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特表2022-545211光ケーブル、光ケーブル監視システム、および坑井の監視方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-26
(54)【発明の名称】光ケーブル、光ケーブル監視システム、および坑井の監視方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/44 20060101AFI20221019BHJP
   G01M 3/38 20060101ALI20221019BHJP
   G01D 5/353 20060101ALI20221019BHJP
【FI】
G02B6/44 381
G01M3/38 A
G02B6/44 396
G01D5/353 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022510826
(86)(22)【出願日】2020-08-14
(85)【翻訳文提出日】2022-04-15
(86)【国際出願番号】 MY2020050069
(87)【国際公開番号】W WO2021034184
(87)【国際公開日】2021-02-25
(31)【優先権主張番号】PI2019004724
(32)【優先日】2019-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】MY
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522062092
【氏名又は名称】ペトロリアム・ナショナル・ブルバド・(ペトロナス)
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】岸田 欣増
(72)【発明者】
【氏名】アマド・リザ・ガザーリー
(72)【発明者】
【氏名】モハマド・ファイザル・ビン・アブド・ラヒム
【テーマコード(参考)】
2F103
2G067
2H201
【Fターム(参考)】
2F103CA07
2F103EC09
2G067AA02
2G067BB22
2G067CC03
2G067EE08
2H201AX43
2H201AX49
2H201BB02
2H201BB22
2H201BB32
2H201BB33
2H201BB55
2H201BB68
2H201KK06
2H201KK20
(57)【要約】
光ケーブル(10、10a)を、油分中の炭化水素を吸収して膨張する性質を有する炭化水素吸収樹脂(2)の変形を感知する光ファイバ(1)と、この光ファイバ(1)の外周を覆うように配置された撚り線(20)と、前記光ファイバ(1)と前記撚り線(20)との間の空間に充填された炭化水素吸収樹脂(2)と、を含むように構成し、このように構成した光ケーブル(10、10a)を、計測対象となる坑井(100)の深さ方向に、その全範囲にわたって敷設するとともに、前記光ファイバ(1)からの後方散乱光の周波数シフト信号を後方散乱光測定装置(40)で計測して、坑井(100)の深さ方向の全範囲にわたって、この坑井(100)からの油の漏れの有無を検知する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバと、
この光ファイバの径方向に設けられた複数のケーブルが、前記光ファイバの外周を覆うように撚られて円環状に配置された撚り線と、
炭化水素を吸収し、前記光ファイバおよび前記撚り線間の空隙に充填された炭化水素吸収樹脂と、
を備えたことを特徴とする光ケーブル。
【請求項2】
前記光ファイバの径方向に設けられ、前記撚り線のケーブルよりも外径の大きい複数のケーブルが、前記撚り線の外周を覆うように撚られて円環状に配置された第2の撚り線と、前記撚り線および前記第2の撚り線間の空隙に充填された炭化水素吸収樹脂と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の光ケーブル。
【請求項3】
光ファイバと、
この光ファイバの径方向に設けられた複数のケーブルが、前記光ファイバの外周を覆うように撚られて円環状に配置された撚り線と、
前記光ファイバの径方向に設けられ、前記撚り線のケーブルよりも外径の大きな複数のケーブルが、前記撚り線の外周を覆うように撚られて円環状に配置された第2の撚り線と、
