(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-26
(54)【発明の名称】糖尿病、フェニルケトン尿症、自己免疫、高コレステロール血症、その他の疾病治療用の経皮バイオリアクターもしくはトラップパッチ
(51)【国際特許分類】
A61M 37/00 20060101AFI20221019BHJP
【FI】
A61M37/00 514
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021572003
(86)(22)【出願日】2020-06-03
(85)【翻訳文提出日】2021-12-06
(86)【国際出願番号】 IB2020055221
(87)【国際公開番号】W WO2020148741
(87)【国際公開日】2020-07-23
(32)【優先日】2019-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(32)【優先日】2019-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(32)【優先日】2019-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521528780
【氏名又は名称】レクコス, ヴアサイレイオス
【氏名又は名称原語表記】LEKKOS, Vasileios
【住所又は居所原語表記】Flat 4 Timberlog Place, Clay Hill Road, Basildon Essex SS164NR (GB)
(74)【代理人】
【識別番号】100216471
【氏名又は名称】瀬戸 麻希
(72)【発明者】
【氏名】レクコス, ヴアサイレイオス
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA72
4C267BB11
4C267BB23
4C267BB40
4C267BB42
4C267BB62
4C267CC01
4C267GG02
(57)【要約】
要約
糖尿病、フェニルケトン尿症、自己免疫、高コレステロール血症、その他の疾病治療用の
経皮バイオリアクターもしくはトラップパッチ。
以下から構成される経皮パッチ:経皮パッチから突き出た位置にあり、もしくは経皮パッ
チから突き出すマイクロニードル。固定された機能分子。この機能分子はマイクロニード
ルの遠位端と固定した機能分子の間に流体経路があるものであり、機能分子が対象の分子
と相互作用して、その対象の分子を変換もしくはトラップするもの。 本装置は食後のイ
ンスリンスパイクをダイナミックに抑制し、厳格な食事制限なしに症状に劇的な改善をも
たらし、糖尿病と肥満に対するこれまでにない治療効果を実現することを意図したもので
ある。さらに、これまでにないフェニルケトン尿症の症状管理ができ、厳格な食事制限も
不要となる。また、自己抗体、低密度リポタンパク質などの病原性分子を簡単に除去する
ことができる。さらに生化学的変換やトラッピングを通じて病原性の分子の除去や酵素の
入れ替えが必要とされるあらゆる疾病に利用できる。
[
図1]
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下から構成される経皮パッチ:
経皮パッチから突き出た位置にあり、もしくは経皮パッチから突き出るマイクロニードル
固定された機能分子で以下からなるもの
マイクロニードルの遠位端と固定した機能分子の間に流体経路があるもの。
機能分子が対象の分子と相互作用して、その対象の分子を変換もしくはトラップするもの
。
【請求項2】
請求項1の経皮パッチで、電気機械式アクチュエーターのメカニズムと突出位置にあって
伸縮を制御できるマイクロニードルを備えたもの。
【請求項3】
請求項2の経皮パッチで、液体内の対象の分子の特性を検出できるように構成されたセン
サーからの入力を備えたもの。このセンサーの入力に応じて電気機械式アクチュエーター
のメカニズムが作動し、マイクロニードルの伸縮を制御できるもの。
【請求項4】
請求項2の経皮パッチで、使用者が手動で電気機械式アクチュエーターのメカニズムが作
動させ、マイクロニードルの伸縮を制御できるもの。
【請求項5】
請求項1から4の経皮パッチで、使用時にマイクロニードルが経皮パッチから突き出し、そ
