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特表2022-545188ペロブスカイト/シリコンタンデム型光起電力デバイス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-26
(54)【発明の名称】ペロブスカイト/シリコンタンデム型光起電力デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/44 20060101AFI20221019BHJP
【FI】
H01L31/04 112Z
H01L31/04 135
H01L31/04 122
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022508900
(86)(22)【出願日】2020-08-12
(85)【翻訳文提出日】2022-04-07
(86)【国際出願番号】 US2020046008
(87)【国際公開番号】W WO2021030491
(87)【国際公開日】2021-02-18
(31)【優先権主張番号】62/885,687
(32)【優先日】2019-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504318142
【氏名又は名称】アリゾナ ボード オブ リージェンツ オン ビハーフ オブ アリゾナ ステート ユニバーシティ
(71)【出願人】
【識別番号】514299550
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティ オブ ノース カロライナ アット チャペル ヒル
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジェンシャン・ユ
(72)【発明者】
【氏名】ザカリー・ホルマン
(72)【発明者】
【氏名】ボ・チェン
(72)【発明者】
【氏名】ジンソン・ファン
【テーマコード(参考)】
5F151
【Fターム(参考)】
5F151AA02
5F151AA05
5F151AA20
5F151CA15
5F151CB13
5F151CB21
5F151CB22
5F151DA03
5F151DA07
5F151DA16
5F151FA04
5F151HA07
5F151HA20
(57)【要約】
タンデム型光起電力デバイスは、シリコン層を有するシリコン光起電力セル、ペロブスカイト層を有するペロブスカイト光起電力セル、およびペロブスカイト光起電力セルの後側とシリコン光起電力セルの前(太陽に向かう)側との間の中間層を含む。シリコン層の前側は、テクスチャ処理した面を有し、1μm未満または2μm未満の、テクスチャ処理した面における構造物の山-谷間高さを有する。テクスチャ処理した面は、中間層またはペロブスカイト光起電力セルの層によって平坦化される。タンデム型光起電力デバイスを形成することが、シリコン光起電力セルのシリコン含有層にテクスチャ処理することと、ペロブスカイト層を備えるペロブスカイト光起電力セルをシリコン光起電力セルに動作可能に結合し、そのことによって、タンデム型光起電力デバイスを形成して、シリコン光起電力セルのシリコン含有層のテクスチャ処理した面を平坦化することとを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン層を備えるシリコン光起電力セルと、
ペロブスカイト層を備えるペロブスカイト光起電力セルと、
前記ペロブスカイト光起電力セルの後側と前記シリコン光起電力セルの前側との間の中間層と
を備え、
前記シリコン層の前記前側が、テクスチャ処理した面を有して、1μm未満または2μm未満の前記テクスチャ処理した面における構造物の山-谷間高さを有し、前記テクスチャ処理した面が、前記中間層または前記ペロブスカイト光起電力セルの層によって平坦化される、タンデム型光起電力デバイス。
【請求項2】
前記テクスチャ処理した面が、前記ペロブスカイト光起電力セル中の前記ペロブスカイト層によって平坦化される、請求項1に記載のタンデム型光起電力デバイス。
【請求項3】
前記テクスチャ処理した面が、前記中間層によって平坦化される、請求項1に記載のタンデム型光起電力デバイス。
【請求項4】
前記中間層が再結合層である、請求項1に記載のタンデム型光起電力デバイス。
【請求項5】
前記テクスチャ処理した面が角状突起を有する、請求項1に記載のタンデム型光起電力デバイス。
【請求項6】
前記角状突起が、ピラミッド状、逆ピラミッド状、またはそれらの組合せである、請求項5に記載のタンデム型光起電力デバイス。
【請求項7】
前記テクスチャ処理した面が凹面領域を有する、請求項1に記載のタンデム型光起電力デバイス。
【請求項8】
前記シリコン光起電力セルがボトムセルであり、前記ペロブスカイト光起電力セルがトップセルである、請求項1に記載のタンデム型光起電力デバイス。
【請求項9】
前記ペロブスカイト光起電力セルが電子接触スタックおよび正孔接触スタックをさらに備え、前記シリコン光起電力セルが電子接触スタックおよび正孔接触スタックを備える、請求項1に記載のタンデム型光起電力デバイス。
【請求項10】
前記シリコン光起電力セルがシリコンヘテロ接合セルである、請求項1に記載のタンデム型光起電力デバイス。
【請求項11】
前記シリコンセルが、裏面不動態化接触セル、トンネル酸化物不動態化接触セル、アルミニウム裏面電界セル、またはそれらの組合せである、請求項10に記載のタンデム型光起電力デバイス。
【請求項12】
光散乱層をさらに備える、請求項1に記載のタンデム型光起電力デバイス。
【請求項13】
タンデム型光起電力デバイスを形成する方法であって、
1μm未満または2μm未満の山-谷間高さを有するテクスチャ処理した面における構造物を有するテクスチャ処理した面をもたらすために、シリコン光起電力セルのシリコン含有層にテクスチャ処理するステップと、
ペロブスカイト層を備えるペロブスカイト光起電力セルを前記シリコン光起電力セルに動作可能に結合し、そのことによって、タンデム型光起電力デバイスを形成して、前記シリコン光起電力セルの前記シリコン含有層の前記テクスチャ処理した面を平坦化するステップと
を含む、方法。
【請求項14】
前記シリコン含有層をテクスチャ処理するステップが、ウェット化学エッチング、プラズマドライエッチング、またはナノインプリントリソグラフィを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ウェット化学エッチングが、アルカリ性化学エッチングまたは酸性化学エッチングを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記シリコン光起電力セルの前記シリコン含有層の前記テクスチャ処理した面を平坦化するステップが、ブレードコーティングプロセスを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記ペロブスカイト光起電力セルが、中間層によって前記シリコン光起電力セルに動作可能に結合される、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記シリコン光起電力セルの前記シリコン含有層の前記テクスチャ処理した面を平坦化するステップが、前記シリコン光起電力セル上に前記中間層を堆積するステップを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記シリコン光起電力セルの前記シリコン含有層の前記テクスチャ処理した面を平坦化するステップが、前記中間層上に前記ペロブスカイト層を堆積するステップを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記中間層が再結合層である、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
第1のカバーと、
前記第1のカバーの反対側にある第2のカバーと、
請求項1に記載のタンデム型光起電力デバイスであって、前記第1のカバーと前記第2のカバーとの間に位置決めされる、タンデム型光起電力デバイスと
を備える、光起電力モジュール。
【請求項22】
前記第1のカバーおよび前記第2のカバーのうちの少なくとも1つがテクスチャ処理したガラスを備える、請求項21に記載の光起電力モジュール。
【請求項23】
光散乱層をさらに備える、請求項21に記載の光起電力モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる、2019年8月12日に出願された「PEROVSKITE/SILICON TANDEM PHOTOVOLTAIC DEVICE」という題名の米国特許出願第62/885,687号の利益を主張する。
【0002】
政府によるサポートの記載
本発明は、エネルギー省によって授与されたDE-EE0006709およびDE-EE0008749の下での政府のサポートを用いて行われた。政府は、本発明にある種の権利を有する。
【0003】
本発明は、ペロブスカイト太陽電池およびシリコン太陽電池を含むタンデム型光起電力デバイスに関する。特に、本発明は、タンデム型光起電力デバイスのアーキテクチャおよび構成要素セルの表面トポロジーに関する。