前記第2の撚り線の1つのケーブルを置き換えて配置され、被測定体の物理特性である温度、歪あるいは圧力を計測する物理特性計測用光ファイバと、
前記光ファイバの径方向に設けられ、前記第2の撚り線のケーブルよりも外径の大きい複数のケーブルが、前記第2の撚り線の外周を覆うように撚られて円環状に配置された第3の撚り線と、
炭化水素を吸収し、前記光ファイバ、前記撚り線、前記第2の撚り線、および前記第3の撚り線間の空隙に充填された炭化水素吸収樹脂と、
を備えたことを特徴とする光ケーブル。
【請求項4】
前記炭化水素吸収樹脂は、前記撚り線の長手方向に間欠的に充填されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の光ケーブル。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の光ケーブルと、
ブリルアン散乱光とレイリー散乱光の周波数シフトとを計測する後方散乱光測定装置と、
を備え、
前記炭化水素吸収樹脂が被測定体に含まれる炭化水素を吸収したことによる前記光ファイバの周波数シフト変化と、前記被測定体の物理特性である圧力、歪あるいは温度の変化による前記光ファイバの周波数シフト変化とを判別して計測することを特徴とする光ケーブル監視システム。
【請求項6】
前記被測定体の物理特性である圧力、歪あるいは温度の変化による前記光ファイバの周波数シフト変化量と判別して計測された、前記被測定体に含まれる炭化水素を吸収したことによる前記光ファイバの周波数シフト変化と、前記被測定体に含まれる炭化水素を吸収したことによる前記光ファイバの周波数シフト変化が発生した前記光ファイバの発生位置とを対応させて計測することを特徴とする請求項5に記載の光ケーブル監視システム。
【請求項7】
請求項6に記載の光ケーブル監視システムを用い、炭化水素を検知する光ファイバを、坑井の外側位置である深さ方向に沿って敷設して前記坑井からの油のリークを監視する坑井の監視方法であって、
前記油のリークにより、前記光ファイバが検知した炭化水素による散乱光シフト量が他の位置での散乱光シフト量と異なる信号であるリーク信号の坑井内での位置についての経時変化を記録するとともに、
前記リーク信号を検出した位置において、前記坑井を補修するとともに補修後における前記リーク信号の検出の有無を確認することにより、前記坑井の補修が適切に行われたか否かを判断することを特徴とする坑井の監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、光ケーブル、光ケーブル監視システム、および坑井の監視方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来は、油井の使用寿命が終わった後は、油井の出口となっている、陸上であれば地面が基準となり洋上であれば海底が基準となる、地上の建築物などに影響を与えない一定の(50m程度の)深さにおいて、油井の構造物であるケーシング(casing)を切断し、ケーシングの最上端に設置されているスチール製の蓋を溶接することで油井の出口を密閉し、その上で、砂土でケーシングとの間にある空間を埋めるという方法で使用寿命が終わった油井の廃棄処理を済ませていた。
この廃棄処理の方法は、約80年前に確立されており、これまで、1年間におよそ5万個、総計で約4百万個以上の油井がこの方法により廃棄処理されてきた。
【0003】
しかしながら、米国のカリフォルニア州で、廃棄された油井(以降、廃棄油井と呼ぶ)が原因と想定される炊事用水の汚染が見つかったことなど、日常生活への影響が出たことで、さらに厳重な廃棄方法で対応しなければならない事態となっている。
また、マレーシア沖の海底油井では、廃坑(廃棄油井)からの石油のリークが日々増加して、海洋汚染の問題が無視できなくなっている。
【0004】
このように、石油の大規模開発が始まってから約100年が経過した現在、廃棄油井等の処理については、油井の数の増大、および大量の洋上の石油開発により、ますます重要な課題となりつつある。
【0005】
一方で、以上のような廃棄油井の処理について検討した例は、これまでほとんどなく、大抵は、石油または天然ガス等を産出するための坑井掘削で使用する掘削用一時目止め剤の発明(例えば、特許文献1参照)、石油井または天然ガス井から、石油あるいは天然ガスを取り出す際、同時に生産される随伴水(フラクチャリング水)の処理に関わる発明(例えば、特許文献2参照)などに見られるように、廃棄油井自体の処理ではなく、関連する一部の要素を対象としたものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開2015/072317号