の結果その遠位端が使用者の間質液と接触するもの。
【請求項6】
請求項1から4の経皮パッチで、使用時にマイクロニードルが経皮パッチから突き出し、そ
の結果その遠位端が使用者の毛細血管の血液と接触するもの。
【請求項7】
請求項1から6の経皮パッチで、固定した機能分子がマイクロニードル内に保持されるもの
。
【請求項8】
請求項1から6の経皮パッチで、固定した機能分子が経皮パッチ内部の反応チェンバー内に
保持されるもの。
【請求項9】
請求項8の経皮パッチで、固定分子を格納したカートリッジを備えたもので、そのカート
リッジが反応チャンバーに取り外し可能な形で取り付けられるもの。
【請求項10】
請求項3の経皮パッチで、当該センサーが経皮パッチ内に設置され、経皮パッチから突き
出すセンサーマイクロニードルから構成されるもの。
【請求項11】
請求項1から10の経皮パッチで、対象の分子がグルコース(ブドウ糖)であり、固定され
た機能分子がグルコースオキシダーゼか、グルコースデヒドロゲナーゼのいずれかである
もの。
【請求項12】
請求項1から11の経皮パッチで、マイクロニードルの遠位端と固定された機能分子の間の
流体の経路を横切るように設置される半透膜から構成されるもの。これにより血液や免疫
細胞が、使用中のマイクロニードルの遠位端から固定された機能分子へ流出することを防
ぐことができるもの。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は経皮パッチに関するものである。具体的には治療用の経皮パッチであり、糖尿病
患者の食後の血糖値スパイクを下げる用途を含むものである。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
経皮パッチは様々な特徴を有することが知られており、例えばバイオセンシング、ドラッ
グデリバリー、さらには有用なエネルギーの生成などがある。サイズもコンパクトで便利
であり、使用者の生活への干渉を最小限に抑えることができるものである。
EP1512429は、複数のマイクロニードルを備えた経皮パッチを開示している。このときマ
イクロニードルは活性剤や薬品などを含む保存剤(例、糖のマトリックス)などでコーテ
ィングされている。
体内に物質を送り込むよりも、体内から物質を除去したり他の物質に転換するほうが好ま
しい場合もある。
WO2015193624A1は、リアクターと相互作用する化合物の化学変換をもたらすリアクターを
開示している。これは例えばグルコース(ブドウ糖)キラーや、グルコース(ブドウ糖)
を化合物に変換して体外に排出するものがある。これは本発明が提案する原理の一つであ
るが、それとは実質的に異なる特徴を持つ移植可能なバイオリタクターである。
【発明の概要】
【0003】
発明の概要
本発明の第一の態様は、以下からなる経皮パッチを提供するものである。経皮パッチから
突出する位置にあるマイクロニードルおよび固定された機能分子。ここで流体の経路はマ
イクロニードルの遠位端と固定された機能分子の間に位置する。また機能分子は選んだ対
象の分子と相互作用させることにより、その対象の分子を変換もしくはトラップするもの
である。
【0004】
経皮パッチは電気機械式のアクチュエーターのメカニズムをさらに具備することを特徴と
し得る。このメカニズムはマイクロニードルを制御して突出する位置まで伸ばしたり、縮
めたりすることが可能である。
【0005】
経皮パッチはまた、流体中の対象の分子に関連した特徴を検出するように構成されたセン
サーからの入力をさらに特徴として具備し得るものである。ここで電気機械式のアクチュ
エーターのメカニズムはセンサーからの入力に応じてマイクロニードルを伸ばしたり、縮
めたりすることが可能である。
【0006】
電気機械式のアクチュエーターのメカニズムは使用者が手動で制御することができ、マイ
クロニードルを伸ばしたり、縮めたりすることが可能である。
【0007】
マイクロニードルは、使用中にその遠位端が使用者の間質液に浸るように経皮パッチから
突出する。
【0008】
マイクロニードルは、使用中にその遠位端が使用者の毛細血管の血液に浸るように経皮パ
ッチから突出する。
【0009】
固定された機能分子はマイクロニードル内に保管されるか、経皮パッチ内に設置された反
応槽内に保管される。
【0010】
この経皮パッチは、固定された機能分子を含むカートリッジを具備することを特徴とする
