発明において別途説明している場合を除き、各数値範囲の2つの端点及び2つの端点間の任意の数値をいずれも選択可能であると解釈すべきである。また、別途定義している場合を除き、本発明で使用するあらゆる技術及び科学用語は、当業者により一般的に理解される意味と等しい。更に、実施例で使用している具体的方法、デバイス、材料のほかに、当業者による従来技術の理解及び本発明の記載に基づいて、本発明の実施例で述べる方法、デバイス、材料と類似又は同等の従来技術における任意の方法、デバイス及び材料を用いて本発明を実現してもよい。
【0101】
別途説明している場合を除き、本発明で開示する実験方法、検出方法、作製方法は、いずれも当該分野において一般的な分子生物学、生化学、クロマチン構造及び分析、分析化学、細胞培養、組換えDNA技術及び関連分野における一般的技術を用いている。これらの技術については、従来の文献で十分に説明されている。
【0102】
実施例1、Anti-PDL1シングルドメイン抗体ライブラリの作製
PDL1の細胞外領域の配列とヒト血清アルブミンの配列で構成される融合タンパク質P
DL1-HSA(SEQ ID NO:49)を1mgと、1mlの完全フロイントアジュバント(シグマ社)を混合して乳化し、健康なアルパカ(Vicugnapacos)を免疫した。そして、21日後に再び免疫し、合計で3回の免疫を行うことで、B細胞を刺激して抗原特異性のシングルドメイン抗体を発現させた。3回の免疫から1週間後に、真空採血管でアルパカの血液を30ml採取し、リンパ球分離溶液(天津市▲ハウ▼洋華科生物科技有限公司)を用いてリンパ球を分離してから、Trizol法でトータルRNAを抽出した。次に、逆転写試薬キット(インビトロジェン社)を用い、説明書に従って3μgのトータルRNAをcDNAに逆転写するとともに、ネステッドPCRを用いてVHHを増幅させた。そして、ターゲットとするVHH核酸断片を回収し、制限酵素SfiI(NEB社)で切断してから、同様に切断したファージディスプレイ用ベクターpcomb3xss(Addgene プラスミド#63890、RRID:Addgene_63890)に挿入するとともに、T4リガーゼ(タカラ社)を用いてライゲーションした。続いて、ライゲーション産物をエレクトロコンピテントセルER2738に形質転換することで、Anti-PDL1シングルドメイン抗体ライブラリを作製した。また、段階希釈プレーティングによって、ライブラリ容量の大きさが1.25×108であることを測定した。且つ、24個のクローンをランダムに抜き取ってコロニーPCR検出を行ったところ、結果より、作製したライブラリの挿入率は100%であることが明らかとなった。
【0103】
実施例2、Anti-PDL1シングルドメイン抗体のスクリーニング及び鑑定
2.1 Anti-PDL1シングルドメイン抗体のスクリーニング
作製したAnti-PDL1シングルドメイン抗体ライブラリをヘルパーファージM13KO7(NEB社)でパッケージングして、ディスプレイライブラリである組換えファージの力価を測定したところ、2.88×1013PFU/mlであった。次に、PDL1-HSAを100mMのNaHCO3 p8.2のコーティングバッファで2μg/mlまで希釈した。これをELISA用プレートに100μL/ウェルで加えてコーティングし、4℃で一晩放置した。2日目に、200μLの3%BSAを加えて37℃で1hブロッキングしたあと、100μLの組換えファージを加えて(約2.88×1011PFU/ウェル、実施例1で作製したライブラリから取得)、室温で1h作用させた。その後、PBST(PBS中に0.1%ツイン(Tween)20を含有)を用いて5回洗浄し、非特異的結合のファージを除去した。次に、洗浄したELISAウェルを1mlの0.1M gly-HCl 1mg/ml BSA(pH2.2)緩衝液で10分間インキュベートし、溶出してから、1M pH 8.0Tris-HClで中和した。続いて、ファージの力価を測定したところ、力価は5.25×106PFU/mlであった。そこで、前記ファージ溶出液を増幅させて測定したところ、力価は1.3×1013PFU/mlとなった。続いて、PD-L1の細胞外領域の配列とヒトIgG1 FCで構成される融合タンパク質PDL1-FC(SEQ ID NO:50)をコートタンパク質として、3%オボアルブミン(OVA)でブロッキングした。そして、同様のスクリーニング過程で2回目のスクリーニングを行った。2回目のエルトリエーションにおけるファージの力価を測定したところ、結果は2.54×108PFU/mlであった。
【0104】
2.2 酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)及びTEPITOPEによる二重スクリーニング