【特許文献2】特開2018―43221号公報
【特許文献3】国際公開2014/181617号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Wu,Qian, et al.,“Advanced Distributed Fiber Optic Sensors for Monitoring Poor Zonal Isolation with Hydrocarbon Migration in Cemented Annui”, Society of Petroleum Engineers. 2016, September 14. doi:10.2118/180329-MS
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本願が解決しようとする課題をより明確にするため、廃棄油井における石油がリークする原理について、図14を用いて説明する。図14は、廃棄油井において石油がリークする原理を説明するための図である。
【0009】
この図に示すように、地中の二酸化炭素(CO2)、空気(O2)、硫化水素(H2S)などの成分により、地面あるいは海底面の下方にある坑井を構成するケーシング、あるいはこのケーシングを取り囲むセメントに、ケーシングとセメント面間のクラック(上部)、およびセメント内部のクラック(下部)の発生を誘発され、これにより、外部ケーシングの腐食も誘発される。また、地質変動による応力によっても、このクラックの発生が誘発される。このように、坑井の周囲に発生したクラックが、その後の時間の経過とともに成長して、含油層から地下の飲用水層、あるいは海水へのチャネルが形成され、リークが発生する事故につながっていた。その他の原因として、ケーシングに坑内の側から内部腐食穴が生じている場合にも、この内部腐食穴が上記クラックと繋がることなどによりリークが生じることがある。
【0010】
上述の米国カリフォルニア州のケースでは、地上から廃棄油井に放射線同位元素を含んだ水を注入することで、地下水中で放射線を検出した場合には、その油井にリークが存在することが特定された。このカリフォルニア州のケースでは、何らかの方法により、ケーシングの腐食破壊を判定できれば、その判定した部分が油井の上部であれば、該当する部分を工事により修復していた。
【0011】
また、リーク経路を特定できれば、図15に示すように、廉価で有効な修復方法である坑内ツールを使って、該当するケーシングの特定箇所に穴あけして、この穴からリークの原因となったクラックが発生した隙間に、特殊接着剤である充填グラウト(grout)を注入して補修する方法もある。この図で、一点鎖線S1は上記坑内ツールの移動経路を示し、矢印の先端が上記ケーシングの特定箇所を示している。また、充填グラウトで補修した部分は、台形の一点鎖線で囲んだ範囲S2であり、油井の外側のセメント内に生じたクラックのうち、油井に最も近い側に生じたものが存在する部分である。しかし、この方法では、補修した効果の確認、すなわち、リークが発生していないことの検証は困難である。なお、記号Pは地表面、あるいは海水面である。
【0012】
ところで、最近、光ファイバに特殊なオーバーコートを施すことにより、そのオーバーコートが、油分中のハイドロカーボン、即ち炭化水素(HC)を選択吸収して膨張する性質を利用して、その変形を光ファイバで感知して炭化水素の存在を示すことができることが発表された(例えば、非特許文献1参照)。また、炭化水素が消失したとき、膨らんだ変形が消失することがあり、リーク経路を切断した後の効果を確認できる可能性を示したが、補修した効果を確認する方法については、未解決のままである。
【0013】
さらに、最近、油井の規模がますます大きくなり、これに伴って2つの大きな問題が起こっている。1つ目の問題は、当初使用した鋼材、あるいはセメントの腐食耐力の認識が不十分であって、晩期の油井での二酸化炭素(CO)の濃度が、77%以上にもなることが想定されていなかったことである。2つ目の問題は、油井の開発時に掛かったコストでは、これらの問題に対処することはできないということである。