【背景技術】
【0004】
シリコンベースの「タンデム型」光起電力技術では、別の材料の太陽電池がシリコンの上に積み重ねられて、太陽のスペクトル全体がより効率的に使用される。シリコンセルの上にペロブスカイト太陽電池を積み重ねることによって、そのような、ペロブスカイト/シリコンタンデム型光起電力デバイスが形成される。ペロブスカイト/シリコンタンデム型デバイスは、典型的には、シリコンセルの上で層ごとに、ペロブスカイト太陽電池を溶解処理することによって製造される。溶解処理は、粗い面(たとえば、従来型シリコン太陽電池でのような、マイクロメートルサイズのテクスチャ)の上に連続的な層を堆積することが不可能であるため、ペロブスカイト/シリコンタンデム型光起電力デバイスで使用されるシリコンボトムセルは、典型的には、図1Aに描かれるように、平坦な前面を有する。少なくとも部分的にシリコンセルの平坦な前面からもたらされるこのアーキテクチャの欠点としては、高い表面反射率およびシリコンボトムセルへ光を散乱することができないことが挙げられ、その両方によって、タンデム型光起電力デバイスが吸収できる光の量が減少し、したがって、光が生成した電流およびデバイス効率が制限される。デバイス性能での不利益に加えて、このアーキテクチャで作られるタンデム構造には、典型的には、桁違いの費用がかかる化学機械研磨プロセスによって形成される、シリコンセルの平坦な前面に少なくとも部分的に起因して、製造するのに対するかなりの費用上の障害がある。いくつかの事例では、図1Bに描かれる、従来型のピラミッドテクスチャ処理したシリコンボトムセルが使用され、ピラミッドテクスチャと共形に(たとえば、蒸着プロセスによって)ペロブスカイトトップセルが堆積される。このアーキテクチャは、反射損失を低減するが、典型的には、製造費用を増加させ、ペロブスカイト/シリコンタンデム型デバイスの製造スループットを制限する真空プロセスを必要とする。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Chenら、Joule 3、177~190頁、2019年
【非特許文献2】Chenら、Joule 4、1~15頁(2020年)
【非特許文献3】Manzoorらによって出版された手順(Optics Express、vol. 26、頁27441~27460、2018年)
【非特許文献4】Firthらによって記載された(Applied Nano Materials、vol. 1、頁4351~4357、2018年)
【非特許文献5】Dengらによって記載された(Nature Energy、vol. 3、頁560~566、2018年)
【非特許文献6】Manzoorらによって記載された(Solar Energy Materials and Solar Cells、vol. 173、頁59~65、2017年)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の革新的な態様は、テクスチャ処理したシリコンボトムセルおよび溶解処理したペロブスカイトトップセルを利用する、ペロブスカイト/シリコンタンデム型光起電力デバイスを含む。シリコンボトムセルは、2μm未満または1μm未満のフィーチャサイズを有するピラミッドテクスチャ処理した面を特徴とする。このピラミッドのフィーチャサイズで、表面は、反射損失を減らすため光を散乱するのに十分に粗いが、依然として、ペロブスカイトセルを溶解処理するのに十分滑らかである。利点としては、溶解処理可能性、高いスループット、ペロブスカイトバンドギャップ調節可能性、および効率の向上が挙げられる。伝統的なシリコン光起電力デバイスの製造プロセスに対して劇的な変化なしに、少なくとも25%の全体的なセル効率を達成することができる。
【0007】
第1の一般的な態様では、タンデム型光起電力デバイスは、シリコン層を有するシリコン光起電力セル、ペロブスカイト層を有するペロブスカイト光起電力セル、およびペロブスカイト光起電力セルの後側とシリコン光起電力セルの前(太陽に向かう)側との間の中間層を含む。シリコン層の前側は、テクスチャ処理した面を有し、1μm未満または2μm未満の、テクスチャ処理した面における構造物の山-谷間高さを有する。テクスチャ処理した面は、中間層またはペロブスカイト光起電力セルの層によって平坦化される。
【0008】
第1の一般的な態様の実装形態は、以下の特徴のうちの1つまたは複数を含むことができる。
【0009】
テクスチャ処理した面は、ペロブスカイト光起電力セル中のペロブスカイト層または中間層によって平坦化され得る。いくつかの場合に、中間層は、再結合層である。
【0010】
いくつかの場合に、テクスチャ処理した面は角状突起を有する。角状突起は、ピラミッド状、逆ピラミッド状、またはそれらの組合せであってよい。いくつかの場合に、テクスチャ処理した面は凹面領域を有する。
【0011】
シリコン光起電力セルは、典型的にはボトムセルであって、ペロブスカイト光起電力セルは、典型的にはトップセルである。シリコン光起電力セルは、シリコンヘテロ接合セル(たとえば、裏面不動態化接触セル、トンネル酸化物不動態化接触セル、アルミニウム裏面電界セル、またはそれらの組合せ)であってよい。シリコン光起電力セル、ペロブスカイト光起電力セル、または両方は、電子接触スタック、正孔接触スタック、または両方を含むことができる。
【0012】
タンデム型光起電力デバイスは、光散乱層をさらに含むことができる。
【0013】
第2の一般的な態様では、タンデム型光起電力デバイスを形成することは、1μm未満または2μm未満の山-谷間高さを有するテクスチャ処理した面における構造物を有するテクスチャ処理した面をもたらすためにシリコン光起電力セルのシリコン含有層にテクスチャ処理することと、ペロブスカイト層を備えるペロブスカイト光起電力セルをシリコン光起電力セルに動作可能に結合し、そのことによって、タンデム型光起電力デバイスを形成して、シリコン光起電力セルのシリコン含有層のテクスチャ処理した面を平坦化することとを含む。
【0014】
第2の一般的な態様の実装形態は、以下の特徴のうちの1つまたは複数を含むことができる。
【0015】
シリコン含有層をテクスチャ処理することとしては、ウェット化学エッチング、プラズマドライエッチング、またはナノインプリントリソグラフィが挙げられる。ウェット化学エッチングの例としては、アルカリ性化学エッチングまたは酸性化学エッチングが挙げられる。
【0016】
ペロブスカイト光起電力セルは、中間層(たとえば、再結合層)によってシリコン光起電力セルに動作可能に結合される。
【0017】
いくつかの場合に、シリコン光起電力セルのシリコン含有層のテクスチャ処理した面を平坦化することとして、ブレードコーティングプロセスが挙げられる。いくつかの場合に、シリコン光起電力セルのシリコン含有層のテクスチャ処理した面を平坦化することとして、中間層を堆積すること、または中間層上にペロブスカイト層を堆積することが挙げられる。
【0018】
第3の一般的な態様では、光起電力モジュールは、第1のカバーと、第1のカバーの反対側の第2のカバーと、第1の一般的な態様のタンデム型光起電力デバイスとを含む。タンデム型光起電力デバイスは、第1のカバーと第2のカバーとの間に位置決めされる。
【0019】
第3の一般的な態様の実装形態は、以下の特徴のうちの1つまたは複数を含むことができる。
【0020】
いくつかの場合に、第1のカバー、第2のカバー、または両方が、テクスチャ処理したガラスを含む。ある場合には、光起電力モジュールが光散乱層を含む。
【0021】
本開示の主題の1つまたは複数の実施形態の詳細が、添付図面および説明中に記載される。本主題の他の特徴、態様、および利点は、説明、図面、および請求項から明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1Aは、平坦なシリコン面上にペロブスカイトセルを有するペロブスカイト/シリコンタンデム型デバイスを描く図である。図1Bは、テクスチャ処理したシリコン面と共形なペロブスカイトセルを有するペロブスカイト/シリコンタンデム型構造を描く図である。
図2A】ピラミッドテクスチャ処理したシリコンボトムセルを有するペロブスカイト/シリコンタンデム型デバイスを描く図である。
図2B】凸形状テクスチャ処理したシリコンボトムセルを有するペロブスカイト/シリコンタンデム型デバイスを描く図である。
図3A】ペロブスカイト層によって平坦化されるピラミッドテクスチャ処理したシリコンボトムセルを有するペロブスカイト/シリコンタンデム型デバイスを描く図である。
図3B】再結合層によって平坦化されるピラミッドテクスチャ処理したシリコンボトムセルを有するペロブスカイト/シリコンタンデム型デバイスを描く図である。
図4】モジュールへと封入されるタンデム型デバイスを描く図である。
図5A】ペロブスカイト/シリコンタンデム型デバイスを描く図である。
図5B】ペロブスカイト/シリコンタンデム型デバイスを描く図である。
図5C】ペロブスカイト/シリコンタンデム型デバイスを描く図である。
図5D】ペロブスカイト/シリコンタンデム型デバイスを描く図である。