2回目のエルトリエーションで溶出したファージの力価測定プレートから380個の単クローンを抜き取り、96ウェルマイクロプレートで培養するとともに、M13KO7ヘルパーファージを用いて感染させ、パッケージングすることで、上清における組換えファージの蓄積を取得した。次に、PDL1-HSAを200ng/ウェルでプレートにコーティングし、3%BSAを用いて室温で1hブロッキングした。そして、異なる濃度勾配の
PD1-FC(SEQ ID NO:51)でELISAを行い、結合曲線をプロットしたところ、EC90が2.4μg/mLであると算出された。次に、96ウェルマイクロプレート上で、単クローン組換えファージの上清を4μg/mLのPD1-FCと同等の比率でそれぞれ混合したあと、100μl/ウェルを採取して、PDL1-HSAでコーティングした96ウェルマイクロプレートでインキュベートした(終濃度2μg/mLのPD1-FCのみを加えたウェルを対照とした)。インキュベートは37℃で1時間行った。そして、PBSTで3回洗浄したあと、1:20000で希釈した100μlのHRP-Goat anti-Human IgG Fc(Novex社)を各ウェルに加え、37℃で1時間インキュベートした。続いて、PBSで3回洗浄したあと、TMB発色試薬(北京康為世紀生物科技有限公司)を加え、室温で5分間インキュベートして発色させた。その後、1M硫酸を加えて反応を停止させ、OD450nmの数値を読んだ。対照ウェルのPD1-FCの発色は明らかであったが(OD450nm値は3.375)、ファージ競合陽性クローンウェルの発色は弱いか、ほぼ発色しなかった(OD450nmの数値は0.3未満)。そこで、競合陽性クローンを選別してシーケンシングを行い、反復配列を除去した。そして、取得した高親和性の陽性配列について更に免疫原性分析を行った。QAM法に基づく予測ツールTEPITOPEを利用して(Sturniolo T他、Nat.Biotechnol.17:555-561)、人体の免疫原性に密接に関わるDRB1*03:01、DRB1*07:01、DRB1*15:01、DRB3*01:01、DRB3*02:02、DRB4*01:01及びDRB5*01:01等の位置における遺伝子のスコアを算出し、CDR3 TEPITOPEの合計スコアが4よりも高い配列を除去した。これにより、更にスクリーニングを行って、ヒト化度合の高い抗PD-L1シングルドメイン抗体の配列を取得した。本発明で最終的に取得した抗PD-L1シングルドメイン抗体のCDR3 TEPITOPEの合計スコアの大部分は<-2.0であり、同種の抗PD-L1シングルドメイン抗体よりも明らかに低かった。このことは、本発明の抗PD-L1シングルドメイン抗体における潜在的免疫原性がより低いことを意味している。
【0105】
複数回のスクリーニングの結果、本発明の発明者は、競合強陽性クローンであり、TEPITOPEスコアの低い6つのAnti-PDL1シングルドメイン抗体の配列を選別した。当該抗体の全長配列は表1aに示す通りである。表中の下線部分はCDR領域を示している。
【0106】
【0107】
各抗体のフレームワーク領域(FR)及び相補性決定領域(CDR領域)は表1bに示す通りである。
【0108】
【0109】
CDR3 TEPITOPEスコアは表1cに示す通りである。
【0110】
【表1c】
注:PDL1-56dAbは特許文献1から、InnoventNbは中国特許出願第107686520A号から、Nb43は国際公開第2018/233574A1号から入手した。InnoventNbは、CDR3の2~26位のアミノ酸のTEPITOPEを予測した。
【0111】
実施例3、Anti-PDL1シングルドメイン抗体の初期評価及び鑑定
3.1 宿主大腸菌におけるシングルドメイン抗体の発現及び精製
スクリーニングにより取得した特異的陽性配列プラスミドを鋳型とし、ハイフィデリティー酵素GVP8(通用生物系統(安徽)有限公司)を用いてPCR増幅を行った。また、配列3’末端にヒスチジンタグのコード配列を組み込んだ。次に、PCR産物を電気泳動し、約600bpほどの断片をゲルから切断・回収した。続いて、回収したPCR産物を、組換え試薬キット(近岸蛋白質科技有限公司)を用いて、制限酵素NdeI(NEB社)及びEcoRI(NEB社)で切断したpET32a+ベクター(Novagen社)と組換え連結することで、大腸菌発現プラスミドを作製した。そして、これを大腸菌のコンピテント状態であるTop10F’に形質転換し、アンピシリン耐性プレートに塗布し