こともある。このカートリッジは取り外しができる形で反応槽に取り付けられる。
【0011】
センサーは経皮パッチ内に設置することができる。センサーは経皮パッチから突き出すマ
イクロニードルのセンサーを含む。
【0012】
ターゲットとなる分子はグルコース(ブドウ糖)であり、グルコース(ブドウ糖)オキシ
ダーゼ。 グルコース(ブドウ糖)デヒドロゲナーゼのいずれか一つの固定された機能分
子である。
【0013】
経皮パッチは、さらにマイクロニードルの外面と固定された機能分子の間の流体の連絡通
路にまたがる半透性の膜を具備することを特徴とし得る。この膜は、血液や免疫細胞が、
使用中のマイクロニードルの遠位端から固定された機能分子へ流出することを防ぐもので
ある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図の簡単な説明
ここで説明を行う本発明は、あくまでも例示的なものであり、実施形態の図の参照も例示
的なものに過ぎない。
【
図1】本発明の実施形態である経皮パッチを示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
詳細
図1は、本発明の経皮パッチを示したものである。図の実施形態では経皮パッチは、第一
の面から突出し、内部に複数の空間をもつマイクロニードル1を備えたパッチ本体から構
成される。
【0016】
このマイクロニードルはメカニズム2により任意に伸縮させることができる。このマイク
ロニードルの伸縮は既知の技術の標準的なメカニズムで実現が可能である。
【0017】
このメカニズムは、患者本人よる作動、またはその他の制御方法により作動させることが
できる。もしくはマイクロニードル1を伸ばしっぱなしにすることもできる。
【0018】
チャンバー3は内部に複数の空間をもつマイクロニードル1と流体の接触をするために任意
で備えられるものである。接触は部分的なものでも構わない。例えば膜やそれと似たよう
なもの(図には示していない)で媒介することもできる。この膜は通常はマイクロニード
ルを取り囲む。チャンバーは通常は酸素透過性膜で取り囲むことが可能であり、マイクロ
ニードルが体液をチャンバー内に流し込むことを可能にする。少なくともチャンバー内に
対象の分子を放出することが可能である。
【0019】
チャンバー3 の中身を入れ替えるためのアクセスポート4を備えることも可能である。こ
れについては以下で説明する。
【0020】
チャンバー3には冷却装置5を備えることができる。これによりチャンバー3がヒートシン
クを有して、熱をパッチ外部の空気中に放出させることができる。言うまでもないが、装
置を使用中にチャンバー3の内部で化学反応が起こることにより、熱が生成される。この
冷却装置には電力を供給することもできる。
【0021】
バイオセンサーマイクロニードル7を備えたバイオセンサー6を備えることもできる。この
バイオセンサーマイクロニードル7は、メカニズム2により伸縮が可能である。また、伸ば
したままにすることもできる。ここではパッチの一部として描かれているが、別の場所に
設置して遠隔でパッチと通信を行うこともできる。バイオセンサーは対象となる分子を検
知できるものを選ぶ。
【0022】
制御装置8を備えうる。これはマイクロプロセッサ、もしくは命令の処理、入力データの
受信、電子的な命令の出力ができる装置が用いられる。
【0023】
制御装置8は、バイオセンサー6に対して命令を送信して読み取らせることができ、またバ
イオセンサー6から読み取り結果を受信することもできる。さらに、マイクロニードルを
伸縮させるメカニズム2に指示を出して、マイクロニードル1や、バイオセンサーマイクロ
ニードル7を伸縮させることもできる。こうしたマイクロニードル1への伸縮の指示は、バ
イオセンサー6からの読み取り結果に基づいて行うことができる。
【0024】
使用時は、経皮パッチは皮膚10に取り付けられる。パッチは適当な接着層9により皮膚に
接着する
【0025】
図には示していないが、バッテリーや電源が必要になる場合がある。また様々なシステム
同士の通信のために、ワイヤレスのトランスレシーバーが必要となる場合がある。例えば
、制御装置8とバイオセンサー6の間で無線通信が必要となる。特に経皮パッチとバイオセ
ンサーが別々に設置されるような実施形態においては必要である。