図6A】あるピラミッドサイズを有するシリコン面テクスチャの走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す図である。
図6B】あるピラミッドサイズを有するシリコン面テクスチャの走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す図である。
図6C】あるピラミッドサイズを有するシリコン面テクスチャの走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す図である。
図6D】あるピラミッドサイズを有するシリコン面テクスチャの走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す図である。
図7A】本明細書で記載されるように製造されたペロブスカイト/シリコンタンデム型デバイスを描く図である。
図7B】PDMS光散乱層を追加する前のタンデム型デバイスのSEM断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
Chenら、Joule 3、177~190頁は、さらなる詳細のために、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0024】
図1Aは、上側挿入図に描かれるペロブスカイトトップセル102、および下側挿入図に描かれるテクスチャ処理したシリコンボトムセル104を含む、従来技術のタンデム型デバイス100を描く。ペロブスカイトトップセル102は、その前(太陽に向かう)側から後側に、以下の層、すなわち、金属グリッド106、透明導電層108、電子接触スタック110、ペロブスカイト吸収体112、および正孔接触スタック114を含む。再結合層116は、ペロブスカイトトップセル102とシリコンボトムセル104との間に位置決めされる。ペロブスカイトトップセル102の厚さは、典型的には、約0.7μmから約3μmの範囲にある。ペロブスカイト吸収体112の厚さは、典型的には、約0.5μmから約1μmの範囲にある。シリコンボトムセル104は、電子接触スタック118、シリコン吸収体120、正孔接触スタック122、および裏面電極スタック124を含む。テクスチャ処理したシリコンボトムセルの厚さは、典型的には、約100μmから約300μmの範囲にある。タンデム型デバイス100のシリコン吸収体120の前側126は、平坦な面を形成するために研磨される。シリコン吸収体120の後側128は、従来のピラミッドテクスチャを有する。本明細書で使用する、「従来のピラミッドテクスチャ」は、一般的に、少なくとも3μm(たとえば、3μmから10μm)の平均山-谷間高さを有するピラミッド状フィーチャのことをいう。図1Bは、ペロブスカイトトップセル102、およびテクスチャ処理したシリコンボトムセル104を含む、従来技術のタンデム型デバイス150を描く。シリコン吸収体120の前側126は、従来のピラミッドテクスチャを有し、ペロブスカイトトップセル102は、シリコン吸収体120の前側126上に共形に堆積される。
【0025】
本開示は、テクスチャ処理したシリコンボトムセルおよび平坦化したペロブスカイトトップセルを含むペロブスカイト/シリコンタンデム型光起電力デバイスを記載する。テクスチャは、シリコン中に細長い光の経路長を可能にして、平坦な(すなわち平らな)前面を有するセルと比較して、ボトムセル電流を高める。本明細書で使用する「平坦化した」面は、一般的に、テクスチャ処理した層の上に重ね合わせた(たとえば、カバーするまたは直接接触する)層の面のことをいい、そのため、層がテクスチャ処理した面の凹部を満たし、テクスチャ処理した層の対応する領域と比較して、高さのばらつきを減らした平坦化した面がもたらされる。シリコンボトムセルのシリコン吸収体は、典型的には、約1μm未満、約1.5μm未満、または約2μm未満の最大フィーチャサイズを有するテクスチャ処理した前面を有する。本明細書で記載されるように、ピラミッド状フィーチャまたは他のフィーチャに関して、「フィーチャサイズ」は、一般的に、シリコン吸収体の巨視的平面に垂直に測定したときの山-谷間の高さのことをいう。このフィーチャサイズで、表面は、反射損失を低減させるため光を散乱するのに十分に粗いが、依然として、ペロブスカイトセルを溶解処理するのに十分に滑らかである。少なくとも、タンデム型デバイス100のシリコン吸収体120の前面126が平らな面を有し、タンデム型デバイス150のシリコン吸収体120の前面126が、面上に形成される共形な層で従来型のピラミッドテクスチャを有するために、タンデム型デバイス100および150のシリコン吸収体120の前面126は、本明細書で記載されるように「平坦化」されるとは考えられない。これらの共形な層は、共形な層が形成されるテクスチャ処理したシリコン吸収体のものとほぼ同じ高さのばらつきを有する。Chenら、Joule 4、1~15頁(2020年)は、さらなる詳細のために、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0026】
図2Aに描かれるものなどといった、本開示の一実施形態では、タンデム型デバイス200は、ペロブスカイトトップセル202およびシリコンボトムセル204を含む。ペロブスカイトトップセル202は、その前側から後側に、以下の層、すなわち、金属グリッド206、透明導電層208、電子接触スタック210、ペロブスカイト吸収体212、および正孔接触スタック214を含む。正孔接触スタック214の厚さは、典型的には、約30nm未満である。中間層(たとえば、再結合層)216は、ペロブスカイトトップセル202とシリコンボトムセル204との間に位置決めされる。シリコンボトムセル204は、電子接触スタック218、シリコン吸収体220、正孔接触層222、および裏面反射体スタック224を含む。タンデム型デバイス200のシリコン吸収体220の前側226および後側228は、アルカリ性化学エッチングによって形成されるピラミッド状表面テクスチャ230を有する。いくつかの実施形態では、図2Aに関して記載される層のうちの1つまたは複数がない。ある種の実施形態では、ペロブスカイトトップセル、シリコンボトムセル、または両方が、タンデム型デバイス200の中に存在しない1つまたは複数の追加の層を有することができる。一例では、ペロブスカイトトップセル202の前面は、テクスチャ処理した光散乱層を含む。
【0027】
アルカリ性エッチングは、たとえば、単結晶シリコンウェハで使用することができる。シリコン吸収体の前側に形成されるテクスチャ処理した面(たとえば、ピラミッド状、逆ピラミッド状、凸状など)のサイズが、高さが約1μm未満、約1.5μm未満、または約2μm未満となるように、エッチングプロセス期間に、温度、エッチャント、時間、またはそれらの何らかの組合せを適用することができる。エッチングプロセスは、たとえば、水酸化カリウム、ケイ酸カリウム、水酸化ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、イソプロピルアルコール、エタノール、またはそれらの組合せのエッチャントを含むことができる。たとえば、接触スタック218および222は、アモルファスシリコン、ナノもしくはマイクロ結晶性シリコン、ナノもしくはマイクロ結晶性シリコン酸化物、リンもしくはボロン拡散層、シリコン酸化物、またはそれらの組合せを含むことができる。たとえば、裏面電極スタック224は、インジウムスズ酸化物、インジウム亜鉛酸化物、水素ドープインジウム酸化物、亜鉛酸化物、シリコン酸化物、銀、アルミニウム、またはそれらの任意の組合せを含むことができる。
【0028】
ボトムシリコンセル204の前面上に配設される中間層(たとえば、再結合層)216は、たとえば、インジウムスズ酸化物、インジウム亜鉛酸化物、水素ドープインジウム酸化物、ナノもしくはマイクロ結晶性シリコン、ナノもしくはマイクロ結晶性シリコン酸化物、またはそれらの組合せを含むことができる。
【0029】
ペロブスカイトトップセル202は、中間層216の上に堆積され、正孔接触スタック214で開始する。ブレーディングプロセス(たとえば、窒素支援型ブレーディングプロセス)を使用して、テクスチャ処理したシリコン吸収体220を完全にカバーする、共形な正孔接触スタックおよび平坦化ペロブスカイト吸収体を堆積することができる。堆積は、約1m/分から約10m/分の範囲の速度で行うことができる。接触スタック210および214は、たとえば、スズ酸化物、亜鉛酸化物、チタン酸化物、ニッケル酸化物、タングステン酸化物、モリブデン酸化物、N,N,N2’,N2’,N,N,N7’,N7’-オクタキス(4-メトキシフェニル)-9,9’-スピロビ[9H-フルオレン]-2,2’,7,7’-テトラミン(スピロ-OMeTAD)、ポリ[ビス(4-フェニル)(2,4,6-トリメチルフェニル)アミン] (PTAA)、ポリ(トリアリールアミン)、フラーレン、フラーレン派生物、またはそれらの組合せを含むことができる。タンデム型光起電力デバイス200は、透明導電層208および金属グリッド206で仕上げ処理される。透明導電層208は、たとえば、インジウムスズ酸化物、インジウム亜鉛酸化物、水素ドープインジウム酸化物、またはそれらの組合せを含むことができる。金属グリッド206は、たとえば、銅、銀、スズ、ニッケル、またはそれらの組合せを含むことができる。