て、インキュベータにおいて37℃で一晩培養した。次に、アンピシリン耐性プレート上のクローンを抜き取り、プラスミドのシーケンシングを行うことで、pET32a+ベクターに対する配列の正確な挿入を特定した。シーケンシングにより特定した大腸菌発現プラスミドを大腸菌発現宿主Rosetta(DE3)に形質転換して、大腸菌発現菌株を作製した。また、アンピシリン耐性プレートから組換えクローンを抜き取り、培養してから、1mMのIPTGを用いて30℃で一晩発現を誘導した。一晩発現誘導した菌液を超音波破砕し、4℃下において12000gで10分間遠心分離したあと上清を取り、Niカラム(博格隆生物技術有限公司)を用いて精製することで、最終的なタンパク質純度を90%以上とした。
【0112】
3.2 ヒトPD-L1に対するAnti-PDL1シングルドメイン抗体の特異的結合ヒトPDL1-HSA又はHSA(シグマ社より購入)を200ng/ウェル、4℃で一晩プレートにコーティングし、5%スキムミルクを用いて室温で1時間ブロッキングした。次に、ヒスチジンタグを融合した精製後のAnti-PDL1シングルドメイン抗体を1μg/mLまで希釈したあと、1ウェルあたり100μL、37℃で1時間インキュベートした。そして、PBSTで3回洗浄したあと、1:5000で希釈したmouse anti his tag抗体(R&D Systems,Inc)を100μl/ウェル加え、室温で1時間インキュベートした。続いて、PBSTで洗浄したあと、1:10000で希釈したHRP-Goat anti mouse IgG抗体(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を1ウェルあたり100μl加え、室温で1時間インキュベートした。そして、PBSTによる洗浄後、TMB発色試薬(北京康為世紀生物科技有限公司)を加えて発色させ、450nmでOD値を測定した。
【0113】
測定結果は表2に示す通りとなった。結果より、上記でスクリーニングした6つのクローンはヒトPDL1に特異的に結合することが示された。
【0114】
【0115】
3.3 マウスPD-L1に対するAnti-PDL1シングルドメイン抗体の特異的結合
マウスmPDL1-HSA融合タンパク質(SEQ ID NO:52)を200ng/ウェル、4℃で一晩プレートにコーティングし、5%スキムミルクを用いて室温で1時間ブロッキングした。次に、ヒスチジンタグを融合した精製後のAnti-PDL1シングルドメイン抗体を1μg/mLまで希釈したあと、1ウェルあたり100μL、37℃で1時間インキュベートした。そして、PBSTで3回洗浄したあと、1:5000で希釈したmouse anti his tag抗体(R&D Systems,Inc)を100μl/ウェル加え、室温で1時間インキュベートした。続いて、PBSTで洗浄したあと、1:10000で希釈したHRP-Goat anti mouse IgG抗体(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を1ウェルあたり100μl加え、室温で1時
間インキュベートした。そして、PBSTで洗浄したあとTMBを加えて発色させ、450nmでOD値を測定した。
【0116】
結果より、Anti-PDL1シングルドメイン抗体に対応するOD値は、Anti-PDL1シングルドメイン抗体を加えなかったブランク対照群と明らかな差を有さないことが示された。このことは、スクリーニングで取得した6つのクローンがマウスPDL1に対して結合しないことを意味している。
【0117】
3.4 Anti-PDL1のシングルドメイン抗体タンパク質の競合ELISA検出
PDL1-HSAを200ng/ウェル、4℃で一晩プレートにコーティングし、5%スキムミルクを用いて室温で1時間ブロッキングした。次に、ヒスチジンタグを融合した精製後のAnti-PDL1シングルドメイン抗体を段階希釈したあと、4.8μg/mLのPD1-FCと等体積でそれぞれ混合し、1ウェルあたり100μl、37℃で1時間インキュベートした。そして、PBSTで3回洗浄したあと、1:20000で希釈した100μlのHRP-Goat anti-Human IgG Fc(Novex社)を各ウェルに加え、室温で1時間インキュベートした。続いて、PBSで3回洗浄したあと、TMB基質を加えて37℃でインキュベートした。そして、5分間インキュベートして発色させたあと、1M硫酸を加えて反応を停止させ、OD450nmの数値を読み、半数阻害濃度(IC50値)を算出した。IC50の数値が小さいほど、抗体の特異性が強いことを意味した。
【0118】
結果は表3に示す通りであった。この結果は、本発明のスクリーニングで取得したシングルドメイン抗体が良好な結合特異性を有することを意味している。
【0119】
【0120】
実施例4、Anti-PDL1シングルドメイン抗体のヒト化