以上説明したように、光ファイバでの検知可能性は確認されたが、油井に実施する方法については、未だ検証されていないのが現状である。
【0014】
本願は、上記のような課題を解決するための技術を開示するものであり、腐食耐力を考慮した石油技術による規制および普及を促進して、油井からのリーク経路を検知することでリーク経路を特定することにより、油井の補修方法による効果を検証するとともに、油井についての長期の監視が可能となる光ケーブル、光ケーブル監視システム、および坑井の監視方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願に開示される光ケーブルは、
光ファイバと、
この光ファイバの径方向に設けられた複数のケーブルが、前記光ファイバの外周を覆うように撚られて円環状に配置された撚り線と、
炭化水素を吸収し、前記光ファイバおよび前記撚り線間の空隙に充填された炭化水素吸収樹脂と、
を備えたものである。
【0016】
また、本願に開示される光ケーブルは、
光ファイバと、
この光ファイバの径方向に設けられた複数のケーブルが、前記光ファイバの外周を覆うように撚られて円環状に配置された撚り線と、
前記光ファイバの径方向に設けられ、前記撚り線のケーブルよりも外径の大きな複数のケーブルが、前記撚り線の外周を覆うように撚られて円環状に配置された第2の撚り線と、
前記第2の撚り線の1つのケーブルを置き換えて配置され、被測定体の物理特性である温度、歪あるいは圧力を計測する物理特性計測用光ファイバと、
前記光ファイバの径方向に設けられ、前記第2の撚り線のケーブルよりも外径の大きい複数のケーブルが、前記第2の撚り線の外周を覆うように撚られて円環状に配置された第3の撚り線と、
炭化水素を吸収し、前記光ファイバ、前記撚り線、前記第2の撚り線、および前記第3の撚り線間の空隙に充填された炭化水素吸収樹脂と、
を備えたものである。
【発明の効果】
【0017】
本願に開示される光ケーブル、光ケーブルを用いた光ケーブル監視システム、および坑井の監視方法によれば、腐食耐力を考慮した石油技術による規制および普及を促進して、油井からのリーク経路を検知することでリーク経路を特定することにより、油井の補修方法による効果を検証するとともに、油井についての長期の監視が可能となる光ケーブル、光ケーブル監視システム、および坑井の監視方法を提供できるという顕著な効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施の形態1による光ケーブル監視システムの実施例を説明するための図である。
図2】実施の形態1による光ケーブルの基本構造の一例を説明するための図である。
図3図2の光ケーブルの軸に垂直な方向の断面の模式図である。
図4】実施の形態1による光ケーブルの基本構造の別の例を説明するための図である。
図5図4の光ケーブルの軸に垂直な方向の断面の模式図である。
図6】実施の形態1による光ケーブル監視システムに用いられる光ケーブルの浸油試験装置の概略構成図である。
図7図6の浸油試験に用いられる光ケーブルサンプルを説明するための図である。
図8図6の浸油試験に用いられる光ケーブルの特性を測定する測定装置の仕様を示した表図である。
図9図8に示した特性測定試験における光ケーブルサンプルの中心周波数特性の一例を示した図である。
図10図6に示した浸油試験における2つの光ケーブルサンプルの歪分布の測定例を示した図である。
図11図6に示した浸油試験における光ケーブルサンプルの歪分布の経時変化の一例を示す図である。
図12図6に示した浸油試験の光ケーブルサンプルの歪分布測定における充填材の効果を説明するための図である。
図13】実施の形態1による光ケーブル監視システムの監視データの一例を示す模式図である。
図14】光ケーブル監視システムの課題を説明するための図である。
図15】従来の光ファイバケーブル監視システムの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本願の実施の形態について図を用いて説明する。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1による光ケーブル監視システム50の一例を示す図である。