【0026】
電源、トランスレシーバー、センサーは適当なインターフェースを介して、パッチに取り
付けるモジュールにすることも可能である。この場合、マイクロニードル1や機能分子を
取り替えたときにも再利用が可能である。
【0027】
本発明の経皮パッチを使用に伴い、化学反応により熱が発生することに留意をいただきた
い。そのため、すべての素材は耐熱特性を有するものを選ぶべきである。マイクロニード
ル1を大量に使用することにより、熱が伝わる表面積が拡大し、それにより熱に対する装
置の安全性を高めることができる。つまり、熱流束を最小にすることで安全に使用できる
範囲に留めることができる。
【0028】
経皮パッチの目的は、皮膚の下部にある体液から対象の分子を取り除くことにある。この
体液は、例えば間質液である。毛細血管や静脈の血液でも構わない。マイクロニードル1
の長さは、対象となる皮膚の下の特定の層や体液に合わせて慎重に選ぶことができる。
対象の分子の除去は、捕捉もしくは変換することにより達成しうる。経皮パッチが供給す
る機能分子と反応することにより、結合もしくは捕捉されるのである。もしくは、反応に
より対象の分子を違う分子にする方法もある。そのようにして生成された分子は皮膚から
使用者の体に戻され、排泄もしくは体内で処分される。
【0029】
機能分子は経皮パッチ内にとどまる。例えば、適当な物質を使用して固定する。機能分子
は中空のマイクロニードル1の内部、もしくはチャンバー3の内部にとどまる。少なくとも
中空のマイクロニードル1の内部の液体経路の一部にとどまる。中空のマイクロニードル1
内に対象の分子がとどまる実施形態では、特段不要な場合は、チャンバー3を経皮パッチ
に使用しないことも可能である。
【0030】
機能分子は、酵素、アポ酵素、抗原、抗体、無機・有機触媒、キレート剤、または他の材
料のうち、1つまたは複数を含み得る。
【0031】
機能分子は、反応する表面積を最大化する支持材を使用することにより、パッチ内部(チ
ャンバー3または中空のマイクロニードル1のいずれか)に固定することができる。固定す
る方法は以下のいずれかの方法が考えられる。高比表面積、多孔質素材、ナノ粒子の表面
に結合する方法。またポリマー、ゲル、ヒドロゲルなどの多孔質素材内に捕捉する方法。
また凝縮する方法。もしくは酵素のカプセル化が考えられる。
【0032】
支持材は導電性のものを採用しうる。特に対象の分子を捕捉するのではなく変換する場合
に有用である。例えば、レドックスポリマー(この目的に適したポリマーが開発されてい
る)、導電性のナノ粒子、ナノチューブ、カーボンなどの多孔質素材がある。
【0033】
中空のマイクロニードル1は、1枚壁もしくはミシン目の穴が空いてる壁のいずれかであ
り、遠位(皮膚を貫通している)端が開いている。チャンバー3を利用する場合は近位端
も開いている。それ以外の場合は近位端が開いているか、ミシン目の穴が空いてるいるた
め、大気中から酸素を支持材に拡散することが可能である。マイクロニードル1やチャン
バー3にヒドロゲル、ポリマーなどの物質が含まれており、これが(体液からの分子およ
び大気からの酸素の両方の)拡散を促進する。これらの物質は、対象の分子と機能分子の
化学反応に伴い熱が発生するため、耐熱特性を有するものを選ぶべきである。
【0034】
マイクロニードル1やチャンバー3は膜または半透膜で覆われる。マイクロニードル1は完
全に覆われているのが通常である。それにより装置を免疫反応や、大きな細胞やタンパク
質との接触から保護できる。さらに機能分子が本体から漏れ出すことを防ぐこともできる
。
【0035】
このパッチは、使用中は使用者の皮膚10にあり、皮膚10を貫通すると対象の分子を含んだ
体液がマイクロニードル1に流れ込む。チャンバー3を使用する場合は、体液はマイクロニ
ードル1からチャンバーに流れ込む。
【0036】
対象の分子は固定された機能分子にむけて拡散され、相互に作用し合う。この相互作用に
より、対象の分子を化学的、生化学的、物理的、生物学的に変化させることができる。ま
た、この相互作用により対象の分子を結合させ、使用者の体から隔離させることができる
。
【0037】
ある実施形態では糖尿病の治療に使用されるものもある。特に本発明の経皮パッチは、食
後のグルコース(ブドウ糖)とインスリンのスパイク抑制に使用することができる。
【0038】