ヒト化の方法については、VHHヒト化フレームワーク移植法を用いた(Vincke C,Loris R,Saerens D,Martinez-Rodriguez S,Muyldermans S,Conrath K.J Biol Chem.2009;284(5):3273-3284)。配列相同性に基づき設計を完了したユニバーサルヒト化VHHフレームワークh-NbBcII10FGLA(PDB番号:3EAK)に基づいて、対応するCDR領域をAnti-PDL1シングルドメイン抗体のCDR領域に置き換えるとともに、FR2領域の個々のアミノ酸をヒト化抗体DP-47の配列に基づき更にヒト化した。これにより、各Anti-PDL1シングルドメイン抗体について複数種類のヒト化変異体をそれぞれ取得した。そして、可能な限り多くのヒト由来アミノ酸を組み込むとともに、それらの中から、溶解度が高く、凝集体の形成量が少ないヒト化方案を選択した。また、それらの中から、溶解度が高く、凝集体の形成量が少ないヒト化方
案を選択した。且つ、ヒト化したシングルドメイン抗体を実施例3.1に従って発現及び精製した。
【0121】
好ましいヒト化後のVHHのアミノ酸配列は、表4aに示すように、SEQ ID NO:39~44であった。なお、下線部分はCDR領域を示している。
【0122】
【0123】
各ヒト化変異体のフレームワーク領域(FR)及び相補性決定領域(CDR領域)は表4bに示す通りであった。
【0124】
【0125】
各ヒト化シングルドメイン抗体のヒト化度合(最も近いヒト遺伝子及び対立遺伝子との配列同一性の比較による)は、IMGT/3Dstructure-DB(ウェブサイト http://www.imgt.org)で分析した。また、文献として、Use of IMGT(登録商標) Databases and Tools for Antibody Engineering and Humanization,Marie-Paule Lefranc等,Methods Mol Biol,907:3-37,2012を参照すればよい。結果は表4cに示す通りであった。
【0126】
【表4c】
注:hu56V1及びhu56V2はそれぞれ特許文献1のSEQID NO:33及びSEQ ID NO:34から、InnoventNbは中国特許出願第107686520A号のSEQID NO:14から、Hualan Nb 1及びHualanNb 2はそれぞれ国際公開第2018/233574A1号のSEQ ID NO:8及びSEQID NO:14から入手した。また、Bevacizumab及びAdalimumabは上市しているモノクローナル抗体である。
【0127】
実施例5、哺乳動物細胞を用いたAnti-PDL1-Fc融合タンパク質の作製
5.1 Anti-PDL1シングルドメイン抗体とFc融合タンパク質(Anti-PDL1-Fc)の発現及び精製
スクリーニングにより取得した特異的陽性配列(SEQ ID NO:33~38)とヒト化配列(SEQ ID NO:39~44)について、CHO細胞のコドンバイアスに基づき、アミノ酸配列を各塩基配列にそれぞれ変換し、遺伝子合成(南京金斯瑞生物科技有限公司)によって全長DNAを取得した。次に、各DNAを鋳型とし、ハイフィデリティー酵素GVP8(安徽通用生物技術有限公司)を用いてPCR増幅を行った。そして、PCR産物を電気泳動し、約600bpほどの断片をゲルから切断・回収した。続いて、回収したPCR産物を、シグナルペプチド及びヒトIgG1 Fc配列(SEQ ID NO:45)を含むpCDNA3.1ベクターと組換え連結することで、Anti-PDL1のシングルドメイン抗体とヒトIgG1 Fcとを融合した細胞発現プラスミドを作製した。また、エンドトキシンフリープラスミドマキシキット(バイオミガ社)を用い、Anti-PDL1のシングルドメイン抗体とヒトIgG1 Fcとを融合した細胞発現プラスミドを抽出し、プラスミドとトランスフェクション試薬PEI(Polysciences,Inc.)を1:3で均一に混合したあと30min静置した。その後、これをHEK293F細胞に加え、37℃下において、5%CO2の振とう培養機内で7日間培養してから、遠心分離後に上清を取得した。続いて、上清をpH7.0に調節したあと、サンプルをProteinAアフィニティークロマトグラフィーカラム(博格隆生物技術有限公司)に加え、100% 0.1M Gly-HCl(pH3.0)を用いて溶出した。溶出液は、10% 1M Tris-HCl(pH8.5)に予め投入した。そして、100%の溶出液をコンダクタンス4ms/cmとなるまで希釈し、pH5.5に調整したあと、遠心分離にかけた(8000rpm、4℃、10min)。続いて、上清液をpH5.0まで調整してからサンプルをDSPクロマトグラフィーカラム(博格隆生物技術有限公司)に投入し、0~60%の溶出液(20mM NaAc、0.5M NaCl、pH5.