この図に示すように、海底に設けられた坑井100を監視するため、監視センター110には、光ファイバからの信号を処理するため、ブリルアン散乱とレイリー散乱の双方を利用したハイブリッドタイプの後方散乱光測定装置40が設置されている。また、炭化水素の検知機能を有する光ファイバを有する光ケーブル10を、この監視センター110から上記坑井100の設置されている位置まで、海底に沿わせ、上記坑井100の設置位置(坑井100の最上部)に到達した後は、さらに、この坑井100の外周に沿って、この坑井100の底(最下部)まで届くように配設する。なお、図中、記号Qは海面を示す。
【0020】
この際、上記後方散乱光測定装置40と炭化水素の検知機能を有する光ケーブル10とを接続して、上記後方散乱光測定装置40により、光ケーブルの設置位置に対応させて散乱光の周波数シフトを計測し、この計測値を基に、坑井からの油のリーク箇所を検知する光ケーブル監視システム50とした。すなわち、光ケーブル監視システム50は、その主要構成要素として、光ケーブル10と後方散乱光測定装置40を備える。
【0021】
このように、光ケーブル監視システム50を配備することにより、坑井100の最上部位置である海底に相当する高さ位置から、坑井100の最下部位置まで、監視対象である石油等の漏れの有無を50年以上の長期間にわたり監視することができる。以下、光ケーブル監視システム50に用いる光ケーブルを中心に上記光ケーブル監視システム50の詳細について説明する。
【0022】
まず、上記光ケーブル監視システム50に使用される光ケーブル10について図を用いて説明する。
図2図3は、実施の形態1による光ケーブル監視システムに用いることのできる光ケーブル10の基本構造の一例を示す図である。このうち、図2は、この光ケーブル10の構造を説明するための模式図であり、3次元的にこの光ケーブルの構造を示したものである。また、図3は、この光ケーブルの軸に垂直な方向の断面を示した図である。
【0023】
図2図3に示すように、複数の撚られた鋼線3が円環状に構成された撚り線20の中心軸部分には、光ファイバ1が設置されている。この光ファイバ1の周囲には、炭化水素を吸収する樹脂である炭化水素吸収樹脂2aが充填されている。この撚り線20の外側には、上記鋼線3よりも外径の大きな複数の鋼線4が、撚り線20とは逆向きに撚られて円環状に構成された第2の撚り線21が配置されている。
【0024】
なお、撚り線20、および第2の撚り線21は、通常アーマードケーブルで構成されており、その内部に光ファイバを配置することにより、通信、あるいはデータ伝送用のいわゆるユニバーサルな用途として使用することが可能となる。
【0025】
また、本実施の形態1の光ケーブル10においては、上記撚り線20(図2図3では計6本のケーブルで構成されている)、および第2の撚り線21の空隙には、上記と同様の炭化水素吸収樹脂2bが充填されている。なお、通常は、光ファイバ1と撚り線20、第2の撚り線21が組み合わされて構成された後に、それらの空隙に上記炭化水素吸収樹脂2が充填されることにより、光ケーブル10が製造される。
【0026】
また、上記炭化水素吸収樹脂2は、上記空隙をすべて埋める形態で充填され、通常、3km以上の長尺となる光ケーブル10が作製されている。
なお、炭化水素吸収樹脂2は、光ケーブル10の軸方向に間欠的に充填されていてもよく、この場合の炭化水素吸収樹脂2が充填される位置のピッチは、石油等の漏れの位置検出精度によって決定される。
【0027】
上記炭化水素吸収樹脂2は、一般に、拘束が無い場合には、炭化水素を吸収した場合に、3軸方向(3次元の各軸の方向)に膨張する性質を持ち、この結果、炭化水素を吸収した樹脂の影響により、光ファイバには引張応力による歪が生ずる(例えば、非特許文献1参照)が、本実施の形態の光ケーブル10においては、炭化水素吸収樹脂2が炭化水素を吸収した場合、例えば撚り線20の存在により、この炭化水素吸収樹脂2の変形が拘束される結果、光ファイバ1には圧縮歪(圧縮応力による歪)が生じているという違いがある。
【0028】
なお、上記においては、光ファイバ1の外側に2重(2層)の撚り線を構成した光ケーブル10について説明したが、これに限らず、光ファイバ1とこの光ファイバ1の外側に配置した撚り線20だけで構成された光ケーブルであっても、同様の効果を生ずる。
また、撚り線の撚り方向と第2の撚り線の撚り方向との関係については、実施の形態1の図2に示したように、第2の撚り線の撚り方向を撚り線の撚り方向と逆にした構造の光ケーブルとすることが、撚り線のほつれを防ぐ上で最適な構造となる。
【0029】
実施の形態2.