【0030】
図2Bに描かれるものなどといった本開示の別の実施形態では、タンデム型デバイス250は、図2Aに関して記載される層を含む。タンデム型デバイス250のシリコンボトムセル204は、酸性化学エッチングによって形成される凸形状表面テクスチャ232を特徴とする。酸性エッチングは、たとえば、多結晶シリコンウェハで使用することができる。凸様テクスチャのフィーチャサイズが、約1μm未満、約1.5μm未満、または約2μm未満となるように、エッチングプロセス期間に、温度、エッチャント、時間、またはそれらの何らかの組合せを適用することができる。エッチングプロセスは、たとえば、フッ化水素酸、硝酸、硫酸、酢酸、リン酸、またはそれらの組合せのエッチャントを含むことができる。図2Aに関して記載されるプロセスを使用して、タンデム型デバイス250を製造することができる。
【0031】
いくつかの実施形態では、タンデム型デバイスアーキテクチャの層は、異なる順序で配置することができる。一例では、電子接触スタックと正孔接触スタックの順序が逆にされる。そのため、タンデム型デバイスアーキテクチャは、ペロブスカイトトップセルによって平坦化されるテクスチャ処理したシリコンボトムセルを有し、その前側から後側に、以下の層、すなわち、金属グリッド、透明導電層、正孔接触スタック、ペロブスカイト吸収体、電子接触スタック、再結合層スタック、第2の正孔接触スタック、シリコン吸収体、第2の電子接触スタック、および裏面反射体スタックを含む。
【0032】
いくつかの実施形態では、任意の形状の表面テクスチャは、フィーチャサイズが、約1μm未満、約1.5μm未満、または約2μm未満である。表面フィーチャ形成プロセスは、たとえば、ウェット化学エッチング、プラズマドライエッチング、またはナノインプリントリソグラフィであってよい。ある実施形態では、任意の形状の表面テクスチャは、最初にエッチングされるとき、フィーチャサイズが約1μm、約1.5μm、または約2μmより大きい場合があり、次いで、第2のエッチングプロセスによって、それぞれ、フィーチャサイズで約1μm未満、約1.5μm未満、または約2μm未満に小さくされる。この第2のエッチングプロセスは、たとえば、ウェット化学エッチングを含むことができる。
【0033】
いくつかの実施形態では、シリコンボトムセルは、たとえば、ドクターブレードプロセス、スクリーン印刷、スロットダイコーティング、グラビア印刷、またはスピンコーティングを使用して、ペロブスカイト吸収体または接触スタックによって平坦化される。窒素(N)ナイフ支援型ブレーディングプロセスが、溶媒蒸気を取り除き、ブレーディングプロセス期間に、ペロブスカイトまたは接触スタック溶液を固体へと迅速に遷移するのを容易にする助けとなる。基板の温度は、溶媒の蒸発を加速させるために、(たとえば、少なくとも50℃、少なくとも60℃、少なくとも70℃、または約60℃と約80℃との間の範囲に)上げることができる。少なくとも、突き出たピラミッドはトップセルを短絡させることになるために、接触スタックの上にコーティングされたペロブスカイト吸収体は、好ましくは、下にあるフィーチャ(たとえば、ピラミッド)を覆うのに十分厚い。ペロブスカイト吸収体は、また、好ましくは光生成キャリアを集めるのに十分薄い。約1μmの程度のキャリア拡散長では、ペロブスカイト吸収体は、好ましくは、約2μm未満の厚さであって、分離構造物(たとえば、ピラミッド)がない。ブレードコーティングしたペロブスカイト吸収体の厚さは、ペロブスカイト前駆体の濃度、ブレードと基板との間の間隙距離、およびブレードコーティング速度を通して調節することができる。
【0034】
図3Aおよび図3Bは、シリコンボトムセル304を有するタンデム型デバイス300および350を描く。タンデム型デバイス300中のシリコンボトムセル304は、ペロブスカイト吸収体312によって平坦化される。タンデム型デバイス350中のシリコンボトムセル304は、ペロブスカイト吸収体312とシリコンボトムセル304との間の層332(たとえば、再結合層または正孔接触スタック)によって平坦化される。
【0035】
いくつかの実施形態では、シリコンボトムセルは、シリコンヘテロ接合セル、トンネル酸化物不動態化接触(tunnel-oxide-passivated-contact)(TOPCon)セル、裏面不動態化接触(passivated-emitter-rear-contact)(PERC)セル、アルミニウム裏面電界(aluminum-back-surface-field)(Al-BSF)セル、またはそれらの何らかの組合せである。
【0036】
ペロブスカイト/シリコンタンデム型デバイスは、ガラス-ガラス構成またはガラス-バックシート構成でモジュールへと封入することができる。図4は、前面ガラスカバー434、エッジ封止物436、バックカバー438、および封入剤440を有する構成で封入される、ペロブスカイトトップセル402およびシリコンボトムセル404を有するタンデム型デバイス400を含むモジュール450を描く。バックカバーは、典型的には、ガラスカバーまたはバックシートである。バックシートは、典型的には、高分子膜材料(たとえば、TEDLAR)または高分子材料のスタックを含む。エッジ封止物436用に好適な材料としては、ブチルゴム(たとえば、ポリイソブチレン)が挙げられる。封入剤440用に好適な材料としては、エチレンビニルアセテート、ポリオレフィン、およびシリコーンが挙げられる。前面ガラスカバー434は、光を散乱して前面反射を低減するフィーチャを有するテクスチャ処理した面を特徴とする。フィーチャの平均の高さは、典型的には、マイクロメートルからミリメートルの範囲にある。これらのタンデム型デバイスは、最小反射損失を有する。
【0037】
(実施例)
光学的モデリング。開示される(ポリジメチルシロキサン(PDMS)/平坦化と呼ばれる)タンデム型アーキテクチャを検討するため、図5A図5Dに描かれるように、4つの異なるペロブスカイト/シリコンタンデム構成に、SunSolveソフトウェアで、光学的シミュレーションが実施された。図5A中のタンデム型デバイス500(ARC/平坦)は、ペロブスカイトトップセル502、平坦な前面506を有するシリコンボトムセル504、および平坦な前面512を有する反射防止層510を含む。図5B中のタンデム型デバイス520(PDMS/平坦)は、ペロブスカイトトップセル502、平坦な前面506を有するシリコンボトムセル504、およびピラミッド状(3μmの高さ)前面516を有する光散乱層514を含む。図5C中の(完全にテクスチャ処理した)両側タンデム型デバイス540は、共形のペロブスカイトトップセル502およびピラミッド状(3μmの高さ)前面506を有するシリコンボトムセル504を含む。図5D中の(PDMS/平坦化)両側タンデム型デバイス560は、テクスチャ処理した(880nmの高さ)前面518を有するシリコンボトムセル504、平坦化したペロブスカイトトップセル502、およびピラミッド状(3μmの高さ)前面516を有する光散乱層514を含む。関連するSunSolveパラメータが、Table 1(表1)にリスト化される。
【0038】
【表1】
【0039】
各層の光学的定数は、Manzoorらによって出版された手順(Optics Express、vol. 26、頁27441~27460、2018年)にしたがって、J.A. Woollam製のM-2000エリプソメータを使用することによって特徴づけられた。MgFを反射防止層として有する(ARC/平坦と呼ばれる)モデルが図5Aに描かれるように構成された。この構造は、実際に、25.4%の効率のタンデムを達成した。表面形態(および図5B図5Dに示されるような光散乱層)を変える一方で、両方のサブセルの構成要素層を同じに保つことによって、他の構成がシミュレーションされた。
【0040】
図5Bに描かれるように、MgF層を(この場合、ポリジメチルシロキサン(PDMS)である)テクスチャ処理したガラスのものと同様の光学特性を有する面と置き換えることによって、少なくとも部分的に、表面テクスチャによって導入される「2重反跳」効果に起因して、ほとんど2mA/cmから2.3mA/cmだけ反射損失が低減される。図5Cに示される完全にテクスチャ処理した構成で、反射損失は、1.6mA/cmにさらに低減される。図5Dに描かれるPDMS/平坦化タンデム型デバイスは、完全にテクスチャ処理したものとほとんど同一の反射率曲線をもたらし、さらにわずかにより低い、1.4mA/cmの反射損失を有する。この構成では、「平坦化した」ペロブスカイト層を再生成するために、ソフトウェアは、ペロブスカイト吸収体を非干渉性層としてモデル化したことに留意されたい。したがって、反射率曲線は、他の構成よりも低い干渉を示す。
【0041】
ピラミッド調節。平坦化したペロブスカイト層を有するそのようなタンデム構造を製造する第1のステップは、シリコンウェハのピラミッドサイズを調節するステップを含むことができる。1つの実験では、4つの異なる水酸化カリウムベースのエッチングレシピが使用されて、シリコンウェハをテクスチャ処理し、異なるピラミッドサイズが結果として得られた。レシピA~Dの走査型電子顕微鏡(SEM)画像が、それぞれ図6A図6Dに示される。各画像中のスケールバーは、2μmを表す。Table 2(表2)は、レシピA~Dの組成をリスト化する。