0)を2ml/min、15minで線形溶出した。純度チェックにはSEC-HPLC-UV分析を使用した。検出器はAgilent 1100 LC、検出波長は214nm、流動相は150mM pH7.0 PB+5%イソプロパノール、クロマトグラフィーカラムはSuperdex 200 Increase 5/150 GL、動作時間は15分、カラム温度は25℃とした。純度はいずれも95%よりも大きかった。
【0128】
実施例6、生体外におけるAnti-PDL1-Fc融合タンパク質の機能鑑定
6.1 PD-L1に対するAnti-PDL1-Fc融合タンパク質の結合能力の鑑定PDL1-HSAを200ng/ウェル、4℃で一晩プレートにコーティングし、5%スキムミルクを用いて室温で1時間ブロッキングした。次に、1%BSAを用いてAnti-PDL1-Fc融合タンパク質をそれぞれ段階希釈し、37℃で1時間インキュベートした。そして、PBSTで3回洗浄したあと、1:20000で希釈した100μlのHRP-Goat anti-Human IgG Fc(Novex社)を各ウェルに加え、室温で1時間インキュベートした。続いて、PBSTで3回洗浄したあと、TMB基質を加えて37℃でインキュベートした。そして、5分間インキュベートして発色させたあと、1M硫酸を加えて反応を停止させ、OD450nmの数値を読んだ。結果を表5に示す。
【0129】
【0130】
6.2 PDL1-PD1の相互作用に対するanti-PD-L1シングルドメイン抗体Fc融合タンパク質のブロック効果の鑑定(競合ELISA法)
PDL1-HSAを200ng/ウェル、4℃で一晩プレートにコーティングし、5%スキムミルクを用いて室温で1時間ブロッキングした。次に、1%BSAを用い、Anti-PDL1-Fc融合タンパク質をそれぞれ4μg/mLの初期濃度から5倍段階希釈したあと、等体積のビオチン標識された4μg/mLのbio-PD1-FCとそれぞれ等体積混合した。そして、100μLの混合液を96ウェルマイクロプレートに採取し、37℃で1時間インキュベートした。続いて、PBSTで3回洗浄したあと、1:50000で希釈した100μLのHRP-Streptavidin(Jackson ImmunoResearch Inc.)を各ウェルに加え、室温で1時間インキュベートした。そして、PBSTで3回洗浄したあと、TMB基質を加えて37℃でインキュベートした。5分間インキュベートして発色させたあと、1M硫酸を加えて反応を停止させ、OD450nmの数値を読んだところ、結果は表6及び
図1の通りとなった。
【0131】
【0132】
上記の結果は、本発明のシングルドメイン抗体がPDL1-PD1の相互作用に対するブロック効果に非常に優れていることを意味している。
【0133】
実施例7、ヒトT細胞系におけるAnti-PDL1-Fc融合タンパク質の機能活性の鑑定
7.1 細胞検出株の作製
CD5L-OKT3scFv-CD14(GenBank:ADN42857.1)を合成し、HindIII-EcoRI(タカラ社)を用いて切断したあと、ベクターpCDNA3.1に挿入してpCDNA3.1-antiCD3TMを作製した。次に、ヒトPD-L1を鋳型とし、ハイフィデリティー増幅によりPDL1断片を取得して、組換え連結によりpCDNA3.1-antiCD3TMに挿入することでpCDNA3.1-antiCD3TM-PDL1を作製した。続いて、CHO細胞(Thermo社)にトランスフェクションしてから、G418を用いて10-14dを選択し、安定細胞系CHO-antiCD3TM-PDL1を産生した。
【0134】