本実施の形態2による光ケーブル監視システム50では、上記実施の形態1に用いる光ケーブル10の構成を変更し、温度、歪、あるいは圧力等の影響を補償して、油井中に含まれる純粋な炭化水素の信号のみを取り出すことが可能な光ケーブルを採用している。以下、この光ケーブル10の構成を変更した光ケーブル10aについて説明する。
【0030】
本実施の形態2の光ケーブル10aにおいては、上述の光ケーブル10の第2の撚り線21を構成している鋼線4の一部を変更し、温度、歪、圧力等を感知するための光ファイバセンサを併設する。温度、歪、圧力等を感知可能な光ファイバセンサを目的に応じて併設することにより、これらの光ファイバセンサによって得られた計測結果を用いて、温度、歪、あるいは圧力等の影響を補償した、炭化水素を吸収した影響だけによる光ファイバ1からの信号を取り出すことが可能となる。
【0031】
つまり、DPATS(Distributed Pressure, Acoustic, Temperature and Strain sensing の略称)の機能を併せ持ったケーブルを採用する必要が生じた場合には、この実施の形態2の光ケーブル10aを用いることができる。別の言い方をすれば、温度の補償が必要であれば温度計測用の別の光ファイバを用意すればよく、歪の補償が必要であれば歪計測用の別の光ファイバを用意すればよく、圧力の補償が必要であれば圧力計測用の別の光ファイバを用意すればよい。
【0032】
このような、DPATS機能を持った光ケーブルの具体例について、以下、図を用いて説明する。図4は、被測定体の物理特性計測のための物理特性計測用光ファイバ6を構成要素とする光ケーブル10aの基本構成の一例を示す図である。また、図5は、図4の光ケーブル10aの軸に垂直な方向の断面の模式図である。
【0033】
図4図5に示したように、光ケーブル10aでは、その最外周部に該当する位置である、実施の形態1で説明した光ケーブル10の外側に該当する位置に、複数の鋼線5で構成される第3の撚り線22が、新たに配置されるとともに、この第3の撚り線22の内側に、第2の撚り線21の一部を置き換える形態で、新たに、被測定体の温度、歪、圧力などを計測するための物理特性計測用光ファイバ6が設けられていることが特徴である。なお、光ファイバ1、撚り線20、第2の撚り線21、および第3の撚り線22の間の空隙には、上述の光ケーブル10の場合と同様に、炭化水素吸収樹脂2が充填されている。そして、油はこの炭化水素吸収樹脂2が充填されているエリアに入ってくる。
【0034】
このように構成されている理由は、通常、撚り線が多層(多重)の光ケーブルにおいては、物理特性計測用光ファイバ6(ここでは特に温度計測用光ファイバを意味する)は、多少内部に配置されていても、外部の温度は伝わってゆくため、その検出が可能であること、また、内部に設置した方が、物理特性計測用光ファイバ6自体を保護する上では有利であるからである。なお、光ケーブル自体は油のリーク通路にはなれない。
【0035】
なお、通常、多層の光ケーブルにおいては、光ケーブルの外層と内層間の間隙が保護材などで充填されるため、石油等の漏れを検出する目的を持つケ-ブル線を光ケーブルの最外周に配置することも可能であり、検出性能を上げる意味でさらに有利である。
【0036】
なお、以上において、炭化水素吸収樹脂2は、光ファイバ1、撚り線20、および第2の撚り線21の間の空隙、あるいは、光ファイバ1、撚り線20、第2の撚り線21、および第3の撚り線22の相互間の空隙を埋める形態で作製されている光ケーブルについて説明したが、これに限らず、光ファイバ1の表面上にオーバーコートする形態で作製されたものでも、同様の効果を奏する。
また、この炭化水素吸収樹脂2を充填した光ケーブルは、200℃の環境下で少なくとも50年の寿命があるものである。なお、温度が低い、浅い深度の環境下でこの光ケーブルを使用した場合には、半永久的な寿命を期待できる。
【0037】