【0042】
【表2】
【0043】
レシピA(図6A)は、最も大きいピラミッドを生成する。原子間力顕微鏡(AFM)測定から得られるピラミッドの高さ(山-谷)分布は、0.4~2.5μmの範囲を示し、1.3μmの平均高さを有する。そのようにテクスチャ処理したウェハは、11.5%のAM1.5Gの重付け反射率(700~1100nm)を示し、通常は>33%の反射率を有する平坦なシリコンウェハと比較して良好な光散乱を呈示する。ピラミッドの最大の高さは、2.5μmであり、これは、大きすぎて、溶解処理したペロブスカイトトップセルによって平坦化することができない可能性があるため、他のレシピがさらに開発された。ALKA-TEX添加物の量を調節することによって、レシピBでテクスチャ処理した(図6B)ピラミッドの平均の高さが、より密な分布で、0.55μmに低減される。追加のケイ酸カリウムを用いて、レシピC(図6C)は、平均ピラミッド高さを0.45μmにさらに低減し、0.8μmの最大高さを有する。ピラミッドのサイズを小さくすることによって、ウェハの反射率を適度に増加させ、レシピBおよびCそれぞれで、13.1%および14.2%の重み付け反射率が結果として得られた。エッチング時間をさらに調節して、0.2~0.7μmのピラミッドの高さの範囲を有するより均一なサイズ分布が、レシピDで得られた(図6D)。しかし、このウェハの反射率は、17.8%に著しく増加した。
【0044】
この反射率の増加は、入射光がどのようにピラミッドと相互作用するかについての変化に起因する可能性がある。これを検討するため、テクスチャ処理したウェハの角度で分解した反射率(195nmの入射波長)が測定された。ピラミッドが大きいとき(レシピA)、光は、主に入射から18°の出射角度に反射される。ピラミッドがより小さくなると、約75°の第2の出射角度が現れる。光が最初にピラミッドの小面のどこに入射するかに依存して、出射角度が異なる場合があり、より大きい出射角度では、より大きい反射率がもたらされる。より小さいピラミッドでは、光のより多くの部分が大きい(直角に近い)角度で第2のピラミッドに当たり、したがって、より大きい反射率がもたらされる。
【0045】
別の実験では、(100)方位、2~5Ωcmの抵抗率、および180μmの厚さを有する、17枚のn型、アズカット、M2サイズCz単結晶シリコンウェハが使用された。基準として、1つのウェハが、2.8wt% KOHおよび0.14wt% ALKA-TEX(GP Solar添加物)を含んだ溶液中で20分間レシピAと同様のレシピでテクスチャ処理された(以降では、マイクロテクスチャ処理と呼ばれる)。他の16枚のウェハは、30vol% KOH溶液中で5分間のこぎりダメージ除去(SDR)エッチングを受け、次いで、より小さいピラミッドを用いるテクスチャ処理(以降では、ナノテクスチャ処理と呼ばれる)のために、4つのグループの4枚のウェハへと分割される。4つのナノテクスチャ処理溶液は、1.4wt% KOH、1.1wt% ALKA-TEX、および0、1、3、または5wt%のいずれかのKSiOを含んだ。各グループ内の4つのウェハでは、テクスチャ処理時間が、5から20分に5分ステップで変えられた。エッチング温度は、すべての場合で、80℃で一定に保たれた。この文書の全体を通してウェハの片側だけについて規定されるエッチング深さおよび速度は、テクスチャ処理の前後で、電子てんびんを用いて全部の17枚のウェハの重さを量ることによって決定された。テクスチャ処理プロセス全体にわたって、各ステップの間に水の抵抗率が8MΩcmより高くなるまで、ウェハは、流れる脱イオン(DI)水中で10分間、必要な場合には時々より長くリンス処理され、最後のリンス処理後に遠心脱水処理された。
【0046】
テクスチャ処理が完了したら、最初に表面形態をSEM画像で定性的に検査した。Everhart-Thornleyまたはスルーザレンズ検出器を使用して、それぞれ、5kVの加速電圧および1.6nAのプローブ電流で2次電子画像が取得された。これらの画像を補完するため、特別に作ったMATLAB(登録商標)コードを用いてAFM画像からピラミッドサイズ分布が計算された。AFMスキャンは、BrukerからのMultiMode 8器械を使用して、最小の試料の損失で高い解像度のため、タッピングモードで行われた。マッピングする間にカンチレバーがピラミッドの山と接触しないように、10μmより高い高さを有するように先端が選択された。さらに、ピラミッドの谷の底に完全に届くため、8nmの小さい先端半径が使用された。テクスチャが大きい高さのばらつきを有することに起因して、測定アーティファクトを避けるために、0.5Hzの遅いスキャン速度が選択された。テクスチャを最も良好に表すため、各M2サイズのウェハにわたって3つの異なる場所が、75×25μmの合計面積についてスキャンされた。最小および最大の密度のテクスチャについて、この面積は、それぞれ、762個および76,071個のピラミッドをカバーする。AFMスキャンからピラミッドの高さの分布を抽出するため、MATLAB(登録商標)のコードは、最初に、各AFM画素の高さの値をその隣接画素のものと比較し、ピラミッドの山を識別する。アルゴリズムは、次いで、全部の谷が発見されるまで、画素を径方向に、山に関連する画素から離れてスキャンする。そのピラミッドの高さは、次いで、その山と最も低い谷との間の差異として表にされる。このプロセスは、すべてのピラミッドが定量化されるまで繰り返される。
【0047】
トポロジー的特性に続けて、ウェハは、光学的に評価された。積分球を装備したPerkinElmer Lambda 950分光光度計を使用して、5nmステップで300~1200nmの波長範囲にわたって、7°の入射角度でスペクトル反射率が測定された。次いで、400から1100nmのAM1.5Gの光束密度を使用して、平均の重み付け反射率が計算された。
【0048】
各テクスチャで可能なパッシベーション品質を評価することを狙った第2の実験では、第1の組のウェハと平行して、同一の条件で、17枚のさらなるウェハがテクスチャ処理された。テクスチャ処理からの有機残渣は、110℃で15分間の、88wt%硫酸および2.4wt%過酸化水素(H)を含む、ピラニア洗浄溶液で除去された。次に、74℃で10分間の、5.3wt%塩酸および4.0wt%Hを含む、RCA-B溶液で金属イオンが除去された。最後に、室温で1分間の、10:1体積比の36wt%フッ化アンモニウム対4.6wt%フッ酸を含む、バッファ酸化物エッチャントで自然酸化物が除去された。テクスチャ処理プロセスと同様に、ウェハは、各ステップ間で、DI水でリンス処理された。前側は、次いで、それぞれ、6nm厚の真性アモルファスシリコン(a-Si:H)層、および5nm厚のn型アモルファスシリコン(a-Si:H)層でパッシベートされ、後側は、それぞれ、6nm厚の真性a-Si:H層、および12nm厚のp型a-Si:H層でパッシベートされた。これらの層は、Applied Materials製の、P5000プラズマエンハンスト化学的気相堆積(PECVD)ツールを使用して堆積された。パッシベーション後に、各ウェハにわたって5つの異なる場所で、Sinton WCT-120で、少数キャリア寿命が測定され、それらの平均値が計算された。
【0049】
ナノテクスチャの総合的な評価のために、0.43μm/分のエッチング速度で、溶液中のマイクロテクスチャを処理することによって、基準が最初に確立された。20分間のエッチング後、SEM画像によって明らかなように、テクスチャは明瞭にマイクロメートルサイズのピラミッドを有した。ピラミッドサイズは、AFM抽出データでさらに定量化された。これは、1674nmの平均ピラミッドサイズ、6~4301nmのピラミッドサイズ範囲、および4×10ピラミッド/mmの密度をマイクロテクスチャが有したことを示す。この基準テクスチャが、20%を超える平均効率および22%を超える最大効率を有するシリコンヘテロ接合太陽電池をもたらす。
【0050】
この基準マイクロテクスチャから密で均一なサイズのナノテクスチャへと首尾よく遷移するため、2つの要因、すなわち、ピラミッド核生成速度およびピラミッド成長速度が考慮される。ここで、核生成速度は、単位時間当たり単位面積当たりに形成されるピラミッドの数として規定され、成長速度は、単位時間当たりピラミッドごとの高さの増加として規定される。テクスチャ処理の最初のステージ期間に、核生成速度が十分に速く、成長速度が十分に遅い場合、いずれかの単一のピラミッドが、高さが1μmに達する前に核生成の部位が表面を飽和させることができる。これは、ナノテクスチャにとって理想的な条件である。というのは、より長いエッチング期間に、多量に核生成した表面は、均一なサイズのピラミッドで密に成長することになるためである。表面が部位で飽和する程度は、それらの絶対値ではなく、むしろ、核生成速度対成長速度の比Pに依存する。さらに、空間的に均一なテクスチャには、ウェハにわたって核生成速度および成長速度が均質であることが必要である。このことを念頭に置いて、マイクロテクスチャ処理プロセスからの3つのパラメータは、Pを最大化する一方で、均質な核生成速度および成長速度、すなわち、初期ウェハ面条件、溶液の組成、および溶液の温度を維持するように調整された。