ヒトPD1を鋳型とした増幅で取得した断片を、HindIII-BamHI(タカラ社)で切断したPB513B1-dual-puroベクター(優宝生物社)と組換え連結することで、プラスミドpB-PD1を作製した。次に、鋳型pGL4.30(優宝生物社)をハイフィデリティー増幅して取得した断片を、SfiI-XbaI(タカラ社)で切断したpB-PD1ベクターと組換え連結することで、pB-NFAT-Luc2p-PD1プラスミドを作製した。プラスミドの作製に成功したあと、エンドトキシンフリープラスミドマキシキット(バイオミガ社)を用いてプラスミドを抽出し、jurkat細胞(中国科学院幹細胞バンク)へのトランスフェクションに用いた。中国特許出願第107022571A号の方法を参照し、0.1mg/mlのポリ-D-リシンを用いてjurkat細胞を処理し、容器に密着した状態にしたあと、リポソームトランスフェクション試薬(Lipofectamine 3000、インビトロジェン社)のトランスフェクション解説に基づき、jurkat細胞にトランスフェクションした。そして、3日目に、10%FBSを含有するRPMI1640培地(Thermo社)を用い、ピューロマイシンを2.5μg/ml含有させて加圧スクリーニングを行った。その後、一定時間置きに培地を補充し、細胞生存率が回復してからピューロマイシンの含有量を4μg/m
lまで徐々に増加させた。これにより、最終的にJurkat-NFAT-Luc2p-PD1細胞株を取得した。
【0135】
7.2 Anti-PDL1-FC融合タンパク質がPDL1・PD1経路をブロックする能力の鑑定
CHO-CD3TM-PD-L1、Jurkat-NFAT-Luc2p-PD-1細胞を採取してカウントし、細胞密度を4×106/mlに調整してから、細胞を96ウェルマイクロプレートに1ウェルあたり25μlずつ加えた。本実験では、Anti-PDL1-Fc融合タンパク質、陽性対照群Durvalumab(アストラゼネカ社)、及び56-Fc(特許文献1のSEQ ID NO:42から入手)、陰性対照群ch-175D10(米国特許第9751934B2号から入手)をそれぞれ1%BSAで段階希釈し、これらの抗体を50μlずつ細胞に加えた。抗体の終濃度は、130nM、43.4nM、14.5nM、4.82nM、1.61nM、0.536nM、0.179nM、0.0595nMとした。そして、37℃、5%CO2で6h共培養したあと、1ウェルあたり10μlのルシフェラーゼ基質を加えて、振とう器により2min振とうしてから数値を読んだ。操作は試薬キットの説明に従った(ルシフェラーゼ検出用試薬キット、Lot:0000339727、プロメガ社)。
【0136】
図2の結果に示すように、Anti-PDL1抗体を加えた場合には、エフェクター標的細胞表面のPD-1/PD-L1の結合をブロック可能であり、用量反応曲線を有していた。且つ、特異性を有しており、ch-175D10(標的がClaudin18.2)はPD-L1・PD1経路の結合をブロック不可能であった。
【0137】
また、
図2から明らかなように、本発明において最適に取得したAnti-PDL1抗体は、エフェクター標的細胞表面のPD-1/PD-L1結合に対するブロック能力が陽性対照Durvalumab及び56-Fcよりも優れていた。
【0138】
実施例8、PBMCに対するAnti-PDL1-Fc融合タンパク質の活性化作用の鑑定
リンパ球分離溶液(天津市▲ハウ▼洋華科生物科技有限公司)を用いて、健康なヒト末梢血からPBMCを分離した。次に、終濃度5μg/mlの組換え抗CD3モノクローナル抗体(近岸蛋白質科技有限公司、製品番号GMP-A018)を50μl/ウェル、4℃で一晩プレートにコーティングした。また、2μg/mlの組換えCD28モノクローナル抗体(近岸蛋白質科技有限公司、製品番号GMP-A063)で細胞を2×106/mlまで希釈した。続いて、上記のコーティングプレートから上清を除去し、200μl/ウェルのPBSを用いて2回洗浄した。そして、200μlの細胞を各ウェルに加えて、細胞を24h活性化させたあと、5nMのDurvalumab(アストラゼネカ社)及び5nMのAnti-PDL1-Fc融合タンパク質を加えて刺激した。3日間刺激したあと、1500rpmで5min遠心分離してから、上清を収集した。そして、取得した上清について、試薬キット(達科為(Dakewe)社から購入)の説明書に従ってサイトカインIL2を検出した。