本装置を使用することにより、使用者のインスリン抵抗性を下げ、高血糖症や高インスリ
ン血症の状態の時間を短縮することができる。さらに、グルコノラクトンを使用すること
により食事から摂取したカロリーを除去することができる。これにより抗糖尿病効果、抗
肥満効果、心血管保護作用が得られる。
【0039】
この例では、バイオセンサー6の数値によりグルコース(ブドウ糖)を検出することがで
き、過剰なグルコース(ブドウ糖)を変換させることができる。バイオセンサー6は継続
的にグルコース(ブドウ糖)のレベルを測定することができる。例えばマイクロニードル
7を永続的に伸長させて皮膚に挿入させることもできる。また、バイオセンサー6は、バイ
オセンサーマイクロニードル7を制御して所定の時間に伸ばし、グルコース(ブドウ糖)
の値を測定することも可能である。所定の時間はあらかじめ決めておくことも、使用者が
その都度作動させることも可能である。マイクロニードル1は、スパイクやグルコース(
ブドウ糖)のレベルが閾値を超えた際に、それに応じて伸ばすことも可能である。その場
合一定時間後に縮めることができるし、グルコース(ブドウ糖)やインスリンのレベルが
閾値を下回ったと測定したときにもそれに応じて縮めることが可能である。制御装置5は
必要な場合はタイマーを備えることも可能である。
【0040】
また、マイクロニードル1は使用者が手動で伸ばすことも可能である。例えば、使用者が
グルコース(ブドウ糖)のピークがきたことを知った場合や、その恐れがある場合、また
自分で測定した場合や、食後間もない時に使用できる。さらにマイクロニードル1は所定
の時間を経過後に自動的に縮めることも可能である。この期間(パッチのサイズも)は、
患者の代謝の状態に合わせて決めることができる。もちろんマイクロニードル1は使用者
が手動で縮めることも可能である。
【0041】
仮に上記の実施形態を行う場合、この場合はパッチとはことなるユニットやセクションが
独立してマイクロニードル1の伸縮を制御するものであるが、選択する酵素のヒトロゲル
の量に関連して挿入するマイクロニードルの本数を変えることによりグルコース(ブドウ
糖)の変換の割合を細かく制御することが可能である。例えば、最大変換割合の半分にし
たい場合、マイクロニードルを半分だけ伸ばすだけで良い。これはグルコースの測定値ま
たは収縮タイマーで実現できる。例えば、1平方センチメートルのマイクロニードルを10
分ごとに縮めることができる。
【0042】
ある実施形態ではパッチはモジュール式である。この場合パッチをより小さな別々のパッ
チに分けることもできるし、各ユニットを同じパッチにすることもできる。各ユニットの
パッチのマイクロニードル1(例えば各平方センチメートル)はそれぞれ独立して伸縮可
能である。このようにして対象の分子の変換や確保の速度を細かく制御することができる
。
【0043】
この装置は、グルコースをグルコノラクトンに変換するように構成することができる。選
んだ機能分子により、グルコースを別の分子に変換することもできる。またグルコースを
機能分子として酵素やそれ以外の触媒に変換して使用することもできる。例えば機能分子
は以下が含まれる。H2O2を中和するためのカタラーゼとともに使用するグルコースオキシ
ダーゼ。またデヒドロゲナーゼ。もしくはその他の酵素などである。
【0044】
結果として発生した分子は体内に戻り、腎臓で処理される。副産物として水が発生しうる
が、体内に戻る前に一部が蒸発する可能性がある。
【0045】
?それ以外の補因子については電気化学的な再生や、電気酵素的再生といった様々な既存
の手法を用いて固定化・再生を行う。
【0046】
例えばPQQ/FAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼは、電子を伝える触媒(酵素や固定す
る素材による。例:オスミウム複合体)に限らず、導電性の素材(例えばヒドロゲル、ポ
リマー、ナノ粒子など)に固定化することができる。ここから、ラッカーゼやビリルビン
酸素オキシドレダクターゼなどのような支持材に固定された物質により消費され、半透性
の膜を通して大気中から支持材の中に拡散する酸素の量を減らす。
【0047】
グルコースオキシダーゼや無機/有機触媒などの他のグルコース変換酵素も使用すること
ができる。
【0048】
本装置の構成要素は、測定用に電圧や電流を測定することを目指しているわけではなく、