【0051】
ワイヤソーイング後の初期ウェハ面は、核生成速度および成長速度の均質性を低下させることになる高い欠陥密度を有する。というのは、両方のパラメータは、欠陥の部位においてより高いためである。テクスチャ処理の前に表面を滑らかにするためのSDRステップが、空間的に均一なテクスチャ処理を促進する。加えて、この面処理は、優れたパッシベーションのために重要である。というのは、のこぎりダメージのフィーチャが最高で5μmの深さであるように示されているためである。7μmより大きいエッチング深さを有するマイクロテクスチャとは異なって、ナノテクスチャ処理は、単に0.3~2μmをエッチングする。したがって、ナノテクスチャ処理プロセスだけでは、のこぎりダメージを完全になくすには不十分であって、約8μmのエッチング深さを有するSDR処理がここで使用された。
【0052】
マイクロテクスチャのピラミッド成長速度を低下させ核生成を奨励するために、溶液の組成も調節された。基準の組成は0.45μm/分でエッチングし、原則的に、ちょうど1分後に、1μm近い平均ピラミッド高さを生成することができる。そのような速いテクスチャ処理は、サブマイクロメートルの長さのスケールにおける正確なテクスチャ制御を難しくする。したがって、KOH濃度を半分に減らすことによって、エッチング速度を、0.13μm/分へと1/3に減速させた。加えて、ALKA-TEX添加物の濃度を増加して、Pならびに核生成速度および成長速度の均質性をさらに高めた。この湿潤剤は、シリコン面上の水素の泡の表面張力を減らし、その結果それらをより容易に取り除く、イソプロパノールに対する環境に配慮した代替品である。その結果、添加物は、水分子、および主にシリコン面と反応してシリコン面をエッチングする水酸基イオン(OH)が、テクスチャ処理プロセス期間に、より均一に広がることを可能にする。次いでこれは核生成速度を上げ、成長速度を下げ、それらの均質性を改善する。この添加物の適切な濃度は、マイクロテクスチャ組成のものの8倍であることが発見された。したがって、この変更が、すべての4つのナノテクスチャ処理溶液に適用された。
【0053】
溶液の温度は、調査した最後のパラメータであった。溶液の温度は、ピラミッド成長速度を下げてPが増加するのを試すために、最初に、80℃から75℃に下げられた。成長速度の低下は実際に達成されたが、核生成速度のより強い低下が観測され、Pを悪い方向に向かわせた。このことによって、不完全なテクスチャ処理がもたらされ、区域がほとんどまたは全くピラミッドでカバーされなかった。したがって、より速い核生成反応速度に有利なように、温度は、80℃に戻された。
【0054】
それぞれが、ナノテクスチャ処理溶液(KSiOなし)と基準マイクロテクスチャ処理溶液で同じ時間(20分)の間テクスチャ処理されたウェハによって、上述の変化がピラミッドサイズを大幅に減らすことが検証される。サイズ分布データによって、前者が実際に、505nmの平均ピラミッドサイズ、42~1140nmのピラミッドサイズ範囲、および4x106ピラミッド/mmの密度を有するナノテクスチャであることが確認される。これは、マイクロテクスチャの基準と比較して、平均ピラミッドサイズで70%の低減、ピラミッドサイズ範囲で74%の低減、ピラミッド密度で1桁の増加を表す。
【0055】
さらなるサイズ制御を可能にするため、エッチング溶液に、1、3、および5wt%KSiOが加えられた。KSiO濃度が0から5wt%に増えると、エッチング速度は、0.13から0.05μm/分へと遅くなり、-0.02μm/分の傾きを有する線形減少である。変化するエッチング時間と協働して、これらの新しい溶液によって、多種多様なピラミッドサイズを有する15の他のナノテクスチャが生成された。それらのサイズ分布によって、ナノテクスチャの平均ピラミッドサイズが62から512nmの範囲にわたったことが明らかとなる。さらに、それらのサイズ均一性が優れていた。KSiOなしで15分間エッチングされた最も均一でないテクスチャは、27nmの最小ピラミッドサイズおよび1226nmの最大ピラミッドサイズを有し、5wt%KSiOで5分間エッチングされた最も均一なテクスチャは、14nmの最小ピラミッドサイズおよび246nmの最大ピラミッドサイズを有した。16個のナノテクスチャのうちの4個だけが1μmより高いピラミッドを有し、最も均一でないテクスチャでは、0.3%だけ1μmを超えるピラミッドがあった。
【0056】
SiOは、それが成長速度を調節するための分子種をもたらすため、テクスチャサイズを制御するのに効果的である。テクスチャ処理の最初のステージ期間、核生成の前に、この添加物はシリコン面と接着するケイ酸塩(SiO 2-)へと分解する。この反応の結果として、均一でメッシュ状のナノマスクが形成され、ケイ酸塩の濃度がより高くなると、より細かいメッシュサイズを実現することができる。ALKA-TEXを用いると、このマスクは水分子およびOHイオンが均等に広がるのを助け、それによって成長速度を低下させる。5分だけのKSiOなしのエッチング後に、平均ピラミッドサイズが、急速に400nmに成長した。他方で、3wt%KSiOを含む溶液によるより遅い成長速度では、100、200、および300nmに近い平均ピラミッド高さを得るのは、困難さが少なかった。
【0057】
ケイ酸塩マスクは、核生成速度を増加させ、成長速度を低下させて、密なテクスチャとするためにPを高める。この効果は、十分に高いKSiO濃度で見ることができる。たとえば、それぞれが、10分間の3wt%KSiO、および20分間の5wt%KSiOでエッチングした2つのナノテクスチャが、同様の平均ピラミッドサイズを有し(19nmだけの差異であり)、後者のナノテクスチャは、56%だけ、より密である。しかし、その密度の増加は、直ちにより高い表面カバレッジにつながるわけではないことに留意されたい。というのは、ピラミッドのベースサイズが同様に決定的な要因であるためである。むしろ、そのことによって、(十分なエッチング時間が与えられれば)より小さいテクスチャの製造が容易になる。これは、3および5wt%KSiOで処理したナノテクスチャの場合であった。それらでは、表面を完全にテクスチャ処理するためにより長いエッチング時間が必要である。
【0058】
製造したナノテクスチャが光をトラップする能力を評価するため、それらの反射率が、300から1200nmで測定された。0および1wt%KSiOでエッチングされ、400nmより大きい平均ピラミッドサイズを有するナノテクスチャの半数近くが、マイクロテクスチャと同様の反射スペクトルを有する。500nmを超える波長では、ナノテクスチャの反射率が、より高くそれ始め、マイクロテクスチャからの最大の差異は、およそ1000nmで約2.5%(絶対値)である。この挙動についての可能な説明は、最小のピラミッドは、より長い波長の光によってもはや幾何学的フィーチャとしては見られず、その代わり、効果的媒体として働くということである。3および5wt%KSiOでエッチングしたナノテクスチャの他の半分は、マイクロテクスチャよりも数パーセント高い反射率を有する。反射率は、平均ピラミッドサイズと相関するが、主な原因は、これらのウェハが、鏡面的に光を反射する平坦で、テクスチャ処理していない区域を有するということである。極端な場合(5分間の5wt%KSiO)では、研磨したウェハのものに似ている反射スペクトルが結果としてもたらされる。
【0059】
エッチング深さの関数として、それらのAM1.5Gの重み付け反射率を有するウェハの光学性能を、以下のように要約することができる。マイクロテクスチャと同様の反射率値をもたらすナノテクスチャの半分近くがそのようにして、テクスチャ処理プロセス自体の期間に、はるかに少ないシリコンがエッチング除去される。ここで使用される追加のSDRステップは、マイクロテクスチャ処理でと同じ量のシリコンを除去することになるが、これは、のこぎりダメージ層によって課される制限である。たとえば、直接ウェハ成長またはカーフレスウェハ作成といった、のこぎりダメージなしのシリコンウェハでは、ここで調査した最大のエッチング深さを有するものでさえ、ナノテクスチャは、マイクロテクスチャのものより67%少ないシリコンを消費することになり、一方で、そのAM1.5G重み付け反射率は、1%だけより高くなる。2.3%高い反射率が許容できる場合、除去したシリコンの84%がナノテクスチャで節約することができる(1wt%KSiO、10分)。これは、今日標準である約150μm厚ウェハでは大きい関心事にならないが、極薄シリコン太陽電池では成功要因となる場合がある。
【0060】
所与の表面テクスチャで達成可能なパッシベーション品質は、少なくとも、その反射率と同じだけ太陽電池で重要である。1つ以外のすべてのナノテクスチャによって、標準的なマイクロテクスチャのものに相当した1.7~3.4msの値を有する、a-Si:Hでパッシベーションした後の、優れた少数キャリア寿命が可能になった。これは、ナノテクスチャの谷の面密度の増加にもかかわらず、適切なテクスチャ処理、洗浄処理、およびパッシベーションによって、表面再結合を効果的に抑制することができ、界面品質を妥協する必要がないことを示す。5分間KSiOなしでエッチングした、約0.5msという短い少数キャリア寿命を有するナノテクスチャは、不十分なSDR処理を受けた。のこぎりダメージが完全には取り除かれていなかったことを、フォトルミネッセンス画像が示す。