【0139】
結果は
図3に示す通りであった。抗PDL1シングルドメイン抗体融合タンパク質は、PBMCのIL2分泌を強化可能であった。且つ、それに伴うIL2の倍率増加は陽性対照Durvalumabよりも明らかに高かった。
【0140】
実施例9、Anti-PDL1-Fc融合タンパク質の腫瘍抑制活性研究
NOD/SCIDマウスに対し、ヒトPD-L1を発現したMC38細胞(MC38-PDL1)(南京銀河公司)及びヒトの末梢血単核細胞PBMCを皮下移植する実験により、Anti-PDL1-Fc融合タンパク質の腫瘍抑制活性研究を実現した。
【0141】
実験は次のように設計した。7~8週齢のNOD/SCIDマウスの右体側部分に、50%マトリゲル(BD社から購入)中の3×106個のMC38細胞を皮下移植した。腫瘍の移植から15日後に、腫瘍の大きさが100~250mm3となったマウスをランダムに群分けした。各実験群のマウスは4~6匹とした。次に、2人の健康なドナーから採取した100μlの混合PBMCs(5×105)を腫瘍内に注射した。そして、PBMCsを移植してから3日後に、皮下注射によって投与量1mg/kgで抗PDL1抗体及びヒトIgG1 FCをそれぞれ投与したあと、週に1回投与を行った。また、並列群のうちPBSを注射したものを陰性対照とした。腫瘍体積の測定については、ノギスを用いて腫瘍の最大長軸(L)と最大幅軸(W)を測定し、下記の公式に従って腫瘍体積を計算した。
【0142】
V=L×W2/2
【0143】
実験結果は
図4に示す通りであった。時間の経過とともに、Anti-PDL1-Fcを接種したマウスは、腫瘍の体積が対照群に比べて良好に制御され、顕著な増加は見られなかった。このことは、Anti-PDL1-Fcが明らかな腫瘍抑制作用を有することを意味している。
【0144】
実施例10、Anti-PDL1-Fc融合タンパク質の溶解度研究
精製した100mgのシングルドメイン抗体を限外濾過管(Merck Millipore Ltd.)で限外濾過した。交換する溶液は5mMリン酸塩緩衝液(pH7.2)又は5mM 酢酸-ナトリウム(pH5.5)とし、25℃、3500gで限外濾過濃縮した。溶液は2回交換し、それ以上濃縮できなくなるまで(20分遠心分離にかけても体積に明らかな変化が見られなくなるまで)濃縮した。そして、濃縮液を8000gで10min遠心分離にかけたあと、タンパク質含有量を測定し、当該濃度を当該条件における溶解度とした。
【0145】
【0146】
表7より、本発明において最適に取得したヒト化Anti-PDL1-Fc融合タンパク質は良好な溶解度を有していた。本実施例におけるPDL1シングルドメイン抗体は、元のFR2領域の44位及び45位の親水性アミノ酸をヒト化することで、一般的なヒト化抗体における非常に保守的な疎水性残基G及びLとしたが(表4a)、溶解度は影響を受けなかった。
【0147】
以上述べたように、本発明では、従来技術における様々な欠点を効果的に解消し、高度な産業上の利用価値を有する抗体製品を獲得した。
本発明に関する配列を表8にまとめる。
【0148】
【0149】
上記の実施例は本発明の原理と効果を例示的に説明したものにすぎず、本発明を制限するものではない。本技術を熟知する者であれば、本発明の精神及び範囲を逸脱しないことを前提に、上記の実施例を補足又は変形可能である。従って、当業者が本発明で開示した精神及び技術思想を逸脱することなく完了するあらゆる等価の補足又は変形は、依然として本発明の特許請求の範囲に含まれる。
【配列表】
【国際調査報告】