また発電用に電圧や電流を生成することを目指しているわけでもない。そのため電極は存
在せず、導電性の支持材があるだけである。ここでは電子をグルコースデヒドロゲナーゼ
の補因子からラッカーゼやビリルビンオキシダーゼ補因子へと移動させ、大気の拡散させ
、水(グルコースオキシダーゼにより生成される陽子や電子とともに)に変えて酵素を再
生することを目指している。ヒドロゲナーゼを同時に固定することで水素を生成し、酵素
への依存を減らすことも可能である。
【0049】
固定した酵素と高多孔質の素材や粒子を使用することによって、酸素を反応点へと拡散す
ることを促進することが可能である。それにより表面積が最大化して、酸素の拡散も最大
化することになる。
【0050】
酵素とその補因子を固定化するための支持材は、間質液を吸収してグルコースを拡散させ
ると共に、支持材の細孔を通じて酸素を拡散させる。これにより間質液と触れる触媒の表
面と、大気から表面に拡散される酸素が最大化かつ最適化される。
【0051】
酸化中と還元中の酵素の両方が、導電性のポリマーなどの素材に固定されることにより電
子の移動を促進し、間質液がそのポリマーなどの素材に吸収されると同時に酸素が大気か
ら拡散される。また還元されて水を形成し、マイクロニードルを通じて間質液に拡散され
るか、電極上部のチャンバー内に溢れ出す。これにより使用者の皮膚を熱から保護する。
【0052】
間質液や酸素と接触する触媒の表面が大きいため、グルコースの変換速度が速くなる。さ
らに間質液の薄い層が触媒の表面に吸収されることから、大気からの酸素の拡散の勢いを
強めることができる。ポリマーやヒドロゲルの素材自体やその細孔を通じて、グルコース
と酸素の両方を効率的に拡散させることができる。もしくはラッカーゼやビリルビンオキ
シダーゼを支持材の反対側もしくは外側に固定して、グルコースデヒドロゲナーゼを内側
に固定することもできる。その後、酸素が大気中から拡散され、支持材の外部で反応する
。電子はラッカーゼやビリルビンオキシダーゼの支持材内で使用できるようになる。これ
はデヒドロゲナーゼが支持材の内部で固定され、グルコースが酸化ことにより生じるもの
である。内側で生成された陽子は外側に拡散し、酸素が水に還元される(陽子と電子を拡
散する電極についての参照先: doi.org/10.1016/j.eurpolymj.2010.10.022.)。
【0053】
化学反応により装置から生じる熱は、水分を蒸発させ、装置本体に対する熱の影響を最小
限に抑えることができる。この装置は電流や電圧を生成する必要がないため、電極や配線
を別途必要としない。グルコース(ブドウ糖)の酸化によって生成される酸性度は、ラッ
カーゼによって中和されるため、人体に影響を与えることはない。
【0054】
それ以外にも、酵素、無機・有機の触媒のカスケードを使用できる。例えば、グルコース
をソルビトールに変換し、適当な酵素を利用してソルボースに変換した上で排出すること
ができる。あるいはグルコースをフルクトースに変換し、D-プシコース3-エピメラーゼを
使用してアルロースに変換することができる。これは安全かつゼロカロリーであり、体外
に排出されるものである。
【0055】
あるいは、経血管モードで装置を作動させることも可能である。この場合、マイクロニー
ドル1は常に伸びた状態となり、使用者の皮膚10を常に刺すことになる。ある実施形態で
は回転するアパーチャが使用者の皮膚10の体液から中空のマイクロニードル1内に入った
機能分子を、制御信号や作動に反応して任意に隔離するものがある。また、腹腔内用の装
置も使用できる。こうした実施形態では無機の触媒は、Au/Pt または炭素などのグルコー
スの変換に適している。
【0056】
食後のグルコーススパイクを抑える(高インスリン血症を最小限に抑える)ための変換速
度としては、例えば1時間あたり10gの変換が考えられる。これは、1mg以下のグルコース
の酸化酵素で達成できる。ポリマーやゲルに拡散した酵素(または比表面積が大きいこと
から微粒子上に分散した酵素)は、数平方メートルに至る可能性がある。これにより非常
に高いグルコース分子の衝突率(例:1秒あたり数グラムのグルコース)が可能になる。こ
れにより大量の移動が起きても装置を阻害することはない。同時に固定する酵素を含んだ
ヒトロゲルは、26g以下の500のマイクロニードル(装置の熱流速を減らす場合はそれ以上