【0061】
所与のナノテクスチャを選択する際に、いくつかの特性を平行して考慮することができ、各用途は、これらに異なる重みを付けることができる。たとえば、ブレードコーティングしたペロブスカイト層を有するペロブスカイト/シリコンタンデム中のボトムセルとして使用するように意図されたシリコンウェハでは、たとえば500nmより低く最大ピラミッド高さを低減することが伴う場合、反射率の増加を許容することができる。(完全なタンデムの反射率は、典型的には、未加工シリコンウェハのものよりも、ペロブスカイトトップセルの前面の形態により依存する。)
【0062】
示したように、標準的なマイクロテクスチャに相当する性能を有する、ウェット化学エッチングを用いたナノテクスチャを製造することが可能である。16個のナノテクスチャのうち6個が、1msより長い少数キャリア寿命、および15%より低いAM1.5G重み付け反射率(および、1.1μmより低い最大ピラミッド高さ)を有する。テクスチャ処理溶液にKSiOを加えることによって、Pを増加させることで、短いエッチング時間で、ピラミッドサイズの詳細な制御を実現するが、ウェハ上に平坦な区域も残る。このトレードオフに対する可能な解決策は、KSiO濃度が増加するようにエッチング時間を延ばし、ピラミッド密度を監視することである。10分間の3wt%KSiOでエッチングしたナノテクスチャと、20分間の5wt%KSiOでエッチングしたナノテクスチャを比較する。それらの平均ピラミッドサイズはほぼ同じであるが、5wt%でエッチングしたウェハは、56%高いピラミッド密度を少なくとも部分的に有するために、3wt%で処理したものより低い、AM1.5G重み付け反射率3.5%を有した。しかし、この試料の絶対反射量は、少なくとも部分的に依然として高い。というのは、テクスチャ処理されない区域が残るためである。その結果、最大のKSiO濃度では、15%未満の反射率およびかつてない(小さい)ピラミッドを有するウェハを生成するために、エッチング時間は、本研究中で調査した20分の最大値を超えてさらに延長するべきである。最後に、パッシベーション品質は、テクスチャサイズとは独立であってよく、したがって、表面再結合は、ナノテクスチャを必要とする出現しつつある技術の制限要因となるべきでない。
【0063】
ペロブスカイト堆積プロセス。課題は、テクスチャ処理したシリコン面と密接に接触する、これらの厚さでの、密なペロブスカイト吸収体を生成することである。この問題は、溶液の乾燥とペロブスカイト粒子成長を釣り合わせるように設計される溶液工学を通して解消することができる。1つの事例で、Pbに対して0.05mol%比の界面活性剤L-a-ホスファチジルコリン(LP)を有する2-メトキシエタノール(2-ME)中の1.55 M Cs0.1MA0.9Pb(I0.9Br0.1ペロブスカイト前駆体では、前駆体中のDMSO/Pbの比率が0から50mol%に調節される。というのは、DMSOがペロブスカイトと協調し、したがって、乾燥および結晶化プロセスを変化させると予想されるためである。乾燥後でアニーリング前の固体ペロブスカイトフィルム(以降では、ドライフィルムと呼ぶ)では、6モルと50モルとの間のDMSO/Pb比について、テクスチャ処理したウェハの空隙のないカバレッジが行われる。逆に、3mol%未満のDMSO/Pb比では、ドライフィルムとウェハとの間に拡大された空隙が存在する。10分間の70℃、15分間の100℃でのアニーリング後、ペロブスカイトフィルムは、6~25mol%のDMSO/Pb比について密のままであるが、50mol%のDMSO/Pb比を有するアニールフィルムの底部および内側に空隙が現れる。ペロブスカイト前駆体中の界面活性剤LPは、ウェットフィルム内側のマランゴニ溶液流を抑制することによって、テクスチャ処理した表面上で、空隙のないドライフィルムの形成をやはり容易にする。
【0064】
25mol% DMSOの添加物濃度によって、密なCs0.1MA0.9Pb(I0.9Br0.1フィルムを、25mm/sまたは1.5m/分の速度で、低沸点溶液(2-ME)からブレードコーティングすることが可能になる。ドライフィルムとアニールフィルムの両方は、密であって、ピラミッドの谷から測定して約1.5μmの厚さを有するテクスチャ処理したウェハを完全にカバーする。テクスチャ処理したウェハ上および平坦な基準ウェハ上のブレード処理したペロブスカイトフィルムは、ほぼ同じフォトルミネッセンス強度および電荷-キャリア再結合寿命を示し、それらが高い品質であることを示す。さらに、この設計したペロブスカイト溶液は、ブレードコーティングのためだけに働くのではなく、サブマイクロメートルテクスチャ処理したシリコン上へのフィルムのスピンコーティングのためにも働く。
【0065】
どのようにして密なペロブスカイトフィルムがテクスチャ処理したウェハ上で形成するのかを理解するため、プロセスは3つのステップ、すなわち、ブレードコーティングによるウェットフィルム形成、Nブローによるフィルム乾燥、およびアニーリングによるフィルム結晶化へと分離された。ブレードコーティング期間に、ペロブスカイト溶液の層が基板上へと運ばれる。溶液は、主に2-MEであって少量のDMSOを有する。ここで、2-MEは、高度に揮発性であるが、ペロブスカイト材料と非整合であり、DMSOは、不揮発性であるが、ペロブスカイト材料と整合して中間相を形成することができる。Nブロー期間に、2-MEが迅速に揮発し、DMSOと整合したドライフィルムを残す。DMSOの量が限られることに起因して、ドライフィルムは、しばしば、ペロブスカイトとペロブスカイトDMSO中間相の混合物となる。その後のアニーリングによって、中間相がペロブスカイトに変換され、粒子成長が伴う。ドライフィルムとテクスチャ処理したウェハとの間の拡大された空隙が湿っている期間または乾燥期間に形成されるかを検討するために、ペロブスカイト溶液をブレード処理した後直ぐに試料を冷凍し、クライオ走査型電子顕微鏡(クライオSEM)の下で検査した。DMSOのないペロブスカイト溶液は、ピラミッドの谷を完全に満たし、空隙の形成をもたらすのは乾燥プロセスであることが明らかとなる。上面の溶媒が蒸発するときに、溶液/空気界面で乾燥が始まり、固体トップシェルを迅速に形成する。次いで、残りの溶液が乾燥すると、固体フィルムがシェルから下向きに成長し、最後の2-ME溶媒が蒸発するときに空隙を残し、その容積を満たすためのペロブスカイト前駆体が残らない。DMSOを有する溶液では、それが高い沸点を有してペロブスカイトと強く化学的協調することによって、トップ固体シェルの迅速な形成が阻害される。すなわち、ペロブスカイトDMSO中間相粒子は、シェル形成に割り込み、2-ME溶媒が蒸発するのを可能にして、空隙の形成を抑制する。
【0066】
しかし、ペロブスカイト溶液が多すぎるDMSOを有するとき、ドライフィルムは依然としてピラミッドの谷を満たすが、アニーリングによって、空隙の形成が引き起こされる。このことは、中間相からのDMSOの除去に起因する、アニーリングの際のドライフィルムの収縮によって説明することができる。このことを説明するため、PTAAコーティングしたITO/ガラス基板上への25mol%のDMSO/Pb比を有する前駆体からコーティングされたペロブスカイトフィルムの厚さが測定された。厚さは、アニーリング後に13%減少し、他のDMSO濃度を有するフィルムは、同様に、それらの濃度に比例して収縮した。少なすぎるDMSOでフィルムの乾燥をする場合と同様に、多すぎるDMSOでのフィルムのアニーリング誘起結晶化は、上面から下向きに進み、最後の溶媒、この場合には2-MEの代わりにDMSOが退出すると空隙が生成される。適度に小さいDMSO濃度(この実験では、≪25%)でだけ、DMSOが離脱する際の体積減少が、ペロブスカイト拡散によって補償することができ、こうして、アニーリング後のテクスチャ処理したシリコン上に密なペロブスカイトフィルムが維持される。
【0067】
テクスチャ処理したシリコン上の密なペロブスカイト吸収体層のための望ましい条件は、したがって、室温でのN支援型ブレードコーティングと、それに続く、ペロブスカイト結晶化のための熱アニーリングである。Nナイフを用いて熱い基板上でペロブスカイトフィルムをブレードコーティングすることによる、乾燥プロセスと結晶化プロセスの組合せによって、ブレーディング後に、ペロブスカイトフィルムとテクスチャ処理したシリコン基板との間に空隙が生成されることが見いだされた。このことは、熱い基板がペロブスカイト前駆体の乾燥を加速し、これによって、フィルムの頂部上に固体シェルが形成され、底部に空隙が作成されるためであると信じられる。
【0068】