次に、上記の光ケーブルの持つ炭化水素検出機能について行った検証実験とその結果について、以下、図を用いて説明する。特にここでは、上記実施の形態1で説明したように、炭化水素を検出する樹脂を充填した場合の作用と効果を確認するための基本構造である、光ファイバとこの光ファイバのすぐ外側の最内層の(1層の)撚り線だけで構成された構造の光ケーブルを用いて検証を行った。
【0038】
図6は、この検証実験に用いた実験装置の概要構成を示す図である。2つの軽油容器中にそれぞれ1個の供試ケーブル(炭化水素検出機能を持った光ファイバケーブル)が浸けられ、これらのケーブルが軽油中の炭化水素を吸収した場合に生ずる、後方散乱光のシフト量を、これらのケーブルに接続した、一台で2種類の周波数シフトを計測できる、ハイブリッド後方散乱光測定装置DTSS(Distributed Temperature and Strain Sensing)で計測する。
【0039】
ここで2種類の周波数シフトとは、1つは、ブリルアン散乱光用のPPP-BOTDA(Pulse Pre-Pump Brillouin Optical Time Domain Analysis)による周波数シフト解析、もう1つは、レイリー散乱光用のTW-COTDR(Tunable Wavelength Coherent Optical Time Domain Reflectometry)と呼ばれる周波数シフト解析である。従って、温度と歪が同時に変化した場合でも、両方の変化量を解析できる。
【0040】
図7は、この検証実験に用いた供試ケーブルの詳細仕様を示す図である。炭化水素検出機能を持った樹脂が光ファイバの周囲に充填されたセンシング部を有する光ファイバが、アーマードケーブルの内部に保持されている。この図中のセンシング部として示した長さ9cmの部分が炭化水素を検出するセンシング部分である。
【0041】
このセンシング部を代表するAA位置での断面図を、上記センシング部の下方に断面AAとして示している。この断面図に示したように、中心部に配置した光ファイバの周囲には、多点模様で示した炭化水素検出機能を持った樹脂が充填されている。一方、上記アーマードケーブルのBB位置での断面図を断面BBとして、断面AAの左側に示した。この断面図に示したように、このBB位置では、光ファイバの周囲には、上記の炭化水素検出機能を持った樹脂は充填されていない。以上のように、センシング部には、炭化水素検出機能を持った樹脂が充填されているのに対して、アーマードケーブルのセンシング部以外の部分には、炭化水素検出機能を持った樹脂は充填されていない。
【0042】
また、上記光ファイバの両端には1mの長さを持つ参照ファイバ(アーマードケーブル形態ではない)が繋がっている。このように構成された供試ケーブルは、アーマードケーブル部分全体が軽油の入った容器(炭化水素含有)中に浸されて保持されている。
【0043】
上記のように、センシング部分の長さは他の部分に比較して短いため、その温度変化、圧力変化による歪変化は、炭化水素成分を吸収したことによる歪変化に比較して小さく無視できると考えられる。
【0044】
図8は、上記ハイブリッド後方散乱光測定装置の仕様を示した表である。測定機能として、上述したPPP-BOTDAとTW-COTDRの2大機能を持つため、これらの機能ごとに分けてその仕様を示した。この表のように、距離レンジ、距離分解能などは同一であるが、周波数特性は大きく異なっていることが特徴である。
【0045】
次に、図9は、上述の供試ケーブルについて、PPP-BOTDA方式による周波数シフト解析した場合の、2つの供試ケーブルの各構成要素部分における中心周波数分布を示した図である。
そして、この図は供試ケーブルを軽油に浸す前の特性を示している。測定対象のアーマードケーブル部分は11.1GHz程度の中心周波数であり、参照用ファイバ部分の中心周波数は、約10.8GHzになっていることが分かる。
【0046】