)またはマイクロニードルの上のチャンバー内の薄層に取り付けることができる。例えば
、グルコースを10g変換すると1.5ワット未満の熱を放出することがある(許容される安全
上限を下回る数値である)。生成されたグルコノラクトンや水の注入速度は20mL/h未満が
可能であり、これは一般的に許容されている皮下注入速度よりも低い速度である。マイク
ロニードルや他のパラメーターにより、パッチの全体は数平方センチメートル以下にする
ことが可能である。
【0057】
さらに、本発明はアルコール依存症の患者の治療に使用することもできる。例えば、アル
コールデヒドロゲナーゼ(または別のアルコール変換酵素や触媒)を使用して患者の血液
中のアルコールを除去し、徐々にアルコールから離れさせることができる。またアルコー
ルバイオセンサーを使用することも可能である。
【0058】
さらに、フェニルケトン尿症の患者の過剰なフェニルアラニンを変換する目的でも使用で
きる。ここではフェニルアラニンアンモニアリアーゼ、デヒドロゲナーゼ、ヒドロキシラ
ーゼ、アミノムターゼ、デカルボキシラーゼ、トランスアミナーゼ、モノオキシゲナーゼ
などのフェニルアラニン変換酵素などを使用できる。ある実施形態では、フェニルアラニ
ンアミノムターゼ(D- βフェニルアラニン)を使用して、過剰なL-フェニルアラニンを
、より毒性が低くL-フェニルアラニンの毒性から保護するD-βフェニルアラニンに変
換することができる。こうした装置はバイオセンサーのフィードバック制御によらずに作
動させることが可能である。
【0059】
これと同様に、本装置は尿酸やウリカーゼとともに使用することにより尿酸血症の治療に
使用することも可能である。ラッカーゼなどの電子受容性質の酵素(または無機触媒)を
使用して、電子を酸素に移動させることができる。この方法により、酵素補充療法を実施
することができる。
【0060】
トリアシルグリセロールリパーゼも本装置で使用することができ、体内の過剰なトリグリ
セリドを変換することができる。
【0061】
本装置は他の酵素や触媒とともに使用することにより、酵素機能障害を伴う代謝疾患にお
ける酵素補充療法の一形態として、患者に酵素の機能を提供することができる。
【0062】
本装置は抗体や抗原をトラップする目的でも使用できる。こうした実施形態ではバイオセ
ンサー6やマイクロニードルの伸縮機能2は必要ない。本装置の機能分子として固定した抗
体や抗原を使用し、体液から拡散した抗原や抗体と結合してトラップする。例えば免責関
連疾患などの治療において、病原性抗体や自己抗体を段階的かつ継続的に血漿交換などを
行うことにより体外に排出することができる(例、高コリステリン血症治療のための固定
した抗LDL抗体を使用した低密度リポタンパク質の除去)。免疫細胞やその他の細胞が当
該パッチの表面と相互作用することを防ぐため、コーティングや膜が必要になる。パッチ
が飽和した場合はこれを交換する。
【0063】
本装置は食後のインスリンスパイクをダイナミックに抑制し、厳格な食事制限なしに症状
に劇的な改善をもたらし、糖尿病と肥満に対するこれまでにない治療効果を実現すること
を意図したものである。さらに、これまでにないフェニルケトン尿症の症状管理ができ、
厳格な食事制限も不要となる。また、自己抗体、低密度リポタンパク質などの病原性分子
を簡単に除去することができる。
【0064】
上記の実施形態で示した個々の機能については、すでに様々な所で知られているものであ
ることにご留意いただきたい。つまり当業者であれば、試行錯誤を繰り返すことなく本開
示に従って本装置を構築することが可能である。例えば上記の機能分子や支持材を使用し
た固定化技術は、すでに先行技術で使用されてきたものである。閉ループフィードバック
機能を備えたバイオセンサーも既に知られている。また、マイクロニードルの伸縮メカニ
ズムも同様である。しかしながら、こうした先行技術は薬品の供給、バイオセンシング、
バイオ燃料など、異なる分野で利用されている。本発明の新規性は、こうした機能の組み
合わせや規模にあり、目的に適した形で組み合わせて適用する点にある。
【0065】
本発明は、好ましい実施形態を例にして説明してきたが、この実施形態は本発明の範囲の
限定する意図ではまったくない。本発明の範囲は特許請求の範囲で定められるものである
。
【国際調査報告】