タンデム結果。ペロブスカイト太陽電池を適用するために最適化したブレードコーティングプロセスを用いて、図7Aに示される詳細なセル概略図で、ペロブスカイト/シリコンタンデム型光起電力デバイス700が製造される。シリコンボトムセル704は、レシピCをテクスチャ処理することによって形成される、0.8μm未満の最大ピラミッド高さを有する両側ピラミッドテクスチャを特徴とする。アモルファスシリコンヘテロ接合接触は、本明細書に参照によって組み込まれるChenら、(Joule、vol. 3、頁177~190、2019年)に記載されるものと同じである。シリコンボトムセル704は、シリコン吸収体(c-Si (n))720の後側に共形な層を含む。シリコンボトムセルの前側の共形な層は、PTAA760、前面ITO762、a-Si:H (n)764、およびa-Si:H (i)766を含む。シリコン吸収体720の後側の共形な層は、a-Si:H (i)768、a-Si:H (p)770、インジウムスズ酸化物(ITO)772、シリカナノ粒子(300nm厚のコーティング)774、および銀776を含む。シリカナノ粒子コーティング774が、インジウムスズ酸化物層772と銀層776との間に挿入され、寄生吸収を低減し、シリコンボトムセルの赤外線(IR)光応答を高めた。このIR透過性銀層は、本明細書に参照によって組み込まれる、Firthらによって記載された(Applied Nano Materials、vol. 1、頁4351~4357、2018年)エアロゾルインパクト駆動組立(AIDA)技法によって噴霧コーティングされ、堆積期間のフィルムの多孔性を制御することによって屈折率が1.2に調節された。シリコンボトムセル704の前側に、ペロブスカイトトップセル702を接続するための再結合層として、インジウムスズ酸化物層762が使用された。
【0069】
ペロブスカイトトップセル702は、本明細書に参照によって組み込まれる、Dengらによって記載された(Nature Energy、vol. 3、頁560~566、2018)ような、ブレードコーティングおよび他のプロセスで、シリコンセルの上に形成された。手短にいえば、ペロブスカイトトップセル702は、ポリ(ビス(4-フェニル))(2,4,6-トリメチルフェニル)アミン(PTAA)層760をブレードコーティングし、ペロブスカイト層712をブレードコーティングし、C60層778を熱的に蒸発させ、原子層堆積によってスズ酸化物層780を堆積し、インジウムスズ酸化物層782をスパッタリングすることによって製造された。最後に、デバイスは、本明細書に参照によって組み込まれる、Manzoorらによって記載された(Solar Energy Materials and Solar Cells、vol. 173、頁59~65、2017年)ように、テクスチャ処理したモジュールガラスについての代用物として働く、テクスチャ処理したPDMS光散乱層784で覆われた。図5Bに描かれるように、基準PDMS/平坦タンデムが、同じ層構成だが、ペロブスカイトとシリコンサブセルとの間の平坦な界面を有してやはり製造された。
【0070】
図7Bに示されるような、SEM断面図(PDMS層なし)によって、ペロブスカイトトップセル702がテクスチャ処理したシリコンボトムセル704を平坦化したことが確認される。基準の平坦なタンデム構造と比較して、デバイス性能における1つの改善点は、短絡電流密度(Jsc)である。外部量子効率(EQE)測定によって明らかになるように、サブセルのJscは、38.7mA/cmの合計光生成電流密度と、19.3mA/cmで電流が一致した。この数は、PDMS層なしの基準平坦タンデム(図5Aに描かれる構造だが反射防止コーティングなし)のものより2.4mA/cm高く、基準PDMS/平坦タンデム(図5Bに描かれる構造)より0.8mA/cm高い。電流の改善は、少なくとも部分的に2つの現象に帰することができる。第1にペロブスカイトセルの層構造はPDMS/平坦化デバイスとPDMS/平坦デバイスの両方で同じであるが、PDMS/平坦化タンデムは、より高い青色応答を示す。第2に、少なくとも部分的に、ペロブスカイト/シリコン界面におけるテクスチャによって導入される光散乱効果に起因して、干渉縞をなくすことに起因するPDMS/平坦化タンデム中で750~1100nmの反射率がかなり低く、その帯域において約95%の平坦EQEがもたらされる。このEQEの改善は、PDMS/平坦基準デバイスと比較してシリコンボトムセル中でより高いJscをもたらさないが、少なくとも部分的に、600~750nm範囲の伝達が減ることに起因する。これは、シリコンボトムセルのピラミッドテクスチャを平坦化する必要に応じて、少なくとも部分的に、PDMS/平坦化タンデム中のペロブスカイト層が基準デバイス中のものより厚いことのためであると考えられる。PDMS/平坦化タンデムについての反射からの電流損失は、2.3mA/cmである。このデバイスにおける主な電流損失のメカニズムは、(たとえば、ペロブスカイトセルの電子接触では、300~600nm間の1-反射率とEQE曲線間の間隙から明らかなように)寄生吸収であると考えられる。デバイスの電流-電圧測定は、25.1%の効率を示した。
【0071】
本開示は多くの特定の実施形態の詳細を含むが、これらは、本主題の範囲または特許請求できるものの範囲への制限とみなすべきでなく、むしろ特定の実施形態に固有であってよい特徴の記載であるとみなすべきである。別個の実施形態の文脈で本開示に記載されるある種の特徴は、組み合わせて単一の実施形態中に実装することもできる。逆に、単一の実施形態の文脈で記載される様々な特徴は、複数の実施形態で個別に、または任意の好適な下位の組合せで実装することもできる。さらに、以前に記載した特徴がある種の組合せで働くように記載され、最初にそのように主張さえされる場合があるが、主張される組合せからの1つまたは複数の特徴を、いくつかの場合に、組合せから削除することができ、主張した組合せは、下位の組合せまたは下位の組合せの変形形態を導くことができる。
【0072】
本主題の特定の実施形態が記載されてきた。記載される実施形態の他の実施形態、代替形態、および置換形態は、当業者には明らかなように、以下の請求項の範囲内である。動作は、特定の順番で図面または請求項に描かれるが、このことを、望ましい結果を達成するために、そのような動作が示される特定の順番でもしくは逐次的な順序で実施されること、またはすべての説明された動作が実施されることが必要であると理解するべきでない(いくつかの動作はオプションであると考えることができる)。
【0073】
したがって、前に記載した例示的な実施形態は、本開示を規定または制限しない。本開示の精神および範囲から逸脱することなく、他の変更、代替、および改変も可能である。
【符号の説明】
【0074】
100 タンデム型デバイス
102 ペロブスカイトトップセル
104 シリコンボトムセル
106 金属グリッド
108 透明導電層
110 電子接触スタック
112 ペロブスカイト吸収体
114 正孔接触スタック
116 再結合層
118 電子接触スタック
120 シリコン吸収体
122 正孔接触スタック
124 裏面電極スタック
126 前側
128 後側
150 タンデム型デバイス
200 タンデム型デバイス、タンデム型光起電力デバイス
202 ペロブスカイトトップセル
204 シリコンボトムセル
206 金属グリッド
208 透明導電層
210 電子接触スタック
212 ペロブスカイト吸収体
214 正孔接触スタック
216 中間層、再結合層
218 電子接触スタック
220 シリコン吸収体
222 正孔接触層、接触スタック
224 裏面反射体スタック
226 前側
228 後側
230 ピラミッド状表面テクスチャ
232 凸形状表面テクスチャ
250 タンデム型デバイス
300 タンデム型デバイス
304 シリコンボトムセル
312 ペロブスカイト吸収体
332 層
350 タンデム型デバイス
400 タンデム型デバイス
402 ペロブスカイトトップセル
404 シリコンボトムセル
434 前面ガラスカバー
436 エッジ封止物
438 バックカバー
440 封入剤
450 モジュール
500 タンデム型デバイス
502 ペロブスカイトトップセル
504 シリコンボトムセル
506 前面
510 反射防止層
512 前面
514 光散乱層
516 前面
518 前面
520 タンデム型デバイス
540 両側タンデム型デバイス
560 両側タンデム型デバイス
700 ペロブスカイト/シリコンタンデム型光起電力デバイス
702 ペロブスカイトトップセル
704 シリコンボトムセル
712 ペロブスカイト層
720 シリコン吸収体(c-Si (n))
760 PTAA、ポリ(ビス(4-フェニル))(2,4,6-トリメチルフェニル)アミン(PTAA)層
762 前面ITO、インジウムスズ酸化物層
764 a-Si:H (n
766 a-Si:H (i)
768 a-Si:H (i)
770 a-Si:H (p
772 インジウムスズ酸化物(ITO)、インジウムスズ酸化物層
774 シリカナノ粒子コーティング
776 銀、銀層
778 C60層
780 スズ酸化物層
782 インジウムスズ酸化物層
784 PDMS光散乱層
図1
図2A-2B】
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図6C
図6D
図7A
図7B
【国際調査報告】