次に、図10は、2つの供試ケーブルの歪分布の測定例を示す図である。いずれのサンプルについても、軽油中に浸されていたことにより、炭化水素を吸収して歪を生じたと考えられる歪の発生(各サンプルの歪分布が中央部分で凹んでいる)が認められる。
【0047】
次に、図11は、供試ケーブル#2について、約1ヶ月間、歪分布を測定した時の歪分布の経時変化を示したものであり、図中の数字で示したデータは、歪分布の測定日を示している。
この図に示したように、歪分布は大きく変化する。これは、充填材への炭化水素化合物の含有割合が徐々に増えていった結果であると考えられる。
【0048】
最後に、図12は、炭化水素検出機能を持った樹脂である充填材の有無による歪分布の経時変化を、横軸に測定日時を取って示した図である。この図で下向きの矢印(計2箇所)は、供試ケーブルを軽油中に浸した時点を示し、上向き矢印(計2箇所)は、浸していた軽油から供試ケーブルを取り出した時点を示している。なお、両矢印区間Tsは計測を停止していた期間を示している。軽油中に(充填材を有する)供試ケーブルを浸すことで、この充填材が炭化水素を吸収した結果、歪変化が明らかに生じていることが判る。
【0049】
次に、上記光ケーブル10あるいは10aを、油井などの(50年程度の)長期の監視に用いる場合について、図1図13を用いて説明する。
【0050】
石油等の漏れの有無の監視は、この光ケーブル10が石油の主成分である炭化水素を検出したか否かにより判定する。すなわち、この光ケーブル10に備えられている樹脂が、図1に示した坑井100の最上部位置(図1で、海底に相当する高さ位置。図13では、深度の値が0(ゼロ)の点がこの海底に相当する高さ位置)から、坑井100の最下部位置(図13では、深度の値が1に相当する高さ位置)までの間のどこかで炭化水素を検出すると、その検出した箇所での散乱光シフト量が他の位置でのシフト量と異なってリーク信号として出力される(図13参照)。この異なって出力された地点(深さ位置)が石油等の漏れのあった箇所である。また、この図13では、油井の設置からの経過時間が50年経って初めてリーク信号が検出されたことが判る。また、リーク位置は、坑井100の中央高さ位置からやや下側であることが判る。
【0051】
ここで、樹脂が吸収した炭化水素により変化した散乱光シフト量は、深さ方向に対しては、坑井100の深さ方向の位置には影響されず、その吸収した炭化水素の量によってのみ変化すると考えられるのに対して、温度、圧力、歪等は、この深さ方向によって変化している可能性が大であり、これらの影響が大きい場合には、これらによる散乱光シフト量を補正する必要がある。このような場合には、上述のDPATS機能を持った光ケーブル10aを用いることができる。
【0052】
以上説明したように、この光ケーブル10あるいは10aを用いた光ケーブル監視システム50によれば、検査対象となった坑井での、石油等の漏れ深さ位置が検出されるため、この漏れが検出された位置での局部補修を行うことで、坑井の修復が可能となり、坑井全体を廃棄することなく、寿命を延ばすことが可能となる。
【0053】
また、上記局部補修後に、この光ケーブル監視システム50のリーク信号の有無を検査することにより、漏れ信号(リーク信号)が検出されなければ、漏れを補修した効果があったことを確認することができる。
【0054】
なお、本願は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0055】
1 光ファイバ、
2、2a、2b 炭化水素吸収樹脂、
3、4、5 鋼線、
6 物理特性計測用光ファイバ、
10、10a 光ケーブル、
20 撚り線、
21 第2の撚り線、
22 第3の撚り線、
40 後方散乱光測定装置、
50 光ケーブル監視システム、
100 坑井
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9
図10
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【国際調査報告】